魔女「あらあら、こんな所に人間が落ちているわ」(474)

男「だ、誰…?」

魔女「この森の主、と言ったところかしら」

男「まさか…ま、魔女!?」

魔女「クス……」

男「や、やめろ!こっち来るな…!」

魔女「見たところその怪我じゃたいして動けなさそうね」

男「あ……あ……」

魔女「ふふっ、捕まえた」

男「」ガクッ

魔女「あらあら、気絶してしまうなんて。情けないこと」

男「ん……あれ……?」

魔女「あら、もう目が醒めたようね」

男「………!」

魔女「まだ頭がはっきりしない?」

男「…ここはどこだ?」

魔女「ふふっ…ここはね、私の実験室」

男「実…験……?」

魔女「そう。ここでね、いろんな生き物の一部を薬品に混ぜて薬を調合をしているのよ」 ヒョイ

男「そ、それは……?」

魔女「カエルの足よ」

男「ひっ……!」

魔女「そしてこれは鶏の嘴」

男「あ……あ………」

魔女「…そうだ、あなたの足見せてくれない?」

男「」

ピイィィィィィィィーーー!!!

魔女「ごめんなさいね、やかんに火をつけたままだったの。少し待っていてね」

男「………」

男「や、やばいやばい…早く逃げないと……!」

男「あそこの窓から……あれ?」

男「足が動かない…そうだ、森で熊に襲われて怪我を……」

男「でもなんでだろう…あんなに痛かったのに、今は全然…」

男「…こんなことをしてる場合じゃない!こんな足でもなんとか逃げ切らないと!」

男「くっ……よいしょ……」

魔女「お待ちどうさま。ちゃんと大人しくしていた?」

魔女「あら……?」

魔女「いない…窓から逃げ出したのね」

魔女「あの怪我じゃまだそう遠くまで逃げていないはず」

魔女「…早く追いかけないと」

男「うわあああぁぁぁぁ!!!」

魔女「…崖の方ね」

男「ははっ…間抜けだな、崖から転がり落ちるなんて」

男「くそっ…早くここから離れないと…」

魔女「ふふっ…見つけた」

男「…………!」

魔女「駄目じゃない、勝手に抜け出すなんて」

男「く、く、来るなぁ!!!」

魔女「情けないわね、そんなにみっともなく怯えてしまって」

男「やめろ、近づくな!……ぐっ」

魔女「あら、もう魔法が解けてしまったのかしら」

男「ま、魔法…?」

魔女「そう、あなたが寝ている間にちょっとした魔法をかけていたのよ」

男「………!」

男「お、俺に何をした!……ぐっ」

魔女「実験よ、実験。せっかく生の被検体があるんですもの」

男「そ、そんな……いたっ…」

魔女「どうしたの?」

男「足がまた急に痛み出して……」

魔女「そう。まあ、こんなものね」

男「…なんのことだ」

魔女「実験の結果よ。まあまあってところね」

男「……俺をどうするつもりだ」

魔女「ふふっ、とりあえずまた実験室に戻ってもらうわ」

男「…………」

魔女「どうしたの?痛くてもう立ち上がれないのかしら?」

男「………」

魔女「ふーん…そんな状態でも無理矢理歩けたってことは、結構効いたってことね」ブツブツ

男「………っ」

魔女「そんな足で逃げようとしても無駄よ。無理矢理あなたを実験室に連れ帰るから」

男「…魔法でも使って俺の体を浮かせるつもりか?」

魔女「正解。でも50点ってところね。魔女が宙に浮かせられるのは箒だけなの。だからあなたはこの上に乗ってもらうわ」

男「…………」

魔女「そうそう。おとなしくしていてね。でないとどうなっても知らないから」

男(結局何もできずにむざむざと運ばれてしまった…)

魔女「あーあ、せっかく煎れたお茶が冷めちゃってるわ。もったいない」ズズッ

男「…………」

魔女「あなたも飲む?」

男「い、いらない…」

魔女「あら、そう。ああ、そうだった。魔法が解けていたんだっけ」

魔女「足、見せなさい」

男「………!」

魔女「ズボンを脱いでくれると助かるわ。脱がないのなら切るけど」

男「あ、足をか…」

魔女「クス…そっちの方がいい?」

男「………」

魔女「傷は…かすかに治っているわね。もう少し濃度を高くしても大丈夫かしら」ブツブツ

男(何を混ぜているんだ…?すごく酷い臭いだ…)

魔女「これ、何だか気になる?さっきあなたに試した魔法の薬のうちの一つよ」

男「魔法の…?」

魔女「そう、私のオリジナル。まだ試作段階だから効き目から副作用まで詳しくわかっていないのだけどね」

魔女「ネズミをわざと傷つけて薬を試そうと思った矢先に、ちょうどいい具合の人間が転がっているんだもの。助かったわ」

男「そんな……」

魔女「ふふっ…他にも試したい薬がいっぱいあるの。協力してね」

男「あ…あ……」

男「もう…終わりだ……このままここで魔女のモルモットに死ぬんだ……」

男「肝試しになんて来るんじゃなかった…熊に襲われるし、もう散々だ…」

魔女「…ご飯、作ってきてあげたわよ」

男「」ビクッ

男(このオンボロ小屋から出てくるものにしては割とまともなような…でも、なんだか得体が知れない……)

魔女「どうしたの?食べないの?食べてくれないと困るわ」

男「…この中に何か入ってるのか?」

魔女「聞きたい?」

男「………入ってるんだな」

魔女「クス…」

男「………」

魔女「ほら、早くしないとお肉が冷めてしまうわ」

男「…いただきます」

魔女「………おいしい?」

男「…………」コクン

魔女「それ、なんのお肉だと思う…?」

男「っ…!ゲホッ、ゲホッ……」

魔女「ふふっ…冗談よ。それはただの豚肉」

男「………」カタン

魔女「残すつもり?駄目よ、一度口を付けたのだから。全部食べなさい」

魔女「もったいないじゃない」

男「…………」

魔女「残さず食べれたのね。偉いわよ」

男「………」

魔女「そういうことで、はい、これ。傷口に塗るから」

男「…これはなんの薬だ」

魔女「さっきの薬を濃くしたものよ。キツイ副作用が出ないといいわね」

男「……もうやめてくれ」

魔女「心配しなくていいのよ。死にはしないはずだから」

男「…………」

男「おい…体にブツブツが……」

魔女「あら、やっぱり強すぎたわね」

男「ど、どうすれば…」

魔女「放っておけばすぐに治まるわよ」

男「か、勝手なことを言うな!せ、せっかく手に入れた実験動物が死ぬかもしれないんだぞ!」

魔女「だから死なないって言っているでしょう。大袈裟ね」

魔女「ん…でも傷もすごい早さで治ってきてるわ」

男「え…?」

魔女「わかる?最初はあんなにエグく開いてた傷口がだいぶよくなってる」

男「ほ、本当だ…」

魔女「これで副作用を抑えられれば完璧なのだけど…まぁ、それはあの人たちの仕事ね」

男「………?」

魔女「もう、こんな時間…そろそろお風呂に入って寝ようかしら」

魔女「そこのベッドで好きなようにしていて頂戴。薬品臭いから安眠は約束できないけれどね」

男「………」

魔女「それじゃ、おやすみなさい」

バタン

男「………」

男「行ったか…」

男「まだ歩くにはちょっとつらいけど、このまま順調に回復していけば、明日の朝にはだいぶよくなってるかな」

男「よし、なんとか明け方にここから抜け出そう」

男「ハァ、ハァ…なんとか帰ってこれた…我が家に……」ガチャン

父「男、どこへ行っていたんだ!」

男「わっ、父さん!」

母「心配したんだよ!アンタ山に行っていたんだって?」

男「えっと、ごめん…心配かけて…」

母「山で肝試ししてたっていうアンタのクラスの友達が、昨日熊に襲われて帰ってきたんだから」

男「そ、そうだったのか…」

父「怪我は…見たところしてないようだな。よく無事で帰ってこれたな」

男「う、うん……あれ?」ゴソッ

父「どうした?」

男「いや、なんでもない」

男「いつの間にポケットに知らないハンカチが…」

男「誰のだろう?女の子のっぽいけど……」

男「ん…?ハンカチの中に変な玉が…」

男「なんだろう?不思議な臭い…」

男「……魔女の家のものと似てる」

男「まさか、これ、魔女のハンカチ…?」

男「でも、どうして……」

男「不思議なことに、この玉を持っているとうちの飼い猫が嫌がって俺のそばに寄らなくなった」

男「それだけじゃなく、近所の犬も俺を避けるようになった…」

男「これってもしかして動物が嫌がる臭いなのか?」

男「仮にこれが魔女のものだとして、なんで俺のポケットの中に…?」

男「まさか、俺が小屋から抜け出すことを知っていて、こっそり忍ばせておいたわけじゃ…」

男「……よく考えてたら、実験と言いつつも傷薬以外試されなかったような気もするし…」

男「あの魔女……」

コンコン

魔女「誰かしら、こんな山奥に用がある人なんて」

男「あ、あの…」

魔女「…久しぶりね。もう戻ってこないと思ってたのに」

男「え、えっと…」

魔女「何の用かしら?仕返しにでも来たの?」

男「そうじゃなくて…その…お礼を言いに……」

魔女「はぁ?」

男「こ、この前は、俺を手当てしてくれてありがとうございました!」

魔女「何のことかしら?私は薬の実験を…」

男「それと、俺が無事に山を降りられるように持たせてくれた玉を包んでいたハンカチ、これを返しに…」

魔女「…こんなものに覚えはないわ。いい加減にしないとあなたを解体して…」

男「…もしかして、俺をわざと怖がらせようとしてた?」

魔女「………」

男「なんでわざわざそんなことを…」

魔女「あなたの勘違いよ。私は世にも恐ろしい魔女」

男「自分で言うかな、そういうこと」

魔女「あーくどいくどい。用が済んだなら帰って頂戴」

男「あ、ちょっと!」

魔女「もう二度と来ないで。でないと今度は一番キツイ薬を試して解剖するわよ」

男「こ、これ!お礼の品、ケーキ!」

魔女「……!」

男「あの、それじゃ!」タッタッタッ

魔女「なによ、あの人間。勝手に押し付けて」

魔女「それになによこのケーキ。貧乏を冷やかしているのかしら!」

魔女「まったく…腹が立つ」カパッ

魔女「…ショートケーキとモンブランとガトーショコラね」

魔女「…………スゥゥゥ」

魔女「はあぁ~~~…」ポワワーン

魔女「紅茶と一緒に食べた方が美味しいわよね。お湯を沸かさないと」

魔女「~~♪」

男「ケーキ、喜んでくれたかなぁ」

友「なーにボーッとしてんだ?」

男「友!久しぶりだな。お前怪我は大丈夫なのか?」

友「熊に襲われたって騒いでるけど実際は鉢合わせただけだよ」

男「そうなのか…」

友「大怪我したのは、熊にビビって逃げてるときに転んで木にぶつかったんだ」

男「それはまた間抜けな話だな…」

友「ま、あれからだいぶ経ったし傷もまあまあよくなってきたよ」

男「それはよかった」

友「お前こそ、森て迷子になって一晩帰れなかったんだろ?よく熊に襲われなかったな」

男「ああ…うん、まあ」

友「………?」

友「はー、久々の学校はダルかったなー」

男「授業に付いてこれないってのが本音じゃないの?」

友「それはまあそうだけど…あ、ノートは貸してくれなくていいからな。写すのダルイから」

男「大丈夫なのか、それで」

友「大丈夫大丈夫。それよりゲーセン寄ってかね?」

男「いいよ」

友「よっしゃ!そうとなりゃ……ん?」

男「どうした?」

友「見ろよあの女、気持ちわりー…白昼堂々とコスプレだよ」

男「どれどれ……あっ!」

友「赤いリボンに黒いワンピース、片手には竹箒!ハロウィンはまだ早いっての。髪は綺麗なロングだけど…」

友「……あれ、なんか寒気が」

男「魔女……!」

友「え…、マジ……?あ、おい、待てって!」

男「ごめん!今日はゲーセンなしで!」

男「ここに入っていったよな…ずいぶん古い薬屋だ。漢方薬の店かな?」

男「なんか薬事法に触れそうなものを扱ってそうな…」

男「まあ、入ってみるか…」

カランカラン

爺「…いらっしゃい。悪いね、今ちょっと取り込み中で…今日は引き取ってもらえないかね」

男「え、あ、あの…」

魔女「………!」

爺「兄ちゃん?」

魔女「大丈夫よ、知り合いだから」

爺「知り合い?同業者かい?」

魔女「いえ、ごく普通の人間です」

爺「いいのかい、本当に…?」ヒソヒソ

魔女「ええ、続けてください」

男(何をやってるんだ…?)

魔女「これはこの前開発した傷薬です」

爺「おお」

魔女「少量でも発疹が出てしまいますが、効き目はあります」

爺「ほお…どれ、うまいこと他の薬と調合して効果を並まで抑えてみるかね」

魔女「ありがとうございます。それと、いつもの薬です」

爺「おお、そろそろ在庫が切れそうだったんだわい。さて、占めてなんぼかのう…今日はこれくらいでどうじゃ」

魔女「十分です」

爺「それじゃ、今日の商談は成立じゃの」

魔女「いつもご贔屓にしてくださってありがとうございます」

魔女「わざわざつけてくるなんて趣味が悪いのね」

男「ご、ごめん…たまたま見かけて、今日はどうしたものかと…」

魔女「見てたでしょ。ああやって薬を売って生計を立ててるの」

男「そうだったんだ…」

魔女「用は済んだならさっさとどこか行きなさい」

男「まだこれから用事あるの?」

魔女「特にないけど」

男「じゃ、じゃあさ、途中まで一緒に帰ろうよ!」

魔女「はぁ?あなた何言ってるの?そんなに薬漬けにされたい?」

男「いや、それは困るけど…あ、待ってよ!」

魔女「ついてこないで」

男「いや、俺もこっちなんだけど…」

魔女「知ってるわよ」

男「………」

魔女「まだ何か」

男「箒で空飛んでかないの?」

魔女「そんなことをしたら騒ぎになるに決まってるじゃない。少し考えれば分かるでしょう?」

男「じゃあ箒置いてくればいいじゃん…」

魔女「あら、全く使わないってわけじゃないのよ?周りに誰も人間がいないときに、こうして低く飛ぶの」

男「世知辛い世の中だなぁ…」

魔女「それ、馬鹿にしているの?」

男「いや、そんなわけじゃ」

魔女「……ん」クンクン

男「どうかしたの?…ああ、ケーキの匂いか。そうだ、この前のケーキ、ここで買ったんだよ」

魔女「だから何?」

男「その…美味しかったかな?」

魔女「…………」

男「えっと…あの…?」

魔女「…………」

男「なんだよ、急に黙りこくっちゃって…」

男(気に入ってくれなかったのかな…)

魔女「……寄っていかないの?」

男「ああ、うん。今日はそんなにお金持ってないから…」

魔女「……そう」

男「………?」

男「そういえば、学校とかは行ってないの?」

魔女「ええ、と言っても中学校までは通っていたわ。義務教育だからね」

男「魔女にも義務教育なんてあるんだ」

魔女「あの頃は人間に紛れて暮らしてたの。もっとも、周りの人間は皆薄気味悪がってたけれど」

男「ご、ごめん…俺も最初は……」

魔女「最初は?今は恐怖の対象ではないということ?聞き捨てならないセリフね」

男「…いやいや、あなた様は非常に恐ろしい魔女でございます」

魔女「なにそれ?馬鹿にしているの?」

男「扱いにくい奴だ…」

ちょくちょく寝落ちしちゃってます
このまま本当に寝ちゃったらごめん

男「魔女が使える魔法って、箒と魔法の薬の調合の他に何があるの?」

魔女「新聞やテレビでもやっているんじゃない?私たちがどういうことをしているのか」

男「いや、誇張してることも結構あるんじゃないかなって…」

魔女「まあ、だいたい当たっているわよ。老化や死に至らせる呪い、とか」

男「………」

魔女「まあ、厳密に言うとそれも高度な魔法薬のおかげなのだけどね」

魔女「だから、私たち魔女が使える魔法は、薬作りと箒を飛ばすことだけ」

男「そうなんだ…」

魔女「なによ、改めて私の怖さを思い知ったのかしら?」

男「君もそんな薬を作ってるの…?」

魔女「ふふっ…知りたい?」

男「…今ので作ってないってわかったよ」

魔女「なによそれ。つまんない」

男「ん、俺の家ここなんだ」

魔女「そう。やっとお別れできるのね」

男「そういうこと言うなよ…」

魔女「じゃあね。もう二度と顔を見せないでね」

男「はぁ」

魔女「あ、それと」

男「ん…?」

魔女「白と黄色と茶色なら、私は白が好きよ」

男「…?突然なんの話?」

魔女「阿呆」

男「な、なんだよ!あ、行っちゃった…」

男「白と黄色と茶色?なんのことだろう…」

「○×国の首相暗殺に使われた毒薬を作ったと思われる魔女を逮捕」

男「魔女だってみんながみんな悪いわけじゃないのに…」

男「だいたい、この事件だって薬を作っただけで他は何も悪いことをしてないじゃないか」

魔女「なによ、そんな辛気臭い顔をして」

男「わっ、びっくりした!また町に来てたんだ」

魔女「ええ。日曜日に家にいるのが退屈で。たまたま通りかかったらあなたがいたから」

男「ってことは、特に用もないんだね」

魔女「まあ、強いて言えばお買い物も兼ねてかしら」

男「そっか。…俺もついていっていい?」

魔女「好きにすれば」

男「魔女でも普通に市場とか来るんだな…」

魔女「あら、それはひどい偏見よ」

男「ごめん、そんなつもりじゃ」

男「…それより、君の格好ってちょっと目立ちすぎじゃない…?」

魔女「なにが?」

男「黒いワンピースに片手には箒…自分は魔女ですって言ってるようなもんじゃん」

魔女「普通にしている分には傍から見ればただの痛い人でしょう」

男「自覚してるのか…」

魔女「やめるつもりはないけどね。魔女のトレードマークだもの」

魔女「これでもワンピースには拘ってるつもりよ」

男「そうなの?」

魔女「ええ。ほら、これには自分でレースを縫い付けたの」

男「へえ…」

魔女「他にもいろいろあるわ。作業着用によそ行き用、お出かけ用に…」

男(やっぱり年頃の女の子なんだなぁ…)

魔女「そういえばこの前黒いベビードールを買ったのだけれど、これも黒いワンピースに似てるわよね」

男「ぶっ…!い、いきなり何言ってるんだよ!」

魔女「あなたこそ、なにをそんなに動揺しているのよ」

男「だって、あんなエロ下着…」

魔女「なによ。見たい?」

男「え!いや、それは、その…」

魔女「嘘よ。なに顔を赤らめてるのよ、発情ネズミ」

男「今日は楽しかったよ」

魔女「私は鬱陶しくて仕方なかったわ」

男「それはどうも…」

魔女「最近あなたから恐怖の感情がなくなっているのが気に食わないわ」

男「別にわざわざ怖がらせなくても…」

魔女「魔女たるもの、人間を恐怖のどん底に陥れなければいけないものなのよ」

男「でも俺にはもう効かないよ。路線変えたら?」

魔女「考えてみるわ」

男「それじゃ、俺はここで」

魔女「うん、またね」

男「え……?」

魔女「今度またうちに遊びに来てくれると嬉しいな」

男「え…?あ、あの……」

魔女「…こういう路線はどうかしら」

男「え、演技か…びっくりした……」

魔女「久しぶりにあなたが顔色をぐるぐる変えているところを見れて楽しかったわ」

男「ははっ、そりゃどうも…」

魔女「それじゃあね。白、待ってるから」

男「うん。今度買ってくよ、ショートケーキ」

限界
寝ます
残ってたらエロも書きたいな

一応ここで区切りってことで
あとは番外編というか…

男「おーい」コンコン

魔女「…何しにきたのかしら。今実験中なのだけど」

男「そうなんだ…忙しい?」

魔女「まあ、わりと」

男「そうだよね、なんか顔赤いし息も乱れてるし…」

魔女「…っ!そ、そんなことないわ。悪いけど今日のところは帰って頂戴」

男「そっか…残念。ケーキ持ってきたんだけどな…また日を改めて来るよ」

魔女「ま、待ちなさい!」

男「ん…?」

魔女「そ、その…実験中断するから、上がって行きなさいよ」

男「俺よりもケーキの方が好きか」

魔女「あなたのことを好きになった覚えはないわ」

男「あ、いや、それは言葉のアヤで…」

魔女「私、お風呂入ってくるから。リビングで待っていなさい」

男「うん、わかった」

魔女「言っておくけど、今実験室には絶対に入らないで」

男「何かあるの?」

魔女「いいから」

男「………?」

男「リビングって言っても、台所と自室の兼用なんだよな…」

男「ベッドとか、タンスも置いてあるわけで…」

男「なんか、ドキドキしちゃうな…」

ジャーーー

男「シャワーの音が生々しい…」

男「…………………」

男「いやいや、何考えてるんだ、俺…」

魔女「ふう、さっぱりした…」

男「お、おう…」

男(お風呂上りの魔女、なんだかすごく色っぽいなぁ…)

魔女「なによ、そんなにジロジロ見て」

男「いや、なんでも…」

魔女「待ってて、今お茶いれるから」

男「う、うん…」

魔女「~~♪」

男「なんか、魔女が鼻唄歌いながら台所に向かっている姿を見るの、新鮮」

魔女「何それ、馬鹿にしてるの?」

男「いや、そういうわけじゃなくて…」

男(見惚れちゃう…)

男「どう、ケーキおいしい?」

魔女「…まあまあってところね」

男「俺はこんなに笑顔な魔女を未だかつて見たことがない」

魔女「好きでこんな顔をしてるんじゃないの」

男「つまり本心から嬉しいと思ってると」

魔女「いちいちうるさいわね。邪魔しないで頂戴」

男「ははっ…気に入ってくれたかな…?」

魔女「まあ、また買ってきてくれるのなら食べてあげてもいいわ」

男「そっか。……あの、実はこれ、俺が作ったケーキなんだ」

魔女「え……?」

魔女「で、でも、ちゃんとお店の箱に詰めてあったじゃない」

男「わざわざ自分で詰めたんだ」

魔女「なんのためにそんなことをしたのよ」

男「不評だったときの予防線というか…」

魔女「嫌な人間ね」

男「ごめん……」

魔女「……おいしかったわよ」ボソッ

男「え、なんか言った?」

魔女「なんでもないわ」

男「実験の続きはしないの?」

魔女「あなたがいるから一旦中断」

男「…俺と話してたいとか?」

魔女「なにを自惚れているの?馬鹿みたい」

男「ははっ…」

魔女「使ってる材料の中に、見られたくないものがあるの」

男「…それって、そんなにヤバイもの?」

魔女「ええ。…人体の一部よ」

男「…………!!!」

男「え…?嘘だよね……?」

魔女「ふふっ…こればっかりは本当よ」

男「そんな…まさか、こ、殺したのか?」

魔女「そこまでしてないわよ。その一部だけを取ってきただけ」

男「な、なんで、そんなこと…」

魔女「どうしても作ってみたい薬があったから」

男「そんなことで…一体何の薬だよ…」

魔女「知りたい?」

男「…………」

魔女「それはね、人間を狂わせてしまう薬よ」

男「狂わせる…?」

魔女「ええ、使いようによってはその者の人生を破滅させてしまうかもね」

男「そんな…せっかく仲良くなれたと思ったのに……」

魔女「そう、その恐怖に慄く顔。見てるだけでぞくぞくしちゃう」

男「………」

魔女「そうだ、せっかくだからあなたを使って試してみましょう」

男「………!」

魔女「あら、逃げようとしても無駄よ。縄できつく縛ってあげないとね」

男「は、はなせ…!」

魔女「ふふっ…薬が完成するまで、そこでそうして待ってなさい」

魔女「大人しくしていたよね。お待たせ。完成したわよ」

魔女「人間を狂わせてしまう薬」

魔女「まずは…そうね、一万倍くらい薄めたものでいいかしら」

男「………」

魔女「ほら、口を開けなさい」

男「んんーーー!!」

魔女「強情な人間ね。でも鼻を摘まれたらどうするかしら?」

男「……っ!ぷはっ…」

魔女「えいっ」

男「…………!!!」

男「あ……あ……」

魔女「咳込もうとしちゃだめよ。ほら、すぐに飲み込んで」

男「んぐっ……ぐびっ……」

男「あ……あ……な、なんでことを……」

魔女「何泣いてるのよ。まだこんなんじゃ初期症状も表れるかもわからないのに」

魔女「どう?何か変わったことはある?」

男「この魔女め…!」

魔女「まだ大丈夫みたいね。もっと飲ませてみましょうか」

男「や、やめろおおおお!!!」

魔女「だいぶ飲ませだけれど」

男「…………」

魔女「そろそろ効いてきたんじゃない?」

男「………」キッ

魔女「まだ睨みつけるほど余力は残っているということね。……ん?」

男「…………っ」プイッ

魔女「どうしたのかしら?急にソッポを向いて」

男「な、なんでもない…」

魔女「そろそろ効いてきたかしら?」

男(確かに、おかしくなっちゃったかも…こんな状況なのに、)

男(魔女のことを一瞬可愛いと思ってしまった…)

魔女「ほら、もっと飲んで」

男「やめ……」

魔女「だんだん抵抗しなくなってきたわね。もう諦めたのかしら?それとも…」

男「………」

魔女「ねえ、私の目を見て?」

男「…………っ!!!」カァァ

魔女「あら、顔が真っ赤になったわね」

男「そ、そんなことない!」

魔女「ふーん、やっぱりこのくらいの濃度のときから効いていたのね」

男(ど、どうしちゃったんだ…俺……っ)ドキドキ

魔女「そろそろ縄を解いても大丈夫かしらね」

男「な、何を…」

魔女「例え縄がなくなっても、あなたはもう逃げ出すほどの余力が残ってないということよ」

男「そんなわけ…」

魔女「ふふっ…どうかしら」

男「うっ……グビッ…」

魔女「その証拠に、気を抜いていると薬を飲むことに体が抵抗しなくなっているじゃない」

男「あ……」

魔女「残念だったわね。あなたの頭はもう薬に侵されかけているということよ」

男「そ、そんな……」

魔女「ふふっ…ほら、もっと飲んで」

魔女「どう?体の具合は」

男「ち、近づくな…っ」

魔女「どうして?近づかれるとなにか困るの?」

男「む、胸が、ドキドキして…恥ずかしくて....」

魔女「ふーん…だいぶ狂ってきたようね」

男「………っ」

魔女「そろそろ色んなところの血の巡りがよくなってくる頃かしら?」

男「な、なんのこと……あっ!」

魔女「ふふっ…」

男(な、なんで、半勃起してるんだ、俺……!)

男「ま、魔女、この薬ってもしかして…」

魔女「ふふっ…もしかして気づいちゃった?そう、この薬は…」

男「惚れ…薬……」

魔女「まあ、平たく言えばそんなところね」

男「なんで、そんなものを……うぁっ!?」ビンビン

魔女「あらっ」

男「わっ、み、見るなぁ…っ!」

魔女「これくらい飲ませると発情…っと」カキカキ

男「も、もうやめようよ、こんなこと!」

魔女「いいじゃない、ここまで来たならもっとデータを取らせなさいよ」

男「で、でも……っ」

魔女「あれからまた飲ませたけれど、調子はどう?」

男「ハァ、ハァ、ハァ…」

魔女「男」

男「」ビクッ

魔女「ねえ、男?話を聞いてる?」

男「きゅ、急に名前呼ぶな…っ」

魔女「この調子ならまだ大丈夫ね。次、飲むわよ」

男「うぐっ……」

男「ハァ、ハァ……」

魔女「目をギラギラさせて…そんなに私を抱きたい?」

男「こ、れは…薬の…せいで……」

魔女「ふーん、まだまだ余裕ね」

男「ま、まだ飲ませるの!?」

魔女「ええ、そのつもりよ」

男「も、もし俺が本当に我慢できなくなっちゃったら…!」

魔女「そのラインを見極めるためにこうして薬を与え続けているんじゃない」

男「そんな…くっ…ハァ、ハァ……」

男「っ…………」ギュッ

魔女「自分の体を抱いて湧き上がる欲求を抑えているのかしら?」

男「……………っ」コクンコクン

魔女「ふふっ…だいぶ切羽詰まってきてるようね。はい、次」

男「も、もうだめ!ここが限界…狂っちゃうよ!!あむ

魔女「まだ大丈夫よ。ほら、口を開けて」

男「あ……」

魔女「そうそう、頑張って」

男「う……ぐっ……」

男「っ……………」ビクビク

魔女「大丈夫?そんなに体びくびくさせて」

男「…………っ」フルフル

魔女「そんなことないわ。次、飲ませるわね」

男「だめ!!!!」

魔女「なによ、急に大声出して」

男「これ以上は本当に…ま、魔女を襲っちゃう!!!」

男「と、というか、も、もう!!」

魔女「…………!」

ガバッ

魔女「…………」

男「ハァ、ハァ……!」

魔女「……どうしたの?私を襲うんじゃないの?」

男「あ……あ………!」

男「ま、魔女!トイレどこ!?」

魔女「はぁ?そこだけど…」

男「っ…………」バタバタ

ガチャン

魔女「なによ、根性なし」

魔女「………」イライラ

男「ああああぁ!ああああぁぁ!!」

魔女「声大きいし」

男「気持ちいい!気持ちいいよおぉ!!」

魔女「こっちまで聞こえてるわよ、アホ男」

男「…女、……女ぉ」

魔女「……ん?」

男「魔女!魔女おぉぉ!!!」

魔女「……!」

男「魔女!気持ちいいよぉ!!」

魔女「ば、バカ…っ」

男「あぅっ!!ああぁっ!!」

魔女「…さ、今のうちに片付けしちゃいましょう」

男「魔女っ!魔女っ!」

魔女「………」

男「んあっ……出る……出ちゃうっ!!」

男「あっ、あああぁぁっ!!!」

魔女「………ハァ」

男「……き」

魔女「……え?」

男「好き!魔女、好きっ!好きっ!!!」

魔女「えっ?えっ?」

男「あああああああああああああ」

魔女「な、なによ、今の……」カァァ

魔女「そ、そうよ、薬のせいよね。何勘違いしてるんだか」

魔女「…………」ドキドキ

男「すごい…便器の水の表面が全部見えなくなっちゃうくらい…」

男「な、なのに、まだ……っ」

男「ぅっ……くっ……」

魔女「…ま、まだするつもりなの?」

男「魔女、魔女……っ」

魔女「……………」ドキドキ

ジャーーー

男「………………」ゲッソリ

魔女「…薬全部抜けた?」

男「う、うん、多分……」

魔女「そう」

男「………あ、あの、俺がさっき叫んでたこと」

魔女「わかってるわよ。薬のせいでしょ」

男「え、いや…う、うん……」

魔女「私こそあんなものを与えてしまってごめんなさいね」

男「う、うん…そういえば、あの薬に入っている体の一部って…」

魔女「別に、大それたものじゃないわよ。例えば髪の毛や爪だってそうだしね」

男「そ、そっか…でもなんでわざわざそんな風に聞こえるように…」

魔女「いいじゃない。久しぶりにあなたの恐怖する顔を見れて楽しかったわ」

男「それは嘘じゃなかったんだ…」

魔女「……………」

男「……………」

男(き、気まずい……)

男「あ、あの…俺、そろそろ帰るね」

魔女「ええ、そうして頂戴」

男「うん、それじゃ…バイバイ…」

魔女「……またね」

男「…………!」

魔女「…なによ」

男「うん、またね」

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