本スレは以下の続編(2作目)となりますが、単独でも成立するようになっています。
前作から読んで頂ければ、嬉しく思います。
ある勇者の旅立ち 少年「さぁ~っいえっさぁ~!」
ある勇者の旅立ち 少年「さぁ~っいえっさぁ~!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1388408647/)
http://ss.vip2ch.com/jmp/1388408647
<--ココまで前作
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1392558371
騎士m「司令は上手くやったでしょうか?」
司令官代理「大丈夫だ。策は練りに練ったし、術式は滅多な事では破れん」
騎士m「霧が濃くて、まとわりついてくる。まるでミルクの中を彷徨っているみたいだ」
代理「どういう訳か、この辺りは朝方、濃霧に包まれる。そのお蔭で気付かれずに接近できるんだから、霧様々だな」
騎士m「そろそろ城壁が見えて...!っ...
司令官代理、正面城壁の上部..あれは」
代理「!」
騎士m「あれは司令の首...」
代理「伝令、全軍に撤退命令!
本陣まで撤退、作戦は中止する」
騎士m「要塞上部が光り始めました!」
代理「振り向くな!ただひたすらに駆けろ!本陣に辿り着くことだけに専念しろ!!」
---
将軍「おう、よく来た中佐。いやっ、勇者よ」
中佐「!..勇者? ...昇進..ですか?」
将軍「そんなところだ。とりあえず座りたまえ、説明しよう」
中佐「失礼します」
将軍「現在行われている攻略戦について、何か聞いているか?」
中佐「いえ、何も。 ...失敗したのですか?」
将軍「やはり分かるか?」
中佐「将軍は先程、私を勇者と呼びました。それに昇進の類だとも」
将軍「いかん・いかん。年のせいか口が滑りやすくなっているな、気を付けんと。
だが貴官を勇者に推したのは、正解だった事が証明されたな」
中佐「勘弁して下さい。将軍が私を推挙したのですか..」
将軍「おう。貴官以外に適任者はいないと、文字通り、この『そっ首』をかけてな」
中佐「...将軍...何があったのですか?」
将軍「まず、現在行われている筈の攻略戦だが、貴官の推察通り、失敗した。攻略部隊の残存兵力は、地峡入口まで退却し防衛陣を築いて待機に入った。帰国を許されずな」
中佐「帰国を?」
将軍「帰還兵の口から今回の戦況が漏れれば、兵の士気どころか、王国そのものが引っくり返る。これについては、追々説明する。
攻略戦を指揮していた将だが..」
中佐「自分の士官学校時代の先輩に当たります」
将軍「うむ、親しかったのだったな..。
彼は勇者として、今回の攻略戦に赴いていた」
中佐「苦虫を潰したような顔をしていたのでは」ハハ
将軍「名誉職としての勇者ならばな。
あの教会が秘蔵の聖剣を差し出し、国王は聖剣を授けた」
中佐「まさか... 」
将軍「そうだ。彼は神に選ばれた正真正銘の『勇者』だった」
中佐「先輩が今生の勇者..」
将軍「今回の攻略戦への期待は大きかった。その証拠に、彼に与えられた兵力の中心は、国王の直轄軍だ」
中佐「待ってください! ...『勇者だった』と仰いましたが、先輩は!?」
将軍「戦死した。亡骸が要塞城壁に晒されていたのを確認したそうだ」
中佐「戦死..」
将軍「衝撃を受けるのは分かるが、しっかりしてもらうぞ」
中佐「..失礼致しました。先輩の御家族には?」
将軍「まだだ。伝えられない訳が有る」
将軍「勇者と共に直轄軍を以て、要塞を攻略する。絶対だと、確信していたはずの作戦が失敗に終わった。それも勇者を失うという形でだ。
神の御宣託を疑う者など、この王国にはおるまい。なれば今作戦の失敗の原因は?
勇者と共にあった直轄軍、ひいては国王にその責があるのではないか?」
中佐「そのような畏れ多い事を」
将軍「王の臣たる我々はな。
だが、各地の諸侯はどうだ?
虎視眈々と玉座を狙う、王の血族たる『公爵』達や、あわよくば玉座を我が血筋にと、暗躍する外様の『侯爵』達。
今回の一件を機会と考える者達は、挙げればきりがない。それ故に事が漏れれば、必ずや声を上げる筈。直接声に出さずとも、民衆を扇動されれば..」
中佐「要塞攻略失敗の責と共に..」
将軍「国王陛下とて、玉座から降りざるをえまい。それで済めば未だ良い..。
そこで情報を統制し、状況の打破を図ることにした。攻略軍を前線に貼り付けたままにし、勇者の亡失は無かったことに。幸いにも攻略軍の司令官が、今生の勇者であったことを知る者は少ない。
新たな司令官を前線に派遣し、攻略戦を成功に導く。後に司令官を新たな勇者として発表する」
中佐「過程を無視して、願望だけが決定事項ですか?無茶苦茶ですよ」
将軍「無茶はこれだけでは無いぞ。
情報を統制する以上、諸侯に兵力拠出を求められん」
中佐「兵力は、私の部隊と直轄軍の残存兵力のみ。それで、あの要塞を攻略せよと」
将軍「今回の任に就く者が望むなら、何なりと用意すると、国王陛下からありがたい御言葉を頂いている」
中佐「兵力以外という条件付きですよね」
将軍「そんな顔をするな。軍人として最高の条件で、戦に臨めるのだから」
中佐( ...あの要塞に挑むにあたって、兵力は幾ら在っても関係ないかもしれないな)
将軍「どうだ引き受けてくれんか?」
中佐「将軍は私を過大評価しすぎです、が推挙された後では断れません。分かりました。お引き受けいたします」
将軍「ありがたい。この老いた首に未練はないが、長年使ったのでな、愛着はある」ワハハ
中佐「あまり御無理はなさいませんように。
...早速ですが、取り敢えず入用が」
将軍「何なりと申せ」
中佐「事の次第を報告してきた者を我が部隊に」
将軍「それは... 」
中佐「口ごもると思っていました。
極秘であった、先輩が勇者である事を知り、遺体を最前線で確認できた者。そういった者でなければ、今回の報告は王都に持ち帰れません。
それなりの地位に就いた者でしょうが、今は何処ぞに幽閉中ですか?」
将軍「貴官はそれだから、閑職に追いやられ、昇進も遅いのだ、気付いているか?」
中佐「差し迫った状況でなければ、口に出すことはしない程度に、成長したと考えていますけど」アハハ
将軍「貴官の推理通りだ。報告に戻ってきた者は現在、軟禁状態に置かれている。状況次第によっては、全ての責を負わされる贄としてな。
彼が必要なのか?どうしても?」
中佐「今回の攻略戦の詳細が必要です」
将軍「分かった。何とかしよう」
中佐「求めておいてなんですが、何者です?」
将軍「彼は...
レスくれた方々、ありがとうございます
本日更新分を投下します
>15 前回のラストで死んでいません。
---
副官「それで引き受けてきたと..。少し、人が良すぎませんかね」
中佐「仕方ないさ。将軍は首まで、かけておいでだったから」
副官「あの狸親父のことですから、中佐のそういう所を分かっていて、語ったのでは?」
中佐「そんな事は... あるかもしれない」
副官「頭が回るくせに、こういった事は、てんで駄目ですね」
中佐「面目ない」アハハ
副官「今日はこれから?」
中佐「報告に戻ってきた『彼』に話を聞く。現在、彼は旧王城にいるそうだ」
副官「あのボロ城..」
中佐「王都に近く、周囲に人気が無く、出入りを簡単に制限できる。前線と王都の直線上にあるのも理想的だね」
副官「話を聞いていると、軟禁と言うより監禁ですな」
中佐「他人事じゃないよ。我々も数日中には入城予定だから」
副官「え... 我々も」
中佐「情報統制に、我々も従う事になる訳だから当然」
副官「酒と女の日々よ、さらば!」
中佐「そんなに景気が良かっ..」
副官「それ以上言ったら泣きます」
中佐「すまん」
---旧城
副官「前言を撤回します。ここは廃墟だ」
中佐「幽霊でも出そうだね」
副官「それは良い。幽霊と言えば美人が相場ですから、この際、それで手を打ちましょう」
中佐「後宮は併設されていなかったはずだから..」
副官「それ以上言ったら失踪します」
中佐「ゆるして」
副官「彼は監禁されているはずでしょう。監視が緩いのでは?」
中佐「監禁じゃなくて軟禁」
副官「幽霊より怖い人達が潜んでいるって、落は無いでしょうね」
中佐「あぁぁあ、今何気に毒蛇を踏まなかったか?我々もこれから同輩になるんだよ」
副官「嘘から出た真にならぬように、お互い軽口を慎むことにしましょうか」
中佐「賛成。と、この部屋だな。彼が居るのは」
扉 コンコン
副官「 ...返事が有りませんね?」
中佐「出かけているのかな?失礼します」
扉 ギイィィィィ
副官「何ですか、この部屋?書籍・巻物・書類の山..」
中佐「火気厳禁だね。紙の隙間に部屋があるよ」
副官「中佐、こちらです」
彼 ZZZZZzzzzz
副官「顔にインクを付けて。
ここまで来て何ですが、彼は物書きですか?」
中佐「似てはいるね。気の毒だけど起きてもらおう。
もし・もしもし『賢者』様、起きて下さい」ユサユサ
副官「賢者ぁっ!?」
賢者<-彼「 ...ん..ん~ん!?どちら様?」
中佐「この度、攻略任務を仰せつかった者です」
賢者「ああぁ、あんたか。将軍の言っていた切れ者は」
中佐「過大評価ですけど」
賢者「出世に縁が無く、お人よし、とも言ってたけど」
副官 ウンウン
中佐「我々は、賢者様に前攻略戦の詳細をお尋ねしたく、参りました」
賢者「詳細ね ..その前に俺の問答に付き合ってもらうぞ」
中佐「? ...今からでも引き返せるとお考えですか」
賢者「ふん。推挙は伊達じゃないな」
副官「何の話をされているので?」
中佐「賢者様の眼鏡に適わなかった場合、我々はお払い箱だ。その際、今回の一件を多少なりとも知った我々に、極力害が及ばないように配慮してくださっているのさ」
賢者「僻地勤務は覚悟してもらうがね」
副官「廃墟か僻地ですか。どちらもどちら、ですがね」
賢者「まずは地政学的な観点から、要塞について聞かせてもらおう」
中佐「..古から続く人類対魔族。ここ数百年で人類は、数の上で徐々に魔族を上回る戦力を持ち始める。
魔族は、極寒故に人類が見向きもしなかった南の地への移動を開始。その結果、北の地に人類、南の地に魔族と、棲み分けが実現する。
北の地から南の地へは、南北をつなぐ長大な地峡が存在する。地峡が荒野であったため、双方共に、この地への入植は行わなかった。
しかし必然的に、戦闘がこの地峡上で行われる事となる。
一進一退が続く中、魔族は地峡中央部に要塞を建設。人類は幾度となく攻略を試みるも失敗、現在に至る。
こんな所でどうです」
賢者「そのまま歴史書に使える、書き留めておくから、もう一回言ってくれ」カキカキ
中佐「無理」
賢者「今度は、軍事面から要塞について聞かせてくれ」
中佐「要塞は、荒野に建つ平城で、環濠は崩れやすい土壌の特徴からか、存在しない。
城壁は高く、周囲が荒れ地であるため、主力兵器である攻城塔が使用できず、通常戦力による攻略は悉く失敗に終わる。
なにより、要塞を難攻不落たらしめるは、魔導砲。
原理・構造は未だに不明。照射されたものは、全て消滅することから、物理干渉系の通常魔法で無い事が推測される。
二度は言いませんよ」
賢者「ちっ、ケチ!」カキカキ
賢者「お前さんが、あの要塞について十分に理解していることは分かった。だからこその疑問だが、
なぜ、この任務を引き受けた?」
中佐「」
賢者「未だ破られぬ城壁と、防御不可能な攻撃兵器まで持つ要塞だ。高い確率で、今までの戦死者の列に自分が並ぶことは予測できている筈だ。
命令だからとか言うなよ。なぜだ!?」
中佐「 ...司令官は勇者である。これだけ重要な事をどうして内密にする必要があったのでしょうか」
「あっ、復活してる」
てな訳で投下再開します。
中佐「勇者とは言わば、神の使者であり代行者です。疑問や異論を挿むものは、神に反するものとして、人類社会で生きていくことが出来ません。
故に、指導層は自らの政策を進める上で、勇者を作り出すことが、最も簡単な手段です。
しかし、勇者での失策は両刃の刃である以上、軽々しく用いる事は出来ません。
が、他に策が無い場合、頼らざるを得ません。
そこで考え出した方法が
『成功した時に限り、勇者を公表する』
ことです。そしてこれが、勇者が内密にされていた原因です」
賢者「今回の一件をなぞれば、辿り着く結論だ。それで?」
中佐「勇者を自分達の都合で使う彼らは、神を恐れていないのでしょうか。そんな事はないでしょう。では何故。
彼らに付き従う教会の聖職者が、免罪符を与えているのでしょう。
決して私は無神論者ではありません。
ですが神の威をかり、国教の銘のもと、名も無き兵が荒野で命を散らす現状に、私は納得出来ません」
賢者「..続けろ..」
中佐「信仰の自由は認められるべきですが、宗教の自由を認めるべきではないと考えます。
戦死した先輩..前任は私の親しい人でした。ですが、彼を失った悲しみよりも、次が自分の番である自覚の方が強かった。
出来れば、これで終わりにしたい。勇者の候補?になった今、その機会であるからこそ、任務を引き受けました。
自惚れが過ぎるのは承知してますよ」アハハ
賢者「..神の威をかる国教が、戦争の原因だと考えるとは、呆れたね。俺が密告すると考えなかったのか?そうなったら異端審問に引き出され、問答無用で死刑だぞ」
中佐「難題を押し付けられた哀れな我々の行く末を慮ってくれる。そんな人なら話を分かってくれるのではないかと」
賢者「今一つ、例え要塞を攻略できたとしても、戦争は終わらないかもしれないぞ」
中佐「もともと南の地に、人類は見向きもしなかったんです。要塞への危機感が和らげば、厭戦気分が民衆に広がるかもしれない。
それに攻略に成功すれば、私は銘だけは勇者ですよ。真偽は兎も角、御使いの影響は無視できないでしょう?」
賢者「 ...ぷっ・ふっはっはははは!
良し、分かった!これ程の大馬鹿が居るとは思わなかった。協力しよう。だが、一つだけ条件がある」
中佐「..何でしょう?..」
賢者「様は止めてくれ、様は」
中佐「今度は私の方から、賢者さm..賢者はここで何をしているのです」
賢者「従順な振りをして、自分から軟禁状態を作り出せば、締め付けが緩むと考えた。即断で処刑される事だけは避けたかったからな。
で、今は読書三昧の日々だ。最前線で、あの要塞を直に見たのだから、改めて分かることもあると思ってな」
中佐「収穫は?」
賢者「見ての通りだ[オテアゲ]
それにしても、籠る場所を間違えた。監視や世話役に女っ気が全く無い。幽霊でさえ・だ」ナキ
副官「..賢者殿、お察しします」モライナキ
賢者&副官「同志!」ガシッ
中佐「」
中佐「前攻略作戦はどんなものだったんです。前任が、下手な策を打つとは思えないのですが?」
賢者「前任は、あの要塞を兵力による正面攻撃で攻略することは不可能だと考えていた。
そこで要塞駐留部隊をおびき出し、戦闘中に魔族に化けた者を紛れ込ませ、敵部隊に付いて要塞内部に潜入。破壊工作で混乱させ、城門を開けて味方を引き入れる手筈だった」
中佐「..前任自ら..」
賢者「そうだ。危険だと意見したんだが、自分なら不測の事態が生じても対処できると言ってな。
潜入に際し、俺が魔法で容姿から声に至るまで、魔族に偽装した」
中佐「だが見破られた?」
賢者「結果を見ればな。だが未だに信じられんのだ..」
中佐 ?
賢者「あの偽装魔法は、その辺の魔法使い..いや宮廷魔術師であっても真似できん高度なもので、俺独自の術式に魅了まで組み込んだものだ。
外見を操作するものでなく、空間に作用して偽装するから、どの角度から見ても綻びが生じない。
ここで術式を細部まで分解して確認したが、ミスは無かった」
中佐「あの要塞で、偽装・幻惑等は通用しない?」
賢者「俺がポンコツでなければ、そうなる」
中佐(先輩は同じ結論に至った。だがインナーオペレーションが使えないとなると... )
中佐「......」
副官「要塞を迂回して、補給線を分断..」
賢者「迂回しているのが要塞から丸見えだぞ。
仮に迂回出来て、向こう側で作戦を行ってる状況を俯瞰すると、分断されているのは我々だ」
副官「駐留部隊を引き出して、並行追撃戦..」
賢者「四天王の一人が率いる、あの駐留部隊を破った上でか?
仮に撃退し追撃しても、魔族ともども撃たれる可能性は否定できん」
副官「大兵力による飽和攻撃..」
賢者「良いな、それ。それだけの兵力が有ればな。
例え有ったとしても、城壁に阻まれ、順番に兵が薙ぎ払われるだけだ」
副官「坑道戦..」
賢者「あの要塞になぜ環濠の類がないのか考えろ。掘ったさきから崩れるぞ」
副官「水攻め..」
賢者「荒野に何処から水を引くんだ?」
--- チュン・チュン・チュン
副官「ああ、太陽が黄色い..」
賢者「..博打でスった時みたいだ」
中佐「......」
副官「女と一緒なら、違うんですけどね」
賢者「朝日の眩しさも絹のように輝いているからな」
中佐「......」
副官「」
賢者「」
副官「..何を挙げても駄目駄目じゃないですか!あっと言わせる策は無いんですか!」ウガァ
賢者「そんな策があるんなら、当の昔に戦争が終わっとるわ!」ガオォ
副官「賢者でしょ賢者!両手の魔力を合わせて、引き絞って、カアァァッと凄い魔法とか無いんですか!」
賢者「てめぇ、魔法を何だと思ってやがる!術者が行使できる魔力は限られてるんだよ。いくら賢者だからって魔法陣なしで、総量以上の術を行使できるか!」
副官「魔法陣があれば出来るんじゃないですか。要塞をブッ飛ばしてくださいよ」
賢者「出来る事と出来ない事があるわ!」
中佐「......」
副官「大体、あの要塞は反則ですよ!」
賢者「そうだ、みんなあの要塞が悪い!鉄壁の城壁に、最強の駐留部隊と魔導砲。これじゃぁ..」
中佐「それ!」
賢者&副官「へっ、どれ?」
---
謀王・フェンリル・要塞防御部隊・部隊長
「なぜ攻撃せんのだ!?」
破王・ミノタウロス・要塞駐留部隊・部隊長
「小さき者・何・怒ってる?」
謀王「何をだと!?分からんのか?!王国軍の司令官は捉えて処刑した。兵力も魔導砲で撃ち減らした。
戦力を再編される前に攻撃をかければ、北の地を切り取ることが可能になるのだぞ!」
破王「魔王様・命令・要塞・守る。忘れた?・小さき者」
謀王「攻撃も防衛の一つの手段だ!前進防衛を知らんのか!
それと小さい・小さい言うな!本当の私は、こんな形じゃない! ...そんなことはどうでも良い。兎に角、絶好の機会なんだ!」
破王「出る・駄目。命令・大事」
謀王「分かった。なら駐留部隊の指揮権を渡せ!これなら文句あるまい!」
破王「部隊・俺の。部下・小さき者・命令・聞かない」
謀王「くぅぅぅ!この頑固者がぁぁぁ」
破王「怒る・栄養・足りない?」
謀王「やかましい!!何処から仕入れた知識だ!」
破王「冷静・なる。怒る・また・失敗」
謀王「あれは貴様が引き入れたんだろうが!」
破王「俺・外・敵・蹴散らす。小さき者・内・守る。小さき者・失敗」
謀王「変なところで頭を使うな!それと小さい小さい、うるさい!もう良いわ!!」
謀王「くそっ、牛ごときがぁ!牛なら牛で、車でも引いておれ!」
謀王(この形でなければ。忌々しい鎖め!
これというのも... )
--- 回想
魔王「フェンリル」
謀王「魔王様?!前線においでになるとは、存じ上げず。御出迎えせず、失礼を致しました」
魔王「いや、少々用事が有ったのでね。誰にも知らせず出て来たんだ、謝意には及ばない。
それよりフェンリル、
君のここでの任務は何かな?」
謀王「は?何と仰られても... 要塞の防御が私の..」
魔王「やれやれ、気付いていないのか?」ドサッ
謀王「下級魔族..の遺体?部下が何か失礼を..」
魔王「目の前にしても分からないかい。これならどうだ?」パチンッ
謀王「なっ!これは人間..王国軍の司令官?!一体これは..」
魔王「要塞内を、下手な変装でうろついていたから、処分しておいたよ」
謀王「も・申し訳あr」
魔王「君の眼はどこを向いているのかな?
君は足元たる、この要塞を見ていなければならないんだよ。外の事はミノタウロスに任せておけば良いんだ。
それに先程の君の発言を聞いていると、彼について詳しいようじゃないか。
まさか、周囲に目を配るならいざ知らず、北の地を眺めていたなんてことは無いだろうね?」ジャラ
謀王「! ...魔王様、そ・それは..」
魔王「君の長年の功績に免じて、これ以上は問わぬこととしよう。だが、このままという訳にもいかないのでね、私からのプレゼントだ」
謀王「」
魔王「仕事に専念できるように、君をこの要塞に縛り付ける。拘束する訳ではないから安心してくれ。君の魔力だけを縛るものだ。
要塞の中で、仕事をする分には支障は無いよ。多少の形の変化は諦めてもらうが..」
---
謀王(何が多少の変化だ!これでは威厳もあったものでない!
しかし、魔王に感づかれたか?
..いや、口が滑ったのを見て、鎌でもかけたのだろう。でなければ、消されていたろうし、あのまま帰る筈もないか)
使い魔「謀王さま、お客様がお見えになりました」
謀王「ふん、呼びもしないの来るとは。いつもどおり待たせてあるんだろうな」
使い魔「はい、隠し部屋に」
客「謀王様におかれましては、ご機嫌麗しわく..」
謀王「何が機嫌が良いものか。貴様らの情報が不正確であった為に難儀する羽目になったわ!
要塞内部に侵入するとは聞いていなかったぞ」
客「私共としましても初耳でございます。情報に関しては正確を期していますが、司令官個人の頭の中までは、残念ながら」
謀王「なにか?意図を見抜けなかった俺が無能だとでも?」
客「そんなつもりはございません。お気に触りましたら、お許し願いますように」
謀王「ふんっ、まぁ良い。それより今回の訪問はなんだ」
客「王国軍の殲滅はいつ頃になるのか。我が主は気にしておいでです」
謀王「やはり催促か。残念ながら、その目処は立っていない。王国軍が地峡入り口まで後退して、逆撃体制を整えたからな。
それでも司令官を捕らえて処刑したのだから、貴様らの政治とやらには役に立つだろうが」
客「ほう... 司令官を。それは真でしょうか?」
謀王「貴様らの持ってきた人相書きや情報が正確ならな。後で使い魔に屍骸の所まで案内させよう。
腐敗が進んでいる。嘔吐いて、城内を汚さぬようにな」ククッ
客「お気遣い痛み入ります。報告のため、遺骸を確認致したく存じます。
ところで先程、王国軍の後退に難儀しておいでだったようですが」
謀王「殲滅するのに手間をかけたくないと、言っただけだ」
客「そうでございましたか。では、この知らせは吉報となりましょう。
王国軍に動きがあります。ここ数週間、王国軍本陣に大量の物資が運び込まれております。また、王都より援軍が派遣されました」
--- 前線
副官「各分隊!設置作業はじめぇ!」
賢者「お前、正気だろうな?」
中佐「今まで散々、答えて来たじゃないですか、いたって正気ですよ」
賢者「はっきり言っておくが、この兵器は歴史上に存在した訳じゃない。伝説とかお伽噺の類だ」
中佐「試験結果は良好であったと、あなたから聞いたんですよ」
賢者「いや、それでもなぁ」
中佐「はい、これ作戦計画書です。賢者が要なんですから御願いしますよ」
賢者「確かに可能なんだが、これ実行した後の俺は..」
中佐「疲労困憊で敷皮状態でしたっけ?成功にしろ失敗にしろ、回収しますから心配は要りませんよ」
賢者「俺の扱いひどくない?」
中佐「ソンナコトナイデス」サッ
賢者「目を合わして答えろ」
副官「司令、日の出時刻です」
司令<-中佐「各機の最終確認、起動準備始め。
直轄軍に突撃待機命令」
副官「直轄軍、行動起発点にて待機に入りました」
司令「賢者の別班はどうか?」
副官「未だです、お待ち下さい。
......来ました!別班より発光信号、位置につきました。
各機の起動準備が完了したと報告あり!」
司令「よし、これより作戦を開始する。
各機、防護幕を排除、焦点の収束作業開始!」
副官「全機、収束よし!」
司令「各機、計画どおりに第1照準点へ!
アルキメディアン・ミラー照射、ヨーイ・射てっ!」
魔族m1「最近は暇だねぇ」
魔族m2「この前の侵攻からこっち、平和そのものだからな」
魔族m1「どうだい呑むかい?」
魔族m2「おいおい、まだ勤務時間中だぞ」
魔族m1「これだけ明るくなってきたんだから、時間外だよ。遅れている交代の連中が悪い!」
魔族m2「それもそうだな。でもお前、前から呑んでたろう、顔が赤いぞ」
魔族m1「んな訳あるか!呑んでたのは、そっちだろうが。真っ赤だぞ」
魔族m1&2「?」
使い魔「謀王様、歩哨より報告!要塞入り口に異変が発生しました」
謀王「異変?報告は正確に行え!」
使い魔「それが、城門が輝き始め、凄まじい熱を持っていると」
謀王「周囲に魔法使いや魔法陣は確認できているか」
使い魔「魔術の痕跡は無いとのことです」
謀王「?.. 分かった、私も現場で確認する。あぁそうだ、破王にも来るように伝えろ!」
使い魔「畏まりました」
謀王(タイミング的には、人間共が仕掛けてきたのだろう。牛を焚きつけるには、良い材料だ)ククッ
破王「何・あった?」
謀王「城門が熱を帯び始めている。このままでは数時間で穴が穿たれる」
破王「王国軍・攻撃?」
謀王「周囲に人間共はいない。が、連中の仕業であることは間違いないだろう。北側に強烈な光源を確認している」
破王「外から・攻撃・俺・仕事」ニヤ
謀王「そうだ。お前にしか対処できないのだからな。急いで頼む、城門を破られてからでは遅い」
破王「おう・まかせろ。駐留部隊、戦闘準備!!南門・集合!」
謀王(好戦的な性格を魔王への忠誠心で抑えていた分、反応が単純になっているな)
兵士m「駐留部隊の出撃を確認」
賢者「やっと出たか」
兵士m「あのう、駐留部隊が出てきたら、城門破壊を邪魔されてしまいますが..」
賢者「そうだよな。普通はそう考えるよな。司令官殿はやっぱり変だよ」
兵士m ?
賢者「魔術隊、予定通りだ。測距とタイミングを間違えるなよ」
魔法使いs「了解!」
魔族m「破王様!左側方、王国軍が要塞方向へ突進!」
破王「!・城門・破れた?」
魔族m「霧のために確認できません」
破王「 ...ケンタウロス!」
ケンタウロス「はっ、これに!」
破王「重騎兵・預ける。光源・破壊!」
ケンタウロス「承知!
重騎兵は我に続け!光源の破壊に向かう!!」
破王「部隊反転!王国軍・追撃。続け!」
駐留部隊 オオオオオオゥ!
兵士m「敵部隊が二手に分かれました。音から察するに騎兵を切り離したようです。反転したのは主力の模様」
賢者「こいつは賭けだったけど、まずは第一段階成功だな。さて..
敵主力が魔法陣に入ったら知らせてくれ、発動後を頼む!」
兵士m「お任せ下さい」
賢者「本日のお仕事の総仕上げと行きますか..」
副官「敵騎兵、接近中」
司令「別班は上手くやったようだね」
副官「はい。ですが、こちらに騎兵の突破を阻止するだけの戦力がありません」
司令「猪武者相手なら、やりようはあるさ」
副官「先頭は馬?のようですけど」
司令「同じ四つ脚だから、大丈夫でしょ?」
副官「」
司令「..黙らないで、怖いから。
そろそろだね、『火』!」
ゴオォォォォォッ!
ケンタウロス「! 防護柵のつもりか?
全隊、進軍速度を緩めよ! 」
副官「敵騎兵、予測区域に入りました!」
司令「よし、足が止まったね。
直轄軍、突撃!!」
魔族騎兵s ウワアァッァァァ!
ケンタウロス「何事か!?」
魔族m「右後方より王国軍の突撃です!」
ケンタウロス「伏兵だと!?迎撃!」
魔族m「駄目です。槍兵の密集突撃を止められません!」
ケンタウロス「ぬかった!火は動きを止めるためか。
全隊、火炎壁を強行突破する!
徒歩兵では、火炎壁の向こう側までついて来ん、ゆくぞぉ!」
司令「思い切りの良い指揮官だね。火炎の突破を選ぶとは」
副官「感心する割に、備えていたんですから。
..もしかして、この火って防護の為でなくて、敵を誘うためですか?」
司令「当たり」
副官「うわぁ、ペテン師の手口だ」
司令「人聞きの悪い」
副官「この場合、キくのは魔族です」
司令「違いない」
ケンタウロス「グワアアアッァァァ!
......逆茂木..だと..火はこれを隠すため... 」
魔族騎兵m ギャアァァァアアア! ウワアアァァッ!
謀王「状況がちっとも変わらんじゃないか!」
使い魔「謀王様、城門の赤熱が凄まじく、施設班の報告では間も無く穴が開きそうだと..」
謀王「あああっ!これだから指揮官を一人に。権限を統括すべきなのだ!百歩譲ったとしても、牛なぞに..」
魔族m「謀王様に報告!王国軍が接近中!」
謀王「牛は何処で道草を食んでいる!?
当てにならん!
魔導砲・起動、急速充填!
目標、接近中の敵軍・中央!」
破王「王国軍・追いつけん」
魔族m「申し訳ありません。重騎兵を分離したので、徒歩兵中心となっており、速度が出ません」
破王「よい。重騎兵・戻る。要塞・挟み撃ち」
魔族m「はい。間も無く敵軍が、要塞に達する頃です」
破王「フム」
魔族m「..破王様、前方上方に魔力の収束を感知。要塞・魔導砲のものと思われます」
破王「残念。今回・要塞・手柄」チッ
謀王「魔導砲の充填率は完全で無くて良い!城門に殺到する敵を食い止めることに専念せよ!」
魔族m「ハッ!」
謀王(人間どもめ、今回は気合が入っているじゃないか。縦への戦力集中で、防戦一方に回らざるを得ん..)
使い魔「謀王様、城門を破られました」
謀王「何っ?!攻撃力が段違いではないか!
総員、白兵戦!
敵軍を中庭に誘い込め、包囲殲滅する」
使い魔「手配致します」
謀王「くそっ、正面攻撃から侵入を許すとは!
..しかし、要塞内部なら私の魔力も十全に行使できる。
今迄の鬱憤も含めて、叩きつけてくれるわ!」
---要塞中庭
ウワアアァァァァッ!!!
謀王「戦況はどうなっている?!」
魔族m「それが..ガァッ!..」
謀王「貴様... 」
破王「..小さき者..」
謀王「どうした、その手傷は?!
それより、今迄何をしていた!?」
破王「..なぜ..」
謀王「貴様が外にいる間に、人間共が攻め寄せて、この有様だ」
破王「..なぜ..」
謀王「貴様ら駐留部隊が、外で人間共を撃破するのではなかったのか?!
大きいのは口と形だけか?!
兎に角、今は連中を叩くのが先だ!」
破王「なぜ・我々ヲ攻撃したァ!!!?」
謀王「 ...?..何を言っている?」
破王「・裏切り・許さぬ。部下・カタキ・..」
謀王「何をしている?待て、なんだ、それは?落ちつ」
グシャァッ!
客「ふん、相打ちになったか。目論見とは違う結末になったが、こちらの方が面白いかもしれん。
王国軍が来る前に脱出して、報告に戻らねば..」
--- 要塞・同日夕刻
司令「小隊毎に城内を捜索。決して、単独・少人数で動かないように」
副官「各隊、捜索開始!」
司令「副官、安全が確認できた屋内に、早急に救護所を設営してくれ」
副官「手配致します」
司令「騎士長殿、負傷者を設営する救護所に移動させて下さい。
それとお疲れの所を申し訳ないのですが、直轄軍の再編成をお願い致します。奪還に引き返してくるとは思えませんが、念のために」
騎士長「攻略軍の司令ではありませんか。
こき使って頂いて構いませんぞ」ガハハッ
司令「直轄軍あっての成功です。粗略な真似など出来る筈ありません」
騎士長「謙遜が過ぎますぞ。ですが、お気遣い感謝致します。早急に再編成を済ませ、警戒態勢に入ります」
司令「宜しくお願い致します」
騎士長「 ...司令、お見事でした」
司令 ペコリ
副官「司令、こちらに救護所を設営し、負傷者の受け入れと治療を開始しました」
司令「ご苦労様... 」
副官「何か?」
司令「いや。これから大変だと思ってね。
施設の修復。南方への斥候・調査。必要なら、防御施設を新たに構築する必要があるかもしれない」
副官「その悩みも成功すればこそです。追い出された魔族の悩みよりは、格段にマシというもんです」
司令「それもそうだ。犠牲者が出ているのだから、彼の働きに報いる為にも奮起しなければね」
副官「..はい。大きな犠牲でした...賢者殿...」
賢者「勝手に殺すなぁぁ..!」
副官「おっ、生きてる生きてる」
司令「ご無事でなによりです」
賢者「何が無事なもんか!意識を取り戻したのは今し方だ!
理論的に可能だからと言って、偽装の術式を大軍相手にかけさせるか?普通!?」
司令「第1段階の幻影に関しては、預けた魔術師にやらせたんでしょ?」
賢者「てめぇ、魔法陣の大きさが分かって言ってるんだろうな。あんな巨大な魔法陣、有史以来、聞いたこと無いぞ!」
副官「伝説の誕生だ」
賢者「何が伝説だ!コキ使いやがって!」
司令「だから手がかからないように、魔法陣は、始めにミラーで描いたんですよ」
賢者「描いた、と言うより『焼いた』だな。
観光名所にしたくなかったら、消しておけよ」
副官「消す、と言うより『耕す』になりそうですな」ゲンナリ
副官「そろそろ教えてくださいよ。『それ』って何のことだったんですか?」
賢者「朝まで作戦談義していた時のだろ。俺も聞きたいね」
司令「あの時、
『鉄壁の城壁に、最強の駐留部隊と魔導砲』
と、2人が言ったんですよ」
賢者「これじゃ『矛盾』だ。
ってやつか?」
司令「その矛盾こそが、今回の作戦を思い付くきっかけだったんです」
副官「?..矛盾って、辻褄が合わないことでしょ、それがなんで?」
司令「矛盾で都合の悪いのは、事象の発言者だよ。観測者は別に不都合じゃない。実際に試してみれば、白黒つくから」
賢者&副官「」
司令「じゃぁ、どうすれば試すことができるか?
先ずは、要塞と駐留部隊をリングの両サイドに配置しなければならない。必然的に駐留部隊を引き出すことになる。これは前回の攻略戦でも成功していたから問題ない。
問題は、要塞に向かわせる餌をどうするか?
駐留部隊の部隊長は、これまでの情報から、かなり好戦的であることが推測できる。
なれば、餌は王国軍にするのが一番効率がいいことになる」
副官「でも実際には、幻影をチラッと見せただけじゃないですか?」
司令「2人だってあの時、居もしない女性の想像に盛り上がっていたじゃないか?
現実よりも、幻の方が良いのは... 」
賢者&副官「それ以上言ったら、殴る!」
司令「ゴメン」
司令「駐留部隊は走り始めた。次は要塞側をその気にさせる番だ。こちらは動かないから、仕掛けられない。駐留部隊には、もう一役買ってもらおう。
幸いにも賢者の偽装の術式がある。空間に作用するって言うのも好都合だ。かなり大規模な術になるから、魔法陣が必要になる」
賢者「あれは『かなり』で済まねぇよ」
司令「ちまちま人力で描いていたのでは、大変だし、見つかる危険性がある。初めは火を使おうと思っていたけど、鎮火が一様で無いので発覚する恐れがある。
そこで、誘い出しにも使った道具をここでも使用する」
副官「アルキメディアン・ミラーですね」
司令「ミラーの役割は三つ。魔法陣の描画、誘い出し、そして要塞攻撃。
作戦の意図は、要塞と駐留部隊を完全に衝突させる事だ。対消滅と言ってもいい。
要塞が堅牢なままでは、駐留部隊だけが消えてお終いになりかねない。最終目標は要塞なんだから、なんらかの力添えが必要になる」
賢者「だが威力は無いぞ。時間をかけて、やっと城門に穴を穿つ程度だ」
司令「威力の低さは、問題ではありません。駐留部隊が要塞に突入し易くなれば、それで充分だった」
賢者「それでミラーを... んっ、待て。ミラーは何処から出てきた?」
司令「地峡は荒地です。使えそうな大きな力、自然は日光ぐらいですよ。
と、さも順序立てて登場させたミラーなんですが、単なる思い付きです」
賢者「はぁっ?!」
司令「そんなにそんなに、都合良く思考なんて出来ません。良いんですよ、インスピレーションって大事です」
賢者「言い切りやがった」
司令「こうして作戦の筋が出来上がれば、後は人事を尽くせば良い。国王陛下から、何でも用意すると言われていたしね」
副官「司令、陛下は言うだけだから簡単ですけど、実際にやり繰りした..」
賢者「..将軍は今頃... 請求書を見て愕然としているな」
司令「御自分の首が転がるより、禿頭や総白髪の方がマシな筈だよ」
副官「こうやって聞いてみると、ミラー以外は殆ど他人任せじゃないですか」
司令「戦争を仕掛けるのに、一番欲しい兵力が無いんだから、使えるものは何でも使わなきゃ。
言うじゃないか・ほら、立ってるものは・なんとやら」
賢者「発想も他人任せじゃないか?」
司令「え?と... 流石は賢者・さま、素晴らしい助言に、万物に精通した知識。感服致しました」
副官「賢者殿、私は作戦中に司令の事を『ペテン師』と言ったんですけど..」
賢者「それは言い得て妙だ。『詐欺師』でもイイな」
司令「だから、人聞きが悪いって」
賢者&副官「充分に悪いわ!この悪党!!」
--- 魔王城
魔王「 ...これより四天王がひとり『剣王』を名乗れ」
剣王「浮かない顔をしているかと思えば、出し抜けになんだ?」
魔王「それに答える前に、これを見てくれないか」
剣王「報告書か...
『要塞の失陥』、あの要塞が!?
方面軍の損失が9割以上?王国軍に、そんな戦力は無かった筈だ。総動員令でもかけたのか??」
魔王「前線は混乱していて、詳細は分からない。が、そこに在るのは、厳然たる事実だ」
剣王「 ...四天王が戦死とあるな。2人とも寝ていたわけじゃあるまいに」
魔王「この前、フェンリルの行動を制約したからなぁ」
剣王「ああぁ、あの時のお仕置きね」
魔王「不味かったかな。ふたりの仲が良好とは言えなかったから... 」
剣王「後悔先に立たず・だな。どうする?」
魔王「王国軍に余力は無いようだから、取り敢えずの時間は有る。
こちらはその間に、国内の戦力を掻き集める。双方の戦力は、要塞が在って始めて拮抗していた。それが今回の大敗北で崩れた..
君には、新編成の軍を率いて要塞の奪還の任についてもらう。
これは全権の委任状がわりだ...」
剣王「成る程、それで剣王ね。これが魔王の象徴たる魔剣か... 。それじゃぁ、いってくるよ」
魔王「その前に、クラーケンを連れて来てくれ」
剣王「クラーケン?海まで行けと?」
魔王「手が離せないんだよ、頼む」
剣王「了解」
--- 要塞
副官「司令、王都より命令書が届きました」
騎士長「命令書?南に侵攻しろとか言わんだろうな」
賢者「請求書が回ってきたんじゃないか?重ねて、要塞の修繕費用を催促したから」
司令「費用は催促していませんよ。物資だけです」
賢者「トドのつまり、一緒じゃないか」
司令「これは王都への帰還命令です」
賢者「おっ、晴れて勇者を襲名か?
...いよいよだな...」
司令「賢者も一緒に帰還しろとの事です」
賢者「俺もかよ。労いの言葉はいらねぇぞ。形で表してくれねぇかなぁ」
司令「副官、留守中の代理を頼む。騎士長殿、協力を御願い致します。
魔族が攻めて来ても、絶対に討って出ないように」
騎士長「お任せ下さい」
副官「了解。籠城して援軍を待つことにします。援軍を引き連れるにせよ、ないにせよ、酒とか酒とか酒の土産を期待しています」
賢者「女が出てこないとは意外だね」
副官「この人に女っ気を期待しても無駄です」
賢者「留守番していてイイかな?」
司令「駄目です、準備して下さい。
それじゃぁ行ってくるよ」
--- 王都
将軍「よく戻った中佐!それに賢者も。
困難な任務をよく果たしてくれた。先ずは、この首が落ちなかった礼を言わせてくれ」
賢者「やっぱり感謝の言葉だけ?」ヒソヒソ
中佐<-司令「直ぐに分かりますよ」コソコソ
将軍「立ち話もなんだ、座ってくれ。茶というのも味気ないな。我々だけだし、どうだ秘蔵の一品を?呑むかね?」
賢者「おっ、待ってました」
中佐「..将軍、何があったのですか?」
将軍 ピクッ
中佐「攻略作戦を成功させた後です。将軍なら、私達を新たな地位で呼ぶ筈です。しかし、そうはしなかった..」
将軍「やはり分かるか。..呑みながら話をしよう。毒は入っていないから安心しろ」
賢者「毒ぅっ!?えっと検査の魔法は..」
司令「大丈夫だよ。もし私を謀殺するつもりなら、賢者と一緒に戻ってこさせはしないさ。
賢者と共に帰還させたのは、将軍ですね?」
将軍「一応、信頼はされていると言うことか。こういう時の貴官は、話が早くて助かる」
---
民衆 ワアァァァァッ!!
神官「 ...神の御言葉は、この世界を祓い清めよと。我々は今生に於いて、清浄なる世界を目の当たりにすることになる」
民衆 オオオォォォォ!
神官「これより瘴気渦巻く暗黒の地へと旅立つ勇者は、大公の御子息!
付き従うは、王国全土より馳せ参じた先鋭の王国軍!
王家の血筋に勇者が降臨するは、我々の望む世界こそが、神の導きたる約束の世界であることの証である。
神の遣わせし勇者と、神軍たる王国軍に永遠の栄光を!」
民衆 ウワアァァッ! ユウシャ・バンザァイ! ワァァアァァッ!
賢者「ケッ!面白くねぇ。何が勇者だ」ヤサグレ
中佐「しっ!誰が聞いてるか分かりませんよ」
賢者「お前さんは、平気なのか?
あいつらは、俺達の苦労を踏み台にし、全てを掻っ攫いやがったんだぞ」
中佐「」
---
将軍「..情報が漏れた。それも勇者の亡失という最重要機密がだ」
賢者「あんっ?あれだけ人を閉じ込めて置いて、王宮内はザルか?」
中佐「賢者、話を聞こう」
将軍「 ...重大な疑義が有ると、大公を筆頭に各地の公爵や侯爵が謁見を求めてきた。断ることも出来ず、通した御目見得の場で、連中は一件を糾弾してきた」
中佐「なぜ否定しなかったのですか?」
将軍「間も与えずに、連中は証拠を突き出してきた」
賢者「証拠?あの状況でどんな証拠が有るって言うんだ?」
将軍「聖剣だ」
賢者「馬鹿な!どうやって回収した!?首を確認した最前線の俺でさえ、逃げるので精一杯だったんだぞ!」
将軍「説明によれば、魔導砲に薙ぎ払われた時に吹き飛ばされ、運良く助かった者がいたそうだ。
気づいた時には夜半で、要塞へと迷い出てしまったそうだ。そこで城外に打ち捨てられていた遺体を見つけ、回収したそうだ」
賢者「行方不明者か。無い話とはいえないか... 」
将軍「連中の主張は、当初の予想通り、恐れていた内容だった」
中佐「王の退位..」
将軍「現王権は信用できない、とのことだ。
だが、事実を公にすることは、王家不信という悪影響を生み出しかねない。
そこで、王の退位は要塞攻略後とし、病気による体調不良が理由の譲位とすることになった」
賢者「要塞攻略?何を寝ぼけたことを言ってやがる!要塞は... おいっ、まさか」
将軍「そうだ。公爵の子息を勇者に立てて、軍を差し向ける。要塞は手の内にあるのだから、行って帰ってくるだけで、伝説の勇者が出来上がる寸法だ。
連中はそうやって、民意を勇者から新王へと誘導するつもりだ」
賢者「ふざけやがって... 」
中佐「今いる私の部隊や直轄軍はどうなりますか?」
将軍「貴官らが率いた部隊と直轄軍は交代となる。交代後は王都に戻らず、ある場所に留め置かれる」
中佐「留め置かれる?」
将軍「それについては、貴官の処遇について話さなければならない。当初、連中は貴官を中心とする部隊・上層部の身柄引き渡しを要求してきた」
中佐「口封じですか」
将軍「間違いないだろう。だが最終的に、貴官らの身は、新たな任に付くことを条件に、安全を確保してある」
中佐「辺境ですか?」
将軍「似てはいるが、辺境ではない。
貴官の戦功を讃え、王より『伯』を賜り、所領として『旧王城』と周辺地域を与えられる」
賢者「これからは伯爵様かぁ、すげぇ。
...って、あんなひと気のない廃墟で、どうしろって言うんだ!」
中佐「死にたくなかったら、あそこで口を塞いでいろと。一軍を軟禁なんて出来ないから。目の届く場所にいろって言うのもあるかな。
...将軍が連中に、何って言ったのか気になりますね」
将軍「おっ、聞いてくれるか?」
中佐「言わなくて良いです。悪寒が..」
将軍「身柄引き渡しを要求して来た時、
『誰にもなし得なかった要塞攻略を遂げた史上最強の先鋭軍。まして、切れもの揃いの指揮官達を害そうとすれば、王家の存在に関わる事態になりかねませんな』
と言ってやった。連中全員、血の気を失っていたぞ」ガハハハハッ!
賢者「よっ、男前!言うじゃないか。まぁ、呑みねぇ」
中佐「能天気なことを。新王権を敵に回したってことじゃないか... 」
将軍「時間は稼いたぞ」ドヤッ
中佐「風前の灯ですよ!」
---
賢者「これからどうするよ、伯・爵・様」
中佐「今迄どおり中佐で #
どうするもありません。任地に向かいましょう。部隊も追っ付け来ます」
賢者「そうだな。持ちたるものは戦友のみ。あの廃墟が一番安全か」
中佐「しばらくは自炊ですからね、先ずは食料品の買い溜めに行きましょう」
賢者「意見具申します!」
中佐「はいはい。酒ですね。土産も要求されていましたから、忘れていませんよ」
賢者「ひゃっほー!」キラキラ
--- 旧王城
中佐「[ガチャ] おぉ?い、賢者いる?」
副官「いませんよ。自室に居なかったんですか?」
中佐「紙雪崩で圧死していなければね」
副官「間違えても、ここで書類整理を手伝うなんて、殊勝な心掛けは芽生えないと思いますが」
中佐「それもそうだ。で、こっちの調子はどう?」
副官「最悪です。現場で泥まみれになっていた方がマシです。事務職と家事が出来る人材を雇って下さい」
中佐「そんな有能な人材がいればね。取り敢えず、軍の管理形態に準じたやり方で良いから」
副官「周囲に人が居なければ、領地管理なんて楽だと思って志願したのに、完全に失敗したァ!騙されたァ!」
騎士長「[ガチャ] 所帯だけは大きいですからな。抱える軍事力が、大公に次ぐ規模というのは前代未聞です。
周囲の見回り終了しました。東の街道に出る途中の橋が危ないですな。手を入れる必要があります。これ報告書です」
副官「ああぁっ、また一枚増えたァ」ガクゥ
中佐「ご苦労様でした、騎士長殿。
直轄軍は、いずれ王の元に戻るのでしょう?」
騎士長「現王に付き従うのか、新王(仮)に吸収されるのかは、分かりません。
私としては、ぜひ伯爵様に指揮して頂きたいと思っていますが」
中佐「中佐とお呼び下さい #」
賢者「[ガチャ] そんなに、この甲斐性なしが魅力的かね?
ここに飲むものある?酒とか酒とか?」
騎士長「ありませんな。まだ昼前ですよ。確か、茶葉がそっちの書類棚に入っています。
魅力的かどうかは別にして、武人が従う主としては言うこと無しです。特に新王(仮)に謀反を疑われているなんて、最高ですよ」ハハッ
賢者「乱世の武人ってやつか。それじゃぁ、ここは後世、反乱軍の根拠地として伝わるのか。雰囲気だけは確かにな」
中佐「茶葉有りましたから、煎れますよ。
そうやって、けしかけないで下さい。前にも言ったように、無用な争いは避ける主義なんですから。
ところで探しましたよ。何処に居たんです?」
賢者「濃い目に煎れてくれ。目が冴えるぐらい。
城外に居たんだ。攻略線の時に疑問を覚えたんで、色々と実験を。城内でやってシクジったら、せっかく皆で直した城が廃墟に逆戻りだ」
副官「 ...み・な・さ・ん、どうしてここに集まってくるんです?」#
賢者「品揃えがいいから?」
騎士長「報告とお茶休憩を兼ねて?」
中佐「大抵、皆がここに居るから?」
副官「ここに来たなら書類仕事を手伝え!」ガオゥッ!
兵士m「[ガチャ] 失礼します。やっぱり此方でしたか..」
中佐&騎士長&賢者 [爆笑]
兵士m「え~と..」
中佐「ごめんごめん。誰を呼びに来たのかな?」
兵士m「皆さん全員です。応接室にてお客様がお待ちで... 」
一同 ?
将軍「手を入れれば、此処も見違えるものだな」
中佐「..閣下でしたか」
将軍「何も歓待してくれとは言わないが、そんな顔をしなくてもいいんじゃないか?」
賢者「差し入れでも持ってきてくれたのか?」
騎士長「おい、将軍閣下に失礼ではないか。手ぶらなわけあるまい」
副官「ぶらりと立ち寄っただけですよ。我々に用事があるわけないでしょ」
一同 ジィィィィ...
将軍「」(いきなり挫けそうだ)
中佐「失礼しました」
将軍「どうやら、程度は察しているようだな」
賢者「厄介ごとだろ。アアアー!」キコエナイx2
将軍「単刀直入に行こう。『要塞が奪還された』」
一堂「はいぃい?」
騎士長「あそこには、現王国内最大の軍が駐留しているはずでは?」
賢者「敗北から間もない魔族が、数を揃えられる訳あるまい」
副官「魔王自ら前線に出てきたとか?」
中佐「こらこら、一斉に話したら将軍もお困りだ、少し静かに」
将軍「連中、要塞奪取の手柄だけで満足すれば良いものを、欲をかいて、要塞から南方へ侵攻した」
中佐「新勇者も諸侯の手前、一戦もせずに戻るには、バツが悪かったか」
将軍「そんなところだろう。
順調に侵攻していると思っていたら、実際には包囲されていたらしい。あっという間に陣形が崩れ、退却を余儀無くされた。
敵ながら見事なのは、ここから並行追撃戦に出たところだ。これで退却に混乱が加わり、そのまま要塞へ..」
副官「並行追撃戦なら、魔導砲で味方共々撃っちゃえば..」
中佐「新勇者がいるのに?
無理じゃないかな、要塞に残留を命じられていた兵には」
将軍「その結果が、要塞の失陥につながった。しかもその後に、未練がましく要塞を取り戻そうと、引き返して壊滅した」
一同「」シ-ン
中佐「本当は聞きたくないんですが、新勇者は」
将軍「戦死した」
賢者「勇者は呪われてんのか?」
将軍「神学・哲学等に関しては、教会が後で尤もらしく理由をつけるだろう」
中佐「これで、はじめの状況に戻ったことになる..」
賢者「..そういうことか。将軍はそれで此処に」
将軍「大公を筆頭とした連中は大義名分・その他諸々を失い、国王陛下に謝罪と和解を申し出てきた。
譲位を迫った一件は無かったことになった。
だが、それぞれ頼んだ勇者を失っただけでは済まない。魔族に対する兵力が無い」
中佐「ここ以外には... ですか」
将軍「すまん。事は王国の、人類の存亡に関わる事態に変わってしまった。今回は何の制約もない。必要なものが有れば王国を挙げて準備しよう。
要塞の再奪取を頼みたい」
中佐「お断りします」
一同「えっ?」
--- 前線
賢者「..将軍に断った時は驚いたよ」
中佐「すみません」
賢者「本当に謀反でも起こすのかと、心配もした」
中佐「あははっ、それだけは無いです」
賢者「王への忠誠心か」
中佐「面倒でしょ。人の居ない所領でさえ、あの状態でしたから、国なんて背負ったら、どうなることやら」
賢者「それもそうだ..が、もう少し表現に気を付けた方が良くねぇか」
中佐「斥候に出てきた私達以外に誰もいませんよ」
賢者「それよりどうするつもりなんだ?
将軍には『王国防衛』なら、と答えていたが」
中佐「正直に言うと、要塞攻略の手段が思いつかないんです」
賢者「だろうな。今度の魔族は今迄と違うようだ」
中佐「仮に思い付いたとしても、要塞を巡って戦争が続くことに変わりはありません。これでは何の為に命を賭けるのか、分かりません」
賢者「何か考えが有るみたいだな。俺を供に、司令自らが斥候というのも変な話だ」
中佐「副官と騎士長には本陣構築を命じてきましたが、実のところ新たに補充された兵を抑えてもらうためです」
賢者「補充兵?そういや生き残りや、各地の警備兵まで回されてきたな」
中佐「政治絡みで回されてきたのは間違いないでしょう。邪魔だけはされたくないんで、こうやって出てきたんです」
賢者「それで?」
中佐「私の考えはこうです。
現状では、要塞そのものが戦争の理由になっています。ならば要塞そのものを無効化すればいい」
賢者「それじゃぁ、再奪取して破壊するしか手がないんじゃ」
中佐「思い付いた方法がもう一つ。地峡内にもう一つ要塞を作ってしまえばいい」
賢者「正気か?」
中佐「睨み合いの状態になれば、少なくとも犠牲者は出ない。間のいい事に双方共、兵力を失っています。侵攻のための兵力が整うのに十年以上はかかるでしょう」
賢者「僅かな時間でも平和が訪れるか..」
中佐「どうでしょう?」
?「それじゃぁ駄目だな... 」
?「着眼点も狙いも独創的で、戦略家としては合格だ。だが、現実にそうなるだろうか?いや、なるまい。断言しても良い」
賢者「お前... 」
?「難攻不落を誇っていた要塞に、無謀にも挑み続けてきたんだぞ、王国は。
お前が要塞攻略を成し遂げなかったら、今だに犠牲者をこの荒地に積み重ねていただろう」
中佐「なぜ...」
?「なぜ、か。それはお前さんの持論通り、教会が原因かもな、もしくは王族達にあるのかも。何れにせよ、王国が南への侵攻を諦めるとは思えん」
中佐「違う... なぜ...
賢者「お前が...
中佐「ここにいるんです、先輩!?」
賢者「生きているんだ、勇者!?」
?「まず中佐の問いに応えることにしよう。現在の俺は、魔族四天王の1人『剣王』だ」
中佐「魔族... 四天王... 裏切ったと..」
剣王<-?「そう質問を重ねるなよ。順番に答えるよ。次は賢者の問いだが、こっちは長くなりそうだ。
賢者、何の魔法を使うつもりなのか知らんが、取り敢えず話を聞いてからにしてくれ」
賢者「危害を加えるつもりは無いようだな。よかろう聞いてやる」スッ
剣王「話は、俺が要塞に潜入したところからだ... 」
>>2
で出てきた首
>>7 で将軍が『将』と呼んでいるので
分かり難かったかもしれません。
移動中なので、また明日。
途中にレスを下さった方々に
感謝します。
ーー回想ー
騎士m「内部は迷路ですな」
勇者「時間迄に魔導砲だけでも、何とかしなければな」
騎士m「魔導砲は上部に設置されています。上層部に向かいますか?」
勇者「いやっ、あれだけ威力のある兵器だ。源泉は大きいはずだ。下層から順に探そう」
?「そこの!」
勇者(気付かれたか?)
?「すまないが、手伝ってくれないか?私だけでは、どうにも..」
騎士m1「私が行きます[ ヒソヒソ]
はいっ、ただいま。何を手伝いましょう?」
?「ネズミ捕りだよ」
騎士m1「えっ... zzzzzz」
騎士m「お逃げ下さい、ここは我らが防ぎます!」
勇者「待てっ..」
?「麗しき主従関係だね... だけど少しばかり遅かった。君たち全員魔法陣の中だよ」
騎士m's「しまっ... zzzzzz」
?「これで全部..じゃないね。君だけ無事とは?高名な魔法使いとか?」
勇者「一瞬で魔法陣を!?貴様が四天王か?」
?「四天王ね。まぁ確かに今、しくじった後で、そう言われたら反論できないけど。自信を無くすなぁ。
君の能力に敬意を表して自己紹介しよう。私が『魔王』だよ、魔法使い君」
勇者「魔王!?魔王がなぜここに?!」
魔王「おいおい、自己紹介したんだから、そちらも名乗るのが礼儀じゃないかな?」
勇者「..これは大変失礼いたしました。ちなみに魔王陛下もお間違えですヨ。俺は、今生の『勇者』だ」
魔王「勇者!?正真正銘の...どおりでね...。魔法が効かなかった訳だ。いやぁ、安心したよ」アハハ
勇者「ここで魔王に会えたのらなら、話は早い... 。と、その前に質問に答えてもらおう。なぜここに?」
魔王「『話は早い』から攻撃を仕掛けて来るかと思ったけど。意外に平静なんだね」
勇者「ぬかせ。こっちはチビリそうだよ。一瞬で魔法陣を展開する相手に、策なくかかれるか」
魔王「ふむ、なるほど。話をする前に、君にかかっている術を解いてもらえないか?」
勇者「見抜いているんだろ、それでも気になるか?」
魔王「実の所、変装は見抜けてない」
勇者「なにぃっ!?分かってないのか?」
魔王「さっぱり」ダンゲン
勇者「ワタシハ・マゾク・ダ」
魔王「もう遅いんじゃないかな」
勇者「ですよねぇ」
勇者「それで、俺たちをネズミだと、人間だと、どうやって見抜いた?」
魔王「ここ数日、奇妙な感じがしてね。今迄に感じたことの無い..なんと表現していいか分からない感覚だ。
要塞に来て、感じが強くなる方向に近付いたら、君達が居た。だけど同族がいるようにしか見えないので、恐らく魔法で変装しているんだと踏んで攻撃してみたんだ」
勇者「本当に同族だったら、どうするんだ?」
魔王「その時は誤魔化す」
勇者「 大雑把な奴め...魔王だから、誤魔化すぐらい容易いだろうけど..」
魔王「こうやって正体が分かって、対峙して理解できたよ。これは勇者の存在の感覚なんだね」
勇者「迷惑な能力だな。忍んで近づけない、って事だ」
勇者「それで、どうする」
魔王「どうするって?」
勇者「俺たちの処遇だよ。敵、宿敵、etc、そう言う関係だぞ、俺とお前は」
魔王「言われてみれば」
勇者「その程度かよ。理解不能だった感覚だけで攻撃した奴の台詞とは思えねぇな」
魔王「う?ん... 勇者は急ぎの用でもある?」
勇者「街中でナンパしてるみたいだな。多少の時間なら」
魔王「手間はとらせない。背中を預けるから」
勇者「背中って..。信用しすぎじゃないか」
魔王「担保だよ。君の装備・衣服を全て脱いでくれないか?」
勇者「!...まさか、薄い本みたいに...」イヤァ!
魔王「その薄い本とやらの説明は、後々ゆっくり聞くとして、君の外装が必要なんだ。代わりの服は用意するから」
魔王「勇者、ここで待っていてくれ」
勇者「おう」
魔王『フェンリル...
謀王『下級魔族..の遺体?...なっ!これは人間..王国軍の司令官?!...
魔王『君の眼はどこを...北の地を...
謀王『! ...魔王様、そ・それは..
魔王「お待たせ。話の出来るところに行こう」
勇者「」
魔王「ここには、僕以外は来れない」
勇者「」
魔王「そんなにショックだったかい?」
勇者「 ...人間が善なる存在だと言うほど、子供じゃないつもりだったが、あまかった」
魔王「裏切りは此方も同じだからね。気持ちは分かる、と言いたいところだが。
...君の方が、より深刻だね」
勇者「裏切り、と言うより内通者が居たんだろ。攻略失敗で利益を得られる..いや、俺の死を政治的に利用しようと考えた奴がいたのか。...正体が分かっちまった...
ああああぁぁぁ、詰んだ...」
魔王「で、どうする?」
勇者「質問する側が代わってしまったな。要塞に居るのは、これが理由だったのか」
魔王「前々から変だとは思っていたんだ。内偵を進めていたけど、証拠を掴む迄は至らなくて。
君と会えて、決定的な証拠になると思い付いた。カマをかけたら案の定さ」ハァ
勇者「そっちも大変そうだな。
それよりも、どうするかな。作戦を中止して、戻って内通者を弾劾するのもなぁ」
魔王「それが良いような気がするけど?」
勇者「相手が相手だからな。それに証拠をどうする?『魔王から聞きました』で通ると思うか?」
魔王「無理だね」
勇者「仮に証拠が有ったとしても、王国内で内戦勃発、悪けりゃ宗教戦争の挙句に人類滅亡の可能性だってある」
魔王「かなり消極的に振れた推測に聞こえるけど、内通者を炙り出して終わり、って線は無いのかい?」
勇者「要塞は無事。潜入した勇者も無事。下手すると、魔王によって死んだ筈の勇者が、なぜ生きている?詰んでるだろ?」
魔王「あっ...僕のせい?」
勇者「気を使わなくていい」ハァ
勇者「 ...戦争を終わらせたかったんだ。終わらないまでも、止めたかった」
魔王「戦争を?要塞の攻略だけで?
今度はまた、かなり楽観的に振れているね。もしかして精神的な疾患でもある?」
勇者「ねえよ。構想は簡単に言えばこうだ。
要塞を抑えて、王国内の民衆を煽って、魔族と講和を結ぶ」
魔王「それだと、王国を敵に回して詰みにならない?」
勇者「その為の要塞だ。勇者+要塞、更には魔族を足したら?」
魔王「あながち夢物語ではないか... 」
勇者「だが自分の置かれている、追い込まれている状況が分かっていなかった」
魔王「 ...ごめん。ちょっとフェンリルを殺ってくる」
勇者「待て待て。同族を手にかけると、心の負担が馬鹿にならん、止めろ」
魔王「? ...君は魔族を人と同様に捉えているみたいだね」
勇者「何が違う?ここで二大巨頭会談を開いて、話が出来ているんだ。違いなど無ぇだろ」
魔王「それに異論はないよ」
魔王「君が開襟してくれたんだ。僕も応じなければね」
勇者「単なる愚痴だ。付き合う必要はないぞ」
魔王「例えそうであっても、君には話してみたい。
今現在、人間と魔族の戦力の差、と言うより総数は人間が圧倒している」
勇者「そうらしいな」
魔王「いつ頃から始まった事なのか分からないが、かなり古にまで遡ることは間違いない。
では、なぜ数が逆転することになったのか?
答えは簡単に出た。人間は寿命が短いが出産回数が多い。魔族は寿命が長いが出産回数が少ない」
勇者「魔族の寿命って、どのくらいなんだ?」
魔王「種族や個人差が著しくて、人間のような平均が出ないのも特徴だけど、だいたい百年から千年、それ以上に生きている者も珍しくない」
勇者「人間が50年ぐらいだから、とんでもなく長生きだな。 ...待てよ、それで何で数が逆転することになるんだ?」
魔王「出産回数が少ないと言っただろう。生殖活動に対して無関心と言ってもいい。これもかなりの差があるんだが」
勇者「本当に薄い本ってファンタジーなんだな」
魔王「その本は経典か何かなのか?興味が湧いてきたよ。ただ、後の単語に関しては控えておこうよ、色々と問題が生じそうだ」
魔王「単一の生物として見た場合、魔族の方が優れ... 力が強い」
勇者「気を使わなくていい。優れているのは明らかだ」
魔族「なぜこうも両極端な差が、同一世界上に生じたんだろう」
勇者「だから均衡が保たれているんだろう」
魔王「話の出だしを思い出してくれ。均衡なんて、とっくに崩れている。この要塞が無ければ、どうなっていることか」
勇者「何が言いたいんだ?気のせいか背筋が寒くなってきた」
魔王「僕の考えはこうだ。
『神は意図的に、このように魔族を設計した』」
勇者「人間では無くか?」
魔王「世界の生物を比較した場合、魔族の特徴だけが一線を画している」
勇者「聞く奴が違えば選民・優越思想に聞こえるが、違うようだな」
魔王「ああ。今は皆目見当もつかないけど、いつか僕はその答えに辿り着きたい。
此処は、その為の時間を創り出す施設と言ってもいい」
勇者「魔族が神を信じているのは意外だ。お互い、戦争を止めたいのも同じとはね」
勇者「ところで、この部屋はなんだ?容積は大きいが、訳の解らん機械が並んで..」
魔王「今更だね。君達が狙っていた部屋だよ」
勇者「魔導砲の動力炉か!?」
魔王「うん。中々だろ。これでもコンパクトな設計に仕上がっているんだよ。
魔導砲の動力は魔素そのもので、世界中の魔素をこの部屋だけで連鎖・連結しているんだ」
勇者「お前も俺と変わらずオカシイぞ。それって重要機密だろが」
魔王「そうだけど。君は信用できる... かな?」カシゲ
勇者「疑問付きではあるが、礼は言っておく、ありがとう。///
で、質問なんだが、何で世界中の魔素をつなげる必要があるんだ?」
魔王「照れ隠しに質問?可愛いトコロもあるんだね、認識を改めなきゃ。
で、回答だけど、あれだけの魔素を収束すると、バランスが崩れて、世界そのものを破壊しかねない。世界の平衡を保つために、全体量を制御する必要がある」
勇者「待て。それだと魔導砲を撃っている最中には魔法は使えない事になるぞ。記憶通りなら、そんな事は..」
魔王「人間が使う程度の魔素は誤差の内。魔族の使う魔法は、そもそも魔素を使っていない。肉体的に組み込まれた器官で、魔力を何処からか引っ張ってきている...らしい」
勇者「分かってないのか?それでよく魔導砲なんて撃つ気になるな」
魔王「上手くいってるから大丈夫」
勇者「大雑把すぎるわ!
それはそれとして、これ、どのくらいの魔素を制御できる?」
魔王「理論的には世界中の..
勇者「今から言うことは可能か?..
魔王「 !? 可能だけど....言っていることを理解しているのか?」
勇者「だが、これなら千年単位で戦争を終わらせることが出来る」
---
賢者「遺体は偽装されていたのか」
剣王「賢者の逆を。魔王なら出来ても不思議じゃないだろう」
賢者「聞けば、聖剣まで小道具に供したらしいじゃないか。随分と手の込んだ真似を」
剣王「特に必要なものでもなかったしな。そのおかげで時間を稼げる筈だったんだが... 。
今日出てきたのは、最後に、要塞を堕とした司令官の顔を見たかったからだ。
この前、居座っていた奴は馬鹿だったから、今回出てくる奴が目当ての人物だと確信していた。中佐の顔を見て、得心したよ」
中佐「先輩、何をするつもりです!?」
賢者「どうした?」
中佐「最後って何ですか!?千年単位って..」
剣王「お前と同じ事を考えただけさ。戦争を終わらせたい。例え永遠でなくてもだ。
着眼点も同じだ。戦争の原因を無効化する。
これを餞別として、お前に贈ろう」ヒョイ
中佐「何ですコレ?」パシッ
剣王「魔王によると世界だそうだ。
魔族四天王・剣王より、王国軍最高の知将へ、直ちに地峡から撤退されますよう、お願い申し上げる」
中佐「先輩?」
剣王「これより魔国軍も地峡より撤退する。何人たりと地峡に残られぬよう、重ねて要請いたします。
それではこれにて。 ...じゃあな」
賢者「何だあいつ?言うだけ言ったら行っちまった。お前何を貰ったんだ、見せてみろ」
中佐「これです。金属球が世界?」
賢者「 ...!..中佐、全軍を地峡から撤退させてくれ、頼む」
中佐「止められませんか?」
賢者「時間は有るが、説得には応じまい。そうなれば説得役は共に」
中佐「本陣に戻りましょう」
副官「あ、戻って来た!中佐、報告が。大変な事が起きているんです」
中佐「魔族に動きが?」
副官「要塞を見張らせていた班からの報告で、魔族が要塞から大挙して出撃しました。おかしな事に進路を南へとっているんです」
賢者「中佐... 」
中佐「全軍に命ず!これより地峡から全面撤退する!」
ガヤガヤガヤ・ザワザワザワ
中佐「副官、斥候に出ている全班を本陣に呼び戻せ!」
副官「承知しました!」
中佐「騎士長!第一陣を任せる。如何なる反論も認めずに、地峡より可能な限り迅速に撤退せよ!」
騎士長「仰せのままに!」
中佐「賢者、我々は殿です。出来れば見届けたいのですが、可能でしょうか?」
賢者「恐らく、何処に居ても見届けられるだろう。地峡口の山頂にでも向かうか」
中佐「...はい...」
---
魔王『魔導砲の関連は、全てあの部屋に収まっている。部屋には魔王以外は入れない。
魔剣は、魔王の魔力そのもので構成されている。それを持つ者なら、入室が可能だ』
剣王「なんとも奇妙な経緯で、魔王と知り合って、ここまで来てしまった」
魔王『制御に関しては、計算結果が出来次第、送るよ。魔剣は過剰動作の制限を解除する鍵にもなる。問題は、今回の魔導砲の使い方だ』
剣王「 こんなのは柄じゃないんだがなぁ。勇者になると心境の変化でも有るのか?
そう考えてみると、魔王の言った精神疾患もあながち、見立て違いではないかもしれないな」
魔王『引き金を引く者は、脱出不可能だ。これは、君の役目で無くて良い筈だが..』
剣王「魔王に託すとは、勇者失格だ。
中佐は国教に問題が有ると考えていたな。 俺は違う。
『神よ、あんた何を考えている!』
」カチッ
---
ドゴオオオオォォォォ!!!!!
賢者「...世界が輝いてる」
中佐「これが先輩の決断... 」
賢者「光は峰の頂を剣へと変え、素早く闇を切り払う。されど白刃は麓に近づくと営みを知り、歩みを緩め温もりを人々に与え..」
中佐「何です、それ」
賢者「即興さ。呑んでいない時に吟じたのは初めてだから、不恰好なのは許せ。
貰った金属球を出して見ろ」
中佐「はい、これ」
賢者「この凸面が大地で、凹面が海を表しているのだろう。上の凸面が王国、下が魔国だ。上下の凸面が繋がっていないだろう」
中佐「そうですね... って、地峡は何処に?」
賢者「この金属球は、これからの世界だ。地峡は存在しない。
勇者は光をもって、世界から争いの場を取り除いたんだ」
中佐「これは餞別じゃなくて」
賢者「あの馬鹿、形見分けのつもりだったんだ」
中佐「行きましょう、皆に追いつかないと。 ...賢者?どうしたんです」
賢者「中佐、俺も死んだことにしてくれないか」
中佐 !?
中佐「何を言ってるんです?」
賢者「この世から無くなったものが、もう一つある、魔法だ」
中佐 ?
賢者「魔法を行使するための魔素が、さっきから感じられない。普段なら呼吸するように感じられるはずなんだが。
地峡を消すのに世界中の魔素を使ったんだろう。
恐らく、身の内に貯めている魔素を使い切ったら、術は行使できなくなる」
中佐「それが... 」
賢者「いずれ皆が気付く。そうなったら王国内は魔術師の争奪戦が始まる」
中佐 !
賢者「その時、俺は優秀な兵器として扱われることになる」
中佐「そんな事はさせません!」
賢者「うん、分かってるよ。お前さんならな。だからこそだ。
俺を抱える者は、国内最大の戦力を持つことと同義だ。権力者から見れば、目の上の瘤だ。確実に難儀が降りかかって来る。
それとも考え直して、王国の頂点を目指すか?」
中佐「 ...確かに。では、これからどうするつもりですが?」
賢者「北方の山岳地帯で晴耕雨読の生活でも営もうかな」
中佐「山岳地帯?あんな極寒の地で生活が出来るのですか?」
賢者「今迄は無理だった。だがこれからは違う」
賢者「金属球を貸してくれ。これ少しいじるぞ」
中佐「どうぞ」
賢者「まず、金属球の中央を通るように赤い線を引く。要塞は、大体この線上にあった」
中佐「貴重な魔力では無いのですか?」
賢者「極々僅かな魔力しか使わねぇよ。
これを赤道と呼ぶぞ。
今迄は、地峡が邪魔をしていて、海が一周していなかった。ところが、これからは赤道上を一周することになる。
ここに生まれる海水の流れを『環赤道海流』と呼ぶことにする」
中佐「はい」
賢者「以前、ここを流れていた温かい海流は地峡にぶつかって、南北に別れて流れていた。そうなるとどうなる?」
中佐「寒冷地で冷える..」
賢者「ところがこれからは違う。環赤道海流は温められ続け、保温効果を持つことになる」
中佐「それでは、いずれ温度上昇で世界は滅亡..」
賢者「物事には限度というものがあるから、ある温度までで、滅亡はない。だが今まで以上の温度を溜め込むことになる。
すると世界中で、平均気温の上昇が始まる。今まで寒冷地だった土地でも温暖な気候へと変化するだろう」
中佐「今まで温暖だった土地への影響は?」
賢者「ある。条件が複雑すぎて、土地毎にも違いが生じる。だが環赤道海流が近くを流れるから、砂漠化するような事は稀だろう」
中佐「気候の変化で混乱が生じますね」
賢者「だろうな。人間同士の争いが始まるかもしれない。逆に一つにまとまる目もある」
中佐「勘弁して下さい」
賢者「そうだ。例え誰かが、争おうと考えても、まとまった戦力はお前さんしか持っていない。
お前さんの決断が、今後の人類社会に大きく影響を及ぼすことになる」
中佐「担えと?」
賢者「好きにするさ[ワハハ]
それと、この金属球だが。フンッ!」ピカッ
中佐「何を?」
賢者「下半分を消したぞ。魔国が詳細に刻まれている物を人に見られたら大事になる。それと、
この金属球は人には見せるな。世界を理解するには、人も教義も幼すぎる」
中佐「分かりました。別れ際に賢者の本領発揮とは、貴方の言を借りれば、私以上の悪党です」
賢者「呑んだくれで舞台を降りるのは、格好が付かないからな。別れの言葉は言わんぞ、いつか又逢おう」
中佐「お世話になりました。いつか又」
賢者 フリフリ
---
中佐「..世界が輝きと共に変わり、ようやく人々の動揺も収まってきた。しかしそれは、事実が微妙に変化した結果だ。
歴史の紡ぎ手の柄ではないが、当事者の1人として、その後をココに記す... 」カキカキ
王は退位を間逃れた。王以上の兵力を抱える者が居なくなった事もあったが、最大の理由は『勇者の復活』だ。
私は嘘偽り無く、世界から地峡が消えたのは、先輩が、勇者が現れて行なったことだと報告した。その際に賢者が共に姿を消したことも。
勇者の復活は、教会で古より語り継がれていた事もあり、スンナリと受け容れられた。賢者が消えた事も、復活に関連した事とされた。禁呪を用いたとか、自らの命を与えたとか。今では、そんな噂も流れている。
王との謁見の際に
王『 どうじゃ、伯爵などと言わず、娘と結婚して、王族として国の一翼を担わんか』
との申し出があったが、丁重にお断りした。私の抱える兵力が欲しいのか、今回の一件で後継者に不安を覚えたのかは知らないが、面倒事が増えるのは御免だ。
王『そうか、残念ではあるが、無理強いはすまい。まだまだ私も現役であるのだから、慌てる必要もあるまい』
最近では、側室探しに精を出しているらしい。下手な顕示欲を出されるよりは良いが、仕事しろ仕事!
大公を筆頭とする各諸侯は、大人しくしている。と言うより、せざるを得ない。王の推した勇者が魔族を南へ追い払い、人々を魔族の脅威から解放したのだから。
各諸侯は、新勇者の件で処断される前に、王と和解するため、所領の一部を献上して来た。兵力を失い、更なる出費であった筈だが、命には変えられないと言ったところだろうか。
筆頭たる大公は、余生は教会で神に仕えるとし、出家してしまった。ひとり息子を亡くした失意が原因と言われているが、現役で無かったのが理由なのかも。
新勇者を大々的に送り出した教会トップの神官は、自ら命を絶った。神を欺いたことを悔いたと言われているが、どうにもキナ臭さが漂う。
将軍は退役を願い出たそうだが、許されなかった。これには私の存在も影響しているから仕方ないだろう。
将軍からは、二階級特進を打診されたが、不吉だとして断った。必要なら伯爵号を使えば良い。呼び名は中佐で通すことにした。
さて、作戦も終了し、私の処遇も決まったので、直轄軍を王に返上しようとしたが、直轄軍そのものが反旗を翻した。
曰く、都合が悪くなり前線で使い捨てにしようとした王に仕える気はないと。
騎士長だ。撤退時に彼に任したのが間違いだった。
騎士長『伯爵様の元に置いて頂けないのでしたら、これより王城に攻め込み、玉座を献上致しましょう』
騎士長?君はそんな性格だったけ?
一般兵士から、騎士に至るまで、妙にノリが良かった。
仕方ないので、将軍には軍の政治面を。私が実戦力を統括することにした。彼のせいで、仕事が増えた。
副官には、所領と軍、どちらが良いか尋ねたら、躊躇なく軍と返答してきたので、管理事務を任せることにした。
副官『失敗したァ!騙されたァ!』
騙してはいない。国内全軍の管理事務が任務だと言わなかっただけで。でも副官に失踪されでもしたら、面倒なので、良酒を差し入れておこう。
さて問題が残った。所領管理を行う者が居ない。唯でさえ、私を政敵と睨んでくる方々が増え、難儀しているのに、仕事量を増やすのは精神的にも肉体的にも得策ではない。
そこで人材募集を行ったところ、ひとりの女性が応募してきた。
扉 コンコン
中佐「開いているよ」
メイド「御政務中、失礼致します」
会って、かなり優秀なので、その場で採用を決定した。彼女からメイドとして扱うように申し出があったので、そのようにした。要望の『エプロンドレス』なる物も支給した。容姿は女官と違うが、実際何が違うのだろう。
メイド「そろそろ御登城の出立時刻です。お召し替えを」
中佐「わかった。直ぐに用意するよ」
メイド「」
中佐「?どうしました。他に何か?」
メイド「立って頂けますでしょうか」
中佐「?はい」スッ
メイド「失礼致します」
中佐「何・何!?何でボタンを外しているの?」
メイド「お召し替えの御手伝いを」
中佐「着替え、ひとりで出来るよ!これでも軍の佐官だよ!」バッ
メイド「いけません。御当主様は伯爵閣下であらせられます。王国貴族の一員、いえっ、並ぶものなき筆頭たる御方!
その御方に、瑣末な日常所作で御手を煩わせるなど、メイドの矜恃に関わります。例え、神が許しても、メイドが赦しません!」
どうも彼女は、私の扱いに特段の思い入れがあるようだ。これがメイドという者の違い・特徴なのだろうか?
事務職としても優秀だし、家事全般も卒なくこなす。それに容姿も端麗と来ている。副官なぞ、足繁く花束などを手に、彼女の元に通ってくるが、その度に軽くあしらわれて、書類整理を手伝わされている。
メイド カチャカチャ
中佐「[ハッ] いつの間にベルトに手を?!」
メイド「御動きになりませんように..
...いえっ、失礼致しました。メイドに難題を与え、お楽しみになるのも、ノーブルな御趣味。大変勉強になります」
中佐「なにそれ?本当にノーブルなの?違う人じゃないの?」
扉 コンコン ガチャ
副官「失礼します、中佐...
中佐「」
メイド「」カチャカチャ
副官「失礼致しました!」ダッ! ナキッ!
中佐「副官!待てっ、違っ
人は真実を目の前にしていても、自らの立場や状況に応じて、様々な解釈を成す。事実を記していると信じている私でさえ、見誤っていることが有るだろう。
幼いと断じられた人々であっても、個々の決断が、時代を歴史を紡いでいく。願わくば私の決断が、遠き時の彼方に良き道を成していると願って止まない。
メイド 「」カチャン・シュルッ
中佐「[ハッ] 何しているの!?」
メイド「お召し替えの御手伝いを」
中佐「そこから!?」
少なくとも瑣末な日常所作で悩む日々は、戦乱より良いだろう。
おわり
乙
軸がしっかりしてて安心して読めた
凄く好き、続編待ってる
乙!
前作との時間的関係は今作が過去って認識でおk?
私事で書く時間がとれない状態になってしまいました。このままスレを維持するのは、ルール違反になりそうなので、数日中にHTML依頼を出すことにしました。
エタらせないよう全力で戻ってまいります。
「ある勇者の~」
で、また宜しくお願い致します。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません