< 剣士の家 >
妻「どう、美味しい~?」
剣士「ウマい! 君の料理は最高だよ! 俺は幸せものだ!」モグモグ…
妻「よかったわぁ~」
妻「ところであなた、今日はどんなお仕事なの?」
剣士「西の山にいる山賊団の掃討だよ!」
剣士「ま、いつものように大活躍してみせるから、期待しててくれよ!」
妻「絶対に無理はしないでね? 命が一番大事なんだから……」
剣士「分かってるって!」
剣士「といっても、俺にとって一番大事なのは君だけどな!」
妻「まぁ……あなたったら……」
剣士「じゃ、行ってくるよ!」
妻「いってらっしゃ~い」
妻「絶対無理しちゃダメよ~。私を一人にしちゃイヤよ~」
剣士「もちろんだとも! 君一人残して死ねるもんか!」
剣士「愛してるよぉ~!」
妻「あらもう……いやだ!」ポッ…
剣士「それじゃ、また手柄を立ててくるよ!」
剣士「手柄話、楽しみにしててくれよ!」ザッザッ…
妻「…………」
< 戦士団詰所 >
戦士団とは、国の平和を守るべく設置された治安維持部隊である。
構成メンバーは平民出の戦士であり、それを二名の騎士が統率する。
ワイワイ……
友人「よう」
剣士「おはよう!」
友人「この幸せもんがぁ~、朝っぱらからニヤニヤしやがってぇ」
剣士「やっぱ分かる?」
剣士「今日も妻に、無理はするな、なんていわれちゃったからさ」
剣士「こんなこといわれたら、無理してでも手柄立てたくなっちゃうよな!」
友人「マジぶん殴りてぇ~」
友人「この戦士団ではパッとしなかったお前が」
友人「あんな良家のお嬢さんに惚れられて、即結婚だもんなぁ~」
友人「しかも結婚してからは、やたら手柄を立てるようになったし」
友人「ホント羨ましいったらないぜ」
剣士「妬くな、妬くな」
剣士「お前にもいずれ、いい相手が現れるだろうよ」
剣士「もっとも、その女より俺の女房の方が百倍はいい女だろうけどな!」
友人「マジぶん殴りてぇ~」
ガチャッ…… ガチャッ……
友人「おっと、甲冑の音だ」
友人「騎士サマ二人のお出ましだ!」
黒騎士「おはよう、諸君」
女騎士「全員、揃っているか!?」
「はいっ!」 「はいっ!」 「はいっ!」
女騎士「声が小さい!」
「はいっ!!!」 「はいっ!!!」 「はいっ!!!」
友人「おぉ~……こえぇ女」ボソッ…
友人「でも兜で顔を隠しちゃいるが、あの女騎士、絶対美人だよな」ボソッ…
剣士「だろうな……」
女騎士「キサマら! だれが勝手にしゃべっていいといった!」
友人「す、すみません……!」ビクッ
黒騎士「さて、今日の任務はかねてからの予定通り──」
黒騎士「西の山を根城とする山賊団討伐を行う」
黒騎士「今から女騎士が君たちの役割を振り分けるから」
黒騎士「それに従い、各自行動せよ!」
「はいっ!!!」 「はいっ!!!」 「はいっ!!!」
女騎士「まず、キサマは突撃A班だ。黒騎士殿に従え」
若者「はいっ!」
女騎士「キサマは待機」
新米「はいっ!」
女騎士「キサマは突撃B班だ。私の命に従ってもらう」
金髪「へいっ!」
女騎士「へいじゃないだろう! はい、と答えんか!」
金髪「は、はいっ!」ビシッ
くぅ~疲れましたw これにて完結です!
実は、ネタレスしたら代行の話を持ちかけられたのが始まりでした
本当は話のネタなかったのですが←
ご厚意を無駄にするわけには行かないので流行りのネタで挑んでみた所存ですw
以下、まどか達のみんなへのメッセジをどぞ
まどか「みんな、見てくれてありがとう
ちょっと腹黒なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」
さやか「いやーありがと!
私のかわいさは二十分に伝わったかな?」
マミ「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいわね・・・」
京子「見てくれありがとな!
正直、作中で言った私の気持ちは本当だよ!」
ほむら「・・・ありがと」ファサ
では、
まどか、さやか、マミ、京子、ほむら、俺「皆さんありがとうございました!」
終
まどか、さやか、マミ、京子、ほむら「って、なんで俺くんが!?
改めまして、ありがとうございました!」
本当の本当に終わり
女騎士「──残り二人か」
女騎士「キサマは突撃A班だ」
友人「はいっ!」
女騎士「さて残るキサマは──」
剣士「…………」
女騎士「待機だ」
剣士「え?」
剣士「ちょ、ちょっと待って下さい!」
剣士「俺はこないだも手柄を上げました! 突撃班に入れて下さい!」
ザワザワ……
「そうだよなぁ~」 「剣士さんは突撃班の方が……」 「最近調子いいみたいだし」
女騎士「黙れっ!!!」
シ~ン……
女騎士「キサマが最近手柄を上げているのは、私も知っている」
女騎士「だが、そういう時ほど人間というのは慢心し、大怪我をする」
女騎士「今のキサマはまさにそうなりつつある」
女騎士「よって、待機だ!」
女騎士「分かったな!」
剣士「はい……」
剣士(ふん、そうはいくかってんだ)
黒騎士「…………」
< 西の山 ふもと >
黒騎士「今から山賊団討伐にかかる」
黒騎士「作戦はこうだ」
黒騎士「吾輩が率いる突撃A班が、中腹にある山賊団アジトに正面から突撃」
黒騎士「混戦になったところへ、突撃B班が援軍として加わり一気に掃討する」
黒騎士「待機班は、山のふもとで待機! 指示があるまで絶対に動かないように!」
黒騎士「ふもとで待機しているだけで、十分山賊たちのプレッシャーになるからな」
黒騎士「ではもうまもなく、A班から出撃する!」
友人「あの黒騎士も、ずいぶん変わったよな」
剣士「変わったって?」
友人「ヤツは凄腕だが血の気が多く、栄光ある騎士団には所属せず……」
友人「昔は暗殺みたいな仕事に特化した特殊部隊を、独自に率いてたってハナシだ」
友人「甲冑が黒いのもその名残りだとか」
友人「でも、王国の方針に相応しくないとかで、王によって特殊部隊は解体されて」
友人「今やこんなのんきな民兵組織の長に成り下がった」
友人「ああやってマジメにやってるが、内心じゃ結構ムカついてんじゃないかな」
剣士「ふうん……そうかなぁ」
黒騎士「ではA班出撃する!」
友人「おっと、そろそろ行かなくちゃ」
剣士「気をつけろよ。山賊だからって油断するなよな」
友人「おうよ、結婚するまでは死ねるかってんだ!」
友人「お前はせいぜい待機してる間に、奥さんのためにウソ手柄話を考えとけよ!」
友人「んじゃな!」タタタッ
剣士(そうはいかないんだな)
剣士(女房のためにも、待機なんかしてられっかっての!)
女騎士「時刻だ……」
女騎士「では、突撃B班も出撃する!」
「はいっ!!!」 「はいっ!!!」 「はいっ!!!」
ザッザッザッ……
待機班は、山のふもとに設置されたテントで待つことになる。
新米「ふう……なかなか実戦には加わらせてもらえないなぁ」
新米「それにしても、ボクみたいな新入りならともかく」
新米「剣士さんみたいなエースが待機なんて、さぞかし不満──」
新米「あれ? 剣士さん!?」キョロキョロ
山道を迅速に登っていく、女騎士率いる突撃B班。
女騎士「遅れている者はいないな?」クルッ
金髪「へい、遅れてる人はいないッスけど……」チラッ
剣士「ども」
女騎士「キ、キサマ……いつの間に!?」
金髪「あ、声でかいッスよ」
女騎士「ぐ……!」
女騎士「キサマには待機を命じていただろうが!」
剣士「でも、妻のためにどうしても手柄立てたくて、来ちゃいました」テヘッ
女騎士「まったく……なにを考えている!」
女騎士「……もういい、今さら戻れともいえん」
女騎士「このままB班に加われ」
女騎士「ただしそれ相応の手柄を立てねば、命令違反の重罰は覚悟してもらうぞ」
女騎士「他の団員に示しがつかんからな」
剣士「分かってますって!」
剣士「うおお~……燃えてきた!」
金髪「大丈夫ッスか、剣士さん。重罰とかいわれてますけど……」
剣士「手柄立てりゃいいんだろ? 何とかなるって」
剣士「俺、最近すっごく調子いいの、知ってんだろ?」
金髪「まぁ……そりゃそうッスけど」
女騎士「…………」
< 西の山 中腹 >
黒騎士率いるA班と、山賊団の戦闘が始まっていた。
ワァァァ……! ウォォォ……!
ガキンッ! キンッ! ザンッ! ガッ! ズバッ!
頭領「チッ、まさかこんな白昼堂々攻めてきやがるとは……!」
頭領「なめやがって……全員ぶっ殺せぇっ!」
ザンッ! キンッ! ガキンッ! ズシャッ! ドサッ!
山賊A「うりゃっ!」ブンッ
友人「うおっ!」サッ
友人「独身のまま死ねるかってえの!」シュッ
ドスッ……!
山賊A「うぎゃあ……っ!」ドサッ
友人(さすが、悪名高い山賊団! 数も多いし、ひとりひとりが結構強え!)
友人(でも、あの黒騎士──やっぱりすげえな)
友人(一人でもう10人以上はブッ倒してやがる!)
友人(しかも指示が的確で、こっちは一人もやられてねえ!)
ズパンッ! シュッ! シュバァッ!
黒騎士「……ふう」
黒騎士「敵は混乱している! 一人に対し、二人か三人でかかれ!」バッ
「はいっ!!!」 「はいっ!!!」 「はいっ!!!」
友人(それに……そろそろB班が来る頃だ)
友人(この戦い……勝ったな!)
女騎士「B班到着! 突撃するぞ!」サッ
金髪「へいっ!」ダッ
剣士「よっしゃあ!」ダッ
ワァァァ……!
黒騎士「来たか」
ウォォォ……!
友人「──ってなんで剣士もいやがるんだ!? アイツは待機だろ!?」
ドォォォ……!
頭領「ただでさえ手こずってるってのに……新手だと!? クソがっ!」
友人「なんでお前がここに!?」
剣士「決まってんだろ。どうしても活躍したくってさ」
友人「まったく、とんでもない奴だ……」
剣士「! ──オイ、後ろ!」
山賊B「死ねやっ! ──うっ、目にゴミが!」
友人「おりゃあっ!」
ザンッ!
山賊B「ぐ、へぁ……」ドサッ
剣士「やるじゃねーか!」
友人「ふん、まあな。運がよかったぜ……あぶねぇ、あぶねぇ」
一方、女騎士は山賊の頭領を発見していた。
女騎士(いた!)
女騎士(あれが頭領!)
女騎士「いざ、尋常に勝負!」チャキッ
頭領(この声、女か!?)
頭領「女如きにやられるかよっ!」チャキッ
ギンッ!
キンッ! ガキンッ! キィンッ! キンッ! ガィンッ!
頭領(つ、つええ! この俺が守るので精一杯だと!?)キンッ
頭領(だ、だがこの女……)ギンッ
頭領(さっきから深く切り込んでこねえ!?)キィンッ
頭領(まるで、ずっと剣の打ち合いをしたがってるかのような……?)キンッ
頭領(このアマ……俺のスタミナ切れを狙ってんのか!?)ギィンッ
頭領(だったら力で強引に──)グッ…
頭領「!?」ズキッ…
頭領(ぐ、ヒジに痛みが……! ちぃっ!)
キィンッ! ギンッ! ガキンッ! ギンッ! キィンッ!
頭領(く、くそっ……疲れてきた……!)キンッ
頭領(こうも長時間、激しい打ち合いをやらされちゃあ……)ギンッ
頭領(どこかで切り上げて逃げねえと──)キンッ
頭領(──ん!?)
頭領(攻撃が止まった!)
頭領(今ならこっちに逃げられる!)ダッ
女騎士「……よし」
剣士「ん、お前はまさかボスか!?」
頭領(ゲッ、こっちにもいやがったか!)ゼェゼェ…
剣士「うおりゃあっ!」ビュアッ
頭領(あの女に比べりゃ大した攻撃じゃねえが──こんなヘトヘトじゃ、かわせねえ!)
ズバァッ!
頭領「あ、ぐぅ……」ガクッ
剣士「よっしゃあああああっ!」
剣士「オイみんな、俺が山賊団のボスを仕留めたぞ!」バッ
剣士「俺が仕留めたんだ!」
ワァァ……! ウォォ……!
金髪「すげえッス、剣士さん! 有言実行じゃないッスか!」
友人「アイツ、また大手柄立てやがったな!」
黒騎士「…………」
戦いは、戦士団の快勝に終わった。
黒騎士「皆、よく戦ってくれた」
黒騎士「残念ながら一部を捕え損ねてしまったが──」
黒騎士「山賊団は壊滅したといって差し支えはあるまい」
黒騎士「特に大手柄だったのが、剣士だ」
黒騎士「君が頭領を倒したおかげで、山賊たちは総崩れになったからな」
パチパチパチパチ……!
剣士「いやぁ~……それほどでも……あるけど」
友人「また調子に乗りやがって」
剣士「ところで女騎士さん」
剣士「これで俺は罰を受けなくていいんですよね? ボスをやっつけたんですから」
女騎士「約束だからな……仕方あるまい!」
< 戦士団詰所 >
黒騎士「本日はこれにて解散!」
女騎士「各自、酒でも飲んでから帰るがいい!」
ワイワイ……
友人「よっしゃ、お言葉に甘えて飲みに行こうぜ。っつってもいつも飲んでるけど」
金髪「そうッスね!」
剣士「そうだな!」
剣士「あ、そうだ! 女騎士さんもぜひご一緒に!」
女騎士「ふざけるな! だれがキサマらなどと飲むか! 私は帰る!」ザッ
剣士「ですよね~ハハ」
友人「……当たり前だよ。あの女が俺らなんかと飲むわけねえだろ」
< 剣士の家 >
剣士「ウ~イ、酔った……」
剣士「たらいまぁ~……」
妻「お帰りなさい、あなたぁ~」
妻「食事は用意してあるけど……食べられる?」
剣士「そりゃもちろん! この俺が君の料理を残すわけないだろ!」
妻「やだ……もう」ポッ…
ガツガツ…… ムシャムシャ……
妻「ところで、今日のお仕事はどうだったの?」
剣士「そりゃもう、今日も大手柄を上げてみせたよ!」
剣士「なんたって山賊団のボスを、俺がやっつけたんだ!」
妻「まあ、すごい!」
剣士「すごい死闘だったぜ……互いに一歩も引かぬ攻防が続き……」
剣士「俺が一瞬のスキを突いて!」
剣士「俺の高速剣が、ボスの体を切り裂いたんだ!」
剣士「ま、相手も強かったけど、俺のがさらに強かったってとこかな」
妻「さすがね、あなた」
剣士「君にも見せたかったよ、あの勇姿!」
妻「いえいえ、話を聞いているだけで十分伝わるわよ~」
< 寝室 >
剣士「さぁ~て、それじゃおやすみ」
妻「おやすみなさい、あなた」
剣士「ぐぅ……ぐぅ……」
妻「…………」
妻「あなた……」
妻「ステキだったわよ、あなた」
妻「さて、私も寝なくちゃ」モゾッ
妻「すぅ……すぅ……」
またある時、戦士団はテロ活動を行う武装集団と対峙していた。
女騎士「いざ尋常に、勝負!」チャキッ
ボス「正義は我らにあり! その我らがキサマら如きに敗れるか!」チャキッ
キンッ! ガキンッ! キィンッ!
女騎士「ちっ……(手強い……)」ザザッ
ボス「長期戦に持ち込み、我の体力を消耗させようというのだろうが──」
ボス「そのような消極的な策は愚の骨頂!」ダッ
ズルッ! ドデッ!
ボス「あだだっ……!」
女騎士「勝利を焦り、ドジを踏んだか……」
女騎士「ちょうどいいところにいた! 剣士、やってしまえっ!」
剣士「よっしゃあっ!」ダッ
剣士「ま、俺にかかれば武装集団の一つや二つ、ラクショーよ」
友人「すげぇな、また敵将を倒したのかよ」
金髪「さすがッス! 尊敬ッス! 憧れるッス!」
新米「ボクも剣士さんのような戦士になりたい……!」
剣士「ま、もう少しで手柄は女騎士さんのものだったのに、残念でしたね」ニヤッ
女騎士「ふん、私は目先の手柄などに興味はない」ザッ
友人「…………」
友人「しっかし、お前が大手柄を立てる時は大抵女騎士が近くにいるけど」
友人「お前らって相性いいんじゃないか?」
剣士「……そうかもな」
友人「お、浮気か?」
剣士「そんなわけあるか!」
< 剣士の家 >
剣士「──とまぁ、こんなところさ」
剣士「俺のド迫力にビビってすっ転んだボスを、ノックアウト」
剣士「危険極まる武装集団も、俺にかかっちゃただの烏合の衆ってとこさ」
剣士「ハッハッハッハッハ……」
妻「手柄を立てて嬉しそうなあなたを見ていると、私も幸せになれるわ~」
剣士「そういってもらえると、嬉しいよ」
妻「でも、絶対無理しちゃダメよ。怪我したり、死んじゃダメよ」
剣士「分かってるって……。君を守るのは俺の役目だからな!」
またある日のこと──
< 剣士の家 >
友人「すみません……急に押しかけちゃって」
妻「いえいえ、主人がいつも世話になってるんですもの」
友人「剣士の奥さんを一目見たいって、こいつらがせがむもんで……」
金髪「なにいってんスか。行こうっていったのは友人さんッスよ」
金髪「でもホント、キレイッスね! 穏やかな雰囲気がまたいい!」
新米「戦士団のエースとご令嬢のカップルか……出来すぎなぐらいですね」
剣士「妬くな、妬くな」
剣士「お前らも頑張れば、俺の十分の一くらいは幸せになれるさ」
友人「マジ殴りてぇ~」
金髪「じゃあ俺は蹴りたいッスね」
新米「ボクは斬りたいです!」ニコッ
友人「でも、気をつけた方がいいですよ」
妻「あら? なにをかしら?」
友人「俺らの上官は黒騎士と女騎士っていう二人の騎士なんですけど」
友人「こいつが大手柄を立てる時は、大抵女騎士と組んでるんですよ」
友人「浮気しないよう、よく見張っておかなきゃダメですよ」
妻「まあ……そうなの?」ジロッ
剣士「いや、まあ、そうなんだけどさ」
剣士「だけど、浮気なんて絶対ありえない! 神に誓って!」
金髪「そうだ! 一度奥さんも戦士団の詰所に来たらどうッスか?」
新米「あ、それいいですね!」
友人「一度女騎士に、本人から直接釘刺しといた方がいいかもしれないな!」
妻「!」ギクッ
妻「いえ……私は……家のこともあるし……」
友人「なあに、ちょっと行って帰ってくりゃいいんですから!」
金髪「ぜひ、一度来て下さいッス!」
新米「お茶ぐらいは用意しますよ!」
妻「で、でも……」
剣士「お前ら、あまり俺の女房を困らせるなって!」
剣士「あんな武骨で汗臭い場所に、妻を入れたくねえしな!」
友人「こいつぅ~……」
友人「ま、奥さん、今のは冗談です。こいつに限って浮気なんてありえないですよ!」
妻「ええ、もちろん信じてるわ~」
ハッハッハッハッハ……
妻「…………」ホッ…
その後も剣士の活躍は続いた。
< 盗賊団アジト >
剣士「よっしゃ、盗賊団の首領を討ち取ったぜ!」ジャキッ
剣士「妻よ、俺はまたまた活躍してしまったぞぉ~!」
剣士「世界一愛してるぞぉ~!」
友人「ったく、デカイ声で恥ずかしいヤツ……。でも、ホント絶好調だな」
女騎士「ふん、この程度の手柄で調子に乗りおって……」
< 剣士の家 >
剣士「お、今日の夕食は豪勢だな! なにかいいことがあったのか?」
妻「ナイショよ~」
妻「世界一愛してるあなたのために、腕によりをかけて作ったの」
剣士「嬉しいこといってくれるじゃんか!」ガツガツ…
妻「うふふふ……」
しかし──
< 酒場 >
新聞記事を睨みつけるゴロツキたち。
『戦士団の剣士、またまたお手柄! 盗賊団首領討ち取ったり!』
残党A「ちっ、胸糞わりぃ記事だ!」バサッ
残党A「戦士団さえいなきゃ、今も山賊団としてブイブイいわせてたってのによ」
残党A「今じゃしがないコソ泥生活……クソがァッ!」グビッ
残党A「こんなクソ田舎の酒場で、安酒かっこむ毎日だ!」
残党A「特にこの剣士……イケ好かねえ! コイツが首領を……!」
残党B「なぁ……だったら復讐しないか?」
残党A「あ?」
残党B「この記事、よく見てみろよ。剣士は新婚で、妻がいるらしい」
残党B「周囲が呆れるほど愛し合ってて、いわゆるオシドリ夫婦ってやつだ」
残党B「この妻を人質にすれば、剣士はいうこと聞かざるをえないだろ?」
残党B「散々屈辱を味わわせてから、最後には夫婦そろってあの世に送ってやるんだ」
残党A「おお、そりゃいいな!」
残党A「いつやるよ?」
残党B「今……っていいたいが、決行は明日にしよう」
残党B「これから、他の残党仲間やチンピラをかき集めて、明日剣士の家に乗り込もう」
残党A「……よぉし」ニヤッ
残党B「ヒヒヒ……借りは百倍にして返してやろう」
翌朝──
< 剣士の家 >
剣士「じゃ、行ってくる」
妻「行ってらっしゃぁ~い」
妻「気をつけてねぇ~」
剣士「愛してるよぉ~!」
妻「もう、人が見てたらどうするのよ……」
残党A「よし、剣士が出かけたぞ」
残党B「ヒヒヒ……少し待ってから、全員で家に乗り込むぞ」
残党A「おう」
残党A「そろそろいいんじゃねえか?」
残党B「そうだな。そろそろ──」
残党B「ん!?」
ガチャッ……
女騎士「カギをして、と」カチッ
女騎士「…………」タッタッタッ…
残党A「あれは戦士団の女騎士!? なんで剣士の家から出てくるんだ!?」
残党B「多分……なにか用があって、剣士の家に泊まっていたんだろう」
残党B「なんにせよ運がよかった」
残党B「もう少しで女騎士がいるところに乗り込むハメになってたからな」
残党B「これでもう、家の中は剣士の妻一人だけのハズだ!」
残党A「ドアも窓も、全部閉じてやがる。用心深えな」
窓ガラスを割って、家に侵入する残党たち。
ガシャァンッ!
ゾロゾロ……
残党A「よしみんな、妻を探せ!」
残党A「捕まえて、人質にしてやるんだ!」
ザワザワ……
「どこにもいねえ!」 「この家、留守ですぜ!」 「どうなってんだ!?」
残党A「なにぃ……!?」
残党B「もしかしたら、別の出口から出かけた、とかしれないな」
残党B「まあ専業主婦だろうし、すぐ戻ってくるだろう」
残党A「ちっ、しょうがねえ。帰ってくるまで待つか」
< 戦士団詰所 >
金髪「マジッスか!?」
友人「やべえよ、すぐ行かねえと!」
新米「そんな……」
剣士「…………」
ザワザワ…… ドヨドヨ……
女騎士「どうした、何があった?」
友人「あっ、女騎士さん! たった今、通報伝書鳩で大変な知らせが送られてきて──」
女騎士「大変な知らせ?」
友人「なんでも剣士の家に、ゴロツキの集団がガラスを割って侵入したって……」
女騎士「!?」
友人「今日は黒騎士さんいねえし、どうすれば……!」
剣士「決まってる!」
剣士「俺は今すぐ家に戻る! もし妻の身になにかあったら──」
女騎士「ま、待て!」
剣士「なんだ!?」
女騎士「キサマの妻は……きっと無事だ!」
剣士「なんでアンタにそんなことがいいきれる!?」
女騎士「そ、それは──」
剣士「女騎士さん、いくらアンタの命令でもそれは聞けないな」
剣士「俺は妻のところに行く!」
女騎士「行くなぁぁぁ!」
剣士「なぜ止める!?」
剣士「そのゴロツキどもの狙いは分からないが──」
剣士「こうしてる間にも、妻が暴力を振るわれているかもしれないんだ!」
剣士「世界一愛している、俺の妻が!」
女騎士「…………!」ドキッ
女騎士「よく聞こえなかった、もう一回」
剣士「世界一愛している、俺の妻が!」
女騎士「すまん、もう一回」
剣士「世界一愛している俺の妻!」
友人「ちょ、ちょっと、何回聞き返してるんですか!?」
金髪「そうッスよ! どうするか、すぐ考えないとヤバイッスよ!」
女騎士「そ、そうだな」
女騎士「よし……まずは私が一人で様子を見に行く!」
友人「いくら女騎士さんでも、一人じゃ危なくないですか?」
女騎士「大勢で向かうと、敵を刺激してしまうかもしれん」
女騎士「女一人であれば、敵も油断するだろうしな」
友人(アンタを見て、油断する敵なんているかぁ……? かえって警戒される気が……)
女騎士「キサマらはそうだな……私が出てから20分後に出発してくれ」
女騎士「絶対にそれより早く出発することがないように! 特に剣士はな」
女騎士「分かったな! これは命令だ!」
剣士「……分かりましたよ」
詰め所を出発した女騎士。
< 古着屋 >
女騎士「あのう」
主人「これはこれは、もしや騎士階級の方ですか?」
女騎士「女物の服を……一番安いやつで。あ、あとここで着替えるから」
主人「おやおや、騎士様には特別にいいものをご用意いたしますが──」
女騎士「悪いが、早くしてくれるか!?」ギロッ
主人「は、はいっ!」ビクッ
~
妻「これでいいかしらねぇ」モゾモゾ…
妻「ありがとうございました~。本当に申し訳ありませんでした」
主人「い、いえいえ……」
主人(女ってのはこうもみごとに化けるのか……)
古着屋を出発し、自宅へと急ぐ妻。
妻(これで主人が家に戻っても)
妻(私がいないっていう事態は避けられるわねぇ~)
妻(主人が留守中に浮気してるだなんて、誤解されたくないものねぇ~)
妻(……でも、先に出発した女騎士のことはどう説明しようかしら)
妻(まあ、あとで考えましょ)
妻(鎧や剣を身につけてると、自分が別人になった気がして強気になれるのだけど)
妻(普段着だとどうも、思考までのんびりしてしまうわ)
妻(悪人たちもいつまでも家にいないだろうし、なんとかなるわよね)
< 剣士の家 >
妻「ただいまぁ~」
妻「あら?」
ズラッ……
家に戻った妻を、十数人の悪党が待ち構えていた。
残党A「へっへっへ、待ってたぜ」
残党B「アンタには、人質になってもらう」
妻「あらあら、あなたがたはもしかして西の山で山賊をやっていた方々?」
残党A「ほぉう、よく知っているじゃねえか。夫に聞いたのか?」
妻(きっと、主人に恨みを晴らすためにやってきたのね)
妻(剣も鎧もない今の私じゃ、太刀打ちできそうもないし……)
妻「それじゃ、せっかくなのでお茶でも入れますね」
残党A(なんてのんびりした女だ……やりづれぇ)
残党B「ん、どうやら戦士団がやってきたようだ」
残党A「はええな、どっかのバカが通報でもしやがったか!」
残党A「まぁいい、こっちには人質がいるんだ」
残党A「勇敢なる戦士団の皆さまと、堂々と対峙してやろうじゃねえか」ニィッ
妻「…………」
~
剣士の家の近くまでやってきた戦士団。
友人「あれ……? 女騎士さん、先に来てるんじゃねえのかよ」キョロキョロ
金髪「どこにもいないッスね」
新米「と、突撃しますか!?」ドキドキ…
友人「いやいやいや、剣士の奥さんが人質になってるかもしれねえんだ!」
友人「とりあえず、様子を見よう」
友人(くっそぉ~……黒騎士さんも女騎士さんもいないのか……まいったな)
戦士団を挑発する残党たち。
残党A「オイ、てめえら!」
友人「あ、お前らは……たしか西の山の山賊!」
残党A「おうよ、山賊団を潰された借りを返しに来たのさ!」
残党A「いっとくが、突撃とかバカなこと考えるんじゃないぜぇ~?」
残党A「こっちにゃ人質がいるんだからよ」グイッ…
妻「いたた……皆さん、ごめんなさい……」
友人「あ、奥さん! ……くそっ、これじゃ手は出せねえ!」
残党B「三下に用はない。俺たちの標的(マト)は剣士だ」
残党B「剣士を出してもらおうか?」ニヤッ
友人(剣士……)チラッ
友人(あれ、剣士がどこにもいねえ!? アイツ、どこいきやがった!?)
残党A「なにをグダグダやってやがる! とっとと剣士出せや!」
友人「え、えぇ~と……剣士がいねえんだよ、いやマジで!」
残党A「なんだと!? なんでいねえんだ!」
残党B「……ふぅ~ん、さては妻を見捨てて女騎士と浮気でもしてるんじゃないか?」
友人「女騎士さんと? なにいってやがる……!」
残党B「俺たちは見たんだよ」
残党B「今朝、女騎士がこの家から出てくるところをな……!」
友人「な、なんだと……!?」
金髪「マジッスか……!?」
残党B「この状況で、わざわざこんなウソをつく必要はないだろ」
ドヨドヨ……
「女騎士さんもいないし……」 「まさかあの二人……」 「ウソだろ……」
妻(ああ、どうしましょう。私がのこのこ家に戻ったばっかりに……)
妻(戦士団に迷惑をかけ、主人の名誉にまで傷がついて……)
友人「バカヤロウッ!!!」
残党A「!?」
友人「俺は剣士とは戦士団に出会って以来の仲で、そんなに長い付き合いでもねえが」
友人「これだけは分かる……」
友人「アイツほど自分の奥さんを愛してるヤツを、俺は知らねえよ!」
友人「たとえ天地がひっくり返ろうが、アイツが浮気なんてありえねえ!」
友人「女騎士さんだって、そんないい加減な女じゃねえ!」
友人「あんな厳しくてまじめな女、今時なかなかいねえよ!」
友人「二人のことをろくに知らないお前らが、適当なことほざくんじゃねえ!」
残党A「う……!」
残党B「ぐ……!」
「そ、そうだ!」 「あの人たちが浮気なんてありえない!」 「さすが友人さん!」
金髪「山賊ども、友人さんの気迫に飲まれてるッスよ!」
金髪「いやァ~」
金髪「友人さんって戦士団では古株のわりに頼りないイメージだったッスけど」
金髪「いう時はいうんスねえ」
新米「珍しくかっこよかったです!」
友人「やかましい」
ワァァ……! ウォォ……! オォォ……!
残党A「オ、オイ……アイツら、余計に盛り上がっちまったじゃねえか!」
残党B「くそっ……まさか戦士団にあんなタンカを切れるヤツがいたなんてな……」
妻(友人さん……)
残党B「だが、かまうもんか! こっちには人質があるんだ!」
残党B「だったら……今のお前とそっちの若いヤツ!」
友人「え!?」
新米「ボクですか!?」
残党B「お前たち二人は、今すぐ俺たちの目の前で──斬り合え」ニヤッ
友人(マ、マジかよ……)
友人(でも……とにかく今はやるしかねえ! 時間を稼がないと……!)
友人「オイ新米、分かってんな。空気読めよ」ボソッ
新米(空気……)
新米(今はとても緊迫している……)
新米(つまり、馴れ合いではなく全力でかかってこい、ということですね!)
新米(胸を貸して下さい、友人さん!)
新米「うおおおおっ!」シュバッ
ギィンッ!
ガキィンッ! キィンッ! キィィンッ!
新米「だりゃあっ!」シュッ
ギンッ!
友人(オ、オイちょっと待て! コイツ本気じゃねえか!?)キンッ
友人(こういう時は、剣を最初だけ強くぶつけ合って、後は流れでお願いします)ギンッ
友人(──って感じにするのが普通だろ!)ガキンッ
友人(くっそぉ~……そっちがその気なら……)キィンッ
友人「やってやらぁっ!」シュバッ
キィンッ! キンッ! ガキンッ!
残党A「おいおい、アイツらマジでやり合ってねーか?」
残党B「ハハハッ、ホントだ。俺たちが煽る必要もないな」
「やれ、やれぇっ!」 「ブッ殺せぇっ!」 「いいぞー!」
予想外の展開に、盛り上がる残党たち。
妻(ああ、どうしたら……)
すると──
残党A「!?」チクッ
残党B「なんか目に入った……!?」ゴシゴシ…
「俺もだ!」 「砂ぼこりか!?」 「肘がいってぇ!」
妻(突然どうしたのかしら……でもチャンスだわ!)
剣士「妻っ! こっちへっ!」ダッ
妻「あなたっ!?」
残党A「け、剣士!? コイツ、いつの間に!?」
剣士(友人と新米の戦いのおかげで、容易に接近できた……助かったぜ)
剣士「オイ、みんな! 妻は俺が助けた、もう遠慮は無用だ!」
友人「おお!? アイツいつの間に……よし、全員ひっ捕えろ! 突撃だァ!」
新米「は、はいっ!」
ウオォォォ……!
戦士団 VS 山賊団残党
剣士の家周辺が、戦場と化す。
キィンッ! ワァァ……! キンッ! ワァァ……!
友人「ふん、ウチの新米より手応えねえぞ!」ザシュッ
新米「てりゃあっ!」キンッ
若者「山賊どもめ、覚悟!」ビュアッ
金髪「もう逃がさねえッスよ!」ザンッ
残党B「ぐ、はぁ……っ!」ドサッ
ガキンッ! ワァァ……! ドサッ! ワァァ……!
残党A「くそぉ……砂ぼこりにジャマされるなんて、なんて運がねえんだ、俺たちは!」
残党Aの背後に忍び寄る妻。
妻「えいっ」バシッ
残党A「あ、ぐぅ……!?(後ろから攻撃……!?)」ヨロヨロッ…
剣士「お前が残党どものリーダーだな!? ──覚悟!」ブンッ
バキィッ!
残党A「ち、ちくしょ、ぉ……!」ドサッ
剣士「よっしゃああああっ!」
剣士「残党どもの親玉は、この俺が捕えたぜ! ハーッハッハッハッハ!」
友人「ちぇっ、結局またお前が一番手柄かよ!」
金髪「さすが剣士さんッスねえ」
妻(助けてくれてありがとう、あなた……)
妻(また手柄を上げることができて……よかったわね)ニコッ
戦いが終わり──
< 戦士団詰所 >
黒騎士「吾輩がいない間に、一騒動あったそうだが──」
黒騎士「よく皆の力だけで解決してくれた」
黒騎士「特に臨時で指揮をとった友人、迫真の演技で敵の目をあざむいた新米」
黒騎士「そして、残党の中心人物を捕えた剣士……みごとな働きだった」
新米「へへへ……」
友人(コイツ絶対演技じゃなかっただろ……)ギリッ…
黒騎士「ただし!」
黒騎士「本来指揮をとるべき立場でありながら、行方をくらました女騎士!」
黒騎士「功を上げたとはいえ単独行動をとった剣士!」
黒騎士「二人はあとで、一人ずつ吾輩の部屋に来い。話がある」
黒騎士「以上!」
女騎士&剣士「…………」
< 黒騎士の部屋 >
女騎士「失礼します」
黒騎士「……さて、と。事件の概要は友人から全て聞いた」
女騎士「…………」
黒騎士「いったいいつまで続けるつもりだ? こんなこと……」
女騎士「すみません……」
黒騎士「今回の件も、君が剣士の妻であると最初から公表していれば」
黒騎士「もっとあっさり解決していたハズだ」
黒騎士「分かるな?」
女騎士「……はい」
黒騎士「君は名家の令嬢で、剣の腕も立つから騎士叙勲を受けることができた」
黒騎士「そんな君が吾輩を手伝ってくれるのは大いに助かるが──」
黒騎士「君は剣士や仲間に秘密を知られたくないために、いたずらに事態を複雑にした」
女騎士「……はい。弁解しようもありません」
女騎士「ですが……私は、あの人を守ってあげたいのです……」
女騎士「家で黙って待っているだけなんて、とても耐えられなくて……」
女騎士「どうか、もう少しだけ……」
黒騎士「……分かった」
黒騎士「ただし、剣士の妻と女騎士という二重生活を維持するために」
黒騎士「他の団員を危険にさらすマネは二度と許さん」
女騎士「……はい! 今後はバレてもかまわないという覚悟で臨みます!」
黒騎士「……よし、話はこれで終わりだ」
黒騎士「吾輩が剣士と話している間に、帰宅して“妻”に戻れ」
女騎士「ありがとうございます……黒騎士さん」
< 廊下 >
剣士「お、女騎士さん」
剣士「けっこう叱られたみたいですね、ハハ」
女騎士「キサマには関係ない……」
女騎士「私は先に帰宅させてもらう」ザッ
剣士「なにいわれたか知りませんが、あまり気にしない方がいいですよ」
女騎士(ごめんなさい、あなた……)
剣士「…………」
剣士「さて、俺の番か」スクッ
< 黒騎士の部屋 >
剣士「失礼します」
黒騎士「……さて、となにから話したものか」
黒騎士「お前は……いつまで気づいてないフリをするつもりだ?」
剣士「! 黒騎士さん、なぜそれを……」
黒騎士「もし本当にお前が、女騎士が妻であると気づいていなければ」
黒騎士「通報があった時点で飛び出していたハズだからな」
剣士「なるほど……」
黒騎士「彼女はお前を守りたいという一心で、妻と女騎士の二役をこなしている」
黒騎士「しかも、“妻より地位が低い夫”“妻に守られる夫”というのが」
黒騎士「お前のプライドを傷つけるかもしれないと感じてか、皆に隠してな」
剣士「…………」
黒騎士「彼女の変装は大したものだ、が」
黒騎士「お前の洞察力ならば、とっくに気づいているハズだろう」
黒騎士「なにしろ、お前は──」
黒騎士「かつて吾輩が率いる特殊部隊で、ナンバーワンの使い手だったんだからな」
黒騎士「気配を殺す技術に長け、神出鬼没と恐れられ……」
黒騎士「特に細かい粒を相手の目に投げつけて動きを止めたり」
黒騎士「小さい針を急所に投げて激痛を与えたり、油で敵を転ばしたり、と」
黒騎士「暗器で味方をサポートする芸当に関しては、天下一品だった」
剣士「……昔の話ですよ」
剣士「今は、友人や金髪らと日の当たる場所で、戦士団として働いてるのが楽しい」
剣士「色々ウワサされてますが、あなたもそうでしょう?」
黒騎士「うむ、“戦士団の指揮官になったことを吾輩が不服に思っている”」
黒騎士「──と、ウワサする輩も多いがそんなことはない」
黒騎士「そもそも特殊部隊を作ったのも」
黒騎士「体面ばかり気にする騎士団にいても民は守れん、と判断したからだ」
黒騎士「王国の平和を守れるのであれば、所属は問わん」
黒騎士「特殊部隊であろうと、戦士団であろうと、な」
黒騎士「吾輩も今を満喫しているよ」
黒騎士「話を戻そう……」
黒騎士「お前は妻に“自分は秘密を知っている”と話すつもりはないのか?」
剣士「もちろん、俺だって何度もそうしようとしましたよ」
剣士「だけど……」
剣士「俺を守ろうとしたり、手柄を立てさせようとしたり」
剣士「必死なアイツを見ていると──」
剣士「どうしてもいえなくて……いい出せなくて……ズルズルと……」ポリポリ…
黒騎士「まぁ……な。吾輩がお前の立場でも多分いえんだろうな」
剣士「だから……せめて、俺もかげながら彼女を守ろうって思ったんです」
黒騎士「やはり、お前がいつも女騎士の近くにいるのは、彼女を守るためか」
黒騎士「しかし、不思議なものだ」
黒騎士「お前に内緒で、ずっとお前を守っていると思っていた妻は──」
黒騎士「実はずっとお前に守られていたんだからな」
剣士「まぁ……正面から妻と剣だけで勝負したら、まず俺は勝てないですけどね」
剣士「それと……さっき“お前の洞察力なら妻の変装に気づく”とおっしゃりましたが」
剣士「洞察力なんか関係ないですよ」
黒騎士「?」
剣士「だって俺は世界一アイツを愛してるんですよ?」
剣士「世界一愛してる女が、ちょっと甲冑着て顔隠して、声と口調変えたぐらいで」
剣士「誰だか分からなくなるハズがないでしょう!」
剣士「これは洞察力じゃなく、愛の力です!」
剣士「俺は仮に妻が呪いかなんかで、とんでもない化け物になったとしても」
剣士「余裕で見抜いて愛する自信があります!」
剣士「いやぁ、一粒で二度美味しい妻っていいですよね! うへへへへ!」
黒騎士「…………」
黒騎士(殴りてぇ……)
黒騎士「コホン……とにかく、お前たち夫婦は戦士団にとって貴重な戦力だ」
黒騎士「互いに秘密を持つことはかまわんが──」
黒騎士「それで互いの足を引っ張り合うようなことがないようにな」
剣士「はい」
剣士「今後とも、俺たち夫婦をよろしくお願いします」ペコッ…
黒騎士「ああ」
黒騎士「……じゃあ、そろそろ帰っていいぞ」
黒騎士「ちょうど今頃、“女騎士だった妻”が夕食を作り終えてることだろう」
剣士「今日の黒騎士さんはやけに多弁だな、と思ったらそういうことでしたか……」
黒騎士「こういうフォローは上司である吾輩の役目だからな」
剣士「俺も妻も、黒騎士さんには頭が上がりませんよホント」
< 剣士の家 >
剣士「ただいま~!」
妻「あら、お帰りなさい! ちょうど夕食ができたところなの!」
剣士「おお、ナイスタイミング!(さすが黒騎士さん……)」
妻「今日は、私を助けてくれてありがとう!」
妻「だからちょっと豪華にしたわぁ~」
剣士「よぉーし、腹いっぱい食べるぞ!」
妻(これからも、私があなたを守りますからね……絶対に)
剣士(これからも、俺が君を守っていくよ、絶対に!)
その後──
< 戦士団詰所 >
黒騎士「諸君、今日は緊急時に備えた町民との合同訓練だ」
女騎士「町民の模範になるよう、行動するのだぞ!」
友人「そこいくと、俺なんか模範どころか反面教師になっちまいそうだなぁ~……」
女騎士「オイ!」
友人「は、はいっ! 私語してすみませんっ!」ビクッ
女騎士「キサマは優れた戦士だ。きっといい模範になる」
友人「ど、どうも」ホッ…
友人(なんか最近、女騎士さん俺に多少甘くなったよな……俺、なんかやったっけ?)
友人(まさか俺に気があるとか!?)
剣士「だとよ! もっと自信持てよな!」パシッ
友人「お、おう」
剣士(なんたって、俺の妻のお墨付きなんだから……)
< 町 >
黒騎士「では、次は避難と戦士団への通報の仕方を実習する!」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
剣士「日頃の俺らの活躍もあってか、町民たちもマジメに訓練してますね」
女騎士「ああ、願ってもないことだ」
剣士「せっかくだから、俺の妻も家から呼んでこようかな……」
女騎士「や、やめてっ! ──い、いや、やめておけ! 一時帰宅など認めんぞ!」
剣士「そうですね……すみませんでした」
女騎士「それより、私たちも訓練に参加するぞ! 急げ!」
剣士「はいっ!」
女騎士(あなた……いつか、きっと真実を話すから……)
剣士(愛する妻よ……いずれ、俺は真実を話すから……)
剣士&女騎士(せめてその時までは、この奇妙な夫婦関係を──……)
─ 完 ─
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