監督「しずくさんー!次の死体B役お願いしますね」しずく「は、はい!」 (40)

私、桜坂しずく29歳!
高校卒業後に演劇の学校に入ったけどなんか違うなーと思って一年でやめたんだ!
その後色んな演劇のオーディションに参加してるけどちょい役しかもらえなくてこのままでいいのかと毎日自問自答の日々です。

しずく「死体になりきるんだ…死体に」

しずく「」

監督「では始めぃ!!!」

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(夜)

プシュッ

しずく「ごくごくごく」

しずく「ぷはー!!!ワイルドターキーバーボンハイボールだけが私の友達ですよ!疲労がポンと飛ぶわ!」

しずく「友達といえば…みんな元気でしょうか」

ピロリン

しずく「ライン…?誰からだろう」

しずく「え、かすみさん!?」

かすみ『おひさーしずこ!最近どう?』

しずく「えーと…『元気だよ、久しぶりだね』」

かすみ『だねー!でさ、いきなりなんだけどしず子って今幸せかな?』

しずく「唐突だな。幸せ…ではないよね」ポチポチ

『幸せではないかな。オーディションもほとんど落ちてるし』

かすみ『大変だね…。今日ラインしたのはね、しず子に幸せをプレゼントしたいからなんだ!』

しずく「……?」

かすみ『いきなりでごめんね!実は私の先輩が幸せになりたい人に向けのセミナーを行っているんだ!!良かったらしず子もどうかなって』

しずく「なんだそれ…まぁ暇だし演劇の経験として聞いておこうかな」

『いいよ』

かすみ『ありがとう!早速なんだけど明後日にあるんだ。それまでにアンケート答えておいて!』

しずく「URLが飛んできた…めんどくさいな。けどかすみさんと会うなんて5年ぶりくらいだよね。楽しみだな~」

(当日)

かすみ「おはようしず子!!」

しずく「久しぶりだねかすみさん。…ちょっと痩せた?」

かすみ「嬉しいこと言ってくれるね~」

しずく「あは…は」

しずく「(ちょっとどころじゃないよ。ガリガリじゃない!!かすみさんちゃんとご飯食べてるのかな?)」

かすみ「ほら、この建物」

しずく「う、うん」

ザワザワ…

しずく「結構人いるね」

かすみ「有名な先生だからね!」

『あーあー…皆さんこんにちは』

凛「きゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

花陽「教祖様ーーーーー!!!!」

しずく「へ?」

かすみ「教祖様ァァァァァァァ!!!!!!」

しずく「えぇ!?」

『うん、いい挨拶やね。大きな声で挨拶!こういう当たり前のことをすることで幸せはやってくるんや』

『ご存知かと思いますがウチはセミナー講師ノゾミです。皆さんよろしゅう』

ノゾミ『さて皆さん、今の人生満ち足りているかな?今のみんなは子供の頃思い描いていた自分になれているかな?』

しずく「……」

ノゾミ『おそらく、ほとんどの人がそうでないと思う。何で皆は努力して、働いて、夢を追いかけてきたはずなのにこうなったのか。けどな、多くの人が、お金や地位、物質的な豊かさを手に入れても、心の中にぽっかりと空いた穴を埋めることができないんや。

なんで人は幸せになれないのか。それはウチらが本当の幸せを知らんからや。世間で言われる幸せは一時的なものばかりで、真の充実感や安心感を与えてくれるもんとちゃう!!

けど幸福希会ではその「答え」を皆に伝えていこうと思っとるんや』

しずく「(うわあ………)」

希「まずはウチの幸せを皆にお裾分けや!!この希パワーがたっぷりと注入された壺…今なら何と15万円!!」

しずく「(これ悪徳宗教だ!!!こんなのに引っかかるバカいるの!?)」


絵里「はいはい!!」

にこ「へいへい!!」

海未「私が買います!!!」

しずく「うわぁ………」

かすみ「教祖様!!!!私が買います!!」

しずく「え……」

ノゾミ「お!そこの子はかすみちゃんやな。毎回参加してくれる敬虔な子や。特別にかすみちゃんに譲ったる!!!」

かすみ「やったーー!!」

穂乃果「おめでとう!」

ことり「おめでとう!!!」

イカれた時間は1時間ほど続きました。
その後かすみさんと2人でお茶をすることになりました。

かすみ「いやー今日は本当にいい日だったよ!教祖様に顔を覚えてもらえたし!!」

しずく「………」

かすみ「しず子は何も買わなくて良かったの??」

結局かすみさんは壺やら水やらを合計で35万円も買っていた。

しずく「(アホか)」

しずく「………最近ごはん食べてる?」

かすみ「ん?あはは、買うお金なくてさ…最近はスーパーでうどんをそのまま食べたりしてるよ。あとパン屋さんでバイトしてるから廃棄のパンとか貰ってるんだ」

しずく「そんなもの買えるお金あるのに食費には充てないの?」

かすみ「そんなものって酷いよ!これは希様のパワーがたっぷり詰まった……」

しずく「そんなものだよッッッ!!!!」

ガァン!!!

かすみ「ホギァッ!!!???」

思わず声を荒げて机を叩いてしまう私。
かすみさんは怯えた目でこちらを見ていた。

しずく「かすみさんにとっての幸せって何!?こんな詐欺みたいなものたくさん買ってまともにご飯も食べられ無くなるなんて、そんなの自分で自分を不幸にしてるだけじゃん!!!」

かすみ「ふ、不幸じゃないよ!!!今はまだだけど……これを買ったおかげで幸せが向こうから近づいてくるんだよ!」

しずく「一生待ってろ………」

私はボソッと呟くとそのまま店を出た。
帰り道、自然と涙が溢れてしまった。

(次の日)

監督「おい!死体B役、さっさと来い!!!」

しずく「は、はい!!(今日の監督は厳しいな)」

私は昨日のことがまだ頭の中をぐるぐる回っていた。
最愛のかすみさんがあんなイカれた宗教にハマっているなんて。
けど今は目の前の演技に集中しなきゃ………。

しずく「(私は死体……私は死体………)」

しずく「(………幸せなんて向こうからこないよ、かすみさん)」

しずく「(自分で勝ち取るしかないんだ)」

監督「こらぁ!死体B!!お前本当に死んでんのか!?演技が死んでるぞ!」

しずく「ひぃ!!すみません!!!」

監督「殺すぞテメェ!本物の死体になりてぇか!!」

(楽屋)

しずく「今日はかなり怒られたな……演技に集中できていない。反省しなきゃ」

部長「しずくー」

しずく「部長……」

部長は今回のドラマの主人公の妹役だ。
出演回も多く、メインのキャラといえる。

部長「あはは、卒業から10年以上経ってるのにまだ部長呼びか~」

しずく「だって名前無いじゃん」

部長「ま、いいけど。しずく今日ご飯行かない?」

しずく「行きたいですけどお金が……」

部長「そんなの私が払うよ。銀座行こう!」

しずく「え、えぇ……」

(銀座)

今の私ではとても入れないような高級イタリアンをご馳走してもらうことになった。

しずく「(名前無しのくせに私よりいいもの食べてる)」

やたらと大きなお皿に少量のパスタや肉やらが乗せられて運ばれてくる。
ワインを飲みつつ部長が私に話しかけてきた。

部長「ふ~…最近どう?」

しずく「どうって……」

部長「しずくももう芸歴は10年を超えているベテラン。メイン役を演じたことあったっけ?」

しずく「………いえ」

部長「そう、じゃあこれからどうなりたいと思っている?」

しずく「もちろん私の夢は大女優です。それは高校の頃から変わっていません」

部長「そうだよね。けど、一つ言いたいことがあって……しずくは人生においてもっと視野を広く持ってもいいってこと」

しずく「視野?」

部長「うん、経験を積むってやつかな。しずくの演技にまっすぐ向き合う姿勢は私も見習うべきところがある。けど演技が…なんというか最近薄いんだよね」

しずく「……」

部長「必死さは凄い伝わるよ。けど熱量だけあってもその役に同化ができてないんだよ」

しずく「そんな……どうすれば」

部長「死体B役が終わったらしばらくフリーでしょう。これを機に演技以外のことに目を向けるのもいいんじゃない?」

しずく「!!」

部長「肉美味い」モグモグ

しずく「(そうか…この人は私に演劇をやめろと言っているんだ)」

しずく「(いい年して才能もないんだから身を引けと言ってるんだ)」

ミシ…………。

フォークを掴む手に自然と力がこもる。
黒い感情が私の胸にモヤモヤと広がる。
部長の言葉で今まで見ようとしてこなかった私の醜い部分が顕在化したような気がした。

おちつけ………。

おちつけ………。

しずく「おち……つ……」

部長「?」

贅沢な時間が終わり、奢ってくれた部長にお礼を言い、まっすぐ家に帰った。

しずく「ファックッッッ!!!!!」

ガァン!!!!

しずく「名前無しの分際で説教すんな!!!!」

生まれて初めてモノに当たったかもしれない。
家賃3万円の風呂無しアパートの壁が私の拳で凹んでしまった。
けどそれを悔やむ心の余裕すらない。

しずく「誰かに言われて諦めるほど私の夢は脆くないんですよ………!」

けどこれからどうすれば?
部長の言う通り今回の死体B役が終われば仕事がなくなる。
貯金もほぼ無い。
実家も親の借金の返済で売り払われた。

しずく「自分の力でのしあがるしかない」

prrrr

その時スマホが鳴った。

何処からだろうと手に取ると東京の市外局番からだった。
普段なら知らない番号は取らないが今日はなぜか取ってしまった。

しずく「はい」

『こちら西木野病院です。桜坂しずくさんの携帯で間違い無いですか?』

しずく「えぇ…」

西木野病院はここらで1番大きくて有名な病院だ。
先生が美人で人気があると聞いたことがある。

『あなたの友達の中須かすみさんが入院しました』

しずく「えっ…!?」

(西木野病院)

しずく「かすみさん!!」

かすみ「しず子…来てくれたんだ!」

元気に私を迎えるかすみさん。
しかしその顔は先日私と会った時よりもやつれて骸骨のようになっていた。

真姫「栄養失調で運ばれてきたんです。あまりにあなたに会いたいというから本来禁止されてるけど特別に電話したんですよ」

しずく「そうだったんですか……」

かすみ「あはは…最近はうどんすら食べれてなかったからね。点滴が美味しいよ」チューチュー

真姫「口から飲まないでください」

しずく「(けどこれで……)」

かすみ「体を壊したのも私が希様のパワーが詰まったアイテムを揃えてないからだよね」

しずく「は?」

真姫「………」

かすみ「最近バイト入れてなかったからあまりセミナーに行けてなかったんだ。少し休んでからまた…」

しずく「かすみさんのバカっ!!!」

かすみ「ひぃっ!!」

しずく「そんな状態になってもあの悪徳商法に縋ろうとするなんて訳わかんないよ!!!」

かすみ「あ、悪徳じゃ無いよ!」

真姫「悪徳よ」

しずく「え?」

かすみ「先生……?」

真姫「失礼しました。しずくさん、少し話せますか?」

しずく「え、えぇ」

(廊下)

しずく「あの、さっきは…」

真姫「あの子の言ってる悪徳商法の教祖は紫色の髪の毛をした胡散臭い関西弁を話す女じゃなかった?」

しずく「!!……先生はその人のこと知っているんですか!?」

真姫「まぁ…色々とね。あの女は心の弱った人間に目をつけ、言葉巧みに自分の意のままに操る天才よ」

しずく「……」

真姫「分からず屋のかすみさんに腹を立てる気持ちは分かる。怒鳴る気持ちもね。けど、マインドコントロールされている人間に強制することは厳禁なの」

しずく「ならどうすれば……」

真姫「あの子と一緒にいてあげて希の矛盾点を自分で気づかせてあげることよ」

しずく「……分かりました」

演劇で成功を収めなければならない焦りもありますが、かすみさんの事も大事な私にそれを断るという選択肢はありませんでした。

セミナーに行った時かすみさんを突き放してしまった負目もあったのだと思います。

真姫「希も昔はいい子だったんだけどね………」

しずく「そうなんですか?」

真姫「ま、今があんなんじゃ説得力ないか。今日はもう帰りなさい」

しずく「はい…ありがとうございました。失礼します」

(帰り道)

しずく「人は脆くなるとすぐ本性が出る」

しずく「かすみさんもそこにつけ込まれたのかな」

心が弱い時、人間は何かに縋ろうとする。
それがかすみさんは宗教だったわけだ。

ピロン

しずく「ん……事務所から連絡だ」

事務所からは定期的に仕事のオーディションの通知が来る。
仕事に飢えていた私はさっそく文面に目を通した。

しずく「次の役は……主演か!やる気がでるね」

しずく「役は……「猟奇殺人犯」」

(しずくの家)

しずく「げひゃひゃひゃひゃ……お前を殺すぜー!」

かすみ「やめてしず子ー!!」

しずく「………どう?」

かすみ「うーん、多分落ちると思う」

しずく「酷い!!」

あれから1週間が経過した。
かすみさんは退院して私の家に遊びに来てくれた。
点滴と病院の食事のおかげか前と比べかなり血色は良くなっていた。
今は私の次のオーディションの練習に付き合ってもらっている。

かすみ「あはは……あとしず子になら殺されてもいいかな~なんちゃって」

しずく「………」

かすみさんは冗談のように言っているが、私には本気のように思えた。
だから私はかすみさんの両手を握って真っ直ぐ視線を合わせた。

かすみ「し、しず子……?」

しずく「冗談でもそういう事言わないで」

かすみ「う……ごめんなさい」

分かりやすくしょげるかすみさん。
私はそっと抱きしめる。

かすみ「うひゃあ!!」

しずく「(もう見捨てたりしないからね、かすみさん)」

演劇の練習が終わり、今日のスタジオに向かう私。
途中で忌まわしい建物が見えた。

しずく「………」

前回かすみさんと行ったセミナー会場だ。
ちょうど信者達がホクホク顔で怪しい壺やお札を持って出てくるところだった。

私は真姫さんと会話した内容を思い出す。

『あの子と一緒にいてあげて希の矛盾点を自分で気づかせてあげることよ』

しずく「あの悪徳宗教の矛盾点を気づかせる……か」

色々調べてみたが、真正面から信者に「あなたの信仰している宗教は間違っている」と言っても通じないそうだ。

何故なら宗教側でそういった言葉は異教徒の甘言だと言い聞かされるから。
こちらがどれだけ訴えかけてもかえって相手の信仰心を高めてしまう事につながる。
だからこそ自分で気付いて貰うのが一番良い。

しずく「難しいな……」

セミナー会場を尻目に私はスタジオへ急いだ。

しずく「」

監督「今日はいいじゃねぇか死体B役!!本物の死体かと思ったぜ!ひゃひゃひゃひゃ!」

しずく「ありがとうございます!!」

監督「死体が喋んな!!」

しずく「す、すみません」

(帰り道)

しずく「ふふ……今日は褒められましたね」

良い気分で帰路に着くも、帰りもセミナー会場を通らねばならないため嫌でも思考がそちらに傾く。

しずく「………」

会場には「東條教会」と書かれている。

しずく「一見普通のセミナー会場ですが実際はきちがい宗教施設なんですね」

こういった施設は「いかにも」な作りになっている所も多いが都会に自然と溶け込む東條教会はかえってタチが悪いな、と思った。

ギィ…ギィ………

しずく「あれ………」

風に揺られて東條教会の裏手に続くドアがギィギィと鳴っていた。
誰かドアを閉め忘れたのだろうか。

しずく「………」

魔が差した、と言わざるを得ない。
私は考えるより先に足が動いた。
空いているドアを通り、建物に無断で侵入してしまった。

子供ならイタズラで済むが大人の私は不法侵入罪、犯罪だ。バレたら全てを失う。
しかし相手も法を犯している団体だ。
私は躊躇わない事にした。

しずく「何かかすみさんの洗脳を解くきっかけがあるかも……」

1階は全ての部屋の電気が切れており人の気配を感じなかった。

しずく「流石にドアは戸締りされているか……」

敷地内を歩き回るが空いているドアは無い。
もう帰ろうかという時、それは起こった。

花陽「ギャアアアアアアアアア………!!!!」

しずく「っ!?」

かろうじてだが、確実に聞こえた人の「悲鳴」
建物内からだ。

しずく「はぁ……はぁ…………!」

まともな叫び声では無い。
中で拷問まがいの事が行われていることを感じさせる声だった。
私は恐怖で足を震わせながら窓を見た。

しずく「これを破れば………」

私は近くにあった石を掴んで窓にぶん投げた!!
バリィン!!と拳ほどの大きさの穴ができたため、手を突っ込みクレセント錠をこじ開け部屋内に侵入した。

そこは事務室のようだった。
私は帰りたい気持ちをなんとか胸の奥に押し込み、真実を明るみにする事にした。

1階に人の気配はない。
だが異様な……お経のような声がかすかに響いていた。

しずく「下から……地下からだ」

私は階段を探す。
かすみさんと行ったセミナー会場に近づくほど声は鮮明に聞こえてきた。

だが地下への道が分からない。

しずく「どこだ……どこだ……」

壇上に立ち周りを見渡す私。
そこで一部の床の色だけ変色している事に気づいた。
よく見たら取手も付いている。

しずく「よいしょ……!!」

取手を引っ張ると床が開き、地下への階段が出てきた。
ちょうど人が1人通れるサイズだ。

階段を降りるか逡巡していると地下から声が聞こえてきた。
段々声は近づいてくる。

しずく「やばい……どこかに隠れないと!」

私は掃除ロッカーの中に隠れて階段を観察する。
私が隠れて数秒後に地下から何人も信者達が出てきた。

そこまでは想像していた。
しかし彼らが持っていた「モノ」に私は息を呑んだ。

凛「この遺体はどうします?」

ことりの母「浄化しなければならないから処理場に運ぶぞ」

しずく「嘘でしょ……」

花陽「」

担架に人の遺体を乗せて運んでいたのだ。
その遺体は全裸で体中火傷後が酷かった。
目の前の光景が現実なのか分からず気を失いそうになった。

これからどうしよう……。
私は心臓がバクバク飛び出そうなほど振動させながら必死に考える。

ただでさえ限界なのにさらに信者は追い討ちをかけてきた。

にこ「おい!この窓破られているぞ!」

絵里「しかも開きっぱなしだ!だれか侵入しているんじゃないか!?」

しずく「ひっ!!!」

見つかったわけでもないのに自然と情けない声が漏れ出す。
そして反射的にロッカーのドアを押し除けて出てしまった。
ドアを開ける音を聞いていた信者達がこちらに近づいてくる。

逃げなきゃ!!!

ことりの母「いたぞ!!」

信者の1人にあっさり見つかってしまう。
私は脇目もふらずひたすら走る。

しずく「窓だ!!」

ことりの母「捕まえたぞ!!」

目の前に窓があるのに肩を掴まれてしまう私。
ここで捕まれば先ほどの遺体のように殺されるかもしれない……。

私は以前演劇で学んだ護身術を反射的に繰り出した。

しずく「りゃあああああ!!!!!」

掴まれた手を逆に掴み、背負い投げで信者を窓ガラスにぶん投げた。

バリィィィィィィィィン!!!!!!!

派手にガラスが割れて信者が外に投げ飛ばされた。
私も割れた窓から外に飛び出た。

しずく「このまま走って逃げる!」

ガシッ

ことりの母「逃さんぞ!!」

信者はしつこく私の足首を掴んで足止めしてくる。

しずく「離してください!!!」

私は全体重をかけて信者の喉仏を踏み抜いた。
べギィ!と嫌な音が響き信者が苦しそうに暴れている。

しずく「あ……」

ことりの母「ひゅー……ひゅ………」

息ができないのか喉元を押さえて必死に酸素を求めていた。
このままでは窒息で死んでしまうかもしれない。

しずく「………」

このまま逃げることもできる。
だが私は自分でも気付かないうちに割れたガラス片を手に取っていた。

しずく「早く逃げないと………」

ことりの母「ひゅー……ひゅー………」

何をしているの私?
こんなにガラスを強く握りしめて……手から血が出ているじゃない。

ザッザッ………

ことりの母「が……ひっ…………」

信者は近づく私から距離を取ろうと這いずって逃げようとする。
だが私は信者の顔面を踏みつけ、固定した。

ことりの母「あ、ぐ…………」

しずく「………」


そしてそのまま躊躇いなく信者の喉にガラスを突き刺す。
ブニュ、と肉が簡単に避けて傷口から噴水のように血が舞った。

ことりの母「ぶ、ぎゅ………あ……………」

信者はしばらく呻いた後動かなくなった。

しずく「あ………」

我に帰った私はとんでもない事をしてしまったという思いにかられた。
けどこれは後悔……ではない。
なんだろうこの感情は。

私は顔を上げて窓ガラスに映る自分の姿を見た。

そこには人を殺したとは思えないほど晴れやかな私の笑顔があった。

しずく「笑ってる……」

しずく「私……笑ってたんだ………」

凛「逃がすにゃ!!殺せぇ!!」

にこ「うおォォォォォォ!!!!!殺せ殺せ殺せェェェェ!!!!」

今日はオーディション当日。
題目は「我が殺人」
主人公が恨みを持つ相手をただ殺すだけでなく死体を芸術品のように加工して街中に放置するという先品だ。

しずく「この作品で私は大きく羽ばたいていきます!」

(オーディション会場)

しずく「さぁて……張り切っていきますよ!!」

部長「元気だねしずく」

しずく「部長……」

部長「前会った時と比べて随分明るくなったね。ま、とはいえしずくにオーディションの役を譲る気はないよ」

しずく「えぇ……」

しずく「(当然です。この前の言葉を撤回させてやるんですから…)」

(会場内)

監督「では桜坂さん開始!!」

しずく「あなたの魂はとても穢れていますッッッ!!!だから私が浄化して差し上げましょう!!!」

監督「ほう………」

ザワザワ……

スタッフ「あの子すごい気迫ね……」

スタッフ「○○さん(部長の本名)で決まりだと思ってたけど桜坂さんもいいじゃん」

部長「す、すごいな……まるで本物の……」

しずく「(たくさん練習しましたから)ウフフ」

監督「ヒエッ(何だ今の顔は……)」

あの日、「東條教会」は壊滅した。

いや、壊滅させられた、と言うべきか。

一人の猟奇殺人犯の手によって。

かすみ「……」

かすみ「ノゾミ様ばんざーい!!」ゴクゴクゴクゴク

かすみ「ヴ……」ドサッ

かすみ「」

必ずかすみさんを元に戻してあげる

その日はすぐ来ると思います

だって悪徳宗教はもういませんから

おしまい

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