女「ちょっと、そこのおにーさん」(737)
男「はい?」
女「み、道、聞きたいんだけどさ…へっくし!……うぅ、さぶい…」
男「…そりゃ、この雪が降ってる中で寝巻みたいなカッコでうろついてたら、寒いだろうよ」
女「へっくしゅ!…うん、めちゃさぶい。ていうか、寝巻だし…でね、おにーさん、へっくし!! う゛ー…」
男「はぁ……とりあえず、これ着ろ。傘に入れ」
女「わーい。ぬくーい……って、おにーさん、見ず知らずの私のコートを貸したりして、もしかして……いいひと!?
それとも私の体が目当てなのね!? くっ…こんなコート一枚で……でもぬくいからコートを手放せないっ…
くやしいけど、感じちゃっ……あーでも、感じてはないなー」
男「いいひと! いいひとの方だから!…ふぇっ…へっくし!」
女「なんだ…いいひとの方か……てっきり私のぷりんぷりんナイスバディが…ふぇっくし!」
男「どこがぷりんぷりん…」
女「あ、見る? 見る? 見たい? あーでも、どしよっかなーさむいしなー…あ、そうだ、どっかあったかいとこで」
男「見ないから」
女「あ、そだ、私、こんなエロスおにーさんに関わってる場合じゃなかった…ごめんね、おにーさん、コートありがとー」
男「待て待て! 俺のコートをどこに持っていくつもりだ、お前は」
女「いいじゃん、コートくらい」
男「俺が寒いだろ」
女「ついでに、その傘もつけてほしい」
男「俺が濡れるだろ」
女「えーでも、それじゃ私も帰れないしぃ――って、そうだ道聞きたいんだった!」
男「ああ、そう。交番はそこの角を曲がって2~3キロ行ったとこにある」
女「でね、おにーさん、ここらへんに、白くて四角い病院ってあるじゃない? それどこ?」
男「だから、道を尋ねたいなら、交番に……いや、白くて四角い病院って…え、ちょっと待って」
女「ライフラインは…テレフォンとオーガニズムが残ってるよ!」
男「違うから。オーディエンスだから」
女「ファイナンシャルプランナー?」
男「ファイナルアンサー!」
女「………………残念!」
男「だから、なにが…」
女「そうそう! ここ! ここ! すごい! おにーさん、あれだけのヒントでたどり着けるなんて! やるじゃん!」
男「…なぁ、お前やっぱりわざとだろ? 実は病院の場所知ってたんだろ?」
女「んなわけないじゃん? 知ってたら、わざわざおにーさんみたいな不審者に声かけないって!」
男「お前、今親切にも道案内してくれた人に不審者って言った?」
女「よし。病院にも帰り着いたし…おにーさん、もう用済みだから帰っていいよ」
男「よ、用済み…」
女「なんてね! 冗談冗談! しかたないなー、おにーさんにはお世話になったし……わ、私の…しょ、処女をあげる!」
男「さ、帰るか」
女「えー…せっかく恥ずかしいのガマンして言ったのにぃー……おにーさん、もしかして童貞?」
男「ど、どっどっどどどど童貞じゃありません!!」
女「えーそれじゃ、経験人数何億人くらい?」
医者「いや、さすがに億はムリでしょ……僕の医学的な経験に培われた目から見て……そうだなぁ……二次元に38人、三次元に0人ってところかな」
男「………誰だよ、あんた」
医者「誰だ…って? 見てわからないかい?」
女「うーん…お医者さんのコスプレが好きな人?」
男「いや、きっと、この病院の患者で自分のことを医者だと思い込んでる…」
医者「この病院の医者! お医者さんだからね! ほらカギカッコの横にも『医者』って! ね? それに君、僕の患者でしょうが!」
女「先生、ただいまー」
男「ああ、ホントに医者だったんだ」
医者「おかえり。ダメだよ、こういう不審者を病院に連れてきちゃ…」
女「はーい」
男「誰が不審者だ誰が! てか、お前も素直に返事してんじゃねぇ…」
医者「あと、病院の前で勝手にワイ談とかしない。ご近所の目もあるからね。ちゃんと僕も参加させるように」
女「はーい」
男「いや、それダメだろ」
医者「いやー悪かったね。ウチの子がめんどうかけて…はい、コーヒー」
男「あ、どもっす」
医者「うん」
男「………」
医者「………」
男「………あの、あいつ、ここの患者って……どっか悪いんすか?」
医者「まぁ、悪いといえば悪いけど……って、気になる? あの子が気になるわけ? 恋? それは恋なのかな?」
男「ち、ちがっ…ばっ……違うっつーの! 会話がなくて困って、ムリヤリ話題を作っただけで」
医者「まぁまぁ…落ち着いて、コーヒーでも飲みなさい」
男「え? は、はぁ……じゃあ………って、これ、ソースじゃねぇか!」
医者「あ、やっぱわかる? やっぱ、匂いでわかっちゃうよねぇ…」
女「お茶淹れたよー…って、何の話してるの?」
医者「ああ、聞いてくれ。彼は君にたぎる獣欲を抱いているらしい」
男「抱いてねぇ! てか、なんなのその某国書院的な表現!?」
女「…あー……ごめんなさい。私、処女だから童貞はちょっと…」
男「おい、童貞なめんな」
医者「…うわ、ひくわー…『俺は何本もAVを見てるから、何人もの女体を犯してきた経験があるといっていい』とか言っちゃうんだぜ?」
女「えーそれひくーどんびきー」
男「言った? 俺、そんなこと言った? ねぇ?」
医者「まぁまぁ…落ち着いて、お茶でも飲みなさい」
男「え?………………んー」
女「なんでそんな執拗に匂いをかいでるの? 普通のお茶だよ?」
男「い、いや、だって、二段オチかもって…」
男「ええと…言いにくいんだけど」
女「なに? おしっこ? トイレは部屋出て、右にまっすぐ行って、右側にドアがあるから、
そこから外に出て、右に行って2ブロック先の公園にあるよ?」
男「違うから。…ていうか、ここのトイレ使っちゃダメなの?」
医者「なんだい? 尿瓶かい? ちょっと聞いた? 彼は、“看護婦さんからムリヤリ尿瓶プレイ”がしたいらしいよ!?」
男「いやいやいや、尿瓶の話とかしたか? 今尿瓶って言いだしたの、あんただよな?」
医者「うんうん。ちょうどいい。ナース服も着ていることだし、君がやってあげなさい」
女「えぇっ!? し、仕方ないなぁ……おしっこだけだからね? 出すの」
男「え………って、しないから! てか、聞きたかったこと、それ! なんでお前、患者なのにナース服……え、この服、ナース服って正式名称なの?」
医者「ええと、尿瓶…尿瓶……と、あったあった」
男「探すなよ。聞けよ、ひとの話」
女「ふむふむ…尿道に刺激を…」
男「マニュアル読むなよ。だから聞けよ、ひとの話」
女「だって、私、服持ってないし」
男「はぁ?」
医者「うん。彼女、私服は寝巻しか持ってなくてね。僕のコレクションを貸してあげてるんだ」
女「いいでしょ? これ、隣町の大学病院のナース服だよ? ほら、スカートの裾の切れ目がシャープ」
医者「いやいや、このナース服の特筆すべきはスカートじゃなくて、腕の裾の方! ほら、ここの縫製を見てごらん?」
男「み、見てごらんと言われても」
女「そうだよー。普通の男の子はそんなとこじゃなくて、胸とかパンツが見えるかとかにしか興味ないんだから」
男「ええと…」
医者「なんだと………しかたない。ここはアレを出すしかないな……悪いが着替えてもらえないか? あの駅前の私立病院のやつに」
女「えー…アレ、胸とか全体的にキツいし、裾短いし」
医者「うむ。もともとがサイズが小さい上に、もうワンサイズ小さいナース服だからな。ぴちぴちっぷりに彼の煩悩が暴走することもやむをえまい」
女「そう? んー……わかった、ちょっと待ってて」
男「いや、いいから! そういうのいいから!」
男「寝巻しか持ってないって、どういうこと?」
女「ん?」
医者「ああ。もしかして、君は僕が自分の趣味で彼女にナース服を着せているんじゃないかと疑っているのかい?」
女「え? 先生の趣味じゃなかったの!?」
医者「まぁ、そういう面も否定できないな、うん」
男「いや、そうじゃなくて…おかしいでしょ? 家に着替え取りに帰ればいいし……そもそも、お前、入院するほどの病気なのか?」
女「え? うーん……体は、いたって健康?」
医者「そうそう。ここに来た時はボロボロだったけど、今じゃ、完全に健康体そのもの! なにせ僕が診たからね!」
男「ますますわからん…」
女「えーっとね…」
医者「つまり、この子、頭が悪いんだよ」
女「そうそう、頭がね――って!?」
男「あー」
女「なんでそこで、『なるほど』って顔するのよぅ…」
男「…きおくそうしつ?」
医者「そう。外傷性健忘症ってやつ。全生活史健忘…つまりは最もポピュラーな記憶喪失。
障害されてるのは主に自分に関する記憶であり、社会的なエピソードは覚えているようだね」
女「また、先生ったらウィキペディアをコピペしたようなことを…」
男「………つまり?」
女「ここは誰!? 私はいつ!?……みたいな?」
医者「って、わけでさ。着替えを取りに帰ろうとも、名前もわかんないし、家の場所もわかんないし、わんわんわわーん」
女「にゃんにゃんにゃにゃーん」
男「いやでも、財布とかケータイとかあったら」
医者「だから、なかったんだって。小銭入れしか」
女「ケータイくらい携帯しとけ!って話だよねぇ」
医者「でさ、K察に聞いても、行方不明者に該当する子はいないらしいし。捜索願とか出てないみたいなんだよね」
女「きっと、天涯孤独な薄幸の美少女だったのね!」
男「………」
医者「と、いうわけ。で、ケガの方は完治して、しばらく経つんだけど、記憶戻んないし、困ったなー…
手術費用やベッド代けっこうするんだけどなーって」
女「恐怖の無保険治療!?」
男「………」
医者「おーい? 聞いてる?」
男「……聞いてます」
女「え、なに? なんで、おにーさんが暗くなってんの?」
男「いや、だってさ…」
医者「………さ、さて、盛り上がってきたところで、後は若い人同士で♪ おほほほほ」
女「見合いか!? ていうか、盛り上がってないよね? 盛り下がってるよね? この空気で二人きりになれと!?」
男「あ、いや、俺…」
医者「はぁっ…しかたない。僕の白衣を貸してあげよう。2時間くらいは戻ってこないから…」
女「ええっ!? それって、もしかして“ドジッ子看護婦さんを虐める医局長プレイ”をやれってこと!?」
医者「いいや…彼の趣味はそっちじゃない。“ドS看護婦さんに責められる新米医師プレイ”だな……はい。あんまり汚さないでね」
男「って、おもむろに白衣を肩にかけるな! するか! そんなプレイ!」
女「ふふふ…看護婦さまとお呼び!」
男「始めんな……なんだよ、その『女王様とお呼び』の下手な改変は…」
女「え? ええとこっちの方? 『すいません…医局長、おそうじ中に大事にされてた壷を割ってしまって』」
男「それはメイドのシチュエー……って、いないし、あのアホ医者!?」
女「…おしおきしてくださいっ! 医局長!」
男「いや、もうそれもいいから」
女「ええと…ご趣味はなんですか?」
男「お見合いか」
女「まぁ…ソフトSMを? どんなシチュエーションで? えぇ、鉄の処女!?」
男「いや、なんでいきなり夜の趣味なんだよ、つか、ソフトじゃねぇ…それソフトじゃねぇって」
女「私も、お琴を少々…」
男「…普通じゃん」
女「弾けませんが…」
男「弾けないのかよ…じゃあ、少々琴でなにすんだよ…」
女「わぁ、私たち、ぴったりの趣味ですね」
男「どこが」
女「成田離婚を前提に結婚しましょう」
男「話が早すぎ」
女「子どもは……そうね69億人くらいかな」
男「世界人口か」
女「とまぁ、そんな感じで」
男「…どんな感じだよ?」
女「ええと、まぁ、そんなに不幸ってわけじゃないから、気にしないで?」
男「気にするなって…」
女「だってさ、もしかしたら、前はものすごい借金地獄でソープで麻薬売ったり、マグロ釣ったりしてたかもじゃん?
それに比べたら、今は担当の医者が変態なだけで平和だし天国だよ?」
男「……そ、そうか? 前向きだな」
女「うん。前向きに明るく元気に生きてたら、たいていの不幸は不幸じゃなくなっちゃうでしょ?」
男「まぁ……不幸になったときにも前向きで明るく元気でいられたらな」
女「そう。だから、私は記憶がなくても、全然不幸じゃないのだよ!」
男「…そっか」
女「むしろ幸運と言っていいかも! ほらだって、記憶がないからってサーカスに売られたりしたら」
男「いや、それはないだろ…」
女「そーゆーわけ!」
男「…まぁ、いいけどさ」
女「うん! と、いうわけで、おにーさん、今日はありがと。助かったーうん、マジ感謝」
男「え? ああ」
女「さ、帰ったら? 日が暮れて結構経つよ? カラスが鳴いたら帰らないと……ママンに鍋でグツグツ煮られるよ?」
男「怖いよ!? そんな母親いないし! てか、一人暮らしだし!」
女「え…ニートじゃなかったんだ…」
男「ち、違うし! ちゃんとアルバイトしてるし!」
女「へー、コンビニで『らっしゃい! 今日は何握りましょうか!?』とか言ってるんだ?」
男「それ、コンビニじゃない」
男「それじゃ、帰るから」
女「うん、ばいばい」
男「ああ、じゃな」
女「……お、おにーさんっ」
男「ん?」
女「あ………な、なんでもないっ」
男「…なんでもなくないだろ」
女「え、いや、んと…さ………うん、ほんとになんでもない」
男「………そうか、じゃな」
女「ち、違うでしょ! そこは、もうちょっと優しく『どうしたんだい、ベイベー』とか聞いてくれるとこでしょ!?」
男「ええー…どーしたんだいbaby?」
女「わー、おにーさん発音いいー」
男「だろ? 実はな、あの石川選手オススメのスピードラーニングを始めてさ…なんと聞くだけで英語がぺらぺらに!」
女「宣伝か!……って、なんで私がツッコミを!?」
女「………」
男「あの」
女「………ぁ…ぁり」
男「用、ないんだったら、帰るけど」
女「言おうとしてたでしょ!? 今、『ありがとう』って、恥ずかしいのにちゃんと言おうとしてたでしょ!?」
男「え…そ、そうなん? なにが?」
女「だ、だから……その、コートとか?」
男「なんで疑問形?」
女「察してよ!」
男「えっと…それ、さっきも聞いたんだけど?」
女「だ、だから……その、コート貸してくれて、傘入れてくれて、ここまで連れてきてくれて……話、してくれて」
男「………はぁ?」
女「うれしかったの! ほんとにうれしかったの! だから、ありがとって言ってんの! わかった!?」
男「わ、わかった…」
女「ならよし! 帰れ!」
男「…う、うん、帰る」
医者「あれ? もう帰るの?」
男「あんた、そんなとこで何してんすか?」
医者「………早漏か。2時間もいらなかったということか…悪い、過剰評価していたね」
男「あのさ、怒っていい?」
医者「まぁまぁまぁ。この寒い中、こんなところで君を待ってたんだから、話くらい聞いてよ」
男「………なんすか」
医者「お願いがあるんだけどいい? 聞いてくれる?」
男「内容による」
医者「わぁ、かわいくなーい。お願いっていうのは、もちろん、僕の肉奴隷にならないかっていう――ああ、ウソウソ」
男「あんたには、マジメさとか真剣さってもんがないのか……」
医者「これからもさ、ちょくちょく来てくれない? あの子に会いに」
男「………なんで?」
医者「あれ? あの子のこと嫌い? ラブ注入されてなかったの?」
男「どんなだよ…」
医者「まぁ、別に好きでも嫌いでもいいんだけどね」
男「はぁ?」
医者「大した問題じゃないし…嫌いじゃないにこしたことはないけど」
男「いや、なに言ってるのかわかんないんすけど…」
医者「ほら、あの子、記憶がないでしょ? それってさ、家族や友達なんかが誰もいないってことなんだよね」
男「………」
医者「自分の周りに、自分とかかわりのある人間が誰もいない……それって、さみしいでしょ?」
男「…まぁ、そうかもな」
医者「だからさ、ここで会ったのも何かの縁ってことで、あの子に会いに来てやってくれない?
ほら、君みたいなフリーターくずれが世の中の役に立つことなんてそうないんだしさ」
男「……まぁ、そうかも………なんでフリーターって知ってる?」
医者「それはもう盗聴してたからね。最初から最後まで聞きまくり。ちなみに現在の部屋の様子も聞きまくり…あ、泣いてるなぁー」
男「マジか!?」
医者「ううん、ウソ。今、無人」
男「………」
医者「あははは。ま、そういうわけだから、また来てね? お見舞いってことで、花束とか果物とか松坂牛とか持ってきていいからね?」
男「持って来るか!」
男「よ」
女「え」
男「…えーっと、ほら、みかん」
女「って、なんで!? なんでいるの!?…って、やだ、来るなら来るって……ああ、髪ボサボサなのに」
男「…みかん嫌いだったか?」
女「え? ううん、みかん大好き――じゃなくて、何しに……ちょ、ちょっと待って、向こうむいてて、鏡、鏡…」
男「見舞いに来たから……その、みかんをだな…あ、口んとこに、ヨダレのあとがついてるぞ」
女「だ、だから!! 向こうむいてって言ってんじゃん!!」
男「で、そこで、おばちゃんがみかん売ってたから、買ってきた。300円で」
女「払う! 払うから! 300円払うから!! 向こう行って!! 出て行って!!」
男「…いや、金は取らないけど」
女「どーよ?」
男「また、ナース服か」
女「しかたないでしょ、これしかないんだから……て、外側じゃなくて中身! 中身を見て!」
男「………」
女「美しさのあまり声も出ないと……ていうか、寝起きに来るのやめてよね」
男「こんな時間まで寝てたのかよ…」
女「美少女のいちばん無防備な時間を狙うとは……この変質者!!」
男「いや、バイト終わりの時間がこれくらいだから」
女「へーそうなんだ」
男「あ、みかん食うか?」
女「食べる食べるー」
女「で?」
男「『で』、とは?」
女「なにしにきたの?…ま、まさか、告白!? プロポーズ!? 結婚を前提としたお付き合い!?
ああ…美しさって罪……たった一度まみえただけで、まさか恋の奈落に落としてしまうなんて…っ」
男「お見舞い」
女「あ、そうなの? なんで?」
男「なんで…って、そりゃ、入院してるやつに会いに来るのは、お見舞いだろ?」
女「そじゃなくて、理由。まさか本当に恋?」
男「……そんなわけないだろ」
女「なんだ…じゃ、同情の方かーちぇー」
男「………同情ってわけでも」
女「ま、同情でもうれしいんだけどね。ふふっ…ね、みかん、も一個食べてもいい?」
男「…いいけど」
――――
女「…だから、寝起きに来ないでよぉ…」
男「こんな時間まで寝てるお前が悪い。昼だぞ? 昼!」
女「だってぇ……寝る子は育つ……ちょっと待ってぇ……もぉ…」
男「ほら、みかん」
女「わぁーい…眠い…」
男「俺だって、バイト上がりで眠い…」
女「だったら、寝てから来てよぅ……うぅ…さむい…」
男「って!? 脱ぐな!! 脱ぐな!!」
女「だってぇ……って、なんでいるの!? 出て行ってって言ったでしょ!!」
男「言ってねぇ!! 聞いてねぇ!!」
――――
女「ふはははは! よく来たな!」
男「帰ります」
女「帰るなよぅー…遊んでいけよぅー…なにするなにする指スマ? センダミツオ? ナハナハ?」
男「なんなのそのテンション…」
女「徹夜明け!! 低いねぇーそっちのテンション!! いちにょっきー!!」
男「バイトで疲れてんの。超眠いの」
女「だったら寝る? ここ。今なら、私の添い寝もサービス! うふん」
男「……え?」
女「なんてねなんてねー! なに本気にした? 想像した? エロス? エロス?」
男「帰ります」
女「みかん! みかん置いていって! みかん!」
――――
女「だーれだっ?」
男「……見ず知らずの他人だな」
女「ち、ちっがーう! ちがうでしょ! よく見て聞いて触ってよ!」
男「聞いてもわからない、そもそも目隠しされてるから見えないし…当たり前だけど触らないし」
女「ほら。この声! 声! ね? なんか聞き覚えがあるというか毎日夢に見るというか!
え、夢に見るの!? それって、つい運命的なモノを感じぜざるを得ないというか!!」
男「悪夢?」
女「ひどい! もしかして、キスしないと私の記憶が思いだせない呪いにかかってしまったというの!?
し、仕方ないなぁ…で、でも、このキスは人工呼吸的なあくまで救急ものであって、
別に大好きとか愛してるとかそういうんじゃないからね!勘違いしないでよね! してもいいけど!」
男「…とりあえず暑苦しいし、手ぇどけて…つか、記憶喪失なのはお前だ……」
女「ノリわるーい」
男「はいはい、みかんやるから」
女「わぁい、みかんみかんー」
――――
女「だーれだっっ!?」
男「……こ、この声はっ! やはり復活していたのかっ! 魔王!!」
女「ふははははは!! 結婚を前提に世界の半分をお前にやろう!!」
男「いらないから。しないから」
女「……うーん。今どき魔王は無いよね、せめて魔軍司令だよね…30点。もちろん100点満点中」
男「ノってやったのに…この仕打ち」
女「いいから、みかん出せよ、みかん」
男「……俺は、お前のみかん係か?」
女「そんなことより、そろそろみかん以外のお見舞いが欲しい」
男「え…お見舞いって要求するもん?」
女「うーん…ていうか、そろそろこのみかんオチも飽きたっていうか…あ、みかんは飽きてないから、
毎日でも持ってきて欲しいんだけどね」
男「……よくわからんが、わかった」
――――
女「えと、これは?」
男「お見舞いの品」
女「みかんは!?」
男「あるけど」
女「ふぅ…よかった。で、これなに?」
男「いや、開ければわかるけど、服」
女「え?」
男「いやほら、だって、私服持ってないって言ってただろ? だからさ…いや、俺も趣味とかアレだし、わからんし
ジャスコでマネキンが着てるのそのまま買ってきたって言うか。もし気に入らないんだったら、返品してくるし
その、なんだ、サイズとかも適当なんだけど、合わなかったらごめんっていうか」
女「ふふっ…ありがと。うわーなにかなーなんだろなーメイド服かなーチアガールかなーもしかして体操服ー?」
男「……あの…ジャスコで買ってきたって言ったよね、俺。なんでそんなコスプレみたいな…」
女「うわぁ…」
男「…い、いやだった?」
女「ふっつー…めっちゃ普通の服だ…」
男「…ふ、普通で悪いかよ?」
女「うーん、どうだろ?」
男「はぁ?」
女「とりあえず、出て行け」
男「な、なんで!?」
女「着替えるから」
男「え?」
女「どう? どう似合う? どう? 自分が用意した服を着た女にエロスを感じる? 感じちゃう?」
男「…似合うんじゃね?」
女「いや、サイズもけっこうぴったりじゃないけど合ってるし! さすがストーカー! いつ測ったの!? 揉んだ!?」
男「測ってないし、揉んでない…」
女「ね? 似合う? 似合う? 回ったら、スカートふわって、パンツ見える?」
男「似合う似合う…って、ま、回んな!」
女「似合うかなぁ? ねぇ? かわいい? 素敵? 鼻血が出る? ふふっ」
男「……あー…はいはい、似合ってる似合ってる…」
女「どう? どう? こういうポーズ? 写メる? 写メる?」
男「撮んないっつーの」
女「やだなぁーもう…なんだろこれ、すごくうれしいっ」
男「………そ、そか」
――――
医者「やぁ」
男「ども」
医者「今から?」
男「まぁ…それじゃ」
医者「まぁまぁまぁ…待ちなって」
男「…なんすか?」
医者「ちょっとお話しない?」
男「しないっす……じゃ」
医者「そんなに早くあの子に会いたいか」
男「そ、そういうわけじゃないっ…です」
医者「まぁまぁ、すぐ終わるから、こっちでコーヒーでも飲んでいきなよ?」
男「………ほんとにコーヒーか、それ?」
医者「で、今日はデートでもするの? 彼女、外出許可取りに来たけど?」
男「へ?」
医者「まぁ、許可いらないんだけどね…そもそも、ドクターストップしなきゃいけない状態じゃないし…健康そのものだし」
男「は?」
医者「まぁ、気持ちはわかるよ」
男「……はぁ」
医者「…ベッドがあっても、病院のベッドじゃねぇ?」
男「わかってないだろ…全然わかってないだろ」
医者「そこは僕のナース服で、それっぽいシチュエーションを楽しんでもらえれば…と思ったけど…
…どうやら君は違う装いが好みのようだね」
男「な…!?」
医者「…うんうん。好きな子に自分の好みの衣装を着せて、なんやかんやしたいという気持ちはとても良くわかる。強い共感を覚えるね!」
男「い、いや、だから、アレはそういうんじゃなくて、だって一着も持ってないっていうならさ…」
医者「皆まで言うな…若者よ。わかってる、僕はわかってるよ」
男「わかってねぇ! 全っ然わかってねぇ!」
医者「と、いうわけで、楽しんで行ってらっしゃーい…と言いたいんだけど」
男「……もう行っていいっすか?」
医者「君はさ、あの子のことどれくらい好き? 端的に言えば、セックスしたいくらい好きなのかな?」
男「…セクハラもいい加減にしないと訴えるぞ?」
医者「あー違う違う。そっか、そうだな……確かに、愛情とセックスは無関係なものかもねぇ」
男「…セクハラだろ…セクハラ」
医者「質問を簡単にしよう。君はあの子を好きだからここに来てるの? それともやっぱり同情?」
男「………」
医者「どっち?」
男「……同情じゃ、ないけど」
医者「好きなんだ? 大好きなんだ? 愛してるんだって! きゃーっ! 恥ずかしいっ!!」
男「帰るぞ」
医者「まぁまぁまぁ」
医者「ということは、彼女がこれから『デートしよう』と言えば、君は同情ではない感情で同行するんだね?」
男「……まぁ」
医者「………」
男「なんだよ?」
医者「ええっと…こういうのはガラじゃないし、君は僕の患者でもないから…ただの忠告、アドバイス」
男「…なんだよ?」
医者「…幸せ家族計か――ああ、ウソウソ! 冗談だって!」
男「………あんたってさ」
医者「記憶喪失は、いつか治る“病気”です」
男「は?」
医者「彼女にもその兆候はあります。君と出会った日、彼女は寝巻で知らない場所まで歩いていますが…
…一時的に記憶を取り戻した混乱で病院を抜け出した可能性は否定できません」
男「…そーなんすか?」
医者「はい…そして、ご存知でしょうか? 通常PTA…つまり外傷後健忘症が回復した場合、
記憶喪失中に起こったできごとをほとんどあるいはわずかにしか覚えていません」
男「………ぇと、それってどういう?」
医者「彼女の記憶喪失が治った場合、君のことを完全に忘れる可能性があります」
男「………」
医者「ま、そーゆーこと」
男「…ぁ……はい」
医者「って、わけだからさ、一応……一応ね、好きで一緒にいるんなら、覚悟してた方がいいんじゃない?ってことで
まぁ、老婆心ってやつ」
男「…ども」
男「………」
医者「あー…ごめん。暗くさせるつもりはなかったんだけどなぁ…タイミング間違った」
男「いや、教えてもらえて、その……助かったっす」
医者「そう? だったら、いいけど」
男「…それじゃ、俺」
医者「待って」
男「はい?」
医者「これを持って行きなさい。もしかしたら、役に立つかもしれない」
男「…え? これは……『厚さ0.03mm…つけてるのにつけてないよーな装着感!?』」
医者「早漏の君にはもう少し厚めのモノがいいかもとは思ったんだけど……がんばってきなさい」
男「…ありがとうございますっ! 先生――とでも言うと思ったかぁっ!!!」
医者「あっはっはっは! それだ! 元気出して前向きに明るく生きていくんだよ~!!」
おなかがすいて泣きそうなので食べものを摂って来ます
男「よっす」
女「よっすー」
男「最近、ちゃんと起きてるな」
女「えらい? えらいでしょ? まぁ、どっかの誰かに安眠をジャマされるおかげで寝るのが早くなっただけなんだけどね」
男「規則正しい生活ができてるんだから、そのどっかの誰かに感謝するべきじゃね?」
女「あーはいはい感謝感謝」
男「なんて投げやりな…」
女「…あ、それでさ、今日なんだけど」
男「……ああ」
女「えとさ、もし良かったら……あの、天気も――悪くないしさ」
男「…曇りだな」
女「だから……その、良かったらでいいんだけど…あの……って、今日はみかん無いの?」
男「……今日は、おばちゃんがみかん売ってなかったんだ。それで、なに?」
女「え……ええと、うん、なんでもないない。みかん無いならしかたないね。よし! 今日は、なにして遊ぶ? ウルトラマンごっこ? じゃあ私ツーワンやるね?」
男「やんないぞ?」
女「え、えと、みかん持って来てないなら帰ったら?」
男「帰るぞ?」
女「うそうそ、冗談冗談! もー冗談に決まってるじゃんよー」
男「当たり前だ。こっちも冗談に決まってるだろ」
女「だよねー」
男「………にしても、お前、またその服か?」
女「えー、だって、これしか持ってないしー……って、もしかして、やっぱりナースの方が良かった!?」
男「あ、いや、そうじゃなくてさ…他の服買えばいいだろ?」
女「でも、お金ないしー…」
男「………仕方ないから、買ってやらないこともない。今日、みかん無かったし」
女「えー、でもなー微妙にサイズがアレだし…だいたい、私にだって、好みあるしー」
男「だからさ、一緒に買いに行かないか?」
女「………ぐっち? えるめす? びとん?」
男「んな金があるか。フリーターなめんな。…ジャスコかユニクロだな」
女「えー」
男「文句があるなら行かない」
女「まぁ、仕方ないかぁ…一着じゃ困るしね。質より量だよね。まぁ、仕方ないから一緒に行ってあげないこともないかなー」
男「仕方ないのはどっちだよ…」
女「ふふっ…だね。よし、ちょっと待ってて、外出許可もらってくるから」
男「なんで?」
女「なんで…って、まぁ、健康体だけど、急に部屋から居なくなって心配とかされると…アレだし」
男「いやまぁ、いいけどさ」
女「あーあ、今日は外に出る予定じゃなかったのになー曇りだしー仕方ないなー」
男「顔にやけてんぞ?」
女「う、うるさぁいっ」
女「どーも」
医者「え?」
女「外出許可、もらいに来ましたー」
医者「はぁ? 今朝、そんなの要らないって話したよね?」
女「まぁ、そこはそれってやつ」
医者「……ごきげんだね?」
女「まぁね」
医者「もしかして、デートに誘おうと思ったら、わりと恥ずかしくて誘えなかったところを彼に誘ってもらったとか?」
女「そ、そんなじゃないし! 財布! あいつは、ただの財布だから!」
医者「……ひどい言われようだねぇ」
女「と、いうわけで、行ってきます」
医者「いってらっしゃい。…楽しんでおいで」
女「きゃぁーおっきー!!」
男「……で、服を買いに来たわけだが」
女「ほら、見て見て! キリンさんおっきー!!」
男「そうだね。キリンさんは大きいね」
女「舌ながーい!! あ、聞いた? 『モー』って言ってなかった? 今? お前は牛か!」
男「いや、あのさ、動物園に服は売ってないと」
女「ほら、ここ、書いてあるよ? なになに『キリンは牛と同じ偶蹄目』だって!? 牛だったんだーキリンー」
男「いやいや、牛と同じ仲間ってだけで、牛じゃないだろ? キリンは牛じゃないだろ?」
女「だって、ぐーてーもくって書いてあるし」
男「ちげぇよ! キリンと牛は違う! 牛だっていうなら、キリンから牛乳しぼってみろよ!」
女「キリンからしぼったらキリン乳でしょ?」
男「……なんか背が伸びそうな気がするな」
女「それだ! 『キリン乳を飲んで身長が5センチ伸びて、彼女ができました!』みたいな?」
男「…新しいビジネスチャンスの到来だな……胸が熱くなるぜ…」
女「ペンギンだ…」
男「ペンギンだな…」
女「ねぇねぇ…アレさ、一匹くらい持って帰ってもバレない気がしない?」
男「ダメだぞ。第一、どうやって持って帰る気だ?」
女「…そこは、ほら、こうやって、わきに抱えて……それに今、冬だから、なんとかなるかも」
男「…なにが何とかなるんだ?」
女「………だいたいあの子ら、きっともう野生とか忘れてるし、誘拐しても暴れたりしないし」
男「いいや、アイツらは野生を捨ててねぇ…俺にはわかる…目を見ればわかる」
女「…目……つぶらだね」
男「……つぶらだな」
女「………はぁ…」
男「………はぁ…」
女「さ! 次は何見に行く? ゾウ? やっぱりゾウかな?」
男「………いや、ちょっと待て?」
女「ゾウ! ゾウを見ないと動物園は始まらないよ!?」
男「落ち着け」
女「お、落ち着いてるゾウ!」
男「語尾がゾウになってんぞ?」
女「うああ、どうしよう? どうしよう? ここって、インドゾウとアフリカゾウ両方いる動物園だっけ?」
男「いや、あのさ、そもそも、俺らは服を買いに」
女「ちょ、あと5分でゾウのエサやりの時間が始まっちゃう!」
男「なんだと!? マジか……ええと、ゾウは一番端っこか…走れるか!?」
女「走るよ!」
男「よく言った! 行くゾウ!!」
女「ふぅ~たんのうした~」
男「はぁ…つかれた…」
女「…いやぁ……まさかプレーリードッグが…ねぇ…」
男「それを言うなら…シロクマのアレが…見たか?」
女「見た見たー。アレは圧巻だったよねぇー…」
男「だなー…」
女「よし。動物園も見終わったし、買い物に行こうか」
男「え」
女「『え』じゃない。今日は私の服を買いに来たんでしょ? 財布係のくせに忘れたの?」
男「いや覚えてたけど、その財布係っていうのは初耳っていうかやめてそれ…」
女「よーし買うぞー買い占めるぞージャスコ壊滅させるぞー」
男「よし、店に行く前に、財布係の財布の中を確認してからにしよう。ほーら薄いぞー財布、超薄いぞー」
女「こっち? それともこっち?」
男「………」
女「うーん……こっちだと、ちょっとダイターンかなぁ?」
男「知るか…聞くな…」
女「えぇー聞かなきゃ一緒に買いに来てる意味ないじゃん。ね、どっち?」
男「………」
女「もー中学生じゃないんだからー。売ってる下着に恥ずかしがってどうすんの? 本番大丈夫?」
男「は、はずかしいに決まってんだろ! 男の子なめんな!」
女「で、どっち?」
男「…こ、こっち?」
女「マジで!? うわーエロスだわー超エロスだわー。こういう下着つけてるとことか想像されちゃうー痴漢ー変態ー」
男「いじめ? ねぇ、これ、いじめだよね?」
女「うーん、こういうの趣味じゃないしなー…すけてるし…でも、かわいいのかも?」
男「あの、これ、値札、3980円とか書いてるんですけどパンツで」
女「うん、そういうのもあるよねー…あ、うん、どうせ、ここで買わないし…買うの5枚1050円とかのだし」
男「店員さん見てんぞ?」
女「うーん、試着とかしてみようかなー」
男「いや、買わないのに試着…ていうか、下着は試着できないだろ」
女「あーやっぱそうだよねー…うーん、でもこれどうかなぁ…」
男「あの、買わないんだったら、違うとこ行きませんか?」
女「ねーホントにこれ、私に似合うと思う?」
男「いや、だから、さっきのは適当に選んだだけでさぁ」
女「せっかく選んでくれたんだし…」
男「いや、だいたい俺、こういうのより普通の白いヤツの方が好きだし…」
女「なんだ…それならそうと言ってくれればいいのに」
男「…なんで、俺の意見が反映されるんだよ?」
女「………なんで自分の意見が反映されるなんて思ってんの?」
女「…こんな感じ?」
男「…うんうん、似合ってる似合ってる」
女「そう? そうかな? かわいい?」
男「かわいいかわいい」
女「じゃ、ちょっと待っててね、次の着替えるから」
男「…もう10着くらい着てね?」
女「そうだっけ? ね、ちなみに、今まででどれが一番かわいい?」
男「え?……・あー、3着目のやつあたり?」
女「ふーん、ああいうのが好み?」
男「え?…ま、まぁな」
女「じゃ、それにしよっと……あんまり私の好みじゃないけど」
男「いや、自分の好みとかあるんだったら、そっちにした方がいいだろ?」
女「え? なんで? 着てるときは自分は見えないんだから、見る人の趣味に合わせたほうがいいでしょ?」
男「…そ、そうなんだ?」
女「当たり前じゃない」
女「ふぅー買った買ったー」
男「それはようございましたね…」
女「悪いね、荷物持ってもらっちゃって」
男「そう思うなら、この荷物の片方でも持て」
女「や。重いもん」
男「……そっすか」
女「これで、春まではなんとか乗り切れるかなー」
男「……俺は、今週末までこの財布で乗り切れるかどうか不安だ…」
女「いやほんと助かったーマジさんきゅーおつかれー財布係。荷物運び終わったらお役ごめんだからそれまでふぁいとー」
男「軽すぎだろ…土下座してありがたがれ」
女「うんうん、ありがたいありがたい」
男「……まぁ、いいけどさ」
男「つ、着いた……」
女「おつかれ、おにーさん」
男「………ようやく、両手が開放される――って、わっ!?」
女「えへへへ…だーれだっ!?」
男「急にひとの視界をふさぐな…」
女「いいからいいから…だーれだっ!?」
男「……いや、もうね、おにーさん、つかれてるの、マジね」
女「だーれだ?」
男「………」
女「問題。じゃじゃん。私は誰でしょう?…ちっちっちっちっちっちっち…ざんねん! じかんぎれ!」
男「……正解は?」
女「正解は……うーん、誰だろ? 誰なんだろうね? 私にもわかんないや」
男「…お前は、お前だろ?」
女「私は、私?」
男「……昼までぼさっと寝てて、みかん食って、すげぇ寒いのに寝巻で雪の中にいるようなやつ」
女「あー、いたね、そういえば……ね、最初におにーさんに会ったときね、気がついたら、雪の中でさぁ…」
男「………」
女「…みんなさ、私のこと避けて歩いたり、笑ったり、見ないようにしたりするんだ……そんなにアレだったかなぁ?」
男「………まぁ、そこそこ、アレだったかもな」
女「でもね、おにーさんは、そんなことなかったよ? ちゃんと見てくれて、話してくれて…やさしくしてくれて」
男「……まぁ、俺も、そこそこアレだったしさ」
女「ねぇ、おにーさん、私は誰なのかなぁ…ここはどこだろ? ここにいてもいいのかなぁ?」
男「………いいんじゃねぇの? あのおっさん、ナース服さえ着てれば、ここにいても何も言わないだろ?」
女「うん…かもね」
女「ね、今日はありがとね」
男「うん、感謝しろ。感謝しすぎて足りることはないから。あとそろそろ、俺の目から手を放せ」
女「服のお金、ちゃんと返すからさ」
男「……べつにいいって。記憶喪失の無職から金は取らないし。そんなことより、まず俺の視界を返せ」
女「でもさ、ほら、いつまでも記憶喪失で病院にいるわけにもいかないし…どっかにアパートでも借りて働くかなって」
男「………」
女「いつまでも先生に迷惑かけらんないしね。それにこう毎日寝て食べての繰り返しだと太っちゃうし」
男「……迷惑なんて、思ってないんじゃね?」
女「それでもさ…いつかは出なきゃいけないんだし……もう外に着て行く服もあるしね」
男「………服の金、返さなくていいからな」
女「ううん、返すよ。あ……でも、あれだ、利息とかつくんじゃない?」
男「当たり前だ。つきまくりだ。10日に1割だ……だから、貸しじゃなくて」
女「じゃ、これは、利息分先払いってことで」
男「………」
女「………………レモンの味がする」
男「そんなわけないだろ」
女「うん、ウソ」
男「なにを」
女「利息分先払い。ごめんね、お金持ってないから、体で払う方向でー」
男「な……なにが」
女「えと、もしかして、足りない?」
男「え…いや、十分?」
女「……んー、むしろ私が足りない」
男「は? おま、なに言ってふむっ」
女「んー………やっぱりしないねレモン味」
男「……そうか」
女「私は? みかんの味とかした?」
男「…よくわからなかった」
女「そう? じゃ、も1回する?」
男「…する」
女「………あ、舌入れたりする?」
男「…してもいいなら」
女「……ええと、ナース服のほうがいい? 着替える?」
男「いや、俺の選んだ服のほうがいい」
女「…そっか、そだよね」
男「……目、閉じれ」
女「ん…」
――
女「……ん…あれぇ…おにーさん?」
男「あ、わり、起こしたか?」
女「んぅ…どこか行くの? おしっこ? 私も行くぅ…」
男「…なんで連れション……バイトだバイト…」
女「夜のお仕事かーかっこいー」
男「べつに、かっこいいわけじゃ…」
女「はい、いってきますのちゅー」
男「するかバカ」
女「んー」
男「………し、しないからな!」
女「んー」
男「………」
女「いってらっさーい」
男「………」
女「…なに恥ずかしがってんの? 生娘じゃあるまいし」
男「数時間前まで生娘だったやつに言われたくない…」
女「えへへへ」
男「にやけるところ? そこにやけるところか?」
女「だってぇ…おにーさん優しいんだもんー」
男「……すいませんねぇ…童貞でしたので…どうせ早漏だっつの」
女「…しかもゴムまで持ってるって、どんだけ」
男「いや、アレは……」
女「ちゃんと用意してるってもう、おにーさんのエロス! 鬼畜! 淫乱肉奴隷! くふふふふふふ」
男「……釈然としない…」
男「あのさ、さっき…アパート借りて働くとか言ってただろ?」
女「………」
男「よかったらさ、俺のアパートに来ないか? いや、まぁ、よかったらでいいんだけど」
女「………」
男「も、もちろん、ちゃんと責任はとる。今はフリーターだけど、マジメに職探して、正社員になるしさ」
女「………」
男「苦労かけないって、簡単には言わないけど、きっと幸せにするからさ………だから、俺とさ」
女「………」
男「……って、寝てやがる!? あぁ!? 時間が…ヤバ遅刻…罰金!?……くそぉっ! いってきます!」
女「………」
女「くふふふふ…『責任とる』だって…」
女「『きっと幸せにするからさ』……あはっ…もう十分幸せだって」
女「ふふふふふ」
女「もう…なによぉ……全然眠れない…ばか……もう、ばか」
女「明日、起きたら、もう1回言わせてやるんだから…ふふっ…」
女「っ!…やだなぁ……もう幸せすぎて頭痛? なにそれ…知恵熱?」
女「……やっぱり明日は裸エプロンでお出迎え? きゃっ…また襲われちゃうかもー…痛っ…たた…」
女「いかんいかん…煩悩が…煩悩が108つの煩悩が…」
女「あぁ、でも、せっかく病院だし…先生に白衣借り…て…」
女「眠い…あれぇ…なんでこんな痛いのに……ねむ……」
――――
男「あ、どもっす」
医者「あ…」
男「昨日は、どーも……まぁ微妙に感謝したくないけど」
医者「あ、あのさ」
男「あー、悪いんだけど、早くあいつに会って、言わなきゃいけないことがあるから、後にしてくんない?」
医者「え?」
男「悪いね、また、後から顔出すからさ」
医者「………」
男「え――はい?」
女「…いえ、あの、失礼ですが、どちらさまでしょうか?」
男「どちらさま?」
女「すいません、ここは203号室ですが」
男「はい、203号室……っていうか、ほら、みかん」
女「あの…」
男「………あの、失礼ですけど、どちらさま?」
女「私、ですか?」
男「はい、そう、あなた」
女「私の名前は――」
おしまい?
まぁ、あれですね
このバイトが終わったら…俺、婚約するんだフラグなので
こういう感じですよね
エロスシーンは恥ずかしいのと眠いので(略)ですね。各位脳内補完してください。
なんかもう中途半端なようでキリが良い感じだし、とりあえず終了って言うか、3時間くらい眠りたいので
続きが読みたければ、3時間後に俺を起こしてください誰か頼む
ここまで読んで下さって、ども、ありがとうございました。
スレが残っていれば…また、会いましょう…
うぅ…頭イタイよぅ…
医者「――さん、20歳、そこの県立大学の2年生。家族構成は隣の県に叔父さん夫婦が…って聞いてる?」
男「…聞いてます。年下かと思ってたけど、同い年か」
医者「まぁ、生年月日で言えば、君の方が年下だね」
男「…すいません、コーヒーおかわりいいっすか?」
医者「えーっと、それソースをお湯で薄めたモノなんだけど、同じものでいい?」
男「………できれば普通のコーヒーで」
医者「大丈夫?」
男「…やっぱ、大丈夫じゃないように見えます?」
医者「あー……それで彼女、一応検査して、問題なかったら2、3日で退院だから」
男「ノーコメントか。つか、医者が患者の情報漏らしていいんすか?」
医者「まぁ、そこはほら、ウチっていい加減だからさー」
男「なぁ、先生」
医者「なんだい?」
男「あいつさ、治ったってことは、もう元に戻んないんすか?」
医者「もしかしたら、同じ強度のダメージを頭に与えれば…」
男「マンガか」
医者「こうやって、右ナナメ30度くらいから、思い切り叩くのがコツ」
男「テレビか」
医者「………あれが元どおりの本来の彼女だよ……まぁ、一般的には、ここから記憶喪失の状態には戻らないね」
男「……そっすか。だったら、仕方ないよな」
医者「…仕方ないって?」
男「だって、そうだろ? 顔は同じでも、違う……あいつじゃないんだからさ…俺なんか迷惑だろ?」
医者「……迷惑か。それであきらめるんだ、彼女のこと。ふーん、大人だねぇ」
男「茶化すなよ…仕方ないだろ」
医者「まぁ……いいけど、ね」
男「…それじゃ、先生」
医者「うん、またね」
男「…じゃ」
医者「……もう、来ない気かい?」
男「だって、来る理由…ないだろ?」
医者「そう…か。それもそうかもね」
男「あ……でも、ケガとかしたら、来るかも」
医者「え? なんで?」
男「……あんたのこと、信用できるからさ」
医者「………ウチは、頭にケガしたり、頭が悪くなったりとかしないかぎりは入れないよ」
男「あー、じゃあ、もう来ないかもな」
医者「そうそう…病院なんてね、そんなに来るべきところじゃないんだよ」
男「それもそうっすね…じゃ」
医者「…お大事に」
男「……『どちらさまでしょうか』だってさ…」
男「なんだよ、それ…こっちが言いたいっつーの」
男「…なんでだよ」
男「わかってたけどさぁ…だけど」
男「なんだよ、これ」
男「……くそっ…なんだよ、もう…」
男「…『前向きに明るく元気に』か………ムリだろ、そんなの…お前、いないのにさ」
――――
医者「それで、今日の検査の結果ですが…」
女「はい……あ」
男「…どもっす」
医者「あれー? あれれー? 来ないんじゃなかったの? 全然あきらめきれてないじゃない? なにその、みかん?」
男「うるさいぞ、コスプレマニア」
女「…あの」
男「ああ、悪い。いや、ちょうどバイト帰りに近くを通りかかってさ、そのお見舞いっていうか」
女「えと、お見舞い?」
医者「ああ、申し訳ありません。紹介しましょう、この男、一見不審者に見えますが」
男「見えねぇよ」
医者「その本性は、ただのソフトSMマニアです」
女「え――」
男「だ、誰が、ソフトSMマニアだっ!」
医者「まぁ、簡単にいうと、記憶喪失中のあなたの話し相手やなんやかんやをしていたという人物です」
女「…ええと、その節はお世話になりました?」
男「いや、あのなんやかんやって…」
医者「それを僕に説明しろというのかい?…仕方ない、説明しましょう。
彼は、先ほど言ったようにソフトSMマニアですから、この神聖な病院内であなたに尿瓶プレイを強要したり」
男「してねぇ」
医者「『お兄ちゃん』と呼ばせる擬似兄妹プレイ、ドジッ子看護婦さんを虐める医局長プレイ、はたまた
ドS看護婦さんに罵られ責められる新米医師プレイまで」
男「だから、してねぇ…って」
医者「さらに、あなたが記憶喪失で困っているところにつけこんで自分の趣味全開の服を買って着せたり」
男「…そ、それは、あんたもだろ」
医者「あまつさえ、童貞のくせに、あなたの大事なものを盗んだんです…つまりあなたの処女です!」
男「ど、童貞は関係ないだろ童貞は!」
女「………」
医者「さて、場も暖まったところで……オジャマ虫はドロンしますか」
男「暖まってないだろ! あんた引っかきまわしただけじゃんか!」
女「あ、あの…」
医者「あ、今日の検査はオールオッケークリアーでしたよ! やったね! いぇい! それじゃ、あとは若い人同士ってことでー」
男「お見合いか!?…って、おまっ………仮にも医者が病院の廊下走んなよ…」
女「………」
男「……えー……あの、みかん食う?」
女「………」
男「………えーと、だな…その…」
女「………いただきます」
男「ど、どうぞどぞ」
男「……あー…」
女「………」
男「…えー……」
女「………あのお医者さん、けっこうマジメな人かと思ってたんですけど」
男「マジメ!? あれのどこをどう切ったら、そんな言葉が!?」
女「…いえ、私も驚いているんですが、その……あんなに明るい…というか
男「ふざけたやつだろ?」
女「あ、いえ、あの決してそういう…」
男「あー…うん、まぁ、どっちが素なのかは、俺もわかんないんだけどさ」
女「はぁ………あ、すいません、みかん、もう一個いただけますか?」
男「え!? もう食ったの!? ないよ? 一袋食い尽くすって、早くね!?」
女「だ、だって…その、し、仕方ないじゃないですか! 冬のみかんはおいしいんですから!
だいたい『あー』とか『えー』とかばっかりで、ちっとも会話にならないから、みかん食べてるしかなかったのに!
文句があるなら、もっとたくさん買ってきてください!」
男「え」
女「あ…すっ……すいませんっ…その、申し訳ありませんっ」
男「あ…いや、みかん、好きなんだ?」
女「…まぁ、その人並みに」
男「いや、人並みのやつは、この短時間にワンネット食い尽くしたりしねぇって」
女「う…」
男「へぇ…そうなんだ、みかん好きなんだ?」
女「す、好きですよ! 昔から好きなんです! 悪いですか!? そ、そんなににやにやしなくてもいいでしょ!?」
男「え…あ、いや、悪い。明日からは、2袋ずつ買ってくるからさ」
女「……明日も来るんだ…」
男「ん? なんか言った?」
女「…なにも言ってません」
男「あのさ」
女「はい?」
男「…なんで敬語?」
女「え? だって、年上のひとだし」
男「いや、歳は一緒だから」
女「え? そうなんですか? なんで知って」
男「あ、ああー、たぶん! たぶんね! 一緒だろ? 20歳だろ?」
女「え? まぁ、そうですけど…ホントにハタチ?」
男「え…俺、そんなに老けて見えるんだ…」
女「あ、いや別にそういうことじゃなくて…私なんかより全然大人に見えるなぁって…見えます」
男「いやだからさ、敬語じゃなくてもいいっていうか…敬語じゃない方がいいっていうか」
女「すいません、初対面の人とくだけて話すの慣れてなくて」
男「……そうっすか」
女「はい」
女「あの、さっきの話なんですけど…」
男「…さっきの話というと?」
女「その、ソフトSMとか」
男「ウソだから! 嘘八千、いや八億くらい! あいつの言ってたことは8割がた大嘘だから!」
女「…あと2割は?」
男「………まぁ、話し相手とか遊び相手にはなってたかな」
女「あ、それは…どうも……すいませんでした」
男「…別に、謝ってほしくはないんだけどな」
女「えと、それじゃ、後のことは全部ウソですよね?」
男「あ…いや…」
女「………まさか、ホントに尿瓶で」
男「違う! それ違うから! 処女のほうだから!!……あ…」
女「………」
男「………ぃゃ…ぁ…あ、あのさ」
女「………」
男「あ、あのね、誤解して欲しくないんだけど、その、俺は…っていうか、
俺たちは真剣な気持ちでお付き合いさせていただいておりまして」
女「………」
男「あ、いやその、そっちが真剣だったかどうかはイマイチよくわからんかったというか
今でもわからないんだけど……俺は、そのマジメにさ」
女「………」
男「今は、フリーターとかやってフラフラしてるけど、あのちゃんとした職探して、一緒になろうってさ」
女「……帰って」
男「だからさ、その――って」
女「帰ってくださいっ!!!」
医者「やーい、フラれてやんのー」
男「…言っとくけど、半分はあんたのせいだからな」
医者「いや、自業自得でしょ。なに言ってんの?」
男「う……まぁ、そうだけど」
医者「人の忠告聞かないで、ヤっちゃうからさぁ……ていうか、本当にヤっちゃってたんだ…うわぁ…最近の若者って、若いなぁ…」
男「…若者は若いに決まってんだろ……頼むから憶測で爆弾発言しないでくれ」
医者「だいたい、なんで来てんの? 来ないんじゃなかったっけ?」
男「そ、それは…その」
医者「きゃー、そんなにあの子のことが好きだったんだーうわぁー若者だー青春だーひゅーひゅー」
男「う、うるさぁいっ! いいだろ、好きなもんは好きなんだから」
医者「そして、今も好き好き大好き…と…はぁ、仕方ないね。ここは僕が大人のフォローをしておいてあげよう」
男「いいから。しなくていいから。あんたに大人のフォローとか期待してない」
医者「大丈夫、任せてくれ。ないことないこと吹き込んでおくから」
男「せめて『あることないこと』にしてくれ…」
――――
女「あ…」
男「…えっと…よっす」
女「…こんにちは」
男「あ、あー…その、悪い、みかん持ってきただけだから」
女「…2袋」
男「そ、そう、ほら、昨日持って来るって言ったし……いや、悪い、顔も見たくないよな」
女「そんなこと……ありますけど」
男「………ええと、すいませんすぐ帰ります…」
女「ま、待って!」
男「え?」
女「あ……その待ってください。その、みかんだけもらって帰らせるのも悪いですし…」
男「は?」
女「だ、だから、こ、こんなにみかん一人で食べたら、指が黄色くなっちゃいますし…
その聞きたいこともあるし、あ、でももし、そのご予定とかあるなら」
男「……いや、無いけど…俺、いていいの?」
女「いいって、言ってるでしょ!」
男「……言ってないでしょ…」
女「お茶淹れますから、座ってて下さい!」
男「怒鳴らなくてもいいじゃないですか…」
女「あ…お茶無いや……えと、インスタントコーヒーでいいですか?」
男「…それ、ソースをお湯で薄めたものじゃないよな?」
女「……なんでそんな小学生みたいなことしなきゃいけないんですか」
男「だよなぁ」
男「…で、聞きたいことって?」
女「はふ?……んくっ……なんですか?」
男「…そんな親の仇みたいに、みかん食わなくてもいいだろ」
女「べ、別に、そんなに食べてないじゃないですかっ! 普通です! 普通!」
男「……まぁ、それならそれでもいいけどさ」
女「だいたい、あなただって、さっきから人がみかん食べてるところ、にやにやして…失礼じゃないですか!」
男「あー…いやだから、聞きたいことって?」
女「あ……そ、そう! 聞きたいことがあったんです!」
男「うん、なに?」
女「その………記憶がなかったころの私のこと」
男「…あぁ」
女「そ、その、先生に聞いたら、あなたに聞くのが一番早いって言われて」
男「………どこが大人のフォローだ、どこが」
女「はい?」
男「…あ、いや、こっちの話」
女「……もしかしたら、あなたにそれを聞くのは…その、ひどいことなのかもしれませんけど」
男「…別に、いいよ。何が聞きたい?」
女「…私がどんな風だったとか…私と出会った経緯とか」
男「あー…うん。あのさ、2丁目ローソンの三つ角わかる?」
女「あのバス停のある?」
男「そうそう、そこ………そこでさ、雪の中で傘も差さないで、コートも着ないで、寝巻だけでうろうろしてるヤツがいてさ」
男「で、まぁ…それから、だいたい毎日、病院に通うようになったってわけ」
女「はぁ…そうですか、それで?」
男「いや、まぁ、それでなんやかんやあって、その、好きになって…まぁ、そのいつの間にか好きになって」
女「………下手な恋愛小説みたい」
男「なんか言ったか?」
女「………なんでこんな無愛想で、フリーターで、コスプレマニアのひとなんかに…」
男「違うからな? 3番目は違うからな?」
女「え? あ………聞こえてました?」
男「…別に、全然」
女「………」
男「……な、なんだよぅ…にらむなよぅ…」
女「…なんで私…っていうか、その子はあなたのこと好きになったんですか?」
男「俺が知るかよぅ…」
女「…わかんないなぁ……やっぱり、私じゃないのかなぁ…」
男「あ、あのー」
女「ちなみにさっき、『なんやかんや』って濁したところってどんな――あ、いいです、やっぱり聞きたくありません」
男「……ああそう」
女「んー…あ、ちょっと一人で考えたいので、もう帰っていいですよ」
男「………ああそう」
女「はい、じゃ、さよなら」
男「ああ、またな」
女「………あの」
男「ん?」
女「…みかん、ありがとうございました。いただきます」
男「え?…あ、うん…ああ、いただけば?」
女「はい。ありがとうございます」
男「う、うん…」
――――
男「…あれ? いない?」
医者「あ…ちょうどよかった!」
男「あ…ども。あの、あいつ、いないんだけど…検査かなんか?」
医者「うん、僕も探してるところでさぁ…たぶん、外に出て行ってるんだよねぇ」
男「はぁ?」
医者「戻ってるかもと思ったんだけど……ねぇ、頼んでいい?」
男「………まぁ、いいけどさ」
医者「悪いね。他の患者さんもいるからさ、そう遠くへは探しに行けなくて……こんな雪の中で、どこにいるんだか…」
男「…いや、そんなに遠くはない」
医者「え?」
男「………と、思う」
男「ちょっと、そこのおねーさん」
女「…けっこう早かった、ですね…へっくし!……うぅ、さぶい…」
男「…そりゃ、こんなに雪が降ってる中で、そんな寝巻みたいなカッコでうろついてたら、寒いだろうよ…バカ?」
女「へっくしゅ!…ば、バカって言った? 今バカって言いました? まぁ、自分でもバカみたいなことしてるって
思いますけど…へっくし!! う゛ー…」
男「はぁ……とりあえず、これ着て傘に入れ」
女「………あったかい」
男「そうだろうよ…俺は寒いよ」
女「………すいません」
男「謝んなくていいって…てか、もっと寄れ! 俺が濡れちゃうだろ…」
女「…傘、そっちに持っていけばいいじゃないですか」
男「バカ? そしたら、お前が濡れちゃうだろうが…そのコート防水とかついてないんだからな」
女「ま、またバカって言った!?」
男「寒くないか?」
女「…はい」
男「ムリするなよ? タクシー…呼ぶ距離でもないけど……歩けそうにないなら、おんぶしてやるぞ?」
女「…けっこうです」
男「ホントに寒くないか? なんだったら、もう一枚貸そうか?」
女「………」
男「…どうした? どっか痛いトコでも」
女「……ちょっとわかったような気がします」
男「は? なにが?」
女「……そういう手で、記憶喪失の私を篭絡していったんですね、この変質者!」
男「お前、今こんなに親切にしてもらってる相手に変質者って言った?」
女「だいたい、なんでそんな親切にするんですか?」
男「はぁ…?」
女「女だったら誰でもいいんですか?」
男「ええと、なんで俺、この寒空にコート奪われて、罵られてるの?」
女「私は、その子じゃないんですから、優しくされたって…全っ然、ないんですからね!」
男「なにが? 胸が?」
女「誰が胸の話をした!!! セクハラですか!?」
男「い、いや、ないって言うから…なにが無いのかと」
女「だから、私は、こんな風に優しくされたくらいで、あなたのこと好きになったりすることはないって言ってるんです!」
男「そりゃ、そうだろ。普通さ、ちょっと優しくされたくらいで、誰かのこと好きになったりしないだろ?」
女「…そ、そう! そうですよ!」
男「だいたい、誰にでもこんなことはしない。お前だからやってんだよ」
女「…それは、記憶喪失だった頃の私のことを好きだったから…ですか?」
男「……違う、と思う。俺がお前の顔とか知ってて、どんなやつかも知ってて…別に嫌いじゃないから、だ」
女「知り合いで嫌いじゃなかったら、誰にでもこんなに優しくするんですか?」
男「あ………いや、やっぱり違うな…うん、俺さ、お前…ていうか、あいつのことまだ好きだから……だな、やっぱり」
女「………」
男「…好きなやつには優しくしたくなるだろ? まぁ、きっとそういうことだな」
女「………私は、あなたの好きな人じゃない」
男「…知ってる。悪いな。顔が同じだからさ、どうしても、さ」
女「なんで…っ」
男「ん?」
女「………私、きっと、あなたのこと嫌いです…」
男「…そうっすか」
男「到着…っと。着いたぞ、白くて四角い病院」
女「…病院なんてどこも白くて四角でしょう」
男「…だよなぁ。それじゃ、病室にみかん置いてるから」
女「置いてるから…って、寄って行かないんですか?」
男「いや、だって……いいのか?」
女「………まぁ、みかんだけもらうのも失礼ですし。お茶飲んだら、帰ってください」
男「はいはい…っと」
女「あ、あと」
男「なに?」
女「コートと傘、ありがとうございました。あったかかったです」
男「え………あ、うん、どういたしまして」
女「………」
男「………どうした?」
女「ぁ……ゃ、や、やっぱり帰って! 今すぐ帰ってください!」
男「いや、お茶飲んでから帰るから」
女「なんで私があなたのためにお茶淹れないといけないんですか!」
男「だからさぁ…あーもういいや」
女「え? 帰るの?」
男「……俺が淹れればいいんだろ」
女「そ、そういう問題じゃなくて! ああもう! 帰れ!」
男「…そんなことばっかり言ってると、お茶にワサビ入れるぞ」
医者「今日はお手柄だったね」
男「どーも」
医者「ふぉっほっほっほ…そちに褒美をとらせるぞ…近う寄れ」
男「いらない…どうせ、ロクなもんじゃないだろ」
医者「なるほど…『俺は好きな女のためにやっただけだ! お前らなんかのためんじゃねぇっ!』ってことか」
男「ち、ちがっ!……わないこともない」
医者「うんうん、いいねぇー。素直なのはいいことだ。よし、良いことを教えてあげよう。彼女、明日退院するから」
男「………そりゃ、良いことだな。めでたいな」
医者「めでたいね! まぁ、本当は今日でもよかったんだけど…」
男「…それ、俺に教えてどうすんのさ」
医者「そうだねぇ……ほら『卒業』って映画知ってるかなぁ?」
男「…いや、シチュエーション違うだろ」
医者「あ…あと、迷惑防止条例って知ってる? 暴力団じゃなくてストーカーの条項」
男「そういう心配もいらないから」
――――
女「きゃっ」
男「………誰だ?」
女「いえ、私が聞きたいです、それ。なに人の目をふさいでわけのわからないこと言ってるんですか?」
男「…いや、なんかだって、『だーれだっ』っていうのも恥ずかしくて」
女「……恥ずかしいならやらなきゃいいじゃないですか」
男「…でさ、お願いがあるんだけど」
女「その前に手を離してくれませんか?」
男「…手を離してほしければ、お願いを聞け」
女「脅迫!?……悲鳴あげますよ?」
男「………すいません」
ゴメ
ハラ ヘッタ
スグ カエレ ハラ
女「…動物園行って、ジャスコ行って、ユニクロ?」
男「そう」
女「それって、デート?」
男「ち、ちがっ…わない。デート」
女「何で私と?……言っておきますけど、私とあなたが好きだった子は」
男「別人だろ? 知ってる。何日も病院通い続けて悪かったな」
女「……べつに悪くは」
男「だからさ、これが最後だから…これでお前と俺の好きなあいつが別人だって、ちゃんと理解して
忘れて、あきらめるからさ…」
女「…たった1回デートしたくらいで…忘れられるんだ」
男「え?」
女「『仕方ないですね』って言ったんです。せっかく退院してストーカーみたいにつきまとわれても迷惑なので
デートしてあげます。まぁ、天気も――悪くないですしね。仕方ないから、デート、してあげます」
男「そ、そうか…ありがとう」
女「はい、どういたしまして」
医者「退院、おめでとうございます」
女「お世話になりました」
医者「………」
女「先生?」
医者「いや、もう最近は頭痛などはありませんか?」
女「あ、はい……たまにめまいとかはありますけど」
医者「うん、これからもそこそこ、そういった症状や認識の混乱があるかもしれませんが、徐々に治まりますから安心してください。
あと何回か通院してもらうことになりますが、もしひどい頭痛などの症状が出たら、すぐに連絡してください」
女「はい」
医者「………あと、これは私からのお餞別です。使ってください」
女「…ありがとうございます…これは?」
医者「この病院のナース服です。使ってください」
女「ああ、燃えるゴミですね」
医者「萌えますけど、燃やさないで下さいね」
女「……お世話になりました」
医者「お元気で。お大事に」
男「退院おめでとう」
女「…なんで部屋の前で待ってるんですか? 玄関か門のところで待ってればいいのに」
男「そこは、ほら、最後の一日だし、できる限り一緒にいたいという」
女「バカですか?」
男「ひどくないか?……やっぱり荷物少ないな」
女「…何も持って来なかったのに、バッグ一個持って帰ることになってるんですが」
男「まぁ、その半分以上、俺が買った服だったりするわけだが」
女「…コンビニで捨てていきましょう」
男「ま、待て! 捨てるくらいなら、俺にくれ!」
女「バカですね」
男「断定形!?」
男「あと、もう一つお願いが」
女「よく人から図々しいとかって言われませんか?」
男「いや、最後なんだしいいじゃん? もう会うこともないんだしさ」
女「……最後、最後って、さっきから」
男「でさ、敬語やめてもらっていい? タメ口でいいよ。実際タメなんだしさ」
女「ぞんざいな扱いの方がいいなんて、もしかしてマゾですか? 私、そういう変態の方はちょっと」
男「……いや、そんな、ことは、ないって…信じてるけど」
女「…まぁ、 さ い ご だから、聞いてやらないこともない、かな」
男「……そんなに最後っていうのを強調することなくないか?」
女「どっちが…」
男「はぁ?」
女「なんでもないっ!」
男「さー、動物園だぞー、お前の大好きな動物園だぞー」
女「…別に、そういう設定ないんだけど」
男「そんなことはないはず! ほらアミメキリンだぞ? 大きいぞ? 舌長いぞ?」
女「今、見えてるのはマサイキリン。ほら、体の模様が違うでしょ?」
男「…違うのか?」
女「茶色い部分が直線で仕切られてない星型でしょ? アミメキリンの多角形型とは違うでしょ?」
男「そ、そうなんだ? え、ええと、あ、知ってるか? キリンってな、牛の仲間で偶蹄目って言ってだな」
女「哺乳類を目レベルで同じ仲間っていうなら、キリンも牛もラクダもイノシシも同じ仲間!
大体、最近の分類じゃ、偶蹄目じゃなくて鯨偶蹄目だし…あ、そうだ、知ってる? キリンってね
30分から1時間くらいまでしか眠らないって、言われてるんだけど、それはあくまでサバンナとか
野生での話でね、実際に動物園で外敵のないところだと…」
男「………」
女「つまりね、哺乳類はキリンも人間ももちろんゾウさんも首の骨の数は7個でそれぞれの――」
男「どうした? 続けてくれ」
女「……なんでじっと見てんの?」
男「なぁ、お前、実はキリンがめちゃくちゃ好きだったりするんだろ?」
女「そんなことない。普通。いたって普通」
男「いやいや、普通の人はキリントークをぶっ続けで20分もできないって」
女「…気のせい」
男「そういやさ、あのキリンのツノってあれ、なんなの? 電波とか受信できんの?」
女「そんなわけないでしょ。雄同士の縄張り争い…例えば他のシカとかウシみたいに……なにいやらしい目で見てんの?」
男「…いやらしくないだろ、むしろ、かわいいものを愛でる目で…そう、初めて一人で歩き出した幼児を見ているような」
女「ロリコン?」
男「ち、違います!」
――
女「ね? 見た? 見た? 今のがネッキングって言ってね」
男「おー…やるじゃんキリン」
――
女「ほら、見て見て、あの子、下の方の草食べてる!」
男「あー、なるほど、首曲がんないもんなぁ…ああやって、足広げて首下げるんだ…」
女「かわいいよねぇ…そうそう、ワンダーネットって知ってる?」
――
女「だからね、キリンって、セクシーかつプリティーな動物のクイーンっていうか」
『閉園30分前です。本日は当動物園にお越しくださいまして、まことにありがとうございました』
男「あ…」
女「え? ちょ、ちょっと待って、まだゾウさん見てないのに!? もうあと30分ってどういうこと!?」
男「あー…走るか」
女「当たり前でしょ! 置いてくよ!」
男「えー…」
男「まさか、動物園に行って、キリンとゾウしか見られないとは思わなかった…」
女「いいじゃない、キリンとゾウさんが見れたら、それで。あ、そだ、今度行くときはさ、先にペンギンとか他の――
……今度、一人で見に行くときはペンギンとか他の動物から見ようっと」
男「………」
女「な、なに! なにその目は!? 別に私は」
男「いや、楽しんでもらえたなら、俺も嬉しいかなと」
女「全っ然楽しくなかったし! だいたい動物園なんて子どもか家族連れが来るところでしょ!」
男「…そうか? 楽しく、なかったか?」
女「………まぁ、少しくらいは…ああもう! ジャスコ! 次、ジャスコ行くんでしょ?」
男「あ、ああ、行くけど」
男「…こっちはどうだろうか……こっちなんかかなりきわどい感じが」
女「あ、あのさ…なんで下着売り場?」
男「………なんで、と言われると俺も困るんだけど…ちなみにどっちがいい? ヒョウ柄と黒」
女「男モノの下着なんて興味ない」
男「だよなぁ…まぁ、こんなの買わないし、買うとしたら向こうの売り場の5枚1000円のやつなんだけどさ」
女「店員さんすごく見てるんだけど…」
男「……んー…じゃあ、お前の下着でも買いに行く?」
女「セクハラ?」
男「…だよなぁ」
女「よく考えたら、この状況も既にセクハラよね…訴えていい?」
男「いや、告発はやめて…するなら告白の方が嬉しい」
女「………」
男「…?」
女「するわけないでしょ!」
男「…だよなぁ」
男「気づいたんだけどさ」
女「なに?」
男「こういう買い物って、最低でも片方がノリノリじゃないと成り立たないよな」
女「………」
男「そんな『当たり前でしょ、何言ってんの?』みたいな目で見るなよ」
女「…当たり前でしょ、何言ってんの?」
男「しかも、言うし…」
女「…何も買う気ないんだったら、今日はもう解散する?」
男「んー…でも、せっかく金下ろしてきたしなぁ…なんかうまいもんでも」
女「……それならさ」
女「…こんな感じ?」
男「…うんうん、似合ってる似合ってる……なんかデジャブだけどな」
女「そう? そうかな? その…か、かわいい?」
男「かわいいかわいい」
女「…えへっ……じゃ、ちょっと待っててね、次の着替えるから」
男「あ、あのさ」
女「なに? 文句があるなら、向こうの隅のブランドなショップに変更するけど?」
男「脅迫!?」
女「大丈夫。財布の薄さはちゃんとわかってるし、値札見てるから、高いもの買わないからさ」
男「……うわぁ…非常に助かるこころづかいなところが何ともいえない…」
女「うーん…こっちか…こっち」
男「両方買えば?」
女「そういうのは安定した職について、財布の厚みを増してから言いなさい。…うーん…どうしよっかなぁ…」
男「…くっ…こんなことなら普段からレシートとかちゃんともらっておくんだった…」
女「……うーん、ねぇ、どっちが良いと思う?」
男「…俺に聞いて、俺が選んだ方を買ったりするわけ?」
女「………そんなわけないでしょ。あなたが選んだ方じゃない方を買う」
男「いや、買うのは俺だけど」
女「言いたいことはそれだけ? どっち?」
男「………いや、どっちと言われても」
女「ああもう! 自分の着て欲しい方じゃない方を選べばいいでしょ! そんなこともわかんないの?」
男「…お前こそ、自分が言ってることわかってる?」
女「………どっち?」
男「…じゃあ、こっち」
女「♪~♪~~」
男「ごきげんですね」
女「そこそこ、ね」
男「服に値札ついてんぞ」
女「残念。ちゃんとお店の人に外してもらいました」
男「…まさか着て帰るとは」
女「だって、すぐ着たかったから……あなたの選んだ服なんて着てられないし」
男「…それも、俺が選んだ服なんだけどな」
女「違うし。あなたが選んだ服は今でもあのお店に飾られてるし」
男「………ああ、そう」
女「でも、こういうの好きなんだ? 清純系?」
男「…それ、俺が選んだ服じゃないけどな」
女「ふふっ…そだね」
女「…ここ」
男「わ…けっこう良いトコに住んでんじゃん」
女「当たり前でしょ…女の一人暮らしなんだから」
男「それもそうか」
女「………」
男「………あ、あーそれじゃ、今日はありがとな」
女「ま、待って!」
男「え?」
女「あ……そ、そういえば、あなたはどこに住んでるの?」
男「…なんで?」
女「だ、だって、こっちだけ知られてるって不公平だし! それに、ストーカー被害があったときに警察に通報しやすいし」
男「いや、ストーカー被害は全部俺とか決めつけんなよ…」
女「で、どこ?」
男「えーっと、国道外れたとこにあるファミレス、わかる? あそこからお寺に入る道があってさ」
女「………」
男「………えー、それじゃ、悪かったな、つき合わせちゃって」
女「…別に悪くはなかったけど」
男「え?」
女「……そこそこ、楽しかったって言ってるの!」
男「…それはよかった」
女「そう…」
男「まぁ、もう、会うこともないと思うけど」
女「あるかもしれないでしょ?…けっこう近くに住んでるんだし」
男「いや、まぁ、そうかもだけどさ………あの、あのさ、さっきから、俺の話の腰折りまくりじゃね?」
女「………そんなことない。言いたいことがあるなら言ったら?」
男「…だから、まぁ……お前と出会えて良かったっていうか」
女「…なにそれ、別れの言葉みたい」
男「いやだから、別れの言葉なんだけどな…てか、言ってるそばから腰折んなよ」
男「まぁ、そういうわけで、元気で、な」
女「………」
男「…じゃ、な」
女「~~っ!」
男「………ふぐっ!?」
女「…はぁっ…はぁっ……だ、だーれ、だ?」
男「…あの、歩いている人にいきなり後ろから飛びかかるな、危険だろうが」
女「だー…れだ?……声じゃわからないよね? 私が誰か。……だって、正解は二人いるもんね?」
男「………」
女「ね、もし、もしもね……あなたが好きだったあの子だって言うなら…今日だけなら、その子の代わりになってあげてもいいよ」
男「………」
女「…唇くらいなら、許してあげるからさ……ね? だーれだ?」
男「…お前は、お前だろ? 俺の好きなあいつは、もう……いないんだよ」
女「………」
男「いやまぁ、慰めてくれるのは感謝するけどさ…いくら同じ体でも、お前はお前なんだからさ」
女「………」
男「…きっとさ、あいつも、お前に幸せになって欲しいって思ってると思うんだよ」
女「………」
男「だからさ…まぁ、ありがたいんだけど、うん、マジ嬉しいんだけどさ」
女「………ぁかっ」
男「え?」
女「バぁカっっっ!!!」
――
男「ただいまー」
男「おかえりー…よし」
男「うわ……洗濯機回しっぱなしだった………くさ……もっかい回すかぁ…」
男「………」
男「………やっぱ、もったいなかったかなぁ…」
男「バイトまで……2時間かぁ…」
男「………さむっ…」
男「ヒマだし履歴書でも書くかなぁ…」
男「さてと、バイトバイト~今日も明るく元気に前向きに生きまっしょ~……うわぁ、空元気…」
女「あ…」
男「あ?」
女「…ども」
男「………なんだ幻覚か…ヤバいな…幻覚まで見えるとか、俺、どんだけだよ…」
女「いや、幻覚じゃないから」
男「幻覚はみんなそう言うんだって……くそぉ…幻覚でもいいとか思ってる俺はなんなんだよぉ…」
女「なんなの?」
男「いや、お前も幻覚なら幻覚らしく俺に都合のいい感じの反応をな………なんでこんなところにいる?」
女「それ、遅くない?」
女「ええと、ね」
男「……ああ! 俺のことが忘れられなくて、つい追いかけてきてしまった…とか?」
女「…んなことあるわけない」
男「だよなぁ」
女「…あの……ウチの前について気づいたんだけど」
男「ていうか、なんでお前、俺の部屋知ってんの!? ストーカー!?」
女「いや、あなたがさっき自分で教えたでしょ?」
男「どうした? なんか忘れ物…ってことはないか」
女「…いや、だから、家の前に着いたら、カギ持ってなくて」
男「カギって…お前の家のカギ? 俺は持ってないぞ?」
女「知ってる。持ってたらストーカー確定……ほら、私、小銭入れくらいしか持ってなかったみたいで」
男「………あぁ」
女「家、入れなくてさ……あと、お金もなくて…だからさ」
男「ホテル代をよこせ…と」
女「なんでよ…」
男「いやだって、その流れだと……泊まる? ここに? 今晩?」
女「…そうしてくれると助かる」
男「………いや、ほら、カギの119番にさ」
女「こんな時間はカギ屋さん開いてないし」
男「……そもそも、こんな時間まで、なんで何の対策も講じずに何してたんだよ?」
女「それは、ここで――いいでしょ、そんなことはどうでも」
男「いやどうでもよくはないような……あ、そうだ! 病院に泊めてもらうっていうのはどうだ? あと一泊くらい延泊しても」
女「……『退院おめでとう』って言われたその日に戻るのってどう?」
男「…ええと駅前にカプセルホテルあるだろ?」
女「バイトの時間いいの?」
男「なっ!? や、やばっ!?」
女「大丈夫。部屋あさるし、荒らすし、ひっくり返すから」
男「そこはせめてウソでもあさらない、荒らさない、ひっくり返さないって言って!!」
女「……さて、と」
女「………散らかってるなぁ」
女「…あのひとの匂いがする」
女「………」
女「さてと、ひっくり返すか」
男「ただいまー」
男「おかえ」
女「おかえり。おはよう」
男「……ただいま、おはよう」
女「うん。あ、お台所勝手に借りてる。朝ごはん食べる? 食べるなら適当に一緒につくるけど」
男「あ…いや、寝てから食べるから」
女「そ。じゃ、ラップして置いとくね」
男「………早いんだな、朝。学生のくせに」
女「…当たり前でしょ。学生っていっても規則正しい生活が一番なんだから」
男「そ、そうだな……それで、今日は」
女「あなたが寝てるうちに出て行くから。大学に顔出して、カギ屋さんに開けてもらって、帰る」
男「あ、ああ…そう……それじゃ、おやすみ…」
女「おやすみなさい」
男「ZzzZzzzzz」
女「…のび太か…5分も経ってないじゃない」
男「ZzzzzzZzzz」
女「………ちょっとはおどろいてもいいんじゃないの? 部屋、きれいになってるでしょ?」
男「ZzzZzzZzzzzz」
女「台所にたまってた食器も洗って片付けたし、ゴミも捨てに行ったし…お風呂だって掃除したし」
男「ZzzzZzzzZzz」
女「ほんっと……なんていうか…なんでこんなの…」
男「ZzzzzZzzz」
女「はぁっ……………ちょっとくらい良い目見させてもらってもいいよね?」
男「ZzzZZzzzzz」
女「……寝てる、あなたが悪いんだから………んっ…」
男「ZzzzZzzzzz」
女「………………やっぱり、レモンの味なんてしないね」
〃∩ ∧_∧
⊂⌒( ・ω・) はいはいワッフルワッフル
`ヽ_っ⌒/⌒c
⌒ ⌒
⊂ ワッフルって言ってんだろ!!
/ ノ∪
し―-J |l| |
人ペシッ!!
∧_∧
(#・д・)
――
男「………」
男「…ああ、夢オチだって、途中から気づいてたさ…くそ…」
男「いやもう…なんで……っていうか、なにこのマクラいいニオイするし…」
男「あのバカ、なんで…この布団でって……いやまぁ……布団これしかないけど…」
男「いかん…いかんぞ……こんな布団で寝てるからこんなエロスな夢を」
男「……惜しかったなぁ」
男「………って、なにこれ!? 部屋、めちゃめちゃきれいになってるし!?」
男「あぁっ!? そういえば、昨日回しただけで放置してたはずの洗濯物が干されてる!?」
男「………」
男「………妖精さんって、いたんだ…」
男「…んなわけないか」
――
女「えへへっ……おにーさんっ!」
男「うわっ…バカお前急に飛びついてくんな」
女「いいじゃんいいじゃん!車は急に止まれないんだしさー」
男「いやわけわからんし…」
女「おにーさんっ」
男「………なんか久しぶりだな…何日かずっと会えなかった気がする」
女「何言ってんの? 昨日からずっと一緒だったじゃん?」
男「あーそうだったっけぇ? あれぇ?」
女「ねぇ、おにーさん、また、しよ? ね? ふっふっふー今日はね、おにーさんのこともっと気持ちよくできると思うの」
男「え? あ…いや、その」
女「イヤ? 私とするの、もう飽きた? ポイ? 私なんて中出しさせてくれるくらいしか価値のない屑女だよ?」
男「その台詞は各方面に敵をつくるからやめなさい」
女「ねぇ、触って…いっぱいしよ?…」
男「あ…いや、だから」
女「なに人の体で変態行為に及ぼうとしてんの?」
男「は!?」
女「いいじゃない? おにーさんが好きなのはあなたじゃなくて私なんだし」
女「う、うるさぁいっ! だ、だからって、その…ああもう!!」
男「お、おい、お前、今そのチェーンソーどこから」
女「……そっちがその気なら」
男「いや、なにそれなんでマルチプルタイタンパーとか召喚してんの!?」
女「勝負!」
女「望むところ!」
>>261
今からでも男が夢を思い出してたことにしなよ
男「ごちそうさま…っと」
男「…料理までとは……なんなんだあいつは」
男「さて、ハロワにでも行くか…」
男「………まぁ…行かないよりマシだし」
男「………でも、就職してもなぁ…」
>>264
それだ!
ナイス神解釈だ!
そう、それ! >>259-256は、男が夢を回想してる回想シーンだったんだよ!>>261は錯乱して書き込んだんだ!よし!
いやもう夢オチってバレバレなら、いっそのこと寝起きシーンまで一気に書いちゃえとか
思ってたあのころの俺をグーで優しくぶちのめしたい
旦旦旦旦旦旦旦旦
旦旦旦旦旦旦旦旦
旦旦旦旦旦旦旦旦
旦旦旦旦旦旦旦旦 とりあえずお茶飲んで落ち着け
旦旦旦旦旦旦旦旦
旦旦旦旦旦旦旦旦
. ∧__,,∧ 旦旦旦旦旦旦旦旦
( ´・ω・) 旦旦旦旦旦旦旦旦
. /ヽ○==○旦旦旦旦旦旦旦旦
/ ||_ | 旦旦旦旦旦旦旦旦 ガッ
ダシャーン
. ∧__,,∧
( ´・ω・) \
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. ∧__,,∧
( ・ω・ ) \
. /ヽ○==○ :',,:',[]]/[]]\[,,.,’:.',, :.:.',,|[]].,’:.',, _ .,’:.',,]]/ 日.:.',,.,’:.',’:.',,|[]].,’:...,
/ ||_ | :',,:',[]]/[]]\,,.,’:.',, :.:.',,|[]].,’:.',, _ .,’:.',,]]/ 日.,’:.',, .,’:.'[]].,’:.',,|[]].,’: ’:.',,.,’:.',, :.',,.,’:.',/
男「ただいまー」
男「おか」
女「おかえりー。あ、ごめん…ごはん、まだなの。お風呂入るならお湯入れるけど?」
男「…ええと、なにしてる?」
女「……豚肉のしょうが焼き…風?」
男「ああ、うん、フライパンから素敵な匂いがただよってることはわかってるんだけど」
女「冷蔵庫、何もなかったから、大したものは作れなかったけど」
男「あ…うん、ていうか、ウチしょうがとかあったんだ」
女「チューブ入りのやつだけどね」
男「あぁ…そういえば買った買ってた」
女「外、寒かったでしょ? これ、終わったら、お風呂お湯はるから、おこた入ってて」
男「あ、いや、風呂くらい自分で入れるから…」
女「そ、じゃ、お願い」
男「ああ」
男「えと、いただきます」
女「いただきます」
男「………豚肉のしょうが焼きと豚汁か」
女「し、仕方ないでしょ! だって、豚肉だけいっぱいあるくせに、野菜とかほとんどないし! この豚肉マニア!」
男「いや、商店街で1キロ700円で細切れが売ってるんだよ…なんだよ豚肉マニアって、どんなマニアだよ」
女「へー、そうなんだ? 安いねぇ」
男「安いだろ? まぁ、安いだけあって、安い以外のメリットはないんだけどな…なにこれおいしい」
女「商店街ってあっちのスクランブル交差点の?……もっとマシな反応できないの?」
男「そうそこ………マシな反応? うーーーまーーーーいーーーぞーーー!!!」
女「へー、いっつもスーパーで済ませてたから、行ったことなかった…ご近所迷惑だからやめなさい」
男「行ってみ? 野菜もだいたい100円以下で売ってるからさ……いや、ほんとうまいって」
女「うん、今度行ってみる……豚汁もあったかいうちに食べて」
男「……うん、うまい」
女「そ、よかった」
追いついた
女の参考画像が欲しいです
女「ごちそうさまでした」
男「ごちそうさま」
女「おそまつさまでした」
男「あ、片づけくらい俺がするって」
女「いいよ。ゆっくりしてて、もちょっとしたらバイトでしょ?」
男「まぁ、うん…いやでも、俺がするって」
女「そう? じゃ、お願いしようかな」
男「任せとけ! こう見えても俺は皿洗いのプロフェッショナルだからな!」
女「バイトで?」
男「そう、バイトで」
男「ふぅ…へっへっへ…ピッカピカにしてやったぜ…」
女「おつかれ。みかん食べる?」
男「食べる」
女「はい」
男「……いや、別に剥いてくれなくれもいいんだけど」
女「そう?……イヤだった?」
男「あ…いや、別に。ありがと」
女「うん」
男「………」
女「………」
男「………って、 何 故 こ こ に い る ! ?」
女「…なんて今さら」
男「いや、ツッコミどころがなくてさ」
女「なに? いたら迷惑?」
男「……あー…いや、迷惑でなくて困ってるというか。ていうか、家のカギ開いたなら帰れよ」
女「…開いてない」
男「なんで?」
女「カギ屋さんに頼もうにも、お金、なかったから」
男「………はぁ?」
女「だって、私、無一文だし」
男「いや、そこはほら、カギ開けたら財布取ってきてお金払えばいいじゃん?」
女「…前払いだったから」
男「……わかった。金、貸してやるから、ちょろっとお願いして来い」
女「イヤ。あなたにお金借りたら、きっと『体で返してもらうぜぐへへへ』とかエロスなことを平気で言う」
男「言うか!」
女「言わないって誓える? お金返しても、『くっくっく…奥さん利息分をいただいてませんぜ』とか言わないって神に誓える?」
男「いや、利息とかかかんないから! 年利ゼロパーセントだから! ニコニコローン!」
女「…どうだか。きっとお金を貸した途端『利息の前払いだぜぐふふふふ』とか言って、私の体を弄ぶに決まってる」
男「そんなことするわけっ………ないだろ」
女「なにその間? なんで目を泳がせてるの? まさか…ホントに」
男「し、しないってば!」
女「………お金貸して、利息は…そっちに任せる」
男「任せるな!! っていうかなにがしたいんだ、お前は…」
男「そうだ! てか、わざわざカギ屋にどうにかしてもらわなくても、大家さんに頼めばいいだろ!?」
女「………今気づいたんだ?」
男「え?」
女「私も、今気づいた。すごい。えらい」
男「だろ? いやーなんで、思いつかなかったんだろ…まぁ、そういえば、俺、部屋のカギなくしたことないしなぁ…」
女「あ、私、お風呂入るけど、いい?」
男「待て待て、なぜ風呂に入ろうとする?」
女「…お風呂、掃除したの私なんだけど」
男「いやだからさ、なんでお泊りモードに入ってるんだ? 大家さんに電話して、開けてもらえよ」
女「………何言ってるの? こんな時間に電話だなんて非常識でしょ?」
男「え?……ま、まぁ、そうか?」
女「ごめんね。仕方ないから今日も泊めて? いいよね? あと一泊くらい延泊しても」
男「え…まぁ、お前がいいなら、いいけどさ」
でれでれうまうま
女「ふぅー、いいお湯だったぁ」
男「…そ、そうか、それはよかったな」
女「ん? どうしたの? 寝るならおこたじゃなくて、お布団で寝たら? 風邪ひくよ?」
男「…いいんだよ、仮眠なんだから」
女「あ、そっか…今日もバイト?」
男「そういうことだから、少し寝かせてくれ」
女「うん、おやすみ」
男「おやすみ――って、なんで、こたつに入って来るんだよ!?」
女「だって、寒いし。この部屋暖房ないの?」
男「…あるけど、無いようなものだ……じゃなくて、いや、こたつに入るのはいいんだけどね? なんで俺と同じ側から入るんだよ?」
女「…仕方ないでしょ? だって、あなたがぐでーんって寝てるから、横からだと、足伸ばせないし」
男「いやだからって……な…」
男「な!?」
女「ん?」
男「な、なんだその格好は?」
女「知らないの?」
男「知ってるよ? よく知ってるし…むしろ、なつかしいっていうか」
女「えっと、寝巻洗濯しちゃって……ちょうどナース服があったから」
男「どこに!?」
女「餞別でいただいたの」
男「あ…あの、アホ医者ぁぁっ!!」
女「まぁ、いいじゃない。細かいことは気にしないで」
男「気にするよね? 細かくないよね? てか、なんで寝巻を洗うようなバカなことしてんの? バカ?」
女「…そ、それは、洗わなきゃいけないような事態になったから」
男「どんな事態だよ…」
女「だって、お布団が…」
男「ふとん?」
女「……だいたい、あの布団ちゃんと干してんの!? シーツ洗ってんの!?」
男「まさかの逆ギレ!?」
女「なんであんな…あなたの匂いが染み付いてるから、いけないんでしょ!!」
男「俺の布団に俺の匂いが染み付いててなにが悪いのさ…」
女「ファブリーズ! ファブリーズ持ってきなさい!」
男「ファブリーズなんて嗜好品がこの部屋にあるかぁっ!!」
男「はぁっ…はぁっ…」
女「…はぁっ…はぁっ…」
男「……なぁ、提案があるんだけど」
女「なによ?」
男「…こうやって、こたつの中で争うのはやめよう。暑い」
女「そ…ね……おこたは平和であるべき」
男「うん…そう、だな」
女「おこた平和条約第一条…おこたで争わない」
男「第二条…こたつ布団を取り合わない」
女「第三条……ええと、なんかある?」
男「…みかん食べよ」
女「あ、ずるい! 私も食べる!」
男「ところでさ」
女「む?」
男「…寝巻、無いのはわかるんだけど、その帽子は要らなくない?」
女「え? ナースキャップ? だって、これ、ナース服なんだから、ナースキャップがないとダメでしょ?」
男「そ、そうなん?」
女「当たり前でしょ…ナース服に赤白帽子とかかぶってたら、へんでしょ?」
男「まぁ、それは変かもだなぁ…」
女「…それより、サイズがなぁ。着れないことはないんだけど…微妙にきつくって…裾も短いし」
男「あぁ…これが、例のアレか」
女「へ? まぁ、寝るときはボタン全部外すから、いいんだけどさ」
男「………」
女「…って、どうしたの?」
男「海に…海にゐるのは…魚人……魚人なんだ……アーロンさん…アーロンさん…」
女「…壊れてるし」
女「ふぁあああ」
男「眠そうだな」
女「うん…昨日あんまり寝てなくって」
男「ああ、そうだ……ありがとな。部屋片付けてくれたの、お前だろ」
女「……まぁ、そうだけど」
男「ありがとう」
女「…ち、違うし! 妖精さん! そう、妖精さんって知ってる? 妖精さん!」
男「肯定したあとに否定されても」
女「うわ……ああもう! 帰れぇっ!」
男「ここは俺の部屋だ…」
男「それじゃ、行ってくるから」
女「いってらっしゃい」
男「こたつじゃなくて、ちゃんと布団で寝ろよ? 風邪ひくぞ?」
女「…でも、あの布団くさいし」
男「わかった、今すぐファブリーズを買って来たらいいんだろ…」
女「え?…あ……でも、ほら、私、明日にはいなくなるし、わざわざ買ってこなくても…一晩くらいならがまんできるし」
男「あ……それも、そうか」
女「そうそう」
男「あ…あと、今日はそのまま昼のバイトに行くからさ、家に戻らないけど、カギはかけたら、ドアの郵便受けから放りこんでて」
女「え? それだと、あなたが入れないじゃない?」
男「大丈夫、ちゃんとスペアキーが………ない」
女「あ…」
男「あれぇ……いつもはここに置いてたんだけど…あれぇ?」
女「………」
男「なぁ、片付けるとき見なかったか?」
女「…み、見てないけど?」
男「そっかぁ…おっかしいなぁ……まぁ、いっか。盗られるようなものないし、カギあけたままで出て行ってくれていいから」
女「ああ、うん…うん…」
男「どこやったっけ? あれぇ?」
女「…ご、ごめんなさい」
男「え? なにが?」
女「え? あ、あー…ほら、もしかしたら、私がお部屋かたづけたときにどこかにやっちゃったかなぁ…とか」
男「ああ、なんだ、そんなことか。もし、そうだとしても、善意でやってくれたんだから、謝ることなんてないよ。うん」
女「……うぅ…良心がちくちくと」
男「ん?」
女「なんでも…ない、です」
男「…じゃ、いってきます」
女「あ…」
男「どうした?」
女「あ、いや、朝、帰ってこないんだよね?」
男「うん。さっきも言ったけど」
女「だったらさ、いってきますのちゅーとか、する?」
男「………」
女「………」
男「………ええと、どこに?」
女「す、するわけないでしょ! バカ! バぁカ! バぁぁカっ!!」
男「ええええええー…なにその理不尽…てか意味わかんないし」
女「もう二度と帰ってくるな…バカ…」
男「だからここ、俺の部屋だって……行ってきます」
女「…いってらっしゃい」
――――
男「ただいまー」
男「お」
女「お、おか、えり…」
男「………聞きたいことはたくさんあるんだけど」
女「な、なに? ていうか、どこ見てるの?」
男「い、いや、俺、どこ見ればいいのさ?」
女「かべ?」
男「いやいや、なにその格好?」
女「…知らないの? いやまぁ、私も詳しいわけじゃないんだけど…裸エプロンって、言うのよ?」
男「いや、俺も名称は知ってるけど」
女「そ、そう…」
男「と、とりあえず、上がってもいいのか?」
女「あ、あなたの部屋でしょ?」
男「………いや、なんで後ずさる?」
女「だ、だって…うしろ、何も着てないから、見えちゃうし…」
男「バカ?」
女「言わないで…言わないで…私も今痛感してるとこだから」
男「…あ、そこ、微妙な段差あるからな」
女「え――!?」
女「痛ったたた…うぅ…おしり痛いし…」
男「………」
女「え?」
男「………」
女「……あ、あのさ、何で覆いかぶさってるの?」
男「…あ…いや、その……こけそうになったときに、助けようとしたんだけど…」
女「間に合ってないし…全っ然、間に合ってないし……おしり打った…痛かった」
男「わ、悪い…間に合わなくて」
女「………」
男「………」
女「え、えと…さ………その、着替えるから」
男「悪い……もう、無理」
女「え? ひゃむ」
わっふるわっふる
「ひゃむ」いただきました
男「……んっ……みかんの味がする」
女「…さっきまで食べてたから…おこたで」
男「そっか」
女「うん……んっ…やぁっ…む、胸、触ってるんだけど?」
男「…うん、悪い……だって、お前の胸だから」
女「ひゃぅ……わ、わけわかんないし…あ、あのさ、これ悪気、なかったって、済まされないよ?」
男「…あるから悪気。だから、ごめん」
女「目、怖いよ?」
男「ごめん……ホント、ごめん」
女「………別に、謝らなくてもいいけどさ」
女「ね、背中、痛いんだけど」
男「え? あ…わ、悪い……あの」
女「……どうせお布団出しっぱなしでしょ? 万年床? たまには干してるの?」
男「あ…そりゃ…たまに、天気がいい日で休みのときは」
女「だっこ」
男「は?」
女「だから、お布団、だっこ」
男「………3歳児じゃないんだから、単語で意思疎通ができるわけないだろ」
女「…こんなこともわかんないの?」
男「………………よっ、と…これでいいでしょうか? お姫さま?」
女「ん。よきにはからいなさい」
男「よいしょっ…と」
女「うわぁ…おじさんだぁ…『よいしょ』とか言ってる」
男「…そこは責めて『お兄さん』にしてくれない?」
女「おにーさん?」
男「あ、やっぱ…それは」
女「なに? シスコン? 妹萌え?」
男「ち、違うっつーの! だいたい妹とかいないし!」
女「…そう」
男「………ええと」
女「これ、取った方がいい? エプロン」
男「…あ、いや、それは」
女「うーん…さすがはコスプレマニアねぇ」
男「お、俺は違うってば!」
男「…ま、まずは、じゃあ、そのき、きききキスとか」
女「童貞か」
男「わ、悪かったな…経験浅くて」
女「…さっきみたいにムリヤリやったらいいだけなのに」
男「へ?」
女「とりあえず、脱いだら? それとも脱がせて欲しいの?」
男「あ、い、いや、あの」
女「はいはい。もう、仕方ないやつ……ほら、ばんざいして」
男「い、いや、じ、自分で脱ぐから……って、ベルト外すなよぅ…」
女「あなたが遅いからでしょ? どれだけ待たせれば」
男「…え?」
女「ああもう! 破くぞ! このジーンズ!」
男「や、やめてぇっ!! お代官さまぁ~っ」
男「しくしく…もうお嫁に行けない…」
女「戸籍が男だから、最初から行けない」
男「………現実的ですね」
女「あなたが逃避しすぎなんでしょ?」
男「…ええと、あの」
女「………なに?」
男「…私の股間を熱い目で見つめるのやめてくれませんか?」
女「だって…だってこれさ…」
男「恥ずかしいんだよ…男の子だって恥ずかしいときは恥ずかしいんだよぅ…」
女「…これ、1回は私に入ってるんだよねぇ…」
男「……しみじみと言わないでよぅ…」
男「………」
女「ここをつまんで…と……あれ…あ、破れちゃった?」
男「……あの、なにを?」
女「なに…って、コンドームをつけてるんだけど」
男「………用意いいね」
女「ち、ちがっ! こ、これは、お餞別の中に一箱入ってて」
男「…アフターサービスも万全、か……あのアホ医者、お礼参りに行かないとなぁ…」
女「ええと…えと…」
男「とりあえず、爪でつまむのをやめたら」
女「だ、だって、これなんかもにゅって」
男「……いいよ、俺がつけるから」
女「で、でも」
男「…待ってられないんです。察して」
女「………うん」
男「…それじゃ、触るから」
女「ううん、いいから」
男「いい…って、いや、俺も詳しくないんだけどさ、濡れてないと痛いって、よく聞くし」
女「だ、だから、いいって言ってんの!」
男「…いやいや、さすがの俺もそこまで鬼畜なことは」
女「ど、どっちが鬼畜よ!?」
男「な、なにが?」
女「なに? そうやって焦らすのも手の内なの!?」
男「いや、だから、なにが……あ」
女「…待たせすぎ、どれくらい待たせてると思ってるの?…バカ」
男「……悪い、待たせた」
女「ううん。いいよ、許す」
女「ん~~~っ……ぁっ…入ってる? 入ってる?」
男「…ごめっ……痛かった?」
女「えへへへ……やっぱ、そんなに痛くないね…ん…」
男「…わ、悪い…ごめん」
女「ん…悪いこと、したの?」
男「………して、ないと、思う」
女「そう? 悪いこと、してないって、思ってるの?」
男「……あ、いや…」
女「してるよっ…今っ…ねぇ? これ、動かさないのも焦らしプレイってやつ?」
男「へ?」
女「……ね、あなたが気持ちよくなること、してよ…」
男「…ええと」
女「………………ああもう! 早く腰振れ! バカっ!」
男「は、はひっ」
女「んっ……ゃあっ…」
男「……っ……っ…」
女「……あっ……んっ…」
男「……ぅ………あ」
女「…え?」
男「………」
女「………もう?」
男「………どうせどうせ、俺なんて」
女「あー…ごめん。あの、『もう』って、言ったのは…そう、ウシの鳴き声の真似で」
男「いやそういうフォローいいし……どうせ、わいは早漏やってん…聖上…聖上ぉ…」
女「ふぅ…もう、ほら、いじけてないで……わぁ…けっこう出るんだ?」
男「…だ、だって、だってさぁ…ここ何日かずっとさぁ…」
女「えい」
男「ひゃんっ」
女「えっと、これ、口をしばって燃えるゴミでいいの?」
男「……はい、そうですよぅ…俺の三億の息子達はゴミ同然ですよぅ…ごめんなぁ…こんな早漏の父さんで…ごめんなぁ…」
女「あのさぁ…」
男「………ごめんなさい…お風呂沸かしてきます…すいません…生きててごめんなさい」
女「いや、だから、なんで終わりみたいなふいんきになってるのよ?」
男「…え? だって」
女「自分だけ満足すれば終わりなわけ? へぇーそう、あなたって、そういうひとだったんだ。」
男「……え? いや、そ、そういうひとじゃないひとになりたいとは思うけど…こればっかりは体質が」
女「そう? 元気じゃない? まだ」
男「…そ、そりゃ、お前がそんなカッコでいるから」
女「私、まだ満足できてないんだけどなぁ?」
男「し、仕方ないなぁ…まぁ、どうしてもって、言うなら、やってやらないこともないけどな?」
女「うん、どうしても…欲しいの、あなたの」
男「……っ!」
★壁殴り代行始めました★
ムカついたけど壁を殴る筋肉が無い、壁を殴りたいけど殴る壁が無い、そんなときに!
壁殴りで鍛えたスタッフたちが一生懸命あなたの代わりに壁を殴ってくれます!
モチロン壁を用意する必要もありません!スタッフがあなたの家の近くの家の壁を無差別に殴りまくります!
1時間\2400~ 24時間営業 年中無休!
_,,-‐'"ヽ. ∧ _∧
ノ \ ヽ ト、 /∧´・ω・)
{ 、 ヽ. ヽ_(⌒) _,,.. -‐'"ノ /ノ >‐个 、._
ヽー'.ー' `7⌒/'フ >,ノ--―‐‐' ̄ ⌒`ヽ、 壁殴り代行では同時にスタッフも募集しています
∀ ー { ∨ ∨ >ミ λ二ヽ、_ )ヽ__ 筋肉に自身のあるそこのアナタ!一緒にお仕事してみませんか?
\ 〉ー { { __ミ∧__,,.-''`ヽ `ヽ 壁を殴るだけの簡単なお仕事です!
ー―-ヽ、 ノ _,,.. ‐'"´彡 'Y `ヽ i  ̄ヽ、
{ ̄´》丶 ー- <ノ__\ { / ∧
{ 7⌒/⌒ー-' ノ彡/∨ ノ >、._ノ ,' _∩
!〉ー、―-、,ゝ┴ン ノ/ ノ { レ ´ ヽi
{ヽ.__,、___ ' / (´_ / _,,..× ヘ〈 ハ |
/ヽ Y '/´´ } (_,,..、_ハ , ノ }
〉ミミと=‐- ┴―――〈 > ノ / .!
ノノ ', ̄ ̄ ̄ 不TT7´ ゝク´ , /
/ ' ∧ 彡= ′ ハ ⊂´_ノ /
ノ ハ / ′ λ `ー‐-'′
/ { 、/ ハ
女「うん、どうしても…欲しいの、あなたの」
女「うん、どうしても…欲しいの、あなたの」
女「うん、どうしても…欲しいの、あなたの」
女「うん、どうしても…欲しいの、あなたの」
女「うん、どうしても…欲しいの、あなたの」
ふぅ・・・・
おちつけよお前らb
女「…ぁむ……れろっ……ゴムくさい…」
男「いやだから、なにしてんのさ!?」
女「ちゅ……え? こういうのイヤ?」
男「イヤじゃないけど……ほ、ほら、俺、バイト帰りで風呂入ってないし!」
女「私は、入ってるから」
男「……何時に入ってるんだよ」
女「それは……その…そういう気分、だったから」
男「…まぁ、いいけどさ」
女「うん……ねぇ、ここらへん…れろっ……舐めたら?」
男「ぁっ…いや、だからさ…俺、風呂入ってないし」
女「気持ちいいんだ? れろれろ~」
男「ややや…ほら、昼間ションベンとかしてるからさ…その」
女「………」
男「……あれ?」
女「…そういうの考えないようにしてたのに!」
男「ああ…」
女「………」
男「痛い痛い!握るな!」
女「あ…ごめん、ちょっと殺人衝動が」
男「怖いよ!?」
女「………いいや、こっち来て」
男「って、持ったまま引っぱって行くな! 痛い! 痛い! 痛気持ちいい!」
女「お客様? どこかかゆいところはありませんか?」
男「強いて言うなら、心がむずがゆい…」
女「…はい、流しますよ。……まさかシャンプーハットは要らないよね?」
男「けっこうです」
女「はい、次はリンス」
男「あ、あの、店員さん?」
女「なんでしょう?」
男「……言いにくいんですけど、僕の股間で、床屋さんごっこをするのやめませんか?」
女「…いいでしょ? 気持ちいいでしょ?」
男「…いや、気持ちいいけど…微妙に刺激が足りないというか」
女「うふふふ…現在進行形で生殺しされてる身としては、仕返しのひとつもしてやりたいっていうか」
男「いや、そもそもね、そこにシャンプーとかリンスいらないから! せっけんでいいから」
女「お客様? ストレートパーマはいかがですか?」
男「け、けっこうです!」
女「…ほら、ぬるぬるー」
男「いや、ぬるぬるーじゃなくてね?…ぅっ!」
女「…ここ? ここがいいの?」
男「いや、あの、いいというか、なんか怖い」
女「こう? こう?」
男「だ、だから、そう、同じところを執拗に責めないで…あ、あれ? なんか出る?」
女「ん? えぇー…先っぽ弄ってるだけなのに出るの?……もう仕方ないなぁ…出しちゃって、さ、ほら」
男「あ、いや、なんていうかこれ…ていうか、そこにいるとかかるから」
女「えぇー、そんなに飛ぶわけないでしょ?」
男「いや、だからそうじゃなくて?……だ、ダメだって」
女「出しちゃえ、出しちゃえ」
男「や、やばっ…」
女「………」
男「………あ、あの、ごめん」
女「………まさか」
男「だ、だから言ったじゃん? 出るって」
女「出るって…おしっこが出るならそう言いなさいよ!!」
男「……いや、だって出るとは思わなかったから」
女「私だって、出るとは思わなかった……ていうか、ほんとはこういう趣味なの? 女の子におしっこかけて興奮するの?」
男「ばっ…そ、そんな性癖はない!」
女「……はぁ…もう、なんか頭からかかったし…臭いし……」
男「ごめんなさい」
女「………出てって、シャワー浴びるから。 布団の上で正座してなさい」
男「…はい」
もう、ゴールしてもいいよね?
おなかすいたよぅ…
女「……はぁ…うまくいかないなぁ…」
男「………あの」
女「…もう、正座待機って言ったでしょ? 反省してるの?」
男「あ…うん、反省はしてるんだけどさ」
女「………ええと、反省してるなら、それ、なんなのよ?」
男「いやもう、我慢の限界で…ごめん」
女「………な、なにそれ、まだ、さっきから3分も経ってないのに」
男「だって、シャワー終わって、髪乾かしてって…待てないだろ」
女「待ちなさいよ、それくらい…余裕ないの?」
男「ない。ごめん…シャワー浴びてていいから」
女「やっ…やだ…きゃぅ」
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壁殴りで鍛えたスタッフたちが一生懸命あなたの代わりに壁を殴ってくれます!
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, ''二=-― -、
/,'" )'ー、 壁殴り代行では同時にスタッフも募集しています
/ /''ー ' /'"`` ' 、 筋肉に自身のあるそこのアナタ!一緒にお仕事してみませんか?
/: / ヽー'ノ::::.... )-、,, ∧__∧ 壁を殴るだけの簡単なお仕事です!
l゙::: / リ:/ ::: ノ::::.... ヽー 、:( ´・ω・` ) 、 ______
', | / l|// /::" ::/ ̄ヽヽ、、、,,,:::: | ',::::: `'ー、,、-''"´
',ノ,'' イ' ::/ ィ / :/ ゙''':::::| ヽ;;;;; `゙;;'''';;ーi、,,、- '''''"彡゙ll|ソ ,
{ | l| /,,;イ / / ::| ::」``ヽ;;;;; ,、;;;ヽ、ヽ;; 、,,,ッ
ヽ リ '" } /ノ l| / :|" 三三`' 、( );; ヾ'、○} { '
ヽ ヽ" :l l l| / :}、::::: `' 、;;; ;;; ', ゙''、 j 、|.
ヽ ヽ { " / | リ:: ヽ::: '' 、从 ',、 ミヽ ゙' 、.|
ヽ :: \ '、 ミ / 、 ゙l::: ゙ll ゙ll:',ヽ ゙' 、, ゙{
ヽ ::: ミ '、 ミ |::: ヾ::::: ゙ll ゙l|l::::゙、 { |
ヽ::::: リl|l|::: ', ゙ll: |::::::゙、人|; /
゙l ゙ミ /:l. :レ'::} ', ノ、;;;;;;;ヽ l|/ヽ
|`-、ミ /:::::::| } |:::...... ,,、 '",、、゙゙''ー''´ ',
|゙、::::`' 、,_ _/:::::::/ :} /::::::::::::,,、-''" {○ ゙ll`' 、 ゙l|: |
(略)
男「……さすがにこの風呂に二人は狭いなぁ」
女「…言いたいことはそれだけか」
男「すいません…反省してます…」
女「…いきなり後ろから、むりやり……実はやっぱりソフトSMマニアなんでしょ?」
男「…ち、ちが」
女「言い訳しないっ!……痛いって言ったのにやめてくれなかったし」
男「でも、お前だって最後には」
女「あァ!?」
男「申し訳ありません…」
女「しかも…中で出すし…」
男「……すっかり忘れてて」
女「確信犯じゃないの?」
男「そ、そんなことはない」
>>487
俺の息子もお前を許さないといっている
女「あなたがそういう責任感ないことするとは思わなかった」
男「……まことに申し訳ございません」
女「………責任、とる気あるの?」
男「そ、それはもちろん――いや、おまえが良かったら、だけど」
女「じゃ、じゃあさ……『俺と一緒に住め』って言って」
男「はぁ?」
女「いいから言う!」
男「まぁ…いいけど、言ったら、お前一緒に住んでくれるの?」
女「……そういう当たり前のことを聞く…普通?」
男「はぁ? 何言って」
女「『俺と一緒に住め…まぁよかったらでいいんだけど』」
男「…なんか増えてるけど」
女「…あなたっぽいでしょ? ほら、言う! 言わないとどんどん増やす!」
でれでれ最高ぅうう!
男「…俺と一緒に住め…まぁ、よかったらでいいんだけど」
女「……『ちゃんと責任はとる』」
男「は? いや、今言ったでしょ? 一緒に住めって言ったよね、俺」
女「いいから、繰り返し! りっすん あんど りぴーと! 『ちゃんと責任はとる』…とる気ないとは言わないよね?」
男「まぁ………ちゃんと責任、とる」
女「…『今はフリーターだけど、職探して、正社員になる』」
男「………今は、フリーターだけど…職、探して……お前のために、職、探して正社員になる」
女「…っ……『苦労かけないって、簡単には言わないけど、きっと幸せにするから』」
男「…苦労かけないって、簡単には言わないし、言えないけど……きっと、幸せにする…」
女「………」
男「だから…だからさ、俺と……一緒に幸せになって、くれないか」
クルッ
. ハ,,ハ ミ _ ドスッ
. ( ゚ω゚ )彡―─┴┴─―
* * * \ / つ お断りし / ハ,,ハ
* * \ ~′ /´ └―─┬/ ( ゚ω゚ ) お断りします
* ハ,,ハ * \ ∪ ∪ / / \
* ( ゚ω゚ ) * .\ / ((⊂ ) ノ\つ))
* お断りします *. . \∧∧∧∧/ (_⌒ヽ
* * < > ヽ ヘ }
* * * < の し お > ε≡Ξ ノノ `J
────────────< 予 ま 断 >────────────
. オコトワリ < 感 す り >
ハ,,ハ ハ,,ハ .ハ,,ハ <. !! > ハ,,ハ
. .( ゚ω゚ ) . ( ゚ω゚ ) ( ゚ω゚ ) /∨∨∨∨\ ( ゚ω゚ )<お断り .ハ,,ハ
│ │ │ / .\ します>( ゚ω゚ )
,(\│/)(\│/)(\│ /. \
/ ♪お断りします♪ \
/ ハ,,ハ ハ,,ハ .ハ,,ハ ハ,,ハ\
. ( ゚ω゚ ) ( ゚ω゚ ) ( ゚ω゚ ) ( ゚ω゚
男「…こんなもんで、どう? 最後のアドリブは、けっこう自信あるんだけど」
女「………ま、まぁ、きょっ…今日のところは、これで…うん…いい…満足」
男「な、なに泣いてんだよ? そんなに感動的だったか? 俺の名台詞」
女「こっ…ちがっ……だいたい、台詞考えたの、私」
男「………だな。自画自賛って、どうなん?」
女「いいでしょ……聞きたかったこと、ようやく、聞けたんだから」
男「…悪い、待たせて」
女「ほんと、待たせすぎ…バカ」
――ねぇ
なんだよ?
記憶喪失の頃の私と、今の私……どっちが好きだった?
俺は、お前が好きだよ
だ、だから、そうじゃなくて
お前は、お前だろ?
………私はさ、記憶喪失のころの2倍、あなたのこと好きだよ?
わかった。俺は、さらにその倍の倍だ、つまり6倍だ
張り合うな…ばか
まぁ、明日にはその倍…12倍くらい好きになってるかもな
…じゃあ、私は、その倍の24倍っ!
………バカだなぁ、お前
…あなたにだけは言われたくないなぁ、それ
おしまい
~2の倍の倍は6倍推進委員会~
はい、というわけで、なんとか日曜日中に終わりました。
良かった良かった…いやもうホント月曜まで書き続けると仕事で死ぬし
記憶どうなってんの? とかそのへんの設定は雰囲気で…あんまり考えてない上に、
ウィキペディアのコピペ程度の知識しかないので超適当です。それっぽい感じです。
(略)…についてですが、皆さまの想像力を信じています。
さて、ここまで読んで下さって、ありがとうございました。
今週も前向きに明るく楽しく生きていきましょう! 不幸的なものとかぶっとばす感じで!
では!
俺は、豚肉を、ショウガやらショウユやらで炒める作業に入りますゆえ…失礼します
>>1乙
アフター的なものを思いついた!
デキちゃったけど「定職に就くまで認知させてやるか」とツンデレる女さんなんてかわいいんじゃないだろうか!
.\ 厨房と言えば? / ドーマン セーマン ドーマン
\ / Λ_Λ Λ_Λ ∧_∧
またVIPに流れて.\ ∧_∧ ∩ニコ厨です! / ( ・∀・) ( ´Д`) (´Д` )
来るんだって… \ ( ・∀・)ノ______ / ⊂ ⊂ ) ( つ ⊂ ) ( ⊃ ⊃
∧ ∧ \ (入 ⌒\つ /|. / 〉 〉\\ 〉 〉 く く //( (
(゚Д゚ )__ \ ヾヽ /\⌒)/ |/ (__) (_) (__)(_.) (_) (__)
/ ̄ ̄∪ ∪ /| .\ || ⌒| ̄ ̄ ̄| / 『著作権侵害率NO1!』
/∧_∧ またですか・・・.\ ∧∧∧∧ /
/ (;´∀` )_/ \ < ニ >ニコニコ動画内でアップロードされている著作権を侵害している
|| ̄( つ ||/ \ < コ ま >と思われる動画の数は全体の8割を超える。現在では管理者に
|| (_○___) || < ニ >よる削除もままならない状態で常に違法動画が供給されている
―――――――――――――――― < コ た >――――――――――――――――――――――――――
< か >
< ! ! > Λ_Λプッ Λ_Λ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧_∧ 粗末な動画で ∨∨∨∨\ ( ´∀`) (´∀` )<ニコ厨必死だな(藁
( ;´∀`) 職人気取り… / \ ( )__( ) \________
_____(つ_ と)___ / ∧_∧ ニ\Λ_Λ Λ_Λ  ̄ ̄ ̄/.//|
. / \ ___ キイタコト ./γ(⌒)・∀・ ) コ .\ ;) ( ;) /┃| |
.<\※ \____.|i\___アッタラ… ./(YYて)ノ ノ 厨 \↑ ̄ ̄↑\)_/ .|__|/
男「…あのころのあいつは、あんなに素直でかわいかったのに」
医者「……ああ、そう」
男「あのころが懐かしい…」
医者「…君たちさぁ、夫婦ゲンカするたびに僕のとこに来るのやめない? これでも忙しいんだけど…」
男「いや、まだ夫婦じゃねぇっつーの……俺にはヤフオクしてるようにしか見えない」
医者「なぁ、どう思う? このナース服のデザイン、素敵じゃない? しかも、この使用済みってどういう意味の使用済みだろ?」
男「……でさ、聞いてくれよ。あいつさぁ」
医者「…犬も食わないようなものは聞きたくないんだけど」
男「いやだから、まだ夫婦じゃねぇって」
医者「……ああ、そう…『まだ』、ね。あの…僕、忙しいし、聞きたくないんだけど?」
男「昨日さ、バイトの新年会があって」
医者「…話し出すし」
男「で、『おやすみのちゅーがなかった!』とか『ほんとは私のこと好きじゃないんでしょ!』とか言ってさぁ」
医者「………」
男「だって、帰ったら、先に寝てるし…酒飲んでたし、ニンニクとか食いまくってたし……俺もいろいろ配慮してさぁ」
医者「………」
男「…って、あれ、どうした?」
医者「あははは……もぐぞ?」
男「な、なにを!?」
医者「その股間にぶらさがってるモノを…」
男「いや、あんた、そのメス今どこから出した!? 怖いって!? マジ怖いって!?」
医者「ふむ……無い、こともないな…」
男「なにが?」
医者「彼女を記憶喪失だった状態に戻す方法だ」
男「……前に、そんな方法ないって言ってなかったっけ?」
医者「脳も所詮は電気信号で動く複雑な機械のようなものだから、前に記憶喪失になったときと同じ強度のショックを与えれば、同じ結果が得られるかもしれない」
男「はぁ? そうなんすか?」
医者「ちなみに当時のカルテには『頭部にスペシャル強度の打撃ショック』とある」
男「す、すぺしゃるキョウドの打撃ショック!?…なんかすごそうだな」
医者「……この状態を再現するための方法は…一つだけ。しかも、僕もその方法を成功させた男は一人しか知らない」
男「…なにそれすごい」
医者「なにせ、この方法を成功させるには、強靭な肉体と不屈の精神力が必要だからね…彼にしかできない技だ」
男「……な、なんだよそれって、手術じゃなくて、技?」
医者「そう………その名を『暗黒流れ星』という」
男「あ、暗黒…流れ、星!?………って、マンガじゃねぇか!!」
医者「え? なに知ってるの? それじゃE電パンチ知ってる? E電パンチ」
男「なんだウソかよ」
医者「いや、だから、ありえないんだって。そもそも、あの状態が異常だったんだからね」
男「……あぁ」
医者「それとも、なに? もしかしてこの期に及んで、『俺は、天真爛漫でみかんが好きなあの子じゃなきゃヤだ』とか言うの?」
男「え? んな、まさか」
医者「……本当に? だって、君が好きになったのは、あの頃の…あの子なんだろ?」
男「…まぁ、そうなんだけど。なんていうかさ……その、そんなに区別できなくなったっていうか」
医者「というと?」
男「なんていうんだろ? 今のあいつと前のあいつ…最初は全然違うやつだって、思ってたんだけどさ…やっぱ同じじゃないかなって」
医者「ふむ」
男「…今のあいつの中にもあいつはちゃんといるような気がするんだよな…なんとなく、だけど」
医者「…そうかもね。言っちゃなんだけど、同じ人間だしね」
男「だから、別に、今のあいつに不満はないし……どっちも好き…っていうか、どっちかって言えば」
医者「………あのさ」
男「なんだよ?」
医者「のろけるんだったら、そこの体脂肪計にしてくれる? 仕事のジャマなんだけど」
男「……仕事してねぇじゃねぇか…落札してんじゃねぇか」
医者「…帰ったよー」
女「…すいません」
医者「聞いてた? さっきの聞いた? あのノロケ話を週3で聞かされる僕の気持ちわかる?」
女「…あ、あの…その、彼がご迷惑おかけして、ほんとに」
医者「しかも、あの…ゆるめまくった顔! 元が無愛想で不細工なのが3倍くらいアレで、もはやキモイよね!」
女「そんなことないっ! 無愛想だけど、かっこいいもん! どこ見てそんなこと言ってん……るんですか…」
医者「…あー…ごちそうさま、でした」
女「え、ええっと……ほら、平均よりちょっとだけ上っていうか…そういうレベルで、その多少、私情は入ってますけど」
医者「あーいいから…そういうのもいいから………よかったね、彼、どちらかと言えば、昔の君より今の君が好きらしいよ?」
女「……そんなこと、言ってませんでした」
医者「いや、文脈読むとさ」
女「…そ、それに、だいたいそれで言うなら…私だって、絶対、その頃より」
医者「いいから…そういうのもいいから……僕のライフポイントは、もうゼロだから…やめて…もう許して…」
なんかすいません
お礼参りをさせたかっただけなんですが
こんなたくさん読んでくれて、うれしはずかし
ありがとうございます
おやすみなさい
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