ドラえもん「タイムふろしき~」パンパカパーン (25)



――――――1985年 夏――――――


のび太「タイムふろしき?」

のび太「なあにそれ」

ドラえもん「このふろしきかけると、かけたものの時間を進めたり戻したりすることができるんだ!」ジャーン

のび太「えぇっ!? すごいよドラえもん!」

ドラえもん「ふふふふふ。まあ見ててよ」

ドラえもん「こののび太君の古ぼけた筆箱も……?」ファサッ



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チッチッチッチッチッ……

ドラえもん「ほらっ! この通り」バッ

ドラえもん「あれ?」

のび太「うわぁっ! 僕の筆箱がぁ!」

のび太「ひどいよドラえもん……こんなボロボロにしちゃうなんて……」

ドラえもん「えへへへ。かける方を間違えちゃったみたい」

ドラえもん「こっちだったよ」ファサッ


チッチッチッチッチッ……

ドラえもん「今度こそ、それっ」バッ

ピンピカリーン

のび太「うわぁぁぁっ!! ピッカピカだぁっ」

のび太「ありがとうドラえもん!」

ドラえもん「ふふふふふ。どういたしまして」

のび太「ドラえもん! それちょっと貸してよ」

ドラえもん「えー。一回だけだよ。はい」

のび太「分かってる分かってる~」


のび太(何に使おっかな~?)

のび太(まてよ?)

のび太(もしかして自分にかければ若返ることができちゃうんじゃ……?)

のび太(そうなればまた小学校一年生に戻れるぞ!)

のび太「よーし決めた!」

のび太「それっ」ファサッ

ドラえもん「えっ!? のび太君! ダメだよ自分にかけちゃ!」


チッチッチッチッチッチッ……

のび太(あれ?部屋が歪んで……)グニャア

ドラえもん「のび……く……」

のび太(ドラえもん? どうしたの?)

のび太(あれれ……? 意識が……遠のいて……く……)

チッチッチッチッチッチッチッ…………



ガタッ!


のび太「はっ!?」

気が付くと、そこは見慣れない部屋だった。壁中に敷き詰められた本に暖炉、赤い絨毯。天井からは豪華なシャンデリアがぶら下がり、所有者の豪華絢爛ぶりが見て取れる。この椅子も今まで一度も味わったことのない柔らかさだ。

執事「どうか、なさいましたかご主人様……?」

目の前には年を取って髪を白くした紳士が立っていた。

のび太「ご主人様……? あなたは誰? ここはどこ?」

執事「ほっほっほ。また御冗談がお得意ですねご主人様」

執事「私は執事で御座いますよ。ご主人様に20年お付添いさせていただいております」


のび太「えっ? どういうこと?」

執事「どういうことと仰いましても……」

執事「ここはご主人様の御屋敷でございます。ご主人様は20年前に『感情を持った人工知能を開発』し、その富でこのお屋敷を建てられたのではありませんか」

のび太「じんこうちのう……うーん……よくわかんないや」ギィッ

立ち上がろうとして、もう一つ異変を感じた。

のび太「あれっ? なんだか体が重いなぁ」

そう言って見ると、手も大きく、身長もかなり高くなっていた。

のび太「おかしいなぁ。こんなに背が高かったっけ」

執事「ほっほっほ。ご主人様もついに年が回ってきましたか」

執事「60を過ぎてもあれだけ若くていらっしゃったのに」

のび太「うーんそうなのかなぁ」

のび太「ちょっと探検してきていい?」

執事「え、ええ。結構ですよ」

執事(探検?)


―――…

部屋を出ると、右にも左にも長い廊下が広がっていた。そしてその隅々にまで赤い絨毯が敷き詰められ、両側の壁に等間隔で取り付けられた照明も、高そうなガラス細工に一つ一つ包まれていた。


のび太「へぇー。なんだかお金持ちになった気分だ!」テクテク

のび太「おっ? あの部屋は何だろう」

ガチャッ

のび太「うわー! 豪華な洗面所だなぁ」

のび太「あれ? あれは誰かなぁ」

のび太「ねえねえ、あなたはだあれ?」

のび太「……って、なんだ。これは鏡じゃないか」

のび太「まったく。間抜けだなぁ……」

のび太「えっ? 鏡……?」

鏡に映っていたのは、先ほどの紳士と同じくらい年を取った男性だった。紳士のように髪は白くないが、大体50歳くらいのように見える。


のび太「そんな……これが……僕……!?」ガーン

のび太「ハッ」

――――――…

ドラえもん『このふろしきかけると、かけたものの時間を進めたり戻したりすることができるんだ!』

――――――…

のび太「タイムふろしき!」

のび太「そうか、ドラえもんみたいに間違えてかけちゃったんだな」

のび太「なーんだ。そういうことか!」

のび太「じゃあここは何処なんだろう……?」

?「のび太さーん!」

外の廊下から、老けた女性らしき声が聞こえてきた。

のび太「ん? 誰だろう」

のび太「はーい!」

?「あら、のび太さんたらそんなところにいらっしゃるのね?」

ガチャ


チッチッチッチッチッチッ……

のび太(あれ?まただ……)グニャア

?「のび……さ……」

のび太(よく見えない……)

のび太(君は誰……?)

のび太(意識が……)

チッチッチッチッチッチッチッ…………

ガタッ!

のび太「うわっ!」

ドラえもん「のび太君……」


気が付くと、また元の部屋に戻っていた。見慣れた机、見慣れた棚。見慣れたドラえもん。さっきのお屋敷はどこへやら。

しかし、何故かドラえもんは複雑な表情をしていた。

のび太「どうしたのドラえもん?」

ドラえもん「いや、なんでもないよ」

ドラえもん「ともかく! 自分にタイムふろしきをかけるなんてもってのほかだよ!」

ドラえもん「もう貸してあげないからね!」

のび太「ごめんなさぁい……」



――――――……

結局、ドラえもんは二度とふろしきを貸してはくれなかった。

あの後、僕はドラえもんといっぱい冒険して、たくさんの思い出を作った。

それはそれは楽しかった。僕の中で一番輝いていた時代だった。

それでも、あの日の不思議な出来事のことは、どうしても忘れることができなかったんだ。

ドラえもんやジャイアンやスネ夫、しずかちゃんまで僕の話を聞こうとはしなかった。僕も、時間が経つうちにあれは夢だったんだと結論づけていた。でも、どうしても頭の中から離れることは無かった。

時がたち、僕は小学校を卒業した。成長するにつれ、僕の冒険意欲は一気に減っていった。

そして中二の冬。僕の親友、ドラえもんは未来へ帰っていった。その時、彼はこう言い残していった。

『のび太君。もう君に僕は必要ないんだ。一生懸命勉強して、立派な大人になるんだよ。そうすれば、いつか必ずまた会いに行くから』

僕は一晩中泣いた。そして、僕はその言葉を信じて、勉強にあけくれたんだ。


中学生時代、そして高校生時代と、寝る間も惜しんで勉強し続けた結果、僕は日本の最難関大学に合格した。最も勉強のできない小学生は最も勉強のできる大学生になったんだ。

その後、僕は大学、大学院を出て、大学の教員、さらには教授になった。
僕はその間、『感情を持った人工知能』の開発に全身全霊を注ぎ込んだ。そう、ドラえもんの言葉を自ら実行しようと考えていたんだ。

20年にも及ぶ研究の末、僕は見事その開発に成功、科学者の中で最も名誉ある賞も受賞し、豪華な屋敷も建てた。

しかし、いくら人工知能を開発しても、ドラえもんには会えなかった。新しく作った人工知能はどれもただの人工知能に過ぎなかったんだ。

絶望した僕は、タイムマシンの開発に手を出した。でも、その開発は一歩も進むことは無かった。

僕は次第に屋敷に引きこもるようになっていった。ドラえもんに会いたい。ただその一心が僕の心を支配していた。

そして、その頃にはもうあの日の出来事はすっかりと忘れ去られていたんだ。


――――――20XX年――――――

執事「ご主人様。たまには散歩でもされたらどうですか?」

のび太(老)「ははは。遠慮するよ」

のび太(老)「なんだか今日はここにいないといけない気がしてね」

執事「まあ。それでは健康を害されてしまいますよ」

のび太(老)「はは。ドラえもんが会いに来てくれたら、どんな病気も治ってしまうだろうに。もちろん老化もね」

執事「またドラえもんさんですか? 本当に心から慕っておいでなのですね」

のび太(老)「そうさ。僕の心からの親友であり恩人でもあるんだ」

のび太(老)「あの頃は楽しかったなぁ」

執事「いつまでもご主人様は子供のころの御心をお持ち……な……ね……」


チッチッチッチッチッチッ……

のび太(老)(ん? 執事……?)グニャア

のび太(老)(視界が……ぼやけて……)

のび太(老)(この感覚……どこかで……)

のび太(老)(なんだろう……)

チッチッチッチッチッチッチッ…………

バッ!

のび太(老)「はっ!?ここは!?」

そこは狭い子供部屋だった。小さい机と、この畳のにおいが、僕をとても懐かしい気分にさせた。本棚にはまだ参考書が一つもなく、60年も前の漫画で埋まっている。

そう、ここは小学生のころの僕の部屋だ!


のび太(老)「あ……ああ……君は……」

ドラえもん「大丈夫かいのび太君!?」

ドラえもん「あーあこんなおじいさんになっちゃった」

のび太(老)「君は……!」ポロポロ

ドラえもん「ん? どうしたんだいのび太君」

のび太(老)「ドラえもん!!!」バッ

ドラえもん「うわっ! 一体どうしたんだい!?」ムギュー

のび太(老)「会いたかったよおおお! うわああああああん!」

ドラえもん「えぇっ!? 何がどうなってるんだい!?」

僕は事の経緯をかなり興奮しながら話した。ドラえもんと別れてしまったこと。一生懸命勉強したこと。最難関大学に合格したこと。大学教授になったこと。名誉な賞を受賞したこと。そして、結婚した人のこと。


それはそれは楽しい時間だった。思い出話の中でも、小学校五年生でのものはとりわけ光り輝いていた。泣きながら、笑いながら、僕らは話し続けた。僕はまるで水道をひねったように涙が止まらなかった。それでも、僕はそのかけがえのない猫型ロボットとの思い出を最後まで語らずにはいられなかった。

ドラえもん「のび太君にはそんな辛い思いをさせてしまった。いや、これからもさせてしまうことになるんだね……」

のび太(老)「そうだね。でも、僕は逆にそのことに感謝しているんだ」

のび太(老)「君がいてくれたから、そして、いなかったからこそこうして人類史に名前の残すことができたんだよ」

のび太(老)「本当にありがとう!」

ドラえもん「そんなことないよ。それはのび太君の実力さ。僕がいなくたって君はそうなっていたはずだからね」

ドラえもん「それに、これは極秘なんだけれど……野比のび太が開発した人工知能は後にロボット産業に革命を起こし、21世紀のロボット時代への礎となるんだ」

ドラえもん「僕がここへ来たのもそんな歴史的偉人を保護するため、そしてその明るい未来の到来を確実にするためだったんだよ」


ドラえもん「あ、ちょっと口がすべちゃった。でも、もちろん僕はのび太君を大親友だと思っているよ」

のび太(老)「分かってる。気にしなくても大丈夫さ。僕もどのみちもう長くない」

のび太(老)「君に会えたんだもの、もういつ死んでも悔いはないよ」

のび太(老)「まあ、秘密の遺書くらいには書いておくかもしれないけどね」ニコッ

ドラえもん「ありがとうのび太君」

ドラえもん「……そろそろお別れだね」

のび太(老)「そうだね。ドラえもん。過去の僕が今頃彷徨っている頃だろうし」

ドラえもん「?」

のび太(老)「いや、なんでもないよ。それじゃあドラえもん」

のび太(老)「また会えて嬉しかったよ」

のび太(老)「過去の僕によろしく! ばいばい」ファサッ

チッチッチッチッチッチッ……

ドラえもん「さようなら。人類で最も偉大な発明家……野比……のび……た……く……」

チッチッチッチッチッチッチッ…………


――――――……


さて、こんな不思議な話を僕はこの一生の最期に書き溜めておこうと思う。

もちろんこの遺書は僕の発明品、『100年タイムカプセル』にいれて厳重に保管しておくことにする。機密がばれたらドラえもんの存在が危うくなってしまうからね。タイムパトロールも大目に見てくれたみたいだ。

未来っていうものは本当に面白いものだね。誰にもわかりやしないんだ。学校でスーパーエリートでモテモテだった奴がホームレスに成り下がるかもしれない。逆に、落ちこぼれのさらに落ちこぼれが人類で最も偉大な発明家になっていたりもするかもしれない。

さらに面白いのが、未来は変えられるっていうことだ。ドラえもんはああ言っていたけども、ドラえもんなしに僕はこうはなれなかったと思う。もちろん、今の妻のこともね。

え?妻が誰なのかって?
さあ誰だろうね。僕にもわからないよ。だって、僕やドラえもんの言葉一つ、行動一つで、誰にでも変わってしまうんだから。


20XX年 秋

22世紀に生きる君たち そして、ドラえもんへ   人類で最も偉大な発明家 野比 のび太 



ということで短編ですが終わりです!
気付いている人もいるかもしれませんが星新一の話をドラえもんにアレンジしてみました。


それではまたお会いしましょう!


星バーーーローーにこんなハッピーエンドの話あったんだな
よかったらどの話か教えて欲しい

>>21

「ある一日」という題の話です。オリジナルのほうはもっとブラックでしたww

今更ながら訂正>>17

[たぬき]「それに、これは極秘なんだけれど……野比のび太が開発した人工知能は後にロボット産業に革命を起こし、21世紀のロボット時代への礎となるんだ」



[たぬき]「それに、これは極秘なんだけれど……野比のび太が開発した人工知能は後にロボット産業に革命を起こし、22世紀のロボット時代への礎となるんだ」

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