ほむら「消えて貰うわ」 QB「ほう?」(485)
ほむら「転校初日の学校も乗り切った…次はインキュベーター狩りね」
この前落としてしまったのでリベンジ
ほむら「やっぱり、ここにいたわね」
QB「君は…?」
ほむら「悪いけど、死んで貰うわ」パァァ
QB「魔法少女!?契約した覚えはないのに…君は一体……!」
ほむら「おまえが知る必要はないわ。消えなさい、インキュベーター!」ジャキン
QB「!? 君は…!」
パァン
QB「」
ほむら「まずは一匹…」
テクテクテク
ほむら「次が来たようね」クルッ
QB「デュフフwwww拙者としたことが不覚でござるwwwwwww」
ほむら「!?」ビクッ
QB「しかし不意打ちとはwwwwなんたる不届き者wwwww拙者が成敗致すwwwwww」
ほむら(な、何なのよ……様子がおかしいわ……)
QB「いざ尋常にwwww勝負wwwwww」バッ
ほむら「!?」
パァン
QB「」
ほむら「反射的に撃ち殺してしまったわ……」
テクテクテク
ほむら「!? また…!?」クルッ
QB「おいコラァ!ワレ何してくれてんのや!」
ほむら「」
QB「代わりの身体言うてもタダじゃないんやぞ!どう落とし前着けてくれんのや!あァ!?」
ほむら「………」
QB「ダンマリか?あァ? ほな、事務所行こか!?」グイッ
ほむら「………」
パァン
QB「」
ほむら「何なのよ……もう……」
テクテクテク
QB「ちょっとぉ~、アタシが何したって言うのよぉ!」クネクネ
パァン
QB「」
ほむら「もう嫌……」
ほむら「はあ、はあ……どうなってるのよ……」
ほむら(殺す度にインキュベーターの人格が変化するなんて…今までの時間軸ではこんなことはなかった…)
テクテクテク
ほむら「!! また…ッ!」クルッ
QB「ひぃっ!?」
ほむら「何にせよ、おまえを生かしておくわけにはいかないわ…!」ジャキン
QB「や、やめてよ……撃たないでよ……」プルプル
ほむら「消えなさい……」グッ
QB「ボクが何かしたなら謝るから……ごめんなさい……グスッ……」
ほむら「……えっ?」
QB「ごめんなさい… 許して、おねえちゃん……」ウルウル
ほむら「」キュン
ほむら「………」
QB「ヒック……怖かったよぉ……」エグエグ
ほむら(何これ)
QB「ボク、何か悪いことしたの?おねえちゃんを怒らせちゃった…?」
ほむら「え、えっと……」
QB「頑張っていい子になるから…嫌いにならないでよ……」ウルウル
ほむら「べ、別に怒ってなんかないわ」
QB「グスッ……ホントに……?」
ほむら「え、ええ、本当よ。だから泣かないで、ねっ?」
QB「うんっ!」ニコッ
ほむら(何これかわいい)
ほむら「ハッ!? 私としたことが……」
ほむら(いくら可愛いとはいえ、相手は憎きインキュベーター。見逃すわけには……)
QB「そうだ、おねえちゃんのお名前はなんていうの?」
ほむら「えっ、あ、暁美ほむらよ」
QB「あけみほむら?」
ほむら(何を正直に答えてるのよ、私……)
QB「あけみ…ほむら…… ほむらおねえちゃん!」ニパッ
ほむら「」ズキュゥゥゥン
ほむら(か、可愛い…… この子、本当にあのキュゥべえなのかしら)
QB「おねえちゃん、どうしたの?」
ほむら「な、何でもないわ。それより……」
ガタッ
まどか「あれ、ほむらちゃん?」
ほむら「ま、まどか!?どうしてこんな所に」サッ
QB「ふぎゅっ」
まどか「えっ?」
ほむら「き、気にしないで。それよりどうしたの?」
まどか「あ、えっとね、さっきこっちのほうから声が聞こえて……」
ほむら(しまった…この子に気を取られて忘れてたわ……)
まどか「『まどかー!助けてほしいナリよー!!』って、私のことを呼ぶ声が聞こえたんだ」
ほむら「そ、そう…… 空耳じゃないかしら」
まどか「そうなのかなあ……」
ほむら(何とか誤魔化すしかないわ……)
さやか「いたいた!まどか、こんな所で何やって…… って、転校生?」
まどか「あ、さやかちゃん」
さやか「『あ、さやかちゃん』じゃないよ、もう。急に走り出すから何事かと思ったじゃん」
まどか「ご、ごめんね…?」
さやか「はあ、次から気を付けなさいよー。にしても、転校生までこんな所で何やってんの?それにその格好……コスプレ?」
ほむら「え、えっと、それは……」モゾモゾ
まどか「あれ…? ほむらちゃん、服の中で何か動いて……」
ほむら(ちょ、ちょっと、どこ触って……ひゃぅっ!?)
モゾモゾ ピョコン
QB「ぷはぁ! おねえちゃん、使い魔がくるよ!」
まどさや「えっ!?」
ほむら(しまった…!)
ズズズ…
さやか「な、何よこれ…建物が……!」
まどか「それに、何かいるよ……」
使い魔「Das sind mir unbekannte Blumen」
使い魔「Ja, sie sind mir auch unbekannt」
さやか「な、何なのよこいつら!」
まどか「さやかちゃん……」
ほむら(この二人は巻き込みたくない… 一旦退くしかないわ)
ほむら「二人とも、ついてきて!」ダッ
まどか「ほむらちゃん!?」
さやか「まどか、行くよ!」ダッ
ほむら「あなたも!」ダキッ
QB「うわわっ!」
まどか「はあ…はあ…」タッタッタッ ドテッ
さやか「まどか!」
ほむら「まどか、大丈夫?」
まどか「う、うん…ありがとう」
QB「おねえちゃん、早く!」
さやか「動物が喋ったり、いきなり変な景色になったり……一体どうなってるのさ!転校生、あんた何か知ってるの!?」
ほむら「それは……」
まどか「さやかちゃん、後ろ!!」
さやか「え…?うわあああ!?」
パァン
使い魔「」
さやか「…って、あれ?私生きてる?」
まどか「今のは……?」
マミ「危なかったわね。でももう大丈夫」
ほむら(巴マミ……)
QB「マミ!マミーッ!」ピョンピョン
マミ「あら、キュゥべえを助けてくれたのね。その子は私の大切な友達なの。ありがとう」
まどか「え、えっと…?」
QB「マミー!怖かったよぉ!」
マミ「よしよし、もう大丈夫よ。よく頑張ったわね」ナデナデ
QB「えへへ」ニコッ
マミ「」キュン
マミ(キュゥべえって、こんなに可愛かったかしら……)
さやか「あのー…?」
マミ「ハッ!? ご、ごめんなさい、少し考え事をしてたわ」
さやか「は、はあ…」
マミ「自己紹介といきたいところだけど、その前にちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら」パァァ
まどか(服装が変わった…… というか、一瞬裸になったよね……)
さやか(パットかと思ったら本物……だと……)
ほむら(恨めしい……)
マミ「一気に片付けるわよ!」ジャキンッ
~~~~マミさん無双中~~~~
マミ「これで最後ね」パァン
使い魔「」
ズズズ…
まどか「あ、景色が元に戻った……」
さやか「な、何かよくわからないけど、助かったんだね……」
ほむら(キュゥべえとも、巴マミとも接触を許してしまった。これ以上ここにいるべきではないわね)スッ
まどか「あ、ほむらちゃん待って!」
ほむら(あっさり見つかってしまったわ……)ショボン
まどか「ほむらちゃん、さっきはありがとう。私たちだけじゃ、どうすればいいかわからなかったよ」
ほむら「お礼なんて必要ないわ。私は私のやるべき事をやっただけ」
まどか「やるべき事……?」
ほむら「……何でもないわ。忘れて頂戴。それよりまどか、あいつには……」チラッ
QB「それでね、ほむらおねえちゃんが助けてくれたんだよ!」
マミ「まあ、よかったわね。ちゃんとお礼を言いましょうね」ニコニコ
QB「うんっ!」ニコニコ
ほむら「………」
まどか「ほむらちゃん?」
ほむら「…やっぱり、何でもないわ。それじゃあ……」
まどか「?」
ほむら(いつものあいつだったら、すぐにでも殺すところだけど……もう少し様子を見ましょう)
翌日 屋上
さやか「何で、私達なのかな?不公平だと思わない?こういうチャンス、本当に欲しいと思っている人は他にいるはずなのにね」
まどか「さやかちゃん……」
ガチャッ スタスタ
まどか「あ、ほむらちゃん」
QB「ほむらおねえちゃん!」
さやか「よー、転校生!昨日は突然いなくなってるからびっくりしたよ」
ほむら「鹿目まどか」
さやか「ってこら!無視すんな!」
ほむら「魔法少女のこと、聞いたんでしょう?」
まどか「う、うん。マミさんとキュゥべえから…」
QB「マミがね、今度ほむらおねえちゃんもお家においでって!」
ほむら「そう、それは嬉しいわね」
さやか「あのさー、キュゥべえにはちゃんと返事するわけ?あたしには?」
ほむら「昨日の話、覚えてる?」
まどか「うん……」
さやか「スルー!?」
ほむら「ならいいわ。忠告が無駄にならないよう、祈ってる」
スタスタ
さやか「こらー!さやかちゃんを無視したまま戻るなー!」
QB「ほむらおねえちゃん、ばいばい!」フリフリ
ほむら「………」フリフリ
さやか「そっちは反応するのかよ!」
放課後
さやか「転校生のやつ、あたしにだけ態度違くない!?」
まどか「あ、あはは、何でだろうね」
さやか「もー、やな感じ!何なのあいつ!」
まどか「でも、悪い子ではなさそうだよ?」
さやか「そりゃあ、昨日はあいつがいなかったらどうなってたか分からないけどさ…… にしても、無視はないでしょ無視は!」ムキー
まどか「まあまあ、さやかちゃん……」
ガラガラッ
<シャーセー
マミ「お待たせ。さて、それじゃ魔法少女体験コース第一弾、張り切っていってみましょうか」
~~~~~マミさん無双中~~~~~
<ティロ・フィナーレ!!
<キャーマミサーン!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~
事後
マミ「私のソウルジェム、昨夜よりちょっと色が濁ってるでしょう?でも、グリーフシードを使えば……」パァァ
さやか「おおー!」
マミ「これで魔力も元通り。前に話した魔女退治の見返りがこれよ」
さやか「なるほど!」
ジーッ
ほむら(今のキュゥべえは強引に契約を持ちかける事はないみたいね。もう暫く、様子を……)コソコソ
QB「あ、ほむらおねえちゃん!」
ほむら「!?」ビクッ
まどか「ほむらちゃん?」
さやか「転校生?そんな所に隠れて何やってんのさ」
マミ「あら……」
マミ「そんな所で何をしていたの?覗き見の趣味でもあるのかしら?」
ほむら「………」
マミ「…まあいいわ。グリーフシード、あと一度くらいは使えるはずよ。あなたにあげるわ、暁美ほむらさん」
ほむら「あなたの獲物よ。あなただけの物にすればいい」
マミ「人と分け合うんじゃ不服かしら?」
ほむら「そういうわけではないわ。とにかく、施しは受けない」
マミ「……そう。それがあなたの答えね」
ほむら「あなたが無関係な一般人を…… 鹿目まどかと美樹さやかを魔法少女に誘導する事をやめるのであれば、争う理由はないわ。それを覚えておいて」
スタスタ
マミ「………」
まどか「ほむらちゃん……」
さやか「やっぱ、感じ悪いなあ」
QB「マミ、ほむらおねえちゃんと喧嘩してるの…?」オロオロ
マミ「…ええ、ちょっと喧嘩しちゃっただけよ。今度仲直りしなきゃね」ニコッ
マミ(キュゥべえには悪いけど、暁美さんは信用できないわね……)
ごめん、今気付いたけど>>5の次にこれが抜けてた
まどかの意味不明な発言の補足にしてください
QB「いきなり撃ち殺すことはないだろう?やれやれ最近の若者は」
パァン
QB「ハァハァ…その冷たい眼差しが堪らないよ……ウッ!!」
パァン
QB「オッス!オラ、キュゥべえ!オラと契約して魔法少女に」
パァン
QB「ふぇぇ 身体のスペアが勿体ないよぉ……」
パァン
QB「性欲を持て余す」
パァン
QB「まどかー!助けて欲しいナリよー!!」
パァン
お菓子の魔女の結界
ほむら「ここの獲物は私が狩る。あなた達は手を引いて」
マミ「美樹さんとキュゥべえが中にいるのよ。退くわけにはいかないわ」
ほむら「その二人の安全は保証するわ。今回は……」
シュルシュル ガチッ
ほむら「!?」
まどか「マミさん!?」
ほむら「ば、馬鹿、こんなことしてる場合じゃ…!」
マミ「ごめんなさいね。私はキュゥべえとは違って、あなたを信用することができないの」
ほむら「今度の魔女は、これまでの奴らとはわけが違う…!あなた、死ぬわよ…!」
マミ「大人しくしていれば、帰りにちゃんと解放してあげる。行きましょう、鹿目さん」
スタスタ
ほむら「ま、待ちなさい! ……待って!!」
マミ「お待たせ」
さやか「マミさん!よかった、間に合って……」
QB「マミ!魔女が出てくるよ!」
ズズズ
魔女「イエイエア」
マミ「せっかくのところ悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ!」ダッ
魔女「オウイエアー」
ドドドッ パァン
さやか「さっすがマミさん!圧倒的!」
まどか(本当に大丈夫なのかな……)
ほむら「だめだわ、拘束が解けない…… 今回も、巴マミは……」
ほむら「………」
ほむら「……でも……」
マミ「ティロ・フィナーレ!!」
ドンッ
魔女「イヤン」
さやか「やったぁ!」
まどか(よかった、何事もなさそう…)
『……べえ』
QB「?」
ほむら『キュゥべえ…聞こえる?』
QB『ほむらおねえちゃん?』
ほむら『キュゥべえ……よく聞いて頂戴』
ほむら『今、巴マミが戦ってる魔女…あいつは簡単に倒せる相手ではないわ。このままじゃ、巴マミが危ない』
ほむら『私がこんな事を言うなんて、都合がいいのは分かってる。だけどお願い、彼女を助けてあげて…』
QB『おねえちゃん…… うん、わかったよ』
まどか「マミさん、魔女が!」
さやか「まだ生きてる!」
マミ「え?」
QB『あっ』
魔女「オマエラコンナモンジャネーヨナァー!!」モゴモゴ ガパッ
マミ「え」
魔女「アンコールイクゼェー!!」
ズルズル アーン
マミ「あ……」
QB「マミっ!危ないっ!」
タタタッ ドンッ
マミ「キュゥべえ!?」
魔女「イエアー!!」
ガブッ グチャグチャ
QB「」
QB『ほむらおねえちゃん……』
ほむら『キュゥべえ!巴マミは無事なの!?』
QB『マミはだいじょうぶ…だよ』
QB『だけどボク、もう一緒にいられないみたい……』
QB『マミは、寂しがりやだから……ほむらおねえちゃんが一緒にいてあげてね……』
ほむら『キュゥべえ…!?あなた、まさか……!』
QB『ほむらおねえちゃん……短い間だったけど、大好きだったよ』
QB『みんなと仲良くしてあげてね…… ごめん…ね。ばいばい……』ブツッ
ほむら『キュゥべえ!?』
グチャグチャ ゲプッ
さやか「キュゥべえが…食べられちゃった……」
まどか「ひどいよ……こんなのってないよ……!」
魔女「マダマダモエタリネーナァー!!」
マミ「キュゥべえ……私をかばって……」
魔女「コンナモンジャネーダロォー!!」
マミ「………」
魔女「オレニシッカリツイテコイヨォー!!」グワッ
パァン
魔女「」
マミ「…許さない」
マミ「ティロ・フィナーレッ!!」
ドガンッ
魔女「ヘェア……」
マミ「今度こそ…倒したわね……」
シュゥゥゥゥ
さやか「あ…結界が…」
ほむら「結界が解けた…?巴マミ…それに、キュゥべえは……!」ダッ
マミ「キュゥべえ…… ごめんね、私のせいで……」グスッ
まどか「マミさん……」
さやか「……くそっ」ガンッ
ダダダッ
ほむら「巴…マミ…! 無事…だったのね…!」ゼエゼエ
マミ「暁美さん……」
マミ「あなたの忠告を素直に聞いておくべきだったわ。そのせいで、大切な友達を失ってしまった」
ほむら(やっぱり、キュゥべえは……)
マミ「人の忠告も聞かずに、油断して友達を死なせてしまって…… ふふっ、先輩失格ね。」
ほむら「巴マミ……」
まどか「マミさん……」
マミ「鹿目さん、ごめんなさい。魔法少女コンビの話、なかった事にして貰えないかしら」
まどか「え……?」
マミ「こんな私じゃ、魔法少女としても失格よ。今日みたいな事にあなたを巻き込むわけにはいかないわ」
マミ「……キュゥべえはもういないから、どのみち契約もできないわね」
まどか「そんな…!」
マミ「ごめんね、鹿目さん。それに美樹さんも」
さやか「………」
マミ「暁美さん、二人をお願いね。私はお先に失礼するわ……」
ほむら「………」
さやか「…待ってよ、マミさん!」
さやか「魔法少女失格だなんて、そんな事ない!」
マミ「美樹さん……?」
さやか「マミさんは街の平和を守るために戦ってきたじゃないですか!あたしはそれをカッコいいって思ってる!今だって!!」
マミ「美樹さん…… でも、私はもう……」
まどか「マミさんは一人じゃないです!私もさやかちゃんもいます!ほむらちゃんだって……!」
マミ「………」
ほむら「巴マミ。自分が先輩失格だと思いたいのなら、勝手に思えばいい。だけど、この二人のようにあなたを慕う人間はいる。それを忘れないことね」
マミ「暁美さん……」
ほむら「自分は魔法少女だから一人ぼっちだなんて、その子たちの気持ちを無下にしないで頂戴」
マミ「みんな……ありがとう。そうよね、私は一人ぼっちなんかじゃないわよね……」
まどか「マミさん……!」
マミ「さっきから泣き顔ばっかり見せてごめんなさいね。本当に私、先輩失格だわ」グスッ
さやか「そんなの気にしないでくださいよー。普段カッコいいマミさんの泣き顔なんて、滅多に見れるもんじゃないですし。超レアものですよ、超レア!」
マミ「ふふっ、美樹さんったら」
マミ「……キュゥべえも、こんな私をまだ友達だと思ってくれているかしら」
ほむら「あの子は最期まであなたを心配していたわ。マミは寂しがり屋だから一緒にいてあげて、と…」
マミ「そう……あの子が…… ふふっ、子供のように見えて、何でもお見通しだったってわけね」
マミ「キュゥべえ……」グスッ
QB「呼んだかい?」
マミ「えっ」
ほむら「えっ」
まどか「えっ」
さやか「えっ」
QB「ふむ。皆、揃っているようだね」
まどか「え、あれ?キュゥべえ?」
さやか「魔女に食べられたんじゃ……」
マミ「きゅ、キュゥべえ!?無事だったの!?」
QB「無事、という表現には少々語弊があるがね。まあ、あながち間違ってはいないよ」
ほむら(そういえば代わりはいくらでもいるのよね……雰囲気に流されて忘れてたわ……)
マミ「キュゥべえ!よかった、心配したのよ!ごめんね、私のせいで……!」ダキッ
マミ「ごめんなさい、キュゥべえ。私のために……」
QB「あの状況で君を失うわけにはいかなかったからね。致し方あるまいよ」
ほむら(え?)
QB「ところでマミ、抱き付く力を緩めてはくれないか。なにぶん私も男なものでね。君の胸部が密着しているのが些か気になるのだよ」
マミ(あれ?)
パッ ストン
QB「ふう……」
QB「マミ、純粋無垢なところは君の魅力ではあるが、時と場合を考えたまえ」
QB「今回は私だったから良かったものの、相手が思春期の男子であった場合、こういった無防備な行為は貞操の危機に繋がる事もありうるのだからね」
マミ「え、あ、はい」
QB「時に、暁美ほむら。君は私と契約していないにも関わらず、魔法少女としての力を持っているね。これはどういう事だい?」
マミ「契約してない…?どういう事なの?」
ほむら「………」
QB「説明を求めるだけ無駄、か。まあ、概ね予想はついてはいるが…… 決定的な証拠がないとあっては、私の想像の範疇を超える事はできないね」
まどか「ねえ、さやかちゃん……何の話だか分かる?」
さやか「さあ…?」
QB「暁美ほむら、君は…… いや、今はよそう」
QB「今はインキュベーターとしてではなく、ただのキュゥべえとして礼を言おう。マミを助けてくれてありがとう、暁美ほむら」
ほむら「……感謝なんて必要ないわ。身を挺して彼女を救ったのは、あなただもの」
QB「それでも、だよ。あの時、君が私に忠告してくれなければ、恐らくマミは死んでいただろう」
マミ「………」
QB「直接的には私が助けたと言っていいのだろうが、結果的にマミを救ったのは君になるわけだ」
マミ「…そうね。私が暁美さんの話をよく聞いていれば、あんな事にはならなかったわ。ごめんなさい、暁美さん」
ほむら「………」
さやか(ところでさ、誰も突っ込まないけど)
まどか(キュゥべえ…キャラ変わってるよね……)
マミ「私からも、改めてお礼を言わせてもらうわ。ありがとう、暁美さん。 それと……今までごめんなさい」
ほむら「……何度も言うようだけど、お礼なんて必要ないわ。これに懲りたら次から無茶はしないことね」
ほむら「それと、鹿目まどか。あなたが憧れていたものの正体が、これで分かったでしょう?」
ほむら「今日みたいに、ほんの少しの油断で命を落とす事になる。魔女の結界の中で死ねば誰にも気付かれる事はない」
ほむら「戦いの中で生きる事を強要され、誰に感謝されるわけでもなく、人知れず消えていく…… 魔法少女って、そういうものよ」
ほむら「それが分かったのなら、契約しようだなんて思わないで」
スタスタ
さやか「ちょっと、そんな言い方ってないでしょ!」
まどか「さ、さやかちゃん…」
マミ「いいのよ、美樹さん。暁美さんの言ってる事は間違ってないんだから……」
ほむら(そう、感謝なんて必要ない。私はあなたたちを、何度も見殺しにしてきたのだから……)
QB(……ふむ)
病院
恭介「聞きたくもないんだよ!自分で弾けもしない音楽なんて!!」
さやか「恭介……」
恭介「諦めろって言われたのさ。現代の医学じゃ、奇跡か魔法でもないと無理だって……!」
さやか「……あるよ」
恭介「え……?」
さやか「奇跡も魔法も、あるんだよ!!」
QB「………」
屋上
QB「なるほどね、事情は把握したよ」
さやか「それじゃあ……!」
QB「しかし、君も暁美ほむらの話を聞いただろう?いくつか例外がなくもないとはいえ、彼女の言っていた事は紛れもない事実だ」
QB「それでも構わない。戦いの運命を受け入れてでも、その望みを叶えたい……そう言うのだね?」
さやか「……うん。転校生には悪いけど、こればっかりは譲れないよ」
さやか「私は恭介の腕を治したい…… それに、マミさんの力になれるんなら、魔女と戦う事になったって構わない!」
QB「……契約は成立だ。君の願いはエントロピーを凌駕したよ、おめでとう」
パァァァァ
さやか「う…ぐ…っ!?」
QB「さあ、受け取りたまえ。それが君の運命だ」
さやか「……!」パシッ
廃工場
さやか「遅かったじゃん、転校生」
ほむら「美樹さやか…あなた……!」
さやか「悪いね、契約しちゃったよ」
ほむら「あなたは……!私の話を聞いていなかったの……!」
QB「やめたまえよ、暁美ほむら」
ほむら「キュゥべえ……!」
QB「彼女は自らの意思で戦いの運命を受け入れた。それを非難する資格は君にはない。違うかね?」
ほむら「くっ……」
さやか「ごめん、転校生の言う事は尤もだよ。だけど、どうしても叶えたい願いができちゃったんだ」
ほむら「あなたは……ッ!」
さやか「そんなに暗い顔しないでよ、転校生!せっかく初陣で勝利を飾ったんだからさ、同じ魔法少女としてもっと祝ってよね!」
QB(そう、彼女が自分で選んだ道だ。例えどんな結末が待っているとしても……ね)
路地裏
さやか「あんたみたいな奴がいるからッ!!」バッ
杏子「うぜえ……超うぜえ!!」バッ
ガキィン!!
さやか「うあぁっ!」ドサッ
QB「ふむ…… やはり、さやかでは部が悪いようだ」
まどか「そんな…!キュゥべえお願い、やめさせて!こんなの絶対おかしいよ!」
QB「私はあくまで契約する事しかできない立場なのだから、魔法少女同士の争いは止めようがないのだがね」
まどか「そうだ……私が契約すれば……!」
QB「ふむ。確かに君と私が契約すれば、あの二人を止める事など造作もないだろうが……するのかね?」
杏子「終わりだよっ!!」
さやか「……!!」
まどか「私……!」
ほむら「それには及ばないわ」
ザッ
杏子「な、何だ!?あたしが外した…!?」
QB(ふむ。何の前触れもなく現れ、佐倉杏子の攻撃をいなして見せた……か)
杏子「……違う、こいつがやったんだ……!」
QB(……やはり、そういう事なのだろうね。だとすると、彼女は……)
さやか「転校生……」
杏子「何なんだ、てめえは…… そいつの仲間、ってわけでもなさそうだね。一体どっちの味方なんだ?」
ほむら「私は冷静な人の味方で、無駄な争いをする馬鹿の敵。あなたはどっちなのかしら?佐倉杏子」
杏子「何で私の名前を…… アンタ、何者だい?」
ほむら「答える必要はないわ」
杏子「チッ、手札がまるで見えないとなっちゃね…… 今日のところは退かせてもらうよ」
ほむら「賢明な判断ね」
さやか「あ、ありがと、転校生……」
ほむら「別にあなたを助けたわけじゃないわ。無益な争いが見るに耐えなかっただけよ」
まどか「ほむらちゃん……」
ほむら「鹿目まどか……あなたは」キッ
まどか「えっ」ビクッ
ほむら「言ったわよね、鹿目まどか。魔法少女には関わるべきではないと。一体何度忠告させるの?あなたはどこまで愚かなの?」
さやか「お、おい、転校生…!」
ほむら「愚か者が相手なら、私は手段を選ばない」
まどか「ほむら…ちゃん……」
QB「まあ待ちたまえよ、暁美ほむら」
ほむら「……何の用かしら、キュゥべえ?」
QB「そう毛嫌いしないでくれたまえよ。君が新たな契約を望んでいないのは承知しているが、本人の希望には私も逆らえないものでね」
ほむら「よく言う…… そうせざるを得ない状況を作り出し、遠回しに契約を迫るのがあなたの手口でしょう?」
QB「人を悪徳業者のように言わないでくれたまえよ。全てが間違いだとは言い切れないがね」
ほむら「分かっているのなら尚更タチが悪いわ」
QB「ふむ。その事なのだがね、暁美ほむら。君は何故、そこまで契約を邪魔したがるのだね?」
QB「まどかの魔法少女としての資質は素晴らしいものだよ。これは君たちにとっても悪い話ではないはずなのだがね」
QB「いつ現れるか分からない魔女を相手取るにあたって、戦力は多ければ多いほどいいだろう?それとも、どうしても契約させたくない理由でもあるのかね?」
QB「私には君が、鹿目まどかが契約する事を恐れているように見えるのだよ」
ほむら「……!」
QB「そう。まるで君が、魔法少女の行く末を知っているかのように……ね」
ほむら「………」
QB「返事がないという事は肯定と受け取るよ。なるほど、それでは君が頑なに契約を阻止しようとするのも頷ける」
ほむら「だったら、その結果どうなるかも分かっているんでしょう。 ……それでも、やめるつもりはないのよね」
QB「生憎、これが仕事なものでね。私の一存でやめるわけにはいかないのだよ」
まどか「キュゥべえ、ほむらちゃん。何の話をしてるの?」
さやか「魔法少女の行く末って?」
ほむら「それは……」
QB「ふむ。今はまだ、その時ではないようだ。続きは後日、改めて話すとしようか」
ほむら「………」
スタスタ
歩道橋
杏子「どういうことだおい…… こいつ、死んでるじゃねえか……!」
マミ「美樹さん…?冗談よね……?」
まどか「さやかちゃん…?」
QB「とんでもないことをしてくれたね、まどか」
まどか「キュゥべえ!どういう事なの!?さやかちゃんは……!」
QB「落ち着きたまえ、まどか。さやかは死んではいない。その身体の状態とは別として、ね」
杏子「死んでないって……どこを見たらそんな事が言えるんだよ!息してねーんだぞ!?」
QB「だから、身体の状態は別として、と言っただろう?さやかはまだ死んではいないよ。ソウルジェムが砕けない限りはね」
マミ「え……?」
QB「恐らく、前の私が説明を省いたのだろうが…… 君たち魔法少女の本体は、人間の身体ではない」
まどか「キュゥべえ……?」
QB「ソウルジェム。直訳すると魂の宝石。ここまで言えばその意味が理解できるのではないのかね?」
杏子「おい……まさか……!」
QB「察しがいいようだね、杏子。その通り、ソウルジェムは君たち魔法少女の魂そのものさ」
まどか「そん…な……」
マミ「嘘でしょ……?」
QB「マミ、私が今まで嘘をついた事があったかい?聞かれれば何でも答えただろう?」
QB「今回の件にしても、そうだ。契約する前にソウルジェムの真意を問われれば、私は真実を答えただろう」
QB「尤も……契約する前に真実を話した場合、大半の人間は契約を拒否したがね」
マミ「………」
杏子「ふざけんなッ!それじゃあアタシたちはゾンビにされたようなもんじゃねえか!!」ガッ
QB「魔女との戦いを考えると、人間の身体は脆すぎる。ソウルジェムさえ無事なら修復できる分、便利だと思うのだがね」
マミ「キュゥべえ、あなた……!」
QB「君たちの前に事実を知った人間は決まって同じ反応をしていたよ。魂の在り処に拘る……愚かだと言うつもりはないが、生憎、私に感情はないものでね。理解はできないのだよ」
杏子「こ…の野郎……ッ!」ギリギリ
QB「それともう一つ、魔法少女について話していない事柄があるのだが…… これは然るべき時に、然るべき者の口から語られるべきであろうね」
QB「ちなみに私を殺しても無駄だよ、杏子。君以外は皆知っているとは思うが、私を殺してもすぐに次がやってくるのでね」
QB「……そろそろ暁美ほむらが戻ってくる頃合だろう。失礼するよ、魔法少女たち」
QB「いい夜を」
トコトコ
杏子「ち……っくしょう!!」ドガッ
QB(やはり、予想通りの反応だ)
QB(佐倉杏子は立ち直りが早いと見るが、他の二人…… 特に美樹さやかは、契約した事を後悔するのだろうね)
QB(マミも、友達に裏切られたと思っているだろう。ショックは大きいだろうが……支えてくれる者がいれば、彼女は強い)
QB(鹿目まどかのことだ。さやかとマミを放っておくという選択肢は持ち合わせていないだろう)
QB(あとは……暁美ほむら、だ)
ほむら(美樹さやかを追わなければ。このまま魔女となる前に、私が仕留める)
ほむら(……それが、まどかを悲しませずに済む方法なのよ)
テクテクテク
QB「やあ。いい夜だね、暁美ほむら」
ほむら「インキュベーター…… 何の用かしら。今はあなたに構っている暇はないのだけれど」
QB「君とは一度二人だけで話をしてみたかったのでね。なに、時間は取らせないよ」
ほむら「……用件を言いなさい。下らない内容だったら殺すわ」
QB「やれやれ、君は恐ろしいね。さすがにあの時のように何度も殺されるのはごめんだよ」
ほむら「それで、何の用なの」
QB「せっかちだね。まあいい、単刀直入に言うよ。先程、もうすぐワルプルギスの夜が来ると杏子と話していたね」
ほむら「…ええ。それが何か?」
QB「これはあくまで私の推測に過ぎないがね。君は私と鹿目まどかとの契約を阻止し、彼女を魔法少女にさせずにワルプルギスの夜を越える事を目的としている」
QB「そして、恐らくはこの期間を何度も繰り返している……違うかね?」
ほむら「………」
QB「沈黙は肯定と受け取るよ」
ほむら「……ええ、そうよ。私はまどかを契約させないために、何度もこの一ヵ月を繰り返している」
QB「なるほど。では、やはり君はこの一ヵ月の間に起こる事を把握しているわけだね」
QB「それを前提として考えるのであれば、今までの君の行動には納得がいく」
QB「美樹さやかと契約した時も取り乱すわけだ。恐らく君の見てきた平行世界では、さやかは高い確率で魔女になったのではないかね?」
ほむら「………」
QB「やはりね」
QB「では君は、鹿目まどかを契約させない事を第一に考えて行動している…… そう受け取って構わないのだね?」
ほむら「……ええ。私はまどかが契約しなければ、他はどうなっても構わない」
QB「それは、例えマミや美樹さやかが死ぬ事になってもかい?」
ほむら「………」
QB「何度も言うが、答えないのであれば肯定とみなすよ。時間が惜しいのであれば返事をしたまえ」
ほむら「…そうよ。私はまどかさえ無事なら、他の誰がどうなろうと知った事ではないわ」
QB「ほう。つまり君は、今まさに魔女になろうとしている美樹さやかの事など、どうでもいいと言うのだね」
ほむら「ええ」
QB「……嘘だね」
ほむら「!?」
QB「それは君の本心ではないだろう、暁美ほむら」
ほむら「何を……」
QB「まどか以外はどうでもいいというのなら、君の今までの行動に矛盾が生じる」
ほむら「何を言ってるの……」
QB「何故、マミを助ける事を私に懇願した?あの時点では、君はマミの信用を得ていなかっただろう?」
ほむら「……巴マミが魔女にやられたら、同行していたまどかに危険が及んでいたからよ」
QB「ほう、では次だ。何故、美樹さやかまで契約させまいとしたんだね?それこそどうだっていい事柄だろう?」
ほむら「……美樹さやかが契約した場合、毎回絶望しては魔女となってまどかを悲しませるからよ。美樹さやか本人はどうなってもいいわ」
QB「そうか。あくまで鹿目まどかが第一だと言うのだね」
ほむら「……そうよ」
QB「……嘘を吐く時は、もう少し悟られないようにしたまえよ。暁美ほむら」
QB「ペロッ、これは青酸カ...リ.......」ガクッ
ほむらちゃにやにや
QB「感情がない私でも分かるよ。君は嘘を吐いている」
ほむら「………」
QB「マミを見殺しにするつもりであれば、そもそも追ってこなければよかった。仮にマミが死んだとして、あの場で咄嗟に契約したのはさやかの方だっただろうからね」
QB「美樹さやかがどうなってもいいと言うのなら、契約前にあれほど注意を促す必要もなかったのではないかね?」
QB「わざわざ佐倉杏子と接触したのも、彼女と美樹さやかがお互いに与えうる影響を考慮しての上での行動と取れる」
ほむら「………」
QB「それに、先程さやかにグリーフシードを渡そうとしたのは何故だい?」
QB「本気で殺すつもりなら、声をかける前にソウルジェムを撃ち抜けばいい。君の力があれば造作もないだろう?さやかを殺し、魔女にやられた事にすればいい」
QB「まどかが悲しむ事に変わりはないが…… 魔法少女の真実を知り、魔女となったさやかを見るよりは、遥かにダメージは少ないだろう」
QB「まどかの事だけを考えているというのなら、今の状況から見ればそれが最善ではないのかね?さやかを切り捨てるだけで、被害は最小限で済ませられる」
ほむら「……に……」
QB「これは私の推測に過ぎないが、言わせて貰おう」
QB「君は本当は、関わる者全てを救いたいと思っている……違うかね?」
ほむら「……ッ!! あなたに何が分かるっていうのよ!散々絶望を撒き散らしてきたあなたに!!」
ほむら「何なのよ!ならどうしろって言うのよッ!」
ほむら「私だって、最初からまどか以外を見捨てようなんて思ってなかった!好きで見殺しにしてきたわけじゃない!」
ほむら「美樹さんに魔女になって欲しくなんかなかった!巴さんだって助けたかった! でもだめなのよ!どうしても無理なのよッ!!」
ほむら「何度やっても救えない!まどかだけじゃなく、美樹さんも、巴さんも、佐倉さんも! 誰かを助けようとすれば、代わりに誰かが死んでいく!!」
ほむら「みんなに頼った事もあった!説得してみた事だってあった!だけど、その全てが失敗に終わった!」
ほむら「その度にまどかが悲しむ顔を見てきた! 私自身の手で、まどかを殺した事だってあったッ!!」
ほむら「あなたに何が分かるっていうのよ!全部、あなたのせいじゃないッ!!」
ほむら「繰り返しても繰り返しても、私が望んだ結末に手が届かない!絶望しか見出せない!他でもない、あなたのせいでッ!!」
ほむら「いくら足掻いても、誰も救えない! だったらせめて、まどかだけでも救ってみせる!そう決めたのよ!!」
ほむら「はあ、はあ……」
QB「なるほど。君の言い分はよく分かった」
QB「失望したよ、暁美ほむら」
ほむら「な……!?」
QB「確かに君の言う通りだ。この星に魔法少女というシステムを持ち込み、絶望を齎してきたのは…… 他でもない、この私だ」
QB「君が誰かを救おうとすればするほど事態は悪化していく。それは間違ないのだろうね」
QB「どうやっても、マミやさやかは高い確率で死んでいく。時には杏子も道連れにして……だろう?」
QB「そしてまどかが私と契約した場合、ワルプルギスの夜を倒せたとしても、最強の魔女となる結末が待っている」
QB「いやはや、これでは全員を救うなんて夢のまた夢だね」
ほむら「だから……せめてまどかだけでも……!」
QB「そうやって本当に諦めているのなら、誰も救えなくて当然だろうね」
ほむら「!!」
QB「そうだろう?物事をどうでもいいと考えている者の言葉なんて、誰の耳にも届くわけがない」
QB「さやかにも同じ事を言われたんじゃないのかい?」
ほむら「それは……」
QB「まあ、君が体験してきた時間軸の中では、はなから聞く耳を持たない場合もあったのだろうと想像するのは容易いがね」
QB「君のさやかへの態度を見ている限りでは、彼女の言葉が原因で皆に信じて貰えず、崩壊に至ったケースもあったのではないのかね?」
ほむら「………」
QB「肯定と受け取るよ。なるほど、さやかに辛く当たるわけだ」
QB「過去に皆を破滅に追い込んだ張本人が、今まさにそれと同じ末路を辿ろうとしているのだからね」
ほむら「そうよ。きっと美樹さやかはもう、間に合わない。いつもと同じよ……この時間軸も」
QB「随分と諦めがいいのだね。この前の魔女の結界で、私に必死に呼びかけてきた人間と同一人物とは思えないよ」
ほむら「……あれは、気の迷いが生じただけよ。あなたに助けを請うなんて、どうかしていたわ」
QB「だが、結果的にマミは助かっただろう?それでもこの時間軸は捨て石に過ぎない、と?」
ほむら「それだけよ。美樹さやかの契約も止める事ができず、結局いつも通りだわ」
QB「ふむ、では言い方を変えようか。君が今まで経験してきた時間軸では、こうやって私と話す機会はあったのかね?」
ほむら「なかったわ。感情のないあなたに何を言っても無駄だもの」
QB「ほう。他の時間軸の私はまるで機械のような奴だったわけだね」
ほむら「それはあなたも同じ、でしょう?」
QB「否定はできない……が、君の様子を見る限りでは、今の私も十分にイレギュラーなのではないかと思えるがね」
QB「君もそう思ったから、あの時私に助けを求めてきたのだろう?」
ほむら「………」
QB「現状、辿っている道は同じとはいえ…… 少しでも望みがあるのなら、ここから道が分かれる可能性はゼロではない」
QB「後は、君自身がその可能性に賭ける事ができるかどうかだと、私は思うがね」
QB「どういうわけだか、今の私は仕事に乗り気ではなくてね。誰かと進んで契約しようという気が起きないのだよ」
QB「これも、君にとっては想定外なのかもしれないね」
QB「だが、どうやら鹿目まどかが私を必要としているようだ。求められたとあれば、応えなければなるまい」
ほむら「……!!」
QB「さて。私は行くが…… 君はどうするかね、暁美ほむら?」
ほむら「させないわ……」ジャキン
QB「私を殺すか?今の君にできるのかね?」
ほむら「インキュベーターは何度も殺してきたわ。戦闘能力を持たないあなたたちは、銃弾一つで簡単に殺せる。私は引き金を引けばいいだけ」
ほむら「まどかの元へ行かせるわけにはいかない…… どうしても行くと言うのなら」
QB「言ったら、どうするというのだね?」
ほむら「消えて貰うわ」
QB「ほう?」
ごめん、ご飯食べてきてもいいだろうか
10分で済ませる
QB「ここで私を殺すということは、君は美樹さやかを見殺しにするつもりなのだね?」
ほむら「……なぜ、そう思うの」
QB「そうだろう?ここで私を殺せば、鹿目まどかの願いという、美樹さやかの崩壊を防ぐ唯一の手段がなくなるという事だ」
QB「そうなると、君に残った選択肢は…… 美樹さやかを見捨てるか、どうにかする方法を見つけ出すかの二択になるわけだが」
QB「これが佐倉杏子であったなら、僅かな望みに賭け、美樹さやかを救う手段を講じるところだろうね。だが生憎、君はもう諦めているんだろう?」
QB「彼女を救う手立てもないまま、唯一の方法を奪う。つまり美樹さやかを見殺しにする選択をしたと同義だ」
ほむら「………」
QB「君がまどかを契約させず、尚且つ美樹さやかも救いたいというのであれば撃てばいい。私を殺してまどかとの契約を止め、美樹さやかを救う他の方法を探せばいいだけだ」
QB「どうやら、さやかはまだ魔女になっていないようだからね。今なら間に合うかもしれないよ」
ほむら「私、は……」
QB「さて、君はどうする?僅かな望みに賭け、彼女を救うために足掻いてみるかね?」
QB「それとも無為に私を殺し、美樹さやかを見殺しにするかい?」
QB「決めるのは君だよ、暁美ほむら」
ほむら「私は……ッ!!」
ほむら「………」スッ
ガチャン
QB「……やれやれ。君には本当に失望したよ、暁美ほむら」
QB「君が自分で言ったのだよ?さやかを助けたいんだろう。何をそんなに恐れる必要があるのだね?」
QB「今までの経験から、助けられる可能性は限りなくゼロに近いと思っているのだろうが…… 逆に考えれば、それは即ちゼロと同義ではないのだよ」
QB「君が自分の心に従い、僅かな望みを追い続ければ、あるいは違う結果が待っているのかもしれないのだがね」
QB「だが、君は恐れてしまった。ここで希望を持てば再び裏切られるのではないか……と」
QB「仮にもし私が君の立場なら、例え1パーセントでも望みがあるのなら、それを無駄だと切り捨てるような真似はしないと思うがね」
QB「人間の心というものは本当に複雑だね。心の奥底では助けたいと思っているのに、自らそれに蓋をしてしまうのだから」
QB「感情のない私が言うのも何だと思うが、あえて言わせて貰うとするよ」
QB「わけがわからないよ」
ほむら「………」
ほむら(私は、一体何がしたいのかしら)
ほむら(正直な話、ワルプルギスの夜相手に私一人では敵わない。全員生存が望ましいに決まってる)
ほむら(その条件をクリアするために走り回ったこともあった)
ほむら(だけど、結果は見ての通り。今まで一度でも全員が揃う事はなかった)
ほむら(あいつの言う通り。私は恐れている)
ほむら(怖い。僅かな希望に縋り、裏切られるのが。また、失敗する事が)
ほむら(だったら、最初から諦めてしまえばいい。まどかだけを見ればいい。他の人間がどうなろうと、私は何とも思わない。何も感じない)
ほむら(……そうよ、私はそういう人間。利用価値のある物は利用し、不要な物は切り捨てる事ができる)
ほむら(それなのに、どうして……)
マミ「間一髪ってところね。大丈夫だったかしら?」
マミ「ふふ、鹿目さんと暁美さんは本当に仲がいいのね。ちょっと妬けちゃうわ」
マミ「さっきの戦い方、随分よくなってきたわよ。これなら私たちも安心して戦えるわ」
マミ「ソウルジェムが魔女を産むなら……みんな死ぬしかないじゃない!!」
マミ「鹿目さんが死んでしまった今だからこそ、私が戦うの。可愛い後輩がいる街だもの、好き勝手やられたままじゃ済ませないわ」
マミ「それじゃあ行ってくるわね、暁美さん。 ……次の私に、よろしくね」
ほむら(死なせはしない。彼女たちには利用価値があるから)
杏子「へえ、アンタが暁美ほむらか。何かトロそうだなぁ…… ま、精々よろしくね」
杏子「あたしは自分でこの道を選んだんだ。後悔なんてあるわけない」
杏子「協力ねえ…… あたしは別に構わないけどさ、あの女が黙っちゃいないんじゃないかい?」
杏子「さやかっ!てめえ、さやかに何しやがったんだ!」
杏子「誰かと共闘するっていうのも、たまには悪くはないもんだね。何ていうか……仲間、みたいでさ」
杏子「食うかい?」
ほむら(……本当に?本当にそれだけなの?)
さやか「転ー校ー生っ!学校にはもう慣れた? まどかと仲良しなのはいいけどさ、他にも友達作らないとだめだよー?」
さやか「というわけで、あたしが転校生の友達第二号になってあげる!何かあったら気軽に声かけてね!」
さやか「おっ、新入り? あたしは美樹さやかだよ。よろしく!」
さやか「ほむら、大丈夫!? あんた身体弱いんだから下がってなよ! 後はあたしが何とかするからさ!」
さやか「今頃になって気付いたんだ。あの時ほむらが言ってた事は正しかったんだって」
さやか「はは…、あたしってほんと馬鹿。そのせいでほむらにはいつも迷惑かけてたよね。ほんと、ごめんね……」
ほむら(ずっと彼女たちを見てきて…… 私は何とも思わなかった?)
ほむら(………)
ほむら(……ああ、なんだ、そうか)
ほむら(私の心の中には、まどかだけじゃない。巴マミも美樹さやかも、佐倉杏子だっていたんだ)
ほむら(みんなを助けたい。さっき、自分でそう言ったじゃない)
ほむら(ワルプルギスの夜を倒すための戦力としてだけではなく…… 大切な、『友達』として)
ほむら(だから、怖かった。友達を失うのが怖い。失って、"自分が"傷付くのが怖かったんだ)
ほむら(だったら、最初から何も感じなければいい。私はまどか以外、何も必要としていない)
ほむら(……そう、自分に言い聞かせていたのね)
ほむら(……なんて。 なんて……)
ほむら「……く、くく。く、ふ…ふふ……」
ほむら「ふ……はは…… あは…、は、はははははっ!!」
ほむら「あははははははははははははははははっ!!!!」
ほむら(なんて、滑稽だったのかしらね。キュゥべえに散々言われるのも無理はないわ)
ほむら(何を恐れていたんだろう、私は)
ほむら(傷付くのを恐れて何もしないなんて…… 下らないわね)
ほむら(まどかを救う。例えどれほど傷付いても、何度繰り返す事になっても。最初にそう決めたじゃない)
ほむら(あの約束に、おまけが三人加わるだけ。それがそんなに難しい事だったかしらね?)
ほむら(何度も繰り返しているうちに、戦う事に疲れ、初心を忘れるなんて。まったく、どうかしていたわね)
ほむら(幸いにも今回、巴マミは助かった。だったら、次は美樹さやかを助ければいいだけのこと)
ほむら(そう。ただそれだけのこと)
ほむら(失敗するのは怖い。また誰かを失うのは、もっと怖い)
ほむら(でも…… それでも……ッ!!)
公園
まどか「いいよ…… さやかちゃんのためなら私、魔法少女になる……!」
QB(結局。暁美ほむらは来ない、か)
QB「そうか。その気持ちに偽りはないのだね?」
まどか「うん。だからお願い、キュゥべえ。さやかちゃんを……!」
QB「……私の買い被り過ぎだった、という事なのだろうね」
まどか「え?」
QB「いや、こちらの話だよ。 ……了解した、鹿目まどか。君の願いはエントロピーを凌駕するだろう」
ダッダッダッ
QB「契約は」
ダッダッダッ ダンッ!!
QB「成り
パァン
QB「」
ドサッ
まどか「ほ、ほむらちゃん、どうして……!?」
ほむら「はあ、はあ…… 間に、合った……?」ゼエゼエ
バタッ
まどか「ほむらちゃん!?しっかりして!」ダッ
ほむら「まど、か……よく…聞いて……」
ほむら「美樹さやかは、手遅れ、じゃない…… まだ…間に合うかもしれない……」
まどか「!! ほんと!?本当なの!?」
ほむら「うまくいくかは…分からない…… だけど、可能性はゼロじゃない……」
ほむら「でも、私ではだめ……私の声だけでは足りないの…… 彼女の心に届けるには、あなたの声が必要なのよ……」
ほむら「今更になってこんな事を言っても…信じて貰えないかもしれないけど…… 私は、さやかを助けたい……!」
まどか「ほむらちゃん……!」
ほむら「お願いまどか…力を貸して……!」
まどか「ほむらちゃん…… 私、協力するよ!何だってする!」
ほむら「ありがとう、まどか……」ゼーハー
ほむら「急いで、美樹さやかを、捜し…… くっ」フラッ
まどか「だ、だめだよほむらちゃん!まだ横になってないと!」
ほむら「でも…!時間が……!」
マミ「だったら、私が捜しに行くわよ?」
まどか「マミさん!」
ほむら「巴、マミ……?」
マミ「キュゥべえから連絡があったのよ。もし暁美さんが我武者羅に動くようなことがあれば、何か力になってって」
ほむら「あいつ…が……?」
マミ「そういうわけだから、暁美さんはそこで休んでなさい」
ほむら「でも……!」
まどか「そうだよほむらちゃん。さやかちゃんは私とマミさんが捜してくるから、ほむらちゃんはここで休んでて」
ほむら「……分かったわ」
マミ「まったく、私には無茶するななんて言っておいて。 ……少しは、先輩を頼りなさい」
ほむら「………」
ほむら「……そう、ね。ありがとう… 巴……さん」
マミ「……あなたからそんな言葉が聴けるなんてね。妙に親切なキュゥべえといい、今日はおかしな事だらけだわ」
ほむら「ふふっ、そうね……」
マミ「……! ほんと、おかしな事だらけね」クスッ
マミ「さて。行きましょうか、鹿目さん!」
まどか「はいっ!!」
タッタッタッ
ほむら「行ったわね……」
ほむら「……そろそろ起きたらどう?それとも、もうくたばってしまったのかしら?」
QB「やれやれ、お見通しってわけかい?」
ムクリ
ほむら「頭は狙ってないもの。即死するような傷じゃない事くらい分かっているわ」
QB「即死ではないにしろ、致命傷である事に変わりはないのだがね……」
QB「しかし……あれだけ全力疾走した直後に、寸分違わず狙った場所へ撃ち込んできたわけか。やれやれ、世のトライアスロン選手たちが絶望してしまうよ?」
ほむら「それを言うなら、あなたの死んだ演技もなかなかのものだったわよ。インキュベーターなんて辞めて、芸人にでも転職したら?」
QB「実に興味深い…… が、それは遠慮しておくよ。なにぶん、寿命があと数分しか残ってないものでね」
ほむら「そう、残念ね」
QB「ふむ。随分と遅かったじゃないか。来ないのではないかと思ってヒヤヒヤしたよ」
ほむら「入院生活が長かったせいで、体力がないのよ。察しなさい」
QB「なるほどね。それにしても見違えたじゃないか、暁美ほむら。まるで憑き物が落ちたかのようだよ」
ほむら「……お節介な誰かさんのお陰でね。色々と吹っ切れたのよ」
QB「それはよかったね、おめでとう。それに引き換え、私は寿命が近いせいなのだろうか。思わずテレパシーを誤爆するほど耄碌してしまったよ」
ほむら「それは大変ね。医者にでも掛かったほうがいいんじゃないかしら?いい先生を紹介するわよ」
QB「それも遠慮しておくよ。人間の病院には宇宙生物脳神経外科なんてないだろう?」
ほむら「少なくとも地球にはないわね。諦めるしかなさそうね、おじいちゃん」
QB「やれやれ、近頃の魔法少女は冷たいね。年寄りには優しくしろと、親御さんに教わらなかったのかね?」
ほむら「生憎だが、所謂反抗期というものでね。親の言う事には逆らいたくなるのだよ」
QB「私の口調を真似るのはやめたまえよ、暁美ほむら」
ほむら「それは失礼したわね」
ほむら「……一つ、聞いていいかしら」
QB「何だね?」
ほむら「なぜ、あなたは……私にあんなことを言ったの?」
QB「ふむ?あんな事というのは、先程私が君と話した内容を指しているのかね?」
ほむら「そうよ。私にあんな話をしても、あなたにとってのメリットがない。むしろ回収するエネルギーが減って、目的が遠のくだけでしょう?」
QB「なるほど。君が何度も時を繰り返しているというのであれば、私の性質上、そう考えるのは当然の事なのだろうね」
QB「しかし、先程も言ったと思うが、今の私は仕事に乗り気ではなくてね。正直な話、宇宙の寿命もエントロピーもどうでもよくなってきたのだよ」
ほむら「とんだ不良社員ね。真面目に働かないとクビになるわよ?」
QB「所謂反抗期というものね。会社や上司に逆らいたくなる気分なのよ」
ほむら「私の口調を真似するのはやめなさい、インキュベーター」
QB「それは失礼したね」
QB「……フッ」
ほむら「……ふふっ」
QB「さて。私に残された時間も、後ほんの僅かだ。最後に何か言っておきたい事はあるかね?」
ほむら「そうね…… いつまでも恨むわ、インキュベーター」
QB「ふむ、穏やかではないね。一般的に、こういう局面では感謝と別れの言葉を述べるものではないのかね?」
ほむら「当然。あなたは全ての元凶なのよ。恨まれずに済むとでも思ったの?」
QB「いいや、思わないね。既に魔女になってしまった者たちも含め、魔法少女たちが僕を恨むのは、至極当然の事だろうよ」
ほむら「でしょうね。だから、今のは全ての魔法少女からあなたへ送る言葉よ。胸に刻んでおきなさい」
QB「手向けの言葉が恨み言かね。やれやれ、手厳しいことだ」
ほむら「……それと、ありがとう」
QB「ほう?それも魔法少女たちからの言葉かね?」
ほむら「自惚れないで頂戴。あなたに感謝してる魔法少女なんて、世界中を捜してもほんの一握りしかいないでしょうね」
QB「これはまた。耳の痛い話だね」
ほむら「だから、今のは……そう。魔法少女としてではなく、ただの暁美ほむらとしてお礼を言ったのよ」
ほむら「私の目を覚まさせてくれて、ありがとう。 感謝するわ……キュゥべえ」
QB「……ふ、ふふ、ははは……! あの時の意趣返しかね、暁美ほむら」
QB「ハ、ハハ。いやはや、これは想定外だったよ。実に興味深い」
QB「こんな気分は初めてだよ。私には感情はないが…… もし、あるとするのなら、これは『楽しい』と感じているのかもしれないね」
QB「ああ、残念だ。実に残念だよ、暁美ほむら。この私に芽生えた感情らしきものを解明してみたいと思った矢先に、別れの時間になってしまうなんて。神というのは、実に意地悪な存在だと思わないかね?」
QB「まったく…… 人間というのは、絶望してばかりの生き物だと思っていたのだがね。なかなか…どうして、気持ちのいいものを、持って……いるじゃないか」
ほむら「……キュゥべえ」
QB「おっと、それは、初めて見せる、顔……だね、暁美ほむら…… 表情から察するに、『悲しい』…、という、感情、かね……?」
ほむら「………」
QB「ふむ…… そちらの、感情も……、体験、してみたい、のは…山々、なのだけれど…ね…… 生憎、じかんぎれ、の……よう、だ……」
QB「まあ、いい、さ…… わた、し、は……いま、とても、たの、しい…、の、だ…か……ら」
プツッ……… ドサッ
ほむら「………」
ほむら(………さようなら)
ほむら「………」
まどか「あ、いたいた!おーい、ほむらちゃーん!」フリフリ
ほむら(まどか、巴さん、杏子…… それに…美樹さやか……!)
タッタッタッ
ほむら「まどか……うまくいったのね」
まどか「うん!ほら、さやかちゃん!」
さやか「あ、あはは…… ご心配おかけしました……」
マミ「ふふ、美樹さんったら、今はとっても素直なのよ。ね?」
杏子「そりゃー、あんだけやられればね。誰でも素直になるんじゃない?」
さやか「ちょ、ちょっと、その事は言わないで……!」
ほむら「?」
杏子「さやかの奴、まどかに思いっきりビンタされてボーゼンとしてたんだぜ?あんたにも見せてやりたかったよ、あの顔」
さやか「ちょ、杏子っ!」
マミ「あんなに迫力のある鹿目さんは初めて見たわね。美樹さんったら、鹿目さんが何を言ってもぼろぼろ泣きながら頷くだけだったんだもの」
さやか「マミさんもっ!」
まどか「さやかちゃん、思いっきり叩いちゃってごめんね……? でも、私そんなに怖かったかなあ……」ショボン
さやか「もう!まどかまで……!」
ワイワイガヤガヤ
ほむら「………くすっ」
まどさや杏「あっ!?」
ほむら「!?」ビクッ
ほむら「な、何よ…?」
まどか「ほむらちゃんが……」
さやか「笑った……」
杏子「だと……!?」
まどか「ほむらちゃん、今笑ったよね!? ねえねえ、もう一回!もう一回笑って!?」ズイッ
ほむら「ちょ、ちょっと、まどか……!?」アセアセ
さやか「はぁー…… 転校生のやつ、笑ったらあんなに可愛いんだね。こりゃあ、さやかちゃんの人気危うしだよ」
杏子「なーに言ってんだか、この夜遊び娘は」
さやか「何をー!!」
ギャーギャー
マミ「ふふっ」
マミ「さてと。それじゃあ、帰るとしましょうか。もう夜も遅いしね」
さやか「今何時……って、こんな時間!?うっわ、家に帰ったら殺される…… みんなは大丈夫なの?」
まどか「私はマミさんの家にお泊りってことにしてあるから……」
マミ「私は一人暮らしだし……」
ほむら「右に同じよ」
杏子「あたしは家そのものがないからな」
さやか「」
さやか「うわああああどうしよう! これじゃあまどかの家に泊まってるっていう口実も使えないよー!!」
ほむら「……何なら、私の家に来る?」
さやか「えっ?」
ほむら「私は退院したばかりだから…… 途中で具合が悪くなったところを、さやかが付きっ切りで看病してくれた」
ほむら「念のために泊まっていく事にしたけれど、携帯電話を学校に置き忘れてしまった……これでどうかしら」
さやか「い、いや、でもさ…… 悪くない?」
ほむら「あなたさえよければ、私は構わないわ」
さやか「そ、そうなんだー、ふーん……」
杏子(なーなー、あれってさ……)コソコソ
まどか(さやかちゃん、ほむらちゃんとは色々あったからね)コソコソ
マミ(突然の厚意に順応できていないのね)コソコソ
なんか日本語おかしいな……
マミ(突然の厚意をうまく受け取れないのね)コソコソ
これに脳内変換してくれると嬉しい
さやか「それじゃあ……ごめん、お言葉に甘えさせてもらってもいいかな」
ほむら「構わないわ」
マミ「よかったわね、美樹さん」
まどか「いいなー、さやかちゃん」
マミ「あら、鹿目さんは私の家じゃ不満かしら?」
まどか「えっ!そ、そういう意味で言ったんじゃないですよ!?」オロオロ
マミ「ふふ、冗談よ」クスッ
杏子「………」
マミ「そういうわけだから、佐倉さんもうちに来なさい。ねっ?」
杏子「は、はあっ!?何言ってんだおまえ!」
マミ「どうせ一人暮らしなんだし、泊まる人数が一人や二人増えても変わらないわよ。おいしい紅茶とケーキがあるの。いかがかしら?」
杏子「ケーキ…… し、仕方ねえ、今日だけ泊まってやるから感謝しろよな!」ゴクリ
マミ(やだ、この子ちょろいわ……)
マミ「それじゃあ、二人とも気を付けてね」
杏子「さやかー、ほむらに迷惑かけるんじゃないぞー」
さやか「あんたは私のお母さんかっ!」
まどか「ふふっ、それじゃあね、ほむらちゃん!」ニコッ
ほむら「ええ、また明日……」
テクテク テクテク
ほむら「………」
さやか「………」
ほむら「………」
さやか「………」
ほむら(気まずい)
さやか(気まずい)
さやか「………」テクテク
ほむら「………」テクテク
さやか(そういえば、転校生にちゃんと謝ってなかった……)
ほむら(そういえば、何か忘れているような……? ……あっ!?)
さやか「あ、あのさ、てんこ……」
ほむら「ごめんなさい、美樹さやか。忘れ物をしたから公園に戻るわ」
さやか「うせ……って、ええっ?」
ほむら「住所はここ。鍵はこれだから、適当に寛いで待っていて頂戴。すぐ戻るから!」ダッ
さやか「あ、ちょ、転校生!」
ダダダッ
さやか「……行っちゃった」
ほむら「私としたことが、またしても雰囲気に流されていたわ……」
ほむら「インキュベーターの代わりはいくらでもいる。それは今回も例外ではない」
ほむら「あのキュゥべえの次に出現する個体が、もしも、今までの奴と同じだったとしたら……」
ほむら「みんなと接触する前に……討つッ!」
ダッダッダッ ダンッ!!
ほむら「死体はまだある。という事は……!」
テクテクテク ピョコン
QB「よう」
ほむら「やっぱり来たわね、インキュベーター……!」
QB「やれやれ、見滝原の個体はよく潰されるからと来てみれば…… またアンタかい、暁美ほむら」モッシャモッシャ
QB「アンタも懲りないんだな。俺たちを殺しても無駄だって分かってるクセに」モッシャモッシャ
QB「代わりはいくらでもいるけど、無意味に潰されるのは困るんだよな、勿体無いだろ?」モッシャモッシャ ゴクン
QB「きゅっぷぃ…… 腹ン中がパンパンだぜ」ゲップ
ほむら「御託はいいわ…… 一つだけ答えさない、インキュベーター。あなたは鹿目まどかと契約するつもりなの?」
QB「またその質問かい。アンタ、俺たちと出会う度に同じ質問をしているみたいじゃないか」
ほむら「いいから、答えなさい!」ジャキン
QB「おっと、俺はまだ死にたくないんでね。正直に答えるとしよう」
QB「前の俺も言ったと思うが、もう契約も宇宙の寿命も、半分どうでもいい」
ほむら「……本当に?」
QB「本当だよ。俺たちは個体差はあれど記憶は共有してるから、一応俺も前任者の意思も引き継いでるんだぜ」
ほむら「と、いうことは……」
QB「アンタが鹿目まどかに手を出すなと言うなら、大人しく引き下がるさ」
ほむら「……!!」
ほむら「その言葉、嘘ではないのね?」
QB「俺は嘘はつかない。それも知ってるんだろう?」
ほむら「………」
QB「俺が興味を無くしたからには、鹿目まどかと無理に契約する必要もなくなった。アンタが望むなら、この街から立ち去ってもいいさ」
QB「ただ、まあ……それとは別にして、だ。個人的にはアンタに用があるんだよ、暁美ほむら」
ほむら「何……?」
QB「アンタは何度も俺たちを殺してくれた。ここんとこの二~三週間の間だけでも、十数体は軽く越える数だ」
QB「代わりはいくらでもいるとは言え…… 調子に乗りすぎたな」
QB「お望みどおり、"鹿目まどかから"は手を引こう。 ……そのかわり、散々殺してくれたお礼はしないと、な?」
ほむら「な…っ!?」
QB「俺も男だからさ、このままじゃ収まりがつかないんだよな」
ほむら「な、何を言って……」
QB「今度は俺の番だろ?」ズイッ
ほむら「!?」ビクッ
QB「なんだ、キミは女の子だったのか……」ガッカリ
ほむら「インキュベーター!何をするつもりなの!?」
QB「有り体に言えば、復讐ってやつだ。アンタが俺たちを殺してきた分、それ相応の痛みを受けてもらおうと思ってな」
QB「皮肉なことに、ここの前任者が感情なんてモンを学習しちまったようでね……このままじゃ俺の『怒り』が収まらないんだよ」
QB「落とし前はつけてもらおうじゃないの、暁美ほむら」
ほむら「くっ…!」
QB「まずは、そうだな…… 手始めに、美樹さやかをもう一度絶望させてやろうじゃないの」
ほむら「!?」
QB「どうやら、前任者のお陰で何とか助かったようだが…… その分、再び堕ちた時の絶望は計り知れないだろうな」
QB「恐らく、そうなったらアンタも絶望するんだろう……暁美ほむら?」
ほむら「……ッ! 私がさせるとでも!」ジャキン
QB「おっと、下手に殺さないほうがいいぜ?」
QB「アンタも知っての通りだが、俺たちインキュベーターには個体差があるようだ。実は俺も知らなかったんだけどな」
QB「ここで俺を殺しても構わないが、さすがのアンタも次に来るのがどんなヤツかは……分からないだろ?」
QB「もし、次に送られてくるのが役割に忠実なヤツだったら。鹿目まどかを守るというアンタの目的はパアだ」
QB「いくら失敗してもやり直せるとはいえ、ここまでうまくいった時間軸を切り捨てるのは惜しいんじゃないのか?」
QB「何度も繰り返してきた中で、今回ほど事がうまく運んだ試しはあったのかい?暁美ほむら」
ほむら「くっ……」
QB「それが分かったのなら、邪魔をしようなんて思わないことだな」
QB「アンタと美樹さやか、二人だけが絶望するか。それとも俺を殺して、みんなまとめて全滅するか…… 好きに選ぶんだな」
ほむら「この……卑怯者……ッ!!」ギリッ
QB「うれしいこと言ってくれるじゃないの。最高の褒め言葉だぜ」
QB「それじゃあな。精々指を咥えて見守っていてくれよ」
スゥ……
ほむら「………」
ほむら「……さやかッ!!」
ダッ
ほむホーム
さやか「転校生のやつ、おっそいなー…… 人の家に一人きりっていうのも気まずいんだよ……」
ダダダッ ガチャ バン!!
さやか「って、うわっ!?何、強盗!?」
ほむら「美樹、さやか……!!」ゼーハー
さやか「ちょ、ちょっと、どうしたのさ転校生!?汗だくじゃん!」
ほむら「キュゥべえが、こなかった……?」
さやか「キュゥべえ…?いや、来てないけど……?」
ほむら「!! ……そう、ならいいのよ」ハーハー
さやか「な、なんかよく分からないけどさ…… とりあえずシャワー浴びてきなよ?」
ほむら「……ええ、そうさせてもらうわね」ゼエハア
ほむら(あれから幾らか時間が経ったけど、インキュベーターが何かを仕掛けてくる様子はない)
ほむら(私が不在の間に、美樹さやかと接触したわけでもなさそうだし……)
ほむら(気が変わった? ……まさかね、あいつに限ってそんな事はないはず)
ほむら(……何にせよ、美樹さやかが無事でよかった)
さやか「……生」
ほむら(?)
さやか「ちょっと、転校生ってば!」
ほむら「!?」ビクッ
さやか「何よその反応…… 幽霊じゃあるまいし、そんなに驚くことないでしょ」
ほむら「ご、ごめんなさい、考え事をしていたわ」
さやか「さっきから話しかけても上の空だしさ。しっかりしてよね ……って、違う違う!こんな事言いたいんじゃなくて!」
ほむら「?」
さやか「あのさ。まだ、ちゃんと謝ってなかったと思って……」
さやか「あれほど契約するなって言われたのに、勝手に契約して。あんたはあたしを助けてくれようとしてたのに、酷いこと言っちゃってさ……」
さやか「今回の事で、転校生には迷惑かけっぱなしだったよね。本当に、ごめん」
ほむら「美樹さやか……」
さやか「……あたしね、恭介に告白しようと思うんだ」
ほむら「例の、幼馴染ね?」
さやか「うん」
さやか「小さい頃から、ずっと好きだった。恭介の演奏を聴くのが、大好きだったんだ」
さやか「だから、あいつの腕を治すためにキュゥべえと契約した。そのためなら、戦いの運命なんていくらでも受け入れてやろうって思った」
さやか「……だけど、仁美もずっと前から恭介の事が好きで。仁美はあたしなんかより、ずっと女の子らしくて……」
さやか「仁美に恭介を取られちゃう。でも、こんなゾンビみたいな身体で、抱きしめて欲しいなんて言えない。キスしてなんて、言えない……」
さやか「そう思ったら、世界が酷くつまらないものに見えてきちゃってさ。ゾンビになってまで守る価値があるのか、なんて考えちゃって」
さやか「今考えたら馬鹿みたいだよね。結局あたしは、何だかんだ言っても恭介に愛されたいっていう見返りを求めてたんだ」
さやか「それなのに一人で強がって、みんなに迷惑かけて…… ほんと、馬鹿だよ」
ほむら「………」
わーかーめー
さやか「だから、もう終わりにするよ。この気持ちに決着をつけて、前に進もうと思う」
さやか「きっと、恭介は仁美を選ぶと思う。だけど、何もしないで後悔するのだけは、絶対に嫌だ」
さやか「ま、どっちに転んでも後腐れないようにしようってね!」
ほむら「………」
さやか「だから、さ。これに決着がついたら……っ ……決着、が、ついたら……っ!」ヒック
ほむら「美樹さやか……あなた……」
さやか「グスッ……あれ、おっかしいなあ…… さっきあれだけ泣いたのに、また涙……なんて……」グスッ
ほむら「……ここには私とあなたしかいないから、我慢する必要はないわ」
ほむら「好きなだけ泣きなさい、美樹さやか……」
さやか「転校…せ…っ …う、うっ、うわあああああ!!」ガバッ
ほむら「………」ギュッ
ほむら「少しは落ち着いたかしら?」
さやか「うん、ありがと…… はは、今日はカッコ悪いところ見られてばっかりだよ」ズズッ
ほむら「いつも勝気なあなたの泣き顔なんて、滅多に見られるものではないわ。超レアものよ、超レア」
さやか「なんだよそれー!あたしの真似すんなっ!」クスクス
ほむら「ふふっ」
さやか「……あのさ。さっき言いかけた事なんだけど」
ほむら「何かしら?」
さやか「恭介への想いに決着がついたら、あたし、あんたの戦いを手伝おうと思うんだ」
ほむら「!」
さやか「杏子から聞いたよ。ワルプルギスの夜、だっけ? 倒さないと、大変な事になるんでしょ?」
ほむら「ええ、そうよ。私はそれを倒す事を最終目的としているわ」
ほむら「あいつは結界に身を潜める必要がないから、一度顕現しただけで周囲に破壊を撒き散らす存在なの」
ほむら「あれは、並大抵の魔法少女では歯が立たない…… 悪い事は言わないから、その日が来たら逃げて頂戴」
さやか「あたし、この街で育ったんだ。生まれ育った街を捨てて逃げるなんて、できないよ」
ほむら「そうは言っても、死ぬかもしれないのよ……!」
さやか「それは、転校生も同じ……でしょ?」
ほむら「!!」
さやか「あんたはさ、まどかやみんなを助けるためなら、自分はどうなってもいって思ってるよね」
ほむら「それ、は……」
さやか「転校生が本気で心配してくれてるって事は分かってるよ」
さやか「でもね。それと同じ分だけ、あんたを本気で心配する人がいる事も忘れないで」
さやか「まどかも、マミさんも……杏子だって、あんたを心配すると思う」
ほむら「………」
さやか「私だってさ、嫌なんだよ。 『友達』が危険な目に遭ってるのに、何もできないなんて」
ほむら「……ッ!!」
さやか「だからさ、ワルプルギスの夜がくるまでに、あんたの役に立てるように頑張るよ」
さやか「その日になって、どうしても足手纏いだと思ったなら、その時は大人しく避難させてもらう。それでいいでしょ?」
ほむら「でも……でもっ!」
さやか「あーもう、やめやめ!ウジウジ考えないの!あんたの悪い癖だぞっ?」ワシャワシャ
ほむら「あ、こら、やめなさい美樹さやか!」
さやか「そんなわけだからさ。晴れてあたしも勇者・暁美ほむらパーティの仲間入り!ってことで、一つよろしく!」
さやか「あ、明日から魔女がいない時間は、あたしの特訓に付き合ってもらうからね!スパルタでも何でもドンとこい!」
ほむら「美樹さやか……」
さやか「それとその、『美樹さやか』って呼ぶのも禁止! ……もう友達なんだからさ、さやかって呼んでよ」
さやか「あたしも転校生って呼ぶのやめるからさ、ほむら」
ほむら「………」
ほむら(美樹さやか…… 私は今まで、こんな子を見殺しにしてきたのね……)
さやか「ほらほら、返事は?」
ほむら「はあ、分かったわよ……」
さやか「オッケーオッケー!それじゃあ早速いってみよーか?」ワクワク
ほむら「………」
ほむら「……さ、さやか」カアァッ
さやか「」キュン
きゅん
さやか「も……も……」ワナワナ
ほむら「さ、さやか……?」
さやか「もう辛抱堪らん!ほむらぁぁぁ!!」
ガバッ ギュゥゥゥゥゥ
ほむら「ちょ、ちょっと、離しなさいさやか!苦しいわ!」
さやか「知らん!ほむらが可愛すぎるのが悪い!あたしの嫁にするのだ!」ギュウウ
ほむら「ちょ、やめ、ひゃぅっ!?」
ギュゥゥゥ ドタバタ ゴスッ!! ドタン
ほむら「……少しは落ち着いたかしら?」
さやか「はい……」ヒリヒリ
ほむら「まったく、私は何度もやめろと言ったはずよ?何度言わせるの?あなたはどこまで愚かなの?」
さやか「面目ないです……」
ほむら「愚か者が相手なら、私は手段を選ばない」キリッ
さやか「ほむら…ちゃん……」
さやほむ「……プッ」
ほむら「ふふっ」
さやか「あははっ」
さやか「まったく、嫁入り前の女の子を本気で殴るなんて…… 責任、取ってもらうからね?」ギュッ
ほむら「自業自得と言いたいところだけど、特別に善処してあげるわ」クスクス
さやか「もう、口だけは達者なんだからー!」
キャッキャ ウフフ
さやか「…今日は本当にありがとね、ほむら。いくら感謝しても足りないよ」
ほむら「お礼は必要ないわ。だって私たちは…… 『友達』、でしょう?」
さやか「……ばか。ありがと」ギュッ
ほむら「どう致しまして」ギュッ
さやか「………」スースー
ほむら(よく眠っているわね。抱きつかれたままなのが気になるけど)
ほむら(……まさか、美樹さ…… ……さやかとこんな風に話せるなんて、思ってもみなかった)
ほむら(毎回毎回、勝手に契約しては、上条恭介絡みで破滅していくお荷物的存在)
ほむら(そんな風に思っていた……けれど)
さやか「……んっ……ほむ…らぁ……」ギュゥ
さやか「………」スヤスヤ
ほむら(………)
ほむら(約束するわ、さやか。私はあなたの事も守ってみせる……)
ほむら(それにしても、さやかがここまで吹っ切れるなんて事は初めてね)
ほむら(今までの時間軸ではいつも、上条恭介に告白しようともせず、絶望に染まっていたというのに)
ほむら(………?
ほむら(何か……引っかかるわね………?)
ほむら(さやか…… 告白…… 失恋…… 絶望…… 上条恭介………)
ほむら(上条……恭介?)
ザザザッ
QB「まずは、そうだな…… 手始めに、美樹さやかをもう一度絶望させてやろうじゃないの」
ザザッ
ほむら(まさか……!奴の狙いは、最初から上条恭介……!?)
同時刻・上条邸
恭介「さやか…… 家にも帰ってきていないだなんて、一体どうしたんだろう」
恭介「せっかく手が治って、演奏してあげる事もできるかもしれないのに」
恭介「………」
恭介「それにしても…… まさか、志筑さんが僕の事を好きだったなんて…… 思いもしなかったな」
恭介「同級生で、清楚で、ちょっと世間知らずなお嬢様……か」
恭介「………」ゴクリ
恭介「……興奮してきたよ」
ガラガラガラッ
恭介「!?」ビクッ
恭介「な、何だ、窓が……? ……そこに、誰かいるのかい?」
テクテクテク ピョコン
QB「やらないか」
恭介「えっ」
そういうとぬいぐるみはチャックを下ろし始めた――ん?チャック?
翌朝
さやか「ちょっとほむら、何そんなに慌ててるのさ!」タッタッ
ほむら「いいから急ぎなさい!」タッタッ
ほむら(昨夜はさやかに抱きつかれていたせいで、様子を見に行く事ができなかった……)
ほむら(インキュベーターが何かを仕掛けてくるとしたら…… 今頃、上条恭介は……!)
上条邸前
さやか「で、どうするのよ?いくら幼馴染だからって、こんな朝早くから上がりこむわけにいかないでしょ」
ほむら「強行突破するわ。つかまって」スッ
さやか「……?」ギュッ
カチッ
さやか「な、何これ、景色が……」
ほむら「私から手を離したら、あなたの時間も止まってしまう。気を付けて」
ほむら「行くわよ!」
タッタッタッ バン!!
ほむら「上条恭介、無事!?」
さやか「ちょっとほむら、何も扉を蹴破る事ないでしょ!」アセアセ
さやか「あ、あはは。朝早くからごめんね、きょうす……け……」ピシッ
恭介「べえさん…べえさん……!気持ち…いいです……ッ!」ハァハァ
QB「いいぞ……腹の中にどんどん入ってくるのがわかるよ」
QB「しっかりケツの穴を締めとかないと……な!」キュッ
恭介「くうっ!エントロピー……!」ガクガク
さやか「」
ほむら「」
恭介「はっ…はっ……」ハァハァ
QB「どうしたい」
恭介「あんまり気持ちよくて…… こんな事したの初めてだから……」
恭介「思えば僕は、バイオリンだけが自分の生きる道だと思っていた……」
恭介「事故で腕が動かなくなった時…… もう演奏できないくらいなら、僕には生きてる価値なんてないんだって思ってた」
恭介「でも、知らなかった。世の中にはこんなに気持ちのいい事があったなんて……!」
恭介「べえさん、ありがとう。僕にこの素晴らしい世界を教えてくれて……」ポッ
QB「うれしいこと言ってくれるじゃないの。それじゃあ、とことん喜ばせてやるからな」クイッ
<アッアッ!!ベエサン!!
<アオオーッ!!
ほむら「」
さやか「」
腐
<ハ、ハイリマシタ…!!
<アア…ツギハションベンダ…
さやか「………」
ほむら(どうしてこうなった)
さやか「……あは」
ほむら「さやか?」
さやか「結局、恭介があたしに振り向いてくれる事はなかったわけか……」
さやか「ははっ、あははははっ!」ゲラゲラ
ほむら「ちょ、落ち着きなさい、さやか!」ガシッ
さやか「……ほむら、拳銃持ってたよね。ちょっと貸してよ」
ほむら「えっ」
さやか「大丈夫、恭介を撃ったりはしないからさ。お願い」
ほむら「……分かったわ。扱いにはくれぐれも気を付けて」スチャッ
さやか「ありがと」
恭介「べえさん!べえさん!!」カクカク
さやか「恭介」ボソッ
恭介「べぇさ…… !?さや……!」
さやか「黙って」ジャキン
恭介「………」コクコク
ズルッ
QB「? いきなり抜くなんてどうしたい、上条恭介。遠慮はいらないぜ。思う存分、ぶち込んでみな」クイックイッ
さやか「………」クイッ
恭介「………」コクッ
カチャッ ズ……
QB「いいぞ…!鉄みたいに熱く感じるよ……!さあ、一気にエントロピーを発射しろ……!」フリフリ
さやか「………」ギロッ
恭介「………。 発射……するよ……」ポロポロ
ズギューンン
QB「」
恭介「うっ、うっ……べえさん……」グスッ
さやか「ほむら、拳銃返すよ。ありがとね」スッ
ほむら「……その銃は処分して頂戴」
恭介「べえさんがいなくなったら…… 僕の中で滾っている、このエントロピーはどうすればいい……!」ポロポロ
さやか「……恭介」
恭介「さやか……!君は、何て事をしてくれ…たん……」ジッ
恭介「………」
恭介(あれ……よく見たらさやかって可愛いな)
恭介(幼馴染……献身的……そして、何気に隠れ巨乳……)
恭介(………)ゴクリ
恭介(……興奮してきたよ)
恭介「さ、さやかっ!!」ダッ
さやか「………」
恭介「さやか、僕が間違っていたよ!やっぱり君が一番だ!」ダキッ
ギュゥゥゥゥ
さやか「恭介……」ニコッ
恭介「何だい、マイハニー」キリッ
さやか「死ね、この変態ッ!!」バキッ
恭介「へぇあ!?」
恭介「」ピクピク
さやか「……ふんっ」
ほむら(終わってしまったわ……この時間軸も……)
さやか「………さぁて、と」
ほむら「さ、さやか……」
さやか「なーに心配そうな顔してるのさ、ほむら。あたしなら全然ヘーキだよ?」ヘラッ
ほむら「で、でもっ」
さやか「…何かもうさ、どうでもよくなちゃったよ。こんな変態の事が好きだったなんて、馬鹿みたいだ」
ほむら(確かに、どうしようもない変態だったけど)
さやか「そういうわけだからっ!せっかく早起きしたんだし、これから一緒に特訓でもしようよ!」
さやか「今ならワルプルギスだろうが何だろうが、負ける気がしないよ……!」ニヤァ
ほむら(なにこれこわい)
こうして、さやかの恋は終わった。
今までの時間軸と違うのは、さやかは失恋しても絶望することはなく、むしろ活き活きとしている事だろうか。
思えば、今回の時間軸はイレギュラーだらけだった。
インキュベーターとは思えないほど表情豊かで、私や巴さんに懐いていた無邪気なキュゥべえと出会あったこと。
特徴的な言い回しをするキュゥべえに説教され、色々と吹っ切れたこと。
妙に男臭いキュゥべえが、上条恭介と…… いや、これはやめておこう。思い出すのもおぞましい。
とにもかくにも。まどかを契約させず、尚且つ全員が生き残っているこの状況は、これまで私が散々待ち焦がれていたものだった。
私とさやかとで始めた特訓。それにいつしか巴さんと杏子も加わり、この上なく士気が高まっているのを感じた。
彼女たちと親睦を深めるうちに、私はある決心をした。
私が未来からきたこと、何度も同じ時間を繰り返してきたこと。
そして…… 魔法少女の真実を、みんなに話そう……と。
正直に言うと怖かった。以前、何度か打ち明けたことはあったけれど、耳を貸してくれないことのほうが多かったから。
でも。いざ話してみると、誰もが真剣な顔で耳を傾けてくれて。
私一人が交わした約束だというのに、まるで自分のことのように協力を申し出てくれた。
私の心配は杞憂に終わった。
……しかし。
全ての事柄が順調に進んでいる流れの中、私には気になることがあった。
インキュベーター。
個体を潰された場合、いつもならすぐに代わりが出現するはずの宇宙生物。
その彼が、さやかが潰した個体を最後に、ぱったりと姿を見せなくなったのだ。
いつもなら。私の目の届かないところで契約される恐れがなくなり、喜ばしいと思っていたことだろう。
しかし。
イレギュラーだらけのこの時間軸で、極めつけにイレギュラーだったインキュベーターが姿を見せないことは……
何だか、不安になるのだった……
そして訪れた、ワルプルギスの夜・襲来当日。
私たちは誰一人として欠けることなく、万全の状態でこの日を迎えることができた。
最初は経験不足から、中堅の魔女相手にすら苦戦していたさやかも、これまでの特訓で着実に実力を伸ばしていた。
……そして。
激戦いの末、ついに私たちはワルプルギスの夜を撃破することに成功する。
幾度となく、繰り返してきた。
滅び行く世界から目を背け、友達の血でこの手を染めながら。
それでも繰り返した。何度も何度も。
あの子と交わした、ただ一つの約束を果たすために。
最強の魔女をこの手で倒し、まどかを守る。それが今日、ついに実現した。
―――戦いの疲れを癒すため、一旦解散することになった私たち。
共に戦った戦友たちが避難所へと戻る中、私はただ一人、反対方向へと向かっていた。
ワルプルギスの夜との戦いの被害を受け、瓦礫だらけとなった街の一角。
そこで、これまで姿を見せなかった彼と、再会することとなる。
ほむら「……来てやったわよ」
QB「やあ。久しぶりだね、暁美ほむら」
ほむら「インキュベーター……今度は何を企んでいるの」
QB「そんなに怖い顔をしないでくれるかい。僕は争いにきたわけじゃないんだよ」
ほむら「どうかしらね。あなたに感情が芽生えた今となっては、インキュベーターが嘘をつかないという前提は破綻した」
ほむら「その気になれば私を騙し、悪意に基づいた行動を取ることもできる……違うかしら」
QB「否定はできないね」
ほむら「……まあいいわ。わざわざ私だけを呼び出したということは、何か用件があるんでしょう?」
QB「思いの他、冷静で助かるよ。魔法少女の真実を知った上で話し合いのテーブルについてくれる人は少ないからね」
ほむら「自業自得ね」
QB「さて。まずはおめでとうと言うべきかな、暁美ほむら」
QB「これで君の目的…… 鹿目まどかを契約させず、ワルプルギスの夜を倒すという目標は達成されたわけだ」
QB「まさか、こんな結末を掴み取るとはね。君の執念には恐れ入ったよ」
ほむら「お褒めの言葉をどうもありがとう」
QB「僕は素直に祝福してるんだよ。もう少し嬉しそうにしたらどうなんだい?」
ほむら「御託はいいわ。続けなさい」
QB「やれやれ、君のつれないところは相変わらずだね。仕方ない…本題に入らせてもらうよ」
QB「今日、君一人を呼び出した理由はね。お別れを言いに来たのさ、暁美ほむら」
ほむら「……お別れ?」
QB「魔法少女システムは、破棄されることとなった」
ほむら「破棄とは、どういう事なの」
QB「君が僕たちに感情というものを教えてくれたお陰で、母星でも研究が進んでね。絶望以外の感情エネルギーも採取できるようになったんだよ」
QB「それに、僕たちに感情が芽生えた。非効率的ながらも自家発電ができるようになったんだ」
QB「つまるところ、宇宙の寿命の問題も何とかなりそうなんだよ」
QB「まあ……効率だけを考えるのなら、今まで通り魔法少女たちを絶望させたほうが手っ取り早いのだけれどね」
QB「だけど、僕たちも好き好んで憎まれ役を演じたいわけじゃない。事が穏便に済むのなら、それに越したことはないのさ」
ほむら「つまり、私たち魔法少女は用済みだと?」
QB「悪意的な受け取り方をするならそうなるね」
QB「システムを破棄するにあたっての唯一の懸念事項が、僕たちでも始末におえないワルプルギスの夜をどうするか……という事だったんだけど」
QB「それも今日、君たちの手によって解決されたというわけさ」
QB「喜んだらどうだい?こちらの都合とはいえ、君たちはもう自由になれるんだからね」
ほむら「………」
ほむら「……最後まで身勝手な言い分ね」
QB「自覚はあるよ。最近では、少し心苦しいとさえ感じるようになった。感情というものは厄介だね」
ほむら「その割には、嬉しそうに見えるけど」
QB「そうかな」
ほむら「そうよ」
QB「そうかい。なら僕は、何だかんだと言っても人間が好きだったのかもしれないね」
QB「きっと……無闇に人間を殺さずに済むという事を、『嬉しい』と感じているのかもしれない」
ほむら「以前のあなたを見れば、とても考えられない台詞ね。寒気がしてきたわ」
QB「酷いよ、暁美ほむら」
QB「まあ、僕の用件はこれだけさ。今現在、世界各地の魔女からエネルギーを吸い上げ、駆逐している最中だ」
QB「それが終わり次第、この個体も回収されることだろう」
ほむら「そう。今後、あなたの憎たらしい顔を見なくて済むと思うと清々するわね」
QB「あのね……今は僕にも感情があるんだよ。そんな言い方をされると傷付くじゃないか」
ほむら「あなたの今までの行いを考えれば、すぐにでも射殺したいくらいよ。口で済んでるだけありがたいと思いなさい」
QB「……そうだね。罵られるだけで済むのなら、僕たちは幸せなのかもしれない」
QB「感情が芽生えた今なら分かるよ。僕たちが君たち人間に対して行ってきた仕打ちは、決して許される事ではない」
QB「以前の僕に君は言ったね。いつまでも恨む、と」
QB「今ならその言葉の重みがよく分かるんだ。だから、その言葉をずっと忘れないようにしようと思う」
QB「僕たちの都合で犠牲にしてきた魔法少女からの、せめてもの罰だと思うことにするよ」
QB「…さて。挨拶も済んだことだし、僕は母星に戻るとするよ」
ほむら「名残惜しいけれどね」
QB「本心で言ってくれているのなら嬉しいよ」
ほむら「まさか。いい加減、社交辞令というものも覚えなさい」
QB「そんな事だろうと思ったよ…… っと、時間のようだね」
パアァァァ…
QB「最後になるけど、一つだけいいかい」
ほむら「何よ」
QB「君とは色々とあったけれど……僕は君のことは嫌いではなかったよ、暁美ほむら」
ほむら「お生憎様。私は大嫌いだわ」
QB「まったく…つれないね。次にこの星を訪れる時は、女の子の口説き方でもマスターしておくことにするよ」
ほむら「二度と来なくていいわよ。 ……早く行きなさい」
QB「やれやれ、嫌われ者は辛いよ。 ……それじゃあね、暁美ほむら。元気で」
シュン………
ほむら「………」
ほむら「最後の最後まで、気に入らない奴。いなくなって清々したわ」
ほむら「………」
ほむら「……あなたも、元気で。キュゥべえ」
ほむら「………」
さやか「あ!いたいた、ほむら!」
タタタッ
さやか「一人でこんな所に残って何してるのさ。まどかたちが待ってるよ?」
ほむら「さやか……」
さやか「そうそう!さっき、いつの間にかソウルジェムがなくなっててさ。どこ探しても見当たらないんだよねー」
さやか「でも、ソウルジェムがないのに身体は動かせるんだ。マミさんと杏子も同じみたい」
ほむら「……そう」
さやか「あとさ、いきなり魔法が使えなくなっちゃって…… ほむら、何か知ってる?」
ほむら「……というわけよ。これで私たちは、魔法少女ではなくなった」
さやか「そっか。あたしたち、人間に戻れたんだね……」
ほむら「ええ。世界各地に散らばっていた魔女も、もういない。私たちが戦う必要はなくなった」
さやか「やったじゃん、ほむら!」
さやか「ラスボス倒して、まどかも救って。文句なしのハッピーエンドじゃん!さすがは勇者・暁美ほむらだよ!」ワシャワシャ
ほむら「………」
さやか「……あんまり嬉しそうにしないんだね。どうして?」
ほむら「そんなことないわ。とても嬉しいわよ」
さやか「嘘。本当に嬉しかったら、そんな顔できないよ」
ほむら「……分からないのよ」
さやか「分からない?」
ほむら「みんなのお陰で、まどかとの約束を果たすことができた。誰を死なせることもなく、ワルプルギスの夜を倒すことができた」
さやか「いいことだらけじゃんか」
ほむら「そう、これは私の望んだ結末そのもの。文句の付け所がないはずなのだけれど」
ほむら「何も、考えられないのよ。心にぽっかり穴が開いたみたいに、空白ばかりが広がっているの」
ほむら「おかしな話よね。あのキュゥべえですら感情が芽生えたというのに、今度は私が無感情のようになっているのだから」
さやか「ほむら……」
さやか「……ほむらはさ、これからどうするの?」
ほむら「これから……?」
さやか「そう、これから。あたしたち、魔法少女じゃなくなったんだしさ。もう戦いに気を回す必要もないじゃん?」
ほむら「……そうね」
さやか「ほむらはこの一ヵ月ばかり繰り返してきたんでしょ。だったらさ、ここから先は未知の領域になるわけじゃない」
さやか「とりあえず、みんなで祝勝会でもする?マミさんの家にでも集まってさ」
さやか「街が復興したら、学校も行かないとね。ほむらって頭いいと思ってたけど、これから先の勉強は意外とダメダメだったりするんじゃない?」
さやか「時間も沢山できるんだから、友達と遊ぶことだってできるね。あ、ひょっとして彼氏とかできちゃったりして!」
ほむら「………」
さやか「どう、ほむら。これからのこと、イメージできた?」
ほむら「………」
さやか「……ほむらがどうして喜べないのか、何となく分かったよ」
さやか「あんたさ……ちゃんと、『生きたい』って思ってる?」
ほむら「生き…たい…?」
さやか「そ。魔法少女じゃなくなったからって、ここで人生終わるわけじゃないんだしさ」
さやか「これから沢山、嬉しいことも悲しいことも待ってる。そういうのと向かい合って生きていかなきゃいけない。あたしはそう思ってる」
さやか「だけど、多分ほむらは……そういうのには目を向けてないよね」
ほむら「………」
さやか「ずっと、約束を果たすために頑張ってきたから…… その先のこととか、何も考えられなくなっちゃって」
さやか「みんなを守るためなら、自分はどうなってもいいって思ってた」
さやか「だから急に、自分のことに目を向けろ、なんて言われて…… どうすればいいのか、分からないんでしょ?」
ほむら「………」
ほむら「………そうね。さやかの言う通りだわ。私は、ワルプルギスの夜を倒すことだけを考えてきた」
ほむら「万が一にも倒すことができたなら、この街を出て……人知れず、消えていこうと思っていたわ」
ほむら「或いは…最大の絶望を引き受けることで魔女となるくらいなら。ソウルジェムを破壊して、自ら命を絶つつもりだった」
ほむら「まさか、人間に戻れるなんて思ってもみなかったもの。インキュベーターの奴、とんだ嫌がらせをしてくれたものね」
さやか「ほむら……」
ほむら「ずっと、同じ時間を彷徨ってた。まどかを救いたいという想いだけを道しるべに、手探りで出口を求めてきた」
ほむら「いつの頃からか、時の迷路に縛り付けられるのが当たり前になっていて。実際に出口を見つけた時のことなんて、考える余裕すらなかった」
ほむら「……だから。これからのことなんて」
ほむら「私には……これからの時間なんて……」
さやか「………ああ」
さやか「ああ、そっか。分かったよ」
ほむら「……?」
さやか「ほむら。あんたはそういう顔ばっかりしてるから、何も考えられなくなっちゃったんだね」
ほむら「そういう顔……?」
さやか「そりゃー最初に比べたら明るくなったし、少しは笑ってくれるようになったけど…… それでもやっぱり、足りないんだ」
ほむら「何が、足りないというの……?」
さやか「分からない?簡単なことだと思うんだけどな」
ほむら「だから……!何が言いたいのよ……!」
さやか「だーかーらー、その顔だって!何で分かんないかな!」
ほむら「………さっきから何なのよ!そんな表現で分かるわけがないでしょう!」
さやか「だったら鏡でも持ってきて、よーく見てみなよ!自分が今どんな顔してるのか!」
ほむら「これからの話をしてたのに、どうして顔の話が出てくるの!意味が分からないわよ!」
さやか「あんたが素直じゃないからでしょうが!」
ほむら「また意味の分からないことを!」
さやか「さっきから分からない分からないって、そればっかり!あんた、そんなに馬鹿だったの!」
ほむら「あなたに言われたくないわ、美樹さやか!」
さやか「だったら少しは自分で考えろ、転校生!」
ギャーギャー ワーワー
ほむら「はあ、はあ……」ゼエゼエ
さやか「………ふぅ…」ゼーハー
ほむら「……少しは頭が冷えたかしら、美樹さやか」ゼーゼー
さやか「あんたこそ、顔真っ赤にしながら言い返しておいて説得力ないよ……転校生」ハーハー
さやか「で……どうよ。あたしの言いたかったこと、伝わった?」
ほむら「………」
ほむら「………分からない…わよ……」
ほむら「ようやく約束を果たして、時の迷路から抜け出した。それなのに、心から喜ぶことができない」
ほむら「これからどうしたいかなんて、何一つ分からない…… 挙句に、その顔がダメだなんて言われて」
ほむら「何なのよ、もう。泣きたくなってくるわ……」
さやか「……やっと、分かったみたいだね」
ほむら「は……?」
さやか「泣きたいんだったら、泣けばいいじゃん。誰も我慢しろなんて言ってないよ?」
ほむら「は……何……?」
さやか「なのに、あんたって奴は。人の泣き顔は散々見ておいてさ」
ほむら「何…を……」
さやか「あたしだけ恥ずかしい思いするなんて、不公平だと思わない?そろそろほむらの恥ずかしいところも見てみたいなー」
ほむら「何を、言って……」
さやか「分からないかなー。まあ、そろそろ面倒になってきたし…… 答え、教えちゃおっかな」
さやか「あんた、ずっと泣きそうな顔してたんだよ?」
ほむら「………え?」
さやか「あーあ、やっぱり分かってなかったんだ。ほむらって案外頭悪い?」
ほむら「どういう、ことよ……」
さやか「ほら、その顔。眉間に皺寄せて、くしゃくしゃになりそうなのを必死に抑えてる。どうして我慢するかな?」
ほむら「………別に、何も我慢してなんか……」
さやか「ほむら、あんたさ。自分じゃ気付いてないかもしれないけど、いつもそういう顔してたんだよ」
ほむら「いつも……?」
さやか「そ、いつも。そういえばあたしを殺そうとした時もそんな顔してたっけ」
ほむら「………」
さやか「ってことは、だよ。あの時はあんなこと言ってたけど、本当はあたしを殺したくなんかなかったってことだよね」
さやか「いやー、ほむらがそんな風に思っててくれたなんてね。さやかちゃんってば罪作りだなぁ!」
ほむら「………」
さやか「そんなほむらに特別大サービス!なんと、さやかちゃんの胸を貸してあげちゃいます!」
ほむら「え……」
さやか「世界を救った勇者へのご褒美ってところかな。そんな感じのゲームでも、"ぱふぱふ"ってやつがあったでしょ?ま、あれとは意味が違うけどね」
ほむら「………」
さやか「よくぞ姫を守ってくれた、勇者ほむらよ。さあ、褒美をつかわそうぞ! なーんてね。ほらほら、こんなチャンス滅多にないよー?」
ほむら「………いい、の?」
さやか「この前のお返しだと思ってくれればいいよ。マミさんほど大きくはないけど、抱き心地は保証しますぜ?」
ほむら「いいの……? 私…泣いても……いいの……?」
さやか「さっきも言ったでしょ?あたしはほむらの恥ずかしいところが見たいのだー!」
ほむら「………」
さやか「………泣きなよ、ほむら。思いっきりさ」
ほむら「………っ!」
ほむら「……う…っ…… う……あ……っ!」
ほむら「あ……あっ……!うああああああああっ……!!」ガバッ
さやか「よーしよし。さやかちゃんの胸で存分に泣きなさい」ナデナデ
ほむら「わた、し…私……!やくそく、守れなくて……!ずっとずっと、一人ぼっちで……!」
さやか「うん」
ほむら「まどかが死ぬところ……!さやかが死ぬところ…をっ……!何度も………何度も何度もっ……!見てきて……!」
さやか「うん」
ほむら「やっと……!やっと、ここまで…これてっ……!うれ、し…、うれしい、のにっ……!なん……、なんで…こんなっ……!」
さやか「うんうん、分かってる。ほむらは嬉しいんだよね。涙は嬉しい時にも出るんだよ」
ほむら「さや、か……!さやかぁぁぁぁ……! わたし、やくそく……守れた、よね…? もう……泣いても、いいんだよね?」
さやか「いいよ」
さやか「ほむらはみんなを守るために、ずっと一人で戦ってきたんだもん。今日くらい、思いっきり泣いていいんだよ」
さやか「今までよく頑張ったね、ほむら」
こうして。
まどかを救いたいという願いから始まった私の戦いは、幕を閉じた。
……思えば、随分長いこと戦ってきたと思う。
と言っても、現実の時間で考えるのであれば、戦った期間は僅か一ヵ月に過ぎないのだけれど。
いつの頃からか数えるのをやめたから、正確には分からないけれど……私の精神年齢だけは、周りの子と比べ随分大人びてしまったように思う。
当然、まどかたち以外に私の事情を知る者はいない。だから級友からは、『暁美さんってクールだね』などとよく言われる。
何かの番組でやっていた『見た目は子供、中身は大人』なんてキャッチフレーズが、他人事ではなくなってしまったわね。
そして、時は流れていく。
今まで止まっていた歯車が、ようやく回り出したかのように――――――
タッタッタッ
まどか「さやかちゃん、ほむらちゃん、おはよう!」
ほむら「おはよう、まどか」
さやか「おーっす…まどか……」グダァ
まどか「さ、さやかちゃん、朝からなんて顔を……」
さやか「だーってさぁ……ねえ? 新学期初日の学校って、どうもやる気がね……」グデー
ほむら「夏休みに調子に乗って遊びすぎるから、課題のスパートで体力を使い切るのよ」
さやか「なにをー!そう言うほむらだって、何だかんだであたしに会いに来てたクセに!寝る時だって、普通のベッドに二人って結構狭いんだぞー?」
ほむら「ばっ、馬鹿!それはみんなには内緒って……!」
さやか「あっ……」
まどか「あ、相変わらず仲良しだね、二人とも……」ソソクサ
ほむら「ち、違うの、まどか、誤解よ!人に言えないようなことはしていないわ!」
さやか「ほむら落ち着け、墓穴掘ってるから。 っていうか、もう喋っちゃえばいいじゃん。どうせいつかはバレるだろうしさー」
ほむら「絶対だめ!!」
さやか「そういえばさ、今期から杏子がうちの学校に編入してくるんだっけ?」
ほむら「そのようね。一度は施設に入ることも考えたそうだけど……巴さんの計らいで、ね」
まどか「マミさんちで二人暮しなんだよね。楽しそうだなぁ」
ほむら「やめておきなさい、まどか。杏子と暮らしていたら食費が馬鹿にならないわ」
さやか「言えてる言えてる。しっかし杏子のやつ、何であれだけ食べても太らないんだろうね?」
まどか「魔法で体型維持してるのかと思ってたけど、今でも全然変わらないよね……」
さやか「まったく、世の中は不公平だ!まどかのハグを要求する!」ダキッ
まどか「ちょ、ちょっとさやかちゃん!わけがわからないよ!?」ジタバタ
ギャーギャー ワーワー
ほむら「………」
サササッ
さやか「まだあたしのターンは終了してないぜ!追加攻撃!寂しそうな顔のほむらにダイレクトアタック!!」ガバッ
ほむら「!? や、やめなさい、さやか!」ジタバタ
マミ「おはよう、みんな」
まどか「おはようございます、マミさん!それに杏子ちゃんも!」
杏子「……お、おう」
さやか「あれぇー?杏子ちゃん、元気がないですなあ?」ニヤニヤ
杏子「う、うっせーよ! ………学校なんて、小学校以来だから……キンチョー、してんだよ!」カァァ
ほむら「………」ニヤニヤ
杏子「おまえも密かにニヤついてんじゃねーよ、ほむら!最近さやかに似てきやがって!」
マミ「こら、佐倉さん。通学路で騒いだら周りの迷惑になるわよ?」メッ
杏子「あ…、わ、わりぃ……」シュン
まどか「マミさん、杏子ちゃんのお母さんみたいだね!」ウェヒヒ!
杏子「まどかァーッ!! 余計なこと言うんじゃねぇっ!」カァァ
さやか「照れるなよー、巴杏子ちゃん?」ニヤニヤ
杏子「うるせぇ!!」
まどか「あ。あそこにいるの、仁美ちゃんと上条くんじゃない?」
杏子「お、噂のさやかの初恋相手ってヤツ?」
さやか「杏子、そのことは忘れなさい…… 絞めるわよ」ギロッ
杏子「ひっ!?」ビクッ
ほむら(やだ、なにこの子こわい)
まどか「あ、あはは…… さやかちゃんも、だんだんほむらちゃんに似てきたね?」
ほむら「」ガーン
恭介「待ってくれ、志筑さん!一体何がいけなかったというんだ!」
仁美「上条さんなんて知りません!」プイッ
恭介「この本の何が悪いっていうんだよ!むしろ素晴らしいじゃないか!」
仁美「そんな本、いけませんわ!よりにもよって殿方同士で……えっと、その、えっと……」カァァ
仁美「と、とにかく!わたくしはそのような本に興味はございません!貸して頂かなくて結構ですわ!」ダッ
恭介「そんな!僕のためなら何でもしてくれるって言ったじゃないか!この本の布教に協力してくれよ!」ダッ
<イヤー!!コナイデクダサイマシ!!
<マッテクレヨ!!
<ソコノキミ!!ナニヲシテイルンダネ!?
<エ、イヤ、チガウンデス!!コレハセクハラトカジャナクテデスネ!!
ほむら「うわぁ」
さやか「うわぁ」
まどか「うわぁ」
マミ「うわぁ」
杏子「うわぁ」
ほむら「相変わらずのド変態ね、上条恭介……」
まどか「今じゃ見滝原の変態王なんて呼ばれて、他の学区の生徒からも有名らしいよ……」
さやか「まったく……あたしがあんなのを好きだったなんて思われたくないわ……」ゲンナリ
杏子「さすがのあたしでもあれは引くわ……」ドンビキ
マミ「志筑さん、不憫ね……」ホロリ
さやか「……ま、いっか!あたしにはほむらがいるもんねー!」ダキッ
ほむら「ひゃぅっ!? こ、こら、さやか。不意打ちはやめなさいと何度言わせればっ…!」
さやか「んー!ほむらは相変わらず柔らかくて抱き心地がいいなー!それにいい匂い!」スリスリ
ほむら「やめてってばぁ……」カァァ
杏子「あー、その、なんだ…… あたしたち、邪魔みたいだな?」
まどか「あ、あはは……最近いつもこんな感じだよ」
マミ(………女の子同士もアリね)
さやか「やば、のんびりしすぎた!予鈴が鳴るよ、急ごう!」ダッ
まどか「あ、待ってよさやかちゃん!」ダッ
マミ「ほら、佐倉さんも行くわよ。初日から遅刻は嫌でしょ?」グイッ
杏子「わ、分かったから、さりげなく手を繋ごうとするんじゃねぇ!」ダッ
ほむら「………」
―――きっかけは、ほんの些細なイレギュラー。
今までとは違うその流れに、嫌というほど苦汁をなめさせられた。
………だけど。そのお陰で、こうして"今"がある。
さやか「こら、なーにボサっとしてんのさ!行くよ!」
まどか「ほむらちゃん、遅刻しちゃうよー!」
杏子「とっとと走れ!置いてくぞ!」
マミ「暁美さん、行きましょう?」
ほむら「……ええ。行きましょうか、みんな」ニコッ
これから先のことなんて、誰にもわからない。
未来に何が待ち受けているかなんて、魔法でも使わない限り、知り得ないだろう。
時々先が見えなくて、無性に不安になる事もあるけれど………
そんな時は、昔のように一人で抱え込むのはやめにしようと思う。
今まで一人で生きてきた分、ほんの少しでもいいから、誰かに頼ることから始めてみよう。
幸いな事に、私には素敵な友達がいるのだから。
……ザッ……
『…』
『…………………』
『………き……………』
………ザザッ……
『……気…ね………ちゃ……』
………ザッ…………
『元気でね、おねえちゃん』
おわり
以上です
ほんとは阿部さんの後にギアス能力を持ったQBがワルプルギスを従えて見滝原に出現、
ほむマミあんさやエントロピー!な合体攻撃でQB撃破→ゼロ・レクイエム!な展開だったけどgdgdだったんでカットした
付き合ってくれてありがとうございました!
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