勇者「とある魔王の説教話」 (24)

魔王「魔王が悪だと誰が決めた?」

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勇者「え?」

魔王「勇者が善だと誰が決めた?」

勇者「それはっ」

魔王「それは?なんだ。」

勇者「それは…みんなが…そう言うから。」

魔王「ほう。」

勇者「(なんなんだよ…いきなり現れたかと思えば、こんな、説教臭い話。)」

魔王「では、貴様に問おう。」

魔王「貴様は、皆に今日から悪だと言われて納得するのか。」

勇者「…そういうことを、言いたいわけじゃなくて。」

魔王「突然だが、少しばかり語っても良いか。」

勇者「…どうぞ。」

魔王「貴様も知っているとおり、オレは魔王でな。今日まで魔界一国の王として、全魔族、全魔物を束ねて来た。」

勇者「(一体、何がしたい?この魔王は…)」

魔王「オレは“王”として、国民全ての生命活動を約束し、日々、国務に明け暮れた。」

魔王「飢餓で命を落とす者が無いように、家を失う者が無いようにと。」

魔王「それは立派に、一国の“王”を務めて来たつもりだ。」

勇者「(とは言うけど、魔界の国民は魔族と魔物オンリーなわけで…)」

魔王「だが、見てみろ。この世界を、この現状を。」

勇者「あ?」

魔王「貴様ら人間は、こちらの世界に迷い込んだ魔物を、一体どれだけ殺したことか。」

魔王「それも自分達と姿が違うからという理由でだ。」

勇者「それは…あーっと、言い方は悪いが、仕方の無いことだと思う。」

魔王「…ほう。どうしてそう思う?」

勇者「ほら。これは人間に限った話じゃあないが、生き物というのは自らと違うものを恐れるものだろう。」

勇者「お前、醜いアヒルの子という童話を知っているか?」

魔王「ああ、知っているぞ。」

勇者「あの話では、大多数と違う姿で生まれたアヒルの子が、虐げられたろう。最も、あの話自体はそんなテーマのものではないんだが…」

勇者「つまりな、そう言うことなんだよ。生き物というのは、自らと違うものを退けようとするものなんだ。」

勇者「なぜかって、得体が知れないものは恐ろしいと感じるからだ。」

魔王「フム…」

勇者「僕はさ、これに限っては、生き物の本能なのだと思ってる。」

魔王「しかし勇者よ。」

勇者「なんだよ。」

魔王「考えてもみろ…オレ達魔族が、魔物が、お前達人間に何をしたと言うのだ?」

魔王「訳もなくお前達を殺したか?」

勇者「人間を襲ったのだろう。」

勇者「僕は今まで、旅の先々でたくさんの人々と話したが、みんな、口を揃えて魔物への恐怖を語っていたぞ。」

魔王「いや、違うな。」

勇者「何が違うんだよ。」

魔王「魔物に殺された人間がいるのなら、それは、その人間が魔物を殺そうとしたからだ。」

勇者「!…そんなこと、鶏が先か卵が先かという議論ほどに意味が無い!」

魔王「現実を見ることだ、勇者よ。」

勇者「だからと言って、人間を殺して良い理由など無いだろう。」

魔王「ああ、無い。」

勇者「だから、」

魔王「だが、魔族や魔物を殺して良い理由も、どこにもありはしないだろう?」

勇者「……。」

魔王「…と、ここまで話したところで、客観すると一体どちらが“悪”で、どちらが“善”なのだろうな?」

魔王「それはまぁ、誰にも決めることは出来ないだろう。」

魔王「恐らく神にでも聞いてみない限りは…」

魔王「…なんて、魔王のセリフには相応しくないな。これは忘れてくれ。」

勇者「……。」

魔王「しかしな、勇者よ。」

魔王「オレの主観混じりの話になってしまって非常に申し訳ないのだが、聞いてくれるか。」

勇者「…ああ。」

魔王「ありがとう。」

魔王「上手く言えなくて少しもどかしいのだが、なんだ。
魔族に対する色眼鏡を外しても、オレには、人間の方がよほど“悪”に思えるのだ。」

魔王「見えてしまうのだ。」

勇者「(何だよ。何でお前が辛そうな顔してんだよ。意味が分からない。)」

勇者「(お前は、魔王なんだろう。)」

魔王「これは申し訳ない。なんだか辛気臭い雰囲気になってしまったな。」

勇者「…いや、いいよ。」

魔王「まあなんだ。言ってしまえば、オレ達魔族も貴様ら人間も、大した変わりはないんだよな。」

魔王「人間にも王様がいて貴族がいて、それらの行う政治が存在し、そしてそれを支える平民がいて。」

魔王「日が登れば起床し、日々懸命に働き、腹が減ったら飯を食い、日が沈むと同時に眠りにつく。」

魔王「愛するものと家庭を築き、子を為し、家を守り、そして何より、毎日を生きている。」

魔王「何も変わりないのさ、オレ達は。」

勇者「………。」

勇者「(なんだ。)」

勇者「(なんだこれ、まるで僕のやってきたことが、全て間違っていたかのような…)」

魔王「ああ、言い忘れたが、決して貴様を否定しているわけではないぞ。」

魔王「貴様は貴様の正義に従ってきただけの話なのだから。」

勇者「(…なんで……)」

勇者「(今まで、僕は、勇者として人々の願いを背負い、多くの魔族や魔物達と戦ってきた。)」

勇者「(その戦いの中で、僕はたくさん殺した。もう血の色が分からなくなるくらい。)」

勇者「(魔族は悪で、魔物は人間を襲う化け物であると、そう心から信じて、殺し続けてきたんだ…)」

勇者「(生きているものを切ることに抵抗が無くなったのは、いつだっただろう。)」

勇者「(考えたく、ないな。)」

勇者「…魔王。」

魔王「どうした、勇者。」


勇者「今からでも、人間と魔族は、やり直せるかな。」

勇者「殺し殺される世界から、抜け出すことが…出来るのかな。」

魔王「…フム。」

魔王「やってみなければ分からん。」

勇者「…やっぱり、そう簡単にはいかないか。」

魔王「いや、なに、不可能だとはいっていない。やってみる価値はあるだろう。」

魔王「ただし、時間はかかるぞ。」

勇者「わかってる。」

魔王「もしかしたら、勇者の命が尽きるまでにも成されることの無い、夢のような話かもしれん。」

勇者「…うん。」

魔王「しかし、オレは魔王だ。」

魔王「オレは勇者よりも長く生きるし、今この瞬間生きている勇者を知っている。」

魔王「だからな、」

魔王「約束しよう、勇者よ。」


魔王「貴様の志しは、我が志しと共にある。」

魔王「例えどちらがが倒れても、例え世界の半分が崩れても、その夢を成すと誓おうではないか。」

魔王「正直、こんなに簡単に勇者が考えを改めるとは思っていなかったぞ。」

勇者「つまり流されやすいってことだろ、ハッキリ言ったらいいじゃないか。」

魔王「いいや、そうではない。」

魔王「貴様のは、ただ自分に正直であるという事だ。」

魔王「自信を持て、勇者よ。」

勇者「…何の自信だよ。」

魔王「それは立派な正義であり、善であると、オレは思うぞ。」

勇者「……。」

勇者「(突然現れた魔王は、突然説教を垂れて、突然僕を変えていった。)」

勇者「(勇者のくせに、なんだか情けない。)」

勇者「(でも、たしかに…)」

勇者「魔王は僕を正義に変えた。」

今日という日を、僕は忘れないだろう。

何といっても、人類の敵とされた魔王を倒すべく魔界・魔王城・魔王の間で、魔王に説教をくらったのだから。

しかし良い日だった。

人類からは軽蔑されるだろう。
だがそれでもいい。

明日へ向かおう。

勇者と魔王が、肩を並べて。

おわり

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