女勇者「宝はこの先ね」(19)
盗賊「地図によればこの先だよ」
女勇者「待って。あの壁の向こう、魔物がいるわ…三匹。まだ気付いてないみたい」
傭兵「へっ、さっきみたいに片付けてやるよ」
女勇者「さっきの奇襲は偶然上手くいったのよ。盗賊、罠をお願い」
盗賊「はいよー」
女勇者「それにあなたは荷物係として雇ったのよ。不要な怪我で追加料金を取られたくないの」
傭兵「ああ、そうかよ。荷物係かよ」
女勇者「…やった!見つけたわ!宝箱!さっそく中身を…」
盗賊「待って、女勇者!罠が仕掛けられているかも」
女勇者「あ!確かにそうね」
傭兵「へっ、がめついガキだ」
女勇者「なによ!」
盗賊「もーちょっと…よし、罠外したよー」
傭兵「このクソガキ」
女勇者「へんな髪型」
傭兵「てめえ!それは禁句だ!」
盗賊「おーい、罠外したってばー」
女勇者「疲れたわ、早く宝を持ち帰りましょ」
傭兵「この野郎…」
女勇者「んっ、重いからあなたが持ってちょうだい」
傭兵「重っ!?契約金じゃ割にあわねえよ、クソッ」
盗賊「最短ルートは、こっちだよ」
女勇者「さすが盗賊ね」
傭兵「これなら戦いの方がマシだよ、ったく」
女勇者「ああ、朝陽がまぶしいわ…」
傭兵「ハア…夜中にダンジョンに潜る奴なんか初めて見たよ」
盗賊「ねえねえ、宝の換金しに行こうよ」
女勇者「そうね…どうもありがと、傭兵さん。あなたとの契約はこれでおしまいね」
傭兵「けっ。次は追加料金貰うからな、あばよ」
女勇者「商店はどこだったかしら」
盗賊「…ここだよ。ほら」
女勇者「あら、目の前に」
商人「いらっしゃい、トレジャーハンター達」
女勇者「これでも勇者よ、商人さん。この宝を買い取っていただける?」
商人「お、重っ!…ふむふむ…青の装飾が中々良い…この額でどうです?」
女勇者「ええ、それなら」
盗賊「納得いかないね」
女勇者「えっ?」
女勇者「でも、盗賊。この額なら充分に…」
盗賊「魔物がいるダンジョンで見つけたんだ。苦労に見合わないよ」
商人「ほお…交渉する気ですか。商売人は、魔物が守る宝は高値で買わなければならない法がある」
盗賊「そう、そしてこの宝は魔物が守っていた」
商人「証拠はありますか?魔物がいたと証明できるような」
女勇者(確かに、私達は魔物を避けて来たから、証拠は一つも無いはず)
盗賊「そうだな…んー…ニオイだよ!」
商人「ニオイ?」
盗賊「魔物の体臭が宝に染み付いているでしょ?」
商人「ふむ。確かに独特のニオイはしますが…」
盗賊「わかった?それが証拠だよ」
商人「ニオイだけなら後からつけられるので認められませんね」
盗賊「んなっ…」
女勇者「そういえば、宝に罠が仕掛けられていたのでは?」
盗賊「あ、そ、そうだ!」
盗賊「これを見てよ。宝箱に仕掛けられていた罠だよ」
商人「罠ですか…、これなら時間をかければ私でも取り外しできますよ」
盗賊「ぐぐ、くそ…」
商人「ふっ。私の言い値で買い取りますよ?」
盗賊「わ、わかった」
女勇者「ダメよ」
盗賊「えっ?」
女勇者「商人さん、見てちょうだい。ダンジョンで倒した魔物の血よ」
商人「そのビンに入れた青い塊が?」
女勇者「宝の青い装飾は、実は魔物の血なの」
商人「何を言うかと思えば…それも後から付けた物でしょう」
女勇者「この血はね、魔物が絶命した時にしか出ないの。それに数秒で固まるわ」
商人「…」
女勇者「宝は罠の仕掛けられた箱に入っていたわ。魔物の出ない安全な状況でしか罠を外せないの」
女勇者「そして、その重さ。両手でやっと運べるのよ。魔物の血を付ける暇なんか無いわ。血は、元から染み付いていたの」
商人「…確かに、あなたの言う通りだ。この宝は、魔物の宝。法にのっとり、倍額で買い取らせていただきます」
盗賊(す、すげー)
女勇者「ありがと、商人さん。今後ともよろしくね」
商人「ええ、またよろしくお願いしますよ」
女勇者「黙ってないでいきましょ、盗賊」
盗賊「え、うん…」
盗賊「さっきはスゴかったなぁ~巧みな話術!下準備も完璧だったね」
女勇者「あれね、嘘なの」
盗賊「あ えっ?ウソ?」
女勇者「ふふっ、青い血なんて無いわ。あの商人さん、口は達者だけど世間知らずみたいね」
盗賊「なーんだ嘘か…って、それ犯罪じゃない?」
女勇者「ダンジョンに王様の許可無く入ったのも犯罪よ?今更気にしない!」
盗賊「お金がたまったから薬を買いにいくんだよね」
女勇者「そうよ」
薬屋「こんにちは、お嬢ちゃん。例の薬かい?」
女勇者「ええ、いつものやつをお願い」
薬屋「はい、どうぞ」
盗賊「ねえ、これ宝の地図?」
薬屋「それは…前のお客さんの忘れ物だ。持っていきな」
盗賊「サンキュー」
女勇者「ありがと、薬屋さん!」
薬屋「気をつけてお帰り」
女勇者「家に帰るわよ!早く早く!」
盗賊「わかったわかった」
女勇者「母さんただいま!」
母「あら、おかえり。女勇者ちゃん、友達の盗賊さん」
盗賊「へへっ」
女勇者「母さん!何で家事なんか…私がやるから、寝ていて!」
母「じっとしているのは、退屈なのよ?」
女勇者「ほら、お薬を貰ってきたの。飲んで」
母「あら、いつもありがと。女勇者」
母「疲れたでしょうから、一晩休んで。ご飯はたくさんあるわ」
女勇者「ありがとう、母さん。母さんも休んでて、お願いだから」
盗賊「うん、うまーい」
女勇者「ちょっと、いつの間に!?」
盗賊「シチューおかわりー」
女勇者「私の分も残してよ!」
母「うふふ…」
母「もう行くの?もう一晩居てもいいのよ」
女勇者「ありがと、母さん。もう私行くから!」
盗賊「お世話になったね、女勇者の母さん」
母「ふふ、またいらしてね」
盗賊「…」
女勇者「…」
盗賊「ねえ、女勇者」
女勇者「わかってるわ」
盗賊「前より元気ないよね、女勇者の母さん」
女勇者「わかってるわよ。もっとたくさん薬が無いと、完全に治らないわ」
盗賊「へへっ、次の宝の目星はついてるよ」
女勇者「本当?じゃあ、早くいきましょ?ついでに、父さんも探さなきゃ」
完
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