雪歩「雪と…」春香「桜!」 (30)



真「わっ、あったかい!」

雪歩「夜なのにあったかいと、なんか嬉しいよね。」

真「すっかり春だね!じゃ、帰ろっか、雪歩!」

雪歩「ん、うん…、えっとね、真ちゃん…」

真「ん?どうしたの、雪歩。」

雪歩「あの、その…わた、私…あの、寄りたい所が、あってね…」

真「うん、付き合うよ?」

雪歩「えっ、つっ、付き合…そんな、まだ…」

真「どこ?」

雪歩「あ、えっと…、あぅ…」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1364726490


真「雪歩?」

雪歩「……コンビニ、ですぅ。」

真「うん、じゃあ行こうか!」

雪歩「や、やっぱり一人で大丈夫ですぅ!」

真「え?ううん、一緒に行くよ。もう遅いし、雪歩一人で歩かせるなんてボクできないよ。」

雪歩「真ちゃぁん…。…んーん、ほんとにほんとに、大丈夫なんですぅ!」

真「…そ、そっか。じゃあ途中まで…」

雪歩「あっ、こ、こっち側のコンビニ…行く、から…!」

真「そう…、じゃあ、本当に気をつけるんだよ?」

雪歩「ま、真ちゃんも気をつけてね。」


真「へへっ、雪歩に心配されるなんてなんかおかしいや!」

雪歩「もう!真ちゃんてばぁ…」

真「何かあったらすぐ電話してね?」

雪歩「うっ、うん!」

真「じゃ、また明日!お疲れ!」

雪歩「うん!お疲れ様、ですぅ!」


本当に仲がいいなぁ。

なんて思いながら、私はそのやり取りを、階段の途中から眺めていた。
なんとなく会話に割り込めなくて、足を止めてしまったのだ。

別に2人に対して距離を感じた、とかじゃなくて。
なんだろう、邪魔しちゃいけない…みたいな…。
うーん?でもそれっておかしいような…?
2人のやり取りなんて、事務所でもいつも見てるはずなのに…。

(2人の世界…)

…いやいやいや、2人とも女の子だから!
いくら真がボーイッシュで女の子にモテモテだからって、それはちょっと、私の知らない世界すぎるよ!
一瞬アブナイ想像をしかけて、ブンブンと首を振った。

すっかり出遅れちゃったけど、私も帰らなくちゃ。
真の背中を追いかける。


今日はかなり巻きでスケジュールが終わったから、終電にはまだまだ余裕がある。
真と、久しぶりに、ちょっとお茶くらいならできそうだ。

と何歩か踏み出してから、私はクルリと方向転換をした。

お茶の相手、変更!

私もコンビニに用があったんだった。


今週発売の「seventeens」。
雑誌のタイトル繋がりで、私と真と雪歩が、なんと4ページも登場させてもらっている。

「スキになってから、告るまで!雪歩と春香のリアル告白大作戦!」

内容としては、雪歩が真扮するクラスメートの男の子をスキになって、親友の春香(ワタシ)にアドバイスをもらいながらオシャレやメイクを頑張って、告白、見事カレシをゲットする、というシミュレーション形式の実写漫画だ。

リアル告白大作戦…と言いつつ、相手役が真なのが、面白い。
真はその役回りにすごくがっかりしてたけど、流石、男の子の制服、似合ってたなぁ。

撮影の最後に、2人はページのラストに差し込まれる「カップル誕生」のプリクラを撮影して、それをお土産にもらっていた。
私も入りたいよー!って羨ましくなったけど、お仕事だから仕方ない。


事務所で2人して手帳に貼っているところを美希が発見して、あわや大騒ぎになるところだった。
今思い出すと、ちょっと笑っちゃうな。真と雪歩の、あの顔…

プライベートじゃないよって慌てて説明する真と、付き合ってたの!?と聞かれて真っ赤になる雪歩。
まるで、中学生のカップルみたいだった。


春香「あれっ」

コンビニの前に着く。
と、入口から少し外れた場所で、噂の中学生カップルのひとりがもじもじと佇んでいた。

春香「ゆーきほ!」

雪歩「ひゃぅ…っ!…は、春香ちゃん…。び、びっくりしたぁ。」

春香「コンビニ、入らないの?」

雪歩「あ…、う、うん…。」

春香「こんなところに一人でいたら、男の人に声かけられちゃうよ。」

雪歩「ひ…っ、お、男の人ぉ…!」

春香「あ、ご、ごめんね。でもでも、危ないから、ね?とりあえず中に入ろっか。」

雪歩「は、はいですぅ…。ありがとう、春香ちゃん。」


真の心配してた通りだ。
雪歩ひとり歩かせるのって、なんか不安かも…

それにしても雪歩、コンビニにも入らないで何してたんだろう?


雪歩「春香ちゃんは、何を買いにきたの?」

春香「ん?私はね〜〜…」

思わず亜美と真美のように、んっふっふ→と笑いたくなる。

雑誌の棚に駆け寄り、さっと一冊を手に取った。


春香「じゃじゃん!これだよー!…事務所にもあるけどね、えへへ。」

雪歩「わぁ!そっか、もう発売してたんだよね!うわぁ、うわぁ、私も買っちゃおう!」


思った通り、「seventeens」を前に、雪歩はキラキラと目を輝かせた。

やっぱりこういうのって、すごくすごく嬉しいよね。
いつも使うお店に、自分たちが載っている雑誌が置いてあるって、芸能人っ!て感じがして、ドキドキする。

春香「やっぱり、自分で買いたくなるんだよねぇ。えへへ。」

雪歩「うん、うん。すっごく分かるよぉ。」

春香「ていうか、昔から毎月、この雑誌買ってるんだけどね〜。」

雪歩「じゃあ尚更…、特別、だよね。」

春香「えへへ…そだねぇ〜。撮影も楽しかったし、あのプリクラとか……そだ、雪歩!この後時間ある?よかったら少し話さない?」

雪歩「えっ?うん、大丈夫だよ。……あっ」

春香「どうしたの?」

雪歩「春香ちゃん、あのね、私…、寄りたい所があるの。」

春香「…?」


同じ雑誌と、私はそれにチョコレートを買い足してから、私たちは目的の場所へと向かった。

コンビニから、また駅と反対の方向へ。
3分も経たないうちに、私は雪歩の行きたい場所がどこだか分かってしまった。
雪歩が、何をしたいのかも。


(うん、春香さんも大賛成ですよ。)


生ぬるい夜風に誘われて足取りも軽くなる。

公園に着くと、満開の夜桜が、私たちを出迎えてくれた。


春香「ふわ〜〜、キレイだねぇ…!」

雪歩「昨日からライトアップされてるんだって。」


桜の園の特等席に陣取って、私たちはほんわりとため息をついた。

隣の雪歩を何気なく見る。
淡い光に照らされた雪歩の目の中には、ピンク色が優しくきらめいていた。

私が雪歩の彼氏だったら、ここで絶対惚れ直しちゃうよ。
雪歩は本当に画になる。ヴィジュアルだけじゃなく、雰囲気もぜーんぶ。


春香「ロマンチック…だねぇ。」

雪歩「うん…。」

春香「私たちアイドルだけどさ、こういうの、好きな人と見たいなぁ…なんて思う時、ない?」

雪歩「おっ、おっ、思う!!思いますぅ!!」

春香「わっ!?んぇ、そ、そんなに!?」

雪歩「はわ…っ、ごめんなさいぃ!つ、つい…」

春香「……」

雪歩「…はぅ……」

春香「…んふ、雪歩〜。」

雪歩「な、なぁに春香ちゃん…。うぅ…。」

春香「もしかしてっ、いるの!?好きな人!」

雪歩「そ、そんなんじゃないんですぅ!た、ただ、一緒に桜が見られたらな…って。」

春香「えーいいじゃん、だれだれ!?あ!!プロデューサーさん!?」

雪歩「ち、違いますぅ!お、男の人はまだ、ちょっと…」

春香「違うんだ。えーじゃあ誰だろ。私の知ってる人?あっ真?」

雪歩「あ、う、うん、そう…」

春香「って違うかー。」

雪歩「え?」

春香「え?」

雪歩「え?」

春香「真?」

雪歩「う…、うん…真ちゃん。」


(まこ、真?え?MAKOTO?真と夜桜を眺めたい?話の流れ的に、ロマンチックなムードで…ってことだよね?ん?ん?んん???…っていうか。…なんで赤くなってるの雪歩)


春香「……」

雪歩「……はぅ…」


(いや待って、待って春香。Wait。I wait。今のはすべったな。だだだってあの二人あれだけ仲良いんだもん。二人で夜桜見たいね〜。ロマンチックにね〜。ってあるある、あ………あるか〜い!え、え〜、どうしたのこれ〜。雪歩〜?ん〜?)

春香「ん、んへへっ、」

動揺しすぎて変な笑い声が出てしまった。

春香「んへぇ〜〜っと、さ、誘えばいいんじゃないかな!?真、絶対来てくれるよ?」

雪歩「うん…。実は今日も、誘おうと思ってたんだけど。」

春香「ん…、ああ。」


さっきの事務所前の2人のやり取りを思い出す。

雪歩「なんかね、誘えなかったの。」

春香「えー、なんでなんで?」

雪歩「なんだかね…、はぁ。最近、ダメなんですぅ…。」

春香「んー?いつも仲よさそうに見えるけどなぁ。ケンカでもした?」

雪歩「ううん。私が一方的に、意識しちゃって…」

春香「意識?」

(意識?いし…っ、意識!?(二度見)えっと、違うよね?そういう意味の意識じゃないよね?う、うぅーん!な、なんかあったのかなぁー?雪歩いろいろ気にしすぎちゃうところあるからなぁー!)


雪歩「前は普通に話せてたんだけど、今は真ちゃんと…上手に話せないの。き、緊張…しちゃって。」

春香「見つめ合うと素直におしゃべりできない、的な?」

雪歩「うん…」

(うん!?!?)

春香「それってさ〜、絶対こ」

雪歩「こ?」


春香「あっそうだ、チョコ食べる?雪歩。」

雪歩「ありがとう、いただきますぅ。」

春香「う…」

雪歩「う?」

(うわああああああああちょっと待ってちょっと待って今なんて言おうとしたの私!!ものすごーく自然な流れであの単語が出そうになったよ…!?怖い怖い怖い何今の怖いよぉ)


雪歩「お仕事もね…、真ちゃんと一緒の時は特に緊張して…。でもでも、すごく楽しみなの。」

春香「楽しいっていうのは見てて分かるなぁ。」

雪歩「そ、そう?」

春香「ほらぁ、seventeensの撮影のプリクラの時とか。私、ちょっと羨ましかったもん。」

雪歩「あの撮影…、うう、思い出すとほんとに、ドキドキしちゃって…。」

春香「あはは。真、キマってたよねぇ。」

雪歩「うっ、うん…かっこよかった。」

春香「雪歩もあの制服似合ってたな〜。お似合いだったよ?」

雪歩「まっ、真ちゃんも、僕たちお似合いだね、なんて言うから、私ますます…」

春香「うっわー。真ってホーントすぐ口説くよねー。」


雪歩「やっぱり、く、口説いてるみたいに聞こえるよね?」

春香「聞こえる聞こえる。それで?なんて返したの?」

雪歩「そ、それが、恥ずかしすぎて…気付いたら穴の中にいたんですぅ〜…」

春香「あらら」

雪歩「でもすぐ真ちゃんが引っ張り出してくれて…、それで…。」

春香「それで?」

雪歩「上る時に体勢を崩しちゃって、真ちゃんが抱きとめてくれたんだけど、その時耳元で、“ごめんね雪歩、ボクとお似合いなんて嫌だった?”って…。」

春香「ふおぉ…!ま、ま、真ぉ…!」

雪歩「私もう死んじゃいそうで、とにかく、違うのそうじゃなくて…って否定したんだけど、そしたら、そしたらね春香ちゃん…」

春香「う、うん…なんだか私までドキドキしてきたよ…!」

雪歩「“よかった…”ってキュッ、って私を抱きしめて、そのまま撮影に戻っていったの…!」

春香「真ぉぉぉぉぉぉ!!もー何考えてんのあの男!!」

雪歩「そんなことが続くと、もう真ちゃんと普通にお話しするのにもキンチョーしちゃって」

春香「なるほど、そりゃ真が悪い。」


雪歩「うう、真ちゃんにとっては普通のことなのかもしれないけど…。」

春香「よくあるの?そういうこと。」

雪歩「すっごくありますぅ!本が書けちゃうんじゃないかってくらい。あっ、おかげでポエムのネタ作りには事欠かなくなったけど…。あなたはキラキラ…私はフラフラ…」

春香「んー、けどそれ多分、雪歩にだけだよ?」

雪歩「え?」

春香「だって私、真のこと全然そういう風に意識しないし、意識しないってことは、真が“意識させてない”ってことだよ。」

雪歩「む、難しいですぅ」

春香「確か雑誌にも…、えーっと何ページだっけ」

雪歩「…あっ、ありましたぁ。」

春香「えーと…、…ほら、ここ!“スキになったら…、その1、まずは相手に自分を意識させること。他の男の子にはしないことを、積極的にしてみよう!”」

雪歩「し、してます!意識しちゃってますぅ!」

春香「そうそう、それが真の作戦なんだよ、雪歩。えーと“その2、軽いボディタッチで、相手のリアクションを確かめよう!嫌がらなければほぼ脈アリ!!”」

雪歩「ボディタッチ……がっつりしちゃってますぅ!」

春香「嫌がって…?」

雪歩「ないですぅ!」

春香「脈アリ…と。」

雪歩「はわわわわ」


春香「えーと“その3、カマをかけてみよう”」

雪歩「カマ?」

春香「あれだよ、あれ。“僕の相手なんて嫌だよね?”ってやつ…」

雪歩「はわわっ、それじゃあ私のリアクションて…」

春香「100点でしょ。」

雪歩「……!!」

春香「もう付き合っちゃいなよ。」

雪歩「だ、だめですぅ、私なんてひんそーでちんちくりんで…真ちゃんの相手なんて…」

春香「その真が、雪歩にこんなにアプローチしてるんだよ?」

雪歩「アプローチだなんて…」

春香「雪歩もまんざらじゃないんでしょ?」

雪歩「まんざらじゃないどころか…、うぅ、でもでもぉ…」

春香「真のこと、好きでしょ?」

雪歩「も、もちろん…!すっごく、大好きですぅ!」

春香「恋愛対象として?」

雪歩「そっ、それは…。…うう、よくわかんないよぉ…」


春香「雪歩。」

雪歩「ふぇ?」

春香「真とキスできる?」

雪歩「キッ……、キキキ、キスッ!?」

春香「ここに書いてあるの。スキかどうかわからない時は…って」

雪歩「ま、真ちゃんとキスできるかってことですかぁ…!?」

春香「うんうんっ、どうなの!?」

雪歩「そんな…そんなの…!はうぅぅ…!!ははは春香ちゃんはそういう、気になる人とかはいないんですかっ!?」

春香「いやぁ〜、私は今はファンの人が恋人!って感じかなぁ〜」

雪歩「じゃっ、じゃあ、ファンの人とキスできる!?」

春香「ちょちょちょっと待って雪歩!それは話が変わってくると思うなぁ!!」

雪歩「でもでも、恋人ならできるんだよね!?」

春香「オッケー雪歩、じゃあ夢の中でね!夢の中でキスしましょうっ、ファンの皆さんとは!」

雪歩「そんなのずるいですぅ!」


春香「私のことじゃなくて、今は真と雪歩の話でしょ?」

雪歩「うー、うー。」

春香「で、どうなの?できるの?キス。」

雪歩「キス…。あの…その…、はっ…恥ずかしいよぉ…。」

春香「嫌ではないんだね?」

雪歩「……」

春香「んー…。じゃあ逆の質問するね。雪歩が“キスしたい”って言ったら、真どうすると思う?」

雪歩「えっ。」

春香「私の予想だと〜、多分すっごく慌てて、“いきなりどうしたの雪歩!?”なーんて言って、でもああ見えて押しに弱そうだから、雪歩がお願いって言ったらものすごく照れながらでもそこはちゃんとキメ顔で雪歩の顎に指をかけてクイッって持ち上げながら“ホントにするよ?いいんだね…?”って…あ、あれ?雪歩?」


アナホッテウマッテマスゥーー!


春香「あらら。……ゆきほーー。おーーい。」


ハルカチャンノイジワルウゥーー!


春香「あははごめんごめん。ほらぁ、出ておいでよー。」


雪歩「……ぐすっ」

春香「ちょーっと私もモーソーしすぎちゃったかなーって」

雪歩「……恥ずかしくて死んじゃいそうですぅ…」

春香「はい、せーので引っ張るよ。」

雪歩「うん…」

春香「せー…」

雪歩「…あ。」

春香「え?」

雪歩「……ふふ。」

春香「えっ?なになに雪歩どうしたの?」

雪歩「……ここから見える景色ね…、すっごくキレイ…。」

春香「へ…?」

雪歩「ピンク色の世界の中に、春香ちゃんだけが見えるの。春香ちゃん、桜の妖精みたい。」

春香「え、えぇ〜っ、なに言ってるの雪歩、恥ずかしいよぉ〜って、キャッ…!」

雪歩「ひゃ…」

春香「キャ〜〜〜!!!」


春香「い、いたた…」

雪歩「はぅ……」

春香「うわああああ、大丈夫!?雪歩!?ごめんね、ほんと私ドジで…!」

雪歩「ううん。それより春香ちゃん、ほら。」

春香「え?……うわぁ…!」

雪歩「特等席、だね。」

春香「空が全部、桜…」

雪歩「あはは、そのまんまだね。」

春香「えへへ…雪歩みたいに詩人にはなれないや。」

雪歩「…!」

春香「どしたの?」

雪歩「それ…、真ちゃんにも言われたなぁ。」

春香「え?」

雪歩「雪の日にね、真ちゃんとこの公園に来たことがあるの。その時もこんな風に私が穴を掘っちゃって、真ちゃんが助けようとしてくれて…。でも、穴の中から見た雪の空があんまりキレイだったから、“真ちゃん、来て来て。まるでスノードームに入ったみたいなの”って…。それで真ちゃんが下りてきてくれて、」

春香「じゃあ今の私たちと同じ状況だ。」

雪歩「そうなの。えへへ、真ちゃんもね、“空しか見えない!”って言ってた。」

春香「私と同じリアクション…。な〜んか恥ずかしいなぁ〜」

雪歩「でもそのあと…、うふふ…」

春香「?」







—うわあ、すごいや雪歩!空しか見えない!!

—えへへ、そのまんまだね。

—へへっ、雪歩みたいに詩人にはなれないや。

—はぅ…、なんだか恥ずかしいですぅ…。

—それに…、…うん。ボクやっぱり、雪歩はすごいって思うな!!

—……真ちゃん?

—ボクさ、雪歩が穴を掘ってるとき、なんだか雪歩が自分だけの世界に閉じこもっちゃうような気がして、すごく心配になっちゃうんだ。

—は、はぅぅ…

—でもさ、雪歩の世界って…、ふふ、

—……?

—こんなに…キレイなんだね。




春香「雪歩—?おーい、雪歩—?」

雪歩「ほわんほわんほわん……はっ!!」

春香「また真の王子様エピソード?」

雪歩「そっ、そんな感じ…」

春香「……」

雪歩「……」

春香「…早くしないと、桜、散っちゃうよ?」

雪歩「……雪の時は、あんなに簡単に誘えたのになぁ。」

春香「……うん、」

雪歩「考えるとわかんなくなっちゃうんだぁ…。真ちゃんの気持ちも、自分の気持ちも。」

春香「……雪歩は、どうしたいのかな?」

雪歩「私は…、ただ、今まで通り仲良くできたら…って思ってるはずなのに、それなのに、今まで通りに真ちゃんとお話できないの…。」

春香「……」

雪歩「このままじゃ、真ちゃんに…嫌われちゃいそうで…。」

春香「それは絶対、ないと思うけどな。」

雪歩「でも……」

春香「それに真のことだから、なーんにも意識しないでそういうセリフ言ってる可能性あるよ?」

雪歩「あはは…、それは…ありそうですぅ。」

春香「だから雪歩も深く考えないで、自分の好きなようにしたらいいんだよ。」

雪歩「好きなように…」

春香「そう!自分の気持ちに素直に!口説かれたらきゅんってすればいいし、キスしたくなったらしちゃえばいいし!」

雪歩「そ、それはまずいですぅ!」

春香「しちゃったらさ、感想教えてね?」

雪歩「もう、春香ちゃんてばぁ…!」

春香「あはは、冗談だよぅ。」


雪歩「……春香ちゃん、」

春香「んー?」

雪歩「私、頑張ってみる。」

春香「……うん!ファイト!!」



私たちのそのやり取りは、seventeensに載っていたセリフそのまんまで、それに気付いて二人同時に吹き出した。
笑い声が、夜桜の空に吸い込まれていく。
雪歩は別れ際に、火照ったような顔でありがとう、と私に言った。
その後ろ姿を見送っている時、確かに私は彼女の恋の成就を願った。

そしてすぐに気がついた。

すっかり学校の友達と同じ感覚でアドバイスをしていたけど、大前提が違っていたんだということに。

相手は、真!
二人とも、女の子!

大慌てで「さっきのアドバイス取り消し!」という内容のメールを送ろうとしたけれど、途中で雪歩からもう一度「ありがとう」と送られてきたので、私ももう一度「ファイトだよ」と返した。



後日。東京は、夜の7時。

タクシーに揺られながら、流れてくる会話にゆるゆると耳を傾けていた。
いつもこの時間にタクシーに乗ってるなぁ、なんて考えながら。


—東京は、桜が満開ですね。

—皆さん、お花見には行きましたか〜!?ボクと雪歩は、この間行ってきたんだよね。ね、雪歩!

—うん、夜桜、キレイだったねぇ。

—散っちゃう前に、もう一度行こうよ!

—えへへ、私3回目になっちゃう

—え!?ぼ、ボク以外とも行ってたの?だれだれ!?

—えへへ、内緒。

—ゆ、雪歩〜〜!!



春香「はーい。」


小さな声で、自首をした。

桜の下で、雪歩と真はどんな会話をしたんだろう。

キス…、してたりして。
なぁんて…


春香「……」


2人の声を聞きながら思わずそんな想像をしてしまって、赤くなった。

雪歩は最後まで頷かなかったけど、絶対真とキスできる。
だってきっと、真のことが好きだから。

恋の始まりってどこにでもある。

例えば


今、隣で一緒にタクシーに揺られているこの人と、私は、キスできるかな。


(………やだ)


動揺しすぎて、窓ガラスに頭を思い切りぶつけてしまった。
心配するその人の手を、慌てて制止する。

大丈夫かという問いかけに、なんだかまともに答えられなかった。



(できちゃうかもしれない。…………キス。)



窓から見える桜並木は、すべて、満開。


春が、来てるから。




おわり



初ssでしたありがとうございました。

ぼかぁあずきちゃんとお花見してきます!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom