美琴「んふふ。もっかい罰ゲームなんだからねー」(323)


「……どォして普通のほのぼのな美琴スレがねェンだ?」

「い、いきなりどうしたの? ってミサカはミサカはあなたの言動に不安を抱いてみたり」

「きっと、もう短髪の需要なんてないんだよ!」

12月未明──06時30分

黒子「なッ!?」

美琴「今度こそ何でも言うこと聞かなきゃ駄目なんだからねー……むにゃ」

黒子(お、お、おね! ま、ま、また、またですの!? またなんですのお姉様!?)

美琴「んふふー」

黒子(またあの野郎なんですの!?)ガバッ

美琴「すー……すー……」

黒子(ああああああ! なんて素敵に幸せそうな寝顔ですの!?)

黒子(あ、あ、あの、あの若造があァァァああああ!!)

──07時10分

黒子(うう……、ぐっすり寝たというのに寝起きが最悪すぎですの……)

美琴「んー……、ん? 朝?」パチリ

黒子「あら、おはようございますですの」

美琴「んー、何時ー?」

黒子「もう7時過ぎですわよ」

美琴「あれ? もうそんな時間か。んんー! はぁ……」

黒子「……目覚めもさぞよろしいことでしょうに」

美琴「そうでもないわよ、寝たのは遅かったし……」

黒子「は? 随分早くに布団に入られたように思いますけど」

美琴「まあそうなんだけど。それより黒子」

黒子「はい?」

美琴「アンタもずいぶん眠そうにしてるけどどうしたの?」

黒子「い、いえ……」

美琴「アンタこそ昨日は随分早くに寝てたじゃない」

黒子「い、いえ、わたくしの場合はそうではなく……」

黒子(寝言の内容が気になってるだけなのですが、コレは言わない方がよさそうですわね……)

美琴「はぁ? あ、準備できてるなら先行っちゃっていいわよ」

黒子「あ、そうですか。ってお姉様は?」

美琴「ちゃんと行くわよ……」

黒子「わかりまし……」

黒子(ってしまった!?)

黒子「いや、やっぱりお待ちしてますので、ふふふ、早くお着替えを」

美琴「視線が怖いんですけど!?」

黒子「時間が無くなってしまいますわよ、ここは黒子がお手伝いを」

美琴「さっさと行きなさいよ!?」

──07時40分

美琴「あー、食欲ないかも」

黒子「お姉様、体調が優れないのでは?」

美琴「そういうんじゃないのよ。まぁちょっと寝不足なだけで」

黒子「でしたら、なおさら朝はしっかり食べないと」

美琴「わかってるってば……」

黒子「ところでお姉様、今日のご予定は?」

美琴「そうねえ。特にないし、ぶらぶらしようかしら。あとは……」

美琴(アイツが捕まればいいんだけど……メールも返って来ないし)

美琴「んー、昼寝くらいかなー?」

黒子「よ、よりによって風紀委員のお仕事がある日に限って……」

黒子「となればお昼寝の最中に戻ってこれるよう最悪初春を犠牲にしてでも超高速でお仕事を終えねばなりませんわね!」

美琴「……寒気がするわ」

黒子「あら、やっぱり体調が優れないのでは?」

美琴「アンタねぇ……」

──07時50分

『たとえ実験品であってもォ! ミサカはこのヒヨコの命をおォォおおおおおォォおおおおおッ!!』

上条「うぎゃああああああ!?」

上条「え? 夢!? 良かった! 夢か!」

上条「………………」

上条「しかし恐ろしいものを思い出しちまった……」

上条「授業納めだってのに朝から不幸だ。何かの前兆じゃないだろうな」

上条「あれ? 何時? 8時?」

上条「……って思いっきり寝坊じゃねえか!?」

上条「チクショウ。何でアラームに気付かなかったんだ」

上条「その辺にパンとかなかったっけか?」

上条「あー、食パンだけかよ。ああもうとりあえずコレでいっか」

上条「えっと、着替えどこだ!? って踏んでるこれかよ!」

上条「次は次はえっと、あれー!? 財布どこですかー!?」

──08時00分

舞夏「みさかみさかー。今日はコンビニとか行かないのかー?」

美琴「そうね、今日は何もないし。ってか土御門、アンタは一応メイドさん見習いなんだから」

舞夏「みさかみさかー。そんなお小言は聞き飽きたぞー」

美琴「小言じゃないっての。つーかそれはメイドさん見習いとしてはどうなのよ?」

舞夏「まあそれだけみさかが気の置ける相手ということだなー」

美琴「それ、意味わかって使ってる?」

舞夏「ありゃー? わかんないやー。まあみさかだからなー」

美琴「喜んでいいんだかわかんないわね」

舞夏「真のメイドさんだって人間なんだぞー」

美琴「あら、アンタにしては珍しく弱気な感じじゃない」

舞夏「いやー、そういうわけじゃないんだけど、って料理長がお呼びだなー」

美琴「はいはい、がんばんなさいよ」

舞夏「うーい」

美琴「返信はまだかしら、って電池切れ……。部屋に戻るかな」

──08時10分

上条「ああもう! 朝から何してんだ俺はー!?」

上条(財布の中に定期入れてるってのに財布が見つかりませんでした!!)

上条「って、それじゃ電車も使えなくなるじゃねえか! 普通の切符も買えねえし!」

上条「何で朝からハーフ、いやクォーターマラソン強いられなきゃなんねえんだー!!」

上条(っつか俺の腹が昼まで持つかどうか不安になってきた)

上条「くっそ、財布以外に忘れ物ないよな? ま、別にあってもいいか……」

上条(しかしまーなんつーか、冬休み入る時期なのに学生が多いな)

上条(流石に授業期間延びてるのはウチだけじゃないってことか)

上条「一体どんだけ休校にしてたんだっつの……」

上条(あー、もう疲れた。今何分だよ……)

上条「あ」

上条「携帯、忘れてきた…………」

──08時10分

ガチャ バタン

美琴「はぁ……」

黒子「あらお姉様、ようやく終わりましたの?」

美琴「結局あんまり食べれなかったわ。っと充電器充電器……」

黒子「そんな調子で今日1日持ちますの?」

美琴「まぁ出かける予定もないから大丈夫なんじゃない。っとセット完了……」

美琴「メール……きてない。ところで黒子はいつ出るの?」

黒子「もう一度髪を整えてからにしますわ」

美琴「そう。……整える前に、ゴミついてるわよ」

黒子「あら、どこでしょう?」

美琴「そっちじゃないって、……ああもう、取ってやるわよ」

黒子「! おねえさ」

美琴「はい、これで良し。ほら、もういいわよ、って黒子?」

黒子「お姉様ぁぁぁあああ!!」

美琴「ちょ、抱きつくなコラー!?」

黒子「この久しぶりな感覚!!」

美琴「離れなさいって!!」

黒子「このお姉様の世話焼きスキルにいいいい!!」

美琴「くろ!? ちょ、調子に乗るなあああ!!」バチン

黒子「あうっ!?」

美琴「ったく、アンタは……」

黒子「そんなお姉様! 黒子は! 黒子はァァァあああ!!」

美琴「何なのよアンタ急に!? コラー!!」バチバチ

黒子「お姉様! お姉様!! それ以上は身体がもた、あうッ、おねえええええさ」

ガチャ



寮監「……………………」

黒子「……………………」

美琴「……………………」

――08時50分

小萌「さあ! 明後日からいよいよ冬休みなのです!」

土御門「にゃー! 待ってましたー!」

上条「うへー、まだ1日あんのかよ」

吹寄「って明後日からって何ですか!?」

小萌「そのままの意味ですよ?」

吹寄「そうじゃなくって! 普通前日になってから言うものじゃないんですか!?」

小萌「まぁまぁ吹寄ちゃん。こう言っておけばみんなやる気が出るのですよ」

吹寄「下がってる奴もいるんですけど」

上条「うへー、俺を見るなよ。眠いんだよ」

吹寄「ホラ、この飴苦いけどカフェインむちゃくちゃ入ってるから舐めなさい」

上条「朝からんなもん舐めたくねえよ」

小萌「と、に、か、く! 明日は終業式なので授業は今日で終わりなのですよー!」

土御門「イベント盛りだくさんの楽しい冬休みもすぐそこだぜよ!!」

吹寄「朝から何なのそのテンション?」

上条「いっそお前が舐めろよその飴……」

青髪「これで小萌先生をしばらく見られなくなるなんて僕ぁ寂しくて寂しくて」

上条「……何で俺を見んの? 気持ち悪いぞお前」

小萌「はいはいお馬鹿ちゃんたちうるさいですよー」

小萌「ああ、あと上条ちゃんは、トーゼン、補習です」

上条「何で!?」ガタッ

小萌「上条ちゃんったら全然学校に来ないじゃないですかー」

上条「うっ!?」

青髪「どーせカミやんのことやしどっか女の子といつものラブコメしとったんやろなー」

土御門「まーとんでもないことしてたのは確かだろうにゃー」

小萌「というか、ちゃんとこの前お話しましたよね?」

上条「それはしたけど、補習とか全然聞いてないんですけど」

小萌「もしかして忘れちゃったのですか?」

上条「いや、出席数の話なら覚えてますよ」

上条「っつか事情があったとはいえ、不幸だ……」

青髪「おのれカミやん! 小萌先生と秘密の約束をした上、それを忘れ」カチカチ

上条「覚えてるっつってんだろ!? そのカッターはどうすんの!?」

小萌「はいはい。冬休みはなくなったものだと思ってくださいね」

上条「そんなに補習やんの!?」

青髪「冬休み中も毎日先生に会えるだなんてカミやん……」カチカチ

上条「んな目で俺を見んじゃねえ!! あとソレしまえ!!」

小萌「と言いたいところですが、先生はそこまで鬼じゃないのです」

上条「へ?」

小萌「年末は全部補習にしますけど、年明けは先生の都合もつかないので補習はなしです」

上条「それでも半分なくなるんですけど!?」

小萌「ちなみに冬休みだけじゃ足りないので春休みも補習決定なのですよー」

上条「こんな早い段階でそんな宣告!?」

青髪「カミやん、羨ましいなぁ」

上条「うるせえ、つーかソレこっち向けんな!!」

小萌「それと宿題2倍増しにしておくからがんばってくださいね!」

上条「2割じゃなくて2倍なの!? 増しってことはつまりは3倍!?」

小萌「よく計算できましたー!」

土御門「カ、カミやんが……、冴えてるぜよ……」

上条「どういう意味だよ!?」

小萌「お昼休みまでには作っておくので取りに来てくださいねー」

上条「いやだああああああああああああ!!」

吹寄「朝から何なのそのテンション?」

──09時00分

美琴「ったく、黒子のやつ!!」

美琴「風紀委員があるのはしょうがないとして、なんで私が……」

美琴「つーかこの廊下を一人で掃除だなんて」

ガチャ

美琴「しかも昼までになんて終わるわけないじゃない」

寮監「どのみち昼になったら中断だ」

美琴「ひっ!?」

寮監「文句を垂れるのは構わんが、きっちり掃除はすること」

美琴「……は、はい。すいません」

寮監「進度にもよるが、午後も引き続きやってもらおう」

美琴「……はい」

寮監「ある程度終わったら残りは白井にやらせることにする。手を抜くなよ」バタン

美琴「はぁ……。今何時よ……って携帯充電してるんだった」

美琴「不幸ね……」

──11時00分

青髪「どしたんカミやん、テンション高かったのは朝だけ?」

上条「うるせえよ、朝飯ちゃんと食えなかったから腹減ってんだよ」

土御門「まあそれもあと1時間の我慢だぜい」

上条「まだ1時間あるんだよなあ……」

青髪「空腹時の1時間ってやたら長いよなあ。あの感覚は何やろね」

上条「空腹感に阻害されて居眠りもできないし」

姫神「…………」

土御門「本気で滅入ってるみたいだにゃー」

上条「ってしまった!!」

青髪「どしたん?」

上条「財布がないんだった……」

青髪「1日1割で貸しますよー?」

上条「あああああ!! つっ、土御門ォォォおおお!! 帰ったらすぐ返すからこのとおりィィィいい!!」

土御門「わ、わかったわかった。なんか必死すぎてボケる気もしないぜよ」

──12時20分

土御門「あれ? カミやん、宿題取りに行かなくていいのか?」

上条「昼飯の確保の方が先だ馬鹿!」

土御門「それなら俺が確保しといてやるぜい?」

上条「ろくなことにならなそうだからいい」

土御門「信頼されてないにゃー」

青髪「とっとと行かんとなくなるでー」

小萌「はいはい、ストップですよ上条ちゃん」

上条「ゲッ!?」

小萌「そんな声出されるとショックなのですよー」

青髪「カミやんこの野郎おおおお!!」

上条「こっちくんなあああ!?」

小萌「はいはい、上条ちゃんはどこに行く気なのですかー?」

上条「えーと、先生? 昼飯食べたいんですけど?」

小萌「それは後にして、上条ちゃんはこっちですよー」

上条「あれー!? やっぱり昼飯にはありつけないんですかー!?」

土御門「諦めろカミやん。それが運命という奴ですたい」

上条「意味わかんないこと言ってないで飯の確保頼むぞ土御門ー!!」

土御門「おう、なんか面白そうなの買っとくぜい」

上条「頼むから普通のをォォォォおおおお!!」

小萌「廊下は静かにしなきゃダメですよー」

――12時30分

美琴「朝食べなかった分、割と食べれて良かったわ」

美琴「ただ、ちょっと眠くなってきた……」

美琴「寝たのほとんど5時だったもんなぁ。結局メールは返って来ないし……」

美琴「そして未だに返ってきてない……。完全にスルー?」

美琴「ったく、どういうことなのよコレはー!?」

美琴「…………って騒いでもしょうがないか。罰増やされても困るし」

美琴「あの馬鹿のことだから、気付いてないだけかもしれないし」

美琴「電話……ちょっと緊張するけど一度かけてみるか……」

『お客様がおかけになった電話は、電波の──』

美琴「…………こんなことだろうとは思ってたけど、ふう……」

美琴(いや、何で安心してんの、私……)

美琴「一昨日会ったばっかりだし、さすがにまた『外』に行っちゃったってことはないと思うけど……」

美琴「せっかくの冬休みだし、もっと時間を作りたいんだけどなぁ」

美琴「よっし、とりあえずメール送りまくってみるか」

──12時30分

上条「あの、先生?」

小萌「なんですか?」

上条「2倍増しって言ってましたよね」

小萌「そうですねー」

上条「多すぎない!?」

小萌「そうですねー」

上条「何普通に同意してんの!? 先生アンタ生徒の嫌がることしないんじゃなかったんですか!?」

小萌「まーまー上条ちゃん。それは嫌がらせとかじゃなく、先生からのほんの気持ちなのですよー」

上条「気持ちって悪意ですよね!? そうですよね!?」

小萌「そうですねー」

上条「何普通に同意してんの!?」

――13時00分

寮監「御坂」

美琴「はい!?」

寮監「一応半分は進んだようなので、罰はここまでとする」

美琴「で、でもまだ半分ちょっとしか」

寮監「残りは白井にやってもらう。それにお前、寝不足だろう?」

美琴「えーっと……」

寮監「全く、どういうつもりか知らんが意味の無い夜更かしなどするな」

美琴「……すいません」

寮監「もう戻って休め。ただし同じことは繰り返さないように」ギロ

美琴「ひっ、……す、すいませんでした。失礼します」

バタン

美琴「ふぅ……」ピッ

美琴(メールは……なんで来てないのよー……)

──14時10分

土御門「やっぱ昼飯の直後は眠くてダメぜよ」

吹寄「ホラ、ブラックガムやるから」

土御門「さっきの飴のほうがよっぽど効果ありそうな気がするけど」

青髪「ガム食っても眠くなるもんは眠くなるし、眠気に耐えながらなんて全然授業にならへんて」

土御門「そうそう」

吹寄「堂々と寝てる奴が何を言ってる。で、何? アレ?」

土御門「小萌先生に連行されて昼飯を食い損ねた男の成れ果てだにゃー」

青髪「そういう言い方するとちょっとかっこええ感じにも聞こえるなー」

上条「うるせえよもうほっといてください疲れてんだよ……」

土御門「せっかく俺が納豆プリンパン買ってきたやったというのに」

上条「ふざけんな人に毒見させようとしてんじゃねえよテメエで食えー……」

吹寄「疲れてるんなら糖分よ。ホラ、あたしの秘密兵器、角砂糖やるからシャキっとしなさい」

上条「何でんなもん持ってきてんの!?」

青髪「しかも業務用袋詰めタイプやね」

上条「底の方は完全に崩壊してんじゃねーか。っつかもっと腹に溜まるものをだな」

土御門「だから納豆プ」

上条「却下!!」

姫神「よかったら。このおにぎり。余ったから」

上条「まじでっ!? しかも2個も!?」

青髪「出よったな……。いつものアレが」

上条「ありがとう姫神。お前のことは忘れないよ」

姫神「忘れられるより、マシかもだけど。その言い方は。なんか困る」

土御門「あれ? そんなことよりカミやん」

姫神「そんなことより?」

土御門「その紙束は何ぜよ?」

上条「今更だな。追加の宿題。昼にもらってきたんだよ」

姫神「私の出番。これだけ?」

土御門「なるほどにゃー。にしても、冬休みの宿題とは思えないすごい量になってるぜい」

吹寄「追加分だけで夏より多くなってるわね」

上条「悪意入りだしな。これで2倍なわけがねえ」 パク

姫神「これで。2倍はおかしい」

吹寄「これで2倍はおかしいでしょ。単純に考えたらその半分があたしたちの量になるわけだし」

姫神「それ。今私が言っ」

土御門「うげー。冬休みも大変そうだにゃー。つかカミやんこれ持って帰るのが大変だろ」

青髪「そういうときこそ逆転の発想ですよ!? 全部やったら小萌先生に褒められるわけやし!!」

上条「なんでテメエそんな前向きなんだよ。もう代わりにやってくれよ」モグモグ

ガラッ

小萌「はいはい、そこまでですよー」

上条「むぐっ!?」

小萌「授業始めるからその必要ないおにぎりはしまってくださいねー」

上条「ちょ、もうちょっとだけ! 俺昼飯食ってないんです!!」

小萌「諦めやがってくださいねー」

上条「ウソだあああああ!!」

姫神「結局。出番はこれだけ……」

――15時00分

美琴「うーん……」

美琴(罰から解放されて15分刻みでメールし続けたからこれで8通? ……普通気付くわよね?)

美琴(考えられるパターンは……あの馬鹿なら素で気付いてないってこともありそうだけど、あとは電池切れってとこかしら)

美琴(もしくはシカト? そんなことする理由って……ハッ!?)

美琴「も、もしかして他の女の子と一緒にいて……!?」

美琴(だ、だとしたらメールとかチェックしづらいのもわかるかも!)

美琴「っていやいやないない! さすがに飛躍しすぎよね。いくらなんでも…………」

美琴「ああ!! でもなんかむずむずしてきた!!」

美琴(アイツが誰といようとアイツの勝手。これじゃ私が自分の願望を押し付けてるだけじゃない。でも……)

美琴「あーもう! よくわかんないー!」

美琴(とにかく、連絡がつかないなら直接探しに行くしか……。ああもう何でアイツのために私がわざわざ……)

『つまりお姉様は素直になれないのですか、と──』

美琴「………………」

美琴「そんな簡単になれるわけないじゃない……」

──16時00分

青髪「終わった! 終わったで! カミやん!」

上条「まだ明日が残ってるの本気で忘れてないか?」

土御門「とはいえコイツが小萌先生に会う機会を見逃すとは思えないがにゃー」

青髪「何をごちゃごちゃ言うてんねん!」

上条「何だよ、どっか行きたいわけ?」

青髪「僕ぁどこでもええよ。ただ騒ぎたいだけやし」

上条「面倒だから帰っていい?」

土御門「俺は別にどっちでもいいけど」

上条「行きたい所も特にねーし、あと行き先考えるのが面倒だし」

青髪「だああああ! 使えねえ!」

上条「うっせえ! 使えねえとか言うな! 眠いんだよ!」

青髪「じゃあじゃあ提案なんやけど」

上条「却下!」

青髪「あれー!? そもそも遊ぶ気ゼロかよ!?」

──16時20分

美琴「もう1時間も経ったのか……。さすがにピンポイントで見つけるのは簡単じゃないわね」

美琴(結局いないし、来ないし、でも何故か安心してる私がいる……)

美琴「まぁ最近アイツを前にすると何故か失敗ばっかりだし……どうしようホント」

黒子「お姉様ぁー!」

美琴「あら、黒子」

黒子「お姉様、結局外出されてたんですのね」

美琴「あのバ……あ、さ、散歩よ散歩」

黒子「はぁ……。てっきりわたくしのお迎えに来てくださったのかと」

美琴「ないない」

黒子「素の即答にわたくし本気で涙しそうですわよ」

美琴「はいはい」

黒子「……もういいんですの。わたくし帰ったらお姉様の御召物で思い切り涙を拭いますので……」

美琴「やめてよ。冗談に聞こえないから」

黒子「というか何か随分眠そうにしてらっしゃいますのね。仮眠取られなかったんですの?」

美琴「あー、結局罰やってたから……。アンタ帰ってから多分大変よ」

黒子「……罰のことすっかり忘れてましたの」

美琴「ばっちり監視されながら廊下の清掃よ」

黒子「うふふ、それでもお姉様と2人でなら」

美琴「朝のうちに私が半分やったから、残りはアンタ1人らしいわよ」

黒子「……そんなことだろうと思ってましたの」

黒子「しかしお姉さま、散歩というなら通学路を外れてみたりしてもよろしいのでは?」

美琴「き、気まぐれよ。ただの気まぐれ!」

黒子「おや、あの方は……なるほど。あらあら、お姉様?」

美琴「何よ!? その顔は!?」

黒子「黒子は勘違いしておりましたのよ、うふふ、あらおかしい、うふふふふふ」

美琴「何よ気持ち悪いわね……」

黒子「散歩の目的はあちらを歩いてるあのヤロウだったんですのね」

美琴「え? えっ!? ……ってええ!?」

──16時20分

土御門「カミやん、今日は特売いかないのか?」

上条「今日のより、明後日のに行ったほうがいいんだよ」

土御門「へえ。ちょっとでも安い日があったら必死こいて行ってたのににゃー」

上条「インデックスが戻ってくるまでの間はギリギリまで節約しとかないとホント金が尽きかねない」

土御門「いつ戻ってくるんだろうな」

上条「お前のほうが詳しいだろうが。まぁ大変なんだろうけど」

土御門「割とどっから手つけていいかわからん状態だったらしいが、安定したみたいだぜい」

上条「そっか。むしろステイルが心配だな。またプラネタリウムしたって聞いたぞ」

土御門「プラネタリウムって何だ? まぁちゃんと生きてるよ。いろいろトラウマができたとか言ってたけど」

上条「ふーん、そっか。まぁよくわかんねえけど無事ならいいか」

土御門「ところで青髪だけど、ナンパしてくるとか言ってたけど仮に成功とかしちまったらどうするにゃー?」

上条「あいつに限ってそんな心配いらねえだろ」

土御門「カミやん、ホントひどいこと言うようになったよな」

上条「お前が言うな」

美琴「う、ううう……」

美琴(何でいつも不意打ちのように出てくるのよアイツはー!?)

美琴「ってアレ? まるで学校に行ってたみたいな感じね」

黒子「お姉様? 普通は休校の分の授業が伸びてますのよ」

美琴「え?」

黒子「延長なしだなんて、ウチだけなんじゃありませんの?」

美琴「へ、へえ、全然知らなかったわ」

美琴(ただの学校か……。もっと面倒なことになりそうだと思ってただけに何だか拍子抜け……)

黒子「それで、どうしますの?」

美琴「え? ど、どうしよう……って」

美琴(あれ? じゃあ何で携帯繋がらなくなってたわけ?)

黒子「空間移動で何かぶつけて差し上げましょうか。ひっひっひ」

美琴「やめなさいよ馬鹿!?」

土御門「ああ、そうめんだっけ?」

上条「おう。苦労したけど、それでも多分あと2,3日で無くなると思うぞ」

土御門「にゃー。がんばりすぎだろ……」

上条「自分でも思うくらいだ。つか他の料理のレシピとか全部忘れてる気がする」

土御門「……ん?」

土御門(あのツインテール娘は……あともう1人は、超電磁砲? こっちを見てるようだが)

土御門「……何か両者とも不機嫌オーラが全開だにゃー」

上条「あん?」

土御門「何でもない。俺ちょっと用事思い出したからあっち行くぜい」

上条「ん? 付き合うぜ?」

土御門「そうか、カミやんもコスプレ用の」

上条「前言撤回、やっぱ帰る」

土御門「残念。まぁそういうわけでまた明日」

上条「残念じゃねえよ変態。じゃあな」

土御門(不幸の巻き添えで電撃もらうなんてのはゴメンぜよ)

──16時30分

美琴「あっ」

黒子「あら、ご友人とは別れたようですわね」

美琴「うーん、ど、どうしよう、って黒子待っ」

黒子「こんにちは、殿方さん」

美琴(黒子、ちょーっ!?)

上条「ん? 白井か、随分久しぶりだな」

黒子「とか言いながら何を身構えてるんですの?」

上条「いきなりドロップキック食らったトラウマがあるからな。……ってビリビリ!?」

美琴「ッ!? な、何よオマケ扱い!?」

上条「何だよ何で早々に不機嫌なの!?」

美琴「ああ! もう! ていうかアンタ、人のこと散々シカトしやがって!」

上条「何がだ!? 何の話してんだ!?」

黒子「ほう? お姉様を無視するとは……」

上条「何でだ!? 何でお前まで不機嫌になってるわけ!?」

上条「それでシカトって何の話だよ」

美琴「メールよメール」

上条「メール?」

黒子「わたくしのお姉様にちょっかいを出しておきながら……ブツブツ」

上条「お前はお前で何ブツブツ言ってんだこえーよお前」

美琴「せ、せっかく勇気を振り絞って返信したのにアンタは……」

上条「何だよ、ごにょごにょ言われても聞こえないんですけど?」

黒子「この野郎には制裁を加える必要がありますの!」チャキン

上条「お前はお前で何取り出して……って何ですかそれーっ!?」

黒子「お姉さまを渡すわけにはいきませんのよ」

美琴「た、確かに2日もかかったし、馬鹿みたいだけど……」

上条「だああ!! もうわけわかんねえ!! つーかその手のそれは何なんだよ!?」

黒子「針ですの」

上条「見りゃわかるけどどうすんのそれーっ!?」

黒子「そうですわね。体内に空間移動とか?」ニコ

上条「笑顔で何口走ってんのこの子ーっ!?」

美琴(お陰で1日そっちに気を取られちゃうし、電話しても繋がらないし)

黒子「うおらっ!! 覚悟しやがれですの!!」

上条「だああああああああああっ!?」

美琴(朝5時くらいまで待ってた私が馬鹿みたいじゃない……)

黒子「待ちやがれですのー!!」

上条「しかもテレポートじゃなくて直接投げてんじゃねえかああああ!!」

美琴「って何やってんだアンタらー!?」

──16時40分

上条「風紀委員に殺されそうになった場合、どこに通報すればいいんですか?」

黒子「厄介なことになりましたわね。口を封じるのが一番早そうですの」

上条「いい加減にしろよテメエ!?」

黒子「お姉様に近づく野郎は片っ端から叩き落さないと安心できませんの」

上条「何でその範疇に俺が入ってるわけ!?」

美琴「アンタ、それはないわ」

上条「何が!?」

黒子「本気で言ってるんですの?」

美琴「いや、確かにそういう奴なんだけどね」

黒子「はぁ……」

上条「何だよどういう意味だよつーか何だその目は!?」

美琴「ところで、話戻すけどアンタ、メールの返事どうなってんのよ」

黒子「んなっ!?」

上条「ああ、何だっけ。 メール? そんなのあったっけ?」

美琴「やっぱ気付いてなかったのね……」

上条「ああ、今日は携帯忘れてきちまったんだった」

美琴「は? そ、それだけ?」

上条「それだけって何だよ?」

美琴「い、いや……」

美琴(一人で危機感募らせてたのが馬鹿みたい……)

黒子「お、お姉様ぁ……」

美琴「どうしたのよ黒子、って何で携帯開きながら泣きそうな顔してんのよ!?」

黒子「わたくしの携帯にはお姉様のメールが全然ありませんのぉ……」

美琴「……は?」

黒子「なのにお姉様はこの殿方とばかりメールしてたんですのね……」

美琴「何、アンタ部屋の中で一切口聞かずにメールだけで会話したいの?」

黒子「…………今のは忘れてくださいですの」

美琴「何なのよアンタ」

上条「何なんだお前ら……」

──16時50分

黒子「では殿方さん、わたくしたちはこちらですので」

上条「おう、もう真っ暗だし気をつけろよ」

美琴「誰に向かって言ってんのよ」

上条「だよな。痴漢が出たとして、お前らにボコボコにされることを思うと同情を禁じえない」

黒子「そういう趣味がおありでしたのね」

上条「ねえよ!?」

美琴「うわあ……」

上条「テメエもかよ!? ああ、もうどうでもいいや」

美琴「いいのかよ」

上条「じゃあな」

黒子「ええ。変態さん」

美琴「って、あっ、ちょ!?」

上条「あん?」

美琴「ちゃんと返信しなさいよ!」

黒子「む……」

上条「ああ、覚えてたらな」

美琴「何よその仮定形!?」

黒子「さよならですの。さ、お姉様」

美琴「あ、ちょっと黒子、そんな引っ張らないでよ」



黒子「というかあの方、否定しませんでしたのね」

美琴「開き直ってたわね」

黒子「やっぱり変態なのでしょうか」

美琴「アンタに言われちゃおしまいね」

美琴(ってあれ!? せっかく会えたのに別れちゃってどうすんのよ!?)

黒子「お姉様、帰りませんの? 何を名残惜しそうにしてますの? ってまさか今から……!?」

美琴「うっ…………。わ、わかったってば、か、帰るわよ……。」

──17時00分

上条「あー疲れたー」

上条(帰り道にあいつらに遭遇したのもあるけど、やっぱり一番は)

上条「この追加の宿題だよなぁ……どうなるんだ俺の冬休み」

上条「おっと、こんなとこにあったのか携帯」

上条「バッテリー切れかよ」

上条「いや待て」

上条「朝アラームならなかったのはこのせいか!?」

上条「…………」

ガタッ

上条「くそっ! やられた!!」

──22時00分

美琴「…………」

美琴(結局、来ないってどういうことかしら)

『ああ、覚えてたらな』

美琴(あのフリの通りに忘れたってこと? いつもいつもあの馬鹿は……!)

美琴(……いっそ電話を……いやいや無理無理、ていうか黒子もいるし、うん無理)

美琴「はぁ…………」

美琴(何でアイツが絡むとこうも空回りしちゃうのかな。一度落ち着こう……)

美琴(とにかくもっといろいろ知りたいし、気を惹きたい……のかな?)

美琴(そうなるとやっぱり、もっと、素直に? あとは……大胆に?)

美琴(う、うわ無理無理!! でもメール続けるだけだなんてなんか嫌だし)

美琴(やっぱりうまく約束取り付けて遊んだりしたほうがいいわよね……)

美琴(ど、どうやって……? ど、どうしよう……?)

黒子(困りましたの。お姉様が……完全に乙女ですの……)

黒子(まずいですわね、あの野郎をどうにかしなければ……)

──22時00分

上条「…………なんでこんなことになってるんでせう?」

上条(宿題なんてその気になれば1日で終わるだろ理論にはやはり無理があるのか)

上条(そもそもこの理論は夏休みに崩壊したはずだったのにな……)

上条「……まぁそれ以前の問題だろうな。そもそも全然進んでねえし」

上条「今何時だろ? 携帯充電しっぱなしだったな」

上条(ん? メールが着てんな。御坂が言ってた奴か?)

上条(返信しろって言ってたけどうっかり忘れてな)

上条「新着メール8件、御坂美琴、御坂美琴、御坂、御坂、御坂御坂御坂御坂」

上条「ってどんだけ追撃してんだアイツ!? 2通目以降は全部返事よこせって内容じゃねえか」

〔気にしないで。あれくらいだったらまた今度付き合ってやるわよ〕

上条「いや何の話!? もしかしてこの前買い物手伝ってくれてありがとうメールへの返信?」

上条「なんで今更? つかこれに返信って何を求めてんの!? ……んまぁ、いいか」

〔はいはい。今見ましたよーっと〕

上条「送信っと」

上条「風呂入っちまうかなー」

上条「…………」

上条「って返事はやっ!?」

〔遅い! すぐ返事するって言ったくせに!〕

上条「言ったっけ?」

〔記憶にございません。バッテリーなくなってたし、今ようやく確認したの〕

〔毎度毎度わざとシカトしてんじゃないでしょうね。にしても遅すぎよ。たかが充電で〕

上条「そもそもメールにスピードを求められてもなぁ……」

上条「コレってそういうモンじゃないと思うんだが」

2日目──00時20分

黒子(やっぱりお姉様……)

黒子(早くにお休みなられたと思ったらずっと携帯弄ってましたのね)

美琴(30分経つのに返事が来ない! どうなってんの!?)

黒子(しかも時折操作することなく画面を凝視? ……って夕方の話から察するにやはりメール?)

美琴(来たっ!!)

〔いつまでそんな話題引っ張ってるんですかー? つかお前こそ妹にコンプレックスでもあるのかよ〕

美琴(うっ……)

美琴(あの子の場合ネックレスの件があるけど……別にまだ負けたとかそういうわけじゃ……)

美琴「うぐっ……」

美琴(あー! もう!)

美琴(そんなこと思い出してもしょうがないわ、落ち着け私!)

〔あるわけないでしょ。てかアンタいきなり応答なくなるわよね〕

〔風呂入ってたんだよ。つーかそう急かすなよ。メールなんだからいいじゃん〕

美琴(いいじゃん? ど、どういう意味よ……、って風呂?)

〔は? こんな時間に風呂って何してんのよ〕

〔誰かさんとメールしてたからこんなことになってるんですけど? それとこの時間ならまだ普通だろ〕

〔もう少し器用にできないの? 風呂でメールするとか〕

〔できねえよ! つかお前どんな携帯使ってんだよ〕

美琴(え!? おかしいの……?)

〔てかアンタ最近買い換えたんじゃなかったっけ?〕

〔流石にそんな最新機種は買えません。つかお前寝なくていいの?〕

〔別に平気だけど。あと最新って言ったってそんな高くないでしょうに〕

〔これだからお嬢様の金銭感覚は理解できねえ。お前昨日も遅くまで起きてたけど学校大丈夫なのかよ〕

美琴(あら、心配してくれてる?)

美琴「んふふ」

黒子(確信しましたわ。お、お姉様、メールですのね……)

黒子(やっぱり遅くまであの方とメールしてたんですのね……!)

〔ウチはもう冬休み入ってるけど?〕

〔ほとんどの学校が延長してるらしいのに、どうなってるんですか常盤台は〕

〔つっても授業ペース上がったり、各自勉強しとけー、とかなったりで大変なのよ〕

〔そんなこと言われても納得できねえ!〕

〔で、アンタのトコはいつまで学校あるのよ?〕

〔一応明日が終業式〕

〔何だ、大げさに言うほど伸びてないじゃない〕

〔2、3日の偉大さをわかってないとは、これだからお嬢様は〕

〔それはお嬢様関係ないでしょうが。てことは明日は午前授業?〕

〔うん。明日は午前で終わりだな〕

美琴(ということは午後からなら……)

美琴「んふふー」

黒子「楽しそうですわね……」

美琴「ひっ!?」

黒子「どうしたんですの」

美琴「アンタ起きてたの……?」

黒子「おかげさまで」

美琴「あ、ごめん、音立てないようしてたつもりなんだけど」

黒子「いえ、もはやそういうことではなく……」

美琴「え?」

黒子「お相手はあの野郎でよろしいんですの?」

美琴「な、何を言ってるのかしらー?」

黒子「誤魔化そうったってそうは行きませんのよ!!」

美琴「な、何よ急に!?」

黒子「お姉様があの方のことを気にされてるという事はわかってるんですのよ!!」

美琴「ちょっとタンマ黒子!」

黒子「いいえ待ちませんの!!」

美琴「そうじゃくて違うわよ馬鹿!」

黒子「この際ですから!! お姉様があの方をどのように思ってらっしゃるのか具体的に!!」

美琴「だから、この時間にそんなに騒いだら!?」

ガチャ



寮監「まったく元気だな、お前たちは」

黒子「あ…………」

美琴「だから言ったじゃない……」

──01時00分

上条(もう返ってこないみたいだし、そろそろ限界です……)

上条(あー悪い御坂ー、寝るわ……)

上条「…………」

上条「ぐーぐー……」

──02時00分

美琴(こんなことで罰決定とか最悪だわ。オマケにメールは返ってこないし……)

黒子「携帯とにらめっこして何してますのお姉様?」

美琴「にらめっこよ」

黒子「そうですか……」

美琴「…………」

黒子「お姉様、一応言っておきますけど、もう2時ですのよ」

美琴「え?」

黒子「この時間で1時間も返って来ないのでしたら寝た以外に考えられないと思うのですが」

美琴「もう2時だったのね……」

黒子「どんだけ夢中になってたんですの……」

美琴「しょうがないわね。寝ますか」

黒子「ただでさえ寝不足なんですから、今日こそちゃんと寝てくださいですの」

美琴「わ、わかってるってば。……じゃあおやすみ黒子」

黒子「はい。おやすみなさいですの」

──03時00分

黒子「すー……すー……」

美琴(来ない…………)

美琴(も、もう1度だけ送ってみよう……)

──07時00分

黒子「お姉様、起きてくださいですの。お姉様」

美琴「んー……何時よ?」

黒子「もう7時ですのよ」

美琴「うーん、もうそんな時間かぁ」

黒子「……お姉様、結局あまり寝てないのでは?」

美琴「そ、そんなことないわよ?」

黒子「わかりやすいですわね……」

黒子「で、返事は来ましたの?」

美琴「うぐっ……」

黒子「だから言ったではありませんの……」

美琴「うう……」

黒子「結局無意味に夜更かししただけ……」

美琴「べ、別にいいじゃない……」

黒子「そこまで必死になる必要がおありですの?」

美琴「必死なんかじゃないわよ。それに全然話し足りないんだもん……」

黒子「はい?」

美琴「な、なんでもないなんでもないっ!」

黒子「そんな真っ赤になって……」

美琴「なってないなってない!」

黒子「朝からハイテンションですこと。それで? 何時に寝ましたの?」

美琴「…………ご、……4時」

黒子「…………5時ですのね」

美琴「その目はやめて。すごい痛いわ……」

黒子(今日はイヴ……。この調子で1日持つのかはともかく、あの野郎が関わってくる可能性が高いはず)

黒子(本来ならばわたくしが真っ先にお姉様をお誘いするところですのに、お仕事が入ってしまうとは……)

黒子(とにかく仕事中だろうが何だろうが、可能な限りはお姉様をお守りしなくては……)

黒子「はぁ。大変な1日になりそうですの……」

美琴「……そうね、罰のことを考えると気が重いし」

黒子「……それをすっかり忘れてましたの」

──07時50分

上条「んー…………、何時だ……、8時か……」

上条「ってやべ!? 8時!?」

上条「チクショウ! またアラーム不発か!?」

上条「クッソー! サイレントモードとかこんな罠があああ!?」

上条「と、とにかく準備しないと!」

上条「あー、もう! ありがたいお話とか聞くためだけに学校行くのがそもそもだるい!!」

上条「……………………」

上条「愚痴ってても仕方ねえか」

上条「つーかメール来てんじゃん」

[おーい、ちょっと? 寝ちゃったの?]

上条「受信時刻深夜3時……」

上条「何考えてるんだアイツ……」

上条「っと、のんびりしてる場合じゃねえや」

──08時30分

黒子「お姉様? 今日も朝食をあまり取られてなかったようですが、大丈夫ですの?」

美琴「まぁ案外なんとかなるもんよ。やっぱり途中でお腹空いちゃうけど」

黒子「それでは駄目じゃありませんの……」

美琴「無理して食べるよりはいいじゃない!?」

黒子「朝は無理してでも食べた方がいいのでは?」

美琴「って言いながらアンタも少し量減らしてたじゃない」

黒子「わ、わたくしはあれくらいが適量だと思っただけですの!」

美琴「ふーん。で、また増えたの?」

黒子「…………」

美琴「ったく。だから帰りにケーキとか食いすぎだって言ったのに」

黒子「…………」

美琴「そんな不気味な表情で固まるな、怖いわ」

黒子「もういいんですの……」

美琴「開き直るのは脂肪フラグよ」

黒子「うまいこと言ったおつもりで?」

美琴「ごめん忘れてちょうだい」

黒子「…………」

美琴(ったく、まっすぐ帰るようにするだけでいいのに、何でこの子は……)

美琴(あれ? メールきてたのか)

〔あの時間は流石に寝てるわ。夜更かししすぎだろお前〕

美琴(そうかしら? 3時くらいならまだ……)

美琴「いや、異常よね……」

黒子「はい?」

――09時00分

寮監「今日は清掃業者が来る予定だから中はもういい」

黒子「はあ」

寮監「裏手の掃除をやってもらう」

美琴(よりによって、またあんなだだっ広いところを……)

寮監「白井は今日も帰ってからやってもらうのでもう行ってよろしい」

黒子「了解ですの。失礼します」

寮監「まぁ冬場で大して汚くはないから時間はかからんだろう」

美琴「え?」

寮監「あれだけ言っておいたにも関わらずお前はまた寝不足のようだし」

美琴「うっ……」

寮監「全く、夜更かしを繰り返してもこの肌か。これだから10代は……」

美琴「は?」

寮監「なんでもない。とっとと済ませて休め」

美琴「はぁ……」

──09時30分

上条「あれが校長先生なのか」

土御門「は?」

上条「あー、いや、何でもない。退屈なんだよ。ありがたいお話をただ棒立ちで聞くだけなんて」

青髪「ならなら、しりとりでもせえへん? 普通のじゃつまらんし、用語限定したりして」

上条「いや、やっぱいいや」

土御門「興味ないぜよ」

青髪「最近、僕の扱いひどい気がするんやけど?」

上条「気のせいだろ。というかその方が喜びそうだし」

吹寄「貴様等、静かに話を聞いてられないの?」

上条「ところでお前、昨日のナンパはどうなったんだよ?」

青髪「う…………いや……」

上条「……まぁそうだよな」

土御門「いや、これはむしろ何かあったな、うん」

青髪「え、えーと」

上条「へえ?」

青髪「ぐ、ぐ……」

上条「なるほど。で、何か良くないことでもあったのかな?」

土御門「話してもらうぜい?」

青髪「そ、それだけは勘弁して欲しいなぁ」

上条「笑い者にしたいんじゃないんだよ。何かあったとき慰めるのが友達ってもんだろ?」

青髪「か、カミやん……」

土御門「そうだぜい。だから何があったか詳しく話すんだ」

青髪「わ、わかった。実は、適当に声かけてたらすごい美人がついてきてくれて」

土御門「ふっ!」

上条「ふざけんなああああ!!」

吹寄「黙れ貴様等!!」

──11時00分

美琴「しまったなぁ」

猫「ニャー?」

美琴「なんか食べれそうなものもってきとけば良かったわ、ほらー、おいでー」

猫「!?」ビクビク

美琴「そ、そんなに怯えなくても……って無理か」

美琴「今から何か持ってこようかしら」

寮監「できれば追い払ってもらいたいのだが」

美琴「ひっ!?」

猫「ニャ!?」ダッ

美琴(あ、行っちゃった……)

寮監「飼い猫のようだし、ここに居付くのはまずかろう」

美琴「ああ、そっか……」

寮監「で、見た感じそこそこ進んだようだな」

美琴「はあ」

寮監「まぁこれだけやれば十分だろう。猫と遊んでた点は多めに見る」

美琴「あ、あはは……」

寮監「今日のお前の分は終わりでいい。昼に起こしに行ってやるから休んでおけ」

美琴「え?」

寮監「そんなフラフラした状態でどこかに行こうと言うのか?」

美琴「えーと……」

寮監「常盤台トップの超能力者だろうと」

美琴(こういうときばっかりトップトップって……)

寮監「……いや常盤台トップの超能力者だからこそだ」

寮監「体に余計な負担をかける真似を見過ごすわけにはいかない。わかるな?」

美琴「…………はい」

美琴(いや、確かに、能力者云々の前にちょっと今日のはやばいかも……)

──11時20分

土御門「さあ、さっきの続きを話してもらうぜい?」

青髪「も、もう勘弁してほしいんやけど」

上条「あんな中途半端な話だけで納得できると思ってんのか?」

吹寄「まだそんな話してるの? もう終わったんだからとっとと帰りなさいよ」

土御門「その人の見た目は!?」

吹寄「……聞きなさいよ貴様等……」

青髪「黒髪ストレートで背はカミやんよりちょい小さいくらいで」

上条「ほう」

青髪「そこそこの胸で顔すごい美人なんやけど」

土御門「チッ、趣味じゃないにゃー」

上条「あー! 腹立ってきた!」

青髪「待て待て最後まで聞け! 実はそいつ女装野郎だったんや!」

吹寄「ブッ」

上条「はぁ!?」

青髪「いやー、もう『どっちでもイケるから』とか言われて命からがら逃げてきましたよー?」

吹寄「男同士もってこと? うわー、なにそれー?」

土御門「吹寄もうるさいだの何だの言いながらも興味津々だにゃー」

吹寄「ち、違うわバカ!」

上条「いくら美人相手でも流石のお前も男じゃダメなのか」

青髪「カミやん、一体僕を何だと思うとるん?」

上条「チャンスに見えたら何でもいいから突っ込んでっちゃうタイプだろ。ショタもOKみたいだし」

土御門「まぁ問題だらけの危険人物だしにゃー」

青髪「むしろしょっちゅう中学生と並んで歩いてるカミやんのほうがよっぽど問題があると思うんですけど?」

土御門「お、カミやんはやっぱりあの中学生を狙ってたのか」

吹寄「ちゅ、中学生!? き、貴様いくらなんでもそれは……」

上条「いや、まてよ違えよ!? つか誰だよ!?」

土御門「ほら、超電磁砲だよ」

上条「御坂かよ!?」

吹寄「第3位の中学生だっけ。あれ? なんか引っかかるわね……」

青髪「つーか3日くらい前にもあの子と一緒に歩いとったやろ!?」

上条「3日前? えーと買い物手伝ってもらった時だっけ」

青髪「やっぱりか!? 結局カミやんが一番おいしいポジションを占有しちまうんや!」

上条「何でだよ!? 電撃浴びせられまくるポジションがおいしいワケあるかよ!?」

吹寄「電撃ねぇ……」

青髪「何でや!? ついに僕にもようやく運が巡ってきたと思ったらどういうことや!?」

上条「正直その辺は同情してやるけどさ」

青髪「おとなしそうなお姉さんとか最高やないか!! それなのに!!」

土御門「いやいやいやいや、やっぱり中学生が一番に決まってるぜよ!!」

青髪「テメエは結局またロリか!? ロリがええんか!?」

吹寄(あー思い出せそうだけど思い出せない……)

土御門「普通の胸の何がいいんダヨ!? 何度も言うけど貧乳が最強なの!!」

上条「テメエやっぱりロリがいいだけなんじゃねえか!!」

土御門「それのどこが悪いんだにゃー!? つーかカミやんに言われたくないんですけど!?」

上条「だから違えっつってんだろ!?」

土御門「いいや!! あの娘も舞夏も同じだぜよ!! 年も髪の長さも胸のサイズもほとんど同じだぜよ!!」

上条「何の話してんだよテメエ!! つーかそんな目で中学生見てんじゃねえ!!」

青髪「おいその話もっと詳しく!!」

吹寄「ってまたそんな話題になってるの!? いい加減学習しなさいよ馬鹿共!!」

青髪「いやいや、この議論はこんなもんじゃ終わらせられへんよー!!」

吹寄「何が議論よ!?」

?「さっきから一体何の騒ぎ!?」ガラッ

素甘「……また、あなた達なのね」

吹寄「またですね」

上条「…………不幸だ」

土御門「だにゃー」

青髪「……………………お先にっ」ダッ

上条「逃げっ!? あの野郎!!」

土御門「追うぞ! カミやん!!」

上条「おう!」

素甘「ちょ!? 待ちなさっ……ったく」

吹寄「ああ、いつもの笛ですね……」

<ピィィィィィィー!!>

──11時30分

災誤「待たんかクソガキどもがァ!!」

土御門「にゃー! その辺に五和とかいないのか!?」

上条「いるわけねえだろ!? っつーかそっちの事情はお前のほうが詳しいだろうが!!」

土御門「言ってみただけだぜい! なんかゴリラの奴さ!」

上条「なんだよ!」

土御門「あの一件の後しばらく槍を持った巨乳少女に追い回される夢にうなされてたらしいし!」

上条「人によってはすごいいい夢に聞こえなくもないと思う!!」

土御門「正気を保てカミやん! 巨乳だぞ!」

上条「そっちじゃねえだろ!? で、その辺に五和とかいないのか!?」

土御門「いるわけねえって言ったのカミやんだろ!」

上条「おい! いいタイミングで見つけたぜ!」

土御門「にゃ!? ウソだろ!?」

上条「待てやテメエー!!」

青髪「ゲッ!? 見つかっ……!?」

土御門「青髪ピアスかよ!? しかしでかしたカミやん!」

青髪「だあああ!! こっちくんなああああああ!!」

土御門「よし! 生贄ゲットだぜい!!」ガシ

上条「ほらお前の出番だぞ!」

災誤「オラアアアア!!」

青髪「ちょー!? って、ぎゃあああああああ!?」

上条「やっぱ青髪じゃ駄目かーっ!?」

土御門「なんでアイツあんなあっさり落とされてんダヨ!?」

上条「属性の相性が悪すぎるんだろ!」

土御門「となればここはやっぱり二手に!」

上条「絶対俺が犠牲になるから却下だー!!」

土御門「なら、なおさら俺は別ルートに行くぜよ!!」

上条「逃がすかー!!」

土御門「にゃーっ!? こっち来んじゃねええええ!!」

上条「冗談じゃねえ! ここで捕まったら俺の昼飯はどうなるんだあああ!!

災誤「待てやァァァー!!」

土御門「追いつかれそうなんですけどー!? よーし悪い、カミやん!!」

上条「足掛けっ!? て、テメエふざけっ!?」

土御門「俺のために犠牲になってくれ!!」

上条「だあああ!! あの野郎ォォおおお!!」

──13時00分

美琴「ね、眠い……」

美琴(結局眠れなくて寮監にまた怒られて、ここんとこ良い事ないわね……)

美琴「……ん、電話? 黒子か」ピッ

美琴「はいはい、どうしたの?」

黒子『お姉様、昼食はもう済まさせました?』

美琴「うん、食堂て取っちゃったわよ」

黒子『失敗ですの。もう少し早く区切りがつけばよかったのですが……』

美琴「何よ、一緒に食べたかったの?」

黒子『え、ええ、最近はあまりそういう機会もありませんでしたので』

美琴「それもそうねぇ。まぁ時間がちょっと悪かったかもね」

黒子『罰のこともありましたので、もしかしたら、などと思ってはいたのですが』

美琴「残念ね。それで今からアンタは昼飯なのね?」

黒子『そうですわね。初春と2人で適当に、と思ってましたのよ』

美琴「なら私も付き合うわよ。飲み物だけとかで。どうせ退屈だしね」

黒子『……はい? お姉様、罰はどうなりましたの?』

美琴「私の分は終わったけど?」

黒子『つまり結局、わたくしは帰ってから大変というわけですのね……』

美琴「どこに行けばいいの?」

黒子『ああ、ではいつものところに。しかしこちらはまだ少し仕事がありますので……』

美琴「うん?」

黒子『2時になっても大丈夫でしょうか?』

美琴「大丈夫よ。りょーかいー」

黒子『では後ほど』

美琴「はいはい」

ピッ

美琴「2時か」

美琴「んー、どうせメールしたって返ってこないだろうし」

美琴「おとなしく仮眠とったほうがよかったのかな」

──13時30分

上条「土御門はどこいったわけ!?」

吹寄「知らないわよ」

青髪「土壇場での逃げ足だけは毎度ながらすごいもんやね」

上条「あれは逃げ足じゃねえだろ!?」

上条「あの場面できっちり俺の脚を狙ってきやがったぞ」

青髪「その足掛けくらったカミやんのせいで犠牲になった僕の怒りはどこに向けたらええねんボケ!?」

上条「知るかボケ! 最初に逃げたのテメエだろ!?」

上条「つーか俺の昼飯はー!?」

吹寄「うるさい、黙って作業しなさい」

──14時00分

美琴「ごめんごめん、遅れちゃったわね」

黒子「いえいえ」

初春「私たちも今来たばかりですから。ところで御坂さん」

美琴「ん?」

初春「何か疲れてます?」

美琴「そ、そうかしら?」

黒子「寝不足だそうですの」

初春「へー。でもそんな状態で出歩いて大丈夫なんですか? 結構フラフラしてません?」

黒子「初春の言う通りですの。お休みになってた方が良かったのでは?」

美琴「今寝ちゃうと夜眠れなくなりそうだし、コレで生活リズム崩したら寮監が怖いし」

黒子「だから昨晩早くお休みになるように言ったではありませんの……」

美琴「い、いろいろあったのよいろいろ。しょうがないでしょ……」

初春「そもそも寝不足って、何かしてたんですか?」

美琴「い、いや別に私は」

黒子「メールだそうですの。どこぞの野郎がお相手だそうで」

美琴「ちょ、黒子!?」

初春「おおー。白井さんも少しは見習った方がいいんじゃないですか?」

黒子「ほう?」

初春「白井さんの趣味を何とかしないと、私としては相部屋の御坂さんが心配で心配で……」

黒子「後で支部に戻ったら椅子だけすっ飛ばして差し上げますから覚悟なさい」

美琴「それは割と危ないからやめなさい……」

初春「あの椅子疲れるんですよね。ソファーで寝転がりながらパソコン使えたらいいんですけど」

美琴「初春さんは初春さんでまるで緊張感がないわね……」

──15時10分

黒子「ではお姉様、わたくしたちは支部に戻りますので」

美琴「はいはい、がんばんなさいよ」

黒子「お姉様は早くお帰りになってくださいね」

美琴「え?」

黒子「え、じゃありませんの。そんな状態じゃ危なすぎますわよ」

初春「そうですよ。ちょっとお休みなった方がいいですよ」

美琴「あー、そうかもね……」

黒子「全く、だからあれほど」

美琴「わかった、わかったってば。じゃあ帰るわ。またね」

黒子「ええ、また」

初春「お気をつけてー」

黒子「さて、と」

初春「?」

黒子「とっとと仕事片付けますわよ。早く帰ってお姉様の無事を確認しなくては」

初春「何を不吉なことを言ってるんですか……?」

初春「あ、あとあの量は急いでも6時過ぎくらいになると思いますよ」

黒子「……何であなたの残した仕事をわたくしがやらねばなりませんの?」

初春「いやぁ、だってあんなの一人でやっててもつまんないじゃないですか」

黒子「…………」ピキ

初春「だから白井さんにもうまく回せるように調整してって頭はだめっ、ぎゃあああああ!?」

黒子(今回は真上に……)

初春「ちょ、ちょっとどこに飛ばしたんですか私の本体ー!?」

黒子「すぐに戻ってきますわよ。あと何を割と不気味なこと言ってますの」

初春「ど、どこですか!? ひゃあっ!? 降ってきた!?」

黒子「はぁ……。こんな無駄なことしてる時間はありませんでしたの」

初春「飛ばしておいてそれはひどいです……」

──17時50分

土御門「というわけでとっ捕まった我々は罰として草むしりをやらされましたとさ」

上条「罰サボってどこ行ってやがったテメエ!? 何でお前が苦労話を語ってんだ!?」

土御門「まあまあ、とりあえず終わったんだし帰ろうぜい」

上条「納得いかねえ!!」

吹寄「疲れたわ。ていうか何であたしまで巻き添え食らってるのか」

上条「不満なら青髪の奴に頼む」

吹寄「ああ、さっき変なこと言ってたら一撃入れといたけど」

上条「それでおとなしいのか」

土御門「おとなしいっていうか、ありゃ伸びてるにゃー」

上条「ま、いいじゃん。疲れた。帰ろうぜ」

土御門「おう」

吹寄「あたしは先生に報告してくるわ」

上条「ああ、頼む」

青髪「う……ぐふ…………」

──18時20分

美琴(結局何かうろうろしてたら偶然アイツが見つかって)

美琴(それはいいんだけど、また友達と一緒?)

美琴(どうしよう、話しかけるタイミングがわかんない……)

美琴(……ん? この人どっかで……)

吹寄「…………」

美琴(……デカい)

美琴(ってこの人もしかしてアイツのこと睨んでるの?)

美琴(え? 何だろうこの人?)

──18時20分

上条「つーかさ」

土御門「ん?」

上条「青髪の奴、肩はもう治ったのかな?」

土御門「そういや最近はそんなこと聞かないな」

上条「未だに吹寄の例のやつが気になるんだけどさ」

土御門「ああ、あれか。でもあれだけ頼み込んでも無理だったんだぜい?」

上条「もっかい頼み込んでみようかな」

土御門「正気か!?」

上条「お前は気になんねーの?」

土御門「いや、正直もうどうでもいいんだけど。ボコられるの怖いし」

上条「そっか。でもなぁ、どうやって言えばいいんだろう」

吹寄「…………」

土御門「!?」


土御門「……か、カミやん、俺急用を思い出したからちょっとずらかるぜよ」

上条「あ? またかよ? ……わかった、じゃあな」

上条(何であんな深刻な顔してんだ? 魔術関係とかで何かあったのか?)

上条(まあ、いいか……。あいつの場合勝手に俺を引きずり込んでいくタイプだし……)

吹寄「…………」

土御門「おっかねえ。いつのまに後ろにいたんだ吹寄。って……」

美琴「…………」

土御門「あれは超電磁砲? またカミやんの後付けてんのか?」

上条「やっぱいろいろ捻っても、こればっかりはしょうがないよなぁ」

上条「吹寄の性格を考えたら、やっぱり素直に頼むのが一番か」

美琴(フキヨセ? てか頼みごと……?)

吹寄「何を?」

上条「うおい!?」

美琴(やっぱこの人知り合いだったの!?)

上条「なんだ吹寄か……。でもちょうどよかった」

吹寄「何がよ」

上条「あー、いやあれだけ頼んでも無理だったからなー」

吹寄「だから何がよ」

上条「いや、非常に言いにくいっていうかお前怒りそうだし」

吹寄「はっきり言いなさいよ」

上条「あー、じゃあ駄目もとで頼むけどさ」

吹寄「何?」

上条「揉ませてくれないかなーって」

美琴「ブッ」

吹寄「貴様はまだそんなことを……」

美琴(いきなり何を言い出してるのアイツー!?)

上条「やっぱダメかー」

吹寄「当ッたり前でしょうがああああ!!」

上条「えっ、ちょやめっ! だあああああ!? おでこDXはやめてーっ!?」

吹寄「フンッ!!」ドゴッ

上条「ごうっ!?」

バタ

美琴(すごい仲良いみたいだけど何……もしかして……?)

吹寄「全く、こんな日だってのに貴様は相変わらずね!」

美琴(ってあれー? 行っちゃった……? え? どういうこと?)

美琴(にしても道端でいきなりあんなこと頼みだすなんてどうかしてんじゃないの……)

美琴(……あの人……確かにデカかったけど……)

美琴(いくらなんでもストレートすぎんでしょ……)

上条「やっぱダメなのか……くっそ」

上条(吹寄以外に持ってそうな人探すっきゃねーかな)

上条「ってあれ、御坂じゃねーか」

美琴「ひっ!?」

上条「どうしたんだよ」

美琴「あ、うん、なんでもない」

上条「…………」

美琴「な、な、何よ!? 人の顔じろじろ見て」

上条「うーん……」チラ

美琴「!?」

美琴(何よコイツ!? 何で私の胸を見るの!?)

上条「やっぱお前じゃ、ありえないよなぁ」

美琴「……!」ブチリ

上条「まぁ、まだ子供だし」

美琴「………………………………」

上条「ん? ってあれ!?」

美琴「言いたいことはそれだけかしら?」バチン

上条「あれー!? 何で!? 何でそんなバチバチいってんの!?」

美琴「自分の言葉を思い返して反省しろォォォおおお!!」バチバチ

上条「ぎゃァァァああああああああ!! 何でだああああ!?」バキン

美琴「ああもう! とっとと吹っ飛びなさいよ!!」バチバチ

上条「そんなリクエスト受けらんねえって言ってんだろ!?」バキン

美琴「何よ!! あの時は何度も何度も自分から食らったくせにー!!」バチバチ

上条「あれは状況が状況であってだな!? だあああ!! ちょっと聞けよォォおおお!!」バキン

美琴「何でよ!! 何、で……(あ、れ……?)」バチ

上条「だあァァああああ!! って、あれ? 御坂?」

美琴「な、んで……」ガクリ

上条「み、御坂!?」

美琴「……す……み……」バタ

上条「おい! どうしたんだ御坂!? 大丈夫か!?」

美琴「すー……すー……」

上条「……え?」

美琴「すーすー」

上条「…………寝てるだけ!?」

上条「…………ホントに寝てるだけ?」

上条「えーと?」

上条「いやいやどうすんのこれーっ!?」

──18時30分

美琴(何だろう……何だか心地のいい……)

美琴「……ん?」

上条「あれ? 起きたか?」

美琴「んなッ!?」

美琴(何でおぶられてるの私ー!?)

上条「いきなりぶっ倒れるなんて、びっくりしたじゃねえか」

美琴「なななななななな」

上条「どうしたんだよ」

美琴「な、何してんのよアンタ!?」

上条「お前が目を覚まさないから、寮まで運ぼうと思ったんだよ」

美琴「だだだだだだからって何でおんぶだなんて!」

上条「しょうがねえだろ、バス乗るだけの金がなかったんだから」

美琴「そそそそそんな理由で!?」

上条「そんな理由ってお前なぁ……。歩けるか?」

美琴(落ち着けー! 落ち着くのよ私ー!! おおちけーわたたー)

美琴「うううううううう」

上条「駄目そうだな……」

――18時50分

上条(結局、寮まで歩く気ないのかよコイツ……)

上条(ま、いいんだけどさ)

美琴「この年になっておんぶされるなんて思わなかったわ」

上条「起きるまで待ってようかとも思ったんだけど」

美琴「……さすがに真冬だし」

上条「だろ? 風邪引かれても困るしさ」

美琴「ふーん? 責任を持ってくれるならそれでもいいけど」

上条「仮にも女の子がそんなこと言うんじゃありません」

美琴(わ、私のこと女の子扱いして……!? ……って)

美琴「仮にもですって?」ピリ

上条「ちょ!? 待て待て! 女の子です! 美琴サンは見た目も中身も女の子ですー!!」

美琴「はぁ、にしても……」

美琴(背中、結構大きいな……)

上条「何だよ?」

美琴「ううん、なんでもない……」

上条「結局ただの寝不足なんだろ?」

美琴「……うん」

上条「だいたい追撃のメールの時間がおかしいだろ」

上条「3時って何だよ。寝てるっての」

上条「なのに返事なんて待ってるから倒れるんじゃねえの」

美琴「だ、だって」

美琴(まだまだ知りたいこともいっぱいあるし……)

上条「っつかここんところ、ずっとだったろ」

美琴「…………」

美琴「……ごめん、迷惑だったわよね」

美琴(やっぱり深夜にメールなんて、非常識よね)

上条「別にそんなことないけどさ」

美琴「ううん、ちょっとおかしくなってたわ。……ってかアンタいつも何時に寝てるの?」

上条「ん? 結構まちまちだけど規則正しい生活には程遠いな。早いときは7時に寝ちまうし」

美琴「7時…………そういえば、今、何時かな?」

上条「もうすぐ7時だな」

美琴「ヤバ……門限だ。どうしよう」

上条「どうしようって、どうすんだよ?」

美琴「こんな状態で見つかったら嫌だし……どっか泊まれないかな……」

上条「俺に聞くなよ。つーか何だよ、その聞き方」

美琴「うっ!? べ、別にアンタんとことか、そ、そんなこと考えてないわよ!」

上条「いやいや何考えてやがんだテメエ!?」

美琴「だ、大体! 知り合いとはいえ男の家に泊まるだなんて……」

上条「知り合いじゃない方がまずいと思うんですけど?」

上条「そういうのは彼氏でも作ってやれっての」

美琴「かっ!?」

上条「ま、中学生のうちからそれもどうかと思うけどさ」

美琴「!? わ、私は!!」

上条「ん?」

美琴「……あ、アンタが」

上条「はい?」

美琴「……あ、え、え、っと……」

上条「どうした?」

美琴「な」

上条「な?」

美琴「なんでもない!!」

上条「何だよ……」

美琴「うう……」

美琴(わかんないわかんない! やっぱり言えない……)

上条「はぁ……。つーかもう元気そうだな」

美琴(…………無理)

上条「そろそろ歩けるか?」

美琴「…………無理」

上条「おい……」

美琴「だから、もうちょっとだけ……」

上条「………………はぁ」

美琴(もうちょっとだけ……)

上条「わかったよ」

美琴(もうちょっと……)ギュッ

上条「どァあっ!?」

上条(なななななな、何してんだコイツー!? gfdrgtr!!)

美琴(落ち着く……)

上条(htrs、お、落ち着け俺ー!!)

美琴(んふふー)

上条(何か何か薄い何か当たってるんですけど何か突っ込んだら何か電撃コースですよねーっ!?)

──19時00分

上条(ようやくついたか? こんな状況でよくがんばった俺ホントがんばった俺ホン……)

美琴「あれ、もう寮の前だなんて」

上条「あ? どうすんだ? 部屋まで送れとでも?」

美琴「いやいやいやいや!? 降りる降ります!」

上条「はいはい、って人の上で暴れんなコラ!」

美琴「にしたってアンタこんなところまで来ちゃってどうすんのよ!? 人に見られたら大変じゃない!?」

上条「ったく。降りようとしなかったお前がそれを言うなよ」

美琴「ってあれ? まだ時間がある?」

上条「間に合ったみたいで何よりだ。じゃあな」

美琴「え? あ、ありがとう……」

上条「おう」

美琴「…………え? 何で間に合ったの?」



?「お、お、おのれ……お、おんぶだなんて、お、おね、お、お姉様……」

──19時00分

黒子「お帰りなさいませお姉様ぁー!!」

美琴「ああ、黒子か」

黒子「クリスマスイヴですのよー! 今日は黒子と熱い夜をおおおお」

美琴「っちょ!? 黒子何よいきなり!? って」

美琴「……イヴ? そっか。そっかぁ、失敗したなぁ……」

黒子「な、何ですの!? このしょんぼりなお姉様は!?」

美琴「…………はぁ」

黒子「ま、まさかあの男に何かされたんですの……?」

美琴「な、何も…………」

黒子「そんな、まさか……!!」

美琴(つい恥かしくて誤魔化しちゃったけど)

美琴(あの時、ひょっとしてすごいチャンスだったんじゃ……)

美琴「あああああ! バカバカバカバカー!!」

黒子「!?」ビクゥ

美琴「私のバカー!!」

黒子「な、何してるんですのお姉様……」

美琴(で、でもまだアイツのことよく知らないし、絶対早すぎるし!)

黒子(この感じ……やっぱりあれはあの殿方だったんですの!? ここはひとつ……)

黒子「で、お姉様、身を張って送り届けてくださったあの野郎とはどうでしたの?」

美琴「んなっ!?」

黒子「そんなに焦らなくとも、あいにく見てたのはわたくしだけのようですけど」

美琴「見られてたなんて……」

黒子「言い逃れはできませんわよ。きっちり何があったか話していただきますの」

美琴「うう……だから言ったのにあの馬鹿……」

黒子「ああチクショウ! 何ですのそのマジ反応! つーか『あの馬鹿』ってやっぱりあの野郎だったのかああああ!」

美琴「でも、ホントに時間ギリギリでも間に合うようにしてくれたのね……」

美琴「あんなに距離あったのに、あの馬鹿…………」

黒子「ああああああ、しっかりするのよ黒子ー!!」

黒子「お姉さまをお守りするのはあなたしかいないのよおおお!」

美琴「うっさいわねアンタは!?」

黒子「ヴォォォおおおおおおおおおおおお!!」

美琴「どっから声出してんのよアンタ!?」

黒子「はぁ…………はぁ…………」

美琴「にしても……」

美琴「あんな言い方しなくても……」

黒子「は?」

美琴「でも、やっぱり大きい方がいいのかなぁ……」ムニムニ

黒子「ななな、何の話してますの!? 何があったんですのお姉様ぁー!?」

──20時00分

〔今日は早く寝ろよ。また倒れられても困るし〕

美琴(心配してくれてるんだ)

美琴「うふ、ふふふふ……」

黒子(あ、怪しい! 怪しすぎますの!)

黒子「それでお姉様? 何がありましたの?」

美琴「い、いや、大したことじゃないわよ!?」

黒子「さっきも申しましたけど、まだとぼけるおつもりで?」

美琴「う……」

美琴「帰り道に会ってさ、思わずケンカ吹っかけちゃったんだけど……」

黒子「それって何だかんだ言っていつものパターンのように聞こえるんですが……」

美琴「寝不足が祟って倒れちゃったのよ」

黒子「なっ!? 大丈夫でしたの!?」

美琴「いやー、あんなこともあるもんなのね」

黒子「いやいやいや、ないと思いますけど!?」

美琴「んで、寒空の下で寝かせておくわけにもいかないし起きないし、ってことで送ってくれたみたいね」

黒子「寝てる間に何かされたりしてませんの!?」

美琴「流石にそんなことするやつじゃないと思うけど」

美琴「ってかあそこからだとのんびり歩いてたら門限アウトだったし」

黒子「ああ、お姉様はギリギリセーフでしたわね」

美琴「まっすぐ送ってくれたとしか思えないかな」

黒子「それにしてもおんぶはないんじゃありませんの」

美琴「そうねえ。……でも、それを否定したらお姫様抱っことかにならない? うわ、どうしよ」

黒子「何を一人で赤くなってますの。おんぶでやっぱりよかったですわね……」

美琴「だから赤くなんか!」

黒子「はいはい。それでまた明日もそういう感じで密会しようと考えてますの?」

美琴「密会とか言うな。アイツって何か神出鬼没な感じだし、全然予定わかんないけど」

黒子「は? 約束とかされてませんの?」

美琴「全然。なんていうかうまいことスルーされるし、参っちゃうわね」

黒子「そ、そうでしたの……」

美琴「どうしたのよ。気の抜けた声出して」

黒子「いえ……、全く、結局お姉様の寝言に振り回されてしまいましたの」

美琴「は? 寝言?」

黒子「もう1度罰ゲームなどとおっしゃってたのはお姉様でしょう?」

美琴「どういう意味?」

黒子「……しまった!?」

美琴「つまり私が寝言で罰ゲームがどうこうって言ってたわけ?」

黒子「えーっと」

美琴「どんな夢見てたのよ私は……」

黒子「……あら? 覚えてらっしゃらない?」

美琴「ちょっと待ちなさい。アンタ他にも何か聞いてたんじゃ?」

黒子「いえいえ、何もありませんのよ!? そんな真っ赤な顔で何を!?」

美琴「赤くなんかないわよ!? いいから吐きなさい!」

黒子「ひぃ!?」

美琴「言、い、な、さ、い!」

黒子「なな、何でも言うことを聞かないといけないとか! そのようなことを申されてましたのよ!」

美琴「なんでも……?」

黒子「し、しまったー!! こんなにもあっさり吐いてしまいましたのーっ!!」

美琴「そうか、そうね! 罰ゲーム! ふふふ、その手があったか!」

黒子「ちょっとした油断から一気に最悪の展開ですの……」

──21時00分

黒子「黒子のバカバカバカバカバカバカ…………」

美琴「うーん……」

黒子「バカバカバカバカバカバカバカ…………」

美琴「いつまでブツブツ言ってる気よ……」

黒子「ううううううううー」

美琴「はぁ…………」

美琴(罰ゲームとは言っても大きなイベントって当分ないし……)

美琴(もっと簡単にできそうな賭け事を探した方がいいかしら?)

美琴(普通にケンカしかけるだけでもいいかもしれないけど、勝てる自信はないしなぁ……)

美琴(……いや、待って。逆に考えてみたら……)

美琴(私が負ければ罰ゲームしなきゃいけないのは私になって……)

美琴(あー、でもアイツのことだし、すごい易しい罰ゲームで終わらせたりしそう)

美琴(でも、でも逆にすごい恥かしい思いさせられたりする可能性もありそうだし………………)

美琴(い、いけない! ちょっと楽しそうだとか思っちゃった自分がいけない!)

美琴(ど、どうしよう。アイツが何考えてるかなんてわかんないしなぁ……)

美琴(何か違うのよね、もっとこう……強引に行けば……そうよ)

美琴(私ば罰ゲームする側になったって、内容をこっちで強引に決めちゃえば……)

美琴(あの日と立場を逆、ってことにしちゃえばアイツだって納得するだろうし……、よしコレだわ!)

美琴「となればまずはメールっと……」

美琴(アイツの暇な時間を聞いておいて……)

黒子「お姉様……。一応第三者視点から警告させていただきますけど」

美琴「ん?」

黒子「何だかお姉様、ストーカーじみて来てますわよ」

美琴「…………マジ?」

美琴(どどど、どうしよう。1日くらいメールやめたほうがいいのかな……?)

黒子(あら、意外と気にしてらしたんですのね……)

──23時20分

上条「にしても、今日のメールはあっさり終わったな」

上条「明日から補習だし、とっとと寝るかな……」

上条「バッテリーオッケー、マナー解除オッケー」

上条「これで鳴らないはずがないよな!」

上条「とかいうと鳴らなくなりそうで怖いんですけど」

上条「まぁなんとかなるさ。寝よう寝よう……」

上条「ぐー……ぐー……」

3日目──06時30分

美琴「ほら黒子、もう朝よ」

黒子「うー、ん? あ、あら……お姉様」

美琴「おはよ」

黒子「おはようございますですの。って今日は本当にお早いですのね」

美琴「いつも通りになっただけよ。それにあんだけ早く寝りゃあね」

黒子「ここ2日のがだいぶ強烈でしたので……」

美琴「う……」

黒子「もう普段通りの調子みたいですし、今日は大変そうですわね……」

美琴「は?」

黒子「こっちの話ですの」

美琴「そっ。ところで黒子、シャワー使う?」

黒子「いえ、お使いになるんでしたらお先にどうぞ」

美琴「わかった。悪いわね」

黒子「いえいえ」

──06時50分

黒子「ところでお姉様、今日のご予定は?」

美琴「んー、そうねえ……未定というより不明ね」

黒子「あの野郎次第ですのね」

美琴「そ、そういう意味じゃなくて!」

黒子「わたくしは初春と出かける予定がありますので、もしよろしかったらお姉様も、と思ったのですが」

美琴「うーん…………」

美琴(もう冬休み入ったみたいだし、アイツと会える可能性は高いと思うけど……)

美琴(外したら1日無駄にしちゃうし、やっぱ一度予定を確認する必要があるかな)

美琴「ちょっと考えさせて」

黒子「は、はぁ……」

黒子(初春犠牲作戦……多少は効果ありでしょうか……)

黒子(とりあえず初春にメールを……)

〔今日空けといてくださいな〕

黒子(ん?)

〔急すぎます!!〕

黒子(あら……?)

〔何か先約が?〕

〔佐天さんと出かける約束があるんです〕

〔では私やお姉様がそこに混じってもよろしくて?〕

〔あれ? 仕事の話じゃないんですか〕

〔違います。で、そちらと合流するかもしれませんけど大丈夫で?〕

〔それならオッケーです〕

〔少々遅れるかもしれませんが大丈夫で?〕

〔大丈夫ですよ〕

〔では詳しいことはまた後で連絡します〕

黒子(よし。あとはお姉様次第、というよりあの野郎次第ですわね……)

──07時20分

上条「アラームがちゃんと鳴って、良かった良かった」

上条「それでも一晩で何故か時計が20分もズレるという奇跡体験をしたわけですが……」

上条(朝にテレビをつけるだなんて、随分久しい気がする)

上条(ん? 雨が降るかもしれません?)

上条「最近の予報は本当に当てになんねえからな……」

上条(傘持ってったほうがいいのかな)

上条「俺が傘持って行くと降らないってのは何なんだろうなぁ」

上条(つか学校にいくつか置き傘あるから大丈夫か)

上条(無駄に荷物が増えるのも嫌だしな……)

上条「あと今日は買出しに行かないとなぁ……」

──08時30分

美琴(朝食も終わったし、そろそろ起きてるわよね)

美琴(とりあえず暇かどうかだけ聞いてみよう)


〔今日ってヒマ?〕

〔ヒマじゃない〕


美琴「……………………」


美琴(お、終わった……)

──08時40分

上条「折り畳み一本ありゃどうでもいい話だったのかもしれないな」

上条「まぁそれでなくとも大量に置き傘してあるから帰りなら全然余裕だし」

上条「ってない!? 1本もない!?」

上条「5本は置いておいたのに!」

上条「何であんな安っぽい傘をざわざわパクってっちゃうワケ!?」

上条「って逆か? 見た目からわかる安い傘だからか狙われるのか?」

上条「あれ? この傘って駅で貸し出してるやつじゃねーか」

上条「帰りはこれ借りていくか……」

──08時40分

美琴「やっぱ私も行っていい?」

黒子「え?」

美琴「なんか今日は暇になっちゃったのよね」

黒子「昨日、何か張り切ってるようでしたけど」

美琴「そ、そんなことないわよ」

黒子「そうですか。さっき連絡した所、佐天さんも一緒のようですのよ」

黒子(何だかよくわかりませんけど、一応これで丸く収まったようですわね)

美琴「そっか。4人で集まる機会も減っちゃってたからちょうどいいわね」

黒子「あちらも冬休みに入ったようですし」

美琴「そっか」

美琴(今日は1日アイツのことは忘れて遊ぼう……)

黒子(笑ってますけど、ちょっと寂しそうにしてますわねお姉様……)

──08時50分

上条「で、だ」

青髪「どしたん?」

上条「どしたんじゃねえ! 何でお前がいるの!?」

青髪「ああ、昨日の件で頑張ってみたら僕も補習になったんよ」

上条「頑張る方向性が180度間違ってねえか!?」

青髪「まあまあカミやん、補習がんばりましょーや!」

上条「お前と2人とか、まだ1人のほうがいいんだけど」

青髪「独り占めなんてさせへんよ!!」

上条「なんなのそのテンション!?」

青髪「いっそカミやんがサボっちまえば僕と小萌先生のサシ授業やで!!」

上条「テメエ俺を留年させる気かー!?」

ガラッ

小萌「はいはい始めますよー」

青髪「はぁーい!」

上条「はぁ……」

小萌「にしてもですね」

上条「はい?」

小萌「2人だけていうのは先生少し寂しいのです」

上条「その発言は担任としてどうかと思うんですけど」

青髪「夏の最初とかむちゃくちゃおったしな」

上条「感覚麻痺がひどすぎると思うんですが……」

──09時30分

黒子「お待たせしましたの」

初春「大丈夫ですよー」

佐天「こんにちはー!」

美琴「佐天さん結構久しぶりよね」

佐天「ですねえ。いやー、今学期はずっと忙しかったですから」

黒子「何かの役員を引き受けたとか聞きましたけど。大覇星祭でしたっけ?」

佐天「ほとんど罰みたいな感じだったんですけどね。飛び入りだったし大変でしたよ」

初春「御坂さん昨日ぶりですね。今日は元気そうでよかったです」

美琴「ええ、今日は大丈夫よ」

佐天「何かあったんですか?」

初春「寝不足でちょっとフラフラしてたんですよ」

佐天「へえ」

美琴「そ、それはもう大丈夫だからさ! そんなことより! ホラ、立ち話もアレだし、どっか行こうよ!」

黒子「そうですわね。流石に寒いですし。どこかに入りましょうか」

──12時10分

青髪「カミやん、昼飯賭けへん?」

上条「嫌だ。そういうのは絶対俺が負ける。絶対だ」

小萌「そういうのは先生の見えないところでやってくださいねー」

上条「って言いながら自分から見えないところ行っちゃう辺り甘いんだよな」

青髪「やっぱ平等だと乗ってけえへんなぁ」

上条「どんなに条件積まれたって乗らねえよ」

青髪「んじゃあ僕が負けたらこの1週間の昼飯は全部奢りますよ!?」

上条「よし乗ったぁ!!」

青髪「乗せやすくて助かるわー」

上条「うるせえ1週間分の食費ぶら下げられたら飛びつかないわけがないっ!!」

──12時30分

美琴「さすがに土曜のこの時間じゃ混んでるわねえ」

黒子「それでもそんなに待ったほうではありませんし、ラッキーだったかもしれませんわね」

初春「で、でも、もうお腹が限界です……」

佐天「ホラ初春、もう注文したんだからちょっとの我慢だよ」

美琴「この待ち時間ってたまにすごく長く感じるのよね」

初春「もう30分くらい待ってる気がします……」

佐天「ほ、ホラ初春。氷食べて気を紛らわせればいいんじゃないかな」

黒子「真冬になんてものをお勧めしてますの……」

──13時10分

青髪「さっきの勝負、水に流してもええんよ」

上条「屈辱的で何か嫌だ。つか食った後に言うんじゃねえよ」

青髪「はっは! 計算済みやで!」

上条「くっそー、不幸だ……」

青髪「勝負乗った時点で自業自得やろ。つかいつまでいじけてんねん」

上条「うるせえ、ついつい乗せられた俺が馬鹿だったんだよ」

青髪「んー。じゃあ明日の分賭けて」

上条「もうやらない。絶対やらない」

青髪「つまらねー」

上条「つか財布ん中もう小銭しか残ってないんですけど」

青髪「すっからかんよりええやん」

上条「予定がないならいっそすっからかんでも構わないけどさ」

上条「買出し行かなきゃいけないから一度お金降ろさないといけないし、面倒だー」

青髪「降ろすなら明日の分も賭けられ、ってちょー!? 落ち着けカミやん!? 冗談冗談!! ぎゃあああ!?」

──13時30分

初春「生き返りましたぁ!」

佐天「た、食べすぎじゃない?」

初春「そ、そんなことないですよ!?」

美琴「黒子もね。主にデザート」

黒子「うっ」

美琴「食後だし体を動かしに行ったほうがいいかしらね?」

黒子「底知れぬ悪意を感じますのよお姉様、ぐふふ……」

美琴「怖い、怖いからその顔」

佐天「とりあえず、次はセブンスミストあたりでいいですか?」

美琴「そうね。あとはそこかゲーセンくらいしかないし」

佐天「初春もそれでいーい?」

初春「げっぷ」

黒子「初春、せめて口元は押さえなさいな……」

──15時00分

小萌「上条ちゃん、ちゃんと聞いてるんですかー?」

上条「大丈夫大丈夫聞いてますよー」

青髪「僕ももちろん聞いてますよー!?」

小萌「……聞いてるフリして何をしてるんですかー?」

上条「バレてたのか……」

小萌「流石に2人しか居ないんですから気付かないわけがないですよー?」

上条「それもそうか……」

青髪「カミやんアホやなぁ」

上条「お前に言われるとすっげえ腹立つ」

小萌「で、何してるんです?」

上条「宿題です。主に先生の悪意が入ったやつ」

小萌「宿題をやるのは立派だと思いますけど、今やるなら後で更に追加しちゃいますよー?」

上条「うわああああすいませんでしたぁあぁあああ!!」

小萌「じゃあ、しまってくださいね」

上条「はい……」

青髪「チクショウ、カミやんばっかり……」

上条「先生、なんかコイツ怒られたいみたいですけど?」

小萌「青髪ちゃんの場合はなんでここにいるのか自体よくわからないので無視でもいいんです」

上条「ひどい」

青髪「いやいや放置プレーも悪くないですよー!?」

上条「こっちの頭のほうがひどかった……」

──16時40分

美琴「この音、黒子の携帯じゃない?」

黒子「あら、ちょっと失礼」

黒子「はい、こちら白井黒子」

黒子「…………ええー?」

初春「すごい嫌そうな声……」

美琴「事件かしらね」

初春「そんな気がします」

黒子「わかりました。では」ピッ

佐天「休みだってのに大変ですね、風紀委員も」

美琴「全くね」

初春「ですよね」

黒子「初春、何を他人事みたいなこと言ってますの……」

黒子(しかし、お姉様を残して行ってしまうのは少々不安というか危険というか……でも)

黒子(朝の様子から察するにあの殿方の予定と合わなかったようですし、大丈夫そうですわね……)

──16時50分

黒子「全く、こういう日に限って事件だなんて」

美琴「よくやるわよね……」

佐天「それで、何があったんですか?」

黒子「どこぞ裏路地のケンカ騒ぎの通報があって、出ようとしたらすぐ銀行強盗発生だそうですの」

初春「うわあ、2件も立て続けですか……」

黒子「先輩たちが銀行の方に向かうそうですので」

初春「だ、大丈夫なんですかそれ」

黒子「警備員も出動してるから主な仕事は一般人の避難くらいみたいですのよ」

初春「なるほど。……ということは」

黒子「わたくしがケンカの方に行くので初春は支部に戻ってバックアップと留守番ですわね」

初春「はー。わかりました」

美琴「気をつけてね、黒子」

黒子「ええ、むしろお姉様こそ今日はおとなしくしててくださいですの」ヒュン

美琴「何よそれ……」

佐天「初春も気をつけてね」

初春「あはは、私はただの留守番ですけどね。では」タタタタ……



佐天「御坂さん、どうします? どっか行きたいところとかあります?」

美琴「私は特にもうないかなー」

佐天「こういうとき白井さんみたいな人が引っ張ってくれないと行き先困っちゃいますね」

美琴「そうね、2人ともいなくなっちゃったんじゃ、もう今日はお開きでいいかもね」

佐天「そうですね。実は私も帰りに寄っておかないといけないところがあって」

美琴「寄るところ?」

佐天「まぁただの買出しなんですけどね。今家に食べるもの何もないんですよ」

美琴「へえ。付き添ってもいいかしら?」

佐天「ええ、ただの買出しですよ!? そんなの何か悪いですよ!?」

美琴「気にしない気にしない!」

佐天「で、でも、ただの買出しですよ?」

美琴「どうせヒマなんだからいいのいいの」

佐天「うー、すいません」

美琴「謝ることじゃないでしょ? ホラ、人数居たほうがいい場合もあると思うし」

佐天「それはすごい助かっちゃいます」

佐天「でも御坂さんもスーパーとか行くんですか?」

美琴「あー、まぁあのバカが、あ、いや。えーと、まぁたまにね! たまによ!」

佐天「へぇー……」

──17時40分

美琴「随分安くなってるもんなのねー」

佐天「偶然特売だなんてラッキーでしたよ。あ、もうすぐなんでこの辺でいいですよ」

美琴「そう?」

佐天「ありがとうございました。というかわざわざ寮の前2度も素通りさせてしまって……」

美琴「いいのよ、気にしないで。暗いから気をつけてね」

佐天「はい。御坂さんもお気をつけて」

美琴「ええ」


美琴「さて、と……」

美琴「!」

美琴「あの後姿は……、アイツ!?」

美琴「ふふふ、ラッキーなこともあるもんね……」

美琴「つかヒマじゃないっていう割には夕方には普通にこの辺歩いてるのね……」

──17時40分

上条「初日の補習も無事終了ってのはどうでもいいんだけど」

上条「結局雨ふらねえのかよ」

上条「……まぁ予報外れようとも降らない方がいいに決まってるんだけどさ」

上条「しっかしさすがに冷え込んできたなぁ。ロシアほどじゃねえけどやっぱり寒い」

上条「暖かいモンでも飲むかなあ、喉も渇いたし。これは無駄遣いじゃない、うん」

上条「よりによって、ここで賽銭箱もとい例の自販機か……」

上条「……………………」

上条「いやいや!」

上条「さっすがにそんなしょっちゅう飲み込んだりはしねえよな!」

上条「えーっと、財布財布っと」

上条「んーっと、いくらあるかな」バリバリ

上条「よし! 今日は小銭の持ち合わせもあるし!」

上条「むしろ小銭しか残ってないんですけども……」

上条「……………………ゴクリ」

上条「……でも100円入れるのは怖いしな」

上条「まずは10円から」チャリン

ピッ

上条「お、大丈夫そうだな」チャリン

ピッ

上条「よしよし、じゃあ100円をっと」チャリン

……

上条「………………」

美琴「アンタこんなとこで何して」

上条「だあああああああああ!!」ガンガンガンガン

美琴「って、ちょ!? ちょっとアンタ何で頭突きしてんのよ!?」

上条「ぬおおおおおおお!!」ガチャガチャ

美琴「そんなにレバーガクガクやったら取れるわよ!?」

上条「はぁ…………はぁ…………」

美琴「そんな息切らすまで何やってんのよ……」

上条「悪い、一瞬自我を破壊されてた」

美琴「はぁ?」

上条「ってビリビリ!?」

美琴「遅い! あといい加減ビリビリ言うな!」

上条「別にいいじゃねーかよ……」

美琴「な、何よ。昨日は名前で呼んでくれたのに……」

上条「は?」

美琴「なっ!? なんでもない! なんでもない!」

上条「はぁ?」

上条「お前最近ブームなの?」

美琴「何がよ」

上条「その、なんでもないなんでもない、って」

美琴「……そんなに言ってるかしら?」

上条「かなり言ってる気がするけど」

美琴「気をつけるわ」

上条「気をつけなくてもいいけどさ」

美琴「で、何? また?」

上条「…………」

美琴「もう笑わないわよ。20円って表示出てるからどうせ100円でしょ?」

上条「…………」

美琴「何、そんな驚いた目で見てんのよ……」

上条「いや、そんな風に100円だと見抜かれるとは……」

美琴「バカにしてんの?」

上条「め、滅相もございません」

美琴「まったく……」ガチャ

チャリン チャリン チャリン

上条「あれ、出てきた…………って、はいっ!?」

美琴「大丈夫そうね」チャリンチャリンチャリン

上条「おい、入れんなよ!? せっかく回収した小銭ー!!」

ピッ

美琴「ほら、押しなさいよ」

上条「ウソ!? 何で!?」

美琴「早くしなさいよね」

上条「あ、ああ」カチカチ

上条「…………コレがボタンでいいんですよね? 何で反応しないの?」カチカチカチカチ

美琴「これね」カチ ピッ

ガシャン

上条「おかしいだろ!?」

ピリリリリリリリリリリリ

上条「ええ!? 何の音!? 警報か!? お前またさりげなく能力使ったんじゃねえだろうな!?」

美琴「違うわよバカ」  <ピー>

美琴「お、当たった、ラッキーね。もう一本は私もらっちゃっていい?」

上条「これルーレットついてたの!?」

美琴「知らなかったの?」

上条「こっちは毎回飲まれてんだよ! つーか何でお前の時だけ素直に反応してんのコレ!?」

美琴「んー、日ごろの行いじゃない?」

上条「蹴り入れまくってたお前がそれを言うの!?」

美琴「もうしてないわよ!」

上条「なんか最近お前別人みたいになっててなんか怖いぞ」

美琴「ケンカ売ってんの?」

上条「売ってません売ってません! やっぱりいつもの御坂タンでしたハイ!」

美琴「ああ、ムカつくわねそうやって投げやりな態度!!」

上条「どうしろっての!?」

美琴「そうね、んじゃ久しぶりに私と勝負してもらおうかしらね!!」

上条「はい?」

美琴「え、だ、だから勝負よ」

上条「…………は?」

美琴「………………」

美琴(いけない! 気持ちが先走ってっちゃったー!?)

美琴「あ、いや、だからその、そろそろ私もアンタに勝てるんじゃないかなーなんて」

上条「……はぁ? 最近おとなしくなったと思ったらいきなりこれですか」

美琴「おとなしいって……」

上条「はぁ……」

美琴「溜め息つくなー!」

上条「ってやべ!? もう6時じゃん!!」

美琴「は? なんかあんの?」

上条「悪い、ちょっと急いでるんだった! じゃあな!!」

美琴「って、ええ!?」

美琴(ホントに行っちゃった…………)

美琴(チャンスが…………)

──18時00分

佐天「おーい、初春ー」

初春「あ、佐天さん」

佐天「事件は?」

初春「両方とも片付きました。私は非番だったからって解放してもらったんですけど」

佐天「ってあれ? 白井さんは?」

初春「半強制的に手伝わされてます」

佐天「た、大変ね……」

初春「佐天さんは買出しですか」

佐天「うん、御坂さんに手伝ってもらってね」

初春「いいなぁ」

佐天「へへー。さ、帰ろー」

初春「あ、雨?」 ポツポツ

佐天「うっわ、傘ないしこの荷物なのに!」 ザー

初春「あわわ、いきなり豪雨ですね、とりあえずそこに入りましょう」

──18時00分

美琴「あのバカ……、急いでるって一体どこ行っちゃったわけ!?」

ポツポツ……

美琴「あら? 雨?」

ザー

美琴「って、いきなりすぎんのよ、もう……」

美琴「はぁ、アイツが傘持ってたのってこういうわけだったのね」

美琴「でもこんなの予報にあったかしら?」

美琴「まぁ当てにならないのは確かだけど…………」

美琴「最近わざと外してるなんて噂が流れてるくらいだもんね」

美琴「にしてもひどすぎる気がするけど……」


美琴「で、とりあえず雨宿りはいいけど」

美琴「これ止むのかしら……?」

──18時00分

上条「あぶなかった。ギリギリセーフか」

上条(買出し行くのに財布の中すっからかんじゃダメだし)

上条(お金降ろすだけなのに取られなくてもいい手数料取られるのはなんか馬鹿馬鹿しいし)

上条「でも運が良すぎても怖いよな。ちゃんと雨も降ってきたし」

上条「俺が用意した傘に出番が来るだなんてなぁ……」

上条「ん?」


初春「全然止みそうにないですね」

佐天「この辺からだと寮まで走って5分くらいかな?」

初春「あはは、あまり真冬にはやりたくないですね……」

上条(近くの中学生か?)

上条「何? もしかして傘ないの?」

初春「え?」

佐天「あ、あはは、予報ちゃんと見てなくて……」

上条「いやー、予報も結構いい加減だったけどな」

初春「最近やっぱりおかしいですよね」

佐天「そうねえ」

上条「なあ、この傘使うか?」

佐天「ええ?」

初春「いや、駄目ですよ!? あなたはどうするんですか!?」

上条「いや、俺はこれとは別に折り畳みを持ってるし」

佐天「そうじゃなくて、いつ返せるかわからないですし」

上条「あーいや、これってさ、駅においてある奴なんだよ」

初春「え? あの出口のところにいっぱい置いてある奴ですか?」

上条「なんかうちの学校、駅から借りてきてそのまま置きっぱなしになってるのがいっぱいあるから」

上条「まぁせっかくだから借りてって、明日にでも駅に戻せればって思ってたんだけど」

佐天「なるほど」

上条「ああ、いや。でも駅に返すの押し付けてるみたいになっちまうな」

初春「いえ、そういうことなら喜んでお預かりします!」

上条「マジで? いやー悪いねー」

佐天「いえいえ、むしろ助かりますよ!」

初春「それで、これってどこに返せばいいんでしょう?」

上条「適当でいいと思うけど。鉄道会社の名前しか入ってないから、俺にもよくわからないんだ」

佐天「そ、そうですか」

上条「そういうことだから、悪いけど頼むわ」

初春「あ、はい」

上条「じゃあな」

佐天「いい人もいたもんね」

初春「無自覚でああいうことばかりやってそうな感じしましたけどね」

佐天「そ、そうかな……」

──18時10分

上条「さて、次はスーパーか。やっぱ雨は嫌だな」

上条「って、あれ? あれは御坂か?」

上条「何してんだよ?」

美琴「雨宿りよ。てかアンタどこいってたのよ。人のこといきなり置いてっちゃって」

上条「あー悪い。お金降ろすのにちょっと急いでたんだよ」

美琴「お金……?」

上条「つかお前傘は?」

美琴「持ってたら雨宿りなんかしてないでしょ」

上条「ふーん、この傘使うか?」

美琴「は? アンタはどうすんのよ?」

上条「俺は別に濡れてもいいし」

美琴「よくないわよ!」

上条「じゃあどうするんだよ。……って白井でも呼べばいいのか」

美琴「あー、あの子は今日は駄目かも」

上条「なんだそりゃ。つかそれじゃなおさら置いてけねえじゃん」

美琴「ううう……」

美琴(何で変なところで優しいかなコイツは……)

美琴「ああ、もう! わかった!」

上条「はい?」

美琴「どうせ途中まで道一緒でしょ?」

上条「はあ? っておい」

美琴「そこまででいいから入れてって」

上条「コレ折り畳みだし、クソ小さいんですけど!?」

美琴「気合よ気合、なんとかなるわよ!」

上条「ええ!?」

美琴(ほんとに狭……って近ッ!?)

上条「はぁ……」

美琴(ど、どうしよう。賭け事どころじゃなくなっちゃったわ……)

上条(こんなことならあの中学生に傘押し付けたりするんじゃなかったな……)

──18時20分

美琴「この辺でいいわ、お邪魔したわね」

上条「まてまて」

美琴「何よ、傘押し付けようったって絶対借りないわよ」

上条「ったく、強情だな」

美琴「アンタが言えんの?」

上条「わかったわかった。つかどうせ俺もそっち行くんだから送ってってやるっての」

美琴「はぁ……? って、はぁ!?」

上条「そうすりゃ俺もお前も濡れずに済むだろ」

美琴「いやいやいやちょっと待って!」

上条「ほら行くぞ」

美琴「ええー!?」

美琴「てかこっちに来る用って何よ? ウチの寮とかに何かあんの?」

上条「ちげえよ。買い物いかなきゃなんねーんだよ」

美琴「買い物? もしかしてスーパー?」

上条「チクショウ、これだからお嬢様は……」

美琴「な、何よ!?」

上条「卵のために並んだりする気持ちがお嬢様にはわかるまい」

美琴(って、もしかしてさっき佐天さんと行ったスーパーかしら?)

美琴「ってことはまた買出しかぁ」

上条「また?」

美琴「あ、いや、……ってあれ?」

美琴(さっきのスーパーだとしたら普通に寮の前通るわね……ってことは)

美琴「ふっふっふ。アンタ、お嬢様お嬢様って何度も言うけど」

上条「あん?」

美琴「そんなに言うなら一度一緒に並んでやろうじゃない」

上条「…………はい?」

美琴「だ、だからまた買出し手伝ってやるって言ってんのよ!」

美琴(買い物で貸しを作っておいたら罰ゲームのように……はいかないかもしれないけど、でも!)

上条「いや、お前時間大丈夫なのかよ。門限とかあんだろ?」

美琴「平気平気。てかメールでも言ったでしょ。買い物くらいなら手伝うって」

上条「あー、あったかもしれないけど。別にこんな雨の日をわざわざ選ぶことはないだろうに」

美琴「今更何言ってんのよ。それとも邪魔?」

上条「邪魔ってわけじゃねえけどさ」

美琴「ならいいでしょ。連れてってよ」

上条「いや待て何なのお前のその立ち位置!?」

美琴「ほら、行くわよ」

上条「いやいや何なの!? 傘入るの嫌そうにしてたのに!」

美琴「しっかり歩きなさいよ」

上条「聞けよ!?」

──18時50分

上条「ったくお前、関係ない玩具菓子とかさりげなく入れるんじゃねえよ」

美琴「アンタなら気付かないかと思ったんだけど」

上条「どうせレジまで気付かなかったよチクショウ!」

美琴「いやー、遠くで見させてもらいましたー」

上条「ふざけんなテメエ、キャンセル頼んで店員から変な目で見られたわ!?」

美琴「まぁ買うつもりだったものは買えたんでしょ?」

上条「まあな。てかクリスマスだったんだな」

美琴「遅いってモンじゃないわよアンタ!?」

上条「興味も関係もねえしな。まあ、とりあえず助かったよ」

美琴「んふふ、これは貸しにしとくわよ」

上条「えー?」

美琴「何よその顔……」

上条(ダメもとで言ってみるか?)

上条「……それ寮まで送る分で相殺な」

美琴「あれ!?」

上条「どうした?」

美琴(すっかりそのことを忘れてたわ……)

上条(なんでこんなに動揺してんの……?)

美琴「よ、よく考えたらわざわざ私のために往復してくれてんのよね」

上条「はあ?」

美琴「だ、だからむしろ私のほうに借りがあるってことで」

上条「何が言いたいんだよお前……」

美琴(ああ、もうわけがわからなくなってきた……そうよ、素直に言えばいいのよ)

美琴「ははは……、バカみたいね」

上条「な、何なんですか急にー!?」

美琴「明日ヒマ?」

上条「話が飛びすぎだろお前!?」

美琴「こ、答えなさいよ」

上条「ああ? んーと、日曜? 昼からなら、ヒマだけど」

美琴「……そっか。じゃあちょっと付き合いなさい」

上条「……はい?」

美琴「ヒマなのよね。黒子は突然仕事が入ったりするし、他の子はそんなに遊び歩いたりしないし」

上条「要するにお前が不真面目すぎるんじゃねえか……」

美琴「うっさいわね! それで付き合ってくれるの!? くれないの!?」

上条「おい、声でけえよ。そもそもそういう聞き方は紛らわしいだろ」

美琴「なっ!? ちがっ、違うわよ!! いや! ちが、ちがわな、ち……」

上条「おーい?」

美琴「ううう……」バチバチ

美琴(違わなくもないけどー!!)

上条「なんか漏電してるんですけどー!?」

美琴「ふにゃー」バチバチ

上条「だあァァァあああああ!? 雨の中でそれはやめろおォォォおお!!」

──19時00分

上条「さ、流石に……状況が最悪だろあれは」

美琴「ご、ごめん。なんか制御できなくなって」

上条「それって超能力者としてどうなんだよ」

美琴「う、うるさい……しょうがないでしょ……」

上条「はあ?」

美琴「うう…………」

上条(こ、怖いこの人怖いっ!)

上条「あ、ついたぞ、時間大丈夫か?」

美琴「えっ? うわ、ギリギリ!? あ、ありがとう!! じゃあね!!」

上条「あ? ああ」

上条(何だかなぁ……)

寮監「ギリギリセーフといったところか」

美琴「よ、よかった……」

美琴(罰で明日動けなくなったら最悪だったわ)

寮監「送迎者付きとは冬休みを満喫してるようで何よりだ」

美琴(げ……見られた……)

美琴「う…………」

美琴「ってアレ!?」

美琴(明日って結局どうなるのー!?)

──20時30分

上条(ざっと片付いたかな。やっぱり折り畳みだと小さすぎるな)

上条「まぁそもそも1人用だしな……」

上条「……ん、御坂から電話?」ピッ

上条「はいはい」

美琴『も、もしもし?』

上条「何か用?」

美琴『い、いや。だから明日の件、時間なくてちゃんと聞けなかったから……』

上条「ああ、別に俺は大丈夫だけど?」

美琴『ホントに!?』

上条「何だよ、どうせ俺は暇人ですよーっての」

美琴『そっかそっか』

上条「そっかそっかじゃねえ!?」

美琴『んふふふふ』

上条「テメエ笑ってんじゃねええええ!!」

──21時00分

黒子「ただいま戻りましたの」

美琴「おっかえりー」

黒子「…………お姉様、どうしましたの?」

美琴「何がよ?」

黒子「いえ、何ですの? そのハイテンションは」

美琴「別に普通よ、普通」

黒子「一昨日あたりと比較すると明らかに別人ですわよ」

美琴「そ、それは言いすぎでしょ」

黒子(怪しいですわね。これは明日先約が入ってそうですの……確かめねば……)

黒子「それは置いといて、お姉様、よろしければ明日もお買物に行きません?」

美琴「いいわよ、何時?」

黒子「えっ!?」

黒子(どういうことですの、こんなにすんなり……)

美琴「ただし、午前中だけね」

黒子「へ?」

美琴「午後は予定が入ってるから」

黒子「お、おねっ……」

黒子(そっ、そういうことかああああ!?)

黒子(ど、どうしましょう!? この言い方、確約までこぎつけたということでいいんですの!?)

黒子(というかあの野郎でよろしいんですわよね!? だとしたらわたくしにできることは……)

黒子「……………………」

黒子(妨害工作のみ……?)

美琴「なんか、寒気が……」

黒子(ふふふふふふふふ、明日は大忙しですわよふふふふふふ)

──08時50分

青髪「おう、おはようカミやん」

上条「おっすー。おはようさん」

土御門「おー、カミやん2日ぶりだにゃー」

上条「何でだ!? 何でお前まで参加しちゃってんの!?」

土御門「いやー、ゴリラから逃げ切った代償ってやつですたい」

上条「完全に損してんじゃねえか」

土御門「いやー、やられたぜい……俺の楽しい冬休み……」

上条「わ、割と本気でショック受けてるみたいだから弄るのやめとこう」

──09時00分

美琴「ホラ黒子。早くしないと時間なくなっちゃうわよ」

黒子「ま、待ってくださいですのお姉様ぁー」

美琴「お昼食べるまでなんだからせいぜい3時間くらいしかないわよ」

黒子「ううううううー」

黒子「いっそわたくしも午後の約束に混ぜてくださいまし……」

美琴「なっ!? そ、それは絶対ダメーっ!!」

──12時40分

黒子「お、お姉様、お願いですの。わたくしも是非ご一緒にぃぃいいい……」

美琴「アンタ何か企んでそうで怖いんだけど」

黒子「企みだなんてそんなことありませんのよ。是非お姉様に協力させてくださいまし」

美琴「ふーん、私が他の男とくっつくのを応援してくれるっての?」

黒子「許すまじ!! その野郎許すまじ!!」

美琴「……素直で結構」

黒子「お姉様ぁ……」

──12時50分

上条「ふー、1時待ち合わせだから昼飯の時間削ってギリギリセーフか?」

スリ(適当に鈍臭そうな奴を探して……)

上条「てか、何に付き合わされるんだろう……。何か嫌な予感がするんだけど……」

スリ(よし、こいつだ……)サッ

上条「!?」

スリ(よし、気付いてないよな?)

上条「て、テメエ!? 人の財布!?」

スリ「ってあれ!? うっそ!?」ダッ

上条「待ちやがれコラー!!」

スリ「何でわかんのー!?」

上条「こっちは慣れてんだよォおお!!」

スリ「何だそりゃあああああ!?」

通行人「…………」

通行人「一応、風紀委員に通報しとくか……」

──13時00分

佐天「結局、御坂さんたちは?」

初春「御坂さんは午後からデートらしいですよ」

佐天「おお!?」

初春「白井さんは妨害工作に出るようです」

佐天「うわー、どろどろだねえ」

初春「あまり楽しめる展開じゃないと思いますけど」

佐天「あれ? 初春的にはダメなのか」

初春「どういう風に思われてるんですか私は……」

佐天「ねえねえ初春、御坂さん探さない!?」

初春「え、ええ!? ダメですよそんなの!」

佐天「面白そうじゃん!」

初春「やるとしたら白井さんの妨害の方です!」

佐天「じゃあそれでいいから! 待ち合わせ場所とか聞いてないの!?」

初春「よくないです言ってみただけです! ていうかそんなの知らないですよ……」

佐天「じゃああそこは!? ホラなんだっけ!?」

初春「聞いてください……」

佐天「あのコンサートホール、名前なんだっけ?」

初春「ひっ!?」

佐天「初春?」

初春「そこは勘弁してください。古傷があるんです……」

佐天「ふっふー、そんな反応されちゃうと行きたくなっちゃうなー?」

初春「さ、佐天さぁん……」

佐天「ほら、いこっ」

初春「待ってくださいよー」

佐天「この路地ってショートカットできるんだっけ?」

初春「こういうところはあんまり入らないほうがいいと思いますけど」

佐天「風紀委員がびびっちゃってどうすんのよ」

初春「わ、私は情報処理が専門なんです!」

佐天「ほら置いてっちゃうよー」

初春「佐天さ、ッ! ダメ!! 佐天さん待って!!」

佐天「え?」

ドサ

佐天「きゃっ」

ハゲ「何だよ、走るんなら前向いて走れっての、クソガキが」

佐天「あ、うそ……」

初春(ス、スキルアウトの縄張りみたいなもの……?)

ヒゲ「ぎゃははは、そっちガキは風紀委員かよ!」

初春(そんなに深いところでもないけど、あっちの大通り自体が元々人通りも多くないし……)

ハゲ「何だ、通りすがりにでも期待してんのかよ。残念だけど誰もきやし」

スリ「ちっ、しつけえな!?」

ハゲ「ない……」

上条「おらあああああ!!」

スリ「ぐあああ!?」

上条「ったく時間ねえのに手間かけさせやがって。財布返しやがれ!!」

スリ「く、くそっ」

初春「え?」

佐天「え?」

ハゲ「あ、何だこいつ?」

上条「…………え?」

上条「あれー!? 何ですかココー!?」

──13時10分

上条「だああ、もう面倒なことになってんなぁ……」

上条(スリは除外しても大男が2人か、あっちの2人逃がすだけの時間が稼げれば上等だろ)

上条「とりあえず、そっちの2人は早く逃げろ」

ハゲ「はあ?」

初春「そ、そんなのダメです!」

ヒゲ「そうそう。みんなここで仲良くしてもらわ」

ヒュン

黒子「そこまでですのよ」

上条「はい?」

初春「白井さん!?」

ヒゲ「……何だよ、またガキかよ」

ハゲ「いいじゃん、あのまな板」

ヒゲ「けっ、変態が」

スリ「平和だなぁ……」

黒子「早く佐天さんを連れて通りまで行きなさい」

初春「でもそっちの男の人は!?」

黒子「何のためにわたくしが出てきたと思ってるんですの?」

初春「わ、わかりました! さ、佐天さん!」

佐天「あ、っと、ちょ、ちょっと」

タッタッタッタ

上条「えーと?」

白井「さーて、せっかくのオフを潰された個人的恨みを晴らさせていただきますの」

上条「えー……?」

上条「ってちょっと待っておまッ──」

──13時20分

上条「で、白井」

黒子「なんですの?」

上条「なんで俺まで捕縛されてるんですか?」

黒子「なんとなくですの」

上条「ふざけんなよ! ただでさえ時間ねえってのに」

上条「スリに遭うわ、とっ捕まえたと思ったらスキルアウトに絡まれるわ!」

黒子「運がなかったと思って諦めてくださいですの」

上条「不幸だ……。つーかお前って強かったんだな」

黒子「それは心外ですわね」

上条「いや、テレポートって便利だと思うけど、実際戦闘でどう使うのかとか知らなかったし」

上条「ビルの中でボロボロになってる姿が印象深いっていうか」

黒子「そういう趣味がおありでしたの?」

上条「いや何の話してんの!?」

黒子「それで時間がないというのは?」

黒子(お姉様が待ち合わせするような相手といったらこの野郎くらいしか思いつきませんが……)

上条「待ち合わせしてんの! ついでにいうと既に時間オーバーしてるの」

黒子「あらあら、オーバーだなんて大変ですわね」

黒子(この男も待ち合わせ相手がいるようですし、とりあえず……)

上条「他人事みたいに言いやがって」

黒子「他人事でもありませんのよ。長時間待たされたお姉様の不機嫌っぷりと言ったら……」

上条「あああああ、いきなり電撃が待ってるのかよ不幸だああああ!!」

黒子「ってやっぱりお姉様なのかああああああ!!」

──13時30分

上条「やーすいませんでしたーっ!!」

美琴「遅いッ!! つーかアンタまたかっ!」

上条(やっぱ言い訳はしないほうがいいよなぁ)

美琴「ってちょっとアンタ、ケガしてない?」

上条「は? どこだよ?」

美琴「ここ、ここ」

上条(近いんですけど!?)

美琴「んー? 何かあったわけ? 遅刻の理由くらい聞いてやるわよ」

上条「えー、スリに遭いました」

美琴「は?」

上条「んでスリ追いかけてやっと捕まえたと思ったら不幸にもムキムキ野郎どもに囲まれてた」

美琴「いくら不幸ったって、どうなってんのよアンタ……」

上条「先客で絡まれてる中学生がいたから逃がそうとしてたら白井が来て俺まで捕まりました!」

美琴「げっ、黒子近くにいるの?」

上条「さあな。とりあえず俺は解放してもらったけど、まぁ遅刻は遅刻だし」

美琴「はいはい、そういうことなら別にいいわ、もう」

美琴(大事なのはこいつと1日過ごす過程でうまく賭け事を持ちかけるか、貸し借りを作ること)

美琴(そうすればそれを名目に遊ぶことが……って何だか回りくどいのよねー……私らしくないていうか)

上条「んで、どうすんの?」

美琴「ん、そうねえ。いつも黒子や他の友達と回ってるような感じでいいかしら?」

上条「ああ、まぁそれでいいけど……」

上条(ってあれ? 普通の買い物なの?)

美琴「んじゃ、そうねえ。まずはあそこでいい?」

上条「はあ。よくわかんないから任せるわ」

上条(セブンスミスト? 俺は荷物持ちとかなのかね……?)

──13時40分

美琴「さ、いくわよ」

上条「ああ、ここのことか……って」

上条「お、おいあの子。今派手に転んだけど大丈夫か」

美琴「3歳くらいかしら? 一人なの?」

上条「大丈夫か?」

子供「ひっく……」

上条「近くに親とかいるか?」

美琴「いないっぽいわね」

子供「ひっく……ママが……いない……」

上条(てことは迷子か?)

美琴(……置き去り!?)

上条「そうか、じゃあ探しに行かないとな」

子供「ぐすっ……うん」

美琴「ちょっと、どうするの? 警備員とかに」

上条「は? そこまで大げさにするもんじゃねえだろ」

美琴「何言ってるのよ……」

上条「お前こそ何言ってんだよ。ただの迷子じゃないのか?」

美琴「え?」

上条「え?」

美琴「あ、ああ、迷子ね、そうね。ごめん」

上条「何だと思ったんですか……」

美琴「気にしないで。不謹慎すぎたわ」

上条「はい?」

子供「ううっ……」

上条「……ホラ、男は簡単に泣くんじゃないぞ」

子供「……うん」

美琴(なんか、兄弟とか、むしろ親子みたいね)

上条「転んだとこ、痛くないか?」

子供「……うん」

美琴(てか、こうしてると私も家族みたいに見えちゃったりするわけ!?)

上条「ん? 何ニヤニヤしてんの?」

美琴「してない!? してないわよ!!」

上条「はぁ……。とりあえずサービスカウンターみたいなとこ探そうぜ」

美琴「えっと、あっちに案内あったわよね」

上条「ああ、あれか」

美琴「あった、インフォメーションセンター。あっちの奥の方行けばいいみたいね」

上条「なんでそんな不便な場所に……」

美琴「元々あっちの入り口が正面入り口だったはずだけど」

上条「へー」

子供「…………ッ」

上条「やっぱ足痛そうにしてんな。抱いてくか」

美琴「そうねえ、じゃあホラ、お姉ちゃんが抱っこしてあげるわよー」

子供「……うん」

上条「おい、大丈夫かよ」

美琴「流石に馬鹿にしすぎでしょアンタ」

上条「別にそんなんじゃねえけどさ……」

美琴「よいしょっと」

上条「あれ?」

黒子「お姉様!? それに殿方さんに」

美琴「ん?」

黒子「えっ!?」

黒子「おおおおおおねおねおねえさま!?」

黒子「そのお子様は一体どういうことですの!?」

子供「!?」ビクゥ

美琴「ちょっと黒子、脅かさないの!」

黒子「し、しかし一体これはどういうことですの!?」

黒子「ま、まるでご家族のような光景に……」

上条「いや、見えないだろ……」

美琴「そうよね見えないわよね……」

子供「?」

黒子「た、確かに制服はミスマッチかもしれませんけど……」

上条「いや、年齢の時点でおかしいと思えよ……」

黒子「そ、そうですわね。お子様の年齢から考えたらお姉様は10歳くらいの頃に」

美琴「!?」

子供「?」

上条「待て待て待て待て、つーか黙れ!」

黒子「おっと、暴走しておりましたの」

上条「お前何なの!? つーかアブねえな!?」

黒子「お姉様? どうしましたの、真っ赤になって……」

美琴「なんでもないわよ……」

黒子「それで、結局そのお子様はどうしたんですの?」

上条「迷子っぽい。さっきその辺で転んで泣いてたんだけど近くに親がいないみたいだし……」

美琴「んで、とりあえず呼び出しかけてもらおうかな、って思ったんだけど」

黒子「なるほど……。このくらいの歳だと歩き回るのが楽しいんでしょうね」

上条「いいから行こうぜ」

黒子「そうですわね」

美琴「いや待ちなさいアンタ」

黒子「ひっ!?」

黒子(せ、せっかく野郎を逃がして追跡までうまいこと行ったと思いましたのにー!?)

美琴「何でさりげなくメンバーに加わってんのよ」


黒子「て……テヘ」

──14時00分

美琴「黒子のせいで余計な時間くっちゃったわね」

上条「つーか、アイツ錯乱しながら消えてったけど大丈夫なのか?」

美琴「よくあることだから大丈夫よ」

上条「あれが目の前にいきなりテレポートしてきたら、正直怖いと思うんですけど?」

美琴「そういう気の毒な人がいないことを祈るばかりよ……」

上条「そうですか……」

美琴「ところで、アンタさ」

上条「ん?」

美琴「あの母親から何かもらってたけど何だったの?」

上条「はぁ? あの時お前すぐ側にいたろ」

美琴「ち、近くで売ってたのが気になって……」

上条「あの辺っておもちゃ売り場だったような気がするんだけど」

美琴「う、うるさい! それで、何だったのよ」

上条「ほれ」ペラ

美琴「チケット?」

上条「その店知ってるか? 洋服店なんだって?」

美琴「最近できたばかりの店ね。まぁ知ってるっちゃ知ってるけど結構遠いわよ」

上条「ふーん。まぁ書いてあるとおりなんだけどさ」

美琴「期限付きの商品券ってわけね」

上条「遠いんならいっか」

美琴「でも何でこんなのくれたんだろ? ただのお礼?」

上条「みたいだったけど、あとは……」

美琴「ん?」

上条「『彼女さんに服でも選んであげてください』だってさ」

美琴「ブッ」

上条「何だよ!?」

美琴「か、か、かの、か」

上条「どうしたんだよ」

美琴「ああああー! なんでもない!!」

上条「突っ込み入れんのも飽きてきたな……」

美琴「はぁ……」

美琴(なんかペース掴まれっぱなしじゃない!? ああ、どうしようもう!!)

上条「で、どうするんだ?」

美琴「……そうね。せっかくだし、使わせてもらおうかしら」

上条「遠いんじゃねえの? 行く気かよ」

美琴「まぁまずはこの店全部見てからね」

上条「ぜ、全部ですか……」

──16時50分

上条「お、お前本当に全部見て回りやがって……もう暗くなってんじゃねえか」

美琴(見て回るのに夢中になっちゃって、賭けとかすっかり忘れてたわ。これはこれで楽しいからいいかしらね)

上条「んで更に今からどこまで行く気だよ……」

美琴「せっかくもらった券だし、使わなきゃね」

美琴(せっかくだし、言われたとおり何か選んでもらっちゃおうかしらね……でも……)

上条「期限まだあるんじゃないのかよ?」

美琴「さぁ?」

上条「あー、もうやっぱりこうなるのか……」

美琴「何よ、そ、そんなに嫌だったわけ?」

上条「そんなこと言ってねえだろ。ただ休憩くらいさせてくれよ」

美琴「だらしないわねぇ」

上条「待て待て! いろいろあったから混乱してんだよ!」

上条(あれは確か夜だっけ? 酔っ払った美鈴さんがタクシーの人に絡んでて)

上条(資料が学園都市にしかないとかなんとか……、でなんとか大学のなんとかセンターに行ったら……)

上条「ああ」

美琴「思い出したの?」

上条「えーと……」

美琴「うん?」

上条「スキ……」

美琴「? ……はい!?」

上条(っと、待った待った! スキルアウトとかあの事件のことは美琴には言っちゃまずいんだったよな)

美琴(すき!? 何、隙!? 好き!? ええ、何、何なの!? すき!? どういう意味!?)

上条(そもそもまず美鈴さんに会ったのはあの騒動の中じゃなくて街の中だったし)

美琴(な、何で黙るの!? 真顔で黙っちゃうの!?)

上条(あの人が学園都市に来てた理由はともかくも建前がしっかりしてたし大丈夫だよな)

美琴(『好き』って意味なの!? ええ!? どうリアクションしたらいいわけー!?)

上条「なんとかデータベースセンターっつってたかな?」

美琴「へ?」

上条「なんかそこにしかない資料があるとかで、わざわざ学園都市に来てたみたいだったけど」

美琴「な、何の話してんの?」

上条「……え?」



美琴「……え?」

上条「むしろ何でお前はそんなノンストップで回れるわけ?」

美琴「なんでかしらね? でも別にそんな疲れないけどなぁ」

上条「ああもう、つまりこれのことか、母親の買い物の付き添いの時のうんざり感ってのは」

美琴「母親ってアンタねえ……って」

美琴「…………そういやさ」

上条「あん?」

美琴「アンタって何でうちの母のアドレス知ってたわけ?」

上条「は?」

美琴「今更とぼける気?」

上条「何でだっけな?」

美琴「牽制したのにとぼけんのかよ」

やっちった。 >>273 >>270 >>272 の順だった。

──17時30分

上条「ちょっと遠いっレベルじゃねえだろコレ……」

美琴「いやーでもはるばるやってきた甲斐はありそうじゃない」

上条「俺にはその辺よくわからねえけどさ……」

美琴「さ、早く見て回りましょう」

上条「そいやお前ってさ」

美琴「ん?」

上条「いや、よく考えたら白井もなんだけどさ」

美琴「……何よ? つか何で黒子の名前が出てくんのよ……」

上条「何で不機嫌になるんだよ……」

美琴「別に……で、何よ?」

上条「お前らっていつも制服だろ。何でだ?」

美琴「そんなことか。規則なのよ。学校の、というより寮のね」

美琴「寮も学校の一部と考えられるから、寮でも普段は制服を着なさいってね」

上条「……ひどいな」

上条「じゃあ私服とか持っててもしょうがないってことか?」

美琴「寮監にバレると厄介だし」

美琴「多少はあるけど、あんまり量あると怒られるし隠すの大変なのよね」

上条「んじゃその商品券どうすんの?」

美琴「もちろん使うわよ。まあパジャマとかがいいかしらね」

上条「なるほど、そういう使い道もあるのか」

美琴「ホラこっち。選んでくれることになってんでしょ?」

上条「本気で選ばせる気かよ。俺に何を期待してんだ……」

美琴「期待はしてないけど、ちょっと見てくれればいいっての」

上条「はいはいそーですかー……ったく……」

上条「でもそういうセンスはお前のほうがずっとあるんじゃねえの?」

美琴「そうかしら?」

上条「ロシアの時とか結構可愛かったじゃん」

美琴「えっ!? かわ! か、か」

上条「ん?」

美琴(だめ、落ち着け、私! ここで混乱するからいけないのよ!!)

美琴「ふー……」

上条「お、おい?」

美琴「あー、ごめん」

上条「はい?」

美琴「ロシアのときの服だっけ? ……あれ? 何だっけ?」

上条「お前な……」

美琴(あれ? せっかく耐えたのに何かおかしくなっちゃった?)



美琴(でも……そっか……そういうことか……)

──18時00分

美琴「こりゃ間に合わないわね。もうのんびり帰りましょ」

上条「うだー。来た道帰るのかよ……」

美琴「ほらほら、泣き言言わない」

上条「しかしいきなり冷え込んできたなぁ……」

美琴「また雨とか降らないでしょうね……」

上条「いや、雪ってなってたけど」

美琴「うっわ、そりゃ寒いわけだわ……」

上条「つか随分指先が寒そうだな、お前」

美琴「流石にね……」

上条「ほら、カイロならあるけど」

美琴「うっわー」

上条「何ですかその反応は!?」

美琴「でもそういうのって暖かいのよね」

美琴「しまっときなさい。こうしちゃえばいいんだから」

上条「は?」

美琴「えいっ」

上条「ちょ、人のポケットに手突っ込むんじゃねえ!?」

美琴「おー、暖かーい。つか学ランのポケットって結構広いのねー」

上条「一気に狭くなっちまったんですけど……」

美琴「まーまー細かいことはいいじゃない」

上条「よく恥かしげも無くこんなことできるな……」

美琴(何となく、わかってきたような……)

美琴(罰ゲームだとか、貸しだとか借りだとか、そんなことはどうでもいいことで)

美琴(恥ずかしいけど、こういう時間を楽しめるようになれたらいいのかな、きっと)

上条「お前、よくそんなうっすい手袋で我慢できるな」

美琴「アンタこそあっちこっち穴開いてない? ほらこことか」

上条「だああもう! 人のポケットの中で暴れんな!」

美琴「あ、ちょっと追い出しやがったわね!?」

──19時00分

美琴「(………………き)」

上条「どうした? 何か言った?」

美琴「…………ううん」

上条「なんだよ」

美琴「なんでもない」

美琴(いつか……)

上条「ああ、雪って言ったのか?」

美琴「あ……」

上条「そっか。しかしもう雪の季節か」

美琴「ホワイトクリスマスか」

上条「違えだろ……」

美琴「いいじゃない。こういうのは気分よ気分」

美琴(1月半くらいだっけ?)

美琴(私は少しでも前進できたのかな)

──20時00分

美琴「はぁ……ただいまー」

黒子「お、ねえ、さま……」

美琴「アンタまだそんな調子でいたの……?」

黒子「ようやく戻られたんですのね……」

美琴「ええ、ばっちり寮監にも見つかったわ……」

黒子「そうですの……。その割には嬉しそうですわね」

美琴「そうかもね」

黒子「あら、そちらは寝間着ですか…………ってカイロ?」

美琴「ふふ、もらいモンよ」

黒子「はぁ…………」

──20時00分

上条「ああもう疲れたなぁ……」

上条「せめて何か食ってから帰ってくればよかった。ああ、腹減った……」

上条「でも……」

上条(何だかんだ、楽しかったかもな)

上条「手袋、なんだか捨てにくくなっちまったな……」

上条「…………」



上条「あ、あれ?」

『今日は午前中しか授業できない分宿題を出しておくのですよー』

上条「忘れてたあァァあああああ!?」

──21時00分

美琴「さて、冬休みはまだまだあるわけだし」

黒子「まだ続けるおつもりですの……」

美琴「コツは掴んだんだからもう大丈夫よ!」

黒子「調子に乗ると痛い目を見ますわよ」

美琴「平気よ平気!」


〔今週の予定教えてよ〕

〔あー。今月の残りは全部夜まで補習だ〕


美琴(あ、あれーっ!?)



  黒子「こんな感じでこのお話は終わりですの」

だめだ、バテた……。
平和でちょっとドタバタした美琴や黒子の動きが大好きなのでやってみたらこの有様だよ。

まとめ
・いつだか某寮監乗っ取った時に考えてた「ちょっと前のお話」を膨らませてみた。
・基本的にいろいろな部分で12巻を参考に。
・原作21巻より後、きっと平和。インデックスさんは1月に戻ってくるという脳内設定。

やっちまった
・冒頭のセリフそのままスレタイに使って内容はとことん無関係に。
・序盤にどうでもいい日常入れすぎて脅威の薄さ。180レスって馬鹿だよね。
・4日目。ネタ不足、オチ思いつかずでで投げっぱなし。最悪。

要するにぴぃの人とか現寮監の人とかすごすぎんだろ、っていうお話。
落ちるギリギリのタイミングでageてくれた人に感激しつつ、お疲れ様でした。

何でまだ残ってるんでせう

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