霧切「苗木君、囲碁で勝負よ」 (21)
苗木「囲碁? いいけど唐突だね」
霧切「時に苗木君、貴方は囲碁についてどこまで知っているかしら」
苗木「正直あまり知らないんだ。漫画を読んだ事があるくらい」
霧切「囲碁の漫画? 随分と珍しい物を読むのね」
苗木「『ヒカルの碁』って言う少年漫画だよ。結構有名な作品だと思うけど、聞いた事ない?」
霧切「知ってるわ」
苗木「え、でもさっき珍しいって」
霧切「ともかく漫画を読んだくらいで知った気にならない事ね」
霧切「囲碁の奥深さを舐めないで欲しいわ」
苗木「……うん」
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※キャラ崩壊注意
霧切「初心者の苗木君に囲碁のルールを教えてあげましょう」
霧切「ルールは簡単。この黒と白の石、すなわち碁石を交互に盤面に置いていくゲームよ」
苗木「流石にそれくらいは分かるけど……」
霧切「石を置くことを打つ、と表現するの。将棋の場合は指す、と区別されているわ」
霧切「この事を知らずに混同している人は多いでしょうね」
苗木「へえ。確かに気づかず使ってたかも」
霧切「ふふ。では実戦に移りましょうか」
苗木「え、ルール説明それだけ?」
霧切「私の先手よ」パチッ
苗木「ってもう始めてるし。ええとじゃあ最初は……」
霧切「苗木君、まずは『お願いします』と礼をしてから始めるのが常識よ」
苗木「あ、お願いします。………………」
苗木「……あの、霧切さん」
霧切「苗木君、早く指してちょうだい」
苗木「…………はい」
5分後
霧切「………………」
苗木「霧切さん……もう終局だと思うんだけど」
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●:霧切
○:苗木
霧切「……まあ。引き分けといったところかしら」
苗木「霧切さんのクロが0目,ボクの白が81目でコミなしでもボクの勝ちだね」
苗木(ていうか弱っ!)
霧切「ちょっと待ちなさい苗木君。中央にある私の石群が見えないのかしら」
霧切「というよりコミって何」
苗木「……コミっていうのは後攻の白に許されるハンデの事」
苗木「それから、霧切さんの石はボクの石が周りを囲んでるから陣地としてはカウントされないんだ」
霧切「……確かに見方によっては苗木君が優勢かもしれないわね」
霧切「だけど覚えているかしら。9手目、私が石5個をタテ一列に並べた事を!」
苗木「5目並べなら霧切さんの勝ちだったね。惜しかったよ」
苗木(頭が)
霧切「……ふん。苗木君の癖に生意気よ」
苗木「今までのボクは結構謙虚だと思うよ……」
舞園「こんにちは、苗木君と霧切さん」
舞園「あれ……もしかしてそれって囲碁ですか?」
霧切「お笑いね舞園さん。貴方にはこれがオセロにでも見えるのかしら」
苗木(五目並べだと思ってたじゃないか)
苗木「舞園さんは囲碁できるの?」
舞園「ちょっとだけやった事があるんです。アイドルのお友達に趣味にしてる子がいて教えてもらいました」
苗木「へえ。そんなアイドルがいるんだ」
舞園「事務所もその子のキャラとして売り出そうとしてるんですよ」
舞園「囲碁が得意なアイドル、略して……」
霧切「イ・ゴドルね」
苗木「区切りおかしくない?」
舞園「私も交ぜてもらっていいですか?」
霧切「構わないわ。では小手調べに苗木君とやってみなさい」
苗木「いや、別にいいけどさ……」
舞園「じゃあ苗木君お願いしますね。お手柔らかに!」
10分後
苗木「えーと……これはボクの負けかな」
舞園「ありがとうございました! でも僅差だと思いますよ?」
霧切「…………チッ」
苗木「霧切さん今舌打ちしたよね。舞園さんになら勝てると思ってたでしょ」
霧切「苗木君、負けた腹いせに八つ当たりするのは良くないわ」
苗木「はいはい」
舞園「では次は……」
霧切「………………」
霧切(……苗木君を負かしたとはいえその差はわずか。更に苗木君は漫画を読んだだけのズブの素人)
霧切(舞園さんは囲碁をわざわざ教えてもらったにしては弱い……」
霧切「指南を受けた理由もどうせ『他人の趣味にも興味持つ私、かわいい~』、なんて糞みたいな自己アピール目的」
霧切「その成果は大してなく、興味も知識も実はそれ程無いと推測できる」
霧切「……勝算は、ある……」
舞園「あ、あの……」
苗木(微妙に聞こえてるんだよなぁ……)
舞園「ええと。実は私、お父さんも囲碁が趣味だったんです」
舞園「子供の頃からよく付き合わさせられてて。イ・ゴドルの子に教えてもらったのもそれがきっかけなんですよ」
霧切「………………」
苗木「そうだったんだ。子供の頃にやってた事ってなんだかんだ覚えてるよね」
舞園「ですよね。そうだ霧切さん、良かったら次やりませんか?」
霧切「ノーセンキュー」
苗木「諦め早っ!」
十神「騒々しいと思えば……お前達か」
舞園「こんにちは。皆で囲碁をやってたんです。十神君もどうですか?」
霧切「というより貴方は囲碁ができるのかしら」
十神「愚問だ。帝王学を修めている俺にとってその程度の遊戯は易しすぎて暇潰しにもならない」
霧切「……貴方、囲碁を馬鹿にしているの?」
苗木(霧切さんが怒れる立場かなぁ……)
霧切「自信はあるようね。いいわ」
霧切「ではその鼻っ柱を叩き折ってやりなさい、舞園さん」
舞園「……あれっ、私ですか? じゃあやりましょうか」
十神「仕方がない。愚民共の戯れに付き合ってやるとするか」
舞園「十神君強そうですねー。ではよろしくお願いします!」
15分後
舞園「まいりました! 手も足も出ませんでした……」
苗木「舞園さんが大差で負けた……。十神クン、本当に強かったんだ」
十神「フッ、まあこんなものか。もっとも、チェスの方が得意なんだがな」
霧切「チッ」
苗木「言っておくけど霧切さん、現在カースト最底辺だからね」
霧切「こんなの何かの間違いよ……」
霧切「せめて誰か十神君を負かして。十神君が頂点とか耐えられないわ」
霧切「手袋の下ムズムズする、右手のケロイド悪化しそう」
苗木「それ持ちネタにするのやめなよ!」
十神「失礼な事を目の前で言う奴だ……」
十神「だが残念だ霧切、俺より強い奴など存在しない。まあそれは囲碁だけに限らないが」
不二咲「あれ? 皆で集まってどうしたの?」
苗木「ひょんな事から囲碁で遊んでるんだ。不二咲クンは囲碁できる?」
不二咲「そっか、ちょうど良かった! 実は今、人工知能の囲碁ソフトを開発してたんだぁ」
苗木「人工知能?」
不二咲「うん。CPUが自己学習して、外部からデータを入力しなくても自分で強くなるんだよ」
舞園「なんだか凄い話ですね」
不二咲「さっき完成したから一度試してみたくって。誰かやってみない?」
霧切「不二咲君……そのソフト強いの?」
不二咲「どうかなぁ。対人はやった事ないから……」
不二咲「でも一応、市販ソフトの最上級レベルには現在勝率100%だよ」
霧切「ならちょうどいい相手がいるわ。そうよね十神君」
十神「……俺にやれと言っているのか? 下らんな」
霧切「そう言って勝負から逃げるのかしら」
十神「フン、下らんと言ったのは結果が既に見えているからだ」
十神「機械風情にこの俺の頭脳を上回る事など出来る訳がない、自明の理だ」
苗木「わあ、凄い自信だ」
舞園「でもさっき戦った感じでは、それくらい強くてもおかしくないと思います」
不二咲「そ、そうだよね。ゴメンなさい、無理にやって欲しい訳じゃないから……」
十神「……が、その証明をしておくのも一興だろう。一局指導してやる」
不二咲「え……いいの? よかったぁ。十神君ならきっといいデータが取れるよ!」
十神「御託はいい、さっさと始めろ」
不二咲「うん! じゃあ起動するね……」
不二咲「お願い、『アルファーエ碁』」
30分後
十神「」
舞園「まさか自信満々だった十神君が負けるだなんて……」
苗木「しかも素人目にも分かるほど大差だ……」
霧切「っ……、予想外ね」
苗木「霧切さん、口角上がってる」
不二咲「ありがとう十神君! このデータすっごく参考になるよ!」
不二咲「よかったらまた協力してくれると嬉しいな。じゃあまたね!」
十神「」
苗木(魂抜けてる……よっぽどショックだったんだ)
舞園「とうとう、人工知能が人間を上回る時代になってきたんですね」
霧切「そうね。でも悲観する事じゃないわ。科学が進歩している事の証明だもの」
舞園「人工知能を作ったのもまた人間……ですか」
舞園「でもやっぱり、どこか不安なんです」
舞園「いつか人間が必要とされなくなる時が来るんじゃないかって……」
霧切「……確かに人間が人工知能に全く勝てなくなるようになるかもしれない」
霧切「それでも。人間同士が考え、人間同士がしのぎを削る勝負には、ドラマがある」
霧切「囲碁に限らずそういったゲームに私達が魅了されるのは」
霧切「人間の底力、気概、矜持……戦う事で自分も、また戦う人達のそういった姿を求めているからじゃないかしら」
舞園「……そうですね。きっと、そうですよね!」
たとえ越えられない壁が出来たとしても、人間は挑戦し続ける。
人類の歩みが止まる事はないのだ……
苗木「……なにこの終わり方」
終わりです、読んでいただきありがとうございました。
ちなみに>>1は囲碁をやった事はありません
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