デジタルモンスター研究報告会 season3 (183)
前スレ
研究員「安価でデジモンを進化させる」
研究員「安価でデジモンを進化させる」 - SSまとめ速報
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デジタルモンスター研究報告会 season2(前編)
デジタルモンスター研究報告会 season2 - SSまとめ速報
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デジタルモンスター研究報告会 season2 後編
デジタルモンスター研究報告会 season2 後編 - SSまとめ速報
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デジタルモンスター研究報告会 season2 エピローグ
デジタルモンスター研究報告会 season2 エピローグ - SSまとめ速報
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…
「以上が我々ジャスティファイアが、レアモン掃討作戦を行ったときの顛末だ」
パルタス氏が重い口ぶりで報告をした。
まさか、レアモンが潜んでいる鉱山の内部にヤツのアジトがあり、そんな激戦が繰り広げられただなんて…。
もしも先に知っていれば加勢に行けたかもしれないのに。
「我々も想定外だった。拠点があったことだけでなく、ヤツの戦力規模も。まさかレベル5デジモンを持ち出してくるとは…」
メタルティラノモンでしたっけ。
強かったんですね。
「シューティングスターモンの特攻をくらって死ななかったデジモンは初めて見た。しかもAAAの口ぶりからして、自己修復をしようとしていたようだ。もう一撃食らわせてやれば倒せたかもしれないが…、天使のようなデジモンがジオグレイモンの邪魔をした」
…蛮族さえ滅ぼせば、ヤツの戦力の大部分は削げたと思ったのに。
「くそ…!情けない…我々は国家防衛用の最終戦力だ!それがこのザマとは…!たかがクラッカー如きに!遅れを取るとは!こんなことでは血税を払っている国民達に示しがつかん!」
AAAの戦力が、ジャスティファイアの総攻撃に対処できるほどだなんて…。
これからメタルティラノモンを使って暴れるんでしょうか。
「ヤツが復活して暴れ始めたら手が付けられない…!手を打てないものか…」
我々の方でもセキュリティデジモン育成は進めています。
コマンドラモンがケンキモンになってからは、透明化能力を喪失したのでデジタマ採取ができてませんでしたが…
パルモンが進化したシュリモンが補い余るほどの活躍をし、次々と優秀な野生デジモンのタマゴを収集してます。
「…メガ、ハックモンとやらはまだ完成しないのか?そいつの力を使ってAAAのメインサーバーへ襲撃するという展望だったはずだが」
「AAAに通用するレベルにはまだ至ってないよ。それに、まだ足りないピースがある」
「足りないピース?」
「それは『AAAのサーバーへ侵入した状態でネットから切断されたら、サーバー内に閉じ込められる』という問題を解決できていないという点だ」
それはそうだ。
シュリモン達がAAAのサーバーに襲撃を仕掛けても、システムをネットから切断されたら…!
…ん?
確かAAAは、我々のサーバーにアイスデビモンやプラチナスカモンなど、『絶対に失いたくないデジモン』を送り込んできたよね。
今の話と同条件のはずだけど…
そのへんのリスク意識はどうなってたんだ?
「それがさ…ナニモンっていたでしょ。あの酒飲んでたオヤジみたいなデジモン。あいつはデジタルゲートを開く力を持っている。それがあれば、たとえスタンドアローンのシステムからでもデジタルワールドへ脱出できるんだ」
そういやいたな…!
AAAが蛮族という強大な戦力を持ちながら、あの事件のときまで本格的な襲撃に踏み込めなかったのは…
ナニモンの完成を待っていたからか!
「だから僕達がAAAのサーバーへ突撃する場合にも、僕達側でナニモン同様にデジタルゲー卜を開きデジタルワールドへ脱出する力を持つデジモンを開発しなきゃいけない」
アプリモンスターズの領域か…
で、できそう?メガ。
「…技術的にはできるかもしれない。だけど…うーん…なかなか難しい問題があってね」
なんで?
「デジタルゲートを開くソフトは、デジクオリアの関連アプリケーションだ。つまり権利元はカンナギ・エンタープライズだ。つまり本来、ネットワークライセンスをオンライン認証しなきゃ使っちゃいけないものなんだ。それをおいそれとアプモンに組み込んでいいものか…」
それを聞いたカリアゲが首を傾げる。
「アプモンを開発してるデジタルアソートは、カンナギと提携してるんだろ?だったらいいんじゃねーか?メガ」
「うーん…神木さんに頼めばどうにかしてくれるかな?彼はカンナギエンタープライズの全権を持ってるわけじゃなく、あくまで日本支部の管轄なんだよな」
パルタス氏は歯ぎしりをする。
「国家存亡級の危機だというのに、権利がどうこうで渋るほど神木のヤツは間抜けではないだろうが…、もしも神木のヤツが渋るようなら我々から話をする」
は、話をするって?
「超法規的措置をする」
そ、そんな…なんかヤクザみたいな…!
「はん?ケンよ。国家というものは古今東西、暴力装置の独占のおかげで成り立っているものだ。それを綺麗に飾り立てて御立派そうに見せかけているだけにすぎない。本質的に貴様が言ったそれと大差ない」
国防に関わってる人がそんな事言っちゃダメですよ!
「分かっているさ。我々はあくまで白い側を名乗る秩序の守護者だ。デジモンの開発においても白い手段を取らねばならん。面倒極まりないがな」
…そこがAAAとの違いなんでしょうね。
奴らは『黒い方法』でデジモンを育成する。
「忌々しいが、面倒な段取りを積まねばならん我々とはデジモン育成のスピードに差が出るのは致し方ないといえるな。ああ忌々しい、滅ぼしたいったらありゃしない」
それは同感です。
それで、確認できたAAAの戦力は?
「ムゲンマウンテンとやらに、ワイヤーゴーレモンという熱戦照射能力を持つデジモン達がいた。8体ほどはムシャモンやスターモン達が倒したが、それからも四方八方から熱戦が飛んでくることから察するに、まだまだいるだろう」
うげ…。
我々が死ぬほど苦労して育てた成熟期を、そんなにわんさか保有してるなんて…。
「あとは天使型のダルクモンと、そして…メタルティラノモン。ヤツは仕留めておきたかった…!チャンスはあったのだ…!だが、我々は国家防衛戦力だ。分の悪い賭けをするには、背負っているものが大きすぎる…!」
…惜しいですね。
我々のように身軽に動ける戦力が、そのサポートをできていていれば良かったんですが。
メタルティラノモン…
目下最大の脅威。
AAAがヤツを企業のサーバーにけしかけて暴れさせたらどうします?
「…唯一対抗できるのはシューティングスターモンだが…。そう無駄打ちできるものではない」
厄介ですね…。
…AAA視点…
本当に危なかった。
メタルティラノモンの自己再生能力は、あの場で即戦線復帰できるほどのものではない。
シューティングスターモンの突撃で大ダメージを受けた後に、ジオグレイモンから追撃を受けたらメタルティラノモンといえど死んでいただろう。
しかもメタルティラノモンが受けたダメージは、想定以上に凄まじいものだった。
5日で完治…などできるはずがない。生体組織や体内の機械類がメチャクチャだ。
今、一応死んでいないといえるのは、プラチナスカモン由来の粘菌型デジモンの特性に由来するものだ。
メタルティラノモンの体細胞は、それらが単独でアメーバのように振る舞うことができる性質を受け継いでいる。
故に今のこいつは粘菌の集まりが辛うじて栄養供給されて生きながらえているにすぎず「メタルティラノモン」という一個体の戦力としてはほぼ死んでいる。
レベル4デジモンの戦力か?あれが…
ジャスティファイアはとんでもない隠し玉を持っていたものだ。
それに…クソ!
苦労して育て上げたワイヤーゴーレモンが、11体中8体も殺された。
こいつらを育て上げて教育するのにどれだけ手間がかかったかを思い返すと苦虫を噛み潰したような表情にならざるを得ない。
だが、ハッタリとダルクモンのおかげで、どうにか本拠地を護りきれた。
ムゲンマウンテンには、ゴーレモンの熱戦を様々な箇所から発射できるように、故アイスデビモンが遺した特殊な光ファイバーケーブルが張り巡らせてある。
残り3体までゴーレモンを減らされてしまったが、ムゲンマウンテンへ潜伏し、この光ファイバーケーブルを使ってアジトの各地から四方八方の熱戦を浴びせることで、実際のワイヤーゴーレモンの数よりも多くいるように見せかけることができるのだ。
「自分の手札を実際より強いように見せかける」。
慎重な相手にほど良く効くフェイクだ。
しかし、メタルティラノモンが中途半端に生き残っていることが、我々クラッカーチームの活動の妨げになっている。
こいつはレベル5デジモン。
レベル4とは比較にならないほど高いDPを持つが故に、飯を食う量も半端じゃない。
それは瀕死の現在でも同じことだ。
臓器を破壊されて消化吸収能力を喪失しているくせに大食いだから、大量に採ってきた餌を細かくすりつぶしペースト状にしてから与えねばならん。
それも、本当にとんでもない大喰らいだ。
ただでさえ元通りに自己修復できるか怪しいのに、貴重なデジモン達の活動リソースをこの役立たずの餌収集に割かなくてはいけないとなると、本来やるべき活動がなにもできない。
本来は!メタルティラノモン自身に自分でデジタルワールドから餌を採らせる予定だったのだ!
そもそも、あの場でレアモンとプラチナスカモンをメタルティラノモンへとジョグレス進化させること自体が緊急措置だった。
我々クラッカーチームはこれまで、DPが少なく、尚且つスパイウェアやランサムウェアとして振る舞えるデジモンを作り上げてきた。
過剰戦力を持っていると維持コストが利益を上回るから、強ければ良いというものではないのだ。別に無為な破壊活動をして儲かるわけでもない。
だのに、そんな我々がレベル5という過剰戦力を常時維持し続けるというのが、そもそも大きな負債なのだ。
そんなに毎回働いてもらうようなものではないというのに。
…ズバモンやルドモンのような外付け武装タイプや、セキュリティチームのフレイドラモンのような一時的な戦力強化が理想なのだ。
だというのに…なんだこの状況は。
自分で飯をとってこれない状態の、こんな大食いを抱えていては、身動きがとれん!
ヒョーガモンやフックモンが採ってきたホエーモン肉の備蓄はどんどん減っている。
修復するまでこのまま待つことなどできるか!
どうしたものかと考えていたが…
そうだ。
こいつにはプラチナスカモンの特性と知能が引き継がれているのだ。
おい…
聞こえるかメタルティラノモン。
『…ガウ…』
最早貴様の自己修復なぞ待てん。
その肉体は自壊処理…破棄する。
『…グウゥ…』
だが!死して尚役に立ってもらうぞ、この私のために。
粘菌デジモンとしての能力を駆使し、その肉体からいくつかのデジタマを作れ。
『…ガウ…?』
貴様の優秀な遺伝子は、私の最高傑作のひとつだ。
水銀の体を持つプラチナスカモンと、強靭なティラノモンの遺伝子を併せ持つ存在。
それを廃棄するなどあってはならない。
貴様はゲレモンの遺伝子を継いでいるだろう?
ヤツは自身の肉体を分裂させて小さなズルモンとして生まれ変わる力を持つ。
それを応用し、肉体を分裂させデジタマとして転生しろ。
できんとは言わせんぞ。ん?
私がそう指示すると…
メタルティラノモンからチャットが来た。
『偉大なマスター ワガハイは ずっと マスターの使命に コミットし続けるゾ』
…そう文章が送られてきた後、メタルティラノモンの肉体は分裂し始めた。
しばらくすると、6個のデジタマが形成されていた。
ふむ…これでいい。
何が育つか…いや、『何を育てるか』。
決めねばなるまい。
その時、ある人物から通話がきた。
『ヒッヒッヒ…AAA様、い~いタマゴができましたねぇ…!』
QQ、喜べ。最高傑作のデジタマだ。
貴様に育てさせてやる。光栄に思え。
『勿論でございますゥゥ~…、ヒッヒ!最高のクラッカーデジモンちゃんを育ててみせますねェ~…!』
…この女はコードネーム『QQ』。
私が示した指針に従い、クラッカーデジモンの育成をしているババァだ。
この私が育成を任せるだけあって、育成の腕はいい。
腕がいいというよりも、異常な執着心が力の源だろう。
このババァは、かつてとある出来事で息子と孫を喪ったのだという。
その際の心の傷が、デジモン達へ愛情を注がせているのだろう。
…腕はいい、腕はいいのだが…
このババァは余計なことをする。
本来まだ狙う予定がなかったクレジットカード会社へ勝手にハッキングを仕掛け、結果としてルドモンとズバモンをセキュリティチームへ鹵獲させる結果となった。
あの件は未だに許せん!クソババァが…!
かつては私と同格の三ツ星クラッカーと認め『QQQ』と呼んでいたが、あの出来事がきっかけでランクを降格させQをひとつ減らしたのだ。
だが、マトモじゃないのも仕方ない。
マトモなやつは真っ当な方法で真っ当に社会に適合し、真っ当に稼ぐだろうからな。
我々のような犯罪組織に付き従う者達に、マトモさを求めるのはそもそもが無理筋だ。
セキュリティチームに、ジャスティファイア…!
『マトモな人材』を集められることが奴らの強み。そして我々との差だ。
続く
~ケン視点~
我々の研究所は随分デジモンの数が増えた。
シュリモンがたくさんデジタマを採取してくれたおかげである。
『やあ!おはよう諸君!調子はどうだね?』
スポンサーさんから通話が来た。
調子ですか、上々ですよ。
昔からいたパートナーデジモン達も、今や皆成熟期になりましたからね。
デジタマを産んだりしてます。
『ふむ。ではセキュリティデジモン開発を次の段階に進められる頃か。長かったねここまで』
カリアゲが首をかしげる。
「次の段階…?ってなんだっけ?」
メガがメガネをクイッと上げた。
「セキュリティデジモンの…『量産』ですね」
『その通りだよメガ君!君達本来の委託業務はセキュリティチームとしてクラッカーデジモンと戦うことではない。そのための研究開発だ』
「あ、そうだっけ。そういやそうだったな。…どう違うんだ?スポンサーさん」
「カリアゲ…。これからクラッカーデジモンの数が増えたら、僕達だけじゃ対処し切れないでしょ。この先ずっと、ランドンシーフを抱えてヘリで北へ南へ西へ東へと出張り続けるつもり?」
「そりゃしんどいよな…」
『そういうことだよメガ君!君達は非常に優秀な叩き台を作ってくれた。コマンドラモン、パルモン、マッシュモン、ブイモン…そしてデジタマモン。どれも優秀極まりないセキュリティデジモンだ!そして、それらは成熟期となり、デジタマを産めるようになった。ならば君達がこれまでにやってきたことを、セキュリティ専門チームへと委託すべきではないかな?』
それは助かりますね。
でも適正のある人材はいるんですか?
デジモンはロボットじゃありません。コミュニケーションがとれるように育てるためには、愛情を注げる飼い主が必要です。
『実はね、以前にデジタルペットとしてマッシュモンを端末とともに販売したことがあっただろう?その購入者の中から、とびきり優秀な者を選抜し、セキュリティの育成業務へスカウトしたんだ』
それはまた…!
でもあれ30万円するんですよね。かなりお高かったような。
『それだけの額を払えるほどデジタルモンスターへの関心が強いということだ。デジモンへの関心が薄い者を抜擢しても仕方がないだろう?』
…恐れ入りましたスポンサーさん。
私が提案したデジタルペット販売の案を、こういう形で活かすとは。
『ハーッハッハッハ!君達には立ち上げ時の技術的なサポートを頼むよ!』
クルエが不安そうにしている。
「でも、敵の戦力もインフレしてるし…、委託チームの成長期で太刀打ちできるのかな?」
『ある程度なら太刀打ちできるさ。前に説明した通り、クラッカーデジモンの主戦力は成長期だ。貴重な成熟期やメタルティラノモンを、おいそれと出撃できるものか』
「したじゃないですか、うちを攻めに来たとき!」
『ゲートを開けるナニモンが同伴だったからね。AAA自らが出撃するときはナニモンと共に成熟期を引き連れることもあるだろうが、全部が全部そうじゃないはずだ。委託チームの仮想的は、AAA本人じゃなくヤツの模倣犯だ』
「ああ…うちのセキュリティチームが下部組織を作るように、クラッカーも下部組織を作るだろうってことですか」
『前に大量のゲレモンによる陽動作戦をやってきたことがあっただろう?下部組織を陽動に使い、セキュリティをそちらへ引き寄せてから、AAAが本丸に攻め込むこともある。ならばせめてクラッカーの陽動部隊を蹴散らせるくらいの戦力は外部に欲しいところだ』
「そうですね…」
リーダーが口を開く。
「セキュリティチームは我々だけじゃないだろう。ジャスティファイアと、その他にもう一ついたはずだ。そいつらの動向は?」
『ああ、ローグ・ソフトウェアだね。彼らの状況もまあ似たようなものだよ。優れたセキュリティデジモンを開発している。君達とは全く異なるコンセプトでね』
「俺達とは全く異なるコンセプト?どういうことだ」
『君達のパートナーデジモンは、飼い主と心を通わせることで臨機応変な現場判断をするのが長所だ。しかしその一方で、人の愛情が籠もった知的教育という不確かな前準備を必要とする。一方、ローグ・ソフトウェアのデジモンは違う。完全に人間の命令・指示通りに働き、事前の知的教育を必要としない』
「なるほどな…。警察と提携するのも納得だ」
カリアゲがムっとしている。
「えぇ?納得か?なんか感じ悪いぞ」
「カリアゲは地元で農業をやっていたそうだな。今も草刈りや荷物運び、鋤引きは牛にやらせているか?」
「いやぁ…草刈機や軽トラ、トラクターなんか使うけど」
「そういうことだ。人はある時代までは家畜を役用に利用していたが、今や機械への置き換えが為されている。ローグ・ソフトウェアはその流れをいち早く見抜いていたということだ」
一旦ここまで
シンがスポンサーさんに問いかけた。
「それで、ローグソフトウェアはどんなデジモンを飼育してるんスか?」
『ンー、そこは守秘義務だ。いくら君達を応援しているからといって、情報を漏らすことはできないな!ハッハッハ!』
「知っといたほうが連携とか取りやすくなると思うんスけど…」
『彼らは警察と提携しているんだ。いかなるデジモンでどのように敵と戦うのか、手札は可能な限り伏せておいた方がいいという判断のようだ』
「そういう戦略なんスね」
我々以外のチームがどこからどうやってデジタマを採取し、どういうふうにデジモンを育成しているのか…興味がある。
だけど、そこは企業秘密ということなのだろう。
我々は我々で、より戦力を拡充させていこう。
少なくとも、メタルティラノモンに勝てないようではAAAは倒せない。
「ったく、そのメタルティラノモンってやつ、シューティングスターモンの全力の突撃をくらっても死なずに、自己再生しようとすたんだろ?信じらんねぇ、そんなのどうやって倒すんだよ…」
カリアゲがうなだれている。
「可能性はある」
リーダーがぼそりと呟いた。
「レベル5にはレベル5をぶつける。我々は既に、その可能性を手にしている」
レベル5をぶつける可能性…?
「エクスブイモンだ。ブイモンはジャスティファイアで鍛えられ、地獄の修行を終えて強大なDPをもつエクスブイモンへ進化した」
そうですね。
しかし、エクスブイモンがいくら強くても、そのメタルティラノモンに勝てるかどうか…
「エクスブイモンはブイモンの頃、土壇場でデジクロスの力を覚醒させた。その力を発動できれば…こちらもレベル5に到達できるかもしれない」
…デジクロスは短時間しかもちません。
時間との戦いになりそうですね。
でもデジクロスの相手は?
デジタマモンとのデジクロスで、エクスブイモンはフレイドラモンやライドラモンになれますが、レベル5ほどのDPじゃないですよ。
「…デジクロスの相手は、なにもデジタマモンだけに限定しなくていいだろう。デジクロスの仕組みを解析し、これから育てるデジモン達にもその力を与えることができれば…」
…勝機はあるかもしれませんね。
メガが腕を組みながら口を開いた。
「それよりまっさきに試すべき相手がいるんじゃない?」
え、誰?
「スティングモンだよ、ディノヒューモン農園の」
ああ!そうか…確かに!
「AAAは農園にとっての仇敵でもある。結託できる可能性はあるでしょ」
よし、早速試しに行こう。
…
そういうわけで、エクスブイモンがディノヒューモン農園に向かった。
さっそくスティングモンが出迎えた。
「ほう、親そっくりになったな。ブイブイが化けて出たようだ。どうだ、我々と共に暮らさないか」
「暮らさねえよ!オイラの家族はセキュリティチームだい!」
「フフ、そうか。それで?用はなんだ」
「オイラ、合体ができるようになったんだぞ!ちょっとデジクロスできるかどうか試してくれねーか?スティングモン」
「だからそのスティングモンという呼称はいい加減にやめろ。何度言えば分かる?私には盟友オサオサから貰ったグサグサという名がある。私を呼ぶならそう呼べ」
「お、おう…わかったよグサグサ」
「どれ、では試してみるぞ。準備をしろ」
「お、おう!いくぜグサグサ!デジクロス!」
エクスブイモンは精神を集中させた。
スティングはその隣に立ち、同じように精神を集中させた。
…だが。
デジクロスが発動しない。
「あれ?くっつかねーぞ?手抜いてんじゃねーのかグサグサ?」
「貴様の方こそ、私に合わせろ。ブイブイはやってのけたぞ」
「オマエがオイラに合わせろよ!」
「合わせようとしている!貴様も私に合わせろ!」
「オイラだってやろうとしてるって!」
「どこがだ下手糞!」
「なんだと!?やるかグサグサてめぇ!」
「いいだろう、我が子との合体無しで貴様がどれほどやれるものか試してやる」
そう言い、エクスブイモンとスティングモンは喧嘩をし、取っ組み合いを始めた。
な、何やってるんだ!
DPではエクスブイモンが勝っているが、どうなるか…?
結果は…
スティングモンがエクスブイモンを組み敷いた。
「く、くそ、つええなグサグサ…!」
「パワーは中々のものだ。だが動きに無駄が多い。なんだその力任せの戦い方は?ふざけているのか」
「ジャスティファイアで修行したってのに…!ちくしょー!」
「鍛えただけあってパワーは中々だと評価しているだろうが。戦い方を学べ」
「…へーい。ってか、バブンガモンはよくオマエと引き分けになれたな…」
「ヤツは強い。私が麻痺毒針の使用を解禁してやっと互角だ」
「オイラも負けねえぞ…!」
…まあデジクロスに頼らず、エクスブイモン自身がきちんと強くなる事が大事だね。
「そうだ、もののついでだ。貴様達、いま我々の農園が直面している危機に手を貸してくれ」
直面している危機…?
まさか翼人型デジモンか?
最近はデビドラモン達の勢力とやりあってるって聞いたけど…
「それよりもさらに厄介な奴らだ」
さらに厄介な奴ら…!?
そんなのがまだいるのか?心当たりないぞ!
つ、強いの?
「強いというか…そういう問題ではない。攻撃して倒すという手がとれない相手だ」
い、いったい何だ…?
見に行ってみよう。
つづく
スティングモンに連れられて、畑の様子を見に行った。
すると農作物の苗は……、どれもこれも白い糸でびっしりと覆われていた。
糸の中では何かがもぞもぞと大量に蠢いているのが見える。
「このムシ達だ…野菜の苗を食い荒らす。果物の木もぼろぼろだ。どうにもならん」
スティングモンは、遠くから糸まみれの農作物を指さす。
な、なんだこりゃ…?
デジドローンを近づけて観察してみよう。
「あまり近付くな!」
スティングモンがとっさにそう言ったので、デジドローンを空中で急静止させた。
その直後…
ひとつの苗から、二、三本の糸がデジドローンに向かって飛んできた。
うわ!
とっさに上昇し、ギリギリのところで糸を回避した。
危ない…危うくデジドローンが捕まるところだった。
私はデジドローンをあまり苗へ近寄らせずに、望遠モードで観察した。
すると、ようやく正体が見えてきた。
苗を覆う糸の巣の中には、黄色い幼虫型デジモンのクネモンが二~三体いる。
さらにその幼体とみられるププモンや、小さなデジタマがびっしりと詰まっており、苗を食い荒らしていた。
「い゛や゛ァァァァ!!!無理無理無理無理!!キッショ!!」
クルエが絶叫しながらモニタールームから走り去っていった。
こ、これが信徒以上の脅威なのか…?
確かにウジャウジャいて厄介だけども…
「こんな奴らぶっ倒してやるぜー!」
エクスブイモンは愛用の武器、スナイモンの鎌を取り出した。
これもだいぶ刃こぼれしてきたな…。
「うおりゃあ!」
そしてエクスブイモンは鎌を振りかざし、中のクネモンの頭部を切り裂いた。
「へへん楽勝!」
「まずい!」
スティングモンが叫んだ直後…
その苗に潜む二体のクネモンが、エクスブイモンに糸を飛ばしてひっつけた。
「ん?」
その直後…!
農園中の苗の巣が共鳴するかのように同時に、バチバチと音を立て始めた。
そして、エクスブイモンに凄まじい電撃が浴びせられた。
「が!がぎゃああああああああ!!!」
絶叫するエクスブイモン。
な、なんだ!?一旦離れろエクスブイモン!
「うぎゃああああああ!」
だがエクスブイモンは感電していて動けない。見たところスタンガン以上の電撃だ。プラズマがバチバチと音を立てている。
たかが成長期デジモン二体の電撃攻撃が、高DPの成熟期であるエクスブイモンをここまで制圧できるのか…!?
しかしやばい!このままじゃエクスブイモンが死んでしまう!助けないと…!
その時。
「シャアアッ!」
鳴き声とともに火炎放射が飛んできて、エクスブイモンと苗をつなぐ糸を焼いた。
「が…ぐはっ…」
エクスブイモンはばたりと倒れる。
そこへ駆け寄ったのは、全身が炎のオーラで纏われた二足歩行の爬虫類型デジモン、フレアリザモンだ。
フレアリザモンは、エクスブイモンを抱えてその場から離れた。
「う、うぅ…」
地面に横たわるエクスブイモンの肌には、紫色をした稲妻模様がびっしりと刻まれている。
これはリヒテンベルク図形…いわゆる雷紋だ。
電撃によるダメージが大きいということだ。
「だ…大丈夫かエクスブイモン!」
カリアゲが心配して声を張り上げる。
幸い、フレアリザモンが早く助けてくれたおかげで命に別状はなさそうである。
「なんなんだこれ…?ただのクネモンが、なんでこんなに強えんだ!」
それは確かに気になる。
強力なDPをもつ成熟期のエクスブイモンを瞬時に昏倒させるなど、いくらなんでも幼虫型デジモン二体の出力でできることじゃない。
スティングモンがエクスブイモンの体を水で冷やす。
「だから待てと言ったのだ。今の貴様と同じ対処をした元信徒のシャーマモン達が、何体も死んだぞ」
「さき…に…言え…よ…!」
リーダーがその様子を見て、何かに気付いたようだ。
「わかった…。直列回路だ」
直列回路…?
「一体一体のクネモンが発電できる電圧は決して強くはない。だが、畑の大量の苗を覆う巣は、それぞれが電線の糸で繋がっているんだ」
あ、確かに。
巣同士が糸で繋がっていますね。
「クネモン達は外敵が近付くと、電気信号によってコミュニケーションをとり、一斉に放電を行う。大量のクネモン達の電流が直列回路によって束ねられ、それがエクスブイモンを襲ったんだ」
…な、なんだそりゃ…!
それじゃ、糸を一本でもひっつけれたら、全部の苗の巣から一斉に電撃が伝わってくるってことですかリーダー!
「そういう原理のようだ。グサグサが言っていたことは過言じゃない…。これは只の暴力で略奪に来る信徒共よりはるかに手強い」
…しかし、今まで見てきたクネモンはこんな凶悪じゃありませんでしたよ!
そもそも群生じゃなかったですし!
「農園の働き手や類人猿デジモンがどんどん進化しているんだ。ならば害虫デジモンも驚異的なスピードで進化しているのだろう」
…ど、どうすんだこれ。
スティングモンはげんなりした様子だ。
「メラメラ(フレアリザモン)が火炎放射で焼けば、このムシ…クネモンといったか。こいつ単体を遠くから倒すことはできる。だが苗も燃えてしまう。そうなっては収穫ができず、我々は飢えてしまう」
巣の様子をデジドローンで観察すると…
突如巣の糸の隙間から、まるまる太った幼年期のププモンが大量に飛び立った。
「!まずい!殺せ、そいつらを!メラメラ!」
「ンバアアアア!」
スティングモンに指示されたフレアリザモンは火炎放射を放ち、何体かのププモンを空中で焼き尽くした。
だが十数体のププモンは生き残り…
散り散りになって飛びまわり、まだ無事な苗にくっついた。
その直後、ププモン達は一斉に光に包まれ…
それぞれの苗でクネモンに進化した。
「くそ!また増えたッ!クソ虫どもがッ!」
スティングモンは激昂し、苗についたばかりのクネモンに襲いかかる。
二~三体のクネモンは、スティングモンに糸を飛ばし、電撃攻撃を放つ。
「ぐっ…!この程度!もう慣れたぞッ!」
苗にくっついたばかりのクネモン達は、他の巣と接続していないため、大した電力を発揮できないようだ。
スティングモンは電撃に耐えながら、毒針でクネモン達を串刺しにした。
「ギュチイイッィ!」
そして、スティングモンはクネモン達をバリバリと捕食した。
「モグモグ…ふぅ。幸い毒は持っていないから、食おうと思えば食える。美味だ」
い、いいのか?グサグサ。
そんなの食べて。
「いいさ…もう手遅れだ」
他の前にくっついたクネモン達は、すでに苗を糸で覆い尽くし、他の巣との電線を接続完了したようだ。
なんて…
なんて凶悪な害虫だ…。
これを放置したらマジでこの農園滅ぶぞ。
なんとかできないのか…?
カリアゲが嫌そうな目でモニターを眺める。
「害虫対策といえば、殺虫剤や農薬だけど…。あの体のデカさじゃ薬が十分回らなさそうだな…」
仮にあのクネモン達を殺せる猛毒を作ったところで、それを野菜の苗に浴びせたら苗ごと死んじゃいそうだね。
「苗ごと、どころじゃねえ。土が死ぬ」
確かにそうかも…。
つづく
試してみたいことがあるんですが、いいでしょうか。
とある場所から捕獲したいデジモンがいるんです。
「捕獲?いいぞ」
リーダーが快く承諾してくれたので、森林にデジタルゲートを開き、シュリモンに頼んでとあるデジモンを捕獲してもらった。
植物に擬態し、隠密行動をし、一気に捕まえた。
数々のデジタマを採取成功した実績があるシュリモンの手腕はさすがである。
そして、農園にそのデジモンを放った。
それは…
「ヒ、ヒヒー??」
…ウツボカズラに似た姿の植物型デジモン、ベジーモンである。
「なんだこいつは?」
スティングモンは不思議そうな顔でベジーモンを眺めた。
我々はベジーモンと意思疎通をとることができない。命令をすることはできない。
だとしても、今ここでベジーモンは、何をすればいいかが直感的に理解できるはずだ。
「ヒ…ヒヒー!」
ベジーモンは苗を眺めると、にったりと笑みを浮かべ、口を開けた。
しばらくすると…
スティングモンがまわりをクンクンと嗅いだ。
「ん?甘い匂いがしてきたぞ」
すると…
苗の巣から、クネモンやププモン達がもぞもぞと這い出てきた。
そしてなんと、それらの害虫デジモン達は自らベジーモンの口の中へ入った!
ベジーモンは全ての獲物が口の中に入ったのを確認すると、ばくんと口を閉じた。
「フヒ~」
ま…満足そうだ。
「フヒッ!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒビィィ!?」
突如、ベジーモンが痙攣し始めた。
体内からクネモンの電撃攻撃を受けているようだ。
だが、ベジーモンは自らの腹部をウネウネと動かし始めた。
「ンン…!ンギュギュゥゥ!」
すると、ベジーモンの腹部からブチブチと音が聞こえてきた。
ベジーモンは飲み込んだ獲物を確実に仕留めるために、咽頭歯という歯を消化官内に持っている。
これを使って、飲み込んだクネモン達を噛み砕いたのだ。
スティングモンは驚いている。
「おお…!これはいいぞ!もっと食え!」
だが…
ベジーモンは自分の腹を撫でた後、ゲップをして昼寝した。
「どうした!もっと食ってくれ!」
…ベジーモンはDPが低いデジモンです。つまり基礎代謝の消費カロリーが少ない。
こんだけ食えば当分は腹いっぱいでしょう。
「ならばもっと連れてこい!」
オッケー!
シュリモン、森でもっとベジーモンを連れてきてくれ!
「わかった!」
そう言い、シュリモンは森へ行ったが…
…なかなか見つからない。
ベジーモンは擬態が上手いのだ。シュリモンがいくら目が良くても、植物へ完全に擬態したベジーモンをすぐに見つけるのは難しい。
カリアゲがイライラしている。
「デジドローンで観察しても見つからねえぞ…!運良く最初の一体を発見したはいいけど、もっとたくさん連れてかないとあの量は捌ききれねえんじゃねーか?」
少食のベジーモンなら、クネモン3体とたくさんのププモンを食ったら1週間は何も食わずに生きていけるだろうからね。
「お?あいつはどうだ?」
カリアゲが指差したのは…
「フヒッフヒッ!」
赤いベジーモン、レッドベジーモンだ。
ベジーモンよりもDPが高くて好戦的なヤツだ。
まあ…あれでいいか。
でもレッドベジーモンは強いからな、シュリモンだけで安全に捕まえるのは難しいかも。
我々はスティングモンに協力を仰ぎ、麻痺毒で一時的に痺れさせてからレッドベジーモンを連れ去った。
そして農園にレッドベジーモンを放った。
「フヒ…?フヒイイ!」
レッドベジーモンは、苗のクネモン達を見て興奮した。
「フヒッ!フヒイイ!」
レッドベジーモンは…
苗に向かってドスンドスンと歩み寄り…
巣を触手で攻撃した!
クネモンを直接捕獲する気だ!
ああっ、そんなことをしたら…!
…案じた通り、レッドベジーモンに糸が飛んできた。
「フッギャアアアアアアアアア!!!」
例の直列放電攻撃をくらうレッドベジーモン。
「助けたほうがいいか?」
スティングモンが首をかしげる。
…勝手に拉致して利用しておいて心苦しいところだが、フレアリザモンを危険に晒してまで無理することはないだろう。
やがて電撃が止まると…
レッドベジーモンはばたりとその場に倒れた。
心停止…死んだのだ。
恐ろしい。
DPが高い成熟期すらこんなに瞬殺されてしまうなんて。
どうやらレッドベジーモンは好戦的すぎて、ベジーモンのようなまどろっこしい手段で獲物をおびき寄せようとしないらしい。
…皮肉にも、肉体が強くなって闘争本能を得たせいで、勝てる相手に勝てなくなってしまったのだ。
「んんーもどかしいな!ベジーモンをたくさん集められればいいんだけど、肝心のベジーモンがぜんぜん見つからねえ!」
昼寝中のベジーモンを見たシンが呟く。
「このベジーモンを繁殖させるとかは?」
…そうしてる間に農作物が先になくなるよ。
「やっぱそーッスよねぇ」
「あのさぁ…君達なにか忘れてない?」
メガが苦笑いしながら口を開いた。
「忘れる?何をだよ」
カリアゲがキョトンとしている。
「頼れよ!もっと!僕達デジタルアソートのアプリモンスターズをさ!」
あ…
そういやいたっけ。
…
『秘技!ディイーーープサーーーチ!!』
検索の能力を持つアプリモンスター、ガッチモンが森林で検索を行い、ベジーモンの位置を特定した。
『見つけた、ここだ!マップ転送するぜ!ベジーモンの居場所は検索済みだ!』
おお、森林マップに赤い点がいくつも出ている。
その点をよく見ると…
…いた!ベジーモンだ!よく見たらベジーモンだ!
ここさっき探したはずなのに。
肉眼だけでは見つけられなかった。なんて精巧な擬態なんだ…
…シュリモン、GO!
「ここ?わ、ほんとにいた!ベジーモン、手を貸して!」
「フヒッフヒッ!」
…そうして我々は、森林から大量のベジーモンを捕獲し、農園に放った。
クネモンとその子供たちはぞろぞろと自らベジーモンの香りに誘われ、口に入り…
そして、消化されていった。
やがて農作物を覆った糸の巣は、中に小さなデジタマが残っているだけで、蠢く幼虫達はいなくなった。
どうだグサグサ。
害虫は駆除したよ。
「凄いぞ貴様達!見直した。我々は飢えから救われた、貴様らのお陰で。助かった」
おお、あのグサグサが感謝している。
「過去に私のタマゴを奪った件は、これで水に流してやる」
それはどうも。
そうしてグサグサと話していると、農園のたくさんのデジモン達が我々のもとにきて、次々に礼を言ってきた。
その中には…
農園のリーダー、ディノヒューモンの姿があった。
「おう、おめぇら!あのムシ共を退治してくれたってなぁ!ありがどなぁ!」
な…!
訛ってる!
ディノヒューモンの言葉、訛ってるぞ!
「おお、そうだな」
カリアゲが頷いた。
「あーのムシ達ほんと悪さしてて、おら方ホント迷惑しとったんだ。あーこれで助かっただ、神様仏様セキュリティ様だぁ!」
んん!?仏様!?
「はーナムナムナム。今度うんまい大根(でぇこん)取れたらくれでやるからなぁ!」
は…はい。
ありがとうございます。楽しみにしてます。
「…終わったの?はーよかった!」
クルエが部屋に戻ってきた。
…この作戦3日以上かかってたけども、なんとその間クルエは一度もモニタールームに戻ってこなかったのである。
「これでディノヒューモン農園に感謝されて、交流が持てて、めでたしめでたしだねぇ、ケン!」
…なぜ訛ってるんだ?
「え?」
おかしいだろ。
たしかディノヒューモンは、バブンガモンから信徒の言語としてこの言葉を習ったんだろ?スティングモンと一緒に。
「そーだっけね」
なんでディノヒューモンだけ訛ってて、バブンガモンとスティングモンは訛ってないんだ?
「それは…なんでだろ。キャラ付け?」
言語の訛りっていうのは、たくさんの話者、広い土地、長い年月があって初めて生じるものなんだよ。
なのに、聞いた感じこの農園でこんなに訛った言葉遣いしてるのはディノヒューモンだけだ。
おかしいぞ!絶対!
「そんなに気になる?どうでもよくない?」
それにさ!語彙もちょっと変なんだよ!仏様とかナムナムとか言ってたけど、いつ誰からそんな言葉教わったんだろうか?
「わかんないよそんなの…本人に聞けば?」
で、ディノヒュー…じゃなくて、えーと、オサオサさん。
仏様って言葉、どこで聞いたんですか?
「ん?そだな…オラもわがんね!」
…本人すら知らないとは。
やはりこのディノヒューモンという個体、底が知れない。
つづく
~AAA視点~
今日も今日とて私は忙しい。やることが沢山ある。
目下早急にやるべきことは、セキュリティ共に殺されたアイスデビモンの代わりを育て上げることだ。
他にもタスクは山ほどあるが、それは部下にやらせている。
我々のクラッカーチームは基本的に、最初に私がやったことをマニュアル化して、部下に任せるという流れで動いている。
欠けたワイヤーゴーレモンの補填はQQのババァに任せている。あれほどの能力を持つデジモンの育成は、二つ星クラッカーでなくては務まらない。
私がタスクを命じるのとは別に、メンバーにはある程度自由にデジモンを使ったサイバー攻撃やサイバー犯罪をやらせている。
ただし「必ず目立たないようにする」というのが鉄則だ。
QQのババァはその規則を破って勝手にクレカ会社への攻撃を行い、ズバモンとルドモンを鹵獲された。何度思い出しても腹立たしい。
ババァには再びズバモンとルドモンのような武器デジモンを育て上げることを命じているが…、それに必要な『トータモンのデジタマ』がなかなか手に入らない。
リクガメ型デジモンのトータモンは、デジタマを固めた土の巣の中で育てる。
何度も類人猿デジモンを送り込みデジタマ採取を試みたが、全て迎撃された。
一応、トータモンのタマゴを直接回収するのでなく、集落からトータモンの子孫であるガメモンを拉致して成熟期に育て上げるというアプローチも試しているのだが…
うまくいっていない。
クソ!!
本当にあの損失は大きい。
殺されたならばともかく、「鹵獲された」というのが本当に酷く堪える。
もしもセキュリティチーム共が、ズバモンとルドモンを成熟期まで育て上げ、武器型デジモンを量産したとなったら手に負えない。
我々は圧倒的な不利を強いられることになる。
だからこそ私は、多少強引なタイミングでもセキュリティの本拠地へハッキングを仕掛け、類人猿型デジモンを送り込んでシステムの破壊とズバモン・ルドモンの奪還を強行したのだ。
結果として、類人猿デジモン達は撃退されて私は敗北した。
まあ別にいい…プラチナスカモンとナニモンが生還できたのだから被害は軽めで済んだほうだ。
いや…アイスデビモンの損失は大きいが…とにかく地獄に仏だ。
それに収穫もないではない。
セキュリティチームはなんと、農園のパイルドラモンがやったようなデジクロスの再現に成功した。
奴らが再現に成功したのならば、我々にも再現できる可能性はある。
いかなる条件を満たせばデジクロスが再現できるのかは不明だ。
ブイモンを庇ったあの大きなデジタマは何だ?
ブイモンの奴はアレをワームモンと呼んでいたが…、部下の報告によれば、ワームモンはモリシェルモンの罠で確実に致命傷を与えて殺したはずなのだ。
ヤツらの手の内を暴きたいところだ。
デジクロスしたフレイドラモンを鹵獲して解剖・解析すれば多少はカラクリが見えてくるだろうか。
そう考えていると…
QQのババァから連絡が来た。
『AAA様ァ!お望みのピコデビモンを捕獲しましたよォ!ヒーッヒッヒッヒ!』
ご苦労。あのすばしっこいやつをよく捕獲したものだ。
さすがは元三ツ星クラッカー。
さっそくこちらへ転送しろ。
『了解!ヒッヒッヒ!』
しばらくすると、翼を釘で打ち付けられて木の板に拘束されたピコデビモンが私のパソコンへ転送されてきた。
正規品のデジクオリアを起動し、パソコン内のデジタル空間…
実験室内を覗く。
「キ…ギギー!」
ピコデビモンは必死にもがいて脱出しようとしている。
私は実験室に、シャーマモンが寒冷地に適応した亜種である類人猿型成長期デジモン、スノーゴブリモンを呼び出した。
スノーゴブリモン!私の指示通りにやれ。
いいな?
「ウワーオゥ!グッヘッヘ…」
スノーゴブリモンは、メスを手に取ると…
ピコデビモンの解剖を始めた。
「ギャアアア!!!ギャギャギャギャギャ!!!」
生きたまま解剖されるピコデビモンは絶叫した。
スノーゴブリモンが解剖を進めている中、私は切開部からデータを計測する。
デジモンのデータを解析する際、五体満足なまま表層から情報を読み取るのと、切開して体内からデータを読み取るのとでは、採取できる情報の質がはるかに異なる。
…バイオシミュレーション研究所のデジモンの進化は、我々クラッカーチームの進化に比べてかなり遅いように見える。
人為的な進化の方向付けも、おそらくデータを食わせてパッチ進化をさせる程度であり、『それ以上』をやっているフシがない。
これは勝手な予想だが…
バイオシミュレーション研究所は、生物研究の基本や基本たる『解剖』をろくすっぽやっていないのではないだろうか?
だとしたら随分な半端者だ。
生物の研究を深めるには古今東西、生体解剖が必須といえる。
生きたまま循環系や臓器の仕組みを観測するからこそ、様々な知見が得られる。
それはデジモンとて同じことだ。
強襲を仕掛けた際、ヤツらは我々の戦力の多様さに驚いていたが…
もし奴らが『解剖』をしていないのだとすると、そこに差が出て当然のことだ。
やるべきことをやらずに何が研究者だ。
笑わせてくれる。ただのペット飼育の延長線上ではないか。
私の方がよっぽど『研究者』らしいことをしている。
その時、部下の一人から通信が入った。
『ぐふふ、AAA氏ィ!報告があるおww』
なんだ?JJ。
私はピコデビモンの解剖で忙しい。後にしろ。
『まあまあそう言わずに!今しか見れないおww』
…なんだ?今しか見れない?
そう言われると気になるが。
『ダルクモンたんの貴重な産卵シーンだおwwハァハァ(;´Д`)』
勝手にしろ!
そのくらい貴様が面倒見れるだろう。いちいち急ぎで私に報告することではないだろう。
『ななな!こんな可愛いおにゃの子の貴重な産卵の瞬間を見ないなんて!損だお!拙者は部下に向けて実況配信注ですのにwwAAA氏ってホモかお?』
違う!
もういいか、切るぞ。
『ああ待っ…』
あまりにくだらない報告だったので通話を切った。
一旦ここまで
この男のコードネームは『JJ』。
スパイウェア型のズルモン・ゲレモンを使った情報窃盗や、ダルクモンの世話などを担当している。
この男はデジモン出現以前からやり手のクラッカーだった。
動画や漫画、アダルトコンテンツを違法に複製して無料で公開するサイトを運営している。
インターフェースの利便性故か、毎日のアクセス数は凄まじいことになっているようだ。
まあ、そんないかがわしいサイトを何の利益もなく運営するはずもなく。
当然ながらサイトにはスパイウェアが仕込まれている。
動画や漫画などを閲覧しに来たユーザーのパソコンにウィルスを送り込み、情報窃盗をしているのである。
『ぐふふ、AAA氏ぃ、ぼくって悪党だと思うかお?』
そうだな、大悪党だ。
『まぁねぇ』
だが、本来有料であるはずのコンテンツをタダで違法に閲覧しようとするユーザー共も悪党だ。
小悪党が大悪党の餌になっているだけだ。一種の食物連鎖だな。
『どぅふふww』
…こうは言っているが、デジモン発生以前のJJはやや困っていたようだ。近年ではウィルスセキュリティ技術が格段に向上しており、なかなかユーザーのパソコンにマルウェアを送り込めずに四苦八苦していたようだ。
そんなコイツに…
私はデジモンを与えた。
結果JJは、物凄く狡猾にズルモンやゲレモンを活用し、多大な成果を出した。
自身が運営するサイトへゲレモン達を仕込み、違法アダルトコンテンツを閲覧しに来たユーザーが画像や動画データをダウンロードする際に、ユーザーのパソコンへデジモン伝送路を繋げてゲレモンを送り込むのだ。
人間が開発したファイヤウォールなど、伝送路が繋がった状態でのデジモンの前では無力だ。
そうしてJJは大勢のユーザーから情報窃盗に成功し、我々の組織の運営資金を稼ぐことに大いに貢献しているのだ。
まあそういうわけだ。
貴様の働きには期待しているぞ、JJ。
『ほめられたww承認欲求満たされるゥ~
www』
…ところでだ、JJ。
貴様には以前から、類人猿デジモンの傾向進化の調整を任せていたな。
『ういッスw』
このプロジェクトを最初に始めたのは私だ。
ほぼ猿同然の姿だったジャングルモジャモンを品種改良し、人の姿に近づけるというプロジェクトだ。
医療研究機関から盗んだ様々な人体計測データを類人猿デジモンへ食わせ、パッチ進化を促した。
それに加えて、我々がアブラハムの宗教観をベースにして単純化してでっち上げたインチキ宗教における『天使』のイメージを、集会の演説にて伝え…、
そして『天使の姿に近いほど清く正しく、獣の姿に近いほど穢れている』という固定観念を植え付け、差別を煽ることで、猿デジモン達へ『天使の姿へ近づきたい』というストレスを与え続けた。
結果、当初は猿のようだったジャングルモジャモン達が、セピックモンやゴリモン、ハヌモンなどを経て少しずつ人の姿へ近づいていき…、ついに原人型デジモンのフーガモンが誕生した。
そこまでは、私がやったことだ。
後はその延長線上のことを繰り返すだけだから、JJにタスクを引き継いだ。
(ニセシャッコウモンを使った演説のときだけは私が担当したが…)
結果、フーガモンの子孫は、女性型のキンカクモンへ進化し…
キンカクモンの子孫はほぼ人間の、それもアングロサクソン系の少女そっくりなシスタモンへ進化した。
そしてそのシスタモンが、天使型のダルクモンへと至った。
我々の計画が大きく前進したわけだ。
よくやった。
『あざっすww』
して…気になることが一点あるのだが、JJ。
『なんスか?』
…フーガモンの子のキンカクモンから、なぜいきなり女性型になった?
『そ、それは、えーっとっすねwwなんででしょww…あ、そうだ、哺乳類型デジモンだから授乳できるようにボインちゃんになったんじゃないですかねwwきっとそうだおww』
…正直に答えろ、JJ。
貴様が運営しているサイトに掲載している、卑猥なコンテンツのデータを食わせてパッチ進化を促したな?
『ギクッ』
どうなんだ。
『…なんでばれたんだおww』
分からんわけがなかろうが!
キンカクモンといいシスタモンといいダルクモンといい、姿に貴様の趣味が出すぎているんだよ!
類人猿が聖職者の姿に近づくのはいい。天使や神を崇拝する存在だからな。
女性型に近い容姿になるのもまあいいだろう。
だがなんだあのデザインは?
https://i.imgur.com/5JgsyRv.jpeg
聖職者…というパブリックイメージには随分遠くないか?
ええ?
『う、おうぉ…』
ダルクモンだってそうだ。
天使…というには布が足りないように見えるが。
https://i.imgur.com/4NZBHFr.jpeg
『どぅ、ドゥフフwwwぼくこういうの好きなんスよww』
やっぱりじゃないか!!貴様!
これでモヤモヤがハッキリした。
なぜこんな姿に…と思ったが!貴様の仕業か、JJ!!
『うぅ…なんかペナルティがあるかお?』
…クソ!なんというか…気分的には何か裁きを下してやりたいところだが。
奇しくも貴様は、私が命じた要件をしっかり満たした成果を出している。
聖職者型デジモンを経由し、天使型デジモンへの進化を誘発する。
この私以外にこのような傾向進化を促せる手腕を持つ者がいるだろうかと不安だったが、貴様はそのミッションをやり仰せた。
随分趣味に寄せたようだがな。
『だって、ゴリマッチョなんか育ててもつまらんおwwどうせやるなら楽しくやんなきゃモチベ上がらねえおwww』
…JJにとやかく言うのはここまでにしておこう。
我々の組織はアウトローのならず者の集団だ。そこにまるで健全な会社のように規律や秩序を求めるのはお門違いというものだ。
それに合わない社会不適合だからこそ、我々の犯罪者集団に流れ着いたのだから。
ある程度好き勝手にやらせるのも、このろくでなし共をまとめ上げるための一つの手だ。
だが…JJ。
なんだ、その、あまり卑猥な姿にしすぎるなよ。
今の路線のまま全裸とかにしたらさすがに何らかの処罰を下すからな。
『…AAA氏ィ』
なんだ。
『…コスプレ物で、途中で脱ぐのってクソだと思わないかお?www』
知るか!
続く
~バイオシミュレーション研究所視点~
『して セキュリティよ 余のタマゴは 孵るのか』
我々はベーダモンからデジタマを託された。
曰く、ベーダモンがデジタマを産んでみたはいいものの、全く孵化しないのだそうだ。
それ故に、我々に託して孵化を試みてほしいと頼んできたのである。
しかし、全く孵化の気配はない。
仮説はある。
ベーダモンは海のタコ型デジモン、オクタモンが苦しみながら淡水に適応し、陸上へ適応して進化したレベル5デジモンだ。
そんな無茶なほど急激な進化をしすぎた故に、デジタマがまだ陸上での孵化に適応していないのではないだろうか。
…ねえ、ベーダモン。
やっぱり水中で孵化させた方がいいんじゃない?
『断る 余は陸に居を移したのだ 今更水中になど戻る気はない 二度と言わせるな 空け者が』
チャットの返信が辛辣だ!
うーん…、そうはいっても、上陸したてのデジモンは水中でデジタマを孵化させることが多いんだよ。
ナメクジ型デジモンのヌメモンも、昔は沼なんかの水中にタマゴ産んでたし。
カエル型デジモンのフロッグモンもタマゴは水中で産む。
ベーダモンも無理せずそれらに倣ってみたら?
主な住処は陸上でいいだろうけど、子供を育てる時だけ川や湖にしてみたらどうだろう?
『水中には戻らぬと言っておろうが たわけが』
…頑なにこうだ。
ベーダモンはなぜか水中をひどく嫌っている。何故なんだろうか…。
クルエが何か思いついたようだ。
「もしかして…、ホエーモンに追い回されたトラウマがあるからじゃないの?」
可能性はある。
オクタモンはかつて海中の頂点捕食者のひとつといっていいほどのニッチにいた。
だが部下のシェルモン、ゲソモンと共にルカモンを襲った時、獲物のルカモンは突如レベル5の巨大なクジラ型デジモン…ホエーモンへと進化したのだ。
命からがら必死に逃げたオクタモンは、死ぬほど苦労して淡水へ、そして陸上へと適応し今の姿になった。
…正直、こういうケースは前例がない。
環境への適応力が高いのは成長期の特徴だ。
成熟期になるとふつうはもう生き方を変えられないのだ。
シンがマイクを握り、ベーダモンに問いかけた。
「もしかしてホエーモンが怖いからッスか?」
し…シン!
プライドが高いベーダモンに、そんなセンシティブなことをド直球で聞くやつがあるか!!
『ホエーモンとは なんだ』
「あれ、見せたことなかったっけか こいつッスよ」
そう言いシンは、オクタモンがホエーモンに追い回されていたときの録画映像をベーダモンへ見せた。
デジドローンからホログラムで映像が映し出される。
するとベーダモンは…
「ヒ、ヒイイィィ!!」
声を出して驚いた。
ベーダモンは人語を喋れるほど声帯が発達していないため、意思疎通はチャットで行うが、いちおう鳴き声くらいは出せるようだ。
「ヒイィィイィ!!」
ベーダモンは光線銃をホログラム映像へ向け、洗脳光線を放った。
録画映像だから意味はない。
こ…ここまで取り乱すとは!
シン、映像を止めて!
「ウィッス」
「ゼー…ゼー…」
ベーダモンは汗だくになっている。
「ベーダモンさん、やっぱ今でもホエーモンが怖いんスね」
シン…君ちょっと無敵の人すぎない?
「いや忖度してたら話進まないっしょ」
それはそうだけどさ。
『恐れている だと 違う まだ倒す準備が整っていないだけだ まだな』
むむ?
倒す準備とは?
『余は この光線銃で 下僕を増やしている 見たことはあるか 余の軍勢を』
軍勢?
そういや見たことないな。
『ならばついてこい 見せてやる』
そうチャットを送ったベーダモンは、ウニョウニョという奇声を発し始めた。
すると…
蛾と蜂を足して二で割ったような姿の昆虫型成熟期デジモン、フライモンが舞い降りた。
ベーダモンのお気に入りの手駒だそうだ。
『乗れ』
私はデジドローンをフライモンの上に移動させた。
ベーダモンもフライモンに乗り、奇声を発した。
すると、ベーダモンとデジドローンを乗せたフライモンは飛び立った。
やがて…
ベーダモンの拠点が見えてきた。
なんと言えばよいだろうか…
土でできた、大きな砦である。
そこに十数体のデジモンがいた。
ガジモン、グルルモン、セピックモン、などなど…。
これら全員ベーダモンの洗脳光線で操られた下僕か。
『こいつらには 食糧調達や 砦の建設を命じている 驚いたであろう 汝ら』
…正直あんま驚いてないけど黙っておこう。
機嫌損ねたら嫌だし。
『これぞベーダモン文明だ』
ベーダモンは誇らしげに言う。
「いや…これ別に文明じゃないッスよね?」
し…シン!何を!?
『其の方 たしかシンといったか 余の文明にケチをつける気か 大した度胸ではないか』
し…シン!謝って!
機嫌を損ねて敵に回られたらダメだぞ!
「あ、すんませんッス。そっすね文明ッスね
~」
『フン…』
ふぅ、危ない…
我々セキュリティ最大のリスクは「ベーダモンに敵に回られること」だ。
はっきり言って洗脳光線をもつベーダモンは、他のデジモン達とは別格の存在だ。
制圧力が高すぎる。
その上、DPはかなり低い。肉体の強度を捨てているためだ。
もしもベーダモンがクラッカーの味方についたら、はっきりって詰む。
こいつ一体だけで我々のセキュリティデジモン達すべてが無力化されかねないほどだ。
だからリーダーは、「無理に味方につけなくていいので、せめてクラッカーの味方にはつけさせなうようにしろ」とカリアゲ及びクルエに指令を出した。
その結果、今の関係を築けているのである。
…台無しになったら大変だった。
シンが平謝りした後…
カリアゲがマイクを握った。
「ベーダモン。今のはシンにも一理あると思うぞ」
か…カリアゲ!
何を!?
『カリアゲ 汝まで 余を見下すというのか 余の築いた文明を否定するというのか』
ベーダモンに怒りの表情が見える。
オイオイオイオイ…カリアゲ何を言うんだ!せっかくベーダモンの怒りを鎮めたとこなんだぞ!?
「否定はしねーよ、ベーダモン。お前のこの軍勢は凄いよ。仮に蛮族達が生き残っていたとしても、それと戦って負けないくらいに戦力がある」
『そうだろうな』
「それに、ちゃんとデジモン達はベーダモンの言うことを聞いて、集団生活してる。どんどん発展し、群れの仲間が増えて、土地が広がってる。その頂点にベーダモンがいる。…スゲェと思う。だけど文明かというと違うんじゃねーか?」
『どういうことだ』
「だってさ、たとえば…、ベーダモンが一ヶ月くらいここを離れたとしたら。こいつらは今と同じように発展できるのか?」
『…不可能だろうな 余が新たな指示を与えぬ限り こやつらは同じ命令に従い続けるだけだ 自分でものを考えることはこやつらにはできぬ』
「ベーダモン、人類史の資料は前に渡したことあったな。そこで読んだヒトの文明はどうだった?」
『…支配者が反乱によって打倒され、幾度となく世が変わっていた。それでも人類は発展し続けた』
「そうだろ?ベーダモンの軍勢は別にヒトの文明より劣ってるわけじゃない。絶対逆らわず、自分からはものを考えない支配体制。それはそれで強い。けど『文明』とは別物だ。だからさ、実態と違った呼び方すんのはややこしくねえか?ってことだ」
『…ふむ』
カリアゲとベーダモンの会話を聞いたシンがぼそりと呟いた。
「カリアゲパイセンって、ベーダモンと話す時だけIQ上がってないッスか?」
だけってなんだだけって。さすがに失礼だぞ。
カリアゲは私達と得意分野が違うだけだよ。
『ならなんと呼べば良い 他に適切な言葉を余は知らぬ』
「まあ人の世界には『なんでも言うことを聞かせられる洗脳光線銃』なんて無えからな。今のベーダモンの群れを言い表す言葉…なんだろ?」
カリアゲが悩んでいると、リーダーが来た。
「『コロニー』が近いんじゃないか?」
「コロニーか。確かにそれなら近いかもな、リーダー」
…外来語に置き換えて誤魔化してません?
『ふむ 気に入った 余のコロニーと呼ぶことにしよう 確かに以前から不満だった こやつらは余の言いなりにこそなるが 現場判断を全くせず融通が利かぬ 文明の一員と呼ぶにはあまりに能が足りぬと腹立たしかったのだ』
…丸く収まったみたいだ。
でも危ない綱渡りだったな…。
『やはり汝は面白いな カリアゲ もし汝らがただ太鼓打ちをするだけの輩ならば とっくに飽きていたところだ』
…むしろファインプレーか!?
…えーと。
それでだ、ベーダモン。
いろいろ話が変わったけど、元はベーダモンのタマゴが孵化しないからどうにかしてほしいって話だったよね?
『そうだ よ 余は覚えていたぞ 忘れていないぞ 本題を うむ』
その原因は…その。
ホエーモンへのトラウマに由来する、水中回帰への本能的恐怖心だと。
『』
ベーダモン?
なんか空の文章でチャットが送られてきたけど…
『違うが? ホエーモンを倒す準備を進めるため軍備拡張している最中だが? 怖くないが?』
…まあともかく、あのホエーモンを倒すまでは不安だから水中でデジタマを育てられない。
あのホエーモンがいなくなれば、安心してデジタマを産める。そういうことだね?ベーダモン。
『どうする気だ 汝らの軍勢ではまだヤツに敵わぬぞ』
…一緒に見てみよう、ベーダモン。今の海の状況を。
久々の海中観察だ。
『ふむ よ 余に危険はないのだな』
デジドローンで観察するだけだから危険は無いよ。
『で では 見てやろうではないか』
つづく
我々は寒冷地帯にデジドローンを飛ばした。
かつてアイスモンやユキダルモン、トゲモグモンがシードラモン達と死闘を繰り広げた土地だ。
ここは今どうなっているのだろうか。
ツンドラ気候の土地には、真っ白な美しいヘラジカに似た偶蹄類型デジモンがいた。
命名ムースモンである。
ムースモンは小さな草をモリモリ食べている。
蹄があることから、おそらくボアモンの子孫だ。
そのボアモンの兄弟であるトゲモグモンは、寒冷地帯でシードラモン軍団と戦って死亡した。
その後、トゲモグモンの子孫はどうなっているのだろうか。
寒冷地を観察していると…
懐かしいデジモンがいた。アザラシに似た姿の成長期デジモン、ゴマモンたちだ。
海でプカモンを捕獲し、食べるゴマモン達。
そこへ、大きな水影が近づいてきた。
海から飛び出してきたのはシードラモンだ!
口を開け、ゴマモン達に向かって氷の槍を発射しようとしている…!
そこへ…
なにか2つの物体が飛んできた。
一つは、角のような尖った物体だ。
ロケット砲のようなジェット噴射により高速で打ち上げられたそれは、多数の細かいトゲに分裂してシードラモンへ降り注いだ!
トゲの雨に打たれるシードラモンは悲鳴を上げた。
もう一つの飛来物は…
両刃の斧だ!
斧はシードラモンの胴体へ深々と突き刺さり、血飛沫を上げた。
ゴマモン達を助けに来たのは…
白い体毛に覆われた、大きな一本角と鋭い牙を持つ、セイウチに似た?海獣型デジモン、命名イッカクモン。
そして鋭い両刃斧を持った、シロクマに似た?獣型デジモン、命名ブリザーモンだ。
現在はこの2体の獣型成熟期が、ゴマモン達の親玉らしい。
トゲモグモンの子孫であろう。
背を向けて逃げようとするシードラモンに、ブリザーモンがふたつめの両刃斧を投擲する!
シードラモンの後頭部に斧が突き刺さり…
シードラモンは体を横にして水面にぷかぁと浮いた。
どうやらあれから陸上のデジモン達は力を増し、シードラモンに打ち勝つ力を手に入れたようだ。
一旦ここまで
ブリザーモンはシードラモンを陸に引き上げ、斧で切り刻んだ。
そしてゴマモンや、群れの幼年期デジモン達に断片を与えた。
幼年期レベルⅠ、パフモン。
全身が深い体毛で覆われた哺乳類型デジモンだ。
体毛の断熱効果のおかげで寒冷地でも平気なようだ。
https://i.imgur.com/EgOCc1z.jpeg
幼年期レベルⅡ、プスリモン。
以前はゴマモン進化前の幼年期はトコモンだったが、しばらく見ない間に幼年期の姿も寒冷地に適応したようだ。
トコモンよりも全身が毛深い。ところどころにトゲが見えるのは、雪に埋まった時にスパイクの役割をして何かに役立つのかもしれない。
https://i.imgur.com/YCVYIi3.jpeg
そしてプスリモンが成長するとゴマモンになる…という進化系統を辿っているらしい。
ゴマモン達の巣は、雪や氷でできた構造物だ。
見ようによっては集団生活だ。デジタマを採取しておけば役に立つかも…
『おい』
ん?
ベーダモンから通信が入った。
『さっきから何を観察している たわけが 余はホエーモンの様子を見せろといったのだ 聞こえなかったのか』
うっ…そうだった。つい。
しばらくぶりに観るから夢中になっちゃって。
クルエさんがジトッとした目でこちらを見ている。
「なんか…前にもこういうことなかったっけ?」
リーダーは腕組みしている。
「サラマンダモンから元の主の情報を聞き出そうとしたときだな。本来の目的を忘れて体表の炎のオーラの解析に夢中になっていた」
ごめんて!
でもガッチモンの検索能力は水中には届かないから、大海原の中から地道にホエーモンを探すとなるとけっこう大変なんだよ。
なら陸上を見てホエーモンの痕跡を探すのは悪いアプローチじゃないでしょ?
『面倒だな 見つかった時にまた連絡しろ』
そう言い、ベーダモンは去ろうとした…。
「なあベーダモン。さっき見た中に、コロニーに加えたい奴はいたか?」
カリアゲがそう言うと、ベーダモンはピタっと止まった。
『先ほどの 名前はなんだったか そう イッカクモンか 優れた遠隔攻撃能力がある あれは欲しい』
「ツノのミサイル飛ばすやつか!強そうだなあれ!砦を守るのにいいんじゃないか?」
『移動は遅そうだが 拠点防衛には最適だ』
おお、ベーダモンが機嫌を直した。
ナイスだカリアゲ!
シンがこっそり耳打ちしてきた。
「やっぱカリアゲパイセンってベーダモン関連になると普段の50倍くらい頼りになるッスね」
まるで普段は今の50分の1しか頼りにならないみたいな言い方だ…
「ああすまんッス」
我々が研究に勤しんでる間、カリアゲはフローティア島の開拓計画を練ったり、デジモン達とのコミュニケーションや教育・トレーニングをやってくれてるんだよ。
我々のパートナーデジモン達が、指示がなくともうまく現場判断できるのは、カリアゲの教育の賜物だ。
「俺も見習わないといけないッスね。…ところでホエーモンの痕跡は陸上で見つかったッスか?」
あ、いけね。
まだ見つかってないや。
ベーダモンから通信が来た。
『まあいい 痕跡が見つかり ホエーモンが見つかったら その時教えろ』
アッハイ。そうします。
今度こそベーダモンは通信を切ろうとした…
その時。
「キュイーーー!!」
寒冷地を映しているデジクオリアから、聞いたことのない鳴き声が聞こえた。
な、なんだ?
画面を見ると…
海から陸上に、奇妙な姿のデジモンが大慌てで上がってきたところだった。
https://i.imgur.com/0twwEXF.jpeg
つづく
現在探しているデジモン…それはクジラ型デジモンのホエーモン。
我々が最初に発見した個体は、イルカ型成熟期デジモンであるルカモンが、オクタモン一味に襲われている最中に進化したレベル5の個体だった。
凄まじい高出力の戦闘能力と、莫大な消費カロリーを持つ。
これまでにデジタルワールドで観測された中で最大のDPと巨体をもち、ジャガモンやシューティングスターモンを遥かに上回る。
ホエーモンはオクタモン一味のゲソモンとシェルモンを瞬殺した。
オクタモンも危うく殺されかけたが、浅瀬へ逃げ、そのまま汽水域まで進み…、そこでホエーモンが岩場へ座礁したことで、どうにかオクタモンは生き延びた。
だがオクタモンは二度と海に戻らなかった。
本来、成熟期デジモンは個体としての成長が完成しているが故に、成長期デジモンに比べて環境への適応能力に乏しい。
だからオクタモンは定説通りならば海水から出られない…はずだった。
だが、オクタモンは汽水域へ、やがて淡水へ、進出した。
身体から塩分が抜けていく地獄の苦しみを味わい続けていたが、『戻ってホエーモンに食われたくない』という一心でその苦しみに耐え、淡水に耐えるトレーニングを続け、身体を適応させていった。
そうしているうちに、やがてオクタモンはレベル5へ進化し、陸上へ進出した。それが今我々の目の前にいるベーダモンである。
こんな無茶で急激な進化をしたせいか、産んだデジタマが陸上では孵化しないようだ。だから我々にデジタマを預けてきたのだ。
無理のない話だ。両生類型デジモンや、初期のヌメモンだってデジタマは水中に産んでいた。ベーダモンもそうすればいいのではないかと提案したのだが…
ホエーモンへの強い恐怖心から水中生活にトラウマがあるらしく、頑なに水中にデジタマを産むのを恐れている。湖や池でもダメらしい。
このままでは埒が明かない。無理に陸上での孵化を目指すプランよりも、ベーダモンのトラウマを払拭させるプランの方がよほど現実的だ。
だからホエーモンが現状でも海で暴れているかどうかを確かめるために、今デジドローンでホエーモンを探しているのだ。
しかし、広い海のどこかへやみくもにデジドローンを潜航させてもホエーモンがピンポイントで見つかるとは限らない。
ガッチモンの検索能力は水中には未対応である。
そのため、まずは寒冷地の陸上で、ホエーモンの痕跡を(半ばダメ元で)探しているのだ。
そうしている我々(のデジドローン)の目の前に現れたのが、この奇妙な姿のデジモン。
シャチに二足歩行の手足が生え、浮き輪とライフジャケットを着用したような姿のデジモンである。
命名オルカモン。
…その容姿には、明らかにルカモンやホエーモンの面影があった。
エレキモンが一度海に進出したのがルカモン、そしてホエーモン。
おそらくこのオルカモンは、その系統が再び陸上への適応能力を取り戻した形態だ。
我々の世界にこのようなニッチの生物は存在していない。
「クエエエーーーー!!」
オルカモンは上陸し、そのまま陸上をドテドテと走って逃げた。
…何から逃げていたんだ?強力なデジモンだろうか?
我々は、オルカモンが向かってきた方へデジドローンを飛ばす。
やがて霧の中から、オルカモンを追っていたものの正体が見えてきた。
それは…まったく想定外の物体だった。
船だ。
全長20mを超える巨大な船である。
船体の左右からはオールが100本近く突き出ており、絶えずオールを漕ぎ続けている。
帆は畳んでいるようだ。
船は既にオルカモンを狙っておらず、引き返すために旋回している最中であった。
なんだこの船は…!?
誰かが作ったのか?あるいはこういうデジモンなのか?
カリアゲは食い入るように船を見ている。
「でけー船だな…それにしてもスピードがすげーぞ!なんだこりゃ!」
ピンと来ないけど、そんなに速いの?
「エンジンで動く現代の船のスピードに慣れてると遅く見えるかもしれないけどな。オールで漕ぐ船としてはかなりの速さに見えるぞ!」
メガは映像を見て分析している。
「航行速度は約15ノット。時速30kmだ。帆を畳んだ船がこれだけのスピードを出せるのか…」
リーダーは驚くような表情で船を見ている。
「これは…ガレー船だ!なぜこんなものがデジタルワールドに!」
ガレー船!?なんですかそれ!?
「大量の乗組員が手でオールを漕ぎ、自由自在に操舵ができる船だ。帆船と異なり風向きに左右されずに航行できるが、乗組員の疲労が蓄積される上に大量の飲食物を消耗するため長期航海には向かないものだ」
長期航海には向かない船…?
何に使うんですか?
「海戦だ」
戦…!
「紀元前3000年頃、古代ギリシャの時代に開発された軍船だが、18世紀に至るまで使われ続けた。構造を見るに、その末期頃のモデルのようだ」
そ、それが今なぜ、ここに…?
「デジドローンを船へ近付けて、乗組員の顔を拝みたいところだが…、嫌な予感がする。デジドローンがあちらに見つかった時、攻撃されなければいいが」
そうして見ていると、船の甲板に何かが現れた。
https://i.imgur.com/URZ5NHz.jpeg
…なんだこいつは!?
その姿は、まるでマンガに出てくるようないかにもな海賊のデザインだった。
右手がフックに、左手が大砲になっている。
なんなんだこいつは…!
「ムゥーン!もう雑魚はいい!大物はどこだ!」
し、喋った!
人語を喋ったぞコイツ!
何らかの形で『人間と関わり、言語教育を施されたデジモン』だ…!
こいつが船長か!?
デジドローンが映すその光景を、ベーダモンは食い入るように見ている。
『これは なんと文明的だ 驚いた カリアゲよ 汝の言う通り 文明とは このようなものを造り上げる力をいうのかもしれぬな』
なんなんだこの海賊っぽいデジモンは…!
この船で何をしようとしているんだ?
我々が食い入るようにガレー船を見ている時、クルエが苦々しい表情で呟いた。
「ねえ、なんか今私達、ホエーモンを探してるけどさ…。前にホエーモンの子供達のこととか色々動画に撮ってたよね?ベーダモンにそれは見せないの?」
あ、そういえばあった。映像資料が。
『なんだと あるのか 録画が うぬら何故それを最初に言わぬのだ この空け者共が』
空け者…そらけ?なんて読むんだこれ。
ベーダモンのチャットに知らない単語がある。
クルエがジトッとした目で答えた。
「うつけもの、だよ。おバカとかそういう意味」
なんでそんな言葉教えたんだ!?まあいいけど…。
でも、そりゃそうだ。過去の映像資料をさっさとベーダモンに見せたほうがいいね。
その方が、現状とのつながりが見えやすい。
…先程のオルカモンが何者なのか、なぜあんな進化をしたのかも理解しやすくなるだろう。
『さっさと見せろ』
オーケー。
私はベーダモンの要請通りに、ホエーモンに関する過去の映像資料を再生した。
ざっくりかいつまんで説明すると…
レベル5のホエーモンは確かに強かったし、運動能力も高かった。
超音波の反射によってソナーのように遠距離のデジモンを探知し、それらを丸呑みにした。
海でホエーモンと戦って勝てる者はいなかった。次々に大量のデジモン達がホエーモンの餌になった。
だが、30m近い巨体ゆえに一日に大量の餌を必要とした。
海を荒らしている最中に、海に住むデジモンのほぼ全てが、ホエーモンを常に警戒し、本能的に避けるように進化したのである。
これによりレベル5ホエーモンは、大量に餌を確保し続けることが困難になる。
その後、ホエーモンは子供を産んだ。
その子供達であるオタマモンはレベル4…成熟期で、ルカモンではなく15mくらいにスケールダウンしたホエーモンへと進化したのだ。
レベル4のホエーモンは親よりDPが低かったが、基礎代謝量が減ったため、親ほど大量の餌を常に必要とするわけではなくなった。
無駄に巨大で、無駄に強大すぎたオーバースペックな親と異なり、飢えに苦しまずに済む適切なサイズと戦闘能力へと最適化されたのだ。
『レベル5デジモンが産んだ子孫が、成熟期で親と同じ姿かつスケールダウンしたデジモンになる』という進化。
ジュレイモンやドクグモン、カブテリモンなどでも見られた『レベルダウン進化』の先駆けであった。
やがて親であるレベル5のホエーモンは姿を消した。
生死は不明。死骸は発見されていないが、生きている姿も発見されていない。デジドローンの耐圧力では潜れない深海で活動しているのか、未探索エリアで生きているのか…。
姿を消した親の代わりに、第2世代型ホエーモン…レベル4のホエーモン達が海を荒らし尽くした。
何者もホエーモンに敵わなかった。
しかしながら、海のデジモン達は死に絶えはしなかった。
『ホエーモンがいる環境』に適応する進化をしたのだ。
それは、ホエーモンの鳴き声…
特に、獲物の位置を反響で調べるための超音波ソナー音を、海のデジモン達は聴き取り、猛スピードで逃げるようになったのだ。
ゆえにレベル4のホエーモン達は、獲物を捕まえることができなくなった。
そして、子孫である第三世代型ホエーモンを残し…、第2世代型ホエーモンは全て餓死したのだ。
第三世代型ホエーモンは、相変わらず15mほどの巨体だ。しかし、それまでの祖先とは全く異なる食性をとっていた。
所謂プランクトン食である。
大食いではあるが、祖先たちに比べればDPは五分の一ほどだ。
ホエーモンのソナー音は、海のデジモン達にすっかり警戒され攻略されてしまったようだが…、それでも尚捕獲できる獲物がいた。
それは、ピチモンやポヨモン等のプランクトンデジモン。
『海流に逆らわずに漂っているデジモン』達である。
自力で泳いで逃げることができないのだから、超音波が聴こえるとか聴こえないとか関係ない。
第三世代型ホエーモンは、超音波によってプランクトンデジモンの位置を捉え、ゆっくり泳いでそれらを飲み込む。
海水の中から喉の毛で濾し取って消化するのだ。
その巨体がもつ機能は、筋肉の塊というよりは、獲物のプランクトンをたくさん取り込むための巨大な袋のようであった。
第三世代型ホエーモンは白兵戦闘能力が乏しいのだが…、その大声とソナー音は海のデジモン達の本能に、根源的恐怖として刻み込まれている。
故にどんなに非力でも、その巨体から大声を響かせれば、どんな相手も逃げていくので襲われることはない。
祖先が暴れた恩恵を受け、虚仮威しによって無敵の存在になったのである。
…我々が過去に観察したホエーモンに関する記録はこれが全てだ。
どうだった?ベーダモン。
少しは安心した?第一~第二世代型の強いやつがいなくなって。
『ここから 随分時が 経ったようだが 今はどうなっている』
それを今調べようとしているんだよ。
『ということは 第三世代型ホエーモンの子孫が また先祖返りして 強くなっている可能性も あるか』
あるね。
『引き続き 調査を進めよ 余の下僕共よ』
了解。
つづく
我々はガレー船を観察した。
ホエーモンの調査も大事だが、その前にこの船がなんなのかを確かめておきたい。
オールを漕いでいるのはなんだ…?
デジドローンでこっそり観察したところ、やはりデジモンが漕いでいるようだ。
https://i.imgur.com/EuCRlSO.jpeg
それは蛮族の類人猿型成長期デジモン、シャーマモンによく似たデジモンだった。オールの数だけいるとしたら100体はいる計算になる。
仮称スノーゴブリモンとしよう。
スノーシャーマモンではないのか?とツッコまれるかもしれないが、シャーマモン達のようにシャーマニズム信仰しているか分からないので今はこう呼ぶことにする。
スノーゴブリモン達の腕は筋肉ムッキムキである。かつて戦ったシャーマモン達よりも腕が太い。
デジモンはトレーニングを積むことで戦闘力が飛躍的に向上する。おそらくこのスノーゴブリモン達は、日頃からオールを漕ぎまくっていることで腕力が鍛えられているのであろう。
…まさか蛮族の生き残り?
AAAの配下だろうか。
だとしたら不気味だ。なぜこんな長期航海に向かない軍船で航海を…?
クラッカーとしての活動に関係あるのか?
カリアゲは首を傾げている。
「これは漁船かなんかか?プカモンをたくさん捕まえるためか?」
リーダーは腕を組んでいる。
「漁船ならばこんなに船員はいらないだろう。船を軽くして、帆船で風に乗って漁をしたほうが効率的だ。航路を開拓していればの話だが…」
スノーゴブリモン達が漕ぐガレー船は、しばらく速度を落として進んでいた。
しかし、突如船長デジモンが号令を出した。
「ムム!見つけたぞォ!七時の方向!取り舵いっぱい!ヨーソロー!」
大声でそう叫んだ後、舵輪を勢いよく回した。
「オォーッ!」
スノーゴブリモン達は返事をすると、オールを漕ぐスピードを上げた。
船が進路を変え、スピードを上げ始めた。
我々とベーダモンは、デジドローンの映像越しにこの集団の行動を観察した。
「ヒョーガモン!上がってこいやァ!」
船長デジモンがそう声を張り上げると、やがて甲板にもう一体、大柄なデジモンが上がってきた。
「うーっし!やるぞフックモォォン!ガァッハッハ!」
https://i.imgur.com/my3P0c3.jpeg
ヒョーガモンと呼ばれて現れたデジモン。その姿は、今は亡き蛮族の王フーガモンによく似た、青い肌の類人猿型デジモンだ。
ヒョーガモンは、フックモンと呼ばれた船長デジモンの側に立った。
フックモンは、じっくりと海を眺めている。
「ここだァーーーッ!!」
突如、フックモンは勢いよく右手のフックを伸ばし、海中に飛ばした!
真っ直ぐに飛んだフックはほとんど水飛沫を上げずに水中へ入射した。
そしてフックモンは、自分の右腕を勢いよく引っ張った。
ヒョーガモンは自らの足を特殊な器具で甲板に固定し、フックモンを支えた。
やがて、海面に大きな水飛沫があがった。
「オォオォオォ~~~!!!」
…ホエーモンだ!
ホエーモンにフックが突き刺さっている!
フックモンはホエーモンを力いっぱい引っ張っている。
フックが突き刺さったホエーモンは、ガレー船のパワーに引っ張られた。
「オォオォオォンン!!」
ホエーモンはじたばたと暴れている。
ホエーモンは、甲板のフックモンを見つけると、頭部の呼吸孔をそちらへ向けた。
だがフックモンはすかさず叫んだ。
「面舵一杯!かわせ!」
そう言うと、フックモンの代わりにスノーゴブリモンが舵輪を回し、船を旋回させた。
直後、ホエーモンの呼吸孔が広がり、勢いよく水流が噴射された!
フックモンは先周りして船を旋回させていたため、すんでのところで水流を回避した。
だが水流は甲板に直撃。
木製の板が砕け、船に大きな穴が空いた。
凄まじい威力だ!思った以上にこのホエーモンの戦闘能力は高いようだ。
やがて水流が止んだ。
ホエーモンは広げていた呼吸孔を縮めようとした。
「ハッハァーーッ!バカめ!勝負ありだ!」
フックモンは、ホエーモンの呼吸孔めがけて左腕の砲身を構え…
砲撃した!
ボンッという轟音とともに、フックモンの左腕から硝煙が上がる。
「ギャアアァァーーーーー!!」
ホエーモンの頭部の呼吸孔が破裂し、凄まじい血飛沫が上がった。
どうやら砲弾は見事に呼吸孔に直撃し、内部で爆発したらしい。
「ハアァァーーーッ!!」
フックモンは二度、三度と砲撃し、ホエーモンの頭部の傷口を広げた。
「オォ…ゴォ…」
やがてホエーモンは海水を血で染めながら、ぷかぁと浮かび上がった。
「ハッハァーーーーー!!獲ッたぞォォーーーーッ!!ウオオォーーーッ!!」
フックモンは大声で雄叫びを上げる。
「ウオオォーーーッ!!フックモン様ァーーーー!!」
船員のスノーゴブリモン達が歓声を上げ、フックモンを讃えた。
カリアゲは口を大きく開けている。
「ホエーモンが…仕留められた!そうか、これが『海戦』か…!この船はこのための…!」
メガは汗をかいている。
「…軍船じゃない…これは、捕鯨船だったのか…!」
クルエは困惑している。
「あ、あれ?でもおかしくない?海のデジモンはホエーモンの声を聞いたら逃げていくから、ホエーモンは無敵なんじゃなかったの?」
リーダーは映像の中のフックモンを睨んでいる。
「怖がるはずがない。何故ならこいつらは海のデジモンじゃないからだ。見ろ、片腕が砲身になっている。こいつはおそらく…!蛮族であるゴリモンの子孫だ!」
ベーダモンは大きく目を見開いている。
『おぉ これが 余の仇敵の 今の姿だというのか』
ベーダモンは…
涙を流していた。
つづく
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