エル「ねぇ…パパ」アビス「なんだいエル?」 (264)

サンホラのElysionでSS

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———エルの楽園 [→ side:E →]


ガチャバタン

アビス「ただいま、エル……」

エル「おかえりなさい、パパ」

アビス「……」

エル「パパ、絵本は買ってきてくれた?」

アビス「……あぁ、すまないエル……絵本は売り切れだったんだよ……」

エル「えっ」

アビス「すまない……」

エル「……えっ」ジワァ

アビス(あ、ああぁぁぁぁ……!!)

エル「そうなの……売り切れ……」

アビス「ああぁぁぁ!でもねほらエル!絵本ならもうあるじゃないか!」

エル「……パパが描いたアレ?」

アビス「そう、パパが描いた『魔女とラフレンツェ』!」

エル「……」

アビス「エル、この絵本は戯曲調になってるんだよ! ちょいとパパが弾き語ってあげよう!
    こう見えてもパパは楽器が得意なんだ! むかしちょとあってね!」

エル「……」

アビス「じゃあはじめるよエル! 愛欲に〜!咽ぶラフレンツェ〜!」ベンベンベン

エル「……」

アビス「純潔の〜!花を散〜ら〜して〜!」ベンベンベン

エル「ねぇパパ、子供に読み聞かせる内容じゃないと思うわ」

アビス「そ、そうだねエル……」

エル「それに、その本あんまり好きじゃないの……」

アビス「え!?」

エル「この男の人はラフレンツェを騙して捨てたんでしょう?」

アビス「そ、そうだね……その通りだよエル……」

エル「そんなの酷い……ラフレンツェは男の人が大好きだったのに」

アビス「う、うん、うん……」

エル「きっとそんな酷い人は奈落行きよね、パパ」

アビス「アッハハァそうだねエル! 向こうで謝らないとね!」

エル「むこう?」

アビス「なんでもないよエル〜」

アビス「ところでエル……すまないが、またすぐに出かけなきゃならないんだ……」

エル「え……」

アビス「すまないね……」ズル

エル「またお仕事……?」

アビス「あぁ……ちょっと楽園まで……」

エル「楽園?」

アビス「あぁ……」

エル「わたしは? パパ……」

アビス「あぁ、エル……大丈夫、お前も、すぐに……」

エル「……」

エル「ねぇ…パパ、その楽園ではどんな花が咲くの?」

アビス「あぁ……どんなだろうね……」

エル「ねぇ…パパ、その楽園ではどんな鳥が歌うの?」

アビス「あぁ……楽しみだね……オェーとか鳴くんじゃないかな……」

エル「ねぇ…パパ、その楽園では体はもう痛くないの?」

アビス「あぁ……痛みなんて……もう……」

エル「ねぇ…パパ、その楽園ではずっと一緒にいられるの?」

アビス「……」

エル「パパ?」

アビス「……」



エル「パパ!」ゴッ

アビス「絵本でパパの頭を叩いてはいけないよエル……」

エル「パパ……その楽園ではどんな恋が咲くの?」

アビス「……」

エル「ねぇ…パパ、その楽園ではどんな愛が歌うの?」

アビス「……」

エル「パパ……その楽園ではもう心は痛くないの?」

アビス「……」

エル「ねぇ…パパ、その楽園ではずっと一緒にいられるの?」

アビス「……」


——
———

エル「ねぇ…パパ」

パパ「なんだいエル」

エル「明日は何の日か知ってる?」

パパ「世界で一番可愛い女の子の誕生日」

エル「うふふ……私ね、お誕生日プレゼントは絵本がいいと思うわ……」

エル「……」

エル「ねぇ…パパ、その楽園ではどんな花が咲くの?」

エル「ねぇ…パパ、その楽園ではどんな鳥が歌うの?」

エル「ねぇ…パパ、その楽園では体はもう痛くないの?」

エル「ねぇ…パパ、その楽園ではずっと一緒にいられるの?」

エル「ねぇ…パパ」



おわり

——Ark

「彼女こそ…私のエリスなのだろうか…」

ソロル「お兄様ー! お兄様ー!」

フラーテル「ソロル……はっ!?」

ソロル「えっ?」

フラーテル「ソロル! あぶなあぁぁい!!」

ガッシャアアァァゴロゴロゴロ

フラーテル「ぎゃあああぁぁぁ!!」

ソロル「お、お兄様ー!!」

ソロル「お、お兄様! 大丈夫お兄様!?」

フラーテル「ソロル……よかった、無事かいソロル?」

ソロル「あ、あぁ……! お兄様の左手がえらいことに……!!」

フラーテル「お前が無事なら、左手なんてたいしたことはないさ……」

ソロル「あぁ……私の不注意で……お兄様、ごめんなさいお兄様……」ポロポロ

フラーテル「大丈夫だよ、ソロル…大丈夫……」

病院

フラーテル(全然大丈夫じゃなかった……)

フラーテル(そういえば僕は手慰みは左手を使う派だったんだ)

フラーテル(右手でも試してみたけど、どうもしっくりこない……)

フラーテル(はやく処理しないと……このままでは暴発してしまう)

フラーテル(暴発なんてした日にはナースのお姉さんの仕事が一つ増えることになるぞ……)

フラーテル(そんなことになったら死活問題だ……)

フラーテル(しかしナース服っていうのはなんとも……)ゴソゴソ

コンコン

フラーテル「はい!?」バババ

ガチャ
ソロル「お兄様……」

フラーテル「や、やぁソロル」

ソロル「お兄様……」

フラーテル「またそんな顔して……せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」

ソロル「だってお兄様……左手が、私のせいで……」ポロポロ

フラーテル「お前のせいではないよ……」

フラーテル「それに、お前が無事だったんだ。左手だけで済むなら安いものだよ」

ソロル「お兄様……」

フラーテル(しかし問題なのは処理の方法だ……弱ったなぁ)

ソロル(お兄様、やっぱり無理してる……?)

ソロル「……お兄様!!」

フラーテル「はい!!」

ソロル「なんでも言って下さい!」

フラーテル「は!?」

ソロル「今日から私がお兄様の左手になります!」

フラーテル「えぇ!?マジで!?」

ソロル「マジです!!」

フラーテル「いや!ソロル!そりゃマズいよ倫理的に!!」

ソロル「なにもまずい事はありません!」

ソロル「ですからなんでも仰って下さい!!」

ソロル「お兄様の言う事なら、なんでもしますから…!」

フラーテル「ん?」

ソロル「え?」

ソロル「じゃあお兄様、明日も来ますから、何でも仰って下さいね! それでは!」

フラーテル「お、おう」

ガチャン

フラーテル「……」

フラーテル(危なかった……)

フラーテル(何を考えているんだ僕は……妹に手コキをさせようだなんて……)

フラーテル(……色々とあったからか、ソロルは少し僕に依存が強すぎるな)

フラーテル(まぁ、確かにソロルは天使だけど……)

フラーテル(……)

フラーテル(はっ! いやいや……何を考えてるんだ僕は……)

フラーテル(ん?でも今、何でもするって言ったよね?)

フラーテル(……)

フラーテル「いや!違う!!よし!!寝よう!!」

フラーテル「……」

フラーテル「寝れない!!」

翌日

ソロル「さぁお兄様! なんでも、なんでも仰って!!」

フラーテル「あはは元気だね、ソロル……」

ソロル「お兄様? 目元に大きなクマが……昨晩は寝れなかったの?」

フラーテル「あ、あぁ、ちょっと左手が疼いて……!?」

ソロル「……」ポロポロ

フラーテル「ソロル! 大丈夫だよソロル!!」

ソロル「おにいさまあぁぁぁぁごべんでええぇぇぇ!!」ポロポロポロポロポロ

フラーテル「ソロルウウゥゥ!!」

ガチャ
看護師「フラーテルさーん、お身体拭きますよー」

ソロル「それだああぁぁ!!」

看護師「!?」

ソロル「よいしょ……」ゴシゴシ

フラーテル「うん、上手だねソロル」

ソロル「うふふ、気持ちいい? お兄様……」

フラーテル「あぁ、気持ちいいよ」

ソロル「良かった……」ゴシゴシ

フラーテル(よし、これでソロルも満足してくれるかな……)

ソロル「よいしょ……はい、これでおしまいよお兄様」

フラーテル「ありがとう、ソロル」

ソロル「次は下ね、お兄様!」

フラーテル「えっ」

ソロル「えっ」

ソロル「どうしたの、お兄様?」

フラーテル「い、いやぁ……下はいいんじゃないかな……?」

ソロル「え? そんな、お兄様……遠慮しないで?」ガッシ

フラーテル「い、いやっ! 遠慮とかじゃなくて!」

ソロル「駄目よお兄様! ちゃんと拭かないと!」

フラーテル「駄目なんだソロル! 今は!!」

ソロル「ちゃんとしますからお兄様! お兄様ったらお兄様!!」グイグイ

フラーテル「あ、あぁぁぁ……!!」

ブルン

ソロル「……」

フラーテル「……」

ソロル「……」

フラーテル「……」

ソロル「……あっ」

フラーテル「…………」

フラーテル(終わった……)

ソロル「……」

フラーテル(きっと今後ソロルからはゴミを見るような目で見続けられるのだろう)

ソロル「………」

フラーテル(視界に入っただけで舌打ちをされたりして)

ソロル「…………」

フラーテル(話し掛けようものなら『キモっ……』って言われたりするのだろう)

ソロル「……………」

フラーテル(あぁソロル、君の天使のような笑顔はもう見られないのか……)

ソロル「………………」

ソロル「…………………」ゴシゴシ

フラーテル「!?」ビク

ソロル「あっ……? ご、ごめんなさいお兄様……少し、強かった……?」

フラーテル「あぁ、気持ちいいよ……」

ソロル「良かった……」ゴシゴシ

フラーテル「あっあっ……いや違う! ソロル、何をっ……」

ソロル「大丈夫です、お兄様……」ゴシゴシ

フラーテル「そ、ソロル……」

ソロル「お兄様が左手派だったことは知ってるから……」

フラーテル「なんで!?」

ソロル「我慢しないで、お兄様……」ニコ

フラーテル「あぁ……ソロル……」

ソロル「……」ゴシゴシ

フラーテル「……」

ソロル「……」

フラーテル「……ごめん、ソロル」

ソロル「そんな顔しないで、お兄様……」

フラーテル「……」

ソロル「大好きなお兄様の役に立てて、嬉しいの」

フラーテル「ソロル……」

ソロル「うふ…それじゃあお兄様、また明日……」

フラーテル「あ、あぁ……」

ガチャン

フラーテル(……)

フラーテル(うわあぁああああぁぁぁぁぁ!!)バタバタバタ

フラーテル(やってしまった!!)バタバタバタバタ

フラーテル(こ、こんなことはもう、これっきりだ……!!)

翌日

ソロル「よいしょ……」ゴシゴシ

フラーテル「……っ」

ソロル「うふふ、気持ちいい? お兄様……」ゴシゴシ

フラーテル「……あぁっ…気持ちいいよ……」

ソロル「よかった……」ゴシゴシ

フラーテル「ソロル……ソロル……っ」

ソロル「はい……」ゴシ

フラーテル「……っ」

フラーテル「…………ふぅ」

フラーテル(またやってしまった……)

フラーテル(こんなことじゃいけない!)

フラーテル(明日はビシっと言わなければ……!!)

ソロル「わぁ……すごい、お兄様……昨日より、たくさん……?」

フラーテル「……」ムクムク

ソロル「え、えっ……?」

一週間後

ソロル「お兄様……」

フラーテル「ソロル、今日は、その……」

ソロル「お兄様、今日は……ちょっと、お勉強してきたの」

フラーテル「ん? あぁ、学校かい?」

ソロル「いえ……学校の、ではなくて、その……」

フラーテル「?」

ソロル「下手だったら、ごめんなさい……お兄様」

フラーテル「そ、ソロル!?」

ソロル「ん……っ」

フラーテル「……ソロル! そんなっ」

ソロル「んっ……ん……」

フラーテル(うわあああああぁぁぁぁ!!)

ソロル「んっ…!! んぷっ……」

フラーテル「っ……!!」

ソロル「んぐっ……」

フラーテル「そ、ソロル……ご、ごめん。はやく吐き出して……」

ソロル「んっく……」ゴク

フラーテル「ソロル……!」

ソロル「ん……お兄様のだから、吐き出すなんて……」

フラーテル「そんな、無理をしなくても」

ソロル「お兄様……あ、今、綺麗にするから……」

フラーテル「!?」

ソロル「んむっ……」

フラーテル「……」ムクムク

ソロル「んっ!…え、えっ……?」

フラーテル「やっと退院か……」

ソロル「退院おめでとう、お兄様」

フラーテル「ありがとう、ソロル」

ソロル「あの……お兄様?」

フラーテル「なんだい、ソロル」

ソロル「お家に帰ったら、お兄様にプレゼントがあるの……」

フラーテル「退院祝いかい?」

ソロル「う、うん……」

フラーテル「ありがとう、いやー楽しみだなぁ」

ソロル「う、うん……楽しみにしててね、お兄様……」

ソロル「はぁーっ……はぁーっ……痛っ……」

フラーテル「ソロル……止めよう、これ以上は……」

ソロル「だいじょうぶ……大丈夫、だから……お兄様……」

フラーテル「ソロル……僕らは……」

ソロル「お兄様……愛してます、お兄様……っ」

フラーテル「ソロル……」

ソロル「お兄様……」

フラーテル「あぁ、ソロル……愛しているよ、ソロル……」

ソロル「あぁ……嬉しい、お兄様……んっ、んむっ……ちゅ……」

フラーテル「ん……ふっ……」

フラーテル(何をしているんだ、僕は……)

ソロル「お兄様……」

フラーテル(ソロル、僕たちは……)

ソロル「お兄様……」

フラーテル(ソロル……)

ソロル「お兄様……」

——律すれば律する程堕ちる 赦されぬ重いに灼かれながら


フラーテル「……」

ソロル「お兄様……」

フラーテル「ソロル……」

ソロル「お兄様、今日は……」

フラーテル「ソロル、もう、駄目だ……これ以上は……」

ソロル「お兄様……?」

フラーテル「ソロル……僕たちは……」

ソロル「……お兄様…ナース服とか、好きでしょう?」

フラーテル「大好き!」

ソロル「あんっ……嬉しい、お兄様!」

フラーテル「ソロルっ……ソロルっ!!」

ソロル「あぁ、お兄様っ……お兄様ぁっ!!」

——まぐわう傷は深く甘く 破滅へ誘う……


フラーテル「……」

ソロル「お兄様……」

フラーテル「ソロル……」

ソロル「お兄様、今日は……」

フラーテル「ソロル、もう、本当に駄目だ……これ以上は……」

ソロル「お兄様……?」

フラーテル「ソロル……僕たちは、兄妹なんだ……」

ソロル「……体操服とか、お兄様は……どうかしら?」

フラーテル「愛してる!」

ソロル「あんっ……嬉しい、お兄様!」

フラーテル「ソロルっ……ソロルっ!!」

ソロル「あぁ、お兄様っ……お兄様ぁっ!!」


——
———

フラーテル「……」

ソロル「お兄様……?」

フラーテル「ソロル……駄目だ、もう、ソロル……」

ソロル「どうしたの、お兄様?」

フラーテル「僕は……そう、僕は……」

ソロル「……?」

フラーテル「僕は………………巨乳が好きなんだ」

ソロル「……!?」

ソロル「お、お兄様……今、なんて……」

フラーテル「言っただろう、僕は本当は巨乳が好きなんだ」

ソロル「そんな……っ」

フラーテル「僕も年頃だったから手近な女性の身体に興味があっただけなんだ」

ソロル「お、お兄様……嘘……」

フラーテル「それに妹とか、気持ち悪いし……」

ソロル「え……」

フラーテル「もうやめよう、ソロル」

ソロル「まって……そんな、お兄様……!」ガッシ

フラーテル「……っ」

フラーテル「離せよ!貧乳!!」バッ

ソロル「っ!?」

フラーテル(これでいいんだ……)

ソロル「お兄様……」

フラーテル(これでよかったんだ……)

ソロル「お兄様……」

フラーテル(これでもう……全て……)

ソロル「お兄様……」

フラーテル(……すまない、ソロル)

ソロル「……」

ソロル「お兄様……」

ソロル「お兄様、そんな……」

ソロル「お兄様、嘘……」

ソロル「お兄様、何故……」

ソロル「お兄様……」

教徒「何かお悩みですか?」

ソロル「……え?」

——我々を楽園へ導ける箱舟は

ソロル「……」

——哀れなる魂を大地から解き放つ

ソロル「……」

——救いを求める貴女にArkを与えよう

ソロル「……Ark」

教徒「さぁ、急ぎなさい。
   貴方の言葉が、想い出が、永遠に届かなくなるその前に。
   そのArkで、楽園へと導くのです」

ソロル「楽園……」

フラーテル「……」

ソロル「……」

フラーテル「ソロル?」

ソロル「……」

フラーテル「最近、帰りが遅いようだけど……」

ソロル「……」

フラーテル「その……あからさまに怪しい宗教はちょっとどうかと……」

ソロル「お兄様……」

ソロル「ねぇ、何故変わってしまったの?」

フラーテル「……」

ソロル「あんなにも愛し合っていたのに……」

フラーテル「……変わっていないよ」

ソロル「……」

フラーテル「最初から、僕はそう思っていたんだ」

ソロル「……っ」

フラーテル「……」

ソロル「……」

フラーテル「……」

ソロル「さぁ……楽園へ還りましょう、お兄様……」

フラーテル「……あっ」

サク

被験体#1096 通称『妹:ソロル』 同じく

被験体#1076 通称『兄:フラーテル』を殺害

<症例番号12>

過剰投影型依存における袋小路の模型

即ち《虚妄型箱舟依存症候群:Ark》

研究員A「#1076の死亡を確認。#1096は?」

ソロル『……っ! ……っ!!』ゴポ

研究員B「あぁー、これはまずいかな。一旦カプセルから出そう」

ソロル『……!!』ゴボ

研究員A「了解。排水開始」

ソロル『……がはっ!! ゲホッ……!!』

研究員A「#1096の覚醒を確認」

ソロル「はっ……はっ……え?」

研究員B「さぁ……えーと、ソロル?」

ソロル「え?……お兄様は……ここは……?」

研究員A「大丈夫、悪い夢だよ」

ソロル「夢……?」

研究員B「そう、全て夢だよ」

ソロル「夢……何が いっ……! 頭が、痛い……っ」

研究員A「大丈夫、少し休めばすぐに良くなる」

研究員B「悪い夢は全て忘れられるよ」

研究員A「そして新しい自分に生まれ変われる」

研究員B「全てをやり直そう」

研究員A「今度はきっと楽園にたどり着ける」

ソロル「夢……やり直す……?」

研究員A「あぁ、ほら、そこの箱庭に入れば」

ソロル(箱庭……カプセル……?)

研究員B「皆と同じように、すぐにやり直せる」

ソロル(みんな……? これ、みんな?……)

コポ
ゴポポ

ソロル「う……頭が……」フラ

研究員A「おっと、大丈夫かいソロル」ガッシ

ソロル「はい……すみません……」

研究員A「ウッヒョー柔らけぇー!今まで見てるだけで触るのはご法度だったからこれは嬉しいラッキースケベだぜ!!
    (大丈夫、心配は要らないよ、休んでいれば直ぐに収まる)」

ソロル「……」ゴソ

研究員B「なんだようらやましいな……あ?」

ソロル(人を扱う……施設なら、きっと……あった)ゴソ

研究員B「……おい!!」

研究員A「……え?」

ソロル「……!!」

パンッパンッ

研究員B「あっ……!?」

ドサ


ソロル「……お兄様は?」

研究員A「なっあっ…!? お、おい、銃……」

ソロル「……お兄様は?」

研究員A「おっ……」

ソロル「答えて」チャキ

研究員A「#1076……フラーテルなら、隣の、安置室に……」

ソロル「安置室……」

研究員A「あ、あぁ……だから、銃を下ろして……」

ソロル「……」

研究員A「そこの、カプセルに入れば、すべてを、一からやり直せる……だから」

ソロル「……」



ソロル「——箱庭を騙る檻の中で、禁断の海馬に手を加えて
    驕れる無能な創造神にでも成った心算なの……」

研究員A「な……」

パンッ

「おい、何か……っ!?」

ソロル「はぁ……はぁ……」

ソロル(こんなもの……)

パンッ

「銃を持ってるぞ!」

ソロル「……」

パンッ

「撃て!いいから!」

ソロル「……っ!」

パンッ

「おい……待て、止まれ!」

ソロル「……」

パンッ

ソロル「はぁ……はぁ……」

ソロル「……」

ソロル「#1076……」

ソロル「……」

ソロル「……っ!」

ソロル「あぁ…………っ!」

ソロル「あぁ……あぁぁぁ……」

ソロル「ごめんなさい……あぁぁぁ……ごめんなさい……」

ソロル「はぁっ……はぁ……」

ソロル「……フラーテル」

ソロル「楽園へ、還りましょう……」

監視卿「……」

監視卿「『——箱庭を騙る檻の中で、禁断の海馬に手を加えて
    驕れる無能な創造神にでも成った心算なの……』か…」

監視卿(どこで……間違ったかな……)

監視卿「はぁ……」


監視卿は天を仰ぎ深い溜息を吐く

失ったはずの<左手の薬指>が虚しく疼いた

——ふと彼が監視鏡の向こうへ視線を戻すと

嗚呼…いつの間にか少女の背後には『仮面の男』が立っていた——



監視卿「!?」ビク

監視卿「おい!? おい警備!! 変態が一人紛れ込んでるぞ!!」

ウィーン

研究員A「いてて……どうしました監視卿、そんな喚いて」

監視卿「あ、おい見てくれ! 安置室に変態が……」

研究員A「変態……? いや、居ませんけど?」

監視卿「なに? え?」

研究員A「見間違いじゃないですか?」

監視卿「見間違い……そうかな」

研究員A「じゃなければ冥府の使いか何かですかね」

監視卿「……そうだな」

研究員A「私もそろそろ死にそうなんですけど」

監視卿「大丈夫?」

研究員「大丈夫じゃないですよ……ついに死傷者まで出ちゃいましたよ。どうするんです?」

監視卿「そうだな……また上から怒られるな」

研究員「怒られるだけで済めば良いんですけどね」

監視卿「この箱舟は取り上げられはしないさ……実際に成果は上がっているしね」

研究員「そうならいいんですが」

監視卿「それに、私以外に適役もいないだろう」

研究員「まぁそうでしょうけど、一体いつまでこれを続けるんです?
    次は一人二人の死傷者どころじゃ済まないかも知れませんよ」

監視卿「あぁ……そうだな」

研究員「……」

研究員「前から言おうと思ってたんですけどね」

監視卿「……」

研究員「もういっその事、開き直って兄妹で心行くまでハメ倒したらいいんじゃないですかね」

監視卿「……」

研究員「最近流行ってますし、妹モノとか」

監視卿「………」

研究員「良いじゃないですか、可愛い妹さんに愛されてて。羨ましいなぁー」

監視卿「…………いや、それは倫理が」

研究員「人の脳いじるよりは、よっぽど真っ当だと思いますけど」

監視卿「…………それは、そうだけど」

研究員「…………」

監視卿「…………こんな症例がある」

研究員「は?」

監視卿「古い症例だ、君は……まぁ知らなくても無理はないだろう」

研究員「え……こ、これは!?」

監視卿「そう……」


監視卿「<症例番号69>」

監視卿「過剰射精型依存における腹上死の模型」

研究員「即ち……?」

監視卿「《性交型箱舟依存症候群:Ark》」


Ark:おわり

Arkでこんなに時間が掛かるとは…
あぁ、次はラフレンツェだ…
ラフレンツェは後日

———エルの絵本【魔女とラフレンツェ】


鬱蒼と茂る暗緑の樹々 不気味な鳥の鳴き声

ある人里離れた森に その赤ん坊は捨てられていた

赤ん坊「ウバー」

オルドローズ「ありゃま」

赤ん坊「ンギャー」

オルドローズ「呪いは成ったか……」

赤ん坊「エヒー」

オルドローズ「まぁこれも何かの縁かね……」

赤ん坊「フビー」

銀色の髪に 緋色の瞳 雪のように白い肌

拾われた赤ん坊は いつしか背筋が凍るほど美しい娘へと育った……


ラフレンツェ「……〜♪」

亡者「Creature's Voice!」

亡者「オ・ノ・レ! ラフレンツェ!」

ラフレンツェ「……〜♪」

亡者「Un Satisfied!」

亡者「ニ・ク・キ! ラフレンツェ!」

ラフレンツェ(亡者たちは今日も元気だ……)

儚い幻想と知りながら 生者は彼岸に楽園を求め

死者もまた 還れざる彼岸に楽園を求める


ラフレンツェ「はぁ……」

ラフレンツェ「亡者達のために祈りを捧げ、湿っぽい歌を歌う毎日……」

ラフレンツェ「しかもこんなド田舎で、恋も知らず私の青春は過ぎていくのね……」

ラフレンツェ「しんどい……」ポロポロ


彼らを別つ流れ 深く冷たい冥府の川

乙女の流す涙は 永遠に尽きることなく

唯…嘆きの川の水嵩を増すばかり……

——少女を悪夢から呼び覚ます 美しき竪琴の調べ

悲しい瞳をした弾き手 麗しき青年のその名は……


青年「はぁ……」

青年「闇雲に探してたら完全に道に迷ってしまった……」

青年「川に沿って歩いてきたのはいいんだけど、どこだここ……」

青年「あぁ、琴が重い。なんでこんな物持ってサバイバルなんてしてるんだ」

青年「いらないよな、琴。捨てていこうかな……ん?」

オルドローズ「ラフレンツェや…忘れてはいけないよ」

ラフレンツェ「はい、お婆様」

オルドローズ「お前は冥府に巣食う亡者共の手から、この世界を護る為の最後の門の番人」

ラフレンツェ「はい、お婆様」

オルドローズ「純潔の結界を破らせてはいけないよ……」

ラフレンツェ「お婆様……なんで私の膜にそんな結界を?」

オルドローズ「……」

ラフレンツェ「そもそも私の膜と冥府に何の関係が……」

オルドローズ「……や、破るなよ! 絶対破るなよ!!」

ラフレンツェ「フリね、お婆様!」


——
———

ラフレンツェ(……お婆様がどっか行っちゃってからはや数週間)

ラフレンツェ(また何か企んでるんだわ……)

ラフレンツェ(でもあんなお婆様でも、居なくなると少し寂しい……)

ラフレンツェ(いい歳こいて真っ赤だったせいね……)

ラフレンツェ(この殺風景な景観が、一段と眼に優しいもの……)


ガサガサ


ラフレンツェ「お婆様?」

青年「……あ」

ラフレンツェ「……っ!」

青年「まさか……君は……?」

ラフレンツェ「……え?」

青年「…………」

ラフレンツェ「…………」

青年「…………」

ラフレンツェ「…………あ、あの」

青年「…え、あ、は、はい」

ラフレンツェ「こ、ここは生者が来るような所じゃないわ……」

青年「……え?」

ラフレンツェ「……」

青年「え? あ、あのすいません僕は死んだんでしょうか?」

ラフレンツェ「……死にかけ?」

青年「え!?」

ラフレンツェ(この人面白い……)

青年「冥府?」

ラフレンツェ「えぇ、この川を越えたら……」

青年「危なかった……泳いで渡る所だった」

ラフレンツェ「そういう話じゃないけど……とにかく此処は冥府に近いから……」

青年「そうなのか……」

ラフレンツェ「ねぇ、その琴……」ソー

青年「え?これが……」


ちょん


ラフレンツェ「っ!」ビク

青年「あっ……ご、ごめん」

ラフレンツェ(鼓動が高鳴ったわ……)ドキドキ

青年「え? 一人で暮らしてるの?」

ラフレンツェ「えぇ……でもたまに赤い祖母が出るけど」

青年(赤い祖母……?)

ラフレンツェ「巨大な曼珠沙華かと思ったら祖母だったりするのよ」

青年(亡者の類だろうか)

ラフレンツェ「それでね……」

青年(それにしても……)

ラフレンツェ「……? どうしたの?」

青年「え、あ、いや……」フイ

ラフレンツェ「……? どうして眼をそらすの?」ズイ

青年「う……」

ラフレンツェ「……?」

青年(いや……僕には、既に想い人が!)キリッ

ラフレンツェ「……っ」

青年「……」ジー

ラフレンツェ(恋を知ったわ……!)キュンキュン


——
———

青年「今日も琴を弾こうか、別に動物は集まってきたりはしないけど」

ラフレンツェ「えぇ……好きよ?」

青年「……は!?」

ラフレンツェ「うふ、琴の話よ?」

青年「そ、そうか、そうだね……」ベンベンベン

亡者「Creature's Voice!」

亡者「オ・ノ・レ! ラフレンツェ!」

ラフレンツェ「うふふ、亡者共が苦しんでるわ!」

青年「あはははは」ベンベンベン

ラフレンツェ「うふふふふ」

青年「……」


——
———

青年「まさか、冥府の川で水浴びをすることになるとは……」

ラフレンツェ「別に死んだりしないわよ?」

青年「それはそうだろうけど……」

ラフレンツェ「……えい」バシャ

青年「うわっ!……やったな!」バシャ

ラフレンツェ「うふふ、えい、えい!」バシャバシャ

青年「……あはははは、あはははははは」バシャバシャバシャバシャ

ラフレンツェ「ぷわー!もう!!」バシャバシャ

青年(なんてことだ……スケスケじゃないか!)

ラフレンツェ「きゃっ……!」

青年「おっと……」ガッシ

ラフレンツェ「あっ……」

青年「大丈夫かい、ラフレンツェ?」

ラフレンツェ「…………」

青年「あ…………」

ラフレンツェ「…………んっ」

青年「……っ」

ラフレンツェ「ん……ちゅ」

青年「…………」




亡者「Creature's Voice!」

ラフレンツェ「だまれ」

亡者「すいません」

青年「……」

一つ奪えば十が欲しくなり

ラフレンツェ「はぁ……っ」

青年「ふっ……」


十を奪えば百が欲しくなる

ラフレンツェ「……んっ」

青年「う……っ」


その焔は彼の全てを 灼き尽くすまで消えはしない……

青年「……」

ラフレンツェ(何か忘れてる気がするけどまあいいや……)

愛欲に咽ぶラフレンツェ 純潔の花を散らして

ラフレンツェ「あ、あっ……!」

青年「ラフレンツェ……っ」


愛憎も知らぬラフレンツェ 漆黒の焔を抱いて

ラフレンツェ「うっ……」ギュ

青年「くぅ…………」


彼は手探りで闇に繋がれた 獣の檻を外して

青年(こ、ここ? こうかっ……!)ワサワサ

ラフレンツェ「あっ!……そ、そんな下着ひっぱっちゃ……!」


少女の胎内に繋がれた 冥府の底へおりてゆく……

青年「こ、こうなってるんだ……冥府(隠語)って……」

ラフレンツェ「や、やだあぁぁ……もうぅっ……!」


——
———

ラフレンツェ「……あのね」

青年「うん?」

ラフレンツェ「できちゃった……」

青年「!!」ガタン

ラフレンツェ「……喜んでくれる?」

青年「もちろんだよ、ラフレンツェ……」

ラフレンツェ「良かった……」

青年「……」

ラフレンツェ「うふ、あなたももうパパね〜」

青年「あぁ……そうだね、ラフレンツェ……」

青年(……)

青年(私は…生涯彼女を愛することはないだろう…)

青年(しかし…彼女という存在は、私にとって特別な意味を孕むだろう…)

青年(何故なら…生まれてくる娘の名は…)

青年(遠い昔にもう、決めてあるのだから……)

ラフレンツェ「……」

ラフレンツェ「嘘」

ラフレンツェ「……」

ラフレンツェ「……裏切られた?」

ラフレンツェ「……」

ラフレンツェ「捨てられた……?」

ラフレンツェ「……」

ラフレンツェ「そう……」

ラフレンツェ「呪うわ……」

ラフレンツェ「あなただけ……楽園にだなんて……」

ラフレンツェ「行かせはしないから……」

ラフレンツェ「うふふ……ふふ……」

ラフレンツェ「……」

ラフレンツェ「……嘆きの川で、入水自殺」パシャ

ラフレンツェ「洒落にもならない……」

ラフレンツェ「あぁ……」パシャ

ラフレンツェ「でも……これで……」

ラフレンツェ(あぁ……もうすぐ彼は……)

ラフレンツェ(振り返って……………………)

ラフレンツェ(…………)

ラフレンツェ(……)

ゴボゴボ
亡者「ラフレンツェ……」

ラフレンツェ(……)

ゴボゴボゴボ
亡者「オノレラフレンツェ……」

ラフレンツェ(……)

ゴボゴボゴボガボボゴボゴボ
亡者「ニクキラフレンツェ……!」

ラフレンツェ(……)




バッシャアアァァァ

アビス「御機嫌よーう!」

ラフレンツェ「!?」

アビス「御機嫌よう!! 可哀想なおじょ……!?」

ラフレンツェ「……」

アビス「う……」

ラフレンツェ「うふ……」

アビス「さ…ん……?」ブルブル

ラフレンツェ「あら……ちょっと見ない間に……」

アビス「……」ブルブル

ラフレンツェ「なんというか……まぁ、胡散臭くなったわね……?」

アビス「っ……た、ただいまァ……」

ラフレンツェ「お帰りなさい、パパ……うふ、お勤めご苦労様……」



ラフレンツェ(うふ、これで……そう、これで……)

ガサガサ

ソロル「アビスさーん、どうしたの?」

ラフレンツェ「!?」


ゾロゾロ

バロ子「あぁ、また誰か一人アビスさんの犠牲に……」

ルド子「あれ? あの子って……」

サクリ姉「え、あれがエルちゃん?」

スタダ子「嘘、特徴は合ってるけど……年齢が合わなくない?」

ゾロゾロ


ラフレンツェ「……」

ラフレンツェ「……は?」

アビス「……」ブルブル

ラフレンツェ「……ねぇ、こんなに女の子侍らせてさ」

アビス「え、あ……いや、そうじゃなくて、その……」

ラフレンツェ「……何してるの、あなた」

アビス「ひぃ……」ポロポロ

サクリ姉「あはは、だから男なんてみんなクズなんだって」

ルド子「……うーん」

スタダ子「信用したら駄目よ?」

ソロル「お兄様以外は」

バロ子「……女の子同士の方が良いですよ?」

ラフレンツェ「……」ギリギリギリ

アビス「……いや、あの……これはだね?」

ラフレンツェ「…………なに」

アビス「…………ッ」ゴクリ

ラフレンツェ「「…………」

アビス「ざ……」




アビス「残念だったねェ……!」

ラフレンツェ「……!」ブチッ

アビス「うおおおおおぉぉぉ……!!」ダダダダダダ

ソロル「あ、逃げた」

スタダ子「最っ低」


アビス「おおぉぉぉぉぉぉ…………!!」

ラフレンツェ「…………」

ラフレンツェ「……あ、あんなところに8歳以下の儚げなアルビノ美少女が!!」

アビス「マジで!?」クル

ルド子「振り向いた……」

サクリ姉「うわぁ……ガチなんだ……」


アビス「……ぉぉぉぉおおおおお!?」ゴロゴロゴロゴロ

バロ子「すごい……冥府の出口って本当に振り向いたらいけないんですね」

ラフレンツェ「……」

ラフレンツェ「……」

アビス「はぁーっ……はぁっ……!!」

ラフレンツェ「……」

アビス「たっ……」

ラフレンツェ「……」

アビス「ただいま……ラフレンツェ」

ラフレンツェ「……おかえりなさい、パパ…うふふ」



魔女がラフレンツェを生んだのか

ラフレンツェが魔女を生んだのか

〜物語は本の外側に〜


エルの絵本【魔女とラフレンツェ】 おわり

あ、一箇所歌詞ミスった

後日、バロ子

——Baroque

「彼女こそ…私のエリスなのだろうか…」

主よ、私は人間を殺めました。
私は、この手で大切な女性を殺めました。

思えば私は、幼い時分より酷く臆病な性格でした。
他人というものが、私には何だかとても恐ろしく思えたのです。


「バロ子さんおはようございます」

「おはようございますバロ子さん」

バロ子「……うぇ!?……あっ…お…オサース……」

私が認識している世界と、他人が認識している世界。
私が感じている感覚と、他人が感じている感覚。


『違う』ということは、私にとって耐え難い恐怖でした。
それがいづれ『拒絶』に繋がるということを、無意識の内に知っていたからです。


バロ子(私と連中は違う……違う生き物なんだ……リア充め、爆発しろ)

楽しそうな会話の輪にさえ、加わることは恐ろしく思えました。
私には判らなかったのです、他人に合わせる為の笑い方が。


バロ子「フヒ、フヒヒ……え、あ、いや、なんでも……ないです……」


いっそ空気になれたら素敵なのにと、いつも唇を閉ざしていました。


バロ子(空気っていうか、ぼっち……私、ぼっち……まぁいいけど?)

バロ子(人生一人で楽しめない奴のほうが負け組?……みたいな?)

そんな私に初めて声を掛けてくれたのが、彼女だったのです。


お姉さま「あらバロ子さん、タイが曲がっていてよ?」シュ

バロ子「!?」ビク


美しい少女でした、優しい少女でした。
月のように柔らかな微笑みが、印象的な少女でした。

最初こそ途惑いはしましたが、私はすぐに彼女が好きになりました。
私は彼女との長い交わりの中から、多くを学びました。

『違う』ということは『個性』であり、『他人』という存在を『認める』ということ。
大切なのは『同一であること』ではなく、お互いを『理解し合うこと』なのだと。


お姉さま「人はそれぞれ違うからこそ、他人を知りたがるの」

バロ子「そ、そうですね……?」

お姉さま「皆が自分と同じじゃ、触れ合う機会もないもの。それじゃつまらないでしょう?」

バロ子「え、あぁ……わ、わかります、わかります……?」


しかし、ある一点において、私と彼女は『違い過ぎて』いたのです。


バロ子(めっちゃ良い匂いする……)

狂おしい愛欲の焔が、身を灼く苦しみを知りました。
もう自分ではどうする事も出来ない程、私は『彼女を愛してしまっていた』のです。


バロ子「あぁぁお姉さま……お姉さまあああぁぁぁぁぁっ!!」クンカクンカ

バロ子「はぁはぁはぁ…あぁ……お姉さまの香りが薄れてきた……また新しい下着を拝借しないと……」スハスハ

私は勇気を振り絞り、想いの全てを告白しました。


バロ子「一発やらせてください!」

お姉さま「!?」

バロ子「あとパンツ下さい!!」

お姉さま「!?」


しかし、私の想いは彼女に『拒絶』されてしましました。

そこから先の記憶は、不思議と客観的なものでした。
泣きながら逃げてゆく彼女を、私が追い駆けていました。


バロ子「一回だけ、一回だけでいいですからお姉さま!!お姉さま!!」ダダダダダ

お姉さま「ひっ……ひいいいいいいぃぃぃ!!」ダダダダダ


縺れ合うように石畳を転がる、《性的倒錯性歪曲》の乙女達。
愛を呪いながら、石段を転がり落ちてゆきました……。


バロ子「さきっちょだけ!さきっちょだけですからお姉さまあああぁぁぁ!!」ゴロゴロゴロ

お姉さま「いやあああああああぁぁぁぁぁ!!」ゴロゴロゴロ

あ、1レス抜けた。


その時の彼女の言葉は、とても哀しいものでした。
その決定的な『違い』は、到底『解り合えない』と知りました。


お姉さま「同性愛云々じゃなくて……その、貴女という存在そのものが純粋に気持ち悪いわ……」

バロ子「!?」

バロ子「お姉さま!さぁお姉さま!おね……」

バロ子「……お姉さま?」

お姉さま「」

バロ子「……死んでる!」ガーン


この歪な心は、この歪な貝殻は、
私の紅い真珠は歪んでいるのでしょうか?

誰も赦しが欲しくて告白している訳ではないのです。
この罪こそが、私と彼女を繋ぐ絆なのですから。



「この罪だけは、神にさえも赦させはしない……」

「ならば、私が赦そう……」



──激しい雷鳴 浮かび上がる人影

いつの間にか祭壇の奥には『仮面の男』が立っていた──

バロ子「ひっ……!?」

アビス「……」

バロ子「なっ……だ、誰ですか貴方! こ、ここは修道院ですよ!?」

アビス「御機嫌よう……可哀想なお嬢さん」

バロ子「ひぃ……!」

バロ子「わ、私に乱暴する気ですね!? ……エロ同人みたいに!!」

アビス「安心したまえ……私にとって、8歳より上は皆ババアだ」

バロ子「そうですか……」ホッ

バロ子「貴方が暴漢ではないとすると……冥府の使いか何かでしょうか?」

アビス「いいや、楽園への導き手だよ」

バロ子「楽園……?」

アビス「そう、楽園だ」

バロ子「……失礼ですが、とてもそうは見えません」

アビス「……」

バロ子「どう見ても唯の変質者です」

アビス「よく言われる」

バロ子「それに……私が、楽園へ行けるとは思えません」

アビス「ほう、それは何故かね?」

バロ子「私は、この手で大切な女性を殺めました……」

バロ子「ヤろうと思ったらうっかり殺ってしまいました……」

アビス「ふむ……」

バロ子「罪を犯した、穢れたものは奈落へ落ちるのが運命……」

アビス「だから、楽園へは行けない?」

バロ子「……」

アビス「だが、その楽園には、君の大切な女性がいるかもしれないねぇ」

バロ子「……っ」

アビス「そうか、それは残念だ」

アビス「君にとって、彼女はその程度の存在だったというわけだ」

バロ子「……待って」

アビス「何かね?」

バロ子「貴方についていけば、また彼女に会えますか」

アビス「さぁ、どうだろうね……?」

バロ子「っ……貴方は……!」

アビス「会えるかもしれないし、会えないかもしれない」

アビス「そこに居るかもしれないし……」

アビス「そもそも、もう何処にも居ないのかもしれない」

バロ子「……」

アビス「だが、その程度の事で諦めるのかね?」

バロ子「っ!?」

アビス「ならば君には、やはり奈落がお似合いなのだろう」

バロ子「……」

アビス「私は諦めないし、私は必ず楽園を見つけるだろう」

バロ子「……狂ってる」

アビス「結構」

バロ子「……」

アビス「それではご希望通り、奈落へご案内しよう」

バロ子「……」

アビス「なに、心配はいらない。これでも船渡しの経験は長いのでね」

バロ子「……行きます」

アビス「……」

バロ子「連れて行ってください、貴方の言う、楽園へ」

アビス「……いいだろう、お嬢さん。君の言う楽園へご案内しよう!」

バロ子「……はいっ」

アビス「それでは共に逝こう、我が友よ!」

バロ子「はいっ」

アビス「目指すは楽園にして楽園にあらず、奈落にして奈落にあらず!」

バロ子「そうだ、今度お姉さまに会えたら……」

アビス「アッハハァ気が早いのではないか? 我等の旅は終わりの無い旅路だというのに!」

バロ子「今度はちゃんと……」

バロ子「ちゃんとパンツを貰わないと……!」

アビス「うむ! 歪んだ、実に良い趣味をしている!」

バロ子「ありがとうございます!」

アビス「それでこそ、楽園を目指すに相応しい!!」

バロ子「はい!!」


Baroque:おわり

後日、エルの肖像

———エルの肖像

白い結晶の宝石は 風を纏って踊る

樹氷の円舞曲 遠く朽ちた楽園

黒い瞳孔の少年は 風を掃って通る

樹氷の並木道 深い森の廃屋


少年「……」

少年(はぁ……寒いな……)

少年「……」

少年(廃屋がある……少し、寒さを凌げるかな)

少年「……」

少年が見つけた 少女の肖像画


『彼』は病的に白い 『彼女』に恋をしてしまった…


少年「……」

少年「……最愛の娘、エリスの……」

少年「8つの誕生日に……」

退廃へと至る幻想 背徳を紡ぎ続ける恋物語

痛みを抱く為に生まれてくる 哀しみ

第四の地平線─その楽園の名は『ELYSION』


少年「……」


──そして…幾度目かの楽園の扉が開かれる……




少年「……」カチャカチャジィィィィ

少年「エリス……エリス……!!」シコシコシコ

少年「うおおおぉぉぉエリス! エリスううわああぁぁぁ!」シコシコシコシコシコ

──やがて少年は彼の《理想》(idea"L")を求めるだろう…


少年「はぁはぁ……駄目だ、絵だけじゃ満足できなくなってきた……」

少年「……よし」



──やがて少年は彼の《鍵穴》(keyho"L"e)を見つけるだろう…


青年「こ、これが……鍵穴(隠語)……っ!!」ゴクリ

ラフレンツェ「だ、だから恥ずかしいってば……!」バタバタ

──やがて少年は彼の《楽園》(e"L"ysion)を求めるだろう…


アビス「彼女こそ…私のエリスなのだろうか…」

ソロル「この人また何か言ってるんだけど」

バロ子「やだ、気持ち悪い……」


──やがて少年は彼の《少女》(gir"L")を見つけるだろう…

娘もまた母になり 娘を産むのならば

楽園を失った原罪を 永遠に繰り返す……


ラフレンツェ「…………」


始まりの扉と 終わりの扉の狭間で

惹かれ合う『E』(EL)と『A』(ABYSS)──愛憎の肖像



アビス「……この際、量産するってのはどうかな!?」

ラフレンツェ「話しかけないで」

アビス「はい……」

ソロル「は…? 産ませて逃げた?」

バロ子「なんて酷い……」

ラフレンツェ「ぐすっ……うん……」

スタダ子「子供つれてやり逃げなんて聞いたことないわよ……」

ルド子「人として最低だわこのペド」

サクリ姉「悪魔とはこいつのことだわ。火炙りにしよう」


禁断に手を染め 幾度も恋に堕ちてゆく

求め合う『E』(EVA)と『A』(ADAM)──愛憎の肖像


アビス「く……うぐぐぐぐ……」

ラフレンツェ「ひっく……ぐすっ……」ニヤニヤ

ラフレンツェ「しかも奈落ハーレムとか築いてるし……」グスグス

アビス「……ラフレンツェよ!!」

ラフレンツェ「……」

アビス「仮に……仮に彼女らが私のハーレムだったとして、だ……」

ラフレンツェ「……」ギリギリギリ

アビス「その中では、君は……そうだなァ、私の中で……」

ラフレンツェ「……っ!?」


スタダ子「……何か最低なこと言おうとしてない?」

ルド子「は、はやく黙らせて!!」

アビス「やはり、君が一番だろうなァ……ラフレンツェ」

ラフレンツェ「!」ビク

アビス「ラフレンツェ、君が……」

ラフレンツェ「そ…そんny!」

アビス「……一番だろうなァー、ラフレンツェ」

ラフレンツェ「なに言っ……そんっ……はぁ!? アホ!!」バタバタ


サクリ姉「あああぁぁぁぁ、満更でもなさそう」

ソロル「すごい動揺してる……」

スタダ子「駄目よ! その男の言葉に耳を貸しちゃ!!」

ルド子「早積みしとけばよかった」スチャ

バロ子「なんというリア充……妬ましい……」

アビス「さて諸君、我々は我々の楽園を探さねばな!」

サクリ姉「死んじゃえばいいのに……」

ルド子「女の敵め」

スタダ子「この糞野郎」

ソロル「楽園に還れ」

バロ子「この罪だけは神にさえも赦させはしない」

アビス「結構。さぁおいで、ラフレンツェ」

ラフレンツェ「う、うぅぅ……このスケコマシ……」フラフラ

アビス「フハハ」


やがて少年は♂(オトコ)の為に自らを殺し 少女は♀(オンナ)の為に自らを[ピーーー]

時の荒野を彷徨う罪人達は そこにどんな楽園を築くのだろうか?


──幾度となく『E』(Elysion)が魅せる幻影 それは失ったはずの『E』(Eden)の面影

嗚呼…その美しき不毛の世界は 幾つの幻想を疾らせてゆくのだろう──


エルの肖像 おわり

後日、Yield

伏字のせいでなんかエロいことになってる

──Yield

「彼女こそ…私のエリスなのだろうか…」

ルド子「よいしょっと……」

ルド子「種蒔き終わったよー」


男「おう、お疲れ」

ルド子「なんのなんの」


女「いい娘ね、本当に」

男「……あぁ」


──
───

男「お、おい、お前……!?」

ルド子「……寒いんだ、いいでしょ?」ゴソ

男「良い訳……」

ルド子「……大声上げるよ?」ゴソゴソ

男「!?」

ルド子「あはは、冗談だよ……」

ルド子「……お願い、今晩だけだから」

ルド子「誰にも言わないから」

ルド子「内緒にするから」

ルド子「二人だけの秘密」

ルド子「絶対に」

ルド子「夢だってことにしようよ」


──
───

ルド子「よいっしょっと……」サク

ルド子「こんな感じ?」

女「そう、真ん中の実だけ残すの」

ルド子「……これが、秋にはおっきく実るんだね」

女「まだ先は長いけどね」

ルド子「待ち遠しいなぁ……」


女「いい娘ね、本当に」

男「……あぁ」

女「……ちょっと、もう、すごい汗」フキフキ

男「あ、あぁ、すまん……いやぁ、もう暑いな……」


ルド子「……」

「3」 …不安定な数字
「3-1」…模範的な数式
問題となるのは個の性質ではなく 唯…記号としての数量
世界が安定を求める以上 早くどれか一つを引かなければ…


──
───

男「……なんだって?」

ルド子「だから、できたかも」

男「…………あぁ、クソ」

ルド子「……」

男「……だから止めようって言ったろ?」

ルド子「……」

男「そもそも……」

ルド子「……」

男「あいつになんて言えばいいんだ……?」

ルド子「……っ」


ルド子(あぁ…お父さん…お母さん…)

ルド子(それでも私は……)

Sweets, lala Sweets, lala 真っ赤なFruits

もぎ獲れないのなら 刈り取れば良いと……

Sweets, lala Sweets, lala 真っ赤なFruits

嗚呼…でもそれは……


ルド子「あぁ、ああああぁぁぁ……」

女「ちょっと!…何っ、これ……なに……それ……」

ルド子「え…え?……違う……わ、わたし、私は、そんな……嫌、いや……」


──
───

ルド子「……」

女「おー、よしよし……」

ルド子「……」

女「ふふ、いい子ねー……」

ルド子「……」

女「でも……ふふ、本当に……」

ルド子「……」

女「……あの人そっくりね……?」

ルド子「……え?」

女「ね?」

ルド子「……っ!?」


「3」…早くどれか一つを……

 二人の女 一人の男 一番不幸なのは誰?

ルド子「……」

 落ちた果実…転がる音 余剰な数字…引かれる音

ルド子「……」

 「3-1+1-2」

アビス「……」

…最後に現れたのは仮面の男
彼らが消え去った後 荒野に一人取り残されるのは誰?

アビス「……ごきげんよう、可哀想なお嬢さん」

ルド子「ひっ……!!」ザク

アビス「あぐぁ!?」

ブキブキブキブチ
ドサ
ゴロゴロゴロ

落ちた果実…転がる音 余剰な数字…引かれる音

アビス「……あのねお嬢さん」

ルド子「はい……」

アビス「いくらなんでも、初対面でいきなり首を落とすのはあんまりじゃあないか」

ルド子「す、すいません……」

アビス「あぁーびっくりした……」

ルド子「それで、あの」

アビス「ん?」

ルド子「あなたは……何?」

ルド子「……楽園?」

アビス「そう、共に目指そうではないか!」

ルド子「冗談……私は大人しく奈落に落ちるよ」

アビス「そうか、そうか、それは残念だ」

ルド子「……」

アビス「君の楽園を目指すついでに、私の娘も探して欲しかったのだが……」

ルド子「……え」

アビス「そうか、そうか、実に残念だ」

ルド子「娘さん、探してるの?」

アビス「あぁ、あの娘こそが私の楽園そのものなのだ!」

ルド子「……見つかるの?」

アビス「私は必ず見つけるがね」

ルド子「……」

ルド子「……じゃあ、私も探す。私の楽園」

アビス「おぉ!共に来てくれるか!」

ルド子「うん」

アビス「では、親愛なる我が友よ、共に楽園を目指すとしよう!」

ルド子「うん」


Yield:おわり

これでようやく折り返しか…
後日エルの天秤

———エルの天秤


買収…窃盗…誘拐…密売…

──悪魔に魂を売り渡すかのように 金になる事なら何でもやった

問うべきは手段では無い その男にとって目的こそが全て

店員「万引きだー! 誰か捕まえてくれー!!」

アビス「食う為に万引きする奴の気持ちがお前にわかるかあぁぁ!!」

店員「知るか! こちとら薄利捌いて真面目にやってんだよ!!」

アビス「うるせぇこの野郎!!」

店員「ぎゃああぁぁぁ!!」



切実な現実 彼には金が必要だった…

アビス「……船渡し?」

使用人「はい……」

アビス「私のような男に頼むぐらいだ、理解しているだろうとは思うが……」

使用人「は、はい……前金です」

チャリン

アビス「……」

使用人「……」

アビス(絵本ぐらいなら買えるか……)

アビス「良いだろう、承った」

使用人「あ、ありがとうございます!」

アビス「……誘拐?」

伯爵「あぁ、まったく恥ずかしい話だ。
   娘が使用人に誑かされて攫われてしまったようでね」

アビス「……ふむ」

伯爵「……」

アビス「いや、失礼。いやはや、よくある話、ですなぁ」

伯爵「あぁ、よくある話なのだよ」

アビス「いやはやまったく……それで?」

伯爵「娘を取り戻してくれ。仔細は任せる」

アビス「なるほど」

伯爵「これは前金だが……成功報酬は倍払おう」

ガシャン

アビス「……承りました。万事、お任せください」

伯爵「……貴様のような者に頼ることになるとは、それこそ恥だな」

アビス「よくある話です、伯爵」

伯爵「……」

アビス「それで、使用人の方は如何致しましょう?」

伯爵「……任せると言ったぞ」

アビス「……承知しました」

伯爵「……」

伯爵(あの小僧め……よくも娘を、私の娘を……)

伯爵(娘さえ、娘さえ居れば、私は……また……)

アビス「……」

楽園への旅路 自由への船出 逃走の果てに辿りついた岸辺


使用人「はぁ、はぁ……大丈夫かい?」

お嬢様「だ、大丈夫……少し歩きにくいだけ、だから……」

使用人「そ、そう……ご、ごめん」

お嬢様「…馬鹿」

使用人「はは、はぁ……はぁ、あった、船だ……」

お嬢様「待って、人が……!」

船頭「……」

使用人「大丈夫、僕が雇った人だ」

お嬢様「そ、そう……」

お嬢様(なんでこんなあからさまに怪しい仮面男を雇ったのかしら……)

使用人「お願いします、約束どおり、船を出してください」

船頭「……」

お嬢様「あぁ……とにかくこれで、やっと二人で……」

使用人「あぁ、これでようやく二人で……」


船頭に扮した男が指を鳴らすと 黒衣の影が船を取り囲んだ……

使用人「っ!?」

お嬢様「あっ……!?」


船頭「お帰りの船賃でしたらご心配なく…」

船頭「既に充分すぎるほど戴いておりますので…」

船頭「けれども彼は、ここでさよなら…」


使用人「そ、そんな……あんたまさかっ!?」

お嬢様「騙された……?」


アビス「残念だったねェ……!」バッサァ

使用人「くそっくそおおぉぉ!!」

男「おら、暴れんじゃねえよ」ゴス

使用人「ぐっ……」

男「仮面の旦那、娘の方はどうします?」

アビス「丁重におもてなししろ。怪我でもさせてみたまえ……川に沈むのは我々の方になるぞ」

お嬢様「あ、あぁ……」

男「了解」

男「ほらお嬢ちゃん、こっちに来るんだ」

お嬢様「そんな、いや、いや……お願い」

使用人「……あぁ」

お嬢様「嫌……!!」

男「旦那、男の方は」

アビス「仔細は任せろと言われている」

アビス「それに、あぁ……彼は既に嘆きの川の船頭に金を払ってしまっている……」

アビス「あぁ、実に残念だ。 金など持ち合わせていなければ
    まだ川を渡らずに済んだかもしれないのに……」

アビス「実に残念だ……」

男「おい、あの人またなんかブツブツ言ってるぞ」

男「きっと頭がアレなんだろう。変な仮面付けてるし」

男「とりあえずスマキにして川に流しとくか」

使用人「ふ、ふぐー!むぐー!!」



バッシャアァァァ……

伯爵「……」

アビス「これはこれは伯爵様、ご機嫌麗しゅう……」

伯爵「ふん……娘は無事に戻った様だな」

アビス「勿論です、我々は、一切傷を負わせたりはしておりません」

伯爵「……」

アビス「ですがァ……まぁ、我々以外の者が、我々が気が付かない様なキズを作っていた場合は
    まぁ保証の限りではありませんが……?」

伯爵「……」

アビス「おっと、失敬」

伯爵「使用人はどうした……?」

アビス「今頃は魚のエサでしょうか」

伯爵「……」

伯爵「……娘さえ無事に戻るならばそれで良い、使用人の方などバラしても構わんわ」

ガシャン

伯爵「報酬だ」

アビス「今後ともご贔屓に……」

伯爵「……」

アビス「それでは、私はこれにて」

伯爵「……」

伯爵(これでいい……)

伯爵(娘さえいれば……)

伯爵(娘を売れば至尊への椅子は買える……)

———
——


お嬢様「うそ…あ、あぁ…あぁぁ……」

いつも人間は何も知らない方が幸福だろうに


お嬢様「そんな……」


けれど他人(ひと)を求める限り全てを知りたがる


お嬢様「彼は、もう……」


──何故破滅へと歩み出す?


お嬢様「………………」

アビス「……」

アビス(今夜はスキヤキだな……)

アビス(いや、その前に絵本を買って帰らねば)

アビス(……そうだ、もうすぐ、もうすぐエルの)

アビス(……? 何か教会の方が騒がしいな……?)

ドン

アビス「おっ…」

お嬢様「はぁーっ……はぁーっ……」

アビス「……おぉ、これは、お嬢様…………」ズル

お嬢様「はぁーっ……あ、あぁぁ……」

アビス「よく……私を探し当てたものだねぇ……」

お嬢様「簡単よ……そんな変な仮面付けてるのなんか貴方ぐらいだわ!!」

アビス「そうかい……!!」

お嬢様「どうして……どうして彼を…!!」

アビス「……残りの人生、失意のまま生きていくのは不憫だろうと、思ったのだがね……?」

お嬢様「……何様なの、貴方は!!」

アビス「……ところで、用事は済んだかね?」ズル

お嬢様「……何?」

アビス「……すまないが、急いでいてね…失礼させてもらうよ……」ズル

お嬢様「……」

お嬢様「あ、あはは……いい気味だわ、そのまま虫の様に這いずって……」

アビス「あぁ……そういえば、この先の人生……何かと物入り、じゃあないかね?」

ガシャン

お嬢様「……は?」

アビス「君に……譲ろう、私にはもう必要ないだろう……」

お嬢様「……っ!! お前は!!どれだけ人をっ……!!」

アビス「……絵本なら、コイン一枚で十分……だろうし」ズル

チャリン

お嬢様「なんですって……?」

寝落ち…?

アビス「あぁ……娘に、絵本をねだられてしまってね」ズル

お嬢様「な、に……」

アビス「そう……誕生日、なんだ、もうすぐ……」ズル

お嬢様「…………いや」

アビス「約束……して、しまってね」ズル

お嬢様「やめて、いや……」

アビス「……エル、もうすぐ……」ズル


お嬢様「いや、いや、あぁぁ……」

お嬢様「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



アビス「……エル、エル……実は、もうひとつプレゼントがあるんだ……」ズル

アビス「……ほぅらエル、大丈夫……触ってごらん……」ズルズル

アビス「……あぁ、エル……熱いかい? 大丈夫、パパのはもっと熱くなるからね……!!」ズルズルズルズルズル


アビス(あぁ……)

アビス(扉は目の前にある……)

アビス(もうすぐ……)

アビス(もうすぐ約束した娘の……)


エルの天秤 おわり

夜ぐらいにSacrifice
あぁ、Sacrifice…

——Sacrifice

「彼女こそ…私のエリスなのだろうか…」

サクリ姉(無邪気な笑顔が愛らしい妹は…)

サクリ姉(神に愛されたから生まれつき幸福だった…)


(^p^)「ぱしろへんだすwwwwwwwwww」

母「あらあら」


サクリ姉「……」

サクリ姉(一人では何も出来ない可愛い天使…)

サクリ姉(誰からも愛される彼女が妬ましかった…)


(^p^)「あうあーwwwwww」ガシャン

母「あらあら、仕方ない子ね」

(^p^)「wwwwww」


サクリ姉「……」

(^p^)「……」

サクリ姉「……? 何?」

(^p^)「……ww」


サクリ姉(器量の悪い私を憐れみないでよ……)

(^p^)「カワイソスwwwwwwwwwwww」

サクリ姉「……」イラッ



サクリ姉「──惨めな思いにさせる、あの子なんて死んじゃえば良いのに……」

(^p^)「……」

母「あら、どうしたの?」

(^p^)「……」

サクリ姉「……?」


(^p^)「ひどい発熱だ」

サクリ姉「!?」

バターン


母「あぁっ!!」

サクリ姉「そんな……!!」

(^p^)「……」

母「あぁ……熱が下がらないわ……」

(^p^)「……」

サクリ姉「……そんな」


サクリ姉(私のせいだ……)

サクリ姉(私があんなことを願ったから……)

サクリ姉(ごめんなさい神様、あの願いは嘘なんです……!!)

(^p^)「wwwwww」

サクリ姉「よかった……ごめんね、ごめんね……」ポロポロ

(^p^)「?wwwwwwwwww」

母「えぇ…本当に……」


(^p^)「……」

サクリ姉「……え?」

(^p^)「ひどい発熱だ」

サクリ姉「!?」


バターン

サクリ姉「お母さん!?」

(^p^)「wwwwww」

母「お姉ちゃん……」

サクリ姉「うん……」

母「あの子は他人とは違うから……」

サクリ姉「うん……」

母「お姉ちゃんが助けてあけてね……」

サクリ姉「うん……」

母「……」

サクリ姉「お母さん……?」

(^p^)「……」

サクリ姉「……お母さーん!!」

(^p^)「ウォー!!」

サクリ姉(母が亡くなって、暮らしにも変化が訪れ……)

サクリ姉(生きる為に私は、朝な夕な働いた……)


サクリ姉「ふぅ……ふぅ……」ザクザク

(^p^)「wwwwww」

サクリ姉「こら、いたずらしちゃ駄目」

(^p^)「ミミズwwwwww」

村男「やぁお姉ちゃん、精が出るねぇ」

サクリ姉「あ、こんにちは」

村男「こっちはもう終わったから、妹ちゃんの相手しててあげようか?」

サクリ姉「え、でも……」

村男「いいっていいって、ほーら妹ちゃんこっちで遊ぼうか」

(^p^)「ミミズwwwwww」

サクリ姉「す、すみません……」


サクリ姉(村の男達は優しくしてくれたけど……)

サクリ姉(村の女達は次第に冷たくなっていった……)

サクリ姉(貧しい暮らしだったけど温もりがあった……)

サクリ姉(肩を寄せ合い生きてた、それなりに幸福だった……)

サクリ姉(それなのにどうして……)


サクリ姉「ごはんよー」

(^p^)「……」

サクリ姉「…? どうしたの?」

(^p^)「オェーwwwwww」ビタビタビタ

サクリ姉「ちょっ……!? 大丈夫!?」

(^p^)「……」

サクリ姉「大丈夫?気持ち悪いの?」サスサス

(^p^)「すっぱいものが食べたい」

サクリ姉「え……」

(^p^)「ウメボシ」

サクリ姉「そ、そんな……どうして……」

サクリ姉「誰ですか! ウチの妹孕ませたのは!!」

男達「い、いや……」

サクリ姉「あんたか!!」

男達「し、知らないし……」

男達「いや、あいつが……」

男達「お前だって……」

サクリ姉「……お前ら全員穴兄弟か!!」

男達「……」


仕立て屋の若女将「泥棒猫!!可哀想な子だと思って世話を焼いてやったのにこの恩知らず!!」

パッシイィィァ

(^p^)「ウボァー」

サクリ姉「!?」

若旦那「お、おい……何もそこまで」

若女将「お前が言うな!!」ドゴォ

若旦那「うぐぅ!!」

サクリ姉(嗚呼…このひとは何を喚いているんだろう? 気持ち悪い……)

サクリ姉「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!」


若女将「うるせぇ!!」ドゴォ

サクリ姉「きゃああぁぁぁ!!」ゴロゴロゴロ


サクリ姉(緋く染まった視界……苦い土と錆びの味……)


「何の騒ぎか!!」

「ほら、この子は純潔だろうから……流行の処女懐胎だろ……」

「いや、悪魔だ。この子がある日顔を牛乳まみれにして俺を」

「なんという災いの種」

「マリア様の場合は確か」

「誰もガブリエルを見ていないぞ」

「ということは腹の子は悪魔の子だ!!」

「火炙りだ」

「そうだ、火炙りだ」

「悪魔の子は火炙りだ」


サクリ姉「あぁ……悪魔とはお前達のことだ!」


(^p^)「wwwwww」

「火炙りだ」

(^p^)(……この段階に至っても、誰も経緯の矛盾を指摘しない)

「火炙りだ」

(^p^)(無理からぬことだ)

「火炙りだ」

(^p^)(この、村という狭いコミュニティの中で、自らが罪をさらけ出すことは)

「火炙りだ」

(^p^)(すなわちコミュニティからの、何らかの形での除外を意味する)

「火炙りだ」

(^p^)(そしてその数が多数にのぼる場合、そのコミュニティ自体の崩壊に繋がることを本能的に理解しているのだろう)

「火炙りだ」

(^p^)(それならば当然、異端を選出しなければならない場合は、多少の矛盾は目を瞑った方が被害は少なくて済む)

若女将「火炙りだ!!」

(^p^)(あぁ、人とはなんと愚かで醜い生き物なのか……)

若旦那「ぎゃああぁぁ!!」ボオオォォ

(^p^)(そしてそれが堪らなく愛おしい)

サクリ姉「やめて……やめてえぇぇ!!」

(^p^)「お姉ちゃんwwwwww」

サクリ姉「いやあぁぁぁぁぁぁ!!」

(^p^)「ありがとう」

サクリ姉「え……」

サクリ姉(心無い言葉…心無い仕打ちが……)

サクリ姉(どれ程あの娘を傷付けただろう……)

サクリ姉(それでも全てを……)

サクリ姉(優しい娘だから……)

サクリ姉(全てを赦すのでしょうね……)


パチ……
……パキ

サクリ姉「……」

サクリ姉「でも、私は絶対赦さないからね……」

ゴオオオォォ…


サクリ姉「……」

サクリ姉「ふふ……」

サクリ姉「この世は所詮、楽園の代用品でしかないのなら……」

サクリ姉「罪深きモノは全て、等しく灰に帰るが良い!」


──裸足の娘 凍りつくような微笑を浮かべ
揺らめく焔 その闇の向こうに『仮面の男』を見ていた──

アビス「ご機嫌……!? あっつい!!」ゴロゴロゴロ

サクリ姉「!?」

アビス「燃えてる!? わああぁぁ!!」ゴロゴロゴロ

サクリ姉「誰だお前は!!」ボォー

アビス「や、やめたまえ!!」

サクリ姉「お前も穴兄弟の一人か!!」ボォー

アビス「違います!!」

サクリ姉「灰に帰れ!!」ボォー

アビス「あああぁぁぁぁ!!」ゴロゴロゴロ

アビス「……しかし、ミサの日に教会ごと燃やすとは思い切ったことをするお嬢さんだ」

サクリ姉「赦せない……だから……」

アビス「まぁ、彼らのその後の処遇に関しては、疑うべくも無く奈落行きだろうがね」

サクリ姉「そう……当たり前よね。ふふ……」

アビス(おっかねーなこの娘)

サクリ姉「貴方は、死神?」

アビス「まぁ似たようなものだが……」

サクリ姉「そう……次は、私を奈落に送るのね」

アビス「いいや、楽園にご招待しよう」

サクリ姉「……なんですって?」

アビス「我らが目指すのは楽園だ」

サクリ姉「……」

サクリ姉「そこに……妹はいるんですか?」

アビス「だから、探すのだよ」

サクリ姉「……じゃあ、逝きます」

アビス「うむ」

サクリ姉「あの子、一人では何もできないから……今頃きっと泣いているわ」

アビス「なるほど、それは早く見つけてあげないといけないねえ」

サクリ姉「はい」

アビス「さて、メンバー中殺害数トップの、罪無き可哀想なお嬢さん。共に楽園を目指すとしよう!」

サクリ姉「はい」



Sacrifice:おわり

お赦しください
後日、楽園パレード

———エルの絵本【笛吹き男とパレード】


「そのパレードは何処からやって来たのだろうか…」

 嗚呼…そのパレードは何処までも続いてゆく…


アビス「おぉ友よ!
    罪も無き囚人達よ、我らはこの世界という鎖から解き放たれた!
    来る者は拒まないが、去る者は決して赦さない!
    黄昏の葬列…楽園パレードへようこそ!」


ソロル「テンション高っ」

バロ子「何がそんなに楽しいんでしょう」

ルド子「なんかヤケになってない?」

サクリ姉「きっと神に愛されたのね」

スタダ子「生まれつきってこと?」

パレードは何処までも続いてゆく → 世界の果てを目指して


アビス「……」
ピィ〜ヒョロロロロ〜ピ〜ヨピ〜ヨピ〜ヨ

ソロル「なんか笛吹きだしたよ」

バロ子「なんであんなに多芸なんでしょう?」

ルド子「身体の弱い娘さんのために手段を選ばなかったとか何とか」

サクリ姉「でもあの風貌だと完全に変質者よね」

スタダ子「笛よりホラでも吹いてた方が似合うんじゃない?」

アビス「言いたい放題だな君達ぃ……」

少女「ハーメルンのホラ吹き男」

アビス「……」


先頭で仮面の男が笛を吹く → 沈む夕陽に背を向けて

パレードは何処までも続いてゆく → 世界の果てを目指して


アビス「……」
ピィ〜ヒョロロロロ〜ピ〜ヨピ〜ヨピ〜ヨ

少女「あーいよくーにー♪ 咽ぶラーフレンツェー♪」

アビス「!?」

ソロル「……え?」

バロ子「今とんでもない歌詞を」

少女「じゅーんけつのー♪ 花をちーらーしてー♪」

アビス「や、やめなさい! やめなさい!!」

ルド子「なにあの慌てっぷり」

サクリ姉「あの変態仮面が教えたんじゃない?」

スタダ子「救い様のない男だわホント」

少女「あーいぞうーもー♪ 知らぬラーフレンツェー♪」

アビス「わあぁぁぁ!!」


男の肩に座った少女が歌う → その笛の音に合わせて


スタダ子「こんな男のどこがよかったの?」

少女「む、昔は見た目麗しい青年だったのよ。いや、別に好きじゃないけど」

アビス「アハハァ、よく紅顔の美少年と謳われたものだよ」

サクリ姉「嘘でしょ」

ソロル「嘘」

少女「う、嘘じゃないし、いや別に好きでもなんでもないけど?」

バロ子「時の流れって残酷ですね」

ルド子「え? 今は今で、声とか渋くない?」

アビス「……おぉ友よ! 流石は年上好き筆頭! やはり分かる娘には分かるのだよ君達ィ!!」

少女「……ん?」

少女「ん?」

ルド子「え?」

少女「ん?」

ルド子「え、あ、いや、私の趣味ではないけどね?」

少女「……アハハそうだよねぇー」

アビス「フハハ、嫉妬かね? 妬くな妬くなみっともない!」

少女「!? はぁ!?」

スタダ子「なんだと?」

アビス「いや、星屑の女、君じゃない」

少女「妬いてないし!! 調子に乗るな!!」ゲシゲシ

アビス「フハハハハ」

スタダ子「イチャついてんじゃねーぞ」パァン

アビス「痛っ!? 警告無しで撃つのはやめたまえ!!」

少女「い、イチャついてないし!!」


心に深い傷を負った者にとって 抗えない魔性の音…

アビス「やぁ友よ!
    幸薄き隣人達よ、我らはこの世界という鎖から解き放たれた!
    来る者は拒まないが、去る者は決して赦さない!
    仮初めの終焉…楽園パレードへようこそ!」


ソロル「ノリノリだ……」

バロ子「ところでこれいつまで続くんでしょう?」

ルド子「終わらないんじゃない?」

サクリ姉「やっぱり?」

スタダ子「奈落の亡者なんてそんなものよね」

パレードは何処までも続いてゆく → 世界の果てを目指して


少女「本当、こんな無意味なこといつまで続けるの?」

アビス「勿論、楽園を見つけるまで!」

少女「……本当に馬鹿」

ルド子「……不毛な行為と思う?」

少女「笑っちゃうわ」

ルド子「……それなら君は、幸せなんだろね」ニヤニヤ

少女「…え?」

ソロル「うらやましい」

バロ子「爆発してください」

少女「え?え?」

サクリ姉「男なんてろくでもないって言ってるのに」

スタダ子「でもこればっかりはねぇ」

少女「……え!?」

アビス「いやぁー照れるなぁーフハハハハ」

少女「はぁー!? え!? いや、違う違う!! ……うわああぁぁぁん!!」バタバタ

ルド子「おぉ、真っ赤だ……」

少女「あ、赤くない! そう、夕陽、夕陽が!!」バタバタ


燃えるような紅い髪の女が踊る → 沈む夕陽に背を向けて

パレードは何処までも続いてゆく → 世界の果てを目指して


少女「ううぅぅぅ……この、この野郎……」ギリギリギリ

アビス「ぐっ……く……」

少女「全部お前のせいだ!!」ギリギリギリ

アビス「ちょ、キマってる、キマってるから……!!」パンパンパン

バロ子「ちょっとアビスさん!日のあるうちから屋外でペッティングとか止めてもらえますか!」

少女「ペッティング!?」

スタダ子「そういえば、首を絞めれば締まるのよね」

ソロル「あ、お兄様もそんなことを……」

サクリ姉「……それは兄としてどうなの?」

ソロル「いえ、変化が欲しかったので、私のほうからお願いして」

ルド子「ひえぇ……」

少女「……」

アビス「……試してみるか!?」

少女「……ッ!!」ギリギリギリ

アビス「ち、ちが……っ!! そうじゃない………ッ!!」パンパンパン


《気味が悪い》首吊り道化師の刺青が笑う → あの笛の音に合わせて

心に深い闇を飼った者にとって 逆らえない魔性の音…

笛の音に誘われ 一人また一人列に並んでゆく


アビス「やぁお嬢さん!」

アビス「御機嫌よう、我が友よ!」

アビス「おぉ、なんと嘆かわしい……」

アビス「では、共に楽園を目指そう!」

アビス「……あぁ、彼女こそ私のエリスなのだろうか!!」

ソロル「宗教の勧誘?」

バロ子「かなりのカルト系ですね」

少女「単なるロリコンじゃないの!!」ガッガッ

アビス「痛い!やめて!」


やがてそのパレードは 夕日を遮って地平線を埋め尽くす…

 喩えば箱舟を信じた少女…

アビス「サンホラカラオケランキングNo.1のヤンデレ妹!」

ソロル「目指すはお兄様ハーレム」

少女「ハーレム?」


 喩えば歪んだ真珠の乙女…

アビス「好きになった人が偶々同姓だっただけ!」

バロ子「えぇ、同性愛者というわけではありませんので」

少女「眼鏡曇ってるよ」


 喩えば収穫を誤った娘…

アビス「果実かと思った?残念首でした!最後に残されたのは果たして誰!!」

ルド子「収穫するぞー!」シャキーン

少女「なんで病んでる娘が多いの?」

 喩えば妹を犠牲にされた姉…

アビス「君だけちょっと異色じゃないかね?」

サクリ姉「あんたが誘ったんでしょ」

アビス「あぁ、アレかね、本当は愛しい妹を自分の手で無茶苦茶に汚したかったと……」

サクリ姉「は!?」

少女「あぁ……」

サクリ姉「察しないで!! ち、違うから!! ……違うよね?」


 喩えば星屑に踊らされた女…

アビス「君もちょっと他の娘らと比べると」

スタダ子「……ふぅん?」カチャ

アビス「え、あ、いや……」

スタダ子「何? 何が? 歳が?」パァン

アビス「オゥ!! 違います!ごめんなさい!!」

少女「あんたもう喋んない方がいいんじゃない?」


 誰も仮面の男ABYSSからは逃げられない…

アビス「ご機嫌よう、可哀相なお嬢さん! 楽園パレードへようこそ!」

少女「挟み込まれた四つの《楽園》に惑わされずに」

アビス「ちょ、早い、早い」

少女「垂直に堕ちれば其処は……」

アビス「ま、待ちなさい! 早いってば!」

少女「貴方のほうが早いじゃない」

アビス「!?」

スタダ子「くっ……wwwwww」ブルブル

バロ子「?」

サクリ姉「?」

笛の音を操って、一人また一人列に加えてゆく


ソロル「アビスさん……」

ルド子「かわいそうに……」

アビス「や、止めたまえ!! 違う!! そんな目で見るな!!」

スタダ子「変態ペドフィリアで早漏って救い様が無くない?」

アビス「早漏じゃない!! こいつの方が早い!!」

少女「意味が分からない」

アビス「分からないなら、その身体に思い出させてくれよう!!」ガッシ

少女「ちょ……!? 何!?」

アビス「私は覚えているぞ、お前の弱いところは全てな!!」

少女「何言ってんの!? ……ちょ、やだっ!!」

スタダ子「あ、とうとう手を出したわ」

バロ子「とことん最低ですね」

少女「ちょっと待ってっ……あっ、やだっ……!!」

サクリ姉「サクリファイアー」ボオオォォ

アビス「……あああぁぁぁぁぁ!?」ゴロゴロゴロ


やがてそのパレードは 夕陽を裏切って地平線を灼き尽くす…

嗚呼…そのパレードは何処までも続いてくゆく…


アビス「はぁ……はぁ……」

少女「最低! 最低!!」ゲシゲシ

アビス「すまない……」

少女「ぐ……馬鹿!! や、やるならもっと普通にしなさいよ!!」ゲシゲシ

アビス「……なぁ、ちょっとお願いがあるのだが」

少女「聞かない!!」

アビス「パパって呼んでくれると嬉しい……」

少女「……」

アビス「ほ、ほら、子持ちの家庭だと嫁が夫をパパって呼ぶことはよくあるだろう!」

少女「だ、誰が嫁よ! 最低! 最低!!」ゲシゲシ

アビス「ああぁぁぁぁぁ……」



「そのパレードは何処へ向かってゆくのだろうか…」

エルの絵本【笛吹き男とパレード】 おわり

次回、スタダ子

——StarDust

「彼女こそ…私のエリスなのだろうか…」

「お揃いね私達 これでお揃いね あぁ幸せ・・・」



——
———

男「ふぅっ……ふぅっ……く……っ」ギリリ

スタダ子「ぐ…………っ…ぁ……かっ……」

男「ふぅっ……」

スタダ子「げほっ……!! はっ、はっ……はぁっ……!!」

男「すまない、大丈夫かい?」

スタダ子「はぁ……大丈夫じゃないわよ、もう……痕になってない?」

男「……あぁ、少し」

スタダ子「もう……クセになったら責任とってよね?」

男「はは、は……」

「お揃いね私達 これでお揃いね あぁ幸せ…」



——
———

スタダ子(真っ赤な衣装)

スタダ子(真っ赤な洋靴)

スタダ子(真っ赤な口紅)

スタダ子(真っ赤な薔薇)

スタダ子「よーし、完璧…!」

「貴方の白い衣装も 今は鮮やかな深紅」



——
———

スタダ子「おはようございまーす」

「おぉ……」

「……すげぇ美人」

「おぉー!スタダ子ちゃん今日も気合入ってるね!!」

「スタダ子さん入りまーす!」

スタダ子(屑でも構わないわ いつか星になれるなら…)

スタダ子(……輝いてる? ねぇ、私輝いてる!?)

「お揃いね私達 これでお揃いね あぁ幸せ…」



——
———

スタダ子「綺麗な星空ね…」

男「君のほうが綺麗だよ…」

スタダ子「……よーくそんな歯の浮くような台詞、真顔で言えるわね?」

男「はは、でも、嫌いじゃないだろう…?」

スタダ子「……ふふっ」

「お揃いね私達 これでお揃いね あぁ幸せ…」



——
———

スタダ子(あら……チャペル?)

スタダ子(結婚式か……)

スタダ子(ふふ、私の柄じゃないかしら……でも)

スタダ子(…………え?)

スタダ子「……」

スタダ子「嘘」

「貴方の白い衣装も 今は—」



——
———

「それでは女性陣は前の方へ! それでは、次の幸せを掴むのは〜……」

見知らぬ女「いきまーす!」

男「ははは……」

見知らぬ女「それっ…!」

スタダ子「……っ」


「おぉっ、見事ブーケをキャッチしたのは……えーと……」

スタダ子「……」

男「……!?」

「おぉ……あの女」

「……すげぇ美人……誰?」


スタダ子「……」カチャ

男「おっ……」


パァン

スタダ子「……」

スタダ子「……何故?」

スタダ子「何故なの?」

スタダ子「……」

スタダ子「……何故なのよおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

スタダ子「はぁ……はぁ……っ!」

スタダ子(嫌…………)


「おぉ……おい、なんだ、女」

「あ?……すげぇ…黒……?」


スタダ子「はぁ……はぁ……っ!」

スタダ子(嫌…………)

スタダ子「はぁ……はぁ……っ!」

スタダ子(嫌だ…………)

スタダ子「はぁ……はぁ……っ!」

スタダ子(こんな…………)

凍てついた銀瑠璃の星々 燃え上がる滅びの煌きよ


スタダ子「待ってよ……はぁ、はぁっ……」

スタダ子「なんで……? はぁっ、はぁっ……」

スタダ子「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

スタダ子「嫌……!!」

スタダ子「あああっ……!!」

スタダ子「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


失くした楽園の夢を見る 私を導け《星屑の幻灯》

—想い出を過去の光として埋葬出来ない限り

スタダ子「あぁぁ……」

孤独な亡霊は荒野を彷徨い続けるだろう

スタダ子「あぁ……」

女の手は悲しい程に短く星屑には届かない

スタダ子「……」


カチャ


嗚呼…その手を握り返したのは『仮面の男』だった—

スタダ子「……え」

アビス「御機嫌よう……」

スタダ子「……」

アビス「可哀相な……おじょ……」

スタダ子「……」

アビス「……女性」

スタダ子「…………」

アビス「…………」

スタダ子「…………」パァン

アビス「熱っ!!」

スタダ子「なんで今言い直したの?」

アビス「い、いやぁ……遠目にはもう少し若いように見えたのだがね……?」

スタダ子「ほぉ……」カチン

パラパラ

アビス「思ったより、アレだ……お、大人っぽい子だなと思っただけで、うむ」

スタダ子「……」カチン

アビス「……あの、なんで弾を込めなおしてるのかね」

スタダ子「……ロシアンルーレットって知ってる?」

アビス「さ、さて……? すまない、あいにく現世の流行には疎いものでね……?」

スタダ子「へぇ」ガチガチガチガチパァン

アビス「熱っ!?」

スタダ子「で……貴方、何?」

アビス「あぁ……もし、君が望むのであれば、君を楽園へご招待しよう」

スタダ子「あー……やっぱりそういう類の人か……」

アビス「……」

スタダ子「ところで、奈落の間違いじゃなくて?」

アビス「君は楽園に何を求める?」

スタダ子「……そうね」

アビス「……」

スタダ子「あぁ、一発ぶん殴ってやりたいわ」

アビス「ならば、そこが君の楽園なのだろう」

スタダ子「……貴方、結構女たらしでしょう?」

アビス「何を言う、巷では一途過ぎるほど一途と言われているよ」

アビス「ところで、君の肩書きは何がいいだろうか?」

スタダ子「肩書き?」

アビス「うむ、我が同胞達に倣えば……Arkと書いて《箱舟》…
    他にもBaroque、Yield、Sacrifice……」

スタダ子「外見に似合わず洒落たことしてるわね……」

アビス「どうも」

スタダ子「急に言われても……えぇと……」

アビス「ならば……」

アビス「"Zexy"と書いて《婚活》でどうかな!?」

スタダ子「……」カチャ


パァン


StarDust:おわり

———エルの楽園 [→ side:A →]

誰かの呼ぶ声が聞こえた 少女はそれで目を覚ます

心地よい風に抱かれて 澄んだ空へと舞い上がる


チュンチュン チチチチ……

エル「……?」

エル「……うん?」

エル「あれ……?」

エル「ふわー……」

エル「すごく気持ちのいいところ」

エル「楽園……?」

誰かがね…泣いているの…


エル「うーん」

エル「気のせいかしら?」

(そうよ木の精よ)

エル「もう、そういうことじゃないわ」

(じゃ風の精かしら?)

エル「でも楽園で泣くはずないわよねー」

(ねー)

何処かでね…泣いているの…


エル「そういえば身体も痛くないわ」

エル「今なら全力疾走できそうよ」

エル「……楽園で泣くはずないよね」

(そうよ泣かないでね)

エル「だって楽園なんだもの」

(楽園だからこそ)

エル「……」


本当はね…知っているの…

(誰かがね…泣いているの…)

エル「……」

エル「……パパ」

エル「……」

エル「パパいない……」

エル「…………ひっく」

エル「うぅぅ……ぐす……」

エル「……うわーん! パパー!!」

エル「ぐすぐす……パパのアホ……うんこ……」

エル「……」

エル「……よくよく考えてみたら、実の娘に欲情するようなパパが楽園になんかいるはずないわ」

エル「良くて奈落、悪くて現世と奈落の間を永遠にさまよう船渡しとかだわ」

エル「……よし、奈落に行ってみよう」

エル「……パパがいない楽園なんて楽園じゃないし」

エル「私の楽園はパパなのよ」


第四の地平線 その楽園の正体は……

空は荒れ 木々は枯れて 花は崩れ朽ち果て

腐敗した大地が 闇の底へと堕ちてゆく……


エル「おぉ……奈落だー」

エル「なんだか雰囲気が住んでたお家にそっくりね」

エル「これはパパが確実にいそう、うふふ」


エルは生まれ エルは痛み エルは望みの果て

安らぎの眠りを求め 笑顔で堕ちてゆく……

"Ark"
 箱舟に托された願いたちは…

ソロル「え? 楽園だと悲しみも苦しみもないの?」

アビス「一般的な楽園ならそうだろうねぇ」

ソロル「えぇー、あの禁忌を犯す背徳感が肝なのに……そんなの楽園じゃない!」

アビス「君は大物だな」

"Baroque"
 歪んだ恋心のままに求め合い…

バロ子「パンツ食べたい」

アビス「私のでいいかね?」

バロ子「頭骨歪めましょうか?」

アビス「ハハハお手柔らかに頼むよ」

"Yield"
 理想の収穫を待ち望みながらも…

ルド子「スィーツ、ららスィーツ(笑)♪」

アビス「やめてよ」

ルド子「らら真っ赤なフルーツー♪」シャキン

アビス「やめて」

"Sacrifice"
 多大な犠牲を盲目のうちに払い続け…

サクリ姉「……」

アビス「もういい加減認めたらどうかね?」

サクリ姉「!?」ビク

アビス「認めれば楽になれるさ……自分が妹に欲情する重度のシスコンだったという事実を」

サクリ姉「違う違う違う!!……うわああぁぁぁぁ!!」

"StarDust"
 ついには星屑にも手を伸ばすだろう…

アビス「やっぱり《婚活》にしないか?」

スタダ子「……」

アビス「《婚活》に踊らされた女、とかぴったりだと思うんだが……」

スタダ子「貴方の白い衣装も、今は……」パァン

アビス「…あぁ、真っ赤、真っ赤に………」

挟み込まれた四つの《楽園》に惑わされずに

垂直に堕ちれば其処は……


アビス「ABYSS!!」


ソロル「……え、縦読み?」

バロ子「ここにきてそんなオチですか?」

ルド子「うわっ……鳥肌たってきた」

サクリ姉「だっさ」

スタダ子「くっさ」


アビス「……ラフレンツェ、みんながいじめるんだが」

ラフレンツェ「……」フイ

アビス「……うわーん! ママー!!」ガッシ

ラフレンツェ「ひっ!! きもい!!」

アビス「そんな邪険にしなくても」

ラフレンツェ「うるさい!」

アビス「知らぬ中でもあるまいに……」

ラフレンツェ「人生の汚点よ!」

アビス「……それは手厳しい、君との出会いは我が人生の中で最も輝かしい点の一つと考えているのだが」

ラフレンツェ「!?」

アビス「そう、それはまさに楽園を見つけたに等しい瞬間だった」

ラフレンツェ「ま、またそんな出任せを……!!」

アビス「嘘ではないよ、ラフレンツェ」

ラフレンツェ「ぐおぉ……!」


サクリ姉「また始まったわ」

スタダ子「口の上手い男ねぇ」

ルド子「詐欺師でもやってたのかな」

ラフレンツェ「じゃあどうして捨てたの!」

アビス「……すまない」

ラフレンツェ「……」

アビス「私にとっての楽園は別にあるが……だが私にとって、君が特別な存在であることに変わりは無い」

ラフレンツェ「……」グス

アビス「あと、生涯契った相手は君だけだった。そういえば」

ラフレンツェ「……」

アビス「君しか知らない」

ラフレンツェ「…………へ、へぇー」


バロ子「それって嬉しいんですか?」

ソロル「お兄様が他の女とまぐわってたら刺すけど……」

ルド子「収穫したけど……」

スタダ子「やがて黒に近付いたけど……」

サクリ姉「全てを灰に……いや、私のは違う、違う」

ラフレンツェ「……」

アビス「私が君の楽園となりえるならば、それはとても光栄に思う」

ラフレンツェ「……もう、捨てない?」

アビス「この状態では、もう捨てようもないし離れようも無いのではないか?」

ラフレンツェ「ふふ、そうね……そうよね……」

アビス「……さぁ、可哀相なお嬢さん、君も楽園を望むのならば、共に」

ラフレンツェ「えぇ、ふふ、ふふふ」


スタダ子「あぁ、駄目だ堕ちた……」

ソロル「なんだかイライラしてきた」

サクリ姉「やっぱりあの男は野放しにしといちゃいけない気がする」

アビス「では諸君、共に届かぬ楽園を目指そうか」

ラフレンツェ「……」

ラフレンツェ「………」

ラフレンツェ「…………」

ラフレンツェ「ねぇ、パパ?」

アビス「!?」ビク

ラフレンツェ「どうしたの、パパ? ふふ……」

アビス「あぁん!!」ガクーン


ルド子「膝から落ちた!」

バロ子「あれはどっちが勝ったんですか?」

スタダ子「あれはもうああいうプレイなのよきっと」


何処から来て 何処へ逝くの 全ては誰の幻想?

差し出された手に 気付かないままに堕ちてゆく…

エルは倦まれ エルは悼み エルは望みの涯

安らぎの眠りを求め 笑顔で堕ちてゆく…


エル「はぁー、パパいないなぁ」

エル「……?」

エル「誰かに呼ばれたような」

エル「あっちかな?」

エル「あっちかなー……」


──退廃へと至る幻想 背徳を紡ぎ続ける恋物語

痛みを抱く為に生まれてくる 哀しみ

幾度となく開かれる扉 第四の地平線──

その楽園の名は『ELYSION』またの名を『ABYSS』──


Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜

おわり

──Track44

ガチャバタン

「ただいま…エル」

「お帰りなさい、パパ…うふ」


その男の妄念が 永遠を孕ませるならば

物語という歴史は 幾度でも繰り返されるだろう

「ご飯にする? お風呂にする?」

「……」

「それとも……?」

「う、うおおおぉぉ!! エル、エルウウゥゥ!!」

「きゃっ! やーん、もう!!」

「うおおぉぉエル! エルうおおぉぉぉ!!」

「もう、がっつかないの……ふふ……うふふふふ」


退廃へと至る幻想 背徳をつむぎつづける恋物語

エルー! エルー!!
 キャー!!
   ガッシャァァゴロゴロゴロ


ルド子「2時間休憩って、そういう……」

ソロル「なんだかすごい音が……」

スタダ子「せめてもう少し声抑えなさいよ……」

バロ子「あれって普通なんですか?」

サクリ姉「いっそのことあの薄汚い小屋ごと灰に……ん?」

「はぁはぁはぁはぁ……」

「ふぅーっ……あは………っ……」

「……相変わらず肌が白いな君は」

「……ちょ、素に戻んないでよ……すごい恥ずかしいんだけど」

「白い分、すぐに赤くなる」

「ちょっ……!? ……っ!」

「分かりやすいな」

「ん…っ ……ッ!!」

エル「あっちからパパの声がー!!」ダダダダダ

ソロル「い、今駄目! 今駄目だって!!」

エル「パパが呼んでるー!!」ダダダダダ

バロ子「ちょ、止まって!! 止まってください!!」

エル「パパの声ー!!」ダダダダダ

ルド子「うわぁ、どうしよう……」

エル「パパだー!!」ダダダダダ

サクリ姉「考えうる最悪の事態なんだけど」

エル「あと誰かが泣いてる声がする!!」ダダダダダ

スタダ子「トラウマにならないように祈りましょう……」

エル「パパー!!!」ダダダダダ


痛みを抱くたびに生まれてくる

第四の地平線──その真実の名は……

アビス「うおおおおぉぉぉエル! エル!! えるぅぅぅ!!」ガッタンガッタン

ラフレンツェ「パパ!!パパああぁぁぁぁ!!」ガッタンガッタン


エル「……」

アビス「ぐおおおおぉぉぉぉああぁぁぁぁぁエル! エル!!」ギッコンバッタン

ラフレンツェ「素敵いいいぃぃパパあぁぁんんんんんん!!」ギッコンバッタン


エル「……パパ」


アビス「おおうパパだよ!! パパは、パパのアビスは今っ………………ん?」

ラフレンツェ「……え?」


エル「ねぇ…パパ」


アビス「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

ラフレンツェ「きゃああああああああああぁぁぁぁぁぁ!?」


エル「地獄だ……」

エル「パパ……」プルプル

アビス「エル!! 違うんだ!! これは!!」

ラフレンツェ「そうよ違うの!」

エル「ケツ丸出しで何してるのパパ……」プルプル

アビス「これは……プロレスごっこだ!!」

ラフレンツェ「そうよプロレスよ!」

エル「もう、そういうことじゃないわ」プルプル

ラフレンツェ「じゃレスリングかしら!」

エル「パパ、私にそっくりなその女の人は一体……」

アビス「お前のママだよ!!」

ラフレンツェ「あなたのママよ!」

エル「ママ……?」

アビス「ママ!!」

ラフレンツェ「ママ!」

エル「……ママー!!」ガッシ

ラフレンツェ「うわーかわいい」

アビス「いやぁ感動の再会だな! 奈落で!」ポロポロ

エル「それでパパとママは何をしてたの?」

アビス「……」

ラフレンツェ「……」

エル「……」

ルド子「3」

エル「え?」

アビス「!?」

ルド子「不安定な数字……はやくどれかを引かなければ……」ポン

エル「なるほど」シャキーン

アビス「やめろー! うちの娘に変な事吹き込むなー!!」

ラフレンツェ「ひいぃぃ……!!」

エル「両親の真っ最中に出くわす事ほど子供のトラウマになる事はないのよ」

アビス「すいません」

ラフレンツェ「ごめんなさい」

エル「しかも擬似親子プレイってどうなの」

アビス「すいません」

ラフレンツェ「ごめんなさい」

エル「人の親としてどうなの」

アビス「すいません」

ラフレンツェ「ごめんなさい」

エル「こんな駄目人間の元で暮らしていては駄目人間になってしまう」

アビス「うぅ……」ポロポロ

ラフレンツェ「そ、そう言わないで……エル」

エル「……ママは私が憎くないの?」

ラフレンツェ「……」

エル「私はママからパパを盗ったのよ」

ラフレンツェ「……」

アビス「……」

ラフレンツェ「すごいかわいい」ナデナデ

エル「ええぇ」

アビス「……」

ラフレンツェ「子供が一番よー」ナデナデ

エル「んー……」

アビス「……」

アビス「………」

エル「……? パパ?」

アビス「…………」

スタダ子「親子丼っていう食べ物があるのよ」

アビス「!?」

バロ子「へぇ、どんな食べ物なんですか?」

スタダ子「鶏肉を卵とじにしてご飯に乗っけるんだけどね」

ソロル「あぁ、だから親子……ん?」

スタダ子「そうなのよ、ねぇアビスさん?」

アビス「え!?」

サクリ姉「え?」

ルド子「ん?……え、まさか」

アビス「え!? いや、知らないよ!?」

エル「……」

ラフレンツェ「……」

アビス「……考えてないよ!?」

エル「こんな親の元にはいられない」

アビス「そんな!!」

ラフレンツェ「……」ナデナデ

エル「……?」

ラフレンツェ「………」ナデナデ

エル「え」

ラフレンツェ「…………」ナデナデ

エル「ママ?」

ラフレンツェ「え!? いやっ……考えてないよ!?」ジュルリ

エル「お世話になりました」

ラフレンツェ「そんな!?」

ソロル「あれ、エルちゃんお出かけ?」

エル「はい、ちょっと家出を」

バロ子「でもなんだかご両親が泣いてますけど」

エル「人違いでした」

ルド子「同情するわ」

エル「あと助けてください、裸マントが追いかけてくるんです」

サクリ姉「灰にしていい?」

エル「どうぞ」

スタダ子「銃貸そうか?」

エル「ありがとうございます」

アビス「エルー! エルウウゥゥゥ!!」

ラフレンツェ「ま、まちなさーい!!」

ソロル「うわ、裸マントと裸赤頭巾が」

スタダ子「新しいプレイ?」

サクリ姉「パンツぐらいはけば?」

アビス「見当たらなかったんだよ!!」

バロ子「ラフレンツェさんが履いてるのがアビスさんのじゃないですか?」

ラフレンツェ「えぇ、そうよ」

アビス「なんで!?」

ラフレンツェ「しかたないわね…ほら、私のパンツはいときなさいよ……」

アビス「しかたないな……」イソイソ

ルド子「履くんだ……」

アビス「よし! 諸君、このまま楽園を目指すとしよう!!」

ソロル「あ、終わらないんだ」

アビス「無論! 我等は我等の楽園に辿り着くまで歩みを止めないだろう!」

バロ子「まぁ楽園が家出しちゃいましたからね」

ルド子「もう修復不可能のような気がするんだけど」

サクリ姉「言っても聞かないでしょ」

スタダ子「悪霊って性質が悪いからね」

アビス「おぉ友よ!
    罪も無き囚人達よ、我らはこの世界という鎖から解き放たれた!
    来る者は拒まないが、去る者は決して赦さない!
    黄昏の葬列…楽園パレードへようこそ!」

ラフレンツェ「エルー!!」

アビス「エルー!!」

エル「楽園なんてなかった」


ABYSS 〜奈落幻想物語組曲〜

おわり

おわり

ごめんね、elysionしか知らないんだごめんね
あと自分の考察と差異があっても適当に読み替えてね

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