「我こそは魔王!魔王ポチなり!!」 (40)
魔王「歴代最強の魔王と謳われ、その実力を惜しみなく発揮し…」
魔王「世界征服まであと僅かだったと言うのに…」
「ままー、わんわん!わんわんが段ボールに!」
「あれは捨て犬よ、ばっちいから触っちゃだめ!」
魔王「何故異世界の野良犬に転生せねばならんのだああ!!」
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魔王「しかもこの肉体、選択を間違えたわ」
魔王「この世界の言語を話せるよう改造しただけでかなりの魔翌力を持っていかれた」
魔王「これでは肉体強化を始めとする諸々の調整を行えん」
魔王「元の世界へ転生し直すための魔翌力が足りなくなるからな、それにしても…」
「何かあの捨て犬、喋ってね?」
「マジじゃん、N○SAの最新技術かよ」
「すっげ、N○SAの技術マジパねえ!」
魔王「喧しいわ人間共が!我輩は見世物ではない!散れ!!」
今後の展開に関わる安価
1.義理人情
2.初志貫徹
>>5
1
魔王「この世界に転生して早3日か…」
魔王「一向に魔翌力が回復する兆しすら見られん…なればこの体を新たな肉体として強化するのは諦めざるを得んな」
魔王「肉体維持に関しても一切魔翌力を使えないと見るべきだろうな…忌々しい…」
魔王「維持か…体から力が抜けつつあるが、この宿主はいつから食事をしていないのか…」
魔王「見物人共の話が正しければ、捨てられた愛玩動物のようだが…」
魔王「自力で糧を得る術も力もなく育ったのだろうか…」
魔王「…いかん、このままでは宿主と命運を共にするはめに…」
「はい、どうぞ」
魔王「…あ?」
魔王「何だこれは…?」
「ミルクねじりパンだよ、今日の給食の残り」
魔王「品目を聞いているのではない…」
「じゃあ何?」
魔王「…施しのつもりか?我輩を誰だと思っているのだ、人間風情が…」
「強がってる場合じゃないでしょ!断食続けたら死んじゃうよ」
魔王「…否定はできん…」
「色々あるんでしょ?やりたいこととかしなきゃいけないこととか、だったら痩せ我慢してちゃだめだよ」
魔王「…貴様の言う通りだ、少年よ…ならば、頂くとしよう」
少年「召し上がれ」
魔王「ふらつきは改善されたようだ…礼は言っておこう、少年よ」
少年「少年少年って、僕にはちゃんと名前があるんだから、そっちで呼んでよ。たな…」
魔王「やめい!この世界で余計なことを覚えるつもりは毛頭ない!貴様の本名も含めてだ!」
少年「分かったよ、じゃあ君はポチって呼べばいいの?」
魔王「…この文字列でポチと読むのか…好きに呼べ…ただポチというのは宿主の、この肉体の名前でしかないがな」
少年「捨て犬の名前ってこと?」
魔王「その通りだ、凡そ我が真名からはかけ離れている」
少年「マナ?」
魔王「…本名と同義だと考えれば良い」
少年「で、そのマナ?は?」
魔王「…第108代魔王…魔王、と…それだけ覚えていれば良い…」
少年「ねえねえ、えっと、第100…うう…まあいいや、魔王は、何でここに来たの?」
魔王「108代だ、ただの偶然に過ぎん…行き先を指定せず転生術を発動した結果がこれだ」
少年「普通は行き先を指定するものなの?何で転生したの?寿命?」
魔王「何故そこまで教えねばならん…あ奴があんな行動に出なければ今頃こんな…忌々しい…」
少年「悩みでもあるの?」
魔王「あったとして貴様に話す義務はない!」
少年「……僕、お母さんいないんだ」
魔王「何だ唐突に…」
少年「去年交通事故で死んじゃって、それで暫くはお父さんと二人で暮らしてたんだ」
魔王「貴様の身の上話など興味は…」
少年「ただ、お父さん、遅くまで仕事してるから、中々帰って来れなくて」
魔王「…聞いておけということか…」
少年「僕に構う時間がなくて、具合悪いの気付かなくて、僕学校で熱出してぐでーってなって」
少年「それからお婆ちゃんが僕の面倒見るためって言って今一緒にいるんだ」
少年「お母さんがいなくなって寂しいけど、お父さんもおばあちゃんも優しくて、今はとっても楽しいよ」
魔王「……」
少年「僕の話はおしまい。ああ、すっきりした」
魔王「我輩に話したところで何の解決にもならんだろうが…何故すっきりしたなどと」
少年「人に聞いてもらうだけでも、気分が晴れることがあるんだって」
少年「えっと、カタ、カタ、カタル君効果?ってこの前テレビでやってたんだ」
魔王「…我輩にもそうしろと?」
少年「無理にとは言わないけどさ、でも一人で悩んで抱え込むより、ずっといいと思うんだ」
魔王「そうか…」
魔王「元の世界にて、我輩は」
少年「うん」
魔王「魔族の頂点、魔王として、魔界を統べていた」
少年「偉い人だったんだ」
魔王「…国内を安定させた我輩が次に目指したのは、国外の魔族の救援」
少年「キュウエン?」
魔王「人間界では魔族は虐げられる…そんな状況から救うことを、次の目標とした」
少年「どうやって救おうとしたの?」
魔王「人間界侵攻だ…分かりやすく言えば、世界征服」
少年「ええ!?世界征服!?」
魔王「力の差を分からせ、人間を我が配下に加え、魔族に危害を加えぬよう教え込めば良い」
少年「何か急におっかなくなったね」
魔王「世界征服は順調に進んだ、そう、侵攻から僅か5年で人間界の6割を平定できた」
少年「速い!信長も真っ青だよ!」
魔王「そんな中、世界征服に待ったを掛けた存在がいた」
少年「それってもしかして…」
魔王「勇者だ」
少年「やっぱり」
魔王「各地の拠点を攻められ、いくつかの国が奴の手で解放された」
少年「あちゃー…」
魔王「奴は勢いそのままに魔界へ攻め入り、我が居城に、眼前に現れた」
少年「じゃあ、勇者に負けて転生してきたの?」
魔王「…そう取れるかも知れん」
少年「何が、あったの?」
魔王「…負け惜しみに聞こえるかも知れんが、勇者は弱かった。贔屓目に見ても大人と子供くらいの差はあったと思う」
少年「ゲームでもそこまでの差はあんまり見ないな」
魔王「だからこそ、油断していた…すぐには殺さず、抵抗を楽しむ程に」
少年「ひどい…」
魔王「他方、勇者は冷静だった。実力差を誰より早く認め、体力魔力とも万全な内に仕掛けてきた」
少年「あ、仲間いたんだ」
魔王「騎士、魔法使い、僧侶を連れていた。彼らに離れるように言って、我輩の元へ走ってきた」
少年「それって…」
魔王「我が術で剣を砕かれても足を止めない時点で気づくべきだった…刺違えるつもりだったと」
少年「ああ…」
魔王「武器もない故と、組み付くのを止めなかったのが運の尽き」
少年「自爆…」
魔王「そう、気付いたときには発動直前…苦し紛れの転生術でこの世界へ飛ばされ、今に至るという訳だ」
魔王「転生術で肉体を離れたときに垣間見たが、我が最大術に迫る威力だった…さすがは勇者の魔力暴走というところだろう」
魔王「あれでは互いに骨も残るまい」
少年「大変…だったんだね…」
魔王「我輩の怠慢と勇者の冷静さを呪いたい…己…!おい!どういうことだ!」
少年「え!?何!?」
魔王「話したというのに気が晴れんぞ!カタルとやらの推測は誤りではないか!」
少年「それは僕のせいじゃないよ〜」
少年「はい、コッペパン」
魔王「貴様、あれから毎日来るようになったな、暇なのか?」
少年「そうだよ、学校から帰って宿題やったらすることないしね」
魔王「そうか…まあ、そのお陰で毎日労せずして糧を得られる訳だが」
少年「えへへ、ところで魔力は回復した?」
魔王「微塵も回復せん。元の世界の遠さも相まって、いよいよ余計な魔力を使えなくなってきた」
少年「元の世界見つかったの!?」
魔王「大まかな見当がついただけだ、正確な位置を割り出すには後3日ばかり演算する必要がある」
少年「そっか、まだこっちにいるんだね、良かった」
魔王「不本意ながらな」
少年「はい、サラミ」
魔王「この時間はまだ学校があるのではないか?」
少年「今日は土曜日だから休みだよ、いっぱい遊べるね!」
魔王「演算で忙しいと言ったろう、一人で遊べ」
少年「そんなこと言わずに…」
「あれ!?チビ太じゃねえか、何やってんだよこんなとこで」
少年「あ…」
「まあいいや、俺これから青木たちとサッカーしに学校行くんだけどよ、お前も入れてやるよ、キーパーで」
少年「い、いや、いいよ…サッカー苦手だし…」
「あっそ。んじゃボクシングしようぜ!はいボディー!」
少年「うっ!嫌だよ…げほっ!やめ…ぷっ!やめてよ」
「んだよ一人でつまんなそうにしてたから誘ってやったのに何これ?俺悪者扱い?自己中過ぎだろお前」
魔王「…おい」
「あ?誰だよつかどこだよ?それともお前か?」
魔王「おい!」
「は!?もしかしてそこの犬か!?」
魔王「耳障りだ、黙れ、気が散る」
「あっれー!?犬が喋ってるよつか人間様に命令してるよ家畜の分際で」
魔王「演算の邪魔だ、失せろ」
少年「…魔王…」
「こりゃだめだ躾がなってねえわ!俺がいっちょ分からせてやんなきゃだめだわまじで」
魔王「手を上げて良いのは…」
「ドラゴンクラーッシュ!!ってあれ?どこに…おわ!」
魔王「殺される覚悟のある者だけだと知れ」
「どけよ[ピーーー]ぞ保健所呼ぶぞこの!この!」
魔王「立場が分かっていないようだな…お前の命は我が手中にある…首を噛み切りいつでも殺せるのだ、このように…」
「ひっ!や、やめ!やめて下さい!お願いします殺さないで!」
少年「やめて!!」
「ひっ!ひぃぃぃ!」
魔王「自らを虐げていた存在を、何故かばう、少年よ」
少年「そうだけど!今までいじめられてきたけど!」
「ひぃ!ひぐっ!」
魔王「喧しい黙れ、話が聞こえんだろうが、殺すぞ」
「」
魔王「で?『けど』、何だ?」
少年「誰でも生きてれば何か間違いはあるけど、死んじゃったら!…死んじゃったら、反省も後悔もできないから…」
魔王「……」
少年「だから…殺すのは絶対だめ!」
魔王「…行け」
「へ!?」
魔王「学校でサッカーとやらをするのだろう?気が変わらん内に行くが良い」
「くっ!」
少年「あ、ズボン濡れてる…」
「ぜ、絶対保健所送りにしてやるからな!覚えてろ!!」
魔王「ここで奴を殺さなかったことを、後悔することになると思うぞ」
少年「…いいよ、別に…」
魔王「…何故黙っていた?」
少年「聞かないで…」
魔王「そうもいくまい、何故いじめられていたことを…」
少年「聞くなって言ってるだろ!!」
魔王「知られることを恥としたか?知った者が介入して悪化することを恐れたか?」
少年「そうだよ!でもそれだけじゃない!」
少年「魔王が何かしたら、保健所送りにされて殺されちゃう!そんなの絶対嫌だ!!あと…!」
魔王「まだあるのか」
少年「魔王が言ったんじゃないか…余計なことを覚えるつもりはないって…」
魔王「いくつか勘違いしているようだな」
少年「何を…」
魔王「第一に、見縊るな。魔力も力も失くしたが、経験を駆使して戦える…保健所に捕まるほど弱くもない」
少年「無茶だよ…」
魔王「何より、余計なことの定義が違う」
少年「え?」
魔王「…貴様の安否は、我輩にとって最早余計なことではない…重要事項だ」
少年「それって、僕を大事に思ってるってこと?」
魔王「勘違いするな。この世界にいる間の兵糧調達を貴様に依存している以上、勝手に死なれては困るというだけだ」
少年「ふふ、照れ隠しで冷静ぶってる」
魔王「事実無根だ、何を根拠に…」
少年「尻尾、すっごい振ってるね」
魔王「…ふん」
魔王「演算は概ね済んだ」
少年「もう、帰っちゃうの?」
魔王「先の一件で、保健所が動くのも時間の問題となったからな、一時凌ぐ程度ならまだしも、長期戦に堪える体ではない」
少年「そっか…」
魔王「…だが、まだ細部の演算が済んでいない」
少年「え!?」
魔王「元の世界へ転生はできるが、詳細な場所までは選べそうもない。今回の二の舞は御免だ」
少年「じゃあ、もう少しだけここにいられるんだね!?」
魔王「ああ、だが、ここからは暗算では厳しい、道具が必要だな」
少年「分かった!家帰って電卓取ってくる!」
魔王「おい!急に飛び出すな!!」
少年「え!?あ…!」
魔王(トラックが…我輩が押し出そうと引き戻そうと少年は引かれる!だが魔術を使えば帰れなくなる!)
魔王(我輩は…!!)
魔王(恩人の一人も救えず世界征服など、片腹痛いわ!!)
魔王「時間停止…並びに空間凍結!!」
魔王「これで少年が引かれることはなく、時間停止の範囲外からの走行車両による二次災害もない」
魔王「後は少年を運び出すのみ…犬の身には堪える作業だ」
魔王「これでよし、術式解除」
「馬鹿野郎!危ねえだろうが!!」
少年「ご、ごめんなさい!」
「ったく、今度から気をつけろよ、坊主」
少年「あれ?僕、引かれる所だったのに、何で…」
魔王「感謝しろ、我輩に立て続けに二度も命を救われた者は、魔界にもそうはいないぞ」
少年「魔王!?魔王が助けてくれたの!?ありがとう!!あ、でも、そしたら魔力は…」
魔王「帰還するには、到底足りない量しか残っておらん」
少年「ごめんなさい…」
魔王「謝罪はいらん、責任を取れ」
少年「魔力回復の方法は僕も知らないよ…」
魔王「いや、我輩の当面の生活のことだ」
一週間後
「よくきたな、ゆっくりしてけ」
少年「ただいまお爺ちゃん、魔王はどこ?」
祖父「はは、魔王なら庭にいるっけ、行ってこいね」
少年「うん、ありがとう!」
少年「ただいま、魔王!会いたかったよ!」
魔王「まだ離れて5日だろう、大げさな奴だ」
少年「だってだって!」
少年「ねえ…ずっと、一緒にいられるよね?」
魔王「無理だ。魔力が戻ればすぐにでも魔界へ帰るし、帰れなかったとしても寿命は我輩の方が短い」
少年「冷たいなー」
魔王「…これからも宜しくな、少年」
少年「うん!!」
義理人情ルート終わり
レスくれた方々、ありがとうございました
さて、初志貫徹ルートの方どうしましょうか
胸糞バッドエンドなのでお勧めはしませんが
需要があれば投下します
なければhtml化依頼お願いします
お休みなさい
>>24からの分岐という形ですが初志貫徹ルート投下します
魔王(帰還の唯一の手段を放棄する訳にはいかん…!さりとて少年が死ぬところを見たくはない…)
魔王「少年、許せ…!転生!!」
キキーッ グシャッ
魔王「側近よ、首尾はどうだ?」
側近「はっ、陛下御帰還の後は、順調です。僅か半年で最盛期の支配域まで兵を進めることができました」
魔王「勇者やそれに類する者の誕生は報告されているか?」
側近「北の辺境の村で、勇者が生まれると神託があったとのことです」
魔王「ではその村を攻めよ。そうだな、ゴーレムを派兵しろ」
側近「辺境の村ごときに四天王を投入するのは大げさかと…」
魔王「些細な慢心が命取りとなるのだ、我輩が身を以って証明したばかりだろう」
側近「はっ、失礼致しました!」
魔王「距離を空けて偵察部隊を配置するのも忘れるな」
側近「承知しました。至急向かわせます」
魔王(少年がどうなったのか、目を反らしたため詳細は分からない…だが音から察するに轢死だろう)
魔王(偶然とは言え、その後魔界に中級魔族として転生することができたことは天佑としか言いようがない)
魔王(徐々に回復していく魔力で肉体を強化し、以前の7割ほどの力を手にすることができた)
魔王(その力と、前回の反省を以って、今、世界征服を順調に進めている…)
魔王「…少年…」
側近「陛下?」
魔王「独り言だ、気にするな」
側近「はあ」
魔王(貴様の安否よりも帰還を優先したことを、許してくれとは言わない)
魔王(必要な犠牲だと美化するつもりもない)
魔王(ただ、今度こそ世界征服を果たす!一部の隙もなく進め、確実に!!)
魔王(少年…貴様の死が、無駄なものではないと証明するために…)
初志貫徹ルート終わり
以上です
html化依頼は今晩にでも出しておきます
ご愛読ありがとうございました
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