憂「お姉ちゃんを返して」(277)
【平沢家】
ガチャ
憂「おねえちゃーん!朝ご飯出来たよー」
唯「…Zzz」
憂「んもうお姉ちゃんったら…起きて起きてっ!ごーはーんーだーよーっ!」
唯「ん、んへへ…そんなに食べらんないよう、ギー太ぁ」
憂「いったいどんな夢見てるんだろう…」
【平沢家・朝食】
唯「いただきます」
憂「はい、どうぞ」
・・・・・・
憂「軽音部の練習はどう?」
唯「うん、すごく順調だよ!日に日にうまくなってる気がするし」
憂「そっか。文化祭のステージ、楽しみにしてるね」
唯「任せておきなさい!」フンス
憂「…ふふっ」
唯「どうしたの、憂?」
憂「軽音部の話してるときのお姉ちゃん、すごく幸せそうな顔してる」
唯「そうかな?」
憂「うん、とっても楽しそう」
唯「私の高校生活は軽音部と一緒に歩んできたからね」
唯「軽音部のみんなと演奏することは、今の私の生きがいなんだ!」
唯「今度の文化祭が最後のステージだし、頑張らないとっ!」
憂「うん、応援してるね。ほら、早く食べないと学校遅刻しちゃうよー」
唯「なぬっ?!」
憂「もう、お姉ちゃんったら…」
こんにちは。平沢憂です。
季節は秋。文化祭のシーズンになりました。
3年生のお姉ちゃんにとってこれが最後の文化祭。
そして、軽音部としての最後のライブ。
最近のお姉ちゃんはいつも以上にギターの練習をしてる。
土日は図書館に行って軽音部の人たちと一緒に受験勉強。
前に比べてお姉ちゃんと一緒にいる時間が減っちゃったけど
頑張ってるお姉ちゃんを影ながら応援しています。
憂「お姉ちゃん、早く早くー!」
唯「ちょ、ちょっと待って憂…」
憂「先行っちゃうよー?」
唯「うぅっ、憂に見捨てられた…」
憂「冗談だよお姉ちゃん。ほら、早く早くっ」
唯「あ、憂見て見て!にゃんこ!」
憂「本当だ。かわいいね」
唯「ちっ、ちっ、ちっ」
すたたた
唯「あー、逃げられちゃった…」
憂「惜しかったね、お姉ちゃん」
唯「憂!追いかけようっ!」
憂「ダメだよお姉ちゃん!学校遅刻しちゃう」
唯「ぶうーっ…憂のけち」
今はお姉ちゃんと一緒に登校してる時が一番の楽しみ。
どんなにお姉ちゃんが忙しくても、この時だけは一緒。
他愛もない話をして、くだらないことで笑いあって…。
お姉ちゃんの好奇心に振り回されることもあるけど、幸せだった。
【学校】
憂「じゃあね、お姉ちゃん」
唯「うん、まったねー」
・・・・・・
【教室】
梓「憂、おはよー」
憂「おはよう梓ちゃん」
純「おっはよーう!」
憂「純ちゃんもおはよう」
純「なんか最近軽音部やたら気合入ってるねー」
梓「文化祭近いからね。先輩たちにとっては最後のステージになるから」
純「ようやく部活らしくなったって感じ?」
梓「ま、まぁ…。私としてはもっとガッツリやりたいんだけどね」
梓「昨日だって唯先輩が―――」
私は二人の会話を黙って聞いていた。
梓ちゃんはお姉ちゃんの話ばかりしていた。
すぐだらけちゃうお姉ちゃん。
おいしそうにケーキを食べるお姉ちゃん。
いざという時にすごい集中力を見せるお姉ちゃん。
そこには私の知らないお姉ちゃんの姿があった。
梓「純!次の授業移動教室でだよ、先行っちゃうよ?」
純「ちょ、ちょっと待ってよ~」
憂「…あ」
憂(お姉ちゃんだ…)
唯「それでそれで?」
律「でな、そん時の澪がな…」
澪「わぁーっ!!!余計なこと言うな律ぅっ!」
紬「あらあら」
訂正
×梓「純!次の授業移動教室でだよ、先行っちゃうよ?」
○梓「純!次の授業移動教室だよ、先行っちゃうよ?」
唯「あ、さわちゃん!」
さわ子「あなたたち、もう授業始まるわよ。教室に戻りなさい」
律「ねぇーさわちゃーん、今日私たちの練習付き合ってよ!」
さわ子「そうねぇ、でも吹奏楽の方も見なきゃならないし…」
紬「先生、おいしいモンブランがあるんですけど~」
さわ子「あなたたち、今日は厳しくいくわよ!」
律「おー!」
澪「乗り換えはやっ!!」
憂「・・・・・・」
梓「憂ー!何してるのー?いっちゃうよー!」
憂「あ、待ってよー!」
お姉ちゃん、楽しそうだったな。
澪さんたちといる時のお姉ちゃんって、あんな顔してるんだ。
【昼休み】
キーンコーンカーンコーン
梓「お腹空いたぁ…」
憂「お昼にしよっか」
純「ねぇ!購買ですっごくほしいパンがあるの!二人ともお願いっ、協力して!」
梓「えぇーっ…一人で行けばいいじゃん」
憂「まぁまぁそう言わずに、行こっ?」
純「ありがとう!やっぱりもつべきものは友達だね」
梓「まったく…」
憂(お姉ちゃんに、会えるかな)
【廊下】
唯「あぁーずぅーにゃんっ!」がばっ
梓「にゃうんっ!」
梓「ゆ、唯先輩?!なんですかいきなり!」
唯「ん~?たまたま見かけたからさぁ」
梓「見かけたからって抱きつかないでくださいっ!」
唯「ちぇーっ。あずにゃんのいけずぅ…」
梓「そんなこと言ってもダメですっ」
唯「そうだ!ねぇねぇ、あずにゃん。昼休み何か予定ある?」
梓「いえ、特には…」
唯「今からちょっとだけ練習しない?」
梓「ほ、本当ですかっ?!やりますっ!やりましょう!!」
唯「じゃあいこっ、あずにゃん」
梓「はいっ!!憂、純、ごめんねっ」すたたた
梓(あの唯先輩から練習しようだなんて…。うれしくて涙が出そうだよう)
純「ありゃー…私ら置いてかれちゃったねぇ」
憂「………いいな」ぼそっ
純「…憂?」
憂「へっ?ど、どうしたの純ちゃん?!」
純「いや、何かボーっとしてたからさ」
憂「そ、そう?そんなことないよっ!ほ、ほら。教室戻ってお昼食べよっ」
自分でもわかってた。
無意識に「いいな」って口に出してたこと。
ちょっとだけ、梓ちゃんに妬いた。
澪さんたちはクラスも同じなんだなって考えると、もっと妬けた。
だって朝も、昼も、放課後も、お姉ちゃんと一緒なんだもん。
家では一緒にいられるけれど、一生懸命練習してるお姉ちゃんの邪魔はしたくなかった。
それに、あんな楽しそうなお姉ちゃんの顔なんて見たことなかった。
たかが昼休み一緒に練習するだけのことなのに、今の私にはそれすらもうらやましく思えた。
梓「ただいまー。二人ともごめんね」
純「いいっていいって!その様子じゃだいぶ充実した練習が出来たみたいね」
梓「うんっ、本当に楽しかった!唯先輩がね―――」
憂「・・・・・・」
胸の奥が、チクッとした。
そんなこんなで一日が過ぎた。
さわ子先生が見てくれたってお姉ちゃんはすごくよろこんでいた。
この日を境にお姉ちゃんの帰りが遅くなっていった。
朝も朝練だからって、いつもより早く家を出て行くようになった。(結局私が起こしているんだけど)
一緒だった登校もとうとうしなくなってしまった。
ご飯の時間ですらバラバラになることが増えた。
もうずっと、お姉ちゃんと話してすらいないように思えた。
今までこんなことなかったのに。同じ家にいる感覚すらしなかった。
いよいよ文化祭が間近にせまってきた。
お姉ちゃんは朝から晩までギターに夢中だった。
私のことなんか、忘れてしまったかのように…。
夜、私の足は無意識のうちにお姉ちゃんの部屋に向かっていた。
部屋からはギターの音がする。
こんこん
憂「お姉ちゃん」
唯「あ、憂。どうしたの?」
憂「あのね…」
わがままなのは自分でもわかってた。子供だってことも。
お姉ちゃんの邪魔はしまいとずっと我慢してきた。
だけど、もう限界だった。
お姉ちゃんに構ってほしかった。
憂「今度の土曜日、一緒にお出かけしない…?」
唯「んー…」
一瞬お姉ちゃんが考えた。昔はすぐに「いいよ!」って言ってくれたのに。
断られたらどうしよう。お姉ちゃんの返事が怖くて怖くてしょうがなかった。
唯「いいよ!今週は特に予定もないから」
憂「本当っ?!ありがとうお姉ちゃん!」
うれしかった。本当にうれしかった。
お姉ちゃんとお出かけなんて久し振りだった。
何着ていこうかな、どこ行こうかな。
頭の中はそんなことでいっぱいだった。
【翌日・放課後】
キーンコーンカーンコーン
純「はーっ、終わったぁ…」
梓「午後の授業ずっと寝てたじゃん!」
純「だってお昼食べたあとは眠くなるんだもん!!!」
梓「ぎゃ、逆ギレ!?」
純「んじゃ私はジャズ研行くから!じゃねっ」
梓「もーっ…」
憂「梓ちゃん、私も帰るね」
梓「あっ、待って憂!」
憂「どうしたの?」
梓「ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど…いい?」
憂「うん、いいよ。何をするの?」
梓「これなんだけ…どっ!」
どさっ
憂「すごいたくさん…。これはなに?」
梓「部活で使おうと思って持ってきたんだ」
梓「毎日少しずつ持ってきてたらいつの間にかこんなになっちゃって…」
梓「それで――」
憂「これを運ぶのを手伝ってほしい、でしょ?」
梓「えへへ…その通り」
憂「うん、いいよ」
梓「ありがとう」
【音楽室】
紬「梓ちゃん遅いわねぇ…。せっかくおいしいタルトがあるのに」
唯「先に食べちゃおうよー」
澪「バカ言え、梓がかわいそうだろ!」
ガチャ
梓「遅くなってすいません」
律「おっそいぞー…ってなんじゃその大量の機材は!!」
梓「家から色々持ってきました。使えるかなと思って」
澪「すごい量のエフェクター…。それに録音機材まである」
律「ひゃあー…たまげたねこりゃ」
梓「ちょっと持ってきすぎちゃって…憂にも手伝ってもらったんです」
紬「憂ちゃん。お茶でいいかしら?」
憂「いえ、お構いなく」
唯「そんなことよりあずにゃん、これなぁに?!」
憂(そんなこと………か)
梓「これですか?これはワウっていって、これをつなげて踏みながら弾くと…」
うぉん うぉん うぉ~ん
唯「すごーい!!!私にもやらせて!」
梓「いいですよ」
唯「みんな見て見て!」
うぉん うぉん うぉぉぉ~ん
律「す、すげぇ…なんか上手い人みたいに見える」
唯「へへへ、すごいでしょ!これは?」
梓「あぁ、エフェクターです。私が使おうかなって」
唯「ブルースドライバーに、お…オーバードライブ??」
律「波紋のことだ、唯」
澪「ウソを言うなっ!」メメタァ
律「おぱぅ!」
梓「何やってるんですか先輩たち…」
唯「あずにゃんばっかり色々つけてずるいー!私も何かつけたいよぉ」
梓「うーん、レスポールは音がいいから下手にエフェクターでいじらない方が好みなんですけど…」
唯「えぇーっ!つーけーたーいーつーけーたーいーっ!」
梓「しょうがないですね…。じゃあLINE6でもつけてみます?」
唯「おぉ、なんかかっこいい!」
梓「マルチエフェクターなんですけど、ここをこうして――」
律「なぁなぁ梓!ツインペダルはないのか?!ツインペダル」
梓「ないですよ!それにツインペダル使うような曲なんてないじゃないですか」
律「えーっ、私だってドコドコしたいぃー!」
唯「あずにゃんって本当にすごいね!」
梓「そっ、そんな…//こんなの常識ですよ」
律「あーっ、梓のやつ照れてやんのー!」
澪「顔真っ赤だな」
梓「なっ///そ、そんなことないですっ!」
唯「あずにゃん………」
梓「…へ?」
唯「かわいいーっ!」ぎゅっ
梓「ひゃあっ!や、やめてくださいっ///」
紬(キマシタワー!!!)ズキュゥゥゥゥン
唯「んもお照れちゃってかわいいんだからぁ」すりすり
梓「て、照れてなんか…///うぅ…」
紬「いいっ…。実にいいっ…」ゴゴゴゴゴ
律「おーい、ムギ。かえってこーい」
憂「・・・・・・」ぎりっ
来るんじゃなかった。
心の底からそう思った。
ちっともお姉ちゃんは私のことを見てくれない。
ただ呆然と、お姉ちゃんを見ているだけだった。
どうしてこんなに辛い思いをしなきゃならないの?
胸の奥が締め付けられた。ただただ、辛かった。
ガチャ
さわ子「まったくあなたたち騒がしいわねぇ」
唯「あ、さわちゃん!」
さわ子「あら、今日はタルト?おいしそうね」
紬「いま、紅茶いれますね」
唯「さわちゃん、吹奏楽の方はいいの?」
紬「はい、どうぞー」
さわ子「あ、ありがとう。いいのよいいのよ大して練習もしてないし」
律「さらっととんでもないこと言ったな…」
さわ子「そんなことよりあなたたちの方こそどうなの?ちゃんと練習してるの?」
唯「もちろんだよさわちゃん!」フンス
澪「この状況から言えることじゃないけどな…」
梓「そうです!このまったりした時間をもっと練習に充てましょうよ!」
律「それはダメだ梓!私たちは放課後ティータイムだからな」
澪「いや、説明になってないから」
さわ子「そうねぇ…。今週は私土日とも学校いるし、音楽室開放してもいいわよ?」
律「本当かっ?!よーし、じゃあ今週の土日は強化合宿だ!」
憂(えっ…?)
澪「おい律!勉強はどうするんだ!?」
律「夜すればいいじゃーん。それにもう本番まで時間がないんだぜ?勉強なんかしてる場合じゃないだろ?」
澪「律のくせに正論…だと…?」
律「というわけで、軽音部強化合宿に賛成の人ー!」
紬「はーい!」
梓「はいです!」
澪「…よし、やろう!」
唯「・・・・・・」
澪「あれ?唯は?」
唯「うーん、実は土曜日憂と約束があるんだ」
律「うえぇーっ!せっかくさわちゃんが音楽室開放してくれるって言うのにー」
澪「でも先約があるならしょうがないか」
梓「そうですね…」
唯「ねぇ、憂。お出かけさ、また今度で大丈夫?」
憂「え…?」
唯「せっかくさわちゃんが用意してくれた機会だから、めいっぱい練習したいんだ」
憂「・・・・・・」
憂「だ、大丈夫だよ!そんな大した用でもないから…」
律「じゃあ決まりだな!」
唯「ごめんね、憂」
憂「うん、平気だから…。じゃあ、私はこのへんで…」
梓「憂、手伝ってくれてありがとう!」
憂「ううん、練習…頑張ってね」
ガチャ
憂「・・・・・・」
ウソをついた。大丈夫なわけがなかった。
久し振りのお姉ちゃんとのお出かけなのに。
また軽音部にお姉ちゃんをとられちゃった。
ううん、そんな卑屈な考えしちゃダメ。
お姉ちゃんだって頑張ってるんだ。
我慢しなきゃ。我慢しなきゃ。
頑張ってるお姉ちゃんの邪魔をしちゃいけない。
憂「うっ…」
だけど
憂「ううっ…えぐ…」
やっぱり我慢出来なかった。
涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
憂「うぐっ…。ひっく…。お姉ちゃぁん…」
泣きながら一人で家に帰った。
鏡を見たら目が真っ赤だった。
唯「ただいまー」
憂「おかえり、お姉ちゃん。今日は早かったね」
唯「どうしたの憂?目腫れてるっぽいけど」
憂「…ちょっとお昼寝してたから。ご飯出来たら呼ぶね」
唯「ほーい!」
唯「いただきます」
憂「はい、どうぞ」
久しぶりのお姉ちゃんと一緒の夕食。
だけど、素直に喜べなかった。
ソファーの上にあるギターのせいだ。
結局ご飯が出来るまで、お姉ちゃんはリビングで練習していた。
目の前にいる私を見向きもせず、練習していた。
唯「あの後ね、さわちゃんが練習見てくれたんだ!」
唯「それでね、あずにゃんのエフェクター見たら急にさわちゃんしんみりしちゃって」
唯「私もこれ使ってたわって言ってさ、そのあと一緒に弾いたんだよ!」
憂「そっか…よかったね」
ちっとも会話にならなかった。
泣くのを我慢するのに必死だった。
お姉ちゃんが軽音部の話をするたびに、泣きそうになっていた。
どうして私のことを見てくれないの?
お姉ちゃん、お姉ちゃん…。
唯「それでね、りっちゃんが――」
ごごごご
ぐらぐらぐらぐら
唯「じ、地震?!」
憂「きゃああああっ!!!」
憂「お、収まった…」
大きな揺れだった。
幸いにも食器や家具に被害はなかった。
怖かった。怖くて震えていた。
すぐにでもお姉ちゃんのところにかけこみたかった。
唯「大丈夫?!」
憂「えっ…?」
私を心配してくれてるの?お姉ちゃん。
よかった…やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。
そのままぎゅうってして。昔みたいに…。
私を安心させてよ、お姉ちゃん。
唯「大丈夫?!ギー太っ!!!」
憂「・・・・・・・」ずきん
お姉ちゃんは私ではなくソファーに置いてあったギターに一目散に駆け出した。
唯「よかったぁー。無事で」
そっか…。そうだよね。
私のことなんか心配してくれるわけないよね。
もうお姉ちゃんの中に私はいないんだもの。
軽音部が、私からお姉ちゃんを奪ったんだ。
取り返してやる。お姉ちゃんを、取り返してやる。
憂「許さない…」
キリがいいのでこのへんで寝ます。
残ってたらお昼頃また続き書きます。
おやすみなさい。
保守どもです。
学校行くまで投下していきたいと思います。
【土曜日】
ガチャ
憂「おねえちゃーん、朝だよー」
ゆっさゆっさ
唯「…あぅぃえー」
・・・・・・
憂「何時頃に帰ってくるの?」
唯「うーん、まだちょっとわかんない。またあとで連絡するよ」
憂「わかった。練習…頑張ってね」
唯「うん!私、がんばっちゃうんだからね~!」
憂「うふふ…」
唯「?――」
【音楽室】
~♪
律「ふあぁ~あ、ずっと集中しっぱなしだったから疲れちゃったよー」
唯「私も私もー…」
梓「んもう、2人ともバテるの早すぎです!」
紬「じゃあ、ここらで一旦お茶にしましょうか」
梓「ムギ先輩も甘やかしちゃダメですっ」
澪「まぁまぁ、あんまりガツガツやりすぎても効率は上がらないし。な、いいだろ梓?」
梓「澪先輩まで…。んもう、少しだけですからねっ」
唯・律「やったーっ!」
紬「ふふ」
紬「はい、どうぞー」
律「いっただっきまーす!」
澪「行儀が悪いぞ、律」
唯「んーおいひぃー」
梓「・・・・・・・」
唯「あずにゃんどうしたの?」
梓「い、いえっ」
梓「文化祭終わったら、もう先輩たちと一緒に演奏することもないのかなぁって」
梓「そう思うと、寂しくて…」ぐすっ
澪「梓…」
唯「あずにゃん」
ぎゅっ
梓「ひゃっ、唯先輩…?」
唯「大丈夫、いつまでも私たち5人は放課後ティータイムだよ」
律「そうそう!来年も再来年も、ずっとここでお茶してるからさ!」
澪「それはダメだろ!」
梓「…そうですよね、私達、ずっと放課後ティータイムですよね」
梓「だから悔いの残らないためにも練習です!さぁ、やりますよ唯先輩!!」
唯「えぇーっ!!!もう?」
律「ふふ、唯め。やっちまったな…、あとは任せたぞ…」
梓「律先輩もほら、やりますよ!」
律「うえーっ?!私もぉーっ?!」
梓「何言ってるんですか!当たり前です!」
~♪
~~♪
律「ふぃー疲れた。今日はこのへんにしないか?」
澪「そうだな、もう外も暗いし…」
梓「はい!明日もありますし(本当はもっとやりたいけど!)」
唯「あ~疲れた~」
紬「片付けましょうか」
律「それにしても…唯のやつ、本当上手くなったよな。まるで別人みたいだ」
梓「はい、なんというか…すごく合わせやすいです」
唯「そうかな?えへへ、たくさん練習してるからねっ!」
澪「私たちも見習わないとな」
律「まっ、私から言わせればまだまだだけどなー」
梓「先輩こそもっと練習してください!相変わらず走ってますよ」
澪「まったくだな」
律「うえぇー。私のドラムって走ってなんぼじゃん!」
紬「・・・・・・」
澪「ムギ、どうしたんだ?さっきから顔色が悪いけど」
紬「…ごめんなさい。ちょっと寒気がして」
唯「ムギちゃん、震えてるよ…?」
紬「大丈夫よ…さ、早く片付けましょう」
ふらっ
澪「何言ってるんだムギっ。ふらふらじゃないか…」
梓「ムギ先輩っ!」
唯「ムギちゃん…」
律「去年の唯のこともあるしな、早く帰ろう」
紬「・・・・・・」
【帰り道】
律「ムギ、大丈夫か?どんどん顔色が悪くなっていってるぞ…」
紬「へ、平気よ…大丈夫」
梓「ムギ先輩…」
唯「…私、ムギちゃんを送ってくよ」
澪「なら私たちも―」
唯「大人数で行ってもかえってムギちゃんが気を遣っちゃうと思う。だから私だけで大丈夫」
澪「唯…」
律「…わかった。ここは唯に任せることにしよう」
梓「唯先輩、お願いしますね」
唯「うん、任せといて」
紬「唯ちゃん…ごめんなさい…」
唯「気にしないでムギちゃん」
紬「駅からは…一人で帰れるわ…」
唯「えっ?だ、ダメだよムギちゃん無理しちゃ!家まで送るよ!」
紬「本当に大丈夫。家に連絡してあるから…迎えが来るわ」
唯「でも――」
『まもなく列車が参ります。白線の外側まで下がってお待ちください』
紬「ちょうど電車来たみたい」
紬「ごめんなさい、わざわざホームまで来てくれて」
唯「大丈夫だよ。ムギちゃん、お大事にね」
紬「ありがとう。また明日、学校でね」
唯「うん。もう会うことはないだろうけど」
紬「えっ?」
唯「さ よ う な ら 。ツ ム ギ サ ン 」
どんっ
紬「唯ちゃ―…」
キキーッ
ガンッ――
「きゃあああーっ!!!」
「女の子が、女の子が電車に…」
あちこちで叫び声が聞こえる。
目の前で人が電車に轢かれたんだもの、当然だよね。
紬さんのお茶に遅効性の毒と睡眠薬を混ぜた。すべて計算通りだった。
本物のお姉ちゃんは今私の部屋にいる。
もうちょっと待っててね、お姉ちゃん。
お姉ちゃんは、私のものだからね。
憂「うふふ…はは、あっはははははははは!!!」
学校行ってきます。
続きは帰ってきたらということで。
それではまた夜の9時頃に。
保守どうもでした。
続き投下しますー
【平沢家】
憂「ただいまー」
ガチャ
憂「お姉ちゃん、帰ったよ」
私は自分の部屋に入った。
朝食に睡眠薬を混ぜて、私の部屋に連れてきたのだ。
お姉ちゃんは椅子に座り手足を縛られた状態でまだ眠っていた。
唯「ん…ん」
憂「あ、目が覚めた?おはようお姉ちゃん」
唯「憂…これはどういうこと…?」
憂「なんのことかな、お姉ちゃん?」
唯「どうして私が縛られてるの?」
唯「どうして…憂が私の格好をして、ギー太を担いでいるの?」
憂「なんで?お姉ちゃんを取り返すためだよ」
唯「どういうこと…?」
憂「お姉ちゃんはね、今囚われの身なの」
憂「だからね、私がお姉ちゃんを解放してあげるんだ」
憂「軽音部から、お姉ちゃんを解放してあげるの」
唯「憂、さっきから何を言ってるのかわかんないよ」
憂「今日はね、紬さんからお姉ちゃんを解放したんだよ」
唯「…!ムギちゃんに何をしたの…?」
憂「そんなのどうでもいいじゃない、ね?お姉ちゃん」
唯「答えて、憂!!!」
憂「殺した」
唯「憂、今なんて…?」
憂「駅のホームに突き落としたの。あとは、わかるよね?」
憂「あの人、最後まで私のことお姉ちゃんだと思ってたんだよ?」
憂「あっはは、傑作だよね!…バカみたい」
唯「なんてことを…」
憂「明日は律先輩から解放してあげるからね」
唯「憂、バカなことはやめて!お願い!!!」
憂「うるさい」
唯「憂…?」
憂「ご飯持ってくるからね、一緒に食べよ?」
間違えた。
律先輩じゃなくて律さんだった。
憂「さ、食べよ。お腹空いてるでしょ?」
私はお姉ちゃんの手を縛っているロープを解いた。
唯「……いらない」
憂「ダメだよお姉ちゃん、ちゃんと食べなきゃ」
唯「……食べたくない」
憂「あー、わかった。私に食べさせてほしいんでしょ?」
憂「もう、お姉ちゃんったら。甘えん坊なんだから」
憂「いいよ、食べさせてあげる。はい、あーん」
唯「・・・・・・」
――パチン
憂「…え?」
頬に衝撃が走った。
お姉ちゃんにビンタされたのだ。
私に手を上げたことなんて一度もなかったのに。
憂「ど、どうしたのお姉ちゃん。嫌いなものでもあった?」
憂「あ…もしかして熱かった?ごめんね、今冷まして――」
唯「やめてよ…」
お姉ちゃんが泣いていた。
唯「もうやめて…。憂、お願い…」
唯「こんなの、私の知ってる憂じゃないよ…」
唯「憂、目を覚まして。もうこんなバカな真似はやめて」
憂「お姉ちゃん…」
唯「憂…わかってくれる…?」
憂「かわいそうなお姉ちゃん」
唯「えっ?」
憂「こんなにも変わってしまったなんて…」
憂「もう少し待っててね。すぐに、解放してあげるからね…」
バン!!!!!
唯「そんな…。憂…」
私は部屋をあとにした。
明日ですべて決着をつける。
律さんも、澪さんも、梓ちゃんも、
全員殺す。殺す殺す殺す殺す殺す。
お姉ちゃんを、解放するんだ。
お姉ちゃんを、取り返すんだ。
憂「待っててね、お姉ちゃん」
明日の準備を始めた。
【日曜日】
強化合宿2日目。
私はまたお姉ちゃんの格好をして音楽室に向かった。
ガチャ
唯「おはよう」
梓「ムギ先輩、どうでした?」
唯「うん…やっぱり今日は安静にするってさっきメールがあった。みんなごめんなさいって」
律「そっか、じゃあ今日はムギ抜きで練習だな」
澪「落ち込んだってしょうがない。ムギの分もめいっぱい練習するぞ!」
梓「そうですね、やりましょう!」
唯「・・・・・・」
澪「唯、そのほっぺたどうしたんだ?腫れてるみたいだけど」
唯「これ?昨日憂とちょっと喧嘩しちゃってさ」
律「へぇ~っ、憂ちゃんと喧嘩することなんてあるのか」
梓「唯先輩がだらしないからですよ!」
唯「そうかなぁ~えへへ」
唯「痛かった…なぁ……」
澪「ちゃんと仲直りするんだぞ」
唯「うん、わかってるよ」
梓「さ、練習始めましょう」
律「うし、いっちょやるか!」
~♪
~~♪
澪「もうこんな時間か。そろそろ引き上げた方がいいかもな、先生にも悪いし」
梓「そうですね、この2日間でだいぶ上達した気がします!」
律「よーし、合宿お疲れ様ってことで今からアイス食べに行こーぜー!」
唯「おぉーっ!」
澪「やれやれ…」
【校門】
唯「あぁーっ!」
律「ん?どうした唯」
唯「教室に忘れ物しちゃった…」
澪「なに忘れたんだ?」
唯「お弁当…、金曜日の」
澪「」
律「カビ生えてるんじゃないのか?」
澪「律、そこまでだ。それ以上話をするな」
梓「まさか喧嘩の原因って…」
唯「えへへ…」
澪「カビなんか生えてない、カビなんか生えてないぞぉ」
梓「澪先輩が壊れた…」
唯「一人じゃ寂しいからぁ、りっちゃん一緒に来てぇー」
律「うえーっ!ったくしょうがないなぁ…」
唯「ありがとう、りっちゃん!」
律「そんじゃちょっといってくる!カビになって帰ってきたらごめんなー」
澪「よし、梓。帰るぞ。ダッシュだ」
梓「」
【教室】
唯「あったあった!」
律「よし、そんじゃ行くか」
唯「・・・・・・」
パチン
律「おい唯、いきなり電気消すなよ!見えないじゃ――」
唯「りっちゃん…」
律「え?」
ガンッ
・・・・・・
律「っててて…。なんだってんだ」
律「な、なんだこれ!腕が固定されて…」
唯「おはよう、りっちゃん」
律「おい唯、こりゃどういうことだ!」
唯「どう?すごいでしょ」
私は気絶した律さんに首と腕の分だけ穴の空けた木箱をかぶせた。
簡易断頭台の完成。シンプルな作りだけど、これだけで十分。
私は木箱に押さえられうつぶせになっている律先輩にまたがった。
律「唯…冗談だろ?」
唯「ううん、本気だよ。りっちゃん」
手には鋭利な大きめのシャベル。
律さんもようやく自分の置かれてる状況を理解したようだった。
律「お…おい唯っ、いい加減にしろ!早く外せ!」
唯「いい加減にしてほしいのはこっちだよ」
律「ゆ、唯…?」
唯「そうやってお姉ちゃんを振り回して、私から奪って…」
律「唯、さっきから何を…」
唯「ばいばい、りっちゃん」
ひゅっ…
ぐさっ
唯「…ちっ」
失敗した。一発ですっぱりいくはずだったのに。
私の力不足だったのか、律さんの首が思った以上に硬かったのか。
首半分切れたところで刃が止まってしまった。
律「うぎゃあ゛ぁぁ゛あ゛ぁぁぁ゛あぁあぁ゛ぁあ゛ぁああぁ」
瞬間、律さんの叫び声が響いた。
律「な、なぁ唯。わ…私の首から血が出てないか?」どくどく
唯「・・・・・・」
律「な、何かが刺さってるみたいなんだ。す、すごく痛いんだ唯。は、はは…。た、助けてくれ」
律さんは錯乱状態だった。壊れかけていた。
血を流しガタガタ震えながら必死に訴えていた。
タフな人だ。さすがは部長といったところなのだろうか。
律「なぁ唯。も、もういいだろ…?は、早くこれ外してくれないか…」
律「い、いい痛くてさ…。や、やばいんだよ…はは」
唯「りっちゃん」
唯「 バ イ バ イ 」
律「え――」
ざくっ
ごとん
律さんの首が落ちた。
一発できれいに片付けるつもりだったのに。
私の手が汚れてしまったではないか、くそ。
私はハンカチで丁寧に血を拭き取った。
憂「さて…」
これだけ帰りが遅いと二人も心配して見に来るはずだ。
その時が、勝負。
【校門】
澪「遅いな二人とも…」
梓「なにかあったんでしょうか…」
澪「よ、よし!ちょちょちょちょっと見てくる」
梓「私も一緒に行きましょうか?」
澪「ななななんの問題もないぞ!わた私は先輩だからな。梓はここで待っててててくれ」
梓(ふ、不安だ…)
【教室】
ガラッ
澪「ゆ、唯ーっ、律ーっ!い…いつまでやってるんだ?早く帰――」
どさっ
澪「えっ…?律…?!律ッ!!!」
憂「こんにちは、澪さん」
もうお姉ちゃんの振りをする必要もない。
私は髪を上げて平沢憂となった。
澪「憂ちゃん、どうしてここに…?」
憂「私がやったんです」
澪「え?」
憂「私が、律さんを殺したんです」
澪「何言ってるんだ…?」
澪「そうだ、唯は?!唯はどこだ?!」
憂「お姉ちゃんは私の部屋です。昨日今日と澪さんたちといたのは、私ですよ」
澪「嘘だろ…律。律ぅ…」
澪「うっ…、うえぇっ」びちゃびちゃ
澪「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
澪「どうして、こんなことを…?」
憂「…わからないんですか?」
澪「わかるわけないだろ!こんなことする理由なんて…!」
憂「 本 当 に 、わ か ら な い ん で す か ?」
澪「えっ…?」
どすっ
澪「……げほっ」
澪「憂…ちゃん…?」ばたん
持っていたナイフで横っ腹を一突き。
私は倒れた澪さんの上にまたがった。
どすっ どすっ
憂「澪さんたちが、軽音部がいけないんです」
どすっ どすっ
憂「私から、お姉ちゃんを、奪うから」
どすっ どすっ
澪「痛い、痛いよ…。もう…やめて…」
どすっ どすっ
憂「痛い?何を言ってるんですか?」
どすっ どすっ
憂「私が受けた痛みは、こんなものじゃないっ…!」
どすっ どすっ
澪「痛い、痛いよぉ…律。律ぅ…」
どすっ どすっ
澪「唯…梓…ムギ…助けて…」
どすっ どすっ
憂「・・・・・・」いらっ
憂「……死ね」
ぐさっ
最後に心臓を一突き。刺しすぎて原型をとどめてなかった。
よかったですね、澪さん。大好きな律さんのところにもうすぐ行けますよ。
?「憂!もうやめて!!!」
後ろから声がした。
憂「…梓ちゃんか」
梓「憂…自分が何をしてるかわかってるの?」
憂「わかってるよ。わかってなきゃこんなことしない」
梓「昨日から感じた違和感は、これが原因だったんだ」
憂「どういうことかな?」
梓「先輩は…唯先輩は、そんな丁寧で上手な演奏じゃないよ」
梓「唯先輩のギターは、もっと雑で、不安定で…」
梓「とっても、あったかいから」
憂「・・・・・・」
少しだけ驚いた。
お姉ちゃんの練習を毎日聞いていたし、去年一度弾いたこともあってか耳と体が覚えていた。
私の演奏は完璧だった。
ミスのない、安定した、氷のように冷たい演奏。
その違和感を感じたのはきっと梓ちゃんだけだろう。
梓「ムギ先輩や律先輩も…?」
憂「そうだよ、私が殺したの」
梓「どうしてこんなことをしたの…?」
憂「どうして…?お姉ちゃんを取り戻すために決まってるじゃない」
梓「えっ…?」
憂「昔のお姉ちゃんは甘えん坊で、だらしがなくて、私がいなきゃ何も出来なかった」
憂「でも私のことを一番に考えてくれた、見ていてくれた。幸せだった」
憂「今のお姉ちゃんは違う。私のことなんかちっとも見てくれない」
憂「学校や外で会っても、私じゃなくていつも梓ちゃんばっかり…」
梓「憂…」
憂「この前だってそう。あずにゃんあずにゃんって…私のことなんか見向きもしなかった」
憂「お姉ちゃんが大好きなのに、誰よりも好きなのに」
憂「梓ちゃんたちが、軽音部が、私からお姉ちゃんを奪ったんだ」
憂「だから決めたの。お姉ちゃんから軽音部を切り離そうって」
梓「そんな…」
憂「そうすれば、きっとお姉ちゃんは私のところに帰ってくる」
梓「そんな理由で…。ひどい…あんまりだよ…」
梓「もうすぐ文化祭だったのに…。先輩たちと演奏出来る、最後のステージだったのに…」
梓ちゃんの目が潤んでいる。
今にも泣きそうだった。
憂「梓ちゃんたちがいけないんだよ。私からお姉ちゃんをとるから」
梓「そんなの憂の勝手な思いこみだよ!私たちは誰一人そんなことしてない!」
憂「……さい」
梓「こんなことしたって唯先輩は憂のもとになんかこない!」
憂「……るさい」
梓「それに唯先輩は――」
憂「…るさいうるさいうるさいうるさい」
梓「え…?」
憂「だまれぇえぇぇえぇぇぇ!!!!!!」
ガシッ
梓「…かはっ!!!」
抑えていた感情が爆発した。
思い切り首を掴んで押し倒した。
こいつが、こいつが一番憎い。
お前がお姉ちゃんの何を知ってる!
何も知らないくせ!何も知らないくせに!
当然のようにお姉ちゃんの隣にいやがって…
私からお姉ちゃんを奪いやがって…
お姉ちゃんは私のなのに。私のなのにいいぃいぃいぃいい!!!
梓「う、うい…っ!く、苦しい…」
ぎりぎり
憂「返してよ、ねぇ!!!お姉ちゃんを、返してよ!!!!」
梓「うい…。う……いっ…」
腕を掴まれた。抵抗している。
無駄なあがきを…とっとと死ねばいいのに。
梓「憂…。唯先輩は…唯先輩はね、いつだって憂の…こ…と…」
憂「うるさいうるさいうるさい…!お姉ちゃんの名前を口にするなあぁあぁぁあぁああぁ!!!」
梓「文化…祭で…ね、唯先輩…は…っ……」
がくん
私を掴んでいる腕から力が抜けた。
ようやく死んだか。ゴキブリみたいにしぶといヤツだった。
最後に何か言いかけたみたいだったけど、知ったことではなかった。
やった…私はやったんだ。
これできっとお姉ちゃんは私のところに戻ってくる。
邪魔者はすべて消した。罪悪感はなかった。むしろ清清しかった。
帰りにスーパーでたくさん買い物をした。
お姉ちゃんの大好きな料理をいっぱい作ってあげるんだ。
そしたらまた、前みたいに私のことを見てくれる。
一緒にお出かけして、くだらないことで笑って…。
胸の高鳴りを抑えることが出来なかった。
ガチャ
憂「ただいま、お姉ちゃ―…」
どさっ
買い物袋が手から落ちた。私は動けなかった。
目の前の光景を理解するのに時間がかかった。
お姉ちゃんは…
死んでいたのだ。
憂「お姉ちゃんっ!!!」
私にお姉ちゃんの元に飛びこんだ。
紬さんを殺すのに使った睡眠薬と劇薬のビンが空だった。
おそらく大量に服用したのだろう。
憂「お姉ちゃん…どうして…?」
わからなかった。どうして?
軽音部がいけないんだよ?
軽音部がお姉ちゃんを私から奪うから。
私のなのに、お姉ちゃんは私のなのに。
ねぇ、どうしてお姉ちゃんが死んでるの?
憂って呼んでよ。またぎゅってしてよ。
お姉ちゃん…お姉ちゃん。
唯『軽音部のみんなと演奏することはね、今の私の生きがいなんだ!』
ふと、私はお姉ちゃんの言葉を思い出した。
お姉ちゃんを殺したのは他でもない、私だった。
憂「はは、はははは…」
笑うしかなかった。滑稽だった。
お姉ちゃんは死んだ。私がお姉ちゃんの生きがいを奪ったから。
私が悪いの?私が我慢しなかったから?
ちがう!ちがう!!悪いのは軽音部のやつらだ!
笑っているはずなのに、涙が止まらなかった。
憂「ごめんね、お姉ちゃん…」
なんで謝っているんだろう。自分のしたことを悔やんでいるのか。
すべてお姉ちゃんのためにやったことではないのか。
でも、その結果がこれだ。もうお姉ちゃんは戻ってこない。
ならせめて、最期ぐらいは…。
大好きだよ、お姉ちゃん。
和「唯…」
私はいま平沢家の葬式に来てる。
この未曾有の出来事はすぐに私の耳に届いた。
軽音部の全員が殺された。犯人は憂ちゃんだった。
その憂ちゃんは自分の部屋で薬を服用して自殺した。
唯を抱きながら眠るように死んでいたらしい。
何かの冗談かと思った。それぐらい、突然なことだった。
葬儀には色んな人が来ていた。
クラスメイトはもちろん、先生も、後輩も。いかついギャルたちもいた。(バンド仲間だろうか)
唯は、こんなにも愛されていたのだ。
ギターや着ぐるみ、たくさんの写真が遺品としてそこにあった。
どれも軽音部の時のものなのだろう。
おもむろに一つのものに目が留まった。
和「これは…」
それは一枚のチケットだった。
チケットには拙い字で「文化祭ステージ!平沢憂特別席招待券!」と書いてあった。
文化祭のステージに特別席なんてない。きっとこれは唯の自作だ。
あの子なりに憂ちゃんに感謝をしたかったのだろう。
憂ちゃん。唯は、誰よりもあなたのことを想っていたのよ。
そういえば、澪がこんなことを言っていた。
澪『唯がな、曲を作ったんだ』
和『へぇ、あの唯が?』
澪『大好きな憂ちゃんや和、お世話になったさわ子先生のためにって』
そんなこと思い出した。途端に涙が溢れそうだった。
泣いてはいけない。しっかりしないと。
唯の前でこんな姿は見せられない。
あの子の前では、いつでも頼れる人でいないと。
唯『のーどーかーちゃん!』
あのあどけない笑顔が、いつまでも頭に残って消えなかった。
おわり
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と´__.}{.__`っ
ちくしょう…
ちくしょう…
どうしてこうなった…
唯「やべでえええええええあああああああああああああああああああ」
唯「おぢんぼやべっべっべべえddっでえええええええええええええええええええええええええ」いgyがああああああああああ」
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