~立てこもり現場にて~
純一「うぐっ!?」
新人「た、橘主任!!」
純一「ぐっ……ぼ、僕は大丈夫、人質は?」
新人「だ、大丈夫って撃たれてんスよ!!」
純一「どうなったって聞いてるんだ!」
新人「……ひっ!?」
係長「おい、早く救急車を呼べ!」
新人「は、はいっ!」
純一「く、くそ……」
係長「落ち着けぇ。マル対は無事に保護、マル被は確保だ」
新人「か、係長……」
純一「そ、そっか……良かっ……(あ、あれ意識が……)」
純一(ぼ、僕はここで死ぬのか……はるかを、残して……)
純一(い、や……だ……まだ……)
~橘家にて~
はるか(もう、ダーリンったら遅いなぁ……)
はるか(今日の晩御飯はせっかく上手に出来たのに……)
はるか(『美味しい』って言ってくれるかしら?)
はるか(晩ご飯のあとは私も……なあんて♪)
はるか(んふふっ、楽しみだなぁ)
ジリリーン ジリリーン
はるか(あ、電話だ。ダーリンからかしら?)
ジリリーン ジリリーン
はるか「はい、橘です」
はるか「あっ、いつもお世話に……えっ? う、撃たれた!?」
はるか「…………あっ、は、はい、大丈夫、です」
はるか「そ、それで……主人は大丈夫なんですか」
はるか「はい、はい……」
はるか「輝日東総合病院ですね、わかりました! すぐ行きます!」ガチャッ
はるか(や、やだ……)
はるか(は、早く病院に……)
はるか(う、撃たれたって、どうして……)
はるか(お願い、死なないで!)
はるか(ダーリン、すぐ行くから!)
~輝日東総合病院にて~
係長「あぁ、奥さん。わざわざすいませんねぇ」
はるか「主人は無事なんですか!」
係長「大丈夫ですよ。詳しい話は後にしますが……」
はるか「は、はい……」
係長「撃たれたっていっても、弾がちょぃと腕を掠めただけでね」ボリボリ
はるか「そ、それで?」
係長「あぁ、さっき治療……まぁ、簡単な手術も終わって、今は病室で休んでますよ」
はるか「そ、そうですか……」
係長「ただねぇ……」
はるか「え?」ビクッ
係長「まぁ、ちょぃとばかり出血が多かったのと、撃たれたショックがあるんで……」
はるか「はい……」
係長「病院の先生が言うには、傷の様子を見ながら、一週間程は入院することになりそうですな」
はるか「い、一週間……」
係長「具合が良ければ自宅療養に切り替えて、通院って話だそうです」
はるか「い、今、主人に会えるんでしょうか?」
係長「あー麻酔で寝てるようですけど……一緒に先生のところにいきますか?」
はるか「は、はい、お願いします!」
~病室にて~
係長「それじゃぁ、私は事件の処理がありますんで、ここいらで失礼しますよ」
はるか「は、はい。ありがとうございました」
係長「あぁ、そうそう。明日になったらウチのモンを寄越しますんで、よろしくお願いします」
はるか「はい」
はるか「純一君……」
はるか「無事で良かった……」
はるか「人質を助けようとして……」
はるか「無茶ばっかり……」
はるか「ううん、それがあなたのいい所なのはわかってる……」
はるか「でもね、私のこと……一人ぼっちにする気なの?」
はるか「『おじいちゃんとおばあちゃんになっても一緒』って約束したじゃない……」グスッ
はるか「バカ……」
はるか「良かった……無事で……」
~入院1日目 早朝 病室にて~
純一「ぅ……あ、あれ……うっ!」
はるか「純一君! 良かった! 気がついたのね!」
純一「あれ……はるか? どうして?」
はるか「どうしてじゃないでしょ! 人質を助けるために撃たれたって……」
純一「そ、そうだ!?」ガバッ
はるか「ダメよ、動いちゃ!」
純一「あぐっ…… う、腕が……」
はるか「今、看護婦さんを呼んでくるから……絶対に動いちゃダメよ!」
純一「わ、わかったよ……」
はるか「約束してね!」ガチャッ
…………
純一(そうか……僕は……)
純一(マル被に撃たれて……係長が人質は無事だって……)
純一(それで、現場で意識を失って……)
純一(…………)
純一(あの子……大丈夫だったかな?)
純一(……ここは)
純一(……ここは、病院なのかな?)
純一(右腕がうずく……)
純一(…………)
純一(はるか……泣いてたのか……)
純一(……ダメだな、僕は)
純一(はるかを悲しませないって約束したのに……)
純一(…………)
~入院1日目 朝 病室にて~
はるか「ダメ! 絶対安静って先生に言われたでしょ?」
純一「そ、そうだけど、食事ぐらい……」
はるか「左手じゃ食べずらいでしょ? 何のために私がいると思ってるの?」
純一「……う、うん」
はるか「はい、あーんして?」
純一「……あ~ん」
美也「にぃに!」ガチャッ
純一「うわっ!?」
はるか「美也ちゃん! 来てくれたのね」
純一「み、美也……どうして?」
美也「ねぇねから電話で……にぃにが仕事中に怪我をしたって!」
純一「お、お前、仕事は?」
美也「そんなの休んだに決まってるでしょ!」
はるか「うんうん」
純一「や、休んだって……お前」
美也「それで、怪我はどうなの?」
はるか「うん……しばらく入院しなきゃいけないけど、命に別状はないって」
美也「そっかぁ……良かったぁ……」
純一「大袈裟だよ」
はるか「大袈裟じゃないでしょ! 純一君、撃たれたのよ!」
美也「ええっ?! にぃに撃たれたの?」
はるか「そうよ。人質を助けようとして犯人に撃たれたの。いわば名誉の負傷ね」
美也「そっかぁ……凄いね!」
純一「だ、だから……大袈裟だって」
美也「それで! 犯人と人質は?」
はるか「犯人は逮捕。人質の女の子は無事だって」
美也「そっかぁ……良かったぁ」
純一「どうして、はるかが説明してるんだ……」
美也「ねぇ、にぃに! 撃たれたのってどんな感じ?」
はるか「そうよ、どんな感じだったの?」
純一「そうだなぁ……撃たれた場所が痛いっていうより、まず熱くて……」
美也&はるか「うんうん、それで?」
純一「それから急に激しい痛みが……って、何の話だよ?」
美也「もぉ~ 命に別状はないんでしょ?」
純一「そ、そうだけど……」
はるか「まぁまぁ、美也ちゃん。その話はもう少し良くなってからにしましょ?」
純一「……さっきまで、一緒になって聞いてたじゃないか」
はるか「そ、それは…… 撃たれた経験なんて、滅多に聞けるもんじゃないから」
美也「そうよ! ねぇねの言うとおり!」
純一「うぐっ……(二人が揃うと手がつけられない……)」
美也「さぁて、にぃにが無事ってわかったし、私帰るね♪」
純一「も、もう帰るのか?」
美也「だって、ねぇねたちの邪魔しちゃ悪いし…… あ~んって♪」
はるか「もぅ、美也ちゃんたら///」
純一「こ、こいつは……」
美也「にししし。せっかくなんだから、ねぇねにいーっぱい、甘えればいいよ♪」
はるか「そうよね、せっかくなんだし♪」
純一「ふんっ、美也に言われなくてもそうさせてもらうよ」
美也「まったくにぃにとねぇねはしょうがないなぁ……」
純一「お前が言ったんじゃないか!」
美也「ま、いいや♪ じゃ、また来るから。ばいばーい!」
はるか「ばいばーい。またね、美也ちゃん♪」
純一「あ、嵐かあいつは……」
はるか「……ほら? さっきの続き……あ~ん♪」
純一「あ、あ~ん」
~入院1日目 お昼 病室にて~
コンコンコン
純一「ど、どうぞ……」
塚原「あぁ……やっぱり橘君か」
純一「ひ、ひびきさん!」
はるか「わお。ひびきちゃん、来てくれたのね! ……って、あれ?」
純一「どうしたの?」
はるか「うん……私、ひびきちゃんには連絡してなかったはずなのに、どうして?」
塚原「昨日、緊急患者が担ぎこまれて、それが君と同じ名前だったのを、今朝引継ぎで見てね」
純一「そ、そういえば、ここの病院のお勤めだったんですよね」
はるか「……ダーリンが怪我をしたって聞いて、病院に飛んで来たからすっかり忘れてたわ」
塚原「……まぁ、それで時間が空いたから顔を出したって訳」
純一「そうだったんですか、わざわざありがとうございます」
はるか「じゃあ、ひびきちゃんがダーリンの担当をしてくれるの?」
塚原「あのね、私はまだ見習いみたいものだから、担当も何もないよ」
はるか「え~ひびきちゃん、つめた~い」
純一「ひびきさんは、ご実家の病院を継がれないんですか?」
塚原「ああ、将来的にはそのつもりだよ」
純一「ふむふむ」
塚原「ただ、今は色んな経験を積まないといけないから、ここで勉強させてもらってるってことね」
はるか「へ~そうだったんだ」
塚原「『へ~』って、はるかにはこの話、したことあるはずだけど?」
はるか「う~ん、そうだったかしら?」
純一「も~しょうがないなぁ、はるかは」デレデレ
塚原「はぁ…… また時間があったら顔を出すと思うけど……」
はるか「うん♪」
塚原「病院はそういうことをする場所じゃないから」
はるか「『そういうこと』って?」
塚原「そうやって、人目と場所を考えずに、イチャイチャとくっつくのをやめなさい、って言ってるの」
純一「ははは……」
はるか「私たち、いつでもこんな感じよ? ねっ?」チュッ
純一「そ、そうだね」チュッ
塚原「はぁ……ここは病院なんだから、せめて人目のないときにして///」
はるか「も~ひびきちゃんの意地悪ぅ~」
塚原「はいはい、ご馳走さま。お大事にね」ツカツカ
~入院1日目 夕方 病室にて~
新人「失礼しまーす」
純一「やぁ、来てくれたのか」
新人「ちょ、ちょっと主任! 誰っスかこの超絶美人は!!」
はるか「橘の妻のはるかです。主人がいつもお世話になってます」
純一「うん、ウチのはるか。君は初めてだっけ?」
新人「いや~話には聞いてましたけど……まさかここまでとは……」
はるか「まぁ……お上手なんですね」
新人「いや~ だって創設祭で至上初の三年連続のミスサンタって……高校の時は伝説だったんっスよ!」
はるか「わお。あなた、輝日東高校なの?」
純一「うん、僕たちの後輩だよ。しかし、そんなことになってるのか?」
新人「そうですよ~ 今までもこれからも決して破られることがない、まさに伝説の人です!」
はるか「もー照れちゃうわ~ ダーリン♪」
新人「へ?」
純一「あぁ、これがいつものはるかだから。さっきのは猫を被ってただけ」クスクス
はるか「意地悪、言・わ・な・い・で♪」
新人「超絶美人の上に主任にゾッコンじゃないっスか! くぅ~羨ましい」バタバタ
純一「……お前、何しに来たんだ」
新人「あ!? この書類を届けろって係長からです」
はるか「はい、ダーリン」
純一「あぁ、ありがとう」
新人「ホント、物凄く仲イイですよね……どうやって捕まえたんですか? 後学の為に是非!」
純一「どうやってって……なぁ?」
はるか「うん、この人に逮捕されちゃったから……もう逃げられないの」
新人「うはっ!! 逮捕!! えっと……俺、その窓から飛び降りていいっスか?」
純一「いつまでも馬鹿なこと言ってないで、あれからからどうなったのか教えてくれ」
新人「あ、はい……」
はるか「席、外した方がいい?」
純一「まぁ、はるかにもあとで話すことだし…… 大丈夫だよな?」
新人「そっスね、問題ないと思います」
はるか「うん。それじゃ、遠慮なく」
新人「えっと……マル被ですが、もう書類送検済みです」
純一「うん、調書は誰が巻いてくれたの?」
新人「あぁ、それは班長が。係長は主任の怪我の処理で手が離せなかったんで」
純一「そっか、あとで二人にお礼を言っとかないと」
新人「そうっスね。それと人質になった女の子の親御さんから、どうしても主任にお礼を言いたいと」
純一「お礼? う~ん、別にいいのに」
新人「いや、どっちかっていうと親御さんより、女の子が主任に会いたがってるみたいで」
はるか「女の子って?」
新人「あぁ、人質になってた4歳の女の子です。課長からは主任の状態が問題ないならお受けするようにと」
はるか「ふ~ん」
純一「僕は別に構わないよ」
新人「了解です。課長に報告しときます」
純一「えっと、他には?」
新人「あと、さっきの書類っスけど……」
純一「あぁ、なんだい?」
新人「傷病関係の届出の書類だそうです。それから病院から診断書を取ってくれ、って係長が」
純一「そうか、わかった」
新人「はい、書類は係長があとで取りにくるそうです」
純一「うん、バタバタしてるのに悪かったね、ありがとう」
新人「いいんスよ、あとオヤジから「ゆっくり休んで体を治してから復帰するように」だそうです」
純一「うん、明日僕からも電話をするけど、「了解しました」と伝えておいてくれ」
新人「了解っス」
純一「……オヤジ、怒ってなかったか?」
新人「えっと『怪我は問題だけど、強盗犯検挙と人質の無事救出で部長賞もんだ』って、超ご機嫌でしたよ」
純一「そっか、オヤジが怒ってないなら良かったよ」
新人「じゃぁ、俺はこれで失礼しますね。早く復帰してくださいよ、班長が『仕事が増えた』って機嫌悪くて」
純一「それも、僕から連絡入れとくよ」
新人「頼んます」ニカッ
…………
はるか「はぁ……」
純一「どうしたの?」
はるか「……お仕事してる時の純一君、すっごく素敵だったわ♪」
純一「そ、そうかな?」
はるか「ええ! もう素敵過ぎてキュンキュンってなっちゃった///」
純一「そっか……///」
はるか「あんなに素敵な純一君を、普段見られないなんて残念だわ」
純一「はるかにそう言ってもらえると、僕も嬉しいよ」チュッ
はるか「もぅ……ダメよ、怪我してるんだから」チュッ
純一「だって……」チュッ
はるか「あん……誰か来ちゃう、から……今度ね」チュッ
純一「んっ……」チュッ
はるか「もぅ……そういうところだけ、ワンちゃんみたいなんだから」チュッ
純一「そ、そうかな?」
はるか「絶対安静なんだし。それに、ひびきちゃんに怒られたばっかりでしょ?」
純一「そ、そうだね」
はるか「だ・か・ら、お預け、ね?」
純一「わ、わかった……」
はるか「私、一度お家に帰って、お片づけと荷物の整理してくるから」
純一「うん」
はるか「また、明日来るけどそれまで大人しくしててね?」
純一「わかってるよ。気をつけて」チュッ
はるか「ありがと、純一君♪」チュッ
~入院2日目 朝 病室にて~
純一「はるかは……流石にまだ来ないか」
純一「確かに右腕は痛むけど、それ以外は平気だからなぁ」
純一「……暇だ」
梅原「よぉ、大将!」
純一「う、梅原! 来てくれたのか」
梅原「何だ何だ、思ったより元気そうじゃないか?」
香苗「おはよ、橘君」
純一「あ、香苗さんも来てくれたんだ?」
香苗「うん、仕入れの帰りだったから、一緒にね」
純一「あれ、子供も連れてきたの?」
梅原「おう、家の大事な跡継ぎだからな」
純一「大事な……って、まだ2歳じゃなかったっけ?」
香苗「こんな小さい子を、市場に連れて行っても無駄じゃない?って言ってるんだけどね~」
梅原「いや~俺も子供の頃はオヤジに連れられて、良く市場に行ってたもんだぜ?」
純一「へえ~梅原もそうだったのか?」
梅原「おう。意外と憶えてるもんだからな、小さい時のことってさ」
純一「まあ、お前がそう言うんだから、そうなんだろうな」
梅原「それにしても、美也ちゃんから、大将が撃たれた、って聞いた時は驚いたぜ?」
香苗「ホント。まぁ『大したことない』とは聞いてたから、安心はしてたけど」
純一「美也のやつ、本当におしゃべりだな……」
梅原「まぁまぁ、それでも可愛いところもあるんだから。なぁ、いつだったっけ、あれ?」
香苗「あれ? あぁ、この前、お友達とお店に来た時でしょ?」
純一「あれ?」
梅原「そうそう! いやな、美也ちゃんが友達を連れてウチの店に来てくれたんだけどさ……」
純一「うん」
梅原「来たのが美也ちゃんも含めて、女三人だったもんだから……」
梅原「香苗が『彼氏はいないのか?』って聞いたんだよ」
純一「へぇ、それで美也のやつ何て?」
香苗「うん、そしたらね『お兄ちゃんぐらいカッコいい人がいたら考える』って。ね?」クスクス
梅原「そうそう。未だにお兄ちゃん思いって、泣かせる話じゃねぇか」クックックッ
純一「美也がそんなことを……そういえば、病院に来てくれたのも、はるかの次に美也だったな……」
香苗「やっぱり?」クスクス
梅原「おぉ、そういえば森島先輩……じゃなくて、はるかさんは来てないのか?」
純一「うん、荷物を取りに家に帰ってるけど、午前中には顔を出すんじゃないかな?」
梅原「そっかぁ……久しぶりに顔を拝めると思ったんだけど……残念だぜ」
香苗「……あなた、まだそんなこと言ってるの?」
梅原「い、痛っ!? た、大将がいるんだから、やめてくれよ」
純一「あはは、完全に香苗さんの尻にしかれてるな、梅原は」
香苗「まったく、そろそろ戻らないとお昼の準備に間に合わなくなるよ」
梅原「おう、そうだな。 ……悪いけど、先に車に行っててくれるか?」
香苗「はいはい。それじゃ橘君、お大事にね」
純一「ありがとう、香苗さん」
梅原「…………よし、行ったか」
純一「どうしたんだ、梅原?」
梅原「いやな、大将も入院してるだけじゃ、暇だろうと思って……これを、な」
純一「こ、これは……『ホワイトエンジェル』と『浜辺の妖精たち』じゃないか!?」
梅原「ふふん、香苗にバレないよう、こっそり持ってくるのに苦労したんだぜ」
純一「本当にいいのか、こんなお宝本を……」
梅原「いいってことよ。俺と大将の仲じゃないか」
純一「梅原……やっぱりお前は心友だな」
梅原「はるかさんに見つからないように、気をつけろよ?」
純一「そ、そうだな」ゴソゴソ
梅原「それじゃ、香苗が待ってるから、そろそろ行くぜ」
純一「梅原、ありがとうな」
梅原「おう、怪我が治ったら、はるかさんと店に来てくれよ。歓迎するぜ」
~入院2日目 昼 病室にて~
はるか「ごめんね、純一君。来るのが遅くなっちゃって」
純一「気にしないで。家のこともあるのに、ありがとう」
はるか「何言ってるの、そんなこと当たり前でしょ?」
純一「そうだね。いつも、はるかがしっかりやってくれてるから、安心して仕事に専念出来るよ」
はるか「もう……ありがと///」チュッ
純一「そういえば、午前中に梅原が来てくれたよ」
はるか「梅原君が?」
純一「うん、香苗さんと子供も一緒にね」
はるか「二人も一緒だったの?」
純一「ああ、何でも店の跡継ぎの英才教育みたいでさ、一緒に市場に連れて行ってるみたいだよ」
はるか「そっか~ 梅原君も頑張ってるんだね」
純一「うん。今度、店に来てくれってさ」
はるか「いいな~ 私も早く純一君との子供が欲しいなぁ?」
純一「まぁ……怪我が治ってからね///」
はるか「うん、そう思ってお家で色々作ってきたの♪」
純一「色々?」
はるか「えぇ、早く怪我が治りますようにって、栄養のあるものをいーっぱい作ってきたから」
純一「病院食は味気ないから助かるよ」
はるか「ちょうどお昼だし、私が食べさせてあげるね」
純一「それじゃあ、お願いしようかな」
はるか「どれが食べたい?」
純一「そうだな……じゃあこの肉じゃがを」
はるか「これね? はい、あ~んして?」
純一「あ~ん」
塚原「はぁ……あの子たちはまったく……」スタスタ
~入院3日目 朝 病室にて~
樹里「……失礼します」
純一「あれ……樹里君? ……どうしたの?」
樹里「はい、お兄さんがお怪我をされたと聞きまして、居ても立ってもいられず、こうして参上しました」
純一「う~ん、僕は君のお兄さんじゃないんだけど?」
樹里「いえ、美也さんのお兄さんなんですから、僕にとっても兄同然ですよ」
純一「君も頑張るというか、しつこいというか……」
樹里「僕は美也さんのお陰で目が覚めたんですから……当然です」
純一「当然ねぇ……」
樹里「はい! 美也さんのあの時の言葉がなければ、僕はまだ世間知らずのお坊ちゃんのままでしたから」
純一「う~ん、何て言ってたんだっけ?」
樹里「はい『いつまで甘えたりいじけてるの! そんなんじゃ一生一人ぼっちだよ!』」
純一(美也がなぁ……)
樹里「『悔しかったら、森島先輩のハートを射止めたお兄ちゃんみたいになりなさい!』」
純一「そっか」
樹里「見事、森島先輩のハートを射止めたお兄さんのようになって、僕も美也さんのハートを射止めてみせます」
純一「……あいつのどこがいいの?」
樹里「何を言っているんですか!? 誰にでも分け隔てなく接する広い心……」
純一(……早く帰ってくれないかな)
樹里「優しいだけなく、時には厳しくも接してくれる思いやりの深さ……」
純一(樹里君も、以前と比べたら素直でいいヤツになったとは思うけど……)
樹里「そして……あの全てを癒してくれる天使のようのな笑顔……」ウットリ
純一(笑顔…… 美也『にししし』)
樹里「あの笑顔の前では……って聞いてますか?」
純一「……え? うん、聞いてるよ」
樹里「とにかく! 美也さんみたいな素晴らしい女性は他にいません! あ、お兄さんの奥さんは別ですよ」
純一「ありがとう。……まぁ、嫌われない程度に頑張って」
樹里「ありがとうございます、お兄さん!!」
純一「だから、お兄さんじゃないって……」
~入院3日目 昼 病室にて~
係長「お邪魔するよ」
純一「あ、係長、お疲れ様です」
はるか「こんにちは、お世話になってます」
係長「あぁ、奥さんも一緒でしたか」
はるか「はい。利き手が使えないと、何かと不便みたいで」
係長「そうですか、そうですか。ウチのかみさんに聞かせてやりたいねぇ」
純一「……えっと、何かありましたか?」
係長「あぁ、人質になった女の子の親御さんが挨拶に来たいって話、聞いてるよな?」
純一「はい」
係長「今日、一緒にみえられてるから。あ、どうぞ」
母親「はい、失礼します……」
幼女「…………」
純一「えっと……こんにちは」
母親「この度は家の娘を助けるために怪我をなさったとかで……本当にありがとうございました」
純一「いえ、当然のことですから……」
幼女「…………」ジィー
母親「ほら、刑事さんにお礼は?」
純一「い、いや、それは……」
幼女「……にーたん、あーとっ」ペコリ
はるか「わお♪ なんてキュートなのかしら♪」ギュッ
係長&母親「え?」
純一「は、はるか……」
はるか「大丈夫? 怪我はなかったの? 怖かったわよね?」ナデナデ
幼女「…………」ニッコリ
はるか「……!?」
係長「え、えーと……」
はるか「純一君、えらいわ! この子を助けるためなら怪我も本望よね!」
母親「え、えっと??」
幼女「……こぇ」スッ
はるか「まぁ!? 折鶴? にーたんのために?」
幼女「…………」コクコク
はるか「わお♪ ありがとう! ほら、ほら純一君!」
純一「あ、ありがとうね」ニコッ
はるか「あなたのために、この子がわざわざ作ってくれたんだから、大事にしないと!」
純一「そ、そうだね、大事にするよ」
幼女「…………」ニッコリ
はるか「あぁ、もうなんてキュートなんでしょ。ね、ね? お家に連れて帰っちゃダメ?」
純一「は、はるか……ダメに決まってるだろ」
はるか「やっぱりそうよねぇ……ざ~んねん」
係長&母親「…………」ポカーン
…………
はるか「はぁ~ もの凄くキュートな女の子だったわぁ」
純一「……うん、あの子が無事で良かったよ」
はるか「……純一君はお仕事、本当に頑張ってるのね」
純一「ど、どうしたんだい、急に」
はるか「あの子と家族の笑顔を純一君が守ったのよ! 凄いじゃない」
純一「まあ、当然のことだよ」
はるか「……ねぇ、私が人質になっても、純一君は助けてくれる?」
純一「も、もちろんだよ!」
はるか「本当に? ねぇねぇ、どんな風に?」
純一「う~ん、そうだなぁ……」
…………
はるか『む、無駄な抵抗はやめなさい!』
犯人『へっへっへっ。随分、威勢のいいねぇちゃんだな』
はるか『こ、こんなことをしたって、逃げられないんだから!』
犯人『うるせぇ! へらず口を叩いたって、誰も助けに来ねぇよ!』
はるか『あの人が、あの人が来てくれるわっ!』
犯人『あの人ぉ? へっへっへっ誰だか知らねぇが、……今は俺とお前しかいないんだぜ?』
はるか『や、やめて!? 触らないで! このケダモノ!!』
犯人『へへへっ、ちょっと大人しくしてりゃぁ、すぐに気持ち良くしてやるぜ?』
はるか『きゃぁ~ た、助けて……助けてダーリン!!』
??『その薄汚い手を離せ!!』
犯人『だ、誰だ!?』
はるか『あ、あぁ……やっぱり、来てくれたのね!』
純一『僕が来たからにはもう安心だよ、はるか』キラーン
…………
はるか「あ~ん、素敵♪」
純一「そ、そうかな?///」
はるか「やっぱり純一君は、私のヒーローよ」チュッ
純一「はるかこそ……君は僕のプリンセスだよ」チュッ
はるか「あ~ぁ~……」
純一「こ、今度はどうしたの?」
はるか「うん、私も頑張って、早く子供が欲しいなぁ……って思っちゃった///」
純一「は、はるか……///」
はるか「ねぇ、今から頑張っちゃおうか?」
純一「え? い、今から??」
はるか「ほら、怪我をしたり命の危機がある時は、子供が出来やすいって言うじゃない?」
純一「た、確かに聞いたことはあるけど……」
はるか「ねぇ……だめ?」
純一「え、えっと……」ゴクリ
はるか「怪我……痛むの?」
純一「だ、大丈夫かも」
はるか「ほんとに……痛く、ない?」ツツ
純一「うっ……くっ……へ、平気」
はるか「声、苦しそうだよ? んっ……」チュッ
純一「こ、これは……うっ」チュッ
はるか「……? これは……?」
純一「……え? あ、そ、それは!?」
はるか「……ふ~ん」
純一(ま、マズい……はるかの顔色が……)
はるか「なぁに、この本?」ニッコリ
純一「そ、それは梅原のやつが……」
はるか「梅原君?」
純一「そ、そう梅原がね……」
はるか「純一君の本じゃないのね?」
純一「…………」コクコク
はるか「じゃぁ、必要ないわよね?」ニコニコ
純一「ま、まだ全部見て……」
はるか「必要ないわよね?」ニコニコ
純一「は、はい……」
~入院3日目 夜 病室にて~
純一(はぁ…… はるかのやつ、かなり怒ってたなぁ……)
純一(さすがに枕の下なんて、ベタな隠し場所がいけなかったのか……)
純一(せっかく梅原が持ってきてくれた、お宝本だったのに……)
純一(……悪いのは僕で、お宝本に罪はないんだ、はるか!)
純一(どうか、無事でいてくれ……)
棚町「やっほー 元気してる?」
純一「か、薫じゃないか!?」
田中「……こんばんは」
純一「た、田中さんも!?」
棚町「梅原君に、純一が入院してるって聞いてね~」
田中「そうそう、久しぶりだし、顔を見に行こうって薫がね」
純一「そっか。来てくれて、ありがとう」
棚町「あれ、はるかさんはいないの?」
純一「は、はるかはちょっと……」
棚町「あれー? もしかしてケンカでもしちゃった?」
純一「ま、まぁ……」
田中「ふーん、あの人でも、怒ることなんてあるんだ?」
棚町「……じゃあ、今ならこーんなことしても大丈夫?」ピタッ
純一「こ、こら、薫。くっつくな」
田中「薫、やめなよ~」
棚町「えへへ~ いいじゃない? 昔はよくこうやってたんだし」
純一「こ、こら……痛っ!?」
棚町「だ、大丈夫?」
田中「ほら~ だから言ったじゃない」
純一「……っ」
棚町「……ご、ごめん、看護婦さん呼んだ方がいいかな?」
純一「だ、大丈夫だよ。急に動くと、まだちょっと痛むだけだから」
田中「も~ 薫はしょうがないんだから」
棚町「うん、ホントにごめんなさい……」シュン
純一「……それより、おめでとう。この前の展覧会、見に行ったよ」
田中「あ、橘君も見に行ったんだ?」
純一「うん、あれだけの中で金賞なんて、凄いじゃないか」
棚町「うん…… しばらく結果が出なくてね……もしかしたら、最後かも?……って思って頑張ったんだ」
純一「何言ってるんだ。薫には才能があるじゃないか。その薫が努力までしたら無敵だよ」
棚町「そ、そうかな?」
田中「そうだよ~ 薫、頑張ってたもんね」
純一「本当に頑張ったんだな。おめでとう、薫」
棚町「……えへへ。てーんきゅ」
~入院4日目 夜 病室にて~
純一(はるか……今日は来てくれなかったな……)
純一(やっぱりお宝本のことで、怒ってるのか……)
純一(…………)
純一(はるかがいながら、僕はお宝本にうつつを抜かして……)
……ガチャッ
はるか「じゅ、純一君?」
純一「は、はるか、来てくれたんだ?」
はるか「うん……今日はごめんなさい」
純一「ぼ、僕のほうこそ……はるかの気持ちも考えないで……お宝本なんて……」
はるか「ううん、純一君も男の人だから、ああいう本に興味があるのはわかるの……」
純一「で、でも、それではるかイヤな思いをするなら、僕はお宝本なんて金輪際……」
はるか「本当……?」
純一「ほ、本当に決まってるじゃないか!(は、はるかのためだ……我慢、我慢!)」
はるか「ありがとう、純一君」
純一「う、うん」
はるか「……あ、あのね?」
純一「ど、どうしたの?」
はるか「う、うん……」プチプチ
純一「え? は、はるか?(と、突然服を……)」
はるか「男の人って……ううん、純一君はこういうのが好きなの?///」
純一「こ、これは……『ホワイトエンジェル』に出ていた、天使の翼レース付きの……」
はるか「ちょ、ちょっと恥ずかしかったけど……買ってきちゃった///」
純一「ぼ、僕のためにわざわざ……」
はるか「ねぇ、どうかな?///」
純一「……も、もっと近くで見せてくれないかな」ゴクッ
はるか「う、うん……これでいい?///」
純一(し、真珠色をした天使の翼レースが、はるかの胸に押し上げられて……)
純一(まるで天使が純白の羽を広げてるようだ……)
はるか「へ、変じゃないかな?///」
純一(そして……はるかが息をするたびに、胸が上下して……)
純一(まるで、天使が羽ばたいてるように見える……)
はるか「じゅ、純一君?」
純一「……はっ!? ご、ごめん……感動のあまり、見とれてしまって」
はるか「そ、そうなんだ……良かった///」
純一「さ、触っても……いいかな?」
はるか「いいよ……純一君が触りたいんだったら///」
純一「よ、よし……」ゴクリ
はるか「……あんっ///」
純一(こ、これは……シルクの滑らかな触り心地に加えて……)
純一(レースに施された刺繍が、程よい抵抗の指ざわりを演出している……)
はるか「んっ……くすぐったい///」
純一(しかも、はるかの肌が羞恥で赤く染まると……)
純一(透けている部分が、まるで桃色の花が咲いたように……まさかここまでの演出が……)プチッ
はるか「……え?」
純一「はるか!」ガバッ
はるか「きゃっ!?」
純一「は、はるか……いいよね?」ハァハァ
はるか「だ、だって純一君、怪我が……」
純一「いいんだ! 今すぐはるかが欲しい!」
はるか「もう……いけないワンちゃんね///」
純一「だ、だめかな?」
はるか「……あのね、凄く寂しかったのよ?」
純一「う、うん……」
はるか「……可愛がってね///」
純一「はるか!」
はるか「あっ……んっ……」
~同時刻 病室前~
塚原(はるかが『ダーリンとケンカしちゃった!』って、泣きながら電話をしてきたから様子を見に来たけど……)
塚原(どこがケンカしてるのよ……)
塚原(これじゃあ、病室に入れないじゃないの///)
塚原(まったく、馬鹿馬鹿しいったら///)
塚原(……仕事に戻りましょ)
塚原(はぁ……)
塚原(私もいい人、探そうかなぁ……)
七咲「せーんぱい」
塚原「!?」ビクッ
七咲「あれ、どうしたんですか?」
塚原「な、七咲? 今日は夜勤?」
七咲「いえ、今日は日勤です。帰ろうかなって思ってたら、塚原先輩がいらしたので」
塚原「こら、病院では『先生』でしょ?」
七咲「そうでした、ごめんなさい」ペコリ
塚原「うん、なるべく気をつけてね。他の人たちの手前もあるし」
七咲「はい。それより……どうかしたんですか?」
塚原「え、な、何が?」
七咲「はい、なんだか顔が赤いですけど?」
塚原「そ、そんなことないよ///」
七咲「そうですか? あれ、そこって橘先輩の病室ですよね?」
塚原「そ、そうね」
七咲「うーん。一言、挨拶してから帰ろうかな」
塚原「な、七咲! 橘君は薬で寝ていたみたいだから、今度にしなさい」
七咲「……それじゃあ仕方ないですね、またにします」
塚原「そ、そうしなさい(ふぅ……)」
長くなりましたがこのSSはこれで終わりです。
ここまで支援、保守をしてくれた方々本当にありがとうごさいま した!
パート化に至らずこのスレで完結できたのは皆さんのおかげです (正直ぎりぎりでした(汗)
今読み返すと、中盤での伏線引きやエロシーンにおける表現等、 これまでの自分の作品の中では一番の出来だったと感じていま す。
皆さんがこのSSを読み何を思い、何を考え、どのような感情に浸 れたのか、それは人それぞれだと思います。 少しでもこのSSを読んで「自分もがんばろう!」という気持ちに なってくれた方がいれば嬉しいです。
長編となりましたが、ここまでお付き合い頂き本当に本当にあり がとうございました。
またいつかスレを立てることがあれば、その時はまたよろしくお 願いします! ではこれにて。
皆さんお疲れ様でした!
七咲「ん~~」ジィー
塚原「ど、どうしたの?」
七咲「いえ……なんでもありません」ニコッ
塚原「……そ、そう」
七咲「それじゃ、塚原先生、お疲れさまでした!」
塚原「はい、お疲れ。気をつけて帰ってね」
七咲「はい、先生もお仕事頑張ってください」
塚原「……つ、疲れるわ」
おわり
ご支援、ご覧いただいた方々ありがとうございました。
>>113
惜しかったですねwww
エロは皆さんの中で補完していただけるとありがたいです。
橘君は、翌日に病院から叩き出されたのでは?
絢辻さんと梨穂子は……出すとかわいそうな事になりそうだったので……ごめんなさい
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