——とある王国で闘技大会が開催されていた。
屈強な者たちは刃を交え、己の技量をぶつけ合う。
ある者は名誉のために。ある者は勝者に与えられる杯のために。ある者は王国の兵となるために。
しかし、数多の参加者でただ一人、異質な志しを持った者がいた。
王「では、終の戦を執り行う!!! 両者、前へ!!!」
剣士「……」
大男「ついにここまで来たか……。賞金は俺のモンだぜ。だーっはっはっはっはっはっは!!!!!」
王「勝者には姫から栄誉と褒美を与えられる!! 存分に己が実力を発揮せよ!!!」
姫「がんばってー」
剣士「うおぉぉぉ!!!!」
大男「!?」ビクッ
王「——始めろ!!!」
とにかく彼は、齢8歳の姫君に謁見したかったのだ。
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—謁見の間—
王「見事な戦いぶりであったな」
剣士「いえ」
王「では、今から勝者のための杯を——」
剣士「姫様」
姫「はい?」
剣士「俺、勝ちました」
姫「はい。おめでとうございます」パチパチ
剣士「ふぅー!!!」
姫「……!?」ビクッ
王「これが賞与だ。受け取るがよい」
剣士「姫様から受け取りたいのですが」
王「そ、そうか? よかろう。あの若者にこれを」
姫「わかりました」
剣士「……」
姫「どうぞ」
剣士「ありがたき幸せです」
姫「そうですか」
剣士「俺、この賞金を家宝にします」
姫「いえ、お金は使って頂かないと困りますけど……」
剣士「貴女に会えてよかった。本当に。姫様は俺が見てきた女性の中で最も美しい」
姫「そんな。私なんて。まだ着替えや湯浴みすらも独りでさせてもらえない子どもです」
剣士「なにを仰います。姫様を俺にとっての生きる希望なんです」
姫「はぁ……」
剣士「好きです」
姫「ありがとうござ——」
剣士「このまま時が止まってしまえばいいのに」
姫「え……。そ、そんな……急に言われても……」
剣士「ふぅー!!」
王「その者をつまみ出せ」
兵士「さあ、出ろ!」グイッ
剣士「姫様!! 貴女のことはずっと応援してますから!!」
姫「はい。私も貴方の今後の活躍を期待しています」
剣士「ふぅー!!!!」
側近「——国王陛下。あの者で本当によろしいのですか?」
王「実力は本物だ。人格に多少の問題があろうとも、優先すべきは有する技量にある」
側近「確かにそうですが……。もし道中で姫様の身に何かあれば……」
王「そのときは……」
姫(ふしぎな人だったなぁ……)
王「ともかく、あの者の身辺調査を行った後、計画を伝えることにしよう」
側近「御意」
王「……お前もあの者に決まっても文句はないな?」
姫「私に選ぶ権利などないことはわかっています」
王「ならばよい」
姫「……」
—酒場—
店主「今日は闘技大会優勝者の旦那が奢ってくれるそうだ!! 大いに騒げ!!!」
「「うおぉぉぉ!!」」
剣士「はぁ……」
戦士「お疲れ様。かっこよかったわよ?」
剣士「ありがとう」
戦士「ふふっ。今日ぐらいはあたしに付き合ってくれてもいいんじゃない?」
剣士「やめてくれ。俺の趣味じゃない」
戦士「そんなの分かってるけど、たまには、ね?」
剣士「酒は奢ったんだ。それでいいだろ?」
戦士「もう、強情なのね。……そこがいいんだけど」
剣士「ふん……」
戦士「あたしはいつもの場所にいるから、気が向いたら来てね。待ってるわ」
剣士「はいはい」
店主「相変わらず、モテるなぁ。兄ちゃん。このこの」
剣士「やめてくれよ。何度も言ってるけど、俺はロリコンだ」
店主「そして、童貞だな。もったいねえ。それだけの腕っ節なら引く手数多だろうに」
剣士「姫様……可愛かったなぁ……」
店主「おかわりは?」
剣士「えーと……。炭酸系のやつで」
店主「レモンジュースでいいか?」
剣士「ああ」
店主「酒ぐらい飲めるようになったらどうだ?」
剣士「ダメだ。俺はロリコンなんだぞ? 酒に酔って可憐な女の子に手を出してしまうかもしれないだろ。理性が飛べばどうなるか、俺にだってわからない」
店主「徹底してるなぁ」
剣士「当然だ。小さな女の子は宝物だ」
店主「そうかい……。それよりも、兄ちゃん。後ろの隅にいる二人組。ずっと兄ちゃんのこと見てるぞ?」
剣士「……誰だろうな」
店主「城の兵士じゃないか? あの噂が本当ならな」
剣士「噂?」
店主「なんだ。俺ぁてっきり、あの噂を聞いて参加したと思ったんだけどな」
剣士「俺は姫様と直接話がしたかっただけだ。それ以外の目的はない」
店主「実はな、優勝者を姫様の結婚相手に考えているとかいないとか」
剣士「なんだと!?」ガタッ
店主「おぉ!?」
剣士「結婚か……。夫婦になれば確かに合法……。いや、何を言っている。少女の体を汚すことなんてあってはならないじゃないか。それが夫なら尚更だ!!」
店主「わかった、わかった。落ち着けよ。飽く迄も噂だ」
剣士「それでその噂と後ろの二人がどう繋がる?」
店主「そりゃあ、王族と婚姻を結ぶなんて普通の結婚じゃないんだ。相手の身辺調査ぐらいするだろうぜ」
剣士「なるほど。そういうことか」
店主「しばらくは監視生活だな」
剣士「なら、俺の日課である少女ウォッチングとかアウトか?」
店主「バレなきゃいいんじゃねえか? あと子ども好きって捉えてくれるかもしれねえし」
剣士「そうか。まぁ、別に隠すようなことでもないけど」
店主「いや、お前はもう少し隠せ」
剣士「——それじゃあ、そろそろ帰るか」
店主「また来てくれよ」
剣士「ああ」
「ごちそうさまー!!」
「よっ!! ロリコン英雄!!」
剣士「どうもどうも」
店主(あいつは本当に器がでかいなぁ……。悪い意味で)
剣士「では、何か困ったことがあれば俺を雇ってくれ」
「贔屓にさせてもらうぜ!!」
剣士「おやすみ」
客「すまない、店主。奴の職業を訊きたい」
店主「え? ああ。フリーの傭兵ですよ。それがなにか?」
客「いや、ありがとう。それともう一つ。ロリコンだのなんだの言われていたが、あれは……?」
店主「あいつの守備範囲は狭いんですよ。確か……下は3歳から上は13歳だとか豪語してましたし」
客「な……!?」
—翌日 広場—
剣士(昨日の今日では仕事もまだ入ってこないな……。賞金は昨日の酒代でほとんど消えたし……)
女の子「わーい、わーい」テテテッ
剣士(さて。今日も日向の少女たちで腹を満たそうか)
女の子「おかーさーん」テテテッ
剣士「あぁ……可愛い……」
「あの者で本当にいいのか?」
「とはいえ優勝者だからな……」
「しかし。姫様はまだ8歳で——」
剣士(今日も見られてるな……)
剣士(マスターが言っていたことは本当なのか? もしそうなら僥倖の極みでしかないんだが……)
女の子「らんらーん」
剣士「おや? 天使再び」
女の子「ふんふふーん」
剣士(この広場は平和でいいな)
—数日後 王室—
側近「——以上がここ数日間の調査結果です」
王「毎日毎日、正午は広場で過ごしているのか。何の為に?」
側近「調査員の報告では、子どもを観察しているようだということでした」
王「子どもを? 子ども好きなのか、それとも……」
側近「姫様との謁見時に見せた態度から推察するに、後者かと……。それと、好みの年齢があまりにも年下であることも分かっているようです」
王「推察するまでもないな。……だが、都合はいいかもしれんな」
側近「と、いいますと?」
王「病的なまでならば、姫のために命すらも投げ出すかもしれない。そういう者のほうがよかろう?」
側近「場合によるのでは? 邪魔者になる可能性も……」
王「そのときは消せばよいだけの話だ」
側近「……分かりました。では、そのように」
王「よし。明日、ここへ呼べ。そして、始めよう」
側近「はい」
王「全ては世界のために」
—翌日 謁見の間—
王「よく来た。待っておったぞ」
剣士「姫様は?」
王「慌てるな。嫌でも会うことになる」
剣士「今、会わせてください」
王「その前に話を聞いてもらいたい」
剣士「話?」
王「数千年前の話だ。かつて世界は魔王の支配下にあった。それは知っているだろう?」
剣士「3人の勇者が魔王を倒し、封印したってやつですか? 神話の類だと思っていますが」
王「いや、史実だ。文献にも魔王と勇者の戦いは記されている。既に失われた魔の力を用いて、3人の勇者が魔王を封じ込めたのだ」
剣士「それで、姫様は?」
王「まぁ、待て。何を隠そう我々王族は勇者の血を継ぐ者だ。そして、当然姫もな」
剣士「姫様が勇者……?」
王「うむ。さて、ここからが本題だ。近年……とはいえ、十数年前からではあるが、魔王の封印が解かれようとしている」
剣士「魔王が……!? それで、姫様はどこに?」
王「そう急かすな。そこでだ。お前に一つ、依頼したいことがある」
剣士「なんですか?」
王「ここから遥か東の地に姫と共に向かってほしい。つまりは護衛を頼みたい」
剣士「何のためにですか?」
王「その地に勇者の血を分かつ王族がいる。そこへ我が娘を嫁に出す」
剣士「嫁……!?」
王「うむ。世界安寧のために必要なことだ」
剣士「それは勇者の血を濃くして、かつての力を取り戻すとか、そういうことですか?」
王「察しが良くて助かる。事態は一国を争う。お前にはすぐにでも出立してもらいたい」
剣士「それは良いですが。普通はこの国の兵士が護衛につくのでは?」
王「我が兵たちも列を為して向かう。しかし、それは陽動のためだ」
剣士「なんですか、それは? 姫様は狙われているんですか?」
王「ああ。国民には公表しなかったが、娘は何度も身柄を狙われている」
剣士「なに……。どこのロリコンだ。ロリコンの風上にも置けない連中ですね」
王「恐らくは我々の計画を阻止しようとする連中が動いているのだろう。外に出れば何が起こるか分からない。そこで闘技大会を開き、強者を集めていた。姫を護衛することができる者を探すために」
剣士「フリーの傭兵を本命にしてもいいんですか? 裏切ってしまうかもしれないし、そもそも俺が姫様を狙っている奴らの仲間かもしれない……。いや、だからこそ監視してたのですね」
王「気がついていたか。監視もそうだが、お前の身辺は徹底的に洗わせてもらった。お前に怪しい部分は一部を残してなかった」
剣士「そうですか」
王「姫の護衛。頼めるか?」
剣士「……」
王「無論、相応の報酬も渡そう」
剣士「姫様の相手は、姫様を幸せにできるのですか?」
王「それは……」
剣士「もしや、誰の馬の骨ともわからない奴に嫁に出すっていうんですか?」
王「余りにも遠い地にいる王族だ。そこまで深い交流はできていない。どんな王子なのかまでは……」
剣士「もし、相応しくないと判断したときは斬っていいんですか?」
王「やめろ」
剣士「しかし」
王「なら、お前には依頼できないな」
剣士「それは困る」
>>15
剣士「もしや、誰の馬の骨ともわからない奴に嫁に出すっていうんですか?」
↓
剣士「もしや、どこの馬の骨ともわからない奴に嫁に出すっていうんですか?」
訂正
—姫の自室—
姫(もうすぐ……私は……)
『姫様。よろしいでしょうか?』
姫「はい」
兵士「先ほど、姫様の護衛の任に就くものが正式に決定いたしました」
姫「あの方ですか?」
兵士「はっ。こちらへ」
剣士「どうも、姫様」
姫「……長い旅になるでしょうが、よろしくお願いします」
剣士「姫様!!!」
姫「は、はい!?」
剣士「やはり、美しい。貴女をみていると、胸の動悸が激しくなり、血液の巡りがよくなります……」
姫「私は貴方にとって浴場かなにかですか……?」
兵士「お前!!! 姫様におかしなことを言うな!!!」
姫「これから私のために身を削ろうとする人に無礼なことは言わないでください」
兵士「しかし、姫様……」
剣士「姫様。でも、これは陛下が独断で決めたことでしょう?」
姫「え? そうですね。王は当初からあの闘技大会の優勝者を私の護衛にすると決めていました」
剣士「なら、姫様は俺が護衛することについてどう思っていますか?」
姫「ど、どういうことですか?」
剣士「俺がずっと傍にいるのは不快ではないですか?」
姫「え……」
剣士「自分で言うのも何ですか、俺はロリコン。小さな女の子が大好きな男です」
兵士「おい!!! 姫様の御前だぞ!!」
姫「ロリ……?」
剣士「丁度、姫様みたいな年頃しか目に映らないんですが、それでもいいですか?」
姫「……構いません。貴方がどのような人でも」
剣士「ふぅー!!!!」
姫「ひゃっ!?」ビクッ
剣士「なら、よろしくお願いします。ロリコンですけど」
姫「は、はぁ……」
剣士「器の大きな人だ。いや、これは姫様がどれほど厳しい環境で生きてきたのかを示すものか……」
姫「では、改めまして。これからよろしくお願いいたします」スッ
剣士「はい」
姫「……」
剣士「姫様は可愛いなぁ……」
姫「あのぉ……」
剣士「なんですか?」
姫「あ、握手を……しませんか……?」
剣士「遠慮します」
姫「えぇ?」
兵士「貴様ぁ!! 姫様に対して無礼だろう!!!」
剣士「ロリコンたるもの、少女に触れるべからず」キリッ
兵士「……」
姫(やっぱり、ふしぎな人だなぁ……)
—廊下—
兵士「お前に護衛を任せるのは本当に不安で仕方ない」
剣士「手は出さない。ロリコンとして」
兵士「まぁいい……。明日朝7時、広場にて待っていろ。いいな?」
剣士「分かった」
兵士「全く……」
剣士「あの」
兵士「なんだ?」
剣士「王様に訊いておきたい事があるんだが、もう一度謁見はできるか?」
兵士「内容による。姫様を娶るなんて言い出すんじゃないだろうな?」
剣士「そんなことしないって言ってるだろ」
兵士「では、なんだ?」
剣士「俺一人に護衛させるってわけじゃないんだろ?」
兵士「……」
剣士「いくらなんでも男と少女の二人旅は問題もあるからな。同行者が他にいるなら挨拶をしておきたいんだが」
—露店通り—
「安いよー安いよー!!」
「お兄さん、買っていってよ」
剣士(陛下の話ではここに一人いるとのことだが……)
剣士(こんなところにいるのか? 商人かなにかか?)
女の子「おにーちゃん、薬草かってください」
剣士「あるだけ、貰うよ」
女の子「あ、ありがとっ!!」
剣士「気にするな。君の笑顔があればそれでいい」
「——なら、僕も笑顔にしてくれない?」
剣士「ん?」
薬師「いい薬あるよ。どう、お兄さん?」
剣士「君、何歳?」
薬師「え? 16だけど?」
剣士「残念だ。見た目はパーフェクトなんだが……。16歳では……ダメだ……」
薬師「どういう意味だ!!」
剣士「そのままの意味だ。俺は少女からしか買い物しない主義だ」
薬師「僕も少女だよ!!」
剣士「年齢がもう……」
薬師「なんだよ、それぇ!! もういいよ。あっちいけ」
剣士「……」
薬師「……なに?」
剣士「君。陛下に特別な任務を与えられてないか?」
薬師「……なんのこと?」
剣士「姫様の護衛」
薬師「……!」
剣士「やはりか。陛下から貰った似顔絵通りだな」
薬師「もしかしてお兄さんも?」
剣士「ああ。闘技大会で優勝して選ばれた。君もか?」
薬師「向こうで話そう。これ、機密情報だし」
—路地裏—
薬師「僕はスカウトされたんだ。兵士さんにね」
剣士「スカウト? 何か実績でもあったのか?」
薬師「実績といえば実績かなぁ……。非合法な薬品とか精製して販売してたし」
剣士「なるほど。指名手配されてたのか」
薬師「そういうこと。それで選ばれたらしい。協力すれば罪を帳消しにしてくれるっていうし、断る理由がなかったしね」
剣士「どんな薬品を扱ってるんだ?」
薬師「色々。傷薬とか爆薬とか。あと、トリップするようなものも扱ってるよ。いる?」
剣士「前後不覚になるのはゴメンだ。少女を襲う危険性がある」
薬師「どういうこと?」
剣士「俺、ロリコンだからな」
薬師「……気持ちわるぅ」
剣士「少女は穢れを知らない。天使に恋をして何が悪い」
薬師「姫様に変なことしようとか考えてるんじゃないの?」
剣士「何を言っている。ロリコンを勘違いしているな、君は。いいか? ロリコンとは天使たちを第一に考える種族だ。悲しませたり、傷つけたりなんて絶対にしない」
薬師「まぁ、いいけど。でも、いくらフリーの傭兵だからって、問題がありすぎなような気もするけど」
剣士「君と俺はまだマシだ。実はあと一人、同行者がいる」
薬師「誰?」
剣士「この街を裏で取り仕切っている奴だ。俺も名前を聞いて驚いた」
薬師「それって……。厳つい男たちを束ねてるっていう……?」
剣士「そうだ。あいつが選ばれている」
薬師「うぇ……。そんな大物まで引っ張ってくるなんて……。僕、うまくやれる自信がないなぁ」
剣士「嫌われたら終わりだろうな」
薬師「ま、いっか。仕事仲間だと割り切ってれば」
剣士「今から会いに行くけど、一緒に来るか?」
薬師「僕はいいよ。明日会うし。それにまだ商売の途中だし」
剣士「出発は明日なのに店を出す意味なんてないんじゃないのか?」
薬師「あるよ。だって、僕は商売が好きなんだから」
剣士「そうか。頑張ってくれ」
薬師「うんっ。また明日ね、お兄さん」
—ホテル スウィートルーム—
剣士(ここか……)
剣士「……」コンコン
『はぁい、どうぞ』
剣士「……」ガチャ
戦士「あら? うふっ。やっとあたしとする決心をしたの? いいわよぉ? 気持ちよくしてあげる」
剣士(屈強そうな大男が何人も倒れている……)
戦士「その辺でへばっている男たちは気にしなくていいわ」
剣士「お前はこんな奴らをいつも相手に……?」
戦士「まぁね。でも、全然だめ。運動にもならないんだから。嫌になるわ。でも、貴方なら……あたしを満足させてくれそう……」
剣士「俺にその趣味はない。ところで、明日出発するんだよな?」
戦士「え? ああ。姫様の護衛? やっぱり、坊やも選ばれたのね」
剣士「ああ」
戦士「そう……。なら、チャンスは増えるわね。仲良くしましょうね、坊や?」
剣士「だから、そんな露骨に誘惑しても俺は靡かないぞ。お前には」
戦士「そんなこと言わないで。悲しくなるじゃない。明日からは仲良く旅をするんだし。貴方も仲良くしたいから挨拶にきたんでしょ?」
剣士「いや、そういうことじゃないけど。でも、似たようなものか。——明日のための買出しとかしなくていいのか?」
戦士「え? うふふふ……。可愛いわね、坊や。準備なんて必要ないでしょ? 薬屋さんが仲間にいるんだし」
剣士「……それもそうか」
戦士「まぁ、あの小娘が素直に協力してくれるっていうならだけど」
剣士「あの子のこと知っているのか?」
戦士「裏の界隈じゃちょっとした有名人よ」
剣士「そうだったのか……」
戦士「ただよくあたしの縄張りでも勝手なことしてるから、あまり好きじゃないのよねぇ……。できれば、坊やと姫様の3人で旅がしたかったわぁ」
剣士「なに?」
戦士「坊やもそうだけど、姫様も……うふふふ……美味しそうでしょう?」
剣士「美味しそうなのは否定しないが、姫様に手を出してみろ。俺が容赦しないぞ」
戦士「あたしは、それが、め、あ、て、だし」
剣士「指一本触れるなよ。それじゃあ、また明日な」
戦士「もう帰っちゃうのぉ? まぁ、いいけどぉ」
—姫の自室—
メイド「姫様、お召し物を——」
姫「自分でできます」
メイド「しかし」
姫「明日から私は一般市民と共に旅立ちます。もう全てを自分でやらなければいけませんから。本当ならもっと以前から自分でしておきたかったのですが」
メイド「姫様。同行者にも女性はいらっしゃいます。その者に姫様のことはお任せすると国王陛下も仰っていました」
姫「え……」
メイド「心配なさらずとも大丈夫です」
姫「そうじゃなくて……」
メイド「それでは失礼いたしますね」
姫「……はい」
メイド「ここでのご入浴も最後になります。私が誠心誠意、心を込めて姫様の体を洗います」
姫「……」
姫(私は……何もさせてもらえないまま……)
姫(外に出てもきっと一緒……)
—翌日 広場—
剣士「姫様……まだかなぁ……」
薬師「おっそいなぁ……」
兵士「——集まってはいないようだな」
剣士「どうも」
薬師「ボスゴリラはまだ来てないね。僕としてはこのまますっぽかしてくれていいんだけど」
剣士「姫様は?」
兵士「姫様」
姫「……ど、どうも」
薬師「普通の服装だ」
兵士「当然だろう。道中、衣服を買うのはいいがあまり目立つような服は避けるんだぞ」
薬師「はいはい。うるさいなぁ」
姫「ど、どうでしょうか……? このような服はあまり馴染みがなくて……」
剣士「ふぅー!!!!」
姫「ひゃぁ!?」ビクッ
剣士「最高です。姫様」
姫「あ、ありがとうございます……」
兵士「では、姫様。自分はこれで」
姫「はい。ここまでご苦労様でした」
兵士「いえ。では、お前たち。くれぐれも粗相のないようにな」
薬師「いーっだ」
剣士「まるで陽光と共に地上へ降りてきた妖精のようですね」
姫「はぁ……」
薬師「お兄さん、変な目でいない。姫様も怖がってるし」
剣士「それは申し訳ありません」
姫「そんな。怖いなんてことは……」
薬師「さてと、出発しよっか」
姫「え? あの、もう一人いらっしゃるのでは?」
薬師「来ないんじゃないの?」
剣士「それはないと思うが……。まぁ、ゆっくり歩きましょう。街を出るころにはあいつも合流するでしょうし」
姫「……」キョロキョロ
薬師「姫様、何か珍しいものでもあったの?」
姫「え? いえ。あまり外に出たことがなくて……」
薬師「あはは。典型的なお姫様だー」
姫「ご、ごめんなさい……世間知らずで……」
薬師「ねえ、もしかして食べ物を素手で食べたりもしたことない感じ?」
姫「素手? フォークとナイフを使わずに食べるのですか……?」
薬師「すごいすごい。完璧だ。居るところにはいるんだね、やっぱり」
姫「ごめんなさい……」
剣士「朝食はお済ですか、姫様?」
姫「いえ……。まだです」
剣士「よし。まずは朝食にしよう」
薬師「僕は食べたけど?」
剣士「君の意見は聞いてないんだ。いいか。俺たちは姫様を中心に回っていればいいんだ」
薬師「な……!?」
—飲食店—
姫「申し訳ありません。私のために」
剣士「いえいえ。期日がある旅でもないですから、ゆっくり行きましょう」
薬師「そういえば、今日の目的地とかあるの?」
剣士「一先ず、ここから南下して港町へ向かう。そこから船で一気に隣国へ渡る。あとは東にまっすぐ移動するだけでいい。山越えもしなきゃいけないけど」
薬師「へえ。途中の町や村にはきちんと寄ってくれるよね? 僕は各地で薬を売りたいし」
剣士「姫様、このような口を叩いていますがいいのですか?」
薬師「なんだよ!! このような口って!!」
姫「は、はい。みなさんのお好きなように。私は困りませんし」
薬師「やっさしー!! さっすが姫さまぁ!! すきー」ギュゥゥ
姫「あぅ……」
剣士「……」
姫「あの、なにか?」
剣士「いやぁ、姫様を見ているだけで心の垢が全て流されていきます。ずっとこうしていたいぐらいです」
姫「や、やめてください……」
薬師「それにしても、姫様って一体誰に狙われてるの? 僕たちはそいつらの襲撃に備えとかなきゃいけないんでしょ?」
姫「私もよく……。ただ、王は計画の邪魔をする者達だと……」
剣士「計画とは、姫様の嫁入りのことですよね?」
姫「はい」
薬師「結婚って言えば良いのに、計画って呼ぶの変だね」
姫「魔王復活を阻止するためのものだと思いますから、計画と呼んでいるのでは?」
薬師「おー、なるほどね。でも、魔王って言われてもなぁ。どんな奴なんだろ?」
姫「文献にはあらゆる魔法を行使する存在らしいですね……。故に魔王と呼ばれているとか……いないとか……」
剣士「姫様は聡明ですね。さすがです」
姫「そ、そんなことは……たまたま、知っていて……」
薬師「まー、僕達の目的はとりあえず遠くの国の王子様に姫様を届けるだけなんだよね? 楽勝じゃないかな」
剣士「どのような賊が襲ってくるかわからないから油断はできないぞ」
薬師「お兄さんは強いんでしょ? なら、心配ないよ。怪我しても僕が治すし」
剣士「傷薬一式は姫様に持たせろ。俺が怪我をしたら姫様に治してもらう」
姫「えぇ!?」
>>33
剣士「姫様は聡明ですね。さすがです」
↓
剣士「姫様は博識ですね。さすがです」
薬師「いやだね。僕の薬は僕が使う。いくら姫様だからって簡単には渡せない」
剣士「いや、渡せ」
薬師「なら、買って」
剣士「いくらだ」
薬師「全部で10000だ」
剣士「100にしろ」
薬師「できるわけないでしょ!! バカじゃないの!?」
剣士「貴様ぁ」
姫「あ、あの……喧嘩は……」オロオロ
戦士「——そうよぉ。仲良くしなきゃ、ダメじゃない」
剣士「来たか」
薬師「でた、ボスゴリラ……」
姫「あ、あなたは……?」
戦士「姫様の護衛を命じられた者よぉ? よろしくね、おひめさまっ」
姫「は、はい……こちらこそ……」
戦士「あたしもコーヒー飲もうかしらぁ。すいませーん」
剣士「遅かったな。何かあったのか?」
戦士「ちょっと、勧誘されちゃって」
剣士「勧誘?」
戦士「姫様の行動を逐一報告してくれってね」
姫「え?」
薬師「それ、スパイってこと?」
戦士「平たく言えばそうかもね」
剣士「それでどうした? 承諾したのか?」
戦士「したわぁ。良いお金だったし、何より勧誘に来た男が中々良い男だったしね」
薬師「敵じゃん、このボスゴリラ」
戦士「ボスはいいけどゴリラはキレちゃうわよ? 薬屋さん」
剣士「なら、スパイとして同行するってことか?」
戦士「もっちろん。いいわよねぇ、姫様?」
姫「えっと……それは……」
薬師「姫様ー。こいつは外したほうがいいと思うけど」
姫「あの……えっと……」
戦士「別に姫様の命までは狙わないわ。行動を報告するだけだもの。向こうが襲ってきたらあたしも戦うわよ?」
薬師「なら、教えるのはおかしいじゃん」
戦士「ビジネスって言葉、知ってるかしらぁ?」
薬師「こっちはいつでも商売してる」
戦士「あんなお飯事が商売? 笑っちゃうわぁ」
薬師「この……!!」
姫「あ……ぁ……」オロオロ
剣士「確認するけど、行動を報告するだけで、一緒に戦ってはくれるんだな?」
戦士「ええ。坊やと一緒にいたいもの」
薬師「うぇ……」
剣士「姫様?」
姫「は、はい?」
剣士「姫様の判断に任せます。この者はどうしますか? 護衛から外すなら今ですが」
姫「わ、私は……その……。あ、あなたは……どうしたいのですか……?」
戦士「勿論、ついていきたいわ。お姫様の護衛、楽しみにしてたんだし、うふっ」
姫「だったら……お願いします……」
戦士「あはっ。うれしぃわぁ。お礼のキスしてあげる」
姫「え」
剣士「やめろ」グイッ
戦士「あら、キスは貴方が受けてくれるのぉ? どこにキスしてほしい?」
剣士「姫様に指一本触れるなって言っただろ」
戦士「意地悪ね」
薬師「姫様、本当にいいの?」
姫「はい……」
剣士「……そろそろ出発しましょうか?」
姫「あ、はい。——では、みなさん。これからよろしくお願いします」ペコッ
剣士「ふぅー!!!!」
姫「きゃっ!?」ビクッ
剣士「姫様、その礼儀正しさは確かに愛らしいですが、もっと楽にしてくれてもいいんですよ?」
姫「いえ、でも。失礼があってはいけませんし」
剣士「むしろ俺達のほうが姫様にご迷惑をかけるというのに」
姫「そんなことありません。きっと私は何もできないですし、何かあれば足を引っ張るのは私ですから」
剣士「姫様……。流石ですね。良く分かっている」
姫「へ?」
剣士「姫様は俺達にとって足かせになるときもあるでしょう」
姫「は、はい……」
剣士「ですが、貴女はご自身の立場と役割を理解している。それならば、荷物でない。貴女は大事な仲間です」
姫「仲間……」
剣士「はい。仲間は助け合ってこそです。だから、姫様が気を落とすことはありません」
姫「……ありがとう」
剣士「ふぅー!!!!」
姫「……!?」ビクッ
薬師「お兄さん、その叫びはなに?」
剣士「いや、可愛いんで」
薬師「なんだそれ……」
姫「あ、あの……」
戦士「何かしら?」
姫「スパイって……」
戦士「ふふっ。あたしは敵でも味方でもないからね」
姫「いえ……。どうして私達にそれを話したのかなって……。話せば……」
戦士「やっぱり、あたしは外す?」
姫「……」
剣士「外すって言ってもついてくるんだろ」
戦士「まぁね。スパイだもの」
剣士「で、情報は誰に流してるんだ? 当然、話したってことは教えてくれるんだろ?」
戦士「内緒に決まってるでしょ? あたしと寝るなら教えてあげてもいいけどね」
薬師「ここで爆殺しておいたほうがいいんじゃない?」
剣士「まぁいい。どこのスパイかは知らないけど、一緒に戦ってくれるならな」
薬師「ちょっと、お兄さん。放置していい問題? 王様にも教えたほうが……」
剣士「考えてみろ。俺達は秘密裏に集められたんだぞ? 敵がどうしてそのことを知り得たのか」
薬師「身内か」
剣士「そういうことだろうな。元から姫様が誰に護衛されるのか知っていたことになるんだから」
薬師「ってことは、最初から全部バレてたんだ」
剣士「ただ、あいつに接触して今後の情報を求めたってことは、俺たちが旅に出てしまうと知る方法がなくなるってことだろうな」
薬師「それってどうして。僕達のことが分かっているなら、あとを追うなりすればいいのに。会話をどっかで盗み聞きしていれば、先回りだってできるし」
剣士「さぁな。ただ、言えるのは……」
戦士「それにしても可愛いわねぇ。うふふふ」
姫「あ、ありがとうございます……」
戦士「姫様、次の町では一緒に寝ましょうね?」
姫「は、はい……」
剣士「あいつに接触したのは姫様の命を狙うような奴ではないってことだな。そこまで把握できているなら、誘拐ぐらいわけないだろう。暗殺だってできたはずだ」
薬師「そっか。とりあえず目的は不明か……。ゴリラは知ってるんだろうけど」
剣士「まぁ、誰だろうと姫様には触れさせない。俺が傍にいる限りはな」
—街道—
姫「……」テテテッ
剣士「姫様。歩調は俺達が合わせますから。無理はしないでください」
姫「い、いえ。これぐらい平気です……」
薬師「姫様、負ぶってあげようか?」
姫「大丈夫です。ありがとうございます」
戦士「背伸びしたい、お年頃ってやつね」
姫「ごめんなさい……」
剣士「馬車でも借りてきたら良かったな」
薬師「馬車は目立つからダメじゃないの?」
剣士「俺が姫様の馬になれば問題ない」
薬師「何言ってるわけ?」
剣士「想像してみろ。あのような天使が鞭をもって俺の尻を叩く様を」
薬師「想像したくないけど」
剣士「最高じゃないか……はぁ……」
戦士「坊やは本当に小さな女の子が好きなのねぇ……。妬けちゃうわ」
姫「でも、鞭って痛そうですけど」
剣士「姫様に叩かれるのなら、ご褒美、いえ、誉れです」
姫「そ、そうなのですか?」
剣士「いつでも叩いてくれて結構ですからね」
姫「あの、私には触れないようにしているのでは?」
剣士「俺から触れに行くのはご法度。でも、触れられるのは大丈夫です」
姫「……?」
薬師「お兄さん、姫様が困ってるけど?」
姫「それはつまり、触ってもいいのですか?」
剣士「姫様が触りたいのであれば、どうぞご自由に」
姫「なら、できなかった握手を……」ギュッ
剣士「ふぅーうぅー!!!!」
姫「ひぐっ!?」ビクッ
剣士「姫様、ナイス握手です。もう思い残すことはありません。姫様にこの命、捧げます」
姫「あ、握手だけで……!? そんな命は粗末にしないほうが……!!」
剣士「ロリコンにとって、少女に触れられるというは信託にも似た神秘ですから」
姫「わ、私が貴方の人生を狂わせてしまったのですか……」
薬師「違うって、姫様。こういう男はかなり多いから、気をつけたほうがいいよ? 心を許すと、ガブっていかれるから」
姫「でも、悪い人には……」
薬師「ダメダメ。病気なんだもん。僕の薬でも治せない酷い病気。近づかないほうがいいの」
姫「病気なのですか? あの、なら、無理に護衛任務には……」
剣士「姫様と共にいるだけでこの病気は緩和されます。気になさらず」
姫「それならいいんですけど……」
薬師「悪化するんじゃないの?」
剣士「離れたほうが悪化するんだ」
薬師「そんな真剣な顔で言われても」
戦士「ふふ。会話もいいけど、あまり油断しちゃだめよ? 行商人や旅人狙いの賊やら凶暴な野生動物をいるんだから」
姫「は、はい。ごめんなさい」
戦士「姫様に言ったんじゃないけどね。その素直さは好きよ」
薬師「お。この野草は使えるね。採取採取っと」
姫「この野草は……。確か傷薬になるんですよね」
薬師「良く知ってるね。どこかでみたの?」
姫「本で少し」
薬師「ふぅん……。じゃあ、こっちは?」
姫「これは毒素を中和することができる花だったような……」
薬師「やるじゃん、姫様」ナデナデ
姫「いえ……たまたま……」
剣士「このシーン、永遠に残しておきたい……」
戦士「楽しそうねぇ……。まぁ、子どものお使いだから、これぐらいがいいんだろうけどぉ」
剣士「……」
戦士「何? あたしの体がきになるのぉ?」
剣士「いや、姫様を狙ってるやつって誰なんだろうなと思ってな。今までも何度か襲われたらしいけど……」
戦士「気にするだけ、無駄よ。王族を狙うなんて普通の盗賊や強盗じゃないんだから」
剣士「ロリコンでもないんだろうな……」
—村—
薬師「よーし。早速、薬を売ろうっと!」
戦士「それじゃあ、あたしは依頼人に報告してくるわ」
剣士「どうやって?」
戦士「伝書鳩で」
剣士「そうか。いってらっしゃい」
戦士「いってきまぁーす」
姫「あの……あの……」
剣士「どうしました?」
姫「と、止めなくていいんですか?」
剣士「別にいいでしょう。あいつの仕事ですし」
姫「でも……不安です……」
剣士「俺が守ります」
姫(そういうことじゃないんだけど……)
剣士「さぁ、姫様。宿に向かいましょうか」
—宿 寝室—
姫(伝書鳩ってこの村にいるのかな……。それとも飛んでくるの……?)
剣士「姫様。今日は疲れたでしょう。もうおやすみになられては?」
姫「え? そ、そうですね。歩き疲れました……。先に休ませていただきます」
剣士「ごゆっくり。俺はこの村を少し散策してきますから」
姫「……あ、あの」
剣士「なんですか?」
姫「ご、護衛は……?」
剣士「鍵をかけておけば心配いりませんよ」
姫「でも……あの……」
剣士「それに男がいては着替え難いでしょう? 入浴もし辛いでしょうし」
姫「ぜ、全部ひとりでやってもいいんですか?」
剣士「姫様。入浴に誘ってくれるのは嬉しいですが……。その一線を越えるわけにはまいりません」
姫「お誘いはしてないですが……」
剣士「では、また明日」
—廊下—
薬師(ふふっ。ま、この規模の村なら上々かな)
剣士「楽しそうだな」
薬師「まぁね。お兄さんはなにしてるの?」
剣士「見張りだ」
薬師「窓から侵入されたらどうするの?」
剣士「外はあいつの役目だ。問題ない」
薬師「いつそんな取り決めが?」
剣士「帰ってきてないのが良い証拠だ」
薬師「あのゴリラ、味方じゃないし。信頼するのは危ないと思うよ?」
剣士「でも、敵でもない。あいつほどの実力者なら、油断しきっていた朝食時に襲ってきている」
薬師「む……。そうかもしれないけど、スパイじゃん。姫様の命を狙ってないにしても、怪しいし」
剣士「なら、今からでもやめるか?」
薬師「それだと僕の罪が白紙にならないし」
剣士「……見張りは任せてもう寝ろ」
剣士「……ん?」
剣士(姫様……入浴か……。シャワーの音か聞こえてくる……)
剣士(妄想が膨らむ……)
薬師「——お兄さん、顔がやらしいけど」
剣士「なんだ? 邪魔をするな」
薬師「僕は姫様と同じ部屋で寝るから」
剣士「それぞれ部屋を取ってやったのにか?」
薬師「護衛だから」
剣士「お前が敵という可能性が一番高い」
薬師「僕が敵ならとっくに毒薬飲ませてトンズラしてるって」
剣士「それもそうか……。入っても良いぞ」
薬師「どーも。これからは僕と姫様は一緒の部屋でいいからね」
剣士「分かった」
薬師「……羨ましい?」
剣士「ロリコンたるもの、羨望を嫉妬に変えるべからず」キリッ
薬師「姫さまー」
「きゃぁー!!」
薬師「……!!」
薬師(浴室から……!!)
薬師「——姫様!! どうかしたの!?」ガチャ
姫「泡が……あわが目に……いたい……いたい……」
薬師「はぁ……。目をこすっちゃだめだって。ほら、僕が洗ってあげるから」
姫「うぅ……いえ、自分で……」
薬師「できるなら見ててあげるけど?」
姫「……」
薬師「……」
……ザァァァ……
姫「……洗ってもらっていいですか?」
薬師「よしきた。脱ぐから少しそのままでいてね」
姫「はい……ごめんなさい……」
薬師「痒いところはない?」
姫「いえ……」
薬師「自分で洗ったことないんだってね。王様から聞いてたけど、本当なんだ」
姫「貴女が私の世話係になったと聞きました……」
薬師「世話係? そんなこと言われたけど、でも姫様は自分でしたいんでしょ?」
姫「実はそうなんです……」
薬師「なら、これから覚えていけばいいじゃん。焦る必要はないって」
姫「でも、急いで覚えないと、みなさんに迷惑が……」
薬師「頭洗うぐらい簡単だって。それよりも料理とかの洗濯とかのほうが難しいと思うよ?」
姫「そ、そうですね……」
薬師「僕ができるかぎり教えてあげるから、元気だすっ」バシッ
姫「あうっ……。はい、がんばります」
薬師「普通の嫁入りなら家事の練習もいるんだろうけど、王族となるとそんなこと学ぶ必要はないもんね」
姫「ええ……。刃物はフォーク以外、持ったことがありません」
薬師「フォークより重いものも持ったことないんじゃない?」
—村—
戦士「今日は満月……か。狼男に襲われたりしないかしら。胸板のあつーい、狼男に」
剣士「部屋に戻ったらどうだ?」
戦士「結構よ。お月様見てると、時間を忘れるし」
剣士「姫様なら彼女がついている。心配はない」
戦士「あの小娘か……。あたしは信頼してないから、そういうことをされると困るのよねぇ」
剣士「お前……。スパイ活動している癖によくいうな」
戦士「でも、坊やは分かってるからいいの」
剣士「……」
戦士「どうして私が勧誘されたことを話したか。そして、どうしてのこのこつきてきたのか。坊やは全部分かってるでしょう? うふっ」
剣士「……さぁな」
戦士「ダメよ。あたしは坊やと一緒に仕事ができるから、こうしてついてきたのよ? それぐらいわかるでしょ?」
剣士「ああ。それは分かってる。なら、どうして誘いに乗ったんだ? お前は解雇されていたかもしれないのに。いや、そもそもこの護衛任務が始まる前に終わっていたかもしれない」
戦士「この話を姫様の前でしないのは、どうして?」
剣士「質問に答えてくれ」
戦士「詳しいことは依頼人のこともあるし言えないけど、別に姫様をどうにかしようとか考えてないから大丈夫よ?」
剣士「それを信じていいんだな?」
戦士「信じられるから、坊やはここにいるんでしょ? うふふ……」
剣士「俺は姫様の傍にいる口実を潰したくないだけだ」
戦士「あら、そうなの。残念だわ」
剣士「……」
戦士「怖い顔しないで。怪しまれるのは当然だけどぉ」
剣士「なら、言えよ。敵なら敵でいい。俺は安心して姫様の傍にいたい」
戦士「この状況はもう想定外なのよ」
剣士「それは……」
戦士「あたしはあたしの仕事をするだけ。だから、怪しんでくれて結構よ」
剣士「そうか。やっぱり、お前の依頼人は……」
戦士「それはないしょ。——お言葉に甘えて部屋に戻るわ。ああ、あたしの部屋にきてくれたら、可愛がってあげるけどぉ?」
剣士「早くいけ」
剣士(となると、旅は中止にしたほうがよさそうだが……。果たして俺達がこの任から降りたからといって、姫様の嫁入りまでもが中止になるとは思えない……)
—宿 寝室—
姫「今日はありがとうございました」
薬師「いいって。僕も楽しかったし。さてと、明日も早いしもう寝よっか?」
姫「そうですね……」
薬師「……」
姫「あ、あの……なんでしょうか……?」
薬師「ああ、いや。どうして姫様はあの筋肉ゴリラを認めたのかなって思って。だって、スパイなんだよ?」
姫「え? あ、その……。私と旅をするのが楽しみだって言ってましたし……。それに私の行動を報告してお金を貰っているようなので、もし旅を断ったら困るはずですし」
薬師「姫様、そんなこと考えてたんだ。でも、自分の身が危ないかもしれないじゃん? それは考慮したの?」
姫「私に危害を加えるつもりなら、きっとスパイだ。なんて言わないと思いますから」
薬師「そうかな?」
姫「あ、あと、あの人は私を試したんじゃないかって……思ってます……」
薬師「試した? スパイって言っても信じてくれるかどうかってこと?」
姫「はい。あそこで断っていたらきっとがっかりされたと思うので」
薬師「姫様。良いように考えすぎ。いつか危ない男に食われちゃうよ?」
姫「た、たべられるんですか……わたし……?」
薬師「姫様は箱入りだから知らないと思うけど、城の外には可愛い女の子になすぐに食いつく狼ばっかりなんだから」
姫「そ、そんなこと……! だって、みなさん良い人で……」
薬師「お兄さんも姫様の年齢に好かれてる危ない人だし、ゴリラはもう見た目から危険人物じゃん。姫様、信じてると馬鹿を見るからね」
姫「そうなのですか……? 信じられません……」
薬師「僕も今は優しくしてるけど、なんでか分かる?」
姫「それは貴女が優しい人だから、ではないのですか?」
薬師「違うよ。僕は自分の罪を帳消しにしてもらうために、今ここにいるだけ。姫様に優しくしてるのも、嫌われて旅のメンバーから外されたら困るからなんだし」
姫「そう……ですか……」
薬師「つまり、僕は姫様を利用しているだけ。ほら、優しくないでしょ?」
姫「……でも、正直な気持ちを言ってくれたので、私は貴女のことが好きです」
薬師「な……」
姫「旅の途中で貴女を除け者にしたりはしません。絶対に」
薬師「そ、そう……。ありがとう」
姫「いえ……。私にできることは、きっとこういうことだけですから……」
薬師「僕にとっては毒だね、姫様は」
姫「え!? ご、ごめんさない! えっと、もっと悪いことを言えばいいんですか?」
薬師「え? ああ、そうかもね」
姫「こ、この……ばかやろー……」
薬師「あははは。そういうことじゃないけど」
姫「は、はい……」
——コンコン
姫「は、はい? どなたでしょうか?」
剣士『俺です。姫様。お休み前に申し訳ありません』
姫「いえ。まだ眠たくないですから」
剣士『それはいけない。もう眠ったほうが。寝ている間にこそ成長するものですから」
姫「あの、入ってきても構いませんが……」
剣士『え? それは就寝前の姫様を舐めるように見てもいいってことですか?』
姫「舐められるのは困りますが、見る分には……」
剣士『ふぅー!!! 折角ですが、遠慮しておきます。寝間着姿の姫様を前にしては俺がどうなるかわからない。満月ですし』
姫「も、もしかして……。私をたべ……る……とか……?」
剣士『ふぅー!!!! ホォー!!!!」
姫「……!?」ビクッ
剣士『姫様を食べるなんて想像しただけでも、興奮を覚えます』
姫「えぇ……」
剣士『でも、俺はそんな過ちを犯すことはありません。そうなる前に腹を切ります』
姫「切る位なら、食べてください。私のために死ぬことは……」
剣士『フォォォ!!! 姫さまぁ!!! それ以上は言わないでください!!! すぐにでもこのドアをぶち破ってしまいそうです!!!」
姫「ご、ごめんなさい。……それで、あの、お話があるのですか?」
剣士『そこに薬屋がいるでしょう? 用があるのはそちらのほうです』
薬師「だれが薬屋だ」
姫「そ、そうですか……」
薬師「なに? 大事な話なの、お兄さん?」
剣士『相談したいことがある』
薬師「僕は対象外なんでしょ? それとも僕で妥協するの?」
—廊下—
剣士「悪いが俺はロリコンだ。それに初めても少女に捧げると心に誓っている。だが、俺は絶対に少女を悲しませるような真似はしない。故に俺はこのまま童貞を墓まで持っていく」
薬師「……おやすみ」
剣士「待て。俺は自分の信念を語りに来たんじゃない」
薬師「語り始めたのはお兄さんじゃん」
剣士「語りたいのはこの旅についてだ。君はどう思っている?」
薬師「どうって?」
剣士「奴がスパイだと告白したこと。そして、それを許容する姫様を」
薬師「ゴリラに関しては警戒はしても悪意は今のところなさそうだし、お兄さんの言うとおり放置でもいいと思うよ。姫様も同じようなこと言ってたし」
剣士「そうか。では、何故奴がスパイだと打ち明けたか、分かるか?」
薬師「脳筋の考えは理解できないね」
剣士「旅を中止にさせたいという思惑があればどうする?」
薬師「中止? 姫様の嫁入りは魔王復活を阻止するためのものじゃん。どうしてそんなことを……。あ、わかった。お兄さんが変態だから心配した誰かが……」
剣士「その可能性はある。謁見の間では色々紳士的に振舞ってしまったからな。ただ、嫁入り自体を中止にさせたい奴がいるとすればどうする?」
薬師「なにそれ? 姫様のファンかお兄さんみたいな変態がいるってこと? まぁ、居そうだけどさ」
剣士「それか、魔王復活を願う者が姫様サイドにいる……」
薬師「そっちか。といっても魔王がどんなものか知らないし、復活して何が困るのかも良く分かってないけど」
剣士「問題なのはスパイを依頼した奴は姫様をどう思っているかだ」
薬師「それは姫様が大事じゃないの?」
剣士「嫁入りさせたくないなのならそれでもいい。だが、最悪の場合、その者が俺と同様に姫様を本当に愛していたら大変だ」
薬師「なんで?」
剣士「その者が嫁入りを中止させようとしているということはだ。それはこの嫁入りが姫様にとって不幸でしかないと分かってるとも言えるからだ」
薬師「いや、結婚してほしくないだけじゃ……」
剣士「確かに結婚相手となるであろう男には嫉妬の念しかないが、でも姫様にとっての人生であり、姫様がそれを受け入れているのなら、俺たちは応援するだけだ」
薬師「あれ? 知らない誰かとはもう仲間になったの?」
剣士「その同士がだ。わざわざ中止にさせようとこんな手回しをしたというのなら、この旅は姫様にとって悲しい結末が待っているのかもしれない」
薬師「例えば?」
剣士「相手がド変態ロリコンとかあるだろ?」
薬師「……おやすみ」
剣士「寝るのか。分かった。また明日な」
—寝室—
姫「お話ってなんでしたか?」
薬師「大したことじゃないよ。お兄さんが姫様の結婚相手を心配してたってだけ」
姫「そんなことまで……。——あの!!」
剣士『なんですか?』
姫「私の心配をしてくれてありがとうございます。でも、気にしないでください」
剣士『どういうことですか?』
姫「私は貴方達にご迷惑しかかけることができません。ですから、未来のことまでは気にしないでください……。私が辛いだけですから」
薬師「姫様……」
剣士『なるほど。やはり姫様は将来の相手についてもご納得されていると』
姫「……はい」
剣士『分かりました。では、何も心配いたしません。失礼しました』
姫「いえ……」
薬師「……」
姫「あ、では、もう寝ましょう。今日は本当にご苦労様でした」
—翌日 村—
戦士「んー、良い朝ねぇ。姫様ぁ、ゆっくり眠れたかしらぁ?」
姫「は、はい。添い寝してもらったので……」
戦士「あら! そうなの? なら、今晩はあたしが添い寝してあげるわ」
姫「ど、どうぞ、よろしくおねがいします……」
剣士「俺がそんなことをさせると思っているのか?」
戦士「こっちだって欲求不満なのよぉ?」
剣士「だからだ」
姫(私、食べられちゃうのかなぁ……。でも、そのほうが……)
薬師「おーい。お待たせー」
剣士「遅かったな。どうした?」
薬師「食糧の調達じゃん。今日中に次の町は厳しいだろうし」
戦士「小娘の癖に気が利くわね」
薬師「ゴリラよりはね」
姫「あ、あの……喧嘩は……」オロオロ
—街道—
戦士「……」
薬師「……」
剣士「姫様は可愛いですね」
姫「い、いえ、そんな……。子どもですから」
剣士「それがいいんですよ。姫様がこのまま成人してしまえばいいのに。時間とは残酷だ」
姫「はぁ……ごめんなさい……。あの、ところで……あのお二人は、あまり仲が良くないようですが……」
剣士「以前に色々とあったみたいですよ。裏世界の重鎮とチンピラですからね」
姫「そうですか……」
剣士「姫様から何か言ってあげれば仲良くなるかもしれませんよ。子は鎹なんて言いますし」
姫「意味が違うと思いますが……」
剣士「それに仲良くなる必要もないでしょうし」
姫「……そうですね」
剣士「はい。俺と姫様が仲良しならそれでいいではないですか」
姫「それもそう……ですか?」
薬師「お。いい感じの薬草はっけーん」
戦士「小娘はお気楽ねぇ」
薬師「なに?」
戦士「町の外は危険がいっぱいなのよぉ? あたしが説明したでしょ?」
薬師「こっちだって伊達に綱渡りの人生だったんだから、多少の危険は承知の上だけど?」
戦士「あらそう? だったら、助けなくてもいいってことね?」
薬師「いいんじゃないの? 僕たちの役目は姫様の護衛なんだし」
戦士「確かに、ね」
薬師「ふん」
剣士「姫様は本当に可愛いですね……。何時間見ていても新しい発見が常にある」
姫「あ、あの、きちんと前を向いて歩いたほうがいいですよ?」
剣士「何を仰いますか。前を向いても姫様はいない。姫様は今、俺の隣を歩いているではないですか」
姫「……わかりました。私が先頭を歩けばいいんですね」
剣士「それはいけません。襲われた場合、先頭の者が最も被害を受けやすいのですから」
姫「でも、このままでは貴方が前を向いてくれませんし……」
>>78
薬師「こっちだって伊達に綱渡りの人生だったんだから、多少の危険は承知の上だけど?」
↓
薬師「こっちだって伊達に綱渡りの人生送ってきてないんだから、多少の危険は承知の上だけど?」
薬師「いやー、大量大量。いい感じだね」
姫「薬草ですか?」
薬師「見る? はい、これなーんだ」
姫「えーと……んー……これは……」
薬師「はい。時間切れ。これは解熱薬になる薬草ね」
姫「そうなのですか。勉強になります」
薬師「こんなこと覚えても意味ないと思うけど」
姫「そんなこと……」
戦士「もう、歩くの疲れちゃったわ。抱いてくれない?」
剣士「寄るな。穢れる」
戦士「いけず」
剣士「定時かは知らないが報告はいいのか?」
戦士「そうね。休憩になったら報告しておくわ。今度はあたしの愛の念波を飛ばして」
剣士「そうか。そんな特技があったのか。俺には飛ばさないでくれ。姫様の念波しか受け付けないようになってるけどな」
戦士「うふふ。う、そ。でも、そんな便利な魔法でもあればねえ」
—夕暮れ—
戦士「今日はここまでにしておきましょうか? 姫様も疲れたでしょう?」
姫「い、いえ……」
薬師「ほら、男は野営の準備して」
剣士「君は何をするつもりなんだ?」
薬師「姫様と一緒に夕食作りに決まってるじゃん」
剣士「なに!?」
戦士「あら、そんな女らしいこともできるのね」
薬師「ゴリラと一緒にするな」
剣士「おい、姫様と一緒に作るのか? 姫様が手料理を?」
姫「食材を切るだけ……」
剣士「ふぅ……」
姫(あれ、叫ばない……)
剣士「ふぅー!!!!」
姫「きゃっ!?」
薬師「いちいち叫ばないでほしいよね。姫様、切れたら鍋に入れてね」
姫「は、はい。いえ、確かにびっくりしますけど、迷惑ってわけでもないので……」
薬師「優しいんだ、姫様は」
姫「優しいんですか?」
薬師「寛容だもん。優しいじゃん」
姫「よく分かりません……」
薬師「……」
剣士「姫様の手料理……。姫様が触った食材が俺の中に入る……。これはもう……童貞を卒業したと言っても……」
戦士「ないから。気持ち悪いわよ?」
剣士「……何人だ?」
戦士「さぁ……。経験人数は数え切れないわねぇ」
剣士「冗談を言っている場合か」
戦士「野営をする旅人なんていいカモだもの。仕方ないわね……」
剣士「何時来ると思う?」
戦士「もう少し時間はあるんじゃない? まずはご飯を食べなきゃね」
—夜—
姫「ど、どうぞ」
剣士「家宝にします」
姫「腐りますから食べてください」
剣士「では、いただきます。うまい」
姫「食べてないじゃないですか」
剣士「もう見た目が美味しいってことです」
姫「でも、切った野菜とか大きさが全然違いますし……」
剣士「いやぁ、美味い」
姫「だ、だから、食べてくださいっ」
戦士「食べ難いわねぇ。まぁ、姫様の手料理なんて一般市民にとっては至高の一品とも言えるけどね」
薬師「味付けは僕。姫様は食材を切っただけ」
戦士「味はまぁまぁね。薬の調合で慣れてるの?」
薬師「まぁね。ゴリラには真似出来ないでしょ?」
戦士「小娘。いい加減、ゴリラはやめてくれない? 怒るわよ? あたし、怒ると怖いわよ?」
姫「そろそろ、寝ますか?」
薬師「僕は薬の調合をしたいからもう少し起きてるよ」
戦士「あたしは、夜空を眺めてから寝るわ」
剣士「俺は姫様の寝顔をたっぷりと観賞してから床につきます」
姫「ね、寝顔ですか……」
薬師「お兄さん、姫様困ってるから」
剣士「やや、それは失礼いたしました。では、寝顔観賞は我慢します」
姫「い、いえ、別に寝顔を見るぐらいでしたら……」
剣士「姫様……。本当にいいのですね? 穴が開くほど見ますけど」
姫「できれば、私が起きないようにしてください。目を覚まして貴方の顔があったら、少し驚くと思うので……」
剣士「了解しました」
薬師「姫様、甘やかしちゃ駄目だって」
姫「見られて困るものではないですし」
薬師「普通は恥ずかしいと思うけど」
姫「そうですか?」
姫「それでは、おやすみなさい」
剣士「はい。いい夢を」
戦士「おやすー」
薬師「んー。それじゃあ、調合するから邪魔だけはしないでね。邪魔したら、爆薬を口の中にねじ込んでやるから」
剣士「そんなことはしない。君の邪魔をするなら姫様との妄想デートを楽しむほうが時間の有効活用となろう」
薬師「それはそれで腹立つけど。まぁいいか」
戦士「せいぜい、変な男にちょっかいかけられないように、ね?」
薬師「ゴリラに言われたくない」
戦士「殺すわよ?」
剣士「まぁまぁ。それよりも、だ」
戦士「分かってるわよ。こっちは坊やに任せていいわけ?」
剣士「行ってくれるのか?」
戦士「素敵な男が居れば、食べちゃおうと思って。もうね、体が疼いちゃって、疼いちゃって。うふっ」
剣士「早く行って来い」
戦士「はぁい。いってきまぁす」
剣士「……来たか」
夜盗「——独りだけになるとは、無用心だなぁ」
剣士「こんばんは」
夜盗「食糧と有り金全部置いていきな」
「へへ。売れそうな女もいるみたいだけどな」
「売る前に俺たちで頂いちまおうぜ、なぁ?」
夜盗「ふん。頭領には内緒だぞ?」
「分かってるって」
剣士「……誰のことを言っている?」
夜盗「両方だ。知ってるか? メスガキは変態に高値で売れるんだぜ?」
剣士「なるほど。姫様を狙っているというわけか」
夜盗「姫様? ふぅん……。こりゃあ、金の匂いが一気に強くなったな」
「もしかして金の成る木を見つけちゃったか?」
「うっひょー。サイコーじゃねえか」
剣士「……」
夜盗「大人しく差し出せば命だけは勘弁してやるぜ?」
剣士「10歳にも満たない女の子が売られてしまった場合、どうなるか知っているか?」
夜盗「あ?」
剣士「奴隷となり、こき使われる。それはまだ良い方だ。最悪の主に引き取られたとき、彼女たちは文字通り身を削る思いで生きていかなければならない」
夜盗「何言ってやがる?」
剣士「生きる気力を失い。希望を失い。毎日、ケダモノにその身を捧げ、考えることをやめてしまう。その先に待っているのは絶望だけ」
夜盗「おい。んなことはどうでもいいんだよ。さっさとよこしな。切り殺されてぇのか?」
剣士「少女たちは自らの不運を呪い、来世に望みを抱き、身を投げることになるかもしれない」
夜盗「きいてんのか!!」
「もうやっちまおうぜ」
剣士「お前たちは、それでも幼き天使を地獄へ導くというのだな?」
夜盗「かまわねえ、やっちまえ!!」
「おぉぉぉ!!!」
剣士「そうか……。穢れ無き少女たちを愛しむ心がないのか。可哀相に……」
剣士「——貴様らは人間じゃない!!! 覚悟しろぉぉ!!!」
姫「……ん?」
姫(なんだろう……。なんかうるさい……)
薬師「——姫様。起きちゃった?」
姫「あ。は、はい……。何かあったんですか?」
薬師「夜盗に襲われたみたい」
姫「夜盗さんに? あの……」
薬師「外、見てみる?」
姫「は、はい……」
薬師「ほら、こっちこっち」
姫「……」ソーッ
剣士「——天使の涙を食い物にするような奴に生を謳歌する資格なし!!!!」
夜盗「ぐぅ!?」
「こいつ、なんだぁ!? めちゃくちゃつええぞ!!」
剣士「くたばれぇぇ!!!! 外道どもがぁぁぁ!!!! これは!!!! 今まで苦渋を味わってきた!!! 幼き少女たちの分だぁ!!!!」
夜盗「こいつ!! 頭おかしいぞ!!!」
剣士「せぇぇい!!!!」ザンッ!!!
「ギャァ!!!」
夜盗「な……。独りで……」
剣士「……次はお前だ」
夜盗「わ、悪かった!! 見逃してくれ!! な!?」
剣士「問答無用だ!!」
夜盗「うわぁぁぁ!!!!」
剣士「チェぇぇぇストぉ!!!」ザンッ!!!
夜盗「ぐぁぁぁ——!?」
剣士「——これは、今まで変態に貪られてきた少女たちの分だ。下衆が」
姫「……」
薬師「さ、姫様。テントの中に入って」
姫「い、いえ……。今日は眠れそうにありません……」
薬師「まぁ、仕方ないか。なら、眠たくなるまで僕が添い寝しててあげるよ」
姫「……ご、ごめんなさい……」
薬師「怖くなった?」
姫「そういうわけでは……。お父さ……王からはよく民の死には慣れておけと言われていましたから……」
薬師「そう。斬った斬られたを見るのは平気なんだ。箱入り娘にしては立派だけど、歳相応とは言えないね」
姫「ごめんなさい……」
薬師「いや、責めてるわけじゃないけど」
姫「私はやっぱりあの人たちに守られているんですね。私だけが安全な場所にして、あの人たちは危険な目に……」
薬師「それが仕事だし。あの程度の奴らなら心配するほうが損だよ。お兄さんもゴリラもそこいらの盗賊に負けたりしないし。万が一、怪我しても僕がいるしね」
姫「……そうですね。あの、怪我をされていては大変ですから看てきてあげてください」
薬師「明日でいいよ」
姫「だ、だめです。もし傷口にばい菌が入って化膿したらどうするんですか?」
薬師「へえ」
姫「あ、いえ、ごめんなさい。貴女がいいと判断したのなら……それで……」
薬師「……ちょっと看てくる。あんなのでも一応、仲間だし。こういうときに役に立つから、いつでも万全で居てほしいし」
姫「あ……ありがとうございます……」
薬師「これが僕の役割でもあるからね」
剣士「怪我?」
薬師「してるんじゃない? 今なら無料で治療薬譲ってあげるけど」
剣士「断る。姫様以外から治療などされたくない」
薬師「誰が治療してあげるって言った?」
戦士「——楽しそうね。何をはなしてるのぉ?」
剣士「そちらはどうだった?」
戦士「ぜーんぜん、ダメ。もっと活きがいい男はいないかしらね。あ、坊やは勿論、活きがいい男に入ってるから安心して」
薬師「二人とも怪我はないの?」
剣士「掠り傷だ」
戦士「あたしも。でも、傷薬をくれるなら、もらうわよぉ?」
薬師「はい。頑張った報酬」ポイッ
戦士「ありがと。意外と可愛いところもあるじゃない。見直したわ」
薬師「それはどうも。それより、こいつらはどうするの?」
夜盗「うぅ……ぅ……」
剣士「ここに拘束しておいて、明日到着予定の町にいる衛兵に頼んで引っ張ってもらうのが一番だろう」
—翌日—
戦士「それじゃあ、あたしが見張りしておくからぁ、兵士さんを連れて来てねぇ。ああ、顔のイイ兵士ならあたしが嬉しいわぁ」
薬師「何いってんだか」
剣士「では、行きましょうか」
姫「は、はい。あの、本当にお任せてしても宜しいのですか?」
戦士「いーから、行って来なさい」
姫「しかし、貴方はスパイじゃ……」
薬師「そうだね。このまま置いて行っちゃうかもしれないけど?」
戦士「それは困るわね。あたしだって、姫様とはもっと、もぉーっと、仲良くしたいんだからぁ。絶対に戻ってきてよね」
姫「信頼してくれているのですね。ありがとうございます」
剣士「寄るな。獣め」
薬師「どっちもどっちだと思うけど」
戦士「日が暮れる前に戻ってきてくれると嬉しいわね。おねがいっ。ふふ」
姫「で、では、急ぎましょう」
剣士「姫様との時間を大切したいのに急がなくてはならないとは……。あぁ、なんて不幸なんだ……」
薬師「それにしても、あのボスゴリラは何考えてるんだろうね」
姫「え?」
薬師「スパイだって告白したり、ああやって勝手に僕たちから離れたりさ。不思議じゃん?」
姫「まぁ、あの人なりの考えはあると思いますし……」
薬師「どーでもいいけど、こっちに迷惑だけはかけないで欲しいね。僕だって目的があってのことだし」
剣士「……」
姫「どうか、しましたか?」
剣士「え? ああ、いえ。姫様の肌は本当に艶が良さそうだなぁと思って、見惚れていました」
姫「はぁ……」
薬師「姫様の肌は本当にスベスベだもんねぇ」スリスリ
姫「あの……」
薬師「いつまでも触っていたいぐらいだよぉー」ギュゥゥ
姫「むぅぅ……」
薬師「羨ましい?」
剣士「……ロリコンたるもの、少女に触れるべからず。最後まで視姦すべし。これが絶対にして基本となる鉄則だ」
—街—
剣士「では、駐在の兵士と話をしてきます。あちらの広場で待っていてください」
姫「分かりました。行ってらっしゃいませ」
剣士「……ご主人様と付け加えてもらえますか?」
姫「え? い、行ってらっしゃいませ、ご主人様」
剣士「ふぅー!!!!! いってきまっーす!!!!」ダダダダッ
姫「あの、気をつけてくださいねー」
「なんだこいつ!?」
剣士「烏合の衆目め!! 邪魔だ!!! 今の俺は誰にも止められないんだぜー!!!」
「誰かー!! 兵士をよべー!! こいつ目がいってるぞー!!!」
薬師「なんだ、あれ。気持ち悪い」
姫「良い人だと思いますけど」
薬師「それより、街を見学しない? 折角きたんだし」
姫「ですが、待っておいてほしいと……」
薬師「どうせ、すぐには戻ってこないし、少しだけ」
>>107
剣士「烏合の衆目め!! 邪魔だ!!! 今の俺は誰にも止められないんだぜー!!!」
↓
剣士「烏合の衆め!! 邪魔だ!!! 今の俺は誰にも止められないんだぜー!!!」
—商店通り—
薬師「おばちゃん、この薬草ってどこで採れるの?」
「それはねー、海岸線にある——」
姫(本当に植物のことが好きなんだ……)
姫(好きなことがあるって、きっと楽しいんだろうな)
修道女「お嬢さん」
姫「は、はい?」
修道女「可愛いですね。何歳?」
姫「え、えっと……8歳ですけど……」
修道女「そう。買い物?」
姫「ええ、そうです。あの、なにか?」
修道女「ああ、ごめんなさい。これを配っているところだったの。どうぞ」
姫「これは……?」
修道女「この街にとても高名な司祭様がこられるの。時間があれば是非、教会のほうまで足を運んでね」
姫「わ、わかりました」
薬師「おまたせー」
姫「……」
薬師「どうしたの?」
姫「あ、これをシスターさんから頂いて」
薬師「なにこれ。宗教の勧誘じゃん。捨てたほうがいいよ。こんなのろくなモンじゃないし」
姫「そうですか?」
薬師「うん。みーんな神だの救いだのいって、胡散臭いったらないし」
姫「そうなんですか……」
薬師「それより、そろそろ広場のほうに行っておかないとね」
姫「そ、そうですね。あ、でも……」
薬師「なに?」
姫「約束してしまいました。時間があれば教会まで来て欲しいと言われて、思わず……はいって、言ってしまって……」
薬師「破っていいよ。そんな口約束。いい? 世の中には社交辞令ってものがあるんだよ」
姫「社交辞令ですか」
薬師「相手を気遣うためなら、その場で軽い嘘ぐらいついてもいいんだよ。これはその類だからね」
—広場—
剣士「——連れが来た」
駐在兵「あの二人が。まだ未成年みたいだが、本当にお前が護衛をしているのか?」
剣士「疑り深い奴だな。いいか? 俺は少女には決して手を出さない。何度言えばわかる」
姫「おまたせしました」
薬師「なんだ、早かったんだ」
剣士「姫様からも何か言ってください」
姫「なにか?」
剣士「このわからず屋は、俺のことを誘拐犯か何かと勘違いしているようでして」
姫「えぇ!?」
駐在兵「そりゃあね、その辺りにいる女児を見る目がどうしても常人とは思えないものだったし」
薬師「まぁ、不審者だよね」
剣士「姫様。この迂闊者に説明してやってもらえませんか?」
姫「そ、そうですね。がんばります」
薬師「信じてもらえないんじゃないの?」
—街道—
姫「なんとか信じてもらえたみたいで良かったですね」
剣士「全くです。ですがあの野郎、まだ俺のことを睨んでいる。失礼な奴だ」
姫「え?」
駐在兵「……」
姫「本当ですね……」
薬師「傍から見れば危ないお兄さんだもん。事情を知らなきゃ疑って当然だよ」
姫「疑われてしまうのは不本意ですが、私たちのことを外部の人間に語るわけにはいきませんし」
剣士「いいんですよ、姫様。俺のことを姫様が信じてくれていれば、それだけで感涙できます」
姫「そうなのですか?」
剣士「ええ。姫様、こんな俺を信じてくれますか?」
姫「もちろんですっ」
剣士「うぉぉぉぉぉぉぉん!!!!! 感涙だぁぁぁ!!!!」
姫「ひぇ!?」ビクッ
駐在兵「……やはり……」
戦士「お、きたきたぁ」
姫「お待たせしてしまってごめんなさい」
戦士「いいのよぉ」
駐在兵「この男たちに襲われたのか?」
夜盗「けっ……」
剣士「ああ。人数が多いから、街まで連れてはいけなかった。ここで引き取ってもらえると助かる」
駐在兵「分かった。いいだろう。街にいる者と連絡をとって応援を呼ぶ。あとは任せてくれ」
姫「よろしくお願いします」
駐在兵「はい」
薬師「あー、やっとお使いがおわったー。さっさと街にもどろー」
戦士「あたしも、つかれちゃったわぁ。美味しいご飯たべたぁーい」
剣士「そうだな。早く戻ろう。姫様もお疲れでしょう?」
姫「いえ、そんなことは……」
剣士「無理は禁物ですよ、姫様」
姫「ど、どうも」
—街 宿—
姫「今日も朝まで見張りを?」
剣士「これが使命ですから」
姫「ですが、少しぐらいお休みにならないと、お体に障るかと……」
剣士「俺の体の心配をしてくれているのですか?」
姫「もちろ——」
剣士「ふぅぅー!!!!」
姫「あ、あの、静かにしてください」
剣士「これはこれは。申し訳ありません。姫様が俺の体に興味があると思うと、ついついボルテージが最高潮に」
姫「いえ、興味があるのは体調のほうですが……」
剣士「同じですよ」
姫「違うと思います。それはそうと、他のお二人は?」
剣士「さぁ、興味はありません」
姫「そうですか……」
剣士「何か気になることでもあるのですか?」
姫「いえ、大したことでは……」
剣士「姫様のことは俺にとってはどんなことでも大事です。そう、例えば、ソックスに左右があるのかどうかとかでも!!!」
姫「あるんですか?」
剣士「基本的に無いです」
姫「よかったぁ……。もし間違えていたら恥ずかしいですから。あ、いえ、そんな話ではなくて、これなんですが」
剣士「これは……。司祭の講演が教会であるみたいですね」
姫「シスターさんに時間があれば来て欲しいといわれたのですが……」
剣士「行ってみたいということですか」
姫「は、はい。こういうのは全く聞いたことがないので」
剣士「宗教家の話なんて何の益もないと思いますが」
姫「あ、いえ、無理にってことは……」
剣士「……行きましょう。明日になりますが」
姫「いいんですか?」
剣士「勿論です」
姫「あ、ありがとうございます。ごめんなさい、我侭を言ってしまって……」
剣士「構いませんよ。姫様が行きたいのなら、行きましょう。そしてこの任務をどんどん遅延さえちゃえばいい」
姫「それは困るのですが」
剣士「そろそろお休みになってください。俺が扉の前にいますから、何かあれば声をかけてください」
姫「わかりました。それでは、おやすみなさい」
剣士「……ご主人様と付け加えてください」
姫「お、おやすみなさい、ご主人様」
剣士「ふぅー!!!!!」
姫「……っ」ビクッ
剣士「……」
姫「……失礼します」
剣士「はい」
姫(まだ慣れないな……)
——バタンッ
剣士「……ふむ」
剣士(教会か……)
—翌日—
薬師「教会に行くの?」
剣士「姫様たっての希望だ」
戦士「あたしは別にいいけどぉ? それって良い男なんでしょうねえ?」
剣士「これに司祭の写真が載っている」
戦士「どれどれぇ? おぉっ。割と良い感じじゃない。このヒゲがいいわねぇ」
薬師「やめようよ。何の得もないって」
剣士「姫様は後学のためにこういうイベントも見ておきたいんだろ」
薬師「そうはいっても……」
姫「あ、あの……。嫌でしたら……」
剣士「来なくていいぞ」
姫「そ、そうではなくて」
薬師「そう? なら、僕は薬草採取で時間潰しとくから。ここで合流しようか」
姫「えぇ!?」
剣士「そうか。気をつけてくれ」
—教会前—
姫「あの、私は別に……」
戦士「いいじゃない、姫様。あの小娘は小娘でやりたいことするって言ってたんだし、気にしなくてもね」
姫「申し訳ありません……」
戦士「謝らなくていいってばぁ」
剣士「おい、触るな」
戦士「触ってないでしょう? もう」
剣士「貴様が近づくだけで姫様が汚れてしまう」
戦士「酷いわぁ」
姫「……」
姫(やっぱり、私は3人に迷惑を……)
姫「あ、あの、やっぱり、ここは——」
修道女「あら、お嬢さん。来てくれたの? どうぞ、入って。もうすぐ始まるわ」
姫「あ、はい……」
剣士「悟りを啓いて少女に興味がなくなったりしないだろうな……」
姫「なんだか、緊張しますね……」ドキドキ
戦士「割と信者が多いのね。どうやら、良い男はいないみたいだけど」
剣士「……」
「来たぞ、司祭様だ」
司祭「よく集まってくださいましたね、皆さん。今日は皆さんにお伝えしたいことがありまして、こうして貴重な時間を頂こうと思い立ちました」
司祭「この教会によく来られている同志の方々はご存知であると思いますが、近年では魔王の復活が囁かれています」
姫「え……」
剣士「魔王?」
司祭「魔王とは魔を操る悪魔の王。世界を混沌に導く者なのです。かつて勇者と呼ばれる者たちがそれを封じ込めました」
司祭「ですが、それも完璧ではなかったわけです。封印は解かれつつある。勇者の血も薄まり、その血族ももはや当てにはならない」
司祭「魔王を再び封印できるのは、そう、我等の神だけなのです」
戦士「うーん。良い男ねぇ。入信しちゃおうかしらぁ」
司祭「神の力を得るためには皆さんの信じる魂が必要なのです。これから話す神の逸話は創作ではなく、史実なのです」
剣士「……」
姫「神……」
司祭「——以上です。ご清聴、ありがとうございました」
パチパチパチ……
戦士「良い話ねぇ。世界を救うために命を投げ出した若者が神になった、なんてぇ」パチパチパチ
剣士「なるほど……」
姫「どうかしたんですか?」
剣士「姫様、俺は神なのかもしれません」
姫「ど、どういうことですか!?」
剣士「俺は貴女のためなら命を投げ出すこともできるのですから」
姫「はぁ……」
剣士「そう。女神と神がここで一つになるのです。体が一つなるとか卑猥なことではなく、それは魂の融合ともいえるもの」
姫「た、たましいですか……?」
剣士「ふぅぅー!!!!」
姫「ひぇ!?」ビクッ
「——あいつで間違いないな?」
「ああ」
—教会前—
修道女「また来てね、お嬢さん」
姫「はい。良い話が聞けて、勉強になりました」
修道女「そう。なら、いつでも来るといいわ。きっとお嬢さんにも神は微笑んでくれるはずだから」
姫「は、はい」
剣士「神は俺だー!!」
姫「ち、ちがいます!!」
修道女「ふふ、面白い人ですね。貴方もどうですか?」
剣士「残念ながら、俺には女神がついている。宗派を変えるつもりは微塵もない」
修道女「そうですか……。でも、その女神では世界を救うことはできないかもしれませんよ?」
剣士「俺のことは救ってくれる」
修道女「……」
戦士「もういくわよぉ」
姫「し、失礼しました」
修道女「神のご加護があらんことを」
—広場—
戦士「だめよぉ。ああいう輩は違う神を引き合いに出されたら、不機嫌になっちゃうんだから」
剣士「しかし事実だ。それに宗教家の殆どは金儲けのことしか考えてないとも聞くが?」
戦士「それはもっと上の連中だけね。私利私欲で動いてるのは司祭とかそういう奴らよ」
姫「え!? あ、あの人が、ですか!?」
剣士「みたいですね」
姫「信じられません……」
戦士「神だの魔王だの言うやつは往々にしてそんなもんよ。さてと、あとは小娘を回収して出発しましょうか」
剣士「そうだな。今日中に港街にはついておきたいし」
姫「もうすぐ船に乗るんですね」
戦士「船に乗っちゃえば姫様の旦那様がいる国につくわぁ。そうなればあと一息ってところね」
姫「そうですね」
剣士「では——」
駐在兵「ああ、いたいた。探したぞ」
剣士「ん? なんだ?」
駐在兵「捕まえた夜盗のことで訊きたいことがあるんだ。少し来てくれるか?」
戦士「あらぁ、何を訊きたいのぉ? あたしの性感帯とかぁ?」
駐在兵「ち、違う! とにかく、来てくれ」
剣士「……悪いが先を急いでいる」
駐在兵「そうはいかない」
戦士「そうなのぉ? 指名料はたかいわよ、あたし」
姫「あ、あの、ここでは訊けないことなのですか?」
駐在兵「悪いがね。何せ、貴女の素性についてですから」
姫「……!」
剣士「ならば仕方ないな。俺は護衛としての役目を全うさせてもらう」
駐在兵「大人しくしてもらうぞ」
戦士「待ちなさい。ここは姫様の領地でもあるのよぉ? あんた、何をするつもりなのぉ?」
駐在兵「残念だが、私はこの国に仕える者ではない」
戦士「あたしと同業ってこと?」
剣士(間諜か……)
駐在兵「元々、ここで国の動向を探る役目を担っていた。私が手にした情報とは違う事態が発生しているようだからな」
剣士「狙いはなんだ?」
駐在兵「そちらの姫君の身柄だ」
姫「ひっ……」
剣士「なるほど、なるほど。変態め。今すぐ、失せろ」
駐在兵「これからはもう少し上手く変装するべきだな。そのように気品に満ちた平民はいない」
剣士「変態から褒められていますよ」
姫「変態さん、ありがとうございます」
駐在兵「私は変態ではない!!! さぁ!!! 姫君をこちらに渡せ!!」
戦士「理由はあるのかしら?」
駐在兵「世界を救うためだといえば、信じるか?」
姫「世界……」
剣士「俺が信じるのは姫様の言葉だけだ。姫様、どうしますか?」
姫「わ、わたしは……あの……」
駐在兵「とにかくこちらに身柄を渡せ。悪いようにはしない」
戦士「悪いようにしてくれないと、燃えないじゃない?」
駐在兵「な、に……」
剣士「姫様、逃げますか? それとも奴に身柄を捧げますか?」
姫「……あ、あの……」
剣士「決めてください。俺は貴女に従います」
姫「……逃げましょう」
剣士「わかりましたぁぁぁ!!! こっちです!!!」ダダダッ
姫「えぇ!? ま、まってください!!」
戦士「こらぁ。逃げるなら、抱えてあげなさいよぉ」
剣士「しかし!! 鉄の掟がぁ!!!」
戦士「姫様の命令を遂行できないのよ? いいわけぇ?」
剣士「……姫様、失礼します!!」ヒョイッ
姫「きゃぁ!?」
剣士「俺は……俺は……ロリコン失格だぁぁぁぁ!!!!」ダダダッ
姫「……」ギュッ
駐在兵「待て!!」
戦士「あたしをこらしめてから追ってくれるぅ?」
駐在兵「貴様……」
戦士「あと、どうして姫様が必要なのかいってねぇ」
駐在兵「世界を救うためだと言っている」
戦士「魔王の復活となんか関係でもあるわけぇ?」
駐在兵「私はそう言われているだけだ。王からな」
戦士「王様にぃ? それはこっちの王じゃないわよねぇ」
駐在兵「当然だ」
戦士「そう。それだけで十分だわ。さてと、どうやって、あたしを苛めてくれるのかしらぁ?」
駐在兵「私の足止めをしても無駄だ。他にも仲間がいるからな」
戦士「あら、そう。たいへんね」
駐在兵「お前にも色々と訊きたいことがある。大人しくしてもらうぞ」
戦士「無理ね。あたし、激しいほうが大好きだからぁ」
駐在兵「何をふざけたことを!!!」
—裏通り—
剣士「この辺でいいでしょう」
姫「あの、大丈夫ですか?」
剣士「もう俺は死ぬしかないでしょう……。触ってしまった……。柔らかかった……」
姫「そうではなくて、疲れてないですか? 私を抱えて走りましたから……」
剣士「姫様のお尻とかが……とくに……」
姫(きいてないや……)
「こっちだ!!! いたぞー!!!」
剣士「ちっ。まだいるのか」
姫「逃げましょう」
剣士「はい。それにしてもどうして姫様を狙う? 可愛いからか」ダダダッ
姫「政治的な理由だと思います」
剣士「大国同士が仲良くなると困るとかそういうのですか?」
姫「恐らく……」
剣士「とにかく落ち着ける場所が欲しいな」
—大通り—
薬師「みんなどこに行ったんだろ……。もう講演は終わってるはずなのに……」
薬師「面倒だけど、このまま逃げることはできないし……。探さないと」
ワァァァ……ワァァァ……
薬師「なんだろう。向こうが騒がしいけど——」
剣士「しつこい奴らだ!!! 姫様の表面的可愛さしか理解していない分際で追い掛け回すんじゃない!!!」
姫「うぅ……」ギュゥゥ
剣士「ふぅぅぅー!!!!!」ダダダダッ
薬師「ちょっと、お兄さん! なにしてるの!?」
剣士「これはいいところに。はい」スッ
薬師「え?」
剣士「姫様を抱えて逃げろ。港町で落ち合うぞ」
薬師「何をいきなり」
剣士「行け」
薬師「あとで説明してよ!!」ダダダッ
—広場—
駐在兵「が……!?」
戦士「ふふっ。ダメねえ。もっと強い男が好みなのよね、あたし」
駐在兵「ぐ……ぁ……」
戦士「さよなら」ドゴッ
駐在兵「はっ……!? ずっ……!!」
「お、おい!! 誰か衛兵呼んでこいって!!!」
戦士「騒ぎが大きくなっちゃったわね……」
戦士(とりあえず、行方をくらませないと。この先の行動が制限されちゃうし……)
衛兵「貴様!! 何をしている!!!」
戦士「あらぁ!! いい男じゃなーい!! カモーン」
衛兵「捕らえろ!!!」
戦士「あたしは、追われるより追いたい派だから、ゆるしてね」
衛兵「なにをいって——」
戦士「ふふっ……」
—街道—
姫「……みなさん、大丈夫でしょうか」
薬師「結局、何があったの?」
姫「昨日の兵士さんが私の正体に気がついたみたいで、それで話をしたいって言われて……」
薬師「バレたか……。なら、早いとこ船にのって先を急がないと面倒なことになっちゃうね。ボスゴリラはともかく、お兄さんが来たらすぐに出航しないと」
姫「……」
薬師「心配ないって、あの二人が負けるわけないし」
姫「——やっぱり戻ります」
薬師「事情を話して許してもらおうって思ってる?」
姫「はい。王の勅命を受けているのに、あんまりです」
薬師「信じてくれないと思うなぁ。証明するものがないし」
姫「わ、私がいます」
薬師「でも、危ないって。姫様を誘拐しようとしている奴だっているかもしれないのに」
姫「あの二人が指名手配になってしまったら、出国も難しくなりますし……。ダメですか?」
薬師「あー……まぁ、そうだけど……。仕方ないか……」
このSSまとめへのコメント
はよ
なにこの変態紳士w