唯「等身大あずにゃんフィギュア!」 (34)
憂「お姉ちゃん、今年の誕生日はなにがほしい?」
唯「等身大あずにゃんフィギュアがほしい」
憂「へ?そんなものあるの?」
唯「https://animaru.jp/shop/sp/kon_azusa/」
憂「ほ、ほんとにあるんだ……」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1511635001
唯「憂もほしいでしょ? 平沢家に1体、あずにゃんフィギュア!」
憂「うーん……、でもこれ、限定22体って……しかも抽選」
唯「ほしいなあ~」キラキラ
憂「(こ、こんなキラキラした目で期待されたら……!)」
憂「考えておくね、お姉ちゃん」
唯「わーい!」
よくじつ!
梓「へ?私の等身大フィギュア?」
憂「うん、梓ちゃん、なんとか手に入れられないかなーって、よくわからないけど、型とか取られたんでしょ?」
梓「そもそも話がよくわかってないんだけど……」
憂「https://animaru.jp/shop/sp/kon_azusa/」
梓「」
純「わ、なにこれまんま梓じゃん、こんなの発売するんだ」ヒョイッ
梓「い、いつの間にこんなものが……!」ドンビキ
憂「限定22体販売されるみたいなんだけど、お姉ちゃんが誕生日プレゼントに欲しがってて……」
梓「いろいろツッコミたいけど……唯先輩はこれを手に入れてなにをするつもりなの」
憂「『これがあればウチであずにゃん分が補給できるよ!』とか言ってたよ」
純「愛されてますなぁ」
梓「意味わかんないよ!」
梓「ていうか値段!220万もするの!?」
憂「そうなんだー、お姉ちゃんのために買ってあげたいんだけど、手が出ないよね」
純「リアルに人身売買みたいな価格設定だね……これみて、ここ」
『※1体1体手作りで制作しているため、個体差が生じますことご了承ください。』
純「手作りだって、あはは、なんか怖い」
梓「こんなの買う人いるのかな……ていうか私の肖像権……」
純「ねー、これ手に入らないならさ、梓があずにゃんフィギュアになればいいんじゃないかな」
梓「なにその聖飢魔Ⅱみたいな考え方」
純「お前も蝋人形にしてやろうか!……ってなに言わせんの」
憂「でも、それ名案かも、梓ちゃん、お願いできる?」
梓「ようは人形のふりして唯先輩の誕生日にお邪魔すればいいってことだよね」
憂「うん!」
ひらさわけ!
憂「おねえちゃーん、今日あずにゃんフィギュアの話を梓ちゃんにしたら……」カクカクシカジカ
唯「えぇー! あずにゃんフィギュア手に入らないの……?がっくし」
唯「女子高生姿のあずにゃんを永遠に保存できたのに!」
憂「そっか、梓ちゃんもこれから成長するもんね」
唯「うん、今のかわいいあずにゃんをいつまでも残しておきたいんだよ……」
唯「きっと、これからあずにゃんも大人になって、大人になるから……」
憂「代わりに写真とかたくさん撮ろうよ、ね?」
唯「んー……うん、そだね。フィギュアじゃなくても、形になるよね」
その翌日から、あずにゃんはどこかにいなくなってしまった。
今日はここまで
話の大筋はできてるので、少しずつ書いていきます
>>6 訂正
純「ねー、これ手に入らないならさ、梓があずにゃんフィギュアになればいいんじゃないかな」
梓「なにその聖飢魔Ⅱみたいな考え方」
純「お前も蝋人形にしてやろうか!……ってなに言わせんの」
憂「でも、それ名案かも、梓ちゃん、お願いできる?」
梓「ようは人形のふりして唯先輩の誕生日にお邪魔すればいいってことだよね」
憂「うん!」
梓「自分でも何言ってるかよくわかんなくなってきた……」
純「まぁこんなフィギュアがでちゃったのが悪いね、私もちょっとほしいもん」
梓「なにに使うの」
純「オブジェ」
梓「正しい使い方っぽいけど悪趣味すぎる」
梓「……憂、悪いけど、フィギュアのふりなんておかしいよ、そもそもこんなフィギュアが販売されてること自体……」
梓「欲しがってる人……唯先輩とかには悪いけど、出るとこ出て、絶対止めてくる!」
憂「そんな……」
純「私も欲しいんだけどなー」
TV『近日等身大フィギュア化して販売されるあずにゃんこと中野梓さんですが依然行方不明です――警察の懸命な捜査が今も行われており――』
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――――
――
連日のようにテレビでは行方不明のあずにゃんについて報道されていた。
あずにゃんがいなくなってからもう1週間経っていて、わたしたちけいおん部も思い当たる場所を全部探してみたけれど、どこにもいなかった。
唯「あずにゃん、どこにいっちゃったんだろう……」
律「くそっ……いなくなるんだったら、あたしたちに連絡くらいしろっての」
澪「連絡すら取れない状況なのかもな……」
紬「それって……」
律「澪!」
りっちゃんが少し大きな声で澪ちゃんをとがめる。
あずにゃんがいなくなって数日のうちは、「家出かな」なんてごまかしていた感情が、すこしずつ具体的な想像に変わっていくのをわたしたちは感じていた。
澪「ご、ごめん……」
紬「ね、ねえお茶にしましょ? もしかしたら、いつも通りにしてたら、梓ちゃんが帰ってくるかもしれない……」
唯「うん、そだね……」
この場にいる誰もが「そんなわけない」と思うようなムギちゃんの提案にすがりつきたくなるほど、わたしたちは不安になっていた。
そうやってみんながみんな、繕うようにお茶の準備をしている中、突然部室のドアが勢いよく開いた。
純「あのっ……みなさん見てほしいものが……!」
あずにゃんの友達の純ちゃんだった。息を切らしながらケータイを片手に差し出している。
まさか、という期待に、私たちは群がるように純ちゃんのケータイの画面を覗き込んだ。
唯「これ……等身大あずにゃんフィギュアの販売サイトだよね」
澪「これがどうしたんだ?……ただの販売サイトじゃ」
純「販売数!みてください!」
律「『限定23体抽選販売』?それがどうしたんだ」
唯「!! これ……!」
純「唯先輩、気づきましたか」
唯「前に見たときは『限定22体』って……」
純「そうなんです、一体増えてるんですよ!」
紬「こんなことって……」
ありえない。けど、そうとしか思えなかった。
純「梓が等身大あずにゃんフィギュアになっちゃったかもしれないんです!」
唯「みんな!買おうよ、等身大あずにゃんフィギュア!」
わたしは必死になっていた。少しの望みでも、かけてみたくなっていた。
澪「でも、これって220万円もするんだぞ……私たちのお小遣いじゃとても……」
純「そうなんです、だからけいおん部の、紬先輩にご相談したくて……」
紬「……お父様に相談してみるわ、わたしも梓ちゃんのためなら、なんでもしたいもの」
律「あたしたちもとりあえず抽選への応募しよう、当たるかわかんねーけど、少しでも確率をあげよう」
唯「うん、そうしようよ! あずにゃんが見つかるかもしれない!」
澪「……ああ、そうだな!」
わたしたちは盲目的になっていた。
等身大あずにゃんフィギュアを手に入れることに、その後になにがあるかも考えずに。
あれから1か月、あずにゃんはみつからないまま、わたしたちは等身大あずにゃんフィギュアの抽選発表日を迎えていた。
唯「発表、まだかな……」
澪「サイト、かなり重いな……きっとすごく多くの人がアクセスしてるんだと思う」
紬「どうか当たってますように……!」
律「おい!サイト更新されたぞ!」
りっちゃんがケータイの画面をみんなにみせてスクロールしていく。
わたしの番号……わたしの番号は……!
唯「……あった! 等身大あずにゃんフィギュア、当たったよ!」
紬「ほんとう!? すごいわ唯ちゃん!」
澪「私のは……ないみたいだ」
律「当たったのは……唯だけみたいだな」
やった……! 等身大あずにゃんフィギュアが当たった……!
これであずにゃんに、また会えるかもしれない。
そう思うと、あずにゃんにいなくなってからの1か月のさみしさとつらさが報われるような気がして、
わたしは泣いてしまっていた。
唯「あずにゃん……やっと会えるね……あずにゃん……」
紬「唯ちゃん、お金のことなら任せて。梓ちゃんにまた会えるわよ」
唯「うん、ムギちゃんありがとう……」
ムギちゃんに抱きかかえられながらわたしは泣き続けた。
りっちゃんと澪ちゃんもわたしの背中をさすってくれて、わたしが泣き止むまでそばにいてくれた。
あれからさらに半年ほどたって、わたしはあずにゃんフィギュアの発送を待つ日々を送っていた。
りっちゃんと澪ちゃん、ムギちゃんは大学に受かって、今は大学生活を送っている。
わたしは……あずにゃんのことを考えると、なにも集中できなくて、浪人してしまった。
代わりに、アルバイトを始めていた。
ムギちゃんに立て替えてもらった等身大あずにゃんフィギュア代220万を稼ぐためだ。
まだ全然足りないけど、いつか返せるように頑張っている。
あずにゃんのためなら、わたしはもう何を犠牲にしてもよかった。
盲目的になることで、あずにゃんのいない日々を紛らわしていた。
そんな日々も明日で終わりを迎える。
唯「憂、明日は等身大あずにゃんフィギュアが届くよ!」
憂「うん、楽しみだねお姉ちゃん。梓ちゃんに会えるね」
翌日の昼間に、大きな段ボール箱が我が家に届いた。
唯「わぁ、あずにゃんの大きさだ」
よいしょ、と持ち上げると、ずっしりとした重みを感じる。
憂は学校に行っていて、一人で持ち上げるのはつらかったけど、それさえも、あずにゃんの重さが感じられてうれしい。
唯「待っててね、今開けるからね……!」
過剰梱包気味の厳重な段ボールをていねいに開けていく。
梱包を解いていくたびに、あずにゃんにひとつ近づいていくようで、興奮が止まらない。
そして最後の段ボールを開けると…………
唯「……あずにゃん、やっと会えたね……!」
そこには制服姿の、かわいらしいあずにゃんがいた。
小さな姿に似合わないギターを構えて、上目遣いで微笑むあずにゃんは本当に天使みたいだ。
唯「あずにゃん、わたしだよ、唯だよ」
答えてほしくて、目を見て呼びかける。
でもその目はいつまでも合う気がしなくて、瞬き一つしない。
唯「あずにゃん、そんなに目、開けてたら、ドライアイになっちゃうよ」
唯「あずにゃん、そんなにおとなしくしてたら、抱き着いちゃうよ、ねえ……」
答えてくれなくて、抱きしめてみる。
レジン製の等身大あずにゃんフィギュアの無機質さが、残酷にわたしの体に伝わる。
唯「ねえ、あずにゃん……? 『抱き着かないでください』って、抵抗しなくていいの……?」
唯「わたし、あずにゃんにずっと会いたかったんだよ、ずっとあずにゃんのこと考えてた……」
唯「あずにゃんがいなくなってから、ずっとずっと……!」
強く抱きしめれば強く抱きしめるほど、あずにゃんの形と、その冷たさと硬さがわかってしまう。
唯「動いてよあずにゃん!! あずにゃん、等身大あずにゃんフィギュアになっちゃったんでしょ!? もういい、本物のあずにゃんに、戻ってよ!!」
唯「わたしが欲しかったのは、動かないあずにゃんフィギュアなんかじゃない!」
唯「続いていくはずだった、あずにゃんの未来がほしい!!」
唯「あずにゃんと一緒に大人になりたかったよ!!」
等身大あずにゃんフィギュアにすがりつきながらいつの間にか私は泣いていた。
広い部屋に私の泣き声だけが響いて、さみしさが浮き彫りになる。
わたしの涙がついて、等身大あずにゃんフィギュアの無機質な目から頬を伝っていく。
あずにゃんが泣いているみたいで、わたしはもっと悲しくなった。
『唯先輩、しっかりしてください!』
耳元でなつかしい声が響いた。
唯「あずにゃん……?」
確かめるように、等身大あずにゃんフィギュアの顔を見る。
今、確かにあずにゃんの声が……
『おはようございます唯先輩』
等身大あずにゃんフィギュアは動かない。
でも、あずにゃんの声が、レジン製の体から聞こえてくる。
唯「あずにゃん? そこにいるの?」
『唯先輩、しっかりしてください!』
『おはようございます唯先輩』
唯「あ、そっか……そうだよね……」
さっきと全く同じ声が聞こえて、わたしは気づく。
これは等身大あずにゃんフィギュア特典の録り下ろしメッセージだ。
でも、久しぶりにあずにゃんのわたしを呼ぶ声が聴けた。
それだけでうれしかった。
少し等身大あずにゃんフィギュアが愛おしくなって、また話しかける。
唯「ねえあずにゃん、わたしたち、もう高校卒業しちゃったんだよ」
唯「みんなは大学に受かったけど、わたしは落ちちゃった。あはは、ダメだね……」
唯「憂も純ちゃんも、進級して今は受験生なんだ。あずにゃんもわたしも、取り残されちゃってるね」
唯「でもわたし、今バイトしてるんだよ。あずにゃんを買うために。今はムギちゃんに立て替えてもらってるけど、いつか返すんだ」
唯「わたし、あずにゃんのためならなんだって頑張れるよ。だってあずにゃんはわたしのかわいい後輩だもん」
唯「あずにゃんがいなくなって、わたしたちも卒業して、けいおん部はなくなっちゃったけど」
唯「あの頃の思い出はわたしの宝物だよ。あずにゃんと一緒にいた思い出がいちばん大切だよ」
唯「ねえあずにゃん……わたしあずにゃんのことが、大好きだよ……」
もう一度あずにゃんの体を抱きしめて、頭をなでる。
あずにゃんと過ごした日々が頭をかけめぐって、さらに愛おしくなる。
たまらなくなって、無抵抗なあずにゃんに口づけをしてしまう。
あずにゃんの小さな唇は固まった笑顔のまんまで、白雪姫みたいに呪いが解けたらいいのになんて思う。
でも、そんな夢みたいなことはなくて、だけどわたしは心の中でひとつ誓いを立てる。
――――――
――――
――
10ねんご!
唯「あずにゃん、今日もかわいいね」
梓『おはようございます唯先輩』
唯「わたしももう大人になっちゃったなぁ。アラサーってやつだよ」
唯「大人のお姉さんなわたし、どう?」
唯「……じゃああずにゃん、今日もお仕事行ってくるね」
唯「あずにゃんのためならえんやこらー、行ってきまーす」
――――――
――――
――
20ねんご!
唯「あずにゃん、いつまでもかわいいね」
梓『おはようございます唯先輩』
唯「もうりっちゃんや澪ちゃんには、あずにゃんと同じくらいの年の子がいるんだよ。なんか不思議だよねえ」
唯「わたしもおばさんになっちゃった」
唯「あずにゃんはずっと女子高生なんだもんなぁ、うらやましいよ」
――――――
――――
――
50ねんご!
唯「あずにゃん、あずにゃんは変わらないね」
唯「わたしおばあちゃんになっちゃった、あずにゃんは変わらないのに」
梓『唯先輩、しっかりしてください!』
唯「もう目も悪くなっちゃって、あずにゃんの顔もよく見えないよ」
唯「うふふ……もうあずにゃんのほうが背が高いもんね、あずにゃん成長してるのかな?」
唯「なんちゃって、わたしの腰が曲がってきただけ」
――――――
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――
80ねんご!
唯「あずにゃん……」
唯「もうけいおん部のみんなは、先にいっちゃったよ」
唯「わたしももう………」
梓『唯先輩、しっかりしてください!』
唯「あはは……あずにゃんは、変わらないね……」
唯「ごめんねあずにゃん。ひとりにしちゃうね」
唯「あずにゃん、あずにゃんは幸せだったのかな……?」
唯「………………………………」
唯「……………………」
唯「…………」
わたしは夢をみた。
女子高生だったころの夢。
りっちゃんがいて澪ちゃんがいてムギちゃんがいて、あずにゃんも一緒に笑っていた。
しばらくすると、りっちゃんと澪ちゃんとムギちゃんが用事があるからと先に帰ってしまう。
あずにゃんとわたしだけが部屋に残されて、ふたりきりになる。
梓「唯先輩は帰らないんですか?」
唯「わたし、なんか眠くて……疲れちゃったのかな、帰る前にちょっと寝ちゃおうかな」
梓「学校で寝るなんて……風邪ひいちゃいますよ」
唯「あずにゃん膝枕してー」
あずにゃんに甘えると、しぶしぶといった調子でソファまでわたしを導いてくれる。
梓「しかたないですね、まったく、特別ですよ……」
唯「えへへ、やわらかーい……」
あずにゃんの太ももはあったかくてやわらかくて、懐かしい心地だった。
うとうとすると、あずにゃんが頭をなでてくれる。
唯「あずにゃん、わたしね、幸せだったよ……」
ぼやっとした頭で、寝言のようにつぶやく。
あずにゃんの太ももとわたしの頬の肌がとろけて、混ざっていくように感覚がにじんでいく。
何も見えなくなって、頭をなでるあずにゃんの手の感触もなくなっていく。
この世界から、わたしがなくなっていくようにすべてが鈍くなっていく。
でも、最後にかろうじてあずにゃんの声が聞こえる。
『わたしも幸せでした。だいすきです。……』
ずっと聞きたかった声、大好きなあずにゃんの声。
その声にすべてが救われて、わたしは深い眠りについた。
fin.
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