ほむら「清丸国秀?」 (184)

「魔法少女まどか☆マギカ」及びその外伝とのクロスオーバー作品です。
スレタイで知ってる人には明らかですが、クロス相手に関しては次回以降。

元ネタが元ネタだけに、えぐい描写が出て来るかも知れません。
余り極端な描写は作者自身が受け付けないと思いますけど。
シリアスとそうでない所の度合いについても、正直出たとこ勝負になるかも。

作品考証に就いては………結構アレンジ、改変でやらせてもらいます。
基本は踏まえるつもりですが、中にはご都合も、地雷踏んでたらすいません。

色々と、投石はご勘弁をお手柔らかに、ってなりそうな予感が本当の所で。

投下間隔も予定と言うほどのものは難しいです。

ぶっちゃけて言えば、思い切ってスタートしないと余り考えすぎても始まらない、って感じで。

それでは投下、スタートします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402376833

げえっ、最終確認中にリターン押してた。
まあ、予定分の本文確認は終わった、筈だしこのまま行きます。

>>1

 ×     ×

「またまたあっ!」

部屋に飛び込むなり、呉キリカが叫び声をあげる。

「また、こんなに根を詰めて、
能力も使ったんだろ。今、浄化するからね」

「そうね、キリカ」

パソコンのあるデスクから振り返り、美国織莉子が疲れた笑みを向ける。
デスクやその周囲には、印字されたもの、手書きのもの、
資料や走り書きが散乱している。
それでいてその内容は常に理知的なものであり、
彼女の明晰な頭脳と、何よりも執念を伺わせる。

「浄化するのも、キリカに任せきりですものね」
「いいんだよっ!」

キリカはオーバーアクションに両腕を広げ、大声で否定する。

「いいんだよそんな事はっ。
織莉子のためならなんて事はない。私が心配なのは………」

「はいはい、お茶にしましょうね」

にこっと微笑んだ織莉子の言葉に、キリカはぴょんと飛び上がる。

「その前に………」

>>2

 ×     ×

風見野市内、廃教会。
壁を背に座り込んだ佐倉杏子は、無言で林檎を噛み砕く。
その眼差しは剣呑だった。

林檎が芯となり、杏子は宝石を取り出す。
舌打ちして立ち上がった杏子は、振り返った。
さっと掲げた左手に、窓から小さな紙包が飛び込む。
杏子が紙包を開く。その中身はグリーフシードだった。

「………福岡か………」

 ×     ×

薔薇の庭園。

「キリカ、紅茶にお砂糖は何個入れる?」
「3個!あとジャムも3杯!」
「まるでシロップを飲んでるみたいね」
「あァッもうッ!!」

相変わらず元気に飛び跳ねているキリカを見て、
美国織莉子は微笑みを浮かべる。
やはり、この娘がいなかったら自分はもう壊れてしまっていたかも知れない。
その思いを新たにする。

「?」

キリカの動きが止まった。
自分の紅茶にミルクを注いでいた織莉子の動きが止まっている。
織莉子は、ミルクの泳ぐティーカップを凝視していた。

>>3

「織莉子っ!?」

ミルクの器がテーブルに落ちた。
それと共に、織莉子が頽れる。
織莉子は蹲り、左手で口を押えて懸命に何かに耐えている様だ。

「織莉子!?大丈夫だ織莉子大丈夫っ!
そのまま、そのまま呼吸を整えて、吐きたいなら吐いて構わない、
今、すぐに浄化するから楽しい事を考えて織莉子っ!!」

叫びながら、キリカはその目を見開き額に皺を刻む。
織莉子の心をこれ以上乱さぬ様に、心の中で宣告する。

(お前、もう許されないよ)

 ×     ×

福岡市内の路上を、血まみれの男が徘徊していた。
年齢はまだ若い、と言えば若いと言えるかも知れない。
血まみれな時点で尋常ではないが、その顔つきも又、当然の如く尋常なものではなかった。
半可通な知識であれば、シャブ中が徘徊している、と言っても通じる光景だ。
その男の姿が、通りから路地裏へと消えた。

「な、なんだあっ!?」

血まみれの男が路地裏で引きつった声を上げる。
そして、自分を路地裏に引きずり込んだ相手を見る。
見た所、既に彼にとっての上限を二つも三つも超えていそうな十代中盤の少女。
髪の毛をポニーテールに束ねて、鼻から下を覆う様に布を縛り付けている。

「おふっ!」

少女は、男の腹に無言で脛を叩き込む。
強烈な一撃に、男の体がくの字に曲がった。

>>4

「清丸国秀だな?」

少女、佐倉杏子が、既に爆発寸前の殺気を込めて尋ねる。

「ああ゛?なんだよー、おまえもかよババァがよぉー」

だるそうに答えた男、清丸は、頬に食らった裏拳の衝撃で近くの壁まで吹っ飛ぶ。

「付き合ってもらうぜ」

杏子は、清丸にもう一撃食らわせ、意識を飛ばしてから担ぎ上げる。

 ×     ×

杏子は、人通りの少ない裏道を、
予定の場所まで可能な限りのスピードで疾走していたが、途中で足を止める。
それは、歴戦の勘か、或いは、鋭敏になった肉体的感覚が告げたものか。
その辺に清丸を放り出し、杏子は飛び退く。
彼女のいた辺りを銃弾が突き抜け、壁に突き刺さる。

「しっ!」

杏子が手にした槍に節がつき、地面を削った多節棍が小石を飛ばす。
路地裏から拳銃を向けた者が、石礫を食らって悲鳴を上げた。
杏子が、多節棍を槍に戻す。

「うぜえっ!!」

大振りの登山ナイフを手に杏子を襲撃した数人の男が、
瞬く間に杏子の槍に叩きのめされる。まだ穂先を突き刺すまではいっていない。

>>5

「!?」

次の事態には、杏子も目を丸くした。
左右から殺到する十人前後の集団。
彼らは、手に手に肉切り包丁を更にでっかくした様な青龍刀を振りかざし、
殺気を込めて杏子に迫っていた。

「なんなんだよっ!?」

杏子が、ぶうんと槍を振り回す。

「丸でゴキブリだな」

這う這うの体で路地裏に逃げ込んだ清丸は、声と共にその襟首を上から掴まれた事を理解する。
周囲には、拳銃を手にした男が転がっていた。

 ×     ×

「うあああっ!!」

清丸が放り出されたのは、既にほぼ解体された工場跡地だった。
顔を上げた清丸は、強力な負の眼差しを目の当たりにする。
それは、丸で虫でも見るかの様な目つきだった。

丸で虫の様に見下げられた清丸は、著しく不快な笑みを以て返礼し、腹に脛を叩き込まれた。
距離から言って、眼差しの主と攻撃の主は別人の筈だ。
何度か蹴りを叩き込まれた清丸は、地面に大の字に転がる。

相手は、白と黒だった。
清丸に虫でも見る様な視線を送っていたのが白い装束、
無言の暴力を叩き込んでいたのが黒い装束。
装束と言ってもいい、どこか芝居がかった二人組。

どちらにしろ、この二人が女で鼻から下に布を巻いていて、
そして清丸が許容できる年齢の上限を明らかに突破している以上、
清丸にとってはどうでもいい事だった。

大の字になった清丸の不快な笑みを見て、黒い少女呉キリカはもう一撃蹴りを入れようとしてやめた。
結局の所キリがない。こんな事で終わらせても仕方がない。
キリカの記憶は余りに忌々しいあの時点へと遡る。

>>6

 ×     ×

「大漁大漁っ、嗚呼、織莉子織ー莉子ー」

あの日の夜、呉キリカは、確保したグリーフシードの一つを掌で跳ねながら、
その時までは上機嫌で無限の愛の源へと見滝原の路上を軽やかに踊り進んでいた。

「あ?織莉子?」

キリカがにこやかに声をかけるよりも早く、
キリカの限りなき愛の行先、美国織莉子は猛ダッシュでキリカとすれ違っていた。

「織莉子、待つんだ織莉子っ!!」

そんな織莉子を追跡し、全力疾走或いは飛翔すらしながら、キリカは懸命に叫んでいた。

「見ただろう、もうここは東京だっ!
魔法少女の力でこんな無茶な道行を続けたらっ!!」

その通り、最早自分も相当危険な所に踏み込んでいる筈だが、
呉キリカにとって無限の愛に比ぶればそれはとっても、まあ、些細な事だった。
ようやく、織莉子の足が止まった。

「どうしたんだ織莉子?」
「キリカ?」

ようやく返答した織莉子は、それでも心ここにあらずだった。

「こんな無茶をして。浄化を急がないと、ソウルジェムを出して」

キリカの言葉に、織莉子は無言で従う。

「あーあ、私のも、ちょうど狩りが上手くいったから良かったものの………」

キリカがようやく周囲を見回す。
東京都内である事は途中の標識で理解していたが、そこは郊外の雑木林。

「織莉子っ!?」

又、織莉子が駆け出した。

>>7

「用水路?」

織莉子が足を止めた先を見てキリカが呟く。

「織莉子?………!?」

キリカが前に回った時、織莉子の目は見開かれ、唇が震えていた。

「………また………まにあわ………嫌………どうして……嫌………

………どうして………そんな………救えなかった………嘘………嫌………」

譫言の様に繰り返す織莉子が、すとんと膝から頽れる。
キリカが、もう一度用水路に視線を向ける。

「な、あ?………まずいっ!!」

キリカが、改めて織莉子のソウルジェムにグリーフシードを押し付ける。
だが、スピードが速すぎると見るや、

「ごめんごめんごめん織莉子っ!!」

キリカは、織莉子の体が地面でどさりと音を立てるのを聞きながら、
ダッシュでその場を離れていた。
織莉子から、この魂の宝石の事は聞いている。
今の自分の心が平静とは程遠い事も自覚している。
織莉子を起こして、そして織莉子を落ち葉まみれにした事に平身低頭頭を下げるのは、
二人分の魂に輝きを取り戻してからだ。

>>8

 ×     ×

(グリーフシード丸々何個か分を費やしてようやく人心地つく事が出来た。

お陰で、キュゥべえを呼ぶのが間に合わず、

丸々何個か分とまともにやり合う羽目に陥ったのは些細だ。

重要な事は、あれ以来、織莉子はひどく不安定になった。

それこそ、いつ、突発的に魔女になってしまうのかと言うぐらい。

このクズが織莉子の善意を踏み躙り、

このクズが織莉子の優しい心を砕いた)

呉キリカは改めて口に出して宣告する。

「お前、もう許されないよ」

キリカがその手に鉤爪を伸ばす。

「よし刻もう。

お………君の手を汚す価値も、殺す価値もない。

精々手足と何か汚らしいものを刻んでから警察の前に放り出してあげるよ」

>>9

「!?」

キリカが右腕を振り上げ、織莉子がハッと身を前に乗り出した時、
キリカの右腕に衝撃と、そして激痛が走った。

「っ、たっ………」

肉も骨も砕けた範囲は小さくない。
只の人間ならこれだけでショック死してもおかしくない、
何か月も動かせない、再起不能でも普通の重傷、傷自体ももっと大きかった筈だ。

「銃撃?(攻撃方向に速度低下………)」
「いけないっ!」

苦痛に耐え、痛覚を遮断するか少しだけ考えて、まずはこれで凌げるだろうとキリカが遅延魔法を発動した直後、
織莉子の叫びと共にキリカの背中にババンッと着弾の痕跡が刻まれる。

「どう、して………」

背中にいくつも赤い花を散らしながら、耐え切れずにキリカの体が地面に倒れこむ。
キリカは真上から明確な殺気を感じたが、それはすぐに消失する。
その代わりに、水晶球が空を切っていた。
周囲に、いくつもの水晶球が浮遊している。

>>10

「……いけ、ない………織莉子………」
「聞きなさい」

それは、息を呑む程に厳しい織莉子の声だった。

「これ以上傷つけると言うのなら、刺し違えてでも貴女を、殺す」

何秒か何分か、
息を呑む様な時間が過ぎ、織莉子はすとんと膝をつく。

「織莉子!?織莉子織莉子織莉子っ!!」
「脅威は、過ぎ去った」
「ごめん織莉子私がこんな頼りないから、
すぐに、すぐに魔力を使ったソウルジェムを浄化しないとっ!」
「先に、貴女の傷を、自分の、心配を」

 ×     ×

警視庁警備部警護課。

「清丸国秀は福岡南警察署に出頭した。
現地は相当に混乱しているらしい。
断片的な情報だが、既に清丸を狙って武装した、
恐らくは裏社会に関わる者同士の衝突すら発生しているらしい」

今回はここまでです。

どう考えても東京ダッシュは無茶だったよな………

続きは折を見て。

話がぶつ切りすぎてさっぱりわかんないけど原作もそういう導入なの?

長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」
1 :暗黒史作者 ◆FPyFXa6O.Q [saga]:2013/05/18(土) 00:45:23.45 ID:LTpOvEyL0
「魔法先生ネギま!」と映画「エンデュミオンの奇蹟」(とある魔術の禁書目録)
のクロスオーバー作品です。

ネギま!の終盤からのサザエさん時空が映画の時期にリンクしています。

自分でも先が計り切れませんが、当面の予測として
多分、ネギま!側がメインの進行になります。
ネギま!一通りと禁書の映画(と前提になる禁書)観てないと厳しいと思います。

正直言って、自分の禁書の知識、地雷あるかも(汗)、
ご都合独自解釈もありますが、爆炎上げて吹っ飛んでる様でしたら、お手柔らかに

それでは投下、スタートです。

感想どうもです。

>>13

どっちかと言うと私の書き癖の様です。
今回は間違いなく意図的にやってるけど、自分が読者として読んでも正直やり過ぎ。
続きも含めて演出と言えるか単に下手なのか、その辺はお任せします。

改めて本作に関する説明。

基本的には
「魔法少女まどか☆マギカ」
上の外伝「魔法少女おりこ☆マギカ」
映画「藁の楯」

が元ネタのクロスオーバー作品。
まどか、おりこの基本は知らないと厳しいと思う。
「藁の楯」は小説要素も入ってるかも。

以上を基本として、
その他、多少変なのが紛れ込んだり若干のオリキャラがいたりもしますが。

元ネタの基本を踏まえつつ、場合によっては大きなアレンジ、改変、ご都合が入ってたりもします。

あんまり極端なのは作者自身が受け付けない筈ですが、
それでも不快要素注意。

解説以上。

それでは今回の投下、入ります。

>>11

 ×     ×

『佐倉さん』
「織莉子か」

テレパシーでの呼びかけに、杏子は口に出して応じる。

『警察が本格的に動き出しました、合流予定に移動して下さい』
「分かったよっ」

杏子は舌打ちして周囲を見回す。
人間基準では桁違いの運動能力を以て、ものによっては猛獣よりも強い魔女と戦う魔法少女。
そんな魔法少女の杏子でも、
それなりに実戦慣れした青龍刀の五人や十人束になって殺すモードで殺到して来られたら、
槍や多節棍でチャンバラするのはそれなりに骨が折れる。
取り敢えずそいつらは全員その場に伸びてはいるものの、肝心の清丸国秀は既に逃走した後だった。

 ×     ×

「織莉子」
「無事でしたか」

とあるビルの屋上で、杏子と織莉子が言葉を交わす。

「あんた、私をハメたんじゃないだろうな?」

言いながら、杏子は織莉子に剣呑な眼差しを向ける。
織莉子の前に回るキリカを、織莉子の腕が無言で退ける。

「否定する程間違ってはいないわ」
「てめぇっ!」

杏子が織莉子に槍を向け、織莉子はキリカを制して穂先の前に立つ。
杏子は、槍を引く。
織莉子の瞳に浮かぶ悲しみ、杏子が共鳴した悲しみ。
それが見える以上、信じざるを得ない。

「で、なんなんだよあいつらはっ!?」

織莉子は、新聞とスマートフォンを差し出した。

>>19

 ×     ×

暁美ほむらは、少々苛立ち交じりに携帯電話を使っていた。
先ほどまで福岡南警察署周辺にいたのだが、マスコミや野次馬が集まって来たので早々に離脱した。
そこまでは分かるのだが、警察署から離れても離れても人口密度がなかなか下がらない。
そこいらじゅうで携帯電話を使っている。
万一の事を考えると、当たり前に使われているカメラ機能が最高に鬱陶しい。
ようやく、警察署から相当に距離をとった後で、携帯相手に悪戦苦闘していた。

「もしもし、よく聞こえないんだけど」
「清丸国秀の出頭は確認した」

携帯電話の向こうから、くぐもった様な声が辛うじて判別できた。

「当然ね。逮捕はされたの?」
「いや、現時点では任意の事情聴取と言う事になっている。
確かに、出頭したのは君から連絡を受けたのとほぼ同じ時刻と言う事だ」
「当然ね、私が見届けて連絡したんだから」

「君が突き出したのか?」
「いいえ、勝手に警察署まで逃げ込んだわ。
あの状況から一人で抜け出して警察署に転がり込むって、
生存本能だけはゴキブリ並にあるみたいね」

「ああ、その程度には知恵が働く」
「じゃあ、お役御免でいいかしら?この先はそちらの仕事でしょう」
「それで済む話なら、
わざわざ危険を冒して君に接触してはいない」
「そうね」

ほむらは、嘆息して電話の相手、
既に敵以外の何物でもないこの淀川と言う男と出会った時の事を思い返していた。

>>20

 ×     ×

ほむらと淀川が出会ったのは、山口県下関市内だった。

「ママー」
「しっ」

(まどかは休日を利用して家族と一緒に親戚の結婚式に出席。
イレギュラーな事が起きる時間軸ね)

鹿目家の宿泊先近くの路上で、ほむらはふと天を仰ぐ。
太陽の光はバイザー式のサングラスが遮っている。

(とにかく、こんな所でうっかりばったりなんて事になったら言い訳がきかない。
そこの所は入念に支度をしておいたからいいけど)

ほむらは心の中で呟き、アップに束ねた黒髪の上に乗っかったチューリップハットの縁をつまむ。
ざっ、と、小さくも鋭い動きに、左右二つに束ねた黒髪がふわっと揺れた。
既に人ならざる者の相手が主とは言え、実戦経験を重ねた事で身についた感覚。

「囲まれた?」

ほむらは、風邪用マスクの向こうでそっと呟く。
通行人の大半が、どうも通行人ではないらしい。
その中の一人、どこにでもいそうでそれでいて忘れられない何かを放っている中年の男性がほむらに歩み寄る。

「広範囲に人員を配置している。
今、君が私に無断でこのポイントを離れたら即座に射殺する様にとね」
「何を言っているんですか?」
「ご同行願おう、暁美ほむら君」

 ×     ×

「警視庁公安部未詳事件対策分隊の淀川さん、ね。
住所も電話番号もメルアドもURLもツ○○ターアカウントもフ○○スブ○クも無いのね」
「まあ色々不都合がありまして」
「それで、ご用件は?」

渡された名刺を一瞥した暁美ほむらは、長い後ろ髪をふぁさぁと撫で上げて質問する。
建物に入るのに不都合と言う事で、
三日三晩シミュレートを重ねたまどか遭遇対策装備は全面的に武装解除済みであった。

>>21

「今時、女子中学生をホテルの部屋に連れ込んで、
それだけでも問題になるんじゃないかしら?」

ホテルの一室で、応接セットのソファーに掛けたほむらは軽口をたたくが、既に察していた。
自分達同様、或いは自分達とは違った意味で、常識が通じる相手ではないと。

「元々は小さな部署でしてね」

淀川は語り始めた。

「そもそも未詳とは、未だ詳しくは分からない。
通常の定義に当てはまらない、言ってしまえばオカルトの分野に対応する部門だと言う事です。
そんなだから、精々が二人か三人、
例えば組織犯罪対策部の何でも屋辺りみたいに、はっきり言って左遷先の部署だった訳ですよ」
「だった、ね」
「ええ、事情が変わりましてね」

女子中学生相手に敬語で喋り続ける中年男。
しかし、ほむらが感じるのは薄気味悪い威圧感。

「本来オカルトの領域に属する非科学的、或いは現在の科学では説明のつかない存在。
そんなイレギュラーな存在に就いて、我が国の情報機関を統括する者は
極秘裏に、それでいて本格的な事情の把握が必要であると判断した。

その結果、元々の担当部署を大幅に改編、担当者を全員更迭した上で、
公安警察の極秘精鋭部隊として再編、拡大して本格的な調査に着手した。
これが我々に就いてのおおまかなあらましで、その結果、
そうしたイレギュラーの一端として浮上したのが君、暁美ほむら君と言う事だ」

「いい年をしてこんなホテルに中学生を連れ込んで電波話?
そういう痛い話に食いついて来るタイプだとでも思われたのかしら?」

ほむらがその美しい黒髪をファサッと掻き上げる、その手つきにはいつものキレが薄い。

「大体何?政府が本格的にイレギュラーの調査とかって、
私が宇宙人か未来人か超能力者で世界征服の手先だとでも言いたいの?」
「いや、もう少し現実的な問題だ」
「ここまでの話のどの辺に現実なんてものが存在しているのかしら?」

>>22

「公安部門がイレギュラーの対策に本腰を入れたのは、
国防に関わる領域で少々見過ごし難い事件が頻発したからだ。

事件の性質上詳しい説明をする訳にはいかないが、事が表面化した場合、
同盟関係にも重大な影響が発生し、ついでに内閣の一つや二つ吹っ飛ぶ。

その元凶となった者に対しては、死刑が通常である内乱容疑の適用を前提とした警察の総力を挙げての捜査、
それでも生ぬるい、特殊部隊を動員しての軍事的な抹殺、殲滅を視野に入れなければならない。
少しでも関わり合いのある者のことごとくを秘かに拉致、拷問して居場所を吐かせるぐらいの事も避けられない。
何よりも、事件の内容が内容だけに、社会不安も尋常なものでは済まなくなる。

その程度には重要な国防上、主に軍事兵器に関わる分野での重大事件に関して、
イレギュラーが関与している、イレギュラーの存在を認めざるを得ない。
それが分かったからこそ、国は現在の科学を超えたイレギュラーに
秘かに対処する我々の様な部署を本格的に稼働させた、と言う事だ」

「そそそそそそそそそそれでわわわわわわわわわ私が
そそそそそそそそそのイレギュラーだかなんだかだったりとかしたりいたしましたとして、
それでそのわたくしめに一体どどどどどどの様なご用件なのでございましょうか?」ブァサァッ

ほむらの質問を受けて、淀川が差し出したのは新聞だった。

「何、これ?」

ほむらは、差し出された一部の新聞を見て怪訝な顔をする。

「映画の小道具?でも、本物の殺人犯よね。
映画とかドラマになるには早すぎるんじゃ………何かの実験?………」
「正真正銘の募集広告だ」

「………現代の中学生の常識を試されているのか
私があなたの頭を試さなければならないのか、一体どっちなのかしら?」
「君が出歩いていたのであろう事を考えると、その発想はあながち間違ってはいない。
一般的なニュースサイトを見てみるといい」

ほむらは、勧められるままに用意されたノートパソコンを操作し、その手を止める。

「本物、なのね」

一般的に言って非常識で異常な出来事には割と慣れているほむらではあったが、
異常性のベクトルが違いすぎて気の抜けた様な返答しか出来ない。

>>23

「この男を殺して下さい、御礼に10億円差し上げます」

ほむらが、手にした新聞の全面広告を読み上げた。

「この男に就いて、知っている事は?」
「清丸国秀、ここに名前も書いてある。
確か、八年前だかにも幼女暴行殺害事件を起こして、
出所後にも又似た様な事件を起こして、ええ、いたいけな幼女を惨殺して逃走中。
これで良かったかしら?」

ほむらは必要最低限の解答を述べる。
本当は、今自分が説明した事件に就いて、ほむら自身やや大きめの関心を寄せていた。
だが、それを告げるつもりは全くない。
そして、ほむらがなぜ関心を寄せていたのか。
その理由を淀川が知っている筈はない、と、今はそう思っておく。

「最大の問題は、今回殺害されたマル害、被害者の祖父が蜷川隆興だった、と言う事だ」
「蜷川隆興?」
「通称蜷川財閥、蜷川電機グループの総帥。
既に役職は退いているが、実質的な立場は変わらない。少なくともこの広告が出るまでは」

そこまで言われて、ほむらも何となくイメージできる。
それこそ、名前ぐらいは中学生が知っていてもおかしくないぐらいの超大物財界人だ。

「ちょっと待って、あの娘は祖父母と暮らしていたと聞いたわ。
蜷川氏と暮らしていたの?」

「いや、マル害は父方の祖父母と暮らしていた。
両親は養育に不適切だと言う事で、家庭裁判所から親権を停止されていた。
蜷川氏は、マル害の母方の祖父に当たる訳だが、
その母親に当たる娘と疎遠、実際の所は若い頃のトラブルで勘当、絶縁の状態にあったため、
孫の事を気にかけていた蜷川も父方の祖父母に譲った。
蜷川は何度か孫に会いに行っているが、その様子は只の孫馬鹿のお爺ちゃんだったと言う事だ。
その父方の祖父母が東京の知人に会いに行った、それに同行した際に起きた事件だった」

「そういう事」

返答したほむらの視線が、テーブルを向く。
淀川が自分の隣に移動して来た事に就いても、今の抵抗は眉毛を動かすにとどめる。
淀川は、ノーパソを操作してとあるウェブサイトを表示する。

>>24

「これは、キヨマル・サイトと呼ばれているサイトだ」
「キヨマル・サイト?」

淀川の操作で画面は動画を表示し、その動画は再生直後に停止された。

「蜷川隆興、この事件、殺人教唆広告事件のキーパーソンだ」

淀川が言う。
画面には、一人の老人が映し出されている。
そして、ほむらの現実感覚から言って映画のセットにしか見えない莫大な札束も一緒に。

和装でソファーに掛けて映し出されている蜷川の姿は、余り健康そうには見えない。
老齢や事件の心的影響もあるが、ほむらの勘はもう少し別の気配を嗅ぎ取っていた。

それでも、その威厳は只者ではない。
それに加えて、不健康さが凄絶なものをほむらに突き付ける。
淀川が停止を解除し、画面の中の蜷川が口を開く。

「この男、清丸国秀を殺して欲しい。私の………」

皺がれた第一声は、ほむらの脳裏に焼き付けられた。

「………孫娘を殺した男だ
私は心臓を患っている、もう長くはない。
生きる意味を失った年寄に、こんなものは紙屑同然だ………」

ほむらの凝視する前で、蜷川は賞金の支払い条件を説明する。
清丸国秀に対する殺人罪、又は傷害致死で有罪判決を受けた者、複数可。
国家の許可を持って清丸国秀を殺害した者。
このどちらかの条件を満たす事。

「このサイトを閉鎖する事はできない。私は何でも買える
子どもの命以外は」

動画が終わった時、ほむらの肌にはじっとりと汗が浮かんでいた。
随分と忘れていた、あの苦しさすら蘇りそうだ。

「狂ってる………」

ほむらが呟き、いつの間にか掴んでいた右手を自分のみぞおち辺りから離す。

>>25

「蜷川が本気なのは理解したわ」

意識的に呼吸を整えながら、ほむらは新聞を手にする。
ほむらは痛感した、蜷川は本気だ。
そして、「狂っている」と敢えて口に出さなければならない。
無意識でもほむらにそう思わせる、蜷川の呼びかけにはそんな何かが秘められていた。

「それにしたって、状況も狂っているんだけど、
こんな広告とかサイトとか、いくら蜷川が大物でも………」
「大物が狂ったから出来た事だ」

淀川が言う。

「三大新聞社の整理部、印刷局、約65名が辞表を提出し、弁護士を立てて一切の事情聴取を拒否している。
その全員が買収、或いは脅迫もあったのかも知れない。
何れにせよ、捜査一課が清丸への脅迫容疑で強制捜査に着手する予定だが、
蜷川本人は行方不明、辞任した広告関係を締め上げても何も出て来ないだろう。

現状では脅迫容疑、実際に殺人が着手された時点で殺人教唆に切り替える事になるが、
実刑判決上等の買収が行われたと見るべきだ。

中には脛に傷を持つ者もいたのかも知れないが、堅気の新聞社でこの広告を確実に公表する、
それだけでも想像を絶する金額、人脈だ。
サイトも規制の難しい海外から更に様々な防護策をとってこちらからの干渉を防いでいる」

その時点で、ほむらは言葉を失った。

「蜷川は蜷川電機グループの総帥、経団連会長も歴任した大物財界人だが、
町場のアンプ屋から一代でそこまで上り詰めた立志伝中の人物、お上品な財界紳士じゃない。

若い頃は経済新聞の連載にはとても書き込めない数々の修羅場を潜り抜け、
殺し屋、脱税、詐欺師その他諸々の裏の世界にも精通しながら罪に問われた事もない。
政治家、財界、官僚、そこにはマスコミや警察の上層部も含まれる。
表でも裏でも分厚い人脈、親交がある。恩義も貸し借りも山ほどある怪物だ。

報道では個人資産一千億円とも言われているが、それは表向きだ。
タックスヘイブンの預貯金を含めると兆に届くのかも知れない。
孫が二十歳を過ぎたら表の資産だけでも譲る事が出来る様に、
自分の死後に関する手配を始めた矢先の事件でもあった。
そんな、日本を揺るがす程の怪物が、一人の屑のために全てを捨てて本気になった」

淀川の言葉を聞きながら、ほむらは目立たぬ様に懸命に呼吸を整え心を整える。

>>26

「それで、その蜷川氏による殺人予告と私と、一体何の関係があるの?」

苛立ったら負けだ、そう自分に言い聞かせながらも、
ほむらは一歩踏み出す。

「当然この広告は警察、警察庁長官、そして政府筋の逆鱗に触れた。
国家に対する公然たる挑戦だと。
それに対して、B担当、暴力団担当や公安は容易ならざる事態になる、そう分析した。

つまり、裏社会の人間の中にも、この賞金稼ぎに乗る動きがある、
それもかなり大規模に、そういう事だ。
それだけに、警察庁も危機感を強めている。
只、これだけの話なら、こうして危険を冒して君と接触したりはしない」

「長い前ふりだった訳ね」

「財界の超大物であり、警察にも大きな影響力を持つ蜷川氏の孫娘が惨殺されたと言う時点で、
清丸の失踪もあって警察庁長官から全ての警察のあらゆる部署に徹底捜査の厳命が下った。
ああ、あらゆる部署にだ。
徹底した関係捜査の情報を照合した、その中で判明した事は、
我々の扱うイレギュラーとマル害の間に接点があったらしい、と言う事だ」

ほむらは、臍下丹田に力を込める。

「覚えがないわね」ファサァ
「ああ、君ではないな」

ほむらは、安堵で頽れそうになる体を気力で懸命に支える。

「だが、まずい事に、そのイレギュラーの中にはアンタッチャブルイレギュラーも含まれている」
「アンタッチャブル?」

「ああ、過去に我々の部署でどうもそれらしいと踏んで着手したものの、
どういう訳か監視用の機材も人員も、
事によっては接近すらする前にあっと言う間に排除され、手痛い警告を受けた。
しかも、彼女は表側でも少々厄介な人脈と繋がっている。
だから、我々としても当分は手出しは出来ない、そう判断した」

話を聞きながら、ほむらは嫌な予感しか感じていなかった。

>>27

「そして、ここに来て、マル害と接点のあったイレギュラーが奇妙な動きを見せ始めた。
更に悪い事に、清丸の事件に関する不確定な裏情報にもその動きが符号するらしい。
只の人間の犯罪なら我々の出る幕ではない。
だから、イレギュラーであろうと推察している君に接触した。

そこで君の使命だが、
今や法律に基づく逮捕、起訴、有罪の成功に国の威信がかかっている清丸国秀を、
イレギュラーによる干渉から保護する事。以上だ」

「どうして私があなた達の指示に従わなければならないのかしら?」
「断る、と言うのなら、君の行動は今後国家の総力を挙げての妨害を受ける事になる。
加えて、今言った通りの事情で、もし清丸がイレギュラーの手で命を落とす様な事になれば、
国家とイレギュラー全体の全面戦争にも発展するだろう。
状況が状況で対象が対象だ、無傷とは言わない、国家の威信が保てる程度の負傷に留めてもらえばいい」

流石に、まずい事になった。
色々あったが地が只の中学生のほむらには、どこまでがハッタリなのか程度が判別できない。
だが、少なくとも笑い飛ばして終わらせる事が出来る現実も度胸も存在しなかった。
加えて、彼らの言うイレギュラー、それが本当だとしたら、
関わっているのが何者なのかをほむらの知る限りで推察してもひどく悪い予感しかしない。

「只で、とは言わない。
承諾してくれるなら、ご両親には命懸けの仕事に相応しい経済的な便宜を図る事を約束する。
無論、不審を抱かれない形式を整えた上での便宜だ」

腹をくくるしかないのか、両親の仕事と医療設備、技術の都合により、
ほむらが中学生にして見滝原のマンションに一人暮らしをしている事を含め、
両親に一方ならぬ負担を強いて来た事は子供心にも痛感してきた。
沈黙するほむらに、淀川は四枚の写真と調査資料を差し出す。

「平凡な家族を一つ社会的に破滅させる事も肉体的に破滅させる事も、
我々には容易い事」

淀川の口の中に鍛えられた鉄の味と生ぬるい鉄の味が広がり、歯が四本へし折れる。

今回はここまでです。
淀川さんはオリキャラです。
それっぽいキャラや設定をテキトーにパロった要素が色々入ってます。
続きは折を見て。

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