星南「貴女の顔、声、肢体、仕草、表情……。その全てが、私を……」

ことねぬい「…………」

星南「ことね…………ん」

ことねぬい「…………」

星南「ことね、ことね、ことね、ことね」

ことねぬい「…………」

星南「ことねっ！」

ことねぬい「…………」

星南「〜〜！！」

ことねぬい「…………」

星南「はぁ、はぁ、はぁはぁー……」

ことねぬい「…………」

星南「ことね…………」

星南「……！？」

星南「私、今、一体ナニを…………！？」

星南「（中指の不快感が、私の邪な心の証拠……）」

星南「……私、プロデューサー失格ね」


…………

——翌日、初星学園レッスン室前——


ことね「レッスン終ーわりっ。着替えて少し休んだらバイトだー」

麻央「ことね」

ことね「麻央寮長！」

麻央「レッスンがある日もバイト……大変じゃないかい？」

ことね「いやー、アイドルとして売れるのが1番だってわかってはいるんですケド……」

麻央「アイドルとして売れる、か。そうだね……」

麻央「例えば、ことねが一年の友達と話している時の感じ、出してみたらどうかな？」

ことね「え゛、見てたん……ですか？」

麻央「勿論さ」

ことね「うぐ……でもぉ、あれは可愛く無いしぃ」

麻央「ギャップがあって良いじゃないか」

ことね「あたしのは、アイドルファンが喜ぶものではないというか……」

麻央「それは、君が一人で考えたことだろう？」

ことね「まあ、そですケド」

麻央「そうだね……ボクが最近方針転換したのは知ってるかな？」

ことね「勿論です！　ちゃんと可愛さを押し出すようになりましたよね」

麻央「ちゃんと？」

ことね「あ、やべ」

麻央「いいんだ、やっとボクは可愛いボクを受け入れられるようになってきたところだ」

麻央「ボクも、一人で考えていた頃は、カッコイイボクしかあり得ないと思っていた」

麻央「でも、プロデューサーに言われて可愛さも押し出した今のボクは……謙遜せずに言えば、成功している」

ことね「…………」ｺﾞｸ

麻央「ボクの言う通りにしろということじゃなくてね。ことねも、プロデューサーが居たら……今の状況が改善されるんじゃないか？」

ことね「そりゃあ、居たらいーなーとは思いますケド、スカウトされてもいないですしぃ…… 」

麻央「良さそうな人に自分から売り込んだらいいじゃないか」

ことね「ぇえー？」

麻央「プロデューサー科の学生でまだ担当が居ない人や、掛け持ちの余裕がある人は居ると聞いている」

ことね「急に言われても……」

麻央「初対面の年上に話しかけることになるけど、君なら問題無いだろう？」

ことね「うーん……」

学P「ここに居ましたか、麻央さん」

麻央「プロデューサー！」

ことね「（この人が、ずっと燻っていた麻央ちゃん先輩を数ヶ月で売れっ子にした敏腕プロデューサー……）」

学P「後輩の藤田さんとお話ししていたんですね。お邪魔でしたか？」

麻央「丁度終わったところさ」

学P「では、迫るN.I.Aの打ち合わせをしましょう。構いませんか？」

麻央「いいよ、行こうか。……じゃあね、ことね。プロデューサーのこと、考えてみても損は無いハズだよ。勿論、ボクのプロデューサー以外でね」

ことね「あはは……そスね」

学P「では藤田さん、失礼します」

ことね「は、はい。どうも……」

ことね「…………」

ことね「プロデューサー、かぁ……」

〜〜〜〜〜

星南「ことね、私のモノになりなさい！」

〜〜〜〜〜

ことね「（もし、本当に、トップアイドルと遜色無い実力と経験を持ってるような人が、あたしのプロデューサーになってくれたら……）」

ことね「ってぇ、なんで会長が真っ先に思い付くんだぁー！」

ことね「（今のあたしじゃライバルには程遠いしぃ、いっそ会長のスカウトを本気にしてみる……？）」

ことね「（いや、いやいやいや！）」

ことね「（アレは劣等生のあたしをからかう冗談！　でなけりゃ気まぐれか道楽！ ……本気には、できない…………）」

ことね「（だって、"一番星"があたしなんかをスカウトする理由が見つからない。それに……憧れてる人からの好意がもし嘘だったら、あたしは、きっと、耐えられない）」

ことね「……はぁ」

…………

——初星学園、生徒会室——

星南「…………はぁ」

莉波「落ち込んでる？」

燕「腑抜けているな」

佑芽「ことねちゃん、かな？」

美鈴「おそらくそうでしょう」

千奈「星南お姉さま……」

星南「……皆、今日は一つ言うことがあるわ」

星南「私はことねのスカウトを……あ、諦める、わ……」

燕「正気に戻った……訳ではなさそうだな」

佑芽「会長……」

美鈴「……ふわ。二人とも、長くなりそうですし……私はお昼寝してきますね」

千奈「待ってください秦谷さんっ」

佑芽「会長、本気で落ち込んでるっぽいんだよ？」

美鈴「どうでもいいことです」

佑芽「確かにあたし達には影響無いかもだけどさぁー」

美鈴「いえ、影響はあります」

佑芽「え？」

美鈴「スカウトの成功は、生徒会入りを意味するでしょう？」

佑芽「ほんとだ！　じゃあことねちゃんと一緒に生徒会のお仕事してたかも……しれなかったんだ」

千奈「秦谷さんは、藤田さんのことをどう思っているのですか？」

美鈴「嫌いです」ｷﾞﾘ

千奈・佑芽「「！？」」ｿﾞｱｯ

美鈴「なので、藤田ことねさんが生徒会入りしなかったという点では喜ばしいですね」

佑芽「な、なるほど…….」

千奈「他の点は？」

美鈴「藤田ことねさんが生徒会入りしないならば……これまで通り、友だ……クラスメイトとしてまりちゃんと多くの時間を過ごすでしょう」

美鈴「…………それは、とても、恨めしい」ｷﾞﾘ

千奈「わ、わたくし、何回か月村さんのお世話になってますわーっ！？」

佑芽「あたしも、お姉ちゃん繋がりで……」

美鈴「ああ、いえいえ、お二人は私のお友達なので別にいいですよ。勿論、篠澤さんもです」

千奈「よ、良かったですわー」ﾎｯ

美鈴「話を戻しますと……藤田ことねさんがもしスカウトを受けていたら、まりちゃんと過ごす時間は大幅に減ったことでしょう」

千奈「そんなに減るでしょうか？　わたくし達も生徒会に入っていますが、篠澤さんとの時間が減ったとは……」

佑芽「いーや、会長とことねちゃんの場合なら減るね！」

美鈴「ええ、あの二人がくっつく訳ですからね。スカウトが嘘ということではないでしょうが、半ば建前かも知れません」

佑芽「そうだねっ」

千奈「……えっと、え……くっつく？　建前？？？？」

佑芽「…………」

美鈴「…………」

佑芽「……やめよっかこの話。そのままの千奈ちゃんでいてね！」

美鈴「そうですね。倉本さんはそのままの方が魅力的ですよ。……そもそも憶測な上に下世話な話ですし」

千奈「どういうことですのー！？」

——初星学園、校門付近——


莉波「ことねちゃん、ちょっといいかしら」

ことね「莉波先輩。悪いですケド、これからバイトなんでぇ」

ことね「（今日は3年の先輩によく会う日だナー）」

莉波「じゃあ単刀直入に聞くけど……会長と、何かあった？」

ことね「や、それがあ……あたしのことプロデュースしたいって言い寄られててぇ……」

莉波「ううん、それは知ってるの」

ことね「（いや知ってるんかーい！）」

莉波「昨日か今日、会長の様子がおかしいとかなかった？」

ことね「昨日はある意味いつも通りでぇ、今日は——」

ことね「（あれ、このところ毎日エンカウントしてたのに、今日はまだ会ってない？）」

ことね「——会ってないです」

莉波「ええと……ことねちゃんから何か言っちゃったりとかは……」

ことね「昨日は逃げちゃったりしましたがぁ、それもいつも通りなハズで……」

莉波「そう、なの？」

ことね「はい……」

莉波「（ことねちゃんじゃ、ない？　いや、ことねちゃん関連ではあるだろうけど、ことねちゃん自体ではない？うーん……今の私にはもう他に思いつかないなぁ……）」