高垣楓「思い出は重いでー……ふふっ」 (10)
青い光に気付いて、テーブルに目を落とす。
「あ、すみません。メールが着たみたいです」
楓さんのは、メールが届くと青く光る。僕も知っていることだから、すぐに気付く。
ちらっとこちらを伺ったので、構いませんよと一言告げると、スマホの画面をいじり始めた。
「……ふふふっ」
駄洒落でも書いてあったのだろうか。もしそうならば、誰からだろう……美羽?
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「気になりますか?」
僕の視線に反応して、いたずらっぽく微笑みかけてくる。
「はい、っていったら、見せてくれるんですか?」
勿論です、という風に画面をこちらに向けてくれた。
「これで読メール? なんて、ふふっ」
『fromお父さん
最近のお前は電話に出んわ。おコール、ミー』
軽く噴き出してしまったので謝ったけれど、彼女は嬉しそうだ。
「お父さん譲りなんですね」
楓さんの駄洒落センスは、父上に育まれてきたものらしい。
「そう、ですね。父の影響は大きいと思います」
彼女は目を伏せた。口角は上がったままだけれど、表情自体は、若干の憂いを帯びたものに変わっていた。
予想外の反応だった。どう声を掛けていいか戸惑う僕に、軽く溜息ひとつ置いてから話掛けてくる。
>>3 ×置いて 〇ついて
「ちょっと、昔のこと、思い出しちゃいました」
「昔のこと、ですか」
聞いてみたい。しかし、先の彼女の表情が気がかりでためらってしまう。
目と目が逢う。僕をじっと見つめてくる、透き通った碧い瞳。
「もし良ければ、付き合ってくれませんか、昔話に」
ちょっと重いかもしれないですけど。そう付け加えて、申し訳なさそうに笑った。
彼女のお誘いは、是非もないこと。気持ちの昂りを抑えて、僕は答える。
「思い出って、そういうものじゃないですかね」
一応は、肯定の意思表示のつもりだった。重かろうと何だろうと、貴女の話なら喜んで、なんて、気障ったらしくは言えない性分だ。
「思い出は重いでー……ふふっ」
駄洒落をつぶやくと、ジン・トニックのグラスをゆっくり回して、中の氷をからからと鳴らし始める。
わずかに熱っぽくなった表情に、僕はしばらくの間、見惚れてしまっていた。
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