P「春香が階段から落ちた」 (197)

P「俺にしか貴音が見えない」
P「俺にしか貴音が見えない」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379200422/)
上の続きを書きたくなって書いた。

注意
誤字が結構あります。
しっかり推敲しましたが残ってるかもしれません。
相変わらず読みにくい文章です。
上の前スレを読めば酷さがわかると思います。

それでもよろしければという方はゆっくり更新しますのでお付き合いよろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1380058781

俺と貴音がひっそりと付き合い始めてから2週間が経った。
事務所内では少しだけ噂が広まったことがある。あの2人の微妙な空気は何なのかと。
双海特攻隊が「もしかして付き合ってんじゃ……」とつぶやいたが、それはないないとアイドル達みんな否定した。
貴音ですら否定しているのは結構ショックなのだが、彼氏がいることなんて世間に広まったら2人そろって駆け落ちもいいところだ。

もちろん。デートは1回もしていない。というよりも複数人でお出掛けの付き添いでしか貴音とは出掛けた記憶がない。
大体貴音とはラーメンだけで、それ以外では美希に春香達の服の買い物やライブ頑張ったご褒美のファミレス。
考えると出費が自費であることなのか貴音とはともかく、アイドル達とはまとも出掛けてないことが分かった。

まあ、出掛けてないからどうかしたか。というわけではない。むしろ、この浮いたお金をコツコツ貯めていけばどこか旅行に行けるという一石一鳥だ。二鳥ではないのはアイドルとの交流が少ないためである。
それに貴音も出掛けるというよりは俺と一緒にいる方が良いのか、遊びに行こうかと夜に提案しても却下されてしまう。
デート先でお熱いアピールする痛々しいバカップルよりはプライベートでいちゃこらする俺たちの方が目の毒にならなくて良いだろう。

午後のことである。
本日の予定はレッスン場の送り迎えといった簡単な仕事と写真集用の写真を撮影しに行く営業である。
と言っても送る順番さえ間違わなければ営業先には時間通りに。送る順番を間違えても営業先に送るのも信号と交通状態が味方してくれたら楽勝なのである。
もし、渋滞でレッスン組を送り届けた帰りが遅れそうになっても営業組は最悪社長か音無さんが送って行ってくれる。
前に結構無茶して身体を壊してしまったので今回は多分だが、音無さんか社長がレッスン組を送って行ってくれる保険があるためそこまで心配する必要はない。


アイドル達の到着を事務所で今週のスケジュールを見直しながら待っていると……ガチャリとドアが開いた。

「こんにちはー!」

「お! 来たか」

「えへへ。今日は一番乗りみたいですね!!」

「そのようだな。他は何か用事があるんじゃないかな。しかし、春香は早いな」

「今日は午前中で終わったんですよ」

最初に顔を出したのは天海春香。この事務所の顔と言っても過言ではない。
トレードマークと言えるリボンを付けて事務所に来た。
春香が来るということはそろそろ他のアイドルもぞろぞろと事務所に入ってくるだろう。アイドルが来ると言ってもコーヒーを飲む時間くらいはある。
俺は春香に準備しとけと注文をし、コーヒーを淹れに給湯室に向かった。

コーヒーを給湯室で砂糖とミルクの調節をしている間に事務所が、賑やかになっていた。
戻ると春香、亜美と真美にやよい。そして真と貴音が揃っていた。
他はまだ来ていなかったが、本日の営業組だけは揃っていたのでホッとした。
誰かが休んだら休ませてもらわないといけないからである。

現在ユニットを組ませている。その1組が律子プロデューサーの竜宮小町。
そして、2組目が俺のプロデュースしている春香・貴音・真美のユニットである。
では残ったアイドル達はどうしているのか。 もちろん「ソロ」でだがちゃんとアイドル活動をしている。

ユニットに選ばれたのがこの3人だけでユニットかソロの違いだけであり、競争性を持たせてはいる。
しかし、それ以上にアイドル達の仲間意識が強いので竜宮以外のランクは1ランク低いが、どのアイドル達も最低Bランクというエリートなアイドル達である。
これも仲間意識の結果だろう。




……と、言うのは嘘で。実際はユニットに力を入れているせいかランクが事務所トップである。やはりアイドルの数が多いと出来るパフォーマンスの数が増える。
ソロ組も要望があればユニットを組ませてやりたいが、悲しいことにだーれもユニットで動きたがるアイドルがいなかったので1ユニットだけが俺のプロデュースを受けている。
もちろん残りのソロ組のプロデュースもしている。

今日の営業もユニットの仕事なのであり、3人とも揃っていないと撮影が出来ずに次回に繰り越しされてしまう。
だから俺は少し不安だったが、3人とも来てくれたようで一安心だ。

しかし、問題はここから営業先に送り届けることである。まず、1番の問題が悪戯姉妹の姉の真美。なかなか動こうとしない。
以前は物で釣っていたのだが、最近では餌を豪華にしないと釣れない。
そんな毎日餌代を消費していたら生活費がなくなる。
最近ではユニットの仲間に頼んで活動に参加させている。真美にとってはユニットの声が苦手である。

特に貴音には以前営業に消極的だった真美をくすぐり地獄を味わわせたのだ。それがものすごく過激だったらしく止めに入った春香も巻き添えに遭う。
結果、仕事はキャンセルする羽目になった。

それ以降、貴音には警戒するようになった真美。
なので、俺は貴音に言いつけるというと急にシャキッとしだす。その貴音もうさぎの時に復讐されてしまったのだが。
付け加えておくが、真美もこういう時の貴音が苦手なだけであり、決して普段の貴音も嫌いというわけではない。

まあ真美がこう動かない原因は最近俺と遊んでないからその反動みたいなものであり、俺のせいであるのは春香と貴音には黙っている。

「今日はどのようなお仕事なのですか?」

「写真集用の写真撮影だ。3人で撮りたいのがあるからってどうしても……な」

「じゃあ3人揃っての撮影がメインですか?」

「そう」

「へぇ~んじゃあパパッと終わっちゃう系?」

「カメラさんがOK出せばな」

「もう出発ですか?」

「そうだな。時間よりに早く着くことに越したことないからな」

「すみません音無さん、お願いできますか?」

「わかりました。前みたいに倒れてもらっては困りますからね」

「ぐ…すみません」


音無さんにレッスン組の送り迎えをお願いして俺は3人を連れて営業先に向かった。
ボロい社用車でも意外と車内は快適なのである。
それは運転席以外の乗車人の言う言葉であり、運転者の俺は全然快適ではない。
それでも汚い言い方としてアイドルは大事な事務所の商品であるから大事に扱わなくてはならない。だから運転席の座席がボロボロでも助手席に後部座席は座布団が設置されていて高級感が現れているのである。

内緒だが、座布団は貴音が座っている助手席だけは後部座席の座布団より少し豪華である。何が豪華というと貴音の座布団は洗いたてなのである。それだけだが豪華であることには変わりない。

「おーし着いたぞ」

「意外と早く着きましたね」

「信号が味方をしてくれたんだよ」

「と言いながら赤信号走ってたよね?」

「あれは黄色になった時に急ブレーキ掛けないと停止線に止まれない状態だったら進んでいいんだよ」


営業先に着き、俺を先頭に今日の撮影場所に向かう。
カメラさんやらに挨拶して撮影が始まる。
要求通り服装はきわどい衣装ではない。だから色気がない。まあこの3人にはセクシーな衣装よりは地味な方が似合っている気がするのだが。
それを口にすると自称せくちーの真美には言うと腰を(タックルされて)やられそうで黙っている。


そうしている間に撮影はすぐに終わった。
謎のアイドル達のやる気にNG3回だけでOKを貰い、予想時間よりも30分早く終わった。
というわけで、事務所に一番乗りで戻ってきた。正確には音無さんがいるはずだから2番である。

撮影でも疲れるもので、真美は飲み物を要求してきた。
要求は事務所の冷蔵庫ということで階段を上る。真美が走って1番乗りで事務所のドアを開け中に入って行く。
続いて俺と貴音がドサッ!!

謎の衝撃音に少し見回して階段の下で春香が倒れていた。
慌てて駆け寄り抱き起して声をかけるが返答はない。意識がない。
すぐに貴音に音無さんに救急車を呼ぶように伝え、俺はゆっくりと春香を事務所のソファーに運んだ。

春香が転ぶことはよくあったのだが、今回のように意識を失うほどの強い衝撃で転んだことはない。転ぶことが春香の個性の一つである。
その個性の一つであった転びで自滅してしまうとは……プロテクターでも装着しないとダメなのか。情けない。
その後、救急車が来て春香と俺は救急車に乗り、音無さんは連絡係とお留守番係で残ってもらった。

少し貴音が悲しそうな顔をしていたため、今日の機嫌取りは大変な気がする。
理由は二つありそうだけど知りたくなかった。

症状は軽い脳震盪だった。多分階段から滑り落ちた時に頭を強くぶつけたのだろう。
何故予想かというのは誰も春香が滑り落ちているところを見ていないからである。
ひょっとしたら手すりを乗り越えて落ちたかもしれないが、そんなアホなことはさせないし、多分気づくと思う。
なので、滑り落ちただろうということである。
春香はベッドで寝ているが直に起きるだろう。
そんなに心配しなくても大丈夫と医者は言っている。しかし、親御さんから春香を預かっている以上、こちらの責任には変わりない。
外傷などのスキャンとかは起きてからするそうだが、一応目の届く範囲で外傷チェックをしておこう。
と、俺は春香の髪に手を伸ばす。


バシッ

「それはわたくし達が行います」


と、自力で辿り着いた貴音に手を払われてしまった。
来るのが早すぎる。どうやって来た。
更にしばらく戻って来られないようにか


「ジュース買ってきて」


と、貴音と一緒に来た真美に追撃もされてしまった。
春香を見守るのを貴音と真美に任せて俺はジュースを買いに行くはめになった。
自販機で何を買おうか悩んでいると連絡を知り、駆けつけてきた律子に会った。
経緯を話すと「私はお茶」と言い残し春香の病室に向かってしまった。今度センブリ茶を淹れてあげよう。

適当に選んで病室に戻ってくると春香の病室前で真美が待っており、起きたと俺に教えてくれた。
真美にジュースを押し付け病室に入ると確かに春香は起きて律子と貴音と談笑していた。

これは良かった。
俺はホッとしてみんなジュースを手渡していたが、春香だけがおかしい。
初対面の人と会うかのように談笑していた時の柔和な顔が強張り始める。
嫌な予感がするのだが、少なからず予感なのでまだ確定したではない。
たとえ1%でもSRとか出たりするので嫌な予感が99%だとしたら残りの1%に賭ける。
頼む。予感的中しないでくれ。


「……えっと、どちら様ですか? 律子さん知っていますか?」


99%は強すぎる。
春香は断片的な記憶喪失で、俺と社長とアイドル活動の記憶がすっぽり抜けているようだった。
まー野郎である俺と社長の記憶はないのは仕方がないがアイドルである記憶が抜けてしまっているのは少し悲しい。
だからと言ってこの記憶喪失が反対に俺と社長とアイドル活動だけしか覚えてなかったらどう親御さんに説明しようか。おまけにアイドルのやる気もガクッと下がる。
結果的に考えるとアイドル活動と野郎2人の記憶だけ抜けたのは不幸中の幸いだったかもしれない。

音無さんに連絡して春香は律子に任せて俺は事務所に戻ることにした。
貴音と真美はまだ春香の傍にいるようで、完全に俺が除け者扱いされているようで辛い。
せめてと目を配ったけど、可愛い彼女はニコッと笑顔だけをしてこっちの味方になってはくれなかった。


事務所に戻ると音無さんと何か白い物体だけ残っていた。
訂正しよう。音無さんと社長らしき白い物体が残っていた。
どうやら白い物体は社長のようで、音無さんから春香のことをある程度聞いて、社長のことを覚えてないと知ってしまったことにショックらしい。
そのショックにより燃え尽きてしまったようだ。どうやら白い物体ではなく燃え尽きた結果らしい。

ただ、勝手に燃え尽きるのは良いけど速く帰ってほしい。
これから春香の親御さんに電話してその後、そこそこ溜まっている仕事終わらせる。
なので、仕事もしないでそこで燃え尽きてもらっていると思わず老若男女平等パンチを食らわしたくなる。

時計の長針が本日23周をし、24周目に向けて動いている。
事務所に残っているのも俺だけになった。
ここでいつもの来客がガチャリとドアを開けて入ってくる。
もうちょっと早く入って来て欲しかったのだが、そこまで無理に言うわけにはいかない。
というかそんなことで嫌われたくない。


「お仕事は終わりましたか」

「いやー終わらない。手伝ってくれよ」

「どのようなお仕事なのですか」

「電話。春香がアイドル活動していた時のことを覚えてないのならしばらく休ませようかと考えていたんだよ」

「しかし、もう23時を過ぎています」

「だーから終わらないんだよ」


そう言いながら俺はお手上げポーズを取る。
すると彼女はクスっと笑って事務所内の明かりを消した。
一瞬で真っ暗になる事務所。これじゃ仕事ができない。


「貴音よ。これじゃあ仕事ができない」

「電話は明かりを消したままでも出来ますよ」

「そうは言ってもな、電話は出来るけどメモが取れないんだよ」

「では今日は中止です。それに向こうにも迷惑です」

「そうだな」

「そもそもそのような電話は先にするはずですが……」

「ごもっともです。明日朝一に電話だな。遅くても午前中までには」

貴音は俺の膝に座る。あの時以来ずっとこの調子だ。
俺もあれ以来アイドルをほぼ膝に座らせたことがない。
っても座りに来るアイドルなんてそうそういないけど。

膝に座りに来るアイドルは貴音自身が甘えたのかまだみんなが事務所にいるのにも関わらず座りに来る。思いっきり抱きしめたくなる。
他にはたまに双海姉妹で、稀にソファーを奪われてご機嫌ななめな美希が来るだけである。
その度、貴音の特等席を奪われてムスッとする彼女を宥めるのは結構大変で、最近では頬を撫でたり、お姫様抱っこをしてあげたりと少し過激な接待をしないと機嫌が治らないのである。

ただ、過激であると言ってもあまり度が過ぎると逆に余計怒らせてしまう。前はディープで顔を真っ赤にしながら頬を叩かれた。
悪いことをしたなと思うと同時にもう少し受け入れてくれると言う悪魔な俺がいたのは秘密である。


まだ俺は貴音の拒絶を示すボーダーラインがイマイチわからない。
叩かれる前のことである。寒かったので膝に座っている貴音を抱きしめた。普段はここまでなのだが、手が冷たくなっていたので貴音の肌に直接触れて温めたい。そう思い、貴音の服の中に手を突っ込み豊満な胸を直に揉みしだいた。あの貴音からちょっとした悲鳴を聞けて手も温かくなって満足だった。

その反面貴音の逆鱗に触れてしまったわけで、普通なら今頃俺はここにいないのだが、(数日アイドル活動以外では口聞いてくれなかったけど)なんとか許してくれたのである。
だが、最近再び直に揉みしだこうと手を伸ばしたら叩かれてしまったのだ。

そのため、どこまでがOKで、どこからがNOなのか。細かくは未だによくわからないのである。
だからご機嫌取りは先に言ったとおり、お姫様抱っこ辺りで、それ以外はハグが大体の目安と現在は想定している。
本音としては抱っこは腰がきついから座ったままの抱っこが良いのだが。

「今日はどうしますか。美しいお嬢さん」

「では、今日はわたくしの家にお泊りを……」

「はいっていきなりどうした?」

「…………」

「……わかりましたよ。春香の件はわるーござんした」

「わかればよろしいのです」


おそらく外傷チェックの件だろう。可愛いやつだ。
俺は貴音にキスをした。

次の日の朝。
芸能ニュースで天海春香アイドル活動休業という見出しニュースを見て仕事速いなと感心した。
そのためか現在進行形で俺の携帯はなり続けている。
貴音にはしぃーと人差し指を口元に立てて静かにさせ、俺は電話に出て応対し始めた。
すべての応対が終わったのは9時半で、遅刻確定の俺は先に打ち合わせ先に謝りの電話をしてから、貴音を連れて猛ダッシュで事務所に向かった。

少し話がそれるが、俺は最近車を買ってもらった。もらったというのは貴音に8割資金を出してもらい買った車であり、ほとんどが貴音の送迎のために存在している。
あとは俺の通勤用で、たまにアイドル達の送迎車に代わる。
それだけだが、車のおかげで事務所にはママチャリ時よりも20分早く着いた。
そこからオンボロ社用車に乗り換えて打ち合わせ先に向かった。10時半に着き、俺は土下座して許してもらった。


打ち合わせでは主に春香の休業に関することと、その穴埋めアイドルを誰にするかで話が進んだ。
その打ち合わせも終わり、事務所に帰ろうかと駐車場に向かっているとうさぎはどうしたのかと聞かれた。
俺は社長の時のように言ってやると「残念だったね」とか「頭大丈夫?」と言われた。
後者はまだ俺の頭がおかしいというのか。

今回はここまでです
書き溜め→寝かせる→推敲→投下という一般的な書き溜めスタイルで行くので遅いです。
それでもゴールは見えているのでよろしくお願いします。
多分この話も短いと思います。

追記
ひょっとしたら書き溜めスタイルの寝かせるが時間の都合上でなくなるかもしれないです
なくならないように気を付けます

トイレから戻ってきたひよこ饅頭がなくなって喚いている音無さんに、気付かれずに真美を階段に連れ出して屋上でしばらくたそがれていた。

春香が到着したことで、今日のミッションを開始する。
とは言っても相変わらず送迎だけなのだが、それでも立派な仕事であると思いたい。
今のところ面倒見るのはユニットだけで、社長がソロ組の送迎をしてくれることになった。
そういうわけでレッスン場に向かってレッスンを見てもらう。
俺は送り届けるだけで残りは事務所で仕事を終わりにしたいのだが、どうしても見てくれと3人が言うので付き合うことにした。
レッスンはよく見ているが、この春香のレッスンを見るのは初めてである。さて、お手並み拝見だ。


「じゃあまずは何から行こうか?」

「春香、あなたは何が良いですか?」

「私ですか? えっと……じゃあREADY!!で」


少し経ってREADY!!が流れ始める。
ユニットで上手くフォーメーションを作り始め、踊り始める。
元々これは事務所みんなで歌う曲なのだが、それを3人バージョンで踊っている。
しかもこれは即席で考えたフォーメーションである。本当に良く出来ている。
ただ、やはり春香が2人よりも動きがおかしいし遅い。まだ戻ってないのかもしれない。
とはいえまだ一週間も経っていない。まだまだ様子見? であるが、いずれは思い出してもらわないといけない。

「……ふぅ。どうでしたか!?」

「……んーまあ春香だけがな……他は大丈夫だったわ」

「私がダメなんですか?」

「ダメではないのですよ。やはり貴女はアイドル活動の記憶を失っている」

「そうですか……」

「……ま、まあでも真美達にはわかるけどフツーのファンにはわからないっしょ→」


真美がフォローするがやはり貴音の一言が来たのだろう。
ショックを顔に隠せないのかしばらく呆然としていた。確かにファンよりも彼女たちを多く見ている俺でもわかった。
デパートの屋上の時は比較できなかったが今回のダンスでやはり『この春香』では今のが限界だと思うこと。ここから春香を前の春香までに戻すには時間が掛かること。

その後いろいろな曲を春香達は踊った。しかし、偽物(この春香)じゃオリジナル(前の春香)に勝てるわけなく少しズレた時計のごとく2人の足手まといと化していた。
ただ、この春香は前の春香の完全劣化というわけではない。理由としては、ただ遅れているだけである。
時間が経つごとに遅れが目立ってくるが、ズレを狙ったダンスを取り入れればその問題もカバーできる。ダンスのおかしい点は練習次第で治せる感じでもあったし。
ボーカルもコーラスに回せば誤魔化せる。ただ、メインボーカルになると問題が起こると思うのだが。

「うーやっぱり私じゃだめですかね」

「まま、まだ記憶が失って1週間も経ってないしそんなに気にするなよ。まだライブとか予定組んでないからな」

「えー!! そんなでIA取れんの?」

「いけるんじゃないかなと」

「行けますよ。プロデューサーの指導ならば」

「2位じゃダメなんですか?」

「ダメです」

レッスン終了して事務所に戻ってきた。
この後の予定はちょっとしたアイドル達の新製品の試作品をやってみる予定である。
試作品はおもちゃ企業のバンなんとかが作った小型携帯型ゲーム機『あいどるっち』というもの。どうやらとあるゲームのパクリだが、育てるキャラなんとうちの事務所のアイドル+事務員。
基本は某ゲームと同じだが、違うのはアイドルである。進化というか成長は2~3回あるようで、育て方によってはアイドルが異なるとか。
例えば飯ばっか食わしていれば「たかにゃ→たかね」になる。
運動ばっかさしていると「まこちー→まこと」または「ちびき→ひびき」になるように進化にも色々条件があるようだ。
ただ、しっかり世話をしないと「はるかさん→はるか→ホメはるかorはるかっか」になると事前に説明を受けた。
他にも色々とあるようだが、何しろやってみないことには始まらない。
しかし始めたいのだが

「おーい兄(c)ゲームしようYO!」

「今忙しい」

「えー! 真美も買ったんだよ→」

「……時間はまだ大丈夫なのか? 春香は帰ったぞ」

「亜美が帰ってくるまで待ってまででも良いからさー」

「しゃーないな。音無さん、お願いします」

「え?」

「真美が強いようです」

音無さんに真美を押し付け、試作品は後回しにして、仕事に徹することにした。
結局、仕事をやっているうちに試作品なことをすっかり忘れ、思い出すのは結構先になる。
しばらくはライブ系の予定は入れていないが、春香はどうしようかと悩む。
2人はテレビでもやっていけるのだが、時期に春香も出演させないと忘れ去られてしまうわけであるからである。
ここで悩んでも仕方がないので春香が早々思い出してくれることを祈るしかなかった。

ちなみに真美は音無さんにコテンパンにされてガチ泣きしたようだった。ポ○モンです。

ここまでです
そろそろ春香の話も終わらせる予定です

月曜日
今日は週に一度の春香の送迎である。送迎曜日は適当であり、俺の行きたい時間に行く。
あらかじめ春香には連絡してある。
やたらと貴音が付いてきたかったようなのだが、時間的に営業と被るってしまうので、諦めてくれと説明しておいた。
彼女は渋々納得してくれたが、やはり一緒に来たかったのが本音だろう。

高校の入り口近くに車を停めて、外で缶コーヒーを飲みながら待つ。
時期的に外は寒くて車の中で待っていたいのだが、春香が気付かずに帰ってしまうかもしれない。
だから外で待つことにした。
学校は終わったらしく、少しずつ部活動の声が聞こえてくる。
帰宅部らしき生徒がちらほら高校から出てき始めた。
俺が車に身体を預けながらコーヒーを飲み始めて20分くらい経った頃、春香が出てきた。
学生らしく制服で普通に仲のいい生徒(多分友達)と喋りながら歩いている。本当に普通の女の子である。
男子がアイドルだから群れてくるわけでもなく普通に女の子である。
春香が俺を見つけると友達に(多分)断りの話をしている。
そして、春香が顔を真っ赤にして手を振っている辺り彼氏と勘違いしているのではないのか。
友達にからかわれて顔を真っ赤にした春香が俺のところまで走ってきた。


「お待たせしましたー!」

「よう。春香って普通なんだな」

「え? 何がですか?」

「アイドルの天海春香だから高嶺の花みたいな……でも実際は普通の女の子なんだな」

「いや、それが当り前ですって! ちゃんと私じゃなくて学校のアイドルはいますから!」

「あ、そうなの。そりゃすまん」

「いいですよーだ。クラスの男子には私の可愛さなんてわからないですし」

「……でも良いのか? 友達と帰らなくて?」

「大丈夫です。私の場合遠いからあんな風に友達とゆっくり帰ることはめったにないですから」

「ちょっと話逸れるけど……今の子達……完全に俺を彼氏だと勘違いしてたけど」

「うぇっ!? で、でもちゃんとプロデューサーさんだと言っておいたから大丈夫ですよ!」

「まあ、春香なら俺よりももっと良い人見つけれるよ」


そんなこと言いながら缶を捨てに行ったらこけた。
多分貴音の呪いだろう。『俺より』と自身を卑下したからかもしれない。
だとしたらすまない。頼りない男で。
捨てに行った帰りに春香に飲み物を買ってあげた。


「……ブラックですか……」

「……あ、すまん。それ男んのだ。春香はこっちの紅茶の方が良いだろ?」

「あ、良かった。ありがとうございます」

事務所に戻ってきた時間が大体18時であった。音無さんはいなく、どうやら他のアイドル達はオフか出ているようである。
と、思ったけどユニット組の2人は待っていたようで、2人は音無さんも一緒に混ざって人生ゲームをしていた。音無さん、ゲームではお子さん4人もいるんですね。
さて、これからと言ってもユニット組にはやることがない。一応レッスンが残っているのだが、この時間からだと2時間も出来ない。
春香はどうやって早い時間に来ているのか気になった時でもあった。
この時間からではすることが全くない春香にはライブの映像を見せて少しでもアイドルやっていたことを思い出してもらえばと望んでいる。
そんな浅はかな望みは叶うわけなくごめんなさいと春香は謝った。

春香の記憶は戻らないまま11月に突入した。
この頃ユニットの仕事が明らかに減ってきている気がする。
ソロだとソロ組よりは少ないがその分ユニットの仕事で補っていたのだが、今週のユニットの仕事がさっぱりだったのはユニット結成以来のことであった。
だからといってソロの仕事が増えるわけではないし、レッスン行こうかと言えるほど事務所にはお金がない。
たとえ人気アイドルでも賞味期限がある。相手からすればそんな感じなのかもしれない。レジェンドなら別だと思うが。
そういうわけですることがない2人はレッスンや営業がない時は音無さんと遊んでいる。
俺はフォローをしているが、不満は少しずつ蓄積されていった。


ある春香の送迎の日。
春香に屋上に来てくれと言われた。
事務所の人が帰ったら屋上で話がしたいというのだ。大事な話なんだろう。
今日はユニット組2人の営業が入ったのでそっちに行って直帰である。音無さんが帰るついでに拾って行ってくれる。
なので、事務所の戸締まりは俺に回ってくるわけで、春香は狙っていたのかもしれない。
しかし最近は、春香は何のためにここに来ているかが俺にも少しわからなくなってきた。


午後6時。
いつの間にか事務所内は俺だけになっていた。
そんなことは普段の日常なので慣れている。しかし、書類の整理が中々終わらない。
音無さんの仕事だが、送迎を頼んだので代わりにしている。
俺の事なんて1人を覗き誰も興味を持たないだろう。と、一息ついていると春香からメールが届いた。


屋上で待ってます


呼ばれたからには行かないといけない。
約束だったからな。
俺は屋上に向かった。


屋上は寒い。
それなのに春香は夜空を眺めながら待っていてくれた。
俺は春香に呼びかけると気づいてくれた。
さて、アイドル引退は勘弁してくれよ。


「あ、プロデューサーさん。遅いですよ!」

「お仕事がね。終わらないのよ」

「あーすみません。それなのに送迎に加えて呼び出しちゃって」

「構わない。俺はこれだけだけど春香は学校の勉強があるからな」

「あ、えっとそのこと何ですけど……」

「うん?」

「その流石に真美と貴音さんに迷惑かかるからしばらく事務所に行くのもやめようかなと」

「本当か。みんなそんな分けないと思うぞ」

「プロデューサーさんにはたぶん一生わからないと思いますよ。女の勘って奴は」

「それはわからないな」

「それにプロデューサーさんは今のままで良いと言ってますけど、みんなが待っているのは私じゃない前の天海春香です。今の不完全な天海春香じゃないんですよ」

「それは……」

「だから思い出すまで私は事務所に来ません。プロデューサーさんにも負担をかけませんし……」


俺は結構粘ったが意固地な春香は休業を選んだ。
春香がそれを選んだから何も言わない。ただ、ファンはどうなのかわからない。
それでも復帰してくれたときに迎えてくれるファンは少なからずいる。
休業をファンにも伝えないといけないし、また仕事が増えてしまったが仕方がない。
話はまだあるようで何かと待っているのだが、何故か歯切れが急に悪くなった。
春香が言おうとしているのはよくわかる。
だが、言ってくれなきゃこちらも返事が出来ない。


「どうしたんだ?」

「あ、えっとですね……その……」

「飯?」

「そ、そうじゃないんですよ!」

「じゃあなんだ? 寒いし早く事務所に戻らないか?」

「え、あ、じゃ、じゃあ私コーヒー買ってきますね。それまで待っててください。あは、あははは」


そう言って春香は屋上というよりも俺から逃げるように飲み物を買いに行った。
しかし、自販機は事務所を出てすぐ近くではなく2分はかかる。そして屋上から地上まで下りる時間+自販機までの往復時間+地上から屋上に上がる時間を含めると5分以上かかる。
つまり最低5分はここにいないといけないのだ。その間、俺は寒い中待たなければならない。春香にメールしても良いが見てないと思う。かといって事務所で待っていたとするのも可哀相である。
だから俺も春香みたいに夜空の星を眺めて待っていることにした。

そんなに星を眺めている暇はなかった。


ドンガラガッシャーン
「ぅゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「春香!?」


ビルの中で大きな音がした。
俺はビルの中に駆け込んだ。春香が前回みたいに階段から落っこちていた。


「春香!」


おそらく暗い中階段を駆け下りた結果。踏み誤ったか滑ったかのどちらかだろう。
ふと、第三者の気配を感じ取ったけど今はそれどころではなかった。
俺はすぐに119番に電話し、春香を事務所のソファーに運んで救急車が来るまで春香の手を握っていた。

「えへへ~ご迷惑をかけました」

「全く……でも無事で良かった。大丈夫だよな」

「はい。外傷はないみたいです……あ、あと……」

「ん?」

「……どうやら思い出せたみたいです」

「……ほんとか?」

「はい。あーあ。でもプロデューサーさんとの送迎の時の会話楽しかったのになー」

「いやいや」

「退院したらまずはレッスンな」

「わかりました……」

「どうかしたか?」

「いえ、その私なにかプロデューサーさんに言いたいことあった気がしますけど……今度はそれを忘れちゃいました」


メールで事務所関係者に連絡をして俺は再び事務所に戻った。
彼女は既に事務所にある美希の寝床のソファーに座っていた。


「……さて、さっきのはやっぱりか」

「はい」

「春香はあなた様に好意を持っておられました。いえ、正確には恋心です」

「まじか……いや、そんな感じがしたけど記憶もあるし……な」

「その……」

「わかったわかった。取られるのが怖かったんだろ?」

「うぅ…」

「よしよし。大丈夫だって。俺なんか貴音と付き合ってるだけで人生8割の運を使い切ったみたいなモンだし。で、あのときは何かしたのか?」

「……何もしておりません」

「……なるほど。俺は貴音を信じる」

「ありがとうございます」

「じゃあもし、落ちてなかったらどうしてたんだ」

「……女同士のお話を少し……とっぷしぃくれっとです」


まとめると、貴音はあらかじめ事務所の中で春香を待っていた。
事務所に忘れ物をしたと音無さんに回ってもらうよう頼んだとのこと。
そして、春香に言うつもりだったらしい。
でも春香は勝手に転んだ。その結果、見事俺への好意の記憶が飛んでしまったらしい。
もし、春香が転んでいなかったのならば……あまり考えたくないが、好意をぶち壊したのだろう。

彼女は少し嫉妬心が強いのかもしれない。
与えられたおもちゃを誰にも渡すことはなく、伊織のうさちゃんのようにずっと持っているだろう。
そう考えると今俺の膝に座っている俺の彼女は愛おしい。


翌日。
ユニット組をレッスンで見てもらうと春香は少しずれていた。
これはただのブランクであり、すぐに直せるらしい。
めでたくユニット再開が決定した。


時計の針が12を過ぎたとき俺は貴音と事務所で予定でも練るという建前の埋め合わせをしていた。
埋め合わせというのは単純に春香に構っていた分の時間である。
この埋め合わせには終わりはないだろう。それでも俺は構わない。
俺も一緒にいたいから苦痛には感じない。
だからといって今度の出張でラーメンツアーの仕事に行くのはやめて欲しい。

これにて『P「春香が階段から落ちた」』の話は終わりですが、この設定で書きたい話があるので引き続きこのスレで書かせてもらいます。
次は間話を少しです。
失礼しました。

間話(ネタ話)①
響「新しい家族だぞ」

ある日曜日のことである。
事務所で律子の仕事の手助けをしていると響がやよいよりも元気な声を出しながらやって来た。
が、事務所内の空気はピリピリしていてとても構ってやれるような雰囲気ではない。
それでもギャーギャー騒ぐ響。もしかしたら響が新しい家族なのかもしれない。
つまり、ドッペルゲンガーを家族としているのか。それはそれで新たな双子として、双海姉妹に脅威を。事務所に新たな可能性を生み出せるかもしれない。
あまりにもうるさいから律子が目線で相手をお願いしますと要請してきた。
音無さんも仕事が溜まっているのか珍しく仕事をしていて本来サビ残である俺が相手をすることになってしまった。


「そんなに嬉しいのか?」

「当り前さー! 寂しくないんだぞ!」

「日曜日のサービス出勤している俺や律子や音無さんに言うことかよ」

「でも日曜日は生っすかサンデーがあるし……」

「……そうじゃん!!! やべー今日なんもないかと思ってた!!!」

「あ、そうだわ! 早くアイドル達呼ばないと!」

「ナイスよ響ちゃん! すぐに片っ端から電話します」

「よくやった。じゃあ響チャレンジの準備に行って来い!」

「…………ご、ごめん」

「どうした?」

「今日特番で生っすかお休みなんだ」

「………………」

「………………」

「………………」

「「「は!?」」」


音無さんがすぐに赤坂・ブーブーエスTVを検索して番組表を確認しに、俺と律子はスケジュール帳を確認した。
ない。
確かに日曜日は予定がなく。俺のスケジュール帳には睡眠と書かれていた。それは赤く消され横に赤い文字でらぁめんとデカデカと書かれてあった。
律子の方もスケジュール帳だと予定はなく、音無さんの方はバスケの試合があるようですと言った。
要するにお休みということである。
そう言えば前々から貴音に日曜日はオフだからラーメン食べに行こうと言われていたのを忘れており、おそらく家で俺を探しているのかもしれない。


「……よし、俺は急用を思い出した。帰るわ」

「いやいや、新しい家族に会って欲しい」

「なんでさ? そもそも家族は団欒するものだろ」

「それでもちょっとね」

「つーか。考えてみろ。そもそも俺なんかじゃなくて美希とか呼べばいいじゃないか」

「それがさー聞いてよ」


その新しい家族はどうやら響が勝手に家族と思い込んでいるのかもしれない。
理由は話を聞くところ、新しい家族はとてもでかいらしい。あと、話だけなのになぜかハム蔵が震えていた。
いや、話を聞く限りハム蔵以外のペットも震えていそうだ。
そして、一番聞いて驚愕だったのは新しい家族はちょっと遠くにいるのだという。しかも出会い方が響チャレンジの途中だったとか。
もはや家族というか本当に響が勝手に思い込んでいるだけとしか考えられないのである。
そんなわけで会いに来てくれとうるさい響だが、生憎こちらにも予定がある。
話が滅茶苦茶脱線してしまったが、美希は会いに行ったらしい。そしてもう二度と遭いたくないようだ。


「俺は予定があるから律子か音無さんを誘いなさい」

「なにがあるの?」

「貴音のラーメンめぐり」

「じゃあ貴音も一緒に来ればいいさ」

「残念ながら巡った後はお互い解散なんだ。悪いな俺の車はガソリンが丁度ラーメン巡り分しかないんだ」

「そんなこと言って……じゃあ社用車借りればいいと思うぞ」

「なんでそこまで俺らにこだわるんだ」

「だってほかに会ってくれる人がいなんだぞ」

「……あー」

「お願い! 貴音は自分からもなんとか言うからさ!」

「……えー」

「お願いしますよ。響ちゃん静かにして欲しいです」

「以下同文」


律子と音無さんまで響の味方になる。正確には静かになるならどっちの味方になると言うキョロ充というか子分というか金魚のフンである。
20分論争し続け結局俺が折れてしまった。貴音に携帯で用件だけを伝え、電源を切った。これで、ラブコールは電源を入れない限り来ない。
響はご機嫌なようでスキップしながら事務所から出て行った。俺もお疲れ様と言って事務所を跡にした。


車を走らせはや小一時間。ここは森である。
どうやらこんなところに響の家族はいるようである。美希とどうやってここまで来たのかが気になるのだが、自転車と思えば納得できなくはない。
響は車からおり「おーい」と叫んだ。森はシーンと自殺者の霊も呼び起こす位の大きさである。今の響のボリュームだけならレジェンドの娘さんに負けはしないだろう。

そして、俺の足が竦み上がった。美希が二度と行きたくない気持ちがわかった。


響の新しい家族らしき奴は空からバサバサとやって来た。
そいつは身体が真っ黒く、脚は前後合わせて4本。更に背中には異常なほど巨大な漆黒の翼が認められている。翼膜からは黒井毛状の鱗が生えている。
響が駆け寄ると雄叫びを上げ体の一部が変色した。更に翼だと思っていたところが脚になり6本脚になった。見るだけでも禍々しかったのだがそれがさらに増した。
こいつは何かというと俺は知っている。
ゴア・マガラというモンスターを知っているだろうか。「黒蝕竜」とも呼ばれる。
そいつである。何故こんな森に棲んでいるのかはわからない。しかも、響に全く襲う様子はない。むしろ、遊んで欲しいのか動き回っている。普通なら吹っ飛ばされるのに全く吹っ飛ばされない響。


「紹介するぞ! ゴマ蔵だ」

「…………」


正直名前などゴマゾウだろうがゴン蔵だろうがどうでもよかった。
つーか滅茶苦茶怖いから早く帰りたい。その一心である


「どうだ? 可愛いだろ?」

「滅茶苦茶怖いわ!」

「う、まーそりゃさ所は誰だって怖いと思うけど少ししたらすぐに仲良くなれるさー!」

「美希が怖くて二度と行きたくないようならば無理だわ」

「そ、そこまで言っちゃゴマ蔵が可哀想だぞ! それにでかいだけで実際はこーんなにも可愛いんだからな!」

「わかr……いや、わかりたくない」


図体の割には可愛いらしいと響は言うのだが、俺にはとても理解できない。
響はそのまま遊んでいるし、俺は響に帰ると伝えて逃げ帰った。

その夜、俺は貴音に一晩中土下座をして許してもらった。腰が痛くなったけどすっぽかした俺が悪いので仕方がない。


翌週


「新しい家族に会いに行くさー!」

「断る!」



終わり


55

間話なので、これくらいの量をもう1,2本
今回はこれで失礼しました

間話②
やよい「生徒会長に立候補されちゃいました……」

平日の誰もいない夜の時間帯に貴音と事務所のソファーでいちゃこらしていた時に電話がかかってきた。営業先からかと思ったが残念ながら俺の携帯電話からであった。
携帯電話だとアイドルからかもしれない。電話に出るとやよいからであった。
この時間にしかもやよいから電話がかかってくることは半年に一度あるかないかの珍しいことである。
ここんところ時間を取れていなかった彼女に時間を費やせるチャンスをぶち壊したのだが、相手も相手なのでストレートにふざけんなとは言えない。いや、事務所内では社長くらいにしか言えない。
肝心の内容というのだが、やよいの歯切れが悪い。確かに事務所じゃ言いにくいことを電話で伝えるのはよくある。
やよいの場合はよく、弟達の子守りで行けないとは良くではなく時々電話を貰ったことがある。しかし歯切れがこんなに悪い電話は初めてである。


「……どうしたんだ?」

「あの……実は私……生徒会長に立候補されちゃって」

「生徒会長?」

「はい……その友達に推薦されて……」

「なるほどね。要するにこっちに支障が出るかもしれないと」

「そうです」

「このことはまだ誰にも」

「はい。その中々言い出せなくて……」


わからなくもない。しかし、この続きが問題で、立候補が決まったのは先週だという。
つまり、引き下がることが出来なくなったわけである。
一応、先生に言えばアイドル事情で候補を降りることもできるようであるが、時間的に明日までが期限らしい。
とはいえ、いきなりのことでどうしようと言われても少し困る。
まず、時間がやよいにとっては遅いことである。次に期限が明日で時間をくれと言えない。
やめとけと言えば素直に断ってくれるだろうけど優しいやよいのことだ。断れず1人で今日まで葛藤していたのだろう。
まずはこれだけは聞きたい。


「やよいは生徒会長になりたいのか?」

「…………わからないです」

「わからない?」

「クラスのみんなが私のために応援してくれるって言ってるし、やるからなにはアイドルみたいに精一杯頑張りたいです。でも家のことやアイドル活動に影響が出ちゃうんじゃないかと……」

「あーなるほどな。やよいは優しいから今更辞めますなんて言えなかったわけだ」

「……はい…」

「…………すまん。少し時間くれ。そしたら俺からかけなおす」

「わかりました。すみません。いきなり」

「いや、気にするなよ。ただ、次からはもっと早く連絡してくれ」


電話をオフにし、俺は相談した。普段の彼女なら知りませんの一蹴されるのだが、仲間の相談事と一緒に考えてくれる。
だが、彼女は答えなかった。問題があまりにも難しかったようである。
俺も正直悩んでいる。このままでは立候補は確実である。しかし、やよい自身はまだなりたいかわからない。
おそらく誰かにやれと言われたらやるだろうしやるなと言われたらやらないだろう。


「どう思う?」

「…………わたくしには使命があります。そのためにわたくしはトップアイドルを目指しています」

「そしてわたくしはあなた様とずっといたい。だからわたくしはここにいます」

「しかし、やよいの場合は自分よりも周りが一番になれる選択肢を取る思います」

「ですから生徒会長というものがやよいにとって酷なものでも彼女は最後まで一生懸命やり遂げるのではないのかと思います」

「……あれだよな。結局全部やり遂げようとしてどっかで倒れるよな」

「はい」

「勉強に生徒会に家にアイドル。全てを熟すには厳しいと思います」

「……だよなぁ。しかし、俺は生憎生徒会には所属していなかったからな」

「…………」

「可愛い可愛い」

「ふぁ…」

「……しかし、どうしたもんか」


10分悩んでも結局答えなんて出るわけがなかった。
そのため、やよいになんとか明後日まで待ってくれと頼んだ。厳しい感じだったがなんとか先生に言っておくと言ってくれた。
電話を切り終えたころにはもう貴音とゆっくりいちゃらぶする気なんて無くなっていた。
彼女にもその感じが伝わったのか事務所の甘い空気が一変して重たい空気に変わってしまった。
彼女を抱きしめていたって解決策なんか見つからない。でも柔らかい。


次の日
俺は朝早く律子と音無さんに相談した。
だが、音無さんは話をややこしくし結局適当な返事しかしてくれなかったし、律子は本人次第と同じ仲間だろうが所詮他人事の様だった。
いや、律子の場合それどころではないのだろう。忙しくて。
やよいはなんとか持たせてくれるだろうけどもって今日までである。今日までに答えを導かなければいけない。
どうしたものか考えながら仕事を進める。仕事は大して進まなかった。

昼になった時、ふと思い出したことがあった。伊織は学校では生徒会のメンバーらしい。
らしいと言うのは記憶が曖昧で元かもしれないし、役員ではなかったりするのかもしれない。
ということで、頼みの綱を伊織に任せることにしたので仕事がなくなってすっきりしたので俺は昼飯をだらだら食べた。伊織に任せれば75%は解決である。


夕方
伊織が到着して律子よりもすぐに駆け寄ったら反射的に殴られた。


「ってぇ……」

「あ…あ、アンタがいきなり駆け寄ってくるのが悪いんだから!!」

「…………」

「……わ、悪かったわよ。いきなり殴って」

「俺の方こそすまん」

「なんか昔と変わったね」

「……そうかい?」

「ええ。昔なら変態だった」

「そんなバカな」

「バカはあんたよ。ありがとうございますとか言ってたくせに」

「……ああ。あの頃が懐かしい。俺にも大事な人が見つかったんだよ」

「あっそ。で、どうしたの? 慌ててたようだけど」

「ああ。そうだった」


俺はやよいのことを伊織に話した。今度は鳩尾に正拳突きを貰った。
5分くらい悶えていたらしい。
俺には全く記憶がないのだが、気が付くと半べそかいている伊織と激昂の貴音を抑えつけている音無さんと何とも言えない只今の事務所光景を目の当たりにした。
愛されてるのは嬉しいが、仲間意識も大切にして欲しい。


「……悪かったわよ……いきなり殴って」

「……いや、気にするな」

「伊織、次はいけませんよ」

「わかったわよ」

「……で、ヤバいって?」

「そうね。生徒会長って学校で一番権力持てるから。やよいだと平和になりそうだけどね」

「ただ、部費を巡ってすごいことになりそうね。部費のためにやよいにアタックする男子が増えるんじゃないかしら? にひひっ♪」

「……伊織の学校みたいに生徒会が最強なわけないぞ」

「えっ」


伊織の学校はギャルゲやラノベで良くある生徒会が教師よりも権力を持っているようである。
大方、生徒会長が理事長の孫だったり娘だったりするのだろうか。私立ならそうだろうけどやよいの場合はそうではなく公立である。なので、学校によるが理事長なんていないし生徒会にめちゃくちゃ強い権力なんかない。ましてや教師の使いやすいような足でしかない。
やよいの学校はやよいに聞かないとわからないので公立だと思うくらいしか何とも言えない。個人情報の資料はあったはずだが、探すのがめんどくさい。
ちなみに伊織の学校は生徒会長の気分でなんでも動くようであり、生徒会メンバーに伊織がいるから教師も下手に命令が出来ないのかもしれない。さすが私立。実際どうなのか知らないけど。
「それが当り前じゃない」と同意を求めてきた伊織だが、俺と音無さんは「高校でもねーよ」と一蹴した。
貴音は終始哀愁を漂わせていた。


「こんにちはー」

「来たか」

「あの……どうすればいいですか?」

「生徒会の仕事についてスペシャリストがいた」

「本当ですか?」

「ああ。伊織」

「伊織ちゃん?」

「生徒会現役役員よ」


ドヤってほどではないが、明らかに少し自慢した感があった。
あとは伊織に任せておけば大丈夫だろう。竜宮による営業時間ぎりぎりまで伊織はやよいに生徒会の仕事を説明してくれた。
この結果がどう影響するのかがやよいは営業に連れて行った帰りに聞いてみることにしよう。
ただ、聞いている限りやよいが張り切って立候補しそうな説明なのは気のせいだろうか。
絶対に伊織の学校の生徒会がやよいの学校の生徒会みたいなものと勘違いしている。


やよいに話を聞くのをすっかり忘れてしまい見事そのまま夜の事務所は彼女とのプライベートを満喫していた。むしろその頃には忘れていた。
そんなわけで翌日やよいがうっうーと俺に「辞めることにしましたー!!」って言ってきたことにはものすごく動揺してしまった。
しかもやよいが壊れてしまったのかと思うくらい元気なテンションで辞めるとか言ってきたので俺はアイドル達に何をしただの滅茶苦茶怒られてしまった。
関係者である伊織まで俺に襲い掛かってきた。なぜか千早まで辞めるとか言い出す。やよいが事情を説明してくれたおかげでなんとかその場は収まったが、音量を考えて欲しかった。


「……で、どうしてやめたんだ?」

「伊織ちゃんと言ってたことが全然出来ないんです」

「は?」

「がっかりでした」

「ああ……そう。まあ伊織の学校の生徒会がおかしいだけで基本はやよいの学校の生徒会みたいなものだから」

「そうなんですか? でもこれでやっと調子を取り戻せます」

「そうなのか? じゃあ景気づけにあれやるか」

「うっうー!! はいっ」

「たーっち!!」

「イェイ!」


END


余談・生徒会についての会話


「じゃあ……部費の配分も全部先生が決めてたの?」

「ああ。つーかまず変な部活ないから。SOS団とか隣人部とかごらく部とか極東魔術昼寝結社の夏とか」

「そもそも先生がそんな部活設立に許可だしませんもんね」

「そうですね。GJ部や奉仕部とかなかったですし」

「ゲーム同好会とかまずゲーム持ち込むのダメでしたよね。麻雀部は……今はどうなのかしら?」

「…………そんな厳しいの?」

「それが普通だろ。どんだけ部活あるんだよ」

「ざっと大学のサークルくらいあるんじゃないかしら?」

「都会の有名私大くらいかしら?」

「田舎は作るほど生徒や情報にイベントとかがありませんからね」

「えーっと……あ、そう言えば一つその……言い辛い同好会があったわね」

「は?」

「なんであんなの許可したのかしら?」

「なんていうの?」

「…………書いたわ」

「……さすが伊織の学校だ」

「触○孕ませ研究会……」

「それを覚えてる伊織……」

「死ね!!」

「げふっ!」

「…………」



「あなた様あなた様」

「いつつ……なんだ?」

「ではわたくしとの2人の夜を『ら部』と名付けましょう」

「……上手いな」

「ふふふ」

END




85

もう一本間話書かせてもらいます
実は推敲してないので申し訳ないですがミスがあったら変換お願いします
次回の投下も遅くなると思います
失礼しました

間話③
小鳥「酒」


注意
推敲が甘いかもしれません

この時期になるとわざわざ好き好んで事務所に長居する人は少ない。
理由は寒いからであり、事務所に長居しているとますます帰りたくなくなる。音無さんですら定時には逃げるように帰ってしまう。帰るのが辛いから。
長居してしまったアイドル達を送って行っても良いのだが、毎回はしんどいのでせめて週1とかになる。
そのため、誰もいなくなると俺にとっては事務所を第二の家として考えている。社長も仕事をやっているといれば追い出すわけにもいかないだろう。
第二の家と言っても私物を置いているわけではない。ただ、時間ぎりぎりまで事務所を俺だけの空間として扱えるのはとても爽快である。
そんな仕事なんて遅くても19時には終わらせているのでそこからはいちゃらぶする。もちろん貴音とだ。
別に何かしようというわけではない。ただ、一緒にいるだけで十分なのだ。会話も仕事の話はしない。する会話は女の子としてである。
ただし、果たしてそれがガールと話す内容なのかはわからない。


そして美希の誕生日を祝った次月も彼女と過ごすはずだった。


彼女はソファーで寛いでいて俺は仕事をしていた。もう少しで終わる。そしたら少し次の営業の話を彼女としてやっと普段の時間になれる。
そんな時に誰も来ないはずのオンボロ事務所のドアノブがガチャリと回った。
思わず俺達はドアの方を見る。突然の不意を突かれた来客にビビってしまった。しかもお土産付きで。
今日は付き添えないのは確定とも感じた。


「こんばんは~えへへ」

「音無さんどうしたんですか?」

「どうしたってのはむしろプロデューサーさんの方ですよ! あ、貴音ちゃんもこんばんは」

「こんばんは小鳥嬢」

「どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたも最近プロデューサーさん付き合い悪いじゃないですか」

「この前やその前も飲みに行きませんでしたし」


飲みニケーションはとっても大事ですよ~と、テンションが高い。
おそらく食べ歩きではなく酒で飲み歩きでもやって来たのではないのか。名前の鳥らしく歩き方が千鳥足っぽい。貴音がゆっくり音無さんを彼女の椅子に誘導した。
手に持っていたビニール袋が大きく音を立てて机に転がる。中からおつまみに缶ビールにチューハイがゴロゴロ出て来る。本気で俺と飲むつもり出来たようである。
もう少しで終わる仕事を本日中に終わらせることが出来ないと判断して、俺は貴音の隣に座った。飲み物はお茶。
音無さんドリンクを飲むと近い未来が視えなくなる。下手したら事後なんてこともあり得る。音無さん相手ではない。断じてな。
俺の考えていることを全く知らない事務員はなんか強そうなビール缶を開けた。音からわかるその美味そうな液体は俺達が見る間もなく事務員の身体の中に流れ込んでいく。
ゴキュッゴキュッという飲みっぷりは思わず俺も缶に手を伸ばしたくなる。


「ぷはぁ~っ!! やっぱりビールはサイコー!!」

「……ゴクリ」

「プロデューサーさぁ~ん。我慢は毒ですよぉ~ホレホレ」

「あの、飲みにけぃしょんとは?」

「……こういうことだ。要するに酒飲んで語り合うみたいなやつよ」

「飲み会とは違うのですか?」

「愚痴を言い合うのが飲み会。交流を深めるのが飲みにケーション。ぶっちゃけ違いなどこの事務所にはないな」


ちなみに前はよく音無さんに律子、あずささんの4人で、居酒屋で飲み会をしていたものだ。たまに社長も含めて5人。
真っ先に律子が突っ伏してあずささんが悪酔いして、音無さんが暑いとか言って脱ぎだしたり、結構無法地帯だった気がする。それでよく社長に助けてもらってた記憶がある。
それが今ではさっぱりでだ。飲むよりも素敵な時間を見つけたのが原因である。
そう考えると1人減ったメンバーだとやっぱりテンションも落ちるのかもしれない。
確かに社長に愚痴をぶつけるときは野郎の俺がいると勢いがあったけど、女3人だとやっぱりもうひと押しがないのかもしれない。愚痴の内容は知らない。

音無さんは飲み切った缶をゴミ箱に目掛けてシュートする。

ガンッ 


「あー!! ちきしょうはずしたぁぁ!!!」

「ちゃんと捨ててくださいよ」


「そんなことよりもどうして最近飲み会にいてくれないんですかぁ?」

「え? そりゃ飲み会も大事ですけど、どうせ俺が愚痴を聞いてるだけじゃないですか?」

「それがぁ?」

「なんで俺の愚痴を誰も聞いてくれないんですかね?」

「そんなことよりも私の話を聞いてくださいよぉ~」

「……飲みにけぃしょんとはこのような感じなのですか?」

「まあ……ね」


こんな感じで音無さんのサプライズプレゼンツはgdgdながら始まってしまった。
俺はそんなに弱いわけではないが強いわけでもない。よくわからないが、缶なら3缶くらいまでだ。問題は酒を飲むと彼女を送ることが出来なくなってしまうので我慢している。
そんなことも知るはずもない音無さんが俺に進めて来る。しかも缶ではない瓶ビールだ。
音無さんが奮発するのは珍しいのだが、泥酔した時にいつの間にかツケが俺に回ってきた過去があるので警戒してる。
とはいえビールは最近酒類を飲んでない俺にとっては喉を通したくなる。手を出すか出さないか、葛藤したら多分勝てない。
飲まない理性が瞬殺されたので、瓶に手を伸ばす。もう少しで目標物をゲットできる直前で横取りされた。


「アイドルの前ではしたない姿を見せるのですか?」

「いや、音無さんの御好意を断るわけにはいかないだろ」

「なんだったら貴音ちゃんも飲まない?」

「いえ、わたくしは……ひぅんっ!」

「!?」


俺の彼女が酔っぱらっている事務員にセクハラされている。しかも、後ろから鷲掴みである、鷲掴み。
酔っ払いに絡まれている彼女を助けるべく引き剥がしてやりたいが、強引に引き剥がすと変なテンションで更に悪化しそう。
男女平等パンチの場合では音無さんも貴音もそんな風な解決は望んではない。
では思いっきり怒鳴る。これだと後々の空気が死ぬので却下。
それなら傍観しているのはどうか。それだと、ヒロインが目の前でひどいことをされているのに助けられない惨めな奴みたいでというかNTRは勘弁。
割って入ると言う手もある。でもこれだと引き剥がす同様に変なテンションに加えて酔った感が働いて関係がバレるかもしれない。

頭をフルで働かせて7秒で答えを導き出した。


「音無さん! ビール飲みましょう!」

「あっ! それ新商品のビールなんでしゅよぉ~私にはこっちを!」

「はぁ…はぁ…」

「貴音は音無さんに襲われちゃいけないからこっち来い」

「はいぃ…」


酔っ払いには酒が合うんじゃないかと言うわけで、酒を出したら見事に釣れた。
それと同時に彼女を助けることが出来た。ただし、俺が酒を飲むという犠牲付きなのだが。
しかも、問題もある。ハッキリ言うと俺は音無さんに勝てない。いや、勝てる自信がない。
酒が元から入ってる音無さんとはいえこの人はさらに飲む。理由は飲み会でわかっている。
恐ろしいのが物凄い量を飲んだ次の日ケロリと事務業をやっていることである。
あずささんと律子は次の日の午後出勤で社長なんか事務所に顔すら出さない。
そのため、俺はこの一缶で今日は辞める。
俺は片手に缶を持ち戦場(飲みにケーション)に向かった。


意識が戻った時に目が合った。頭が痛い。二日酔いだ。
身体を起こそうとするが、目が合う人物に制される。ここはどこだかよくわからない。
ただ、周りが暗い。夜が明けてないのか部屋自体がくらいのかの二択である。
暫くすると目が慣れてきて目が合う人物がわかった。もちろん彼女では……ない!?


「えっちょっ! 誰だ!?」

「あわわわわ! しー! しぃー!! 声が大きいですよ!」

「…………音無さんですか」

「貴音ちゃんが起きちゃいます。あと、落ちちゃいます」

「落ちる? …………えーとどういう状態なんですか? 貴音は?」

「膝枕です。プロデューサーさんと私と律子さんの椅子を繋げてですね」

「貴音ちゃんはソファーで……えっとその……すみません。どうやら私またあずささんみたいに悪酔いしちゃったようでして……えーとえと…とにかくごめんなさい」

「…………ちょっと俺の意識のない間のことを教えてください」


酔っている音無さんの回想が始まる。ちなみ、俺はそれを聞いたので、音無さんの記憶に俺の解釈によって多少の誤りが生じるかもしれない。
俺が一缶飲んだあたりで貴音に追加を買いに行かせた。ここまでは俺も覚えている。彼女は止めたが、痴女から守るべく俺は二日酔い覚悟で買い出しに向かわせた。

1人で行かせるのに今思えば抵抗あったかもしれないだろうが、酔いが回っていたのと、外の敵よりも事務所の敵の存在が大きすぎて見えていなかったと今なら思う。

そう言えば、おつまみ手柄に音無さんが営業のお礼で持ってきたお菓子を進めてくれた。これを食べてしまったのが失敗なのかもしれない。
缶で酔わなかったのに急におかしくなった気がする。音無さんはウイスキーボンボンを持ってきたようでこれを貴音が戻ってくるまでにだらだら食べていたのが原因だった。
酔いが回っているから気付かなかったのかもしれない。いや、気づいていても飲みにケーションということで気にしなかったのかもしれない。


そしてだらだら食べながら恋愛トークで音無さんが泣いたところまで覚えている。
いや、もう記憶が限界でこれ以上は頭のズキズキが引くまで思い出せない。
ここから完全に音無さんの記憶の話である。酔っているので、実際はどうなのかわからない。
しかも音無さんも曖昧な記憶なので簡略する。
恋愛トークで俺はやたら「貴音がー貴音がー」と嘆いていたようである。しかも娘のように涙ぐみながら語っていたとか。
貴音が戻ってくると俺が貴音に思いっ切り抱きしめて泣いたらしい。
音無さんがずるいーとかで乱入しようとしたがなんかすごいこと言ってしまったようで……そのまま俺は泥酔。

俺をソファーに寝かせた後は女子トークであったらしい。
ガードマンがいない彼女に痴女はセクハラしながら質問攻めしたようである。
そこんところは音無さんも朦朧としていて覚えてないようである。
あとは酒を進めて飲んだらしい。


「…………いや、ほんとすみません。やっぱり居酒屋が一番ですね」

「それで、なんで俺は膝枕を?」

「……えーと……なんか貴音ちゃんが今だけはって……」


なるほど。わからん。
時刻は深夜3時。ソファーには音無さん。
俺はこの時間帯ならパパラッチはいないだろうと信じてだらだら寝ている彼女をおぶりながら彼女の家に向かった。
多分、明日は遅刻確定だろう。そして多分俺は彼女の家で力尽きるだろう。
それでも、やっぱり朝起きると彼女の顔で起こされた方が最高に気分が良いからだ。
音無さんには悪いけど俺には貴音がいる。目が覚めたら貴音に膝枕されていることを期待して、俺は貴音をベッドに寝かせたところで力尽きたようだ。


翌日の13時。
俺は膝枕どころか正座していた。無論昨日ことである。
どうやら膝枕が気に入らなかったようである。おぶって送り届けたプラスは知らないようで膝枕のマイナスを覚えていたため朝から軽蔑の仮面が崩れていなかった。
とはいえ、あれは彼女も少し認めていたのではないか。
しかし、そのようなことは知らないと言っているので、完全に酒の影響である。
「もういいです!」と、彼女は事務所に向かってしまった。
やらかした。しばらくは会話できないし、家に行けないし、死にたくなった。
音無ふざけんな


END



100

話をうまく畳めなくてすみません
以上で閑話は終わりです
次回から最終章みたいな話にします
更新は相変わらず遅いです
失礼しました

わかったことがある。
俺は貴音の時ほど制限はない。例えば服装もスーツのままだし、服を脱いでも着替えても耳鳴りとかのポルターガイストは起きていない。
と、現在わかってことはこれだけであり、今は俺の謎の疾走が現在進行形で進んでいる。
一応、律子と音無さんと社長が連絡つかない俺を無断欠席という扱いで休みにさせた。嬉しいのやら悲しいのやら複雑なのだが、ちょっと体を休ませることが出来て良かった気がする。
律子は必要以上に貴音にどこにいるかを聞いていたが、彼女は答えることが出来なかった。
痺れを切らした律子が投げやりに思い出したら教えてちょうだいと言った。

しかし、俺は後々の復讐劇と現在の事務所の状態を見ると今休むのはいけないことが良くわかる気がする。まず、普段オフィスレディの音無さんが珍しく事務所内を駆け回っている。
受話器を持つだけではなく電話機ごと持ってコード限界に動き回っている。
社長も俺の机の書類(仕事完了済み)をもって書類先の事業所に出向いて行った。律子は竜宮もあるため、3分の1の量の書類を持って出て行ってしまった。

そんな中、平和にラーメンを食べていられるわけにはいかない。
貴音は普段音無さんと律子がしているホワイトボードにスケジュールを記入する仕事をよろしくと任されている。俺がやってもいいのだが、音無さんが見たら電話のケーブルを引っこ抜くくらい転びそうなのでやらないでいた。
と、いうよりも一般的な猫にはそんなマジックとか持てない。
第一に俺がいても何も問題ないのが、事務所の関係者の適応力のすごさと言えるだろう。


そういうわけで、律子と音無さんの難解なぐちゃぐちゃスケジュールノートを2人で悪戦苦闘しながらなんとか写すことに成功した時は既に昼を迎えていた。
音無さんは普段手作り冷凍弁当を持ってきているのだが、この日はまだ冷凍手作り弁当がまだ机に現れていない。それどころか、音無さんは貴音に弁当を譲ったのだ。
食べている時間がないようであり、ゼリー飲料の口に咥えながら普段漫画タイムを返上して仕事をしていた。俺のせいでごめんなさい。
貴音は音無さんの弁当を食べることにして問題は俺である。前回は二人だけだったが、今回は音無さんがいる。だから俺は猫が食べなさそうなものを食べていたら口に咥えているゼリー飲料を落とすのではないのか。


「貴音よ」

「はい」

「フォークを持ってきてくれ」

「わかりました。しかし、ふぉおくを」

「死角で食べれば大丈夫だろ」

「なるほど。あなた様は頭が良いですね」

「…………問題は、この会話を聞いている音無さんの反応だな」


この会話は俺と貴音なのだが、端から見ると貴音が独り言をしている。
しかも、『あなた様』を使っている時点で明らかにヤバいと思われそうである。猫にあなた様と言っている時点でな。
しかし、皮肉なことに彼女は元々面妖アイドルだったので、今更猫にあなた様と言っても不思議ではない扱いだった。俺の時は精神病院まで紹介されたのにやはり、商品と販売者では全然違う。
それで、俺の昼飯なのだが、「豪華なものを食べているのです」と貴音のおかげで俺は事務所に帰ってきた律子から持ち帰りの結構冷めた牛丼屋の牛丼にありつけることが出来た。豪華のかは彼女しかわからないが。
ただ、無駄な知識が余計で、玉ねぎを抜かれた。というか、貴音に結構食われたため、午後は空腹でくたばっていた。
端から見ればただ、猫が寝転んでいるだけという、微笑ましい光景と寒いギャグでしかないが、彼女からすれば申し訳なさい一杯であったと思いたい。


午後3時になった。
突然貴音は俺を家まで連れて帰ろうとした。理由はわからんが、忙しい音無さんに送迎を頼むわけにもいかない。しかし、貴音は歩いて帰るとまで言い出して聞かなかった。
俺が宥めてもむしろ俺のためとわけわからん。しかし、彼女の顔には嘘が書いていない。
つまり、未来予知かなにかで何かが起こると言うわけだ。
それでも、大丈夫だからとなんとかその場を凌いだのだが、どうなっても知らないと見捨てられてしまった。
何かが起こるなら身体一つくらい犠牲にしてやるさ。彼女のことならな。

悪魔が去った後、俺は貴音に膝枕されていた。
悪魔とは悪戯好きな双子姉妹のことであり、彼女が俺をなんとしても家に連れて帰ろうとしたのはそのためであったのである。
それに気付けなかった俺はとんだ大馬鹿者である。
超わかりやすい回想ならば


「いやっほ→」

「あれ?……今日は珍しくお姫ちんだけ?」

「いえ、小鳥嬢がそこに……」

「あ、こんにちは。生憎今手が離せないから今日の人生ゲームはなしね」

「ぶー! おっ! お姫ちんその猫は?」

「あー亜美も気になるYO!」

「この猫はわたくしが朝連れてきました」

「触らして触らして!!」

「真美も触る→」


そして、俺は逃げたが速攻で捕まり、もみくちゃにされた。
前回はエロうさぎ貴音であったが今回はキモイおっさん俺であるので、貴音にとっては目の衛生がよろしくない。とはいえ、俺も多少は反撃したので、そこまでダメージは来ていない。
けれど、彼女の元に逃げたらなんとかなった。
膝枕がどうやら膝の上で座っている風に見えるらしい。しかし、例えそうでないように見えていても恥ずかしいには変わりない。それは俺の羞恥心からかもしれない。
膝枕は野郎にとっては憧れであるが、周りに見られての膝枕は頭が沸騰しそうで精神上よろしくない。
そういうわけで、お姫ちんの猫というポジションの俺はお姫ちんによって助けられたのである。たまにアイドルが触りに来るが正直くすぐったい。
犠牲になることになったのだが、無駄な犠牲で迷惑をかけただけだった。ごめんな。


夜になった。
収穫は一日で猫になった俺。以上。
家は彼女の家に泊めてもらうことにした。俺の家でも構わないのだが、行方不明な俺の代わりに彼女が出入りするのは不自然過ぎ、何かあるに違いないと、目撃者は思うのではないだろうか。
というかまず炎上である。
ちなみに本日の俺は無断欠席となってしまった。書類は溜まったので、持ち帰って処理する。
ただ、俺には発言権がないので、彼女に代弁してもらったら律子に貴音に出来るわけないと言われた。正論だが、少し意固地になった彼女が持ち帰ってきた。
俺にはありがたいが、ひょっとしたら貴音が俺の代わりに暫くプロデューサー業をやるかもしれない。それは良いのだが、営業先の汚い野郎どもにセクハラされないかが物凄く心配な俺がいる。
仕事は普通に出来た。俺自身は人間であるのが救いだったのかもしれない。端から見るとどのように映っていたのかが気になるのだが、もしも俺自身が映っていたとなるとどう反応するのか。まだ悪戯と思い込むのか。

いずれにしよ、俺が戻るのは今年戻れれば御の字な気がする。
それまでに戻りたいのだが、前回も得た情報と関係ないところで元に戻れたわけであり、予想とするならばどこまでが人間でどこまでが動物なのかを早く見つけるくらいである。
食事もあまり苦労はしないが、この時期の事務所的には食べる場所を選ばないといけない。俺だけだが。
そういうことを考えて、俺は彼女の営業などの仕事を出来るだけ午後にした。そうすれば昼飯を家で取り、そのまま現場に直行が可能である。


「……あの」

「どうした?」

「あなた様が運転なさるのですよね?」

「そうだが……あー」

「……その、無理をしなくても良いのですよ。このところ多忙で疲れが目に見えているのではないでしょうか?」

「話が違う方向に行ってる。今の俺じゃ見世物小屋に送り出されちまうよ」

「なんと!? …………そうでした」

「だから、しばらくは徒歩だな」

「わたくしは構いません」

「でもさーいくら俺が要るとはいえ、やっぱりアイドルを独りで帰らせるのは危ない」

「…………」

「……すまん。俺がこんなんだから」

「いえ、わたくしも迷惑をかけた過去がありますから……謝らないでください」


辛気臭くなったところで今日はお開きになった。
完成した書類は明日貴音が律子にドヤ顔で差出し、俺は社長を殴ってみることにした。
そうすれば少しはこの体の状態についてはわかるのかもしれない。事務所内の反応は明日わかることだし、予想でもしながら今日は眠りについた。


2日目
貴音がバーンと律子に資料を突き出した。
律子はパラパラ資料をチェックし終えると感謝どころか更に貴音に書類を押し付けたのだ。


「……これは?」

「それ出来たならこれもお願いね。プロデューサー今日も無断欠席だと思うし」

「悪かったな」

「……あなた様、お力を…」

「ああ、良いよ。これくらいちょろいし」

「さっきからぶつぶつ言ってないで手を動かして」


俺がパパッとやると小一時間で終わるが今の俺はアドバイスしか送れないので思ったよりも時間が掛かった。
だが、律子や音無さんは絶対に誰かにやってもらったであろう書類を彼女が処理している光景を見ていると少しばかり唖然としていた。
終わったころには午後を回っており、昼を取る間もなく営業に彼女は駆り出されていった。
ここにいても、俺はまた双海姉妹に襲われそうなので、彼女に付いていくことにした。
とは言っても(用の営業が何なのか度忘れしているが)営業先では遠くから見守る程度である。カメラに映るとどうなるのか俺はまだ知らない。知りたくもない。
まさか猫であろう生き物が変な野郎として貴音に可愛いがられていたらおそらく事務所に電話が殺到する。
音無さんがジャパニーズカロウシしてしまうに違いない。

>>174
用×
今日○

何故か営業先での彼女は張り切っていた。
なんか周りのオーラが少し違ったのだ。ラジオのゲスト出演だけなのに明らかに出演者よりも出演者らしい。すぐに特番でも組んでもらえそうな気がした。
ちなみに俺は貴音になついた猫ということで彼女が無理矢理連れ込みをしてOKを貰った。
普段はNGなのだが、大人しいのと、彼女から離れないしつけがなされているという理由が納得いかないが、仕方がない。中身は俺だし。

結局、俺は社長を殴れずに二日目が終わってしまった。


3日目
朝早く俺は彼女ともに事務所に行き、社長が来たと同時にぶん殴った。

                   _ _     .'  , .. ∧_∧
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   / /     | (_         !、_/ /   〉
  `、_〉      ー‐‐`            |_/


「ははは。どうやら私は四条君の猫には嫌われているようだね」

「……平気なのですか?」

「猫パンチは可愛らしい物じゃないか。しかし、彼は本当にどこに行ってしまったのか」

「…………」

「済まないが、四条君に付き添わせる予定だったロケは1人で行ってくれないか? いや、猫君もいるから大丈夫かな?」

「わかりました」


新たに分かったこと。
どうやら俺の攻撃はダメージがゼロに近い。
つまり、貴音の傍にいることが出来ても守ることはできない。守護霊みたいな存在であった。
しかし、ロケが決まったので、俺達は行くしかない。
信頼性の問題もあるが、俺だったら絶対に反対させていた。
しかし、なぜか社長は大丈夫だという確信を得ている顔だったので不思議に思えた。

当然成果などこの日も終わってしまった。
俺はこっちの生活に慣れてきて若干怖い。

次回で終わらせます
今年に終わらせれタラいいな
失礼しました

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