手品師「種も仕掛けもない財布があります」男(俺の財布…)(15)

手品師「これを見事消してごらんにいれましょう」

男「やめて」

手品師「スリーツーワン…はいっ!」

男「消えた…」

手品師「さあ、消えた財布がどこにあるかというと〜?」

男「かえせよ」

手品師「じゃじゃーん!男君のポケットに!」

男「…ほんとだすごい」

手品師「えっへん!」

男「でも中身返して?」

手品師「…ちっ」スッ

男「小銭も返せ」

手品師「さーてお次はコインマジック!」

男「そのコイン返せよ」

手品師「ここにある種も仕掛けもないコインがジャラジャラ!」ジャラジャラ

男「消すなよ?」

手品師「これを未開封のワイン瓶の中にワープさせます!」

男「出来れば俺の財布の中にお願いしたいんだけど」

手品師「ひーふーみー……はいっ!」ジャラン

男「数え方が古い」

手品師「どうです!見事コインはビンの中に!」

男「そのビンのなかの体積どうなってんだ」

手品師「そしてビンからあぶれたワインは男君の財布にワープしました!」

男「うわすごいお札がビショビショ」

手品師「えっへん!」

男「出来れば逆の方がよかった」

手品師「…文句ばっかりですねぇ」

男「俺の全所持金が無駄になってるからな」

手品師「ではお待ちかね、次は人体マジックです!」

手品師「ここに何の変哲もない、一人の女性がいます!」

女「こ、こんにちわ」

男「女さんじゃないか」

手品師「実はこの女性、男君にベタ惚れなんですが」

女「ちょっと!そんなアッサリばらさないでよ!」

男「マジですか」

女「あっ、うそうそ!嘘だからね!」

手品師「この女性の恋心を私にワープさせます!」

男「なにそれ」

女「だ、だから!別に私は男君の事…い、いや嫌いとかじゃないけど!」

手品師「いーろーはー……にいっ!」

男「無理があるだろそれ」

女「だから別に私は男君の事好きじゃ…アレ?」

男「ん?」

女「…なんで私、男君の事好きだったんだろう?アレ?」

手品師「えっへん!」

男「にわかには信じられんが」

手品師「凄いでしょ、男君?」

男「目に見えないからわからんな」

手品師「…では次に、この女ちゃんを消しまーす!」

女「えっ!?」

男「俺の財布にワープとかするなよ?」

手品師「大丈夫です!」

女「え、ホントに消えるの私?何も聞いてないんだけど」

手品師「いいから、この布の中に入って!」

女「えー、なんか怖いなぁ」

手品師「大丈夫大丈夫!」

手品師「それでは…アブラカダブラーハイッ!」バサァ

男「おお、すごいほんとに消えた」

手品師「えっへん!」

手品師「ではお次はー」

男「ちょっと待て」

手品師「はい?」

男「女さんは?」

手品師「やだなー、今目の前で消したじゃないですかぁ!」

男「いや、だから、どこにワープしたんだよ」

手品師「手品なんだからこのままの方が不思議でいいでしょ?」

男「でもなぁ、なんか心配だし」

手品師「そんなにあの女が気になるんですか?」

男「気になるっていうか、まあ」

手品師「……」

男「ん?」

手品師「では次はー…あるものを消してごらんにいれます!」

男「急に曖昧になったなオイ」

手品師「それでは男さん、協力お願いできますか?」

男「俺も消すのか?」

手品師「違いますよ、消すしか能のない手品師だとお思いですか?」

男「今のところそういうのしかやってないし」

手品師「まあある意味消すマジックですけど」

男「やっぱりか」

手品師「いやいや!男さんを消すとかじゃないですよ?」

男「信用できん」

手品師「じゃあほら、さっきの小銭お返ししますから!」ジャラジャラ

男「あれ?ワイン瓶の中じゃ?」

手品師「あれはもともと仕掛けてあったいわゆる『タネ』ですよ」

男「なんだそうだったか」

手品師「だから、男さん心配しないで協力してくださいってば!」

男「…まあいいけど」

手品師「ありがとうございます」

手品師「では次にお見せするのは消失マジック!」

男「見るの俺しかいないし、しかもタイトルが危険な匂い」

手品師「では男さん、これから男さんからあるものを消します!」

男「ちょっとまってマジで怖い」

手品師「ご安心ください!それにより男さんが困る事はありません!」

男「本当かよ」

手品師「大丈夫です!」

男「大丈夫って言葉が出るのが怖いというかなんというか」

手品師「いいから黙ってワンツースリー!」

男「不意打ちとは卑怯だぞ!」

手品師「……」

男「……え?」

手品師「はい、見事消えました!」

男「え?何が?」

手品師「え?消えましたよ?」

男「…何が?」

手品師「え?分かりませんか?」

男「…別に何も消えて無いみたいだけど」

手品師「いえいえ、確かに消えましたよ?」

男「もしかして財布……は、あるな」

手品師「そんなの消し飽きましたし」

男「なら何で最初にやったんだ」

手品師「まあ、得意マジックの一つというか」

男「まあいいや、結局失敗だったんじゃないか?何を消した?」

手品師「うーん、男さんが分からないって事はマジックとしては失敗ですよねぇ」

男「そうだな」

手品師「では失敗って事で!」

男「なんだそれ」

手品師「それでは気を取り直して、リクエストを受け付けましょう!」

手品師「さあ、リクエストございませんか!?」

男「んー」

手品師「例えば、誰かを出してほしいとか!」

男「え?出せるのか?消すしか出来ないと思ってた」

手品師「馬鹿にしないでください!うちは代々続く手品師ですからね」

男「由緒正しい割に威厳とか全然ないのな」

手品師「ほっといてください!それより、リクエスト!ほら早く!」

男「…じゃあハトとか出せるのか?」

手品師「ワンツーはい」バサバサバサバサバサバサ

男「うわなにそれ早いし多い」

手品師「えっへん!」

男「意外とやるじゃないか」

手品師「っ!!い、今素直に褒めて……?」

男「え、まあな」

手品師「……うれしいです」

手品師「さあ、やる気が出てきました!じゃんじゃん出しましょう!なんでもいいですよ!」

男「よし、じゃあ無茶を言ってみるか」

手品師「なんでもどうぞ!」

男「じゃあ、俺の好きな女優さん出してみてくれ」

手品師「……え?」

男「ん?だから、俺の好きな女優さんだよ」

手品師「……ちっ」

男「え?」

手品師「ああ、いえいえ!なんでもないですよ!」

男「まあそんなのは無理だろうけど」

手品師「何を言ってるんですか!できますよ!」

男「マジか」

手品師「歴代手品師の名に懸けて!」

男「なんだろう期待感が膨らんでいく」

手品師「ではさっそく!サインコサインタンジェント!!!」バッサァ

手品師「はいっ!」

女優「……え?ここは?」

男「うおぅ…」

手品師「さんにーいちはい!」バッサァ

男「あっおい何すんだ!」

手品師「確かに出しましたけど?」

男「でもすぐ消しただろ!」

手品師「そりゃあ男さんが好きな女優さんですからね」

男「なんだよそれ…くそう、せめて握手したかった…」

手品師「それは絶対だめですよ」

男「何でだよ!」

手品師「だって男さんに他の女に触れるなんて許せないていうか」ブツブツ

男「なんだって?」

手品師「え?いえいえ、別になんでもないです」

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