このSSは以前投下した
キョン「ち、近寄るな! 化け物!」
の、続編となってます
書き溜めありなので、サクサク投下していく
キョン「はあ……」
みくる「キョンくん、最近ずっと元気ないですね」
古泉「無理もないです。異世界とはいえ、世界1つを丸ごと滅ぼしたのですから」
古泉「それも、異世界の『自分』が絶望する様を見るというオマケつきで」
長門「……」
古泉「我々はある程度の覚悟はできていますが、一般人の彼には相当きつかったのでしょう」
キョン「うーん…………はぁ~……」
みくる「あの、キョンくん、お茶です」
キョン「あ……どうも、ありがとうございます……」
キョン「ズズッ…………はぁ……」
みくる「駄目です。センブリ茶を出してみたのに、何の反応もしてくれません」
古泉「何をしてるんですか、あなたは……」
~回想~
キョン(ある日、突然告げられた。この世界は僅か10ヵ月前、去年の5月に生まれたばかりだと)
キョン(古泉によれば……こことは別の、異世界のハルヒの願望によって誕生したらしい)
キョン「へー……そうなのか」
古泉「おや、あまり驚かれないのですね」
キョン「そう言われてもな。いまいち実感が湧かないんだよ。で、何でそんなことが分かった?」
古泉「長門さんたちの協力があったからです」
キョン「ほう、機関と思念体はそんなに仲良かったっけ?」
古泉「……」
キョン「ん? 何だ、どうした?」
古泉「……緊急事態が発生したのです」
キョン「緊急事態?」
古泉「我々が住んでいるこの世界が…………消されようとしています」
キョン「…………へい?」
キョン(慌てて事情を聞いた。誕生したばかりという話の直後に、何で消えるなんて話になる?)
キョン(話を聞くと、どうやらその異世界のハルヒによって消されようとしているらしい)
古泉「どうやら、相当に強い精神的ショックを受けたようで」
キョン「ん? それは異世界のハルヒの話だよな? それが何で俺たちの世界が消えるなんてことになるんだ?」
古泉「その異世界の涼宮さんが消そうとしているのは、あくまでも自分の世界です。もっとも本人にその自覚はありませんが」
古泉「ですが、そのエネルギーが強大すぎて、その余波で我々の世界まで消えるかもしれないのです」
キョン「何だそりゃ、何て傍迷惑な……それで、どうするんだ? このままだとやばいんだろ?」
古泉「ええ。いろいろと検討した結果、これしかないという結論に達しました。今から異世界へ行きます」
キョン「異世界へ? どうやって……って、長門か。共同戦線ってことか」
キョン「だけどよ。異世界へ行くのはいいが、どうやって止めるんだ? 説得するのか?」
古泉「いいえ、もはや説得は不可能です」
キョン「じゃあどうするんだよ?」
古泉「異世界の涼宮さんが全てを消す前に、我々が異世界の涼宮さんを消滅させます……世界丸ごと」
キョン「世界丸ごとだと! 何でそんな……」
古泉「涼宮さんは現在閉鎖空間に引きこもっている為、誰も侵入できず、手出しができないのです」
古泉「ですから、涼宮さんのみを消すことも不可能。よって世界を丸ごと消すしかないのです」
キョン「な……い、いくらなんでも無茶苦茶だ。他に方法があるだろう!」
古泉「残念ですが……」
キョン(俺は必死に抗議したが……無駄だった。すでにあらゆる勢力で話し合いが行われたという)
キョン(その上で、これしかないという結論が出たらしい。何より……もう時間がない……と)
キョン(結局俺は、異世界を丸ごと消すことに了承するしかなかった。納得はできなかったが……)
キョン(もう他に方法はない。長門と朝比奈さんも合流し、俺たちは慌しく異世界へと旅立った)
キョン(異世界に到着して知らされた。異世界の『俺』に会い、全ての事情を話すと)
キョン(ハルヒが世界を滅ぼすきっかけを作ったから、らしい。何をしたんだ、もう1人の俺よ)
キョン「別世界の俺か。いったいどんな奴なんだろうな?」
古泉「あなたとは随分と違う高校生活を送っていたようですよ」
キョン(詳しく聞く。なるほど、確かに俺とは違っていた)
キョン(朝倉に襲われた時、長門と朝倉のあまりに凄まじい戦いを見て、恐怖心を抱いたらしい)
キョン(そして、長門を『化け物』と呼んで恐れ、その場から逃げ出した)
キョン(他のSOS団のメンバーも恐れた。普通じゃない能力や不可思議な現象に心底恐怖した)
キョン(当然ハルヒのことも恐れ、結局SOS団を辞めてしまった)
キョン(その後はクラスメイトと交流を深める等、ごく普通の高校生活を送っていた)
キョン(ある日、偶然佐々木と再会し、電話で頻繁に話すようになり、やがて一緒に図書館で勉強会をするようになった)
キョン(2人で一緒に過ごすことが多くなり、どんどん親密な関係になっていった)
キョン(一方その頃のSOS団はかなり荒れており、ハルヒのストレスがどんどん溜まっていった)
キョン(ある日、『俺』は佐々木に告白した。無事にOKを貰い、晴れて2人は恋人同士になった)
キョン(だが……その告白の現場をハルヒが見ていた。そして、大きなショックを受けたハルヒは世界を……)
キョン「無茶苦茶だ。あまりにも理不尽だ」
古泉「ええ。ですが、もう起こってしまったことです。取り返しはつきません」
古泉「あなたも覚悟を決めてください。世界1つを滅ぼす覚悟を……」
古泉「見つけました。どこかに出かけるようですね」
キョン(……そこには確かに『俺』がいた。暢気に浮かれながら歩いていたな)
キョン「で、どうするんだ?」
古泉「1度眠らせてから、閉鎖空間に連れ込みます。邪魔が入らないように」
キョン(それから手筈通りにあいつを閉鎖空間に連れ込み、事情説明。当然あいつは激昂した)
キョン(そりゃ当然だ。自分の世界が消されると聞けば、誰だって怒るだろう)
キョン(最初は怒鳴り散らしていたあいつも、やがてどうにもならないということを悟ったようだ)
キョン(……できれば、自分と同じ姿をした奴が絶望してるところなんて見たくなかった)
「俺はただ普通の生活を送りたかっただけなんだ! 普通に友達を作って遊んで勉強して恋をして」
「普通じゃない連中と関わり合いになりたくなかった! それがそんなにいけない事だったのかよ!」
キョン(……何も言えなかった。あいつの心からの叫びに対して、俺は何も言えなかった)
キョン(もはや何もできることはない。そんな絶望的な状況の中……あいつは最後に行動を起こした)
キョン(自分の世界のため……何より、自分の恋人である佐々木を守るため……)
「それでも行くんだ! 必ず、必ず奇跡を起こしてみせる!!」
キョン(あいつはハルヒを説得するために走った。ただの悪あがきだと知りながら……)
キョン(しかし……結局は駄目だった……)
キョン(説得はおろか、ハルヒの元に辿り着くことさえできなかった……)
キョン(そして…………1つの世界が消滅した……)
キョン(かなり後味の悪い結末だが、これで全てが終わった…………終わったと思ったんだが)
キョン(元の世界に帰還した翌日、俺の携帯にかかってきた一本の電話……)
『やはり、僕の「キョン」はいなくなってしまったんだね……』
『僕は諦めないよ。必ず僕の「キョン」を取り戻してみせる』
キョン(なぜか、佐々木には異世界の記憶が残っていた。これはあいつが起こした奇跡なのか……)
キョン(ともかく今回の事件、まだ終わりではないのかもしれない)
キョン(佐々木には異世界の記憶が残っている。いや、おそらくあれは『異世界の』佐々木本人だ)
キョン(元々の佐々木を異世界の佐々木が乗っ取ったのか? その辺も詳しく知りたいが……)
キョン(佐々木からは『必ず僕の「キョン」を取り戻す』という宣戦布告ともとれる電話があった)
キョン(頼もしい味方がいるとも言っていたし、何か仕掛けてくると思っていたんだが……)
キョン(結局特に何事もなく、春休みは終わって俺たちは2年に進級した)
キョン「どういうことなんだろうな? 味方って誰だ? 古泉、何か心当たりはあるか?」
古泉「そうですね。涼宮さんの能力を狙う組織はいくつか存在しますが」
キョン「ほう」
古泉「例えば……」
キョン「へえ。ハルヒの能力を別の奴に移すねぇ。変なことを考える組織もあったもんだ」
キョン「……つまり、佐々木がその組織とやらと接触し、手を組む可能性もあると?」
古泉「ええ。もちろん我々も目を光らせていますが、くれぐれもご用心を」
キョン「ああ、分かった」
ハルヒ「やっほー! みんな揃ってるー?」バァン!
みくる「あ、涼宮さん」
古泉「どうも、こんにちは」
長門「……」
キョン「もっと静かに入ってこい……はぁ」
ハルヒ「なぁに溜息なんてついてるのよ。もっと気合入れなさい! でりゃあ!」バチィン!
キョン「うぎゃああ! 背中! 背中がぁ!」
ハルヒ「どう? 元気出た?」
キョン「たった今、お前に全部吸われたわ!」
ハルヒ「それだけ怒鳴れりゃ充分ね。さて、今日はいかに多くの新入団員をゲットするかの対策会議よ!」
キョン「はあ、新入団員ね」
ハルヒ「我がSOS団に相応しい逸材が必ずいるはずよ! 楽しみだわ!」
キョン(やれやれ、無駄に張り切ってるな。しかし……確かにいつまでも落ち込んでられん)
キョン(佐々木の動向も気になるし……何も起きなければいいんだが)
~夕方 帰り道~
キョン「まったくハルヒの奴、まだ背中がジンジンする……」
キョン「それにしても、何も起きなければいいとは言ったが……そうもいかないんだろうな」
???「わっ!!」
キョン「うわぁ!!」バチン!
???「へぶっ!?」
???「ちょ、ちょっと驚かそうとしただけなのに、ビンタとはひどいのです……」
キョン「すまん! いきなりだったからつい反射的に! って、あれ? お前どこかで見たことが」
橘「どうも、橘京子です」
キョン「あー!! お前、朝比奈さんを誘拐した一味の!!」
橘「まあまあ、今はそれは置いといて。あなたに話があるのです……佐々木さんのことで、ね」
キョン「佐々木だと?」
キョン「ほう、ハルヒの能力を佐々木にね」
キョン(古泉が言ってた組織ってのは、こいつらのことだったのか)
橘「ええ。そのために、あなたたちSOS団と同じように揃えたのです!」
キョン「揃えた?」
橘「宇宙人、未来人、超能力者をです! これで後は佐々木さんに能力を移せば完璧です!」
橘「完璧…………だったのですが……」
キョン「ん?」
橘「佐々木さんの様子がどうもおかしいのです」
キョン「佐々木の様子が? どういうことだ?」
橘「能力を移しかえる話、最初は絶対に反対されると思っていたのです」
キョン「まあ佐々木の性格ならそうだろうな」
橘「ですから、どうやって佐々木さんを説得するかというのも課題の1つだったのですが……」
橘「佐々木さん、話を持ちかけた途端に凄まじい勢いで喰いついてきまして……」
キョン「……」
橘「それはもう掴みかからんばかりの勢いで。顔が近くまで来てちょっとドキッとしたり……」
キョン「おい」
橘「はっ! そ、そんなことはどうでもいいのです! とにかく!」
橘「あまりの迫力に呑まれましたが、しめたと思ったのです。これなら案外スムーズに計画が進められると」
橘「けれど、やっぱり不審に思いました。どうしてそこまでして能力を欲するのかと」
橘「そもそも、佐々木さんなら無闇に能力を発動させないと思っていたからこその計画なのに」
橘「だから聞いてみました。しかし……何も答えてくれませんでした」
橘「ただ何かをブツブツと呟くだけで……計画を持ちかけといてなんですが、何だか怖くなっちゃって」
キョン「おいおい……」
橘「だって本当に異様だったんですよ! それ見て九曜さんはブルブル震えだしちゃうし……」
橘「さらに未来人さんまで『既定事項と違ーう! 姉さーん!』とか叫んで走り去っちゃうし……」
キョン「随分と早い瓦解だな。偽者の末路なんてそんなものか」
キョン「……で、あっさり瓦解した偽SOS団とやらは、これからどうするつもりなんだ?」
橘「そこなんですよね。正直迷ってます。組織内でも意見が別れちゃって」
キョン「何でそのことを俺に話しに来た?」
橘「警告です」
キョン「警告?」
橘「佐々木さんがあまりに凄い勢いで『能力はいつ移すのか』『その方法は』と聞いてくるものですから」
橘「だから思わず言ったんです。能力を持つ者にとって鍵となる人物の同意が得られればすぐにでも、と」
キョン「おい、鍵となる人物ってまさか俺のことか?」
橘「イエス」
キョン「何でそんなアホなこと言ったんだよ!」
橘「あながちデタラメでもないですよ。あなたはどの勢力からも『鍵』として認識されていますからね」
キョン「くっ……」
橘「というわけで、あたしはしばらく様子見をさせてもらいます」
橘「もし佐々木さんがあなたの同意を得られたら、事態は大きく動くと思いますよ」
キョン「つまり、俺は今佐々木に狙われていると?」
橘「そういうことになりますね」
キョン「何てことを……」
橘「だから警告してあげたじゃないですか。では、あたしはこれで帰ります。頑張ってくださいね」
キョン「何が頑張れだ。そもそも俺が同意しなかったらどうなる? お前らにとって不都合じゃないのか?」
橘「あたしも迷っていると言ったじゃないですか。佐々木さんに能力は移したいですが……」
橘「今の状態の佐々木さんに移すのは怖いとも思っています。ですから、あなた次第ですね」
キョン「肝心なところを人任せにするなよ……」
橘「まあまあ。では、幸運を祈ります」
キョン「くそ、言いたいことだけ言ってさっさと帰りやがって」
キョン「佐々木が俺を……いよいよ近いうちに接触してきそうだな」
『キョン、これからもずっとよろしくね』
キョン「今のは! 佐々木の声!? どこだ!」キョロキョロ
キョン「…………あれ? どこにもいない。確かに聞こえたんだが」
キョン「空耳……だったのか? まあいい。さっさと帰ろう」
~翌日 放課後 部室~
キョン(佐々木は俺を狙っている。ハルヒの能力を手に入れるため)
キョン(やはりそれは、自分の恋人である異世界の俺を……そしておそらく自分の世界を取り戻すためだろう)
キョン(どんな手でくるのか……俺はどうすればいいのか……)
キョン(……古泉たちに相談するか?)
キョン(いや、今のところ実害は出てないしな。とりあえず自力で頑張ってみるか)
ハルヒ「キョーン!」バチィン!
キョン「ぎゃあああ! 昨日と同じ箇所ー!」
ハルヒ「気合注入よ! 相変わらず辛気臭い顔してたから」
キョン「ドアホ!!」
キョン(……はぁ、グジグジ考えてても仕方ないか)
キョン(しかし、いつ佐々木が来てもいいように覚悟はしておくか)
~夕方 帰り道~
キョン「…………」
キョン「……はぁ。最近は待ち伏せが流行ってるのか?」
佐々木「やあ。待ってたよ」
キョン(まさか、覚悟を決めた直後に現われるとはな)
佐々木「どうやら、橘さんから話は聞いたようだね」
キョン「ああ。それにしても、俺に電話してきた日から随分と間が空いたな。今まで何してたんだ?」
佐々木「ふふ、ちょっとこの身体を乗っ取るのに忙しくてね」
キョン「やっぱり……乗っ取っていたのか……」
佐々木「僕の世界が君たちに消された瞬間、僕の意識はこの世界の僕の身体に宿った」
佐々木「なぜそんなことが起きたのかは分からない。奇跡が起こったとでも言っておこう」
佐々木「が、この身体は当然『この世界の僕』の身体。そこに異世界の僕の意識が強引に入り込んだわけだ」
佐々木「1つの身体に2つの人格。そんな状態では自分の思うように動けない」
佐々木「だから……完全に乗っ取ることにした」
キョン「……」
佐々木「申し訳ないとは思ったよ。だけどこれも目的のためだ、仕方ない」
キョン「なるほど。今まで何も仕掛けてこなかったのは、身体を乗っ取るのに時間がかかったためか」
佐々木「そういうこと。結構苦労したよ」
キョン(あの佐々木が……他人を利用するような真似をするなんてな……)
キョン「それで……どうするんだ? お前は俺に能力を移すことを了承させたいんだろう?」
キョン「いったい、どんな手段で了承させるつもりだ?」
佐々木「……」
キョン(さぁ、どう出る佐々木?)
佐々木「どうする……か。では、こうするとしよう」スッ
キョン「な……お、お前……何の真似だそれは!?」
佐々木「何って…………土下座だが?」
キョン「そりゃ見れば分かる!」
佐々木「これでも足りないと言うのかい? では、君の足でも舐めようか?」
キョン「やめろって! 馬鹿な真似はよせ!」
佐々木「……僕は本気だよ。お願いだ。僕に能力を移させてほしい」
キョン「う……すまん。それは了承できない」
佐々木「……どうしても?」
キョン「どうしてもだ」
佐々木「そうか…………じゃあ、しょうがないね」ムクッ
キョン「え? ど、どこに行くんだ?」
佐々木「出直してくるよ。何か他の手を考えないとね。では」
キョン「あ、おい! 佐々木!」
キョン「行っちまった……やけにあっさり引き下がったな。それにしても、いきなり土下座とは……」
キョン「あの調子じゃあ本当に何をしてくるか分からんな。それだけ必死ってことか」
~夜 キョン宅~
キョン「あいつ、次はどんな手でくるつもりなんだろうな? まさか力づくはないと思うが」
キョン「あれこれ考えてもしょうがないな。今日はさっさと寝よう……」
~真夜中 キョンの部屋~
キョン「zzz……スピー……」
???「起きて。起きるんだ」
キョン「ムニャムニャ……ん? 誰だ……?」
佐々木「やあ、こんばんは」
キョン「…………何だ、佐々木か」
キョン「……………………ん?」
佐々木「あれ? まだ寝ぼけているのかい?」
キョン「わあああ! ささささ佐々木!?」
キョン「なな、何でお前がここにいる!? しかもこんな時間に! 何しに来たんだ!?」
佐々木「何しにって……決まってるじゃないか」ジリッ・・・
キョン「な、なぜ近づくんだ……?」
佐々木「ふっふっふ……」ワキワキ
キョン「な、何だその怪しげな手つきは!」
佐々木「さあ、能力の移し変え……同意してもらうよ!」グワッ
キョン「わ! お、押し倒すな! とっとっと!」ドシン!
佐々木「覚悟しろ」
キョン「ちょちょちょストップストップ!? ひゃー! やめてー!」
佐々木「こら、暴れるな」
キョン「助けてー!?」
佐々木「同意してくれたらやめてあげるよ」
キョン「だー! いい加減にしろ!!」グワッ!
佐々木「うわ!」
キョン「落ち着け、力づくなんてお前らしくないぞ!」
佐々木「む……」
キョン「こんな真似はやめろ。いつも冷静なお前らしくもない」
キョン「それに、あまり暴れると家族が起きてくる。そしたらどう言い訳するつもりだ?」
佐々木「むぅ……」
キョン「な、今日は帰ってくれ。少し頭を冷やすんだ」
佐々木「……」スタスタ
キョン「佐々木?」
ガラッ
佐々木「……また来るよ」
キョン「もう来ないで!?」
~翌日 学校 授業中~
キョン(くそ、昨日はあれから結局眠れなかった……)
キョン(それにしても、まさか真夜中に不法侵入とは……あの佐々木が……)
キョン(それだけ切羽詰ってるってことか。俺も用心しないと)
キョン「ふああ……眠い…………ぐぅ」
???「……ン、キョン、起きるんだ」
キョン「え? は、はえ?」ガバッ
佐々木「やっと起きた」
キョン「へ? 佐々木? あれ? ここは…………図書館?」キョロキョロ
佐々木「何を寝ぼけているんだ。まったく、勉強会の最中に居眠りなんて」
キョン「勉強会? 俺が? お前と?」
佐々木「ほら、早くその問題をすませて」
キョン「え? あ、ああ」
キョン「……」カリカリ
佐々木「……」カリカリ
キョン(おかしい。何かおかしい。何だこの違和感は……?)
佐々木「ほら、手が止まってるよ」
キョン「あ、ああ。おっと」コトン
佐々木「どうしたんだい?」
キョン「消しゴムを机の下に落としてしまった。よっと……」
キョン「えーと、消しゴムは…………うおっ!」
キョン「うおっ!」ガバッ!
ザワッ
ハルヒ「ど、どうしたのよキョン。急に飛び起きたりして」
キョン「見えたんだよ!」
ハルヒ「何が?」
キョン「真っ白なパンツ!」
~放課後~
キョン「く、くそ、ハルヒの奴。お花畑が見えてくるぐらい首絞めやがって……」
谷口「はっはっは! 傑作だったな、さっきのは!」
キョン「うるせえ。早く忘れさせてくれ」
国木田「何か変な夢でも見たの?」
キョン「あ、ああ」
キョン(そうか。夢……ただの夢だよな、あれは。何であんな夢を見たんだか)
谷口「ま、涼宮と長く一緒にいたせいで、変な影響でも受けたんだろ」
キョン「何だそりゃ」
国木田「あはは、じゃあ僕たちは帰るね」
谷口「せいぜいこれ以上おかしくならないようにな。じゃーな」
キョン「…………はぁ、えらい恥をかいたな、まったく」
キョン「さて、放課後か…………」
キョン「今日は……佐々木と図書館で勉強会の日だな。早く行くか」
~下駄箱~
みくる「あれ? キョンくん」
キョン「あ、朝比奈さん。どうも、こんにちは」
みくる「キョンくん、靴を履いてどこへ行くんですか?」
キョン「図書館ですよ。今日は佐々木と勉強する日なんで」
みくる「え? 図書館? 団活はどうするんですか?」
キョン「え? 団活?」
みくる「え?」
キョン「え?」
みくる「きょ、キョンくん、サボるんですか? 涼宮さんに怒られますよ?」
キョン「んん? 俺、何かおかしいこと言いました?」
キョン「あれ? SOS団? 佐々木? 団活? 勉強会…………あれ?」
キョン「お、俺…………何を言ってたんだ? 何をしようとしてたんだ?」
みくる「キョンくん、大丈夫ですか……?」
キョン「すみません朝比奈さん! 俺、どうかしてました!」
キョン「そうですよね! 団活ですよね! すぐに部室に行きますから!」
みくる「あ、う、うん」
キョン(何だ? どうして俺はあんなことを……?)
キョン(佐々木と図書館で勉強会なんて、俺は1度も行ったことがないのに……)
キョン(授業中の妙な夢の影響か? どうもおかしなことが続くな)
キョン(まさか、これが佐々木の作戦? いや、考えすぎか? あーもう!)
キョン「くそ、俺は負けんぞ! これぐらいで屈する俺だと思うな!」
みくる「キョンくん?」
キョン「あ、何でもないです。大丈夫ですから」
~夜 キョン宅~
キョン「窓の鍵はかけた。戸締り完璧。さらに念のために、護身用にヌンチャク(ゴム製)も用意した」
キョン「こんなもの使いたくないが、ともかく完璧だ。が、できれば来ないでくれよ、佐々木」
キョン「……いつまでも構えていてもしょうがないな。寝るか」
~真夜中~
???「……起きて。起きるんだ」
キョン「スピュルルル……ムニャムニャ…………ん?」
佐々木「やあ。また来たよ」
キョン「何だ佐々木か……って! ひゃあああああああ!?」
キョン「お、お前! どこから入った!?」
佐々木「窓からだよ」
キョン「鍵かかってたはずだろう!?」
佐々木「橘さんからいろいろ便利な道具を借りてきたからね」
佐々木「さあ、覚悟しろ」
キョン「ままま待て!? ぶ、武器武器!?」
佐々木「今日こそ同意してもらうよ」ヒュンヒュンヒュン!
キョン「ヌンチャク返せ!?」
佐々木「えい! えい!」ポコッ パコッ
キョン「あたっ! いたっ! こら! やめろっての!」
佐々木「……ふむ、やはり暴力は気が進まないね」
キョン「だ、だろう? だから……」
佐々木「じゃあ……こういうのはどうだい?」ゴソゴソ
キョン「おおおおい!? 何で服を脱ぎ始めるんだよ!?」
佐々木「ねえ……僕の裸……見たくないかい?」
キョン「な、何を言って……」
佐々木「同意してくれたら…………見せてもいいよ」
キョン「いやいやいや! 駄目だ駄目だ!」
佐々木「何? 見るだけでは駄目? しょうがないな。じゃあ…………触ってみる?」
キョン「イヤッホゥ! イヤッホゥじゃない!? 待て待て待て!?」
佐々木「ほら……遠慮せずに……」
キョン「わー!!」
キョン「……」
佐々木「……」
キョン「……あ、あれ?」
佐々木「……やっぱり…………やっぱり無理……」
キョン「佐々木…………そりゃそうだろ。無理するな。ほら、服着ろ」
佐々木「ううう……」
キョン「まったく、お前おかしいぞ。いくら切羽詰っているとはいえ、やってることが支離滅裂だ」
キョン「真夜中に不法侵入したり、色仕掛けしたり……そんなの聡明なお前がやることじゃないだろ」
キョン「とにかくいったん落ち着け。今のお前はまともじゃないぞ」
佐々木「ふ、ふふふふ……」
キョン「ん?」
佐々木「まともじゃない、か…………ふふふ、ふふふふふふ……」
キョン「佐々木……?」
佐々木「僕は……ある日突然、愛する人と自分の住んでいた世界を消されたんだよ……」
佐々木「気がついたら異世界。周りは知っているようで僕の知らない人たち。知り合いもいない」
佐々木「そんな状態で……まともに精神を保っていられると思うかい……?」
キョン「佐々木……」
佐々木「ふふふ……今まで必死に頑張ってきたんだけど……急に……力が抜けちゃったよ…………」
佐々木「あは、あはは……僕って…………こんなに弱かったっけ……?」
キョン「……」
佐々木「……ヒック…………エグッ……」
キョン「佐々木……お前泣いて……」
佐々木「……返してよ」
キョン「え……?」
佐々木「返してよ……エウッ……エグッ……僕のキョンを……返してよ……」
佐々木「……帰りたい……ヒック…………い、家に……帰りたいよぉ……ウェェェ」
キョン「…………佐々木……俺は」
佐々木「触らないで……」グシグシ
キョン「う……」
佐々木「ごめん。迷惑をかけた」スタスタ
キョン「お、おい」
佐々木「もうここには来ない。けど…………僕は絶対に諦めないよ……それじゃ」
キョン「佐々木……くそ、結局何も言ってやれなかった」
キョン「どうすればいい? 俺ができることと言えば……」
~翌日 放課後 部室~
ハルヒ「あたし、今日は用事があるから先に帰るわ。戸締りきちんとよろしく。じゃあね」
バタン タッタッタ・・・
みくる「……涼宮さん、行ったみたいです」
長門「……」
古泉「それで、僕たちに相談とは?」
キョン「ああ。俺たちが消してしまった異世界を、何とか元に戻せないか?」
古泉「それを聞くということは、何かあったのですね?」
キョン「実は……」
古泉「なるほど、佐々木さんが」
みくる「そんなことになってたなんて……」
キョン「何とかならないか? 俺はもう佐々木のあんな顔を見たくないんだ」
古泉「正直に言って、かなり難しいと思われます」
キョン「やっぱりそうか……長門、やっぱりそっくりそのまま元に戻すってのは不可能か?」
長門「消滅させた世界に関するデータは残っている」
キョン「そうなのか! じゃあそのデータを元にして……」
長門「不可能」
キョン「なぜだ!」
古泉「長門さん1人の力では、到底足りないからだと」
キョン「でも、異世界を消した時は…………あ、そうか……」
古泉「そうです。あの時は情報統合思念体から、全ての能力をフルに使えるように許可が出ていたんです」
古泉「だからこそ、世界を消滅させるという大技が可能だった。しかし今は……」
長門「……」
キョン「い、いいんだ長門。そもそもそんなことをしたら、またお前に負担かけちまうからな」
キョン「はぁ、だとすればどうすれば…………ぐっ! が、がが!?」
みくる「きょ、キョンくん!? どうしたんですか!?」
キョン「き、急に頭が! 何だこれ! 何だこれ!?」
みくる「し、しっかりしてください!」
キョン「う……」
古泉「おや?」
みくる「急に静かになっちゃいました……」
古泉「……死にましたか?」
キョン「……ん? あれ? ここは……?」
みくる「キョンくん、大丈夫ですか?」
古泉「待ってください。どうも様子がおかしいです」
キョン「朝比奈さん………古泉……」
長門「……」
キョン「長門…………長門? 長門!? う、うわああああああ!!」ガチャ! ダダダダダ!
みくる「あ! ど、どこに行くんですか! キョンくん!」
~下駄箱~
キョン「ど、どうなってるんだ? 俺は確か……涼宮に……世界が…………はっ!」
キョン「そうだ、佐々木…………佐々木!」
古泉「捕まえました」ガシッ!
キョン「うわぁ! 離せ! 離せぇ! 俺は佐々木のところに行かないといけないんだ!」
みくる「キョンくん、いったいどうしちゃったんですか?」
キョン「離せ……う……」グッタリ
みくる「あ……動かなくなっちゃいました……」
古泉「……死にましたか? おっと、気がついたようです」
キョン「んん……あれ? 何で俺、下駄箱なんかにいるんだ?」
古泉「どうやら正気に戻ったみたいですね。しかし長門さん、これは……」
長門「……」コクリ
キョン「何だよ、何がどうなってるんだ?」
古泉「どうやら佐々木さんの望み、1つだけなら叶えられそうですよ」
~部室~
キョン「俺の中にもう1人の俺がいるだと!?」
古泉「ええ。佐々木さんと同じです」
キョン「まさか、俺たちが消滅させた異世界のあいつか?」
古泉「そのようです。どういうわけか、世界消滅と同時に意識があなたの身体に潜り込んだようです」
キョン「そうか……変な夢を見たり、覚えのない記憶があったのはそのせいか」
みくる「もっと前から兆候はあったんですね」
キョン「しかし、佐々木の場合はすぐに影響が出たのに、俺がこんなに遅かったのはなぜだ?」
古泉「それは何とも。個人差としか言えませんね」
キョン「そうなのか。それにしても、あいつは完全に消えたわけじゃなかったんだな」
古泉「そういうことになりますね」
長門「……」
キョン「もう1人の俺……か」
キョン「まさか俺に乗り移るとはな……ん? ちょっと待て」
古泉「どうかしましたか?」
キョン「このままだと、俺も佐々木みたいに乗っ取られちまうのか?」
古泉「そうなる可能性はあるでしょうね。現に先程も一時的にとはいえ、完全に乗っ取られてましたし」
キョン「マジか! 嫌だ! この身体は俺のものだ! 何とかならないか!」
古泉「うーむ、そうですね。長門さん」
長門「場所を移す必要がある」
古泉「ふむ、では長門さんのマンションに移動しましょうか」
キョン「な、何をするんだ?」
古泉「あなたと『異世界のあなた』とを分離させるのですよ」
キョン「できるのか、長門?」
長門「……」コクッ
キョン「よかった……すまん長門、お願いする」
古泉「では、移動しましょうか」
~長門宅~
古泉「さて、始めてもらいましょうか」
キョン「分離か。長門、あまり痛くないように頼む」
長門「~~~~」ブツブツ
キョン「うぐ、これは……痛くはないが……吐きそう……おえ」
みくる「が、頑張って!」
パシュウウウウウウウウウ・・・
古泉「……これは」
みくる「ああ!」
キョン「う……」
キョン(異)「ん……俺は……?」
古泉「どうやら、無事成功したようですね」
キョン(異)「あれ? ここはどこだ? うわ! 俺がもう1人!?」
キョン「やれやれ、うまくいったか。あー、まだ吐きそう……」
キョン(異)「何か記憶がハッキリしない……頭の中がグチャグチャだ……」
古泉「大丈夫ですか? 落ち着いてください」
キョン(異)「……古泉? 朝比奈さんも…………何だ? もう少しで何かが」
キョン(異)「俺は……そうだ、思い出した! 思い出したぞ!!」
キョン(異)「俺は涼宮を説得するために走り出して……それから……目の前が真っ暗になって……」
キョン(異)「あれ……俺は……失敗したのか? 世界は……滅びたのか……?」
古泉「ええ、残念ながら」
キョン(異)「はは、そうか……待てよ、その後に佐々木に会いに行こうとしてお前らに取り押さえられて」
古泉「ああ、それは先程の下駄箱での出来事の記憶ですね」
キョン(異)「下駄箱? そもそも世界が滅びたんならなぜ俺がここにいる? ああもうわけが分からん!」
キョン「どうやら、まだ混乱してるようだな」
古泉「無理もありません。落ち着くまで待ちましょう」
キョン「どうだ、落ち着いたか?」
キョン(異)「あ、ああ、何とか……ここはどこだ?」
キョン「ここは俺たちの世界。お前にとっては異世界だな」
キョン(異)「異世界か……誰かの部屋か?」キョロキョロ
キョン「ああ、長門の部屋だよ」
キョン(異)「へ? 長門?」
長門「……」
キョン(異)「う、うわあ! 長門!?」ズザザザ
キョン「お、おい、どうした?」
長門「……」スッ
キョン(異)「く、来るな! 近寄るなぁ!?」
キョン「大丈夫だ落ち着け! 別に危害を加えたりはしないから!」
キョン(異)「す、すまん。事情があってどうも長門は苦手で……」
キョン「む……ある程度の事情は知っているが、そこまで怖がらなくても」
キョン(異)「そ、それはもういいだろ! 説明してくれ! 何で俺はここにいるんだ!」
キョン(異)「俺がお前を乗っ取ろうとしていた……?」
キョン「お前、覚えてないのか?」
キョン(異)「そういえば微かに記憶が…………いや、やっぱり覚えてない……」
キョン「結局何でこいつが俺の中にいたんだ? 世界が消滅した時に完全に消えたはずじゃなかったのか?」
古泉「佐々木さんと同じケースだとは思いますが、理由は分かりません。執念か、奇跡か……」
古泉「ひょっとしたら、佐々木さんに何らかの能力があって、それが発動したのかもしれません」
古泉「いずれもあくまで推測にすぎません。ハッキリした理由はやっぱり分かりませんね」
キョン「ま、身近にハルヒという物理法則無視のトンデモ人間もいるしな。理由なんてどうでもいいか」
キョン(異)「佐々木……佐々木も生きてるのか!? この世界にいるのか! どこにいるんだ!」
キョン「あー……その佐々木だが……」
キョン(異)「何だ? 何かよくないことでもあったのか!?」
キョン「落ち着けって! 全部話すから!」
キョン(異)「佐々木が……俺を取り戻すために……?」
キョン「鬼気迫るとはまさにあのことだな」
キョン(異)「あいつ、そんなに追い詰められて……で、電話! 佐々木に電話しないと!」ピッ
キョン(異)「…………くそ! 通じない! なら直接佐々木の家へ!」
古泉「無駄ですよ。佐々木さんの家には近づけません」
キョン(異)「何でだよ!?」
古泉「橘京子の組織によって護衛されているからです。どうやら佐々木さん自身がそう望んだみたいで」
キョン(異)「護衛、だと?」
古泉「今の佐々木さんは、我々のことは敵としか見ていませんからね」
古泉「もっとも、組織側は佐々木さんの本当の思惑には気づいていないようですが」
キョン(異)「強引に突破する……というのは難しいか。くそ、何とか佐々木と連絡を取る方法を……」
キョン「そんなに焦る必要はないと思うぞ」
キョン(異)「どういうことだ?」
キョン「言ったろ。佐々木はお前を取り戻そうとしていると」
キョン「ということは、こっちが何もしなくても、向こうからそのうち接触してくるんじゃないか?」
キョン(異)「う……む……なるほど、それもそうか。いやしかし、できれば早く佐々木に……」
キョン「落ち着け。大丈夫だ。お前も佐々木ももう同じ世界にいるんだから、そのうち会えるって」
キョン(異)「…………分かった。そういうことなら、佐々木から接触してくるまで待とう」
古泉「ええ、それがいいです」
キョン(異)「待つのはいいんだが、その間どこで寝泊りすればいいんだ?」
みくる「キョンくんの家でいいんじゃないですか?」
キョン「いえ、俺が2人で帰ると家族に盛大に怪しまれます……」
古泉「では……ここ、長門さんの部屋はどうです?」
キョン(異)「絶対に嫌だー!!」
キョン「そこまで力いっぱい拒否しなくても……」
古泉「しょうがないですね。では…………もしもし……ええ、そのように手配をお願いします」ピッ
古泉「これでよし。あなたの家族には1週間ほど旅行に行って貰いましょう」
キョン「……何だ、旅行券でも届けたのか? そんな怪しいのに引っかかるわけが……」
古泉「すでに旅行の準備に取り掛かっています。家族3人、すぐに出発するようですよ」
キョン「……泣いてもいいか、俺?」
キョン「じゃあな、長門」
みくる「お邪魔しました」
キョン(異)「……」
古泉「お二人は離れて歩いた方が」
キョン「どうせ双子かなにかだと思われるだろ」
古泉「知り合いに見られたらどうするのですか?」
キョン「……それもそうか。じゃあ俺が先に帰るから、適当に距離を開けて来てくれ」
キョン(異)「……分かった」
キョン「まいったな。いきなりお袋たちが旅行に行ったってことは、晩飯もないのか」
キョン(異)「……」
キョン「まぁ出前でいいか。おーい、晩飯は出前でいいよな?」
キョン(異)「ああ……」
キョン「……お前にもいろいろ言いたいことはあるだろうが……家に帰ってからゆっくりな」
キョン(異)「……ああ」
~キョン宅~
キョン「ただいまーっと。うお、本当にもぬけの殻だ」
キョン「ん? 置手紙? 『キョンくん、お土産買ってきてねー』って、逆だ逆!」
キョン(異)「……」
キョン「はぁ。腹減ったし、さっさと出前頼むか。何がいいよ?」
キョン(異)「……」
キョン「おーい、いい加減何か喋ってくれ」
キョン(異)「……さっきは……急なことにパニックになってて、あまり深く考えられなかったけどよ」
キョン「む……」
キョン(異)「お前らが消したんだよな…………俺と佐々木の世界を……」
キョン(異)「世界を……家族を……友人たちを…………跡形もなく消してしまったんだよな……」
キョン(異)「そうだ……お前らだ…………お前らがやったんだ…………この……野郎……!」
キョン「……すまん。お前には本当にすまないと思っている」
キョン「だけど、仕方がなかったんだ。俺たちも自分の世界を守るのに必死で……」
キョン「あれしか……方法がなかったんだ……」
キョン(異)「ああ! 分かってる! 分かってるさ! 確かに世界を消したのはお前らだ!」
キョン(異)「けど……そもそもの元凶は俺の世界の涼宮だ……あいつが暴走してしまったから……」
キョン(異)「ああするしかなかった。俺たちの世界ごと、暴走した涼宮を消すしかなかった……」
キョン(異)「それは分かってる……頭では分かってるが……」
キョン(異)「住んでた世界を消され……こうして復活したとはいえ、1度は自分自身も消され……」
キョン(異)「それで……冷静でいられると思うか? 落ち着いていられると思うか!!」
キョン「……」
キョン(異)「この怒りを! 憎しみを! どこにぶつければいいんだよ! あー!?」
キョン(異)「お前らか? 涼宮か? 何もできなかった自分自身にか! ああああああああ!!」
キョン(異)「ちくしょう! ちくしょう!! うわああああああああああ!!!!」
キョン「お、おい、落ち着……うわ! 危ね!!」
キョン(異)「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
キョン(異)「はぁ、はぁ、ぜぇ……」
キョン「……少しはスッキリしたか? あーあ、派手に暴れまわりやがって」
キョン(異)「うるせー……」
キョン「ほら、出前来たぞ。まずは食おう。それからいくらでも話し合おう」
キョン(異)「……」
キョン「天丼とカツ丼、どっちがいいよ?」
キョン(異)「……」ガシッ
キョン「あ、カツ丼とりやがった。俺もそっちがよかったのに」
キョン(異)「……」スイッ
キョン「こら! 俺の天丼からエビ天とるな!」
キョン(異)「……」ガツガツ
キョン「……たく」
キョン(異)「……」モグモグ
キョン(はぁ……気まずい……)
キョン「はー、食った食った」
キョン(異)「……」
キョン「ああ、そういえば今日はどこで寝るよ?」
キョン「どっちかが自分の部屋のベッドで寝るとして、どっちかが親父かお袋のベッドで……」
キョン(異)「いい。俺はここのソファで寝る」
キョン「そ、そうか……」
キョン(異)「……」
キョン「……」
キョン(異)「俺は…………間違っていたのか……?」
キョン「ん?」
キョン(異)「SOS団を辞めるという選択は間違っていたのか……?」
キョン(異)「……はは、世界消滅という結末を迎えた以上、間違ってたんだろうな」
キョン(異)「俺とお前、同じ人間なのにどうしてこうも違うんだろうな。途中までは同じ人生だったのに」
キョン「……」
キョン(異)「あの時……あの時からだ……長門と朝倉の戦いを見て、恐怖心を抱いて……」
キョン(異)「SOS団の……普通じゃない、人外の連中も怖くなって……」
キョン(異)「このままでは俺の高校生活は滅茶苦茶になると思ったんだ。いや、下手すりゃ命も……」
キョン「普通じゃない人外の連中か。随分な言いようだな」
キョン「言っておくが、あいつらはお前が言うような危険な連中じゃない。あまり悪く言わないでくれ」
キョン(異)「世界1つ吹っ飛ばされてるんだ。これくらいの愚痴はいいだろう」
キョン「……」
キョン(異)「…………なぁ」
キョン「ん、何だ?」
キョン(異)「何でお前はSOS団の連中とずっと付き合ってるんだ?」
キョン(異)「やっぱり……世界がどうこうという使命感からか?」
キョン「使命感ね。まったくないとは言わんが。しいて言うなら楽しいからだな」
キョン「ハルヒやあいつらといると退屈しないからな。こういう考え方ができるまでは結構かかったが」
キョン(異)「ふん。あんな連中と一緒にいるなんて、正気とは思えんな」
キョン「何とでも言え。俺にとってはSOS団こそが居場所だ」
キョン(異)「SOS団が居場所、ねぇ。むしろ『SOS団にしか』居場所がないんじゃないか?」
キョン「何だと?」
キョン(異)「なぁ」
キョン「何だよ?」
キョン(異)「お前、携帯にどれくらいメアドと番号があるよ? SOS団以外で」
キョン「携帯? えっと、中学時代の友達と……」
キョン(異)「今も親交がある奴だけでだ」
キョン「それだと谷口、国木田、鶴屋さん、阪中、あとはえっと……」
キョン(異)「それだけか?」
キョン「何だよ、悪いかよ」
キョン(異)「俺はクラスメイトのほぼ全員の番号とメアドがある。他のクラスの奴も何人かな」
キョン「……」
キョン(異)「そのクラスメイトたちと放課後に一緒に遊びに行ったり、夏休みには海行ったり肝試ししたり」
キョン(異)「俺が事故に遭って入院した時も、みんな見舞いに来てくれた。バレンタインにチョコも貰った」
キョン「俺だって、それらはほとんど経験してるさ」
キョン(異)「SOS団とだろ?」
キョン「ああ」
キョン(異)「SOS団と『だけ』だろ?」
キョン「……何が言いたい?」
キョン(異)「お前、SOS団以外でほとんど交流ないだろ? いわばSOS団に縛られてるわけだ」
キョン「……何だと」
キョン(異)「何をするにもSOS団が中心。お前、谷口と国木田以外にクラスで話す奴いるか?」
キョン(異)「放課後に誰かと遊びに行ったりは? 女の子に恋したりは? してないだろ?」
キョン「……」
キョン(異)「俺は全て経験した。おもいきり青春を満喫してた。SOS団という狭い世界しか知らないお前とは違う」
キョン「…………それで?」
キョン(異)「は?」
キョン「それがどうした? ひょっとして勝ち誇っているつもりか?」
キョン「SOS団が狭い世界だと? いやまあ、自分の交友関係はもう少し見直すべきだとは思ったが」
キョン「普通に友達を作って、普通に遊んで、普通に恋をする。それは確かに素晴らしいものだろう」
キョン「でもな、SOS団なんていう摩訶不思議な連中と共に過ごすという経験……」
キョン「こんな経験をしているのは、世界広しと言えど俺だけだ」
キョン「普通じゃ体験できないようなことをたくさん体験した。そりゃ危険なこともあったがな」
キョン「こんな不思議で楽しい高校生活を送らせてくれているSOS団に、俺は感謝している」
キョン(異)「不思議、ね。俺にはそれがそんなに魅力的だとは思えん。平凡、平穏こそが1番だろう」
キョン「じゃあ何でハルヒに話しかけた? あいつに話しかけなければSOS団ができることもなかっただろう」
キョン(異)「それは今も後悔してる。そもそも最初は適当に付き合っていくかと思ってたんだよ」
キョン(異)「長門の……あんな凄まじい力を見るまではな」
キョン「……」
キョン(異)「むしろ、何でお前はあれを見て、変わらずSOS団にいるんだよ?」
キョン(異)「……あんな化け物みたいな力を見て、何で平気でいられるんだよ?」
キョン「……化け物だと?」
キョン「おい、長門のことを化け物呼ばわりするな」
キョン(異)「あんな凄まじい力、化け物以外の何者でもないだろう!」
キョン(異)「お前は何で平気なんだ? 下手すれば自分に危害が及ぶかもしれないのに」
キョン「長門は絶対にそんなことはしない!」
キョン(異)「なぜ言い切れる? 相手は地球人とは価値観も何もかも違う宇宙人だぞ?」
キョン「俺はお前と違って1年間長門と過ごしてきた。だから、それなりに長門のことは分かる」
キョン「だからこそ、長門のことを信じれる。お前は長門のことを知ろうともせず逃げただけだろう」
キョン(異)「あんな凄惨な光景を見たら、普通は逃げるに決まってるだろう! あんな化け物を!」
キョン「化け物呼ばわりはやめろと言っただろう! そもそもそれが命の恩人に対する態度か!」
キョン(異)「命を救ってくれたことには感謝してる。だが、それとこれとは話が別だろう!」
キョン(異)「あんな目に遭ったってのに、変わらずに長門たちと一緒にいる、お前のほうが異常なんだよ!」
キョン「感謝してる、ね。お前の態度からはそんなもの微塵も感じられないんだが?」
キョン(異)「何だと! この野郎!」
キョン「やるかー!」
キョン「ぜえ、ぜえ、もうやめよう。自分同士だからいつまでたっても決着がつかん……」
キョン(異)「はぁ、はぁ、そ、そうだな。不毛な争いだった……」
キョン(異)「なぁ」
キョン「今度は何だよ……」
キョン(異)「お前、学校の成績はどうなんだ? ちゃんと勉強してるのか?」
キョン「う……自分同士なら分かるだろ。からっきしだよ」
キョン(異)「一緒にするな。俺はクラスでも上位の成績だよ」
キョン「何だと?」
キョン(異)「佐々木とずっと勉強してきたからな。あいつは教えるのがうまいんだ。おかげで学ぶことの楽しさを知った」
キョン(異)「お前はどうだ? まさかいまだに谷口とドッコイドッコイの赤点ギリギリなのか?」
キョン「うるせー! ちくしょー!」
キョン(異)「ふふん、勝った」
キョン「ぐわー! 腹立つ!?」
キョン(異)「そろそろ寝ないか?」
キョン「ああ、そうだな……お前、本当にソファでいいのか?」
キョン(異)「いい。さっさと寝ろ」
キョン「ちっ。じゃあ、おやすみ」バタン
キョン(異)「…………はぁ」ボフッ
キョン(異)(つい熱くなっちまった。どうやらあいつと分かり合うのは難しそうだ。にしても……)
キョン(異)(こっちの世界で復活して、初めて1人きりになったな。何かいろいろ考えちまう……)
キョン(異)(佐々木……佐々木は今どうしてるんだろうか。体調とか崩してないだろうな?)
キョン(異)(あいつも今1人きりなのか? 寂しい思いをしてるんだろうか……?)
キョン(異)(橘の組織がガードしてるんだっけ? あいつは今、こっちの世界の家族と一緒なのか?)
キョン(異)(頭のいいあいつのことだ。周囲に怪しまれないよう、普段通りに振舞っているんだろう)
キョン(異)(会いたい……今すぐにでも…………佐々木に会いたい……)
キョン(異)「…………よし!!」ガバァッ!
キョン(異)「今すぐに、佐々木に会いに行こう!」
キョン(異)「あいつにバレないように、そーっとそーっと……」
ガチャ バタン
キョン(異)「よし。自転車は……あったあった」ガチャン
キョン(異)「行くか。待ってろよ、佐々木!」
キョン(異)「快調快調。ここまでは順調だが……」
キョン(異)「佐々木の周りは橘の組織がガードしてる。行っても会うのは難しいだろう」
キョン(異)「しかし、俺が会いに来たと言えば、ひょっとしたら通してくれるかもしれない」
キョン(異)「どうやら今の俺は『鍵』と思われているみたいだからな……」
キョン(異)「組織の連中が通してくれなくても、佐々木に俺が来たことを伝えてもらえば何とか……」
キョン(異)「どうしても駄目な時は強行突破も……一般人の俺には難しすぎるが……」
キョン(異)「いや! 佐々木に会うためだ! やってやる! やってやるぞ!」
キョン(異)「もうすぐ佐々木の家だな。このまま一気に……」
橘「はーい、ストップです。止まってください」
キョン(異)「行けるわけないか、やっぱり」
橘「自転車から降りてください。こんな時間にどこへ行こうっていうんです?」
キョン(異)(橘の後ろにさらに3人……こりゃ強行突破はきついな)
キョン(異)「佐々木に会いに来たんだ。話がある。会わせてくれないか?」
橘「話? ひょっとして佐々木さんに能力を移す件、了承してくれたのでしょうか?」
キョン(異)「あ、いや、えっと……」
橘「違うのですか?」
キョン(異)(しまった……今のは嘘でも「そうだ」と言うべきだったか……)
橘「ならお通しするわけにはいきません。佐々木さんから今は誰にも会いたくないと言われてますので」
キョン(異)「そこを何とか……せめて佐々木に俺が来たことを伝えてくれないか?」
キョン(異)「そうすれば、佐々木も俺に会う気になってくれるはずだ。頼む!」
橘「うーん。すみませんが、お断りです」
キョン(異)「なぜだ!?」
橘「佐々木さん、昨日泣きはらした顔で帰ってきたんですよ。かなり憔悴してました」
キョン(異)「な……」
橘「何があったのかは話してくれませんでした。何を聞いても『何でもない』というだけで」
橘「今もずっとそんな状態が続いています。ですから……」
橘「今の佐々木さんには誰も会わせたくないんです。たとえあなたでも」
キョン(異)「……それは、組織の一員としてか?」
橘「いえ、佐々木さんの友人としてです。ですから、ここは通しません」
橘「心配しなくても、今の状態から立ち直れば、また佐々木さんの方からあなたに会いに行きますよ」
キョン(異)「それはそうなんだろうが……頼む! 俺は今すぐに佐々木に会いたいんだ!」
橘「駄目です」
キョン(異)「どうしてもか?」
橘「どうしてもです」
キョン(異)「そうか。ならば…………強行突破させてもらう」
橘「……へえ。あなたにそれができると思っているのですか?」
キョン(異)「ふふふ……俺が何の準備もせずに、ここまで来たと思ってるのか?」ゴソゴソ
キョン(異)「喰らえ!」ポコッ
橘「あたっ! そ、それは……ヌンチャク?」
キョン(異)「うりゃ! そりゃ! てりゃ!」パコッ ポコッ ペコッ
橘「わっ! あたっ! いたっ! ちょっと! あああもう! ウザったいです!」パシッ!
キョン(異)「ああ!? ヌンチャク返せ!」
橘「こんな物で女の子を叩かないでください。最低ですよ」
キョン(異)「くそ! こうなりゃ隙間を素早く駆け抜けて!」ダッ
橘「ほい、捕まえました」ガシッ!
キョン(異)「わぎゃ!」
橘「えいや」ギリギリギリギリ・・・
キョン(異)「いだだだだ!? 関節極めるな! 離せ離せ!?」
橘「大人しく帰ってくれるのなら離します」
キョン(異)「嫌だ! 絶対に諦めんぞ!」
橘「ほいさー」ギチギチギチギチ・・・
キョン(異)「うぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」
???「そこまでです」
橘「え?」
古泉「すみませんが、彼を離していただけませんかね?」
キョン(異)「こ、古泉!? 何でお前がここに!」
橘「……何の用ですか?」メキョリッ
キョン(異)「あー!? 今折れた! 肩から不思議な音がした!?」
橘「折れてませんよ。まったくもう」パッ
キョン(異)「や、やっと解放された……助かった……」
古泉「ふむ。では、帰りますよ」
キョン(異)「え? いや、俺は佐々木に……」
古泉「気持ちは分かりますが、これ以上騒ぎになるのはまずいので」
古泉「それに、彼も説明していたでしょう。そのうち佐々木さんから会いに来ると」
キョン(異)「それまで待てないんだよ! 佐々木も俺を待ってるんだ! 早く行かないと!」
古泉「落ち着いてください」
橘「どうも様子がおかしいですね。あなたを見てると、まるで恋人に会いに来たようではないですか」
橘「あなたと佐々木さんってそのような関係でしたっけ? 丸1年会ってなかったはずですが?」
キョン(異)「う……何か怪しまれてる……」
古泉「ええ。もしあなたと佐々木さんが異世界人であることがバレると、事態は厄介なことになります」
古泉「これ以上ややこしいことになる前に、ここは大人しく帰りましょう」
古泉「あなたが本当に佐々木さんに会いたいのならば……どうか冷静になってください」
キョン(異)「……………………分かった…………帰るよ」スタスタ
橘「あれ? どこに行くんですか?」
キョン(異)「……手間を取らせて悪かった。帰る」
橘「え? は、はあ……」
古泉「あちらに車を待たせてあります。自転車は後ろに積んでください」
キョン(異)「ああ……」ガチャ バタン
古泉「準備はいいですね。では、失礼します」 ブロロロロ・・・
橘「……はぁ。随分と慌しかったですね…………あ、ヌンチャク忘れていってる」
~キョン宅前~
古泉「では、僕はこれで」
キョン(異)「ああ。すまんな、送ってくれて」
ブロロロロロロ・・・
キョン(異)「……はぁ、何やってるんだろうな、俺」
キョン(異)「ただいまー……」ガチャ
キョン「よう、おかえり」
キョン(異)「起きてたのか……」
キョン「まったく、あまり独断で動くなよ」
キョン(異)「悪かったよ。佐々木のことを考えてたら、いてもたってもいられなくなったんだよ」
キョン「はぁ。それにしても、お前もタイミングが悪いというか何というか」
キョン(異)「ん? どういうことだ?」
キョン「ついさっき電話がきたぞ。佐々木から」
キョン(異)「何! それは本当か!?」
キョン「ああ。また俺に能力を移す件を了承させに行くと、今度はわざわざ電話で予告してきやがった」
キョン(異)「そ、それで?」
キョン「もちろん俺からも話があると言って、会う約束を取り付けた」
キョン「明日の夕方、俺の家に来るようにとな」
キョン(異)「そ、そうか! 今度こそ佐々木に会えるんだな!」
キョン「おうよ。だから待ってればいいと言ったのに……」
キョン(異)「そうやってずっと受け身だったせいで、悲惨な結末を迎えたからな……」
キョン「……ま、まあ、時と場合によりけりということだ。今日はもう寝よう。お前も疲れただろう」
キョン(異)「そ、そうだな! 早く寝て明日に備えないとな!」
キョン「やれやれ。じゃあ、おやすみ」
キョン(異)「うおー! 興奮してきたぁ!」
キョン「うるせえ!」
~翌日 昼休み 部室~
古泉「そうですか、佐々木さんが」
キョン「ああ、思ったよりも早く接触してきた」
古泉「彼も喜んだのでは?」
キョン「リビングで一晩中奇声を発してたよ。長門、佐々木とあいつが会った後は……頼むな」
長門「分かった」
みくる「佐々木さんもキョンくんと同じように分離させるんですね」
キョン「ええ。元々の佐々木はずっと乗っ取られたままですからね。あまりにも可哀想だ」
古泉「では、団活が終わったらあなたの家に集合ということで」
キョン「ハルヒにバレないようにな」
みくる「今頃、異世界のキョンくんは何をしてるんでしょう?」
キョン「さぁ? 家で大人しくしていてくれればいいんですが」
古泉「ふふ」
~その頃のキョン宅~
キョン(異)「いよいよだ……いよいよ佐々木と会える。楽しみだ」
キョン(異)「佐々木、今までずっと1人だったんだよな……」
キョン(異)「たった1人で……俺や世界を取り戻すために戦っていたんだよな……」
キョン(異)「くそ……俺は何も救えなくて……佐々木にばかり苦労かけちまって……」
キョン(異)「…………」
キョン(異)「だめだ! 夕方までなんて待てるか! 今すぐ佐々木のところに行ってやる!」
キョン(異)「…………なーんて、馬鹿なことできるわけないよな。いくらなんでも」
キョン(異)「だから……」ガチャ
キョン(異)「わざわざ家の前に車を停めてまで監視しなくても大丈夫ですよ!?」
新川「はっはっは。お気になさらず」
~夕方 キョン宅~
古泉「いよいよですね」
みくる「佐々木さん、まだ来ないですか?」
キョン「もうすぐ来るとは思うんですが」
ピンポーン
キョン「……来たようだ。ちょっと行ってくる。待っててくれ」
佐々木「やあ。言われた通り来たよ」
キョン「おう、待ってたぞ」
佐々木「それで。能力の件、了承してくれたのかな?」
キョン「いや、すまんがそれは駄目だ」
佐々木「……」
キョン「だが、お前の1番の望みは叶えてやれると思う」
佐々木「……どういうことだい?」
キョン「とにかく上がってくれ。そうすれば分かるから」
佐々木「……お邪魔します」
キョン「おーい、佐々木が来たぞ。出てこーい」
シーン・・・
キョン「あれ? おーい、出て来いって」
シーン・・・
キョン「おかしいな。何やってるんだ、あいつ?」
佐々木「……何のつもりかな?」
キョン「ちょ、ちょっと待ってくれ。まったく、いい加減に……」
キョン(異)『ま、待て! ちょっと待ってくれ!?』
キョン「ん? 声は聞こえるな。何でさっさと出てこないんだよ?」
古泉『ほら、早く行ってください』
みくる『佐々木さん、待ってますよ』
キョン(異)『い、いや、何か急に照れくさくなって……』
古泉『何を言っているんですか。先程まであんなに会いたがっていたではないですか』グイグイ
キョン(異)『押すなって!? なぁ、俺どんな顔して会えばいい? どんな顔して会えばいい?』
キョン「…………本当にあいつは何してるんだ」
古泉『さっさと行けっつーの』ゲシッ!
長門『ショルダータックル』ズドン!!
キョン(異)「ぎえあ!!」グシャア!
キョン「はぁ、やっと出てきたか」
キョン(異)「何するんだお前ら!? 死ぬかと思っただろうが!?」
佐々木「何だ、何ごとだい…………あ……」
キョン(異)「あ……」
キョン(異)「よ、よう……佐々木……」
佐々木「き……キョン……? 本当に…………キョンなの……?」
キョン(異)「ああ、俺だ。俺だよ」
佐々木「キョン…………キョン! キョン!」
ギュッ
キョン(異)「佐々木…………佐々木!」ギュウッ
佐々木「キョン……グスッ……キョン……キョン……」
キョン(異)「すまんな佐々木……ずっと1人にしちまって……」
佐々木「エグッ……寂しかった……ヒック……寂しかったよぉ……ずっと……エグッ……不安で……」
佐々木「会いたかった……ヒグッ……会いたかったよ……キョン……ウェェン……」
キョン(異)「大丈夫、大丈夫だ。よく頑張ったな、佐々木……」
キョン「まさか佐々木の泣き顔なんてものが拝めるとはな。無事再会できてよかったよかった」
みくる「キョンくん、しばらく2人きりにさせてあげましょう。あたしたちは外に出ますよ」
キョン「わっとっと。引っ張らないで!?」
キョン(異)(佐々木……目の下のクマが凄いな……どれだけ苦労したんだ……?)
佐々木「えへへ~、キョン~」
キョン(異)「な、何だ、急に笑い出したりして」
佐々木「だって、キョンに会えたのが嬉しくて。えへへへへへ」
キョン(異)「泣いたり笑ったり忙しい奴だな」
佐々木「キョン……キョ~ン~……」ギュウウ・・・
キョン(異)「佐々木……」
キョン(異)「……大丈夫だ。俺が守るから。今度こそ、今度こそ絶対にだ!」
みくる「よかったですね。思わずもらい泣きしちゃいました」
古泉「ですが、問題はまだ残っています。むしろこれからが……」
キョン「そうだな……」
ガチャ
キョン(異)「あー……もう入ってきていいぞ」
ちょっと離れる
30分以内に戻る
戻ったら、さるさんに気をつけながら一気に投下して終わらせる
キョン「2人とも、落ち着いたか?」
佐々木「うん、何とかね」
キョン(異)「ああ、さっさとすませてしまおう」
佐々木「すませる?」
古泉「ええ、まだ重要なことが残っています」
佐々木「キョン……」
キョン(異)「心配するな。お前と本来のその身体の持ち主である佐々木とに分離させるんだよ」
佐々木「……なるほど、そういうことか。では、お願いするよ」
キョン「物分かりが良くて助かる。長門、頼む」
長門「~~~~」ブツブツ
佐々木「う……く……」
キョン「大丈夫だ、すぐに終わるから」
シュウウウウウウウ・・・
佐々木(異)「う……」
佐々木「スウ……スウ……」
古泉「どうやらうまくいったみたいですね」
キョン「えーと、こっちが今まで話していた異世界の佐々木で……」
佐々木(異)「はぁ、ちょっと気持ち悪かった……」
キョン「こっちの寝転がっているのが、本来のこの世界の佐々木だな?」
佐々木「クゥ……スウ……」
古泉「そのようですね。しかし、こちらの眠っている佐々木さんは……」
キョン「何だ? 何かまずい状態なのか?」
古泉「いえ、ただ眠っているだけのようですが……長期間乗っ取られた影響で身体に負担がかかっていたようですね」
古泉「命に別状はないでしょうが……しばらく目は覚まさないと思います」
古泉「ですが、目を覚ませば回復しているでしょう。心配しなくても大丈夫ですよ」
キョン「そ、そうか。とりあえず妹の部屋のベッドに寝かせておくか」
キョン「……これでよし、と。本当に病院に連れて行かなくて平気か?」
古泉「ええ、大丈夫です」
キョン「じゃあ居間に戻るか。話し合わないといけないことがたくさんあるからな」
キョン「全員揃ったな」
古泉「……では、お二人にお聞きします。これから……どうするつもりですか?」
佐々木(異)「……」
キョン(異)「どうする……か」
古泉「佐々木さん、あなたは自分の想い人と自分たちの世界を取り戻すために動いていたんですよね」
古泉「そのために涼宮さんの能力を狙った。能力さえあればどちらも取り戻すのは容易でしたでしょう」
古泉「しかし、能力を奪う前に想い人は取り戻せた。あなたの1番の望みは叶った」
古泉「そこで、です。あなた方は自分のいた世界に帰りたいですか?」
キョン(異)「……」
佐々木(異)「……」
キョン(異)「帰りたい……帰りたいに決まってるだろう……この世界に俺たちの居場所は……」
佐々木(異)「僕も帰りたい。でも、それがほとんど不可能だということも分かっている……」
古泉「涼宮さんの能力を使えば容易です。佐々木さん、あなたはまだ能力を狙いますか?」
佐々木(異)「大丈夫だ。それは俺が絶対にさせない」
佐々木(異)「キョン?」
キョン(異)「そんな凄まじい能力、佐々木に持たせてたまるか」
キョン(異)「自覚したままそんな能力を持ったら、絶対に狂う。俺はこれ以上佐々木を苦しめたくない」
佐々木(異)「キョン……」
古泉「ふむ、そうですか。では、僕からお二人に提案があるのですが」
キョン(異)「提案?」
古泉「もし帰還を諦めてこの世界に定住するのなら、機関が全面的にサポートさせていただきます」
キョン(異)「機関が?」
古泉「ええ。無論、同一人物が同じ場所で暮らすわけにはいきませんから、どこか遠くへ移住していただくことになります」
古泉「名前も変えていただきますし、学校も変わっていただきます」
キョン(異)「ふむ……」
古泉「ただし、住居や新しい戸籍等は機関が用意しますし、学費や生活費その他諸々の費用も機関が負担します」
古泉「身の回りの安全についても機関が保障します。どうでしょうか?」
キョン「随分と太っ腹だな」
古泉「世界を消してしまったのですから、これくらいはさせていただかないと」
キョン「そうか……」
キョン(異)「定住、か……」
古泉「あくまでもこれは選択肢の1つです。ですが、悪い話ではないかと」
キョン(異)「……そうだな、確かにそれがもっとも賢い選択だろうな」
キョン(異)「何も危険なことをしなくてもいい。リスクが一切ない。魅力的だ」
キョン(異)「佐々木のことを考えたら、それが1番いいのかも……」
佐々木(異)「待ったキョン。僕は嫌だよ。絶対に帰りたい」
キョン(異)「……佐々木?」
佐々木(異)「消えた世界を復活させて帰還する。不可能かもしれない。でも可能性はゼロじゃない」
佐々木(異)「まだ可能性があるのに諦めるなんてこと、僕にはできないよ」
キョン(異)「佐々木…………そうか、そうだよな」
キョン(異)「すまん佐々木。俺はお前をダシにして楽な道に逃げようとしていた」
キョン(異)「俺だって会いたい友達や家族がいる。このまま永遠にお別れなんて御免だ!」
古泉「……そうですか。分かりました」
キョン「あくまで帰還を望むか。具体的にはどうする? ハルヒの能力はもう狙わないんだろ?」
キョン(異)「ああ。あんな強大すぎる力は御免だ」
キョン「じゃあどうする? 言っておくが、長門にも世界を復活させることは無理だそうだ」
キョン(異)「う……」
キョン「他の勢力もお前たちに協力することはないぞ。あいつらの目的はあくまでハルヒだからな」
佐々木(異)「……」
キョン(異)「……くそ、何かあるはずだ……何か方法が……諦めてたまるかよ」
シーン・・・
キョン「…………はぁ。仕方ないか…………俺から提案がある」
キョン(異)「……何?」
みくる「キョンくん、何か思いついたんですか?」
キョン「今思いついたんじゃなくて、ずっと考えていたんですけどね」
キョン(異)「それで、どんな提案だ?」
キョン「……ハルヒの能力を使うんだよ」
キョン(異)「はぁ? お前何言ってるんだよ!」
キョン(異)「涼宮の能力を佐々木には移さないって、さっき言っただろう!」
キョン「違う違う。佐々木に移して使わせるんじゃない。ハルヒ本人に世界を復元してもらうんだよ」
キョン(異)「涼宮に復元してもらう……?」
みくる「あの、キョンくん。それは無理ですよ」
みくる「確かに涼宮さんには世界を丸ごと創るだけの力があります。でもそれは、あくまで自分の願望に則った世界を創るだけ」
みくる「こちらのキョンくんや佐々木さんのいた世界を、ピンポイントで創るのは不可能です」
みくる「涼宮さんには、消えてしまった世界の記憶も知識もないんですから……」
キョン「……確かにそうです。ですが……長門」
キョン「お前、消した世界のデータはまだ残っているって言ってたよな?」
長門「……そう」
みくる「あ……」
キョン(異)「長門は俺たちの世界のデータを持っている? つまり……」
キョン「つまりだ。ハルヒはお前らの世界そのものは創れないが、世界の『土台』は創ることができる」
キョン「あとはその土台に長門の持っているデータを足して、世界を復活させる」
キョン「以上が俺の提案なんだが……どうだろう? 自分でも突拍子もない案だと思うが」
みくる「涼宮さんと長門さんの2人で……」
キョン(異)「な、何かいけそうなアイデアじゃないか! どうなんだ!」
長門「…………できる」
キョン(異)「ほ、本当か!? 頼む! 世界を復活させてくれ!」
キョン(異)「もちろん俺にできることがあれば何でも手伝うからよ!」
古泉「どうやら、やってみる価値はありそうですね」
佐々木(異)「本当に……本当に帰れるの……?」
キョン(異)「ああ! 希望の光が見えてきたんだよ!」
長門「……」
キョン「長門…………本音を言えば、できればこの案は使いたくなかった」
キョン「異世界を消した時に続いて、またお前に負担を……いつまでたってもお前に頼りっぱなしだ」
長門「……カレー」
キョン「え?」
長門「駅前に新しくカレー屋ができた。食べ放題」
キョン「……分かった。好きなだけ食わせよう。こんなことでしかお返しできないのがつらいが」
古泉「……」スッ
キョン「ん? 何だよ?」
古泉「ありがとうございます。あなたから提案していただいて助かりました」
キョン「……やっぱり、お前も同じことを思いついていたんだな」
古泉「ええ」
キョン「まぁ、お前の口からは言えないよな。何たってハルヒの能力を利用する案だし」
古泉「正直、気は進みませんが……」チラッ
キョン(異)「よーしよし! 2人で一緒に帰るぞ佐々木!」
佐々木(異)「うん、頑張ろう」
古泉「仕方がなかったとはいえ……罪滅ぼしはしたいですから……」
キョン「さて、方針は決まったが簡単なことじゃないぞ。何たって相手はハルヒだからな!」
キョン「ハルヒに異世界を創らせるには、いかにして『異世界があればいいのに』と思わせるかだ」
キョン「何となーく、じゃ駄目だ。強くそう思わせないと」
キョン(異)「なるほど。簡単なようで難しいな。下手すりゃ変な世界ができあがる、か。不安だ」
キョン「そこは腕次第だな。まぁ任せておけ」
キョン(異)「待て。お前がやるのか?」
キョン「この中でハルヒの扱いが1番うまいのは俺だろう?」
古泉「ほう、言い切りましたか」
キョン「茶化すな」
キョン(異)「しかし、あんまりお前らに頼りすぎるのも……ここは俺が……」
キョン「無理するな。お前、ハルヒを前にして冷静でいられるのか?」
キョン(異)「……」
キョン「ここは感情論を抜きにして、1番適切な奴が行くべきだ。そうだろう?」
キョン(異)「……すまん」
キョン「なぁに。ここは大船に乗ったつもりで待tくぁwせdrftgyふじこlp!!」バッタリ
みくる「きょきょキョンくん!? どうしたんですか、急に倒れちゃったりして!?」
キョン「き……急に……身体に…………力が……入らなく…………」
キョン(異)「おいおい! まさか何者かからの攻撃か!?」
古泉「いえ、これは……どうやら佐々木さんと同じようですね」
佐々木(異)「僕と?」
古泉「身体を乗っ取られた影響ですよ。どうやらしっかり負担がかかっていたようです」
キョン(異)「あ……」
キョン「し、しかし……佐々木は分離してすぐに意識を失ったのに……どうして俺は……?」
古泉「佐々木さんが長期間乗っ取られたのに対し、あなたが乗っ取られた期間はごく僅かでしたからね」
古泉「だからあなたはしばらくしてから影響が出た。しかも身体は動けなくても意識は保っている」
キョン「なるほど。乗っ取られる時間によって出る影響が違ったってことか。くそ、こんな時に」
キョン(異)「す、すまん。俺のせいで……」
キョン「お前のせいじゃないさ。しかし困ったな。俺が動けないんじゃ、誰がハルヒに……」
キョン(異)「…………そりゃ、俺が行くしかないだろう」
キョン「え?」
キョン(異)「分かってる。こっちの3人は自分たちの立場上、涼宮に対して強く出ることはできない」
キョン(異)「唯一涼宮に意見が言えるお前もこの通り動けない。だったら、俺が行くしかないだろう」
キョン「しかし……お前、大丈夫か? 相手はハルヒだぞ?」
キョン(異)「大丈夫もくそもない。やるしかないだろう」
キョン(異)「そもそもこれは、俺たちの世界を復活させる為の作戦だ。だから俺がやるのが筋だろう」
キョン(異)「俺はやる。やってやる! 佐々木のために……生まれ育った世界のために……」
キョン「…………分かった。お前に任せる」
古泉「では、あなたが彼の代わりに学校まで来て、涼宮さんを説得する。いいですね?」
キョン「こっちの情報をいろいろ伝えておこう。ハルヒに怪しまれないようにな」
キョン(異)「ああ、頼む」
佐々木(異)「僕は……一旦家に帰るよ。急に帰らなくなったらこっちの世界の家族が心配するからね」
佐々木(異)「こっちの世界の僕が目覚めるまでは、ちゃんと演じ続けないとね」
キョン(異)「ああ、分かった」
佐々木(異)「キョン。僕は北高には入れないから、残念ながらあまり手伝えることはなさそうだ」
佐々木(異)「でも……信じてるから。ちゃんと応援してるから」
キョン「あ。そういや俺動けないんだが、留守番中はどうすれば? 2階に佐々木も寝てるし」
古泉「ふむ、そうですね。では、あなた方のお世話をするよう機関の一員を手配しておきますよ」
キョン「すまん。助かる」
古泉「では、そろそろ我々は帰るとしましょう」
みくる「えっと、頑張りましょうね!」 バタン
キョン(異)「……ふう。さてと……ん?」
トントントン
キョン(異)「佐々木? 姿が見えないと思ったら、2階に何しに行ってたんだよ?」
佐々木(異)「うん。もう1人の僕に謝りにね。自分勝手な理由で乗っ取ったりしてごめんって」
佐々木(異)「本当は起きてる時に言いたいけど、いつ目を覚ますか分からないから……」
キョン(異)「そうか……」
佐々木(異)「じゃあ僕も失礼するよ。キョン、一緒に帰ろうね」
キョン(異)「おう。任せとけ」
~夜~
???『ごめんくださーい』
キョン「ん? 誰か来たようだ。すまんが出てくれないか? 俺動けないから」
キョン(異)「あいよ」
キョン(異)「はーい、今開けますよ」ガチャ
森「どうも、こんばんは」
キョン(異)「め、メイドさん……? あ、機関の人ですか?」
森「私を知らないということは……初めまして。森園生と申します」
キョン(異)「あ、ど、どうも。どうぞ上がってください」
キョン「森さん!?」
森「こんばんは。調子はどうですか?」
キョン「身体がほぼ動かない事を除けば絶好調ですよ。わざわざ来てくれてありがとうございます」
森「いえいえ、これもお仕事ですから。お腹空いてませんか? 今すぐ晩御飯作りますね」
キョン(異)「おお! 絶品だな、この料理!」
キョン「く……うまいけど……手が動かしにくくて食べにくい……」プルプル
森「佐々木さん、相変わらず眠ったままですけど、特に身体に異常はありませんね」
キョン「そうですか……あ、今日寝るところはどうします?」
森「佐々木さんと同じ部屋で寝ます。万が一何かあったら呼んで下さいね」
キョン「そろそろ寝るか。明日が勝負だな」
キョン(異)「お、おう」
キョン「……緊張するか?」
キョン(異)「まあな。何たって自分の身に世界1つの命運がかかってるんだからな」
キョン「本当に大丈夫か? まだハルヒが怖いんじゃないか?」
キョン(異)「そりゃ怖いさ。だが、やってやる! 相手が誰だろうとな!」
キョン「おう、その意気だ」
キョン(異)「…………はぁ~やっぱり怖ぇ……涼宮怖ぇーよ~」
キョン「おいおい……」
~翌日 朝~
キョン(異)「そ、そ、それじゃあ、い、いいい行ってくる!?」プルプル
キョン「おいおい、大丈夫かよ……?」
キョン(異)「だ、大丈夫だっちゃ!」
キョン「はぁ、そんな状態でうまくいくのか?」
森「不安ですねぇ」
キョン(異)「しょ、しょうがないだろ! 俺はお前と違ってこういうことには慣れてないんだ!」
キョン「とにかく落ち着け。そんなに常に気を張ってる状態だと、ハルヒ以外にも怪しまれるぞ」
キョン(異)「う……」
森「深呼吸ですよ、深呼吸」
キョン(異)「スゥー……ハァー……スゥー……ハァー……」
キョン「よし、落ち着いたか?」
キョン(異)「ああ、じゃあ行ってくる」ビョインビョイン
キョン「両手両足が同時に前に出てるぞ……」
~北高 教室~
キョン(異)(涼宮はまだ来てないか。よし、今のうちに心を落ち着けよう。昨日からびびりすぎだ)
キョン(異)(授業がある間は涼宮とゆっくり話す時間はないし、勝負は放課後だな)
キョン(異)(それまではなるべく普通に過ごすんだ。俺なら大丈夫……よし! いつでも来い涼宮!)
ハルヒ「おはよキョン」
キョン(異)「ぴゃああああ!!」
ハルヒ「な、何よ!? どうしたのよ!?」
キョン(異)「す、涼宮か……な、何でもない。何でもないんだ……」
ハルヒ「そう? 何か真上に1mくらい跳ね上がってたけど?」
岡部「おーい、HR始めるぞー」
キョン(異)「ほほほら! 早く席に着いたほうがいいぞ!」
ハルヒ「変なキョンね。ま、いっか」スッ
キョン(異)(う……席は俺の後ろか。後ろから見られてると妙なプレッシャーが……)
キョン(異)(それにしても……)
ハルヒ「あーあ、徹夜したから眠たいわ」
キョン(異)(こいつが……元凶……俺の世界を滅ぼした……全てを滅ぼせる力を持った……)
キョン(異)(くそ……確かにこいつは怖い…………が……それ以上に……)
キョン(異)(よくも……俺の世界を滅ぼしてくれたな……自分勝手な理由で……俺と佐々木の世界を)
キョン(異)(この…………野郎…………!)
教師「よーし、1時限目の授業始めるぞー」
キョン(異)(はっ! い、いつの間にHRが終わって……?)
キョン(異)(いかんいかん、我を忘れてた。冷静にならないと……)
ハルヒ「はぁ~、授業なんて退屈ね。早く放課後にならないかしら?」
キョン(異)(落ち着け。この涼宮は俺の世界を滅ぼした涼宮とは別人だ…………別人だが……)
キョン(異)(駄目だ……こいつの声を聞いてると、どうしても恐怖と怒りが……)
キョン(異)(こんなのでうまくいくのかよ……? くそ! 佐々木! 力を貸してくれ!)
~1時限目終了~
キョン(異)(このままの状態だと、放課後にぶっつけ本番でうまくいく気がしないな)
キョン(異)(よし、休み時間に少しでも涼宮と会話して慣れておこう)
キョン(異)「な、なぁ、涼宮……」
女子1「ねえ涼宮さん、ちょっとシャーペンの芯を分けてくれないかな? なくなっちゃって」
ハルヒ「しょうがないわね。はい」
女子2「ねえねえ! 昨日のドラマ観た?」
ハルヒ「観たわ。けどつまんなかったわね」
キョン(異)「…………へ?」
キョン(異)(涼宮が……あの涼宮が、クラスメイトと普通に会話してるー!?)
ハルヒ「…………何よ、ジロジロ見たりして」
キョン(異)「あ、いや、何でもない!」
教師「席に着けー。2時限目の授業始めるぞー」
キョン(異)(信じられん光景を見た……他人を一切寄せ付けなかったあいつが……)
キョン(異)(SOS団と不思議探し以外、興味なかったあいつが、あんな自然に女子と会話を……)
キョン(異)(異世界の涼宮とはいえ、ここまで違うものか? いや、大げさに考えすぎか?)
教師「…………い、おいそこ! 聞いてるのか!」
キョン(異)「へ? あ、はい! 何でしょう!?」
教師「まったく、お前はいつも授業中ボーッとしてるな。ちょっとこことここの問題に答えてみろ」
キョン(異)「は、はい。え~と…………上の問題の答えが256、下が35です」
教師「へ?」
ザワッ・・・
キョン(異)「え? え? 間違ってましたか?」
教師「い、いや、正解だ。何だ、ちゃんと聞いてたんじゃないか。座ってよろしい」
キョン(異)「はあ……」
教師「では続けるぞ。ここの数式は……」
~2時限目終了~
谷口「おいキョン! さっきのあれは何なんだよ!」
キョン(異)「いきなり耳元で怒鳴るな!?」
谷口「いつもならあそこは『すみません、分かりません』って答える場面じゃないかよ!」
谷口「それが何で今日はあんなにスラスラ答えられたんだ? 何か悪い物でも食ったのかよ?」
キョン(異)「はぁ? 何だそりゃ?」
キョン(異)(おいおい、何であれぐらいの問題で騒がれるんだよ。基本的な問題だったじゃないか)
キョン(異)(……この世界の俺は、あの程度の問題も解けないほど勉強ができないのか……?)
キョン(異)(俺、佐々木と一緒に真面目に勉強してきてよかった……)
キョン(異)(今思うと、俺も元々は常に赤点ギリギリだったんだよな。恥ずかしすぎる)
キョン(異)(あ、しまった。あまり目立つと涼宮に怪しまれる……)
ハルヒ「スゥ……スゥ……」
キョン(異)「寝てるし……」
キョン(異)(よし、昼休みだ! 今のうちに少しでも涼宮と会話を……っていないし!?)
キョン(異)(そういや昼休みはいつも行方知れずだっけなあいつ。諦めて昼飯食うか……)
キョン(異)(谷口に国木田……あれ、いないな。何か用事か? それじゃあ……)
キョン(異)「おーい、一緒に食おうぜ」
クラスメイト「……え? 俺?」
キョン(異)「ああ…………って、何だよ、その不思議なものでも見るような顔は?」
クラスメイト「いや、だって……お前が俺にメシのお誘いなんて初めてじゃないか」
キョン(異)「へ? あ!?」
キョン(異)(しまった、この世界では……どうも元の世界での習慣が出てしまうな)
キョン(異)「す、すまん! 今のは忘れてくれ! じゃあな!」ダダッ
クラスメイト「あ、おい」
キョン(異)(やりにくいな、もう……しょうがない。1人で食うか……)
キョン(異)(……はぁ。元の世界では誰かしら声をかけてきてくれて一緒に食ってたんだがな)
キョン(異)(あいつ……谷口や国木田がいない時はどうしてるんだ?)
~その頃のキョン宅~
キョン「そういう時は部室で食ってるな。大抵長門もいるし」
森「誰に話してるんです?」
キョン「あ、いえ、何となく言わないといけない気がして」
森「それよりも、お昼ご飯ができましたよ」
キョン「すみません、わざわざ」
森「いえいえ、気にしないでください」
キョン「よっ、とっ、くっ……」
森「まだ動くのはきついですか?」
キョン「ええ、頑張れば何とかなりますが」
森「そうですか。では…………はい、あーん」
キョン「……へ? も、もも森さん!? いいですよそんなことしなくても!?」
森「遠慮なさらずに。はい、あーん」
キョン「森さーん!?」
~放課後 部室~
キョン(異)「いよいよ……か」
みくる「涼宮さんは一緒に来なかったんですか?」
キョン(異)「掃除当番みたいです」
古泉「どうです? いけそうですか?」
キョン(異)「…………ほ、ほわ! ほわわわわわわ!?」
古泉「落ち着いてください……」
みくる「はいキョンくん、お茶です」コト
キョン(異)「ど、どうもありがとうございます。ズズッ……お、うまい」
キョン(異)(そういえば……朝比奈さんのお茶を飲むのも随分と久しぶりだな……)
みくる「うふふ、キョンくん」
キョン(異)「はい、何でしょう?」
みくる「ファイト!」
キョン(異)(お、おおう、可愛いなぁ! はっ! 何を考えてる! 俺には佐々木という恋人が!)
ハルヒ「やっほー!」バァン!
キョン(異)(来たか、魔王が……いや、今は唯一の救世主なのか?)
ハルヒ「さてと、新入団員のためのペーパーテストの問題を完成させないとね」スッ
キョン(異)(パソコンで作業を開始したか。さて、どのタイミングで話しかけるか……ん?)
古泉「何もしていないのは不自然ですので……どうです?」
キョン(異)「将棋か……」
古泉「決心がついたら涼宮さんに話しかけてください」
キョン(異)(さて、どういう風に異世界を創ってもらえるように話を持っていくか……)
キョン(異)(結局頭の中でまとまらなかったんだよな……アイツならうまく言いくるめるんだろうが)
キョン(異)(このまま黙っていても仕方ない! とにかく話しかけるか)
キョン(異)「な、なぁ、涼宮」
ハルヒ「何よ?」
キョン(異)「い、異世界ってあればいいなぁと思わないか?」
古泉(直球ですね)
みくる(直球ですぅ……)
ハルヒ「何よ急に。異世界? うーん……」
キョン(異)(ど、どうだ?)
ハルヒ「そうね。あれば面白いと思うわ」
キョン(異)「そうだよな! 面白いよな!」
ハルヒ「……」
キョン(異)「……」
ハルヒ「……あ、ここの問題はもう少し難しくした方がいいわね」カタカタ
キョン(異)「それだけかい!?」
ハルヒ「きゃ! びっくりした! 何よ、いきなり大声出したりして!」
キョン(異)「いや、もっとこうだな……具体的に……」
ハルヒ「何を訳の分からないことを言ってるのよ……って、あ、あれ?」
みくる「ど、どうかしたんですか、涼宮さん?」
ハルヒ「あんたが怒鳴ったせいで、今思いついた問題の内容を忘れちゃったじゃない!」
キョン(異)「知るか! そんなこと!」
ハルヒ「何ですって!」
古泉「まあまあ2人とも。そこまでです」ガシッ
キョン(異)「こら古泉! 離せ!」
古泉「これ以上熱くなると、異世界を創りだしてもらうのが余計に難しくなりますよ」ボソボソ
キョン(異)「う……す、すまん。思わず頭に血が上って……気をつける」ボソボソ
古泉(ふう。『彼』はどんな事態でも割と冷静なのですが、こちらはどうも取り乱しやすいようです)
ハルヒ「まったくもう! あたしは忙しいんだから、あんたに構っている暇はないのよ!」
キョン(異)(ああ、へそを曲げてしまった……)
古泉「どうやらペーパーテスト作りに集中していて、他の事に興味が持てない状態みたいですね」
キョン(異)「厄介だな……だができないなんて言ってられん。何とかやってみる」スタスタ
キョン(異)「な、なあ涼宮」
ハルヒ「何よ、話しかけないで」
キョン(異)「そう言うな。お前が今作っているペーパーテストの問題なんだが……」
キョン(異)「やっぱり宇宙人、未来人、異世界人、超能力者に関する問題も入っているのか?」
ハルヒ「よく分かったわね。まさか覗いたの?」
キョン(異)「んなことしねえよ。ま、お前が考えそうなことだからな。それで、どんな問題だ?」
ハルヒ「教えるわけないじゃない。トップシークレットよ」
キョン(異)「そうかい。ところでよ、宇宙人は宇宙から来るよな?」
ハルヒ「当たり前じゃない」
キョン(異)「未来人は未来から。超能力者は……同じ世界かな? では、異世界人はどこから来る?」
ハルヒ「異世界からに決まってるじゃない。馬鹿じゃないの?」
キョン(異)「異世界ってどんなところだ?」
ハルヒ「どんなところ?」
キョン(異)「お前のイメージする異世界人は、どんな異世界から来るんだ?」
ハルヒ「異世界か。そうねー……」
キョン(異)(いよし! 食いついた! この調子で……)
ハルヒ「人類と機械が全面戦争してる異世界なんてどう? ターミネーターみたいに。スリル満点よ」
キョン(異)「はえ!? いやいやいや! ちょっと待て!?」
ハルヒ「あ、いい問題思いついた。えーと……」
キョン(異)「おおおい!? 話を聞け涼宮!」
ハルヒ「うっさい! ちょっと黙ってなさい!」
キョン(異)「やばいやばい! ひょっとしたら絶望的な異世界を創りだしてしまったんじゃあ……」
古泉「どうでしょう? 長門さんの様子は……」
長門「……」フルフル
キョン(異)「……びみょーーに首を横に振ってるな」
古泉「どうやら異世界は出現しなかったようですね」
キョン(異)「何で出現しなかったんだ?」
古泉「本気で言っていなかった、ということでしょう」
キョン(異)「はぁ、ともかく助かった……」
古泉「そこまで心配しなくても、別にターミネーターな異世界でも構わなかったのですよ」
キョン(異)「何? どういうことだ?」
古泉「言ったでしょう。涼宮さんには異世界の『土台』を創りだしてもらうだけでいいと」
古泉「それがどんな変な異世界だろうと、『あなたの世界』のデータで上書きすればいいのですから」
キョン(異)「そ、そうか、なるほど。それを聞いて少し気が楽になった」
キョン(異)「しかし、よほど強く異世界をイメージさせないと駄目なようだな。さて、どうするか」
ハルヒ「うーん……よし、閃いた!」ガタンッ
キョン(異)「うお! いきなり大声をあげるな!?」
ハルヒ「みんな、体操服持ってる?」
古泉「体操服ですか?」
キョン(異)「体育あったから持ってるが……」
みくる「あの、あたし持ってないです」
ハルヒ「じゃあ、みくるちゃんはそこのチャイナドレスでいいわ! みんな、着替えて外に出るわよ!」
キョン(異)「おいおい、外で何をしようってんだよ」
ハルヒ「いいからさっさとしなさい!」
キョン(異)「はぁ……」
~グラウンド~
キョン(異)「それで、わざわざ外に出て何をするんだ?」
ハルヒ「ふっふっふ。さっきペーパーテストを作ってる時に思いついたんだけどね」
ハルヒ「SOS団員たるもの、知力・体力・時の運、全てを兼ね備えてないといけないのよ!」
ハルヒ「だからペーパーテストだけじゃなくて、体力テストも実施することにしたわ!」
キョン(異)「はぁ。そりゃ入団希望者には気の毒なこった。いるのかどうか分からんが」
キョン(異)「……ん? それで俺たちが体操服に着替えて外にいるということは、まさか……」
ハルヒ「そ。あんた達に先に体力テストを受けてもらうわ。新入団員に模範を示さないとね」
みくる「えー!?」
キョン(異)(くそ、妙なことを思いつきやがって。こっちはそれどころじゃないってのに)
古泉「体力テストと言いましても、具体的には何を?」
ハルヒ「種目は単純! マラソンよ!」
キョン(異)「うわ、1番きついのを……しかし、マラソンと言ったってどこを走るんだ?」
ハルヒ「グラウンドに決まってるじゃない」
キョン(異)「陸上部が走ってるが?」
ハルヒ「今からどいてもらうわよ。ちょっと待ってなさい。みくるちゃん、来なさい」ズルズル
みくる「え? え? 何であたしまで~!?」
キョン(異)「おいおい……」
キョン(異)「まったく、相変わらず涼宮は強引だな」
キョン(異)「教室では意外な一面を見たりもしたが、やはりあいつは何も変わってないようだ」
古泉「いえいえ、随分変わりましたよ。涼宮さんとずっと過ごしてきたからこそ分かります」
古泉「1年前までの涼宮さんは、いつ世界を崩壊させてもおかしくないほどの不安定さだった」
古泉「今はだいぶ安定しています。これもSOS団やいろんな方々との触れ合いがあったからです」
古泉「そして、1番の功労者は言わずもがな」
キョン(異)「……」
古泉「信じられませんか?」
ハルヒ「だーかーら! 今からSOS団が使うからどきなさいって言ってるのよ!」
陸上部員「いや、しかし……」
ハルヒ「何? タダじゃ駄目だって言うの? じゃあみくるちゃん」ピラッ
みくる「ひゃあああ! めくらないでください~!」
キョン(異)「……あれを見て信じろと?」
古泉「ははは……」
ハルヒ「話はまとまったわ! みんな、スタートラインに着いて!」
キョン(異)「おい。マラソンと言ったって、どれぐらい走るんだ?」
ハルヒ「限界までよ。これが自分の限界ギリギリだと思うまで走ってもらうわ」
キョン(異)「……ストップウォッチも持っていないところを見ると、マジなようだな。まったく」
ハルヒ「あ、そうそう。周回遅れになったらその時点で脱落だからね」
キョン(異)(お、助かった。さっさと周回遅れになって離脱しよう)
ハルヒ「当然その時は罰ゲームよ! 覚悟して走るように!」
キョン(異)「うげぇ……」
ハルヒ「というわけで、罰ゲームはよろしくね鶴屋さん」
鶴屋「任されたっさー」
みくる「鶴屋さん、いつの間に!?」
ハルヒ「あたしも走るからね。脱落した人への罰ゲームは鶴屋さんに任せるわ。内容はもう伝えてるから」
キョン(異)(はああ……俺は北高まで何しに来たんだっけ?)
鶴屋「それではそれでは! よ~~~い…………スタート!」
みくる「はぁ、はぁ、はひー、はうぅ~……」ペタン
ハルヒ「ちょっとみくるちゃん! まだ1周も走ってないのに周回遅れってどういうことよ!」
みくる「ご、ごめんなさ、はひゅー、ひぅ~……」
ハルヒ「まったくもう! 鶴屋さん、罰ゲームよろしく!」
鶴屋「了解っさ。さぁ、覚悟しなみくる~」
みくる「ひ、ひいぃ~、何をするんですか……?」
鶴屋「コチョコチョコチョ……」
みくる「あははははは!? ひう! つ、鶴屋さ、やめ! かふっ! きゃはははは!?」
鶴屋「うりうりうり~、ここかな~? ここがいいのかな~?」
キョン(異)(うわぁ……疲れきってる状態でのくすぐりはきつい……)
ハルヒ「うりゃー!」ダッダッダッ
長門「……」タッタッタッ
キョン(異)(おっと、俺もうかうかしてられん。というか涼宮と長門速い!?)
キョン(異)「ぜえ、ぜえ、き、きつい……遊びや勉強ばかりでなく、身体も鍛えとけばよかった」
ハルヒ「キョーン!」ダダダダッ
キョン(異)「うぎゃああ! 来たぁぁ!」
ハルヒ「覚悟しなさーい! うひひひひ!」
キョン(異)「怖ぇぇぇぇ!? 来るなぁ!?」
ハルヒ「はいアウト。さっさとコースアウトしなさい」
キョン(異)「ぜぇ、はぁ、ちくしょう、抜きそうで抜かずという状態でなぶり殺しにしやがって」
鶴屋「はーいキョンくん、罰ゲームだよ!」
キョン(異)(はあ。ま、あのまま走り続けるのも相当きつかったし、罰ゲームの方がマシか)
キョン(異)「それで、俺の罰ゲームはなんです?」
鶴屋「じゃーん、これだよ」スッ
キョン(異)「これは……カマキリ? 随分でかいですけど、これをどうしろと?」
鶴屋「召し上がれ」
キョン(異)「はい? いやいやいや! 何を言ってるんですか!」
鶴屋「罰ゲームだから仕方ないっさ。ほらほらほら」グイグイ
キョン(異)「顔に押し付けないで!? うわぁ気持ち悪!? ストップストップ!」
鶴屋「あははははははははは!」
キョン(異)(駄目だこりゃ。完全に楽しんでる目だ……こ、こうなりゃ逃げ……)
鶴屋「逃がさないよ~」グイッ
キョン(異)「わっとっと!」ドシンッ
鶴屋「ふふふふふ、マウントポジショーン」
キョン(異)(うげっ、動けん!? マラソンの直後だから体力が……)
鶴屋「さぁて、もう逃げられないよ~」
キョン(異)(こ、この体勢は若干嬉しい気がしないでもないが、視界いっぱいにカマキリがががが)
鶴屋「ほらほらー」
キョン(異)「うぎゃああああ!」
~その頃のキョン宅~
森「きゃー! いやー!」
キョン「お、落ち着いてください森さん!? ただのカマキリですから!?」
森「む、虫は苦手なんです! 駄目なんです! 死ぬんです!」
キョン「あらら、森さんにこんな弱点が……にしてもこのカマキリ、どこから入ってきたんだ?」
キョン「この様子だと俺が何とかするしかないか。身体が動かしにくいってのに……」
キョン「よっ、とっ、そこを動くなよー?」ソ~
ブイーーン!
キョン「飛ぶなぁ!?」
森「いーやー! きゃーきゃーきゃー! えーん!?」
キョン「くそ、窓を開けて…………よし! うまいこと出ていった!」
キョン「やれやれ、もう大丈夫ですよ森さん…………森さん?」
森「……」
キョン「気絶してる…………はぁ、どうすりゃいいんだよ、この状況……」
キョン(異)「……」グッタリ
みくる「キョンくん、本当にカマキリ食べたんですか……?」
キョン(異)「いえ、危険を察知したカマキリが飛んで逃げました……」
みくる「そ、そうですか……」
古泉「どうも」
キョン(異)「古泉、お前も抜かれたのか?」
古泉「いやぁ、涼宮さんも長門さんも速いです。何とか粘ったのですが、抜かれてしまいました」
キョン(異)「その割には余裕の表情だな。本当はワザと抜かれたんじゃないのか?」
古泉「さぁ、どうでしょう?」
鶴屋「古泉くーん、罰ゲーム罰ゲーム」
古泉「おっと、では行ってきます」
キョン(異)「シャレにならん罰ゲームかもしれないから覚悟しとけよー」
みくる「古泉くん、口から火を吹いてますよ……」
キョン(異)「あのシュークリームの中には何が入ってたんだ……?」
古泉「は、はは、ひどい目にあいました」
キョン(異)「お疲れさん。こんなところで大道芸が見られるとは思わなかったよ」
ハルヒ「やるわね有希! でも負けないわ! 遠慮も手加減も無用のガチンコ勝負よ!」ダダダッ
長門「……了解」シュタタタッ
キョン(異)「凄まじいパワーだな、あいつ」
古泉「素晴らしいではないですか。あのパワーで我々を引っ張っているのですから」
キョン(異)「そのパワーが悪い方に向かわなければ、俺も素直に素晴らしいと言えるんだけどな」
古泉「はは……」
キョン(異)「…………なぁ」
古泉「何でしょう?」
キョン(異)「ずっと…………ずっと、疑問に思ってたことがあるんだ」
古泉「疑問、ですか?」
キョン(異)「涼宮……ああ、俺の世界の涼宮な。何であいつは世界を滅ぼそうとしたんだろうな?」
古泉「……」
キョン(異)「いや、分かってる……原因は俺だってことは。俺がSOS団を辞めて、涼宮から離れて」
キョン(異)「それから佐々木と再会し、どんどん親密になり、一緒にいることが多くなり……」
キョン(異)「俺は佐々木に告白し、恋人同士になった。そして、その告白現場を涼宮に見られていた」
キョン(異)「涼宮はそれがショックで、世界を崩壊させようとした。そうだろう?」
古泉「ええ、それで合っています」
キョン(異)「……何でだ?」
古泉「え?」
キョン(異)「何で涼宮はそこまで俺に固執した? それこそ世界を滅ぼしてしまうくらいに」
キョン(異)「おかしいだろう? 俺が涼宮とSOS団で過ごした期間はほんの僅かなんだぞ」
キョン(異)「それなのに何故……俺がSOS団を辞めて佐々木に告白するまでにほぼ1年が過ぎてた」
キョン(異)「1年。1年近くも涼宮は俺に固執してきたってのか? 何で俺ごときに?」
古泉「……」
キョン(異)「俺は……すぐ忘れられると思ってた。涼宮は俺の事なんかすぐ忘れると思ってたんだ」
キョン(異)「俺はただの雑用係……そんな奴が辞めたところで、影響があるとは思ってなかった」
キョン(異)「実際、もっと手こずると思ったのに、結構あっさり退団を許してくれたしな」
キョン(異)「俺は普通の青春を謳歌し、涼宮はSOS団で馬鹿騒ぎする。完全に道は別れたと思った」
キョン(異)「なのに、あんなことになるなんて……涼宮は俺のことを忘れてなんかいなかった……」
古泉「……」
ハルヒ「有希! 本当にやるわね! 久々に燃えてきたわ!」
ハルヒ「そうだ! もし有希が勝ったら好きな物何でも奢ってあげる! どう!」
長門「……おでん」
ハルヒ「分かったわ! よーし勝負よ!」
キョン(異)「なぁ。ひょっとしたら……ひょっとしたらだけどよ……まさかとは思うが……」
キョン(異)「涼宮は……俺のことが好きだったのか……?」
古泉「好き……ですか」
キョン(異)「俺が好きだったからこそ、告白の場面を見て世界を崩壊させようとした。そういうことなのか?」
古泉「……そうですね。それは」
キョン(異)「……いや、すまん! 妄言だった! 今のは忘れてくれ!」
キョン(異)「あの涼宮が俺のことを好き? ありえん! まったく、何言ってるんだ俺は!?」
古泉「……いえ、涼宮さんがあなたに好意を抱いていたことは事実だと思いますよ」
キョン(異)「……は?」
古泉「それがハッキリと『恋愛感情』と言えるものだったのかは分かりませんけどね」
キョン(異)「……好意ね。本当か?」
古泉「ええ。ずっと1人だった涼宮さんにとって、あなたは初めての理解者だったのですから」
キョン(異)「理解者って……俺はそこまで涼宮のことを理解してたとは思わんが」
古泉「それでも、文句を言いつつも自分に着いてきてくれた。自分を手伝ってくれた」
古泉「涼宮さんにとって、あなたは理解者であり、特別な存在だった。これは間違いないです」
キョン(異)「確かに『あの涼宮と会話が成立するなんて!』てなことを言われたことはあるが……そこまでのことか?」
古泉「あとは……そうですね。これは僕よりも朝比奈さんの方が詳しいでしょう」
みくる「あ、はい」
キョン(異)「朝比奈さん……すみません。存在を忘れてました……」
みくる「ひどいです……それで、えっと……」
みくる「涼宮さん、実は4年前の七夕にある人物に会ってるんです。それがきっかけで北高に来た」
キョン(異)「ある人物? 誰ですかそれは?」
みくる「…………そうですよね。あなたは過去に行かなかったみたいですから」
古泉「詳しくは知りませんが、あなたの世界の未来人さんたちはいろいろ苦労したのでしょうね」
キョン(異)「え? え? いったい何のこと?」
みくる「今はその事は置いといて。実はそのきっかけを作った人が、あなたに瓜二つだったんです」
キョン(異)「へぇ」
みくる「瓜二つと言うか……ゴニョゴニョ」
キョン(異)「ん? 何です?」
みくる「何でもないです! とにかくそのことも含め、涼宮さんにとってあなたは特別な人だった」
みくる「だから、決して……決して『ただの雑用係』なんかじゃなかったんです」
キョン(異)「……そうですか」
古泉「……そこでです。想像してみてください」
キョン(異)「想像? 何をだ?」
古泉「涼宮さんの気持ちをです」
古泉「そんな自分にとって特別な人が……自分が初めて心を許した人が……」
古泉「ある日突然、自分のことを化け物を見るような目で見てきて、拒絶し始めた」
キョン(異)「……」
古泉「今まで普通に自分に着いてきてくれていたのに、急にSOS団を辞めたいと言い出してきた」
古泉「こちらの事情など、涼宮さんは知る由もない。ただただ驚き戸惑い、混乱したはずです」
古泉「最初は冗談かと思ったかもしれません。ですが、すぐに気づいた。本気で自分を拒絶してると」
古泉「では、なぜ急に自分のことを拒絶するようになったのか? 涼宮さんは知ろうと思った」
古泉「そこで涼宮さんは、あなたに聞いたはずです。なぜSOS団を辞めたいのかと」
古泉「……あなた、その時涼宮さんに対して何と言いました?」
キョン(異)「あ……」
『お、おおおお前みたいなわがまま女とこれ以上付き合ってられないからだよ!』
キョン(異)「あ、あの時は相当焦っていて……でも涼宮は何も言い返してこなかったぞ」
古泉「そりゃあショックを受けていたからでしょう。信頼してた人に愛想を尽かされたのですから」
古泉「ですが、同時にある程度納得もした。涼宮さん自身、そういう自覚もあったのでしょう」
古泉「これ以上、嫌がるあなたを苦しめたくない。そういう気持ちもあったと思います」
古泉「だから、あっさりとあなたが辞めることを許した。あなたがいなくても平気という強がりもあったと思いますが」
キョン(異)「あの時、涼宮がそんなことを……とても信じられん……」
キョン(異)「というか、話の腰を折ってすまんが、やたら詳しいなお前」
キョン(異)「これらはお前にとっては異世界の出来事で、お前は見ても聞いてもいないはずだろ?」
古泉「ええ。長門さんから話を聞いて、僕なりに推論したまでです。ですが、そこまで的外れではないと思いますよ」
キョン(異)「それで、結局涼宮は諦めきれてなかったということだな。だから1年も引きずっていた」
古泉「ええ。それと1度は自分のものになったのにという『独占欲』もあったかもしれないですね」
キョン(異)「なるほど。その考え方の方が俺にはしっくりくるな」
古泉「原因は1つではないですし、考え方も1つではない」
古泉「いろいろ複雑に絡み合い、いろんな人に影響を及ぼし、そして最悪の結末が訪れた」
キョン(異)「結局、誰が悪かったんだ? 世界を滅ぼした涼宮か? きっかけを作った俺か?」
古泉「それはご自身で判断してください。僕の口からは言えません」
古泉「……けれど、これだけは言っておきます」
キョン(異)「……何だ?」
古泉「あなたにとって、涼宮さんは恐ろしい化け物だったのでしょう。しかし……」
古泉「忘れないでください。涼宮さんは強大な力を持った存在であり、SOS団の団長であり……」
古泉「そして…………ごく普通の16歳の女の子であることを……」
キョン(異)「……」
長門「……」タタタッ!!
ハルヒ「ああ!? 抜かれた…………あ~あ、負けちゃった」バッタリ
みくる「す、涼宮さん、大丈夫ですか」
ハルヒ「いやー負けた負けた。有希、あんた本当に速いわね」
長門「ぶい」
ハルヒ「しょうがないわ。約束通りおでん奢ってあげる。でも次は負けないわよ!」
古泉「おや、決着が着いたようです。ふふ、あの負けず嫌いの涼宮さんが素直に負けを認めるとは」
キョン(異)「……」
ハルヒ「みんなお疲れ様。はいスポーツドリンク。1人1本ね」
みくる「え? これどうしたんですか?」
ハルヒ「走った後は喉が渇くに決まってるじゃない。だから用意してたのよ」
みくる「あ、ありがとうございます。いただきます」
キョン(異)「……涼宮って、こんな気配りができる奴だったっけ?」ボソッ
みくる「うふふ、涼宮さんも1年前とは変わってきているということですよ」
みくる「キョンくんが入院した時だって、病院に泊まり込んで付きっ切りだったんですよ」
キョン(異)「……それで? その話を聞いて『何だ、涼宮にもいい所あるじゃん』と心変わりするとでも?」
みくる「え?」
キョン(異)「確かに古泉の話を聞いて、多少は考え方が変わりましたよ」
キョン(異)「でも……それであっさり涼宮のことを許せるほど、俺は……」
みくる「キョンくん……」
ハルヒ「こらそこ! 何をコソコソ喋ってるの!」
みくる「ひえ! な、何でもないです!」
~部室前~
ハルヒ「それじゃ、あたしたちが先に着替えるからちょっと待ってなさい」バタン
古泉「……少しは頭の中の整理はできましたか?」
キョン(異)「まだグッチャグチャだよ。くそ、涼宮に異世界を創らせないといけないのに……」
古泉「すみません。どうやら混乱させてしまったようですね」
キョン(異)「気にするな。聞いたのは俺なんだから」
古泉「……」
キョン(異)「……………………は、はははは」
古泉「ん?」
キョン(異)「俺は……俺は結局……涼宮からは逃げられないのか……?」
古泉「……」
キョン(異)「俺がSOS団を辞めようとした時、俺の世界のお前や朝比奈さんに引き止められたよ」
キョン(異)「でも俺は耳を貸さなかった。『鍵』だとか何とか言われたが、知ったことかと思った」
キョン(異)「そういう非日常はお前らだけで送ってくれ。一般人の俺を巻き込むなと」
キョン(異)「その時はそれが当然だと思った。何で俺が一緒にいなきゃいけないんだ、と」
キョン(異)「しかし、そのせいで涼宮は荒れていき、SOS団はギクシャクし、そして……」
キョン(異)「世界は…………崩壊した…………」
キョン(異)「俺がSOS団に残っていれば、世界は存続していた。それはこの世界が証明している」
キョン(異)「俺がSOS団を辞めて滅びた世界。俺がSOS団に残って生き延びた世界」
キョン(異)「はは……どっちが正しかったか……一目瞭然だな……」
キョン(異)「結局俺がSOS団を辞めたのは、ただの我侭だった。駄々をこねる子供のような我侭」
キョン(異)「俺は、世界のためにSOS団に残るべきだったんだ。たとえ命の危険があろうと」
キョン(異)「これは運命なんだな……涼宮と関わった時点で決まってしまった運命……」
キョン(異)「俺は……涼宮からは逃げられない……世界のための……生贄みたいなものか……」
古泉(これは…………どうやら相当混乱して、追い詰められていますね……)
古泉(僕の話は逆効果だったのでしょうか? このままでは、たとえ世界を復元できたとしても……)
キョン(異)「……ん? 電話…………佐々木から!?」
古泉「む……」
キョン(異)「あ……」
古泉「ふむ、僕はちょっと飲み物を買ってきます。では」スタスタ
キョン(異)「も、もしもし! 佐々木!」
佐々木(異)『やあキョン』
キョン(異)「お前、今どこにいるんだ? もう家に帰ったのか?」
佐々木(異)『うん。そっちにも行きたかったけど、残念ながら僕は北高の制服を持ってないからね』
キョン(異)「そうか、そっちは特に異常はなさそうだな」
佐々木(異)『まあね。そっちはどうだい? 順調にいってるかな?』
キョン(異)「あー……いや、その……」
佐々木(異)『…………そうか。キョン、焦らなくても大丈夫だよ』
キョン(異)「い、いや大丈夫だ!待ってろ、なにがなんでも涼宮に異世界を創らせてみせるからよ!」
佐々木(異)『……ねえキョン。今、悩んでいないかい?』
佐々木(異)『何だか凄く悩んで……迷って……後悔してる感じがする。何かあったのかい?』
キョン(異)「エスパーかよ、お前は。実は…………」
佐々木(異)『ふむ、涼宮さんのことをどう見ていいのか分からなくなっている』
佐々木(異)『そして、SOS団を辞めたことを後悔している……か』
キョン(異)「ああ。異世界創りに集中しないといけないって分かってるんだが、どうしてもな……」
佐々木(異)『……キョン。君は悪くない。君は一切自分を責める必要はないよ』
キョン(異)「え?」
佐々木(異)『君は、世界のためにSOS団を辞めるべきではなかった、そう言ったね?』
キョン(異)「あ、ああ」
佐々木(異)『……冗談じゃないよ』
キョン(異)「へ? 佐々木?」
佐々木(異)『君がSOS団を辞めてなかったら、僕と再会していなかったかもしれないじゃないか』
佐々木(異)『僕と一緒に勉強することも、一緒にデートすることも……恋人同士になることも』
佐々木(異)『君がSOS団を辞めていなければ、僕たちは別々の道を歩んでいたかもしれない』
佐々木(異)『そう思うとゾッとする。僕は君がSOS団を辞めてくれて良かったと思っているよ』
キョン(異)「いやしかし……そうは言っても、結果として世界は滅びてしまったわけだし……」
佐々木(異)『だからってなぜ君が罪悪感を感じないといけない? 君は悪い事なんかしていない!』
佐々木(異)『今回の件で『こいつが悪い』なんて人はいない。ただ運が悪かった。それだけさ』
キョン(異)「はは、『運』か……涼宮絡みの関係者が聞いたら何と思うかな……?」
佐々木(異)『まぁ暴論かもしれないね。でも僕は本気でそう思ってるよ』
キョン(異)「うーむ……」
佐々木(異)『……』
キョン(異)「……」
佐々木(異)『ごめん。何だか変な感じになっちゃったね』
佐々木(異)『君は後悔する必要はない、ということを伝えたかったんだけど……』
キョン(異)「いや、充分に伝わったよ。そうだな、もう自分を責めるのはやめるよ」
キョン(異)「そうか、運が悪かった……か」
佐々木(異)『あとは……キョン、君は涼宮さんのことをどう見ていいのか分からない、と言ったね』
キョン(異)「あ、ああ、言ったな」
佐々木(異)『ねぇキョン、まだ涼宮さんのことが怖いかい?』
キョン(異)「……そうだな。正直に言えば、まだ怖い」
佐々木(異)『……世界を崩壊させるほどの、強大な能力を持っているから?』
キョン(異)「そうだ。しかもまともな性格ならまだしも、あんな変人が持っているから余計に怖い」
佐々木(異)『ふむ。ではキョン。もしも……僕が能力を持っていたら、君は僕を恐れるかい?』
キョン(異「……いや、恐れないな」
佐々木(異)『何でかな?』
キョン(異)「お前は能力を悪用したりしないって信じられるからだ」
佐々木(異)『ふむふむ。では、涼宮さんだと能力で悪影響を及ぼすから怖い、と』
キョン(異)「まあ……そうなるのかな」
佐々木(異)『じゃあ、涼宮さん以外のSOS団のメンバーはどうだい? まだ怖いかな?』
キョン(異)「他のメンバー? うーん……長門はまだ怖いかな。何を考えてるかよく分からんし」
キョン(異)「朝比奈さんと古泉は……そうでもないな。今は特に怖いと感じない」
佐々木(異)『なぜ? 2人とも君の苦手な不思議属性の持ち主なのに』
キョン(異)「うーむ、確かにそうなんだが……」
佐々木(異)『慣れたからというのもあるかもしれないね。でも1番の理由は……』
佐々木(異)『僕たちがこっちの世界に復活してから、ずっと力を貸して協力してくれて……』
佐々木(異)『ほんの少しだけど一緒に過ごして、決して怖い人たちじゃないと分かったからじゃないかな?』
キョン(異)「……そう、だろうな」
佐々木(異)『涼宮さんだって同じだよ』
キョン(異)「へ?」
佐々木(異)『君は涼宮さんのことをよく知らないから、怖いんだと思うよ』
キョン(異)「いや、結構知ってるつもりだぞ。あいつは自己中心的で唯我独尊猪突猛進……」
佐々木(異)『それだけかい? 本当にそれが涼宮さんの全てかい?』
キョン(異)「……え?」
佐々木(異)『キョン。人というのはね、変わっていくものなんだ』
佐々木(異)『様々な経験、人との触れ合い……それらによって人は変わっていく』
佐々木(異)『今君の近くにいる涼宮さんはどう? 君の知っている涼宮さんと比べて、変わらないままかい?』
キョン(異)「……いや、結構変わっているところがあったな。俺も驚いたよ」
佐々木(異)『今の涼宮さんは、世界を崩壊させるような人に見える?』
キョン(異)「…………分からん。が、今すぐ世界をどうこうするようなことはないと思う」
佐々木(異)『だろう? 君の涼宮さんへの印象は変わったはずだよ』
佐々木(異)『……もっとも、まだそれを受け入れるまでにはいっていないようだけど』
キョン(異)「……」
佐々木(異)『僕は別に、涼宮さんと近しい関係になれとか理解者になれとか言っている訳ではない』
佐々木(異)『ただ怖がるばかりじゃなく、涼宮さんのことを分かってほしいと思ってるんだ』
佐々木(異)『これは世界や能力の話は抜きで、1人の人間としてそう思ってる』
キョン(異)「お前……やけに涼宮の肩を持つな」
佐々木(異)『まあ、ね。こっちの世界に来たばかりの頃はただただ混乱してて、ひたすらに憎むだけだった』
佐々木(異)『でも、冷静になってじっくり考えて……思ったんだ。涼宮さんを憎むのはやめようって』
佐々木(異)『涼宮さんだって、自分の意志で世界を滅ぼそうとしたわけではない』
佐々木(異)『自分にとって特別な人が、自分から離れて別の人の所へ行ってしまい、激しく嫉妬した』
佐々木(異)『たったそれだけのことなんだ。これは涼宮さんに限らず、誰にでも起こりえることだ』
佐々木(異)『涼宮さんには運悪く能力があったため、人並みに嫉妬しただけで全て消されてしまった』
佐々木(異)『涼宮さんだって被害者なんだ。彼女1人を悪者にするべきではない』
佐々木(異)『ただ、涼宮さんは横暴な振る舞いが多かったらしいから、そこは改めてほしいけどね』
キョン(異)「……」
佐々木(異)『……やっぱり、そう簡単には割り切れないかな?』
キョン(異)「ああ、頭では分かっているがってやつだな」
佐々木(異)『どうやら、かえって混乱させたようだね。どうも僕もまだ冷静になり切れてないようだ』
キョン(異)「いや、待ってくれ。もうちょっとで……」
キョン(異)(涼宮……願望実現能力……元凶……SOS団……悪者……涼宮だけでは……)
キョン(異)(異世界……崩壊……嫉妬……人並み……普通の……16歳の女の子……SOS団団長)
キョン(異)(どうすればいい? 佐々木、SOS団、異世界、涼宮涼宮涼宮……俺は……俺は……)
『お前は―――――――――――――逃げただけだろ!』
キョン(異)(……!! 俺は…………そうか。そうだよな)
キョン(異)「……スゥ~~…………ハァ~~…………よし!」
キョン(異)「佐々木……ありがとな。いろいろ参考になった。いろいろ気づかせてくれた」
キョン(異)「俺は…………もう、逃げない!」
キョン(異)「今までの俺はあまりにも逃げすぎた。怖い事から、嫌な事から、ひたすら逃げまくって」
キョン(異)「そして、意を決して立ち向かおうとした時には……あまりにも遅すぎた」
キョン(異)「俺はもう、あんな絶望的な思いはしたくない。だから、もう逃げない!」
キョン(異)「涼宮とも逃げずに向き合ってみる。もうグジグジと悩むのはやめだ!」
佐々木(異)『ふふ、どうやら吹っ切れたようだね。よかったよ、役に立てて』
キョン(異)「よーし待ってろよ! ちゃちゃっと片付けてくるからな!」
佐々木(異)『うん……ねえキョン』
キョン(異)「なんだ?」
佐々木(異)『ファイト』
キョン(異)「……おう!」
キョン(異)「ふう……」ピッ
キョン(異)「…………ファイト……か」
キョン(異)「か~~~! いいなぁ効くなぁ! よーし、気合入ったぁ!」
古泉「はっはっは」
キョン(異)「いつからそこにいた正直に言え言わないとペチる」
古泉「まあまあ落ち着いて。それで、どうです? 頭の整理はできましたか?」
キョン(異)「……ああ、さっきまではグチャグチャだったが、今はスッキリだ!」
古泉「……凄い方ですね、佐々木さんは」
キョン(異)「おう。だからよ…………俺も、佐々木にカッコ悪いところは見せられないんだよ!」
ハルヒ「2人とも! 遅くなったわね! 入っていいわよ!」ガチャ!
キョン(異)「おわっとっとっと…………ぐえっ!?」ドシンッ!
ハルヒ「何よあんた、ドアに寄りかかってたの? 危ないわね」
キョン(異)「お前なぁ……」
古泉「カッコ悪いですねぇ」
ハルヒ「ほらほら。いつまでも転がってないで、さっさと中に入りなさい!」
キョン(異)「はぁ。まったく涼宮は……」
ハルヒ「…………ねえ」
キョン(異)「ん?」
ハルヒ「今日ずっと気になってたんだけど………あんた、あたしのこと……涼宮って……」
キョン(異)「ん? 何て?」
ハルヒ「だから…………いつもは名前で…………ゴニョゴニョ」
キョン(異)「え? だから聞こえないって」
ハルヒ「あーもう! いいからさっさと入れ!」
キョン(異)「おわっと! 何なんだよいったい……」
ハルヒ「みんな! 今日はお疲れ様! 充実してたわね!」
ハルヒ「ペーパーテストは完成しなかったけど、まぁ明日やればいいわよね」
古泉「お疲れ様です」
みくる「本当に疲れましたぁ……」
キョン(異)「……」
キョン(異)(涼宮は……化け物なんかじゃない。化け物並みの力を持ってしまった普通の女の子……)
キョン(異)(普通と言い切れないのがあれだが……まぁそれは置いといて)
キョン(異)(不思議だ……電話する前と後でこんなにも違うとはな。本当に佐々木には感謝だ)
キョン(異)(佐々木……佐々木と一緒に……帰るんだ…………自分の居場所へ……)
キョン(異)(自分の居場所…………居場所……か……)
キョン(異)「なぁ涼宮」
ハルヒ「……何よ?」
キョン(異)「お前は宇宙人、未来人、異世界人、超能力者を探してるんだったよな?」
ハルヒ「何をいまさらそんな当たり前のことを聞いてくるのよ」
キョン(異)「何となく、確認したくなってな」
ハルヒ「……まぁいいわ。この際SOS団の基本理念をおさらいするのもいいかもね」
ハルヒ「よく聞きなさい! 我がSOS団の目的は……」
ハルヒ「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者を探し出して、一緒に遊ぶことよ!」
キョン(異)「……そっか。そうだったよな」
キョン(異)「涼宮」
ハルヒ「何よ? まだ何かあるの?」
キョン(異)「もしも念願叶ってそいつらと遊んだ後…………その後は?」
ハルヒ「その後?」
キョン(異)「そいつらもいつまでもお前と一緒にいるわけにもいかないだろう? いつかは帰らないと」
ハルヒ「そりゃそうだけど……」
キョン(異)「みんなそれぞれ帰る場所があるだろう。けれど、もしも……もしもだ」
キョン(異)「そいつらが…………帰れなくなったらどうする?」
ハルヒ「はぁ? どういうことよ?」
キョン(異)「そいつらが帰るための手段を失う、あるいは帰る場所そのものがなくなってしまう」
キョン(異)「いろんな理由で帰れなくなったとしたら…………お前、どう思う?」
ハルヒ「それは……可哀想だと思うわ。というか本当に急に変なこと聞くわね」
キョン(異)「可哀想……か。なぁ涼宮、お前にとって『居場所』ってどこだ?」
ハルヒ「また唐突ね。いったい何なのよ?」
キョン(異)「いいから。答えてくれ」
ハルヒ「まったくもう。居場所……ね」
ハルヒ「あたしの居場所は…………ここよ、SOS団。『SOS団』こそがあたしの居場所よ」
ハルヒ「あたしがいて、有希がいて、みくるちゃんがいて、古泉くんがいて……ついでにあんたもいて」
ハルヒ「この5人が揃ったSOS団が、今のあたしの居場所よ」
キョン(異)「……そうか」
ハルヒ「本当に、何でこんなこと聞くのよ?」
キョン(異)「もしも……お前の居場所であるSOS団がなくなったら、どう思う?」
ハルヒ「あんたねぇ、いい加減に……」
キョン(異)「いいから答えてくれ」
ハルヒ「う……もう! 分かったわよ! SOS団……SOS団がなくなったら……」
ハルヒ「……………………考えたくもないわね」
キョン(異)「む?」
ハルヒ「そんなこと想像もしたくない。ここはあたしの居場所……ようやくできた居場所なんだから」
ハルヒ「それがなくなるなんて…………たぶん、耐えられないと思う」
キョン(異)「涼宮……」
ハルヒ「あ…………もう! 何でこんなこと言わせるのよ! 微妙な空気になっちゃったじゃない!」
キョン(異)「ああ、いや、その……」
ハルヒ「まったく、柄にもないこと言っちゃった…………ん?」
キョン(異)「何だ?」
ハルヒ「あんた……」ジ~~・・・
キョン(異)「な、何だよ、人の顔をジロジロ見て……」
ハルヒ「…………ううん、やっぱり何でもないわ」
ハルヒ「あら、そろそろ下校時刻ね。みんな帰りましょっか」
キョン(異)「え? あ、ちょ……」
ハルヒ「あたし先に帰るわ。戸締りよろしく!」ガチャ バタン
長門「……」
古泉「ふむ」
みくる「キョンくん……」
キョン(異)「……」
キョン(異)「あー……駄目か。結局うまくいかなかったな」
キョン(異)「こういう時、アイツならうまく言いくるめられたんだろうが……」
古泉「……」
キョン(異)「何かもう……途中から何が言いたいのか分からなくなって……グダグダだったな」
みくる「……」
キョン(異)「くそ、だが俺は諦めんぞ。自分たちの世界を取り戻すまでは……」
長門「成功した」
キョン(異)「ん? 何か言ったか?」
長門「たった今、異世界の出現を確認した」
キョン(異)「……………………は?」
古泉「ほう、やはりそうでしたか。おめでとうございます」
キョン(異)「は? え? え? え?」
みくる「え? え? え?」
キョン(異)「え? 嘘? あんなので異世界が出現したって言うのか?」
みくる「えっと、よく分からないですけど、よかったじゃないですか」
キョン(異)「長門、マジか?」
長門「マジ」
キョン(異)「……本当に何でだ? 俺、涼宮に異世界を出させたくなるようなことは言えなかったと思ったんだが」
キョン(異)「そりゃ確かに『帰る場所』や『居場所』について聞いたりはした。自分自身に重ねてな」
キョン(異)「しかし、何であれが異世界出現に繋がったのか……それが分からん……」
古泉「そうですね。これは推測ですが……涼宮さん、感づいたのではないでしょうか?」
キョン(異)「何に?」
古泉「あなたがこの世界の人間ではないことに」
キョン(異)「は?」
古泉「涼宮さんは、途中からあなたの様子がおかしいと思った。そしてあなたが言っていたことを思い出し、気づいた」
古泉「『帰る手段を失った』『帰る場所がなくなった』、これはあなたのことではないかと」
キョン(異)「んな馬鹿な。俺が異世界人だってバレたって言うのか? だとしたらやばくないか?」
キョン(異)「……まさか、あくまでも無意識下で気づいただけ、とか言わないよな?」
古泉「鋭いですね。その通りです」
キョン(異)「おい」
古泉「そうとでも考えないと説明がつかないので。実際今までにもそういうことはありましたし」
キョン(異)「はあ……」
古泉「続けます。さらにあなたは涼宮さんに聞きましたよね。『居場所がなくなったらどう思う?』と」
古泉「涼宮さんは想像した。それは、とてつもなくつらいことだと思った」
古泉「そして、あなたがそんなつらい目にあっているのかもしれない……と」
古泉「だったら……帰る場所があればいいのに、居場所があればいいのに……こう思った」
キョン(異)「だから、俺の『居場所』である異世界が出現した。そういうことか?」
古泉「ええ、そういうことだと思います」
キョン(異)「それだけのことを無意識でか?」
古泉「そうです」
キョン(異)「便利だな、無意識」
古泉「どうでしょう長門さん。だいたい合っていると思うのですが」
長門「その考え方でほぼ間違いない」
キョン(異)「凄いなお前、よくそこまで涼宮の考えてることが分かるな」
古泉「一応、専門家ですから」
キョン(異)「そうか……ということは……俺と佐々木は元の世界に帰れるんだな?」
古泉「ええ、そうですよ」
キョン(異)「やった……よっしゃああ! 帰れる! 帰れるぞ! やったぞ佐々木!」
古泉「もう1度あらためて。おめでとうございます」
キョン(異)「それで、いつ帰れるんだ? 今すぐにでも帰れるのか?」
古泉「気が早いですよ。まだやることは残っています」
キョン(異)「え?」
古泉「お忘れですか? 今はまだ異世界という『土台』ができただけ」
古泉「その『土台』に長門さんの持っている『あなたの世界のデータ』を上書きする作業が残っているのですよ」
キョン(異)「あ、そうか……」
古泉「長門さん、その作業はいつごろ終わりそうですか?」
長門「明日の夕方には完了する」
キョン(異)「ほぼ丸1日か。長いな」
古泉「世界丸ごと1つのデータですからね。時間がかかって当然です」
古泉「ということは、長門さんは明日は学校を休んで作業をするんですね。では、涼宮さんにはうまく伝えておきましょう」
キョン(異)「はあぁ……」ヘナヘナ
みくる「きょ、キョンくん!? 大丈夫ですか?」
キョン(異)「何か……安心したら急に力が抜けちゃって……」
古泉「ふふ。では明日の団活後にあなたの家に集合ということで」
キョン(異)「了解。ああ、それと……………………みんな」
キョン(異)「ありがとう…………おかげで助かった。本当にありがとう! ありがとうありがとう!」
古泉「本当に……お疲れ様でした」
長門「……」
みくる「頑張りましたね、キョンくん」
佐々木(異)『そうか……本当に……本当に帰れるんだね』
キョン(異)「ああ! やったぞ!」
佐々木(異)『さすがだねキョン。僕と電話してから少ししか経ってないのに、もう結果を出すなんて』
キョン(異)「うーん、正直俺が成し遂げたという実感はないんだよな。それこそ運がよかったとしか」
佐々木(異)『君はもっと誇っていいと思うよ。何せ世界を救ったんだから』
キョン(異)「それこそ実感が湧かん。大したことしてないぞ、俺は」
佐々木(異)『くっくっ、君らしいね』
キョン(異)「それで、明日の夕方までお前はどうする? 俺はあいつの代わりにまた学校に来るが」
キョン(異)「何せ明日は長門が学校休んで作業するからな。俺まで休んだら涼宮にどう思われるか」
佐々木(異)『そうだね、僕も怪しまれないよう明日も学校に行くよ。個人的に行きたい所もあるし』
キョン(異)「そうか。無茶なことはするなよ。お前なら大丈夫だろうが」
佐々木(異)『うん、分かってるよ』
キョン(異)「それじゃ、また明日、俺ん家で」
佐々木(異)『うん、また明日』ピッ
キョン(異)「これでよし。さて、帰るか。ああ、明日が待ちきれん!」
~キョン宅~
キョン「そうか、やったじゃないか!」
キョン(異)「サンキュー。はぁ、それにしても精神的に無茶苦茶疲れた……」
キョン「ははは、お疲れさん」
森「今日はお祝いですね。晩御飯は豪勢にしましょう」
キョン「よーし! 食うぞ!」
キョン(異)「おう!」
~夜~
キョン(異)「やれやれ。ソファで寝るのも今日が最後か……長かったような短かったような」バフッ
キョン(異)(復活した当初は混乱してたな。喚き散らしたりもして、我ながら恥ずかしいことをした)
キョン(異)(どうして冷静になれた? あんなに怖かったあいつらを、普通に見れるようになった?)
キョン(異)(……佐々木のおかげだろうな。あいつといると不思議と力が湧いてくる)
キョン(異)(守らないとな……今度こそ……)
~翌日 放課後 部室~
キョン(異)(この団活が終わったら、この世界ともおさらばか)
キョン(異)(自分の世界ではない異世界とはいえ……少しだけ寂しいのはなんでだろうな?)
ハルヒ「ようやく完成したわ! このペーパーテストで入団希望者の心構えを見せてもらうわ!」
キョン(異)「……で、誰か1人でも入団希望者は来たのか?」
ハルヒ「う……来てないけど……そのうち押し寄せてくるわよ!」
キョン(異)「お前、そんなに新入団員がほしいのか?」
ハルヒ「当たり前じゃない!」
キョン(異)(うーん……どうも俺にはそうは見えないんだよなぁ……)
ハルヒ「あ、もうこんな時間ね。あたし先に帰るから、戸締りよろしく!」
キョン(異)「ああ…………ハルヒ」
ハルヒ「え、な、何?」
キョン(異)「……じゃあな」
ハルヒ「ああ、うん、じゃあね」
~夕方 キョン宅~
キョン「おう、みんな来たか。長門ももう来てるぞ」
古泉「長門さん、作業の方は?」
長門「完了した」
みくる「じゃあ、あとはキョンくんと佐々木さんを帰してあげるだけですね」
キョン(異)「あれ? 佐々木は?」キョロキョロ
キョン「まだ来てない。ちょっと遅いな」
キョン(異)「……まさか何かあったんじゃ! 電話してみる!」ピッ
佐々木(異)『ごめんごめん。ちょっと遅くなっちゃったね。もうすぐそっちに着くから』
キョン(異)「そ、そうか。ならいいんだが……本当に大丈夫か?」
佐々木(異)『大丈夫だよ。では、また後で』ピッ
キョン(異)「はあああ、よかった」
キョン「心配性だな。気持ちは分からんでもないが」
キョン(異)「うるせー。ちょっとトイレ」
キョン(異)「スッキリした。さて、居間に戻るk」
長門「……」
キョン(異)「だああああ!! びっくりした!? 音もなく背後に立つな!?」
長門「……」
キョン(異)「な、何だよ、何か用か?」
長門「…………ごめん……なさい」
キョン(異)「え? ああ、ごめんなさいか。って!? えええええ!? なぜ急に謝る!?」
キョン(異)「そ、そもそもお前、『ごめんなさい』なんて言うキャラじゃないだろ!」
長門「あなたの世界を消してしまったから」
キョン(異)「な……そ、それで謝っているってのか? お前が?」
長門「……そう。ごめんなさい」
キョン(異)「……そっか。あーその、もう気にしていないさ。あれは仕方ないことだったんだからな」
キョン(異)「お前は俺たちのために、いろいろ頑張ってくれた。感謝してる。だからもういいんだ」
長門「……そう」
キョン(異)(まさか長門が謝るとは…………こっちの世界に来て1番びっくりした……)
佐々木(異)「キョン、遅れてごめん」ガチャ
キョン(異)「佐々木! どこ行ってたんだ。心配したぞ」
佐々木(異)「うん、ちょっと橘さんのところにね」
キョン(異)「橘? 何をしに?」
佐々木(異)「僕はずっと、彼女たちを騙して利用してたからね。そのことを謝りに」
キョン(異)「謝りにって、まさか……」
佐々木(異)「うん。話したよ、何もかも」
キョン(異)「おいおいおい! 迂闊なことはするなよ!」
キョン(異)「お前や俺が異世界人だってバレたら、連中はどんな行動に出るか分からないってのに」
佐々木(異)「ごめん。でもどうしても謝りたかったんだ。このまま黙って帰るなんてできなかった」
キョン(異)「だからって……せめて俺が着いていけば……」
佐々木(異)「ううん、これは僕がまいた種だから。自分の尻は自分で拭かないとね」
キョン(異)「こら、女の子が尻とか言うんじゃありません。それで、どうなったんだ?」
佐々木(異)「『やっぱり』っていう顔をされたよ。どうやらしっかり怪しまれていたみたい」
キョン(異)「そうか……」
キョン(異)「お前、よく無事にここまで来れたな。何かされそうにならなかったのか?」
佐々木(異)「橘さんが応援を呼んでいたらそうなったかもね。でも彼女はそうしなかった」
キョン(異)「……何でだ?」
佐々木(異)「僕も不思議に思ったよ。今まで騙していたのにって。だから聞いてみたんだ」
橘「そりゃ腹立ちますよ。はぁ、怪しいとは思いましたが、まさか異世界人とは……」
橘「でも、ハッキリと見抜けなかったあたしたちもマヌケですからねぇ……」
橘「本当は組織の一員としてあなたを捕らえないといけないんでしょうね。でも……」
橘「あなたのお話を聞いて……全ての真相を知って、どうもそのような気が失せてしまいました」
橘「あなたをこれ以上つらい目にあわせたくありません。だからあたしは、あなたを捕まえません」
橘「付き合いが短かったとはいえ…………あなたはあたしの友達ですから」
橘「さ、早く行ってください。ここはあなたの居場所ではないんでしょう?」
佐々木(異)「うん、ありがとう。本当にごめんね」
キョン(異)「そうか、そんなことが……いい奴じゃないか」
佐々木(異)「うん。初めてこの世界を去るのを名残惜しいと感じたよ」
古泉「では、2人とも揃いましたし、始めますか」
キョン(異)「ああ」
キョン「長門……すまんな。結局お前に頼ってばかりで。何か手伝ってやりたいが、俺はこのザマだ」
長門「……いい」
キョン「え?」
長門「これは、わたし自身が望んですること。あなたが気にする必要はない」
キョン「長門…………分かった。頼むぞ」
長門「任せて」
古泉「……念のために聞いておきます」
キョン(異)「何だ?」
古泉「あなたは元の世界へ帰るために奔走してきたわけですが……」
古泉「元の世界へ帰った後……無事に帰還できた後のことは何かお考えですか?」
キョン(異)「……ああ。一応考えてある」
古泉「そうですか。ならばよいのです」
長門「始める。2人ともそこへ並んで」
みくる「あ……キョンくんも佐々木さんもお元気で。頑張ってくださいね」
キョン(異)「ええ、お世話になりました。ありがとうございます」
キョン「もう戻ってくるなよ」
佐々木(異)「……君には本当に迷惑をかけたね。あの時の僕はどうかしていたよ。本当にごめん」
キョン「気にするな。俺も似たような経験があるから、気持ちはよく分かる」
シュウウウウウウウウウウウ・・・・・・
キョン(異)「おお……」
佐々木(異)「身体が……光り始めた……」
キョン「お別れだな。元気でやれよ」
キョン(異)「ああ。お前も…………せいぜいそっちの涼宮を大切にしろよ」
キョン「何だそりゃ」
古泉「ふふふ、幸運を祈っています」
キョン(異)「おう、サンキュー」
シュウウウウウウウウウウウ・・・・・・
キョン(異)「あ! そういえば長門! このまま元の世界に帰還するってのは分かるんだが……」
キョン(異)「帰った時、俺たちの世界はどうなってるんだ? 涼宮が暴走する直前か?」
キョン(異)「それともまさか、世界が崩壊する直前とかじゃないよな?」
長門「……振り出しに戻る」
キョン(異)「……は?」
長門「振り出しに戻る」
キョン(異)「振り出しって……どういうことだよ!?」
長門「あなたがSOS団を辞めて、涼宮ハルヒの精神が不安定になっている時期」
長門「この時期のデータは情報統合思念体によって危険と判断され、すでに消去されている」
長門「よって……最初から」
キョン(異)「そ、そういう大事なことはもっと早く言ってくれ!?」
古泉「あなたも聞かなかったじゃないですか」
古泉「もっとも、ここにいる誰もがそのことを失念していたようですが」
佐々木(異)「あはは、しょうがないよキョン」
キョン(異)「だーもう! とにかく! みんな!」
キョン(異)「最初はお前らが憎かった! でも今は本当に感謝してる! ありがとな!」
佐々木(異)「僕も! この恩は一生忘れないよ!」
キョン「おう! 2人とも元気でな!」
パシュウウウウウウウウウウ・・・・・・ンン・・・・・・
キョン「消えた……」
古泉「長門さん、どうですか?」
長門「……無事に帰還した」
みくる「よかった……よかったです……」
古泉「安心するのは早いです。むしろ大変なのはここからですよ」
古泉「もしもあの2人が何か失敗したら、また世界崩壊の危機に陥る可能性もあります」
キョン「その時はまた俺たちが世界を消しに、なんて可能性もあるわけか」
古泉「ええ」
古泉「それに……逆の可能性もあります」
キョン「逆?」
古泉「僕たちの世界だって、今は安定してますが涼宮さん次第でいつ危機に陥ってもおかしくありません」
古泉「その時は、あちらの世界の住人に僕らの世界が消される、なんて事になる可能性もあるのです」
キョン「そうか……そうならないように俺たちも頑張らないとな」
キョン「ん? お、おお!」
みくる「どうかしたんですか?」
キョン「身体が動く! 治った! 治ったぁ!」
古泉「彼らが帰還した途端にですか。やはり何らかの影響を受けていたのですかね」
キョン「ん? ということは!」ダッ
みくる「キョンくん、どこに行くんですかぁ!」
佐々木「あれ? ここは……?」キョロキョロ
キョン「やっぱり。目を覚ましてたか」
佐々木「キョン? え? ここって……」
キョン「そりゃ混乱するだろうな」
佐々木「確か僕は……僕の頭の中に、僕じゃない僕の声が響いてきて……頭がボーッとしてきて……」
佐々木「それから…………そこからよく覚えていない。どうしていたんだっけ?」
キョン「全部話すよ。話すが……どこから話せばいいのやら」
佐々木「キョン、何か凄く晴れやかな顔をしてるね」
キョン「ああ。世界を滅ぼしたという重圧から、やっと解放されたからな」
佐々木「……世界を?」
キョン(…………頑張れよ。俺も負けないように頑張るからよ)
キョン「……ん? ここ……は……?」
朝倉「あたしの負け。よかったね、延命できて」
キョン(ん? 朝倉……? げ! この場面は……)
朝倉「いつかまたあたしみたいな急進派が来るかもしれない。それか長門さんの操り主が意見を変えるかもしれない」
キョン(俺が……朝倉に襲われた時の…………長門と朝倉が戦った直後の……)
朝倉「それまで涼宮さんとお幸せに。じゃあね」
シュウウウウウウウウウウウ・・・
キョン「…………はぁ、参ったな。振り出しに戻るってこういうことかよ」
キョン「どうせ戻るんだったら、もっと以前に……涼宮に話しかける前に戻ってくれれば……」
キョン「そうすれば、涼宮たちと一切関わることなく、高校生活を送れていたんだがな」
キョン「まぁ、そんな愚痴を言っていてもしょうがない。今は……」
長門「……修復完了」ムクッ
キョン「長門…………お前、ひょっとして記憶が残っているのか?」
長門「……残っている」
キョン「そうか……記憶が残っているってことは……当然覚えてるってことか……」
長門「……」
キョン「化け物……俺はお前のことをそう呼んだな」
長門「……」
キョン「……」
長門「……」
キョン「……すまなかった」
長門「……」ピクッ
キョン「お前のことを化け物だなんて言って、本当にすまなかった」
長門「……」
キョン「俺はお前のことをただ恐れるばかりで……罵るだけ罵って、その場から逃げてしまった……」
キョン「本当に……悪かった……」
長門「……いい」
キョン「それから……ろくに礼も言ってなかったな。ありがとう、命を助けてくれて。お前は恩人だ」
長門「気にしなくていい。これがわたしの役目だから」
キョン「はは、そうか」
谷口「うぃーす。WAWAWA忘れもn」
キョン「ほら、忘れ物はこれだろ? さっさと出てった出てった」
谷口「え? ちょちょ待」 ピシャッ
キョン「さてと。ん? 長門、帰るのか?」
長門「当面の危機は去った。しばらくは安全」
キョン「そうか、本当にありがとな」
長門「……」ピシャ
キョン「さて、これからどうするか。うーむ……」
キョン「あらかじめ考えていた案と今考えた案、とりあえず候補は……」
①涼宮たちとは距離を置いて、佐々木との時間を選ぶ。前回は失敗したが、今回こそ!
「うまくやれればいいが、どうしても前回の二の舞になりそうな気がするな……」
②SOS団で活動していく。同時に涼宮にはないしょで佐々木とも付き合う
「うまく両立できればいいが、涼宮にバレた時が怖い。その時点でジ・エンドの可能性も……」
③涼宮に佐々木との関係を正直に打ち明ける。
説得して納得してもらった上で、SOS団の活動と佐々木との付き合いを両立していく
「難易度高ぇ。あの超絶自己中の涼宮を納得させられるのか? できなければその時点で終わりだ」
④佐々木との関係は諦めて距離をとり、世界のためにもSOS団の活動に打ち込む
「論外だ馬鹿野郎。俺は絶対に佐々木を守るって決めたんだ」
「……だが、こういう選択肢を選ばざるを得ない事態になることもありえるんだよな……」
⑤高校の3年間だけ佐々木と距離をとり、SOS団の活動に集中する
北高を卒業し、SOS団から解放されてから、堂々と佐々木と付き合う
「SOS団の活動が高校時代だけで終わるとは限らない。大学、下手すればその後もずっと……」
「その間、ずっと佐々木を待たせるわけにはいかない」
⑥もう何もかも放り投げて、夕日に向かってダァッシュ!
「……落ち着け、俺」
キョン「他にもあるだろうが、とりあえずはこんなものか」
キョン「それにしても……振り出しから、か」
キョン「世界は復活したが…………この1年間の出来事は全部なかったことになっちまったんだな」
キョン「クラスでいっぱい友達作ったことも……一緒に馬鹿騒ぎしたことも……」
キョン「全部……なかったことに…………リセットされてしまったんだな……」
キョン「この1年で俺がやってきたことは……全部無駄骨だったのか……?」
キョン「……いや、全てがなかったことになったわけじゃない」
キョン「佐々木……佐々木と勉強したこと、佐々木を好きになって恋人同士になったこと……」
キョン「佐々木とのことはリセットされていない。俺のこの1年は無駄骨なんかじゃない!」
キョン「本来ならもう終わりのところを、もう1度やり直すチャンスが与えられたんだ」
キョン「このチャンス、大事にしないとな。佐々木と一緒に、俺は……」
キョン「佐々木…………佐々木!? 何やってるんだ俺は!? 佐々木に電話しないと!」ピッ
佐々木『もしもし?』
キョン「佐々木! すまん遅れて。そっちの様子はどうだ?」
佐々木『……キョン? 急にどうしたんだい? 随分と久しぶりだね』
キョン「……………………え?」
キョン「佐々木…………お前……まさか……記憶が…………?」
佐々木『なんちゃってね。冗談だよ』
キョン「…………さらばだ佐々木。もう会うことはないだろう」
佐々木『わぁわぁ!? ごめん! ごめんってば!』
キョン「お前な! 心臓が止まるかと思っただろうが!」
佐々木『ふんだ。すぐ電話してくると思ったのに、いつまでたっても来なかったからさ……』
キョン「あ、す、すまん。ちょっと考え事をしててな」
佐々木『ふむ。それで、これからどうするか決まったのかい?』
キョン「うーん、候補はいくつかあるんだけどな」
佐々木『キョン、僕から1つ提案があるのだが……』
キョン「涼宮の能力をお前に移す、という案なら却下だからな」
佐々木『む、そうかい。世界のためなら悪くない案だと思うのだが』
キョン「前にも言っただろう。自覚したまま能力なんか持ったら、絶対に狂うって」
キョン「俺にとって、お前は何より大切で守りたい存在なんだ。だから却下」
佐々木『キョン……分かったよ。もうこの話はしない』
佐々木『でも、だとしたらどうするんだい?』
キョン「そうだな…………よし、決めた」
佐々木「早いね」
キョン「散々候補とか出したけど、本当はもう心に決めてたんだ」
佐々木『それで……?』
キョン「俺は…………――――――――」
佐々木『……そうか。そういうことなら、僕も君に従おう』
キョン「正直、かなり不安だけどな」
佐々木『大丈夫、君ならやれる。僕もついてるからさ』
キョン「そうだな、よし! いっちょやってやるか!」
佐々木『頑張ろうね、キョン……………………大好きだよ』
キョン「ああ、俺もだ」
キョン「さて…………高校生活をやり直すとするか!」
~3年後 北高 卒業式~
クラスメイト1「おーい、キョーン」
クラスメイト2「ここにいたかー」
キョン「おう、何だ?」
クラスメイト1「卒アルの寄せ書き、お前も何か書いてくれよ。お前のにも書くからさ」
キョン「ああ、いいぞ。えーと……」
クラスメイト3「あ、キョンくん、あたしのにもー」
キョン「ちょっと待っててくれー」
クラスメイト2「ほいよキョン。お前の書けたぜ。というかお前、すげぇビッシリ書かれてるな」
キョン「はぁ、みんな最後まで俺のことは『キョン』と書くんだな。1人くらい本名を書いてくれよ」
クラスメイト1「はっはっは、お前に本名なんてあったっけ?」
キョン「ちくしょう」
キョン(それにしても……卒業、か。あっという間だったな)
キョン(この3年間……いや、俺にとっては4年間か。いろいろあったな)
佐々木「やぁキョン、卒業おめでとう」
キョン「おう、来てくれたか。お前のところは卒業式来週だっけ?」
佐々木「うん、その時は……」
キョン「もちろん行くさ。お前の晴れ姿、拝ませてもらうからよ」
佐々木「それにしても……ふふ」
キョン「何だ?」
佐々木「実に……実に充実してたなって思ってね」
キョン「ああ、そうだな」
佐々木「3年前……君が下した決断は決して間違ってなかった」
キョン「最初は不安でたまらなかったが…………お前もいてくれたからな」
佐々木「僕は君を信じていただけさ。おや、後ろを見てごらん」
キョン「ん?」クルッ
ハルヒ「あー! こんなところにいた! 探したわよ馬鹿キョン!」
キョン「おう、ハルヒ」
ハルヒ「おうハルヒじゃないわよ! SOS団で記念撮影しようと思ったのに、どこにもいないんだから!」
佐々木「ごめん涼宮さん、ちょっとキョンをお借りしてたよ」
ハルヒ「あら、さっちゃんじゃない! 来てたのね!」
佐々木「さっちゃんはやめてほしいとあれほど……」
キョン「はははは。おっ」
古泉「どうも」
長門「……」
キョン「よう長門。古泉も……ってお前、ブレザーとネクタイはどうした?」
古泉「ははは、後輩の女子に持っていかれてしまいました」
みくる「キョンくん、卒業おめでとうございます」
キョン「朝比奈さん。わざわざ未来から来てくれたんですか?」
みくる「うん。どうしてもってお願いして。特別に許可が出ました」
キョン「そうですか。久々にSOS団全員が揃って、ハルヒも喜んだでしょう」
ハルヒ「あら、さっちゃん、そのデジカメ」
佐々木「うん、バイトしたお金で新しいのを買ったんだ」
ハルヒ「いいわね! それで記念撮影しましょう! みんな行くわよ!」
佐々木「おっとっと。引っ張らないで涼宮さん」
みくる「あ、待ってくださ~い」
長門「……」
古泉「ふふ、相変わらず仲がいいですね、あの2人」
キョン「ああ、本当によかった。佐々木とSOS団、両方をとる選択をして」
古泉「いろいろありましたね。SOS団に入った当初はこのような卒業式を迎えるとは思ってませんでしたよ」
キョン「俺もここまでうまくいくとは思ってなかった」
古泉「それにしても…………ふふっ」
キョン「何だよ?」
古泉「いえ、あなたのビビリ癖、結局最後まで治りませんでしたね」
キョン「う……」
古泉「巨大カマドウマを見て、泣きながら朝比奈さんにしがみついたり」
キョン「うぐ……」
古泉「孤島の殺人事件の時は『殺人鬼と同じ屋敷にいられるか! 俺は帰る!』と叫び……」
古泉「嵐が吹き荒れる外に飛び出し、挙句の果てに海に転落したり」
キョン「何で生きてたんだろうな、俺……」
古泉「映画撮影の時、次々と超常現象を起こす涼宮さんに対し、恐怖のあまり何故かビンタをかましたり」
キョン「あの時は確実に世界が終わったと思った……」
古泉「しかし、そのビンタで涼宮さんが今までの横暴を反省しましたからね。奇跡ですよ」
古泉「あとは他にも……」
キョン「もういい! もういいから! 思い出させるな!」
古泉「いやはや、3年間も非日常の中にいたのですから、少しは慣れてもいいのでは?」
キョン「どうも俺は、非日常を楽しむということができない性質らしい。というか普通に怖いだろあれは!」
古泉「ははは。でも最後までSOS団は辞めませんでしたね」
古泉「…………最後まで、涼宮さんと共にいてくれましたね」
キョン「まあ……な」
古泉「どうしてです? 佐々木さんという恋人もいたのに」
古泉「愛しい人と平和な日常を送る。そういう選択肢もあったはずですが」
古泉「やはり、自分がSOS団にいないと世界が……ということですか?」
キョン「それもある。あるが……やっぱり……」
キョン「お前らのことが少しは分かるようになって……まともに見れるようになって……」
キョン「少しずつだが……お前らやSOS団のことが……好きになれたからだと思う」
古泉「ふむ……どうやら我々の知らないところで、あなたには何かあったようですね」
古泉「それが何なのかは…………聞かないでおくことにしましょう」
キョン「いつか落ち着いて話せる時が来たら、その時に話してやるよ」
古泉「ふふ、楽しみにしていましょう」
みくる「はい、2人とも笑って笑って~、はいチーズ」
ハルヒ「イェ~イ!」
佐々木「ピース」
キョン(それにしても……本当に苦労したなぁ……何せもっとも難易度高い選択だったからな)
キョン(案の定、最初はハルヒも納得しなかったな。思えばよくもまぁ世界が崩壊しなかったもんだ)
キョン(けど……『あいつら』や佐々木が言った通りだった。人間は変われると……)
キョン(俺は必死にハルヒに訴えた。本気で佐々木が好きなこと。そして同じくらいSOS団が大切だと)
キョン(俺だけじゃなく、佐々木や他のSOS団のみんなも説得してくれた)
キョン(古泉たちにとっては、俺が佐々木と付き合うことは都合が悪いことだったろうに……)
キョン(おかげで……最初は怒鳴り散らすだけで耳も貸そうとしなかったハルヒが……)
キョン(渋々佐々木とSOS団の両立を認めてくれた…………そう、最初は渋々だったんだよな)
キョン(両立は認めたが、決して納得はしていなかった。閉鎖空間も随分と発生していたらしい)
キョン(古泉には悪いことをしたな。いや、古泉だけじゃなく朝比奈さんや長門にも……)
キョン(そんな頑なだったハルヒが変わり始めたのは、佐々木がSOS団に関わるようになってからだ)
キョン(佐々木は……ハルヒと友人になろうとした。どうも、何か感じるものがあったようだ)
キョン(最初は異常なまでに毛嫌いしてたなハルヒ。どうなる事かとハラハラしてたが……)
キョン(どういうことか、思わず拍子抜けするくらい、あっという間に意気投合しやがった)
キョン(学校は別だったからさすがに正団員にはならなかったが、ほぼ準団員だったな佐々木)
キョン(佐々木と仲良くなるにつれて、だんだんハルヒの精神も安定していった)
キョン(強引なところは相変わらずだったが、周りのことも考えることができるようになっていった)
キョン(そして……あのハルヒの口から、俺と佐々木の交際を認める発言が飛び出した)
キョン(古泉曰く、『吹っ切った』らしい。それだけ人間的に成長したとのことだ)
キョン(最難関を無事に乗り越えた瞬間だった。そして……)
ハルヒ「ちょっとそこの2人! さっさとこっちに来なさい!」
古泉「おっと、お呼びですね。行きましょう」
キョン「ああ。あいつのあの怒鳴り声も、もう聞けなくなるのかね」
古泉「……SOS団も解散ですね。あなたと佐々木さんは同じ大学ですが、他はバラバラになった」
古泉「ですが、涼宮さんのことです。いつかまた、SOS団を再結成するかもしれません」
古泉「その時はまた…………あなたも来てくれますか?」
キョン「やだ」
キョン「冗談じゃないっての。もうあんな怖い思いをするのはこりごりだ!」
古泉「ふふ、心配しなくても、涼宮さんの能力はだいぶ弱まっています」
古泉「完全にとは言えませんが、周囲に悪影響を及ぼすことはもうないと思いますよ」
キョン「そうなのか? それなら……」
佐々木「キョン、いつまでも2人だけで話してないで。ほらこっちこっち」
キョン「わっとっと、分かった分かった」
ハルヒ「古泉くんも。あそこの桜が咲いてる辺りがベストポジションよ!」
古泉「ほう、あれは綺麗ですね」
ハルヒ「記念撮影が終わったら、SOS団のタイムカプセルを埋めに行くわよ。校庭のど真ん中に!」
キョン「またお前はそういう……」
佐々木「くっくっ、最後まで楽しそうだね」
佐々木「ねえキョン、僕は満足してるよ。君という恋人だけでなく、こんなにも愉快な友人がたくさんできたことに」
キョン「ああ、そうだな」
キョン(俺は……無事に満足いく結末を迎えられたよ。『お前ら』はどんな結末を迎えたんだろうな?)
佐々木「実に充実した卒業式だったね」
キョン「ああ。卒業旅行も楽しみだ」
佐々木「涼宮さんからは『せいぜい大学でおもいきりイチャイチャしなさい!』って言われたよ」
キョン「あいつは…………それにしても、4月からは大学生か……」
キョン「やっと非日常から解放されたからな。大学生活をおもいきり楽しむぞ!」
佐々木「…………ねえキョン」
キョン「ん? 何だ?」
佐々木「あの……こんな僕だけど…………これからもずっと一緒にいてくれる?」
キョン「当たり前じゃないか。何でそんなことを聞くんだ?」
佐々木「……うん、ちょっと聞いてみたくなっただけ」
キョン「何だそりゃ」
佐々木「キョン、これからもずっとよろしくね」
キョン「ああ佐々木。もちろん、ずっと一緒だ」
~おしまい~
予想以上に時間がかかったけど、何とか無事に投下完了
本当は続編なんて書くつもりはなかったけど、ふと書きたくなった
蛇足かもとか今さらとか思ったけど、書きたくなったんだからしょうがない
支援、保守してくれた人
最後まで読んでくれた人
本当にありがとう
では
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