まゆ「この薬膳料理、美味しいですねぇ?」 (16)

短いです、具体的には9レスです

ハッピーバースデーまーゆー

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入社して早くも数ヶ月が過ぎた……だが体感では、気がついたら夏が終わっていた、という認識であった。

朝は早くから出社し、電車に揺られ、事務職とアイドルの営業周りに勤め、時としてアイドルのダンスを眺めて踊りの簡単な確認もする

忙しいという言葉を充実という言葉に変え、疲労を砂糖と、カフェインの混合溶液で抑え

鏡で寝ぐせの確認をすると、髪の毛の毛色が再び白ずんで来ていたことに気がつく

ストレスか―――無理もない、男は……いや此処ではプロデューサーと呼んでおこうか、プロデューサーは女が苦手だった

彼はアイドル……それも女性のアイドルのプロデューサーを務めるにも関わらず、女性という生き物が大の苦手だった

元々はプロデューサーではなく、ある大企業に務める事務作業員をしていて、仕事には定時で帰宅し、彼女も作らず老後の蓄えを貯めるだけの一社会人だった

……だが、ある時転勤を言い渡される、新部門のアイドル候補生育成課である

選考理由は普段の勤務態度に、業務成績、作業内容の代替の容易さ、彼の性格、そして上司からの心配というのもあった

上司はプロデューサーの平坦さそして、素直さには感心していたのだが、女性への関心の薄さが心配になっていら

上司からは君もそろそろいい年だろう、いい子を捜したら嫁さん候補にする気分でアイドルを育成してこい、と送り出された

彼は延々と続く簡単で、平坦な業務が気に入っていた、だが上司の命令には逆らえなかった、彼は昔から目上というのが苦手だったのだ

「……髭剃り……」

「はぁい、どうぞ」

ねっとりとした女性の声が耳朶をうち、心臓が早鐘を打ち、思わず受け取った髭剃りを洗面台に取り落としてしまう

「……な、何だ、君か……」

まだ心臓がバクバクいう、この子はどうしてか知らないけど私を怖がらせるのが趣味らしく突然現れる……だが、此処は社宅では無かったか?

「ふふふ……瑣末な事ですよ、ねぇ?」

何とか震える手で薄い髭を剃り、心の安寧を図る、そう……きっと瑣末なことなのだ、この子がここに居るのは

きっとそうなのだと自分に言い聞かせ、髭を全部剃ってしまう、元々体毛が薄いのでクリームなどは使わなくても大丈夫だった

鏡越しに沁みこむような声の少女……佐久間まゆは、笑顔でコチラを見ていた

さっさと髭を剃って顔を水で流した後、歯を磨き口の中を水で濯ぐ

その間彼女はじぃっと、コチラの方を笑顔で見つめているのだった

朝ごはんのトーストを齧り、正面でニコニコ笑顔で見つめられて、蛇に睨まれた蛙の心地でパンを飲み込む

……そう、彼は女が苦手であり、何よりその原因が女性に見つめられると、女性の嗜虐性を引き出す仕草をしてしまうのだ

昨日も酒の席で楓さんや、礼子さんにイジられたのだ……どうにも、オドオドした性格がいけないとは思うのだが

女性の目を見るとどうしても思考が覚束なくなり、舌も回らなくなり、目線もそろそろと逸らしてしまうのだ

ソレが悪いのだろうか、礼子さんや志乃さん、早苗さん、楓さんなどにはよく悪巫山戯で弄られてしまうのだ

昨日も酒を飲んでポーッとしていると、後ろから抱きつかれて口が回らなくなり、噛んだことを揶揄されたのだ

どうしたものかと考えると、目の前の少女はジーッとコチラを見ていることに気がついた

何とも不思議な子だった、元々はモデルをしていたのだが、この事務所に私を見つけて移籍してきたというのだ

「……プロデューサーさん、パン、美味しいですか?」

「う、ん」

何となく気まずくなって目を逸らしてしまう、やはり女性は苦手だ、あのタレ目でじぃっと見つられると、心の底を見透かされた気になってしまうのだ

勿論疚しい事なんて考えたこともない、今の関心事は仕事の業務成績と、夜のパソコンで作られる趣味のプログラムなのだ

その点では新しく入った3人組の泉と言う子とはよく話が繋がった、というよりもコチラが聞いてばかりなのだが

そんな事を考えていると、まゆが目の前から消えていることに気がつく

何処に行ったのか……と台所を見ると、トクトクトクとコーヒー牛乳に砂糖を注いでいる姿が見て取れた

ああ、あの子も根はいい子なのだ……そう思うと彼女を少し理解できたようで安心と嬉しさが満ちてきた

彼女自身も他の子に優しいようだし、よく家が事務所が近いことも有り、年長者の酒の後の始末を手伝わせてしまっていた

……やはり何か、お礼とかした方がいいのだろうか

そう思うとふと何か違和感が、頭に過った

ふと今日は何日だっただろうか?机の上の手帳を片手で開き、見ていると……

「佐久間まゆ……誕生日……?」

そして今日は土曜日、珍しく仕事が休みで奇しくも休日だった

彼女がコーヒーを差し出したのを手で受け、目線をコーヒーに注ぎつつ息を少し吸った

「まゆ…ちゃん、その、今日は休み…だしさ、何処か行かないかな?」

居た堪れなくなり、最後は彼女の顔のふちを見ながら、そう言った

「あら、プロデューサーさんが一緒なら、何処へでもいいですよぉ?」

彼女は縁からでもわかるほどの、とびっきりの笑顔を作るとそう言った

何となく彼女というのがわかって、少し距離が近くなった気がした

…後々見返せばこの時は、やはり彼女の事は毛ほども分かってはいなかったのだ

車に乗り込むと、彼女は決まって私の後ろの席に乗りたがるのだ

何故かは分からないが、彼女に聞くのも何か理由があってのことだと思い、そっとしている

車を運転して近くの中華街に車を置いた後、通りで誕生日プレゼントでも買おうと思いつつ車を動かす

「ねぇ、プロデューサーさん」

後ろから甘ったるい声が響く、耳だけを傾けつつ何だい?と簡素な返事を返す

「もしプロデューサーさんが誕生日プレゼントを買おうとしてるなら……1つだけプレゼントを指定してもいいですかぁ?」

また心臓がドキッと不整脈めいた動きをする錯覚に囚われる、何で知っている?

いや、だけど私が露骨過ぎたのかもしれない、もうサプライズだ何だとも言い難いので、素直に白状してしまう

「あ、ははは、ば、バレちゃってたか……で、な、何がいいんだい?」

自動車内がじんわりとした熱気に包まれた気がした、いや、気のせいだろうか

「まゆは……プロデューサーさんが欲しいです」

後ろの少女がコチラを後写鏡越しに、コチラを苛む

どういう意味だ?カニバリズム?もしかしてお金?それとも幸子ちゃんのように下僕?

いや分からない、本当に勘弁して欲しい、私が何をしたというのか?

暫く深刻な顔で、中華街近くの道路を逸れパーキングエリアに取り敢えず入れてしまう

もはや脳内の地図など吹き飛んでしまっていた、果たしてどう回答したらいいものか?

悩んでいると後写鏡からまゆの姿は立ち消えて、自分の横のドアをスルリと開けると、スルリと身を躍らせ私の顔に手を当て

彼女は唇にそぅっと口吻をすると、またスルリとドアから出て仕舞った

私は狐につままれた心持ちで少し呆けた後、慌てて外のまゆを待たせていることに気が付き、飛び降りて何と言ったら良いのかも分からず中華街に並んで歩いてゆくのだった

私の唇はジンジンと熱を持ち、私の顔もきっと赤かっただろう

けれども彼女は何ともなさそうな、何時ものタレ目で私の隣を歩き続けるのだ

後々考えると、何だか負けたような気がした、そう何時ものように弄られたのだ

……だが、彼女の私が欲しいというのは、本心からなのだろうか?私はソレを切り出せずに隣を心持ち情けなく歩き続けた

そう思いつつ、中華料理店に入り少し何時もよりも高いコースを頼む、すると再び彼女の視線と私の視線が交差した

彼女は笑顔でコチラを見ると、私はやはり彼女から目を逸らしてしまう

もう一度視線を何とか戻そうとすると、彼女はじぃっと目を見つめていた

「ねぇ、プロデューサーさん……私、いつまでも待ちますから」

私はまた呆けてしまい、料理が来るまでの間何も言えなくなってしまうのだった

以上で終わりです

まゆに日常生活動作を管理してもらいたい

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