ほむら「空を見に行く」 (684)

ほむら「んんっ・・・」

ほむら(ここは?病院のベッドじゃない。こころなしか空気が息苦しいような)

気が付くとわたしは少しカビ臭い布団の上で横になっていた。

どこかの病院どころか、薄暗い小部屋の中で…

足音が1つこちらに向かってくる。


「やっと、起きた?」


ほむら「あなたは……美樹さやか? ここは?」

さやか「何言ってんの。それとも疲れて記憶でも飛んじゃった?」

ほむら「……」

さやか「ほら、さっさと起きる。隊長が呼んでるんだって」

ほむら(隊長?)

さやか「貨物の護衛ねえ、改まって何か話すことなんてないはずなのに」

ほむら(不機嫌そうね……

    
    あれっ?)



ほむら「ないっ!? ソウルジェムがっ!!」

さやか「ソウルジェム? 何よそれ?」


ほむら(どういうこと? 私……生身の人間に戻っている!?)


さやか「いいから、さっさといくよ」

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~隊長室~

さやか「どうも、おまたせしました」

「あなたたちを呼び出したのは、他でもない。これからの任務についてだけど」


ほむら(隊長と聞いてなんとなく予感はしていたけど、やっぱり巴マミ……)


さやか「輸送列車の護衛でしょ? そういうつまらない仕事じゃなくて、
    
    もっと出世に繋がるような任務はないもんですかね?」

マミ「美樹さん。ここでは上司の命令は絶対です。

   それに礼儀を知らないと、これから苦労しますよ?」

さやか「はいはい……」

微妙に二人とも性格が違うみたい。

さやかはなんだかいつもよりも口が達者になっている気がするし、

マミは風格というか、威圧感のようなものを感じる。

異世界に迷い込んだような。

もしかしたら時間遡行の弊害かしら。

何にしても魔法が使えない以上、滅多なことはできない。

面倒だけれど、ここに慣れるまで大人しくしているほうが良さそうだ。

マミ「話を戻します。

   このところ公的機関の物資を狙った窃盗や襲来が増えています」

さやか「そいつはおっかない話ですねぇ」


マミは目くじらを立ててる。

さやか「なるほどね。それであたしたちレンジャーの出番ってわけですか。

    よっぽど大事な荷物なんですね?」


さやかは他人事みたいにいうけど、話の流れからすると私たちは警察のような組織なのかしら。


マミ「余計な詮索はしないこと。くれぐれも慎重に。

   失敗は許されない」

さやか「だってよ、ほむら。聞いてた?」

ほむら「隊長はあなたに言っているようだけど?」


えっ? という言葉が二人の口からこぼれた。

ぽかんと口を開いているが、何かまずいことを言っただろうか?


さやか「へぇ、ずいぶんな口を利くようになったじゃん、アンタ?」

値踏みするような目で顔を近づけてくる。

こんな挑戦的な態度、本物の美樹さやかならしないと思うけれど人格が違うせいなのかしら。

マミ「何にしても護衛を任せましたよ。

   美樹さん。あなたには話があるからここに残って」

さやか「ちょうどいいです。

    あたしもマミ隊長に言っておきたいことがあります」



わたしは部屋から一人だけ追い出された……。

ここはどこかしら。

お世辞にも綺麗とはいえないし、何より空気が良くない。

そこら中に工事現場みたいなパイプ管が張りまわってる。

ここはレンジャーとかいう組織の拠点なのかしら。

ほむら「気になってたけれど、わたしの腰にぶら下がってるのって剣よね?」

こんなものを持って戦っているの……?

さやか「おまたせ」

ほむら「早かったわね。二人で何を話してたのかしら」

さやか「大した話じゃないよ。それよりアンタ、さっきから態度がでかくなったみたいだけど」

『お前がいうな』、と喉元まででかかった。

ほむら「悪いかしら?」

さやかにいいように主導権を握られるというのはどうも調子が狂ってしまう。

さやか「悪くわないんだけどねぇ……

    まあそういうことならそれでいいんだよローディ」

ローディ? 何のことだろう。

よくわからないが、上から目線なのが鼻につく。

さやか「アンタみたいな下の下のサードレンジャーが出世するには、

    媚売るしかないってのに」


さやかはやれやれと両手を広げた。

さやかの隣を無言で歩いていると、大きな空洞に出た。

ここは……もしかして地下?


ほむら「天井に空の絵が描いてあるわ」

さやか「その昔、人は空の下で暮らしていた。

    でも、ご先祖さんたちが余計なことしてくれたせいで、
    
    地上は瘴気に覆われてとても住める場所じゃなくなって
    
    今じゃ空を見たことある人もいなくなって……。
    
    だからこの絵に描かれてるものが本当にあったのかすらわからない」

たしかに、色が少しおかしい。黄ばんでいたり、色が剥がれていたりする。


――でもこれは『空』だ。

  間違いない。


ほむら「あなたも、見たことないの?」

さやか「当たり前でしょ? 

    空を見たことある奴この世界にはいないっての」

ほむら「……」

地上から離れたところで、人は暮らしていけるものなのかしら?


もしかしてこんな世界で

まどかもどこかに?


さやか「うまにく、爆弾、きずセット、それから気付け薬…」

ほむら「そんなものが必要なの?」

さやか「この先の下層リフトは、ディクの溜まり場になってる。そのための装備」

ほむら「ディク?」

さやか「公社ラボでバイオテクノロジーで生み出した生命体。

    まさかそんなことも忘れちゃったんじゃないでしょうね?」

忘れるも何も、わたしは何もしらないのだけど。

要するにそいつらに襲われる可能性があるってことね。

腰の剣を見る。

これで戦うのね…。

私、剣なんて扱えないのだけど、大丈夫かしら。

~バイオ公社行きリフト~

空洞に戻り、その先にはレール……線路がつながっていた。

電車があるのかと思ったけれど、車両はなくてどうやらこれを歩いていくらしい。

さやか「いい? あたしの足引っ張らないでよ?」

ほむら「……ええ」

このさやかはこういう性格なのだと諦めることにした。

ポトポトポトポト……。

何かしら? 足音が近づいてくるような。

鳥のような、ネズミのような生き物が複数こちらに向かってくる。

ほむら「あれって?」

さやか「ナゲットだね。

    ただの雑魚だけど数がいるみたいだから、
    
    肉でおびき寄せたところ爆弾で一網打尽にするわよ」

さやかは肉と爆弾をその場にセットすると一直線に敵はこちらにむかってくる。

さやか「4匹、いや5匹はいるか。

    あたしが剣で合図するから、アンタが起爆しなっ」

ほむら「起爆って……?」

さやか「近寄ってスイッチいれるだけ。誰でも出来る」

ほむら「そしたら私も吹っ飛ぶんじゃ」

さやか「対ディク用爆弾だからあたしたちは安全だって。

    いいからさっさとやる!」


さやかに主導権を握られるのは癪だけど、この際仕方ないわね。

ナゲットと呼ばれる生物が肉に食いつくタイミングを見計らって、さやかが合図を確認した。

ほむら「いくわよ!」


私が起爆すると、一瞬のうちに爆風が周囲に散り謎の生物は黒焦げになっていた。

やった! 倒せた…!


風圧で私もよろけてはいたが、無傷。


「ピキィイイイイイイイ~~!!!」

まもなく獣の雄叫びが廃道に響くと同時に、雷鳴が私の方に迫ってきた。

ほむら「えっ!?」

その雷撃を避けるすべはない。


ほむら「ぁっあああああっ!!」

全身が焦げるように熱く、電撃があちらこちらを蝕んでいくのがわかる。

っっつ。

なに?何があったの?


さやか「やっぱりもう一匹潜んでいたね」

訳知り顔で頷くと、さやかは奥の闇へと疾走。

電撃の合間をぬってその先に突剣を突き立てる。


「ピキィイイイイイイイ!」

さっき爆風で焼け焦げたナゲット――より2、3倍大きな体格の生物が悲鳴をあげて、その場に倒れた。


強いっ!?

痛みを感じるとともに、さやかの剣技に目を奪われた。

ソウルジェムなしで、この動き。本当にさやかなの?

さやか「悪い悪い。どっちみち無傷で倒せる相手じゃなかったから、許してよ」

要するに囮にさせられたということか。

ほむら「ずいぶんと合理的な作戦を思いつくのね」

皮肉たっぷりに言ってやる。

さやか「そんじゃ聞くけど、アンタがこっちの大っきい方をやれたの? 

    無理でしょ? 
    
    マミ隊長に剣術を教わってたようだけど所詮は身を守るのが精一杯の付け焼き刃。


    ほら。きずセット2個ありゃ十分足りるから」

確かに彼女の言っていることは間違ってない。

しかし、さやかの態度からは明らかに人を軽んじるのが見て取れた。

人命を軽視しているような気がしてならない。

私はしばらくこの相手をパートナーとして任務に当たらなければならないのか…。


ほむら「はぁっ…」

さやか「記憶がない?」

しばらくは厄介になると予感したので、結局全てをうちあけることにした。

信じて貰えるかは知らないが、いちいち突っかかってこられては面倒だ。

ほむら「私は元々こことは別の世界で過ごしていた。

    目が覚めたらいきなりこんな場所にいたってこと」

さやか「ふーん」

さやかは興味が無さそうにつぶやいた。


ほむら「できるだけあなたの迷惑にはならないようにするけれど、出来れば私も元の世界に戻りたい」

さやか「戻るって言ってもねぇ。

    まぁ、話してくれたのは助かったよ。
    
    なんか釈然としない感じだったからさ」

ほむら「出来ればこちらにいる間に、いろいろ教えてもらえるとありがたいわ」


さやか「はぁ~。なんだかねぇ。

    よりにもよってこんなポンコツ掴まされるとは」

ほむら「……」

さやか「なら最低限あたしから言っておきたいことがある。

    あんたのその胸にかけてるカードがあるでしょ?
    
    名前と一緒にかかれてる数字をみてごらん」

ほむら「1/8192? なにこれ」

さやか「人って平等じゃないんだわ。

    どうしても来れられない力の差ってのがある。
    
    それをあたしたちは数字で目に見えるようにしたってわけ」

さやかは私にカードを見せつける。 

そこにはさやかの名前と、1/64という値がかかれていた。


さやか「これがD値。

    これをもとにしてその人がどんな役割を与えられるか、生まれたときからだいたい決められる。
    
    仕事も居住区も結婚相手もだいたいはこのD値で決まる」

ほむら「誰がそんなことを決めたの?」

さやか「統治者(メンバー)だよ。

    この世界を取り仕切ってる連中ね。
    
    みんなD値が高いエリートばっか」

ほむら「それは本当に信ぴょう性のあるものなの?」


するとさやかは少しだけむっとした顔をした。

さやか「だいたいあってるよ。D値が高いだけあって、それなりに優秀な人が多いの。

    ちなみにマミ隊長は1/128」

1/128 ということはつまり1/8192の私よりも相当高いということだ。

そして、1/64のさやかはさらにその上をいく

――ああ。

だからさやかは巴マミに対して上下関係を超えた態度をとっていたというわけか。

3人の中で彼女が一番優秀というのは納得がいかないけれど。


さやか「地下の中でも上層と中層と下層、最下層といろいろ居住区が分かれてる。

    ちなみにレンジャー基地があるここは下層。
    
    上層の方が空気も綺麗だしインフラも整ってて、
    
    言わずもがなD値の高い人ほど優先的に上の区域への居住が認められてる」

ほむら「なるほど」

さやか「つまり、あたしには逆らうなってこと。

    もしアンタが本当にポンコツじゃなければ、
    
    あたしが出世したときには
    
    いいようにかばってあげるから」

ほむら「あなたはずいぶん出世にこだわってるようね」

さやか「当たり前でしょ。誰だってえらくなりたいって。

    あたしのD値なら十分、統治者(メンバー)に届くんだし、それに……」

さやかは何かを言いかけて取りやめた。


私はそれについて深く言及するつもりはなかったし、聞きたくもなかった。

とりあえずここがどんな世界なのかようやく見えてきた

それなりの科学技術を持っていて、おそらくは『未来』。


だけど、人々はそれで本当に幸せなのかということに疑問を感じた。

生まれたときからわからない数値で運命が決定してしまうなんて。

時代に逆行した社会制度の中で生きている。

さやかみたいに数値が絶対だと信じている人間が大勢いるなら、きっと差別を受ける人がいる。

ここはきっとそういう世界だ。

最初に書けばよかったですが、補足します。
ブレスオブファイア5 ドラゴンクォーターのクロスになります。

どれぐらいの方がプレイしてるかわからないですし、
原作をやってる方は何故まどマギクロス?と思われるかも知れませんが
百合が書きたかったからです。
苦手な方はすいません。

7割ぐらいは出来ているので、週2ぐらいのペースで更新していければと思います。

クロス元わからんけど期待

クロスなら先に書けよハゲ

ずいぶん設定練り込んでるなっておもったらクロスだったか。
元ネタもこんな感じなん?
あと百合好きくないから百合注意くらいは>>1に書いといて欲しかったノン

>>16
できるだけクロス元がわからなくても楽しめるよう頑張ります。
>>17
すいませんでした。
>>18
概ねこんな感じだと思いますが、ほむらとさやかの立ち位置のキャラは男です。
ゲーム屋で300円で売ってるPS2のゲームで、
かなり人を選ぶ作品だと思いますので強くはおすすめしません。

最下層区行きのリフトの道中で熊なのか豚なのか微妙な生物たちや、巨大なコウモリの大群に襲われることになった。

概ねさやかによって倒され、処理出来ない時には私がトラップで補助する。

トラップの扱いはだいたい覚えてきた。

肉で敵をおびき寄せ、食べているそばに爆弾を設置し、起爆させる。

魔法少女の時と銃器を使わないという点をのぞけばさほど変わらない。

腰にぶら下げている剣はほとんど飾りだ。


さやか「肉と爆弾はあといくつ?」

ほむら「肉は3つだけど、爆弾はもうないわ。代わりにコンテナから手に入ったダイナマイトが5つ」

さやか「それ微妙に使い勝手悪いんだよね。まあないよりはマシか」

ほむら「だいぶ進んだように思えるけれど、まだなのかしら」

さやか「この梯子を登ると公社ラボが見えてくる。ディクの研究施設」

ほむら「ディクって確か今まで戦ってきた相手(モンスター)よね?」

さやか「あれは人工的に生み出されたものだよ。

    動物の細胞を色々織り交ぜていった末に誕生した」

ほむら「そんなことまで……」

さやか「大半は野生化してて今じゃあんなふうに襲ってくる。

    その危険をつんでいくのがあたしたちの仕事。
    
    でもね、食用だったり発電に使ったり
    
    有用性を中央省庁が認めてるから研究施設はなくならない。
    
    そのお陰でレンジャーは食っていけるんだけどね」

ほむら「迷惑なのかありがたいのか…」

~アプローチ 南側 -1020m~

公社ラボと呼ばれる建物は廃坑とは違い、馴染みのある病院のように舗装された綺麗な施設だった。


『グォォオオオオオオオ』

しかし異形な獣たちのうめき声がそこら中から響いてくる。

人工的に生み出された怪物……。

そうまでしないとこの地下世界で生き残れない状況だったのか、

研究者たちの好奇心で生み出されたのか・・・私にはよくわからなかった。

ただただ気持ち悪いが、さやかが顔色一つ変えないのでそういうものなのだろうと

檻に入れられた無数のそれらから目を反らし、目的地を目指した。



疲労のせいか急に眠気に襲われる。

誰かの声がする。


『長い、終わりのときが終わった。

 とうに、潰えた我が試みを呼び覚ます、者…』


気づくと私は磔にされた得体の知れない何かを見上げていた。

私はそれが何なのか、どういうものなのか感じ取り祈った。


『わたしは、わたしの大事な友人を導きたい』


――いいだろう…小さき友よ

  今一度、空へ…

さやか「ほむら、おい、ほむら」

ほむら「……さやか?」

さやか「はあ? いきなり、フラッと倒れたと思ったら。ねボケてるの?」

ほむら「倒れた…わたしが…?」

さやか「はぁ…しっかりしてよ。行くよ?」


公社ラボの研究施設の中で私は倒れたらしい。

なんだろう、身体の中に何かが入り込んできたような感覚は――。

~廃棄ディク処理施設 -1020m~


その先の部屋へと進むと、私は絶句した。

夢の中に出てきた巨大な磔の化物がそこにいたからだ。

廃棄ディクらしき残骸が押し込められたその部屋は腐乱臭が漂っていて、

とても長くいたいと思えるような場所ではないが、私はその巨大なものから目が離せなかった。

さやか「何…これ!?で、デカい…死んでるのかな?」

やっぱり夢の中に出てきたあれに間違ない。

さやか「どうしたの?

    ほむら…死んでるから噛みつきゃしないよ。
    
    さ、行こう…遅れたらまずい」

さやかは駆け足でその場を走り去っていく。

私は再び後ろを振り返る。

ほむら「……空へ?」

さやか「見えた見えた。あれが例の護送用の列車じゃないかな」

ほむら「どこに続いてるのかしら」

さやか「上層区だろうね。あんたも見ておくといいよ。

    ここよりずっと綺麗な場所だから」

ほむら「どうせ私では暮らしていけない場所なのでしょう?」

さやか「まあね。たとえ運良く取り入れたとしても、けむたがれるはずだよ」

やっぱりD値というのは絶対なんだ。

というか、このさやかはきっぱりとものを言うのだなと改めて感じた。



列車の後方に、鉄格子を網を布で覆ったような荷物が置かれている。

ほむら「これが例の積み荷?」

人一人入れそうな大きさだけど、さっきの公社ラボの檻に入れられたディクが脳裏に浮かび、再び気持ち悪くなってきた。


どうせろくなものが入っていないのだろう。


列車はまもなく出発し、わたしとさやかは車両の上部で警備にあたることになった。

さやか「ねえ、ほむら…あんた…、手柄をゆずる気ない?」

ほむら「えっ?」

さやか「あたしの能力だと…あとは、大きな手柄があれば昇進できる…

    うまく行けば、統治者(メンバー)のひとりにだってなれる。

    あたしには、それだけの資格があるんだ」

ほむら「統治者?」

さやか「そう…さやか1/64は…

    この世界を統治するメンバーになる…ならなきゃいけない」

何か彼女からは信念のようなものを感じた。

ただえらくなりたいと言っていた時とは違い、表情は真剣だった。

さやか「ほむら。D値1/8192だと…

    あんたはどっちみちこれ以上出世は望めない」

ほむら「……」

さやか「あたしが、昇進すれば…あんたのうしろだてになる事もできる。

    記憶がない以上、この世界で暮らしていける場所を作ってあげられる」


どう返事していいものか。

わたしは出世には興味がないし、彼女がどうなろうと関係ないが

ただ。


この先さやかがこうやって人を押しのけて生きていくのを

まどかが見たらどう思うか…。

それだけが気になった。


ドス、ドスドスドスドドドドドッド!!

列車とはなにか別の大地を踏み鳴らすような音が聞こえた。

ほむら「あれは?」

谷を挟んだ向かい側の方から、何者かが騎乗し追いかけてくる。

さやか「強襲ディク(サイクロプス)!? 反政府(トリニティ)!?」

大型のディクに乗った覆面のそれは、私たちの乗っている機関車をめがけて銃を放つ。

さやか「飛び道具っ!?」

列車の車輪部分を狙ってる!?

さやか「くそ、壊してでも止める気だっ!?」


ほむら「こちらも何か飛び道具はないの?」

さやか「銃があるけど、あたしは扱えないし…」

ほむら「貸してっ!!」

私はさやかから奪い取り、狂走するディクをめがけて銃を放った。

「おわっ!」

素っ頓狂な声が対面から聞こえてくる。


さやか「あんた、銃なんて使えたの?」

さやかの問いには答えず相手を観察すると、失速して列車との距離がついていくのがわかった。


ほむら「諦めた…?」


「ちくしょうっ、くらえっ!!」

いや、ディクから転げ落ちた敵は大型のバズーカを持ち、こちらに向けていた。


さやか「マジっ!そんなん無理だって」

弾丸が着弾するまで、時間はかからなかった。

列車の車輪ごと車体は吹き飛ばされ、私は宙へほうり出されてしまった。

さやか「ほむらぁああああああああああーー!」

崖から奈落のそこに落ちていく私を呼ぶ、さやかの声が響いた。



――こんなところで死ぬの。


白い空間。

私は足を引きずりながら歩いていた。


――お前を選んでやる。


あたりは真っ白

うっすらと人の形が浮かび上がっている

魔法陣のような図形が出現し、そこから発射された光がわたしにかかる。

周りに赤い光が散り、痛みの代わりに何かが身体を侵食していくような感覚に襲われた。


「…それがお前にあたえられた力…ドラゴン(アジーン)の力だ……

 お前は選ばれた…千年の世界を壊す究極の破壊者として…死すべき時を見つけるがいい…

 おそらくは、お前が最後なのだから…」

~最下層区廃棄物処理施設~


ほむら「うぅ…ここ…は…?……!!」

積荷のフタが開き、中身はどこにもない。


ほむら「どこまで落ちて来たんだろう…助かった…の?」


頭上は真っ暗闇。焼きただれた焦げる匂い。

手元にあるのはトラップのいくつかと傷薬、剣。それから拳銃。


ほむら「…とりあえずここにいるのは賢明ではなさそうね」

助けを待とうにも、暗すぎて誰もこんなところまでこないだろう。

幸い骨は折れていないし動ける。

空気が淀んでおり、鉄くずや瓦礫の山の中を一人歩いて行く。

すると奥の部屋から地響きのような轟音が聞こえてきた。

その音には聞き覚えがあった。


ほむら「あれは…さっき私たちを襲ってきた強襲ディク!?」

興奮しているのか、部屋の中を何かを抱えて疾走している。

見つからないように通り抜けようと様子を伺っていると、

それは人を抱えているのではないかという気がしてきた。

手足をバタバタさせている。


ほむら「えっ…あれって…」


愛くるしい、見覚えのある姿は、まさしくまどかそのものだ。

どうしてこんなところに?


でも、このままではまどかが危ない!

良いシナリオなんだけどやろうとしてることはBOF正規タイトルに求めることじゃなかったと言うあのゲームか
あとセーブ回りを始めとする難易度の過酷さは当時の時勢に逆行してたのもキツかった
世界観がある程度繋がってるならこの舞台が2の無限の塔なのかなとか当時思ったり

>>34
BOFという名の全く別のゲームだと思ってやるしかなかった。
3,4とやって面白かっただけに、始めたときはちょっとガッカリしたけれど
それを差し引いても、クリアしたときの満足感は素晴らしかった。

企画としては良くなかったかもしれないけど、
ゲームを作った人は凄かったんだと思う。
シナリオ的にも、システム的にも、バランス的にも。
殺されないギリギリのラインをついてきてる。

ドクン…ドクン…。

なんだ? 身体が熱い…。

瓦礫の影から、私は疾走した。

鼓動が体中を駆け巡る。

急に熱くなり、目前に火花のようなものが舞い散る。

全身に赤いオーラを纏いながら、サイクロプスに斬りかかる。


ほむら「まどかぁああああああああああああ!!」


気が付くとまどかを抱えるディクの背中にわたしの剣が突き刺さっていた。

ボッシュ枠がさやかか…

剣先はディクの背中へ刺さるが、抜けなくなってしまった。

敵は痛みに耐えかねて急に暴れだす。

ついにわたしは振り落とされないようにとつかまるが、じきに吹き飛ばされた。

暴れているディクに剣撃を再び浴びせるべく疾走する。

剣を振りかざすと、歪で長い右腕が地面に落ちた。

そして、宙に投げ出されたまどかを受け止めた。

よかった…脈がまだある。



白いワンピース姿に、首輪と腕輪をはめている…。

背中にはよくわからない赤い羽のようなものが背中に生えていた。


――この羽は…いったい?

>>37
ファンからは怒られるかもしれないけど、
一番しっくりきました。

スレタイ読んで出だしだけ見てなんだっけこれーとずっと思って考えてたらあれか
○ボタンをはなすな!の作品か
読もう

ほむら「待ってて。今こいつを片付けるから」

少し離れたところで、まどかを横たえると再び暴走するディクと対峙する。

投げ捨てた剣に目が行くが、拾う余裕がない。



片腕をなくしたそいつの腹をめがけて強烈な蹴りを入れると、巨体は数メートル先まで吹っ飛ぶ。

その隙に剣を拾い上げ、再びディクに斬りかかった。

暴走しながら向かってくるディクに対し、私は高く跳躍し頭上から剣を突き立てる。

手持ちにあったダイナマイト全てをディクに投げつけると、敵は動かなくなった。


――やった…。

  わたし一人でも…守れた。

>>40
雑魚相手にダイブして、指示通り○ボタン離さないと
D-カウンターが真っ赤になるという罠にまんまと引っかかった。

わたしは倒れているまどかに歩み寄った。

よかった、どこも怪我をしてる様子はない。

まどかはうっすらと目を開いた。そして突然私にしがみついた。

ほむら「っ!? まどか…」


…とても怯えてる。

よっぽど怖かったのね。


動かなくなった強襲ディクを見ながらまどかの頭を撫でる。


ほむら「……だいじょうぶ。あいつはもう倒したわ。立てるかしら?」

するとまどかは、こくこく、と頷いてスカートのホコリをはらった。


ほむら「わたしは暁美ほむら。あなた自分のことはわかる?」


利己的なさやかの顔が頭によぎった。

この世界では、私の知ってるまどかと違ったらどうしよう…。


まどか「ま……ど……か……」

あれ…? 

まるで精一杯声を振り絞って出そうとしているような…。

ほむら「まどか? あなた、口が」

まどかは頷いた。

ほむら「まどかっ!」

何があったの? どうしてあなた言葉が?

ほむら「とにかくここを出ましょう? どこか安全なところまでいかなくては」

まどかは頷いた。


わたしはこの時まだ気づいていなかった。

まどかが、既に取り返しのつかないほど危うい状態にあるということに。

ジリジリと何かが這う、生き物の嫌な音が廃坑の中から聞こえてきた。

ディクの気配がそこら中にある。

当面わたしがこの剣でまどかを守らなくてはいけない…。

魔法なしに一人で守りきれるか…?


部屋の角から肉を放り投げながら慎重にすすむ。

肉におびき寄せられたディクが一斉に集まってくると、わたしはまどかの手を引いてささっとその場を立ち去った。

できるだけ戦いを回避しながら上を目指してその先を目指すが、

かなり下のほうまで落とされたせいか、一向に人のいる地区までたどり着く気配がない。

カタカタカタ…。

足音?

これはディクではなく人の気配。

ほむら「この先……まどか。ちょっとここで待ってて」


まどかは不安そうに頷いた。

部屋の前に待機させ、一人で様子を見に入る。

暗がりの中、何者かの気配を感じる…。


――どこ…?

突如上から何者かが天井から降ってきた。


ほむら「誰っ!?」


額に銃が突きつけられ、わたしはその喉元に剣を当てて互いに動けない状態になった。

ほむら「あなたは、さっき線路でわたしたちを襲った!?」

「奥の子を置いて立ち去るんだ。レンジャー。

 あんたじゃその子は救えない」

ほむら「なっ?」


「あたしたちはその子を必要としている。この腐った世界を変えるために」

ほむら「何を考えてるか知らないけど…犯罪者の言うことを聞く気はないわ」

「立派だね、レンジャー。けどね…あんたの目に映ってる世界だけが

 全てってわけじゃないんだよ。
 
 …ただ生きてるだけなら知らない方が幸せなこともある。
 
 あんたはあたしには会わなかった…

 翼の生えた女の子もいなかった…いいね?」


部屋の外でこちらを見ているまどかを見ながら手招きする。

「…さあおいで。あたしと一緒に行こう…」


まどかはわたしを庇うように寄り添ってきた。

「………そのレンジャーといても…あんたは救われない……」


それでも首をふる。

小さな身体が震えているのがわかった。


まどか……。

「………。

 …わかった、レンジャー。
 
 手をむすぼう…最下層区を出るまで…」

ほむら「何を…たくらんでるの?」


するとマスクをとった。


「その子を保護しようって目的は同じだろう…?

 …あたしは、杏子」


ほむら「杏子……そう、あなたが…。

    よろしく。わたしは暁美ほむらよ」


見知った顔が現れて少しホッとしたが、油断はできない。


さやかもそうだが、元の世界の人物と性格が違うということはわかっている。

たとえもとの杏子と同じようなタイプなら、なおのこと気を引き締めなければ。


隊長室


マミ「トリニティの襲撃…暁美さんは行方不明…

   ……そうですか…それで、積荷はどうしました?」

さやか「…積荷!?アタシたちは、殺されそうになったんですよ!?」

マミ「………あれは、極めて機密性の高いものです。

   報告に戻るより、積荷の確認を優先すべきでした」

さやか「あの高さから落ちたんだ…あとかたもなく…」

マミ「美樹さん……上層部は、言い訳を好みません…積荷の確認…そして、確実な処分を望みます」

さやか「・・・」

マミ「いいですか…それが、どのような姿をしているとしても完全に処分するのです」

廃物遺棄抗3F -1180m


クモ型のディクが天井から落ちてくる度に、

声にならない悲鳴をあげてまどかはわたしに抱きついてくる。

まどか「うっ…うっ」

小さな手のひらを握り、右手で頭をなでる。


ほむら「大丈夫よまどか。

    杏子がもう追い払ってくれたから」

杏子の武器は、銃器であり、槍ではないようだ。

接近戦よりも遠距離、中距離に長けており、

その腕はわたしより精度が高いように思える。

杏子「しかしずいぶんと好かれてるってか、懐かれてるねあんた」

ほむら「そう見える?」

杏子「さっきだって、あんたを庇おうとして飛び出して来たじゃん」

額に銃をつきつけられて、意を決してわたしを庇うようにして前に出てきた。


ほむら「そうね…。お陰で助かったわ」

まどかを見ると、微笑み返してくる。


いざというときに勇気がある、

人のために何かをせずにはいられない

――そんなところは同じなのね。


それが嬉しくもあったけれど、

いつかこの子を苦しめるのではないかという予感がしてならなかった。

廃物遺棄抗4F -1170m


ほむら「…少し、休んでいかない?」

ディクを一掃した後に、小部屋のベットに腰をかける。


まどかは隣の部屋に行っている時に杏子が声をかけてきた。

杏子「…あの子が何なのか訊かないのか?」

ほむら「…訊けば教えてくれるの?」


杏子「正直なところ…あたしも詳しくは知らされてないんだ…けどね…

   …あんたたちレンジャーが守ろうとしているこの世界は…
   
   それほどまっとうなものじゃないって思うよ・・」


ほむら「わたしは好きでこんな仕事しているわけじゃないもの

    この世界がどうなろうと別に構わない」

杏子「いいのかい?天下のレンジャー様がそんなことを言って。

   誰かに聞かれたら懲罰解雇もんだろう?」


ほむら「わたしね、この世界の人間じゃないの。

    気づいたらレンジャーという仕事を与えられていた」

杏子「まぁ100歩譲ってその話が本当だとしてさ。

   あんたはこの世界で生きてくしかないと思うんだよね」

ほむら「わたしはまだ戻ることを諦めたわけじゃないわ」

杏子「いいから聞けって。

   要はあんたがこの世界をどう思うかって話さ」

ほむら「わたしが?」


杏子「あの子といればそれが嫌ってほどわかる時が遠からず来る」

ほむら「……」

最下層区街-1160m

ほむら「やっと出られたわ…」

炭鉱の腐乱臭に比べればマシだけれど、決して空気が綺麗とはいえない。

時折吹き出すガスと、いつ消えるか知れない明かりと共に暮らす人々。

この街に漂う重苦しい空気が苦しいだけの日常で苦痛の日々が無気力にしていた。


まどかはお店が珍しいのか、一人で飛び出してガラクタを眺めていた。


杏子「ディクを倒した時によくわからない残骸が出てきたろ?

   あれは鑑定屋で鑑定してもらうと武器になるから。
   
   あといらないものは全部売って金にするんだ」


ほむら「くず鉄を拾ってたのはそのためね」


杏子「いい金になるんだ。詰めるだけ詰め込んだから、2000ゼニーにはなるだろ」

ほむら「そのあたりのことはよくわからないから、買い物についてはあなたに任せていいかしら」

杏子「ずいぶんと信用してくれてるようだけど、いいのかい?

   この金持ち逃げしてあの子を攫ってくかもしれないよ」

ほむら「お金は盗まれても、まどかだけは渡さないわ」


杏子「ふふ…いいね。そういうのは嫌いじゃないよ」

最下層区リフトポート -1150m


暗がりの中を進むと、突如眩しい光が仕込んできた。

奥から何者かが姿を現すが、表情はよく見えない。


「おっす相棒。犯罪者も一緒か…」


ほむら「その声は……」


だんだんと近寄ってくるその表情が浮き彫りになってくる。

何故か落ち着きがなく、自らに何かを言い聞かせるように呟いた。



さやか「任務は積み荷の確実な処分…」


積み荷…処分? 


後ろでは怯えるまどかが、杏子にしがみついている。


その後ろには見覚えのあるレンジャー二人がわたしたちを取り囲んでいた。

ほむら「なに? ちゃんとわかるように説明して欲しいのだけど」

なぜさやかがわたしたちを…。


さやか「命令は、積み荷の確実な処分。

    あんたがそれ以上のことを知る必要はない」


さやかはわたしなど眼中にないというように、剣を抜き、まどかに向かって歩んでくる。


わたしは殺意を燃やすさやかの前に立ちはだかった。


ほむら「やめなさいっ!」

さやか「なに? あんた邪魔するつもり?」


ほむら「……」

さやかの剣の腕は知っている。


正直自分が敵うような相手ではない。

さやか「ほむら。あたしはね……」


ほむら「っ…!?」

まどか「ッっ!!?」


さやかの剣がわたしの左足を貫いていた。


ほむら「何…を?」

そのまま剣が捻られ、徐々に腹部に向かって走ってく。


ほむら「グァッ!!」

さやか「あたしはこんなところでつまづいているわけにはいかないんだ!」


苦痛に耐えるわたしをまどかが抱きしめる。


剣の先にはすでにまどかを捉えていた。

――これはさやかじゃない。

もしさやかなら、間違ってもまどかに剣を向けたりなんてしない。


杏子「ちっ……」

銃を構えようとした杏子は、後ろから寄ってきた二人に剣先を向けられ仕方なく両手をあげていた。


ほむら「やめてっ!」


さやか「邪魔をするなら、あんたも一緒に処分する」

冷たく言い放ったさやかの剣先が、まどかではなくわたしの喉めがけて突き立てられた。

――えっ…。


さやか「ほむら。あたしの道を阻まないで!」

首から鮮血が迸る。

まどかの悲鳴と、杏子の怒声…それが遠くなる。


――わたしはここで死ぬの? こんなわけのわからないのところで。

  まどかを守れないまま。

  
  いや…。
  

  こいつだけは…。

  
  まどかに剣をむけたこの『美樹さやかの形をした何者か』だけは許してなるものか。

  
目の前が真っ赤になった。

痛みよりも、怒りに震える。


――必ず、後悔させてやる。

――お前を選んでやる。


突如身体が燃えるように熱くなった。


さやか「なっ」


まどかを見つけた時とは比べ物にならない熱が身体を焦がしていく。


わたしの中にあったのは目の前にあるものを破壊したいという感情だった。



怯えるさやかの顔。

わたしはその剣を掴み引きぬいた。

さやか「化物っ!」

身体が何か別のものへと変化していくのがわかる。

背中には翼が生え、手には鋭い爪。


――わたしはいったいどうなってしまうんだろう?

  これじゃさやかの言うとおり、本当に…

  
  
  …化け…物…だ。


背後のレンジャー二人も警戒のため杏子から距離をとって遠距離用のボウガンを構えていた。

さやかが再び一歩踏み込んで突剣で突き刺してくる。


――なにその貧弱な武器…。


さやか「うそ、あたしの獣剣技が……全く効いてない?」


絶望に歪む彼女の顔を憐れむでもなく、わたしはその拳を振るった。

一撃で彼女は外壁まで吹き飛ばされ、その場に倒れこんだ。


レンジャー「動くなっ!」

レンジャーの一人がボウガンの狙いをまどかに定めている。

そんなものに何の意味もない。


彼らとわたしの間合いはあってないようなもの。

近寄ってくると視認される前にやればいいだけの話。




勝負は一瞬のうちに片付いた。

視界がぼやけている。

何が起きたかわからないという顔をする杏子が、まどかの肩を抑えていた。


そして意識が遠のいていく。


わたしは……どうして?





心配そうにわたしを見つめるまどかの顔がすぐそばにあった。

「まどか?」

――生きている。わたしはまだ…。


まぶたを開くとまどかは泣き崩れるようにわたしの背中を抱きしめる。

言葉にはできないが、『よかった』と言いたいように見えた。


杏子がまどかを押しのけてわたしの胸ぐらをつかんできた。


杏子「お前はなんだ! ふつうの…レンジャーじゃないのか!? あの力は」


そんなことこっちが聞きたい。

魔法少女をはるかに超えた力が、わたしの中に流れこんできた。

あんな力があるなんてわたしは知らない。



ほむら「積み荷…処分? 

    あなた達は何を知ってるの!? 

    まどかを攫っていったい何をさせる気っ!!」


杏子「知ってどうする? 

   あんたに何が出来る?

   さっきみたいに得体のしれない力を使って、どうにかしようとでも?」


ほむら「うるさいっ!」

杏子に八つ当たりをしている自分がはらだたしかった。

まどかは困った顔で『うぅ…』と唸っていた。


杏子「まどかについて詳しく知りたきゃ、バイオ公社のラボへ行くしかない。

 それより、本当にわからないのか? 

 あんたもとはこの世界の人間じゃないんだろ?」
 

ほむら「ええ…」

だけど……



ほむら「あの力のことはわからない。

    それにわたしが異世界に迷い込んだことに関係しているかもわからない。

    ただ、頭のなかに声が聞こえて

    気がついたら…


   
    とても…怖かった。

    自分が自分でなくなっていくようで…」


自分の手をまじまじと見つめた。

さやかに突き立てられた足も喉も、何事もなかったかのように再生している。

再生能力自体は慣れているけれど……。


あの時のあれはまるで……。

竜(ドラゴン)。

そんなものに変身して――。



わたしは、人を……。



杏子「そろそろ行こう。

   とりあえず逃げてきたとはいえ、レンジャーとあれだけ争った後だ。

   追手が来る前に急いだ方がいい」

~隊長室~

さやか「クソッ!クソッ!」

マミ「落ちついて。D値は能力の最終当直予測値。

   あなたが彼女に敗れたのは誤差の範囲内です」


さやかは両手を開き、信じられないという顔でマミを見つめる。

さやか「誤差? あんたは何も見てないからそんなことが言えるんだっ! 

    あれは…あれは…バケモノだよ…」


だがさやかの主張をとりあわず、マミは背を向けて書類を整理していた。


マミ「ともかく。あなたにこれ以上この任務を続けさせるわけには…」

さやか「そんなっ! あたしは任務に失敗したわけじゃ、ない!

    だってそうでしょう?
    
    こんなことで美樹さやかの名前を汚すわけには…
    
    いかないんだ!」

下層区街 -1000m

下層区行きリフトを超えた先、レンジャー基地拠点から近くに下層区街はあった。

はじめにさやかと買い物をした場所。

今は彼女のことを思い出したくない。

自分を殺そうとしたことよりも、まどかを傷つけようとしたことが許せなかった。

杏子によると、さやかは逃げていったという。


杏子「目立たないように気をつけな。特にほむら。

   あんたは既に手配されててもおかしくないからね」

中央に設置されている街頭テレビでは、

ちょうどわたしたちのことが事件として報道されている。

ほむら「完全にお尋ね者ね」

おかげで杏子の使っていたマスクを借りて、顔を隠しながら街を歩かなくてはいけない。


杏子「…町中でこれはこれで目立つな。やっぱりなしで」

ほむら「どうすればいいのよ…」

杏子「長居は無用だ。

   買い物はあたしが済ましてくるから、まどかと一緒にどっかに隠れてな」



ほむら「…はぁ」

杏子「なんだ、急にため息なんかついて」

ほむら「なんでもないの。気にしないで」

杏子「まあ手配されるってのは気分がいいものじゃないってのはよくわかるよ」


そういえば杏子も追われる身なのだ。

ほむら「あなたはどうして、反政府活動を?」


杏子「……さあね」

わたしはまどかと杏子に隠していることがある。

あれ以来こっそり例の力が使えるのかということを試した。



結果からいうと変身は可能だった。


ざわざわと燃える衝動と、何かを壊したいという感情が湧いてきて…。

しかしその場に壊す対象がいなかったのですぐに変身は解除された。

だけどその負担というか、反動が今になって響いてきた。

身体を何か別のものに侵食されていくような感覚。



ほむら「まともに生活できないのであれば、わたしもあなたたちの仲間になるのも悪く無いかもね」

杏子「バカっ!そんな軽い気持ちで務まるかっての。こっちは真剣なんだよ」


もし戻れなければ…。

わたしがいる場所はこの世界にあるのか?


あの力を利用しようとする連中が、必ず現れるだろう。


公社ラボエントランス -1010m


杏子「うわ、肝心のこと忘れてた」

ほむら「どうしたの? 」

まどか「うう?」

杏子「ラボに入るにはバイオ公社のIDカードがいるんじゃん。あんた持ってないのか?」

ほむら「どうかしら。このカードキーではダメなの?」

杏子「いや、レンジャーの中でもバイオ公社に精通してる人間に特別許可されてるヤツにしか渡されてないらしいからな。

   サードレンジャーのあんたが持ってるはずない」

ほむら「お手上げってこと?」


リフトの外――

下層区街の方から悲鳴が聞こえてきた。

ほむら「何かしら」

下層区街を目指して走りだした。

杏子「おい、ほむらっ!!

   あんた、手配されてるってこと忘れんなよ!」


ただでさえ空気の良くない下層区に、明らかにおかしい異臭が漂っていた。

ほむら「何、この匂い」

杏子「これは…毒ガスじゃないか! 誰がこんな真似を」


逃げ遅れた街の人々が倒れこんでいるのが見える。



「お!あいつだ!」


マスクをしたレンジャー3人が少し離れたところに立っていた。


レンジャー「よう、したっぱ!お前がほむらだろう」

うつむいて首を振った。


レンジャー「他の連中に先を越される前に、俺達でとっ捕まえるのも悪く無いって、こいつを用意して待っていたってわけだ」


杏子「功を焦ったクズか?」


ほむら「そんなことでガスを? 街の人はどうしたの?」

レンジャー「ディク狩りに使う神経ガスだ。ローディを狩るのにもぴったりだろ?」


老人、子供。逃げ遅れたのが悪いと言わんばかり、咳き込む人を嘲笑するかのように言い放った。

レンジャー「お前、ローディの割に強いって聞いたんでね。

      用心ってやつだよ。おしゃべりしてる間に、そろそろガスが効いてきたんじゃないか?」


たしかに…。


右手の感覚が薄れてきた。

このままでは全滅だ。


ほむら「杏子。まだ動けるかしら? まどかを連れて逃げて」

杏子「なんだよお前一人でやるってのか!?」


ほむら「わたし一人の方が安全だから」


杏子「まさか、あんた…あの力を」

わたしは無言で頷いた。


力を使うのは怖かった。

だけど、わたしのせいで関係のない人間が巻き込まれるという事態を捨て置くわけにはいかない。


ほむら「早く行って!」

杏子は頷いた。

まどかの手を握り走りだすと、まどかはこちらに向けて手を伸ばす。


レンジャー「おっとそっちも逃さないぜ。お前反政府(トリニティ)だろ?

      犯罪者もまとめて始末して手柄にしてやるよ。
      
      今日はついてるぜ」


ガンナーのレンジャーが杏子に向けて弓を向け放つ。


――させるものか。

驚愕の声が下層区街に響き渡る。


レンジャー「馬鹿なっ。素手で矢を!?」


掴んだ矢をわたしは人指し指と中指でへし折る。


竜変身中には、わたしと、もう一つ何か別の意識が混じる。

今ちょうどその中間にあった――。


変わっていくことを怖いと感じるわたし。


そして…


    目の前にいる"ゴミ共"を早く引き裂きたいと切望するわたし。



一歩、一歩と歩み寄る。

恐怖に歪むその顔を見ると、うれしくてたまらなくなった。


わたしは――

        笑っていた。



意識が何者かに支配されていく感覚――

それに身を委ねた。

「ほむっ! ほむっ! ほむ!」



誰かがわたしを呼んでいる。

――この声は…
  
  まどか?


背中が柔らかい温もりで包まれている。

温かい……このぬくもりだけを感じていたかった。

だが現実はそんなことを許してくれない。



わたしは目を開けた。

凄惨な光景を目の当たりにし、目を剥いてその事態を受け止める。


目の前には腕があらぬ方向に折れ曲がったレンジャーの一人。

どれだけ殴られたのか、既に事切れている。


もう一人も同じような状態。


家屋の壁に頭を叩きつけられ、血糊がこびりついていた。

おそらくは即死だろう。


杏子に弓を向けたレンジャーは足を折られ、

戦意を喪失したのか、その場にぐったり横になっている。

既に街の中には人気はない。

中央のテレビ街頭にはわたしと杏子とまどか。


――誰が、こんなことを?


  いや、聞くまでもない。
  

それでも確かめずにはいられない……。

ほむら「わたしがやったの?」

杏子が沈黙で答える。


…やっぱりわたしが…。

右手についた血液が既に乾き始めていた。

ベトベトして気持ち悪い上に、

これがさっきまで生きていた人間の血だということを受け入れがたかった。


何より、この光景を

わたしがまどかの前で『見せてしまった』ことに憤りを感じた。


一方的な殺戮を愉しむわたしを…まどかは見ていたはずだ。


彼女は何を思ったことか。


――こんな、ひどい。


杏子「行こう。追っ手が来る前に」

声にはいつもの覇気がない。

かける言葉が見つからないという感じだった。

レンジャー「下級レンジャーごときに…」

ほむら「!?」


いつの間にかボンベのそばに移動しており、バルブを緩めている。


杏子「まさか、皆殺しにする気か!?」


勢い良く紫色のガスが充満する。

さっきの瘴気よりさらに濃いガスが街を包んでいく。

どこからか警報が鳴り響き、区域一体を封鎖するという旨のアナウンスが聞こえてきた。


ほむら「杏子! まどかと高いところへ!」


杏子「ほむら、アンタ……」


わたしはレンジャーに向けて急加速(D-ダッシュ)する。

杏子はまどかの腕を引いて、

階段を登ろうとしているがまどかは腕をほどこうと必死だ。


瘴気が濃くなっていく…。

下層区街は完全に封鎖されていた。

このガスをなんとかしない限りこの場にいる全員…。

なんとかボンベのガス栓を塞ごうと手を伸ばすと、異変に気づいた。

ほむら「曲がって…いる?」

レンジャー「…ククク…残念だったな…そいつは、もう止められないぜ…!」

ほむら「っ!?」


いけない…身体が、動かない。


杏子「まどかっ!」

杏子の腕を振りほどいてこちらに向かってこようとしている。



ほむら「だめよ、まどか!こっちに来ては…」


わたしの意識は途絶えた。

~杏子side~

杏子「くそっ!」

あのガスをなんとかするのは難しそうだ。

かと言って、ゲートは完全に封鎖されている。

逃げるとしたらラボ側のエントランスに行くしかないが、

あそこは地下だから時期にガスが溜まるだろう。

どっちにしろ時間の問題だ。




とにかくまどかを止めないと。

あたしの使命は、あの子を組織(トリニティ)まで無事に届けること。


はしごを降りると、既に地上付近は濃い瘴気に覆われていた。


杏子「くぅ…」


マスクを装備するが、レンジャーたちのものと違って防毒マスクではないため、完全には防げない。


杏子「まずい、手足が痺れてきたぞ…。まどかっ! 戻ってこい」


ほむらは既に気を失っている。


まどか「うぅ…」

ほむらを庇うようにして、まどかはその手を握っていた。

まさか、一緒に死ぬ気なのか?

あたしは痺れる足で、転びそうになりながらまどかの元へ駆け寄っていく。


ちくしょう…ガスが…これ以上は。


突如風のないはずの地下に、空気が撹拌されていくような"流れ"が生まれる。


杏子「な、なんだ?」


ガスは散り散りに、空気の濃かった箇所へ流れていく。


その中心にはまどかがいた。


彼女は深呼吸するように…まるでこのガスを吸い込んでいるように見える。

深呼吸する度に、ガスが中和されているような…。


杏子「まどか…あんた…まさか…ガスを?」


『奇跡か?』

逃げ遅れた街の住民たちが、建物の上からまどかを見下ろして驚きの声をあげる。


じきに瘴気は中和され、事態は収束していた。


まどかはほむらの上に倒れた。


杏子「まどかぁあああああああああああ!」

~ほむらside~


杏子「ほむら! まどか!」


――えっ? わたし。いきてる?

意識を取り戻すと、わたしの上で倒れかかっているまどかがいた。

まどか? どうして?


ほむら「杏子? いったいなにが」

杏子「わからない。ただ…ガスが消えて、あんたもまどかも無事だってこと」


まどかは意識を取り戻して、咳き込む。

そしてわたしに笑顔を向けてきた。


背中の羽根が、ススで汚れているのが気になった。


ほむら「まさか、まどかがガスを…?」


杏子「わからない。とにかく、行ってみるしかないだろう。

   バイオ公社へ」

とりあえずここまで投稿しました。

明後日ぐらいに続き投稿しようと思います。

>>99
SFは好きです。
PCゲーなんかだと車輪の国がいいですね。

~バイオ公社1F -1020m~


バイオ公社は下層区街の地下にあった。

幸い街を襲撃したレンジャーがIDカードを携帯していたため出入りすることができた。

エントランスに入ると、まどかが再び咳き込んだ。

ほむら「大丈夫? まどか。少し休もう?」

杏子「そうだな。あたしはちょっと先を見てくる」

ほむら「あなた一人じゃ危ない。わたしもいくわ」



杏子「まどかが飛び込んでいったら…ガスが、中和されたんだ。

   何をしたにせよそれが…あの子の負担になったってことは間違いなさそうだね」

ほむら「…まどか…」

まどかの羽根から、黒いススのようなものが散っているのが遠目から確認できた。

杏子「いや、一休みしたらラボへ、急ごう…まどかの身に何かあったとしてもあそこなら…」

ほむら「ええ。あなたも疲れてるみたいね」

杏子「ごめん。ちょっといろいろあって混乱してるんだ。悪いけど一人にしてくれないか?」

ほむら「ええ。わかった」

杏子は奥の部屋へと向かっていく。

公社ラボ1F


杏子「うっ…これは」

羽根の生えた女の子が液体の中に浮いている姿を見て、顔が上がらなくなった。


杏子「大気汚染改善プログラム……なんてことを」


まどかにそっくりな背中に羽根を生やして――人形のようでもあるけどこれは……人間。

公社ラボで非合法な人体実験が行われていることは反政府組織の中でも一部の人間しかしらないことだ。

犯罪者、孤児、不良債権者、社会から消えても誰も困らない者を選んで連れ去っていってることを聞かされていた。


杏子「こんなところで…じゃあさっきガスが中和されたのは…」


このことが明るみになれば中央省庁の非難は免れない。

だからこそ奴らは躍起になってまどかを殺しにかかってるんだ。


杏子「薄々勘付いていたけど、まどかが喋れないのは……」



――この研究の証拠を。

~ほむらside~


杏子が青ざめた顔で戻ってきた。

まどか「うっう?」

ほむら「だいじょうぶ?もう少し休んでいく?」


杏子「ありがとう。二人の顔を見たら、なんか元気出てきたよ」


ほむら「それで、この広そうなラボのどこにいけばまどかのことがわかるのかしら?」


杏子「ああ…この研究等の上の階に研究主任の部屋がある。

   そこに行けば…」


杏子の言葉にいつもの覇気がない。

――嫌な予感がする。

公社ラボ2F -1000m


空気が澄んでいる。この研究所に入ったときから気づいていたが、ここに来て以来最も綺麗な空気。

さやかの話では、上層にいけばいくほどインフラが整備されていて、綺麗な空気をしているらしい…。


でもよく考えたらどうやって、地下の空気を換気しているのか。


空気中の塵を吸い込む装置をまだ見ていないけれど、

この研究所ではその研究が行われているのかもしれない。




先の部屋へ進むと、今までとは違う雰囲気の研究室があった。

液体の中には異形な形をした腕のようなものが詰め込まれていた。


まどか「っ!?」


まどかがその部屋に入るなり、怯え出した。

ほむら「どうしたの?まどか」



いったいここで何が……。


「おや? どなたでしょうか?」


白衣の研究者らしき男が浮かない様子でやってきた。


「ややっ。その試作型は不良品でしたか?

 何かエラーでも?」


男は眼鏡に手をかけながら、まどかを訝しげに見下ろしていた。


まどかはただただ怯えていた。



両手を口に当てて首を振っている。


ほむら「試作型? エラー?」

男「あ、いけませんね。

  換気肺がこんなに汚れて…もっと大事に扱ってもらわないと」


背中の羽を見てわたしを責め立てるような口調で男は言う。


ほむら「何を…言ってるの?」

杏子は首を落としている。


男「君こそ何を言ってるんです?」


白衣の男はまどかの頭に手をおきながら答える。


男「これは。

  これは、ここで作った
  
  『もの』じゃないですか…?


  人体の肺組織が効率よく酸素と粒子の分別をすることが立証されたからの研究。
  
  肺細胞をクローニングして換気肺を培養。
  
  大気汚染を浄化する昨日を最大に強化…」



わたしはそれ以上その男の話を聞いていられなくなった。


男「や、すべて注文通りですよ? 何がまずいんです?」

ほむら「……」

男「うっ!!!」


わたしはまどかを人とも思わないその男を殴りつけていた。


ほむら「作った、ですって?

    まどかは人間よ!
    
    まどかに…まどかに何をしたのっ!?」


剣を抜き男の喉元に突きつけた。 

剣先が怒りで震える。

身体が熱い。殺意が抑えきれない。

今すぐにでもこの男を――。


ほむら「答えなさいっ!!」


男の右目は青く腫れて、意気消沈したように気力が失われていた。

杏子がそばにやってきて興奮するわたしの代わりに聞く。


杏子「まどかはこの先、どうなるんだ?」


男「プロトタイプなので耐久性は、ありません。

  汚れた空気を、体に取り込んで…

  処理しきれなくなれば終わり、です」


終わり……?

まどかの方を見る。

今にも泣き出しそうで、それをこらえているのがわかった。


ほむら「…空気の汚れていない場所なら?」

男「地下の空気は悪くなる一方です…


  それが、生きていけるような場所は…

  …ありません」

我に帰り、まどかの悲しみが伝染したように、わたしまで目頭が熱くなった。



ほむら「あなたは…


    あなた達は最低だっ」



声が震える。

溢れてくる涙をこらえ切れなくなった。

~まどかside~


『手術』



わたしのことをつきっきりで見てくれていた博士がそう言って、いつもの手術室に連れてきたのです。

背中に羽根がつけられたときはびっくりしたけど、

絵本に出てくる天使のようで嬉しいような、でもみんなと違うようで寂しいような。



「これからみんなの役に立つために、最後の手術をするんだ」


『みんなの役にたつために』



この人が最初から嘘を付いているということを知っていました。


騙しているというか…研究することにしか興味のない人です。


身寄りのないわたしにはいなくなって心配してくれる人も、友達もいません。

手術台の上に寝そべると麻酔をかけられて、朦朧とした意識の中で博士たちの会話が聞こえてきました。


「耐用試験は良好ですあとは「処置」して、移送するだけです」


「「処置」…かね…機密を守るためとは言えそこまでやる必要が?」


「機密、保持…?や、それもありますが」


メガネの位置を直してわたしを見ながら言いました。



「『道具』がしゃべったり


    考えたりする必要はないのでは?」




――道具。


  わたしはそれでも……。

  本当に……


  もしこれから人の役に立てるのなら。

公社ラボ2F


右目を青く晴らした博士が、わけがわからないという顔でほむらちゃんのことを見つめていました。



この人がわたしの言葉を奪った。



この人がわたしの背中に羽根をつけて、みんなの役に立つためと言って、研究の材料にした。


だけど――。



――それでも。


わたしは唯一この人に感謝していることがあります。



あの時。

下層区街でレンジャーさんたちに襲われた時、



この力がなければあの街の人たちは助けられなかった。




少なくとも今ここで『わたしのために泣いてくれている人』を…


ほむらちゃんは助けられなかった。

まどか「ほむ…ら……ちゃ…」


ほむら「まどか…?」


もういいんだよ。


その人を許してあげて。

わたしのためにそんな悲しい顔をしないで。


わたしは自分の意志で、みんなのことを助けたいって思ったの。


わたしのことを、

命がけで守ってくれたほむらちゃんを助けられて、


本当に嬉しかったんだよ。



家族もお友達もいないわたしのこと、本気で心配してくれて…


ここまで連れてきてくれてありがとう。



どんな形でも…

わたしがみんなの役に立てて…



わたしはそれだけで――。



ほむら「まどかっ!」


ほむらちゃんの右手から剣が落ちて床に転がりました。

ほむらちゃんはわたしを支えてくれました。


温かい……。

できることならずっとこのまま。


ほむらちゃんの腕の中で、終われたら…。



ほむら「まどか……わたしね。

    違う世界から来たの」


え? 
    

ほむら「こことは違う世界。
    
    まだ空気が綺麗で、人が当たり前に空の下で暮らしていた世界」


まどか「っ!?」

ほむら「どうしてこんなところに来たか、今もわからない。


    でも…ここに来てもわたしの気持ちは変わらない。
    

    わたしの願いは何一つ変わらない。
    


    まどか。あなたを救いたい」


ほむらちゃん……。


ほむら「空を見に行こう、まどか」


ほむらちゃんは天井を見上げました。



ほむら「あなたを、空へ連れて行く。



    あなたを…助ける」


空。


わたしもその存在があったということは知っています。



けれどそれはとうの昔の話。

今地上は住めないほどの瘴気と熱に侵され、緑どころか草一つ生えない大地になっていると聞きます。



それがこの世界の常識で、今空を目指すなんて言われても、イメージがわかないのでした。




だけど…


わたしはほむらちゃんと同じものを見てみたいと思いました。




ほむらちゃんが知っている当たり前の世界を、この目で見て……。

綺麗で豊かな緑。



空の下で羽根を広げて、二人で寝そべってお話して…。

まどか「ううっ……」



胸の奥に僅かな希望が湧いて――。



それがはかない望みだとわかりながらも



ほむらちゃんの言葉を信じずにはいられませんでした。

氷結廃道 1F -960m


~ほむらside~


公社ラボを抜けると、氷漬けの廃道につながっていた。


ほむら「ずいぶんと寒いと思ったら、氷の洞窟なんて…」

杏子「驚いたかい? あたしも見るのは初めてだけどね。


   そうそう頭には注意しなよ。

   鍾乳石の代わりに氷柱が落ちて来るかもしれないから」


まどか「うぅ…」


どうやらワンピース一枚で寒いらしい。


ほむら「わたしの装備してたスーツ、まどかに合うかしら?」

まどか「う?」


ほむら「でも、わたしの使いふるしなんて良くないかしらね」


まどかはブルブルと首をふった。



上着だけまどかが着やすいようにカスタマイズしてから先に進むことにした。


こころなしかまどかは嬉しそうにそれを着ていた。


ほむら「これで安心ね」

杏子「……」

氷結廃道 2F -950m


~まどかside~



氷結廃道という名前だけあって、

天井どころか地面も凍結していたのでとても滑りやすくなっていました。


何度転びそうになったかわかりません。

でも、その度にほむらちゃんが手を伸ばして支えてくれて。


わたしの情けない「うぅ…」という声に、「大丈夫。ゆっくり行きましょう?」と

手をつないで歩いてくれるのでした。



いつか声が戻る時がきたら…。


ちゃんと「ありがとう」と言葉にして伝えたいと思うのでした。


そして、もっとほむらちゃんの世界のこと。


わたしのことも知ってもらえたら…。

結廃道 3F -940m


~ほむらside~


ほむら「まどか? 疲れてない?」

杏子「少し、休んでいこうか」



坑道の中にはそこら中に光が点在している。


杏子に聞くと、それらは魔力を帯びた虫で特に害はないそうだ。

緑色の光を追うまどかを遠目でみながら、杏子に声をかける。



ほむら「あいつ、言ってたわ…まどかを…造ったって…」

杏子「ああ…」



ほむら「ねえ、杏子…あなたは、まどかが造られた『もの』だと思ってる?」

杏子「あ……いや、あたしは…」



ほむら「杏子は…このことを…知っていたのね?この世界が…とても、ゆがんでいるってことを…

    ここは……まどかを救わない世界……」

わたしが天井を見上げると、杏子は下を向く。


ほむら「杏子…、わたしは…まどかを助けたい。だから、ここを出て…」


杏子「…空へ?



   それが、本当にあるかどうかも…分からないのに…?」



杏子はくくくと、可笑しそうにわらった。



杏子「バカだね、あんた…


   でも、それも間違いじゃ、ない…」


杏子は顔をあげ、氷漬けの天井の"先"を見据えようとしていた。


ほむら「杏子…」

今回はここまでになります。
いつもコメ下さるかたありがとうございます。

乙でした
うおお、重い…


知ってはいてもやはり重い……

>>117 >>118
ブレスオブファイアも、まどマギもそういう内容なのでどうしてもこうなりますね。
どっちも大好きです。

何と言うか「なるべくしてなった配役」だよなぁ
ネタバレになるから「どこが」とは言えないけど、両方を知ってると決して消去法だけではない「コイツが配役された理由」ってのがちゃんと解る
ラスボスの一人前に戦うことになる奴は多分アイツだよなってのが一人浮かぶ
そうだとするとほむらの反応が楽しみすぎる

>>120
一部部溝が埋められない部分もありますが、
書いてて驚くぐらいシンクロしてるというか、まどマギの設定や、人間関係がはまることに気づきました。

でもまどかとほむらが逆でも面白かったかもしれないです。
ほむらちゃんがめがほむになりますけど。

そういう話を聞くと原作に興味が湧くなあ

>>122
まどマギも人を選ぶ作品ですが、
このゲームはもっと人を選ぶ作品だと思います。
とりあえずアマゾンで82円で売ってるので、PS2があって暇なら遊んでみて下さい。

集積庫 -900m


氷結坑道の出口の先は、人工的な鉄と金網で舗装された道になっていた。


ほむら「コンテナがいっぱいね」

杏子「ここを抜けると中層区の商業区に出る。ちなみにここはそいつらの物置きってところだ」


その割には人が全然いないが…。


まあそのほうが追われる身にとっては気楽でいい。



まどか「う!う!うっ!」

杏子「なんか楽しそうだな。商業区が楽しみなのかね」


……しかし。何かおかしい。


まるで何者の気配もしない。



あたかも作られたかのような静寂。


ほむら「ねぇ杏子…」

杏子「……あんたも気づいたか。待ちぶせみたいだ」


サササササッ。

コンテナに隠れていたレンジャーたちがわたしたちの回りを一斉に取り囲んだ。




動きに無駄がなく、取り囲んでいるのはこれまでに相手になったことがない一流のレンジャーたちだ。


杏子「5,6,7…おいおい、こっちは3人だよ。

   ファーストレンジャーのあんたたちが、格下相手に恥ずかしくないのかい?」


杏子の挑発に微動だにしないあたりが、違うなと思った。




「おっす、相棒」


その中から聞き覚えのある声が飛んできた。

美樹さやか…生きていたのか。


さやか「まだ生きてたんだね。あんた」

杏子「それはこっちのセリフだっての」


杏子の声など意に介さず話を続ける。


さやか「ねぇ、あんた頭もだいじょうぶ? 変な声が聴こえるんだって?」


何故それを…?


さやかは勝ち誇ったように笑った。



さやか「あんた。……もう、終わってるよ」

ほむら「なっ!?」

「そこまでよ」


杏子「っ!?」

杏子の顔が引きつった。


さやかの背後から、この小隊を率いる隊長が現れたのだ。


ほむら「巴…マミ…」


相手にしてはいけない相手に出会ってしまった、そんな杏子の顔。


わたしもこれまでいろんな相手と対峙してきたからわかるようになってしまった。



――このマミは本当に強い。


武器はマスケット銃ではなく、腰にぶら下がっている剣が2つ。


二刀流か…。

マミは目を閉じて、話をはじめる。


マミ「暁美ほむら1/8192は…バイオ公社での任務において…特殊な実験体とあやまって接触…

   その結果…


   精神に、重大なダメージを負っている」


精神にダメージ?


マミ「反逆者と行動を共にしたり…保護対象に、過剰な思い入れをもったり…

   全ての行動は精神的混乱の結果…」


――違う。

マミ「おとなしく、我々の保護を受けなさい

   今なら、まだ間に合う…」


――わたしは竜になど飲み込まれて……いないっ!


ほむら「行かせてはもらえないかしら…」


さやか「はぁ?バカなの?機密を持って行かすと思う?

    どっちにしてもあんたは、もうすぐ死…」


マミはさやかの前に出て言葉を遮る。

マミ「それはできないわ」

ほむら「……」


マミ「残念ね…」

今日はここまでで。
ネタバレにご配慮いただいてありがとうございます。

元々が師匠だったりとか例え敵対してても元々心を開いてた相手なら説得しようとしたりとかの親心見せたり
やっぱりはまり役だよな
さやかの時みたいに「似て非なる者」認定するとしたなら、理由は「QBの本性、本当の目的を元の世界のマミさんは受け入れない」と言う辺りかね

あとは紫音絶命剣が名前変わってるのかどうかが楽しみだ

>>138
やり易いようにやればいいねん

>>139
>>2 の「微妙に性格が違う」というやつですね。
あまりにもさやかちゃんの扱いがかわいそうなので、添えるように書いたものです。
境遇や地下世界での生活から人格が変化しているはずなので、本来なら全く別のキャラになっていてもおかしくないですが、
そうすると収拾がつかなくなるので、さやか以外は出来るだけ寄せる方向でいってます。

というか、そこまで意識しなくても今の配役と元のキャラの性格に差異がないので
仰るとおりはまっています。

>>140
ありがとうございます。
違和感がないように書く方向ですすめたいとおもいます。

マミ以外の7名のレンジャーたちが、わたしたちを取り囲んだ。


さやかもマミも抜刀せず、その様子を眺めているだけ。


杏子「なるほど。親玉は高みの見物で様子見ってわけか」

ほむら「油断しないで。隙を見て、攻撃を仕掛けてくるかもしれない」


杏子が小声で背中越しに話しかけてくる。

杏子「いいか。アイツに闘う前にあの変な力を使ったりするなよ。

   あんたの息切れを狙ってるんだ」

ほむら「そうはいってもこの数はさすがにきついんじゃない?」


それにさっきの動きから見て、この場にいるのは相当の手練ればかり。



わたしと杏子だけではいくらなんでも分が悪い。

レンジャーたちが2人,2人,3人の3チームでこちらに同時に迫ってくる。


ほむら「多勢に無勢ね。何か策を考えないと」

杏子「策なんてあるもんか…

   一人ずつ頭数を減らす以外に方法はないよ」


マミ「さぁ!かかりなさい!」

マミの一声でレンジャーの集団が襲いかかってきた。


――ここは変身するしかない。


わたしがそう思った時。

急に地面に刻印が浮かびあがり、そこが光りだす。


マミ「なにっ! 魔法陣!?」

"まどか"が携帯していた杖を振るうと

火炎の壁が周囲を囲む3方向につくりだされる。

これは…魔法?

まどか? あなた一体?


"魔法少女"が存在しないはずの世界でどうして…と思ったが

よく考えれば今まで相手にした敵のレンジャーたちも普通に魔法を使っていた。

杏子もさほど驚いていない。


魔法は誰でも使えるものなのか……。


杏子「へぇ。やるじゃん。 てか、そんな力があるなら、今まで手を貸してくれても良かったじゃないか」


まどかは杏子に頭を下げる。

まどかのお陰で敵の行動がかなり制限された。


マミ編成の部隊は剣を武器とする接近戦のレンジャーが主体だったため

ガンナーの射程に気をつけながら戦えば、

最悪2対3にもちこめる。


わたしと杏子で相手をしていけば…。


杏子「じゃあ、いっちょ暴れるか!」

ほむら「ええ」



目の前にいるのは二人。

二対二なら、これまでのディクとの戦いで連携をとってきたわたしたちに分があると思った。



杏子の銃は敵にダメージを与えるだけでなく、敵との間合いを調整することができる。

つまり、ヒットバック効果で敵を遠くに飛ばしたり、バキューム効果で引き寄せたりすることも。


杏子「こっちに来な!」


1stレンジャー「な、なにっ!」

バキューム効果で引き寄せられた槍使いのレンジャーの不意をつき

急に間合いを詰められているところに、私は切り込んでいく。


1stレンジャー「ぐぅああああああああっ!!」


もう一体のレンジャーも杏子の威嚇射撃で行動を制限しつつ、わたしが間合いを詰めていく。



1stレンジャー2「下っ端が、舐めるなっ!」

その抜刀した剣を腰を屈めてかわし、強烈な蹴りを叩きこんだ。

1stレンジャー2「ぐはっ……」


勝てる……。


相手の剣が見える。これなら……。


まどかは魔法陣の1つを解き放ち、次の二人を呼び寄せる。

その代わりにマミとさやかの前に魔法陣を張り、邪魔をされないように牽制する。


マミ「なるほど。舐めてかかると痛い目に合いそうね

   全力でかかりなさいっ!」


マミの一声で、ソードレンジャー二人がわたしたちめがけて飛び込んでくる。

杏子「邪魔だ!」

銃を向けられたほうのレンジャーは盾でその攻撃をガードするが、

杏子の目的はダメージを入れることではない。

強烈なヒットバック効果でコンテナに打ち付けられ、その隙にわたしはもう一方の的に攻撃をしかける。


1対1なら、負ける気がしない……。






そして……


わたしたちはなんとか7人を退けることができた。

ほむら「はぁ…はぁ…」

さやかは驚愕の表情でこちらを見つめている。


さやか「なんで…嘘…でしょ?

    ファースト・レンジャー7人相手に…」


マミ「暁美さん。成長したわね…」

マミは表情を変えない。



途端警報が鳴り響く。

まどか「う?」

杏子「なんだ?」


巨大なロボットがわたしたちの前に立ちはだかった。


マミ「対ディク用に政府が開発したアシモフ。これならどうかしら?」

集積場の高い天井に届きそうな巨大兵器が私達の目の前にいる。


重たい拳を振りかぶり、ブルルと震えながら、押しつぶす。

杏子「まじかよ。お相手さん本気過ぎんだろ」

攻撃自体は避けれたものの、床には亀裂が走った。

これに当たれば命はないだろう。


アシモフの攻撃を回避し続けると

しびれを切らしたのか内部から別の小さいロボットが現れた。

そのロボットが電撃を放ち攻撃をしかけてくる。


ほむら「っぐ!」


幸い銃も剣も効く相手なので、わたしと杏子は剣と銃で処理することができるが、

肝心のアシモフ本体と離され、ダメージを与えることができない。

杏子「おいっ、このままじゃジリ貧だぞっ!。

まどかの魔法でなんとかならないか?」

まどかが頷く。

氷の魔法を浴びせると、小さい機械を生み出す頻度がかなり鈍くなった。

ほむら「これで本体に攻撃できる!」


3人がかりで本体に攻撃する。

攻撃自体は単調であるから、腕に注意していればさほどこわくない。


以外にあっけなくそれは動きを停止した。

杏子「おっし!やったぞ」



ほむら「待って…何かおかしい」

3・2


すると、カウントダウンが始まった。


ほむら「みんな、離れて! 自爆する!」

1…

まどか「うっ」

まどか! あぶない!

爆風に飲み込まれる。わたしはすかさずまどかのほうへ飛び出した。


杏子「ほむらーーーー!」

さやか「やったぁああああああああ!」

マミ「……いえ」

え?という顔でマミの顔をさやかはのぞいた。

わたしは加速(D-ダッシュ)し、あらゆるものを跳ね返すバリアーのようなものを身の回りに張っていた。

おかげで爆風からまどかを救出できた。


さやか「……バケモノが」

心の底から憎そうな声。


ほむら「マミ。わたしは…

    わたしたちは…行くわ!」


マミ「残念ながら暁美さん。それはあなたの意志ではない」


身体の軸がブレるような感覚に襲われた。


なんだ?

マミ「それはあなたの身体にリンクした実験体(ドラゴン)の意志!」


違う。


ほむら「わたしの望みは、この子を守ること。それを阻むのでであれば誰であろうと許さない」


マミ「残念ね。悪いけれどここまで…」

お疲れ様です。
今日はここまで。

乙でした

>>153
ありがとうございます。続き書きます。


マミとコンテナに潜んでいた、メイジのレンジャー二人に囲まれた。

まだいたのか……。


杏子「気をつけろ。ほむら今までの相手とはわけが違うぞ」

ほむら「……杏子。まどかと二人で後ろのレンジャーの相手をお願いしていい?」


杏子「ほむら、あんたまた!?」

わたしは首をたてに振った。

マミは強い。そのことを杏子も承知している。

杏子はしぶしぶ頷くと、わたしの意図を察し、レンジャー二人を撹乱するように威嚇射撃を行った。


わたしは再びマミを見つめた。


双剣を抜刀しながらじっくりと近づいてくる。

マミ「暁美さん…あなたは…その力をどうする気なの?」


ほむら「言ったとおりよ。全てはまどかを守るために使う」


マミ「あなたも気づいているのではないの? 


身体が誰か別のものに支配されていることに」



ほむら「それは……」


竜変身するたびに、何者かに人格が乗っ取られる……

もう一人自分が、目の前の敵を潰すことを愉しんでいる。


マミ「竜の意志はリンク者の意識を遮断し侵食していく。

   よほどの適合者でない限りは精神が崩壊し、あっという間に身体を食われてしまう。

   
   …あなたのD値ではとても操れるものではない」

ほむら「なら、何故わたしは選ばれたのっ! 声がした。

    お前を……選んでやると言った!
    
    アジーンは! 」


マミ「それは事故よ。

   だからわたしたちと一緒に来なさい。
   
   その力でこの世界の"秩序"を守ればきっとメンバーがあなたの延命をはかってくれる」


ほむら「秩序…?」


わたしは剣を引き抜き――そして赤いオーラをまとい加速(D-ダッシュ)した。

剣撃をふるうと、わずかにマミの足元がぶらつく。


さらに地面を蹴り、わたしは大きく跳躍する。


ほむら「この世界のどこに守るべき"秩序"があるっていうのっ!?」

――まどかをボロきれのように扱って、滅茶苦茶にしたのは誰だ。

重苦しい研究室の光景が脳裏に蘇る。



眼鏡を吹き飛ばした研究者の顔。


ほむら「あなたは最初から知っていたんだっ!

    あの積み荷の中にまどかが入っていることも、非合法な研究を行っていることも!」

マミ「……」


ほむら「知っていてさやかにまどかを殺させようとした! 命を奪おうとした」


マミ「あの子は…既に『モノ』なのよ」


ほむら「それならば……

    わたしはまどかを拒む、この世界を壊してみせるっ!」


怒りが溜まるほど熱が身体の回りを覆っていくのがわかる。

空中から真下にいるマミ目掛け……

剣に全体重を乗せる。

マミ「……その技は」

ほむら「いくわよっ!」

マミ「……」

真下にいたはずのマミの姿が急に消えた。


ほむら「なっ!」

着地すると、その周囲を確認するがどこにもいない。


杏子「上だ、上にいるぞ、ほむら」


ほむら「え?」

上を見上げると、跳躍したマミが双剣を掲げてさっきの私と同じ構えをとる。

マミ「ヴィオラ・モルテスパーダ!」


――この技は……。

勢いの乗ったその剣撃を躱すすべはない。

とっさに剣で受け止める。

第一、第二の太刀筋は、囮。

本命はその後に来る……。

ほむら「ぐぅっつううううううううう」

バシンッ!!!!!

わたしの剣撃を鞘で受け止めるが、その剣圧に耐えられずコンテナに体ごと打ち付けられてしまった。

マミ「何度も見せた技とはいえ、必殺の剣技を受け止めるとは……

   さすが暁美さん……」


いつの間にか彼女はわたしの首元に冷たい刃を突きつけている。

マミ「わたしもレンジャーの端くれ。

   弱い者を救いたいという気持ちはわかる。

   誰でも健やかに生きたいと願う気持ちもわかる。


   だけど、それは叶わないの」


ほむら「……なにを」


マミ「『生きる』ということが最も醜いことだから」


彼女は地面を見ながら震えていた。

すいません、ゲームしてました。続き書きます

ほむら「マミ…?」


マミ「どれだけ醜くても、生きたいと願って…


   親を…
   
   家族も救えなくても…
   

   それでも生きたいと願って…


   だからわたしは…ここにいる。
   
   生きている」


わたしにすがるような眼差しを向けた。


マミ「お願い。生きたいと言って! 

   もうその子は助からない。

   
   この世界ではその子を救う手立てはないの」

ほむら「マミ……あなたは……」


諦めてしまったの?

これほどの剣の腕をもちながら、政府の犬として生きる運命を選択してしまったのか。

そのための犠牲を……人が生きていくには必要なことだと受け入れて。

誰かを救うためには仕方ないと……。


それでも、


未だに迷いつづけながら剣をふるっている。



マミが持つ二刀の刃の片方にわたしは手を伸ばした。


マミ「……あけみ……さん?」


刃先を握り……

そして力を入れる。


マミ「なっ!」

ほむら「ぐっ!!」


赤いものが手のひらからドロドロと流れてくる。


わたしの手のひらから流れる血液が刃先に滴り…床を濡らす。

ほむら「わたしも……

    わたしだって生きたい

    
    
    死ぬのが怖い。

    
    何度も死にそうになったけれど、
    
    生きていたい」


マミ「ならっ、なら何故…。あなたはまだ生きる望みがあるのよ?」


ほむら「あなたは、この意識がわたしのものではないと言った。

    竜(アジーン)に突き動かされているだけだと。


でもそうじゃない。


わたしはわたしの意志でこの刃を掴んだ」


マミ「!?」

ほむら「どれだけ傷ついても、たとえこの先死ぬほど苦しい運命に出会ったとしても。

わたしはまどかと共に空を見に行きたい。

まどかが生きていける世界を――」


マミ「あけ…み…さん」

ほむら「わたしはこんなところで……」

――あれ。身体が…急に。

いけない……疲労が。


竜の力を使いすぎたか……


そこでわたしの意識は途絶えた。


杏子「なっ、ほむら!」


マミと対峙していたほむらは、意識を失って倒れているのが見えた。


まどか「うっ!?」


メイジ1stレンジャーA「連戦の疲労がピークに達したんだろうよ。ローディは所詮ローディってわけだ」

メイジ1stレンジャーB「化物がいなくなればもう恐いものなんてないぜ」

杏子「てめぇっ!?」


まどか「うう…」


まどかはほむらの方を見てブルブル震えていた。



杏子「ほむら…ここまでか」


頭を下ろす。

ほむらを失っては、ここを打開する策はない。


――空?

そんなあるかないかもわからないものを、あなたは本気で信じているの?


メイジ1stレンジャーA「レイギルッ!」

まどか「!?」

杏子「まどかっ!」

氷が地面を這うようにしてまどかに地走っていく。



――いや。そこにあろうがなかろうと。

死を恐れずに立ち向かえる勇気が本物だとしたら。



わたしは――それを見届けたい。

杏子「なっ!」

まどか「……う?」


レンジャーA「まさか……隊長?」

さやか「なんで――」

マミの紫音剣が氷の魔法を打ち砕いた。



マミ「武器を納めなさい。わたしはこの人達と行きます」


レンジャーB「何を血迷ったことを? それじゃあんたは」

マミ「……」


さやか「なんでそんな死に損ないのために」


マミ「死に損ない? それは暁美さんのこと? それとも…

マミの双剣が、二人のレンジャーの腹部を貫いていた。


さやか「なっ!?」

杏子・まどか「っ!?」



マミ「さぁ、美樹さん。この場で一番死に近い人間は誰かしら」


さやか「っ……」


さやかは歯をくいしばって、一歩、二歩と後ずさる。

今日はここまでです。

ゲームやったことのない人のために注釈を加えておきます。

一応マミさんの技について
モデルであるゼノ隊長の使用してくる紫音絶命剣という必殺技があります。
だいたい他の技とあわせてコンボで使用してくるため、
初見で対策してないと、だいたい狙われたキャラクターは即死します。

この3連戦は実際ゲームで鬼門だったりします。

紫音剣どころか本人が手に入ったwwwww
乙です

必殺技名ググろうとした人への解説
【viola】 イタリア語・ラテン語で『紫』。特に赤と青が等分のすみれ色を指す
【Morte】 イタリア語で『死』

乙でした!
>>174
さすマミ

>>174
ねんがんの紫音剣を手に入れた!

という割に性能は微妙なんですよね。
殺して奪い取る武器ってどうしてこうも・・・。

翻訳ありがとうございます。


アモーレイタリア語事典かな?
あれマミさん書くとき重宝するんだよな。

>>175
上をとった 隙ができた = 必殺技を叫ぶチャンス!!
業が深い

>>177
google で個別に単語検索すると、
上の方に辞書検索結果みたいなのが出てきたので、それを活用しました。



「そういうことを言うやつが一番危ないってもんだぜ?」



マミ「……誰っ!?」

集積庫内に響く声。

男のものであるということ以外何もわからない。


近くから聞こえてきたような…



でも周囲には誰もいない…。


???「隊長さん、後ろだよ。後ろ」


その声をたよりに振り向くと、そこには浅黒い肌の髪を逆立てている青年がいた。

マミは戦慄した。


その人物を実際に見たことはなかったが、

レンジャーの一等兵であるマミが、この世界の統治者たる人物を知らないはずがなかった。


マミ「ジェズイットっ!? あなた!何故ここに」

ジェズイット「おいおい、自己紹介ぐらいさせてくれよ。

わざわざこんな下層まで出向いたんだ」


杏子「ジェズイット? 統治者の?」


杏子もその男からただならぬ気配を感じ取っていた。


この男を絶対に相手にしてはいけない。



ジェズイット「美女が4人もいるってだけで来た甲斐があるねぇ。

       一人は倒れてるみたいだが……って倒れてるのが竜のお嬢ちゃんか。

       
       これじゃオルテンシアとの賭けは俺の負けかね――」


男はため息をつきながらやれやれと近寄ってくる。


杏子はまどかの前に進み出て銃を構えた。


ジェズイット「――なるほど。その子がエリュオンの実験で犠牲になった女の子ってわけか。

       こいつは大層立派な趣味だこと」


杏子「まどかを? お前、どうする気だ!」


ジェズイット「俺達(統治者)の総意はその子の始末だ。


       けど気が変わった…
       
       もともと俺はこんな計画に始めっから足を突っ込む気はなかった。
       
       竜がその子を空に連れて行きたいといのなら、俺もそれに賭けてみたい。
       
       が。
       
       ここまで来て手ぶらで帰るってのもなんだ。
       
       裏切り者の首ぐらい持っていかないとな」


頭をかきながら、男はマミの方を見据えた。

ジェズイット「なあ隊長さん。あんたはこの竜のお嬢ちゃんが空に行けると思うかい?」

マミは憔悴していた。蛇に睨まれた蛙のように。

ジェズイット「ああ、可愛い顔が台無しだ。

       せめて死ぬ前ぐらいは楽しい話をしてやろうと思ったのに」


男は急に姿が見えなくなった。


杏子「消えたっ?」

「俺は――行けると思うぜ」



マミの首が吹き飛ぶ。

自分が死んだということもわからないまま、表情は恐怖に染まったまま。


胴体の付け根から血が吹き荒れた。

杏子「!?」

ジェズイット「楽に逝けたかね…。

       もったいねぇな。いい胸と尻してたのに」


再び杏子たちの前にジェズイットが姿を現した。


さやか「す、すごいです!」

狂ったように拍手をするさやかがそこにいた。


ジェズイット「お前は?

       ――いや。どっかで見たことがあると思ったらヴェクサシオンの娘……」


さやか「統治者直々に討伐にこられるとは思っていませんでしたが、

    いやぁ。すごい!

    
    おかげで残ったのは犯罪者とローディの脳なし。
    
    これで一人でもやれそうです!

    
    あとはあたしに任せて下さい」

男の眉が引きつる。

ジェズイット「おい。嬢ちゃん今なんつった?」

さやか「で、ですからわたしだけでもこいつらを始末できそうですって」


ジェズイット「ちげぇよっ!」


男が眉を突き上げてさやかの首元に手をのばす。


まどか「っ!?」

さやか「ぐっ、苦しい……」


ジェズイット「ローディだろうがなんだろうが、強え奴が一番偉いんだよ。

       そこを履き違えんじゃねえ」


杏子「お、おい!」



杏子が声をあげるが男には全く届いていない。

ジェズイット「てめぇはこの竜の嬢ちゃんに負け、手出しすら出来ねえくせに、

       隊長さんの影から『お前はもう終わってる』だの好き放題言ってたよな?
       
       そういうクズは女だろうが、知り合いの娘だろうが容赦しねえぞ、おい!」


そのまま廃穴に向けて放り投げる。

さやか「ぁあああああああああああ~~~!」

どこに通じているかもわからない奈落へと放りだされた。




そこへほむらの意識が戻る。

ほむら「うぅ――わたしは…」


――お目覚めかい。竜の嬢ちゃん。期待してるからな。


男の姿はどこかへと消えてしまった。

第一工業区1F -890m


杏子「というわけだ」


ほむら「わたしの寝ている間にそんなことが……」

まどか「うぅ!」


まどかはあれからずっとわたしの手を握っている。



その理由は……わたしも気づいていた。

さやかのあの言葉を気にしているのだ。



ほむら「大丈夫よ。もう十分休んだから」



さやかは言っていた。

      わたしはもう終わりだと。


マミは言っていた。

      わたしの精神は竜に侵されていると。

それでも、さっきのレンジャーたちに一対一でなら負ける気がしなかった。

一流のレンジャーらしいが、まるで格下の相手。



何故勝てた?

魔法少女の経験が生きているせいか。



それもあるだろうけれど

――おそらくは。


左手をまじまじと眺める。


『あんた、もう終わってるよ』

戦う度に違和感がつきまとう。

剣技は――マミから教わったらしいが、その記憶のない自分が振るう剣技は勢いに任せているだけで、

何も特別な技量を持ちあわせていないはずなのに。



それなのにマミの剣筋を感じ取って、剣の鞘で致命傷を避けた。

まるであの技を知っていたように。


いや――知っている。

あそこまで完成度が高くないが、あの技を私は何度か戦闘で使っている。


なぜ? あんな技を?

そういえば、下層区街のテレビに映しだされていた文字を、わたしは理解することができた。

この世界で適応するために、アジーン(竜)が与えてくれたものだと思っていたが、それも腑に落ちない。

竜の力とはおそらくそういうものではないだろう。


つまり――。

わたしはこの世界に元から暮らしていたが、人格と記憶だけがごっそり入れ替わってしまった。


その過程で上書きされなかった記憶の一部が、残っているということか……。


そう考えると

他人の身体を乗っ取ってしまったみたいで、気分が悪い。

地下世界で暮らしていたわたしは、また違う性格をしていたはず。


????「ほお…最高統治者の御印…勅命…ということですか」

ジェズイット「ああ。アンタたちにはそれに見合った仕事をしてもらう」


レンジャースーツに身を包み、不気味な一つ目のマスクをかぶった大男が、笑い声を発す。


????「…くくく…結構…とても、良いですよ…

     世界を統べるオリジンがわたしたちを必要とし…わたしたちに…好きにしろとおっしゃる。

     とても良い…ふは…ふはは」


さて。今回は乗り越えられるかね。

竜のお嬢ちゃん…。

第一工業区3F -870m


杏子「おかしい…な」

ほむら「どうしたの杏子」


杏子「いや、ディクがいるせいかもしれないけどさ、

   隠れる場所がいくらでもあるここいらで待ちぶせされてもおかしくないんじゃないかって」


待ちぶせ……レンジャーの襲撃か。


たしかに。奇襲にはもってこいの場所だった。



ほむら「マミを退けたんだもの。そうそう腕の立つレンジャーがいるとは限らないわ」

杏子「あ。ああそうだな」


杏子は八重歯を見せて笑う。

ほむら「う……」

また、反動が……。


まどか「ほむっ!」

心配そうにわたしを見て、肩に手を伸ばすまどか。


ほむら「まどか、大丈夫。すぐ治るから」


杏子「…つらそうだな ほむら…ここで少し、休んで行こうか」

ほむら「え、ええ…ごめんなさい、杏子…」

~杏子side~

二人から見えない所で通信機を構える。


杏子「…はい。レンジャーの防衛線がありましたが、何とか」

杏子「いえ…そのこと…ですが」


???「どうした?何か問題があるのか?いずれにしても、その子は……

    この空気のなかでは長くは持たない。


    我々が、保護するほかあるまい…」



杏子「でも…もし…もし、外の世界へ…


   空へ、連れ出せる可能性があるとしたら」


???「何かと思えばくだらん…

    独りの人間に!


    …そんな大それた事ができるはずないから…
    
    我々のような組織が必要なのだろう?


    …今は議論をしている時ではない

    任務を続行したまえ」

無線は切れた。



くだらない……か。


――そう。あたしはあたしだ。

  この世界を変えるために動かなきゃならない。
  
  いくらあいつが、それを目指すとしても……。

  
  
  でも……。



『ねえ、杏子…あなたは、まどかが造られた『もの』だと思ってる?」』


レンジャーが毒ガスで街を襲撃したとき、

まどかは真っ先に、ほむらを、みんなを救おうとした。



――そんなまどかを、あたしはどうしようっていうんだ?



杏子「くそっ!」


顔を落とし、地面を見つめながらほむらたちの場所まで戻っていった。

~さやかの記憶~


まだ7つか8つの幼い時。


父が用意した戦闘ディクと対峙していた。


鼻息の荒い豚のような顔。

斧を持ちながら、一歩、一歩と近づいてくる。


『邪公』というディクらしい。


父は離れたところでわたしを見ていた。


さやか「こわ…い…と…さん……わい…です…さん…」


あたしに戦意など微塵もない。

両目から涙を流す余裕もないほどに怯えていた。


剣術を習ってから3年が経つが、

『お前の剣には殺気がない』と業を煮やした父が、いきなり実践訓練にかりだしたのである。


???????「…恐れるな、さやか。

        
        常に冷静でいろ
        
        戦場で恐怖に囚われれば敵を見誤る

        そこに待つのは下劣な死闘だけだ



        …さやかよ

        お前には力がある
        

        だが…



        その使い方をまだ、知らぬ」


見せてみろさやか。

武人としてのお前の力を。


――力を証明しなければ…

  おとうさんは…

  あたしを認めてくれない…


斧を振りかざすそのディクに向け、鋭い突剣の一撃が腹部を貫く。

が、その斧は勢い半ばにわたしの肩にとどいた。



痛い。


痛いけれど、あたしは敵を――。


後ろにいる父が、称賛の拍手を送っていた。

左半身が血まみれになったまま、あたしは目を見開きながら笑って父に言い放った。


さやか「やりましたおとうさん。

    やりました。

    おとうさん

    やりました…」


????????「…よくやった

         さやか。今日はここまでだ」


父はそのまま背を向けて立ち去っていった。


――え?

  おとうさん?
  
  どうして……。



あたしは膝を折って天井を仰いだ。



――力を証明しなければ

  誰もあたしを見てくれない



  誰も…

~第二工業区 1F~ -860m


杏子「なっ!」


部屋に入った途端、鼻を刺激するほどの死臭に襲われた。

死んでいる。人が、死んでいる。


まどか「うぅ…」

まどかの目を覆う。これは――レンジャーたち?


もしかしてわたしたちを待ち伏せていたの?

????「おや、声がすると思って来てみれば。皆さんお揃いですか」

丁寧な言葉の合間に、人を不快にする笑い声が混じっていた。


ほむら「誰っ!?」


この声の主がレンジャーたちを?


「‥はじめましてほむらさん‥

 レンジャー達は邪魔なので‥

 ふふ、わたしが、片付けておきましたよ‥


 ‥それでは始めましょうか」


その声も、姿もただ不気味だった。


二足で人の形をしているが、一つ目の覆面の後方…

すなわち頭には何本も釘が突き立てられていた。


自分たちが着ているレンジャースーツと同じ…。


ほむら「あなた、レンジャー?」


????「くくく。

     ええ、そうです。


     でも、正確には元レンジャーと言ったほうが、
     
     そこらに転がっている死体さんたちの名誉にもいいかも知れませんねぇ」


ほむら「元レンジャー? なら何故彼らを?」


????「これがわたしたちの――


     いえ、わたしのやり方でしてね。


     
     死人から力を得ることができるのですよ」


杏子「なんだって!? 

   じゃあ、お前はこいつらの力を得るために殺ったっていうのか?」


????「いえ、そうではなくてですね。

     彼らは単純に邪魔だったのですよぉ。
     
     あなたを倒して、そこの子を始末しなさいというのがわたしに下された命令ですので」


杏子「――聞いたことがある

   非合法活動を専門とする‥「ネガティブ」と呼ばれる部隊‥

   お前が‥?」


非合法活動? そんなものを使ってまでわたしたちを?


杏子「あんたや、まどかは‥

   政府(やつら)にとって「あってはならない」ものになったみたいだね‥」


????「わたしの名前はタントラ。バイオ公社で生み出された実験体です。

     お話ししてる間にそろそろ、術が効いてきたんじゃないですかね」


術?

ほむら「特に何もない……けど」

剣を取り出し、敵めがけて一歩を踏み出す。

なっ!?

なに? 身体がものすごく重たい。

タントラ「いい表情です。とてもいい…

     死体から力を得られるといいましたが、
     
     生きていける人間からも力を吸収することもできるんですよ。

     
     ほむらさん。
     
     あなたの力は素晴らしい。

     
     とてもD値 1/8192などとは思えないです。


     
     あぁ…満たされていくぅううううう」


ほむら「くっ」

まどか「ううう!」

まどかの杖から、雷撃が飛び出す


タントラ「いひゃっい~!」


続けざまにレイギル(氷結呪文)、パダーマ(火炎呪文)の魔法を唱え、タントラに隙をあたえない。

ほむら「まどか…」


まどかは無性に怒っているように見える。

杏子「いいぞ。次はあたしの番だ」

杏子は中距離から、頭部を目掛けてそこだけを集中攻撃する。

タントラ「あひゃややああああ、いひゃああああい」


そこにわたしが剣を突き立てる。

ほむら「これで終わり!」

タントラはゆらり、ゆらりとわたしに這いよって、ついには倒れた。


ほむら「……なんだったの?」

動かないタントラを前に3人は腑に落ちない顔をした。

杏子「わざと――やられたような」

まどか「うぅ…」

ほむら「考えても仕方ないわ。先を急ぐわよ」

さらに上の階を目指してその場を立ち去った。




タントラ「フハハ‥強い、強いですねえ‥」


~中央省庁~

???「あの人たち‥とても暗い色をしていた‥

    あんな人たちを‥使ってまでどうして‥」



あどけない顔立ちの少年が、青黒い光に包まれた白髪の青年に伺う。


?????「どうして‥か‥

      わたしは‥、好きなのだと思う‥

      人の‥‥‥

      あがく姿が‥

      この、暗い世界の底で‥

      人が‥ あがき続けることを

      わたしは‥望んでいるのかもしれない‥


      世界は未だ

      調和の中にある‥」


――今しばらく見ていよう

  わたしたちの、竜を‥

~第二工業区2F 南側 -850m~


ほむら「この部屋…何か気配がおかしい」

杏子「ああ。妙に静かだ…気をつけろ」

まどか「うぅ…」


金網の上を歩いていると、何者かの視線を感じた。


その時、わたしめがけて鉄拳が振り下ろされる。

ほむら「なっ」

シールドでガードしたとはいえ、すさまじい打撃で、4メートルはヒットバックした。

杏子「奇襲…もしかして、こいつもネガティブなのか?」


タントラと似たような一つ目面をつけている。

ほむら「ぐぅっ…」

左手の感覚がない……なんて力なの?


公社ラボで似たような機械系のディクに遭遇したことがあるが、それとは比較にならないほどの邪気。


杏子「どうやら近づかないほうが良さそうだな。まともに食らったら洒落にならないぞ」



まどかは氷の魔法陣(レグボール)を周囲に張る。


これでうかつには近寄れないだろう。


遠距離から杏子は射撃を行う。

散弾が金属にキンキンと連続してうるさいぐらいに響く。


が、効果は薄いとわかると射撃を中断する。


杏子「……ダメだ。装甲が硬すぎる。ほとんど効いてない」

まどか「うう!」


魔法陣の後ろからまどかが氷呪文(レイギル)で攻撃をする。

すると敵は仰け反り、足元が凍りづけになった。


杏子「効いてる! このまま押しきれるか?」


遠距離からの攻撃で為す術はないかに思えた。


が、その機械の身体が光ると、巨体から炎が放たれる。


杏子「炎呪文(パダーマ)!? まずい、まどか!離れるんだ」


ほむら「危ない!」

D-ダッシュで加速し、まどかの身体をかばいながら緊急回避する。

まどか「うっ……う!?」

なんとかまどかを炎から守れたものの……。

熱い……背中が…。



くっ…。

ここは変身するしか。



が、まどかはわたしの手をとり、左右に首をふる。

まどか――。

気づいてるのね。 

あの力がわたしに負担をかけていること。


魔法陣は残ったまま。相手はその先には進行してこない。




杏子「あれに触れると相当やばいってことなのか。だったら…」


杏子は装備している銃を変える。

杏子「こっちにこい!」

強力な風がその巨体をこちらに引き寄せる。

凍っていた足元の氷は先程のパダーマで溶けていた。


おかげでみるみるうちに氷結界の方へと引き寄せられていく。


が、敵は魔法陣に触れるかギリギリのところで踏ん張りをきかせていた。


杏子「狙い通り。いまだ、まどか! ありったけの魔力を叩きこんでやれ!」

まどか「ううっ!!」


まどかが容赦ない氷呪文(レイガ)の連撃を繰り出す。


機械の身体に氷の刃が付きたてられ、地面は氷漬けになる。

すると、踏ん張りが利かなくなり、大量の氷結界に触れ。


――粉々に砕け散った。


そしてその破片は消え、緑色の光になってどこかへ飛んで行く。


ほむら「ふたりとも、ありがとう」

杏子「まどかのお陰だ。大したもんだ」


ほむら「本当。まどかに助けられたわ」


まどかの頭に手を置いてそっと撫でると、彼女はくすぐったそうに笑った。

まどかはわたしに抱きついて、背中に手を伸ばす。


ほむら「っ!?」

火傷したところに触れたせいで激痛が身体中に響いた。


まどか「うっ!」

まどかは後ずさり、顔を落とす。


杏子「待ってろ。今治療してやるから」


治療中、まどかはずっと顔をあげないまま、思い悩んでいるように見えた。


どうしたのかしら?



――わたしが変身しないよう、無理させてしまった。


  これからもしかしたら、この子はもっと無理をするかもしれない。

ここまでにしておきます。
マミさんに期待してくれてた方いたらすいません。

次回はまどマギのキャラがでてくる予定です。



マミさんにはちょっと笑ってもうた
タントラは怖いよな

やっぱり首か
乙です

>>222
退場の仕方は決めていたのですが、
問題は誰にやってもらうかという点でJさんが自由に出歩いていたなって思いだして・・。
退場早すぎなのは、アニメ本編も同じなので許して下さい。

死んで起き上がるところとか、ビビリました。
カプコンスタッフはこういう演出好きなんだなぁと思います。

>>223
発狂したところをまどっちにやられる状況が想像できなかったので、こちらにしました。
首を切られると痛みを感じる前に死ぬと聞いたことがあるんですが、実際はどうなんでしょうね。

おつでした
はやすぎる退場という意味でも被ってたのか

>>226
どちらかと言うと、書きやすさを重視した選択です。

ゲーム本編で、死んでいる人を生かして改変するなら
何かしらふくらませなければいけないと思うのです。

マミさんがいたらいたで便利な場面はあると思いますが、
必ず必要だと言えない限りは、やめておくのがいいと思いました。

改変はできるだけ少なくした方が書きやすいです。
が、それでは本編をただなぞるだけでつまらないのでオリジナル要素もこれから混ざっていきます。

エリュオンの名前出たから言っちゃうけど正直エリュオンは織荊子がやると思ってた

>>228
それならオルテンシアですかね。
おりこマギカをちゃんと読んでないのでなんとも言えないですが。

なるほど、理解しました。
1巻だけ読んでゆまちゃんのSSとかも書いていたので
大体は知っているのですがそれはそれで面白かったですね。

第二工業区 3F -840m


階上からは再び死臭が漂っていた。


レンジャーたち。 


まだ死後からそう時間は経っていない。

まさか――。



「ありがとうほむらさん‥」


何もない空間から、ガーギガス、タントラが現れた。


そして、タントラだけがその実体を持ち始める。


タントラ「よくぞ、わたしの仲間を倒して下さいました‥

     これで‥ふふ‥

     また強くなれますねぃ」

杏子「あれは‥倒したはずの!?」

タントラ「ふふ‥わたしの‥、たいせつな‥、仲間

     ギーガギス

     さあ‥わたしとひとつになりましょうねぃ‥」


タントラが両手を広げるとギーガギスの姿が消え、緑色の光になる。

光がタントラに吸い込まれて行く。



タントラ「あああ‥ いい‥

     とても、いい‥

     では‥始めましょうね‥!」


全身に嫌な気がまとい始める。

杏子「なんだ…これは。からだが…言うことを聞かない」

まどか「うぅ…」

ほむら「そんな、全員に!?」

全員の力、早さ、体力がタントラに吸い取られていく。


タントラ「あああ…満たされていきますぅ…

     ほむらさん。あなたに恨みはありませんが、
     
     ……むしろ感謝するばかりですが、

     
     
     でも…

     
     でも。

     
     ここで死んでくださいねぇ…」

首を折りながら、ゆっくりと近づいてくる。

あの動き、重みは――さっきのギーガギスの…。


本当に死者の力を得たということなら、まずい。

接近戦はだめだ。


ほむら「まどか!魔法陣を張って!」

まどか「ううっ」


近寄ってくるタントラの前にレグボールを2つ張り出した。


タントラ「なんです? この魔方陣は…


     ああ。そうですか。
     
     ギーガギス。

     
     あなたは氷が苦手でしたね…」


杏子「おし、引き寄せるぞ!」



バキューム効果を持つ杏子の銃で、引き寄せる。


わたしはその隙を狙って剣を構えた。


タントラの体格ではバキュームに耐えることもできず、魔法陣の中央へと誘き出される。

タントラ「いっひゃぃ!」



すかさずタントラに切り込もうとダッシュする。

いつもの半分のスピードしかでない。


ほむら「くらえっ!」


レンジャースーツめがけて斬撃をいれていく。


しかし力がでないため、致命傷にはならない。


タントラ「……ククク」

杏子「なに?」

剣撃の反撃に、拳が――。

ほむら「っ!?」


その鉄拳がわたしの腹部に命中した。


意識が吹き飛ぶほどの力――


これは――さっきのギーガギスの。

>まどか「ほむっ!」

ほむら「ほむっ!」
に空目して鼻からピーナツ


まどか「ほむっ!!! 」

ほむら「ぐふっ……」


剣を床に付きたて、相手を見据える。

頭がくらくらする…なにこれ…。


まどかの魔法陣で痺れてたはずなのに。

耐久力も、回復力も並じゃない。


ゆらり、ゆらりと這い寄るタントラが今まで戦ったことのない怪物に見えてきた。

ほむら「とにかく接近戦はダメっ! 近寄られたら必ず距離をとって!」


幸いギーガギスを吸収したおかげで足だけは、早くないようだ。

まどかと杏子は分散して、タントラから距離をとる。

そして杏子が銃撃を放つが、射撃は対して効いていないように見えた。


詰め寄られたらさらに距離をとるが、イタチごっこだ。


タントラ「なるほど。これでは埒があかないですね。

     ならば…

     あなたたちの『速さだけ』をいただくとしましょうか」


タントラから青いオーラが滲むと、身体の重さが増してきた。


すると高く飛び上がり、天井のパイプを掴んでわたしたちを見下ろす。




タントラの速度が格段に上昇したのがわかる。


タントラ「うぅうううう、パワーも捨てがたいですが、

     動けるというのは、やはり素敵なことです。

     
     こんなアクロバティックな動き、気持ちィイイイイ」


タントラの仮面が、真下の3人を捉え――

その視線は即座に"まどか"に向けられた。


タントラ「一番やっかいなのはあなたですねぇ。

     ギーガギスに致命傷を与えた魔力は侮れません。
     

     ですが、脆そうですね。

     
     一発で仕留めてさしあげますよぅ…」


まどかが――。

このままではまどかが。

まどか「っ!?」

天井からまどか目掛けて跳躍する。

着地すると蛇のようにふにゃりと地面を這いながらまどかに近づく。



――遊びは終わりだ。


血のざわめき。身体が燃えていくのがわかる。

烈火が周囲に湧き上がり、黒く、醜い、『殺すべき相手』がそこにいるのを認めると、


心が躍った……。


全身が竜の身体へと変貌していく。


タントラ「な、なんです?

     この…ちから。



     ほむらさん…
     
     あなたまさかオリジンと同じ…」


羽で宙をかける速度は、人間の時と比べ物にならない。


――血だ。

肉を裂き、骨を砕き、鮮血をもっと――。


タントラ「ひっ」


まどかと杏子は絶句してその光景を見つめていた。

まどかが――わたしに怯えている。



それなのに、衝動が止まらない。


こいつを引き裂きたい、壊して、壊して、もっと壊して。


気持ちが抑えきれない。


タントラ「ぎゃぁあああああああああ。いひゃっい~~

     能力を奪ったはずなのに、どうして

     竜の力はそれほどまでに強力ということなのですかぁ」


とどめの一撃を放つと、爪がタントラの心臓を抉り、破壊した。


「グゥゥオオオオオオオオオオオオオオ!」



まどかがわたしに近寄ってこようとするのを右手で杏子が制し、首をふった。


杏子「……やめとけ」

まどか「……うぅ」



――まどか……。

  怖がらせて……ごめんね。


  こんな姿を見せてしまって……。


~公社ラボ  さやかside~


あたしはジェズイットに投げられ、大怪我を負ったが運良く命を取り留めた。

だが、その結果左半身が上手く動かなくなってしまった。


少年のレンジャー「聞いたぜさやか‥ゼノ隊は全滅だってな

         俺は、こっちの警備にまわされて命拾いしたぜ‥」

誰だ、こいつ。

再び歩き出す。


少年「待てよ腰抜け!」


腰抜け? 

誰が?

レンジャー「お前、一人だけ逃げてきたんだってな腰抜け‥!」


なるほど、ジェズイットが出向いてきたという事実はなかったことになったんだ。

そしてあたしは敗走してきた臆病者というわけだ。


レンジャー「お気の毒になエリート様!

      取り返しのつかない失態だな」


怒りが収まらない。


さやか「逃げた‥?あたしが? 剣聖に連なるあたしが?」


レンジャーは歩み寄ってきて、肩に手を置く。


レンジャー「そう‥お前は負けたんだほむらにな‥!

      お前がローディと称し、見下してたほむらに」


こいつは何を言っている?

細剣でそのレンジャーの左腕を切り刻む。



鮮血が床に、彼の左手とともに落ちる。


少年「っぅううう、さやかお前っ!」

さやか「そうだよ‥ほむらだ‥」


少年レンジャーは愕然としながら、わたしを見据えている。


さやか「あたし‥ほむらを殺さなきゃ‥」

~中層区街 -830m~


中層区と聞いていたが、わたしのイメージとはかけ離れていた。

商業区も近くにあり、、格段に生活のレベルが向上しているものだと思っていたのに、

その半数は水没しており、そのせいで発生したカビ臭い匂いで街を覆っている。


杏子「ここが中層区街‥そこから先が、

   組織(トリニティ)のエリアだよ


   施設までは、まだ少し遠いけれど‥

   もう少し、頑張れるかい? まどか?」



まどかが微笑む。

杏子「しかし、言葉が喋れないっていうのは不便だねぇ」

ほむら「でも、これはこれで愛らしくていいと思うわ」


まどかの肩に手をおく。

まどか「っ!?」


どうしたんだろう、顔を背けて。

もしかして照れてるのかしら。


――かわいい。


ほむら「でも、確かにまどか自身も喋りたいことがあるだろうし、

    そう考えると喋れないのは辛いわよね」


「ふふふ、お困りのようだね」


聞き覚えのある声。

この声は…まさか…。


「やぁ。僕は妖精。君たちの手助けをするために現れたんだよぅ!」


わたしは剣を抜いた。

どうみてもキュゥべえそのものだ。


その容姿を見るだけで殺意がこみ上げてくるというのに、

変な語尾のせいで殺意が倍増した。

妖精「ま、待つんだ。暁美ほむら!

   君はなにかきっと誤解をしている。

   
   僕は本当に君たちが困っているから手を貸しに来ただけなんだよぅ」


イラッ。


ほむら「黙りなさいっ!」


杏子「おい、まてよ。

   なんか知らないけど、手を貸してくれるって言ってんだ。
   
   話しぐらい聞いてやろう」

まどか「うう!」


まどかと杏子に肩を抑えられる。

ほむら「こいつの言うことを聞いてはダメなの」


杏子「なんだ、ほむらは知ってるのか?」


確かにこの世界のキュゥべえのことを知っているわけじゃない。

けれど、ほとんど元の世界の人格と変わっていないことを考えると、やっぱり…。


妖精「鹿目まどか。

   君はほむらたちと会話がしたいようだね。

   
   それが可能だと言ったらどうする!」


まどか「っ!?」

杏子「できるのか、そんなことが!」


妖精「もちろんだよぅ!」


妖精「その代わり、僕達の共同体。

   巣穴に住み着いたアリジゴクをやっつけてきて欲しいんだよぅ!」


イラッ!


ほむら「これは罠よ。騙されてはいけないわ」


まどか「うぅ……」

まどかが上目遣いでわたしを見てくる。


うう……やめて。

そんな目でみないで……。

そんなにみんなと話がしたいのかしら。

――でも、わたしもできることならまどかと。


ほむら「しょうがないわね。その巣穴とやらにはどうやって行くの?」


妖精「目を瞑って。心を落ち着けるんだよぅ」


イラッ。


妖精「準備はいいかい? いくよぅ!」


その瞬間、まどかと杏子とキュゥべえは消えた。


ほむら「ちょ、えっ! みんなどこへ行ったの?」


何が「心を落ち着けるんだよぅ」よ。

そんなもの無理に決まってるじゃない。


まさか…ふたりとも攫われて、帰ってこないんじゃ…。


さわっ……。


ほむら「っ!?」

なに、今、何かにお尻をさらわれたような。



後ろを振り返ってみるが、誰もいない。


ほむら「気のせい……かしら」


「こんなところで一人じゃ、危ないんじゃないのかい、お尋ね者のお嬢ちゃん」



背後から声がする。

振り向くと、逆髪の青年がわたしを見下ろしていた。

ほむら「あなたは…?」

ジェズイット「俺の名前はジェズイット。統治者(メンバー)の一人だ」


ほむら「なっ。なんでメンバーこんなところに?」


ジェズイット「上は退屈なんだよ。

       頭の硬い連中ばっかで、おまけに触る尻がたった1つしかない」


ほむら「尻…? っ!!?」

まさか、こいつがさっきわたしのお尻を!

怒りを向け蹴りを放つと、ジェズイットの姿はいつの間にか消えていた。


そして…。

ほむら「なっ!?」

背後からそっと胸元に手が添えられる。


胸を――胸まで触られた。

すかさず、剣を抜きその腕を切り落とそうと斬撃を繰り出す。


ジェズイット「その殺気。ただものじゃないね。お嬢ちゃん」


剣撃をひらりと交わし、水没した湖面に浮く瓦礫の上に飛び乗った。


ジェズイット「胸はいまいちだが、やる気だけは満々のようじゃないか? んん?
       
       あの竜(アジーン)に見込まれただけのことはある」


ほむら「アジーン? あなた、アジーンのことを?」

ジェズイット「まぁ…な。

       それよか、大丈夫かね?
       
       どっか悪いところはねぇか?」


ほむら「っ!? わたしのことをどこまで知っているの?」

ジェズイットは天井を見上げて、目をつぶった。


ジェズイット「空を見に行くらしいな」


男はわたしの質問には答えず、思い出すようにつぶやく。


ほむら「……」

ジェズイット「俺は――俺たちは長い間人間を見てきた

       どいつも、こいつも他人を蹴落として、
       
       今よりいい生活をとろくでもない連中ばかりだ」


下層区街のレンジャーや、さやかのことが頭によぎった。

そして、まどかに改造手術を行った研究者。


ジェズイット「だが、それは俺たち(メンバー)も変わらない。

       
       秩序を守るだのなんだの言ってるが、
       
       結局のところこの地下世界に守るものがあるなんて信じてない。

       
       そのくせ殺さず、雲の上から見てるだけ。

       
       
       それでも1000年の時、この世界は滅びず保たれてる。

       
       醜い争いごとだけを見せつけられながら
       

       同じような毎日を…繰り返し…繰り返し」


どこか哀愁をはらんだ声に、わたしは感じるものがあった。


それでも……この世界を守り続けてきたのか。


わたしは……守ることができなかった。


守ることができなかったから、ここまできた。

この人にはなかった『守るべきもの』があったけれど。


杏子「ほむら~~~ 戻ったぞぉ!!」



ジェズイット「お仲間が探してるようだ。

       俺はそろそろ退散するとする。
       
       いずれまた会おう」

ほむら「ま、待って!」

男の姿はすでにどこにもない。


湖面に波紋が広がっていき、地下の埃臭い空気が漂う。


ほむら「…何が言いたかったの?」


ほむら「早かったのね…」

杏子「アリジゴクは手強かったけど、二人でも問題なかったよ。

   それよりか、ほむら。すごいぞ!」


杏子の奥に隠れながら、まどかが顔を出す。


ほむら「まどか! よかった無事だったのね」

まどか(う、うん…)


これは……テレパシー!?


ほむら「まどか、あなたまさか、キュゥべえと変な契約を結んだりしなかったでしょうね?」

まどか(け、契約?)


杏子「大丈夫だ。見てたけど何も変わりはないよ。

   あいつらの技術で、テレパシーを飛ばせるようにしてくれたみたいだ」


ますます怪しい……。

ほむら「まどか、ちょっと身体を見せてもらっていい?」


まどか(えっ、ええ?)


まどかの両手を見る。

特にソウルジェムらしきものは見当たらないし、身体に刻印のようなものもない。


念のため、おかしいところがないか触って確かめてみる。

ほむら「よ、よかった…」


まどか(あ…あの。ほむらちゃん…手が、胸に…)

ほむら「あ、ああ…ごめんなさい」


さっきジェズイットに触られたせいでボディタッチが軽いものに感じてしまった…。


思い出すと顔が熱くなってくる。

杏子「スケベほむらは置いといて、よかったな、まどか」

スケベって…。


まどか「……うぅ」


また杏子の後ろに隠れてしまった。

何故かわたしが悪者になったようで、妙に居心地が悪い。


けれど――

またまどかと話しができるんだ。

杏子「この先はショッピングモールとして賑わってたんだが、洪水のせいで今はひどい有り様。

   アンデットのゾンビには気をつけろ。
   
   本体を倒さないと、何度でも復活してくる」


まどか(おばけ…いるのかな?)

ほむら「実体のない敵がいたりするの?」

杏子「ガスの塊みたいなのはいるな。ほむらの剣でも切れないことはないだろうけど

   そう簡単に当たらないかもな」


まどか(わたしがなんとか出来ればいいんだけど…おばけは恐いよ…)


杏子「大丈夫。ほむらがきっちりガードしてくれるってよ

   ついでに胸も揉んでやるって!」

まどか(ええっ!!?)

ほむら「言ってないわよ、そんなこと。

    いい加減その話題からは離れなさい」


杏子「いいじゃん、まどかも揉んでもらったらもっと…」

急にまどかがふらりとふらついて、わたしはその身体を支えた。

ほむら「まどかっ!?」


杏子「ちょっと休もう。

   あたしは先を見てくるから、ちょっとこの辺りにいてくれよ」

まどか(……ごめんね)

支柱に背を向けて、二人並んで座った。


ほむら「大丈夫。それより、身体のほうは?」

まどか(…うん。たまに息苦しくなるんだ。

    ありがとう。少し。楽になったよ)


ほむら「よかった…苦しいときは無理しないで」

まどか(ありがとう…)


どうしよう…。

急に二人きりになって、何を話していいのかしら。

まどか(ほむらちゃんは――空を見たことがあるんだよね?)

ほむら「……ええ。わたしの世界には当たり前にあるものだったわ」


まどか(もしかしたら、

    ほむらちゃんはずっと昔の人だったのかな


    まだ戦争で大気を汚染される前に生きてて……)


それはわたしも考えていた仮説である。

時間遡行の力が誤って作用して、逆に未来のこの世界に飛んでしまったのだとしたら。


けれどそれなら何故、魔法少女の力が失われたのか。


まどか(戻りたいよね…そんな素敵な世界に生まれたなら…)

どうかしら。


ほむら「あちらもそんなにいいものでもないわ。

    生きていくのはどこにいても簡単じゃない」

まどか(だけど…きっとほむらちゃんのことを心配してる人がいるはずだよ

    家族や、お友達も…)


ほむら「……」


俯いたわたしを見て、まどかは何か言ってはいけないことを言ってしまったのではないかと、心配そうな顔をした。


まどか(ごめん、もしかしてほむらちゃんの家族もわたしみたいにもう…)

ほむら「いえ。 そうではないの。 

    ただわたしは…」


あなただけを追って、

それ以外の何もかもを失くしてしまったから。


ほむら「わたしはね、まどか。

    もともと身体が丈夫なほうではなくて。
        

    いてもいなくても変わらない、この世界ならとても生きていけないぐらい弱い子だったの」


まどか(ほむらちゃんが…?)

ほむら「それでも、わたしを励まして――勇気づけてくれる子がいた

    命をかけて、わたしを…わたしたちのことを守ってくれて。
    
    自分は死んでしまうのに、『よかった』って」


あの時の笑顔が忘れられない。


ほむら「だからその子のためにね…わたしは頑張ることにしたの。

    その子みたいに強くなろうって。
    

    何があっても諦めないで、頑張ろうって
    
    大切な人を守れるように」



まどか(そうだったんだ… 。

    
    そっか…


    わたしも、頑張ったらほむらちゃんみたいになれるかな?)


まどかはわたしの肩に頭をあずけてきた。

彼女の肩に手を遣り、その身体を引き寄せる。


ほむら「わたしみたいにならなくていい。

    ――わたしは今のままのあなたが、好き」

~まどかside~


『好き』という言葉に思わずドキッとしてしまいました。

今まで生きてきて、誰かに好きだと言われたことなんて一度もありません。


だから、あまりに嬉し過ぎてどう返していいかわからなくなってしまいました。


優しい言葉をかけてもらうことに慣れてないせいか、胸が締め付けられて、苦しいです。

なのにこんな暗い、恐いと思っていた地下世界が、急に温かいものに思えてきました。



いつでも死んでいいと思っていたのに、


もし死ぬなら、今…このままわたしを幸せなままいってしまいたいと思えました。

――『空』がなくてもいい。

  この閉ざされた世界で一生を終えてもいい。
  

  だから、わたしは…
  
  ほむらちゃんを助けたい。
  

  ほむらちゃんを苦しめるものを、わたしは…。


あれ? なんだろう…。


わたし…前にもこんなことを考えていた気がする。

ここまでにしておきます。

ゲームをやってない方に補足しておきますが、
まどかの元のキャラは最後まで会話ができるようにはなりません。

バイオ公社ラボで肺を改造された時に声帯を切除されています。

乙でした

>>275 >>277
ありがとうございます。

>276
まだ裏があるかもしれないですよ。

~放棄商業区 A区 -840m~


妙にじめじめしている。


そしてカビの臭いをかき消すほど強烈な腐乱臭が鼻についた。

ほむら「まさか、本物のゾンビを相手にすることになるとは…」


杏子「ここだけは何度通っても慣れない…なんだってこの先にアジトを構えたんだか」

ほむら「身を隠すにはちょうどいいってことね」




杏子「それにしても、まどか、気合入ってるな。

   お化けが恐いとか言ってたわりに、ほとんどの敵はあいつがやってるんだけど」


ほむら「無理だけはしないでほしいわ。

    爆弾(トラップ)も混ぜつつ、先に進んでいきましょう」

ほどなくして、杏子たちの拠点が見えてきた。



~トリニティ ビット -850m~

杏子「ついたよ。ここがあたしたち組織の拠点だ」

ほむら「ここが‥?誰もいないけど」

杏子「おおっぴらには出歩けない身分だからね」


まどか「……」


ほむら「まどか?」

少しずつ歩調が弱くなり、倒れる。



ほむら「まどかっ!?」

杏子「誰か、早く!」


組織の人間が数名現れ、まどかは運ばれていった。

ベッドに横たわっているまどかを見ながら杏子に聞く。

ほむら「まどかは‥‥」

杏子「命に別状はないらしい‥」

ほむら「そう…」


杏子「今の‥所はね‥

   まどかはもうしばらく眠らせてあげよう‥」


わたしは頷いた。


杏子「あたしがついてるからほむらはわたしたち(トリニティ)の街でも見てきなよ」

反乱組織の町。

杏子はここで、この地下世界と戦っているのか。


薄暗く、人の存在がほとんどない。

わたしを警戒しているのかもしれなかった。

町というよりはショッピングモールを改装したような…。



???「ほむら‥さんだな話は聞いている」


褐色の肌をした巨体の男が姿を現した。


この男が杏子の言っていたリーダー…。


???「わたしは‥、いや

    もう知っているかなレンジャーさん」


ほむら「反政府組織トリニティのリーダー

    わたしと同じおたずね者」


メベト「そう今や君も同じ‥

    追われる身」



この人を信用していいのかしら。


メベト「いや‥責めるつもりはないよほむらさん‥

    君がよく戦ってくれたので‥

    我々はまどかを保護することができた


    知ってのとおりあの子は

    汚れた空気の中では生きてゆけないが‥


    ここなら、薬もある

    もう大丈夫だ」


もう大丈夫?

いや、それは嘘だ。

ほむら「外へ‥空へ連れて行けばまどかは

    助かるんじゃないの‥?」



メベト「空が本当にあるならば‥の話だ

    そんなあやふやなものに‥

    あの子の命をかけるのか?」



ほむら「……」


メベト「あの子を連れまわすのは‥

    はだしでガラスの破片の上を歩かせるようなものだ‥


    よく考えてみる事だほむら‥

    君が、我々の同士となって‥

    共に、彼女を守りたいと言うならば

    もちろん歓迎するよ」


ほむら「……」


わたしはその場を後にした。




結局彼らはわたしとまどかをただ利用したいだけなのね。

――『空が本当にあるならば…の話だ』


仮に『空』へ彼女を連れていったとしても


その頃には、わたしは…無事でいられるだろうか。




わたしが休憩室でベットに腰掛けていると、杏子が入ってきた。

杏子「どうした、ぼんやりして」


ほむら「わたし…死ぬのかしら?」


杏子は困った顔をした。


杏子「そりゃ、人は誰だってそのうち…」

ほむら「そうじゃない…」

杏子「…例の力か?」


ほむら「分かるの‥

    あの力を使うたび


    命が‥けずれてゆくのが‥


    どうして、わたしにあんな力が‥

    命を使って何をしろと?」


――何かを‥壊す‥?

  もしそうならわたしは‥


まどか「うぅううううううう!」

ほむら「あれは、まどかの悲鳴!」


隣の部屋で、武器をもった二人のトリニティがまどかに向かって迫っていた。


杏子「おい!まどかをどうする気だ!」

トリニティ「……」


ほむら「武器を収めて。あなたたちとは戦いたくない」


杏子「ダメだ。あいつらはメベトの命令で動いてる。

   あたしたちがどうこう言っても聞いちゃくれない」


ほむら「なら、殴ってでも止めるしかないわね」


わたしは二人目掛けて、加速し勢いに任せて体当たりした。

壁に衝突した二人の武器を奪い取り、杏子の持っていた縄で腕を縛りあげる。


杏子「いったいどうして…」

シャッターが開く。

走っていって壁に寄り添い、死角から銃を構える杏子

そこにメベトが現れた。


ほむら「なぜ、まどかを襲ったの!?」

杏子「まどかをさらって‥それを政府のせいにすれば

   ほむらを仲間にできるとでも考えたのか?」



杏子に銃を向けられたメベトは両手を後ろに組んだ。


メベト「‥‥‥

    それが、我々にとって正義であれば‥

    わたしは、それを行う」


杏子「あんたが命じたのか

   メベトッ!?」


メベト「‥‥‥」


ほむら「あなたの言う正義が

    分かる気がする‥でも

    でも、賛同は出来ない」


杏子「……」


ほむら「わたしは‥わたし達は行く
    
    空へ‥‥!」


まどかが起きてきて、微笑んで頷いた。

杏子はメベトを見ながら、横を通り過ぎる。



メベト「ほむら‥持って行くといい‥」


わたしは放り投げられた鍵を受け止めた。


メベト「それは鍵だ‥君が真に空を手にしようと言うのなら

    同じ物が、あと3つ必要になる‥

    だが、残りの鍵も自然と君の物となろう」


手のひらから視線を外し、メベトを見た。


メベト「‥行きたまえ

    まどかには時間が無い事を、忘れるな」

お疲れ様です。
正直ゲームやってない人がまだ見てるかわからないですが、
とりあえず更新がんばります。

乙乙
ここからが本番だ

乙です
ゲームやってないけどドキドキしながら見てるよ


ゲームやってないけどまだ見てるよ


まどかもそうだがほむらにも時間はないのだろうな……

>>295
D-ダイブ使わないときつい相手がたくさん出てきますね。

>>296 >>297
おお、ありがとうございます!
結構ゲームの固有キャラ名とか出てきて申し訳ないです。
自分はあまり描写が得意ではないので、雰囲気だけでも伝わってれば嬉しいです。

>>298
空を目指してまっすぐ死に向かって突き進んでいくのが心が痛いです。

~ライフライン 下層 -800m~



下水処理施設のような、配管が多数上層に向かって伸びていた。

杏子の話だと、この上に上層区街があるらしい。


そこでは中層区とは比べ物にならないほど水準の高い暮らしをしているそうだ。

世界の半分以上の人が泣いている中で……。



でも、それはわたしの世界もさほど変わらないのかものなのかもしれない。

ただ、誰も見ないふりをしているだけ。

ほむら「よかったの? 組織を抜けてまで付いて来て…」

杏子「いいのさ。メベトだってあんたに賭けてみたくなったんだろう?

   組織(トリニティ)はあんたに負けたんだ」



ほむら「だけど、これから統治者(メンバー)たちと戦うことになるのよ

    あなたまで命の危険に…」


生き残れる保証はどこにもない。

杏子「なんでかね…。

   自分でもよくわからないよ。
   
   だけど、さっきはまどかを盾にとって戦おうって気にはなれなかった。
   
   きっと情が移ったんだろうな。


   
   氷結廃道でさ、
   
   あんたがしようとしてること。
   
   空を目指そうとしていることを、間違いじゃないって言っただろう?

   
   あたしは。
   
   今でもそれが間違いじゃないと思ってる」


ほむら「…ありがとう」

~ライフライン 中層東側 -760m~


杏子「まどか。具合のほうはどうだい?」

まどか(うん。休んだおかげで、だいぶ良くなったよ

    ありがとう、杏子ちゃん)


杏子「ほむらと話しはできたか?」

まどか(う、うん…。

    もっとゆっくりお話ししたい…
    
    だけど…)
    
杏子「何か問題でもあるのか?」


まどか(ほむらちゃんが無理してるんじゃないかって。

    大事なことは、きっとわたしに教えてくれない気がするの)


杏子「なるほどな。わかる気がする。

   あいつの力のこと…
   
   ほむら自身が一番悩んでいるけど、
   
   まどかにだけは弱いところみせないようにしているんだろう」


まどか(どうしたら心開いてくれるんだろうな)


杏子「あんたに初めて会った時は、
   
   なんでそんなにほむらに入れ込んでいるかわからなかったけど
   
   最近じゃ、あいつのあんたを気にかける姿のほうが気になってる」

まどか(ほむらちゃんが? わたしの?


    でも、ほむらちゃんは優しいから…

    杏子ちゃんにも、誰でも優しくない?)


杏子「いやいや。あいつはあんたしか見てないぞ」


まどか(えっ!?)

杏子「なんだ。無自覚なんだな?

   試しにあいつの5mぐらい離れて、ふらっと倒れてみなよ
   
   ダッシュで飛んでくるから」


まどか(そ、そんな。ほむらちゃんに悪いよ。

    ……いろんな意味で。
    
    でも本当に? ほむらちゃんが?)


杏子「なんだ、まんざらでもないような顔して」


まどか(…っ)

杏子(こりゃ、もしかして踏んだかな)

ライフライン上層の偵察からほむらが戻ってくる。


ほむら「大丈夫。待ち伏せはないみたいよ」

杏子「ほむら。後はあんたがなんとかしろよ」


まどか(杏子ちゃんっ!)

ほむら「…??」

~ライフライン上層 東側 -720m~


まどか(……)


どうしたのかしら。

さっきからずっとまどかが黙っている。


ほむら「まどか? どこか具合がわるいの?」

顔を近づけて、頭に手を当てる。

まどか「っ!?」


すると、そっぽを向いて黙ってしまった。


ほむら「まどかっ?」

わたし、何かまずいことをしたのかしら。


杏子「くくく…」

杏子は口に手を当てて、笑いをこらえているように見えた。


ますます何があったか気になる。

~ライフライン 上層東側 まどかside~


『いやいや。あいつはあんたしか見てないぞ』


杏子ちゃんがあんなこと言ったせいで…うまく話せないよ。

たしかに、ずっと見られてる。

わたしの様子がおかしいからだと思うけど…。

いつもわたしのことを気にかけてくれている。


…どうしよう。ドキドキしてきた。


『――わたしは今のままのあなたが、好き』


もしほむらちゃんがわたしのことをす、好きだったら…。

でも、でも、それは、そういう意味じゃない…よね?

わたしを励ますために言ってくれたんだ。


…はぁ。

って、なんでがっかりしてるの。それだけで十分なのに。


わたしが右往左往しながら考えを巡らせていると、ほむらちゃんが肩に手をおいて心配そうに言う。


ほむら「まどか。やっぱりつらそうだから、背中に乗って」

まどか(お、おんぶ!?)


そんなの悪いよ、ほむらちゃんだってきっと疲れてるのに。

でも、ほむらちゃんの背中…いいなぁ。

わたしの身体はほむらちゃんを抱きしめていた。


ほむら「よいしょっ」

まどか(あ・・・)

そんなつもりじゃなかったのに・・・


でも、温かい。

ずっとこうしてたい・・・。


もっとほむらちゃんのこと・・・。

まどか(ねぇ、ずっと気になってたことがあるんだ)

ほむら「どうしたの? 改まって」


まどか(ほむらちゃんと初めて会ったとき、

    サイクロプスからわたしを守ってくれたときに
    
    ほむらちゃんの声が聞こえたの。

    
    わたしの名前を呼ぶ声)


ほむら「・・・」

名前を伝える前から、ほむらちゃんはわたしのことを知っていた・・。


まどか(あれは、わたしの聞き間違い・・・かな?)

もしかしたら、わたしとほむらちゃんはどこかで会ったことがあるんじゃないかって。


わたしのことを守ってくれるのは前にほむらちゃんが話してくれた『違う世界』のことと関係がある。

ほむら「・・・そっか。わたし、あのときあなたの名前を呼んでたのね」

ほむらちゃんはうつむきながら、優しい声でつぶやいた。


ほむら「わたしはね・・たった一人大事な友達がいたの」

まどか(お友達・・・?)

ほむら「その子を守ることだけを考えて過ごしてきた。

    
    だけど、結局ダメだった
    
    守ることができないまま、気がついたらこの世界に飛ばされていたの

    
    
    そしたら、守るべきはずのあなたがこの世界にいた」



あの時の。

公社ラボでの言葉を思い出した。


――どうしてこんなところに来たか、今もわからない。

でも…ここに来てもわたしの気持ちは変わらない。
    
わたしの願いは何一つ変わらない。
    
まどか。あなたを救いたい。


ああ・・・。そうだったんだ。

ほむらちゃんはずっと前から、わたしを…『違うわたし』を見てきたんだ。


この気持ちをどう伝えていいかわからない。


ほむらちゃんからしてみれば、大事な人に再会できた喜びでいっぱいだったはず。

守れなかった人を再び守る使命ができたことは、

きっとほむらちゃんにとって生きる目的になって。


だからこそ空を目指そうって言ってくれて。

命をかけてくれる。

だけど、わたしは・・・。

わたしはその子とは違う。

この薄暗い地下の世界で、何もできず、誰に必要とされることもないまま、利用されて・・。


とてもほむらちゃんに守ってもらえるような

価値のある人間じゃなくて。


広い空の下で生きてきた、ほむらちゃんの知ってる子はわたしなんかとは全然違う。

もっと明るくてほむらちゃんにふさわしい子だったはず。


その子とたまたま似ていて、たまたま名前も同じだったからという理由で――。

お友達になってもらえるような、そんな人間じゃ。


――命をかけてもらうような存在じゃない。


なのに・・。

初めてわたしのために何かをしてくれるほむらちゃんを・・わたしは・・・


おろおろ歩いているわたしの手を引いてくれるほむらちゃんが。

わたしをこんな身体にした人を許せないと怒ってくれたほむらちゃんが。

どんなピンチなときでも、諦めないで立ち向かってくほむらちゃんが。



この子が好きなのは、ほむらちゃんが守りたいのは、わたしなんかじゃないのに。


それでも、嬉しくって。。

どうしたらいいの?


わたしは、このままでいいの?

これからもっと強い敵が現れるはず。

そしたらほむらちゃんはあの力を使わずにはいられない。


もし、わたしのせいで本当にほむらちゃんが、死んでしまったら。

きっと自分を許せなくなる。


あれは

あの力はほむらちゃんにとって「良くない」ものだ。


それに・・・。

工業区でネガティブのギーガギスと戦ったとき

ほむらちゃんの背中に触わったら妙な感触がした。


まるで身体が別の何かに侵食されているようで・・・。

あの力を使い続ければ、ほむらちゃんはきっと。

そのことに気づいてるはず。


本当は止めたい。

このままほむらちゃんが死んでしまうぐらいなら、ずっと地下に閉じこもったままでもいい。

空を知らないまま死んでも構わない。


それでも、ほむらちゃんは空を目指すのをやめないなら・・・。

――わたしはほむらちゃんのそばで死にたい。

ここまでにしておきます。

ようやく百合っぽい話になってきました。
苦手な方すいません。


気がつけば後戻りできないほどに百合
ナイスな展開じゃないか!

乙でした
すごくいいと思うよ

>>319
ちょっと重すぎるような気もしますが、ありがとうございます。

>>320
ありがとうございます。
ご支持いただき何よりですガチ百合はじまります。

~ライフライン 上層西側~

~ほむらside~


地下の空気が変わった。

淀みがない澄んだ空気。

ライフラインの出口が近いのだろう。


もうすぐで上層区街に出る。そうしたら少し休憩しようと杏子が言った。


杏子「昔の知り合いの家がある。信用できるやつだ」


この地下世界で時間に関する間隔はすっかり狂ってしまったが、

ここに来てからおそらく3日は過ぎているはず。


ほとんど歩きづめだったから、ゆっくり眠れる場所があるのはありがたかった。

背中のまどかは、何か思い悩むようにして黙っている。

過去の話をして何を思ったんだろう。


なんにしろ、わたしは彼女を空に連れて行く。


ライフラインの自動扉が開くと

その先には見知ったレンジャースーツが、上空の光を眺めていた。


何を眺めているのかわからない。


さやか「おっす、相棒!」


生きていたの? という驚き以外にない。

武器を手にとるため、まどかを下ろす。


彼女を牽制する一発を杏子が放つ。


がっ。


何か素早いものが銃弾を弾いた。

金属音がぶつかり合う音。

その正体を間もなく知るところとなった。


ほむら「なっ!?」


さやかの左の下半身は黒く変色していた。


肉は剥がれ落ち、骨格がむき出しになってその左手には、


不自然なほど細長い腕がつながっていた。


その腕には見覚えがあった。

わたしと……わたしが竜変身したときのものに似ている……。

それを体内に埋め込んで。


さやか「ああ、これね。 あたしの相棒がさ

    ローディのくせに生意気だからさ」


こともなげにさやかは言うが、杏子もまどかも絶句して、まともに見ていられない。


ここまでして何をしたいのか…。

とても正気とは思えない。


さやか「そいつを殺そうと思って、あたしも強くしてもらったんだよ」

ほむら「どこまであなたは愚かなのっ!?」


さやか「目には目を。歯には歯を。

    あんた、もう人間やめてるんでしょう?
    
    ならつまり、そういうことだよね?
    
    人間のままで勝てないなら、人間やめるしかないじゃない
    

    化け物めっ!
    
    これであんたと一緒だよ!」


杏子「ほむらをてめぇと一緒にすんじゃねえっ!」

さやか「あんたたちだって、そろそろ気づいてるはずでしょ

    こいつは自分とは違う。
    
    こいつといると危ないってこと」


杏子「なんだと?」

さやか「竜は世界を壊すためのものなんだってね。

    化け物の意識に支配されてる。
    

    もうイッちゃってるんだよ。
    
    ほむらは。

    
    空を目指したいっていうのは、竜が世界の秩序を壊そうとしてるだけ」


ほむら「・・・」

そんなことはない。

わたしは竜(アジーン)に飲み込まれてはいない。


・・・大丈夫だ。


さやか「なんにしてももう手遅れだからさ。

    ささっとここで終わらせてあげる」


さやかが疾走してこちらに向かってくる。


杏子「なっ、なんて早さだ」


わたしは一歩前に出て、抜刀する。

ほむら「うっ!」


さやか剣撃を受け止めるだけで精一杯だった。

以前のような技に切れがない。


だが、それを凌駕するような力で押しつぶされそう。


まどかが背後から氷の刃(レイガ)をさやかに向けて放つが、遊んでいる左手で難なくなぎ払う。

まどか(効かない・・・ほむらちゃん逃げて)

杏子「一旦、立てなおそう。まどか、魔法陣を」


さやかに蹴りを入れてヒットバックさせて距離を保つ。

その隙にまどかがグランパドラームの陣をさやかの前に2つ張り、天井まで伸びる火柱がそびえ立った。

これで簡単には近寄れないだろう。


さやか「時間稼ぎのつもり? 無駄だよ」

さやかの左手がその炎の隙間を縫うようにしてこちらへ向かってくる。

ほむら「あ、足が」

そのさやかの左手に右の足を掴まれる。

杏子「ほむらっ!?」


その腕めけて杏子が発砲するも、全然効く様子がない。

このままじゃ、まどかが放った炎の魔法陣にひきづりこまれる。

まどかがわたしに向かって手をのばす。


まどか(ほむらちゃん!)

ほむら「まどか・・」

だけど、まどかのその手はつかめない。

掴めば一緒にまどかまで魔法陣の中にひきづりこまれるだろう。


さやか「これでおしまいだ、ほむら!」

わたしは剣をその場に突き立て、進行を遅らせ、なんとか留まることができた。

その隙にまどかがイレーヌマジックで魔法陣を解除する。

杏子「助かった・・」

さやか「寿命が伸びただけだよ」

足をひき寄せながら、じわりじわりと剣を構えて近づいてくるさやか。


ほむら「くっ・・・」

ここは竜変身(D-ダイブ)しかないと悟った。


――猛烈な殺意が、沸き立ってくる。


殺したい。今すぐこの女を引き裂きたい…。

いや、焼き殺してやる。


自分の手足が醜くひしゃけて変形していくのがわかる。

そんなことはどうでもいい。



早く息の根をとめたい。

さやか「待ってたよ。わたしの秘密兵器、試す時が来た…」


さやかが何か言っているが、かまうものか。


今すぐ消し炭にしてやる。


さやか「ドラゴンキラーっ!?」

さやかの変形した左手がわたしの腹部を貫く。

「ぐっ!?」


さやか「どう? 痛い?

    痛いっしょ? 
    
    あたしもね。痛かった。

    
    痛かったんだよぉおおおおおおお。
    
    こんな身体になるなんて、思ってもみなかったけど
    
    でも満足。あんたのその顔が見れてよかった。
    
    ほら。じわじわいたぶってあげ…」



至近距離からのブレス。


杏子「なんだって!?」



――この身体に傷を負わせたこと。

  後悔させてやる。


さやかは回避するすべもなく――みるみるうちに体力を奪われていく。


さやか「ぅぅううぁぁぁあぁああああああああああああああああ」

杏子「お、おい、ほむらっ! そろそろやめないと、お前の身体がっ!」

――焼けろ。二度とわたしの前に現れるな! 

  魂ごと焼きつくしてやる。


杏子「くそっ。聞いちゃいない

   って、まどか!? おい、近寄るな。
   
   今のほむらは何するかわかんないぞ」

まどか(ほむらちゃん。 やめて…。お願い…)


――誰だ? わたしを止めようと言うのか?


まどか(お願い。もう、その人は…)


――邪魔をするなっ! 二度と姿を見せぬよう、細胞ごと焼ききってくれる!


まどか(そんなことしなくていいよっ! 

    まだほむらちゃんは、やることがあるの!
    
    わたしと一緒に…
    
    わたしを…空に連れてってくれるんじゃなかったの!?)

――空…だと? 


まどか(あの約束は、嘘だったの!?

    こんなところで、自分を見失って、空なんていけるわけないよっ!
    
    二人で…二人で…わたしは…)


――そうだ。 わたしは。

  わたしはこの子と。


竜ほむら「そうだったわね…」


まどかを泣かせてしまった。

見失ってはいけないものがあったのに。

どんな時でも、わたしはわたしでいて、彼女を守らなくてはいけなかったのに。


でも、もう大丈夫。

竜変身を解除して、まどかの肩を抱きしめる。


ほむら「行きましょう。空へ…」


まどか「うぅぅぅ」


まどかの声が耳に響く。



あれ…意識が… 、力を使いすぎてしまったみたい。

~上層区街 -700m~


~杏子side~


暗がりの中を抜けると、そこは人の気配がした。

ほむらを背負いながら周囲に気を張る。どうやらレンジャーの姿は見えない。

まどか(ここが上層区? すごい、明るい)


……懐かしいな。久しぶりに来たが、ここは変わらないみたいだ。


あらかじめ連絡をつけておいた相手との待ち合わせの場所に向かう。


その途中、ほむらが意識を取り戻した。

まどかは街のあかりに目を奪われていた。

ほむら「ここは…?」


ほむら「ここは…?」

杏子「お目覚めかい? 上層区だ。もうすぐで休めるから、しばらく寝てな」

ほむら「――倒れてしまったのね…わたし」

杏子「いいんだ。


   ……いや、よくないか。

   無茶ばっかして、心配させるなよ。

   
   
   それと、まどかにも礼を言っとけよ

   
   あんたの暴走を体張って止めてくれたんだから」


ほむら「――そう、だったわね」

杏子「なんだ、意識あったのか?」

ほむら「ええ。と言っても、最後だけだけど。

    でも、おかげで今後は変身しても、少しの間は意識を保てそう。

    
    あなたも…ずいぶん不安にさせてしまってごめんなさい。
    
    怖かったでしょう?」



杏子「謝るなよ。

   そりゃ、怖くなかったって言えばうそになるけどさ。
   
   あんたが一番悩んでたの知ってるから」
   

   
ほむら「…杏子。ありがとう」

杏子「いいから! そういうのいいからっ」

ほむら「そう…。あなたは、全然変わらないのね?」

杏子「はぁ? 何の話だ?」

ほむら「いいえ、こっちのこと」

ほむらは微笑んだ。

たまにわけわからないこというよな、こいつ。

まあいいか。


ほむら「ところで、さやかは……もう」


杏子「いや、気がついたらいなくなってた。

   あの状態で、とても生きてるとは思えないけどさ」


まさかあんな手を使ってまでわたしを殺しにくるなんて。


杏子「それより、身体は大丈夫なのか?

   あんだけ暴れて、相当負担かかっただろ」

   
ほむら「――大丈夫。……とはいえないかも。

    今は平気でも、時間をおいて反動がくることもあるから」


杏子「そうか。なら今日はベッドで休んで、様子を見ようか」


ほむら「気になっていたけど、どこへ行こうとしているの?」


杏子「昔の…あたしの友達のうちだよ」


ほむら「……その子はあなたがあんな活動をしてたことを?」


杏子「もちろん知ってる。

   まあ、ちょっと変わったやつなんだけどさ、
   
   あたしたちを売ったりするような奴じゃないってことは保証するよ」


ほむら「変わった子?」


それについてはおいおいわかるだろう…。

普段はまともなんだけどな…



今回はまどかとほむらがいるから、厄介なことになるかもしれない。

ここまでにしておきます。
レスが伸びて何よりです。

嬉しそうだな
協力して伸ばそうぜ!

乙乙
Dフォームに甘えてるとひどい目に合うなやっぱり
このタイミングでこうなるのは大体想像できてた

伸びれば何でもいいのか?応援しようと思ったが心底腐ってるやつだからやめた
こんな強欲なやつはどうせ無駄にレス伸ばしてんだろ

>>353
結構前からSSは書いているのですが、粘着されたのは初めてなので新鮮です。

>>354
初見のブーストボッシュではダイブ使ったような気がします。
実際強いです。

>>355
ご苦労様です!!

>>356 こらこらww
ゲーム知らんけど面白いよ。乙

乙でした
ゲームの方は把握してないけど、使う度に嫌なフラグが高まってそうな感じが怖い

やっぱ来るならここでコイツに荒らされるよな
予想してたのかメンタル強そうで安心した

いいね、粘着推奨みたいなんで粘着してやろうか

ゴキブリがSS書いてると某所できいてきました
成る程たしかに>>1はゴキブリみたいだな

>>356
触らぬ蠅に病気なしだぞ。

>>357
いつもありがとうございます。続きも頑張りますね。

>>358
ソウルジェムがグリーフシードで浄化できない感じですからね。
それだけでプレッシャー半端ないと思います。

>>359
最近は書いてなかったのですが、ダラダラ書いてると出てくるんでしょうか?
ありがとうございます。

>>360 >>361
IDを変えるなら、もう少し時間を空けたほうが自然になるのでいいと思いました!

>>362
仰るとおりです。
一応できるだけ全レスしようと思ってたのですが、少し控えるようにします。

「来ましたわね。お待ちしておりましたわ」


公園のベンチから立ち上がったのは緑色のウェーブがかった髪の女の子。


ほむら「志筑仁美っ!?」


杏子「えっ! お前、なんで仁美のこと知ってるんだ?」


ほむらがしまったという顔をする。



ほむら「それは…えっと…」


仁美「杏子さん。そちらの方は?


   見たところレンジャーのようですが、

   なぜあなたが、レンジャーと一緒に?」

杏子「んまぁ…いろいろあってだな」


仁美「いろいろ…? はっ!?


   ま、まさか、佐倉さん!


あなたこのレンジャーさんといけな…」


杏子「違う!」


仁美は興奮しながらあたしの手を握ってきた。


あいかわらずのようだ。

ほむらはぽかんとした顔をしている。


仁美「……どうやら、本当のようですわね。

   残念ですわ」


わかってくれたみたいだ。

ていうか、何故納得している?


やはり仁美は侮れない。本物を嗅ぎ分けてくる。

仁美「いえ。組み合わせも相性も決して悪くはないと思うのですが、

   佐倉さんも、そちらのレンジャーさんも同じようなタイプで、
   
   だから一線を超えるに至らなかったのかも知れませんね。

   
   惜しいです」


ほむら「ねぇ…この子…何を言ってるの?」

ほむらが小声でつぶやく。


杏子「気にしたら、負けだと思え」



仁美「ところで、杏子さん。3人でみえると仰っていたような気がしますが、もう一人は?」

杏子「あれ? そういやまどかは?」

ほむら「あ、あれっ!!」

ほむらが指差す方向に、まどかとそれに絡みつく中年の酒飲みがいた。


酒飲み「どこ見て歩いてんじゃぁ!? ああ?」


まどか「うぅぅぅ…」


仁美「もしかして、あの子がもう一人の?」

杏子「弱ったな。下手に騒がれるパトロールがやってくるだろうし…」



ほむら「わたしがなんとかしてくるわ」


ほむらは、酔っぱらいの中年の肩をつかむ。


…さすが、まどかのこととなると早いな。

ほむら「わたしの連れがどうかしましたか?」

酒飲み「ああん? 」


酒飲みが振り返ると、ほむらは剣の柄を腹部に素早く叩きこむ


酒飲み「ぐはぁっ!」


そして、『Trash Box』と書かれた箱目掛けて、蹴りを入れた。

中年の男はゴミ捨て場の電柱の前で、倒れこんで痙攣したように足をぴくぴくさせているが、大丈夫か?

ほむら「今のうちに」

まどかの手を引き、こちらに向かってくる。


まどかは心なしか、照れてるように見えた。


杏子「まどかのことになると容赦ないよな…

   仁美。

   レンジャーが来る前に行くぞ… 
   

   仁美?」


両手を合わせて、まどかとほむらを嬉しそうに見つめている。


仁美「杏子さん。あの羽根のついた方は、なんとおっしゃるのですか?

杏子「ちっ。 いいから! 後にしろ」


わたしも仁美の手を引いて、その場を後にした。

始終、まどかとほむらを見て、はぁ、はぁと気持ちの悪い声をあげていた。




どうやら、気づいてしまったようだ。


面倒なことになりそうだな・・・

おもにほむらが。


~仁美 ホーム~

ほむら視点


仁美「家にはわたししかいませんので、気楽にくつろいで下さい」

杏子「悪いな。 急におしかけて」

仁美「いえいえ。他ならぬ杏子さんの頼みですもの。

   これまでご無事で何よりでしたわ」


部屋はいくつかあるようだが、彼女一人で暮らしているのだろうか?

仁美「ただ、3人を泊めるには部屋が足りませんので、

   どなたか相部屋に…


   
   ほむらさんと、まどかさんは相部屋でよろしいでしょうか?」


ほむら「わたしは構わないけれど、まどかは?」


屋根のある場所で休めるだけでありがたい。


まどか(う、うん! 大丈夫だよ)

仁美「え? 頭の中に声が!?」


杏子「テレパシーだ。すごいだろ?」

仁美「世の中にはわたしの知らないことがまだまだたくさんあるのですね」


深くは追求してこないようだ。

魔法が普通にある世界なのだから、こういう非科学的な現象にも寛容なのかもしれないと思った。

仁美「食事をとってから休まれる方がいいでしょうか?」

杏子「そうだな」


仁美「人数分作るのは大変ですので、

   杏子さん手を貸していただいてもらいますわ」


杏子「了解。それぐらいならいくらでも言ってくれ」


仁美「それでは、その間にまどかさんと、ほむらさんはお風呂に入ってきてもらえますか?」

ほむら「お風呂までいただいていいの?」

仁美「ええ。二人入れますので、まどかさんと一緒に入ってきて下さい。

   後でわたしと杏子さんで入りますので」


ほむら「わかったわ」

仁美「それでは、まどかさん。こちらですわ」

仁美がまどかの肩を掴み、こちらがお風呂ですので、と半ば強引に案内する。


ほむら「確かに少し変わってはいるけど、あなたが言うほどではないわね」



杏子「あんたがそう思うなら、それでいいんだ」


杏子は首を垂れながら、野菜を洗っていた。

~まどか視点~

お風呂の脱衣所に連れ込まれたわたしは、

悠然と笑顔を向ける仁美ちゃんに、何故か壁ドンされてしまいました。



まどか(あの…どうしたの?)

仁美「まどかさん…あなた…ほむらさんのことを好きですわよね?」


まどか(な、なにを言ってるの?)

仁美「隠さなくてもいいのですよ。全てわかっているのですから」


嬉しそうに顔を近づけてきます。

全てを見透かしたような目で見てくるものだから――というか実際に見透かしているものだから、目を逸らしてしまいます。

仁美「あなたたち二人を見てびびっときましたの。

   あまりにわたしが思い描く理想的なカップルで、驚くほどでした」


まどか(なっ…)


仁美「照れなくてもいいのです。

   まどかさん。わたしは全力でまどかさんのことを応援させていただきたいのです」


まどか(で、でもほむらちゃんは…わたしなんかとじゃ全然釣り合わないよ…)

仁美「そんなことありませんっ!!


   きっかけさえあれば、
   
   ほむらさんだってきっとあなたのことを意識するはずですわ」

意識…? 

ほむらちゃんがわたしのことを?


仁美「そうですわね…

   手始めに、お風呂の中で彼女に抱きついてみるというのは…」


まどか(む、む、無理だよっ! そんなの絶対、無理だって!)

仁美「無理なことなんてないのです。

   いいから、騙されたと思ってやってみて下さい」

まどか(で、でも…)


仁美「ならばわたしが、ほむらさんにあなたがどのような目で見ているか、詳らかに語ってさしあげますわ」

まどか(やめてっ!)


仁美「大丈夫。あなたみたいな可愛い女子に抱きつかれて、嫌がる女性はおそらくそうはいないはずですわ

   その点は保証いたしますけど」
   
まどか(たとえそうだとしても、後が気まずくなるよ…)

仁美「それにほむらさんもあなたを気にかけているご様子ですわ。
   
   やはりここはまどかさんが押していかないと…」

まどか(そ、そうなのかな?)

いくらなんでもお風呂で…というのはハードルが高すぎる。

ただでさえ、ほむらちゃんとお風呂に入るだけでドキドキするのに。



ほむら「二人とも何をしているのっ!?」



まどか(ほむらちゃん!?)

仁美ちゃんに壁に迫り寄られているのを見て、何かショックを受けている表情。

お疲れ様です。ここまでで。
補足しておくと仁美の存在はゲームではありませんので、
今回オリジナル展開になります。
ついでにゲームでは宿屋のような施設もないです。

この世界でもキマシタワーは建設されるのかさすが仁美さんだぜ

乙でした
すごい気になるタイミングで止まったな
修羅場の予感

>>383
元々キマシが書きたかったのですが、
きっかけが乏しいので、出てもらいました。

>>384
ほむらちゃん激おこです!


うわぁ……なんだか誤解されてる?


仁美「なんでもありませんわ。

   それでは、まどかさん。また…」


えっ!? 


えええええええ?


ほむらちゃんに挑戦的な態度をとって、仁美ちゃんは去っていきました。

ちゃんと説明をしてほしかったのに。

ほむら「まどか、あなた…何かされたの? 彼女と話してたみたいだけど」

まどか(な、な、な、なにもないよ)


手をバタバタと振って、必死で隠す。

これじゃ何かあったって言っているようなものだと自分でも思った。


でもこんな話をほむらちゃんに聞かせられない…。



ほむら「そう…」


まるで、わたしにも言えないことなのね…と、悲しそうに背中を向ける。


まどか(ち、違うのほむらちゃん。わたしはっ!)

お風呂のマットに躓いてしまい、バランスを崩してしまった。


ほむら「危ないっ!?」

まどか(っ!?)


ほむらちゃんが、支えてくれたおかげで転ばずにすんだ。

おかげでわたしの心臓はもっと大変なことになった。


まどか(ご、ごめんね!)

支えてくれたその手をほどき、後ろを向いて胸を抑える。


どうしよう…胸が苦しい…。

まともに顔がみれないよ…。





仁美「まどかさん…ファイトですわ」

杏子「いいから鼻血ふけよ。ほら、台所に戻るぞ」

仁美「ああん…これからがいいところですのに…」

スッ…

レンジャースーツが脱げる音が聞こえる。

わたしもほむらちゃんに背を向けながら、バスタオルを巻いていた。


後ろが気になる。

ちらっと目をむけると、スラリと伸びる黒い髪に、細い脚が露わになっていた。

改めてみると、やっぱりほむらちゃんて綺麗だ。



まどか「っ!?」

言葉を失った。


白い素肌が黒髪の隙間から覗かせていたが、

背中の一部が変色しているのを見てしまった。



なんだ、あれは……。

突如、ネガティブのギーガギスと戦った時に、

彼女の背中に触れたときの記憶が蘇る。


炎魔法(パダーマ)で焼かれた彼女の背中に触れると、

ザラザラした肌の感触が伝わってきた。


何かの間違いであってほしかったのに。




――変質している。
ほむら「空を見に行く」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438479771/)
  ほむらちゃんの身体は…竜に蝕まれている。

ほむらちゃんは自分が危ないってことに気づいていても、

背中のことには気づいていないと思った。


気づいているなら、女の子が堂々と肌を晒しているはずがない。


わたしなら誰にも見られたくない…。

――まだ、気づいてないんだ。


ほむらちゃん……。

~ほむらside~

このもやもやとした気持ちはなに。

まどかがあの子(志筑仁美)に何かされていたのは間違いない。

わたしには言えないようなことをされていたのかしら…。



こころなしか、最近まどかに避けられている気がする…。

手をつないでも、下ばかり見てこちらを見ないことが増えている。

さっきだってそうだ。

転びそうになったまどかを支えた時も…とっさにわたしを避けるように…。

仁美のことはいいとしても、

まどかに避けられるのは・・・。



――わかってる。

  まどかはこの力に怯えてるんだ



きつい…わね。


わたしだって自分が自分でなくなっていくようで怖かった。

変身するときに、殺意が芽生えて――正直自分でも何をするかわからない。


まどかが怖がるのは仕方ないわ。

――わたしだってこわいのだもの。


まどかに怖がれても仕方ない。

怖がられたって…。




それでもわたしは… 


彼女といられる間だけは…。

ほむら「その…まどか…

    わたし、大丈夫だから。
    
    あなたのことを、何があっても傷つけたりしない…

  
    
まどか(ほむらちゃん?)


何の保証もない言葉。


それでも彼女に嫌われたくない。




さやか戦の時は最終的に竜形態(ドラゴナイズドフォーム)で抑制することができた。

これから先、統治者との戦いが待っている。


その先に、わたしが壊れないという保証はどこにもない。


だけど、まどかには…

まどかにだけは絶対に手をあげたりしない。


そんなことがあれば、わたしはこの手で自分自身を…。


~バスルーム~


お風呂場は、わたしたちの世界でいう洋式のバスルームとほとんど変わらなかった。

一般的な家庭のバスルームで、シャワーと蛇口がついている。

おまけに保温機能まである。上層区では、電気やガスは当たり前に使えるものらしい。

下層区で暮らしている人たちの顔が浮かぶと、少し切なくなった。


まどか(広い…こんな綺麗なところで暮らしてるなんてすごいなぁ)

ほむら「あなたたちは、普段どうしているの?」

まどか(水が貴重なものだから、お風呂なんてほとんど入れないの

    水浴びしたりとか…タオルで体拭いたりとか)

ほむら「そうなのね」


まどか(ほむらちゃん、座って。背中流してあげるから)

ほむら「えっ…でも」

怖く…ないの?


まどか(いいから! わたしに任せて!)

ほむら「じゃあ、お願いするわ」


さっきまで怯えていたような気がするのに…。

積極的に背中を流してくれるというのは、嬉しかった。


――怖いけれど…無理してるのかしら。


きっとそうだ。

でも、それは怖くて聞けない。

まどかに『怖い』と言われると思うと…。

それに困らせてしまうこともしたくなかった。


石鹸をタオルで泡立てているまどかを見てるだけでほっとする。

自然なままいてくれるのが一番だ。


まどか(痛くない? )

ほむら「大丈夫。ありがとう」


慣れない手つきで背中を擦る。

少し震えているような気がする…。

どこか慎重な手つきで、力が入っていない。


やっぱり怖いんだ。

ほむら「…無理しなくていいのよ、まどか?」

わかっていたことだ。


まどか(えっ?)


ほむら「……もう大丈夫…あとは自分で洗う」

彼女の手元からタオルを手繰り寄せる…。


まどか(ダメ! わたしが洗うからっ!)


ほむら「まどか? あっ…」


まどかがバランスを崩して、わたしの方へと倒れこんで…

わたしはそれを支えようとするが、うまく受け止められなかった。


まどかの巻いているバスタオルは解け、わたしの肌とそれが重なりあう。

わたしに覆いかぶさるように胸と胸が触れ、顔が目と鼻の先にあった。


まどかに押し倒されるような形になってしまった。


くりくりとした目がわたしを見つめている。


無言で、わたしたちは静止した。

水滴が湯船に滴って、ポツンという音が聞こえる。


まどかはなぜか声もあげず、わたしの目をみたまま動かない。


わたしも動けなかった。

声をあげることは出来る。

笑って『ごめんなさい』と不慮の事故を謝るだけのこと。

だがそれができない。


あどけなく愛らしい瞳と肩まで伸びた髪。

突然の出来事に、全く声が出せず、わずかに目を見広げているような…。

その表情に…。



わたしをなんとも言えない表情で見つめるまどかに、吸い込まれていくような感覚を覚えた。


これは――わたしを怖いと思っている目?


怖いのなら、すぐに飛び退くのでは?

なら、まどかは何故黙ったままわたしを見てるの?

ここまでにしておきます。

お疲れ様です。

乙でした
んんん、悶える

この距離感を探りながらおそるおそる引き合ってる感じは好き

>>406
ようやく書きたかったものが投下できて嬉しいです。

>>408
お疲れ様です。

>>410
ですね。百合の醍醐味だと思います。

~まどかside~


早くどかなきゃ。

こんな…こんな恥ずかしいこと…。


だけど、ほむらちゃんの綺麗な目…。

どうして? 


なんだか泣きそうな顔をしてるような……。



わたしの知らないほむらちゃんを見ているような気がした。

弱々しくて……寂しげで。

これが……本当のほむらちゃんなの?


『…無理しなくていいのよ、まどか?』


無理してる? わたしが?

何を…いったい何をそんなに悲しい顔してるの?


だけど、こんな弱々しそうなほむらちゃんの顔見てると、

胸がたまらなく切なくなってくる。

手を伸ばしたくなる…。

わたしは何も言わず、ほむらちゃんの首元に頬を寄せた。


ほむら「まど…か?」

何かとてもいたたまれなくて…。


まどか(……どうして?

    ほむらちゃんは、どうしてそんな泣きそうな顔してるの?)


ほむら「…べ、別にわたしは…」

まどか(おしえて…くれないかな?)

好きだ…。

温かいほむらちゃんの身体…。

分不相応にも、わたしはその上にまたがっている。


どうしょうもないぐらい、ドキドキして…。

細くてスラリと伸びる脚も、綺麗で…。

ほむらちゃんを見ると胸が苦しくて。


でも。


わたしの好きな人に、こんなに近くで触れているのに――。

ほむらちゃんの考えていることがまるでわからない。


水をつかもうとしているように、触れてはこぼれていく。

ほむら「…に…がれてると…って」

まどか(え?)

ほむら「まどかに…まどかに怖がれてると思って…


    あんな姿を晒して…

    
    自分で自分を抑えきれないぐらい壊れてしまう。
    
    醜くて…ひどい…」


わたしが…怖がってる? 


ほむらちゃんを?



そんなことをほむらちゃんは悩んでいたの?


まさか…わたしがよそよそしくしていたのを…恐がってると勘違いして。

ごめん…。

ほむら「あれじゃただの化け…」

わたしは右手でほむらちゃんの口を塞いだ。

そして、頷いた。

まどか(…恐かったよ。

    見たこともない姿になったほむらちゃんが。
    
    ほむらちゃんがほむらちゃんじゃないみたいでとても…怖くて)

ほむらちゃんはわたしの目を真っ直ぐ見た。


まどか(だから返してって。 
    
    わたしが知ってるほむらちゃんを返してほしいって。

    
    
    だけど……それでも。

    
    
    わたしを…わたしたちを守ってくれたのは…

    
    その力がなければ、こうしてほむらちゃんとお話しすることもできなかった)

まどか( 恐がって…ごめんね。

     どれだけそれがほむらちゃんを傷つけたかわからないけれど

     
     
     それでもわたしはいっしょに…いたい…

     
     ほむらちゃんと『空』が見たい。

     
     
     暗い世界じゃない。

     
     淀んだ空気じゃない。

     
     
     ほむらちゃんが知ってる『わたし』と同じ場所を…

     
     
     わたしは…いっしょに)



ほむら「その言葉が聞きたかった…」

まどか(……うん)


ほむら「恐がってくれて…よかったの

    それでも…あなたがわたしと一緒に同じものを目指してくれるなら
    
    わたしは全力で応えられる」




でも、それは…距離を置いていた本当の理由じゃない。


この気持ちは…伝えてもいいものなの?

ほむらちゃんを困らせてしまったら。


まどか(で、でもね…ほむらちゃんのことは好きだから…

    もう少しこうしてたい。
    
    すごく安心するんだ)


ほむら「……ほんとに? 無理してない?」


まどか(無理なんてしてないよ。

    むしろほっとする)


手を握って歩いてもらえることがどれだけありがたかったか。

まどか(怖がらないで。大好きだから。

    わたしは大好きだから。
    
    わたしを守ってくれるほむらちゃんも、
    
    こんな風に自信がなくて、弱気なほむらちゃんも)


ほむら「そう……。

    でも、それなら

    
    
    さっきわたしを避けたり、目を逸らしたのは……」



まどか(……)

わたしはほむらちゃんの肩を強く抱き寄せた。

まどか(嫌いなんて……怖いなんて…そんなことないんだよ。

    だってわたしは…)


こんなにドキドキしてる。

心臓の音が、きっと伝わるんじゃないかってぐらい。

胸が……。


いつものわたしなら、きっと逃げていただろう。

ほむらちゃんに触れられて……、

嬉しすぎて。とても耐えられないほど幸せで。


だけど、知ってしまったから。

この子はわたしが思ってたほど強い女の子じゃなくて。

わたしとおんなじ、迷ったり、泣いたりする、普通の女の子で。


だから、もっとそばに。

ほむらちゃんのそばに。


~ほむらside~

お風呂からあがると、テンションのあがった志筑仁美が私たちをニヤニヤしながら声をかけてくる。

仁美「ずいぶんと長湯でしたわね」

ほむら「ほおっておいてちょうだい」

まどかは地面を見ながら恥ずかしそうに俯いている。


杏子「……おう。じゃあ、はいってくるからな」

仁美「わたしたちもゆっくりしましょうか」

杏子「腹減ったから、さっさとあがって飯食いたい」


仁美「相変わらずいけずですのね」


仁美の用意してくれた着替えのパジャマ。

ほんのりまどかの頬は赤くなっているような気がした。


というか、何か凄いことをしていた気が。

そのせいで微妙にまどかに声をかけづらい。


髪をタオルで乾かしているまどかのことを横目でみながら、

気分を落ち着けていた。

結局言葉を濁したまま。

それ以上わたしも言及しなかったし、しなくても……伝わった。

わたしは温かい気持ちでいっぱいだった。



『好きだという気持ち』はわたしが以前、まどかに抱いていたものと、似ているものだと思う。


何もできなかったわたしを認めて励ましてくれたころ。

まどかはなんでもできて、とてもまぶしく見えて。


微笑みかけてくれるたびに、優しさが降り注いで……。




――わたしは変われた。


あの時。

まだ弱かった時のまどかへの憧れと同じものを、わたしに感じてくれているとしたら。

こんなに嬉しいことはない。

何もできなかったわたしが……。

彼女の手を引いているまで成長できたのだから。


だけど、わたしは……もう一つ別の可能性を想像していた。

わたしを見るあの眼差し……。

もしかしたら……大好きという言葉が、違う意味を持っているとしたら……。

そして、おそらくその可能性がとても高いものであることも。


もしそうだとしたら。

――キスとか……して欲しかったのかしら。


耳が熱くなる。

他人の家でなければ、布団をかぶって顔を隠しているところだ。


だけど、わたしはお風呂場での一件以上に過激なことが想像できなかった。

まどかとそういうことがしたいわけじゃない……と、思う。

確かにもっと触れていたいと思った。


ただそれは、自分の手の届かないところに行かないで欲しいという、

子供のわがままのようにも思える。


独占欲とは違う……

離れていくのが怖いという恐怖観念にかられているせいだ。




でも仮に……まどかが、そういうことを求めてきたら……。

わたしは……。

髪を乾かしたまどかがソファーに腰掛ける私の前にやってきた。


まどか(さっきはごめんね。重かったよね?)

伏し目がちに、決して目を合わそうとしない。


ほむら「別になんてことはないわ。


    あなたに嫌われてないってわかっただけでよかった」

まどか(……となり……

    座ってもいい?)

ほむら「となりでいいの? なんなら膝の上でもいいわよ」

まどか(ええっ!?)

ほむら「冗談よ。おいで……」


隣に座るまどかの肩が触れると、わたしは笑っていた。


彼女が"わたし相手"に緊張しているのがおかしかった。


同時にまどかの言う『大好き』という言葉の真意を察した。


ほむら「以前話したかもしれないけれど、わたしは身体が弱い子供だった」


まどかに小さい頃のことを語っていた。

憶えてるのは家の中、学校、病院の3つだけ。

毎日似たようなものを見て、似たような日々を過ごしていた。



何の因果か……

同じ景色ばかりを繰り返し、繰り返しみてきたのだ。

目に焼き付いて、離れないほどに。

同じ景色を──いつもいつも。


ほむら「だからね……いま、わたしはどうしていいかわからないというのが本音。

    人から好きだと言われたことがなくて。
    
    しかも、それがあなたに言われるとは思ってもみなかったものだから……

    
    
    けど……

    
    少し嬉しいというのが本心」

まどか(…………)


まどかもどうしていいかわからないようだ。


ほむら「……キスしてみる?」


まどか(っ!?)


隣の顔が急に赤くなる。

……このあどけなさを独り占めできるだけでわたしは満足できた。


でも、まどかはどうなんだろう?


まどか(は、恥ずかしいよ……)


ほむら「……うん。

         そうだね」



彼女の手を握って、まどかの肩に頭を預けた。

ここまでにしておきます。

乙です

百合でシリアスってのは珍しいかも?
乙でした。

乙でした
雰囲気めっちゃ好みだけど、BOF5のクロスな以上重くなるの確定で辛い

乙です

>>438 >>445
どうもです。

>>440
珍しいんですか? 百合はこういうものだと思ってます。

>>443
ありがとうございます。
まどマギも元々そういう作品なので
書いてて胃が痛くなりそうな位がちょうどいいです。

>>447
重百合は嫌いじゃない

>>447
まどマギの百合はそれなりに見るけど重いストーリー+百合は初見だと思う。
要は>>449ってことだわ。

何でそこまで鼻息荒いんだ?
読みたくなけりゃ読ま無くてもいいだろうに
俺は面白いと思ったから読んでるけど
お前らの自由意思は貧弱なのか?

>>449 >>450
ありがとうございます!


>>453
わからないですけど『お前ら』ではないと思いますよ。
こんなスレに張り付いてるよりは、自分で面白いSS書けばええのにと思いますけど、文面を見る限りでは語彙が・・・
自分も十分ひどいですが、「ゴミとゴキブリとクズ」が頻出してるので注意したほうがいいと思いました。

そう言うのいいからさっさと書けよ
いい加減にしろ

>>456
ちょっと面白いレスだった。

456は読んでないと思いますが、書き溜めが少なくなってきてるので少し投稿が遅くなります。

~杏子side お風呂~


杏子「仕事のほうはどうなんだ? レズ小説って需要あんのか?」


仁美「世界は広いのです。わたしと同じ趣向を持つ人は山ほどいますの。

   あとレズではなく、百合とおっしゃって下さい」


杏子「正直どっちでもいい。

   でもな、アンタだけが頭おかしいと思ってたんだが、
   
   本当にそういう人間がいるんだな」


仁美「失礼ですわね。

   人をなんだと思ってますの?
   
   まどかさんとほむらさんにも謝って頂きたいですわ」

別に仁美のことはなんとも思っていない。

美人の割に残念な性格だということぐらいだ。


まどかは……まぁ、適当に頑張ってくれればいい。



本ばっかり読んでることを除けば、こいつは至って優等生のお嬢様だった。

周りからはそう思われていたことだろう。


それでも隠していた仁美の趣味を、あたしは偶然知ってしまった。


バラさないで欲しいと泣きつかれ、
味噌ラーメン1杯で手をうったのが出会いの始まりだ。


杏子「昔のしおらしさはどこいったんだよ」


仁美「人は日々成長するものですの。

   あなたもそうでしょう?」


杏子「……なんのことだ?」

仁美「あれだけ毛嫌いしていたレンジャーと一緒にいたらわかります。

   いろいろあったのでしょうね」


杏子「そりゃ、反政府(トリニティ)なんてやってたらいろいろあるって」


仁美「……あなたのIDが抹消されてから、もう5年も経つのですね。

   教会は既に取り潰されてしまいましたが、あなたはまだこうして生きている。
   
   杏子さんのお父様も喜んでいるのではないでしょうか?」


杏子「――おやじの話はやめてくれ」


仁美「遺骨はまだあの場所にあります。

   せっかくですから、出発の前に……」


杏子「……」

まがりなりにも聖職者だった父。

お尋ね者になった子どもを見てどう思うか……。


異教徒扱いされたうちの教会は、上層区を追放された。

あたしたち家族に行き場はなく……。

あたし以外の家族3人は無理心中で死んでしまった。



杏子「世界はいろいろ間違ってると思ってる。

   だからって、何が正しいのか結局わからなかった」
   

仁美「愚痴ですか? あなたにしては珍しい」

   
杏子「……いいや。

   "正しいこと"は…見つけられなかったけれど……。
   

   "間違っていないと思うこと"は見つけられた。

   
   
   だから、あたしは今度はそいつに手を貸してやることにしたんだ」


~夕食~


~ほむらside~


この世界に来てから、まともな料理というものを食べていなかった。

トラップ用のうまにくやキノコを焼いたものを食べて食い繋いでいた。

久しぶりの手料理を目にして、興奮した。



特に杏子の勢いはすさまじい。

コメの栽培は難しいのか、代わりにイモと野菜。

それから食用ディクが食卓にのぼるようだ。


まどか(おいしいっ! こんなに美味しい料理食べるなんて初めて)

仁美「ありがとうございます。そう言っていただけると作った甲斐がありますわ」


ほむら「志筑さんは、どうやって生活しているの?」

仁美「小説を書いております。自著でよろしければ、お渡しいたしますが」

まどか(すごいっ! 読んでみたいなぁ…

    でも、わたし文字ってあんまり読めないから、小説は難しいかも…)


ほむら「なら、わたしが読んであげるわ」

何故かわたしはこの世界の文字を読むことができた。

アジーンのおかげか…、あるいはこの世界に来た時からすでに読めたのか。

原因は未だにわからない。


杏子「やめておいたほうがいいぞ」

もぐもぐとナゲットの肉を頬張りながら杏子は釘を刺す。


ほむら「もしかして、怪奇小説とか?…それとも」

仁美「ただの恋愛小説ですわ。

   ぜ、是非ほ、ほむらさん!まどかさんに、ろ、朗読をっ!」


ほむら「気が向いたら。考えておくわ」

何か嫌な予感がした。


仁美「ちっ。なら僭越ながら、わたくし自ら…」

ほむら「やめなさいっ!!」

まどか「??」


仁美(……諦めませんわよ。

   必ずまどかさんに不健全図書を閲覧させてみせますわ…)


夕食後、テーブルの片付けを私とまどかで担当することになった。

ほむら「美味しかったわね」

まどか(えへへ。みんなでお食事すると楽しかった。

    わたしもお料理覚えてみたいな)


ほむら「まどかの手料理…いつか食べてみたいわね」

まどか(本当? じゃあ、頑張って覚えようかな)



まどかと他愛のない話をして楽しんでいると、窓の外に杏子の姿が見えた。

――こんな時間に、どこか出かけるのかしら?


ほむら「まどか、少し外に出てきていい?」

まどか(うん…気をつけてね)

ほむら「大丈夫。すぐ戻るわ」


~上層区街~

杏子の姿を追って外に出る。

夜は電灯の明かりを暗くすることによって、明るさを調整しているようだ。

しかし小道に入るとそれなりに暗かった。


杏子「誰だっ!?」

ほむら「び、びっくりした」

杏子「なんだ、ほむらか。ついてきたのか?」

ほむら「こんな遅くにどこへ?」

杏子「……来な」


5分ぐらい暗がりの中を杏子と二人で歩くと、はずれの廃墟に辿り着いた。


杏子「ここは…変わらないな…」

ほむら「……もしかして。ここは…あなたの?」


廃墟の中には雨ざらしになった十字架や、色の剥げた像が倒れていた。

杏子「…仁美から何か聞いたのか?」

ほむら「いいえ…。ただなんとなくそう思っただけ」


杏子「……」

杏子は腑に落ちないという顔をしながら、教会跡地の裏側に案内してくれた。


そこだけ土が敷き詰められた花壇のような場所があり、周りは煉瓦に囲まれている。


そこに何があるのか… 

わたしはわかる気がして、堪れなくなった。

彼女は中腰で『ただいま』と口にした。


杏子「もう戻って来ないと思ってたんだけどな。

   でも、もしかしたら最後になるかもしれないから…」

ほむら「……杏子」


杏子「あたしは、最後まで馬鹿な奴の面倒を見ると決めた。

   残念ながらそういう人生だったんだと諦めることにするんだ。

   
   
   父さん…。母さん…。モモ。

   
   
   ごめんなさい。

   
   
   
   その代わり。

   
   
   この目で見てくるよ。

   
      まだ誰も見たことのないものを」


帰り道で杏子は話してくれた。

なぜ、彼女の教会が取り潰されたのか。


杏子「あたしの父は…中央省庁の関係者だった。

   それが耐えられなくなって、牧師を始めたらしい…。
   

   金持ちの上層区の人間たちは喜んで教会に金を落としてくれたが、
   
   D値の低い下層の人間まで平等に扱うようになってから、信者は半分になった。

   
   
   それまではよかった。

   
   でも、ある時親父は『空』の存在を唱えはじめた。

   
   
   人は空を手にする。

   
   その資格がある。

   
   
   統治者たちはその鍵をもっていて、この世界に閉じ込めているんだって。

   
   
   ほむら。


   あたしの親父は、間違ってなかった。
   

   それを信じていいんだろうか……」
   


わたしは静かに頷いた。

ここまでにしておきます。
お疲れ様です。

乙です


仁美も杏子ちゃんも(別の意味で)変わらないな

俺はオリジナル要素に期待してるよ
元のままだと重くて重くて

>>477
ありがとうございます!

>>478 480
仁美がイキイキしてると書きやすいです。

>>485
頑張ります。

まどか(わたし字はあんまり読めないけど、大丈夫?)

仁美ちゃんに本を読んでみないかと誘われて来たけど、本当に読めるのかな?。

仁美「大丈夫ですわ。

   『漫画』は、識字率が高くない下層区でも好んで読まれている文化の柱ですのよ。
   
   簡単な言葉で表記されていますし、字を習うために学校で教材に使用された例もあります」

まどか(へえ!すごいんだね、漫画って!)

仁美「ええ。鹿目さんもきっと気にいってくださると思いますわ。

   この棚から好きなものを選んで下さい。
   
   1と書いてあるのが、初めの巻になりますので…」

まどか(うん。ありがとう!読んでみるね)

仁美「何かあったら呼んで下さい。

   わたくしは、違う部屋で原稿を仕上げてますので」


まどか「わかったよ!」

仁美「あと、今日はここでほむらさんと泊まってって下さい。

   帰ってきたらここに来るように伝えておきますので」


すでにベッドが用意してあった。


仁美ちゃんが部屋から出ていくと、

200冊以上はあると思われる本棚から、気になったタイトルを一個取り出してみた。


『ゆりのはな』?

どんな話なんだろう?

表紙のイラストは私と同じ年ぐらいの二人の女の子が描かれてる。

うわぁ、この女の子かわいいなぁ~。

ペラペラとページをめくり始める。

………

……




…。


そこには、境遇の違う二人の女の子が出てくる。

お金持ちかどうかの違い。

幼少期に、二人は出会って公園で遊ぶんたけど、

境遇の違いからお金持ちの女の子のお母さんが、その子とは友達になっちゃダメだって引き離してしまって…。

でも、女の子は小さい時にあった女の子のことがずっと忘れられなくて…。

大人になってから、運命的な出会いを果たすというのが前半で。


でも、後半からは…。

見ていて胸が熱くなるような恋愛ドラマが描かれてて、夢中になった。

時間が経つのを忘れてページをめくるうちに、

二人の恋が実るように応援している自分がいた。


お金持ちの女の子が、ほむらちゃんとよく似ていることに気づいた。


手を引いてくれる頼もしさと、真っ直ぐさ。

たまに見せる弱いところに惹かれて、


この子が幸せになってほしいと心から思った。


それには、もう一人の女の子が勇気を出して一歩ふみこんでいくしかないというのに、

社会的な立場と、同じ性別だということを気にして…

なかなか踏ん切りがつかなくて…焦れったい。


ほむらちゃんに似てる女の子は、

その子のことが大好きだって、何度も態度で示してるのに。



4巻、5巻、6巻、ついに最終巻へと突入した。

その頃にはわたしは仁美ちゃんのベッドの上で

顔を赤くして…それでも涙を流して、よくわからないことになっていた。


すごい…。なに…これ?

とても感動的な話なのに、身体が熱くなる。



最終的にもう一人の女の子が勇気を出した末に結ばれて…。

結ばれるということが、どういうことなのか、

確かにそうなるのが自然で当たり前なのに……

とても声に出しては言えないようなことをしていた。


こんな…おかしい。


ほむらちゃんは、こんな顔しない…。


だけど二人を自分たちに置き換えてみると…



布団の中に潜って、今すぐ顔を隠したい気分に…。

変な気持ちになってくる。


――もし、わたしがほむらちゃんにこんなことしたら…。




階段を登る音が聞こえて、わたしは慌ててその漫画を片付ける。

そしてノックする音が聞こえて、布団に戻って深呼吸をした。


「入っていいかしら?」


この声は。

いつの間に帰って…。


わたし、気づかないぐらい熱中してたんだ。


まどか(ど、どうぞ!)

ほむら「ただいま」

壁の向こうにテレパシーが送れるかどうかわからないけど、

いつも通りほむらちゃんには届いたみたい。


ほむら「ごめんなさい、一人にしてしまって。

    思ったより長くなってしまったわ」


まどか(うん…大丈夫だよ)


ほむら「まどか? 具合悪いの?」


布団から顔だけ出しているのを見て、ほむらちゃんはこちらにやってくる。

まどか(…大丈夫。ちょっと休んでただけ)

ベッドに腰をおろしてほむらちゃんは後ろ向きになっている。


――手を伸ばしたい。

  触って抱き寄せたい…。


お風呂の時の記憶がよみがえる。

ほむらちゃんの肌の感触。

わたしよりちょっぴり大きい胸。



本当は怖がりで、心配性で可愛い一面もあって。

恥ずかしくて泣きそうな顔をするほむらちゃんの顔が頭に浮かび

身体はまた熱くなった。


ほむら「まどかがベッドで寝るなら、わたしは床で寝るから」


立ち上がろうとするほむらちゃんの服を掴む。

ほむら「……一緒に寝ていいの?」

こくこくと、うなずく。


するとほむらちゃんも笑った。

ほむら「ありがとう」


ほむらちゃんが電気を消してベッドに入ってくると

わたしは彼女の身体にしがみつく。


ほむら「まどか…?」

少し驚いたような声。

だけど、ほむらちゃんは嫌がったりしない。

むしろわたしの背中に手をあてて引き寄せてくれる。


それだけで顔が沸騰しそうなほど恥ずかしくなって、

気分を落ち着かせるまで、呼吸を整えた。

自由に空いた左右の手。

いろんな想いが巡るが、それで彼女の身体のあちこちを触ってみたいという誘惑に駆られる。

もっと触れてみたい。


でも、嫌われたくない。

だから笑ってゆるしてもらえる場所にゆっくりと触れてみる。


ほむら「っ!? ま、まどか?」

ほむらちゃんのわきばらにそっと触れる。

右手の指の腹で、撫でるように触れると、一瞬痙攣したようにピクッと固くなる。

だけど力を抜いて、特になんでもないというように反応を示さなくなった。

しばらくその右手で脇腹をなでていたが、安らかな吐息が聞こえてくるだけだ。


ほむら「わたしも…いい? 触っても」

え? ええ!?

まさかほむらちゃんの方から触って来られるとは思ってなかったからびっくりした。

まどか「い、いいよ」


脇腹をくすぐられるのかと思って、両目をつぶる。


背中にあったほむらちゃんの腕は、

私の後頭部に触れていた。


まるで小さい子をあやすような手つきで、頭をなでてくれた。

ちょっと予想外だった……。


ほむらちゃんの手つきがあまりに優しすぎて、心地よくて。


――でも。


本音を言えばもっと違うところに触れてほしい。

もっと柔らかいところ。

そうしたらわたしはどうなってしまうのだろう。


ほむらちゃんの手をつかむ。

そしてそれをゆっくりと…

胸の前へ持っていった。


ほむら「まどか……? えっ?」

ほむらちゃんは困惑するような声をあげた。

まどか(……ダメ…かな?)

ほむら「…ダメっていうか……いいの?」

まどか(…うん。触って欲しい)



ほむら「……わかった」


パジャマ越しにほむらちゃんの手が私の胸元をなぞり

それから手のひらをすぼめるようにして、わずかに力をいれて…。


まどか「っ!?」

ほむら「まどか?」

まどか(いいよ…続けて…おねがい…)

ほむらちゃんは力を緩めたが、それは一時のこと。

彼女の指が、胸の先端に触れる度、変な声が漏れそうになった。


とても不思議な気分。


恥ずかしいのに。

声が出そうになるのを我慢しているのに…。


もっとほむらちゃんに触って欲しい。


もっと。


声が漏れるのを我慢して涙が出そうになる。

その声をほむらちゃんに聞かれるのが、きまりが悪くって、息を殺す。


身体が痙攣して、震えそうになっているのが自分でもわかった。

その様子を感じ取ったのかほむらちゃんは先端部分だけに触れてくる。

まどか「っ!?」

仁美ちゃんの漫画に、気持ちよくなると、胸の先端が固くなると書いてあった。

すでに自分のそれは、いつもと違う状態にあるということに気づいて…

それをほむらちゃんも知ってか知らずか…

わたしが感じているということを確信し、自信を持って胸を…

まどか(ほむらちゃん…恥ずかしいよ…わたし…)

ほむら「……」

テレパシーで抗議するが、指の動きは止まらない。

――わたし、いつの間に…。

手を当てて確認すると、下着は湿っていた。

でも恥ずかしくて、こんなことほむらちゃんに言えない。

ほむらちゃんに気付かれないようにその右手を顔の元へ持ってて、変な臭いがしないか確認する。

それほど強い臭いがしないことを確認すると、力が抜けて…。


ほむらちゃんの指が胸の固くなっている『そこ』を摘んで…

まどか「ぁっ!!」

その刺激に耐えられず、声が漏れるどころか弓なりに身体を傾いてしまう。


そして。

くちょっ、といういやらしい音が耳に聞こえて…

その音がほむらちゃんにも聞こえたかと思うと、恥ずかしくて死にたくなってきた。


ほむら「……まどか…だいじょうぶ?」


息を荒くしているわたしを気遣うような声。

そんな優しさが嬉しかったのに…


でも、下の状態を知られるのが恥ずかしくて、

それを誤魔化すためにわたしはほむらちゃんのパジャマをまくりあげた。


ほむら「ま、まどかっ?」


まどか(……ほむらちゃんも…)

胸元の下着を脱がせると、こじんまりとした膨らみが露わになった。

両手で背中を捕まえながら、最後に確認をとる。

まどか(…いい…かな?)

ほむら「……」

返事がない。暗がりの中で目が慣れてきて、彼女の顔が、戸惑い…

恥ずかしくてどうしていいかわからないという顔をしているような気がした。

――この顔。

  内気で、照れ屋なほむらちゃん。
  
  普段は見せないような彼女の姿。
  
  そこに本当のほむらちゃんがいるような気がして。
  

その姿があまりにも愛らしくて…。



まどか(すき… 大好きだよ。 

           ほむらちゃん)


それを伝えると、耳元に嗚咽が響いた。


ほむらちゃんは、泣いていた。

思わずその顔を確認する…。


泣きだしてしまったほむらちゃんの顔は、羞恥で照れているものではなく…。

何か感極まったように…安心したようで。


わたしはほむらちゃんの顔にほほを寄せた。


そしてほむらちゃんの手をにぎる。


まどか(大好きです… ずっと一緒にいて)


ほむら「…うんっ……うんっ…」


なきじゃくるほむらちゃんの頭に触れていると、いつの間にか寝息が聞こえてきた。

お疲れ様です。

乙です

乙でした
糖死しそうやわ…

乙っした
甘い空気に順応した所で重い展開をズドンなんだろ?(警戒)

>>514
どうもです。

>>515
百合が書きたかったんですが、後で見てかなり違和感が。
まどかが積極的過ぎてあかんです。

>>516
気軽に読んでもらって大丈夫です。

>>518
安心した

気軽に読んでもらって大丈夫です(重い展開がないとは言ってない)
メンバーはどういうルートかなー

>>521
だいじょうぶ…だいじょうぶ…。

>>522
統治者戦は自分が初回で通ったルートで行こうと思ってます。
全員書くことも検討しましたが、ダレそうでした。

~ほむら~


風が吹いている。

わたしは暗い空の下で倒れていた。

何度も見た景色。 


――ごめんね。またダメだった。

  また、あなたを守れなかった。


グリーフシードを入れている袋をどこかに落としてしまったせいで、

魔力が尽き、これではもう時間を戻すことができない。


――おしまいだ。


「ほむらちゃん……」


意識が消えかけるわたしの前に、彼女は現れた。

その背中にはキュゥべえが乗っていて……。

わたしに微笑みかける。

だが、視界がぼやけ……最後に彼女の口元が動く……。


――なに? 


まどか、あなたは今なんて?


光が差し込まない地下の世界では、朝の感覚がまるでつかめない。

上層区街でも、部屋の中に差し込む光はほんのわずかで、

今が何時なのか全然わからなかった。


わたしはまどかの胸元に顔を埋めて眠りについていた。


――さっきまで夢をみていた気がする。

どんな夢だったか。多分この世界に来る前の……。



そうだ。

わたしは元々この世界とは無関係な異物のはず。

どうしてこんな場所に来たんだろう?


……それでも温かい。

ずっと、こうしていたい。



まどかはまだ眠っているようで、昨晩の出来事を思い出した。


大好きだと言われて、あまりに嬉しくて泣いてしまったこと。


もうしばらくこのままぬくもりに浸りたいと思い、再び目をとじる。


すると……パジャマの裾を掴まれているような、お腹のあたりがスースーする感じがした。

まもなくお腹のあたりに触れるか、触れないか……何かがこすれるのがわかる。


まどかが起きたんだ。

それでもわたしが寝ているものだと思って……?


……指先は迷いながらも、つんつんと触れてくる。

そのせいで余計にくすぐったくて、声がでそうになった。



まどかがわたしに触れてくれている。触りたいと思ってくれて、どうしたらいいか迷っている。

その様子が、おかしくて、嬉しくて……。

わたしは何も気づいていないふりをして寝息を立てた。

スースーという鼻息が、まどかの肌から反射して口元に返ってくる。


まどかの手が、私の胸に触れた。

ほむら「っ……」

恐る恐る、いいのかな、いいのかなと問いかけるその手が愛しい。

どんな顔をしながら触れているのか、

目を開けて確認したくなるのを我慢しつつ、息がもれないよう気を張る。

だんだんとまどかの指が胸の頂点へと集中していく。


ほむら「……っ」

声を殺すことはできても、息が続かない。

呼吸が荒くなっていないか気になる。


まどかもわたしが寝ているものだと思っているから、

つん、つん、と触れては間をおいて様子を見ながらしか攻めてこない。



これは、いわゆる『寝込みを襲う』というやつ……。

いや、でもわたしはこうして起きているのだし、

わざわざ寝ているアピールに寝息を立てているのだから、それにはあたらないのか。

何度もループしてるうちに、

キュゥべえが真夜中にまどかの家に現れることがたびたびあった。

だからまどかが眠るまで待ってから彼女の家を後にする。


最後にまどかの寝顔を見て、わたしは一息つく。

そのとき不意に寂しくなることがあった。


努力を人知れず重ねていくことに、寂しくなる。

自分とはいったい何なのか?という問い。


こうやってまどかを守ることは自分がなすべきことである。

それを間違っていると思ったことはないけれど……。


つまるところ……わたしは誰かに触れてほしかった。


朝起きて、目の前に誰かがいて、

こうして触れられることを切望していた。


同じものばかりを見て、見せられて……

違うものを望むとしたら、まどかのいる未来と、

もうひとつは……。


わたしに触れてくれる誰か。


その相手はまどかであって欲しかったけれど、

それは大切な友人であり、女の子であるから、想像するのも躊躇われた。




まどかは、満足したのか、これ以上触れるとわたしが起きると思ったのか、

何事もなかったかのように、頬をすり寄せて、二度寝をするのだった。

"杏子side"

昨夜はゆっくり眠れた。

もう何ヶ月も仮眠と徹夜を繰り返してきたお陰で、こんな時間からでも意識がはっきりする。

目を覚まして、1階へおりると仁美が朝ご飯を準備している最中だった。


杏子「ずいぶんと早いんだな」

仁美「あら、杏子さん。おはようございます。

   昨夜はぐっすり眠れましたか?」


杏子「ああ。おかげさんで。

   仁美はいつもこんなに早いのか?」


仁美「いえいえ。同じ屋根の下でまどかさんとほむらさんが、

   ベッドの中でいけないことをしているのかと想像していたら
   
   ……気がついたら朝になっていまして」

杏子「……」


仁美「是非また3人でいらしていただきたいですわ」

まどかはともかく、ほむらが嫌がるかもしれないと思った。

昨夜こっそり卑猥図書をまどかに見せたと自慢していた。

杏子「気が向いたらな……

   それより手伝うよ」

朝ごはんの用意で台所にたつ仁美の横にたつと、彼女は首を振った。

仁美「ゆっくりしてくださっていいのですよ。

   これからまだかなり歩かなくてはいけないのでしょう?」


杏子「まあ…。でもこっから先はあたしも行ったことがないから、全然先が見えない。

   メベトは上層区を抜けたら案外あっさり中央省庁につくだろうって言ってたけど」


仁美「中央省庁区……そうですか……

   杏子さん。あなたお父様たちの無念を果たしに?」


杏子「……。

   世界を壊す信仰。異端者としておやじの教会は取り潰しにあった。

   空を信じるということはつまり、この世界を否定することなんだと。
   
   人は地上にでちゃいけない。
   
   出てもどうせろくなことをしないから。

   
   
   でも、これは復讐じゃないよ。

   
   そりゃ私怨で命をかけたこともあったけれどさ、

   
   
   ……ほむらは、あいつは命をかけてまどかを守ろうとしてる。

   
   二人とも明日にはどうなってるかも分からないってのに」

   
   
仁美「見届けたいのですね……」



杏子「世界を壊すなんて大それた度胸はないよ。

   親父もそんなつもりはなかっただろう

   でも、結果的にそうなっちまうんだったら……

   
   
   そんときゃ、しょうがないよな」



仁美「……いつか

   いつか、空を目指す3人の話を本にしたいです」


杏子「そうだな。できるといいな」

ここまでで。
土日どっちかで続き書きます。


~電力供給施設~


上層区の北側に大規模な発電所がある。

ナゲットなどのディクを利用した発電により、地下世界の電力は賄われていた。

中央省庁へ行くにはこの施設を超える必要があった。


杏子「お、またナゲット! 非常食になるな」

ほむら「でも、重要施設の割に、ほとんど警備がいないようね……」


杏子「いや、ロボットが巡回してるだろ?

   電気泥棒やテロの駆除はレンジャーじゃなくて、そいつが担当してる。


   
   結局は人を信用してないってことさ」


ほむら「おかげでロボットとディクだけ気にしてればいいから、かえって楽ね」

まどか(……)


ほむら「どうしたのまどか? さっきから黙って」


まどか(う、ううん……ただちょっとあっさり先にすすめるなって……)


ほむら「そうね。警戒は怠らないようにしないと」

~統治者 デモネド~


デモネド「竜か……どんな人物なのだ?」

ジェズイット「胸は物足りないが、尻はなかなかよかった」

デモネド「誰が尻の話をしている?」


ジェズイット「そうかっかするなってオッサン。

       まあ……なんというか……普通の女じゃないのは確かだな」
       
デモネド「1/8192というD値でリンクしたからには、何かある……

   それは俺もわかっている」

珍しく、これから戦う相手を気にしている。

この男の人生に敗北は、たった1度のみだと聞いているが……。


ジェズイット「あいつにやられた古傷が疼くのかい?

       無理しなくてもいいんだぜ、オッサン」


デモネド「情けをかけるな。

   いかなる存在とて、この治世を脅かすのであれば、俺たちはそれを止めねばならん」


ジェズイット「そうかい……」


オッサンはこの中央省庁区の門番をかって出てくれている。

お陰でオレは好きにあちこち回れる。

ありがたい話だ。


新興宗教が数年前に流行ったときは空を目指しこの門を潜ろうとして何人もの人がオッサンの前に敗れていった。


でもオレは気づいていた。この人も迷い続けていること。

千年の時……守るべきか、守らざるべきか。

疑問をもちながらも、目の前の敵を葬らねばならない。




ジェズイット「どうやらおいでなさったようだ」

デモネド「とうとう現れたか…」

ジェズイット「んじゃ俺はそろそろ行くわ。

       あばよ。オッサン」


――うつろわざるもの…か。


~電力供給ビル屋上通路 -620m~


杏子「あれが、転送装置‥中央省庁区へつながる唯一の扉(ゲート)さ

   あたしたちも‥中央省庁区の情報はほとんど、持っていない‥

   全ての階層区を統合管理する‥

   統治者(メンバー)たちの階層だってこと以外は」


ほむら「杏子‥そこへ、乗り込むってことは‥‥」

杏子「そう‥政府に‥完全に、楯突くってことになる‥

   やつらも本気になって‥

   つぶしに来るだろう」


ほむら「‥‥いいの?」


杏子「いいも何も反逆者なんだよもとからね

   これで、この世界がどうなろうと‥望むところさ」


ほむら「そう‥‥ありがとう、杏子

    心強いわ‥」

杏子「べ、べつに

   あんたのためじゃ、ないよ‥」



ほむら「……誰か来るわ」


白髪にクロの眼帯をした男がこちらに近づいてくる。

青のスカーフを首に巻き、鍛えられた筋肉が、動きやすそうな革の鎧の隙間から見えていた。



デモネド「待つ、というのは性に合わん

     だから、こうして来たのだ‥

     再び、貴様(ドラゴン)とまみえるために

     この統治者(メンバー)たる、デモネド自らなッ!」

ほむら「メンバー‥あなたが‥!!」

デモネド「地上への封印を解く鍵は我々メンバーが持っている‥

     お前達が鍵を手にする方法は、ただ一つ



     我々と戦い、我々を討ち倒す

     それ以外に、ない


     ‥前置きはここまでだ

     ドラゴン、お前の力の全て‥


     今一度、俺に見せてくれ!」

男がこちらへ向けてかけだしてくる。

杏子とまどかは迎え撃つように銃と魔法を連射して応戦する。

が、男の前でそれは全て弾かれていた。


ほむら「なっ、攻撃が効いていない?」


杏子「絶対防御(アプソリュートディフェンス)!」


ほむら「なにそれ?」

杏子「強力な結界だ。 並程度の攻撃じゃびくともしない。

   うちやぶるにはとにかく立て続けに攻撃を食らわせるか、

   
   強力な一撃を喰らわせるしか…」

デモネド「今度はこちらから行くぞ」


素早い身のこなしで、わたしの間合いに入ってくる。

連続の拳撃を全てガードするのは難しく、しかも一撃一撃が重たいため、剣が弾かれないようにするのが精一杯だ。


ほむら「強いっ」

杏子「ほむらっ!」


杏子の合図で一旦後方へひく。

杏子のヒットバック効果を持つ銃で距離を保つ。

ふっ飛ばしだけは通じるようだった。


まどかは攻撃から、魔力を魔法陣に注ぎ込み、強力な地雷をビルの上に設置する。

燃え上がる炎の柱ができあがり、触れればひとたまりもないだろう。



デモネド「なるほど。あくまで竜の力を使わないで勝つつもりか…

     ならば…」

デモネドは見のすくむような雄叫びをあげる。


杏子「脚が、うごかない」

まどか「うう……」

デモネド「そちらの魔法陣に触れればオレでもひとたまりもないだろうな

     ならば、遠距離から回りこまれないよう、足を奪うまで」


ほむら「まどかっ!杏子っ!」

デモネド「ほう、まだ動けるのか。

     さすがはオリジン(初代適合者)が一目置くだけのことはある」


ほむら「オリジン?」

デモネド「お前の中にいる竜と初めてリンクした男だ。

     かつてわたしを負かし……
     
     空を目指した」


ほむら「なんですって……」


デモネド「だが奴は失敗したのだ。

     更なる高みを目指していたはずが、

               
     
     リンクは強制終了し……

     
     
     いま目の前にお前がいるというわけだ」



ほむら「その人はまだ生きているの?」


デモネド「ああ。生きているとも

     今ではこの世界を閉ざす鍵として在る

     
  
     そして、お前もまだ生きる望みがあるのだ

     
     
     暁美ほむら1/8192」



ほむら「……」

まどか(ほむらちゃんは……助かるの?)


デモネド「調和と秩序を望むのだ。

     それが人のさだめと受け入れろ

     
     
     空は……人の手には過ぎたものだ」






――友よ。



頭に"あの地下施設で聞いた声"が響いた。

頭に"あの地下施設で聞いた声"が響いた。

気が付くとわたしは、例の場所(廃棄ディク処理施設)にいた。


――小さき友よ。

  今一度問おう。


  人の身でありながら、何故、この力を欲す?

『わたしは、わたしの大事な友人を導きたい


 空へ……いかなければならない』



――そこが、お前の終わりとなるだろう。

  その覚悟はあるか?


『覚悟なら……


  もうこの世界に来る前からずっと出来ている』


――何故だ。


  何故真っ向から死を受け入れられる?


 …………。

 わたしは、空の下で暮らしていた。
 
 それは望んで得たものではなく、ただ当たり前にあるものだったから。

 
 
 でも、空があったところで決して幸せな人生を送れるとは限らない。

 
 わたしもそうだった。
 
 誰の役に立てず、迷惑ばかりをかけて。

 
 
 生まれてきたことを後悔したことさえある。

 
 だけど……わたしの友達は。

 
 
 空が青いことを……

 
 大地が温かいということを教えてくれた。

 
 
 
 だから……。

 
 
  今度はわたしの番だ。

  
 
 
  わたしがまどかに――空を見せてあげるんだっ!


――よかろう。


     小さき友よ。

  
  
     ともに参ろう――死すべき場所へ。




気が付くとビルの屋上に戻っていた。


デモネド「我らとともに来い。

     世界を共に守ることが、お前にはできる
     
     竜に選ばれたお前ならその資格があるのだ」

ドクン……ドクン……。

鼓動が聞こえる。

竜(アジーン)が呼んでいる。


ほむら「わかってる……アジーン」


デモネド「なに……?」


ほむら「人は空を手にする。


    あなたは1000年も昔から……
    
    待ち望んでいたのでしょう。

    
    
    この世界の終わりを」


身体に熱を帯びる。

わたしは至って正常だった。


衝動にかられ、意識を失うこともない。


デモネド「竜…再び、

     オレの前に姿を…」


竜変身後、猛烈な加速で、デモネドへ向かい拳を振りかざす。

だが、それは致命傷にはならない。


デモネド「知っているぞ。

     単発の攻撃しか、お前たち竜は繰り出すことができない。
          
     連撃でなければ、このアブソリュートディフェンスは崩せまい」


ならば、命を燃やすまでだ。

――友よ。今こそ竜の秘技を。


全身にエネルギーをたぎらせる。


竜ほむら「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお」

そこから湧き出る力を拳に集中し…

デモネド目掛けて放つ。


爪でデモネドを弾き、間髪入れず拳を叩きつけるとまどかの作った炎の魔法陣の中に消えていった。

彼は炎とともに…跡形もなく消え、


その残骸としてカギだけが残された。




ジェズイット(オッサン……)

今日はここまでで。

ゲームに登場するキャラとバトルがあります。
ブレス5やってない方はすいません。

~杏子~

ほむらがそのまま屋上に倒れこんだ。

杏子「おい、ほむらっ! しっかりしろ」

這うような格好で、荒い息遣いでリフトの先を見つめている。


あの先に"中央省庁区"があり、メンバーたちがいるんだ。


デモネドと同じか、それ以上の相手がわたしたちを待ち受けている。


ほむら「はぁ……はぁ……

    行きましょう……」


まどか(ほむらちゃん!)



あんな相手をあと何人と戦わなくてはいけない?

メンバーを相手にして、あたしとまどかは何ができる?


俯くわたしの背後に、人の気配を感じた。



杏子「アンタは!?」

静かに、と注意するように男は口に人指し指を手をあてて、手招きする。


タンクの影に隠れるようにして現れたメベトに問いかける。


メベト「追いついてよかった。

    もう行ってしまったものかと思ったよ」

杏子「トリニティはどうした?」

メベト「残りのものに留守を任せてある。

    それより、あの子……ほむらは……

    
    あの様子ではもう何度も戦えまい」

言われなくたってわかっている。


杏子「それでも、あいつの手綱を引いてやる奴が必要だろ?

   あいつはこの世界の人間じゃないから……さ。
   
   あたしは……
   
   せいぜいそれぐらいしかできないんだ……」


あんな次元を超えた戦いに……。


メベト「……

    力なき正義は無力だ。
    
    非力な我々がいくら理想を語ろうが、理想は所詮理想でしかない。
    
    以前、わたしが君の父親にそのように説いたことがある。

    
    
    それをどう受け止めたかは知らないが、

    
    それでもお前の父は、この世界の弱き人々に空の存在を語るのをやめようとしなかった」

メベト「馬鹿な男だった。
    
    家族もいて、安寧な暮らしを営める身でありながら、
    
    政府に目をつけられてまで……」



杏子「……あたしも同じだって

   わざわざそんなことを言いに来たのかい?」


メベト「あいにく、わたしもそこまで暇ではないよ」


メベトはうっすら笑って、所持していたケースから一丁の銃を取り出した。

メベト「きみの父上が中央省庁区にいた時に持ちだしたものだ

    至近距離からのの連射なら奴らの防御(アブソリュートディフェンス)を崩すのも容易いだろう」


杏子「これを……あたしに?」


メベト「勘違いするな。

    この世界を変えるため、君たちを利用しているに過ぎない

    
    
    それにその銃は……持ち主の生命を代償にして莫大な破壊力を生み出すもの

    
    言うなれば、ほむらの竜変身と変わらない。
    
    何度も使い続ければ、その銃は君の身体を蝕んでいくだろう」


杏子「……そうかい。

   わざわざ届けてくれて、ありがとうな」


メベト「行くんだ……

    あの子を。我らの希望を支えて欲しい」


男はビルの中へと姿を消していった。


命をかけるか……。

上等だ。


~中央省庁区~


~ほむら~


転送装置から上層へとワープすると、まるで西洋の宮殿を模したような建物に辿り着いた。

空気はこれまで以上に澄んでいて、ここが地下世界だということを忘れてしまうような造り。

選ばれたものだけがここに登ることを許されるのだろう。


世界がいかに歪んでいるかをこの建物が象徴していた。


まどかのような犠牲を出しながら、

下層の人々の苦渋の生活の上に、

あぐらをかいて生きているのだと思うと憤りを抑えきれない。

まどか(大丈夫? もう痛くない?)

まどかがわたしを気遣って手を握ってくれている。

それだけで十分だ。

ほむら「ええ。さっき休んだから」

"城"の中に人の気配はまるでない。

かわりに今までには見たことのないほど強力なディクたちが配備されていた。

確実にわたしたちを殺しにきている。

住民や官僚たちは退避し、どこかで隠れて様子を伺っているのかもしれないと杏子が言った。


爆弾や肉などの持てるだけのトラップで、牽制しながら確実に息の音をとめていく。


まどかが地面を蠢くディクにめがけて呪文を唱えようとしていた。

杏子「待て、まどか。

   あいつはうかつに攻撃すると怒って地震呪文(ガダブレダ)で反撃してくる。
   
   こちらから仕掛けなきゃ、何もしてこないからスルーでいい」


ほむら「杏子はなんでも知ってるのね」


杏子「トリニティのエージェントは必死こいて勉強するんだ」


~まどか~


中央省庁の敷地を3人で歩きながら、私の心は揺れていた。


こうなることはわかっていたけれど……。

どうしたらいいの。


結局ドラゴンの力を使わないと先には進めない。

でも、ほむらちゃんは絶対に弱音を吐かない。


たとえ命をかけてでも……。


(お困りのようだね、鹿目まどか)

まどか(その声は、妖精さん?)


妖精(そうだよう。今キミだけにテレパシーを送ってるんだよぅ)


ほむら「……?」


ほむらちゃんが、こっちを見てる。

まどか(どうかしたの、ほむらちゃん?)

ほむら「いえ、何か今悪寒が……」


妖精(まどかだけにテレパシーを送っているはずなのに……

   侮れないんだよぅ……)

まどか(それで、どうしたの妖精さん?)

妖精(君がテレパシーを使えるようにした時に、

   実はもう一つ魔法をかけたと言ったのは覚えてるかい?)


まどか(……ええっと。なんだっけ?)

妖精(もう忘れてしまったのかい?

   僕たち妖精の共同体(コロニー)は、基本的に人の手を借りないと成長しないんだよぅ

   
   
   鹿目まどか。

   
   君にその役割を担って欲しいと頼んだはずなんだけど……)


そういえば、そんなことを言ってたかも。

ほむらちゃんとおしゃべりするのがあまりに楽しみで、すっかり忘れてた。


まどか(ごめんね。

    でも、わたしは妖精さんたちのために具体的にどうすればいいのかな?

    
    
    今忙しいから……あんまり時間はとれそうにないけど)

   

妖精(もちろん知ってるよぅ。

   鹿目まどか。

   
   
   ぼくたちは人の感情の変異をエネルギーに転換することができるんだよぅ)



まどか(感情の変異?)


妖精(要は君が、泣いたり、笑ったり、怒ったり、

   そういうことをすればするだけ、僕たちの共同体は成長していくんだよぅ)
   
まどか(そうなの? でも、わたしなんかで少しは役に立てるのかな?)

   
   
妖精(役に立てるかなんてとんでもない謙遜だ。


   僕の目に狂いはなかった。


   
   君のお陰で、みるみるうち共同体は発展を遂げたんだよぅ!

   
   昨日だけでこれまでとは比較にならないほどのエネルギーが手に入ったんだよぅ)


まどか(そ、そうなの?

    お役に立ててなによりだけど……)


何がそんなにエネルギーを生み出したの……


あっ。


顔が急に熱くなる……。

まどか(もしかして、妖精さん

    み、見てたの?)


妖精(見てないよ



   見てないとも……)

 
 
まどか(ほ、ほんと?)  
   
   
妖精(だから、もっと暁美ほむらとエッチなことをするんだよぉ!)



やっぱり見てたんじゃんっ!!



妖精(おお!凄い、凄いよまどか。

   その調子でもっとエネルギーを創り出すんだ!)


ほむらちゃんがこの妖精さんを毛嫌いしてたのはもしかして……こういうことなのかな。


まどか(お願いだから、見ないで。

    ほ、本当に恥ずかしいんだから)


妖精(……そこまで言うなら仕方ないね。

   君とは協力関係にありたいから、機嫌を損ねることは今後自重するよぅ)


まどか(絶対だよ……)

妖精(本当は詳らかに観察したいところだけど、我慢するよぅ。

   それはそうとして、君は暁美ほむらの手助けをしたいと思っているようだね。

   
   
   僕たちとしても、君たちに死んでもらっては安定した成長が望めないから   
   
   君たちの支援を惜しまない。

   

   そうだね。

   
   
   少しでも暁美ほむらの負担を減らすことが、君たちの手助けになるはず。

   
   
   僕たち妖精は人にはない技術があるんだ。

   
   テレパシーがその最たる例だけど

   
   
   具体的にこれからの支援として、君の武器である杖と魔法を開発しようとしているところだ。

   
   
   すでに2つほど魔法を開発したから、使えるようにしてあげるよ。

   
   
   武器もこれから立ち向かう相手に通用するものを考えているけど

   
   完成できるかに関しては……
   
   まあ、キミ次第というところだ。)

妖精(暁美ほむらの役に立ちたいなら……

   
   
   わかっているね?)



まどか(なななな、……)


妖精(彼女を助けたいのだろう?

   いいからやるんだよぅ。
   
   もう一息、もう一息で開発できそうなんだよぅ!)



そこで妖精さんからのテレパシーは途絶えた。


なんだか泣きたくなってきた。





ほむら「うっ……」

ほむらちゃんの足がよろけるのを見て肩を貸す杏子ちゃん。

杏子「今日はここらで休もう……。

   おあつらえむきに休憩用の小部屋がある。
   
   あたしとまどかで交代しながら見張りをするから」


ほむら「……杏子。ありがとう」


……やるしかないのかな。

ここまでにしておきます。

べぇさんも仁美さんも全力で二人を応援しています。

感情をエネルギーにと言い出した時点であの下衆QBかと不安になった
やっぱり下衆だった。だが生きる価値のある下衆だった
乙です


なんだ、怪しいと思ってたら全然味方だったわ…


仁美が啓蒙しQBが実践の後押しとは
これはひかりふるわ

>>602 >>603 >>607
妖精さんはまだわからないですよ・・・。

とりあえず、続き書きます。

~中央省庁区 休憩室~


わたしは、杏子ちゃんに呼び出された。


杏子「敵はほむらしか警戒していない。

   そこに唯一あたしたちが付け入る隙がある」


まどか(うん……だけどあの鉄壁(アブソリュートディフェンス)の守りを崩す手段が、

    いまのわたしたちにはないから……)


杏子「いや……ないことはないんだ」

杏子ちゃんは肩に背負ってた銃をおろした。

まどか(その銃は……?)

杏子「あたしもまだ使ったことはないんだけどね。

   メベトが言うにはアブソリュートディフェンスも貫けるらしい
   

   弾数が限られてるから、多用はできないけどね……
   
   雑魚相手に使わなければ、メンバーとやりあう間は持つはずだ」


杏子ちゃんは下を向きながら言う。

わたしは、杏子ちゃんの手をつかんだ。

まどか(それさえあればほむらちゃんが変身しなくてもいいんだね!)


杏子「あ、ああ……。

   
   まどか、あんた、気力増幅呪文(タクレマ)は使えるか?

   
   あの防御を破るには手数が必要になる」 
     
   
タクレマならちょうどさっき妖精さんから教わったところだ。


まどか(できるよ。他に必要な呪文があったら教えて)


杏子「そうか……なら、援護はまかせたよ」

杏子ちゃんはうっすら笑って、わたしの頭に手をおいた。


少し希望が出てきた。

わたしもできることを……。



昨晩の記憶がよみがえる。

お風呂の中でほむらちゃんの身体にまたがったり、お布団の中で胸に触れられたり。


――ほむらちゃんのため……ほむらちゃんのためだ。

  二人で空を見るためにできることはなんでもするんだ。


でも、思い返すだけで顔が熱くなって死ぬほど恥ずかしいのに、あれ以上のことができるのかな。

~ほむらside~

個室の中には、バスルームやトイレなどが用意されており、志筑仁美の家よりも設備が充実していた。



背中に違和感を感じる。



――なんだろう?

そこに触れるとざらざらという感触がして……。



ほむら「っ!?」


息を飲みながら洗面所の鏡を見つめて絶句した。



ほむら「なに……これ?」

鏡面には変わり果てた自分の背中が映し出されていた。


肩から背中、腰にかけて竜に侵食されて、皮膚が黒ずんでいる。

肌の間からざらざらとした骨のように硬い――鱗のようなものが。



ほむら「……こんなことになっていたなんて」



おそらくさっきの戦闘で変身をしたせいだろう。


――こんなの人間の身体じゃない。

ほむら「まどか……っ……うっ……ううぅ……」


まどかに見せるわけにはいかない。

わたしを好きだと言って触れてくれたまどかが遠ざかっていく気がした。



こんな状態をみせれば、きっと空を見たいという願いを、まどかが諦めてしまう。

なにより気持ち悪いこの姿になってしまった肌を……晒すわけにはいかない。




コンコン……。

まどかっ!?

まどか(ほむらちゃん? 入るね?)

入り口を叩く音が聞こえて、慌ててレンジャースーツのチャックを締める。

洗面所から飛び出し、何事も無かったかのようにベッドで横になった。



まどかが入室してくると、わたしはねたふりをする。


まどか(ほむら……ちゃん? 寝てるの?)


声が震えそうで、わたしはその問に返事することができなかった。


寝返ってまどかの顔を見上げる。

まどか(あっ、起こしちゃったかな?)

ほむら「大丈夫」

するとまどかは安心したようにベッドに腰を落として、所在なさげに足をブラブラさせていた。


チラチラと私のことを見ているような気がする。

その様子が愛らしくて手を伸ばそうとした…が、

彼女に触れるギリギリのところで手が止まる。


――こんな身体…まどかにだけは見られたくない。

まどか…嫌だ。


触れたいのに、触って欲しいのに…。

まどか(ほむらちゃん…どうしたの?)

手を伸ばそうとしたのを、見られてしまった。

ほむら「……」

わたしは身体を起こし、背中越しにまどかを抱きしめた。

動揺を隠そうとしての行動。

だけどその歯止めは効かなくなる。

まどか(ほむら…ちゃん…)

頬を背中にすり寄せてまどかの温もりを感じると、

そのまま体重を後ろに傾けて、まどかをベッドに引き寄せた。


――最後かもしれない。

まどかに触れることが許されるのは、今日が最後かも知れない。


竜の侵食が進めば、この手も何もかも飲み込まれてしまうかも。


それならば、いま。この手で彼女を…。

まどかの顔を見つめると、熱の篭った眼差しをしていた。


――まどか。

白がよく似合っていると思った。

志筑仁美が用意してくれたシルクのワンピース。



頬が赤くなっていて……。



ほむら「まどか……いい?」



まどかは私から目を逸らしてそっと頷いた。

ここまでで。

書き溜めが少なくなってきたので、少しずつ投稿していきます。

乙でした
トカほむ化してるのか

>>621
原作にはない描写ですが、いろいろあって採用しました。

いろいろすいませんでした。とりあえず投下します。

白がよく似合っていると思った。

志筑仁美が用意してくれたシルクのワンピース。



頬が赤くなっていて……。

ほむら「まどか……いい?」

まどかは私から目を逸らしてそっと頷いた。

わたしは何かに憑かれたように、顔を両胸の間に埋めた。

まどか「っ!?」

ほむら「……」

その白い服の上から右の膨らみを啄むように唇で咥えると、まどかはビクッと震える。

まどか「うっ……」


まどかに嫌悪されてないか不安になるが、右手でわたしの後頭部を抑えてきた。

だからわたしは行為をつづける。

――まどかだって、わたしが寝てると思ってあんなことを。

志筑仁美の家で朝に狸寝入りをしていたわたしに触れてきたんだ。

スカートの裾から左手を這わせ、空いている方の胸に服の下から直接触れると彼女はまた震えた。

まどかは泣きそうになりながら、さらに声を出すのを堪えようとしているが、だんだんと彼女の呼吸が荒くなっていく。

テレパシーで声をだすこともできるはずだけど、余裕がないせいか、恥ずかしいのか、嬌声を漏らすだけ。

その声が漏れるたび、愛しさが募り、もっとまどかに気持よくなってほしいと願いながら



『これでいいのか』という煮え切らない心が鉛のようにのしかかってくる。


下着の上から彼女の秘部に触れようとするところで『鏡にうつる自分の背中』が脳裏によぎった。


竜に蝕まれ、皮膚が剥けて……

それはまるで左手を移植したさやかを彷彿させるような姿。

私のちからが急に抜け、手の動きはそこで止まり

まどかの胸の上に顔面を落とした。

まどか(ほむら……ちゃん?)

ほむら「しばらく……このままいさせてくれる?」

まどか(……うん)

あたたかい……。

今はまどかに触れているだけで満たされる。

まどかの心臓の音が聞こえた。

温かくて、大きい音……。


こんなにドキドキしてる……してくれている。

それは本当の私の姿を知らないから。


背中を見られれば、きっとこの時間は壊れてしまうだろう。


まどか(いつもと違う……)


その言葉に思わずドキッとした。

まどか(こうしてほむらちゃんと一緒にいると、

    いつもと違うほむらちゃんを見ているような気分になるんだ)


気づかれたわけではないの……?


まどか(こんなことをいうと怒られるかもしれないけど、

    実はとてもこわがりで……
    
    特に今日はなにかに怯えてるみたい。
        
    まるで……

    わたしみたい)

まどかの指摘に胸を撃ち抜かれたような衝撃をうけた。

わたしは少なからずまどかの前では変わったつもりでいた。


弱みを見せまいと強がっているつもりはなく、

時間を移動してきたせいで、昔のわたしはいなくなったものだと思っていたから。


まだあの頃の自分を見透かされたようで……


彼女の前で臆病風に吹かれているのを晒してしいまった。

きまりが悪くなった。


ほむら「命がけの戦いだから……ね。

    それは少しも不安にはなったりするわ」


まどか(……怖いと思ってる?)

ほむら「……いけないかしら」


まどか(ううん。


    むしろその方がいいと思ってるんだ。


    もっと怖がって欲しい。

    
    
    ……怖がってくれれば)



ほむら「えっ?」

まどか(でも。

    
    ほむらちゃんが本当に怖がってることって……

    そんなことじゃないよね?)


彼女は私の『背中』に手をかけてきた。


――やだっ。触らないで。


私は背中に触れられる危機感を感じ、その手を解こうとして両手に力を込める。

が、振り解こうとしてもまどかの細い手が離さない。


――なんで?


一流のレンジャーにも通用した私の力が、どうしてびくともしない?

まどかのどこにこんな力が?


ほむら「あなた、その腕力は……」

まどか(違うよ……わたしが強いんじゃない。

    ほむらちゃんの力が弱くなっているんだよ)


ほむら「な、どういうこと?」


まどか(力弱体化呪文(ストール)……。

    さっき覚えた)


力が抜けて、必死に抵抗しようとしても、ピクリとも動かない。


ほむら「いやっ……離して。

    お願いだから離して…ね、まどか」


まどか(……その様子だと、やっぱり気づいちゃったんだね)

気づいた? まさか……まどかは。


ほむら「あなた……まどか……そんな……」



わたしの身体のことを?


嘘だ。いつ、いつ知り得たというの?

だってデモネドと戦った時に力を開放したせいで、わたしは。


まどか(お願い、見せて……)

ほむら「っ!」


わたしはひとつの可能性に辿り着いた。


もうずっと前からまどかはこの背中に気づいていたという可能性に。


あの戦いの以前から、わたしの背中が竜に侵食されていたのだとしたら。


あの時、志筑仁美の家で風呂に入っていた時既に……。


――見られていた。



『ダメ! わたしが洗うからっ!』

まどかは背中を流すと頑として譲らなかった。



わたしが背中に触れれば、

違和感に気づいてしまうから……。

ほむら「まどか……あなた……」


まどか(ごめんね……ほむらちゃん。見せて……)

まどかがレンジャースーツを脱がせようと手をかけていた……。


ほむら「いやぁぁああああああああああああああああ」


わたしは為す術もなく、まどかに肌を晒してしまった。


逃げようとする私の身体を、彼女は放してくれない。


それどころかベッドの上に押し倒すようにして、うつ伏せになったわたしの背中を無言で見つめていた。

わたしは耐えられなくなって、嗚咽をもらしていた。

ほむら「うっ……ぐす……見ないで……

    こんな……きもちわるい……いやだ……

    
    
    やだよ……まどか……」



こんなのわたしの身体じゃない。

まどかに見られるぐらいなら、死んだほうがマシだった、

こんな屈辱を味わうなら、鏡を見た時剣で背中を突き刺してしまえばよかったんだ。


どうしてこんな目に……。

ここまでで。保守してくださった方すいませんでした。


こんなのわたしの身体じゃない。

まどかに見られるぐらいなら、死んだほうがマシだった、

こんな屈辱を味わうなら、鏡を見た時剣で背中を突き刺してしまえばよかったんだ。


どうしてこんな目に……。


まどかが、わたしを好きだと言ってくれたのに。

涙がでるほど嬉しかったのに……。

これじゃ……。



そのとき目の前に『何か白い』ものが置かれるのがわかった。

……まどかの服?


ほむら「まど……か?」


皮膚が半分落ちた肩に、柔らくて温かい手が置かれる。


そして背中に覚えのある膨らみが2つ、背中にあてられて……。


――まどか? 胸が……。


それだけで卒倒しそうになったというのに……。


ほむら「んぁっ……」

情けない嬌声が漏れてしまった。

ほむら「まどか……なに……を」


まどかの舌が竜の侵食した背中を這うようにして撫でていくのがわかる。

ほむら「んっ……あっ……い…や……、だ、ダメだよ……

    だって、ん……気持ち……わる……い」


まどか(ざらざらするけど、大丈夫だよ。

    ほむらちゃんの身体だもん。

    
    
    もっと……していい?)



ほむら「や、やめ……だって、危ない……かも…

    毒があるかもしれ……あっ……ん……や」


まどか(毒があったっていい。

    それで死ぬなら……。

    
    
    ほむらちゃんの身体をこんなにしたのは、わたしだから)

    

ほむら「ちが……まどかはわる……ない」


まどか(ごめん。本当にごめんね。



    わたしを怖がらないで。
    
    そのほうが……つらいよ)

まどか(こんなことで、なんにも返せないけれど……


    でも……これぐらいしかできないから)


ほむら「まど……か……」


まどか(すごくドキドキする。

    ほむらちゃん……背中、気持ちいい……?)


胸を触られたときよりも、背中の方がおかしいぐらい過敏に反応していた。

嬌声をあげるのが我慢できないぐらいに。

竜に侵食されつつも、神経が過密になっているのかもしれない。


ほむら「う……ぁ……あ……んんっ、まど……か」


まどか(ああ……ほむらちゃん。

    気持ちいいん…だよね?
    
    よかった……。
    
    もっとしたい……
    
    いいよね)



わたしはたまらず、身体を回転させて背中を隠した。

ほむら「せ、背中はもういいわ……

    あなたの気持ちはわかったし……なんというか、
    
    ざらざらしたものを……、申し訳無い気持ちになるから」


まどか(……)

まどかは無言で首を振る。

ほむら「ま、まどか」

~まどかside~

ほむらちゃんが傷ついていると思ったから、

決して気持ち悪くないということを態度で示そうとした。


背中は確かにゴツゴツしてて、苦かったけれど、ほむらちゃんだと思えばそれも厭わない。


そんなことより……。


体がおかしい。


声を聞いていたら、抑えられないほど強い気持ちがこみ上げてきた。

もっとほむらちゃんに気持よくなって欲しい。

舐められて、あられもない声をあげるほむらちゃんを見てると、ドキドキして、切ない気持ちがどっと溢れてきて。


ほむら「んぁっ……や、やめ……まど……んっ……」

舌で背中を舐めて、痙攣するほむらちゃんを見ていると止まらない。

レンジャースーツの隙間から覗かせている下の下着に手をかける。

ほむら「ま……待って、下は……や、やめ……」

その上を人差し指で何回か撫でると、ねばっとした液体が私の指についた……。


クチャっと音にほむらちゃんが反応して私から気まずそうに顔を反らすのが、普段のギャップと相まって、ドキドキした。

わたしも昨日下着を湿らして気づかれないことを祈ったから、ほむらちゃんの気持ちはわかる。

でも、拙くもこの手で、少しでも気持よくなってくれたと思うだけで嬉しくなった。


まどか(ほむらちゃん……よかった)

そのドロっとしたものを彼女の胸元に押し付けると、再び覆いかぶさるようにして逃さないぞという気持ちで、抑えこむ。


濡れた下着の下に指を2本入れて素早く撫でるように動かすと、ほむらちゃんが泣きそうにわたしを見ているので

唇を奪ってさらに下を強く攻める。


ほむら「ああっ……んぁっ、ちゅ。んぁあああっ。ちゅっ。はぁっ」


まどか(ごめん、ほむらちゃん……止まらない。止まらないよ……)

秘所が固くなっていくので、傷つかないように指の腹で素早く撫でると、弓なりに身体を曲げて、振り落とされそうになった。


――力が戻ってきてる。

そう感じたわたしは再び呪文をかけようとするが、唇が塞がれて、うまく詠唱できなかった。


なのに。

それでも、ほむらちゃんは抵抗しない。


ただ無心でキスをして……。

私をはなすまいと、背中の羽に手をかけて抱きしめてくれた。

……静かに受け入れてくれた。

ほむら「ぁあっ……んちゅ……んんっあ」


感じたことのない不思議な感覚だった。

中を掻き乱すのをほむらちゃんは、じっと耐えている。

嬌声に混じって聞こえる、液体が漏れ出すような音が、理性を狂わせているのかもしれない。


ほむらちゃんのことだけを考えて、彼女の重荷にならないように、彼女の嫌がることだけは決してしないようにと考えてきたのに。

それを押しのけるほど強いものが……。


仮にほむらちゃんが今苦痛を感じていたとしても、それを押しのけて自分を保つ自信がない。

いつもと違う……いつもと違う、乱れたほむらちゃんの声、顔を見ていると、私までおかしくなって。

ほむら「えっ?」

気づくと私は、彼女の秘部に自分のそれを当てていた。

仁美ちゃんが見せてくれた漫画でそんなことをしていたのが、記憶にあったけれど、本能的にそうすることを自分が望んだように思える。

腰をゆっくりと上下に動かすと、ヌメっとしたヒダが、擦れて……

それがほむらちゃんのものと思うだけで興奮した。


ほむら「まどかぁっ……こんな!こと……はぁっ……どこで……」

まどか(ほむらちゃん、ごめん、わたしもっと……)

ほむら「まどか……そんな動かしたらっ……ぁああっ!」


下半身に温かくぬめっとした液がかかり、油のように滑らかにほむらちゃんとの間を取り持つ。

痛みはまるでなく、敏感な場所にほむらちゃんの大事な場所が触れて、擦れて……。

甘い痺れが、背筋に走り身体が震える。


さらに快感を求めようと、肢体の動きは激しくなり、ほむらちゃんの身体を気遣う余裕を忘れていた。

冷静で物静かのほむらちゃんが乱れている様、綺麗な肢体に触れ私が乱していること……


このまま、自分が狂えば全てを手に入れられる気がした。

それが錯覚だとしても、わたしがほしいものはひとつしかない。


決して多くは望まない。


だから何よりもこの限られた時間が、わたしには大切だった。

ここまででお願いします。

~ほむら視点~

ことが終えた後、私もまどかも疲労にやられ、ひとつのベッドでよこになった。

私にしがみついたまままどかは離れない。

もちろん放して欲しいというわけではないし、そうやってまどかに求められるのが嬉しかった。


だけど、不安は押し寄せてくる。

背中の侵食が、いつか自分を飲み殺す。

そうなったとき誰がまどかを守るのか?



――仮に空に辿り着いたとして、まどかは笑ってくれるのか?

わたしはただ、彼女に生きていて欲しい。

そのためならなんでもしてきたし、今回だって命をかけることができる。


まどか(何も言わないんだね……ほむらちゃん?)

ほむら「……どういうこと?」

まどか(無理やりあんなことされて、よかったの?)

ほむら「背中の件だけはショックだった……でも、あなたもずっと前から知ってたみたいだし」

まどか(ふふっ……耳もとでほむらちゃんの声が聞こえて、気持ちいいな)

しがみつく両手に力を込めて、ほほをすり寄せてくる。

話が途切れた……。

まどか(あれ、何の話してたんだっけ?)

ほむら「まどかに襲われた件についてよ」


まどか(ああ。そうだったね。 あんまりほむらちゃんの声が心地よくて、つい)

ほむら「……」

ふわりと、彼女の頭をなでる。

まどか(……ほむらちゃんは、なんでも許しちゃうの?)

ほむら「そんなことはない。あなたの頼み事でもきけないことだってあると思う」

まどか(……たとえば?)

上目遣いでわたしを見上げるその瞳を、透かすような目で返す。


『戦うのをやめて欲しい』

まどかは心のどこかでそんな気持ちを抱いているような気がした。

少しでもわたしに長く生きて欲しいと。


そういえばデモネドは竜(アジーン)とリンクしたオリジンが今も生きていると言っていた。

どうやって助かったのだろう。

一度リンクしたら身体を侵食するまで切り離せないと思っていたが、そうではないのかしら。



――もし空にたどり着いて、私も生きていることができたなら。

  その時は、まどかとともに生きる未来を期待してもいいの?

~中央省庁区 まどかside~


わたしたちはさらに上の階層を目指して出発した。

ほむらちゃんの体調は万全そうに見える。



(鹿目まどか……鹿目まどか)

――その声は、妖精さん??

妖精(君だけに聞こえるように声をかけているんだよぅ。

      そして、ゆうべはお楽しみだったんだよぅ!)


まどか(な、な、み、見てたのっ!?)

妖精(いや、君との約束でのぞかないということだったろう?

      もう忘れてしまったのかい?

      
      
      エネルギーが溜まったから、何があったのか推測しただけさ)

妖精さん( というか、君が暁美ほむらと同性にもかかわらずあんなことをしたのは、
      
      僕たちに協力することで、装備とスキルを開発するという目的があったからだろう?)


ほむら「どうしたの、まどか?急に赤くなって」

ほむらちゃんには何も聞こえてないんだ。

まどか(ななな、なんでもないよ)

妖精(なんだ。その顔だとすっかり忘れていたようだね。

      ただ君は徒に、暁美ほむらと性交渉をしたというのかい?

      そんな生産性のない行為に何の意味があるのか
      
      まったくわけがわからないんだよぅ)

まどか(と、とにかくっ! これからも絶対覗いちゃだめだよ!)

妖精(わかってるよぅ……

      それと、新しい杖と、スキル。
      
      どちらも強力なものだから、アブソリュートディフェンスを崩すのもわけないんだよぅ!)


持っていた杖が、いつの間にか新しいものに変わっていた。


まどか(これが……妖精さんの杖……)

妖精(鹿目まどか。自分の力で世界を切り開くんだ。

   そして……あとは言わなくてもわかってるね?)


まどか(……)

そこで妖精さんのテレパシーは途切れた。


――頼もしい味方だと思うしかないよね。


背に腹は変えられない。

――ていうか、本当に妖精さん覗いてないんだよね。

ここまででお願いします。覗いてません。

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