姉「見ないで…」(196)
父「どうしておまえは分からないんだ!?」
母「分かってないのはそっちでしょ!?仕事、仕事、仕事って!」
母「そんなに仕事が大事なの!?」
父「当たり前だろ!!!」
姉「……」
弟「…」
母「!?」
父「仕事しなくちゃ食べていけないんだ!お前だって分かってるだろ!」
母「だからって家族のことをほったらかしにして良いっていうの!?」
父「誰のおかげで生活出来てると思ってるんだ!!!」
弟「姉ちゃん…」
姉「見ちゃダメ」
姉「あっち行こ?」
弟「…」
姉「行きたくないの?」
弟「…」
姉「行こうよ……ね?」
弟「……うん」
父「だいたい、俺が働いてる間、おまえは家でなにしてるんだ!」
父「ちゃんと子供たちの面倒みてるのか!?」
母「見てるに決まってるでしょ!妙な言い掛かりはやめてよね!!!」
母「それに、月に一度子供たちと顔合わすかどうかのあなたに
言われたくない!!!」
父「言わせておけば!!!」
母「なによ、やる気!?」
父さんと母さんは、今日も喧嘩しています。
父さんは仕事が忙しくて、月に一度か二度しか帰ってこないのに
帰ってくるたびに喧嘩しています。
どうして、もっと仲良く出来ないんだろう?
子供ながらに、わたしはそう思わずにはいられません。
弟「……」ギュ
姉「…」ヨシヨシ
そして、そんなお父さんとお母さんの喧嘩を見るたびに、
弟は怖がってしまいます。
無理もありません。
まだ弟は5歳ですし、お父さんやお母さんのあんな怖そうな顔を
見れば、怯えて当然です。
姉「だいしょうぶ。お姉ちゃんがついてるから…」
弟「…うん」ギュ
わたしは弟を膝に乗せ、ギュッと抱きしめます。
二人の喧嘩が終わるまで。
わたしたち姉弟は、毎回こうやって、目をつむり、耳を塞ぎ、
震えながら夜が終わるのをひたすら待ちます。
弟「姉ちゃん…」
姉「なに?」
弟「けんか、はやく終わるといいね」
姉「……そうだね」
こうやって自分たちの身だけ守ろうとするのは、いけないこと
かもしれませんが、わたしたちには他にどうすればいいのか分かりません。
とにかく、夜が明けるのを待つばかりです、
夜。
ようやく、ケンカも終わったのか急に静かになりました。
弟「zzzzzz…」
弟も眠ったみたいです。
わたしは、あれからどうなったのか気になって、階段を降り、
お父さんとお母さんの寝室に向かいます。
姉「???」
けど、玄関には身支度を整えた母がいました。
姉「お母さん?どうしたの、そのかっこう」
母「……ごめんなさい」
姉「どうしたの?なんで泣いてるの?」
母「ごめんね…」
なにが何だか分かりません。
母は涙を流しながらわたしに謝るばかりです。
母「じゃあね?」
姉「おかあさん、どこか行っちゃうの?」
母「……ちょっと、そこまでね」
姉「いつ帰ってくるの?」
母「……」
姉「ちゃんと、帰ってくるんだよね?ね?」
母「……」
普段なら素直に母を見送るわたしですが、夜中なのと、母の
ただならない雰囲気から、もう二度と帰ってこないんじゃないかと
不安に思い、母に何度も尋ねました。
けれど……
母「帰ってくるわ。だからお留守番よろしくね?」
母はそれだけ言い残し、わたしの前から姿を消しました。
帰ってくる……。
でも、母はいつになったら帰ってくるつもりなんでしょう?
そう心の中で何度も自問自答を繰り返しながら、わたしはその夜を
過ごしました。
翌日。
弟「お姉ちゃん……お母さんは?」
姉「……」
母は、まだ帰って来ません。
姉「あの……お父さん」
父「すまないが、これから仕事だ。留守番たのむぞ?」
姉「……うん」
弟「…」
父も会社に出かけました。
家にはわたしと弟、二人ぼっちです。
弟「お姉ちゃん…」
姉「……」
しかし、考えても仕方ありません。
わたしは小学校に行かなければいけませんし、弟も幼稚園に行かなくては
いけません。
こんなところでウジウジ悩んでも仕方ありません。
姉「とりあえず、幼稚園行く準備しよっか?」
弟「…うん」
弟の身支度を整えさせたわたしは、そのまま幼稚園まで弟の手を引いて
いきます。
幼稚園が小学校に行く途中で助かりました。
反対方向なら遅刻するところです。
姉「……」
弟「…」
幼稚園に向かう途中、弟は一言もしゃべりませんでした。
わたしもなにもしゃべりませんでした。
学校。
いつもと変わらず授業をうけ、いつもと変わらず給食食べて、
いつもと変わらない休み時間を友達と遊んで過ごしました。
弟はどうしてるかな?
弟もいつもどおりなのかな?
などと、弟の事が気がかりでしたが、わたしにはどうする事も出来ません。
とりあえず学校が終わったら、はやく迎えに行こうと思いました。
放課後。
やっと学校が終わりました。
こんなに授業が長く感じたのは初めてです。
友達の誘いを断って、わたしは弟の幼稚園に向かいます。
幼稚園。
園長「あら?」
弟「お姉ちゃん…」
弟は一人、園長先生と遊んでいました。
園長「ずいぶん遅かったわね。お母さんは?」
姉「母は……その……」
園長先生は怒っています。
当然かもしれません。
この時間、残ってる園児は弟だけなんですから。
姉「…ごめんなさい」
わたしは謝りました。
謝る以外、どうすればいいのか分かりません。
ただ、迷惑をかけたんだろうなという事だけは分かっているので、
謝らなくちゃいけないとは思いました。
園長「…はあ」
園長先生は溜息をつきます。
園長「お母さんに何度かけても繋がらないし、家にも
電話かけたんだけどねぇ…」
姉「……」
どうやら、お母さんはまだ家に帰っていないみたいです。
というより、連絡もつかないようです。
……あんまり、考えたくない。
園長「この子に聞いても、『分からない』って言うばかりだし…」
弟「…」
弟は、黙ってうつむいています。
わたしもうつむいて黙りたいです。
……でも、わたしはお姉ちゃんだから、そんな事は出来ません。
姉「たいへんご迷惑をおかけしました。以後、こんな事がないよう……」
わたしは、テレビのドラマとかで良く見る知っているかぎりの謝罪を
園長先生にしました。
ドラマの台詞を自分が使うなんて思ってもみませんでした。
そして……
園長「はぁ……じゃあお母さんにも宜しくね?」
姉「はい…」
なんとか許してもらい、弟の手を引いて家に戻りました。
帰宅。
姉「……ただいま」
弟「…ただいま」
お母さんはまだ帰っていません。
わたしは持っていた鍵で、ロックを外します。
家に帰ったのにお母さんがいないというのは、不思議な感じです。
胸がざわざわしていて落ち着きません。
弟「ねぇ、お姉ちゃん…」
姉「どうしたの?」
弟「お母さんは?」
弟もお母さんがいないことに落ち着かないのかソワソワしています。
姉「お母さんは……ちょっとお出掛けしてるの」
弟「おでかけ?」
姉「うん」
弟「いつ帰ってくるの?」
姉「それは……」
それは、わたしにも分かりません。
姉「すぐに帰ってくるよ…」
弟「ほんと?」
姉「うん、きっと……」
わたしは弟にそう言って、ギュッと手を握りしめました。
お母さん、はやく帰ってきて。
それから、何年経ったでしょう。
わたしと弟は、大きくなりました。
いまや弟は中学生になり、わたしより身長も高くなっています。
……お母さんは、まだ帰って来ません。
そして、お父さんは……。
父「おらぁぁぁぁ!酒だ!!!酒持ってこい!!!」
仕事が上手くいかなくなり、昔はあんなに家にいなかったのに、
今では毎日浴びるようにお酒を飲んで、暴れています。
姉「……どうぞ」
わたしは、そんなお父さんの世話をするため、高校をやめました。
……いえ、世話をするためというのはすこし語弊があります。
実際は、父が働かなくなり家計が苦しくなったため、高校を
やめさせられただけです。
わたしが知らない間に、勝手に、父は退学届を学校に提出していました。
姉「……」
父「遅いんだよぉぉぉおおお!!!」バシッ
姉「……」
はじめて殴られた時は怯えたものでしたが、慣れとは怖いモノです。
度重なる暴力を受け、今となっては父の暴力に慣れてしまいました。
まあ、まだ殴られ始めてから半年も経っていないのですが。
父「なんだ、その目は!!!なんなんだよ!!!文句あんのか!!!!」
姉「…ありません」
父「だったら、もっと笑顔で注げねえのか!?」バシッ
姉「……うっ」
ただ、やっぱり痛いものは痛いです。
せめて弟には、わたしのようにはなって貰いたくありません。
幼稚園児のころから母親を知らずに過ごしてきた弟は、これ以上傷ついて
ほしくありません。
……いえ、本当のところは、父が弟を殴ってしまった場合、
弟が反撃して、父を殴り殺してしまうんじゃないかと心配
しているのかもしれません。
酒におぼれて毎日を堕落した生活を送っている父が、成長した弟に
敵うとは思えませんし……
それに、弟は父に並々ならない復讐心を持っていてもおかしくない。
……なにかの拍子に、殺してしまうんじゃないかと毎日不安です。
弟が犯罪者になってしまったら、わたしは……。
父「おらっ!うつむいてねぇで笑えよ!!!」ドカッ
姉「……はい」ニコッ
だから、わたしは今日も父の言いなりだ。
でも構わない。
弟が道を踏み外さなければ……。
弟が、ちゃんとした社会人として働き出せたら、そしたら……。
父「ひっ、ひっひひひひひひひひひひひ…」
父「あ~~~~はっはっはっはっはっはっはっは!!!!」
姉「……」ニコニコ
父「くくくくくくく…」
父「おい!」
姉「なんでしょう」
父「……脱げ」
姉「……え?」
父「聞こえなかったのか?脱げ」
姉「え…………え?」
父「何度も言わせるな!脱げっつったら脱げよ!!!」ドカッ
姉「きゃっ!?」
父「誰のおかげで毎日飯が食えてると思ってんだ…」
父「誰のおかげで服着られてると思ってるんだ!?」
姉「そ、それは……」
父「全部俺のおかげだろ!!!」ダン!
父「俺のおかげで飯が食えて、俺のおかげで寝るところがあって、俺のおかげで
服着られてんだろーーーーーが!!!」
父「お前らのもんは全部俺が買い与えたもんだ!!!」ジリジリ
姉「ヒ……ヒィッ?」
父「だったら、おまえが着てるその服も俺のもんだ」
父「俺が脱げっつーんだから、その服着てるおまえは大人しく脱いで当然だろ!!!」
父は酔っ払っているのか、今までに見せた事のない……いいえ、
昔お母さんと言い争ってる時のような険しい表情でわたしに迫って来た。
姉「やめて!やめてよ!」
父「うっせーーーーーー!!!だったら大人しく脱げよ!」
姉「い、嫌です!」
父「なんだと、こいつぅ!?」
父は嫌がるわたしを無理矢理脱がそうと、追い詰めます。
姉「くっ…」
父「へへへ…」
しかし、外に逃げるにしても玄関は父の方にあります。
わたしはジリジリと壁側に追いやられてしまいました。
……逃げ場は、もうない。
父「ひひひひひひ……さあて」
父の手が、わたしに……。
~~~~~~~
あれから、どのくらいの時間が経ったのだろう?
母さんはまだ帰ってこない。
俺は中学生になっていた。一方、姉ちゃんは高校をやめた。
いや、やめさせられた。父さんに。
姉ちゃんは自分から辞めたと言っていたが、ウソだ。
そんなの姉ちゃんの顔を見れば一発で分かる。
親父のせいだ。
けど……姉ちゃんがなんで高校を辞めさせられても我慢して、家で
親父の世話をしているのも分かってる。
分かってる、つもりだ。
きっと、俺の為なんだろう。
俺がまだ中学生だから、せめて中学を卒業するまで自分が身代りに
なるとか、きっとそんな事を考えているんだ。
最初は「俺はそこまでしてもらいたいとは思わない!」なんて考えていたが、
そんな考えもすぐに消え去った。
俺が働けば、姉ちゃんは家で親父の世話なんかしなくてすむと思いバイト
しようとしたが、どこも門前払いされた。
……中学生はまともに金もかせげない。
稼げても、二人で暮らすだけの金なんて集まらない。
だから、せめて中学を卒業するまでは姉ちゃんの好意に甘えようと思ってる。
だから、苦手だった勉強も毎日頑張ってる。
姉ちゃんの分も、俺が……。
そして、卒業したら……。
「……っと」
考え事してたら、いつの間にか家についていた。
「ただい……ん?」
なんか家の中が騒がしい。
いったいどうしたんだろうか?
まさか母さんが?……いや、それはないか。
けど、だったら……。
俺は玄関から帰るのはやめて、庭の方から回り込む事にした。
もし姉ちゃんがまた殴られてたりしたら、その証拠をカメラに
収めてやる。そんな意気込みと共に。
二人で暮らそうとした場合、警察や裁判所とかから家庭内暴力
の証拠を求めらたときの対策用だ。
父さんは俺が怖いのか、俺に暴力を振るわず、殴るのはもっぱら
姉ちゃんだ。
しかも、俺のいないときを見計らってしか殴らない。
姉ちゃんはあの通りなにも喋らないので、証拠を提出しろと言われた場合、
困る事になるのは目に見えて分かってる。
「証拠写真……抑えてやる!」
父さんの趣味だったカメラを鞄から取り出し、庭に走る。
けど、庭に到着して、カメラを持ち構えた俺の視線の先には、
俺の想像していたモノとは、まるで違う光景が広がっていた。
「おらああぁぁぁぁぁっ!!!」
「あぁっ!?」
……なんだよ、コレ?
なんなんだよ、コレは?
姉「おらぁぁぁぁ!!」
父「あぁっ」
「姉……ちゃん?」
姉ちゃんは涙をこぼしながら、喘いでいた。
喘いでいた?
いや、泣いていた、鳴いていたんだ。
親父は下半身を露出させ、暴れる姉ちゃんを無理矢理犯していた。
姉ちゃんは必死に反抗するも、親父の力に抑え込まれたのかやられるがままだ。
見れば、姉ちゃんの両手はガムテープで縛られている。
口は親父の手で塞がれて、大声も出せない状態。
…………ははっ、ナニこれ?
俺は、カメラを持ったまま途方に暮れた。
こんなの……撮れるワケがない。
姉ちゃんのこんな姿、撮れるワケがない。
「は、ははっ…………はははははははははははははっ」
いっそのこと、俺も壊れてしまいたい。
壊れて、全部忘れて、なにもなかった事にしてしまいたい。
「は、ははははははは、ははははっ……ごほっ、ごほっ…」
無理か……。
だよな。
どんなに頭で分かってても、どんなに理解していても、
こんな光景、一度見たら死ぬまで忘れられるはずはない……。
「姉……ちゃん」
涙が頬を伝っていた。
止まらない。止まらねぇよ、姉ちゃん。
涙が。
俺はその場に崩れ落ちて、一人泣いた。
早く姉ちゃんを助けに行けばいいのに。
そうしたら少しは楽になるのに。
でも、身体が動かなかったんだ。
全身から力が抜け落ちて、まるで糸の切れた人形みたいに。
自分の身体が、自分の身体じゃないようで。
そこに颯爽と修行を積んだ母見参
俺は姉ちゃんが犯されているのを、ただじっと、茫然と眺めていた。
親父が醜悪そうな顔で姉ちゃんの乳房を掴み、舐めまわす。
強引に股を拡げて、指を突っ込み乱暴に掻きまわす。
そして……醜く血走ったソレで、姉ちゃんをひたすら汚す、
そんな光景を。
ただひたすら。
気がつけば、辺りはもうすっかり暗くなっていた。
そういえば、もう夏も終わったんだった。
何時間ぶりかに立ちあがった俺は、ふらふらと玄関に向かう。
「……」
独り言を呟く気力もない。
「ただいま…」
玄関をくぐり、ようやく絞り出したあいさつに……
「お帰り。遅かったね」
いつもと変わらない笑顔で、いつもと変わらない調子で、姉ちゃんは
俺に「おかえり」と言ってくれた。
その目は、赤く腫れあがっていたけれど。
「うん、ただいま」
俺も、そんな姉ちゃんに笑顔を返した。
これが、俺と姉ちゃんの交わした最後の言葉だ。
なぜなら姉ちゃんは突然変形した
大きな口が現れる…
いや…顔が口になっている
そして俺は喰われた
これから俺と姉ちゃん、それから親父がどうなったかなんて誰にも
言うつもりはないし、誰も聞こうとは思わないだろう。
ただ一つ、あのとき庭に隠れていた俺と目があった姉ちゃんが、涙ながらに
「見ないで…」と俺に向かって言ったあの時の顔だけは、今も俺の頭から
離れないままである。
終わり
終わりです
読んで下さった方がいたらありがとうございました
パクリというか、よくある話の一つかなと
たまにこんな使い古されたネタも良いもんだと思います
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