まどか「この世界はとても美しくて、やさしいんだよ」(290)


  ほむら、一人でワルプルギスと格闘中。

まどか「私なら、本当にほむらちゃんを救うことができるの。こんな結末をかえられる?」

QB「造作もないよ。キミの力なら神にだってなれるかもしれない」
QB「さあ、ボクと契約して、魔法少女になろうよ。キミはなにを何を望んで、ソウルジェムを輝かせるんだい?」

まどか「私の願いはっ!」

ほむら「だめぇぇぇぇぇぇーーーーっ!」



 目覚めてみると、病室の白い天井。
 新たな戦場。

ほむら「また、救うことができなかった」
ほむら「私は諦めない。まどかを、絶望から救うために何度でも繰り返す」
ほむら「今度こそ、私の望む結末にしてみせる…」

 けれど、今回の世界は、いつもと何かが違っていた。

 違和感に気付いたのは、転校初日のとき。

ほむら「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 数え切れないほど繰り返してきた自己紹介。
 礼をし、顔を上げて、真っ先にまどかを確認。

まどか「へへぇ」

 まどかは私を見て、少しにやけた顔を浮かべていた。目が合うと、引き締まった表情を作る。
 いつもなら、動物園のパンダを見るように、好奇心な眼差しを向けているのに。


ほむら「鹿目まどかさん。気分が悪いの。保健室に連れてってくれる?」

まどか「あ、うん」
 
 やはりおかしい。この時も、いつもなら驚いて…。

まどか「あ、えーと、なんで私が保健係って分かったの?」

 普段なら真っ先にしていた疑問を、目線を逸らしながら、思い出したようにして聞いた。

ほむら「早乙女先生から聞いたの」

まどか「そうだよね、それしかないか。保健室、連れて行ってあげるね」
 
 やはり、どこか違う。突然、声を掛けられて、おどおどしていない。




 廊下を歩いていく。私が保健室の場所を知っているかのように、横に並んで。

まどか「ねぇ、ほむら…ちゃん」

 私は立ち止まる。

ほむら「…なまえ」

 この時のあなたは、暁美さんと言うのに。

まどか「え? あ、名前でいっちゃった」
まどか「ほむらって、素敵な名前だよね。ほむらちゃん自身も、名前負けしないほど、カッコイイなぁ」
ほむら「なんて、思ってたら、ついね…」
まどか「ええと、あはは、さっき会ったばかりなのに。ずぅずぅしいよね」



ほむら「それでいい。私もまどかと呼ぶから」
ほむら「ねぇ、鹿目まどか。あなたは自分の人生が貴いと思う? 家族や友人を、大切にしてる?」

 その質問を待っていたかのように、彼女は笑った。

まどか「うん。家族も、ともだちもみんな、大好きで、大切な人たちだよ」

ほむら「それが本当なら、今とは違う人間になろうとは、絶対に思わないことね」

まどか「でもね、そうならなきゃ、いけないときも、あると思うんだ」

 私は、目を大きくする。表情を隠すことができなかった。




まどか「あ、気を悪くしちゃった…? その、ゴメンね、刃向かうようなこと言っちゃって」

ほむら「まどか。あなた、何があったの?」

まどか「なにかって、なにが?」

ほむら「まるで私のことを知っているみたい」

まどか「それを言うなら…ほむ…あ、うん。そのね、きゅーべ…」

 しまった、というように口を閉ざす。

ほむら「キュゥべぇ! まどか、あいつと会ったっ?」

 まさか。鹿目まどかとインキュベーターを、会わせないようにしていたはずなのに。なんてこと。

まどか「あー、あはは、キュゥべぇに、口止めされてたんだけどなぁ」




ほむら「私のことを?」

 アイツがすでに私のことを知っていて、先回りしていた?

 まどかは魔法少女に? いや、違う。彼女から、ソウルジェムを感じない。

まどか「うん、今日、転校生がくるって教えてくれたの。それも、とびっきりの可愛い子」
まどか「それが当たったから、嬉しくなっちゃって、てへへっ」

 あの笑みは、そういう意味があったわけね。

ほむら「他には、あいつ、何かいった?」

まどか「ほむらちゃん、顔、怖いよ…」

ほむら「教えて!」




まどか「それは、ええと、その、秘密だから…それ以上は…ごめん…」

ほむら「何を話したのかは知らないけど、あいつの言うことを聞いちゃだめ!」

まどか「えー、キュゥべぇは良い子だよ」

ほむら「あなたは騙されているのっ!」

まどか「ほむらちゃん。みんな、見てるから」

 生徒たちが、私たちを見ていた。まどかは、「なんでもないよ」と手を振っていた。
 私は冷静さを取り戻す。

ほむら「警告よ。あいつの言うこと、真に受けてはいけない」

まどか「たとえば、どんなこと?」

ほむら「願い事を叶えるとか、そういうことよ」

まどか「願い事かぁ。それなら、ひとつ、叶っちゃったかも」




ほむら「え?」

まどか「私の願い事は、素敵な友達と出会うこと」
まどか「そして、そのひとは、いま私の目の前にいます」

 じっと、私を見る。

まどか「だめかな?」

ほむら「だめなわけ…」

 …ない。

まどか「良かった。ほむらちゃん、これから、よろしくね」

 にこやかな顔をして、まどかは手を差し出す。
 とまどい。
 でも、私はまどかの手を拒めない。
 ぎゅっと握り返す。
 私にとって、まどかは大切な友達なのだから…。


 銃を撃つ。
 ミスった。逃げ足が速い。
 インキューベーターは、下水管など、人間が通れない穴を通りどんどん先を行ってしまう。
 それを私は追いかける。

QB「助けて、まどかっ!」

さやか「うわっ、なんだ、ぬいぐるみっ?」

 発見した場所は魔女空間。キュゥべぇの声に呼ばれた、まどかとさやかの姿もあった。
 …それに。

マミ「ハッ!」

 魔法少女になった巴マミの姿も。



マミ「魔女は、逃げたわ。しとめたいなら、追いかけなさい」

 変身を解いてから、私のことを見る。魔女もマミもどうでもいい。無視する。

ほむら「キュゥべぇから、離れて」

まどか「ほむらちゃん、このキュゥべぇは悪い子じゃないよ」

ほむら「撃つわよ」

 まどかに守られた、キュゥべぇに銃を向ける。

マミ「やれるなら、どうぞ」

 銃口の前に立つ。

マミ「この子は、私の大切な友達。撃つなら、私を倒してからにしなさい」

 殺意のこもった目。それに不敵な笑み。
 魔法少女としての自信に満ちている。それは、うぬぼれでしかない。
 本気で挑めば勝てる相手。けれど、受けるダメージを相当覚悟しなくてはならない。

ほむら「この場は、引き下がるわ」

 場が悪い。私は銃を降ろし、退場した。


マミ『どうぞ、一人暮らしだから、遠慮しないで。散らかってるけど、そこは目を瞑ってね』

さやか『いやいや、あたしの部屋より、ぜんぜん綺麗ですよ』

まどか『うん、素敵な部屋だなぁ』

 まどかたちは、巴マミの家に入っていった。

QB『キミたちの願い事を、何でも叶えてあげる』
QB『その代わり、魔法少女になって、魔女を倒していくんだ』

 私は、まどかに付けた盗聴器で、三人とキュゥべぇの話を聞いていく。



さやか『願い事かぁ…』

まどか『さやかちゃん、なんかある?』

さやか『マミさんのような、おっきなおっぱいにしてくれー、なんかいいかも』

マミ『もう、どこ見てるのよ』

 自分のペタペタな胸に触れ、その願い事いいなぁ、と思って哀しくなった。



マミ「ティロ・フィナーレ!!」

 魔法少女についての説明を聞いたあと、巴マミの魔女退治に付き合っていく。
 まどかとインキュベーターはすでに知り合いになっていたけど、それ以外は、繰り返してきた過去と変わりなさそうだった。





QB「暁美ほむら、こんな所にいたんだね。探したよ」

ほむら「何のよう?」ジャキ

QB「物騒なものを向けないで貰いたいな。ボクに攻撃性はない。至って無害な存在なんだよ」

ほむら「よく言うわ。言葉巧みに少女たちを騙すあなたを、信用することはできない」

QB「どうやら、キミとボクに大きな相違があるようだね」
QB「キミがなぜこれほどまでに、ボクに敵対心を向けてくるのか、検討も付かない」
QB「でも、ボクには関心のないことだ」
QB「理由はどうあれ、ボクはボクとしての役割を果たす他はないのだからね」

ほむら「ご託はいい。用事はなに? 消して欲しいというなら、喜んでするわよ」

QB「鹿目まどかの使いだ」

ほむら「まどかの?」



QB「やはりね。キミは、まどかに対し、尋常ならぬ執着心を持っている」
QB「興味深いよ。キミの望みがなんなのか、教えて欲しいな。ボクに出来ることなら、協力するよ」

ほむら「私の望みは、インキュベーター。あなたの存在を消しさることよ」

QB「やはり、キミは興味深い。言葉とは裏腹に、望んだものは違っている」

ほむら「なにを、言っているの?」

QB「まどかからの伝言だよ。グリーフシードが孵化しそうなんだ」
QB「巴マミは、すでに結界内に入っている。鹿目まどか、美樹さやかと一緒にね」

ほむら「早く、それを言いなさい!」




 シャルロッテの魔女結界

マミ「もう何も怖くない。私、一人ぼっちじゃないもの! ティロ・フィナーレ!!」

シャルロッテ(おっかし、いっただきまーす)

 くぱぁー。

マミ「え?」

 カチっ

ほむら(間に合ったようね)

 食べられる寸前の、巴マミを移動させる。

ほむら(時間解除)カチャ


シャルロッテ(ぱっくん)
シャルロッテ(あっれー、食ったはずなのに、空気だー)

QB「まどか。暁美ほむらを連れてきたよ。間一髪ってところだね」

まどか「うん、キュゥべぇ。ありがとう」

さやか「ま、マミさんっ。え? いつのまに? まさか転校生が助けた?」

マミ「え…あ…わ、わたし…」(ガクガク)

ほむら「浮かれすぎよ、巴マミ。ふたりに悪い見本を見せるところだったわ」
ほむら「魔法少女はどういうものか、あなたが一番良く分かっていたんじゃなくて?」

マミ「ぁ…ぁぁぁ…」

ほむら「戦意喪失ね。こいつは私がしとめるわ」

 爆破。

シャルロッテ(うっわー、やられたぁー)



 魔女を倒し、元の世界に戻ると、まどかは私の傍にくる。

まどか「ほむらちゃん。マミさんを助けてくれて、ありがとう」

ほむら「礼はいらない。当然のことを、したまで」

まどか「大丈夫、怪我しなかった?」

ほむら「私は平気」

 でも、

マミ「あ、あああ…」

 マミの方は平気じゃない。
 怯えるあまり、自分の体を抱きしめ、丸くなっている。


ほむら「残りがあるわ。使いなさい」

 マミに向けて、グリーフシードを投げる。

マミ「いらないわ。私にはそんな資格は…」

ほむら「使いなさい。さっきは運が良かっただけ。次にミスすれば、命がないわ」

マミ「次…。そうよね、いくら臆病になっても、魔法少女を引退することができない」

さやか「マミさん…」


マミ「ごめんなさい。みっともない姿、晒しちゃってるわね、私」
マミ「魔法少女は、このように危険と向かい合わせなの」
マミ「魔女狩り失敗は、命を失うことを意味する」
マミ「だから、あなたたちに是非にと、勧めるわけにはいかない」
マミ「こんな無様な私を見て、魔法少女になりたいなんて、思うわけないわよね」
マミ「私のことは、忘れてちょうだい。鹿目さんも、美樹さんも、二度と会わないほうがいいわ」

さやか「こんな怖い思いをしても、マミさんは、魔女と戦い続けるんですよね?」

マミ「ええ、それが魔法少女の運命」
マミ「気にしないで。これは私が選んだ道なのだから。これからも一人で戦っていく」
マミ「それでいいの。仲間ができそうって、はしゃいでいた自分が悪いんだもの」

さやか「………」

 覚悟を決めた目で、さやかは立ち上がる。

さやか「ねぇ、キュゥべぇ」

QB「なんだい、美樹さやか」

さやか「願いは、上条恭介の指を治し、ヴァイオリンを弾けるようにすること!」
さやか「だから、私を魔法少女にして!」


マミ「美樹さん、あなた」
マミ「それが、どれだけ危険なことか、さっき見ていたでしょ?」

さやか「だからこそですよ」
さやか「私、思いました。魔法少女になって、マミさんの力になりたいって」
さやか「ひとりぼっちには、させません」

マミ「…美樹さん」

QB「本当にいいのかい、美樹さやか?」

さやか「うん、覚悟はできてる。心変わりしないうちに、早いとこ頼むよ」


ほむら「今すぐ、心変わりを勧めるわ」
ほむら「美樹さやか、それがどんだけ愚かな選択なのか、後悔することになる」

 私は、貴女がこの先どうなるか、知っているんだから。

まどか「ううん、さやかちゃんは間違いをおかさないよ」

ほむら「まどか?」

まどか「さやかちゃんは、上条くんのためじゃない」
まどか「マミさん、そして他の魔法少女たちと一緒に戦うために、なろうとしてるんだ」
まどか「それは、大きく意味が変わることなの」

ほむら「あなた…」

 やっぱり、私の知るまどかとは、何かが違う…。




さやか「がはっ!」

 魔法少女になった美樹さやかは、数メートル先までふっとび、壁にぶつかった。
 攻撃したのは、別の魔法少女だ。

杏子「なに、ソウルジェムの無駄遣いしてんの。しかも相手は、使い魔だよ」
杏子「んな相手に、魔力を消耗させちゃってさ。死ぬために戦ってるようなもんじゃん」
杏子「しかも、ここはアタシのテリトリー。グリーフシード欲しいなら、別のところでやんな」

さやか「ちくしょう、あんたなんか…」

杏子「あのな。敵対心をむき出す相手違うだろ。戦うなら、魔女だっつーの」
杏子「他の魔法少女なら、自分の巣を汚されたとくりゃ、即座にあんたのこと潰すよ」
杏子「まっ、新人のようだし、先輩のアタシが、こうしてご親切に教えてやっているってわけ」
杏子「半人前は、早く帰って、マミのおっぱい吸ってな」




さやか「バカにすんなっ」

 さやかは、サーベルを杏子に向ける。

杏子「ウゼェ。言葉で分からねぇなら、体で教えてやるよ。みっちりと」

まどか「さやかちゃん、杏子ちゃん、やめて!」

 さやかと杏子は戦おうとする。
 相変わらず、刃向かってばかりのふたり。仲が良いんだか、悪いんだか。
 厄介なのは、ここでインキュベーターが来て、まどかに魔法少女になるよう迫ってくるということ。
 面倒だけど、相手にするしかない。

マミ「お二人とも、そこまでよ」

 けれど、仲裁に入ったのは私ではなかった。



さやか「マミさん…」

杏子「ちっ、邪魔がはいったか」

QB「さやかが、杏子のテリトリーに入ったと聞いてね。こうなると予想していたよ」
QB「なんとか、間に合ったようだね」

マミ「キュゥべぇ、案内してくれてありがとう」

QB「お安い御用さ」

 インキュベーターは、まどかの肩に乗る。
 いつもなら、魔法少女になるよう誘惑したり、魔女にさせるべく企むのに、そんなことはしなかった。
 違和感。それも大きな。
 私は、この時間軸ではインキュベーターが、まどかにしつこく契約を求める光景を、見たことがない。



マミ「佐倉さん。美樹さんが、あなたの縄張りに入ってしまって、ごめんなさい」
マミ「この子は、なにも知らなかったの。許してあげて」

杏子「ちっ、謝るのは、あんたじゃねぇ」
杏子「てめぇの後輩だろ。こいつ、魔法少女のイロハなさすぎ。ちゃんと教育しとけ」

さやか「んだとっ! 私だって、これでも一生懸命っ!」

マミ「美樹さん。佐倉さんの言うとおり。貴女はまだ、魔法少女としての実力も、経験も足りないわ」
マミ「危なっかしくて、見てられない」

さやか「そっ、そんなぁ…」



マミ「魔女退治は、一人前になるまで、私と一緒に行動すること」
マミ「一人や、鹿目さんを連れて、勝手に出かけようとしない。いいわね?」

さやか「…わかりました」

杏子「うわ、マミにめっちゃよえー」
杏子「やっぱ、半人前は、マミのおっぱいチュウチュウがお似合いだ。美味すぎて、乳離れしねぇんじゃね」

さやか「あんた、実はマミさんのおっぱい吸ってみたいんじゃない?」

杏子「んなっ! マミのおっぱいなんか牛じゃねぇか。モーたまらんなんて、思わねぇよ!」

さやか「んだと、マミさんのおっぱいは、形も、大きさも、芸術だっ!」

マミ「いい加減にしないと、私がふたりのおっぱい吸うわよ」

杏子「うげっ!」

さやか「すっ、すみません!」


まどか「あはは、みんな、仲良しだぁ」

さや杏「「これのどこがっ!」」

さやか「…う、見事に一致(かあ~)」
杏子「…ハモんなよ、バカやろう(かあ~)」

まどか「うん、仲良きことはいいことだよ」

マミ「そうね、微笑ましいわ」
マミ「佐倉さん。見ての通り、美樹さんは、魔法少女なりたての初心者なの」
マミ「あなたも、美樹さんが一人前の魔法少女になるよう、色々教えてあげてくれないかしら?」

さや杏「「嫌だっ!」」

さやか「だーかーらー…(かあ~)」
杏子「はぁ、調子狂うぜ…(かあ~)」

マミ「よろしくね(にっこり)」

杏子「ケッ、みっちり鍛えてやるから、覚悟しとけ」

さやか「へん。すぐに、あんたを超えてやるさ」



まどか「マミさん、魔法少女がこんなに集まったんだし、みんなでわぁーって騒ぎませんか?」

マミ「あら、いいわね。私の家にお泊まりして、親睦を深めましょうか」

まどか「さんせーい!」

杏子「はぁ? なんで、んなこと。アタシは、嫌だぜ」

マミ「美味しいお料理、食べ放題よ」

杏子「………」
杏子「…だから、やだって言ってんだろっ」

さやか「ヒヒ、その間はなにかな、杏子ちゃん?」

杏子「杏子ちゃんいうな、てめぇ! ぶっ殺すぞ!」


まどか「じゃあ、決まり。マミさんの家で、パジャマパーティーっ!」

さやか「私はいいけど、一人抜けてない? いや、あんな奴、別にいいけど」

マミ「あー、あの子もいたわねぇ。私は苦手だけど、助けてくれた恩もあるし、構わないわよ」

杏子「あん? キュゥべぇが言ってたイレギュラーって奴のことか?」

まどか「うん、暁美ほむらちゃんって言うんだ。とっても可愛くて、カッコイイ子だよ」

 まどか、照れるよ。

さやか「私は、あいつ、ちょっと苦手かな。何考えてるか、わかんないし」
さやか「でも、仲間外れは良くないもんね。まどか、転校生に伝えといて」

まどか「もう、伝わってるよ」

さやか「え?」

まどか「ほむらちゃん、ここにいるもん。そろそろ出ておいで」

 まどか、気付いていた?


ほむら「………」

私は姿を表す。

さやか「うわっ、転校生、マジでいたっ!」

杏子「急に現れんな! どこに隠れてやがったっ!」

マミ「あら、こんばんは。奇遇ね、でいいのかしら」

まどか「てへへっ、やっぱりほむらちゃんいた。もしかしたらって思ってたけど、大当たりだねっ」

QB「ボクは気付いていたよ。鹿目まどかいるところ、暁美ほむらありだしね」

 インキュベーターが、まどかを勧誘しなかったのは、私の存在に気付いていたから?



杏子「なんだ、このイレギュラー、ストーカーやってんのか?」

ほむら「人聞き悪い。私は、まどかを守っているだけ」

さやか「いやぁ、影でこそこそ、まどかを追っかけてたら、正真正銘ストーカーでしょ」

まどか「ほむらちゃん。隠れてないで、最初から一緒にいようよ」
まどか「私は、ほむらちゃんと、仲良く並んで歩きたいな」

ほむら「ごめんなさい」

マミ「暁美さん。私の家に招待するけど、ストーカーしたお詫びの気持ちがあるなら、来てくれるわよね?」

 まどかと一緒。パジャマパーティー。行きたい気持ちはあった。
 でも…。

ほむら「お断りさせていただくわ」

 誰とも関わり合いになりたくない。自分の決意が崩れないためにも、私は一人でいるべきだ。
 背中を向け、その場を去った。



 数日後。ショッピングセンターの食品フロア。

まどか「…と、言いながら、ちゃっかりマミさんちにやってくるほむらちゃんでしたー」

ほむら「まどかが誘うから」

 まどかに弱い私。学校を出ようとしたら、腕を引っ張られ、強引に連れてこられた。
 私とまどかと杏子(現在、試食の旅)は、夕飯の買い物をしていた。

まどか「なにを作ろっか?」
まどか「マミさん、出来合いでいいって言ってたけど、ちゃんと料理、作った方がいいもんね」
まどか「ほむらちゃん、一緒に作ろ?」

ほむら「う、うん」

 まどかとショッピング。過去に一度も無かったこと。
 ちょっと、ううん、かなり、すっごく嬉しい。
 私にとって、大切で、貴重な時間…。
 こういう息抜きも、少しぐらい、してもいいよね?

まどか「こうして、カート押して、ふたりで歩いていると…」

ほむら「…?」

 まどかは、私の耳元に口を寄せる。

まどか「新婚さんみたいだね」

ほむら「ま、まどか(かあ~)」

まどか「やったーっ、ほむらちゃんの真っ赤な顔、ゲットー。かーわいいー」

 ガシッと、私の体に抱きついてくる。

ほむら「ひゃうっ! からかわないで…」

まどか「うーん、そうなるとどっちがお嫁さんかな~」

ほむら「まどかぁ~」

 困る。表情を隠したい。恥ずかしさに、口がぷるぷる震える。

まどか「うん、ふたりとも、お嫁さんがいいな」
まどか「一緒にウエディングドレスを着て、誓いのキスをして、お似合いだよ、きっと」

ほむら「…もう」

 その光景を想像して、自分がどうにかなりそうだった。

まどか「ほむらゃん、段々と、顔が表にでるようになってきたね」

ほむら「え?」

まどか「やっぱり、笑顔のほむらちゃんが一番可愛いよ」
まどか「これからも、ずっと、ふたりで笑っていこうね」

ほむら「うん、そうなると…いいな…」

 この周回のまどかは、巴マミが死んでないからか、無邪気で、元気な姿を見せている。
 そして、私の友達になろうと、親しくしてくれる。
 今までになかった、私が望んでいるまどかの姿だ。
 そんなまどかを、不幸にしたくない。もう二度と、そんな目にあわせたくない。
 絶対に、救ってみせる。



杏子「おーう、お二人さん。買い物は終わったかい?」

 レジを終えると、杏子がリンゴをかじりながらやってきた。

まどか「杏子ちゃん。買い物手伝わない悪い子は、食事抜きにするよ」

杏子「別にいいぜ。さやかのぶん、かっぱらうから」
杏子「ああ、それ持つわ」

 まどかが持つ、買い物袋を取った。

杏子「向こうに、ケーキ売ってるんだが、すっげー、美味そうだぜ。買ってかねぇ?」

まどか「杏子ちゃんのおごり?」

杏子「え、なんで? アタシ客だぜ? 買ってくれるのが、当たり前だろ」


まどか「そんな、当たり前ないよ…」

ほむら「ケーキなら、巴マミが用意しているわ。私たちは買う必要ない」

杏子「わお、それは楽しみだ。夕飯はなにすんだ? アタシ、試食してやるよ」

ほむら「キュゥべぇの煮っころがし」

杏子「ひゃっはー、そいつは美味そうだ。ヨダレが出るぜ」

まどか「…杏子ちゃん、冗談だからね」

 私は本気だけどね。食べる気はないけど。




 外に出て、三人でマミの家へ歩いていく。

杏子「あいつ…」

 杏子が、足を止めた。不愉快そうに、りんごをカリっと囓る。
 見ている方向に、夕焼けの真っ黒い影の、人の姿があった。
 美樹さやかが、呆然と佇んでいる。
 視線の先は、志筑仁美と上条恭介がいた。
 ――仲良さげに、ベンチに座って。


まどか「…さやかちゃん」
まどか「ごめん、ふたりとも、先にマミさんの家行ってて」

 まどかは、さやかの元に駆け寄った。
 それに気付いたさやかは、まどかを拒もうとする。
 感情を押し殺すも、体が震えている。今にも泣きそうだ。

杏子「はぁ、見てらんねぇぜ。ムカムカすらぁ」

 杏子はリンゴの芯をぷらぷらさせる。

杏子「で、アタシら、言うとおりにマミんちいくか?」

 ふたりに近づく、インキュベーターの姿が一瞬だけ見えた。

ほむら「行くわけないじゃない」

杏子「だな」


 ダッダッダッダッダッ!
 杏子は走った。

杏子「さやかぁぁぁっーーっ! うらぁぁぁぁーーーーっ!」

 ドロップキックを食らわせた。

さやか「うわぁっ!」

 さやかは、盛大に飛んでいく。

まどか「さやかちゃん!」

 良かった。まどかには当たってない。予想外の行動に、私ですら驚いた。


さやか「なにすんだっ!」

 スッ転んださやかは、顔を上げ、杏子に怒鳴った。

杏子「めそめそ、ちょー、ウゼーっ!」
杏子「ラブに疎いアタシでも分かるわ。てめぇ、男をネコババされそうになってんだろ。さっさと行って、取り返してこい!」

さやか「できるわけないでしょ!」

杏子「知ってるぜ。たった一度の奇跡を、惚れた男に使ったんだろ。もったいねー」
杏子「悔しくねぇか? 遠慮はいらねぇ、力尽くで、奪いとっちまえ」
杏子「せっかく手に入れた魔法を使えば、身も心も、あんたのモンにできるんだぜ。使わなきゃ損だろ」

さやか「んな卑怯なこと、やるわけないじゃないっ!」

杏子「自分の気持ち、押し殺してんじゃねーよ。それ、気持ちわりーだろ」
杏子「ショージキになれよ、あのふたりの所に行って、ぶつかってこい」
杏子「伝えるモン、伝えねぇで、ひとり、勝手に傷ついてるんじゃねぇよ!」

さやか「うるさい、うるさい、うるさい!」

杏子「へっ、臆病モンが。だから、いつまでも半人前なんだ」

さやか「おまえなんか、関係ねーし、なにが分かるんだよ!」

杏子「関係ねーし、分かるわけねぇよ。ただただ、ウゼーんだ」
杏子「アタシなら、さっさと、コクりにいくわ。結果がどうあれな」
杏子「眠たきゃ、寝る。腹減ったら、メシを食う。惚れたら、いただく」
杏子「なぜ、んな、単純なことしねぇわけ? わけわかんねぇ」

さやか「…私は、あんたじゃないから」

杏子「なら、半人前。代わりに男のとこ、行ってやろっか?」
杏子「さやかが、てめぇのこと惚れてんだぜって、伝えてきてやんよ」

さやか「や、やめろっ!」

杏子「どっしよーかなぁー、臆病もんの、さやかちゃんのために、人肌脱いでやろっかなー」

まどか「どうしよう、ふたりを止めないと…」

QB「このままでいいと思うよ」

 インキュベーターは、まどかの傍にくる。

QB「杏子の行動は正しい。さやかの危うさは、自分の感情を殺そうとすることだ」
QB「それが、絶望のエネルギーとなって、ソウルジェルを濁してしまうだろうね」
QB「だから、ああやって感情を揺さぶるのは、決して悪いことではないんだよ」
QB「けど、このままでは堂々巡りにしかならない。なにかひとつ、手を打つ必要がある」

まどか「私。さやかちゃんのために、なにをすればいいのかな?」

QB「美樹さやかに、勇気を与えることじゃないかな」
QB「それは、魔法少女の美樹さやかを、強くするためにも大切なことだ」
QB「これはある意味、チャンスだよ」

 信じられない。
 インキュベーターが、さやかを魔女になるよう誘導しない。
 むしろ、それを阻止しようとしている。
 それとも、これも、魔女にするため、まどかを魔法少女にするための作戦のうち?
 わからない。この時間軸に、いったい何が起きているの?


まどか「さやかちゃーん、上条くんを連れてきたよ!」

さやか「なんでぇぇぇーーっ!」

 まどかが、上条恭介を引っ張っている。遅れて、志筑仁美が付いてくる。

杏子「おう、まどかやるじゃん」

まどか「えへへ、さやかちゃんのためだしねっ」

 まどかと杏子は、ハイタッチする。私もしたい…。

上条「…さやか」

さやか「あー、恭介、えっと、本日はよいお日柄で…」

杏子「ぷっ、くくくく、なにそれ、結婚式のスピーチ? わはははははっ」

さやか「うるさい、黙れっ!」

仁美「さやかさん、見ていらしたのですね。それにみなさんも…」

 私たちを見回す。

上条「僕に、大事な話があるって聞いたんだけど、なにかな?」

さやか「あー、大事というか、なんというか、別になんでもないっつーか…」

杏子「さやかは、おまえのことホの…うぐっ!」

 慌てて、杏子の口を塞ぐ。

さやか「あんた、何言おうとしてるわけ~っ!」

杏子「おまえのこと、本日もお日柄でーす、あーははははーっ」

さやか「だぁー、もう、だまれっ!」

仁美「ええと、さやかさんが、あたらしいお友達と漫才コンビを組むご報告でしょうか?」

まどか「仁美ちゃん、それはないよ…」


さやかと、上条恭介が向かい合う。

さやか「あー、えっと、まいったなぁ…」

まどか(さやかちゃん、ファイト!)

さやか(いや、この状況でコクるって、恥さらしじゃない?)
さやか(そもそも、仁美がすでにで、失恋ひゃくパー、間違いなしだし…)

まどか(みんなが、見守っているよ)

杏子「わはは、本日もお日柄が見守ってるぜー、あはははははは」

さやか(黙れっ! つーか、テレパス使えっ!)

上条「さやか」

さやか「は、はいっ」

杏子「なにその反応。ぷっ、く、くくくくく…」

まどか(杏子ちゃん、黙らないとご飯なくすよ)

杏子(ククっ、しょうがねぇだろ、笑いのツボ、入っちまったんだ)

 口を押さえて、笑いを押し殺している。

上条「ありがとう」

さやか「へ?」

上条「ちゃんとお礼、言ってなかったからね」
上条「事故にあってから、さやかは何度も見舞いにきて、僕を元気づけてくれた」
上条「なのに、僕は、さやかに酷いことを言ってしまった。何を言っても許される、幼なじみと思っていたんだ」
上条「後になって気付いたよ。僕はさやかに甘えていたんだって」
上条「それは、僕にとっても、さやかにとっても、いいことじゃない。お互いを、傷つけるだけだ」
上条「だからかな、さやかと少し距離を置いてみようと、思ったんだ」

さやか「あー、うん、そうだったんだ」

杏子(おいおい、納得すんな。こいつサイテーだぞ)
杏子(単に、半人前じゃエロいことできねぇから、エロエロできるワカメ女に取っ替えただけじゃん)

さやか(黙れ)

上条「さやかに礼がしたい。僕にできること、なにかないかな?」

さやか「お礼、えーと、だったら…」

杏子(今だ、おまえが欲しいと言うんだ。私が許す、むしゃぶり食え!)

さやか「私のために、ヴァイオリン弾いてくれないかな?」


さやか「幸せにね」

仁美「はい」

 上条恭介と志筑仁美は、並んで、去っていった。

杏子「バカか、おめぇ。コクってねぇじゃん。んなんで、いいのかよ?」

さやか「したよ。これが私にとって最高の告白」
さやか「恭介は、必ずさやかのためにヴァイオリンを弾くと約束してくれた」
さやか「それで、十分だよ」

 ふたりを見送るさやかは、吹っ切れた顔をしている。
 ソウルジェムが黒ずむことはない。
 …そう。
 これで、美樹さやかが魔女化する可能性が低くなった。
 私がなにもしなくても、ひとつ、ひとつ、綺麗に片付いていく…。

まどか「良かったね。ほむらちゃん」

 まどかが私の隣にきて、にっこりと笑う。
 こうなる結末を、分かっていたかのように。

ほむら「まどか、あなた。何を知っているの?」

まどか「んーとね。みんなが幸せになれるってことを知ってるよ」
まどか「だから、ほむらちゃんも、笑っていていいんだよ」

 分からない。まどかが何を言っているのか…。

ちょい席外し。
付き合ってくれている人、ありがとうございます。それに、支援サンクス。

話については、ネタバレになるので、ノーコメントとさせてください。


 マミの家。

マミ「それでは、私たち魔法少女の未来とっ!」

まどか「さやかちゃんの失恋にっ!」

杏子「かんぱーいっ!」

さやか「乾杯すんなぁーっ!」

ほむら「…かんぱい」

 私とまどかの友情に。

まどか「いいじゃない。これでさやかちゃんは、一つ、大人の階段を登ったんだよ」

さやか「はぁ~、私は報われて、大人の階段登りたいよ」

まどか「まぁまぁ、さやかちゃんには、私がいるじゃない。浮気は良くないってことだよ」

さやか「ちくしょーっ! まどか、かわいいぞーっ! あんたを私の嫁にするーっ!」(だきっ)

まどか「きゃー、もらわれちゃうーっ!」

 うらやましい…。

杏子「うおっ、この、まどかとほむらちゃん特製ラブラブカレー、チョー、うめー」

ほむら「フルで言わないで」

 まどかもヘンなネーミング付けないでほしい。恥ずかしいよ。もぐもぐ。

マミ「しくしく、みんなずるいわ」

さやか「って、マミさん、なんで泣いてるんですかっ!」

マミ「美樹さんが失恋する面白い場面を、みんなして見ていたんでしょ」
マミ「私だけ、仲間はずれじゃないっ」

さやか「見なくていいです。それに面白くもありません!」

杏子「感動的だったぜ。アタシ、泣き疲れちまったわ」

さやか「それ、爆笑の涙でしょっ!」

マミ「見たかったわ。キュゥべぇ、あなたの目が映写機になって、美樹さん失恋シーン上映会できない?」

QB「残念ながら、ボクにそんな機能は備わってないね」

マミ「契約取り消して、美樹さんの失恋場面を1000回見せてほしいに変えられない?」

さやか「どんだけ、見たいんですかっ!」


まどか「えへへっ、さやかちゃん、すっかり元気になったね」

さやか「おかげさんで、失恋の涙を流す余裕もないよ」
さやか「でも、悪くないかな。色々と、嫌なもん、吹っ飛んじゃった」
さやか「あんなに、思い詰めていたのにさ。なーんか、恭介のことも、どーでもよくなってきたかな」

ほむら「美樹さやか。あなた、魔法少女になって後悔してない?」

さやか「ん? なに、転校生、あたしんこと心配してんの?」

ほむら「別に」

 面倒ごとが増えるのが嫌なだけ。いつも次から次と、やってくることだから。

まどか「ほむらちゃんも、さやかちゃんのこと気に掛けていたんだよ」
まどか「上条くんのために、願いを叶えたのに、報われることがなくて。それどころか、仁美ちゃんと付き合うようになって」
まどか「それで、ヤケになるんじゃないかって、心配していたの」

さやか「うーん、そりゃ、ショックでかいけどさ」
さやか「まぁ、しょうがないよ。仁美は強かった。私は弱かった。自分が、臆病風吹かれてたのが悪いんだ」
さやか「それに、私。恭介のために魔法少女になったんじゃなく、マミさんと一緒に戦いたかったからだしね」
さやか「後悔なんか、してないよ」

ほむら「本当に大丈夫なのね」

さやか「平気、平気。これからは立派な魔法少女になるため、頑張っていきますよ」

ほむら「無理してない?」

まどか「ほむらちゃんは心配性だなぁ。心配いらないってば」

 繰り返してきた結果を見てきた私は、信じられないことだった。

さやか「というわけで、マミさん、よろしくおねがいします」

マミ「ええ、まかせといて」
マミ「私は、責任重大ね。美樹さんを、しっかり育てて行かなくちゃ」

さやか「はい。憧れのマミさんを見習い、いつかきっと、肩を並べるほど強くなってみせます」

マミ「ふふ、うかうかしてられないわ。後輩に追い越されないよう、気をつけなくちゃ」

杏子「ケッ、マミの教育があろうと、半人前は、いつまでも半人前だろ」

マミ「そう言ってられるのも、今のうち」
マミ「美樹さんを、佐倉さんがあっと驚く、強い魔法少女にしてみせるわ」

杏子「へぃへぃ、楽しみにしてら。それより、アタシは早いとこマミのケーキが食いてぇぜ」

さやか「へっへー、さては、私がマミさんとコンビ組むの、羨ましいんだろ」

杏子「な、なにいってんだ。んなわけねーよ!」

さやか「ありゃ、図星だった?」

杏子「ちげーよっ!」

マミ「佐倉さんも、私たちとチーム組まない? 歓迎するわよ」

杏子「だから、やだっつーの」

さやか「おほほ、顔に、マミさんとチーム組みたいって書いてあるザマスよ」

杏子「別に組みたかねぇっ!」

まどか「杏子ちゃん、素直じゃないなぁ」

杏子「ちょっ、ちげぇ!」

さやか「杏子ちゃん、可愛いぞー」

杏子「半人前のくせに、杏子ちゃん言うな!」

マミ「じゃあ、決まりね。佐倉さん、これからよろしくね」

杏子「勝手に決めんなーっ!」

マミ「暁美さんも、どう? チームマギカエンジェルズに入らない?」

さやか「なんか変なチーム名付けられてるーっ!」

ほむら「悪いけど」

 もちろん、お断り。

まどか「はいはい、ほむらちゃんも、チームマギカエンジェルズに入りまーす!」

杏子「えっ、マジその名前にすんのっ!」

ほむら「まっ、まどか、私はそのつもりは…」

さやか「まぁ、転校生は、結果的にそうなるんじゃない?」

マミ「そうね。いつも、鹿目さんの後を付けているみたいだし」

杏子「まさか、風呂もトイレも覗いてるんじゃねぇだろうな?」
杏子「脱衣所にある、まどかの下着を発見し…」
杏子「おおっ、これはまどかのパンツっ! においを嗅ぐぞ、食っちまうぞ、マミっパイよりうめーっ!」
杏子「さぁ、次は、はいてみよう。ああ、なんという心地、鼻血がでそーだぜ」
杏子「そして、自分のパンツを、まどかが着替えるパンツと取っ替える…」
杏子「なんてことしてんじゃねー?」

さやか「変態だーっ!」

マミ「暁美さん。さすがに引くわ…」

ほむら「そんなこと、するわけないじゃない!」

まどか「………」

ほむら「まどかっ、やってないから、自分のパンツ確認しないで!」

まどか「ほむらちゃん。影でこそこそしてるから、そんな疑いがかかるんだよ」

ほむら「うう…」

 まどかのためなのに。

まどか「私も、魔女をやっつけるお仕事付いていくもの。戦えないけどね、えへへ、でも、みんなを見守りたい。いいよね?」

マミ「いいけど、安全の保証はできないわよ」

杏子「魔女にやられたって、しんねーぞ」

まどか「大丈夫。ほむらちゃんが、私を守るため、付いてくるんだもん。ねっ?」

ほむら「う…」

まどか「だから、こっそりとじゃくて、チームに入って一緒にいこ」
まどか「魔女退治は、毎日がデートになるよ?」

ほむら「デート…」

ほむら「うん」

 ダメ、断れない。

まどか「決まりだね!」

さやか「ひゅー、ひゅー、お熱いねぇー」

杏子「見せつけんじゃねーぞ」

マミ「やけるわねぇ」
マミ「私たちも、鹿目さんと暁美さんに負けないほど、イチャイチャ戦いましょうか?」

さやか「それ、どっちとですか?」

マミ「私は、ふたりともいただくわ(にっこり)」

さやか「マミさん、よくばりですね」

杏子「どっちかに決めろよ」

さやか「はっはーん」

杏子「な、なんだよ!」

さやか「マミさーん。杏子ちゃんは、マミさんを独り占めしたいそうです」

杏子「はぁ、なんで!」

さやか「しかし、杏子にはやらない。マミさんは、私のお姉さまだーっ!」

杏子「おめぇ、なに言ってんだ!」

マミ「私を巡って、ふたりの魔法少女が激突している。ああっ、私はなんて罪深い女なのかしらっ」

杏子「ちげぇ、ちげぇ、ちげぇーっ!」

まどか「あ、もし、本当に私のパンツ欲しいなら、ご褒美にあげてもいいよ?」

ほむら「いらないってば…」

 だめ。このまどかは調子狂う…。

 数日後の夜。まどかの家の前。

まどか「いってきまーす」

 玄関のドアから、まどかが姿を現す。

まどか「あれ、ほむらちゃん?」

ほむら「迎えにきたわ」

まどか「もぅ、来てるなら、チャイム押して欲しいな。私の家族、紹介したのに」

ほむら「本当はあなたを連れて行きたくない。家にいてくれるなら、私もそれに付き合う」

まどか「心配してくれてるの、分かるけど。ごめんね、私、みんなと一緒にいたいの」

ほむら「危険よ。何かあったら、まどかを助けてあげられないかもしれない」

まどか「うん。そんなことないよう、十分、気をつける」

 まどかは一度決めたことは、絶対曲げようとしない。
 気が乗らないけど、付き合うしかなかった。

 集合場所の駅前の広場。

さやか「おーい、まどかー、こっちこっちーっ!」

 みんな揃っている。ブツブツ、ふて腐れているけど、杏子の姿もあった。

マミ「チームマギカエンジェルズ、今日も見滝原町の平和のために、はりきってまいりましょう!」

まどか「おーっ!」

さやか「お、おー…」

杏子「なぁ、その恥ずかしいチーム名、変えねぇ?」

さやか「私もその意見に一票…」

マミ「却下」

さやか「いや、独断じゃなく、多数決しましょうよ…」

まどか「私は、チームマギカエンジェルズ、いいと思うな。ねっ、ほむらちゃん?」

ほむら「まどかがそう言うなら」

マミ「ふふっ、多数決でも決まりね」

杏子「マジかよ…」

 名前なんて私はどうでもいい。

 魔女を探しにパトロール中。

まどか「私ね、頑張るみんなのために、クッキー焼いてきたんだよ」

さやか「おっ、まどか気が利くじゃん」

杏子「早速、いっただきー」

マミ「歩きながら食べるの、品がないけど、いただくわ」

まどか「水筒に、たっぷり冷たいお茶が入ってるから、欲しければ言ってね」

杏子「おいおい、遠足じゃねぇんだぞ…もらうけど」

まどか「あれ。ほむらちゃん、クッキー食べないの?」

 まどかの手作り。

ほむら「…食べるの、もったいない」

さやか「あんた、どんだけまどかにラブなんだよ!」

マミ「佐倉さん、口の周り、カスついてるわよ?」

杏子「いいよ、自分で取れるよ」

マミ「ほら、じっとして」

杏子「だから、近づく…んん…」

マミ「はい、取れた」

杏子「…ガキじゃねぇんだ、バカ」

さやか「マミさーん、私の口もカスだらけになっちゃった」

杏子「自分で取れよっ!」

さやか「いやぁ、羨ましくなって、ついー」

マミ「あらあら、ふたりとも甘えん坊ね」


まどか「チームマギカエンジェルズのリーダーって、決めなくてもマミさんになってるね」

ほむら「そうね」

 変なネーミングを付ける欠点はあるけど、信頼が厚くて、面倒見がよく、魔法少女の実力だって安定している。
 私は中心に立つつもりはないし、巴マミが適役なのかも。

まどか「マミさん、頼りがいあるもん。綺麗だし、しっかりしてるし、私、憧れちゃうなぁ」

ほむら「メンタル面の弱さが気になるわ」

まどか「それは、私たちがフォローしていけばいいよ」

ほむら「フォロー?」

まどか「うん、完璧な人なんていない。お互いに足りないものを、支え合うことで、強くなれる。それがチームだよ」

ほむら「そうね、そうなのかも」

 私はまどかに支えられている。私はまどかを支えている。
 それは、他の魔法少女たちに対しても言えること。
 この循環が上手く行き、チームの絆が生まれれば、ひょっとするのかも。

まどか「マミさん、ほむらちゃん、杏子ちゃん、さやかちゃんの力が合わされば無敵なのだ。どんな魔女でもどんとこい!」
まどか「チームマギカエンジェルズ、ファイト!」

ほむら「………」

まどか「ほむらちゃん、ノリ悪いなぁ。おーっ! って叫ばなきゃ」

 やっぱり、そのダサい名前、変えたいかも…。


 魔女結界。

さやか「たぁっ! スウィーニー・フィニッシュ!」

 ドッカーン!

魔女(やーらーれーたー)

さやか「よっしゃあっ! 魔女をやっつけたっ!」

まどか「さやかちゃん、やったね!」

杏子「へっ、まだまだ、ぬるいわ」

ほむら「なかなか、やるわね」

 今まで出会った、美樹さやかの中で、遙かに強くなっている。
 これは、もしかすれば、もしかするかも。

マミ「おめでとう。このグリーフシードはあなたのものよ」

さやか「ああ、私が手に入れた初めてのグリーフシード」
さやか「使うの勿体ないなぁ。永久保存したいぐらいだよ、ちゅっ」

マミ「キスするなら、私の唇のほうがいいんじゃなくて?」

さやか「マミさんって、相当な冗談好きですよね…」

マミ「くすくす、だって、隣で睨んでる子が面白いんだもの」

杏子「あっ、アタシのことかっ!」

マミ「必殺技名も、気に入ってくれたようで、嬉しいわ」

まどか「たーん、くるくるくる、スウィーニー・フィニッシュ!」

ほむら「ぷっ」

杏子「ククククク…」

さやか「たはは、かなーり恥ずかしいです」

マミ「佐倉さんは、いつ使ってくれるのかしら?」

まどか「タタタタタッ、エイっ! フラーミブロー・フィーネっ!」

杏子「んなセリフ叫ぶぐらいなら、魔女に殺された方がマシだぜ…」

 街を荒らす魔女を一通り倒して、川辺の遊歩道に私たちは集まる。

マミ「本日のパトロールはこれぐらいね。みんな、お疲れさま」

まどか「お疲れ様でしたーっ」

さやか「いやぁ、魔女を倒せたし、自分の成長を実感できるのってサイコー。今日は気持ちよく眠れそうだ」

杏子「おめぇ、使い魔まで倒すんじゃねぇよ。手に入るグリーフードが、入らなくなるじゃねぇか」

さやか「うっさいな、私はひとりでも多くの人を助けたいの。グリーフシードしか興味ない、誰かさんとは違うんだ」

杏子「使い魔に食われる人間なんて、弱い人間なんだ。ほっときゃいいんだよ」

さやか「逃がしちゃったら、大切な人を狙うかもしんないんだよ。大変な目にあったらどうすんの? そんな絶対、許すわけにいかないよ」

杏子「そうやって、正義感ぶってると、後で痛い目みんぜ。おめぇ、私らがいなきゃ、すぐに魔女に殺されてたな」

さやか「なんだとっ!」

マミ「ふたりとも、喧嘩はよしなさい」


まどか「そうだよ。さやかちゃんも、杏子ちゃんも、仲良くしなくちゃ」

さやか「ふんっ、私は別に、仲良くしたいなんて思ってないし」

杏子「けっ、こんな分からず屋、こっちだって願い下げだ」

さやか「マミさんも、いってやってください。こいつ、魔法少女失格です」

マミ「私は、どちらかというと、佐倉さん寄りね」

さやか「そんなぁ…」

杏子「へっ、ザマーミロ、ベロベロベロ」

まどか「杏子ちゃんって、結構子供っぽいよね…」

マミ「別に、使い魔を倒すなと、言っているわけじゃないの」
マミ「そのときは、ソウルジェムに余裕があり、使用する魔力を最小限にすること」
マミ「ソウルジェムが真っ黒で、グリーフシードがないなら、それこそ、大切な人が魔女に狙われたとき、助けることができなくなるわよ」

さやか「…う」

ほむら「さやかは感情的になりすぎる。それに、魔力の無駄打ちが多い」
ほむら「人助けのために戦うのではなく、ソウルジェムを濁らすために戦っているようなものよ」
ほむら「あなたに必要なのは、どんなときも冷静でいること。今の戦い方では、必ず死ぬ」

 あいつを戦うとき、足手まといになる。

さやか「転校生にまで、ダメだし…」

ほむら「別にあなたを、非難しているわけではないから。経験からの忠告」

 強くなってもらわなきゃ、困るんだから。

さやか「はぁ、私って、魔法少女の才能、ないのかなぁ」

まどか「そんなことないよ。誰だって初めは、そんな感じだよ」
まどか「みんなが厳しいのは、魔法少女なりたての時の、自分を見ているみたいで、ハラハラするからなの」
まどか「実践を積めば、段々と分かってくるはず。さやかちゃんは、先生が三人もいるんだから、直ぐに上達するよ」

さやか「まどか。あなた、すでに魔法少女みたいなこと言うね」

まどか「え? そ、そうかな、えへへへへ」

杏子「まどかは、魔法少女、なんねーのか? 素質ありそうに思えるんだけどな」

ほむら「ダメ」

 絶対に。

まどか「てへっ、そういうことだよ。ほむらちゃん、怖くなるから、言わないほうがいいよ」

杏子「あ、ああ。本気で殺す目するから、ビビッたぜ」

マミ「美樹さんは、まだ教えなきゃいけないことが、沢山あるわね」
マミ「暫く、私の家に泊まっていかない? その方が効率いいし」

さやか「それは、嬉しいですけど、いいんですか?」

杏子「ゲっ! こいつ来るのっ!」

さやか「なんで、杏子が嫌がるわけ?」

杏子「あー、いや、それはまぁ、なんだ…」

マミ「佐倉さんは、私の家に居候することになったの」

さやか「えええっ! マジでぇーっ!」

杏子「いゃ、まぁ、アレだ。家がないっつったら、そう言うことになっちまってよ、別に、アタシは、ひとり慣れてるし、いいっていったんだけど、マミのやつが、強引によ、それで、いや、まいったなぁ…というか…」

さやか「…私も、マミさんの家に泊まる」

杏子「うぜぇから来るな」

まどか「マミさん、人気者だね」

マミ「ふふっ、魔法少女の学校を作って、先生になろうかしら」


 まどか、まどか、まどか。
 眠いよ。もう二時間寝かせて…。
 まどろみの中、時計を見て驚いた。
 登校時間が、すでに過ぎている。

ほむら「ちこくっ!」

 飛び起きて、慌てて制服に着替え、支度をする。
 この隙に、インキューベーターがまどかに近づいているかもしれない。
 急がなきゃ。

 教室内。学校に到着したときは、すでに授業が始まっていた。

まどか(ほむらちゃんが遅刻するなんて、珍しいよね)

 まどかが、テレパスで声をかけてきた。

ほむら(不覚だったわ)

 こんなに、ぐっすりと眠ったのは久しぶり。
 今いる世界が居心地よくて、気を許してしまっていた。
 私としたことが大失態。こんなんじゃ、ダメじゃないの。

さやか(…私はもう死んだ)

 美樹さやかは、授業を聞かず、机にぐったりうな垂れている。

ほむら(あれ、どうしたの?)

まどか(早起きさせられて、マミさんと杏子ちゃんにみっちりしごかれたみたい」

さやか(鬼教官め、夜逃げしてやる)

マミ(ふーん、美樹さん、そんなこと考えてるんだ)

さやか「ひぃっ!」

早乙女「ん? どうしたさやかさん、怪獣に襲われる夢でもみてた?」

さやか「いやいや、なんでもありません! 先生、相変わらず、美人ですねぇ」

早乙女「あはは、おだてたって、この空白を埋める権利しかあげないわよ」

さやか(げげっ! まどか、おしえて~)

まどか(さやかちゃん、ファイト!)

マミ(解けなければ、トレーニングの量を増やそうかしら?)

さやか(勘弁してください~っ!)

 さやかは、マミに任せられそうね。

 休憩時間。女子トイレ。

まどか「それでね、さやかちゃんを、マミさんに取られちゃったから、私、ひとりで学校いったんだ」

ほむら「そう」

まどか「仁美ちゃんも、上条くんと付き合うようになって、気まずいみたいでね、あまり声をかけてくれないの」

ほむら「仕方ないことよ」

まどか「ちょっと寂しいなぁ。ほむらちゃん、一緒に学校にいかない? 寝坊したら、起こしてあげるよ」

 まどかと一緒に登校…。

ほむら「悪くないわね」

 手を洗うとき、鏡の向こうにいる女に驚いた。
 鏡に映る暁美ほむらは、微笑んでいたから。


 感情を殺しているはずだった。
 なのに、まどかといる私は、自然と、こんな顔を作っていたんだ。
 これではいけない。気を引き締めるため、自分の頬をパンパンと叩く。
 こうやって、私を油断させるのが、インキューベーターの狙いなのかしらね。
 普段なら、活発的に私たちを翻弄させていたアイツが、おとなしくて気味悪い。

まどか「ほむらちゃん、どうかした?」

ほむら「なんでもないわ」

 まあいい。
 インキュベーターが何を企んでいるにせよ、私はやりぬくしかない。
 何度も繰り返してきた平行世界の旅を、今回限りで終わらせる。
 そのためにも…。



 重要な話をするため、全員を私の家に呼んだ。

ほむら「一週間後、ワルプルギスの夜が来る」

 今回は、マミ、杏子、さやかが揃っている。しかもチームワークが格段に良い。
 そして、まどかが、魔法少女になっていないという、絶好の機会だ。
 私の望むべき状況が、ついにやってきた。
 これで勝てなければ、私に希望はない。

マミ「そう。ついにこの街も、魔女の饗宴に招待されるのね」

杏子「やっかいなもんが来るねぇ。まぁ、一人じゃねぇーし、なんとかなんじゃね?」

まどか「そうだよ、みんなの力が合わせれば、必ず勝てるよ」


さやか「なんです? そのワルプ…なんとかってやつ?」

マミ「結界を持たずしてこの世を破滅へと誘う、最強にて最悪な超巨大魔女」

さやか「…うわ、聞くだけで強そう」

杏子「強いなんてもんじゃねぇ。ワルプルギスの夜と比べたら、今まで戦ってきた魔女なんて、アリみてぇなもんだ」

さやか「たはは、私、戦えるかなぁ?」

マミ「大丈夫。美樹さんは強くなってるわ。私たちの戦力に十分なってる」

杏子「一週間あるんだ。それまでに一人前になるよう、徹底的に鍛えてやる」

さやか「ああ。弱音吐いたって、なんにもなんないもんな。地球の平和を守るためにも、私はやってやるぞ!」

杏子「へっ、覚悟しとけよ」


マミ「でも、信じられないわね。暁美さん、本当にワルプルギスの夜がやってるの? その根拠は?」

ほむら「統計から」

杏子「なんの? アタシ、この街にワルプルギスが来たって話、聞いたことないよ」

さやか「え? まさか、嘘…?」

まどか「嘘じゃないよ。ほむらちゃん、嘘つかないもん」

QB「その通り、暁美ほむらの言うとおりさ。ワルプルギスの夜は一週間後、確実にやってくる」

 このタイミングを待っていたように、インキュベーターが姿を現した。


QB「そしてそれは、最後の戦いでもある」

杏子「最後って、どういうことだよ?」

QB「元の人間に戻ることができるってことだよ」

 なにそれ…。

マミ「キュゥべえ、それほんと?」

QB「本当さ。ワルプルギスの夜を倒せば、ソウルジェムにある魂が肉体に戻って、魔法少女を卒業することができる」
QB「キミたちは全員、救われるんだ」

ほむら「キュゥべえ、あなた」
 
 なにを言ってるの?



 深夜。
 目的の相手は、公園のベンチにいた。
 
QB「暁美ほむら。キミがボクに会いに来るのは予想していたよ」

 満月の光に照らされたインキュベーターに、銃を向ける。

QB「やれやれ、時を移動しすぎて、せっかちになったのかい?」

ほむら「やはりあなたは、私が同じ時を繰り返していることを、知っていたのね?」

QB「運良く、知る機会を得られたからね」

 やはり、こいつは初めから気付いていた。


ほむら「不思議に思っていた。あなたがなぜ、まどかを魔法少女にすることに、消極的でいるのか」
ほむら「それに、巴マミの命を助け、美樹さやかのソウルジェムが濁らないように、手助けまでしていた」
ほむら「インキュベーターらしからぬ行動よ」
ほむら「でも、やっと、狙いが分かった」
ほむら「あなたの目的は、私たちを全員集め、ワルプルギスの夜と戦わせること」
ほむら「まどかも、そのときに契約させる狙い」
ほむら「そして、ワルプルギスの夜を倒し、魔法少女たちの希望を絶望に変え、この星を滅ぼせるほどの巨大なエネルギーを一気に回収させる」
ほむら「なにが、魔法少女を卒業できるよ。とんだペテン師ね」

QB「なるほど、幾多の平行世界を横断するキミは、この時間軸にある違和感を、そのように解釈したんだね」
QB「全ては、ボクが仕掛けた罠だと」
QB「まどかがキミに好意を寄せているのも、ボクが裏で操っているからだと、考えていそうだね」

ほむら「そうでないとでも?」


QB「違うよ。まどかはまどかさ。でも、ボクがいくら否定した所で、信じられないだろうね」
QB「終わりの見えない時の螺旋を繰り返してきたキミにとって、現世界はありえないことばかりが起こっている」
QB「しかも、キミが望んだ通りに、話が進んでいるんだ」
QB「都合が良すぎると疑い、無理矢理にでも、こじつけたくなる気持ちも無理はない」
QB「けれど、その推理は、ほぼ間違っているよ」
QB「暁美ほむら。前にも言ったよね、ぼくとキミは、大きな相違があると」

ほむら「だからなに?」

QB「このような推理はしなかったのかい?」
QB「キミが過去に出会ってきたインキュベーターと、この世界のインキュベーターの目的が、変わっているのだと」

ほむら「変わる?」

QB「そう。ボクの役割は、願い事をなんでも叶える代わりに、少女たちを魔法少女にし、魔女と戦わせることだ」
QB「そこまでは、キミの知るインキュベーターと変わりない」
QB「けれど、大きな違いは、この世界のボクは、魔法少女になった彼女たちを『魔女にならないようサポートすること』なんだ」

ほむら「バカな。そんなのありえない!」

QB「ありえたんだよ。現にそうしているじゃないか。キミも見てきたことだろ」
QB「ボクは騙してなんかいない。契約を交わした責任を持ち、魔法少女をケアするために動いているんだ」

ほむら「そんなはずない! 不可能よ!」

QB「奇跡を起こせる方法が、ひとつあるじゃないか」

ほむら「まさか、契約っ!」


QB「そう。ボクの存在目的を改変させるなんて、造作もないことだろうね」

ほむら「だれかが、インキュベーターの目的を変えるよう願い、それが今の現象へと繋がっているというわけ?」

QB「それも、外れ。彼女が願ったのは、そんなことじゃない。もっと大きなことだ」
QB「でなければ、ワルプルギスの夜を倒せば、魔法少女が救われるなんて法則が、生まれるわけないだろ?」

ほむら「教えて。あなたを変えた人物って、だれなの?」

QB「暁美ほむら。キミだよ」

 分からない。頭が混乱する。

ほむら「なんなの。あなたは何を言っているの」
ほむら「私は、私は、キュゥべえに…そんな願いはしていない…」

QB「それは当然だよ。変えたのは暁美ほむらだが、願った人物は別にいるからね」

 変えたのは私、願ったのは別…。
 くらくらする。パズルのピースがはまらない。

ほむら「じゃあ…だれ…?」

QB「本当は、分かっているんだろ。誰が願ったのか」

ほむら「それは…でも…」

 そう…ひとりしかいない。
 でも、それは消去法で、私にとっては、望んでないことで…。


QB「ヒントをあげよう。キミは、契約の場面を見ているはずだよ」

ほむら「あ…あ……」

 違和感、その答えが…。

QB「そして、『この世界のボクは』その場面を見ていない」

ほむら「…そんな」

 キュゥべえの後ろに人がいる。ひとりの女の子の笑みがある。

QB「そうそう。キミの疑問の一つに答えよう」
QB「ぼくが、鹿目まどかと契約しない理由はね…」

 彼女は、私の前に来た。

QB「見てのとおり、する必要がないからなんだ」

まどか「ごめんね、ほむらちゃん」

 魔法少女の鹿目まどかだった。


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ほむら「まどかが…まさか…」

 こんなことが…起きるはず…。

QB「まどかはすでに、魔法少女になっているのに、どうして契約をするのさ」
QB「わけがわかんないよ」

ほむら「キュゥべえ、あなたはいつ、どこで、まどかと契約を交わしたというの! そんな機会なかったのに! 私が! 私が! そんな…」

 今度こそ、上手くいくと思っていたのに、これじゃあ、私は、なんのために…。

QB「さっき言ったじゃないか。暁美ほむらは契約の場面を見ていて、ボクはその場面を見ていないと」
QB「まどかはキミと同じく、イレギュラーなんだよ」

ほむら「じゃあ、じゃあ。あのときに…」

 前回の時間にまどかは願い事をした。何を願ったのかは分からない。
 でも、その影響で、まどかは魔法少女のままになってしまい、今も、ずっと、そのままで…。
 これだと、私にはもう二度と、まどかを救うことができない。

QB「けれど、まどかが魔法少女なのは、契約を交わしたことによるものではない」
QB「彼女がした、願い事による効果なんだ」

ほむら「効果…?」

QB「暁美ほむら、よく見るんだ」
QB「目の前のまどかに、ソウルジェムを感じるかい?」

 ソウルジェム…?

まどか「ほむらちゃん、私をよく見て。なにも、絶望することなんて、ないんだよ」

 優しく微笑むまどかのことを見る。

ほむら「どこにもない…?」

 転校初日の時と変わりなく、まどかから、ソウルジェムを感じない。

QB「ボクは、まどかと会ったとき、目を疑ったよ。魔法少女にもかかわらず、どこにもソウルジェムがないんだ」
QB「当然魔法力はゼロだ。変身できるけど、魔女と戦う力も、特別な能力があるわけでもない」
QB「魔法少女というだけの存在だ。いや、魔法少女ですらないのかもしれない。今のまどかの状態を、なんと言うのかボクには分からない」
QB「分かるのは、このまどかは、ボクの常識では絶対にあり得ないのに、現に存在しているという事だ」
QB「でも、まどかの話を聞いてね、ひとつの仮説としては成り立つことだと理解できた」

まどか「もう、本当のことだと言っているのに」

QB「だとしても、証明しようがないからね。ボクは、平行世界の存在を認知することができないんだ」

まどか「ほむらちゃんは、分かるもんね」

ほむら「…私?」

まどか「だって、ほむらちゃんは、過去を行き来しているんだもん」

ほむら「あなた…知って?」

まどか「うん。ほむらちゃんが過去に戻ってきた瞬間、ほむらちゃんと過ごした、いくつもの時間の記憶がぜんぶ、私の中に入ってきたんだ」
まどか「だから、私には分かるよ」
まどか「ほむらちゃんが、どんだけがんばってきたか、どれだけ苦しんできたか…」

 まどかは、両手を伸ばし、私を抱きしめる。

まどか「ごめんね。ほんと、ごめん。私なんかのために、こんなにも…」

ほむら「知ってたなら…なんで、最初から教えてくれなかったの?」

まどか「そうしたかった。ずっと、言いたかった。でも、その気持ちを我慢していたの」

QB「まどかは、伝えるつもりだったよ。それをボクが、時期が来るまで止めるべきだとアドバイスしたんだ」
QB「キミの意思を、揺らさないためにもね」

ほむら「揺らさないって、ねぇ、まどか、いったい何を…」
ほむら「前回の時間。ワルプルギスの夜を一撃で倒した、最強の魔法少女で、最悪の魔女となったあなたは…」
ほむら「インキュベーターにどんな願い事をしたわけ?」

まどか「それはね…」

 さらに強く。まどかは、私を抱きしめる。

まどか「ほむらちゃんが過去に戻ったら、ほむらちゃんの望んでいる世界にしてほしい」

 そんな、そんな、願い事が…。

QB「だから、世界を変えているのは暁美ほむらであって、それを願ったのは鹿目まどかなんだよ」
QB「まどかが魔法少女であって、魔法少女でないのは、ぼくに契約させないためだろうね」
QB「ボクの目的が改変されたのは、ワルプルギスの夜を倒すために、邪魔をされないためじゃないかな」
QB「これで、魔法少女を魔女にする方が感情エネルギー収集として効率がいいのに、それを阻止しているという、ボクの矛盾に納得がいく」
QB「ほむらは、ボクが協力者になることを望んだんだ」

ほむら「私が望んで…だから、この世界は…」

まどか「そうだよ、すべては、ほむらちゃんが望んだから」
まどか「ほむらちゃんが望んだから、私はぜんぶの記憶があるんだよ」
まどか「ほむらちゃんが望んだから、キュゥべえは良い子なんだよ」
まどか「ほむらちゃんが望んだから、マミさんも、さやかちゃんも、杏子ちゃんも元気なんだよ」
まどか「ほむらちゃんが望んだから、みんながチームを組んで、仲良くしているんだよ」
まどか「ほむらちゃんが望んだから、ワルプルギスの夜を、みんなの力を合わせて、やっつけることができるんだよ」
まどか「ほむらちゃんが望んだから、望んでいるから…」





まどか「――この世界はとても美しくて、やさしいんだよ」





 …ああ。
 この世界は、なんて、美しくて、やさしい。

ほむら「まどかぁ…」

 だめ、もう。
 涙が止まらない。こらえきれない。
 ぼろぼろと、溢れてくる。

まどか「ほむらちゃんが学校に転校して、自己紹介したとき、わたし笑ったよね?」
まどか「あれ、嬉しかったんだ」
まどか「最初みたときは、体が弱くて、オドオドとしていた、あのほむらちゃんが、こんなにもかっこよくなったんだって…」
まどか「ほむらって、もう、名前負けしてないよ」
まどか「かっこよくて、可愛くて、強くて、優しくて、とても頑張り屋な…」
まどか「私の最高のお友達」

ほむら「まどか…まどかぁ…」

 泣きやまなくなった私を、まどかはずっとずっと、子供をあやすように包んでくれた。

区切りの良いところで、ちょっと席を外します。
15分後に再開する予定。
こんな長い作品につきあって下さるみなさんに感謝。


 ワルプルギスの夜。決戦の日。

マミ「いよいよ、混沌の夜明けが目覚めるのね」

杏子「なんて風だ。まだ来てねぇってのに、強烈な力を感じるぜ」

さやか「この日のために、地獄の特訓に耐えたんだ。もう、なにも怖くない!」

まどか「ほむらちゃん、これ…」

 魔法少女のまどかは、髪を結んだリボンを外す。

まどか「お守りにしてほしいな」

 私の頭に付けてくれる。
 まどかのリボン。それに手を触れた。

ほむら「うん、これをまどかだと思って戦う」

 まどかが、魔法少女になっている理由。
 それは、私が魔法少女の鹿目まどかに憧れていたから。
 本当は、まどかと一緒に戦いたかったから。
 その望みが、こんな形で、実現されたんだ。

マミ「この受難を乗り越えた私たちは魔法少女の使命を終え、人間へと復活をとげる」

QB「そのとき、マミは、なにを望むかい?」

さやか「また、願い事して、魔法少女になれたりできるの?」

QB「それは無理だよ。魔法少女の試練に勝利した少女は、大人として立派に成長しているからね。ソウルジェムを生産することは不可能だ」
QB「でも、人として、やれることはたくさんあるよ?」

マミ「そうね。できれば卒業生として、未来の魔法少女たちの世話をしていきたいわ」

杏子「アタシは、マミの美味い飯が食えれば、それでいーや」

さやか「恭介の演奏を聴く。コンサートホールで、たくさんの聴衆の前で奏でるヴァイオリンの音色をね」

まどか「ほむらちゃんは、これが終わったら、なにがしたい?」


ほむら「わたし? わたしは…」

 考えたことなかった。
 私に、そんな未来があるなんて、思ってもいなかったから。
 でも、叶えたい夢はある。

ほむら「まどかと一緒に、学校に行きたい」

 それは奇跡。なんてことのない日常。

まどか「そんなんでいいの?」
まどか「私は、ほむらちゃんとご飯食べたり、勉強したり、一緒に帰ったり、寄り道をしたり、お泊まりをしたり、学校をサボッて旅行いっちゃったり、色々したいな」

ほむら「それは、私には贅沢すぎる…」

まどか「贅沢って、そんなの、キュゥべえいらないほど、ちっちゃいよ。仲の良い女の子同士が、普通にやってることだよ」
まどか「私の願いは、ほむらちゃんが、もっと、わがままになってくれること」
まどか「私にしてほしいこと、なんでも言って欲しいな。私が、なんでも叶えてあげるよ」

さやか「ひゅー、ひゅー、ラブラブですなぁ」

まどか「そうですよー。私たち相思相愛だもん!」

ほむら「そうし…まどかったら、もう…」

 恥ずかしくて嬉しくてどうしようもない気持ちがいっぱいになってる。
 ワルプルギスの夜が来る前だというのに、なんでこんなにも幸せなんだろう。

まどか「ほむらちゃん、いっぱい、一緒、やっていこうね!」

ほむら「うん!」

 未来がある。
 私とまどかの、大きな未来が。

 だから…

さやか「キュゥべえ、ワルプルギス到着まであとどのぐらい?」

QB「もうすぐそこだ。5分もないんじゃないかな」

杏子「んじゃ、ちょっくらワルプルギス、倒してくっか」

ほむら「まどか。危険だから、避難所に戻った方がいい」

まどか「うん、みんなの無事を祈ってる」

マミ「さあ、チームマギカエンジェルズの最後の大舞台。はりきっていくわよ!」

みんな「おーっ!」

 私に怖いものなんて、なにもない!


 避難所。
 窓の外を見つめながら、みんなの無事を祈る。
 大嵐。真っ暗な空に、もの凄い風と雨。立木が今にも吹き飛びそうになっている。
 時折、空の向こうで、激しい光と、大きな雷が鳴っている。
 あそこで、みんなが力を尽くして戦っているんだ。

まどか「私も、戦えたらいいのに」

 なにも出来ない自分が辛い。

QB「それがキミの望みかい? それならボクと契約して魔法少女になってよ」

 キュゥべえが隣に来ていた。


QB「なんてね」

まどか「…キュゥべえも冗談を言うんだ」

 少し、緊張がほぐれたかもしれない。

まどか「みんなは、どう?」

QB「激戦を繰り広げているよ。リタイヤはいない。ワルプルギスの夜を相手に、良く戦っている」

まどか「勝てるかな?」

QB「ワルプルギスの桁外れな強さに絶望しても、希望を貸してくれる仲間たちがいるからね」
QB「最後まで諦めない勇気があれば、もしかするかもしれない」

 ほむらちゃん、マミさん、さやかちゃん、杏子ちゃん。
 みんな、がんばって…。

まどか「ねぇ、キュゥべえ」

QB「なんだい、まどか?」

まどか「ワルプルギスの夜を倒せば、ソウルジェムにある魂が肉体に戻るのって、嘘でしょ?」



QB「なんでそう思ったんだい?」

まどか「それが出来るなら、本当に素敵なことだよ」
まどか「でも、ほむらちゃんが望んでいることは、私を救うことだもん。そこまで考えてなかったんじゃないかな?」

QB「そうだね。暁美ほむらは、まどかを助けたい一心で視野を狭くしている」
QB「すべてはまどかのためであり、自分が救われるなんて、考えてなかったはずだ」

まどか「じゃあ、ワルプルギスを倒したら、ほむらちゃんどうなっちゃうの?」

QB「ソウルジェムがグリーフシードとなり、魔女となって自らを滅ぼすだろう」
QB「この世界の法則に縛られている彼女にとって、それ以外の選択肢はないんだ」
QB「待っているのは絶望だ」

まどか「そんな、そんなのって…」

QB「すべて覚悟の上さ」
QB「それで、暁美ほむらの呪縛が解かれ、まどかを救う永遠の迷路が終わるんだ。彼女は、きっと満足する」
QB「でも、まどかにとってはどうだい?」

まどか「嫌だよ。ずっと辛い思いしてきたのに、私のために、悲しい結末になるなんて…」
まどか「ほむらちゃんが報われて欲しい。私のために犠牲になってほしくない」

QB「だからこそ、結末を、始まりに変えればいいんだよ」


まどか「始まりに変える?」

QB「暁美ほむらは気付いてないけど、まどかの願いは現在進行形なんだ」
QB「いまなお、願いを叶えるべく発動している」
QB「だから、暁美ほむらが望んでいる世界を、転換させればいいんだよ」
QB「まどか。キミは彼女に、これが終わったら、なにがしたいか聞いたよね?」

まどか「うん、ほむらちゃんは私と学校に行きたいって…」

 そんな小さな夢。
 それですら、ほむらちゃんにとっては大きな奇跡であることに、悲しくなった。

QB「彼女はそれを望むだろう」
QB「ワルプルギスを倒すことじゃない。倒した後に始まる未来を、意識するようになる」
QB「その波動が大きくなればなるほど、現実となってくれるはずだよ」

まどか「じゃあ、魔法少女が救われる方法を、キュゥべえが伝えたのは?」

QB「あれはね。ボクが暁美ほむらに、願いごとをしたようなものだよ」
QB「それには、その法則が事実であることを、ほむらの潜在意識に確信させる必要があった。だから、『すでに起こったこと』として伝えたんだ」
QB「疑いの気持ちさえなければ、必ず、願いを叶えてくれるだろうね」

まどか「本当に、そうなってくれるかな?」

QB「彼女の中心は、まどかであり、すべてはワルプルギスを倒すことにかかっている」
QB「だから、願いのエネルギーは、この戦いを終えたときに、大きく発動することになるだろう」
QB「一撃でワルプルギスを滅ぼした鹿目まどかの強力な魔力と、何度も時を繰り返してきた暁美ほむらの大きな願いが、共鳴しあっているんだ」
QB「この世界の法則を書き換えるなんて、訳ないことだよ」

まどか「ほむらちゃん」

 私がほむらちゃんにした、キュゥべえに騙される私を助けて欲しいという、お願い。

 後悔していた。私はなんて、残酷なことを言ったのだろう。
 それが、ほむらちゃんを苦しめることに繋がってしまったのだから。
 でも、その約束を果たそうとする、ほむらちゃんの強い意志が、こんな形で報われるんだ。

QB「ワルプルギスと魔法少女の戦いは、超巨大な感情エネルギーが発生する」
QB「それをボクが回収するとき、魔法少女の魂を肉体に戻すため、エネルギーをちょっと分けてあげることも可能となるんじゃないかな」
QB「これは推測だけどね。でも、上手く行けばきっと、そうなると思うよ」

まどか「あはは、キュゥべえは、ほんと良い子だよ」

QB「暁美ほむらに変えられたとはいえ、ボクの仕事は魔法少女をケアすることだからね」
QB「絶望しかなかった魔法少女に、希望を創造できる唯一無二のチャンスなんだ」
QB「利用しない手はないじゃないか」


詢子「まどか、こんな所いたのか。トイレいくっつって、長いから心配したんだよ」

まどか「ママ」

詢子「まったく、こんな緊急時に、コスプレ着ちゃってさ、恥ずかしくないかい?」

まどか「私はみんなと戦っているの。だから、変身を解くわけにはいかないんだよ」

詢子「なにそれ? 思春期の女の子によくある、自分で設定作り上げる妄想遊びかい?」
詢子「私もそういう時代があったけど、娘がやるようになるとは、恥ずかしいもんがあるね」

まどか「えへへっ、巨大魔女との戦いが終わったら、魔法少女を卒業できるって設定にしてあるの」
まどか「もうすぐ、私たちは、普通の女の子に戻ることができるんだよ」

詢子「たはは、見てるこっちは、たまんないから、早いとこ戻っておくれ」

まどか「ママ、私は幸せだよ。大切な家族、大切な友達に囲まれて…」
まどか「私、取り柄はないし、得意な学科とか、人に自慢できるもの、なにもなくて」
まどか「いつまでも役に立たずで、みんなの迷惑かけていくのかなって、そう思っていて嫌だったの」
まどか「でもね、こんな私でも、みんなの役に立っていて、幸せにできるんだって、分かった」
まどか「私ね、鹿目まどかが大好き。こんなに、自分を誇りに思ったこと、ないんだ」

詢子「そりゃ、親としたら、嬉しいけどね。あんたが良い子に育って、良かったよ」

まどか「ママ。紹介したい子がいるんだ。私をずっとずっと守ってくれた、最高に素敵なお友達!」

 突然、外が光った。
 私は眩しさに目を瞑る。
 静寂。
 暫くして、少しずつ、目をあけていく。
 嵐がやんで、一面覆っていたどす黒い雲が薄くなり、青空が覗いていた。

詢子「やんだね。もっと激しいのが来るって聞いてたけど、思ったほどにならなかったな」

 みんな、がんばったんだ。
 長かった絶望が終わり、新しい希望が始まる。

まどか「私、いってくる!」

詢子「おっ、おい、まだ危険だぞ。まどか、どこにいくんだ!」

まどか「みんなを、迎えにっ!」


 空は大きな虹がかかっている。
 その下、マミさん、さやかちゃん、杏子ちゃんが並んで歩いている。
 それに、ほむらちゃんも…。
 みんな、清々しい顔をして、笑いあいながら歩いている。

まどか「みんなーっ!」

 私は走る。全力で。手を振りながら、みんなの元へと駈けていく。
 そして…。
 全てを成し遂げ、達成感で輝いているほむらちゃんに向かって、

 ――力いっぱい飛びついた。

まどか「ほむらちゃん、お疲れさまっ!」


END

 完走! なげぇw

 本当は
「ほむらちゃんを幸せにしたい!」
 とまどかがお願いしたら、その花びらにほむほむを、な百合んな話にする予定が、なんでかこんなものにw
 こんなバカ長い妄想を付き合ってくださってありがとうございます。

乙でした!
後日談や下も書いてくれたらとっても嬉しいなって
まどか「さくらちゃんみたいになりたい」 - SSまとめ速報
(http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1306586906/)

ご…後日談…だと…!!!!
このほむまどは、綺麗なままで終わらせたいと思っているんです。はい。
スレが残っていて、小ネタ程度で思いついたなら、考えますが、あまり期待しないでください。

>>237
 すまん。さくらたん、よく知らないんだ。

間違えた。
>>250
ですです。

 次は変態ほむらちゃんを書きたいなぁと思ったり。

スレまだ残っていたのか…。
ちょっとした後日談なら、浮かんだし、書いてみるかな。

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