男「はじめての彼女が出来たぞ!」(19)
女「そ、そのっ。一緒にこうやって下校するのって、なんだかいいですよねっ……」
男「ああ、本当だね! 実は僕もそうなんだ!」
女「ほ、本当ですかぁ? う、嬉しいです……」
男「君が喜んでくれると僕も嬉しいよ!」
女「え、えへへへ……」
男「……それで、だけどさ?」
女「はい?」
男「きき、今日のこと許してくれるかな……?」
女「…………」
男「とても反省している! だから……」
女「 だ か ら ? 」
男「っ!?」
女「だから……なんなんですかぁ?」
男「…………」
女「なんで口を閉じるんですかぁ?それに、それとこれは別に決まっているじゃないですかぁ」
男「……そうだよ、ね」
女「ええ、そうですよ。あ、でも勘違いしないでくださいねぇ。あなたのことが好きだからこういってるんですよぉ?」
男「…………うん」
女「それじゃあ反省会でぇす。……………なんで他の女の見てたの?」
男「…………」
女「なんで?どうして?」
男「…………」
女「別に視界に入るくらいなら私も何も言わないわよ? でも、違うよね?そうじゃないよね?」
男「…………」
女「そうじゃないわよね?」
男「……はい」
女「だよね? あの男に媚びを売ったようなバカみたく短いスカートを履いた雌豚を見てたよね? なんで? なんでなの? 私はあなたのために頑張ってあなたの好みに合わせているのに? それともそういうのが好きなの? 私もあんな風なスカートを履いたらいいの? そうしたら他の女を見ないでくれるの? そうしたら私だけを見てくれるの?」
男「それは……」
女「ねえ、 答 え て 」
男「……い、今のままの君の方が素敵だよ」
女「…………」
男「う、嘘なんかじゃないよ?」
女「……そういうことにしておくわ」
男「…………」ホッ
女「でも。」ジロリ
男「……!」ビクッ
女「今回だけですよぉ?」ニコ
男「あ、あぁ!」
女「それじゃあ帰りましょう?」
男「う、うん」スッ
女「えへへー。あなたの手、あったかいです……」ギュ
男「そ、そうかな?」
女「はいっ。 私だけのだと思うとなおさらあたたかく感じますよぉ」
男「…………」
女「えへへへ」ギュゥ…!
◆
男「と、まあこんな感じなんだ」
妹「ふーん……」
男「すっごい興味なさそうだな」
妹「べっつにー」ペラ
男「会話してるんだからとりあえず雑誌を読むのを止めないか?」
妹「はーいはいっ、と」パタン
男「それでどうしたらいいと思う?」
妹「兄貴はどうしたいのよ?」
男「質問に質問で返さないで欲しいんだけど……」
妹「別れるなり改善するなり兄貴の意見を聞かないとどうしようもないじゃないの」
男「……お前ならどうするのかが聞きたい」
妹「そんなものすぐに別れるわよ」
男「……どうしてだ?」
妹「どうしても何もある? 理由なんてきりがないくらいに挙げられるのだけれど?」
男「でも……しかし……」
妹「やだやだこれだからモテない男は。 はじめての恋人だからって別れるのを惜しんじゃってさぁ」
男「くっ……! 同じ遺伝子から生まれたはずなのになぜここまでの格差が……」
妹「でも私まだ恋人いないよー? 何回も告白されたけど、同世代の男子って子供っぽいし」
男「こ、この余裕……! なんて憎たらしい奴なんだっ」
妹「あ、相談相手にそんなこと言っちゃうんだー?」
男「う。……悪かったな」
妹「素直でよろしーい。で、あたしとしては別れることをおすすめするわけだけど」
男「でも、なぁ……いやしかし」
妹「なに? はっきりしないなぁ」
男「確かに欠点はあるけど、こんな俺を好きになってくれたわけだし。それになにより甘えている時は可愛い……」
妹「…………」
男「……別れ話を切り出すのが怖いっていうのもあるけどね」
妹「……意気地なしだね」
男「いや、だって本当に怖いんだぞ?」
妹「仕方ない。不甲斐ない兄貴のためにもここは一つ、可愛い妹が手を貸してあげましょう!」
男「自分で可愛いとか言うか普通? それに別れるかどうかはまだ……」
妹「しゃらーっぷ! このままじゃ兄貴はこれからもどんどん束縛されるのよ! それでいいの!?」
男「いや、それは……」
妹「 い い の !? 」
男「よ、よくないです」
妹「よろしい! それなら早速どう別れ話を切り出すのか考えなきゃね」
男「いや、やっぱり別れるのはちょっと……」
妹「…………」ジトー
男「あの……」
妹「…………」ジトー
男「……なんでもないよ」
妹「そう? なら一緒に考えよ?」
男「……うん」
妹「長丁場になると思うからお菓子とジュースが欲しいなぁー」
男「兄貴をこき使おうとするなよな……。まあ、持ってくるけどさ」
妹「ありがとー! あ。ところで、さ」
男「なにかな?」
妹「どこまでしたの?」
男「えっ」
妹「ねぇ、どこまでしたの?」
男「な、なんで急にそんなこと……」
妹「必要なことだから、よ」
男「……必要、なのか?」
妹「そうだよ? だから、ね? 教えて?」
男「……最後までしてたら別れたいかも、なんて口に出すはずがないだろっ!」
妹「ふぅーん……」
男「これでいいか?」
妹「キスは?」
男「……したよ」
妹「へぇっ……」
男「なんなんだいったい?」
妹「ちょーっとね」
男「いまいちわからないけど、そういうのに興味があるならお前も恋人をつくればいいのに。僕なんかと違ってモテるんだからさ」
妹「そのうちねー。 あ、オレンジジュースでお願ーい」
男「はいはい。かしこまりましたよ」
ガチャ…パタン
妹「…………」
妹「…………」ブツブツ
妹「……そくそくそくそくそっ! ポッとでのくせに兄貴とキスをしただなんて……!」
妹「許さない、許さない許さない許さないっ……! 兄貴はあたしの物だ、絶対絶対絶対絶対取り返してやるっ……!」
妹「まだ……まだ大丈夫。また兄貴はあたしの物になる。それまで我慢……我慢だ。でも早く、早く取り返して消毒しなきゃ……。他の女に毒されて汚れてしまった兄貴をあたしが綺麗にしてあげなきゃ、上書きしなくちゃ……」ブツブツ
妹「……兄貴と幸せになっていいのはあたしだけなんだから……!」
男「(お菓子は何を食べたいかとたずねようと、戻ってドアノブに手をかけた瞬間になんだか信じられない言葉が……)」
男「(これは何かの冗談、だよな?)」
男「(妹が俺のことが好きで、嫉妬して彼女と別れさせようとしているだなんて、何かの悪い冗談だろ?)」
男「(冗談であって欲しい。だけどさっき聞こえた声は間違いなく妹のものだった……)」
男「(それにしてもあいつが僕のことを好きだったとは。まったく気づかなかったぞ?)」
男「(仲がよかったのは否定しないけど……。それはあくまで兄妹としてだし)」
男「(うーん……)」
男「(今はまだ判断が下せそうにないから相談はほどほどにして早く終わらせよう)」
男「(そもそもこういった相談をするのはおかしかったかもな。僕は自分の意思であの娘と付き合ってるんだ)」
男「(それの判断を他人に任せようとするのはどうなんだって話だ)」
男「(……いろいろ懸念はあるけど早くジュースとお菓子を持っていこう。あんまり遅いと怪しまれるかもしれない)」
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