▼名もなき村
「すみません、この村に勇者様がいらっしゃると聞いたのですが、ご存知ありますか?」
村人A「勇者様ぁ?……アンタ、それを知ってどうするつもりだ?」
「失礼、僕は城からの使いの者です。国王様より勇者様への文書を届けに参りました」
村人A「……勇者なら村はずれの森の奥に住んでるよ。会いたいなら勝手にしな。ただし、俺のことは言うなよ」
「……どうしてですか?」
村人A「関わりたくねえからだよ。アンタも可哀相にな……せいぜい死なないように気をつけな」
「死……!?」
村人A「勇者の家までは歩いて半日かかる。道中魔物も出るから装備を整えてから出発した方がいいぜ。じゃあな」
「あ、ちょっと!……ってもういない……」
「…なんかすごい不吉なこと言われたけど、このままじゃ帰るに帰れないし…」
「………」
「……ここでこうしてても仕方ない、とにかく出発しよう」
賢者「それにしても……一体勇者様ってどんな人なんだろう……」
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▼魔の森奥地 勇者の家
コンコン
賢者「すみませーん!どなたかいらっしゃいますかー?」
ガチャッ
子供「……どちらさまですか?」
賢者「あ、この家の子ですか?僕は城からの使いで来たんですけど」
子供「城から……?」
賢者「はい。えっと、ここの家に勇者様がいらっしゃると聞いたんですが」
子供「……そうだけど。何か用?」
賢者「ご在宅ですか?」
子供「ああ、うん」
賢者「呼んできて貰っても?」
子供「俺」
賢者「え?」
子供改め、勇者「俺が勇者だけど、何か用?」
賢者「……え?」
勇者「用は?ないの?」
賢者「え?あ、えっと……君が勇者様、ですか?」
勇者「……用が無いなら帰れよ」
賢者「あ!ちょっ、待ってください!これ!」
勇者「……何それ」
賢者「国王様からの文書です。僕はこれを君に届けにきました。どうぞ」スッ
勇者「ふぅん……」ペラリ
賢者「それに書いてあると思いますが、国王様から君へ正式に魔王討伐の命が下りました
勇者「……」パラパラ
賢者「僕は君の手助けをするように命じられてます」
勇者「…………」パタン
賢者「ということで、僕と一緒に魔王討伐の旅に出ましょう!」
勇者「嫌だ」
賢者「え?」
勇者「用件はそれだけ?ならさっさと帰れよ。無駄足ご苦労さま」
バタン
ガチャリ
賢者「ちょっ!何でっ……王様直々のご命令ですよ!?逆らったら反逆罪ですよ!?」バンバン!
勇者「おいこら力任せにドア叩くなよ。壊れたら修理代請求するからな」
賢者「あ、すいません……じゃなくて!どうして……」
勇者「帰れ」
賢者「そんな……」
勇者「かえれ」
賢者「で、でも……」
勇者「か・え・れ」
賢者「……っ」ギリッ
賢者「……失礼、しました……」
▼魔の森
賢者「はぁ……」
賢者「……まさか勇者様があんなに小さい子で、しかも命令を拒まれるなんて……」
賢者「……国王様に……なんて説明すれば……」
【まものの むれが あらわれた!】
魔物「グルルルル……!」
賢者「っ!?魔物!?――! 忍び足で歩くの忘れてた!」
賢者(ウルフか……うぅ……あんまり戦闘は得意じゃないけど…)
賢者「――、『火炎魔法』!」
ゴウッ!
魔物「!」サッ
賢者「なっ…!? 避けられた!?」
魔物「グルル……ガウッ!!」
ザシュッ!
賢者「痛……ッ、腕が……!」
魔物「ガアッ!」
賢者「うわっ!?」ズサァッ
賢者(回復魔法?いやでもまず攻撃魔法で反撃して距離をとってからの方が……)
魔物「ガアアアアッ!!」
賢者(っ、どっちにしても詠唱が間に合わない!やられる……!)
「こら。人は襲うなって言ってあるだろ」
賢者の性別はどっちですか?
勇者「まったく……飯時になってもうちに来ないからどこで道草食ってるのかと思ったら……」
賢者「ゆ、勇者、さん……?」
勇者「あ?……なんだ、お前まだいたの」
賢者「え?あ、は、はい。あの……」
勇者「まぁいいや。そこ動くなよ」
賢者「あ、ちょっ……そんなに近づいたら危ないですよ!」
ザッザッ
勇者「おいこら、お前この前も迷い込んだ旅人襲おうとしてたよな」
魔物「……ワウ……」
勇者「前にちゃんと約束したよな?何回も言い付け破るなよ」
魔物「クゥン……」スリスリ
勇者「甘えてもだめ。次やったら当分餌やらないからな……って、そうするとまたお前腹減らして人襲うのか。どうするかな……」
>>6
男です
けどこれ女にしといた方が良かったかな…
賢者「………」ゴクリ
賢者(あんなに強暴だった魔物が勇者さんには甘えてる……!?)
賢者(魔物が人間に懐くなんて聞いたことない……ましてや勇者と魔物が馴れ合うなんて)
賢者(……あの子は本当に勇者……いや、)
賢者(そもそもあの子は本当に……“人間”……?)
勇者「おい」
賢者「……あ、は、はいっ!」ビクッ
勇者「…………」
賢者「あ、あの……?」
勇者「……いや。悪かったよ。もっかい襲われても困るし、森の出口まで送ってく」
賢者「あ、りがとう、ございます……」
ザッザッ
賢者「……」
賢者(さっきのは一体……)
賢者(勇者は魔物を滅ぼして魔王を討伐するのが宿命なはず……)
賢者(勇者は実は裏で魔物と通じていた?……なら、僕は黙ってこのまま帰る訳にはいかないんじゃ……)
賢者(……でも僕は、確かにこの子に命を救ってもらった)
賢者(…………)
賢者「あ……あのっ!」
勇者「……なに」
賢者「……僕は、勇者というのは魔王と戦って世界を平和に導く人のことを指すんだと思ってました」
勇者「ああ」
賢者「魔物の手から人々を守り、人類の希望の光とも言うべき存在だと、思ってました」
勇者「……ああ」
賢者「それなのに君は、さっき僕を襲った魔物にとても懐かれていた。人間の敵である、魔物に」
勇者「……」
賢者「……それを踏まえた上で聞きます」
賢者「君は、一体何者なんですか」
性別でそこまで変わる訳でもないでしょうし、>>1が書きやすい方でいいんじゃないですか
>>11
そうですね
とりあえずたててあるプロット通りに書いていこうと思います
レスありがとうございます
台本形式が思ったより難しい…
そして書きだめとか都市伝説だったっていま実感してます やばい
勇者「……お前の質問に答える前に、一つ訂正があるな」
賢者「……何ですか?」
勇者「そもそも魔物は、元から人間の敵だったわけじゃない」
賢者「……え?」
勇者「魔物っていうのはな、魔力を持つ生物っていう一つの大きな括りなんだよ。本来の意味だとそこには人間も含まれてるんだ」
賢者「え?え……!?」
勇者「まぁ今は人間に悪意を持つ人間以外の生物って意味で使われてるけどさ」
賢者「は?え、ちょ……」
勇者「それで、俺が一体何者かって話だっけ?」
勇者「俺は勇者だよ。由緒正しい勇者の血を引く、生まれながらの勇者だ」
賢者「じゃあさっきの魔物は……!」
勇者「体質」
賢者「は?」
勇者「懐かれるんだよ。普通の動物だろうが魔物だろうが関係なく、昔から無条件に」
賢者「無条件に……?」
勇者「ああ」
賢者「っそんなの!」
勇者「信じられないって?まあそうだよな。村の奴らもそうだったし」
賢者「……え?」
勇者「森の入り口にあっただろ。小さい村。俺の両親は俺が生まれる前まであの村に住んでたんだよ」
勇者「だけど俺が生まれてからは頻繁に魔物が村に入り込むようになったんだ」
勇者「人を襲ったりはしないんだけど、決まって俺の家の周りをうろつくもんだから村人も気味悪がってさ」
勇者「仕方なく俺の両親は森の奥まで引っ込んで今の家を建てたってわけ」
賢者「…………」
勇者「で、他に質問は?」
賢者「……魔王討伐を、断った理由は」
勇者「……ああ、それだけどさ。気が変わった」
賢者「え?」
勇者「やっぱ俺、旅出て魔王倒してくるわ」
賢者「……ええええええええ」
勇者「いや、元々倒すつもりはあったんだよ。ただもう少し修行して強くなってから行くつもりだったんだ」
勇者「だけどさっきお前魔物に襲われてただろ?」
勇者「この森の魔物には一匹残らず人を襲うなって言ってあるんだけど、それが破られたってことは魔王の力が強くなってきたってことだ」
賢者「そ、そうなんですか?」
勇者「そうなんだよ。だから一度断っといてなんだけど、旅には出るから。安心していい」
賢者「安心って……」
勇者「そういうわけだから、お前は城に戻って報告でもなんでもお好きにどうぞ」
賢者「あ、それは大丈夫です。勇者さんと合流した後はそのまま旅に出るように国王様から仰せ付かっているので」
勇者「……」キョトン
賢者「……あれ?僕何か変なこと言いました?」
勇者「……え?なに?お前本当についてくんの?」
賢者「ちょっ……最初にそう言ったじゃないですか!」
勇者「いや聞いたけど……さっきの魔物のこととかでてっきりその気はな
くなったのかと」
賢者「それは……たしかに魔物に懐かれるとかはまだ半信半疑ですけど、
勇者さんが旅に出るならそれを手助けするのが僕の役目ですから」
勇者「いいよ無理しなくて。元々一人で行くつもりだったし」
賢者「そうはいきません。国王様からの命令ですし……たとえ命令がなく
ても、勇者さんみたいな子どもを一人で戦わせるなんて」
勇者「いやいやいや……ていうかウルフ一匹追い払えない仲間とか正直ち
ょっと」
賢者「う……で、でも!戦闘以外でも色々とできますよ!」
勇者「たとえば?」
賢者「す、炊事とか……!」
勇者「主夫かよ。ていうかそれくらい俺もできる」
賢者「うぐっ……じゃあ荷物持ちでもいいので!」
勇者「どんだけ付いてきたいのお前……」
賢者「だっていくら勇者だって言っても一人で魔王と戦おうなんて無謀す
ぎます!」
賢者「確かに僕は前線で戦えるほど戦闘慣れはしてないですけど……後方
支援と回復なら人並み以上にはできますから」
賢者「だから……お願いします。僕も、同行させてください」
勇者(………)
勇者「……はぁ」
勇者「わかったよ。一緒に行こう」
賢者「本当ですかっ!?」パアッ
勇者「ああ。断っても勝手に付いてきそうだしな、お前」
賢者「う……」
勇者「じゃあ俺は一度家に戻って荷物取ってくるから、お前は先に村行って待ってて……」
賢者「駄目です」
勇者「は?」
賢者「そういって置いていく気でしょう。僕のこと」
勇者「……そんなわけ、」
賢者「目を逸らさないでください目を」
勇者「……ちっ」
賢者「一度了承を得たからには意地でも付いていきますからね!」
勇者「……はいはい、わかったよ」
賢者(早速油断も隙もない……)
勇者(……厄介なのに捕まったなぁ)
乙です
賢者は男に決定しましたね
勇者が主夫って言ってますし
賢者「……あ!」
勇者「どうした?」
賢者「そういえば僕たちお互いの名前知らないですよ!」
勇者「あー……そうだな」
賢者「ということで、改めて自己紹介しましょう!」
勇者「自己紹介って……いやいいけどさ別に」
賢者「僕の名前はリト、職業は賢者です」
勇者「……賢者?お前が?」
賢者「……なんですかその目は」
勇者「嘘つけ」
賢者「う、嘘じゃないです!」
勇者「ウルフ一匹に苦戦する賢者って……」
賢者「まだ引きずりますかそのネタ……!じ、実戦は経験不足なんです!
魔法の腕はそれなりなんですからね!」
勇者「ふーん……?」
賢者「ううう……つ、次!勇者さんの番ですよ!」
勇者「あぁ……カノ。知ってると思うけど職業は勇者だ。まぁ……よろし
く」
賢者「……カノ、くん?」
勇者「何だよその目は」
賢者「……いえ……」
勇者「言いたいことがあるなら言え」
賢者「その……何というか…女の子みたいな名前ですね」
勇者「まぁ、女だからな」
賢者「……はい!?」
勇者「何だ、気付いてなかったのか」
賢者「え、だ、だって自分のこと『俺』って…!」
勇者「いいだろ別に」
賢者「でっ、でも…」
勇者「何だよ」
賢者「……全然胸な、」
勇者「殺すぞ」
賢者「ごめんなさい!」
勇者「……」
賢者「……」
勇者「…………」
賢者「…………ごめんなさい」
勇者「……さっさと行くぞ」
賢者「はい……」
▼魔の森奥地 勇者の家
賢者「おじゃまします」
勇者「あぁ。俺はちょっと荷物まとめてくる」
賢者「あ、何か手伝えることがあれば…」
勇者「その時は呼ぶから、とりあえず今はいい」
賢者「わかりました」
勇者「適当にくつろいでてくれ」ガチャッ スタスタ
賢者(もう夕暮れか……村からこの家まで距離があるから、出発は明日か
な)
賢者(それにしてもこの家、カノくん一人で住んでいるのかな……)
賢者(あ、写真立て)
賢者(小さいころのカノくんと……いや今も小さいけど…一緒にいるのは
ご両親かな)
賢者(……幸せそう、だなぁ)
勇者「リト」ガチャッ
賢者「はい?」
勇者「もう少しで準備が終わるから、そしたら夕食にしようと思うんだけ
ど、食事作るの頼んでいいか?」
賢者「わかりました!食材は適当に使ってもいいですか?」
勇者「あぁ、頼んだ。あっちが台所だから」スッ
賢者「はい!すぐ作りますね!」パタパタ
勇者(……さっきまで、怖がってたのに)
勇者「……変なの」
短いですが投下
昨日の夜書き込むつもりだったのにPCの前で力尽きてしまった…
>>22
やっぱ自分的に男のがしっくりきたのでそっちで決定しました
賢者「……」モグモグ
勇者「……」モグモグ
賢者「美味しいですか?」
勇者「ん」コクリ
賢者「おかわりありますからね」ニコッ
勇者「……」モグモグ
賢者(小動物みたいだなぁ……)
勇者「ごちそうさま」
賢者「お粗末様でした」
勇者「今日はもう日が暮れてるし、明日の朝に出発しようと思うんだ」
賢者「そうですね。ここから村まで結構ありますし」
勇者「とりあえず今日は向こうの部屋を使っていいから」
賢者「ありがとうございます」
賢者「そういえば……カノくんのご両親はここに住んでいないんですか?」
勇者「あぁ……死んだんだ、二人とも」
賢者「え……」
勇者「数年前にな」
賢者「それは……その、すみません…」
勇者「いいよ。それよりも、一つ守って欲しいことがある」
賢者「? なんですか?」
勇者「森の入り口にあった村。あそこを通り抜けるときは、別行動だ。村を出てから少しした場所で合流するから」
賢者「……どうしてですか?」
勇者「どうしても。それができないならお前と一緒には行けない」
賢者「…………」
勇者「心配しなくても逃げたりしないよ。信用できないならお前が先に出発して村の入口を見張っててもいい」
賢者「……わかり、ました」
勇者「今日はもう休もう。明日は早いから」
賢者「……はい……」
▼魔の森 村付近
賢者(結局、あの後もどうして別行動なのかは教えてもらえなかったな……)
ガサッ
賢者「っ!?」ビクッ
魔物「……ワウ」
賢者「き、昨日のウルフ…!」
魔物「……」ジッ
賢者「……」ドキドキ
魔物「……ワフッ」クルッ ガサガサ
賢者「!? ……行っちゃった……」
賢者(昨日は躊躇なく襲ってきたのに、勇者さんが窘めたから……?)
賢者(……この森の魔物は人間に対して統率がとれてる。気配は感じるけど、襲ってはこない…………昨日のことは別として)
賢者(統率しているのは多分……いや、間違いなくカノくん、なんだろうな)
賢者(あ、村……早朝だからか人がいないなぁ)
賢者(……)
賢者「……勇者って、なんなんだろう……」
▼魔の森 勇者の家
勇者「そういうわけだから、俺は今日で旅立つよ。他のヤツらにも伝えといて」
魔物「クゥン……」
勇者「……うん。俺も寂しい。けどいつかはやらなくちゃいけないことだから」
魔物「……ワウ……」
勇者「大丈夫、勝つよ。あと、俺がいなくても人は襲ったらだめだからな」
魔物「ワウッ!」
勇者「ったく……いっつも返事だけはいい……」
勇者(……)
勇者(早ければもうリトは村の近くまで進んでる頃かな)
勇者(……村、か……)
勇者(森の入口を囲って、異端者に蓋をするように隔離して、まるで、)
魔物「ワウ?」
勇者「……なんでもないよ。この森を頼むな」ナデナデ
魔物「ワフッ!」
勇者「…………檻みたい、だね」
▼名もなき村
村人B「おい、あれ……!」
村人C「馬鹿、見るなよ。何されるかわかんねぇぞ」
勇者(……流石に昼前だと早朝より人が……リトより先に出発すればよかったな……)
勇者(まぁ、反応が変わるわけじゃないんだろうけど)
勇者(……)
勇者(早く抜けよう……リトが、待ってるんだし……)
村人A「おい」
勇者「……!」ビクッ
村人A「わざわざ村まで出てきて何の用だ、勇者様?」
勇者「……別に、この村に用があったわけじゃない」
村人A「信用すると思うか?」
勇者「……」
村人A「……まあいい。そういや昨日、お前を訪ねて城からの使いとかいう奴が来たぜ」
勇者「……ああ。会ったよ」
村人A「でも一緒じゃないんだな。追い返したのか?見捨てられたか?それとも、」
村人A「殺して魔物の餌にでもしちまったのか?」
勇者「……違う」
村人A「は、どうだかな……まったく、気味が悪いぜ」
勇者「……なら、近付かなければいいだろ」
村人A「お前がおとなしく森の奥に引っ込んでるならそうするさ。なんで今更出てきた?何が目的だ」
勇者「…………」
村人A「だんまりかよ。まあどうせロクな理由じゃないんだろ?」
村人A「魔物を従えて我が物顔で森を歩きやがって」
村人A「あんな化物共と仲良くしてるなんざ正気とは思えねえな」
村人A「俺たちの知らないところで何をしてるかわかったもんじゃねえ」
村人A「それにどうせお前の親だって、魔物に、」
賢者「ッやめてください!!」
勇者「リト…!?」
村人A「あ?なんだ、アンタ生きてたのか」
賢者「なんなんですか貴方!全部カノくんのせいって決め付けてますけど、実際にあなたや村の人が襲われたことがあるんですか!?」
村人A「それは……っ実際に何か起きてからじゃ遅いんだよ!」
賢者「どうしてそうやって決め付けるんですか!あなたたちがそんなだから…っ!」
勇者「リト、いい、行こう」
賢者「っでも!」
勇者「いいから!!」
賢者「……ッ、カノくん……?」
勇者「お前らが俺を疎んでるのは知ってる。だから出てくよ。これでいいだろ」
村人A「……ああ、清々するね」
勇者「リト、行こう」
賢者「…………」
勇者「リト」
賢者「……は、い……」
▼村郊外 平原
賢者「……どうして何も言い返さなかったんですか」
勇者「無駄なんだよ。俺が何を言ったって信じる奴はあの村にいない」
賢者「そんなの、言ってみなければわからないじゃないですか……!」
賢者「守ってくれていたんでしょう?」
賢者「森の魔物が村の人を襲わないように統率しながら暮らしてくれていたんですよね」
賢者「僕を、助けてくれた時みたいに」
勇者「…………いいんだ」
賢者「でも、」
勇者「そういうのは、もういい」
賢者「……カノ、くん?」
勇者「あいつらは怖いだけなんだ。恐れてるから過敏になる。単純なことでもまともに考えられなくなる」
勇者「……あの村人も、つっかかって来たけど本当は俺を怖がってる。勇者の皮を被った魔物の手先なんじゃないかって。けど誰かが俺の相手をしないと他の村人が不安になるから、仕方なく探りを入れに来たんだ。俺が魔物を使って村を襲おうとしてないかって」
勇者「……俺の言葉に、そこまでの強制力はないのに」
勇者「だから、お前が気にすることじゃないんだよ。嫌な思いをさせて、ごめん」
賢者「……謝らないでくださいよ。カノくんは何も悪くないじゃないですか」
勇者「でも、」
賢者「僕も、事情を知らないのに首を突っ込んですみませんでした」
勇者「……うん」
賢者「話してわからないなら、行動で示せばいいんですよね」
勇者「……は?」
賢者「今すぐは無理でも……僕たちが魔王を倒したらきっと、村の人たちもわかってくれますよ!」
賢者「カノくんは本物の勇者で、人間の味方だって」
賢者「魔物の手先なんかじゃ、なかったんだって」
勇者「……そうかな?」
賢者「ええ、きっと!」
勇者「そっか……じゃあ、早く魔王を倒さないとな」
賢者「はいっ」
勇者「あ、あと、えっと……ありがとうな」
賢者「え?」
勇者「お前が庇ってくれて、うれしかった」ニコ
賢者「えっ、あ、いや!当然のことをしただけですよ!」カァァ
賢者(笑った顔、初めて見た……)
賢者(……普段は中性的だけど笑うと女の子らしいっていうか)
賢者(かわいい……)
勇者「それじゃあ出発しよう……リト?何か顔赤くないか?」
賢者「な、なんでもないです!なんでも!」アセッ
勇者「? ならいいけど」
賢者(落ち着け僕相手は年下かなり年下……)
勇者(……急にどうしたんだろ)
勇者「さて、まずは目的地だけど……」
賢者「はい」
勇者「……俺、森の外に出たことないんだ」
賢者「はい……はい?」
勇者「だから、この近辺の地理とか全然わからない」
賢者「……カノくん、それは」
勇者「そういうことだから、よろしくな」
賢者「……ちょっとそこ座りましょうか」
賢者「えーっと、とりあえず情報を整理しましょう」
賢者「僕たちはこれから魔王を倒しに行くわけですが、現時点で魔王の居城が
どこにあるのかはわかっていません」
賢者「ただ、大陸各地で魔王直属と思われる魔族が人間たちを襲っていると報
告されています」
賢者「ひとまずはこの魔族を倒しながら、魔王の情報を探るのがいいと思いま
す」
勇者「へえ……それじゃあ一先ずはその路線でいくとして、まずはどこに向か
う?」
賢者「ここから少し離れた場所に港町があるんです。そこで情報を仕入れまし
ょう」
勇者「よし、そうするか」
賢者「はい!」
賢者「……ていうか最初は一人で旅する気満々でしたけど、その時は道とかど
うするつもりだったんですか?」
勇者「そこはほら……その辺の魔物に教えてもらおうかなって」
賢者(……それってどうなんだろう)
▼港町 入口広場
ワイワイ
ガヤガヤ
賢者「着きましたよカノくん。ここが港町リブラです」
勇者「……人が、多いな」
賢者「この大陸有数の貿易港ですからね」
勇者「……あ!」
賢者「どうしました?」
勇者「海……!」
賢者「え?」
タタタッ
賢者「あっ、ちょっとカノくん!?待ってください!」
勇者「う、わぁ……」
勇者「青いし広いし……キラキラしてる」
勇者「これが、海……」
賢者「か、カノくん……っ!」ゼェゼェ
勇者「リト……なんでそんな息切れてるんだ?」
賢者「いきなり走り出さないでください……はぐれたら大変ですよ」
勇者「あ、ごめん」
勇者「でもすごいな。俺、海って初めて見た」
賢者「あぁ、それで走り出したんですね……綺麗でしょう?」
勇者「うん……」
賢者「少し眺めていきますか?」
勇者「……いや、大丈夫。まずは情報収集だっけ?」
賢者「その前に宿屋ですね。泊まるところを確保してから色々聞いて回りまし
ょう」
勇者「わかった。じゃあ行こうか」
勇者「なあリト」
賢者「なんですかカノくん?」
勇者「リトは旅とかしたことあるのか?」
賢者「そうですね……賢者になってからは王宮に使えてましたが、それまでは
見聞を広めるために色んな場所を訪れたりはしてました」
勇者「へえ……じゃあ色んな世界を知ってるんだな」
賢者「それでも、まだまだ知らないことの方が多いです。世界は広いですからね」
勇者「ふぅん……」
賢者「だから、見て回りましょうね。一緒に」ニコ
勇者「……お前結構恥ずかしいこと言うよな」
賢者「え?」
勇者「なんでもない。あそこに見えるの、宿屋じゃないか?」
賢者「あ、本当ですね。部屋が空いてるといいんですけど……」
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