勇者「長かった。けど、ついに勇者として認められた……!魔王の討伐も命じられたし……しっかりしなければ」
勇者「早速、ルイーダに行こう」
勇者(―――俺はずっと憧れていた。可愛い僧侶との二人旅を)
勇者(冒険を通じて芽生える絆、そして、愛……)
勇者「うひょー!!!たまんねー!!」
―――ルイーダの酒場
店員「どうも」
勇者「あの、新しく勇者になったものです。あの、王様にここで仲間を得よと言われたのですが」
店員「ほお……魔王を倒すのですか?」
勇者「はい!」
店員「それはすばらしい。最近、魔王は半ば野放しでしたし、勇者も現れないものとばかり……」
勇者「あの……仲間は?」
店員「ああ、まずは二階に行って登録を済ませてください」
勇者「登録?」
店員「ええ……仲間の登録をしなければ仲間を得ることができませんので」
ルイーダ二階
勇者「あの……仲間の登録に来ました」
店員「お……勇者さんか?」
勇者「はい」
店員「これは久しぶりだなぁ」
勇者「いえ……魔王討伐が自分の務めだと思ってますから」
店員「そうか……登録だったな。どっちにするんだ?」
勇者「どっち?」
店員「男か女かだよ」
勇者「あ、えと……お、女で」
店員「好きだねえ」
勇者「いやぁ……へへへ」
店員「―――じゃあ、この子にするか」
勇者「な!?!なんですか!?そのカプセルは!?!?」
店員「この中に勇者様の仲間になる子が入ってるんだよ」
勇者「は?」
店員「見る?」
勇者「え、ええ」
プシュ……
勇者「は、裸!?!?」
店員「まだ職業が決まってないからね」
勇者「は、はやく閉めてください!!!」
店員「なんだ。案外、初心だね」
勇者「はぁ……びっくりしたぁ」
店員「さて、職業はどうする?」
勇者「え……そ、僧侶で」
店員「僧侶ね……(ピ……ピ……」
店員「よし。次だ。この種を使って、カスタマイズしてくれ」
勇者「カスタマイズ?」
店員「勇者様だけの僧侶を作るんだ」
勇者「ちょっと待ってください!!作るってなんですか!?」
店員「なんだ勇者なのに歴史も知らないのか?」
勇者「歴史?」
店員「一昔前、多くの勇者が輩出されたのは知っているだろう?」
勇者「ええ」
店員「そのとき、殆どの勇者は仲間を欲した。だが、勇者が多すぎたために、一人旅を強いられる勇者が続出した」
勇者「それで無残な死を遂げた勇者も少なくないとは聞きました」
店員「それを看過できないと王様はこういうシステムを作ったのさ」
勇者「それが……このカプセル?」
店員「所謂、人造人間だ。作る仲間が現れたことによって、一人で旅立つ勇者はいなくなったんだ」
勇者「なるほど……」
店員「さ、昔話は終わりだ。さっさと使う種を決めてくれ」
勇者「わ、わかりました……」
店員「……」
勇者「じゃあ、えっと、かしこさの種を……」
店員「―――やさしい人になりそうだな」
勇者「そうなんですか?」
店員「ああ。じゃあ、仲間にするときは一階にいってくれ。こっちからこの子は送るから」
勇者「分かりました」
店員「あれ?一人でいいのかい?普通は三人ぐらい登録するんだが」
勇者「はい!」
店員「そうか……あ、そうそう」
勇者「なんですか?」
店員「この子は赤子と同じだからね」
勇者「え?」
店員「勇者様がしっかり育ててあげるんだ」
勇者「わ、わかりました」
店員「頼むよ」
勇者「はい」
ルイーダ一階
店員「―――僧侶さーん、勇者さんがお呼びですよー」
勇者「……あ」
僧侶「―――はじめまして、勇者様。私、僧侶です」
勇者「あ、ああ。よろしく」
僧侶「はい」
店員「じゃ、がんばってね」
勇者「あ、じゃあ、行こうか」
僧侶「はい、勇者様」
勇者「えと……まずは買い物をしていこうか」
僧侶「はい」
勇者「おーし、冒険の始まりだー!」
僧侶「おー♪」
街の外
勇者「薬草も買ったし、これで大丈夫だな」
僧侶「はい、そうですね」
勇者「さてと。ここからは魔物に注意していかないといけない」
僧侶「はい」
勇者「二人だから、俺が基本的に前衛で戦う。君は俺の後ろにいればいいよ」
僧侶「後ろですね。わかりました」
勇者「じゃあ、出発しようか」
僧侶「はい」
ザッザッザッザ……
勇者「―――あの」
僧侶「はい?」
勇者「なんで、俺の後ろを歩くの?普通は隣を歩かない?」
僧侶「でも、今、後ろにいろと勇者様が……」
勇者「え……いや、それは戦闘のときだけでいいから」
僧侶「そうなんですか?」
勇者「うん。だって歩いてるときに後ろにいられると、なんか怖いし」
僧侶「すいません……」
勇者「あ、いや……俺も言い方が悪かった、ごめん」
僧侶「あ、そんな勇者様が謝ることではありません」
勇者「とりあえず、魔物に出逢うまでは隣にいてほしい」
僧侶「分かりました。戦闘以外では隣にいますね」
勇者「そうしてくれると嬉しい」
僧侶「勇者様が嬉しいと私も嬉しいです」
勇者「あ、うん……そうか」
僧侶「はい♪」
勇者(この子……すごい純粋だ……)
勇者(赤子って話は本当なのか……?)
スライム「キュピーー!!!」
勇者「出たな!!」
僧侶「後ろにいますね!」
勇者「ああ!!」
スライム「キュピピー!!」
勇者「であ!!」
スライム「キュピー!!」
勇者「なんの!!!」
スライム「キュピー!!!」
僧侶「……(ニコニコ」
勇者「ぐわ!?」
スライム「キュピー!!!プルプルー!!!」
勇者「ぐはぁ!!!」
僧侶「……(ニコニコ」
勇者「ちょ!僧侶!!俺、やばいんだけど!?!」
僧侶「え?」
勇者「え?じゃなくて、なんか回復してほしい!!」
僧侶「わかりました!ホイミ!!」
勇者「よし!!―――おりゃぁ!!」
スライム「きゅぅぅぅ……」
勇者「勝ったぜ!!」
僧侶「やりましたね!」
勇者「……あのさ」
僧侶「なんですか?」
勇者「いや、普通あれだけ傷つけられたらすぐに回復してくれるものじゃないか?」
僧侶「そうなんですか?」
勇者「そうだよ」
僧侶「……すいません」
勇者「あ、いや……」
勇者(もしかして、指示を出さないと動けないのか、この子……?)
街
勇者「ふぅ……夜になる前に辿り着けたな」
僧侶「そうですね」
勇者「なにはともあれ、宿屋だ」
僧侶「そうなんですか?」
勇者「寝ないと辛いだろ?」
僧侶「勇者様がそういうのなら、宿屋に行きましょう」
勇者「う、うん……」
―――宿屋
店主「一泊10Gね」
勇者「じゃあ、これで」
僧侶「……(キョロキョロ」
勇者「どうかしたのか?」
僧侶「あ、えと、初めてなので……すいません」
勇者「そっか……じゃあ、部屋にいこう」
勇者「ふぅ……やっと、落ち着ける……」
僧侶「そうですね」
勇者「……あの」
僧侶「なんですか?」
勇者「いや、僧侶のベッドは向こうだ。ここは俺のベッド」
僧侶「しかし、戦闘以外では隣にいてほしいと勇者様が……」
勇者「え……」
僧侶「……違いましたか?」
勇者(やっぱり……この子は命令されないとダメなのか……)
僧侶「あの……」
勇者「……ちょっといいかな?」
僧侶「なんですか?」
勇者「君は……俺の言うことなら何でも聞くのか?」
僧侶「はい。私は勇者様の僧侶です。なんでも言ってください」
勇者「……」
僧侶「どうか、しましたか?」
勇者(―――は!?ダメだ!!ダメ!!!俺は勇者だぞ!!そしてこの子はただ純粋なだけだ!!)
僧侶「勇者様?」
勇者「……あ、そーだ。ご飯にしよう」
僧侶「はい」
勇者「じゃ、じゃあ、酒場にでも行こうか」
僧侶「わかりました」
勇者(これからは逐一命令しなきゃいけないのか……むー)
僧侶「ご飯、楽しみですね、勇者様♪」
勇者「そうだな……」
僧侶「ふんふーん」
勇者「嬉しそうだな」
僧侶「勇者様とならどこでも楽しいです」
勇者「そ、そうか」
―――酒場
店員「ご注文は?」
勇者「えっと、これとこれと……僧侶は?」
僧侶「え……?」
勇者「何が食べたい?」
僧侶「あの……勇者様が決めてください……」
勇者「そ、そうか……じゃあ、これとこれ」
店員「畏まりました」
勇者「……自分で決められないのか?」
僧侶「いえ……私は勇者様に選んでほしかったんです」
勇者「そうなのか」
僧侶「はい」
勇者(それはなんか違う気がするけど……)
僧侶「楽しみですね、勇者様♪」
勇者「そうだな」
店員「お待たせしました」
勇者「おー♪きたきたー」
僧侶「わぁ……すごいですね」
勇者「おし。んじゃ、いただきまーす!」
僧侶「……(ニコニコ」
勇者「うんうん!うまい!!」
僧侶「へえ。そうなんですか?」
勇者「……あれ?早く食べないと冷めるぞ?」
僧侶「え……?これ、食べてもいいんですか?」
勇者「それは僧侶の分だ」
僧侶「あ……そうなんですか」
勇者「いやいや、目の前にあるんだから―――」
勇者(そうか。俺、この子に食べろって指示を出してなかったな……)
勇者「食べていいぞ」
僧侶「わぁい♪ありがとうございます、勇者様♪―――いただきまぁす♪」
僧侶「はむはむ……」
勇者「そっちのお皿とそっちのお皿は僧侶のだから、食べても良いぞ?」
僧侶「はぁい♪」
勇者(はぁ……これは先が思いやられるぞ……)
僧侶「はむはむ……んぐ!?」
勇者「あ!?大丈夫か!?」
僧侶「んんんん!!??」
勇者「水を飲め、水を!!」
僧侶「……(コク」
僧侶「ゴクゴクゴク……ぷはぁ」
勇者「急いで食べるな」
僧侶「はい」
勇者「はぁ……」
僧侶「もぐ……もぐ……」
勇者「良く噛んでるな。いいことだ」
―――宿屋
勇者「じゃあ、寝ようか。僧侶は向こうのベッドで寝るんだぞ?」
僧侶「分かりました」
僧侶「……勇者様!」
勇者「ん?」
僧侶「おやすみなさい」
勇者「ああ、おやすみ」
僧侶「……」
勇者「……僧侶?」
僧侶「なんですか?」
勇者「……いや、なんでもない」
僧侶「はい」
勇者(なんでも言うことを聞く半面……命令がないと動けない僧侶……)
勇者(旅を続けられるのか……?)
街道
勇者「よし。いくぞ!」
僧侶「おー♪」
勇者「あ、そういえば、僧侶が今使える呪文はやっぱりホイミだけ?」
僧侶「えっと、ニフラムとラリホーは使えますよ?」
勇者「へぇ」
僧侶「それがどうかしました?」
勇者「いや……」
勇者(ラリホーは使えるな……)
僧侶「あ!勇者様!」
勇者「む!」
バブルスライム「ギャピーー!!」
勇者「よし!戦闘だ!!」
僧侶「はい!後ろにいます!!」
勇者「―――でぁ!!」
バブルスライム「ギュピ!?」
勇者「―――隙ができた!!」
僧侶「……(ニコニコ」
勇者「僧侶!ラリホーだ!!」
僧侶「わかりました!ラリホー!」
バブルスライム「……ぐー」
勇者「よし……でい!!」
僧侶「―――やりましたね!」
勇者「ああ。僧侶のおかげだ」
僧侶「そんな……勇者様が戦ってくれたからですよ」
勇者「僧侶のラリホーが効いたからだよ」
僧侶「いえいえ、勇者様のおかげです」
勇者「違うってば」
僧侶「勇者様ですって」
夜
勇者「野宿か……ま、こんなときもあるよな」
僧侶「……(ウトウト」
勇者「僧侶?休んでもいいぞ?」
僧侶「いえ……外では……隣に居てほしいと……ゆう、しゃ、さま……が……くー……」
勇者「おいおい」
勇者「……これで暖かいはずだ」
僧侶「ゆうしゃさ、ま……おそばに……すー……」
勇者「……僧侶?俺とキスするか?」
僧侶「……はぁい……どうぞ……」
勇者「ふふ……冗談だ」
僧侶「……すー……すー……」
勇者「ま、なんとかなるか……」
勇者「この子も学んでいけばいいだけだしな」
翌朝
勇者「僧侶、起きろ」
僧侶「あ、おはようございます」
勇者「涎、拭け」
僧侶「……はい。拭きました」
勇者「よし。僧侶、これから戦闘での基本的な戦術を作ろうと思う」
僧侶「基本的な戦術?」
勇者「そうだ。とりあえず戦闘になったら守ってほしい約束事を決めようと思ってな」
僧侶「はい」
勇者「とりあえず、歩きながら話すから」
僧侶「じゃあ、出発の準備をしますね」
勇者「うん」
僧侶「えっと……これはここで……」
勇者(この子……一度言われたことは忠実に守るんだよなぁ)
街道
勇者「どちらかが傷つき、危なくなったら?」
僧侶「回復します!」
勇者「俺の背中が魔物に狙われたら?」
僧侶「私が打撃、或いは呪文で援護します!」
勇者「俺が逃げろって言ったら?」
僧侶「全力で逃げます!」
勇者「―――よし。ま、こんなとこだな」
僧侶「はい!」
勇者「でも、俺が君を守るから……君が傷つくことなんてないけどな」
僧侶「そうなんですか?」
勇者「おう」
僧侶「そうですか」
勇者「嬉しいか?」
僧侶「はい!嬉しいです♪」
村
村人「旅の方か……この村は魔物に支配されておる……早くいきなされ」
勇者「魔物に……それは見過ごすわけにはいきません」
村人「しかし……」
勇者「俺は勇者です。任せてください」
村人「勇者、さま……!?」
勇者「で、その魔物というのは?」
村人「ここから北にある洞窟にいます」
勇者「そうですか……わかりました」
村人「僧侶様……お願いです、この子の傷を治してください!」
子ども「いたいよぉ……」
僧侶「……」
村人「僧侶様!!お願いします!!」
勇者「僧侶!?何をしているんだ!?」
僧侶「え?どうかしましたか?」
勇者「早く、子供の手当てをしてあげろ」
僧侶「分かりました。ホイミ!」
村人「あ、ありがとうございます……」
僧侶「……」
勇者「おい」
僧侶「はい」
勇者「助けを求めてる人がいるなら、助けてあげろ。いいな?」
僧侶「はい。わかりました」
勇者「はぁ……すいませんでした。もう大丈夫ですか?」
村人「え、ええ」
子ども「あ、ありがとう、お姉ちゃん……」
僧侶「……」
勇者「おい……礼を言われたんだぞ?……どういたしましてぐらい言っとけ」
僧侶「はい。―――どういたしまして♪」
勇者(やっぱり……少し面倒だな……これ)
洞窟
勇者「ここに村を支配している魔物がいるらしい」
僧侶「そうなんですか?」
勇者「話を聞いてなかったのか?」
僧侶「すいません……」
勇者「人の話はちゃんと聞くこと。俺の言葉ばかりに耳を傾けてもダメだ」
僧侶「わかりました」
勇者「あ、でも。俺以外の人について行ったらダメだからな?」
僧侶「はい。勇者様以外の人にはついていきません!」
勇者「よし。んじゃ、奥に進もう」
僧侶「はい」
勇者「―――ん?」
僧侶「どうかしましたか?」
勇者「奥から声が……」
僧侶「……」
ボストロール「がははははは……(ガリガリ」
村娘「ひぃぃ……弟がぁ……」
ボストロール「ふひひひ……次はお前だ……」
村娘「あぁ……おかあさん……おとうさん……産んでくれて……ありがとう……」
ボストロール「いただきまーす!!」
勇者「まて!!」
ボストロール「ん?」
勇者「その人を返してもらおう!」
ボストロール「面白い……勇者か……!!」
勇者「僧侶、支援頼むぞ!」
僧侶「はい!後ろにいます!!」
ボストロール「ぐははははは!!来るがいい!虫けらども!!」
勇者「はぁぁぁ!!!」
ボストロール「―――ぐふぅ!?」
勇者「はぁ……はぁ……」
僧侶「ホイミ!!」
勇者「ありがとう……」
ボストロール「くそぉ……まさか……勇者が現れるとは……魔王様に報告せねば……」
勇者「―――逃げたか」
村娘「あぁ……」
勇者「大丈夫ですか?」
村娘「は、い……でも、私の家族はみんな奴に……」
勇者「すいません。もう少し早く来ていれば……」
村娘「いえ……でも、弟を……連れて帰りたかった……」
僧侶「どうぞ」
村娘「ひぃぃぃいいい!!!?!!?!?」
勇者「僧侶!?なにを持ってきてるんだ?!!」
僧侶「これ、弟さんの腕だと思います。これだけでも連れて帰ってあげればいいかと」
村娘「――――」
勇者「大丈夫ですか!?!」
僧侶「どうかしましたか?」
勇者「僧侶!!」
僧侶「はい?」
勇者「この人の気持ちも考えろ!!」
僧侶「え……?」
勇者「目の前で殺されたんだぞ!?」
僧侶「それは……はい」
勇者「腕だけになった家族を見たいと思うか!?」
僧侶「でも、私はこの人が連れて帰りたかったというのを聞きました。それで、その……助けになってあげたいと」
勇者「僧侶……それは違う」
僧侶「違う?でも、勇者様がそう仰って……」
勇者「もういい。とにかく、連れ帰ろう」
僧侶「はい」
村人「おぉ……大丈夫なのですか?」
勇者「ええ。気絶しているだけです。でも……」
村人「いえ。この娘を助けることなどもう諦めていました……既に何人も奴に食われていましたから……」
勇者「力及ばず、申し訳ありません」
村人「そんな、勇者様。顔をあげてください!!頭を下げるのは私たちのほうです!!」
勇者「しかし……」
村人「今日はゆっくり休んでください。できるだけの持成しをさせていただきます」
勇者「ありがとうございます」
僧侶「楽しみですね♪」
勇者「……なにがだ?」
僧侶「食事です♪」
勇者「……」
僧侶「勇者様?どうしたんですか?」
―――宿屋
勇者「君は……俺が死ねと言ったら死ぬんだろ?」
僧侶「え……?」
勇者「どうなんだ?」
僧侶「死ぬのは嫌ですけど……勇者様が私に死んでほしいのなら死にます」
勇者「……そうか」
僧侶「では、その剣を貸してください」
勇者「嘘にきまってるだろ」
僧侶「あ、そうなんですか?よかったです」
勇者「はぁ……」
僧侶「今日はこっちのベッドが私ですか?」
勇者「少し考えれば分かるだろ」
僧侶「でも、勇者様がこっちのベッドが良いと思っているかもしれませんし。自分で判断は……」
勇者「……自分で考えてくれ……頼む……」
僧侶「勇者、様?」
―――魔王城
魔王「なに?勇者?」
ボストロール「はい……数年間、姿を見せなかった勇者でございます」
魔王「人間どもめ……勇者の育成は諦めていたのではなかったのか……」
ボストロール「どうされましょう?」
魔王「うむ……」
ドラゴン「魔王様……ここは私めが」
魔王「ドラゴンか……ふふ……よかろう……勇者を丸焼きにしてこい」
ドラゴン「はは……」
魔王「勇者などこの世にいらん……ふふふ」
魔王「世界は我の物だ……!!」
魔王「あーっはっはっはっは!!!」
数日後 洞窟
勇者「……ここを抜ければ……魔王の城に大きく近付くことができるはずだ」
僧侶「はい」
勇者「……」
僧侶「勇者様?」
勇者(この子に多くを求めない方がいい。割り切れ……俺)
僧侶「勇者様、どうかされましたか?」
勇者「いや、大丈夫だ。先を急ごう」
僧侶「はい」
勇者「足元に注意しろよ?」
僧侶「わかりました!」
勇者(って言ったら、足元しか見ないんだよなぁ……)
僧侶「むむ……あ、ゴキブリ」
勇者「―――む?」
僧侶「どうかしました?」
ドラゴン「ようこそ、竜の巣穴へ」
勇者「ドラゴン……!?」
僧侶「後ろにいます!!」
勇者「あ、ああ」
ドラゴン「ふふふ……少しは強くなりましたか?私はボストロールのように甘くはありませんよ?」
勇者「そのようだな……でも、ここは通してもらうぞ」
ドラゴン「いいでしょう……通れるものな通ってみよ!!」
勇者「僧侶!!」
僧侶「はい!バギマ!!」
ドラゴン「くはははは!!!そんな呪文では私の皮膚に傷をつけることは不可能ですよ!?」
勇者「でぁ!!!―――な、に?!」
ドラゴン「ドラゴンの肌を貫くには……レベルが足りないようですね」
勇者「くそ!!」
ドラゴン「くらいなさい!!―――しゃくねつを!!!」
勇者「ぐあぁあぁぁぁああああああ!!!!!!」
僧侶「べホイミ!!」
勇者「―――く、そぉ」
ドラゴン「ふふふ……さあ、どうしますか?」
勇者(今のままじゃ、勝てない……逃げるしかないか……)
勇者「僧侶!!退却だ!!」
僧侶「分かりました!」
ドラゴン「逃がすとでも?―――では、このはげしいほのおから逃げてみなさい!!!」
勇者「は!?」
ドラゴン「あははははは!!!ほらほら、早く逃げないと背中が消し炭になりますよぉ?」
勇者「くそぉぉ!!!」
僧侶「―――勇者様!!」
勇者「え?」
ドラゴン「む!?盾になる気ですか!?」
勇者「な、にして!?」
僧侶「勇者様の背中を守る。勇者様がそう仰いましたから―――きゃぁぁああああああああああ!!!!!!」
勇者「僧侶!?」
ドラゴン「ふん……」
勇者「僧侶!?僧侶!?」
僧侶「……あ……ゆ、しゃ……」
勇者「とにかく、逃げるぞ!?」
僧侶「は、い……」
ドラゴン「逃げられるものなら、逃げてみなさい!!!」
勇者「はぁ……はぁ……!!」
僧侶「……」
勇者「……はぁ……はぁ……!!!」
ドラゴン「あっはっはっはっは!!!ほらほら、もうすぐ追いつきますよ?」
僧侶「ゆうしゃ……さま……」
勇者「……なんだ……!?」
僧侶「わ、たしが……せなか……を……おろして、ください……」
勇者「―――バカ言うな!!!」
僧侶「で、も……ゆうしゃ、さまが……まもれって……」
勇者「……」
ドラゴン「ようやく諦めましたか?」
勇者「少しは自分で考えろ……」
僧侶「え……?」
勇者「これは命令だ!!そうやって俺の命令ばかり聞いていれば本当にいいのか自分で考えろ!!!」
僧侶「あ……?」
ドラゴン「さて、覚悟はよろしいですか?」
勇者「僧侶……逃げろ」
僧侶「え……」
勇者「逃げろって言ったときは?」
僧侶「全力で逃げます」
勇者「……逃げろ」
僧侶「わかりました」
ドラゴン「ふふ。仲間想いの勇者様ですねえ……感動してしまうほど、バカバカしい……くくく」
洞窟 外
僧侶「……ホイミ」
僧侶「傷は癒えました……」
僧侶「……そういえば……逃げたあとのことをきいてませんでした」
僧侶「……どこに行けば……」
僧侶「……勇者様……」
僧侶「どうしたらいいんですか……?」
僧侶「勇者様……」
―――洞窟内
ドラゴン「ふふふ、他愛もない」
勇者「―――」
ドラゴン「さて……どうするか……」
ボストロール「おい。生け捕りにしたのか?」
ドラゴン「ええ。そうですが?」
ボストロール「魔王様が連れてくるようにと言っている」
―――魔王城
勇者「―――なんのつもりだ?」
魔王「なんだ?治療までしてやったのに、そんな態度をとるのか?」
勇者「何の用だと言っている」
魔王「まあ、死に急ぐな、勇者。我は勇者が嫌いでな。そう反抗的な目をされると殺したくなる」
勇者「殺せばいいだろ」
魔王「くく、いや、初めはそう思っていたのだが……少し良い考えが浮かんでな」
勇者「良い考え……?」
魔王「長年、勇者は育っていないと思っていた。だが、人間は諦めずにこうして勇者を生み出した」
勇者「それがどうした?」
魔王「―――いつか我は人間に倒されてしまうだろう」
勇者「なに?」
魔王「そこまで勇者に執着し、勇者を育てる人間の底力……我は恐怖している」
勇者「何が言いたい?」
魔王「―――率直に言う。我の配下に勇者が欲しいのだよ。人間の想いが結集した勇者という力がね」
勇者「貴様……!?」
魔王「お前に拒否権などない。が、一方的な願いでもあるのは認める。そこで、お前の望みを一つだけ叶えてやろう」
勇者「なんだと……?」
魔王「我の配下になるのだ。それぐらいのことはしてやろう」
勇者「俺を解放しろ」
魔王「そうきたか。くくく……その願いは却下だ。残念だったな」
勇者「―――なら、ここに僧侶を呼べ」
魔王「ドラゴン、ボストロール」
ドラゴン「はい」
ボストロール「ここに」
魔王「勇者に連れ立っていたあの女をここに」
ドラゴン「はは!」
ボストロール「仰せのままに」
魔王「それだけでいいのか?」
勇者「いや。もうひとつだけある」
魔王「―――強欲な奴め」
勇者「……」
魔王「だが、まあいいだろう。その願い、叶えてやる」
勇者「……分かった」
魔王「これで……我に敵はいなくなった……くくく……」
―――洞窟 外
僧侶「……(ぼー」
ドラゴン「お前」
僧侶「あ……」
ドラゴン「あれからずっとここにいたのですか?」
僧侶「はい」
ドラゴン「それはそれは……忠犬のようですね」
ボストロール「早く連れて行こうぜ」
ドラゴン「そうですね……では、ちょっと失礼しますよ?」
僧侶「え……?」
ドラゴン「―――連れてまいりました」
僧侶「ここは……?」
魔王「来たか……」
僧侶「貴方は?」
魔王「我が魔王だ」
僧侶「そうですか」
ボストロール「貴様!魔王様にひれ伏せ!!」
僧侶「え?」
魔王「よい。勇者の話では、思考することも恐怖を感じることもないという」
ドラゴン「ほぉ」
僧侶「……」
魔王「そこで……我が一つ、手を貸してやろう」
僧侶「はい?」
魔王「勇者の頼みだ……くくく……」
僧侶「……勇者様の?」
牢獄
勇者(―――意識が……溶けていく……)
勇者(きっと、もう……俺は俺でなくなる……)
勇者(魔王め……くそ……)
勇者(俺の頼みは聞いてくれたんだろうか……それだけが……)
僧侶「勇者様?」
勇者「あ……ぁ……」
僧侶「勇者様……なんてお姿……」
勇者「そ、うりょ……?」
僧侶「はい。……勇者様、今、助け出して差し上げます!」
勇者「あ……ぁ……!」
勇者(いま……じぶんの……考えを……いったよな……?)
僧侶「勇者様、ここの鍵を探してきます!」
勇者「あぁ……ぁ……!!」
僧侶「待っていてください!!」
魔王「―――普通の人間にしてやってくれ、だと」
ドラゴン「あの女は普通の人間ではなかったのですか?」
魔王「うむ。どうやら、人間が作った人間のようだ」
ボストロール「それって、どういうことです?」
魔王「勇者のために作られた人形だ。手足となるな」
ドラゴン「なるほど。以前、ここに攻め入ってきた幾多の勇者たちが従えていた者たちも……あの女と同じだと?」
魔王「そういうことだ。そのため勇者の言葉は絶対だと刷り込まれているようだな」
ドラゴン「人間も中々怖いことをしますね」
魔王「それだけ我の存在が目障りなのだろう」
ボストロール「でも、魔王様ならそんな者たちなど一掃できましょう」
魔王「ふむ……」
僧侶「ここにも、ない……」
僧侶「どこに……?」
動く石像「貴様、なにをしている?」
僧侶「は!?」
動く石像「魔王様……この人間が妙なことをしていました」
魔王「なに?」
僧侶「は、はなして!!」
魔王「早速勇者を救おうとしたのか?くくく……分かりやすくて良いな」
僧侶「勇者様を助ける。鍵はどこですか!!」
魔王「勇者は我の僕となったのだ。貴様に返すわけなかろう」
僧侶「な……!?」
魔王「……ふん。殺せ」
動く石像「はは」
僧侶「そ、そんな!?」
魔王「―――まて」
動く石像「はい?」
魔王「勇者を呼べ」
ドラゴン「しかし、まだ完璧に魔族には……」
魔王「奴も抵抗しているのだろう?……故に抵抗させぬようにしてやればいい」
勇者「……ぁ……あ……」
僧侶「は、はなして……!!」
魔王「勇者よ……そのおぼろげな眼でよく見ておけ」
僧侶「ゆ、しゃ、さま……」
魔王「この女が朽ちるところをな!」
勇者「や、め……」
魔王「やれ」
ドラゴン「はい……」
僧侶「勇者様……!」
勇者「や、めろぉ……!」
僧侶「たす、けて……!!」
勇者「や、めて、くれぇ……!!」
魔王「ドラゴン」
ドラゴン「―――燃えろ」
僧侶「――――あぁああああああああぁああ!!!!!!!!!」
僧侶「」
勇者「あぁ……ぁ……」
魔王「ふん……」
ボストロール「こいつ、食ってもいいんですか?」
魔王「よいぞ」
ドラゴン「くく……では私は頭を」
ボストロール「じゃあ、足から貰うか……」
勇者「あぁ……あぁ……!!?」
魔王「あーっはっはっはっは!!!人間をやめろ、勇者。こんな悲しみなど忘れたいだろう!?」
勇者「あぁ……ああああ!!!!」
魔王「くっくっくっくっく………!」
勇者「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
僧侶「―――は?!」
僧侶「……ここは?」
僧侶「確か……動く石像さんに捕まって……そのあと……ドラゴンさんが……」
僧侶「よくわからない……勇者様……」
僧侶「……(ぼー」
ドラゴン「起きましたか?」
僧侶「あ……」
ドラゴン「さてと……貴方のことを色々と聞かせてもらいましょう」
僧侶「え?」
ドラゴン「―――貴方はやはり普通じゃなかったのですね……匿って正解でした」
僧侶「はい?」
ドラゴン「人間が作り上げたというその技術について、知っていることを話してもらいましょう」
僧侶「え?え?」
ドラゴン「話してもらいますよ……魔王を倒すためにね」
僧侶「はい?」
ドラゴン「知らない!?」
僧侶「私は勇者様の僧侶であるだけで、そんな技術とか言われても」
ドラゴン「……だー!!バカなぁ……!!!」
僧侶「そもそもどうして魔王を倒そうと?」
ドラゴン「私が王になりたいからに決まっているでしょう?」
僧侶「王?」
ドラゴン「竜王ですよ。竜王!!」
僧侶「へえ」
ドラゴン「人間の技術があれば……絶対に魔王なんて倒せると思ったのに……」
僧侶「すいません、期待はずれで」
ドラゴン「全くです」
僧侶「でも、勇者様ならなにか知っているかもしれませんよ?」
ドラゴン「勇者……しかし……魔王様が……」
僧侶「どうせ謀反するなら、早い方が良いと思いますけど?」
ドラゴン「……むむむ……!!」
勇者「……」
ボストロール「もうすぐ魔物化しますね」
魔王「折角、あの女に思考能力を与えてやっても、助けを乞うたところしか見れないとは……悲しいな」
ボストロール「全くです」
魔王「勇者よ、抵抗するだけ苦しいのだぞ?」
勇者「だ……まれ……」
魔王「まあよい。ゆっくりと同胞になるがよい」
ボストロール「では、魔王様。ここは自分が見ておきますので」
魔王「うむ。何か変化があれば知らせろ」
ボストロール「御意」
魔王「あーっはっはっはっは!!!」
ボストロール「―――け!勇者よぉ、さっさと楽になれよぉ!おらぁ!!!」
勇者「ぐふ……!!」
ボストロール「がはははははは!!!」
ドラゴン「―――しめた、奴だけです」
僧侶「倒せるんですか?」
ドラゴン「まあ、任せてください」
ボストロール「ん?」
ドラゴン「見張り、交代しましょうか?」
ボストロール「お?いいのか?」
ドラゴン「構いません……それにそれ以上、勇者に傷がつくと魔王様がお怒りになります」
ボストロール「あ、いや、これは……」
ドラゴン「サンドバックにするのはおやめなさい」
ボストロール「分かってるよ……うっせえなぁ」
ドラゴン「では、交代します」
ボストロール「何かあったら魔王様に知らせるんだぞ?」
ドラゴン「分かっていますよ」
ボストロール「あー、じゃあ、寝るかなぁ」
僧侶「―――やりましたね」
ドラゴン「とりあえず、勇者を解放しましょうか。魔物化も進行していますし」
勇者「……あ……ぃ……」
僧侶「勇者様!お気を確かに!!」
ドラゴン「貴女、何か持ってませんか?」
僧侶「何かって?」
ドラゴン「聖水とか、えっと、浄化させる呪文とか」
僧侶「分かりました!―――ニフラム!!」
ドラゴン「おぉ!それなら勇者の中にある邪気を消せる……!」
勇者「―――あ……え……?」
僧侶「勇者様!大丈夫ですか!?」
勇者「あだだだだ!!!!抱きつかないでくれ!!?傷が!!?」
僧侶「あ、すいません……つい、嬉しくて……」
勇者「……お前……生きてたのか……?」
僧侶「はい!」
勇者「自分で考えて……ここまできたのか?」
僧侶「はい!……あ、いえ、ドラゴンさんにかなり助けてもらいましたけど、あはは」
勇者「よかった……ほん、とに……よかった……」
僧侶「勇者様……そんな、泣くほど痛かったですか?ごめんなさい……」
勇者「ちが、う……これは……うぅ……」
ドラゴン「さて、感動の再会もその変にしてもらってと」
勇者「お、おまえ!?」
ドラゴン「今頃気がついたのですか?鈍感ですねえ」
勇者「僧侶にしたこと、忘れたとは言わせないぞ!!」
ドラゴン「あのときは確かに悪かったです。謝ります」
僧侶「勇者様、このドラゴンさんはそんなに悪い竜じゃないですから」
勇者「でも……!」
ドラゴン「水に流してくれとはいいません。ただ、こうして二人を再会させてあげたことに対しての見返りぐらいは欲しいですね」
勇者「なに?」
ドラゴン「こっちだって完全に魔王様を敵に回す行動を取ってるんですから」
勇者「―――何が望みだ?」
ドラゴン「この女を作りだす技術をください。魔王を倒すために」
ドラゴン「知らない!?!」
勇者「その技術はルイーダというところのモノだ。俺の知るところじゃない」
ドラゴン「だぁぁぁ!!!!!くそぉぉぉ!!!ここまでしたのにぃぃ!!」
勇者「しかし、魔王を倒して竜王になりたいのか……すごい野心家だな」
僧侶「ですねえ」
ドラゴン「ほっといてください」
勇者「じゃあ、とりあえず俺の故郷に行ってみないか?」
ドラゴン「え……?」
僧侶「でも、そんな技術を簡単に教えてはくれないんじゃ……」
勇者「―――俺も少し興味があるし、聞きたいことだってある」
ドラゴン「……では、ここから脱出をするのですね?」
勇者「できるよな?」
ドラゴン「まあ、できますが……100%の保障はないですからね?」
勇者「ああ、頼む」
僧侶「じゃあ、背中に乗せてもらいましょう♪」
魔王「……」
ボストロール「魔王様!!!大変です!!!」
魔王「……分かっている。ドラゴンが勇者と僧侶を連れて逃げたな」
ボストロール「だったら、すぐに追いかけましょう!!」
魔王「よい。偽物の僧侶を我の前に差し出してきたときから泳がせてみたかったのだ……あんな単純な呪文を同胞にかけよって……」
ボストロール「―――呪文?」
魔王「モシャスだ……お前、何も感じなかったのか?」
ボストロール「なんですって!?!?じゃあ、あれは……!!!」
魔王「ふん……ドラゴンめ……この代償は高くつくぞ……!!」
ボストロール「どうされますか?」
魔王「奴の逃げた先を割り出せ。そこへ全軍を突撃させる」
ボストロール「それは……!?!」
魔王「我を裏切った報い……たっぷりと身に刻んでくれよう!!」
ボストロール「―――皆の者!!!集まれ!!!」
魔王「ことのついでだ。人間どもも皆殺しにしてくれる!!!」
―――勇者の故郷 ルイーダ
店員「なに?!この技術を教えてくれだと?!」
勇者「そうです」
僧侶「お願いします」
ドラゴン「教えてください」
店員「だが……」
ドラゴン「丸焦げになりたいかぁ」
僧侶「ダメですよ」
店員「……なぜ、知りたいんだ?」
勇者「―――では、教えてください。どうしてこんな便利なものがあるというのに、魔王を倒せないのですか?」
店員「……!?」
勇者「こんな装置、技術があるのなら……戦士でも武道家でも大量生産して魔王討伐に向かわせればいい話だ」
店員「それは……」
勇者「……最初は疑問にも思わなかったが、これはそういった使い道もできるはず。なのにしないのは、なにか問題があるんですか?」
店員「……この子たちは勇者の命令しか聞かない……だが勇者はそう簡単には生まれない……知ってるだろ?」
僧侶「でも、勇者って王様に認められた人がそう呼ばれるだけですよね?」
勇者「厳しい試験と試練があるけどな」
店員「……」
ドラゴン「なんだ。勇者も大量生産できるじゃないですか」
勇者「それに勇者が一人いれば、全員に指示を出すことだってできる」
店員「……それは……そうだけど……」
僧侶「今こそ大量生産しましょう!!」
勇者「ああ、それがいい」
ドラゴン「そうですね」
店員「―――あんたら、何も分かってない……!!」
勇者「え?」
店員「いいか?百人作って、魔王に戦いを挑んだとしよう。そのうち、生き残ったのが半分いたとする……そいつらはその後、どこに行くんだ?」
勇者「あ……」
店員「一人や二人、三人ぐらいなら勇者一人でもその後の面倒は見れるだろう……でも五十人なんてどうやって面倒をみるんだ?」
勇者「それが大量生産したがらない理由か……」
店員「行き場を失ったこの子たちは誰が面倒を見るっていうんだ?それとも誰かが殺してくれるのか?」
勇者「それは……」
僧侶「……命令すれば」
勇者「おい」
僧侶「勇者様が命令すれば……みんな死にます」
店員「確かに命令は守るだろう……だが、この子たちだって生きたいって思ってる。ずっと勇者様の傍にいたいって思ってる」
勇者(そういえば……僧侶も死ぬのは嫌だって言ってたな)
ドラゴン「……事情はよぉくわかりました」
勇者「ドラゴン?」
ドラゴン「でも、教えてください」
店員「なんだと……!?」
ドラゴン「魔王様は裏切りを決して許さない。きっと、私を追ってきているはずです」
店員「な?!」
勇者「この街が戦場になるっていうのか?!」
ドラゴン「ですから、早く教えてください!貴方ができないのなら、魔物である私がやります!!」
店員「ふざけんな!!!」
僧侶「で、でも……」
勇者「分かりました。俺が全部、責任を持ちます」
店員「え……」
僧侶「勇者様?」
勇者「勇者として、この街を戦火に巻きこむわけにはいかない」
ドラゴン「いいんですか?」
勇者「ああ」
店員「だが……しかし……」
勇者「俺は勇者だ!!仲間を一人として犠牲になんてさせない!!!そして、その後のことも俺が請け負う!!」
店員「……!?」
僧侶「勇者様……」
勇者「作ってください!!お願いします!!!」
店員「……勝手にしろ!!!このカプセルは100体分用意できる!!―――その代り、この街と、生まれてくるこの子たちを絶対に守れよ!!」
勇者「―――恩に着る。僧侶、ドラゴン、手伝ってくれ。100人の仲間を用意するぞ」
ルイーダ 一階
店員「ちょっと?!なに!?登録の量がおかしくないですかぁ!?」
勇者「よし、出来あがったな!」
僧侶「やったぁ♪」
ドラゴン「なるほど……あんな技術が……ふむふむ」
店員「なにをしたんですか!?」
勇者「100人登録した。今から全員を呼び出してくれ」
店員「そんな無茶な!?」
勇者「無茶でもやるんだ!!」
僧侶「というか、私達で勝手に連れて行きますんで」
店員「えええ!?ちょっとぉ!!」
ドラゴン「戦士さーん!!魔法使いさーん!!」
僧侶「武道家さーん!!」
ゾロゾロ……
勇者「よし……!みんな、出発だ!!!」
魔王「ふふふ……あそこか……」
ボストロール「立派な城も見えますね……」
魔王「皆の者!!全てを灰にしてしまえ!!!」
魔物達『オォォォォォォォ!!!!!!!』
魔王「くくくく……」
キメラ「魔王様!!!大変です!!!」
魔王「どうした?」
キメラ「それが……あの街から続々と……その……」
魔王「なんだ、はっきり言え!!」
キメラ「勇者の仲間らしき者たちが……隊を成しています!!!」
魔王「なに!?」
勇者「みんな、止まれ!!」
勇者「いいか!!俺たちは全員仲間だ!!一人として死者が出てはいけない!!」
勇者「一人として捨て駒なんていない!!俺たちは100人の勇者だと思え!!!いいな!!!」
仲間『はい!!勇者様!!』
ボストロール「あ、あれが……勇者の仲間だってのかぁ!?!」
キメラ「魔王様……!!」
魔王「ふん……ざっと100人程度ではないか……我が軍は1000を超えている……何を恐れることがあろうか」
ボストロール「そ、そうですね……そうですよね!!」
魔王「それに、やつらは思考回路を持たぬ人形にすぎん。やつらを統率することなど到底不可能だ……」
勇者「よし―――では、作戦部長の話をよくきけ!!」
仲間『はい!勇者様!!」
ドラゴン「敵は1000を超える大軍です。故に、皆さんには私の指示に従ってもらわなければ、勝てる見込みなどありません」
仲間『……』
勇者「みんな!ドラゴンの言葉は俺の言葉だと思え!!」
仲間『はい!勇者様!!』
ドラゴン「ではまず陣形からいきましょう。後方に25人の魔法使いさんを配置し、その前に僧侶さん25人を配置します」
勇者「うんうん」
ドラゴン「戦闘開始直後、後方部隊さんたちで前衛50人の戦士さんと武道家さんにバイキルト、スカラ、ピオリムをかけていただきます」
僧侶「ほうほう」
ドラゴン「恐らくこれでザコはほぼ一掃できるでしょう」
勇者「それから?」
ドラゴン「まあ、大きな問題は魔王様なんですけど……」
魔王「よし……この位置からでいい。仕掛けるぞ!!」
ボストロール「―――いけえ!!!!」
魔物達『オォォォォォォォォオオ!!!!!!!」
魔王「人間どもを食らい尽くせ!!!!」
勇者「む……始まったな」
僧侶「勇者様……」
勇者「僧侶……お前は俺の傍にいてくれ」
僧侶「はい……勿論です」
ドラゴン「では、背中に乗ってください!!」
勇者「みんな!!頼んだぞ!!」
仲間『いってらっしゃいませ!勇者様!!!』
武道家「私たちは向かってくる敵を倒すだけ」
戦士「私たちは向かってくる敵を倒すだけ」
魔物「なんだこいつらぁ!?」
魔物「ひるむなぁ!!!かかれー!!!」
魔法使い「バイキルト……スカラ……バイキルト……スカラ……」
僧侶「ピオリム……ピオリム……ピオリム……」
戦士「うおぉぉぉぉぉぉおおお!!!!!」
魔物「ぎゃぁああああああ!!!!!!」
魔物「くそがぁぁぁぁぁ!!!!!」
武道家「―――勇者様の道をあけろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
魔王「なんだ……?!あの強さは!?」
ドラゴン「あれが人間の力ですよ」
魔王「―――ドラゴン!?」
勇者「ここまでだ。魔王」
僧侶「観念してください
魔王「くくく……貴様たちに何ができる?矮小な存在どもめ!!!」
勇者「その矮小な存在が、今まさにお前を追い詰めていることに気がつかないのか?」
魔王「なんだ?強がりか?我が軍の数には……「」
僧侶「あれでも、ですか?」
魔王「?!!?」
魔法使い「……バイキルト……上限……スカラ……上限……」
魔法使い「勇者様の命により……私たちは……ドラゴラム!!!」
魔法使い「ギャォォォォォォォォン!!!!!」
僧侶「ピオリム……上限……私たちは……ザギザギザギザギザギ……!!」
魔物「ひぎゃぁぁぁああああああ!!!!!!」
魔物「こんな数のドラゴンなんてぇぇ!!!!」
魔物「魔王さぁまぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
魔王「ぬうぅぅぅうう……!!」
勇者「さあ、終わりだ。魔王!!貴様に逃げ場も勝ち目もないぞ!!」
魔王「ふざけるな!!!―――メラゾーマ!!!」
勇者「!?」
ドラゴン「―――しゃくねつ!!!」
僧侶「相殺したぁ♪流石、ドラゴンさん!!」
魔王「おのれ……ドラゴン!!」
ドラゴン「今度は私が世界を統べる王となります。ご安心を」
魔王「ゆるさんぞ……ゆるさんぞぉ!!!!」
勇者「はぁぁぁ!!!」
魔王「―――あまいわぁ!!!!」
勇者「ぐわぁ!!?」
僧侶「勇者様!!」
ドラゴン「くらえ!!!かがやくいき!!!」
魔王「冷たい!!やめんかぁ!!!」
ドラゴン「あぅ!?」
魔王「ふぅ……ふぅ……殺してくれる……塵すら残さんぞぉぉぉ!!!!」
僧侶「ドラゴンさん!!」
ドラゴン「やっぱり……つよい……」
勇者「くそぉ……」
魔王「終わりだ……やはり勇者は殺しておくべき存在……このままでは……このままでは……いつか……!!」
勇者「……っ!?」
魔王「くたばれぇぇぇぇ!!!!!」
僧侶「勇者様!!!!」
勇者「くそ―――誰か!!!」
魔王「―――ぬうう!?!?」
勇者「え……?」
戦士「お怪我はありませんか?」
戦士「スカラとピオリムのお陰で、魔王の拳など蚊に刺された程度のダメージです」
魔王「くそぉ……がぁぁぁぁ!!!!!!」
勇者「お前達……あの魔物の大軍は!?」
戦士「ドラゴラムの炎とザギでもう大半が死滅しました」
勇者「そうなのか……よし、お前達、俺に続け!!」
仲間『はい!!勇者様!!』
魔王「おぉぉおおお?!!?くるな……くるんじゃなぁぁい!!!!!」
勇者「―――とつげきぃぃぃぃ!!!!!!!!」
戦士「くらええええええ!!!!!!!」
武道家「あちょぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
魔法使い「ギャオォォォォォォオン!!!!!」
僧侶「ザギザギザギザギザギザギザギ……!!」
魔王「―――ぎゃぁあああはああああぁぁぁぁあああ!!!!!!!!!」
ドラゴン「―――やった……!!」
僧侶「勇者様!!」
勇者「トドメだ……!!ギガデイン!!!」
魔王「ごほぉぉぉお!?!?」
勇者「―――これで、終わったんだな」
ドラゴン「やったぁ!!これで私が竜王になれるー!!」
魔王「―――おのれ……一矢報いずして……死ねぬ……!!」
ドラゴン「やった!イエス!!竜王のたんじょうだぁ!!」
勇者「そんなにはしゃぐな」
ドラゴン「だってだって♪」
勇者「しょうがないやつだな」
ドラゴン「竜王ですよー?竜王!!」
僧侶「はいはい」
魔王「死ね……!―――イオナズン!!!」
勇者「―――!?」
僧侶「え?」
ドラゴン「―――危ない!!!!」
魔王「―――くそ……また……ドラゴンめ……じゃ、ま……を……ごふ……」
勇者「ドラ、ゴン……?」
僧侶「ドラゴンさん……?」
ドラゴン「………いた、い…です……とっても……い、たい……」
勇者「おい!!!しっかりしろ!!!」
僧侶「ドラゴンさん!!」
ドラゴン「……りゅう、おう……に、なれる、と……おもったのになぁ……」
勇者「なれる!!なれるから!!!」
僧侶「あの!!みなさん!!」
魔法使い「ごめんなさい……もう、魔力は残ってないの……」
僧侶「そ、そんな……!!」
ドラゴン「あ、はは……総力戦……ですしたから……ぐ……!」
勇者「もうしゃべるな!!」
僧侶「ホイミ!!」
ドラゴン「あ、り……がとう……ちょっと……げんき、に……なれた♪」
僧侶「すいません……!すいません!!」
勇者「くそ……しっかりしろ!!死ぬな!!!」
ドラゴン「……ホント……ばかですねぇ……なんか……体が勝手に……う、ご……い――――」
勇者「ドラゴン?!ドラゴン!?!?――――ドラゴーン!!!!!!」
―――半年後
旅人「あれ……?こんなところに街なんてあったかな?」
戦士「いらっしゃいませ」
旅人「あ、ども……」
武道家「ここは竜の街ですよ、旅のお方」
旅人「竜の街?」
魔法使い「人間と共に戦った竜を祀るために勇者様がおつくりになられたのです」
旅人「ああ、その話は聞いたことがあるなぁ」
僧侶「ではでは、私めがご案内してあげますね♪」
旅人「な、なんか、女の子が多いねえ」
武道家「勇者様の趣味です」
商人「あいあい」
盗賊「まったく、困ったものよね」
旅人「へえ」
僧侶「ここが勇者様のお屋敷ですよ?……是非ともお会いになってくださいな♪」
旅人「す、すいません……旅の途中で寄らせていただいたのですが……」
勇者「おおー、これはこれは」
ドラゴン「きゃは♪久しぶりのお客さんですねー」
僧侶「はい♪」
旅人「わぁああ!!!!ドラゴン!?!」
勇者「ああ、この子、この街では一応、竜王で通ってるんで」
旅人「そ、そうなんですか?」
ドラゴン「えっへん!奇跡の復活を遂げた私に相応しい称号ですよね!」
旅人「はぁ……」
勇者「―――さて、貴方はこの街ができて初めてのお客様なんですよ」
旅人「私が、ですが?」
僧侶「それで、お願いがあるんです」
旅人「え?なんですか?」
勇者「実は……僧侶と二人旅をしたいとずっと思ってたんです」
旅人「え?」
勇者「前回は色々とあって、数週間ほどしかできなくて」
僧侶「この街を作ることにもなりましたからね」
旅人「え?で、なにをしろと?」
勇者「竜王と一緒にこの街を発展させてください」
旅人「えぇぇええええ!!?!?」
ドラゴン「この世界の半分をお前にやろう……!―――きゃー!!これ言ってみたかったんですよぉ♪」
僧侶「良かったですね」
ドラゴン「はい!」
勇者「では、よろしくお願いします。この街には貴方以外に男性はいませんし、きっと天国ですよ?」
旅人「あ、そんな!!勝手に―――」
ドラゴン「私と一緒にこの街を大きくしましょーね?」
旅人「ぎゃぁああああ!!!!!抱きつかないでぇぇ!!!」
僧侶「勇者様……これで二人旅ができますね♪」
勇者「ああ。夢だった僧侶との二人旅だ。―――おし、出発だ!」
僧侶「おー♪」
おしまい。
魔王「……分かっている。ドラゴンが勇者と僧侶を連れて逃げたな」
ボストロール「だったら、すぐに追いかけましょう!!」
魔王「よい。偽物の僧侶を我の前に差し出してきたときから泳がせてみたかったのだ……あんな単純な呪文を同胞にかけよって……」
ボストロール「―――呪文?」
魔王「モシャスだ……お前、何も感じなかったのか?」
ボストロール「なんですって!?!?じゃあ、あれは……!!!」
魔王「ふん……ドラゴンめ……この代償は高くつくぞ……!!」
あれ?
モシャス設定とはなんだったのか
>>236
マヌーサって書きたかったんだけど、知らんうちにモシャスって書いてた
でも、魔王がマヌーサにかかるかっていったら、かかんないわな
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