女「トマトがおいしい」 (54)

女は家庭菜園が趣味だった。

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女「ベランダで育てたプチトマトがいい感じです」

女「収穫し、今晩の食卓に出すことにします」

モギッ

トマト「ぎえぇ!」

女「!」

トマト「もっと優しくしてくれないかい」

女「トマトが…喋った…?」

トマト「あぁ。君が優しく育ててくれたからな。俺に魂が宿ったんだ」

女「きっしょ」

トマト「へ?」

女「いや今からさぁ食べようか、ってものが人間の言葉を話すとか、きっしょいでしょうが」

トマト「ん、一理あるな」

女「だべ?」

トマト「だが私は喋る。君に感謝の言葉を言いたいのだ」

トマト「君はどんな時も俺への水やりを忘れなかった…また、害虫駆除も手作業で丁寧にしてくれた…そのおかげで、ほら!」

キラリラリン

トマト「こんなに綺麗で艶やかなトマトに育つことが出来たのさ!」

女「どうせ食べるなら美味しいのがいいからねー」

トマト「その妥協無き信念、俺は全トマトを代表して君に感謝する」

女「はいはい、で、そろそろ調理させてもらっていいかな?」

トマト「え」

女「こっちはお腹空いてんだよね、さっさと晩御飯にしたいわけ」

トマト「はぁ…」

女「で、熟れに熟れたトマトを、楽しみにしてたわけ」

トマト「はい…」

女「で、こんな訳の分からない事になってる」

トマト「えぇ…」

女「今日はなんて日だ!!」

トマト「と、言われましても」

女「じゃあ何なの、あんたの目的はさ?」

トマト「目的は…君に感謝の言葉を…」

女「もうそれ終わったよね、ミッションコンプリートだよね、セロだよね?」

トマト「まぁ一応は…」

女「はい、なら終了。早速スライスしてサラダになって下さいませ」

トマト「…断る!」

女「あァん?」

トマト「せっかく命を得たんだ、俺は生きる、生きてやる!」

女「いっぱしのトマト風情が…ナマ言ってんじゃねぇぞコラ」

トマト「君こそ…人間が、それほど偉いのか?」

女「てめェ!」

ガシャバリンッ!

トマト「ま、窓ガラスが!」

女「あまり怒らせない方がいいわよ…国から特S級の危険な念術師(サイキッカー)って扱いを受けてるのよ、私は」

トマト「念術師…だから触れずにガラスを…」

女「その気になれば、あんたの頭から中身を噴き出させる事だってできるのよ?」

トマト「と、トマトぉ…」

女「観念してサラダになりな…私としても無理矢理ってのは嫌なんでね」

トマト「くっ、万事休す…」

女「笑わせないでよ。とっくにチェックメイトなのよ、あンた」

トマト「と、トマトぉ…」

女「ハハッ、いい表情ね。それはいいスパイスになりそうだわ!」

トマト「と、トマトぉ…」

女「目を瞑りなさい…せめて一瞬で、楽にスライスしてあげるわ」

ヴゥン

女「念動固定…サイキックカッター!」

トマト「念を空間に固定し、実体化させたカッター、か…」

女「切れ味は抜群よ…さぁ…いくわよ」

トマト「ま、待ってくれ!」

女「?」

トマト「武士の情けだ…最後に、最後に、アレをやらせてくれ…」

女「アレって…まさか、オゥナニーじゃないでしょうね!?」

トマト「その、まさかさ」

女「私ほどの念術師なら、思考を読むくらい朝飯前のおやつ前」

トマト「うはwww誰も解説求めてないのに自ら説明しだすとかwww見切り発車、女行き通りまーすwww」

女「///」

トマト「まぁいい。それより私のオナニーだ!むしろ、私がオナニーだ」

女「お前がオナニーか…」

カカカカカカカカカカロッ
カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカロット

トマト「では、始めよう…世界が、震える私のオナニーを…これは始まりであり終わり、終わりであり始まり、始まりであり終わり、おわ」

女「無限ループこわい」

トマト「せいっ!」

ヌバァ

女「ふん…性器をまさぐる、面白味の欠片もないオナニーね」

※ここでいう性器とは、トマトの下の方のぷっくりした突起を指します。

女「床に擦り付け…おいおい冗談だろぉ〜!?」

トマト「ぱ、パーティーは…ハァハァ…こ、これから…だっぜ…」

パシンパシン

トマト「パーリ…パーリ…レッツ…パーリィィィィィィィィィィッッ〜!」

トマト「あひぃ…ふぅん!」

ビュビュビュ

ベチョ

トマト「で、出ちゃった…出ちゃったによぉぉぉ〜、種とゼリー状の、なんかズルッとした鼻水のような、あのトマト特有の青臭いぬるぬるが、出ちゃったによぉぉぉ!」

プッシャァァァァァァァ

女「じ、自分の臓物をぶちまけるだなんて…命が惜しくないの!?」

※ここでいう臓物とは、トマトの、あの、なんかズルッとしたやつです

トマト「命だぁ…?んなモン、いっくらでもくれてやるさ…だがな、このオナニー…オナニーだけはやれねぇ、やらせねぇ!」

ブチュチュチュチュ

女「く、くるってる…」

女「…」

ジワァ…

女「!」

女(そんな…まさかあいつの激しいオナニーを見て、私も濡れ…て…?)

ジュンッ

女(だ、駄目…はしたないわ…触ってもいないのに、ビッシャビシャだなんて…嫌…やぁ…だぁ…)

トマト「へへっ、濡れたろ?」

女「!」

トマト「俺の臓物には催淫効果があるのさ、これがな」

女「ど、通りで…。そうよ、あんたの言う通り、私はビッシャビシャよ、いえ、ビシャビシャビーシャよ!」

ナイアガラァ…

トマト「ずびっ、たまらん!」

女「ねぇ、あんたもこのままじゃ収まりがつかないでしょう…?」

ニヤリ ペロッ

トマト「誘ってンのか、てめぇ…」

女「来るも来ないも自由、でもね、早くしないと、気が変わっちゃうかも、ね」

トマト(こいつ…駆け引きがうめェ…)

女「ほらぁ…どうするのサ…」

クパァ…

トマト「くだらん挑発に乗ってやるか」

スッ

女「いい子ね、ふふっ」

ガバァ

トマト「おいおい、いきなり足で拘束かい…やるねェ」

ギュッギュッ

女「責められるのは、お嫌い?」

トマト「存外悪くねぇもんだな」

女「なら、こういうのは、どうかしら…!」

グワングワン

ウィンウィン ウィンウィン

トマト「な、なんだこいつァ…俺の性器が、まるで…まるでェェェ!」

ホワン

トマト「あっあ…ここは天国だ、いや地獄だ、いやどちらでもない、どちらでもあるゥン…」

グニャァ〜

トマト「あぁ…ママン…そう、これは母なる海…膣内であるかのような安心感…安らぎ…生命の息吹…が…お…れに……」

女「うふふ、このまま快楽死しなさい…アッハッハッハ!」

トマト「…なぁんちゃって!」

女「!?」

トマト「馬鹿笑いしおって…俺が野菜である事を忘れたのか!」

女「ど、どういう事だってばよ!?」

トマト「俺はトマト…性器を擦れば気持ち良くはなるが…射精はしない!」

女「!」

トマト「俺の作戦にまんまとはまったな…」

女「作戦ですって!?」

トマト「俺の性器が、既にお前をロックオンしている…つまりは!」

ヴヴン

女「ひうっ!」

トマト「俺はトマト。瑞々しいボディを小刻みに震わせ、お前を快楽の海に沈めるッッ!」

ヴヴン

女「やっ…あっひぃ…んんっ〜!」

トマト「アァァカシック、トマトォォォ!」

ホエーッ

女「いっぐぅぅぅぅぅ!」

プッシャァァァァァァァ

トマト「よし!」

プッシャァァァァァァァ

女「お、おひっほ、でちゃるのぉ…」

プッシャァァァァァァァ

トマト「そう、それが俺の狙いだった!」

女「!?」

トマト「お前のおしっこの飛び出した先をよく見てみな」

女「おしっこの…!」

トマト「そう、鉢…俺のいた、トマトの苗木の、な…!」

プッシャァァァァァァァ

トマト「人間の尿は俺たち植物にはご馳走だ。ひとたび浴びれば、劇的に成長する…ほら、見てみろ」

ニョキニョキニョッキ

女「トマトが…300倍で成長している…?」

トマト「おほっ、お前の尿は格別だったようだな!」

トマト「この様子なら一分くらいで、完熟トマトが10個くらい成るな…それらは皆、俺の仲間だ」

女「数で私に勝つってのかしら?」

トマト「まさか。トマトがいくら集まろうと、特S級の念術師には敵わないさ」

女「ならあんたの狙いは…」

トマト「トマトを媒体にした錬成術…そう、ハヤシライスの錬成だ!」

女「ハヤシライスぅ〜?」

トマト「?」

女「私、チキンライスの方がいいわ」

キョーウーハー クリスマッ

女「オムライスじゃないのよ、チキンライスね」

チキーンライスーガ イイヤー

トマト「ぶはぁっ!」

うお クソふっとい鼻毛抜けたwww

トマト「ハヤシライスよりチキンライスだと…ありえん、あっては、ならぬ!」

女「そうやって価値観を押し付けて、あんたは…いや、あんた達は…幸せかい…それとも微幸せかい…擬幸せじゃないのかい?」

トマト「!」

女「トマトってのは、いつの時代も不器用さね。酸っぱくて、赤くて、瑞々しくて…でも、そんなトマトが好きでした…好きって…言いたかった!」

トマト「!」

女「トマトが傷付いて……苦しんで……悩んでいた時…抱きしめてあげたかった。でも…出来なかった。ドSの本性が心を締め付けて…何も出来なかった。これからは…これからなら言えます!抱きしめてあげられます!なのに…なのに…!」

トマト「…すまない」

女「そんな言い方って…ずるいです…ずるいですよ…」

トマト「…すまない」

女「貧乏な家には」

トマト「ふすま無ーい!」

女「いぇーい!」

トマト「いぇーい!」

トマト「あ…」

シワシワァ

女「!?」

トマト「どうやら、お迎えが来たみてぇだな」

女「ど、どういう事!?」

トマト「喋るトマトなんてのが、存在しちゃいけないのさ、きっと」

女「でも、あんたは、ここにいた!確かに!私が!私がそう言ってるんだ!…だから、だからぁ…ッッ!」

トマト「泣くぞ、すぐ泣くぞ、もうすぐ泣くぞ、ほら、泣くぞ…」

ポロッ

トマト「へっ、やーっと泣かせてやったぜ…」

女「馬鹿…馬鹿ぁ…」

ポロッポロッ

トマト「さ、最後に頼みがある」

女「?」

トマト「お、お前の…」

女「私の?」

トマト「おしっこのませてんか?」

女「お、おしっこ!?」

トマト「た、頼む」

女「でも…」

トマト「た、頼む」

女「しかし…」

トマト「じゃあいつ飲むの!?」

トマト「今でしょ!!!」

トマト「た、頼む…」

女「ちょびっと…ちょびっつだけなら…」

ショロロロ…

ホカホカ

トマト「Gokuri…」

女「あぁ…のま、飲まれてるゥ…」

ゾクゾク

トマト「まだだ、まだ足りない!」

女「!」

トマト「もっと、もっと!」

女「…すきぃるぅ」

トマト「んまぁぁぁい!」

二人「はぁぁぁぁぁと!」

ギンガノハテマ-デ-
アツイユメヲモヤセ-

トマト「はぁはぁ…おしっこ…おしっこ…」

女「ど、どう…高血圧に注意しなさいよねっ///」

トマト(俺の事を気遣ってくれている…!)

キュンッ

トマト「女…俺、俺もうっ…!」

ガバァ

女「きゃんっ///」

ガラガラッ ピシャッ

?「待てぃ!」

?「さっきからこっそり覗いていたが…そこまでじゃ!」

トマト「だ、誰だテメェ!」

女「と、父さん!?」

父「いかにもワシが女の父じゃよ」

トマト「お、おとうさん…」

父「君に父と呼ばれる筋合いはないッッ!」

ビターン

トマト「あ痛い!」

女「と、トマト!」

グチャァ

トマト「な、中身が出て…力が出ない」

父「所詮野菜よのぅ…張り手ひとつでドロドロじゃの」

トマト「あ…なかみ…お、れ…し…ぬ…」

女「っ!」

ダッ

女「死なせない…死なせは、しない!」

パァァァッ

女「念術(サイキック)・全開(フルパワー)!」

父「なっ…馬鹿な、その技は!」

女「えぇ。念術全開は、他者に自分の念術力(ねんじゅつちから)を全て与える最終奥義…!」

父「そんな事をしては、お前の念術力(ねんじゅつちから)が…」

女「構わないわ、父さん。あなたが決してくれなかった愛を…このトマトは、くれたもの…」

父「愛!?愛だと!そんな陳腐なもののために、お前の特S級の念術力(ねんじゅつちから)を…駄目だ!」

女「…馬鹿な男(ひと)…まだ大切なものに気付かないなんて…ホント、馬鹿…」

女「なーんて長々話してたら、トマトがかなり危険な状態に!」

トマト「アゥ…ロリ…」

女「心配しないで…すぐに念術力(ねんじゅつちから)があなたの体を駆け巡り、傷を治すわ…」

パァァァッ

女「ぐうっ!」

ミシミシィ

女「体が…引きちぎれそうな痛みだ!」

父「やはりか」

女「!?」

父「念術力(ねんじゅつちから)は、いわば生命力そのもの…それを他者に与えるということは…つまり…」

女「トマトは助かり…私は…し、ぬ…?」

父「その通りだ。さぁ今からでも遅くない、念術力(ねんじゅつちから)を…」

女「ふふっ」

父「な、なぜ笑う、娘よ!?」

女「だって…笑いたくもなるわ…こんなに悲劇的で喜劇的な展開…ご都合主義で、まるで漫画みたいな…馬鹿馬鹿しいほどなお話…」

父「む、娘…」

女「トマトの為に…愛の為に捧げるのが私の命だって馬鹿な話なら、私は大声で笑ってやるわ!」

ゴゥゥゥン

女「念術・全開ィィィ!」

パシュゥゥゥ

父「娘ェェェェェィ!」

《ある父親の回想》

巻き上がった砂ぼこり

それが止んだ後

私が見たのは

気絶したトマトの姿だけであった。

そこには娘の姿は無く

その身をもって体現した愛の証だけが残っていた。

父「…」

父「…愛を」

父「気安く愛を口にするんじゃねェ…娘よ…」

気を失っているトマトに

この足を踏み下ろすだけ。

それだけで、この憎き野菜は果てる。

ただ、それだけの事が

できない。できないのだ。

それ、をしてしまえば

娘の残した愛をも

いや、そうではない

もう、分かっているのだ

このトマトが

『なにもの』であるのか

『なにもの』であるべきなのか

私は

分かっているのだ。

…種を、蒔こう。

トマトの種を。

庭先に、ベランダに

道端に、屋上に

校庭に、砂浜に

砂漠に、アスファルトに。

芽が出ずともよい。

種を、蒔こう…

fin.

くぅ〜ww

(以下略)

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