エレン「僕は誰なんだ?」(154)
~対人格闘(一時間前)~
しちがつむいか、はれのちくもり!
アニ「フッ!」バシッ
エレン「どぉわ!」アタマガンッ
アニ「ほら、立ちな…って、え?」
エレン「」
アニ「医務室に…ったく、脆いんだから」クスッ
アルミン「エレン大丈夫かな?」
ミカサ「ちょっとあの女狐削いでくる」
アルミン「ストップ!ストップミカサ!」
エレン「ん…」パチッ
アニ「目が覚めたかい?」
エレン「!?」ビクッ
ミカサ「エレン、大丈夫?」ソッ
アルミン「頭はまだ痛むかい?エレン」
クリスタ「大丈夫かな…」
ユミル「早くいこーぜ、こんなのほっといて」
クリスタ「もう!ユミーーー」
エレン「あ、あのっ!」
全員「え!?(敬語!?)」
エレン「エレンというのは…僕の事でしょうか」
アルミン「そ、そうだよエレン!何言ってるの!?」
エレン「失礼ながらここはどこで…僕は誰なんでしょうか」
全員「」
アルミン「エレン…僕達がわからないの?」
エレン「申し訳ありませんが…」
アルミン「記憶喪失だね…」
せつめいちう
アルミン「記憶はないけど、訓練に出ることに問題は無いみたいだ」
ミカサ「良かった…」
エレン「どちらさまでしょうか…?」
アルミン「僕はアルミン!君の幼馴染だよ!」ニコッ
ミカサ「私はミカサ。あなたの、家族」
クリスタ「私はクリスタ!あなたの同期だよ!」
ユミル「ユミルだ」
ライナー「俺はライナーだ!こいつはベルトルト!そして…」
ライナー「こいつはアニ。お前の恋人だ」
アニ「!?」ブフォッ
エレン「こっ…恋人ですか!?///」カァァ
ライナー「アニ!お前が気絶させたんだから責任とれ!話合わせろ!」ボソボソ
アニ「ぐっ…そう、わっ、私がーーー」
ミカサ「違う。私があなたの恋びーーー」
クリスタ「私があなたの恋人だよ!エレン!」ニコッ
みんな「!??」
エレン「え…もしかして僕、三股…してたんですか?そんな…」
アルミン(天使がエレンを!?)ガーン
ミカサ「違う。この二人はエレンが記憶を失ったのをいいことに
エレンを騙し、恋人になろうとしただけ」
クリスタ「それはミカサでしょ!?」
アニ(くだらない…)ハァ
エレン「あ、あの…?」オロオロ
エレン「いったい僕の恋人は…誰なんでしょうか?」
アニだね
ライナー「エレン、決めてやったらどうだ」
エレン「決めるって…本当の人が誰かわからないのに、ですか?」
ライナー「お前が信じたい奴を信じればいい」
エレン「じゃあ…」
エレン「とりあえず三人と一日ずつ過ごして、決めてみます」
ライナー「だとよ」
クリミカ「」グッ
クリスタ「さーいしょーはグー!」
全員「じゃーんけーん」
ミカサ「ポン」チョキ
クリスタ「ポン!」チョキ
アニ「ポン」パー
クリスタ「やたっ!」
ミカサ「…」フッ
アニ(まあ別になんでも良いんだけどさ)
クリミカ「じゃーんけーん」
クリスタ「ポン!」グー
ミカサ「ポン」チョキ
クリスタ「YES!」
ミカサ「ちっ」
ああっもう、続きが気になるwwwww
続きこねーなら、乗っ取りたい気分…|゚Д゚)))
暫く待ってみて、続きこなかったら乗っ取りにきてもいい?
というわけで、乗っ取ることにした。>>1さん、すまん!
エレン「クリスタさん…ですか。宜しくお願いします(ペコリ)」
クリスタ「よ、よろしくね! エレン!」
ミカサ「くっ………エレン、エレンならきっと、間違いに気づくはず!」
アニ(あーあ……もうなんだってこんな面倒臭いことになってるんだが)
エレンは次の日から一日、クリスタと行動を共にする事になった。
7月7日 晴れ
今日は馬術の訓練が主に行われた。
馬小屋にて、馬の世話をするクリスタとエレン。
他の者達は訓練を終えて宿舎に帰っている。
エレン「へーこんなにいっぱい、馬を飼ってるんですねー」
クリスタ「どの子も可愛いでしょう? うふふ……(たてがみナデナデ)」
エレン「はい……皆、クリスタさんに懐いてますね」
クリスタ「え? そ、そうかな……」
エレン「そうですよ。動物って、そういうのわかるっていうじゃないですか。きっと、クリスタさんは優しい人なんですね」
クリスタ「え? え…そんな事、ないと思うけどな……」
エレンは馬をナデナデしながら微笑んでいる。
クリスタ(うはあああ……エレンの微笑みはバラ色の鎖……!!)
他の女子には見られてないと思うと、小さなガッツポーズを取ってしまうクリスタだった。
しかし、そうは問屋が卸さない。
ミカサ(くっ……エレン、早く気づいて!! その女は騙そうとしている……!!)
アニ(クリスタ……羨ましい)
アルミン(くそおおおおエレン……君は何で、天使の心まで奪っていくんだ?!)
ライナー(天使が幸せならそれでいい……なんて言えねえ……)
ジャン(ミカサを奪うチャンスかこれは?!)
コニー(なんか面白いことになってんなあ)
サシャ(エレン、本当に記憶がなくなってるんですか?)
ユミル(ああ…どうやらそうらしい。見ろよ。いつもより顔が善人面してるだろ?)
そんな感じで、他の面々も興味津々に二人を観察しているのだった。
クリスタ「エレンも最初はなかなか馬に乗れなかったけど、何度も練習して乗れるようになったんだよ? 覚えてない?」
エレン「すみません……全然……」
クリスタ「そっか……そうだよね。一緒に二人で乗って、特訓したあの日々を、出来れば思い出して欲しいんだけど」
エレン「え? 一緒に乗って、僕、練習したんですか?」
クリスタ「ええ…丁度こんな風に……」
以下、クリスタの回想。(*という名の妄想です。実際にはやってません)
クリスタ『エレン、馬は腰を安定させて乗るのが大事なのよ』
クリスタの後ろにエレンが乗っている。
二人乗りで馬を駆ける。
手綱はクリスタが持っている。
エレンはクリスタの腰を掴んで必死に落ちないように頑張っている。
エレン『うひ…やっぱ、なれねーと、きついなこれ!! (ぎゅうう)』
クリスタ『エレン、落ちないようにしっかり私に掴まっててね! ハッ!』
エレン『あわわっ…急に速度あげるなって!』
クリスタ『ダメだよ! こんなゆっくり走ってたら、巨人に追いつかれるでしょ?』
エレン『そうだけどさー…もし落ちたら怪我するだろ……クリスタが』
クリスタ『え? 何か言った? エレン』
エレン『だーかーらー! クリスタが落ちたらまずいって言ってるんだよ! 俺は!』
クリスタ『もう、エレンってば……大丈夫だよ! 私、こう見えても馬術は得意なんだから!』
更に速度をあげて駆ける。
エレンは振り落とされまいと、必死にクリスタにしがみついた。
エレン『すげっ…さすがクリスタ…! やっぱ、クリスタに頼って良かったわ』
クリスタ『そう? うふふ……そう言ってくれると、ちょっと頑張った甲斐があったな』
エレン『ああ! いつか一緒に、このまま遠くに行ける日がくるといいな』
クリスタ『え?』
エレン『その日が来たらきっと……俺と一緒に世界中を旅をしようぜ、クリスタ』
クリスタ『うん…!』
(*妄想終了)
こんな感じでいい?(笑)
エレン「すみません……全然覚えてないですね」
クリスタ「そう……(まあ、妄想だから覚えてなくて当然だけど)」
エレン「でも、クリスタさんが僕のために一生懸命馬術を教えてくれたのなら、もう一度頑張ります。僕は多分、そうする必要があると思うから」
クリスタ「そうよ! 思い出してね! エレンは私の恋人だったのだから…」
ミカサはブレードを構えて突っ込もうとしているが、それをアルミンとライナーとマルコが三人がかりで止めている。
エレン「いえ、そういう意味ではなく……僕は多分、何かを成し遂げるためにここにいると思うんですよね」
クリスタ「え?」
エレン「それが何かを思い出せればきっと、全て思い出せるような……そんな気がするんです」
クリスタ「…………」
巨人を駆逐すること。
それこそが、エレンのエレンである証拠とも言うべきもの。
それが目覚めればきっと、この状態も治る。
クリスタは直感的にそう思った。女の勘だ。
クリスタ「そ、そう……」
エレン「皆さんもきっと、そうなんですよね? ここは学校みたいな場所ですし、きっと皆目的を持って、ここで生活しているんですよね?」
クリスタ「そ、そうね………うん。私達は訓練兵だから、いつか民間人を守るために、皆で体を鍛えたり訓練をしたりしているわ」
エレン「つまり軍人の見習いという事ですよね」
クリスタ「そ、そうだよ」
エレン「そうか……僕は軍人になろうとしているのか」
クリスタ「……………」
よけいな事を言ったかな、と思うクリスタだった。
しかし、そう質問されたら答えないわけにはいかない。
エレン「だったら、恋人とイチャイチャしている場合じゃないような気もするけど……本当に僕は、恋人がいたんでしょうか?」
クリスタ(ギクッ)
クリスタは、ちょっとだけ動揺した。
ミカサ「そうよ! エレン! あなたは、そんな事している場合じゃない!! 早く真実に気づいて!!」
アニ「ミカサ、うるさい……ちょっとは黙って見てなよ」
ミカサ「アニは、クリスタにエレンがとられてもいいの?」
アニ「そうじゃないけど……今、ちょっといい流れになってるじゃないか。よけいな事して、エレンの記憶が戻るのを邪魔しないで欲しいんだけど」
ミカサ「うっ…それもそうね」
ミカサはアニの忠告を聞いて大人しくなった。一応。
アニ(記憶が戻るならそれに越したことはないしね)
アニは自分の気持ちよりも、エレンを優先していた。
記憶がない事をいいことに、ちょっとくらい二人の時間を過ごしたい気持ちも少しはあるが、エレンの記憶が戻るならそっちの方がいい。
その点に関してだけ言えば、アニとミカサの意見はほぼ一致していた。
クリスタ「き、厳しい訓練の合間に、癒しの時間だって必要じゃない?」
エレン「癒し…ですか」
クリスタ「そうそう! 同じ目的をもった二人が、支えあうのも大事だよ。私達だけじゃない。他にも結構、こそこそカップルになっている人達もいるのよ?」
エレン「そうですか………(なんか、しっくりこないな)」
エレンは内心、クリスタに対しては首を傾げていた。
確かにクリスタは可愛らしいとは思うし、彼女に出来たら他の男に自慢できそうなタイプの子だとは思う。
しかし、どうも何と言うか……何故この子と恋人同士になったのかが分からない。
平たく言うと「ピンとこない」のが本音だった。
友人としてなら、多分、いい関係を築けたのではと思うけれど。
クリスタは自分が劣勢になっている事を感じ取り、困った顔をした。
うるうるの涙目だ。この顔に揺らがない男はいない。
そう、確信してクリスタは伝家の宝刀を抜いたのだ。
クリスタ「エレン……信じられないのも分かるけど、私、嘘はついてないよ?」
うるうるうる……
アルミン(うがああああクリスタの涙うるうるがああああ!!)
ライナー(うおおおおおおクリスタああああああ?!)
しかしその涙は別のところに効果を発揮していた。
しかしクリスタの伝家の宝刀は、エレンの頬すら掠らない。
エレン(うーん………やっぱり、思い出せない)
エレンはクリスタの涙を見ても、ダメだった。
恋人なら、涙を見ればきっと気持ちが揺らいでもおかしくないと思ったのだが…。
エレン「………すみません。やはり思い出せないです。クリスタさん、本当に、すみません」
クリスタ「そ、そう……(だ、ダメか)」
クリスタは涙を抑えた。過剰な演出はかえって疑われるからだ。
クリスタ「いいの。エレン、じっくり思い出していこう…(ニコッ)」
エレン「は、はい………」
そしてクリスタの一日は、終わった。
エレンの記憶は、まだ戻らない。
夜、宿舎に戻ってからエレンはアルミンに言った。
エレン「明日は、ミカサっていう子と一緒にいればいいんですよね?」
アルミン「あーうん。そうだよ(白い目)」
エレン「あの……随分、疲れた目をしているけど、大丈夫ですか?」
アルミン「あははははは……いいよ。気を遣わなくても。エレンはどうせ、女子の気持ちを盗んでいく恋泥棒だってのは分かってたから……ははっは…あははは」
エレン「僕はそんなにモテてたんですか? 僕はそんなにイケメンだとは思わないんですけど」
アルミン「そりゃあね、顔だけで言ったらそうだけど、エレンは中身がアレだね。もうね、腹立つくらい、天然だったからね。僕としては、友情を保っているのが不思議なくらいだね」
エレン「アルミン君……僕の事が憎いんですか?」
アルミン「いや、君に罪はないよ。あるとしたら……うん。僕自身が君より魅力がないってことの方さ」
エレン「そんな事、ないでしょう?! アルミン君は、こうやって僕の事を気にかけてくれるじゃないか!」
アルミン「ああ…なんかその口調、イライラするからもうやめてくれないか? 普段の君とかけ離れすぎて、違和感が酷い……」
エレン「え…じゃあどうやってしゃべれば…」
アルミン「タメ口でいいよ。僕達はそういう関係だ。敬語キャラはサシャだけで十分だ」
エレン「そ、そうなんですか……ああ、そうか。うん。分かった。気をつける」
エレンはそう言って、しゅんとした表情になった。
そんなエレンを見ていると、少し落ち着いたアルミンだった。
アルミン「ごめん。少し言いすぎた。今、不安なのはエレン、君自身だもんね。僕は力になれないかもしれないけど……君との友情は消えないよ。僕達はずっと友達さ」
エレン「アルミン………」
アルミン「ただ、僕の好きな子が、エレンに気があるっていうのを知ったせいで、ちょっとやさぐれてただけなんだ。君に罪はないよ」
エレン「……え? という事は、アルミンはクリスタの事が好きなのか?」
アルミン「僕だけじゃないよ。ライナーも、他にも何人か。男子の中じゃ、クリスタは人気あるからね。ミカサと同じかそれ以上……」
エレン「……という事は、僕は明日、またそういうモテる女の子と一緒にいる事になるのか?」
アルミン「そうだね。ミカサが好きだと言ってるのはジャンだけど……多分、隠れているファンもいると思う。ミカサは美人だし、同期では一番強い子だ。エレンより成績良かったしね」
エレン「むっ……僕より強い子なのか。それは負けられねえな」
エレンの中に何故かライバル心が生まれた。
エレン「分かった。明日はミカサだな。頑張ってみる。ありがとう、アルミン!」
アルミン「いいよ。どういたしまして」
そしてエレンとアルミンは、就寝する事にしたのだった。
今日はここまでにする。もう、手首が痛いのでww
…どうも流れ的にはエレアニでいった方がよさげだけど、
私、エレアニを一回も書いたことないんだよねwwwww
普段はエレミカばっかり書いているから、
エレミカにシフトチェンジしたいけど、
エレアニの希望が多かったら、そっちでも頑張ってみる。
とりあえず、意見よろしくー。
エレミカの方が多いですねー。
じゃあ、最終的にはエレミカを目指しましょうかね。
7月8日 曇り
ミカサと一緒に行動を取る事になったエレンは朝食時、いきなり「はい、あーん」というミッションをこなす羽目になった。
エレン「えっ……僕、そんな恥ずかしい事を毎日やってたのか?」
ミカサ「ええ。エレンは毎日、私の「はい、あーん」を受けていた」
アルミン「エレン、それはさすがに嘘だから。あと、エレンの一人称は「僕」じゃなくて「俺」だから。そろそろ、戻してほしいな」
エレン「あ、ああ……俺、だな。分かった。ミカサさん、あの……アルミンが嘘だって言ってるんだが」
ミカサ「アルミンの方が嘘をついている」
エレン「ええええ……」
アルミン「はあ……まあ、もう信じる信じないは君に任せるよ。ミカサをどうするかは、今の君次第だ」
エレン「は、はあ……」
スプーンをつきつけて、はいあーんをやらせようとするミカサに戸惑うエレン。
どうしたらいいのか。
エレン「じゃあ、とりあえず、頂きます」
エレンは拒否するのも可哀想だと思い、はいあーんを受け入れた。
その直後、周りが一気にざわめいた。
クリスタは嫉妬の視線をよこすし、アニは不機嫌な表情でエレンを見ている。
ジャンもハンカチを噛んで悔しがっているようだ。
ミカサ「お、おいしい?」
エレン「美味しくはないです……」
ミカサ「そ、そう……(それもそうか、まずいスープだもの)」
自分の手料理だったら、うまいと言わせる自信があるが、今日のスープはミカサの作ったものではない。
エレン「でも、嬉しいもんだな。食わせてもらうのも。うん、悪くねえ」
アルミン「?!」
普段のエレンだったら絶対言わなさそうなそのセリフにアルミンはびっくりした。
アルミン「エレン、今の、本当?」
エレン「え? ああ……まあ、そうだな。うん、別に嫌じゃなかったぜ?」
アルミン「……………」
ミカサ「で、ではもう一回……」
エレン「あ、でもいいよ。ちんたら食ってたら、飯の時間が足りねえだろ? ミカサの食う時間がなくなるじゃねえか」
ミカサ「で、でも……」
エレン「いいって! 気遣うなよ! さっさと食べようぜ!」
だんだん普段のエレンの調子に戻ってきたようなので、自然と釣られるミカサだった。
アルミン(今のって……まさか)
普段のエレンが隠している、本心だったのだろうか。
エレンは、ミカサに「はい、あーん」させる事自体は嫌ではなく、それによって飯を食う時間が足りなくなることが嫌だったのか。
そう解釈するアルミンだった。
エレン「ごちそうさまでした!」
先に食べ終わり、エレンはさっさと食器を片付けに行こうとした。
エレン「あ、アルミン、ミカサ、ついでに持って行ってやるよ」
エレンは空いた皿を重ねてひょいっと持って行ってしまった。
こんな気遣い、初めてである。
アルミン「…………………別人みたいだね」
ミカサ「そう? 昔のエレンは、あんな感じだった」
アルミン「そうだったっけ?」
ミカサ「おばさんが亡くなる前のエレンは、結構、ああやって家事も手伝ってくれた。開拓地では、そういう余裕もなかった」
アルミン「ああ……なるほど。今のエレンは、トゲトゲしさが抜け落ちているのか」
ん? ということは、待てよ?
アルミン「今のエレンって……どこまで記憶が抜けてるのかな」
ミカサ「……………自分の事は覚えてないみたい」
アルミン「つまり自分の事が抜けてるってことは、自分の両親が今、どうなってるのかも覚えてないってことだよね」
今更ながらその事に気づいて青ざめるアルミンだった。
アルミン「お、思い出させない方がかえっていいのかな」
思い出すということは、つまり母親の死をもう一度体感する事になる。
そんな残酷な事をしてもよいものだろうか。
ミカサ「……そうね。エレンが辛いのであれば、思い出さなければそれはそれでもいい」
アルミン「ミカサ……」
ミカサ「今はそれより、今のエレンに私のことを好きになって貰う方が大事」
アルミン「……………」
たくましいなあと思わず思ってしまうアルミンだった。
ミカサ「アルミン、どうすればいいと思う? クリスタや、アニも今のエレンを狙っている。今日中に何とか、エレンの気を惹きたい」
アルミン「ふ、普段通りの強引な手に出たら、嫌われるかもしれないよ?」
ミカサ「では、他に何か方法があるの?」
アルミン「普通に優しくしてあげたら? それが一番いいと思うけど……」
ミカサ「分かった。では普通に、エレンに優しくする」
しかしミカサはもりもり気合を入れているようだ。
アルミンは、不安しかなかったが。見守るしかない。
アルミン(はあ………先行きどうなる事やら)
そう思いながらため息をついたのだった。
今日は訓練は立体機動が主だった。
エレンは初めて体感するその奇妙な装置に手間取っている。
一応、アンカーを刺して飛ぶことは出来たが、次の動作に移る時に悪戦苦闘していた。
エレン「わわわっ……ど、どうしよう?! バランスがうまくとれない…!」
立体機動の使い方がいまいちわからず苦戦するエレンにミカサがすかさずフォローを入れる。
ミカサ「エレン! 考えるより、感じて! 体はきっと覚えているはず!」
アルミン(そんな無茶な)
アルミンは心配そうに遅れているエレンを見守っているが………
エレン「感じろって言われても…!」
その時、エレンはその風の心地よさに、既視感を覚えた。
宙返りをした瞬間、世界がひっくり返った。
その景色には、見覚えがあった。
エレン(あっ………)
エレンはすぐさま、次のアンカーを打ち付けて、次の動作に移った。
ミカサ「そう! その調子! 自分の体を振り子の一部と考えて、遠心力に逆らわないで!」
エレン「……分かった!」
最初は怖くて仕方がなかった立体機動も、何回かやっていくうちに体が思い出していた。
徹底的に染み込ませた動作は、体の方が覚えているものだ。
頭より先に体が動く。そんな奇妙な感覚にエレンはしばし酔いしれた。
そして事故もなく夕方に無事に訓練を終えると、エレンは清々しい気持ちでいっぱいになった。
エレン「ちょっと怖かったけど、立体機動って、結構楽しいな! コツをつかめたら、びゅんびゅん飛んでいけるし、すげえよこれ!」
アルミン「そ、そうだね……」
記憶がないのに立体機動のやり方をすぐに思い出したエレンに対してアルミンは複雑な思いだった。
だって、いわば素人の人間に立体機動で負けてしまったようなものだ。
最終的にエレンはアルミンよりも先にゴールして、ニコニコしていたのだ。
エレン「でも、なんで俺達、こんな変な道具で飛ぶ練習をするんだ?」
アルミン「えっ………そ、それは………」
エレン「途中で、変な模型のようなものを切っていったしさ、あれって何の為にやってるんだ?」
アルミン「ええっと……それは……」
ミカサ「あれは、敵を想定しての訓練」
その時、アルミンの代わりにミカサがエレンに言った。
宿舎に帰る帰り道の途中で、ミカサはエレンと歩きながら説明する。
エレン「敵? 敵ってなんだ?」
ミカサ「敵は外にいる。壁の外にいる」
エレン「壁の外? ふーん……じゃあそいつらをいつか倒すために俺達、訓練してるんだな?」
ミカサ「そう……」
エレン「じゃあ頑張らねえとな! いざって時のためにな!」
エレンはそう言って、ニコニコしている。
ミカサは肝心な部分は省略して説明してくれたのでアルミンはほっとしていた。
ミカサにこっそり耳打ちする。
アルミン「ミカサ、ありがとう」
ミカサ「いいの。今のエレンにはまだ、巨人の話は早すぎる」
アルミン「そうだね……記憶のないエレンに巨人の話をしても、混乱させるだけだろうし」
アルミンはそう言って小声でミカサと口裏を合わせたのだった。
にしても今日は立体機動の訓練のせいで、エレンとゆっくりイチャイチャする時間はなかった。
今のところ、クリスタの方がよほどエレンの中では好印象なのではないかと、ミカサは焦る。
……ので、夕食後、ミカサはこっそり男子寮へ一人突撃した。
就寝時間の前だから、もし教官に見つかっても大丈夫。
就寝時間前には戻るので…と自分に言い訳しながら、ミカサはエレンに会いに行った。
すると…………
エレン「お? ミカサ。なんだ? 何か用事があるのか?」
窓の外から男子寮に侵入しようとしていたところを、外からエレンに見られてしまった。
どうやらエレンは外の空気を吸っていたらしい。
危うくすれ違いになるところだった。
エレン「ミカサはたまに窓から男子寮に入ろうとしてくるって、アルミンにさっき聞いたから、こっちで待ってたぜ」
ミカサ「エレン…!」
ミカサはぱあっと顔を明るくしてエレンに抱きついた。
ぎゅううっと。
エレン「おっと……何だよ。犬みたいだな、ミカサは」
いつもだったら邪険にされるダイビングハグも、今のエレンは拒否しない。
それどころか、迎え入れてくれる。
これはとても美味しいと思ったミカサだった。
つづきまだ
ミカサ「エレンの犬なら、構わない」
エレン「はあ? ミカサは犬じゃないんだから、ダメだろ。ほら、いつまでもくっつくなって」
ミカサ「そう……」
しゅーんとすると、犬の耳がたれている幻影が見えた気がした。
エレン「…………あのさ、ミカサ」
ミカサ「何?」
エレン「俺、思うんだけど、ミカサとは、恋人同士じゃない気がするんだが」
ミカサ「え?! ち、違う……私達は、恋人……!」
エレン「いや、なんていうか………確かに、ミカサは可愛いし、彼女だったらいいとは思うけど、それはクリスタも同じなんだよ。なんか、ピンとこねえっていうか……」
ミカサ「そんな事はない。エレンはピンとくるはず……!」
エレン「じゃあ聞くけど……俺とミカサはキスとかしたのか?」
ミカサ「…………昔、した」
小さい頃のフレンチなキス(ほっぺにチュウくらい)を思い出して言ったミカサだったが、
エレン「どれくらい? それって、どれくらい前だ?」
ミカサ「10歳の頃……」
エレン「俺の今の年齢っていくつ?」
ミカサ「…………14歳」
エレン「じゃあ4年も前の話になるんじゃねえか。つか、10歳で恋人同士って、早すぎねえか? いくらなんでも」
ミカサ「うっ………」
ミカサは言葉に詰まった。
エレン「なあ……俺の予想、言ってもいいか?」
ミカサ「ううう………」
エレン「俺、本当は誰ともつきあってない……んじゃねえの?」
ミカサ(ギクリ)
実は、それが真実だったりする。
しかしミカサは否定した。
ミカサ「そんな事ない。エレンは私とつきあってる」
エレン「本当か? でも、クリスタも同じ事言ってたぞ?」
ミカサ「クリスタは嘘をついている。私は嘘をついてない……」
エレン「………皆、頑固だなあ」
今のエレンには確かめる術がない。そう言い張られては、どうしようもない。
エレン「この調子だと、最後のアニって子も同じように言い張るんだろうな」
ミカサ「うん。きっと、そう。あの女狐は、一番厄介………」
エレン「ふーん……女狐、ねえ」
エレンはその言い方にちょっと、ムッとした。
エレン「俺、人のことをそんな風に言う奴、あんまり好きじゃねえ」
ミカサ「えっ……Σ(゚д゚lll)」
エレン「アニって子がどんな子か知らんけど……人の悪口を本人のいないところで言うのはフェアじゃねえ気がするけど?」
ミカサ「あ………ご、ごめんなさい」
>>63
今日はいけるところまで頑張る。
手首が打てる限り…!
ミカサは素直にその場で謝った。
ミカサ「エレンの記憶喪失の原因が、アニだから。そのせいで、つい……」
エレン「悪口言っちまったって? ああ……そういう事か。なるほどな」
ミカサ「そう……アニがエレンを投げ飛ばした時に、アニが手加減せずに、エレンを仕留めたせいで、エレンは頭から落ちた。その衝撃のせいで、エレンは記憶喪失になった」
エレン「なるほど……だから最初に、アニって子が一番心配そうに俺を見てたのか」
ミカサ「えっ……違う。一番心配していたのは、私…! 私は、エレンの家族!」
エレン「あれ? ミカサは俺の恋人なんじゃなかったのか?」
ミカサ「うっ……それは、つまり……その……」
エレン「ミカサ、正直に言え。今なら、許してやってもいいぞ」
ミカサ「うううう………」
エレン「言わないなら、俺、アニって子を恋人に選ぼうかな……」
ミカサ「! 言う! じ、実は……」
そこでミカサはようやく、本当の関係をエレンに伝えたのだった。
エレン「なるほど………俺は小さい頃にミカサを命懸けで助けて、その後にミカサと義理の家族になったのか。血の繋がらない兄弟姉妹の関係なんだな。俺が、兄になるのか? この場合は」
ミカサ「誕生日は私の方が一ヶ月くらい早いけど……多分、そう。エレンが兄になる」
エレン「おまえ、よくまあそんな関係で、恋人だって言い張ったな……呆れるぞ」
ミカサ「だって……だって……エレンを、他の女に渡したくなかった……」
ミカサが涙目でそう訴える。
エレンは渋々ミカサの頭を撫でてやった。
エレン「この世界では、義理の家族で結婚は出来るのか?」
ミカサ「……法律の事は私には良く分からない」
エレン「ああ、その辺はまあ、後で調べればいい話だけどさ。とにかく、これでやっと納得いったわ。俺、ミカサを見てるとなんか、妹みてえだなって感じてたんだよ」
ミカサ「え……そうだったの?」
エレン「ああ。世話焼き好きの、妹って感じだ。いつも背伸びしてる感じのな。身長は同じだけど、お前、俺に対して余裕ねえだろ」
ミカサ「だって、エレンは目を離すとすぐどこかに消える……」
エレン「ああそうなのか? でもその余裕の無さのせいで、なんか異性って感じに思えなかったんだよ。必死についてくる感じが犬みたいに見えるぞ」
ミカサ「わ、私は一体どうすれば………」
エレン「もうちょっと落ち着け。そんなに不安になるなよ。俺は消えたりしねえよ。ミカサを残して」
ミカサ「本当に? 本当に、消えたりしない?」
エレン「ああ。約束する」
ミカサ「じゃあ、他の女も、選ばない?」
エレン「恋人じゃないのなら、な。他の奴らもどうせ嘘ついてんだろ?」
ミカサ「うん……」
ミカサが肯定した以上、恐らくこれで確定だろう。
エレンは少しだけほっとした。
ミカサ「じゃあ明日は、アニと一緒にいる必要はない」
エレン「え? ああ……そう言われればその通りだな。アニには悪いけど、俺の方から説明しとくわ……」
ミカサ「待って! それなら私も立ち会う!」
エレン「あ? そうか? じゃあ一緒に女子寮に行くか」
そしてエレンはアニに事情を説明した。
女子寮の中で、ミカサと一緒にアニと話し合うエレンだった。
その様子をクリスタもこっそり覗いている。
アニ「そう……嘘だって、気づいたんだ。(ミカサがバラすなんて珍しい)」
少しだけ残念だったが、露見した以上、意地を張るのも変な話だと思ったアニはそれを受け入れた。
アニ「じゃあ、あんたは誰も選ばないのね」
エレン「元々、付き合ってねえんだから、そうなるだろ」
アニ「そう……(私だけ、一緒にいられないのか)」
少しだけそれが寂しかったアニだったが、それを表には出さないように努めた。
アニ「だったら仕方ないね。分かった。この話は無しだ」
ミーナ「ええ? いいの? アニ! アニだって、エレンの事、好きなのに」
アニ「はあ? ミーナ、何言ってるの。私は別に、こいつの事、好きじゃないよ。ただ……記憶喪失にさせた責任は、感じてるけど」
エレン「でもそれも不可抗力だろ? 訓練中の事故ならどうしようもねえ。まあ、幸い立体機動って奴は、やってみたら使い方を思い出せたし、それ以外の事も、やってれば徐々に思い出すかもしれん。だからあんま、気にするなって」
アニ「…………」
そう言ってアニの気持ちの負担を減らそうとするエレンに、アニ自身、複雑な思いになった。
アニ「せめて、さ」
エレン「ん?」
アニ「お、お詫びくらいは、させてくれよ」
エレン「え?」
ミカサ「!」
クリスタ「!」
アニ「私のせいで、エレンが、そうなっちまったんだ。せめて、お詫びくらいは、しないといけないだろ」
エレン「ええ? 別にいらねえよ」
アニ「いいから! 私にだって、それくらいの分別はあるんだよ! 何か、して欲しいことくらいないの?!」
逆ギレ気味にいい出したアニの態度に、エレンはちょっと困った。
エレン「そう言われても……思いつかねえよ」
アニ「ふん………じゃあ、今度の休みの時に、食事をおごってやるとか」
エレン「え? 飯おごってくれんの? あ、それはちょっとありがてえかな」
ミカサ「?!」
クリスタ「?!」
アニ「じゃあ決まりだね。今度の休みは……いつだっけ」
エレン「さあ?」
ミーナ「次の休みは、7月14日だね。少し先だけど」
アニ「じゃあその日になっても、記憶が戻らないようなら、飯を一回だけおごるってことで。それでいいかい?」
エレン「ああ、じゃあそれで手打ちにしよう。やった! 何食べようかな~♪」
エレンとアニが勝手に出かける予定を立ててしまい、唖然とするミカサとクリスタだった。
……と、いうわけで、エレアニパート。デート編に突入します。
アニはエレンに何をおごってやるか、皆で考えてくれー。
とりあえず、ネタが決まるまでお休みします。またねノシ
あ、エレアニパートあるけど、
勿論、エレアニの尾行しますよ。
ミカサとクリスタの二人がね(笑)
うーん、特に誰もリクエストなさげかな?
じゃあもう、適当に思いついた飲食店でいいかな。
自分の趣味に走りますぜー?
7月14日までにエレンの記憶を戻さないとエレンがアニとデートをしてしまう。
そんな絶対絶命の危機に晒されたミカサとクリスタはすぐさま同盟を組む事にした。
ミカサ「クリスタ、なんとしでも、エレンの記憶を取り戻そう」
クリスタ「ええ! もう、手段は選んでいられない」
二人はがっちり手を取り合って、作戦を練った。
7月9日。
今日は格闘術の訓練が主に行われた。
エレンは誰と一緒に組もうか迷っていたが……。
クリスタ「エレン! 私と組もう!」
エレン「え?」
ミカサ「アニ、私と組んで欲しい」
アニ「…………」
明らかに邪魔をしに来た二人にアニはため息をついた。
アニ「………手加減はしないからね」
アニは仕方なくミカサと組んだ。
エレンはクリスタに対してどう対応したらいいか分からなかったが、とりあえず、周りの様子を見ながら見よう見真似で、やってみた。
この格闘術の訓練はそこまで厳しいものではないので、それっぽい動きをしてさえすれば、教官にバレる事はない。
なので、エレンとクリスタも、実際にはそれほど激しい動きをしていなかったし、周りも似たようなものだったが……。
アニとミカサの対戦は、目を見張るものがあった。
エレン(すげえ!)
思わず、自分の手を休めて見入ってしまう。
エレンだけではない。周りは次第にアニとミカサの攻防戦に気づいて、そっちに注目してしまっている。
アニはミカサの攻撃を躱している。神業とも言える、激しいつばぜり合いのようだ。
剣と剣がぶつかるような戦いだ。生身で戦っているというのに。
お互い、女子とは思えない。凄まじい戦いだった。
ミカサ「はああ……はあ……」
アニ「…………くっ」
それでも、スタミナはミカサの方が有利だったようだ。
普段はさぼっている事の多いアニと、ミカサの地の力の差がじわじわと出ているようだった。
エレンはクリスタに対してどう対応したらいいか分からなかったが、とりあえず、周りの様子を見ながら見よう見真似で、やってみた。
この格闘術の訓練はそこまで厳しいものではないので、それっぽい動きをしてさえすれば、教官にバレる事はない。
なので、エレンとクリスタも、実際にはそれほど激しい動きをしていなかったし、周りも似たようなものだったが……。
アニとミカサの対戦は、目を見張るものがあった。
エレン(すげえ!)
思わず、自分の手を休めて見入ってしまう。
エレンだけではない。周りは次第にアニとミカサの攻防戦に気づいて、そっちに注目してしまっている。
アニはミカサの攻撃を躱している。神業とも言える、激しいつばぜり合いのようだ。
剣と剣がぶつかるような戦いだ。生身で戦っているというのに。
お互い、女子とは思えない。凄まじい戦いだった。
ミカサ「はああ……はあ……」
アニ「…………くっ」
それでも、スタミナはミカサの方が有利だったようだ。
普段はさぼっている事の多いアニと、ミカサの地の力の差がじわじわと出ているようだった。
あれ? また二回書いちゃった。すまん。
アニは疲れ始めていた。ミカサは個人的にアニを止めようと必死になっているので、気力が違う。
アニ(全く………どいつもこいつも)
アニはそれでも、引かなかった。ミカサの真っ向勝負を受け止めている。
ミカサのタックルを交わして一度逃げる。間合いを取りながら呼吸を整える。
じりじりと、足をする。すり足で体重移動をする。
そして、遂にアニの反撃の番がきた。
向かってくるミカサを斜めに交わして、腕を掴む。体を捻るようにして、ミカサを宙に浮かせた。
ドシーン……!!
遂にミカサが負けた。
そんな、ざわめきが辺りに広まる。
今の宙の舞い方を、エレンは凝視していた。
明らかに、見覚えのあるそれを見て、動揺している。
エレン(うっ………)
ズキズキと頭が痛み出した。気分が悪くなってきた。
クリスタ「! エレン?!」
クリスタがすぐさまエレンの顔色を確かめる。
クリスタ「医務室、行く?」
ミカサ「エレン?!」
ミカサも遅れてエレンの異変に気づいた。
アニはその時になってようやく、今のミカサのそれが「わざと」だと気づいた。
アニ(なるほど。そういう事か)
見覚えのあるものを視覚的に見せて揺さぶるつもりなのだ。
確かにその方法なら、エレンは記憶を思い出すかもしれない。
ミカサはすぐさまエレンに駆け寄り、エレンの容態を確認した。
エレン「だ、大丈夫だ……うっ……」
しかしエレンの頭痛はまだ続く。
ミカサ「エレン、無理をしてはいけない。私が運ぶので、医務室に行こう」
エレン「…………悪い」
普段のエレンなら意地を張るところだが、今のエレンは素直にミカサに従った。
クリスタも当然ついていこうとしたが、エレンがそれを止める。
エレン「クリスタまでいなくなったら、誰がアニの相手をするんだよ。アニが余っちまうだろ」
クリスタ「でも…」
エレン「訓練なんだろ? アニを一人ぼっちにしてやるなよ」
頭が痛いくせに、そういう気遣いの出来るエレンにアニは思わず、うっと言葉を詰まらせた。
そういうところが、嫌いなのだ。
エレン「ミカサ、悪いな……本気でなんか、気分悪くなってきた。途中で吐くかも」
ミカサ「大丈夫! その時は受け止めるから!」
エレン「……吐かない努力はする」
青ざめながら、エレンは医務室に連れて行かれたのだった。
医務室で休んでいるエレンを隣で座って見つめている時に、ミカサは思い出した。
ミカサ(そう言えば、おじさんの事を思い出そうとした時も似たような状態になったっけ)
今のエレンは、記憶が抜けやすい状態にあるのではなかろうか、とミカサは推察する。
もしそうだとしたら、無理に思い出させようとすれば、また同じことの繰り返しになるのでは?
そう思い、ミカサはエレンの傍ですごく落ち込んだのだった。
よかれと思ってした事が、うまくいかない。
そんな自分に腹が立つ。どうして、以前の事を思い出さなかったのか。
アニに取られるかもしれないと思ったら、カッとなってしまう自分が情けない。
今はそんな事よりも、エレンの事が大事なのに……。
ミカサ「ごめんなさい……エレン」
エレンは眠っていた。鎮痛剤を射って薬が効いているようだ。
安らかな寝顔を見つめながらミカサは謝った。もう一度。
ミカサ「本当にごめんなさい。私は……もう」
何も思い出さなったとしても、仕方ないと諦めよう。
アニとデートするのは、嫌だけど。
でも、思い出させようとする行為がエレンの負担になるのなら。
ミカサには何も出来る事がなかった。
エレン「うっ……」
その時、エレンは目が覚めた。
エレン「ミカサ? ああ……そっか」
訓練の途中で頭が痛くなった事を思い出し、ゆっくりと体を起こすエレンだった。
医務室にはミカサだけ。先生は席を外しているようだ。
外の景色は既に暗い。夕方になっているようだ。
ミカサ「エレン、もう痛くない?」
エレン「ああ……薬が効いてるみてえだな」
ミカサ「良かった」
エレン「……ミカサが宙に浮くあのシーン、何か、似たようなの、前に見た気がする」
断片的ではあるが、エレンの記憶は少しずつ戻ってきているようだ。
エレン「ミカサじゃなかったかもしれないが、多分、俺、アニのあの動作、何遍も見てる気がする」
ミカサ「そ、そう………」
エレン「俺、ちょっとずつ、思い出してるのかもしれねえ。今まで経験してきた事、見たりやったりしていけば、思い出せるんじゃねえか?」
ミカサ「でも……その度に頭が痛くなったら困る」
エレン「でも、頭痛を恐れてやらないわけにはいかねえだろ。少しずつでいい。俺だって、記憶を取り戻してえんだ。ミカサ、協力してくれ」
ミカサ「記憶が戻ったら、アニとデートするの止めてくれるなら……」
エレン「え? デート? デートじゃねえだろ」
その時エレンは不思議そうな顔をした。
エレン「アニと飯を食いに行く話をしただけだろ? なんでそれがデートになるんだ」
ミカサ「だって、二人きりで出かけるなんて、デート……」
エレン「え? 二人きり? 皆で行くんじゃねえのか?」
チーン………
振り返ってみよう。
アニ『私のせいで、エレンが、そうなっちまったんだ。せめて、お詫びくらいは、しないといけないだろ』
エレン『ええ? 別にいらねえよ』
アニ『いいから! 私にだって、それくらいの分別はあるんだよ! 何か、して欲しいことくらいないの?!』
エレン『そう言われても……思いつかねえよ』
アニ『ふん………じゃあ、今度の休みの時に、食事をおごってやるとか』
エレン『え? 飯おごってくれんの? あ、それはちょっとありがてえかな』
ミカサ『?!』
クリスタ『?!』
アニ『じゃあ決まりだね。今度の休みは……いつだっけ』
エレン『さあ?』
ミーナ『次の休みは、7月14日だね。少し先だけど』
アニ『じゃあその日になっても、記憶が戻らないようなら、飯を一回だけおごるってことで。それでいいかい?』
エレン『ああ、じゃあそれで手打ちにしよう。やった! 何食べようかな~♪』
そう言えばどこにも「二人きりで」なんて言ってない。
その事に遅れて気づいてミカサは魂が抜けかけた。安堵感で。
エレン「俺、アルミンも誘って行こうかなって思ってたんだけど……ミカサも来るか?」
ミカサ「うん、行く」
エレン「じゃあ、ついでにクリスタも一緒に連れて行くか。あ、他についていきたい奴がいたら誘っていこうぜ」
ミカサはこれは好都合だと思った。
数でゴリ押しすれば、エレンとアニのデートは無くなる。
むしろ、皆で遊びに行くだけのイベントになる。
ミカサ「わかった。そういう事なら一緒に行こう」
エレン「おう! 頼んだぞ」
エレンはもう、体調の方は大丈夫のようだった。
エレン「じゃあ俺、寮に戻るわ。ミカサも戻れよ。送っていくから」
ミカサ「いいの?」
エレン「当然だろ? 俺達、家族なんだし」
その言葉に何度甘えてきたか分からない。ミカサは少しだけしょげたが、顔には出さずに頷いた。
エレンの顔色も元に戻った。もう多分、大丈夫だろう。
そしてエレンがミカサを女子寮に送って、エレンが男子寮に帰ろうとした、
その時、
エレン「あ、アニー! 今度の事だけどさー」
アニ「ちょっと、声、大きい!!」
エレンがついでにアニに声をかけたので、アニはびっくりした。
慌てて廊下の端っこにエレンを押しやる。
アニ「出かけることは、一部の奴らしか知らないんだからやめて」
エレン「あ? そうなんか。あのさ、飯食いに行くメンバーさ、増えてもいいよな?」
アニ「………え?」
エレン「ミカサも一緒に行きてえみたいなんだ。あと、アルミンとか。クリスタもついでに誘っていいよな?」
アニ「……………」
そう言えば「二人きり」なんて言ってなかったのを思い出してアニは自分の不手際に落ち込んだ。
エレン「飯食うなら皆で食った方が楽しいだろ?」
そう、正論を言われては、拒否する訳にはいかないアニだった。
アニ「………人数、増やしすぎないで。金が足りなくなるから」
エレン「それは分かってる。じゃあ、俺とアルミンとミカサとクリスタと…あと一人くらい追加してもいいか?」
アニ「ユミルで。これ以上は絶対ダメ」
エレン「全部で六人だな。うん、ちょうどいいかもな。じゃ、そういう話にしとくわ」
ちょっと疲れた…。
今日はここまでにしとく。またねノシ
7月14日。とっても空がすんだ晴れの日。
そんなこんなで結局、皆で飯を食いに行くことになった。
アニは一応、それなりのお洒落をして出てきた。
待っていたエレンが「おー今日はいつもと感じが違うなー」とにこやかに言った。
アニ「はあ? 別に普通だけど」
エレン「いや、ちょっと綺麗になってる。うん、いいんじゃねえの?」
アニ「褒めてもこれ以上は何も出ないよ」
アニはそう言って、エレンから顔を背けた。
遅れてクリスタとミカサも待ち合わせ場所にやってくる。
ミカサはいつものロングスカートだが、胸元はいつもより少し空いた服を着ている。
エレン「おい、ミカサ! そんなんじゃ寒いだろ! 上着はねえのか?」
ミカサ「暑いからいい」
エレン「そりゃ昼は暑いだろうけど、夕方は冷えるかもしれんだろ? 上着も一枚持って来い」
ミカサ「………途中で買い物するからいい。エレンが選んで」
元々、そういう作戦だったのだろう。ミカサがそうだだをこねると、エレンは「しょうがねえなあ」と承諾した。
エレン「飯食ってから、時間が空いたら服も見に行くか。……で、なんでコニーとサシャとライナーとベルトルトも一緒について来てるんだ?」
ミカサ達と一緒に何故か他の四人もくっついてきている。
ライナー「いや、俺達は俺達で、飯を食いに行くつもりなんだ」
コニー「そうそう。だから俺達のことは気にするなって!」
サシャ「ま、前々から四人で約束してたんですよねー」
嘘ばっかりである。演技が下手くそすぎて逆に笑える。
アニとエレンの食事にこっそり尾行する気満々なのだろう。
エレン「ふーん……お前らはどの店に行くつもりなんだ?」
ライナー「いや、まだ店は決めていない。これから決めるつもりだ」
エレン「そうか。実は俺たちもそうなんだよな。アルミンが一応、プラン考えてきてくれるって話なんだけど……面倒くさいから、一緒にいくか?」
ライナー「い、いいのか?」
エレン「ああ! 会計は別にすればいいだろ? いいよな? アニ」
アニ「…………はあ。もう好きにすれば」
結局はこうなってしまい、もう諦めてしまったアニだった。
アルミン「遅れてごめーん!! エレーン!!」
そこにようやく登場したのがアルミンだった。
ユミルと一緒に何故か合流する。
ユミルはあまり機嫌が良くないようだ。どうやら少し低血圧らしい。
アルミン「いろいろ考えてたら、ちょっと準備に手間取っちゃって……」
エレン「いいよ。んで、アルミンは何処に行くのがいいんだ?」
アルミン「ええっとね。とりあえず、街のマップ情報を頼りに考えたんだけど、この>>89っていう名前の店がいいと思うんだ」
注文の多い料理店
エレン「西洋料理店、山猫軒か。おお……なんかよさげな名前の店だな」
アルミン「いわゆる、秘境の料理店で、ちょっと山道を歩くけど、新鮮な山の幸を食べられる店らしいよ」
サシャ「山道なら任せて下さい! 私とコニーがいれば迷うことはありません!」
コニー「歩いてどれくらいかかるって書いてある?」
アルミン「一時間くらいかな」
コニー「じゃあ二時間は覚悟しねえとな。そういうのに書いてあるのって、だいたい詐欺してるからな」
ライナー「まじか。詳しいな。コニー」
コニー「だって、そういうのって、山道に慣れてる奴らの速度で計測してるもんだぜ?」
エレン「俺達だって、訓練で山道は慣れてるけど?」
コニー「あー訓練とはちと違うんだよ。山道は、迷うことを前提に考えねえと」
サシャ「決まったコースを歩くのと、ちょっと違いますもんね」
山育ちの二人は何故か頷き合っている。
ミカサ「そうね。山道を行くなら、この格好は軽装かもしれない。ごめんなさい。エレン、やはり上着を取ってくる」
エレン「ああ。予定がちょっと予想と変わっちまったもんな。待ってるから取ってこい」
ミカサが上着を追加して着て、ついでにスカートからズボンに着替えて帰ってきた。
とりあえず、これで準備万端である。
エレン「じゃあ行くか! 山猫軒に向かって出発!」
>>89
注文の多い料理店のお店の名前でいいですかね?
なんか嫌な予感がひしひしとしてきます…(笑)。
アニ(はー…私はなんで休日にまで山道を歩いているんだろう)
自分はなんとなく、流されやすい側の人間なんじゃなかろうかと、ちょっと思ったアニだった。
成り行きでこうなってしまったとはいえ、この大人数でハイキングをする事になろうとは思わなかった。
アルミンを先頭にして、エレンとミカサは地図を確認してゆっくりと、迷わないように山道を進む。
その後ろにユミル、クリスタ、アニ、ライナー、ベルトルト、サシャ、コニーが歩いている。
所々、分岐点にはちゃんと「こちらが山猫軒」という立札があったので、その通りに進んで行けた。
そしてだいたい一時間半くらい進んだだろうか。街から大分外れたその山道の奥に、ひっそりと佇む一軒家が見つかった。
エレン「おおおおお! あったぞ! ちゃんと山猫軒って書いてある」
エレンが看板を確認して飛びついた。
間違いない。ここが山猫軒である。
玄関は、白い瀬戸の煉瓦で組んであり、実に立派なものだった。
硝子の開き戸が立っていて、そこに金文字でこう書いてある。
『どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません』
不自然なその文体に、奇妙な感覚を覚えたのはアルミンとアニだ。
アニ「何? この文章。なんか薄気味悪いね」
アルミン「うん……なんだろう。なんか、変な文章だね」
エレン「え? そうか? 遠慮なく入れって書いてあるんだろ?」
ライナー「そうだな。別に変な文章だとは思わないが」
アルミンとアニ以外は別に不思議がらず、さっさと戸を開けてしまった。
中に入ると、そこはすぐ廊下になっていた。
硝子戸の裏側には、金文字でまた別の文字が書かれていた。
『ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎いたします』
ライナー「おお! 若い奴は歓迎するってよ! 年齢割引でもしてくれるのか」
エレン「そうじゃないか? 10代は半額とか、あるんじゃないか?」
サシャ「やった! だとしたら二倍は食べられますね! むふふ」
アニとアルミンはまたその不可思議な文章に首を傾げていたが、他のメンバーは別に気にも留めなかった。
ずんずん廊下を進んで行くと、今度は水色のペンキ塗りの扉があった。
また、扉があって、変な家の作りだなとアルミンは思った。
アルミン「また、扉だ。どうもおかしいな」
サシャ「そうですか? 山は朝夜が冷えるので、こういう家の作りは珍しくはないですよ?」
サシャがそう言うので、一応納得したアルミンだったが……
それにしても、まだ店の中にたどり着かないのかと、気が焦り始める。
そしてその扉をあけようとした時に、気づいた。
上に黄色の文字で、また注意書きがある。
『当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください』
エレン「へー。なかなか流行ってるのかな。こんな山の中で」
ライナー「そりゃあそうだろう。山の中でも店を経営出来るくらいだから、相当うまいに違いない」
そして扉を開けると、その裏側にまた、注意書きがあった。
『注文はすいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい』
アルミン「…………これは、どういう事だ?」
その時アルミンが立ち止まって、その扉の注意書きを凝視した。
ミカサ「どうしたの? アルミン」
アルミン「いや、不自然に注意書きが多いなと思って……」
エレン「注文が多いから、支度が手間取るかもしれんから、待たせるからごめんなさいって意味じゃねえの?」
エレンは別に気に留めず先に進もうとする。
ライナー「だろうな。早く部屋の中に入りたいもんだな」
アニ「……………」
アニはアルミンと同じような不審な表情をしていた。
そして更に奥に進むと、今度もまた扉があった。
その脇には鏡があって、その下には長い柄のついたブラシが3本程置いてあった。
扉には赤い文字で、
『お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落としてください』
と書いてあった。
クリスタ「いけない……ちゃんと身だしなみは整えないと」
山道を歩いたせいで髪が幾分か崩れていたことを思い出してクリスタが率先して髪をといた。
ミカサ「それもそうね。私もちゃんとする」
ユミル「面倒くせえ店だな」
アニ「………」
女性陣は特に抵抗もなく髪や身だしなみをチェックしていた。
男性陣も女性陣が終わると、適当に髪をとかした。
ただ、アルミンだけが、眉間に皺を寄せている。
そして次の扉を開けると、扉の内側にまた注意書きがあった。
『鉄砲や弾丸をここに置いてください』
見ると、すぐそこには黒い台があった。
エレン「? 別に武器なんて持ってないぞ?」
サシャ「猟師さんもここに立ち寄る事があるんじゃないんですか? 武器を一時的に預かってくれるのかもしれないですね」
クリスタ「なるほどね。鉄砲があると、食べる時に邪魔だもんね」
ベルトルト「特に何も持ってないから、ここはスルーでいいのかな?」
サシャ「そうですね。次に行きましょう」
黒い扉を開けると、その先にはまた同じような台があった。
注意書きには、
『どうか帽子と外套と靴をおとり下さい』
と書いてあった。
サシャの勘が働きそうな気がするがどうなんだろう…
アルミン「………………」
アニ「…………」
ここに来てアルミンとアニはだんだん、これ以上先に進むのが怖くなった。
何となくだけど、嫌な予感がする。
しかし他のメンバーは気に留めないで、さっさと上着を脱いでそこに用意されたハンガーにかけてしまった。
靴も脱いで、奥に進もうとする。
エレン「? アルミン、どうした?」
アルミン「ごめん。エレン………僕が見つけた店なのに、悪いんだけど、僕、ここで待ってるよ」
エレン「ええ?! なんでだよ」
アニ「私もアルミンとここで待ってる」
アルミン「アニもかい?」
アニ「ああ……どうもおかしい。この店は、何か変だから」
エレン「ええ? どこが変なんだよ。外套と靴くらい、脱ぐ店なんていっぱいあるだろ?」
別に珍しい事ではなかったので、エレンは素直に指示に従っている。
アルミン「うん、そうなんだけどさ。根拠はないんだけど……ねえ?」
アルミンはアニに視線をよこす。すると、アニもほとんど同意した。
アニ「ここまで馬鹿丁寧に指示されて、それにホイホイついて行くほど、私はお人好しじゃない」
アルミン「うん……何か裏がありそうで怖いよ。ごめん。僕、もしかしたら騙されたのかもしれない」
エレン「うーん。アルミンがそう言うなら、そうなのかなあ」
エレンは凄く迷っている。
先を進もうとするメンバーについていくか、ここでアルミンと残るか。
サシャ「どうしたんですか? 三人とも、先に行かないんですか?」
サシャは既に涎を垂らしている。
サシャ「いい匂い、してきましたよ? 多分、鶏がらスープか、それに近いものを熟成させてる匂いです。うへへへ……目的地は近いですよ」
エレンには分からないが、常人では感知出来ないほどの微かな匂いをサシャは感じ取っているようだ。
エレン「まじか! サシャが言うなら間違いないな! よし、俺、先に行くわ! アルミン達は、ここで待ってろよ。もし何かあったら、すぐ戻ってくるから!」
そう言って、エレンはサシャと一緒について行ってしまった。
残ったアルミンとアニは互いに顔を見合わせて困った顔をした。
アニ「アルミン……どこの情報を貰ってきたの?」
アルミン「街で配布してあったタウン情報紙だよ。まさか、ガセネタ掴まされたのかな」
アニ「それって、無料のやつ?」
アルミン「そうだけど」
アニ「あーだったらまずいかも。無料の奴はあんまり信憑性ないよ。入ったら、高い金払わされたとか、あまりいい噂は聞かないね」
アルミン「え……そうなの? しまった。どうしよう。やっぱり皆を連れ戻した方がいいかな」
アニ「うーん。悩むところだね。ここまで結構、歩いてきてるし、皆、お腹は空いているし、もし本当の料理店だったら、逆に皆に恨まれる」
アルミン「あああ……やっちまった。何でこう、僕は役たたずなんだ」
アルミンは既に落ち込んでいる。自分の失敗を責めているようだ。
アニ「はー……やっちまったもんはしょうがないだろ。少し様子を見てみるしかないね。もし何か異変が起きたら、ミカサもライナーもいるんだし、何とかなるでしょ」
アルミン「そうだね。アニ、ごめんね。せっかくの、デートだったのに」
アニ「はあ? 何言ってんの」
アニは心底呆れた顔になった。
アニ「こんな大人数のデートなんて聞いたことないよ。これはどう見ても、ただの食事会だろ?」
アルミン「でも、楽しみにしてたんじゃないの?」
痛いところを突かれて、アニはアルミンから視線を逸した。
アニ「別に………ただ、私は」
アニは言いにくそうに答えた。
アニ「私は、エレンに対してちょっとだけ罪悪感があっただけ。それさえ拭えれば、何でも良かったんだ」
アルミン「そうなんだ。でも、いつもより綺麗にしているし、楽しみにしてたのかなって、思って」
アニ「出かけるのに正装するのは礼儀だろ。何言ってんの?」
アルミン「いやまあ、そうなんだけどさ。アニって女の子らしいなあって……」
アニ「………それ以上、無駄口叩くなら、蹴るよ?」
アルミン「わわわ……ごめん!! もう言わない。これ以上は言わない!!」
アルミンは青ざめて慌ててアニと距離を取った。
アニが一気に不機嫌になってしまい、居た堪れない空気になってしまった。
アルミン(はあー……僕ってなんでこうなんだろ)
褒めたつもりなのに空回りしてしまった。
アルミンは失敗ばかり繰り返す自分を責めてすっかり落ち込んでしまった。
そんな感じで、二人が気まずく待っているその頃……
先に進んだメンバーは、というと。
『ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、ことに尖ったものは、みんなここに置いてください』
という新しい注意書きを見て、一同は困った顔をしていた。
コニー「財布置いてけって、なんでだ? 金払わなくていいのか??」
エレン「だよな………なんでだろ?」
ライナー「勘定はここで払うことになるのだろうか」
ミカサ「金庫もある。ここに財布を置いていけばいいようね」
クリスタ「だったらかえって安全じゃない? 鍵も添えてあるし」
サシャ「ですねー。皆の分をまとめて保管しておきましょう」
ユミル「はー面倒くせえ店だな、つくづく」
ベルトルト「仕方ないよ。そういうルールみたいだし」
と、皆それぞれ感想を持ちながら、指示に従い、更に奥に進むのだった。
扉を進んで、その先の部屋の中に硝子の壺がひとつ置いてあった。
扉の注意書きには、こう書いてあった。
『壺の中のクリームを顔や手足にすっかり塗って下さい』
中には牛乳のクリームが入っていた。
サシャ「うひょおおおおお! 美味しそうです!! これ舐めちゃダメですかね???」
コニー「俺も舐めてえええええ!!!」
ライナー「馬鹿! 手足に濡れって書いてあるだろ! 食べるやつじゃねえと思うぞ?」
サシャ「(味見)大丈夫です!! これは食べられるクリームです! ということは、食べても問題ありません! 前菜替わりに置いてあるんじゃないんですか?!」
エレン「そうかもしれんが……いいのかな。指示に従わなくても」
ミカサ「ちょっとくらいならいいのでは?」
クリスタ「私も舐めてみていい?」
サシャ「どうぞ!」
クリスタ「(味見)本当だ! 美味しい! これ、手足につけるの勿体無いよ! 皆で食べちゃおうよ」
ユミル「クリスタ、お前、本性を現したな」
ベルトルト「まあまあ……美味しいなら一口ずつ、頂こうじゃないか」
コニー「賛成!! 手足に塗るなんて勿体ねえよ!!」
ライナー「ったく、しょうがない奴らだな」
そうわいわい言いながら、皆で指示を無視してペロペロクリームを舐めるのであった。
そして更に奥に進むと………
『クリームを良く塗りましたか? 耳にも良く塗りましたか?』
と、書いてあり、小さなクリームの壺がここにも置いてあった。
サシャ「追加あざーっす!!!」
サシャはその小さな壺を手にとって我先に中身を舐め始めたのだった。
コニー「あーずりいぞサシャ! 俺にも舐めさせろ!!」
サシャとコニーがお互いに壺を奪い合っている。
ミカサ「喧嘩は良くない。ここは平等に舐めましょう」
ライナー「そうだぞ、サシャ。独り占めするな」
サシャ「ううう……しょうがないですねー」
小さな壺を皆で回し合い、中身をあっと言う間に平らげるのだった。
次の扉を進むと、また注意書きがあった。
『料理はもうすぐ出来ます。15分お待たせいたしません。すぐ食べられます。早くあなたの頭に瓶の中の香水をよくふりかけて下さい』
サシャ「香水? これ、香水じゃないですよ? 酢の匂いがします」
サシャが我先に瓶を開けて匂いを確認した。
エレンも鼻を近づけてみる。
エレン「本当だ。香水じゃねえな。酢だ。なんで酢が置いてあるんだ? しかも、頭からかぶれって、罰ゲームかよ」
コニー「さすがに酢を体にはつけたくねえよな」
サシャ「これは私が料理する時に使うので、貰っておきましょう。うへへへ」
ライナー「そうだな。そんな変な指示に従う謂れはないな」
そんな訳で、一同はクリームも酢もつけずに奥に進んだ。
そしてその部屋にも当然、注意書きが書いてあった。
『いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうか体中に、壺の中の塩を沢山よく揉み込んで下さい』
エレン一同「「「「「「「「塩?!」」」」」」」」
一同は見事に合唱した。壺の中には塩が沢山入っている。
エレン「おおおおお……こんなに大量の塩、初めて見たぜ!」
サシャ「パクリましょう! これ、全部持って帰って、皆で分け合いましょう!」
コニー「だな! 体に揉み込むなんて、誰がやるかってんだ!!」
ミカサ「これだけ塩があれば、当分、困らない」
クリスタ「だね。すごい贅沢品だよ。こんなの、盗んで下さいって言ってるようなものだよ」
ユミル「だよなあ……ここの主人、馬鹿じゃねえの?」
ライナー「良心が痛むが……まあ仕方ないな。持って帰ろう」
ベルトルト「じゃあ待ってるアルミンとアニに、この壺渡してくるよ」
ライナー「頼む。ベルトルト」
ベルトルトが一人で壺を持って引き返していった。
さて、いよいよ、もうすぐ料理の完成だ。
と、期待して一同は次の扉を開けた。
そこには、ナイフとフォークを持って構えていた青い眼玉の異形の者達が、待ち構えてた。
しかし中に入ってきたエレン達が全く、クリームも酢も塩もつけていない様を見て、『あれ?』という顔をしていた。
異形の者1『お客さん……ダメですよ~ちゃんと下ごしらえをして来て貰わないと』
異形の者2『そうですよ~私たち、腹ペコなんですから。待ってたんですよ? 生で食えっていうんですか?』
異形の者3『生だと美味しくないんですよね~せめて火を通さないと~』
ぐへぐへぐへ………
異形の者達は、エレン達を見つめて舌なめずりしている。
その様を見てようやく、エレン達は騙されていた事に気づいた。
エレン「ふざけんな!! こっちは山道歩いて、わざわざ来てやったんだぞ!! 何か料理を出せよ!!」
サシャ「そうですよ!! こっちは腹ペコなんです!! 何でもいいから出してください!!」
異形の者1『え? いやいやいや、ここはそういう店ではないよ? むしろ食べられるのは、あなた達で……」
エレン「はあ? 俺らを食べるって? 巨人より小さい癖に何言ってんだ? こいつら」
ミカサ「むしろ、私達の背丈の半分のサイズしかない。食べるとしたら、私達の方が有利」
ライナー「そうだな。こいつら気絶させて丸焼きにして食べてやってもいいな」
ざわっ………
異形の者1『ちょっと待ってくれ!! 君たち、私らの、この牙とか、しっぽとか、怖くないの?!』
サシャ「全然……むしろ鳥っぽくて美味しそうですね。じゅるり」
コニー「だなー……鳥がちょっと大きくなった程度だよな。人間と鳥の間みてえだな」
ユミル「こんな生物、初めて見るな。どうやってしゃべってんのか良く分からんが」
クリスタ「そうね。鳥みたいな顔してるのに、しゃべってるし、知能はあるのかしら」
サシャ「だとしても、この人数ですし、こっちが断然有利ですよね!」
じわり、とエレン達が空腹をこさえて近づいてくるのを見て、異形の者達は後ずさった。
異形の者2『え? ナニコレ……何で私らが食べられそうな展開になってるの?』
異形の者3『普通、ここは私らが、食べる展開じゃないの?』
異形の者1『ダメだ……こいつら、早く何とかしないと』
彼らは一斉にガタガタ震えだした。
テーブルから席を立ち、一斉に逃げようとするが……
エレン「待ちやがれ!!!」
エレンとサシャとコニーがほぼ同時にタックルをかまして、奴らの動きを封じた。
エレン「何か出せ。今すぐ出せ。こっちは腹ペコなんだ。もっと食わせろ。さっきのクリームでもいい。酢でもいい。塩でもいい。何かよこせえええ!!」
サシャ「最悪、材料だけでも構いません!! 料理出さないなら、自分達で作りますので!!」
コニー「出さねえなら………」
エレン一同「「「「「「「お前らを焼いて食ってやる!!」」」」」」」
異形の者達『『『ひいいいいいい!!!!』』』
そんなこんなで、その異形の者達の蓄えを全部根こそぎ奪うかのように、エレン達は食事にありついた。
彼らは『一番恐ろしいのは、人間なのか』と思いながら、ガタガタ震えながら、必死に料理を作っている。
アルミンとアニはそんな一同のかぶりつき具合を見つめながら、自分達の用心深さって一体何だったんだろうと、ふと思ったが、出来上がったスープやパンや、サラダなどの料理を見ていたら、もうどうでも良くなった。
結果的には、確かに美味しい山の幸を沢山味わえたので、これはこれで良しとする。
エレン「はー食った食った! 山道歩いて来た甲斐があったぜ!」
ミカサ「そうね。どれも美味しかった……」
サシャ「また機会があればここに食べに来たいですね!」
異形の者達(((もう二度と来ないでくれええええ)))
彼らはビクビクしながらそう内心叫んでいた。
ライナー「まあな。これだけ美味しいものを食えるなら、歩いて来た甲斐があったな。会計は……そう言えば、金庫に財布を置いてきたな」
ベルトルト「鍵は持ってるよ。取ってくる」
異形の者達『『『お代は結構です!!!』』』
サシャ「え? タダでいいんですか? 悪いですよ~ぐへへへ」
ちっとも悪い顔をしていないサシャだった。
異形の者1『その代わり、二度と来ないでください』
異形の者2『本日で、閉店させて頂きます!』
異形の者3『ですから、せめて塩だけは返してください!』
アルミン「ああ、いいよ。塩は死活問題だもんね。はい」
預かっていた塩の壺をアルミンは彼らに返してあげた。
サシャ「あー返しちゃうんですか?」
アルミン「そりゃ返すよ。元々、彼らのものなんだし」
サシャ「勿体無いですねー。まあでも、仕方ないですね」
サシャはちょっとだけ惜しい気持ちで頷いた。
サシャ「塩がないと生活出来ないですもんね。にしても閉店するの勿体無いですね~」
エレン「だよな! これだけ美味いもん、作れるなら、普通に料理店、続けていいと思うぞ」
ユミル「常連客はつきそうだよな。穴場の料理店として」
クリスタ「私もそう思う。これを機会に、本格的にお店を始めたらいいのに」
異形の者1『し、しかし私達は……その……人間を食べる、一族なので』
エレン「そんなに小さいくせに? 俺達より小さいんだから、無理だろ。諦めろよ」
異形の者2『しかしそう言われましても……』
ライナー「人間以外のものを食って生活は出来ないのか?」
異形の者3『はあ……出来なくはないですが、そうなると、草食動物のように弱くなってしまいますので』
ユミル「難しい問題だな。でも、私らも食われるのはごめんだし」
エレン「人間を食べなくても生きてはいけるが、弱くなっちまうのか。うーん……何かいい方法ねえかな」
ミカサ「人間を食べるということは、タンパク質を欲している証拠。大豆などの豆類で代用してはどうだろうか?」
サシャ「そうですね。私達も肉が食べられない時は、豆で我慢しますからね」
異形の者1『まめ? まめとは何ですか?』
ミカサ「こういう、小さな丸い実のような食べ物がある。今度、持ってきてあげる。それをお代の代わりとして提供しよう」
異形の者1『ほ、本当ですか?』
ミカサ「人間を食べるよりはよほどいい。勿論、豆もそれなりに値段はするのだけども」
サシャ「お代の代わりにするなら丁度いいと思いますよ」
というわけで、何故か最後はそこの異形の者達と仲良くなって、一同は帰路につく事にしたのだった。
アニ(はー……結局、なんだったんだろ、今回の食事会)
と、アニは一人、途方に暮れたが、エレンの様子を見ていると、何だか楽しそうにしていたので、まあいいや、と思い直した。
アニ(これで一応、義理は果たした。もう、あいつの事に対しては罪悪感を持つ必要はないよね)
そう自分に言い聞かせ、帰り道、皆と少し遅れて歩いて帰っている。
>>97
すんません。多分、似たようなオチは他の漫画でもありそうな気がしたんですが、
サシャとかコニーとかいる時点で、料理店側が無理ゲー確定だったので、
あえて途中でレスしませんでした。
気づくどころか、どんどん奥に進んでます。
何故なら、部屋にはクリームを用意してあったから!!
……サシャなら絶対、気づく。絶対。
そんなアニの様子に気づいて、エレンは声をかけた。
エレン「よう、アニ! 歩き疲れたのか? もうちょっとで着くから、頑張れよ」
アニ「別に歩き疲れた訳じゃない。ただ、これで良かったのかなって思っただけ」
エレン「ん? ………ああ! そう言えばアニが俺の分、奢る話だったっけ。すっかり忘れてたわ」
アニ「…………能天気ね」
エレン「っていうか、元々別に、奢って貰わなくても良かったしな。こうやって皆と一緒に出かけて飯食っただけで十分だよ。俺は」
アニ「あっそ」
アニは素っ気なく答えた。すると、エレンは「何だよ」と不機嫌になる。
エレン「アニは楽しくなかったのか? なんか、探検したみたいで、俺は今日、すげえ楽しかったぞ」
アニ「あんたはそうだろうけど……もしも最後、出てきたのがもっと凶悪な奴だったらどうしたの。危なかったかもしれないじゃないか」
エレン「え? もしそうだとしても、みんなも居たし、勝てただろ」
アニ「…………あんたはいろいろ過信しすぎ」
アニは呆れたように言い放った。
アニ「怪しいと思ったら、私やアルミンみたいに用心したり、考えたりするのが普通なの。疑問を持ちながら無謀に突き進むのは馬鹿のやることなんだよ」
エレン「そうかー? 別に無謀だとは思わなかったけどな」
エレンはアルミンとミカサの背中を見つめながら言った。
エレン「ミカサもアルミンもいるし、ライナーやベルトルト、サシャ、コニー、ユミルとクリスタまでいるんだぜ? このメンバーで協力しあえば、だいたいの事は怖くねえよ」
アニ「……………」
エレン「あ、でもそうか。あいつらがもし巨人クラスのでかさだったら、やばかったかもしれねえな。というか、あいつら強くなったら、巨人並みにでかくなったりして。もしそうだったらやばいか! どうしよう!」
今更ちょっとだけ青ざめるエレンを見ていると、アニは半眼になるしかなかった。
エレン「あー……なんかあいつらの外見の可愛らしさに油断してついつい仲良くなっちまったけど、もしかしたら、あいつらはまだ子供で、大きくなったら、巨人みてえに人類の敵になるかもしれんよな。その時は、どうしよう……」
アニ「もしそうなったら、どうするの?」
エレン「くそー……あいつらには悪いけど、食うしかねえか。あのプリプリの足を、食うしかねえか」
でもな、なんか情が湧くと食べづらいな、とエレンはぶつくさ言っている。
アニはただただ、嘆息するしかなかった。
アニ「あんたは本当に馬鹿だね」
エレン「うっ………今回は反論出来ねえ」
エレンはアニに責められてすっかりしょげていた。
エレン「でも、巨人と違ってさ、会話も出来るし、そんなに凶暴そうでもなかったし、可愛かったし、うまそうだったし……」
アニ「はー………」
アニは複雑なその気持ちを、空に放った。
アニ「もしも巨人と会話できたら、あんたは巨人を駆逐しないのかい?」
エレン「え?」
アニ「もしもそういう巨人がいたら、あんたどうするつもりなのさ」
エレン「……………」
話題が少しずれている気もしたが、エレンは少し考えてから言った。
エレン「もしも巨人と意思の疎通が出来るなら、まずは何で人間を食うのかを問い詰めてやる」
アニ「……………」
エレン「俺達人間と同じ「食事」としての理由じゃねえのは分かってる。消化器官があってねえようなもんだからな。だから、まずはそこを問い詰める」
アニ「それで?」
エレン「その後は、駆逐する。どんな理由があろうとも、俺は巨人の存在は許さねえ」
アニ「…………」
そんな二人の会話をアルミンは傍で聞いていたが……
ひとつ気になる事があって、アルミンはエレンに問い詰めた。
アルミン「ねえ、エレン」
エレン「なんだよ」
アルミン「君は……巨人の存在を思い出したのかい?」
エレン「え?」
アルミン「いつの間にか、普通に巨人を話題に出しているけど、巨人については、最初は記憶がなかった筈だよね」
アルミンの指摘にミカサもハッとなって振り返った。
ミカサ「そう言えば、アルミンの言う通り。最初はエレンは、巨人の存在を忘れていた。いつ、思い出したの?」
エレン「あれ? そう言えばいつだっけ? んー………思い出せねえな」
ミカサ「ということは、もうほとんど記憶が戻りかけているのでは?」
エレン「そうなのかな? んー……でも、思い出せねえ部分もまだあるぞ?」
アルミン「何が思い出せないんだい? エレン」
エレン「ええっとな。多分、肝心な部分だと思うんだが………」
そう前置きして、エレンは言った。
エレン「俺の両親って、今、何してるんだ?」
アルミン&ミカサ「「!」」
エレン「父さんと母さんの顔を思い出せないんだ。俺が存在する以上、両親はいる筈だろ? まさか、生き別れってわけじゃねえよな?」
アルミン「あっ………」
ミカサ「………」
二人はすごく言いづらそうに、口を閉ざしてしまった。
エレン「あとな、何でか分からんが、巨人を許せねえ理由が思い出せねえ」
アルミン「………」
エレン「巨人の存在自体は思い出したんだよな。すげえ、大きな人間で、人を食うって事は、思い出した。でも、この憎悪感がどこから来てるのか、それが思い出せねえんだ。多分、なんか理由があるんだろうけど……」
目の前で母親を巨人に食われた事だけが、思い出せないようだった。
エレンの様子を見ていると、アルミンはそれがすぐに理解できた。
思い出させない方が、いいのかもしれない。
アルミン「エレン、焦らないほうがいいよ」
アルミンはエレンの肩を叩いた。
アルミン「立体機動や、巨人の事は思い出したんだ。他の事は、そう大した記憶じゃなかったのかもしれないし」
ミカサ「そうね。忘れるくらいなのだから、思い出さなくてもいいのかもしれない」
エレン「いや……それは多分、違う気がする」
エレンは首を左右に振ってアルミンに真正面に向き直って言った。
エレン「俺、なんか一番、大事な事を忘れている気がするんだ。本当は、思い出してえよ」
アルミン「…………」
エレン「もうちょっと時間がかかるかもしれんけどな。俺は、思い出したいんだ」
エレンはそう言ってアルミンに頭を下げた。
エレン「頼む。アルミン、協力してくれ。これからも頼むぞ」
アルミン「……僕に出来る事があるならね」
そう、曖昧に返事をするしかない、アルミンだった。
その様子を複雑な心境で見つめるアニだった。
今日はここまで~またねノシ
女子寮に帰ってから一人、アニは深いため息をついていた。
エレンの記憶の欠落。その現象を引き起こしたのは自分だけども。
そもそもの、エレンという人格を作り出したのは、自分達に責任がある。
ここでは詳しくは言えないが、アニには抱え込んでいる秘密がある。
その秘密を共有しているのは、ライナーと、ベルトルトの二人だけ。
罪悪感は常につきまとっていた。アニの体と心を蝕むように。
アニ(あんまり深入りしちゃダメだって……)
このドロドロした思いを消すことは出来ないだろう。一生、かかっても。
自分達は、それだけのことをしてきたのだから。
いっそ、このままエレンの記憶が、戻らないならそれはそれでいい。
自分に都合の良い展開を望む自分がいて、それもまた、自己嫌悪の原因になった。
アニ(私は……結局、どうしたいんだろうか)
使命を忘れたわけではない。
でもここにいるうちに、だんだん、今日のような、満更でもない時間を過ごすうちに……
本当の目的を忘れそうになる自分がいる。
…いや、忘れたいのだろうか。本心は、ただの女の子に戻って。
皆と一緒に、笑ったり、遊んだり、普通に過ごしたいのだろうか。
アニ(はははっ……そんなの、偽善だよね)
ここにいる以上、今更戻れないのに。何を思っているのだろうか。
アニ(もう、やめよう。エレンにも、他の奴らにも。これ以上は、辛くなるだけ)
義理は果たしたのだから、これ以上はやめようと思った。
明日からはまた、いつもの自分に戻ろう。
氷の女と言われてもいい。鉄の女でも構わない。
今はただ、任務を遂行しなければ。
そう思い直し、アニは布団の奥深く、眠りについた。
それからの日々は、普通に時が過ぎた。
エレンの記憶は日常生活に支障の出る程の障害ではなかったので、この訓練生活にも慣れてきたようだった。
わからないことはアルミンが新しく教えていたし、技術的な面ではミカサがエレンをサポートしていた。
それ以外の雑務についても、ライナーやベルトルト、マルコなど、男子がサポートしていたし、ミーナやサシャ、クリスタやユミルも、輪に混ざってエレンを気にかけていたおかげで、自分の出番はほぼなかった。
そんな感じで時が過ぎて、もうほとんど、エレンの記憶喪失の件を皆が忘れ去っていたその頃、ふと、エレンの方から、何故かアニに話しかける機会があった。
エレン「なあなあ、アニ~」
アニ「………なに?」
エレン「格闘術の時のさ、相手、最近、全然俺と組んでくれねえよな。なんでだ?」
アニ「……はあ? あんた馬鹿なの? 一度、私に頭から落とされて、そのせいで記憶障害が起きたのに、まだ私と組みたいわけ?」
アニはあきれ果てた。
何度も断ってるのに、まだやってくるエレンの頭は鳥頭なのかと思った。
エレン「そうだけどさ……なんか、あれ以来、まともにアニと話す機会が減って、なんかつまんねえっていうか」
アニ「はあ………私は逆にほっとしてるんだけど。あんたをもう一回、頭をパーにさせたら、さすがにミカサに殺されるからね」
アニはそっぽ向いてそう言い放った。
すると、エレンは頭を掻きながら言った。
エレン「じゃあせめて、普通に会話くらいはしてくれよ。なんていうか、最近のアニっていつも一人でいるだろ? 前はそんなんじゃなかったのに」
アニ「前って……私はいつもこんな調子だよ。いったいいつのことを話してるの」
エレン「えー? 大分前に皆で山道歩いて飯食ったときとか? あの頃のアニはもうちょっと、雰囲気が柔かった気がするんだけど」
アニ「…………そりゃ、あの時は、エレンに罪悪感があったからね」
アニはもうほとんど治ってるといってもいい、エレンには罪悪感を持たなかった。
アニ「もう訓練生活にも慣れたし、生活に支障はないだろ? だから元の私に戻っただけだよ」
エレン「んー……本当にそうか? 俺はあの時のアニの方が、素に近い気がしたんだけどな」
アニ「!」
アニはその瞬間、背筋が凍るような思いをした。
エレン「なんていうか、ほんの少し明るかったっていうか。今は、なんか思いつめているようにも見えるし……」
アニ「…………」
エレン「俺のせいでまだ悩んでるのか? とも思ったけど、もう罪悪感は持ってないなら、別のことで何か悩んでるのか?」
アニ「…………あんたには関係ない」
エレン「まあそりゃそうだけど。俺には関係ねえけど……アニは美人なのに、もったいねえなあと思うんだよ」
アニ「はあ……あんたは私に何を期待しているの」
アニは鋭い目つきで睨み返した。
これ以上は、もう、入ってこないで欲しいという意味も込めて。
アニ「美人だったら何? クリスタみたいにいつも愛想よくしておけって言いたいの? それにミカサも美人でしょ? あいつだって、愛想なんか良くない。人形みたいな顔じゃないか」
エレン「ミカサはよく笑うぞ? 何言ってんだ?」
エレンはその時、不思議そうな顔をした。
エレン「そりゃいつもかしこも笑ってるわけじゃねえけど、冗談が通じたり、面白い事があるときはちゃんと笑ってる。俺が言いたいのは、アニはそういう時ですら、笑いを堪えているように見えるって言いたいんだが」
アニ「!」
アニは激怒した。
もう、これ以上、エレンと関わり合いたくない。
アニ「それ以上、言うな!!」
エレン(びくっ……)
アニ「金輪際、あんたとはもうしゃべらない。話しかけないで!」
エレン「なっ………」
アニはそうエレンに言い捨てて、廊下を走り去っていった。
エレンは呆然として、その後ろ姿を見つめることしか出来なかった。
エレン「……俺、まずいこといったのか?」
何が悪かったのか、さっぱり理解出来ない。
エレン「どうしよう……」
ぽつりと呟いたその声は、雨音にかき消されていった。
腹減ったので休憩します。気になるところだけど、続く~。
アニ(なんでなの?)
アニは腹が立っていた。
アニ(なんで、あいつは、変なところで鋭いの?)
他の奴らは、そんな風にズカズカ入り込んでこないのに。
アニ(あいつは、どうして…………)
アニはこの憤りを何処にぶつければいいのか分からず、雨の中、外を走った。
誰も外にはいない。当然だ。雨が降っているのだから。
もう時間も夜遅い。こんな時間に外を出歩くのは危険だろう。
グラウンドをつっきって、宿舎の敷地の端っこに逃げる。
誰もいないその場所で、アニは雨を見上げた。
アニ(こんな面倒臭い感情、要らないのに………)
ムカムカする感情を、誰かにぶつけたい気持ちで一杯だった。
アニの金髪は、濡れて髪も解けかけている。
そんな風に一人の時間を過ごしていたら、>>125が、偶然、アニの姿に気づいた。
エレアニパート書くのが結構面白くなってきた。すまぬ。
まだ充電し終わってないので、しばらくまた安価で休憩する。
またねノシ
あ、書き忘れたけど、安価はエレン以外でお願いします。
アルミン「ひえー……通り雨かなあ……宿舎に戻れなくなっちゃったよ」
備品倉庫でいろいろ野暮用を済ませていたら、宿舎に戻るに戻れなくなって立ち往生していたアルミンだった。
アルミン「………あれ? あんなところにアニがいる。おーい! アニ! 雨宿りするならこっちにおいでよ!」
アニ「!」
アルミンに気づいて、さっと逃げ出すアニだった。
アルミン「え? なんで? 雨降ってるのに」
何故逃げ出したのか分からない。ちょっと気になって、アルミンはアニを追いかけた。
勿論、雨に濡れながら。
アルミン「アニ! どうしたの? 走って帰るより、雨を止むのを待とうよ」
アニ「うるさい! 今、話しかけないで!!」
アルミン「(どうやら機嫌が悪いらしい)………何かあったの?」
アニ「だから話しかけないでって言ってるでしょ!!」
アルミン「……………」
こういう時の女性のヒステリックな態度には慣れている。
たまにだが、ミカサも女の子なので、時々理不尽なヒステリーを起こす事があるのだ。
だからアルミンは努めて冷静に何も言わなかった。
仕方なく、一度備品倉庫に戻って、備品の大きめの木の板を一枚だけ持ってくる。
それをアニに手渡して使うように言った。
アニ「…………」
アルミン「これを持っていけば、雨を避けながら帰れるでしょ。宿舎に戻ったら?」
アニ「アルミンは」
アルミン「僕は雨が落ち着くまで待つよ。備品倉庫に自分の荷物もあるんだ。自分はいいけど、荷物を濡らして帰りたくない」
濡らして帰りたくないという言葉で、アルミンが何をしているかかだいたい想像できたアニだった。
アニ「なんか、勉強してたの?」
アルミン「いや………勉強というより研究。自分の仮説の検証とか。趣味みたいなものかな。あんまり人に知られたくなかったけど」
アニ「…………」
アルミン「アニこそ、なんでこんな遅くに外出歩いてるの? 女の子なんだから、一人歩きは危ないよ」
アニ「あんたの方がよほど危ないんじゃないの?」
アルミン「掘られるでも心配してくれるの? ははは……ありがとね」
アルミンは思わず苦笑いだった。
アルミン「心配してくれて嬉しいけど、実は倉庫にはマルコもジャンも一緒に来ているんだ。だから大丈夫」
アニ「………あっそ」
心配する必要はなかったようだ。アニはぷいっと顔を背けた。
アルミン「戻らないなら雨宿りしようよ。どうせすぐ止むよ。この雨ならさ」
アニ「……………」
アニは渋々、アルミンについていった。
倉庫の入口で座り込んで、ため息をつく。
マルコとジャンは倉庫の奥で何やら二人で話しているようだ。
アニ「アルミン……あんたいつの間にジャン達と仲良くなったの?」
アルミン「え? いや元々、僕が仲良くなったのはマルコの方で、マルコはジャンと仲が良かったからね。ジャンは立体機動には真面目に取り組んでいるし、整備にも結構マメに手入れにきているんだ。微調整入れたり、備品のメンテナンスも自主的にしているし。その関係で僕もジャンとは時々話すようになったんだ」
アニ「…………あんたはエレンとミカサとばっかり、べったりしてたと思ってたのに」
アルミン「そりゃ基本的には、エレンとミカサと一緒にいる事が多いけどね」
と、前置きしてからアルミンは言った。
アルミン「ここに来た頃に比べたら、僕だってそりゃ他の子達とも大分話すようにはなったさ。点数を取る為には、一人ではどうにもならない事もあるし」
アニ「……例えば?」
アルミン「チーム戦で挑む時だってあるだろう? そういう時は全く知らない人よりも、少しでも話した事のある人と組めたら、それだけで有利になるじゃないか」
アニ「その為に、あんたも人との付き合いをするようになったわけか」
アニの言い方が微妙に辛辣でそれが気になったアルミンだった。
アルミン「…………打算的な言い方になるけど、そうだよ」
アルミンはアニの方を見ないで、隣に座って答えた。
アルミン「人の情報は多ければ多いほどいい。それだけで、いざって時に、いろんな戦略を考えることができる。幅を広げる事が出来る」
アニ「……………」
アルミン「相手の特性を知ることで、将来役に立つ事もあると、僕は思ってる。僕は他の人より体力がない分、頭を使って戦うしかないからね」
アニ「…………そうか。あんたはそういう考え方なんだね」
アニはアルミンの考え方に触れて少しだけ気持ちが落ち着いた。
アルミン「うん。アニは………こういう打算的な考え、嫌いかい?」
アニ「別に。いいんじゃないの? 何も考えずにズカズカ人の中に踏み込む奴よりよっぽど清々しいよ」
アルミン「……………もしかして、エレンの事を言ってる?」
アルミンの名推理にアニは思わずぎくりと、大きく目を見開いた。
アルミン「はは~ん、エレンとなんか喧嘩したね?」
アニ「喧嘩なんか……」
アルミン「当てて見せようか?」
アルミンは笑っていた。大方の予想は出来るから。
アルミン『アニって美人なのに、笑わないのって勿体ねえよなあ』
アニ「?!」
アルミン『ミカサと違って、一人でいるっていうより、一人を選んでいるって感じだよなあ』
アニ「?!」
アルミン『笑いたいなら、笑えばいいのに。遠目でこっちを見てないで、輪に入ればいいのになあ』
アニ「?!」
アルミン『アニって、なんか変な奴だよなあ。なんか、違和感があるよなあ』
アニ「もういい、アルミン」
アニはアルミンのエレンのモノマネを見ていると、これ以上は耐えられなかった。
アニ「あんたたち、そんな事を話してたの?」
アルミン「たまに、だけどね。ミカサがいない時だけ、だけど。エレンはアニを気にしてたよ。特に皆で山に食事に行ったあと、アニの様子が変わったからよけいにね」
アニ「……………」
アルミン「僕は正確には「戻ったんだよ」と伝えたんだけど、エレンは納得してなかったみたいだよ。その事で、喧嘩になったんじゃないの?」
その通り過ぎて何も言い返せないアニだった。
アルミン「エレンはどうも「アニが何か悩んでいるのかな?」って思ってたみたい。僕は「もしかしたらまだ、エレンの記憶障害の件を気にしてるんじゃないかな?」と答えたんだけど、アニのその様子だと、それは違うみたいだね」
アニ「…………」
アルミン「エレンは、思ったことをポンポン言っちゃうからね。後先考えず、突っ走っちゃうから。そのせいで、アニを怒らせちゃったんだったら、僕からも謝るよ。ごめんね」
アニ「別にアルミンが謝る必要はないよ」
アルミン「いやでもね、エレンの事を止めなかった僕も悪いしね。あんまり深入りするような事でもないのかもしれないし」
アニ「…………」
アルミン「そういう事って、あるよね。あんまり突っ込まれると、イライラしちゃうこと。アニにもあるんでしょ?」
アニ「アルミンにもあるの?」
アルミン「あるに決まってるじゃないか! むしろあり過ぎて困るくらいだよ。アニは特別じゃないよ。普通だって」
普通だって。
そう、言われた瞬間、何故か、心の琴線に触れられた気がして、アニは唇を噛み締めた。
そうだ。自分は特別じゃない。
選ばれた戦士なんて、柄ではない。
本当なら、こんな事、やりたくない。
ただの、普通の女の子になりたかった。
普通の女の子に戻りたい。
そう、ここで叫べたらどんなに楽になれるだろうか。
言ってしまおうか。何もかもをぶちまけて、晒しだして。
アニ(出来るわけないじゃない……)
それなのに、それなのに、それなのに。
中途半端に、皆、優しくしないで欲しい。
八つ当たりにも似た感情が爆発して、アニは目頭をおさえた。
そんなアニの様子を静かに見つめながら、アルミンはただ唇を結んだ。
抱えているものは皆、それぞれ何かあるのだろうと、推察する事しか出来ないけれど。
力にならない方がいい事もあることを、アルミンは知っている。
アルミン「エレンには僕から言っておくよ。あんまりよけいな事するなって。だから、エレンのことは許してやってよ」
アニ「………アルミンに免じて、なら」
アルミン「ありがとう。アニ」
雨が止んだ。やはりただの通り雨だったようだ。
アルミン「あ、丁度雨も止んだよ。時間も時間だし、そろそろ帰ろうか。女子寮に送っていくよ」
アニ「……あんたは女の子扱いがうまいね。エレンとは、全然違う」
アルミン「ええ? そうかな……まあ、そう言われると、悪い気はしないけど」
照れたように笑っているアルミンを見ていたら、自然とアニも唇を釣られて上げてしまった。
アニ「少し落ち着いたよ。あんたにも、借りが出来ちまったみたいだね」
アルミン「ええ? いいって。気にしない気にしない。そういう事くらい、誰だってあるよ」
アルミンはそう言って、ジャンとマルコを呼んで後片付けをし始めた。
アニはジャンとマルコに見つかって、意外な顔をされてしまったが、会釈だけして、先に帰る事にした。
アルミン「あ! 待ってよアニ! 送るってば」
アニ「いいよ。一人で帰れるから。後片付け、ちゃんとしていきな」
そう言って軽い足取りでアニは帰っていったのだった。
そんな彼女を見つめながら、ジャンは呟いた。
ジャン「なんか、今のアニ、ちょっとだけ綺麗だったよな」
と、不思議そうに。マルコも、頷いていた。
>>131
訂正
アニ「……あんたは女の子の扱いがうまいね。エレンとは、全然違う」
の、が抜けてた。
エレン「アニの奴、何処に行ったんだろう……」
エレンは宿舎の中をキョロキョロ探していた。
女子寮の中にも一度、探して回った。ミカサにも話して捜索を手伝って貰っている。
ミカサと一緒に、雨合羽を着て外に出て、いろんな場所を探しているが、まだ見つからない。
ミカサ「宿舎の外に出たと言っても、そう遠いところまでいったとは思えない。多分、屋根のある別の場所に移動したのでは」
エレン「だといいんだけど」
とりあえず思いつくところはだいたい足を運んだ。
残りは備品倉庫くらいか。遠目で見ると、ランプの明かりが漏れている。
誰かが倉庫を使用している証拠だ。
雨は止んでいたが、雨合羽を脱ぐのが面倒でそのままの格好で倉庫の中に入ると、アルミン、ジャン、マルコの3人が丁度後片付けをしていた。
エレン「アルミン! アニは見なかったか?!」
アルミン「あ、さっき女子寮に帰っていったよ。行き違いになっちゃったかな」
エレン「そっか……ありがと! 俺、アニに謝りに行ってくる!」
アルミン「あ、ちょっと待ってエレン!」
エレン「何?!」
アルミン「明日にした方がいいかも。今日はもう遅いから、寝かせてあげなよ」
エレン「でも……俺、アニを相当怒らせちゃったんだけど」
アルミン「大丈夫。さっき、僕がアニと話したから。少し落ち着いたみたいだよ」
エレン「そ、そうか……」
エレンはほっと胸を撫で下ろした。
エレン「アルミンが宥めてくれたのか。なら良かったぜ。俺、謝りたかったけど、どうしたら言ったらいいのかさっぱり分からなかった」
>>133
訂正
エレン「アルミンが宥めてくれたのか。なら良かったぜ。俺、謝りたかったけど、どう言ったらいいのかさっぱり分からなかった」
なんか混ざった。
すっかりしょげているエレンにアルミンはくすっと笑ってしまった。
アルミン「エレンはたまに突っ走るのが難点だよね。アニみたいな繊細な子に対しては逆効果だよ、エレン」
エレン「え? アニが繊細? どの辺が?」
ミカサ「アニは繊細じゃないと思うけど」
ジャン「アニが繊細? 何言ってるんだ? アルミン」
マルコ「うーん……エレンを吹き飛ばしたり、ライナーを回転させられる子が、繊細とは思えないけど」
皆にフルボッコされて「え?」という顔になるアルミンだった。
アルミン「だって……その……女の子らしいじゃないか。毎日髪をちゃんとくくったり、その……周りをよく見てるし」
エレン「それは……繊細とは言わないんじゃないか? なんか違う気がする」
アルミン「え?」
エレン「まあでも、アルミンから見たらアニは繊細に見えるって事なんだろうな。よし、俺もこれからは気をつけるよ。ありがとう、アルミン!」
アルミン「あ、ああ………」
その時、思った違和感は微かなものだったが……
アルミンの中に不思議な感覚をもたらした。
アルミン(そうか。人の印象って、見る人の角度によって全然変わってしまうのか)
全部、一律ではない。その事は頭では分かっていても、実感として味わう事は希である。
アルミンはその時の変な心地を、この後にも味わう事になる。
エレン「じゃあ俺、ミカサを送っていくわ。またな!」
エレンはミカサと一緒に先に倉庫を出て行った。
その足取りの軽さを見て、ミカサは言った。
ミカサ「エレン………」
エレン「ん? 何だよ」
ミカサ「どうしてそんなに、アニのことを気にかけたの?」
エレン「え? どうしてって言われても、なんとなく……だな」
エレンはその感覚的なものをうまく説明できなかった。
エレン「なんか、ミカサとは違う意味で放っておけなかったんだ。辛そうな表情にみえてな。でも、アルミンがああいうなら、もうそっとしておくことにするよ。返って逆効果になるって分かったし」
ミカサ「そう………」
エレン「おいおい、なんで今度はミカサが不安そうな顔をするんだよ」
ミカサ「だって……エレンが、アニを気にするから」
エレン「だから、もう気にしないって話をしたようなもんだろうが。ああもう、面倒くせえ奴だな」
エレンはぎゅっと、ミカサの手を握ってやった。
エレン「ミカサは本当にヤキモチ焼きだなあ」
ミカサ「や……ヤキモチ?」
エレン「違うのか? 俺が他のものや人に興味がいくと、すぐ不貞腐れるのはそのせいなんだろ?」
ミカサ「………そうなのかもしれない」
エレン「ったく、これじゃどっちが子供か分からんな」
ミカサ「ううう……」
何だか以前より大人びて見えるエレンにミカサは悔しそうに唸った。
ミカサ「前のエレンより、ちょっと格好いい」
エレン「え? なんだそれ」
ミカサ「だって、記憶のない頃のエレンはこんな風に、飄々としてなかった」
エレン「へーそうなんだ。ふっふふ……じゃあこっちの俺が、本当の俺って事じゃねえのー?」
上機嫌になって言い返すエレンだった。
エレン「まあもう、今となっては、記憶の事は、大した問題じゃねえけどな。とりあえず、生活は出来るし訓練も出来るし、ミカサもアルミンもいるし……面倒なのは、昔の事を思い出さないといけない場面に出くわした時だけだろ」
ミカサ「……………」
過去を思い出さないといけないとしたら、それはエレンにとって、とても辛いことだろう。
このままエレンが、母親の事を思い出さないのであれば、それはそれでいいと思うが……
ミカサは少しだけ、寂しさを感じていた。
エレン「どうした? ミカサ」
ミカサ「…………エレンは」
ミカサは思い切って聞いてみた。
ミカサ「エレンは、私に、このマフラーをくれた時の事を覚えてる?」
エレン「いや…………それ、俺が渡したのか?」
ミカサ「うん。私を命懸けで助けてくれたあと、寒がってた私を、このマフラーで温めてくれたの」
エレン「………そうなのか」
エレンは、困ったように言った。
エレン「悪い。その辺の詳しい記憶はねえな。小さい時の記憶は、かなりまっさらな感じだよ」
ミカサ「そう………」
エレン「………ごめんな」
エレンには、謝る事しか出来ない。
エレン「思い出してやりてえけど………ごめん」
ミカサ「ううん……いいの」
ミカサは俯いて誤魔化した。自分の本心を飲み込んで。
ミカサ「思い出せないなら仕方がない。帰ろう、エレン」
そして二人は一度女子寮に戻り、その後は一人で男子寮に帰ったエレンだった。
エレン(………………なんだろ、このもやもや)
まだ、大事なものを、忘れている気がする、エレンだった。
そして再び、アニの日常が帰ってきた。
アニの機嫌はもう治っていたようだ。胸を撫で下ろし、エレンはほっとする。
アニ「アルミンに免じて、だけどね。あと、格闘術の相手、再開してやってもいいよ」
エレン「!」
アニ「………何? その顔」
エレン「いや、どういう風の吹き回しかと思って……」
アニ「ふん……あんたが鳥頭だから、深く考える事はやめにしたのさ。ただし、もしまた頭から落ちても、私は責任取らないよ。どうする?」
エレン「ああ、是非手解きをお願いする」
ミカサ「!」
その様子を遠くで見守っていたミカサがショックを受けていた。
ミカサ「な、何故……何故エレンはまたアニと……」
ブルブル震えて悔しそうにミカサは嫉妬する。
ミカサ「しかし、嫉妬をしてはまた、エレンに……子供扱いされてしまう」
ジレンマに挟まれてどうにも出来ないミカサだった。
しかしそこにクリスタがにょきっと、雑草のように生えた。
クリスタ「むむむ……アニがまた、エレンを誘惑している」
ミカサ「クリスタ! もう諦めたのかと思っていたけれど、まだ諦めてないの?」
クリスタ「あ、諦めたわけではないけれど……でも、これはチャンスかもしれないわ」
ミカサ「え?」
クリスタ「もう一回、エレンがアニと組んで頭から落ちれば、今度こそ……逆に記憶が戻るかもしれない」
ミカサ「で、でも……もっと症状が酷くなる可能性も……ある」
クリスタ「だから、イチかバチか、丁か半か、黒か赤か。賭けに出るしかない」
何故か賭博用語の例えをするクリスタにミカサは一瞬「?」となったが、彼女はアニとエレンを尾行していた。
クリスタ「格闘術の、授業を見守りましょう」
ミカサ「ええ……」
どのみち、それ以外やれることはないミカサだった。
格闘術の訓練が始まり、ミカサはクリスタと組んでチラチラと様子を見ていた。
アニが久々にエレンと相手をしているせいで、ギャラリーは「もうエレンの頭は治ったのか?」と関係ないやつは勘違いをしていたが………
事情を知っているメンバーはハラハラして見守っている。
ライナー「大丈夫なのか? アニのやつ、またエレンを頭から落とさなければいいが」
ベルトルト「うーん……でもエレンの方から希望して組んだって聞いたし、大丈夫なんじゃないかな」
アルミン「出来れば、もう一回頭を打って、完全に戻る……とかいう展開になればいいけど」
マルコ「そう、都合よくいくかなあ」
ジャン「記憶があろうがなかろうが、大して変わんねえから別にいいんじゃねえの?」
ミリウス「そう言うなって、ジャン」
そんなこんなでチラチラ外野に見守られながら、エレンはアニと格闘術を行っていた。
相変わらず、エレンが吹っ飛ばされる展開が多いが、頭からは落ちないで、ちゃんと受身を取って相手をしている。
アニ「ふん……前よりかえって動きが良くなったんじゃないの?」
エレン「いや……前のことを言われても、俺、分かんねえし」
エレンはそう言いながら心を無にして対処する。
アニはそんなエレンの動きにだんだん本気になっていった。
アニ「はっ……!」
気合を入れてエレンを襲う。木で出来たナイフを突き立てて、突進する。
それを受け止め、捻って対処する。
アニ「大分うまくなったじゃないか」
エレン「俺だって、記憶なくなってからも努力は続けてたからな」
攻守交替。エレンがアニに突進する番だった。
エレン「はああ!」
気合を入れて、アニに襲いかかる。
アニは軽々と身を躱して、エレンの腕を取った。
そして、何度目かの、空中回転。
その様子をミカサ、アルミンも緊張してみている。
ドシーン…………
エレン「ててて……やっぱすげえ技だなあこれ」
アニ「…………」
エレンの表情は変わらない。どうやら、二度目のこれでは、元には戻らないようだ。
カンカンカン……
鐘が鳴って、今日の訓練が終わった。
午後は座学の授業の予定となっている。
エレン「アニ、ありがとうな!」
さっさと帰ろうとするアニの背中に叫ぶと、アニは後ろ向きで手を振って先に帰っていった。
そんないい感じの二人の雰囲気に、ため息をつくしかない、ミカサなのであった。
ミカサ(エレンは自覚がないだけなのかもしれない)
ここ数日のエレンの様子を振り返ってみると、どうもおかしいような気がしてならないミカサだった。
ミカサ(エレンはアニの事が好きなのかもしれない。その……異性として)
でないと、気にかけるなんて事があるだろうか。いや、ない。
ましてやまた、格闘術の指南を受けようと思うだろうか。
頭から、落とされた相手に対して。
ミカサ(やだな……こんなモヤモヤを抱えてエレンの隣にいるのは)
座学の授業が全く身に入らない。
エレンは真剣に聞いているが、ミカサは上の空でエレンの方をチラチラ見ていた。
そんなミカサの視線にふと気づいてエレンが小さな声で「なんだよ」と言う。
ミカサ「別に……」
エレン「授業中だぞ。集中しろよ」
ミカサ「……………(チラリ)」
エレン「なんだよ。さっきからこっちばっか見やがって。照れくさい事すんなよな」
エレンはほんの少し頬を赤らめていた。
ミカサ「え?」
その反応にちょっと驚くミカサだった。
ミカサ「エレン、照れてるの?」
エレン「…………あんまりジロジロ見られるのは、好きじゃない」
エレンはそう言って、じろりと見つめ返した。
エレン「なんか言いたいことでもあるのか?」
ミカサ「どうして、アニとまた、格闘術を組んだの?」
エレン「え? そりゃあ……アニの技術がすごいからだよ」
ミカサ「でも普通、頭から落とされた相手ともう一回、ペアを組みたいなんて思わない」
エレン「ああ……そう言われればそうかもしれんが、それは俺がちゃんと受身を取れなかったから、俺が悪い話だろ? もう大丈夫。あれから受身の特訓しまくったし、もう頭から落ちることはねえよ」
ミカサ「…………私とは、組んでくれないの?」
ピクッ………
エレンはその時、動きを止めた。
ミカサ「私とは何故組んでくれないの」
エレン「…………………」
ミカサ「黙秘しないで」
エレン「……なんでだろ?」
エレンは自分でも不思議だった。
エレン「言われて初めて気づいたわ。俺、なんでミカサとペア組むの避けてたんだろ」
アルミン「体が覚えてたんだろうね」
横で話を聞いていたアルミンがこそっと言った。
アルミン「ミカサは同期では最強だもの。無意識に、ミカサに負けることを恐れてたんじゃない?」
エレン「え? なんでミカサに負けることを恐れる? 別に負けたっていいだろ? 訓練なんだし」
アルミン「…………それはそうだけど、エレンは格闘術だけじゃなく、立体機動でも座学でも技工でも、ミカサに負けると一番悔しそうにしていたよ。理由は、男としてのプライドってやつかもしれないけど」
エレン「え? 意味が分からねえ。ミカサが優秀なら、男の俺でも負けたって不思議じゃねえよな? アニにも負けてたんだよな? アニに負けた時の俺って、同じように悔しそうにしてたのか?」
アルミン「……………」
そう言われれば、そういう素振りを見た記憶がない気がする。
エレン「意味分からんな。アニには悔しがらず、ミカサには悔しがるって……理由がいまいち分かんねえけど」
ミカサ「じゃあエレンは別に私と組むのが嫌ではないのね?」
エレン「ああ……今度はミカサと組んでもいいぜ。ミカサがいいなら」
ミカサ「本当?」
ミカサはパアッと明るくなった。さながらお散歩に行く前の犬のように。
ミカサ「分かった。じゃあ次の格闘術は私とやろう、エレン」
エレン「あ、ああ……それでいいならな。だからもう、あんまチラチラこっち見るなよ」
そう言って、エレンはまた授業に集中したのだった。
そして数日後、今度はミカサと組んで格闘術の訓練を行うエレンだった。
ライナー「おいおい、アニの次は今度はミカサか? 大丈夫なのか?」
アニ「さあ? でも、本人がいいって言ってるし、大丈夫なんじゃないの?」
ベルトルト「ううーん。何も起こらなければいいけどね」
アルミン「ミカサのことだから、本気でエレンの相手をするとは思えないけど」
アルミンの言う通り、ミカサは少しだけ手加減してエレンの相手をしているようだ。
エレンはそれでもミカサについていくだけで精一杯である。
エレン(なるほど……同期で最強というのは本当らしいな)
ミカサの実力を目の当たりにして、アニの時より動きを奪われて、寝技に持っていかれるエレンだった。
エレン「ぐっ………!」
ぐりぐりと、ミカサに体重をかけられて、動きを封じられる。
みかさの胸が、当たっている。
その感触が心地よくて、一瞬、違うところがビクンと反応する。
エレン(?!)
やましい事を考えている場合じゃない。というか、ダメだろ。
訓練中にそんな風になっちゃ。
エレン「た、たんま! ギブ! ギブ! ミカサ! 離せって」
ミカサ「え?」
エレンが急に態度を豹変したので、ミカサはさっと立ち上がった。
ミカサ「エレン、大丈夫?」
エレンの様子が変だ。顔を真っ赤にしている。
エレンは前かがみになって、自身の変化に混乱していた。
エレン(落ち着けって……俺、落ち着け…!)
アニの時と全く勝手が違って混乱する。というか、さっきから心臓がドクドクいっている。
苦しい。違う意味で、大変苦しい。
ミカサ「エレン、苦しそう。ごめんなさい。少しやりすぎた」
エレン「いや、大丈夫だからな! ……………」
ドクンドクンドクンドクン……
大丈夫と言いながら、エレンの心拍数はどんどん上がっていった。
エレン(あれ? あれ? 何でだ? 急に何か、ミカサをまともに見れない)
ちょっと胸が接触した程度で、こんなに赤くなる必要はない。
これじゃまるで…………
エレン(俺が、ミカサのことを好きみてえじゃねえか)
エレンは急にそう結論づけて、その瞬間、脳裏に焼き付いた映像がフラッシュバックして……
エレン「あああああああ!!!」
と、その場で絶叫した。
エレン「思い出した………」
ミカサ「え?」
エレン「全部、思い出した」
ミカサ「!」
アルミン「え?」
アニ「!」
ライナー「ほう」
ベルトルト「じゃあ」
コニー「お? 思い出したのか?」
サシャ「ってことは」
クリスタ「元に戻ったのね!!」
おおおおおお………
その瞬間、ミカサはエレンに抱きついた。
ミカサはぎゅうぎゅうにエレンを独り占めする。
エレン「馬鹿……離せってミカサ!!!」
ミカサ「嫌! エレン、私のこと、マフラーのこと、思い出したのね?!」
エレン「あ、ああ………」
エレンは気まずそうに視線を逸している。
その様子が面白くない人物が一人いるが。
ジャン「けっ………まーたいつものイチャイチャに戻るだけだろ。大して今までと変わんねえよ」
エレン「ミカサ、とりあえず一旦離せ。とにかく離してくれ」
エレンはミカサの方を見ないでとりあえず、離れた。
アルミン「でも何で急に思い出したの? 何がきっかけだったの? ミカサの胸?」
ミカサ「そうなの? エレン」
エレン「違う!!! 断じて違う!!!」
ブルブル震えているが、どうもそれに類する何かのような気がする。
そう感じてアニは、ずいっと詰め寄った。
アニ「私と寝技決めた時は、そんなに狼狽えてなかったようだし……ミカサの胸のおかげで思い出したんじゃないの?」
エレン「違う! 胸じゃない! 胸じゃないんだ!! 胸じゃなくて………」
アルミン「胸じゃなくて?」
ライナー「胸じゃないなら……分かった。尻だ!」
ベルトルト「はははは……そんなまさか」
その、まさかだった。
エレンは否定せずに真っ赤になって俯いている。
アルミン「え? ミカサの尻? どういう事? さっぱり分からないよ」
ミカサ「今の寝技の時に尻は密着させてないのだけども」
エレン「感触じゃねえよ。そうじゃなくて…………」
エレンはそれ以上言いたくなくて困っているようだ。
アニ「いいなよ。気になるじゃないか。ミカサの尻の、何が切欠だったんだい」
エレン「………アニと、さ」
エレンは皆の方を見ないようにして、ぼそぼそと言った。
エレン「アニと組んで格闘術をしていた時に、途中で、ミカサのズボンの尻の割れ目が破れてた事に気づいて……それをうっかり、注視しちまって……」
アニ「……………」
エレン「注視してたら、気がついたら、アニに頭から落とされてた。あの時、集中力が欠けてたせいで、頭から落ちたんだ。でなけりゃ、あんな落ち方しねえよ」
アルミン「た、確かに……普段のエレンならいくら何でもあんな変な落ち方しないよね」
ライナー「なるほど、その時にミカサの方が気になったせいで、受身がうまく取れなかったのか」
ミカサは尻の割れ目を隠していた。自分では全く気づいていなかったらしい。
ミカサ「ごめんなさい。ちょっと席を外していいかしら。予備のスボンに着替えてくる」
ササササ………
お尻の割れ目を隠しながら退散するミカサがちょっとだけ可愛かった。
アルミン「ああ……もしかして、下着の色とズボンの色が同じだったから、遠目には分からなかったのかな」
アルミンはそう結論づけた。
すると、エレンは言った。
エレン「破れてるっても、1~2センチくれえかな。多分、よく見ねえと分かんねえと思うけど」
アルミン「つまり、エレンは訓練中によく見ちゃった訳だ」
エレン「うっ……たまたまだ! 本当、たまたま目に付いただけだからな!」
コニー「嘘だー! よっぽど尻を見てねえと、気づかねえよそんなの」
ライナー「俺もそう思う。だって今、俺もミカサの尻を見てみたが、パッと見はわからなかったぞ?」
アニ「変態………」
アニはエレンを含めて男性陣を冷たい目で見つめていた。
エレン「うっ……だからその、その時の事を思い出したら、その……」
アニ「記憶が戻ったと。はー………」
アニは天を仰いで肩を震わせた。
何だか変な笑いがこみ上げてきて、その場で必死に堪えている。
アルミン(あ、また笑いを噛み殺してる)
アルミンも何度か見覚えのあるそのアニの独特の笑い方に、ちょっとだけ共感した。
こんなオチを聞いたら誰だって笑い出したくもなる。
アルミン「ぷっ………あははは」
ライナー「くっ………」
コニー「はははは……!」
一同は笑いを堪えきれず、堪らず爆笑してしまった。
その空気を感じてキース教官が「こら!!」と注意をしにきたので、皆、「やべ」と思ってさっさと元の位置に逃げたのだった。
ズボンを着替えてすぐ戻ったミカサは座り込んで憮然とした表情で待っていたエレンのところに戻ってきた。
ミカサ「エレン、ごめんなさい」
エレン「ん?」
ミカサ「結果的に、エレンの記憶喪失は、私のせいだった。私がもっと、自分の尻に注意していれば……」
エレン「いやいや、お前のせいじゃねえからな。その……俺の方こそ悪かった」
ミカサ「? 何が悪いの?」
エレン「気づいたときにすぐに言えば良かったんだよ。それをしないで、つい眺めたのは……本当だから」
ミカサ「そう……でも、何でつい、眺めちゃったの?」
エレン「うっ……」
それは言わせないでくれ。いや、本当に。
エレン「それは、男だからだ。女の尻を見ちゃう生き物だからだ」
ミカサ「そう………………(まあ、それはそうだろうけど)」
ちょっとだけ腑に落ちない返事にミカサは口を尖らせるが、エレンはそれ以上、説明しなかった。
エレン「じゃあ、続けるぞ、ミカサ。今度は手加減するなよ!」
ぐいっ………!
そして何度もエレンはミカサに投げ飛ばされた。
やはりまだまだミカサには敵わない。
しかし、その時、
ミカサ「あっ……」
今度は、ミカサの胸のシャツのボタンがふたつ一辺に取れた。
それを思いっきり注視して、また、エレンが頭から落ちる。
ドシーン………
むくりと、起き上がり、エレンは言った。
エレン「僕は誰なんだ?」
ミカサはまた、青ざめる羽目になった。
(エレン「僕は誰なんだ?」乗っ取りおしまい☆)
エレンが頭から落ちるって、よほど集中力欠けてねえ?
↓
エレンさん、きっとよそ見してたに違いない。
↓
ミカサの尻でも見てたのかな?
↓
でも、ただ尻を見るくらいで、頭から落ちるか?
↓
ズボンがきっと破れてたに違いない。
と、思って、SSを乗っ取らせてもらったぜ☆
途中で脱線したり、エレアニだったりアルアニで忙しかったけど、
こんな感じで乗っ取らせてもらった。
>>1さんの理想とは違うかもしれんが、とりあえず、終わらせた。
読んでくれてありがとうさんくす!
ファミコン並に記憶飛びやすくなったエレンww
にしてもよく複数のSS同時に書けるな
乙!面白かった
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません