【閲覧注意】女(……血が飲みたいなあ) (230)

その女に会ったのは、学校の廊下だった。

その男に会ったのは、学校の廊下だった。


お互いがすれ違った時に気がついた。


こいつ、おかしい。

絶対、普通じゃない。

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女「」ハァ……

男「」ハァ……


女(血が飲みたいなあ……)

男(人が食いたいなあ……)


女「え?」

男「は?」


二人は振り返り、互いの顔を凝視した。

周りの生徒が少し驚いた様に、お互い見つめあう二人を眺めていたが、やがて興味を無くしたのか去っていった。

二人はまだお互いの顔を眺めていた。

女(この人、絶対に変)

男(この子、絶対に変だ)


女(ていうか、何でこっちじっと見てるの)

男(つーか、何でこっちじっと見てるんだよ)


女(だってあなたが変な事を考えてるからでしょ)

男(そりゃお互い様だろ)


女「え?」

男「え?」

吸血鬼と食人鬼かな?
あるいはどっちも人間で吸血嗜好と食人嗜好ってだけかな?

女(…………)

男(…………)


女(もしもーし、聞こえますかー)

男(はーい、聞こえますよー)


女(…………)

男(…………)


女(……とりあえずさ、君、学校が終わったらちょっと話さない? 聞きたい事あるし)

男(そうだな。そうするか。俺もあるし)


女(駅前のマックでいい?)

男(いいよ。じゃあ、授業が終わったらそこで)


女(じゃあ、また)

男(また)

男がマクドナルドに入ると女は先に来ていた。

適当に注文した後、トレイを持って男は少し離れた席に座る。

二人にはそれだけで充分だった。


男(早かったな)

女(君が遅いんだよ)

男(普通に来たつもりだったけどな)

女(……まあ、それはもういいよ。一応、先に聞いとくけど、あなたの名前は?)

男(男だよ。そっちは女で合ってる?)

女(あ、やっぱわかるんだ。だとすると、君も人の心が読めるんだよね?)

男(そう。そっちもなんだろ?)

女(うん。まあね。全部って訳じゃないけど)

男(俺も同じ。まあ、そこら辺はわざわざ言わなくてもわかるか)

女(なんとなくはね。はっきり考えていない事に関しては、かなり曖昧だけど)

男(それも同じか)

女(だね)

女(ちなみにさ。……廊下ですれ違った時に考えていたアレって本気?)

男(いや、そうじゃ……嘘ついたって意味ないか。どうせわかるんだろうから)

女(ま、ね。少なくとも嘘かそうでないかぐらいはわかるよ。って事は本気なんだよね……)

男(ドン引きするよな、そりゃ)

女(別にそういう訳じゃ……ってこれも意味がないんだよね。……うん。ドン引きした。正直、かなり怖いよ、君)

男(そういうお前だって、血を飲みたいって思ってるんだろ? こっちも引くわ)

女(人を食べるよりはマシだと思う)

男(……まあ、言い返せれないけどさ)

男(でも、一応言い訳させてもらえるなら、別に人を殺したいとか思ってる訳じゃないぞ、俺は)

女(ああ、うん……。本当みたいだね。そこは少しだけ安心したよ)

男(ただ純粋に人の肉が食いたいだけだよ。ほんの一欠片とかでもいいんだけどな。だから殺す必要なんかないんだ。当たり前の事だけど、人殺しなんかしたくないし)

女(……それも本当みたいだね。うん。そうなんだよね。それに、君が優しいってのは何となくわかるよ)

男(自分じゃわからないけどな。……ただ、心を読めるって事と人の肉を食べたいって思ってる事以外は、ごく普通の人間だと自分では思ってる)

女(……そうだね。それもわかる。君はそれ以外は普通の人間だよ)

男(それを聞いて多少は安心したよ)

女(でも、私の事を美味しそうとか思って見るのはやめて。鳥肌立つから)

男(仕方ないだろ。そこは諦めてくれ。俺からすれば、腹ペコの状態で極上のステーキを目の前に置かれてる様なものなんだからな)

女(……それに対して、どう返せと?)

男(怖いから睨まないで)

・・・もしかして外人さん?

男(それで、お前の方はどうなんだ? マジで血が飲みたいの?)

女(うん)

男(笑顔でうなずくなよ。こえーよ)

女(仕方ないでしょ、飲みたいものは飲みたいんだから。そっちよりは絶対マシだよ)

男(……否定出来ないのが辛い)

女(大体、肉食べる時にどうせ血も飲むんでしょ? ちょっと欲張りすぎだよね)

男(いや、俺は血には別に興味ないし。むしろ血抜きしたい)

女(血がいらないなんて、頭おかしいよ)

男(どっちがだよ、このヤロウ)

>>4
後者

>>9
日本人

男(大体さ、血が飲みたいなら、そこらでレバーとか買ってくればいいじゃないか。別に困りゃしないだろ)

女(あんなんダメだよ。一回試したけど、全然。むしろ気持ち悪くて吐いたよ)

男(言ってる事おかしい)

女(違う、違う。わかってないんだって。私が欲しいのは人の生き血だけなんだから。牛とか豚なんて気持ち悪いだけじゃん)

男(ますますおかしい)

女(ちょっと、ドン引きしないでよ)

男(普通するだろ……。人に話したら間違いなく通報されるレベルだぞ)

女(そっちだって同じでしょ!)

男(……そりゃそうだろうけどさあ)

男(一応、聞いとくけど自分のはダメなの?)

女(自分のはダメ。これも吐いたから)

男(試したのか……)

女(そっちはどうなの? 自分の肉、食べた?)

男(とてもまずかった)

女(こら)

男(切る時、すっげー痛かったしさ。ものすごい損した気分)

女(人の事言えないじゃん!)

男(まあ、そうなんだけど……)

グロい系?

女(とにかく自分のじゃダメなんだよね、人のじゃないと)

男(それはわかる)

女(でも、一応言っとくけど、私にも好みがあるから。誰のでもいいみたいな、そんな軽い女じゃないからね)

男(何の弁解だよ、それ)

女(一応言っとかないとって。それに、どうせ君だって同じなんでしょ?)

男(ん……まあ……)

女(だから美味しそうな感じで見ないでよ!)

男(そっちこそ、今、俺を見て飲みたいとか思っただろ!)

女(お、思ってなんかいないわよ!)

男(嘘は意味ねーっつーの)

女(ぐぐぐっ……)


男(どうでしょう。そこはお互い様という事で我慢しませんか?)

女(……いいでしょう)

女(でも、何でこんな飲みたいのかなー……不思議)

男(人の心が読めるのも十分不思議だと思うけど)

女(ん……まあね。でも、まあそっちはいいかって)

男(結構、軽いね)

女(それはお互い様でしょ。それにさ……)

男(あ、やっぱ心当たりあるんだ)

女(ああ、それもわかっちゃうんだ? まあね)

男(ま、俺も同じだし)

女(んー……みたいだね)

男(それが何かまではわかる?)

女(ううん。漠然とし過ぎててわかんない。そこまで詳しくは心を読めないから。そっちは?)

男(同じ)

女(ふーん……)

男(うん)

>>15
にはならないと思う。多分。

女(私さ……一回死んでるんだよね。それが原因じゃないかって思ってる)

男(あ、やっぱりそうなんだ)

女(わかるの?)

男(俺もそうだから)

女(ひょっとして自殺?)

男(そう。自殺)

女(……死ぬ前になんか声聞こえなかった?)

男(聞こえた)

女(なんて言ってた?)

男(やり直せるかどうかはあなた次第って)

女(……全部おんなじか)

男(同じなんだ)

女(うん)

男(じゃあ、もしかしてその時から、人の心が読めるようになった?)

女(そう。……だと思う。ただ、そこら辺、記憶が曖昧だから)

男(それも同じか……)

女(じゃあ、ひょっとして君もその時から人の生き血が飲みたいって思うようになった?)

男(俺、血は飲みたくないって。人の肉が食べたいだけ)

女(ああ、そうだった。ごめん。でも、まあ、そんな感じは一緒だよね?)

男(そうだな。それで合ってる)

女(ま、神様や悪魔がいるかどうかなんて私は知らないけど、とにかく私は一度死んでまた生き返ってるんだよね)

男(それで、生き返った時には心を読めるようになっていた)

女(多分だけどね。副作用ってやつかな?)

男(血を飲みたいと思うのも副作用?)

女(知らない。でも、そうだと思うよ、多分。そう考えると生き返らせたのって絶対悪魔だよね)

男(だろうな。でも、やり直せるかどうかはあなた次第って言葉から考えると、神様っぽいけどな)

女(だとしたらろくでもない神様だよね。人を食べたいと思わせるなんてさ)

男(神様なんて元からろくでもない存在だと思うけどな)

女(どうして?)

男(自殺するような世界を作る神様だぜ?)

女(ん……確かにそうかもね)

男(それに、生き返ったところで感謝なんか一つもしてないし、俺)

女(多分だけど、君、ぼっちじゃない?)

男(ああ、うん。合ってる。友達一人もいない)

女(で、生き返ってからぼっちになったクチでしょ?)

男(そうだな。人の心が読めるなんてろくでもない能力を手に入れたおかげでね)

女(だよね。私もそう。ぼっち)

男(自分からぼっちになったクチでしょ?)

女(そ。友達なんていない方がいいんだよ)

男(だよな)

男(本音と建前、みんな使いわけ過ぎなんだよ。俺もそうだったんだろうけど)

女(だよね。そのせいで軽い人間不信になったよ、私)

男(その言い方だと、俺が原因みたいに聞こえない?)

女(君だってそうだったんでしょ? ま、私もそうだったんだけどさ)

男(顔ではニコニコ笑いながら心の中では悪口や文句を言われるってきついよな)

女(でも、君もそうしてたんだよね?)

男(そうしなきゃ、友達関係が悪化する時もあるからな)

女(だよね)

男(世の中には知らなくていい事ってのもあるんだよ。友達とは全員縁を切ったし、彼女とも別れた。俺の事を好きじゃない彼女なんて彼女じゃなかったんだろうけどさ)

女(私も彼氏と別れたよ。私とやりたいだけだったからね、あいつ。サルかってーの)

男(男はみんなサルだよ。そこにちょっと愛情が加わるだけだって)

女(女はみんな嘘つきで見栄っ張りだけどね。そこにちょっと愛情が加わるだけだよ)

男(だよな)

女(だよね)

女(まあ、ありがと。君の事はこれで大体わかったよ。一応ギリギリ危険人物じゃないってところだね)

男(そっちもな。結構ギリギリ危険人物じゃないって事はわかった。純粋な子みたいだし)

女(当たり前じゃん?)

男(えばんな。吸血鬼もどき)

女(うるさい。カニバリズム)

男(好きでそうなった訳じゃねーよ)

女(私だってそうだよ)

男(なんつーのかな。例えば俺はホラー映画とか見たいとか思わないし、グロいのは嫌いなんだよ)

女(私だって、嫌いだよ)

男(こうなってから、色々、カニバリズムの事を調べてみたんだけど、見てて嫌になってきたからな。はっきり言えば胸糞悪い)

女(私も吸血鬼は好きじゃない。映画のは特にね。漫画やアニメとかだと萌えっぽいのがあって、それぐらいならまだいいけどさ。でも、好きって訳じゃないし)

男(だけど、人を見ると食べたいなって思うんだ)

女(その気持ちはわかる。私も飲みたいって思うし)

男(なんて説明すりゃいいんだろうな)

女(よくわかんないよね)

男(変な言い方かもしれないけど、なんか悶々としてる)

女(そうだね。そんな感じ。頭でそう思うんじゃなくて、体がそう思うって感じかな)

男(ああ、うん。そんな感じ。頭じゃダメだってわかってるけど、体はすげー欲しいって思ってるんだよね)

女(それすごくわかる)

男(多分、禁煙してる人ってこんな感じなんだろうな。タバコ吸った事ないから知らないけど)

女(きっとそうだろうね。よくわからないけど)

女(で、ものは相談なんだけどさ)

男(断る)

女(いいじゃん)

男(やだ。俺の血は俺の血だ。飲ましたくない。それに気持ち悪い)

女(ひどいよ、それ! 乙女に言う言葉じゃないって! かなり傷ついたよ!)

男(あ、ホントだ。傷ついてる。でも、気持ち悪いのは確かだし)

女(おおう……)

男(あ、でも、女自体は可愛いと思うぞ)

女(おおう//)

今日はここまで

そして、翌日の授業後。二人は学校の屋上で落ち合った。誰にも見つからない場所といえば、ここぐらいしか思い付かなかったからだ。


女は注射器を片手に満面の笑顔で、男は消毒液を片手に不安気な顔でそれぞれ立っていた。


女「じゃあ、腕を出して」

男「お手柔らかに頼むぞ」

女「ちょっと不安がり過ぎだよ、君。注射器一本だけだから、大した事はないって」

男「そういう問題じゃないから」

女「大丈夫だよ、安心して」

男「自分だって結構不安がってるじゃないか」

女「あ、そうなの?」

男「そうだよ。自分でも気付いてなかったのかよ」

女「ん、まあね……。そっか、不安もあったんだ、私」

男「……喜びの方が強すぎる感じはあるけどな」

女「そうだろうね」

男「もういい。その笑顔見てると何か引く。やるなら早くやってくれ」

女「じゃあ早速するよ。本当に動かないでね」

男「わかってる」

女「……よっと」プスリ

男「っ……」

女「採れたよ。もういいから」

男「そうか……」ホッ

女「後でよく揉んどいてね」

男「そうする」

女「じゃあ、私は……//」ドキドキ

男「飲むのか……」

女「当たり前じゃない。血は鮮度が命だよ」

男「そんな事は知らないけど」

女「いただきます……///」


そう言って女は注射器の先を自分の口に持っていき、ゆっくりと血を口の中に流し込んでいった。

舌の上で転がし、自分の唾と混ぜ、それから少しずつ飲み下す。

ん……と、ベッドの上でするような切なげな声を彼女はあげた。



美味しい……。


ヤバイ……。たまんない……。



そんな心の声が聞こえた。

男「……そんなに美味いのか……?」


女はとろんとした目で答える。


すごく美味しい……。


男「……そうか」


君の血の味がね……頭の中に入ってとろけそうな感じなの……。

実際とろけちゃうんじゃないかってぐらいヤバイの……。

頭の中、バカになりそうだよ、これ……。

すごく、いいの……。


男「…………」


君の血がね……お腹の中に入って熱いの……。

身体中ね……中から燃やされちゃうんじゃないかってぐらい熱いの……。

いい……。これ……すごく美味しい……。


女はこれ以上はないという程、幸せそうな笑みを浮かべていた。

やがて注射器に残っていた血がなくなった。


女は当たり前の様に注射針の先を丁寧に舐めとり始めた。

それが終わると今度は注射器を逆さにして、最後の一滴まで飲み尽くそうと懸命だった。


やだ……。

まだ……。

もっと……。


女は切なげな声を出すと、今度は無我夢中で注射器をバラし、舌を伸ばしてペロペロと舐め始めた。


良かった……。

まだ……少し味が残ってる……。


女は嬉しそうにずっと舐めていた。

男が見ているという事など、女は既に忘れていた。

はぁ……はぁ……という切ない吐息をあげて彼女はずっと舐め回していた。


美味しい……。美味しい……。美味しい……。美味しい……。


聴こえてくる心の声は本当にそれだけだった。

気がつくと、男の下半身は痛いぐらい勃起していた。

……ごちそうさまでした。


男「……お粗末様でした」

女「……え?」


男「…………」

女「……いたの……? ってか、いたに決まってるよね、そりゃ…//」

男「まあ、うん……」

女「……え?」

男「……いや、別に……」

女「ちょっと、そんな傷つかないでよ! 悪気があって言った訳じゃないの。本当に忘れてて、その……夢中だったから……ていうか、んっ?」

男「?」

女「///」カアッ


女「H!// エロい目で見るな!// 変態!///」

男「あ、いや、その、悪い……! でも、ちょっとお前、色々と変わりすぎてたから……!」

女「いいから、あっち向いて!/// 女の子に何を見せてんのよ、もう!///」

男「え? あ……///」カアッ

女「サイテーだよ、君//」クルッ

男「仕方ないだろ!// そっちがエロすぎんのが悪いんだからな! 見せつけられたのはこっちの方なんだぞ! 目の前であんな事しながらあんなエロい声聴かされたら、誰だってそうなるって!//」

女「そうなの?// っていうかちょっと!// そんな鮮明に思い出さないでよ! ウソ、そんな風になってたの、私?///」

男「そりゃもう。かなり」

女「うわっ// 何かスゴい恥ずかしい。やめて、もう思い出さないで、忘れて!//」

男「一応、努力はしてみるけど……」

女「絶対忘れられないとか思ってるじゃん!//」

男「記憶操作は出来ないんで……」

女「もう、やだ!// 死ぬほど恥ずかしい!//」

男「ああ……まあ……だろうね」

男「えっと……それでどうだった?」

女「血の事……だよね?//」

男「うん……」

女「……その……最高だったよ……/// この瞬間の為なら死んでもいいって思うぐらいたまんなかった……/// 君の血、美味しすぎだよ……///」

男「ああ、まあ、そう……。えっと……何て返していいのやら……」

女「ちょっと、引かないでよ! ていうか、その一方でエロいとか、美味しそうとか考えるのやめてよ// 君、本当に変態?//」

男「いや、そうじゃないとは思いたいけど……。悪い……。出来るだけ考えないようにはするよ」

女「……まあ、ホントに悪いとは思ってるみたいだから許すけど……」

男「悪いな……」

女「いや、でも、何かそこまで悪いって思われると、私の方が悪いみたいじゃん? やめようよ。お互いちょっとさっきの事は忘れよう//」

男「だな」

女「だよ。もう//」

男「それで、血の味以外の感想はどうでした、女さん。初めて他人の血を飲んだ訳ですが」

女「何で急にレポーター風になるのよ」

男「ノリで」

女「ノリか」

男「で、実際どうだった?」

女「吸血鬼の気持ちがよくわかったね。アレは飲むよ。夜な夜な街をさまよって飲み回るよ」

男「酒好きのオッサンみたいだ」

女「むしろ私は吸血鬼になりたい」

男「本気だ」

女「だって好きなだけ飲み放題だよ?」

男「フリードリンクじゃないんだからさ」

女「まあ、他は特には……。あ、でも、血を飲みたいって気持ちはなんか清々しいぐらいに、今、収まってるかな。久々に頭の中がクリアになったって感じ。あれだけ血が飲みたいって思ってたのがウソみたい」

男「そりゃ良かった。俺も血を提供した甲斐があったってもんだ」

女「うむ。ご苦労であった」

男「段々態度がでかくなってきたな、おい」

女「親睦の表れだよ。気にしない、気にしない」

男「あー、そうですか」

女「大体さ、君だってそう言われてそこまで悪い気はしてないでしょ?」

男「ま、な」

女「本当に君には感謝してるよ。それもわかるでしょ?」

男「ま、な」

女「ありがとう」

男「いいよ、別に」

女「でも、絶対に肉は食べさせないから」

男「おい、マジか」

男「本当に少しでいいからお願い出来ないか」

女「嫌だってば。痛いの嫌いだって知ってるでしょ。っていうかわかるでしょ?」

男「ぐぬぬぬ……」

女「すごい残念がってるのはわかるけど、そこは諦めて」

男「……わかった」

女「意外とあっさり引いたね」

男「だってお前、絶対食べさせないって思ってるだろ?」

女「ん。まあね。流石に肉はやだ。血だったらあげてもいいけど」

男「血はいらない」

女「なんだよねー……。不思議でたまらないけど」

男「お互い様だ、それは」

女「ん。そうだね」

女「とにかくさ、ありがとう。君の優しさには感謝してるよ」

男「無理矢理まとめられた」

女「まあ、いいじゃん。それよりもさ、もしまた血が飲みたくなったらその時は飲ませてね。頼んだよ」

男「機会があればな」

女「じゃあ作ればいいんだよね♪ お互い、彼氏彼女がいない訳だし」

男「……好きでもないのに付き合うのはごめんだぞ」

女「好きになりかけなら構わないでしょ?」

男「……まだ知り合って一日しか経ってないぜ」

女「なんていうのかな。時間の問題じゃないと思うんだよね、こういうの。何でかわからないけど、私は今、君を好きになりかけてる。理屈じゃないんだよ。これが嘘じゃないってわかるでしょ、君なら?」

男「そうは言ってもな……」

女「嘘はよくないよ。君だって、私の事を悪くないなって思ってるじゃん」

男「……まあ、似た者同士だとは思ってる」

女「それでいいんじゃないかな。そんなもんだよ、彼氏彼女なんて」

男「お互い、心が丸わかりってのも面倒だな」

女「また嘘ついてるね」

男「嘘つきなんだよ、俺は」

女「照れ屋の間違いでしょ?」


そう言って女は颯爽と去っていった。

去り際、恥ずかしいから追いかけてこないでよ、なんて心の声が聴こえた。

照れ屋なのはどっちだよ、なんて事を男は思った。

つーか、これも彼女に聴かれてるのか、多分……。

そんな事も思った。

今日はここまで

無駄にボーッと屋上で景色を眺め、それから男は家路についた。

家に帰ると、すでに夕飯は出来ていた。


コーンサラダと卵焼き、ハンバーグだった。


それが人の肉でない事に、男は何故だか相当がっかりした。


多分、今日、女の血を飲む姿を見てしまったからだろう。

多分、今日、女の事を意識してしまったからだろう。



彼女を食べたい。


あの柔らかそうな肉を、食べたい。



五時間ぐらいタレに漬け込んだ後、コショウを振りかけて、それを軽く炭火で炙って食べたらどれだけ美味しいんだろう。


少しでいいから、食べたい。


そんな事を男は食事中ずっと考えていた。


明日、ダメ元でもう一度頼んでみようか……。


ハンバーグがひどく味気ない感じがして、男はそれを半分以上残した。

食べる気がしなかった。

男(……彼氏彼女か)


部屋に戻ってゲームをやりつつ、男はその事を考える。


女とは多分うまくやっていけると思う。

もちろん、ケンカもするだろうし、お互い我慢する事もあるだろう。

それでも、うまくやっていける様な気がした。


相手の心がお互い読めるってのもある。

でも、それ以前に、この異常な嗜好を許容してくれるのは、きっと女だけだろうってのがあった。

女だって、多分それがわかってる。

血を飲みたいっていう気持ちを理解してくれるのは俺だけだって。


俺たちは似た者同士で、お互いにこいつしかいないと直感的に感じてるんじゃないかとも思う。


そこまで考えて、男はゲームをセーブもせずに消した。


無性にまた女の肉が食べたくなった。



人の肉じゃなくて、今はあいつの肉が食べたい。



そう思ったら何だか泣きそうになった。


理由もわからず悲しくなった。


男はベッドの中に逃げるように潜り込んだ。寝ればきっと忘れてしまう。そんな気がした。

その翌日の昼休み、男は教室の自分の席でぼんやりと外を眺めていた。


友達や恋人と縁を切って以来、男に話しかける人間など誰一人いない。男としてはそっちの方が気疲れしないで済むから、遥かに楽だった。



(あいつ、最近マジ意味わかんねー)

(一人でいるのがいいとか思ってんのかな、あいつ。頭悪いっしょ)



とはいえ、嫌がおうにも入ってくる心の声だけは仕方がなかった。耳をふさぐ事は出来ても頭の中まではふさげない。


どうしようもない事だってある。

心の声なんてのは、遠くにいると聞こえない。

普通に話してる声よりも若干小さいからだろう。

ただ、気持ちが強ければ強いほどその声は大きくなる。

こっちが何も考えない様にすれば、早い話、注意をそっちに向けなければ、ある程度、声をシャットダウンする事は出来る。

それでも、強い想いや、相手が近くにいる場合だけはどうしても脳の中に入ってはくるが。


男は考えるのが面倒になって、机の上に突っ伏した。

寝てる時には当然、頭の中に何も入ってこない。

まだ授業が残ってるから、本格的に眠る訳にはいかないが、それでもこっちの方がだいぶマシだった。

目を閉じてじっとしていると、段々と周りの声が小さくなっていく。

その内、何も聴こえてこないようになってくる。

その内……。






















 

(血が飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい)

男は跳ね起きた。

クラスの何人かがびっくりした目でこっちを見ていたが、男はそれどころではなかった。


慌てて周りを見回したが、そこに姿はない。


だが、確実にその声はどんどんと大きくなっていった。


つまり、確実にこちらへと向かって来ていた。


誰が、何てわかりきっていた。


一人しかいるはずがなかった。


クラスを知らないから、探しているに違いなかった。

教室の扉がゆっくりと開く。


男の背中に冷たい汗が流れ落ちた。


姿を現したのはやはり女だった。


男の姿を見つけると彼女は安心したように微笑んだ。



良かった……。やっと見つけた……。



まるで、お腹を空かせた仔犬が母犬を見つけた様な、そんな微笑だった。

女(ねぇ、男君、お願い。私に血を飲ませて)


哀願する様に彼女は語りかける。


女(お願い、飲まないと私死んじゃいそうなの。だから飲ませて。もう一度だけ飲ませて。私、何でもするから。私を食べたいっていうなら食べていいよ。好きなだけ好きなところを食べていいよ。だから、私に血を飲ませて。お願い!)



足はすくんで動けなかった。

でも、目が離せなかった。

こちらをじっと見て血が欲しいとおねだりする彼女はそれぐらい可愛らしく、そしてとても美味しそうだった。

女(男君。こっちに来て。話だけでも聞いて。私に血を飲ませて。お願い!)

男(お前……昨日、飲んだばかりだろ……? それに今のお前ちょっと普通じゃないぞ。やめた方が……)

女(知らないよ、そんなの。ねえ、早く! 休み時間終わっちゃうから! 早く! お願いだよ!)

男(だけど……)

女(お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!お願い!)



男(おい……マジかよ……)



絶対、普通じゃない。

男の心の声は間違いなく女にも聞こえてたはずだが、彼女からの反応は全くなかった。

頭の中は、血の事で一杯だった。

逆に男の顔からは血の気が引いていた。

二人で屋上に上がると彼女はすぐに求めてきた。


血を。


注射器を片手に女は恍惚とした表情を浮かべていた。


また血が飲めるんだ。


男の脳の中にはそんな声しか聞こえてこない。


腕を差し出すと、彼女は消毒もそこそこに注射針を突きつけた。


男「っ!」

女「我慢して。我慢、我慢、我慢、我慢、我慢、我慢、我慢だよ。すぐに終わるからさ、すぐに終わるから、すぐに終わるから、すぐに終わるから、すぐに終わるから」


まるで自分に言い聞かせるように女は呟く。

正直、怖くてたまらなかった。

あぁ…美味しい……。

たまんない……。

イッちゃいそう……♪


昨日、あれだけ恥ずかしがっていた女の姿はもうそこにはなかった。


欲情に溺れたように、ただ、ただ、血を飲み下す少女がいるだけだった。


男はそんな女の姿を見たくはなかったが、やはりどうしても目が離せなかった。


悲しさと可愛らしさと不気味さと食欲。


それも女に伝わっているはずだろうが、しかし、彼女はそんな事はどうでもいいように血を味わっていた。

女「ねぇ、男君」


潤んだ瞳で、しなを作って女は言う。


女「もっと……。もっとちょうだい……///」


甘え声。

純粋なほど綺麗な瞳が、逆に男には恐怖に感じられた。



どれぐらい?

あるだけ。


だよな。

だよ。


我慢しろよ。

出来ない。


無茶言うなよ。

知らない。ちょうだい。


無理だって。

ちょうだい。


出来ないって。

ちょうだい。


……ダメだ。

ちょうだい。


ダメだって……。

ちょうだい。




ちょうだい。

ちょうだい。

ちょうだい。

ちょうだい。

ちょうだい。

ちょうだい。

ちょうだい。

ちょうだい。

ちょうだい。

ちょうだい。

ちょうだい。

男「……あと一本だけなら、渡す」


男の声は自然と震えていた。


女「一本だけ……?」


不満そうに女は言う。


男「一本だけ。それ以上は絶対にダメだ。それで我慢しろ」

女「ん……わかった……」


残念そうな声だった。残念そうな目つきだった。残念だなあと女は心の中で言っていた。

全部欲しかったのに。


思わず鳥肌が立った。

それからどれぐらいの時が経ったのか、男にはわからない。

ひょっとしたら五分も経ってなかったかもしれないが、一時間以上経っていたと言われても男は信じたかもしれない。


二本目もすっかり飲み終えた女は、唾液でベトベトになった注射器片手に寂しそうに立っていた。

さっきまで聞こえていた女の心の声も今はろくに聴こえてこない。


ただ、満足感と悲しさだけが女の心を包んでいたのが男には感じとれた。



男「……美味かったか?」

女「……美味しかった」


女はぽつりと呟いた。

今日はここまで



>>1は過去作とかあるの?
女「せっかくだし怖い話しない」の人に書き方が似てるけどもしかしてそう?

>>89
別人

普段は完全台本形式のギャグしか書かない



過去作


男女、恋愛系。人によっては胸糞

『愛情と友情と尻とアシカ』

『愛情と友情と尻とアシカ』 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1375088043/)


短編

勇者「失礼します」コンコン 魔王「どうぞ、お入り下さい」ガチャッ

勇者「失礼します」コンコン 魔王「どうぞ、お入り下さい」ガチャッ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378441390/)


エヴァとグルグルのクロス

ゲンドウ「久しぶりだな、キタキタオヤジ」

ゲンドウ「久しぶりだな、キタキタオヤジ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378804837/)

女「……ごめん、怖がらせて。もう大丈夫だから……」

男「そうか……」

女「もう血を飲みたいって気持ちは収まってる……」

男「知ってる」

女「後悔してる……」

男「わかってる」

女「頭の中、血の事で一杯になって……」

男「そうだな」

女「君が怖がってても全く気にならなかった……」

男「……うん」

女「血の事以外、考えられなかった……」

男「うん……」

女「他はどうでもよくなってた……」

男「…………」

女「……おかしいよね。これ……」

男「……そうだな」

女「……昨日さ」

男「うん」

女「家に帰ってご飯を食べて……」

男「うん」

女「……テレビ見て、お風呂入って、軽く少しだけ勉強して、それから寝たんだよ」

男「うん」

女「でさ、朝起きて、ご飯食べて、仕度して、癖で携帯のメールチェックして……」

男「俺もまだするな、それ」

女「うん……。で、その時、折角だから君に何かメール送ろうかなって思ったんだよ」

男「…………」

女「その時、ふっと君の血の味の事を思い出したんだ」

男「……うん」

女「思い出したんじゃなくて、不意に味が舌に甦ったって感じかもしれない」

男「うん」

女「そうしたらさ……もう頭の中がそればっかりになってた。何か他の事を考えてる時も、ずっとその味が思い浮かぶんだよ」

男「…………」

女「ずっと我慢してたよ。授業なんか何にも頭に入らないまま、それでもずっと我慢してたんだよ。でも、我慢すればするほど、時間が経てば経つほど止まらなくなっちゃたの」

男「……うん」

女「気がついたら足は君を探してた。もう血を飲む事以外何にも考えられなくなってた。抑えきれなかった。君の血がすごい欲しかった」

男「そっか……」


女「こんな事、今まで一回もなかったの。本当だよ」

男「……うん。わかる」


女「なんだか怖いの……私、自分が怖いよ……」

男「…………」


女「君の血を飲む為ならどんな事でもしそうで怖いよ……」

男「…………」


女は小刻みに震えていた。

彼女が本気で怖がっているのは男にはわかった。


いつか、血のために俺を殺すんじゃないか。

あるいは、血のためにいつか俺に自分の肉を食わせるんじゃないか。


そう思って震えていた。

……これ、絶対にさ。

うん。


昨日、君の血を飲んだのが原因だよね……。

そうだろうな……。


君も、私の肉を食べたらこうなるのかな……。

……なるかもな。


なりそうだよね。

なりそうだよな。


そうなったら、多分、止められないよね。

多分、止められないだろうな。


だよね。

だよな。


まるごと欲しいんだよね……?

まるごと欲しいな……。


そうだよね……。

そうだな。


お前も……俺の血、全部、欲しいんだよな……。

うん……。欲しいと思う。今は大丈夫だけど。


だよな。

だよ。


怖いな……。

怖いよ……。



本当に怖いよ……。



手も震えていたせいか、女の手から注射器が滑り落ちた。

ひょっとしたら、自分から無意識に手離したのかもしれない。


注射器がパリンッという乾いた音と共に、コンクリートの上で砕け散った。


まるでそれが終わりの合図かのように、予鈴が鳴った。

男「……もう、それでいいよな」


粉々に割れた注射器を眺めて男は言う。


女「……うん。いい……」


女は小さくうなずいた。



男「……血、飲まなきゃ良かったな」

女「……うん」


男「次は、もう絶対に飲ませないからな」

女「……うん」


男「何があっても絶対に飲ませないからな」

女「うん……」


男「もう……お前は血を飲まない方がいいよ」

女「……私もそう思う。だから、そうして。ごめん……」


男「本心からそう思ってるならそれでいいって……。俺も絶対人の肉は食わないって決めたからさ……。今日、思い知った」

女「……ごめん」

男「お前は悪くないって……」

女「ごめん……」



女「……もう行かないといけないね。予鈴、鳴っちゃったし」

男「そうだな……」

女「私、これからここには絶対来ないから……」


そう言って女は走り去っていった。

昨日と全く同じ様に。

昨日とはまるで違う感情を抱えて。



男「…………」



……やり直せるかどうかはあなた次第。

男の頭の中に、ふとそんな言葉がよぎった。

その夜、男の携帯に女からメールが届いた。


『今日は本当にごめん。もしもの話だけど、明日、私が同じような事をしたらさ、とにかく殴ってでも拒否して。今回だけは特別に許してあげるからさ』


冗談っぽい感じの文章だったが、きっと本気なんだろうなと男は思う。

多分、同じような事をするんだろうな、と男は理由もなく感じていたし、それは女もそうだったに違いない。

不安なのもお互い様で、恐怖を感じているのもお互い様なんだと思う。


男は色々と悩んだ末、女にメールを返した。


『女を殴る気はないから』


返事はすぐに返ってきた。


『食べる気はあるくせに』


男はそのメールに少しだけ安心した。少なくとも今は、いつも通りの彼女に思えたからだ。


少なくとも、今は。


少なくとも、今は。


少なくとも、今は。




今日はここで終わり

翌日。男は休み時間になる度に、裏庭へと向かった。

教室だと、女にすぐに見つかるに違いない。そう思っての事だった。


そして、毎回、休み時間が終わるギリギリに教室へと戻った。

毎回、女の姿はなかった。


このまま、一日が経てばいい。

心の底から男はそう思う。


ひょっとしたら、今日は我慢出来ているのかもしれない。

心の片隅でそう願う。


……しかし、やはりそんな考えは甘かった。

(男君の血が飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい)

それが聞こえて来たのは、四時限目の終わりがけだった。


教室の外を見ると、まだ授業中だというのに廊下に女が立っていた。


目を見開いて、じっと男の方を見ていた。


普段の女の顔からは想像がつかないほど、それは無表情だった。


獲物を捕まえる前のカマキリを連想させる目だった。




女の手にはカッターが握られていた。

男君、血を飲ませて。


……やめろよ、おい。


飲ませて。


昨日言っただろ、絶対に飲ませないって……。


じゃあ、仕方がないね。


ああ。


切り刻んで飲むよ。










女は本気だった。

屋上に行くと、そこは相変わらず誰一人いなかった。


仮にいたとしても、きっと女はもう何も気にしなかっただろう。


カッターの刃を出して、そのまま教室に入って来ようとしたぐらいだ。


教室で飲もうと考えていたぐらいだ。


男がうなずかなかったら、女は間違いなくそうしていた。


もう逆らう事も逃げる事も出来ない事を男は悟った。


女の言いなりになるしかなかった。

女「じゃあ男君、手を出して♪」


血が飲めるとわかってから、女は声も表情もさっきとは同一人物とは思えないぐらい明るい。


男「わかった……」


ここで拒否したら間違いなく女は逆上するだろう。男は言われた通り、手を差し出した。

女はカッター片手に嬉しそうに微笑んだ。


女「ありがとう」


女はカッターを男の人差し指に当てると、何のためらいもなく笑顔で切りつけた。


男「ぐっ!!」

女「……いただきます♪」


そして、何のてらいもなく、当たり前のように男の指にしゃぶりついた。

美味しい……。


女は恍惚とした表情で男の指をしゃぶり、血を吸い上げる。

舌で傷口を舐め、口に含んで一滴も逃しまいとする。


とろんとした表情で、次から次へと溢れてくる血をこくこくと喉を鳴らして飲んでいく。


女はやはり幸せそうだった。


さながらそれは母親の乳首に吸い付く乳飲み子の様にも見えた。

血飲み子。

そんな言葉が男の頭の中に思い浮かんだ。ぴったりの表現だな、と男は思う。


血を飲む彼女は幼く幸せそうであり、同時に可愛らしく官能的であり、そしてこの上なく美味そうに見えた。


もちもちとして柔らかそうな肌。

程よい肉付きの体。

つぶらで大きな瞳。

張りの良さそうな皮膚。


その全てがたまらないぐらい男の食欲を誘った。

食べれるものなら食べたい。

この声はきっと女には聴こえていない。聴こえているだろうけど、どうせ女はまともに聴いちゃいない。


食べたい。

まるごと食べたい。

余すところなく食べたい。

今すぐ腕にかじりつきたい。

柔らかそうな太ももにかじりつきたい。

炙らなくていい。生のままでもいい。食べたい。


食べたい。


食べたい。


食べたい。


このどうしようもなく可愛くて危険なこの子を、内臓から骨まで何から何まで食べ尽くしたい。





食べたい……。




……気がつくと女は離れていた。


女「絆創膏……持ってくるね」


もったいないから。

血が無駄に流れてるの、もったいないから。


女の心の中は、傷の心配よりも、血の心配の方が遥かに強かった。


心が痛い。

ずっと吸われ続けた指も痛い。

舌でずっとなぶられていた傷口も痛い。

まるごと食べたいと本気で思っていた事を、彼女に知られたであろう事も痛い。



何もかもが男には痛かった。

女「男君……」


絆創膏を貼りながら、女はぽつりと呟いた。


女「私を、味見する……?」


男「…………」

女「食べたいんだよね……?」

男「……うん」

女「なら……いいよ。味見だけなら、していいよ」

男「……やめとく」

女「味見なら平気だよ……。食べないで噛みつくだけだから。食感ぐらいは味わえると思うよ」

男「……だけど」

女「食べたいんだよね……? 我慢してると私みたいに余計食べたくなるよ。少しだけでも味わっておいた方がいいと思うよ」

男「…………」

女「本当に食べない限りは、きっと私みたいにならないよ。大丈夫だよ。だからさ……」

男「いいのか……?」

女「いいよ……。味見して。でも、最初はあまり痛くしないでね……優しく噛んでよ」

男「……わかった」

女の手をとって、袖をまくった腕にそっとかじりつく。

柔らかかった。

見た目通りの柔らかさだった。

そのまま舌を這わせて肌も舐める。

美味かった。

軽く舐めただけでわかった。

これは極上の肉だ。

食べたらきっと涙が出るぐらい美味い肉だ。

気がつくと男は女の腕にかじりついていた。


痛い……!


男ははっと我に返り、噛んでいた腕から口を離した。

唾液で濡れ光る女の腕。そこにはしっかりと男の歯形がついていた。


女「優しくしてって言ったのにさ……」


女は泣きそうな顔で笑っていた。いたずらっ子をたしなめる様な表情で。泣きそうな顔で笑っていた。

今日はここで終わり

それからというもの、男と女は学校の屋上に行くのが日課になった。

日曜日や祝日は、人目につかない場所を探して、公園の茂みや大型スーパーのトイレの中だとか、そんなところを歩き回った。


そして、お互いに心も体も傷つきながら帰っていった。


女の血を飲む量は段々と増えてきていた。

そして、血が飲みたくてたまらないという、その間隔も徐々に狭まってきていた。

昼休み、帰り、そして朝。

その度に女はカッターを持って男の前に現れた。

男の左手と左腕は、痛々しいカッターの切り傷で一杯になっていた。


その代償として、女は血を飲んだ後、必ず男に『味見』をさせた。

男もそれがわかっていて女を『味見』した。

なにより、味見をしていいと言われたら体の欲求が止められなかった。

そして、男の味見をする時間も、日毎に長くなっていった。

女の両腕は歯形で至るところどす黒くなっていた。

味見が終わった後、女はいつも涙目になっていた。

腕にびっしりと男の歯形をつけて。それでもずっと女は耐えていた。

そんな女があまりにも健気で美味しそうに見えて、男は味見をやめられなかった。このイカれた異常な生活を二人ともどうしてもやめられなかった。


お互いに、自分が傷つく事でどうにか心のバランスをとろうとしていた。

自分が傷つく事で、相手を慰めようとした。

自分が傷つく事で、自分のしている事を正当化しようとした。


女はもう血を飲む事をやめられない。

男はもう味見を止められない。


そんな生活が長く続く訳もないのに、それでもやめられなかった。

男「なあ……知ってるか?」

女「何を?」

男「……前に麻薬中毒だったやつに、もう一回麻薬をしてみたいですかって尋ねると、百人中百人がもう二度としたくないって答えるらしいぞ。……あんな怖くて苦痛な想いはもう二度としたくないって」

女「だろうね……」

男「だけどさ」

女「うん……」

男「もし、明日で世界が滅ぶとしたら何をしますかって尋ねると、麻薬を打つってみんな揃って答えるらしいな」

女「…………」

男「そんなもんだよな、人間って……」

女「そんなもんだよね、人間って……」

男「結局さ、人って脳で生きてるんじゃなくて、体で生きてるんだよな……」

女「そうだね……本当にそうだね」



男「……どうすればいいんだろうな、俺たち」

女「……どうすればいいんだろうね、私たち」

男の血を飲んでいる間の女には、理性なんてものはほとんどなかった。


それは男も似たようなものだったが、女ほどではない。

直接、血を飲んだからだろう。


指をしゃぶって血を嬉しそうに飲んでいる女を見て、男はふと思う。

もし俺が、今すぐ頸動脈をかっ切ってもいいと言ったら、こいつは多分、喜んでかき切るんだろうな……と。






いいね。それ……♪

だよな……。



男は女の頭を軽く撫でた。女は微笑んで、また嬉しそうに血を吸い始めた。


どうしようもないと本気で思った。


お互い、どうしようもないと。


この先には破滅しか見えなかった。


きっと俺は近い内に失血死するんだろうなと、朦朧とした頭の中で男は思った。


それは、確実で間違いのない未来のような気がした。

輸血って出来るのかな……。何か言い訳考えないとな……。


やだ。それは男君の血じゃないもん。


そっか……。輸血した血は、お前は飲みたくないのか……。


当たり前じゃん。もし、そんなの飲まされたら、私、何するかわからないよ? いいの、それでも?


良くはないな……。


だよね?


そうだな……。


そうだよ。


だよな。


だよ♪



……世の中知らない方がマシな事だらけだな。

そんなのどうでもいいよ。今が幸せならそれでいい♪


そうだな……。

うん♪





ねえ、男君……。


何だ?


私ね、君の事、愛してるよ。




そうか…………。















そこで、男は意識を失った。


それでも女は血を吸っていた。



嬉しそうに。

嬉しそうに。

嬉しそうに。

今日はここで終わり

女「起きた……?」


気がつくと、そこには心配そうな顔を向けている女がいた。


男「そっか……俺、気を失っていたのか……」

女「うん……。多分、ていうか絶対に貧血……」

男「それしかないもんな……」

女「……うん。あっ、起きちゃダメだよ。まだ寝てて」

男「……わかった」


男の足の下には女の鞄が置かれていた。

貧血の応急処置。

元から知っていたのか、調べたのか。


どっちでもいいか……。


貧血からか、男は考えるのが面倒になっていた。


どうでも良かった。

男君、そのままでいいから聞いて。

ああ……。


……私ね、男君の事が好きだよ。

知ってる。


……これ以上ないってぐらい好きだよ。

知ってる。


嘘じゃないからね。ホントだからね。

うん……わかってる。


死ぬほど君が好きだよ。

うん……。


男君のためなら死ねるよ。それぐらい好きなんだよ。

…………。

女「カマキリっているじゃん……」

男「いるな……」

女「カマキリってさ、妊娠したら、奥さんが旦那さんを食べちゃうんだって」

男「…………」

女「栄養のために食べちゃうんだって。奥さん、どんな気持ちで旦那さんを食べるんだろうね……」

男「……さあな」

女「…………」

男「…………」

女「旦那さん、どんな気持ちで食べられるんだろうね」

男「きっと食べられたくないと思って、食べられるんだろうな」

女「だろうね。昆虫だもんね。きっとそうだよね」

男「…………」

女「……私が言いたい事、わかるでしょ?」

男「わからねーよ……」

女「前に言ったよね……。好きになるなんて理屈じゃないって。きっとこれも脳で思ってるんじゃない。頭じゃなくて体で愛してるんだよ。君の血を飲んでから、君の血を飲む度に。細胞の一つ一つがどうしようもないぐらい君の事を好きになってるんだよ」

男「……そうかもな」

女「でも、いつか絶対に私は君を殺すと思う。君の血を全部飲んできっと殺しちゃうと思う。殺したくないのに殺しちゃうよ。君を絶対に殺したくない。君が死んだら私は多分生きていけない。それぐらい好き。これが嘘じゃないってわかるよね?」

男「わかるよ……」

女「それならさ……」












もう、私を食べて……。





男「……嫌だ」

女「意地張るの、やめなよ。もう私を食べなよ。……でないと、その内、私が男君を殺すよ。そんなのやだよ」

男「……お前を殺すよりは、お前に殺された方がいい」

女「嘘つき」

男「嘘じゃない」

女「食べたいって思ってるじゃん。死ぬ前に私を食べたいって思ってるじゃん。どうしようもないぐらいに食べたいって思ってるじゃん!」

男「だからって……食べられるかよ。一切れでも食べたら俺もきっと歯止めがきかなくなる。絶対、お前を食べ尽くすに決まってる。それがわかってて食べられるかよ……」

女「…………」


男「俺はお前に死んでほしくない……。嘘じゃないってわかるだろ?」

女「君が死んだらきっと私は自殺するよ……。君のいない人生なんかいらない。これが嘘じゃないってわかるよね?」



男「それでも、俺はお前に死んでほしくないんだ」

男「生きててほしい。死なないでほしい」



女「でも、このままじゃ……私が男君を殺しちゃうよ!」

男「その前にどうにかするさ……」

女「どうにもならないよ! わかってるじゃん!」

男「…………」

女「もうカッコなんかつけなくていいよ……。食べたいなら食べなよ。そうしなよ」

男「……お前こそわかってるだろ。俺が絶対食べないって」

女「…………」

男「お前を絶対に殺したくないって思ってるって」

女「…………」

男「俺はまだお前を食べるのを我慢出来る。でも、お前はもう俺の血を飲むのを我慢出来ない。だったらもう仕方がないだろ」

女「死んでもいいの?」

男「いい訳ないだろ……。その内、逃げるさ。まだ死にたくないからな」

女「嘘つき。じゃあ何で今すぐ逃げないの? 逃げようと思えばこれまでだって出来たよね? 何で逃げなかったの?」

男「…………」

女「わかる……。わかってるもん……。私を食べたいからでしょ? 頭ではどれだけ食べたくないって思ってても、体はどうしようもなく食べたいって思ってるじゃん!」

男「…………」

女「ほら、そうだって言ってるよね? だったら食べなよ。私、男君を殺したくないよ! だから今の内に食べなよ! 死んだらもう私を食べられないんだよ!」

男「……知らねーよ。そんな事……」

女「嘘つき! 意気地無し!」

男「…………」

女「ちょっと順番が逆になるだけじゃない。大した違いじゃないよ!」

男「無理だって……。それでも、俺はお前を殺したくないんだ」

女「ヘタレ」

男「……だな」

女「チキン」

男「かもな……」

女「そうだよ、チキンだよ。弱虫だよ。信じられないぐらいの臆病者だよ! 間抜けだよ! 大バカだよ!」

男「…………」

男が何も言わないでいると、女は決別したかのように屋上から去っていった。

もしも、男が貧血で倒れてる状態でなかったら、間違いなくビンタの一発ぐらいは食らわしていたに違いない。

それぐらい女は怒っていた。


それでも、男は女をどうしても食べる気にはならなかった。

食べたいとは思ってる。

どうしようもなく体は食べたいと思ってる。

でも、そのために女を死なせる事だけは絶対にしたくなかった。


俺を殺すぐらいなら、自分が食べられた方がマシなんて、女はどう考えても間違ってる。

そして、もうあいつに血を全部飲まれて殺されてもいいか……なんて思い始めてる俺も間違ってる。


そう思う。


でも、いつかはそうなるだろう。


いつかは、血を全部飲まれて死ぬだろう。


あいつは満足するまで血を飲まないと自分を保てれない。そして、俺はあいつから離れられない。味見をするのもやめられない。


わかりきっていた。

根拠も保証もないが、これは絶対だと言い切れた。


俺がいなくなれば、あいつは死ぬ。

ずっとあいつのそばにいれば、俺が死ぬ。

食べたら、あいつは死ぬ。

食べなかったら、俺が死ぬ。


わかりきっていた。

この先には未来なんかないって、わかりきっていた。




『やり直せるかどうかはあなた次第……』




ふと、またあの言葉が頭の中をよぎったが、男は色々と考えるのをやめた。

やり直せれなかった。そういう事なんだろう。

それでいいと思った。

男が家に帰ると、母親が心配そうな顔で出迎えた。


「最近、具合悪そうだけど大丈夫? 顔色も悪いし……」

「大丈夫だって」

男はそう答えた。

多分、一週間以内に死ぬと思うけど。

「そう……。でも、心配よね。なんかふらふらしてるし……」

「ちょっと疲れてるだけだから。多分、寝不足が原因なんじゃねーの」

「……そうかしら」

本当は、血を大量に飲まれてるのが原因なんだ。

「一度お医者さんに行ってみた方が良くない?」

「大げさだって。しばらくすれば勝手に治るだろ。それより、早く飯が食いたい」

「あ、うん……」

母親は曖昧な表情のまま、流される様にうなずいた。


母親なんてそんなもんだ。

男はそう思う。

別に嫌いって訳じゃないが、そんなもんだ。

母親に限らず、この世の全員がそんなもんだ。

他人の心が読めない人間なんてそんなもんだ。

誰も本当の事なんてわかりはしない。

例外は、あいつだけだ。


あいつの肉が食べたい……。


そう思った時、男は初めて気がついた。

今日、女の肉を味見していなかった…………。


不意に、口の中に女の肉の食感が思い浮かんだ。

肌のほんのりとした贅沢な味わいが思い浮かんだ。


男はそれを忘れようとした。

直感的にこれは良くないと思った。


しかし、忘れようとすればするほど、その事だけが頭に思い浮かんだ。

止められなかった。

いくら夕飯を口の中に放り込んでも、歯磨きを何度もして口を何回ゆすいでも。

思い出すのは、女の肉の味だけ。

消えない。

まるで消えない。

頭の中に、口の中に、こびりついた様に消えない。

これはやばい……。

本気でそう思った。

夜、ベッドの中で男は何度も寝返りをうった。

女の肉の事が気になって、全く眠れなかった。


気を紛らわそうとして、自分の腕にまで噛みついた。

痛いだけだ。

当たり前だ。痛いだけだ。


それでも、何度も自分の腕に噛みついた。

くっきりとした歯形が幾つも残った。


痛い。


痛い……。


そんな時、不意に携帯が鳴った。




女からだった。

男「もしもし。どうした……?」

女「男君。今すぐ血を飲ませて」

男「…………」

女「今、男君の家の前にいるから、すぐ出てきて」

男「…………」


遂にか……と男は思った。

血を飲む間隔がここまで短くなったのか、と。


住所は教えてなかったが、そんなものは少し調べればわかる事だろう。

血を飲みたいと思った時の女は何でもやる。それぐらい驚きはしなかった。むしろ、して当然だと思う。


女「男君。聞いてるの? 早く」

男「……わかった。すぐ行く」


男は電話を切った。断ればムリヤリ家に押し入ってくるのはわかっていた。

ベッドから降りて、着替えながら窓の外を見上げると、夜空には赤い月が光っていた。


血のような月。


多分、今夜、俺は血を飲まれ過ぎて死ぬんだろうな……。


そんな予感しかしなかった。

今日はここでおしまい

本日、最後まで書き溜めが終わったので、キリのいいところで分けて、あと二回の投下で終わり

家から外に出ると、女は無表情で街灯の下に立っていた。

前みたいに、昆虫のような目をしていなかった分、まだマシなのかもしれない。


その横には大型のワゴン車が駐車してあった。


女「……遅かったね」

男「早い方だよ……」

女「とりあえず、乗って」

男「乗ってって……お前、車で来たのか!?」

女「そうだよ。お父さんの車を勝手に借りてきた。乗って」

男「お前、だって免許は……」

女「乗って」

男「…………」

女「乗って」

男「わかった……」

男「……なあ、どこに行く気だ?」

女「山の中」

男「そっか……」


男の頭の中は霧がかかったようにぼーっとしていた。

多分、寝不足だったからだろう。

多分、貧血気味だったからだろう。

多分、女の事が食べたくて食べたくて仕方がなかったからだろう。


「山の中」と聞いた時、男は一つの事しか思い浮かばなかった。


埋められるんだろうな。



そんな、どうでもいい事だった。

時間にして、およそ四十分ぐらいだろうか。

途中で何度もこすけたりぶつけたりしながらも、二人を乗せた車はどうにか目的地までたどり着いた。


着いた場所は、夏にキャンプ場として使われているところだった。


今は冬でおまけに深夜だ。


誰もいない。

そして、誰も来ないと思われる場所だった。



例えそこで人殺しがあったとしても。

車から降りると、女はすぐに男の手をとってカッターで切りつけた。

そして、当然のように飲み始めた。


男は抵抗しなかった。


血を飲んでいる彼女は美しく、そして、血を飲まれている自分も嫌いではなかった。


その内、男の意識は朦朧としてきた。


当たり前だ。

今日、一回、気絶してるのだから。

そんなにすぐに血が再生されるはずがなかった。



それから十分もしない内に、男は再び意識を失った。


女は目から涙を溢しながら、それでも血をすっていた。

夢を見た。


ふと入ったレストランに、人肉のステーキがあった夢だ。


男は喜んでそれを注文した。


ウェルダンで。塩とコショウを少し多目に。


ほどなくして、こんがり焼けた腕と脚が運ばれてきた。


男はそれをナイフとフォークで丁寧に切って、期待に満ちた表情で口の中に運んだ。


極上の味がするはずだった。


だが、口の中に入れて『それ』を味わった瞬間、男は強烈な吐き気を覚えて『それ』を床に吐き出した。


たまらず胃液が込み上げてきて、再び男は床の上に吐いた。




そんな夢を見た。

……気がついた?


不意に女の声が頭の中でした。男がそちらを向くと、女は少し離れた場所でそっと幽霊のように立っていた。


木の真下で。

折り畳み椅子の上に立って。


女の手には輪っかにしたロープが握られていた。

そのロープは頭上の太い枝にくくりつけられていた。


女のすぐ近くにはノコギリがあった。

ビニールシートもあった。

包丁もあった。

まな板もあった。

焼肉のタレもあった。

塩コショウもあった。

箸と串もあった。

そして、ここはキャンプ場で肉を焼くための網も場所もあった。

網焼き台にはバーベキューが出来るよう、炭もセットされていた。



女は微笑んでいた。



恐怖を隠すかのように、唇を強く噛み締めながら、それでも微笑んでいた。

声にならなかった。


止めようと、やめさせようとして、声を出そうとしたが、それは声にならなかった。


でも、心の声は届いたはずだ。



やめろ!

やめてくれ!!



それもひょっとしたら、言葉になっていなかったかもしれないが、それでもこの想いは伝わったに違いない。


これだけ心から叫んで、伝わらないはずがない。



体も勝手に動いていた。


女の元へ駆けつけようとして、しかし、思いきり目眩と吐き気に襲われその場に倒れ込んだ。


それでも動こうとして、這いずるように進んだ。



やめろ……! やめろ! やめろ!

ダメだ!

絶対に、ダメだ! そんな事をするな!

やめてくれ!!


死ぬな!!








女は手で掴んでいたロープを震えながら首にかけた。



男君、今まで血をありがとうね。


私、幸せだったよ。


男君の血を飲んでいる間が、私の人生の中で一番幸せだった。


男君の事、大好きだよ。


本当の本当に大好きだよ。




私の事、忘れないでね。


必ず、覚えておいてね。


絶対だよ。






美味しく食べてね。


残さず食べてね。


全部食べてね。


私の事、全部、君だけのものにしてね。


食べてる間中、ずっと私の事を愛してね。


ずっとずっと愛してね。


私の事、愛してね。


約束だよ…………。




 






バイバイ





 



涙をこぼしながら。震えながら。女は幸せそうに微笑んだ。


折り畳み椅子が蹴られた。





























女の体が宙にぶら下がった。


  

今日はここまで

木の枝にぶら下がる女の姿。


風と振動で体が微かに揺れる。


それだけ。


それ以外は、もうぴくりとも動かない。




死んだ。


女が死んだ。


目の前で死んだ。




それを見て。女の死ぬところを見て。女の死体を見て。


男が真っ先に思った事はたった一つだけだった。




うわ、まずそう……。


食べられねーわ、これ…………。



 

その時、男は初めて理解した。

そして、後悔した。


どうして、今まで気づかなかったのかと。

気づく機会はこれまで幾らでもあったはずなのに。

俺たちは似た者同士だと知っていたはずなのに。

ありとあらゆる事が同じだと知っていたはずなのに。


女は確かにこう言っていた。





「私が欲しいのは人の『生き血』だけなんだから」





俺が食べたかったのは、『生きてる人間の肉』だった。


今、そこにぶら下がっている『死肉』は、俺の求めているものじゃなかった。


俺が、あいつをどうしても死なせたくない理由はそれだった。





じゃあ、女は何のために死んだ?


何のために?


誰のために?


どうして?

どうして?

どうして?

どうして?

どうして?

どうして?

どうして?

どうして?

どうして?



どうして、死んだ?

『何のために』死んだ?

『何のために』死んだ?

『何のために』死んだ?

『誰のために』死んだ?


































あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

死のう。

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死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう

死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう

死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう

死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう死のう










気がつくと男は折り畳み椅子に上って『死肉』をロープから下ろしていた。

そして、代わりに自分の首にそのロープを巻きつけていた。


頭の中には後悔しかなかった。

心の中も後悔しかなかった。



男にはもう生きる理由がなかった。

死ぬ理由ならあった。



それだけの事だった。

折り畳み椅子の上から『死肉』を見下ろす。

『元女』を見下ろす。

『死肉』はひどくまずそうに見えたが、『元女』は美しかった。

可愛らしかった。

表情などもうなかったが、それでも可愛らしかった。

愛らしかった。

愛しかった。



未練などなかった。

絶望ならあった。



どうして俺はあいつを『生きてる内に』食べなかったんだ。

間近であいつが死ぬところを見て、それでもそう思った俺は、人間として間違っている。


人間ではない。

化物だ。



化物にあいつを愛する資格なんかあるはずがない。

あいつが化物に愛されたいなんて思うはずがない。

あいつは俺じゃなくて俺の血を愛してたんだ。

俺じゃない。

俺じゃなかったんだ。






男は迷わず、折り畳み椅子を蹴った。


首に全体重がかかり、ロープが深くめり込んだ。

頭の中で何かが外れるような嫌な音がした。


その時になって初めて、男は『元女』との約束を思い出した。

 



私の事、美味しく食べてね。


残さず食べてね。


全部食べてね。


私の事、全部、君だけのものにしてね。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


■■■■■■■■■■■


■■■■■■■■■


約束だよ…………。


 



もう遅かった。




ごめんな……。


ごめんな……。



ごめんな……。




もう手遅れだ…………。




もう無理だ…………。




ごめんな…………。





 









……ふと、頭の中で声がした。












『やり直せるかどうかはあなた次第……』












……そんな声だ。






 



そうだな……。



次こそは……。



女が生きてる内に食べよう…………。



どこでもいい。何でもいい。必ず食べよう…………。




そうしよう……………………。








  













    





私の事、美味しく食べてね。


残さず食べてね。


全部食べてね。


私の事、全部、君だけのものにしてね。


食べてる間中、ずっと私の事を愛してね。


ずっとずっと愛してね。


『私の事、愛してね』


約束だよ…………。






 













    

お互いが『すれ違った』時に、気がついた。


そこは一ヶ月前の、自分の家だった。

思い出せるのは、自分が自殺した事だけだった。


お互いが、すれ違った『時に』気がついた。


その女に会ったのは学校の廊下だった。

その男に会ったのは学校の廊下だった。


お互いがすれ違った時に気がついた。


こいつ、おかしい。

絶対、普通じゃない。
  




 



ほがらかに死んでいくために、私は生きようと思う。

ーー ドイツの詩人、ゲレルト


  

男は夢を見た。


終わりのなさそうな夢だ。


永遠に続くかのようなそんな夢だ。


それでも男はこの夢を見続けた。


それが自分自身への罰のように、ただひたすら見続けた。


延々と。


ひたすら延々と。


この夢を終わらせてはいけないかのように。


この夢を忘れてはいけないかのように。

 

どれぐらいの時が経ったのか。


時間なんてたいして意味もなくなった頃ぐらいに。


その夢を見続けるのもいい加減疲れはてた頃に。


男の前に女が現れた。




女はいつも通りの表情で。


女はいつも通りの口調で。


女はいつも通りのわがままぶりで。


男にこう言った。

男君。

いつまで夢を見てるの?


君一人だけずっとおんなじ事の繰り返しじゃない。

待ってる身にもなってよね。


いい加減、気づきなよ。


君だけがエンドレスなんだよ。君だけがずっと繰り返してるんだよ。



私はもう先に行ってるんだよ。



そろそろ、血じゃないって事に気づいてよ。

私はそれが好きな訳じゃないよ。


君も、そろそろ、肉じゃないって事に気づいてよ。

君もそれが好きな訳じゃないよ。


それさえ君が気がつけばさ、きっと意地悪な神様か親切な悪魔が気をきかせてどうにかしてくれるよ。

勘だけど、多分そうだよ。

でなきゃ、やり直しなんかさせないよ。

やり直せるかどうかはあなた次第なんて言わないよ。


簡単な事だよ。気づきなよ。


君は勘違いしているんだってば。



君が好きなのは、『私』なんだよ。

君は『私』を欲しがってるんだよ。


私が好きなのは、『君』なんだからね。

私は『君』が欲しいの。


だから、いい加減、私にヤンデレじゃないデレ方をさせてよ。

私は本当はそんなキャラじゃないんだからね。



私はさ……君に痛い思いや怖い思いさせずにデレるの、ずっと楽しみにして待ってるんだからね……。



  

そう言って女は去っていった。


男の知らないどこかへと。


多分、夢の外へと。


出口のない迷路の外へと。




そこで、ふと男は気づく。


俺はどうやってこの迷路の中に入ったんだと。


出口がないなら、入り口もないはずだ。

出口も入り口もないのに、中に入れるはずがない。


不意に、男は色々な事を誤解しているような気がした。

そして、女も男の勘違いだと言っていた。



じゃあ、一体俺は何を誤解して…………。






『だから、いい加減、私にヤンデレじゃないデレ方をさせなよ』

『私は本当はそんなキャラじゃないんだからね』






急に、頭の中で全てのパズルが解けたような気がした。



そうか…………。

って事は俺も…………。









気がつくと出口が開いていた。

   













    


その女に会ったのは学校の廊下だった。

その男に会ったのは学校の廊下だった。


お互いがすれ違った時に気がついた。


こいつ、おかしい。

絶対、普通じゃない。
  

女「」ハァ……

男「」ハァ……


女(……鼻水が飲みたいなあ)

男(……耳くそが食べたいなあ)


女「ええ???」

男「はあ???」


二人は振り返り、互いの顔を凝視した。

周りの生徒が少し驚いた様に、お互い見つめあう二人を眺めていたが、やがて興味を無くしたのか去っていった。

二人はまだお互いの顔を眺めていた。

こいつ、すげー危険な変態だ、と自分の事は棚に上げて眺めていた。

これで、本当の本当におしまい。

こんなオチで申し訳ない(汗)



たくさんの乙、ありがとうございます。HTML依頼を出してきます。

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