プロデューサー、あなたがいなくなってから1年と半年が過ぎようとしています。
今思い返してみると、カエルの着ぐるみを無理やり着されられたことも、
地方の町で一日署長なんてやらされたことも、すべてかけがえのない貴重な経験のように思えます。
まぁ、当時は歌がないのは嫌なんてダダをこねたりもしましたが。
そんな今の私の生活は……
「いらっしゃいませ。朝ごはんのメニューですね。ゴハンニナットウ、ミソシルノリタマゴがつきますが」
「ちょっと!如月さん、表情が固いよ!お客さん怖がっちゃうでしょ!」
「も、申し訳ありません。営業スマイルは昔から慣れていないものでして」
牛丼屋でフリーターをしています。
あれ……?
そのポジションは春香じゃなかった?
また1からなの?
バイトを初めて数カ月、未だに慣れないことばかりです。
どうやら私の物怖じしない態度を気にいっていただいたみたいですが、
接客業はアイドル活動と似たようなもので、愛想というものが欠かせないものらしいです。
「如月さん、もっと笑ってよ。そんなず~~っと仏頂面してると店の中暗くなっちゃうから」
「もうしわけありません。プロデュ……店長」
「まぁ、君は春香ちゃんに比べればミスはずっと少ないんだけどさ。春香ちゃんはスマイルだけは100点満点だから
お客さんには評判が良かったしなぁ。」
「はい……」
書き溜めはしてるの?
>>12
すまない……今回も完全ノープランだ。
なので雑談は自由にしてください。
「では、失礼いたします。次からは気をつけますので。」
自動ドアの前で深いお辞儀をして、店を出ました。
一歩外へ出ると冷たい風が私の体を突きさします。
吐く息が白くなり、霧散します。もうすっかり冬になりました。
道行く人はみんなとても寒そうに身を縮めて歩いています。
駅前にさしかかかると、にぎやかな歓声が聞こえました。
私が前に歌っていた場所で、知らない路上ミュージシャンの方がギターをかきならしています。
その周りには何人もの人だかりが出来ていて、歌い終わると大きな拍手が沸き起こりました。
「……くっ」
私はそれをなるべく見ないように、考えないようにしてして、駅の階段を駆け下りました。
電車に揺られながら、窓の外をただボーっと眺めていました。
この移り変わる景色を見ていると、いらぬ感傷に浸ってしまいます。
「プロデューサー……あっ」
無意識に呟いてしまっていたようです。
目の前に座っている男性が私に不審な目を向けていました。
「なんでもないんです。ごめんなさい。」
春香が前に言っていた、バイトをしていると謝り癖がついてしまうというのはどうやら本当だったようです。
今度は気をつけて、声に出ないように顔をぼんやり思い浮かべました
プロデューサー……あなたが亡くなってからは辛いことばかりが起こります。
「ここの雑木林も、冬になってすっかり枯れてしまったわね……」
プロデューサーの墓石の前に座り、手の平を合わせて、目を瞑る。
そうすると、あの頃の、プロデューサーが過労死で倒れる前の、楽しかった日々が思い浮かんでしまいます。
じっとしていても汗が流れるような、暑い夏の日に河川敷でバーベキュー大会をしましたね。
「千早ちゃん!泳ご!私マーメイ!」
春香がついた途端に水の中に飛び込みました。
「よーし!ボクも負けてられないぞ!」
続いて真が間髪いれずに春香の後を追います。
「うわー!はるるんの犬かき、ちょーはやーい!亜美、私たちもいくのだ!」
亜美と真美が全く同時に水しぶきをあげました。
「お、おいお前ら用意を手伝えって……」
プロデューサーはその時やれやれといった具合に、困り果てていましたが、
その表情はどこか娘を見る父親のようでした。
それは、私の家庭には無かったもので少し羨ましいな、と思ってしまいました。
来たか。待ってたぞ
「あらあら~みんな楽しそうね~」
あずささんが萩原さんの隣で微笑を浮かべていました。
プロデューサーが父親だとしたら、あずささんはさながら母親といったところでしょうか。
「雪歩も泳いできたら?真と一緒の方がいいでしょ~?」
そう意地悪に言う律子のメガネのフレームが日光に反射して、キラリと輝きます。
「ああ、あああの、私の体ってひんそーだから水着なんて……ひーん」
萩原さんのネガティヴシンキングは、たとえ太陽が照りつける陽気な日でも変わらないようです。
私が目をちょっと離した隙に、どこからともなくスコップを取り出していました。
「プロデューサー殿、わたくしらぁめんを持ってきたのですが、これは鉄板でも調理できるものなのでしょうか」
「……ていうかそれって焼きそばじゃない」
四条さんの的外れな発言に、もはや恒例となっている水瀬さんの呆れ顔が浮かんでいます。
「うっうー!お肉がいっぱい食べられますー!」
鉄板の傍で高槻さんが満面の笑みで飛び跳ねています。その手にはタッパーが握られていました。
「美希はね、お昼寝するから出来あがったら起こしてほしいの」
美希は小さく欠伸をして、日陰で眠り始めました。
あの頃は、なにもかもが楽しい思い出でしたね。プロデューサー。
その日の夜は花火をしました。
「ハム蔵ー!どこいったんだー!おーい!」
暗闇の中、我那覇さん達が草むらを懸命に捜索しているのを尻目に、
私とプロデューサーの、2本の線香花火が淡い光を灯していました。
「プロデューサー、あの」
「ん?」
「私、今まで歌だけが全てで私の存在価値だと思っていました。
だけど、こうして皆といると何だかそれだけじゃないと思いはじめてきまして……」
「うん」
「うまく表現できないんですけれど、その、幸せっていうんだと思います。こういうのって」
「そっか、俺もそう思うよ。いつかお前たちの名を毎日テレビで見るような、そのくらいのアイドルにしてやりたい」
「ふふっ。では頼りにしています。でも体にはくれぐれもお気をつけてくださいね」
「あぁ、ありがとう。千早」
「あっ……」
そのとき、線香花火の火がぽとりと地面に落ちました。
そして、プロデューサーが過労死でこの世を去ってからは……
思い出したくもありません。
そしてその後、とうとう覚悟していたことが起こりました。
「皆、ちょっと聞いて欲しいことがあるの。美希は……今日も休みね。まぁいいわ」
律子が神妙な顔つきで私たちを横一列に並ばせます。
「765プロは、倒産することが決まったわ」
しばらく、誰一人として声を発することができませんでした。
「そんな……」
最初に沈黙を破ったのは春香。体の力がゆるりと抜けて、床に倒れこみました。
「……」
四条さんは、まるで何かを悟りきったかのように目を瞑っていました。
「ちょ、ちょっと待ってください!ボクと雪歩のデュオはまだ全然無名です。だけど、ようやくファンもついてきてくれて、これからって時に!」
普段、滅多に怒ることがない真がこの時ばかりは声を荒げていました。
「自分、もっともっと頑張る!だから皆と一緒がいいさー!」
普段はいつも笑っている我那覇さんの悲しむ顔は、堪えるものがあります。
「残念だけど決まったことなの。ごめんなさい。これはプロデューサーとして、私の全責任です」
私は見逃しませんでした。律子の握っていたクリップボードが、段々とゆがんでいくのを。
それから数カ月後、テープで雑に記していた「765」の字が業者によって取り外されました。
その後しばらくは全員で連絡を取り続けていましたが、次第にメールも途絶えていき、私たちは離れ離れになりました。
歌を歌えないからといって仕事をキャンセルしたこともあります。私は、なんて愚かなのでしょうか。
いくら悔やんでも悔やみきれません。
「プロデューサー、もしあなたがいてくれれば、こんなことにはならなかったのに」
墓石に向かって、語りかけますが当然何の返事も返ってはきません。
ただ、静寂が辺りを包んでいました。
「もうこんな時間ね。」
……春香の元へ行かないと。プロデューサー、また来ますから。
石畳の階段を下って途中で、珍しくはるか遠くに人影を発見しました。
普段、滅多にここでは他人に会わないのに。そして、どこかあの後ろ姿見覚えがあるような……。
CDをつくるときに、コンピューターをやったせいで目が悪くなったのかしら。ぼんやりと小さなシルエットが揺らいでいます。
確かめるように一歩一歩近づいていくと……
あのゆるいウェーブのかかった、綺麗な金髪──
「美希!」
疑惑が確信に変わる前に、私は叫んでいました。
「美希!美希でしょう!」
背中が、ピクリとかすかに動いたのが遠目からでもわかりました。
たとえ人違いでも構わない。私は力の限り、美希と思われる人影に向かって走りました。
美希はあの事件以来、全く事務所に来なくなってしまいました。
一見すると、まるでやる気がなく何も考えていないように見られがちな美希ですが、
私は知っていました。美希こそ誰よりも純心で、多感な少女であることを。
そんな美希にとって、プロデューサーの死というショックは計り知れないものであったでしょう。
それに、なにより──。
もうすぐ、辿り着く。
しかし、思いもよらぬ事が起こりました。
「?! 美希、待って!」
美希らしき人物は、私の方を振り返りもせずに、一目散に逃げ出しました。
私はその後ろ姿を追って、細い路地を右へ左へと駆け抜けていきます。
しかし、その鬼ごっこもそう長くは続きませんでした。
十字路にさしかかったときに、その姿を見失ってしまいました。
再び、その場が水をうったように静まり返ります。
それに、なにより美希は私たちの中で唯一、プロデューサーにハッキリとした恋愛感情を抱いていたもの、ね。
その後美希の携帯電話に何度も連絡をしましたが、一度として繋がることはありませんでした。
それから電車に2時間ほど揺られて、春香の家に向かいます。
都会では見ることのできないのどかな風景が広がります。
……この景色も随分と見慣れたものね。
インターホンを鳴らすと、春香のお母さんが玄関をゆっくり開けました。
「こんにちは。すみません。今日はちょっと遅くなってしまいました。」
お母さんは伏し目がちになり、
「千早ちゃん、毎日本当に、ごめんなさいね。」
「いえ、気にしないでください。春香は私の親友ですから」
靴を脱いで、2階の階段へと登っていきます。
途中、春香のお父さんとすれ違いました。
お父さんは何も言わずに、私に軽く会釈をして、リビングへと向かいました。
春香のいるドアの前に立ち、ゆっくりと呼吸を正します。
この瞬間だけは、いつまでたっても慣れません。
そしてドアをゆっくりと2回ノックしました。返事はありませんでした。
「春香、いるんでしょう。私よ、千早よ。」
半年・・・か
「千早ちゃん!千早ちゃんだ!」
鍵をガチャガチャと回す音がして、パジャマ姿の春香が私の胸へ飛び込んできました。
「おっかえりー、今日は遅かったね!」
「ごめんなさい。ちょっと電車が遅れてしまって」
私は様々なぬいぐるみや、雑誌が散らばった床を掻き分けて6畳ほどの部屋の中に入っていきます。
「春香、もだ夕方前なんだからカーテンくらい開けなさい」
そう言って私は一気にカーテンを左右に開きます。夕暮れが窓から差し込みました。
「ひゃあ、眩しいよ」
そう言って若干、虚ろな目になっている瞑ります。以前、私にしがみついたままで。
「今日も部屋の外から出なかったの?」
「えへへ、千早ちゃんをずっと待っていたんだよ」
春香は我那覇さんの一件以来、心が完全に折れてしまいました。
半年間、ずっと私に依存し続けています。
>>121
やめれ
前スレとやらのスレタイ教えてくれないか?
まとめでも探して読みたいわ
>>125
春香「765プロが倒産してもう1年かぁ……」
ちなみにこれ今回で完結するの?
「千早ちゃん、今日も路上ライブやってきたの?」
「……えぇ。段々お客さんも増えてきたわ」
当然ながら、嘘です。毎日のように、
春香が突然抜けたアルバイトに代わりに入り、4時間も家を往復していたのでは
歌を歌うことなんてできるハズがありません。
半年間、ボイストレーニングすらせず、ひたすら春香の話し相手になっています。
「千早ちゃんなら絶対にまたプロになれるよ」
「……ありがとう」
ひたすら布団に被さって泣きじゃくる春香を、どうしても放っておくことができませんでした。
実の両親にすら心を許さない春香ですが、私にだけは気を許してくれます。
春香は昔から時々私に頼るところがあったけれど、
いえ、普段いくら転んでも自分で起き上がる春香が私を信頼してくれていた、と言ったほうが適切でしょう。
>>129
ごめんオチはもう考えてあるんだけど、どう見積もってもあと1スレはかかりそう
春香はテレビを見てアイドルが出てくると突然暴れだすので、仕方なく取り上げました。
雑誌も私が選んで、アイドルの記事が無いのを確認してから持っていきます。
私がいない時は、春香は虚ろな目でただただずっとカーテンの隙間から窓の外を眺めているそうです。
「……」
「んー?どうしたの千早ちゃん」
「いえ、何でもないわ」
昔の、弟を交通事故で亡くした時の自分が重なってしまいます。
あのときは私の周りには助けてくれる人が誰もいなくて、辛い思いをしました。
春香にはそんな思いをさせたくないという一心で、これまで付き添ってきました。
部屋を見渡すとパソコンのモニターが光っているのに気付きました。
「あら、春香なにを見ていたの?」
パソコンの前へ行き、画面を確認すると、そこにはあの日以来、一度も更新されていない
春香のブログが表示されていました。
「春香、『天海春香はできる子応援団』の人からなんだかコメント?がたくさんついているわよ」
「……」
返事はありませんでした。
パソコンの前に座り、私はそこに書かれていることを読みあげようと試みました。
………………。
「千早ちゃん、それタッチパネルじゃないからマウス使わないと……」
「し、知っているわ。ちょっと間違えただけよ」
「千早ちゃん、ディスプレイにマウス当てても動かないよ……」
結局、春香に一度操作法を教えてもらいました。
私にマウスの操作法とダブルクリックを指示した後、部屋の片隅で縮こまりました。
「読みあげるわね、春香ちゃん最近ブログの更新が無いですがどうかしたんですか?もし、体調を崩していたら心配です。
春香ちゃんは必ずまたアイドルになれると信じています。その日まで、私はずっと春香ちゃんのファンです。ハンドルネーム?ピヨさん」
「……」
「この人から、コメントが毎日のように来てるわよ。返信しなくていいの?」
「いい……」
春香は丸まって、顔を埋めているので表情はここから伺い知れません。
「それより千早ちゃん!今日もお話いっぱいしよう!」
「……そうね」
春香はまた私の元にすり寄ってきました。
春香を抱きかかえるように座り、私は少しだけ、ほんの少しだけ覚悟を決めて言いました。
「春香、それじゃあ今日はこのお話をしましょう」
「えーなになに?」
「私たちが初めて会った日のこと、覚えている?」
「……えーっと」
「お互いに候補生時代だった頃よ。私が譜面を確認していたときに、春香が突然、
『あ、あの、私、天海春香って言います!突然ですがこの激甘ドーナツを食べて私とお友達になってください!』って言ってきたのよね」
「あ、あはは……そうだっけ……」
「そうよ。あの時はビックリしたわ。あの時は私、確か相当厳しく突っぱねたわよね」
「あー……確かに会った頃の千早ちゃんってちょっと怖かったかも」
「それからまさかデュオを組むことになるなんてね。不思議なものだわ」
春香は私の話を相槌を打ちながら聞いて、最後に、
「千早ちゃん、お願いだからどこにもいなくならないでね。プロデューサーさんみたいに……」
声がかすかに震えているのがわかりました。
春香……このままあなたと一緒に……
泣くことならたやすいけれど
「それはできないわ」
「えっ……」
「どういうこと?」
春香の表情が段々と険しく、不安を帯びていくのがありありと見えました。
「ここにはもう来ないことにしたわ」
「えっどうして……」
「気付いたのよ。春香、あなたをダメにしているのは私なんじゃないかって」
「そんなことない!そんなことないよ!」
「それに、春香、私にはやらなくちゃいけないことがあるの」
私は半ば強引に春香を押しのけて立ちあがりました。
重心を失った春香はその場に倒れ込みました。
「さようなら、春香。あなたを忘れない」
私は出口の、ドアに向かって一歩一歩進んで行きました。
「やだやだやだやだ!さよならなんて言わないで!」
ふいに、強く圧迫される感覚が右腕に伝わりました。
振り返ると春香が私にしがみついて必死に引きとめていました。
くっ……
私はその手を無理やり解いて、ドアを開けました。
「待って!千早ちゃん!千早ちゃぁぁぁん!!!」
春香の泣き叫ぶ声が、閉じられたドア越しから聞こえてきました。
春香パートおわり
正直やりすぎたと反省
今日はこれで閉店
明日から頑張る
(´;ω;`)
社長は…
じゃあ双海も「そうかい」って読んでたの?
如月も「にょげつ」とか「じょげつ」って読んでた?
保守ありがとうございます
今日も書けるけどもーちょい遅くなりそう
私は今、人探しのために、普段好んで行くことは無い歓楽街に足を踏み入れています。
このようなネオンが光る雑多で、騒々しい遊び場は好きではありません。
電子音が耳をつんざくたびに、若干のめまいを覚えます。
「はぁ、まるで探偵ごっこね」
自分が今やっていることが自分で信じられません。
アイドルの活動では「なんでこんなことを?」と思わされることは大分経験したつもりでしたが、
まさか写真1枚を頼りに聴き込み調査を行っているなんて。
まぁそれも、律子から電話が来て
「最近、ここの街でとある有名人さんがいるという噂を聞いたわ。その特徴を聞くとね、他人の空似とは思えないのよ」
なんて連絡をしてきたからです。
律子は働いているコンビニの店長に最近昇格したそうで、とても忙しい日々を送っているそうです。
「すいません。ちょっとお聞きしたいのですが、この写真の子を見かけたことはありませんか?」
適当な通行人を捕まえて1枚のポラロイドを見せるとと大体
「あー、ここらへんでは知らない人はいないよ」
と、まるで知っているのが当然といった風な反応が返ってきます。
なんというか、複雑な気持ちです、プロデューサー……。
夜にここらへんで適当に待っていればイヤでも見つかるよ、と皆々が口を揃えていいました。
まるで意味がわかりません。いくら有名人である、とはいってもこんなに人がごった返す場所で
都合よく見つけられるものなのでしょうか。
しかし、他に宛の無い私はその言葉を信じてひたすら待ち続けることにしました。
途中、何度かナンパされましたが私が、私なりの言葉で丁重にお断りすると
まるで高校に全部落ちた受験生かのように、肩を落として去って行きました。
そんなにキツいことをいったつもりは無かったのですが……。
「キャー!」
?!
「キャー!カッコイイー!」
! な、なに……?
突然、いくつにも重なった黄色い声援が私の耳に届きました。
「これプレゼントです!受け取ってください!王子様!」
「やーりぃ!なんだかいつも悪いね、それじゃ、お礼にキスしてあげるよ」
「キャァァァ!抱いてー!」
見ると、物凄い数の女性の人だかりが円を描くように集まっていました。
なるほど、確かにこれなら見落とすわけがありません。
私は人並みを掻き分けて、その円の中心にいる人物の肩をたたきました。
「こんばんは、どうやらお元気そうね。素敵なナンパ屋さん」
「あっはっは、急にどうしたんだい素敵なお嬢さ……?!」
菊池真は私の顔を見るなり、目を見開いてそのまま固まりました。
周りの女性たちが不審そうに私と真の顔を交互に見渡します。
「?ねーねー。誰、このまな板女?知り合い?」
「ナニ慣れ慣れしく話しかけてるのよ!」
私は周りの野次を無視して真に話しかけます。野次ならこの1年の間に随分と慣れました。
「真、どうして男物のスーツなんて着ているの?」
どうして電話が繋がらないの?
どうしてこんな場所にいつもいるの?
どうして女の子をこんなに侍らせているの?迷走しているの?」
「……」
真は依然として固まったままです。
「まぁ、なんでもいいですけれど。
単刀直入に言うわ。また私たちの作る765プロに戻ってきてちょうだい。」
春香、あなたの夢は、私が引き継ぐわ。
真は、表情が段々と戻ってきて、そして予想だにしない答えを返してきました。
「……やだなぁ。お嬢さん、人違いですよ」
「……はい?」
「何言ってるの?あなた菊地真でしょう?」
「一体だれと間違えてるのかなぁ。ボクの名前は平田ですよ」
今度は私のほうが言葉を失い、硬直してしまいました。
人違いのハズがありません。その口癖、女性にしては低めの声、肩の上まで伸ばした黒髪。
これで別人だとしたら、プロデューサーが謎の魔法をかけられて蘇生する確率の方が高いんじゃないでしょうか。
……真、あなたも頭がおかしくなってしまったのかしら。
「平田サマー!」
周りの女性たちは疑問も無く、それを受け入れています。
「そ、そういうことなので!それじゃ!」
真は私から逃げるかのように走っていきました。
あの俊足からしてもどうみても真です。
「あぁ!待ってー!」
取り巻きも遅れて真の後を追って行きました。
「一体何なの……」
嵐の後の静けさといったところでしょうか。
そこに残ったのは、ただ茫然と立ち尽くしている如月千早ただ一人のみでした。
「意味がわからないわ……。」
頭痛がする頭を抱えながらまたあの集団を捜索しています。
私をからかっているのでしょうか。
確かにアイドル時代から真の行動には時々ついていけないことがありました。
たとえば、真冬の日に朝早くからタンクトップ1枚で腕立て伏せをしていたり……。
だけど、今回ばかりはただの冗談にしては手が込み過ぎています。
それに1年半ぶりの再会だというのに、あの態度はいかがなものかと。
神経質な私の心の中でイライラが積もっていきます。
もし春香だったら、もっと柔軟な対応ができるのでしょうが。
……やっぱり私にはこういう役回りは向いていないわ。
数十分ほど辺りをうろつくとすぐに見つかりました。
「やぁ、そこの可愛いお嬢さん。よかったらボクのお店に来ない?」
「え、あの……」
またナンパの最中のようです。私と同じくらいの年齢の女性を口説いていました。
「ほら、これボクの名刺、ここに入れておくね」
そう言いながら顔を思いっきり近づけて1枚の白い紙をその女性の内ポケットに差し込んでいました。
また真の近くに歩み寄って、じっと目を見て言いました。
「真、いい加減にして。あなたは菊地真という名前で、女でしょう」
「人違いですって」
私のうっ憤が爆発しました。
「証拠があるでしょう!ここに!」
思わず、私は真の胸を思いっきりタッチしてしまいました。
「う、うわぁ!いきなり何するんですか!」
こ、この触り慣れた感触……。
「な、無い……?」
嘘でしょう……まさかそんな……。
「だから言ったでしょう。ボクは男なんですよ。菊地真なんて知りません
それじゃ、そういうことなので。」
真は、私の肩に手を置き横切るように去って行きました。
遠足の行列のように、縦一列に並んで真ご一行が消えて行きました。
またその場に残ったのは私だけ……、
と先ほどの名刺を受取った女性です。
「あ、あの」
その女性は愕然とする私を心配してくれたのか、声をかけてきます。
「そうだわ……」
私はその女性の前に居直ります。女性は少し狼狽したように肩を震わせました。
「非常識なのは、百も承知です。先ほどの名刺を私にいただけませんか?」
「えっ」
「ごめんなさい、急いでいますので、失礼します!」
私は、無理やり胸ポケットに手を突っ込みました。あら、この方も……。
「うわっ、ちょ、ちょっと!そこは……!」
「ぎゃ、ぎゃおおおおおおん!」
なんだか不思議な声をあげる女性の方だわ、と思いながら私は名刺に書かれているお店へ向かいました。
※涼はこれから先二度と出てきません。
ちょっと夕飯食べてきます。途中で申し訳ない。
>>449
プロデューサーさんは765プロの皆に殺されたんだね
>>455
(((´д`)))
P「……どうしよう」
美希「いまさらハニーと2人で仕掛けたドッキリだったなんて言いだせないの……」
名刺にはしっかりと「平田」と偽名が書かれていました。
その下に記載されている住所を頼りに、煌びやかに光る街を進んでいきます。
道中、ちょっとした小競り合いや、電柱に吐しゃ物を散らしている人をちらほらと見かけました。
私と住む場所が全く違う世界。どうしてもまとわりつく嫌悪感を拭うことができません。
「お姉さん、君おいくらなの?」
酔っているサラリーマン風の男性が話しかけてきました。
「はい?意味がわかりません。失礼します」
真……あたなはこんな所で働いているの?
さらに奥へ奥へと進んでいくと段々と光源が少なくなっていき、
薄暗い怪しい雰囲気が漂ってきました。
賑やかで人が多い分、さっきのほうがまだマシだったかも知れません。
住所を確認し、コンクリート造のビルの鉄階段を登っていきます。カン、カン、カンと乾いた音が鳴り響きました。
そこの3階の、電球が切れかかっている蛍光灯がついているドアには名刺と同じ店名の看板が掲げられていました。
どうやらここで間違いないようね……。しかしこの名前って……。
「ド、ドリルクラブ?」
ド、ドリル?(゚д゚;)
もうこの際鬱でもなんでもいいからみきまこマダー?
「いらっしゃいませー!ドリるクラへようこそー♪」
店の扉を一息に空けて入ると、愛想笑いを浮かべた長髪の男性が中へ招き入れてくれました。
店内は薄暗く、案内のまま、ホールに進むと豪勢なシャンデリアと真っ赤なソファが置かれていました。
ソファには、数人のブラウスを着たOL風の女性がお酒を飲んではしゃいでいます。
その両サイドには黒いスーツを着た、見るからに軟派な雰囲気を漂わせた男性が貼りついた笑いを浮かべています。
そう、要するに
真は性別を偽ってホストクラブで働いていました。
私の中の何かにヒビが入りました。そして、一度割れてしまったらもう取り戻すことができない何かが。
真、あなたには失望したわ。あれだけ、女の子になりたいって言っていたじゃない。
それを諦めて、仮にも元アイドルがこんな場所で働いているなんて……。
「お客様初めてですね。ご指名は?」
「……菊地、ではなくて平田さんとお話がしたいのだけれど」
「平田ですね!当店のナンバー1ホストを選ぶなんてお目が高い」
「……」
「ですが、今は生憎、外出していて戻るのがいつになるか」
「……そうですか。では、少しお頼みしたいことがあるのですが」
萩原家が893なのは公式なの?
「春香、あなたはやはり立派だったわ……。
こんなに辛いことを、あなたはたった一人で、私にも愚痴をいわずに頑張っていたのね」
誰もいない路地裏で、独り言を呟きました。
──千早ちゃん!私たちまた一緒にアイドルやれるよ!
別れを告げた春香の笑顔が浮かびます。
私も、なんだかんだいって春香に依存していたのかも知れません。
凍えるような寒さの中、私は暗がりでひたすら真を待ち続けていました。
「寒いわ……」
必死で手を擦り合せて暖をとります。もうかれこれ2時間ほど立ち尽くしています。
私はあの後、大急ぎで1通の手紙を書きました。
春香のこと、私のこと、あずささんのこと、律子のこと、我那覇さんのこと
伝えたいことは全て書き示したつもりです。そして最後の一行に、こう強く、私にしては濃い字で書きました。
『──もし、あなたにアイドルへの、765プロへの愛着が少しでも残っているのなら。二人きりで話がしたいです。』
本当は、もう愛想を尽かしたフリをして帰りたかった。
けれど、心の中で春香と約束をしました。私が、春香に代わって765プロのみんなを説得すると。
>>500
893じゃなくて建設業者
公式で雪歩が社歌を歌ってる
あいむれいでぃー
真、あなたは今どんな気持ちでいるの?
二人で過ごした日々が思い起こされます。
「うーん……」
「真、何を悩んでいるの?」
「いやぁ、千早ってやっぱり女の子だよね」
「今まで男になったことはないけれど」
「だってさ、ボクが男に見られるのって胸が無いせいなのかなぁって。
髪だってこうやって伸ばしたのに、未だに女の子のファンしかつかないし……」
……思い出すシーンを少々間違えました。
「千早!一緒にダンスレッスンしようよ!」
「えぇ、いいわよ」
「やーりぃ!」
あのときは、さっき出会ったような誘惑的な笑いしかしない真ではなく、無邪気な笑顔を見せていました。
あれから数年しかたってないのに、私たちは随分と変わってしまいました。
あの頃の思い出は二度と返ってこないのでしょうか。プロデューサー……。
さらに1時間が過ぎました。体の芯が冷え切って体が小刻みに震えはじめてきました。
もう諦めよう……。
そう思った矢先、革靴が鳴らす、足音がコツコツ、と鳴りました。
「……真……なの?」
>>524
ちょっと屋上来いよテメー
私の目の前に現れたのは……先ほどのドリクラで見かけたホストの4人組でした。
何かイヤらしい笑みをニヤニヤと私に向けています。
「伝言頼まれたよ。これから女の子との接待だから、そんなことしてる暇無いってさ。」
「………」
「写真もあるよ」
デジタルカメラに収められた写真を1枚私に見せました。
みると、真がピースをしながら女性とシャンパンを呑んでいる光景が映っていました。
……真、あなたとは二度と会うことは無いでしょうね。
「わざわざ伝えに来てくれて、ありがとうございます。それでは私はこれで」
ギリギリで無表情を保ち、深いお辞儀をして、私はその場を立ち去ろうとしました。
一刻も早く、こんな街から抜け出したい。
「ちょっと待ちなよ」
私の右腕を強く握られ、強引に制止させられました。
「君ってさ、賢そうに見えて案外マヌケだよね。こんな真夜中に、誰も来ないような場所で待つなんてさ」
「えっ……」
ちーちゃんレイプ期待
_,,,-‐、_ノ)
ヾ'''" ⌒゙ヽ、
r''" ''ヾ、
i(__..'´ ゝ
|ヽ し
〈 (
、_/ ゝ
ヽ、 .{ ノ( /( /)/(/ /⌒l ´し
ヽ、〈 (/、,,_( ノ_;;;;三''`、 .)`i.| )
ヾ、`;Yr::ヶ,、 '-`="' 、ノ .|、_/ (_,,)
`ー{ ~~´ノ ヾ、| ヾ、/‐ 、_
ヽ (⌒ ) 、 ヾ彡\__ツ:::::::::::::::`ー、
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「痛いです。離してください」
必死に手を振りほどこうとししますが、男性の力にはさすがに敵いません。
「話聞いたらさー。君、アイドルなんだって?どおりで可愛いね」
「だけど、困るよ。こっちも商売なんだからさ。
うちのナンバーワンホストを引き抜きされちゃたまったもんじゃないよ」
「こうしてデジカメも持ってきた意味わかる?」
「どうしよっか。さすがにここだと途中で凍死しちゃうよね」
一体何を言っているの?この人たちは……。
寒いという理由からだけではなく、私の歯が震えて、カチカチと鳴りました。
「ンー!ンー!」
口と鼻にガムテープを貼られて、無理やり倉庫に押し倒されました。
アスファルトが冷気で凍りついていて、素肌に当たる部分がヒリヒリと痛みます。
「ンー……」
い…息が…
「おい、両方ふさぐヤツがいるかよ」
乱暴にガムテープを1枚剥がされました。
粘着質が肌を刺激して、鈍い鈍痛が絶え間なく起こりました
この人たち狂ってる……
「あ、泣いちゃった」
全員で集まるその日まで、涙は流さない、絶対に泣かないと決めたのですが
恐怖で思わずポロポロと涙がこぼれ床に点々と染みができました。
た、助けてください……お願いです……プロデューサー……
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