ほむら「新しいバイトしたいのに杏子が行方不明だわ」 (747)

ほむらがワルプルギスを撃退できたループのSSです。
題名にはバイトとありますがぶっちゃけあんまりその話は出ません。


過去にVIPで書いた二作

ほむら「アルバイトしたいわ」杏子「そうだなー」
http://blog.livedoor.jp/ayamevip/archives/32753467.html
ほむら「アルバイトやめるわ」杏子「それがいいよ」
http://blog.livedoor.jp/ayamevip/archives/32817867.html

の続編となります。
まずはこちらに目を通して頂ければ幸いです。

こちらでスレ立てるのは初めてなのでいろいろ勝手は分かりませんが、よろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1381544268

ーー魔女結界

杏子「よし。ちょろいもんだぜ」

杏子は消滅した魔女の残影からグリーフシードをすくうと、もう一人の少女の方に向き直る。

杏子「おいあんた。大丈夫か?」

???「うんおかげさまで。ありがとう、キミは私の恩人だね」

杏子「やめろよ。ただヒマだったから助けただけだ」

本来なら杏子はさやかと二人で魔女退治にあたるはずだった。

しかし今日、さやかはその恋人恭介とデートの約束があり、その妨害をするほどの無粋を杏子は持ち合わせてはいなかった。

また、魔女を一人で狩ることなど杏子にとっては朝飯前であり、現在のほむら、マミ、さやかのいずれかとタッグを組んで挑むということ自体彼女にとってはぬるま湯の様に感じられてならないのである。

つまるところ、今日の杏子単独での魔女狩りは半分さやかを気遣ってのことであり、また一方で、彼女の久々にひとりで魔女と戦ってみたいという欲求に起因するものだった。

しかし、結局彼女は彼女の思うまま暴れる事が出来なかった。

それは杏子の隣のこの黒い少女が魔女結界に迷い込んでいたためだ。

まったく、世の中ってのはよほどあたしと相性が悪く出来ているらしい。

生まれてこの方、あたしの思い通りになったことなんてありゃしねえ。

杏子は内心毒づきながらも、形だけは黒い少女を気遣うのだった。

???「おや。キミは恩人じゃなくてヒマ人だったのか。なら礼は言わないよ」

黒い少女は無邪気に笑う。

杏子は自身の考え事のせいでこの少女とどんなやりとりをしていたのかしばしの間思い出せなかった。

が、ヒマだったから助けただけだ、という自身の照れ隠しの発言を思い出すと顔をしかめる。

普通、こーゆー時はあたしの照れ隠しを汲み取って礼を言うのがスジじゃないかねえ。

どこか釈然としない物を感じつつ、

杏子「そうかい。じゃあヒマ人はこれでお暇するよ」

杏子はそそくさと立ち去ろうとした。

ところが。

???「待ってよヒマ人。それじゃあ私の気が済まない。どうか恩返しさせておくれ」

くるくるくねくねと黒い少女は杏子にまとわりつく。

杏子「ああ、うぜえ!じゃあありがとうって一言言えよ!それでチャラにしてやる」

???「分かってないなあヒマ人。プレゼントっていうのは意外性があって初めてありがたみが出るんだよ」

???「指定された物を渡すだけなんて、ただのおつかいじゃないか」

???「だから私はヒマ人に、とっておきのサプライズをプレゼントしよう」

杏子「あ?」





???「シネ」

次の瞬間、杏子に六つの鉤爪が襲いかかった。

しかし、鉤爪が切り裂いたのは直前まで杏子がいた空間だけで、当の杏子は大してサプライズした様子もなく、大きな宙返りでそれを回避していた。

杏子「はッ!どうもあたしは恩を仇で返される星の下に生まれついちゃったらしいね」

???「仇?とんでもない!私はただ魔法少女というシステムを理解出来てない哀れなヒマ人を救おうとしただけなのに」

杏子「おあいにくさま。それ、あたしもう知ってんだ」

???「本当かい?驚いた…。それを知ってなお、魔法少女を続けているなんて。よほどの酔狂とみえる」

杏子「否定はしないさ。これでも、いまは生きてるのがそれなりに楽しいんだ。あんたのプレゼントは完全に的外れだったよ」

???「そうそう!そーいや、ヒマ人はなんで私のプレゼントを避けれたんだい?後学のために教えてよ」

杏子「ああ?魔女結界の中であんたみたいに冷静を保てる一般人はいねえだろ」

杏子「だからあたしは派手に暴れられなかったんだ」

杏子「あんたが敵だったなら、魔力を温存しなくちゃいけないからね」ニッ

???「そういうことか。よし!次からはもっと取り乱す事にするよ」

…「次」ということは、あたし以外にもターゲットがいるのか?

どっちにしろ狂人の類だ。関わりたくはなかったけど、ここまで首を突っ込んでしまっては仕方ない。

杏子「おいあんた。あたしはひとつ質問に答えたんだ。次はあたしの質問に答えてもらうよ」

杏子「あんた一体何者だ?どこで魔法少女のシステムを知った。そしてなぜあたしを殺そうとした」

???「ヒマ人は欲張りだね。私はひとつしか質問しなかったのに」

???「答える質問はひとつだけ。私は呉キリカ。それ以外は教えない。教えても意味がない!」

キリカ「あんたはここで死ぬんだからッ!!」

魔法少女に変身したキリカが杏子に迫る。

杏子「へえ。面白い!かかって来なよ呉キリカ!ぶちのめして洗いざらい吐かせてあげるからさッ!」

杏子の槍とキリカの鉤爪が交差した。

やべえ寝落ちしてたー続きあります

キリカ「うわっ!」

当初は杏子と互角に切り結んでいたキリカが吹き飛ばされる。

杏子の槍は多節槍であるが、その本質を現した、ムチの様にしなる槍、その末端にキリカの頬の肉が削られたためだ。

キリカ(くっ!あんな攻撃も出来るのか。ヒマ人は意外と強いね!)

だがその程度で狼狽えるキリカではない。

すぐに杏子と向き直る。

すでに彼女は追撃せんと、猛然とキリカに迫っている。

キリカ(だけど、今度はヒマ人が私を甘く見た番だね)

キリカ(速度低下!)

キリカの固有魔法、速度低下は、予め陣を張った領域内での全領域、あるいは特定の空間の速度を低下させる。

周到なキリカは、この魔女結界に迷い込んだ(ふりだが)時に、魔女結界全体に陣を張ってある。

魔女結界そのものが、キリカのフィールドに等しい。

この時キリカは正面の杏子の周りに速度低下をかけた。

しかし。

キリカ(ヒマ人の速度が落ちない!?)

杏子はそのままの速度でキリカとの間合いを詰め、キリカが狼狽しているのを知ってか知らずか絶妙のタイミングで槍を投擲した。

キリカ「くっ!」

すんでの所で槍を回避するも、そこには既に新たな槍を構えた杏子が肉迫していた。

杏子「終わりだよ!呉キリカ!」

キリカ「っ!うわっ!」

杏子の鋭い連撃にキリカはもはや反撃の暇もなく後退を強いられている。

キリカ(なんだこいつ!?速度低下が効かないなんて!私と相性が悪すぎる…!)

キリカ(それにこの槍撃…!おかしいよ!私達はあくまで元は中学生。ここまで槍の扱いに練達してるなんて、あんた武人か何かか!?)

だが、キリカとて百戦錬磨の魔法少女。

そのプライドと、何よりキリカの唯一絶対の友、織莉子の期待を裏切れない。

その思いからキリカは奮起する!

キリカ(負けられない!負けたくない!)

そして杏子が大振りな攻撃を仕掛けようとした瞬間、キリカは攻撃に転ずる。

キリカ「ああああ!!」

攻撃のリズムを崩された杏子は、キリカに反応することが出来ない…!

キリカの爪は、杏子の胸のソウルジェムを正確に砕いた。

…はずだった。

しかし実際は、爪は杏子の体をすり抜けてしまう。

キリカ(なんだこれ!?どうなってる!?)

人間とは、体に新たにかかる負荷をあらかじめ予想して体重移動を行うものだ。

例えば、階段をもう登り終えているのにもう一段あると錯覚していた時、人はそのように体重移動をしてしまう。

結果、もう一段あるという予想と体重移動を裏切られ、無様に転んでしまう。

その際にスネを打つ痛みは人類共通のもののはずだ。

キリカもこの時、杏子という階段を踏み外し、無様に転んでしまった。

そしてその眼前にはさっきすり抜けてしまったはずの杏子の姿が。

杏子「悪いね。チェックメイトだ」

キリカ(…ッ!!)

キリカは全てを悟る。

キリカ(こいつ…!こいつの固有魔法は、恐らく幻覚の類!)

キリカ(私の速度低下は、実体のある物にしか効かない。ヒマ人の幻覚になんか効くはずがなかったんだ!)

キリカ(恐らく、私が最初に吹っ飛ばされたタイミングで幻覚と入れ替わった。あとは私の独り相撲…!)

キリカ(あの大振りでスキを見せたのもワザとだ。私がこうして這いつくばっている所までを予想していた!)

杏子が槍を振り下ろす。

だがその一瞬で、キリカの頭はとんでもない速度で回っていた。

それは彼女の固有魔法によるものではない。

生物という生物が持ち合わせる、防衛本能!

キリカ(待てよ。ならこいつには。実体のあるこいつには、効く!私の速度低下が効くんだ!)

キリカ(いや待て。いま槍を振り下ろすこいつも幻影だったら?だったら、避ける必要はない!実体がないんだから!)

キリカ(やれるぞ、呉キリカ!)

杏子「なにっ!?」

勝利を確信していた杏子の槍は空しく宙を切る。

前を向くと、そこには無傷のキリカが。

杏子「へえ。土壇場でパワーアップなんて。あんた主人公に向いてんじゃん?」

速度低下魔法の大きな利点として、その特性が敵に悟られにくい、ということが挙げられる。

速度低下魔法を受けたものは、大抵自分の速度が低下しているのではなく、キリカの速度が上昇したように感じる。

事実、杏子はそう感じていた。

キリカ「いや。私は脇役だよ。主役は織莉子。脇役が私。それ以外、なにも要らない。全部舞台裏に捨ててやる」

キリカ「まずはヒマ人、あんたを捨てよう!そうしよう!!」

キリカはおぞましい殺気とともに爪を構える。

彼女のドス黒い殺気にあてられたのか、光の爪が黒く変色してしまっている。

だが杏子はそれを見ても怯まない。

それどころか、薄っすら笑みすら浮かべている。

彼女のチャームポイントの八重歯が目立つその笑みは、彼女をとても幼く印象づける。

だがこの無邪気な笑みを浮かべる少女は、自分に殺意を向ける相手と対峙している。

そして、その展開を少なからず面白いと感じている。

その笑顔と状況は、とても不釣り合いだった。

キリカ「いくよっ!」

キリカが突っ込む。

だが杏子はこの時、とんでもない事を考えていた。

杏子(ロッソ・ファンタズマは使わないでおこう…)

なんと自信の幻影魔法の封印を考えていたのである。

それも、魔力の節約だとか、トラウマだとか、そういったものに起因するのではなく、ただ

杏子(そっちの方が面白そうだ…!)

ハンデのつもりなのだ。

杏子は先ほどまでの幻影とキリカの戦いを眺めて、キリカの実力を測っていた。

そして彼我の戦力差を検討し、それが妥当なハンデと判断した。

これについては一応注釈する。

普段の彼女であったら、このような愚行には走らなかっただろう。

だが久々の単独での魔女狩りによって彼女は興奮していた。

さらに、彼女は思う存分暴れられることを期待していたのに、キリカのためにそれが裏切られた。

彼女の疼く闘争本能が欲求不満に陥っていた時にこの戦闘が始まったのだ。

少しでも実力を拮抗させ、ギリギリの所を楽しむ。

そういう事を企んでも、彼女を責められまい。

ただひとつ読み違えたのは、キリカの実力だ。

先ほどまで杏子が圧倒していたのは、速度低下が効かないというキリカの狼狽のためだ。

しかしキリカはそのカラクリに気づいた。

キリカは杏子の固有魔法を暴き、その上での攻撃を計画するはずだ。

だが杏子はキリカの速度低下を知らない。

この差はあまりに大きく、もはや形勢は逆転したと言ってもよい。

それなのに杏子は自身の固有魔法を封印しようとしている。

要するに杏子は酔っていたのだ。

驕りという、強者にのみ許された最悪の美酒に。




ーーそして。

杏子は、キリカに敗北することとなる…。

ーーとある廃ビル


マミ「いったわよっ!暁美さん!」

ほむら「ええ!」

私は身を翻してハンドガンのトリガーをひく。

かわいた発砲音とともに魔女が吹き飛ぶ。

ほむら「…!や、やったわ!全部命中したわよマミさん!」

マミ「ええ。いまのは上出来よ」

マミ「あとは、これが実戦で出来るかね」

マミさんは私の撃った魔女ーーの、絵が描かれた空き缶を拾いながら微笑む。

私たちはいま、とある廃ビルにいた。

ここはマミさんが魔法少女を初めたての頃、魔法の練習をしていた場所らしい。

なんでも、ここでマミさんのマスケット銃を使う戦術は生まれたとか。

あと、ティロ・フィナーレも。


ワルプルギスを撃退して以来、私はここでマミさんに魔法の修行をつけてもらっていた。

時間停止を失った私に残された魔法は、左手の盾に備わっている四次元ポケットのような能力だけ。

私の今までの戦い方は、あまりに時間停止に頼りすぎていて、正直戦闘力はさやかに次いで低いと言える。

いえ、ポテンシャルで言えばさやかにも劣っているわね。

とにかく、今のままでは仲間たちに迷惑をかけかねないし、下手をうてば魔女に負けてしまうかもしれない。

だから私はこうして修行をつけてもらっているのだ。

時間の止められない場合の魔女との戦い方を…。

マミ「いい?暁美さん。時間が止められた頃はほぼ全方向から来る使い魔からの攻撃にも対処は簡単だったでしょう」

マミ「でも今は違うわ。いまやっているように、様々な方向に向き直りながら正確に射撃を浴びせなければならない」

マミ「この訓練はやり過ぎて困ることはないわよ」

いま私が特訓しているのは、体の向きを素早く変えて正確に射撃すること。

私が目をつむっている間にマミさんが魔女(空き缶)をいくつか適当に放り投げ、それが地面に当たった音がしたら特訓開始。

私は目を開けて、自分の周囲の魔女を出来るだけ素早く狙撃していく。

この時、体を翻すのが私が苦手だった。

まあ、時間停止が出来た頃は必要のないスキルだったので仕方がない。


最初はてんでダメだったこの特訓も、マミさんに転身のステップを教えてもらい、最近ではずいぶん上達していた。

事実、さっきもマミさんの投げた五つの魔女を銃弾五つきりで全部撃ちきることが出来た。

出来なかったことが出来るようになるのは、やっぱり嬉しい。



ほむら「今日もありがとう。文化祭の準備で忙しいでしょうに」

マミ「いいのよ。私の役は通行人Cだから。むしろ最近あまり付き合えなくてごめんなさいね」

ほむら「仕方ないわ。都合が合わないんだもの。それより通行人Cって…」

マミ「学活の時間テトリスしてたら勝手に決まってたのよ…」

ほむら「その、開き直るのにも限度があると思うわよ」

マミ「クラスメイトには迷惑かけてないから大丈夫、だと思うわ」

ほむら「………」

時々、マミさんの学校生活が心配になる。

ほむら「それで、杏子はまだ帰って来ないの?」

マミ「ええ。もう3日よ。さすがに連絡もなしにこれだけ家を空けるのは珍しいわ」

ほむら「まったく、何をしているのかしら。杏子がお化け屋敷がいいってゴリ押ししてたのに、当の本人がいないんじゃ盛り上がらないわ」

マミ「まったく、無責任ね」

ほむら「ほんとだわ。いつもあの子は本能の赴くままに行動するんだから。ふと気付くとぶらりとどこかに消えてるし」

マミ「探すと大抵高い場所にいるのよね」

ほむら「そうそう!それで探したのよって文句を言うと、うるせえなーってあくび混じりにこう言うのよ」

ほむら・マミ「腹減った」

ほむら「やっぱり!」クスクス

マミ「佐倉さんってブレないわよねえ」クスクス

ほむら「こう言ってると、なんだか杏子って猫に似てる気がしてきたわ」

マミ「それ、つねづね私も思ってたのよ!」

ーー本当に、杏子は猫みたいだと思う。

どうせ今回も、ぶらりと帰って来てくれるのだろう。

そして彼女は、今回の冒険談をマミさんのケーキを頬張りながら得意げに話してくれるのだ。

マミさんにお行儀悪いわよって注意されながらも、それでなーって興奮した面持ちで語り続ける杏子が目に浮かぶ。

なんやかんやで話し上手な杏子の体験談で、お茶会は盛り上がるのだ。

あれでけっこう、杏子は語り部に向いているのかもしれない。

いつも通りの、それでいてかけがえのない時間。

そう。いつも通りに戻って来てくれるーー。

そう思いたいのに、何故か今回は嫌な胸騒ぎがする。

猫は自らの死期を悟ると、飼い主の元を離れて独りで死ぬという。

杏子が猫に似ていると言うなら。

ひょっとして、どこかで…?

そんな悪い想像が胸をよぎっては振り払う。

大丈夫だ。杏子が魔女なんかに遅れをとるはずがない。

帰ってきたら、まずは死ぬほど文句を浴びせてやろうと決意して、私は帰路につくのだった…。

ーーほむら宅

私の日課は、学校の宿題と読書、音楽鑑賞、それとお手製の爆弾制作。

特に最後の爆弾制作は欠かせない。

対魔女戦における私のメインウェポンだからだ。

みんなの武器みたいに魔力で作る必要がないから、魔力節約にもなるし大抵の魔女は数発で粉砕できる程度の威力はある。

ハッキリ言って自信作なので、みんなにも何度か勧めたのに、結局あまり普及しなかった。

特に同じ中~長距離タイプのマミさんにはぴったりの武器のはずなのに、なぜか一番強く断られてしまった。

曰く、魔法少女はマジカルに戦わないといけないのだそう。

私の存在が全否定された瞬間だ。

あんまり使う機会のなさそうな杏子でも、せっかくだからと苦笑いしながら一個受け取ってくれたのに。

理不尽だわ。

さて、そんな大事な日課も、今日は杏子のことが気になってあまり手につかなかったわ。

マミさんによるとまだ帰宅してないそうだし、そろそろ本気で心配になってきたから。

しかし杏子のケータイは充電が切れてるみたいだし(これだけ長く外出してれば当然だけど)、結局こちらから打てる手はない。

というわけで、私はまどかに電話して気を紛らせていた。

ほむら「それでね、今日はじめて空き缶を5個ともうち抜けたのよ」

ほむら「これってすごく難しいのよ!」

まどか「ティヒヒ。おめでとう、ほむらちゃん!」

まどか「なんだかその特訓してるほむらちゃん見てみたいなあ。西部劇みたいで格好良さそう」

ほむら「うーん、きっとまどかが想像してるのと違うわよ?場所、廃ビルだし…」

ほむら「それに、まどかがさやかを引きつけておいてくれないと、バレそうで不安だわ」

まどか「秘密にすることないのにー。さやかちゃんだってバカにしないと思うよ?」

ほむら「私の問題なのよ…。まだまださやかには先輩風を吹かせていたいんだから。マミさんに特訓してもらってるところなんて見せられないわ」

まどか「そっかぁ。うーん、ほむらちゃんって結構…」

ほむら「分かってるわよ…。意地っ張りだって言いたいんでしょう?」

まどか「それは…うーん、ティヒヒ」

ほむら「…否定してよまどかぁ」

ほむら「でも…そうよね、ダメよね。私が勉強も運動も魔女との戦いも出来てたのは全部ループのおかげ」

ほむら「いい加減、ダメな私と向き合わないとね」

まどか「そ、そんなことは全然ないと思うよ?!ほむらちゃんは全然ダメじゃない」

まどか「みんなの見えない所で頑張るのって大変だし、それに魔女狩りまでしてるんだからほむらちゃんは立派だよ!私も見習わなきゃ」

ほむら「まどか」

まどか「それにみんなには意地っ張りなのに、私にだけは弱気な所を見せてくれるほむらちゃん、とっても可愛いなって」

ほむら「ま、まどか!やっぱりバカにしてない?///」

まどか「してないよぉー。ほむらちゃんが相談してくれてるの、私うれしいんだから」

ほむら「…ふん。今度からまどかにも意地はろうかしら」

まどか「ああっ!ほむらちゃん拗ねないで!ほむらちゃーん!」

まどか「あ、そういえばほむらちゃん。文化祭の準備進んでる?この前みんなで買い出しに行った時は吸血鬼の衣装買えなかったけど…」

ほむら「ええ。大丈夫よ。自分の配役の分くらいはどうにかするわ」

まどか「わぁ。よく手に入ったねぇ」

ほむら「ふふ、私には奥の手があるのよ」

まどか「それは…なんだか聞かないでおくね」

ほむら「助かるわ」

ほむら「まどかの方は大丈夫そう?」

まどか「うん!というより、私と仁美ちゃんはコンニャク買うだけだから…」

まどか「いまは男子の段ボールの方を手伝ってるよ」

ほむら「中沢が張り切ってるアレね。私も衣装出来たし、明日から手伝うわよ」

まどか「うん!ありがとう」

まどか「あれ、でもほむらちゃんはセリフとかあるし、そっちの方をやった方がいいんじゃないかな?」

ほむら「だってほら、総監督の杏子がいないじゃない」

まどか「そっかあ」

まどか「…杏子ちゃん、大丈夫かな」

ほむら「……大丈夫よ。心配ない。杏子ほどの魔法少女が遅れをとるなんて、それこそワルプルギスくらいだわ」

まどか「…そうだよね」

ほむら「それより聞いてまどか!マミさんに杏子の部屋調べてもらったら、まだ台本も作ってないらしいわよ!」

まどか「ええ!それは大変だよ!もうあと一週間しかないのに!」

ほむら「あたしに任せとけって言ったのにあの子は…!」

まどか「最悪私たちだけで作らないとね」

ほむら「ええ。それも視野に入れるべきね」

まどか「ああ…。テストもあるのに」

ほむら「文化祭のすぐ一週間後にテストなんて狂ってるわ…。私たちを忙殺する気よ」

まどか「ほむらちゃん。勉強、教えて…」

ほむら「ごめんなさいまどか。正直最近忙しくて全然勉強出来てないわ」

ほむら「文化祭終わったらみんなで勉強会ね」

まどか「そうだねえ…」

まどか「あっ!そうだ、今度駅前にね、話題のパンケーキ屋さんの屋台が来るらしいよ!」

ほむら「そう。それは要チェックね。…!」

ほむら「ごめんなさいまどか。急用が出来たわ。今日はこれで」

まどか「そっか。うん。また明日ね、ほむらちゃん」

ほむら「ええ。また明日」


ほむら「まったく、私はまどかとの電話で忙しかったのに。よほどの用なんでしょうね」




ほむら「インキュベーター」

QB「やあ暁美ほむら。夜分遅くにすまないね」

ほむら「似合わない挨拶はいいわ。用件を言いなさい。わざわざ私のところにきたからには余程の用があるのでしょう」

QB「話が早くて助かるよ。暁美ほむら。いや、君とその仲間たちに重大な頼み事がある」

QB「『魔法少女狩り』が始まった。これを君たちに止めて欲しい」

ほむら「ま、魔法少女狩り…!」

QB「心当たりがあるみたいだね。真っ先に君のところに来てよかった」

QB「君の旅した時間軸でも、何度か同じことがあった。そうだね?」

ほむら「その通りよ。私はその事件の犯人から動機までを、恐らく知っている…!」

QB「良かった。本当なら一刻も早く情報を交換し合いたいところだけど、今日はもう遅い。僕はこれでお暇するよ」

ほむら「…そう。」

QB「明日、マミとさやかを集めてくれ。そこで情報を共有しよう」

ほむら「ま、待ちなさい!」

なぜ、いま杏子の名前がなかった…?

まさか。

まさか……!

ほむら「杏子は?杏子は呼ばなくていいの?」

QB「呼ばなくていいもなにも、彼女はいま行方不明ってことになってるじゃないか」


QB「それにまあ、隠しても仕方がないことだから言うけど、恐らく杏子は魔法少女狩りの被害にあった。残念ながらね」


まあ、憶測の域を出ないけどね…。

そう付け足すあいつの言葉は、まるで水中から聞いたかのようで。

それは、いま私は深い混乱に溺れているんだな…と、逆に自覚させてくれていた。

ーー翌朝・まどか宅前

まどか「おはよう!ほむらちゃん!ごめんね、待たせちゃって」

ほむら「大丈夫よまどか。さ、学校行きましょうか」

まどか「…?ほむらちゃん、なんだかやつれてる?」

ほむら「やっぱり分かっちゃうかしら。実は昨日あんまり眠れなくて…。シャワー浴びてきたから多少はマシになったかと思ったんだけど…」

QBの話を聞いた後私は、すぐにまどかに連絡した。

いま見滝原には危険人物がいる。

しかもそいつは恐らくまどかを狙っているから、明日からは登校時私がまどかの家まで迎えに行く、と。

まどか「それでほむらちゃん。その、危険人物はなんで私のことを狙ってるのかな…?私、誰かに恨まれてる…?」

早速聞かれてしまった。

まあ、さやかと仁美さんと合流する前じゃないと出来ない話だし、妥当なタイミングだ。

それに、自分が誰かに狙われていると聞かされれば当然気になるだろう。

…正直、迷っていた。

ありのままを話すべきか、否か。

昨日は迷った挙句、ぼかした表現しか使わなかった。

結局、答えは出ていない。

魔法少女関係の話だと分かれば、杏子失踪の件も絡んでいると考えるのが普通だろう。

もし、そう聞かれたら。

応えなくてはならない。

昨日、QBから聞かされた現実を…。

QB『隠しても仕方がないことだから言うけど、恐らく杏子は魔法少女狩りの被害にあった』

ほむら「ぅ…」

QBの言葉が蘇る。

喉がつまる。手汗が止まらない。胃がむかむかする。口の中に酸っぱいものがこみ上げる…!

まどか「だ、大丈夫!?ほむらちゃん!具合悪いの?」

ほむら「大丈夫よ、寝不足のせいで…立ちくらみしただけだから」

駆け寄ってくるまどかをしかし手で制する。

心配をかける訳にはいかない。

…涙目なのがバレてなければいいのだけど。

ほむら「ごめんね、守るって言った私がこんな体たらくで」

そうだ、しっかりしろ。暁美ほむら。

いまこの瞬間にも呉キリカや美国織莉子がまどかを狙っているかも知れないのよ…!

まどか「ほむらちゃん、具合悪いならムリしないで。私なら大丈夫だから」

ほむら「………」

ほむら「大丈夫じゃないわ」

まどか「え?」

ほむら「事態はそんなに甘くない」

ほむら「聞いてまどか。いまからあなたを狙っている人物のこと。狙われている理由。全て話すわ」

いまのまどかの言葉を聞いて、私はやはり本当のことを打ち明けた方がいいと判断した。

それはきっと、まどかを傷つけるだろう。

しかし、いま私がどんなに言葉を尽くしたとして、きっとまどかにはこの事態の重さは伝わらない。

だったら、私は話そう。

例えまどかを傷つけてでも、私はまどかを守らなくてはならない。

だって、それが私が魔法少女になった理由。

このまどかを守れなかったら、私がかつて数え切れないほど見殺しにしてきた幾多の魔法少女達に顔向けが出来ない。

ーーーー
ーーー

私は話したわ。

呉キリカと美国織莉子という魔法少女がまどかのことを狙っているであろうこと。

それは、美国織莉子がまどかが最強最悪の魔女になることをその固有魔法によって予知し、それを防ごうとしてのことであり、まどか本人には怨みはおろか面識すらないであろうこと。

そして、そのまどか殺害の準備段階として魔法少女狩りを行い、QBの目をまどかから逸らそうとしていること。

……杏子が、恐らくその被害にあってしまったこと。

まどか「そんな…そんなのってないよ…。わ、私のせいで杏子ちゃんが…」

ほむら「違うわまどか!それは断じて違う!悪いとしたら私が悪いの」

ほむら「私は他の時間軸で二人の危険人物のことを知っていたのに、それをみんなに話していなかった!」

ほむら「ワルプルギス襲来の後に美国織莉子が行動を起こすパターンだって予想出来たはずなのに…!」

まどか「ほむらちゃん…。でも」

ほむら「…元気だして、まどか。考えてもみて。あの杏子が簡単にやられるはずないじゃない」

ほむら「きっとうまくやり過ごしてるに決まってるわ」

まどか「うん…そうだよね。杏子ちゃんなら、きっと」

…嘘だ。こと情報に関して、QBほど信用できるやつもいない。

なぜならあいつには感情がない。

つまりそれは、誰よりも客観的にものを見ることができるということ。

さらに、こうして相手を気遣うこともない。

そのQBが、杏子はやられたと言ったなら、それは事実だ。

ただそこまでをまどかに伝えられるほど、私には勇気がなかった。

ごめんなさい、まどか。

そして杏子。

私はずるい人間です。

でも、その代わりに。

ほむら「心配しないでまどか。私は必ず織莉子たちを倒して、あなたを守ってみせる」

私は、必ずあなたを守りぬく。

ほむら「そうしたら、またみんなで遊びましょう。大丈夫よ、すぐに元の日常に戻るわ」

これ以上、一人の犠牲を出さずに…!

その後、さやか達と合流するまで私達は何気ない話をしていたが、やはり雰囲気は暗いままだった。

しかしさやか達と合流してしまえば、さやかの底なしの明るさに引きずられて自然と私達もいつも通りのテンションになることが出来たのだった。

さやか「あ、ほむらも寝不足なのー?実はあたしもでさー、え?何でかって?」

「いやー、恭介のやつと長電話しちゃってさー!ほんと時間って溶けるっていうか?気づいたら4時でねー。あははは!で、朝までちょっとでも寝とこうと思ったんだけどさ、なーんか目が冴えちゃって。で、ケータイのデータフォルダでさ、いろんな写メ見てこんな事あったなーって懐かしがってたらなんか外明るいの!鳥とかないてるし!こりゃヤバイ!ってなって30分だけ寝たのよ!で案の定起きれなくてお母さんが起こしに来てさー!昨日遅かったからあとちょっとだけ寝かせてーって言ってもダメ・却下・起きなさいのトライアングルアタックよ!でもここでさやかちゃんの伝家の宝刀が炸裂!その名も『ごめーん!勉強してたら遅くなってたのー!』この攻撃にはお母さんも耐えられず、見事さやかちゃんはもう15分のボーナススリープタイムをゲットできたのでしたー!」

…ちょっとイラっとしたけど。

ーー放課後・マミ宅

放課後、QBの言う通りに、私、マミさん、さやか、そしてまどかの四人にQBを加えて、魔法少女狩りについての対策会議を開いていた。

さやか「…許せない!杏子を酷い目にあわせて、その上まどかまで狙ってるなんて!」

さやか「ほむら、マミさん!絶対にそいつら倒しましょう!」

早速さやかは興奮している。

まったく単純なんだから。

でも、彼女のこういう仲間のために義憤に駆られるような、強くて優しいところはなんだかんだ言って私は好きだし尊敬している。

さやか「名前も面もほむらのおかげで割れたし、これ以上はあたしが黙ってないよ!美国織莉子の学校に乗り込んで果たし状叩きつけてやる!!」

ただ、ちょっと周りが見えなくなるのと手段がアレだけど。

ほむら「さやか落ち着いて。その気持ちはここにいる誰もが持ってるけど、美国織莉子と呉キリカは無策で突っ込んでも勝てるとは限らないわ」

QB「そうだね。杏子がやられた事も考えると、それなりの実力者だと覚悟して臨んだ方がいい」

マミ「それに私達の目標は全員無事で彼女達を倒すこと。例え勝てたとして、それがピュロスの勝利では意味がないわ」

QB「幸い、ほむらのおかげで情報は出揃った。あとは僕が君たちに有利なフィールドに織莉子達を誘導すればいいわけだ」

その通り。私は、魔法少女狩りの犯人が恐らく美国織莉子達の仕業であること。

また、その動機や目的は知っている。

ただ知らないのは、織莉子たちの居場所。

逆にQBは、織莉子たちが犯人だということは知らなかったが、犯人が織莉子たちとわかってしまえばその所在は簡単にわかるらしい。

皮肉にも、私とQBが協力することで織莉子たちと有利に戦える。

まどか「でも、なんだか意外だな。QBが協力してくれるなんて」

さやか「たっしかーに!なんか裏があんじゃないのー?」

QB「なにを言っているんだい?流石の僕も、魔法少女が殺されてるのは見過ごせないよ」

さやか「ふーん…。あんたもまあそこまでの外道じゃないってことなんだ」

QB「ずいぶんな言いようだ」

さやか「あ、ところでさ!QBって魔法少女の居場所は全部把握してるの?」

QB「全部把握している、というのは正確ではないね。ただ、探せばわかるというだけだ」

さやか「探せばわかるって…それじゃあたしたちと変わらないじゃん!」

QB「君の思うような非効率的な方法ではないから安心してくれ。やろうと思えばいまから数秒で特定できるよ」

ほむら「あなたの神出鬼没っぷりはそういうことね」

QB「そういうことだ」

マミ「話を戻しましょう。こちらから積極的に仕掛けられるなら早い内にやってしまいましょう。その子の固有魔法って予知なんでしょう?」

マミ「こちらが動くとわかってるなら、相手もじっとしててはくれないわよ」

ほむら「そうね。先手必勝。先に奇襲できた方が圧倒的に有利よ」

さやか「でも、敵は未来予知できるんでしょ?あたし達がこうしてるのも予知されてるかも!」

まどか「確かに…。私達がいま、今すぐ戦おうとか、明日にしようとか話し合ってても、その答えは最初から織莉子さんに筒抜けだったら…」

ほむら「その予知に関してなんだけど、恐らく織莉子の予知能力は『可能性を見ることができる』というものであって、『決まっている未来』は見れないのだと思う」

QB「なるほどね。面白い考えだ」

ほむら「織莉子は『人類最悪の敵』を予知して、その結果まどかの魔女を見たと言っていたわ」

ほむら「そして、私を見て『あなたはあの場所にいたあなたなのね』と驚いていた」

ほむら「これはつまり、別の時間軸の光景を見ていたということにならないかしら」

マミ「美国織莉子の能力は、あらゆる可能性、つまり時間軸の中から、指定した光景を見ることができることってことかしら」

ほむら「確証はないけれど、多分そうよ」

さやか「なーんだ!未来予知なんて言うからどんな恐ろしい敵かと思えば、そんなに大した敵じゃないんだね」

ほむら「いえ、美国織莉子の能力は厄介よ。特に戦闘面では、私の時間停止を駆使した攻撃をことごとく避けてみせたわ」

マミ「戦闘では正確な予知ができる…?」

ほむら「違うと思う。美国織莉子は近い未来ほど正確に予知できるんじゃないかしら」

QB「話を聞く限りそうだろうね。風が吹けば桶屋が儲かると言うし、出来事というのは様々な遠因が絡まりあって起こる物だ」

QB「カオス理論的に見ても、遠い未来ほどノイズが大きくなるのは当たり前だ」

QB「だがそうなると、やっぱり奇襲は難しいんじゃないかな。奇襲しようとする時期が近づけば予知されるだろう。完璧な不意打ちとはいかないよ」

ほむら「いえ、もう一つ。美国織莉子の能力には穴があるわ。それは光景しか見れないこと」

ほむら「例え、自分達が奇襲される光景を見ることができても、そこから得られる情報は限られているわ。その正確な時間や場所まではわからない」

マミ「なるほど。なら奇襲する場所は考えないとダメね。なるべく普遍的な場所でないと」

ほむら「いずれにしろ、行動は早い方がいいわ。例え正確な時間や場所は分からずとも、奇襲される事がわかっているなら、時間を与えれば与えるほど迎撃準備をされる」

さやか「じゃあ、ぶっちゃけあんまり結論は変わらないね!出来るだけ早く、美国織莉子と呉キリカを叩く!」

まどか「ただし、予知されても簡単には正確な場所が特定されにくいところで、だよさやかちゃん」

ほむら「そこに誘導するのはあなたの役目よ、QB。こう言うのもなんだけど、頼りにしてるわ」

QB「ああ。任せてくれ。まさかこんな日が来るとは思わなかったが…」

QB「共同戦線といこうじゃないか」

さやか「なんだか燃える展開じゃん!よーし!さやかちゃんの正義の剣で悪の魔法少女を裁いてしんぜよう!」

ほむら「あと、さやかの役目なんだけど…。」

さやか「なになに!?ワルプルギスの時みたいにトドメ役!?」

ほむら「まどかの護衛をお願いしたいわ」

さやか「えっ?」

ほむら「敵の最終目的はまどかの殺害よ。なら、私達との戦いから逃げて直接まどかを狙うかもしれない」

ほむら「しかも呉キリカの固有魔法は速度低下。一度逃げられたら二度と追いつけないわ」

ほむら「その時、まどかがフリーだったらゲームオーバーなのよ。奴らは本当になんの躊躇もなく一般人のまどかを殺す」

さやか「えー、でも2対3の方が有利じゃない?2対2で戦って、例え勝ってもどっちかが、し…死んだりしてたら…あたし、自分を許せそうにないよ」

QB「それならいい方法がある!僕を護衛に残せばいい。いざとなれば、まどかが魔法少女になって自衛すればいいだけの話さ!」

ほむら「…ね?あなたが残るしかないのよ、さやか」

まどか「そうだねぇ…」

マミ「美樹さん、お願いできる?」

さやか「そっか…。うん!よし!わかったよみんな!」

QB「なんでみんな僕の素晴らしい提案に乗らないんだい?これが最も勝率が高いだろう」

ほむら「本末転倒だからよ」

QB「わけがわからないよ」キュップイ

ーーーー
ーーー

マミ「じゃあ、今日はこれでお開きね」

さやか「決行はあしただよね」

ほむら「ええ。手はず通りにね、さやか」

さやか「わかってるよ!明日はまどかと二人でほむらん家に隠れてる」

マミ「織莉子達がそっちに向かったら連絡するわ」

さやか「うん!あたしはまどかを例の場所に隠したら、ほむらん家のいろんなマジカルギミックを使って迎撃」

ほむら「私達が合流したら一気に挟撃・殲滅」

さやか「りょーかい!なんかワクワクするね、まどか!」

まどか「不謹慎だけど、そうだね」ティヒヒ

マミ「二人とも。これが佐倉さんの弔い合戦だってこと、忘れちゃだめよ」

さやか「そ、そっか…」
まどか「ごめんなさい…」

ほむら「さやか。まどかのこと…頼んだわよ」

さやか「ほむら…。うん。任せて。だからそっちも、気をつけてね」

ほむら「ええ。ありがとう」

まどか「二人とも…。私、なんだか恥ずかしいよ」

マミ「みんなあなたのことが大事なのよ」

さやか「あ、そういや今晩は誰がまどかの護衛する?」

ほむら「交代制にしましょう。私はこの後もマミさんと具体的な戦闘の作戦を煮詰めるから、最初はさやかにお願いしていい?」

さやか「わかった!ほむらかマミさんが来たら交代?」

マミ「そうね。もし、万が一織莉子達が攻めてきたらすぐに私達を呼ぶのよ?」

さやか「りょーかいです!」

さやか「じゃあ、今度こそ私達は帰りますねー!また明日ー!」
まどか「二人ともまた明日!」

ほむら「ええ。また明日」
マミ「気をつけて帰るのよー」





QB「さて。二人は帰ったことだし、もう会話に気を遣わなくていいね」

マミ「そうね。そろそろ私達らしい…生々しい話をしましょうか」

ほむら「……」

マミ「とにかくまずは確認させて。この件に関してはQB、あなたのことを味方と考えていいのよね?」

QB「当然だ。魔法少女狩りなんてエネルギーの芽を摘む行為は、僕にはとても容認できない」

QB「一刻も早い解決を望むよ」

ほむら「私達も同じ。魔女がいなければ私達は生きられない。そして何より奴らは杏子を殺し、まどかをも手にかけようとしている仇敵。絶対に仕留めるわ」

QB「利害は完全に一致している。僕に君たちを裏切るメリットはないだろう」

マミ「ええ、そうね。ちょっと警戒し過ぎたわ」

QB「まあ、それはどうでもいいさ」

QB「それよりも、僕から解決手段について一つ、リクエストがある」

マミ「わかってるわ。彼女達は必ず殺す」

ほむら「…QB、あなたは私達が美国織莉子を仲間に引き入れることを恐れているのね」

ほむら「でも、その心配はいらないわ。杏子を手にかけた以上、どこまで行っても彼女達は敵よ」

QB「さやかを外したのはなんでだい?彼女を護衛に残さずとも、美国織莉子を足止めする方法ならあるだろう」

マミ「純粋に不安だからよ。といっても、戦闘面じゃないわよ。最近の美樹さんはかなり腕を上げたわ」

マミ「何が不安かと言えば、今回の相手が魔女でなく、魔法少女ってことね」

マミ「あの子はまだ正義のために剣を振ってる気でいる。そんな子が躊躇いなく人を殺せるかしら」

ほむら「殺し合いでは、一瞬の逡巡が命取りになる。悪いけどさやかはきっとそこまで割り切って剣は振れないでしょうね…」

マミ「それに、人を殺したという事実は確実に美樹さんの心を蝕むわ。そんな十字架を彼女に背負わせたくないもの」

ほむら「まあ、そんなところかしら」

QB「…考えがあってのことならいいんだ」

QB「健闘を祈るよ。必ず仕留めてくれ」

ほむら「ええ。あなたとの契約も反故にしたくはないし、せいぜい頑張るわ」

QB「…わかっているならいいんだ」

QB「じゃあ、僕もそろそろ行こうかな」

QB「明日の準備に取り掛かりたいからね」

ほむら「そう。ならどこへなりと行きなさい」

QB「そうしよう」


私達はその後も遅くまで対美国織莉子・呉キリカ戦に備えて作戦を練っていた…。

ーー???

QB「…やあ。久しぶりだね」


QB「織莉子」

織莉子「インキュベーター…」

織莉子「何の用?魔法少女の裏事情を知った以上、必要以上にあなたと関わる気はないの」

QB「まあそう邪険にしないでくれ。寂しいじゃないか」

QB「ともすれば、君『達』がやましいことをしているんじゃないかと勘ぐってしまうよ…?」

織莉子「………」

QB「警戒しなくてもいい。今日は君達に有益な情報を持ってきたんだ」

QB「織莉子。出来るだけキリカと離れ離れになってはいけない」

織莉子「一応聞いておきます。なぜなの…?」




QB「君達を殺そうとしている魔法少女達がいるからさ」

中沢「ど…どういうことだ?」

中沢「どよよ……」


ーー翌日

マミ「ここなのね、QB」

QB「ああ。あとは君たち次第だ。うまくやってくれるのを祈っているよ」

私たちが美国織莉子たちとの戦場に指定したのは、魔女結界。

最初は広い公園なども視野にあったが、それでは織莉子に予知された時に渡してしまう情報が多すぎる。

特に、空の明るさで時間の特定が容易という点が問題だった。


しかし屋内では、私もマミさんも射撃タイプなため既存の建造物を破壊してしまう恐れがある。

それは一般人を巻き込まないという私たちのポリシーに反する。

また、今度はどうしても場所の特定が容易になってしまうだろう。

結局、時間も場所も特定されにくく、また魔法少女として必ず訪れなければならない場所ということで魔女結界の中に決まった。

今度は使い魔や魔女という不安要素が出てしまうけど、仕方ないわ。

それに、織莉子とキリカが魔女と戦っているところを不意打ちできると考えれば、そうマイナスばかりでもない。

織莉子たちの入った魔女結界をどう特定するか、という問題はQBが解決してくれたわ。

実はQBは魔法少女だけでなく魔女の居場所もサーチできるらしく、本来は禁止されているらしいけど(誰に?)、織莉子たちが入りそうな魔女結界の情報を横流ししてくれたから。

ほむら「しかし、私の知ってる美国織莉子は魔女狩りも魔法少女狩りも呉キリカに任せていたわ」

ほむら「なぜ今回に限って二人で魔女狩りに来たのかしら…」

マミ「そうなの?なら今回は見送った方が無難かしら。各個撃破が理想だわ」

QB「それは違うだろう。むしろ、もう君たちの襲撃は予知されたと考えるのが自然じゃないかな」

QB「襲撃は魔女結界内ということしかわからない。なら、魔女狩りは二人で行うようになるのは当たり前だろう」

QB「だから攻めるなら早い方がいいよ。躊躇えばそれだけ準備時間を与えてしまう」

マミ「………」

ほむら「…そうね。そう考えると筋が通っているわ。ありがとうQB。やはりあなたが味方にいると心強いわ」


QB「感情のない僕にお世辞とは。本当に君たち人間は理解し難い」

QB「でもまあ、今回の件は僕としても必死だからね。…変な話だが、頑張ってくれ」

QB「大丈夫、君たちは僕の知る中でも選り抜きの魔法少女だ。相手が誰だろうと負けないさ」

マミ「まったく、調子いいんだから」

ほむら「それじゃあ、行ってくるわ」

ーー魔女結界内

キリカ「さてと!魔女のやつも動けない程度には刻んだし、あとは件の魔法少女たちが現れるのを待つだけだね!」

織莉子「そうね。あまり時間はかけすぎないようにしましょう。私達に時間は残されてないわ」

キリカ「どーゆーことだい?なにが私達の時間を奪うんだ」

キリカ「そんなもの許さないよ!私と織莉子の時間は誰にも邪魔させない!」

織莉子「ありがとう、キリカ。時間がないと言ったのは、救世を成し遂げられるか否かということよ」

キリカ「鹿目まどかかい?あんなの、QBの目さえそらせてれば千切るだけで終わりじゃないか」


織莉子「そのQBよ。恐らくQBは魔法少女狩りの正体を私達だと特定しつつある」

織莉子「目をつけられてしまった以上、私達の本命が知られるのは時間の問題」

織莉子「鹿目まどかが契約してしまえば、もうどうしようもない。彼女のポテンシャルなら、戦いに慣れていなくても私達くらい簡単に倒せるわ」


キリカ「じゃあ、この戦いが終わったらすぐに鹿目まどかを刻まなくちゃね!」

織莉子「そうね。それともう一つ、急がなくてはならない理由があるんだけど…まあとにかく、この戦いにあまり時間はかけられない、という結論は変わらないわ」

キリカ「っていうかさ、こんな所で律儀に敵さん待ってないでとっとと鹿目まどかを殺そうよ!」

織莉子「いいえ。それはダメよ。今度の敵は普通の魔法少女ではないわ」

織莉子「QBの話では、あなたの殺した赤い魔法少女の弔い合戦のため私達を狙っているということだったわ」

キリカ「うん、まー自然なんじゃない?私だって織莉子がやられたら、なりふり構わずそいつのことぶっ殺すし!」

キリカ「ソウルジェムも肉体も全部シュレッダーいきさ!その挽肉でハンバーグを作って織莉子にお供えしても私の怒りは収まらないよ!」

織莉子「QBはこうも言っていたの。彼女たちは私達の魔法も知っているから注意した方がいいって」

キリカ「…へえ」

織莉子「明らかに今度の敵は知りすぎているわ」

キリカ「そうだね。面識も何もない私達の魔法のこと。魔法少女狩りの犯人…。あ、ひょっとしてそいつらQBの尖兵だったりして!」

織莉子「だったら、もっと彼女たちに有利な戦場を提供するんじゃないかしら?」

キリカ「そっかぁ」

織莉子「とにかく彼女達は得体が知れないわ。今回にしても、QBを利用して私達に近づく算段だったんでしょうけど、あいにくQBは味方ではなかった」

織莉子「恐らく彼女達はQBにとってもあまり好ましくない存在なんでしょうね」

織莉子「QBの情報がなければ私達は奇襲されていた。この場をスルーして、次も対等な勝負ができるとは限らない」

織莉子「いえ、こんなチャンスは恐らくないわ。彼女達は、この場で殺す!」

キリカ「そうか。まあ織莉子が言うなら私は従うよ」

織莉子「!…結界が乱れたわ」

キリカ「いよいよお出ましってことだね!」

織莉子「いい?キリカ。最初は…」

キリカ「わかってるよ織莉子!」

キリカはうなずくと、懐から赤い宝石を取り出した…。

ほむら「まさか待ち構えているなんてね…」

マミ「ええ。予知されていたのかしら」

ほむら「会戦ってことね。ならこちらに利はないけれど、不利もない」

マミ「なに言ってるの。待ち構えてるってことは、トラップを仕掛けてる可能性もあるのよ」

ほむら「いえ、私の知る彼女達はそういうタイプではないわ」

マミ「そう…。でも、常に不測の事態に備えておいて損はないわよ?実際、こうして二人で待ち構えていること自体、不測の事態なんでしょう?」

ほむら「それもそうね。…気をつけるわ」

キリカ「ねえねえお二人さんっ!復讐に来たって割には消極的だねえ!」

キリカ「二人でボソボソ喋ってないで、もっと私達に言うことないかなー!?啖呵きるとかさあっ!」

キリカ「昔の武士みたいに、やあやあ我こそは何々なり~!みたいなやりとりしてみたいのに!!」

ほむら「やあやあ我こそは、暁美ほむら。あなたにやられた仲間の復讐に来たわ」

マミ「同じく、巴マミ。楽には殺さないわ。覚悟なさい」

織莉子「キリカ。満足?」

キリカ「ぜんっぜんだよ!あいつらは余程、感情に身を任せる楽しさをしらないみたいだ!」

キリカ「復讐者だってのに、まったく迫力を感じない!もっと私をゾクゾクさせてほしいよ!」

織莉子「じゃあ、啖呵のきり方を教えてあげなさい?」

キリカ「うんっ!そうしよう!」

キリカ「ねえ二人とも!運動会とかでさ、よーいドンのピストルあったよね?」

キリカ「私達の決闘にもあーゆーのが欲しいんだ」

マミ「お望みなら、銃を貸しましょうか?」

キリカ「いやいや!それには及ばないよ!不肖このキリカ、自前の合図を準備してきたんだ」

キリカ「ただピストルじゃなくて、くす玉?に近い趣きなんだけどね、私達の決闘にはぴったりの合図だと思うよ!」

キリカ「話は変わるけど、私は殺した魔法少女のソウルジェムを集めるのが趣味なんだ」

キリカ「武士も手柄を首級を持って帰って誇ったって言うしね!私も魔法少女の体をメチャクチャに引き裂いたら、ソウルジェムを首級としていただいてるのさ」

キリカ「そこでさ、このソウルジェム。だ~れのだ?」

ほむら「っ!それは…!」

その赤い宝石は…!!

キリカ「嬉しいよ。当たりみたいだね」

キリカ「じゃあ、決闘開始の合図を出すよ」

キリカ「きっと、いい音するから聞き逃さないでね?」

キリカは、そう言うと。

杏子のソウルジェムを高々と放り、それを

光の鉤爪で





砕いた。

ほむら「っ!!呉…キリカあああああっ!!!!」

何をどう動かしたのか覚えていない。

私の意識がハッキリした時には、キリカ目掛けて拳銃を片手に突っ込んでいた。

キリカ「そうだ!その殺気!!ゾクゾクするよ!」

眼前のキリカが満面の笑みで私を迎え撃つ。

殺す!!この女だけは、どうあっても殺さないと気が済まない!!!

だが。

突然私の体がリボンで包まれ、マミさんのところまで下げられてしまった。

マミ「暁美さん。怒りのまま突っ込んでは敵の思うがままよ」

ほむら「放して!殺すの!!あいつだけは、私が…!」

マミ「黙りなさい!!!!!」

ほむら「…っ」

マミ「暁美さん。あなたにはまだ、復讐者の戦いを教えてなかったわね」

マミ「復讐者はね、喋っちゃダメよ」

マミ「口を開けば、言葉とともに復讐のエネルギーは発散されてしまう」

マミ「エネルギーは、体に溜めるの。世の中への理不尽。不条理。それに対する怒り、憎しみ、悲しみ」

マミ「そして対照的に、頭は冷やして起きなさい」

マミ「燃え滾る体と、それを制御する冷えた頭。それが復讐者の理想の状態よ」

そう言ったマミさんは、普段の優しい面影はなく、冷たい殺気だけが充満していた。

その殺気は、矛先は私に向けられていないのに私が気圧されるほどで、それだけで切れるような迫力だった。

そのマミさんの殺気で、ようやく私の頭は冷静さを取り戻したのだった。

マミ「暁美さん。見せてあげるわ」

マミ「復讐者の」



マミ「戦いをっ!!」

言い終わるとともにマミさんは帽子を宙に薙ぐ。

すると背後にゆうに千は超えるであろうマスケット銃が展開される。

キリカ「…こりゃすごい」

織莉子「キリカ。私の後ろに」

マミ「行くわよ。私の可愛い弟子の、親友の、家族の」


マミ「魂を砕いた罪、その身に刻みなさい!!!」


QB「結界が大きく乱れている…。始まったね」

QB「どちら陣営も、高い実力を備えた魔法少女たちだ」

QB「恐らく正面から会戦といけば、双方タダではすまない」

QB「まさに僕の狙い通りだ」

QB「あの四人は全員魔法少女の真実を知っている」

QB「なおかつ、織莉子たちサイドは魔法少女狩りをして僕のエネルギー源を奪い」

QB「ほむらたちサイドはまどかという最高の魔女の種を孵化させまいと妨害してくる」

QB「まあ直接の妨害は禁じたが、ほむらたちがいては大差ない」

QB「そんな目の上のたんこぶ同士が勝手に潰しあってくれるなんて、最高の展開だ」

QB「そう仕向けたのは僕だけどね!!」キュップイ

QB「さて、どちらが生き残るか、高みの見物といこう」

QB「僕の見るところでは、織莉子たちが有利だろうけどね」

QB「魔法少女同士の戦いは情報戦だ」

QB「双方相手の固有魔法は知っている状態」

QB「違うのは、敵が自分の固有魔法を知っているかどうかの情報」

QB「ほむらたちは、織莉子たちに自分の魔法はバレていないと思っている」

QB「だが実際は僕が教えてしまった」

QB「対して織莉子たちは、自分の魔法がバレていると知っている」

QB「この差は、あまりに大きい」

QB「僕としては、織莉子たちが勝った方が後々の処理がしやすいからそう操作したわけだが」

QB「やっぱり一番は双方相打ちだね!」

QB「まあ、せいぜいお互い潰しあってくれ」

QB「どういう決着であれ、僕に損はないからね!」

ーーほむら宅

まどか「ほむらちゃん達、大丈夫かなあ」

さやか「大丈夫だよ、絶対。あのベテラン二人がやられるわけないじゃん!」

まどか「でも、杏子ちゃんは…」

さやか「……」

まどか「さやかちゃん。私ね、最初に杏子ちゃんがやられたって聞いても、正直ぜんぜん実感がなかったんだ」

まどか「でも、最近になって…ようやく、もう杏子ちゃんに会えないんだって思ったら…たまらなくなって」

まどか「これが…人が死ぬってことなんだね」

まどか「嫌だよさやかちゃん。杏子ちゃんともう遊べないなんて」ポロポロ

さやか「…まどか」

まどか「どうしよう。これでほむらちゃんやマミさんまでやられちゃったらどうしよう…!」

まどか「私、悔しいよ。どうして私はいっつも守られてばかりなの…」

さやか「…負けないよ。あの二人は負けない」

さやか「だって、あたしが加勢するから」

まどか「…え?さやかちゃん?」

さやか「ごめんまどか!やっぱりあたしも無理だ!あの二人が頑張ってるのにあたし一人だけ安全地帯にいるなんて耐えられない!」

まどか「いやでも…え?織莉子さんがこっちに来た時に備えて…」

さやか「うん、それについては絶対大丈夫!安心して!」

まどか「絶対ってそんな…それこそ織莉子さん次第じゃあ…?」

さやか「よし!そんなに不安なら、いまから根拠を見せるね!」

さやか「黙ってて悪かったけど、実は…」



まどか「ええぇ!?」

ーー魔女結界

マミさんの一斉射撃で、戦いの火蓋はきって落とされた。

やはり初撃は織莉子の予知で防がれ、一斉射撃と時間差で打ち込んだ対戦車バズーカも躱された。

マミ「やっぱり手強いわね」

と言いつつも、余裕の表情でマスケット銃を連射するマミさん。

ほむら「ええ。でも遠距離戦なら私達に分があるわ」

私も答えながらバズーカを数発打ち込む。

そう。遠距離戦なら圧倒的に私達が有利。

キリカが超近距離タイプのため、織莉子はキリカを庇いながら攻撃を受けるしかない。

そうなると織莉子に反撃の暇はないため、こうして私達が一方的に攻撃できるのだ。

しかし。

マミ「このままではダメね。私達がもたない」

その通り。

やはり予知能力を相手に正面から攻撃しても決定打にはなりえない。

いまは優勢に見えていても、魔力の消耗の激しいこちらがガス欠になれば(特に私は残弾というかなり現実的な数字がある)一気に形勢は逆転する。

つまるところ、いまの戦況を維持していても勝ちはない。

単発のチェックでは逃げられてしまう。

チェックメイトにはやはり二手先も三手先も読んで、逃げ道を完璧に塞いでからの一撃でないと及ばないだろう。

そして、そのための策は練ってある。

ほむら「ええ。私がスキを作るわ。あとは手筈通りに」

マミ「わかったわ」

あとは、この作戦が奴らに通るかどうか。

キリカ「もー!バカスカ撃ってくれちゃって!私にも攻撃させてほしいもんだよねえー!」

織莉子「まあまあ。私の魔法とキリカの魔法があれば死ぬことはないし」

織莉子「あとちょっとしたら、弾幕にスキができるわ」

キリカ「ほんとうかい!?ようやく私が踊れるんだね!」

織莉子「ええ…。私が合図したら、10時の方向に飛び出して。多少弾が飛んでくるけど、私がフォローするわ」

キリカ「りょーかいだよ織莉子!」


織莉子「…2、1…いまよ!キリカ!」

マミ「っ!来たわよ、暁美さん!」

私の空けた弾幕の穴から予定通りキリカが飛び出してくる。

まずは作戦通り。

その第一段階は、両者を分断すること。

そして、それを敵達にとってそれが最善手と思い込ませて行動「させる」。

これは完璧に遂行されたと言っていいだろう。

キリカが自ら突っ込んで来てくれた。

分断さえしてしまえば、あとは各個集中砲火で始末すればいい。

まあ、予知能力を相手にこの程度で詰められるとは思っていない。

これで始末できればよし、出来ずとも、私達にはこの後の本命がある。

迫るキリカに、私達は狙いを絞る。

キリカ「ムダだよっ!」

しかしキリカの周囲にはすでに織莉子の操る銀球が展開されている。

キリカに集中砲火を浴びせた弊害で、織莉子がフリーになってしまったために、キリカをフォローする余裕が生まれたのだろう。

私達の弾丸は、キリカに至る前にことごとく撃ち落とされてしまう。

やはり集中砲火は効かない。ならば。

マミ「暁美さん!本命を始めましょう!」

マミ「私がフォローするわ!キリカをお願い!」

ほむら「了解よ。予定通り、キリカをC地点に誘導するわ」

マミ「ええ。A、Cを対角線として、私達はB、D地点で攻撃よ」

ほむら「任せて!」

キリカ「また二人でブツブツ相談かい!?私も混ぜてよ!死に方の相談なら喜んで受け付けるよ!」

もうすぐそこまで肉迫したキリカに対して、マミさんはバックステップで距離をとる。

そしてマミさんとキリカの間に割って入り、キリカに立ち塞がるのは、私…!

ほむら「あなたの相手は私よ」

キリカ「なぁんだ!死ぬ順番を決めてたのかい!?なら勇気ある黒いの!キミはせめて安らかに千切ってあげるよ!!」

キリカの鉤爪が振り下ろされる。

しかしそれは私には届かない。

私の盾に弾かれたためだ。

私の盾は魔力を注ぐことで、瞬間的に前方をドーム状のシールドを展開することができる。

その防御力は、ワルプルギスの夜の波動を凌いだほどだ。

キリカごときの鉤爪でそれは破られはしない。

とはいえ、その衝撃は伝わる。

攻撃の反動で私は数歩の後退を強いられる。

さらにそこへ追撃を加えるべく、キリカが左右に身を振りながら迫ってきた。

身を振っている理由は、翻弄半分、私の銃の狙いをブレさせる半分だろう。

さすがはキリカだ。

一見狂っているように見えても、その戦闘は恐ろしく思慮に溢れていて、緻密だ。

だが私に肉迫した後の行動には、私が遠・中距離型のシューターであるというキリカの誤った前提意識が含まれていた。

なぜなら、キリカはとんでもなく大振りに振りかぶっているのだ。

恐らくキリカは、もう私のエイム・ファイアの手順よりも、自分の鉤爪の方が早いと確信しているのだろう。

確かにそれは、マミさんのような純粋なシューター相手なら正しい判断だ。

だが相手が私の場合、致命的なスキを生んでいる…!

キリカ「これでどうだっ!」

キリカが全身をひねった、渾身の斬撃を繰り出そうとした瞬間、私はキリカの懐に飛び込む。

キリカ「えっ!?」

そして、面食らうキリカに思いきり袈裟斬りを食らわせてやる。

キリカ「くっ!」

キリカはかろうじてそれを鉤爪で受けるも、大きく体勢を崩してしまう。

それを見逃す私ではない。

さらに返す刃で顔面に斬撃を放つ。

たまらずキリカは大きな宙返りで私と距離を取るも、そこも私の射程。

拳銃の弾が切れるまでキリカに連射してやった。

キリカ「黒いの。キミそんな武器も使うんだね」

傷こそ負ってないものの、キリカからは余裕の表情は消え、肩で息をしている。

ほむら「そうね」

そんなキリカに対し、私はあえてそっけなく返すと、右手の青いサーベルを構え直す。

これは言うまでもなく、さやかの剣だ。

さやかに頼んで、あらかじめ盾に収納しておいたのだ。

他にも、杏子の槍や、マミさんのマスケット銃も収納されている。

日頃からみんなの武器を盾に収納しておき、戦況に合わせて使い分けるオールラウンダー。

これが、いまの私の戦闘スタイルだ。

とはいえ、遠距離での射撃術ならマミさんに劣るし、中距離での槍術は杏子に及ばない。

無論、近距離での剣術ではさやかが勝るだろう。

つまるところ、私は仲間達の武装に加え、自前の爆弾や拳銃など、武器の多彩さで翻弄するしかないのだ。

キリカ「謝るよ黒いの。私はキミを見くびっていたようだ」

キリカ「だけど安心してほしい。これからは、一切の容赦なく、忌憚なく」

キリカ「あらゆる角度から計算し尽くして、キミのことをすり潰してあげよう」

ほむら「光栄ね」

そんなキリカの真横にマミさんが銃弾を送るも、それは織莉子の銀球に阻まれてしまう。

キリカ「いくよっ!!」

キリカの攻撃は外れた
キリカ「えっ!?」

マミ「ティロ・フィナーレ!!」
なぜ今ここに彼女がいる?


戦況は一変していた。

キリカと近距離で切り結ぶ私。

それを援護するマミさん。

その援護射撃を予知を駆使して、銀球で阻みつつ、マミさんにも攻撃を加えている織莉子。

この三点による三角形が、私とキリカを軸に平行移動している。

一種の膠着状態だった。

この状態から抜けるには、ふたつのパターンが考えられる。

ひとつは、私かキリカ、どちらかの敗北。

いまひとつは、マミさんが予知相手に読み勝って、キリカに攻撃を加えたことによる私の勝利。

または織莉子の攻撃がマミさんに通ってしまうことか。

一応、この状態は私達の描いたプランの上であることは明言しておく。

しかし、これではあまりにも個々の能力に頼りすぎていると、いまでは反省している。

どちらかの負けは、全体の負けに直結する。

だが、この状態にもってきてしまった以上、あとはマミさんと自分を信じて戦うしかないだろう。

キリカ「ほらほらァ!」

ほむら「…っ」

さっきは不意打ちがうまく決まったが、やはり近距離では圧倒的に私が不利だ。

攻撃もままならず、盾での防戦一方だ。

防戦一方でマミさんが織莉子に読み勝つのを待つという手もなくはないが、正直あまり期待出来ないだろう。

戦った私にはわかる。

あの予知はかなり厄介だ。

だから私がやられっぱなしでは勝ちはない。

なんとか攻めに転じなければ…!

ほむら「くっ!なめないで!」

大きめにバックステップをとり、キリカとの距離をあけると右手にサーベルを構える。

キリカ「おっ!やっとやる気になったみたいだね!」

嬉しげにキリカが迫る。

しかし。

ほむら「いえ、あなたのフィールドで戦う気はないわ、申し訳ないけれど」

言うなり私は、背中から回した左手の拳銃でキリカの足下を撃ち込む。

キリカ「わッぷ!」

構えた剣が死角となって、キリカは反応が遅れるが、かろうじてジャンプで回避する。

そこへ私は構えたサーベルで斬りかかる!

キリカ「くっ!」

後退したキリカに、時限爆弾をなげつけ、さらにそれをマスケット銃で撃ち抜きつつ、キリカにも連射を加える!




ーー爆炎でまだ見えないが、これで少しはキリカにもダメージが通ったろう。




マミ「暁美さんっ!上よ!」

ほむら「えっ?!わっ」

見上げるとそこにはすでに眼前に迫るキリカが。

間一髪盾でガード出来たが、マミさんの声がなかったら危なかった。

ほむら「…やるわね。あれで死なないなんて」

キリカ「キミこそ」

キリカ(コイツ、厄介だ)

キリカ(接近しても盾、剣、銃。カウンターが多彩すぎる)

キリカ(正面からじゃ攻めきれない。なにか搦め手が欲しい…)

キリカ(…そういえば、あの盾から展開される魔力のシールド。さっきだけはやけに収束が早かったな)

キリカ(違うことといえば…さっきは速度低下をかけてない!)

キリカ(そうか!いままでは、シールドの収束速度まで低下してたんだ!ふふふ…まさか敵に塩を送ってたとはね)

キリカ(でも…だからどうする?速度低下を切る訳にはいかない。どうにか、シールドに引っ掛けずに黒いの本体だけに速度低下をかけたい)



キリカ(…速度低下を集中?もしそれが可能なら…!)




ーーキリカに回し蹴りを放つ。

普段の彼女なら容易に回避できるだろうに、それはキリカの側頭部に当たり、吹っ飛ばした。

かろうじて受け身を取ったキリカを一瞥。

ほむら「どうしたのかしら。ずいぶんと動きが鈍いのね。間違って自分に速度低下をかけてしまったの?」

キリカ「心配には及ばないよ。ちょっと考えごとを…そう、織莉子とのお茶にピッタリなお茶請けを思案中だっただけさ」

キリカ「でもどうか安心して欲しい。お茶請けとキミの死は決まったから」

「さッ!!!」


どういうつもりかしら。

そう言いつつも、キリカの行動は再びこの戦闘中もう幾度も繰り返されている蛇行しながらの突進。

ほむら「芸がないのね」

私はそれに対して変わらぬ対応で受ける。

すなわち、シールドを展開しながらの衝撃を相殺するためのバックステップ。

その瞬間、キリカの目が怪しく光った気がした。

ほむら「っ!?!」

なに!?

バックステップ中に、突然左足が重くなる。

両足は完全に地面を離れていて、重心は後ろに傾いている。

唐突に起こった異常事態に、私は情けなく尻もちをついてしまう。

そして、目の前には隻眼の悪魔の姿が。



やられる。
私は直感した。



キリカ(私の魔法は、特定の空間の速度を低下させること。いままでは、人物の周囲をまるまる低下させてたけど)

キリカ(黒いのの左足周辺の空間に限定しての速度低下。こんな使い方もあるんだね)

キリカ(感謝するよ、またひとつ強くなれた)



キリカは、黙ったまま鉤爪を振り下ろす。

てっきり気の利いた、いえ狂った捨てゼリフとともに斬りつけてくるとばかり思っていたので、面食らう。

本気で殺しにきているのだ。

これは助からないーー。



ほむら「まどか…」





「暁美さん!」

だが振り下ろされるキリカの右手に、突如地面から生えたリボンが絡みつく。

キリカ「くっ!?なんだこれ!」

ほむら「マミさん…!」



まだ状況はうまく掴めないが、マミさんのリボンがここにあるということは、勝ったのだ。

マミさんは、この間一髪な奇跡的タイミングで、織莉子との読み合いに勝利したんだ…!!



織莉子「甘いわ」


マミ「うっ!」

だが、その儚い幻想はマミさんのうめき声と鈍い音でかき消された。

マミさんの方を見れば、織莉子の銀球で吹っ飛ばされている黄色い影が。

私は、すべてを把握した。

マミさんは、自分の防御を捨てて、私の方にリボンを放ったんだ…。



そして正面を見れば、左手でリボンを千切るキリカが不敵な笑みを浮かべている。


だが一瞬。

そのリボンを千切る一瞬があれば、まだ私は戦える!

なめないで欲しいわ呉キリカ。

私は暁美ほむら。

幾多の時間軸を旅した時間の魔法少女。

諦めの悪さなら誰にも負けはしない!

ほむら「いけるわマミさん!予定通りC地点に網を!」

マミ「っ!わかったわ!」

キリカ(まだ小細工するつもりか!)

キリカ「させないっ!さっさと死ね!」

その返事の代わりに私は固く目をつむると、微笑んだ。

そして、左手を高く振り上げる!


左手の盾からこぼれた物が、ひと呼吸おくと、光の嵐を巻き起こした。


と、思う。

キリカ(閃光手榴弾!こんなものまで隠し持ってたのか!)

頃合いを見計らい目を開けると、そこには目を押さえて悶えるキリカがいた。

その背後を見やると、同じく目を押さえる織莉子の姿がある。

キリカほど至近距離じゃなかったためか、少し苦しそうにしているにとどまっているが。

キリカ「くそっ!私を甘く見ないでほしいね!」

キリカは眼帯を投げ捨てた。

まさかこんな形ですぐ戦線復帰するとは…!

しかし一瞬遅かった。

私は杏子の多節槍を取り出し、すでにその鎖でキリカの片足を縛っている。

あとは、この槍を一本背負いの要領でキリカごと投げ捨てればいい。

マミさんのリボン網の中へと!

ほむら「マミさん!」

マミ「ええ!いくわよ暁美さん!」

C地点へとキリカがたどり着くと、マミさんの網がキリカを何重にも絡めとる。

それはさながら、黄金のマユだ。

いくらキリカの鉤爪でも、あれはすぐには破れまい。

織莉子「だめ!やめなさい!!」

織莉子がキリカの周りに銀球を展開させようとするが、もう遅い。

私達の銃口は同時にキリカを捉えた。

そして。

キリカ「違う!待って織莉子!こいつらの狙いは…!」

キリカに発砲すると見せかけて、軽やかにステップを踏んだーーああ、マミさん。本当にこのステップは練習しておいて良かったわーー私達は、真の標的へと構え直す。



すなわちそれは、美国織莉子!!

私達の作戦は、各個撃破。

ただ、その標的は最初から厄介な魔法を持ち合わせる織莉子だった。

そのための伏線として、あえて私達は終始キリカを集中砲火していたのだ。

私達がキリカから倒そうとしていると誤認させるために。

そして、織莉子を攻撃する場所にもこだわった。

キリカをC地点に誘導と言ったが、このCとは四角形ABCDのCだ。

Aに織莉子、Cにキリカを置き、B・Dどちらかに私かマミさんという配置。

要するに、対角線の先にお互い味方がいる形ね。

この形を目指した理由は、私とマミさん両方の射線上に、同時にキリカと織莉子を捉えるため。

絶体絶命の状態でキリカをC地点に追い込み、私達が銃口を同時に向ける。

そうすればきっと織莉子は自分の防御を捨てて、キリカのフォローに入る。

織莉子は前提として私達の狙いがキリカだと誤認しているから、予知を使うまでもなく(と言うよりはそのヒマがあれば)一刻も早くキリカを助けようとする。

自分も私達の射程内だとも気づかずに…!

私達の作戦は、カンペキに遂行された。

あとは織莉子を撃ち抜くのみ!

ステップを踏み軽やかに織莉子の方に向き直ると、私の盾の中でも最強最大の武装を取り出す。

その名はーー!

キリカ「逃げるんだ織莉子!!」


マミ「ティロ!」

ほむら「フィナーレ!!」





二門の巨砲が、火を噴いた。

ティロ・フィナーレによるクロスファイア。

その火力の前には、どのような魔法少女も無力だろう。

例え、予知能力を有する織莉子でも。

爆炎が煙になったころ、すでに織莉子は…

キリカ「織莉子ぉおお!!」

人の形を保ってはいなかった…。

いくら杏子の仇のひとりとはいえ、そのぶすぶすと音をあげる真っ黒なソレには、さすがに若干の同情を禁じ得ない。

改めて私は思い知る。

これが魔法少女として生きるということ。

他の魔法少女たちを殺して蹴落として、その命をつないでいる呪われた存在が、私達だ。

マミさんを見ると、やはり彼女も複雑な表情をしていた。

安堵と謝罪と自己嫌悪の入り混じったその表情は、まさに私の心情を映したようだった。

ーーこれで決着だろう。


あとは縛ったキリカを始末すれば。

ほむら「マミさん。キリカは」

どうしましょう。

そう言いかけた瞬間。


私は背後から謎の衝撃を受けた。

熱い。あつい。あつい…!

背中が燃えたぎるように熱い。

なんだこれは。

うろたえながらも私は背中を探る。

ぐちゃりとした感覚。

生暖かいなにかが私の背中を覆っている。

その正体を知るべく私は自らの手に視線を落とす。

するとそこには…。

ほむら「な、なによこれ…」

どろどろした、赤黒い液体がべっとりと私の手からしたたっていた。

ほむら「…ぅっ」

間髪入れずに私の口からもなにかが溢れだす。

それは鮮やかな赤い色をしていた。

ごとりと鈍い音がした。

しばらく何が起きたのかわからなかったが、泣きそうなマミさんの顔が横向きになっていたので、私は倒れたのだとわかった。

視界が赤く染まってゆく。

ーーようやく現状を把握できてきた。

私は血の海の中にいる。

なによこれ。

なぜ私はこんな目に…。

少し遠くが見える。

そこは本来キリカが拘束されていた場所。

だが、そこにはキリカの姿はなく、無残に千切れたリボンの残骸があるだけだった。

そこでようやく私はすべてを悟る。



ああ、私はキリカにやられたんだ。

なぜキリカが拘束から脱出できたのかという問いは、もはや真っ黒な織莉子が説明してくれるだろう。

彼女は、自分が助からないと悟るや、キリカを助けることに自分の少ない人生のすべてを賭けたのだ。

織莉子の怨念の銀球が、キリカの拘束を解いた。

そして、そのキリカにやられて無様に這いつくばっているのが、私。

真っ赤な視界が暗転していく。

私の最期は近い。

消える寸前の光景は、マミさんとキリカの戦闘だった。


ああ、マミさん。ごめんなさい。

不甲斐ない相棒で…。

せめてあなただけは、助かってほしい。



そう祈ると、視界が完全にブラックアウトした。

何だったのかしらね、私の人生って。

初めて友達ができて、そしてその友達はみんなを守るために命を落として。

その友達を救いたいと祈った時から、苦労の連続…。

何度も傷ついて、打ちのめされて、それでもまどかを救うために歯を食いしばって頑張ってきた。

その末の、このループ。

やっと私は辿り着いたのに…!

ずっと夢に描いてきた世界をようやく謳歌できるはずだったのに!

ずるいわよ。

こんなの、あんまりだわ。

すべてはこれからだったのに…!

一方で、私らしい死に様かな、とも思う。

繰り返す時間の中で、どんどん擦り切れていった私はずいぶんと酷いこともやってきた。

盗みに始まり、いまはしれっと仲間と呼んでいるメンバーを見殺しにしたり、あまつさえさやかはこの手で殺そうとしたこともあった。

まどかを殺した時は心が壊れそうだったわね…。

とにかく、数え切れないほどの罪を犯したこの身に、まだ相応しい罰は与えられていない。

人間にはバレるような手段ではなかったから、人に裁かれることはなかったが…。

ならばこれは、世界からの裁きだろう。

志半ばで無様に死に、この魂はこれからいじめ抜かれるのだ…。

ほむら(それも悪くないわね…)

ふっと笑みが漏れる。

いずれ彼女達には贖罪をと思っていた。

思ったより早くなってしまったが、もう私は時間に追われることもない。

ゆっくりと、のんびり彼女達への罪に思いを馳せるとしよう。

…あの戦いはどうなったのかしら。

マミさんとキリカの戦いは…。

マミさん。願わくば、勝っていてください。

私はもう干渉できないけれど、せめて応援させてもらいます。

どうか、あなたは生き残って。

「…むら!」

「ほむら!!」

ああ、お迎えの声が聞こえるわ。

さやか「ほむら!!」

この声はさやかね…。

………こういう時って、空気を読んでまどかの声、じゃないのかしら。

まあいいわ。

まずはあなたにあやま「起きろほむらー!!」

…やかましいわね。

ほむら「言われなくても…いま行くわよ、まったく」

さやか「ほむら?寝ぼけてる?」

ほむら「…ん?」

さやか「お、やっと起きた?」

ほむら「……私、生きてるの?」

さやか「うんもーバッチリ」

周囲を見ると、先ほどまで戦闘を繰り広げていた魔女結界の中だとわかる。

また、私の服は真っ赤に染まっているので、怪我をしたのも事実だろう。

ほむら「…ありがとう。助けに来てくれたのね」

さやか「まーねっ!びっくりしたよー!ほむらもマミさんも血まみれで倒れてるんだもん」

ほむら「あなたが来てくれて本当に助かったわ。半分死にかけてたもの」

さやか「そう?ごめんなさいとか変な寝言言ってたからほむらは大丈夫かなーって思ってたんだけど」

ほむら「………」

さやか「なんでそこで赤くなるのさっ!?相変わらずミステリアスですなー」

ほむら「……」

ほむら「え!?待ってマミさんも倒れてたの!?」

さやか「ん?大丈夫だよ、マミさんも治したから」

ほむら「そうじゃないわ!まだキリカが生きてるのよ!」

ほむら「あなたはまどかを守ってないとダメじゃない!!」

さやか「わー!ちょっと落ち着いて!それも大丈夫だよ!」

ほむら「なにが大丈夫なのよ!早くまどかのところに行くわよ!」

ほむら「うっ」

さやか「もう!まだ完治してないんだから無理に動いちゃダメだよ」

ようやく叛逆ショックから立ち直れました

再開します

さやか「大丈夫。キリカはまだあそこにいるから」

ほむら「えっ…?」

さやかの指差す先を見ると…確かにキリカがいる。



と、もうひとり?




真紅のフレアドレスのような衣装を見に纏うその魔法少女は…。



ほむら「き、杏子…!?」

そこには、信じられないことに死んだはずの杏子がいた。

ほむら「な、なんで…?杏子はあいつらにソウルジェムを砕かれて…」

さやか「ごめんねほむら、黙ってて。杏子は死んでないよ。あたしが治したから」

ほむら「………」

ほむら「許ざない」グズ

ほむら「なによ…!私達がどれだけ心配したと思ってるの?ふざけてるわ」グズグズ

さやか「ごめんってば…。泣かないでよほむら」

ほむら「泣いてないし、許さないわ!」

ほむら「ふたりとも帰ったらソウルジェムみそ汁ファイアーの刑なんだから。覚えてなさい!」


さやか「…あはは。それは勘弁したいな」

ほむら「ねえ。どうやって杏子は切り抜けたの?QBですら死んだと勘違いしてたし、第一私は杏子のソウルジェムが砕かれるところを」


さやか「ごめん、それは後で話すね。これからあいつらの戦いが始まるわけだし」


そうだ…!まだキリカとの決着はついていない。

さやか「頼むよほむら。杏子はまだ本調子じゃないから。あいつには手を出すなって言われてるけど、いざとなったらあたし達も加勢しなくちゃ」

さやか「あたしはマミさんをもうちょっと治したいから、悪いけどほむらはあと自分で頼むね」

さやか「なんとか戦えるところまで回復しといて…」

ほむら「…わかったわ」

私は自分のソウルジェムを握り締めつつ、にらみ合う杏子とキリカの方に視線をやった。

いつでも加勢できるように。

杏子「…よう。久しぶりだな」

キリカ「織莉子を返せ」

杏子「ああ。このソウルジェムな」

杏子「返すわけねーじゃん。これは大切な人質だぞ」

どうやら杏子は織莉子のソウルジェムをキリカより先に回収したらしい。

…というより、まだ織莉子のソウルジェムは無事だったのね。

体を盾にしてかばったんでしょうけど、よくあの一瞬で…。

さすが織莉子というかなんというか…。

キリカ「返せよ…」

キリカがうなる。

まずい。あの子はキレると手がつけられない。

お願いよ杏子。

変にキリカを刺激しないで。

だがキリカの反応は予想外だった。

キリカ「か、返してくれ…。返してよ。織莉子は私にとって、すべてなんだ」

なんとキリカは杏子に跪いて懇願し始めたのだ。

キリカ「ソウルジェムさえ無事なら、肉体はあんなことになってもまだ大丈夫なはずなんだ」

キリカ「後生だ…!頼むよ、私はどうなってもいい。織莉子を、どうか…」

杏子「うるせぇよ」

杏子「あたしはムカついてんだ。よくもあたしの仲間に手ぇ出してくれたな」

杏子「しかも聞けば、お前らまどかを殺そうとしてるらしいじゃねーか」

杏子は跪くキリカに容赦無く槍を突きつける。

杏子「立てよ、クソ野郎。この落とし前は高くつくぞ…!」

キリカ「………」

キリカ「……ふん。こっちが下手に出たら調子に乗っちゃって。いいよ。そっちがその気なら私は力ずくで奪ってやる!」

キリカはその場から飛び退くと、猫の威嚇のように腰を高くした四つん這いで鉤爪を展開させる。

戦闘の開始を予感させる、ピリピリした緊張感が場に充満した。

杏子「さやか!」

杏子「ちょっとこいつ預かっててくれ!」ブン

さやか「え!?わッと!」

ほむら「それは…?織莉子のソウルジェム?」

さやか「うん、そうみたい…ってなにこれ。ただの市販の白いパワーストーンじゃん」

ほむら「でもこれ、遠目で見る分にはソウルジェムにそっくりね」

さやか「あいつ、これで脅してキリカの逃げの手を封じたんだ…。なんかコスイ手だなあ」

ほむら「…!そう。そういうことだったの」

さやか「ん?なにが?」

恐らく、キリカも私達に同じ手を使ったんだ。

最初にキリカが砕いたのは、杏子のソウルジェムに似たなにか…。

それで私達を焚きつけたわけね。

さやか「ねー!なんなのさー!」

ほむら「後で言うわ。あなたはマミさんの治療に専念するんじゃなかったの」

さやか「むっ!なんだよせっかく」

その時、金属の弾ける音がした。

ほむら「始まったわ!」

さやか「えっ!本当だ!」



これまで暁美ほむらの視点から物語を見ていたが、この杏子とキリカの戦闘に限り視点を宙に飛ばすことをお許し願いたい。


_____
_______


槍と鉤爪が交差する。

まだお互いの固有魔法は使っていない、あいさつ代わりのような衝突だ。

だがその一回のやりとりで、双方は相手が手負いであることを悟った。

キリカ「…くそっ!」

杏子「どうしたよ!そんなモンじゃねえだろ」

だがふたりの表情は対照的だ。

挑戦的な表情に、挑発を重ねる杏子。

それに対してキリカは苦しげだ。

すでに一度敗北に近いものを味わい、自らの失態で織莉子に瀕死の重賞を負わせたという失意。

それに織莉子を失うかもしれないというプレッシャーも加われば、キリカの戦意が奮わないのも無理はないであろう。

だが杏子にしてみれば、キリカの戦意のなさは拍子抜けを通り越して落胆に近い心情にさせるものだった。

なぜなら、杏子はひとつの決意をもってこの戦いに挑んでいる。

杏子は、この戦いを人生の節目にしようと目論んでいるのだ。

節目の戦いが味気なかったら、つまんねえ。

ということなのだろう。

この節目の意味については後述する。

杏子は、自らの死を偽装すると独自にキリカの目的を探っていた。

自らの死を偽装したのは、キリカの標的が自分なのかどうかが不明であったため、自身は死んだことにした方が動きやすいと判断したためだ。

そして杏子は自身の調査や、さやかから伝え聞いたほむらの話を聞くことで彼女たちの目的を知るに至った。

救世。

ということらしい。

そしてそれを、自らの友人・まどかの殺害で為そうとしている。

ふざけんじゃねえ。

杏子は憤慨した。

まどかに、あたしの友達に手ぇあげようなんていい度胸じゃねえか。

ーーという憤りと、もうひとつ。

キリカ「なんでだよ…。なんでお前たちはジャマするんだ。私はただ、織莉子と救世を成し遂げたかっただけなのに」

杏子「それだよ」

キリカ「なにがさ」

杏子「それが気に食わないんだよっ!」

杏子が吠えると同時に鋭い斬撃がキリカを襲う。

キリカ「くっ!なんなんだよお前!訳が分からない!」

杏子「なにが救世だ!!そんなの、簡単にできるはずねえだろ!!」

杏子が荒れるのも無理はない。

なぜなら杏子は知っている。

杏子「あたしの親父はな!!その半生を賭けてこの世界を救おうとしたんだ!!」

平和を愛し、世界を愛し、人間を愛し、そして自分を愛してくれた。

そしてそれが故に救世を志し、ついにその志半ばで自分の娘に裏切られ、失意の中で死んでいった不遇の男を知っている…!

杏子「あの人はな!!誰よりも優しい人だったんだ!どこの世界に新聞ニュースながめて自分のことみたいに頭抱えて嘆くやつがいる!?」

杏子「その親父ができなかったんだぞ!!」

だから杏子は我慢ならない。

魔法少女などという胡散臭い力に酔い、救世を為そうという傲慢が、父の半生を冒涜された心持ちにさせるのだ。

杏子「しかもその救世はあたしのダチを殺すことだと!?調子に乗るんじゃねえよ!!」

杏子「救世ってのはな!魔法少女なんて汚い力で為していいモンじゃねえんだ!」

杏子「キレイな奴が、その一生を賭けて戦い抜いて!届くか届かないかの遥かな理想なんだぞ!!」

杏子「お前らごときが気安く口走っていい言葉じゃねーんだ!!」

杏子「舐めんじゃねぇええぇえっ!!!」

杏子の怒りの咆哮が槍に乗り、キリカを吹き飛ばす。

あのキリカが、真正面からの攻撃を受け切れず、どころか受け身すらろくにとれないまま転がっていく。

杏子の怒りの大きさがうかがえる。

その怒りの源泉を考えれば妥当ではあるが。

だがその怒りの矛先が向けられているのは、キリカ達だけではない。

杏子(まったく、ムカつくぜ…)

杏子(まるで昔のあたしじゃねえか…!)

杏子はキリカの影に、過去の自分を見ているのだ。




ーー『魔法少女の力でみんなを幸せにしたい』


ーー『親父は表から世界を救って、あたしは裏から世界を救うんだ!』


魔法少女などという都合のいい奇跡にすがりつき、その力で人を救おうとした。


傲慢だ。


杏子(この力は、そんなキレイなモンじゃない)

杏子(確かに、魔女から人は守れる。そこは間違いない)

杏子(あたしもマミに助けてもらったもんな…)

杏子(でも)

杏子(どこまで行っても、この力は所詮は歪なモンなんだ)

杏子(条理にそぐわない過ぎた力は世間に持ち込むべきじゃない)

かつての杏子はそれがわからなかった。

そしてそれは、父のプライドを、矜持を踏みにじった。

矜持とは、人間のあり方、いわば核の部分だ。

ここを砕かれた杏子の父は、当然だが壊れてしまった。

その結果、杏子は愛する家族を失ったのだ。

杏子(バカだよな、昔のあたし…)

だが同時に、過去の自分を見たことで思い出したこともある。

杏子(でも…!昔のあたしは、目標があった。信念があった。)

杏子(確かに、あたしはその手段は間違えた)

杏子(だけど…!)

杏子(親父と一緒に夢みた目標まで失ってどーすんだよ…!!)

それはかつての自分の、希望だ。

杏子(ざまぁないよな…。ほむらと会って、さやかと会って。…マミと仲直りして)

杏子(このあたしが…目標も持たずに仲間内でぬるま湯につかってダラダラしてるなんて)

杏子(あいつらとつるんでるのは心地いいし…これからもあいつらと仲間でいられたらとは思ってる)

杏子(でも…!それが全てになっちゃだめだ!ちゃんと目標を、信念を掲げてないと)

杏子(そんなの、死んでるのと一緒だ!!)

前述した、杏子の決意とは。人生の節目の意味とは。

杏子(悪ぃ…。ずいぶんと長風呂だったけど、ようやく目が覚めたよ)

杏子(あたしは、あんたの遺志を継ぐ。この手で、救世を為してやる!)

杏子(今度は魔法少女の力なんてズルはしない。あたし自身が努力して身につけた、キレイな力だけで勝負だ)

杏子(それまであたしは生きてなきゃならないから…この汚れた方の力は、生きるためだけに使うよ)

杏子(どこまでやれるか、わかんないけど。もうあたしは立ち止まらない。この魂が砕けるまで戦い抜いてやる!)





杏子(だからさ…。見ててよ、父さん)


つまり杏子は、かつての自分の面影を感じるキリカを倒し、
魔法少女の力に酔っていたころの自分とも違う、信念を失い、日々を溶かしていたころの自分とも違う、新しい佐倉杏子になろうとしているのだ。

つまるところ、独り相撲である。

付き合わされるキリカははた迷惑この上ないであろう。

いや、少なくとも、この瞬間まではそうであった。

だが、キリカにも戦う理由ができてしまう。

キリカ「…ばかにしたね」

キリカ「私と織莉子の夢を、赤いの。お前はばかにした」


キリカ「許さない…!」

杏子「赤いのじゃねーよ。あたしには佐倉杏子って名前があんだ。お前のニワトリ頭でもそれくらいは覚えられんだろ?」

キリカ「いらないよ、そんな情報。私は私の認めたものしか覚えない。織莉子以外の何者も私の頭には立ち入れない!」

杏子「…そうかよ」

キリカ「……死んでもらうよ、赤いの」

キリカにしては、短いセリフだった。

だが短いからこそ、キリカの心情のすべてが込められている重い言葉であった。

キリカ(どうせ、勝ちはない)

キリカにとっての勝ちとは、生き残ることではない。

織莉子を助け出すことだ。

キリカ(例えこいつを倒せても、織莉子を取り戻すにはあの三人も殺さなくちゃならない)

キリカ(だけど、もう…)

そんな体力も魔力もない。

杏子との戦闘ももつか怪しいところだ。

戦えば、死ぬ。

だが速度低下を用いれば、あるいは逃げるだけならば叶うかもしれない。

しかし逃げてしまっても、キリカは死ぬ。

肉体は死なずとも、織莉子を見捨てたならばそれはもはやキリカではない。

キリカでなくなったナニカはその後の人生を、死んだように過ごすのであろう。

あるいそれは、死よりも残酷かもしれない。

だからこそ、キリカは戦わなければならない。

どうせ死ぬならば、せめて最後に自分の生き様を世界に、杏子達に知らしめよう。

自分たちの夢を貶した敵に一矢報いて死のう。

その悲壮な覚悟を瞳に灯し、キリカは杏子の前に立った。

このふたりにとってのこの戦いは、対極に位置するかもしれない。

杏子は言うなれば、自らの信念を、矜持を取り戻すために戦う。

対してキリカは、自分を貫くため、矜持を守るために戦うのだ。

ただひとつ共通するのは、互いに友人のために戦うという点である。

友人を狙い、傷つけた罪を償わせるため。

友人を傷つけ、その友人と夢見た理想までも傷つけた罪を償わせるため。

終わりと始まりを意味する戦いが、ようやく本格的に始まろうとしていた。

しばしの間、両者はにらみ合っていた。

はたから見れば、ただ威嚇し合っているようにしか見えないだろう。

だが、実態は違う。

それは、戦いに身を置く者にしかわからない心理戦だ。

パチパチと弾けさせられているふたりに挟まれた空間で、すでにふたりは戦っている。

自分と相手の動きをシミュレートし、自らの決め手である攻撃から、勝ちにつながる初手を逆算しているのだ。

この作業を早く終わらせた方が、当然戦いを有利に進めるだろう。

主導権を握れるといっても過言ではない。

だが、焦るあまりこの作業を疎かにして攻めを急げば、それはあまりにも手痛い急所になり得る。

だからふたりは緻密に入念にシミュレーションを行う。

すでに何十、何百もの空想の杏子とキリカが火花を散らせていた。

キリカ「……!」

はたして先手をとったのは、杏子であった。

彼女の初手は、悠然と歩くことだった。

槍を肩に回し、不敵な笑みを浮かべた杏子が大股に歩みよってくる。

杏子の行動は、戦闘中の行動としてはあまりに不適切だった。

戦闘は、人間を常に気を張らなくてはならない極限状態へと追い込む。

そんな戦場で、杏子は風呂上がりにミルクを取りに冷蔵庫へ近づくような不敵さでキリカに迫っているのだ。

普通の神経を持ち合わせる者ならば、まず狼狽える。

だがキリカの口角は上がっていた。

そしてキリカも放胆にも歩き出す。

決して無策ではないだろう。

キリカは感情家だが、戦闘に関してはこれ以上ないほどリアリストだ。

そんな彼女が、ただの意地だけで杏子の真似をするはずもない。



一瞬一瞬が、互いの命を左右させる重い時間だ。

行動を起こしたのは、またしても杏子だった。

体を伸ばして歩いている状態から、一気に腰をかがめ、そして全身のバネを使ってキリカに飛びかかる。

急に行動のリズムを変えたので、それは一瞬消えたのではないかと思われるほどの素早さに感じられた。

幻惑の魔法少女は、その魔法を使わずとも人を惑わすことに優れているようだ。

合いは、詰められた。

杏子の先制で始まった肉弾戦は、いまはキリカが押していた。

杏子(なんだ、こいつ!死ぬのが怖くねーのか!?)

攻撃は、敵の応手まで考えて繰り出すものだ。

ただ金将で玉を一マス一マス追っていっても永久に勝負はつかない。

だから攻撃はその時の気分で繰り出す単発のものであってはいけない。

攻撃とは、それに対する相手の応手、さらにその先の先まで読み、相手の逃げ道を塞ぐように繰り出すものだ。

だから杏子は攻撃をする時、ある程度キリカの行動を予測している。

だが、キリカはことごとくその予測とは違う行動をとるのだ。

明らかに杏子に有利な局面で、キリカは突っ込んでくる。

そのため、いったん退くと予測していた杏子はたじろいでしまう。

自分の行ったシミュレーションとは違う展開は、先が見えず危険だ。

杏子は有利な局面を捨てて、退くしかない。

キリカが戦闘を支配するのも無理はなかった。

死兵という概念がある。

死兵は、その目的を生存だとか、恩賞といった物にもっていない。

彼らの目的はただひとつ、死ぬために戦うのだ。

一人でも多くの敵を巻き添えに死ぬことを望む死兵たちの攻撃力は凄まじい。

それはひとつには、行動が予測しづらいことにも起因する。

死ぬことを恐れないため、どんな不利な状態でも突撃してくるのだ。

予測とは結局、相手の立場に自分を投影する作業のことだ。

ならば生存を最上の目的とする者が、死兵の立場に自身を投影したところで予測が食い違うのも無理はない。

彼らは死ぬことが目的なのだ。

まず根本の行動原理が違うのである。

まともな将軍なら、敵が死兵と悟ればまず撤退する。

相手にしていてもいたずらに損害が広がるだけだからだ。

いま、キリカはまさに死兵である。

何度めかの衝突で、ようやく杏子はそれを理解した。

杏子(…そうか。お前、死にたいんだな)

だが、杏子に撤退は許されない。

ここで退けば、今度こそ杏子は自分を見失ってしまう。

杏子(なら、あたしがお前と互角にやり合うには…)

だから杏子も覚悟せざるを得なかった。

杏子(死ぬのを恐れてちゃだめだな…!)

自らも死兵となり、キリカと同じ土俵に立つことを。

杏子(おもしれえ!)

そしてそのことに、杏子は少なからず興奮を覚えていた。

生来、闘争本能の強い性質なのだろう。

杏子「おらぁっ!!」

キリカ「っ!!?」

今度は杏子が押す番だ。

キリカもまた、杏子が自身の予測と食い違った行動に出ることに少なくない動揺を受ける。

だが、杏子よりは早く相手の状態を察した。

キリカ(そうか…!キミも、この戦いに命を賭けるんだね)

キリカ(これは、面白くなってきた!)

キリカにとってはチャンスである。

この戦い方は、あまりにリスクが大きい。

要は己のリスクを無視し、ただレートの高さのみを重視して賭けに出るということだ。

当たれば大きいが、外せば運が悪ければ一回の賭けで死に至る。

つまり敵が同じ土俵に乗ったなら、運が良ければ一回の賭けで勝ちもある。

キリカにとってはチャンスである。

この戦い方は、あまりにリスクが大きい。

要は己のリスクを無視し、ただレートの高さのみを重視して賭けに出るということだ。

当たれば大きいが、外せば一回の負けで死に至る。

つまり敵が同じ土俵に乗ったなら、運が良ければ一回の賭けで勝ちもあるのだ。

このノーガードの殴り合いに、キリカもまたゾクゾクとした高揚を抑えられない。

キリカ(いいねぇ!やっぱり戦いはこうでなくちゃ!)

やはり、このふたりは根本の部分で似通っているようだ。

お互いの行動原理が一新された以上、もはや最初に行ったシミュレーションは役に立たない。

純粋な戦闘技術と、機転のせめぎ合いだろう。


戦いは激化する。

キリカの攻撃を避けて大きく後退した杏子は、体制を立て直すと、右に逆手持ちの手槍を、左に長槍を掲げて間髪入れずに再度突撃する。

左右に飛び跳ねながらキリカに接近する杏子が、ある地点からブレ始める。

そして、気づけばついに二体の杏子が互い違いに交差し始めていた。

キリカ(ついに出たな…!)

この戦いで初めて固有魔法が使用された瞬間だ。

そして二体の杏子は、右手の手槍を投擲する。

迫る二本の槍のどちらかが幻覚なのは間違いない。

だが、それを判別するヒマはない。

両方回避するため、キリカは後退する。

そのキリカの注意が杏子から槍へ移っている一瞬で、杏子「達」は一気に距離を詰める!

そして、キリカの目前でまた左右に交差すると、キリカの背後に展開して着地した。

手のひらで例えれば、手首の位置にキリカが体に向かって立っている。

その背後、ちょうど親指と小指の位置に杏子達が着地した状況だ。

人間の視界は、ちょうど200度である。

いまの杏子達の立ち位置は、人間の視界ではギリギリ同時に捉えきれない、絶妙のスポットだ。

さらに、跳躍。

左右から、全体重をかけた渾身の槍撃がキリカを襲う。

あわててキリカは左右に向けて鉤爪を防御にまわすも、杏子の一撃を片手で受けきれるはずもない。

キリカ「くぁっ…!」

キリカの左肩に衝撃が走る。

左の杏子が実体だったらしい。

衝撃に身を任せて自ら吹っ飛び、その場を緊急離脱し、体勢を整える。

キリカ「ぐっぅ」

改めて左肩を見ると、傷は思ったより深い。

キリカ(まずったな)

さらに、周囲から殺気を感じる。

はっと見渡すと、今度は三人の杏子が同時に空中に存在している。

そして、すでに攻撃の体勢は整っているのである。

杏子「「これで、トドメだっ!!」」

エコーのかかった杏子の声が自らの勝利を宣言する。

だが、左肩の痛みはかえってキリカを冷静にさせた。

キリカ(待て!確か、こいつの幻覚に私の速度低下は効かない!なら…!)

三人の杏子が「同時」にキリカに攻撃を繰り出す。

しかし、キリカは避けようともせず、ただ立ち尽くすのみである。

そして、三方向から槍を浴びたキリカは、



無傷でそこに立っていた。

キリカの速度低下は実体のあるものにしか効かない。

三体の杏子の同時に速度低下をかけたにもかかわらず、それらが同時に襲ってきたならば、それらはすべて幻覚であることの証左だ。

杏子「なにっ!」

そして、完全に死角からの接近であったにもかかわらず、背後の本物の杏子に、通常ではあり得ない速度でカウンターを食らわす!

杏子「くっ!」

常人離れした反応速度で杏子は身をよじってかわそうとするも、キリカの鉤爪は杏子を逃がすまいと追尾するように伸びる。

使えなくなった左の鉤爪を消して、その分を右の鉤爪に上乗せすることで、鉤爪の射程を伸ばしたのだ。

そして、光の鉤爪は、杏子の顔面をばりばりと嫌な音を立てながら引き裂いた。

杏子「ああああっ!」

杏子は鉤爪で裂かれた顔の右側面をおさえる。

ぼたぼたと滴る血がそのダメージの深さを物語る。

さやか「杏子っ!!」

ほむら「交代しなさい杏子!あとは私達で…」

杏子「手ぇ出すなっ!!」

杏子「これは、私の戦いなんだ」

杏子「なあ?呉キリカ」

キリカ「ふん」

両者の顔は血と汗でどろどろだったが、それでも自らの勝利を疑わない不敵な笑みは健在だ。

杏子はすぐに魔力で止血すると、再びキリカへと突っ込む。

その右目は潰れているようだった。

…楽しい。

ダメージを負ってなお、杏子はこの戦いを楽しんでいた。

杏子(ほんと、どーしようもねえな、あたし)

杏子(なんだかんだ言っても、あたしはこんな汚い感情に支配されてる)

杏子(父さん。そしてあたしは、この気持ちが良いか悪いかさえわからないんだ)


杏子(あいつらの気持ちも分かるんだ。なにか、諸悪の根源みたいな…巨悪がいて、そいつさえ倒せばハッピーエンド、なんて)

杏子(簡単だし、他の誰を恨む必要もない…)

杏子(でも、現実はそんな単純じゃねえんだよな…)

杏子(きっと、誰だってこんな黒い物を持ってるんだ。こう、うまく言えないけど、こういう黒い物がうまーく絡み合って、世の中の悪いことって起こってるんだよな)

杏子(でも、黒い物を持つななんて言えない。真っ白な人間なんているはずないし、事実あたしだってこんなに汚い)


杏子(だからって開き直ってもダメだよな。真っ白になりたいと祈り続けてないと、人は簡単に真っ黒になれる…)


杏子(昔、荒んで真っ黒になったあたしだからわかる。白くなろうとがんばるのをやめちゃだめだ)

杏子(ああもう。訳わかんねえや。救世なんて言っても、この世界は漠然とし過ぎてて…)


杏子(目の前に無限に広がる黒い海を、青くしたいって言ってるみたいだ)




杏子(あたしは、何と戦えばいいんだ…)







ーー『杏子。憎むべきは人ではない。人の悪しき心だ。忘れてはいけないよ』







杏子(父さん…?)

ふと、父の教えが浮かんだ。


杏子(…へへ。ありがとう)

なぜかずっと忘れていた。

このタイミングで思い出したのは、父に背中を押してもらえたようで。

ごく自然に、杏子は感謝の念を天の父へと送った。

ーー憎むべきは、人ではない。

そう思えば、目の前の敵も理解できる気がした。

ただ、愛する者を失って、その悲しみをぶつける相手も存在せず、暴れているだけだ。



ああ、これが。

これが、他者を理解するということか。

こんな殺しあうような相手でも、理解することはできる。

もしみんながもっと、いやほんのちょっとだけ、他者を理解しようと思えたなら。

杏子(その海は、きっと青い)


杏子の槍は、もはや憎しみを乗せてはいなかった。

しかし、負けるつもりもない。

あるのは、純然たる闘志だけ。

迷いを捨てた杏子の槍は純粋だった。

雑念というサビを打ち払い、杏子の心はいま、闘志という刀を磨き上げていた。

本能のままの闘志ならこうはいかないだろう。

もっと無骨な、打製石器のような趣のないシロモノだったに違いない。

だが、杏子は違う。

自分と向き合い、敵を理解できる度量をもった彼女の心が磨き上げた刀は美しかった。

相変わらず、激しい打ち合いは続いている。

肉を削ぎ、骨を軋ませ、血で血を洗いあうようなその光景は、思わず目を背けたくなる凄惨さであった。

ほむら「っ!」

マミ「見てられないわ。私達も…」

ほむらと、目を覚ましたマミはもはや正視することも堪えない様子だ。

だが。

さやか「だめですよ」

さやか「こんなすごい戦いを邪魔しちゃったら…」


見る者が見れば、それは美しい光景であった。

杏子の闘志にあてられて、キリカもその闘志を磨き始めていた。

もはや、両者はなぜ戦っているかも覚えていないだろう。

目の前の敵を打ち倒す。

ただそれだけのために武器を振るっている。

杏子の言う通り、この世界の真理とは図り難い。

だがひとつ言えることは、純粋なものとは、その善悪を問わず美しい。

杏子もキリカも、その衝突の度に萎えるどころか、ますます闘志の純度をあげていく。

ふたりの表情だけ見れば、まるでサッカーボールを奪い合うような無邪気さだ。

ただふたりが奪い合っているものが互いの命だというだけで、戦いの本質という点では両者にそう違いはない。

もちろん、万人にそれが伝わるわけではない。

現に、ほむらもマミもただその光景を残酷なものとしか捉えていない。

それは戦い自体には意味を求めず、戦いとは目的のためにあるものであり、恐怖の象徴である、というふたりの価値観に起因する。

むしろこちらの方が一般の感覚に近いであろう。

生物の生存本能という観点から見ても、この気質の方が一般的だと言える。

だが、戦い自体に意味を求める、杏子達のような気質の者達も存在する。

さやかもこの気質に近いものを持っているため、杏子達の戦いに感銘を受けている。

これは私見だが、本能に逆らい、行為そのものに意味を求めるこの気質は、より人間的なのではないだろうか。

もちろん、善悪は別である。

ひとつの現象をとってみても、見る者次第でこうも印象が変わる。


ーーみんなが理解し合えたら、その海はきっと青い。


杏子の前途は多難に満ちているだろう。



だが、杏子にもはや迷いはない。


杏子は、この戦いを橋頭堡とすることに見事に成功していた。


キリカの鉤爪が触手状に伸びる。

杏子は幻覚をコンパクトにまとめ、槍先だけを分裂させる。

今度はキリカが速度低下を一点集中で使う。

対する杏子は魔法の鎖でキリカを拘束しようとする。

ふたりは次々と応用技を繰り出すも、どれも決定打には至らない。

もはや両者は常に血煙の中で戦っているような様相だ。

ところが無限に続くかに思われた戦いは、唐突に終わりを告げた。

そしてその決定打とは、何気ない投擲による手槍だった。

空中から放たれたそれは、キリカの胸を貫通し、地面に刺さった。

キリカは「く」の字に身体を反らせた状態で地面に縫い付けられている。


終わってみれば、あっけないものである。

キリカは苦しそうにもがくも、もはや助からないと悟ったのか、だらりと両腕から力を抜いた。

そんなキリカに、杏子は歩み寄る。

杏子とて、無事とは言い難い傷を負っているため、その足どりは心もとない。

さっきまでキリカと死闘を演じていたとは思えないほどだ。

戦いが終わったことで、身体中に巡るアドレナリンが切れてしまったのだろう。

そうして、杏子はキリカのすぐ正面に立った。

そして、勝者が敗者にかけた言葉は。





「くうかい?」



キリカはその言葉とともに差し出されたリンゴに面食らうが、ふっと微笑むと答える。

キリカ「……いただくよ」

そして、もはや力が入ることはないと思われた右腕でリンゴを掴むと、頬張った。



しゃくしゃくと、咀嚼音だけが空間を支配した。


杏子「……うまい?」


キリカ「うん。美味しいよ」


キリカ「織莉子の作ったケーキの次の次くらいには」


杏子「へっ。可愛くねえの」


キリカ「ふふ、それが私さ」


杏子「お前さ」

杏子「このまま魔女になれよ」

杏子「お前のせいでソウルジェムが濁って困ってんだ」

杏子「最後にあたしの役に立って、そんでくたばれ」

普段の、いやかつての杏子ならこの場面ではこう言ったろう。


だがいまの杏子が発したのは、真逆の言葉だった。




杏子「それ、食い終わったらさ。お前のソウルジェム、砕くからな」



キリカ「…ありがとう」

救世の志を取り戻し、他者を理解することを知ったいまの杏子が死闘を演じた敵に抱いた感情は、惜しみない賞賛だった。

そしてその相手の魂を救う手段は、もはやこれしかないと悟った。

キリカ「…不思議な気分だよ。いまの私はカラッポだ」

キリカ「織莉子を失った痛みも悲しみも怒りも」

キリカ「負けた悔しささえない」

キリカ「あるのは、ただ…。そう、爽やかさ」

キリカ「私は全てを出し切った。その末にお前に負けたんだ」

キリカ「未練は、ない」



キリカはリンゴの芯を落とした。

杏子「………」


杏子「じゃあ、いくよ?」


キリカ「ああ。ひと思いにやってくれ」


杏子は槍を構える。


キリカ「ふふ…」




「またね。佐倉杏子」




「…ああ。きっと、そんなに待たせない」






「地獄で会おうぜ、呉キリカ」




「いたいいたいいたい!!」





杏子「おい、いてーよさやか!お前には優しさってモンがねーのかー!?」

さやか「杏子が落ち着きないからあたしもやりづらいんじゃん!ちょっとじっとしててよ」

杏子「いやだってそこの黒いのがなんかマキロン構えてるし」

ほむら「誰が黒いのよ、誰が。じっとしてなさい。私も治療するわ」

杏子「なにが治療だよ!こんなバックリいってる切り傷にマキロンって!魔法で治るんだから消毒必要ないし!ただの嫌がらせだろ!」

ほむら「ええ、嫌がらせよ」

杏子「おいっ!」

ほむら「当然じゃない。私達がどれだけ心配したか!」

ほむら「なにが地獄で会おうぜ、よ。お望みならすぐに地獄を見せてあげるわ」

杏子「お、おい落ち着け!なあさやか!あの悪魔になんか言ってやってくれ!」

さやか「いやあたしからはなんとも…」

杏子「マミっ!マミ助けて!」

マミ「暁美さん」goサイン

ほむら「じゃあ、杏子」



ほむら「地獄で会おうぜ」b

~♪

まどか「ん?メール…」

まどか「あっ」

まどか「よかった!みんな無事だぁ」

まどか「よかった…本当に」

まどか「それにしても…ティヒヒ、杏子ちゃんすごい顔!」

まどか「ほむらちゃんも生き生きしてるし」

まどか「にしても…クローゼットから杏子ちゃんが出てきたときはビックリしたなぁ」

ピンポーン

マドカァー!

まどか「あ、みんなだ!おかえり~」


こうして、私達は波乱の夜を越えた。


だが、すぐに私達は思い知ることとなる。


真の波乱はこれからだと…。


>>289冒頭は
合いは~

間合いは~
の間違いです


ー翌日ー

まどか「おはよーっ!みんなー!」

仁美「おはようございます、まどかさん」

さやか「おぃーっす…」ボロボロ

ほむら「おはようまどか…」ゲッソリ

まどか「えっ!?さやかちゃんもほむらちゃんもどうしたの?なんだかやつれてない?」

まどか「それに杏子ちゃんがいないみたいだけど…?」

仁美「それが、おふたりとも昨晩徹夜で電話してたそうですの」

まどか「そうなの?」

さやか「いやぁちょーっとだけのつもりだったんだけどねぇ」

仁美「それと、佐倉さんは昨日やっと連絡がついたそうなんですが、今日もやっぱりお休みだそうです」

まどか「そ、そっか!でも連絡ついたなら良かったねえ」

まどか(すっかり忘れてた、杏子ちゃん行方不明ってことになってたっけ)

さやか「仁美ぃ~あたしもう歩けないよ!肩貸して~」

仁美「もう、仕方ない方ですわね。ほら、つかまってください」

ほむら「私も、ちょっと辛いわ。まどか、肩貸してくれないかしら」

まどか「うん、いいよ。はい、つかまって?」

ほむら「ありがとう」

私はまどかの肩につかまると、そっと耳打ちした。

ほむら「徹夜で電話っていうの、ウソよ」ボソボソ

まどか「そんな気がしたよ」ティヒヒ

ほむら「昨日まどかを家に送り届けたあと、みんなでマミさんの家に行ったの」ボソボソ

まどか「えぇー、私も行きたかったよ」ボソボソ

ほむら「あの時はもう深夜だったじゃない」ボソボソ

私達は魔法少女の事情を知らない仁美さんに聞こえないよう、声量に注意しながら続ける。

ほむら「それに、まどかが想像してるような集まりじゃないわよ。ただみんなのケガをさやかに治してもらってただけだから」

まどか「みんなすごいケガだったもんね…」

ほむら「ええ。ケガがすごすぎて、さやかの体力と魔力がもたなかったわ。さやかが顔まで青くなったあたりで、マミさんと交代したんだけど…」

まどか「うんうん」

ほむら「結局、外傷を治すだけで精一杯だったわ。特に杏子が酷くて。かなり衰弱してて…」

ほむら「さすがに杏子を起こして、ムリに学校に連れていくのは酷だから置いてきたの」

まどか「置いてきたってマミさん家?もしかして、いま杏子ちゃんひとりなの?」

ほむら「いえ、マミさんが看病に残ったわ」

まどか「なら安心だね!ところでほむらちゃん達もだいぶ辛そうだけど…。大丈夫?今日はお休みした方が良くない?」

ほむら「私達はなんとか。寝不足と疲労と筋肉痛だけだから」

まどか「うわぁ。それでも学校は辛いよ」

ほむら「全身バキバキよ…。今日体育があったら休んでたかもね」

まどか「ティヒヒ、そうだね。でも私、みんなが無事で本当に嬉しいよ」

ほむら「ありがとう。何度かもうダメかもって場面もあったけど、まどかのためと思えばなんとか切り抜けられたわ」

まどか「もう、ほむらちゃん!」ティヒヒ

さやか「ふたりとも遅いぞー!早くしないと置いていっちゃうよー?」

まどか「あー!待ってよさやかちゃん」

ほむら「ま、待ってまどか。急に走らないで。足がつりそうで…」ヨタヨタ

波乱とは、言うまでもなく学校のことだ…。

文化祭一週間前。

そしてその後には中間考査。

「ーけみ!」


その間も、魔女狩りは欠かせない。


「ぁけみ!」


私達魔法少女は多忙だけれど、ここまでいろいろ重なったことはないかもしれない。



ほむら「まったく、頭の痛い話ね」ムニャ


「暁美!!」



ほむら「は、はいっ!?」ガタッ

先生「お、やっと起きたか。何度呼んだと思ってるんだまったく」

ほむら「すみません…」

先生「それにしても、お前が授業中に居眠りなんて珍しいな。昨日は遅かったのか?」

ほむら「はい…。ちょっと美樹さんと長電話をしてしまって」

先生「とにかくだ。友達ができたようでなによりだが、日常生活に支障が出ない程度に頼むぞ。学生は学問が本業なんだからな」

ほむら「はい…(まあ、私達の本業は魔女狩りなんだけれどね)」

ほむら(っていうか、呼ばれてるなら起こしてよまどか)テレパシー

まどか(ティヒヒ、あんまりほむらちゃんが気持ち良さそうに寝てるから、起こし辛くて)テレパシー

まどか(それより、ほむらちゃん。ヨダレついてる)

ほむら「っ!!?」ゴシゴシ

まどか(逆っ!逆のほっぺただよほむらちゃん!)

ほむら(…死にたい///)ゴシゴシ

先生「お、やっとヨダレに気づいたか。じゃあ気づいたついでにこの問題前出てやってみろ。お前なら楽勝だろう」

ほむら「わかりました」

_________
_______


ほむら「死にたいわ」

まどか「その、元気だして?ほむらちゃん」

仁美「そうですわ。とても可愛らしかったですわよ」

ほむら「可愛い…」

仁美「ええ。とても」

ほむら「………」

ほむら「ああ…。私の培ってきたクールキャラが崩れていく」

まどか「無理してツンとしてるより、自然なほむらちゃんの方がいいと思うよ」

ほむら「違うのよ、まどか。その…違うのよ。そういうんじゃなくて」

仁美「なんだか暁美さんの意外な一面を見てますわ」


さやか「おーす、皆の衆!」

ほむら「あら、おはようさやか」

さやか「まったくみんな冷たいなあ!休み時間もとい、さやかちゃんタイムがやってきたなら教えてくれればいいのに」

まどか「いろいろ開き直りすぎだよさやかちゃん…」

ほむら「そうよ。あなた、数学ヤバイって嘆いてたじゃない。寝ててよかったの?今日は大事な所やってたわよ」

さやか「ん?そこはほら、仁美とかほむらとかいるし!3日あればじゅーぶん!」

仁美「前のテストの時もそう言って間に合わなかったような」

ほむら「そうよ。だいたい私も今回のテストは危ないわ」

さやか「騙されないぞ!ほむらは前もそう言って5計400叩き出したじゃんか!」

まどか「ほむらちゃんは忙しいのに、なんだかんだ言って良い点数取るからすごいよねえ」

まどか「私も見習わなくちゃ」

仁美「私の好敵手は控えめだから恐ろしいですわ。今回も負けませんわよ」

ほむら「…いえ。勝ち越されたままじゃ私も気分が悪いもの。今回は勝たせてもらうわ」

ほむら(い、言ってしまった…。杏子のせいで今回は本当にまずいのに)

ほむら(意地だけで発言する癖、直さないと…)

さやか「おーおー、ハイレベルな戦いだこと。あたし達はついてけないよ。ねー?まどか」

まどか「そうだねえ。でも、そろそろ受験も近いし、私なりに頑張らないと」

さやか「やめてえええ!受験なんて言わないで!あたし死んじゃう!」

まどか「ティヒヒ、私もまだ全然考えてないから大丈夫だよさやかちゃん」

まどか「あ、そうだ!さっきの授業でさやかちゃんが寝てる間におもしろいことがあったんだよ」

さやか「むむ、それは興味深い。だれ関係?」

ほむら「…まどか?」

まどか「あのね、意外だろうけどほむらちゃんが」

ほむら「ちょっとまどか!」

まどか「ティヒヒ、ほむらちゃんがねー」

ほむら「まどかあぁ」



仁美「………」

ー昼休みー

さやか「くぁ~!やっとお昼だーっ!」

仁美「さやかさんは休み時間になると本当に生き生きしますわね」

さやか「そらぁそーよっ!あたしは休み時間のために学校に来てるようなモンだからねー」

まどか「ほむらちゃん、起きて?もうお昼だよ?」ペチペチ

ほむら「……」ゴロン

まどか「寝返りうっただけかぁ」

まどか「仕方ないなあ。ごめんねほむらちゃん」

まどか「起っきろー!地震だぞー!」ガタガタ

ほむら「きゃあああ!」ビクッ

ほむら「ちょっと!机揺らすのは反則よ!驚き死ぬかと思ったじゃない」

まどか「だってほむらちゃん、普通に起こそうとしても全然なんだもん」

さやか「つーかあんたも、この前あたしを起こす時これやったじゃん」

ほむら「…謝るわ。これは、かなり心臓に悪いわね」

さやか「うむうむ、分かればよろしい!」

仁美「しかし、本当に珍しいですわね。暁美さんが授業中こんなに寝るなんて」

さやか「まあ、今日はしょーがないよね!」

まどか「うん。昨日が昨日だったからねえ」

仁美「昨日は、みなさんご一緒でしたの?」

ほむら「違うわ。ただ、ちょっと電話が長引いただけで」

さやか「そーゆーこと!さ、お昼食べよう!」



仁美「…………」

ー屋上ー

杏子「よーっす。遅かったじゃねーか」モグモグ

まどか「え?きょ」

さやか「杏子ぉ!?なんであんたここにいるのよ!」

杏子「いやなんでって…あたしも学生だし。体調が良くなれば来るもんだろ?」

ほむら「今日一日くらいはゆっくり休めばよかったのに」

杏子「いや、5時間目英語だしさ。あたし英語苦手だし、ここ数日休んじまったからな。出とかねーと」

さやか「きょ、杏子がなんか勉強の話してる…」

さやか「あんたやっぱりまだ体調悪いんじゃないの!?」

杏子「はあ?なんでそうなるんだよ」

ほむら「そうよ。杏子は最近ずいぶん勉強してるわよ」

さやか「マジで」

杏子「大マジだ」

杏子「今度こそ、さやかをぶっ倒してやる」ケタケタ

ほむら「またあなたは…」

前のテストでも、こうして啖呵きった上負けてソウルジェム濁らせてたくせに…。

仁美「あ、あの…佐倉さん、右目はいかがされたんですか?」

しまった、と思った。

杏子が昨夜右目をケガしてたのはみんな知ってたから、つい杏子の眼帯をスルーしてしまっていた。

それもみんなして。

ちなみに、潰れた目も一応治療は可能で、事実ちょっとは視力が回復しているとか。

ただ、繊細な器官なだけあって、治療には膨大な魔力が必要らしい。

さやかでも一回じゃ回復しきれないので、数回に分けることになった。

その間は雑菌が入らないように眼帯をしていよう、というわけだ。

一応、仁美さんの前では魔法少女ネタを控えるよう気を使っているのだけど、これは逆に反応しなくちゃ不自然だったわ。

杏子「んぁ?これか。3日前ちょっと蜂にやられてなー!」

仁美「まあ。それでお休みしてたんですの?」

杏子「いやー?それは別。ちょっと富士五湖を巡ってみたくなってね。行ってきた」

また杏子はわけわからない嘘をつく…!

仁美「それは素敵ですわね」

まあ、仁美さんもなかなか天然だから誤魔化せたけど…。

杏子「突っ立ってないで、お前らもメシ食えよー。あたしだけ食べ辛いじゃんか」モグモグ

ほむら「食べてるじゃない」

杏子「気にすんな」

ー6時間目・学活ー

早乙女「はい!ではみなさん、文化祭まであと一週間を切っています。張り切って準備しましょう!」

早乙女「私は生徒の自主性を重んじるので、みなさんの好きにして大丈夫です。困った時だけ相談してください」

早乙女「では私は後ろで読書しています」つ【哲学で見る結婚】

さやか「先生どんどん迷走していくねー」

まどか「心配だねえ」

ほむら「私はぜんぜん進行しないお化け屋敷作りも心配だわ」

杏子「まーなんとかなるだろー」



ー番外編・学活のマミさんー



ーーお昼前に杏子が目覚めて登校したため、疲労と筋肉痛と寝不足をおしてマミさんも一緒に登校したのだった!




マミ「くっふっ」カチカチ

マミ(なかなかバーが来ないわ。テトリスは諦めて、ちょっとずつ消しちゃおうかしら)

マミ(いえダメよ!ここまで来たら粘らないと)

マミ(レベル13から別次元になる。その前にできるだけスコアを…)

「巴さーん、次出番だからよろしく」

マミ「え?うん、わかったわ」

マミ「ふぅ」チラッ

【GAME OVER】

マミ(せっかくいいところまで行ったのに、邪魔しないで欲しいわ)

マミ(まあ、リハーサルならしょうがないけど)

マミ(どうせ私の通行人Cの役なんていてもいなくても一緒じゃない)

「はーい、じゃあ『叛逆の物語』シーン7!行くよー!」

マミ(まあ、劇名はすごくいいけど)



主役(赤)「…なんだよ、これ」

主役(黒)「大丈夫、敵はいままで攻撃してこなかったわ」

通行人C(マミ)「………」ユラユラ

主役(黒)「なら、普段通りの生活をしていれば目をつけられることはないということ」

主役(赤)「じゃあどうすりゃいいんだよ?」

マミ「………」ユラユラ

主役(黒)「あなたは普段通りに過ごしていて。あとは、私がなんとかする」

マミ「………」ユラユラ

マミ(やっぱり私、必要なくない?)ユラユラ

ー1週間後・文化祭ー


まどか「ほむらちゃーん!こっちこっち!」

ほむら「もう、そんなに急がなくても席なら杏子と仁美さんが取っておいてくれてるでしょう?」

まどか「早すぎて困ることなんてないよ!」

ほむら「ちょっと待ってったら…」

杏子「おっ!来たか!」

仁美「『叛逆の物語』もうすぐ始まりますわよ」

まどか「楽しみだねえー」ソワソワ

ほむら「そうね。リハーサルを見た先生方の話によれば、相当のクオリティみたいよ」

杏子「まっ!マミのやつは通行人Cだけどなー」ケタケタ

仁美「そのみなさんのお知り合いの、巴さん?が出たら教えてくださいね?」

杏子「おっ!始まった!」


仁美「…………」




ツンツン


仁美「佐倉さん?」

杏子「あれだよ、マミ。あの使い魔達のどれか」

仁美「…揺れてますね」

杏子「揺れてるな」ケタケタ



仁美「あのうちの、どれかは…」

杏子「それはあたしにもわかんねーや」

仁美「あ、舞台裏に行っちゃいましたね」

杏子「ほんと一瞬だな!」

仁美「………」

杏子「………」


まどか「はーっ!面白かったね!」

ほむら「そうね。最後まで展開が読めなかったわ」

仁美「黒い方が可哀想でした…」

ほむら「そうかしら?彼女にとってはあれが一番の結末だと思うわよ」

杏子「わっかんねーな。あれじゃなあさ…」



さやか「むっ!遅いよ!交代の時間過ぎてるよ?」

まどか「ごめん、ごめん。劇の感想で盛り上がっちゃって」

ほむら「すぐ交代するわ」

私達のお化け屋敷は、午前と午後でシフト分けされている。

さやかは、午前中の吸血鬼担当。

私が午後の吸血鬼を受け持った。

ちなみに、私と劇を見たまどかも杏子も仁美さんも、午後のお化け担当ね。



さやか「まったくさー、みんなほむらに付いて行っちゃって。あたしは寂しいよ」

杏子「しょーがねえだろー?マミが出るのは午前の方の劇なんだから」

さやか「いいよいいよ。あたしはマミさんと周るからー!」

さやか「じゃ、あと頼んだよ、ホムラ伯」

ほむら「まかせてちょうだい、サヤカ伯」

杏子「お前らノリノリだな」



さやか「で、あたし以外全員午後の担当ですよ!あいつら薄情すぎ!」

マミ「まあまあ。ところで、私なんかと一緒でいいの?例の彼は?」

さやか「んー?恭介ですか?あいつも午後の担当ですよ。友達、中沢っていうんですけど、そいつと一緒がいいらしくて」

マミ「あら。取られちゃったわね」クスクス



さやか「あーあ。マミさんくらいですよ、あたしの相手をしてくれるのは」

さやか「あっ!餃子ドッグだ!これ食べてみたかったんですよー」

マミ「な、なんだか得体の知れない食べ物ね…」

さやか「意外とイケますね、餃子ドッグ。このごたまぜ感がなんとも」

マミ「そうね。お腹も膨れるし」



マミ「あ、ここいいかしら。私の数少ない友達が多分いまいるのよ」

さやか「数少ないとか多分とか、ネガティブ要素多いっすね…」

マミ「もはや私はそこらへん割り切ってるわ。さあ行くわよ」

【神社】

さやか(神社て…。文化祭で神社って。得体が知れなさすぎる)

ガラッ



さやか「………」

さやか(なんだここは)

さやか(薄暗い教室に、ピンクのネオン。謎のジャズミュージックに、ことごとく覆面をしているスタッフ…)

さやか(どこからも、神社のエレメントを感じない)

さやか(魔女結界かここは)



マミ「残念、友達はいないみたいだわ」

さやか「そ、そうっすか…」

マミ「せっかくだし、おみくじ引いて行きましょう?」

さやか「お、そこは神社ですねー!あたしも引きます!」



マミ「どれどれ…」ピラッ

【末吉】

頭上注意。食べられます。



マミ「えーっと?どういうことかしら」

さやか「こーゆーのって、大抵わけわかんないこと言われますよね」

さやか「てゆーか、末吉と吉ってどっちが良いんですかね?」

マミ「言われてみると確かに知らないわ。末でもなにか付いてるんだし、吉よりは末吉じゃないかしら」

さやか「でも、末ってなんかマイナスイメージありますよ?」

マミ「まあ、わからないことを考えても仕方ないわ。美樹さんも引いたら?」



さやか「おっ、そうですね。では早速!」ピラッ

【凶】

友達の二股はやめましょう。



さやか「げえっ!凶だ」

マミ「またリアルな訓戒がきたわね」

さやか「友達の二股~?覚えがないなあ」

さやか「あっ!マミさんのことだったりして」

マミ「美樹さん!鹿目さんと私、どっちが大事なの!?」

さやか「うーん、あたしは…仕事かな!」

マミ「それ、女の子に一番言っちゃいけない言葉よ」クスクス

さやか「まあ、まどかもマミさんも友達っていうか仲間みたいなくくりですからね!大丈夫です!」

マミ「またよくわからない理屈ね」クスクス

さやか「あっ!そうだ!次あそこ行きましょうよ!」



杏子「そーゆーわけだ!健闘を祈ってるぜ!」

「はーい!」

杏子「はい、次の人どうぞー」

杏子「って、お前らかよ」

マミ「お前らなんてひどいわ。これでも客なのに」

さやか「そうだぞ杏子!ちゃんと仕事なさい!」



杏子「うぜえ。マミはともかく、さやかはタネも仕掛けも知ってるじゃねーか」

さやか「だからこそ、の楽しみもあるのだよ!さあさあ、早く案内してよ!」

杏子「はあ。友達の前でこーゆーことするの死ぬほど恥ずかしいんだぞ。思えば前もバイト中来やがって」

杏子「まあいいや。コホン」



杏子「あー、ようこそ来てくれた。命知らずなバカ野郎ども」

マミ「どうゆう設定なの?」ボソボソ

さやか「そんなディープな物はないです。適当です」ボソボソ

杏子「お前達を今回呼んだのは他でもない、最高にスリリングな冒険を用意できたんだ」

杏子「もちろんお前達なら二つ返事でOKなんだろ?…やっぱりな!いいぜ、最高にクレイジーだ!」

マミ「………」
さやか「………」



杏子「じゃあ、いよいよ冒険の内容を説明しよう。この先にある洋館がある」

杏子「伝説の吸血鬼、ホムラ伯爵の洋館だ。ここに潜入してもらう」

杏子「目標はただひとつ。洋館のどこかに隠されているマスケット銃を探し出してくれ」

杏子「このマスケット銃がホムラ伯爵の唯一の弱点なんだ。だからホムラ伯爵はそいつを隠しちまった」

杏子「臆病だよな?心臓の毛の数ならお前らが圧勝だ!」



杏子「まあとにかく、そいつを持ってこれればいい。まだ昼だから、ホムラ伯爵は寝てるはずだ」

杏子「ホムラ伯爵の手下どもの妨害はあるだろうが、お前達ならきっとできる!頼んだぜ!」

杏子「あ、あと最後に。ホムラ伯爵に会ったら、なにを差し置いてでも逃げろ。助かりたければな」

杏子「じゃあまあ、そーゆーわけだ!健闘を祈ってるぜ!」



マミ「佐倉さん」

杏子「おいおい、いまの私はキョーコ・サクラじゃない。さすらいの仕事あっせん人にして…」

マミ「佐倉さん」

杏子「なんだよ、せっかく人が役に徹してんのに」

マミ「昨日、急にマスケット銃くれってせがんだのはこれだったのね」

杏子「え、いや?ま、まあ…だって」

マミ「別にいいけどね」

マミ「さ、美樹さん。行きましょう」

さやか「は、はい!」

杏子「やべーよ…。なんかマミ怒ってるぞ」


杏子「おっと。はーい!次の人どうぞー!」



マミ「結構薄暗いわね」

さやか「そうですねー。いくら懐中電灯配ったとはいえ、これはちょっと暗いです」

さやか「製作者として反省ですね」

マミ「でも、なかなか雰囲気あっていひゃああぁ!?!?」ビクッ

さやか(そろそろ来ると思った)



マミ「なに!?コンニャク!?」

「やったね仁美ちゃん」ボソボソ
「気持ちいいですわねまどかさん」ボソボソ

さやか(丸聞こえだよふたりとも)

マミ「くっ意外と油断ならないわね」

さやか「あたし達の製作ですから!」



コツ……コツ……

さやか「ん」

マミ「さがって美樹さん。何か近づいてくるわ」

さやか(マミさんが戦闘モードだ)



???「ふふ、私の家に立ち入る愚か者はあなた達かしら?」

マミ「そういうあなたは自分の弱点を隠した臆病者ね?」

さやか(マミさーん!!ノリノリか!)

さやか(違うよ!これ違うやつだから!!そしてあたしのクラスメイト大体聞いてるからやめてー!!)



ホムラ「私の名はホムラ伯爵…え?お、臆病ではないぞ」

さやか(そしてほら!ほむらはアドリブ弱いんだから!)

マミ「ふふ、覚悟しなさい。絶対にマスケット銃は手に入れるわ」

ホムラ「そ、そうか。どうせムダだろうが、せいぜいムダな足掻きをするとよい」

さやか(ほむらー!キャラがブレてるよ!登場した時はお姉様キャラだったじゃん!)



マミ「あら。ムダかどうか決めるのは私達よ」

ホムラ「そうね…」ザッ

さやか(逃げたなほむら)

___________
_________


マミ「コンニャクとか落とし穴とか、物理的なトラップが多いわね」

さやか「ちゃんと安全は考慮してますよー。楽しい文化祭がケガで台無しなんて最悪ですからね」

マミ「ならいいんだけど…。あら、ずいぶんと長い通路ね」

さやか(ああ、ここか)



マミ「なんだか露骨に怪しいけど、進むしかないのよね」

ズボボッ
「女子が来たぞー!」
「触れ触れー!」
「うおおお!!」

マミ「きゃあああ!」

マミ「な、なによこれ!」

マミ(魔女結界に勝るとも劣らない強烈な負のオーラ…!なんて真に迫ったお化け屋敷なの!)



さやか(中沢が、壁から一斉に手を突き出す案を出した時は感心したもんだけど)

さやか(こーゆー下心からとは。しかもこの中に恭介がいると思うとやるせない)

さやか(ん?あの手は…)

手「ぐりんぐりん」



さやか(…あの、CDレコーダーを叩き割った傷痕のある手は…)

さやか(恭介、あたしはあんたにこんな事をさせるために魔法少女になったんじゃないぞ)イラッ

さやか「……」スタスタ

マミ「美樹さん?」

さやか「ふんっ」バシッ

恭介「痛いっ?!」

中沢「どうした上條!?」

恭介「くっ今回の子は凶暴みたいだ。一旦手を引こう」



マミ「いろいろあったけど、ようやくマスケット銃を手に入れたわ」

さやか「これマミさんのにソックリだと思ってたんですけど、本当にマミさんのだったんですね」

マミ「本当、あの子は。暴発でもしたらどうするのよ」

さやか「でもそれ、火薬も魔力なんですよね?一般人が触る分には大丈夫なんじゃ」

マミ「………それもそうだわ」

さやか(忘れてたんだ)



ホムラ「そっその銃は!」

さやか「あ、ホムラ伯爵」

ホムラ「おのれええ」

ホムラ「うわああ身体が溶ける」

ホムラ「くうう、覚えてなさい。私は不滅。いずれまた機会を図って復活してやるわ」サッ

さやか(マミさんに喋らせるヒマを与えない作戦か。やるなほむら)



さやか(でも客観的に見るとそれはただ勝手に溶けた人だぞ)

マミ「………」

マミ「どうやら、正義は為されたようね」

さやか(もうやめて)

ー放課後ー

さやか「ふーっ!満喫しましたなー」

まどか「そうだねー。楽しかった!」

さやか「あ、まどか達神社は行った?」

まどか「行ったよー。なんかこう、独特だったね」ティヒヒ

ほむら「独特というかなんというか…。ひたすらシュールだったわ」

ほむら「おみくじも謎だったし」

さやか「お、ほむらも引いたの?なんだって?」

ほむら「それが…友人と衝突するかも。発言には気をつけて、的なことを言われたわ」

まどか「ほむらちゃんなら大丈夫だと思うけどなあ」

ほむら「そうでもないわ。私、口下手だから。知らない内に傷つけているかもしれないし」

さやか「しっかし、せっかくの文化祭なんだから前向きなこと書いて欲しいもんだよねえー!」

さやか「最初から大吉しか入れとかない、とかさ!」

まどか「それじゃあありがたみないよう」ティヒヒ

杏子「そうだぞー!ハズレあってこその当たりってもんだ」

さやか「あっ!杏子。報告終わったんだ」

杏子「おう。やー、実行委員なんてやるもんじゃないね。めんどくせーったらありゃしない」

ほむら「あら。けっこう適任だと思うけど」

まどか「ねー。杏子ちゃんの受付、カッコいいって人気だったよ」

杏子「あー!受付といえばさやか!よくも茶化しに来てくれたな!ご丁寧にマミまで連れて来やがって」

ほむら「それについては私からも文句があるわ。なんであんなにマミさんノリノリなのよ!しかもさやかはフォローもなしにニヤニヤしてるだけだし!」

さやか「まあまあ、ふたりとも。楽しかったんだからいいじゃない!」

杏子「ったく。ほんとお前調子いいよなー」

ほむら「まったくね」

杏子「それで、そのさ、マミ、まだ怒ってるかな?」

さやか「ああ、マスケット銃の件?あれなら怒ってないよ。暴発が心配だったみたいだけど、火薬も魔力ですよねって言ったら、なら安心ねって笑ってた!」

杏子「なんだよ!ビビらせやがって」

まどか「杏子ちゃんでもやっぱりマミさんは怖いんだ」ティヒヒ

杏子「いや、あいつ怒るとケーキくれないんだ…」

ほむら「完全に胃袋を握られてるわね」

さやか「そーいや、杏子はおみくじどうだったの?さっきの発言から察するに大吉ですかなー?」

杏子「いや?中吉だった。水難注意だって」

ほむら「マミ難の間違いでしょう?」

杏子「……」

さやか「…ん?暁美さん?なんて言ったのかな?」

ほむら「なっ!なんでもないわよ」カアア

さやか「いやいや!面白かったよ!もう一度言ってみなって!」

ほむら「なんでもないって言ってるじゃない!」バシ

さやか「わーっ!ほむらが怒ったー!」

ほむら「さやか!待ちなさい!」




まどか「『発言注意。友人と衝突するかも』かあ…」

杏子「おみくじ当たったな!あたしも水に気をつけねーと」ケラケラ

さやか「あはは!遅いぞほむらー!」

ほむら「くっ!魔力のドーピングがないとやっぱり敵わないわね」ハアハア

仁美「あら?さやかさんに暁美さん」

さやか「うわ、ちょ仁美どいて!」
ほむら「あ!仁美さんそいつ捕まえて!」

仁美「よくわかりませんが、きっとさやかさんが悪いのでしょう。承知しました!」


仁美「はっ!!」
さやか「タックル!!?」ガハッ

ほむら「やっと捕まえたわさやか!覚悟なさい!」

さやか「あはは!ちょ、くすぐらないで!」

ほむら「だめよ!謝るまで許さないわ!」

さやか「あははは!ごめん、ごめんったら!ひーっ!」

仁美「あの、おふたりとも」

ほむら「?なにかしら」ピタッ

さやか「もうお嫁に行けない…」ハアハア

仁美「このあと、みんなでファミレスで打ち上げがあるそうなのですが、おふたりともどうですか?」

さやか「んー、ごめん。あたしらはパスで。このあと予定入っちゃってて」

仁美「まあ。そうなんですの?残念ですわ」

ほむら「ごめんなさい」

仁美「いえ。予定があるのでしたら仕方ありませんわ」

さやか「ごめんね。今度、みんなで遊ぼうよ」

仁美「ええ。また、今度」

さやか「じゃ、行きますか」

ほむら「そうね」



仁美「……………」ブスッ

ーマミ宅ー

杏子「マミおかわり」

マミ「まだ食べるの!?」

杏子「当然だろ?あたしを不当な理由で怒ったんだ。迷惑料、迷惑料」

マミ「本当にこの子は…」イソイソ

ほむら(なんだかんだ嫌そうではないのよね、マミさん)

さやか「しっかし、マミさんの劇面白かったねえー」

杏子「お前はマミが出てない方のやつしか見てねーじゃん」

さやか「だってほむらがじゃんけんに勝っちゃうんだもん。あたしだって午後の吸血鬼が良かったのに」

ほむら「じゃんけんの結果をどうこう言うのはみっともないわよ」

まどか「でも、結末はちょっとかわいそうだったね」

杏子「そーだな。黒いのが救われねーや」

ほむら「そうかしら?彼女自身、自分の行動が正しいかどうかもわからないし、迷いや葛藤もあるでしょうけど、それでもあの結末を選んだのは他でもない彼女よ」

ほむら「かわいそう、というのはちょっと違う気がするわ」

さやか「でも、黒い奴は少なからず罪悪感は感じてるみたいだよね。結果だけみればかなりハッピーエンドに近いのに、なんとなく後味がさっぱりしないのはそれだと思うよ」

マミ「みんな議論してくれて嬉しいわ。シナリオを書いた人も、そういう議論をして欲しかったみたいだから」カチャカチャ

まどか「あの、黒い人が導かれておしまい、じゃあダメだったんですか?」

マミ「そうねえ、クラスでもずいぶん意見が割れたんだけど」

マミ「ハッピーエンドのためのストーリーって、つまらないじゃない。ハッピーエンドにするためにキャラクターと世界観を設定するんじゃ、やっぱり魅力的な物語ってできないわ」

マミ「舞台とキャラクターを作ったら、あとはキャラ達が思い思いに動いてくれた方が、物語にハリが出ると思わない?」

マミ「ストーリーは、その結果紡ぎ出されるもの。今回は結果的にハッピーエンドとはいかなかったけれど、代わりにキャラクター達、とりわけ黒い人の人格というか、人間性は余すことなく表現できたと思うの」

ほむら「たしかに、切れば血が出そうなほど生き生きしたストーリーだったわね」

杏子「なんだよ、その表現…」

さやか「じゃあ、マミさんはどちらかと言うとこの結末派なんですね」

マミ「私?私は…」

マミ「テトリス派かしら」

杏子「ブレねえな」ケラケラ

マミ「というか、こっちで良かったの?みんなクラスの打ち上げにお呼ばれしてるなら…」

さやか「このお茶会がいいんですよ!あっちより絶対楽しいです」

杏子「どーせ、打ち上げなんて言ってもみんなで話してるのは最初だけで、後半はいつもつるんでるメンツとしか話さなくなるしな」

さやか「だったら、マミさんいた方が楽しいよね」

ほむら「仁美さんには悪いことしちゃったけどね」

まどか「うん…仁美ちゃん」

さやか「まあ、仁美とも今度遊べばいいじゃん!」

まどか「うーん。そう、だね」

マミ「その、良かったらその志筑さん?も招いていいのよ?」

杏子「気ぃ回さなくていいよ。ここはここ、あっちはあっちだ。変にゴタマゼにするとかえってめんどいぞ」

杏子「それに、魔法少女ネタも話せなくなっちまうしな」ケラケラ

まどか「杏子ちゃん達はいつも仁美ちゃんの前でも魔法少女ネタ言ってるよう」ティヒヒ

さやか「あはは、たしかに!」


まどか「いつもフォローしてるの私なんだからね?」ジトッ

杏子「……」

さやか「……」

杏子「その、ごめん」
さやか「シェイシェイですまどか」

ほむら(まどかがおこだわ)

______
____


さやか「じゃあみんな!また学校で!」
まどか「今日もごちそうさまでした」

マミ「はいはい、もうすっかり遅くなっちゃったし気をつけて帰るのよ」

まどか「はーい」

ほむら「さやか、まどかを頼むわよ」

さやか「おうともよ!暴漢なんて現れた日には、さやかちゃんが刻んじゃうよ!」

マミ「ふふ、頼もしいわね」

ほむら「遠慮はいらないわよ。徹底的にやりなさい」

杏子「うわ、こいつ目がマジだぞ」

まどか「ティヒヒ、もうみんな心配しすぎだよ」

ほむら「それじゃあ、また」

まどか「うん!またね!」

マミ「さて、ふたりは帰ったことだし、片付けないと」

ほむら「手伝うわ」

杏子「あれー?マミ、あたしのお菓子袋どこー?」

マミ「知りません!常日頃から整理しておかないから失くすのよ」

杏子「くそー。あれ秋限定のロッキー入ってんだぞ」

ほむら「というか、あなたも手伝いなさいよ」

杏子「しゃーねえな」

マミ「このあと、暁美さんはどうするの?」カチャカチャ

ほむら「どうせ家に帰っても一人だし、もうちょっとお邪魔していくわ」カチャカチャ

杏子「お、なんださみしいのか?」カチャカチャ

ほむら「べつに」パッパッ

杏子「あ、そうだ。ほむら、アレありがとな」

ほむら「アレって?なにかあげたかしら」

杏子「あれだよ!爆弾。あれのおかげであたしは助かったんだ」

ほむら「ひょっとして、前あげた私の爆弾!?」

杏子「ああ。うまくキリカの目をごまかせたよ」

マミ「魔法少女が爆弾なんて。もっとマジカルに戦うべきじゃない?」

杏子「みんなが皆マミみたいになんでもかんでも魔法でできるわけじゃねーんだよ。臨機応変にいかねーと」

ほむら「マミさんの魔法は汎用性が高すぎるのよ。私のこのしょっぱい魔法でどうマジカルに立ち回れって言うの」

マミ「ふたりとも万能魔法みたいに言うけど、私だって最初はリボンだけで戦ってたのよ?」

マミ「こんなものでどう戦うのよ!ってQBに食ってかかったのも一度や二度じゃないわ」

杏子「へー。マミがなあ」

ほむら「ちょっと想像つかないわね。いまじゃ紅茶まで出せるのに」

杏子「なー」

マミ「要は、応用よ。佐倉さんだってあの鎖は後付けの魔法でしょう?」

杏子「まーな。幻覚が使えなくなったってんで、あの時は必死こいて研究したなー」

マミ「魔法少女は条理を覆す存在だもの。暁美さんだっていろいろ工夫してみれば新しい魔法が使えるようになるかもしれないわよ?」

ほむら「工夫…」

ほむら「盾をたくさん召喚して、マミさんみたいに一斉掃射?」

マミ「それは…マシンガンの方が攻撃力ありそうね」

杏子「絵面がカッコ悪そうだしな」

ほむら「……」

ほむら「盾から展開されるシールドを洗練して、剣の形に固定する?」

杏子「それじゃあ手首のスナップが効かないから扱い辛いだろ」

マミ「第一、美樹さんの剣で十分だしね」

ほむら「…やっぱりいまのスタイルが一番な気がするわ」

杏子「ま、魔力を節約できるって面では割とうらやましいしな」

杏子「それに、あたし達だってマジカルに立ち回れてるかって聞かれたらそーでもねーし」

マミ「え」

杏子「そーだろ。銃に槍、剣ってどこもマジカルじゃねーぞ」

ほむら「たしかにそうね」クスクス

杏子「マジカルステッキ振り回して、ビーム当てたら敵が花びらにーって感じだろ。魔法少女って」

ほむら「さすがにそこまでではないんじゃ…肉弾戦とかもするんじゃない?」

杏子「いや、あたしはそーゆーアニメはあんまり見なかったから知らねーんだけど…」

ほむら「…そう」

ほむら(プリキュアは肉弾戦もするのよ)

マミ「……」

マミ「マジカルステッキ出す魔法、練習しようかしら」

杏子「マジでやめとけ。バックリいかれても知らねーぞ」

杏子「っていうかさ、なんかお前らあたしが無事だったのに驚いてたな。てっきり知ってるかと思ったぞ」

ほむら「連絡もよこさないでよく言うわ」

杏子「いや、ほむらの盾の中にはあたしの槍も入ってんだろ?そいつが無事なんだから、あたしも無事に決まってんじゃん」

ほむら「あ」
マミ「言われてみれば確かにそうね…」

杏子「まあこっちとしてもその方が動きやすかったけどな」

ほむら「なんかムカつくわね」

マミ「さて!こうしてるのもなんだし、映画でも観る?」

ほむら「あ、マミさん。私あれが観たいわ。この前途中まで観た、遺伝子のやつ」

マミ「ああ、ガタカね?いいわよ。これは本当にいい映画で…」

杏子「映画もいいけどさ、ちょっと夜風に当たりたくない?」

ほむら「?いいけど、どうしたの急に」

杏子「べつに、特別な理由はないよ。ただ、そーゆー気分なだけだ」


杏子「ちょっと、話もあるし」

特に断る理由もないので、私たちは杏子の散歩に付き合うことにしたわ。

でも思ったより冷え込んでいたので、早速私は後悔し始めていた…。

ほむら「すっかり冷えてきたわね。もう息が白いわ」

マミ「そうね。最近急に気温が変わるから嫌だわ」

ほむら「私、冬物の服あんまり持ってないから仕入れたいんだけど、今度付き合ってくれないかしら」

マミ「いいわね!私もちょうど新しいトレンチコート欲しかったのよ」

杏子「マミ冬物のコートならもう持ってるじゃん」

マミ「ちょっと前着てみたらもうキツくなってたのよ」

杏子「へー。そりゃ良かったなー」

マミ「良くないわよ!また服買わないと。佐倉さん、私のお古着る?」

杏子「着ねーよ。マミとは趣味が合わない」

マミ「あら、可愛くない。暁美さんは?」

ほむら「私もパスよ。まだ、いろいろ足りないから」

杏子「まだ、ねえ」ニヤニヤ

ほむら「なっなによ。希望を持つのが間違いだというの?」

杏子「いやー?好きにしたらいいんじゃねーの?」

ほむら「杏子だって人のこと言えないじゃない」

杏子「お前よかマシだ」

マミ「しかし、そうなると困るわね。服を捨てるのって手間だし、売っても大したお金にならないし」

マミ「誰かがもらってくれるのが一番なんだけど…」

ほむら「さやかあたりだったら喜ぶと思うわ」

杏子「お、そうだな。あいつならいろいろピッタリだ」

マミ「まあ、ショッピングは決定として、その辺は今度集まったときに話してみるわ」

ほむら「ショッピング、明後日の放課後なんてどう?わりとすぐ欲しいの」

杏子「あたしは大丈夫だぞー」

マミ「私も空いてるわ」

ほむら「決定ね。まどかとさやかも誘っておくわ」

杏子「おう」

ほむら(さて、ネットでコーディネート調べておかないと)

ほむら「そういえば、杏子の話って?」

杏子「ああ、それな」

杏子「ちょっと座って話したいんだ。そこの広場なんてどう?」

ほむら「いいけど…。やけに改まるのね。あなたらしくない」

杏子「うっせ」

マミ「まあまあ。いいじゃない、暁美さん。この子だってセンチメンタル入ることだってあるわよ」

ほむら「杏子も人の子だものね」

杏子「お前ら人をなんだと思ってやがる」

ほむら「あえて言うなら猫っぽいかなと」

杏子「よーし、そこになおれ。槍でひっかいてやるよ」

マミ「だめよ佐倉さん、『伏せ』」

杏子「伏せねえよ!?!!」

杏子「あーもう嫌だ。お前らなんかキライだ」

ほむら「拗ねないでよ」

マミ「ごめんなさい。佐倉さんの話、聞きたいわ」

杏子「うぜー。超うぜー」

杏子「じゃあおしるこ缶くれたらいいぜー?」

ほむら「おしるこ…。この時期から売ってるかしら」

マミ「微妙ねえ」

杏子「あったかくて、ある程度腹にたまりそうなもんならなんでもいいよ」

ほむら「というか、いつの間に何かを要求する立場になってるのよ」

杏子「だってあたしが真面目な話しようとしてんのにお前らが茶化すから」

マミ「しょうがないわねえ…」

杏子「おっ!さすがマミ。物分りがいいな」

______
____


マミ「はい、おしるこは無かったからコーンスープ」

杏子「サンキュー」

マミ「はい、暁美さんにはコーヒー。ブラックでよかった?」

ほむら「ええ。ありがとう」




カシュ……ゴクゴク


杏子「はぁーっ温まるなあ」

ほむら「そうね」

マミ「で、佐倉さん」

杏子「…ああ」

杏子「あたし、さ。今回のキリカの件で夢ができたんだ」

ほむら「夢?」

杏子「ああ。あたしは家族に死なれてからいままで、ずっと生きるために生きてたんだと思う」

杏子「…まるで、動物みたいな生活さ。お前らと会うまでは弱肉強食とか言って、魔法の力で…他人が努力して得た食いぶちを奪ってた」

杏子「お前らと会ってからも…いや、マミとは和解か。特に目標も持たずに日々を溶かしてたと思う」

杏子「ただ、毎日を適当に…その時々が楽しけりゃいいや、ってな」

マミ「…佐倉さん」

マミ「でも、それは…仕方なかったじゃない。あなたは確かに悪事を、時には犯罪を働いたかもしれない」

マミ「でもそれは、生きるためでしょう?誰だって追い詰められればそうなるわよ」

ほむら「そうね。少なくとも、あなたみたいな境遇になったことのない連中にあなたを責める資格なんてない」

ほむら「暖衣飽食に包まれて、生命の危険に晒されたこともない安全圏にいる連中が、おもしろ半分であなたに石を投げつけるというなら」

ほむら「私はそいつらを、決して許さない」

マミ「それに、私たちと一緒に過ごすようになってからだって、あなたはただ、当たり前の…」

杏子「…ありがとな、ふたりとも」

杏子「でも、あたしが言いたいのはそーゆー事じゃないんだ」

杏子「生きるために生きてきたあたしだけど、そんなあたしに夢ができたんだ」

杏子「それも、途方もなくでっかいのだ!」ニッ

杏子「あたしの一生を捧げても叶えらんないだろうな…」

杏子「それに、どうせ魔法少女やってんだ。長生きはできねーだろ」

マミ「………」

ほむら「杏子…」

杏子「だからさ、せめてこれからはその夢に向けて全力で突っ走りたい」

杏子「そんで、死ぬ瞬間になったら…ああ、あたしはやりきったぞって、満足して死にたいんだ」

杏子「これからは、死ぬために生きる。そう決めた」

杏子「だから、あたしの覚悟が揺らがないように、お前らには言っておこうと思ってさ…」

マミ「佐倉さん…。それは、寂しくて、カッコいい覚悟ね」

マミ「私は応援するわよ!あなたのそんなに輝いた目、久しぶりに見たもの」

杏子「へへ、そうかな…」

ほむら「私も、応援するわ。…ただ、ちょっと気に食わないわね」

杏子「…なんかヘン、かな」

ほむら「ええ」

マミ「それはそうね。私も気に食わないわ」

杏子「…なんだよ、ふたりそろって」

ほむら「私達にも手伝わせなさいよ。ひとりでカッコつけちゃって、ずるいったらないわ」

マミ「そうよ。ひとりで突っ走るなんて、寂しいじゃない」

杏子「あ……」ポカン

杏子「…へへ」

杏子「あはは!なんだよ!お前らこそカッコつけてんじゃねーよ!」

ほむら「なっ」

杏子「あははー!くっせーセリフだなあ。マミのがうつったんじゃねーの?」

マミ「ちょっと!どーゆー意味!?」

杏子「そのまんまだよ!」ケラケラ

ほむら「なによ!茶化すなって言うから人が真剣に聞いてやったのに!」

マミ「そうよ!それで佐倉さんが茶化してくるのはおかしいんじゃないの!?」

杏子「ごめん、ごめん!ただあんまりにも息が合ってて、それがおもしろくてさ!」

ほむら「…もう知らないわ。勝手にやってりゃいいじゃない」

杏子「ごめんったら!やさぐれるなよ!」

杏子「素直に嬉しいよ、ふたりとも。なんか手伝って欲しいことがあったら言うよ。頼りにしてる」

マミ「最初からそう言えばいいのに。素直じゃないんだから」

ほむら「まったくだわ」

ほむら「それで、肝心なことを聞いてないけど」

杏子「ん?」

ほむら「夢って、なんなの?」

杏子「…あー」

杏子「笑わない?」

マミ「さあね」クスクス

ほむら「保証はできないわね」

杏子「なんだよ、言いづらいなあ」

杏子「………」

杏子「…世界を、救いたいんだ」

ほむら「………」ポカン

マミ「また大きくでたわね…」

杏子「これさ、オヤ…、父さんの夢だったんだ」

杏子「あの人は、結局中途半端で死んじゃったから…」

杏子「あの人の夢を継げるのは、もうあたしだけだ」

杏子「あんなにも、他人を思いやってた優しい人がいたんだ。…その心意気だけでも、この世に残してやりたい」

ほむら「杏子…」

マミ「でも、どうやって?この世には人々を苦しめる魔王、なんて都合のいい存在はいないわ」

マミ「戦う相手すらわからないのに…」

杏子「それは、あたしにもわっかんねーや!」ケラケラ

ほむら「えー。早速行き詰まってるじゃない…。大丈夫なの」

杏子「だから面白いんじゃん!あたしは塗装された道なんて歩きたくない」

杏子「行くなら、未開の獣道だ」

マミ「佐倉さんらしいわね」クスクス

杏子「でも、ひとつだけ決めてることがある。…魔法少女の力は使わない」

杏子「あたしが自分で努力して掴みとった、みんなが認める力だけで勝負したい」

杏子「だから当面の課題は、勉強だな!あはは!さっそく鬼門だよ」

ほむら「だから最近、授業に積極的なのね」

杏子「まーなっ!相変わらず訳わかんねーけど」

ほむら「そこなら私も協力できるわ」

マミ「私もよ。わからない所があったら遠慮なく聞いてね」

杏子「ありがとな、ふたりとも」

杏子「………救世についてだけどさ。まだなんの指針もないけど…なんとなく、こうしたいなーみたいなのはある」

杏子「…あたしが死んだフリしてた頃、千歳ゆまって子に会ったんだ」

杏子「そん時、さやかには止められてたけど、魔女狩りに行ったんだよ」

杏子「その時の魔女は、ある家庭をまるまる取り込んでた。あたしが結界に乗り込んだときには、一人を除いては皆殺しだった」

マミ「その、ひとりっていうのが…」

杏子「ああ。さっき言ったゆまって子だ」

杏子「…ゆまは、両親からひどい虐待を受けてたみたいだ。おでこにはタバコを押し付けられたらしい火傷の痕があったし、それ以外にも生傷がたくさんあった」

ほむら「………」

杏子「でも、どんなにひどい親でも、やっぱり子どもにとっちゃあこの世にただふたりだけの両親なんだよな」

杏子「ずいぶん、ダメージ負ってるみたいだった」

マミ「……佐倉さん」

杏子「…泣きつかれたよ。キョーコ行かないでってさ…」

杏子「一瞬、めんどう見てやろうかとも思った。でもあたしだって根無し草の居候だ。これ以上マミに迷惑はかけらんねー」

マミ「よかったのよ、連れて来ても」

杏子「ムリすんなよ。あたし一人でも結構キツイだろ?そこまではして貰えねーよ」

杏子「…悔しいけど、いまのあたしがあいつにしてやれる事はなにもなかった」

杏子「大丈夫だからって頭撫でてやって…。ただ、警察が来るのを待ってただけだ」

杏子「笑っちゃうよな。なにが大丈夫なんだよ。天涯孤独の身がどんなに辛いか、あたしは良く知ってるのに」

杏子「ましてや、あいつにはマミみたいに無条件で受け入れてくれる、頼れるやつなんていない」

杏子「ほむら達みたいな仲間もいない。魔法少女の力もない」

杏子「あたしより、ずっとひどい」

ほむら「……理不尽ね。生まれつき全てを与えられている者もいれば、両親との温かな家庭…そんな当たり前の物さえ与えられてない者もいる」

杏子「ああ。あたしは、ゆまみたいな子を救いたいと思うんだ」

杏子「わけわかんねー世の中からの理不尽におびえる子たちに、家族の温かさを教えてやりたい」

杏子「…孤児院なんか、いいかもな」

マミ「それは尋常な道じゃないと思うわよ?人ひとりの人生を変えるのがどんなに大変か」

ほむら「そうね…。案外、人間の運命って変えにくいわよ」

杏子「うわ、ほむらが言うと説得力あるなー」

ほむら「でしょう?」

杏子「でもそんくらいのが、やり甲斐あるさ」

ほむら「というか、あなたは世界を救いたいんじゃないの?」

杏子「結局、世界なんてあたし達がこうして過ごしてる日常風景の連続だろ」

杏子「だったら、目に着いたところからやってくだけさ。そうして出来た流れが、いつかめぐりめぐって世界を救ってくれねーかな…って」

杏子「いま考えてんのは、そーゆー感じだな!でも、所詮は知識も経験もない馬鹿ないち女子中学生の考えだ」

杏子「いつか、勉強して、もっともっと世間を知った時…また別の考えになってるかもしれないね」

ほむら「…私は、素敵だと思うわ。ちょっと羨ましいくらい」

杏子「ん?」

ほむら「私は、まどかを救うためにがんばってきて…あなた達のおかげでそれを達成できた」

ほむら「いまの私だって、杏子の言う生きるために生きてる人間だわ」

ほむら「何度ももう諦めようかと思ったはずなのに…いまは目標があることが少し羨ましい、かも」

マミ「私だって、人生の目標なんてないわね…。いままでは生きるだけで精一杯だったから」

マミ「佐倉さんや暁美さん達と過ごすようになって、ようやく余裕が出てきたんだから」

杏子「…じゃあさ、ふたりの目標が決まるまでは、あたしの夢に付き合ってよ!」

ほむら「奇遇ね。私も協力させてって言おうとしたところだったんだけど」

マミ「私もよ。なんなら一生付き合ってあげる」

杏子「そっか。そりゃー頼もしいなあ」ケラケラ

マミ「…私も、人助けしたかったのよ。魔女狩りだけじゃなくて」

マミ「私は、それだけの十字架を背負ってるから。幾多もの魔法少女を見殺しにした…」

杏子「…魔女は元は魔法少女だからな。でもまー、仕方ないんじゃないの?そーゆー仕組みなんだから」

マミ「…違うわ。私は、QBと最低の契約を結んだの。魔法少女を見殺しにするっていう」

ほむら「…!マミさんそれは」

マミ「いいのよ。いまの佐倉さんには、知っておいてもらいたい…いえ、言わないと失礼だわ」

ほむら「………」

杏子「どーゆーことだ?お前らふたり、あたしに何を隠してんだ」

マミ「ちょっと前に、魔女がぜんぜん現れなくなったことあったでしょう」

杏子「ああ、あれには参ったな」

マミ「あれ、QBの仕業だったの。私たちが邪魔だから、兵糧攻めでジワジワ殺すつもりだったそうよ」

杏子「…!マジ、かよ。いや、あたしも妙だとは思ってたんだ。でもまさか、アイツがそんな露骨な手に出るなんて…」

マミ「QBは、魔法少女の裏事情が広まるのを恐れてたわ。だから私は約束したの」

マミ「この見滝原周辺で魔法少女がいても、魔女化するまでは一切接触しない。だから魔法少女を、いえ魔女を増やしてくれ、って…」

ほむら「約束は守られた。いまも私たちは魔法少女を見殺しにし続けている」

杏子「それは、胸くそ悪いな…」

マミ「…幻滅した、かしら?こんな悪い私で」

杏子「………」

ほむら「杏子、聞いて。マミさんは私たちのために」

杏子「いや、幻滅するわけねーじゃん…。あたし達はもともと、そーゆー存在だ」

杏子「ただ改めて客観的に見ると…ひどい仕組みだな。あたし達ぜってーロクな死に方しねーよ」

ほむら「…そうでしょうね。織莉子達との戦いだって、大分危なかったし」

マミ「死んだら地獄行きね」

杏子「まあお前らと一緒なら、地獄もたいがい悪くねーんじゃねーかなって思えるよ」

ほむら「地獄で会おうぜ、だっけ?杏子」

杏子「ああもう!ほむらお前それ引っ張りすぎだ!誰だってハイになればそーゆーセリフ出てくんだろ!」

ほむら「残念、私はハイにならない年中低血圧女よ」

杏子「あー、クールぶっちゃってさー!」

マミ「私はわかるわよ佐倉さん。ハイになったなら、仕方ないわよね」

杏子「あたしはお化け屋敷でハイになれるほどではないかな」

マミ「なによ!せっかくかばったのに!何事もハイになった方がいいでしょう?」

杏子「見境なくはやめてくれよ。あたし達が恥かくんだ」

マミ「ちょっと!佐倉さん!」

ほむら「ふたりとも。あまりハイにならないでくれる?低血圧には辛いノリよ」

杏子「うわ、ひとりですましやがって!」

マミ「あら、でもわたし暁美さんが泣き虫なの知ってるわよー?」

ほむら「え!それ持ち出すのは反則でしょう!」

マミ「暁美さんたら私にとっては初対面なのに、いきなり泣きついてきたのよ?」

ほむら「ちょっとマミさん!」

杏子「えー!マミ、よく話聞いてやったな!あたしだったら追い出してるよ」

マミ「んー、佐倉さんでも話は聞いたと思うわよ。なかなか可愛いかったから」

ほむら「この話やめない?」

杏子「あたしは興味あるなー。マミとほむらのファーストコンタクト」

マミ「言ってなかったかしら?あの時は…」

ほむら「やめてマミさん、せめて私のいないところにして…」

______
____


杏子「そろそろお開きにするか?明日が辛くなるだろうし」

マミ「そうね、もうけっこうな時間だと思うわ」

ほむら「私はすでに辛いんだけど」

杏子「知るか」ケラケラ

マミ「まあまあ。お互いまた理解が深まったと思わない?」

ほむら「人の恥ずかしい過去をほじくるのは理解じゃないと思う」

杏子「…でもまあ、なんつーの」

杏子「これからもよろしくな、ふたりとも。もう魔法少女の友達は作っちゃいけねーんだろ」

マミ「そう捉えたことはなかったけど…確かにQBとの約束を考えるとそうなるわね」

ほむら「そうね…。まあもともと魔法少女同士が仲良く、っていうのも珍しい気はするけど、それでもちょっとさびしいわね」

杏子「あたしは、お前らがいりゃ十分だよ」

マミ「私もよ。これ以上を望むのは贅沢よね」

ほむら「…まるで私が欲張りみたいじゃない」

ほむら「私だって、みんなとやっていけるだけで幸せよ。何度も、どれだけ私がこの未来を夢に描いてきたことか…!」

ほむら「だから、長生きしてね。今回みたいなのはなしよ」

杏子「ああ、今回は悪かったよ。まあお前よりは強いつもりだから安心しな」

ほむら「あら、私だって時間停止なしでキリカと渡り合ったわ。案外大差ないんじゃないの?」

杏子「おかしいな。あたしが聞いた話だと、何もないところですっ転んでたらしいけど?」

ほむら「あっ!あれはキリカが私の片脚だけに速度低下をかけたからで!」

マミ「あれはそうゆうことだったのね。やっと納得したわ」

ほむら「さすがに何もないところで転ばないわよ、マミさん…」

杏子「ま、つまるところお前らは、魔法少女の仲間で、同じ夢を追う同士なわけだ」

杏子「頼りにしてるぜー?」

マミ「…ええ。これからもよろしくね」

ほむら「勘違いしないで欲しいのは、私にだって夢ができるかもしれないこと」

ほむら「あくまで、臨時の夢として手伝うのよ。…結果として、最後まで付き合うことになるかもしれないけど」

杏子「わかったよ。ありがとう」

マミ「美樹さんと鹿目さんにも、この話してあげなきゃね」

ほむら「今度のお茶会あたりね」

杏子「おう。楽しみだな」

ほむら「じゃあ杏子。救世の第一歩として、今度のテストがんばらないとね」

杏子「だなー。…あれ?テストって来週じゃん」

マミ「そういえばそうね。文化祭の余韻ですっかり忘れてたわ」

ほむら「そうよ!忘れてた!じゃあショッピングなんて余裕ないじゃない!」

杏子「あの学校、マジで頭おかしいよ。あたし達を忙殺する気か?」

マミ「ボヤいたって仕方ないわ。今度のお茶会は勉強会も兼ねましょう」

ほむら「そうね…。なんか仁美さんに敵対意識持たれてるし、がんばらないと」

杏子「ほむらはループで答え知ってただけなのになー?」

ほむら「でも、毎回一緒じゃないわよ?」

マミ「そうなの!?」

ほむら「ええ。同じ試行を繰り返しても同じ結果とは限らないのよ」

ほむら「どんな些細で小さな遠因が、結果を塗り替えるかもわからない…。私たちが織莉子に勝てたのもこのおかげかもね」

杏子「いや、そりゃ違う。単にあたし達が強えーからだ」

マミ「っと。本当に時間が危なくなってきたわ。いまから何時間寝れるか…」

杏子「おう。けーるか」

ほむら「ええ。じゃあふたりとも、また明日」

マミ「ええ。また明日!」

杏子「じゃーなー!」

ほむら「杏子。マミさん。…がんばって世界を、救いましょう」

杏子「…そうだな」
マミ「そうね」

ほむら「…………」スタスタ

この話を大人が聞けば、きっと笑い飛ばすのだろう。

世間知らずだ、社会に出ればそうは言ってられないーー。

ならば私は問いたい。

あなた達のやっていることはなに?

これが社会のルールだと言って、自分がかつて受けた理不尽をそのまま下の世代に押し付ける。

だから世の悪習は途絶えることはない。

そんな奴らが、杏子の夢を笑うなんて片腹痛い。

世の中を良くしたいと願うのは子どもっぽい?

そうゆう理想を打ち捨てて、社会に迎合して流されて、自分だけは這い上がって弱者を貶して石を投げつける。

それが大人になるということなら、私は大人になんてなりたくない。

一生、そんな大人を軽蔑し続ける。

こんな私の考えも、中学生の戯れ言だと一蹴できるから大人はズルい。

だけどきっと、子どもであり続けるということはとてつもなく難しいのだろう。

守るべき家族や、自分自身のためにどんな理不尽にも耐えて頭を地面に擦り付けて…そんな過程で、夢もなにも摩耗してしまうのかもしれない。

…私たちはこの子どもっぽい夢を、世間から守り通せるのだろうか。

それは、これからの私たちに問うしかないだろう…。

ありがとう
横浜編もやってみたいと思ってます

完結じゃないです
もうちょっと続きます

ーテスト後ー


さやか「終わったーっ!」イェーイ


さやか「そして終わったああああ!!」ガバッ

まどか「風物詩だねえ…」ティヒヒ

さやか「もう嫌だ…。なによ点Pって!動くなよ!」ガーッ

さやか「ねーっ?まどか!」

まどか「私は、今回けっこう自信あるかなぁ。ほむらちゃんと勉強したから!」

さやか「そ、そんな…!裏切り者めーっ!」

まどか「さやかちゃんも誘ったじゃない。そしたらゲームするのに忙しいって言うから」

さやか「あぁ…。過去のバカなあたしを誰か救って…」

さやか「あっ!杏子はどーだったんだろ!おーい杏子ぉー!」

さやか「杏子どんくらいできたー?」

杏子「ここってさ、これで合ってるかな」

ほむら「ええ、そうね。これは要するに、傾きが同じってことだから」

仁美「あ、でもここ。代入する数が入れ違ってますわ」

杏子「ん、ああっ!ほんとだ!!」

ほむら「惜しかったわね」クスクス

ほむら「でも途中式は合ってるんだから、部分点はもらえるわよ」

杏子「いやー!でも悔しいなー!」

さやか「あのー、佐倉さん?」

杏子「あ!あと、歴史の桜田門外の変のとこって、安政の大獄と井伊直助で合ってるか?」

仁美「そうですけど、漢字が違います。井伊直弼ですわ」

杏子「またミスってた…」

ほむら「でも、格段に出来るようになってるじゃない。びっくりしたわ」

杏子「あれ、さやか。お疲れさん」

さやか「杏子…。ひょっとして、結構できた?」

杏子「いや、この調子じゃ目標点には届かねーや」

ほむら「でも平均越えはかたいわよ。本当にすごいわ、よく短期間でここまで叩き上げたわね」

さやか「………」

杏子「あ、ごめんさやか。それでなんだって?」

さやか「いや、なんでもないや」

杏子「なんだよー!気になるだろ」

さやか「いやいや、ほんとに。じゃ…」

杏子「?」

ー放課後ー

まどか「ねえねえほむらちゃん!みんな!テストも終わったことだし、カラオケ行こうよ!」

杏子「おっいいねえ!やり切ったあとガーッて遊ぶの、気持ちいいよなあ」

仁美「私も、行ってもいいでしょうか?」オズ

まどか「もちろんだよ仁美ちゃん!ね、さやかちゃん!」

さやか「うん、そうだね」

さやか「…あたしは、パスしようかな」

杏子「はあ?なーに言ってんだよさやか!お前は強制参加だからなー?」

さやか「…、いや冗談に決まってんじゃん!やだなあ、もう。さやかちゃんがそーゆーイベントを見送るはずないっしょー」

杏子「さっすがさやかだ!」

まどか「ほむらちゃんも来るよね?」

ほむら「…ごめんなさい。私、ちょっと用事があって。みんなで楽しんできて」

まどか「ええ、そうなの…」

杏子「なんだよ、つれねーな」

さやか「ね、あたしの時と対応違くない?」

杏子「だってお前に用事なんてあってもどーせ大したことじゃねーじゃん」ケタケタ

さやか「失礼なっ!あたしだっていろいろ抱え込んでんだぞーっ」

ギャーギャー

まどか「ね、ほむらちゃん。用事って?」

ほむら「…ええと。笑わない?」

まどか「うん!」

ほむら「…ポイントが2倍なの」

まどか「…えっ?」

ほむら「その、行きつけのスーパーのポイントが今日だと2倍貯まるの」

ほむら「ほら、私っていまはバイトもしてないし、両親からの仕送りだけじゃ結構やりくりが大変で…」

まどか「そっかぁ、なら仕方ないね!」ティヒヒヒヒ

ほむら「ま、まどかっ!笑わないって言ったじゃない!」

まどか「だ、だってさ!ほむらちゃんがそーゆー生活感の溢れること言ってると、なんだか普段とのギャップがかわいくて!」ティヒヒ

ほむら「もう、まどかのばかっ」

まどか「けっこう遅くまでいると思うから、間に合ったらおいでよ!」

ほむら「わかったわ。ああ…時間止めたい」

―放課後・スーパー―

ほむら(はあ…。まどかも昨日のうちから言っておいてくれればいいのに)

ほむら(いつもの買い物のはずなのに、なんだか無性にむなしいわ)

ほむら(練習してた曲、歌ってみたかったなあ)


ほむむら「ふんふんふふんふん、ふふふんふんふんふーんふん♪」ポイポイ

さやか「あれ、ほむらじゃん」

ほむら「ふんふん…きゃああああ!!さっさやか!?」

さやか「うわあ!?いきなり大声あげないでよ、もう!」

ほむら「だって、…その、聞いてた?」

さやか「ん、さっきまでの鼻歌のこと?」

ほむら「…わすれて」

さやか「なんでよ、かわいかったぞー?」ニヤニヤ

ほむら「わすれてよ、もう…」カアア

ほむら「ていうか、あなたまどか達とカラオケじゃないの?」

さやか「いやまあ、さっきまでいたんだけどね。抜けてきちゃった」

ほむら「なんでまた。見たところ特に用事があるようにも見えないけれど」

さやか「んー?まあ、なんていうかちょっとね」

ほむら「なによ、歯切れの悪い」

さやか「なーんか最近、杏子のノリが悪いもんでね」

ほむら「杏子の?…そうかしら」

さやか「なんか、勉強がんばりだしたり、いやにいろいろ積極的になったりさ。いやあんたキャラ違うだろーってさ」

ほむら「ああ。そういうこと」

ほむら「つまり、杏子がかまってくれなくてさびしいのね」クスクス

さやか「ちがっ…くない、けど」

さやか「…ていうか、この話わすれて。あたしいま、普通に嫌なやつだ」

ほむら「いえ、いいんじゃないの?人間だれしも、そういう部分はあるわよ。むしろ、さやかの意外な面を見れてうれしいわ」

ほむら(昔まどかが、私に嫌な面を見せてくれてありがとう・って言ってた理由がわかったわ。以外と、悪くないものね)

さやか「……」

ほむら「さやか。この後ひまかしら」

さやか「…これと言って用事はないね」

ほむら「なら、私の家に来ない?」

さやか「ほむらん家?そーいやキリカ戦でまどかと隠れてたとき以来かも。うん、お邪魔していい?」

ほむら「ええ。じゃあその前に、買い物付き合ってくれる?結構買いだめるつもりだから」

さやか「あっひょっとしてさやかちゃんを荷物持ちにするつもり!?」

ほむら「さあね」クスクス

さやか「やられたー!こいつ、確信犯だ」

ほむら「ほら、早くついてきて。日が暮れちゃうわ」

―ほむら宅―

ほむら「なんにもない家だけど、まああがって?」ガチャ

さやか「おじゃましまーっす」

さやか「ほむら、この買い物袋どこ置いたらいいかな」

ほむら「ああ、いま冷蔵庫に入れちゃうからこっちにもってきてくれる?」

さやか「ほい、ここでいい?」ドサ

ほむら「ありがとう。いま整理しちゃうから向こうで適当にくつろいでて」

さやか「はいよー」

ほむら「さやかー?」カチャカチャ

さやか「んー?」

ほむら「はい、これ。ケーキとコーヒー。マミさんほどなおもてなしは出来なくて申し訳ないんだけど」カチャッ

さやか「うわあ、ありがとう!!」

ほむら「ケーキはさっきついでで買った安物だけど、コーヒーは結構いいものだから。口に合うといいんだけど」

さやか「いやいや、これだけあればさやかちゃん感激っすよ!あたしなんて、まどかが遊びに来てもポテチと牛乳しか出してないし!」

さやか「ていうか、ちょっと悪いくらいだよ。お金厳しいんでしょ?返そうか?」

ほむら「私が好きでやってるんだからいいのよ。それに、せっかく出したものをお金で返されるって、あんまりいい気分じゃないわ」

ほむら「お金が厳しいっていっても、今月のおこづかいナシであろうあなたよりは余裕あると思うしね」クスクス

さやか「うっ、嫌なこと思い出させるなよー」

さやか「まあそーゆーことなら!ありがたくいただきまーす!」

ほむら「ええ、めしあがれ」

さやか「うん!ケーキおいしいじゃん!あ、あと砂糖とミルクあるかな。コーヒーに入れたいんだけど」

ほむら「あっごめんなさい。ミルクおいてないのよ…。砂糖は、えーと調理用のでいい?」

さやか「いいよー。てかほむらブラックなんだね。おっとなー!」

ほむら「いえ、そーゆーんじゃなくて。中毒なのよ。カフェイン中毒。濃いめのブラックじゃないと効きが薄くて」

さやか「へえー。…あたしも、ブラックで飲んでみよ」ズズ

さやか「うへえっやっぱ苦いぃ」

ほむら「もう、むりして飲むものでもないのに。好きなように飲めばいいのよ。はい、お砂糖」コトッ

さやか「さんきゅー」

さやか「ほむらってこーゆーのこだわるんだね」

ほむら「こだわるというか…。ループ時代、爆弾づくりに慣れなくて深夜までかかってたから、その時に眠気をとばそうと飲み始めたのがきっかけね」

ほむら「最初は眠気を飛ばすためだけに飲んでたけど、いまでは確かにハマっているわね」

さやか「ふーん。あっ最近まどかがコーヒー飲みたがるのってあんたの影響?」

ほむら「そうなの?…たしかに、まどかが遊びに来るときはごちそうしてるけど、私の前じゃそんなことないわよ」

さやか「なーんかこのまえ缶コーヒー飲んでてさ、パッケージによくあるコーヒー豆の絵が描いてあったんだよ。楕円形のコーヒー豆」

ほむら「ありがちね」

さやか「そしたらまどかが自慢げに言うわけよ。缶コーヒーに使われてるのは…なんだっけ。なんたら種」

ほむら「ロブスタ種ね」

さやか「うんそう!たぶんそれ!そのなんたら種だから楕円形じゃなくて丸いんだよ!この缶コーヒーは嘘つきだね、とか」

ほむら「…丸みを帯びてるだけで、まんまるじゃないわよ。短楕円形というべきね。そいうえばまどかには丸いのよ、としか言ってなかったわ」クスクス

さやか「あちゃー、やっぱり受け売りかぁ。仁美にも自慢げに言ってたよ」

ほむら「あとでそれとなく言ってあげないとね」クスクス

さやか「あと、飲むのは全部ブラックになったね。またムリしてるのが丸わかりでさー」

さやか「でも、あたしがカフェオレとか勧めると、私はさやかちゃんと違って大人なの!って文字通り苦い顔で言うわけさ」

ほむら「それは面白いわね。まどかったら私の家じゃいつもどばどばお砂糖入れるわよ」クスクス

さやか「だめじゃん!!」ケラケラ

ほむら「でも、まどかってあなたの前じゃそういう面も見せるのね。ちょっとうらやましいわ」

さやか「まあ、あたしはこーゆーキャラだからねー。知識自慢とかしやすいんでしょ」

さやか「うらやましいで言えば、杏子って真面目な話をほむらにはするくせにあたしにはしてくれないんだよねえ」

ほむら「だってさやかはすぐ茶化すじゃない」

さやか「いやまあそうなんだけど!」ケラケラ

ほむら「…ねえ、杏子の夢の話は聞いた?」

さやか「ああ、救世ってやつ?聞いたけど、笑っちゃった。どうして?」

ほむら「それ、杏子は本気だから。だから今回のテストはあんなにがんばってたのよ」

さやか「ええ…。じゃあ悪いことしちゃったかな」

ほむら「そうね。口には出さずとも、傷ついたと思うわ。あなたが言うように杏子のノリが悪いなら、それが関係してると思う」

さやか「…そっか。あとであやまらないと」

ほむら「あと、さやか。それとは関係なしに、これからあなたと杏子の関係は変わっていくと思う」

さやか「どーゆー意味?」

ほむら「そのまんまよ。杏子は夢を得て変わった…いえ、成長したわ」

ほむら「…なんて。偉そうに言えるほど私も大した人間じゃないけれど」

ほむら「とにかく、杏子は変わった。なら、きっとあなた達の関係も変わるわ」

さやか「…なにが言いたいのさ」

ほむら「このままだと、いつか杏子と疎遠になっちゃうわよ」

さやか「なっ」

ほむら「そうでしょう。人間関係なんて、歯車みたいにデリケートだわ。片方の歯車が回り始めたのに、片方が止まったままならいずれはかみ合わなくなって外れるだけよ」

ほむら「杏子との関係を大事に思うのなら、あなたも杏子に合わせて変わらないと」

さやか「…うーん」

ほむら「だいたい、世の中に変わらないものなんてないと思うの。仮に不変なものがあったとしたら、それは老化して消滅を待つだけのものじゃないかしら」

ほむら「それでも絶対に失いたくないものがあるとして、そうしたら私たちにできることは、進化し続けることじゃない?」

ほむら「そう考えると、停滞すら退化だわ。だって、人間は飽きる生き物だから。現に、あれほどこんな他愛もない平和な日常を切望していた私だって、もうこの日常を当たり前のものとして享受しつつある」

ほむら「人間の欲望って、つくづく際限のないものだと思うわ」ニガワライ

ほむら「私も、変わろうと、いえ、成長しようと思ってる。あなた達…仲間との関係は、私にとって宝物だから。みんなで成長して、いつまでも仲良く…」

ほむら「したいん、だけど。ごめんなさい。ひとりでまくしたてちゃって。…引いたかしら」

さやか「…いや、まあその通りだと思うけどさ。あたしは、その。…こーゆーキャラじゃん。変わるなんてムリだよ」

ほむら「…たしかに、いきなりは勇気がいるわね。ちょっといじわるな言い方をすれば、あなたが杏子にしたような反応を返されると思う」

さやか「…そう言われると、かなり悪いことしちゃったかなぁ」ハア

ほむら「でもさやかさえがんばれば、あなた達はいまよりもっといい関係になれるはずよ」

ほむら「先陣は杏子が切ってくれたじゃない。…さやかなら大丈夫、私が保障する」

さやか「なんでほむらが??」

ほむら「……ちょっと、待ってて」

さやか「???」

__________
_______


ほむら「……お待たせ」ガチャ

さやか「え」

さやか「眼鏡に、おさげ……?」

ほむら「そう。これが私の本来の姿」

ほむら「…まさかまたこの格好をすることになるとは思わなかったけど」

さやか「へえ…。話には聞いてたけど、かなり」

ほむら「冴えないでしょう」クスクス

さやか「いやいや、そんなことないよ」

ほむら「いいのよ。自分が一番わかってるから」

ほむら「…昔の私は、いつも自信がなくて、暗くて、オドオドしてて。しかも、…私、性格悪いから。自分ができないのを、心の中で他人のせいにして」

ほむら「……でも、ある大切な人に言われたの。かっこよくなっちゃえばいいんだよって」

ほむら「言われた当時は、そんなの無理だと思ってたのに。人間切羽詰まれば変われるものね。まどかを救うためのループを続けるうちに、少しは私も変われた…と、思う」

ほむら「さんざんお世話になったその大切な人には、もういまの私を見せることはできないのが心残りだけれど」ニガワライ

ほむら「まあ、その。私、口下手だから、うまく伝わったかはわからないけど。私でも変われたのよ。さやかなら大丈夫に決まってるわ」

さやか「………」

さやか「ありがと、ほむら。なにが性格悪いよ。あんた全然いいやつだよ、あたしが保障する」

さやか「あんたが友達でよかった」ニコ

ほむら「え、なにそれ。なんか調子狂うわね…。さやからしくない」

さやか「ええええ!!ほむらがキャラ変えろって言ったんじゃん!!!」

ほむら「いえ、ほんとごめんなさい。うん、がんばって?」クスクス

さやか「こいつムカつくーっ!」

ほむら「待って、落ち着くから」

ほむら「すーっはーっ」

ほむら「さやか」キリッ

ほむら「あなた達に負けないよう、私もがんばるから。お互い、精進しましょう」

さやか「うん」ゴソゴソ

ほむら「さしあたって、杏子はマミさんに勉強教えてもらってるらしいから。さやかさえ良ければ、私と一緒に勉強しない?できればまどかも誘って」

さやか「そだねー」カシャッ

ほむら「他人に教えるのは理解を深めるというし、私にとっても…」

ほむら「カシャッ?」

さやか「送信、と」

ほむら「ちょっと!!なにしてんのよ!!」

さやか「眼鏡ほむら記念撮影アーンド共有」ケラケラ

ほむら「共有って…ああああああ!なにグループで晒してるのよ!!削除!削除しなさい!」

さやか「だーめ☆」ペロッ

ほむら「こいつ…!!」

ほむら「ケータイ貸しなさい!」

さやか「やーだよ。さやかちゃんを馬鹿にするのが悪い!」ダダダ

ほむら「あっ待ちなさい!」ダッ

_______
_____


…その後、数日もしないうちに杏子とさやかはまた仲良くじゃれ合うようになった

さすが、さやかは私なんかよりよほど社交スキルが高いわね

しかし元のふたりの関係からは若干の変化があるようで、勉強やその他教養面でお互いをライバル視するようになった(ように見える)

……うまく、歯車がかみ合ったまま前進できたようだ

私も、がんばらないと

まだ終わりじゃないです
早ければ明日にでも更新できそうです

―数日後 ほむら宅―

まどか「おじゃましまーす」

さやか「おじゃまー」

ほむら「いらっしゃい、ふたりとも」

さやか「今日もお願いしますぞー、暁美先生!」

ほむら「はいはい。ほら、早くあがって」クス


まどか「この三人で勉強会って、なんか新鮮だね!」

ほむら「そうね。いつもは五人でマミさん家か、まどかかさやかどっちかと二人で勉強って感じだものね」

まどか「しかし最近さやかちゃん熱心だよねえー。杏子ちゃんの影響?」

さやか「まっさかー!あたしはただ、勉強の楽しさに目覚めてしまっただけだよ」フフン

ほむら(よく言うわ)テレパシー

さやか(なにさ、うそは言ってないよー)テレパシー

ほむら(はあ、調子いいんだから)

ほむら「じゃ、ちょっと待っててね二人とも。コーヒー淹れてくるわ。そしたら始めましょう」

ほむら「ふんふんふーん♪」コリコリ

まどか「ティヒヒ。カラフル練習してるの?」ヒョコッ

ほむら「あら、まどか。そうね、今度のカラオケに備えて」コリコリ

まどか「この前は来れなかったもんねえ」

ほむら「ええ。その分今回は歌いまくってやるわ」コリコリ

まどか「ね、仁美ちゃんも誘っていいかな」

ほむら「え、仁美さん?マミさんもいるのよ。今度のは五人で行かない?」

まどか「う、そっちのがいいかなあ」

ほむら「うーん、仁美さんには悪いけどね…。彼女とは別の機会に遊びましょう」

まどか「……」

まどか「……ちょっと、後で、仁美ちゃんのことでお話しがあるんだけど…」オズ

ほむら「後で?どういう話?」

まどか「うーんと、ね。後でさやかちゃんと一緒のときに話すよ」

まどか「それよりほむらちゃん、またコーヒー豆挽いてるの?」

ほむら「ええ。まどかもやってみる?」コリコリ

まどか「いいの?」

ほむら「もちろん。はい」スッ

まどか「えと、こっち回しでいいんだよね?…っ、んしょ」コリコリ

まどか「意外と固いね」コリコリ

ほむら「でしょう?手挽きも最初は楽しかったんだけど、最近は面倒くさくて。電動ミルを買おうか悩んでるの」

まどか「あっ!面倒くさいから私にやらせてるんだー」コリコリ

ほむら「まどかがやらせてって顔してるから」クス

まどか「う。ちょっと興味はあったけど」

ほむら「でしょ?まどかってすぐ顔に出るから」

まどか「そうなの?…じゃあねえ、私はいまなにを考えてるでしょうっ!?」ニコ

ほむら「…?ほむらちゃんはクールでかっこいい、かしら?」

まどか「ぶぶー!もう、自画自賛はみっともないよー?正解はね、帰ったらさぶちゃん聞こう、でしたー」ティヒヒ

ほむら「えええ、プライベートすぎよ!わかるはずないじゃない!」クスクス

まどか「ティヒヒ、ちょっとイジワルだったね」

まどか「あ、挽き終わったみたい」

ほむら「ありがとうまどか。ご苦労さま」

まどか「ほむらちゃんはなんで一回一回豆挽きからやるの?」

ほむら「ん?それはね…、まどか、ちょっとこっち来て」

まどか「?」ヒョコ

ほむら「ほら」パカ

まどか「わあ、いい香り…!」

ほむら「でしょう?一番コーヒーの香りが豊かな瞬間ってね、実はこの挽きたての時なのよ。おいしいコーヒーの条件は、もちろん豆そのものの質も大事なんだけど、焙煎してからできるだけ二週間以内のものを、挽きたてで飲む。これに限るわ」

まどか「へええ。そんなに違うの?」

ほむら「段違いよ。もう他では飲めないわ…。あと、豆で保存すれば空気と接する面積が狭くなるから、酸化しにくく長持ちするってメリットもあるわね」

まどか「なんか、それ聞いてたらいつものコーヒーなのに飲むのが楽しみになっちゃった!」

ほむら「こういうウンチクを聞くと、なぜかおいしく感じちゃうわよね。私もたまに高級な食材を買ったら、ネットで調べながら食べてるわ」

まどか「うーん、それはうちでやったらママが怒りそうだなあ…」ティヒヒ

ほむら「一人暮らしの特権ね」

まどか「私は、ほむらちゃんが教えてくれるからいーやっ」

ほむら「あら、じゃあ私も張り切っていろいろ調べないと」

まどか「よろしくー」

ほむら「…もう」クス


さやか「おーい!茶はまだかーっ」

ほむら「いっけない、結構待たせちゃったかしら」

まどか「だね!私も手伝うよ、急ごう」

ほむら「ええ」

まどか「あれ?さっき挽いたの、ひとり分しかないよ?」

ほむら「ああ、まどかとさやかには別のコーヒーを用意したのよ。…これこれ」

まどか「レギュラーの粉のやつだ。どうせなら挽きたてが飲みたかったなあ…。なんて」

ほむら「まあまあ。きっと気に入るわ」

まどか「?」

ほむら「おまたせ」カチャ

さやか「もう、遅いぞー!茶と茶菓子は、あたしが腰を下ろしてから五分で用意すべしっ」キリ

ほむら「なにキャラよそれ…」

さやか「さやかちゃん関白」

まどか「もう、関白さんも手伝ってよぉ」

さやか「考えておこう」

ほむら「なんで人の家でここまで図々しくできるのかしら…」

さやか「あ、そーだ!ほむら、差し入れあるよ」ゴソゴソ

ほむら「あっウォーカーズのショートブレッドじゃない!これ大好きなのよ!どうしたの?これ輸入ものだから滅多に売ってないのに」

さやか「ああ、この前杏子と買い物行ったときにね。杏子がこれほむらの好物だって言ってたから」

ほむら「…そういえば、バイト帰りによくふたりで食べたわね」

まどか「へええ。おいしそう」

ほむら「コーヒーと合うわよ。一緒にめしあがれ」

まどか「うんっ」

ほむら「あっ、ごめんねまどか。すっかり忘れてたわ。お砂糖いま持ってくるから」

まどか「だっ大丈夫だよ!『いつも通り』ブラックで飲むから!」

ほむら「…?だって、いつもまどかは」

さやか「……」ニヤニヤ

ほむら「あ」

~~

さやか「あと、飲むのは全部ブラックになったね。またムリしてるのが丸わかりでさー」

さやか「でも、あたしがカフェオレとか勧めると、私はさやかちゃんと違って大人なの!って文字通り苦い顔で言うわけさ」

ほむら「それは面白いわね。まどかったら私の家じゃいつもどばどばお砂糖入れるわよ」クスクス

さやか「だめじゃん!!」ケラケラ

~~

ほむら(…まどか。さやかの前ではカッコつけたいのね…。もう)

ほむら「…ええ、ごめんなさい。まどかはいつもブラックだものね」

まどか「そうだよ!失礼しちゃうよ!」

さやか「ほうほう」ニヤニヤ

ほむら「…はあ」

まどか「…」グビ

まどか「あれ、これほんのり甘い…?」

ほむら「ええ。フレーバーコーヒーっていうの。飲みやすいでしょ」

まどか「うん」グビグビ

ほむら「こういう方がふたりは飲みやすいかと思って買ってみたんだけど、気に入ったかしら」

さやか「うん!こりゃあいいねえ」

ほむら「よかった。…じゃあ、一息ついたし、勉強しましょうか」

まどか「おー!」

さやか「え、ちょっと早くない?」

まどか「ほらほら、やろうよさやかちゃん」

さやか「ちぇー」

今回はこれで終わります
長らく放置してしまってすみません


遅れてもいいからきちんと完成させてくれな

>>578
ありがとう、そう言っていただけると嬉しいです

さやか「ほむらー、ここどうやるんだっけ?」

ほむら「ここ?ここはこの角が直角でしょ?だから…」

さやか「えー、そこ直角なの!?直角マークついてないよ?」

ほむら「…よく見て。この角は直径の円周角でしょ?」

さやか「直径の円周角…言われてみればそういう見方もできるね」

ほむら「で、円周角は中心角の半分じゃない」

さやか「中心角…でもこれ直径だし…ああああああ!!?」

ほむら「気づいたみたいね」ニヤニヤ

さやか「この直径を180°の中心角だと考えれば!」

ほむら「そう!その円周角は半分の90°、つまり直角になるのよ」

さやか「くぁーやられた!いまだにこーゆー考え方ができないんだよねー。よくほむらは思いつくね」

ほむら「思いつく、というか普通に教科書に載ってたわ」

さやか「うっそ」パラパラ

さやか「ほんとだ。じゃああたしが覚えてなかっただけか…」


まどか「でもそういうの覚えるのって難しいよね。私も全然覚えられてないよ…」ティヒヒ

ほむら「マミさんが言ってたんだけど、覚えるって意識より、さっきやったみたいにどうしてそうなるのかを考えた方が身になるそうよ。実際、私もその公式がどうしてできたかを考え始めてからかなり成績が安定するようになったわ」

さやか「へー。確かにさっきのは覚えるみたいな意識はなかったのに結構頭に残ってるかも」

ほむら「でしょ?」

まどか「教科書の端っこにコラムみたいな感じで公式の成り立ち載ってるよね。今度から見てみようかなあ」

ほむら「うーん、私は最初は自力で考えてるわね。まあ大抵はわからないから、最後にはコラムを見て、ああ、そう来たか、ってなるわ」

まどか「ほむらちゃんでも分からないんだ…」

ほむら「当然じゃない。私は元がダメダメだもの。過去の偉人が発見したような法則を説明できるはずないわ。…やっぱり悔しいけどね。やるわね、偉人!ってなるわ」クスクス

さやか「そりゃ偉人だもん!」ケラケラ

まどか「でもその法則をなにも見ずに説明できたら、偉人と並べるってことだよね!」

ほむら「かもね」クスクス


ほむら「なんか疲れてきたわね…。休憩する?」

さやか「さんせーっ!」

まどか「私もー。頭がぽわぽわしてきちゃった」ティヒヒ

ほむら「じゃあコーヒー淹れてくるわ」

さやか「まだ飲むのかよ」

まどか「私ココアがいいなぁ」

ほむら「はいはい」クスッ


まどか「ふはぁ、温まる」

さやか「もうすっかり寒くなったからね」ズズ

ほむら「次のテストが終わったら冬休みよね。またみんなでどこか行かない?」

まどか「あ、私も思ってた!どこがいいかなぁ」

さやか「スキーとか!」

ほむら「スキー…やったことないわ。…というより、冬そのものがかなり久しぶりね」

まどか「そっか…。じゃあそのぶん楽しまないとね!」

ほむら「ええ、もちろん!冬に病室にいないのも、…友達といるのも、初めてだから。思いっきり楽しんでやるわ!」


さやか「嬉しいこと言ってくれるね。こりゃあたし達も責任重大だよ、まどか!」

まどか「うんっ!とりあえずスキーが第一候補かな?」

ほむら「スキー…ちょっと興味はあるけど、寒い時期にさらに寒いところに行くのってどうなのよ」

さやか「わかってないなあ!よりその季節を感じれるじゃん!夏の海もしかりだよ」

ほむら「海は海水に浸かって相殺できるじゃない。スキーは雪しか待ってないわ」


まどか「ほむらちゃんはどこか行ってみたい所とかはある?」

ほむら「ゆ、遊園地とか…。あとみんなで年越しとか、初詣とか…かしら」

まどか「わあ、年越しとかって発想はなかったよ!絶対やろうね!」

ほむら「ひとり参加が危うそうなのがいるけどね」ジッ

さやか「ふっふっふ、あたしには恭介がいるからねー!いやぁ、リア充はつらいですなぁ!」ハッハッハ

ほむら「確か、クリスマスも一緒なんでしょう?はぁ~、結局は友達より恋人を取るのね…。さびしいわねまどか」ホロリ

まどか「付き合う前は『でもなんだかんだ、あたしは恭介よりみんなを優先しちゃうんだろうな~』なんて言ってたのがウソみたいだよねほむらちゃん」ハア


さやか「なんだよぅ!みんな付き合った当初は『私たちに構わずに幸せになりなさい』みたいなムードだったじゃん!!特にほむら!」

ほむら「だって、何回繰り返してもあなた達がうまくいってる時なんてなかったから、てっきりそういう運命なんだと思ってたのよ。それがなんの因果か、このループで成功しちゃうもんだから。そりゃ感慨深くもなるわよ」

まどか「それでもちょっとは私たちとも遊んでほしいよねー」

さやか「なにがちょっとはよ!恭介とは週3なのにアンタたちとは週7だよ週7!魔女退治含めたら週10は軽くオーバーだよっ!」

ほむら「週3らしいわよ、まどか。なにしてるんだか」ヒソヒソ

まどか「私この前キス自慢されちゃったよほむらちゃん。いやらしいね」ヒソヒソ

ほむら「最近の若い子はいろいろと早熟だもの。仕方ないわ」ヒソヒソ

さやか「くっそー、好き勝手言ってくれちゃって。ふたりにも恋人ができたら絶対いじり倒してやる…」


まどか「じゃあ遊園地かな?ほむらちゃん東京ネズミ―ランド行ったことある?」

ほむら「行ったことないわ。前々から興味はあったんだけど…」

さやか「じゃあ、ネズミ―ランド行こう!夢の国は楽しいぞー」

まどか「わ、私たちも一回しか行ったことないんだけどね…」ティヒヒ

ほむら「ネズミ―ランド…!楽しみだわ」

ほむら「と、ところで…その、予算はどれくらいなのかしら」

さやか「あーっと、交通費含めフクザワさんとヒグチさんが一人ずつって感じかな」

ほむら「た、高い…。またバイトしないと」

まどか「そういえば最近してなかったよね」

ほむら「したかったんだけど、杏子が変なタイミングでいなくなるからできなかったのよ」

さやか「ああ、そーいや杏子の魔法で歳ごまかしてたんだっけ」

まどか「ふたりとも大人びてるから、いったん高校生だって言えば問題なさそうだよね」

ほむら「誰かさん達が冷やかしに来るからもう接客業はやらないけどね」ジロ

まどか「か、かっこよかったよ??」

さやか「まどか、多分それフォローになってない」


ほむら「…あれ、そういえばさっきまどかが仁美さんのことで話があるって言ってたけど」

まどか「あ、え、えーっとね、ほむらちゃん」

さやか「あ、それね。実はさ、ほむらに相談というかお願いというかがありまして」

ほむら「なに?いやにもったいぶるわね」

さやか「仁美とも、仲良くしてあげてほしいんですわ。…最近、仁美から相談されちゃってさ。壁を感じるって」

まどか「私たち、仁美ちゃんと最近遊べてなくて…。仁美ちゃんからのお誘いは断るのに、ほむらちゃんや杏子ちゃんとは遊んでて、その話で盛り上がったりしちゃったでしょ?それがショックだったみたいで…」ウツムキ

さやか「えっと、あたし達としてはほむら達と仁美が仲良くしてくれるのが一番なんだ。仁美とももうずいぶんと長い付き合いだし、あたし達ものけ者にしてる罪悪感はずっと感じてた」

まどか「ひ、仁美ちゃんもね?ほむらちゃんや杏子ちゃんと仲良くしたいって言ってたよ?だからマミさんも紹介して、みんなで仲良くできたら、それはとっても素敵だなって…思うんだけど…」

まどか「どうかな…?」

ほむら「…それは」

ほむら「ムリだと思う…」


まどか「どっ、どうして!?仁美ちゃんはいい子だよ?きっとほむらちゃんとも…」

ほむら「違うわ。私が言いたいのはそういうことじゃないの」

ほむら「私たちは生物として、根本的に違うわ。…しょせん、表面上の付き合いしかできない」

さやか「一般人のまどかとはこうしてるのに?」

ほむら「まどかは魔法少女のことを知ってるじゃない。仁美さんとは違う」

まどか「仁美ちゃんにも打ち明ければ…!」

ほむら「だめよ!それは絶対にだめ!!魔法少女の存在を明かすことがどれほどのリスクを伴うかわかってるの?あなた達、こんな残酷な運命に親友を巻き込んで平気なの!?」

さやか「ちゃんと契約だけはしちゃだめだって言っておけば…」

ほむら「…さやかは、人間がどれだけ自分の欲望に弱いか知らないんだわ。だめだと分かっていても、目の前にうまい餌をぶらさげられたら食いつかずにはいられない…。事実、あなただって私の警告を無視して契約したじゃない」

さやか「あたしは…!あたしはちゃんと自分の魂と祈りを秤にかけて…!」

ほむら「っ!あなたは…!…ごめんなさい、酷いことを言うけど……。あなたは、いつもそう言って……魔女に身を堕としていった!今回がイレギュラーなのよ!」

ほむら「あなた達はこの平和な時間軸しか知らないから実感が湧かないかもしれないけど、魔法少女のことを一般人に知らせるのは危険すぎる!これは私の経験から言ってるの。不要なリスクは避けるべきよ」


まどか「じゃ、じゃあせめて一緒に遊んであげて?マミさんのお茶会にも…」

ほむら「…あの場は、魔法少女のお茶会よ。杏子も言ってたでしょう。へんにゴタマゼにしてもうまくいくはずないって」

ほむら「あの気の置けない感じがいいのに、へんに気を遣いだしたらそのストレスはどこで爆発するやら…」

ほむら「あと、マミさんを除くメンツで遊ぶにしても、隠し事がある以上はどうしてもよそよそしくなっちゃうわ。そういうのを敏感に察知しての今回の相談だと思うから、無理に仲良くしようとしても根本的な解決にはならない」

まどか「ほ、ほむらちゃん…!」

ほむら「私は、現状維持でまどかとさやかは仁美さんとも遊ぶって感じがいいと思うんだけど…」

さやか「…なんだよそれ」

ほむら「これがベストだと思うわ」


さやか「仁美はっ!仁美だって親友なんだっ!!そんな風に見れるかっ!!」ガタッ

さやか「見損なったよほむら!あんたがそんなに冷たいヤツだったなんて」

ほむら「じゃあどうするの!?仁美さんが魔女になってもいいって言うの!?」

さやか「そうは言ってないよ!ちゃんと話せばわかってくれる!!」

ほむら「それが甘いって言ってるの!!万が一のことがあったらどうするの!」

さやか「だいたい何さ!さっきから聞いてればダメ、ダメばっかり!あたしには変われだの成長しろだの言っておいて、あんた自身はどうなのよ!」

ほむら「冷静に考えれば至る当然の結論よ!私の経験から断言する、絶対にうまくいくはずないわ。あなただって薄々感じてるはずよ、どうしようもないって!」

さやか「…っ!」

ほむら「…そうでしょう?すべてがうまくいくなんて、ありえない」


さやか「……帰る」スタスタ

ほむら「えっ!?ちょっと…」

まどか「ごめんねほむらちゃん」スック

ほむら「ま、まどか!?」

まどか「でも…いまのはちょっと酷いかなって」スタスタ

ほむら「ま、待ってよ二人とも!待って…!」

ガチャ

    バタン

ほむら「……」ポツーン


ほむら「な、なによ…どうしてこうなるのよ…」


ほむら「…ふ、ふふ。…すべてがうまくいくなんて、ありえない」



ほむら「ふふ…」グスッ


ほむら「……………」ジワワア


今回はこれで終わります…


―マミ宅―

杏子「なぁマミー!ここどうすんだっけ?」

マミ「ん?どれどれ…」

マミ「ああ、台車の問題ね。これは…」

ピンポーン

杏子「ん、あたし出るよ」

ピンポピンポーン

杏子「はいはーい、いま出るっての」ドタドタ

杏子「どちらさん?」ガチャ

ほむら「ぎょう゛ご…」ドロッ

杏子「」パタン

杏子「マミっ!マミー!大変だ!涙とか鼻水とかあらゆる汁でドロドロになったほむらがいる!!」

マミ「ええっ!?なんで閉めちゃうの!入れてあげなさいよ!!」

杏子「あっしまった!なんか怖くてつい…。いま開けるぞほむらーっ!」ドタドタ


マミ「…で?なにがあったの」

ほむら「ま゛み゛ざん゛…」グスッ

杏子(コイツのこんなツラ見るの初めてだぞ…)

ほむら「まどかとさやかに嫌われたあああああああ」ガバッ

マミ「ちょ、ちょっと暁美さん!?」

杏子「嫌われたぁ?にわかには信じらんねーな。どうしてまた」

ほむら「う゛ああぁぁあんっ!!私、間違ったことなんて言ってないのにいいいいい」グスグス

杏子「…こりゃ話を聞くのは当分無理そうだな」ハア

マミ「私、ココアでも淹れてくるわ。落ち着くでしょう」

杏子「おー」


ほむら「ぐずっえぐ…」

杏子「…あー、その、なんだ。まどかのためにループしてたあんたにしたら気休めだろうが、…えっと。…あ、あたしもマミもあんたを嫌ったりしないから。…安心しろよ」ナデナデ

ほむら「ぎょうご…」グスッ

ほむら「杏子ぉお!」ガバッ

杏子「うおっと。…はあ、こんなのキャラじゃねーんだけどなあ」ナデナデ

ほむら「私…!わたし…」

杏子「はあ。ほら、鼻水とかかめよ」

ほむら「あ゛り゛がどう゛」チーン

杏子「うわああ人のスウェットで鼻かむなバカ!!」

ほむら「うう…まどかぁ」グスグス

杏子(めんどくせええ。…ん?おみくじの水難ってこれのことか?だとしたらバカにできねーな)


杏子「…っておい!お前ソウルジェム見せてみろ!」グイッ

ほむら「…?」

杏子「うわ、やっぱりか!おいマミ!ココア作ってる場合じゃねーぞ!あたしのグリーフシードのストック持ってきてくれ!!」

マミ「え、なにどうしたの」カチャカチャ

杏子「こいつソウルジェムまでドロドロだ!早くしねーと魔女化する!」

マミ「えええ!?笑えないわよそれ!」ドタドタ


マミ「…少しは落ち着いた?」

ほむら「ええ…。手間かけさせたわね…」

杏子「ったく。人のグリーフシードの大半溶かしやがって。この借りはでけえぞ」

ほむら「…ごめん」グスッ

杏子「あ、あーっとさ!いや、こーゆー時のためのストックだしさ!気にすんなよ」

ほむら「でも…」

杏子「いいんだよ」

杏子(あーやりづれえな。…しかしコイツがここまでしおれるなんて。相当参ってるなこりゃ)

マミ「…で?いったいなにがあったの」

ほむら「実は…」


_______________
___________
________


マミ「…デリケートな問題ね」

杏子「だな。てかあたしも当事者か」

ほむら「どうすればいいのよ…。もうわかんないわよ私…」ジワァ

杏子「わーっ!ストップ!ソウルジェム濁り始めてるぞ!気持ちを切り替えろ!」ユサユサ

マミ「た、楽しいこと!楽しいことを考えて!!」

ほむら「楽しいこと…。そう、まどかとさやかと、冬休みの予定を話してたのよ。遊園地に行こうかって話になって…。あ、その前に上條くんの件でさやかをからかって…」

ほむら「ああ、本当に楽しかった。そう、直前まではあんなに楽しかったのに…!どうしてあんなことに…」

杏子「お、おい」

ほむら「もう無理かも…。やっと成功したのに…。私はこの時間軸でだけは失敗しちゃいけなかったのに…!!」

マミ「いけない!佐倉さんグリーフシードを!」

杏子「マジかよちくしょう」コツンッ シュワアア


杏子「くそぉ…。あたしのグリーフシードがこんなに減って…」

マミ「暁美さん、ココアのおかわりは?」

ほむら「ありがとう…。もう本当に大丈夫だから。杏子もごめん、貴重なグリーフシードなのに」

杏子「…お前が魔女化するよりは1ミリくらいましだ」プイッ

ほむら「もう」クスッ

マミ「やっと笑ったわね」


マミ「で、どうするの?」

ほむら「どう、って言われても」

マミ「あなたの意見は変わらない?」

ほむら「だってそうでしょう?仕方のないことなのよ」

杏子「…まあ、あたしもほむらと同意見だ。一般人に魔法少女のことを話してロクなことになるはずがないさ」

杏子「実体験者としては、な」ハア

マミ「佐倉さん…」


ほむら「単純に、あの二人には想像しがたいのかもしれないわ。魔法少女の運命の惨さも、QBの恐ろしさも体験してないふたりには…」

マミ「それはそうだけど、仲直りしたくはないの?」

ほむら「したいわよっ!あたりまえでしょ。まどかもさやかも、かけがえのない親友だわ」

マミ「なら、謝らないと」

ほむら「え、私が?」

マミ「そうよ。確かにあなたは間違ったことは言ってない。それでも、暁美さんは自分に100%非がないって言いきれる?」

ほむら「う…」

マミ「たとえば、どうせ暁美さんのことだから強い口調で言ったんじゃないの?不可能だわ、とかムリね、とか」

ほむら「そ、それは…そう、かも」

マミ「でしょう?少しでも悪いところがあったなら謝らないと。そうしたらきっと、向こうも謝りかえしてくれるわ。こんなケンカはお互い望んでないんだもの」

ほむら「……そうだったら、いいな」

マミ「そうに決まってるじゃない!暁美さんはループしすぎて、この世界では失敗できないって気負いすぎてるのよ。友達って、そんなに簡単になくならないものよ?」

杏子「友達少ねーやつ語るなよ」ボソッ

マミ「なにか言った!?」

杏子「いや、な~んも」


マミ「いまから美樹さん達を呼ぶから、うまくやりなさいね?」

ほむら「え、ええ…!」ドキドキ

マミ「大丈夫よ、ちゃんと私が仲裁するから」

杏子「あー、それさ。あたしにやらせてくんねーかな」

マミ「佐倉さん?」

杏子「救世なんて大言はいたんだ。友達くらい救えねーと」

マミ(佐倉さん…!)

マミ「そういうことなら、任せるわね!」

杏子「おう、任せとけ」ニッ

ほむら(いまいち不安ね…)

今回のぶんは終わりです

おっ来てたか……
全話をリアルタイムで見てるからな!!
支援支援、乙乙

>>618
それは嬉しいです、ありがとう
他の方もレスありがとうございます


さやか「……」ブスッ

まどか「さ、さやかちゃん…!」

ほむら「え、えっと…」

さやか「…なに?マミさんと杏子にチクってあたし達を悪者にしようっての」

ほむら「ちがうわよ…!なんでそんなケンカ腰なの」

さやか「ふん、自分に聞いてみな」


まどか「ちょっとさやかちゃん。さっき言い過ぎちゃったねって、ほむらちゃんに謝ろうって話し合ったばっかりなのに…」ボソボソ

さやか「だってマミさんと杏子を後ろに控えさせてるんだよ?ぜったい反省してないよ。むしろこれから三人がかりで仁美のことは諦めろって説得してくるに決まってる」ボソボソ

まどか「でもさやかちゃん…!」ボソボソ


ほむら(…私が目の前にいるのに、まどかもさやかも内緒話してる。やっぱり相当怒ってるのかしら…)


杏子「なあさやか。あたしの家族の話はしたよな?」

さやか「うん…。杏子ひとりを残して一家心中…」

杏子「そうだ。あたしがバカだったばっかりに…みんな、あたしが殺したようなもんだ」

まどか「杏子ちゃん…」

杏子「まあ、あたしの場合は偶然だったが…親父に魔法少女だってのがバレちまったのが原因だな」

さやか「…一般人に魔法少女の話をするのは危険だって言いたいの?」

杏子「まあ、そうだな」

さやか「でもさ、杏子の場合はどっちかって言うと杏子の祈りが原因じゃないの?杏子のお父さんは杏子が魔法少女だってこと自体に怒ったわけじゃないじゃん」

まどか「さやかちゃん言い過ぎだよ!杏子ちゃんの祈りが原因なんて言わないであげて!」

杏子「いやいいんだまどか。…ありがとな」

コピペミスりました…。
>>621
冒頭に


杏子「おい、さやか。話はこいつから聞いたぜ」

ほむら「待って杏子!まずは私が…」

杏子「まあ任せろって」


が入ります


さやか「で?なんで仁美に魔法少女のこと打ち明けちゃいけないの?」

杏子「おお、そーゆー話だったな。いいか、よく聞けさやか…」

杏子「……」

さやか「……」

杏子(…なんでだ??)テレパシー

マミ(なに論破されてるのよっ!!?)テレパシー

マミ(え?なに?もうちょっと考えがあるんじゃないの?)

杏子(いやぁ、なんかしんみりさせとけば仲直りするかと…)

マミ(…美樹さんや鹿目さんの立場になってみなさい。これは、そんな感情を落ち着かせればなんとかなるってケンカじゃないでしょう。具体的な解決案がいるわ)

杏子(うぐ…)


杏子「だーっ!とにかく、魔法少女のことは話さない方がいいんだって!」

さやか「なによそれ!意味わかんない!」

杏子「考えてもみろ!万が一、仁美のやつが契約したらどーすんだ!魔法少女になったが最後、かなりの確率で魔女化か戦死だぞ!」

さやか「そこはあたし達でフォローしたりすれば大丈夫でしょ!ってか、まず契約しないように言い含めれば…!」

杏子「それがお前の言うほど簡単なことなら、ほむらはこんなにループしてねえだろ!」

さやか「ていうかなに!?結局あんたはほむらの味方なわけ?ふーん、よかったねほむら。頼れる味方がふたりもできて。つまりあんたはそこまでして仁美と仲良くしたくないわけだ」

ほむら「違うっ!私はそんなつもりじゃないの!お願いだから私の話を聞いてよ!」

さやか「仁美と仲良くする相談ならいくらでも乗るけど、どうせ違うんでしょ」

まどか「ま、待って!ケンカはやめようよ!こんなの私達らしくないよ」

さやか「大体まどかはどっちの味方なのさ!?すっかり日和っちゃってさ!そういうどっち付かずの態度って腹立つよ」

まどか「え…う。わ、私は」

杏子「おい!味方とか敵とか、そーゆー話じゃねーだろ!」
ほむら「さやか!いくらなんでも、まどかに当たり散らすのは許さないわよ!!」


ぎゃーぎゃー


マミ「……」


ばんっ!!

マミ「いったん、落ち着きましょうか」

さやか「マミさん…」

ほむら「……」



マミ「まず、暁美さん?なにか美樹さんに言うことは?」

ほむら「…その、さやか。…ごめんなさい。さっきはキツイ言い方をしてしまったわ」

マミ「美樹さん?」

さやか「…あたしが聞きたいのは、そんな言葉じゃないです」

マミ「それはそうよね。これはお互いの立場と気持ちを理解して、譲歩し合わないと解決しないわ」

さやか「譲歩なんて…!」

マミ「その前に、美樹さん。…自分が正義だという前提に立った、善悪の二元論はとても危険よ。あなたが勝手に敵にしていた子を見てみなさい」

さやか「……」

ほむら「…?」

マミ「どう?その子は悪者かしら」

さやか「…違う。ほむらはあたしの…友達です」

マミ「そう、ただの泣き腫らした、あなたの友達よ」


マミ「暁美さんがどんな有様でここに転がり込んできたか知ってる?あなたと鹿目さんに嫌われたって、ぐじゅぐじゅになるまで泣き叫んでたのよ。…魔女化寸前までソウルジェムを濁らせて」

ほむら「や、やめて!そこまで酷くなかったわよ…///」カアア

マミ「暁美さんも変な意地はらないの!」

マミ「聞けば、あなた達ふたりは暁美さんが相談を断ったら一方的に帰っちゃったそうじゃない。そりゃ暁美さんの言い方も酷かったかもしれないけど、あなた達もここまで暁美さんを傷つけたわ。…なにか言うことは?」

さやか「…悪かったよ」
まどか「ごめんねほむらちゃん…。本当に、ごめんなさい…!」グスッ

ほむら「もう、なんでまどかが泣くのよ」クス

まどか「だって…!ほむらちゃんのことそんなに傷つけてたなんて…」ヒック

ほむら「もう終わったことじゃない」

まどか「…!っく、うぅ。ごべんね゛ぇほむらちゃん…!ごめんなざぁぁぁい」ダキッ

ほむら「わ。…もう」ナデナデ

さやか「……」ブスッ


マミ「…で、そうしたら美樹さんの意見も聞かないとね?」

さやか「……」

さやか「一方的に出て行ったのは謝るよ。でも、あまりにもほむらが断定的に言うから…」

ほむら「…ごめんなさい」

さやか「いいよ、あたしも怒鳴ったりしてごめん…」

さやか「でも、あたしにとって仁美は親友で…!恭介からOKもらった時も、涙目でおめでとうって。お嬢様のくせに嫌味もなくて…本当に大事な大事な親友なんだ」

さやか「でも…ほむらや杏子やマミさんも、付き合いは短いけどすごく気が合って…一緒にいて楽しいくて…。やっぱりみんな大切な親友で…!」

さやか「もうあたし分かんなくて…!そんな…どっちか選べみたいな…そんなむごいこと言うなよぉ…!!」ポロポロ

ほむら「…さやか」


ほむら「ごめんなさい…。そうよね、あなたやまどかからしたら板挟みよね…。私は、自分の都合しか考えられてなかった」

ほむら「魔法少女のことは言えないにしても…もうちょっと、歩み寄る努力はするべきよね」

さやか「ほむら!」

ほむら「ね、杏子」

杏子「そこであたしに振るのかよ…。まあ、そうだな。今度五人で遊びに行ってみるか」

まどか「うんっ!ありがとうふたりとも!」


マミ「えっ五人?私は?」

杏子「いや、魔法少女のことは話さずにあんたとの関係を言えって言われると…なあ?」

ほむら「かなり厳しいわね」

さやか「ごめんなさい…」

まどか「で、でもいつか紹介しようね?」

マミ「私が仲裁したのに…」

杏子「皮肉だな」ケラケラ

マミ「まあいいんだけどね。…じゃあせっかく集まったことだし、みんなお茶していく?」

さやか「わーっ!賛成です!」

杏子「めんどくせーやつらのせいで腹減ったしなぁ」

ほむら「まどか、時間大丈夫?」

まどか「うちは門限ゆるいから。でも帰りは誰かボディガードについてもらいたいなあ…なんて」


―深夜―

杏子「みんな帰ったか。…いやぁ、一時はどうなるかと思った」

マミ「佐倉さんは引っ掻き回しただけよね」クスクス

杏子「ううっ!…結構、むずいもんだな、あーゆーの。マミはすげえや」

マミ「あら、あなたが言ったんじゃない。みんながちょっとずつ理解し合えればいいのになって」

杏子「ああ!言ったなそんなこと。…ってことは、今回の件はあたしが間接的に解決したってことでいいのか?」

マミ「そういうことにしておいてあげる」クスッ


杏子「なあ、一個気になってるんだけど」

マミ「なあに?」

杏子「文化祭のおみくじ。みんな当たってるからさ、次はマミの番かなーって」

マミ「ああ、そういえばそうね。美樹さんが『友達の二股注意』、暁美さんが『発言注意、友人と衝突するかも』」

杏子「あたしは『水難注意』。まあ確実にほむらの鼻水だろーなあ…」

マミ「私は『頭上注意。食べられるかも』なんだけど」

杏子「やめてくれよ、油断して魔女にバックリいかれるなんて笑えねえからな」

マミ「大丈夫よ、意外と佐倉さんって心配性ね」

杏子「…ほんとに、やめてくれな」

マミ「ええ。最近は毎日が楽しくて仕方ないの。死んでたまるもんですか」


杏子「…あたしがいまここでアンタに噛みついたら、占いはチャラになるかな」

マミ「かもね」クスクス

マミ「さあ、もう寝ましょ…う?」

杏子「…」ユラリ

マミ「…ちょっと佐倉さん?まさか本当に…」

マミ「ま、待って落ち着いて!ちょっと!ああっ…」



ガブッ


「きゃああああああああああああああ」

今回は以上ですー

―数日後―

仁美「ではみなさん、また明日」

杏子「じゃーなー」

ほむら「ええ、明日はよろしくね」

仁美「こちらこそ」

杏子「じゃ、あたしも帰るわ。明日は9時集合でいいんだよな?」

さやか「うん!遅れないでよー?」

杏子「さやかじゃあるまいし、それはねーよ。んじゃなー」フリフリ

まどか「ティヒヒ、また明日、杏子ちゃん」

ほむら「じゃあ、私たちも帰りましょうか」

まどか「そうだね」


―通学路―

まどか「明日楽しみだね~」

ほむら「そうね。私はちょっと緊張もあるかしら…」

明日は仁美さん含め、まどか達5人と遊園地に行く予定だ

あの一件のあと、私も杏子もできるだけ仁美さんとも絡んでるんだけど、どうもまだぎこちない…

そこで、一日遊園地にでも遊びに行って親睦を深めようということになった

遊園地といっても、前に話しに出たような夢の国じゃなくて地元の古びた遊園地なんだけど…

杏子と私があまり持ち合わせがないせいでこうなってしまったので、そろそろ新しいバイトを始めたいところね

まどか「ほむらちゃんは遊園地初めてだもんね」ティヒヒ

さやか「しっかりあたし達でエスコートしてやらないと!」

ほむら「ふふ、よろしくね。半端なエスコートだったら承知しないわよ?」クスッ

さやか「まっかせなさいって!勉強を教えてもらってる恩に、あたし達は遊びで応えよう!ねー、まどか?」

まどか「私たちにはそれぐらいしかできないもんねぇ…」ティヒヒ

ほむら「しか、だなんて。最高よ、ふたりとも」


さやか「あれ?ほむらん家って通り過ぎてない?」

ほむら「ああ、これからまどかの家にお邪魔するの」

まどか「ほむらちゃんにうちの野菜をおすそわけするんだ~」

さやか「そっか。ほむらはひとり暮らしだもんね」

ほむら「ええ。すごくありがたいわ」

まどか「ティヒヒ」

さやか「あ、じゃあ杏子やマミさんにもあげたら?」

まどか「うーん、杏子ちゃんは野菜は苦手だ、って…」ティヒヒ

さやか「あいつ…」

ほむら「マミさんは?」

まどか「マミさんは喜んでくれたんだけど、あとで杏子ちゃんから食卓からタンパク質が消えるからやめてくれって苦情がきちゃって…」

さやか「どんだけキライなんだっ!」ケラケラ

ほむら「まあ杏子のことだから苦い顔しながらも平らげたんでしょうね…」


さやか「んじゃ、あたしはこのへんで」

まどか「上条くん待たせちゃうもんね」ニヤニヤ

ほむら「明日、なにしたか聞かせなさいよ」ニヤニヤ

さやか「バイオリン聴かせてもらうだけだっつーの!」

ほむら「ふーん?」

まどか「キスしないの?」

さやか「しないっ!///」

さやか「ふたりしてからかってくれちゃって!ほんとにもう行くから!バイバイ!///」タタッ


まどか「さやかちゃんをからかうの楽しいね」ティヒヒ

ほむら「また本人もちょっと嬉しそうなのよね」フフッ

まどか「ねーっ」

___________
________

まどか「はい、ほむらちゃん」

ほむら「わ。こんなに…いいんですか?」

知久「いいんだよ。まどかがいつもお世話になってるからね」

まどか「そーゆーこと!遠慮しないで」

知久「それにしても中学生で一人暮らしなんて大変だろう。よかったら野菜だけじゃなくて、夕ご飯とかもうちに食べにおいでよ。まどかも喜ぶ」

ほむら「いえ、そんな…。そこまでお世話になるわけにはいきません。一応父と母からも生活費はもらってますので」

知久「…ほむらちゃんはしっかりしてるなぁ。まどかも見習いなさい?」

まどか「もぅ…やめてよパパ」ティヒヒ

知久「ははは。まあ、家族の団らん、みたいなものが恋しくなったらおいでよ。ご家族の代わりになれるはずもないけど、気が向いたら」

ほむら「ええ。お気遣いありがとうございます」ペコリ

ほむら「では私はこれで…」

知久「うん、気を付けて。まどか、見送ってあげなさい」

まどか「はーい」


ほむら「…ここまでで大丈夫よ。ありがとう、まどか」ニコ

まどか「んー、もうちょっとお話ししてたいかな。時間大丈夫?」

ほむら「ええ。じゃあそこに腰かける?」

まどか「うん!」

まどか「……」ジッ

ほむら「……?」ニコ

まどか「ほむらちゃん…この前は、ほんとうにごめんなさい…!」ペコリ


ほむら「…もう、なにかと思えば。まどかにもさやかにも、あれから何回も謝ってもらってるじゃない。いいのよ、もう済んだことよ」

まどか「ううん…!私、最低だった…ごめんね、ごめんなさい…」

ほむら「私はいいって言ってるのに…。なにをそんなに気に病んでるの?」

まどか「だって…!ほむらちゃん魔女になりかけてたって…!マミさんや杏子ちゃんがいなかったら、ほむらちゃん…し、死んで、たんだよね…?」

ほむら「…私が私でなくなるわけだから、まあ死んでるって表現で合ってるかもしれないわね」

まどか「私…そんなにほむらちゃんを傷つけて…!」

ほむら「めんどくさいでしょ、私…。ちょっとした口論で勝手に絶望して、死にかかって…。私が弱いだけだから気にしないで」

まどか「ちょっとしたじゃないよ。私たち一方的にほむらちゃんを悪者にして突き放したんだもん。私だってそんなことされたら絶対落ち込んじゃうよ…」

ほむら「…確かに、まどかにしてはすごく怒ってたわね。ちょっとびっくりしたわ。その、私も言い方は悪かったとは思ってるけど、なにがそこまであなたを怒らせたの?私にも非があるなら謝りたいわ」


まどか「…前にほむらちゃんに相談したことあったよね。魔法少女じゃないせいでみんなと壁を感じてる、って。その時ほむらちゃんは言ってくれたよね、なにがあっても私をのけ者にしない、私はあなたの味方だからって抱きしめてくれたよね」

まどか「だから私は、今回もほむらちゃんは二つ返事で仁美ちゃんと仲良くしてくれるのかなって思ってたんだけど…」

ほむら「……」

まどか「優しくしてくれたのは、私だからなの?ほむらちゃんは私や魔法少女のみんなの他はどうでもいいの?って。そう思ったら急にほむらちゃんが冷たい人に思えて…」

まどか「でも!あとで冷静になってみたら、ほむらちゃんの主張も間違ってなくて!逆になにがあっても私の味方だって言ってくれた親友を突き放したように責めたてた私こそ冷たいんじゃないかって!」

ほむら「そんなこと…」


まどか「私ね、決めてたんだ…。私も、なにがあってもほむらちゃんの味方でいようって。私ができることなんてたかが知れてるけど、それでもほむらちゃんが困ってたら全力で助けてあげようって」

まどか「なのに…!実際にほむらちゃんが魔女化しかけた時、助けたのはマミさんと杏子ちゃんで!わ、私はこともあろうに、ほむらちゃんを追い詰めた側で…!悔しいやら、情けないやら…。ごめんね、本当にごめんなさいほむらちゃん…こんな冷たい私で」グスッ

ほむら「まどかっ!?な、泣かないで…」オロオロ

まどか「っ!?ち、違うのほむらちゃん!同情してほしくて泣いてるとかじゃなくて!…えぐ、慰めてほしいんじゃなくて…」グスグス

まどか「違うのに…涙、止まってよぉ…」グシグシ

ほむら「…えっと」オロオロ

ほむら「……」

ほむら「まどか」ギュ


まどか「ほむらちゃん!?///」

ほむら「泣かないでよまどか…。今回は私が弱くて悪かった。それでいいじゃない」

まどか「良くないよ…いまだって、ほむらちゃんはこんなに優しいのに」

ほむら「…優しくなんかないわ。私、けっこう冷たいわよ」

ほむら「本音を言うとね…私、わからないの。新しい友達の作り方なんて」

ほむら「あなた達4人とは、ループを通してどうしたら仲良くなれるか知ってたの。どんな話題で盛り上がるか…どんな趣味で、どんなことが好きなのか…」

ほむら「だから…それっぽい事情を並べ立てて、私はただ逃げてただけなのかもしれない」

まどか「でも…」

ほむら「それに確かにショックではあったけど、いま思えばちょっと嬉しくもあるわ。気に入らないところがあったら、それに目をつむって上辺だけで付き合うより、指摘してくれた方が友達!って感じするじゃない」

ほむら「…なんて。私はそんな偉そうなこと言えないわね」フフッ

まどか「……」グスッ


ほむら「だから!お願いだからそんなに気に病まないで。むしろこれからも、私に腹が立ったらどんどん指摘して」

まどか「………じゃあ、さっそく気に食わないところ指摘してもいいかな」ギュー

ほむら「え、ええっ!?う、いいわよ」ドキドキ

まどか「…………優しすぎ」ギュー

ほむら「…え?」

まどか「優しすぎっ!もっと私を責めてもいいんだよ?」

ほむら「そ、そんなことできないわよ…」

まどか「……」ムー

まどか「ほむらちゃんも言って!」

ほむら「な、なにを?」

まどか「私のイヤなところ!あるでしょ?」

ほむら「急にそんなこと言われても…ないわね、特に」

まどか「えー、ほんとに?」

ほむら「ほんとに」


まどか「じゃあ作っちゃおうかなぁ」

ほむら「え」

まどか「それーっ!」コチョコチョ

ほむら「きゃあっ!ちょ、あは、はははははあh」

ほむら「やめて、まどっ!ははは、ひひっ!ひいいいい」バタバタ

まどか「さやかちゃんが言ってたとおりだ!くすぐるの弱いんだねほむらちゃん」

ほむら「やめて、やめなさいっ!怒るわよ!」

まどか「わ、怖い!」パッ


ほむら「はぁ…はぁ…なんかまどかが最近さやかみたい」

まどか「えーひどーい」ティヒヒ

ほむら「ぶっ!その発言こそ酷いじゃない」クス

まどか「たしかに!」


まどか「じゃあ、明日はよろしくね」

ほむら「ええ、よろしく」

まどか「…実はあのあと、仁美ちゃんに怒られちゃって。そんなことしたらヘンに気を遣わせるだけだから申し訳ない、って」

まどか「だから…仁美ちゃんのことキライにならないであげて。自然体で接してあげてね」

ほむら「わかったわよもう」クスッ

ほむら「ていうか、明日はまどかもさやかも一緒でしょ?なら大丈夫よ」

まどか「え、えーと。そうだったね」ティヒヒ

ほむら「じゃあ、また明日」

まどか「うん!また明日!」


―翌日―

杏子「…で?どーゆー冗談だこりゃ」

ほむら「…やられたわね」ハア


LINE
―魔法少女のお茶会―

さやさや
{ごめーん!あたし用事思い出したから遅れていく!
鹿目まどっち
{わ、私も…
{ごめんね二人とも




杏子「要するに!しばらくあのお嬢様と一緒に過ごせってことね」

ほむら「頼んだわよ杏子。私の対人スキルじゃどうにもならないわ」

杏子「丸投げかよ!いや、あたしも正直金持ちお嬢様は苦手だ…」

ほむら「こら杏子、そんな言い方」

杏子「だぁーってよぉ」


仁美「お待たせしました…」ヒョコッ

仁美「あら?まどかさんとさやかさんは」

杏子「あぁー、用事があるとかでさ、遅れてくるんだって」

仁美「まあ…二人ともなにをなさってるんだか」

ほむら「先に入ってていいそうだから行っちゃいましょう」

仁美「そうですわね」

ほむら『行っておくけど、私遊園地なんて初めてだから。杏子がんばって』テレパシー

杏子『なに言ってんだ。あたしだって初めてだぞ?』テレパシー

ほむら「……」

杏子「……」


―マミ宅―

マミ「それはちょっと酷いんじゃないの?」

さやか「いやいや!多少の荒療治は仕方ないっすよー」

まどか「うーん、これでよかったのかなぁ」

マミ「…テンパる二人が目に浮かぶわ」

さやか「まあまどかがどーしても!って言うんで、午後からは合流しますし」

マミ「まさか最初の計画では丸1日放置するつもりだったの?」

まどか「まあ…ティヒヒ」

マミ「はぁ…。二人とも支度して。遊園地行くわよ」

さやか「ああ、やっぱまずかったですかね」

まどか「だから言ったのに」プー


マミ「なに言ってるの二人とも。尾行するのよ!こんな面白い展開、見逃す手はないわ!」

さやか「うぇ!?そっち?」

マミ「ほらほら早く!」ウキウキ

さやか「尾行って発想はなかったです!やりましょうやりましょう!」ウキウキ


まどか「…いいのかなぁ」

今回は終わりです
しかし羽生さんすごいですねえ

―遊園地―

ほむら「え、えーっと、入場券ってやつでいいのよね?」

杏子「あたしに聞くな!…フリーパスがあるんだからこれ買えばいいんじゃねえの?」

仁美「今日は一日遊ぶんですし、フリーパスじゃないですか?」

杏子「だよな!んー、仁美はほむらと違って頼りになるなあ」

ほむら「うるさいわね」



さやか「やっぱり二人ともテンパってますねえ」ニヤニヤ

マミ「こーゆーの楽しいわね」ニヤニヤ

まどか「午後にはちゃんと合流しようね…?」

さやか「わかってるって!まどかは心配性だなぁ」



――ジェットコースター

ほむら「あ、あんなに高くから…?」ボーゼン

杏子「なにびびってんだよ」ケラケラ

仁美「そうですわよ!これに乗らないと始まりませんわ」

ほむら「だって!壊れたらどーするのよ!即死よ即死!」

杏子「うるせーなぁ」ケラケラ

仁美「もしもの時のための安全バーですわ」

杏子「ほら行くぞほむら」

ほむら「ま、待ってまだ心の準備が…」


マミ「はい、じゃあ行くアトラクションの順番を決めましょう」

まどか「え?あの、ほむ」

さやか「んー、そのへんは適当で!」

マミ「だめよ!こーゆーのはちゃんと効率よく回らないと」

さやか「は、はあ…」

まどか「ほむらちゃん達の尾行…」

マミ「えーっと、ちょっと待っててね。フードコートがここにあるから…」

さやか「あ!あたしバイキング乗りたいです!」

マミ「ということは…」

まどか(ふたりとももう尾行飽きてる…)


杏子「うっぷ」ヨロヨロ

ほむら「ちょっと杏子大丈夫?」

仁美「暁美さんはともかく、佐倉さんもなかなかいい声あげてましたねー。意外ですわ」

杏子「放っといてくれ…。まさかあんなに怖いなんて思うかよ…。なーほむら?」

ほむら「ええ…。想像以上だったわ」

ほむら(魔力で心臓強化してなかったら発作で死んでたかも)

仁美「じゃあ今日は絶叫系はやめておきましょうか」

ほむら「…でも、ちょっと楽しかったかも」

杏子「ええーお前マジかよ。見栄張るなよ?」

ほむら「張ってないわよ!」

仁美「ああいうのはだんだんクセになってくるのもですわ。ほむらさんもひょっとしたらこれからハマるかもしれませんよ?」

ほむら「…次はちょっと抑え目がいいわ」

仁美「了解です」


――空飛ぶじゅうたん

仁美「これはあんまり怖くないですわよ」

杏子「うへえ…一回転してんじゃねーか」

ほむら「でも平行移動だけだし…キッズ向けって書いてあるわよ」

杏子「キッズ向け、なあ…」

キッズ1「これぜんぜん怖くなかったなー」
キッズ2「俺たち舐められてるよな」

仁美「…だそうですけど」

杏子「楽勝だろ」キリッ

ほむら「一瞬で態度変わったわね」


さやか「いやあー、いつ乗っても楽しいねー、名物サイクロンジェットコースター」

まどか「なんかあちこちボロボロだから割とリアルな方向で怖いんだよねえ」ティヒヒ

マミ「次はミラーハウス行きましょう!全面鏡張りの迷宮ですって!」ウキウキ

さやか「おお、それめちゃ楽しいっすよー!あたしとまどかはタネ知っちゃってますけど…」

マミ「ネタバレはやめてね?」

さやか「もっちろん!」

まどか「ねえねえ、ほむらちゃん達…」

さやか「ん?まあ午後には合流するし大丈夫っしょ!」

まどか「……」ムー


ほむら「バイキング楽しかったわぁー」ツヤツヤ

仁美「わりとスリリングでしょう?」

ほむら「浮遊感がたまらないわ。でも最後の方はちょっと景色に飽きるかしら」

仁美「まあそこはご愛嬌です」

杏子「あたしはもう乗らねえぞ」

ほむら「あら、杏子が一番楽しんでたじゃない」

杏子「ありゃあ悲鳴だばか!」

仁美「じゃあ次のやつは暁美さんと二人で乗りましょうか」

杏子「そーしてくれ。あたしはメリーゴーランドで馬と戯れてるさ」

ほむら「ええー乗りましょうよ」グイグイ

杏子「いーやーだー」

仁美「じゃあじゃんけんでどうでしょう?」

杏子「なんでだよ!」

ほむら「いいわね。私と仁美さんに勝てたら馬と好きに過ごしなさい」

杏子「いやいやいや訳わかんねーよ、そんな手に乗るか」

仁美「さいしょはぐー!」

ほむら「じゃんけん!」

杏子「ええっ!?ちょ、マジかよ!」バッ


――フリーフォール

杏子「そしてなんでコレなんだよ!!」

ほむら「じゃんけんに負けたのにみっともないわよ」

仁美「じゃんけんは絶対ですわ」

ガコン…ガコン…

杏子「よりによってこんな、ただ落ちるだけのシロモノじゃなくてもいいだろ…」

ほむら「杏子、なんで目をつむってるの?」

杏子「ちょっと眠い」

仁美「いい景色ですわよ」

杏子「そうか」

ガコン…ガコン…

ほむら「あれっ?まどか!?」

杏子「はあっ!?」パチ


杏子「ってたけえよ!!バカだろこれ作ったやつ!!」

仁美「そろそろ落ちますわよ」

杏子「うそだろ!?やめろバカほんとに…」

ガコン…ガコン…

ガコッ!

杏子「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

仁美「きゃー!!」

ほむら「いえーい!!」


ピタッ

杏子「ふーっ!ふーっ!死ぬかと思った…」

杏子「ってかほむら!まどかなんていねえじゃん!」

ほむら「いえ、ほんとにいたのよ。多分さやかとマミさんも一緒に。ほら、ミラーハウスの近く」

杏子「はあ?んなはず…」

ガコッ!

杏子「え゛っ?これまだ続くのか?」

仁美「当然!わりと長いですわよ」


ガコン…ガコン…

杏子「やめろーやめろー」

ガコッ!

杏子「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

杏子「ほむらの馬鹿野郎おおおおおおおおおおっ!!」

ほむら「なんでよおおおおおおおおお」キャー


――お昼・フードコート

杏子「メシだメシー!腹減って死んじゃうぜ」

ほむら「杏子は一番はしゃいでたものね」

仁美「ですねー」クスクス

仁美「佐倉さんってもっと怖い方なのかと思ってましたけど、意外とかわいいんですね」

ほむら「ええ、杏子は基本的にいじられキャラだし」

杏子「あたしはお前らが意外とドSでびっくりしてるよ」

杏子「つーか、ほむらにいじられキャラとか言われたくねーよ!お前のがよっぽどだろ」

ほむら「どこがよ!」

杏子「この前さやかが撮ってた眼鏡でおさげの…」

ほむら「うあああ言わないでえええ」


仁美「眼鏡でおさげ…?」

杏子「あー、こいつがまほうsy」グム
ほむら「ストップ!」ガシ

ほむら(なにサラッと魔法少女とか言おうとしてるの!)テレパシー

杏子(しまった!あっぶねええ)テレパシー

仁美「?」キョトン

ほむら「ああ…ごめんなさい。黒歴史すぎて本当に知られたくないのよ…」

仁美「ええー興味ありますわ」

杏子「いや、すまねえな。さっきのほむら見てもわかると思うけど、この話になるとコイツ本当に凶暴だから」

仁美「確かにすごい剣幕でしたね」クスクス

ほむら「…そういうわけだから」

杏子「さて!メシ買いに行こうぜ」


仁美(さやかさんにはおさげ眼鏡?のこと教えてますのに…)モヤモヤ

今回の分は以上です
これだけ投稿間隔が空いてしまっているにも関わらず速報の復活の際などにレスしていただけているのは嬉しい限りです、ありがとうございます


さやか「お腹減った~!」

まどか「ティヒヒ、もう12時回ってるもんねえ」

マミ「お昼にしましょうか」

さやか「ですねー!」

まどか「それとほむらちゃん達とも合流しないと!」

さやか「そっか。お昼に合流って話だっけ」

マミ「結局あまり尾行しなかったわね」

まどか「私は何度も言いましたけどねっ」

さやか「まあまあ、きっと向こうもうまくやってるよ。んじゃあ二人に連絡してみる」

マミ「あ、それよりも魔力辿ったほうが早いわよ」

さやか「それもそうですね!さすがマミさん!」


まどか「うーん、こういう会話を聞いてると魔法少女も楽しそう…」ティヒヒ

さやか「やめなって!ほむらが荒れるから!」ケラケラ

まどか「な!ほむらちゃんの前だったら絶対言わないもん!魔法少女が厳しいものだって知ってるしほむらちゃんに心配かけられないもん」

まどか「ただ、わ…私だってマジカルなものに憧れはあるって話で…」

さやか「まどかは魔法少女もの大好きだもんねえ~」

まどか「う…子供あつかいしないでよぉ」

マミ「……」


マミ(こうして話を聞いてると…やっぱり美樹さん達と私達では魔法少女についてずいぶん認識がズレてるわね)

マミ(あまり私としては聞いてて気分のいい話ではないけど…逆にそれは美樹さん達がまだ酷い思いをしていないということ)

マミ(私や佐倉さんや暁美さんのような思いはしないに越したことはないじゃない。そう、事実そう判断してQBとの契約も織莉子・キリカとの戦闘も避けさせたのは私自身)

マミ(しっかりしなさい巴マミ。認識の甘さに苛立つようじゃまだまだよ。思わず微笑んでしまうくらいの心の広さは持たないと)

さやか「…マミさん?」

マミ「あっ、ごめんなさい。ちょっと考え事を」

まどか「深刻そうな顔でしたけど…」

マミ「一人暮らしだとね、いろいろあるのよ」


マミ「よく食べる同居人もいるしね」クスッ

さやか「あー、杏子のやつマミさんに迷惑かけてるのか!今度言ってやらないと」

マミ「さて、暁美さんと佐倉さんの魔力を探りましょう。美樹さんも協力してね?」

さやか「はーい」スッ

さやか「あ!さっそく反応してますよ。フードコートみたいです」

マミ「…待って!二人だけじゃないわ、この反応は…!」


――フードコート

杏子「このラーメン舐めてんだろ!量少なすぎねーか?」

ほむら「十分よ…。私なんてまだ食べ終わってないんだけど」ハフハフ

仁美「暁美さんは結構食が細いんですね」

ほむら「私は長らく入院生活だったから…」ハフハフ

杏子「もう我慢ならねえ!カレー買ってくる」ガタッ

仁美「まだ食べますの!?」

ほむら「放っておけばいいわ。いつものことだから」チュルチュル


仁美「…お二人は本当に仲がよろしいですよね。もう長い付き合いなんですか?転校前から交流があったとか」

ほむら「いえ、付き合いは決して長くないわ。知り合ったのも転校してからだし。ただ波長は合うわね、まどかとは違う方向で」ズズッ

仁美「…まどかさんとは?まあ暁美さんと仲はよろしいですけど…」

ほむら(あ…。そうだ、仁美さんは私がまどかの為にループしてたこと知らないからまどかネタが通じないんだったわ。ほんと、こーゆー機転が効かないところ治したい…。話題変えないと)

ほむら「…その、仁美さん。呼び方、ほむらでいいわよ?まどか達みたいに」

仁美「えっ…?…ふふ、わかりましたわ。ほむらさん」

仁美「ほむらさんも、呼び捨てでいいですわよ。他の方みたいに」

ほむら「…わかったわ、仁美」

ほむら「…なんか恥ずかしいわね!」クス

仁美「ですね!」フフ


ほむら「ああ、お腹が膨れたらコーヒー飲みたくなってきたわ」

仁美「いいですねー。飲みたいですわ」

仁美「でもこういうところのコーヒーってあまり美味しくないかと」

ほむら「わかるわ、粉っぽいというかイガイガするというか」

仁美「そうなんです!のどに悪いんですよね」

ほむら「…仁美って、結構コーヒーこだわるの?」

仁美「こだわるってほどでは…ただ、ミルで挽くところまではやりますね。あとはコーヒーメーカーです」

ほむら「私もそんな感じだわ。なんていうか、ハンドドリップまでいくとめんどくさいのよね。挽くまでがボーダーというか」

仁美「わかります!一杯のコーヒーのために大量の洗い物を出すハメになりますからね」

ほむら「そうなのよねー」


ほむら「豆はどこで?」

仁美「学校の近くのコーヒーショップです。その場で焙煎してくれるところで」

ほむら「ああ、あのご夫婦でやってる」

仁美「そこですそこです!」

ほむら「私もそこで買ってるわよ」

仁美「奇遇ですね!…まあこの一帯で他に買えるところといえばショッピングモールの輸入店とかしかありませんからね」

ほむら「あそこはもう焙煎してあるからイヤなのよね。いつ煎ったんだか知らないけど、なんか鮮度が足りない気がして」

仁美「あそこは確実に酸化してますわ。あまりよろしくないです」

ほむら「だと思ったわ」


ほむら「…なにやら意外なところで趣味が合ったわね」

仁美「ですねえ」

ほむら「今度一緒に買いに行きましょうか」

仁美「ええ!ぜひともご一緒させていただきたいです」

ほむら「それにしても杏子遅いわね…。っ!?」バッ

仁美「えっ?」キョロキョロ

仁美「きゃあああああ!?な、なんですかここは!?」

ほむら「くっ…(魔女結界…!)」

ほむら(どこまで愚かなの私は!?まさか話に夢中になってる間に結界に取り込まれてるなんて!そりゃ杏子も来ないはずよ!)

ほむら(状況は最悪!仁美が正気のままここに取り込まれてしまうなんて…!なんて説明すれば…?それよりここを脱出しなくちゃ!)

ほむら(ど、どうすれば…!?)



QB「・・・・・・」ヒョコッ

今回の分は以上です


ほむら「ひ、仁美!とにかくここは危険だと思うわ!出口を探しましょう!」

仁美「…はいっ!」

ほむら(こうなった以上、私も一般人のふりをしてうまく出口に誘導するしかないわね…。仁美は怖がらせてしまうけど…)

ほむら「多分こっちよ!」

仁美「は、はい!」


仁美「あの、ほむらさん」タタタ

ほむら「どうしたの?」タタタ

仁美「周りに…変な生物が…」

ほむら「よくわからないけど、目を合わせないようにしましょう」

ほむら(使い魔が集まってきた…!簡単に出してはくれないみたいね)

ほむら(どうする…!?変身しなくても魔力を込めればある程度は戦えるけど)

ほむら(私が徒手空拳で切り抜けられる…!?仁美を護りながら…!)

ほむら(…あまり後のことを気にして二の足を踏んでる間に仁美がやられたら元も子もないわ。いざという時は覚悟するしかないわね)


仁美「ひっ!?襲ってきますわ!」

ほむら「足を止めちゃだめ!死にたくなければ走るしかないわ!」

仁美「そんな…ああっ!」ベシャッ

ほむら「仁美!」

なんでこんな時に転ぶの!?…いえ、私が急かしすぎた…!
こんな異常事態に一般人が平静を保てるはずがない。そのうえ、私が余裕をなくして急かしたてたから…

仁美「っ!きゃああああっ!!」

ほむら「くっ!」ゲシッ

迫ってくる使い魔に膝蹴りをくらわす。
しかしいくら魔力を込めているとはいえ、所詮は膝蹴り。ダメージはないからただの時間稼ぎにすぎない。

ほむら「立てる!?」

仁美「いえ…こ、腰が抜けてしまって」

ほむら「く…!」


…苛立ってはだめだ。私が余裕をなくせば仁美の精神的な負担が増えるだけ。
彼女を少しでも安心させないと…!

ほむら「つかまって」

仁美「え?」

ほむら「おんぶしてあげるから」

仁美「でも…」

ほむら「大丈夫、こんなのお化け屋敷と変わらないわ。本当に死ぬわけないじゃない。ほら、早くフードコートに戻りましょう。杏子を待たせちゃうわ」

仁美「す、すみません…」ヒシ


ほむら「さて、行くわよ…!」

仁美をおぶると周囲を見渡す。どうもグズグズしている間に使い魔たちに囲まれてしまったようだ。

仁美「これって…まずいのでは」

まずいどころではない。でも、それを仁美に悟られてはならない。余裕を持つのよ私…!

ほむら「…ちょっと揺れるけど、我慢してね」ダッ

仁美「…!」ギュウ


真正面の使い魔達に突進する。
包囲された場合、一番避けなければならないのはその場にとどまることだ。

間合いを詰められる前に、この包囲網を突破する…!

一匹、二匹…迫りくる使い魔を紙一重でかわしていく。気分はサッカー選手だ。
…視野を広く持たなくてはならない。直近の一匹一匹を場当たり的に処理していては間に合わないからだ。前方の敵すべてを把握して、その間をすり抜けられるルートを想定する。

三匹、四匹…あまり統制のとれた動きではない。この結界の魔女は使い魔にあまり構わない性質らしい。つまりそれは変身していない私にも勝算はあるということ。


…五匹!

ほむら「抜けたっ!」


仁美「ほむらさん!うしろっ!」

ほむら「っ!」クル

仁美の声に、考えるよりも早く身体を反転させていた。
すると目の前には迫りくる使い魔が。おそらく最初にかわした相手だろう。

ほむら(くそ…!この体勢じゃかわせない!)

ほむら(変身する!?いえダメよ、ようやくたどり着いたこのループ!なんとしても仁美に魔法少女のことは知られてはいけない)

ほむら(大丈夫、ソウルジェムさえ無事なら再生できる!)

ほむら「くっ…」

ほむら(一発!一発耐えることができれば…!)ギュ

仁美「ほむらさんっ!危ないっ!」


しかし、結果的にその使い魔の爪牙は私には届かなかった。
使い魔の身体が時間停止したかのごとく、空中に縫い付けられたからだ。

使い魔を魔女結界というキャンパスに縫い付けたのは、突如地面から生えた標識大の棒だった。
そしてそれはよく見ると…

ほむら(杏子の槍!)

ほむら(杏子っ!?)テレパシー

杏子(よお、めんどくせーことになってるな)テレパシー

杏子(あたしが陰から援護してやる。お前は全力で走ってろ)

ほむら(…恩に着るわ)

杏子(その代わりにこいつのグリーフシードはいただくよ)

ほむら(はいはい)クスッ


仁美「ほむらさん?」

ほむら「…思い出し笑いよ、気にしないで」

仁美「…そろそろ自力で歩けますわ。ありがとうございました」

ほむら「そう?じゃあ下ろすわね」

ほむら「さあ、きっと出口まであと少しだわ。がんばりましょう」

仁美「ええ!」


杏子「…よしよし、あとちょっとの辛抱だな」クイックイッ

杏子(しかし槍を地面から出すのって難しいんだよなあ…。消耗も激しいし)

杏子(アイツらと使い魔の距離も余裕が出てきたし、そろそろ投げる方に切り替えるか)

杏子「ん…?」

杏子(なんだ…!?使い魔たちが集まって…)

杏子「!!」


杏子(ほむらっ!)テレパシー

ほむら(杏子?どうしたの)テレパシー

杏子(緊急事態だ!魔女がすぐ後ろまで迫ってるぞ!)

ほむら(ええっ!?最深部どころか、こんなに浅いところなのに!?)

杏子(さっきまでのは使い魔じゃなかった!分裂した魔女だったんだよ!)

ほむら(……!そういうこと。なら統制がとれないのも無理はないわね。いまこの瞬間まで魔女がいなかったんだもの)

杏子(冷静か!あたしの援護が間に合わないんだ!いざという時は覚悟してくれ!)

ほむら(了解)


ほむら「…やっぱり、こうなるのよね」ハア

…出口を目の前にして。
ついに魔女に追いつかれてしまった…。

仁美「ほ、ほむらさん…!なんですの、あれ…!?」ガクガク

ほむら「…仁美。怖がらせてしまってごめんなさい。もう大丈夫だから」

ほむら「それと…。これから見ることは、クラスのみんなには…内緒にね」


覚悟の深呼吸を終えると私は…魔法少女に変身した。

仁美「ほ、ほむらさん!?あなたは…」

ほむら「私は魔法少女。たったひとつの願いを代償に、呪われた運命を背負わされた者」

ほむら「仁美、少しだけ待っていて。すぐ終わるわ」


マミ「暁美さんっ!?」

さやか「杏子!!」


ほむら「いま終わったところよ」

杏子「おせーよ、二人とも」

ほむら「遅いのはあなたでしょ、なによ援護が間に合わないって」

杏子「しゃーねーだろ?攻撃を切り替えようとした矢先に奴さんが変身するんだからさー」

仁美「あ、あの…私まだいまいち状況がつかめてないんですが…」

まどか「仁美ちゃん!よかったぁ、無事だったんだね!」

ほむら「当然よ。私がついてるんだもの」

杏子「かなーり直前まで変身しなかったけどな」

ほむら「…だって」


仁美「あの、みなさんは全員魔法少女…ですの?」

まどか「私以外の四人がそうだねー」ティヒヒ

ほむら「隠していてごめんなさい…」

さやか「仁美には話せない事情がいろいろとございまして…」

杏子「恥ずかしい限りだな」ポリポリ

マミ「あなたが噂の志筑さん?私は巴マミ。見滝原中学の三年生よ」

仁美「あ、初めまして。私、志筑仁美と申します。まどかさん達から巴先輩の話は常々…」

マミ「あら、嬉しいわ。どんな風に聞かされてるのか興味あるわ」

仁美「優しくて面倒見のいい方だと」

マミ「それだけかしら?ねえ、佐倉さん?」

杏子「なんであたしなんだよ」チッ

仁美「あと、ちょっと交友関係に難のある方だとも…」

マミ「どういうことかしらねえ、佐倉さん?」

杏子「だーからなんであたしなんだよ!!」


マミ「…とまあこれくらいにしておいて。QB?どうせいるんでしょう、出てきなさい」

QB「また君に呼び出される日がくるなんてね。嬉しい限りだよ」

マミ「相変わらず口は達者ねQB。要件はわかるでしょう?」

QB「志筑仁美についてかな。確かに彼女には資質があるようだ」

仁美「資質…とは、魔法少女のですか?」

QB「さすがに話が早い。その通りだよ、君にはその資格がある」

QB「魔法少女になったら、僕が願いをなんでもひとつ叶えてあげる。だから、僕と契約して魔法少女になってよ!」キュップイ

仁美「なんでも、ひとつ…」

QB「個人の資質にもよるけど、基本的に制限はない。君の望むままを言ってみるといい」


ほむら「仁美!魔法少女になったら、さっきみたいな怪物と戦わないといけないのよ!それに…」

マミ「暁美さん!」

マミ「……」ジッ

マミさんが真剣な表情で見つめてくる。…ここは任せろ、と言いたいのだろうか?
テレパシーを使わないということはそうなのだろう。テレパシーはQB経由だから、恐らくQBを出し抜く手があるに違いない。

ほむら(マミさん…頼みます!)


マミ「志筑さん。魔法少女については、暁美さんから聞いてるのよね?」

仁美「え?ええ…呪われた運命を背負わされた…とか」

QB「……」

マミ「…ふふ、それで、志筑さんには叶えたい願いとかあるの?」

仁美「え?ええ、なくはないですけど…」

マミ「なら、こんなチャンスはないわよ?ぜひ叶えてもらっちゃいなさい」

ほむら「!!?」

今回はこれで終わります


ほむら(マミさん…!?だ、大丈夫なのよね?)ギリ

QB「…仁美、その願いは君の魂の代価に値するものかい?」

仁美「…たぶん、値しますわ」

マミ「……」

ほむら「……っ!」

ほむら(まだアクションを起こさないの!?マミさん…!)


杏子「おい…」

さやか「い、いいの!?」

まどか「……」オロオロ

QB「なら、願い事を言ってごらん。そうすれば君は晴れて魔法少女の仲間入りだ」

仁美「私…私は…」

ほむら(もうだめ!アイツを撃ち殺すしかない!)スッ




QB「…いや、やめてくれ」

仁美「え?」


QB「僕は君とは契約できない。この話はなかったことにしてくれ」

マミ「いいの?契約が取れかかってたのに」

QB「…マミ、君も意地が悪いね。君はこの結末を予期していたんだろう」

マミ「……」

QB「僕は君のその態度がハッタリだとわかっている。内心は僕のこの反応に誰よりも安堵しているはずだ」

QB「しかし…ハッタリだとわかっていても、僕にはそんなリスクは冒せない。君の勝ちだよ、マミ」

マミ「ハッタリ?なんのことかしら」

QB「…正直、君がここまで厄介な存在になるとは思いもしなかったよ。成長したね、マミ」

マミ「…用は済んだんでしょう。さっさと消えなさい」

QB「やれやれ、嫌われたものだ」

QB「…だがマミ、覚えておくといい。僕たちは今回の件で、ハッキリ君を障害だと認識した。対策はさせてもらうよ」

マミ「……」

QB「じゃあね」ヒョイッ


マミ「…はぁ」ヘタッ

ほむら「マミさんっ!」
さやか「マミさん!」

マミ「なんとか、なったようね」

杏子「どーゆーことだオイ。なんでアイツは引き下がったんだよ」

仁美「あの…私が一番、なにがなんだか」

まどか「仁美ちゃん危ないところだったんだよ?みんな魔法少女にされて酷い目に遭ってるの」

仁美「え?でも巴先輩はいい機会だからって…」

マミ「それについては謝らなくちゃね。ごめんなさい、あなたをダシにしてしまって」

仁美「え…っと?」


杏子「説明しろよマミ。あいつの言ってたリスクってのはなんなんだ」

マミ「…まあ、それについては今度でいいじゃない。さあ、せっかくの遊園地なんだから楽しみましょう!志筑さんもね」ニコッ

仁美「は、はい!」

ほむら「魔法少女については今度ゆっくりね。ここじゃその…人が多いから」

仁美「あ、…そうですわね。確かに公衆の面前だと恥ずかしいですわ」

さやか「よーし!改めてみんなで楽しむぞーっ!」

まどか「おーっ」


杏子「おい、ふたりとも。何かあたし達に言うことがあるんじゃねーのか?」

さやか「ん?…あ!あははー、まあまあここは遊園地!細かいことは忘れて楽しもうではないかー」ダッシュ

杏子「あっ!てめえそれで済むと思ってんのか!?おい待てさやかーっ!」ダダダ

まどか「その、ごめんねほむらちゃん」

ほむら「いいのよ。どうせさやかあたりが言い始めたんでしょう?それに仁美とも仲良くなれたし。ね?」

仁美「ええ。楽しかったですし…先ほどのほむらさんはとてもカッコよかったですわ」

ほむら「え、ええっ!?そう、かしら…?」


まどか(…仲良くしてほしかったハズなのに…なんだろう、ちょっと複雑)ムー

まどか「私もほむらちゃんのことカッコいいと思ってるよ!」ズイ

ほむら「ま、まどか!?…その、ありがとう?」

マミ「あら、暁美さん大人気ね」クスクス

ほむら「マミさん…バカにしてない?」

マミ「とんでもない。うらやましいわよ」クスクス

ほむら「…やっぱりバカにしてるわ」


まどか「ほむらちゃん!私コーヒーカップ乗りたいなあ!」グイグイ

ほむら「きゃ!ちょっと、なんか今日のまどか強引な気がするわ…」

仁美「あ、私も乗ります!」

マミ(…よかったわね、暁美さん。やっぱりあなたには笑顔が似合うわ。いつかその、まだどこかぎこちない笑顔が、もっと自然になれる日がくるといいわね)

マミ「……」

~~

QB『…だがマミ、覚えておくといい。僕たちは今回の件で、ハッキリ君を障害だと認識した。対策はさせてもらうよ』

~~

マミ(まあ…なんとかなるでしょう)

杏子「なにやってんだマミー!置いてくぞー?」

マミ「あ、ちょっと待ってよ!」


今回は以上です
おそらく次の更新がラストになると思われます
早ければ明日の昼にでも更新出来そうです


――観覧車

杏子「さて、こうして3―3で別れたんだ。さっきの解説頼むぜマミ」

ほむら「まさかインキュベーターの方から契約しないでくれ、なんて。こんなこと初めてだわ」

マミ「うーん、解説ってほどのことはしてないんだけどね…。QBの言った通りハッタリだったし」

マミ「…私がQBと取引したのは覚えてるわよね?」

ほむら「魔法少女のシステムを口外しないから魔女を作ってくれってやつよね」

マミ「ええ。あの取引、私たちはQBの営業を妨害しないって条件も入ってたでしょう?」

杏子「ああ。そのせいでまどかへの勧誘を邪魔できねーんだよな。うざってえ」

ほむら「一本取られたわよね」


マミ「いえ、案外そうでもないのよ。今回の志筑さんの件で気が付いたんだけど、あれ、QBにとっても不利な意外な穴があるの」

ほむら「…どんな?」

マミ「QBとの契約内容は『魔法少女』に魔法少女のシステムを口外しないこと。なら、一般人に話したところで契約には底触しない」

杏子「まあ、そうだな」

マミ「じゃあ、魔法少女のシステムを知った子がQBと契約したらどうなるかしら?」

ほむら「…あっ!!『魔法少女のシステムを口外できる』魔法少女が生まれる!」

杏子「おおっ」

マミ「そう!QBの一番恐れている存在が生まれるわ」

ほむら「かなりグレーゾーンだけどね」クス

杏子「でもまあ漏らしたもん勝ちだしなあ」

マミ「そうね」クスクス


マミ「つまりQBの言っていたリスクっていうのは、『魔法少女のシステムを口外できる』魔法少女を生み出してしまうリスクってこと」

マミ「直前に、志筑さんに『暁美さんから魔法少女のことは聞いてるか』って尋ねたでしょ?それに対して志筑さんは理想の返答をくれたわ」

ほむら「えっと、確か…」

~~

マミ『志筑さん。魔法少女については、暁美さんから聞いてるのよね?』

仁美『え?ええ…呪われた運命を背負わされた…とか』

~~

ほむら「っ!すでにシステムのことを聞いてるようにも取れるわね!」

マミ「でしょ?あれは本当に僥倖としか言えないけど…あの瞬間に私は勝利を確信したわ」


杏子「~♪」ペリペリ

マミ「そもそもQBは私たちと交友関係にある人物は勧誘する気がなかったんじゃないかしら」

ほむら「…確かに、私達はあいつらの勧誘を邪魔できないんだからその気があれば堂々と勧誘できるわよね」

杏子「ロッキーくうかい?」ヒョイッ

ほむら「いただくわ」パシッ ポリポリ

マミ「しかも一発で暁美さんのソウルジェムが濁ったように、私達の輪を乱すにはこれ以上ないほど効果的なのに」ポリポリ

ほむら「…その話はちょっと///」カアア

杏子「いーじゃんいーじゃん。意外なほむらを見れて楽しかったぞ」ポリポリ


マミ「そう、でも今回の件で暁美さんが消耗したのを見て、QBは志筑さんを利用しようと思ったんじゃないかしら」ポリポリ

ほむら「でも魔法少女にする気はないんでしょう?」

マミ「そう。勧誘するフリよ。きっとQBは、志筑さんを勧誘すれば私たちが全力で止めに入ると思ったんでしょう。そしてしぶしぶ撤退する。これを繰り返せば…」

ほむら「私達はかなりのストレスを感じるでしょうね」

マミ「…それがQBの狙いだったんだと思うわ。だから私は逆に志筑さんを魔法少女に勧めたの」

杏子「なるほどなぁ」ポリポリ

ほむら「どっちも仁美を魔法少女にしたくないのに勧誘してたのね」

マミ「ええ。まあチキンレースに近いわね」クスッ


ほむら「よくもまあ思いつくわねそんなこと…」

マミ「ふふ、見直した?」

ほむら「見直したもなにも…」ボソボソ

マミ「?」

ほむら「ありがとう、マミさん。ほんと、助けられてばっかりね」

マミ「あら、私だってたくさん助けられてるわよ」

ほむら「え?」


マミ「さあ!そろそろ観覧車が一周するわ。降りる準備しないと」

杏子「待って菓子かたす」ゴソゴソ

ほむら「知らない内にずいぶんお店広げたわね…」



まどか「あっ!三人も降りたみたい!おーい!こっちこっちー!」フリフリ

ほむら「まどか」タタッ

さやか「よーし、全員そろったし、写真撮ってお開きにしようか」

仁美「今日は楽しかったですわ」

ほむら「ええ、あっという間だったわ」

マミ「最初からみんなで回ってもよかったかもね」

まどか「ほらぁ~さやかちゃん!」

杏子「罰として帰りにあたしにたい焼きおごれ」

さやか「まあまあ!またいくらでも遊ぶ機会はあるわけだし!せいぜいお金貯めてよね、ふたりとも!」

ほむら「ああ、そういやバイト探さないと」

杏子「だなぁ」

ほむら「だいたいあなたが行方不明になるから悪いのよ」

杏子「しゃーねーだろあれは」


さやか「あ、すみません!写真撮ってもらっていいですか?」

「いいですよ」

さやか「ありがとうございます!さあさあ並んでみんな!」

マミ「二列になった方がいいかしら?」

杏子「小さい子は前へどうぞ?」

まどか「なんで私見て言うの~?」ティヒヒ

ほむら「じゃあ私はまどかの隣で」スッ

仁美「さやかさん、早く早く!」

さやか「待って待って!」


さやか「よし!はいどーぞ!」

「じゃあ撮りますよー?せーのっ」


全員「「「ピースっ!!」」」


これで完結になります
気づけば半年という長期間に渡るSSとなってしまいましたが、皆さんのレスのおかげでなんとか完結させることができました
見てくださった方ありがとうございました

それと厚かましいとは思うのですが、織莉子・キリカ戦などちょっと挑戦してみた描写もあるので出来れば今後のために感想、アドバイスなど貰えるとありがたいです


読者様だからアドバイスとかできねー
次回作はいつごろかしら?

レスありがとうございます
>>741
次回は未定ですねー
一応このシリーズはこれで完結と考えていたのですが、せっかくマミさんに二重で死亡フラグを建てたので拾ってみたい気も…w
続編もしくは横浜編なんかを書くとしたらスレタイでほむらとアルバイトというキーワードは入れると思いますので良かったら見てやってください


強いて言うなら>>212の位置関係の所をもうちょっとわかりやすくすることができればいいと思う。
あと戦闘シーンは1レスにもうちょっと文字詰めてもいいんじゃないかな?

>>744
アドバイスありがとうございます!
ご指摘通り1レス短いですねw
気をつけます

あと位置関係は読み直してみると確かに分かりづらいですね

手の平を広げた時の、親指、中指、小指、手首を結んだ正方形を想像してみて欲しい。

ほむら達が目指すのは、まず敵方で言えば親指にキリカ、小指に織莉子。
次に中指か手首のいずれかにほむらとマミを配置した陣形である。

この陣形ならば、中指・手首の両者は親指・小指のどちらも射程圏に収めることができる。

これで少しは分かり易くなったでしょうか…?

オセロの初期配置みたいなもん?

>>746
それだー!!!
すごいですね分かり易いです!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年04月11日 (金) 18:18:27   ID: QKpJIsAp

良かった

2 :  SS好きの774さん   2014年08月18日 (月) 10:35:02   ID: wZhveZNc

このシリーズ面白い

3 :  SS好きの774さん   2014年09月07日 (日) 17:09:43   ID: AmbaZgpY

だれだ?ここまで人気のあったSSの評価をとことん下げたバカは?

4 :  SS好きの774さん   2014年09月09日 (火) 00:52:55   ID: rY_Ub6tv


いやいや、そういう評価の仕方は全く間違ってないぞ?普通、自分の嫌いな作品を高評価する奴がいるか?
問題なのは、まどマギスレにはひどいキャラdisしてるものや失踪したものに高評価をして、反対に完結してる且つ至極真っ当な作品を低評価してるのが許せん
しかも、そう簡単に評価を上下させないように1つのスレに大量に評価してる奴がいる…マジキチだよ

5 :  SS好きの774さん   2014年09月09日 (火) 20:30:08   ID: yC7ztEp0

↑このコメントほんとにアンタの言葉か?別のスレにしてあったコメントをコピペしたわけじゃないよな?

6 :  SS好きの774さん   2014年09月10日 (水) 04:15:14   ID: WeQrP2Vz

↑コメ3も含めてお前の自演の上お前が色んなスレの評価とコメ欄荒らしてる奴だろ

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