妹「ねーちゃ、おそうじてつだってー」 姉「えー、めんどくさい」 (325)


妹「いーからいーから」

姉「やだー」

妹「おかーさんにおねがいされたの」

姉「わたしは勉強してるの」

妹「まんが読んでるじゃん」

姉「漫画で三国志を勉強してるの」

妹「そーゆーいいわけはいいのー」



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姉「……」

妹「……」ジトー

姉「せっかくの休みなんだから休みたいのー」

妹「でも、ねーちゃはいつもぐーたらじゃん」

姉「そうかなぁ?」

妹「うん」

姉「どこらへんが?」


妹「どにちはおひるまでおきてこない」

姉「そんなことないよ?」

妹「なくない」

姉「ないよ」

妹「だってこのまえ、わたしとかいもの行くやくそく破ったばっかじゃん」

姉「うぐ」

妹「ねーちゃのばかー」


姉「ごめん」

妹「ゆるしません!」キッパリ

姉「……」

妹「ばかー!」

姉「……」

妹「ねーちゃ、泣いてもゆるさない」

姉「……ごめんって」


妹「あとね、お風呂あがったあとしたぎでうろうろしてるのもだらしないよー」

姉「だめ?」

妹「だめ…………、じゃないかんじもする」

姉「だよねえ」

妹「でも、」

姉「でも?」

妹「……」

姉「……」

妹「おっぱい」


姉「……が?」

妹「めちゃ見える」

姉「……」

妹「ちっちゃいけど」

姉「う、うるせー!」

妹「おかーさんはおっきい」

姉「……」


妹「わたしもすこしだけふくらんできた」

姉「……」

妹「でもねーちゃは……」

姉「うがー! うっせー!!!」

妹「ねーちゃ、うるさい」

姉「妹が悪い」

妹「おとなげない」

姉「な、……わたしだってまだ高校生だし! 妹と比べたら大人かもしれないけど、まだ全然子どもだし!」


妹「……たしかに」チラッ

姉「ねえ、どこ見て言ってんの」

妹「……」シラー

姉「へっ、どうせちっちゃいですよーだ」

妹「あ」

姉「クラスの胸おっきい子に『姉さんは走りやすそうだよね』とか言われてもぜんっぜん怒ってないですよーだ」

妹「ねーちゃがすねた」


姉「すねてないですぅー」

妹「もむとおおきくなるらしーよ?」

姉「あー、でもそれ迷信じゃないの?」

妹「やったことあるの?」

姉「あ……、るわけないでしょ」

妹「ふふん」

姉「……なにその顔」

妹「うひひ」

姉「……ぐぬぬ」


妹「あ、でもね、でもね」

姉「うん?」

妹「ねーちゃはすっごく美人さんだからだいじょうぶ!」

姉「ふはは、だよなだよなー」

妹「かれしはいちどもいたことないけど!」

姉「妹ちゃーん? さっきからトゲトゲしいよ?」

妹「あれ、ほんとにいないんだ」

姉「そりゃまあ」


妹「どーして?」

姉「え? い、いやー、どうしてだろうね?」

妹「つくるきないの?」

姉「うーん……そう言われるとあるような、ないような」

妹「多分ねーちゃにはいらないよ」

姉「へ?」

妹「ふだんのねーちゃはだらしがないからー、こいびとさんにゲンメツされちゃうんだぞー」


姉「……だから最初からいらないって?」

妹「うん!」

姉「『うん!』ってもなあ……」

妹「それに、ねーちゃの学校、おんなのこしかいないんでしょ?」

姉「ああ、うん。女子校だからね」

妹「だったらできないじゃん」


姉「……」

妹「……」

姉「……」

妹「……ねーちゃ?」

姉「あー」ポリポリ

妹「?」

姉「あんね、女子校でも恋人ができないことはないよ」


妹「……んー?」

姉「友達は他校の男子と遊びに行ったりしてるし」

妹「ふむふむ」

姉「文化祭はみんな他の学校行って男子捕まえたりしてるし」

妹「ねーちゃはしてないじゃん」

姉「ま、それはそうだけど」

妹「わたしとあそぶほうがたのしいんだね」

姉「まあね」

妹「ねぼーするくせに」

姉「だからごめんてー」


妹「ココスのジャンボパフェをようきゅうします」

姉「はいはい」

妹「ねーちゃやさしい」

姉「今度の休みに行こっか」

妹「わーい」

姉「……あー、あとさ、妹。クリスマスの日って学校休みだよね?」

妹「うん」


姉「もし暇なら水族館行かない?」

妹「すいぞくかん?」

姉「イルカとかペンギンとか観たくてさ」

妹「行く!」パァァァ

姉「クラスの友達がめっちゃ楽しかったって言っててね、ちょっと行きたくなった」

妹「でも、クリスマスだし、すいぞくかんとかそういうのって、こいびととーってものじゃないの?」

姉「まあ、たしかに。けどその友達は女二人で行ってたんだよ」

妹「へー」


姉「予定あけててね」

妹「ねーちゃこそ、急にともだちさんと行きたくなったーとかやめてね」

姉「ないない」

妹「ないの?」

姉「そういうことすると、まわんなくなっちゃいそうだし」

妹「?」キョトン

姉「あ、こっちのはなしね」


妹「なにそれー」

姉「……」

妹「……」

姉「で、なんだっけ。掃除しようって話だっけ」

妹「うんうん、ねーちゃとわたしでそうじしてほしいって言われたの」

姉「なんでまた」

妹「はなしは聞いてくれるんだ」

姉「一応ね」


妹「おーそうじで楽をするためらしいです」

姉「まーそうだろうなあ」

妹「というのはウソです」

姉「はい?」

妹「きょうおそうじするとえんぎがいいらしーです」

姉「母上に騙されてない?」

妹「テレビでみました」

姉「なるほど」


妹「て、ことで!」

姉「やだー」

妹「ねーちゃ、そうじをするとココロもきれいになるんだよ」

姉「へえー」

妹「せんせーが言ってた」

姉「へえへえー」

妹「わたし、おそうじすき」

姉「よしよし、掃除好きの妹ちゃんはココロが綺麗だなー」


妹「なんかかんじわるいー」

姉「んなことないよ」

妹「ねーちゃもココロをきれいにしましょう」

姉「なにそれ、まるで私のココロが汚いみたいじゃん」

妹「もっと、ってこと」

姉「そっか」

妹「うん!」


姉「……んー、妹は掃除が好きなお姉ちゃんはお好き?」

妹「ちゃんとそうじできるおとな、かっこいい」

姉「かっこよさはあまり求めてないんだよなあ……」

妹「じゃあかわいい!」

姉「なんでもいーのか」

妹「そうなのです」

姉「なら、そうだなー。妹ちゃんがほっぺにちゅーしてくれたらするよ」


妹「……」

姉「ふふふ、できるもんならしてみやがれー」

妹「ねーちゃ、目閉じて」

姉「え?」

妹「目を閉じましょー」

姉「なんで?」

妹「なんでもー」


姉「……」

妹「……」

姉「……ま、いいか。閉じるよ」パチッ

妹「よし」

姉「……」

妹「……」

姉「……」

妹「ちぅー」

姉「……でへへへ」


妹「ぎゃくにも、ちぅー」

姉「……ぐふふふ」

妹「ねーちゃ、わたしにもしてー」

姉「しょうがないなー」

妹「はやくー」

姉「はいはい」

妹「おー」

姉「んー」チュー

妹「……おおー」ニコニコ


姉「……」

妹「……」ニマニマ

姉「はい、終わり。じゃあさっさとお掃除しちゃおう」

妹「……きゅうにやる気でてるね、ねーちゃ」

姉「まーねー」

妹「ようし、がんばろー、おー!」

姉「おー」



§


姉「ねえ、妹」

妹「んー?」

姉「二人で一緒にやるよりも、手分けしてやった方が効率良いんじゃないかな」

妹「わたしの背じゃ、高いとこむり」

姉「なーるほど」

妹「ねーちゃっておっきいよねー」

姉「身長高めなママンとパパンのおかげ」

妹「たしかに」


姉「おばあちゃんもおっきいし、そういう家系なのかも」

妹「じゃあわたしもおっきくなるかなー」

姉「クラスでは大きいほうなの?」

妹「ううん、まんなかくらい!」

姉「そっかそっか。私はいつも一番後ろだったなー」

妹「ねーちゃ、いまなんせんち?」

姉「んーと、168くらい? あ、いや、もっとあるかも……もーちょいあるな、多分」

妹「ほへー」


姉「でかくてもあんまり良いことないよ」

妹「どーして?」

姉「いろんなところで男っぽいとか言われるしー」

妹「うん」

姉「スポーツそれほど得意でもないのにやらされるしー」

妹「おー」

姉「勝手にへんなイメージ持たれたりとか……、まあこれはそんなに身長関係ないけどね」

妹「へー」

姉「うん」


妹「……じゃあ、わたし決めた!」

姉「ん?」

妹「わたしはねーちゃよりおっきくなります!」

姉「今の話聞いてた?」

妹「うん!」

姉「そーかそーか。まだまだこんなちびっこなのになー」

妹「牛乳のむ」

姉「嫌いなのに?」

妹「がんばる」


姉「私は好きだから飲んでるだけだよ?」

妹「……」チラッ

姉「お、なんか失礼なこと考えてる顔だ」

妹「かんがえてないよ」ジトー

姉「ならその視線やめれ」

妹「ねーちゃのこと見上げてるだけだよー」

姉「ほーん、じゃあ目線を合わせてあげよう」


妹「……」

姉「……」

妹「……」ソローリ

姉「なぜ下に行くのだ」

妹「……しぜんのせつり?」

姉「うそつけー」ヒョイッ

妹「わわっ、ねーちゃ持ち上げないでー!」

姉「ほーれ、たかいたかーい」

妹「こわいこわい」ビクビク


姉「おー? おっきくなるんじゃなかったのかー?」

妹「ねーちゃの持ち上げかたがへたっぴなの!」

姉「それはいなめない」

妹「かたぐるまをごしょもういたしまする」

姉「ほいほーい」

妹「おほほーい」ニコニコ

姉「あ、ついでに高いとこ掃除しちゃおっか。これモフモフ~」

妹「もふもふー」モフモフ


姉「そこホコリ溜まってない?」

妹「たまってる」

姉「ママンのサボりがバレた」

妹「おかーさんはいそがしーからね」

姉「うむ、すごい」

妹「きゃりあうーまん」

姉「じゃあ掃いちゃってください」

妹「くださーい」ササッ

姉「うがっ!? 目にホコリが!」

妹「え? どーしたの?」ササササッ

姉「へたっぴは妹じゃんか!」ケホケホ


§


姉「エアコンもやる?」

妹「このまえおとーさんがやってたよ」

姉「キッチンは?」

妹「ねーちゃにまかせる」

姉「ならささっとちょっと……いや、ちょーっとだけね」

妹「さぼりゆるすまじ」

姉「ちゃんとやるってー」

妹「そういえば、おかーさんからまほうのこなをもらいました」

姉「なにそれ」

妹「あとこの紙ももらった」

姉「なになに」ピラッ




「 妹、姉へ

  今日は家の大掃除をお願いします。お母さんは年末の仕事が忙しい上、掃除をするにしても四十肩が酷くてとてもとてもです。お父さんは知りません。
  早く終えて暇だったらでいいので、無駄に広い庭と普段あまり掃除をしていないベランダもお願いします。
  まあ妹はともかくとして、姉はいつも暇でしょうけど(笑)




姉「なんかうぜー」

妹「でもねーちゃはひまでしょ」

姉「そう言う妹だって暇だから家にいるんでしょ」

妹「たしかに」




  しかしそんな暇人の姉とはいえ、せっかくの休日を掃除に使わせるのは母の私としては心苦しく思います。




姉「思ってねーなぜってー」

妹「おかーさんジョークだよ」




  ということで、心ばかりですが少し早いクリスマスプレゼントとして報酬を差し上げます。労働には対価があって然るべきです。
  二人で、なななななんと! 一万円! 一万円です!




姉「おー」

妹「おかーさんてんしょんたかい」

姉「それね」

妹「でもいちまんえんはうれしい」

姉「わかる」




  それと、クリスマスケーキとチキンの予約が今日までなので、いつもの店で予約をお願いします。そのお金は別途払います。
  あ、フレーフレーヽ(^ω^\)( /^ω^)ノ姉! フレーフレーヽ(^ω^\)( /^ω^)ノ妹! お掃除頑張ってください((o(´∀`)o))ワクワク
 お母さんが無事帰還したらツルツルピカピカの光り輝く惑星最高の我が家になっていることを楽しみにしています(^^)




姉「これをママンが真顔で書いてると思うとゾッとする」

妹「そういうこといっちゃだめ」

姉「なんで?」

妹「かんがるー」

姉「?」

妹「うへへ」

姉「なによー」

妹「ねーちゃ、裏にもなにか書いてあるよ」

姉「ん、なになに?」




  P.S. 掃除の仕方については姉のスマートフォンにPDF形式で送信しました。道具や洗剤、トイレットペーパーなどが足りない場合は買いに行くように。今日はポイント5倍の日なのでお母さんの机の引き出しに入っているポイントカードを持って行くとなおよし。 」




姉「注文が多いなあ」

妹「いそがしーからね」

姉「……ああ、ほんとにメール来てた。めっちゃ詳しく書いてある」

妹「見せて」

姉「うん」スッ

妹「……」ヨミヨミ

姉「どうですか、掃除奉行」

妹「めちゃなが」


姉「だよなー」

妹「さきに買いものいこー」

姉「ん、おっけー」

妹「ついでにごはんもたべよ」

姉「あら、まだ食べてなかったの?」

妹「腹がへってはいくさはできぬ」

姉「お腹すいたのね」


§


<ショッピングモール>


姉「うどんでいい?」

妹「なんでもいいよー」

姉「『なんでもいい』はだめだめな解答なのですぞ」

妹「どうして?」

姉「どうして、って言われるとどうしてだろ」

妹「……」


姉「なんていうか、妹には好きなものを食べてほしい、……から?」

妹「おおー、ねーちゃやさしー」

姉「で、何食べたい?」

妹「うどん」

姉「ほう?」

妹「ねーちゃと食べればなんでも美味しい」

姉「おー」

妹「ねーちゃもわたしと食べればなんでも美味しいでしょ?」

姉「まーね」

妹「ならよし! 入りましょう!」



ガララッ
イラッシャイマセー!

チュウモンオキマリニナリマシタラドウゾー!


姉「何にする?」

妹「なやみちゅー」

姉「そうそう、いっぱい悩みなさい。悩んでこその人生なのです」

妹「急になに」

姉「なんとなく」


妹「なやんでるねーちゃが想像できない」

姉「んやぁ、わたしだって悩み事のひとつやふたつはあるって」

妹「えー、たとえば?」

姉「成績」

妹「わるくないでしょ?」

姉「とびきり良いわけでもない」

妹「へー」

姉「ほかにもー、間食やめられないとか、それなりに運動しなきゃなのにしてないとかあるよ」

妹「いつものぐーたらのねーちゃじゃん」

姉「暇な人間には些細な悩みがいっぱいあるのだぞー」

妹「なんかわかる気がする」


姉「ふーん」

妹「……」

姉「……」

妹「……」スススッ

姉「三度目はない」ビシッ

妹「ごめんなさい」

姉「許す」

妹「ゆるされた」

姉「……でさ、何にするか決めた?」


妹「んー、んー……、ねーちゃからどうぞ?」

姉「かまたま」

妹「おー、じゃあわたしもかまたまにする」

姉「何かつける?」

妹「えびてんかしわてんさつまいもてんはんじゅくたまごてん」

姉「わかった」

妹「ついでにかきあげも」

姉「いいよー」

妹「ならもう一杯! んや、二杯食べる!」

姉「ん、いいよー」

妹「ねーちゃ、わたしそんなに食べれない」


§


妹「──えっと、おかーさんが書いてたのは……」チラチラ

姉「水アカ落とし」ヒョイッ

妹「それと、」キョロキョロ

姉「長めのフローリングワイパー」ヒョイッ

妹「あっ、あと、えっと、」グルグル

姉「トイレスタンプ」ヒョイッ

妹「むぅー」プク


姉「なに」

妹「ねーちゃばっかりズルい」プクプク

姉「たまたま高いとこにあるから」

妹「わたしもかっこよくカゴに入れたい」

姉「いやただ普通にカゴに入れてるだけなんだけど」

妹「さまになってる」

姉「それを人は気のせいと呼ぶ」

妹「呼びません」


姉「トイレットペーパー取ってきて」

妹「はーい」テクテク

姉「いつも使ってるやつね、シングルの」

妹「わかった」セノビ

姉「……」

妹「……」ピョンピョン

姉「……」

妹「……」ピョンピョン

姉「……」ハッ!


姉「なんでこんな高いとこに置いてあるんだ」ヒョイッ

妹「あー! また!」

姉「妹、スカートで跳ぶのはダメ」

妹「なんで?」

姉「パンツ見える」

妹「……」

姉「……」

妹「へんたい」

姉「なぜだ」


妹「ねーちゃのえっち!」ウガー

姉「ちょっ、声大きい!」

妹「わたしもう一枚履いてるしー」

姉「捲らないでね」

妹「わかってるー」

姉「妹はかわいいから気を付けないとね」

妹「……ねーちゃも」ボソ

姉「なんか言った?」

妹「ふふふ、なんでもないよー」ニコニコ



テクテク


姉「そこの竹串取ってー」

妹「うん」スッ

姉「入れて」

妹「うん」ヒョイッ

姉「よくできました」

妹「できましたー」ドヤ

姉「お会計しよっか」ニコニコ

妹「えへへ、そーしよ」



店員「いらっしゃいませーおあずかりしま……」チラッ

姉「あ」

店員「あ」

姉「バイト?」

店員「そう、バイトです」

姉「ほー」

店員「姉さんは……ああ、お買い物か」

姉「そうそう」


店員「そっちは、妹さん?」

妹「妹です!」

店員「わー、妹さんかわいいね」

姉「でしょー?」

店員「何年生?」

妹「四年生です!」

店員「おっきくなったら姉さんみたいになるのかな」

姉「みたいってなに」


妹「ねーちゃみたいなのはヤです」

店員「えー? こんなかっこいいお姉さんなんてそうそういないのに」

姉「かっこよくないよー」

店員「いやー、今日の服もイケてるね」グー

姉「キャッチか何かか」

店員「あはは」

姉「妹はわたしよりも大きくなりたいんだってさ」

妹「おっきくなってねーちゃを見下ろすのです」


店員「なるほどねー……あ、3520円です」

妹「ポイントカードあります」

店員「はいどうもー」

姉「4000円からで」スッ

店員「はーい」

姉「妹お釣り受け取ってね」

妹「任された」

店員「どうもどうもー、カゴお持ちいたしますね」

妹「どうもです」



姉「そういえば、ここでバイトしてるなんて知らなかった」

店員「そうね」

姉「言ってくれれば毎日通ってるのに」

店員「いやそれ普通に恥ずかしいでしょ」

姉「そう?」

店員「だいぶ」

姉「そうかー」

店員「てか妹さんと仲良いんだね」

姉「まあね」


店員「姉さんはこういう顔もするのかーって新発見」

姉「え、なにそれ」

店員「いつもはキリッとしてる」

姉「そうかなぁ?」

店員「うん。で、今は保護者的な」

姉「なるほど」

店員「そこは肯定するのね」

姉「妹はめちゃくちゃかわいいから、保護者? なのかどうかは分からないけど守ってあげたくなる」

店員「ふむふむ」


姉「あの子のこと見てたらこう思う気持ちもわかるでしょ?」チラ


妹「……」モクモク


店員「おお、また珍しい姉さんだ」

姉「えー、どこが?」

店員「楽しそうな顔してる」

姉「普段のわたしはそんなに仏頂面してるかね」

店員「割とね」


姉「嘘でしょ?」

店員「そう、嘘よ」

姉「ですよね」

店員「でも楽しそうなのはホントだよ」

姉「自分では分からないもんだね」


スミマセーン、カッパヲサガシテルノデスガ…


店員「あ、はーい。少々お待ちください」

店員「ってことで姉さん、また学校で」

姉「バイト頑張ってね」フリフリ

店員「ありがとう、またね」フリフリ



妹「……」ジトー

姉「どしたの、帰ろ?」

妹「うん」クイッ

姉「なに」

妹「わたしも半分もつ」

姉「ありがとう」スッ

妹「……」テクテク

姉「……」テクテク


妹「……」チラッ

姉「ね、どうしたの?」

妹「……もしかして、ねーちゃって」

姉「ん?」

妹「さっきの人って、どうきゅうせいだよね?」

姉「うん」

妹「"さん"付けでよばれてるの?」

姉「うん」

妹「なんで?」

姉「こっちが聞きたい」

妹「ほかの人にも?」

姉「まあだいたいはね」

妹「なぞい」


§


<キッチン>

妹「じゅうそう、プリーズ」

姉「へいへい」

妹「いれる」パッパッ

姉「レンジにセット」バッ

妹「かねつ!」


ピピピッ、ブーー


姉「次はわたしが棚の掃除するから、妹は」

妹「シンク!」

姉「はいこれまほうのこな」

妹「ねーちゃスマホ見してー」

姉「ん、あとゴム手袋もつけてね」

妹「うん」











<バスルーム>

姉「お風呂のタイルを掃除する前に」

妹「まえに?」

姉「カーテンを踏み洗いしましょう」

妹「おー」

姉「わたしはジーンズだから、ここはスカートの妹にお願いしたいところですが」

妹「がってんしょうち!」

姉「元気がいいのは良いことだ」ウンウン



妹「……」ピラッ

姉「……あ」

妹「……」フミフミ

姉「……」ジー

妹「……」フミフミフミフミ

姉「……」ジィー

妹「…………」ピタッ

姉「…………」ボケー

妹「……ねーちゃ?」


姉「……! えっ、なに?」

妹「なんでもない」プチプチ

姉「……服脱ぐの?」

妹「さっき外でたらあせかいたし」シュル

姉「……へえ」

妹「めくっててもちょっと濡れた」スルッ

姉「あ、そうなのね」

妹「はいねーちゃ、これ洗濯カゴに入れて」ポイッ

姉「うん」

妹「きがえ」

姉「ワンピース?」

妹「ねーちゃのすきなやつで」



ガラッ、バタン


姉「……」

姉「……」

姉「…………」












姉「いろいろ放置してる間に、二人で手分けして掃き掃除をやりましょう」

妹「いっしょにやらないの?」

姉「わたしは外をやってくるから、妹は二階と階段ね」

妹「おそとはべつにいいっておかーさん言ってたけど」

姉「いまのわたしは外の風に当たりたい気分なのさ」

妹「キザなねーちゃ」

姉「褒めても何も出ないよ」

妹「ほめてないし」











<再びバスルーム>

シャァァァァア


姉「ちょっと疲れてきた?」

妹「んーん」

姉「そう、なら良かった」

妹「結局ねーちゃがいろいろやってくれてるから」

姉「始めると夢中になるタイプなのね」


妹「そうじたのしいからね」

姉「うんうん──ていうか、ママンすごいね」

妹「なんで?」

姉「お風呂も洗面所もカビが全くないし、シンクとかも汚れてない」

妹「おかーさんがまえに言ってた」

姉「なんて?」

妹「汚れてるのがいやだから、見つけたらすぐにそうじするって」

姉「忙しいのに」

妹「ねーちゃもわたしもおへや汚さないから、さいこーの娘って言ってた」

姉「それは妹さまのおかげ」


妹「あまりほめるでない、ほっぺがおちてしまう」

姉「あーほんとだ」ムニィー

妹「……」

姉「めっちゃやわらかい」ムニムニ

妹「……」

姉「……」ムニムニムニムニ

妹「……」

姉「……」ムニムニムニムニムニムニムニムニ

妹「……」

姉「堪能した」

妹「どういたしまして」



シャアアアア
ゴロゴロゴロ


妹「お」

姉「お?」

妹「鏡がくもってる」

姉「そうね」

妹「ふむ」

姉「……?」

妹「……」カキカキ




『りんご』



姉「りんご?」

妹「ねーちゃしりとりしよー」

姉「いいけど、ふつー絵しりとりじゃない?」

妹「えごころなしのわたし」

姉「なるほど?」カキカキ



『ごりら』



妹「んへへ」カキカキ




『らふらんす』

『すいか』

『からす』

『すりらんか』

『かおす』



姉「攻められてるなー」

妹「……」ウムムム




『するー』

『るす』

『すたみな』

『なす』

『すかーと』

『とれーす』

『すたーばっくす』

『すいす』



姉「もう書けないね」

妹「ねー」


姉「消化不良感あるなー」

妹「ねー」

姉「んー……、ならここは一旦掃除しちゃって、あっちで続きをしよう」

妹「ねーちゃが『す』からね」

姉「おーおー」


姉「そういえば妹、最近わたしのシャンプー使ってるでしょ」

妹「だめ?」


姉「だめじゃないよ」

妹「じつはボディーソープも使ってるって言ったら?」

姉「あれ高いのにーって言う」

妹「だってだって、あれ使うとね、ずっとねーちゃに包まれてるみたいな気持ちになるの」

姉「……」ギュッ

妹「……」

姉「……」ギューー

妹「……ねーちゃ?」


姉「……こんな感じ?」

妹「う、うん」ビクッ

姉「……」

妹「……」

姉「……よく考えたらいつも抱きつかれる側だったような」パッ

妹「あっ」

姉「さてと、リビングに行こう」スタスタスタ

妹「……」











<リビング>


姉「やっぱり窓が曇ってる」

妹「うん」

姉「でもしりとりに使うのは半分だけね」

妹「わかった」

姉「そんで、『す』からだっけ」カキ



『す



妹「あ、ねーちゃ」トントン


姉「なした」

妹「ルールついかしよ」

姉「というと?」

妹「これからはおくちチャック、しゃべってもまけ」

姉「ふうん?」

妹「ではどうぞー」

姉「はいはーい」




『すまほ』

『ほーす』

『すたーずあんどすとらいぷす』

『すとれす』

『すたみなたろう』

『うす』



姉「……」ウンウン

妹「……」ウムムム




『すなどけい』

『いす』

『すらっくす』

『すてるす』

『すぱいす』

『すふぃんくす』






『すき



妹「……」チラッ

姉「……」ピタッ

妹「……」パアアアア

姉「……」フム、カキカキ



『すきま』



妹「……」ドヨーン




『まうす』

『すかいつりー』

『りす』

『すみ』

『みす』

『すしざんまい』

『いるす』



妹「……」チラッ

姉「……」ナムナム

妹「……」ハァーー




『すまいる』

『るねさんす』

『すうがく』

『くものす』

『すいようび』

『びーえす』

『すぴーど』

『どれす』




姉「……」ピタッ

妹「……」

姉「……」ジトー

妹「……」キョトン

姉「……」フムー



『すき』



妹「……!」ピクッ

姉「……」ニヨニヨ

妹「……」

妹「……」

妹「……」クイクイ

姉「……?」フイッ








妹「……」チュー

姉「」








姉「──はあっ? え、えっえっ……?」ジタバタ

妹「はいしゃべったからねーちゃのまけー」ニコニコ

姉「いやいやいやいや」

妹「どうしたの?」

姉「どうしたのって、その、口に」

妹「え?」キョトン

姉「…………あのね」

妹「なに?」シラー


姉「……ま、まあいいやぜんぜんよくないけど。でも、最後に書いてたのはわたしだから」

妹「書けなくなったらまけなんて言ってないー」

姉「そうじゃなくて、妹はわたしにしりとり返してない」

妹「なにそれ」

姉「喋った喋ってないの前に、しりとりは『ん』で終わる言葉を使うか返せなくなったら負けじゃん」

妹「かえしたし」

姉「え?」


妹「きす」

姉「……」

妹「……」

姉「……」

妹「……」

姉「……あー、まあ、それはそうかも」

妹「でしょー」ドヤァ

姉「わたしの負けだ」

妹「ふふん」ドヤドヤ


姉「でも、口はだめだよ?」

妹「どうして?」

姉「唇は安売りするものじゃないの」

妹「そうなの」

姉「そうなのよ」

妹「ねーちゃにしかしないのに」

姉「このマセガキめー」

妹「うひひ」ケラケラ


妹「……あ、ねーちゃ、罰ゲーム」

姉「そんな約束してないけど、なに?」

妹「わたしのすきなところを五個」

姉「罰じゃないじゃん」

妹「いいからー」

姉「……えー、逆に嫌いなとこひとつもないんだけど」

妹「うれしいけど、えー」

姉「まって、掃除してる間に考えるね」












妹「ねーちゃのすきなところは~」フキフキ

姉「んー?」

妹「やさしい」キュッキュ

妹「いっしょにいてたのしい」

妹「ほめてくれる」

妹「わたしのわがまま聞いてくれる」ジャー

妹「でも、いちばんは~」

姉「うん」

妹「かわいいところ!」












姉「ええっと、まずね、がんばりやさんなところ」

妹「おー」

姉「次は、……元気さ?」

妹「おー」

姉「反応薄いけどご不満かね」

妹「めっそうもない」


姉「そ。あと、指が好き」

妹「ゆび?」

姉「うん」ニギッ

妹「なぞ」

姉「いいもの持ってる」ニギニギ

妹「へー」

姉「これは日本代表狙えるよ」

妹「いみわかんないし」

姉「いつかわかる日が来るさ」

妹「いっしょー来ないきがする」


姉「まあまあ。で、四つ目は抱き心地が良いところ」

妹「ねーちゃわたしを足の間におくのすきだもんねー」

姉「わたしの腕は妹を抱くつくりになってるからね」

妹「あはは、なにそれー」ケタケタ

姉「掃除終わったし、ゲームでもする?」

妹「する!」

妹「でもそのまえに、いちばんはー?」


姉「五個目じゃなくて?」

妹「最後はいちばんじゃないの?」

姉「わたしはショートケーキのイチゴを最初に食べるタイプ」

妹「しってるけど」

姉「……んー、妹の、一番好きなところ」

妹「ないの?」

姉「いや、あるにはある、けど……」

妹「なに」


姉「……」

妹「……」

姉「…………何言っても引かない?」

妹「う、うん」

姉「機嫌損なわない?」

妹「……え? うん」

姉「ぜったいぜったい、ぜーーったいに、だよ?」

妹「え、えっ、……えと、うん」

姉「……」

妹「……」

姉「妹の、一番好きなところは──」





姉「──顔に決まってるでしょーーっ!!!」ガバッ

姉「……」

姉「…………」

姉「…………?」キョロキョロ


チュンチュン


姉「……あ」

姉「……」

姉「夢か……」

今回はここまで
次回は7年後?です





<学校>


姉「はい、みなさん。おはようございます!」


\オハヨウゴザマース/


姉「今週──昨日までは定期試験お疲れ様でした。採点はまだ終わってないですが、答案を見るとだいぶ苦戦してたみたいですね」


ガヤガヤ


姉「あと少しで冬休み、こういう時こそ気を緩めずに過ごしましょう」

姉「前々から言ってますけど、教室内の私物の撤去、ロッカーの整理などは各自で行なってください」

姉「それと、冬期課外の受付は今週までとなっていますので忘れずに」

姉「その他の連絡事項は特にないので、えーと……では、一時間目の準備に移りましょう」








姉「……」テクテク

姉「……」テクテク

生徒A「あ、姉せんせー、こんにちは」

生徒「こんちはっす」

姉「こんにちは」

生徒B「あれ、髪切りました?」

姉「ちょっとね」

生徒B「めっちゃ似合ってますよ」


生徒A「かわいい」

姉「ありがとう」

生徒A「かわいさ分けてください」

生徒B「ついでに頭も」

姉「あはは、褒めても何も出ないよ?」

生徒A「テストの点おまけしてください」

姉「うわ正直だなあ……」

生徒B「姉せんせーテスト簡単に作ってくれるって私と約束してたじゃないですかー」

姉「してないしてない」


生徒A「補習かかったら冬休み消えちゃう」

生徒B「やばい」

姉「まあ、もし赤点でも追試があるし」

生徒B「補習は先生じゃないんですよね?」

姉「うん。わたしは課外担当」

生徒B「じゃあ頑張んないとなー、他のヤツビミョーすぎるし」

姉「こらこら」



キーンコーン


生徒A「あっ、予鈴なった」

姉「次の時間は?」

生徒B「世界史です、アイツっすアイツ」

姉「あー、また! 先生のことアイツとか言っちゃダメだってー」

生徒B「姉先生のことは言わないのでセーフっす」


生徒A「全教科せんせーだったらいいのに」

姉「そういう問題じゃないんだけどなあ……、ていうか、行かなくていいの?」

生徒A「遅刻したら怒られるんで行きます!」

生徒B「先生じゃあねー」ヒラヒラ

姉「はいはーい」ヒラヒラ











<職員室>


姉「……」キュッ

姉「……」キュッキュ

姉「……あー、惜しい」

姉「ここの部分点が、五点。……で、おおー、今回は頑張ったのね」

姉「……」

姉「……」フムフム

姉「……って、続きやらないと」



姉「……」カタカタ

姉「……」カタカタカタカタ

姉「……」カタカタカタカタカタカタ

姉「……」ッターン!

姉(よし、終わり。やっと終わったー)

姉(あとは他の先生と採点基準の再確認をして、もっかい見直して……んー、次の授業には返せそうかな)

姉(ていうか、平均点普通に低いなー……。そこまで難しくした気はなかったけど)

姉(小テストから数値いじっただけの問題はみんな軒並み点数取れてるのは良いのか悪いのか)

姉(そこで稼げてれば赤点にはならなくて、稼げてなければ赤点っていう狙い通りには行ったし、でもどうなんだろう……)


同僚「おっ、もしかして姉先生採点終わりました?」

姉「もう一回確認はするつもりですけど、いちおう終わりました」

同僚「いつものことながら今回も速いですね」

姉「……先生は?」

同僚「二クラス分は終わってるので、今日は残って終わらせます」

姉「大変ですね」

同僚「まあー、姉先生もやってることだし」

同僚「それで、どうでしたか? 姉先生の持ってるクラスの結果は」

姉「そうですね……、想定より高くもなく低くもなく、少し低いくらいです」


同僚「普通に低かったと」

姉「あー……まあ……」

同僚「こっちも同じ感じですから」

姉「ハコ六の問題、完答が一クラスでも数えるほどしかいなかったです」

同僚「でも良い問題だったと思いますよ」

姉「それは、えっと、ありがとうございます」

同僚「ちゃんと赤点も満点もいたので大丈夫だとは思います」

姉「えっそれは大丈夫なんですか……?」

同僚「差が出るのはいいことです」ニコ

姉「わたしの担当クラスには満点はいなかったです」


同僚「ああ、うちもまだ一人だけ」

姉(ですよねー……)

同僚「誰か知りたいですか?」

姉「……え? まあ、興味はあります」

姉(誰だろ? 先生の担当クラスだと──)

同僚「妹さん」

姉「……」

姉「……」

姉「…………あ、はい」

同僚「しかも文句なしの満点」

姉「えっすごい」


同僚「学生時代の姉先生くらい成績優秀ですよ」

姉「いやいや、そんなことないですって」

同僚「謙遜しなくていいのに」

姉「や、その、……先生にはいろいろとご迷惑をおかけしましたから……」

同僚「ふふふ、そんなこともありましたね」クスクス

同僚「ああ、せっかくの華金に呼び止めちゃうのも良くないですね。このまま帰り?」

姉「いえ、今日は──」

同僚「飲んでいくのね」


姉「まあ、はい」

同僚「あんまり飲みすぎないように」

姉「わかってますようー、先生はやっぱり先生だなあー」

同僚「いつまで経っても教え子は教え子」ニコリ

同僚「じゃ、おつかれさまでした」ペコリ

姉「おつかれさまです。お先失礼します」ペコリ




<図書室前廊下>


テテテテ
ガチャリ


姉「おまたせー、司書ちゃん」トントン

司書「おまちくたびれた」

姉「え、まじ?」

司書「それなりには」

姉「えっでもわりと時間通りなんだけど」

司書「時計」

姉「七時だけど、どうしたの?」

司書「……三十分遅刻は時間通りとは言わないと思うよー」


姉「ごめんなさい」

司書「ま、いいよいいよ。それよりどこ行く?」

姉「ん、駅近くがグー」

司書「姉さんの家の最寄り?」

姉「司書ちゃんの最寄りでもいいよ」

司書「でも明日午後から暇じゃないし泊まらせないよ」

姉「えー、そっかー残念」

司書「姉さんの家の近くにしよう」

姉「いいの?」


司書「あそこの軟骨唐揚げが食べたい腹になってるの」

姉「ボトルは?」

司書「んー、あれはまた今度にしよ」

姉「うむ」

司書「ハシゴしながらわたしの家の近くまで来てもらうから」

姉「そしたらタクシーで帰るかなあ」

司書「そうならないように一軒一軒軽く飲もうね、軽くね」

姉「うん。んじゃ車取ってくるから前で待ってて」

司書「おっけー」





<唐揚げの美味しい居酒屋>


カラカラ
イラッシャイマセー


司書「ハイボールふたつと~」

司書「枝豆と軟骨唐揚げとサバ塩焼きで、姉さんは?」

姉「チーズ唐揚げと塩唐揚げ、それとフライドポテトでお願いしまーす」


ショウショウオマチクダサ~イ


司書「こうやって姉さんと二人で飲むの、ちょっと久しぶりな気がする」

姉「そうだっけ」


司書「ほら、前はみんなで~って感じだったし、その前も他の人いたし」

姉「あー確かに。三ヶ月ぶりくらい?」

司書「それくらいね」

姉「そいえばわたし家だとほとんど飲まないから、お酒自体が先月ぶりなんだよね」

司書「えー何のための一人暮らしよー」

姉「だってお酒は誰かと楽しく飲みたいじゃない」

司書「なるほどねぇー……だからみんなで行くと水ばっか飲むんだ」

姉「あれ気付いてた?」

司書「姉さんみんなの中でお酒弱いことになってるから」



オマタセシマシターハイボールデス
タダイマオリョウリオモチイタシマスネ


姉「なにそれ心外」グビ

司書「……ま、そんなに強くないし間違ってはないと思うよ」グビ

姉「司書ちゃんと二人のときくらいだよー、羽根伸ばして飲めるの」

司書「あーね、そうだよね」

姉「けっこうなー、みんなわたしにヘンなイメージ持ってるからなー」

司書「ふふふ、まあね」

司書「やさしくてかっこよくてなんでもできる王子さまな姉さん」

姉「……んー、司書ちゃんも高校の頃はわたしのことそう思ってたの? やっぱり?」


司書「オーラがあったよ、うん」

姉「いまは?」

司書「えー、いまは? ……なんていうかさぁー、フンイキ変わったじゃん」

姉「そうかなー」グビグビ

姉「あ、緑茶ハイお願いしまーす」

司書「こっちはおかわりで」

姉「肉寿司頼んじゃおうぜー」

司書「姉さんの奢りね?」

姉「ははは、ここはわたしが持とーう!」

司書「大丈夫? 一杯でハイになってない?」












<沖縄風料理屋>


姉「海ぶどううまー」パクパク

司書「こっちのラフテー食べる?」

姉「食べる食べるー」パクパク

司書「はいどうぞ、って言う前にもう食べてるし」

姉「司書ちゃんゴーヤチャンプルー食べよ?」

司書「自分で頼みなさい」

姉「おにーさんお代わりとゴーヤチャンプルーお願いしまーす」


姉「ガゼウニ! ホヤ刺し! 司書ちゃん食べるー?」

司書「うん」

姉「お代わりは?」

司書「まだ飲み切ってないからいいや」

姉「どうしたの司書ちゃん。今日ペース遅くない?」

司書「明日予定があるから、あんまり深酔いはできないの」

姉「もしかして、でえと?」ニヤニヤ

司書「うん。まあ、デートといえばデート」


姉「……はあっ? 司書ちゃん彼氏居たっけ知らない知らなかったマジで?」

司書「彼氏じゃないよ」

姉「あっそうなの」

司書「ちょっと気になってる子。……いや、気になられてる? どっちも? みたいな」

姉「子、ってことは年下なの」

司書「うん」

姉「なーるほどぉー」ニヤニヤ

司書「かわいい子よ」

姉「へえー、いいねー」


司書「姉さんは?」

姉「んー、明日? 明日は午後まで寝て、ちょっと出掛けようかなーとか思ったり思わなかったり」

司書「じゃなくて」

姉「うん?」

司書「好きな人とか恋人とか」

姉「ああ、それはまったく」ケラケラ

司書「作る気も?」

姉「ないかなぁー」

司書「ふうん」


姉「あんまりそういうの興味ないんだよね」

司書「シスコンだから?」

姉「まあ……うーん、いやそれは違うけど」

司書「動揺した」

姉「してない」

司書「全部知ってて質問したわたしが悪い気もする」

姉「……」ジッ

司書「睨まないでよ怖いなあ」












<行きつけのバー>


司書「バーテンちゃん、伊達で」

姉「わたし白州でー」

バーテン「はいはーい」

司書「姉さんのは薄くしてね」

バーテン「ふふふ、いつもの感じね~」

バーテン「二人とも、軽く食べてく?」

司書「んーどうしようね、姉さん」


姉「……あれー、この前のー」

バーテン「キムチチャーハン?」

姉「そそ、司書ちゃん半分しよー」

司書「うん。わたしは牛スジ煮込みもね」

バーテン「……そうねえ、材料はあるけど、ちょっと時間かかるかなーって」

姉「時間ならたっぷり」グー

司書「右に同じく」

バーテン「じゃあ先にお酒出しとくね~」ゴトゴト



姉「……」グビ

司書「……」

姉「……」グビグビ

司書「……」チラッ

姉「……なによ」

司書「いやべつに」

姉「…………んー、あつい」プチプチ

バーテン「エアコン下げよっか?」

姉「あーいや、いいよ」


司書「……」

姉「……」ノビー

司書「……」

姉「……」

司書「……なんていうか、さ」

姉「うん?」

司書「いまの姉さんは、すっごくかわいい系になったよねぇ」

姉「……んー?」

司書「昔の姉さんはやっぱり、おっきくて、髪も短くて、すごく真面目な感じがしてさあ」

姉「えー」

司書「同級生だけじゃなく後輩からもカッコイイカッコイイってモテててさー」

バーテン「えー、なにそれ気になる~」

司書「写真見る?」

バーテン「みるみる、めっちゃみる」

姉「なんでそんなの持ってんのよ」


司書「姉さんのカッコイイ写真を撮ってる子がいて」

姉「……え、やだめっちゃこわい。てか初耳……誰?」

司書「るかちゃん」

姉「……」

司書「ほらほらあの、陸上部で、けっこー背が低くて、ちょっとツリ目の」

姉「……る、るかちゃんってあのるかちゃん?」

司書「そそ。バーテンちゃんこれこれ」スッ

バーテン「どれどれ? ……わわっ、かっこい~」

司書「でしょでしょ」

バーテン「モテるのも納得ね」

姉「……ね、待って司書ちゃん。わたしずっとるかちゃんに嫌われてるかと思ってたんだけど」


司書「……えー?」

姉「いや、あの、いきなりキッって睨まれたりとか、挨拶したら無視されたりとか」

司書「はあ、姉さんそれはさぁ──」

バーテン「んふふ」

司書「……まあいいや」

姉「え」

司書「バーテンちゃんお代わり~」

姉「えっえっ」

バーテン「姉ちゃんもお代わりいる?」

姉「いる。けど、司書ちゃん『まあいいや』ってどゆこと?」

司書「今度新年に集まるとき、るかちゃんも来るからそんときに聞いてみれば?」

姉「えっ、何を?」

司書「あーバーテンちゃんチョコもらえる?」

姉「ねぇー司書ちゃん!」













姉「"かわいい"はね、わかるよ。事実かわいいし、昔からずっと」

司書「うん」

姉「かわいいっては、言えるんだよねぇ。ふつうに、ふっつーにさあ」

司書「うん」

姉「……だけどさあ、"かっこいい"は何か違うじゃん……、結構違うじゃん……」

司書「えー、違うかな?」


姉「わたしが言われるのはいいの」

司書「あーはいはい」

姉「ほかの人に言われてるのもいいの。全然いいの。別に気にしてないし、本人にじゃなくてわたしに言ってくるのはよくわかんないけど」

姉「でもわたしが思っちゃうのはね、うん…………ね? わかるでしょ?」

司書「わたしに共感を求めないでよ」

姉「わかってよーっ……!」ジワッ

司書「めんどくさいわぁー」












(二時間後)


姉「…………わらひはぁ、べっつにたのしいこととか、なんもなくてぇ」グスグス

司書「……はいはい」

姉「……やりたいこととか、ほしいものとかぁ、なんもないからぁ…………」グスグス

司書「……」

姉「それなら、みんなが求めてくれるような、わらひの方がいいんじゃないかってぇ……」

司書「なるほどねー……」

姉「……」グッグッ

司書「……」

姉「……」

司書「……」


姉「……ししょちゃんのばーか!」プハァ!

司書「ええ? いきなりどうしたのよ」

姉「……わらひがぁ! ……すっごくどうしようもなくて……、ヘンなことばっかり考えてて、そういうことに興味ないこと知ってるくせにぃー!」

司書「あー、ロリコンなとことか?」

姉「わらひはろりこんでもしすこんでもないから!」

司書「まあそうね。ロリって感じでもないか」

姉「…………ばーか、ばーかばーか」

司書「……大丈夫? 横になる?」

姉「……うん」ダラー


司書「……もー、吐いたりしないでよねえ」サスリサスリ

姉「……うん」

司書「……」

姉「……うん」

司書「聞いてないのね」

姉「……」

司書「……」

姉「……」スゥスゥ

司書「んー寝るの早いなー」ポンポン

バーテン「そのまましばらく寝かせといたら?」

司書「そうするつもり」


バーテン「司書ちゃんおかわりいる?」

司書「水でいいよ」

バーテン「はーいこれ。……ふふ、姉ちゃんの寝顔かわいい~」

司書「そうね」

バーテン「そういえば、さっきの話だけどぉ~、司書ちゃんは姉ちゃんの追っかけはしてなかったの?」

司書「え、してないしてない」ブンブン

バーテン「そうなの?」

司書「そもそもの関わりが薄かったしねぇー、会ったら二、三言話す程度で、まあかっこいい子がいるなあって感じで」

バーテン「同じ大学だったのよね」

司書「そそ。同期で教育大行ったのはわたしらだけ」

バーテン「ふうん、でも司書ちゃんは教師にはならなかったんだ」

司書「まあいちおう司書教諭って言うんだけどね、大学で取る資格いる系の」


バーテン「へぇ~、もともとなりたかったの?」

司書「いや、わたしも教員志望だったんだけどね、いろいろあるじゃない」

バーテン「いろいろねぇ」

バーテン「……あ、前から気になってたこと聞いてもいい?」

司書「いいよ」

バーテン「司書ちゃんって~、そっちじゃない?」

司書「うん」

バーテン「姉ちゃんのことは、どうも思ってないの?」

司書「思ってないよ」

バーテン「え~?」


司書「まったく、1ミリも」

バーテン「ふぅ~~~ん?」

司書「なんとも思ってないよ」

バーテン「ほんとにぃー?」ニヤニヤ

司書「わたしはね、かわいい子が好きなの。高校のときの姉さんみたいなタイプは趣味じゃなかったの」

バーテン「……なるほどぉー、"なかった"ねぇ~」

司書「揚げ足取らないでよ」

バーテン「でもでも? ほんとのこと言っちゃうと?」

司書「……えー、ほんとのこと?」

バーテン「姉ちゃん寝てるし大丈夫」

姉「……」スゥスゥ


司書「……」

バーテン「……」ニコニコ

司書「……」

バーテン「……」ニコニコ

司書「……はあ」

バーテン「ふふふ」

司書「……実際言うと、わりと好み……ううんかなり好み、おこがましいけど、その場に居るだけでかわいいし」

バーテン「へぇ~」ニコニコ

司書「でもそれは、まあ、ムラっとくるタイプのかわいいなのよね」

バーテン「え~、なにそれ」


司書「バーテンちゃんもわかるでしょ」

バーテン「……うーん?」

司書「わかんないフリしないでよ既婚者」

バーテン「あは」

司書「腹立つ~」

バーテン「でもでもでも、姉ちゃんもそっちなんでしょ~?」

司書「……あーちがうちがう」ブンブン

バーテン「え? そうなの? まえに彼氏はいらないって言ってたよね」

司書「彼氏(も彼女も)いらないだと思う」

バーテン「ふうん」


司書「なんていうのかな……、Aセクっぽいんだよねこの子、話聞いてる感じだと」

バーテン「あ~、つまりどっちでもないってこと?」

司書「うんまあ平たく言えば」

バーテン「……なるほどね」

司書「"ぽい"ってのがポイントなんだけどね」

バーテン「……」

司書「……」

バーテン「……」

司書「……まあもし恋とか愛とかに点数付けるとしたら、一人に対して一億点で、他の人は上限でも十点とか、そんな感じなんだよ、多分」


バーテン「なら愛がないってわけでもないのね」

司書「……んー、いや、うーん……、一億点がずっと近くにいたら、周りなんて霞むじゃない?」

バーテン「そうね」

司書「だったらさぁ──」


ブーッブーッ
ブーッブーッ


バーテン「司書ちゃん?」

司書「いや?」

バーテン「……あ、姉ちゃんの胸ポケ光ってる」

司書「おお」スッ



司書「……あー、バーテンちゃん。電話出てもいい?」

バーテン「いいよーぜんぜん」

司書「わるいね」

バーテン「でも勝手に出ていいの?」

司書「……まー、寝てるしいいんじゃない」

バーテン「あら」

司書「わたしじゃ酔いつぶれた姉さんは運べん、めんどくさい」

バーテン「……?」

司書「それにこの際来てもらった方が早いし」

バーテン「……何のこと?」

司書「一億点のこと」













カララッ
カランコロン


司書「お、来た来た」

バーテン「いらっしゃ────おおー、これは~」

司書「わかる~?」

バーテン「わかる」


妹「なんですか」

司書「なんでもないです」

バーテン「……やばいわ~」


妹「司書さん、おねえちゃんは?」

司書「ここ」ユビサシ

姉「…………ムニャムニャ」

妹「ごめんなさい、いつもおねえちゃんがご迷惑を」ペコリ

司書「や、迷惑はかけられてないない。姉さん寝てるだけ」

バーテン「お嬢ちゃん一杯飲んでく?」

妹「わたし未成年です」

バーテン「そうよね、大人っぽいね~」

妹「よく言われます」

バーテン「高校何年生?」

妹「二年生です」


バーテン「ほおー……。てゆーか、司書ちゃん未成年連れ出していいの~? ガッツリ深夜よ?」

司書「姉さんの家に来てたみたいだし、いいかなって思ってね」

バーテン「いやダメでしょー……あ、これ水どうぞ」

妹「……ど、どうもありがとうございます」

司書「帰り送ってくからもーまんたい」

妹「あっ、その、わたしだけでも大丈夫ですよ」

司書「んやー、わたしも帰るの」

バーテン「司書ちゃんお会計しちゃう?」

司書「うん」


妹「おねえちゃんの分は、」

司書「いや、いいよ。ここわたし持ちって約束してたから」

司書「姉さん、起きて」ユサユサ

姉「……」スゥスゥ

妹「おねえちゃん、帰るよ」グイッ

バーテン「わ、力持ち!」

司書「わたしの見込み通り」

バーテン「遺伝かしら」クスクス

司書「じゃ、バーテンちゃんまたね」

バーテン「またね~、妹ちゃんも」フリフリ

妹「……」ペコリ












妹「……」テクテク

司書「……」テクテク

妹「……」テクテク

司書「……」テクテク


妹「あの、司書さん」

司書「なーに?」

妹「このまえ教えてくれた本、面白かったです」

司書「それはよかった」

妹「はい。友達に貸したら、その友達も面白かったって言ってました」


司書「……あー」

妹「……?」

司書「や、なんでもない。姉さんも面白いって言ってたよ」

妹「ああいう系統の好きですよね」

司書「この子わりとロマンチストなタイプなんだよね」ミョン

姉「……プヒャ」

司書「ダメな大人だなーほんと」

妹「あはは、でも昔からそうですよ」

司書「家族の前だとそうなのね」

妹「はい」ニコッ

司書「……てかさあ、今日の、いや昨日の昼休みさ、告白されてたでしょ」

妹「……あー、見てたんですか」

司書「たまたまね」


妹「……なんていうか、告白ってよりは、好きって言われただけというか」

司書「わざわざ中庭で?」

妹「まあ……はい」

司書「それを告白されたって言うんだぜー妹ちゃん」

妹「……はあ」

司書「ちなみに姉さんにはこのこと言ってないよ」

妹「……」ホッ

司書「心の声が漏れてる」

妹「……漏れてないです」

司書「じゃあそういうことにしといてあげる」ケラケラ

妹「……」

眠いのでまた今度
あと一回か二回で終わります





チュンチュン


姉「……ん」

姉「……あさ……?」パチリ


姉「…………んぅー」キョロキョロ

姉「……んあ」ガンガンガンガン

姉「みず、みずみず……」フラフラ


妹「あ、おねえちゃん起きた?」

姉「…………ぁー、いもうと?」

妹「うん」

姉「……なんでなんで」

妹「昨日行くって連絡したじゃん」


姉「……えー」ガサゴソ

姉「……」スマホポチポチ


妹:おねえちゃん今日泊まりに行くからね


妹「はいこれ、ミネラルウォーター」

姉「……ありが」キュッキュッ

妹「……」

姉「とう……」ゴクゴク

妹「ほら立ってー、顔洗いにいこー」ギュッ

姉「……やぁー、自分で、立てるからぁー」フラフラ

妹「……」パッ

姉「……」ヘタリ

妹「……」

姉「……」フニャフニャ

妹「……言わんこっちゃない」

姉「……面目ない」



妹「シャワー浴びなよ」

姉「うん」

妹「浴室で寝ないでね、具合悪かったら呼んでよね」

姉「うん」

妹「トマト雑炊作ったんだけど、上がったら食べるよね」

姉「うん、ありがとう」

妹「ううん、べつにいいよ」












(二度寝しようとしたらおもむろに布団に入ってこようとしたので起きました)












姉「……で、どうしたの?」

妹「んー?」

姉「うち来て」

妹「んーべつに理由はないけど。強いて言うなら、暇だったから?」

姉「そう」

妹「テスト終わったし」

姉「……なるほど」

姉(満点……)


妹「この前やろーって言ってたゲーム持ってきたよ」

姉「買ったの?」

妹「もち」

姉「何円だった? 払うよ?」

妹「いいよいいよ。普段使わないから、お金なら余ってるの」

姉「ふーん、あんまり遊びとか行かないんだ」

妹「友ちゃんとは行くよ」

姉「へー」



妹「おーねえちゃんっ」ポフッ

姉「んー?」

妹「んへへ、なんでもない」

姉「あ、もうゲームしたくなった?」

妹「んーん」

姉「……」ナデナデ

妹「……んー♪」ニコニコ

姉(かわいい)

姉「……」ナデナデ

姉(いい匂いする……)


姉「……」スンスン

妹「……?」

姉「……ふふふ」

妹「ご機嫌だね」

姉「そう?」

妹「あー、久しぶり? にお酒飲んだからかー、司書さんが言ってた」ウンウン

姉「……そうかもねぇー」

姉(ちがうけどー)












姉「ゲームしづらいと思ってさー」

妹「うん」

姉「このクッションを買ったのよ」

妹「……どう使うの?」

姉「ちょっとカラダ滑らせて、わたしと妹の間に入れれば」

妹「ん」

姉「これでやりやすいね」

妹「……」


姉「ほらほら、こっち来て」

妹「……」ポスッ

妹「……んー……」

姉「え、もしかして固い? 低反発のやつにしたんだけど……」

妹「ううん、いいねこれ」

姉「でしょでしょー、このまえ司書ちゃんと家具屋行ったときに、妹と座ろーって思って買ったんだ」

妹「あはは、そーなんだ」












(一時間後)


妹「おねえちゃん、交代」

姉「交代?」

妹「場所かわろ」

姉「なんで」

妹「いーからいーから」ニコニコ

姉「えー……わかった」

妹「ささっ──あいだに、どーぞ?」

姉「うん」ポスッ

妹「……んっ」ギュー

姉「……」


妹「クッションにはわたしが座る」

姉「え、でもそれだと」

妹「いーから」

姉「うん……」


姉「……」

妹「……」


ギュム


姉(あっ……)

妹「続きはやくー」ポンポン

姉「う、うん……」

姉(ぎゅむって……、ぎゅむっていった……)


妹「……」

姉(わたしの──)チラッ

姉「……」ペターン

妹「……」

姉(壁……)

妹「……」












妹「おねえちゃん、はい」

姉「ん?」

妹「つなご」スッ

姉「あーうん」ギュッ

妹「……」テクテク

姉「……」テクテク

妹「あそこのお店行くの久しぶりだね」

姉「そうだね」

妹「おねえちゃん何食べる?」

姉「どうしようかなー、やっぱり回鍋肉にしよっかなー」

妹「わたしは麻婆定食にしよ」

姉「美味しいもんねー」

妹「ちょっとずつ分けようね」

姉「うん」


妹「……♪」テクテク

姉「……」チラッ

妹「……?」

姉「……」フイッ

妹「……んー?」

姉「……あー、背、また伸びた?」

妹「わかんない。けど、多分」

姉「ふうん」

姉(やっぱりそうなのかー……)


姉「……」テクテク

姉(こう見ると顔とか表情とかは、昔からずっと変わらず幼げなのに)チラッ

妹「……」テクテク

姉(腕と脚めちゃ長いし、顔ちっちゃいし、チェスターコート似合ってるし、髪さらさらで整ってるし……)

姉(なぜか落ち込む……自分自身に)

姉(わたしのこの運動不足のアレとか、一向に成長しなかったアレとか、手入れを怠ってるアレとか……、並んで歩いていいものか、みたいな)

姉(……いやいや、こんなふうなこと考えてる時点でだいぶおかしいぞ、わたし)

姉(でも、でもでも今日はあんまり──)


妹「おねえちゃん、あぶな──」グイッ


プー!!!!



姉「えっ」

妹「──いっ!」ダキッ



ププー!!!!
キキキーッ!!


妹「信号赤だよ! ぼーっとしてると危ないって」ギューー

姉「……あ」ドキッ

妹「もしかしてまだ酔い残ってる?」ジィー

姉(いや近い近い近い近い)カァ

妹「おねえちゃん今日ずっとふわふわしてるし、大丈夫?」

姉「……」カァァァ

妹「……ねえ、おねえちゃん聞いてる?」ズイッ

姉「……あっ、……う、うん。聞いてる聞いてる」ドキドキ

妹「もー、ほんとに?」

姉「……ほんとに」ドキドキドキドキ

姉(やばいやばいやばい顔見れない……)

姉(妹にこういうこと思っちゃダメだろわたしぃー……)


妹「おねえちゃんがそう言うなら、わたしは信じるけどー」

妹「いちおう、心配だから」スッ

姉「……え、腕?」

妹「つかまって」

姉「なにゆえ」

妹「いーから」

姉(わからんまったくわからん)

姉「いや、自分で歩けるからいい」

妹「……ふーん」ムスッ

姉(なんでそんな不満そうな顔するんだー)

姉「……」

妹「……」


姉「……あー、あれだなー。寒いなー、コート着ててもめっちゃ寒いなー」コホコホ


妹「……」

姉「……まあ、うん」

妹「あんまり寒くないよ、わたし」

姉「えー、わたしは寒い? かなー。寒い気がするなー」

姉(イタいなー、わたし……)

妹「そっか」

姉「てことで、腕貸して?」

妹「……ふふふ、いいよぅー」スッ

姉「しつれい」ギュッ

姉(心臓の音伝わったりしないよね)

姉(めっちゃバクバクいってる気がする、気がするだけ、なんでだ)

妹「……」

姉「……」

妹「……んふふ」ニコニコ

姉「どしたの」

妹「なんでもない」ニコニコ





(週明け)


妹「……」カキカキ

妹「……」カキカキ


ガラッ


クラスメイトA「ご、ごめん妹さん! 遅くなっちゃった」バタバタ

妹「あ、でも、わたしもう日誌とか取ってきたから大丈夫だよ」

クラスメイトA「ああ……でもごめんほんとに」

妹「いいっていいって。昨日も部活忙しかったんでしょ?」


クラスメイトA「まあ……」

妹「わたし部活入ってないから土日の疲れとかないし、朝早く起きるの好きだから、ぜんぜん気にしなくていいよ」

クラスメイトA「でも、」

妹「明日からもわたしがやっとくからさ、朝練そのまま出てても大丈夫」

クラスメイトA「……えっ、いいの?」

妹「途中で抜けるのキツいって前に言ってたじゃん」

クラスメイトA「よく覚えてるね……、ありがとう」












妹「上の方消すの手伝うよ」

クラスメイトB「……え、でも悪いよ」

妹「いいよーぜんぜん。あの先生無駄に筆圧濃いから消しづらそーだし」

クラスメイトB「……うん、ありがと」

妹「わたしも黒板消すのたまにやろっかな」

クラスメイトB「妹さんは、黒板消しやすそう」

妹「なにいってるのー、いつもすごく綺麗に消してくれてるじゃん」

クラスメイトB「……あ、え……、その、見てたんだ」

妹「わりとね」

クラスメイトB「……」カァァァ












友「──へぇ、じゃあ土日は姉先生の家でずっと遊んでたの?」

妹「うん」

友「ほんと仲良いねー……」

妹「ありがとう」ニパー

友「姉先生って人気あるから羨ましー──や、でも妹も妹でそうかも? なのかな?」

妹「どういうこと」

友「んー、なんでもなっしんぐ」

妹「友ちゃんは、何かあったの?」

友「土日?」

妹「うん」

友「わたしは知り合いの人と遊んでたよ」


妹「あー、このまえ言ってた気になってる人?」

友「そんな話したっけ?」

妹「うん。先々週くらいに、マックで」

友「意外と覚えてるのね……」

妹「で、その……お知り合いさん? と何して遊んだの?」

友「カフェでしゃべってー、本屋に一緒に行ってー、ラウワン行ってー」

妹「たのしそ」

友「いーでしょ」ドヤ

妹「わたしも友ちゃんとラウワン行きたい」

友「そっちかい」

妹「ボーリング苦手だけどね」

友「わたしも苦手だ」

妹「でもたのしい」

友「わかる」


友「てか、妹が誘えば誰でも行ってくれると思うけど」

妹「行きたい人と行かないと意味ないでしょ」

友「……んー、妹はお誘い断りまくってるからね」

妹「そんなことないと思うよ」

友「一回くらい遊んであげればいいのに」

妹「誰かを断って誰かは受けたらおかしいじゃん」

友「わたしはいいのか」

妹「友ちゃんは別枠」

友「…………なるほどー胃が痛むわぁー」

妹「どうして?」

友「どうしてだろうね」

妹「なにそれ」





<次の日>


友「何点だった?」

妹「むふふふ」ニコニコ

友「良かったのか」

妹「百点」

友「……妹に聞いたのが間違いだった」

妹「そういう友ちゃんは?」

友「追試頑張ります点」

妹「ごめん」

友「あやまらないでくれー」

妹「でもわたし、数Ⅱで百点は初めて」

友「ふうん?」

妹「今回はちょっとがんばろーかなって思って勉強した」

友「どうして?」


妹「おねえちゃんが作った問題だからー」フフン

友「はぁー……」

妹「むしろそれ以外に理由ないし」

友「あ、聞いた? 冬休みの課外って姉先生らしいね」

妹「知ってる」

友「まさかもう申し込んだりしてる系?」

妹「してる系」

友「わー抜かりないねぇー」

妹「友ちゃんも受けませんか」

友「補習の瀬戸際に居るってのに~?」

妹「わたしが補習まで勉強教えるから」グッ


友「交換条件ってこと?」

妹「うん」

友「……えー」

妹「友ちゃんいないとさみしーよー」

友「でもー」

妹「補習かかったら二十八日まで補習だよ?」

友「うぐっ……それはやだなぁ」

妹「じゃあ決まりねー、場所どうする?」

友「勝手に決めないでよー。……いつもの図書室の奥でいいんじゃない」

妹「ようし、がんばろうね! 友ちゃん!」

友「うーん、おてやわらかに……」





生徒A「あ、姉先生はろー」

姉「はいはい、はろーはろー」

生徒A「いきなりだけど先生褒めて褒めて」

姉「……えっと、テストのこと?」

生徒A「そうです」

姉「このまえ追試かもとか言ってたのに全然余裕だったじゃない」

生徒A「実は今回がんばりました。後付けですけど」

姉「答案から伝わってきたよ」

生徒A「ほんとですか?」

姉「一点でも多く取ってやるって思いが伝わってきた」

生徒A「冬休みの課外取るには八割必須って書いてあったので」

姉「……あー、でもここだけの話、べつに八割なくても人少ないから通るんだよ」


生徒A「そうっぽいのは聞いてましたけど、もしかしてってあるじゃないですか」

姉「そんなに課外受けたかったの?」

生徒A「……まあ、そうです」

姉「がんばったね」ナデナデ

生徒A「…………う、」

姉「う?」

生徒A「……」

姉「……」

生徒A「れしいです、はい」

姉「……あ、勝手に撫でてごめんね」パッ

生徒A「や、いいですいいです。むしろありがとうって感じです」

姉「ついつい撫でてしまった」


生徒A「……もしかして、妹さんで慣れてたみたいな?」

姉「そうね」

生徒A「上手かったですよ」

姉「そう?」

生徒A「わんもあわんもあ」

姉「しないよ」クスッ

生徒A「えーなんでですかー!」

姉「ふふふ」

生徒A「えー、じゃあ次のテストも頑張りますから」

姉「期待してるね」

生徒A「次は満点目指します! 今回学年で一人しかいなかったらしい満点を!」

姉「がんばって」

生徒A「姉先生にそう言われたからにはがんばっちゃいますよ!」


姉「うん。……あ、そういえば生徒Bさんは今日は一緒じゃないの?」

生徒A「えっ、あっその、そうですね」

姉「……ん? え、何かあったの?」

生徒A「なにもないですよぉー、ははは」

姉「はははて」

生徒A「落ち込んでるんですよー、あの子。めちゃのめちゃに、やばいくらいに」

姉「どうして?」

生徒A「テストが悪かったから」

姉「……」

生徒A「……ってのはウソでー、振られちゃったんですよ」


姉「……へえ、生徒Bさん恋人いたんだー」

生徒A「あ、ちがいますちがいます。好きな人に告って振られたんです」

姉「……それわたしに言っていいの?」

生徒A「や、その、相手が相手なので……」

姉「えっ」

生徒A「一年のころ同じクラスでそこそこ仲良くしてて、クラス離れたけどずっと好きだったみたいでーって感じです」

姉「……」

生徒A「クリスマス予定空いてるかって聞いたら、もう入ってるって言われたみたいで、それでいてもたってもいられなくなって好きって言っちゃったらしいんです」

姉「……あ、うん」

生徒A「……」

姉「……」

生徒A「……姉先生は?」


姉「わたし?」

生徒A「クリスマスは彼女さんと過ごすんですか?」

姉「え? いや、ないない。いないし」フリフリ

生徒A「そうなんですねー!」ニコニコ

姉「まあ……」

姉(ていうか彼女って言ったよね……)

生徒A「……あれですね。わたしもクリスマスイブは姉先生の課外ですけど、クリスマス当日は暇かなー、なんて」

姉「……あの、生徒Aさん」

姉(それってそういうことなの)

生徒A「考えといてくださいね! ではまた!」シュタタタッ

姉(やっぱりそうなのかー……)





<図書室>


妹「……でねー、これがこうじゃん」

友「うん」

妹「で、これを代入。おしまい」

友「まるでわからん」

妹「まじですか」

友「まじす」

妹「わたしには向いてないんだろうか」

友「向いてない」

妹「それけっこーヘコむ」

友「……なになに、教師になるつもりなの?」

妹「え、いやべつに、ないない」

友「そうなのね」

妹「うん」


友「もしかして『姉先生と同じ職場がいい』とか考えて、この学校の教師目指しちゃったりするのかって思った」

妹「えー」

友「……」

妹「んー」

友「……」

妹「んー……」

友「……」

妹「…………んー」テレテレ

友「『まったく考えてなかったけど良いと思いました』みたいな顔やめい」

妹「えっ、友ちゃんエスパー」

友「エスパーもなにも姉先生のことになると、妹はわっっっっかりやすいから」

妹「そうかなあ」


友「そうそう、ほんとそれなって感じ。まじで真面目に」

妹「何その反応」

友「で、なりたいとか思っちゃったー?」

妹「うーんそうだなあ……選択肢のひとつに入れとく」

友「ありゃ、そうなんだ」

妹「うん」

友「その心は」

妹「おねえちゃんのことは、料理とかつくって待ってたいし」

友「ふわふわしてるようで将来設計しっかりしてんのねー」クスクス

妹「そんなことないと思うけど」


友「ふうん」

妹「考えたことなかったし」

友「意外」

妹「そうかなあ……」

友「だって、まずなぜか一緒に住むことになってんじゃん」

妹「え、住まないの?」キョトン

友「あっもういいっす。それでいいっす。スマセン」

妹「友ちゃんへんなのー」

友「……」

妹「……」

友「……」

妹「……」

友「そいえば、さっきからなんとなく触れなかったけど」


妹「うん」

友「乗ってる」

妹「うん」

友「……」

妹「……」

友「……」


妹「肩こるし」

友「いいよなあ」

妹「ふふん」

友「ドヤ顔やめろ! 分けろ!」












妹「……」カキカキ

友「……」カキカキ

妹「……」チラッ

妹「友ちゃん、そろそろ終わりにする?」

友「……おー、もうこんな時間か」

妹「明日もがんばろうね」

友「うん」

妹「わたし今日地下鉄だけど、友ちゃんは?」

友「ブス」

妹「バスか」

友「うむ」

妹「ちょうどいいのあるかな」

友「どうせ雪降ってて道路混んでるから時間通りには来なそう」

妹「なるほど」フム


友「……そういえば、今日まで返却期限の本教室に置きっぱだったから取ってくるね」

妹「わかった」

友「あ、妹は帰っててもいいよ」テクテク

妹「うん」テクテク

友「上行くと寒いしね」テクテク

妹「わかる」テクテク


友「……」ピタッ

妹「友ちゃん?」

友「妹、こっち」コソコソ


妹「う、うん」

友「……あれ見て」ユビサシ


姉「~~」ブンブン

司書「~~」

姉「~~……」

司書「……」ハァー


友「前から思ってたけど、司書さんと姉先生って仲良いよね」

妹「うん、そうだね」

友「どう思いますか」

妹「仲良い」

友「それを踏まえて、どう思いますか」

妹「踏まえて? えー、べつになにも」

友「仲良い以上のアレがあるとか思ったりしないの?」

妹「ないでしょ」


友「本当に?」

妹「ないよ普通に。ていうか、どうしてそんなこと聞くの?」

友「気まぐれ」

妹「友ちゃんたまにナゾ」

友「……妹の方がわたしにとっては謎だよ」ボソッ

妹「……? 何か言った?」

友「なんでもないやい」

妹「ふーん」

友「……」

妹「……」

友「覗きは良くないし、あっちから出ましょうぜ妹ちゃんよー」

妹「そうだね、二人とも楽しそうだし」

妹「……あれ、でも本取りに行かなくていいの?」

友「明日でいいや」

妹「ほんとに気まぐれだ」





<車の中>

ブロロロロ……


司書「わざわざ聞く必要ないけど、もちろん断るんでしょ?」

姉「そりゃあ、もちろん」

司書「でしょうね」

姉「本気で言ってたのかからかわれたのか分からないし」

司書「いやいや、絶対本気で言ってるって」

姉「そうかなあ……」

司書「もし断ったら『先生わたしにやさしくしといて断るんですか』って言われるかもよ」

姉「でもそれは普通に慕ってくれてる生徒だし……」

司書「姉さんって昔からそうだよねー」ヤレヤレ

姉「なにが」

司書「そういうところの線引きが曖昧だから、いろんな人に勘違いさせるし、勘違いされる」


姉「……だってさ、普通に、わたし女だし」

司書「……女だから、同性からセクハラまがいの質問されたり、さりげなく身体触られたりしても何も言わないの?」

姉「まあ」

司書「さすがに生徒に誘われたりしたのは初めてでしょ?」

姉「……」

司書「……え、あるの?」

姉「…………軽い感じのなら。真面目に断るのも変だし、全部流してたけど」

司書「えー」

姉「司書ちゃんわたし間違ってる?」

司書「……いやまあ間違ってはないと思うよ。相手は思春期の子達だしね」

姉「うん」

司書「でも姉さんがそういう感じの人って噂が流れたりしたら元も子もないじゃない」

姉「もう流れてる」


司書「そうだろうとは思った」

姉「『彼氏いますか?』『いないよ』『作る気は?』『ないかな』でそうなる世界らしい」

司書「あーね」

姉「ちょっと関わっただけで言われるなら、それはもう防ぎようなんてないじゃん」

司書「そうね」

姉「どうしようもないし、気にして態度を変える方が傲慢かもだし、これからも変わらずにいるしかないよね」

司書「姉さんがそれでいいならいいと思うよ」

姉「うん」

司書「でも、妹ちゃんはどう思うかな」

姉「……どうして妹?」

司書「言ってたじゃない。女の子から告白されたんでしょ? アンタの妹ちゃん」

姉「……」





<バス停>


友「さっきの話さ、妹はもし姉先生に恋人が出来たらどうするの?」

妹「どうするのって?」

友「まず同居はかなわないじゃん」

妹「うん」

友「夜ごはんをつくって家で待ってることも出来ないじゃん」

妹「うん」

友「……ていうか大前提として、自分よりも好きな人がいるってことじゃない」

妹「そうだね」

友「ダメージとかないの?」

妹「だってそんなの想像できないから」

友「でもないとは言い切れないでしょ」

妹「ないよ」


友「言い切っちゃうかー」

妹「うん」

友「……」

妹「起こるはずのないことは考えない方がいいし、そういう想像したって何も変わらないじゃん」

友「たしかに変わらないけどさあ」

妹「友ちゃんさっき図書室で、将来設計って言ってたよね」

友「うん言った」

妹「将来のことなんて、わたしはあんまり考えてない。その少し考えたことで優先順位はあるけど……でも、どこの大学に行くとか、何の仕事をしているかとか、そんなのは些細な問題で、どうでもいいことなの」

妹「わたしの中では、おねえちゃんと一緒にいること以外は全部失敗なの」

友「……」

妹「おねえちゃんがわたしじゃない誰かを好きになっても失敗。わたしのことを嫌いになっても失敗。もし失敗したとして、そこから修正はできるかもしれないけど、それはそれ。……わたしは、一度も失敗したくない」


友「ねえ、怒ってる?」

妹「怒ってない」

友「ごめんね」

妹「ううん。怒ってないから謝らないで」

友「……」

妹「……」

友「……じゃあさ、ひとつ聞いていい?」

妹「うん」

友「そんぐらい思ってるならどうして、その気持ちを姉先生に伝えないの?」

妹「それは……」

友「うん」

妹「…………ごめん、言えない」

友「わたしでも?」


妹「……うん。友ちゃんにも、誰にも……おねえちゃん以外には」

友「そっか」

妹「友ちゃんあのね、わたし目の前のことはちゃんと考えてると思う」

友「たとえば?」

妹「この三年間の重要さとか、貴重さとか」

友「どういうことよ」

妹「ふふふ、恥ずかしーからヒミツ」

友「なんだよー」

妹「……」

友「……ていうか、あんなに本音をしゃべる妹は珍しいんじゃない」

妹「そうかな」

友「わたしだからか」

妹「友ちゃんだからかな」

友「取ってつけた感ハンパねー」


妹「本音を言えるのは大切な友達だから」

友「本音を言えるのが大切な友達なの?」

妹「ううん。友ちゃんが大切な友達だから、本音を言える」

友「嬉しいこと言ってくれるねぇ」

妹「ふふふ」ドヤァ

友「このドヤ顔を見れるのも実はめちゃくちゃ貴重なのでは?」

妹「ありがとう」

友「褒めてないよ」

妹「えー、ウケる」ケラケラ

友「ウケんし」

友「まー、妹もがんばってるみたいだし、わたしもがんばらないとなー」

妹「テスト?」

友「それも。これは自分との戦いなのだ」

妹「他の人は気にしてられない?」

友「よく分かってんねーさすが」クスクス





<司書ちゃんハウス>


司書「……」カシュッ

姉「……」ポリポリ

司書「……」トポトポトポ

姉「……」ポリポリ

司書「……」グビグビ

姉「……」ジトー

司書「……いる?」

姉「明日学校だし」

司書「チューハイなんてジュースじゃない」

姉「車で帰らなきゃだし」

司書「置いてけばいいじゃない」

姉「話できなくなりそう」

司書「……それもそうね」

姉「うん」



司書「それで、妹ちゃんが告白されたっての聞いて少し落ちこんだって話だっけ?」

姉「落ちこんでない」

司書「またまたー」

姉「ほんとに」

司書「じゃあ信じよう」

司書(ていうか姉さんに限っては、本当にそうなんだろうなって納得できちゃうんだよなあ……)

姉「わたしが言いたいのは別の話」

司書「うん」

姉「……」

司書「……」

姉「……言うね?」

司書「どうぞ?」



姉「わたし、ダメなおねえちゃんなのかなあ……」ガクッ


司書「…………はあ」


姉「ため息!」

司書「ああ、いやごめん。まず話を聞くべきね」

姉「うん。……えっと──」

司書「……」

姉「……」

司書「……」

姉「……ど、どきどき、してしまった」カァァァ

司書「……うん……うん?」

姉「妹が……その、なんていうか、大人っぽく見えたというか、腕を、こう? ね? 出されたときに、ほんとはすぐにギュッて掴みたくなるような感じで」クドクド

司書「……」

姉「元はと言えばわたしの不注意が原因だったんだけど、ちょっと心配されただけで、『あっやばっ』ってなって、顔とかまともに見られなくなって、ちょっとじゃないくらいどきどきしちゃって……」クドクド

司書「待って、話が見えない」

司書(ただのノロケじゃんか)


姉「え……と、いや、うん。簡潔に言うことにしよう」

司書「どうぞ」

姉「妹、かっこいい」

司書「うん」

姉「わたし、どきっとした」

司書「うん」

姉「……」

司書「……え終わり?」

姉「終わり」

司書「ノロケじゃん」

姉「ノロケじゃない!」

司書「ノロケでしょどう聞いても」

姉「……ちがっ! わたしは、真剣に言ってるのに」

司書「真剣にノロケてるんでしょ」

姉「茶化さないでよ!」


司書「だいたい、妹ちゃんがかっこいいのは今に始まったことじゃないでしょ」

姉「でもでも、妹は、かわいくて──」

司書「今も昔もかわいいじゃない」

姉「そうなんだけど、わたしがどきっとした妹はかわいい妹じゃなくて」

司書「かわいい妹ちゃんもかっこいい妹ちゃんも妹ちゃんでしょ」

姉「……っ! それは、そう……だけどさあ……」グスッ

司書(あっ)

姉「そういう感情を持っちゃったら、わたしダメじゃん。我慢とか、そういうの、できなくなっちゃうじゃん。……妹も大人なんだって思ったら、姉妹とか抜きにして好きって言ってるようなものじゃん」

司書「なら姉さんは、もし姉妹じゃなかったら妹ちゃんのこと好きじゃないの?」

姉「ちがう。……好きなの、好きは好きなの」グスグス

司書「あーうん。いまのは普通にわたしが悪い」


姉「……でも、でもね゛っ! けほっ」グスグス

司書「大丈夫? 水飲む?」

姉「う゛ん」ゴクゴク

司書「……」

姉「司書ちゃーん……」チラッ

司書「ん?」

姉「これおさけー……」

司書「そうね」

姉「ばかじゃん」

司書「確認しなかった自分が悪いんじゃない」

姉「そうだけどー」


司書「……要するに姉さんは、妹ちゃんを自分のものにしたいって思っちゃったんでしょ?」

姉「……」

司書「もしくは、されたい」

姉「や、それは」ブンブン

司書「わたしとしてはどっちでもいいんだけど、そういうことでしょ」

姉「そういうこと……なのかな?」

司書「さあね」

姉「……」ジト

司書「でも、仮にそうだとしても姉さんは"ダメなおねえちゃん"ではないよ。いつも言ってるけど」

姉「……」


司書「……ていうか、姉さんは気付くの遅すぎ」

姉「えっ」

司書「昔からずっと姉さんは妹ちゃん以外なんてどうでもいいじゃん」

姉「そんなことないよ」

司書「あるから」

司書「高校のときに、誰からの遊びの誘いでも断ってたのもそう」

姉「……」

司書「大学のときだって、頻繁に実家に帰ってたし、よく妹ちゃんと電話してたし」

姉「……そうだった?」

司書「ああそういえば、いまの壁紙だって妹ちゃんでしょ」

姉「なぜ知ってる」

司書「このまえ見た」

姉「な」


司書「……まあ何が言いたいかっていうと、妹ちゃんとしっかり向き合った方がいいんじゃないかってこと」

姉「……」

司書「姉さんと同じようにあの子だって人気あるだろうし、知らないうちにどこぞの馬の骨ともわからないやつにいろいろ奪われちゃったりするかもしれないし」

司書(100パーないだろうけど)

姉「それは……」

司書「ファーストキスとか」

姉「……」

司書「そう思うとね、ほら──」

姉「し、司書ちゃん。妹のファーストキスは、七年くらいまえにもう……」

司書「えっ」

姉「……あ、その、相手はわたしなんだけど」

司書「いやそうでしょうね」

司書(ちょっと驚いた……ていうか)


司書「どっちから?」

姉「妹から。ほぼ不意打ちで」

司書「頬にとかじゃなくて?」

姉「頬になら数えきれないくらい」

司書「……あ、うん」

司書(そりゃそうよね)

司書「そのときは姉さんも初めてだったの?」

姉「うん」

司書「わたしらクラスのみんなとちゅっちゅしてたのに」

姉「あはは」

司書「姉さんもよく迫られてなかった?」

姉「やめてほしいよねああいうの」

司書(第三者として見てるぶんには天国だった気がするんだけど)


司書「ちなみに、その一回きり? 何度も?」

姉「一回きり」

司書「そう」

姉「うん」

司書「……」

姉「……」

司書「……まあ、いいんじゃない」

姉「いいのか」

司書「妹ちゃんは、けっこう抜けてるようにみえて賢いから」

姉「そう?」

司書「そう、姉さんとは真逆」


姉「つまりわたしは、しっかりしてるようにみえて馬鹿ってこと?」

司書「よく分かってるじゃない」

姉「悔しいけど否定できない……」

司書「まあ、これでも飲んで元気だして」スッ

姉「うん」グビグビ

司書「こういうところよね」

姉「……さ、さすがにわざとだよ!」

司書「えー、ほんとにぃー?」

姉「ほんとよ」

司書「へえ」

姉「もーいいや、今日は飲んじゃおう」

司書「冷蔵庫から好きなの取っていいからね」





数日後

<図書室>


妹「ごめん友ちゃん! 週番の仕事で遅れ──」


友「えー、そうなんですか?」クスクス

司書「そうなのよ」ニコニコ


妹「──た。あ、あれ」


友「あ、妹だ」

司書「妹ちゃんだ」


妹「うん。……あれ、あれあれ」

友「どしたの」

妹「お知り合い?」

友「お知り合い?」キョトン

司書「わたしと友ちゃんがじゃない?」

妹「そうです」

友「ああ、うん。お知り合い」

妹「へー」

司書「なかよし」ギュッ

友「……え、あ」

妹「わたしもなかよし」ギュッ

友「……両手に花?」


司書「妹ちゃんとわたしもなかよし」ニコニコ

妹「あはは、それは微妙です」

司書「ひどーい」

妹「うそですよ、なかよしですよ」クスクス

友「わたしよりもなかよし?」

妹「友ちゃんの方が」

司書「友ちゃんの方が」

友「……お二人とも、お仲悪ぅございますか?」

妹「司書さん、そんなことないよね」

司書「うん。妹ちゃんの言うとおり」

妹「なかよしこよしの握手」ギュッ

司書「ふふふ」ギュッ












妹「いよいよ明日だね」

友「うん」

妹「ちゃんと寝なよ」

友「追試あるの放課後だよ」

妹「体調不良なっちゃダメだからね」

友「妹マジお母さん」

妹「あは」

友「今度からは授業真面目に受けようと思いました」

妹「その方いいよ」

友「でもとりあえず明日受からなければ」

妹「うん」

友「クリスマスに学校なんてありえない」





<大教室>


姉「──この点は出ないね。(a,b)通らない接線だから」

姉「(a,b)の通るような接線の接点が出るんだよね」


友「……」チラッ

妹「……」ポケー

友「……」ジー

妹「……んへへ」ボソッ

友「……」

妹「……」ポケー

友「……」



姉「えっとー、もうここまでくれば答えわかるよね」

姉「じゃあ──、友さん。答えをどうぞ」

友「……」


シーン


姉「……あの、友さん?」

友「……あ、あ、はい」


姉「答えは?」

友「え、えーと」

姉「何個?」

友「……あ、三個です! 三個ですはい!」

姉「うん正解」

姉「暖房ちょっと暑いしお昼ご飯食べたばかりだけど集中しようね」

友「すみません」












(授業後)


友「ちょっと妹~、怒られちゃったじゃん」

妹「……」

友「……」

妹「……」

友「おーい、妹?」フリフリ

妹「……友ちゃん」

友「うん」

妹「やばかった」

友「え? なにが?」

妹「先生してるおねえちゃん」ムフー


友「あ、そうだね。分かりやすかったね」

妹「うんうん。めちゃやばい」テレテレ

友(わたしのやばいと妹のやばいは違うっぽい)

友「小さいときとか、勉強教えてもらったことないの?」

妹「それはあるけどー、今は先生と生徒だから」

友「あっうん」

妹「ねぇ友ちゃん、職員室行って『さっきのここ詳しく教えてください』って言ったら教えてもらえるかな」

友「え、分からなかったの?」

妹「ううん」フルフル

友「だよね」

妹「でも……でもそっか。おねえちゃんからしてみたら仕事が増えるだけで迷惑かもか」

友(そんなことはないと思うけど)


妹「やめとこ」

友「ふーんじゃあわたしは聞きに行ってこようかな」

妹「え、ずるい」

友「うそうそ。明日の予習しなきゃだしそんな暇ない」

妹「わたしもしなきゃ。図書室?」

友「図書室」

妹「友ちゃんもすっかり真面目さんだ」

友「そうかもね」

妹「わー」パチパチ

友「……そういえば、今日ちょっと遅くまで残ってくから」

妹「わかった。用事?」

友「うん」





(翌日)


姉「事前配布の分は終わったから、最初に渡したプリントを解いてください」

姉「時間は……十五分くらいかな、ちょうどいいので二時からで」


姉(……ふー、喉渇く喉渇く)キュッキュ

姉「……」コクコク

姉「……」チラッ


妹「……」ジトー


姉(めっちゃ見られてる!?)



姉「……解けた?」

生徒A「……あ、いえまだです」ニコニコ

姉「そっか」

姉(クリスマスは家族と過ごすから~ってやんわり断ったら納得してたみたいだけど、笑顔向けられると少し怖いわたしがいる)

姉(接し方もうちょっと考えないと)

姉「そこらへんのみんなも?」


コクコク


姉「じゃあ時間を五分伸ばすね」ピッピッ



テクテク


姉「友さんは?」

友「がんばってます」

姉「どれどれ? あ、その調子」


ジトッ


姉(めちゃくちゃ視線感じるんだけど……)

姉「……」

姉「……」チラッ

妹「……!」パアアア

姉「えと、妹……さんは?」

妹「解けたです」

姉「……ぷっ」


姉(解けたです)

友(解けたです、って……)クスクス

妹「……おねえちゃん、友ちゃん。どうして笑ってるの」

友「変な敬語」ケラケラ

妹「間違っただけ」

姉「ていうか妹さん、学校ではおねえちゃんじゃなくて先生でしょ」

妹「あ、はい」

姉「……」

妹「…………先生」カァァァ

姉(あっこれヤバ)

妹「先生、解けました」

姉「……」

妹「……でも先生、こっちの問題が微妙です」

姉「……あ、はい」

友(やれやれ)





(クリスマスイブ)


妹「……」テクテク

司書「やあやあ」フリフリ

妹「……」テクテク

司書「無視かいな」

妹「……」ピタッ

妹「なんですか?」クルッ

司書「迷える子羊の電波をキャッチした」

妹「……ううーん」

司書「なかよしのハグでもしとく?」

妹「しなくていいです」パッ

司書「冗談冗談」

妹「知ってます」


司書「妹ちゃん、明日のご予定は?」

妹「暇ではないです」

司書「姉さんとか」

妹「はい」

司書「どこか行ったりするの?」

妹「それは決めてないです」

司書「……ていうか姉さんのこと誘ったの?」

妹「……おねえちゃんの家行けばいいなって」

司書「ご両親は?」

妹「二人ともシゴトです」

司書「毎年大変ね」

妹「まあ……でももう慣れました」

司書「ところで明日は決めにいくの?」

妹「何の話ですか?」

司書「いや、そんな気がしたから」


妹「……」

司書「……」

妹「……まあ、できれば」

司書「え、マジで」

妹「うそです」

司書「というのもうそですってやつね」

妹「というのもうそっていうのもうそです」

司書「というのもうそっていうのもうそっていうのもうそっていうアレかな」

妹「やめましょ」

司書「妹ちゃん奇遇~って感じで締めればいいのね」

妹「え?」

司書「わたしも明日決めにいくの」

妹「あ、はい」

司書「てことで、わたしからのクリスマスプレゼントを渡すね」ピラッ


妹「……」

司書「水族館のチケット。姉さんのこと誘ってね」

妹「……えと、誘ってね、って」

司書「わたしはもう一人誘ってるから」

妹「つまり、四人でってことですか?」

司書「うん」

妹「……でも」

司書「心配しなくても大丈夫。雰囲気見て二人きりにしてあげるから」グッ

妹「司書さんがやけに協力的なのが怖いです」

司書「わたしもいろいろとオイシイ部分があるの」


妹「わたしが、……や、おねえちゃんが行くと?」

司書「どっちもよ」

妹「意味わかんないです」

司書「まあ……そんなこと言いつつ行くでしょ」

妹「それは行きます」

司書「そう言ってくれると思ってた」

妹「はい」

司書「あとで集合時間とかメールしとくから、姉さんと確認してね」












ピロピロピロピロ
ピロピロピロピロ


姉「……ん、鳴ってる」


妹:今日いっしょに帰ろうね


姉「……」スッスッ


姉:十七時頃に駐車場


姉「……」

姉(いつも思うけどライン苦手すぎる)



ブーブー


妹:先生しょうちしました!


姉「……」スススッ


姉:先生やめて(´・ ・`)


ブーブー


妹:その顔文字かわいい

姉:ありがとう

妹:でも先生の方がかわいいぜっ!

姉:先生やめて|ω・`)

妹:おねえちゃんの方がかわいいぜっ!

姉:ありがとう

妹:どういたしまして(^∇^)



姉「……」ニマニマ

姉「……」ニマニマニマニマ


姉「……」ハッ!

姉「……」

姉「……」キョロキョロ

姉「……ふー」

姉(マナーモードマナーモード)














友「じゃあね、妹! 明日楽しみだねー!!」タッタッタッ


妹「……え?」














<くるま>


ブロロロロ……


妹「おねえちゃん、明日は何の日?」

姉「クリスマスの日」

妹「いっしょに過ごしませんか」

姉「いいよ」

妹「やった」

姉「むしろこっちからお願いします」

妹「んふふ」

姉「どこか行く?」

妹「……んー、家でごろごろがいいかなー」

姉「どっちの家がよろしいか」

妹「7:3でわたしハウス」グッ

姉「何の割合よ」クス


妹「でもわたしの家って言い方ちょっとおかしい気がする」

姉「たしかに」

妹「わたしたちの城」

姉「家でいいじゃない」

妹「こたつでミカンを食べましょう」

姉「雪見だいふくも食べよ」

妹「いいねー」

姉「うん」

妹「それで、ちょっと暗くなってきたらこれ」ピラッ

姉「……んー、水族館?」

妹「うん、司書さんが行こうって」

姉「司書ちゃんが? なんで?」

妹「さあ?」

姉「司書ちゃんと妹とわたしの三人で?」

妹「もう一人来るから、四人で」

姉「そっか」

妹「うん」


姉「クリスマスに水族館」

妹「なつかしーね」

姉「あれから水族館行ってないなーそういえば」

妹「わたしも行ってない」

姉「なぜか今から楽しみ」

妹「おねえちゃんはペンギン好きなんだっけ」

姉「妹はクラゲだったよね」

妹「うん」

姉「楽しみだ」

妹「わたしも」

姉(クラゲを見てはしゃぐ妹を見るのが)

妹(ペンギンを見てはしゃぐおねえちゃんを見るのが)





ピンポーン


姉「司書ちゃんかな」

妹「どうだろ」

姉「コタツから出れん」ヌクヌク

妹「わたし出るね」

姉「あ、ありがとー」


ガチャッ


友「やーやー」

妹「…………んー」


友「なに頭抱えて」

妹「……いや、うーん…………」

友「……」

妹「今日はずいぶんとおめかしを」

友「まあね」

妹「ポニテ似合ってるよ」ニコリ

友「ありがとう」

妹「ささ、入って入って」



姉「あ、いらっしゃ──」ゴロゴロ

友「こんにちは」

姉「……えっ」ビクッ

友「今日はよろしくお願いします」ペコリ

妹「司書さんが友ちゃんを誘った」

姉「……え、えー」

友「学校の外ですけど、姉先生、ですかね?」

姉「あーいや、べつに……」

妹「さん付けくらいがちょうどいいんじゃない」

友「姉せんせいさん」

妹「混ぜちゃうのか」

姉「あ、友ちゃん。いまお茶出すから待っててね」

友「はーい」



友「妹、姉せんせいさんって家だとこんな感じなの」

妹「うん」

友「意外だ」

妹「どこらへんが」

友「全体的に」

妹「まあ、学校のおねえちゃんはポテトチップスとか食べなそうな感じだよね」

友「なんかよく分かんないけどしっくりくるわそれ」

妹「昨日はこたつで寝落ちしてた」


友「妹も?」

妹「うん」

友「こたつでかいね」

妹「そう?」

友「ていうかおうちでかすぎ。庭広すぎやばめじゃん」

妹「ね」

友「姉せんせいさんは一人暮らしだから、妹はほぼ一人でここに住んでるわけじゃん?」

妹「おかーさんとおとーさんもいるよ」

友「でもでも朝早くて夜遅めなんでしょ?」


妹「最近は朝ごはん三人で食べてる」

友「妹が朝めっちゃ早いのそういうことだったのか」

妹「そういう部分もある」

友「あ、休みの日に家来ていい? てか今度泊まっていい?」

妹「いいよ」

友「やばー、なんで言ってくれなかったの」

妹「えー、聞かれなかったから」フフン

友「ソファふかふか~」ポフポフ












司書「そろそろ行きましょうか」

姉「うん」

友「はーい」

司書「……大丈夫? 三人ともこたつから出れる?」

姉「出れませぬ」

妹「右に同じく」

友「わたしもす」

司書「なによその息ぴったりな感じ」





<水族館>

姉「へー、この時間ってほんとは閉店してるんだ」

司書「クリスマス限定で延長してるんだってさ」

姉「閉店後の水族館ってちょっとぞくぞくする……」

妹「たぶん照明も普段より暗いしねー」

友(周りカップルしかいないじゃん)

司書「イルミネーションだ」

姉「ほんとだ」

司書「はい姉さんこれ」

姉「スマホ?」


司書「友ちゃん、写真撮ろ」

友「うえっ!? は、はい」


カシャッ


姉(友ちゃん顔真っ赤……)

妹(友ちゃん顔真っ赤……)

友「ありりがとととうござざざいます」カァァァ

姉「あはは、どういたしまして」

妹(友ちゃんやばい)

司書「二人も撮ってあげる」

姉「おー、ありがとう」



カシャッ


妹「おねえちゃん写真あとで送ってね」

姉「うん」

妹「これきれいだね」

姉「そうだね」

妹「おねえちゃん単品でも撮る」カシャッ

姉「単品ってなんだ単品って」

妹「あ、あそこのクリスマスツリーの前でも撮ろ」クイッ

姉「わかった」テクテク



友「……」

司書「どうしたの?」

友「……ほんとに、仲良いなーって思って」

司書「ん?」

友「いま一瞬でここらへん一帯にふわふわワールドを作られた気がするのです」

司書「ああ、うん」

友「あと絵になりますよね」

司書「そうね」

友「……わたしたちもつなぎますか?」

司書「つなぎたい?」

友「あ、その、えっと」

司書「わたしはつなぎたいかな」ギュッ

友「あ……」


司書「あ、つなぎたくなかった? 言ってみただけだった?」

友「……や、えと、つなぎたかったです」ドキドキ

司書「そう」

友「……」コクコク

司書「友ちゃん、緊張してる?」

友「……すこし」

友(……あれ、でもなんか手が……)

司書「大丈夫、わたしもよ」フイッ

友「……あ、はい」

司書「ほら行きましょう」クイ

友「……はい」












姉(手つないでる)

妹(友ちゃんが友ちゃんじゃないみたい)

司書「右周りと左周りがあるらしいから、二つにわかれましょうか」

姉「うん」

司書「……じゃっ、半分くらいで」ヒラヒラ

友「……」ペコリ

妹「行ってらっしゃーい」ヒラヒラ












姉「魚詳しかったりする?」

妹「まったく」

姉「わたしもだ」

妹「って会話を昔もした気がする」

姉「『次までに詳しくなっとくね~』って言った気がする」

妹「言われた気がする」

姉「成長ぜろだね」

妹「あそこは狭かったし、今日のところはかなり広い」

姉「まあ、わ~って見てわ~って盛り上がりたいよね」

妹「うん」


姉「てかこのウーパールーパーでかすぎ」

妹「でかい」

姉「好き?」

妹「かわいいよね」

姉「目がたまんない」

妹「ずっと見てられる」

姉「メキシコサラマンダーだってさ」

妹「アホロートルとも書いてある」

姉「どっちもしっくりこない」

妹「やっぱりウーパールーパーだよね」

姉「うん」

妹「あの上のやつってなんだろ」

姉「ホヤじゃない?」

妹「ホヤ……あれ美味しいよね」

姉「食べたことないや」

妹「じゃあ今度食べにいこ、海に」

姉「冬の海って寒そうね」

妹「手つないどけば大丈夫!」

姉「そうだね」クスクス


妹「次は、なにこれ、海藻?」

姉「マコンブ、オオバモク……」

妹「水族館で海藻を見るのって珍しいのかな」

姉「どうだろ」

妹「……このフナムシってアレだよね、海のゴ」

姉「やめよ」

妹「おねえちゃんって虫苦手なんだっけ」

姉「うんすごく」

妹「かわいいね」


姉「チンアナゴだ」

妹「にゅるってしてる」

姉「えっこのとなりのヘビみたいなのきれい」

妹「ほわいとりぼんいーる?」

姉「まっしろだかわいい」

妹「白いの好きなのか」

姉「きらきらしてるし」

妹「ふうん……白くて、きらきらね~」ニコニコ

姉「……? なんで笑ってるの?」

妹「わたしも白くてきらきらしてるの好きだよ」

姉「へえ、同じだね」

妹「うん」


姉「あ、大水槽だ」

妹「おっきいね」

姉「この中だと何が好き?」

妹「サメ、それとエイ。あ、イワシの群れも」

姉「いいね」

妹「あそこ座れるみたいだから、座って見る」

姉「うん」

妹「……」ジトー

姉「……」ジトー

妹「……」ポケー

姉「…………」トントン

妹「……ん」

姉「妹、あれ見て」ユビサシ

妹「え、え、なにあれ」

姉「サンタが泳いでる」

妹「すごい、行ってみよ!」パアア



テクテク


妹「……」フリフリ

妹「……ん、手?」

妹「……あ、……じゃーんけーん」

妹「ぽんっ!」チョキ


グー


妹「負けたーあはは」

姉「負けちゃったね」

妹「がんばってください」ペコリ












妹「クラゲだ」

姉「照明当たってきれい」

妹「何色がいい?」

姉「うーん、なんとなく、紫?」

妹「……ゆらゆらしてる」

姉「ね、クラゲってかわいいけどさ」

妹「ちょっと怖いよね」

姉「うん」

妹「でもそこが良い」

姉「わかる」

妹「……」

姉「……」


妹「……」

姉「……」

妹「……生まれ変わったらクラゲになりたいな」

姉「……海の中を、ゆらゆらぷかぷかしてたいの?」

妹「うん」

姉「そういえば最近だと、おうちでも飼ってる人いるよね」

妹「でも多分それ、ほとんど人工クラゲだよ」

姉「そうなの?」

妹「クラゲはむずかしいって、どこかで聞いた」

姉「飼いたいんだ」

妹「飼えるならね。何年後でもいいけど、一度は飼ってみたい」

姉「わかった、おぼえとく」

妹「ありがとう」ニコニコ


姉「わたしもクラゲみたいに生きたいな」

妹「そうなんだ」

姉「うん」

妹「……」

姉「……」

妹「いまのわたしは、クラゲみたい」

姉「ん?」

妹「おねえちゃんといると、ゆらゆらぷかぷかしてる感じがする」

姉「……」

妹「いつも……昔からずっとだよ」

姉「そっか」

妹「うん」












妹「おねえちゃんってさ」

姉「うん」

妹「ペンギンのどこが好きなの?」

姉「んー、むずかしい質問だ」

妹「わたしも、ペンギンはかわいいと思うけど、そんな乗り出して見るほど好きってわけじゃないから気になる」

姉「どうだろ……見た目はクールで落ち着いてそうなのに、心の中では違うことを考えてそうなところ、とか」

妹「うん」


姉「マイペースなところ」

妹「ふむふむ」

姉「よちよち歩きもかわいい」

妹「なるほど」

姉「それにペンギンを見てるとさ、妹が小さかったころを思い出して、かわいいなーって思う」

妹「へ」キョトン

姉「一挙一動すべてがかわいくて、いつも後ろについてくるのが嬉しかった」

妹「……わたし、成長しない方がよかった?」

姉「ううん」

妹「そっか、よかった」ホッ

姉「いまの妹も、かなりペンギンぽいし」ボソッ


妹「……そう?」

姉「あれ、聞こえた?」

妹「うん」

姉「そういうことだ」

妹「……そっか」

姉「でも──地上ではあんなにかわいいのに、海に潜るとめっちゃ速くてかっこいいところが一番好きかな」

妹「ギャップ萌えってやつだ」

姉「そうそう、ギャップ萌え」

妹「萌えちゃうんだ」

姉「萌えちゃうの」

妹「よろこんでいい?」

姉「いいよ」

妹「やった」



姉「……そういえば、あれ、もう周り終えちゃった?」

妹「ほんとだ」

姉「時間めっちゃ過ぎてる」

妹「やば」

姉「すれちがったはずなんだけど、司書ちゃんと友ちゃんいたっけ?」

妹「いたいた」

姉「どこに?」

妹「カニがいたとこ。なんか二人の世界だったからスルーした」

姉「……妹、知ってた?」

妹「や、知らなかった」

姉「だよねだよね」

妹「でもお似合いな気がする」


姉「そうね」

妹「どうする? 二人のこと待ってる?」

姉「お邪魔してもよくないし、観覧車行っちゃおう」

妹「わかった」

姉「チケット見せれば無料で乗れるらしいよ」

妹「え、ほんと?」

姉「うん」

妹「三回くらい乗りたい」

姉「当然だけど二回目からはお金がかかりますぜ」

妹「思い出はプライスレス」ドヤァ

姉「たしかに」クスクス




<観覧車>


姉「観覧車に二人で乗るのっていつ以来かな」

妹「遊園地に行ったとき?」

姉「……もう五年以上前だね」

妹「あ、でもあのときはおかーさんとおとーさんも一緒に乗ってた」

姉「なら二人では初めて?」

妹「……むふふふ、そーなるね」ニヨニヨ

姉「……たのしい?」

妹「たのしいよ」ニコニコ

姉「……」

妹「……」ジトッ

姉「……夜景見ないの?」


妹「見たほうがいいなら」

姉「じゃあ見よ、こっち来て」クイクイ

妹「うん」

姉「こっちからだと街が見える」

妹「……」

姉「あそこらへんが駅で、あっちは港だ」

妹「……」

姉「……」

妹「……きれい」

姉「写真撮る?」

妹「撮りたい」

姉「……ん、もっと近付いて」

妹「うん」



パシャッ


姉「……戻るの?」

妹「……ちょっと、いや、なんだろ」

姉「うん?」

妹「正面からおねえちゃんを見たい」

姉「景色はもういいの?」

妹「景色もきれいだったけど、おねえちゃんのほうが綺麗だから」

姉「えっ、またまたー」ニコニコ

妹「……冗談じゃなくて、本気で」

姉「そ、そう……」


妹「……」

姉「……」

妹「……」

姉「……飽きない?」

妹「飽きない」

姉「そっか」

妹「うん」

姉「……」

妹「……おねえちゃんは、わたしのことずっと見てたら飽きる?」

姉「飽きないよ」

妹「どうして?」

姉「今までも数え切れないほど見てたから」

妹「同じだね」


姉「うん」

妹「……」

姉「……」

妹「……じゃあ気持ちは、同じなのかな」

姉「……」

妹「窓、曇ってきてる」

姉「なんでだろ?」

妹「なんでかな」

姉「……」

妹「おぼえてる?」

姉「……おぼえてるよ」

妹「そっか」

姉「うん」

妹「……」

姉「……」


妹「……あのときは、おねえちゃんに言ってほしかった言葉だったけど」

妹「いまは、自分から言いたい」スクッ

妹「……」スタスタ

妹「……」キュッキュ


『すき』


妹「すきだよ、おねえちゃん」

姉「……」

妹「……」

姉「……」

妹「……」

姉「……ん」チュー


妹「……」

姉「これで、答えになる?」

妹「……だめ、言って」

姉「わかった」

妹「……」

姉「わたしも、妹が好きだよ」

姉「家族としても、いもうととしても、女の子としても」

妹「……」

姉「……」

妹「……」ジワッ

姉「……なに泣いてんの」

妹「うれしくて」

姉「……そう、そうだよね」

妹「となり、座るね?」

姉「うん」

妹「……」ポフッ


姉「……」

妹「……ね」


ポーン


妹「あ……」

姉「……」

妹「……」

姉「……」


テクテク

クルッ


姉「……もっかい乗る?」

妹「……うん」

姉「今度はちゃんと景色見ようね」

妹「……それは、約束できないかも」












(二回目)


姉「なんか、へんな感じ」

妹「……ん?」

姉「どきどきが止まらない」

妹「わたしも」

姉「……なんでだろ」

妹「なんでだろうね」ニコニコ

姉「ひとつお願いしていい?」

妹「なに?」

姉「……その、ぎゅってしてほしい」

妹「したいじゃなくて?」

姉「うん」


妹「わかった」ギュッ

姉「……」

妹「……」

姉「こっちのほうがどきどきする」

妹「なにそれ」クスクス

姉「へんかな」

妹「へんじゃないよーだ」

姉「そ」

妹「わたしもこっちのほうがどきどきするし」

姉「……」

妹「おねえちゃんはかわいいから」

姉「そっか」

妹「うん」

姉「……ならいっか」

妹「いいんだぜー」ニコニコ


姉「……」

妹「……」

姉「……」

妹「……あ、あのさ」

姉「うん」

妹「聞きたいことあったんだった」

姉「なんでもどーぞ」

妹「わたしの一番すきなところって、結局どこだったの?」

姉「……ん、あのときの?」

妹「そうそう、おねえちゃん結局ごまかしたから」

姉「あー、あれはね」

妹「うん」ドキドキ

姉「顔」

妹「……えっ」


姉「……」

妹「えっえっ」

姉「こうなるから言いたくなかったんだよなあ……」

妹「顔? フェイス? 顔面フェイス?」

姉「うん」

妹「……」シラー

姉「……引いてるでしょ」

妹「引いてないよ。けど、なんかフクザツ」

姉「……うれしくない?」

妹「うれしい」

姉「ならいいじゃん」

妹「そうかもとはならない」

姉「ちぇっ」

妹「……」

姉「……まあ」


姉「何が好きかとかどこが好きかなんて、あのときはあんまり分かってなかったんだと思う」

妹「……」

姉「でも、妹の顔見てると安心するし、自然と頬が緩んでどきどきするし、守りたいって思うし、……いまは、守ってほしいなともちょっとだけ思ってる」

妹「そっか」

姉「いまは、ちゃんと妹のことを好きって言えるよ」

姉「さっきも言ったし、妹の好きなところだって、一晩で言い尽くせないくらい言えると思う」

妹「そっかそっか……」

姉「納得してくれた?」

妹「うん、……むふふふ」

姉「うれしそうだね」


妹「だってうれしいんだもん」

姉「それならよかった」

妹「……」

姉「……」

妹「……今度はわたしから、してもいい?」

姉「いいよ」

妹「……」

姉「……」

妹「…… 一回目も、二回目も、これからもずっと、わたしの唇はおねえちゃんのものだからね」

姉「うん」

妹「……んふふ」ニコニコ

姉「……」


妹「おねえちゃん、だいすきだよ」


おしまい




(おまけ1)


司書「……」

友「……」

司書「……」

友「……」

司書「……」

友「……」

司書「……何か喋りましょうか」

友「……はい」


司書「……」

友「……」

司書「……喋りましょう」

友「……は、はい」

司書「…………しゃべ」

友「らないんですか!?」

司書「……」ビクッ

友「喋りましょうよ」

司書「…………け、けしきがきれいねー」ボウヨミ

友「そうですね」

司書「……」


友「司書さん、顔赤いですよ?」

司書「……」

友「……」

司書「……」

友「……」

司書「……顔から火が出そうね」

友「……」

司書「こういうムード、緊張しない?」

友「……はあ、いやその、初めてなので」

司書「……なんかごめんなさい」

友「いえ、はい……」











(二回目)


友「……」

司書「……」

友「……」

司書「……」

友(水族館ではそこそこ喋れたのに、なんでこうなってるんだ! さっき司書さんが言ってた通りムードかムードだムードに違いない……)

司書「……」

友(でも、わたしは実はこうなることを見越して会話に困ったときの話題をネットで検索したのだ!)

友「……あの、司書さんの今一番欲しいものってなんですか?」

司書「友ちゃん」ボソッ

友「え」


司書「……」

友「……」

司書「……え」

司書「え、え……あ、えっ」ドギマギ

友「……」

司書「……」カァァァァァ

友(なにこれ、聞き流せばいいのか!?)

友(いやいやそんなのできないでしょふつう! ふつうに考えて!)

友「……」スクッ

司書「……」

友「……」テクテク

司書「……」

友「……司書さ……、ん?」

司書「……え?」


友「うしろ見てください」

司書「……うしろ?」

友「窓に」

司書「なにこれ」

友「……」

司書「……」

友「……あ」

司書「……ん?」

友「これ、妹の字です」

司書「妹ちゃんの?」

友「はい」

司書「てことは……」

友「そういうことなんですかね」

司書「そうじゃないかな、多分」


友「……」

司書「……」

友「……司書さんは?」

司書「……え」

友「……わたしのこと、どう思ってるんですか?」

司書「……」

友「……」

司書「………………好きよ」

友「嘘じゃないですか?」

司書「……」コクコク

友「どれくらい、ですか?」

司書「どれくらい、って……」チラッ

友「……」ジッ

司書「……言葉では言い表せないくらい?」


友「ごまかしてません?」

司書「ごまかしてない」

友「わたし司書さんのことめっちゃ好きです」

司書「……そう」

友「……なんか照れますね」

司書「……そうね」

友「わたしたち両思いですね!」キャッキャッ

司書「ね」

友「……で、えっと、どうしますか?」

司書「友ちゃんさえ、よければ」

友「いいですよ」

司書「……そう」

友「……手、握りますね」ギュッ

司書「うん」

友「うれしいです」

司書「わたしもよ」


友「……」

司書「……」クイッ

友「……?」

司書「……」ギュッ

友「……」

司書「……」

友「……司書さん」

司書「うん」

友「……なんか、景色、すっごく綺麗ですねー」

司書「……なにそれ、外なんて少しも見てないじゃない」クスクス












<バー(反省会)>


司書「……なんでだろ、ほんとに」グスグス

姉「だいじょーぶだいじょーぶ、わたしも同じようなものだったし……」

司書「……で、でも、わたしがリードしなきゃって」グスグス

姉「……わ、わたしもリードしなきゃみたいなのはね、思ってたからね」サスサス

バーテン「あらら、今日はいつもと逆ね」ニコニコ


姉「でもでも、司書ちゃんがそんなにへたれだなんて知らなかった」

司書「へたれって言わないでよ」

姉「もっと経験豊富なのかと思ってた」

司書「……」

姉「……ていうかまず、司書ちゃんってそうだったんだ」

司書「……まあ」

姉「知らなかった……」

司書「いや、言う機会ないし……」

姉「……バーテンちゃんは知ってた?」

バーテン「えー? もちろん知ってたけどー?」


司書「ちょっと! バーテンちゃん!」

バーテン「それと、司書ちゃんがネコっていうのも薄々思ってたから、驚きも薄いかも?」

司書「やめてまじでやめてほんとに」

バーテン「だってぇ、そういう相手がいるって言ってたときもネイルしてたじゃない」

司書「……いや、でも、それだからそうって一概には言えないよ?」

バーテン「けど、そうなんでしょう?」クスクス

司書「……」チラッ

バーテン「……」フイッ

姉「……ちょいちょい、二人とも、猫ってなに?」


司書「えっ」

バーテン「えっ」

姉「えっ」

司書「……」チラッ

バーテン「……」チラッ

司書「……姉さんは、まあ、関係ないと思うし」

バーテン「そうね、姉ちゃんはいいんじゃないかしら」

司書「でも、ネコかなぁ」

バーテン「そうね、ネコね」

姉「なんだよそれー! もー!」




(おまけ2)


カポーン


姉「……」

妹「……」

姉「……」

妹「……」

姉「……」

妹「……おねえちゃんわたしのカラダ見すぎ」

姉「だってえ……」ブクブク

妹「……これ?」ユビサシ

姉「うん」


妹「牛乳のおかげ」

姉「わたし飲んでも変わらなかった」

妹「あれ? そのためには飲んでないみたいなこと言ってなかったっけ」

姉「恥ずかしいじゃん」

妹「……なるほど?」

姉「……ん」

妹「……! ……えへへ」ギュー

姉「あたまにめっちゃ当たる」ブクブク

妹「……んー♪ んへへへ」ニコニコ

姉「……」

妹「おねえちゃんかわいい」クシクシ

姉「髪で遊ばないで」

妹「や」ニコニコ

姉「……」


妹「はいふたつ結びー、こっち見て」

姉「……」クルッ

妹「……は、……ふぅぅぅ」ダキッ

姉「え、えっ」

妹「やばいってほんとやばいって」ワーワー

姉「……」

妹「今日は抱きついたまま寝ていいかな」

姉「え、ああまあ、いいけど」

妹「やばいってー」

姉「……」

妹「んっ──……」

姉「……」

妹「……」

姉「……なんで首筋に……」

妹「かわいいから」

姉「……っ。あ、あのねぇー……」


妹「唇が良かった?」

姉「そういう問題じゃなくてね」

妹「……」チュー

姉「……」

妹「……」

姉「……」

妹「……ぷは」

姉「……っはあ、あの、あのね」

妹「……なに?」ニコリ

姉「……」

妹「……」

姉「……なんでもない」

妹「そっか」ニコニコ












ブォー…………


姉「髪さらさら」

妹「うん」

姉「昔から乾かしてもらうの好きだよね」

妹「そうだね」

姉「いつからしなくなったんだっけ?」

妹「おねえちゃんが大学に行ってから」

姉「そうだったっけか」

妹「うん、悲しかった」

姉「ごめんねぇー」

妹「うん」

姉「そういえば、わたしが大学で妹が中学生くらいのときって、会うたびに大きくもかわいくもなってた気がする」

妹「そう?」


姉「今や抜かされてますし」

妹「ふふん」ドヤッ

姉「指が長い人は身長高くなるっていうのホントなのかな?」

妹「……ん?」

姉「わたしよりも妹のほうが長い」

妹「そうなの?」スッ

姉「……うん。だから、手を握ると包まれてるみたいな感じがする」

妹「……」ギュッ

姉「妹の指好きだな~ほんと」ギュッギュッ

妹「……」

姉「……」

妹「……今度、指のサイズ測りにいこ」

姉「なにそのスマートな誘い口」





(おまけ3)


姉「……」テクテク

姉「……」テクテク


妹「あ、おねえちゃん」ブンブン

姉「ちょ、ちょっと妹」

妹「なに?」

姉「なにって、学校では先生でしょ」

妹「でも先生だってわたしのこと呼び捨てしたー、みんなのことさん付けなのにー」ムスッ

姉「……あー、それもそうだね」


妹「……──あ」スススッ

姉「え」パッ

妹「なんで逃げるの、先生」

姉「……いや、だって」

妹「ん?」

姉「……ここ学校だよ?」

妹「いーじゃんいーじゃん」スススッ

姉「……で、でもダメだってぇ」ボソボソ

妹「……」

姉「……」

妹「……はい、取れた」ヒョイッ

姉「……えっ?」

妹「髪にゴミついてたから、取ったの」

姉「あ……」

妹「も、もしかしてなにかべつのことされると思ったの? 先生」


姉「や、いや、ないない」

妹「でも先生さっき目瞑ってたし」

姉「ちがうよ、ちがうからね」

妹「そっか」

姉「うん、そうだ」

妹「……」

姉「……」

妹「……先生、耳貸して」クイクイ

姉「え? うん──」




妹「……今日いっしょに帰ろうね、おねえちゃん」ボソッ




姉「……」ビクッ

妹「……んへへ、じゃあねー先生♪」ニコニコ

姉「あ、うん、じゃあね……」

おまけ終わりです完結です
読んでくださったみなさまありがとうございました

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