苗木「株式会社希望ヶ峰」 (274)
苗木(株式会社希望ヶ峰とは)
苗木(『世に希望を与える』ことをモットーとする、まさに希望に満ち溢れた会社である)
苗木(それだけ聞いても、何をする会社なのかよくわからないと思う)
苗木(実際働いている僕らにもわかっていない。社長に言われるがままになんとなく業務をこなす毎日だ)
苗木(『笑顔の絶えないアットホームな職場です!』というキャッチコピーを売りにしているらしいけど……)
苗木(アットホームどころの騒ぎじゃないんだよなぁ……)
苗木「……とかそんなことを考えてる間に出勤時間だ……行こう」
《AM7:00 株式会社希望ヶ峰 営業部》
苗木「おはようございま……」
モノクマ「遅いっ!!」
苗木「うわぁっ!? しゃ、社長……」
モノクマ「何やってるの苗木くん! 絶望的に遅すぎるよ! 早さが足りない!」
苗木「……一応、始業30分前ですけど」
モノクマ「ダメダメ、そんなんじゃ甘いよ! 一時間前に来て社長のデスクをピカピカに磨いとくのは常識でしょ!」
苗木(デスクなんて使ってない癖に……)
モノクマ「今日は多めに見るけど、次からはオシオキだからね!」
苗木「え、ええぇ……」
モノクマ「口答え禁止! じゃ、今日もノルマがんばるんだよ!」ピョイ
苗木「……はぁ」
狛枝「やぁ、苗木くん」
日向「朝から災難だったな」
苗木「日向くん、狛枝くん……おはよう。二人とも早いね」
日向「あんまり気にするなよ。どうせいつもの気まぐれだろうし」
苗木「そうかな……?」
狛枝「だと思うよ。僕らもさっき来たところだけど、何も言われなかったから」
苗木「え……じゃあ僕だけ理不尽に怒られたの?」
日向「そうなるな」
苗木「……一時間前はさすがに無いでしょ」
狛枝「あはは。そんなにフライングして来るのは営業部だと石丸くんくらいだよね」
日向「今日も窓際で体操してるぞ」
石丸「いっちに! さんし!」
苗木「……せっかく早く来たんだからデスクワーク始めてれば良いのにね」
狛枝「ほら、『仕事は業務時間中に終わらせるもの』らしいから」
石丸「む、苗木くんではないか! おはよう!」
苗木「おはよう、石丸くん」
石丸「そろそろ始業時間だが……まだこの四人だけかね?」
狛枝「そうみたいだね」
石丸「むむむ……常々思うのだが、我が営業部は時間にルーズな者が多過ぎやしないか?」
日向「……他の部署も同じようなもんだろ。数が多いからそう見えるだけだ」
石丸「それにしても、だ。警備業務の四人を見習った方が良いんじゃないかね。彼女らはかなりしっかりしているようだぞ」
苗木「一人を除いてね……」
澪田「なになに? 何の話してるっすかー?」
苗木「あ、澪田さん、おはよう」
狛枝「もうすぐ始業時間なのにみんな遅いなぁ、って話をね」
石丸「うむ。遅刻ではないから良いものの、少し風紀に問題が見られると思うのだ」
石丸「特に澪田くん! 君のその恰好は何だね!? 色々と飾りすぎだ!」
澪田「てへ。パンクっしょ?」
苗木「うん……パンクだね」
石丸「いくら私服可と言っても、限度があるだろう!」
澪田「いやいや、清多夏ちゃん。見た目に突っ込むなら唯吹以上の人いっぱいいるじゃないっすかー」
澪田「社長とか」
石丸「……」
苗木(確かに)
狛枝(確かに)
日向(未だにあのぬいぐるみの意味がわからない)
澪田「それに、さすがの唯吹も外回りのときは着替えるっすよ。もうちっと派手目の恰好に」
石丸「意味がわからん!」
ガチャ
霧切「……朝から楽しそうね」
九頭竜「あんまり騒ぐんじゃねーよ……寝不足で頭痛ぇんだ」
十神「澪田、石丸。特に貴様等だ」
澪田「わがっだぁ!!!」
十神「……」
苗木「三人とも、おはよう」
石丸「君たち! また始業時間ギリギリではないか!」
九頭竜「へいへい。いつものお説教だろ。後で聞いてやっから」
霧切「今は遠慮させて頂戴」
石丸「……」
《AM7:30 営業部》
モノクマ「やあ、オマエラグッモーニン!」
石丸「おはようございます!」
モノクマ「今日もがんばってノルマ達成して、じゃんじゃん営業成績上げちゃってよね!」
モノクマ「ちなみに、今んとこトップは石丸くんで最下位は狛枝くんだよ! いつも通りだね!」
狛枝「うーん……」
日向(そりゃあな)
苗木(営業先で何度も事故ってるみたいだし)
モノクマ「営業成績は月末にちゃんと査定するからね! ボーナス欲しかったらちばりよ!」
モノクマ「そんじゃねー」ピョイ
狛枝「……はぁ」
苗木「げ、元気出して狛枝くん」
九頭竜「人のこと励ましてる場合かよ。ワースト2、澪田と同レベルじゃねーか」
澪田「唯吹と大差ないとかマジヤバっすよ誠ちゃん」
苗木「……」
霧切「私と十神くんと九頭竜くん、それに日向くんはほぼ横並びね」
澪田「うーん、冬彦ちゃんと白夜ちゃんはこういうの苦手っぽいイメージなんすけどねー」
十神「ふん、俺を誰だと思っている」
九頭竜「売り込みはそこそこ得意なんだよ」
日向(絶対脅し込みだよな……この二人の場合)
苗木(二人の営業スマイルが想像できない)
狛枝「笑顔は得意だと自負してるんだけどなぁ」
石丸「君の笑顔はそこはかとなく邪悪な香りがするからな」
苗木「あ、言っちゃうんだ、それ……」
十神「このままだと、貴様の首が飛ぶのも時間の問題だな」
狛枝「それはどうにかして避けたいもんだね……」
日向「なら、他の部署のみんなに相談でもしてみるか?」
苗木「あ、それ良いかもね」
霧切「……そうね。私たちはみんな自己流過ぎてアドバイスはできそうにないし……」
苗木(霧切さんの営業スマイルも想像できないな……)
苗木(……ちょっと見てみたい)
霧切「……私の顔に何かついてる?」
苗木「い、いや別に」
狛枝「よし、じゃあさっそく行こう。日向くん、苗木くん」
石丸「い、今からか!? それはいかんぞ!」
石丸「午前はデスクワークの時間のはずだ! 自分の仕事に没頭したまえ!」
九頭竜「つっても、今日はあんますることもねぇだろ」
石丸「い、いやしかしだな……」
十神「ただ座って過ごしているよりよほど有意義だろう」
澪田「うはー! 白夜ちゃん顔に似合わず融通利くっすね!」
十神「貴様は昨日の仕事が残っているだろうがな」
澪田「……」
霧切「……私たちも手伝ってあげるから、さっさと取りかかりなさい」
澪田「響子ちゃんマジ愛してるっす!」
《広報部》
小泉「山田、昨日頼んでおいた冊子の印刷できた?」
山田「ふふん、ばっちりですぞ!」サッ
小泉「どれどれ……」ペラッ
小泉「……なんで私の写真、こんな漫画チックなレイアウトにしたの」
山田「それについての指定はありませんでしたので、僕の趣味全開にさせていただきました」ドヤッ
小泉「……まあ、もうやり直し利かないからこれで作るけどさ」
腐川「よ、良くないわよ! 何で私の書いた文章ほとんどカットされてんのよ!」
山田「……さぁ?」
腐川「ぐぎぎぎ……さぁ、じゃないわよこのゴマ団子!」
ギャーギャー
小泉「……はぁ」
ガチャ
苗木「失礼します」
日向「よう、小泉」
小泉「あれ、日向たちじゃない。どうしたの? 仕事は?」
狛枝「サボって遊びに来ちゃった」
小泉「……あんたたち」
苗木「ち、違う違う! ちょっと話したいことがあって……」
小泉「仕事ほっぽって遊んでるような人たちと話すことなんてありません」
日向「そこをなんとか頼む……どうしても小泉と話したいことがあるんだ」
小泉「……」
小泉「そ、そこまで言うなら……良いけど」
日向「悪い。ありがとな」
小泉「……」
狛枝(日向くんを連れてきて正解だったかもしれないね)
苗木(わかっててやってるのかな……?)
小泉「営業のコツ? って言われてもなぁ……」
小泉「そんなの、同じ営業部の人に訊いた方が良いんじゃない?」
狛枝「それが、あまり参考にならなそうなんだよね」
小泉「うーん……そうね……」
小泉「あんたの場合、まずその性格をなんとかした方が良いかもね」
狛枝「なかなかヘビーな切り口だね……」
苗木「いや……でも言いたいことはわかるよ」
小泉「でしょ? ネガティブで、自信なさげなセールスマンからなんて誰も買いたがらないって」
狛枝「でも……動くこけしとかギャグボールとかにどう自信を持てばいいのか……」
苗木「……」
日向「……」
小泉「……あー」
小泉「が、頑張れ」
苗木(投げた……)
日向(諦めた……)
狛枝「はぁ……さしもの小泉さんでもこればっかりはどうしようもないか……」
苗木「なかなか険しい道のりになりそうだね……」
小泉「……ごめん」
日向「いやいや、謝るのは俺たちの方だ。時間取らせて悪かったな」
小泉「……」
小泉「ま、そうね。うん。じゃあ今度、日向の奢りってことでチャラにしてあげる」
日向「な、なんで俺なんだよ!?」
苗木「まあまあ、日向くん。良いじゃない」
日向「良くない!」
小泉「べ、別に奢りじゃなくてもいいけどさ……ただ、私の話を聞いてくれるだけで良いっていうか……二人でさ……」
日向「?」
小泉「あ、あのさ……だから今度……」
腐川「きいぃぃぃっ! このゲロブタ!」
小泉日向苗木狛枝「!?」ビクッ
腐川「なんでこのコラムあんたの漫画にすり替えられてんのよ! 私の小説だったはずでしょ!」
山田「読者のニーズに応えた結果ですぞ! 盛り上がりのない短編小説などナンセンス!」
腐川「あ、あんたの理解不能なポンチ絵より遙かに良いわよ!」
ギャーギャー
小泉「……」
日向「あー……じゃ、俺たちはこれで」
小泉「え、あ、ちょっ……」
日向「じゃ、頑張れよ小泉」
ガチャ バタン
小泉「……」
腐川「℃☆$£●#&*◆££!!?」
山田「★♂※〒≠∞==÷♀♂!!!」
ギャーギャー
小泉「……ぐすっ」
《廊下》
日向「広報部……ホント大変そうだな」
狛枝「日向くん。近々小泉さんを食事に誘うことをオススメするよ」
苗木「うん……このままじゃ小泉さんの胃が穴だらけになるよ」
日向「いや、苦労してるのはわかるけど……俺がどうにかできる訳じゃないだろ……」
苗木「……」
狛枝「日向くん……君のその鈍さは絶望的だね……」
江ノ島「絶望的だね! うぷぷぷっ!」
苗木「うわっ! え、江ノ島専務……」
狛枝「……おはようございます」
江ノ島「あの……その専務っていうの止めてもらえませんかね……」
江ノ島「おっさんっぽい響きに拒絶反応マッハなんだよねッ! ぎゃははっ!」
苗木「は、はぁ……」
江ノ島「後、敬語も今すぐやめてくりゃれ!」
日向(相変わらずよくわからないな……この人)
狛枝「……」
苗木「えーと……江ノ島さん、こんなところで何してるの?」
江ノ島「んー……社内視察でもしようと思ったんだけども、部屋から出た時点で飽きちゃってさぁ」
江ノ島「仕方なく頭空っぽにして歩いてたらあんたたち見つけたってわけよ」
日向「そうか……」
江ノ島「で、あんたたちこそ何してんのさ?」
苗木「え、えっと……」
狛枝「あ、そういえば僕たちは部署を抜け出してるんだったっけ。この状況は結構マズいね、二人とも」
日向「おい、お前……」
江ノ島「サボりかよ! 絶望的に使えない社員じゃねーか!」
苗木「いや、これには色々と訳が……」
江ノ島「良いよ良いよ。あたし好きだよそういうの」
苗木「えー……」
江ノ島「ま、ほどほどにしといた方がいいですよ……全ては社長の気まぐれで決まりますから……うぷぷっ」スタスタ
狛枝「肝に命じておくよ」
苗木「……なんていうか……マイペースだよね」
日向「適当、とも言うな」
狛枝「でも、彼女には気をつけた方が良いよ。噂では社長はただのお飾りで、この会社を牛耳ってるのは専務である彼女……って言われるくらいだから」
苗木「な、何その恐ろしい噂」
日向「どっちにしろトップが変人であることに変わりないな……」
苗木(今更だけど大丈夫かな……この会社)
《企画部》
ガチャ
苗木「失礼します」
狛枝「……あれ? 誰もいないね?」
日向「いや、少なくともあいつは寝てるだけだろ」
苗木「え? あ、ああ……」
狛枝「休憩室は……こっちだったっけ?」
ガチャ
七海「……」スヤァ
苗木日向狛枝「……」
ちょっと一時間ほど席外すね
落ちてたら速報行くねごめんね
感謝だべ
日向「……おい、七海」
七海「……むにゃ」
日向「……」ペチペチペチペチ
七海「……ん、んん……痛い」
七海「……あれ?」
狛枝「おはよう、七海さん」
七海「……あ、おはよう」
苗木「ホント……いつ来ても寝てるよね」
七海「……そんなことないと思うけどなぁ。お昼休みくらいは流石に起きるよ」
苗木「…………」
日向「……葉隠たちは?」
七海「えっと、製造部に行ってる……と思うよ」
狛枝「定かじゃないんだね」
七海「私がゲームやり始めたときにはもういなかったからね」
日向「おいこら」ムニッ
七海「いひゃい……ほっぺたが伸びる……」
狛枝「まあまあ、僕たちも人のこと言えないよ。日向くん」
日向「……」
苗木(もしかして営業部って他の部よりまともな人たちが揃ってるんじゃ……)
ガチャ
葉隠「うーっす。いやぁ、全然ダメだったべ」
田中「……今、帰った」
不二咲「あれ? 苗木くんたち、どうしてここに?」
苗木「うん、ちょっと話したいことがあってね」
狛枝「それより、不二咲くんこそどうしてここに? 確か企画部じゃなくて経理担当だったよね?」
不二咲「仕事終わっちゃって……暇だったから手伝いに来たんだ」
不二咲「経理って僕一人だから寂しいし……」
日向「は、早くないか? まだ始業したばっかりなのに……」
不二咲「まあ、終わったって言うか……自動プログラムにやってもらってるっていうか……後でチェックすれば良いだけだから」
不二咲「あ、こ、これ内緒でお願いね? 怒られちゃうかもしれないから……」アセアセ
七海「それより、どうだった?」
葉隠「ああ、ダメだった……葉隠流水晶量産計画は海の藻屑と消えたべ……」
七海「それじゃなくて、ゲームの企画の方」
葉隠「へ? 何の話だ?」
七海「……葉隠くんに頼んだのが間違いだったよ」
田中「その話であれば、一応進めてみるとのことだったぞ」
七海「ホント?」
田中「ああ。だが、通るかどうかはモノクマのみぞ知る、と言ったところか……」
七海「はぁ……結局社長の気まぐれ次第かぁ……」
苗木「また新しい商品開発の話?」
七海「うん。今回は自分でゲームの世界を体験できるシステムを企画したんだよ」
不二咲(考えたのは僕だけど……)
狛枝「なにやらスゴそうだね」
七海「誰でも簡単、お手軽バーチャルパーソナリティ」
七海「略してガルパソ」ドヤッ
不二咲(あ、あれ……僕の中では『新世界プログラム』だったのに……)
葉隠「確実に通ったのは田中っちの企画だけだなー」
田中「ふははは、当然だ! 世界は俺様の頭脳を欲しているのだからな!」
日向「……どうせまたペット用品だろ」
田中「魔獣育成道具だ」
苗木「なんだかんだいって、需要があるからね」
不二咲「僕も田中くんにオススメされてハムスター飼い始めたんだぁ。これがもう可愛くて可愛くて」デレデレ
田中「ふふっ……不二咲はかなりの"力"を持っている。俺様に匹敵……いや、俺様を超える契約者になるやもしれん……末恐ろしき奴よ」
狛枝「田中くんにそこまで言わせるなんて、驚きだね」
苗木(相当可愛がってて、相当懐かれてるってことなんだろうな……)
七海「それで、3人の話って何かな?」
狛枝「実は、アドバイスをもらおうと思ってね」
葉隠「アドバイス?」
田中「ほう……して、我らに如何なる助言を乞う?」
狛枝「ズバリ、営業のコツをね」
不二咲「……」
七海「……」
田中「……」
葉隠「……」
日向「ああ、なんとなくわかってた」
苗木「は、葉隠くんはそういうの得意そうだと思うんだけど? 兼業占い師でしょ?」
七海「そうだよ。葉隠くんの占いなんて押し売り営業みたいなものなんだからさ」
葉隠「七海っち俺への風当たり強くねぇ? 全然違ぇべ」
葉隠「あのな。俺の占いってインスピレーションが全てなんだべ。だから、相手決めて『よし、占おう』っつーより、たまたま通りがかった奴の未来が見えることの方が多いし……」
葉隠「だからそういう客とっつかまえたほうが金になるし、営業とは違うっつーか……」
七海「やっぱ押し売りじゃんか」
葉隠「……あ、あれ?」
葉隠「……ま、強引さじゃねーか? 結局」
不二咲「良いんだ、それで……」
狛枝「田中くんは何かないかな? パッと思いつくことでもいいよ」
田中「ふん……契約者以外との対話に興味はない」
狛枝「……動物好きじゃないとダメってことだね」
七海「共通の趣味がないと話題が広がらないからねー」
苗木「別にお見合いの話してるわけじゃないんだけど……」
狛枝「仕方ないね。次行ってみよう」
《商品開発製造部》
左右田「営業のコツだぁ? んなもん知るかよ」
苗木「だよねぇ……」
日向「まあ、ハナから製造部のみんなには期待してなかったけどな」
左右田「それより暇なら手伝ってってくれよ! マジであいつらアホ過ぎて使い物にならねぇ!」
苗木「……」チラッ
桑田「あれ? この機械、どうやって動かすんだっけか」
大和田「適当にぶっ叩きゃ動くだろ」ガンガン
苗木日向狛枝「……」
左右田「頼む。不二咲呼んできてくれるだけでもいいから……」
左右田「不二咲が手伝いに来てくれた時以外、仕事ができた試しがねぇ……あいつら仕分けと荷物運びの時以外、7割はキャッチボールに時間費やしてんぞ」
狛枝「まあ、ほとんど社長が開発担当みたいなものだし、企画部はまだしも、この部は実質お飾りでしょ。あはは」
左右田「俺の仕事全否定かよちくしょー!!」
苗木「く、苦労してるね……」
左右田「ホントだよ……もう他の部署行きてぇよ……営業はめんどくせーからイヤだけど」
日向「……」
左右田「どうせなら受付とか華のあるとこ行きてぇな……」
日向「いや、あそこは女の園だろ」
左右田「あ、そうだ。これから受付遊びに行こうぜ」
苗木「仕事は?」
左右田「やってられっか!」
桑田「受付行くのか!? じゃ、俺も行くっきゃねぇな!」
左右田「……」
桑田「舞園ちゃん今日来てるかなー」
狛枝「今日は珍しく全員出勤してる日みたいだよ」
桑田「ヒャッハァァァ!」
大和田「お、なんだサボって良いのか? んじゃ、俺は駐車場でバイクいじってっから、なんかあったら呼んでくれや」スタスタ
苗木(自由過ぎる……)
《エントランス》
舞園「……かしこまりました。では、奥の応接室でお待ちください」ニコッ
桑田「やべぇよ……天使がいるよ……」
狛枝「流石だね。彼女がこの会社のアイドルと呼ばれるのも納得の可憐さだよ」
日向「……ホントに五人とも揃ってるんだな」
苗木(……日向くんが顔を青くしているのも頷ける)
苗木(何故なら受付業務は、舞園さんがいなかったら他のどの部より酷い有様になっていると思われるほどの問題児揃いだから……)
西園寺「……」ボリボリボリ
罪木「あの……金平糖食べながら応対するのは流石に止めた方が……」
西園寺「……ロブタ」ボリボリボリ
罪木「聞こえるか聞こえないかの音量で言うのやめてくださいよぉ……」
ソニア「罪木さん、それでは大声で罵ってくださいと言っているように聞こえてしまいます」
西園寺「皆さーん! ここにドMの恥ずかしいゲロブタがいまーす!!」
罪木「ひゃああぁぁ! そ、そういう意味じゃないですぅぅぅ!」
セレス「今は誰もいませんけれど……はぁ、今日は特に暇ですわね」
西園寺「安広おねぇが雀卓でも持ってくればよかったんじゃない?」
セレス「その名前で呼ぶんじゃねぇよビチグソがぁぁぁ!!」
西園寺「う……うわぁぁぁぁん! 安広おねぇが怒ったぁぁぁ!」
ソニア「しかし、麻雀ですと一人あぶれてしまいます」
舞園「そ、そういう問題ですか?」
罪木「わ、私ルールわからないんで……」
西園寺「じゃ、罪木はそこで一人でキョドってれば良いよ」ケロッ
罪木「わ、私一人じゃ応対もできないですよぉ!!」
苗木「……」
日向「……」
桑田「舞園ちゃん可愛い……」
左右田「ソニアさん今日も素敵だ……」
狛枝「スゴいね。こんな惨状、なかなか見られないよ」
苗木「舞園さんいない日、ホントどうしてるんだろうね」
左右田「ソニアさんがいるだろ!」
日向「あいつはあいつで何かズレてるんだよな……」
苗木「この前お客さんを土下座させてるところを見たよ……あくまで客側が自主的にやってたみたいだけど」
舞園「」ピクッ
苗木「! き、気づかれた?」
狛枝「別に隠れる必要はないと思うけど」
舞園(苗木くんだ……!)フリフリ
桑田「舞園ちゃんが手振ってくれてるぞおい! 舞園ちゃーん!」ブンブン
左右田「ソニアさーん! こっち見てくれー!」ブンブン
苗木「あんまり邪魔しちゃ悪いよ……」
日向「今暇そうだから良いじゃないか。話訊きに行こうぜ」
ソニア「営業の極意……ですか?」
狛枝「うん。ちょっと切実な悩みなんだ」
苗木「実質、狛枝くんの首がかかってるんだよね……後、僕も」
舞園「うーん、難しいですね……」
西園寺「まあ、私だったら狛枝おにぃから物買おうとは思わないなー。胡散臭さがにじみ出てるもん」
セレス「貴方の場合、まずは精一杯その薄汚い本性を隠すところから始めるべきでしょうね」
狛枝「あはは。セレスさんと違って嘘をつくのはあまり得意じゃないからなぁ」
日向「おい、さりげなく酷いこと言われてるけどいいのか狛枝」
罪木「あのぉ……」
狛枝「?」
罪木「そういうのってやっぱり『その人が何を求めてるのか』を見極めるのが大事……なんじゃないですかね……」
苗木「なるほど……」
日向「すごいな罪木。今までで一番まともな意見を出したぞ」
罪木「え、えへへ……人の顔色を伺うのは得意ですから……」
罪木「『殴りたい』って顔とか『ダーツがしたい』って顔してる人は特にわかりやすくて、そういうときは決まって私が相手になったり的になったりして……」
苗木「い、良いから! その話は何回か聞いたことあるから!」
罪木「あ、ご、ごめんなさぁい……同じ話を何度も……」
左右田「それよりさ、みんな今日の夜空いてるか?」
一同「?」
左右田「へへっ、久々にみんなで飯でも行こうぜ! ちょうど5:5だし」
西園寺「何それキモッ。魂胆が見え見えだよー」
左右田「イヤならおめーは来なくてもいいぞ」
西園寺「やだー! 仲間外れは死んでもやだー!」
ソニア「私は何の予定もないので、是非行きたいです」
左右田(っし! これで他の奴らはどうでもいい!)
セレス「……左右田くんの思考が手に取るようにわかるのですが……まあ、一応乗らせていただきますわ」
舞園「私も予定は無いですけど……」チラッ
苗木「?」
狛枝「……苗木くんも行けるよね?」
苗木「え? えっと、うん」
舞園「……行きます」
桑田「舞園ちゃんが行くなら行かねーわけがねぇ!」
罪木「わ、私も行っていいんですかね……?」
日向「当たり前だろ。遠慮するなよ」
罪木「え、えへへ……じゃあお供しますぅ」
苗木「じゃ、そろそろ行こうか。お客さん来たとき邪魔になっちゃ悪いし」
日向「ああ。じゃ、また後でな」
舞園「はい。お仕事がんばってくださいね」
左右田「俺たちは製造部に戻るぜ。心の栄養補給はできたしな」
桑田「『お仕事がんばってくださいね』……新妻舞園ちゃん……」ブツブツ
日向「……」
狛枝「うん。また後でね」
《正門前》
日向「……警備業務のやつにも訊くのか?」
狛枝「なるべく色んな人の意見を参考にしたいからね」
苗木「参考になるかな……?」チラッ
大神「……」ゴゴゴゴゴ
辺古山「……」ヒュウゥゥゥ
終里「……」ギラギラ
苗木「……声もかけづらいんだけど」
日向「何で終里はあんなに目を血走らせてるんだ」
苗木「『次遅刻したらクビだ』って言われてるらしいから、朝ご飯抜いてきちゃったんじゃないかな……」
狛枝「まさに"餓狼"といった様子だよ。それにしても、あの三人が並ぶと威圧感が凄まじいね」
日向「……四人揃ってないのが救いだな。誰にとっての救いかわからないけど」
苗木「っていうか、警備って一人で充分なんじゃないかな……」
大神「む……苗木たちではないか。そこで何をしている」
苗木「や、やあ、おはよう。大神さん、辺古山さん、終里さん」
辺古山「ああ、おはよう」
終里「メシ……ハラ、ヘッタ……!」ギラギラ
日向「……」
大神「奴のことは気にするな。それより、何か用か?」
苗木「うん。実は、かくかくしかじかで」
大神「ふむ……業務成績の不振か……」
辺古山「霧切や石丸たちに訊いた方が早いのではないか?」
日向「あいつらのノウハウは参考にならなそうだからな。九頭竜含めて」
辺古山「……まあ、あの方は色々無茶をする人だからな」
大神「我らの意見も参考になるとは思えんが……そうだな……」
大神「大切なのはやはり"誠実さ"ではないだろうか」
狛枝「誠実さ……」
大神「自分と自社の製品に絶対の自信を持つこと。そして、それを売りたいという確固たる気持ちを持つこと。その自信と気持ちを相手に伝えようと努力することだ」
大神「つまりは誠意だ」
苗木(わかっちゃいたけどすごく真面目な意見だ……)
狛枝「なるほどね……」
大神「我にとっても苦手分野であることに変わりはないから、あまり偉そうなことは言えんが……」
狛枝「いやいや、とても良い意見だよ」
苗木「辺古山さんはどう思う?」
辺古山「大神の意見に至極同意だが……その誠意を言葉にする技術も大切だろうな」
辺古山「すなわち話術だ」
狛枝「ああ……それは致命的だね」
辺古山「相手に心を開かせるには、時にはユーモアを交えて会話をすることも大切らしい」
辺古山「ちなみに私はユーモアのユの字も知らない」
苗木「冗談なら得意なんじゃない? 狛枝くん」
日向「こいつの冗談は笑えない冗談だからダメだ」
大神「誰かからそういう技術を学ぶのも手かもしれんな」
狛枝「うーん……七海さんとか?」
日向「なんでよりによってあいつなんだ。あいつのユーモアセンスも皆無だぞ」
辺古山「そうなのか? 時々何を言っているのかわからないことはあるが……なかなか面白い奴だと思うぞ?」
日向「ほとんどがコアなゲームの喩え話だから苦笑いしかできない」
日向「もしくは、紅茶が凍っちゃった、ってギャグをやりたいが為に冷蔵庫の前で小一時間じっと待つような女だぞ」
苗木「……」
日向「しかも冷凍庫に入れなかったせいで凍らなかったしな、紅茶」
狛枝「ある意味誰よりもユーモアに溢れてると思うけど」
大神「だが、営業には役に立ちそうもないな」
狛枝「でも、二人の意見はすごく参考になったよ。ありがとう」
大神「ふむ。話は逸れるが……お主ら、仕事はどうした?」
日向「やることがなくてな……午後の営業まで時間を潰してるんだ」
苗木(とうとう日向くんまでぶっちゃけ始めた……)
辺古山「そうか。私たちも……今日は特に暇だな……」
狛枝「あはは。3人もいると、流石の辺古山さんでも気が緩んじゃうかな?」
辺古山「恥ずかしながらな……ああ、そういえばもう一人も今、宿直室にいると思うぞ。暇を持て余しているようだったから、会いに行ってやったらどうだ?」
《警備宿直室》
苗木「……」
日向「……」
狛枝「……」
戦刃「……」ダラァ
日向(なんかくつろいでる……)
苗木(寝転がってテレビを見ている……)
苗木「えーっと、戦刃さん……」
戦刃「!!」ガバッ
日向(ジャージだ……)
苗木(上下ジャージだ……)
戦刃「え、あ!? いつからそこに!?」
苗木「今来たとこだけど……」
狛枝「自分の家のようにくつろいでたところ、邪魔してごめんね?」
戦刃「こ、これはその……今日非番で……盾子ちゃんの仕事手伝おうと思ったんだけど、追い返されちゃったから仕方なくここで休んでて……」アセアセ
日向「……なあ、苗木。戦刃って、江ノ島の双子のお姉さんなんだよな?」ヒソヒソ
苗木「う、うん、そうだね」ヒソヒソ
日向「その割になんていうか……威厳がないよな……」ヒソヒソ
狛枝「江ノ島さんも威厳があるとは言い難いけどね」ヒソヒソ
戦刃「あの……全部聞こえてるんだけど……」
戦刃「……それで? 何か用があったんじゃないの?」
狛枝「無いよ。遊びに来ただけだったけど、忙しそうだから退散するとしようかな」
日向(こいつ……戦刃のことアテにしてないな……)
苗木(戦刃さん……営業苦手そうだしなぁ……)
戦刃「……自分で言うのもなんだけど、私のどこをどう見たら忙しそうに見えるの」
戦刃「せっかく来たんだからゆっくりしていけば良いのに……その……」チラッ
苗木「?」
戦刃「さ、最近……あんまりお話してないし……」
苗木「……そういえば、戦刃さんが狛枝くんたちと話してるのあんまり見たことないかも」
苗木「うん。二人と仲良くなる良い機会かもね」
戦刃「……」
日向「……苗木。お前……」
苗木「?」
日向「鈍すぎるだろ……」
狛枝「どの口が言うんだい、日向くん」
戦刃「……やっぱり帰っていいよ」
苗木「な、なんで!?」
戦刃「もう苗木くんなんて知らない。私の安らぎの一時を邪魔しないで」
苗木「……職場で安らぐのはどうなんだろう」
狛枝「家で一人寂しく過ごすのは堪えられないんだよ。それくらい察してあげなきゃ、苗木くん」
戦刃「……」ガシャコン
《社員食堂》
苗木「……」
日向「……」
狛枝「……怖かったね」
日向「本気で撃ってきたな」
苗木「もう! 狛枝くんがデリカシーゼロの発言するからだよ!」
日向「いや、お前のせいでもあるから」
キーンコーン カーンコーン
『オマエラ! お昼になりました! たくさん食べて午後も張り切っていきましょう!』
日向「さて、今日の給仕係は誰かな……」
………………
花村「やあ、いらっしゃい」
朝日奈「おっす! 何食べるー?」
弐大「今ならCコースがお得じゃぁぁぁ!」
日向「……全員かよ」
狛枝「社食にお得も何もないよね」
苗木「スゴいね。今日はどの部署も全員出勤してる日なんだ……戦刃さん以外」
苗木「Aコースは高級フレンチコース、Bコースは甘いものコース、Cコースはがっつりスタミナコース……」
日向「毎度のことなんだけど、3人ともたまには普通の料理作ってくれないか? 焼き魚定食とか……」
花村「えー……僕にそんな野暮ったい家庭料理みたいなの作れっていうの? お断りだね」
朝日奈「ぶー、疲れた時には甘いものだよ……なんでわかんないかなぁ」
弐大「しっかりカロリー計算はしておるぞ! まあ、それ以前にお前さんらは少し肉付きが悪いからのぉ!」
苗木「言いたいことはなんとなくわかるんだけど、なんでコース料理なのさ……」
朝日奈「細かいことは気にしない! さ、早く選んで」
日向「……Cで」
苗木「……じゃあA」
狛枝「Aでお願いするよ」
朝日奈「えぇぇぇぇ!? そこはBの流れでしょ!?」
狛枝「生憎、空気の読めない質なんだ。あはは」
朝日奈「あーあ……結局Bセット買ってくれたのはさくらちゃんと西園寺ちゃんと終里ちゃんだけかぁ……がっくし」
苗木「え? 終里さんも?」
日向「意外だな。あいつなら迷わずCに行くだろうと思ったんだけど」
花村「あ、終里さんは全部一つずつ頼んでいったんだよね……」
日向「……」
苗木「……なるほど」
狛枝「とりあえず、席について待とうか」
???「……すみません」
花村「はいはい、何にする?」
???「A、B、Cをそれぞれ一つずつ」
苗木「!?」
朝日奈「あ、なんだ君かぁ。毎日違う恰好してるからわかんないよー」
???「ははっ、ごめんごめん」
弐大「んじゃ、席に座ってちっと待っとれや」
???「ああ、頼んだよ」ドスドス
日向「……なんだありゃ」
苗木「……ねぇ、朝日奈さん。あの丸々と太った人は誰?」
朝日奈「え? んー……知らない。えへへ」
苗木「え!? いや、でもさっき知り合いっぽい話し方してたじゃない」
朝日奈「何度も会ってるんだけど、名前は知らないんだ」
花村「名前どころか、いっつも変装してるからホントの顔もわからないんだよね……うちの社員であることは間違いないんだけど」
弐大「しかし、不思議なことにどの部署でもあやつの姿を見かけたことはない……まったく、謎まみれの奴よ! がっはっは!」
狛枝「……」
日向「どうかしたか、狛枝?」
狛枝「……ねぇ、みんなはこんな噂を聞いたことはない?」
苗木「噂?」
狛枝「株式会社希望ヶ峰にはたった一人、専属の"産業スパイ"がいるってさ」
日向「なんだそりゃ」
狛枝「その人は天性の"詐欺師"としての力と"変装能力"を買われて希望ヶ峰に雇われて、他社にスパイとして潜入する仕事を任されている……らしいんだよね」
苗木「え? それがあの人ってこと……?」
狛枝「……だったら面白いよね」
日向「いや、無いだろ……あんな目立つ風貌のスパイがどこにいるんだよ」
狛枝「ま、それもそうだね」
《営業部》
石丸「君たち……本当に午前中まるまるさぼるとは……」
澪田「あー……おかえりー……唯吹はもう電力切れっすよー……」
九頭竜「これからが本番だろうが。気合い入れろや」
澪田「哀れな唯吹に充電プリーズ! 白夜ちゃん!」スリスリ
十神「死ね」
霧切「どう? 役に立ちそうな話は聞けたかしら?」
狛枝「いや、それが全く」
日向「おいこら」
霧切「でしょうね」
モノクマ「えー、ではでは」ピョコッ
九頭竜「うおっ! ま、毎度急に現れるんじゃねぇ!」
モノクマ「営業部のみなさん、張り切って外回り行っちゃってください! 何でも良いから売って売って売りまくっちゃえー!」
石丸「かしこまりました!」ビシッ
苗木「……はぁ」
狛枝「落ち込んでてもしかたないよ。前向きに行こう、苗木くん」
日向「どの口が言うんだ、狛枝」
………………
…………
……
ミーンミンミンミン
苗木「……暑い」
苗木(夏の外回りは地獄でしかないよな……これで営業が上手く行ってればいくらか気分もマシになるんだけど)
苗木(今のところ成果はなし……とほほ……)
苗木「……はぁ」
苗木(そこの公園で一休みしよう……飲み物でも買って……)ゴソゴソ
苗木「あれ……? 財布忘れた……」
苗木「……」ズーン
苗木「ほとんど何もしてないのに疲れた……」
苗木「……もう、ずっとこのベンチに座って過ごしてようかな……」
霧切「……それも良いかもね」ピトッ
苗木「!? 冷たっ……って、霧切さん……」
霧切「そんなことをしている余裕があなたにあるかどうかはさておいてね」
苗木「まあ、その通りなんだけど……」
霧切「……ん」ズイッ
苗木「缶ジュース……良いの?」
霧切「飲み物が欲しいんでしょ? いらないなら捨てるわ」
苗木「い、いや、もらう! もらうよ!」
霧切「……」カシュッ
苗木「……もしかしてさ、ちょっと前から僕のこと見てた?」
霧切「……さあ?」
苗木「少なくとも僕が自販機の前で財布を取り出そうとしてるのは見てたんだよね?」
霧切「……ええ。とんでもなく間抜けに見えたわ」
苗木「……」
霧切「そんな間抜けな苗木くんに救いの手を差し伸べてあげた私を、そうね……"神"と呼んでも構わないわよ?」
苗木「同僚から一気にランクアップしすぎだよ……」
霧切「……」グビッ
苗木「……霧切さん、今日は営業の調子どう?」
霧切「……終わったわ」
苗木「え?」
霧切「今日のノルマはもう終わった」
苗木「は、早くない!?」
霧切「要領よくこなせばこんなものよ」
苗木「そ、それにしたってさ……」
すまん九時まで席外す
夜勤が忙しい時間帯に突入するのでな
サビ残オワタ
保守に多大なる感謝を
苗木「もしかして、何か特別なことやってたりする……?」
霧切「……内緒」
苗木「うーん……」
霧切「というか、その言い方は誤解を招きそうだから止めて欲しいわ。私が女であることを武器にする人間に見える?」
苗木「そ、そういう意味じゃなくて!」
霧切「冗談よ」
苗木「……」
霧切「贔屓にしてもらってる別口の顧客がそれなりにいるだけ」
苗木「ああ、なんだ……」
霧切「……本当は私、こういう仕事苦手なのよ。笑顔は拙いし、人と話すのだって好きじゃないし」
苗木「じゃあなんで営業部にいるの?」
霧切「……他に居場所がないから?」
苗木(なんで疑問系なんだろう……)
苗木「居場所、かぁ……」
霧切「いっそこの仕事を辞めて、ゼロに戻ってみるのも面白いかもしれないわね」
霧切「……副業もあるにはあるし」
苗木「……辞めちゃうの?」
霧切「気分次第ね。まあ、こんな無責任でやる気のない人間、いつか切られて然るべきよ」
苗木「それは……イヤだな」
霧切「イヤ?」
苗木「霧切さんがいなくなっちゃったら寂しいよ」
霧切「あら……苗木くんの癖に、嬉しいこと言ってくれるわね」
苗木「あ、そうだ。居場所、っていうなら良い案があるよ」
霧切「何?」
苗木「お嫁さんになれば良いんじゃないかな」
霧切「……イヤよ。苗木くんみたいな手のかかりそうな人と結婚なんて」
苗木「別に僕ととは言ってないけど……」
霧切「……」
霧切「……」
霧切「……私、会社に戻るわ。残りの営業、せいぜい頑張りなさい」
苗木「あ、ちょっと待って。今日の夜、暇?」
霧切「? ……暇といえば暇ね」
苗木「狛枝くんや日向くんと……後、何人かでご飯食べに行くんだけど、霧切さんもよかったら来ない?」
霧切「……ふーん。まあ、二人きりじゃないなら良いわ」
苗木「何やらとてつもなくショックな一言が聞こえたけど」
霧切「別に苗木くんと一緒なのがイヤなわけじゃないわ。ただ……私と一対一なんて、貴方が退屈するだけよ」
苗木「僕は霧切さんと一緒にいられるだけで幸せだけどな……」
霧切「……何か今日の苗木くんは変ね。暑さで頭をやられでもした?」
苗木「あはは……かもね」
霧切「なら、早く仕事を終わらせて涼しい会社に帰ってくることね」
霧切「……それじゃ」スタスタ
苗木「うん。また後でね」
《株式会社希望ヶ峰 休憩室》
ガチャ
霧切「……」
七海「……」カチカチカチカチ
霧切「またゲーム?」
七海「……あ、霧切さん。うん、午前中寝過ぎたからね」
霧切「寝過ぎたからゲーム、という感覚がよくわからないけど」
七海「うーん……このモンスター、行動パターンよくわからないなぁ……」カチカチカチカチ
霧切「……」
七海「……あ、霧切さんもやる? 二人で狩人になろうよ」
霧切「遠慮しておくわ」
七海「……残念」ガチャガチャ
霧切「……」
霧切「そういえば、貴女も今夜行くの?」
七海「……どこに?」
霧切「大勢で食事に行くみたいだけど」
七海「……あ、さっき桑田くんがそんな話してたかもしれないなぁ」
霧切(なるほど……ということは、発端は左右田くんか桑田くんのどちらかね……)
七海「日向くんも行くのかな?」
霧切「行くらしいけど……彼に来て欲しいの?」
七海「うん。眠気が限界値超えちゃったら、頼りになるのは日向くんだけだから」
霧切「ああ、そういう……」
七海「霧切さんも行くの?」
霧切「ええ。苗木くんに暇だと言ってしまった手前、仕方なくね」
七海「……あ、だからそんなに嬉しそうだったんだ」
霧切「? 嬉しそう?」
七海「うん。何かいつもより上機嫌に見える……ような気がする」
霧切「……」
霧切「七海さん、貴女……結婚とか考えたことある?」
七海「……」
霧切「……何、その顔は」
七海「いや、霧切さんらしからぬ話題だなぁ、と」
霧切「……深く考えずに答えて」
七海「うーん、ないなぁ……それ以前に、好きとか嫌いとかがよくわかんないや」カチカチ
霧切「……そう」
七海「……レア素材出ないな……苗木くんか狛枝くんに手伝ってもらおうかな……」カチカチ
霧切「理想の相手とかは?」
七海「うーん……趣味に寛容な人、かな。私がいつゲームしたり寝てたりしても堪えられる人」
霧切「……貴女はお世辞にも良い奥さんになれるとは言えないわね」
七海「……うん。自分でもそう思うよ」
霧切「日向くんで良いじゃない。彼なら貴女のすること大概許してくれるでしょう」
七海「そうかなぁ……今日もお昼寝してたら怒られたけど……」
霧切「限度ってものがあるわ」
霧切「……まあ、それだけ七海さんのことを気にかけてるってことよ。彼、貴女のこと大好きみたいだし」
七海「……」
七海「あ、やられちゃった」デデーン
霧切「もう少し周りに目を向けてみたら? ……私が言えた義理じゃないけれど」
七海「……難易度高そうだなぁ」
《営業部》
九頭竜「……疲れ果ててんじゃねーか」
苗木「でも、なんとか終わったよ……もう帰りたい……」
澪田「誠ちゃんしっかり! ご飯食べに行く体力残しとかなきゃダメじゃないっすか!」
九頭竜「おめーは元気有り余ってんならもうちっと仕事頑張れよ……」
苗木「あれ? もしかして、澪田さんと九頭竜くんも来るの?」
澪田「ぐすっ……そこはかとなーく『お前も来んのかよ』的なニュアンスが……」
九頭竜「悪ぃな。ま、邪魔はしねーからよ」
苗木「べ、別に悪くないよ! ただ、誰から聞いたのかなって」
澪田「怜恩ちゃんが女性陣片っ端から誘ってるみたいっすよ」
苗木(桑田くん……舞園さんだけじゃ飽き足らないのか……)
九頭竜「そっから男連中にも広がってって、かなりの大所帯になっちまったみてーだな」
苗木「何人来るんだろ……」
澪田「唯吹の地獄耳によると、恐らく32人っすね」
苗木「勢ぞろいかよ!!」パシーン
《某所 某料亭》
ワイワイ ガヤガヤ
苗木「ぎゅうぎゅう詰めだよ……どうしよう」
日向「入れる店があっただけ良しとしようぜ」
江ノ島「何これ、さすがのあたしもドン引きだわ。揃いも揃って暇人かよ」
狛枝「自分も乗っかっておいてその言い草はあんまりだよねぇ」
戦刃「それより盾子ちゃん。今日、辺古山さんも大神さんも終里さんも昼勤で、宿直警備いないけど大丈夫なの?」
江ノ島「あ、マジじゃん。じゃあむくろ姉、今から警備行ってきて」
戦刃「や、やだよ……せっかく来たのに……」
………………
澪田「唯吹、あんかけチャーハン食いたいっす白夜ちゃん!」
十神「勝手に食っていろ」
腐川「ぐぎぎ……白夜様に馴れ馴れしく……脳内花畑女が……」
セレス「西園寺さん、唐揚げにレモンをしぼっておいたので遠慮なく召し上がってください」
西園寺「ざけんな! 私がすっぱいの苦手だって知ってて……!」
花村「まったく、わざわざこんなところ来なくても僕に頼めば社食で食事会開いてあげるのに。ねぇ、二人とも?」
終里「……」バクバクバク
???「………」ガツガツガツ
大和田「誰だお前」
葉隠「会計、大丈夫なんか……?」
………………
桑田「あれ? 舞園ちゃんどこ行った? 舞園ちゃーん!」
左右田「ソニアさーん!」
九頭竜「うるせーよ。大人しく座ってろや。……んで、大神。おめーは何やってんだ」
大神「……この液晶画面は何だ?」ペタペタ
石丸「これを使って直接注文することができるのだ」
朝日奈「便利な世の中だよねぇ」
罪木「わ、私みたいに店員呼べない人にはかなり助かりますね……えへへ」
弐大「そんな弱気でどうする! 特訓じゃ罪木よ! 腹から声を出して店員を呼ぶんじゃぁ! さん、はい!」
罪木「え、遠慮しておきますぅ……」
………………
不二咲「僕のハムスター、田中くんの破壊神暗黒四天王みたいに賢くなるかなぁ」
田中「ふっ、無駄だとは言わん。この世に不可能ということは何一つないからな……貴様なら、あるいは……」
ソニア「まずは不二咲さんが田中さんの口調を真似てみるというのはどうでしょう」
辺古山「そ、それは止めた方が良いのでは……見てみたい気もするが」
山田「後で恥ずかしくなって布団の中で悶絶するはめになりますぞ……見てみたい気もしますが」
………………
七海「もうダメだ……後は頼んだ日向くん……」ウトウト
日向「せめてもうちょっと頑張れよ」
霧切「……」モグモグ
苗木「それでね、狛枝くんが『自分捜しの旅に行きたい』とか言うもんだから全力で止めてさ……ほら、海外行っちゃったら無事に帰ってこられるとは思えなくて」
霧切「へぇ……」
苗木「……」
苗木(何か……いつもより素っ気ないな……目を合わせてもくれないし)
舞園「苗木くん、霧切さん、隣良いですか?」ヒョコッ
苗木「え? うん、もちろんいいけど……桑田くんが向こうのテーブルで探してたよ?」
舞園「逃げて来ちゃいました」
日向「目が血走ってたからな、あいつ……」
舞園「後、どうしても日向くんの隣が良いと言うので連れて来ちゃいました」クイッ
小泉「い、いやいや! そんなこと言ってないからね!?」
日向「? ああ、そういや小泉、何か話したいことあるって言ってたっけ」
七海「……あ、私隣にいると邪魔かな? 向こうで寝てこようかな」
小泉「じゃ、邪魔じゃないよ! っていうか寝るのはどうかと思う!」
霧切「……私も向こうで七海さんと寝てこようかしら」
苗木「な、なんで!?」
舞園「せっかくなんでみんなでご飯食べましょうよ」
苗木(……何やら視線を感じる)
苗木「……戦刃さん?」
戦刃「は、はい」
苗木「何で一人でそんな隅の方に……江ノ島さんは?」
戦刃「狛枝くんと一緒にみんなにちょっかい出しに行っちゃって……」
小泉「こっちのテーブル来なよ。ね?」
戦刃「でも……私黙って飲み物飲んでるだけだし……」
日向「そんなこと言ったら七海は寝てるだけだぞ」
七海「まだ寝てないよ」
戦刃「……」
戦刃「じゃあ……お邪魔します」
………………
江ノ島「あのテーブルさ、すごい面白そうじゃない?」
狛枝「"引っ掻き回したら面白そう"って意味?」
江ノ島「いやいや、そんなことするまでもなく自分たちでめちゃくちゃになりそう。うぷぷっ」
狛枝「……どうだろうね。君が想像するようなことにはならないと思うけど」
江ノ島「どうかなー? 早く誰かアクション起こさないかなぁ」
狛枝「良いの? 江ノ島さん、色事は嫌う質だと思ってたけど」
江ノ島「全然。ドロドロしたのは大好物」
狛枝「爽やかな結末を迎えちゃったら?」
江ノ島「迎えさせないように努めます」
狛枝(悪趣味……)
江ノ島「ま、それはそれで諦めるけどさぁ……ほら、一応会社のモットーにも掲げちゃってるし」
江ノ島「株式会社希望ヶ峰は、笑顔の絶えないアットホームな職場です、ってさ。うぷぷっ」
終われ
ざんねん! ちあきのぼうけんはここでおわってしまった!
じゃあね
このSSまとめへのコメント
何で日向がモテて苗木がモテてない?これだから2派は
苗木普通にもててるだろ
続編、希望です
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