苗木「助けてやったのに…この恩知らず…」
苗木「許さない…絶対に許さない」
苗木「死んでも恨み続けてやる…地獄に落ちろ、霧切響子…!!」
霧切「苗木くん……」
モノクマ「それではいってみましょう!」
モノクマ「オシオキタ~~イム!」
苗木「[ピーーー]…[ピーーー]…[ピーーー]…」
霧切「………」
苗木くんは潰されるその瞬間まで、私を睨んでぶつぶつと何かつぶやいていた
これから死ぬというのにその瞳に恐怖はない
あるのは私に向けられた、激しい恨みだけだった
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私に向けられた憎悪の目。私はそんな彼の視線から目を背ける事ができなかった。
最後まで、彼と視線が交差する。私がまばたきをした次いつ瞬間には彼の体が潰される。
だけど、そこで奇跡が起きた。突然の機会の停止音、慌てふためくモノクマ、そして彼の……私を睨み付ける憎悪の瞳
潰される事なく、ベルトコンベアの先にあった穴に、彼が墜ちていく。その間も、彼は私を見ていた。
霧切「あっ……」
葉隠「な、なあ、いま、苗木っち、処刑されなかったよな?」
十神「やはり苗木が犯人ではなかったのか……」
朝日奈「よ、よかった……ま、まだ生きてるんだよね? 苗木は」
腐川「あ、あれが超高校級の幸運ってやつ、なの……?」
みんなが、安堵の息を吐くのを感じた。あの十神君ですら、その声質は普段より柔らかかった。
ただ、私一人が、何も言い出せなかった。
その後、モノクマは憤慨した様子で何処かに消えていった。
静穏となった裁判室。その中で、最初に声を上げたのは十神君だった。
十神「とりあえず、一度整理するぞ。苗木は犯人ではなかった。これは間違いない」
葉隠「そ、そうだべ! それによく考えれば、あの苗木っちが殺人なんてする訳ないべ!」
朝日奈「……でも、その苗木を私たちは、犯人として指名、したんだよね」
腐川「しょ、しょうがないじゃない! あ、あの時は他に怪しい奴なんて……」
十神「馬鹿か貴様は……」
腐川さんの言葉を十神君が冷たく切り捨てる。そしてすかさず、その鋭い眼差しと供に私を指差した。
十神「苗木が犯人でないのなら、答えは一人しかないだろ。お前だ、霧切響子!」
響子「…………」
十神「貴様の使った部屋の鍵の件。恐らく苗木はその事を知っていた」
霧切「……」
十神「あいつのあの呆れる程のお人好しから、苗木はお前を信じてその事を俺たちに提示しなかった。まあ、そのお人好しですら、最後には貴様を心底憎んでいただろうがな」
葉隠「お、俺、あんな苗木っち、見たことないべ……」
朝日奈「わ、私も……」
霧切「……っ」
十神「だがここで腑に落ちない点がある」
腐川「ふ、腑に落ちない、ですか?」
十神「何故、間違った答えを指摘したのにも関わらず、俺たちは生きてる?」
葉隠「た、確かに……霧切っちが犯人なら間違った俺たちが処刑されるはずだべ」
朝日奈「そ、それじゃあ、やっぱり苗木が犯人で、たまたま生き残ったとか……」
霧切「それは違うわ」
十神「ほう、ならお前が犯人だと認めるのか?」
霧切「それも……違う」
腐川「は、はあ? そ、それじゃあ、どっちも犯人じゃないって、こと……?」
霧切「ええ。そうよ。これは、黒幕が私を[ピーーー]為に仕掛けた罠よ」
十神「ふん、何を言い出すかと思えば……」
霧切「……今更、信じて欲しいなんて言って信じてもらえるなんて思っていないわ」
現に、私は裏切った。彼を……誰よりも純粋な、苗木君を騙し、犠牲しようとした。
霧切「だから、今から話す事を信じるかどうかは、あなたたちが選んで」
そんな私の話を今更、彼らが信じるかは分からない。でも、もう誰かに嘘を付くのはできなかった。
――――
――
十神「なるほど、万能キーか……確かに、それがあればあの裁判は覆っていたな」
葉隠「ちょ、超高校級の探偵……確かに、そう言われればそれっぽいべ!」
朝日奈「じゃ、じゃあ霧切ちゃんは殺人なんてしてなかったんだね!」
腐川「ふ、ふん。どうだか……全部デタラメでほ、本当に殺してたんじゃ……」
霧切「そう、思われても仕方ないわね」
十神「確かに万能キーについては、現物があるから疑いようがないが、他の点については本当かどうかはまだ証明できていないな」
霧切「……」
十神「しかし、証明できないなら、証明できる人間を連れてくればいい」
朝日奈「えっ? それって……」
十神「苗木だ」
霧切「!?」
十神「苗木は万能キーを使った霧切の目的を予め聞いていた。それに、苗木を襲ったという不審者の事を奴が覚えていれば、こいつの話はある程度は証明できる」
霧切「それは……無理よ」
朝日奈「えっ、な、なんで……」
霧切「苗木君が……私の話を証明しようとする筈がない」
誰にでも優しく笑顔を向ける彼が、自分を貶めようとした舞園さんや、死んでいった人たちみんなを、全て引き摺り続けると言った彼が、私を恨むと言った。
あんなにも優しい彼に、あんな汚い言葉を吐かした私が、再び彼を使って、十神君たちの信頼を得るなんて、できる訳がない。赦される訳がない。
そもそも、どんな顔をして私は彼に会えるの?
ふと手袋をした両手を見る。過去に人を信じ、騙された私の忌まわしき過去
。それと同じ事を、私は彼にした。
その痛みがどれほどのモノか、分かっていたのに。
その痛みを忘れない為に、この醜い両手があるに。
今日はここまでです。VIPで見たスレを乗っ取りで書こうと思ったら落ちたので、こちらで立てました。
ご指摘ありがとうございます。今度からはそうします。
朝日奈「そ、そんな事ないよ! 苗木ならきっと霧切ちゃんを許してくれるよ!」
葉隠「そいだべ! 苗木っちなら……」
十神「貴様たちは何処までもめでたい頭をしているな」
私に向けられた朝日奈さんと葉隠君の励ましの言葉を十神君はばっさりと切り捨てた。
十神「奴は霧切を憎むと言った。自信が処刑される寸前であっても、顔色を変えずに霧切を睨み付けながらな」
霧切「……」
十神「この殺し合いが始まってから、誰にも怒りを向けていなかったあの苗木が、だ」
十神「……いや、いたな。奴が唯一、憎しみを持っていた奴が」
腐川「あ、あの苗木が……ですか?」
苗木君が、この殺し合いにおいて、唯一憎んでいた相手――その答えは、瞬時に閃いた。
超高校級の探偵としての、能力じゃない。今まで起きたきた殺人、そして学級裁判……その時に、いつも側にいた私には、彼の怒りの矛先が誰だかすぐに分かった。
それと同時に、絶望した。
十神「この殺し合い生活を仕向けた黒幕だ」
そう、彼はいつだって、モノクマに……いや、その後ろにいる黒幕に激しい怒りと憎しみを秘めた目で睨み付けていた。
あの時、処刑の寸前まで私を睨み付けていた眼と同じ視線を、彼はしていた。
彼にとって、私は既に黒幕と同様の憎悪の対象だった。
霧切「十神君の言う通りよ……彼が私を許す筈がない」
口すら、聞いてもらえないだろう。だから、私の発言は誰にも証明は……
十神「苗木が許すかどうかは関係ない。必要なのは貴様の発言を証明する術だ」
霧切「彼が、私の話を証明すると思うの?」
十神「知るか、そんな事は苗木に直接聞けばいい」
霧切「……」
十神君の突き放すような言葉に、私は何も言い返せなかった。
苗木君、あなたはこんな私ともう一度、話をしてくれるの?
朝日奈「そ、そうだよ。まずは直接会って話さなきゃ!」
葉隠「よし! んじゃ、さっそく苗木を探すべ!」
十神「奴は地下に落ちていった。それぞれ、一階を探索し、地下に繋がる道を探せ。何か見つけ次第、連絡をしろ」
腐川「ま、待って下さい、白夜様! わ、私も着いていきます!」
霧切「……」
地下に繋がる道を探す為に十神君たちは一階の探索を開始した。
その中で、私は既に地下へ繋がる道への目星は付いていた。
霧切「……おそらく、ここからなら、行ける」
一階にある、トラッシュルームに設置された、巨大なダストシュート。
苗木君が落ちていった場所は、恐らくこのダストシュートの先にある廃材置き場と繋がっている。
処刑の度に出る廃材が毎回綺麗になくなっているところを見ると、ダストシュートで廃材を処理していると考えられる。
霧切「……この先に、苗木君が」
今すぐにでも、助けに向かうべきだ。モノクマの言う通り、下で生きたまま落ちた彼が、このまま廃材置き場で長く過ごす事になれば、まさに生き地獄だ。
でも……
霧切(彼をその場所に送った張本人が、彼に合う資格なんて……)
なら、この事を十神君たちに相談して、彼らの中の誰かに苗木君を救出してもらう?
……それは駄目だ。ただの逃げだ。
私には、彼を救出しなければならない、義務がある。責任がある。
彼を騙し、犠牲にした私には彼に糾弾され、罵倒されなければならない。
なによりも、謝らなければならない。
霧切(ここから降りるなら、準備が必要ね……)
――――
――
落ちている。ただ、落ちている。
真っ暗なごみ袋の中で、彼に渡す食糧と水を抱えながら、私は落ちていた。
彼に合う為に。彼に、謝る為に。
結局、私は十神君たちに何の報告もしないまま彼の救出に向かった。
本当なら、彼らに話をしてから、向かうべきだった。
そもそも本当にこの先に苗木君がいるのか、確かな情報を得てから救出に向かうべきだった。
もし、この先に苗木君がいなかったら……私は、彼の犠牲を踏みにじった事になる。
少なくとも、冷静ではなかった。
冷静さを欠き、ろくに情報を得ぬまま行動に移すなんて【超高校級の探偵】が聞いて呆れる。
少しずつ戻ってきている、自信の記憶。その記憶にある過去の自分と比べると、今の私はどれだけ愚かな行動をしているのだろうか。
だけど、居ても立ってもいられなかった。
あの優しい彼が、私に向けた激しい憎悪の眼。そして罵倒。
今でも目を瞑った瞬間に、彼のあの時の顔が、思い浮かび、彼の声が耳を刺激する。
どうして私はあの時、彼を犯人に仕向けるような言葉を言ったの?
モノクマが時間切れを通告した時、彼は万能キーの事を口にしていなかった。
あのまま、私が何も言わなくても彼に投票されていたかもしれない。
なのに、私は言った。言ってしまった。彼を裏切る言葉を、彼を切り捨てる言葉を。
それは、私が怖かったからだ。自分に投票される可能性を少しでも減らそうとしたからだ。
なんて醜いんだろう。
この殺し合いの中で、私と唯一距離を置くことなく、接してくれた彼を、
こんな私を、いつだって信用し、信頼し、身を案じてくれた優しい彼を、
私は――
思えば、苗木君は不思議な人だった。
【超高校級の幸運】苗木誠。私たちと違い特別な才能を持たずに、この希望ヶ峰学園に選ばれたある意味一番特別な高校生。
背は低めで、やや童顔。優しい性格で誰とでも隔てなく話していた、平凡な高校生。
でも、その平凡さが私たちにとっては魅力だったのかもしれない。
私たちは全員が全員、何かに秀でているせいか、変わった人間が多い。
こんな閉鎖された環境も相まって、全員が全員と仲良くはなかった。それどころか、ぎすぎすとした空気すら、流れていた。
しかし彼は、苗木君だけは、全員と平等に関係を築いていた。
自由時間は積極的に誰かと交流を深め、プレゼントをあげたり光景も目にした。
……実際、私も何度か彼から物を貰った事がある。
そういった、人と積極的に交流を深めるせいか、あの他人を寄せ付けない十神君やジェノサイダーですら、彼と二人で楽しそうに話していたのを見かけた。
彼と話していると、どこか安心する。
私が彼に感じたこの感覚は、きっと他の人も同じだろう。
彼と過ごす時間は、この学園内の中では唯一、嫌いではない時間かもしれない。
そう、思っていたのに、彼を裏切った。
その事実は思っていた以上に私の心に重くのしかかり、激しい後悔と自己嫌悪に陥った。
こんな事になって初めて私は自分の中で彼の存在が大きなものだったと改めて思い知った。
もう、何もかも遅いのに……
そんな、彼への思いを振り返っているなか、私は体を打ち付けた強い衝撃と共に現実へ帰った。
霧切「……っ!」
思った以上に長く落ちていたらしく、体を伝わる衝撃も強烈なものだった。その衝撃で私はゴミ袋から飛び出て、そのまま廃材の山に突っ込んだ。
霧切(……なんとか、着いた。この廃材がなかったら、ただじゃ済まなかったわね)
体の節々が先ほどの衝撃で痛むが、特に怪我もなく、なんとか動けそうだ。
早く、彼を探さないと。
そう思い廃材に突っ込んだ顔を上げようとした時、誰かの視線を感じた。
霧切「……!」
反射的に、私は視線を感じた方向みる。そこに、彼はいた。
苗木「……」
廃材の山の上に座り込み、私を見下ろす彼の眼。
その眼はあの時、彼が私に向けたあの激しい憎悪を感じられなかった。
いや、その眼は……【超高校級の探偵】の私から見て、憎悪どころか…喜怒哀楽の感情すら、読み取れなかった。
苗木「ねえ……なにしに来たの?」
今回はここまでです。
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