球磨川『超高校級の過負荷』 (304)

ダンガンロンパ×球磨川のクロス
もう安価なし

前スレ 
球磨川『僕は超高校級の……なんだったかな』
球磨川『僕は超高校級の……なんだったかな』 - SSまとめ速報
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次の日
学園エリア2F 渡り廊下 

霧切「……舞園さん、なんでついてくるのかしら」

舞園「えーと……なんとなく霧切さんについていくと良い気がして」

霧切「そう。球磨川君のDVDの内容が気になるのね?」

舞園「あう……エスパーですか?」

霧切「大した内容ではないわ。ただ球磨川君の友達がでてきただけよ」

舞園「ともだち!?」

舞園「球磨川君に友達がいるんですか!?」

霧切「多分ね」

舞園「へぇ……意外ですね」

霧切「そうかしら?彼は友達を大切にするタイプだと思うけれど」

舞園「相変わらず霧切さんの球磨川君を見る目はよくわかりません」

舞園「結局、球磨川君の正体に近づける情報はあったんですか?」

霧切「残念ながら、そっちの収穫はあまりなかったわ」

舞園「他になにかあったんですか?」

霧切「えぇ、あったわ。ただ、少し難しくて考えがまとまらないの」

霧切「時間をちょうだい」

舞園「それはもちろん、構いませんけれど……」

霧切「せめて2Fに裏付けになるような情報があればいいのだけれど」

舞園「ちょ、ちょっと霧切さん!そこ男子トイレですよ!」

霧切「私の目は前についているから見えているわ」

舞園「そうじゃなくてー!」

舞園「もう、信じられないです」

霧切「特に変わりはないわね……」

舞園「それはそうでしょう……」

霧切「……これは」

霧切「ここ、開くわ」

舞園「え?」

舞園「なんですか……この部屋……」

霧切「……名簿があるわね」

舞園「名簿、ですか」

霧切「私たち全員のプロフィールがのっているみたい」

舞園「じゃあ球磨川君のも?」

霧切「多分……あったわ」


 名前:球磨川 禊
 身長:172cm
 体重:58kg
 胸囲:77cm
 特記:超高校級の過負荷
 
 存在するだけで周囲に激しい恐怖や嫌悪感を催させる
 彼の異常性は数々の学校を廃校に追い込んでおり、彼が去った後で現存するのは箱庭学園のみ 
 その箱庭学園でも多くの生徒、教師の精神を崩壊に導いており正常な状態を保っていない
 物体を消すことができる「大嘘憑き」というスキルを有している
 本人に言わせるならアンコントローラブルな力であり使おうと思って使えるものではないとのこと
 また彼の痕跡と過去を調べるのは非常に困難であることを明記しておく
 まるで彼の存在なんてなかったように記録は存在せず、人々の記憶にすらないこともあるからだ
 そのため彼の過去、才能については、あくまで本人の証言に基いている

霧切「短い……これだけね」

舞園「これって重要そうに見えて実のところ、こう言ってたけど本当かなぁ?ってことですよね」

霧切「素晴らしい要約だわ」

霧切「本当になにもわからないのでしょうね」

霧切「実際他のみんなは数ページは履歴があるのに、球磨川君はこれだけだもの」

舞園「見覚えのない名前もありますけど本当にみんなの分がありますね」

霧切「この見覚えがない名前が、もしかしたら黒幕なのかもしれないわ」

舞園「えーと、戦刃むくろ……超高校級の軍人!?」

舞園「なんだか怖そうです」

霧切「あともう一人、見覚えがない名前があるわね」

舞園「あ、この人知ってます!」

舞園「中学校のときの同級生です」

舞園「元気でいればいいんですけど……」

舞園「……ん?なにか違和感が」

舞園「……そうですよ!なんでここに彼のプロフィールが!?」

舞園「超高校級の才能ともかく、私と同じように入学してるはずですよね?」

舞園「だったらこの学校内にいないとおかしいような……」

霧切「そうね」

霧切「舞園さん、これは根拠のない推測として聞いて欲しいのだけれど」

霧切「もしかしたら私たちが入学してから」

球磨川『二人とも女の子なのに男子トイレに入るなんていけないんだ』

球磨川『先生にいっちゃうぞ』

舞園「きゃああああ!」

球磨川『セクハラで叫びたいのこっちだぜ』

舞園「く、球磨川君いつのまに!?」

球磨川『いつの間にかさ』

霧切「ちょっと球磨川君」

球磨川『なんだい響子ちゃん』

霧切「私がいま、もっていたはずのファイルが消えたのだけれど」

球磨川『な、なんだってー!それは一大事だね!』

球磨川『僕でよかったら探すのを手伝うよ!』

球磨川『でも、ここにあるのは机一つで他にはなにもないね』

球磨川『どこを探せばいいのかな?』

舞園「え……な、本棚が……消えた……?」

霧切「なるほど」

霧切「これがあなたの大嘘憑き(オールフィクション)なのね?」

球磨川『なにそれ?知らないなぁ』

球磨川『これはきっと黒幕の仕業だね!』

霧切「そう。それで何故消したのかしら?なにか不都合でも?」

球磨川『だから黒幕の』

霧切「もしかしてあの見覚えのない名前……」

霧切「苗木誠が関係しているのかしら?」

球磨川『……』

舞園「ひっ……!」

霧切「あら、大丈夫かしら球磨川君」

霧切「いつもニコニコ笑顔貼りつけてる貴方が」

霧切「随分とお怒りのようだけれど?」

球磨川『……』

霧切「出てくるタイミングが良すぎるわ。いつ出ようかって見計らってたんでしょう?」

球磨川『……さすがだね響子ちゃん』

舞園(元の表情に戻った……?)

球磨川『誠ちゃんは、僕の敵だからね』

霧切「敵?」

球磨川『僕が勝ちたい相手は黒幕なんかじゃなく、彼なんだ』

霧切「わかりやすく言ってくれると助かるのだけれど」

球磨川『甘いぜ響子ちゃん』

球磨川『古来からジャンプでは、ラスボスはそれっぽくて胡散臭い伏線だけをばらまく存在と相場が決まってる』

球磨川『校則風に言うなら、球磨川禊について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられませんってやつだ』

球磨川『僕は信じてるよ!主人公である響子ちゃんなら真実にたどり着くって!』

霧切「えぇ、真実は絶対に掴む」

球磨川『素敵だね』

球磨川『惚れそうだ』

寄宿舎エリア1F 


舞園「球磨川君!」

球磨川『やあ、さやかちゃん。さっきぶりだね』

舞園「聞きたいことがあるんです」

舞園「……前に言ってた絶対にばれないってもしかして」

球磨川『うん!そうだよ』

球磨川『僕の大嘘憑きをつかえば、完全犯罪が可能ってことだ』

舞園「おーるふぃくしょん……」

球磨川『ま、内容はあのファイル通りだと思ってもらってもいいよ』

球磨川『だけど意外だなあ』

球磨川『もう二度と僕に話しかけてこないと思ってたよ!』

舞園「それは……球磨川君が裁判であんなことするから」

球磨川『あんなに仲間だと信じ合った仲なのに』

球磨川『目も合わせてくれないなんてアイドル失格だよ!』

球磨川『でも安心して。さやかちゃんは悪くない』

球磨川『アイドルだからイメージを大切にしたいんだよね?』

球磨川『あ!もしかしたらさやかちゃん以外全員消したらいいのかな』

球磨川『そうすればイメージに悩まなくて済むもんね!』

舞園「……」

舞園「決めました」

球磨川『ふーん、なにを?』

舞園「私、球磨川君を殺します」

球磨川『わかったよ!それじゃあ殺される準備をしよう!』

球磨川『まぁ僕に任せてよ』

球磨川『殺されることに関しては右にでるものはいない僕にね!』

舞園「お礼は言いませんよ」

球磨川『そんなもの、欲しかったことは一度もない』

球磨川『それよりバレないようにするのが厳しくなったぜ』

舞園「霧切さんにオールフィクションのことがばれたからですか?」

球磨川『それもあるけれど、少し違う』

球磨川『大嘘憑きのことなんて、他のみんなは信じないよ』

球磨川『問題は、響子ちゃんに僕とさやかちゃんの協力関係がばれてるってことさ』

舞園「……球磨川君はなんでも知ってるんですね」

球磨川『なんでもは知らないよ。知っていることだけ』

球磨川『学級裁判の時しばらく一緒にいたって言ってたから、どうせ相談してるだろうなって』

球磨川『全くバカなことをしたぜさやかちゃん。あの響子ちゃん相手に犯人を最初から教えるなんて』

舞園「べ、べつに教えてはないです。ただそういう誘いを受けてるって」

球磨川『それはバラしてると同義だよ』

球磨川『まぁいいや』

球磨川『ミステリーといえば犯人は最後でわかるのが主流だけど』

球磨川『僕の好みは断然、倒叙ミステリーさ』

球磨川『強い立場からみるよりも追い詰められる立場のほうがいいに決まってる』

球磨川『だから必要なのは、犯人が誰かを隠すことより、より手口がわからない手法だ』

球磨川『大嘘憑きを使うことで多少、ごまかしは効くだろうけど相手はあの響子ちゃん』

球磨川『甘く見ると死ぬぜ?』

舞園「……わかってます」

舞園「私は負けません」

球磨川『僕も負けるつもりはないよ』

球磨川『いつだってね』

球磨川『ただ不思議と勝てたことがなくてさー』

球磨川『1回も勝てたことがないんだけど、がんばろうね!さやかちゃん!』

舞園(……早々と後悔してきました)

夜時間
寄宿舎エリア1F 倉庫


セレス「関心しませんわね。夜時間に出歩くなんて」

霧切「セレスさんこそ」

セレス「なにやら物音が聞こえましたので調べているだけですわ」

霧切「あら。そんな大きな音を立てたつもりはないのだけれど」

セレス「何かを壊すような、崩れるような、そんな音ですわね」

セレス「気のせいかと思っていたのですが、また同じような音が聞こえましたわ」

セレス「気になって少々見回っていたところを霧切さんを見つけた次第です」

霧切「ということは、セレスさんは物音を調べるために仕方なく部屋から出たのかしら」

セレス「そういうことになりますわね」

霧切「それはおかしいわね。完全防音の部屋なのに聞こえたということは、元々外にいたんじゃないかしら」

セレス「まぁ、見破られてしまいましたわ」

セレス「その通り、ランドリーに忘れ物をしたので取りに行っていたのです」

セレス「ですが物音がしたのは本当ですわ」

霧切「10分ほど倉庫にいたけれど私には何も聞こえなかったわ」

セレス「もしかするとこの部屋も防音なのかもしれませんわね」

霧切「何かが破壊されるような音、ね。探してみようかしら」

セレス「ざっと見て回ったところ何も変わりはないようでしたけれど……」

セレス「そういえば霧切さんはここでなにを?」

霧切「また事件が起こるとしたら、どうせまた球磨川君が起点になるわ」

霧切「だから私も夜時間に徘徊しているだけよ」

セレス「なにか変わりはありまして?」

霧切「そうね。変わりというほどのことではないのだけれど……」

霧切「全く球磨川君と遭遇しないことが気になるわ」

セレス「大変幸運なことではありませんか」

霧切「それほど広くもないこの学園で、歩き続けている人に会わないなんてありえるのかしら」

セレス「たしかに考えにくいですわね」

セレス「全く、いたらいたで迷惑なくせに、いないと不安にさせるなんて」

セレス「面倒な存在ですわ」

セレス「いっそ彼が殺されてくれれば楽になるんですけれど」

霧切「……そうね」

霧切「それじゃあねセレスさん。私は調査を続けるわ」

セレス「えぇ、ですがルールはお忘れなきよう」

2日後


寄宿舎エリア 1F 食堂


朝日奈「えーでも、それはさくらちゃんがさー」

大神「ぬぅ……」

葉隠「今なら半額で占ってやるべ!」

桑田「だぁー!いらねぇっていってんだろ!」

腐川「……びゃ、白夜さまぁ」

十神「……ふん」

霧切「……」

霧切(球磨川君が消えてから2日経った)

霧切(最初はみんな警戒していたようだけど、いないとわかると積極的に部屋から出るようになった)

霧切(皮肉にも、球磨川君がみんなの結束を強めたようにも思える)

舞園「……霧切さん」

霧切「舞園さん。どうかしたのかしら?」

舞園「……球磨川君、どこいっちゃったんでしょうね」

霧切「わからないわ。学園中探したのだけれど痕跡一つないの」

舞園「やっぱり……私も少し探したんですけどなにも見つからなくて」

霧切「消えた……違うわね。それはない」

舞園「本当、あと探してないのはみんなの個室くらいですよ」

霧切「えぇ、そうね……」

霧切「……いえ、まさかね」

舞園「……?霧切さんどこへ行くんですか」

霧切「心当たりができたわ」

舞園「えっ!どこですか!?私も行きます!」

寄宿舎エリア1F 渡り廊下


舞園「どこへ向かってるんですか?」

霧切「すぐそこ……個室よ」

舞園「え!誰かが球磨川君を匿ってるとか?」

霧切「それはありえないわ」

舞園「ですよねー」

霧切「だから、調べるべきはここ」

舞園「石丸君の部屋……?」

霧切「それと大和田君の部屋ね」

舞園「でも鍵がかかってるんじゃ」

霧切「それならそれでいいのよ。状況が元に戻るだけだしね」

霧切「……残念、開いているわ」

舞園「そ、そんな……でも球磨川君はここで一体なにを……」

霧切「……やられた」

舞園「え?一体どうなって……」

舞園「きゃあああああ!!」

その後、すぐにみんなを呼んだ

大騒ぎになるかと思ったけれど、みんなの反応は少し落ち着いていた

悲しみや驚きよりも、先に安堵が来たんだと思う

もう、あいつはいない。それだけで救われる

そんな緩んだ表情に警告するかのようなタイミングであのアナウンスが聞こえてきた

「死体が発見されました。これより一定時間後、学級裁判が開廷されます」

まだ命の危機は去っていない、振り返ればそこにある

みんなの顔がまた引き締まっていく、不安と抗う意思で

私はそれを、みんなとは違った緊張感で迎えていた

そう。これは私と球磨川君。それと霧切さんの勝負なんだ

命がけの捜査、命がけの信用、命がけの騙し合い、命がけの裁判が

また、はじまる

ザ・モノクマファイル2

被害者は球磨川禊

死亡時刻は午後0時頃

死体発見現場となったのは寄宿舎エリアの石丸の部屋

死因は窒息死。長い紐で首をくくっている

待ってたとか言ってくれてと嬉しいです
それじゃまた明日とか

>球磨川『僕の大嘘憑きをつかえば、完全犯罪が可能ってことだ』
>
>球磨川『ま、内容はあのファイル通りだと思ってもらってもいいよ』

舌の根も渇かないうちに矛盾wwww
ファイルには使おうと思って使えるものではないって書いてあるのにww

しかし学級裁判って投票制だから、倒叙は……

捜 査 開 始


霧切「舞園さん、わざわざあなたを指名して二人で現場の保全にあたるわけだけれど」

霧切「私の言いたいことがわかるかしら?」

舞園「ごめんなさい、エスパーじゃないのでわかりません」

霧切「……はぁ、球磨川君もあなたもバカなことをしたわね」

舞園「どういう意味ですか?」

霧切「そのままの意味よ。あなたはクロとして処刑されるわ」

舞園「まるで私がクロみたいな言い方です」

霧切「球磨川君は別にバラしてもいいって言ってなかったかしら?」

舞園「……」

霧切「当然といえば当然ね」

霧切「こんなどう見ても自殺にしか見えない事件」

霧切「考えなしに大嘘憑きどうこう騒いでも可哀想な子に見られるだけだわ」

舞園「……すごいですね霧切さん」

舞園「球磨川君が死ぬ前に私に言ったことは3つあります」

舞園「そのうち1つが、裁判以外で霧切さんに問い詰められたら正直に言え、です」

霧切「約束は守られてないようね」

舞園「えぇ、バラしちゃうメリットが感じられなかったので」

霧切「他の2つは?」

舞園「言うわけないじゃないですか」

霧切「そう。なら調べさせてもらうだけよ」

霧切「球磨川君の死体は……【外傷1つない】わね。怖いくらいいつも通り」

霧切「この首吊りに使っている紐は……【何かの電源コード】ね」

霧切「……なにも死ぬことはないのに、最後まで思い通りに動かない人だったわ」

霧切「足元で転がっている椅子を台にしたのかしら」

霧切「この椅子……【食堂の椅子】だわ」

霧切「別に足場なんてどれでもよさそうだけれど……」

霧切「重要そうなのはあれね。【監視カメラ】が消えているわ」

霧切「今回の殺人に限っては、カメラは残しておいたほうがいいはずなのに」

霧切「ドアや壁面、その他の小物も……問題無さそうね」

霧切「問題ないのが問題かしら。セレスさんの聞いた【2回の破壊音】の正体がわからない」

霧切「ん、球磨川君のポケットに何か入っているわ」

霧切「これは……手紙、【球磨川君の遺言書】だわ」

舞園「!?」

『 響子ちゃんへ

  これを見た時、きっと僕はこの世にはいないでしょう

  そうなる前に、どうしても伝えたいことがあってこれを残します

  こんな時に言うのなんだけど 

  初めて会った時、パンツパンツ言ってごめん……』

霧切「本当こんな時にいうのもどうなのって内容ね」

舞園「な、なにも投げ捨てなくても」

舞園(あ、あせった……なんでそれがポケットにあるのかと思いました)

霧切「……ふん。どうやらここにはもう手がかりはなさそうね」

霧切「私は他の場所を捜査するわ」

舞園「えっ!現場保全はどうするんですか!」

霧切「舞園さんに任せる」

舞園「二人でするのがルールですよ!?」

霧切「別にいいじゃない。どうせみんな自殺だと思っているし、真剣に調べてるのは私とセレスさん、あとは十神君くらいよ」

舞園「それはそうですけど……」

霧切「おそらくだけれど、球磨川君はこの事件を完全に推理不能なものにしていないわ」

霧切「どんな勝負事も正攻法でこないし常に裏をかいての奇襲ばかりする彼だけど」

霧切「勝負事のアウトラインは最低限、ほっんと最低限のラインで守るはず」

霧切「私はそういうところでは、球磨川君を信じているのよ」

舞園「……霧切さんは、球磨川君を知っているんですね」

霧切「えぇ、まるで何年か一緒に行動したみたいに、不思議とね」

霧切「それじゃ行ってくるわ。祈ることね、私の信頼を球磨川君が裏切ることを」

舞園「……」

寄宿舎エリア 1F 渡り廊下


霧切「やっぱり、【大和田君の部屋は施錠されている】わ」

霧切「【江ノ島さんの部屋】も同じね」

霧切「でも【石丸君の部屋】は施錠されていなかった」

霧切「となると破壊音の一回目は……いえ、まだ確信ではないわね」

十神「おい、霧切」

霧切「なにかしら十神君」

十神「現場の保全はどうした?」

霧切「舞園さんに任せてきたわ」

十神「なにをバカな……。舞園がクロだった場合に証拠を握りつぶされるぞ」

霧切「あら十神君。あなたも球磨川君は自殺じゃないと思っているのかしら」

十神「……ふん。まだ確定はしていないというだけだ」

霧切「そう。私も同じ考えよ」

霧切「十中八九、球磨川君は自殺ではないと考えているけれど……」

霧切「十神君はなぜ確定していないと思うのかしら?」

十神「まずはお前から話せ」

霧切「そうね。彼に自殺するほどの根性がなさそうだからかしら」

十神「おい」

霧切「本当のことだわ」

十神「……チッ」

十神「まぁいい。話してやる」

十神「球磨川のやつの行方がわからなくなった日のことだ」

回想・夜時間 
学園エリア2F 図書室

球磨川『うわ、なんでこんな所にひとりでいるの白夜ちゃん』

十神「……チッ」

球磨川『驚いたよ!君みたいなエリート中のエリートでも舌打ちしたくなることがあるんだ』

十神「消えろ」

球磨川『マジシャンじゃあるまいし、出たり消えたりできるかよ』

十神「うるさいヤツだな。なぜ嫌がらせばかりする」

球磨川『気になる子にはイタズラしたくなるっていうじゃん?』

十神「ハッ!今までの言動が好意の裏返しだったとでもいうのか?」

球磨川『いや全然?ただの世間話だよ。僕ってエリートとか大嫌いだし』

球磨川『なに?本気にしちゃった?白夜ちゃんかっわいー』

十神「……貴様を殺してここから脱出するのもありかもしれんな」

球磨川『喜んで!と言いたいところだけど』

球磨川『ごっめーん!先約があってさ!この次は白夜ちゃんに殺されてあげるよ』

十神「いいからさっさと出て行け。俺がお前を殺さんうちにな」

球磨川『怖いなぁ。僕もさっさと自分の部屋にこもろうかな』

寄宿舎エリア 1F 渡り廊下


十神「……その後、球磨川は俺が使っていた照明用の延長コードを持ち去った」

十神「追いかけることすら馬鹿馬鹿しくなった俺は本を持ち帰り個室で読書に戻った」

霧切(球磨川君のせいで個室にこもるのが嫌だったんじゃなかったのかしら)

十神「こんな話、今の今まで忘れていたんだがな」

十神「先約、という言葉が気にかかる。他の奴らなら一笑に付すところだが……」

十神「球磨川ならやりかねん」

霧切「えぇ、実際に【十神君の証言】通り、彼は先約の人に殺されてあげたのでしょうね」

十神「最後の最後まで意味のわからん奴だ」

霧切「だけどこの裁判は、意味不明な彼の行動を追わないと勝てないわ」

十神「ヤツを調べるなんて気持ちの悪いことはお前に任せる」

十神「俺は俺のやり方で調べる」

十神「それと関係あるかわからんが……」

十神「三日前から【廊下の監視カメラの数が激減】している。まるで最初からなかったみたいにな」

霧切「……そう。それじゃあ学級裁判で会いましょう」

霧切「十神君の証言通りなら球磨川君は……」

霧切「自室にこもる、ね。消えてしまった【球磨川君の自室】のことかしら」



【監視カメラ】を更新しました

桑田「おい霧切、壁にノックなんかしてなにやってんだ……?」

霧切「ここ、球磨川君の自室があった場所よ」

山田「ふむー。確かにここには球磨川禊殿の部屋があったような気もしますが」

桑田「気のせいだったんじゃねぇか」

霧切「実際なくなっているのだから、そう思う気持ちもわかるわ」

霧切「でも確かにここにあったはずなのよ」

霧切「それにこの反響……」

霧切「ちょうどいいわ。2人とも、この壁を壊すの手伝って」

桑田「うぇ!?」

山田「そ、そんなことして大丈夫なのですかな」

霧切「壁を壊すなという校則はないわ」

桑田「でもよぉ……」

モノクマ「うぷぷぷ!いいよ!特別に許可してあげるよ!」

霧切「神出鬼没ね」

モノクマ「ボクもちょっと興味あるし、クマだから好奇心が抑えられません!」

大神「そういうことならば、我が協力しよう」

霧切「大神さん、助かるわ」

朝日奈「でも他の場所はビクともしなかったのに、大丈夫かなぁ?」

霧切「ここの部分だけ壁が薄そうだから、多分……」

大神「では、征くぞ」

大神「……はぁぁ……拳破拳破――」

大神「拳々破ァッ!!」

桑田「うお……!本当に大穴開けやがった……」

山田「す、すさまじい威力ですな……建物が揺れましたぞ」

霧切「ありがとう、大神さん」

大神「このような時でもなければ役に立てん。気にするな」

朝日奈「さくらちゃんかっこいー!」

霧切「中があるってことは、まさかと思ったけどやっぱり……」

霧切「消えていたのは部屋じゃなくて、ドアだったのね」

霧切「それにこの壁、【金属等での補強がされていない】わ」

霧切「元々は大神さんでも壊せないくらい頑丈だったはずなのだけれど」

寄宿舎エリア1F 消えた球磨川の個室


桑田「ど、どういうことだ?なんで球磨川の部屋のドアが壁になってたんだ?」

朝日奈「なにがなんだか……」

霧切「ひどい埃……ほとんど使ってなかったようね」

霧切「ここもカメラがなくなっている」

霧切「本当、気軽に物を消すわね。アンコントローラブルとは一体なんだったのかしら」

モノクマ「……」

霧切「球磨川君は、ここで何かをしていたのかしら」

霧切「何かしようとした、のかもしれない」

霧切「誰にも知られずに何かを……」

霧切「……!これは、【地面に血が染み付いている】」

霧切「ここで何があったというの……?」

霧切「他には……」

霧切「ワンパターンというか何というか、また手紙ね」

『ここに気がつくなんて、さすがだぜ名探偵響子』

霧切「出だしからなんか腹立つわね」

『おっと、勘違いしないでよ。僕は殺されたんじゃなくて自殺したんだ』

『だから響子ちゃんに言えることなんてなにもない』

霧切「じゃあなんのためにこんな手紙を残したのよ」

『これは週刊少年ジャンプの作者コメントまで見るような読みこみ派のきみへのご褒美だ』

『盾子ちゃんのことを調べるといい』

『きっと楽しいことになるぜ』



【球磨川の遺言書】が更新された

朝日奈「霧切ちゃーん。なにかあったー?」

霧切「そうね、あったといえばあったけど。なんとも言えないわね」

桑田「あるもないも、結局あれって自殺だろ?」

山田「しかし裁判が開かれるということは他殺なのでは?」

モノクマ「なーに言ってるんですか!自分を殺すとかいて自殺!例え自殺でも裁判は開きますよ!」

桑田「じゃあやっぱ自殺だな!」

山田「ですな!」

セレス「あらあら。なにやら、あの時のような音が聞こえてきたと思ったら」

セレス「球磨川君の部屋が復活しているではありませんか」

桑田「セレスじゃねーか。あのときって何のことだよ」

セレス「霧切さんにはお話したのですが、わたくしがランドリーにいるとき今みたいな音がこえたのです」

朝日奈「あ、あれやっぱり気のせいじゃなかったんだ」

霧切「朝日奈さんも聞こえたのかしら?」

朝日奈「聞いたっていうか、震えたっていうか?」

霧切「震えた?」

朝日奈「私は部屋でじっとしてたんだけど、なんだか建物が揺れた気がしてね」

朝日奈「気のせいかなって思ったんだけど、また揺れた気がしたから地震かと思ってさ」

朝日奈「少し不安になってさくらちゃんのところに行こうとして外にでたとき、今度ははっきりと揺れたってわかったの」

霧切「それ以上は揺れなかったのかしら?」

朝日奈「たぶん……ごめん、ちょっと自信ないかな」

山田「僕は揺れには気づきませんでしたぞ」

桑田「オレもしらねぇな」

霧切「なるほど……【深夜の振動】ね」

霧切(……ここには、これ以上の情報はなさそうね)

霧切(舞園さんには強くでたものの、このままじゃまずいわ)

霧切(どこにも舞園さんが絡んでいる証拠がでない)

霧切(……調べ尽くすしかない)

霧切「みんなが球磨川君を最後にみたのはいつかしら?」

桑田「あー、オレは裁判のときだな」

山田「右に同じですな」

セレス「わたくしもそうですわ」

大神「我は、食堂だな」

朝日奈「あ、私も私もー」

霧切「食堂?」

大神「うむ。食堂で我らにちょっかいをかけてきたのだが、あの時はあっさりと引いていったな」

朝日奈「なぜか食堂の椅子を持って行ったんだよね」

桑田「それって球磨川が自殺につかった椅子じゃね?」

セレス「そういえば何故か食堂の椅子を使ってましたわね」

霧切「……」


【食堂の椅子】が更新された

霧切「他にはなにかないかしら?」

朝日奈「んー……なにかあるかなぁ?」

大神「すまんが、なにも思い当たることがないな……」

霧切「この際、球磨川君と関係ないことでも構わないわ」

霧切「いつもと違う何かがなかった?」

山田「うーむ。【突然校則が増えた】こととか……」

朝日奈「なんかシャッターの破壊禁止とか、鍵のかかった扉壊すなとか、急に出てきたよね」

山田「さきほどのパンチを見れば何となく納得できる校則ですな……」

桑田「……あっ……いや、でもなぁ」

霧切「桑田君、何かあったの?」

桑田「いやスマン。なんでもねぇ」

霧切「どんな小さなことや下らないことでも構わないの、お願い」

桑田「……くそ。笑うなよ?」

桑田「一昨日の夜なんだけどよ、見たんだオレ」

桑田「江ノ島が歩いてるとこ」

セレス「おかしなことを言いますわね」

山田「そうですぞ。江ノ島盾子殿はもう……」

桑田「あーあー!わかってんよそんなこと!」

桑田「だから気のせいだったんだろうなって思ってるよ!」

桑田「くそ、だから言いたくなかったんだ」

霧切「【いないはずの江ノ島さん】の姿を見た……」

霧切(球磨川君の遺書にも江ノ島さんについて書いてあったし、関係ありそうね)

霧切「ねぇモノクマ……モノクマ?」

大神「消えたな……いつの間に」

霧切「まぁいいわ。みんなのおかげで色々とわかってきたし」

朝日奈「役に立てたならよかったー!頭脳労働は霧切ちゃんとか十神にお任せになっちゃうからさ」

霧切「今度は、私がみんなの役に立つ番ね」

霧切(あと話を聞いていないのは……)

霧切(腐川さんに、不二咲さん、葉隠君)

霧切(誰よりも、舞園さんに話を聞くべきだった)


ピンポンパンポーン

「えーオマエラ。そろそろ待ち疲れちゃったんで学級裁判を行います!30秒で集合しろ!!」


霧切(……まぁいいわ。どうせ話をきくならみんなのいる裁判中のほうが都合がいい)」

霧切(私の知っていること、そして集めた言弾を確認しましょう)

【外傷がない】
・死因は首を圧迫されたための窒息であり、他に傷はない

【電源コード】
・図書室にあった電源ケーブル。球磨川が十神から強奪している

【食堂の椅子】
・食堂に多くある椅子。首吊りの際に足台に使ったと思われる
・球磨川が自ら用意している

【監視カメラ】
・石丸の個室と、球磨川の部屋から監視カメラが消えている。壊されたような跡はない
・いたるところに仕掛けられていたカメラの数が減っている

【破壊音】
・セレスがランドリーにいるときに聞こえた音。なにかを壊すような音が2回聞こえた

【球磨川の遺書】
・どうでもいい内容が書かれている
・2枚の遺書には江ノ島盾子を調べるように書かれている

【大和田の部屋】
・施錠されている

【江ノ島の部屋】
・施錠されている

【石丸の部屋】
・施錠されていない。球磨川の死体発見現場

【十神の証言】
・球磨川の行方がわからなくなった日。殺される先約があると言っていた

【球磨川の部屋】
・ドアが壁になっており、破壊することで中に入れる

【補強のない壁】
・破壊に備えているはずの壁には一切の補強がなくなっていた

【地面の血の染み】
・球磨川の個室の地面に微量の血が付着していた

【深夜の振動】
・球磨川が消えた日の夜に朝日奈が感じた振動。自室で2回、廊下で1回
・桑田と山田は気がつかなかった

【増えた校則】
・シャッターの破壊禁止が追加されていた
・鍵のかかった扉の破壊禁止が追加されていた

【いないはずの江ノ島】
・桑田が見たという江ノ島の幽霊。真偽は不明


霧切響子の知っているコト

【大嘘憑き】
・物体を消すことができるという球磨川のスキル

霧切(もとより大嘘憑きの前で物的証拠を探すこと自体が無駄……)

霧切(必要なのは状況の証拠と、証言しかない)

霧切(皮肉なものね。前回の球磨川君の真似をするしかないなんて)

霧切(それとも、それが狙いなのかしら?)

霧切(球磨川君……)






       学級裁判  開  廷  !

??時間
どこかの教室

球磨川『……』

「まったく、きみがふざけたやつだとは知っていたけれど、ここまでふざけるとはびっくりだぜ」

「きみをめだかちゃんと対決させて幸せになってもらって、封印を解くというストーリーがおじゃんだ」

「それだけならまだしも、希望ヶ峰学園で奇跡的に見つけた主人公にまで悪逆非道の限りを尽くしちゃってさ」

「勇者が始まりの街から出てきたところをニフラムしにくるラスボスがどこにいるんだよ」

「球磨川くん、君ってやつは期待はずれでガッカリで素晴らしい逸材だぜ」

球磨川『安心院副会長に褒められるだなんて感激だね……その褒美ってワケじゃないけど、返してくれないかな……』

球磨川『僕の、始まりのマイナスをさ』

「嫌だね」

「それと、僕のことは」

安心院「親しみを込めて、安心院さんと呼びなさい」

それじゃ、また明日とか

モノクマ「それでは議論をはじめちゃってくださーい!」


ノ ン ス ト ッ プ 議 論

   議 論 開 始 !


葉隠「議論っつってもなぁ……」

桑田「あぁ、自殺なのに話すことなんかあるか?」

不二咲「でもぉ……自殺なのに学級裁判が開いてるってことは……」

山田「フッ。それについては確認済みですぞ!自殺であっても裁判を開くことは!」

葉隠「じゃあやっぱり自殺で決まりだべ!」

霧切「そう断言するには早いわ」

腐川「な、なによぅ……もう決まりでいいじゃない……」

十神「黙って聞いていろ」

腐川「ひっ、わかりました白夜様ぁ……」

霧切「一見、自殺にしか見えないことは確かだわ」

霧切「でも、これはれっきとした殺人よ」

舞園「……」

葉隠「いやいやいや!霧切っち、あれはどうみても自殺だべ!」

葉隠「リアルな話、【外傷もない】ってことは争った形跡もないはずだし」

葉隠「わざわざ【球磨川の遺書】まであるし決まりだべ!」

朝日奈「それに自殺につかった【食堂の椅子】とか【電源コード】とか」

朝日奈「ぜんぶ球磨川が持って行くところ見られてるし、やっぱり自殺なんじゃ……?」

霧切「それじゃあ、例え話をしましょう」

不二咲「たとえばなし……?」

霧切「例えば、よ」

霧切「首を吊るための紐と椅子を自ら用意して、あとは首を吊って足台を蹴飛ばすだけ」

霧切「そこまで準備して、別の人が足台を外す」

霧切「こうすれば自殺じゃなくて、他殺になるわ」

桑田「はぁ?」

山田「霧切響子殿……それは……」

葉隠「意味がわからんっつーか……」

十神「球磨川は、クロと結託して殺されたといっているんだ愚民ども」

桑田「っんだとテメェ!」

不二咲「それって、それってつまり」

十神「分かりやすく言ってやろうか。球磨川はクロを勝たせるために自殺に見せかけているんだ」

葉隠「い、意味わからん」

セレス「球磨川君なら、ありえますわね」

霧切「それに【十神君の証言】によれば、球磨川君は誰かに殺される約束があると言っているわ」

朝日奈「じゃあ、その先約のひとが本当のクロってこと?」

大神「なるほどな。状況を混沌とさせる球磨川に相応しい所業だ」

舞園「うーん?でもそれはどうなんでしょう」

舞園「球磨川君が自殺じゃないかもしれない」

舞園「それは確かにありえる話だと思うんですけど、だったらなんで石丸君の部屋で殺したんでしょう?」

葉隠「なんか意味あんのか?」

舞園「だって、見せかけて殺すってことは、前提として球磨川君の死体が見つかることを前提としているわけですよね?」

舞園「だったらもっと目立つとこでやらないと、石丸君の部屋だなんて下手したらずっとみつかりません」

桑田「あー確かにな」

舞園「もしかしたら、誰にも迷惑がかからないように自殺しようとしたんじゃ……」

山田「なるほど!やっぱり球磨川禊殿の自殺で決まりですな!」

葉隠「最初からそう確信していたべ!」

セレス「……誰にも迷惑がかからないように、ですか」

セレス「球磨川君がそんなタマでしょうか?」

十神「あいつがそんな殊勝なわけがない」

霧切「そうね。むしろ喜んで迷惑をかけてくるでしょうね」

舞園「そうでしょうか?でしたら何故、球磨川君は石丸君の部屋で殺されたのでしょう?」

朝日奈「うーん……うーん……」

桑田「理由なんてあんのか?」

葉隠「球磨川っちことが全くわからんなぁ」

霧切(……わかってはいたけれど、状況はかなり不利ね)

霧切(球磨川君ならありえる、という線は多少なり彼と話したセレスさんや大神さん、十神くんだから通じるけれど)

霧切(そうでなければ、どうみても自殺)

霧切(舞園さんも黙っていてはくれないし、ここが正念場ね)

舞園「そもそも、球磨川君がいくらおかしい人とはいえ自分の命を差し出すような人でしょうか」

舞園「自己犠牲精神あふれるような人じゃないと思いますし……」

舞園「やっぱり、球磨川君は自殺ですよ!」

霧切「舞園さん、それは違うわ」


     反 論 !

  
 反論ショーダウン 開始! 


舞園「なにが違うっていうんですか?」

舞園「球磨川君は【自己犠牲】で殺されてあげたんですか?」

舞園「球磨川君がそんな人じゃないっていうのは……」

舞園「短い間ですが、一緒に過ごしてきた【みんなも知っている】はずです」

舞園「あまり人を悪く言いたくはありませんが……それでも球磨川君の悪意は常軌を逸しています」

舞園「だから皆で【彼を無視する】のもしょうがないと思いますが、球磨川君はきっとそれを気にして」

霧切「その言葉、斬らせてもらうわ!」

舞園「!?」

霧切「無視をするのもしょうがないと言ったけれど、確か球磨川君が消える少し前……」

霧切「舞園さん、あなたは私との探索を切り上げて球磨川君を追っていったわね?」

霧切「そんなに触れたくもないと主張する貴女が、なぜ球磨川君を追いかけたのかしら」

霧切「追いかけて、何の話をしたのかしら?」


     発 展 !

舞園「べつに、大したことではないです」

舞園「それに事件と関係ないじゃないですか」

霧切「いいえ、関係あるわ」

霧切「いま重要なのは、球磨川君の精神の在り方よ」

霧切「果たして彼は、人に殺されてまでその人を救おうとするような人物なのか否か」

霧切「そして、あなたが共謀者である可能性の確認のためにもね」

舞園「……ふぅー。そこまで言うならしょうがないです。お話しましょう」

舞園「とはいっても、本当に関係のない話です」

舞園「私が球磨川君を追いかけたのは聞きたいことがあったからです」

舞園「球磨川君が、裁判中にいった一言……」

舞園「石丸君の凶器を消した、という言葉が気になったんです」

舞園「隠した、とかならわかりますよ?消したってどういうことなんだろうと思って」

舞園「それで追いかけて、聞いてみたというわけです」

霧切「それは、私と一緒にみていたファイルにあった『大嘘憑き』の欄を見たからかしら」

舞園「えぇ、そうですよ」

霧切「あっさりと認めるのね。今回の事件の肝になる話だっていうのに」

舞園「肝もなにも、自殺なんですから関係ないです」

十神「大嘘憑き……?なんだそれは」

舞園「球磨川君は物体を消し去ることができる、大嘘憑きというスキルを持っていたらしいです」

桑田「は?なんだそりゃ?」

不二咲「なんていうか……ふぁんたじっくだね」

葉隠「舞園っち、頭だいじょうぶか?」

舞園「もちろん私だって信じてませんよ?だけどその消すって言葉と石丸くんの凶器が重なって気になったんです」

十神「にわかには信じがたいな……」

朝日奈「本当だとしたら、もう推理どころじゃないよね。できるわけないもん」

霧切「それで、その問いに球磨川君はなんて答えたのかしら」

舞園「その通りだって言ってました。みたファイルの通りだって」

十神「おい霧切、そのファイルとやらの内容を説明しろ」

霧切「球磨川君は物体を消すことができる大嘘憑きというスキルをもっていること」

霧切「そのスキルは簡単にコントロールできるものじゃないこと」

霧切「彼の経歴が謎に包まれていること、かしら」

十神「……下らん。と、一蹴したいところだが、そうも言えんな」

桑田「まさか信じるってのかよ。こんなギャグみたいことをよ」

十神「とりあえず信じただけだ。でないとどう説明するというんだ。あいつの部屋は現に消えたんだぞ」

桑田「あ……」

山田「そう言われてみれば確かに……」

十神「そこら中にあった【監視カメラ】が消えていたのも、大嘘憑きとやらがあったのなら頷ける」

舞園「なるほど!もしかすると本当にあったスキルなのかもしれませんね!」

舞園「けれど、それでもやっぱり他殺の証明にはならないような?」

不二咲「うーん……自殺にしても他殺にしても、証明が一層むずかしくなったね……」

霧切「いいえ、大嘘憑きはあるという前提なら話は変わってくるわ」

舞園「えぇ!!本当ですか霧切さん!」

霧切(小芝居むかつくわね)

霧切「この事件は点のヒントこそは多いものの、それらをつなぐ線が希薄すぎる」

霧切「最初から、少しづつ整理していきましょうか」

霧切「球磨川君が自殺のように見える理由」

霧切「それは死に方はもちろん、それらに必要な道具を自分で集めていたからだわ」

霧切「私はこれは、わざと見つかるように動いていたのだと思う」

霧切「食堂にいた大神さんと朝日奈さんにわざとらしくアピールしたりね」

霧切「そうして自殺というイメージを強化していった」

霧切「しかし彼は真のクロと共謀していた」

霧切「最後のトドメだけをクロにさせることで協力していたのよ」

霧切「そこで問題となるのが、なぜ石丸君の部屋を選んだか、ということなのだけれど」

霧切「その前にモノクマに確認するわ」

霧切「石丸君に大和田君、江ノ島さんの部屋は亡くなったあと施錠していたのかしら?」

モノクマ「……」

霧切「モノクマ?」

モノクマ「……あ!寝てたよ!ごめんねー!うぷぷ!」

モノクマ「オマエラがつまらない話ばっかりしてるからさ!」

モノクマ「それでなんだって?」

霧切「亡くなった人たちの部屋は施錠しているの?」

モノクマ「もちろんだよ!死んじゃったとはいえプライベートな空間は守ります!」

霧切「そう。実際確認したのだけれど、確かに大和田くんの部屋と江ノ島さんの部屋は施錠されていたわ」

霧切「だったらなぜ、石丸君の部屋は鍵が開いていたのかしら?」

桑田「そういやそうだな……」

不二咲「物体を消すことができたって鍵は開けられないよねぇ……」

セレス「大嘘憑きは実は物体を消すスキルでなく別のものだったか、あるいは違うところから入ったということでしょうか」

山田「新情報と推測が錯綜しすぎですぞ」

霧切「その錯綜した情報を1つにまとめる方法があるわ」

霧切「結論から言ってしまえば、セレスさんの推理は2つともあたっているのよ」

霧切「まず大嘘憑きは物体を消すスキルで、コントロールが難しいと書いてあったけれど」

霧切「これはどちらとも嘘ね」

舞園「でも実際に、ファイルや石丸君の凶器を消しましたよね?」

霧切「狙って消せている上に、石丸君の部屋のカメラのみを消しているのだから十分にコントロールできているわ」

霧切「そして物体を消す、とかいう説明だけどこれの嘘を証明するのは簡単だわ」

霧切「みんな、【球磨川君の部屋】を思い出して欲しいのだけれど」

朝日奈「えーと確か、消えたと思ったら実は部屋があったんだよね!」

舞園「ドアを消したんだから当然の結果じゃないですか?」

霧切「あまりに非現実的な出来事だから見逃してしまいがちだけれど」

霧切「ドアを消したまでは分かる。ではなぜそこに壁が出来ているのかしら?」

霧切「文字通り消しただけなら、そこにはドアがないだけで壁ができているのはおかしい」

桑田「……あ!確かにそうだな!なんで壁できてんだ!?」

霧切「ややこしい表現になるけれど」

霧切「あの現象は『ドアがなくなった』というより、『ドアを最初からないことにした』という方が正しい」

霧切「つまり大嘘憑きの真の能力とは、『あったものを、なかったことにする能力』」

霧切「これで間違いないはずよ」

十神「……どんどん現実離れしていくな」

腐川「あ、ありえないわよそんなの……」

霧切「どの程度のことが可能なのかはわからないけれど、少なくとも破壊した壁を戻せるくらいはできたはず」

霧切「その前提で話を戻すけれど……石丸君の部屋に入った方法、それは単純に壁を壊して侵入したのよ」

舞園「ちょっとまってください!」

舞園「あったものを、なかったことにする。それはわかりました」

舞園「でも、その理屈だと壊された壁は元通りにはならないんじゃないですか?」

霧切「破壊したことを、なかったことにした。で筋は通るわ」

舞園「そんなこと……できるわけないじゃないですか」

舞園「霧切さん冷静になってください。まるで当たり前みたいに超能力ありきで話していますけど」

舞園「オカルトですよそんなの!みんなもそう思いませんか!?」

葉隠「う、うーん」

桑田「なんか勢いで信じかけたけど……舞園の言うとおり、ありえないよな……」

十神「……」

霧切「じゃあ、実際にドアが壁になっていて、カメラが消えたいた事をどう説明するのかしら」

舞園「それはわかりません」

舞園「わかりませんが、わからないことを超能力だから、で解決するのはおかしいんじゃないでしょうか」

山田「むむむ。舞園さやか殿の言うとおりですな」

舞園「仮に大嘘憑きがあったとしてもですよ?」

舞園「そんな力があるんなら脱出だってひとりで出来たはずだし、そもそも壁じゃなくてドアを壊せばいいだけです」

舞園「霧切さん、あなたの言っていることはめちゃくちゃです!」

霧切「舞園さん、あなた結構口が立つのね」

霧切「というよりも人の心を掴むのがうまいのかしら」

舞園「霧切さん、いつもの冷静なあなたに戻ってください」

霧切「私はいつだって冷静よ」

霧切「もっとも、狂人はいつだってそう言うけれど」

舞園「……」

セレス(球磨川君っぽい言い回しですわね)

霧切「まずドアじゃなくて壁を壊した理由だけど」

霧切「【増えた校則】に起因しているわね。鍵のかかった扉の破壊を禁じるという校則」

霧切「彼は最低限のラインでルールを守るわ。ルールがなければ勝利もないから」

霧切「よって球磨川君は鍵つきのドアでなく壁を破壊し、その後石丸君の部屋で殺され、クロは普通に鍵をあけて出て行ったのでしょう」

霧切「朝日奈さんが感じた【深夜の振動】、あれは壁を破壊した音でしょう。完全防音の部屋だから音はわからないけれど」

霧切「しかし同日のランドリーにいたセレスさんの証言によれば【破壊音】が聞こえていた」

霧切「他に壊されたようなものもなく、現実にその日から球磨川君は行方不明になっている」

舞園「……壁が破壊されたとは限らないじゃないですか」

霧切「建物が揺れるほどの振動よ。別のものが破壊されたにせよ、なにかの痕跡がなければおかしい」

霧切「なにも痕跡がないということは大嘘憑きはあるということだし、他にも有力な証拠が2つあるわ」


霧切「まずは【補強のない壁】だけれど」

霧切「知っての通り、学園の壁は大神さんの力を持ってしてもヒビひとつはいらない頑丈なもののはず」

霧切「にも関わらず、球磨川君の部屋の壁は補強が消えていて破壊できるようになっていたわ」

霧切「これは球磨川君の大嘘憑き存在の証明になる」

霧切「そして2つ目。中にあった【球磨川君の遺書】よ」

霧切「中には殺されたんじゃなくて自殺した……とあるわ」

霧切「この言い方は、裁判のルールやクロ卒業の特性がわかる学級裁判を経験してなければ出てこない言い回しよね」

霧切「でも球磨川君の部屋が閉じられたのは初日。時系列でいえば部屋を閉じる前にあの手紙を残せたとは思えない」

霧切「ということは、あの手紙は部屋が消えた後に書かれて残されたことになる」

霧切「つまり閉じられた部屋に、球磨川君は一度手紙を置きに入っているはずなのよ」

霧切「にも関わらず壁に破壊の音はない。つまり彼は破壊されたものを、元に戻せる力がある」

霧切「そうでないとすれば、【破壊音】【深夜の振動】、時系列にあわない【球磨川君の遺書】」

霧切「これを大嘘憑きなしでどう説明するのかしら?」

舞園「……」

霧切(なんとかイーブンまで持ち越せた、かしら)

霧切(まずは大嘘憑きありきでなければ話が通じない)

霧切(物証はなくとも裁くことが出来る。球磨川君の戦法を使うのは気が引けるけれど)

霧切(十神君、セレスさん、大神さんは球磨川君を知っているからなんとか非自殺派に巻き込める)

霧切(腐川さんも十神君次第ではこっちに転ぶはず)

霧切(後の桑田君、不二咲さん、葉隠君、朝日奈さん、山田君。そして舞園さん)

霧切(これらの浮動票をいくつ動かせるかの勝負ね)

霧切(舞園さんを口撃して発言力を低下させ、投票へ導く!)



舞園(ほんと、球磨川君の言ったとおりになっちゃいましたね)

舞園(もし真実を追求してくるとすれば霧切さんだって)

舞園(まぁ犯行の証拠になるようなものもないし、目撃者もいません)

舞園(最悪、共犯者の可能性を出されたところで私だと決め付けることはできません)

舞園(球磨川君との第二の約束、裁判のときは基本黙っててトドメを刺したところ以外正直に答えるってありましたけど)

舞園(こんな追い詰められて黙ってるわけにもいきません)

舞園(勝つのは、私です)

舞園(何をしてでも、ここから出てやる……!)



学級裁判 休廷

??時間
どこかの教室


安心院「なるほど球磨川君、きみの現実を虚構にするスキル『大嘘憑き』は大した能力だ」

安心院「元々の僕が貸した『手のひら孵し』は事象の卵細胞化、つまり因果の逆流という、極めて平和的なものだ」

安心院「にも関わらず、よくぞそんな取り返しの付かないスキルにしてくれたぜ」

安心院「僕の一京分の1のスキル……」

安心院「時間旅行のスキル『時系列崩壊道中膝栗毛(エブリタイムスリップエブリデイドリーム)』でも取り返せないし」

安心院「最初からやり直すスキル『質問を繰り返す(リセットクエスチョン)』でもどうしようもない」

安心院「きみが消したものはもう戻らないんだぜ」

安心院「なかったことにしたことは、なかったことにはできない」

安心院「つまり苗木くんはもう二度と戻らない――」

安心院「なんてことはないんだぜ?」

球磨川「……安心院さんなら出来そうだね」

安心院「やるのは僕じゃない。きみだ」

安心院「だから取引をしようじゃないか球磨川君」

安心院「きみによって封印されている僕じゃできないことだ」

安心院「1京分の1のスキル、モノマネのスキル『無用見真似(リバーシブルミラー)』でとってきた秘蔵スキル」

安心院「スキルを喰い改めるスキル『正喰者(リアルイーター)』で大嘘憑きを改造する 」

安心院「なかったことを、なかったにできるスキル。名づけて『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)』だ」

球磨川『ぷっ、ノンフィクションて、本気で言ってるの?さすがの僕でも引くわぁ』

球磨川『ちょ、ちょっと安心院さん痛い!痛いって!』

安心院「あのね球磨川君。僕は気の長いほうだけれど、また主人公を待つのは嫌なんだよ」

安心院「めだかちゃんの方は最近立ち直ってきたみたいだけれど、まだ期待はできないし」

球磨川『……』

安心院「ここいらで保険をうっておきたいのさ」

安心院「この虚数大嘘憑きを使って苗木君を戻してくれるなら、却本作り(ブックメイカー)は返そうじゃないか」

安心院「どうだい球磨川君。悪い提案じゃないだろう」

安心院「きみは大嘘憑きを失うことなく、却本作りも戻ってきて……」

安心院「因縁の苗木くんと決着をつけることもできる」

安心院「これ以上ない、いい条件だと思うぜ?」

球磨川『……』

学級裁判 再 開!


霧切「大嘘憑きは存在する、ということで話を進めてもいいかしら」

十神「ある、と仮定せざるえんだろう」

葉隠「そ、そんなオカルトありえるわけないべ」

セレス「しかしなければないで、つじつまが合わないことが多すぎるのも事実ですわ」

朝日奈「あーもう!頭こんがらがってきたよ……」

大神「ぬぅ……」

桑田「くっそ。わけがわかんねぇぞ」

山田「真実はいつも一つですぞ」

腐川「びゃ、白夜様があるっていうならきっとあるわ……」

不二咲「うーん……」

舞園「……そうしないと話も進まないみたいですし、霧切さんの話を聞きましょう!」

霧切「そう、ありがとう」

霧切「その前に舞園さんに聞いておくわ」

舞園「なんでしょう?」

霧切「セレスさんと朝日奈さんが感じたという物音や振動、あなたは感じたかしら?」

舞園「そう、ですね」

舞園「その頃はもう寝ていたので、ちょっと覚えがないです」

霧切「物音がいつあったかなんて一言も言っていないのによくわかるわね」

舞園「……話の流れで球磨川君の死亡時間のことを言っているんだろうなとおもっただけです」

舞園「揚げ足をとるような言い方はやめてください」

十神「……ふん。どうだか」

舞園「……」

霧切「続けましょうか」

霧切「葉隠君はどうかしら?振動のあった日になにか気づいたことは?」

葉隠「気づいたことって言われてもなぁ」

葉隠「正直、なにもわかんないべ」

葉隠「きっと地震だべ!」

霧切「不二咲さんは?なにも見てない?」

不二咲「うーん……ごめんねぇ。何もみてないよ」

不二咲「揺れ……あ、そういえば揺れたかも」

不二咲「3回ぐらいかな?自信ないけど……」

霧切「それじゃあ腐川さんはどうかしら?」

腐川「な、なによ……私はクロじゃないわよ……」

腐川「でも、確かに揺れたわ。それも3回……なんだったのよあれ……」

霧切「大神さんはなにか感じた?」

大神「すまぬ……揺れたような気はするが確信はない」

霧切「十神君はどう?」

十神「それなら間違いない。3回揺れたし、少しばかり音も聞こえたな」

十神「気になって外にでてみたが、特に変化はなかった」

霧切「桑田君と山田君は気づかなかったのよね?」

桑田「あぁ、ばっちり起きてたけど何にもなかったぜ」

山田「僕も何もありませんでしたぞ」

霧切「私は倉庫にいたのだけれど、特に変化はなかったわ」

霧切「基本的には全員自室にいた、でいいかしら?」

朝日奈「私は途中でさくらちゃんの部屋にいったよ!」

霧切「移動中に3回めの振動を感じたのよね」

朝日奈「うん!」

霧切「みんなの意見を合わせると、少し不思議なことがあるわね」

舞園「べつに、不思議なことなんてないように思えますが……」

霧切「セレスさんが音を聞いたのは2回に対して、振動は少なくとも3回あるのよ」

霧切「壁を壊すほどの揺れなのだから音も当然凄まじいはず」

霧切「にも関わらず音は2回ということは、2回は廊下側、1回は防音の個室で行われたということ」

桑田「おぉ……言われてみると簡単なのに気がつかなかった」

霧切「音がした方の2回はわかっているわ」

霧切「一回は球磨川君の自室を開けたとき、2回めは石丸君の個室ね」

霧切「そして最後にクロは鍵をあけて出て行った……となると最後の1回の破壊はどこで行われたのか」

霧切「答えは石丸君の部屋しかありえない」

舞園「それはどうでしょうか」

舞園「確かに音と振動の数があわないのだから、一回は個室で行われたのでしょう」

舞園「しかし振動のみの破壊が行われたのが最後とは限りません」

舞園「球磨川君の自室で行われたのかもしれないじゃないですか」

霧切「朝日奈さんの証言によれば、2回の振動のあと出て行ったあと廊下できいた3回め、そこで音は伴っていなかった」

霧切「つまり3回めが個室での破壊なのは間違いないのよ」

舞園「……」

桑田「ど、どーしたんだよさやかちゃん」

山田「さっきからどうも、よくわからない突っ込みをしているというか」

十神「もしかすると舞園が真のクロだからそんなに突っかかっているのか」

舞園「ち、ちがいますよ!」

舞園「みなさんこそどうしたんですか!そんな現実じゃありえない能力前提の推理なんかまじめにきいて!」

霧切「あら舞園さん。とりあえず話を進めようと言ってくれたのは貴女じゃない」

霧切「そんなに焦っていると、犯人みたいに見えるわ」

舞園「……っ!」

朝日奈「え……まさか舞園ちゃんが……?」

大神「……」

霧切「舞園さん……本当に、なぜ貴方は焦っているのかしら」

霧切「今の話だって、ただ大嘘憑きをつかって何をしていたか話をしていただけ」

霧切「誰がクロかなんてわかる要素はないわ」

霧切「もしかして、三回目の破壊音になにかあるのかしら」

舞園「……さぁ?私にはわかりません」

霧切「まぁ三回目の破壊も見当はついているのだけど」

舞園「へぇ、聞かせてもらってもいいですか?」

霧切「ただの消去法よ。石丸君の部屋の壁を壊して出ていけるところは廊下と、大和田君の個室しかないわ」

霧切「そして廊下はありえない」

舞園「……」

セレス「しかし大和田君の部屋まで開通させた理由がわかりませんわね」

山田「特に必要ないように思いますが……」

霧切「正直に言ってしまえば、私にもわからない」

霧切「ただ、あてずっぽうな勘なのだけれど、1つだけ心当たりがある」

霧切「だからモノクマ、ひとつ賭けをして欲しい」

モノクマ「……」

霧切「モノクマ?」

モノクマ「……」

十神「なんだ?いったいどうした」

不二咲「うごいて……ない?」

モノクマ「……うぷぷぷぷ!」

モノクマ「いいねぇ!絶望的な展開になってきたよ!」

モノクマ「いいよ霧切さん。その賭けとやらにのってあげるよ!」

霧切「内容も聞かないでいいのかしら」

モノクマ「うん。そんなことより面白いことが起きてるからねぇ」

霧切「……そう」

霧切「大和田君の部屋にいって確認することはダメらしいから」

霧切「私が大和田くんの部屋に隠されたものを当てられたら、正直に正否を教えて」

モノクマ「なんだそんなことか。全然おっけーだよ!」

舞園「……っ!」

霧切「……そう」

霧切「みんな。これを外したら、おそらく詰むわ。その時はごめんなさい」

十神「……」

朝日奈「え?え?どういうこと?」

霧切「元より物証がないなら、証言を使うしかないことはわかっていた」

霧切「だから、きっと……」

霧切「……モノクマ」

霧切「大和田君の部屋に隠されたものは」

霧切「江ノ島さんね?」

モノクマ「……そうだねぇ」

舞園「……」

モノクマ「半分あたりかな!うぷぷぷ!」

桑田「は、はんぶん!?」

十神「江ノ島とはどういうことだ。あいつは死んだはずだ」

霧切「えぇ、確かに死んでいたわ」

山田「ゆゆゆゆゆ幽霊ですかな!?」

桑田「えぇええ!じゃあ俺がみたのってもしかして……」

霧切「正直、信じたくない気持ちもあるのだけれど……」

霧切「球磨川君は、江ノ島さんの死を『なかったことにした』のよ」

不二咲「そ、それはちょっと……」

山田「チートがすぎますぞ!」

大神「信じがたい話だ」

セレス「仮にそんなことができたとしても、何故?という疑問も残りますわ」

霧切「……石丸君の部屋はカメラが消えていたわ」

霧切「カメラが消えていたということは、当然黒幕も誰が真のクロかわからないはず」

霧切「にも関わらず正常に裁判が開かれている」

霧切「つまりこの殺人事件は、カメラではなく実際にクロが見ている状況で行われた」

霧切「一種の協力関係だった。違うかしら」

モノクマ「大当たりー!さすが霧切さんだね!」

モノクマ「いやー!僕もびびりましたよ!ほんとにもー!」

モノクマ「校則違反で処刑されたはずの江ノ島さんが現れたときはさ!」

モノクマ「その上球磨川クンと結託しててもーボクびっくりしすぎて腰が抜けたよ!腰ないけど!」

十神「死人を蘇らせる……クク。正気の沙汰ではないな」

葉隠「ま、まさか球磨川っちはそんなことまできるんか!?」

霧切「協力関係がどんなものなのかは知らないけれど……」

霧切「この裁判、全員参加のはずよね。はやく事件の全貌を知っている江ノ島さんを呼んで欲しいのだけれど」

舞園「……いえ、その必要はありません」

桑田「ま、舞園……?」

舞園「確かに江ノ島さんは、私の……いえ、私たちの計画をすべて知っています」

舞園「私たちの、球磨川君殺しのすべてを」

朝日奈「う、うそでしょ……」

山田「そんな……舞園さやか殿が……」

霧切「やけにアッサリ認めるのね」

舞園「ふふ……全部知っている江ノ島さんのことがばれたのなら時間の問題ですし」

舞園「元より球磨川君にも約束していたんです」

舞園「負けるときは、へらへら笑って負けろって」

舞園「あーあ、負けちゃったなぁ」

舞園「最初から球磨川君の言うとおり、黙っていればよかった」

舞園「球磨川君を信じた霧切さんと、信じなかった私の差なんでしょうか」

舞園「ま、いいです。さっさと決めちゃってください」

霧切「そう。それじゃ一応まとめてみましょうか」

球磨川君の全面協力のもと、クロになるべく舞園さん達は計画を練った

球磨川君はさも自殺であるようイメージづけるために、自殺道具を目を引く形で集める

さらにカメラをいくつも消すことでモノクマとの取引材料を揃えて協力関係になった

全てを用意して、まずは壁の補強をなかったことにして個室の壁を破壊。遺書を用意したわ

おそらく最初は江ノ島さんをそこに監禁していたのでしょう。抵抗にあって多少の血が流れた

しかしそこで何があったかはわからないけれど、球磨川君と江ノ島さんは協力関係を築いた

その後、3人とモノクマで連れ立って石丸君の部屋に無理やり侵入、準備を整えたわ

江ノ島さんは見つかるわけにはいかないから隣の大和田君の部屋に隠した

あとは球磨川君の首吊り用の足台を舞園さんが外し、扉をあけて外にでた

江ノ島さんを蘇らせた理由だけれど、その一つに証言者作りがあると思う

球磨川君は勝負事のアウトラインは最低限守るから、解決不能な状況は作らない

音だってそう。死さえなかったことにできるのなら、音だってなくせたはず

にも関わらずそうしなかったのは、ヒントづくりの一環なんでしょうね

それでも決め手が本来死人のはずの江ノ島さんの証言ってあたりが、本当に最低限しか守らないわね

その後舞園さんは何事もなかったようにして自室に戻る

三日間後、私にヒントを出すことで死体を発見させた


これが事件の全貌よ

舞園「ええ、ほぼその通りです」

舞園「しかし霧切さんも人が悪いですね」

舞園「もう決まってるのにわざわまとめるなんて、球磨川君みたいですよ」

霧切「球磨川君の戦法を真似しているから当然ね」

舞園「ほんと、仲がいいんですね」

霧切「……」

舞園「さぁ投票してください」

舞園「これが私の最後のステージだなんて、ちょっと悲しいですけど」

舞園「やれることはやりました。悔いしかないですけれど」

モノクマ「うぷぷ!それじゃあお楽しみの投票といこうか!」

モノクマ「早くしないと、江ノ島さんがこっちに向かってきてるからね!」






 
    GAME OVER

マイゾノさんがクロにきまりました。
  おしおきをかいしします。


 舞園さやかinファイナルステージ

素晴らしいなステージだった。これが処刑だと忘れるほどに

舞園さやかの努力と才能のすべてが発露したといえるほど輝いていた

夢を与えるアイドルに相応しい歌と踊り、笑顔だ

しかし現実は夢を裏切る

採点のランプが合格ラインに達するそのとき、モノクマがパネルを破壊する

結果は不合格

舞園さやかは、ステージという刃物に閉ざされて永遠に夢になった

霧切「……相変わらず悪趣味ね」

モノクマ「エクストリームだよ霧切さん!」

モノクマ「だけど……全力で楽しめないのはボクも一緒かな」

モノクマ「本当に困っちゃうよねー」

霧切「江ノ島さんがこちらに向かっているといっていたわね」

モノクマ「うぷぷぷ!それはどうかな!?」

モノクマ「何にしても、とんでもチート野郎球磨川クンが死んだいま、江ノ島さんごとき物の数じゃないよ!」

モノクマ「ボクのモノクマ太極拳のサビにしてくれる!シュッシュッ!」

霧切「忠告するけれど、そんなことは言わないほうがいいわ」

モノクマ「んん?なんでかな?」

霧切「球磨川君は格好つけるのが好きだから、出てくるタイミングを伺っているのよ」

モノクマ「はにゃ?何言ってるんだい霧切さん、球磨川くんはもう」

『おいおい、響子ちゃん』

『そんなこと言われちゃ登場しにくいじゃないか』

『だが言わせてもらうぜ』


『みんな!ひさしぶりっ!』

『僕だよ』

十神「……なんだこれは。出来の悪い茶番か」

桑田「は?え?え?どういうことだ?」

不二咲「そんな……死んだはずじゃ……」

セレス「……はぁー……」

朝日奈「うそ……脈はなかったのに……」

大神「……球磨川……なのか?」

球磨川『いいや違う』

球磨川『僕は球磨川禊じゃない』

球磨川『双子の弟の、球磨川雪だ』

山田「ふぁ!?」

葉隠「ど、どういうことだべ!?」

球磨川『あはは、いまの冗談信じたバカはどのくらいいたかな』

霧切「こんなときまでバカな冗談はよしなさい」

球磨川『信じるバカに言うバカがいていいじゃないか』

モノクマ「……おかしいなー?球磨川クン、きみは死んだはずだよね?」

モノクマ「何度も何度も確認したんだけど?」

球磨川『あぁ、ごくろうさま!』

球磨川『だけど、残念だったね』

球磨川『僕の絶命を――』

球磨川『なかったことにした!』

十神「そんなことまで出来るというのか……」

山田「本当にチートじゃないですかヤダー!」

大神「信じられん……」

球磨川『まぁ本当は死にたくないんだけどね』

球磨川『いくら自動発動で生き返るからっていっても痛いし』

球磨川『嫌なやつに会わなくちゃいけないしね』

霧切「本当に、なんでもなかったことにできるのね」

球磨川『もちろんだぜ響子ちゃん』

球磨川『このサプライズを企画するために道すがらカメラを消しとくぐらいはできるぜ』

球磨川『気を抜くと……世界そのものをなかったことにしちゃうけどね』

球磨川『それにしてもすごいぜ響子ちゃん』

球磨川『まさか死んだむくろちゃんを探さずに裁判に勝っちゃうなんてさ』

霧切「むくろちゃん……?」

球磨川『あ、これ言っちゃダメなやつだった!』

球磨川『まさか知らないとは思わなかったからしょうがないよね』

朝日奈「球磨川が生きてたって……それじゃ舞園ちゃんの言ってたことは……」

球磨川『何も間違ってないよ。聞いてないけど』

十神「徒労、それ以上にいまの心境を表す言葉はないな」

モノクマ「いやいやいや!球磨川クンきみのチートっぷりには驚かされるよ!」

モノクマ「まさか自分の死すらなかったことにできるなんてさー」

モノクマ「ちょっと球磨川クンには対策を考えないとね!」

球磨川『そんなに褒めるなよ。褒められ慣れてないから照れるぜ』

モノクマ「まぁいいや!次の学級裁判までにはなんとかできるしね!」

桑田「ああ、くそ……今回もなんて後味わりぃんだよ」

山田「これでは死んだ舞園さやか殿も浮かばれないですぞ……」

球磨川『ん?みんな待ってよ』

球磨川『どこに行こうっていうのさ。まだ裁判中だぜ』

霧切「裁判なら終わったわ球磨川君。あなたのせいでね」

球磨川『いや、裁判は終わってないぜ』

球磨川『あと僕は悪くない』

十神「とことん意味のわからんやつだな……もう舞園さやかのクロ判定はでたんだ。こんなところに用はない」

球磨川『あぁ!なるほど!白夜ちゃん達は勘違いしているんだね』

球磨川『確かにさやかちゃんは残念だったけれど……裁判は終わってないよ』

霧切「球磨川君、あなた何を言いたいの」

球磨川『なにって……』

球磨川『さやかちゃん殺しのクロを決める裁判だよ』

桑田「……は?」

不二咲「ど、どういうこと?」

球磨川『だって、人を殺したクロを見つけ出さないと僕らは殺されちゃうんだぞ!』

球磨川『まじめにやれよ!』

大神「お前にだけは言われたくない」

球磨川『それもそうだね』

球磨川『でもさ、モノクマも言ってたよね』

球磨川『ボクだって校則は守るクマーってさ』

球磨川『じゃあさー』

球磨川『さやかちゃんをオシオキと称して殺した件について裁判をしないとおかしいよね』

球磨川『さやかちゃんが校則違反したとかならともかくさ、さやかちゃんは誰も殺してないんだぜ?』

球磨川『どこに死体がある?凶器は?被害者はだれ?』

球磨川『僕はさやかちゃんとコロシアイごっこをしてただけだぜ?』

球磨川『それをみんなでまじめに話し合っちゃってばっかみたーい!』

球磨川『そんな勘違いから生まれた事件だなんて、悲しいね』

球磨川『でも、ルールはルールだぜ』

球磨川『なんの罪もないさやかちゃんを殺したクロとして、処刑されてもらうぜ盾子ちゃん!』

球磨川『おっと!今さら自分はルール適用外だなんて言うのはなしだぜ』

球磨川『気持ちはわかるけど、そこは人として!いやクマとして!決められたルールは守らないとさぁ』

絶句。その状況を表すとしたらまさにその一言だった

あのモノクマでさえ、事態についていけていない

ひとり球磨川がドヤ顔でポーズを決めている時に霧切響子は静かに思い返していた

球磨川は最低限の、本当に最低限のルールのアウトラインのみを守る

その戦い方は正攻法なんてもってのほか、常に奇襲を狙うのが球磨川なんだと




『さぁ、始めようぜ』 『最後の学級裁判をさ!』



  
     最後の学級裁判 開 廷 !

いい忘れてすまん。推理出来る要素皆無です
そして多分次か、次の次で終わる。補足もするつもり
それじゃまた明日とか

『最初からクライマックス推理だ!』

『仲良くなった僕とさやかちゃんは、暇をつぶすのにも苦労する毎日に嫌気をさしていた』

『そこで思いついたのが来るべきコロシアイ生活を模倣するコロシアイごっこだ』

『学級裁判をおこして遊ぼうとしたんだけど、これには黒幕の協力が必要だと判断した僕は』

『まずは以前に4Fまで行った時に5Fで拾っておいたむくろちゃんに協力をもとめた』

『生き返らせる前のむくろちゃんは僕の部屋は閉じ込めていたから、壁を破壊して入室した』

『そんで協力してほしいって言ったんだけど、妹想いのむくろちゃんに手ひどい反撃をうけてね』

『気づかなったのだけれど、少しばかり血を消し忘れてたみたい』

『まぁなんとか説得できて、条件付きで彼女の協力は得られた』

『後は、僕がいる限り裁判を無茶苦茶にできることと、むくろちゃんを盾に黒幕に協力を依頼して』

『さらに僕が殺される役をすることを提案した』

『黒幕ちゃんは本当に僕が死ぬって勘違いしてたみたいだけどね』

『後はカメラのない部屋で黒幕ちゃんに僕が殺される真似をするところをみてもらって』

『むくろちゃんを紋土ちゃんの部屋に放り込んだ』

『僕が殺されたと勘違いしたみんなは学級裁判を開いて、さやかちゃんを殺した』

『そしてさやかちゃんを殺したの、なんと!』

『黒幕ちゃんこと盾子ちゃん、きみだぜ!』

球磨川『んー?みんな黙っちゃってどうしたの?』

球磨川『もうすぐ出られるんだぜ?テンションあげろよ』

霧切「球磨川君、残念だけれど皆はあなたみたいじゃないのよ」

霧切「そもそも今の推理で聞きたいところが満載なのだけれど」

球磨川『えー。もう決着はついたんだぜ。細かいことはいいじゃないか』

霧切「よくはないし、決着もついていないわよ」

球磨川『ああ、そうだね。まだ投票があった』

球磨川『でも後はただの作業だしなぁ』

球磨川『まぁいいや。盾子ちゃんさっさと本体をここによこしなよ』

球磨川『ぬいぐるみに裁判を代行させていいのなら、今度からここはぬいぐるみ博覧会になるぜ』

モノクマ「……うぷ」

モノクマ「うぷぷぷぷ!」

モノクマ「いいよ、球磨川クン。正直きみがここまでやるとは思わなかったよ!」

モノクマ「ボクを驚かせてくれたご褒美だよ!」

江ノ島「お望み通り、わたくし参上!」

球磨川『処刑されるってわかってるのに出てくるなんて潔いね』

江ノ島「何を言っているのですか。投票の結果をみるまでわかりませんよ」

球磨川『そっちこそ何を言っているのさ。ここにいる全員が目撃している』

球磨川『盾子ちゃんがおしおきスイッチを押しているところをね!』

江ノ島「それじゃあー!ここにいるみんなにぃー!話を聞いてみよっか!」

江ノ島「舞園さやかを殺したのは、あたしか、球磨川か」

球磨川『あはは。どうしたんだよ絶望屋さん』

球磨川『わかりきった勝負をするの僕みたいなマイナスに任せておけよ』

江ノ島「あなたがおっしゃったのではありませんか。この裁判では決定的な証拠はいらない」

江ノ島「『そんな雰囲気』で決められるのと」

江ノ島「舞園を陥れ、石丸を誑かし、協力すると見せかけて見殺しにする球磨川と」

江ノ島「私様のどちらがクロという名に相応しいか」

江ノ島「決めちゃおっか!」

十神「ま、まて!」

球磨川『待たない待てない待ちたくない』

十神「黒幕が江ノ島だと……死んだはずだ!」

葉隠「そ、そうだべ!怒涛の展開で頭が追いつかないけど、江ノ島っちは死んだはずだべ!」

不二咲「それにむくろって……?」

朝日奈「どういうこと!?今までのは全部江ノ島ちゃんの仕業だったの!?」

桑田「どうしてんなことを!?」

球磨川『あー。みんな記憶を失ってるから分からないんだね』

霧切「球磨川君、あなたやっぱり気づいていたのね」

霧切「私たちの記憶が奪われていることに」

球磨川『少し訂正があるよ名探偵ちゃん』

球磨川『僕は最初から記憶を失っちゃいない』

球磨川『言っただろ?僕が響子ちゃんのことを少しでも忘れるわけがないって』

大神「記憶が奪われた、だと?」

球磨川『ほんとひどいことをするよね!許せないよ!』

球磨川『だけど、安心して』

球磨川『いますぐに、記憶制御なんてなかったことにしてあげるから』

霧切「っ!待ちなさい球磨川君!」

球磨川『よし待とう』

江ノ島「うぷぷ、球磨川クンはそんなことまで出来るんだ。本当にチートだよ」

江ノ島「霧切さんの判断のおかげで助かりましたね球磨川君」

江ノ島「いえ、あなたの目的からして、霧切さんの記憶だけは取り戻すはずがない」

江ノ島「私としては外の世界がどうなってしまったのか思い出してしまえば良かったのですが」

江ノ島「ま!わたしが教えちゃうんだけどねっ!」

江ノ島「既に世界は滅亡寸前なんだよぉ!外に出ても待っているは更なる絶望だけっ!」

江ノ島「もーちーろーん!十神財閥だってなくなっちゃってるんだって!きゃー!」

江ノ島「野球選手にもミュージシャンにもなれないし、行きつけのドーナツ屋もないし」

江ノ島「帰りを待つ家族もいないし、愛する婚約者もいませーん!」

江ノ島「一番安全なのはここなんだよ!それをお前らは出たがってバッカみてぇ!」

江ノ島「あ、ちなみに空気も汚染されてるけど、ここは大型の空気洗浄機があるから平気なんだよ」

江ノ島「あたしに投票して処刑するのもいいけど、当然食料も空気も手にはいらないからね」

江ノ島「さらに球磨川君と一緒になるという特典がついてきますね」

江ノ島「それでも、私がクロだと思うのでしょうか?」

球磨川『つらつらとしゃべっているところ悪いんだけれど』

球磨川『いや僕は悪くないけれど』

球磨川『僕はその件の人類史上最大最悪の絶望的事件もなかったことにできるんだぜ?』

球磨川『ぶっちゃけるとむくろちゃんを協力させたのも、この事件をなかったことにしないという約束があるからだ』

球磨川『だけどむくろちゃんはどうやら盾子ちゃんを見つけられなかったみたいだし』

球磨川『約束をさきに破ったのはあっちだし、僕も破ってもいいよね?』

球磨川『だからみんな安心して盾子ちゃんに投票していいよ』

球磨川『空気汚染とやらも、絶望に感染した人たちも』

球磨川『仲間同士殺し合っちゃったっていう罪悪感も』

球磨川『しょうがないっていう無力感も』

球磨川『ぜんぶぜーんぶ』

球磨川『なかったことしてあげるからさ』

球磨川『それでも僕に投票するのかな?』

江ノ島「うぷぷ。あの事件をなかったことになんて出来るはずないよ」

球磨川『僕は死という概念さえなかったことにできるんだぜ?その程度できないわけないだろう』

江ノ島「嘘ですね。大嘘憑きがそこまで万能であるなら、皆の私へ投票する気をなかったことにすることができます」

球磨川『できるけどやらないだけかもしれないよ』

江ノ島「確かにぃ!球磨川クンならありえるかもしれないけどぉー」

江ノ島「球磨川君、あなた自分がどれだけ信用されていると思っているのですか?」

球磨川『生死を飛び越えた戦友だろ?』

江ノ島「都合3人を犠牲にしてまで勝とうとするあなたを、みなさんは信じてくれるでしょうか」

球磨川『人類史上最大最悪の絶望的事件の首謀者でみんなを監禁させた盾子ちゃんよりは信じてくれるよ』

江ノ島「すべては投票!私様との勝負!」

球磨川『さすがだよ盾子ちゃん。高貴ちゃんを超えるスペシャルだね』

球磨川『ま!そんな君たちエリートを抹殺するために僕は転校してきたんだけどね!』

球磨川『みんな何をぼーっと口開けてるのさ』

球磨川『そんな風にしてても誰も餌は運んじゃくれないぜ』

霧切「……ついていけてないのよ」

霧切「当たり前な話だわ。裁判が終わったと思ったらいきなり黒幕と対決だなんてね」

霧切「私もわからないことがあるのだけれど、最初に殺された江ノ島さんは、江ノ島さんの姉である戦刃むくろだったのね?」

江ノ島「本当はあそこで退場だけしてもらう予定だったからむくろちゃんびっくりだよねっ!」

霧切「はぁ……」

霧切「みんな聞いてちょうだい」

霧切「何が起こっているのかわからないでしょうけど、今こそ、今だけでも立ち向かわなければならない時よ」

霧切「殺されていたと思われた江ノ島さんは生きていたし、このコロシアイ学園生活を作り上げた黒幕」

霧切「投票の結果、球磨川君が勝てば外に出られるけれど外の環境は最悪」

霧切「江ノ島さんが勝てば安全だけど監禁生活」

霧切「それだけの話なのよ」

霧切「球磨川君と一緒になってしまうのはストレスだろうけど、ここで飼いならされるよりはマシでしょう」

霧切「過程はどうあれ、舞園さんを殺したのは江ノ島さんだし、そのための環境をつくったのも江ノ島さん」

霧切「感情的にならないで、江ノ島さんに投票して終わらせましょう」

江ノ島「霧切さんはこの状況でよく落ち着いていますね」

江ノ島「さすがは、一年間も球磨川君と一緒にいられた過負荷さんですね」

霧切「……何を言っているのかしら。マイナスは球磨川君でしょう」

江ノ島「うぷぷ。残念だけど霧切さん。きみは球磨川クンと同じくマイナスなんだよ」

江ノ島「正確にいうと球磨川にマイナスにされたというべきだな!」

球磨川『……』

霧切「何をバカなことを……私は球磨川君みたいに他人を犠牲にしても平気じゃないし」

霧切「ましてや大嘘憑きみたいな能力もないわ」

江ノ島「いやいや、霧切さんの過負荷も大したものだったよ」

江ノ島「恐るべきは球磨川くんの手腕といったところかな」

江ノ島「忘れちゃってるからわかんないだろぉーけどー!」

江ノ島「霧切さんには二人の友だちがいたんだよ!」

江ノ島「二人しかいないとかかわいそー!」

江ノ島「その内のひとりが球磨川くん」

江ノ島「人を信じたいけど信じたくない。そんな霧切さんの矛盾した強さと弱さを……」

江ノ島「丁寧に優しく、腐らせるように籠絡し、自分と同じモノにさせた」

江ノ島「人格の根幹をなしているのは何か、という問いに大部分のひとは記憶と答えます」

江ノ島「それはどうやら当たっていたようですね。記憶を失った霧切さんは過負荷を使えなくなったようです」

江ノ島「そーれーでーも!マイナスとしての存在はわずかに残っていたみたい!」

江ノ島「その証拠にぃ!この学園生活でただひとり球磨川と問題なくコミュニケーションがとれていました」

江ノ島「みなさんも思い返してください。なぜか霧切さんは球磨川と接していても平気だったでしょう」

江ノ島「そんなマイナスの話をまともに受け取っちゃだーめ!みんな気をつけて!だまされちゃう!」

江ノ島「といってもスペシャルの皆なら合理的に判断できるよね!」

江ノ島「先のない選択か、先があるかもしれない選択」

江ノ島「私様に投票する愚かさを!!」

霧切「まさか……そんなわけが……」

江ノ島「うぷぷ。青い顔しちゃって演技派だね霧切さん」

霧切「球磨川君……これは事実なのかしら……?」

球磨川『……』

霧切「なぜ何も言ってくれないの?」

江ノ島「球磨川には言えない理由があるんだよぉ!」

江ノ島「それはここのドアを消して出て行かなかった理由の一つでもある!」

江ノ島「かわいそーだから言わないであげるけどねっ!」

江ノ島「嘘だけど」

江ノ島「それはね霧切さん。あなたのもう一人の友達のせいなんだよ」

江ノ島「球磨川くんの敵、苗木誠のね」

霧切「……あのファイルに載っていたひとりね」

霧切「その苗木君とやらが私に何の関係があるのかしら」

江ノ島「うぷぷ!ひどいなぁ霧切さん!」

江ノ島「彼は霧切さんを救ってくれたんだよ」

霧切「救う……?」

江ノ島「そう!苗木君はねっ!きみというマイナスを引き上げてくれたんだよ!」

江ノ島「球磨川が呆れるほどのプラス。慌てるほどの善人」

江ノ島「せっかく自分の仲間にした霧切さんを救われちゃって、球磨川君はもうめっちゃ怒りました!」

江ノ島「あの後すぐに苗木君が行方不明になっちゃったんだけど」

江ノ島「今思えばあの時大嘘憑きを使って消したんだね!」

江ノ島「私様ともあろうことが騙されたわ!」

江ノ島「そうと知っていたらコロシアイ学園生活のメンバーには選出しなかったのによお!」

江ノ島「ま!もちろん精神的に救われてもマイナスであることは変わりないんだけど」

江ノ島「今回の記憶制御は球磨川君にも都合がよかったのでしょう」

江ノ島「なにせ、霧切さん。あなたを取り戻すチャンスなのですから」

球磨川『……やれやれ。盾子ちゃん』

球磨川『全部ばらすなんてひどいぜ』

江ノ島「うぷぷ。私の正体を言わないという約束を最初に破ったのは球磨川クンだよ」

球磨川『そういえばそうだったね』

球磨川『だけど僕はまだ負けてない』

球磨川『そもそもこんな投票どうでもいんだ。死んでも生き返るし』

球磨川『僕が欲しいのは、響子ちゃんの心だけだ』

霧切「え、あの……ぅ……」

江ノ島「うげぇ。ちょっとやめてよそういうの」

江ノ島「気持ち悪いきもちわるい」

江ノ島「まぁ死んでも生き返るらしいけど、次死んだ時に簡単に生き返られると思わないことね」

江ノ島「死なないなら、殺し続けるだけ」

江ノ島「魂というものがあるなら、その魂が壊れるまで殺し続けちゃうからっ!」

江ノ島「さーて!みんなの理解も追いついたかなっ!」

江ノ島「そんじゃ説明するけどよく聞いてね!」

江ノ島「ちょっと絶望的で、バカにはよくわかんねーと思うから!!」

江ノ島「みなさんのお手元のスイッチで、本当のクロだと思うほうに投票してね!」

江ノ島「その結果、クロは処刑されます」

江ノ島「私様が処刑されれば絶望だらけの外へ!」

江ノ島「球磨川が処刑されれば、この学園で半永久的な平穏を約束しよう!」

十神「そんな馬鹿なことが……」

不二咲「ど、どうすればいいの……」

桑田「俺は……俺は……」

葉隠「あああ!!死にたくないべ!」

山田「球磨川禊殿か、江ノ島盾子殿……」

大神「ぬぅ……」

朝日奈「霧切ちゃんは球磨川と同じって……」

腐川「びゃ、白夜さまぁ……」

セレス「……ふん」

霧切「……球磨川君」

球磨川『僕はみんなを信じてるぜ』

江ノ島「それじゃ!お待ちかねの投票ターイム!!」




  

    GAME OVER

クマガワクンがクロにきまりました。




江ノ島「うぷぷぷぷ!!」

江ノ島「球磨川クンじゃ絶望を覆す希望にはなれないみたいだねぇ」

球磨川『やれやれ。みんなには裏切られたなぁ』

球磨川『そうしてまで犬みたいな生活したいっていうなら止めやしないぜ』

球磨川『あばよ!地獄で待ってるぜ!』

球磨川『まぁ、処刑でもなんでもするといいよ』

球磨川『ただ僕は気が変わりやすくてね』

球磨川『大人しく処刑されてやろうと思っているうちにしたほうがいいぜ』

江ノ島「言われなくても刹那でオシオキしてさしあげます」

江ノ島「それじゃ、おしおきタっ!?」

球磨川『ごめん、気が変わった』

江ノ島「な、が……くまが……」

球磨川『きみは、きみの姉と同じように死ぬべきだ』

朝日奈「う……そ……」

葉隠「え、江ノ島っちが螺子で串刺しだべ……」

十神「……どこまでも害悪なやつだ」

球磨川『よーし、先生怒らないから僕に投票した人は手をあげてー』

球磨川『謝れば先生ゆるしちゃうよー』

大神「……球磨川、お主は裁かなければならん」

大神「お主のような存在だけは、野放しにはできん」

球磨川『わぁおさくらちゃん。そんなに拳を握ってどうしたんだい』

大神「どうしても、殴りたいやつがいるんでな……」

球磨川『おいおいその殴りたいやつって……』

球磨川『まさか僕じゃないとは言わせないぜ』

大神「はァッ!!!」

目にも映らぬ速さで繰り出された拳を

球磨川は避けるような素振りも見せずに正面から受けた

彼の華奢な身体は、直線を描いて吹き飛んだ

轟音をたてて崩れる壁面には、思いっきりクレーンをぶつけたようなヒビが入っていた

普通ならば、誰もが球磨川の死と大神の勝利を確信していただろう

だが、この場にいる誰もがその結末はないと本能で感じ取っていた

そしてその最悪の予想は、最悪の形で現実となる

球磨川『……強烈ぅ』

大神「手加減をした覚えはないのだが」

球磨川『僕って丈夫なのだけが取り柄だからね』

球磨川『それより謝罪は?謝るのは、まだ間に合ったりするんだぜ?』

大神「そうか……ならば江ノ島ではないが」

大神「死ぬまで殴ってみようか!」

球磨川『いいアイディアだね。でも右に気をつけて』

大神「奇襲など生ぬるいッ!」

球磨川『あ、ごめん。僕から見て右だった』

大神「……っ……この程度、どうということはない!」

球磨川『すごいやさくらちゃん!身体に風穴あけても動けるなんて!』

大神「そういうお主は……服まで元にもどっているようだな」

球磨川『うん。僕の怪我をなかったことにした』

球磨川『それじゃあ、もう一本いってみようか』

朝日奈「さくらちゃん!!」

大神「朝日奈!くるな!」

球磨川『んん?葵ちゃんそのポジションはおかしいぜ』

球磨川『僕はみんなをコロシアイから救った役者で、さくらちゃんは僕を気に入らないって理由で殺そうとした悪人だ』

球磨川『かばうなら僕だろう』

朝日奈「おねがい球磨川!これ以上さくらちゃんを傷つけないで!」

大神「朝日奈……」

朝日奈「さくらちゃんだって女の子なんだよ!もうやめてよ!」

球磨川『……まったく、そんな風に言われちゃ何も出来ないな』

球磨川『これでも僕は紳士だからね』

朝日奈「あ、ありがとう球磨川……優しいところもあるんだね……」

球磨川『優しい、か。今までそんなこと言われたことなかったよ……』

球磨川『そしてこれからもない!』

霧切「……球磨川君、説明してくれるかしら」

球磨川『響子ちゃんの頼みなら断らないよ』

霧切「あの場面から裏切ったのも驚きだけれど」

霧切「どうして私以外の全員を螺子伏せたのかしら」

球磨川『やだなぁ。響子ちゃんと二人きりで話したいからだよ』

球磨川『言わせるなよ恥ずかしいぜ』

霧切「……」

霧切「まるで時間の経過がなかったみたいに、一瞬で全員に突き刺した」

霧切「凄まじいわね」

球磨川『それだけの僕の響子ちゃんにかける想いに気づいてほしいな』

霧切「……っ……あなたの本当の目的が、私を手に入れることと言っていたわね」

球磨川『正確に言うと取り戻す、かな』

球磨川『誠ちゃんからきみを取り戻すんだ、僕は仲間思いだからね』

球磨川『というより、元よりそれだけのために僕は動いている』

霧切「本当に、それだけなのかしら」

球磨川『響子ちゃん。確かに僕は嘘つきだけれど、そこだけは信じていいぜ』

霧切「えぇ、あなたを信じているわ球磨川君」

霧切「だから、それだけじゃないと信じているのよ」

霧切「そうね。ちょうどいいかもしれない」

霧切「球磨川君、私と勝負しましょう」

球磨川『聞こうじゃないか』

霧切「もし球磨川君が勝ったら、私は一生あなたについていくわ」

球磨川『え、え?まじ?ほんとうに?彼女?プロポーズ?』

霧切「マジよ。彼女ではないけど」

霧切「だけど私が勝ったら、全員生き返らせて、二度とみんなに接触しないで」

球磨川『……ふーん。まぁいいけど』

球磨川『勝負の内容は?』

霧切「私が、あなたの大嘘をすべて見抜けたら私の勝ち。それでどう?」

球磨川『さすが記憶を失ってもマイナスだねぇ』

球磨川『スリルとリスクを天秤にかけた分の悪い賭けが大好きなんだろ』

霧切「それじゃ始めましょうか」

霧切「私とあなただけの、二人の裁判を」



   マイナス裁判 開 廷 !

次でラスト
補足するといったな。あれは次だ
それじゃまた明日とか

5F 武道場

「……ここにもいない」

「盾子ちゃん……どこにいったの」

すべてバレていた。いや、最初から騙せていなかったのか

それでも彼さえ消せれるなら、きっとまだ間に合った。修正できたはずだった

ダメだった。何一つ思い通りにできなかった彼を、何一つ思い通りにできない

殺しても殺しても、彼は何度でも立ち上がった。まるで悪逆に立ち向かう英雄のように

そして立ち上がるたびに一言一句変わらない脅迫を提示する。まるで罪なき民を虐げる独裁者のように

『ダメだよむくろちゃん。それじゃ僕には届かない』

『妹思いのきみには本当に辛いかもしれない、でもこんなこと言う僕のほうが辛いんだぜ』

『だから僕は悪くない』

『むくろちゃん。なんどでも言うよ』

『きみに求めることは2つだ。ひとつは次の裁判に盾子ちゃんが参加しようとしなかった場合つれてくること』

『もうひとつは、この学校に襲撃者がきたとき、それを食い止めることだ』

意味不明だったし、理由の説明もない

ただひたすらに要求だけを突きつける理不尽さと不気味さ

『約束してくれるなら、僕も約束するよ』

『大嘘憑きで人類史上最大最悪の絶望的事件をなかったことにしないことと』

『盾子ちゃんをなかったことにしないことをね』

彼が力で屈服させるような手段を用いてきたら、いくらでも対抗できた

だが彼がしてきたのは、ただの話し合いだった

何度でも何度でも、死んでも生き返っても言うことが変わらない

……約束せざるえなかった

もちろん、ただ従うつもりなんて毛頭ない

裁判が始まる前に一緒に逃げるか、あるいは彼女が名案を出してくれるだろうと考えていた

「はやくしないと、間に合わない……!」

だが彼女は、あの彼に対して一向に引くことを知らない

さらには私との接触も絶ったため、彼の情報を伝えることも困難になってしまった

いつ裁判が始まるかわからない以上、急がなければいけない

しかし、情報処理室にいないということは、もしかするともう……

彼女が暗澹たる思いで頭を垂れたその時、すさまじい爆音が響いた

体が震え、足元もおぼつかないほどの衝撃が襲う

天井が四散し爆散する。瓦礫の山が嵐のように吹き荒れる

昔、似たような体験をしたことがあった

それは、建物が爆撃で破壊された時と同じ光景だった

「ふむ、高く飛びすぎたか。もう少しスマートに忍び込むつもりだったのだが」

「……あなたは、だれ?」

戦刃むくろの知っているあらゆる人間では、このような真似はできない

五階建ての建造物の上部を蹴り破っておいて忍び込むつもりだった発想も恐ろしい

「人がいたのか。これは失礼した、怪我はないか?」

「……もう一度尋ねる。あなたは誰?敵?」

味方がいない以上、敵である可能性は高い。臨戦態勢に入り油断なく正体を見据える

そんな私の警戒などどこ吹く風と言わんばかりに、態度の大きい侵入者は凛として答えた

「私の名前は黒神めだか、安心院なじみの依頼で貴様達を、苗木誠を助けに来た!」

二人きりの学級裁判


球磨川『それじゃあ早速だけれど、証言に入ろうか。時間も限られていることだしね』

霧切「時間……?」

球磨川『気にしなくていいよ。こっちの話だからさ』

霧切「……そう」

球磨川『それじゃ改めて確認なんだけど、僕の証言の嘘をすべて見抜けたら響子ちゃんの勝ち、一つでも見逃したら僕の勝ち』

球磨川『これでいいかな?』

霧切「えぇ、構わないわ」

球磨川『グッド!素晴らしい。これからの展望を思うと胸がおどるよ』

霧切「私もよ、球磨川君。みんながまた仲良くできる未来を思うとね」

球磨川『気が合うね!それじゃあ二人の素敵で無敵な未来を始めようか!』

『僕は元々、ある目的を持って学校を転々としていた。それは【強力なスキルホルダーを探すこと】だ』

『ある日、一通の招待状が届いた。私立希望ヶ峰学園の入学案内だ』

『【超高校級の過負荷として招待された】僕だけど、僕はエリートってやつが大嫌いなんだ』

『これはいい機会だ、すべてのエリートを抹殺してやろうと意気揚々と乗り込んだ』

『そこで出会ったのが響子ちゃん。きみだ』

『【出会ってすぐに仲良くなった僕たち】だったんだけれど、周囲の目は冷たかったね』

『やっぱりマイナスってやつは嫌われるんだねぇ。僕が来る前に【既にマイナスを発現させていた響子ちゃん】の扱いはひどかったよ』

『弱いものの味方をしては放っては置けない。僕は颯爽と響子ちゃんを救出した』

『その一件で響子ちゃんと僕は【ベストカップル】になったわけだけど、悲しい事件がおきた』

『盾子ちゃんの起こした人類史上最大最悪の絶望的事件』

『そこで僕たちは昏倒し、気がついた時には【盾子ちゃんに記憶を奪われていた】』

『だけど愛の力は素晴らしいよね。僕は響子ちゃんとの出会いから今までのこと【すべて覚えていた】のさ』

『はじまったコロシアイ学園生活で絆を深める僕と響子ちゃん』

『次々と起こる殺人事件を見事に解決する響子ちゃんは可愛くてカッコ良かったぜ』

『そしてこれから僕と響子ちゃんの最高の未来が始まるのさ』

霧切「……私をバカにしてるのかしら?」

球磨川『まっさかー。そんな訳ないじゃないか』

霧切「まぁいいわ。まずはあなたの、その殻を外さないといけないものね」

霧切「長期戦は覚悟していたわ」

球磨川『僕は長期戦は勘弁してほしいなぁ。今日はジャンプの発売日だからさー』

霧切「まずはあなたの目的は【強力なスキルホルダーを探すこと】だったわね」

球磨川『そうだよ!さぁ響子ちゃんにはそれが嘘かホントかわかるのかな?』

霧切「これは嘘ではないわ。真実ね」

球磨川『へぇ。理由を聞こうかな』

霧切「あなたの動機用のDVDを見たのよ。その中にでてくるメガネをかけた学生があなたの目的について語っていたわ」

球磨川『あー。あれそんなもの映ってたんだ』

球磨川『まぁいいや!一応それで正解だよ』


BREAK!

霧切「わかっていたけれど、全く動揺しないわね」

球磨川『そんなことないよ。あのDVDでなにがバレてるのかどっきどきだぜ』

霧切「……次はあなたが招待された理由だけれど、【超高校級の過負荷】としてだったわね」

球磨川『くくく!さぁ!超高校級のジャンプマニアか超高校級の過負荷か!どっちかわかるかな?』

霧切「当然、超高校級の過負荷ね。証拠は生徒の情報がのっていたファイルよ」

BREAK!

球磨川『うわー。雑に見破られたなぁ』

霧切「あなたが雑な嘘をいうからよ」

霧切「さっさと次に移るけれど、【出会ってすぐに私と仲良くなった】のね?」

球磨川『その通りだよ!まさに運命的出会いってやつだね!』

霧切「これは嘘ね」

球磨川『おおっと、冷たいね響子ちゃん。僕のことは遊びだったんだね』

霧切「そもそも舞園さんの裁判で、私をマイナスにしたっていう証言と」

霧切「すぐ仲良くなれる前提条件である【既にマイナスを発現させていた】が矛盾しているわ」

霧切「江ノ島さんが丁寧と表現したとおり、ゆっくりと進行させていったのでしょうね」

霧切「私には何の記憶もないけれど」

球磨川『うーん。まあ合格でいっかな』

BREAK!

霧切「あぁ、そして【ベストカップル】はないわね」

BREAK!

球磨川『ひどいや』

霧切「【江ノ島さんに記憶を奪われていた】という点は、認めたくないけれど、認めざるをえないわね」

球磨川『どうして?僕がみんなの記憶を消したのかもよ?』

霧切「だとしたら貴方と江ノ島さんは共犯関係になるわね。そしてそれはさっきのやりとり上ありえない」

球磨川『さすがだね響子ちゃん!僕と盾子ちゃんは全く別の思惑で動いていたよ』

BREAK!

霧切「さらに球磨川君が【すべてを覚えていた】という証言だけど」

球磨川『そうじゃなきゃ、最初にあったときに響子ちゃんの才能を知っていたのはおかしいし』

球磨川『今こうして昔の記憶を持っているのが良い証拠だよね!』

霧切「これは嘘だわ」

球磨川『はー?』

霧切「あなたは最初の頃、黒幕を突き止めるために動いていた節がある」

霧切「わざわざ部屋を偽装したり、カメラを消したりして出方を見ていたわね?」

霧切「決定的なのは戦刃さんの死をなかったことにしたことかしら」

霧切「彼女だけを助けた動機がわからなかったのだけれど、おそらく唯一黒幕に殺された人間として話を聞こうとしたのかしら」

霧切「そこで明かされた記憶が奪われている事実。そしてあなたは、記憶操作をなかったことにした」

霧切「だから今、完全に記憶を保っている。違うかしら?」

球磨川『穴だらけな上に証拠がないね』

球磨川『でも、大体あってるからセーフかな!』

BREAK

球磨川『すごいや響子ちゃん。全部見抜けたじゃないか』

霧切「ありがとう。それじゃあみんなを戻してくれるのかしら?」

球磨川『もちろん!ただし僕の気が向いた時にね』

霧切「そう。そんなところでしょうね」

霧切「おふざけみたいな証言だったから、この程度で解決されたら拍子抜けだわ」

球磨川『えー。結構本気だったんだけどなー』

霧切「第一、一番重要な話が出ていない」

霧切「それがないことには、あなたの嘘を全て見抜いたとは言えないわね」

球磨川『ふーん。それってなにかな?』

霧切「苗木誠」

球磨川『……』

霧切「あらあら球磨川君。いきなり顔色が悪いわよ」

霧切「人相が悪いというべきかしらね?」

球磨川『……まったく。響子ちゃんはSっ気が強くて困るよ』

霧切「苗木誠について証言してちょうだい」

球磨川『……どうして?なにも覚えていないんだろう?』

球磨川『だったら僕が何をいっても嘘かホントかわからないじゃないか』

霧切「えぇ、そうでしょうね」

霧切「それでも言ってもらうわ、それしか突破口がないもの」

霧切「ここでの生活であなたの格好つけがとれたのは、苗木誠の名前が出た時だけだから」

霧切「言いたくないなら構わないのよ。その代わり、本当のあなたと話をさせて」

霧切「ここには私と貴方しかいないのよ。だから格好つけるのをやめなさい」

球磨川『……』

球磨川『…………』

球磨川『意地があるんだぜ男の子にはさ』

球磨川『だから証言しよう。彼について。誠ちゃんについて』

球磨川『僕が響子ちゃんの人間不信と、信じたい心の不安定さにつけこんでマイナスにさせる前から彼とはよく衝突した』

球磨川『未来、希望。そんな言葉が似合う存在だったよ。主人公って感じのね』

球磨川『なんのスキルもないくせに、みんなと仲良くして、みんなと遊んで、みんなのことを信じていた』

球磨川『誰も彼も僕から離れようとしていくのに、彼は違った』

球磨川『僕を正そうと、一緒にいようとしていた、優しい存在』

球磨川『僕はそんな彼が大っ嫌いだった』

球磨川『だからといってすぐいなかったことにはしなかったぜ?』

球磨川『僕も丸くなったもんさ』

球磨川『だけど、響子ちゃんを救おうとするのはいただけない』

球磨川『どこまでも一緒に腐って堕ちていく仲間同士を切り裂くなんて、ひどいだろ?』

球磨川『だから、苗木誠を、なかったことにした』

球磨川『そしてなかったことにしたものは、二度と戻ってきたりはしないんだ』

球磨川『少しばかり更生してしまった響子ちゃんも、盾子ちゃんのおかげで運良くリセットできたしね』

球磨川『これで彼の話はおしまい』

反論ショーダウン!

霧切「その言葉、斬らせてもらうわ!」

球磨川『何かおかしなこといったかな?全部事実だぜ』

霧切「えぇ、嘘はないでしょうね」

霧切「ただすべてを話してはいない。そうでしょう」

球磨川『さー?何を言いたいのかわからないぜ』

霧切「それじゃあ、結論から言いましょうか」

霧切「球磨川君。あなたはなぜ、自分自身で私の記憶を消さずに、盾子ちゃんに消されて運が良かったと思ったのかしら」

霧切「それはつまり、あなたの大嘘憑きで、私の苗木君の思い出を消せなかったから。違うかしら」

球磨川『……』


発 展 !


球磨川『別に、手間が省けてラッキーってだけさ』

霧切「では何故苗木君を消したのかしら?記憶が消せなかったからでしょう」

球磨川『そんなことない。どんな強い感情であっても僕は消せる』

霧切「それじゃ、今すぐ私の江ノ島さんの記憶操作をなかったことにしなさい」

球磨川『どうして?』

霧切「そうしたら私は苗木君のことを思い出すのでしょう。そこで苗木君の記憶を消せばいいわ」

球磨川『……』

霧切「消せないものがないなら、そうすればいいだけでしょう」


鍔迫り合い!


球磨川『いやだ』

霧切「なぜ」

球磨川『嫌だからだよ、絶対にしない』

霧切「わがままを言わないで」

球磨川『僕は負けてない。負けないんだ』

霧切「負けても立ち上がるのがあなたでしょう」

球磨川『僕は弱い存在だ。だからワガママに駄々をこねるみっともない真似だってする』

霧切「そんなことない」

球磨川『マイナスには、マイナスの戦い方があるんだ。弱者には弱者の生き方がある』

球磨川『響子ちゃんにはわからないよ』

霧切「違うわ球磨川君!」

霧切「私は!あなたが弱いだなんて絶対に思わない!」

BREAK!

球磨川『まいったな……本当に』

球磨川『きみの言うとおりだ』

球磨川『確かに、僕は響子ちゃんの中から彼の記憶を消せなかったんだ』

球磨川『だから焦って、誠ちゃんそのものをなかったことにした』

霧切「球磨川君……」

球磨川『どうして僕はあんなことをしてしまったのだろう』

球磨川『本当に反省しているんだ』

球磨川『ねぇ、響子ちゃん。僕はどうしたらいいとおもう?』

霧切「それは……私が出していい答えではないわ」

球磨川『そうだね!だから僕は僕の答えで君たちを螺子伏せるよ!』

大神さんですら完全に反応できないトリック付のはやさだ

私では反応できないことはわかりきっていた

深々と心臓に突き刺さる、大きく鋭いネジ

『安心して、見た目はショッキングだけどダメージはほとんどないから』

確かに、見た目ほどの痛みはない。ないのだが、心臓の芯から仄暗く冷たくて熱い何かが染みこんでくる

急速に力が抜けていく、全身から煙が出ているかのように錯覚するほどあらゆるモノが抜けていく

『それは脚本作り(ブックメイカー)という僕の始まりのスキルだ』

返答する余裕もない

『それを受けたら、僕と同じ存在まで引き下げるっていうのが主目的なんだけど、単純に封印としても使える』

彼の目的がわからない。頭がまわらない

『さらに大嘘つきの重ねがけに、盾子ちゃんの記憶操作つきできみから誠ちゃんの記憶を消した』

まことちゃん……?一体だれのことだろう……

『ま、本当はこれを返してもらう代わりになかったことをなかったことにする約束なんだけど、それも気が向いたらかな』

わからない、なにも。

『大丈夫だよ響子ちゃん。安心して。なにがあっても僕がついているから』

ひどく陰鬱で、寒くて、足元もふらつくというのに。とても安心できた

私の意識は、深く深く、溺れていった

???時間
どこかの教室

安心院「そもそも僕は球磨川君が約束を守るとは思ってないんだ」

安心院「円満に解決できる方法として脚本作りを返してあげたのにひどい裏切りだぜ(嘘)」

安心院「だから僕は、当初の予定通りきみにお願いすることにしたよ」

安心院「めだかちゃん。きみの完成(ジ・エンド)を使って苗木くんを助けてやって欲しい」

安心院「今は霧切さんが戦ってくれているけど、所詮彼女はヒロインさ」

安心院「ヒロインとラスボスじゃ、連れ去られるのがオチだからね」

安心院「めだかちゃんも、球磨川くんとの因縁に決着をつけられるチャンスだし」

安心院「呉越同舟ってわけじゃないよ。そもそも僕はきみの敵じゃないからね」

安心院「解決のために人吉くんは犠牲になったけれど、いや一応幸せなんだしあれはあれでいっか」

めだか「……私を鍛えてくれたことには感謝しよう安心院なじみ」

安心院「いやいやそれほどのこともあるけど、僕のことは親しみをこめて安心院さんと呼びたまえ」

めだか「だが、貴様の思うどおりに行くとは限らないぞ」

安心院「僕としては、めだかちゃんか苗木くんのどちらかが主人公として生きてくれれば構わないからね」

安心院「基本的に自由にやっていいよ」

めだか「……」

4F


信じられないことがおきた

奇跡、魔法、呼び方はなんでもいい

おおよそ起こりえないことが起きたのだから

私は黒神さんに頼まれたとおり、彼に肩を貸して裁判場へとゆっくりと歩を進める

「……だいじょうぶ?」

彼は力なく微笑む。彼はいつだってそうだ。どんなに辛くても他人に優しくできるんだ

「あとちょっとだから、がんばって」

我ながらぎこちない笑顔で励ます。彼は、ありがとうと呟いた

『やれやれ、驚いたよ』

『驚かされっぱなしだよ』

『久し振りだね!めだかちゃん!僕だよ』

「あぁ、待っていたぞ球磨川」

『それはこっちのセリフかな。きみが天井突き破って落ちてくるの見てたわけだし』

「貴様には大きな借りがあったな」

『んー?なにも貸した覚えはないけど、くれるっていうならもらうぜ』

「貴様に勝ってからというものの、私は心の均衡を失ったように虚脱したよ」

『おいおい僕のせいにするなよ。悪いのは僕を見捨てたきみだろう』

「最近になってやっと、貴様と相対する気持ちが湧いてきた」

『僕は別に会いたくないんだけどなあ。元カノがきても今カノと気まずくなるだけだし』

「この借りは、色を付けて返させてもらうぞ球磨川!!」

『めだかちゃんに色つけてもらえるなんて、さぞ豪華なお返しなんだろうね』

「あぁ!敗色濃厚というやつだ!」

3F

彼が咳き込んで片膝をついてしまった

無理もない話だ。何年も入院していたところを叩き起こされたようなものだ

「少しやすもう」

そう提案するが、彼は微笑して、ごめんね、と謝ると、がんばるから、と立ち上がる

彼の大切な彼女のために

彼は私のために、ここまでしてくれるのかな

少しだけ気になった

「どうした球磨川。鳩が豆鉄砲くらったような顔をしているぞ」

『……んー?おかしいな。いま消したと思ったらまた現れたよ』

「わからせるために、わざとナイフを投げた」

「貴様がナイフをなかったことにしたのと同時に、なかったことをなかったことにした」

『ぷっ。なるほどね。安心院さんもやるなぁ』

『めだかちゃん』

『完成で僕の大嘘憑きを完成させたんだね』

2F


「もう少しで到着する」

何度こうやって励ましただろう

そのたびに彼は、ありがとう、と笑顔を向けてくれる

まるで私がその顔が見たくて励ましているみたいだ

「ほんとにあと少しだから」

言い訳みたいにそんなことをいう

彼はやっぱり、ありがとう、と言った

「……なぜ反撃しない」

『暴力で解決だなんて最低だよ!』

『絶対に話し合いで解決してやるからな!』

「きさまは……貴様というやつは!!」

『なに怒ってるんだよ。怒りたいのはこっちだぜ』

『彼女の前で逆恨みでボコボコにされてるんだ』

『恥ずかしいったらないぜ』

「私との決着をつけないつもりか……いいだろう」

「ならば、貴様の拠り所となっている苗木誠と霧切響子の因縁を片付けてやろう」

1F

「あとは、このエレベーターで降りるだけ」

ただ案内しただけなのに、やっぱり戦刃さんはすごいね、なんて褒めてくれる

「それより、本当に大丈夫?」

おそらく階下では、激しい戦闘が起きているはずだ

あのミサイルみたいな女の人と、なんでもありのトリックスターの球磨川くん

どっちが勝つか予想もつかない

彼は、身体の弱りを感じさせないほどはっきりした声で告げる

僕が、二人を助けるんだ

『そんなことができるのかな?』

『いくら大嘘憑きを完成させたからといって、脚本作りまで解けるのかな?』

「そんなことはできんさ」

「だが、やりようはいくらでもある。見ろ」

『……?』

『エレベーターが、動いている……?』

「あれには、貴様に膝を折らせる弾丸が乗っている」

『……』

「いいものは決してなくなったりはしない」

「そして希望は、最高にいいものだ」

「球磨川、はたしてお前はあの弾丸を前に折れずにいられるかな」

うっすらとした記憶のなかで、2人の人影が見えた

球磨川君と……知らない女性だ

一方的に殴られているようにもみえるし、一方的に殴らされてるようにも見える

球磨川君に助けが必要なのかもしれない。でも、何も動く気が起きない

だってどうでもいいのだから

この心地良い虚脱と怠惰に身を委ね、二人の会話をBGMに眠りにつこう

『むだだ……かちゃん……』

声が聞こえている

『彼女から誠ちゃんに関する記憶はすべてなかったことにした』

『きっと誠ちゃんを虚数大嘘つきで復活させたんだろうけど、もう遅い』

『彼女は僕のものなんだから』

まことちゃん……さっきも聞いた名前だ。一体誰なのだろう

「私は苗木誠に会って3分も話していない。だが、彼は信用に値する人物だ」

なえぎまこと……?やはり知らない名だ。球磨川君と彼女は一体なんの話をしているのだろう

「結果は見ていればわかる」

「ほら、到着したぞ」

『思い出せるはずがない!だってないんだから!ないものは思い出せない!』

誰かが私に、ゆっくりと歩み寄ってくる気配がする

振り向く元気もないし、来るに任せる

『やめてくれよ誠ちゃん、それ以上近寄るな』

球磨川君が静止しているけれど、誰かさんは止まる気配はない

その誰かの手が私の肩に触れた

なぜだろう。ただそれだけの行為に私の心から温かいものが溢れ出す

わたしは、知っている?この人物を……

わずかに湧き出た活力を手に、私は渦中の人物の顔を見る

見覚えがあった。こんな事態だというのに、困ったなぁとそんなぐらいの表情をしている

それから少し、私の顔を見つめると左手で私の頬に触れる

何かがこみ上げてくる、心から、眼の奥から、足元から

彼は口角をちょっとだけあげると、私の耳に、心に一言投げかけた




苗木「ただいま、霧切さん」

霧切「あ……あぁ……」

霧切「なえぎ……くん……!」

苗木「待たせちゃったみたいだ。ごめんね」

霧切「ううん……いいのよ、来てくれたんだから……」

苗木「霧切さんが無事でよかったよ」

霧切「あなたこそ……生きてて……よかった……!」

苗木「うん……みんなのおかげだよ」

霧切「もういなくなったりしない?」

苗木「ちょっと!くすぐったいよ霧切さん!消えたりしないから安心して!」

霧切「そう……ふふ……よかった……」



球磨川『……あーあ』


球磨川『また勝てなかった』


球磨川『ちくしょう』


球磨川『どうして勝てないんだ。僕は』

めだか「賭けは私の勝ちのようだな」

球磨川『あぁ、負けたよ』

めだか「それでは約束通り、箱庭学園に戻ってもらおうか」

球磨川『え、そんな約束してない』

めだか「女々しいやつだ。もうここに用はないだろう」

球磨川『ないけど……』

めだか「ならば貴様は安心院なじみもいる箱庭学園のほうが都合がいいはずだ」

球磨川『え、なんにも都合よくないけど』

めだか「いいからこい!貴様と私の3億年まった決着をつけるぞ」

球磨川『うわ、電波こわ』

めだか「戦刃むくろ、苗木誠、霧切響子」

めだか「いまから全員の死をなかったことにするが、その前に言っておくことがある」

めだか「江ノ島盾子から聞かされたかもしれないが、いま外は絶望的状況にある」

めだか「だが希望を信じている組織はたくさん存在しているぞ」

めだか「未来機関や、我々箱庭学園もだ」

めだか「もし困ったことがあれば訪ねてくるといい」

めだか「だが、江ノ島盾子だけはお前たちと共に帰すわけにはいかん」

めだか「お前には悪いが身柄は拘束させてもらう」

めだか「それではな」

止める暇もなかった

黒神めだかと名乗った彼女は球磨川くんと盾子ちゃんを抱えて、天井の穴へと飛んでいった

盾子ちゃんのことはすごく心配だけれど、とりあえず彼女にまかせておこう

いずれ奪還するにしても、いまはクラスメイトたちが心配だ

次々と起き上がっていくクラスメイトたち

まったく状況が把握できていない

当然だ。突然裁判場がしっちゃかめっちゃかに破壊されて、球磨川くんは消えてて

知らない男子生徒と知らない女子学生が一人づつ増えてて

しかも霧切さんときたら苗木くんと熱い抱擁中だし

正気に戻ったらひどいことになりそうだった

その後の私たちというと、あっさりしたものだった

状況の説明に1時間はとられたが、苗木くんと十神くんがまとめてくれた

最初はみんなで行動していたけれど、次第に分かれていった

それも当然かもしれない。ほとんどの人は未来機関へと身を寄せたのだけど

石丸くんと舞園さんは箱庭学園へと向かっていった

苗木くんがだいぶ引き止めたけれど、黒神さんのもとでがんばってくるそうだ

あそこには球磨川くんもいるし、トラウマを増やすか克服するか、頑張りどころだ

そして盾子ちゃん

彼女は行方不明になってしまった。さすがというべきなのかな

あの厳重な監視の箱庭学園から忽然と姿を消したそうだ

黒神さんがわざわざ謝罪にきてくれたおかげでわかったのだけれど

私は探しに出ることはない。別に探していないわけじゃなくて未来機関にいたほうが彼女の足取りをつかめるだろうと

そう判断したからだ

みんな頑張っている。未来にむけて、希望をもって

あのコロシアイ学園生活と、球磨川禊というマイナスを体験して

私たちは一度は心が折れてしまった

だけど立ち上がり、前に進むことが出来た

そんな中、球磨川くんまで消えたという話を聞いた時は冷や汗がでたのだけれど

……大丈夫だよね?

数年後
どこかの街で


「えぇ、わかっているわ」

「辛いところね……彼女と彼女のプログラムを同時に相手取るのは」

「そちらは任せるわ。でも、助けが必要な時は言ってちょうだい」

「絶対に無理しないこと。わかった?」

「……本当にわかってる?」

「冗談よ。信じているわ」

「それじゃ、また明日」

復興されつつある街を歩いてる時にかかってきた電話は、苗木君からだった

彼は何の用事がなくても一日一回は電話をかけてくる

心配してくれるのは嬉しいのだけれど、少々過剰な気もする

まぁ、忙しくてかけてこれなかった次の日に、私がちくちくと嫌味を言ってしまったのが原因と十神くんが言っていたけれど

そんなことないはずよ。きっとね

「それにしても……良い日和ね」

『本当に、こんなに光を浴びていると灰になっちゃいそうだね』

「何を闇の眷属みたいなことを言っているのよ」

『そうかなぁ?結構いると思うけど』

「そうよ。それにしても球磨川君。急に現れたわね」

『あはは。ちょっと色々あってね、旅をしているんだ』

「あなたにしては明るい趣味じゃない」

『相変わらず辛辣だなぁ。2年ぶりなんだぜ?もうちょっと驚きと感動が欲しかったなー』

「球磨川君の振る舞いを思い出しても同じことを言えるのかしら」

『言えないや』

彼の姿は以前見た姿の通りだった。年をとってるかも疑問だ

「……相変わらず格好つけてるのね」

『言っただろ?男の子は格好つけるのが仕事だぜ』

「えぇ、そうね。苗木君も格好つけたがりだし。案外あなた達似てるのかも」

『……』

「ふふ……そんな嫌そうな顔しないでよ、冗談だから」

『響子ちゃんは変わったね。明るくなったよ』

「そうかしら?職場では氷でできてるとかひどいこと言われてるわ」

『そいつらの見る目がないのさ』

「ありがとう。球磨川君は優しいのね」

『どういたしまして』

「それで……今日は何か用事があったのかしら?」

『んー?別にそんな訳じゃないさ。ただ、旅をしているっていっただろ』

「言ったわね」

『いろいろあってね。僕も大嘘憑きでなかったことにしたもの、さらになかったことにできるようになってさ』

「すごいわね」

『だから、今まで消してきたものを元通りにしているんだ。飽きるまでは続けるつもり』

「でも、私たちの消したものは、もう黒神さんが元に戻したわよ」

『うん。だから、そのついでさ、今日は。ただ会いたかったんだ』

「……そう。球磨川君」

『ごめんごめん。せっかくの休日を僕なんかに時間とらせちゃって』

「違うわ、球磨川君」

『うん?』

「私たち、友達なのだから、会いたいときに会いにきなさい」

『そっか。ありがとう響子ちゃん』

「まったく、待たせすぎなのよ貴方は」

『いやーあんな事あったんだから会いにくいじゃん』

「球磨川君はそんなこと気にする人じゃないでしょう」

『ま、ね』

「苗木君もあなたに会いたがっているわ」

『……』

「ふふ……ごめんなさい。本当のことよ」

『まったく!人が悪いぜ響子ちゃん』

『これ以上からかわれないうちに退散するぜ』

「ちょっとまって球磨川君」

『ん?』

「……二度と現れないつもりじゃないでしょうね?」

『……』

「ダメよ、そんなこと。友達なんだから私が会いたいときに会えなくちゃ」

『あはは。大丈夫だよ、いなくなったりしないさ』

「ならいいのだけれど」

『それじゃね!響子ちゃん!』

彼は、返事もまたずに姿を消した

本気をだして逃げられたら、私が彼を追うすべはない

この時に少し、予感がしていた。彼はああ言っていたけれど

本当はもう二度と私の前に姿を現さないじゃないのかと

『あっ!そうそう忘れてたんだけど!』

「ひゃあ!」

台無しでだった。そういうやつだった

「な、なによ」

『ひとつ、約束を守るのを忘れてたぜ』

「やくそく……?」

『うん!下を見てみて』

なんのことだろう。純粋な疑問で下をみる

なかった。スカートが

「ちょ、ちょっと!!球磨川君!!!」

『約束通り、パンツをみせてもらうぜ』

「元にもどしなさい!!はやく!!」

『響子ちゃんかわいーパンツはいてるね!』

「くまがわくん!!」

『それじゃーねー響子ちゃん!』





「またいつかとか!」

おしまい
いろいろ矛盾あるけどなかったことにしてください
それじゃまたいつかとか

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年10月16日 (水) 17:07:19   ID: QcmmU5vM

見てます

2 :  SS好きの774さん   2013年10月18日 (金) 02:38:58   ID: 6QPIHmAy

題名が変わってるから気が付かなかった。。。
楽しみにしてます!

3 :  SS好きの774さん   2013年10月29日 (火) 00:54:00   ID: SLZ1j3dK

苗木の出番はよ

4 :  SS好きの774さん   2013年12月22日 (日) 01:34:45   ID: Mrn8lblU

待った甲斐がありました!
面白かったです!!

また是非球磨川で何か書いて下さいm(_ _)m

5 :  SS好きの774さん   2015年03月13日 (金) 16:28:26   ID: UQm4eK2v

素晴らしかった…
なんでロンパとめだかのクロスはこんなにも良作ぞろいなのか…
次も楽しみにしています

6 :  SS好きの774さん   2016年07月08日 (金) 15:00:51   ID: F_E7uq7D

面白かった!
乙!!!

7 :  SS好きの774さん   2017年06月18日 (日) 08:29:59   ID: wbG1aYtQ

球磨川が誰かと恋愛してるのは想像できないけど、それでも利用するだけしたって感じのssだね

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