岡部「まゆりに人質にされた……」(162)

―幼い日の記憶―

まゆり「ねぇ、オカリン」

岡部「ナンだよ、まゆり」

まゆり「オカリンとずーっといっしょにるには、どうしたらいいのかなぁ」

岡部「はぁ?」

まゆり「まゆしぃは、いっしょーオカリンといっしょにいたいのです」

岡部「いっしょ、っていってもなぁ……」

まゆり「まゆしぃは、ほんきなのです!」

岡部「ん~……」ポリポリ

まゆり「……」ジーッ

岡部「じゃあさ――」

―2010年 8月7日 PM05:04 大檜山ビル2F:未来ガジェット研究室―

ダル「溶ける~っ」ガラッ

紅莉栖「こら橋田、虫が入って来るでしょ」

ルカ子「凶真さん、遅いですね」

ダル「そういえば、オカリン、今日はずっと見かけてないなぁ」

フェイリス「でも今日のお昼頃ニャン? 例のメール」

鈴羽「『ラボメンに大発表があるから』って、何なんだろうね」

紅莉栖「どうせ、いつもどおりロクでもないことに決まってるわ」

ダル「まゆ氏もいないし……。どしたんだろ」

―8月7日 PM05:22 大檜山ビル2F:未来ガジェット研究室―

ルカ子「だから……ボク……、そういうのはちょっと……」

鈴羽「いいじゃ~ん! 女の子同士なんだしさ!」

ルカ子「だだ、だから、ボクは男の子で……」

ダル「だがそれがいい」キリッ

フェイリス「女の子よりカワイイ顔してるニャ~……。何なら、この予備のネコ耳を……」

紅莉栖「もう、あんまり漆原さんをいじめちゃ可哀想でしょ」


チャーチャー チャラララー チャララ~♪ チャララーラーラーラーラララー♪


紅莉栖(ん? この着メロ……)

ダル「あれ? これ、オカリンの携帯じゃん」

紅莉栖「ここに忘れてったの? バカね、あいつも」

♪~

紅莉栖「ん。今度は私だ」カチャッ

紅莉栖(まゆりからだ……。件名、『人質』……?
     しかも、これ、本文がない……)

紅莉栖(あ、でもファイルが添付されてる……)



紅莉栖「――なッ!?」

紅莉栖「ちょ、橋田ッ! こ、これ!」

ダル「どしたん、牧瀬氏? そんなに血相変えて……」

紅莉栖「いいから、こ、これッ! この写メ見てッ!!」

ダル「ん~? ――うわッ!?」

鈴羽「ん、どしたの?」

フェイリス「どうかしたのかニャン?」

ルカ子「牧瀬さん……?」

紅莉栖「お、お、岡部が……岡部が……」プルプル

ダル「ま、牧瀬氏、お、落ち着いてっ!」

紅莉栖「……こ、これ……」

スッ

鈴羽「お、岡部倫太郎ッ!?」

フェイリス「な、な……キョ、キョーマ……?」

ルカ子「……」フラッ

鈴羽「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」ガシッ

ルカ子「……す、すみません……、阿万音さん……」

フェイリス「こ、これ……間違いない。キョーマニャ……」

紅莉栖「ど、どういうことッ!? な、何で岡部がこんなに血だらけになってるのッ!?」

ルカ子「……」ガタガタ

鈴羽「……この出血量……。この程度だったら、まだ生きている可能性が高い……」

フェイリス「フェイリスもそう考えてたニャ……。今なら、まだ助かるニャ……!
       クーニャン、これ、誰からのメールなのニャ!」

紅莉栖「……ま、まゆりのアドレスから……」

鈴羽「椎名まゆり!?」

フェイリス「ま、まゆしぃからニャ!?」


~♪


紅莉栖「ッ!?」

フェイリス「ん? ま、またメールニャ!」

紅莉栖「ちょ、ちょっと携帯いいッ!?」

フェイリス「う、うん、はいニャ」

紅莉栖(ま、まさか……)

カチャッ

紅莉栖「ま、また、まゆりからだ……っ!」

紅莉栖「件名……『トゥットゥル~♪ まゆしぃ☆です』」

まゆり『オカリンはまゆしぃの一日人質となったのです。
    人質には人権がないので、明日の午前9時までに見つけ出してくれないと、
    オカリンは死んでしまいます。
    だから、ラボメンのみんなにはオカリンを探し出してほしいのです☆
    がんばってね?
    それじゃあ、みんな、トゥットゥル~♪』

―同日同刻 某所―

まゆり「これでよしっ。後は電源を切ってっ、と」

岡部「……ムググ」

まゆり「どうかなぁ、オカリン。みんなここに来れると思う?」

岡部(……来ないと……困る、な……)

まゆり「できれば……まゆしぃは来てほしくないのです」

岡部(……まゆり……)

まゆり「もう準備はできてるしなぁ……」

岡部(……もうラボメンに賭けるしかないのか……。
   頼んだぞ……、クリスティーナ、ダル、みんな……)ガクッ

まゆり「ねぇ、オカリン?」ニコッ

―同日同刻 大檜山ビル2F:未来ガジェット研究所―

紅莉栖「ともかくッ! まゆりは本気よ!
      何とか明日までに岡部の居場所をつきとめないと!」

ルカ子「……で、でも……ど、どうやって……」

鈴羽「こういうときは、冷静さを失ったら負けだよ、二人とも」

フェイリス「そうニャン……。タイムリミットまで後、半日以上あるニャ。
       それに幸い、まゆりの行動範囲はある程度絞られるニャン」

紅莉栖「そ、そうね……」

紅莉栖「……私としたことが取り乱したわ。ごめんなさい」

鈴羽「あたしは早速、MB使って、この秋葉で聞き込みするよッ!」

フェイリス「フェイリスは電気街のお店のネットワークを
    活用してみるニャン!」ピポパポピ…トゥルルルルル

フェイリス「……あ、パパ? ……実はお願いが……」

ダル「僕とルカ氏は、中継役をしつつ、オカリンの実家に行ってみるお。
    いいかい、ルカ氏?」

ルカ子「はい……ボクにお手伝いできるなら、やらせて下さい……!」

紅莉栖「橋田、私は池袋のまゆりの家に行ってみる。
     ……少なくとも、何か手がかりがある筈だわ」

ルカ子「凶真さん……大丈夫でしょうか……ウッ、グスッ」

ダル「さっきのメールを信じるしかないかな……。
    取りあえず、身体の危険はないと思われ」

紅莉栖「漆原さん、不安なのは私も同じ。でも、今は足をすくめている場合じゃないわ」

ルカ子「……は……はい……!」

ダル「それじゃあ皆の衆、散開! 何か新しい発見があり次第、僕に連絡して。
    さっきも言ったように、みんなに中継するお!」

鈴羽「オッケーッ! 進展あったらヨロシクッ!」ダッ

フェイリス「……うん……そう、この前の白衣を着てた人……」クイックイッ

ダル(フェイリスたん?)

フェイリス(筆談)『確かに、ここにいても埒があかないニャ。
           フェイリスは中野の方にも行ってみるニャン』

紅莉栖(待ってて岡部……、絶対に見つけ出してみせるわ……。何としても……ッ!)


【岡部倫太郎死亡まで、残り15時間18分】

―8月7日 PM05:31 大檜山ビル(※2F:未来ガジェット研究室)前―

♪~

ダル「あ、もうメール来た」

鈴羽『岡部らしき男の目撃者あり。詳細は追って報告』

ダル「阿万音氏、仕事早ッ!……秋葉のジェバンニとは君のことだ」

♪~

ダル「また来た」

フェイリス『キョーマの特徴を秋葉中のお店に教えたニャン。続けて中野に向かうニャ』

ダル「さすがフェイリスたんっ! ってか、みんな行動力ありすぎだろ常考……」

ダル「……しかし、さっきは『散開!』とカッコよさ気に決めたケド、
    オカリン家は自営業だから、軟禁されてるとは考えにくいんだよなぁ。
    ……ねぇ、ルカ氏、どう思う?」

ダル「……って、アレ? ルカ氏?」

ダル「る、ルカ氏? お~い……。どこ行っちゃったんだろ……」

―同日同刻 大檜山ビル横の路地―

ルカ子「き、桐生さ~ん……!」タッタッタッタッ…

萌郁「……」

ルカ子「き、桐生さん、ハァ、ハァ、た、大変なんです……」

萌郁「……」カタカタカタカタカタカカタカタッ……ピッ

♪~

ルカ子「いつも通り、ハァ、ハァ、ケ、ケータイで……話すんですね……?」カチャッ

萌郁『どうしたの、漆原さん? そんなに急いで(´・ω・`)
    私、用事が終わったから、これからラボに行こうと
    思ってたんだけど( ´∀`)σ)∀`)』

ルカ子「実は……、きょ、凶真……岡部さんが……、さらわれたんです……!」

萌郁「! どういう……こと……?」

ルカ子「まゆりちゃんが……、岡部さんをさらって……
     明日の朝9時までに見つけないと殺す、って……」

萌郁「……本当……?」

ルカ子「だから、今、ラボメン総出で探している所なんです……」

萌郁「……」カタカタカタカタカカタカタッ、ターンッ!

萌郁『信じられない話だけど、そういうことだったら、私も力を貸すよ!\(`・ω・´)』

ルカ子「あ、ありがとうございます……!」

萌郁「……」カタカタカタカカタカタッ

萌郁『早速なんだけど、私、心当たりがあるの( ̄ー ̄)vニヤリッ』

ルカ子「えっ?」

萌郁「……」カタカカタカタッ

萌郁『ついてきてε=ε=ε=ヘ(* - -)ノ 』

ルカ子「は、はいっ!」

―同日同刻 JR中央線 車両内―

フェイリス(女の子。青いワンピースと青い帽子をかぶった、身長150cmくらいの女子高生。
       「トゥットゥル~♪」が口癖。ショートヘアでほわほわした感じ)

フェイリス(男。身長180cmくらいのヒョロッとした体型で、20歳前後の大学生。
       髪がボサボサで、急に「フゥーハハハ」と高笑いをあげる)

フェイリス(これで、秋葉原100万の目はキョーマとまゆしぃに向いたニャ……。
       ――あとは、この網に魚がかかるのを待つだけ)

フェイリス(でも……、これはあくまで『まゆしぃとキョーマが今日アキバにいた』という
       前提あっての措置ニャ……)

フェイリス「……」

フェイリス(え~い、フェイリス! らしくないニャ! 得意の推理で考えるニャ!
       二人がどこにいるのかを!)

フェイリス「う~ん……」

女子高生A「……この顔文字でいいかな? 怒ってそうな感じしないよね?」

女子高生B「これにするとツンデレっぽくならない?」

女子高生A「あははは、そうだね……じゃあ……」

フェイリス(……ッ!)キュピーンッ!

フェイリス「これはダルニャンにメールニャ!」カチャッ!

フェイリス『ねぇ、ダルニャン、おかしいと思わないかニャ?』

ダル『おかしい? 何が?』

フェイリス『まゆしぃがあんなことするのは変ニャ』

ダル『でもそれ、僕に言われてもなあ』

フェイリス『何か裏があるニャ』

ダル『まゆ氏は、オカリンと幼なじみだし、
    何か僕たちには分からない事情があるんじゃない?
    ああ、幼なじみ……何て快い響きなんだ……』

フェイリス『ダルニャン、今は緊急事態ニャ。ボケと勘違いは後にするニャン』

ダル『すみません』

フェイリス『フェイリスはこれからアキバに戻るニャ』

ダル『へ? なんで? 中野は?』

フェイリス『フェイリスはピピーンと来たニャ』

フェェイリス『そもそも、どうして、まゆしぃは、キョーマを探させようとするのニャ?』

フェイリス『もし、これがふつうの殺人犯だったら、いついつまでに探し出さなければ殺す、
       なんて回りくどい条件をつけたりしないニャ。さっさと殺すニャ。
       しかも、タイムリミットは午前9時。中途半端すぎる時間ニャ……』

ダル『さ、さすがフェイリスたん! もはや「バーロー」と言っても違和感なしだお!』

フェイリス『つまり、理由は分からニャいけど、まゆしぃは、自分たちを
       見つけてほしいんじゃないかニャ。つまり、ツンデレみたいなものニャ』

ダル『へ?』

フェイリス『そうじゃなきゃ、わざわざあんなメールを送ってくる道理がないニャ。
       今日、ラボメンをラボに全員集めたのも、
       ラボメン総出で探し出させるためだとしたら……』

ダル『でも、そんな隠れんぼみたいなことしたって意味がないんじゃ?』

フェイリス『そう、これは多分、そういう「ゲーム」なのニャ』

ダル『ADV?』

フェイリス『「SAW」とか「CUBE」みたいなもんニャ』

ダル『映画はあんま観ないからなぁ』

フェイリス『要するに、命がけのデスゲームってことニャ。
      だから、あえて最初に、ゲーム開始の合図と、ルールを宣言したのニャン。
      そして、ラボメン全員とその「ゲーム」で勝負をしようとしているニャ』

フェイリス『そして、そんな全力で戦いに来てる人間なら、
       遠くに隠れるなんて、姑息な真似は絶対にしないニャ』

ダル『さ、さすが雷ネットで鍛え抜かれた勝負師の勘だお!
    すごい、すごいよフェイリスたん!』

フェイリス『相手の心理を読むのは基本中の基本ニャ』

フェイリス『そして、フェイリスの勘は、まゆしぃがキョーマを殺そうとする理由が、
       その辺りにあるとささやいているのニャン』

ダル『何だか今日のフェイリスたんは、萌えというより燃え属性だお……』

フェイリス『……いずれにせよ、今夜中に見つけないとマズいことになるニャ……』

フェイリス(キョーマ……)

―8月7日 PM05:42 大檜山ビル(※2F:未来ガジェット研究室)3F―

ルカ子「……3階に来たけど……部屋、だれも、いませんね……真っ暗だし……」

萌郁「……」カタカタカタカタカタカカタカタッ

萌郁『灯台もと暗しっていうから、てっきりここかと思っちゃった(^^;)ごめんね(_ _;)』

ルカ子「いいんです。ボクも、ごもっともだと思いましたし」

萌郁「……」タカタカカタカタッ

萌郁『優しいんだね(*^-^*)』

ルカ子「いえ……そんな……」カァッ

萌郁「……」カタカタカタカタカタカカタカタッ

萌郁『4階から上はあがれないようになってるから、ここじゃなければ違うねぇ(´д`)』

ルカ子「あの、じゃあ、ちょっとラボに寄ってくれませんか?
    ……妖刀五月雨を置いてきてしまって」

萌郁「……」コクリ

―8月7日 PM05:44 大檜山ビル2F:未来ガジェット研究室―

ガチャッ

ルカ子「あ……、橋田さん」

ダル「ルカ氏! さっきは急にいなくなったからびっくりしたよ。どこ行ってたん?
    あれ、桐生氏もいる。今日は用事があったんじゃなかったの?」

ルカ子「ボクは、桐生さんを見つけて……、思わず走って迎えにいっちゃったんです。
     桐生さんの方は、用事が早く終わったそうで」

萌郁「……」カタカタカタカタカカタカタッ

萌郁『椎名さん何でこんなことしちゃったの(; _ ;)』

ダル「今のとこ手がかりなしだお」

ルカ子「橋田さんは……、外に行かなかったんですか……?」

ダル「うん。ちょっと気になったことがあって」

ルカ子「気になったこと……?」

ダル「う、うん。実は今、警察のデータベースにハッキングしてるんだけど」

ルカ子「け、警察……ですか……!?」

萌郁「……」カタカタカカタカタッ

萌郁『橋田君、すごいっ><』

ダル「僕は、SERNの防壁を突破した漢だぜ?」キリッ

ルカ子「でも、警察は、よくないんじゃ……」

ダル「そりゃそうなんだけど、嫌な予感がしてさ」

萌郁「……岡部君のことね……」

ダル(キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!)

ダル「……傷害事件とか、妙な事件とか、この辺りで起きてないかなって思ったんだ。
    オカリンと関係あるかもしれないだろ?」

ルカ子「……傷害……事件……」

ダル「大丈夫大丈夫。今の所、それらしい事件は起きてないみたいだから」

ルカ子「他の人は、今どうしてるんですか?」

ダル「フェイリスたんは、中野に向かってたんだけど、色々あって秋葉に帰ってくることに。
    阿万音氏は、街の人に聞きこみしつつ、オカリンが行きそうな所を洗ってくれてる。
    牧瀬氏は、池袋に向かってる所」

ルカ子「凶真さんのこと、何か分かりましたか……?」

ダル「今のところ……、手がかりらしい手がかりはゼロ」

ルカ子「……そう、ですか……」

萌郁「……」カタカタッ

萌郁『\(^o^)/』

ダル「終わってないっつーの!」

ルカ子「じゃあ、ボク、また探して来ますっ!」

萌郁「……」カタカタカカタカタッ

萌郁『私も行くわ、漆原君』

ダル「ねぇ、ルカ氏、桐生氏、一応、オカリン家に行ってみてくれないかな。場所は――」

―8月7日 PM06:05 池袋 椎名まゆり自宅―

紅莉栖「ごめんくださーい……」

紅莉栖(灯りが点いていない……。ドアは……)

ガチャッ

紅莉栖(か、鍵もかかってない!?)

紅莉栖(部屋は真っ暗ね……。取りあえず、電気を……)

パッ

紅莉栖(ん? 机の上に紙切れが……)

紅莉栖(まゆりの字だ……ッ!!)

まゆり『クリスちゃん、残念だったね~。オカリンはここにはいないのです。
     でも、せっかくだからヒントをあげちゃいます。
     オカリンは、オカリンの家にもいないよ~☆』

紅莉栖「な、何で、私がここに来ることを……」

紅莉栖(いや、待てよ……。
     そもそも、まゆりの家を知っているのは、岡部を除けば、
     橋田と私だけだ……。橋田は秋葉に詳しい。岡部を探しに来るとしたら、
     消去法で自動的に私になる可能性が高い……)

紅莉栖「あの子……、こんなに頭のキレる子だったんだ……」

紅莉栖(これからどうしよう? 私がここに来ることを予測していたとしたら、
     致命的な証拠は残すような真似はしていない筈……)

紅莉栖(でも、念のため調べてみる価値はある。あれだけの出血量だったんだから、
     この家に岡部がいた、あるいはいるのなら、何か痕跡があってもおかしくない。)

紅莉栖(時間は無駄にできないけど……慎重に調べてみよう……)

紅莉栖(おっと、その前に。……万が一のときのために、
     橋田に現状を報告しておかなきゃね)カチャッ

紅莉栖(でも……仮にここにも、岡部の家にも何もないとしたら、まゆりは一体……)


【岡部倫太郎死亡まで、残り14時間49分】

エル・シエン・コングルゥ

―8月7日 PM07:47 秋葉原某所―

鈴羽「ハァ、ハァ、ハァ……。ここもダメだったかぁ……。え~っと」カチャッ

鈴羽(橋田至に教えてもらった、椎名まゆりが行きそうな場所……)

鈴羽(とらのあな……メロンブックス……メッセサンオー……K-BOOKS……
    ゲーマーズ……コスメイト……サンボ……メイクイーン+ニャン2他色々……
    もう全部行っちゃったよ)

鈴羽「オカリンおじさんが行きそうな所はもう全部探したし、
    街行く人たちにも片っ端から話、聞いたしなぁ……」

鈴羽(確かに――オカリンおじさんが『今』死ぬことは、この世界線ではありえない。
    でも、それは逆に言えば『死ねない』ということでもある。
    拷問を受けているのなら、必ず助けなきゃ……!)

鈴羽(でも、どうして、この世界線で、椎名まゆりがオカリンおじさんを殺そうとするんだろう。
    いくら世界線にゆらぎがあるからといって、こんな極端な事件が発生するの?)

鈴羽(……もしかして、SERNが何らかの形で関与しているのかもしれない……)

鈴羽「とにかく、もっと目撃情報をつかまなきゃ!」ガチャッ!

鈴羽(待っててね、オカリンおじさん!)キキーッ

ドンッ

鈴羽「ぐはっ!」

??「おーい、大丈夫かー」

鈴羽「う~ん……」

鈴羽「……う……あ痛たたた……」

??「急に飛びだして来るんじゃねぇよ」

鈴羽「そっちがぶつかって来……て、店長っ!?」

ブラウン「お前が猛スピードで突貫してきたんだろうが。
      本気でやっちまったかと思ったぞ」

鈴羽「いや、あたし、思いっきり吹っ飛んだんだけど……」

ブラウン「ケガはねぇか?」

鈴羽「うん、平気みたい。とっさに受け身とったから頭も打ってないし」

ブラウン「んで? なんであんなに急いでたんだよ」

鈴羽「そ、そう! それがさ! 岡部倫太郎が大変なことになってるんだよ!」

ブラウン「岡部ぇ? アイツの脳ミソはいっつも大変なことになってるじゃねぇか」

鈴羽「上手いこと言ってる場合じゃないんだよ、店長!」

ブラウン「……何があった……?」

鈴羽「――というわけなんだよ!」

ブラウン「穏やかな話じゃねぇな」

鈴羽「だから、秋葉で聞きこみをしてるんだけど、全然情報がなくって……」

ブラウン「信じられねぇぜ。まさかあのお嬢ちゃんがな……」

鈴羽「すでに椎名まゆりは、洗脳されてるのかもしれないんだよ!」

ブラウン「まぁたお前、そんなことを……。
      まぁ、非常事態には変わりねぇみたいだな」

鈴羽「店長、岡部倫太郎と椎名まゆりのことで、何か心当たりない?」

ブラウン「う~ん、ねぇなぁ……」

鈴羽「そっか……」

鈴羽「あ! じゃあ、店長、聞きこみ手伝ってよ!」

ブラウン「バイト、それを先に言うんじゃねぇよ」

鈴羽「は?」

ブラウンが「俺の方から、『ここは俺にも手伝わせな』ってキメる……。
       それが、男らしくていいんじゃねぇか」

鈴羽「て、店長……! あたし、見直したよ!」

ブラウン「お前なぁ、俺をふだんどんな目で見てんだよ……」

鈴羽「よしっ! あたし、ここいらをもう一周してくるよ!」ガチャッ

ブラウン「ああ、俺はちょっと遠くの方まで行ってみるぜ」

鈴羽「サンキュー! 店長ッ!」

ブラウン「ちゃんと前見て漕がねぇと、またはねられるぞ」


【岡部倫太郎死亡まで、残り13時間01分】

―8月7日 PM010:28 大檜山ビル2F:未来ガジェット研究室―

ダル「……」

紅莉栖「……」

フェイリス「……」

ルカ子「……」

萌郁「……」

鈴羽「……」

紅莉栖「全員、何の手がかりもなし、か……」

ダル「みんなも揃ったことだし、念のため情報の突き合わせでもしてみる?」

紅莉栖「そうね……」

ルカ子「凶真さんの家は、ご両親がいて……。昨日の夜から帰ってないそうです……。
     ご厚意で、部屋も調べさせてもらいましたが……」

萌郁「……すっぱい臭いがしただけだった……」

ルカ子「その後は、秋葉原を回ってみました……」

萌郁「……でも、情報は見つからず……」

鈴羽「あたしはひとつ。……今日の午前中に、ラジ館の近くで椎名まゆりを見た人がいた。
    ……でも、それだけ……。今も、店長が聞きこみをしてくれてるけど……」

紅莉栖「私は、みんなに見せた、この紙切れだけよ。部屋に争った形跡はなし。
     血痕もなかったわ。その後は、まゆりの家の近くで聞きこみをしてみた。

紅莉栖「確かに、8朝頃にまゆりを見たって人はいたわ。でもそれ以降はぷっつり」

ダル「僕の方もダメだったね。オカリンに繋がりそうな事件は何も。
    秋葉原は今日も平和ですた。一応、ネットで情報は募ってるけど……」

紅莉栖「で、この岡部の携帯か……」

萌郁「……岡部君の携帯……?」

紅莉栖「ああ、桐生さんは遅れてきたから知らないんだっけ」

萌郁「……?」

紅莉栖「今日、一番始め、みんなが集まったときに岡部に着信があったの。
     それが気になったから見てみたら、このメッセージが出てきたわ」

まゆり『トゥットゥル~♪ まゆしぃ☆です。この携帯を調べているということは、
     みんな手詰まりになったのかな? 時間的に、まだオカリンは死んでないと
     思うので、みんながんばってね。それじゃ、トゥットゥル~♪』

フェイリス「……完璧に手札を読まれてるニャ……」

鈴羽「くっ……!」

萌郁「……」カタカタカタカカタカタッ

萌郁『そのメール、私がラボに来る前に来てたの( ̄□ ̄;)!!?』

紅莉栖「そうよ……」

萌郁「……」カタカタカタカタカカタカタッ

萌郁『他にまゆりさんからメールとか着信とかは(?_?)』

紅莉栖「何も。そもそも、他に誰からもメールも電話も来てないわ」

萌郁「……さびしい……」


♪~

フェイリス「あ、フェイリスニャ!」ピッ

フェイリス「もしもし、パパ? ……そう……うん……。
       そっか……分かった。
       うん……、ありがとう、じゃあね……」ピッ

ダル「フェイリスたん?」

フェイリス「……今日、電器店で二人を見かけたっていう
      情報はなかったニャ……」

鈴羽「……」

ルカ子「……グスッ」

紅莉栖「漆原さん、泣かないで……」

萌郁「……」

ダル「……詰んだ……」


【岡部倫太郎死亡まで、残り10時間37分】

―8月8日 AM08:02 大檜山ビル2F:未来ガジェット研究室―

ダル「……もう後、1時間しかないぉ……」

紅莉栖(もうみんな疲れ切ってる……。
     もう9時間くらい探しつづけてるんだもんね……。当然だわ……)

紅莉栖(あれから、やっぱり行ってみるって言って、フェイリスさんが橋田と中野に行って……)

紅莉栖(桐生さん、漆原さん、私は三人で、範囲を広げて探索と聞きこみをして……)

紅莉栖(鈴羽さんはMBで遠くまで探してもらって……)

紅莉栖(ブラウンさんは綯ちゃんの世話があるから途中でリタイア……)

紅莉栖(みんな、休息を取りつつ探し回ったとはいえ、これだけの時間聞き回って、
     もう体力的にも限界な筈……)

紅莉栖(こんなとき、岡部なら何て言うだろう……)

岡部『フゥーハハハハハハーッ! この程度で思考停止かぁ? クリスティーナ?
    俺ならこの程度の事件を解決することなど、赤子の手をひねるようなものっ!
    天才脳科学者と言っても、所詮は単なるセレセブに過ぎなかったようだなっ! 

    フゥーハハハハハハーッ!』

紅莉栖(――とでも言うんだろうなぁ……って、想像したら、何かムカついてきたわ……!)

紅莉栖(ここで考えるのをやめたら、岡部に負けた気がするな。
     っていうか、負けてないのに勝ち誇られる姿が目に浮かぶわ……。
     あ~、何だか無性に憎たらしいっ!)

紅莉栖(そうよ……! 岡部だって、そんな虚勢をはるんだ。
     この私がこんなことで諦めるわけにはいかない!
     もう一度初めから考えるんだ!)

紅莉栖「ねぇ、みんな」

紅莉栖「もう時間がないわ。最後にもう一度だけ、今までの情報をまとめてみない?」

ダル「でも、結局、有力な情報は見つからなかったし……」

フェイリス「色々と知恵を合わせたけど、結局どこにもいなかったニャン……」

紅莉栖「端的に言うわ。もう一度だけ、私にチャンスをちょうだい。
     みんなの証言から、必ず、岡部の居場所を導き出すから!」

ルカ子「牧瀬さん……」

鈴羽「牧瀬紅莉栖……」

萌郁「……自信はあるの……?」

紅莉栖「あるわ。いや、あるとかないとかじゃない。私が解答を出してみせる!」


【岡部倫太郎死亡まで、残り47分】

紅莉栖「まず、岡部が昨日実家に帰っていない、ということから、
     ラボに泊まったのは、おそらく間違いないわ」

鈴羽「それから、午前中、おそらく9時頃に、椎名まゆりが現れた」

フェイリス「キョーマをやったのはおそらくそのときニャン」

萌郁「……その次にラボに来たのは……」

ダル「僕だね。3時くらいかな。それから、30分くらいして、牧瀬氏が来た」

紅莉栖「つまり、犯行時刻は、午前中から午後3時の間」

ルカ子「それから、二人は、この秋葉原では目撃されていません……」

フェイリス「ということで、このビルにいる可能性を考えたけど――」

萌郁「このビルの他の階に人がいないことは、私と漆原君が確認している」

紅莉栖「……」

紅莉栖(……考えろ、考えろ私! 何か、何かを見落としてるんだ!)


ブルルルルル……キッ


鈴羽「あ、この車の音、店長だ。心配して、早く来てくれたんだよ、きっと」

ガチャッ

ブラウン「お~い、バイト~!」

ダル「あ、ミスターブラウン」

ブラウン「おお、橋田。どうだ、首尾は。岡部は見つかったか?」

ダル「それが……まだなんだ……」

ブラウン「そうか……。まぁ、まだ時間はある。最後まで諦めないで探してみろ」

ダル「でも、もう探し尽くした感は否めないんだよ……」

ブラウン「街を隠れながら、あっち行ったりこっちに戻ったりしてるかもしれないだろ。
      ともかく、まずは行動だ行動。人間、足と筋肉だ」

ブラウン「取りあえず、俺は下にいる。
      また何か手伝えることがあったら、言ってくれ」

ダル「さ、さすがミスターブラウン、漢気溢れる背中にぞくぞくくるぜ!」

ブラウン「へっ、褒めても家賃はまけねぇぞ。じゃぁな」

バタン

紅莉栖「……!」

ダル「あれ? 牧瀬氏、どしたん、そんなに呆然として」

紅莉栖「……」

ルカ子「牧瀬さん……?」

紅莉栖「ちょっと、話しかけないで」

萌郁「……?」

紅莉栖(……そうか……、そういうことだったんだ!
     分かった! 分かったわ! 岡部の居場所がッ!)

紅莉栖「くっ!」ドンッ

フェイリス「く、クーニャン、どうしたのニャ?」

紅莉栖(この私が、こんなことに気づかないなんて……! どうかしてたッ!)

紅莉栖「……鈴羽さん、萌郁さん、ちょっとこっち来てもらっていい?」

鈴羽「何? ここで言えばいいじゃん」

紅莉栖「いいから、こっちへ」

萌郁「……」スッ

鈴羽「分かった分かった、あたしも行くよ」

ダル「牧瀬氏、あっちで何こそこそ話してるん?」

ルカ子「さあ……何でしょうか……。それに……何か様子が、変ですね……」

フェイリス「……」

ルカ子「ふぅ……」グッタリ

フェイリス「ルカニャン、大丈夫ニャ?」

ルカ子「大丈夫です……でも、徹夜なんてしたことないから、ちょっと疲れちゃって……」

フェイリス「かくいうフェイリスもさすがに疲れたニャ……」

ルカ子「まゆりさん……本気、でしょうか……」グスッ

フェイリス「フェイリスだって、まゆしぃがキョーマを殺すなんて信じられないニャ……」

フェイリス「でもフェイリスは、人は簡単に心の闇の呑まれるということも、よく知ってるニャ……」

ルカ子「フェイリスさん……」

紅莉栖「――岡部はそこにいるわ」

鈴羽「ほ、本当ッ!? で、でもそこって……」

萌郁「……信じがたい……」

紅莉栖「二人には、先に行って岡部の容体を見て来てほしいの」

鈴羽「わ、分かった。間違いないんだね?」

紅莉栖「みんなの情報を総合して考えると、導き出されるのは必然的にこの結論よ」

萌郁「……」カタカタカタカカタカタッ

萌郁『牧瀬さんはどうするの?(; ・`ω・´)』

紅莉栖「私には、ここでやるべきことがある」

鈴羽「了解。よし、行こう、桐生萌郁!」ダッ

萌郁「……」ダッ

紅莉栖(……これで、舞台は整った……)


【岡部倫太郎死亡まで、残り39分】

―8月8日 AM08:25 大檜山ビル2F:未来ガジェット研究室―

紅莉栖「三人とも、ちょっと聞いてほしいことがあるの」

ダル「ん?」

フェイリス「何ニャ?」

ルカ子「……?」

紅莉栖「この事件の全貌が分かったわ」

フェイリス「ニャッ!?」

ルカ子「全……貌……?」

ダル「はぁ?」

フェイリス「クーニャン、全貌ってどういう意味ニャ? キョーマの居場所が
       分かったってことかニャ?」

紅莉栖「もちろん。今、阿万音さんと桐生さんに救助に向かってもらってるわ」

ルカ子「よかったぁ……」

紅莉栖「でも、それだけじゃない」

フェイリス「それ以上、何かあるのニャ?」

紅莉栖「岡部を拉致監禁した犯人……、それが分かったの」

ダル「は、犯人って、犯人はまゆ氏でしょっ!?」

フェイリス「……ダルニャンの言うとおりニャ」

ルカ子「……どういうことでしょうか……?」

紅莉栖「そう、もちろん、まゆりが犯人なのは間違いないわ。
     でも、彼女には共犯者がいたの」

ダル・フェイリス・ルカ子「!」

紅莉栖「私たちは、ひとつ、とても重要な点を見落としていた」

ダル「重要な点?」

紅莉栖「岡部とまゆりの体格差よ。あの二人、20cm近くも身長差がある。
     そもそも、まゆりは女の子よ。
     岡部を誘拐、拉致するには、ひとりじゃとても無理がある」

ルカ子「た、確かに……」

紅莉栖「さっきみんなで話したことを思い出しみて。
     阿万音さんが、街の人にくまなく聞いて回ったにもかかわらず、
     誰ひとり二人が一緒にいるところを見ていない……。
     ちゃんと、午前中には、まゆりは目撃されているのによ?」

フェイリス「確かに、犯行現場が、このラボだって可能性はニャくはニャいけど……」

ルカ子「で、でも、あの、ボク……、思ったんですけど……、
     たとえば、まゆりちゃんが凶真さんをどこかに呼び出したとか……」

ダル「うん、それ考えられる。オカリンはまゆ氏に携帯で呼び出されて、
   そこでやられたってのは?」

紅莉栖「変装なんかをして人の目をごまかして? ……いい線だけど、ありえないわ」

ルカ子「ありえない……?」

紅莉栖「岡部の携帯には、今日、誰からも連絡が入ってないのよ。
     ……あの、まゆりのメール以外」

ルカ子「あ、そうか……」

フェイリス「つまり、今日、まゆしぃがキョーマを呼び出すのはムリだったということだニャ……」

ダル「それに、もし、『誰か』がメールや着歴の痕跡を消したんだとしても、    

   結局、それはその『誰か』がこの事件に関わっているということの証明になるってことか」

紅莉栖「そういうこと」

ダル「あらかじめ、待ち合わせてたってのは?
    前もって約束してたとか、あるんじゃね?」

紅莉栖「それこそ、誰かに目撃されてないと妙だわ。
     待ち合わせ場所は人目につきやすいでしょ?」

ルカ子「……人目につきやすくないと、待ち合わせ場所の意味……ないですからね」

フェイリス「クーニャン、フェイリスも疑問があるニャ」

フェイリス「もし、キョーマを刺したのがこの場所なら、血の跡が残ってなきゃおかしいニャ。
       キョーマはかなり出血してた。
       ラボのどこかに血痕がなきゃ変ニャ」

ダル「さすがフェイリスたん!
    そういえば、血ってけっこう飛び散るってエロゲで言ってたお!」

紅莉栖「刺すのはここじゃなくてもできるわ。
     まゆりと共犯者は、岡部を気絶させてから身体を傷つけたのよ。
     相手はモヤシの大学生。二人いれば気絶させるだけなら何とかなるわ」

ルカ子「……もやし……」

            '´  ̄  ̄ ` ヽ、
          、__/ : : : : : )ノ: :ヾ: : : \
.        `7: (: : : : : : : : : : : : :} :)ヽ

         {: : ト; ;ハ,リノ;Y川 } : ノ: : i|

         i::小|    | ノリル: ; j
          从l⊃ 、_,、_, ⊂⊃从ッ》 
        /⌒ヽ、|ヘ   ゝ._)   j /⌒i
      \ 〃::(y;)>,、 __, イァ/、__/

.        \:(y;ノ:::::::::}}::::::::(y;/::::::/
         .ルリゞ::::::((:::::::ルリゞ::::/
綯のでばんは?

紅莉栖「つまり、こういうことよ。
     ひとつ。目撃証言と岡部の携帯から、犯行は、このラボで行なわれた。
     ふたつ。まゆりの体格と力から、この犯行は共犯者がいなければならない。
     そして――」

♪~


紅莉栖「おっと、私か。……もしもし……うん、……ふぅ……、よかった……。
     うん、じゃあまた。私もすぐにそっちに行くわ」ピッ

紅莉栖「……まゆりと岡部が見つかったわ。
     岡部は命に別状ないそうよ。まゆりもおとなしくしてるって」

ダル「ふぅ~、一件落着だお~」

ルカ子「よかったぁ……凶真さん……グスッ」

フェイリス「ようやく安心できたニャ……。
       でも、キョーマは、一体どこにいたのニャ?」

紅莉栖「それは、ここ」ピッ

フェイリス「その指先、もしかして……」

ダル「上の階……」

ルカ子「で、でも……、3階はぼくと、桐生さんが……」

紅莉栖「うん。ここからは、分かりやすいように、時系列で説明するわね」

紅莉栖「まず、まゆりから例のメールが来る。
     ここで、共犯者はさりげなく、全員をこのラボから遠ざけようとした。
     でも、今回は、みんなかなり自発的に動いたから、
     幸運にもそんなことしないで済んだんだけどね」

紅莉栖「で、全員がラボからいなくなった所を見計らって、犯人はここに戻ってくる。
     そして犯人は、岡部とまゆりがいる、このビルの3階に直行した。
     そう、岡部とまゆりは、初めっから3階にいたのよ」

ルカ子「ぼく……二人を、見落としていたんですね……」

紅莉栖「いいえ。ここがこの計画の上手いところよ」

紅莉栖「犯人はこのビルに来てすぐ、漆原さんと桐生さんがやって来る前に、
     3階の岡部を運んで、このラボ、つまり、2階のシャワー室に隠しておいたの。
     もちろん、そこにまゆりも隠れていたのは言うまでもないわ」

ルカ子「そっか……、だから……、3階に誰もいなかったんですね……!」

紅莉栖「犯人は、漆原さんと桐生さんがこのビルから出たのを確認して、
     再び、岡部を3階に運んだ。まゆりも一緒になってね」

紅莉栖「元々、犯人は、どこか適当なタイミングで、誰かに3階を調べさせるつもりだった。
     誰かに一度調べられば、その場所は、もう調べられることはない……。
     3階は『もう調べたから』という先入観から来る、安全地帯になる」

フェイリス「中国の故事か何かに、それと似たような話があったニャ」

紅莉栖「そして、こんなことができたのは、ラボメンの中ではあなたひとりしかいないッ!」

    ――橋田ッ! あなたしかねッ!!」

ダル「――ッ!」ビクッ

ダル「ぼ、僕? 僕は何も関係ないよ」

紅莉栖「ヒントは、ミスターブラウンがくれたわ。
     『街を隠れながら、あっち行ったりこっちに戻ったりしてる』
     もし、この『街』を、『このビル』に置き換えたら……」

フェイリス「ニャるほど。フェイリスにも全部分かったニャ。
      ルカニャンとモエニャンが3階を探したとき、ラボにいたのはダルニャンニャ」

フェイリス「それに、このビルの2階と3階を往復して人目を逃れていたとしたら、
      秋葉中を探し回っても、目撃者を見つけられないのは当然ニャ!」

ダル「で、でも、僕がここにいたのは、たまたま、そう、たまたまルカ氏と
    離ればなれになったからだよ?
    僕は、ルカ氏とオカリンの家を探そうと――」

紅莉栖「ラッキーだったわね、橋田。
     当初の計画では、街中で漆原さんをまく予定だったんでしょ?
     そして、ここに戻ってくるつもりだった」

紅莉栖「あのとき、一番所在なさ気にしていたのは、漆原さんだったわ。
     漆原さんが万が一にも、『このビルを探してみます』とか言い出さないように、
     自分から言いだしてペアを組んだのよ」

紅莉栖「それから、思いがけずひとりになったあなたは、すぐにトリックを実行に移した。
      いつ漆原さんが帰ってくるか、分からないからね」

ダル「だ、だからって、僕が共犯なんてありえないお!
    まゆ氏はオカリンを殺そうとしてる!」

紅莉栖「橋田、もう言い逃れはできないわ。
     あなたの動機は、まゆりが証言してくれる筈よ」

ダル「ぐっ……!」

紅莉栖「さあ、どうなの、橋田ッ!」

ダル「……」

ダル「……すべて……牧瀬氏が言ったとおりだよ……」

フェイリス「ダルニャン……」

ルカ子「橋田さん……」

ダル「天才脳科学者の二つ名に偽りなし……。
    これで、僕の望みも露と消えた……」

紅莉栖「さあ、フェイリスさん、漆原さん、私たちも3階に!」

フェイリス「そ、そうだニャ! キョーマが心配ニャ!」

ルカ子「はい、ついていきます!」


―fake END―

ベトローサルで検索したらこのスレしかでなくてワロタwww

―8月8日 AM08:35 大檜山ビル3F―

紅莉栖「やっぱり、ここにいたのね、まゆり……!」

まゆり「あちゃー、今度はクリスちゃんにまで見つかっちゃった……」

紅莉栖「岡部はっ!?」

まゆり「……あっちだよ」

紅莉栖「奧ねッ!」ダッ

まゆり「はぁ……、まゆしぃは、ちょっぴりがっかりなのです……」

紅莉栖「岡部ッ!?」

岡部「じょ、助手か……」

紅莉栖「岡部……! ケガは大丈夫?」

鈴羽「心配ないよ、牧瀬紅莉栖。というか、その……」

萌郁「……」カタカカタカタッ

萌郁『傷ひとつないんだよ( ̄ー ̄;)』

紅莉栖「は?」

紅莉栖「ちょっ、い、一体どういうこと!?」

岡部「いやぁ、話せば長くなるからな……。
    まぁ、この俺が無事だったということでもう、良しとしようではないか……。
    ファーハハハッァ↓……」

紅莉栖(いつもの痛い雰囲気が消えかかっている……?)

まゆり「ごめんねぇ~、みんな。
     まさか、ここまでぼろぼろになるまで探してくれるなんて思わなくて……」

フェイリス「な、何がどうなってるニャ……?」

ダル「あれは……昨日の朝のことだったお……」

紅莉栖「う、うわぁ!? は、橋田、亡霊のように出てくるな!」

ダル「この一件は、いくつもの偶然が重なった、痛ましい出来事なんだ……」

鈴羽「……痛ましい」

ルカ子「出来事……?」

萌郁「……嫌な予感……」

―8月7日 AM09:25 大檜山ビル2F:未来ガジェット研究室――

まゆり「ねぇ、オカリン」

岡部「あ~? 何だ、まゆり」

まゆり「一回さぁ、人質交換しない?」

岡部「はぁ?」

まゆり「警察でね、一日署長とかあるでしょ?
     それと同じように、オカリンがまゆしぃの人質になるのです!」

岡部「なんだそりゃ……」

まゆり「だめかな? 面白いと思ったんだけど……」

岡部「……ん~……、じゃあ、一日だけだぞ」

まゆり「やったぁ!」

岡部「そんなにはしゃぐことか」

まゆり「えへへ~、実は、こんなものを買ったのです」ゴソゴソ…パッ

岡部「『人質調教日記』」

岡部「通るか、こんなもんっ!」パシーンッ!

まゆり「ああっ! 叩きつけちゃだめだよっ!」

岡部「思いっきり凌辱BL本ではないか!」

まゆり「この本で、勉強したの。人質に人権はないんだって!」

岡部「あるわッ! 同人誌の内容を真に受けるなッ!」

まゆり「えー……」

岡部「『えー』じゃない」

まゆり「うー……」

岡部「『うー』でもない」

まゆり「じゃあ、こうしようよ、オカリン。雷ネットをして、勝ったら人質交換取り消し」

岡部「それは、もし負けたらどうなるのだ」

まゆり「もちろん、人質は続行で、そして、まゆしぃのお願いをひとつ叶える!」

岡部「思いっきり不平等だと思うのだが……」

岡部(ふっ……、まぁ、いいだろう。俺もフェイリスにさんざん鍛えられた身。
    まゆりごときに土をつけられる筈がない)

フェイリスに鍛えられた身だと…フェイリスはMのイメージだったが

ダル「――などと考えたのが、すべての悲劇の始まりだった……」

紅莉栖「で、見事、負けたわけね」

ダル「ボロ負けってレベルじゃねーぞ、って感じだったな」

まゆり「フェイリスちゃんに、色々と教えてもらったから。ありがとう、フェイリスちゃん」

フェイリス「そ、それは、どういたしましてなのニャ……」

鈴羽「それで、どうなったの?」

まゆり「まゆしぃのお願いごとはね、小さいときから変わらないの。
     ずっとずっと、オカリンと一緒にいることなのです」

紅莉栖「なッ!?」

まゆり「まだオカリンとまゆしぃが子どものときにね、オカリンが言ったの。
     ずっと一緒にいたいなら、結婚すればいいんだぞ、って」

岡部「だがな……、そこで貴様が、『じゃあ、婚姻届でも役所に提出してきたらいんじゃね?』
   などと火に油を注ぐからこんなことになったのだ! 聞いてるのか、ダル!」

ダル「リア充に対する、ささやかな復讐心……。きっと神様も許してくれる筈さ……」

萌郁(清々しい顔をしている……)

岡部「で、まぁ、ここからがさらに肝心なのだが……」

岡部「当然のように婚姻届を用意してきたまゆりを、俺はどうにかしなければならなかった。
    おまけに、まゆりが解釈した人質ということで、
    例の薄い本のように手足を縛られた上に猿ぐつわまでかまされた」

まゆり「だって、ダルくんが事細かに教えてくれるから……」

岡部「しかも、この男、『せっかくだから椎名姓にしたら』とまで言いやがった!」

紅莉栖「橋田ぁ~ッ!」

ダル「少し調子に乗った。今は反省している」

岡部「このままでは、岡部倫太郎が、椎名倫太郎になってしまう。
    それだけは避けねばと思ったのだ」

フェイリス「そうか、『オカリンが死ぬ』というのは、岡部倫太郎という人間が
      社会的に死亡する、という意味だったんだニャ~」

ルカ子「確かに、『オカリン』は死んでしまいますね」

萌郁「……シイリン……?」

岡部「俺は役所に行こうとするまゆりを死にものぐるいで止め、その甲斐あって、
    一日待ってもらうことになった。で、まゆりが譲歩したのが――」

まゆり「明日の人質解放までに、みんながオカリンのことを見つけられたら、
     婚姻届は提出しないってことにしたんだ~」

紅莉栖「な、なんで?」

まゆり「まゆしぃは頭を振り絞って考えたのです。オカリンが見つからない方法を。
     でも、もしそれでも見つかったとしたら、それだけみんな、オカリンが
     大好きで、頑張って見つけたってことでしょ?」

まゆり「それなら、まゆしぃだけがオカリンを一人占めしちゃいけないと思ったの」

まゆり「ダルくんにも協力してもらって……。あ、『サイリウム・セーバー』を
     使って血が出てるように見せかけたのは、ダル君のアイデア。
     その方が、みんな本気になるだろうから、って」

鈴羽「……」ポンポン

ダル「?」クルッ

鈴羽「滅ッ!」ゴッ

ダル「ぐはぁッ!」

紅莉栖「でも、それ以外は全部、まゆりが……?」

まゆり「ほとんど全部まゆしぃが考えたんだよ。
    まゆしぃ、ちょっとだけ本気で頑張ったのです」

フェイリス「それにしても、えらく協力的だニャ、ダルニャン」

まゆり「ああ、それはね……」

ダル「ちょっ、まゆ氏、それは言わないでおこう」

まゆり「どうして?
    ……ダルくんからは、フェイリスちゃんの生コスで手を打とうって言われて」

鈴羽「一瞬千撃ッ!」

ダル「ぐふぅッ!」

ルカ子「あぁっ! 橋田さんが、橋田さんがボロ雑巾のようにっ!」

萌郁(……色々すごい……)

紅莉栖「まったく……とんだHENTAIね……」

フェイリス「さすがのフェイリスもドン引きなのニャ」

ダル「男には……無理と分かっていてもやらなければならないときがある……」キリッ

鈴羽「まだ足りないみたいだね」ゴキッゴキッ

ルカ子「でも、すごいなぁ……。まゆりちゃん、凶真さんと一緒にいたいって、
     本気で願っていたんだね……」

ダル「アッー!」

まゆり「えへへ~」

紅莉栖「それにしても、まゆりがこんなに頭のキレる子だとは思わなかったわ。
     ……あ、もちろん、今まで悪かったとか思ってないわよ?」

まゆり「クリスちゃんに褒められると、すご~くうれしいのです」

フェイリス「そうニャ。ラボメン全員、完全に手玉に取られてたからニャ……」

まゆり「そんなに褒められると、まゆしぃは照れてしまいます……///」

萌郁「……」カタカタカタカタカタカカタカタッ

萌郁『もし、もう一度3階を調べてみようって誰かが言い出したら、
    どうする気だったの?(・3・)』

まゆり「え~っと、一番始めに、ダルくんが窓を開けてたでしょ?
     あれでね、ラボの中の会話を聞こえるようにしてもらったの。
     もし、誰かが3階を調べようって言ったら、メールを送るつもりだったんだ」

萌郁「……メール……?」

まゆり「うん、文面はね~、『詰まっているようなので、ヒントをあげちゃいます。
     まゆしぃは今、ホテルにオカリンと一緒にいます』とか……、
     とにかく、ビルから目を逸らそうと考えていたのです」

フェイリス「まゆしぃは、キョーマのことになると、戦闘力が跳ね上がるニャ……。
       まるでサイヤ人ニャ……」

まゆり「もう一生分の頭を使い果たしたような気がするよ~」

岡部「昔から、まゆりは変な所で頭の回転が速いのだ。びっくりするほど遅いかと思えば、
    今回のように超まっちょしぃ化することもある」

岡部「とにかく、助かったぞ助手……。お前の推理は全部聞こえていた」

紅莉栖「へっ?」

岡部「さっき、まゆりが言ってただろう。窓を見て見ろ」

紅莉栖「あ、開いてる……」

岡部「ダルを追いつめてゆく姿は、俺が昔、古畑なにがしという刑事の真似をして
    調子づいていたときのことを思い出させた。
    『――橋田ッ! あなたしかねッ!!』ビシィッ」

紅莉栖「ま、真似するな、この馬鹿!」

岡部「フフフゥ~、貴様も『逆転裁判』で証拠をつきつけるとき、『くらえっ!』とか
    自分で言っちゃってたクチなのだろう? 分かる、分かるぞセレセブゥ~!」

紅莉栖「言うか! あとセレセブじゃないと言うとろうが!」

ルカ子「何だか、凶真さんもいつもどおりに戻ったみたいですね」

萌郁「……それが一番、岡部君らしい……」

まゆり「……ごめんね、クリスちゃん。
    オカリンのために、すっごく一生懸命になってもらって……」

紅莉栖「まゆり……」

岡部「……」

まゆり「……」

岡部「まゆり……」

まゆり「みんなには、とっても迷惑をかけてしまったのです……」

岡部「気にするな。半分はフェイリスのコスに目がくらんだ、そこのHENTAIのせいだ」

まゆり「……」

岡部「それに、昨日から何度も言ってるが……」

まゆり「……?」

岡部「子どもの頃言ったことなぞ気にするな」

まゆり「どうして……?」

岡部「……結婚なんかしなくても……、俺たちはずっと一緒だ」

まゆり「オカリン……」

岡部「……お、お前は俺の人質なのだからなっ!」

まゆり「……うんっ!」


シュタインズ・ゲートSS『消失のベトローサル』 ―TRUE END―

            '´  ̄  ̄ ` ヽ、
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.        \:(y;ノ:::::::::}}::::::::(y;/::::::/
         .ルリゞ::::::((:::::::ルリゞ::::/

という感じで、皆様のお陰で完走できました。
拙作でしたが、支援して下さった方、ありがとうございます。

ちなみに、「ベトローサル」って何?というご質問がありましたが、
これは「betrothal」(婚約)を適当に日本語読みしたものです。

最後になりましたが、お読みいただいた方、重ねてお礼申し上げます。

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