デジタルモンスター研究報告会 season3 (60) 【現行スレ】


「以上が我々ジャスティファイアが、レアモン掃討作戦を行ったときの顛末だ」

パルタス氏が重い口ぶりで報告をした。
まさか、レアモンが潜んでいる鉱山の内部にヤツのアジトがあり、そんな激戦が繰り広げられただなんて…。
もしも先に知っていれば加勢に行けたかもしれないのに。

「我々も想定外だった。拠点があったことだけでなく、ヤツの戦力規模も。まさかレベル5デジモンを持ち出してくるとは…」

メタルティラノモンでしたっけ。
強かったんですね。

「シューティングスターモンの特攻をくらって死ななかったデジモンは初めて見た。しかもAAAの口ぶりからして、自己修復をしようとしていたようだ。もう一撃食らわせてやれば倒せたかもしれないが…、天使のようなデジモンがジオグレイモンの邪魔をした」

…蛮族さえ滅ぼせば、ヤツの戦力の大部分は削げたと思ったのに。

「くそ…!情けない…我々は国家防衛用の最終戦力だ!それがこのザマとは…!たかがクラッカー如きに!遅れを取るとは!こんなことでは血税を払っている国民達に示しがつかん!」

AAAの戦力が、ジャスティファイアの総攻撃に対処できるほどだなんて…。
これからメタルティラノモンを使って暴れるんでしょうか。

「ヤツが復活して暴れ始めたら手が付けられない…!手を打てないものか…」

我々の方でもセキュリティデジモン育成は進めています。
コマンドラモンがケンキモンになってからは、透明化能力を喪失したのでデジタマ採取ができてませんでしたが…
パルモンが進化したシュリモンが補い余るほどの活躍をし、次々と優秀な野生デジモンのタマゴを収集してます。

「…メガ、ハックモンとやらはまだ完成しないのか?そいつの力を使ってAAAのメインサーバーへ襲撃するという展望だったはずだが」

「AAAに通用するレベルにはまだ至ってないよ。それに、まだ足りないピースがある」

「足りないピース?」

「それは『AAAのサーバーへ侵入した状態でネットから切断されたら、サーバー内に閉じ込められる』という問題を解決できていないという点だ」

それはそうだ。
シュリモン達がAAAのサーバーに襲撃を仕掛けても、システムをネットから切断されたら…!

…ん?
確かAAAは、我々のサーバーにアイスデビモンやプラチナスカモンなど、『絶対に失いたくないデジモン』を送り込んできたよね。

今の話と同条件のはずだけど…
そのへんのリスク意識はどうなってたんだ?

「それがさ…ナニモンっていたでしょ。あの酒飲んでたオヤジみたいなデジモン。あいつはデジタルゲートを開く力を持っている。それがあれば、たとえスタンドアローンのシステムからでもデジタルワールドへ脱出できるんだ」

そういやいたな…!
AAAが蛮族という強大な戦力を持ちながら、あの事件のときまで本格的な襲撃に踏み込めなかったのは…
ナニモンの完成を待っていたからか!

「だから僕達がAAAのサーバーへ突撃する場合にも、僕達側でナニモン同様にデジタルゲー卜を開きデジタルワールドへ脱出する力を持つデジモンを開発しなきゃいけない」

アプリモンスターズの領域か…
で、できそう?メガ。

「…技術的にはできるかもしれない。だけど…うーん…なかなか難しい問題があってね」

なんで?

「デジタルゲートを開くソフトは、デジクオリアの関連アプリケーションだ。つまり権利元はカンナギ・エンタープライズだ。つまり本来、ネットワークライセンスをオンライン認証しなきゃ使っちゃいけないものなんだ。それをおいそれとアプモンに組み込んでいいものか…」

それを聞いたカリアゲが首を傾げる。
「アプモンを開発してるデジタルアソートは、カンナギと提携してるんだろ?だったらいいんじゃねーか?メガ」

「うーん…神木さんに頼めばどうにかしてくれるかな?彼はカンナギエンタープライズの全権を持ってるわけじゃなく、あくまで日本支部の管轄なんだよな」

パルタス氏は歯ぎしりをする。
「国家存亡級の危機だというのに、権利がどうこうで渋るほど神木のヤツは間抜けではないだろうが…、もしも神木のヤツが渋るようなら我々から話をする」

は、話をするって?

「超法規的措置をする」

そ、そんな…なんかヤクザみたいな…!

「はん?ケンよ。国家というものは古今東西、暴力装置の独占のおかげで成り立っているものだ。それを綺麗に飾り立てて御立派そうに見せかけているだけにすぎない。本質的に貴様が言ったそれと大差ない」

国防に関わってる人がそんな事言っちゃダメですよ!

「分かっているさ。我々はあくまで白い側を名乗る秩序の守護者だ。デジモンの開発においても白い手段を取らねばならん。面倒極まりないがな」

…そこがAAAとの違いなんでしょうね。
奴らは『黒い方法』でデジモンを育成する。

「忌々しいが、面倒な段取りを積まねばならん我々とはデジモン育成のスピードに差が出るのは致し方ないといえるな。ああ忌々しい、滅ぼしたいったらありゃしない」

それは同感です。

それで、確認できたAAAの戦力は?

「ムゲンマウンテンとやらに、ワイヤーゴーレモンという熱戦照射能力を持つデジモン達がいた。8体ほどはムシャモンやスターモン達が倒したが、それからも四方八方から熱戦が飛んでくることから察するに、まだまだいるだろう」

うげ…。
我々が死ぬほど苦労して育てた成熟期を、そんなにわんさか保有してるなんて…。

「あとは天使型のダルクモンと、そして…メタルティラノモン。ヤツは仕留めておきたかった…!チャンスはあったのだ…!だが、我々は国家防衛戦力だ。分の悪い賭けをするには、背負っているものが大きすぎる…!」

…惜しいですね。
我々のように身軽に動ける戦力が、そのサポートをできていていれば良かったんですが。

メタルティラノモン…
目下最大の脅威。
AAAがヤツを企業のサーバーにけしかけて暴れさせたらどうします?

「…唯一対抗できるのはシューティングスターモンだが…。そう無駄打ちできるものではない」

厄介ですね…。

…AAA視点…

本当に危なかった。
メタルティラノモンの自己再生能力は、あの場で即戦線復帰できるほどのものではない。
シューティングスターモンの突撃で大ダメージを受けた後に、ジオグレイモンから追撃を受けたらメタルティラノモンといえど死んでいただろう。

しかもメタルティラノモンが受けたダメージは、想定以上に凄まじいものだった。
5日で完治…などできるはずがない。生体組織や体内の機械類がメチャクチャだ。

今、一応死んでいないといえるのは、プラチナスカモン由来の粘菌型デジモンの特性に由来するものだ。
メタルティラノモンの体細胞は、それらが単独でアメーバのように振る舞うことができる性質を受け継いでいる。
故に今のこいつは粘菌の集まりが辛うじて栄養供給されて生きながらえているにすぎず「メタルティラノモン」という一個体の戦力としてはほぼ死んでいる。

レベル4デジモンの戦力か?あれが…
ジャスティファイアはとんでもない隠し玉を持っていたものだ。

それに…クソ!
苦労して育て上げたワイヤーゴーレモンが、11体中8体も殺された。
こいつらを育て上げて教育するのにどれだけ手間がかかったかを思い返すと苦虫を噛み潰したような表情にならざるを得ない。

だが、ハッタリとダルクモンのおかげで、どうにか本拠地を護りきれた。

ムゲンマウンテンには、ゴーレモンの熱戦を様々な箇所から発射できるように、故アイスデビモンが遺した特殊な光ファイバーケーブルが張り巡らせてある。

残り3体までゴーレモンを減らされてしまったが、ムゲンマウンテンへ潜伏し、この光ファイバーケーブルを使ってアジトの各地から四方八方の熱戦を浴びせることで、実際のワイヤーゴーレモンの数よりも多くいるように見せかけることができるのだ。

「自分の手札を実際より強いように見せかける」。
慎重な相手にほど良く効くフェイクだ。

しかし、メタルティラノモンが中途半端に生き残っていることが、我々クラッカーチームの活動の妨げになっている。

こいつはレベル5デジモン。
レベル4とは比較にならないほど高いDPを持つが故に、飯を食う量も半端じゃない。

それは瀕死の現在でも同じことだ。
臓器を破壊されて消化吸収能力を喪失しているくせに大食いだから、大量に採ってきた餌を細かくすりつぶしペースト状にしてから与えねばならん。

それも、本当にとんでもない大喰らいだ。
ただでさえ元通りに自己修復できるか怪しいのに、貴重なデジモン達の活動リソースをこの役立たずの餌収集に割かなくてはいけないとなると、本来やるべき活動がなにもできない。

本来は!メタルティラノモン自身に自分でデジタルワールドから餌を採らせる予定だったのだ!

そもそも、あの場でレアモンとプラチナスカモンをメタルティラノモンへとジョグレス進化させること自体が緊急措置だった。

我々クラッカーチームはこれまで、DPが少なく、尚且つスパイウェアやランサムウェアとして振る舞えるデジモンを作り上げてきた。
過剰戦力を持っていると維持コストが利益を上回るから、強ければ良いというものではないのだ。別に無為な破壊活動をして儲かるわけでもない。

だのに、そんな我々がレベル5という過剰戦力を常時維持し続けるというのが、そもそも大きな負債なのだ。
そんなに毎回働いてもらうようなものではないというのに。

…ズバモンやルドモンのような外付け武装タイプや、セキュリティチームのフレイドラモンのような一時的な戦力強化が理想なのだ。

だというのに…なんだこの状況は。
自分で飯をとってこれない状態の、こんな大食いを抱えていては、身動きがとれん!

ヒョーガモンやフックモンが採ってきたホエーモン肉の備蓄はどんどん減っている。
修復するまでこのまま待つことなどできるか!

どうしたものかと考えていたが…
そうだ。
こいつにはプラチナスカモンの特性と知能が引き継がれているのだ。

おい…
聞こえるかメタルティラノモン。

『…ガウ…』

最早貴様の自己修復なぞ待てん。
その肉体は自壊処理…破棄する。

『…グウゥ…』

だが!死して尚役に立ってもらうぞ、この私のために。
粘菌デジモンとしての能力を駆使し、その肉体からいくつかのデジタマを作れ。

『…ガウ…?』

貴様の優秀な遺伝子は、私の最高傑作のひとつだ。
水銀の体を持つプラチナスカモンと、強靭なティラノモンの遺伝子を併せ持つ存在。
それを廃棄するなどあってはならない。

貴様はゲレモンの遺伝子を継いでいるだろう?
ヤツは自身の肉体を分裂させて小さなズルモンとして生まれ変わる力を持つ。

それを応用し、肉体を分裂させデジタマとして転生しろ。
できんとは言わせんぞ。ん?

私がそう指示すると…
メタルティラノモンからチャットが来た。

『偉大なマスター ワガハイは ずっと マスターの使命に コミットし続けるゾ』

…そう文章が送られてきた後、メタルティラノモンの肉体は分裂し始めた。

しばらくすると、6個のデジタマが形成されていた。
ふむ…これでいい。
何が育つか…いや、『何を育てるか』。
決めねばなるまい。

その時、ある人物から通話がきた。

『ヒッヒッヒ…AAA様、い~いタマゴができましたねぇ…!』

QQ、喜べ。最高傑作のデジタマだ。
貴様に育てさせてやる。光栄に思え。

『勿論でございますゥゥ~…、ヒッヒ!最高のクラッカーデジモンちゃんを育ててみせますねェ~…!』

…この女はコードネーム『QQ』。
私が示した指針に従い、クラッカーデジモンの育成をしているババァだ。
この私が育成を任せるだけあって、育成の腕はいい。
腕がいいというよりも、異常な執着心が力の源だろう。

このババァは、かつてとある出来事で息子と孫を喪ったのだという。
その際の心の傷が、デジモン達へ愛情を注がせているのだろう。

…腕はいい、腕はいいのだが…
このババァは余計なことをする。
本来まだ狙う予定がなかったクレジットカード会社へ勝手にハッキングを仕掛け、結果としてルドモンとズバモンをセキュリティチームへ鹵獲させる結果となった。
あの件は未だに許せん!クソババァが…!
かつては私と同格の三ツ星クラッカーと認め『QQQ』と呼んでいたが、あの出来事がきっかけでランクを降格させQをひとつ減らしたのだ。

だが、マトモじゃないのも仕方ない。
マトモなやつは真っ当な方法で真っ当に社会に適合し、真っ当に稼ぐだろうからな。
我々のような犯罪組織に付き従う者達に、マトモさを求めるのはそもそもが無理筋だ。

セキュリティチームに、ジャスティファイア…!
『マトモな人材』を集められることが奴らの強み。そして我々との差だ。

続く

~ケン視点~
我々の研究所は随分デジモンの数が増えた。
シュリモンがたくさんデジタマを採取してくれたおかげである。

『やあ!おはよう諸君!調子はどうだね?』
スポンサーさんから通話が来た。
調子ですか、上々ですよ。
昔からいたパートナーデジモン達も、今や皆成熟期になりましたからね。
デジタマを産んだりしてます。

『ふむ。ではセキュリティデジモン開発を次の段階に進められる頃か。長かったねここまで』

カリアゲが首をかしげる。
「次の段階…?ってなんだっけ?」
メガがメガネをクイッと上げた。
「セキュリティデジモンの…『量産』ですね」

『その通りだよメガ君!君達本来の委託業務はセキュリティチームとしてクラッカーデジモンと戦うことではない。そのための研究開発だ』

「あ、そうだっけ。そういやそうだったな。…どう違うんだ?スポンサーさん」

「カリアゲ…。これからクラッカーデジモンの数が増えたら、僕達だけじゃ対処し切れないでしょ。この先ずっと、ランドンシーフを抱えてヘリで北へ南へ西へ東へと出張り続けるつもり?」

「そりゃしんどいよな…」

『そういうことだよメガ君!君達は非常に優秀な叩き台を作ってくれた。コマンドラモン、パルモン、マッシュモン、ブイモン…そしてデジタマモン。どれも優秀極まりないセキュリティデジモンだ!そして、それらは成熟期となり、デジタマを産めるようになった。ならば君達がこれまでにやってきたことを、セキュリティ専門チームへと委託すべきではないかな?』

それは助かりますね。
でも適正のある人材はいるんですか?
デジモンはロボットじゃありません。コミュニケーションがとれるように育てるためには、愛情を注げる飼い主が必要です。

『実はね、以前にデジタルペットとしてマッシュモンを端末とともに販売したことがあっただろう?その購入者の中から、とびきり優秀な者を選抜し、セキュリティの育成業務へスカウトしたんだ』

それはまた…!
でもあれ30万円するんですよね。かなりお高かったような。

『それだけの額を払えるほどデジタルモンスターへの関心が強いということだ。デジモンへの関心が薄い者を抜擢しても仕方がないだろう?』

…恐れ入りましたスポンサーさん。
私が提案したデジタルペット販売の案を、こういう形で活かすとは。

『ハーッハッハッハ!君達には立ち上げ時の技術的なサポートを頼むよ!』

クルエが不安そうにしている。
「でも、敵の戦力もインフレしてるし…、委託チームの成長期で太刀打ちできるのかな?」

『ある程度なら太刀打ちできるさ。前に説明した通り、クラッカーデジモンの主戦力は成長期だ。貴重な成熟期やメタルティラノモンを、おいそれと出撃できるものか』

「したじゃないですか、うちを攻めに来たとき!」

『ゲートを開けるナニモンが同伴だったからね。AAA自らが出撃するときはナニモンと共に成熟期を引き連れることもあるだろうが、全部が全部そうじゃないはずだ。委託チームの仮想的は、AAA本人じゃなくヤツの模倣犯だ』

「ああ…うちのセキュリティチームが下部組織を作るように、クラッカーも下部組織を作るだろうってことですか」

『前に大量のゲレモンによる陽動作戦をやってきたことがあっただろう?下部組織を陽動に使い、セキュリティをそちらへ引き寄せてから、AAAが本丸に攻め込むこともある。ならばせめてクラッカーの陽動部隊を蹴散らせるくらいの戦力は外部に欲しいところだ』

「そうですね…」

リーダーが口を開く。
「セキュリティチームは我々だけじゃないだろう。ジャスティファイアと、その他にもう一ついたはずだ。そいつらの動向は?」

『ああ、ローグ・ソフトウェアだね。彼らの状況もまあ似たようなものだよ。優れたセキュリティデジモンを開発している。君達とは全く異なるコンセプトでね』

「俺達とは全く異なるコンセプト?どういうことだ」

『君達のパートナーデジモンは、飼い主と心を通わせることで臨機応変な現場判断をするのが長所だ。しかしその一方で、人の愛情が籠もった知的教育という不確かな前準備を必要とする。一方、ローグ・ソフトウェアのデジモンは違う。完全に人間の命令・指示通りに働き、事前の知的教育を必要としない』

「なるほどな…。警察と提携するのも納得だ」

カリアゲがムっとしている。
「えぇ?納得か?なんか感じ悪いぞ」

「カリアゲは地元で農業をやっていたそうだな。今も草刈りや荷物運び、鋤引きは牛にやらせているか?」

「いやぁ…草刈機や軽トラ、トラクターなんか使うけど」

「そういうことだ。人はある時代までは家畜を役用に利用していたが、今や機械への置き換えが為されている。ローグ・ソフトウェアはその流れをいち早く見抜いていたということだ」

一旦ここまで

シンがスポンサーさんに問いかけた。
「それで、ローグソフトウェアはどんなデジモンを飼育してるんスか?」

『ンー、そこは守秘義務だ。いくら君達を応援しているからといって、情報を漏らすことはできないな!ハッハッハ!』

「知っといたほうが連携とか取りやすくなると思うんスけど…」

『彼らは警察と提携しているんだ。いかなるデジモンでどのように敵と戦うのか、手札は可能な限り伏せておいた方がいいという判断のようだ』

「そういう戦略なんスね」

我々以外のチームがどこからどうやってデジタマを採取し、どういうふうにデジモンを育成しているのか…興味がある。
だけど、そこは企業秘密ということなのだろう。

我々は我々で、より戦力を拡充させていこう。
少なくとも、メタルティラノモンに勝てないようではAAAは倒せない。

「ったく、そのメタルティラノモンってやつ、シューティングスターモンの全力の突撃をくらっても死なずに、自己再生しようとすたんだろ?信じらんねぇ、そんなのどうやって倒すんだよ…」
カリアゲがうなだれている。

「可能性はある」
リーダーがぼそりと呟いた。

「レベル5にはレベル5をぶつける。我々は既に、その可能性を手にしている」

レベル5をぶつける可能性…?
「エクスブイモンだ。ブイモンはジャスティファイアで鍛えられ、地獄の修行を終えて強大なDPをもつエクスブイモンへ進化した」

そうですね。
しかし、エクスブイモンがいくら強くても、そのメタルティラノモンに勝てるかどうか…

「エクスブイモンはブイモンの頃、土壇場でデジクロスの力を覚醒させた。その力を発動できれば…こちらもレベル5に到達できるかもしれない」

…デジクロスは短時間しかもちません。
時間との戦いになりそうですね。

でもデジクロスの相手は?
デジタマモンとのデジクロスで、エクスブイモンはフレイドラモンやライドラモンになれますが、レベル5ほどのDPじゃないですよ。

「…デジクロスの相手は、なにもデジタマモンだけに限定しなくていいだろう。デジクロスの仕組みを解析し、これから育てるデジモン達にもその力を与えることができれば…」

…勝機はあるかもしれませんね。

メガが腕を組みながら口を開いた。
「それよりまっさきに試すべき相手がいるんじゃない?」
え、誰?
「スティングモンだよ、ディノヒューモン農園の」
ああ!そうか…確かに!
「AAAは農園にとっての仇敵でもある。結託できる可能性はあるでしょ」
よし、早速試しに行こう。



そういうわけで、エクスブイモンがディノヒューモン農園に向かった。
さっそくスティングモンが出迎えた。
「ほう、親そっくりになったな。ブイブイが化けて出たようだ。どうだ、我々と共に暮らさないか」

「暮らさねえよ!オイラの家族はセキュリティチームだい!」

「フフ、そうか。それで?用はなんだ」

「オイラ、合体ができるようになったんだぞ!ちょっとデジクロスできるかどうか試してくれねーか?スティングモン」

「だからそのスティングモンという呼称はいい加減にやめろ。何度言えば分かる?私には盟友オサオサから貰ったグサグサという名がある。私を呼ぶならそう呼べ」

「お、おう…わかったよグサグサ」

「どれ、では試してみるぞ。準備をしろ」

「お、おう!いくぜグサグサ!デジクロス!」

エクスブイモンは精神を集中させた。
スティングはその隣に立ち、同じように精神を集中させた。

…だが。
デジクロスが発動しない。

「あれ?くっつかねーぞ?手抜いてんじゃねーのかグサグサ?」

「貴様の方こそ、私に合わせろ。ブイブイはやってのけたぞ」

「オマエがオイラに合わせろよ!」

「合わせようとしている!貴様も私に合わせろ!」

「オイラだってやろうとしてるって!」

「どこがだ下手糞!」

「なんだと!?やるかグサグサてめぇ!」

「いいだろう、我が子との合体無しで貴様がどれほどやれるものか試してやる」

そう言い、エクスブイモンとスティングモンは喧嘩をし、取っ組み合いを始めた。
な、何やってるんだ!

DPではエクスブイモンが勝っているが、どうなるか…?

結果は…
スティングモンがエクスブイモンを組み敷いた。

「く、くそ、つええなグサグサ…!」
「パワーは中々のものだ。だが動きに無駄が多い。なんだその力任せの戦い方は?ふざけているのか」
「ジャスティファイアで修行したってのに…!ちくしょー!」
「鍛えただけあってパワーは中々だと評価しているだろうが。戦い方を学べ」
「…へーい。ってか、バブンガモンはよくオマエと引き分けになれたな…」
「ヤツは強い。私が麻痺毒針の使用を解禁してやっと互角だ」
「オイラも負けねえぞ…!」

…まあデジクロスに頼らず、エクスブイモン自身がきちんと強くなる事が大事だね。

「そうだ、もののついでだ。貴様達、いま我々の農園が直面している危機に手を貸してくれ」

直面している危機…?
まさか翼人型デジモンか?
最近はデビドラモン達の勢力とやりあってるって聞いたけど…

「それよりもさらに厄介な奴らだ」

さらに厄介な奴ら…!?
そんなのがまだいるのか?心当たりないぞ!

つ、強いの?

「強いというか…そういう問題ではない。攻撃して倒すという手がとれない相手だ」

い、いったい何だ…?
見に行ってみよう。

つづく

スティングモンに連れられて、畑の様子を見に行った。
すると農作物の苗は……、どれもこれも白い糸でびっしりと覆われていた。
糸の中では何かがもぞもぞと大量に蠢いているのが見える。

「このムシ達だ…野菜の苗を食い荒らす。果物の木もぼろぼろだ。どうにもならん」
スティングモンは、遠くから糸まみれの農作物を指さす。

な、なんだこりゃ…?
デジドローンを近づけて観察してみよう。

「あまり近付くな!」
スティングモンがとっさにそう言ったので、デジドローンを空中で急静止させた。

その直後…
ひとつの苗から、二、三本の糸がデジドローンに向かって飛んできた。

うわ!
とっさに上昇し、ギリギリのところで糸を回避した。
危ない…危うくデジドローンが捕まるところだった。

私はデジドローンをあまり苗へ近寄らせずに、望遠モードで観察した。

すると、ようやく正体が見えてきた。
苗を覆う糸の巣の中には、黄色い幼虫型デジモンのクネモンが二~三体いる。
さらにその幼体とみられるププモンや、小さなデジタマがびっしりと詰まっており、苗を食い荒らしていた。

「い゛や゛ァァァァ!!!無理無理無理無理!!キッショ!!」
クルエが絶叫しながらモニタールームから走り去っていった。

こ、これが信徒以上の脅威なのか…?
確かにウジャウジャいて厄介だけども…

「こんな奴らぶっ倒してやるぜー!」
エクスブイモンは愛用の武器、スナイモンの鎌を取り出した。
これもだいぶ刃こぼれしてきたな…。

「うおりゃあ!」
そしてエクスブイモンは鎌を振りかざし、中のクネモンの頭部を切り裂いた。
「へへん楽勝!」

「まずい!」
スティングモンが叫んだ直後…
その苗に潜む二体のクネモンが、エクスブイモンに糸を飛ばしてひっつけた。

「ん?」
その直後…!
農園中の苗の巣が共鳴するかのように同時に、バチバチと音を立て始めた。

そして、エクスブイモンに凄まじい電撃が浴びせられた。
「が!がぎゃああああああああ!!!」
絶叫するエクスブイモン。
な、なんだ!?一旦離れろエクスブイモン!

「うぎゃああああああ!」
だがエクスブイモンは感電していて動けない。見たところスタンガン以上の電撃だ。プラズマがバチバチと音を立てている。

たかが成長期デジモン二体の電撃攻撃が、高DPの成熟期であるエクスブイモンをここまで制圧できるのか…!?
しかしやばい!このままじゃエクスブイモンが死んでしまう!助けないと…!

その時。
「シャアアッ!」
鳴き声とともに火炎放射が飛んできて、エクスブイモンと苗をつなぐ糸を焼いた。

「が…ぐはっ…」
エクスブイモンはばたりと倒れる。
そこへ駆け寄ったのは、全身が炎のオーラで纏われた二足歩行の爬虫類型デジモン、フレアリザモンだ。

フレアリザモンは、エクスブイモンを抱えてその場から離れた。

「う、うぅ…」
地面に横たわるエクスブイモンの肌には、紫色をした稲妻模様がびっしりと刻まれている。

これはリヒテンベルク図形…いわゆる雷紋だ。
電撃によるダメージが大きいということだ。

「だ…大丈夫かエクスブイモン!」
カリアゲが心配して声を張り上げる。
幸い、フレアリザモンが早く助けてくれたおかげで命に別状はなさそうである。

「なんなんだこれ…?ただのクネモンが、なんでこんなに強えんだ!」

それは確かに気になる。
強力なDPをもつ成熟期のエクスブイモンを瞬時に昏倒させるなど、いくらなんでも幼虫型デジモン二体の出力でできることじゃない。

スティングモンがエクスブイモンの体を水で冷やす。
「だから待てと言ったのだ。今の貴様と同じ対処をした元信徒のシャーマモン達が、何体も死んだぞ」

「さき…に…言え…よ…!」

リーダーがその様子を見て、何かに気付いたようだ。
「わかった…。直列回路だ」

直列回路…?

「一体一体のクネモンが発電できる電圧は決して強くはない。だが、畑の大量の苗を覆う巣は、それぞれが電線の糸で繋がっているんだ」

あ、確かに。
巣同士が糸で繋がっていますね。

「クネモン達は外敵が近付くと、電気信号によってコミュニケーションをとり、一斉に放電を行う。大量のクネモン達の電流が直列回路によって束ねられ、それがエクスブイモンを襲ったんだ」

…な、なんだそりゃ…!
それじゃ、糸を一本でもひっつけれたら、全部の苗の巣から一斉に電撃が伝わってくるってことですかリーダー!

「そういう原理のようだ。グサグサが言っていたことは過言じゃない…。これは只の暴力で略奪に来る信徒共よりはるかに手強い」

…しかし、今まで見てきたクネモンはこんな凶悪じゃありませんでしたよ!
そもそも群生じゃなかったですし!

「農園の働き手や類人猿デジモンがどんどん進化しているんだ。ならば害虫デジモンも驚異的なスピードで進化しているのだろう」

…ど、どうすんだこれ。

スティングモンはげんなりした様子だ。
「メラメラ(フレアリザモン)が火炎放射で焼けば、このムシ…クネモンといったか。こいつ単体を遠くから倒すことはできる。だが苗も燃えてしまう。そうなっては収穫ができず、我々は飢えてしまう」

巣の様子をデジドローンで観察すると…

突如巣の糸の隙間から、まるまる太った幼年期のププモンが大量に飛び立った。

「!まずい!殺せ、そいつらを!メラメラ!」

「ンバアアアア!」
スティングモンに指示されたフレアリザモンは火炎放射を放ち、何体かのププモンを空中で焼き尽くした。

だが十数体のププモンは生き残り…
散り散りになって飛びまわり、まだ無事な苗にくっついた。

その直後、ププモン達は一斉に光に包まれ…
それぞれの苗でクネモンに進化した。

「くそ!また増えたッ!クソ虫どもがッ!」
スティングモンは激昂し、苗についたばかりのクネモンに襲いかかる。

二~三体のクネモンは、スティングモンに糸を飛ばし、電撃攻撃を放つ。
「ぐっ…!この程度!もう慣れたぞッ!」

苗にくっついたばかりのクネモン達は、他の巣と接続していないため、大した電力を発揮できないようだ。
スティングモンは電撃に耐えながら、毒針でクネモン達を串刺しにした。

「ギュチイイッィ!」

そして、スティングモンはクネモン達をバリバリと捕食した。

「モグモグ…ふぅ。幸い毒は持っていないから、食おうと思えば食える。美味だ」

い、いいのか?グサグサ。
そんなの食べて。

「いいさ…もう手遅れだ」
他の前にくっついたクネモン達は、すでに苗を糸で覆い尽くし、他の巣との電線を接続完了したようだ。

なんて…
なんて凶悪な害虫だ…。
これを放置したらマジでこの農園滅ぶぞ。

なんとかできないのか…?

カリアゲが嫌そうな目でモニターを眺める。
「害虫対策といえば、殺虫剤や農薬だけど…。あの体のデカさじゃ薬が十分回らなさそうだな…」

仮にあのクネモン達を殺せる猛毒を作ったところで、それを野菜の苗に浴びせたら苗ごと死んじゃいそうだね。

「苗ごと、どころじゃねえ。土が死ぬ」
確かにそうかも…。

つづく

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