男(俺はどこにでもいる普通の男子高校生だ。顔も悪い、頭も悪い、おまけを付けて運動神経も絶望的)
男(だが、両親は仕事で海外に転勤していて、今は可愛い妹と二人暮らし。さらには毎日のように幼馴染系美少女が俺に世話を焼きに来るのである)
男(自分の長所を上げろなんて言われたら、たぬき寝入り上手、物静か。欠点なんぞ夜空に浮かぶ星の数ほど思いつくに違いないだろう。それ、言いすぎ)
男(良い所が二つしか見つけられないのか? そうだな、しいて言えばこの俺は、モテる。まるで甘い甘い蜜を求めに来た昆虫の如く、この俺目掛けて美少女たちが忙しなく突撃してくる。いや、忙しないのは俺だ)
男(こんな冴えない俺なのだ。彼女なんて生まれてこの方一度も作れたことはない。彼女なんぞ想像上の生き物の類だ安心しろ皆おとぎ話をしている、と無理矢理思い込み、自分を安心させようとしていたのである)
男(問題ない。おそらくだ、この先も俺が彼女なんて作る事はないのだろう。何故なら、俺は美少女ハーレムパラダイスを築くのだから。えぇ? 彼女? 時代遅れじゃないですか、そんなチャチなものは?)
男(しかし、こんな普通で困るぐらいの俺にも悩みがあるのだ。それは……)
男「あれ、鍵がかかってる?」
男「なんてな。合い鍵の場所知ってるし…ほーら、植木鉢の下にちゃんとあったぞ」
男「まさか妹たち、外に出てるんじゃねーだろうな……まぁいいか。ただいまー」ガチャリ
猫「ニャウ~」
男「……あっ」
妹「こらー!マミタス、逃げんなー! ……へっ……あっ、ああ、あぁぁ~~~……っー!///」
男「……裸で、おかえりなさいお兄ちゃん、とは随分なお持て成しじゃないか」
妹「いやぁああああああ~~~~~!!?」
男(玄関扉を開けてすぐ俺を出迎えてくれたのは、湿った猫マミタスと、全裸の我が妹。やはり、美少女である)
男「お、おい!ご近所に何事だと疑われるだろ! 変な声あげるな!」
妹「きゃあああぁぁぁーーーっ!? やだっ、ダメ! こっち見ないでよバカお兄ちゃん!! アホアホ!!」
幼馴染「妹ちゃん!? どうか、し……た…………」
男「……よぉ、ただいま」
幼馴染「っー!……///」
男(さすが俺の美少女系幼馴染である。彼女も妹同様、洗面所からの登場。残念ながら、その黄金比とも喩えよう美しき身体をバスタオルで隠してはいたが、丁度良い恥じらいの仕方ではないか)
幼馴染「あ、えっと、その……男くん……?」
男「待てまて、俺ばかり悪者なんて扱い無いぞ。ていうかどうして二人で風呂に入ったりしてるんだよ(いや、想像すれば最高ではないか、その光景は。きっと天使の戯れが見られただろう)」
男「とりあえず俺にも言い訳をさせてくれ? な!? ……うわっ」
男(から、始まるお約束である。俺は足元を通過した猫を回避する為、無理な態勢を取る。すれば、やはりバランスを崩して、幼馴染へ向かって転倒)
幼馴染「えっ……」ハラリ
男(この俺の手は、幼馴染が纏っていたバスタオルを床へずり下ろしたのだ。そこに現れるは、ミロのビーナスに引けを取らぬ芸術品よ。神よ、感謝いたします)
幼馴染「[ピーーーーーーーーーーーーー]……!///」
男「え? 何だって?」
幼馴染「男くん、ほっぺたまだ痛む? すごく腫れ上がっちゃってるね…」
男「そりゃ靴べらで引っ叩かれれば、こうもなる」
妹「お兄ちゃんが悪いんだよ! ふんっ!」
男「だからワザとじゃないって言ってるだろ? いい加減機嫌直してくれよ」
妹「知らない! お兄ちゃんのバーカ」
男「やれやれ……(帰ってきて早々眼福眼福。あんな事があった矢先だ。俺の中のモヤモヤした気分も彼女たちによって、明後日へ吹き飛ばされてしまったのである)」
男(ちなみに、あんな事とは、覚えているだろうか。この俺の携帯電話へかかってきた謎の着信を。実は、つい先程に、俺は電話の相手と会って来たところなのだ。……その相手とは)
妹「…ねぇ、ところでお兄ちゃん。今日 幼馴染ちゃんと何かあった?」ひそ
男「特には無いが。それがどうかしたのか?」
妹「ん~……今日二人で家にいた時、マリカーしてたんだけどおかしいの。滅茶苦茶強かった」
妹「おかしいよね? いつも私たち相手に手抜いてくれるじゃん、幼馴染ちゃんは! なのに、なんか全力だし、目笑ってなかったし、話しかけても返事なかったし…うぅ」
男「夕飯時はかなり恐ろしかっただろうな……」
妹「やっぱり何かあったんでしょ!?」
幼馴染「男くーん……[ピーーーーーーーーーーー]……?」
男「なん……でもない」
妹「わかった。きっと、いつもの女の子絡みの話でしょ?」
男(大当たりである。しかし、幼馴染、今までずっと引きずっていたというのか。嫉妬に燃える美少女、乙なものかな)
男「お子様が出しゃばるんじゃねーよ。なぁ、幼馴染。こいつの面倒見てくれてありがとな」
幼馴染「ううん。男くんのおじさまたちからも頼まれてたし、それにあたしの趣味みたいなものだし……[ピーーーーーーー]///」
男(そう、俺の唯一の悩み、あるいは厄介としているのは、この難聴スキルだ。難聴のお陰で彼女ら美少女の肝心な台詞が俺には聴きとる事ができない)
男(ハーレムを目指す俺としては、この環境は実に恵まれているのだろう。しかし、難聴がそう上手くは俺をハッピーエンドへの道を外させようと、幾度なく妨害を働いてくるのである)
男(だが、神よ。俺はあなたに感謝の気持ちでいっぱいいっぱいなのだ。俺をこの世界へ導いてくれた、あなたは、まさに神。間違いない)
妹「……あっ、私そろそろ部屋に戻って宿題しなきゃなー」
幼馴染「あたし、一緒に手伝ってあげるよ。妹ちゃん」
妹「いえいえー。せっかくお若いお二人がお揃いですので、邪魔者はこれにて去らせていただこうかなーと」
幼馴染「ちょ、ちょっと……///」
男(そう言わずにこの場に残ってくれ、妹よ。お前がいない空間と変われば、俺はこれから肝を冷やされる思いをするのだから)
男(と、これ以上幼馴染を敬遠するわけにもいかないだろう。彼女はもはや落ちたも同然であるが、放っておく事もできないのだ)
幼馴染「もう、妹ちゃんてば……」
男「あいつも気が効かせられるお年頃になったってことだろ。じゃあ、気兼ねなく二人の時間を過ごそうじゃないか」
幼馴染「えっ!? そ、それって……///」
男「ほら、俺たちクラスは別で、中々会って満足に長話もできないしな。たまにはいいんじゃないか? こういうのもさ」
幼馴染「男くんは[ピーーーーーーーーー]……[ピーーーーーーー]、[ピ---]……!」
男「え?何て言ったんだ?」
幼馴染「それはそうと、男くん! ……先輩さんとの食事は楽しかったかな」
男「は、えっ!? あ、ああ……まぁ……楽しかった……」
幼馴染「そっか。別にあたし怒ってるわけじゃないからね? 男くんと昨日約束したばっかりなんだもん」
幼馴染「……それに男くんは[ピーーーーーーーー]、ね…」
男(やはりまずかっただろうか。重要イベントを起こした後で、他の美少女たちへアクションを起こしたのは。見れば、彼女はとても思い悩んだ表情で下を向いている)
男(妹に感謝だ。ここでフォローの一つしておかなければ、大惨事が発生してしまう、そんな気が、虫の報せがする、なのである)
男「幼馴染。お前は、俺にどうして欲しいんだ?」
幼馴染「え?」
幼馴染「どうして欲しいって……そういわれても……」
男「俺はな、お前にいつも感謝しているんだよ。こうして飽きずに俺たちへ世話も焼いてくれているし」
男「別にギブ&テイクとかそんなつもりじゃないぞ。お前は俺の事が好きなんだろ?」
幼馴染「えっ!? あっ……うぅー……///」
幼馴染「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]…」
男(安牌。スルーである)
幼馴染「でも、だからって男くんを無理矢理奪っちゃう形になるのは嫌だから。…それに、男くんは、あたしのこと[ピーーーーーーー]?」
男(「男くんは、あたしのこと好きなの?」だろうか。好きに決まっているだろう。こんなにいじらしい美少女を誰が嫌うものか。いや、嫌ってたまるものか、なのだ)
男(さて、よく考えて返事をしようではないか。これは幼馴染ルートへ進みかかっている状態と考えて良いだろう。ハーレムを目指すならば、回避を)
男(幼馴染と添い遂げるならば、YESの一択となる。……ハーレム。どうも先程の件(電話)が頭の中をグルグル回って、俺を悩ませる。せっかく美少女の裸体に癒されたばかりだというに)
男(この世界は、一体何なのだろうか。それは俺にとってでもあり、彼女たちにとってでもあり、[ピーーーーー]にとってでもあり)
男(夢か、はたまた偽りの世界なのか。神よ、あなたは何を思ってこの俺を選択したのだ。俺に何を求めていた?)
男「……なぁ、脱線してすまんが、一つ尋ねたい。大丈夫か?」
幼馴染「え? う、ううん、大丈夫だよ。何でも聞いて?」
男「幼馴染。お前と俺はいつから、こんな関係になったのか教えてくれ」
幼馴染「こんな関係? えっと、ごめんね。ちょっと聞かれてる意味がわからないです……いつから幼馴染の関係ってこと?」
男「ん……」
男(勿論だとも。俺とて自分で何を聞いているのか意味不明なのだ。それに、よく考えれば失礼極まりない質問だろう)
男(だが、あれから神に接触できない俺としては、この世界の住人から情報を聞き出すしかないのだ。しかし、真実を知れたからといって、戸惑いは抱かないだろう)
男(この俺がモテてモテて仕方がない、ハーレム主人公な世界だぞ。嫌なわけないだろう)
男(だから、これは単なる興味本位からの行動。ここ数日間、自分自身に起きていることは実に奇妙な体験の連続。すれば、やはり解明の一つはしておきたくはなる)
男(そこから真のハッピーエンドへのヒントへ繋がれば、更にもう万々歳ではないか。しかし、知らなくて良かった、なんて話になれば俺の心情はどう変化するだろうか。強気でいられなくなる?)
男(……問題なかろう。それでも俺はこの世界で美少女たちとのパラダイスを築き上げよう。覚悟はとうの昔に決まっていた)
男「じゃあ、聞き方を変えようか。お前、いつこっちに引っ越してきたのか教えてくれ」
幼馴染「えーっと、引っ越してきたのはほんとに最近の話だよ? たしか~……1週間とちょっとぐらいかな?」
男(予想していたよりだいぶ日が浅いではないか。母さんの言う通り、彼女は最近俺の元へやって来た、というわけか)
男(では、彼女も転校生ということになる。そして、一週間空けてすぐに、新たな転校生が登場。別にいい、構わない。そこに問題はない)
男(問題なのは、なぜ俺がそれを覚えていなかったのか、だろう)
このSSまとめへのコメント
続きが気になります!
わたし、きになります!
面白い!続ききになります
あれ、これ続編を暇SSで見た気が……。