杏子「アンタ新入り? 人の縄張りに入って獲物を横盗りしよーだなんてチョーシ乗りすぎでしょ」
ほむら「き、気づかなかったんです、魔女を追ってたらいつの間にか見滝原から出ちゃってて、だから……」
杏子「……知らなかった、で済んだらケーサツはいらねーんだよ!!」ギロッ
ほむら「ひぁっ……! ご、ごめんなさい……」
杏子「アンタはアタシのテリトリーを荒らした。ならそれ相応の罰が必要だよねえ?」
杏子「……ま、全治3ヶ月、ってとこで勘弁してやるよ……くくっ」
ほむら「ひっ、ひぃ……! や、やめて……!!」
ほむ「お願いします、な、なんでもするから許して……!」
杏子「……ふーん?」
杏子「じゃあ>>2してよ」
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腹筋
ほむら「ふ、腹筋ですか……?」
腹筋。たしかにこの女の子はそう言いましたが、あまりの唐突さに私は聞き返してしまいました。
杏子「なんだよ、出来ないって言うのか?」
怖い目で睨まれます。今にも殴りかかられそうな、そんな雰囲気です……ううう……。
ほむら「ち、ちがいます、そうじゃなくて……」
慌てて首を振り、言い方を変えます。
ほむら「なんで……腹筋なんですか?」
杏子「それはな、>>5だからだよ」
お前が貧弱
杏子「それはな、お前が貧弱だからだよ」
貧弱……。
じ、自覚はしてますけど、面と向かってそんな風に言われたのは初めてです。
ほむら「うう……」
悲しいって気持ちと、悔しいって気持ちがごちゃ混ぜになって、変な呻き声が出ちゃいました。
杏子「どーせアンタ、運動したらすぐ息が切れちゃうよーなモヤシっこなんでしょ?」
杏子「ちょーっと身体を痛めつけてやったほーが良いと思ってね……くくっ」
何かをたくらんでそうなにやけ顔で、そう言います。
会ったばかりの貴女に、どうしてそんなこと言われなきゃいけないの?
言い返したい気持ちが胸の奥でつっかえてるけど、言葉には出せません。
……だって、この人の言うとおりなんですから。
私、貧弱だから、魔法少女になったのにトロくて、役立たずで……。
鹿目さんや巴さんにも迷惑ばかりかけて……。
ほむら「……ぐすん」
杏子「おいおい、まだ泣くには早いよ? お楽しみはこれからなんだからさぁ……くくっ」
人を馬鹿にした笑い声が耳に不快感を与えます。
杏子「おらっ、さっさと腹筋しないとアタシの気が変わっちゃうよぉ?」
でも、私には彼女に逆らうコトなんて出来ません。
私は貧弱で、無力な魔法少女だから……。
ほむら「わ、わかりました……腹筋、します……」
その意図は読めませんが、大人しく従うことにしました。
薄暗い路地裏で横になると、ひやりとしたコンクリートが私の体温を奪いました。
ほむら「んっ……」
思わず小さく身体を震わせてしまいます。
杏子「くくっ……」
そんなちょっとした様子ですら楽しいのか、女の子はまた嫌みな笑みを浮かべていました。
……不快です。
女の子は近くにあったゴミ箱に腰掛けて、私を見下ろしています。
にやけたその表情からは……やっぱり真意を伺い知ることは出来そうにないです。
ほむら(深く考えても仕方がない、よね……)
私は頭の後ろに手を回して、膝の角度は90度に曲げて……。
ほむら「じゃ、じゃあ……えと、して、いいですか……?」
杏子「いいよ。ほら、アンタの腹筋みせてよ」
いよいよ腹筋の始まりです。
……何回できるのかな……。
一回目。
ほむら「んっ、く……!」
お腹に思い切り力を入れ、上体を起こそうとしますが……。
ほむら「あっ……くぅぅ……!」
頭が少し浮いたところで止まってしまいました。
これ以上起きあがれそうにありません。
わ、わたし……こんなに貧弱だったの……?
ほむら「んっ! ん、あ、あああ……!」
がんばって、がんばって力を振り絞ってみても、身体がぷるぷる震えるだけです。
杏子「ぷっ……、く、あはは! おいおい、まさかそれが限界か?!」
遠慮のない、大きな笑い声が路地裏に響きました。
ほむら「く、うう、ううう……!」
……私の顔が真っ赤になっているのは、苦しさだけじゃありません。
悔しい……恥ずかしい……!
ほむら「んん……っ、あ、ああ……」
そして、私の背中はまたひやりとした感触に迎えられました。
なんと、私は一回も腹筋を出来ずに力尽きてしまったのです……。
杏子「あはははっ! マジで? アンタほんとに魔法少女?!」
心底楽しそうに私をあざける声が、胸の奥をえぐります。
ほむら「う……うう、うっ……」
体中がカアっ、と熱くなり、押さえきれない感情が吹き出して。
ほむら「ぐすっ……う、うああーん……」
私の頬を、塩辛い一滴が撫でていきました。
私、やっぱりダメな子なんだ。
腹筋も出来ないくらい体力がない、貧弱な子なんだ……!
こんなんじゃ、立派な魔法少女になんて……。
ほむら「うわああん……!!」
次々に思い浮かぶ言葉が、私自身を追いつめていきます。
杏子「く、あははっ、泣くなって……あはっ」
そんな私がよっぽど可笑しいのか、笑い声を混じらせながら女の子が近づいてきました。
ほむら「ぐすっ……ぐすん」
きっと、何か酷いことを言って私を苛める気に違いありません。
ほむら(もう、やだ……)
でも、彼女の口から飛び出したのは、意外な言葉でした。
杏子「ほら、アタシが手伝ってやるからさ。もう一度やってみな」
ほむら「え……?」
杏子「一人腹筋は寂しいもんな……いいよ、一緒にシてやるよ」
手伝う……? 一緒に……?
突然のことに、理解が追いつきません。
涙を拭くことも忘れて、私はその子の顔を見つめました。
ほむら「え……え……? なんで、どうして」
杏子「いいから、さっさと頭を浮かしな。今とおんなじふうにね」
ほむら「は、はい」
言われるがままに、また腹筋に力を入れて起きあがろうとしますが……。
ほむら「く、ううんっ……」
当然ながら、先ほどと同じように途中で止まってしまいます。
むしろ、さっきより疲れているせいですぐにも倒れちゃいそう……。
杏子「いいよ、そのまま……」
ですが、彼女はそんな私のそばにしゃがみこんで……。
杏子「ほら……下に、入れるよ?」
ほむら「あっ……」
するり、と温かい指を、私の頭の下に差し込んで来たのです。
ゴルア! >>1逃がさんぞ!!
\
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ドッカン
_m, ドッカン ☆
=======) )) ./ ゴガギーン
ミ∧_∧ | | / ∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
.( .). | | ,_r_''''''''''''''''''''''''''''''ー---ュ、. (^Д^ ) < おらっ!>>1でてこい!
「 ⌒  ̄_ ,| /∧_∧口 ゙゙゙̄'''''ーr' r''"if ̄ ゙ヾヽ / 「 \ \__________
| /  ̄ r;;x'" (;´Д` ) ;/ || |)`ー.| | /\\
| .| _,../_ // ⌒ ヾ) /,-‐、 ,.i|r: '' " . へ//| | |. |
| .i | ,. -''"  ゙゙̄'''''ー-- ...,,,,_ / r--'' . (\/,.へ \| | ::( .)
| ∧. | ∠.,_ ,. - .\//::; \ | ''~
| | | |,..{ : : : i `''''oー--..___ ,. - '" ,..、 _,. -'" /; リ|' .Y ./
| | | |. { `''ート二_:: /_;_;_;_/ : :} / | -''" _,.,-‐':;,ゞ._リ | .|
./ / / ./ ヾヾニ[ ̄`'! 、 _  ̄ _/ /⌒l;|_,... -‐'''" ヾ--'' | .|
. / ./ ./ ./ ヾ二> ー-- ....,,__,,,...ノ::{ :;! リ | .|
(_) .(_). ヾ:;;;;ゝシ (_.)
力強く、けれど優しい指が私の後頭部を支えてくれているのを感じます。
ほむら「あ、あの、これって……」
杏子「ほら、息を合わせて……いーち、にいの……」
理解が追いつかないけれど、かけ声に身体は自然と反応しました。
ほむら「んっ……!」
反射的に力を込めて起きあがろうとして……次の瞬間。
杏子「ふぅっ……」
彼女の手が、私の頭を下から押し上げてくれたのです。
ほんの、少しだけ。
ほむら「あっ……」
本当にごく僅かにですが、身体に勢いが着きます。
でも、もしかして、これなら私でも……!
ほむら「ん……くぅっ!」
私はお腹の底から振り絞って、ぐいっ、と身体に力を入れました。
そして……!
勢い良く視界が流れていき……
ほむら「はあ、はあ……あっ!」
……私の身体はついに、起きあがったのです!
ほむら「あ、あはっ……で、出来ちゃった……!」
それは、私一人の力ではありませんでしたが、それでも初めて味わう達成感に酔いしれてしまいました。
ほむら「んっ……く、ふぅ、ふぅ……!」
息は絶え絶えで、お腹の筋肉もちょっぴり痛みを訴えています。
でも……なんだか、なんだかそれが逆に……。
杏子「どーだい? 初めてだから痛かったでしょ?」
ほむら「はあ、はあ……は、はい……」
呼吸を整えながら、辛うじて女の子の質問に答えます。
杏子「ふふ、そーかいそーかい。でも……」
……あ、また。にやり、と意地悪な笑みを浮かべています。
杏子「それが、逆に気持ち良かったんじゃないの?」
ほむら「……!」
ど、どうしてわかったの?
ほむら「そ、そんなこと、ない、です……」
心の内が見透かされてしまって、なんだか恥ずかしいです。
私は思わず、嘘をついてしまいました。
杏子「くく、そうかいそうかい……ま、口では何とでも言えるけどね」
杏子「でも……」
耳元で囁きながら、彼女は私の腹筋に手を伸ばし……。
ほむら「んっ……あっ!」
つつつ、と。
杏子「ふふっ」
しなやかな指を、這わせるようにお腹を撫でてきたのです。
変な声、出ちゃった……。
杏子「やっぱり。こんなにヒクヒクしてるじゃんか」
杏子「もっともっと腹筋したい、っておねだりしてるよ」
ほむら「や、やめて、そんな、そんなこと……!」
お前らも腹筋しろよ
……ほら、俺が後頭部支えててやるからさ
>>41
【お断り中】
ハ,,ハ ハ,,ハ
ハ,,ハ( ゚ω゚) (゚ω゚ ) ハ,,ハ
( ゚ω゚) ハ,,ハ) (っハ,,ハ(゚ω゚ )
| U ( ゚ω) (ω゚ ) とノ
u-u'| Ul lU |u-u'
`u-u' `u-u'
そんなことない。気持ち良くなんてなってない。
そう否定したいけれど……。
でも……。
……さっきの、あの感じ……お腹がピリピリッて痛くなる感じで……。
私、気持ち良くなっちゃってた……。
ほむら「うう……」
路地裏で、知らない人の前で腹筋して気持ち良くなっちゃったなんて……。
しかも、痛くて気持ち良くなっちゃったなんて……!
私って、そんなヘンな子だったの……?
杏子「くくっ……この感触、なかなか良いじゃんか」
女の子の指が、ぐりぐりと私のお腹をつつきます。
や、やめて……お、おへそをグリグリしないでくださいっ……。
そう怒りたくても、怖くて言葉には出来ません。
せめてもの反抗の意志として、じっと見つめますが、気にもしていないようです。
杏子「くっくっく……」
……ううん、そんな私の態度さえも楽しんでいる様子で……。
杏子「……さ、ほら、もういっぺん寝転がって」
ほむら「え……」
杏子「続き、するよ?」
悪魔の囁きのような、そんな言葉を発して来たのです。
ほむら「っ……! ま、まさか、まだ、しろって言うんですか……?」
杏子「当たり前だろ、たったの一回だけで腹筋したうちに入る訳ないじゃんか」
そんな……!
言われてみれば、確かにそうですけど……でも。
また、あんなことをするなんて……!
ほむら「そんなこと、出来なっ……」
杏子「……おい。アンタ、アタシに逆らえる立場じゃないってこと忘れてんじゃねーだろーな」
ほむら「ひっ……!」
眉間に皺を寄せ、女の子が鋭くにらみつけてきました。
一段階トーンの落ちたドスの利いた声が、彼女の威圧感を増します。
まるで、刃物を喉元に突きつけられてるみたいです……。
杏子「アンタはアタシに逆らえないんだ。大人しく腹筋しな」
ほむら「う、うう……」
抵抗する意志を奪われ、私はまたコンクリートに横になりました。
杏子「なあに安心しなよ……ちゃんと手を貸してやるからさ……」
杏子「アタシが、気持ち良く腹筋させてやるよ……くくっ」
ほむら「…………!」
気持ち良く……?
そうだ、また腹筋するってことは。
さっきみたいに、あの感じを味わえるってことで……。
また、気持ち良く、なれるの……?
胸の奥がドキドキしてる。
身体がかぁって熱くなってる。
私……き、期待しちゃってるの……?
そ、そんなわけない!
これは……その、怖くて心臓が鳴ってるだけだし……。
脅されて無理やり腹筋をやらされてるんだから、仕方がないことなのっ……。
……うん、そうだよ。仕方がないことなんだよ。
仕方がない、仕方がないんだ……。
わ、私は、気持ち良くなりたくて、腹筋するんじゃないんだから……。
杏子「くっくっく……良い表情してるよ、アンタ」
ほむら「っ……!」
やっぱり、見透かされてる。
安価じゃなくなってきてるぞ
>>1はもう安価をださないのか?
杏子「じゃ、入れるよ……ほら、浮かして」
ほむら「は、はい……」
再び彼女の手が私の頭の下に添えられます。
優しく、それでいて力強いその指は……すごく安心感のあるものに感じられました。
杏子「イクぞ……今度は一回で終わるなよ?」
彼女はそう言うと、先程と同じようにタイミングを取り……。
杏子「いち……にの……」
ああ、またあの感覚を味わっちゃうんだ……!
カウントが始まると私はもう何も考えられなくなりました。
私は次の瞬間、羞恥心も何もかも忘れて、ただ勢い良く本能の命じるまま……下腹部に力を込めます。
ほむら「んっ……くぅっ!」
視界に映るもの全てが後ろに流れていきます。
心なしかさっきよりも勢い良く。
ほむら「んっ……ふぅっ……!」
完全に起き上がって、溜め息を一つ。
身体がコツを掴んだのか、二度目の腹筋はいくらか楽に出来たような気がしました。
ほむら「はあ、はあ……」
それでもお腹の痛みと、全身を襲う疲労感は変わりません。
……ああ、やっぱりこの感覚……好き……。
でも、余韻に浸る暇なんてありません。
杏子「ほら、チンたらしてんな! 次!」
ほむら「は、はいっ!」
彼女が声を荒らげて私を怒鳴りつけます。
その様子はスパルタな体育の先生みたいで……苦手です。
慌てて私は、また身体を寝かしました。
杏子「よしよし、良い子だ……」
……一瞬前とは打って変わって、優しい声でそう言います。
そして頭の後ろには、彼女の優しい手があって……あったかくて……。
なんだか……ズルいです……。
ほむら「ん、くぅ……」
三度目。少しだけ起きあがるのに苦労します。
杏子「ほら、もっとお腹に力を入れて」
ほむら「あっ……はあっ、んっ……」
四度目。必死に力を入れて、思い切り勢いをつけます。
杏子「いいよ、その調子……」
ほむら「は、いっ……はあ、はぅっ……」
杏子「お尻の穴に力を入れな、もっと締めるんだ」
ほむら「ん、んんっ……んぁっ……!」
五度目。なかなか上手くできなかったけど、言われたとおりにしたら、辛うじて成功しました。
杏子「くく、どーだい、良くなって来たろ……?」
ほむら「んっ……はあ、はあっ……」
答えることは出来ませんでした。
息がぜえぜえしちゃって、そんな余裕がないくらい……
……気持ち良く、なっちゃってたから……!
ほむら「はあはあっ……ん、はあっ……」
お腹の奥が、さっきとは比べものにならないくらいキュンキュンしちゃってます。
胸が痛いくらいにドキドキしちゃってます。
ほむら「ん、あああ……」
こんなの、知らない……こんな気持ちいいの、初めて……!
杏子「くく、たったの五回でもうそんな顔しやがって……」
杏子「アンタ素質あるよ。もう病みつきだろ?」
ほむら「はあ、はあっ……は……」
……うん。もう、気持ち良くて、好きになっちゃいそう……。
……っ、だめ、そんなこと言っちゃダメ……!
ほむら「そ、そんな、こと、ない、ですぅ……!」
息も絶え絶えに、私は心の声を否定しました。
杏子「ふーん……くく、そーかい」
本当は……分かってるくせに……。
杏子「ねえアンタ、だいぶヘトヘトだけど……もう動けない、って思ってるでしょ?」
ほむら「っ……く」
杏子「うんうん、そーだよね」
私の答えを待たずに、彼女は勝手に納得していました。
……見れば分かるもんね、私が返事をする気力もないってことくらい……。
杏子「……もう、やめたい?」
ほむら「っ……!?」
え……いま、なんて……?
杏子「もう終わりにしたい? ヘトヘトだもんね、続けるのは辛いでしょ?」
終わり……? もう、腹筋しなくていい……?
もう……気持ち良くしてくれないの……?
ほむら「う、うう……」
恥ずかしい思いをしなくて済む、という希望と。
この快感が味わえなくなる、という絶望と。
真っ二つに割れた思考が、私の中でせめぎ合います。
杏子「どうなのさ? アンタの口から聴かせてよ」
こんなところで、いつまでも腹筋を続けるなんて……恥ずかしくてイヤ。
私はそんなヘンタイさんじゃないもんっ……。
杏子「続けたい? もうやめたい?」
こんな気持ちいいことを止めるなんて……イヤ。
まだ私は満足してないもん。こんなんじゃ、欲求不満になっちゃうよぉっ……!
杏子「答えな」
頭がぐるぐるしちゃって、上手く考えられない……。
ほむら「っ……はあっ、はあ……ふぅ、くっ……」
息が苦しい……胸が苦しいっ……。
私はどうしたいの?
私は……!
ほむら「わ、わた、私は……っ」
1.ほむら「腹筋したいです!」
2.ほむら「腹筋したくありませんっ!」
3.ほむら「死にたい」
安価下
ほむら「……い、です……」
杏子「うん? なんだって?」
ほむら「したいですっ……腹筋したい、もっと気持ち良くなりたいんですっ……!」
嗚呼……ついに、言っちゃった。
これが私の本当の気持ち。
死にたいくらい恥ずかしくて、絶対認めたくなかった、私の本心なんです。
ほむら「っ……」
顔が熱いです。心臓が早鐘みたいに鳴り続けてます。
このままじゃまた入院することになっちゃうんじゃないか、って心配になるくらい……。
でも、そうなったっていいんです。
今、気持ち良くなれるなら、もう、あとはどうなったって……!
杏子「ふーん、そうなんだ。腹筋したいんだ……」
相変わらずの意地悪なにやけ顔です。
きっと私のことを心の中で馬鹿にしてるんです……。
屈辱を感じない訳じゃありません。
ほむら「は、はい……」
それでも、私は彼女に気持ち良くしてもらうことを期待してる。
ああ、本当に、私はもう……。
杏子「そっか。それじゃあ……」
ほむら「…………!」
無意識のうちにゴクリと生唾を飲み込んでしまいます。
続く言葉を待ちわびて、この一瞬が永遠に思える錯覚に襲われて……。
そして、彼女が口にした言葉は。
杏子「じゃあ、もう腹筋させてあげない」
え……?
たった一言の文章なのに、私にはそれがすぐに理解できませんでした。
腹筋、させてくれない……?
ほむら「ど、どうして……な、なんで……!?」
さっきまであんなに激しくシてくれたのに……
嫌がる私に無理やりやらせてたのに……!
どうして急に、そんな……!
杏子「くくっ、ああ、いいねその顔……たまんないよ……あははっ♪」
……その笑い声を聞いて、私は全てを察しました。
この子は私を辱めて楽しんでるんだ……!
ほむら「ううっ……ううう……ぐすっ」
悔しい。恥ずかしい。憎たらしい……。
弄ばれているという事実を改めて認識した私ですけれども、もう……私は後戻りできないところまで来ていました。
身体が熱くて、疼いて……。
一度認めてしまったから。口に出してしまったから。
タガが外れてしまった私の脳は、貪欲にあの快感を、腹筋を求めてしまっているのです。
ほむら「お願いですっ……させて、ヤラせてください……」
杏子「ふーん?」
みっともなくおねだりする私を、彼女は見つめています。
面白い見世物を楽しんでいる……そんな表情で。
ああ、私はもう完全に彼女の玩具になりつつある……。
それを分かっていても、私はプライドもかなぐり捨てて、懇願するしかありませんでした。
ほむら「したいんです、貴女に気持ち良くしてほしいんですっ……」
ほむら「お願いします……気持ち良く腹筋させてくださいぃ……!」
欲望のままにはしたなく、すがりついて泣き叫ぶ私を見て……
杏子「……あはぁっ、アンタ、ほんっとにイイね……」
彼女は満面の笑みを浮かべます。
興奮から頬に赤みが差した彼女の顔は……同性の私でさえもドキリとする、いやらしいものでした。
嗚呼、この人はなんて表情をするんでしょう……。
そんな顔をされたら、私っ……。
杏子「……ねえ、そんなにして欲しいんだ? そんなにアタシに腹筋させてほしいの?」
杏子「泣いちゃうくらい、気持ち良くなりたいんだ? ふふっ……」
ほむら「う、うう……」
どこか艶めかしさを感じる声色の、ねちっこい言葉責め。
ほむら「……はい……して、ほしいです……」
私は反論することも出来ず、ただ自分の浅ましい欲望を認めることしか出来ませんでした。
いまさら取り繕う気力も……ないです……。
杏子「ふふっ……そっか。なら考えてやってもいいけど……」
また、そんな思わせぶりな態度をして……
今度はどんな風に私を辱めるつもりなんですか……?
杏子「その代わり、条件があるよ」
条件。
その言葉は何故だか悪魔の取引じみたものを連想させました。
嗚呼、きっとこの契約を交わすと、私はもう一生彼女から逃げられないんだ……。
恐ろしい予感を感じながらも、私は……
ほむら「な……なんでも、します……何でもしますから……!」
その取引に、応じてしまいます。
杏子「くくっ……ふ、あはは!! 可愛いヤツだね、ほんと!」
杏子「くくっ……いいよ、じゃあ……」
すると彼女は、魔法で何かを作り上げました。
もしかして攻撃されるんじゃないかと身構えてしまいましたが……そうではありません。
杏子「明日一日中、これを着けていてもらおうかな」
彼女の手に現れたのは……怪しげなベルトのようなもの。
中央には何やら装置がついています。
ほむら「そ、それは……!?」
見覚えが、ありました。
テレビ通販などでたまに見かけるアレ。
腹部などに着用して電気で刺激を与え、筋肉を運動させる機器。
そう、それは……。
ほむら「あ、アブトロニック……!?」
杏子「そう、アブトロニックさ。ただし……『アタシ特製』のだけどね」
特製、というところをいやに強調したのには、きっと何か意味があるのでしょう。
普通の健康器具とは違う、何かが……
杏子「アンタにはこれを着けて生活してもらうよ」
ほむら「ど、どうしてそんなこと……」
杏子「さあて、ね……くくっ」
杏子「ああ、ちなみにソイツはアタシの魔法でスイッチが入るようになってるから」
杏子「学校で、お友達の前でスイッチを入れたら……くくっ、バレちゃうかもね?」
ほむら「っ……!」
お友達。
真っ先に私の頭に浮かんだのは……一番大切な、尊敬する親友……鹿目さん。
嗚呼、鹿目さんがいるそばで、これを着けて過ごすの?
彼女の前で……これのスイッチを入れられたら……私、どうなっちゃうの……?
腹筋がビクン、ビクンってなっちゃって……き、気持ち良くなっちゃって……。
きっと声も抑えられなくて……聞かれちゃって……!
ほむら「あ……ひあ、あああ……」
想像しただけで、私の腹筋がヒクヒクと疼いちゃう……。
杏子「くくっ……」
これが、この子の狙いなの……?
私の日常を蝕んで、逃げ道をなくすため……?
悪意を隠そうともしない、イヤラシイ笑みを見せつけながら……
彼女はその器具を私に差し出しました。
杏子「ほら、ちゃんと一日中着けるんだよ?」
杏子「そしたらごほーびに……ま、言わなくてもわかるよね? くくっ……」
ほむら「っ……は、はい……」
服従すれば、その後に……と、誘惑をちらつかされて。
それが罠だと分かっていても。更なる深みに堕ちてしまうことになると知っていても……。
私は……それを受け取ってしまいました。
嗚呼……また、気持ち良くなれるなら、私はもう、どんなことだって……。
◇
翌日。
私は赤毛の彼女の命令通り、アブトロニックを身につけて学校に来ました。
ほむら「はあ……」
教室までは何事もなく、席についてため息を一つ。
今のところスイッチが入る気配はありませんが……
きっと彼女は何処からか私の様子を窺っていて、タイミングを見計らってスイッチを入れるつもりなのでしょう。
私を辱める、最悪のタイミングで……。
さやか「はあっ、はあっ、よっしゃ! ギリギリセーフ!」
ほむら「あ……」
息を切らせて駆け込んできたのは、美樹さん。
そしてその後ろには……
まどか「ふぅ、あぶないとこだったねー」
仁美「遅刻ギリギリでしたわね、ふふ」
鹿目さんの姿がありました。
ほむら「っ……」
いつもなら鹿目さんの姿を見るだけで、
不思議と元気が沸いてきて、明るい気持ちになれるのですが……。
今日は……怖いです。
きっと話しかけられちゃう。そしてきっとスイッチを入れられちゃうんだ。
そんなことになったら……私がこんなものを着けてるのがバレちゃって……
鹿目さんに変な子だって思われて、冷たい目で見られて……!
まどか「……ほむらちゃん、ほむらちゃんてば!」
ほむら「えっ?」
まどか「おはようほむらちゃん! どうしたの、ボーッとしちゃって」
ほむら「あ、か、鹿目さんっ、おはようございます」
い、いつの間にか目の前に、鹿目さんたちが来ていました。
考えるのに夢中になっちゃってたから気がつかなかったです……。
さやか「なんだー? もしかして寝ぼけてるのかー?」
仁美「ふふ、夜更かしはいけませんよ?」
そんな風に美樹さんにからかわれちゃいます。
でも、恥ずかしがる余裕もなくて、私の頭はお腹のアレがバレてないかと不安でいっぱいで……。
無意識に手を伸ばした次の瞬間────。
まどか「疲れちゃってるの? 無理はしない方がいいよ?」
ほむら「あ、い、いえ、大丈夫で……」
ピリッと、お腹に電気が走りました。
ほむら「んぅっ!?」
その衝撃を隠しきれず、反射的に身体が跳ねるように震えてしまいます。
か、鹿目さんが目の前にいるのに……!
まどか「ほ、ほむらちゃん?」
ほむら「っ……ん、うっ……!」
ヴ、ヴ、ヴ……
小刻みに腹筋が刺激され、自分の意志とは無関係に筋肉が伸縮を繰り返しています。
何これっ……か、勝手にヒクヒクしちゃうよぉっ……!
ほむら「っ……!」
私はうずくまるようにしてお腹を押さえて、必死に声を押し殺しました。
うっかり蹴飛ばしてしまった机が軋み、嫌な音が教室内に響きます。
まどか「ほむらちゃん! 大丈夫っ!?」
ほむら「う、くっ……はっ……」
心配してくれている鹿目さんに返事を返す余裕もありません……。
ヴン、ヴン、と、お腹のモノが私の身体を苛めてきます。
ほむら「あっ、んぅうっ……!」
こ、これ……き、昨日のと違っ……!
気持ち悪いっ……勝手に腹筋が動かされて気持ち悪い、のに……
癖に……なるぅ……!
まどか「だ、大丈夫?! 保健室行く?!」
仁美「きゅ、救急車を呼びましょうかっ?」
さやか「そ、それより先生呼んできたほうがっ……」
鹿目さんも美樹さんも私の様子を見て慌てています。
私が体調を悪くしたものと勘違いしているのでしょう。
……本当は、そんなんじゃないんです。
ほむら「う……」
ちくり、と罪悪感が胸を刺しました。
鹿目さん達を心配してくれてるのに、気持ち良くなっちゃってるなんて……。
私、最低です……。
杏子《ありゃりゃ、ちょっと強過ぎちゃったみたいだね》
不意に、頭の中に聞き覚えのある声が響きます。
間違いありません。彼女のテレパシーです。
杏子《しょーがないから一度止めてあげるよ。このまま病院行きなんてつまんないし》
ほむら「あっ……」
言葉通り、お腹の機器から送られてくる電気がストップしました。
今まで勝手に動いていた私の腹筋も、かすかな余韻を残して落ち着きます。
……本当はもっと、味わいたかったんですけれど……。
ほむら(っ……! ダメ、なにを考えてるの私っ……!)
胸中で自分を叱りつけ、頭によぎったイケナイ考えを振り払います。
それに、今はそんなこと考えてる暇なんてなくて……。
杏子《ほらほら、お友達が心配してるよ? 放っておいていいの?》
ほむら「っ……!」
言われなくたって、分かってます!
さやか「まどか! あたし職員室行って先生呼んでく……」
ほむら「ま、待って! だ、大丈夫ですから!」
まともに声が出せる状態になった私は、慌てて美樹さんを呼び止めます。
さやか「大丈夫ってあんた、何言ってんの!」
まどか「顔真っ赤だし、そんなに汗かいて……どーみても大丈夫じゃなさそうだよ!」
ほむら「こ、これは、その」
二人の私を気遣う視線が痛いです。
でも、心配してくれてるのはありがたいのですが、そんな大きな声を出されたら……
「暁美さんどうしたんだろ」
「具合悪いのかな?」
うう……やっぱり。注目を集めてしまったみたいです。
クラスメイトが少し離れたところで噂しているのも聞こえてきました。
どうしよう……みんなに見られて、騒がれちゃったら、ホントにバレちゃうよお……!
まどか「ほら、お腹押さえてるし……痛むならやっぱり保健室に行った方がいいって!」
ほむら「い、いえ! お腹が痛い訳じゃないんです!」
鹿目さんの目がお腹に向けられていることに気がついて、私は慌てて手を離しました。
でも、それが良くなかったんです。
仁美「あら? なんだか……」
ほむら「な、なんですか?」
仁美「暁美さんのお腹、ぽっこりされてませんか?」
ほむら「えっ、あ……!?」
どうしよう、バレちゃった……?!
頭の中が真っ白になって、それとは真逆に顔が真っ赤になるのが熱くて分かって……
ほむら「う、あぅ、ち、ちが、これは……」
喉がかすれてちゃんとした言葉が出ません。
まどか「ほむらちゃん……?」
どうしよう、どうしようどうしようどうしよう────!!
どうしよう、バレちゃった……?!
頭の中が真っ白になって、それとは真逆に顔が真っ赤になるのが熱くて分かって……
ほむら「う、あぅ、ち、ちが、これは……」
喉がかすれてちゃんとした言葉が出ません。
まどか「ほむらちゃん……?」
どうしよう、どうしようどうしようどうしよう────!!
連投しちゃった……何でもするから許してください
杏子《あーあ。上手く誤魔化しなよ? バレたらごほーびは無しだからね》
ご褒美無し……そ、そんなの、イヤ……!
でも、今はそんなことを考えている暇なんてなくて、
とにかくなんとか誤魔化さなきゃいないけなくて……!
ほむら(……そ、そうだっ……)
閃いた嘘を、私は口走ります。
後のことはよく考えずに……。
ほむら「これは……その! お、お通じが……」
まどか「へっ?」
ほむら「私……えとっ、お通じが、最近出てなくて……」
仁美「あ……」
さやか「……ああー。そ、そーいう……」
あれ、なんだか鹿目さん達の態度が……
可哀想な子を見るものに変わったような……。
「……便秘?」
話を盗み聞きしていたらしい、近くの席の誰かがそう呟いて……。
ほむら「────っ!!」
私はようやく、自分の発言の恥ずかしさに気がついたのです。
ほむら「あ、えと、そのっ、い、今のは聞かなかったことにしてくださいっ!」
慌てて取り繕っても、もう遅くて……。
まどか「そ、そっか……ご、ごめんねなんか……」
さやか「変に騒ぎ立てちゃって……その、うん、ごめん……」
先程までとは種類の違う気遣いが、逆に辛いです。
ああ、私ったら……!
な、なんでお通じだなんて……そんなお馬鹿な言い訳しちゃったの?!
ほむら「い、いえ、あの、その……」
まどか「た、大変なんだね、ほむらちゃん……」
さやか「お腹がぽっこりしちゃうくらいずっと出てないんだ? そりゃ変な汗もかいちゃうよね、うん」
仁美「わ、私で良ければいつでも相談に乗りますからね」
う……
ううううううう!!
やめてください! 変に労るのはやめて!
「便秘なんだって」
「へー、可哀想ー」
他のクラスメイトの皆にもバッチリ聞こえていたみたいです。
あれだけ注目を集めてたところで、あんな発言をしちゃったんだから当然だよね……。
ほむら「う、ううう……」
私は皆から便秘の子だと思われてしまったに違いありません。
こ、こんな恥ずかしい思いをするなんて初めてです……!
授業で答えが分からなかったときも、体育で倒れちゃったときも、ここまで恥ずかしくはありませんでした。
今の私はきっと耳まで真っ赤になってることでしょう。
顔から火が出そう、って表現がぴったりなくらい……。
和子「はい、皆さんおはようございまーす」
と、そこで、救いの手が差し伸べられました。
先生が教室に入ってきたのです。
さやか「……っと、席に戻んなきゃ」
まどか「辛なくなったらいつでも言ってね?」
ほむら「は、はい……」
鹿目さん達は私を気遣う言葉を残して、それぞれの席に戻っていきました。
教室内の雰囲気も、私に注目する感じから朝のホームルームに切り替わっていきます。
よ、よかった……とりあえずはこれで……
和子「あら? 暁美さん、顔が赤いけれど大丈夫?」
……もうやめてぇ!
杏子《あはっ、あははは!》
彼女のちょっぴり下品な笑い声に、腹を立てる気力もありません……。
…………。
一応何とか誤魔化せてホームルームも終わり、すぐに一時間目の授業が始まりました。
和子「と、言うわけですから! この登場人物は30過ぎても結婚できずに発狂してしまったわけですがしかしそもそも結婚などというものは……」
ほむら「はあ……」
でも、先生の説明は頭に入りません。
さっきから頭の中に響く彼女の声が妨げているのです。
杏子《くくっ、いやいや。やっぱアンタってイイね。サイコーだよ、見てて飽きないや》
貴女は……最低ですっ。
そう言い返したい気持ちは胸の奥でくすぶっていますが……
言葉にすることは出来ません。
だって私は……その最低の人に堕とされて、快楽の虜となってしまった愚か者なのですから。
和子「じゃあ、ここの文章を……はい、暁美さん?」
授業が半ばにさしかかった頃、結婚の何たるかを語り続けていた先生が、私を指名しました。
ほむら「はっ、ひゃい!?」
意識が授業に向かっていなかったので、不意の出来事に返事が裏返ってしまいます。
ほむら(うう……)
くすくす、と微かな笑い声が教室の何処からか聞こえてくる気がします……。
和子「大丈夫?」
ほむら「え、えと、すみません……ど、どこから読めば……」
和子「こらこら、ちゃんと聞いてて下さいね」
ほむら「ご、ごめんなさい……」
和子「読んで欲しいページは225ページの……」
うう、叱られちゃった……。
教えてもらったページを開いて、私は立ち上がり……
ほむら「あ、ええと……よ、読みます……」
和子「はいどうぞ♪」
教科書に書かれた文章を読み上げようと軽く息を吸い込んだその瞬間。
ほむら「ひゃっ……!?」
ヴィー……ン、と。
お腹のベルトから、また刺激が伝わってきました。
そ、そんなっ、こんなときに、また……!?
和子「暁美さん? どうかしましたか?」
ほむら「い、いえ、なんでもありませ……っん!」
ヴィー……ン、ヴィー……ン。
ベルトが一定のリズムで私の腹筋を苛めます。
このままじゃ、教科書を読むことなんてっ……!
杏子《ほらほら、早く読みなよー?》
ほむら《で、でも、これっ……》
杏子《さっきよりは弱めになってるだろ? 教科書くらいなら読めるさ》
確かに……先程の、鹿目さん達の前で受けたときよりは、刺激は控えめです。
腹筋の動きも小さくなっています。
でもっ……。
ほむら「っ……く、ぅ……」
断続的に与えられる弱々しい刺激は、私が気持ち良くなる寸前くらいのところで抑えられており……
酷く、もどかしくて……かえって私の頭をかき乱しました。
こんなっ……こんなのって……!
和子「暁美さん? 大丈夫ですか? 読めますか?」
ほむら「は、はい……よ、読みます、大丈夫です……」
絶妙な加減の刺激に焦らされ、頭はクラクラして、このままじゃおかしくなっちゃう。
クラスの皆も見てるのに……!
変なことを口走っちゃう前に、早く、早く読み終わらなきゃ……!
ほむら「ど……Don't forget.Always,somewhere……っく……」
何とか読み始めた私でしたが……
ほむら「さ、someone is fighting for you……んっ、ふぅっ、はあぁ……っ」
優しく撫で回すような、揉みほぐすような、中途半端な感覚にお腹を犯され続けて、だんだんと意識があやふやになっていきます。
じわり、じわりと欲望に侵されて、頭の中は靄がかかったようになり……ただ一つのことしか考えられなくなっていきます。
……気持ち良く、してほしいっ……!
ほむら(こ、こんな……こんなのって……ずるいよぉっ……!)
ヴィーン……ヴィーン……蠱惑の音色が身体中に響きます。
でも、ああ、ダメなのっ……これじゃダメなの。
もっと、もう少し強くしてくれれば、あの快感を味わえるのにぃっ……!
ほむら「うっ……く、はああっ……!」
「ね、ねえ……あれ、大丈夫なの?」
「それに、なんか……ちょっと……」
教室内の空気がざわつき始めます。
一番前の席なのは幸運だったと言うべきなのか、不幸だったと言うべきなのか……
私からは皆の反応を目で見ることは出来ません。
ただ、ひしひしと背中に視線を感じるのみで……でも、確かに皆の好奇の視線を浴びせられているのが伝わってきて……。
ほむら「────っあ」
びくんっ、と腹筋が大きく跳ねたのでした。
私……もしかして……
見られて、興奮しちゃってる……?
そんなはずない!
と、心で否定してみても……私の身体は正直に、赤裸々に語っていました。
感じちゃってるんだってことを。気持ち良くなっちゃってるんだってことを。
ほむら(ああ……こ、こんなに……私、こんなになっちゃってる……)
ぐっしょりと濡れたアソコが……私の腹筋が、何よりの証拠です。
直接触らなくても分かります。
ベルトから滲み出した汗がシャツに染み込み、じっとりと湿った布の感触は地肌に張り付いて……独特の不快感を生み出していました。
でもどうして……? ホームルーム前の時は、こんなふうにはならなかったのに……。
和子「暁美さん……? 具合が悪いの? 無理しない方が……」
まどか「先生! 私、保健室に連れて行きます!」
ほむら「あっ……」
私の意識が完全に堕ちきってしまう直前。
鹿目さんの切迫した声に助けられ、辛うじて正気を取り戻しました。
ほむら「っ……」
とはいえ……未だにベルトによる焦らし責めは続いており、このままではまた気をやってしまいそうです。
ほむら「せんせっ……ご、ごめんなさいっ、私、保健室にっ……」
そう言って私は、返答を待たずに教室から逃げ出します。
和子「あっ! 暁美さっ……」
まどか「待ってほむらちゃん! 私も一緒に行くよ!」
ごめんね鹿目さん……。
愛しい友人の言葉さえも無視して、私は逃げ出しました……。
…………。
ほむら「はあっ、はあっ、はあっ……」
鹿目さんを置いて教室を抜け出して、私が駆け込んだのは保健室……ではなく。
女子トイレの個室でした。
保健室になんて行ったら、お腹のこれが先生にバレちゃうもん。
ほむら「っく……」
気がつけばベルトの振動が止まっており、身体の疼きも微かに残る程度になっています。
身体が熱いのは……ただ単にここまで走ってきたからでしょう。
しかし、肉体が落ち着き始めていても……。
ほむら「ううっ……うううううう……!」
心は、穏やかな状態では居られませんでした。
私っ……みんなの前で腹筋を鍛えられて……興奮しちゃってた……!
それも、こんな、オモチャみたいなベルトなんかで……。
杏子《くっくっく……良い喘ぎ声だったよ》
私を精神的に追いつめようというのでしょう。
彼女がテレパシーで私の心を抉ります。
ほむら《っ……! あ、喘いでなんて!》
杏子《んー? 気がついてなかったのか? アンタ、そーとー妖しい声出してたよ?》
ほむら《そ、そんな……!》
杏子《きっとクラス中の連中にバレちゃったろうね、アンタが……》
杏子《アンタが授業中にアブトロニックでアソコを鍛えてるよーな、おかしなヤツだってことが……ね?》
そんな……そんなこと……!
……皆、私がしてたコトに気がついてる……?
私が、見られて感じて、濡らしちゃってたことも……?
ほむら「う……ううっ……」
想像しただけで震えが止まりません。
それは……悲しくて? それとも……。
杏子《きっとオトモダチにも軽蔑されただろうねー、気持ち悪いヤツだ! ってね》
ほむら「っ!」
そう……なの……?
鹿目さんも、私のこと、嫌いになっちゃったの……?
杏子《そうさ、今までみたいにオトモダチと仲良くなんて出来ないよ》
鹿目さんと、仲良く出来ない……?
杏子《それどころか無視されて……イジメられて……》
杏子《もう、あの教室にアンタの居場所なんて無いだろーね……くくっ!》
ほむら《い、いやっ……やめて、言わないでっ……!》
ああ、そんなっ……。
せっかく魔法少女になって、鹿目さんと仲良くなれると思ったのに。
鹿目さんに嫌われて、居場所もなくなっちゃったら……
私はなんのために、魔法少女になったの……?
私はこれから、なんのために生きていけばいいの……?
……一時の欲望に身を委ねてしまった私がいけないのは分かっています。
でも、それが、こんなことになるなんて……!
ほむら「ああっ……」
じわりじわりと、絶望が私の魂を蝕み始めたその時……。
杏子《でも、大丈夫だよ》
彼女は、実に恐ろしい言葉を口にしたのです。
ほむら《えっ……?》
杏子《大丈夫、アンタが皆から忌み嫌われて孤独になったとしても……》
杏子《────アタシだけは、アンタのそばにいてあげるから》
ほむら《えっ……えっ? そ、それってどういう意味……》
杏子《ふふっ……今はまだ、教えてやらないよ》
杏子《ま、お楽しみは……まだまだこれからだから……ね?》
ほむら「っ……」
彼女が甘い声でそう囁いたのを最後に……テレパシーは途絶えました。
────アタシだけは、アンタのそばにいてあげるから。
なんて、怖ろしい言葉なんでしょう。
もしも私が独りになってしまっても……彼女だけは私の傍にいてくれる……。
どういった意味合いなのかは想像することしかできません。
ただ、一つだけ分かることは……。
そんなことになってしまったら私は、きっと……抜け出せない。逃げられなくなる、一生。
ほむら(でも……それでも……)
……私の中で、退廃的な、破滅的な欲望が……鎌首をもたげるのを感じました。
…………。
それからどの程度の時間トイレに籠もっていたのかは良く覚えていませんが……。
ほむら「あ……」
一時間目の授業の終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響きました。
ほむら(行かなきゃ……)
教室に戻るのは、正直に言って怖いです。
あの子の言う通りに皆が私の秘密に気がついていて、私を軽蔑するような目で見てきたら……
もう、私は立ち直れません。
後は堕ちていくだけの運命に捕らわれてしまうでしょう……。
ほむら(でも、行かなきゃ……)
心の内に、破滅への願望を秘めたまま……私は意を決して、トイレから出ます。
ほむら「────え?」
……そんな私を廊下で待っていたのは、>>185さんでした。
意外それはキリカちゃん!
……そんな私を廊下で待っていたのは、名前も知らない女の子でした。
キリカ「…………こんちは」
ほむら「え、あ、え……?」
不意の出来事に戸惑ってしまいます。
一瞬、私以外の誰かに声をかけたのかと思いましたが、他に人はいません。
ほむら「こ、こんにちは……」
とりあえず礼儀として挨拶を返します。
少し……ううん、かなりぎこちないものになってしまいましたが。
でもどうして私なんかに話しかけてきたの……?
まさか、もうさっきのことが噂になってて、私をイジメるために来たとか……?
ほむら「う……」
陰鬱な気持ちにさせる想像が頭を過ぎります。
冷静に考えればありえないと分かるのですが、ありえないと判断する理性とは別の何かが破滅的な未来ばかりを思い浮かべさせるのです。
……逆にそれを期待しているかのように。
……などと、私が考えを巡らせていると。
キリカ「これ」
女の子が無愛想にそう言い、何かを差し出してきました。
一瞬だけ身構えてしまいましたが、よく見ればその手にあるものは……ハンカチ。
ほむら「あの、これは……?」
キリカ「キミの。さっき落としたのを見たから」
答えるときも、やっぱりそっけない態度でした。
私のせいで気を悪くさせちゃったのかな……。
不安になりますが、ひとまずは感謝の気持ちを伝えます。
ほむら「あっ……ありがとう、ございますっ」
キリカ「ん」
手渡されたハンカチは間違いなく私のものでした。
きっと走ってきたときに落としてしまったのでしょう。
……あれ、でも、じゃあ……この人。
ほむら「あの、もしかして……」
キリカ「?」
ほむら「私がトイレから出てくるのを、ずっと待っててくれたんですか?」
キリカ「…………」
女の子が居心地が悪そうに視線を泳がせます。
キリカ「……ん、まあ……」
曖昧な口振りでしたが……どうやら私の推測は正しかったみたいです。
なんだか口数が少ない人ですけれど……でも、悪い人じゃない、ってことはハッキリと伝わってきました。
面識のない私なんかのために、落とし物を届けるために、待っててくれたんだもん。
きっと、良い人なんだ。
ほむら(……ふふっ)
キリカ「……何?」
私が笑ったのが気になったのか、怪訝そうな顔をされてしまいます。
ほむら「い、いえ、なんでもないです」
いけないいけない。
せっかく親切にしてくれたのに笑うなんて良くないよね。
ほむら「その……えと」
……私は改めて、今の気持ちをそのまま言葉にします。
ほむら「ありがとう、ございます」
キリカ「あ……」
さっきよりずっと、上手に言えた『ありがとう』でしたが……。
キリカ「……別に、そんな」
女の子はそっぽを向いてしまい、こちらを見ようとはしません。
だけど不思議とイヤな感じはしなくて……。
ほむら(ちょっぴり、不器用な人なんだね)
私みたい……なんて言ったら失礼だけど……奇妙な親近感が芽生えるのを感じます。
キリカ「……やっぱり彼女みたいに格好良くはいかないや……」
ほむら「え?」
ボソリ、と呟かれた言葉は、私の耳には届きませんでした。
キリカ「……なんでもないよ」
照れ隠しなのか、ポリポリと頬を掻く彼女の姿は微笑ましくて……釣られて私も照れ臭くなってしまいます。
なんだかソワソワしちゃう……ふふっ。
……全く予期していなかった出会いは、ほんの少しだけ私の心が軽くしてくれたみたいです。
でも────
杏子《……随分と楽しそーじゃんか》
ほむら《えっ……!?》
それを台無しにするのが、あの子。
杏子《ふん、にやけた顔しやがって……》
不機嫌な様子を隠そうともせず、彼女は呟きました。
……私が目の前のこの人とお話していたのがそんなにも気に入らなかったのでしょうか……?
杏子《さっきまであんなによがってた変態のクセに、生意気なんだよ!》
ほむら《っ……! へ、変態だなんて……!》
あまりにも酷い暴言を吐かれ、流石の私も反論してしまいます。
しかし……。
杏子《なんだよその態度? ……そんなにまた恥をかきたいわけ?》
ほむら《ひっ……!》
たった一言で、反抗する意志は脆くも打ち砕かれました。
逆らえば何をされるかは……明白です。
あの子がアブトロニックのスイッチを握っている以上……私には反抗なんて出来ないんだ……。
杏子《くくっ、そうそう。アンタはそーやって大人しくアタシに従ってれば良いんだよ》
ほむら《うう……》
私の諦めが伝わったのか少し気を良くしたようです。
上機嫌な口振りで、彼女は告げました。
杏子《どうせアンタはもう、クラスメイトから変態扱いされてるし孤立する運命だ》
杏子《ソイツにちょっと親切にされたからって浮かれてんじゃねーよ》
杏子《分かってんだろ? ソイツだってアンタの本性を知れば軽蔑して離れていっちゃうんだよ?》
ガツン、と殴られたような衝撃が頭を揺さぶりました。
ほんの少しの間だけ忘れられていた事実を改めて突きつけられて、私の心が再び深い闇の中に沈んでいきます。
ほむら「っ……!」
杏子《……でもアタシはアンタを捨てない》
杏子《だからさ、分かるだろ? アンタはアタシに服従してるのが一番幸せなんだよ》
ああ……この人はこうやって私の逃げ場を奪って、私を閉じ込めるつもりなんだ……。
絶望という檻に。彼女という甘い快楽の牢獄に……。
キリカ「どうか、したのかい?」
ほむら「あ……」
テレパシーに集中するあまり、長く黙り込んでしまっていたようです。
不安げな表情で彼女がこちらを窺っています。
ほむら「い、いえ、その、ちょっと便……じゃなくて、目眩が」
キリカ「保健室、連れて行こうか?」
杏子《────断りな》
間髪入れずに命令が飛んできました。
考える余裕もなく、私は言われたとおり従うしかありません。
ほむら「平気ですっ、平気ですから、構わないでください……」
キリカ「……そう」
少し冷たかったかな……と、良心が痛むのを堪えながら、私は彼女の申し出を断りました。
杏子《うんうん、良く出来たね。それでいいんだよ》
それは小さい妹を誉める姉のような、優しい声色。
ほむら(あ……)
私は一瞬だけ……今、自分が置かれている状況も何もかも忘れて、彼女に誉められたことを嬉しいと思ってしまいました。
なんて恐ろしい人なのでしょうか、彼女は。
こんな優しい声で話せる人が、どうしてこんなにも意地悪な性格なのでしょう。
いえ、意地悪だからこそ……なのかもしれません。
杏子《それじゃあ、良い子のアンタには……》
そして彼女は、慈愛に満ちたそのままの声色で告げるのです。
杏子《良く出来たご褒美に、ちょっとだけ気持ち良くしてあげる♪》
ほむら《え……?》
死の宣告にも似た、最悪の台詞を。
────バチィッ!!
ほむら「ひぎぃっ!?」
何かが弾けるような音と共に、私のお腹に激痛が走りました。
キリカ「っ?!」
一瞬、何が起こったのか理解できませんでしたが……お腹のベルトから尋常でない力の電気的刺激が与えられたのだと分かりました。
しかしそれはもはや電気的刺激などという生易しいものではなく雷を落とされたかのような感覚で……
とても耐えられず、私は膝から崩れ落ちてしまいます。
キリカ「き、キミっ! どうしたんだい、大丈夫かい?!」
ほむら「くっ……あっ……!!」
心配してくれている彼女に言葉を返すことも出来ません。
ほむら(痛いっ……痛いよぉ!)
これまでの腹筋への責めとは全くことなる苦痛に、私の視界は早くも涙で歪んでいました。
ほむら(こ……こんなの繰り返されたら、死んじゃうっ……!!)
……しかし、私の不安に反して……。
尋常でないその痛みはたった一度きりで終わったのです。
ほむら(え……あっ……?)
ズキズキとおなかが痛みますが、ベルトは既に沈黙しており何の刺激も与えてきません。
罰はもう済んだのでしょうか……。
ほむら(よ、よかっ……)
キリカ「だ、大丈夫かい? 今のはいったい……」
ほむら「あ、は、はい……」
大丈夫です。
私がそう答えようとした次の瞬間……。
ヴィィィィンっ、と。
ほむら「あひっっ……!?」
再びお腹に刺激が走ったのです。
キリカ「え……?」
ほむら「んっ……あっ……!」
それは、数秒前の電撃とは真逆の、柔らかな刺激。
まるでお腹を揉みほぐされるような……何本もの指でマッサージされるかのような、腹筋運動でした。
ヴィィィィん、ヴィィィィん……。
刻まれるリズムものんびりとしたもので……身体の芯までとろけてしまいそうで……!
ほむら「あひっ……んひぃっ……!」
なに、これっ……!
さっきの痛いとこが、ピリピリしてっ……なのに温かくて、モミモミされてっ……!
ほむら「んは、はあぁっ……!」
こ、声……抑えらんないっ……!
キリカ「え……えっ……?」
知らない子が私を見てるのにぃ……!
ほむら「っ、あはぁっ、はっ、はああっ……!」
だめ、気持ち良くなっちゃ、だめぇっ……!
杏子《どーだい? アタシのスペシャルなごほーびは》
私の葛藤も知らず……いえ、知ったうえででしょうが……。
彼女はどこか得意げな様子で説明を始めました。
杏子《痛みで意識が集中したところをこーやって優しく腹筋してやると……何倍もの快感が味わえるんだよ……ふふ》
ほむら「ん、く、はぁっ……あんっ……!」
ほむら(そ、そんな……そんなっ……!)
確かに……自分の身体に起こっているとは信じられないような快感が、私の腹部を襲っていました。
そして、かすかに残る痛みがまた一つのエッセンスとなり、より一層の妖しい快楽を生み出していて……。
ほむら(う……うううっ……!)
なんて恐ろしい技術なのでしょうか……。
人を堕落させるための技……まるで悪魔の、魔女の魔術であるかのように思えてなりません……!
お腹からじわりじわりと広がっていく快楽の波は、徐々に私の全身を侵していきます。
ほむら「ああっ……んあ、あはぁっ……」
だらしなく緩んだ私の口からはみっともない声が垂れ流しになり、止めることなど出来そうにありません。
キリカ「あ……え、えと、ね、ねえ……大丈夫なの……?」
体裁を取り繕う努力をする気にもなれず……いえ、むしろこの醜態をさらけ出すことを望んでえいて……。
ヴィィィィん。ヴィィィィん。
ほむら「あぅっ……あぅぅっ……!」
ベルトの演奏と私のはしたない歌声が一つになって生み出す、下品な音楽に酔い痴れて……。
メロディに耳から脳を支配されていくような、そんな感覚の中……私の意識は、真っ白な光に飲み込まれていきます……。
ほむら(ああっ……もう、もうだめ、私ぃ……!)
……そして私は完全に力尽きて、手を着くことも出来ないまま前のめりに倒れ伏しました。
ほむら「あ……う……」
廊下にキスしちゃって、汚いとか考える余裕なんて欠片もなくて。
あたまのなかはくらくらで。
ただただ甘い痺れが全身を覆っていて……。
キリカ「ちょっ、き、キミっ……」
そのまま私が完全に気をやってしまう直前────
キリカ「ど、どうしよ、とりあえず保健室に……!」
耳にしたのはそんな言葉でした。
ほむら「……!」
保健室……だめ、保健室は、ダメっ……!
ほむら(先生に、バレちゃう……!)
……今更そんなこと気にしても無駄だってことには気づかないまま、私は最後の力を振り絞って言いました。
ほむら「ほけんしつは……だめっ……」
キリカ「え、な、なんで……?」
彼女の疑問に答える気力は既になく。
私の目の前が真っ白になって────。
◇
……目を覚ますと、そこは薄暗い部屋でした。
見慣れない天井があり……背中からはひんやりとしたコンクリートの感触が伝わってきます。
ほむら(…………コンクリート?)
それっておかしいような……。
疑問に思い身体を起こせば、自分が横になっていたのが部屋などではないことが分かりました。
どうやらここは、階段の踊り場のようです。
キリカ「あ……起きた?」
すみっこのほうで座っていたのは、例の……名前も知らない彼女。
ほむら「こ、ここはぁっ?」
階段の途中であることはわかりましたが、いったいどこの階段なのかはさっぱりです。
私はキョロキョロと周りを見回しながら尋ねました。
……寝起きだったせいで、ちょっと声が裏返りかけたのは内緒です。
キリカ「……くすっ」
なんだか笑われたような気もしますが、気のせいです。うん。
キリカ「ここは地下に降りる階段だよ」
地下?
そういえばこの学校には地下フロアがあるって話は聞いたことがありました。
ただ、普段の授業では使わないので、私は降りたことがなかったのですが……。
キリカ「人が来ないから……お気に入りの場所なんだ」
ほむら「そ、そうなんですか」
キリカ「うん……『秘密の隠れ家』、さ」
隠れ家、だなんてわざとらしく大袈裟に言ってみせる彼女の口元には……イタズラっ子のような笑みが浮かんでいました。
ほむら「あ……」
嫌みな感じのしない、無邪気な笑顔です。
あの子とは全く別の、優しい笑顔……。
ほむら「……ふふ」
思わず私も顔がほころんでしまいます。
……でも、どうして私こんなところにいるんだっけ。
キリカ「保健室はダメだって言うから……ここにしたんだけど……」
私の疑問を察してくれたのか、彼女が説明してくれて……。
ほむら(……!!)
一瞬で和やかな気持ちは消し飛び、血の気が引いたのを感じました。
また気絶してしまいそうなくらいに頭がくらりと揺れます。
ほむら(そうだ……わたしはっ……!)
腹筋の快感に屈服してしまい、恥ずかしいところを全部見られてしまったのです……。
目の前の、彼女に。
ほむら「あのっ、そのっ、わたし……!!」
ああ、なんて言い訳すればいいの……!?
あんな声を聞かれて、きっと酷い顔も見られて、それにベルトの音も聞かれたかも……!
ほむら「ちが、違うんです、あれは、えとっ……!」
もう、何から誤魔化せば良いのか分かりません。
ろくな言葉が出て来なくて、しどろもどろに意味のないことを口走るしか出来なくて……!
キリカ「…………」
そんな私を見かねたのか、彼女はゆっくりと私の傍に寄って……
キリカ「……大丈夫だよ、落ち着いて」
ほむら「あ……」
優しく、私の手を取ってくれたのでした。
キリカ「キミに……その、どんな事情があるのかは知らないけど……大丈夫」
キリカ「いま、ここにはキミを責める者なんていないんだよ」
ほむら「……!」
キリカ「だから、落ち着いておくれよ。……ね?」
ほむら「は、はい……」
彼女の手に包み込まれて、私の指先は確かな温もりを感じて……。
いくらか心も穏やかになっていきました。
ほむら「すぅ……はぁ……」
深呼吸をして、気持ちを整えます。
キリカ「……うん、もう平気そうかな?」
ほむら「……はい」
おかげで平静を取り戻すことが出来た私ですが……状況が良くなったわけではありません。
見られてしまった、という事実は変わらないのですから。
責める者はいないと彼女は言ってくれたけれど、あんな姿を晒した私をどう思っているのかな……。
ほむら「…………」
確かめたくても、唇が無意味に震えるだけで言葉が出てきません。
キリカ「…………」
居心地の悪い沈黙がしばらく続きました。
キリカ「私は、さ」
ほむら「え……?」
先に口を開いたのは、彼女。
キリカ「私は、他人が苦手なんだ」
ほむら「……?」
ほむら(他人が、苦手……?)
確かに、その……少し不器用に感じられるところはありましたが……何故いまこの状況でそんなことを言うのでしょうか。
突然の告白に、どう反応すればいいのか……困ります。
キリカ「ううん、苦手というより……他人なんてくだらない存在だって決め付けて、距離を置いてた」
キリカ「だからこの場所にも良く来ていたんだ……誰も来ない、この場所に」
私の戸惑いには気付かずに、彼女は語り続けました。
キリカ「でもそんなとき、ある人と出会って……少しだけ、変われたんだ」
ある人、と語るその瞳には確かな熱が宿っています。
キリカ「少しだけ、周りを見れるようになった」
少し赤らんだ頬からも、甘酸っぱい想いを見て取れました。
キリカ「その人に憧れて、少しでも近づきたくて……変わろうって、頑張ろうって思えるようになったんだ」
ああ……この子はきっと……
ほむら「……恋、してるんですね」
キリカ「えっ?!」
キリカ「い、いや、好きだとかそんなんじゃなくて、もっとこう、言葉に出来ないあれで……」
図星、だったみたいです。
慌てふためく彼女の姿を見れば、私みたいな鈍感でも分かります。
ほむら「……ふふっ」
微笑ましくなって、ついつい笑い声を漏らしちゃいました。
この人といると……なんだか自然に笑顔になれるなあ……。
などと感じている私とは対照的に、
キリカ「ええと、だから、その、なんていうか……」
彼女は話の腰を折られてしどろもどろになってしまっています。
……ごめんなさい。
キリカ「他者と関わることで、良くなることもあるっていうか……」
それでもなんとか言葉を紡いで……
彼女は、こう告げてくれたのです。
キリカ「……私で良ければキミの、話し相手になりたい」
キリカ「力になりたいんだ」
ほむら「…………!」
それはきっと、いま私が最も必要としている言葉。
とくん、と心臓が小さく跳ねました。
真っ直ぐな眼差しが、嘘偽りのないことを雄弁に語ります。
真摯な思いが私の胸の内のうちまで届いて響き渡りました。
ああ、この人は本当に私のことを思いやってくれているんだ……。
キリカ「……あはは、やっぱり上手く言えないね、格好悪い」
ほむら「そ、そんなこと……ない、です」
格好悪くなんてないです。
力になりたい、って言ってくれて、私がどんなに嬉しいか……伝えたいです。
でも、そんなこと言ったら、またあの子がきっと……。
ほむら(……あれ? でも……)
そこで私はふと気がつきます。
悪魔のようなあの子の……赤毛の彼女の気配が、ないことに。
先ほどまで肌にまとわりついていた監視の目が、感じられないのです。
ほむら(これってもしかして……)
地下に降りたから、あの子の監視の魔法が届かなくなったとか……?
だとしたら……これは、チャンスなのかも……。
今なら赤毛の『あの子』に邪魔されることもなく、目の前の『この子』に相談することが出来る……。
『この子』に力になって貰えれば、もしかしたら『あの子』の呪縛から逃げられるかも知れません。
ほむら(でも……)
そうなってしまえば……きっともう私はご褒美を貰えなくなってしまうでしょう。
『あの子』に支配されたまま欲望に溺れたいならば……『この子』に本当のことを話す訳にはいかない……。
ほむら(どうしよう……私は、どちらを望んでいるの……?)
私は……もう、『あの子』に苛められるのはイヤ。
私は……『あの子』の玩具として快楽に浸かりたい。
ほむら(うう……)
私の中の二人の私がせめぎ合って、戦いあって。
そして出た結論は……。
>>249
1.この子(キリカ)に真実を打ち明けよう!
2.嘘をついて適当に誤魔化そう……。
3.何も言えない……。
4.悩んでいるうちに>>さんが来ちゃった!
kskst
1
◇
そして私はすべてを打ち明けました。
あの子に腹筋をさせられて快楽の虜になってしまったこと。
言われるがままにアブトロニックを着けて学校に来てしまったこと。
授業中に辱められたり……この子の前で絶頂してしまったりしたこと……。
すべてを話したのです。
もちろん、自分の恥ずかしい秘密をさらけ出してしまうことに抵抗はありました。
でも、それでも……私は前に進みたかったから。前を向きたかったから。
震える手を抑えつけて、勇気を振り絞って、全部を語りました。
キリカ「……は? 腹筋?」
……その結果が、この第一声です。
ほむら「っ……!」
呆れた表情から『何言ってんだこいつ?』という心の声がひしひしと伝わってきます。
私の話を理解してくれていないのは……一目瞭然でした。
ほむら(そんなっ……!)
せっかく勇気を出したのに。思い出すだけでも羞恥で狂いそうになる秘密をさらけ出したのに……!
ほむら「し、信じて……くれないんですか……?」
キリカ「あ、い、いや! 信じていないわけじゃないよ、うん!」
口ではそう言っても、その慌て様が全てを物語っていました。
やっぱり……そうなんだ……。
ほむら「ぐすっ……」
キリカ「あああっ、な、泣かないでおくれよ、信じる、信じるからさ!」
キリカ「ええと、うん、キミは腹筋をさせられて……その、気持ち良くさせられちゃったワケだ!」
キリカ「そのせいで悪い子に逆らえなくなった、よし、ならこうするといいっ、私に策がある!」
半べそをかいた私をなだめようと、彼女なりに話をまとめようとしているようです。
ほむら「策……ですか……?」
キリカ「そ、そうともさ! 例えば、ええと、その……」
しかしなにやら必死に考えを巡らせている様子で……。
あの、絶対、策なんて思い付いてないですよね……?
キリカ「う、うん! そうだ、例えば……」
私の懐疑の視線に晒されて、頭から煙を出しそうな彼女でしたが……何とか案を捻り出したようです。
矢継ぎ早に、そのアイデアを言葉にしました。
キリカ「>>257するとか、もしくは>>258するとか」
キリカ「あとは>>259するとか!」
クランチ
まどかと結婚
杏子を殺害
キリカ「クランチするとか────とか────するとか!」
ほむら「くちゅん! くちゅん!」
あ、うっかりくしゃみをしてしまいました。
せっかく提案してくれたアイデアをいくつか聞き逃してしまいます。
ほむら「ご、ごめんなさい、もう一度言って貰えますか?」
キリカ「え? あ、い、いや……」
ほむら「クランチ? って言うのは聞こえたんですけど……」
キリカ「う、うん、それならいいよ! クランチが本命の案だから! 後半二つは軽い冗談だったから!」
ほむら「そうなんですか……?」
キリカ「うんうん、くしゃみで聞こえなかったなら仕方がないよね、うん」
良く分かりませんが……クランチ?以外の案はなかったことになったようです。
……ここで聞き逃した二つの案が、まさか後ほどあんなことになってあんな風になるアレだとは、このときの私はまだ思ってもいなかったあれなのでした……。
ほむら「それでその、クランチ……っていうのは、どういうもの……こと、なんですか?」
聞いたことがあるような気もしますが、具体的にどんなものなのかは思い出せません。
私は率直に尋ねました。
キリカ「うん、クランチっていうのは腹筋のトレーニング方法の一つだよ」
ほむら「腹筋の……!?」
腹筋。
その単語を聞いただけで反射的にお腹がビクンと震えてしまいます。
ほむら「ど、どうして腹筋なんか……」
ただでさえ腹筋の快楽に溺れつつある私が、わざわざそんなことしたら……もう、堕ちるところまで堕ちてしまうのではないでしょうか。
そんな恐ろしいこと……。
ほむら「…………っ」
想像しただけで、ごくり、と生唾を飲み込んでしまいます。
やっぱり、私は……。
キリカ「いやいや、キミは……その、無理やり腹筋させられて……き、気持ち良くなっちゃって翻弄されているんだろう?」
キリカ「それならさ、気持ち良さに耐えられるように……自分で腹筋を鍛えればいいんじゃないかな、と思って……」
自分で、腹筋を鍛える……?
キリカ「そうさ、自ら腹筋を鍛えて、えと……か、快楽に屈しなくなれば」
キリカ「例のいじめっ子に腹筋させられても、こう言えるはずさ」
キリカ「『絶対腹筋なんかに負けないっ』……てね!」
キリッと、引き締めた表情で彼女が断言しました。
成る程……と、私は小さく頷きます。
自分で腹筋を鍛えて、快楽に屈しないよう身体を慣れさせる。
確かに意味はありそうです……。
ほむら(で、でもっ……!)
でも、そ、そんなの……恥ずかしいです……!
だって、それって、結局のところ自分で自分を気持ち良くさせるわけで……。
そ、そんなの……じ、自慰……してるみたいじゃないですか……!
遊び人「ところがどっこい、これが冗談でも何でもなくて本気なんだわ」
勇者「おう、本気も本気、大本気だ」
商人「はぁ……ま、あなた達が道楽に命を散らすというなら止めはしませんがね」
商人「私は今まっとうな商人なんです。巻き込まないでいただきたい」
勇者「へえ、まっとうな商人ねえ」
遊び人「おお、こいつは笑える冗談だな」
商人「何が冗談だと言うのですか……」
遊び人「ふふーん、お前、コレなんだか分かる?」ピラ
商人「なんですその……ちょ、そ、それはウチの二重帳b…いや、あわわわ」
商人「ど、どうしてあなた達がウチの極秘書類を!?」
遊び人「お前んトコの経理いんじゃん?お前知らないみたいだが、アイツ、カジノにどっぷりでよ」
商人「なっ!?」
遊び人「かなり賭場に借金があるんだわ、んでよ、俺がちょっとその借金買い取ってやろうか?って話もちかけたらコロッとな」
商人「な、なんという卑劣な…」
遊び人「おいおい、お前んトコの使用人、もう店の金使い込む寸前まで追い詰められてたんだぜ?」
遊び人「それを防いでやったってのに、卑劣とはご挨拶だなあ」
キリカ「その……て、照れることなんてないよ?」
決心がつかない私を後押しするように、彼女が口を開きました。
キリカ「これは……うん、特訓なんだから、やましいことなんてないんだし」
キリカ「もっとこう、気楽にしてみようよ、クランチ」
ほむら「気楽に……」
……う、うん、そうだよね……特訓なんだもん……。
決して、その、気持ち良くなりたいからやるんじゃなくて、いやらしいことをするわけじゃないんだから……。
ほむら(悩まないで、一度やってみちゃうのが良いのかも……)
そう考えた私は意を決して、彼女に告げます。
ほむら「わ、私……その、クランチ、してみたいです……!」
ほむら「私に……く、クランチを教えてくださいっ」
私の、クランチ初体験の始まりでした。
◇
数十分後、クランチを終えた私は……。
ほむら「はあっ……はあっ、はあっ……!」
全身が火照って……息も苦しくて……もう、起き上がる体力は残っていませんでした。
ほむら「はあ、はぅ……あはぁっ……」
でも……それでも、私の身体は心地良い疲労感と余韻に包まれています。
キリカ「だ、大丈夫かい……? ちょっと、ヤリ過ぎたんじゃ」
ほむら「だ、だいじょ……んっ……くぁっ……」
返事をしようとほんの少し身じろぎしただけで、腹筋が痛みます。
今までとは違う、特に腹筋の上部がつりそうになるこの感覚は、クランチ特有のものなのでしょうか。
経験にない新鮮な痛みを味わって……ぶるり、と私の身体が小さく震えました。
完全に脱力して床に寝転がり、両手両足をだらしなく伸ばした今の私の姿は……他の人にはとても見せられないようなものでした。
足を持ち上げ続けていたせいでスカートは乱れ、ほとんど下着が見えてしまっているような状態です。
制服の裾もめくれあがって、晒されたおへそがスースーしています。
はしたない格好であることは重々承知していましたが……身だしなみを整える気力なんて残っていません。
今はただ、腹筋の余韻に浸っていたかったのです。
ほむら「はあっ、はあっ……あはっ……♪」
キリカ「っ……」
生唾をごくり、と飲み込む音がしたような気がしましたけれど……いったい誰の出した音なんでしょう?
キリカ「そ、そんなに……よかったのかい?」
ほむら「……は、はい……」
キリカ「そうなんだ……き、気持ち良かったんだ……」
私に新しい快楽を与えてくれた彼女は、震える声で、どこかそわそわした様子です。
なんだか……ちらり、ちらりと私の太ももや腹筋を覗き見ているような……。
ほむら「あの……ど、どうかしたんですか?」
キリカ「あ、いや、えと……その」
ほむら「?」
キリカ「そ、そんなに良いなら……その、わ、私も」
うっすらと頬を染めて、どもりながら何かを言いかけたそのとき────。
杏子「こんなとこで何やってるんだよ、お前ら……!」
ほむら「っ……!」
薄暗い階段を下りてきたのは、赤毛のあの子でした。
嗚呼、なんてことでしょう……あの子がとうとうここまで辿り着いてしまいました……!
さすがの私も慌てて身体を起こして、身構えます。
杏子「……アタシに隠れてイイコトしてたってわけ? 生意気だね」
いつもより低い調子の声色は、明らかに怒りの色を滲ませていました。
舐め回すように私の身体を眺めて、そして……『ソレ』を見つけた彼女は、驚愕で目を見開きます。
杏子「……っ!? お前、それっ……!」
視線の先にあるのは、私の傍らに無造作に放り出されたベルト状のもの。
それは、アブトロニック。
先程クランチをする際に邪魔だったため、私が脱ぎ捨てたものでした。
ほむら「…………」
杏子「アンタっ……それを外したってことは、どーゆうことなのか分かってるんだろーね……!?」
もちろん分かっています。
アブトロニックを外した……それは彼女の命令に背いたということであり、つまりはもう『ご褒美』をもらえないということです。
でも、私は。
ほむら「わ、私は……私はもう、あなたなんて必要ないんです!」
足の震えを隠して。かすれる声を無理やり絞り出して……私は、決別の言葉を宣言しました。
杏子「……!」
ほむら「あなたに気持ち良くしてもらわなくたって……」
ほむら「こ、この人がっ……呉さんが、もっと気持ち良いことを教えてくれたんですからっ!」
杏子「なっ……!」
キリカ「ちょ、ほ、ほむらっ……そ、その言い方はなんかヤバい気が」
先程教えてもらったばかりの彼女の……呉さんの名前を口にすると、不思議と勇気が沸いてきます。
私はその勇気に背中を押されて、言いたいことをいっぺんに言ってやりました。
ほむら「く、呉さんは貴女より私を気持ち良くしてくれるし、それに優しいんです!」
ほむら「だからもう貴女なんて……い、いらないんだからっ!」
杏子「い、いらないだって……?」
私の言葉に、彼女は一歩後退りします。
杏子「っ……お前っ……!」
どこか顔は青ざめたように見え、続く言葉を発することも出来ない様子です。
それは、初めて見る彼女の狼狽した姿でした。
杏子「こ……このっ!! アンタっ、アタシの玩具にナニしたってのさ!」
キリカ「え、い、いや、その……」
私にぶつけることが出来なくなった怒りの矛先は、呉さんに向けられました。
杏子「せっかくアタシが見つけた、新しい玩具だったのにっ……そいつは、アタシが先に見つけたのにっ!!」
赤毛の子は、呉さんを睨みつけたまま身勝手な主張を続けます。
キリカ「えと……ちょっと待って、その、キミがほむらを苛めてた子……なんだよね?」
まだ状況を飲み込めていない呉さんは、自信なさそうに視線を行き来させています。
私と赤毛の子を交互に見て、どちらかが答えてくれるのを期待しているようでした。
杏子「っ……! な、何もわかってないくせに、そいつに手を出したのかよ!!」
そんな呉さんの様子が癇に障ったのでしょうか。
より一層声を荒らげて、肩を震わせて、そしてとうとう怒りが頂点に達した時、彼女は……
>>280
1.逆上して呉さんに襲いかかったのでした
2.何故か泣き出してしまったのでした
3.捨て台詞を残して逃げ出したのでした
4.突然冷めた表情になり立ち去るのでした
2
杏子「なんで……なんでだよっ……」
彼女は……何故か、泣き出してしまったのでした。
ほむら「え……?」
両目から大粒の雫がこぼれ落ちます。
杏子「なんで盗っちゃうんだよ、酷いよぉっ……」
キリカ「ちょ、え、な、なんで泣いてるの?」
予想外の出来事に、呉さんは一層戸惑った様子です。
ほむら「え、えっ……?!」
そういう私も、意味のない言葉を繰り返して狼狽えることしか出来ませんでした。
杏子「ソイツはっ、アタシのオモチャなんだぞっ、アタシのなんだぞ!」
杏子「なのにっ、なんで盗っちゃうんだよ!」
泣きじゃくりながら、赤毛の女の子は訴えます。
内容は相変わらずの身勝手なものでしたが……涙で潤ませたその瞳を見せられると、怒る気にはなれません。
キリカ「その……さっきからほむらのことをオモチャ、オモチャって言ってるけど、さ」
キリカ「そんな言い方良くない……と思うよ」
……やっぱり呉さんは良い人です。
こんな状況でも私のことを気遣ってくれるなんて。
杏子「うるさいっ!!」
赤毛の子にとっては、不愉快なだけのようでしたが。
ほむら「…………」
私は、少しずつ分かり始めていました。
私に執拗な嫌がらせをした彼女。
私を快楽に堕とそうとした彼女。
私の目の前で涙している彼女……。
それらが一本の糸でつながり、答えを導き出します。
ほむら「そっか……」
ほむら「あなたは……寂しかったんですね」
杏子「っ……!!」
そう口にした瞬間、赤毛の彼女はあっと言う間に詰め寄り、私の胸倉を掴みました。
ほむら「っ……!」
杏子「ふ、ふざけんな! 何言ってんだよ!」
息苦しさに呻き声を漏らす暇もなく、怒鳴り声を浴びせられます。
唾かかかりそうなほど近くにある彼女の顔が、その頬が、真っ赤に染まっているのは怒りからくるものなのでしょうか。それとも……。
キリカ「や、やめろ! ほむらを離せ!」
杏子「うるさい!」
制止しようとする呉さんを片手で振り払い、否定の言葉を繰り返します。
杏子「アタシは、アタシは寂しくなんてっ……!」
けれどもその声は徐々に弱々しいものになっていって、握る手も少しずつ解けていって。
杏子「寂しく、なんて…………」
あとに残ったのは沈黙と……力無くうなだれる彼女の姿。
ほむら「…………」
やっぱり、そうなんだ。
寂しくない、なんて主張するのは簡単だけれども……それが出来ないのは、きっと自分でも気が付いているからなのでしょう。
杏子「…………」
ほむら「…………」
階上から、休み時間特有の喧騒が伝わってきます。
足音、話し声……学校の日常の音。
それらが遠い別世界の出来事のような、そんな錯覚に襲われるほどの長い沈黙が、私達三人を縛り付けていました。
ほむら「…………」
数分間……もしかしたら数十分間かもしれません。
身じろぎすることすら躊躇われる空気の中、私は一人、頭のなかで気持ちを整理することに努めました。
……私は、彼女のことは決して好きではありません。
意地悪だし、怖いし、酷いこともされました。
簡単には許せそうにありません。
杏子「っ……」
でも、こんな、捨てられた子犬みたいに弱々しく肩を震わせている彼女を、放っておくことなんて……。
きっと鹿目さんなら、しないです。
ほむら(……うん、そうだよね)
正直に言って、割り切れていないところもあるけれど……。
私は、決めました。
ぎゅっと手を握りしめて、拳を固めて。
ほむら「あの……」
弱い自分に負けないように、決意して。
杏子「……なにさ」
ほむら「もし、よかったら、その……」
喉が渇いて、張り付いて、でも、それでも勇気を振り絞って。
ほむら「わ、私たち三人で……」
私は告げるのです。
ほむら「一緒に、ID腹筋しませんかっ!?」
( `・ω・) ようこそID腹筋スレへ!
ここはsageずに書き込み、出たIDの数字の回数だけ腹筋をするという、
硬派なトレーニングスレです。
例1 ID:Mami0721の場合 0721なので721回頑張ります。
例2 ID:Homuhomu の場合、数字がないので今日は一休み。
さあ、存分に腹筋するがよい↓(`・ω・´)
◇
光陰矢の如し、と言いまして……。
あっという間に1ヶ月の時間が過ぎました。
杏子「よっ、ほむら! 今帰りか?」
ほむら「あ……佐倉さん!」
下校途中の私に元気よく挨拶してくれたのは、
赤毛の彼女……佐倉さん。
出会いは最低だった彼女との関係も今はすっかり良くなり、大切なお友達の一人です。
あれから私達三人は、一緒に腹筋を鍛えあう仲間になりました。
初めは佐倉さんは素直になってくれなくて、参加を渋っていました。
呉さんも恥ずかしがって、なかなか腹筋をしてくれませんでした。
でも一緒に腹筋することの気持ち良さに目覚めてからは、毎日毎晩、飽きることなく腹筋を繰り返すようになって……
気持ち良くなることに貪欲になっていって、どうすればもっと上質の腹筋体験が出来るか研究を重ねていって……
私達はもうすっかり、腹筋に病み付きになっちゃったんです。
ほむら(あんなに嫌だったのが嘘みたいだよね……)
……腹筋をするようになって、私達の日常にもそれぞれ変化がありました。
呉さんは、腹筋を鍛えることで自分に自信がついた、と言っていました。
おかげで憧れの人に話しかける勇気が出て……その人とお付き合いを始めることも出来たそうです。
今度紹介してくれるらしいですけど……どんな人なのかな、美国さんって。
佐倉さんは、腹筋のおかげで少し素直になれるようになったみたいです。
相変わらずの天の邪鬼だけれど、本音を隠さず話してくれるようになってきています。
気の置けない友達、って感じで……良いですよね。
あと私は腹筋で鹿目さんと結婚しました。
杏子「じゃあ今日もほむらんちに集合な!」
ほむら「はい! ……うふふっ」
佐倉さんの満面の笑みは、私の胸の奥を温かくしてくれます。
こんな私でも、誰かを笑顔にしてあげることが出来たんだ、って、嬉しくなります。
私も鹿目さんみたいなカッコいい魔法少女に近づけたのかな……なんて、前向きな気持ちになれます。
これも全部、腹筋のおかげです。
そしてこの出会いをもたらしてくれた、彼女のおかげ。
ほむら「……ありがとう、佐倉さん」
杏子「ん? なんだよ急に」
ほむら「ふふ、言ってみたかっただけですよ」
杏子「へんなやつだなー、ほむらは」
魔法少女である私達の人生はこれからもきっと波乱に満ちたモノになるでしょう。
でもきっと大丈夫。
だって私達には腹筋があるのですから!
ほむら「佐倉さん! これからも腹筋を頑張りましょうね!」
杏子「ああ!」
私たちの腹筋はこれからだ!
◇
ワルプルギスの夜を倒したその代償はあまりにも大き過ぎました。
杏子「……たのむよ、ほむら」
黒ずんだ赤い宝石がひび割れ、絶望を生み出す前に、私はこの引き金を引かなければなりません。
ほむら「ごめんなさい……ごめんなさい、佐倉さんっ……」
杏子「いいんだよ……ほむらに殺されるなら、いくらかマシ、さ……」
杏子「だから、くっ……は、はやく……」
ほむら「う……ううう……!!」
目を背けてはダメ。私は、私が終わらせなきゃいけないんだ。
固く冷たい金属が指に食い込みます。
ほむら「……っ!」
杏子「……そう。それでいいのさ……」
杏子「ありがとな、ほむら」
降りしきる雨の音に紛れて、パンっ、と乾いた音が響き────
私の腹筋は、ただ虚しく疼くのでした。
fin
このSSまとめへのコメント
濃厚すぎる腹筋
あまりにもねっとりした腹筋描写で吹いた