P「俺にしか貴音が見えない」 (58)

※読みにくい文章だと思います。
短いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1379200422

ある日曜日。
本日は珍しく予定もなく家で朝から寝ていた。
土曜日まではアイドルと同等のハードスケジュールをこなしていたので俺はものすごく疲れていた。いや、仕事をすれば人間誰だって疲れるものだろう。
そもそもそのスケジュールを組んだのは俺であり、俺のせいでもある。
しかし、その分うちの事務所のアイドルが芸能界で活躍してくれた分俺は嬉しい限りである。


目が覚めたのは14時55分。テレビを付ければもうすぐ今週の生っすかサンデーが始まる。
さっきの言葉を撤回しよう。確かに今日は生っすかサンデーの収録があったのだが、俺はハードスケジュールをこなすことが出来ずに昨日ぶっ倒れてしまったのだ。我ながら申し訳ないことである。
そのため、アイドルに事務員にプロデューサー、そして社長にまで日曜日は休むように命令されてしまった。

多少の社蓄魂を埋め込まれている俺は行こうとしたが、社長に給料を0円にすると言われたので行かないことにした。さすがに0円だと今月の家賃や生活費がなくなってしまうから困るのである。身体は動けるのだが、働けないのはつらいものだ。
よくよく考えればもし、風邪でも引いていたらアイドルに移してしまう。そう考えると休ませてもらって正解だったのかもしれない。
労働基準法? そう言えばそんなものはあったような気がする。


今週の生っすかサンデーが始まった。開幕は響チャレンジのようで今週は千羽鶴を作る地味なチャレンジだった。早くも4羽完成されているが、視聴者も司会者もカメラさんにも地味に感じただろう。
そんなのをお構いなしに黙々と鶴を折り続けける響は今日のKYだろうか。

響の次には菊池真改造計画である。俺はいったんチャンネルを変えて天気予報を確認した。
今週はずっと曇りがちな天気で晴れがあまりない。あったとしても雲に隠れてしまっているためにじめっとした空気が続くだろう。

再びチャンネルを戻した。司会者である春香・千早・美希がその場しのぎのアドリブ会話をしていた。おかしい。

ふと俺は携帯で律子に確認を取ろうと転がっていた携帯を拾うと……
新着に5件。律子からの電話があった。更にタイムリーに現在もマナーモードなので形態は震え続けていた。


「もしもし」

「あ、プロデューサー! お身体は大丈夫ですか?」

「疲れはそう簡単に取れないよ。でもちょっとは楽かな」

「そうですか」

「それで、どうした?」

わざわざ5件も律子が身体の具合を聞いてくるようなお人好しじゃない。
俺は本題に入った。律子は慌てているようなのかわからない。
ただ、一言

貴音を知りませんか?

それだけのために電話をしてきたのだ。
四条貴音。プロデュースしているアイドルの1人。彼女の独特の空気はよく俺も虜にされてしまう。律子の話によれば貴音が今日の生っすかサンデーを無断で休んでいるようだ。

なるほど。俺はスケジュール帳の本日の予定を確認してみる。
確かにラーメン探訪はあった。しかし、今日は予定にないはずの菊池真改造計画が長々とやっていた。合間をとってたまにあみまみちゃんが入っている。今日の視聴率は悪いな。


「ご存知ですか?」

「いや、悪いが俺はぶっ倒れて家に帰って意識を失って取り戻したのがちょっと前でな。わからないな」

「そうですか。響に聞いたら電話はかかってきたけど無言で、そのまま切れてしまったようで……」


律子は困り果てたようで、俺に聞いてきたのだ。とはいっても、知らないものは知らないのであり、ここで沈黙や電話をしていても貴音が見つかるわけではない。
結局俺が言えたことは生っすかをちゃんと最後までやって、終わってから貴音探しをするべきだと伝えた。アイドル達にもそう伝えてくれと言った。

律子はそれに素直に従ってくれて電話を切った。
珍しいこともあることだ。貴音が無断欠席だなんて……。
ひょっとしたら親族が昨日の夜に体調を崩したりしてそのまま帰らぬ人になったのかもしれない。それなら仕方がないが、最低でも音無さんには連絡一本でもしてほしいものだ。
まあ緊急時にそんなこと出来ないか。


その後もだらっと番組は続いた。結果的にはみんなまともに動いていたので結果的には成功で視聴率的には失敗な気がするが、昼ドラ相手には善戦しているし、良しとしよう。
身体も起きてきたし、外に出て事務所にでも行こうか。いや、給料が下げられる可能性があるので、行かないで夕飯を買って帰ることにした。

次の日
今日も休めば身体にとっては優しいものだが、昨日の分の返上をしないといけないので朝早く家を出た。通勤用ママチャリに乗って事務所にも一番早くついて、今週のスケジュールを確認する。
確認を取り、コーヒーでも飲もう。のんびり、コーヒーでも淹れている間に二番手の音無さんが来た。音無さんは私にもくださいと言ってきたのでブラックを淹れてあげた。


「おはようございます」

「おはようございます。お身体はもう大丈夫なんですか?」

「ははは。本当は今日も休みたかったんですがね」

「無理しないでくださいね」

「ええ。ご迷惑おかけしました」

その後、社長に律子が来て俺は謝罪して本日の仕事が始まった。とはいっても俺はアポを取ってあるので午前中の仕事はサクサク終わった。
問題は午後のレッスンの送り迎えと営業の送り迎えというそこそこのハードスケジュールをするのが本日の大きな仕事である。
まあレッスンはまだしもこの営業に遅刻は厳禁なので送る順序があるわけで、交通量か信号さえ味方してくれれば楽勝なのである。


午後の16時ころになるとアイドル達がぼちぼちと事務所に来る。
最初に中学生組が来て高校生組が来る傾向が多い。別にそれがどうしたというわけでもない。
どうせ、竜宮小町である伊織と亜美はすぐに律子に連れ去られてしまうわけであるので、あんまりコミュニケーション取れていない。今度取ろうか。
そんなわけで今日の予定のある真美とみんな揃うまで適当に会話していた。


「そーいえば、今日事務所に来る途中で珍しい生き物亜美と見つけたよー!」

「珍しい? ネズミか?」

「んっふふ~知りたい?」

「まー」

「うさぎを見つけたんだよ」

「うさぎ?」


真美の話だと、事務所に来る途中に一匹のうさぎを見つけた。そのうさぎは事務所近くの公園にいて、真美と亜美で追い掛け回したが、捕まえることが出来なかったようだ。
あの双子から逃げ切れるとは大したうさぎだと素直に感心したい。
しかし、野生なのかわからないがうさぎが一匹ここらで見るとは本当に珍しい今度俺も拝んでは見たい。

今日の全員の仕事は終わった。
結局貴音は来なかった。二日続けて無断で休むのは良くないのだが、今週は営業を入れていないので、営業先に謝罪の電話をしなくて済んだのは幸いだ。
病み上がりの俺には少しきつかったけど終われば楽になれる。
そんなわけで事務所を後にして、俺は通勤用のママチャリに乗って事務所をあとにした。
とは言っても今日は自転車を漕いで帰るのは少し危なきがしたので、押して帰ることにした。
別に漕いで帰っても漕がなくても時間だけの違いなので別に良いのだが。
…………何かつけられている気がした。

家について俺はベッドに倒れた。
身体の調子はまだよくない。変に疲れが残っている状態で仕事をしてきたせいか、ぶっちゃけると二日続けて休みを取りたい気分だ。というかもう何も食べずに寝たい。
そんなわけでお休みと行きたい時にピンポーンとインターホンが鳴った。
珍しいこともあることだ。こんな時間にインターホンが鳴るなんて明日は休めるに違いない。


ガチャリとドアを開けて

「お助けぇぇえええ~」

「ぐえぁぁぁあああああ!!」

俺はタックルをくらい押し倒された。軽く意識が飛びかけた。
バタンとドアが閉まりゆっくり視界を確認する。見慣れた銀色の髪の少女に押し倒されている。
誰かわかった。二日間連絡の取れなかった。四条貴音がそこにいた。その貴音に押し倒されて抱き着かれているところまでわかった。
だが、貴音は少しどころかすごい格好をしていた。長いうさぎの耳に蝶タイ。見えそうで見えない露出した胸。さらにその胸を隠している黒い服と、足をセクシーに見せるの黒網タイツ。
そして、お尻の部分に丸くて白い尻尾。要するにバニーガールの恰好をした貴音が家に押しかけてきたのである。


「……どうしたんだ? そんな恰好で?」


バニーの貴音を家にあげてはや30分がたつ。それまで貴音は泣いていたので、まともに話が出来なかったわけである。ただ、貴音のバニーガールのおかげで疲れが吹っ飛んだのである意味感謝もしている。
貴音以外に気になる点もある。貴音を家に上げた後、うさぎを見なかったといういう人がやってきた。まあアパートだから飼っていたうさぎが逃げ出したのかもしれない。俺はいないと言ってドアを閉めた。

「…………聞いてくれますか?」

「ああ。むしろ、着替えろよ」

「それが着替えられないのです」

「はぁ?」


貴音の話によると二日前の朝、起きるとこの恰好になっていた。着替えようと耳を外すとどこからか音が聞こえる。更にバニースーツを脱ごうとすると今度は常に誰かに見られているような視線が離れない。怖いものが苦手である貴音は結局脱ごうにも脱げずに着ていたままとのことだ。
一度勇気を出して完全に着替えたようなのだが、着替えている途中に本が落ちたり、勝手に水が流れるなどのポルターガイスト現象が襲ったのだ。その恐怖におびえながら再びバニーガールに着替えたのだという。
不思議なのはバニーガールの時だけはポルターガイスト現象に襲われたりしないらしい。
またトイレとお風呂の時だけは脱いでも何にも障害が起こらないという紳士的な不可思議現象なのだなと思う。

更にどうやら、周りの人には貴音がうさぎに見えるというようなのである。
そんな馬鹿な話に耳を傾けるのはあの音無さんでも医者に行けと言われそうだが、さっきのうさぎを探している人の話を聞くと多少信じてしまいそうである。

「……じゃあ電話はどうした?」

「響に電話をしました。しかし、響にはわたくしの声が伝わらなかったのです」

「は?」

「ですから響に電話しましたが悪戯と勘違いされてしまったのです!」


そう言えば、昨日律子の会話の時にも響に電話がかかってきたと言っていたが、無言電話だったような。
そうなるとつじつまが合うような気がする。ただ、それはまだ俺の知らないだけでドッキリなのかもしれない。しかし、目の前の貴音を見てドッキリには思えない。
が、少し確認したいことがあったので俺は携帯で電話を掛けた。


「……あ、すまん。深夜遅くにすまんな」

『別にいいよ。どうしたの?』

「ちょっと話がしたいやつがいるようだから代わるから」

『うん』

そう言い俺は貴音に形態を渡した。電話の相手は響である。もし、響が反応したら貴音にもうちょっと説明してもらう理由がある。声に反応しなくても電話に出てもらう必要があるのだが……


「響、響ですか!」

『…………』

「響!」

『……プロデューサー!! まだかー!』

「……そんな…」


貴音の顔にかすかな悲哀の情を漂わせる。どうやら本当に俺以外に貴音の声は聞こえていないようだ。
俺は携帯を受け取り、響に適当に謝って電話を切った。
その後、起きてそうなアイドル全員に片っ端から電話をかけて貴音に代わってもらった。
最初はなんとか慰めることが出来たが最後のアイドルあたりまでになるともう何も口にはできなかった。同じ作業の繰り返しが40分くらい続いた。
結局、悲しい結果として貴音の声は誰一人届かなかったのである。

次の日

貴音が謎の疾走をしてから三日。
貴音は事務所に行きたいというので連れていくことにした。ママチャリに乗るバニーガールは少しシュールな気がするが、貴音の話が本当ならばうさぎを乗せたチャリを漕いでいる俺のようである。
どっちにせよ、物珍しさで見られる俺がいるのだが、ちょっとひやひやしたのがうさぎに見えている貴音をひったくられないかである。なんとかそのまま事務所に戻って来れたのだが、別にそんなこともなかったのでなぜか安堵してしまった。


事務所に入ると音無さんが迎えてくれた。

「おはようございます」

「おはようございます。あら? どうしたんですかそのうさぎ」

「うさぎ?」

「ええ。足元にいるじゃないですか?」

「…………」

「それ本当に言ってますか?」

「えっ? は、はいそうですけど……」

音無さんの言ううさぎとは貴音のことあり、しかも本物のうさぎと勘違いしているようであり。だが、逆に音無さんからだと俺が貴音に見えるのもおかしい話だと思う。
と、ここで少し音無さんに頼んでみることにした。
さて、俺と音無さん。どっちが正しく見えているのか。


「音無さん、すみませんがここのうさぎをソファーに運んでくれませんか?」

「え? まあはい」

「あなた様?」

「その場にいてくれ」

「?」

ちょっとした実験をしてもらう予定で、音無さんが貴音といううさぎを持ち上げることはできるのかという実験である。もし、持ち上がるくらいであれば帰りにひったくられたら対多分俺のママチャリでは追いつけない。
だが、重いと今度は音無さんにこいつはうさぎかと疑われるような気がする。
音無さんが貴音をつかみ……


「……あ、あら?」

「どうですか?」

「ずいぶん重たいうさぎですね」

俺から見ると貴音を抱っこしようとしているが……まったく動かない。
どうやらうさぎの体重は貴音の体重に依存しているようで身体すべてがうさぎになったわけでないようで安心した。
結局音無さんは降参して貴音が俺の傍にそそくさと寄ってきたのであった。
音無さんは結構なついているんですねと言ってくれた。なついているものなにも俺からすれば貴音である。


その後律子に社長が事務所に来たが、見えているのは貴音ではなくうさぎだった。
もしかしたら俺が貴音に見えている方がおかしいのではと思うくらいである。
しかし、俺がおかしいと思ってもそれは貴音も一緒であり、そんな会話の通じない孤独なところに貴音を一人にするわけにはいかないので上手く話を合わせる必要がある。

昼になった。
俺は適当に買い出しに行ってくればいいが問題は貴音であり、昨日はそのまま寝てしまってわからなかったし朝はサラダを食べてきたから何とも言えないが、貴音は何を食べるかだ。
そのことを紙に書くとどうやらラーメンが食べたいと言ってきた。食えるかどうかは別としてラーメンを食べるうさぎを律子や音無さんがみたらどう思うか。だが、貴音も元気ないのでせめて食べ物くらい好きなものを食べさせてやろうということで、大盛りの出前を2つ頼んだ。
この光景は音無さんたちにはどう映るのかも少しは気になった。
……だが、生憎音無さんと律子は下のたるき亭に行ってしまったので結局俺と貴音でラーメンを食べた。
いないとなるといたらどんな反応をするのか楽しみな気持ちが生まれるのは人間の性分だと思うのは俺だけなのか。

夕方になるとアイドルが少しずつ事務所に来た。
やはり、興味深そうにうさぎという貴音を眺めている。どうやら真美と亜美は前に見たうさぎのようで、触りたいと言い出してもふもふ~とか言いながら触っていた。
この微笑ましい光景は俺からすると激しいレズレズしい光景であり、真美と亜美が貴音の身体中を触ったり揉み揉みしているわけであり、貴音の色っぽい声が俺の理性という壁にドリルで穴を開けていた。
理性破壊は律子が亜美を、真美は触り飽きたのかゲームを引っ張り出してソファーに寝っ転がったあたり、貴音は解放された。
うさぎは双子に触られて疲れてぐったりしているようなのか。ふつーに寝っ転がっているうさぎに見えるのが普通だが、俺にはバニースーツが少し肌蹴て、息を荒くして床にぐったり寝ているエロうさぎの貴音である。
太宰治のカチカチ山の兎に惚れてる狸の気持ちが良くわかる。
限界な俺はトイレに逃げ込んだ。


どうやらうさぎのおかげで今日も貴音の連絡ない重い事務所が軽くなった気がする。
もっともそのうさぎが貴音なのだがどうすればよいのかわからなかった。

うさぎは寂しくて死ぬ。そう言い張りしばらくは貴音が家に住むことになった。まあうさぎを家に返しても途中で捕まってしまいそうだし、何より事務所のみんなが俺のうさぎと勘違いしている。
家に戻ってきてふと気づいたことを伺ってみた。
昨日はあまりの衝撃なことで気付けなかったので今回は来てみることにした。


「なあちょっと聞きたいんだけど」

「なんでしょうか?」

「どうして俺だけは貴音が見えるんだ?」

「…………わからないのです」

「え? じゃあどうして?」

「……ただ、初めの頃あなた様は言ってくれました。困ったら助けてやると」

「なるほど。んじゃあ昨日の気配はお前か?」

「……おそらく。偶然自転車を押して歩いてくれたので助かりました」

「いや、昨日は病み上がりだったんだよ」

そう言えば昨日はそのあと貴音が来たんだっけな。
しかし、困ったものである。貴音がいなくなったのは公になっていないのだが、今週末の生っすかで明かした方が良いのかもしれない。
テレビ局や雑誌などの記者からも心配や声も上がるし、何よりファンからは心配の声が大きい。その分俺やら事務の仕事が増えるのだが。
しかし、何か複雑な気持ちにもなる。全国で貴音が行方不明で心配する予定であろうというのにここでのんびりくつろいでいるのだ。しかもアイドル達にとっては現在進行形で行方不明なのである。
今日だってみんな空元気だったわけだし結構な罪悪感である。


結局、貴音の言葉だけではなんで俺だけ貴音に見えるかがわからず終わった。
それでも貴音を独りにすることはなく、最悪変な妄想に走るが最後の希望になってくれればうれしい。
今日の成果としては普通になんでも飯を食うことくらいだった。
あと、俺の理性破壊兵器であることは黙っておこう。ただでさえ、現在寛いでいる姿がふrふりと尻尾を揺らして明らかに誘っていて必死に俺はくだらない想像をしてその場をやり過ごしていた。


貴音がうさぎになって四日目。
少し問題が起きた話をしよう。
今朝早く事務所について貴音とおしゃべりを見ていたところ、それを音無さんに見られたらしく、自身の妄想スキルにより貴音が何も言わずに疾走したショックによりうさぎを貴音に見立て会話をしている。
と、いう妄想を作り出してしまったらしい。恐ろしいのは端から見るとあながち間違ってはいないのである。
一番冷静を装っているプロデューサーが一番壊れているなんて知ったらうちのアイドルはどう思うだろうか。
かと言ってアイドルに実はこのうさぎが貴音なんだ。と言っても信じるのはいない。前にも思ったが絶対いない。改めて認識した。


午前中はアイドルの新たなる営業先の確保のために土曜日の営業の打ち合わせに行くのが俺の予定である。そして、やはり音無さんだと会話ができないで寂しいのかわからないが貴音は俺についてきた。
音無さん曰く、貴音が俺の服に掴んでいると肩に器用に乗っているようである。本当によくわからない。
しかし、ちょっと嬉しいのは普段独りで車を飛ばして営業先や打ち合わせ先に下見に行くのだが、うさぎという貴音と一緒に行けるのは少し嬉しい。しかもバニーだ。

昼食は相変わらず俺は貴音とラーメンを食べた。とは言っても二日目なのだが、貴音は黙々とラーメンを啜り俺は資料を作成しながらゆっくり食べていた。
当然貴音に奪われていたのは言うまでもない。まあ大盛りは昼に食うものじゃないとわかっていたので、貴音が食べてくれるのはありがたい。
うさぎが俺のラーメンを食っている光景を律子が見たらどう思うか。そう思ったことはもう何度目やらであり、まあ律子なら目を丸くして音無さんは納得してしまいそうである。
どういう答えをするのか。答えは律子も音無さん、どっちも同じ反応をするんじゃないのかと思うのだが、今日も2人でたるき亭で昼飯を食べに行ってしまった。
社長はふらっと来てはふらっとどこかに行ってしまう風来坊なので昼飯に野郎と飯食うためにわざわざ戻ってくるわけがないだろう。


アイドル達が来るまで俺は昼寝をしていた。本日の仕事はない。というか昼飯を食べながら資料を作成したおかげでもある。
昼寝は結構大事な行為であり15分くらい休みを取れば午後は集中して作業を行えるなどとメリットの宝庫と言ってもいいだろう。
ただ、現在の状況はハッキリ言って俺だけデメリットであり、理由はうさぎである。
昔、実家で暮らしていたときに猫を飼っていた。時々猫が膝の上に乗って寝たり、寝転がっていると腹の上に乗って寝たりしていた。それがうさぎにも起こるのかわからないのだが、一緒に寝ている。いや、昼寝をしている。
それは俺以外の人が俺を見るとそう見えるわけである。ただ、俺からすればバニーの貴音が椅子から落ちないように抱き着きながら寝ているので、寝るに寝れない。そのため俺の理性をがっちり昇天させようとしている。
だが、ここで理性を崩壊させてしまったら俺はうさぎと犯したという社会的死亡者になる。なので、数学の公式や円周率や素数を数えながらやり過ごした。
しかし、いくら寂しいと死ぬうさぎになっているとはいえ貴音は結構甘えん坊なのかもしれない。それがまた可愛いと思ってしまった。

アイドル達がぼちぼちと事務所にやって来た。そして来ると同時に俺の胸ぐらをつかんだりゆすったりしてしっかりしろと言ってきた。中には泣きながら抱き着いてきたアイドルもいた。さて、どうしてこうなったのか。
答えは朝の会話のことだろう。音無さんがそれをアイドル達に伝え目を覚ませというように喝を入れさせようとしたのだろう。
別に壊れてるわけや廃人になっているではないのに何故俺が悪者に見えてしまうのだろうか。その原因で俺は伊織にぶん殴られた。
ただ、救いと言えば貴音いや、この場合はうさぎの方が良いだろう。うさぎが伊織達に没収されなかったことである。
理由としては伊織達にはこのうさぎが俺をかばうように寄ってきたから手を出せなくなったという。俺からするとバニー貴音がすぐに大丈夫ですかと声をかけてきてくれた。


とりあえず、俺はアイドル達を集めて俺はこのうさぎが貴音を言ってみた。結果は想像の通り誰も信じてもらえずそれどころか早退させられた。
相当ヤバい状態とアイドル達に事務員は思っているのだろう。となりで貴音が謝ってくれたが仕方がない。
ママチャリで帰っている途中にふと思ったことがあった。

「なあ、貴音の家って今どんな状態」

「わたくしの家ですか?」

「そーそー。朝起きてその格好で慌ててたんだろ?」

「はい……着替えようにも謎の視線や声がして……」

「それで、どうした?」

「響に電話しても……」

「……このくだりは聞いたな。家出るときは?」

「……その……」


服をつかむ力が強くなる。どうやら思い出すのは怖いのかわからないが、せっかく早く追い出されたことだし貴音の家に尋ねても誰も気づかないだろう。
貴音も俺ならば良いということで貴音の家に行くことになった。ただ、ここらママチャリで行くのは苦労した。そして、見世物としてジロジロ見られた。とくに後ろの貴音に集中した。
よっぽどその怪奇現象を独りで味わうのが怖かったようで貴音の家は鍵がかかっていなく誰でも入れる状態だった。貴音は俺の後ろから服の裾をつかむ。そうつかまれると動きづらい。
幸い誰にも侵入された形跡はなく、下着や服そして通帳等には手が出されていなかったようで、ただ家を飛び出た時、慌てていたのかバニースーツから着替えた服だけが無造作に床に落ちていた。その服を真っ赤な顔の貴音が回収して洗濯機に突っ込んでいた。
それをじいーっと眺めていると「あなた様はいけずです」と言われた。なぜか知らんけどときめいてしまったのは内緒である。

結局、家に来たが何も成果は得られなかった。
一応着替えろというのは貴音には酷なのでうさ耳を外してもらったところやはり不可思議な声や本棚の本が落ちる現象が起こった。
まさか、本当だったとは俺は思っていなかったのですぐに付けた。実際に遭遇するとポルターガイストっていうものは結構怖い。
今日はもう一度俺の家でも外してもらおう。そうすればこの部屋だけ除けば普通の服に着替えることが可能であるからである。

俺の家に帰ってきて(ちゃんと貴音の家は鍵をかけた)外したが結果は同じだった。声は聞こえるようだし、茶碗が落ちて割れるは後片付けが大変だったと言える。
そんなわけで今日わかったことは貴音の家以外でも起こる。俺は精神が結構壊れていると思われていることだけである。とはいえっても後者は音無さんの妄想に尾ひれがついたのだが。

さて、もうすぐ一週間になる。
実は今日の営業の打ち合わせ先で貴音をグルメ番組に呼びたいとディレクターが言っていた。その時聞いていたうさぎのこと貴音はにんまりしていたようなのだが、本物のうさぎがやっていたらどう反応するか。食べられても文句は言えまい。
なんとか元に戻してやりたい。だが、こんなことは起こったことないのでわからない。
だからお手上げ状態なのである。ただなんというのか、貴音はこのような状態でもなんとなく満足している。もう少し危機感を持って欲しい。

貴音がうさぎになって五日目。
朝の番組を見ていたら芸能ニュースのトップに貴音が行方不明というニュースが上がっていて思わず、牛乳を吹き出してしまった。とうの貴音は「面妖な」と呑気にお茶を啜っていた。
どうやら俺を追い返した昨日のうちに社長が発表したらしい。ファンにも見つけてくれたらラーメン探訪のゲスト出演させてもらえる豪華なお礼までも用意していたようである。
悪くはない。ということは今日の打ち合わせなどは結構大変かもしれない。
しかし、精神壊れていると思われている俺を営業先に向かわせるのかがわからないのか。
どちらにせよ俺の営業先に行けるかの運命は事務所に行けばわかることである。


事務所に行くと珍しくアイドル以外全員集まっていて俺に昨日のことを話してくれた。
とは言ってもテレビで見た貴音の行方不明を発表したことと休業させることを事務所判断で決めたこと。
ただ、俺はいつも通り営業の打ち合わせに行けるようである。ひどいブラック事務所だ。
午前中の打ち合わせではどの人からも貴音の件が触れられた。
いつの間にか俺はうさぎのプロデューサーという愛称がついていた。そのうさぎが貴音ということを気付いている人はいない。むしろ気づいていたら俺と貴音はとんでもなく変態なのだろう。

今日はやたらアイドル達が話しかけてくる。おそらく、うさぎが貴音じゃないことを気付かせるためであるなのだが、ぶっちゃけると話がめちゃくちゃ内輪すぎてついていけない。
春香と千早の場合はクラスメイトの話。雪歩はお父さんとお父さんの部下の話。伊織は生徒会の話とうんとかへーとかの相槌しか打てない。
なので、面白いツボがわからなかったり、だから何という。
そんな話をしている間、貴音がなんか拗ねていたのでアイドルの間に入って膝に座ってきた。
微笑ましい光景だが、貴音が座っているのは結構理性にダメージが大きい。せっかくバニー貴音に慣れてきたというのに密着されるとやはり俺は弱かった。
思わず頭をなでると喜んでくれた。なんか惚れそう。


貴音がうさぎになって一週間が経った。
今日は生っすかサンデーの収録であり、もちろん事務所アイドル全員が貴音を探してくれとお願いをする結果となった。それをスタジオの外から見守る俺とうさぎこと貴音。
貴音の顔には複雑な表情がよくわかる。俺はそんな貴音の傍にいてやることしかできない頼りない男である。
何としても元に戻してやりたい。





思いは全然実らなかった。

貴音がうさぎになって3週間が経った。
一向に見つからない貴音に警察も動き出した。正確には社長が前もって伝えていたのだが、ここまで見つからないとなるとさすがに手抜き操作は出来ないといった感じだろう。
アイドル達も心配していて普段の事務所から笑顔と笑い声を引けば今の事務所の雰囲気が出来上がる。
特に響が一番酷く、遂にレッスンの最中に倒れてしまったのだ。その報告をうさぎの状態で聞いていた貴音は家に帰ってから泣いた。その貴音を抱きしめるしか出来ない俺は久々に事務所の壁をぶん殴った。


ただのプロデューサーに超能力や魔法とか使えるわけがない。だから、貴音を元に戻してやると言った割には成果が最初の5日間しかなくてただただ日が過ぎてブランクが出来ていった。
だからと言ってどうしようもできない。貴音を連れて事務所に行って帰るだけ。そんなことを続けていた。その繰り返しで少なからず俺の心の片隅に支配が生まれていた。
ずっと俺だけがいる世界。依存させる。だが、そんなことをしても負荷のほうが大きい。何より俺が許せない。
だからと言ってどうすることもできない自分がいた。

そんな支配が少しずつ大きくなりはじめ葛藤することが続いているある日の帰り。
荷台に乗る貴音がぎゅっと思いっきり抱き着いてきた。普段は落ちない程度に抱き着くのだが、今日のはいつもと違う。
そろそろ限界なのだろうか。それともこちらの環境に適応してきてしまったのか。そう思う反面、これが制服だったら青春なんだろうなぁーと思った。
いや、違った。
どうやらお月見でもしたいようで、団子を買って欲しいとねだってきたのである。
確かに悲しい時は美味しいものでも食べて元気づけるのが一番というのは貴音が一番知っている。そして、ラーメン屋には寄れないので今回のお月見でも選んだのだろう。時期的にもピッタリである。
どうやら、抱き着いてきたのはそういう落とし方のようで、音無さんの読んでいる謎の薄い本に載っているのを見たらしい。
別にそんなことしなくても俺にしか話すことが出来ない貴音の頼みなら絶対に聞いてやる。
それで寂しくないのならば……

「ここの神社でどうでしょうか?」

「……ここか。まー確かに神主さんいない寂しい神社だけどお月見にはもってこいだな」

「ふふふ。覚えていますか?」

「もちろんよ。ドラマでお月見収録したよな」

「ここでわたくしは少し失敗しましたね」

「……あー」


ふと、ちょっと前のドラマの撮影のことを思い出す。ちょっとした昔をメインにしたオリジナル短編ストーリーを数話放送するドラマで、貴音がここで撮影したのであった。
そこでお月見を題材にした話で打ち合わせでは神社の神様に奉納してから食べる予定月見団子を先に食べてしまったわけである。
しかも言い訳はとても酷く、そこに団子があったのが悪い。慌てて用意したのが、団子の模型である。結局、団子は食べずにそのまま出番が終了してしまったわけで神様はさぞかし残念だろう。
そんなわけで今回は絶対にそうさせないように俺が団子を持つことにした。まあ前回は貴音に持たせていたのが原因の一つでもある。

鳥居を潜り境内に入る。本当は清めるために手水舎に向かうのが正しいのだが、生憎ここの神社はその手水舎の水が出ない。だから直接拝殿に向かう。いや、本殿と言ったほうが良いのか。一般的に神社は手前に拝殿で、奥に本殿があるのだが、小さい位神社は本殿と拝殿が一緒の神社がある。
今回貴音と二人っきりでお月見をする場所は本殿と拝殿が一緒の神社である。小さいとは言っても手水舎があるのでちょっとは大きいのだろう。
ちょっと脱線するが神社には鳥居・拝殿・神殿が必ずある。それだけだが、こういう話は貴音のドラマのための前知識として頭に詰め込んできた。もちろん脚本家の話に合わせるためと貴音と確認するためである。


俺からすれば貴音と。端から見るとおっさんとうさぎ。別に誰にも見られていないこの時間なら別に気にする必要などない。


「いえ、見られていますよ」

「誰に?」

「ふふふ。見上げてください」

「……あー」

「そうです。お月さまです」

「そうだった。やれやれ。お参りをしよう。今度は先に食べるなよ」

「あなた様が持っていれば大丈夫です」

先に本殿前に団子を奉納する。
そして2人ならんで賽銭箱の前に立つ。ここは鈴がない。なので、ご縁にちなんで5円玉を入れた。確かこの5円玉にも何かしらの縁がらみの意味があったが忘れた。
貴音はマニアックに21円を入れた。どういう意味か聞くと「とっぷしぃくれっとです」と教えてくれなかった。
基本賽銭を入れた後は二拝二拍手一拝を行う。当然意味など知らない。貴音は知ってそうだが、聞いても忘れそうなので聞かないでおくことにした。ちなみに出雲大社では拝礼作法が違うので、地方ロケで行ったら注意しておくことにしよう。


拝礼も終わった時に次はどうしようかと悩む。奉納した団子を頂戴するのは良いことなのか。少し悩んで、新たに買ってくることにした。前回は模型で我慢してもらったので今回は本物を食べさせてあげたい。
そういうわけで、貴音に絶対に食べないことを命じてすぐに買ってくることにした。
食べたらペットショップに売りに行く。そう脅したらちゃんと守ってくれた。ただし、家で食べるカップラーメンも追加で買わされたが、安いものだ。


「すすきがないけど仕方がないよな」

「ええ。神様も許してくれるでしょう」

「貴音は前回のことを謝れ」

「そうでした」

「そのあと、酒でも飲もうぜ」

「飲酒運転になりますよ」


貴音が再び賽銭箱前に立ち。手を合わせる。バニーガールと神社という違和感が凄くあるが、仕方がないことだ。一礼して戻ってきた。
貴音は気づかなかったのか、ほんの一瞬、刹那に近い時間だが、神社が光ったような気がした。
俺もよくわからなかったので気にしないことにした。
そして近くに座るところがないので、拝殿前の階段を借りてお月見をすることにした。


「ふふふ。このお月見の参加者が増えましたね」

「誰だ?」

「神様です」

「なるほどね」


2人と一柱のお月見が始まった。それはとても静かで、時間がゆっくり流れる。少し不思議な空間に入り込んだ感じである。量産型月見団子も雰囲気さえ本場にすれば味も美味しくなる。
お酒でも飲みたかったが、チャリでも飲酒運転ということで神社に奉納した。帰りに買えばいいわけで。代わりに貴音と月を見ながら今回の出来事の話でもしていた。
話が途切れ、沈黙が訪れる。

「あの……よろしいですか?」

「どーした?」

「このままわたくしが元に戻れなかったら……」

「そんなこと言うなよ。なんとかなるって」

「……その」


空気が変わる。それは俺でもわかる。メインステージは俺と貴音。観客は神様と月。
バッと貴音が立ち上がり月を背に味方にする。顔が暗くてよく伺えないがわかる。表情が真剣だ。

「……卑怯ですよね。こういう場所、雰囲気。すべての力を借りないと言い出せないのは……」

「卑怯だね」

「……お慕い申し上げます。いえ、前から……こうなる前から……」

「俺も。なんつーかさ、俺はうさぎになっている間に気付いたよ。おせーけどさ」

「いえ……」


とんっと、静かに貴音は俺に抱き着いてきた。俺は優しく彼女を抱きしめる。
こういう時に言葉がだせずに格好つけてる自分が嫌いだ。もっとズバッと言えるようになりたい。
そんな臆病な俺に貴音は訪ねてきた。
言葉が欲しいと。回りくどい言い方や隠喩なんかじゃなくてストレートな言葉。
貴音が月を味方につけるなら俺は神様に勇気をもらおう。
俺は貴音の少し離し、肩に手を置き言ってやった。




「貴音のことが…………大好きだよ」





涙で顔がぐしゃぐしゃになるかわからない顔は見たくないので口づけで黙らせてやった。

翌日の早朝、俺は律子に叩き起こされた。正確には律子の着信である。
何事かというと電話に出た貴音の声で律子が俺に代われと怒鳴ったらしい。


「なんですかね?」

「貴音がいるんですか?!」

「ああ……って聞こえたのか?」

「聞こえるも何も聞こえなかったら怒鳴りませんよ!!! すぐに貴音を連れて事務所に連れてきてください! あーせっかく今後の打ち合わせのはずが……」


電話が切れた後、俺と貴音は顔を見合って抱き合いながら笑った。元に戻れたと。
しかし、問題がある。一番は疾走の理由である。しかも俺が絡んでいるからどうやって回避しようか。まーそこはポーカーフェイスの強そうな貴音に理由を伝え、それ一点張りしてもらう戦法にした。実家に帰省は音無さんが電話をして確認を取ったので無理。なので旅に出ると言う。バレそうだが、昨日の言葉よりは遥かに楽だろう。
うさ耳を外しても貴音にも部屋にも何も起こらなかったし、着替えても平気だというので、完全に治ったということだろう。

早朝の朝早いうちに事務所に送り届け律子たちが来るのを待つ。その間、俺は溜まってしまった仕事を片付け貴音はゆっくり朝食を取っている。
律子たちが到着して俺よりも貴音に集中的に尋問やハグが入ったが仕方がない。その訊問最中に社長から話が合った。


「君、うさぎはどうしたんだい?」

「うさぎ……ああ。うさぎですか?」

「ああ。連れてきたないからどうしたのかと思ってね」

「……あのうさぎは呪いがかかっていたようでしてね。俺が解いてやりました。そしたらいなくなっちゃったんですよ」

「ふむ。面白いこと言うね……大事にしてあげるんだよ」

「…………なんでわかったんですか!?」

「ふふふ。私は視る目があるからね」


さすが社長だ。
俺は少し見直した。

夕方になり、貴音は事務所アイドル全員にハグされながら謝っていた。明日テレビで謝罪する予定である。
俺は午後からは営業先に貴音が見つかったと詫びを入れ多くの方に心配かけたと謝罪めぐりをしていた。しかも今度は貴音と一緒にもう一度巡りをするのである。
そんな仕事をして事務所に帰ってきたら残っている人はごくわずかであった。しかも俺は更に午前中終わらなかった資料に加え今日の謝罪巡りもらった貴音の失踪に関する番組を組むらしくその打ち合わせに必要な資料なども作らないといけない。
そんなわけで時計の長い針が本日23回目の12を差すときには事務所に残っていたのは俺と貴音だけであった。


「良いのか? 帰らなくて」

「ふふふ。残って欲しいと思っていたのはどなたですか?」

「……ぐぬぬ」

「それに……わたくしにはわかりますよ。ちょっと焼いたでしょう?」

「そうだよ。わりーかよ」

「いえ、嬉しいのです。あなた様にそこまで思ってもらえることが」

フッと事務所の明かりが消える。停電ではない。どうやら故意的に消えてしまったようで、その消した犯人がちょこんと俺の膝に座る。
悔しい俺は抱きしめる。


「……今度どこかに旅行しに行こうか」

「そうですね。では、わたくしの故郷はどうですか?」

「挨拶か。良いねそれ。さて、ちょっとどいてくれ」

「嫌です。うさぎは寂しいと死んでしまうのです」

「それはしょうがないな」


終わり

後半から書くのが恥ずかしくなった
月見団子食べたい
読んでくれてありがとうございました

読み直したら誤字がめちゃくちゃ多かった
形態ってなんだよもう
ごめんなさい

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