衣「華菜は衣の友達ではなかったのか……?」 (48)

衣(咲と遊ぼうと思ったら、すでにののかと出かけてしまった後だった)

衣(せっかく友達と遊べると思ったのに……)

衣(しかし、ここで尻尾を巻いて帰ってしまっては、『友達と遊んでくる』という名目で出かけた衣のメンツが……)

衣(どうしたものだろうか……)

華菜「で、どこに行くのか決まってるの? みはるん」

未春「一応ね、でもただブラブラするっていう方が近いかも」

衣(あれは風越の……あそこも二人で遊びに行くのか?)

衣(……友達、か)

華菜「ん? あれは……」

未春「天江さん? 確か龍門渕の人たちは別のホテルに泊まってたはずだよね」

華菜「誰かに会いに来たのかもしれないし、あ、目が合った」

未春「ちょっと声かけてみようか」

華菜「おーい、こんなところで何してるんだ?」

衣「……べ、別に、ただ散歩しに来ただけで他意はない」

未春「もしかして誰かに会いに来たの?」

衣「う……」

華菜「ってことは清澄の……宮永か原村?」

衣「ま、まぁそんなところだ」

未春「でもあの二人、ちょっと前に出かけていったよね」

華菜「なんだ、約束してなかったのか」

衣「うるさい! お前たちには関係ないだろう!」

未春「う、いや、ごめんね? 悪気はなかったんだけど……」

華菜「…………」

衣「もういい! 用はないから帰る!」

華菜「なぁ、もし暇なら一緒に遊びに行かないか?」

未春「え?」

衣「……」ピタ

華菜「これからみはるんと二人で東京見物に出かける予定だったんだし! やることないなら一緒に行こう!」

衣(どういうことだ……衣とこいつらが一緒に東京見物? これではまるで……)

華菜「……もしかして嫌だった?」

衣「いや、そうではないのだが……」

未春「あ、何か予定があったとか?」

衣「そうではなくて……その、まるで…………友達のように接してくれるんだな」

華菜「…………ん?」

衣「え?」

華菜「いや、天江とはもう友達のつもりでいたんだけど……」

衣「…………えぇ!?」

華菜「県大会の決勝戦で言ってた『また一緒に打ってくれるのか?』って、友達になろうってことだと思ってたんだけど」

衣「……あ」

華菜「違ったの?」

衣「……よく、わからない」

華菜「そっか、じゃあ今から友達になるし!」

衣「衣と、お前が?」

華菜「もちろんみはるんもだけど」

未春「え、うん、そうだね」

衣「友達……」

華菜「よろしくだし!」

衣「よ、よろしく頼む……」

華菜「じゃあ早速行こう! 日が昇ってしまうと暑くて溶けてしまうし!」

衣(友達……ののかや咲以外にも……)

衣(今までずっと一人だと思っていた……けど、衣が変われば、もっとずっと前からこうなれたのかもしれない)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


優希「おぉ、イケダじゃないか!」

華菜「また随分とめんどくさそうなのと会ってしまったし……」

未春「片岡さんは一人?」

優希「おう、実は今、東京タコス食べ歩きツアーをやっているところなのだ!」

華菜「一人でツアーかよ」

衣「タコス?」

優希「なんだ? タコスを知らないのか?」

華菜「アレって辛いんだろ? じゃあ天江はやめておいたほうがいいと思うし」

未春「あんまり辛いの得意そうじゃないもんね」

優希「甘い! サッカリン並に甘すぎるじぇ!」

華菜「は?」

優希「タコスをただ単に辛いだけの食べ物だと思っているなら、諸君らが浅学であると言わざるを得ない!」

未春「別にそこまで言ってないんだけど……」

優希「仕方がない、メヒコ道ど素人の貴様らに、タコスの奥ぶかさというものを教えてやるじぇ!」

華菜「不安すぎるし……」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


衣「美味だ……」モギュモギュ

未春「これは……確かに美味しいね」

華菜「やるじゃないかタコス娘」

優希「今までの人生がどれだけ淋しいものだったのかわかったようだな、ふふ、啓蒙槓料だじぇ」

華菜「すぐに調子に乗るし」

未春「あはは、華菜ちゃんもけっこうこんなかんじだよね」

優希「それじゃあ私も頂くとするか」

衣「……」ジー

華菜「早っ!? もう食べ終わったのか?」

衣「うむ……」

華菜「……ほら、半分分けてやるし」

衣「いいのか?」

華菜「気にすんなし、ほら遠慮せず食え」

未春(華菜ちゃんは妹さんたちで慣れてるからなぁ)モギュモギュ

衣「……ありがとう、その……池田?」

華菜「……うーん、なんか違うし」

衣「え?」

華菜「よし、私も“衣”って呼ぶから、そっちも私のことは“華菜”って呼ぶし!」

衣「そんな……別に池田でもいいではないか」

華菜「それだとなんだか友達って感じがしないし! 衣だって龍門渕の仲間たちは名前で読んでるはずだし」

衣(い、いま衣って……なんだかムズ痒いような……)

優希「なら私も今度から華「却下だし」

優希「なにおー!?」

池田「お前は友達じゃない上に、そもそも後輩だし!」

衣(華菜……華菜か……)

衣「か、華菜がそれでいいなら……」

華菜「お」

優希「ふむ」

未春「……ふふ」ニコニコ

衣「な、なんだ貴様ら!」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


華菜「え? 本当にこの曲知らない?」

衣「うん、聞いたことがない」

華菜「世界は広いし……」

未春「……」スースー

衣(完全に寝ている……華菜に寄りかかってるし)

衣「その……重くないのか?」

華菜「ん? みはるんのこと?」

衣「うん」

華菜「まぁ全然重くないわけじゃないけど、これくらい平気だし」

衣「……」

華菜「衣もする?」

衣「え?」

華菜「膝なら空いてるし、ここを枕にして寝てもいいし」

衣「えっと……でも……」

華菜「全く、試合中はあんな態度だったのに、変なところで遠慮するし」グイ

衣「わっ」ボスン

衣(……暖かい……こんなふうに人肌に触れるのはどれくらいぶりだろうか……)

華菜「寝ちゃってもいいし」

衣「いや、しばらくこのままで……」

華菜「わかったし」

衣(あ、でも……このままでは寝てしまいそうだ……)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


衣「……」ボー

透華「衣の様子がおかしいですの……」

純「変なもんでも食ってきたんじゃねえのか」

一「純くんじゃないんだから……」

純「失敬な、俺は腹を壊したことなんて一度もないぞ」

一「そっちなの?」

智紀「……」

透華「智紀は何か知っていまして?」

智紀「いや、でもあれは……」

純「なんだよ?」

智紀「……ううん、なんでもない」

一「? 変なの」

衣(友達……友達と遊ぶということは、あんなにも楽しいものなのだな)

衣(また一緒に遊びたい……華菜と……)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


華菜「いやー、それにしても清澄が優勝して良かったし」ピコピコ

衣「咲もチャンピオンと仲直りできたようだしな」ピコピコ

華菜「あ、倒したから剥いでいいし」ピコピコ

衣「んー、また同じのが出たぞ?」

華菜「また!? どれだけ貴重素材はぎ取れば気が済むんだし!」

ハギヨシ「失礼します、お茶をお持ちしました」

華菜「あ、いつもありがとうございます」

ハギヨシ「いえ、わざわざここまで足を運んでいただいていますから……」

華菜「って言っても、車で迎えに来てもらってるだけで……」

衣「こっちが好きでやっているのだ、気にしなくてもいいぞ」

華菜「はぁ」

衣「華菜、ゲームは一旦やめてケーキを食べよう!」

華菜「ちょっと待つし! セーブしてから……」ピコピコ

衣「むぅ……」

華菜「よし、終わった。おぉ、今日はフルーツタルト!」

衣「華菜~」

華菜「わかったわかった、ほら、あーん」

衣「はむっ」

華菜「全く、手のかかる妹だし」

衣「む、衣の方が誕生日は早いんだぞ! お姉さんなんだぞ!」

華菜「はいはい、わかったし」ナデナデ

衣「む……えへへ……」

華菜(チョロいし……本当に高校生なのか心配になるレベルだし)

衣「華菜……明日は休みだろう? 今日は泊まっていけないのか?」

華菜「うーん、妹たちをまたせてるからなぁ……」

衣「そうか……無理ならいいんだ、済まない」

華菜「また今度余裕があるときにお呼ばれするし!」

衣「そうだな、そうしよう!」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


衣(華菜が帰ってしまった……)

衣(透華たちと一緒にいるときとは違う……なんなのだこの気持ちは……)

透華「衣? 夕食の時間でしてよ」

衣「透華……透華は友人と会えなくなると、胸が苦しくなったりする?」

透華「胸が……? それはあまり……」

衣「そうなのか……では、これは……」

透華「池田さんのことですの?」

衣「……うん」

透華「そうですわね……私は一番仲のいい友人とはいつも一緒にいますから、そういったことが無かっただけなのかもしれませんわね」

衣「そうなのか?」

透華「ええ、ですから、その気持ちは普通の気持ちだと思いますわ。私だってみんなとあまり会えなくなったら、胸が苦しくなると思いますし」

衣「そうか……ならもっと華菜と一緒にいれば、この気持ちは収まるんだな」

透華「まぁそういうことになりますが……池田さんには池田さんの都合がありますし、あまり困らせてしまってはいけませんわよ?」

衣「……わかった」

透華「さ、お食事にしましょう」

衣(そうか、衣は今までみんなと一緒だったから……)

衣(華菜とも、いつも一緒にいられればいいのにな……)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


華菜『ごめん、その日は無理なんだし……』

衣「じゃ、じゃあその次の日は?」

華菜『っていうか、その日からしばらく部活の合宿で……』

衣「そんな……最近全然遊べてないのに……」

華菜『夏休み明けに部長に抜擢されてから忙しくて……本当にごめん……』

衣「つ、次はいつ遊べるんだ?」

華菜『……まだわからないし』

衣「……わかった、また連絡する」

華菜『ごめんな……』

ピッ

衣「はぁ……」ボフン

衣(衣はこんなに華菜に会いたいのに……華菜は平気なのか?)

衣(このままいつまでたっても会えないんじゃ……そんなのは嫌だ……)

衣「そうだ!」ガバッ

衣(華菜が来れないのなら、衣が華菜に会いに行けばいいのだ!)

衣(そうと決まれば早速ハギヨシに……)トテテ


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


衣「……」ヒョコ

衣(ここからなら風越の部室の中が見える……華菜の様子も見ることができる!)

衣(華菜が出てくるところを待ち伏せして、驚かせてやろう!)

衣(あ、部室に入ってきた!)

衣「……」

衣「…………」

衣(華菜……楽しそうだ)

衣(華菜は……衣がいなくても平気なのだろうか……)

衣(衣と華菜は、友達ではなかったのか?)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


華菜(ふぅ、今日も疲れたし……)

衣「華菜……」

華菜「……えっ? 衣?」

衣「華菜は衣の友達ではなかったのか……?」

華菜「何をいきなり……友達に決まってるし……っていうかなんでここに」

衣「では、なんで華菜は楽しそうなのだ?」

華菜「え? いや、ちょっと意味が……」

衣「華菜は衣と会えなくても大丈夫なのか?」

華菜「ちょ、ちょっと落ち着くし!」

衣「衣は……華菜と会えないと……」

華菜「……わかった、今度からは頑張って時間をつくるようにするし」

華菜「それと、会えない時でも電話をするようにするから、それで我慢して欲しいし」

衣「……本当か?」

華菜「華菜ちゃんに二言はないし!」

衣「……わかった、じゃあまた今度」

華菜「途中まで送っていくし! って言ってもハギヨシさんが来てるんだろうけど」

衣「ううん、車まででもいいから、一緒に行こう!」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

~1ヶ月後~

プルル プルル

華菜「やばいし……この電話は明らかに昨日の夜の抗議電話だし……」

ピ

華菜「も、もしもし」

衣『華菜? 華菜なのか? なんで昨日は電話に出てくれなかったんだ? 衣は何度も電話したんだぞ? どこで誰と何をしていたんだ?

  衣と電話で話をしてくれるんじゃなかったのか? 華菜、華菜は衣のことが嫌いになったのか?』

華菜(うーん、まさかここまで依存されることになるとは……)

華菜「昨日はちょっと部活が忙しくて……」

衣『また部活なのか……華菜、やっぱり龍門渕に来たほうがいい、費用のことなら心配しなくてもいいから』

華菜「いや、そういうわけにも……」

衣『華菜は……華菜はやっぱり衣のことが……』

華菜「だから、そうじゃないって……」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


華菜(疲れたし……明日会う約束をしてなんとか納得してもらったけど……)

華菜(でも明日はみはるんたちと買い出しに行く予定があるんだよなぁ……早めに切り上げるしかないかぁ)

華菜(衣も、今まで友達がいなかったっていうところも見ると、やっぱり今も似たような感じなのかな……)

華菜(頑張ろう……)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


華菜(結局みはるん達に半ば押し付ける形になってしまったし……今度埋め合わせをしないと)

衣「華菜ー!」トテテ

華菜「衣」

衣「華菜っ! 待ちわびたぞっ!」ギュ

華菜「お、っと……」

華菜(うーん、こういう可愛いいところを見せられると、文句も言えなくなってしまうんだよなぁ……)

衣「……」スンスン

華菜「どうしたし?」

衣「……の、臭い」

華菜「へ?」

衣「……なんでもない、早く行こう?」グイッ

華菜「あ、ちょ……」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


華菜「今日は衣の部屋じゃないんだ」

衣「新しく買ったのだ」

華菜(マンションをそんなに簡単に買えちゃう女子高生って……)

衣「華菜と一緒に住むためにな」

華菜「…………ん?」

衣「聞こえなかったか? 今日から華菜は、ここで衣と一緒に暮らすんだ」

華菜「……ちょ、ちょっと待ってほしいし……話が全く見えないし」

衣「衣はもう、華菜と一緒にいないとダメなのだ……だからここで一緒に暮らそう!」

華菜(落ち着け……きっとこれは冗談……ではなさそうだし。そもそも衣はこういう冗談を言うような人間じゃない)

華菜(本当にここで一緒に暮らすつもりなのか? だとしたらこの状況はマズイ気がするし……)

華菜「こ、衣……とりあえず今日はこのへんで……」

衣「華菜、華菜はきっと風越の連中がいるせいで、衣と友達だということを忘れてしまっているんだ、だから衣と会えなくても平気になってしまったんだ」

華菜「は、はい?」

衣「だから、衣とちゃんとした友達になるために、華菜にはここにいてもらわなければいけない」

華菜「何を……!?」バチッ

華菜「な……こ、ろ……」

バタン

衣「…………」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ピチャピチャ

華菜「ん……ぐっ……」

華菜(ここ……は?)

衣「おはよう、華菜」

華菜「……これは一体どういう状況だし? なんで縛られて……っていうか衣は今何を……」

衣「智紀から教えてもらったんだ、仲のいい者同士はこういうことをするって」

華菜「と、友達同士じゃ普通やらないし……」

衣「華菜を気持ちよくしてあげて、もっともっと華菜と仲良くなるんだ」クリッ

華菜「んあっ!」ビク

衣「華菜……もっと衣と仲良くなろう? そうすれば華菜も衣とずっと一緒にいたくなる……」ペロ

華菜「んっ! お、お願いだし……今度からもっと衣のために時間をつくるから……許して……帰してほしいし」

衣「ここにいれば、わざわざ時間をつくる必要もない……ずっとここにいよう、華菜……」クチュ

華菜「ひっ、そ、そこはダメだしっ!」

衣「これからはずっと一緒……考えただけであったかくなってくる……」ハァハァ

華菜「あっ! ひっ!」ビクビク

衣「華菜……大好きだぞ、華菜……」



終わり

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom