エレン「リィンバウム?」(351)

進撃×サモンナイトのクロスオーバーです。
ストーリーはサモ1準拠。
一部キャラ差し替え。
拙い文章。

なんか注意書きが多いけど、よければ読んでくれよな〜頼むよ〜(切実)


始まりは、突然だった。

訓練兵団の卒業祝いの席、いつもの様にジャンと意見をぶつけ合ったエレンは

熱くなりすぎた感情を冷ますために外へと出ていた。


エレン「……」

アルミン「エレン、さっきの夢の話って」

エレン「ああ、お前の受け売りだ。壁の内側じゃなく、外へ……」

アルミン「——— ボクは、調査兵団に入る!」

エレン「っ!? アルミン本気か!? お前は座学はトップなんだから、それを活かせよ!」

アルミン「……死んでも足でまといにはならない」

エレン「……」


ミカサ「私も調査兵団にする」

エレン「はっ!? お前は主席だろう! 憲兵団にしろよ!」

ミカサ「あなたが憲兵団に行くのなら、私も憲兵団に行こう。あなたが駐屯兵団に行くのなら、私もそうしよう」

ミカサ「エレンは私と一緒にいないと、早死するから」

エレン「———っ。頼んでねえよ、そんな事……」

ミカサ「もうこれ以上、家族を失いたくない」

エレン「……っ」



そんな会話を交わした後、二人と一旦別れた俺は真っ直ぐ兵舎へは戻らなかった。
小高い丘の上にある草原。
ここで考え事をするようになったのは、訓練兵になってからしばらく経ってからだった。




エレン(このまま俺は、調査兵団に入って巨人を殺しまくって……)

エレン(何故だろう。ずっとそればかりを胸に今日まで生きてきたってのに……)

エレン(本当にそれだけでいいのかと、最近ふと不安になる)

エレン(もしかしたら俺は、何か大切なものを見落とそうとしているんじゃないかって)

エレン(柄にもなく、そう悩んでいる)

エレン「あーーーっくそ! そんなもんあるわけねえだろ! 何悩んでるんだよ俺は!」

エレン「調査兵団に入って、巨人を殺して殺して殺しまくって、いつの日か奴らを全て駆逐する!」

エレン「それ以上に大切なことなんて、俺にはあるはずねえだろうが!」

エレン「それだけが、今俺が生きる意味みてえなモンだろ!」

エレン「くそっ、アホくせぇ……」


自分に言い聞かせるように、俺は叫んだ。
母さんを食い殺されたあの日から、俺は巨人への憎しみだけを原動力に生きてきた。
それに間違いなんてない。後悔なんてない。
ない、はずなのに———。







      ——— けて











エレン「はぁ、くだらねえこと悩んでないで、さっさと戻るか———って、ん?」


.






                       れか、 けて———











エレン「……誰だ? おい、誰かいるのか? 何言ってるんだ?」



どこからか、か細く弱々しい声が聞こえてくる。
だが、辺りを見回しても姿は見当たらない。
それに、その声は耳からではなくまるで頭の中に直接響いているような、そんな奇妙な声だった。





エレン「お、おい! 誰だよ! 何か用があるなら出てきて話せよ!」

俺がそう叫ぶと、草を踏みしめる音と共に見慣れた姿が目の前に姿を現した。

ミカサ「……エレン?」

アルミン「どうしたのエレン? 何かあったの?」

エレン「ミカサ、アルミン……。今の声は、お前らか?」

ミカサ「なんの事?」

アルミン「ボクらはエレンが中々戻ってこないから心配で探しに来て———」


.









        ——— このままだと、壊れてしまう











また聞こえた……!
今度はよりはっきりと。
そして間違いなく、この声の主は目の前にいる幼なじみ二人のものではなかった。



エレン「おい! お前は誰だ! 一体何の話なんだ!」

アルミン「え、エレン!?」

ミカサ「エレン落ち着いて。一体どうしたの?」

エレン「声だよ! お前らも聞こえてるだろ!? 助けてとか、壊れる、とか!」

ミカサ「……声?」

アルミン「ぼ、僕たちには、何も……」

どういう事だ?
この声は、俺にだけ聞こえているのか?

まさか幻聴か?

だが幻聴というにはやけに鮮明に頭の中に響いてくる。
じゃあ、幻聴ではないのだとしたら、この声は一体———?



そんな疑問をよそに、俺に語りかける声は、より一層大きくなっていく。


.










    (助けて……)










.

エレン「くそっ、頭がいてぇ……!」

アルミン「エレン、大丈夫? 顔色が悪いよ。一度医務室へ行ったほうがいいかも知れない」










(運命を止めて! この世界を助けて!!)











.


ミカサ「——— !? エレン!!」

エレン「う、うわあぁ!? な、なんだ!? お、俺の体から、光が!」

アルミン「エレン!?」



アルミンとミカサが咄嗟に俺に手をのばす。
俺もその手を取ろうとして——— 俺の手は、二人の手をすり抜けて空を切った。



アルミン「え、エレン……? か、体が、透けて……!」

エレン「な、何なんだよこれ!? か、体が、消えて……」

ミカサ「エレン!!!」

ミカサは俺の名を叫びながら駆け寄り、
消え行く体を抱きとめようと腕を広げ

——— その瞬間、俺の意識は暗転した。


.




              第0話 プロローグ
   




.


エレン「う……ん……」



真っ暗だった意識に光が射す。
一体どれほどの間、俺は暗闇にいたのだろうか。それすらも分からない。



エレン「一体なんだったんだ、今のは?」



とにかく状況を確認しようと体を起こす。どうやら手足は問題なく動くようだ。
それならばと、アルミンとミカサを探そうと周囲を見回そうと目を開いて……。



———愕然とした。


エレン「な、なんだよ、これ……!?」



俺が立っているのは、先程までいた草原ではなく……。
まるで何か大きな爆発でも起きた跡のような、巨大な穴の底だった。



エレン「なんで、こんな所に……?」

まさか夢か何かと思い、頬をつねる。

痛い。


どうやら夢ではないようだ。

——— 夢では、ない?

突然体が光に包まれ、急に気を失って、気がついたら自分は穴の底。
おまけに辺りを見回すと一面の荒野。

これが、夢じゃないってのか?



エレン「そうだ! ミカサとアルミンは!?」


つい先程まで一緒にいた二人を探そうともう一度周りを見回す。
しかし、今自分がいる大きな穴の底には幼馴染の二人どころか、人っ子一人いはしなかった。


エレン「くそ! ……ここにいても仕方がねぇ、一旦上に登るしかねえか」

とりあえず行動すると決断して、穴底から空を見上げる。
穴は恐ろしく深いようで、いつもよりも空が遠く感じた。


エレン「こりゃ数メートルはあるな。立体機動でもあれば楽勝なんだが」


残念な事に、立体機動は身につけてはいない。
卒業祝いの席を抜け出してからの事だったので当然のことなのだが。


エレン「しょうがねぇ、素手でよじ登るしかねえか」


立体機動はなくとも、この程度の壁ならよじ登るのも不可能ではなさそうだ。
まさかこんなにも早く、厳しい訓練の経験が役に立つとは。そう感心仕掛けたその時だった。



エレン「ん? なんだこりゃ?」


足元に、キラリと光る綺麗な石を見つけた。
それも1個や2個ではない。

まるで無造作にばらまいたように、足元には色とりどりの綺麗な石が散らばっていた。


エレン「なんだこの石?」


俺は壁へと向かう足を一旦止め、その場に落ちている石を拾い上げた。

石は美しく、澄んだ緑色をしていた。
実物は見たことはないが、これが宝石というやつだろうか?
一度アルミンの本で見たことがある。たしかただの石のくせに目玉が飛び出るほど高価な石だ。
こんな物を買うくらいなら肉を買ったほうがよっぽどマシだと、二人で笑いあった覚えがある。

エレン「にしても、これは……」



そんな高価なものが、こんな無造作に捨ててある様に散らばっているのは少しおかしい。
いくら興味のない俺でも、そんな粗末な真似はできないだろう。


エレン「……まぁ、いいか」


これがなんであれ、今の俺には関係はなさそうだ。
とりあえず何かの足しになるかもしれないと思い、いくつかジャケットのポッケにしまい俺は再び壁へ向き合った。

エレン「さてと……!」


ともかく今は現状を確認したい。
この穴を登れば何かわかるかも知れない。そんな小さな期待を胸に、俺は硬い岩の壁に手をかけ、登りだした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━━━━━━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄



エレン「な、何なんだこれ!?」


ようやく壁を登りきった俺を待っていたのは、さらなる混乱だった。
周囲は変わらず一面の荒野。
だがその光景には、先程まで見当たらなかった無数の人間が……横たわっていた。


エレン「おい、大丈夫か!?」


急いで近くに駆け寄り声をかけるが、返事はない。

——— 死んでいる。


エレン「一体何が……。まさか!?」



巨人が攻めてきたのかと思い、辺りを警戒する。
だが辺りはただただ静かだった。風の音ですらやかましく思える程の静寂。
仮に巨人が近づいてこようものならば、例え数キロ離れていても足音が聞こえるのではないかと思ってしまうほどだ。


エレン「巨人、じゃねえみてえだな」


大体巨人の仕業なら、こうして死体が残っているはずがない。
奴らは貪るように浅ましく、人の体を喰らうからだ。

俺は奴らの喰い汚さを、誰よりもよく知っていた。


エレン「じゃあ、一体何だってんだ……?」

巨人のせいでなければ、何故ここにいる連中はこんなにも無残に死んでいるんだ?
まるで打ち捨てられたように、死体はそこかしこに転がっている。
俺はある意味、巨人に食われる以上に無残な死に様に感じて……

エレン「何だってんだよ、くそぉ!」

わけもわからず、俺はその場から離れようと走り出した。



駆け抜けていく横目には、相変わらず死体の列。
光を失ったその目は、何故か俺を責め立てているような、そんな錯覚がして。
俺は必死に荒野を駆け抜けた。

それからどれくらい走っただろうか。
やがて死体も見当たらなくなった頃。わずかに大地に緑が見えるようになった辺りで、俺は足を止めた。


エレン「はぁ、はぁ……。あれは、街?」


眼前には、街、のようなものが見えた。
正確には廃墟と言ったほうが正しいかも知れない。
そう思える程に、その街に並ぶ家々は痛み朽ちていた。

エレン「けど、人の気配はあるな……」



建物こそ人の住めるような環境ではないように感じるが、そこかしこにはゴミや生活痕が見受けられる。
この退廃的な雰囲気は、話に聞いた地下街を思い出させた。


エレン「アルミンの話だと、たしか地下街がこんな感じだって言ってたな。スラム、って言うんだったっけ?」


だがここは当然その地下街ではない。
かといって、訓練兵団の付近にこんな場所があるなんてのも聞いたことがない。


エレン「全くわけがわからねえ。なんだってこんな事に……」


もう一度、現状を理解しようと思考を巡らせ、ここに来る寸前に聞いたあの声を思い出した。



もう一度、現状を理解しようと思考を巡らせ、ここに来る寸前に聞いたあの声を思い出した。


エレン「しかしあの声……。一体なんだったんだ? 助けて、とか言ってたが」

エレン「さっき死んでいた連中の誰かって事か? ……いや、なんか違う気がするな」

エレン「あーくそ! 俺はアルミンじゃねえんだ! 悩んでも仕方ねえ! とにかく誰か人を探すぞ!」


考え込んでも俺の頭ではとてもじゃないが、現状を理解できそうにもない。
とにかくまずは誰かに話を聞かなくては。そう思って辺りを見回そうとしたその時———!


エレン「……っ! 誰だ!」


背後から強烈な敵意を感じ、振り返る!
すると、ガタンという物音と共に一人の男が物陰から姿を現した。


???1「へぇ、いい勘してるじゃねえか、あんた?」


少し小柄な、ふてぶてしい笑みを浮かべた男がそう言うと、もう一人。
今度はライナーを思い出すような、筋骨隆々とした、なぜか上半身裸のガタイのいい男が現れた。


???2「ついでに、ワシらの目的もわかってくれると、手間が省けていいんだがなあ」

???1「有り金全部、俺たちに渡すんだ。そうすりゃ命だけは助けてやる」


まるでマニュアルにでも乗っているかのような脅し文句で、二人は俺に迫ってきた。



エレン「追い剥ぎってやつか……」


遭遇したのは初めてだが、そういった輩がいる事は知識で知っていた。
他人を脅し、暴力での略奪で生計を立てる糞野郎……。家畜以下の連中だ。
こういう連中は、本来なら駐屯兵団が取り締まるはずだっていうのに、その影はどこにも見当たらない。

ならば———。


エレン「……」


息を整え、目の前の糞どもに体を向け直し、構えを取る。
やる事は一つ。兵士として、この連中をぶちのめしこの場を収める———!


???2「ぬ……」


筋肉男の方は、何かを感じたように表情を変え、ほんの少し距離をとる。
だが、小柄な男の方は先手必勝とばかりに懐に手をやり
忍ばせておいたのだろう小さな短刀を、俺にめがけて投げつけてきた!


エレン「——— !」


予想外の攻撃に身を捻り、紙一重で短刀を躱す。
短刀は俺の胸ポケットを掠め背後の壁に鋭く突き刺さった。


エレン(こいつら、ただのチンピラじゃねえな……!)


構えや足運びこそ雑だが、喧嘩慣れしている動きだと感じた。
戦って勝てない相手では無さそうだが、油断していると寝首をかかれる……!
そう自分に戒めた俺と同時に、俺は二人の顔色が変わっていくのに気がついた。


???1「てめえ、その石は……!」

エレン「石?」


どうやら二人は、さっきの短刀で穴のあいた胸ポケットからこぼれ落ちた石に反応しているようだった。


エレン「この石がどうかしたのか?」

???2「お前さん、もしかして『召喚士』なのか?」

エレン「しょうかん、し?」

???1「とぼけるんじゃねえ! そのサモナイト石は、てめえらが化物を呼ぶための道具じゃねえか!」

エレン「はぁ? おい、急に何の話をしてんだよ?」

???2「お前さん運が悪いぜ。こいつは召喚士ってのが大嫌いなんだよ」

エレン「はぁ!? いや、だから訳がわかんねえって! 一体何の話をしてんだよてめえら!」

???1「うるせぇ! 日頃の恨み、たっぷり返させてもらうぜ!」


そういって小柄な男はナイフを構え、猛スピードで突進してくる!


エレン「……ふっ!」


反射的に、俺はナイフを持つ手を掴み、流れるように相手の胸に手を当てそのまま背負うように———
地面へと叩きつけた!


???1「ぐはっ!」


訓練で嫌というほど聞いた接地音を耳にし、相手がろくに受身が取れていないことを確認すると
迷うことなく俺はもう一人の方へと駆けていった!


???2「ぬぅ!?」


俺に掴みかかろうと、力任せに振りかぶる男の懐に瞬時に潜り込み、片腕で視界を塞ぎ軸足を鋭く蹴り飛ばす!


???2「うおぉ!?」


バランスを失った男はズシンと大きな音を響かせ、その場に転がり込んだ。
だがまだ浅い! 俺は止めとばかりに拳を振り上げ———!



「そこまでにしてもらえないか」


振りおろそうとしたその瞬間、穏やかな声と共に俺の腕は、誰かの手によって捉えられた。


エレン「——— しまった!」


敵は二人だけだと完全に油断していた!
だがまだ負けてはいない。腕を決められた時に脱出する方法も習得している。
俺は取られた腕を捻り、そのまま掴んでいる相手を投げ飛ばそうとして……


「っ! 待ってくれ、私はこの場を収めに来ただけだ」


予想外の踏ん張りと敵意のない声に驚き、わずかに力を抜いて俺の手を掴んでいる相手に向き直った。



???1「れ、レイド……」


どうやら男はこの二人の知り合いのようだ。
だが、レイドと呼ばれた男はどうにも先程の二人には似つかわしくなかった。
整えられた髪型に軽鎧、上品さを感じる立ち姿。まるで憲兵団にでもいそうだと思わんばかりの、典型的な兵士の様相だった。


レイド「すまない、私の友人が無礼を働いてしまったようだな」

エレン「あんたは……」

レイド「ああ、すまない。私の名はレイド。そこにいるガゼルとエドスの友人だ」

ガゼル「おい、なに呑気に話してんだよ! こいつは俺達を……!」


ガゼルと呼ばれた小柄な男は、自分から喧嘩を仕掛けてきたにも関わらず、俺が悪いように激昂する。
なんだこいつは、ジャンよりも質が悪いぞ。



レイド「先に手を出したのはお前たちだ。彼は悪くない」

ガゼル「ぅぐ、見てたのかよ……」

レイド「まあ、な……」


どうやらガゼルとかいう奴と違って、こちらの男は話がわかるようだ。
だが……。


エレン「見てたんなら止めろよ」

レイド「……すまん、君がその石を見せなければ割って入るつもりだったのだが」

エレン「石? ……またこいつの事か」


理由はわからないが、どうやら随分と厄介なものを拾ってしまったようだ。
もう二度と拾い物はしねえ。



レイド「その様子だと知らないようだな。いや、本当にすまなかった。ところで見ない顔のようだが、君は———」


なにやら一人で納得し、勝手に謝り突然質問を投げかけてくる。
文句の一つも言いたいところだが、このままでは話が進まないと思い、とりあえずはおとなしく答えることにした。


エレン「104期訓練兵団所属、エレン・イェーガーだ」

レイド「くんれん、へいだん?」

ガゼル「なんだそりゃ?」

エドス「もしかして、城の兵士かなんかか? いてて……」

転がっていた筋肉男、———エドスというらしい。も起き上がり3人で要領の得ないことを言い出す。

エレン「いや、お前ら訓練兵団を知らねえわけじゃねえだろ!?」



ガゼル「知ってるか、エドス?」

エドス「さてなぁ、聞いたことはないが……」

エレン「な、なら調査兵団や憲兵団は……。この街にも駐屯兵団はいるだろ!?」

エドス「ちゅうとん……いや、すまんが要領を得んな」

エレン「あ、ありえねえ……この街には駐屯兵団すらいねえってのか? なら壁はどうしてんだよ! 巨人は……」

ガゼル「壁? 巨人? お前本当に何の話をしてるんだ」

レイド「ふむ、そういうことか……」

エドス「レイド、何かわかったのか?」

レイド「まぁ、なんとなくだがね。えーと、エレンくんといったかな?」

エレン「あ、あぁ」

レイド「ついてきなさい。君の置かれている状況は少しぐらいなら説明してあげられると思う」


レイドはそう言って俺に背中を向けおもむろに歩き出した。
……正直な話怪しいことこの上ないが、今は何の手がかりもない。
どうやら、ついて行く以外に選択肢は無さそうだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━━━━━━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄



案内されたのは、周囲と比べて比較的綺麗な大きな家だった。
3人がただいまと言いながら入っていくのを見るに、どうやらこいつらのアジトのようだが……
内装はならず者のアジトというには似つかわしくなく、綺麗に整頓され掃除も行き届いていた。


奇妙に思いながらも3人についていくと、大きな暖炉のある広間らしきところに通され、
大きなテーブルに面した椅子に着席を促された。


レイド「ここが私たちが借りているねぐらだ。元は孤児院だったんだがな……」

エドス「潰れてほったらかしになっているところを、まぁ無断で使っているというわけだ」

ガゼル「しょうがねえだろ。院長たちがとっつかまって行方不明なんだから」

エレン「なっ———」


管理する人間がいなくなった孤児院を、こいつらが勝手に?
ってことは、それまで住んでた奴らは———


エレン「てめえら、まさかここに住んでいた子供達を追い出して……!」

ガゼル「あぁ? てめえにゃ関係ねえよ」

エレン「てめえ……!」



義憤に駆られ、もう一度ぶっ飛ばしてやろうと掴みかかろうとしたその時。
俺の足元を小さな影が3つ、駆け抜けていった。


男の子「返せよ! オイラのだぞ!」

女の子1「ベーっだ! あたしのものだよー」

女の子2「ま、まってぇ……」

エレン「あ……こど、も……?」

ガゼル「おい、アルバ、フィズ、ラミ! あっちへ行ってろ!」

ラミ「……うぅ」


ガゼルの大声に驚いたのだろうか
ラミと呼ばれた金髪の少女は、腕に抱いた大きなぬいぐるみを抱きしめ、今にも泣き出さんばかりに目に涙を溜め


ラミ「う、うわああぁぁああぁあん!」


思いっきり大声で泣き出してしまった。



エレン「お、おい! なに泣かせちゃってんだよ!」

ガゼル「う、うるせぇな! あ、あぁ、こら、泣くな! 泣くんじゃねえ!」

先程の悪態ついた様子はどこへやら。
大声で泣きじゃくる子供にあたふたしながらなんとか泣き止むようにと、ガゼルは慌てて声をかける。
だが、それをさらに怒られたと勘違いしたのか……

ラミ「うわああぁああぁぁぁん!!」

状況は更に悪化。より大声で涙を溢れさせながらラミは泣きじゃくった。

???「どうしたの、ラミ?」

すると、その騒ぎを聞きつけたのか、部屋の向こうから一人の少女が現れた。

ラミ「ひっく、ひっく……」

???「よしよし、もう大丈夫だからね」


泣きじゃくる女の子を、優しい笑顔で抱きしめ頭をぽんぽんと撫でる。
ラミはどこか安心したような表情で、そのまま少女に抱きついた。

……その姿を見て俺は一瞬、巨人に食われた母さんを、思い出した気がした。



???「がーぜーるー! またあんたが泣かしたんでしょ!」

ガゼル「なんでそうなるんだよリプレ! 俺はただこいつらがうるさかったから……」

リプレ「ふーん? 生意気にも口答えなんかしちゃうんだ?」

リプレ「それはつまり、今晩のご飯はいらないってことね?」

ガゼル「ちょ、ちょっとまて」リプレ「ごめんなさいは?」

ガゼル「ちくしょー……」

リプレ「ごめんなさいは?」

ガゼル「……ごめんなさい」

リプレ「よろしい♪」


そう言って、リプレと呼ばれた少女はニコリと笑った。
どうやら、この家ではあのリプレという少女が一番偉いようだ。
先程まで憎たらしいほどチンピラだったガゼルが、可哀想に思えるほどにしゅんとしてしまっている。

——— なんだか、ますます母さんを彷彿とする光景だった。



エドス「あ〜、リプレ。取り込み中のとこすまんが……」

レイド「ここにお客さんがいることに、そろそろ気づいて欲しいんだが」

レイドがそう言うと、リプレはハッとしたように、こちらへ向き直った。

エレン「あ、ど、どうも……」

リプレ「え? ……って、きゃあ!? ご、ごめんなさい!」

リプレ「みっともないところをお見せしちゃって! すぐにお茶を淹れてきますから!」

そう言うと、今度はガゼルに向き直り

リプレ「ほら、あんたも手伝うのよ!」

ガゼル「な、なんで俺が?」

リプレ「いいから来るの!」


たじろぐガゼルの手を取って、リプレは引きずりながら奥の方へと引っ込んでいった。
……個人的には、さっきのやりとりよりももっと気にするべきところがある気がしないでもない。
上半身裸とか上半身裸とか上半身裸筋肉男とか。



レイド「気を悪くしないでくれないか。何しろ、お客が来るなんてことは、めったにないんでね」


なるほど、だからエドスって男は上半身裸でも問題がないのか。
——— いや、そんなはずはないか。第一外を歩いてたし。
……あいつについて突っ込むのはやめとこう。話が終わらない気がする。


レイド「さて、君はまず、ここがどこか知りたいだろう?」


どうやらようやく本題に入れるようだ。
しかし、奇妙な質問だと思った。まるでここが、俺の知る由もない場所だとでも言いたげな質問だ。


エレン「……まぁ、そりゃそうなんだが。ウォールローゼのどこか、じゃないのか?」


半ば違うと確信しつつも、わずかに期待を込めて俺はそう返した。



レイド「ウォールローゼ、というものを私は聞いたことがない」

エレン「そんな、馬鹿な……」


やっぱりなと、そう思いながらも俺は愕然とした。
壁の中に住む者にとって、その名を知らないはずがないのだから。
と、いう事は今俺がいるのは———。


エレン「まさか、壁の外、ですか?」


壁の外にも街があると、どこかでそんな噂を聞いたことがある。



レイド「……【リィンバウム】この世界はそう呼ばれている」

レイド「そしてここは、リィンバウムの中央北にある【サイジェント】という街だ。聞き覚えはあるかい?」


レイドの口から出たのは、全く聞き覚えのない単語と、奇妙な回答だった。
全く意味がわからない。まるでコニーになった気分だ。
そんなもんだからつい、俺は答えの代りに気の抜けた声を出してしまった。


エレン「は……?」

レイド「その様子だと、やはりな」

レイドは何やら得心いった様子で、一人頷いた。

エドス「おいレイド、どうもワシには、話がよくわからんのだが?」


そしてどうやら、話を理解していないのは俺だけではないようだ。
ちょっとだけ安心してしまう。
やっぱりコニーもこんな気分なんだろうかと、状況もわきまえずについ考えてしまう。



レイド「ああ、すまない。きちんと説明しよう」

レイド「君は多分、別の世界から『召喚術』で呼び出されてしまったんだ」

エレン「しょうかんじゅつ……?」


そういえば、さっきの喧嘩の時も、ガゼルがそんな事を言っていた気がする。


レイド「君がいた世界ではどうかは知らないが、リィンバウムにはそういう魔法があるんだ」

レイド「【召喚師】と呼ばれている人間だけが、それを使うことができる」

エドス「怪しげな格好をしている、偉そうな連中さ」


……怪しげな格好というのならお前もまけてねえよ!
と突っ込みたくなったが、やめておく。



レイド「この世界に来たとき、君の近くにそういった連中はいなかったか?」

エレン「それは……」


参った。正直なところもう頭が限界な気がしてきた。
だがここで思考を停止しても現実が変わるわけでもない。
俺は少しでも現状を理解するため、ここに来た経緯をその状況について説明した。


エドス「そいつはひどい。ひとり残らず死んじまっていたとはなぁ」

レイド「そこにいた者たちが、きっと君を呼ぼうとした召喚師だろうな」

レイド「おそらく儀式の途中で何かが起きて、そんな風になってしまったのだろう」

俺を、呼ぼうとして……? ってことはつまり……。

エレン「そいつらが死んじまったのは、俺のせいってこと、か?」


勝手に呼び出しやがってという怒りはあるが、俺のせいであんな惨状になってしまったのだとしたら……。



エドス「いや、それは少し考えすぎだと思うぞ」

エドス「お前さんが目を覚ました時には、そいつらはもう死んじまっていたんだろう?」


俺が視線を下げると、すかさずエドスはそう言ってくれた。
どうやら見た目の厳つさに反して、優しい性格のようだ。
まるでライナーみたいだ、と俺は思った。……怪しい服装(?)さえ除けばだが。


レイド「エドスの言うとおりだ。私もあまり、気にしないほうがいいと思う」

レイド「ともかく、今夜はここに泊まっていくといい。これからどうするかは、休んでから考えなさい」

エレン「……はい」


遠慮もせずに、俺はそう返事をした。
正直に言ってもう色々と限界だった。体力的にも、精神的にも。
召喚術? リィンバウム? なんなんだそれは! 全くわけわかんねえよ!


正直言って、もうそう叫び出したい気分だった。
だが、喚いたところで状況は変わらない。


この世界は俺が今までいた世界とは全くの別物で……。
召喚術によって俺はリィンバウムに呼び出され、今ここにいる。
他の何がわからなくても、これだけは理解しなくてはいけないのだろう。



けど、それなら、俺は帰れるのか?
アルミンもミカサも、この空の下を探しても、どこにもいない……。
もしかしたらもう、あの二人には会えないんじゃないか?


そんな情けない考えが、次から次へと湧き出してくる。


そんな弱さを、俺は疲れのせいだと自分を誤魔化して……
そのまま溢れる涙をこらえ、目を固くつむりながら眠りに就いた……。

今回の投下は以上です。

ちょっと文章減らして投下してみる。
文章下手だからね、しょうがないね



エレン、エレン起きて……

エレン「ん……」

ミカサ「エレン、おはよう」

エレン「あ……ミカサ、か」

ミカサ「? どうかしたの、エレン」

エレン「あ、ああ。いや、ちょっと妙な夢を見ちまってよ。」

ミカサ「妙な夢?」

エレン「なんか全く知らない場所で、お前とアルミンとも離れ離れになっちまう夢、かな」

ミカサ「……大丈夫。私たちがあなたのそばからいなくなる事は、絶対にない」

アルミン「エレン、ミカサ! もう訓練が始まっちゃうよ!」

ミカサ「行こう、アルミンが待ってる」

エレン「あ、ああ……!」


・・・
・・


.




        〜第1話 最初の戦い〜






.


ガバッ!

エレン「………」

エレン「……夢、かよ」

エレン「くそ、たった一日あいつらと会えなかっただけであんな夢を見るなんて」

エレン「我ながらどうかしてるぜ……」

エレン(とはいえ、あいつらがいなくて心細い感じがあるのは確かだ)

エレン(突然知らねえねえ場所に呼び出されて……)

エレン(おまけにリィンバウムだの召喚師だのと、訳の分からねえ事ばかり)

エレン(結局、頭がいっぱいいっぱいで昨夜はろくに眠れなかったしよ)

エレン「……ともかく、何とかして元の世界に戻る方法を探さなくちゃな」



コンコン

リプレ「リプレですけどー。エレンさん、起きてますか?」

エレン「あ、はい!」

ガチャ

リプレ「おはようエレンさん。朝食の用意が出来たから呼びに来たんだけど……」

エレン「おはよう、ございます。その、朝食って、俺の?」

リプレ「? 他に誰がいるの」

エレン「だって、そこまでお世話になるわけには……」

リプレ「ああ、遠慮しているのね。大丈夫よ、困ったときはお互い様なんだから」

エレン「いや、でも———」グゥウゥゥゥ…

エレン「う……」///

リプレ「ふふ、体は正直ね♪ 昨日の広間、わかるかな? もうエレンさんの分も用意してるからちゃんと来てね?」



エレン「わ、分かりました……って、そうだ、リプレさん!」

リプレ「ん? なぁに?」

エレン「そのー、俺のことは、エレンでいいですよ。あまりさん付けで呼ばれたりするの、慣れてないですし」

リプレ「ほんと? それじゃあ私の事も、リプレでいいわよ、エレン」

エレン「は、はい!」

リプレ「あと、そんなに畏まらなくていいからね? それじゃ先に行ってるよ」 パタン

エレン「………」

エレン(昨日もちょっと思ったけど、なんだか母さんみたいな人だな、リプレさん——— じゃなくて、リプレって)


・・・
・・



〜広間〜

エレン「ごちそうさまでした!」

レイド・エドス・ガゼル「ごちそうさま」

子供達「ごちそーさまー!」

リプレ「お粗末さま。お口にあったかどうかちょっと不安だけど……」

エレン「口に合うだなんてそんな! めっちゃ美味かったですよ!」

ガゼル「当たり前だよなぁ? 客の身分で出された飯に文句なんて言ったらぶっ飛ばしてるところだぜ」

エドス「おい、ガゼル……」

リプレ「ガゼル! あなたまたそんな言い方……! ごめんねエレン。こいつこんな奴だから」

ガゼル「けっ……。もういい、薪割り行ってくる。ごちそうさん」



リプレ「もう、ガゼルったら。エレンもごめんね? ガゼルの事もそうだけど、食材も大したもの出せなくて」

エドス「異世界の人間となると、食文化も大きく違うだろうしなぁ。その辺りは大丈夫かのう?」

エレン「あぁ、まあ。特に違いはないと思う。むしろ向こうでの食事よりも豪華だったかもしれない」

エレン(ベーコンなんて食ったのいつぶりだろうなあ……。訓練兵の食事なんてパンとスープと芋が殆どだったし)

エドス「ほう、そいつぁ意外だな」

レイド「今度、エレン君の世界についても聞いてみたいところだな。さて、私もそろそろ行くとしよう」

エドス「おう、それじゃあワシも出るとするか!」

リプレ「二人とも、いってらっしゃい」

フィズ「いってらっしゃーい」

ラミ「気をつけて……ね」

エレン「リプレ、二人はどこへ?」



リプレ「お仕事よ。エドスは石切り場のお手伝い。レイドは剣の先生をしているの」

アルバ「レイドはすっげえ強い剣士なんだぜ! 俺も剣術を習ってるんだ!」

エレン「って事は、もう巨人ももう何匹も討伐してたりするのか?」

エレン(そんなに強いなら、こっちの世界での巨人の倒し方も学んでみてもいいかもしれねえな)

アルバ「……? きょじん?」
 
フィズ「なにそれ? どんな魔物?」

エレン「は? お前ら、巨人を知らねえのか!?」

ラミ「……うん」

エレン「お、驚いた。もしかしてこの世界には巨人がいねえのか!?」

リプレ「魔物なら街の外に行けばいるけど……。エレンの言う巨人っていうのはどんな生き物なの?」

エレン「あいつらは……」


俺はかいつまんで、巨人についての知識を4人に話してみた。
人型の巨大な化物だということ。殆ど不死身の生き物だということ。そして、奴らが人を喰らうという事を。



アルバ「す、すげー。そんな化物がいるんだ……! レイド兄ちゃんなら勝てるかな?」

ラミ「……ひぅ」

エレン「わ、わりぃ、怖がらせちまったか」

リプレ「エレンは、とても辛い経験をしてきたんだね」

エレン「え?」

リプレ「巨人のお話をしている時のエレン、なんだかちょっと辛そうだったから」

エレン「辛そう……?」

エレン(そんな風に見えてたのか? 俺としては普通に話していたつもりだったんだが……)

フィズ「なんにせよ、こっちにそんなのがいなくてよかったわ」

ラニ「……」コクリ



リプレ「ほーら、3人ともちゃんとお片付けをしないと巨人に食べられちゃうわよ〜」

アルバ「うぅ! お、俺ちゃんと片付けできるもん!」

フィズ「わ、私だって! ちょ、ちょっと待ちなさいよアルバー!」

ラミ「……ま、まって。私も、いっしょに」

リプレ「ほらほら、走ったらお皿落としちゃうわよ。あ、エレンの食器も片付けちゃうね?」

エレン「あ、俺も手伝いますよ」

リプレ「いいのいいの。あなたはお客さんなんだから」

エレン「でも……」

リプレ「それに、これからの事を考える時間も必要でしょ?」

エレン「——— これからの事、か」

エレン(確かに。一刻も早く元の世界に変える方法を探さなくちゃいけねえな)




リプレ「何かわからない事があったら、遠慮しないで聞けばいいよ」

リプレ「私じゃあんまり力にはなれないとは思うけど……」

エレン「そんな、すげえ助かってます!」

リプレ「本当? それならいいんだけど……」

リプレ「そうだ! 一応言っておくけど、ガゼルのやつには近づかない方がいいかもね」

エレン「あぁ……」

エレン(よく分からねえけど、あいつやたらと突っかかってくるしなぁ。ったく、ジャンかっつーの)

リプレ「それから、絶対に一人で外に出たりしたらだめよ? 迷子になっちゃったりしたら大変なんだから」

エレン「だ、大丈夫ですよ!」

エレン(なんだか子供扱いされてるみたいで恥ずかしいな……)


・・・
・・



〜廊下〜


エレン「さて、どうしたもんかな」

エレン(元の世界へ帰る方法を探すって言っても、どこから手をつければいいからさっぱりだからな)

エレン(こんな時にアルミンがいてくれれば、きっといい考えを……)

エレン(———って、ダメだダメだ! 今あいつらはいないんだ。いつまでも頼ってないで、自分の力でなんとかしなきゃな)

エレン(……ん?)


外から物音が聞こえてくる。
窓から覗いてみると、ガゼルが額に汗を浮かべ薪割りをしていた。


エレン(ガゼル、か。リプレはああ言っていたけれど……)

エレン(いつまでも召喚師とかいうのと勘違いされて突っかかられてたんじゃ、こっちもいい迷惑だ)

エレン(ちょっと話して、誤解だけでも解いておくか)


・・・
・・



〜庭〜


ガゼル「ふっ! パカン! ……せいっ! パカン!」

エレン「……よ、よぉ」

ガゼル「あぁ? ……ちっ」


ガゼルはちらりと俺の方を一瞥すると、まるで不愉快なものでも見たかのように顔をしかめ……
舌打ちをしながら薪割りの作業へ戻りやがった。


エレン(な、なんだよこいつ……! 人がこうしてわざわざ話しかけてきてるっつーのに!)

エレン「あのよ、何か勘違いしているみたいだけどな……」

エレン「俺はお前の言う召喚師とかいうのとは全くの無関係だからな」



ガゼル「……」

エレン「レイドの話だと、俺はその召喚師に勝手に呼びつけられたそうなんだ」

ガゼル「………」

エレン「だからよ、なんつーか……俺も迷惑被ってるんだよ、その召喚師って奴によ」

ガゼル「…………」

エレン(こ、この野郎……さっきからあからさまに無視してやがる!)

エレン「おい! 聞いてんのかよ!」

ガゼル「あー! うるせぇなあっ! お前の事情なんか俺には興味ねえよ!」

エレン「はぁ!?」

エレン(か、勝手なこと言いやがって! 始めに喧嘩売ってきたのはどっちだってんだよ!)

エレン(くそ! こうなったら下手に出るのはもうやめだ!)



エレン「ふざけんなよ! こっちはお前の勘違いで追い剥ぎされかけたんだぞ!」

ガゼル「あぁ!?」

エレン「こっちを悪者扱いする前に、そっちが謝るのが先だろうが!」

ガゼル「ほぉ、言ってくれるじゃねえか召喚師さんよぉ!」

エレン「だから、俺は召喚師じゃねえっつってんだろ!」

ガゼル「じゃあこの胸ポケットに入れてたサモナイト石は何なんだよ!?」 ガシ!

エレン「離せよ! 破けちゃうだろうが!」

ガゼル「もう破けてんだろうが!」

エレン「お前が破いたんだろ!」

ガゼル「ならもっと破いてやろうか!? ああ!?」 ガシィ!

エレン「だから離せよ! もっと破けちゃうだろうが!」

ガゼル「うるせぇ! 服なんてどうでもいいんだよ! 」



ガゼル「大体、召喚師じゃねえって言うんなら、そのサモナイト石はどこで手に入れたんだよ!」

エレン「拾ったんだよ!」

ガゼル「拾っただぁ? 嘘つくならもっとマシな嘘をつきやがれ!」

エレン「嘘じゃねえよ!」

ガゼウ「はっ! どこの誰とも分からねえお前を信用しろってか? ムシのいい話だなおい」

エレン(っ! この野郎! いい加減もう限界だ!)



エレン「——— ああそうかよ。お前の言いたいことはよくわかったよ」

ガゼル「はぁ?」

エレン「確かにここの人達はお前以外親切で、俺もそれに甘えちまってたみたいだ」

エレン「迷惑かけて悪かったよ。お望みどおり、すぐに出ていくさ」

ガゼル「……」

エレン(先行きは不安だが、ここにいていつまでもこいつに喧嘩をふっかけられてたら身が持ちやしねえ!)

エレン(リプレにお礼だけ言って、さっさとここから———)



ガゼル「……待てよ」

エレン「なんだよ」

ガゼル「それで、お前ここを出てどうするつもりだ」

エレン「そりゃあ、元いた世界に帰るに決まってるだろ」

ガゼル「どうやってだよ。アテはあんのかよ?」

エレン「それは……あるわけねえだろうが……」

ガゼル「だと思ったぜ。それでよく出て行くなんて言えるな」

エレン「なんだよ、何が言いてえんだよ」

ガゼル「要するにだ。俺が言いたかったのは、恩知らずな奴は許せねえって事だ」

ガゼル「お前が何者だろうと、レイドやリプレに感謝する気持ちがあるって言うんなら……」

ガゼル「別に、今すぐ出て行けとは言わねえよ」



エレン「……」

ガゼル「勘違いするなよ。俺はお前のことをこれっぽっちも信用しちゃいねえんだからな」

ガゼル「仲間の親切を裏切るような真似をしたら、ただじゃおかねえからな」

エレン「……そんな事するわけねえだろ」

ガゼル「けっ、それなら恩返しの方法でも考えるんだな」

ガゼル(ふん、まぁそこまで悪い奴じゃあ……ないわけでもねえのかもしれねえな)

エレン「ああ、そうさせてもらうさ」

エレン(ったく、めんどくせえ奴だな……)

エレン(けどまぁ、こいつも仲間思いなだけで、悪い奴ではない……のか?)



ガゼル「なんだよ? 薪割りの邪魔になるからさっさと行けよ。穀潰し」

エレン「——— ! ああ、そうさせてもらうぜ。この追い剥ぎ野郎!」

ガゼル「あんだとぉ!?」

エレン「なんだよ!?」

エレン・ガゼル(やっぱコイツはムカつく……!)


・・・
・・


今日はここまでです。
続きは明日の同じ頃にでも



〜廊下〜


エレン「くそっ、あいつのせいで余計な時間を使っちまった」

エレン「しかしどこにでもいるんだな。ああいうジャンみてえな奴」

フィズ「あ、お兄ちゃんだー」

レミ「……」

アルバ「こんなとこで何やってるんだ?」

エレン「お前らは……フィズとラミと、アルバだったか?」

フィズ「せーいかーい」

アルバ「なあなあ兄ちゃん、何もすることがないなら俺達と遊ぼうぜー」

エレン「いや、する事がないってわけじゃ……」

エレン(どちらかといえば、する事がありすぎてどこから手をつけていいのかわかんねえ状態だな)

エレン「……まぁ、いいか。世話になってるんだし、俺でよければ遊び相手になってやるぞ」



アルバ「やったー! じゃあ海賊ごっこやろうぜー!」

フィズ「おままごとしよー!」

ラミ「……お話、しよ」

エレン「おいおい、どれか一つにしてくれよ……っていうか、海賊ってなんだ?」

アルバ「え、兄ちゃん海賊知らないのか!?」

フィズ「知らなくていいわよ、あんなつまんないもの」

アルバ「海賊のどこがつまんないんだよ!」

フィズ「何から何までぜーんぶつまんないわよ!」

アルバ「ふん、女の子には海の男の凄さなんてわかんないもんなー」

エレン「……海!?」



フィズ「なんですってー!?」

アルバ「なによー!」

ラミ「……二人とも、ケンカは、だめ」

エレン「ちょ、ちょっと待ってくれ二人とも!」

フィズ「……? どうしたのお兄ちゃん」

エレン「なあアルバ、今お前海って言ったか?」

アルバ「うん。それがどうかしたの?」

エレン「ま、まさかこの世界には海があるのか!?」

フィズ「何言ってんのお兄ちゃん、当たり前でしょ?」

アルバ「もしかして、兄ちゃん海を知らないの?」

エレン「いや、聞いたことはあるんだが、実際に見たことはねえ……」



ラミ「……私は、あるよ」

フィズ「私もー」

アルバ「ずーっと前にだけどな」

エレン「す、すげえ! 本当に海ってあるのかよ!? な、なあ、海って本当にしょっぱいのか!?」

フィズ「そりゃあ塩水だもん。しょっぱいに決まってるわよ」

エレン「ま、マジかよ!? すげえ、見てみてえ……! 近くにあるのか!? 海!」

アルバ「この辺にはないよ。ちょっと遠くまで行かなくちゃ」

エレン「じゃあよ、すっげえ広いってのも本当なのか? 偉い奴らが海を全部独り占めしたりしねえのか?」

フィズ「あはは、お兄ちゃんへんなの。あんなの独り占め出来るわけないじゃない」

アルバ「何にも知らねえんだなー兄ちゃんは。よし、じゃあ俺達が色々教えてやるよ!」

エレン「あ、ああ! 是非頼む!」



アルバ「それじゃあまずは、海賊について———」

フィズ「お魚についてよ!」

エレン「おいおい、喧嘩してないで教えてくれよ……」

ギャーギャー! ワーワー!

エレン「参ったな、こりゃ今日は無理か……?」

ラミ「……」クイクイッ

エレン「ん? どうした、袖なんか摘んで?」

ラミ「……お兄ちゃん、おウチないの?」

エレン「え?」




ラミ「……リプレママ達がお話してるの、聞いた」

ラミ「……お兄ちゃん、おウチないの? ラミとおなじで、おウチないの?」

エレン「……あぁ、そうだな。俺にはもう、帰る家も母さんもいない」

エレン(仮に元の世界へ帰ることができても、な)

ラミ「……さみしい?」

エレン「……どうだろうな。俺はあいつらを駆逐する事しか頭になかったから」

エレン(でも———)

エレン「情けねえ話だけど、今は少しさみしい、かもな」

ラミ「ここ……おウチにすれば、いいよ……」

エレン「?」



ラミ「リプレママの子供に、なればいいよ……」

ラミ「ひとりぼっちは、ダメだよ……」

エレン「……ダメか?」

ラミ「……」(こくん)

エレン「……そっか、ありがとよ」 ナデナデ

ラミ「ん……」 ニコッ

フィズ「だーかーらー! 海賊なんてやばんできたなくてさいてーなの!」

アルバ「おままごとなんてガキの遊びだろー!」

エレン「……さてと、それじゃあそろそろ、こいつらの喧嘩も止めさせないとな」

ラミ「そう、だね……」


・・・
・・



〜廊下〜


エレン(はぁ、やっと二人をなだめる事ができた……)

エレン(けど、結局お勉強の時間とかで3人とも部屋に戻っちまったから、海の話は聞けなかったな)

エレン「ま、また今度にすりゃいいか」

リプレ「あ、エレン、ちょっといいかな?」

エレン「リプレ? ああ、別に構わないですけど」

リプレ「うーん……?」

エレン「?」

リプレ「ちょっと思ったんだけど、どうしてエレンって私にかしこまった感じなのかな?」



エレン「え? あー、それはなんていうか、リプレは年上って感じがするっていうか……」

リプレ「そうなの? でも年もそこまで離れてないと思うし……」

リプレ「よかったら、もっとフランクな感じで話してもらえると嬉しいかな?」

エレン「フランクな感じ……わかったよ、リプレ。……こんな感じか?」

リプレ「うん、おっけー。なんか私にだけ態度が違ったから気になってたんだ」

エレン(母さんみたいでちょっと緊張してた。ってのは言えないな、流石に)

エレン「ところで、何か用だったんです……のか?」

リプレ「あぁそうだった。これからお買い物に行くんだけど、街の案内がてら、一緒に行かない?」

エレン「買い物? ああ、構わねえよ。ちょっとこっちの街がどんなのか興味もあるし」

リプレ「本当にいいの? 荷物持たせちゃうぞ?」

エレン「勿論、それくらいはやらせてもらうさ」


リプレ「ふふっ、ありがとう。でも冗談よ。荷物持ちは他にいるし」

エレン「他に?」


エレン(子供たちのはずはないし、エドスとレイドは出払ってる。ってことはまさか……)

リプレ「ガゼルー! ちょっと来てー!」

エレン(やっぱりかよ……)


・・・
・・


〜孤児院入口前〜


ガゼル「ったく……なんで俺が付き合わなきゃいけないんだよ」

リプレ「いいじゃない。どうせ特に用事があるわけじゃないんでしょ?」

リプレ「ボディガードの代わりくらいしてくれたって、バチは当たらないわよ」

ガゼル「へいへい、まぁこんな奴一人に任せるのも不安だしな」

エレン「……むっ。よく言うぜ、あれだけ簡単にやられておきながらよ」

ガゼル「……ちっ。召喚師様は信用ならねえからなぁ?」

エレン「あぁ?」

ガゼル「あんだよ?」


リプレ「もう二人とも、喧嘩はしないの!」

ガゼル「けどよぉ……」

リプレ「がーぜーるー?」

ガゼル「……わかったよ」

リプレ「もう、先が思いやられるんだから」

リプレ「まぁいっか。それじゃあまずは、用事を済ませるために商店街に行きましょ?」


・・・
・・



〜商店街〜

リプレ「はい、ここが商店街。色々なお店が並んでいるから、大抵のものは買えちゃうよ」

エレン「すげえ……見たことねえものが沢山ある! なぁなぁ、アレなんだ!?」

ガゼル「はしゃぐなよみっともねえ。おのぼりさんかっての」

エレン「しょうがねえだろ。初めて見るものばっかりなんだからよ」

リプレ「ふふ、子供みたいにはしゃいじゃって。エレンって可愛いのね」

エレン「え、いや……」カァァァ

ガゼル「ぷっ、こいついっちょ前に照れてやがるぜ」

リプレ「ガゼル?」

ガゼル「……へいへい」



リプレ「でもエレン? まずは生活用品から順番に見ていこうね」

エレン「はい?」

ガゼル「おいリプレ、まさか買い物ってのは……」

リプレ「そうよ? エレンの身の回りの品を買うの」

エレン「なっ!?」

リプレ「だって必要でしょ? お金のことなら心配しなくったっていいよ。レイドから預かってるから」

リプレ「さ、遠慮しないで?」

エレン「いや、でも……」チラッ

ガゼル「?」



エレン(考えてみれば、こいつらが追い剥ぎの真似をしてたのも孤児院の生活が苦しいから、だよな? 多分)

エレン(だってのに、殆ど見ず知らずの俺のために貴重な金を使わせるなんて……)

ガゼル「……ちっ」

ガゼル「何考えてるかは大体予想がつくけどよ、遠慮出来る立場じゃねえだろうがよ」

エレン「え……?」

ガゼル「着るもの一つ持たずに、これからどうやって生活できるってんだよ」

ガゼル「いいから、そいつらの親切に甘えとけ!!」

リプレ「ガゼルっ! またあんたそんな言い方して」

ガゼル「けっ!」

エレン(……確かに、ガゼルの言う通りだ)

エレン「悪い、素直に甘えさせてもらう」

リプレ「よろしい。それじゃあまずは服からね? えーっとあっちのお店に男物のいいものが———」


・・・
・・


店員「ありがとうございましたー!」

リプレ「ふぅ、ついでの子供たちの服や食材とかも買っちゃった。ごめんねエレン、重かったら言ってね?」

エレン「いやいや、一応鍛えてるし、平気だぜ」

リプレ「お、頼もしいなー。ガゼルも見習いなさいよ」

ガゼル「へーへー」

リプレ「うーん、でも荷物は多いし、街の細かな案内はまた今度にしたほうがいいかな?」

ガゼル「ま、商店街さえ分かれば十分だろ。後はアルク川か工場街か……そこの公園くらいだろ」

エレン「公園? 随分大きな公園だな?」

リプレ「そこの市民公園は、お祭りなんかにも使われるからね」



エレン「お祭り、か。参加したことは殆どないけど、これだけ広ければ、かなり賑やかなんでだろうな」

リプレ「そうよ。特に秋の収穫祭なんかは、みんなで仮装して大騒ぎしちゃうの」

リプレ「私もちっちゃい頃は、すごく楽しみにしてたなぁ……」

エレン「最近は行ってないのか?」

ガゼル「行ってないんじゃなくて、やらなくなっちまったんだよ」

ガゼル「2.3年前からな、領主が祭りを開かなくなっちまったんだ」

エレン「開かなくなった? なんでだ?」

ガゼル「さぁな。だが仮に祭りをやったとしても、今じゃ誰も楽しめねえさ」

ガゼル「貴族や召喚師共のせいで、ゆとりのない生活しか出来ねえ有様だからな」



エレン(偉い奴らのせいで一般市民はワリを食うってわけか……)

エレン(巨人のいないこの世界でも、貴族なんて似たような物ってことか)

ワイワイ
     ガヤガヤ

エレン「……ん?」

リプレ「どうしたの?」

エレン「いや、なんだか歩いていくにつれて、だんだん賑やかになってきたなって……」

ガゼル「ああ、この辺は繁華街ってやつだからな」

ガゼル「今はまだこんなもんだが夜になるともっと人が集まって活気づくんだ」

ガゼル「ま、その分トラブルも多いわけだがな」



エレン「へぇ、随分と詳しいんだな」

ガゼル「へっ、俺は盗賊だぜ? この辺りは庭みたいなもんさ」

エレン「自分から盗賊とか言っちゃうのかよ……」

リプレ「ガゼル……?」

ガゼル「あ……」

リプレ「あんたひょっとして、まだ悪さしてるんじゃないでしょうね?」

ガゼル「あ、いや……」

エレン(この世界に来てまずコイツに襲われたんだけどな、俺)

リプレ「どうなの!?」

エレン(……ま、黙っておいてやるか)



エレン「まぁ、要はこの辺はあまり近づかない方がいいってことだろ?」

エレン「それがわかったら十分だよ。次に行こうぜ」

ガゼル「お、おぉ、そうだな!」

リプレ「……エレンに感謝しなさいよ、ガゼル」

ガゼル「……ったくよぉ。っとそうだ。一つ伝えておかなきゃいけねえことがある」

エレン「?」

ガゼル「繁華街を北に進むと、北スラムって呼ばれてるスラム街に出る」

ガゼル「向こうは俺たちの住むスラムとは全然違う」

ガゼル「【オプテュス】っていう物騒なゴロツキグループがいるのさ」

ガゼル「関わり合いになると、色々と面倒なことになるからな。絶対に北側には行くなよ」

エレン「ああ。わかった。まぁわざわざそんなところに行く必要もねえしな」



ザッ……


男1「おいおい、面倒とは随分な言い草だな、ガゼル?」

エレン「……? なんだ、お前ら」

男2「ん? そこにいるのは見ねえ顔だな? お前、名前はなんていうんだ?」

エレン「俺か? 俺はエレン・イェー……」

ガゼル「……無視しろっ」

ガゼル「こいつらが、今話したオプテュスの連中だ」

ガゼル「関わるとロクなことにならねえ。無視するのが一番だ」

リプレ「………」



男3「おい、何黙ってんだよ。口が聞けねえのか?」

男1「おいおい、無視とはひでえじゃねえかよ、コソ泥ガゼルさんよぉ」

男2「女と子分をはべらせて、いいご身分じゃねえか」

エレン(誰が子分だ誰が……!)

ガゼル「……おい、こいつらはそんなんじゃねえ」

男2「お、ようやく口きいてくれたな、ガゼル?」

男1「女と子分の前で、いいところ見せようってか?」

ガゼル「だからそんなんじゃねえつってんだろ! ぶっ飛ばすぞ!」

男3「お、なんだ? やるってのか?」

男1「ひひっ、望むところだぜ!」



リプレ「が、ガゼル……!」

エレン「おい何してんだよガゼル! 無視しろって言ったのは自分だろうが!」

ガゼル「……エレン」

エレン「?」

ガゼル「ボケっとしてねえで、リプレを連れてさっさと逃げろ」

ガゼル「乗せられちまったのは俺だ。お前らは関係ねえ」

エレン「な……」

エレン(こいつもしかして、俺達を逃がすためにわざと?)

ガゼル「一応言っておくが、俺は自分から進んで喧嘩を買っただけだ。わかったらさっさと行け!」

エレン(……ちっ、この馬鹿野郎が!)



エレン「リプレ、悪いけど一人で帰っていてくれ」

リプレ「え?」

エレン「俺はガゼルと一緒にここに残る」

ガゼル「はぁ!? 何言ってんだお前! いいからさっさと逃げろ」

エレン「悪いが、これは俺が進んで買った喧嘩だ。お前にどうこう言われる筋合いはねえ」

ガゼル「お前……」

ガゼル「ちっ、好きにしろ!」

エレン「ああ、そうするさ。さぁ、リプレ!」

リプレ「わ、わかった! レイド達を呼んでくるから、二人とも絶対無事でいてよ!? 絶対よっ!!」

男1「おーっと、逃がすかよ!」



エレン「させるかよ!」


脇をすり抜けようとする男の鳩尾をめがけて、めいいっぱい拳を叩き込む!


ドガ!

男1「ぐえ……!?」

リプレ「え、エレン……!」

ガゼル「いいからいそげ!」

リプレ「う、うん!」 タッタッタッタ……

男2「こ、この野郎……!」

男1「げほっげほっ! くそぉ、こいつは高くつくぜ!」



エレン(いける……!)

エレン(こいつら、思いきりはいいが動きは素人だ)

エレン(2対1なら余裕で勝てる!)

男1「おらああぁああ!」

エレン「——— ふっ!」

殴りかかる男の拳を避け、その勢いを利用して背負投げの要領で投げ飛ばした!

ドシャア!

男1「ぐ、ぐえぇ……」 ガクッ

男2「な……!?」


エレン「——— っ!」 ダッ!


予想外の展開に混乱している男の隙を見逃さず、すかさずタックル!
そのまま押し倒し———


エレン「わりぃけど、少し眠っててもらうぜ!」

男2「あ、がが……」

首に手を回し、思い切り締め付けその意識を刈り取る。

男2「………」ガクッ

男3「う、嘘だろ……? あっというまに2人も……」



ガゼル「おっと、よそ見してる暇があんのか?」

男3「へ?」

ガゼル「オラッ!」

ガァン!

男3「ぐへっ!」 クラクラ……ドサッ!

ガゼル「けっ、口ほどにもねえ連中だぜ」

エレン「ガゼル、大丈夫か?」

ガゼル「誰にモノ言ってんだ。……お前もやるじゃねえか」

エレン「まあ、あの程度の連中ならな」



エレン(対人格闘の訓練が役に立ったな。真面目にやっておいてよかったぜ)

エレン(ただ……やけに体が軽いというか、力が溢れてくる感じがするんだよな)

ガゼル「へっ、なんにせよおかげで楽させてもらえたぜ」

ガゼル「それによ……なんつーか、見直したぜ、一応な」

エレン「……それはお互い様だ、ありがとよガゼル」

ガゼル「さて、なんのことかさっぱりだ」

ガゼル「ま、それはそれとしてリプレの奴が心配するといけねえ。急いで追いかけようぜ」

エレン「ああ!」


・・・
・・





〜孤児院〜


エドス「なるほど、そんな事がのう……」

レイド「それにしても、あっという間に二人を無力化するとは。何か特別な訓練でも受けていたのかな?」

エレン「あぁ。兵士になるために、色々とな」

ガゼル「へぇ、それであんなに強かったってわけか。道理でな」

エドス「しかし無事だったのはいいが、それとは別に面倒なことにならなければいいがのう」

レイド「ああ、そうだな」

エレン「どういう事だ?」



エドス「連中は執念深いからのぉ。報復、なんてことにならなければ良いのだが」

エレン「ほ、報復!? あの、すいません。俺そんな事まで考えてなくて……」

ガゼル「気にすんなよ。お前は悪くねえ。連中が俺らを目の敵にしてきたのは今に始まったことじゃねえからな」

レイド「だが、今まではそれだけですんでいた。」

レイド「おそらく連中は、今回のことを口実に直接手を出してくるだろう」

エドス「ワシらだけが狙われるならまだいいが……」

エレン「それって……」

エドス「連中は女子供相手にも容赦せん。そういう連中なのさ」

エレン「そ、そんな……俺……」



ガゼル「いいから気にすんなって! お前が落ち込んでもどうにもならねえだろうが!」

ガゼル「さっきも言ったが、連中は俺達のことを元々目の敵にしてたんだ」

ガゼル「スラムの支配者を気取っていてよ。この南スラムも縄張りにしようと、ちょくちょくちょっかいは出してきてたんだ」

ガゼル「確かに、今回のことは奴らにとっていい口実になったかもしれねえけどよ」

ガゼル「結局は早いか遅いかの違いでしかねえ。それに、お前が悪いなら喧嘩を買った俺も同罪だ」

エレン「……ありがとよ」

エレン(ガゼルはこう言ってくれているが、実際に俺が火種になっちまったのは間違いない事実だ)

エレン(くそっ! 結局俺は何も変わっちゃいねえ!)

エレン(感情のまま暴れるガキのまんまじゃねえか!)



ドガ! バァン!

リプレ「ちょっと!? あんた達一体なんのつもりよっ!!」

レイド「——— っ!」

エドス「まさか……!」

ガゼル「来やがったか!」


・・・
・・


〜外〜


???「よォ、昼間のことで挨拶してやったぜ」

エドス「バノッサ……」

バノッサ「聞けば俺様の子分どもを、随分と可愛がってくれたそうじゃねェか」

バノッサ「一体どういう事なのか、きっちり説明してもらわねェとな?」

ガゼル「説明もなにも、先にちょっかい出してきたのはてめえらの方だろうが!」

バノッサ「きっかけなんざ関係ねえんだよ!」

バノッサ「ただ問題なのは、俺様のメンツにお前らが泥をぬったってことよ!」

エレン「ガゼル、あいつは……」

ガゼル「バノッサ。オプテュスのボスだ」

エレン「あいつが……」


レイド「……何が望みだ?」

バノッサ「ことの張本人を俺に引き渡しな。今ならそいつの命だけで勘弁してやる」

エレン「……!」

エドス「悪いが、そいつは……」

バノッサ「おっと、断ろうとは思うなよ? そんな事をすればどうなるか……。俺のことを知らないわけじゃねえよな?」

レイド「……例えそうだとしても、その取引には———」

エレン「待て! 断らなくてもいい!」

ガゼル「エレン!?」


エレン「俺がお前の探してる張本人って奴だ」

バノッサ「ほう、自分から名乗り出てくるとは……度胸あるじゃねえか」

バノッサ「わざわざ前に出たって事は、覚悟はしてるんだろうな?」

エレン「……」

エレン(今この場で暴れれば、リプレたちまで危険に晒しちまう)

エレン(少し離れてこいつが油断したところで、必ずぶっ殺してやる……!)

ガゼル「……おい、待てよ」

エレン「止めるなよ。これは俺の問題だろ」

エドス「いいや、違うな」



エレン「エドス?」

レイド「例え一晩とはいえ、同じ屋根に住んでいる人間を差し出して助かろうとするほど、私たちは腐ってはいない」

ガゼル「それに言っただろうが。俺も同罪だってな」

ガゼル「それでお前を差し出して俺が助かったんじゃあ、寝覚めが悪くて仕方ねえぜ」

エレン「お、お前ら……」

レイド「そういうわけだ。エレンを引き渡すつもりはない」

バノッサ「はっ! そうかいそうかい。それじゃあ仕方がねぇなあ」

バノッサ「いいだろう。そういう事なら、予定通り全員ぶっ潰してやるぜェっ!!」

ガゼル「けっ! やっぱハナからそのつもりかよ!」



バノッサ「お前ら!」

オプテュスメンバー 「 「 「 へい!! 」 」 」

バノッサ「手加減はいらねえ! ぶち殺せ!!」

エドス「おぉおぉ、物陰からうじゃうじゃと……」

ガゼル「ざっと10人ほどってとこか……。しかも取り囲まれてやがる。エレンを連れてったあとに襲おうとしてたって腹か」

レイド「目の前の5人は私が相手をしよう。みんなは残りを頼む」

メンバーA「へっ! 元騎士だかなんだか知らねえが……」

メンバーB「この人数差で勝てると思ってんのかよ!」

メンバーC「お前ら! 一斉にかかれ!!」

メンバーD・E「 「 おう!! 」 」


レイド「……」


5人のチンピラ達がレイドを取り囲むように突進してくる。
だがレイドはそれに慌てるそぶりもなくゆっくりと剣を抜き……


レイド「はぁっ!!」


気合一閃!

掛け声とともに放たれた剣閃は、ひと振りで3人の意識を絶ちきった。


メンバーA「なっ……!?」

レイド「さて、どうする? 今のは剣の腹で殴ったおかげで殺してはいないが……」

レイド「お望みとあらば、刃で応戦しても構わんよ」 チャキ


突進を交わし、いつの間にか背後に回ったレイドは
鋭い殺気と共に、チンピラの首筋に剣先を突きつける。


メンバーB「………」ガクガク


既に、残る二人の戦意は完全に失われていた。


エドス「ぬぅうううん!!」

メンバーF「や、やめろ! 離せぇ! 降ろせぇ!!」

エドス「ならばお望みどおり……! ふん!」


ドゴォ!!

うって変わって、エドス戦いは粗暴かつ豪快なものであった。
ナイフを獲物に切りつけてくる敵の腕を掴み持ち上げ、そのまま残る敵へと投げつける!

重さ数十キロの弾丸と化した不良の一人は、残りのメンバーも巻き込み、轟音と共に近くの壁を凹ませた。



エドス「そんなひょろっこい腕では、ナイフだろうとワシの体に傷は付けられんなぁ?」


そう言って、己のスペシャルボディを見せつけながらエドスは豪快に笑った。
残る誰もが恐る。近づけば、今のやつと同じように自分が弾丸となって壁に叩きつけられると……。
だが戦わなければ、バノッサに何をされるかわかったものではない。

——— 逃げることも、エドスと戦うこともできない。ならばとった行動は……!


メンバーH「が、ガゼルだ! ガゼルをねら———!」


ヒュ! ドス! ドス!


メンバーH「ぐぁ!?」



ガゼル「エドスに適わねえからって俺のとこに来るとは、舐められたもんだな」

ガゼル「ま、好きにすればいいさ。その代わり、もれなく的になってもらうがな」


そう言って、片手で短刀を遊ばせながら足の止まったメンバーたちを睨む。
投げられたナイフは急所こそ外されていたが、正確に両肩に深く突き刺さっていた。
あの一瞬でこれだけの正確さ。それが何より、ガゼルのナイフの扱いの熟練さを物語っていた。


ガゼル「おら、こいよ! 次は喉か眉間に穴があくけどなあ!」


メンバーI「ひっ!?」


ガゼルのそれは脅しではなく宣告。やつにはそれだけの度胸と実力がある。
そう悟ったとき、既に残るメンバーの戦意は失われていた。


・・・
・・



バノッサ「ちっ、あの野郎共、情けねえ!」

エレン「………」

バノッサ「まあいい、てめえだけでも殺せば、とりあえずは目的は果たせるからな」

エレン「………」

エレン(こいつ、他の連中とは違う)

エレン(構えは隙だらけだが、雰囲気が段違いだ……!)

エレン(相当実戦慣れしている。迂闊に飛び込めねえ)

バノッサ「おいおい、びびってるのか? ならこっちから、行かせてもらうぜえ!」


そう言ってバノッサが腰元から抜いたのは、2つの剣。
その剣を両手に構え、バノッサは躊躇することなく刃を向け、エレンに斬りかかってきた。


エレン「うぉっ!?」


削ぎ取るように振るわれた二つの剣をすんでで躱す。
そのまま体制を崩すバノッサを押し倒し、昼間のチンピラのように締め落とそうと接近を試みるが———


バノッサ「あめェんだよ!」


バノッサは瞬時に片手の剣を逆手に持ち直し、地面につきたて即座に体制を整え、エレンに向かって蹴りを突き出す!


ドゴ!

エレン「ぐっ……!」

バノッサ「まだまだぁ!」


蹴りが直撃した腹部を押さえ、痛みに耐えるエレンに止めを刺そうと再び大きく剣を振りかぶる!



エレン(くそっ、相手が武器を持ってるのに素手で戦うなんて……!)

エレン(——— いや、ライナーが言っていた。例えどんな状況でも、兵士には引けない状況がある……!)

エレン(今が——— それだ!)


エレン「こ、の——— やろぉ!」


ダッ!


しかしエレンは迫るバノッサと凶刃に一歩も引かず、より懐に潜り込む!


バノッサ「な———」


振り上げた両腕をエレンは掴み止め、バノッサの顔面に思い切り頭突きをぶちかます!
バノッサはたまらず仰け反るが、エレンの攻撃は終わらなかった!


エレン「うおぉおぉおおっ!!」


気合の咆哮と共に、エレンはお返しとばかりにバノッサの懐に蹴りを繰り出す!


バノッサ「がはっ……!」


鋭い痛みと共に大きく後ろに吹き飛ばされたバノッサは、そのまま大きな音を立てて地面へ倒れ込む。
エレンの予想外の接近と連撃、そして与えられたダメージの大きさに混乱するバノッサだったが
自分が無様に空を仰ぎ見ていることを自覚すると、即座に思考を反撃に切り替え剣を握る両手に力を入れる。


———しかし、エレンはそのわずかな逡巡の間に、次の行動へ移っていた!


エレン「させるかよ!」


エレンは片足を振り上げ、バノッサの片腕を思い切り踏み抜く!


バノッサ「ぐあぁああ!?」


その激痛にたまらず叫び声を上げ、剣を落としてしまう。
だがエレンの追撃は終わらない。もう片方の腕を無力化すべく、流れるような動きでもう片方の腕を捻り上げる!


バノッサ「ぐ、うぅ……! は、はなし、やがれえェええ!」


腕をひねられた痛みに耐え切れず、もう片方の剣も落としてしまう。 
最早バノッサは丸腰同然。
武器というアドバンテージを失ったバノッサには、訓練兵団で鍛え上げたエレンに適うべくもなく
身動き一つできずエレンに取り押さえられていた。


エレン「はぁ、はぁっ……。どうだ! 俺の勝ちだ!」

エレン(危なかった……動き自体は素人同然で助かったぜ)

ザッ…

エドス「勝負、アリだな?」

バノッサ「畜生! 俺様が、俺様が手前ェらごときに……!」

バノッサ「認めねェ! 絶対に認めねェ!」

ガゼル「ケッ! エレンに取り押さえられたままじゃ、負け惜しみにもなりゃしねえぜ」

バノッサ「忘れねえぞ……! 俺様に楯突いたこと、絶対に後悔させてやるからなぁ!」

エレン「よくこの状況でそんなことが言えるな糞野郎……! このまま首をへし折ってやろうか!」

レイド「待て、エレン」

エレン「レイド? なんで止めるんだよ。こんな害獣、さっさと始末したほうが……」


エドス「まあまあ、気持ちは分かるがそう血気盛らせんでくれ」

レイド「今ここでバノッサを殺してしまえば、スラム街は今以上に混沌としてしまう」

レイド「良かれ悪かれ、スラム街を統率していたのはバノッサだからな」

エドス「そのバノッサがいなくなると、燻っていた他の実力者が我先にと暴れだしかねんからのぉ」

ガゼル「俺は正直エレンに賛成してーところだが、まぁそういうわけだ。離してやんな」

エレン「……わかったよ。そういうことなら」 パッ

バノッサ「ぐっ……! クソっ! お前ら、覚えてろよ! 俺を殺さなかった事を必ず後悔させてやるからなぁ!」

エドス「好きにすればいい。こうなったらワシらももう逃げも隠れもせん」

レイド「ただし、再びお前が私の仲間に危害を加えようというのなら、次も容赦はせんぞ!」

バノッサ「……ちっ! 引き上げるぞ、お前らァ!」


・・・
・・


〜広間〜

レイド「しかし、成り行きだったとはいえ……」

エドス「ちぃとばかし、軽率だった気もするな」

ガゼル「そんなこと言ったってよ、しょうがねえだろうが。あの状況じゃあよお」

レイド「簡単に言ってくれるがな、私たちはともかく、リプレや子供たちまで巻き込むことになってしまったんだ」

エレン「………」

レイド「……いや、すまない。君を責めるようなつもりはなかったんだ」

エレン「いえ……」

リプレ「そんな、気にしなくっていいのよ!」

リプレ「私も子供たちも、迷惑だなんて思ってないんだから……」



エドス「しかし、実際これからどうするか、だな」

エドス「いざ何かあった時に、ガゼルばかりでは心細い」

ガゼル「おいおいエドス、一人じゃねえだろ? ここにもう一人、いるじゃねえか?」

エレン「……俺、か?」

ガゼル「他に誰がいるんだよ? まさかお前、責任とっていなくなるとか考えてたんじゃねえだろうな?」

エレン「いや、それは……」

ガゼル「お前がいようがいまいが、連中はここを奪いに来る。それならいっそ、俺達と戦ってくれた方がよっぽど助かるぜ」

エドス「うむ。それに、エレンほど強ければ留守を任せても大丈夫だろうな」

ガゼル「だろ?」



レイド「おいおい、あまり彼を困らせるな。彼にも元の世界に帰るという目的が……」

ガゼル「なんのアテもなしにか?」

レイド「それは……」

ガゼル「それなら、ウチで暮らしながらでも探せるだろ。なぁエレン、お前はどうだ?」

エレン「どうだって……そんなの、考えるまでもねえ」

エレン「こっちだって願ったりだ。俺からもよろしく頼むよ」

エドス「おお、そいつは助かる! ならば俺からもよろしく頼むぞ!」

リプレ「ふふっ、子供たちに話したら、きっと喜ぶわね」

ガゼル「よっしゃ、そうと決まればお前は今日から俺たちの仲間であり家族だ。遠慮なしで行こうぜ」

レイド「やれやれ、そういう事ならば改めて挨拶しなければならないな」

エレン「家族……。ああ!」


ガゼル「それじゃあ改めて……」









「チーム【フラット】へようこそ!」









.



こうして、俺は【フラット】の仲間たちと一緒に暮らすことになった。

アルミンもミカサもいなくて、見知らぬ土地で途方に暮れていた俺だったが……。

ガゼルに家族と言われたあの瞬間、どこか懐かしくて温かい気持ちを思い出した気がした。

そんな不思議な感覚を胸に、眠れぬ体を持て余した俺は外へ出て夜空を眺めていた……。


ガゼル「おうエレン、眠れねえのか?」

エレン「ガゼルか。まぁ、ちょっとな」

ガゼル「無理もねぇ。あれだけ色々あったんだからな」

エレン「それもだけど、なんつーか……」

ガゼル「?」

エレン「……いや、なんでもねえ」

ガゼル「なんだよ、変な奴だな」

エレン「……」

ガゼル「……」



ガゼル「なぁ、その、よ……悪かった、な」

エレン「?」

ガゼル「色々と疑って、お前に突っかかっちまったろ? だから、まぁ謝っとこうと思ってよ」

エレン「別に気にしてねえよ」

ガゼル「だとしてもだ。これは俺のけじめみてえなもんでもあるからな」

エレン「律儀なやつだな……。まあそういう事なら素直に謝罪は受け取っておくぜ」

ガゼル「おぉ、そうしろ」

エレン「……じゃあ俺も言わせてもらうけどよ。ありがとな、ガゼル」

ガゼル「なんのこった?」



エレン「ほら、お前色々俺をかばってくれたろ。それに……家族だって言ってくれたしよ。その、嬉しかったっつか……」

ガゼル「気にすんなよ。っつーか、もしかして嬉しくて感極まって眠れなかった、とかか?」

エレン「……!」

ガゼル「ぷっ、図星かよ! 何だお前、意外と可愛い性格してるじゃねえか」 

エレン「うるせえなあ 」

ガゼル「はは、怒るなよ。冗談だって」

ガゼル「ま、なんだ? 改めて、これからよろしくなエレン」

エレン「……ああ。よろしくな、ガゼル」


・・・
・・


第1話 完



ただいま。
途中で切らずに一話分書き溜めてから投下しようと思ったら、思いのほか時間かかった……

今日の投下は終わりです。また近いうちに続きも投下したいと思います。


.





〜第2話 その名を知る者〜






.





    エレン・イェーガー


          〜フラットでの一日〜





リプレ「みんな〜ご飯よ〜!」

ガゼル「へーい」

エドス「おぉ、いい匂いがしてるのぉ!」

アルバ「わーい! 一番乗りー!」

フィズ「ちょっとーまちなさいよー!」

ラミ「………」チョコン

レイド「こら2人とも、騒いでないで席に着きなさい」

リプレ「はい、それじゃあみんな? いただきまーす!」

全員「いただきまーす!」


ガゼル「おお! こりゃうめえな!」

エドス「うむ、やはりリプレの飯は一番だな」

アルバ「モゴモゴ ママ! おはわいー!」

レイド「こらアルバ、食べながら喋るものじゃない」

エレン「」パクパクモグモグ

全員「ごちそーさまでした!」


エドス「はー食った食った! そいじゃ、今日も張り切って働くとするかのう」

レイド「私もそろそろ出る時間だな。エドス、途中まで一緒に行こう」

ガゼル「んじゃ、俺は薪割りにでも行ってくるかな」

エレン「………」

アルバ「エレンにーちゃーん! 遊ぼうぜー!」

フィズ「今日はおままごとしましょー!」

ラミ「………おいしゃさんごっこ」

エレン「……ああ、そうだな」





リプレ「みんなー! お昼ご飯出来たわよー!」

全員「いただきまーす」

アルバ「なぁなぁ兄ちゃん、ご飯食べたらなにして遊ぶ?」

リプレ「こら! 3人ともご飯を食べたらお勉強の時間でしょ」

フィズ「は〜い……」

ラミ「………」コクリ

ガゼル「んじゃ、俺は食い終わったら薪割りでもしてるかな」

エレン「」パクパクモグモグ





エドス「ただいまー! ふぅー疲れたのぉ〜!」

リプレ「おかえりなさーい。ご飯の用意、できてるわよ」

レイド「それはありがたい。いただくとしようか」

エドス「おう、もう腹ペコだわい」

ガゼル「俺も薪割りで疲れたぜー」

全員「いただきまーす」

エドス「いやぁ、やはり働いたあとの飯は格別じゃのお!」

レイド「いつもこんなに美味しいご飯を作ってくれて、助かっているよリプレ」

リプレ「いいのよ。私はこれくらいしか出来ないんだし」

エレン「」パクパクモグモグ

全員「ごちそうさま」


・・・
・・


エレン「今日もいい一日だった」

エレン「おやすみ」 バフッ!







エレン「ぐぅ……」




エレン「って! 今日も俺何にもしてねえじゃねえか!!!」  ガバッ!


エレン「やってた事といえば、飯食って子供たちと遊んで飯食ってトレーニングして飯食って寝るだけ……」

エレン「元の世界にいた頃は厳しい訓練ばかりで、やることがないなんて言ってる暇もなかったはずなのに……」

エレン「こっちじゃ立体機動も無いから、出来るトレーニングも限られてくるせいで……」

エレン「元の世界に変える方法を探そうにも、手がかりが何一つない状況だし……」



エレン「やることが……仕事が……ない……!」



コニー『悪いが、見つけろとしか言えん』

ジャン『俺ァ逆に教えて欲しいねえ! 働かずに飯を食える秘訣ってモノをよお!』

ライナー『すまんが、仕事を見つけるのにコツがいるとは思えん……』

ベルトルト『君は、日々の糧を得る厳しさを知っているはずだろう? なのにどうして……』


ミカサ『働かなければ……食べられない!』

アルミン『この本によると、外の世界にはニートっていうものがあって———』


エレン「やめろぉおおーーーー!!」 ブンブン!

エレン「くそっ、このままじゃまずい……!」

エレン「せめて、自分の食い扶持くらい稼がなきゃいけねえ……」

エレン「だが今日はもう夜遅い……」

エレン「ともかく、明日から本気でやらなくちゃな!」


・・・
・・




〜庭〜

ガゼル「んで、俺のとこに相談しに来たってわけか」

エレン「ああ。どこか俺でも働けるようなとこ知らねえか?」

ガゼル「……あのなぁ、お前この前の話聞いてなかったのかよ?」

エレン「この前の?」

ガゼル「お前の仕事は、この家でリプレや子供たちを守ることだろうが」

ガゼル「そのお前が働きに出てたら、誰がこの家を守るんだよ?」

エレン「いや、それは分かってんだけどよ……」


ガゼル「……ま、お前の気持ちもわからねえでもない」

ガゼル「俺だって、仕事につけなくてブラブラしている身分だしな」

ガゼル「そうだな……どうしても気まずいと思うなら、家の中の手伝いなんかどうだ?」

エレン「家の中の?」

ガゼル「子供たちの面倒を見るとか、リプレの手伝いをするとかな」

ガゼル「俺はそういうのは苦手だから遠慮してるけどな」

エレン「なる程……。わかった、ちょっと何か出来ることはないか聞いてくる!」 タッタッタ……

ガゼル「おう、頑張れよ!」






ガゼル「さて、俺も薪割りに行くか」


・・・
・・



〜台所〜


リプレ「うんしょ、よいしょ……!」 コネコネ

エレン「リプレー、いるか?」

リプレ「えいっ! よいしょ……! ……? あれ、どうしたの、エレン」

エレン「いや、何か手伝えることはないかなって。それは?」

リプレ「これ? ちょっとパンを……ね……! よいしょ!」 パァン!

エレン(なんか大変そうだな……)

エレン「よかったら、俺が手伝おうか?」

リプレ「え? えっと……エレンに悪い、かな?」

エレン「気にするなって。こねるくらいなら俺でも出来るしさ」


リプレ「そう? ……それじゃ、お願いしよう、かな?」

エレン「よし、任せとけ!」 ウデマクリ

エレン「よっ……! って、うぉ?」 

エレン(こいつ、意外と力がいるな……!)

エレン「せーの!」 バァン!

エレン(あれ、なんか潰れちまった?)

リプレ「あぁ! ダメだよ!」

エレン「え?」

リプレ「ちょっと貸してみて?」


エレン「あ、あぁ」

リプレ「よいしょっっと!」 パァン コネコネ

エレン「すげえ、あっさりと……」

リプレ「感心してくれた?」

エレン「参りました……」

リプレ「生地に空気を含ませないと、柔らかく焼けないの。意外と難しいんだよ?」

エレン「う、はい……」

リプレ「ふふ。手伝おうとしてくれた気持ちは受け取っておくね? でも急にどうしたの?」

エレン「その、実は……」





リプレ「う〜ん、そんなに気にしなくていいと思うな」

リプレ「それに、子供達と遊んでもらって、エレンにはすっごい助けてもらってるし」

エレン「いや、けどよお……」

ガゼル「よっ、やってるか?」

エレン「ガゼル?」

ガゼル「ははっ、その様子だと手伝おうとしたけど逆に邪魔になっちまったってとこか」

エレン「ぅぐ……!」

リプレ「ガーゼールー!」

ガゼル「怒るなよ、冗談だって……」

ガゼル「それよりエレン、さっき仕事がしたいって言ってたよな?」

エレン「ああ」


ガゼル「だったらちょうどいい。俺に付き合ってくれよ」

エレン「おいおい、盗みの片棒はやらねえぞ」

ガゼル「ちげーよ! 薪拾いだよ! どうせなら二人で行ったほうがたくさん集まるだろ?」

エレン「ああ、そういう事なら構わねえよ」

ガゼル「よし、決まりだ! リプレ、エレンを借りてくぜ」

リプレ「いいけど……危ないとこに行ったらダメよ?」

ガゼル「わかってるよ。それじゃあ行こうぜエレン!」


・・・
・・



〜外〜

ガゼル「よし、んじゃまずは森の方へ向かうか」 スタスタ

エレン「ん? おいガゼル、街の外へ行くなら、門は向こうの方じゃねえのか?」

ガゼル「ちっちっち、アレを見ろよ」

エレン「アレ……? あ、街の壁が壊れてるな」

ガゼル「あそこから出た方が早いだろ?」

エレン「………」

ガゼル「? どうしたエレン」

エレン「あーいや、壁が壊れてると、どうしてもいい気がしなくてよ」


ガゼル「あぁ、お前の元の世界に関係してんだっけ?」

ガゼル「街を囲んでる壁が壊れると、外から人喰いの巨大な化物がわんさか襲ってくるって話だったな」

ガゼル「おっかねえなあ……。エレンにゃ悪いが、そっちの世界に生まれなくて良かったぜ」

エレン「いや、それが普通の感想だろ。俺だって、出来るなら巨人のいない世界の方がいいさ」

ガゼル「……ま、だからってこの世界もいいとこばっかじゃねえんだけどな」

エレン「?」

ガゼル「そこの壁の穴は、戦争で壊されて放置されたままの物なんだ」

エレン「戦争……」


ガゼル「この街にあるスラムは、みんな壊れた壁の側にあるんだぜ」

ガゼル「外敵が襲ってきた時に一番危険な場所ってわけだから、誰も住みたがらねえんだ」

ガゼル「そんな所に住み着くのは、俺らみたいな貧乏人ばかりさ」

ガゼル「内地の貴族どもにすりゃいい状況だろうぜ」

ガゼル「戦争がおっぱじまったら、俺らが盾になっている間に逃げる準備ができるんだからよ」

エレン「………どこも、似たようなものなんだな」

エレン(考えてみれば、俺の住んでいたシガンシナ区もそういう役割があったのかもしれねえな)

エレン(内地の肥えた豚どもの為に、時間を稼ぐ盾として……)

ガゼル「そういえば、お前は街の外から来たんだったな?」

エレン「ああ。多分、どこかの穴を通ってきたのかもしれない。あの時は走るのに夢中で覚えてないけどな」

ガゼル「俺達とあった場所から考えると……。エレン、ちょっとこっちへ来てみろよ」


・・・
・・


〜荒野〜

ガゼル「どうだ、見覚えあるか?」

エレン「ここは……思い出した! 確かにこの荒野を通ってサイジェントの街へたどり着いたんだ」

ガゼル「って事は、この先にお前が呼び出された場所があるってことだな」

エレン「……ああ」

エレン(——— ちっ、あの嫌な光景を思い出しちまった)

ガゼル「……なぁ、行ってみっか?」


エレン「え?」

ガゼル「明日にでもみんなに声をかけてよ。何か手がかりが見つかるかもしれねえぜ?」

エレン「……確かに。あの時は混乱していて何も気づかなかったけど」

ガゼル「もう一度言ってみれば、新しい発見があるかもしれねえ」

ガゼル「よし、そうと決まれば、薪拾いをさっさと終わらせてみんなに声掛けに行こうぜ!」

エレン「おう!」


・・・
・・


次の日


〜荒野〜


エドス「もう大分歩いたのお」

ガゼル「エレン、本当にこっちであってるのか?」

エレン「ああ。まっすぐ走ってきていたから、間違いはねえはずだ」

ガゼル「どれだけ走ってたんだよ、お前……」

ガゼル「ま、言ってても仕方ねえか。それよりリプレたちの方は大丈夫かねえ」

エドス「心配あるまい。レイドが留守を守っているんだ。お前さんよりずっと頼りになるだろう」

ガゼル「んだとぉ? ……って言いたいところだが、確かにレイドならその通りだな」

エレン「そういや、レイドって何者なんだ? この前の戦いの時も、ダントツで強かったけどさ」


ガゼル「確か、元騎士様だったらしいぜ? それもかなりいい地位にいたって聞いたな」

エレン「そんな奴が、どうしてスラムに?」

エドス「さぁのお、その辺りはやつも詳しく話したがらんしの」

ガゼル「ま、言いたくねえことを無理に暴く趣味はねえからな」

ガゼル「……それよりもよ、お前ら気づいてるか?」

エレン「……?」

エドス「何の話だ?」

ガゼル「さっきから、誰かの視線を感じるんだよな。もしかしたら、つけられてるかもしれねえ」

エドス「おいおい、そりゃ本当か?」

ガゼル「はっきりしたことはわからねえが、いろんな気配がごっちゃになっている感じがする」

エレン「まさか、オプテュスの連中か!?」

エドス「一旦引き返すか?」


ガゼル「……いや、一旦進んで様子を見ようぜ。これだけ見渡しのいい地形だ。そう大人数は隠れられねえ」

エレン「……! ガゼル、エドス!」

エドス「どうした? 敵か!」

エレン「いや、違う! あそこだよ! 俺が呼び出された場所は!」

ガゼル「お、ようやく見つかったか! って……」

エドス「ひゃあ〜、でっかい穴ぼこだなぁ……」

ガゼル「どうすりゃ地面にこんなでっかい穴があくんだ? 少なくとも、人間の力じゃ無理だぜ」

エレン「とにかく、一度よく調べてみようぜ!」


・・・
・・

一旦中断。21:00頃戻ってきます


〜穴の底〜

エレン「俺が気付いた時には、最初からこの穴底にいたんだ」

ガゼル「外から見てもでかいと思ったが、降りてみりゃよりいっそうでけえな」

ガゼル「しかしいくら距離があるといっても、これだけの穴が出来るような爆発に街の連中が気づかなかったってのも妙な話だ」

ガゼル「振動とか音とか、誰か聞いててもおかしくねえのによ」

エドス「普通の爆発ではない、とういうことかのう」

ガゼル「ああ。そしてそういう化物じみたことができるのが、召喚師って連中だ」

エレン「じゃあ、やっぱり……」



ガゼル「ああ。まず間違いなく、お前はどっかの召喚師に呼ばれたんだろうよ」

エドス「しかし、それ以上のことは分かりそうもないのお……」

エレン「穴の近くに、変な図形のようなもんがあったけど、あれは……?」

ガゼル「それこそ専門外だ。俺達じゃどうしようもねえ」

エドス「すまんのう、力になれなくて」

エレン「いや、そんな事ねえよ。調べるべきことが出来ただけでも十分な収穫だ」

エレン「それに、もう一つ気がかりなことがある」

エドス「気がかりなこと?」



エレン「ほら、最初に会って説明した時に言ったろ?」

エレン「この辺に大量の死体やサモナイト石、だっけ? それが転がっていたって」

エレン「けど、今ここには死体も石も見当たらねえ。って事は……」

ガゼル「誰かが片付けたってことか!」

エドス「動物が食い尽くしたなら、もっと痕跡が残るはずだからのう。骨一つ見当たらんのは流石に不自然だ」

エレン「って事はだ、俺を呼び出した奴の関係者は、まだ生き残っているってわけだ」

エレン「当面の目標は、そいつらを探すことになりそうだな」


ガゼル「へへっ、どうやら大きく前進できたみてえだな!」

エレン「ああ。まぁとりあえず、今日のところは帰ろうぜ?」

エドス「そうだな。フラットの方も気になるからのお」

ガゼル「………っ!」

ガゼル「……いや、残念だがそうはいかないみたいだぜ」

エドス「何?」

エレン「——— っ!」 バッ!


ザッ!


バノッサ「よお、会いたかったぜ」

エドス「バノッサ……!」

バノッサ「はっ、それにしてもまさかお前らの方から、こうして逃げ場のねえところまで来てくれるとはな!」

エレン「——— てめえ! まだ懲りてなかったのかよ!?」

バノッサ「当たりめえだ。お前は俺の手でぶっ殺さなきゃ気がすまねえ……」

ガゼル「よくいうぜ。エレンにお情けかけてもらって助かったくせによ」

エドス「お前らしくもないな、バノッサ。こちらの実力は、以前の戦いで十分にわかっただろうに」

バノッサ「くっくっく、確かに俺の部下じゃあ情けねえことに、お前らには歯が立たねえみてえだな」

ガゼル「それがわかってんなら———」



バノッサ「だが、これを見ても、俺様に減らず口が叩けるかな?」

バノッサ「……カノン!」

ザッ

バノッサに呼び出されて出てきたのは
ならず者のイメージが強いオプテュスのメンバーには似つかわしくない
小柄で端正な顔立ちの、可愛らしい少年だった。


カノン「あ、出番ですか? バノッサさん」

エレン(なんだこいつ……?)


カノン「そこのお兄さんには、初めましてかな? ボクはカノンっていいます」

カノン「一応バノッサさんとは、義兄弟なんですよ」

エレン「あ、そ、そうか……。えっと、俺はエレンだ」

カノン「エレンさん、ですね。よろしくお願いします」

エレン(……なんか調子狂うな)

バノッサ「なにしてるカノン! さっき捕まえたあいつを見せてやれ!」

カノン「はいはい、ほらいい子にしてね?」

フィズ「ひっく、ひっく……」

ガゼル「——— ふぃ、フィズ!?」



エドス「どうしてお前さんがそこに!?」

フィズ「う、うぅ、ひっく……。ごめんなさい。皆がお出かけするのを見つけて、こっそりついて行ったの……」

エレン「な、何やってんだ馬鹿! 危険だってことくらいお前にもわかるだろうが!」

フィズ「ふぇぇええぇぇん! ごめんなさあぁぁああぁあい!」

バノッサ「おいおい、泣かしてんじゃねえよ。可愛そうだろぉ?」

バノッサ「それよりも、そんな危険なことをしていたガキを親切に保護してやったんだ」

バノッサ「お礼の言葉の一つもねえってのか?」

エレン「何が保護だ……! 人質だろうが糞野郎!」



バノッサ「おいおい、何だその態度は? カノンはああ見えて力がめっぽう強い」

バノッサ「あんまり失礼な態度をとって怒らせたら、ついつい力の加減を間違っちまうかもしれねえなあ?」

バノッサ「それが嫌なら、下手な抵抗はしないほうがいいと思うぜェ?」

ガゼル「くっ……!」

バノッサ「おい子分ども! 仕返しの時間だぜ?」

ザッ……

チンピラA「ようガゼル……。てめえにナイフで刺された痛み、晴らさせてもらうぜ!」

ドゴォ!


ガゼル「ぐはっ……!」

防御もできず、腹部に強烈な一撃を見舞われたガゼルは膝をつき倒れそうになる。


ガシッ

チンピラ1「おっと、そうはさせねえぜ? まだ倒れてもらっちゃ困るんだよ!」

バキィ!

ガゼル「……っづ!!」

エドス「ガゼル!」

チンピラB「おら、どこ見てんだよ!」


ガス!

エドス「ぐお!」


ガゼルに視線を向けたエドスに、男は木の棒のようなもので思いっきり殴りかかった。


エレン「て、てめえら……!」

バノッサ「おっとぉ! 反抗的な目だなあ? どうなってもいいってことかな?」

フィズ「あ、あぅぅ……」

エレン「……ちっ! この糞野郎が」

バノッサ「は! これから始まるリンチが終わってからも、同じことが言えるかな?」


カノン「……ねえバノッサさん、ここらでやめときません?」

バノッサ「アァ?」

カノン「ボク、こういうのって好きじゃないんですよ……気分が悪いです」

バノッサ「何言ってやがる。これからだろうが」

カノン「でも・・・・・・」

フィズ「エドス……ガゼル……ううっ、エレン……」

カノン「ボク、もう嫌ですよ。先に帰りますからね?」 スタスタスタ

バノッサ「……まあいい、好きにしろ」


バノッサ「さてと、エレン。てめえは簡単には済まさねえぜ?」

バノッサ「俺の顔に泥を2度も塗ったんだ。楽に死ねると思うなよ……!」

エレン「くっ……!」

バノッサ「やれ、お前ら! まずは半殺しにしろ!」

チンピラC・D 「 「おう!」 」

エレン(ちくしょう……! どうにもならねえのか……!)

エレン(力が……! もっと力があれば、あんな奴に……!)



(——— 信じて)


エレン(……え?)

エレン(今のは、あの時の声!?)


(あなたには力がある。それを、信じて———)


エレン(どこだ! どこにいるんだ!?)


(君になら出来る! 絶対できるよ!)


(さあ! ——— エレン!)



カッ!


バノッサ「!? なんだテメエ! 何してやがる!」

エレン(なんだ、この光は……!)

バノッサ「な、なんだその光は……!? おい! てめえ下手な真似すると……!」

エレン「うおおおぉおおおぉおおお!!!」




バノッサ「——— !?」



エレンが力を振り絞るように叫び声ると、溢れていた光はより一層その輝きを増し
強烈な衝撃波となってバノッサを襲った!



ドゴォオオオォオオン!!!


バノッサ「ぐああぁああああぁあぁ!?」



ズシャア!


フィズ「きゃあぁあぁぁ!!」

ガゼル「——— フィズ!」


衝撃の余波を受け、フィズの小さな体も空中へ投げ出されてしまった。
ガゼルはバノッサの手からフィズが離れるのを確認すると、弾丸のようにフィズのもとへと疾駆する!


ガゼル「——— おぉお!!」ズシャア! ガシ!

エドス「ガゼル! フィズは!?」

ガゼル「……無事だ! 気を失っているが外傷はねえ」



エドス「そうか、それは良かった。……さて!」

チンピラ達「ひぃ!?」

エドス「フィズを怖がらせた仕返しは、しっかりとさせてもらうぞ!!」

ガゼル「待てエドス! 今の騒ぎで【はぐれ】共が集まってきやがった!」

エドス「何……!」

ガゼル「おいエレン! 大丈夫か!」

エレン「あ、ああ……」

ガゼル「よし、なら一旦ずらかるぞ!」


・・・
・・


ガゼル「はぁ、はぁ……」

エドス「ふぅ、ここまで来れば安心だろう」

エレン「……フィズは?」

フィズ「う、ん……」

ガゼル「どうやら気がついたみてえだな。おいフィズ! おい! 大丈夫か!」

フィズ「が、ぜる……? ———!」

フィズ「う、うぅ、ふぇ……」ジワ……

フィズ「ふえぇえぇぇん! ごめんなさぁあぁぁい……!」

ガゼル「おい泣くな! 怒りゃしねえから」


フィズ「うぅ、だ、だってぇ……私のせいで、3人が……」

エドス「大丈夫だ。ほぉらこの通り、ピンピンしとるからのぉ!」

フィズ「う、うぅ、ひっく……」

エドス「しかし、エレンには助けられたのお」

ガゼル「さっきのは、召喚術か……? お前わかってて使ったのか?」

エレン「いや、俺もさっぱり……。頭の中で声が聞こえて、それで無我夢中で……」






???「やっほー♪ 無事かな?」



全員「——— !!!」 バッ!


雰囲気をぶち壊すかのような、明るい声と軽いセリフで突如現れたのは。
先程のオプテュスの一味とは無縁そうな、朗らかな笑顔を携えた活発そうな短髪の少女だった。


ガゼル「な、なんだテメエは!」

エレン「——— ! その声は! 待てよガゼル! そいつだ!」

エレン「こいつが、俺にあの力の使い方を教えてくれたんだ!」

ガゼル「なんだって……!?」

???「へへへ。ま、そーゆーこと!」

エドス「あんたは、いったい?」


???「あたし? あたしはカシス」

カシス「そこの彼が、この世界に来た理由を理由を知ってる女の子だよ」

エレン「な!?」

エドス「だとすると、お前さんは召喚師ってわけか?」

カシス「そだよ」

ガゼル「召喚師だぁっ!?」

カシス「なによぉ、その露骨な敵意はー? ……ま、いいや。ねぇエレン? 詳しい話、聞きたい?」

エレン「あ、ああ! 何か知ってるなら、頼む! 教えてくれ!」


カシス「そんな前のめりにならなくたって教えたげるよ」

カシス「んー、結論から言えば……事故なのよ」

エレン「……は?」

カシス「ある召喚の儀式に失敗して、その結果としてエレンがこの世界に呼ばれちゃったのね」

エレン「呼ばれちゃったのね……って! じゃあなんだ!? 俺は完全にとばっちりってことかよ!?」

カシス「うーん、ごめんねぇ」(ゝω・)テヘペロ

エレン「ふざけんなよ! 俺はもうすぐ調査兵団に入って巨人どもを駆逐出来たってのに、そのせいで……!」

エレン「それを『ごめんねぇ』の一言で済ませられてたまるかよ!」


カシス「事実だもん、仕方ないじゃない」

エドス「事故だというのなら、すぐに彼を元の世界へ戻してやってくれんか?」

カシス「残念ながら、無理ね」

ガゼル「なんだと!?」

カシス「儀式を行った召喚師は、みんな死んでしまったの。私は見習いだったから生き残れたけど……」

エレン「か、帰れねえってのか……? 永遠に……?」

エレン(ってことは、もうあいつらにも、会えないって事か……?)


カシス「そう暗い顔しないでよ。あたしがついてるわ!」

カシス「キミが帰れるように、責任をもって、最後まで面倒見ちゃうから!」 ニコ!

カシス「と、いうわけでー。あたしもあなた達のおウチにお世話になるね?」

ガゼル「なぁんだとぉぉおぉ!?」

カシス「ねぇねぇ、エレン〜。いいでしょ?」

エレン「………」


・・・
・・


〜広間〜


ガゼル「どうして連れて来ちまったんだよ!」

エレン「しょうがねえだろ。放っておくわけにもいかねえし、重要な手がかりだしよ……」

エドス「エレンの言うことが事実なら、フィズを助けてもらったことにもなるしなぁ」

レイド「……事情はわかった。リプレにも簡単には説明をしてきたよ」

ガゼル「リプレは、なんて?」

レイド「特には、な。しかしどうしたものか……。エレン、君の考えを聞こうか」

エレン「え!? 俺が決めるのか?」


レイド「決めるなら全員で、だ。だがこれは、君にとって一番大切な問題だ」

レイド「だから、できることなら君の考えを尊重したいと思っている」

エドス「難しく考えんでもいいぞ。要は、お前さんがあの子を信じるかどうかだ」

カシス「………」 ジー

エレン「俺は……出来ることなら信じたい」

カシス「——— !」 

レイド「……私も同意見だな。彼女が召喚師だというのなら、君にとって重要であるのは間違いないだろうしな」

エドス「エレンがそういうのなら、ワシもそれでいいぞ」

ガゼル「………」


エレン「ガゼル、お前が召喚師嫌いなのはわかってる。けど……」

ガゼル「ケッ! 俺がなんて言おうが、この時点で多数決で負けてるだろうが」

ガゼル「信じてやるよ。お前の決断をな」

エレン「……ありがとよ、ガゼル」

カシス「えっと、それじゃあ私は受け入れてもらえるって方向で、おーけー?」

エレン「まぁ、そういう事になるな……」

ガゼル「俺はお前を信用したわけじゃねえからな。エレンを裏切るような真似をしたら、承知しねえぞ」

カシス「大丈夫大丈夫! それじゃあエレン、これからよろしくねー」

エレン(……本当に大丈夫なのか、マジで)


・・・
・・


荒野で出会ったカシスの言う通りだとすれば、俺は間違ってこの世界に呼ばれてしまったらしい。

迷惑極まりねえが、今あいつを責めたところでどうにもならねえ。

まあ、いきさつは分かったことだし、後はどうやって帰るかだな。

そればっかりは、あいつを頼らなきゃいけねえわけだが……。


カシス「でも自分で言うのもなんだけどさ、まさか本当に受け入れてもらえるとは思わなかったな」

エレン「まぁ、ここの皆は良い奴ばかりだからな。俺もそのおかげで、今こうしていられるわけだしよ」

カシス「そうだね。本当に、良い人すぎるくらい……」

カシス「……ねえ、エレンはさ、本当に私のこと信じてる? 恨んでない?」

エレン「……思うところがねえわけじゃねえけど、恨んだってどうにかなるわけじゃないだろ」

エレン「お前の話が本当なら、全部が全部お前の責任ってわけじゃねえしよ」

カシス「それは、そうだけど……」

エレン「それに、黙って逃げちまえば何事もなく済んだのに、お前はわざわざ名乗り出てくれただろうが」

エレン「だからまあ、とりあえずは信じてやるよ」



カシス「うん……。ありがとう、エレン」


少し前の俺なら、こんなセリフは出なかったかもしれねえな。

きっと、怒りに任せてカシスを責め立てていたに違いない。

……少しだけ、俺もこの家の皆に影響されてるのかもな。



                              〜第2話 完〜

第2話終了です
続きはまた近いうちにでも投下する予定。

19:00頃から再開します。







〜第3話 金の派閥〜






.


〜カシスの部屋〜


エレン「で、話ってなんだ?」

カシス「うん。この前の力について、話しておこうと思ってね」

エレン「あの不思議な光のことか?」

エレン「丁度いいや。俺も気になってたんだ。使っておいてなんだが、自分でもさっぱりだったからよ」

エレン「ありゃ一体なんなんだ? 少なくとも、元の世界にいた時には、あんな力使えなかったぞ」

カシス「んー、教えるは言ったものの、断言はできないんだ。けど、私はおそらく【召喚術】の一種だと思ってる」

エレン「召喚術? それって召喚師にしか使えないんじゃねえのか?」


カシス「あ、それは思い込み。方法さえ知ってれば、誰にでも使えるものなのよ」

カシス「まあ、それはともかくエレンの場合は呪文すらいらないし、全く別次元の力だね」

カシス「あんなこと、召喚師にだって出来ないもん」

エレン(そんなにすげえ力だったのか……)

エレン(理屈は分からねえが、もし元の世界でも使えるなら、巨人を駆逐するいい武器になるかもしれねえな)

カシス「ただし、問題もあるわ。エレンの召喚術はいわば我流」

カシス「きちんとした制御法を学ばないと、下手をすれば暴発する危険もあるわ」

エレン「ってことは、おいそれと使えないってことか?」

カシス「大丈夫。そうならないために、あたしが召喚術の基礎を教えてあげる」

カシス「ただ、あの光については私もさっぱりだから、自由に使えるようになるとは限らないけどね」


・・・
・・


カシス「覚えたかな?」

エレン「ええと、まずはサモナイト石に精神を集中して……」

エレン「次に何かの行動を起こせば、召喚術が発動するんだな?」

カシス「そう。人によっては呪文だったり踊りだったり武器を振るったりと、トリガーは様々だけどね」

カシス「でも、この方法だけだとイマイチ役に立たないのよねえ」

カシス「いちいちサモナイト石を消耗するし、何が呼び出されるかもわからない」

カシス「だから私たちは、【誓約】という儀式を同時に行うの」

エレン「せいやく?」


カシス「うん。呼び出された召喚獣に名前をつける儀式のことよ」

カシス「そうすれば、一度名前をつけた召喚獣を呼び出したサモナイト石さえあれば」

カシス「魔力を消費するだけで、誰にでも、いつでも自由にその召還獣を呼べるようになるの」

エレン「でも、誰にでも使えるようになるなら、どうしてガゼル達はそのことを知らないんだ?」

エレン「あいつら、召喚術は召喚師にしか使えないって言ってたぞ?」

カシス「それは、その情報が召喚師の家系以外には公にされていないからね」

カシス「色々と事情があってね。誰にでも召喚術が使えるなんてことが知れたら、召喚師は困っちゃうのよ」

カシス「だから、一般に人には知らされていないし、召喚師にはその事を公言してはいけない義務があるの」


エレン「義務があるのって……いいのか? お前今俺にペラペラ説明してるけどよ」

カシス「そりゃ駄目に決まってるわよ。でも場合が場合だし、あなた達を信じて話すことにしたの」

エレン「……そっか、ありがとよ」

カシス「別にお礼なんていいわよ。私の不始末の結果でもあるんだしさ」

エレン「それでもだ。俺も兵士だったからわかるけど、そういう決まりを破るのって結構なことだろ?」

エレン「それでも、俺達のためにそうやって話してくれたんだ。感謝はするさ」

カシス「………」

エレン「カシス?」


カシス「うん、本当に感謝なんていいよ。さっきも言ったけど、私の自業自得なんだしさ」

エレン「……?」

カシス「ま、この話はもういいでしょ! それより誓約を試してみなよ」

エレン「お、おう……」

カシス「はいじゃあこれ。このサモナイト石で試してみて」

エレン「な、なんだか緊張するな……」

カシス「うんうん。私も初めての時は緊張したよ。でも大丈夫、案外簡単だから」

カシス「それに、私がきちんとサポートしてあげるから、ね?」

エレン「わかった。……それじゃあ、よろしく頼む」


カシス「おっけー。まずはさっき言ったとおり、精神を集中させて」

エレン(精神を集中……)

カシス「呪文は……まぁ簡単なものでいいわよね。私に続いて唱えてね」

カシス「『召喚師、エレンの名において命ずる。異界の門よりいでよ』」

エレン「召喚師エレンの名において命ずる。異界の門よりいでよ———」


カッ!

ボゥン!

エレン「……」

カシス「……」

???「ムイ!」

エレン「なんだこいつ? ペンギン?」

カシス「この子は【テテ】だね。幻獣界メイトルパの一般的な召喚獣だよ」

カシス「言葉は喋れないけど、賢くて力もそれなりに強いから、初心者向けの召喚獣だね」

カシス「それじゃあエレン、この子に名前をつけてあげて」


エレン「名前? テテじゃねえのか?」

カシス「それが一般的な名前だけど、やっぱりその子独自の名前をつけてあげたほうがいいんだよ」

カシス「知性の高い召還獣と違って、この子達には明確な個体名がないからね」

エレン「そんなこと急に言われてもなあ。う〜ん、名前かあ……」

???「ムイムイ!」

エレン「ん? どこへ行くんだ?」

???「ムイ!」 ガサゴソガサゴソ

カシス「あっ! そこの棚は!」


???「ムイ〜♪」

エレン「何だありゃ? 棚からなにか見つけたみてえだけど」

カシス「あ〜! 私のおやつのクッキー! 返しなさい!」

???「ムイ!」 プイ! モグモグ……

カシス「ああぁ、食べちゃった〜……」


エレン「……サシャ」

カシス「え?」

エレン「コイツの名前は【サシャ】だ」

カシス「え、どこから出てきたの? その名前」

エレン「ん? いや、なんかコイツを見てたら、なんとなくな」

サシャ「ムイムイ!」 モグモグ……

エレン「美味いか〜? 今日からお前の名前はサシャだ。よろしくなサシャ!」

サシャ「ムイ!」 モグモグ ゲプッ

カシス「うぅ、私のおやつ〜……」


・・・
・・


〜広間〜

レイド「にわかには信じがたい話だが……」

エドス「お前さんが誓約とやらをすれば、ワシらにでも召喚術が使えるということか」

ガゼル「そりゃ召喚師どもも秘密にしたがるわけだ」

ガゼル「実は召喚術は誰でも使えますーなんて知れたら、あいつらの立場がねえもんなあ」

エレン「まあ、誓約ってのが出来るのは、やっぱ召喚師だけらしいけどな」

エドス「この前の不思議な光も、やはり召喚術だったのか?」

エレン「そうらしい。厳密には少し違うって言ってたが……」

レイド「ふむ、正体不明の力となると……少々不安が残るな」


ガゼル「心配はいらないと思うぜ? 今までだって無意識で使えてたんだしよ」

ガゼル「むしろ、オプテュスの連中と戦ういい武器になるじゃねえか」

エレン「そうだな。この力があれば、あいつらが何をしてこようと遅れを取ったりはしねえはずだ」

レイド「………」

ガゼル「ん? どうしたレイド」

レイド「あ、いや。ちょっとな……」

エレン「………?」


エドス「しかし、そんな重要なことなら直接教えてくれればいいのにのう」

ガゼル「確かにな。だがあいつここに来てからずっと部屋にひきこもりっぱなしだからなあ」

エドス「考えてみれば、ワシらはあの子のことは名前以外ろくに知らんからのお」

エレン「そう言えばそうだな。俺もあいつの事については殆ど話してねえや」

ガゼル「……そうだ! おーいリプレー!」

リプレ「はーい! 呼んだ〜?」


ガゼルが大声で呼ぶと、食器を片付けていたリプレが台所からパタパタと走ってきた。


ガゼル「おう。カシスの事なんだけどよ」

リプレ「カシスの事?」

ガゼル「あぁ、女同士だし何か話してねえかと思ってな」

リプレ「う〜ん、残念だけど力になれないわね」

リプレ「中々顔を合わせることもないし、調べ物があるからってご飯は部屋の中でとってるみたいだし……」

エレン「あんまり人見知りするような性格には見えねえんだけどな」

レイド「やはり、周りが男性ばかりというのも少々抵抗があるのかもしれないな」

リプレ「そうね。せめて何かきっかけがあれば少しは違うのかもしれないけど……」

エドス「きっかけか……うむ! いいことを思いついたぞ」

ガゼル「いい事?」


エドス「今日はワシもレイドも休みだし、天気もいい。おまけにアルサックの花も丁度見頃ときとる」

エドス「とくれば、やる事は一つしかあるまい?」

リプレ「もしかして、お花見?」

エドス「おう! ここ最近はやっていなかったし丁度いいだろう」

エドス「色々あって遅くはなってしまったが、エレンの歓迎会も兼ねて、な」

エレン「……え!? いいよそんな! わざわざ俺のために歓迎会なんて!」

リプレ「ふふ、遠慮しなくていいわよ。歓迎会ってのは半分口実で、本当は食べたり飲んだりしたいだけなんだから」

エドス「そ、そんな事はないぞ? エレンの歓迎と、カシスとの交流を兼ねるいい機会だと思ってだな……」


ガゼル「でもよぉ、それなら違う形にしねえか? わざわざ花なんか見に行かなくても、窓から見えるじゃねえか」

エドス「そういうな。わざわざ見に行くから感動があるもんだ」

ガゼル「そんなもんかねえ?」

エドス「そうと決まれば早速準備だ! リプレ弁当は頼めるか?」

リプレ「ええ、任せといて。腕によりをかけて作っちゃうから♪ それじゃあ早速支度しなきゃ!」 タタタタタ

エドス「エレンは、この事をカシスに伝えておいてくれ。ガゼルはワシと一緒に備品の準備だ!」

エドス「さぁ、忙しくなってきたぞ〜♪」 ダダダダダ!

エレン「張り切ってんなぁ……」


ガゼル「あいつはドンちゃん騒ぎが大好きだからな。ったく、シートはどこにしまってたっけなぁ……」 スタスタスタ

エレン「……ま、折角だし楽しむか。まずはカシスの部屋に行ってと……」

レイド「——— 待ってくれ」

エレン「ん?」

レイド「少し聞きたいことがあるんだが、いいかな?」

エレン「なんだよ急にかしこまって。別に構わねえぜ」

レイド「ありがとう。では少し変なことを尋ねるが……」


レイド「君は、自分が召喚術を使えると知ったとき、どう思った?」

エレン「どうって……? ん〜、嬉しかった、かな?」

レイド「……それは、何故?」

エレン「俺さ、小さい頃に母さんを殺されたんだ。俺の世界の化物、巨人に目の前で」

エレン「その時に言われたんだ。母さんを助けられなかったのは、お前に力がないからだって」

エレン「俺はその時誓った。いつか絶対に強くなって、巨人共を1匹残らず駆逐してやるってよ」

エレン「だから、自分にそんな力があるって聞かされたときは嬉しかったんだ」

エレン「もし元の世界でこの力が使えれば、あいつらを……!」ギリッ


レイド「………」

エレン「……レイド?」

レイド「エレン、君の気持ちはよく分かる。自分に人にはない力があると知って、喜ばない人間は稀有だろう」

レイド「何より君は、力を求めるだけの理由もある。……だからこそ、私は心配なんだ」

レイド「君はとても真っ直ぐな心の持ち主だ。だから、自ら悪事に手を染めるようなことはないだろう」

エレン「あ、当たり前だ! 悪いことに使ったりなんかしねえよ」

レイド「……だが君は、力を持つ事の責任を理解しているかい?」

エレン「責任……?」


レイド「力を持つ者は必ず選択を迫られる。多かれ少なかれね」

レイド「時にはその選択によって、誰かが犠牲になるかもしれない。仮にそれが、正しい選択であったとしてもだ」

レイド「だからこそ、力を持つ者はその選択の結果に対し、責任を持つ義務がある」

レイド「君もいつか、その力の使い方を問われる時が来るはずだ」

レイド「どうかその時、感情に囚われて力の使い方を誤るようなことがないようにして欲しい」

エレン「………」


レイド「……すまん、なんだか偉そうに説教をしてしまったな」

エレン「いや、俺もちょっと軽く考えていたみたいだ。レイドのおかげで気づかされたよ」

エレン(レイドの言う通りだ。考えてみれば、この前のバノッサの戦いもそうだった)

エレン(俺はあの時、バノッサを殺せるだけの力があるから、憎たらしい一心で奴を殺そうとした)

エレン(その結果がどう影響を及ぼすかなんて、全く考えずによ……)

レイド「そう言ってもらえると助かる。……時間を取らせてしまったね。早くカシスの所へ行ってあげるといい」

エレン「ああ。レイドもきちんと準備しとけよ!」  タッタッタッタッタ……

レイド「………」




レイド「選択を間違えるな、か」

レイド(私のような人間が、よくもそんな偉そうなことを言えたものだ)


〜カシスの部屋〜


カシス「お花見?」

エレン「俺とお前の歓迎会を兼ねて、な。今日の昼頃から出発するらしいから、準備しておけよ」

カシス「ふ〜ん、てっきりデートのお誘いかと思ったんだけどな〜?」

エレン「は? そんなわけねえだろ。何言ってんだお前?」

カシス「……君ってたまに、空気読めないとか言われない?」

エレン「え?」

カシス「なんでもない。っていうか今日の昼って急な話ね。もっと早く教えてくれればいいのに」


エレン「決まったのも今朝だからな。エドスの奴が急に言い出したんだよ」

カシス「エドス……? あの盗賊っぽい男のほうだっけ?」

エレン「そっちはガゼルだよ。なんだお前、まだみんなの名前も覚えてねえのかよ」

カシス「それは、まあ。こっちに来てから殆ど部屋から出てないしね」

エレン「そんなんじゃ体壊すぞ?」

カシス「大丈夫よ。軽い運動はしてるから」

エレン「ならいいけどよ、でもせめてもう少し他の奴らと話すようにしたほうがいいんじゃねえか?」

エレン「俺を元の世界に返すためって言ってもよ、結果的にあいつらの世話になってるんだし」


カシス「……そっか、このままじゃダメかな?」

エレン「ん? いや、ダメってわけじゃねえけど……」

カシス「あたしさ、ちょっと強引なとこあるでしょ? だから、みんなが作った雰囲気を壊しちゃうかなーって」

カシス「うん、でもエレンがうまくやれてるんだし、余計な心配だったのかもね」

エレン「は? それってどういう意味だよ」

カシス「そのまんまの意味よ。まぁこれからはもうちょっとみんなと話すように心がけてみるわ」

カシス「お花見も参加するから心配しなくていいわよ。仲良くなるいいきっかけになりそうだしね」


・・・
・・


〜玄関〜


エドス「よしみんな! 忘れ物はないな?」

リプレ「みんな、ちゃんとハンカチは持った?」

アルバ・フィズ「はーい!」

ラミ「……」コクリ

ガゼル「弁当もぬかりなし、と。カシスの奴も来てるしいつでも出発できるぜ!」

エドス「ようし! それじゃあ早速出発だぁ!」


・・・
・・


〜道中〜

エレン「それにしても、随分と張り切ってるなエドス」

エドス「ははは、わかっちまうか?」

エドス「大勢で花見に繰り出すなんて久々でな。柄にもなくはしゃいじまってるのさ」

エレン「まあ、分かる気はするけどな。俺も小さい頃は、みんなで出かけるのが楽しみだったからな」

エドス「そうかそうか!」

エレン(訓練兵団に入ってからは、野営訓練くらいしか皆で外へ出るって事がなかったな、そういえば)

エレン(……あいつら、どうしてっかな。本当は、こんな事してる場合じゃねえんだろうけど)


カシス「なに暗い顔してんの?」

エレン「おわっ!」

カシス「なーにー? おわっ! って。 流石に少し失礼だと思うんだけど」

エレン「あ、ああ、悪い。ちょっと考え事しててよ」

カシス「もしかして、元の世界のこと?」

エレン「あー、まあそんなとこだな」

カシス「色々あるだろうし、原因の私が言うことじゃないかもしれないけど」

カシス「折角なんだし、細かいことは考えずに楽しんだほうがいいんじゃない?」


エレン「本当にお前が言うなだな……」

カシス「うわっ、普通そこはそう思ってもスルーするとこじゃないの?」

エレン「なんでだよ。そう思ったんだから仕方ねえだろ」

エレン「ま、でも楽しんだほうがいいってのも確かだな。悩んだところで帰れるわけでもねえんだし」

エレン「というか、そういうお前はどうなんだ? ちゃんと楽しめんのかよ」

カシス「言われるまでもなく、存分に楽しむわよ。……ふふ♪」

エレン(渋ってた割には、随分と楽しそうだな、こいつ)


・・・
・・


〜アルク川のほとり〜


エドス「おほぉ〜、咲いとる咲いとる! こりゃ満開じゃなあ!」

エレン「これがアルサックって花か? ピンク色で思ったより小さい花なんだな」

ガゼル「お前のいた世界にはなかったのか?」

エレン「似たような花はあったかもしれねえな。俺、花なんか興味なかったしよ」

カシス「……あれ? なんか木を囲むようにテントが張られてるわね」

リプレ「ほんとだ。それも端から端まで全部……」

レイド「アレは……」


ガゼル「おいおい、あれじゃあロクに花が見れねえぜ」

エドス「むう……。場所を空けてもらえるよう頼んでくるかな」

レイド「いや、エドス。それは無理だろう」

エレン「どうしてだ?」

レイド「テントの周りに警備の兵士がいる。どうやらあそこにいるのは、城の貴族達の様だ」

カシス「……あぁ。なるほどね」

レイド「これは、日を改めて出直すしかないだろう」

ガゼル「折角準備してきたのにかよ? 俺は納得できねえぜ!」


エドス「………」

レイド「私だって納得したわけじゃない。しかし、どうしようもないだろう?」

エドス「……そうだな」

エレン「エドス? いいのかよ、あんなに楽しみにしてたってのに」

エドス「なに、単なる思いつきで始めたことだ。こういう事情なら、諦めもつくよ」

エドス「振り回してしまったみんなには、申し訳ないがな」

エレン「くそ! ここの花はあいつらの持ち物ってわけじゃねえんだろ!?」

ガゼル「全くだぜ。なんで俺らが貴族の連中の都合で遠慮なんかしなくちゃなんねえんだよ……」


アルバ「ねー、今日はお花見できないのー?」

フィズ「折角楽しみにしてたのに……」

リプレ「ごめんね? また違う機会に連れてってあげるから、ね?」

ラミ「……おはなみ、したかった」

カシス「……ねえ、別に帰らなくてもいいんじゃない?」

エドス「なに?」

カシス「ほら、確かにあの大きなテントのせいで殆どアルサックは見えないけどさ」

カシス「シートとお弁当はあるんだから、この辺で食べていきましょうよ」


レイド「……確かに、カシスの言う通りだな」

リプレ「そうね。お花見ができないからって、なにもさっさと帰ることはないじゃない

リプレ「折角だもの。ここでお弁当を食べてのんびりしていこうよ」

ガゼル「……だな。お前も召喚師の割には良い事言うじゃねえか」

カシス「まあねー。あなたは一言余計だけど」

エレン「ま、俺は花よりもリプレの弁当の方が楽しみだったしな」

リプレ「え……!? べ、別にいつも通りの物しか用意出来てないんだけど……」

エレン「ん? それでも十分だろ。いつも美味いんだからさ」

リプレ「そ、そうかな……? えへへ・・・・・、そう言われると、ちょっと嬉しいかな」


ガゼル「よっしゃ! そうと決まれば準備だ。行くぜガキ共」

アルバ「わーい! オイラそっちに座るー!」

フィズ「あ! そこはわたしよー!」

ラミ「ま、まって……!」トテトテ


・・・
・・


ガゼル「っかー! やっぱ外で食う飯は格別だな!」

カシス「不思議よねー。おにぎり一個が全然別の味だもん。あ、エドス。そっちのおかずちょっと頂戴」

エドス「おう。そっちの飲み物もとってもらえるか?」

カシス「いいよー、はい」

リプレ「ふふ、カシスも大分みんなと打ち解けたみたいね」

レイド「元々物怖じしない性格のようだからね。きっかけが必要なだけだったんだろう」

アルバ「あー! それオイラの卵焼きー!」

フィズ「しらないわよー。あむっ!」

アルバ「あぁぁ! ママー! フィズがオイラのとった〜!」

ラミ「け、けんかは、だめ……」オロオロ


リプレ「もう、仲良く食べなきゃダメでしょ!」

カシス「ほら、あたしのあげるから泣き止みなさい」

アルバ「うぅ……、ありがとう、ねーちゃん」



エレン「………」

エレン(なんか平和だな……)

エレン(こんな風に過ごしたのって、いつぶりだろうな)

エレン(少なくとも、母さんが死んでから、こんな穏やかな空気で過ごす事なんてなかった)

エレン(カシスにはああ言ったが、やっぱ申し訳ないよな。せめて、あいつらもここにいれば……)


ガゼル「おいエレン! 何一人でボケっとしてんだよ」

エレン「ガゼルか。いや、別に何だってわけじゃねえが……」

ガゼル「そうか? ところでよ、どうだ今日の弁当は」

エレン「そりゃあ旨いさ。リプレはああ言ってたが、どう見てもいつもより凝ってるぜ」

エレン「……まあ、欲を言えばもうちょっと量が欲しいところだけどな」

ガゼル「だろ? 俺もそう思ってたんだ」

ガゼル「と、いうわけで、ちょいと俺に付き合わねえか?」 ニヤ

エレン「その顔は……また何か企んでるな?」


ガゼル「人聞きの悪い言い方すんなよ、そういうお前も、顔がにやけてるぜ。」
 
エレン「なんとなくお前の言おうとしてる事はわかるぜ。ちょっと仕返ししてやろうって事だろ?」

ガゼル「仕返しなんかじゃねえよ。貴族の皆さんの、豊かな食生活を拝見するだけさ」

エレン「そりゃいいや。で、方法は考えてあるんだよな?」

ガゼル「任せとけよ。それじゃ、リプレ達に見つからないうちにさっさと行こうぜ」


・・・
・・


〜園遊会会場〜


エレン「思ったよりあっさり入れたな」

ガゼル「ああ。場所が場所だけに兵士たちも呑気なもんさ。酔っ払ってる奴もいたしな」

エレン「ったく、兵士がそんなんでいいのかよ。いざって時にどうすんだ」

ガゼル「まあまあ、おかげでこうして忍び込めてるんだしよ」

エレン「ま、それもそうだな。……お! 美味そうな料理が並んでるぜ!」

ガゼル「まてまて。そっちに手を出すと、貴族の奴らに目をつけられちまう」

ガゼル「俺たちはどう見ても、貴族ってなりじゃねえからな」

ガゼル「ほら、向こうを見ろ。……どうやら、あっちで料理を作っているらしい」

エレン「どうするつもりだ?」

ガゼル「へへ。まあ黙って俺についてこいよ」


・・・
・・


ガゼル「すいませーん! 料理を取りに来たんですがー!!」

兵士「そこにあるだろう。さっさと持って行きな!」

ガゼル「分かりました! ……ほら、お前はそっちの皿を持てよ」

エレン「お、おう……」

ガゼル「うまくいっただろ?」

エレン「まさかこんな簡単に行くとはな……」

ガゼル「これだけ貴族がいっぱい来てるって事は、それだけ召使達の数もすげえことになるだろ?」

ガゼル「ソコにつけこんだってわけだよ」

エレン「ったく、こんな簡単な作戦に引っかかるなんて、情けなくて泣けてくるな」

ガゼル「まあまあ、そのおかげでこうやって獲物にありつけるんだしよ。ほら、向こうに行って食おうぜ!」


・・・
・・


ガゼル「うーん! 流石は貴族だ。いいもん食ってやがるぜ!」

エレン「ああ、確かにな……。こんな美味い料理、食ったことねえや」

ガゼル「なんだ? 不満でもあんのか? なんかイマイチ嬉しそうじゃねえけどよ」

エレン「なんかサシャみたいで落ち着かねえんだよな……」

ガゼル「さしゃ?」

エレン「ああ、俺の世界にいた仲間の一人だよ。いっつもこんな事やってるような奴でさ」

エレン「って、まあそれはいいや。それにさ、ちょっと皆にも申し訳ないだろ?」


ガゼル「……お前もそう思ってたか。おれもあいつらには悪いかなって思ってたんだ」

ガゼル「いくら豪華な飯でも、こそこそ食べてちゃ美味くねえ」

ガゼル「よし! 土産に菓子でもくすねてから、引き上げることにすっか!」



???「自分の不手際を、そんな理由で誤魔化すつもりか貴様は!!!」



ガゼル「……? なんの騒ぎだ?」


???「言い訳はいい! 現に、お客様方の元へ料理が届いていないのが問題なのだ!!」


エレン「料理……? まさか……」



???「この私に恥をかかせるつもりか? 大体そんなガキなど……」 クルリ

???「この会場のどこにいると……!?」


エレン「あ……」

ガゼル「げ……」


エレンたちは、大声でがなり立てていた神経質そうなメガネの男と目が合ってしまった。


???「貴様らかあああぁああ!!」

???「薄汚い平民どもめ! どこから入ってきた!」


ガゼル「おっさんには関係ねえだろ」

???「おっさんではない! イムラン様と呼べ!!」

イムラン「貴様ら、このサイジェントの街の政務を取り仕切るイムラン・マーン様を知らんのか!!」

エレン「………」

イムラン「ふん、どうやら恐れ入って声も出んようだな」

エレン「いや、そんな偉い奴には見えなくて驚いてたんだ。貴族ってのは初めて見たが、もっと豚みてえなもんだと思ってたぜ」

ガゼル「ああ、なんだかひょろっこいもんな。ま、偉そうに見えねえのは言うまでもねえがな」

イムラン「な、な、な、なんだとぉおおぉおお!?」


ガゼル「やべっ! エレンに釣られて俺まで余計なこと言っちまった!」

エレン「なっ! 俺のせいかよ! 本当のことだからしょうがねえだろ!!」

イムラン「貴様ら……どうやら私を本気で怒らせたいようだな平民ども!」

ガゼル「ケッ! だったらどうするってんだよ、おっさん!」




イムラン「マーン三兄弟・長兄のイムランが【誓約】の元に命じる……」



エレン「……! あの呪文はっ! ガゼル! こいつ召喚師だ!」

ガゼル「なにっ!?」

イムラン「今更気付いたところで遅い! 金の派閥の召喚師、イムラン様に楯突いたことを後悔するがいい!」

イムラン「出でよ、タケシー!!!」



カッ!


イムランの頭上が輝くと、何もないエレンたちの頭上から、突如小さな雷が降りかかった!


ドゴォオン!


ガゼル「ぐぁ!?」

エレン「いってぇ!!」

???「ゲレレレレ♪」


イムラン「ほう、耐えるとは平民の分際で生意気な。タケシー、もう一撃食らわせてやれ!」



イムランが、召喚した黄色くて丸い妙な生き物———。タケシーに命令を下すと
タケシーはバチバチと放電しながらエレンたちへ飛びかかった!


ガゼル「うわっ! あっぶね!」 サッ!

エレン「あの変な生き物がさっきの雷の原因か……!」

タケシー「ゲレゲレ!」

ピシャア! バリバリバリ!

イムラン「ふはははは! ほぉらどうしたぁ!」


エレン達がタケシーの放つ電撃に四苦八苦していると、向こう側からドタドタと走ってくる音が近づいてきた。


兵士1「イムラン様! どうされました!?」


イムラン「遅いぞ貴様ら! さっさとあの薄汚い平民の侵入者どもを引っ捕えろ!」

兵士2「は、はっ!!!」


ガゼル「おいやべえぞ……。1,2……5人はいるぜ。」

エレン「くそっ、捕まってたまるかよ……! 何か良い手は……そうだ!」

ガゼル「何かあるのか?」

エレン「ああ! ちょうど今朝、俺も【誓約】ってやつを済ませてたんだ……!」


今朝の出来事を思い出し、エレンはポケットに入っていたサモナイト石を取り出した。


イムラン「……!? あ、あれは……!」


エレン「召喚師エレンが、えーっと、誓約の元に命ずる……来い! サシャ!」


カッ!!


サシャ「ムイ!!」


イムラン「ば、馬鹿な! 平民如きが召喚術を!?」

兵士「しょ、召喚術だと……?」「や、やべぇぞ……」

イムラン「な、何を怯えている! こちらにも召喚獣はいるのだ! あんなもの恐るるに足らぬ!!」


サシャ「ムイムイムイ!!!」 トテトテトテ!

兵士「「「 ひいぃいぃ!? 」」」


召喚されたテテ……もといサシャが手足をパタパタさせ近づきながら威嚇すると、兵士達は寄り添って情けない声を上げた。
しかし、呼び出した当のエレン達は……。


ガゼル「なぁ、ありゃ本当に戦えんのか? 威嚇してるみてえだが、正直ちょっと可愛いだけだぞ」

エレン「か、カシスは力が強いって言ってたし、大丈夫だろ、多分……」

タケシー「ゲレゲレ!!」

ガゼル「うおっ! また来やがった! この!!」 シュッ!


飛びかかるタケシーにガゼルは投げナイフで応戦するが、ヒラヒラと飛び回り躱されてしまう。



ガゼル「くそ! 人間と違って的が小さくてやりづらいったらねえぜ……!」

エレン「サシャ! そっちはいい! この変な奴をぶっ飛ばしてくれ!」

サシャ「ムイ! ……ムイ?」 クンクンクン……

エレン「……サシャ?」

サシャ「ムイーーー!!」 ドドドドド!


サシャは鼻を鳴らしながら周囲を見回したかと思うと、猛スピードで全く見当違いの方向へ走っていった。
その先にあったものは———。


貴族1「きゃあああーーー!?」

貴族2「な、なんだこいつは!」

貴族3「こ、来ないで来ないでえええぇえ!?」

サシャ「ムイムイ〜♪」 ガツガツガツ!


豪勢な料理が並んでいる、貴族達が使っていたテーブルだった……。


エレン「あ、あの野郎……! そんなとこまで似なくていいんだよ!!」

イムラン「あ、あ、あ……! お、お客様の料理が……!」

ガゼル「……精神的ダメージはあったみてえだな」


貴族1「きゃあああーーー!?」

貴族2「な、なんだこいつは!」

貴族3「こ、来ないで来ないでえええぇえ!?」

サシャ「ムイムイ〜♪」 ガツガツガツ!


豪勢な料理が並んでいる、貴族達が使っていたテーブルだった……。


エレン「あ、あの野郎……! そんなとこまで似なくていいんだよ!!」

イムラン「あ、あ、あ……! お、お客様の料理が……!」

ガゼル「……精神的ダメージはあったみてえだな」


イムラン「平民どもめぇ! もう許さん! よくも私のお客様へ無礼を働いてくれたなぁ!!」

エレン「いや、それは俺達じゃなくてサシャが……」

イムラン「黙れ! 手加減してやったからといって調子に乗りおって! こうなれば全力で相手をしてくれる! タケシー!」

タケシー「ゲレゲレゲレ!!」

イムラン「ぬぬぬぬぬ……!」


イムランはタケシーを自分の元へ呼び戻すと、精神を集中させサモナイト石に力を送り始めた!


ガゼル「な、何をするつもりだ!」

エレン「わ、分からねえが……気をつけろ!」


タケシー「ゲーレーゲーレー!!」

タケシーの周囲には、先ほどとは比べ物にならない程の電撃が貯まり始めていた。

サシャ「ムイ……♪」 ケポッ

サシャはテーブルの上の料理を平らげると、満足そうにお腹をさすりながらその場に転がっていた。


イムラン「ふふふ、これで終わりだ平民ども……! くらえ! ゲレゲレサン———!」


???「パラ・ダリオ!!!」


イムラン「——— なにっ!?」

兵士達「う、うわぁあぁぁ!?」


誰かの叫び声と共に、周囲に怪しい光が走った瞬間、なぜかイムランとタケシー。
そして兵士達の動きはピタリと止まってしまった。


エレン「い、今のは……?」

カシス「私の召喚術。ちょっと麻痺してもらったのよ」

ガゼル「か、カシス!?」

エドス「全く! 騒がしいと思っていたら……! 何をしておるんだお前たちは!」

レイド「カシスが騒ぎに気づいてくれたんだ。後でちゃんとお礼を言っておくんだぞ」

エレン「エドス、レイド……す、すまねぇ……」

イムラン「き、貴様ら、重ね重ね私に恥をかかせおって……!」

イムラン「しかも、平民の分際で召喚術など生意気な……!」

イムラン「憎い! 憎い憎い! あー憎い!!!」


レイド「我々に構うよりも、お客様方に弁解するのが先決ではありませんか、イムラン殿」

イムラン「レイド……!? そうか、これは貴様の仕組んだことか!」

レイド「否定したところで、貴方は信じないでしょう? だったら無駄ですな」

イムラン「ぐっ……!」

レイド「帰るぞみんな」

エレン「い、いいのか……?」

レイド「心配はいらん。あの男はああ見えて、頭の回る人間だ」

レイド「これ以上、恥の上塗りはしないはずだ」

カシス「魔力も結構あるみたいだし、麻痺ももう少ししたら解けるでしょ。兵士の方は知らないけどね」

エドス「さぁ、さっさと帰るぞ。お前さんたちには、こわ〜いお説教が待っとるからな」

ガゼル「へ〜い……」


・・・
・・


〜広間〜


レイド「さて、二人とも何か言い訳はあるか?」

ガゼル「ねえよ……」

レイド「反省は、しているか」

エレン「ああ……」

レイド「それならいい。次からは、あんな無茶な真似はしないように」

エレン「え? それだけか……?」

レイド「ああ。本人が反省しているなら、余計な説教は必要ないからな」

ガゼル「ほっ……」

レイド「私からは、以上だ。だが、お前たちの行動に対してお前たち以上に腹を立てている人物がいる」

エレン「え……?」

レイド「彼女は、私みたいに甘くはないぞ?」


ザッ……

リプレ「あーなーたーたーちー?」 ゴゴゴゴゴ

ガゼル「り、リプレっ!?」

リプレ「わざわざ貴族達の宴会につまみ食いにお出かけになるなんて……」

リプレ「そんなに私のお弁当がお気に召さなかったのかしら……?」

エレン「ち、違うって! 俺はガゼルに無理やり付き合わされて……!」

ガゼル「あっ! てめえずるいぞ! お前だって最初から乗り気だったじゃねえか!!」

リプレ「言い訳しない!!!」

リプレ「二人とも、つまみ食いでお腹いっぱいになってるだろうから……」

リプレ「今夜のご飯、いらないわよね?」


エレン「なぁ!?」

ガゼル「ひ、ひでぇ……」

リプレ「いらないわよねぇ?」

エレン・ガゼル「はい……」

レイド「まぁ、皆に迷惑をかけたんだ。自業自得だと思って我慢するしかないな」

リプレ「そうよ。折角エドスがお花見しようって言い出してくれたのに……」

ガゼル「ん? そういえば、エドスの姿が見えねえぞ?」

レイド「ああ、彼ならちょっと出てくると言っていたが……」

エレン(……もしかして、あそこに?)


・・・
・・



〜アルク川のほとり〜



エドス「……」

エレン「よっ」

エドス「おおエレンか。お説教はもう終わったのか?」

エレン「ああ、晩飯抜きだってよ。はぁ……」

エドス「はっはっは! まあ仕方あるまい。リプレを怒らせてしまったんだからな」

エレン「ああ。誰を一番怒らせちゃいけないかよく分かったぜ。……で、エドスはここで何してるんだ?」

エドス「ワシか? ワシは……少し、花をな」

エレン「そんなに好きなのか? このアルサックって花」


エドス「……この花には、ちょっとした思い出があってな」

エレン「思い出?」

エドス「フラットに来る前、ワシは石工の見習いをしていたんだがな」

エドス「そこの親方が酒好きで、この季節には弟子を引き連れて、よく花見に繰り出して大騒ぎしとったもんだ」

エドス「仕事には厳しいが、情には篤い親方でな。ワシらも随分と面倒を見てもらったもんだ」

エドス「本当に、良い人だった……」

エレン「だったって事は……」

エドス「つまらん話しさ。酔っ払いに絡まれた弟子をかばってな」

エドス「逆上した相手の刃物に刺されて、それっきりさ」

エレン「……」


エドス「あれから随分経っちまって、かつての仲間もバラバラになっちまったんだが」

エドス「今のワシには新しい仲間達が、お前さん達がいる」

エドス「それを親方に見せたくなっちまって、強引に花見に誘ったのさ」

エドス「ははは、こんなつまらん理由でお前さんたちを引っ張りまわしたってわけだ」

エドス「……すまんな」

エレン「——— つまらなくなんかねえよ」

エドス「エレン……」

エレン「つっても、あんな大騒ぎをしちまったんじゃ、エドスの親方ってのも呆れてるかもな」

エドス「あっ……あはははは! 大丈夫さ! むしろ、流石ワシの仲間だと感心しとるだろうよ!」

エレン「はは、それならいいんだけどな」

エドス「おう、きっとあの世で大笑いしとるだろうさ!」


・・・
・・


こうして、慌ただしかったお花見の一日は終わりを迎えた。

しかし、俺たちを花見に誘った理由にそんな過去があったなんてな……

思い返してみれば、俺はあんまり他人の過去ってやつを考えたことがなかった気がする。

過去を振り返るなんて情けないと思っていたし、正直興味がないというのもあった。

だが、エドスの話を聞いて、そんな考えが少し変わったかもしれない。


内地へ行きたがっていたジャン。

人一倍面倒見の良いライナー。

あまり自分を出さないベルトルト。

純粋に王に憧れていたマルコ。

異常な程食い物に執着を見せていたサシャ……。


こうして思い返してみると、あいつらにもあいつらなりの過去があって、あんな風になったのかもしれねえな。

……いやジャンとサシャは違うだろうな、多分。


〜夜〜

カシス「しかし、あたしも馬鹿な方だとは思ってたけどさ」

カシス「あんたは、それに輪をかけて馬鹿みたいね」

エレン「うるせぇな……そんな事言いに来たのかよ」

カシス「あっ! なによぉ、その生意気な態度は?」

カシス「ふーん? 折角可哀想だと思って夕食のパンをとっておいたのにな〜?」

エレン「なに!?」

カシス「やっぱ食べちゃおっと」

エレン「あ、おい、ちょっと待て!?」


カシス「パクッ! もぐもぐ……。あー美味しかった♪」

エレン「あぁ……!?」

カシス「ふふーんだ、これに懲りたら、少しは立場を弁えて行動しなさいよ」

エレン「お前、初めからこのつもりじゃなかっただろうな……」

カシス「さあ? どーだかねー? それじゃ、お腹いっぱいになったし私は寝るね。じゃねー」フリフリ

エレン「あの野郎……覚えてやがれよ……」





結局、俺は空腹のまま次の日の朝を迎える事になった。

ったく、つまみ食いで夕食を抜かれるとか、どこの芋女だって話だよ……。



第3話 〜完〜

3話終わり。 読んでる人はいるのかな?
続きはまた近いうちに投下できればいいな。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom