友「見てたぜー。まーたこってり絞られたな」

弟「もう慣れっこだよ」

友「家でもあんな感じなんだろ？」

弟「まぁ、そうだね」

友「かー！羨ましいぜ！俺も優しく叱ってくれるお姉さんほしー！」

弟「お前Mだからな」

友「うるせー！俺はお姉ちゃんが好きなんだ！うちの兄貴と交換してくれよ！」

弟「お兄さんには悪いけど、遠慮しとく」

友「そんなこと言わずにさぁ！」


生徒会長を務める姉はあのお堅さに反して人気がある

友「文武両道、才色兼備！おまけに生徒会長ってんだから最高のお姉ちゃんだろ！」

弟「今は珍しい堅物だけど」

友「それがまたよし！」

弟「いいんだ……」

友「俺以外にも生徒会長イイ！って思ってんのけっこーいるんだぜ？女子のファンもいるぐらいだしな」

弟「案外人気高いんだね」

友「ま、その弟がこれだけど」

弟「これで悪かったな！」

友「だけど家でもあーだと疲れちゃうかもなぁ」

弟「……」

友「実際どーよ？」

弟「まぁうざったく思ったりすることもあるよ」

友「そーかー。でも美人だしなぁ！怒られ慣れてみると快感に……」

弟「ならないならない」

友「あー！俺もあんなお姉ちゃんほしいぞ、このやろー！」


実際家ではどうかというと……

姉「弟よ～！今日はすまなかった～！」

弟「何のこと？」

姉「廊下での一件だよ。お前だけ特別扱いするわけにはいかないからな」

弟「あー、あれは俺が悪かったし姉さんが謝る必要はないじゃん」

姉「うむ、理解力のある弟で助かるぞ」

弟「じゃあ離れて」

姉「うん？」

弟「引っ付くのいい加減やめてつってんの」

姉「実は怒っているのか！？」

弟「怒ってないってば」

姉「わ、私のことが嫌いになってしまったのかぁ！？」


こういうウザイ姉です

姉「今夜心霊特番がやるそうだ」

弟「へー」

姉「怪談は夏の定番だな。しかし最近めっきりこの手の番組が減った気がするな」

弟「何か問題があったんじゃない？」

姉「……」

弟「姉さん？」

姉「い、いや！私は大丈夫だ！」

弟「？」


どうやら怖い話を想像したようだ

完璧と言われる姉を持つと比較され馬鹿にされることも多い


姉「ひぃっ！」

弟「姉さんビビり過ぎでしょ」

姉「だ、だってあんなの、こ、怖くないほうがおかしい！」

弟「明らかに作りものじゃん」

姉「だとしても……ひゃあ！」

弟「……」


一時はこのギャップが可愛いとも思ったが今では違った

比較され周りからあーだこーだ言われれば少なからずストレスも溜まるわけで


姉「お、思いのほか怖かったな！」

弟「怖がってたのは姉さんだけでしょ」

姉「お前も震えていただろう！」

弟「それは姉さんが……」

姉「わ、私は震えてなどいない！」

弟「……」

姉「？」


ちょっとからかってやろう、そのときはそんな風にしか思っていなかった

なんでや！お姉ちゃんとラブラブエッチッチが始まるに決まってるやろ！！

姉「やはりこういう番組は良くないな。もっと他に何かないのか？」ｶﾁｶﾁ

弟「そろそろ俺風呂入ってこようかなー」ｽｯ

姉「！……待て待て、そう急いで席を立たなくてもいいだろう？」

弟「えー、でも今見終わったし」

姉「もっといい番組があるかも知れないだろ！　ちょっと待てってば！」ｷﾞｭｩｩ

弟「放してよ姉さん、風呂入りたい」

姉「せっかちな奴だな、いいから落ち着いて座ってろ！」ｸﾞｲ

弟「……はいはい」

明日再投下

姉「これもダメ……これも……うーん」ｶﾁｶﾁ

弟「ちょっとトイレ」ｽｯ

姉「……す、すぐに戻ってくるんだよな？？」

弟「戻るって。ツマミでいうと『小』の方なんだから」

姉「そうか、ならいいんだが……」ﾊﾟｯ

弟「じゃあ行くから」

姉「絶対１分以内に戻ってくるんだぞ！？」

弟「はいはい」


俺は仕掛けを用意することにした
姉が怖がりそうなシチュエーションは熟知しているつもりだ

ｶﾁｬ

姉「！」

弟「戻りましたー」

姉「な、なんだ、お前か。そうやって驚かすのはよせ」

弟「俺以外誰がいるんだよ。っていうか、ドア開けただけじゃん」

姉「いいや、お前は私を怖がらせようとして開けたんだ！そんな気がする！」

弟「言いがかりじゃん……」

姉「いいから早くこっちに来て座れ！」ﾎﾞﾌﾎﾞﾌ

弟「はーい」

ﾎﾞﾌｯ…

姉「この番組なんかどうだ？おもしろそうだぞ？」ｷﾞｭｯ


ＴＶ『徹底追跡～！　未完警察２４時ぃー！！』


弟「ははは、何これ」

姉「知らん。私も初めて見る」


ＴＶ『これはもう紛れも無くエターですよ！　まずはこちらのＶＴＲをご覧ください！どうぞ！』


姉「……」ｷﾞｭｩ…

弟「……あ、ところでさ」

姉「ん？　何だ？」

弟「姉さん、さっき風呂場行って何してたの？」

姉「風呂場？？　そんな所には行ってないぞ？」

弟「へっ？　ホント？」

姉「もちろん本当だ。ずっとここにいたんだから」

弟「ふーん」

姉「……何かあったのか？」

弟「……いや、トイレの前で見かけたんだよね」

姉「見かけた？　何を？」

弟「髪の長い人が風呂場に入ってくの」


姉「……！！」


弟「あれ？……でもあれ、姉さんよりずっと髪長かったな」

弟「何だろ……見間違いかな？」

姉「」

効果は抜群だった
むしろ効き過ぎと言ってもいい
姉は青ざめた表情のまま、ＴＶ画面も見ずに俺の服を握り締めていた


ＴＶ『「生存」「逃亡」「生存」「生存」「逃亡」「生存」「生存」！！』

ＴＶ『待機ぃ～～！！』


弟「姉さん？　ＴＶ見ないの？」

姉「……」

弟「ほら、まだ続いてるよ？」

姉「……」ｸﾞｯ

姉「お、弟よ！」

弟「え？」

姉「今日は私は風呂に入らないぞ！　お前が入ったら片付けてしまってくれ！」

弟「珍しいね。姉さんキレイ好きなのに」

姉「今日はそういう気分なんだ！」


作戦の第一段階は成功だ
ここでさらに追い込みをかける

弟「さっき俺が見たのって何だったんだろ」

弟「やっぱり幻覚か何かかな？」

姉「……そ、その話はもう止めろ！」

弟「もしかして、俺が見たのって……幽霊？？」

姉「！」

弟「んなワケないか～」

姉「ホッ……そうだ、幽霊なんているわけないんだ」

弟「じゃあもう１回トイレ行っとこう」ｽｯ

姉「ま、待て！　お前さっき行ったばかりじゃないか！」ｷﾞｭｯ

弟「のど乾いてて麦茶ガブガブ飲んじゃったからさ。早く行かないと……」

姉「むぅ……それなら仕方ないか……」ﾊﾟｯ

弟「……ん？ちょっと、待てよ？」

姉「？」

弟「もしかしたら、さっき見た幽霊が襲い掛かってきたりして」ﾆﾔ

姉「！！」

弟「風呂場から出てきたのは見てないし、まだそこにいるかも」ﾆﾔﾆﾔ

ｶﾞﾀｯ


弟「ん？」

姉「わ、私がトイレまで付いて行ってやる！　一緒に行くぞ！」

弟「え～、一人で行けるって」

姉「もしもってことがあるだろう！」

弟「家の中でどんなもしもがあるんだよ……大丈夫だってば」

姉「ちゃんと私の言うことを聞け！　いいから一緒に行くんだ！」

弟「はいはい、分かりました」


姉が付いてくるなどと言うのは予想外だった
しかし作戦の進行に支障はない

姉「何かあったら、すぐに呼ぶんだぞ？」

弟「呼ぶっていうか、ドアの向こう側にいるんだから普通に言えば聞こえるって」

姉「ま、待て！　ドアは開けといたほうがいいかも……」

弟「え～っ、何で姉さんの目の前で、公開放尿なんてしなきゃいけないんだよ」

姉「そ、それは……」

弟「そんなの軽く拷問じゃん」

姉「し、しかしだな……」

弟「じゃあ閉めるから」ｷｨ

ﾊﾟﾀﾝ

姉「あ……」

弟のヤツがトイレに入ってからもう３０秒近く経った気がする
しかし未だ弟が出てくる気配はない
私はすぐ近くの風呂場に警戒しつつ、弟の帰りを待つ


姉「……」ﾁﾗｯ　ﾁﾗｯ

姉「ううん……」ｿﾜｿﾜ


ええい！　何をグズグズしてるんだ！
男のオシッコなど１０秒ぐらいで終わるだろう！


ﾄﾞｻｯ


姉「おんっ！？」ﾋﾞｸｯ

姉「おい！　何だ今の音は！　返事をしろぉ！」ﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝ

弟「悪ぃ、棚のトイレットペーパー落としちった」

姉「……な、何だ、人騒がせなヤツだな」

弟「紙落としただけじゃん」

姉「そんなことよりまだ終わらないのか？　時間のかかるようなことじゃないだろ」

弟「ちょっと待っててよ、今お尻がすっごいカユくて……」

姉「オシッコが終わったのなら早く出ろ！」ﾄﾞﾝﾄﾞﾝ

弟「そんな事言われても……別に俺の勝手じゃん」

姉「そういう問題じゃない！　モタモタしてると来るかも知れないだろ！」

弟「来る？　何が？？」

姉「それは、その……ゆ、ゆう」


ﾄﾞｼﾞｬｰｰ……


姉「れ…い…」ｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮ

ｶﾞﾁｬ

弟「ふぅー、終わったよ」

姉「コホン……さっさと戻るぞ？　ここにずっといたら危険だ！」ｸﾞｲ

弟は特に危機感を持っている様子もなく、リビングに戻るまで終始のん気な顔をしていた
全く世話の焼けるヤツだ！


ＴＶ『ではまた来週～！』

姉「お、終わってしまったな……」ﾁﾗｯ

弟「ふぅ、もうちょっとこのままマッタリしてよ～っと」

姉「……もう少し、ここにいるのか？」ｷﾞｭｯ

弟「うん、まあね」

姉「ホッ……まあ風呂なんて、そんなに急いで入るものではないからな」

弟「何かいい番組ないかな～」ｶﾁｶﾁ

姉「……ん」

弟「この時間じゃ、もう何もないか」ｺﾄｯ


姉「……」ｿﾜｿﾜ


弟「姉さん、どうかした？」

姉「ん、ん～……」ﾓｼﾞﾓｼﾞ

弟「……もしかして、トイレ行きたいの？」



姉「……」ｺｸｯ


弟「あ、そうか、姉さんはずっと行ってなかったもんね」

姉「……」


弟「いいよ～、行ってらっしゃ～い」

姉「な、何っ！　一緒に来てくれないのか！？」

弟「え？　一人で行けないの？？」

姉「いや……だって、それは……」

弟「しょうがないなー。じゃあ一緒に行ってあげるよ」

姉「ほ、本当か！？」

弟「さっき付いてきてもらったしね」

ｶﾞﾁｬ…


弟「じゃあ閉めとくから」ｽｯ

姉「待て」

弟「？」ﾋﾟﾀｯ

姉「ドアは……開けたままでいい」

弟「……え？　それじゃ丸見えじゃん」

姉「じゃあお前は、私がトイレから出るまで、何があっても必ずそこにいると断言できるのか？」

弟「え？　何言ってるの？？」

姉「分からないのか？　ドアを閉めてしばらくしたら、お前が他の誰かと入れ替わってるかも知れないだろう」

弟「……？？」

姉「私がもう一度ドアを開けたとして、そこに弟になりすました別の何かがいたらどうするんだ！」

姉「……と言ってるんだ！！」

弟「」


俺は今とてつもなく後悔している
ほんの一時の思い付きでやったことの結果がこれだ
姉が心霊系にここまでビビリだとは思わなかった


弟「……分かったよ。じゃあドアは開けっぱなしでいいから」

弟「俺は後ろ向いてるから、終わったら呼んでよ？」

姉「それだけで安心できるものか！」

弟「……は？」

姉「考えてもみろ！」

姉「声をかけて振り返ったと思ったら、自分のよく知る人間ではなく、恐ろしい悪霊か何かだった……」

姉「そんなの、ホラーの定番じゃないか！！」


もう心霊系で姉に何か仕掛けるのはやめよう
俺は心の底からそう誓った

弟「んー、じゃあどうすればいいの？」

姉「む、そうだな……」

弟「……」

姉「うーむ……」

弟「もう普通にすればいいんじゃない？」

姉「ちょっと静かにしててくれ！　今考えてるんだ……」

弟「はい……」

姉「……むむむ」

姉「ふむ、こうするしかないか……」

弟「決まった？」

姉「うむ、ちょっと後ろ向きのまま、右手をこちらに出してくれ」

弟「こう？」ｻｯ

姉「ちゃんと指の間を開けてくれ、ジャンケンのパーにする感じで」

弟「注文多いなー」ｸﾞｸﾞｯ

姉「よしよし」


ｷﾞｭｯ


弟「！」


姉「……うん、これで大丈夫だ」

姉「体温があって暖かいなら、まだ悪霊じゃないだろう」

姉の指が俺の指の付け根に潜り込み、しっかり握られる
これは俗に言う……何だっけ


姉「これなら怖くなくて良いな！　よし、今日からこれを『安心繋ぎ』と呼ぶことにしよう！」

弟「……お好きにどうぞ」

姉「弟よ、決して体温を落としたりするんじゃないぞ？」

弟「何で？　というか、そんなこと自分でできる奴がいたらお目にかかりたいよ」

姉「弟が悪霊と入れ替わったら、体温が落ちてくるはずだ！多分！」

姉「だからもしもお前の手がちょっとでも冷たくなってきたら、私はお前、というかお前の体を突き飛ばして逃げるぞ！」

弟「……」

姉「その代わり、一旦逃げても後でちゃんと武器を揃えて助けに来てやる。そこは安心していいぞ？」

弟「あ、はい」

姉からいくつものありがたいお言葉を頂き、その意味をゆっくり反芻し解釈する
俺は姉の言葉に対して無心の境地に近づきつつあった

その時の俺の意識は言葉よりも手の感触に向けられていた
遠慮なしに食い込んでくる姉の指が、不覚にも心地良かったからだ


弟「……」ｸﾞｸﾞ…

姉「ん？どうした？　腹でも痛いのか？」

弟「いや、大丈夫……」


血流もやや下半身寄りとなり、後ろ向きでなければ目に見えて分かってしまうほどに反応している
姉がトイレを出るまでに鎮めておかないと、後々に渡って弱みを握られてしまうことになる

姉「本当に大丈夫なのか？？」ｼﾞｰ

弟「うん、平気平気」

姉「……ちょっと見せてみろ？」

弟「大丈夫だってば」ｻｯ

姉「ま、まさか、本当に悪霊が乗り移ってきたとか……？」ｷﾞｭｯ

弟「それだけはないよ、絶対」

姉「……ホント？？」

弟「ホントホント、それより早く終わらせて戻ろうよ」

姉「そう急かすな。男と違って、こちらは少々時間がかかるんだ」

弟「そうですか……」

姉「ふぅ……」

弟「……姉さん、まだダメ？？」

姉「時間がかかると言っただろう。もうしばらく待て」

弟「はい……」


明らかに物音がしなくなってしばらく経っても、姉はトイレから動かなかった
時々恐る恐る催促の申し立てをするものの、陳情はあえなく却下される


弟「…………姉さん、そろそろお戻りの時間かと……」

姉「しつこいヤツだな、分かったよ」ｽｯ

ようやく姉は腰を上げたものの、勝手に手を放すなとのご命令が追加された
リビングに掛けられた時計を見て、行く前から既に２０分以上も経っていたのだと知った


姉「……ふぅ、スッキリした」ﾎﾞﾌｯ

弟「姉さん、もう手は放してもいいんじゃない？」

姉「……」


リビングに戻っても手は放してくれない
しかし別に悪い気はしない
俺も姉の手の感触を楽しんでいたからだ


弟「えーっと、このままだと俺、身動きできないんですけど……」

姉「……」

とはいえ、一応抗議の声は上げておかねばならない
ここで黙っていたら、まるで俺が姉に手を握ったままでいて欲しいみたいな雰囲気になってしまう


弟「そろそろ風呂入りに行きたいなー、なんて」

姉「……」

弟「……うーん……右手と右手だから、掴み辛いんだ。左手に変えてもらっていい？」

姉「しょうがないな」ｽｯ

弟「どうも」ｸﾞｯ


姉「……」ｼﾞｰ


弟「ん？」

とはいえ、一応抗議の声は上げておかねばならない
ここで黙っていたら、まるで俺が姉に手を握ったままでいて欲しいみたいな雰囲気になってしまう


弟「そろそろ風呂入りに行きたいなー、なんて」

姉「……」

弟「……うーん……右手と右手だから、掴み辛いんだ。左手に変えてもらっていい？」

姉「しょうがないな」ｽｯ

弟「どうも」ｸﾞｯ


姉「……」ｼﾞｰ


弟「ん？」

手を持ち替えると、途端に姉に睨まれた
何か気に入らないことでもあるのだろうか


弟「ん……姉さん、どうかした？」

姉「……違う」

弟「え？」

姉「それは安心できる方じゃない」

弟「……」

弟「……あ、こう？？」ｻｻｯ


ｷﾞｭｯ…


姉「……」ｼﾞｰ

弟「……」ｺﾞｸｯ

姉「……うん、これでいい」

弟「ホッ……」

姉の納得いくようにできた所までは良かった
しかしその後が問題だった
俺はそれから１時間以上も拘束され続けていた


姉「……ふぅ」

弟「あのー、そろそろ放してもらえない？」

姉「……」

弟「姉さん……？」

姉「……やだ」

弟「やだって……ずっとこのままじゃ、着替えもできないじゃん」

姉「仕方ないだろう？　お前が風呂場で変なものを見るのがいけないんだ」

弟「それについてはよくよく反省してるよ。本当に」

姉「なら大人しくしてろ」ﾌﾟｲｯ

弟「……だからさ、風呂場にいる幽霊をやっつけてくるから、一旦放してよ」

姉「む！そうやって私を置き去りにするつもりか！？」ｷｯ

弟「いや、やっつけたらすぐに戻るって」

姉「弟の一瞬の留守を狙って、私の方に攻めてきたらどうするんだ！」

弟「うーむ……」

姉「そうなってからじゃ遅いんだぞ！」


面倒くせえええええ！
何とかこの窮地を脱出する方法はないのか！

弟「……でもさ、それぐらいだったら、手を繋いでても安全じゃなくない？」

姉「それはない。今のままなら絶対に安心だ」

弟「何で？　手を握ってるだけで別にパワーアップとかはしてないと思うけど」

姉「こうしてるとな、怖いことを考えずに済むんだ」

姉「それに、お前がこのままでいてくれれば、仮に何かあっても怖いとは思わない」

弟「……」

姉「こういうのはな、気持ちの問題なんだ」

姉「悪霊だって心の弱ってる方を選んで狙ってくる。そうだろう？」

弟「まあ、そういう話はよく聞くけど」

姉「私が元気でいる間は、ヤツらも手出しできないというわけさ。分かっただろ？」

弟「分かったような分からないような……」

姉「と・に・か・く！　せめて明日の朝までは、ずっとこうしていろ」

弟「は？　そんなの無理だって。どうやって寝るんだよ」

姉「私はここで寝ることにする」

弟「俺は？俺はどうすんだよ。明日までこのまま？」

姉「ん？　ん～……」

弟「……」ｼﾞｰ


姉「……」ﾌﾟｲｯ


弟「あっ、逃げた！」

姉「……それぐらい、自分で考えろ！」

弟「無茶言うなって！　それに、誰のせいでこうなったと思ってるんだ？」

姉「どう考えてもお前だろ」ｷｯ

弟「…………そうでした、すみません。はい……」


とはいえ、朝までこのままだと本気でマズい
一睡もできないままでは、明日の授業が地獄になることは目に見えている

弟「姉さん……このまま眠れないと、多分俺、本当にヤバいと思うんだけど」

姉「……」

弟「俺だって、明日学校あるんだからさ……」

姉「仕方ないヤツだな」

弟「おっ？」

姉「じゃあ、今日は私と一緒に寝ろ」

弟「…………えっ」

姉「ん？聞こえなかったか？　じゃあもう一度言うぞ？」

姉「今日は私と一緒に」

弟「いやいやいや！　聞こえた聞こえた！」

姉「何だ、聞こえたのなら変な声を出すな」

弟「そんなこと突然言われれば、誰だって変な声ぐらい出るって！」

姉「……何か問題でもあるのか？」

弟「むしろ問題しかないだろ！　姉と弟が一緒のフトンで寝るとか！」

姉「私が使ってるのはベッドだぞ？」

弟「どっちでもいいよ！そんなの！　とにかくその案は却下！」

姉「むぅ、つまり何が問題なんだ？　分かりやすく具体的に言ってくれ」

弟「えっと……姉さんは女でしょ？」

姉「うん」

弟「俺は男」

姉「うん」

弟「女と男が一緒に寝る。どう考えてもマズいじゃん」

姉「別にマズくはないだろう。私とお前は姉弟なんだぞ？」

弟「姉弟でも男と女じゃん！」

姉「だから？？」

弟「それは、その……コホン」

姉「ん？」

弟「つまりさ……男と女が一緒にいたら、万が一間違いを冒す……っていう可能性だってあるじゃん？」

姉「……」

弟「だから寝る所は別々に……」

姉「つまりお前は、私とお前が姉弟の関係を超えて結ばれてしまう、ということを言いたいのか？？」

弟「結ばれねーよ！　だから万が一そうなったらマズいっしょ？って話！」

姉「何でそんな可能性があるんだ？　そういうのは好きな者どうしでするものなんだろ？」

弟「いや、男には抑えられない衝動があると言いますか……」

姉「……じゃあ何か？　お前はその……わ、私と、エッチッチなことをしたいとか……そういうことを考えているのか？」ﾁﾗｯ

弟「考えてないってば！」

姉「私は血の繋がったお前の姉なんだぞ？　全く、とんだ変態だな」ﾌﾟｲｯ

弟「聞けよ！」

弟「……ん？……あ、そうだ」

弟「姉さん、その変態の手をずっと握り締めてるのは、状況的にはヤバいんじゃない？」

姉「……」

弟「姉さんの身の安全のためには、早くその手を放した方がいいと思うよ？」

姉「これはしょうがないんだ。これを外してしまったら、それこそ私は怖くて眠れなくなってしまう！」ｸﾞｸﾞｯ

弟「チッ、ダメか……」

姉「そうだ、ダメだぞ？」ｷﾞｭｯ

弟「じゃあどうすりゃいいんだよ、この状況……」

姉「さっき私が言った通り、一緒に寝ればいいじゃないか」

弟「姉さん、つい今さっき俺のこと変態とか言ってなかったっけ？？」

姉「言ったな。でもよく考えたら、お前がそんな破廉恥なことを私にするわけがないからな」

弟「それはどうも」

姉「それでどうするんだ？　はふ……私もそろそろ、眠くなってきたぞ？」

弟「…………」

ｷﾞｼｯ…

ﾓｿﾞﾓｿﾞ…


姉「いいか？　朝まで絶対に手を放すんじゃないぞ？」

弟「はーい」

姉「……いや、待った」

弟「？」

姉「弟よ、やっぱり手は放していいぞ？」

弟「あれ？いいの？」

姉「うむ、これでは寝にくいだろうからな」ﾊﾟｯ


姉の拘束からようやっと解放された
……と思うのはやはり甘かった


姉「えいっ」



ｺﾞｿｺﾞｿ…



弟「！？」

姉「ふぅー、これで一安心だな」


姉は俺の脚に自分の脚を絡めてきたのだ
俺に対する拘束はさらに強化されてしまった


弟「ね、姉さん」

姉「ん？何だ？」

弟「これって、さっきよりずっと寝にくいと思うんだけど……」

姉「お前が昔言ってたじゃないか」

弟「言った？何を？」

姉「『夜中に寝てる人間の足首を掴んで引っ張る妖怪』だとか何とか……」

弟「そんなこと言ったっけ？？」

姉「言ったんだ！　あの話は怖かったんだぞ！？」

弟「それは、ごめん……覚えてないけど」

姉「あの時はこうやって怖くないようにすることもできなかったから、大変だったんだぞ！」

弟「そうなんだ……」

姉「そうなんだ！　だから私には、お前の脚に巻きついて安心しながら眠る権利がある！」

弟「うん、分かったよ。もうそのまんまでいいから……」

姉「いくらヤツでも２人分の重さは引っ張れまい。これでようやっとあの妖怪も克服できる」

弟「それはめでたい事ですね」





弟「……姉さん？」

姉「ｽｰ……ｽｰ……」

弟「もう寝てる。よっぽどリラックスしてたのか」


姉としては怯えて寝る心配もなくなり、全て解決した気分なのだろう
しかし俺の方は別の問題が持ち上がってきている
……いや、持ち上がるというよりは、そそり立つと言った方が適切だ


弟「……ああもう！　いい匂いしやがる！……ううっ……」ﾓｿﾞ…

しょせん相手が姉だと思ったのが俺の間違いだった
柔らかい脚の感触と女の匂いで、俺の一部は痛いぐらいに硬直している
というか、位置直しもままならないので実際に痛い


弟「くっそぉ……出してぇ……」


しかし、まさかここでおっぱじめるわけにはいかない
万が一ここで姉が起きてきたら、その瞬間に俺は終わりだ

かと言ってここから離れることもできない
無理に動いて姉を起こそうものなら、今度はどんなペナルティが課されるか分かったものではない

姉「ｽｰ……ｽｰ……」

弟「一人だけのん気に寝やがって……このっ」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

姉「ｽｰ……ｽｰ…………んむ」


弟「！」ﾋﾞｸｯ


姉「……ｽｰ……ｽｰ……」

弟「ビ、ビビッたぁ～……」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ…

俺は姉の頭を優しく撫でながら、必死に下半身からの欲求を誤魔化していた
その後、覚えているだけでも２時間は悶々としたまま夜を過ごした

途中どうしても我慢できず、姉の頭を抱いたり匂いを嗅いだりしてしまう瞬間があった
しかしその直後に襲ってきた罪悪感により、わずかばかりの理性を取り戻して凌いだ
やがて欲求よりも睡魔が強くなり、何とか俺は眠ることができた

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


～翌朝～

弟「……ん、あれ？　何で俺寝て……」

姉「ｽｰ……ｽｰ……」

弟「……あ、そうか、確か昨日――」

姉「……んむ」ｺﾞﾛｯ

ﾌﾜｯ…

弟「！」


ﾑｸﾑｸ…


弟「あ、また……」


せっかく一晩かけて体を落ち着かせたのに、ほんの一瞬で逆戻りしてしまった
たかが匂いを嗅いだだけで簡単に反応してしまう自分の単純さが嫌になる

とにかく今すぐ脱出しないといけない
こんな状態を姉に知られたら、今度は変態呼ばわりでは済まない


弟「む……脚が絡まって……くっ」ﾓｿﾞ…

姉「むぐ……」ﾓｿﾞ…

弟「う、ヤバ……」


こうやって脚が絡まったままでもかなり気持ちいい
ましてや、それを外そうとする度に擦れる姉の脚は、何もかも忘れてしまうほどに甘美な感触であった

弟「…………」


姉「んん……」

姉「ｽｰ……ｽｰ……」


その快感が俺を誘惑し、惑わす


出したい


このまま姉の脚の感触を存分に堪能しながら、我慢の限界を越えてしまいたい
血の繋がりの戒めを厳しく説いていたことを思い出しながら、情けなく果ててしまいたい

弟「あ、脚外すのに手間取って、何度も擦れるのは……ｺﾞｸｯ……仕方ないよな？」


ｽﾞｯ…　ｽﾞｯ…　


弟「……！」

弟「はぁ……はぁ……」


ｽﾞｯ…　ｽﾞﾘ…


弟「うっ！……姉さんの脚、良すぎだろ……！」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙｯ

姉「ｽｰ……ｽｰ……」

弟「ああっ、もお……何が『お前はそんなことしない』だよ……」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ


ｽﾞｽﾞ…　

ｽﾞﾘ…


弟「姉さん、やられまくりじゃんかよ……くっ」ｶﾁｬｶﾁｬ


俺は姉と向かい合ったまま、昨晩からパンツに押えつけられていたモノを取り出す

今の自分は姉の言う通りの変態そのものだった
しかし今はそれを恥じる余裕すら残っていない
後でどうなろうと、このまま姉の体を味わいながら快楽の証をしごき出してしまいたかった

弟「はぁ、姉さん、姉さん……」ｼｺｼｺｼｺ

弟「姉さんの脚、最高だよ……長くて、引き締まってて……うっ」ｼｺｼｺｼｺ


毛布で隠れているとはいえ、ほんの１枚引っぺがせば、そこにはズボンを下ろし姉に欲情する変態がいる
今ここで姉が起きてしまったら、どう取り繕うと言い訳は無意味だ
しかし、より強い快楽を得ようとする手の動きは、治まるどころかますます激しくなる


弟「ぐっ……姉さん……はっ、はっ」ｺﾞｼｺﾞｼ

弟「イキたいよ、姉さんの体で……！」ｺﾞｼｺﾞｼｺﾞｼ

姉「ｽｰ……ｽｰ……」ｺﾞﾛﾝ…

弟「姉さ……イクっ！　あっ！」ﾋﾞｸｯ



ﾄﾞｸｯｯ！


ﾄﾞﾌﾟｯ…　ﾄﾞﾌﾟｯ…



弟「はっ、はっ、はっ、はぁ……」


手の中に予想を越えた量の粘液が放出された
その快楽の余韻に酔いしれ、身なりを整える気も起きない

弟「はぁ、はぁ……姉さん……」


遂にイクことができた
姉のベッドに包まれたまま、姉の脚に絡まり、その匂いを嗅ぎながら、絶頂に達することができたのだ


弟「姉さん……俺、ちゃんとイケたよ……姉さんの……はぁ、はぁ……体で……」


一心に姉を想いながら射精できたことが、どうしてこんなに嬉しいのか
なぜかそれを理屈で整理することができない
ただ、その達成感と安心感は、今までの自慰では得ることのできなかったものだ

弟「姉さん、お……俺はもう、どうしようもない、変態だよ……」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ


汚れていない方の手で姉の頭を撫でる
余韻が落ち着いてきたところで、俺はようやく精液を拭き取り身なりを整え始めた

罪悪感は当然あった
しかし、それをはるかに越える姉に対する愛おしさが、その時の俺の心を満たしていた
もうきっかけが何だったのかもよく覚えていない


弟「……そうか、昨日ＴＶの心霊特集見たんだっけ」

姉「んう……？」ﾑｸｯ

弟「あ、おはよう、姉さん」


姉「……？」


姉「弟……」


姉「……む！」ｷｯ

弟「ん？」

姉「おい弟よ！　これはどういうことだ！」

弟「えっ？」

姉「お前！　何の断りもなく、勝手に私から離れたな！？」

弟「あ……」

姉「言っただろう！　朝まで絶対に放すなって！」

弟「んー、いや、こんだけ明るかったら悪霊なんて出ないっしょ」

姉「それが浅はかだと言ってるんだ！　いいから言われた通り、ちゃんと私を保護しろぉー！！」ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ

弟「はいはい、じゃあ次こういうことがあったら、そうするからさ」

姉「言い訳するなー！！」ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ

弟「今日は俺が朝飯準備するから、機嫌直してよ」ｽｯ


ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ


姉「はえっ！？」ﾋﾞｸｯ

ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ…

姉「……ぅ……ん」ｺｸｯ

弟「ん？……あっ」ﾊﾟｯ

……やっちまった
つい姉が寝てる時の動きが出てしまった
あまりにも自然に手を伸ばしていったことを、怪しまれていないだろうか


姉「……」ﾓｼﾞﾓｼﾞ

弟「あ、あれ……？」

姉「……」ﾁﾗｯ

弟「姉さん、大丈夫？」

姉「……い、今ので終わりなのか？？」

弟「え？　何が？」

姉「……」

頭を撫でると急に姉は大人しくなった
その反応が意外だったが、それよりも姉の言葉の意味が解せない

「終わり」とは何に対して言っているのか
まさか、頭を撫でたことを言ったのだろうか？


弟「えーっと……」

姉「ん～……」ﾓｿﾞﾓｿﾞ

弟「……姉さん、もう一回頭撫でてもらいたいの？」


姉「……」ﾋﾟﾀｯ


弟「姉さん？」


姉「……」ﾌﾟｲｯ

弟「んー、とにかく学校行く準備しようよ」

弟「今日は姉さんは座って待ってればいいから」

姉「やだ！」

弟「え？」

姉「弟！お前は私を怒らせた！」

姉「ちゃんとお前が私の怒りを鎮めてくれないと、私はここから一歩も動かんぞ！」ｷｯ

弟「ええ～？？　まだ怒ってんの？」

姉「当然だ！」

弟「そう言わずに行こうよ、ほら」ｸﾞｲ

姉「やぁ～だ～！」ｸﾞｸﾞｸﾞ…

弟「う～ん……」

姉「ふん！」ﾌﾟｲｯ


昔から姉は一度意地を張り出すとテコでも動かない
つまらない説得は火に油を注ぐようなものだ

さっきは返事が聞けなかったが、試してみるしかなさそうだ


弟「んー……」ｽｯ


ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ


姉「！」ﾋﾟｸｯ


姉「ん……」ﾓｼﾞﾓｼﾞ


姉の頭をもう一度撫でてあげると、途端に姉から頑なな雰囲気が消える
そればかりか、体まで柔らかくなっているようにも見える
やはり単に頭を撫でて欲しかっただけなのだ

それならそう言ってくれればいいのにと思うが、おそらくその辺りが姉を怒らせる部分なのだろう
きっとこういうことは言葉で直接確かめてはいけないのだ


ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ…


姉「……」ｸﾃｯ


ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ…


姉「……ん～♪」

弟「……姉さん、朝ごはん食べる？」

姉「……」ﾌﾙﾌﾙ

弟「そう」


どうやらしばらくこのまま、私のお気に召すまで続けよということらしい
今までの流れから考えて、おそらく止めるタイミングもこちらで整えなければならない

しかしその時の俺はもう面倒くさいとは思わなかった
多分その時既に、姉のことを家族として想う以上の気持ちが芽生えていたのだろう

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～学校～

友「いや～！今日の生徒会長も自信と威厳に満ち溢れてるよな～！」

弟「そうだな」

友「見ろよ、あの颯爽とした眼差しと足取り！　まさに『範を示す者』って感じだよな！」

弟「そうだな」

友「……さっきからそればっかりじゃねーかよ。何かあったのか？」

弟「いいや？　別に何もない」

友「そうかー？」


本当に何もない
というより、今まで自分自身にまとわり付いていた妙なものがなくなったと言う方が正しい

友「はぁ……それにしても、何であの姉の遺伝子からこんな凡庸の極みみたいなヤツができるんだろーな」

弟「……」

友「もののはずみで弟に生まれてきたというだけで、あんな人と一つ屋根の下で一緒に暮らせるだなんて……」

友「これはもう不公平といって差し支えねえ！　お前羨まし過ぎだぞ！　」

弟「だろ？　お前にはぜってーやらねえからな」

友「……へ？」

弟「何だよ」

友「お前、やっぱいつもと違う感じしない？」

弟「んー……まあ違うかもな」


もう姉と比較されることは気にならなくなっていた
……いや、この言い方は正しくない
比較される度に込み上げてくるものが劣等感ではなくなったということだ

友「何か今日は変に余裕あるよな、お前」

弟「そりゃ、いつまでも同じってわけはないだろ？」

弟「いくら俺がサル以前のミトコンドリアの生まれ変わりでも、そのうち成長するし、進化だってするだろ」

友「いや、そこまでは言ったことねーけどよ……」


今までは姉は自分にとって距離のある存在だった
家でいくらまとわり付いて鬱陶しい姿を晒していても、やるべきことは充分以上にやってのけるのが姉だった
不出来な俺とは違う
きっと俺の劣等感は、その事実を受け入れてしまったことで現れたものだ

弟「……」

友「お前、何ニヤニヤしてんだよ」

弟「ん？　そんな顔してたか？」

友「してたしてた……あ！そうか！　お気に入りのエログッズでも見つけたな！？」

友「動画か！？　書籍か！？　一人で囲ってないで、俺にも見せろよ！」

弟「……やだよ、自分のお気に入りは自分で探せ」


しかし今はその事実を許せない自分がいる
自分が姉にとって一番近い男でありたい
他の誰も姉に近づけさせたくない

姉に必要と思われるような男になり、姉を独り占めして、自分の腕の中だけに囲ってしまいたい
下半身の興奮を伴うその欲求に、俺は自分の度し難い変態性を自覚していた

投下方式後日変更有

弟「……とはいえ、まずは何からやればいいかな」

友「おーい弟！　宿題見せてくれよ！」

弟「何で俺が……いや、いいぞ、ほれ」ｻｯ

友「あん？　今日は随分物分りがいいじゃねえか」

弟「別に？　そんなことないと思うぞ」


多分俺は前よりも友に対して冷酷になっている

もう俺は姉以外のことで頭を煩わせたくない
宿題を見せるだけで、くだらない雑音を早めにシャットアウトできるのなら安いものだ
本気でそう思っていたのだから

教師Ａ「この時代から宗教界のルネッサンスが始まり……」

弟「……」


教師Ｂ「ここで　tan９０°を計算すると、その解は無限となり……」

弟「……」


教師Ｃ「修飾詞の順番は遠くから見て分かる特徴を先に付けられ……」

弟「……」


教師Ｄ「焼成された灰は、元の化合物から炭素と水素が取り除かれていて……」

弟「……」


教師Ｅ「筆者の意図はこの場合、おおよそ３つに分けられ……」

弟「……」

何をすれば姉に求められる男になれるのか
どうしたら姉を自分だけのものにできるのか
そればかり考えていて、眠気に襲われる暇もないまま、その日の授業が終わってしまった
得られるものこそ無かったとはいえ、今までにない充実した時間を過ごすことができた


弟「結局何すりゃいいんだ？」

弟「勉強か？　スポーツか？」

弟「将来性でいったら勉強だよな、やっぱ……」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

弟「でも勉強か～」

弟「俺自分で勉強とかしたことないしな～……」

弟「誰か教えてくれる人…………！！」ﾋﾟｸｯ


灯台元暗しとはこのことか？
なぜ今までこのチャンスに気が付かなかったのか

姉と一緒に過ごすことと、自分自身のレベルアップ
この２つを同時にこなす策を思いついた俺は、やや興奮ぎみに自転車のペダルを廻した

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書記「では会長、お先に失礼しますね？」

姉「うむ、ご苦労さま」

書記「……」ｼﾞｰ

姉「ん？　どうした？」

書記「会長、何かあったんですか？」

姉「何かあったとは？」

書記「何だか、今日は機嫌が優れないようにお見受けしますが……」

姉「そう見えるか？」

書記「はい。部屋に来てから、何度も携帯の画面をご覧になっていましたし……」

姉「む……そうか。君は勘がいいな」

姉「お察しの通り、ちょっとあってな」

書記「そうでしたか。何か手伝えませんか？」

姉「いいや、これは私個人の問題だ。君に力添えしてもらうのは筋違いというものだ」

書記「そうですか……」

姉「……しかし、生徒会と関わりない部分で君に要らぬ気遣いをさせてしまったことは失敗だった」

姉「そのことについては、素直に謝らないといけないな」

書記「そんな！　私はただ、会長のことが心配なだけで……」

姉「悪かった、もう個人的な私情は生徒会室に持ち込んだりしないと誓う。この通りだ……」ﾍﾟｺｯ

書記「や、やめてください！……そんなことぐらいで会長が頭下げてる姿なんて、私見たくありません！」

姉「……むう、君は中々気難しいな」ﾆｺｯ

書記「あっ……す、すみません！　私、会長のそんな腰の低い姿見るの初めてで、気が動転しちゃいまして……」

姉「分かった分かった、もうこの話は終わりだ」

姉「私に至らぬところがあった、それだけだ。君は何も負い目を感じる必要はないぞ？」

書記「……は、はぁ、会長がそう仰るなら……」

姉「ではもう帰りたまえ。後は私が報告しておくよ」

書記「はい……では会長、失礼致します」

姉「うむ、また明日もよろしく頼むぞ？」

書記「は、はいっ！」ﾆｺｯ

書記「会長！　また明日！」ﾍﾟｺｯ

姉「お疲れさま」

ｶﾞﾗｶﾞﾗ…

ﾊﾟﾀﾝ

姉「……」

姉「ふぅ……」


姉「……あのバカ者めっ！」ﾄﾞﾝｯ！


握りこんだ拳に力を込めて、机を叩きつける
手の痛みは全く気にならなかった

今日一日ずっと弟からの連絡を待っていたというのに、いつまで経っても何の動きも示さない
放課後に可能性を賭けて辛抱強く我慢しても、結局何の音沙汰もなかった
信じられないことだが、おそらく弟は一人で家に帰ってしまったのだろう

姉「一体どういう神経をしてるんだ！」

姉「今の私がどれだけ心細くなっているのか、あいつには分からんというのかっ！」


弟は妙な幻を見たことをわざわざ私に楽しげに報告してきた
そのせいで昨日は一人で夜眠ることもできなかった

あれだけ怖い思いをさせたのだから、当然弟には私の傷付いた心を癒す義務がある
それなのに、どうも弟はそのことをしっかり自覚している様子が見られない
まさか一緒に並んで登校したぐらいで、もうその義務を果たし終えたなどと考えているのだろうか？


姉「……おのれ弟め！　帰ったらこっぴどく問い詰めてやる！」

姉「今日は手を繋ぐぐらいじゃ許してやらないぞ！！」ｶﾞﾀｯ

姉「あいつめ……！　今日帰ったらああして……こうして……！」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ


廊下にヒビを入れるほどの気迫を込めて歩き、今日最後の用事を済ませる
握るハンドルを弟の首に見立てて、私は弟の待つ家へと急ぐ

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ｶﾞﾁｬ


姉「……」


ﾊﾞﾀﾝ！


弟「ん？　誰か帰ってきた……姉さんかな？」ﾀﾀｯ


姉「……」ｷｮﾛｷｮﾛ

姉「あいつめ……！　どこにいる！」

弟「あ、姉さんお帰り」

姉「…………！」ｸﾞｯ

弟「姉さん、俺に勉強教えてよ」


姉「………………はっ？？」


弟「……いや、勉強教えてよ。俺今まで自分で勉強とかしたことないから、コツが分かんなくてさ」

姉「ちょっと待った……今お前が言ったことが信じられない」

姉「弟よ、お前は今『勉強を教えて欲しい』と言ったのか？？」

弟「そうだよ？　そんな発音悪くなかったと思うけど」

姉「勉強を教えてくれだと？　本当にそう言ったのか？」

弟「そうだけど？？」

姉「私の小言を聞くのが嫌で、受験の前日すらコンビニで立ち読みしてたお前がか！？」

弟「いいじゃん、昔のことは……まあとにかく、俺もそろそろ将来のこと考えよとうか思っててさ」

姉「ううむ……本気なのか？　何かのイタズラとかじゃなくて？」

弟「もちろん本気だって……あ、忙しいからダメ？」

姉「いや！そんなことはないぞ？」

姉「お前が本気で勉強をしたいというなら……まあ、付き合ってやる」

弟「ホント！？　よっし！」

姉「コホン……それで、何から始める？」

弟「うーん、そうだな」

姉「……いや待った、ここは私がリードしてやろう」

姉「お前は、そうだな……数学なんか特に苦手だろう？」

弟「あ～……そうね、あれは苦手だわ、うん」

姉「ならばまずは化学から始めるぞ！」

弟「へ？　何で化学？？」

姉「化学は現実に存在するものを扱い、なおかつ数学の考え方も必要になる分野だ」

姉「化学の計算式に慣れておけば、数学での解の出し方にも自ずと応用が利く」

姉「特に有機化合物の焼成などで計算がうまくできるようになれば……」

弟「……うん、まあその話は後にして、早く始めようか」ｽｽｯ

姉「何だと？　これから私はお前の師匠になるんだぞ？　ちゃんと最後まで聞いたらどうだ」

弟「でもその話長くなりそうだからさ。それにホラ、話聞いてるだけじゃ勉強できるようにならないっしょ？？」

姉「むぅ……」


背中を押され移動する間、姉は少し納得いかない様子だった
姉は一度機嫌を損ねると、なだめるのに時間もエネルギーも大量に必要となる
今の流れはちょっとマズかったかも知れない

とはいえ、勉強をしながら同時に姉の機嫌を取るのは、やはりまだ俺には難しかった

弟「姉さん、その『mol』とかいうのって何？」

姉「これはただの単位だ。『km』とか『mg』と同じだ」

弟「でもそんな単位、普段見ないけど」

姉「当然だ。これは化学に詳しい知識を持つ者だけが、使うことを許される単位なのだからな」

弟「ふーん」

姉「では０、５molの酸素と０、３molの鉄を化合して実際にできる酸化鉄の質量を計算してみろ」

弟「へーい」ｻﾗｻﾗ

姉「……」

弟「……こう？」ｻｯ

姉「うん、正解だな」

弟「よーし！」ｸﾞｯ

姉「お前は一度聞いたことは忘れずに覚えているから、楽でいいな」

弟「え？そうだっけ？」

姉「そうだぞ？　以前私が教えてやった知識も無駄になっていないようだな」

弟「あんな何回も繰り返されたら忘れないって」

姉「そうか？　多くてもせいぜい３回ぐらいしか言った覚えがないぞ？」

弟「ん～？　そうだっけ？？」

姉「……まあいいさ、続けるぞ！」

弟「はーい」


その後も姉の特訓は続いた
姉が一息付けようと言った頃には、もう１時間以上経っていた
授業中はまるで頭に入らなかった内容が、姉から聞くとスルスル入っていくから不思議だ

姉「じゃあそこの教科書に書いてある問題５をやってみろ」

弟「ほいほい」ｻﾗｻﾗ


姉「……」

姉「ん……」ﾁﾗｯ


弟「両辺に６をかけて分母を消して……」ｻﾗｻﾗ


姉「……」ﾓｿﾞﾓｿﾞ


弟「そうすっと反応熱は……」ｻﾗｻﾗ

弟「……よし、できたっと」

弟「姉さーん、できたよー」ｸﾙｯ

姉「……」

弟「姉さん、できたってば」

姉「……む？　そうか、式を見せてみろ」

弟「ほい」

ｻｯ

姉「……」

姉「……うん、ちゃんとできてるみたいだな」

弟「フッフッフ……見たか！俺の本気パワー！」ｸﾞｯ

姉「調子に乗るな。ちゃんと授業さえ聞いていれば、こんなのは２ヶ月前にできてたことなんだぞ？」

姉「お前が化学で標準レベルに追いつくには、まだまだ特訓が必要だ」

弟「はーい」

姉「そろそろ夕飯にしよう。弟、手伝ってくれ」

弟「ほいほい」ｽｸｯ

姉「……ん、ちょっと待った」

弟「うん？」

姉「その前にやるべきことがあったな」

弟「まだ何か進めんの？？」

姉「そうじゃない。こっちだ」ｽｯ

弟「……」

姉「早くしろ、腕が疲れる」

弟「……あ、まだそれやるの？」

姉「当たり前だ！　誰のせいでこうしなきゃいけなくなったと思ってるんだ？」

弟「はい、俺ですね……では」

姉「大体！！　今日のお前は何だ！？」

弟「ふへっ？？」ﾋﾞｸｯ

姉「お前！　この私をほったらかしにして１人でサッサと帰っただろう！」

姉「このままうやむやにするつもりなのだろうが、そうはいかんぞ！！」

弟「え、ええ～……」

姉「今の私の心情を思えば、どうすればいいかぐらい分かるだろう！」

姉「それなのに何の連絡もしないで、何のフォローもしないだと！？」

弟「ね、姉さん、隣近所に響くから……」

姉「近所と私とどっちが大事なんだ！！」


どうやら俺の一瞬の判断ミスが、姉の怒りゲージの限界を突破したらしい
こんなことなら一々対応について聞くべきじゃなかった
注意一秒何とやらってのは多分このことだ

弟「……えっと、つまり俺が何も言わずに帰ったから、姉さんは怒ってるんだよね？」

姉「そうだ！」

弟「じゃあさ、明日から一緒に帰ろうか。あ、もちろん行きも一緒で」

姉「それぐらいのことで、傷ついた私の心が晴れると思うのか！！」

弟「あ、うん、そうだよね。そうだと思った」


しかし俺もいつまでも困ってるわけにもいかない
多分姉も充分怒りを吐き出した
一度怒りを爆発させたら、自分では引っ込みがつかないことも分かっている
ここは奥の手を使うしかない

弟「……」


ﾑｷﾞｭｯ…


姉「！！……」


一切前置きなしに、姉の体を両腕でしっかり抱きしめる
しばらくこうしていると、とりあえず表面上の怒りは収まるのだ


弟「ゴメンゴメン、気が付かなくて悪かったよ」

弟「ちゃんと今日……今から姉さんの気に入る通りにするから」

姉「……」

弟「じゃあ今日は好きなだけ手を繋いでていいから」

姉「……」

弟「あ、今日も一緒に寝る？」

姉「……こんなことでゴマカしたつもりか？」

弟「……」

姉「こんなことでは、私は騙されんぞ……！」ｷﾞｭｩ


やはりまだ姉の意地が勝っている
少々危険だが、ここはグレーゾーンに踏み込んでいくしかない


弟「じゃあ今日はお風呂で背中流してあげよっか？」

姉「！」ﾋﾟｸｯ

弟「昨日入ってないから、しっかり洗いたいでしょ？」

姉「いい！一人で洗う！」ｸﾞｲｯ


そう言って姉は顔を俺の胸に押し付ける
何とか怒りを鎮めることはできたようだが、体に残った分を落ち着かせるにはもう少し時間がかかりそうだ

そんな姉を最近までうっとうしいと思っていたのに、今はまるで違う
今の俺は、姉の姿の愛おしさに体が反応してしまったことを悟られていないか、そればかり心配している
一方姉はただひたすら甘えるようにしがみ付き、決して俺から離れようとしない

弟「姉さん、オシッコしたくない？」

姉「……」ﾌﾙﾌﾙ

弟「立ってると疲れるでしょ？　そこ座ろうよ」

姉「……」

弟「じゃあ俺の膝の上に乗っかってていいから、ねっ？」

姉「ん……」ｺｸｯ


俺の男としての本能が強くなり過ぎてしまい、もはや姉弟の制約も完全に忘れ去っている
親に甘える子どものような雰囲気が無かったら、すぐにでも姉を押し倒していただろう
それ程までに、その体の感触と匂いは俺にとって強烈だった


ｷﾞｼｯ…


弟「ゴメンねー、今日一日は姉さんの好きなようにするからさ」

ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

姉「……」ｷﾞｭｯ…

もう姉は家族である以上に、男として獲得すべき対象になっていた

絶対に誰にも渡さない
必ず俺の、俺だけの女にする
この可愛らしい命は、ただ１人俺だけのためにほほ笑むべきなのだ


弟「…………」ｷﾞｭｩｩ…

姉「……？」

弟「姉さん……どんなことだってしてあげるよ……俺が……」

姉「……！」


姉が俺の言葉に反応し、その締め付けを強くする
姉に向けた俺の気持ちは、もしかしたらこの時に悟られていたのかも知れない

姉「……」ﾓｿﾞﾓｿﾞ

弟「……」

姉「……」ｸﾝｸﾝ

弟「……」


もう抱き合った形のまま３０分近く経つ
姉が鼻先で首を突付きながら匂いを嗅いでいる
完全に怒りを収めて甘え始めている証だ

今はただ、首に感じるくすぐったさと下腹部から湧き上がる劣情に耐えていればいい
問題はその後だ

弟「……」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

姉「……フウ……」

弟「姉さん、夕飯食べないの？」

姉「……」

弟「トイレは行かなくていい？」

姉「……」


弟「……勉強の続きしよっか？？」


姉「……」


一度こうなると人として大事な部分まで緩み切ってしまうようで、何を言ってもシャットアウトされてしまう
意識はあっても半分……いや、４分の３ぐらい寝ている状態なのだ
この状態から食事をさせ、トイレに行かせ、風呂に入らせ、着替えをさせ、ベッドに寝かし付けなければならない

今日も母は家に帰って来ないようで、リセッターは期待できない
今回はどうやってなだめすかせば良いのか……

弟「とりあえず食事にしようよ、ね？」

姉「……」

弟「……ほら、このままだと何もできないからさ」

姉「……」


弟「……よいしょ」ｸﾞｯ


姉「……！」ｷﾞｭｳｳ…


無理に引き剥がそうとすると、このように反感を買って余計離れられなくなる
そのままじっとしていれば、姉の方から勝手に離れてトイレに行くこともある
しかし、その後何もせずにベッドに入って眠ってしまうのが通常なのだ

さすがに２日連続で風呂に入らないのはマズい
姉だって、今ある学校でのイメージを保つことには苦労してきているはずだ

弟「……」

姉「…………」


……マズい
姉の呼吸が深くなってきた
いつまでもこのままだと本当に眠ってしまう


弟「姉さん、寝ちゃダメだよ」

ﾕｻﾕｻ

姉「……」

弟「ちゃんと今日の身じたく済ませないと」

姉「……」

弟「起きろ～」

姉「……」


やはり反応してくれない
反感を買わず、気付けだけさせる良い方法はないだろうか

弟「う～む」

姉「……」


多少荒っぽいが、ここはイリーガルな手段を取るしかない


弟「……」ﾓｿﾞ…

姉「……？」


ﾌﾆｯ


姉「！」ﾋﾟｸｯ


ﾌﾆｯ　ﾌﾆｯ


姉「ん……ん～」ﾓｼﾞﾓｼﾞ

弟「ほーら、早くしないとオッパイ触られっぱなしだぞ～」

ﾑﾆﾑﾆ


姉「んん……」ｻｯ


これには姉もたまらず、両腕を胸のガードに回さざるを得ない
今とっさに思いついた手段ではあるが、その効果は明らかだった
後はいつも通り身じたくをさせれば良い


弟「じゃあ夕飯作るから待っててね？」

姉「……」ﾓｿﾞﾓｿﾞ

弟「……あ、そうか。その前にトイレ行かないとね」

姉「……」ｺｸｯ


姉は一人で立ち上がってトイレを向かおうとする
悪霊がどうのというのはもういいのだろうか

弟「あれ？もう繋がなくていいの？　手は」

姉「！」ｽｯ


姉が思い出したように手を差し出す
もちろん、ここで突っ込みを入れるような愚は犯さない


弟「料理してる時は危ないから放すよ？いい？」ｷｭｯ

姉「う、うん……」

弟「……」

姉「？」

弟「姉さん、安心できる？」ﾆｺｯ

姉「…………できる」


そう言って姉は俯いて、いつまでも恥ずかしそうに顔を上げずにいた
俺は下半身をギンギンにさせながら、姉のその姿を味わっていた

弟「できたよー」

ｺﾄｯ

姉「む、今日は玉子丼か」

弟「本当は親子丼にしたかったんだけど、今日は買い物行けなかったからね」

弟「明日はもっといい物作るからさ」

姉「いや、これでいい」

弟「そう？」

姉「そうさ、肉なんてものは時たま思い出す程度に食べればいいんだ……頂きます」ｽｯ

弟「どうぞ、召し上がれ」


料理をしている間に姉の調子も戻ってきたようだ
これなら就寝までのサポートは必要ないかも知れない

弟「……」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

姉「……」ﾁﾗｯ

弟「ん？」

姉「……弟、そこ、こぼしてるぞ？」

弟「え？　あ、本当だ」


俺は姉の頬張る姿を見るのに夢中で、自分の手元はまるで見ていなかった


姉「食事中はよそ見をしていてはいけないんだぞ？」

弟「そうだね、気を付けよっと」ﾌｷﾌｷ

姉「……後で勉強は続けるか？」

弟「ん～……いや、いいよ。姉さんだって疲れてるだろうし」

姉「私は別に構わないぞ？」

弟「今日はもうやめとくよ。ひとまず教わった所をちゃんと復習しとかないといけないからさ」

姉「そうか？　まあお前がそう言うなら……」

本当は姉の体力面とは違う問題があった
姉の可愛らしさを存分に堪能してしまった俺は、もう限界が近いのだ
平静を装ってはいるが、テーブルの下の怒張は抑え切れていない

おそらく今晩も添い寝を命じられることになるだろう
それまでに何とか姉の目を盗んで、この欲情を吐き出さないといけない


姉「……ごちそうさま」ｶﾁｬ

弟「どうも」

姉「片付けは私がやっておこう。今日一日、お前には食卓を任せっきりだったからな」

弟「そう？　じゃあお願いしようかな」

姉「任されよう」ﾆｺｯ


今だ！

俺は足早にトイレに駆け込んだ
まだ時間があるなどと考えるのは浅はかというもの
いつ何時姉に理不尽な命令を下されるか、分かるはずもないのだから

ｶﾁｬｶﾁｬ…


弟「よぉし……」ｸﾞｯ


さっきの姉の俯いた姿は危険過ぎる
もしあそこで姉の後ろにあるのがベッドだったら、俺はそのまま姉弟の縛りを越えていただろう
俺はその時の昂ぶりを思い出し、姉を想いながら手を動かし始めた


ｼｺｼｺｼｺ…


弟「はぁ、はぁ、姉さん……」


俺は姉を抱きしめながら自慰をする妄想にふけっていた
いきなりこんなモノを取り出してしごき始める姿を見たら、姉はどう思うだろう


弟「たまんないよ……ガマンできないよ……姉さん……！」ｼｺｼｺｼｺ…

弟「お願いだ……はぁ、はぁ……イカせてよ、姉さん……くっ……」ｼｺｼｺｼｺ…


軽蔑されるだろうか、それとも恐怖させてしまうだろうか
実際はこの２つの内のどちらかだろう
それでも、妄想の中の姉はそんな俺を優しく受け止めてくれる

弟「ご、ごめんね、姉さん……もうすぐ……はぁ、はぁ……もうすぐ、イクよ……」ｼｺｼｺ

弟「姉さんの体は……ふぅ、はぁ……よ、汚さないから……」ｼｺｼｺｼｺ

弟「……！」ｼｺｼｺ…


姉が俺の胸元に顔を埋めていた時の感触を思い出しながら、絶頂を迎える


ﾄﾞｸｯ…　　ﾄﾞｸｯ…


弟「はぁ……はぁ……」


もう俺は姉で抜くことを止められそうもない
たかが妄想のはずなのに、この安心感は強い中毒性を帯びている
この自慰を続けていくだけで俺の人生の性欲は完結してしまいそうだ


ｶﾞｻｶﾞｻ…


姉は長く一人だけにさせておくと、次第に機嫌が悪くなっていく
みっともない下半身を整え、俺は急いで姉のもとへ駆け付ける

ｶﾞﾁｬ

ＴＶ『……今から出される半角文字の効果音について、最適な状況をお答えください……』


姉「……む！　戻ってきたか！」ﾆｺｯ

弟「？」

姉「さあ早くここに座れ！」

ﾎﾞﾌﾎﾞﾌ

弟「え？いきなり何？」

姉「いいから座るんだ！」


しばらく放置されていたのに、姉の機嫌が良いようだ
また何か思いついたのだろう


弟「……まあ座るけど」ｽｯ

姉「よし……」ｽｽｯ

弟「？」

姉「よいしょ」

ｷﾞｼｯ

弟「……！」


俺の座っている場所に重ねるようにして、姉が背中を寄りかからせてきた
備えあれば憂いなしとはこのことだ


ＴＶ『２ぃぃ番だと思う人！　　ﾊﾟﾁ……ﾊﾟﾁ……』

ＴＶ『さぁぁん番だと思う人！　　ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ！』


姉「ふー……」

弟「……姉さん、テレビ見えない」

姉「テレビ？？」ｽｯ　

ｶﾁｯ

ＴＶ『』ﾌﾞｯ…


ｺﾄｯ…

弟「……」

姉「ふー……」


どうも「テレビ」という部分だけ聞いて、勝手に自分の中で答えをだしてしまったらしい
今までの長い付き合いから、どうせ大したことは言ってないだろうと見抜かれているのかも知れない


弟「……」

姉「……んー……」

弟「……？」


姉の言う通りにしているはずなのだが、どうも様子がおかしい
さっきのように爆発される前に原因を掴まないといけない


姉「……気の利かないヤツだな」ﾎﾞｿｯ

弟「？」

姉「んー」ｸｲｯ

弟「……あっ」ｻｻｯ


姉が上着の袖を摘んで少し引っ張る
「足りない」と訴えてきていることは瞬時に分かった

俺は両腕を回して、目の前の体を捕まえた
姉の柔らかく動くお腹の感触が心地良い


姉「んふ～」


どうやら満足してくれたようだ
表情はよく見えないが、力の抜け具合からして笑顔でいることは間違いない

姉「……時に弟よ」

弟「え？　何？」

姉「お前、急に勉強したいだなんて、一体どうしたんだ？」

弟「それ？　さっき言った通りだけど？？」

姉「どうも要領を得ないぞ？」

弟「……って言うと？」

姉「勉強して……それでその後はどうするんだ？　何か展望でもあるのか？」

弟「へ？　う～ん……」


どうも妙なところで勘が良くて困る
しかしここで本当の理由を言うわけにはいかない

弟「展望っていうか……できないより、できた方が良いんじゃないの？」

姉「……」

弟「コホン……まあ、何だ、一度本気で勉強やってみて、Ｔ大とかＫ応とか目指してみるのもいいかな～って」

姉「……」

弟「……」ｺﾞｸﾘ…


姉「お前、ウソをついているな？」

弟「ウ、ウソ？……何が？？」

姉「お前はそんなブランドにこだわるような男じゃない」

姉「必要なものにだけ全力を注ぎ、それ以外には目もくれない。お前はそういう男だ」

弟「そ、そうかな……」

姉「そうさ……で、本当の理由は何だ？」

弟「ん……いや、Ｔ大ぐらい出ていれば、将来いろいろ役に立つじゃん？」

弟「いわゆる出世パスポートが欲しくってさ」

姉「それもウソだな。『いろいろ』だなんてあやふやなゴールを、お前が目指せるわけがない」

弟「……でもさ、勉強はできないより、できた方が絶対良いに決まってるし……」

姉「正直なところは言えないか……まあいいさ」

弟「……」

姉「お前がそのＴ大とやらを目指していることを前提として、今からアドバイスしてやる」

弟「どうも……」

姉「Ｔ大に入れたとして、そこからどうしたいのか……その部分をしっかり考えておけ」

姉「確かにあの辺を卒業しておけば、お前の言う出世パスポートにはなるだろう」

弟「……」

姉「しかし、自分の未来をどうしたいのか考えておかなければ、そんなもの大した意味は無い」

姉「Ｔ大を出ようがハーバードを出ようが統一銀河帝王大学を出ようが、将来に対するヴィジョンが無ければ、何の役にも立ちはしないぞ？」

弟「なるほどね……ちょっと聞いたことない大学もあったけど……」

姉「マジメに話を聞け」

弟「はい」


どう考えても不マジメな単語を入れてきたのは姉なのだが、そこに突っ込まないようにしておくのが姉と上手に付き合う秘訣だ


姉「……しかし、さっきお前の勉強してた時の意気込みだけは、どうも本当らしい」

弟「……」

姉「今言えないならそれでもいいが、このままタダ働きさせられるというのも癪だ」

姉「私はお前に勉強を教えるが、その代わり、お前の目的もいつかキッチリ説明してもらうぞ？　いいな？」

弟「……はい」

姉「よぉし！　今『はい』って言ったな！？」ｸﾙｯ

弟「う、うん、言ったけど？」

姉「今の言葉を忘れるなよ！？　これはもう約束だからな！」

弟「あ……うん」

姉「約束の期限は、そうだな……来年までだ！」

弟「来年？？」

姉「そうだ、お前が２年に上がるまでに、今隠してることを洗いざらい吐いてもらうからな！」

弟「……」

姉「……返事がないぞ？」

弟「は、はい……じゃあ、それでいいです」

姉「約束したぞ？　く・れ・ぐ・れ・も！忘れるなよ？」

弟「えーっと……では」ｻｯ

姉「……」ｼﾞｰ

弟「宣誓！　俺は２年に上がるまでに、何もかも全部白状することをここに誓いまーす！」

姉「……うむ、それでいい」ｸﾙｯ

姉は俺の誓いを聞き届けてから、満足気な表情で前を向いた
始めから姉は、俺の意図をここで聞き出すつもりはなかった
本当のことを吐き出さざるを得ない状況を作って、確実にモノにする算段だったのだ

学年が上がるまでとなると、あと半年と少ししかない
いざ本当のことを打ち明けるにしても、それまでに形にしておかなければ、あまりにも格好が悪すぎる


弟「……姉さん、もうちょっとだけ勉強したいんだけど、いいかな？」

姉「お前さっき、今日はもういいって言ってたじゃないか」

弟「気が変わったんだよ。上達するなら、なるべく早い方がいいし……」

姉「今お腹を温めるのに忙しい。また明日にしろ」

弟「ええ～……」

姉「何だ？　何か文句あるのか？」

弟「いや、文句っていうか」

姉「さっき、今日一日私の好きなようにしていいって言っただろう？」

弟「あ、聞いてたんだ、あれ」

姉「当然だ。お前の言葉を私が聞き逃すと思うのか？」

弟「これはまた便利な耳をお持ちで……」

姉「ほら、ちゃんと続けろ。しっかり温めてくれないと、私は凍えて死んでしまうぞ！」ﾓｿﾞﾓｿﾞ

弟「はいはい」

ｷﾞｭｯ

姉「……はふ……」


姉の一番柔らかい場所と後頭部の匂いがダイレクトに脳髄を刺激する
さっきトイレで処理しておいて正解だった
あの迅速な判断がなければ、ここで暴発していた可能性が極めて高い

姉「…………弟」

弟「はい？」

姉「さっき……帰りも一緒にしてくれるって……」

弟「ああ、そうそう言いましたね、はい」

姉「……」

弟「コホン、じゃあこれからは行きと帰りは一緒にしようね？」

姉「……今度私をほったらかしにしたら、本当に許さないぞ？」

弟「うんうん、ちゃんと忘れないようにするから」

姉「……」ｺｸｯ


姉は手間暇かけてもらいたい一心で、ワガママを言い、騒音を立て、必死で俺を煩わせようとする
その姿は親鳥にエサをねだるヒナ鳥のようだ

ヒナ鳥の世話は誰にもさせない
姉の望みを叶えるのは、俺１人だけでいい

弟「姉さん」

姉「……？」

弟「これからも好きなだけ、いっぱいワガママ言ってくれていいからね？」

姉「……」

弟「姉さんがして欲しいことは、全部俺のところに持って来て欲しいんだ……いいかな？」ｷﾞｭｯ

姉「あぅ……」

姉「うん……」ｺｸｯ


しばらくして満足したのか、姉は１人で立ち上がって風呂場まで行き、入浴を済ませた
もう幽霊がどうのこうのというのは、姉の記憶には残っていないのだろう

ｺﾝｺﾝ

姉「どうぞ」

ｶﾞﾁｬ…


俺が入浴を済ませてから姉の部屋に入ると、姉も待ち遠しかったと分かる表情でベッドに腰掛けていた
もちろん俺は風呂場で２回目を済ませている
今日こそはちゃんと我慢できるだろうか


姉「……もう寝てしまっていいのか？」

弟「ん？」

姉「お前も……その、見たいテレビとかあるんじゃないか？」

弟「ないよ、そんなの」

弟「そうだよ。姉さんがちゃんとグッスリ寝られるかどうか、そればっかり心配だからさ、俺にとっては」

姉「そうなんだ……それなら、いいけど……」ﾓｼﾞﾓｼﾞ

弟「歯磨きは済ませた？」

姉「うん……大丈夫」

弟「そう、じゃあ今日はどうやって寝る？」

姉「……」

弟「んー……じゃあ今日は抱っこしててあげるね？」

姉「！」ﾋﾟｸｯ

弟「……あれ？　抱っこヤダ？」

姉「んっ！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

弟「抱っこでいいの？」

姉「……」ｺｸｯ

弟「じゃあ横になっててねー」

姉「う、うん……」

ｽｯ…

弟「ふう……よいしょ」


ｷﾞｭｳ


姉「……！」ﾌﾞﾙｯ

弟「ごめん、痛かった？」

姉「い、痛くない……大丈夫……」

弟「ちょっと強かったかも……ごめんね？」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

姉「ふぅ……ふぅ……」

弟「……姉さん、ちょっと苦しい？」

姉「苦しくない……」

姉「このまま……このままがいい」ｷﾞｭｩｩ

弟「そう」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

姉「…………」

弟「姉さん、母さんが家に帰ってくる日は、ちゃんと１人で寝られる？」

姉「……」