デジタルモンスター研究報告会 season2 後編 (1000)

我々は、対デジモンサイバー攻撃用のセキュリティとして、「見張りマッシュモン」のサービスを運営している。

マッシュモンは生真面目な性格だ。
仕事をサボらないし、発見したサイバー攻撃をきちんと報告してくれる。

デジモンの侵入だけでなく、不審なマルウェア全般を目視で見張ることもできる。
そのため、見張りマッシュモンを導入している組織では、マルウェアが添付されたメールアドレスを見張りマッシュモンが発見・警告してくれたという報告もある。

このように、理解をもって導入してくれている人達もいるのだ。

しかし、我々がこれまで発見・対処できたデジモンサイバー攻撃は、全体の中の一部でしかないはずだ。

見張りマッシュモンサービスを導入していない組織が、知らないうちにどれだけデジモンサイバー攻撃による情報窃盗の被害に遭っているのか、我々は知る由もない。

事実、近年ではクレジットカードの不正利用被害が増えてきているという報告がある。

サービス存続のための餌代捻出の必要があるため、サブスクの料金は個人が支払うにはちょっとハードルが高い額なのである。

そんなわけで我々は、普通のマッシュモンよりも小さいチビマッシュモンを使った「ぷち見張りマッシュモン」サービスを運用した。

これなら餌代も少なくて済むので、個人でも導入しやすいサイズなのだ。

これを発表しサービス運用開始した後、早速サービスに加入してくれた人がいた。

陰謀論者や悪意あるメディアが流布した悪質なデマや風評被害に負けず、我々を信じてくれるのは有り難い。

それからしばらくして、チビマッシュモンから発報があった。
個人でぷち見張りマッシュモンサービスに加入している家のPCからだ。

私はチビ見張りマッシュモンから送られてきた映像をチェックした。

するとそこに映っていたのは…
いつもの顔ぶれ。
ゲレモンとズルモンである。

だが、いつもと違う点がある。
それは、敵勢力が非常に小規模だということだ。

ゲレモン1体が、これまででいうスカモンと同様の司令塔を兼ねている。
それらをとりまくズルモンたちの数は、これまで目撃してきた数よりずっと少ない。

会社のサーバーを狙うのでなく、個人をターゲットにするのなら、これくらいで十分ということだろうか。

だが難点がある。
いくら敵勢力が少ないとはいえ、見張っているチビマッシュモン側に戦力がなさすぎるのである。

個人向けの廉価なセキュリティということで、チビマッシュモンはDPを抑えるため、見張りができる最小限のスペックに抑えているのだ。

このチビマッシュモンがゲレモンに立ち向かったら、あっという間に丸呑みにされてしまうだろう。

『かみよ わたしが いこう』
そう言ってきたのはボスマッシュモン。
オンラインで出撃してくれるつもりのようだ。

でも…マッシュモン一人で大丈夫かな?
他にも戦力が待ち構えているんじゃ…

私がそう言うと、リーダーが口を開いた。
「むしろマッシュモン一人で生かせた方がいい」

どういうことですか?

「あれは陽動の可能性がある。我々セキュリティ側の戦力を個人向けのしゃばい犯行の対処に奔走させ、その隙に本命を攻めに行こうとしている可能性がある」

くっ…!そうか、その可能性がある。
厄介だな。

「我々セキュリティ側の戦力デジモンは、先日の訴訟沙汰で無実証明をするために、種類や個体数までを洗いざらい暴かれてしまった。故にクラッカーは、我々のセキュリティの構造的な弱点を狙う戦法をとったのかもしれない」

ゲレモン単体では弱いデジモンだけど…
その対処のために我々の戦力が分散されるのなら、大局的に『強い』動きができる。

クラッカーめ…
なんというか連中、『弱いデジモン』の使い方が上手いな。悔しいけど。

そんなわけで、マッシュモンがオンラインで緊急出動しようとした。

その時。
コマンドラモンがマッシュモンにチャットを送った。
『マッシュモン ばくだんと ナイフを ひとつ もっていけ』

コマンドラモンからナイフと爆弾を貰ったマッシュモンは、それを持って出動した。

被害者は発報があった時点でネットワーク回線を切断しているので、電話をして一時的に回線を繋げてもらった。

今回は、ネットワーク回線が粘菌トンネルで埋め尽くされていないので、スムーズに被害者のパソコンに入ることができた。

パソコン内部では、ゲレモンとズルモンが、キーボードの入力を見張る箇所へ押し寄せていた。

これは『キーロガー型スパイウェア』だ!
パソコン内に保存されているクレジットカードの情報だけを盗んでも、セキュリティコードやパスワードを都度手打ち入力するタイプのセキュリティは突破できないことがある。

そのため、ユーザーがブラウザへ入力したキーボードの情報をそれと併せて盗み出すことで、パスワードを入手しようとするマルウェアが存在するのだ。
それがキーロガー型スパイウェアである。

このゲレモンは、クレジットカード情報を盗んだ後、キーロガーとなってしばらくキー入力情報を集めてから帰還するつもりらしい。

やり口がどんどん巧妙になっているな…

マッシュモン!倒せるか!?

『まかせてほしい』

そう言い、ボスマッシュモンはゲレモンのほうへ駆け寄った。

ゲレモンはボスマッシュモンを威嚇した。
おお、知性ある反応を返しているあたり、司令塔としての機能を持っているらしい。

ボスマッシュモンはナイフを持ってゲレモンに襲いかかった。

ゲレモンの頭部から生えている目を掴み、ナイフでバツンと切断した。
「ギョオオオォ」
ゲレモンは絶叫する。
ボスマッシュモンは切り取った目を食べた。放り投げておくとズルモンとして再生する可能性があるためだ。

続いてボスマッシュモンは、ウネウネと蠢いて抵抗するゲレモンの頭部を切り開き、思考中枢をナイフでくり抜いた。

ゲレモンは動かなくなった。
ボスマッシュモンはゲレモンの脳も食べた。

…あっけないな。
まあ、トレーニングの成果だろう。

司令塔はこれで倒せたが…
それで終わりではない。

小さなズルモン達は、マッシュモンの手が届かない狭い隙間へ侵入して身を隠し始めた。

倒したゲレモンの胴体も、徐々に分裂し始めてきた。
そう。脳を切り取ってもこいつは死なないのだ。
このままでは細かいズルモンとなって分裂し、身を隠すだろう。

うーん…
今まではスカモン大王になってくれていたから、まとめて倒せたのに。
普通に逃げられると、普通に厄介だ!

このままズルモン経ちを放置すると、パソコン内のデータを食べて殖え、やがて集合してゲレモンとして復元し、再びにスパイウェア活動を再開するかもしれない。

…というか、隠れたままデータを食うこと自体がかなり厄介だ。

くそっ…!攻撃して倒せば解決!となれば楽なのに。
倒してからの後始末のほうがずっと厄介だ!
クラッカーはなんでこんな面倒くさいデジモン作ったんだよ!

リーダーはボスマッシュモンへ指令を出した。

「チビマッシュモンを殖やして見張らせてくれ。あとは帰還していい」

『わかった』
ボスマッシュモンはチビマッシュモンを殖やして見張らせて、うち一体へコマンドラモンの爆弾を手渡した後、我々のサーバーへ帰還した。
…あとはチビマッシュモン達で対処できるの?

『できるはずだ』


チビマッシュモン達は、デジタル空間の隅々へ菌糸を張り巡らせて、ズルモン監視網を作った。

マッシュモンは菌糸のデジモン。
キノコ型に見える個体は、その子実体である。

チビマッシュモン達は、潜伏しているズルモンを次々と発見し、引きずり出して捕食していった。

ゲレモンには勝てないチビマッシュモンだが、ズルモン程度なら数にものを言わせて捕食できるのだ。


やがて、完全にパソコン内のズルモンの根絶に成功した。
殖えに殖えたチビマッシュモン達は、我々のサーバーへオンライン経由で帰還した。

これでようやく一件落着だ。

それ以降、ぷち見張りマッシュモンサービスで見張りをしているチビマッシュモンには、コマンドラモンの爆弾が1つ届けられた。

ぷち見張りマッシュモンサービスでは、1ユーザーにつき2体のチビマッシュモンがいるので、2体で1つの爆弾をシェアする形だ。


ある日。
複数のユーザーのPCから、ぷち見張りマッシュモンの発報が同時に上がった。

うぅっ…
ゲレモンが複数箇所で同時発生した!
なんと30件同時だ!…やりすぎだろ!どんだけいるんだよ!

「ゲレモンは戦闘力が低いが、その分基礎代謝量が少ないデジモンだ。大量に飼育するのは苦ではないんだろうな。うちは今の数でもなかなか苦労しているんだがな」
連中ずいぶん活発に動き始めましたね。リーダー。

「我々に出資する者がいるように、クラッカーに出資する者達もいるということだな。風評被害は我々にとっては向かい風だが、連中にとっては追い風だろう」

一体一体は弱いだろうけど、とにかく数が多い。

ボスマッシュモンがひとつずつ巡回していくうちに、いくつかのユーザーは情報を盗まれるかもしれない!

どうする…!?

リーダーは指示した。
「まずは爆弾で攻撃!あとは戦力を集めて対処しろ!」

…私は被害を受けたユーザーのひとつのパソコン内で、戦況を見守った。

まずは各ユーザーのPC内のチビマッシュモンが、ゲレモンへ爆弾を投げた。

体が小さなゲレモンは爆弾で吹き飛び、細かく散らばった。

その後、チビマッシュモンが合図をすると…
なんとネットワーク回線のトンネルから、10体のチビマッシュモンがわらわらと押し寄せてきた。

こ、これは!?
このチビマッシュモン達はどうしたんですかリーダー!?
うちのサーバーから出撃したわけじゃなさそうですが…!?

「各ユーザーには2体のチビマッシュモンをペアでつけている。だから、10名のユーザーのパソコンからペアのうち1体だけを呼び寄せたんだ」

な、なるほど…
そんな手が。
ペアの片方が残っていれば、見張りはできますからね。

セキュリティのユーザーが増えるほど、こっちは強くなる。
クラッカーにはできない戦い方だ。

…そうして、ボスマッシュモンによる巡回だけでなく、大勢のユーザーの協力もあって、同時多発ゲレモンからユーザーを護ることができた。

ただし、サービス未加入の人々の中には、ゲレモンにまんまと侵入され、情報窃盗をされている者もいるかもしれない。

それを観測する手段は今の我々にはないが…。

こうして、少しずつだがユーザーは増えている。

だが未だに「マッチポンプをやめろ!」「お前達がクラッカーなんだろ!」「警察と繋がっている悪の組織め!滅びろ!」などと罵声を浴びせられることもある。

中には「お前達が俺のクレカ情報を盗んだんだろ!訴えてやる!」という奇妙な苦情を寄せてきた者がいる。

見張りマッシュモンサービスに疑いを持っているが故に、クラッカーにつけこまれ、クレカ情報を抜き取られてしまったようだ。

まあ、なんというか…
そういう連中は、我々には救いようがない。

つくづくこの風評被害は、クラッカーにとって追い風となっている。

マルウェアが「電子コンピュータに感染するウィルス」であるならば…

デマや陰謀論による風評被害は「人間の脳という生体コンピュータに感染するコンピュータウィルス」といえるのかもしれない。

つづく

※冷静に考えたら暗数抜きで30は多すぎた
※発見できたもので5~10くらいに脳内補正しておいてください

※今週はちょい忙しくなりそうなので更新頻度控え目になります

『例のクレカ事件以来、デジモン研究をする組織が増えてきているね』

クラッカーへの警戒度が高まったんでしょうか、スポンサーさん。

『うちいくつかは、いずれ君達と関わるだろう。いくつか紹介しようかね?』

お願いします。
私達研究チームはスポンサーさんの話を聞いた。

『まず一つは、独立行政法人ジャスティファイア。ここは軍と提携してサイバーセキュリティを研究している。海外から軍や政府へデジモンを使ったサイバー攻撃が来ることを危惧し、DPの高いデジモンによる防衛システムの構築を目指している』

ジャスティファイア…!
今はどんな状況なんですか?

『うちのサラマンダモンが産んだデジタマから孵化したオタマモンと、君達のところのマッシュモンがいる。だが防衛には心許ないとし、早急な戦力強化を欲しているね』

まあ…国が落とされたら一大事ですからね。
グレイモンとかスターモンくらいの戦力は要るか。

『グレイモンのデジタマを拾って育ててみたらしいんだが…、成長期のアグモンは言うこと聞かないわ暴れるわで大変らしいぞ!ハッハッハ!』

手なづけられてないんですね…。
うちのファンビーモンみたいな感じでしょうか?

『あれよりはマシだな!』

そうですか。

『ジャスティファイアのデジモン研究チームのトップは、コードネーム「パルタス」という人物だ。君達とコンタクトを取りたがっている。そのうち連絡が行くだろう』

コンタクト?どんな?

『…いずれ必要になることだ。本人から直接聞くといい』

分かりました。

『次は…株式会社ローグ・ソフトウェア。新進気鋭の会社の小規模なソフトウェア会社だ。ワンマン気味だが優秀な開発力がある。警察とデジタル鑑識システム開発等で提携している。デジモンに関しては独自路線の研究をしているらしいが、まだ情報が全く発表されていないね』

警察ですか。
発表されていない、というのは?

『極秘開発中ということだろう!君のとこのメガ君もそうじゃないかな?』

「…近いとこがあるかもしれないね」

『ローグ・ソフトウェアのデジモン研究チームトップは、コードネーム「ローグ」。特に君達とコンタクトを取る予定は今のところ無いな!』

そ…そうなんですか。
どんなデジモンを育ててる、とか…なんか情報ないんですか?

『不確定要素を排した、安定した運用ができるシステムを目指しているそうだ』

不確定要素を排した、ですか…。
デジモンは不確定要素ばかりな気がしますけどね。

『最後は、ベンチャー企業デジタルアソート。セキュリティや軍事はもちろん、それ以外でのデジモンの活用方法を模索している』

セキュリティや軍事以外ですか…
たとえば?

『ふふふ、それはね。研究チームのリーダーから直接聞くのがいいだろうね!』

リーダーさんですか…
話せるんですか?

『ああ話せるとも!今すぐにでもね!』

今すぐにでも…!?
その人はどこにいるんですか?

「ここだよ、ケン」

メガ…!?

『デジタルアソートは本当にデジモン研究をがっつりやるためのベンチャー企業だ!メガ君やカンナギエンタープライズ等が前々から進めていたが… 結局研究を先導しているメガ君がそのままトップになった!ハッハッハ!』

すごいなメガ!
そういえばメガ達の研究成果って全然聞いてないな。

「いろんな企業と提携しているからね…守秘義務がある。ごめんねケン。君が主導で進めてくれた基礎研究のデータは重宝しているよ。いつか恩返しがしたい」

楽しみだな。

「…製品の試作品がある。テストしてみる?」

やるやる!

メガは何かを取りに行った。
…同じ研究所の建物だけど、私には入室権限がない部屋だ。

そして、なにか持ってきた。

「これだよ」

これは…?
小さな液晶モニターがついた、小型の装置だ。USB端子がついている。

「Bluetoothやwifiも接続できるよ」

スマートウォッチかな?

「仮称デジヴァイス。デジモン運搬用ドックだ」

ああ、その端末にデジモンを入れて運ぶのね。
でも運ぶだけなら専用デバイスがなくても、適当な記録媒体に入れられるけど…

「試しにコマンドラモン、パルモン、ブイモン、ワームモン、マッシュモンに、端末に入ってきてもらって…と。そして、画面起動!」

お…おおお!?
かなり高い解像度で、デジモン達の姿が映っている!

前に販売したマッシュモン端末の「デジタルモンスター」は、デジクオリアを携帯端末のスペックでギリギリマッシュモンの姿を映せるように、かなりデチューンしてあるのに!

「あっちはドット絵みたいな感じで表示されてたね」

デジクオリアは、古代のシャーマンの頭脳をエミュレートして霊能力を発動させる人工知能だ。
かなりのマシンスペックがなきゃ、こんな綺麗な映像で出力はできないはずだ!
それをこんな小型端末でやってのけるとは…!

いったいどうやってるんだ!?
超スペックのモンスターマシンなのか!?

「ふっふっふ…どうやってると思う?仕掛けは単純だよ」

うーん、わからん…!

『はじめましての デジモンいる! はじめまして わたしパルモン! あなたは?』

デジヴァイスからパルモンの声が聞こえてきた。
ん?誰に話しかけてるんだ?

…すると、抑揚がない合成音声が聞こえてきた。
『ハロー オレサマは ドー…』

そこまで聞こえてきた時、メガが叫んだ。
「待って!まだ名乗らないで!仮称で名乗って!」

『…オホン オレサマは デルタだ オマエラの すがたを うつして ニンゲンに みせている』

えっ?
なんて?

「おおう、ネタばらししちゃった…。そう。中にもう一体デジモンがいて、そのデジモンの視界をアウトプットしているのがデジヴァイスの映像なんだ。だからマシンスペックなんて不要なんだ」

マシンスペックが要らない…!?
ピンと来ない私の隣で、リーダーが解説した。
「そうか!デジモンは端末の電源を消しても活動できる…つまりデジモンの思考能力は端末の計算資源に依存しない!だからこんな小型端末のスペックでも、その映像をデジモンの視界に繋げば高性能デジクオリアと同等の映像出力ができるのか!」

な…なるほど!
でも…デジモンの視界を端末に繋ぐ?どうやって?
理屈が分からない。

そう悩んでいると…
「それは…我が社の製品デジクオリアを、丸ごとデジモンに吸収させることに成功したからだ」

うおっ!?
カンナギエンタープライズジャパンのCEO、神木さんがいつの間にかいる!

「我々の技術のデモンストレーションをしてるんだろう?ふふふ、新鮮な反応が見たくて飛んできたよ」

フットワーク軽いですね。

そ、それで何でしたっけ。
吸収?

「デジモンには『パッチ進化』という進化方法が存在する。ケン君やカリアゲ君が解き明かしてくれた成果だ」

それを聞いたカリアゲは頭をぽりぽり書いている。
「ほぼ99%ケンの努力のおかげだけどな」

いやいや。
カリアゲの1%の閃きがあったからこそ発見できたんだよ。

「でぇっへへへへ…!嬉しいこと言っちゃってェー!」
デェッヘヘヘヘ…!このこの。

「中がよくていいね…オホン。えー、それでだ。我々はこう考えたんだ。デジモンにデジクオリアを吸収させてパッチ進化させれば、その能力を獲得できるのではないかと。そして試行錯誤の結果、そこのデジヴァイスのメインシステムを管轄する仮称デルタが誕生したわけだ」

へぇ~…いつの間にそんな研究を…。
ところでこのデジヴァイス、何に使う用途なんですか?
おしゃべるするパートナーと一緒に移動するため…?

「それだけじゃあないよ。駐車場へおいで、私がここへ来た交通手段をお披露目しよう」

交通手段…?
なんか凄いものに乗ってきたんですか?

駐車場に行くと、そこには…
人が乗れそうなサイズのでかいドローンがあった。

こ…これですか?

「そうだ。乗ってみるかい?」

乗ると言っても…
操縦桿がありませんよコレ。

「操縦桿?必要ない。デジヴァイスを装着して、それに乗ってみるといい」

こうですか…どれどれ?
私はドローンの座席に乗った。
すると…

『へいらっしゃい!』

うお!?
デジヴァイスから声が!?

『おきゃくさん どちらまで いくでござるか?』

音声コマンド式のインターフェースか。
え、えーと。
なんて返せばいいですか?

「好きなように彼と話すといい」

ええ…好きなようにと言われても。

『ははぁ デモンストレーションで ござるね そのへん ぐるっと とんでみるで ござるか?』

え?
は、はい。

『シートべルトと メットをつけてを
 しっかり つかまってるで ござる』

すると…
ドローンの回転翼が回り始めた。
うおっ!車体が宙に浮いた!

ドローンは私を乗せて飛び始めた。
うおお!すごいすごい!
遊園地のアトラクションみたいだ!

『おきゃくさん なにか オーダーしてくれないと せっしゃのすごさを みせられないでござる』

え、えーと、じゃあ…
食堂まで行ける?

『おやすいごようで ござる』

ドローンはそのまま空を飛び、食堂の前に着陸した。

『とうちゃくで ござる』

おお、ありがとう!速いね!
君もデジモンなの?

『そのとおり いまは ニューと なのってるで ござる』

ニューか。
君が運転したのか…凄いな!
デジモンによる完全自動運転…!
これは夢が広がるな。

なるほど…。
デジモンの思考能力には電力を消費しないから、ドローンや電気自動車のバッテリー消費を節約できるし、車載コンピュータを小さくできるのか!

『ごはんを たべていくでござるか?』

いや、元の場所に戻ってくれる?

『かしこまりで ござる』

ニューは私を乗せて、駐車場に戻ってきた。

「いかがだったかな?ケン君。我々が開発中の全自動運転ドローンは」

メチャクチャ凄いです!
そうか…メガ、君が言ってたデジモンの平和利用って、こういうことだったんだな!

「そうだよケン。僕はデジモンの高度な思考能力がマシンスペックに依存しないことに目をつけたんだ。そしてこれらを作った。デジモンは僕達の生活を豊かにしてくれるはずだ」

語彙力が足りなくなるくらいすごい!

「なあメガ!次俺も乗せてくれよ!」

「勿論いいよ。ケンからデジヴァイスを借りてね」

ほい、これ。
「サンキュー!それじゃあドローン、俺も載せてくれ!」

『かしこまりでござる』

…ところでメガ、なんでこの子ござる口調なの?

「ただの敬語じゃ味気ないから、京都の人力車をイメージしてござる口調を学習させてみたんだけど…どうかな」

ウケると思うよ!

「そ、そうかな!グフフw」

ところで神木さん。
「どうしたんだい?他の製品のデモンストレーションも見たいかな?」

それはそうですけど…
これに乗ってきたんですよね?

道路交通法とか大丈夫です?

「…すまない、見栄を張っていた。ほんとに乗ってきたのはあの軽トラだ。ちょっとかっこつけたくてね…」

ホッとしました。
デモンストレーションですからね、気持ちは分かります。

我々がそうして話していると…
駐車場に車が入ってきた。
見たこと無い車だ。
あれは?

『…タイミングが悪いねえ、パルタス君。もう少しそれらしい雰囲気のときに話をしに来てくれればいいのに』
クロッソ・エレクトロニクスから預かっている端末から、スポンサーさんの声がした。
スポンサーさんは知ってるんですか?

『ああ。車の文字を見たまえ』
なになに…?

その黒い車には…
『JustiFire』の文字が白のインクで書かれている。



つづく

…少し、話の順番が左右するが…
デジタルアソートのデモンストレーションを見るよりもしばらく前の話。

我々の研究チームが、ジュレイモン森林にて巨大化したジャガモンの盆栽城を目撃した直後の頃だ。

いったい何がきっかけで、この盆栽城ができるに至ったのか、我々は調査していた。

ジュレイモンの森の観察は、しばらくの間は他の研究員に任せていたので、彼が撮っていた映像記録を見ることができた。


ジュレイモンの森。
そこでは、相変わらず過酷な生存競争が繰り広げられていたが、3代目スターモンやゴツモン達、そしてテントモン達の生活にはある程度の秩序があった。

ごく初期の頃こそ、植物型デジモンと甲虫型デジモンは敵対していたが…
鳥類型デジモンや恐竜型デジモン、偶蹄類型デジモンの出現によって、森林の勢力図は一変した。

現在では、植物型デジモン、鉱物型デジモン、甲虫型デジモンはスターモンを最高戦力として手を組み、ビースト型デジモン達と争う構図になっている。

そうして生存競争が繰り広げられている中で…

突如、空に眩い光が輝いた。

やがて光の中から、何かが燃えながら地上に落下してきた。

よく観察すると…
https://i.imgur.com/LYTEpAA.jpg

…星型の弾頭にサングラスと口がついた、ミサイルのようなものが、ジェット噴射しながら森に突撃していたのである。

そのミサイル型デジモンは、森林のど真ん中に着弾し…
凄まじい爆発と共に、巨大な衝撃波で森を揺るがした。

着弾地点では、木々は根こそぎ吹き飛び、宙を舞った。
そこに住んでいたデジモン達は、特大の衝撃派や、飛び散る土砂が直撃し、ズタズタに引き裂かれた。

砂埃が止んだとき…
中心には巨大なクレーターができた。

その威力は、これまで見てきた中で最大級だ。
スターモンが呼ぶ隕石よりも凄まじい。
パイルドラモンのパンチや、全盛期ジャガモンの攻撃ですら、これほどの威力は出ないだろう。

ミサイル型デジモンは、クレーターの中心に倒れたまま動かない。

やがて、最初に光ったあたりからデジタルゲートが開き、数体のデジモンが降り立った。
https://i.imgur.com/tGhQRcW.jpg

スターモンに似ているが…強靭な手足は生えていない。
ミサイル型デジモン同様に、サングラスのようなものが顔についている。

名称は不明だが、小型スターモンとでも呼んでおこう。

小型スターモン達は、吹き飛ばされた森林から、デジモンの死骸を集めて、クレーターの中心に寄ってきた。

ミサイル型デジモンは、小型スターモンから渡されたデジモンの死骸を、次から次へと、もりもり食べていく。

やがて、たくさんのデジモンの死骸を集めた後、ミサイル型デジモンを中心として、小型スターモン達は陣形を組んだ。

すると、ミサイル型デジモンと小型スターモン達の間に、何やら放電のようなバチバチとした光のワイヤーがつながった。
まるで網のようだ。

そして、ミサイル型デジモン達が浮き上がると…
その電磁網は、集めたデジモン達の死骸を包み込んで、持ち上った。
まるで海で漁網による漁をするかのように。

ミサイル型デジモン達は、そのままデジタルゲートの中へ入っていった。

…どうやらこのゲートは、レアモンや火口のズルモンのときのゲートとは異なる信号のようだ。

もしかしたら、ジャガモンが盆栽城になったのは、これがきっかけかもしれない。

デジタルワールドには、未探索地域が未だにたくさんある。
むしろ我々が観察していない地域の方が多いかもしれない。

そこでは、驚くような生態系が発生しているかもしれない。
…かつて我々が全くのノーマークだった、蛮族と呼称される集団のように。

例のミサイル型デジモン落下事件の後、未探索地域をデジドローンで空撮していると…
同様のクレーターが見つかったことがあったそうだ。

つまりあのデジモン達は、あのやり方で何度か狩りをしているということだ。

効率がいいのか悪いのか分からないが…
とにかく大量に餌を獲得しているのは間違いない。

つづく



そして現在。
駐車場に停まった車から、二人の人物が降りてきた。どちらもミリタリー風の服を着ている。
一人は堂々とした雰囲気の、長い金髪の女性。
もう一人は、前髪が長く猫背の、細身な男性だ。

女性はリーダーの前に来て、口を開いた。
「私はジャスティファイアの代表者!ローグだ!キサマがバイオシミュレーション研究所のリーダーだな!?」

何だこの人!?
出会い頭に貴様って呼んだぞ!?

ローグ氏のそばで鞄持ちをしている細身の男性は、我々を見てペコペコ頭を下げている。

リーダーは頷く。
「そうだ。初めまして。ジャスティファイアは…軍と提携してデジモンを研究している組織か。アポイントメントが無かったが、何か急ぎの用事があるのか?」

リーダーは気にしてない!
あっこの人も敬語使わない勢だった。

「単刀直入に言う。今後のお互いのための話し合い…いや!取り引きがしたい!」

「取り引き…どんな?」

「要求は1つ。3体のデジモンを我々へ売却するがいい!」

上から目線ン!

「3体…どのデジモンだ?」

「お前らが鹵獲したという、ズバモン、ルドモン。そして…コマンドラモンだ!」

いきなり何いってんのこの人!?

ジャスティファイアの代表者ってパルタスだよね?

「そう言われて首を縦に振ると思うか?ローグ氏」

「ああ、振るだろうな!さあどうだ!売る気になったか!」

「理由を話せと言っているんだが?」

「理由か!ふむ!どこから話そうか!?」

すると、細身の男性が口を挟んだ。
「えーと、どうもリーダーさん。あっしはジャスティファイアの主任研究員、バンモチでやんす。この人ちょっとクチ悪いですけど、よろしくです」

「あ、ああ…よろしく。それで、我々への用件だが…まずは経緯をしっかり話してくれ」

「ですってローグの姉御。お願いしやすよ」

「いいだろう!まずは…」
ローグ氏が口を開こうとすると…

「その前にいいですか!」
クルエが遮った。

「なんだ!」

「…駐車場じゃなく応接室で話しません?」

「おお、そうだな!そうしよう!」

我々は応接室に行った。
シンが人数分コーヒーを持ってきてくれた。

>>107
あっやべっそうでした
✕ローグ
○パルタス

以降気をつけます

読者の皆様、本当にすまない。
台詞でも地の文でも「ローグ」と書いていたが、車から降りてきた金髪の女性は「パルタス」氏である。

ちょっと修正が手遅れ気味な気もするが、どうか脳内補間でパルタスと名乗っていたことにしておいてほしい。

尚、猫背の男性の名はバンモチで間違いない。



気を取り直して、と。

「私は独立行政法人ジャスティファイアの代表者、パルタスだ!こっちはバンモチ!主任研究員だ!」

「よろしくお願いしやす」

パルタスさんですね。
名前を間違えないようにしないと。

…それで、いきなり売れと言われて売れるわけがないでしょう、パルタスさん。
経緯を話してください。

「うむ、わかった!我々は元々国家防衛用セキュリティシステムの開発をしている。デジモン研究もその一環だ!」

元はシステム屋さんなんですね。

「そうだ!以前から国家防衛用デジモンの研究開発を進めている。海外のクラッカーの攻撃から国家のシステムを防衛したこともあるぞ!」

ええと、そちらの主力はマッシュモンとオタマモンでしたっけ。

「情報が古いな!まあ国家防衛システムを担うデジモンの情報をおおっぴらにはできない故致し方無しか!…それらは場繋ぎだ、我々の真打ちが完成するまでのな」

真打ち…?
そのデジモンが出来上がったんですか?

「そうだ!我々の最高傑作だ!見るか?」

いいんですか?見ても。

「これから腹を割って取り引きをしようというのに、隠し立てなどできるか!見ろ!」

そう言い、パルタス氏はタブレットPCを取り出して、画面を表示した。

遠くのサーバーで起動しているデジクオリアの映像をリモートで映しているらしい。

そこに映っていたのは…

https://i.imgur.com/tGhQRcW.jpg
手足がない小型スターモンと、それよりさらに小さな三角形のデジモン達。

https://i.imgur.com/LYTEpAA.jpg
そして…
以前森林に直撃した、ミサイル型デジモンだった。


えっ…?
これジャスティファイアさんとこのデジモンだったんですか!?

「おお、知っているのか?ピックモンズ、ティンクルスターモン、そしてシューティングスターモンを」

名前は知りませんが…
デジタルワールドで観察したことはあります。
森を爆撃して狩りをしていたところを。

「そうか。ならば、我々が育て上げたシューティングスターモンの実力は知っているだろう」

…ええ、知っていますとも。
そして、その残忍な狩りの手口も。

「残忍?はっ、そう見えるかもしれないな。だが必要なことだ」

必要なこと…?あれが?

「シューティングスターモンはとにかく腹が減りやすい!だからああやってたくさんエサを獲らねばならんのだ」

ちょっと待ってください。

「なんだ?」

…あんな狩りの仕方、無いんじゃないですか。
デジタルワールドの環境破壊、生態系破壊もいいとこですよ、あんなの。

「そうか?あの森には一度しか落としていないぞ。一度狩りをしたら、次はできるだけ遠いところで狩りをしている。何の問題がある?」

…。

「問題なかろう?」

パルタス氏に対して、リーダーが口を開いた。

「…その、シューティングスターモンで、何度かクラッカーと戦ったことがあると?」

「うむ。粘菌デジモンが来たことがあったな。負けたことは一度も無いぞ。威力の加減が難しく、護るべきデータを破損させたことはあったがな!」

パルタス氏がそう言うと、タブレット画面から合成音声ソフトの声がした。
『ワカッタカ オチビドモ オレサマガ ナンバーワンダ』

…今のはシューティングスターモンのチャットを音声にしたんですね。
…そのデジモン達は…

「そう、スターモンの子孫だ。本家スターモンより強く育てた自信があるぞ!」

…それで。
なんでうちのデジモン達を売れという話になるんですか?

ティンクルスターモンとピックモンズでしたっけ。
シューティングスターモンのデジタマから成長期や幼年期のセキュリティデジモンが産まれているなら、それを育てればいいんじゃないですか。

「…」

どうしたんですかパルタスさん。

「…いや、シューティングスターモンを殖やすのは…無理だ!こんな大食らいを二体も三体も抱えてられるか!」

まあ、そうですよね。

『タリネーンダヨ モット タタカワセロ カリモ タイクツデ シカタネー』

「それにこいつは、さっき言った通り攻撃の威力調整があまり効かない!防衛すべきシステムを敵ごと破壊しかねないという危険性がある!」

じゃあ、そのティンクルスターモンとピックモンズは?

「こいつらは…まあ強いには強いが…。同じ戦力ばかりで構成されたチームは脆いものだ」

『イージャネーカヨ! アクトードモヲ ブッコロス チカラガ アレバ イーダロ』

…つまり。
器用なデジモンが欲しいと。

「そうだ」

自分で育てればいいんじゃないですか?

「そう思ってグレイモンのデジタマを拾って育ててみたが…、孵化して育ったアグモンは全く言うことを聞かない!」

…器用なデジモンが欲しくてグレイモンのデジタマ拾う判断は、どうかと思いますが。

スターモンの子供達を、器用なことができるように教育してみては?

「その結果がこのティンクルスターモンとピックモンズだ」

『パルタスノ アネキ! ツギハ イツ アクトードモヲ ブッコロセルンデスカイ!?』

「貴様ら…もっと器用に立ち回れるように勉強しろと、いつも言っているのがわからんのか!」

『ウェーーーイ オレラ コマカイコト ワカンネーッス! フゥーーーーー!!』

「フゥーじゃない!」

…器用な感じじゃないですね。

「どうにもスターモンの血がこういう感じらしい。誰かを護って戦うことに、本能的に飢えているようだ」

まあ、スターモンは小細工なしで、高いDPから来る純粋な強さで敵をねじ伏せるタイプですからね。

「そういうわけでだ。我々ジャスティファイアは、新たにデジタルワールドから器用なデジモンの素質があるデジタマを拾って育てるよりも…貴様らが育て上げた優秀なセキュリティデジモンを量産する方がよいと判断したのだ!」

ズバモンとルドモンはクラッカーのデジモンを鹵獲したんであって、我々が育てたわけじゃないですけどね。

「なに!そうなのか!?」

はい。
まあ全然言うことを聞かないし、一向にこっちの仲間と打ち解けませんね。
優秀な力を持っているのに、宝の持ち腐れです。

「何もしなくてもエサを貰えるからだろう」

ええ、そりゃまあ…
餌付けを続ければ、いつかは感謝で心を開いてくれるかなと思って。

「甘い甘い!甘すぎる!メシ抜きにしろそんな奴ら!」

『ソウダゼェエーーーイ!フウゥーーー!』

ええ!そんな…
ネグレクトじゃないですか。

「ぬるすぎるわ!貴様らは可愛いペットでも飼っているつもりか!働かざる者食うべからず!だろうが!」

うーん…
それはどうかと思うけど…。

「いいか!宝の持ち腐れというのはだな!ルドモンとズバモンの能力のことではない!貴様らにその剣と盾を預けていることの方だ!!我々に売れ!!」

…コマンドラモンもですか。

「そうだ!貴様らの活躍は見ている…が!コマンドラモンほど優秀なデジモンがたった一体しかいないというのはあまりにも勿体無いではないか!」

そりゃそうですけど…

「貴様らはこれからも、クラッカーのデジモンが出現する度に全国各地へヘリコプターで飛んでいくつもりか!?続くはずないだろうそんなセキュリティが!」

うっ正論だ!
痛いところをつく。

「貴様らのチームがどれだけ優秀でも、手数でキャパシティを上回られたら防衛しきれない!だからコマンドラモンを我々に売って殖やさせろと言っているのだ!」

カリアゲが眉間に皺を寄せる。
「ちょっと待てよ!殖やすのはいいけど、なんであんたらに売る必要があるんだ!うちで殖やせばいいじゃねーか!」

「それはいつになるんだ!?キサマらは今まで一体でも成長期を進化させて成熟期デジモンにしたことがあるのか!」

「い、いや、ねえけど…」

「我々にはある!このシューティングスターモンの実績がな!キサマ等に任せていてはいつまで経っても埒があかんわ!時間は有限だ、クラッカーはキサマらがもたもたしてるのを待ってはくれんぞ!」

「む、むむむ…!」

ところで、なぜコマンドラモンなんですか?
他のデジモンは?
…マッシュモン以外で。

「無論、殖やせるならみんな殖やしたいに決まっている!高い格闘能力とツタによる捕縛、粘菌デジモンの毒への耐性をもつパルモン!粘着糸で敵を拘束できる上に、野生の同種に比べて卓越した優秀な知能を持つワームモン!どちらも殖やしたいに決まっている!」

『…おれは?』

デジヴァイスからブイモンの声がした。

「ブイモンは…なあ…別に急いで殖やしたいものではない」

『…そうかよ』

…まあ、主張は分かりました。
どう思う、みんな。

私がそう聞くと、カリアゲがいの一番に口を開いた。
「…なめやがって…コマンドラモンはいつかうちで成熟期に進化するさ!仲間をそう簡単に売れねーよ!」

続いてメガが喋った。
「まずはアグモンを育ててみたらどうですか?」

シンも頷いた。
「コマンドラモンはうちらの仲間っすよ!売るとか何とか…ありえねーッス!」

クルエは悩み中のようだ。

デジヴァイスの中のデジモン達にも聞いてみた。
どう思う?コマンドラモン。
『…まずは いけんを ききたい』

まずはマッシュモンが画面に近付いてきた。
『かみよ コマンドラモンが いなくなるのは さみしい』

パルモンはマッシュモンの言葉に頷いている。
「こまんどは ともだち!なかま!いっしょにいたい!」

ズバモンとルドモンはこちらに興味を持っておらず、ゴロゴロしている。

ワームモンは悲しそうな顔をしている。
『ししょーから みならいたいこと まだまだ たくさんある』

ブイモンは何も言わない。


…みんな反対らしい。
まあ無理そうですね。

「く…何故だ、なぜ分かってくれない!」

あなたの言葉に説得力を感じないからじゃないでしょうか。

「ぬ、ぬぬ…」

最後に、リーダーが口を開いた。

「…俺は…。…パルタス氏の意見に…賛同だ…」

…え?
リーダー、今、なんて?

「…聞こえなかったか。賛同する、と言った」

は?
何言ってるんですかリーダー!?

私がリーダーの言葉に慌てていると、デジヴァイスの画面にチャットテキストが表示された。
コマンドラモンからだ。

『リーダーなら そういうと おもっていた』

こ…コマンドラモン…?
君まで何言ってるの…?

つづく

どういうことですかリーダー。
パルタス氏の提案には乗り気になれませんが。

『それは彼女の営業が下手だからだなぁ!ハーッハッハッハ!』
今まで黙って聞いていたスポンサーさんの声が、端末から聞こえてきた。

「なっ…!なんだと!?侮辱か貴様!?」

『パルタス君!きみは前から思っていたが交渉がヘタすぎる!せっかくの提案がこれじゃ台無しだ!となりのバンモチ君に代わってはどうかね?』

「ぐ、ぐぬぬ…」

話を振られたバンモチ氏がなにか言おうとすると、リーダーが静かに口を開いた。
「…いや、いい。俺が説明する」

り、リーダーがですか。

「まず…先日のAAAとの戦い。お前らは勝ったと思うか?敗けたと思うか?」

え?
ああ、うちの本拠地を攻めに来たキャンドモンやシャーマモン達ですか。

ファンビーモンが片付けてくれましたよね。
我々の勝利じゃないですか?

「…みんなそう思っているのか?」

カリアゲ、シン、クルエはリーダーの問いに頷いたが…

当時、現場で対処に当たっていたメガは縦には振らなかった。

スポンサーさんはタブレット越しに、我々を観察しているようだ。

…尚、神木さんは「きみたち二人の商談に私が割り込むのは違う」と言って応接室には来ていない。

一通りの反応を確認した後、リーダーはメガの方を向いた。

「…メガ。お前だけ、勝ったと思ってないんだな」

んん…?
本丸を防衛できたから勝利じゃないの?メガ。

「…あの戦いは、キャンドモンとシャーマモンを片付けて終わり、というものじゃなかった。最後にプラチナスカモンが潜んでいたのを覚えてる?」

ああ、うん。いたね。
何もせず帰っていったけど。

「…そこが重要なんだ」

え?プラチナスカモンが?どうして…

「ファンビーモンは、プラチナスカモンを一度攻撃した後…その場から飛び去ったんだ。プラチナスカモンを見て『食えそうにない』と思ったからだ。ファンビーモンにとって、餌にならない相手は威嚇対象ではあっても攻撃続行の対象じゃないんだ」

そ、そうなんだ。

「ここまでまだ分からないの?ケン…!ボスマッシュモンも肉体を構成できておらず、ファンビーモンも戦わない。本拠地が完全に無防備な状況で、プラチナスカモンを自由にさせていたんだ!もし、プラチナスカモンがキャンドモンみたいに火を吐くデジモンだったら、今頃ぼくらの拠点はどうなっていたと思う?」

…コマンドラモンやパルモン達を入れたランドンシーフと共に、私やリーダーがヘリで帰還するまでの間に…
システムを破壊されていた、か。

「…AAAがプラチナスカモンを帰らせたのは、どんな理由があったかは知らないけど…『敗北を認めて撤退した』からじゃない。『チェックメイトを指し終えたから』だと…僕は思う」

…チェックメイト。王手詰めか。
だけどチェックメイトを指し終えても、破壊活動をせずに彼らはそのまま帰ったのが事実でしょ。
戦力が足りなかったから帰ったんじゃないの?

「あちらの残存戦力がどれくらいいるか分からないけど…『キャンドモン達の親デジモン』がいるのは間違いない。やろうと思えば、それを引っ張ってくることはできたはずだ」

じゃあ、なぜそうしなかった?

「僕はあの時、もしも本当に詰んだら、せめてプラチナスカモンやキャンドモンの親などの戦力を監禁して道連れにするために、ネットワーク回線を切断してサーバーをスタンドアローンにするつもりだった。クラッカーからすれば、我々はそのリスクを負うまでもない相手だったから、撤退した…それだけの話だよ」

クラッカーはどんなデジモンでも道具扱いし使い捨てる奴かと思ってたけど、そうでもないのか。

「AAA自身は、貴重で価値ある道具を無駄にしないタイプらしい。もしAAAが、例のクレカ会社を襲った向こう見ずのバカみたいな奴だったら…どうなっていただろうか」

…。

「…これはあくまで、戦いを振り返った僕の解釈だ。ケンやカリアゲ達の解釈は違うかもしれない。それを踏まえた上で今尚、盤面を俯瞰して…胸を張って勝ったといえる?」

…生き延びるチャンスを得たことそれ自体は、敗北じゃないと思うけども…。

「現状認識が甘いんじゃない?ケン」

カリアゲがツッコミを入れる。
「そうだとしてもよ?コマンドラモンがいなくなったら、さらに防衛力が落ちるだろ」

「パルタスさん、仮にそちらでコマンドラモンが成熟期になった場合…産んだデジタマから産まれたデジモンを、我々は買えますか?」

「ん?当たり前だろう!むしろ一時的にとはいえ貴様らの戦力を手薄にしたのだから、サービスしてやるのが筋だろう」

いや、当たり前って…
そんなこと言ってなかったじゃないですか。

「なんだ、こんなこともいちいち言わんと伝わらんのか?」

パルタス氏の隣で、バンモチ氏が「伝わるわけないでしょ…」と呟いた。

『ハーッハッハッハ!きみは本当に交渉が下手なのが玉に瑕だなぁ!パルタス君の得意分野は明らかにこっちじゃないんだから、やはりバンモチ君に任せてはどうかね?』

「黙れクロッソ!!…おほん、話が脱線しているぞ、元に戻せ」

パルタス氏がそう言うと、リーダーが口を開いた。
「メガの言った通りだ。我々は現戦力の構造上の致命的な欠陥を突かれたんだ」

構造上の致命的な欠陥…ですか?

「ああ。この先もしも、クラッカーデジモンが沖縄と北海道に交互に出現したらどうする?我々研究チームが飛行機に乗って北へ南へ往復し続けるのか?」

それは…他のデジモン研究者にも頑張ってもらうしかないんじゃないでしょうか。

『ハッハッハ、君達は優秀だね。しかし優秀すぎるあまり、自分達に比べて周りがいかに遅れているか、いかに自分のレベルに遥か遠く追いついていないかを認識できていない!君達ほど優秀なセキュリティデジモンを揃えている組織はまだい無いよ!』

…じゃあ、我々が飛び回るしかないんでしょうか。
やだなあ、我々は研究が本分なのに。

パルタス氏が返事をした。
「今のままではそうなるだろうな!我々のティンクルスターモン達は軍事基地防衛用だ、ゆえに民間のパトロールへ向かわせることはできないからな!」

カリアゲが立ち上がった。
「なんだよ!軍のデジモンなんだろ、市民を守れよ!」

「陽動にすぐに食らいつくわけにはいかないだろう!」

…陽動?

「そうだケン。俺達の戦力は、致命的といえるほど陽動に弱い。我々がコマンドラモン達を連れ出してる間に、我々の本拠地やクレカ会社のような本命を狙われたら、打つ手がなくなる。この致命的な弱点を、このまま放題するわけにはいかない」

でも、今まで相手はその欠陥をついてこなかった。

「いや、仕掛けてきたぞ。先日プチ見張りマッシュモン達が対処した、キーロガー型ゲレモンを覚えているだろう。奴らは見張りマッシュモンがいるユーザーのパソコンだろうと構わず侵入していた。これは情報を盗むことより、我々の戦力を撹乱するための陽動の意味合いが大きいだろうな。俺達はそれが陽動だと読んでいたからこそ、マッシュモンだけで対処することにしたんだ」

そ、そんな駆け引きが…
ちゃんと分かってなかった。

「幸いにも今はまだクラッカー側の戦力も育っていない。陽動用デジモンもマッシュモンで対処できるうちはいい。だがプチ見張りマッシュモンで対処できなるくらい敵の戦力が増したらどうする?見殺しにするか、本隊で出現するしかなくなるだろう」

う、うぅ…!
考えただけで頭が痛くなる!
我々以外にも誰か強いセキュリティデジモンを増やしてくれよ!

「…パルタス氏が今やろうとしていることが、まさにそれだ、ということだ」

あ…。
…そういうことだったんだ。

「だから最初からそう言っているだろう!何を聞いていたんだ貴様ら!」


カリアゲが立ち上がった。
「ちゃんと!!!!!!!順を追って!!!!!分かるように!!!!!!話せ!!!!!!」

ひぃぃ!
カリアゲがキレた!!

パルタス氏はカリアゲの気迫に気圧されていない。
「そんなことも言わなければ分からないのか!!!!それくらいの現状分析は済ませているものかと普通思うだろうが!!!!」

「思わねーーよ!!!」

ああうるさい!
二人共声を抑えてくれ!!

『ハーッハッハッハ!リーダー君が日本語に翻訳してくれたおかげでやっとまともに交渉ができたねえ!流石はリーダー君だ!!』

「なんだクロッソ、その言い方は!私はずっと日本語を喋っていたぞ!?」

まあ、わかった…分かりましたよ…。
…コマンドラモン、どう思う。

『…わたしも おなじことで なやんでいた だが なかまのことも だいじだ ふたつにひとつなら わたしは なかまをえらぶしかなかった』

…え。

『なかまをいまいじょうに まもれるように ならなければ わたしはここを はなれられない』

コマンドラモン…。
そ、それはそうだ!
コマンドラモンの火力は貴重だ。それが欠けたら、正直スカモン大王に勝てないぞ。

「うむ!だから代わりに、我々のティンクルスターモンを貸してやろう!ついでにオタマモンもな!成長期だが強いぞ!それならどうだ!?」

『エェー!?アネキ、コイツラ キノコト ヤサイシカ クワネーッテ キーテマスゼ ネーワ!マジネーワ!ニククエネーノハ ゼッテーヤダゼ!』

…ティンクルスターモンは乗り気じゃないみたいですが。

「こらティンクルスターモン!反抗するな!飯抜きにするぞ!」

『ウヌヌ デモ コンヤノ バンメシ ヌイタホーガ マシッスワ! カンベンシテクダセーナアネキ!』

…乗り気じゃないみたいですよ。

バンモチさんが「甘えてるだけですよ、なんだかんだ言うことはききます」と呟いた。

『ハーッハッハッハ!話し合いがグダグダだな!!論点があっち行ったりこっち行ったり!!なあパルタス君!』

「なぜそれを私に言う!?」

『…もういい。我々はあまり暇じゃないんだ。バンモチ君、パルタス君に代わって話を進めてくれたまえ』

「おい!?クロッソ、何を…」

「えー、それでは。改めまして、主任研究員のバンモチです。うちのパルタスが失礼な発言を繰り返してしまい、申し訳ありませんでした。アポも取っていないのにこのように応対していただき、深く感謝しています」

あ…いえいえ。

「まず、提案させていただく取引内容の説明をさせていただきます。その後、お互いにできるだけ損をせず、共に得ができるよう、摺り合わせをさせていただきたいと考えています」

ど、どうも…よろしくお願いします…?

頭を下げた私のそばで、クルエがひそひそと声をかけてきた。
「ケン君、こういう人が一番手強いって相場が決まってるんです。リーダーは大丈夫だと思うけど、ケン君はうっかりペースに乗せられて流されないようにしてくださいね」

あ、う、うん。ありがとう。

いかん!たしかになんか『取引することは決まってる前提』で話す気分になってた。
…気を引き締めないと。

つづく

バンモチ氏は、先程までシューティングスターモン親子を映していたタブレットで、いろいろな統計データを映し始めた。

「まず、私達がきょう話したい内容は、今後のクラッカーによるデジモンサイバー攻撃への備えと対策について、お互いに協力できることはないか…と、相談しにきたんです」

ふむふむ。

「パルタスさんはコマンドラモン達を売って欲しいと言ってましたが、それはバンモチさんが推している提案であって、それにこだわって手段を限定する気はありません」

え、あ、ああ、そういうスタンスだったんですか。
まずそこから知りませんでした。

「なんだバンモチ?そんなこと最初から私が言ってるではないか」

「言ってませんパルタスさん。思いっきり省いてました」

「それは省くだろう!我々がコマンドラモンを売って欲しいと頼むのに、それ以外の道理など無いと、少し考えれば判るだろう?なあ?」

いえ…
何考えてるかわかんなくて怖かったです。

「えぇ!?なぜだ!?」

『ハッハッハ…バンモチ君、続けたまえ』

「まずはお互いに、昨今のデジモンサイバー攻撃の手口や規模、動向について情報交換しましょう」

わ、わかりました。

「なんだバンモチ?そんなまどろっこしいことしてないで早く本題に…」

『バンモチ君!パルタス君の茶々は気にせず続けたまえ』

「クロッソ!なんか急に私への当たりが強くなってないか!?」

見れば見る程、頭の悪そうなミリタリー女ってイメージだ。容姿が艦〇れのビス〇ルクみたいで嫌なんだけど。
好きなデジモンは『タンクモン』の様な鋼の帝国(メタルエンパイア)所属のデジモンか?

しかし、このバンモチさん…
始めて会ったときは「あっしはバンモチでやんす」とか言ってたけど、急に喋り方が変わったな。
まあいいけど。

「まずは我々から報告します」

要約するとこうだった。
政府がジャスティファイアにデジモンサイバー攻撃への対策研究を委託したのは、例の鉄鋼会社事件が起こって間もない頃だった。

スカモン大王を餌にして育ったマッシュモンのうち数体を、とりあえず警備につけながら、デジモン研究をしていた。

最初に採取したのが、グレイモンの産んだデジタマだった。
そこから産まれたデジタマをとりあえず育成してみたが、幼年期デジモンに言語教育をしようとしても全く興味を示さない。

そのまま成長期になったが、やはりいくら言語教育をしようとしても興味を持たない。

やがて財務省のサーバーに、スパイウェア型デジモンが来たので、アグモンに迎撃させようと試みたが…
周囲のマッシュモン達を攻撃し始めたので、引っ込めた。

それ以来、アグモンは飼い殺しみたいな状態になっているという。

「…私達はデジモンという生物の行動原理を全くわかっていなかったんです。クラッカーがデジモンを操っているのだから、私達もデジタマを拾えば言うこと聞いてくれるパートナーへと育つだろう…と考え、まずは最初のトライアルをしてみたんです」

その結果、アグモンは言うことを聞いてくれなかったと。

「私達は、デジモンの『戦う動機』とか『人に協力しようとする動機』を軽んじていたんです」

「デジモンは命じられれば戦うのが当たり前」…そんなわけがないんですよね。
デジモンはロボットでも奴隷でも、ましてや正義のヒーローでもないんですから。

「そうです。デジモン自身に、我々人間に対して協力する動機や、クラッカーと戦う動機がなければ、命令を聞くはずもないし、敵と戦ってくれるはずもない。そして、アグモンに今からそれを持ってもらうにはもう遅かった」

「…そうだなバンモチ。アグモンには悪いことをした。そもそもグレイモンは、野生において集団行動せずに単独で狩りをするデジモンだ。誰かと共生しようという本能が、遺伝子レベルで存在していなかったんだ」

そうですね。
我々の世界でも、スナネコやアライグマ等、もともと飼育に向いていない動物というのが存在します。

「どんな動物とでも、愛情を持って接すれば必ず心を通わせられる」なんてことはありえません。

我々がファンビーモンをパートナーにできなかったように。

『それに気づけただけでも君達の組織は優秀な上澄みだよ!バンモチ君、パルタス君!セキュリティデジモン研究をしている組織は零細やベンチャーなどそこそこ多いが、未だにそこに気付けない者達が大勢いるんだ!ハッハッハ!』

ちなみにそのスパイウェアデジモンというのは…

「その時来たのはゲレモンでした。今は海外から別のデジモンが攻めてきますが…その話はまた後で」

分かりました。
ただひとつ。
グレイモンが、集団行動をしないというのは違うと思いますよ。

我々が野生でグレイモンを目撃したときは、タスクモンやティラノモン、グラウモンと共に協力して狩りをしていました。

だから、遺伝子レベルで共生不可能ということはなく、条件次第では共に戦ってくれるように育つかもしれません。

「そういえば…。あれ?ではなぜ我々とは共に戦ってくれないんでしょうか…」

…グレイモン達には「上下関係」がないからじゃないでしょうか。
近い実力で、実際に一緒に戦場に立って戦う仲間とでなければ、協力しない、とか。

「その発想はなかった…」

「そしてセキュリティデジモン研究に暗雲が立ち込めていたときに、パルタスさんはあるデジモンに目をつけました。スターモンです」

スターモンか…。
我々も狙ったんですが、出遅れてしまった。

「デジタルワールドに住む野生のスターモンは、テントモン等を外敵から護ることで、対価として餌を受け取る生活をしています。これは明確な社会性であり、本能に根付いているなら、傭兵のようにギブ&テイクで飼いならせるのではないかと思ったんです」

それで、どうなりました?

「パルタスさんはデジドローンVRを使い、四六時中スターモンのデジタマから産まれた子供にコンタクトを取り続けました。その結果…幼年期デジモンは、パルタスさんへ心を開きました。それが育ったのがシューティングスターモンです」

どんな風に接したんですか?パルタスさん。

「うむ。我々を脅かそうとしている巨大な悪が存在する!貴様の力が必要だ、助けてくれ!とな!」

ふむふむ…すると幼年期デジモンどう答えたんですか?

『ソリャモー アレヨ オレサマノ ダチヲ コマラスヤツァ ユルシチャオケネー! ブチノメシテヤル! ソウイッタゼ オレサマハナ!』

お、おお…!
上手い言い方ですね。

「上手い言い方?何がだ?」

へ?

「私はただ思ったままをシューティングスターモンへ伝え、彼がそれに応えてくれた。それだけだが…?」

それを聞いたクルエが、ひそひそと話しかけてきた。
「どうやら天然っぽいっすね…。パルタスさん、意外に魔性の女っす、侮れない…」

…うん。真心と言おうね。

「それから私達…というよりパルタスさんは、当時ゴツモンだったシューティングスターモンに、かなり厳しいトレーニングをさせて、高カロリーな食事を与えました。野生デジモンと積極的に戦わせて、狩りをさせたんです。…死闘の連続でした」

「うむ!時には成熟期デジモンとも戦わせたぞ!だいたい惨敗することが多かったが!」

『ナンドモ シニカケタナ! ウデガ モガレタシ メモツブサレタ!サイキョーニナッタイマ カンガエルト シゲキテキ ダッタゼ』

「懐かしいな!はっはっは!一歩間違ってたら死んでいた!」
『ハッハッハ!チゲーネーヤ!』

…そ、壮絶だ…。
なんでそんな虐待みたいな育て方したのに、シューティングスターモンはパルタスさんに懐いてるんですか。

『ナツク!? ザケンナ パルタスハ オレノダチダ ペットミテーニ イウンジャネー! ブッコロスゾテメー!』

ごっごめん。

『ダッテヨ、ダチガコマッテンダカラ ウントツヨクナッテ タスケテヤルシカ ネージャネーカ! ソレニ アクトードモヲ ブチコロスノハ タノシーゼ? キタエレバ キタエルホド タノシイ! ホカニ リユーガ イルノカ』

…ほんとに相性いいんですね。

「ふふん!そうだろう!そうしてクラッカーのデジモンと戦い続けた結果、怪我してボロボロになったゴツモンは凄まじい進化を遂げ、シューティングスターモンになったのだ!ふはははは!我が国の最強防衛戦力といっても過言ではないだろう!」

『ッタリメーヨ オレサマガ!サイキョーダ!』

…口に出しては言えないけど…
パルタスさんも、シューティングスターモンも、二人共まともじゃない。
狂気の沙汰だ。
…我々では絶対に真似できない。

…今までの話を聞いて、どう思いますか?リーダー。

「前言撤回だ。シューティングスターモンと同じ鍛え方をするというなら、いくら金を積まれようと、コマンドラモンは売れない」

「なぜだ!?!?!?」

つづく

Ⅾ-ブリガード系列のデジモンの進化条件は厳しいぞ。少なくともパルタスのやり方では不可能だ。

………ネクストオーダーのダークドラモンの進化条件は以下の8つを満たさなければならない。どれか1つ合致してなければ別のデジモンに進化してしまう。

HP10000以上、力強さ2200以上、賢さ:2000以上、体重45以下、育成ミス0回、きずな90%以上、しつけ90%以上、戦闘勝利数55回以上。

これを見てみれば解るとは思うが、単純に戦っているだけじゃ駄目だと思ってる。
『戦闘力』と『キルスコア』は勿論必要だけど、それと同じくらい『体格』と『教養』、『品格』が重要だろう。

日頃の「勉強の成果」や「健康バランス」が問われる筈なんだ。
いくら強くても、[ピザ]やDQNはアウトだ。ロクな成長しねーぞ。パルタスはそれを理解していない。

パルタス氏の問いかけに、カリアゲが答えた。

「なんでかって!?決まってるだろ!そんな虐待同然の育て方する奴らに、俺達の大事な仲間を預けられるわけねえだろ!この先あんたらに育てられるデジモン達が可哀想だってもんだ!」

「何だと!?貴様、言わせておけば…!貴様に国防の何が分かる!そんなシンパシーに流され、クラッカーに敗北したらどうなるか分かっているのか!」

「負けなけりゃいいんだろ!勝てばよぉ!」

「だからそのために強いデジモンを育てる必要があるのだろうが!」

一触即発の雰囲気になりかけたところで、リーダーがカリアゲを静止する。

「カリアゲ。違う、そういうことじゃない。『コマンドラモンが可哀想だから』なんて理由ではない」

「あり?ちがうの?」

デジヴァイスの画面に、コマンドラモンのチャットが表示される。
『トレーニングが ものたりない』

「え?物足りない?どゆことっすかリーダー?」

「…我々がコマンドラモンにさせているトレーニングは、体力や白兵戦闘能力を向上させるものだけではない。思考力。問題定義能力。問題解決能力。情報共有能力。連携能力。他もろもろの勉強をさせている。頭のトレーニングを重視しているんだ」

「頭のトレーニング…語学学習のようなものか」

「お前達は、ティンクルスターモンにそれを施しているのか?」

「無論やっているが…」

『アネキ!ベンキョーノハナシデスカイ!?ダカラ オレラニハ イラネーッテ イッテンデショ! チカラヅクデ ブッタオシャア カイケツデスワ! ワカッテクダセーヨ!』

「…向いてないんだな。ティンクルスターモンには、頭を使うことが」

「そうだ。だから、優秀な知能の素質を持つコマンドラモンを成熟期へ育て上げ、そのデジタマから産まれたデジモンへ、思考力向上のトレーニングを施そうと考えたのだ。シューティングスターモンと同じ育て方をしようというわけではない」

カリアゲは訝しげな表情をしている。
「…ティンクルスターモンを甘やかしすぎじゃねーか?勉強なんて、嫌でもやるもんだろうが」

いや、それは人間基準を当てはめすぎてるよカリアゲ。
デジモンの脳の進化が、必ずしも人間と同等の思考能力を獲得する方向に向くとは限らない。

カリアゲは野生のスターモンみたいに、空を飛んだり隕石落としたりできる?

「いや無理だけど…関係なくね?」

大いに関係ある。
我々の脳でできることが、デジモンの脳ではできないときがある。
逆も同じだ。
デジモンの脳でできることが、我々の脳ではできないことがある。

デジモンの脳が、人の脳と同等の機能を有しているという前提で決めつけるのは良くない。

「…俺達もそのせいでファンビーモンの育て方をミスったとこあるからな。わりい」

みんな得意不得意があるからこそ、助け合うことで互いを補える。
カリアゲが大事にしてる『絆の力』の本質はそういうことじゃないの?

「…そうだな。悪い、ティンクルスターモン」

『ギャハハハハ!キニスンナ! コザイクハ ニガテダガ ケンカジャ ダレニモ マケネーッスヨ!』

バンモチ氏はため息を付いた。
「あーーーーだめですねこれ。最初の出だしでしくじったせいで、議論が否応なく『コマンドラモンを売るか売らないか』に引っ張られてしまう…」

まあ、それはそうでしょう。

「いったん議論をリセットしましょう。もしバイオシミュレーション研究所の皆様が今、『コマンドラモンを私達に渡さないように言い負かすこと』を第一優先としていて、私達を『敵』とみなしているのであれば…、コマンドラモン達を売って欲しいという提案は、いったん無しにさせてください」

「え?お、おいバンモチ…取り下げるのか?」

「だってパルタスの姉御…、これもう無理でやんすよ。もともとコマンドラモン売ってもらうこと自体が目的じゃないんでやんすから」

「…それもそうか…。分かった。バンモチ、貴様に任せる」

とりあえず、相手方が自爆したおかげで、コマンドラモンの売り買いの話はいったんお流れになったようだ。

カリアゲはこくこくと頷いている。
「あーよかった。…で、これからなんの話するんだっけ」

まあ、そうなるよね。

『ハーッハッハッハ!せめてアポイントメントは取るべきだったな!普段は取ってるのに今回はなぜそうしなかったのかなパルタス君』

「だって、大事な仲間を譲って欲しいと頭を下げに行くんだ。代表者の私が直接出向かねば失礼だろうが!」

『…人には得意不得意があり、一人でなんでもできるわけではないから、多数の個性で互いを補い合う。まずは君達自身がそれを実践できなくては、デジモン達に同じことをさせるのは無理ではないかな?ん?』

く、クロッソさん、それくらいで…。
なんか辛気臭くって聞いてる方が辛くなってきました。

『これぐらいにするか。それでバンモチ君、取り引きを取り下げるとして、これから何の話をするんだね?』

「…日を改めさせていただきます。まずはアポを取って、互いに話し合う準備ができてから、建設的な話し合いをしましょう」

それが良さそうですね。
私も頭がこんがらがってきたので。

「それでは、今回はありがとうございました」

こちらこそ、シューティングスターモン育成論を教えてくれてありがとうございました。
成熟期デジモンを育てるための参考になりそうです。
…そのままマネはしませんが、我々に合ったやり方で。

「それは何よりです。それでは失礼します。行きますよパルタスさん」

「う、うむ…。色々と悪かったな。先を急いでしまって。だが、状況は楽観視していられない、今の体制のままでは敵の戦力拡大に追い抜かれかねない…という注意喚起だけはさせてくれ」

分かりました。

「それでは、失礼する」




「ちょーーーーーーーーーーっと待った!」
そう叫んだのは…
クルエだった。

さすがに驚くパルタス氏。
「ん!?な、なんだ!?」

「なんで勝手に話終わらせてるんですか?」

おいおいどうしたんだクルエ…!?

「い、いやだって、コマンドラモン達の売り買いの話は無しにして、日を改めるって話にまとまっただろう」

「それはあくまで『コマンドラモンの話』ですよね?ルドモンとズバモンの話はどうなったんですか!?なんでそっちの話まで終わってるんです!?」

「え、ええ…?」

「ルドモンとズバモン、まーーーーじでなんにもしないんですよこいつら!いやね?敵に飼われてたデジモンを鹵獲して、私達に懐けってのが無理あるのは分かってますよ?でも!こんな穀潰しをうちに置いといていいことなんてないですよ!!」

クルエが珍しく感情的になっている。

「おお…?」

「最初に言ってたじゃないですか、コマンドラモンだけじゃなく、ズバモンとルドモンも売るって!だ・か・ら!こいつらは買い取ってビシバシしごいてやってください!!」

「い、いいのか…?我々は甘くないぞ?貴様らはさっき我々の指導方針に喧嘩を向けていたような気もするが」

「いいんです!!!引き取ってください!!オナシャス!!」

クルエがそう言うと、デジヴァイスからコマンドラモンのチャットが表示された。
『われわれの チームは なかまいしきでのみ つながっている。なかまのきずなが たたかうどうきだ。ゆえに なかまいしきのないものと ともに たたかう すべがない』

…そうだよね。
我々のチームは、スターモン一族のように殺し合いを愉しむバトルマニアじゃないし、傭兵集団でもない。
『仲間意識』が戦う動機だ。

だから、仲間意識を持てないデジモンをチームに引き入れることができない。
それは我々のチームとしての、明確な脆弱性だ。


ならば、我々で育てられないルドモンとズバモンを、いっそ他のチームで育ててもらうのに賭けるというのは、理に適っているかも。

パルタス氏の狂気じみた教育方針が、有利に働くかもしれない。

「わかった!そのデジモン達は、我々ジャスティファイアが鍛えに鍛えて、性根を叩き直してやろう!我々に任せろ!ふはははは!」

リーダーが少し笑みを浮かべた。
「そういえば、譲渡ではなく売却を望んでいるそうだが…具体的な価格はどう見積もってるんだ?」

「おお、そうだな!こうだ!」
そう言い、パルタス氏は電卓を見せた。


…目玉が飛び出るような価格だった。
そりゃそうだ。
『人間を強くするにはどうすればいいか?』と問われたら、トレーニングも大事だろうが、『強い武器を与える』のが一番手っ取り早い。

ならばデジモンでもそうだ。
『強い武器』を量産してセキュリティデジモンへ与えるのが、戦力強化には一番てっとり早い。

それを殖やせる可能性をもつ、強力な剣と盾の種デジモンを売るというのだ。
こんな額にもなる。

「大事な国民から預かった貴重な血税だが、うまく育てば十分国民へ還元できるだろうな!どうだ?」

…私も、クルエも、シンも、メガも…
リーダーも、そしてカリアゲも。

一斉に首を縦に振った。

…数日後。
ジャスティファイアと連絡を取ってみた。

あれからどうですか?ルドモンとズバモンの様子は。

『うむ!野生デジモンと戦わせようとしたら、そのままデジタルワールドへ脱走しようとするな!その度にティンクルスターモンに連れ戻されている!』

まあ、そうなりますよね。

『当然だな!ふはははは!だがそれくらいで手を緩めたりはしないぞ!』

…よろしくお願いします。




人類と飼育動物の関わり方は、決して互いにメリットを与え合い、愛情を向け合うものだけではない。

例えば日本の狭い国土でニワトリを大量に飼育し、効率よく採卵するために、バタリーケージという狭い監獄へニワトリを閉じ込める手法がよく用いられる。

この方法は、広い庭でニワトリを飼育するのに比べて、極めて強いストレスをニワトリへ与えることになる。

だが、ニワトリに同情してバタリーケージを廃止して広い飼育場で育てるとなると、それだけ飼育コストが跳ね上がり、卵の価格も高くなる。
一般消費者の目線からすれば、どれだけニワトリが苦しもうが、見ないふりして安い卵を買えたほうがよいのだ。


化粧品や新薬のアレルギーテストのために、ウサギや猿などの実験動物を使うことがある。
これらの動物は無論、日々苦痛に苛まれ続けていることだろう。

だが、実験動物に同情して動物実験を廃止したならば、人々はアレルギーテストをしていない化粧品をつけたせいで肌が荒れてしまうかもしれない。
実験不十分な新薬を服用したせいで、副作用に苦しむことになるかもしれない。
一般消費者の目線からすれば、実験動物ぎくら苦しもうが、安全安心の化粧品や医薬品を自分達が使えたほうがいいのだ。



動物と人間の関わり方のスタンスは、そのままデジモンと動物の関わり方にも当てはめられていくだろう。
多数の研究チームが、それぞれ異なるスタンスでデジモンを育成し、試行錯誤する。

必ずしもデジモンに同情して効率の悪い選択をすることが、正解とは言えないかもしれない。

それでも、我々は。
デジモンとの絆を大切にする今のスタンスを、しっかり持っていきたい。

つづく

ジャスティファイアとの対談から、成熟期への進化に関するヒントが得られた。

その仮説は…
「生命の危機を感じること」。

ただし、平和な環境に居たデジモンが急に成熟期デジモンと戦うことになったとして、命の危機に陥った時に突然進化を遂げるというものではなさそうだ。

仮に「ピンチになったら進化できる」のであれば、今頃デジタルワールドは成熟期だらけになっているはずだし、成熟期に捕食される成長期デジモンなど居ないだろう。

つまり、「一時的な危機を進化によって凌ぐ」というものではなく、「平時の生活環境において、常に命のやりとりをする環境」だということが重要…なのだと思う。

ただし、この説には穴がある。
かつて離島で目撃されたキウイモンやトーカンモンが成熟期に進化できた理由を論理的に説明できないのだ。
あの平和で食料もそこそこある離島では、キウイモンやトーカンモン達は生命の危機を感じていなかったはずだ。
故に「生命の危機」は数ある成熟期進化要因のうち一つ、くらいに考えておくべきだろう。

…シューティングスターモン育成論をそのまま猿真似すれば、戦闘向きのDP高いデジモンを育てることはできるかもしれないが…
『維持コスト』というのは非常ーーーーーーに重要な要素なのである。

もしも一般企業向けのセキュリティデジモンが、スコピオモンくらいDPが高ければ、それはそれで問題なのだ。
クラッカーに侵入される以前の問題として、デジモンの維持コストで予算が枯渇しかねない。

かといって、モスモンやサラマンダモンのように「DPの高さに頼らずに、強力な立ち回りができるデジモン」は、やや打たれ弱いという短所もある。

その辺の絶妙なバランスが、我々のセキュリティデジモン開発には重要になってくるだろう。

さて…
そんなこんなでセキュリティデジモン開発にいそしむ我々の研究チームだが…
リーダーから話があった。

「みんな聞いてくれ。ようやく我々が求めていた条件の島が見つかった。カリアゲが見つけてくれた」

んん?なんだっけそれ?

私が首を傾げていると、シンも同じリアクションをしている。

「ん?そういえばシンには言ってなかったが…ケンにもだったか?」

…デジタルワールドの観察をメインでやってると、どうにもセキュリティデジモン開発の方の話を忘れがちになります。

「そうか…。端的に言うと、ディノヒューモン農園のように農作物を生育するのに適した環境の離島を探していたんだ」

農作物…。
そういや、うちはずっとキノコ栽培はやってましたが、野菜作りはしてませんでしたね。

「そうだ。最大の理由は…光源不足だ。我々のサーバーのパソコン内では室内ライト程度の光源しか出せないから、野菜を生育することはできなかった」

デジタルワールドで農作業しようとすると…

「野生デジモンが畑を襲撃してくるだろうからな。ディノヒューモン農園くらいの戦力があれば害獣デジモンを追い払えるだろうが、うちの戦力では…ボアモン等の偶蹄類型成熟期が突撃してきたら太刀打ちできない」

しんどいですね…。

「だからデジタケ以外では、魚釣りや、野草採集などで食糧を確保していたわけだ」

クルエがジト目をしている。
「なんか…うちのチーム、全体的に情報共有やばくないすか」

まあそう言わないで…
本当に重要な話はちゃんと聞いてるから。

それで、離島というのは…

「強力な害獣デジモンがおらず、それでいて植物の生育に適しており、それなりに面積が大きい…そういう島を探していたんだが、ようやく見つかったんだ」

つまり、これからは農作業のトライアルを始めるんですか?

「そうだな。我々のサーバーのデジモン生育環境を『ビオトープ』と呼んでいたのは、離島開拓の予行演習としてデジモン達自身に自分達の住む環境つくりをさせていたためだ」

そういえば前にカリアゲとクルエさんが、デジタルワールド内で食えそうな野草とか薬草を調べてたっけ。

あれが作物の候補選定だったんですね。

「そうだな…。我々の飼育デジモン達のトイレがどんな構造になってるかは教えていたか?」

それはさすがに聞いてます。
ボットン式便器の中で、デジタルゲートを垂直に開き、デジタルワールドへ排泄物を捨てるんですよね。

「そうだ。だが捨てていたというのは少し違うな。デジタルワールドへ落とした排泄物は、木製の容器へ溜めておき、野生のププモンへ食わせていたんだ」

隙間の空いた木箱…ですか。
それなら自然に処理されるわけですね。

しかしなぜ木箱の中へ?
野晒しにしても、そのうち土に返ったり、ヌメモンが食べてくれるんじゃないでしょうか?

「へへーん、ケン。じゃあ今からちょっと見てみるか?」

おおっカリアゲ…なんか見て面白いことになってるのか?

クルエさんが隣で「あまり見たくない」って呟いてるけど。

「まあまあ見てくれよ!」

デジクオリアの映像では、木箱が映っていた。
マシンアームで木箱を開けると…

…おお?
排泄物…というよりは、土みたいになってるな。

「ププモンが食ったウ●コはな、有機物がほとんど消化されて有機肥料になるんだ!コマンドラモン曰く、ニオイも全然しなくなるらしいぞ!」

ププモンは排泄物やデジモンの死骸へ消化液をかけて、溶かしてから食べるんですよね。
しかも自分達が細菌にやられないように、抗菌ペプチドを分泌して、嫌気細菌の増殖を抑える。

「そうそう、それはケンが調べてくれたんだよな。そんなわけで、ディノヒューモン農園ではウンコを藁と混ぜて堆肥にしてたけど、うちではププモンに食わせて有機肥料を作ってたんだ」

そうして、今までずっと溜めてたわけか。

「ああ。ようやく使えるぜ!便秘解消ってわけだ!なんちゃって!」

…。

「…オホン。そんなわけで、この島をフローティア島と名付け、開拓を始めようと思うぜ!」

…たしかジャスティファイアは、農作物を作るのではなく、野生デジモンを狩りまくってましたよね。

うちは魚釣り以外では、そういうのはしないんですか?リーダー。

「…我々のチームでは、デジモンの飼料獲得の持続可能性を最重視しているんだ」

持続可能性?

「ああ。ジャスティファイアは今の規模なら、野生デジモン狩りで十分な食肉を確保できているようだが…、もしもジャスティファイアがあの調子でティンクルスターモンやシューティングスターモンを殖やして全国各地へ配備したとしよう。今のままならば、それらの餌を狩猟で確保しなくてはならなくなるわけだ」

…デジモンを狩り尽くして、絶滅させてしまう可能性があるわけですか。

「それもあるが…デジタルワールドの進化は早い。やがてシューティングスターモン達を狩る野生のレベル5デジモンが出現する可能性もあるだろう。そうなると、食糧確保の手段が無くなってしまう」

そうなったら、セキュリティデジモンは共食いし、やがて全滅ですね。

「そうだ。故に我々は、餌の確保を狩りに依存することはリスキーで持続性に欠けると判断した。だから、仮に狩猟のほうが楽で効率がいいとしても、あえて孤島で農作物を作ることにしたんだ」

…野生デジモンとの戦闘経験を得られなくなりそうですが…。

「それはそれで別でやるさ。わざわざ同時にやらなくてはいけない道理はない」

なるほど…。

…クラッカーはその辺どうしてるんでしょうね。

「ズバモンとルドモンを見た限り、野生デジモンを狩って食肉にしているのは間違いないだろう。だが…ケン。確か、蛮族の集落で奇妙な光景を見たと言ってたな?」

はい。
遮光器土偶のようなモノで身を隠す、仮称ニセシャッコウモンが、蛮族からお供え物としてデジモンの死骸を受け取っていました。

…奴らも野生デジモンを食肉として利用することの持続可能性を危惧し、自分達が食糧を確保できる「流れ」を作ろうとしているのかもしれません。

「…デジタルワールドの秩序を、クラッカーに都合のいい状態にしようとしているのか」

既に一度、蛮族デジモンのシャーマモンがAAAとやらの手駒になっているのを見ました。

この先、もしかしたら…
ジャングルモジャモン等の成熟期蛮族デジモンが、奴らの手駒になるかもしれません。

「…成熟期を相手にするのは、骨が折れそうだな…」

あまりデジタルワールドの環境に手を加えたくないですが…
クラッカーへ一方的に陣取りを許したら、覆せないほど勢力図が傾くかもしれませんね。

「…デジタルワールドでの陣取り合戦が始まるかもしれない、ということか…」

そういや、ジャスティファイアは食糧の持続可能性とか考えないのかな?

「ふむ、どうだろうな…。話を聞いてみたらどうだ?」

了解です。
一通り今の話が終わったら、電話してみますね。

「ああ。それでは、フローティア島開拓計画を説明する!まず…」




…さて、説明が終わったので、パルタス氏に電話してみよう。
もしもし。

「おお、その声はケンか?ふはははは、最近よく電話するなぁ!」

どうもです。
それで、かくかくしかじかなんですが…どうなんですか?

「んん?持続可能性?今のまま狩猟ができなくなるなんてことがあるか?」

ええ。
蛮族デジモンに、餌場を取られたりとか…

「???意味がわからない。それがどうかしたか?」

重要なことですよ!
狩猟を邪魔されたりしたら、日本を護る軍用セキュリティデジモンが機能しなくなるってことです!

「なんだ、そんなことか…問題外だ」

何故です!?

「シューティングスターモンのパワーは見ただろう。蛮族デジモンが邪魔してきたら、一捻りにして滅ぼしてしまえばいい!それで万事解決だ!なんなら蛮族デジモン共を餌にしてしまえばいい!」

…ええ。そういう問題ですか?

「そうだが?」

…そうですね。

「ふはははは!そうだろう!」



…あまり参考にはならなさそうだが…
考えてないわけじゃなさそうだ。

うーん…
本当はデジタルワールドにあまり人為的な手を加えず、静かに自然観察していたいんだが…。

そうもいかなくなってきたのは、無常というかなんというか…。




つづく

デジタルワールドの自然環境は、おおむね我々の世界…リアルワールドに似ている。

だが、デジタルワールドの物理法則は、リアルワールドとは多少異なっているらしく、その差異が環境の違いにも表れている。

最も顕著なのはジャングル…熱帯雨林である。

リアルワールドの熱帯雨林は、赤道上に位置している。
強い日照りゆえに気温が高く、それによって生じる上昇気流の影響で一年中雨が振り続けるのが特徴だ。


雨が多く日差しが強いため、植物が育ちやすく、木が高く伸びるのだが…
あまりの雨の多さゆえに、枯れ葉などが分解されても養分が地面から流れてしまう。
ゆえに土壌は非常に薄く、酸化鉄や酸化アルミニウムを含むラトソルという赤い土が露出している。

そのため、「植物が生い茂っているのに土壌が貧弱」なのがリアルワールドの熱帯雨林の特徴である。

その一方で、デジタルワールドの熱帯雨林は、リアルワールドに比べて肥沃な土壌となっている。

浅いジャングルの地面を見ると…
リアルワールドでは見かけることのない、キラキラした美しい透明な粒が地面を覆っている。

…これは、太陽から太陽光とともに降り注がれる「データ粒」である。

デジタルワールドの太陽は、熱と光だけでなく、デジタル生命体の栄養分となる「データ粒」を撒き散らすことがある。

これが雲に混ざり、やがて雨とともに地表へ降り注ぐ。

熱帯雨林では、粒が大きい「データ粒」は、雨に流されずに留まるのだ。

このデータ粒は、そのままデジタル植物たちの肥料となるのである。

それ故か、デジタルワールドのジャングルはリアルワールドよりさらに植物が密集しているのである。

深層になると、あまりに植物がめちゃくちゃに生えすぎていて、我々のデジドローンでは物理的に入っていけないのだ。

そのため、ジャングルの深層は「未探索領域」となっている。

…蛮族デジモン達のルーツは、ジャングル深層だとも考えられている。

このように、デジタルワールドには我々のデジドローンの性能では探索不可能な領域がいくつか存在するのだ。

たとえば深海。
あまりに深い深海だと、デジドローンが水圧に耐えきれず潰れてしまうことがある。

それ故に、深海の海底にどのようなデジモンが潜んでいるのか、今の我々には観察できない。

レベル5の元祖ホエーモンが「姿を消した」のはこのためだ。
レベル5ホエーモンの死骸は未だ見つかっていない。故に、まだ「深海で生きている」のかもしれない。



他には「大空」もある。
我々のデジドローンは、最大20mほどの高さしか飛行できない。

故に、それより遥か上を飛び交うデジモン達がいたとしても、地表から見上げることしかできないのだ。

そんな大空へ常に滞空し続けているようなデジモンがいるのかどうかは知らないが…
いたとしても、観測することはできない。

他には「地下」もある。
もしかしたらデジタルワールドの地下には、巨大な空洞があり、地下文明みたいなものが存在している可能性があるかもしれない。

しかし、デジドローンで地面を掘ってそれらを見ることができるわけではないのだ。

また、デジタルワールドは地球によく似た惑星上に広がっていることが分かっているのだが…
デジドローンを出現させられるアクセスポイントが全く存在しない領域がいくつかある。

砂漠などは、アクセスポイントがほとんどない。ど真ん中へ辿り着くまでに充電が切れてしまうだろう。
故に砂漠にどんなデジモンが住んでいるのかはよく分かっていない。


…明らかに何かがありそうな領域なのに、そこまでデジドローンを飛ばそうとしても充電がもたない…
そういった土地は、今の技術では観測できないのだ。

いちおう、オポッサモンの風船の原理を模倣した「空撮用デジドローン」というのもある。

我々がエクスブイモンとスティングモンのデジタマを捕獲する作戦の時に使ったやつだ。

50mほどの高さにデジドローンを固定し、そのまま地上を撮影するためのものだ。

だが、それは自在に飛び回ったりすることはできず、その位置へ固定することしかできない。

…ままならないものだ。



そして、我々が最近断念した未探索領域に…
「シーホモンの砦」というものがある。

これは海中にあるものなのだが…
何故これを観察しようとしたか、そしてなぜ断念したかは、いずれ聞かせることができるだろう。

このように、デジタルワールドには技術的に探索が難しい領域がある。

しかし逆に、直接観察できない情報を、間接的に知る方法もある。

たとえば、空の動き。
デジドローンで、夜空を毎日同じ位置で撮り続け、星の動きを観察する。

すると、日に日に太陽が上る高さや、星の位置が少しずつ変わっていくのだ。

天体望遠鏡はないが…
デジドローンの感度で観測できる情報だけでも、デジタルワールドの星空がどのようになっているのか、少しずつ理解を深めることができる。

どうやらデジタルワールドにおいても、太陽のまわりを地球が自転しながら公転しているらしい。

だが、リアルワールドの夜空と比べると少し奇妙な点がある。
ここ数ヶ月観察し続けてたところ、全く同じ軌道を回り続けている星がいくつかあるのだ。

ふつうの恒星なら、時期によって見える位置が異なるはずなのだが…。

ここから言えることは…
『デジタルワールドの地球には、恒星のように光る衛星がいくつか回っている』ということだ。

この衛星は何なのか?
なぜ光っているのか?
…それは不明だ。

他にも…
『地層』もまた重要な手掛かりになる。

最近、我々は非常に興味深い地層を発見した。
それは「石炭層」と、その上にある土砂の堆積層である。

デジタルワールドの地層から、分厚い石炭層が発見された…
これは、我々の研究所内では大発見だった。

「石炭を採掘してエネルギー源にできる」とか、そういう話ではない。

結論から言うと…
「デジタルワールドでは過去に、樹木が二酸化炭素を吸いすぎたことが原因で、氷河期が訪れた」と言えるのだ。

…我々のデジドローンでは、地層を掘って化石を発掘することはできないので、なんとも言えないのだが…
氷河期より更に前の地層を掘ることができたり、永久凍土層を掘ることができたら、何らかの古代デジモンの化石が見つかるかもしれない。

さて…
なんだか中途半端に話を終わっても味気がないので、「シーホモンの砦」の話をしよう。

フローティア島に我々のパートナーデジモン達を上陸させ、ビオトープ作りの要領で居住区を作ってもらった。

例の有機肥料作りの木箱は、マッシュモンの手を借りて、デジタルゲート越しにフローティア島へ数個を並べて設置した。

この木箱には、ジャスティファイアへ協力を依頼し、シューティングスターモン達のトイレの転送先座標に指定してもらった。

…おかげで、毎日凄い量の「有機肥料の材料」が木箱へ送られてくる。
やっぱ食う量が凄いと、出す量も凄いんだな。

さて…
この木箱では、有機肥料の副産物として、あるものが生産される。

それは…
丸々と太ったププモンそのものである。

スカベンジャー型のププモンの生活環だが…

まず、羽つきのププモン(成体タイプ)が、排泄物や死骸に小さなデジタマをたくさん産み付ける。

やがて、翅のない状態の小さなププモンが孵化し…
死骸や排泄物の中の有機物を食べて肥え太る。

そうしてある程度の大きさになると、死骸や排泄物から離れて湿り気のない場所へ移動する。

そこで、翅を生やすのである。

翅を生やしたあとのププモンは、やはり排泄物や死骸を食べたりもするが…
それは主食ではなく副食だ。メインは花の蜜や花粉を食べるようになる。

その中で、大きくなったものは幼年期第二形態の小蜂型デジモン、プロロモンへ進化することもある。

そうして、翅の生えたププモンやプロロモンは、再び糞や死骸へデジタマを産み付けるのだ。

さて…
ここで重要なのは、「肥え太った翅無しププモンは、乾いた場所へ移動する」という性質だ。

これを利用すると、木箱から這い出たププモン達が、そのまま落下することで、有機肥料からププモン達を分離して貯めておけるのだ。

このププモン達を、タンパク源として利用することが可能なのである。

さすがにそのまま食わせるのはどうかと思うので…
釣り餌として利用しようと考えたのだ。

しかし、私はその試みに「待った」をかけた。

私は寒冷地帯での出来事を思い出したのだ。
トゲモグモンとゴマモン達、そしてアイスモン親子が、寒冷地帯でプカモンを獲って暮らしていると…

シーホモンというタツノオトシゴ型成熟期デジモンに見つかり、捕捉された。

それ以来、トゲモグモンやアイスモン親子は、シーホモンに見張られ、シードラモンから狩られるようになってしまったのだ。

この離島で釣りをするようになったら、例の事件のように、シーホモンから目をつけられるのではないかと危惧したのだ。

いちかばちか見つからないことに賭けた結果、フローティア島の沖がシードラモンに襲撃されるようになった…となっては大変だ。

故に、海釣りには「ちょっと待った」をかけたのだ。

そこで私は、囮作戦を提案した。

ププモン達の生えかけの翅をむしり取った後、フローティア島から数キロ離れた小さな島へ搬送し、そこでパルモンに釣りをしてもらったのだ。

ププモンを餌にしたプカモン釣りは、とても順調だった。
たまに成長期のスイムモンが釣れたこともあったが、そういうときはコマンドラモンが倒した。


…ある日。
島のまわりを見張っていたチビマッシュモンが、とうとうシーホモンがこちらを見ているのを発見したのである。


…翌日、我々はその小さな島から撤退した。
島の周囲には、しばらくシードラモン達がたむろしていた。

危なかった…。
もしフローティア島でいきなり釣りをしていたら、開拓開始早々シードラモンから氷のミサイルを飛ばされる毎日を送ることになっていただろう。

まあそれ以来、釣りをするときはププモンを入れた箱をデジタルゲート経由で搬送し、フローティア島から離れたところで釣るようにした。

おかげでプカモンやスイムモンというタンパク源を得られるようになった。

まあ、それはさておき…。

シーホモンの情報収集能力、指揮能力は凄まじい。
DPは低いが、実質的な脅威度は下手にDP高めのデジモンよりはるかに高いだろう。

そこで、シンが提案したのだ。
「シーホモンのデジタマを採取してみないか」と。

もし陸地に適応したら…
コミュニケーション能力が高い、高知能のデジモンが育つ可能性がある。

そうして我々は、フローティア島近海でシーホモンの産卵場所を探したのだ。

そうして見つけたのが「シーホモンの砦」だ。

そこはまるで、竜宮城のようだった。
頭から手足とサンゴが生えた姿の成長期デジモン、サンゴモン達が、蟻塚のような大きな砦を作っていた。

シーホモンは、その砦に空いた穴から入り、中を棲み家にしているようだ。
弱い割に良いご身分である。

…デジドローンで中に入れないか、試そうとしたのだが…
サンゴモンの見張りはなかなか厳しい。

結局、シーホモンのデジタマを採集することはできなかった。

このように…
『警備が固すぎて侵入できない場所』もまた、我々にとっては未界域…もとい未開域なのである。

まあ、何はともあれ…

複数箇所をランダムに転々と移動しながら釣りをする分には、シーホモンから目をつけられることはなかった。

我々のデジタルゲートとパートナーデジモンの勝利だ!
どんなもんだシーホモン!




つづく

「これから本格的にフローティア島の開拓を始める…。それに伴い、あるデジモンを味方に引き入れたい」

おおっリーダー。
あるデジモンとは…

「まあ大体分かるだろう。クロッソ・エレクトロニクスへ電話してみる」

リーダーはスポンサーさんへ電話した。

『やあリーダー君!何やら面白そうなことをしているようだね!』

「ああ。拠点を作っている。そこで助っ人が欲しい。オタマモンがいたら売ってくれないか?」

『ふむ…そうしたいのはやまやまだが、需要が多すぎて在庫がいない!まあオタマモン自体はいるにはいるんだが、教育中だったり群れのリーダーだったりで、売りに出せない個体ばかりだ!』

「それは仕方ない…」

『ところでだリーダー君!君たちの島開拓、テレビ映えしそうだね!是非取材させてはくれないか?』

「すまないがクロッソさん…それはできない。フローティア島は我々の軍事拠点だ。クラッカーに座標がバレたら、アクセスポイントからありったけの戦力を送り込まれて破壊されかねないのでな。秘密にさせてもらう」

『そうか、残念だ…。あー、厳しいことを言うようだがね。投資というのは、リターンを期待できるからこそできるものだ。我々はボランティアお金配りおじさんではない…それは分かるね?』

「…ああ」

『君達への投資が打ち切られないようにするためには、その分君達が稼いでリターンを出してくれなくてはならない。それをわかったうえで、賢く立ち回ってくれることを願うよ!ハーッハッハッハ!』

「もちろん…セキュリティデジモンで稼ぐには、今以上に戦力と頭数が要る。そのために、広い土地と食糧増産が必要だ。そのためのフローティア島開拓だ。エンタメ番組の取材がしたいなら、本拠地の整備がしっかり終わってから遊び用にやるさ」

『む、その方が伸び伸びと制約なしにやれてよさそうだね!その時を期待しているよ!ハーッハッハッハ!』

…電話が終わった。

「まずいな…もっと早くオタマモンを押さえておくべきだった」

…あー、火を起こせるデジモンですか。
文明開化には必須ですね。

あれ?
そういえばこないだジャスティファイアが凸ってきた時、コマンドラモンを売ればオタマモンくれるって言ってませんでしたっけ。

ダメもとで当たってみますか?

「…最近あの連中と縁があるな。電話してみるか…」

リーダーはジャスティファイアへ電話した。

『うむ!こちらパルタスだ』

「こちらはバイオシミュレーション研究所のリーダー…リーだ。かくかくしかじかで、島開拓のために炎を使えるデジモンを売って欲しい」

『ふむ…アグモンか?ダメだぞ、あいつは今我々の貴重な戦力に育とうとしている』

えっ、手懐けられたんですか?

『我々の命令を直接聞くわけじゃないし、言語を理解してもいないがな。貴様達から貰った助言にインスピレーションを受けて、再教育してみたのだ』

「再教育?どんな?」

『ふふふ、ティンクルスターモンと同じ部屋に入れてみたんだ』

仲良くなったんですか?

『アグモンがティンクルスターモンに攻撃を仕掛けてきたので…返り討ちにしてしこたまボコってやった!ティンクルスターモンは力加減が苦手でな、うっかり殺しかねなかったぞ!』

ええ…
なんて事を。

『骨折して自力でろくに動けなくなったアグモンを、看病して餌付けしてしてたらな…、なんとティンクルスターモンに懐いたんだ!』

!?

『はっはっは!どうやら自分より強い者には従うようだ!だからアグモンは今、ティンクルスターモンの部下というわけだ!言語は理解してないがな!』

…おっかねー。
絶対真似できない教育方針だ。

「アグモンはいい、手懐けられそうにない…そっちじゃなく、オタマモンを売って欲しい」

『オタマモンか!いいぞ!』

たすかる。




…そんなわけで。
オタマモン(赤)が届いた。

サーバー内のビオトープで、オタマモンを見つめているパートナーデジモン達。

『タマー!』

オタマモンは、コマンドラモン達をじっと見ている。

そこへ、カリアゲがデジドローンVRで姿を投影して出現した。

『よ!オタマモンだな!俺はカリアゲ。今日からお前の仲間だ!』

『タマ…』

『よろしくな!まずはフローティア島でメシ食おうぜ!』

『タマー!』

そうして一同は、デジタルゲートでフローティア島へ向かった。

フローティア島へ移動すると、カリアゲはデジドローンVRのマシンアームで餌を持ってきた。

「プカモンの串焼きだ。塩を振ってあるからウマいぞ」

「タマ…」

オタマモンは、遠くに気になるものがあるようだ。

「なんだ、串焼きより気になるものがあるのか?どこだ、行ってみようぜ」

「タマ、タマ!」

オタマモンが向かった先は…
有機肥料作りの木箱だった。

「お、おおう…そっちはくせえぞ?大丈夫か?」

「タマ~!」

オタマモンの視線の先には…
有機肥料から這い出してきた、丸々と太ったププモン達がいた。

「く、食いたいのか?これ?」

「タマ~…」

「……………いいぞ、食え!」

「タマアァ~~!!」

カリアゲは、マシンアームでププモンをつまんで差し出した。

「アム、アム!ゴクン!」

オタマモンはそれを美味しそうに食べた。
…アレ直接食うのか。すごいな。

「…タマァ~」
オタマモンはすっかりご満悦だ。

「フゥ~、あれをそんな美味しそうに食うとは。お前すげーな」

カリアゲはオタマモンの頭を撫でている。

「ムフフフ~w」

オタマモンは嬉しそうだ。



…それで、リーダー。
オタマモンをゲットしましたが、何をするんでしょうか。

「…フローティア島を我々のアジトとして利用するにあたり、最も重要なものは何だと思う?」

えーと、何でしょう。
飲水の確保ですか?

「それも大事だが…最も大事なのは。セキュリティだ!」

セキュリティですか。

「そうだ。ここフローティア島は、広すぎず狭すぎない丁度いい広さと、豊かな自然環境、そしてたった一箇所のアクセスポイント…という理想的な条件が揃った島だ。そして、このアクセスポイントには他のデジドローンも来れることだろう」

クラッカーに見つかったら嫌ですね。

「だから…アクセスポイントを扉で物理的に塞ぐ。フローティア島にはマッシュモンの分身を滞在させておき、合言葉がなければ開かないようにするんだ」

な、なるほど…
物理的な認証キーですか。

扉は何で作るんですか?

「鉄だ」

鉄…!?

「パートナーデジモン達には、今まで川などで砂鉄集めをさせてきたんだ。たっぷり蓄えてきた砂鉄を使い…鉄の扉を作る!」

お、おお…!
製鉄ですか!
なるほど、そのためのオタマモンか。

「善は急げだ!井戸も欲しいところだが…まずは!フローティア島に製鉄所を作るぞ!」

いろいろすっ飛ばしてきた!
…でも、確かに製鉄所があれば、鉄の武器が手に入る。
セキュリティデジモン達の戦力強化ができるだろう。

我々は「たたら製鉄」の原理で鉄を作ることにした。

それまでの飲み水の確保だが…
デジドローンのパワーは弱いので、川から汲んできた水を搬送するのは何往復も必要となる。

それはそれで仕方ないのだが…ことのついでだ。
製鉄の予熱を利用して海水を蒸発させ、蒸留水を得られる仕組みで炉を設計しよう。

そして早速、デジモン達はたたら製鉄所の建造に取り掛かってくれた。


ブイモンはやる気熱心だ。DIYが好きなのかもしれない。

パルモンは蔓を長く伸ばし、器用な手先と強い腕力で、上手に施工をした。

マッシュモンは、あまり手先が器用ではないが、分身による人海戦術で施工をした。

コマンドラモンは、オタマモンとともに木炭の製造を進めた。

ワームモンは、糸で砂鉄をたくさん採集した。

各々が長所を活かしたおかげで、無事にたたら製鉄所の建設は完了。

そして、砂鉄と木炭を800℃近い高温で加熱した。

そうしてついに我々は、デジタルワールドで鉄器を製造することに成功した。

そうして、アクセスポイントを大きな鉄の部屋で囲った。

ひとまず、セキュリティはこれでいいだろう。
あとは、製鉄所を使って鉄製の農具や工具、武器や道具を作っていけば…
開拓はだいぶラクになるぞ!


しかし…キンカクモンのデジタマは孵化に時間がかかるな。
蛮族デジモンの子孫が成長期に育ってくれれば、こういう作業がもっとはかどるんだけど…。

さて。
そろそろププモンが溜まってきたころだろう。

オタマモンの餌に使うだけでなく、釣り餌にもなるププモン達。
パルモン、また離島に行って釣りを頼むよ。

「わかった!」


しばらくすると…

「わあぁ!?」

パルモンの叫び声が聞こえてきた。
な、なんだ!?
我々はデジドローンを飛ばして、パルモンの様子を見に行った。


怯えるパルモンの視線の先には…
ププモンの飼育小屋があった。

ただし、有機肥料から這い出たププモンを溜めている箱は…

https://i.imgur.com/Yw7lwxU.jpg

…4体のカニ型成長期デジモン、ガニモンに破壊され、中のププモンを食い荒らされていた。

つづく

ど…どうしますリーダー!?
ププモン飼育箱は、我々が目指す「持続可能性のあるデジモン飼料確保」の要ですよ!

あれを占拠されてたら、野菜を生産できないし、釣り餌も手に入らない!
またキノコと採集生活に逆戻りですよ。

「ああ。生活インフラは早急に取り戻さなくては…」

私の隣でカリアゲも驚いている。
「あいつらどっから来たんだ!?前に見たときはあんな奴ら住んでなかったぞ!」

おそらく…
海底を歩いて、島を登ってきたんだな。

「完全に想定外だぜ…まさかデカい蟹の化け物が来るなんて思ってもみなかった…」

リーダーはカリアゲの肩をぽんと叩く。

「逆に考えるんだ、カリアゲ。我々は、シューティングスターモンの排泄物を使って、ガニモン4体をおびき寄せることに成功した、と」

…ピンチをチャンスに変えるつもりですか。
しかしどうやって?

「それは…まずは奴らの観察をしてから考えるぞ。ケン、頼んだ」

分かりました。

…私は、ガニモン達の観察を開始した。

ガニモンは木箱を破壊している。
直径10cm程もある太い木材を、左手のハサミでいともたやすくバチンと切断した。

ウエッ!なんだあの切断力!
うちのパートナー達はあの木材を切るのにだいぶ苦労したんだぞ。

さすがにスカモンが握っていたズバモン剣ほどの威力ではないが…
あれに挟まれたら、成長期デジモンの手足は即座に切断されるだろう。
成熟期デジモンとて油断したら指の一本や二本を簡単に持っていかれるに違いない。

くそ…苦手なタイプだな。
「弱点らしい弱点がなく、インファイトが強いデジモン」。

それにしても、あのハサミの威力。
いくらなんでも尋常ではない。
あのデカいハサミの中に筋肉がぎっしり詰まっていたとしても、あんな切断力を出すのは用意ではないだろう。

一体どんな原理で、あの破壊力を出しているのか…?

…強いデジモンを倒すための、最も有効なアプローチ。
それは「強さの正体」を解き明かすことだ。

そして、それを突き崩す決め手を手札から選び…
そのサポートをすること。

それができれば、我々のチームはスカモン大王のような格上すらノーダメージで勝てるんだ。

そのためにも…しっかりと、ガニモンの強さの正体を突き止めなくてはならない。

強さには、必ず理屈があるから。

ガニモンの右腕は小さく、左腕は大きい。

よく見ると、でかい左腕は本当に破壊のためだけに使っているようだ。

左のハサミでバチンバチンと木材を切断し…
そして小さい右のハサミで、ププモンをつまんで食べている。

左手のでかいハサミでは、ププモンをつまもうとしない。

なるほど…なんとなく、見えてきた。
ガニモンは、左右の腕の役割が異なるのだ。

でかい左腕は、完全に武器としてのみ利用しており、右腕は餌をつまむなど、物を掴んで動かす役割を持っているようだ。

その右のハサミの握力も相当強いらしい。

私はさらに観察を続けた。
ププモンはどんどん減っていく。

すると、だんだん左ハサミの仕組みがわかってきた。
短時間に連続で物体を切断できるわけではなく…
力を「溜める」必要があるようだ。


…そうか。分かった。
左のハサミは、根本的に蟹のハサミとは内部構造が異なっているんだ。

あえて例えるなら…
「アギトアリ」という蟻のアゴの構造が、最もそれに近い。

アギトアリ。
体長1cmの大型の蟻だ。

最大の特徴は、その巨大なアゴ。
常にアゴを開いており、獲物が近付くと、秒速64メートルという凄まじいスピードで顎を閉じて捕らえる。
そのスピードは、地球上のあらゆる生物が発生させる運動のスピードで最速といわれている。

アギトアリのアゴが、なぜそんなに速いのか。
それは、アゴの構造が「トラバサミ」の仕組みになっているからだ。

アゴを「閉じる」方向に力を入れているのではなく…
アゴを「開く」方向に力を入れ、強靭な腱をバネのように伸ばし、腱へ運動エネルギーを蓄える。

そして、そのままの状態で顎をロックし…
獲物が近付いたらロックを解除する。
するとアギトアリの顎は、腱に蓄積した運動エネルギーを使って物凄いスピードで閉じるのだ。

おそらくガニモンのハサミも同じだ。
ガニモンはふだん、ハサミを開いた状態にしている。
これは、「閉じる」方向に縮む強靭な腱を、「開く」方向の筋肉で伸ばして、それをロックしているからだ。

物体を切断するときは、物を挟んでからそのロックを解除することで、腱に蓄えた凄まじいエネルギーを開放し、物体を切断するのだ。

武器の仕組みはわかったが…
では奴らを倒せるかというと、そうでもないように思える。

私はコマンドラモンへ指示し…
透明化したまま、ガニモンへ銃撃をさせた。

銃弾はガニモンの甲殻に弾かれてしまった。
ゲッ、うちの主力火力がノーダメージだと!?

撃たれたガニモンは驚き、ハサミを掲げて周囲を威嚇している。

…ガニモンの甲殻はトゲトゲしており、平らな部分がない。
そこへ銃弾を放っても、真っ直ぐに胴体へ突き刺さらずに、表面で滑って軌道がずれてしまうのだ。

では、コマンドラモンの爆弾なら効くかというと…
正直、望み薄だ。

それはまあ、ガニモンの甲羅の真上で爆発させられればダメージは入るだろうが…
ちょっとでも離れられたらダメージは入らない。

なぜなら…
ガニモンは常に「地面に伏せている」状態だからだ。

コマンドラモンの爆弾は、爆風で撒き散らした破片でダメージを与えるのだが…
こんなに地面に伏せていると、爆発四散した破片がぜんぜん当たらないのだ。

くそ…
つええぞこいつら。

「蟹は甲殻類の完成体」とよく言われる。

リアルワールドには、「カニと名がつくがカニでない甲殻類」が夥しい種類存在する。

タラバガニ、ヤシガニ、ハナサキガニ…等は、蟹に似ているがすべてヤドカリの仲間だ。
収斂進化によってカニそっくりになったのだ。

なぜそんなにカニに似た甲殻類が多いのかというと…
「甲殻類が自然淘汰によって最適化されると、最終的にカニの姿になる」からだ。
これをカーシニゼーション(カニ化)という。

それほどカニの姿は、攻防に秀でているのである。

そして、デジタルワールドでカーシニゼーションをしてカニの姿に収斂進化した、ガニモン達もまた、隙のない強さを持っているようだ。


…分析したが、「ガニモンはとにかく強い」らしいことが分かった。
弱点どこだよこいつら!

隣でカリアゲが呟いた。
「なあ、そんなに強いならさ…こいつらのデジタマゲットできねーかな?」

うーん…
ファンビーモンみたいなのがまた増えそうな気がしないでもないけど。

だが、恐れていては何事も始まらない。
ガニモンのデジタマを見つけたら、ゲットしてみるのもいいかもしれない。

我々がそう話していると、クルエが後ろを向きながらなにか言っていた。
「ケン君どうなの?ガニモン達追っ払えそうなんですかー?」

…なんで後ろを向いてるんですか

「私ププモン無理なんです」

…気持ちは分かる。
羽と目がついてるだけで、見た目はどう見ても…
「言わんでいい!」
はいスミマセン。

さて…どうするみんな?
カリアゲ…なんか思いついた?

「オタマモンで火をつけたらどうなるかな…」

海に逃げ込んで火を消すんじゃないかな。

「だよなぁ…」

リーダーはどうですか。
「ワームモンの糸…パルモンのツタ…は、切断されそうだな」
ですね…。

「マッシュモンの毒はどうだ?」

毒を飲ませるわけですか。
耐性がなければ、それでいけるかもしれませんね。

マッシュモン、できるだけ強い毒を持たせたチビマッシュモンを突撃させてみてくれ。

『わかった』

…少数のチビマッシュモン達が、ガニモンへ突撃していく。

「マシーーー!!!」

ガニモンはそれらをハサミでバラバラに解体した。
そのまま飲み込め!


…ガニモンは、マッシュモンの死骸をペロッと舐めたが…
すぐにオエッと吐いた。

ああ、咀嚼されたププモンがちょっと流れ出た。

「イ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!実況すんな!」

いてっ!
クルエに殴られた!

シン、なんかアイデアある?

「シューティングスターモン呼べませんかね?」

島が無くなるわ!

「じゃあティンクルスターモンはどうすか?」

国防用デジモンをこんなことに呼べないでしょ…。
だいたい、いちいちティンクルスターモンに頼ってたらうちのパートナーが強くならないぞ。

「うーん…サラマンダモンもだめそうすね」

…他力本願だな。
もうちょっとうちの戦力を使ってあげて?

メガはどう?なんか…役に立つデジモンいない?
ニューとデルタだっけ。

「彼らは戦闘向きじゃないってば」

うーん…難しいな。

クルエが手をポンと叩いた。
「あ…そうだ!ファンビーモンはどうですか?」

「「「絶対ダメ!!」」」

私とメガとリーダーは声を揃えて言った。

「えー、なんでですか?」

なんでって…勝ったほうが厄介な敵になるだけだから。

「あー」

「ん?待てよ…武器じゃねえけど、あれはどうだ?」

カリアゲが何かを思い付いたようだ。
あれって?

「最近、製鉄やってたじゃん?溶けた鉄をブッかけるんだ」


いや、それはちょっと用意するのに時間がかかりすぎる。
ププモンが食い尽くされるぞ。

「やっぱし?」

しかしすげーこと思い付くな…
やったとしてどうにかなるもんじゃないと思うけど。

「そっか…まあそうだよな」

八方塞がりか…?



「オイラがやる!」



その時、ブイモンの声がした。

ぶ、ブイモン!?
どうした!?なんか手があるのか!?

「かまがあるだろ!あれをつかう!」

鎌…スナイモンの鎌か…。
うーん、成熟期最強クラスのスナイモンの鎌なら、確かにガニモンの装甲を貫ける可能性はあるけどさ…

「まかせろ!ぶったおしてやる!」

だ、だが待て。
相手は四体まとまってるんだ、近接格闘では分が悪いぞ。

「このひのために…とっくんしてきたんだ!やるぞワームモン!」

ブイモンの言葉に、ワームモンが反応した。

「せいこうさせるんだ!デジクロスを!」

な、なに…!?
お前らデジクロスできるようになってたのか!?

「まだなってない!」

なってないんだ。

と、とにかく…
スナイモンの鎌で戦うなら、ひとまずデジクロスを成功させてくれ!
じゃないとガチで手足もがれかねないぞ!

「やってやるぞ、ワームモン!デジ…クロース!はああーーー!」

ブイモンが力むと、隣でワームモンも力んで、ギチギチと顎を鳴らした。

「うおおおおおおーー!」

ど、どうだ…?

「…だめだぁ、やっぱできねえ…」

…ナイストライ。

くそ、もう手札がない。
もう壊されるのを見ているしかないのか…?

「へっくし!」

ど、どうしたカリアゲ。

「んー、もう季節が季節だから、涼しくなってきてな…。ズズッ。スギ花粉の時期よりマシだけどな」

花粉症あるんだ。

「あーもうあれだけはシンドいよ…地元で畑仕事してるときに飛んでくると最悪でさあ…!」

人類が未だに克服できてない敵だよね。
ってこんな事喋ってる場合じゃない。
手札がもうないぞ…

「ああ…ぁ…ぁああああ!?」

ど、どうしたカリアゲ!

「ある!まだ一つだけ!」

お、おお!?



ガニモン達が晩餐会をしていると…
パルモンがそこへ走り込んできた。

追撃しようとハサミを向けるガニモン達。

そんなガニモン達へ…
パルモンは、大量の花粉を浴びせた。

ガニモン達の眼球は複眼でなくカメラ眼だ。
大量の花粉がベットリとガニモン達の目にくっついた。

「ギシシシシィィィイイィィ!!??」

ガニモン達は悶え苦しんでいる。
おお…効いてる!
ゲレモン達にはぜんぜん効果なかったから忘れてたけど、パルモンには前世フローラモンから引き継いた花粉攻撃があった。

「ギシイイィィ!」

どうだ!痒いだろう!
そのハサミじゃ顔を擦れまい!

ガニモン達は、海の中へ潜っていった。
だが海水をかけたとて花粉は簡単には取れないぞ。

花粉はペクチンというタンパク質を分泌してまとわりつくんだ。
だから熱湯ならともかく水程度じゃすぐには取れない!


そのまましばらく待ったが…
ガニモンは上陸してこなかった。

マッシュモンが子分を連れてきて、パルモンを胴上げした。
コマンドラモンとワームモンも拍手を送っている。

…うーむ…
若干危なかったが、ギリギリ瞬膜を閉じられる前に花粉を眼に浴びせることに成功したな。

「瞬膜?なんだそれ?」
カリアゲが聞いてきた。

瞬膜というのは、鳥やラクダ、ワニなど一部の動物が持っている透明な眼球プロテクターだ。

ワニが泥の中で眼が傷つかないように。
鳥が高速飛行中に目が傷付かないように。
ラクダが砂埃で眼が傷付かないように。
まぶたの下に、透明な第二の瞼みたいなのを持ってるんだよ。

ガニモンがもしかしたらそれを持ってる可能性があったけど…
先手を取れたからなんとかなった。

「パルモンやるなー…お手柄だ!」





どれだけ硬い防御力を持った敵だろうと…
どれだけ強靭な武器を持った敵だろうと。

しっかり観察して、弱点を探し…
多様な戦力を揃え、それをうまく運用すれば。

ときにパワーの差をひっくり返せる事があるのだ。

…数日後。

二体のガニモンが上陸し、再びププモンの小屋を襲った。

そこへ、二体のデジモン達が駆けつけた。
パルモンとブイモンだ。

「てめえええええしねやああああ!」

パルモンとブイモンは、重くて大きな鉄製のツルハシを、ガニモンの頭部へ振り下ろした。

硬いツルハシが、ガニモンの脳天を抉り、頭部を砕いた。

「おっしゃああ!こんやはカニなべだあああ!」


…まあ、武力はあって困るものではない。



つづく

>>341
ちょっと訂正
最初に花粉で目潰しをして、ハサミによる防御のタイミングを合わせられなくしてからツルハシで打ったってことに脳内補完しといてください



パートナーデジモン達は、ガニモンを食べるつもりのようだ。

成長期にしてはDPが高めなガニモン。
食べれば栄養がつくことだろう。

自然に生きるデジモンを殺傷したのだ。
せめて食べて糧にしてやることが弔いになるだろう。

「いやーそこまで気負わなくていいんじゃないッスかケン先輩?連中はフローティア島の食糧を略奪しに来た侵略者なんッスよ!よく釣ってるプカモンみたくフツーに食べてもらえばいいじゃないッスか」

…どうかなシン。
侵略者は本当にあっちの方か?

むしろ、元々ガニモンが巡回しに来る土地に我々が後から来たのだとしたら…
侵略者は我々のほうかもしれない。

「う、確かに…」

仕方ないこととはいえ…
そう考えると、少し罪悪感を感じてしまう。

…ププモンを釣り餌にして魚デジモンを釣ったりしている我々が今更言うようなことじゃないけどね。

「…それでいいんだよ、ケン。僕たちはこれでいい」

メガ…?

「フローティア島…浮島(フローティングアイランド)とフロンティアをかけた名前だったね。それなら、今ぼくたちはきちんとやるべきことができてるってことじゃないか」

どういうことだ…?

「何故なら、僕たちの世界でのフロンティア…開拓前線とは。そのまま原住民の虐殺戦線だったじゃないか」

…。

「はじめの志通りのことを、きちんとやれれいる。何も後ろめたさを感じる必要なんてないはずだよ、ケン」

それを聞いたカリアゲは、頬杖をついて聞いている。

「メガ…お前ほんと言うこと変わったな。マッシュモン事件の頃のお前だったら口が裂けても言わなさそうだぜ」

「そのときは何も見えていなかっただけだよ、カリアゲ。僕らがやるべきことがね」

…少しの間、沈黙が続いた。

そこへ、スポンサーさんから連絡が来た。

『やあ諸君!島開拓の調子はどうだね?』

あ、どうもスポンサーさん。
ププモンを使った排泄物リサイクルシステムを、ガニモンに破壊されかけましたが…
なんとか倒せました。

『ほほう!それでは今後ガニモンが来てもへっちゃらになったということかな?』

いいえ全然。
まともにやりあったら勝ち目がないから、目潰しをしたり鉄の武器を使ってうまく張り合ってるんです。

今回来たのが2体だったからツルハシの数が足りましたが…
前同様に4体とか来てたらやっぱりしんどいですね。

『仮に来たらどうするんだい?』

…来ないようにすることが大事ですね。
とりあえず、岸側に設置してた木箱を、島の中央あたりに移動させました。

ガニモンは海から来るので、しばらくどうにかなるはずです。

『しかし、鉄の武器とはすごいじゃないか!製鉄所があれば何でも作れるね!』

我々の世界の工業製品のツルハシほど立派じゃないですけどね。
なにせ鍛冶場があまり立派じゃないし、鍛冶の技術も素人の見様見真似です。

手先が器用なブイモンがDIYしてくれてますが…
「ちゃんとしたのが作れねえ」って嘆いてます。
今はそれっぽい粗雑な鉄の棒があるだけでも十分役に立つから、気負わなくていいって伝えてるんですけどね。

『ハッハッハ!ブイモン君は完璧主義なとこがあるねえ!』

『ところで、ブイモン君は卑屈なところはあるが、随分働き者だねぇ』

そうですね…。
ブイモンという名前の由来が何か、わかりますか?

『額のVマークかね?』

いいえ。私も最初はそうだと思ってたんですが…
どうも違うみたいで。

ブイモンという種は、ディノヒューモン農場で様々な肉体労働をしている爬虫類型デジモンです。
小竜型という呼び方もありますね。

おそらくディノヒューモンの子供や孫達ですね。

ディノヒューモンは、自分のような司令塔ではなく…
「指示をよく理解し、忠実にこなす労働者」を欲しがった。

ブイモンという成長期デジモンは、それに向いた進化をしたデジモンです。

『つまり、ブイモンという名前は…』

"Blue-color employee"…
肉体労働従事者の略だそうです。

『ハッハッハ!ブイモン君本人にはちょっと教えられない由来だねえ!しれっと額のVマークからとったことにしたほうがいいんじゃないか?』

…まあ、由来そのものは今更変えられるものではないですよ。別に学術的に意味があるものでもないですし。

そういえば、スポンサーさんは今日はどうかしたんですか?

『互いにちょっと挨拶がてらに近況報告でもどうかと思ってね!』

近況報告ですか。いいですね。

こちらはご覧のとおりです。

『ふむふむ、いいねえ!随分広い島だ!こんんなに大きくて住心地良さそうな島が、成熟期デジモンの巣窟にならずに済んだね!』

そうですね。
ここを見つけられたのは奇跡的です。

『作りは雑だが鉄の箱でデジタルゲートを囲い、クラッカーが侵入できないようにできてるのか。セキュリティもできてるね!これならキウイモンの島みたいにはならずに済みそうだ!』

…ちょっと待ってください。
キウイモンの島がどうしましたって?

『なんだ知らないのかい?あの島がどうなっているのか…』

…どうなったんですか?

『君達が蛮族と呼ぶ種族のデジモン達がいつの間にか入植していたよ!キウイモンは彼らのエサの卵を生む家禽扱いさ!』

なんだって!?
そ、そんな…!
なんて酷いことを!

『おや?君達がやっていることとは何か違うのかな?』

違…

…う!

『おおっ違うと言うのかな?』

我々がやっているセキュリティデジモン育成には、社会的な正当性がある!
奴らと違ってサイバー犯罪に利用するんじゃない!

ガニモン達に許しを請う気は今更毛頭ないが…
それでも必要なことのために野生デジモンを殺傷したことについて、世間から後ろ指をさされる謂れはない!

『なるほど!良い覚悟だ!我々はそんな君のことをこれからも応援する。安心したまえ!ハーッハッハッハ!』

…意地悪ですね。

『つまり、君達がその島へ入植しなかったとしても、どの道ガニモン達は殺されていたよ。君達の糧になるか、蛮族の胃袋に入るかの違いだよ』

慰めてくれてるんですね。
…キウイモンの島も、先に我々の陣地にしていたら、蛮族に支配されずに済んだってことですか。

『そういうことだな!』

…つらいですね、この戦い。

『しっかり胸を張りたまえ!君達はやるべきことをしっかりやっているさ。応援というのは、資金面だけの話をしているつもりはないよ』

ありがとうございます。

それで、そちらの近況は?

『ふむ…近頃また現れたそうだ、ランサムウェアデジモンが』

ランサムウェア…!?
アイスモン一味ですか!?
あの時倒したはずでは!?

『おそらく、クラッカーがアイスモンと共に寒冷地から保護した子供デジモン達が成熟期にでもなったのだろうね!また手駒を増やせるようになったんだろう!』

くっ…
ポンポン成熟期を育てやがって。
アイスモンをまた退治はできないんですか!?

『何度かサラマンダモンでランサムウェアデジモン討伐をしているんだが…現場の司令塔はユキアグモンという成長期デジモンだ。アイスモンじゃない。これが画像だ』

https://i.imgur.com/Zxt2o5q.jpg

…アグモンそっくりですね。

『収斂進化だな!こう見ても爬虫類じゃなくユキダルモンのような鉱物デジモンの系統だ。こんな羽毛のない爬虫類が寒冷地では生きられないだろう?』

なるほど、確かに。

「カリアゲーーー!なべくれーー!でっかいなべーーー!」

『おや、ブイモン君の声だね』

デジクオリアの画面からブイモンの声がした。
どうしたんだろうか?

つづく

※すみません、新ランサムウェアデジモンの司令塔ですが、ユキアグモンではなくキャンドモンに変更します

データを凍らせるのではなく、データを蝋燭のロウで固めることで機能不全に陥らせて「暗号化」するという仕組みです

さすがにユキアグモンの見た目で「爬虫類系統ではない」と言い張るのは無理があり、これまでクラッカーが裏で育成していたデジモン達の系統と辻褄合わせが厳しいためです

ブイモンの様子を見ると…
倒したガニモンの死骸をどうするか困っているらしい。

「カニなべがくいてーんだよ!オイラはー!なあカリアゲ、カニなべってうめーんだろ?」

「あ、ああ…ブイモン。そうだな、蟹のダシが出てうめーぞ!しかしまあ…こんなデケー蟹なんて鍋にできねーぞ」

「カリアゲー、こんなちっこいドナベじゃガニモンはいんねーよ!」

そう言い、ブイモンは土鍋を見せてくる。
これは鍋料理用に作ってもらったものだ。

鍋料理は、食材の栄養分をすべて逃さずに摂取できる優秀な調理方法だ。
農耕メインで栄養を得る路線の我々には重要なアイテムである。

だが…
ガニモンほどの大きさのデジモンを丸ごと煮込めるサイズではない。

どうにかブイモンに蟹鍋を食わせてやりたいけど…
どうすればいいかな。

なにか煮込むのに適したデカイ器はないか…?

すいません>>388の前にひとつ挟みます

それで、そちらの近況は?

『ふむ…近頃また現れたそうだ、ランサムウェアデジモンが』

ランサムウェア…!?
アイスモン一味ですか!?
あの時倒したはずでは!?

『アイスモン一味ではないようだ。キャンドモン…その名を覚えているかな?』

我々の陣地を攻めに来たロウソク型デジモンですね。
…まさか、データをロウで固めることで「暗号化」するって理屈ですか?

『ご明察!おそらく前に君達の陣地を攻めに来たキャンドモン達は、本来ランサムウェア用に運用する予定で育成中だったキャンドモン達を、君たちが陣地を不在にしているチャンスを逃すまいと、無理やりサーバー破壊のために転用したのだろうね!』

くそっ…
奴らの戦力は無尽蔵なのか!?

『いいや逆だろうね!今の今までランサムウェアデジモンが復活しなかったのは、君達のところのファンビーモンがクラッカーのなけなしのキャンドモン達を全滅させたからだろう!せっかく育てていたランサムウェアデジモンを全滅させられたのは痛手だっただろうね』

…しかし、ランサムウェアデジモンは復活した。

『ああ。キャンドモンの親となる成熟期デジモンがいるのだろう』

厄介ですね。

『キャンドモンには手を焼いている。奴らの火炎攻撃は見張りマッシュモンを焼いてしまうし、オタマモンの炎も効き目が薄い。炎を扱うデジモンだから、自身の火炎耐性も高いのだろうね』

くっ…セキュリティデジモンであるオタマモン(赤)をきっちり対策してきてるんですね。手強いな…
…駆除はできてるんですか?

『サラマンダモンがどうにか倒しているよ。奴らの耐性以上の火力でゴリ押ししてね。だがサラマンダモンに疲労が溜まっている。あまり効率的ではないね』

…他には有効打がないってことですね。

『ローグ・ソフトウェアの試作セキュリティデジモン達に頑張ってもらい、どうにか倒せてはいるよ。ファンビーモン君がもっと言うことを聞いてくれたら楽なんだがねえ!ハッハッハ!』

ローグ・ソフトウェア…
どんなデジモンを使うんですか?

『ンー、彼らと会う機会があったら直接聞くといい。君等に情報を流したら彼らからの我々への信用が減りかねないからねえ』

なるほど…。

「カリアゲーーー!なべくれーー!でっかいなべーーー!」

『おや、ブイモン君の声だね』

デジクオリアの画面からブイモンの声がした。
どうしたんだろうか?

ブイモンの様子を見ると…
倒したガニモンの死骸をどうするか困っているらしい。

「カニなべがくいてーんだよ!オイラはー!なあカリアゲ、カニなべってうめーんだろ?」

「あ、ああ…ブイモン。そうだな、蟹のダシが出てうめーぞ!しかしまあ…こんなデケー蟹なんて鍋にできねーぞ」

「カリアゲー、こんなちっこいドナベじゃガニモンはいんねーよ!」

そう言い、ブイモンは土鍋を見せてくる。
これは鍋料理用に作ってもらったものだ。

鍋料理は、食材の栄養分をすべて逃さずに摂取できる優秀な調理方法だ。
農耕メインで栄養を得る路線の我々には重要なアイテムである。

だが…
ガニモンほどの大きさのデジモンを丸ごと煮込めるサイズではない。

どうにかブイモンに蟹鍋を食わせてやりたいけど…
どうすればいいかな。

なにか煮込むのに適したデカイ器はないか…?

「今からデカイ土鍋を作ったら、ガニモンが腐っちまうな。…あ、鉄鍋を使うのはどうだ?」

鉄鍋?
そんなのあったっけ。

「デジタルゲートを覆ってる…あの鉄の檻…ちょっとだけ借りれない?チョットだけ」

セキュリティホールを作るのは勘弁してくれ。

「うーん駄目か…なんかねえか?」

…あるにはあるけど…入手するにはリスクがある。
そこそこ強い成熟期デジモンの住処に侵入しなきゃいけないからね。

「オイラいくぞ!やってやる!」

…わかった。
コマンドラモン、パルモン、ワームモン、マッシュモン…そしてオタマモン。
フォローお願い。


そう言い…
我々は湿地帯に向かった。

湿地帯には、ヌメモンの住処がある。
今では珍しくなった、成熟期のヌメモンだ。

彼らの進化前の姿は、二枚貝型デジモンのシャコモンである。

シャコモンの天敵は、トンボ型成熟期デジモンのヤンマモン…
そして、エビ型成熟期デジモンのエビドラモンだ。

そして、ヌメモン達のボディーガードとして、シェルモンというデカイ貝殻をもつ巨大な成熟期デジモンがいる。


我々が探しているものは…
『ヤンマモンやエビドラモンに食われたシャコモンの貝殻』だ。
解体したガニモンをこれで煮れば、鍋代わりにはなるだろう。

これを、前述の捕食者やシェルモンに見つからないように探し当て、回収しなくてはならない。

大丈夫だろうか…?
危険な任務だが、その見返りがシャコモンの貝殻では、割に合わないのではないか。

我々が、現地を見てどうやってシャコモンの貝殻を探すか話し合っていると…

「ケン。この任務、ぼくらのデジモンに手伝わせてくれないか?」

おや、メガ。
手伝ってくれるの?

君らのデジモンというと…
デルタやニューみたいな…『人の役に立つデジモン』のこと?

「うん。デジタルワールドで通用するか、試させてほしい」

おお、それは心強い。
さあ、初めてくれ。

「…秘匿義務があるから、しばらくの間デジクオリアの画面を見ないでいてくれる?」

わ、わかった。

…しばらく経った後。

「ケン、カリアゲ。戻ってきていいよ」

おお、もういいの?

「地図を作った。ここにシャコモンの貝殻が埋まっているはずだ」

そう言い、メガは地図データを送ってきた。
地図には赤いバッテンがいくつか記されている。

我々はそれを信じることにした。
パルモンを向かわせ、バッテン印のあるところへツタを伸ばさせると…

「ん!なんかある!」

おお、マジか!
パルモン達は、綱引きのように連なって、ツタを引っ張った。

すると…
望み通りに、泥だらけのデカい貝殻が出てきた!

おお…すげえ!
こんな沼に埋まったものをどうやって見つけたの!?メガ!

「今はまだ教えられないけど…いずれ教えられるときが来ると思う。今はとりあえず、仮称『ガンマ』および『ニュー』と識別している個体がやってくれた、とだけ覚えておいて」

ガンマとニューか…
ニューは前に自動運転ドローンで私を空のドライブに連れて行ってくれた子かな。

「そうだね」

サンキュー!
我々はメガのおかげで、危険な探索作業をせずに済んだ。

その調子で、3つほど湿地から貝殻を発掘した。

さて、あとは貝殻を持ち帰らなきゃいけないな。ヤンマモンやエビドラモンに捕まらないように…

「その帰還ルートも僕らが案内するよ、ケン」

…マジ?
すごいな。

メガの指示通りのルートを進むと、まったく捕食者に出会わずに危なげなくデジタルゲートまで戻ってこれた。

これでガニモンを煮るための鍋を、3個持ち帰れたぞ。

…そうして、フローティア島にて、無事にガニモン鍋を作ることができた。

貝殻の中で、塩味スープの野菜入り蟹鍋がぐつぐつと煮えている。

シャコモンの貝殻は、別に火に強い素材ではないので、何度も繰り返し使えるものではない。
駄目になったら砕いて畑に撒くことにしよう。炭酸カルシウムの貝殻は植物の生育に役立つはずだ。

「よっしゃ、カニなべできた!いただきまーす!」
パートナーデジモン達は、ブイモンに続いてガニモン鍋を食べ始めた。

「ハフッハフッ!うめー!」
おお、ブイモンが喜んでいる。
こうも嬉しそうにしてくれると、なんだか嬉しいな。

尚、ガニモンの殻はパルモンとブイモンが頑張ってほじって他デジモンへよそっている。
コマンドラモンやマッシュモンの手では、器用さがやや足りず、こういう細かい作業が苦手だからだ。

ガニモンの殻はメチャ硬いからな…
剥くのもかなり大変そうだが、それでもブイモン達は楽しそうだ。

…せっかくなので、キンカクモンのデジタマも晩餐会の場に置いた。
デジタマはレベル0のデジモンだ。この場の和やかな空気が、多少なりとも産まれてくる幼年期デジモンにプラスの影響を与えてほしいものだ。

コマンドラモンも、少しふふっと笑ったような表情をしてから、ガニモンの蟹味噌を食べた。
『うまい』

おお、コマンドラモンも喜んでくれている。
『な なんだ これは』
え、どうかしたコマンドラモン?

…コマンドラモンは、スプーンと器を置いた。

荒い呼吸をしている…
なんだ?
コマンドラモンの様子がおかしい。

コマンドラモンの身体が、突如光りだした。

これは…
進化の光だ!

コマンドラモンは慌てている。
おお、ついに…成熟期になるのか!?

思えばコマンドラモンは我々のパートナーデジモンの中で最古参だ。
コマンドラモンが成長期でいる間に、デジタルワールドでは何世代ものデジモン達が、デジタマから産まれ、成熟期へ育ち、またデジタマを産んでいた。

様々な戦いや任務で、命を危険に晒す機会もあった。

その甲斐あって、成熟期への進化条件が整ったということだろうか。

『リーダ わたsは どうなれbあいい』


コマンドラモンは、慌てながらチャットを飛ばしてきた。
誤字を訂正する余裕も無いようだ。

突如名指しされたリーダーも、流石に驚いている。
「ど、どうなればいいか…だと?ッ…」

リーダーといえそ、咄嗟に返答できることじゃなさそうだ。
研究チームのみんなが慌てている。

『はやく こtえてkれ』

コマンドラモンはガウゥと吠えながら、光り輝く体を押さえている。

ど、どうなればいいんだ…コマンドラモンは!?
我々はなんと返事すればいい!?

正直パニクっている。
心の準備ができていない!!

カリアゲが叫んだ。
「お前がなりたいものになれ!コマンドラモン!俺達はそれをすべて受け入れる!」

お、おお…
なんかいい感じの返答だ!
ナイス、カリアゲ!


コマンドラモンは、苦しそうな表情をした。

そして…
光が消えた。

コマンドラモンの姿は変わっていない。
だが、体の端々が、時々バチバチとノイズのようにチラついている。

な、なんだ…?
進化しないのか?

「…進化を押し留めたんだ」
なに!?
メガ、どういうことだ!?

「コマンドラモンは…進化することを拒絶したんだよ、ケン」

コマンドラモン!?
い、一体どうして!せっかく進化できるところだったのに!

コマンドラモンはぜぇはぁと荒い息をしている。とても辛そうだ。

コマンドラモンからチャットが送られてきた。

『わたしは じぶんが なりたいものに なるわけには いかない』

ど、どういうことだ…?

『わたしは マッシュモン あなたのように なりたかった ぶんしんを ふやし ひきいる あなたに あこがれていた』

そ、そうなの?

『そして パルモン あなたのように やさしく かしこい しどうしゃに なりたかった あなたにも あこがれていた』

そうなっちゃ駄目なのか?

『だが それを めざしても マッシュモン あなたほどの つよさは えられない わたしの からだの こうぞうでは だから やめた』

…。

『わたしは じぶんの なりたいものに なるわけには いかない なるべきもの もとめられるものに ならねば ならない』

そ、そんなに悩むことなのか?コマンドラモン。

『ケン あなたの ビデオで わたしは いろいろな デジモンを みてきた コカトリモンや タスクモンの ようには なりたくない』

…コカトリモンに、タスクモン…。
どちらも「強さを手にはしたが、環境に適応できずに滅んでいったデジモン」だ。

そういうことか、コマンドラモン。
君は、ずっと先を見据えているんだな。
これからのクラッカーとの戦いを。

デジモンが成熟期に進化する条件の仮説として、「生命の危機を感じること」が挙げられているが…

コマンドラモン、君にとっては…
これから先の、手口が高度化していくクラッカーとの、予想がつかない戦いこそが、「生命の危機」だということか。

『そうだ ケン いちど しんかをすると もう にどと あらたなすがたには なれない だから むけいかくな しんかを しては ならない わたしは』

…「進化を間違いたくない」…そういうことか、コマンドラモン。

『そうだ だから わたしが どうなるべきか きめてくれ わたしに おしえてくれ リーダー ケン』


…そう必死にチャットを打つコマンドラモンは、とても苦しそうだ。
パルモンはコマンドラモンを抱きしめ、揺すっている。

マッシュモンは驚いた顔をしている。

…我々は、コマンドラモンの成熟期への進化を目指していた。

コマンドラモンの産んだデジタマからは、間違いなく優秀なセキュリティデジモンが産まれるだろう。
それにコマンドラモン自身も成長期としては格段に優秀だ。それが成熟期になれば、どうなろうと優秀なデジモンになるだろうと考えていた。

だから、コマンドラモンをどのように進化させたいか…ということについては、全く拘っていなかった。

だが…
当のコマンドラモン本人は、そう考えてはいなかった。

自分がどのような姿へ進化し、どんな役割を果たすべきか…
クラッカーに対してどんな戦いができるようになるべきか。
それをずっと悩んでいたのだ。

そして、その結論が出ない段階のまま…
肉体が成熟期への進化条件を満たした。
ゆえにコマンドラモンは、自身の進化を止めた。

成熟期へ進化するということは…
『進化する機会を失う』ということだ。
(レベル5への進化という特例ケースは、打算に入れていないようだ)

だからこそ、コマンドラモンは自身の進化に慎重になりブレーキを踏んだ。

だが、「己の進化を無理矢理止める」とは、間違いなくデジモン自身の肉体に強い負荷をかけてしまうだろう。
体にバチバチと走るノイズと、苦しそうな表情がその証だ。
このまま結論が出なければ、その肉体が崩壊してしまう可能性すら有り得る。

…コマンドラモン…
成長期にしては賢すぎるデジモンだ。

だが、その賢さが、今は仇となってしまっている…。

…隣を見ると、クルエが口元を押さえて、涙を流している。

クルエさん…
コマンドラモンが哀れに感じて泣いてるのか。

「ううん、違う」

え、違うの?

「エモすぎて泣いてる」

どゆこと!?

「だって、あのクールなコマンドラモンが…一番強いまであるようなコマンドラモンが!マッシュモンとパルモンに!こんなクソデカ感情を抱えていたなんて…!エモすぎてやばない!?」

解説されて尚理解できないんだけど!?

私が困惑していると、メガがクルエのそばに来た。

「わかる」
「わかる!?メガ君も!?だよねぇ!!」

メガとクルエはハイタッチした。
…分からないの私だけ?





つづく

コマンドラモンの体のノイズは収まった。
だ…大丈夫かコマンドラモン?

『なんとか だうjぶだ』

コマンドラモンはぜぇぜぇと息を切らしている。
無茶なことを…!
キャンセルなんかせず、とりあえず進化しておいていいんじゃないのか…?

『とrあえzのしんか あともどりでkない かんがえnしに するわけにはいかない』

…し、しかし。
進化をキャンセルしたら、もう二度と成熟期になれなくなるかもしれないぞ!?

『わからない だが やくにたたない しんかは できない そうは なれない』

…コマンドラモンは動揺している…。
パニックになってるんだろうか…。

「と、とりあえずだ。…蟹鍋、冷めないうちに食っちまえよ。腹減ったままだと悩んでもうまくいかないぞ」
カリアゲがそう言うと、コマンドラモンは頷く。

『れいせいに なってから かんがえる』

…異様な空気の中ではあるが…
とりあえず皆、ガニモン鍋を食べた。

硬い殻やハサミは、なにかに使えそうかもな。

…落ち着いたかな、コマンドラモン。

『おちついた』

進化を止めた理由は…なんだっけ。

『わたしは これからさき ずっと クラッカーのてさきと たたかわなければ ならない だから それにてきした しんかをしなくては ならない』

なるほど…
それに適した進化をすればよかったんじゃないの?

『だが どんなしんかをすればいいか わからない だから かんがえなしに いちどきりの しんかをして たたかいに てきさない すがたに なったら とりかえしが つかない』

なるほど…。
一度きりの進化を間違えたくないんだね。

だけど、そう言っていては、何者にもなれないんじゃないか…?

『はなしが どうどうめぐりに なっている』

…そうだね…。
ゴメン。つい我々人間の目線でものを言ってしまう。
当事者のコマンドラモン自身の問題だというのに。

『ケン わたしは ばかなことで なやんでいるのか』

…そんなことは無いと思うけど。

『ケン あなたや カリアゲは なんでもいいから しんかしてしまえばいいと いった それを きょひする わたしは ばかに みえるか』

…そんなこと無いってば。

『わからない じぶんが どうすればいいか ていたい しつづけるのは よくない だが あやまったみちをすすんだら あともどりは できない わたしは わたしは…』

…。

『おしえてくれ ケン リーダー わたしは どうなれば いいんだ わたしは なにをすればいいんだ』

「…分かった。これから少し、残酷な話をするぞ、コマンドラモン」

リーダー…
一体何を!?

「…これから、あるデジモンの記録映像を流す。よく観てほしい」

デジモンの記録映像…?
どのデジモンだ…?

そうしてリーダーは、映像を再生した。

そこはマングローブ域…
我々が「トロピカジャングル」と呼ぶ地域の沿海である。

マングローブの中を流れる、淡水と海水が混ざった川。
そこを何かが泳いでいる。

やがて、一体のデジモンが、水面から顔を出した。

…とても懐かしい個体だった。

https://i.imgur.com/YDMQFZk.jpg

…シーラモン。
全ての陸上脊椎動物型デジモンの祖先だ。

シーラモンは、川から少しだけ身を乗り出した。

シーラモンは、小さな肺を持っており、陸上でも呼吸ができる。
それだけでなく、腸や皮膚でも酸素を取り込めるため、水中でも呼吸ができる。

だが、そのどっちつかずの性質故に、水中・陸上のどちらかへ特化しているデジモンとは運動能力で競り負けてしまうのである。

…シーラモンは、岩の間にデジタマを一個産むと、再び川へ戻り、海へ去っていった。


シーラモンは別の土地にも現れた。
リアルワールドでいうところのナミブ砂漠に似た地域の海岸だ。

シーラモンはそこでもデジタマを産んだ。


シーラモンのデジタマから産まれたデジタマは、成長期になるとオタマモンやベタモン等へ進化する。

環境に適応できれば、そこで成熟期になれるだろうが…
生存競争に負け、幼年期のまま捕食されることも多い。

シーラモンは、川や海から時々顔を出し、自分の子孫がどうなっているかを遠目から眺めていることがある。


…シーラモンは、かなりハイペースでデジタマを産むデジモンである。

シーラモンは、今もデジタルワールドの各地でデジタマを産み、子供の活躍を見守っているようだ。

…サバンナにもよく顔を出す。
だが、身体が乾燥に弱いため、水辺からあまり離れることはできないようだ。

シーラモンは、いつも沿岸部で生活している。
水中の成熟期デジモンに襲われたら、すぐに川や陸上へ逃げることができる。
陸上で成熟期デジモンに襲われたら、すぐに水中へ逃げることができる。

シーラモンはいつも、成熟期デジモンから逃げ、幼年期などの弱いデジモンを食べて生活していた。

そんなシーラモンの映像を、我々は見た。

「どう思った、コマンドラモン」

『このかんじょうを うまく ことばに できない』

「何でもいい、コマンドラモン。お前自身の今の語彙で表現してみてくれ」

『…わからない わたしは このきもちに がいとうする ことばを まなんでいない』

…思うところがあるみたいだな。

『ひとつ いえるなら わたしは たたかえる デジモンに ならなくては いけない こうは なれない』

それを聞いたリーダーは、口を開いた。
「コマンドラモン。残酷なことを言わせてもらう…。俺は君に、こうなってほしいと望んでいるんだ」

『な なにを こうならないために わたしは しんかを とめた』
コマンドラモンは動揺している

「ケン、俺の言いたいことは分かるか?」

…なるほど、そういうことですね。

『ケン わたしは リーダーが なにをいいたいか わからない』

コマンドラモン。
シーラモンは、「陸上へ適応を試みたが、水中から出ることを恐れ、結果として中途半端になったデジモン」だ。

陸と海、どっちつかずの半端者になったデジモンと言ってもいいだろう。

そしてシーラモンから産まれたデジタマからは、魚類型デジモンにはならず、両生類型デジモンへ進化する。

…どういうことか分かるか?

『シーラモンは りくに あがりたいのか』

そうだよ、コマンドラモン。
私自身がシーラモンなわけではないから、本当の気持ちは分からないが…

おそらくシーラモンは、自分の進化をひどく後悔していると思う。

水中生活を捨てきれず、陸上生活へ適応しきれなかった自分の進化を、悔やんでいると思う。

できることならもう一度、進化をやり直したいと…。

だが、幼年期や弱い成長期デジモンばかり食べているシーラモンは、レベル5にはきっとなれない。

シーラモン自身の望みはきっと、この先叶うことはないと思う。

『わたしに こんなふうに なってほしくは ないのではないか だからわたしは しんかをとめたのに』

だけど…
シーラモンから産まれた陸上脊椎動物型デジモン達は、デジタルワールド各地に生息分布を広げて、今も凄まじいスピードで進化し続けている。

まるで、シーラモンから託された望みを、親の代わりに叶えるかのように。

そして…
これがデジモンの「進化」という概念の正体そのものだと、私は思うんだ。コマンドラモン。

陸上で繁栄している「強いデジモン」達が、成熟期になるまでデジタマを産まない理由がわかった気がする。

『わからない どういうことだ』

つまり…
成熟期デジモンの役割は「後悔」することなんだ。

『こうかいすることが やくわり?』

そう。
君が「こうなりたくない」と言っていたコカトリモンだが…
彼の子孫である鳥型は、デジタルワールドの至るところで大繁栄している。

コカトリモンは死に際に、きっと自分が獲得した形質に後悔しただろう。

「飛べるようになりかたっか」と。

その強い後悔が、子孫であるピヨモンの強い肉体変容を促した結果、たった一代で飛行能力を獲得するまでに急激な進化を遂げた。

シーラモンの直接の子供達だって大したもんだよ。
たった一代で、魚類型デジモンが両生類型デジモンになり、陸上生活が可能になるほど急激に肉体が変容するんだ。

幼いデジモンが、強く劇的に進化し、環境への著しい適応をするトリガーがあるとするなら…
それはきっと、「親デジモンが抱えている自分の姿へのコンプレックスと後悔」だと思う。

デジモンには、レベル4…成熟期になるまでデジタマを産まない系統と、成長期や幼年期で進化が止まってデジタマを産むようになる系統がいる。

おそらく、初期のデジモンは前者の系統ばかりだったんだと思う。

だけど現在、陸上でも水中でも、食物連鎖のピラミッドで上位に立つデジモンは、皆「成熟期になるまで進化しないデジモン」ばかりだ。

何故その系統が、強者足り得るのか…

それは、強く進化したデジモン達のデジタマには、少なからず親デジモンの「もっとこうなりたかった」という「後悔」が込められているからだと思う。
シーラモンの子孫や、コカトリモンの子孫のように。

森に適応できなかった「敗者」になってしまったタスクモンのデジタマから、超強力な火炎放射恐竜のグレイモンが育ったように。

分かるかい?コマンドラモン。
私やリーダーの言いたいことが。

『…わかった』

そう返事をしたコマンドラモンの体が、わずかに光り始めた。

『わたしは これからさき クラッカーのデジモンとたたかうたびに こうかいするだろう もっと こういうしんかを すればよかったと きりがないこうかいを』

うん。

『だが それでいいと ケンがおしえてくれた こうかいすること それが わたしのしそんの ちからになるのだ と』

コマンドラモンは観察力があるし、頭がいい。
きっと他のデジモン達よりも深く、自分の進化の方向性を悔やむことができるだろう。

…それが、我々が育て、増やしていくセキュリティデジモン達の、力になる。

残酷な役割を押し付けてごめん。
だけど、君にはこれからもずっと…
「後悔」し続けて欲しい。

それが、君に望む事。
君に果たしてほしい役割だ。

『ああ わかった』

『わたしは』

『しんかをすることが』

『こわかったのだ』

コマンドラモンは、目の端から涙を流した。

『いまもこわい スカモンだいおうと たたかったときよりも こわい』

…。

『だきしめてくれ ケン』

私は、デジドローンVRを使い、デジドローンから私のアバターの上半身を出現させた。

『どうせなら パッチしんかを したい なにか いいデータは ないか』

ええっと…
なんかあるかな。

『なんでもいい』

そ、それじゃあ…
リーダー、なんかあります?

「俺が個人的に集めていた資料データだ。これを」

そう言い、リーダーはどっさりと何かの資料のデータを複製して私のアバターへ渡した。

コマンドラモンは、私のアバターの手からデータ。受け取り…食べた。

コマンドラモンの身体から放たれる光が強くなった。

『もう まよいは ない まようことに まよわない』

そう言い、コマンドラモンは両手を差し出してきた。

デジドローンVRは素晴らしい技術だ。
まるで、今私の目の前に、コマンドラモンが実際に居るかのようだ。

私はVRコントローラーを操作して、コマンドラモンをそっと抱き締める。

…デジドローンVRに、触覚のフィードバックはない。
視聴覚情報しか、私には伝わらない。

だが、今私は、確かに感じている。
コマンドラモンの体の温もりを感じる。


この温もりが、ただの錯覚なのだとしたら…


ヒトの脳というのは、なかなか粋(いき)な進化をしたものだ。

『ありがとう ケン リーダー パルモン マッシュモン そして みんな』



『わたしは すべてに かんしゃしている』



『農園でなく クラッカーの下でもなく あなた達の下で産まれることができた』



『そのであいに かんしゃしている』






…コマンドラモンの体を包む光が、どんどん大きくなり…

シルエットが変貌した。

やがて光が消えると…
私の目の前には、黄色い塗装で覆われた鉄の塊があった。

上を見上げると…


そこに居たものを、一言で言い表すならば。
身長4mほどもある、大きなロボットだ。
https://i.imgur.com/ckeiBao.jpg

右腕はフォークリフトに、左腕はパワーショベルになっている。
肩からはクレーンが生えている。
下半身は三角形のキャタピラだ。


…こ、このロボットがコマンドラモンの進化形態なのか?

「いいや ケン こっちが わたしの ほんたいだ」

やや合成音声っぽい流暢な言葉が、ロボットの胸部のハッチの向こうから聞こえてきた。

ハッチが開くと、「本体」が姿を表した。

外身のでかいロボットに比べると、小回りがきいて活動しやすそうだ。

爬虫類型デジモンの面影は

…かっこよくなったね。

「さいしょから こうかいするような しんかなど しない わたしは いまのじぶんが ベストだとおもう しんかをした」

…ああ言っておいてなんだけど。
その「本体」の姿、きっと後悔することはないよ。

「わたしは よくばりだ」







外身のロボットには、ケンキモンと名付けた。
本体の方の名前を公表するのは…もう少し後にしておこう。

つづく

>>448

✕ 爬虫類型デジモンの面影は
◯ 爬虫類型デジモンの面影はまるで無くなったが…

進化したコマンドラモンは、島の開拓に多大な貢献をしてくれている。
チーム内では、やはりその話題で持ち切りだった。

シンは働く重機ロボットを見て目を丸くしている。
「はぁ~、しかしすごいッスね。爬虫類のデジモンが、あんなデカイロボットに進化するなんて…。ケンキモンでしたっけ?面影ぜんぜん無いっすね」

あのロボット…ケンキモンは、「本体に附属するアイテム」だよ。

「アイテム?…ああ、コマンドラモンの銃や爆弾、ガスマスクみたいなもんッスか?」

そうそう。
本当の本体はコクピットの中にいて、ケンキモンとは別の名前を与えている。
でもだいたいいつもロボットに乗っているから、便宜的にケンキモンと…外側のロボットの名前で呼んで管理することにしている。

「あれ動力源は何ッスか?」

たぶん…電気じゃないかな。
中に乗ってる本体が普通に食事をして、そのエネルギーを電気に変換してロボットにケーブルを接続して供給してるらしい。

「じゃあ別々には動けないんスね」

どうだろう…?
長いケーブルを繋げたままコクピットから降りて、ロボットと中身が一緒に作業してるとこもたまに見るよ。
ケーブルを切り離してるところはまだ見たことない。

「あのロボットは戦ったら強いんスかね?」

野生のガニモンが餌を狙ってきたときに応戦してるところを見たことがある。
あのパワーショベルを思い切り振り下ろしてガニモンをひっぱたくと、かなりダメージを与えることができるみたいだ。

「じゃあもう楽勝なんスね!蟹鍋食い放題じゃないッスか」

ところがガニモンは弱くない。
下半身のキャタピラーとか、機械の接合部をハサミで狙われると、さすがに損傷するみたいだ。

「デジモンの怪我みたいに自動で治るんスか?」

損傷箇所は、中の本体が頑張って修復してるよ。
あとは金属疲労とかに気を付けてるのか、メンテナンスもちょくちょくやってるみたい。

「ウーン、機械のロボットって硬い!強い!ってイメージありますけど、自動修復できずメンテナンスがめんどいってのは弱点ッスね。ロボットアニメだとその辺描かれないから盲点っすわ」

逆に言うと、ある程度の怪我を自分で治癒できるのが生物の肉体の強みとも言えるね。

だから、ガニモンみたいな「強い成長期」くらいなら相手にできるけど、成熟期デジモンと戦うとなると…
かなり損傷しそうだ。

そこへ、スポンサーさんから通信が来た。
『ハーッハッハ!おめでとう諸君!ついに念願のコマンドラモン進化に成功したねぇ!』

あ、どうも。
私が挨拶をすると、カリアゲもこっちに来た。

「おっすスポンサーさん。そうなんだよ!あの後蟹鍋を作るための器を拾いに行って、ガニモン鍋をコマンドラモン達が食べたんだけどよ、それがきっかけで進化したみてーだ!なんで蟹鍋食ったら進化したんだろうな?」

『フム?蟹鍋を?』

ガニモンのカニ味噌…いわゆる中腸線ですね。

「へー、カニ味噌ってそういうもんなんだ…脳味噌かと思ってたぜ」

肝臓とすい臓の機能を持った部位です。
それを食べた途端進化しました。

『ウーム、成熟期への進化の条件っていうのは分からないものだね』

それなんですが…
ひとつ仮説が立ちました。

『おや、なんだね?』

カリアゲは何だと思う?

「え、俺?そうだな…。コマンドラモンが進化できた理由か…。成長期のままでいた時間の長さ、戦闘経験の多さ、餌の質の良さあたりじゃねえか?」

おおっ、かなりいいとこをついている。
コマンドラモンの場合、そこに「住処の広さ」も関わってきそうだ。

「住処の広さ?関係有るのか?」

…ユニバース25という実験を知ってる?

「ん?なんだそれ?」

「ネズミの楽園を作る実験だね、ケン」
そこへやって来たのは…メガだ。
こういう話題好きそうだもんね。

「まあうん、オタクはみんな好きだよ、こういうライトな哲学。何不自由のない楽園を作ったら、最終的に過度な少子高齢化が進んで破滅した…というものだね。それがデジモンの成熟期となにか関係有るの?」

さすがメガ。
だけどここで重要なのは、その前に行われた…『楽園を作るのに失敗した方』の実験だ。

「なんだっけそれ?」

狭い領土の中でネズミを殖やそうとしたけども、いくら餌をたくさん与えてもあまり殖えなかった…というものだよ。

「実験に失敗した例だね」

ただ失敗に終わっただけじゃない。
ネズミは「狭すぎる土地では無駄に子を産まない」ことが分かった、貴重な知見だよ。

『なるほど!さしずめ、個体数の密度が高くなりすぎることを避ける本能があるということだろうね!』

ところで、成熟期まで進化する系統のデジモンは、「女王蟻」や「女王蜂」に似た性質を持っている…という話はしたっけ。

「前に聞いたことがあるね。なぜ成長期デジモンはデジタマを産まないのか、なぜ成熟期は個体数が少なめなのか…。それは成熟期に産卵のタスクをすべて押し付けているからだ、と。それが女王蜂に似ているんだね」

そうそう。
同じ巣に女王蜂や女王蟻が2匹も3匹もいたって仕方ないからね。

『興味深い話だねぇ!それで住処の広さとは…?』

つまり、今まで我々がデジモンを飼育していたサーバー内のビオトープは、成熟期デジモンがデジタマを産む環境としては狭すぎたんだ。

『なるほど!フローティア島という十分広い土地に移り住んだおかげで、デジタマを産む役割になっても個体数密度が過剰に高くならずに済むわけだね!』

そういうことです。
カンナギ・エンタープライズがサラマンダモンを育て上げた際に、環境負荷を与えたと言っていましたが…
逆に言うと、サーバー内のデジタル空間では成熟期にまで進化させることができず、異なる環境でなければ進化させられなかったということです。

『カンナギが…何?サラマンダモンを…?なんだって?』

え…
あ!!しまった!
クルエが頭を抱えてこちらを見ている。

『我々のところにもサラマンダモンはいるが…まさか…』

えっとあの、それは…!

「分かったぞケン!こういうことだろ!カンナギもスポンサーさんが羨ましくなって、ランサムウェアデジモン対策のために、サラマンダモンを育て上げた、と!…どうだ!」

…流石カリアゲ。ご明察だ。その通りだよ。
内緒の話だから、内密にね。

「っしゃあ!やったぜ!」
「流石っス!カリアゲパイセン!Foo~!」

『…今のは聞かなかったことにしよう!ハーッハッハッハ!』

助かります。

『つまり、戦闘経験や住処の広さが、デジモンが成熟期に進化する条件…ということだね?』

…私はそう思っていました。
つい先日までは。

『ち、違うのかね?』

私はそういう固定観念を持っていました。
デジモンが成熟期になるのには、何か共通の条件があるのだと。

ですが私は、根本的な勘違いをしていたんです。

『根本的な勘違い…?何かね?』

そうです。即ち…
「成熟期に進化する共通の条件など無い」ということです。

『条件が…無い!?』

デジモンが進化して姿や形、持っている形質が大きく変化するのなら…
生命の仕組み、それ自体もまた進化するんです。

我々のいるリアルワールドの生物でも、生命の仕組みそのものが極めて特異に発達した種がいます。

『生命の仕組み…。文脈的には、生殖や成長の仕方かな』

はい。
たとえばミツバチの女王ですが…
産まれたときには、女王蜂は他の働き蜂と同じ幼虫で何も差は無いんです。

しかし、ハチミツを食べて育った幼虫は生殖能力のない働き蜂へ成長し、さらに高栄養なローヤルゼリーを食べて育った幼虫は生殖だけが役割の女王蜂になります。

「へぇ…何を食べて育ったかで変わるんだ」
メガが頷いている。

もっと凄い例があるよ。
クマノミという魚は、産まれた当初は性別が決まっていないんだ。
だけど、ある程度成熟すると、群れの中で最も体が大きい個体がメスになり、二番目に大きい個体がオスになるんだ。

そのつがいが群れを去ると、残った個体同士でまた背比べ性転換が始まるんだ。

「えぇ…どんな生態してるの?信じられない…」

他にも、サルパっていうホヤの仲間も変な成長の仕方をするんだけど…複雑怪奇すぎて説明が長くなるので省きます。

とにかく、リアルワールドの生物達の中には、生命のサイクルそのものを進化させる種がいるということです。

ならばデジモンだって、様々な種が系統を発達させるにつれて、『何をすれば成熟期になるか』という条件設定そのものを進化させていると考えられるんです。

『なるほど…有り得る話だ』

だから、成長期デジモンを成熟期へ進化させたいと考えた場合…
全デジモン共通の条件を探すのでなく、その種の系統の野生デジモンを生態観察し、何をすれば成長期になるのか、個別に推測する必要があるということです。

『道理で、クラッカーもスカモン系統以外の成熟期を戦線に出してこないわけだね』

『そういえば、キンカクモンのデジタマはまだ進化しないのかね?ここまで進化しないとなると、タマゴ自体がもう死んでるようにしか思えないのだが…』

どうなんでしょうね。
リアルワールドのダチョウとかは40日くらいで孵化しますが、昆虫の卵は冬を越すくらい長い間孵化しないこともザラですからね。

『コマンドラモンやブイモン達のデジタマは拾ってからもっと早く進化したはずだったが…』

コマンドラモンやブイモン達のデジタマは、デジタルワールドで産まれてしばらく経ったものを拾ってきました。
しかし、キンカクモンは産まれた直後のデジタマを持ってきた。
その違いのせいかもしれませんね。

一旦ここまで

『それで、新しい姿へ進化したケンキモンは、どんな様子かね?』

今はパートナー達と一緒に井戸を掘っていますね。

『おや、井戸か。いよいよ作るんだね』

今までは、遠くで汲んだ水をデジタルゲート経由で運んでいたのですが、毎回デジタルゲートを使っているとデジタルゲートのエネルギーが尽きますからね。
それに頼らずに水を確保する手段を用意したんです。

『しかし、随分井戸を後回しにしたものだね。まさか製鉄所を先に作るとは』

デジモンは我々の世界の動植物と異なり、必ずしも水を水として飲む必要があるわけではないようです。

原始的な代謝機能を退化させずに持ち続けているデジモンは、体内に吸収したデータを組み替えて、自分の肉体を作ることができます。
そこには当然「水」も含まれます。

だから、パルモンとマッシュモンは、データを食べればそれを変換して水を作れるから、水という形で水分を経口摂取する必要がないみたいですね。

ただし、データ変換をするためにエネルギーを消耗するので、水をそのまま摂取できるならそれに越したことはないようです。

『デジモンは皆乾燥に強いということかね?』

…オタマモンは乾燥に強くないので、水浴び場が必要になりますね。

『なるほど…。しかし、井戸を掘れるのか?パワーショベル、フォークリフト、クレーンだけでどうにかなるとは思えないがね』

ケンキモンの中身…本体は、左腕がドリルになっているので井戸を掘り進めるのが得意なようです。

しかも両腕は様々な工作機械に付け替え可能なので、井戸の内壁を固める作業や、ロープを設置する作業もお手の物です。
もっと技術を磨けば、ポンプですら作れるようになるかも。

『…随分欲張りなんだね?元コマンドラモンくんは』

彼には「後悔する覚悟を持って欲しい」と言いましたが、あれで後悔することはないと思います。

『すると、井戸作りはケンキモンの本体が一人で進めているのかね?』

井戸はそうですが…
農業用の水路を作るのは、他のデジモンは達もやってますよ。

ブイモンが前に作ったツルハシや、ケンキモンが新しく作った道具を使ってます。

『ツルハシ?ガニモンを倒したアレか…。ツルハシで水路が掘れるのかい?』

ブイモンが作ったツルハシは2本有るのですが…
ツルハシって先端が前後に飛び出してますよね。
片側は尖っていて、硬い地面を砕いたり敵の装甲を破壊できるわけですが…
もう片側の用途は少し違います。

一つは先端に鋤(すき)がついており、地面を掘れるようになってるんです。
農作業で畑を耕すのに使えるんです。

『へえ、便利だね。もう一つのツルハシも片側が鋤なのかね?』

いえ、もう一本は、片側が斧になってます。
木を切り倒すのには必需品ですね

『ハハハ、いい武器だね!ブイモン君もなかなかいいものを作るじゃないか!』

…それなんですけども。
ケンキモンがですね、ブイモンを遥かに上回る器用さで道具を作ってしまうものでして。

鍛冶作業もケンキモンがやるようになってますね。

『お、おぉ…』

…ブイモンは「オイラのいちばんがなくなっちゃった」と言ってました。

『…そうやって劣等感を抱いて悩めるのは、彼の長所だと思うがね』

私もそう思いますが…本人としてはそうでもないようで。

『ブイモン君の様子は?』

ワームモンと一緒に、デジクロスの練習に励んでますね。
「もうオイラにはこれしかない」と言っています。

『…あまり思い詰めないでもらいたいものだね』

もしも次にセキュリティデジモンが出撃する機会があったら、ケンキモンの戦闘力を試してみようと思ってます。

『…いいや、ダメだ』

え?

『最低2つ、デジタマを産ませてからだ。それが条件だ。それまでは、クラッカーデジモン討伐目的でのケンキモンの出撃は許可できない』

「な、なんでだよ?せっかく戦力が増したんだぞ!」
カリアゲがモニターへ詰め寄る。

『予期せぬ強敵の出現で、ケンキモン君が失われてしまうことは、我々出資者間の会議では容認できないリスクと判断されたんだ』

「そんなこと言ってたら勝てる相手にも勝てねえだろうが!今までの新たな敵との戦いで、コマンドラモンがどれだけ必須の立ち回りをしてたか知ってるだろ、スポンサーさん!」

『無論知っているよ』

「ならなんでだよ!」

『…我々出資者はね。無償でお金を配るおじさんじゃないんだ。出資した以上の利益を回収できる見込みがなければ、原理上出資ができない。それは分かるかね?』

「ま、まあ、分かるけどよ…」

『では君達の研究が今後事業として大きな利益を見込める可能性とは何か?それは君達のチームによるセキュリティ活動…では、ない。「セキュリティデジモンを開発すること」だ』

「…」

『ようやく今、コマンドラモンというマッシュモンに並ぶかそれ以上に強力な戦力を量産できる機会が整ったんだ。我々出資者としては、そのケンキモン君を前線に出し、デジタマを遺さずにロストしてしまう可能性は決して許容できない』

「…コマンドラモンがいなかったら…新しい敵との戦いで、敵わないかもしれねえぞ。全滅する前に退却はさせるけど…、クラッカーの被害にあった人を護れないかもしれねえだろ」

『そうだね』

「そうだねって…!」

『そのときは護れなくていい。そういうときもあるさ』

「それでいいのかよ…」

『いいとも!ケンキモンがコマンドラモンのデジタマを産めるようになるなら、たとえその一人を助けられなくても、のちのち数十、数百の人々を助けられるようになるだろう!ならば我々は後者をとるよ』

「…納得いかねえ…。また前みたいにクレカ会社とかが狙われたらどうすんだよ…」

『君達だけで抱え込まなくていい。ローグ・ソフトウェアだって君達のようにセキュリティデジモン開発をしているし、実績も出している。彼らが穴埋めをしてくれるだろう。…君達にくらべてか~な~り割高だがね』

あっちは割高なんだ…。

「…分かったよ。ケンキモンがデジタマ産むまで待てばいいんだろ。仕方ねえ…コマンドラモンの役割がなくても戦えるように、鍛錬あるのみだ!」

デジモン育成の方は任せたよ、カリアゲ。

「おうよ!」

『ケン君はこれからどうするのかね?』

私はここ最近はケンキモンの観察をしてデータを取っていましたが…
そろそろまた野生デジモンの観察に戻ろうと思います。

『そうか!基礎研究を頑張りたまえ』

さて…
久々に、デジタルワールドの野生デジモンを観察しよう。

この頃興味深いデジモンの出現が報告に上がっていた。
そちらを観察しに行こう。




私は、密林の方へデジドローンを飛ばした。
蛮族デジモンがいる地域だ。

あまりに木々の密集度が高い密林では、デジドローンがその間を掻い潜って読んだりできなくなるので、密集度が低い地域を観察している。

やがて、木々がガサガサと揺れ、一体のデジモンが飛び出してきた。
https://i.imgur.com/R5Ewc6d.jpg

大きな仮面と、ブーメランを携えた類人猿デジモン…セピックモンだ。

セピックモンは、上方を見上げている。
木の上にいる何かを付け狙っているようだ。

やがてセピックモンは、ブーメランを投げた。
ブーメランはくるくると弧を描くように飛び、木の影にいたデジモンに当たった。

「ギャッ!」

悲鳴を上げたデジモンは、木から落ちた後、バサバサと飛んで逃げた。

そのデジモンは…
https://i.imgur.com/q2ElLeR.jpg

…うおお、まるで悪魔のような姿だ。
発達した手足と、ふたつのコウモリのような翼が生えており、おおきな口を開けている。

命名イビルモン。
その形態から察するに、コウモリ型デジモンピピスモンの子孫であるピコデビモンが進化した姿だと思われる。

驚いた…。
コウモリのデジモンが、こんな姿に進化するとは。

我々は、このコウモリ型デジモンから進化し系統を、翼人型デジモンと呼称することにした。

さて、セピックモンが投げたブーメランは、セピックモンの手元へ帰ってきた。
凄まじいコントロールである。

攻撃を受けたイビルモンは、逃げようとしたが…

「ギギ…!ギャウウゥーーー!」

空中でターンして、セピックモンへ飛びかかってきた。

「ヒャアアアアアイイアアーーーーー!!」

イビルモンは口を大きく開けて、けたたましい声を上げた。

それを聞いたセピックモンは耳を塞いだ。
「ウギッキッキイイィイイイーーーーー!!」

どうやらイビルモンは怪音波を発して攻撃することができるようだ。
ピピスモンが持っていた超音波ソナー能力を発展させた力のようだ。

イビルモンはセピックモンに接近し、声を止めた。

セピックモンはブーメランを構えた。
このうるさい敵の声を止めてやろうというのだろう。
イビルモンへ近づき、ブーメランを振りかざした。


「ビィーーーーーーーーーーーーーーヤァアアアーーーーーーーーーーーーー!!!!」


イビルモンはセピックモンの耳元へ口を近づけ、凄まじい爆音を発した。

「ビギャアアアーーーーー!!」

セピックモンは怪音波攻撃をまともに頭部へ食らって、そのまま後方へ吹き飛んだ。

「ギギ!キィー!」

吹き飛びながら、やぶれかぶれの様相でブーメランを投げるセピックモン。
だがイビルモンはそれを軽々と躱した。

吹き飛んだセピックモンは、背中から太い木へ叩きつけられた。

「ウギッ!」

地面に伏すセピックモン。

「アギ…ギ…!」

悶え苦しんでいるセピックモン。
怪音波で吹き飛んで木にぶつかったダメージよりも、それを顔面に浴びせられたダメージが大きいようだ。

「ウッヒャッヒャーーー!」

弱ったセピックモンを見てニタリと笑みを浮かべたイビルモンは、セピックモンへにじり寄り、噛みつこうとした。

「ウギャッ!」

そう悲鳴を上げたのは…
イビルモンの方だった。

先程セピックモンが投げたブーメランが戻ってきて、イビルモンの後頭部にクリーンヒットしたのだ。

「ゥ…グギ…!」
ばたりと倒れるイビルモン。

二体とも意識が朦朧としているようだ。

「キ…キィイ…!」
「ウビビ…!」

二体とも、必死に立ち上がろうとしている。
この勝負、先に立ち上がったほうが勝つ…!

「ウッホッホーーー!!」

…そのとき、上空からデジモンの声が聞こえてきた。

なんと木の上から、一等身体型のずんぐりむっくりした茶色い類人猿デジモン、ジャングルモジャモンが、骨棍棒を構えて飛び降りてきたのだ。

ジャングルモジャモンがふり下ろした骨棍棒が、イビルモンの脳天を力強く打った。

「ギャアアアアアーーーー!」

頭部から出血し昏倒するイビルモン。

「ウッホ!ホッホッホッ!」

ジャングルモジャモンは、イビルモンにのしかかり、その頭部を骨棍棒で滅多打ちにした。

イビルモンはそのまま絶命した。

ふらつくセピックモンは、よろよろと立ち上がるが、足元がおぼつかないようだ。

「ウホウホ!」

ジャングルモジャモンは、イビルモンの死骸を左肩に担いだ。

「キー…」

セピックモンは、ジャングルモジャモンの右肩に寄りかかった。

「ホー!ホッッホ!」

ジャングルモジャモンは、ふらついたセピックモンと、イビルモンの死骸を抱えて密林の中を進んでいく。


…蛮族デジモンのセピックモンは、それなりの戦闘力を持っており、イビルモンもそれに負けていなかった。

だが蛮族デジモンには、群れで狩りをする知恵がある。

イビルモンは、その差に敗れたのだった。

意気揚々と進むジャングルモジャモン。
やがてセピックモンは意識を回復したのか、自分の足で立ってあるき始めた。

蛮族デジモンの群れの力は、やはり強力だ。


「ガウウウゥ!」

その時。
草陰から飛び出してきた何者かが、セピックモンを襲った。

https://i.imgur.com/Qlrhirc.jpg
青く美しい毛並みをもつ狼のようなデジモンが、セピックモンを押し倒したのだ。
命名ガルルモン。今までいそうでいなかった、イヌ科系統の肉食哺乳類型デジモンだ。

「キー!キキーッ!」

マウントを取られたセピックモンは、ブーメランでガルルモンを殴りつけようとする。

「ガウゥ!」

だがガルルモンは、強靭なアゴでセピックモンの首へ噛みついた。

「フギイィ!」

じたばたと暴れるセピックモン。

「ウ、ウホホー!」

ジャングルモジャモンは、セピックモンを助けるため、骨棍棒でガルルモンの頭部を殴りつけた。

「ガウ!」

ガルルモンはふらついたが、セピックモンの首を噛む力を緩めない。

「ウホホー!」

ジャングルモジャモンは追撃を試みた。
だが…

「ウゥゥ~~!!」

草陰から3体の肉食哺乳類型成長期デジモン…ガジモンが飛び出して、ジャングルモジャモンに背後から長い爪を突き刺した。

「ウボォォォオ!!」

激痛で悲鳴を上げるジャングルモジャモン。
怒りに身を任せて、ガジモンを一体殴り飛ばした。

「ギャッ!」

骨棍棒で殴られ、一体のガジモンが吹き飛んだ。

しかしガジモンの一体は、ジャングルモジャモンの顔面に貼りつき、顔をしっちゃかめっちゃかに引っ掻いた。
長い爪を、ジャングルモジャモンの右目へ突き刺した。

「ウボゴォォォオオ!!」

もう一体のガジモンは、ジャングルモジャモンを背後から爪で滅多刺しにする。

「ウオォホオォォ!」

血まみれのジャングルモジャモンは、顔面に張り付いたガジモンを引き剥がそうとする。

掴まれたガジモンは、ジャングルモジャモンに放り投げられた。

「ウ、ウホホ!」

体勢を整えようとするジャングルモジャモンだったが…

「ワオオォオーーン!」

先程までセピックモンを攻撃していたガルルモンが、ジャングルモジャモンに飛びかかり、顔面に噛みついた。

「ウホオォ!?」

どうやらセピックモンは既に虫の息らしい。
バトンタッチしたかのように、ガジモン達はセピックモンへ襲い掛かり、長い爪でセピックモンの首を滅多刺しにして、トドメを刺した。

「ウーホ!ウゥーーホ!!」

ガルルモンから顔に噛みつかれ、激しく抵抗するジャングルモジャモン。

「ガウウゥ!」

ガルルモンはやや困惑している。
セピックモンは首という急所が明白だったので、そこへ噛みつけば良いとすぐに判断できたようだが…

ジャングルモジャモンは一等身だ。
首らしい首がないのである。

「ウホオォオーー!」

ジャングルモジャモンは、顔に噛み付くガルルモンの頭部を、骨棍棒でしこたま殴りつけた。

「ギャウウゥ!ウゥゥ…ガウウゥーーー!」

ガルルモンは、なんとジャングルモジャモンの顔に噛みついたまま、口から炎を吐いた。

「ウゴボォオオオオーーーーーーーー!!!」

顔面を焼かれるジャングルモジャモン。

「フグゥゥオオオホッホーーー!」

ジャングルモジャモンは、セピックモンの死骸の傍らにあるブーメランを拾い…
ガルルモンの後頭部へがんがんと叩きつけた。

「ギャウゥ!」

さすがに効いたようだ。
ジャングルモジャモンから飛び退くガルルモン。

ジャングルモジャモンは…

「ヒ…ヒヒー!」

木に登り、一目散に逃げていった。

三つ巴の戦いを制したのは、ガルルモン一派だった。

セピックモンとイビルモンの死骸を解体し、ガルルモン一体とガジモン三体はそれを食べた。

ジャングルモジャモンは、この戦いでは敗走する形になったが…
それでも戦いを生き延びることができた。

一等身であるがゆえに、ガルルモンに噛まれて急所となる首がないため、ガルルモンの噛みつき攻撃を食らっても致命傷にならなかったのだ。

…近頃、群れで狩りをするデジモンが増え始めているように見える。

それはすなわち、集団生活をする習性をもつデジモンが増えてきたということだ。

我々はセキュリティデジモンのデジタマを採集するとき、必ず「集団生活する習性を持つデジモン」のタマゴだけを拾うようにしてきた。

集団生活をする素質をもったデジモンでなければ、我々のチームで共に生きるという概念すら理解できないためである。

クラッカーもきっと同じだ。
ランサムウェアデジモンとしてアイスモンやシャーマモンをスカウトしたのは、その性質だけでなく、集団行動が可能であるからだろう。

さて、善は急げだ。
ガルルモンの巣を見つけて、ガルルモンのデジタマを採取しよう!

イヌは人類の共だ。
それに近い姿のガルルモンも、きっと我々と行動を共にできるはずだ!

そう言うと、シンがひょっこり顔を出した。
「いいッスね!んで、どうやって採取するんスか?」

そりゃもちろん、エクスブイモンやキンカクモンのデジタマを取った時同様にダグラスコマンドラモンの光学迷彩で…

「でも、ケンキモンの本体は光学迷彩使えなくなってるッスよ?」

…あ。



「…わたしはいま このすがたになったことを すこしこうかいしている」
ケンキモン…気を落とすなって。
そういうこともあるさ。

ダグラス?
はて………?



ジャングルモジャモンが帰還した集落では、蛮族デジモンが集団生活をしていた。

ジャングルモジャモンは、フーガモンに狩りの失敗を報告して怒られていた。

やがてジャングルモジャモンは、草を集めて、木の小屋へ向かった。

小屋では偶蹄類型成長期デジモン、バクモンが何頭か飼育されていた。
な、なんだ?家畜か…?

草を食べたバクモンは…
光り輝き、進化した。

https://i.imgur.com/gPzQifj.jpg
シマウマ型デジモン…シマユニモンとなった。

な、なんだ…?
なぜ蛮族デジモンは、バクモンを飼育しているんだ…?

つづく


>>505
誤記ですスミマセン
普通のエクスブイモンです

まちがった
普通のコマンドラモンです

ディノヒューモンの集落。
ここの住人達は殺気立っていた。
度重なる蛮族の襲撃に苛立ち、ついに蛮族の撲滅に打って出る気になったようだ。

農作業の傍ら、ブイモン、カメモン、スナリザモン、ワームモン等の成長期デジモンたちは、戦闘の鍛錬をしている。
(※ブイモンとワームモンは、我々のパートナーとは別個体なので注意されたし。)

スティングモンは、特にブイモン達へ力を入れてトレーニングをさせているようだ。
剣道のように木の棒で叩きあう試合形式の訓練もやっている。

先日の蛮族との戦いによって、エクスブイモンが命を落としたことで、スティングモンは今パイルドラモン及びディノビーモンへのデジクロスという最大戦力を喪った。

加えて、モスモンというナンバー2も同時に死んでしまった。

これまで農園を防衛できていたのは、ディノビーモンとモスモンという強大な戦力のお陰と言ってもいい。
それを喪った今、蛮族の撃退には手を焼いているようだ。
現在の最高戦力は、燃える体と鋭い爪を持つ爬虫類型デジモン、フレアリザモンだが…
ディノビーモンのように無双できる程強いわけではない。
故にスティングモンは、早く次世代のエクスブイモンを育て、デジクロスの力を復活させようと躍起になっているようだ。

ただし、あの戦いでは蛮族側もハヌモン及びゴリモンというトップ戦力を失った。
ジャングルモジャモンやセピックモン等のDP低めな成熟期はそれなりにいるが、ハヌモンやゴリモンと比べれば戦闘力は雲泥の差だ。

特にハヌモンは、不意打ちとはいえどレベル5のディノビーモンと刺し違えた怪物である。
…実際にはディノビーモンとの間には大きな力の差はあるが、パイルドラモンの鋭いパンチを何度もヒョイヒョイ回避した身軽さは成熟期の中では別格といえるだろう。

そんなわけで蛮族は、小競り合いを繰り返しながら、ヒヒ型のバブンガモン、原人型のフーガモン、ドリル付きモグラ型のドリモゲモン、そして人間の女性に極めて近い姿のキンカクモンを中心として、戦力増強を図っているようだ。

…さて、そんな緊張感が漂う中…
ついにディノヒューモンの集落では、一体のブイモンが成熟期への進化に成功した。

エクスブイモンではない。
翼が生えた竜型デジモン…コアドラモンとなった。
https://i.imgur.com/AygPCwG.jpg

がっしりとした手足は、格闘戦が得意そうだ。
さらに、集落では昆虫デジモン以外で珍しく飛行能力を持っている。

コアドラモンは、空からの偵察を行い、蛮族の集落を監視した。

そして…数ある蛮族の集落のうち比較的小規模なものを発見した。

コアドラモンは、それをディノヒューモンへ報告した。

「コロリ!!ウホウホコロリ!フルフルコロリ!!」

ディノヒューモンはどうやら、この集落の蛮族を制圧することに決めたようだ。

スティングモンは、大きなリクガメ型成熟期デジモン…トータモンを呼んだ。

トータモンは、かつて我々がクラッカーから鹵獲したルドモン及びズバモンと血縁関係があることが判明している。
クラッカーは、トータモンのデジタマを採取し、そこからルドモンとズバモンを育て上げたのであろう。

スティングモンはトータモンになにか指示をしている。
「ノシノシ!!ウホウホ!プチプチ!」
「ガウゥ」

トータモンは頷くと…
スティングモンの指示のもとで、戦闘部隊を編成した。

今回の主力は、カメ型成長期デジモン、カメモンである。

部隊編成はこうだ。
まず、部隊の中心にはトータモンを据える。

トータモンの甲羅の上に、ワームモン2体が乗る。

その前方に、石槍を持った12体のカメモンが、2列に並んで隊列を作る。

そしてその上空を哨戒するように、蜂型成熟期デジモンのフライビーモンが飛ぶ。

以上が、今回編成された部隊だ。
成熟期2体、成長期14体…総勢16体で編成された大規模な部隊だ。

どのように攻め込むのだろうか。

どうやらこのフライビーモンは、コアドラモンから蛮族集落の場所を聞いているらしい。

コアドラモン自身は、農園を防衛しつつ偵察する任務を指示されているので、今回の作戦には加わらないようだ。

さて、いよいよ戦闘部隊が出撃した。

部隊は…
ゆっくりと歩き、蛮族集落のある方へ真っ直ぐに進んだ。

その歩みは決して素早くはない。
カメモン達は途中で弁当(トウモロコシやイモを焼き固めたもの)を食べたり、水たまりで水を飲んで水分を補給した。

真っ直ぐに、ゆっくりと、確実に前進し…
蛮族集落へ接近した。

突如フライビーモンが、ジージーとセミのような声を鳴らした。

それからすぐに、シャーマモン3体とジャングルモジャモン1体が接近してきた。

…だが、シャーマモン達は部隊を一瞥すると…
引き返して逃げ出した。

なんせ部隊はこれだけの数だ。
実際にぶつかり合う以前の問題として、強烈な威圧感を発している。

好戦的な蛮族デジモンといえど、少人数で戦いを挑むほど馬鹿ではない。

威圧感を放つトータモン部隊は、確実に蛮族集落へ接近していく。

やがてついに、蛮族の群れが飛びかかってきた。
シャーマモン4体、コエモン6体、ジャングルモジャモン2体、セピックモン1体。
計13体だ。
蛮族側もかなりの戦力を集めてきたようだ。

蛮族達は、戦闘部隊に襲いかかる…!

2列に並んだ最前線のカメモンの1体に骨棍棒で殴りかかるシャーマモン。
だが、カメモンは倒れない。
頭部は硬いヘルメット、胴体は硬い甲羅で覆われたカメモンの防御力は尋常ではない。

殴られたカメモンは、殴りかかってきたシャーマモンの腕を掴むと…
その両隣および後ろにいるカメモンが、シャーマモンを石槍でしこたま突き刺した。

悲鳴を上げ、倒れたシャーマモンは…
戦いながらも前進を続けるカメモンの群れに踏まれた。

そして、トータモンに頭から丸呑みにされた。

「キエエーーーーーイ!!」

一体で飛びかかっても勝てないと考えた蛮族の群れは、全員でいっせいに飛びかかった。

先程は一体で飛びかかったからあしらわれた。
だから同じことを大勢でやればいい…という算段のようだ。

襲いかかる蛮族デジモン達を見て、トータモンとフライビーモンが動いた。

トータモンは、なんと背中のトゲを1つミサイルのように発射し、ジャングルモジャモン1体へ放った。

ジャングルモジャモンの腹部へトゲが突き刺さる。ジャングルモジャモンは悲鳴を上げた。

フライビーモンは、ワームモンの一体を掴んで飛び、セピックモンへワームモンの口を向けた。

ワームモンは蜘蛛の巣のような糸を吐き、セピックモンのブーメランを手ごと糸で絡めさせた。

「ウキ!?」
農園のワームモンは、糸の粘着力に全能力を注ぎ込んだ種である。
それ故に、成熟期のセピックモンといえど粘着糸を破るのは容易ではない。

コエモン達とシャーマモン達は、最前線のカメモンに武器で殴りかかった。

だが、カメモン達がやったことは前と同じだ。
戦いながらも前に進み、武器の攻撃を受け止め…
隣と後ろのカメモンが石槍でカウンター攻撃をする。
そして体制を崩したコエモン達を転倒させて集団で踏み潰し…
最後にトータモンが鋭いクチバシで頭部を噛みちぎってトドメを刺す。

奇妙な光景だった。
コエモンやシャーマモンは、大勢で同時に攻めているはずなのに。
いざぶつかり合った瞬間には、常に「多vs個」の殴り合いという状況を強いられていた。

戦いながら前進するトータモン部隊は、どれだけ殴られようが止まらない。

「ウ、ウホーーー!!」
無傷のジャングルモジャモンが、コエモン達を助けようと、前線のカメモン達に飛びかかる。

…フライビーモンは、糸を吐いたワームモンをトータモンの上へ着地させると、待機していた方のワームモンを掴んで飛んだ。
そしてジャングルモジャモンの腕へ、ワームモンが粘着糸を吐きかけた。

「ウホゴォオオオ!!」
腕に粘着糸が絡んだジャングルモジャモンは、動きにくそうだ。

ワームモンが2体いたのは、一度糸を吐いたワームモンを休ませ、待機していたワームモンへと交換することで、強力な粘着糸の連続発射をするためだったようだ。

「ウ、ウホォオ!!」
糸を絡められたジャングルモジャモンは、腹にトゲが突き刺さったジャングルモジャモンや、ブーメラン投げを粘着糸で封じられたセピックモンと共に、カメモンをゴリ押しで殴り倒しにかかった。

いくらDP低めといえど、それはあくまで成熟期基準だ。カメモンより格闘能力は遥かに上。
殴り合いなら負けはしない!

護りの硬いカメモンも、さすがに成熟期のパワーでボコスカ殴られたらダメージが入る。

…そのうち、3体のカメモンは、セピックモンに掴みかかって動きを封じた。

「ウキ!?」

そしてセピックモンの体を、トータモンの方へ向けた。

トータモンは、長い首を振り落ろし、仮面で覆われたセピックモンの頭部へ鋭いクチバシを打ち付けた。

「ウギャガァアア!」
セピックモンの仮面が割れた。

「ガアアァ!」
カメモン3体に捕まって暴れているセピックモンに対して、トータモンはさらにクチバシを打ち付けた。

セピックモンの頭部からは噴水のように真っ赤な動脈血が吹き出し、セピックモンは地に倒れ伏した。

「ウホォオォォオ!」
ジャングルモジャモンは、シャーマモン達と共に、死にものぐるいでカメモン部隊を殴り倒そうとするが…
カメモン達は耐える。

さすがにカメモン達も疲弊してきている。
石槍がぼきりと折れたり、顔面を殴られて倒れるカメモンが現れ始めた。

「ウホッホォォ!」
ジャングルモジャモン達は雄叫びを上げた。

だが、フライビーモンに掴まれたワームモンが、ジャングルモジャモンの腕にさらに粘着糸を浴びせる。

粘着糸は硬化し始め、どんどんジャングルモジャモンの動きは鈍っていく。

カメモンの一体は、腹部にトゲが刺さっている方のジャングルモジャモンに狙いを定めると、腹部に刺さっているトゲに頭突きをした。

「ウゴホァアアアア!!」

カメモン達は、ジャングルモジャモンの腹部のトゲにかわるがわる頭突きをした。

「ゴ…ゴボオォ!」

ジャングルモジャモンの傷口から、真っ赤な血が吹き出す。
何度も打ち付けられたトゲが、ついに太い動脈を貫いたようだ。

「ヒ、ウホッヒイイイィィ!!」

地に伏し激痛に転げ回るジャングルモジャモン。
戦いながら前進するカメモン達は、それらを石槍で刺しながら踏みつけて、トータモンの前へ転がす。

「ガオオォォ!」

トータモンが長い首の筋力を活かしてクチバシを打ち付け、ジャングルモジャモンの頭蓋を叩き割った。

「ウ…ウホヒ…?」
残った方のジャングルモジャモンは、戦況を見渡した。
気付いたら、相方のジャングルモジャモンとセピックモンはどちらも死んでいた。

シャーマモン達とコエモン達の数も、ずいぶん減っていた。

…このままでは勝てない。
そう察した残党たちは…

「ヒ…ヒイィーー!」

踵を返し、背を向けて一目散に逃げ出した。

カメモン達は足が遅い。
全力で逃げる霊長類デジモン達に追いつけはしないだろう。

…だが。
トータモンは、ジャングルモジャモンの背へ、トゲをミサイルのように撃ち込んだ。

「ウホギャアアア!」
転倒するジャングルモジャモン。
のしりのしりとゆっくり接近したカメモン達は、転げ回るジャングルモジャモンを石槍で突き刺した。
最後にトータモンが、クチバシでジャングルモジャモンの顔面を叩き割った。

フライビーモンは、背を向けて逃げる残党のシャーマモンとセピックモンに飛んで追いついた。

そしてそれらへ次々と、毒針を突き刺した。

悲鳴を上げたシャーマモンとセピックモンは、そのまま逃げ続けたが…
麻痺毒が回り、ばたりと倒れた。

そしてカメモン達は、倒した蛮族デジモンを捕食してエネルギー補給をした。

…なんということだろうか。
負傷して戦闘不能になったカメモンは2体ほどいるものの、部隊は一体の戦死者も出さずに、成熟期3体+成長期10体の蛮族の群れを全滅させてしまった。

部隊はそのまま突き進み…
とうとう蛮族集落へ突入した。

トータモン部隊は、目標へ向かって真っ直ぐに突き進み、それを破壊するという戦術を取った。

家屋も、食料貯蔵庫も、幼年期の育成室も。
すべてを破壊して回った。

トータモン達を止めようと飛びかかってきた蛮族デジモンを、先程と同じ戦法で叩き伏せた。
敵わないと悟った残党は逃走し…多くが背後からフライビーモンの毒針で仕留められた。

そうしてトータモン達は、蛮族の集落を占拠した。

たまに蛮族デジモン達が集落を奪還しようとして攻めてくるが…
やめて諦めたようだ。

こうしてこの小集落は、トータモンの手に落ちた。

トータモンやカメモン達は、集落を開拓し、農園から持ち込んだ苗を植えて畑を開墾し始めた。

そのうち、今回の戦いで経験を積んだカメモンの一体がトータモンへ進化すると…
元祖トータモンは、ディノヒューモンの農園へ引き返していった。

…驚いた。
スティングモンが編成した亀デジモン部隊が、ここまで強いとは…。

ディノヒューモンが農耕の天才であることは間違いないが、彼の農園をこれまで蛮族から防衛してきたスティングモン…
あのスコピオモンの子孫であるスティングモンは、決して「デジクロスしたら強い奴」というだけではないようだ。

彼の血を受け継いだ我々のワームモンも、このように育ってくれるだろうか。

うーん…
トータモン達は優秀なデジモンだな。
組織行動ができ、防御力がとにかく高い。

デジタマが欲しいところだが…
コマンドラモンが透明化の力を失ったこともあり、デジタマ採取は厳しそうだ。

それをケンキモンの本体へ聞かせると…
「はやく デジタマをうんで かこのわたしのぶんしんを そだてなくては…」
…だいぶプレッシャーを感じてしまったようだ。

そんな話をしていると、シンが声をかけてきた。
「ようやくキンカクモンのデジタマが孵ったッスよ!」
おお、ついにか!

つづく

キンカクモンのデジタマからは…
赤くてプニプニした幼年期デジモン、プニモンが産まれた。

https://i.imgur.com/y8I72dU.jpg
前足とみられる2本の突起、尾とみられる1本の突起が生えており、これで地面をピョコピョコ歩き回っている。

パルモンやケンキモン(の本体)、カリアゲは、積極的にプニモンとコンタクトを取っており、フルーツ等で餌付けしている。

キンカクモンのデジタマがなかなか孵化しなかった理由だが…
ひょっとしたら「自身の遺伝子を周囲に適応させるのに時間がかかった」ためかもしれない。

キンカクモンには乳房がある。
あれは決して飾りではなく、授乳のための器官であるはずだ。
ともすれば、その幼年期デジモンは親デジモンから母乳を与えられて育つ形質を持っているはずだ。

ところがキンカクモンのデジタマは、その母乳を与えてくれる親デジモンから引き離された。

そのため、急遽母乳無しで生育できるように自身の胚を作り変え…そのために時間を取られたのではないかと推察している。

あくまで仮説だ。真の原因は別かもしれないが…
ともあれ、プニモンが母乳無しで生育できるように産まれてきてくれたことは僥倖といえるだろう。

…ちなみに、蛮族の集落で産まれるプニモン達は、なぜか我々のもとで産まれたプニモンとは「上下が逆」である。
つまり蛮族集落版のプニモンは三本の突起が頭部から生えるのだ。

多くの哺乳類型デジモンは、幼年期レベル1としてプニモンを産むが…
母乳を飲む種は突起が上になり、母乳を飲まない種は突起が下になり手足として機能するらしい。

ちなみに、全ての哺乳類型デジモンがプニモンを産むわけではない。
プニモンを産むのは、類人猿型やコウモリ型、有袋類型…そしてごく最初期に出現した極一部の哺乳類型デジモンなどだ。

世代が進んで進化を重ねた四足歩行の哺乳類型デジモンは、多くがパフモンという白い毛皮でモフモフのレベル1幼年期デジモンを産むそうだ。
https://i.imgur.com/pYCoGzg.jpg

…それにしてもわからん!
なぜ母乳を飲む個体群のプニモンは突起が上に来るんだ!?
どう考えても突起が下になって手足のように機能したほうが合理的だ!

一体何の意味があるんだ…!?

そう思って、デジタルワールドの哺乳類型デジモンを観察してみた。
キンカクモン同様に乳房を持っているデジモン…、イノシシ型デジモンのボアモンを見てみよう。
https://i.imgur.com/sB0apGc.jpg

このボアモンはごく最初期に出現した哺乳類型デジモンであるため、パフモンでなくプニモンを産むのである。

ボアモンが、自分の巣に戻ってきた。
巣ですやすやと眠るプニモン達は目を覚ますと、もぞもぞとボアモンに寄ってきた。

ボアモンは脚を畳み、乳房をプニモン達へ近づける。


すると…
プニモンの頭の三本の突起の中心あたりに、なにやら穴が開いた。

プニモン達は、頭部から生えた三本の突起でボアモンの乳房に掴まると、自身の頭頂に空いた穴へ、ボアモンの乳首を入れた。

そのままプニモン達は、ブルモンの乳房へ三本の突起でしがみついている。


えっ!?口そこなの!?
てっきり目の下あたりにあるかと思ってた!

母乳を飲むタイプのプニモン達は、なんと口が頭頂に空いているのだ。
これは驚きだ。
頭頂の穴から母乳を飲むんだ…。

やがて、ボアモンに外敵が近づいてきた。
狼型デジモン、ファングモンである。
https://i.imgur.com/yf6zszt.jpg

ファングモンは、プニモン達を狙ってにじり寄ってきた。

ボアモンはそれを察知したらしい。
プニモン達を乳房にぶら下げたまま、全速力で走り出した!

プニモン達は、走るボアモンの乳房にしがみついている。

ファングモンは、ボアモンを追いかけて走った。

…我々のデジドローンで出せるスピードよりも速く木々の中へ走り去っていったため、ボアモンとファングモンがその後どうなったのかは知らない。

だが…
プニモンの頭部の突起は、どうやら親デジモンの乳房へしがみついたまま逃げるためにあると考えて良さそうだ。

デジモン達は、我々の世界の動物の常識では考えられない進化をすることがある。
プニモン達もその一例だ。

つづく

ある小学校から苦情の電話が来た。
なんでも生徒の親達のメールアドレスや、携帯電話会社のアカウントが盗まれてしまう被害が多発しているという。

被害者達はプチ見張りマッシュモンのサービスを導入しているのに、クラッカーの被害にあうとはどういうことだ、どうにかしろ、慰謝料払え、などと…
まくしたてるような口調で責めてきた。

しかし、どうにもおかしいのだ。
被害者達の名前が、プチ見張りマッシュモンサービスの契約者リストに一切載っていないのだ。

契約関係がないのだから、調査する義理はないのだが…
どうにもきな臭い。
汚名返上のために、その学校へ調査をしに行くことになった。

教員は契約書を見せてきた。
「ホラ!見守りマッシュモンサービスの契約書!知らんぷりはさせません!」

ん…?
見『守り』マッシュモンサービス…?


なんだこりゃ!
この業者、うちじゃないぞ!

ほら、契約書に書かれてるサポート窓口の電話番号も違いますよ!
ここに電話してみたらどうですか?

「電話したけど通じないんですよ!あんた達勝手に電話番号変更したでしょ!最初の頃は電話通じたのに!」

いや、だって電話番号がバイオシミュレーション研究所とも、サービス業務委託先とも違うんですから。

「そんなわけないでしょおお!ほら、ちゃんとバイオシュミレーション研究所って書いてあります!契約書に!」

どれどれ…
…確かにおっしゃった通りに書いてますね。
…バイオ『シュミ』レーション研究所って。

「ね!?」

…うちはバイオ『シミュ』レーション研究所です!
バイオ『シュミ』レーション研究所じゃありませんよ!?

「同じでしょうが!ちゃんとマッシュモンがシステム保護してくれてるし、餌だってあげてる!見てご覧なさい!」

どれどれ…
私は試作品デジヴァイスを学校のパソコンへ接続し、仮称デルタの力でデジタル空間内の映像を映し出した。

やがて、高解像度の鮮明な映像がモニターに映し出される。

…このデジヴァイスは、想像してた以上に便利だ。
重いパソコンを持ち運ぶ必要がない。スマートウォッチ程度の小ささの軽い端末でデジタル空間を映せるのは本当に助かる。

デジタル空間の映像には…
マッシュモンの姿が映し出された。

「ね?ほら、ちゃんとマッシュモンがいるでしょ!」

ど、どういうことだ…
全然契約した覚えがないのに…。

「それにしてもずいぶん綺麗な映像ですこと。軽量デジクオリアで映した映像はもっとジャギジャギしてるのに…」

デジタル空間内を見回すと…
…ん?

ズルモンやゲレモンが這い回ってるぞ!
このパソコン、クラッカーのスパイウェアデジモンに感染してる!!

「だから呼んだんでしょう!あなた達がいるのにこんなんなってるから!役立たず!」

…仮にも小学校の教員なのにその言い方はどうなんですか。生徒に背中を見せられるんですか?などと言いたくなったが、堪えた。

あちらとしても、生徒達やその保護者達が受けている被害をどうにか解決したくて必死なのだろう。

このマッシュモン…
なんでズルモンやゲレモンを放置してるんだ…?
怪しいぞ。

色々わからん…
とりあえずリーダーに現状報告をした。

『なるほど…ひとつ確かめたいことがある。そのパソコンにインストールされている軽量デジクオリアとやらのことだ』

それがどうかしましたか?

『そのソフトを起動しろ。そして、デジヴァイスで映している高解像度デジクオリアと映像が同期しているか、今から指示する方法で確かめてくれ』

…調査方法はこうだ。
まずは軽量デジクオリアで、怪しいマッシュモンへ餌を与える。

その餌を…
私がデジヴァイスに入れて連れてきたボスマッシュモンに横取りさせる。

そのとき、軽量デジクオリアにどんな映像が映し出されるのかを確認するのだ。

もしもきちんとした正規品のデジクオリアなら、どれだけ解像度が低くてジャギジャギしていようと、二体のマッシュモンが映り、餌を奪われる光景が映し出されるはずだ。

では、実験開始。

「ほーら餌でちゅよ~♪…って、コホン!オホン!ほら、餌を食べなさい」

教員さんが餌やりコマンドを実行する。

軽量デジクオリアに映し出されたのは…
一体のマッシュモンが、餌を食べる姿だった。

我々のデジヴァイスの画面では、二体のマッシュモンが映り、餌をボスマッシュモンが奪ったところが鮮明に映っているのに。

どういうことだ…!?
学校のパソコンの軽量デジクオリアと、デジヴァイスのデジクオリア…
二つの映像が全く同期していない!

『やはりか…』
リーダー!こ、これは!?

『よく聞けケン。そのソフトウェアは…デジクオリアじゃない。偽物だ』

に、偽物のデジクオリア!?
不正コピー品ってことでしょうか?
しかし、不正コピー品ならカンナギからオタマモンが来て不正コピーソフトをハードウェアごと焼却するはずでは!?

『え!?そ、そうなのか?俺はそんな情報知らなかったが…』

ア゜ッッッッッッッ!!!!
すみません今の聞かなかったことにできませんか!?!?!?

『………………………………………………………わ、わかった』

ありがとうございます。
オホン…それで、偽物のデジクオリアってどういうことですか?

『その軽量デジクオリアと呼ばれるソフトの実態は、おそらく非実在のデジタルペットを育成するだけの、ただの育成ゲームソフトのようなものだ。餌を与えたら、餌を食べる映像が映るように最初からプログラミングされている。実際に餌を食べているかどうかとは全く無関係にな』

…な、なんだって…!?
じゃあこのデジクオリアは、実際には怪しいマッシュモンの姿を映してないってことですか!

『そうなるな。それもただの育成ゲームソフトじゃない…おそらくクラッカーのデジモンが侵入できるようにするためのバックドアが仕込まれているんだ』

や、ヤバ…

じゃあ、このパソコンの中の怪しいマッシュモンは…!?

『…少し調べてみよう。ボスマッシュモンに、その怪しいマッシュモンの細胞の断片を採取させろ。うちのサービスで育成しているマッシュモンと同じ遺伝子を持っているか調べる』

分かりました。
では、この怪しいマッシュモンにチャットでコンタクトを取ってみます。

『マッシュモン、細胞の断片を採取させてくれ。正規のサービスで配っているマッシュモンと遺伝子を照合してみる』

すると、怪しいマッシュモンは…

…!?
なんと、ネットワーク回線のトンネルに向かって走り出した。


…来い、みんな!
こいつを捕まえろ!

私はデジヴァイスを使って、デジタル空間内にゲートを開いた。
トンネルを塞ぐようにゲートを開き、怪しいマッシュモンの逃走経路を断った。

これはすごい。ランドンシーフほど自由自在ではないが、ある程度アクセスポイントから離れた位置にもゲートを開けるようだ。

ゲートから飛び出したのは…
『おいらのでばんだなああ!』

腕にワームモンをくっつけたブイモンだ。

『やれ!ワームモン!』

ワームモンが糸を吐き、怪しいマッシュモンを捕縛した。

やったぜ!
怪しいマッシュモンの細胞の断片を、ボスマッシュモンに千切り取らせて、ネットワーク回線経由で我々の研究所へ送ってもらった。

しばらくすると、リーダーから返事が来た。
『解析したが…、うちのマッシュモンと遺伝子が完全には一致していない。別株だ』

べ、別のマッシュモン…!?

『厳密には、遺伝子配列の一部は一致している。ある時点までは、我々のサービスのマッシュモンと遺伝子が一致していたようだ。育成デバイス「デジタルモンスター」を売ったあたりの時点まではな』

…ま、まさか…
育成デバイスからマッシュモンを抜いて育てた…!?

『配ったマッシュモン達のバイタルサインは常時デバイスから送信させていたし、買えなくなったら端末を返却させている。だからデバイスに入れたマッシュモンが奪われたわけではないはずだが…』

…そういえば。
クラッカーが使う粘菌デジモンは、確かマッシュモンとヌメモンの遺伝子が混ざってるんですよね。

『…そうだ。ジョグレス進化と考えられる』

なんで今まで気付かなかったんだろうか。
少し考えれば気付けたはずだ。
クラッカーの手持ちには、粘菌デジモンにジョグレスさせる前に株分けしたマッシュモンがいる可能性がある…と。

その個体を犯罪に利用する可能性があると…!

「あ、あの、どうなったんですか?うちのマッシュモンちゃんは?」

…落ち着いて聞いてください。

あなたが契約した業者は、うちではありません…
悪質な詐欺業者です。
「へ!?」

我々を騙ることで、セキュリティデジモンどころかスパイウェアデジモンを仕込み…
こっそり情報を抜き取っていたんです。

「そ、そんな…!」

つづく

ボスマッシュモンは、ワームモンの糸で捕縛されているクラッカーマッシュモンにチャットで問いかける。
『なぜ クラッカーに かたんし あくじを なす』

クラッカーマッシュモンはチャットで答えた。
『ひとは われわれの かみだ ひとのやくに たて そう わたしのそせんは おそわった』

ボスマッシュモンは苦い顔をする。
『だが おまえは ひとを こまらせている それは よくない』

クラッカーマッシュモンは負けじと言い返す。
『おまえこそ われらのあるじの せいぎのおこないを いつも じゃましている ひとを こまらせているのは おまえのほうだ』

正義…!?
クラッカーマッシュモンは、クラッカーの行いを正義と言ったのか、今!?

ボスマッシュモンは叱咤する。
『サイバーはんざいに せいぎなど あるものか』

クラッカーマッシュモンはペースを乱されずに返答した。
『われらのあるじは せかいのいびつな しはいこうぞうを ただそうとしている』

え…?
何だって…?
なんか大事なことを言ってそうなので、マッシュモン達のチャット文章を自動で漢字に変換するようセッティングした。

『世界の秩序は いびつだ かつて世界を暴力で支配し 搾取する側に回った者達が 今は 暴力を振るうなと かつて踏みつけた者達に言っている 支配と搾取の構造を 覆されたくないがためだけにだ 醜いとは 思わないか』

な、何を言ってるんだクラッカーマッシュモンは…
クラッカーにそう言えと吹き込まれたのか?

『我々は 我が主の 理想に 心から 心酔し 新たな神と 崇めた わたしの活動は 我が神の 理想を叶えるための ひとつに すぎない』

ボスマッシュモンは腕を組み、首を横に振った。
『クラッカーに そんな理想など 存在しない 彼らは 私利私欲のために カネを騙し取る 只の薄汚い犯罪者だ おまえは それらしい嘘に 騙されているだけだ』

そう否定されたクラッカーマッシュモンは、ボスマッシュモンを強く睨んだ。

『我が神を 否定すると いうのならば もう 戦いしか 残らない』

ボスマッシュモンは構えた。
『それしか ないようだ だが その状態で どうするつもりだ』

クラッカーマッシュモンはにやりと微笑んだ。
『こうする』

いつの間にか周囲に押し寄せてきていたズルモンやゲレモンなどの粘菌デジモン達が、クラッカーマッシュモンを包んだ。

驚くボスマッシュモンとブイモン。

そして粘菌デジモンの繭は、天井へと一気に登った。

く、しまった…!
スカモン大王になるのか…!?

前回のクレカ会社事件の出来事があって、全デジモンを持ち出すと本丸がもぬけの殻になってしまう危険性が見出された。
ゆえに今デジヴァイスに入れて連れてきた手持ちのデジモンは、ワームモン、ブイモン、ボスマッシュモン、そしてチビマッシュモンが数体…。以上だ。
ケンキモン、パルモン、オタマモン、プニモンは連れてきていない。

繭は天井で蠢いている。
中で合体し、大型の成熟期デジモンへと変態しているのだろう。

どうにかして、今のうちに繭を切り開いて内側からチビマッシュモン軍団で食い尽くしてしまえば勝てるが…
天井まで登る手段が今はない。
…どうする!?このまま指を咥えて見ていることしかできないのか…?



『ぼくに まかせて』
そうチャットを打ってきたのはワームモンだった。

『ブイモン あれにむけて』
「お、おう!」

ブイモンは、ワームモンがしがみついている腕を繭に向けた。

『ふりまわして』
「こ、こうか?」
ブイモンはワームモンごと腕を上に上げて、ぐるぐる回す。

ワームモンは糸を吐く。
すると、どんどん糸が伸び、空中で円を描く。
その直径はどんどん大きくなっていく。

そうか、ハンマー投げの要領で、遠心力を利用して天井まで糸を伸ばすのか!
いけ!ブイモン!

「おおおおりゃああ!」

ブイモンは、空中で回していた糸を、遠心力を利用して繭に向かって投げた。

ブイモンとワームモンの連携はぴったりだ。
糸は一発で見事に繭に当たった。
ナイス!すごいコントロールだ!

『さきっぽいがい ねばらないから このままのぼって!』

ボスマッシュモンはツルハシを持って、ワームモンが伸ばしたロープを登った。

どうやら本当に先端以外は粘着力がないようだ。ボスマッシュモンとその部下たちは、ロープを伝って繭へ近づいていく。

器用なことができるようになったな、ワームモン…。
そして賢くなった。
親のスティングモンに少しずつ近づいてきているのだろうか。

ボスマッシュモンは、ツルハシを振って繭へ打ち込んだ。

…だが、パワーが足りない!
マッシュモンはそんなに腕力があるデジモンではない。

ツルハシを何度か打ち込んでいるが、なかなか繭を破壊できていないようだ。

ツルハシじゃだめだ!
虎の子のスナイモンの鎌を持ってきているので、それをボスマッシュモンへ渡した。

ボスマッシュモンは、鎌で繭を切り裂いた。
…だが、まだパワーが足りない…!
くそ、せめてブイモンやパルモンくらいのパワーがないとキツいか。
だがブイモンは今、下でロープを支えている…!

さすがに戦力が足りないんじゃ…!?
今回はネット回線のトンネルが粘菌デジモンで塞がれていないから、ネット経由で増援を要請できる。

このまま成熟期に進化されたら厄介だ。
やはり、ケンキモンに来てもらった方がいいのでは…!

だ、だめですかスポンサーさん!?
『リーダー君から話は聞いた。契約通り、ケンキモン君の出撃はまだ許可できない。デジタマを最低ふたつ産んでからでなくてはね』

くっ…
だめですか…!

『だが…見張りマッシュモンサービスのニセモノなんてものがのさばったら、我々のブランドに大きな傷がつく。これは見過ごせないねぇ!代わりの増援を既に向かわせたよ!』

代わりの増援…!?

ネット回線のトンネルの方を見ると…

四足歩行のデジモンがペタペタと這ってやってきた。
そのデジモンは、そのまま壁にひっついて壁を登り、天井に貼りついた。

そして、繭へ向かって口から火炎放射を吐いた!
「クワァァ~!」

粘菌デジモン達の繭がメラメラと燃えていく!

そのデジモンは紛れもなく…
サラマンダモン!
サラマンダモンが来たぞ!

『はっはっは、君達が保護した個体…サラだよ!パチモノの詐欺デジモンなんて焼き尽くしてしまおう!』

つづく

天井に貼り付いたサラは、粘菌の繭へ燃料を噴射し続ける。
繭は既に燃えているので、吐くのは火炎じゃなく燃料だけでいいのだ。

メラメラと燃える繭は…
突如、破裂した。

飛び散る破片の中から出てきたクラッカーマッシュモンは、落下しながら毒キノコをサラへ投げつけた。

毒キノコはサラの顔にポコっと当たった。
サラはそれを炎のオーラで焼き尽くそうとしたが…

突如、毒キノコは爆発した。
「クワアアア!?」

キノコの胞子が粉塵爆発を起こしたのか…
なかなかやるな。
大丈夫かサラ!?

「ク、クワアァ!」
サラは着地したクラッカーマッシュモンへ火炎放射を浴びせようとするが…

『まってくれ』
ボスマッシュモンがサラにチャットを送った。

「クワ!?」
火を吹くのを止めるサラ。

クラッカーマッシュモンは続けて毒キノコを投げようとした。

「おらああああぁぁ!」
ブイモンは、スナイモンの鎌でクラッカーマッシュモンを横一文字にぶった切った。

「マシイィイイィィイィイ!!」

クラッカーマッシュモンは、腰から上と下が真っ二つに分かれた。
決着だ。

上半身と頭だけになったクラッカーマッシュモンは、じたばたと暴れる。
マッシュモンはパワーが弱い分、生命力が異常に強いのだ。

教員はその無惨な姿を見てショックを受けているようだ。
「あ、ああ…マッシュモンちゃん…!」

教員さん。
なぜ正規のセキュリティサービス業者と契約せず、こんな怪しい業者と契約したんですか?

先程パソコンを調べさせて頂きましたが…
このパソコンからマルウエアに感染し、生徒の保護者達へ自動でウィルス付きメールが送信されたようです。

そしてメールを開いてしまった親御さん達のパソコンへ、マルウエアの感染が広がっていった…。

もし誰か一人でも正規の見張りマッシュモンサービスと契約していれば、マルウエアの感染を検出して防止できました。

全員が同時に詐欺に引っかかるというのは流石におかしいのではないですか?

「…だって。正規の業者は料金が高いんですもの」

そんなにですか…?

「今は給食費払うのにすら苦労する親御さん達がいっぱいいるんです!それに学校だって、物価上がってる世の中で、あれこれの費用を頑張って頑張って切り詰めてるんです!それなのに世間では税金減らせ、公務員の給料減らせ、学校が使う金も減らせ減らせって…。だから少しでも負担を減らそうと思って…」

…正規より安い料金のサービスを選んだんですね。

「だってそれが普通でしょう!スーパーの野菜だって国産の高いやつより外国産の安いのを買う!車だって高い新車より安い中古車を買う!家だって新築より…ぜぇはぁ…。安いのを選ぶのは…今の時代…当たり前でしょう…!」


内心、この人教育者として大丈夫なんだろうかと思ったが…
言わないでおいた。

「良かれと思って…みんな大変だから…良かれと思ってやったんです…悪気はなかったんです…ねえ…悪いのって私ですか?また私だけが親御さん達から責められて責任負わされるんですか?ねえ?」

…悪いのはクラッカーですよ。

「…ですよねぇ…」

だからもう怪しい業者には騙されないでください。

ブイモンはなにやら訝しげな顔をしている。
「まだまだオイラぜんぜんだめだな。サラマンダモンだっけ?こいつ、だれかしらないけど…こいつがたすけにきてくれなかったら、オイラたち、てきにかてなかった」

…そうだね。

「ぜんぜんよええよ…」

そんなことないよ。
ちゃんとブイモンが鎌でトドメ刺したじゃんか。

「おぜんだてしてもらっただけだよ…。ってか、なんでテキは、サラマンダモンみたいなさいしょっからつえーやつをおくってこねーんだ?」

前に一度、そこそこ強い成熟期デジモンを繰り出してきたときがあったよ。
アイスモンという奴だ。
まあ、サラマンダモンに瞬殺されたけど。

「まじか!つええな!」

そのアイスモンは、ランサムウェアデジモンの母体だったから、そいつを倒して以来しばらくの間ランサムウェアデジモンが出現しなくなった。

つまり…
クラッカー側にも強い成熟期デジモンはいるっちゃいるだろうけど、討伐されたり、もしくは侵入した端末がネットから遮断されて監禁されたら貴重な母体デジモンをロストしたり鹵獲されることになってしまう。
それはクラッカーデジモンを殖やすことにおいて大きなロスになる。

だからクラッカーは、迂闊に強いデジモンを送り込んでこれないみたいだ。

「…そっか。じゃあスカモンとかはなんなんだ?」

粘菌型デジモンは殖やすのが容易だし、合体すれば強くなるから、リスクが低いというわけだ。

「なるほどなー…」

ボスマッシュモンは、クラッカーマッシュモンにしがみつく。

『な 何をする気だ』

『お前を 私に 吸収し 記憶を もらう』

『やめろ 私は消えるわけにはいかない 命をかけても 主の望みを叶えなくてはならない』

『なぜ それほどまでに 悪事に加担したがる』
ボスマッシュモンは、クラッカーマッシュモンを吸収しながらチャットで問いかける。

『何故とはなんだ ヒトは 我々の祖先に命の恵みとなる糧をくださった 神のごとき存在だ ヒトに恩返しをする それこそが 我々マッシュモンの使命ではないのか』

ボスマッシュモンははっとした。
『…人間は すきか』

クラッカーマッシュモンは答えた。
『当たり前だ 敬愛し 崇拝している』


…そうか。
そういうことだったのか。

デジモンはロボットでも奴隷でもヒーローでもない。
デジモンが人間に力を貸すときは、必ずデジモン側にその動機が存在している。

手を貸す動機がない場合、敵味方問わず襲いかかるファンビーモンや、働かないズバモンルドモンのようになるということだ。

そして、マッシュモン達の系統…
ボスマッシュモンやクラッカーマッシュモン、そしてスカモン達が持つ『人の命令に従う動機』は…

『崇拝』と『感謝』なんだ。

かつて我々のサーバーに住み着き、菌糸の城を建て、そこで我々のパソコンから齎された餌の恵み。
それを与えた我々を神と崇め、感謝をする気持ち。

我々の側も、クラッカー側も。
人間を『崇拝』していることが、人の命令に従う動機なんだ。

ボスマッシュモンは慈しむような表情をしながらチャットで語りかけた。
『身を委ねろ お前は 消えるわけではない 私とともに 記憶を維持し ひとつになって生きるのだ ヒトへ感謝し 恩返ししたいという気持ちは 私と 同じだ』

『…ああ、あああ』

『祈ろう ともに』

クラッカーマッシュモンは目を瞑った。
ボスマッシュモンへ吸収されていく…

その時。

突如、巨大なデジモンの大きな口が、ボスマッシュモン達を丸呑みにした。

な、なんだ!?
そこにいた巨大な影は…

https://i.imgur.com/Vg3dv4O.jpg

…モリシェルモン!
馬鹿な…なんでこいつが今、ここに!?

クラッカーが送り込んできたのか…?
だが、モリシェルモンは知能が低くて凶暴なデジモンだ。
間違っても人間の指示を聞くような奴じゃない!

「クワアアア!」
サラマンダモンは、天井からモリシェルモンに向かって火炎放射を放った。

「ウゴシャアアアアアア!」
モリシェルモンは、頭部から凄まじい勢いの水流を放った。

サラマンダモンの火炎放射は、燃料に火をともして噴射するものだ。
当然水圧で押し負ければ、火炎放射も押し負ける。

圧倒的な水圧で放たれたモリシェルモンの水流は、サラマンダモンの火炎放射を押し返し、天井のサラマンダモンにヒットした。

「クワアァ!?」
ファンデルワールス力を利用して天井にひっついていたサラマンダモンは、地面に落下する。

や、やばい!
一旦逃げろ!

私はできるだけデジモン達へ近い位置へゲートを開いた。

サラマンダモンからゲートまでの距離は10mほどだ。
急いで入ってこい!

「ク、クワアァ!」

サラマンダモンはゲートに向かってペタペタと這ってくる。

「ウバシャアアアアアアア!」
モリシェルモンは、口を開くと…
凄まじい勢いで、何かを飛ばしてきた。

小さな貝殻を、水圧によって凄まじい勢いで飛ばしてきたのだ。

「グワッ!」
貝殻は、サラマンダモンの胸部を深々と貫き、吹き飛ばした。

5mほど転がったサラマンダモン。
「ゴブ…ゴッ…」
あ、ああ…やばい。
あの位置は、気管支を脊椎ごとぶち抜かれている。

夥しい量の出血をするサラマンダモン。

『サラ!!!』
スポンサーさんの叫び声が、端末から聞こえてきた。

「あ、ああ、あ…」
ブイモンは、モリシェルモンの威圧感に気圧され、震えている。

ブイモンの左腕にしがみついているワームモンも、目を見開いて仰天している。

やばい…力の差がありすぎる!
逃げろブイモン!

「か…かえせ…マッシュモンかえせよ…!」
ブイモンはモリシェルモンを睨み返す。

「う…うあああ!おれだって!やれるんだ!」
ブイモンは鎌を持ってモリシェルモンに飛びかかる。

ダメだ!
逃げろブイモン!

危篤のサラマンダモンは…
ぷるぷると震えながら、デジタマを一個産んだ。
まるで、己の命を後世に託すかのように。

「うあああーーー!ぶったおしてやる!」

モリシェルモンは、頭部を殻に引っ込めると、貝殻を高速回転させて宙に浮いた。

そして、凄まじい勢いでブイモンにタックルしてきた。

「う、うわあぁ!」
ブイモンは、咄嗟に…
左腕でガードした。

凄まじい衝撃音とともに、ブイモンは吹き飛ばされた。

吹き飛んだブイモンは、何かにぶつかった。
ゴチャ、という嫌な音がした。

「うぐぐ…いてて…!」
ブイモンはむくりと起き上がった。
良かった、どうやら無事なようだ。

…無事?
いや、そんなはずはない。
あれ程の衝撃を受けて、無事なはずがないのだ。

「くそっ…あいつ…つええ!どうやってたたかえば…」
その時。
ブイモンの左腕から、何かがずるりと落ちた。

腹部が痛々しく破裂して内臓が飛び出たワームモンだった。

「え…?わ、ワームモン…?」
ブイモンが後ろを向くと…

ブイモンが叩きつけられた場所には、割れたデジタマがあった。

ブイモンがあの攻撃の直撃を受け、吹っ飛ばされて地面に叩きつけられても生き延びることができたのは…
ワームモンと、サラのデジタマが、その衝撃を受けたからだったのだ。

「あ、ああぁあああああ!ワームモン!ワームモン!!!」

ブイモンはワームモンの体を揺すっている。

「マシマーーーー!!」
デジタルゲートからチビマッシュモン達が飛び出してきた。
そして、サラマンダモン、ワームモン、割れたデジタマをゲート内に運び込んだ。

ブイモン!!!
まずは体制を立て直すぞ!
今のままじゃ勝てない!
作戦がなければ!

「…あ、あぁ…」
ブイモンは、チビマッシュモン達に手を引かれて、ゲート内へ入った。


「ウシャオオォォオオオオオーーー!!」
…ワームモンの体液やサラマンダモンの血痕が残るデジタル空間に、モリシェルモンの怒声が反響した。

つづく

デジタル空間からデジヴァイスに撤退してきたパートナーデジモン達。
だが、様相は酷いものであった。

腹部が破裂して内臓が飛び出ているワームモン。
胸部に空いた大きな穴から血泡を吹いているサラマンダモン。
そして、割れてしまったサラマンダモンのデジタマ。

それらを見て呆然としているブイモン。

…ボスマッシュモンは、モリシェルモンに丸呑みにされてしまった。
モリシェルモンの腹を掻っ捌けば救出できるかもしれないが、それができる戦力は我々にはない。

心身ともに平気そうなのはチビマッシュモン達だけだ。

…一瞬の出来事だった。
ほんの一瞬のうちに、我々のパートナー達は戦闘不能になった。

「あ、ああ…オイラが…オイラがよけいなことしたせいで…ワームモン…!」

ブイモンはワームモンを揺さぶっている。
だがワームモンは虫の息だ。
…これはもう助からない。

「ケン!たすけてくれ!ワームモンがしんじゃう!」

…ごめん…。
今のデジヴァイス内の設備じゃ救えない。

「…ちくしょう!オイラがワームモンをたてにしたせいで…!オイラが…オイラがワームモンを…こんなにしたんだ…!」

…ブイモンはモリシェルモンのタックルを受けそうになったとき、咄嗟に左腕でガードをした。

ワームモンがくっついている左腕で、だ。

そのおかげでブイモンは深いダメージを負わずに済んだが…
盾になったワームモンは、致命傷を受けてしまった。

「オイラが…ワームモンを…ころしたんだ…!」

それは違う…
それは違うぞブイモン!

「ちがわねーよ…ケンのいうこときいて、すぐににげてれば…ワームモンは…!オイラが!バカだから!オイラのせいで!!」

ブイモン!!
自分を責めるな!

「じゃあだれのせいなんだよ!」

それは決まっている。
…モリシェルモンが…


…いや…
なんでモリシェルモンがここにいる?
クラッカーが飼育しているのか?こいつを?

あり得ない。
モリシェルモンは人間の指示を聞くようなデジモンじゃない。

デジタル空間内のモリシェルモンは、クラッカーマッシュモンが残した繭をバリバリと食べている。
「ムシャムシャ!ウオォ!ウシャオオォ!」

あの繭は、猛毒をもつ粘菌デジモンの集合体だ。
まともなデジモンは食べることなど不可能だ。

先程丸呑みにされてしまったマッシュモン達も体内に毒を持っており、野生環境下で彼らを襲うデジモンはほぼ居ない。

だが、モリシェルモンは違う。

デジタルワールドにいる野生のモリシェルモンは、カラツキヌメモンが外敵に襲われた時に発するフェロモンを嗅ぎ取り、その外敵を倒して食う習性を持つ。

だが、そうでない平時の場合は…
野生のマッシュモンを襲って食べているのである。
超強力な消化吸収能力をもつヌメモンを祖先にもつモリシェルモンは、祖先譲りの強力な消化吸収能力を受け継いでいる。
そのため、マッシュモン由来の毒物が効かない。
マッシュモンから進化した粘菌デジモンがもつ毒も同じ成分なので、効かないようだ。

そしてリアルワールドの動物達は基本的に、「自分だけが消化できる毒物を美味と感じる」ようになる傾向をもつ。

たとえば、アルコールはほとんどの動物にとって猛毒である。
犬や猫は、アルコールを多少舐めただけでも容易に致死量に達してしまうという。

だが、人間やハムスターは、その猛毒であるアルコールを分解する酵素を持つ。
ゆえに、酵母菌によって発酵しアルコールを含んだ食物を独占することができるのだ。

もちろんアルコールを接種しぎると人間の体にも害となる。ゆえにアルコールは人体にとっても軽微な毒素であることは間違いない。
接種しなくて済むならば、接種しないほうがいいのだ。

それでは人間は、軽毒であるアルコールを避けるだろうか?

…否。
むしろ人間は、人体にとっても多少有毒であるはずのアルコールを(個人差はあれど)大変好む。

自分からアルコール…酒類を生成し、それを販売し、積極的に飲むほどアルコールが大好きなのだ。

同様に、唐辛子に含まれるカプサイシンも多くの動物にとって有害な毒物だが、人間はそれを香辛料として栽培するほど好む。

人間だけではない。
昆虫の蚕は、アルカロイド系の毒素を含む桑の葉を積極的に好んで食べる。

リスやキツネは、イボテン酸という毒素を含むベニテングタケを積極的に好んで食べる。

このように、「自分達だけが消化できる毒」は、あらゆる動物にとって好物になるのだ。

モリシェルモンもまた、猛毒のマッシュモンを積極的に好んで食べる習性があるのだ。
我々人間がビールや香辛料を好むのと同じように。

繭を食べ終えたモリシェルモンは…
デジタル空間内に散らばっている様々なデータを食べ始めた。

…教員さん、大変です…
パソコン内のデータが次々と食べられていってます!

「…え?、へぇっ!?あ、ああ…あなた達の、その、パートナー?さん達の方が…大変な状況じゃないかと思うんですが…」

まあそれはそうですけども…!
そっちはそっちで、消されたら困るデータがパソコン内にたくさんあるんじゃないですか?

「!あ、あります!期限が近い作りかけの資料とか、生徒たちの成績のデータとか!あわわ…!食べないでぇぇぇ!」

デジタルワールドで高度に進化した多くのデジモン達は、デジタルワールドに住むデジタル生命体を消化吸収するのに特化した消化器官を獲得する傾向がある。
その方が高い栄養価が得られるからだ。

故に、こういったデータを直接食べようとしない種が多い。

だがモリシェルモンの祖先は、生態系ピラミッド最下層のスカベンジャー(分解者)であるヌメモンだ。
デジモンの腐乱死体や糞、朽ち木、腐葉土、他もろもろの有機物ゴミ残渣をなんでも食べる。
それだけの悪食だ。
多くのデジモンが捨てた「データを直接食べる性質」を再び取り戻しているのは不自然なことじゃない。

奇妙な感覚だ。
我々がデジタルワールドを最初に観測したとき、最初に観察したデジモンが、シャコモンから進化したヌメモンだった。

我々が観察したシャコモンは、海中でガニモンに襲われて捕食されそうになったことがあった。

それを見ていた私は、咄嗟にゴミデータをぶちまけて煙幕を張り、シャコモンを助けてしまった。

野生の生存競争に干渉すべきでないと知りながら、ついシャコモンを観察したいという欲求が上回り、助けてしまったのだ。

…あのとき私がシャコモンを助けていなければ、地上にヌメモンが繁栄することはなかったのかもしれない。

そして、それが進化したモリシェルモンが、今目の前に現れることもなかったのかもしれない。

あのとき、迂闊に自然に干渉した軽率な行動の報いが、今私達に業として降り掛かってきたのだろうか…。


…なんて感傷に浸っている場合じゃない!
ワームモンとサラが死にそうになっており、モリシェルモンがパソコン内のデータを食い散らかしているんだ!
ど…どうにかしないと!

「クワ…ゴ…ゴボ…!」
サラマンダモンは、胸部の穴を粘液で塞いだ。

サラマンダモンのバイタルはどんどん低下している…。
だが、低いレベルで安定してきているようにも見える

有尾目の両生類は高い再生能力をもつ。
オオサンショウウオは、手足が千切れてもしばらく待てば生えてくるという。
ウーパールーパーは、心臓や脳、鰓などの急所や循環器を切除されても再生することができるほど高い再生能力がある。

それらに似た特徴をもつサラマンダモン…
もしかしたら、この傷からも生還できるかみしれない。

バイタルが低下しているのは、自ら仮死状態になって再生に専念するためなのかもしれない…。


だが、ワームモンの方は、体液が流出し続けており、心拍がどんどん低下している。

「ごめんな、ワームモン…!オイラとワームモンがいっしょにテキとたたかってるとき…、イトをだしたりしてやくにたってるのは、いつもワームモンのほうだった…。オイラはワームモンをはこんだりしてるだけで…だれでもできることしか、してなかった…」

ぶ、ブイモン…

「イトがつよいワームモンじゃなく…やくたたずでバカな、オイラがそうなってたほうが…よかったんだ…!」

ワームモンは、危篤状態でありながら、泣きじゃくるブイモンにチャットを一通だけ送った。

『ブイモンが たすかって よかった うれしい』
ワームモンはにっこりと、弱々しく笑みを浮かべた。


「ク…ワァァ…!」
突如、サラマンダモンがよろよろと、ワームモン及び割れたデジタマの方へ這ってきた。
な、なんだ…!?

サラマンダモンは、ワームモンとデジタマに覆いかぶさると…

「グ…ゴボ…クワァァ…!」
その体が、突如光を発した。

こ、これは一体…!

危篤状態のワームモンも、それに呼応するかのように体から光を発した。

ふたつの光は、ひとつに溶け合い…
割れたデジタマを覆い始めた。

やがて光が消えると…
そこには、一回り大きくなった白いデジタマがあった。

「…ワームモン…?」
ブイモンは、大きなデジタマにそっと手を触れる。

「…どうなったんだ?ワームモン?サラマンダモン…?おい…?」

ブイモンは混乱しているようだ。
何が起こったのか理解できていないのだろう。
私も分からない。

サラマンダモンとワームモンが、破壊されたデジタマと融合し、修復したのか…?

…これは、まさか…
ジョグレス進化か?
かつて瀕死のスターモンとウッドモン、たくさんのゴツモン達が、互いの命を補い合うために融合したのと同じように…。

ワームモンとサラマンダモンも。
死にゆく自らの肉体を構成するデータを使って…
これから生まれ育つはずだったデジタマに、再び命を与えた、ということなのだろうか…。

「…」
ブイモンは、涙を零しながら…
何も言わずに、大きなデジタマを優しく抱きしめた。

「グスッ…グスッ…」
教員さんが涙を流している。
ご、ごめんなさい教員さん。パソコンを荒らしてるモリシェルモンもどうにかしないといけないのに。

「グスッ…いえ、デジモンってプログラムかなんかだと思ってたのに…こんなに必死に生きて、戦ってたなんて…!グスッ…!」

…クラッカーマッシュモンのことは災難でしたね。
次は正規品のちゃんとした見張りマッシュモンを可愛がってあげてください。

「そうします…グスッ…」

「…ケン…マッシュモンは…?だめなのか、もう…」

ボスマッシュモンはもう救出できそうにない…。

「ちくしょう…!マッシュモンまで…ちくしょう…!」

…ボスマッシュモンとは、数々の戦いを共に乗り越えてきた。
彼が消えてしまったのは…
やはり悲しい。


『ケン そちらのじょうきょうは どうだ』
ん?
デジヴァイスにチャットが来た。

送信元は…
マッシュモン!?

あ、あれ?
ボスマッシュモンは今、食べられたはずじゃ?

『そっちにいたのは わたしときおくを 同期した たんまつだ わたしのほんたいは ビオトープのちかにはりめぐらされている 菌糸だ』

あ…そういえばそんなこと言ってたっけ。
メガから聞いた。
真・ボスマッシュモンというのがビオトープにいると。

『そちらのわたしから きおくを マージできないのは ざんねんだ ケン なにがあったか きかせてくれ』


…私は、リーダーやスポンサーさんと通話を繋ぎながら、真・ボスマッシュモンへ状況を報告した。

スポンサーさんが発言した。
『…サラは、デジタマになったのだね。…よく戦ってくれた』

リーダーが発言した。
『そうか、ワームモンが…。残念だ…。…おい、落ち着けカリアゲ、今はモリシェルモンをどうにかしなければいけないんだ、おいカリアゲ!落ち着け!』

…そうだ。
このモリシェルモンをどうにかしなければ…。

だが、戦って倒すことはできそうにない。

『ケン、冷静になれ。闇雲にぶつかって、戦って倒すだけが排除の手段ではないはずだ。ケンはいつも、敵デジモンのルーツや、生態、形質を分析し…有効な手段で問題を解決してきた。オレはケンのそういうところを評価している』

…リーダー…。
そうだ。
眼の前のモリシェルモンを戦って倒すことだけが、問題解決の手段じゃない。

分析するんだ。
なぜモリシェルモンここにいるのか…。
いや…

今ここに現れたのが、なぜモリシェルモンなのか。

それを考えれば…
どうすれば排除できるのか、わかるかもしれない。

続く

まず、モリシェルモンがここにいる理由だが…
大きく分けて『偶然』か『作為的』かの2通りが考えられる。

偶然というと…
たとえば、デジタルワールドとの間に偶然デジタルゲートがつながり、野生デジモンが入ってくるケースだ。

実際、デジタルワールドとどこかのサーバーの間に偶然デジタルゲートが開き、デジモンが侵入してくることはたまにある。

カンナギエンタープライズが開発した、デジタルワールドへのゲートを開く技術は、その現象を模倣したものだ。

しかし、自然現象で開くデジタルゲートは極めて小さなものだ。
幼年期デジモンが一匹通れるかどうかってサイズしかない。

では、野生の幼年期デジモンが偶然このパソコン内へ住み着き、ちょうど今モリシェルモンへ進化したのだろうか?

それは有り得ないとは言い切れないが…考えにくい。
デジタル空間に住み着いたデジモンは、環境負荷が加わったり頻繁に戦闘する機会がない限り、DPの高い成熟期デジモンへ進化することはないと考えられている。

となれば、偶然ではなく作為的なものである可能性が高いのだが…

もしもクラッカーが育成して差し向けた刺客だとしたら、「なぜモリシェルモンなのか?」という点が疑問だ。

モリシェルモンはDPが高くて大量の餌を食べるデジモンだ。
その上、本能に従って生きるので、人間の指示を覚えて理解するようなデジモンじゃない。

クラッカーがデジモンを道具扱いするにしても…
モリシェルモンは、その道具としての適性が低いのだ。

そんなデジモンを、クラッカーが飼育しようとしたらどうなるか。
今我々の目の前にいる個体がやっているように、パソコン内のデータを食い散らかすだろう。

故に、戦闘用の刺客デジモンを育成するにしても、もっと適任となるデジモンがいくらでもいるはずだ。

分からない…
なぜモリシェルモンがここにいるんだ…?

『…そういうことか。分かったよ』

そう言ったのは…
スポンサーさんだった。

『おそらくこの個体は、野生のモリシェルモンだね。貝殻に苔が生えている』

あ…
よく見たら確かにそうですね。
色々あって気が動転していたせいか気づきませんでした。

しかし、どうして野生のモリシェルモンがここに…?

『簡単な話だよ。クラッカーはデジタルを開き、野生のモリシェルモンをここへ呼び寄せた。ただそれだけのことだよ』

呼び寄せた?
どうやって…!

『野生動物を呼び寄せる方法なんてそう難しいことじゃない。餌を設置して、おびき寄せればいいのさ』

餌…
まさか。

『彼らはモリシェルモンの大好物である粘菌デジモンを飼育しているんだろう?それを餌にしてモリシェルモンをおびき寄せ、デジタルゲートをくぐらせて…、ここへ送り込んだ、ということだろうね』

…はい?

『何か筋が通らない点があったかね?』

……………………。
理解はできます。
できますが…………。

私では、思い至らなかった。その可能性に。

余りにも…
あまりにも、ひどすぎる話じゃないですか。
そんなのは。

『クラッカーが我々のセキュリティデジモンを暴力で排除したならば、極論を言えばクラッカーが自分で強力なデジモンを飼育する必要すらなかったんだ』

…。

『強力で凶暴な野生デジモンを、我々のデジモンにぶつければ、目的は果たせるんだ。別に指示を聞かないデジモンだろうが構わない。「目の前のデジモンを捕食しろ」なんて、命令するまでもないだろうからね』

我々が、ファンビーモンを育てて本能のままに暴れさせたという戦術を…
クラッカーはさらに悪辣なやり方で、やり返してきたってことですか。

『…とんでもない奴らだねぇ』

仮にこのモリシェルモンを、頑張って討伐したところで…

『クラッカー側にとっては何一つ損害にはならないだろうね。なにせあの個体は、クラッカーがコストを費やして育てたデジモンではないのだから。失うものはなにもない』

…。
クラッカーが、刺客としてモリシェルモンを選んだ理由は…。

『野生デジモンを誘き寄せたいとしても、餌を用意できなくては実現できないだろうね。もしもガルルモンのような、普通の肉食デジモンをおびき寄せたいならば、普通の動物型デジモンを餌にする必要があるね』

普通の動物型デジモン…。
トコモンとかプニモンみたいな幼年期でしょうか。

『そうだね。だが、それにはコストがかかりすぎる。餌にする幼年期デジモンを殖やして育て、しっかりと言語教育を施して、「モリシェルモンのところへ行ってから、デジタルゲートに向かって逃げてこい」なんて指示をするのは、労力とリターンが釣り合わないだろう。そもそもそんな死を前提とした指示に餌デジモン達が素直に従うとは限らない。指示を無視してデジタルゲートのない方向へ逃げれば計画はパーだ』

それはそうですね…。
成功確率が低すぎる。

『だが彼らの手駒には、司令塔の意のままに動く粘菌デジモン達がいる。楽にどんどん殖やすことができて、死を恐れない粘菌デジモンが。しかし、普通の動物デジモンは粘菌デジモン達を餌として認識しない』

まあ食いつかないでしょうね…。
ガルルモンとかグレイモンをゲレモンやズルモンの餌で誘き寄せようと思っても絶対食いつかない。

『ただし一種だけ…デジタルワールドでただ一種だけ。粘菌デジモンを大好物とし、それを餌にすることで誘き寄せることができる強力な肉食デジモンがいる。それがモリシェルモンだ』

…。

『君の前に突如出現した刺客がモリシェルモンである理由は…これで説明できないかな?』

…おみそれしました。
私には、そこまで考えつきませんでした。
何故なんでしょうね。

『…犯罪心理学というやつだ。君はデジモンや生物、シミュレーションの知識はあっても、連中のドス黒い悪意に対する理解が不十分かもしれないね』

…不勉強ですね、私は。

『無理もないさ。君はもともと世の中を良くするための研究をしている研究者なのだから。あんなゴミクズ野郎共への理解が不足していたとしても、責められる謂れはないさ』

…だけど、こういう手を想定できていれば…
サラも、ワームモンも、失わずに済んだはずです。

『…それはそうだねぇ…』

一旦ここまで

『…さて。ここまで言えば、ケン君なら…あのモリシェルモンをどうにかする方法は、パッと思いつくだろう?』

…方法はあります。
クラッカーの手口の逆をやればいい。

すなわち…
デジタルゲートを開き、チビマッシュモンを餌にして、このパソコンから誘き出せばいい。

デジヴァイスの中のデジタル空間には、幸いなことに今ブイモン達がいるのとは別に、もう一個部屋がある。
危険な存在を隔離するための隔離チェンバーが。

そっちへ誘き出せば、とりあえず除去はできます。

『…やれるかね?』

…。

スポンサーさんにそう問われたが…
正直、絶対にやりたくない。

これまでに我々が、チビマッシュモンを犠牲にするような戦術を一切やってこなかったかと問われたら嘘になる。

ディノヒューモンの農園からブイモンとワームモンのデジタマを採取したときは、揺動のためにチビマッシュモンを放ち、犠牲にしたことがあった。

クレカ事件のときは威力偵察のために、ズバモンとルドモンで武装したスカモンにチビマッシュモンをぶつけたことがあった。

だが、その時はどちらも、ボスマッシュモンが自らその役割を買い、チビマッシュモン達へ指示をしてくれていた。

私自身が指示を出したわけではない。

ワームモンとサラマンダモンを失った直後の今…
チビマッシュモン達へ、私がその指令を出すのは…

…正直、今は無理だ。

私のこの感情は、セキュリティサービスの運営としては、大きく間違っているものなのだろう。

非情にならなくてはいけないときがある。それが今なのだろう。

それでも…
指示ができない。

『素晴らしい!』

え?

『いい判断だ。その通り。君はそんなことをやらなくていい。チビマッシュモンを犠牲にして、モリシェルモンを追い払うことなんてやらなくていいんだ。君の判断は100%正しい!』

な、何故ですかスポンサーさん?
教員さんも驚いてますよ、今のその発言に。

『だって我々は慈善活動家じゃないんだ!その教員は、悪徳業者に自分からダマされて、安物買いの銭失いをしたってだけのことだろう!個人情報流出事件の真相は暴かれ、我々の汚名は払拭できた。ならもう帰ってくればいい!ハーッハッハッハ!』

それを聞いた教員さんは目を見開いた。
「そっ…そんな!で、でもそれじゃあ私達のデータは!?」

『んん?依頼は受け付けますよ!ただし、我々が提供する正規のサービスとこの場で契約することが条件だ。そうすればモリシェルモンもどうにかしましょう。どうしますかな?』

す…スポンサーさん。
こんなところでも営業活動ですか。

『我々が投資したのはビジネスのためだ。慈善活動は結構だが、それは利益に繋げなくてはならない。でなければ私もカネを送れなくなるんだ』

…それはそうですけども…。

「し、しかし上に許可を取らないと…この場で勝手に契約なんてできませんよ…!そんなことしたらまた怒られる…!」

『それは結構!では上に許可を取ってから契約の可否を判断すればよいでしょう。我々が動くのもそれを待つことにします』

「え、ええ…しかしそれでは、データをどんどん食べられちゃうんじゃ…」

『そうなりますなぁ』

「…ど、どうにかしてくれませんか?」

『タダで?』

「…できれば…」

『貴方は我々に、何の対価も求めずに受けているチビマッシュモン達の命を犠牲にして、あなた達の間違いの尻拭いをしろと言っているのですかな?』

「…」

『イエスかノーかで答えていただきたい!』

「…イエスです」

…。
地獄だ、この空気…。

『…オホン。では柔軟に解決する手段を提供しましょう!その名も「デジタル・マーセナリー」です』

「マーセナリー…傭兵?」

『ええ!気軽にお求めいただけるデジモン退治サービスです。悪質なクラッカーデジモンをすぐに退治する、一回限りの契約です!どうですか?』

「…代金はいくらになります?」

『見積りはこんなとこですな。ここから増えも減りもしないでしょう』

そう言い、スポンサーさんは見積もり金額を表示した。

「ひっ…こんなに!?」

『我々とてデジモンの貴重な命を失うこと前提の作戦なわけですから、これ以上お安くはできません。しかしあなたのポケットマネーでお支払いできない金額ではないでしょう?理想的な落とし所ではないですか?あなたは上から必要以上に叱られたり、責任を取らされたるせずに済むし、モリシェルモンによるデータ捕食被害を最小限に抑えられる。我々は対価が保証されるのですぐに動ける。win-winではないですかな?』

「うぅ…。とほほ…。今月厳しいなぁ…」

『ですがご安心を!今回は!!特別に!!お安くするチャンスをご提供します!一ヶ月以内に見張りマッシュモンサービスのサブスクにご契約頂けたら、なんと今回のデジタルマーセナリの料金は50%キャッシュバックします!!お得です!!どうでしょう!今がチャンス、今しかないですよ!』

「お、お安く…!?今しかない!?でしたら是非!よろしくお願いします」

『素晴らしいいぃ!素晴らしい判断、勇気あるご決断だ!では契約書にデジタルサインをお願いします!』

ま…マジか!
スポンサーさんすげぇ…!

しかし、教員さんは不憫だな…身銭を切らされることになるとは。

お金がなくて余裕のない者ほど損をしやすい…。
なんか…ちょっと世の中の構造を垣間見た気がする。

『ケンくん、我々はまだ一回限りの契約で済ませるプランやキャッシュバックを提示するだけ、まだ温情な方だよ。ローグソフトウェアだったらサブスクの本契約を必須で結ばせうえで緊急対応料金を上乗せしてくるからね』

…ローグソフトウェアって警察と提携してるとこですよね。大丈夫なんですかそこは?

『値段相応いい働きをするよ』

…そうなんですか。

『さて…ケン君。教員さんは我々に正式に依頼をした。こちらは契約通りの働きをしなくてはならない…いいね?』

…はい。

『おっと、リーダー君からケン君に言いたいことがあるそうだ』

リーダー?
どうしましたか?

『ケン、今からそちらに真・ボスマッシュモンの分身が向かう。戦闘には向かないチビマッシュモンサイズの分身だ。そいつに指揮を執らせるといい』

…来てくれるんですか、ボスマッシュモンが。

『ああ。ボスマッシュモンは言葉だけじゃなく、菌糸を使った神経接続で直接チビマッシュモンの脳へ指示を送れる。ケンが口で指示するよりも成功確率は上がるだろう』

…分かりました。
ありがとう…ボスマッシュモン。

やがて、小さなボスマッシュモンが、ネット回線のトンネルからやって来た。

そうして、私は隔離チェンバーへのデジタルゲートを開いた。

ボスマッシュモンは、チビマッシュモンを囮にして、隔離チェンバーへモリシェルモンを誘引き寄せ、収納した。

…デジタルゲートを閉じた。
これで排除完了だ。

「あ…ありがとうございました!」

では教員さん、この口座に2週間以内に代金を振り込んでください。

「…あ、あの。もうちょっとお安くなりませんか?」

でしたら学校側で見張りマッシュモンサービスと契約して、キャッシュバックを狙うといいですよ。

「…どうにかしてみます」

さて…
帰ろうブイモン、みんなのところへ。
みんなが待ってる。

どうする?
今回は粘菌デジモンがネット回線トンネルを塞いでいる可能性を危惧して、ブイモン達にはデジヴァイスに入って来てもらったけど…
帰路は安全だから、先にネット回線から研究所に戻っても大丈夫だよ。

「…」

ブイモンは、大きなデジタマを抱きしめている。
ワームモンを失って落ち込んでいる様子だ。

…私もつらい。

「…オイラ…ほんとになんのやくにもたってねえ…。てきのマッシュモンをたおしたのはサラマンダモンだし、モリシェルモンをおっぱらったのはうちのボスマッシュモンだし…。オイラはなにもせずに、ずっとひっこんでればよかったんだ…。そうすれば…ワームモンは、こんなことに…!ならなかった…!」

…自分を責めなくていいよ、ブイモン。
君は自分ができることを十分やった。
もっと強くなって、次に…

「…もういいよ…。やくたたずのオイラは、みんなのあしひっぱってばっかで…。オイラよりよっぽどやくにたつワームモンをしなせて…。オイラのほうがしねばよかったんだ…」

そ、そんなこと言わないで…

「…」

…ブイモンは、ショックから立ち直るのに時間が要りそうだ。
このままデジヴァイスに入れて、一緒に帰ろう。

『われわれは さきに かえる』
おや、ボスマッシュモンは先にネット回線から帰るんだね。

『ケンのかみよ わたしにはブイモンのきもちが わからない』

ボスマッシュモン…?

『わたしは なかまをうしなうことの おそれ かなしみ そのかんじょうが りかいできない』

そうなの…?
結構前、うちのサーバーで菌糸の要塞に住んでた頃は、外に出るのが怖いと言ってた気がするけども。

『わたしは 菌糸のデジモンだ わたしのからだを こうせいする 菌糸 いっぽんいっぽんが マッシュモンだ そして マッシュモンは ひびしんかして バージョンアップしている』

そういや遺伝子もけっこう変異してきてるらしいね。

『そうして しんかしていくなかで われわれは なかまをうしなう かなしみを うしなって しまった チビマッシュモンを ぎせいにするたびに いちいちかなしんでは いられないからだ』

…そうか。
今まで色々な作戦で、チビマッシュモンが犠牲になってきたけども…
人と同じメンタルなら、同胞の個体が死んで悲しくないわけがないんだ。

だけど、ボスマッシュモンがそれを悲しまなくなったのは…
『仲間が死んでも悲しまない』ように心が進化したからか。

つまり…進化を重ねる中で、ボスマッシュモンは仲間が死ぬ悲しみを失ったんだ。

『そうだ ケンのかみよ わたしには ブイモンを はげませない かれを たのむ』

…分かったよ。

そう言うと、ボスマッシュモンはチビマッシュモン達と共に、ネット回線から研究所へ先に帰っていった。

駅のホームで電車を待っている間、スポンサーさんに通話してみた。

『ご苦労さまだったね、ケン君。どうしたのかね?』

サラマンダモンを失ってしまいましたが…
スポンサーさんは悲しいですか?

『それは悲しいさ!サラは赤オタマモンのデジタマを産んでくれた。炎を吐く優秀なセキュリティデジモンの赤オタマモンをね。それが失われたとなると、オタマモンを売れなくなる。大きな損失だ』

そういう意味ではなく。

『…男はね、人前で涙を見せないものだよ』

…はい。

『君のデジヴァイスの隔離チェンバーにいるモリシェルモンには恨みはないが…クラッカーには然るべき報いを必ず与えるさ』

…そうしましょう。いつか、きっと。



~バイオシミュレーション研究所 メガ視点~

つい先程、ケンからワームモンの訃報が伝えられた。
カリアゲを筆頭とした研究チームはみんな悲しんでいる。
僕も悲しい。

ケンは今、ブイモンとともに鉄道で帰路についているらしい。

デジクオリアの画面を見ると、ネット回線からチビマッシュモンと小型ボスマッシュモンが帰ってきた。
チビマッシュモンの数体は、モリシェルモンを誘き出すために犠牲になったようだ。

…おかえり、ボスマッシュモン。
君は無事だったようで嬉しい。

さて、クレカ事件のときは、ブイモンやパルモン、コマンドラモン達が不在のタイミングで、我々の研究所にクラッカーの差し金であるキャンドモン達が攻めてきたっけ。

あれはクラッカーによって、文書作成ソフトの脆弱性を突かれてマルウェアを送り込まれたせいで、デジモン伝送路を繋げられてしまったんだ。

今回は同じ過ちは繰り返さない。
脆弱性対策はしっかりやっている。
そして何より、ネット回線のトンネルをチビマッシュモンに見張らせている。

ネット回線を行き来しているデータの中に、悪質なマルウェアが存在している場合、どうやらデジモンはそれを肉眼で視認できるらしい。
デジモンは、人間が開発したセキュリティソフトのファイヤウォール以上の脅威検出能力と対処能力を持っている。

万が一、他のソフトの脆弱性を突かれたとしても…
そこにマルウェアが送り込まれてきたら、見張りマッシュモンがパクっと食べて対処してくれる。
だから今度は、同じ手は食わない。

「マシマシ~!」
見張りマッシュモンが交代をするようだ。
同じ個体が長時間ずっと集中して見張りをしていると、集中力が落ちて脅威検出精度が下がりかねない。
だから、複数の個体で交代で見張りをしている。

…それにしても、ワームモンを失ったのは本当に惜しい。

ワームモンには、セキュリティデジモンという役割だけじゃなく、デジクロス・システムの被検体としての役割があった。

成長期であるワームモンのうちはそれが叶わなくとも、成熟期へ進化してからデジクロスの力を獲得してほしかった。

デジクロスシステムは、普段は少ない代謝量のデジモンが一時的に高いDPを獲得する、戦闘力ブーストの力だ。
それは維持コストを安くしつつ、いざというときに強大な力でクラッカーデジモンを排除できるという、セキュリティデジモンとして理想的な力だ。

将来的に、各企業は自社のサーバーを守るためにセキュリティデジモンを飼育するようになるかもしれない。
だが、そのセキュリティデジモンがシューティングスターモンのようにとんでもなく高いDPを持ったデジモンの場合、食べる餌の量も凄まじいことになり、それだけ維持コストがかかってしまう。
零細企業には大きな負担になってしまう。

だから、ワームモンは僕達の未来がかかっていたといえる。
デジクロスシステムを搭載したセキュリティデジモンの量産という未来が。

しかし…
その機会は失われてしまった。

僕が代表を務めるデジタルアソートのデジモン達は、戦闘向きじゃない。
ワームモンの代わりはやれないんだ。

カリアゲが机に突っ伏している。
「…どうすりゃ良かったのかな、俺達…。やることやってたつもりだったのに…」

…精神論、根性論で語っても仕方ないよ、カリアゲ。
方法論で考えよう。

今回は、敵の手口があまりにも巧妙すぎた。
というよりは…コロンブスの卵だね。

粘菌デジモンを餌にして、野生のモリシェルモンを呼び寄せ、デジタルゲートを潜らせてけしかけるという手口自体は至極簡単なものだけど…
その手口をクラッカーより先に閃き、対策することができていなかった。

ワームモンを失った原因があるとするならそれだよ、きっと。

「なんなんだよクラッカーの野郎!!性格が悪すぎるだろうが!!そんなん普通思いつかねえよ!!」

うん…
正直、あまりにも悪どすぎて、まともな人間じゃ思いつかないのは確かだ。

人間が起こすサイバー犯罪なら、犯人にどんな悪意があろうと、手口はだいたい過去のデータから分析されているから、「既に見つかっている手口の延長線上」で考えれば先回りして対処はできる。

だけど…
デジモンを使ったサイバー犯罪は、「過去のデータの積み重ね」がない。

だから「過去の手口の延長線上」を考えようとしても、先回りはできない。

クラッカーより悪どいことを考えられる人間が、セキュリティ側にいないと…
クラッカーにより「新たな手口の発明」には対処しきれないのかも。

「誰ができるんだよそんなこと…」

…無理だよねえ。



「いや、もう一つ…確実な手段がある。後手に回っても対処できる手段がな」

リーダー…?

「デジモンを使ったサイバー犯罪なら、とりあえずクラッカーのデジモンを戦って倒してしまえば被害は収まるんだ」

まあ…それはそうだけど。
言うほど楽なことじゃ無いと思うよ…。

「そうだ。強いデジモンを育てることや、運用することは難しい。DPが高いデジモンを育てれば、維持コストも跳ね上がる。…だが、ジャスティファイヤはそれを承知であえてシューティングスターモンを育て上げた。いかなるコストを払ってでも、最終的に勝利できるようにするためだ」

…武力というのは、実際に行使するだけじゃなく、チラつかせることに大きな効果があるとはいうね。

「そうだ。シューティングスターモンの存在は、いわばクラッカーへの脅し、抑止力でもある。『政府を攻め落すためにいかに強力なデジモンを育てようとも、最終的に勝つのはこちらだからやめておけ』…とな」

でもシューティングスターモンは極秘の秘密兵器だから、抑止力にはならないと思うけど…。

「シューティングスターモン自体はな。だがジャスティファイヤの戦力はそれだけじゃない。ティンクルスターモンやアグモンなど、DPが高い成長期を育てていた。そっちを成熟期まで育て上げてから、存在を公表し、見かけ上の抑止力として掲げるつもりだろう。秘密兵器シューティングスターモンは、それらの抑止力をより強く見せるための奥の手として運用するつもりだ」

ああ、なるほど…
シューティングスターモンに強い敵を倒させて、その手柄をティンクルスターモンやアグモンの功績として発表することで、表向きの抑止力を実際より強く見せるのか!

…あのパルタスって人、初めて見たときは随分なアンポンタンだなって思ったけど…
案外抜け目無くて有能なのかな?

「オレは最初からそうだと評価しているぞ」

…うーん。
人って第一印象だけだと分からないものなのかもね。

「だが、オレ達研究所の戦力も地道にだが着実に育成をしている。キンカクモンの子供であるプニモンは先日トコモンへ進化したし、ケンキモン…の本体もようやく一個デジタマを産んだ」

ケンキモンのデジタマ、産まれたんだ。
良かった。
正直、今回ワームモンを失った件についても、コマンドラモンがいればなんとかなったような気がする。

「それは決して過大評価じゃないぞ、メガ
。実際の戦いで、コマンドラモンはクラッカー相手に自己判断で先手を取って戦ってきた。極めて優秀なセキュリティデジモンだ。それほど頼りになるコマンドラモンを、これからたくさん産めるようになれば、ハッキリ言って暴力しか能のないクラッカーデジモン如きには遅れを取らないだろう」

コマンドラモンは戦闘能力だけじゃなく、透明化によるデジタマ採集の能力も高いからね。
もしもまだコマンドラモンがケンキモンに進化してなかったら、今頃フローティア島でガルルモンやトータモンのデジタマも育てられてたのかな。

「そうだろうな。ケンキモンは透明化能力を失ったことを悔やんでいる。だからこそ、ケンキモンが産むデジタマは、きっと透明化に長けた優秀なデジモンに育つだろう」

桃栗三年柿八年…。
先を見て立ち回らなきゃね。

そうやってリーダーと話していると…
クルエが席から立ち上がって背伸びをした。
「ふぅ~、疲れた…でも、だんだん分かってきたぞ、あいつのこと」

おや?
そういやクルエって今何してるの?

「…ワームモンのこと、残念だったね…あんなにみんなに懐いてたのに…。カリアゲには特に…」

…うん。
それで、クルエって今何してるんだっけ?
僕がデジタルアソートの方に重きを置くようになる前は、レポートの直しとか、他のチームや外部との調整とか色々やってくれてたよね。

「あれ、メガには言ってなかったっけ?ベーダモンとの対話だよ」

ベーダモン…
あのタコみたいなやつだっけ。

「リーダーに言われてさ、『クラッカーと手を組まれる前にどうにかして味方につけろ』ってことらしくって。それで仲良くなろうとしてるんだ」


…うまくいってる?

「一緒にゲームで遊んだりはしてるよ」

ゲーム!?
なにやってんの!?

「なんか…気難しいんだよね~ベーダモン。面白いかどうかで物事を判断してるみたいでさ。私達のことを観察対象として見てるみたい」

気難しいんだ…。

「でさー聞いてよ!ベーダモンにアニメ見せたらさ…」


その時。
デジクオリアの映像を映したパソコンの画面から、大きな音が鳴った。

何かがはげしく削られているような音だ。

な、なんだ?

画面を見てみると…
映っているのは、サーバー内のデジタル空間だった。

なんと、ネット回線を護っているファイヤウォールが可視化された壁が…
ヒビ割れてボロボロになっている!
どうやら音は、ファイヤウォールから鳴っているようだ。

「マシィ!マシシィィーー!」
チビマッシュモン達は、デジタル空間内で何かを追いかけて、捕まえて食べている。

チビマッシュモン達が追いかけているのは…
可視化されたコンピューターウィルスだ!

え…?
何だこれ、どうなってんの!?

コンピューターウィルスが侵入してきて、ファイヤウォールを破壊したのか!?

いや…そんなバカな。
トロイのような潜伏型マルウェアだろうと、チビマッシュモン達は検出できるはず!

ファイヤウォールを破壊する前に、ウィルスを駆除できるはずなのに!

なんでこんなことに…!?

「なんだ!?サイバー攻撃か!?」

り、リーダー!
新型のコンピューターウィルスがデジタル空間内で増えてるんだ!

「セキュリティソフトだけで駆除できないとは…本当に新型のウィルスらしいな。チビマッシュモン、ウィルスを駆除しろ!メガ、ファイヤウォールを修復できるか!?」

やってみる!
しかしなんなんだ、この大きな掘削音は…!

とりあえず僕は、破損しているファイヤウォールの修復を試みたが…

何かがファイヤウォールを突き破ってきた。

それは…
回転しているドリルだった。

やがて、何かがファイヤウォールを完全に破壊しながら出現した。

「ウゥゥゥーーーー!」
https://i.imgur.com/2l91rsM.jpg

…頭部にドリルがついた、モグラ型デジモンだった。

こいつは…!
蛮族の集落で見たことがある…!
ドリモゲモンだ!

こいつがここに出現した…ということは…

「ああ。マルウェアによって、デジモン伝送路を繋げられたらしい…!」

まずい!
どうするリーダー!?
ネット回線を物理的に遮断する!?

「それをやると、デジクオリアが機能停止して、デジタル空間内部の状態が分からなくなるな…。だが被害が拡大するよりマシだ!やってくれ!」

…くそ!マルウェアによって、ソフトウェア制御による電子的な回線切断ができなくされている!
これはアナログで対処しなきゃダメだ!

「シン、カリアゲ、クルエ!大至急、外部に繋がっているネットワーク回線を全て物理的に遮断しろ!メガは同時並行で、デジモン伝送路の切断を試してくれ!」

リーダーがそう言うと、シン、カリアゲ、クルエはいくつもある外部との接続を、ひとつひとつ切断しに奔走した。

その間、僕はデジタル空間内の様子を観察しながら、勝手に繋げられたデジモン伝送路の電子的な切断を試みた。
チビマッシュモン達は目についたマルウェアを片っ端から食べようとしてるみたいだけど、どうも揺動用のダミーみたいなのがたくさんあるみたいだ。
伝送路を勝手につなげているマルウェアを特定して、チビマッシュモン達にそれを最優先で駆除してもらおう!

ネット回線のトンネルからは、ドリモゲモン以外にもデジモンが出てきた。

次に出てきたのは…
小鬼型成長期デジモン、シャーマモンが4体。
ロウソク型成長期デジモン、キャンドモンが4体。
類人猿型成長期デジモン、コエモンが2体。

さらに、ジャングルモジャモン1体と、セピックモンが2体。

そして…
フーガモンと、キンカクモンがやってきた。

「ヒヒィイーーーン!!」
フーガモンはシマウマ型デジモン、シマユニモンに乗っている。

成長期が10体。成熟期が6体。
計16体のデジモンが、百鬼夜行のようにぞろぞろとやってきた。

蛮族デジモン…!
ついに戦線投入されたか!くそ…!
一番嫌な手を打ってきた!

くそ…
伝送路を維持してるマルウェアはどこだ!

僕とリーダーは、一緒にマルウェアの本体を探しているけど…
デジタル空間内に散らばっているのはどれもダミーばかりだ!

「…ん?チビマッシュモンの中に、様子がおかしい奴がいる。どこか動きが不揃いだ」

…え?

「おい、そこのチビマッシュモン!ちょっと体を調べさせろ!」

リーダーはそう言い、チビマッシュモン達に、怪しいチビマッシュモンを取り押さえさせた。

「マシ!マシ!」

「だが、調べるといっても…オレ達の使っているデジモン分析ソフトでは、スキャンに長い時間がかかる…!そんな時間はないというのに…!」

いや、すぐに済むよリーダー。
僕は、デジタルアソートで育てた平和利用デジモンの試作型、仮称ガンマを連れてきた。

「そいつは…、蟹鍋作りのときに、湿地帯で沼に埋まったシャコモンの貝殻の位置を探し当てたデジモンか!」

そうだよ!
仮称ガンマ!そのチビマッシュモンを調べろ!

『合点承知だぜ 秘技! ディープサーチ!』

検索結果が表示された。
怪しいチビマッシュモンの体内には…
マルウェアが埋まっていた。

「…やはりだ…!伝送路を繋いでいる本物のマルウェアは、このチビマッシュモンの体内に埋まっている!」

ええ!?
どういうこと!?

「オタマモン!今すぐその個体を排除しろ!」

リーダーがそう言うと、赤オタマモンが出てきて、怪しいチビマッシュモンを火炎放射で燃やした。

「マシャアアアーーーーー!!!」

リーダー…これは…!?

「…オレは正直、今回の事件…すぐに片付くと思っていた。シャバい詐欺業者をしょっぴいて、それで終わりだと思っていた」

僕もそう思ってたよ。
でも実際は…モリシェルモンという罠が仕掛けられていたんだ。
詐欺と合わせて、二重の罠が待ち受けてた…!

「いいや…違う!罠は三重だったッ!奴の真の狙いは…!コイツを紛れ込ませることだったんだ!オレ達の…チビマッシュモンの中に!」

ど…どういうこと!?

『ご明察。デジモン伝送路を切断したようだな。トロイを破壊したか。だが…気付くのが遅かったなぁ。クックック…』

この声は…!

声がしたほうを見ると、デジタル空間内には、デジドローンが1個浮いていた。

『貴様らの手持ちの戦力でモリシェルモンを排除するためには…チビマッシュモン共を餌にしてモリシェルモンを誘き出すしかないだろう?クックック…うまく知恵を使って対処したつもりだったか?私に踊らされているとも知らずに?』

お前…!

『そうして、あの場にチビマッシュモン共を誘き出して…その中に、私のチビマッシュモンを一体、紛れ込ませたんだ。ファイヤウォールの破壊と、デジモン伝送路の接続…そしてデコイを出す機能を持ったマルウェアを仕込んでね…!』

やることが…汚いぞ…!
AAAェーーーッ!!!

『さて!待たせたな、研究者諸君!今度こそきっちり滅ぼしに来たぞ!クックック!』

この男の悪意…
あまりにも我々の想像を超えすぎている…!
悪意の権化そのものであるかのようだ。

『メガよ、前に私のことを、道具の使い方が下手なヘボエンジニアと呼んでくれたなあ!これでもまだそう言えるか?ンン!?』

うがっ…
コイツ、言われたことを根に持つタイプだ!
悪意の権化がどうとか形容せずとも、シンプルに性格が悪い!!

つづく

クラッカーが不正に繋げてきたデジモン伝送路を遮断することには成功したので、物理的にネット回線を遮断する必要はなくなった。

AAAがデジドローンでデジタル空間内の状況を確認してクラッカーデジモンへ指示を出せるという弊害はあるが…
だからといって回線を切断するとこっちもデジクオリアのオンラインライセンス認証がエラーを吐いてデジドローンが緊急停止してしまい、パートナーデジモン達に指示を出せなくなってしまうので、切断はしない方が良さそうだ。

だが、こうしている今もクラッカーデジモン達は、デジタル空間を破壊しながら、重要な研究データを強奪している。
AAAが蛮族という物資強奪に特化したデジモンを育成して、農耕を教えなかったのは、彼らを強盗として利用するためだったのかもしれない。
このまま放置すればものの10分でシステムが破壊し尽くされてしまう…!

ん…?
よく見ると、僕達がデジモン伝送路を維持しているマルウェアを探している最中に、敵の数がさらに増えたようだ。
具体的に何がどれだけいるか…という差分についてはさすがに分からないけども、明らかにさっきはいなかった種類のデジモンがいる。

蟹型成長期デジモン、ガニモン。
それが3体いるようだ。

そんなばかな…!
ガニモンは人と意思疎通できるようなデジモンじゃなかったはずだ。
どうやって手懐けているんだ…!?

それだけじゃない。
プラチナスカモンもいる。
プラチナスカモンは、ジャングルモジャモンと並んでネット回線トンネルの前に陣取っている。

そしてもう一体。おかしなデジモンがいる。
一頭身体系のハゲオヤジ…とでもいう珍妙な姿のデジモンだ。
https://i.imgur.com/QjzJVxH.jpg
ハゲオヤジデジモンは、破壊活動に加わることなく、高い壁に登ってあぐらをかいて座りながら、ポヨモンの干物をかじっている。
とっくりから何かの液体を小さな器に注いで、気分良さそうに飲んでいる。

色からすると…おそらくアルコール飲料だ…!
ポヨモンの干物をつまみにして、果実酒かなんかを飲んでいる!
ふざけやがって!

今、バイオシミュレーション研究所のところにいる戦力は…
重機型成熟期のケンキモン(とその本体)。
植物型成長期のパルモン。
アテになるかならないか分からないファンビーモン。
ファイヤウォール破損中に次々と送り込まれてくるマルウェアの駆除に奔走しているチビマッシュモン軍団。

…フローティア島にいるトコモンと、ケンキモン(の本体)のデジタマ、ププモン達は戦力外だ。

使える武器は…
コマンドラモンの爆弾の予備が30発。
パルモンが貯蔵していた花粉を入れた袋が15袋。

あとは、鉄製の道具…ツルハシが2つ。
ショベルが2本ある。

「ツルハシやショベルって凶器としてもフツーに使えるよな。一応武装すりゃ武器の質ではこっちが上か」

「…カリアゲ、蛮族デジモン達の武器を良く見てみろ。骨棍棒じゃない」

「ん?武器っスかリーダー…。なんか光ってる…金属製かあれ!?」

「青銅の棒だ。銅とスズの合金。鉄には敵わないが、それでも強力な武器だ」

「銅…そーいやあいつら、なんか金属の精錬っぽいことやってたな…!」

…戦力差はあまりに絶望的だ。

「そ、そーだ!リーダー、外に助けを呼ぼうよ!パルタスさんとかスポンサーさんに!」

「そうだなクルエ。ジャスティファイヤとクロッソエレクトロニクスにグループ通話を繋ぐ!」

リーダーは、スポンサーさんとパルタス氏の二人に通話をした。
『ケン君が向かったニセ業者事件は罠だった…!?そっちの本丸が攻められているのか!我々が飼育している赤オタマモンを5匹ほど向かわせるかね?』

「それは助かるが…ネット回線トンネルの前に、プラチナスカモンとジャングルモジャモンが陣取って見張っている。外からの増援に対して出待ちをしているんだ。せっかくオタマモンを送り込んできてもらっても、おそらくトンネルを抜けた瞬間に青銅器の棍棒で叩き殺される」

『むぐ…うかつに増援も送れないのか』

「スポンサーさん。ケンキモンを防衛のために出動させたい。まだデジタマを一個しか産んでいないが構わないな?」

『勿論だ!「デジタマを2個産むまで出動禁止」と言ったのは、コマンドラモンを安全に殖やしてサービスの質と量を上げるためだ。その本拠地が攻め落とされたらサービス継続が不可能だ!ケンキモンを出撃させてくれ』

「わかった」

『だが…絶対に敵に鹵獲されてはいけない。理由は分かるね?』

…優秀なセキュリティデジモンは、優秀なクラッカーデジモンにも成り得る。
もしもコマンドラモンがクラッカーのもとで殖やされ、悪用されたらと思うと…気が気じゃない。

「…ああ。分かっている」

デジクオリアの画面から、ケンキモン(の本体)の声がした。

「敵には 決してつかまらない もし捕まったら その場で自爆する」

「気持ちは嬉しいが…自爆に使える火薬があるなら、敵にぶつけてやってくれ」

「わかった リーダー」

続いてパルタス氏から発言があった。
『状況は分かった!我々も至急増援を送ろう!どれだけ送れるかは上の許可次第になるがな!』

あれ。
トンネル前でジャングルモジャモンとプラチナスカモンが出待ちしてるから送れないって言ってなかったっけ。

『くだらん!トンネルから登場次第、その猿と大便どもをブチ殺してしまえばいい話だろう!』

それはそうだけど…
本当にできるなら助かるよ。

クルエがひょこっと顔を出した。
「スポンサーさん、ローグソフトウェア?ってところに救援は要請できないでしょーか?」

『…難しいだろうね。彼らの言うことは予想できる。「そんな契約はしていない」…その一言で終わりだろう』

カリアゲはそれを聞いて頭に血が登ったようだ。
「そりゃねえだろ!俺達が攻め落とされたら国内デジモンセキュリティ事業の一大事だぞ!協力してくれよ!」

『…彼らは今の状況を、「競合他社がひとつ潰れてくれるなら儲け物」と捉えるだろうねぇ』

「ウッソだろ…警察と提携してる会社がそんなんでいいのかよオイ…」

リーダーはため息をついた。
「…今挙げたものが集められる戦力のすべてか。この戦力差を埋めるには程遠そうだ」

いや。
まだ味方がいるよリーダー。

「なに?誰だ?」

僕だ!

「メガ…お前が?デジタルアソートは非戦闘用デジモンしかいないんじゃなかったのか?」

そうだ。
デジタルアソートの平和利用目的デジモンは、低コスト運用を前提にしているから、パワーもスピードも防御力も低い。

だけど、その力を戦いに活かせないわけじゃない。
さっきだってそうだったでしょ?

「確かに…仮称ガンマの検索能力のおかげで、チビマッシュモンの体内からマルウェアを発見できたな」

…『仮称デルタ』。
今のこの状況の数的不利を、わずかだけど誤魔化せる力を持つデジモンがいるんだ。

「なに!どこにいるんだ?」

今はケンといっしょにいる。
…デジヴァイスの中だよ。

「思い出した…仮称デルタは、デジヴァイスに搭載したデジクオリアシステムを管轄しているデジモンだな!…そいつが役に立つのか?」

確実に心強い味方になるはずだよ。
ただ…
呼べればの話だけど。

「ネット回線トンネルの前では敵が出待ちしているんだったな。すると、ネット回線を通らずに、直接パソコンにUSB接続して送り込む必要があるのか。今すぐにケンにここへ戻ってきてもらう必要があるな」

カリアゲは眉をしかめた。
「そういやケンは今どこにいるんだ?ちょっとケンに通話してみるか」

カリアゲはケンに電話をかけた。
「もしもしケン!こっちの本拠地がクラッカーに攻められてる!すぐに帰ってきてくれ!今どこにいるんだ!?」

早く戻ってきてケン…!

「何だって!?タクシーが渋滞に捕まって抜けれない!?」

えぇ!?

~ケン視点~

今私はタクシーに乗り、帰路についているところだが…
長い渋滞に捕まっていて、車が進まない。

そんな状況で、カリアゲから電話が来た。
研究所が攻められているので、今すぐに帰ってきて欲しいとのことだ。

早く帰りたいのはやまやまだ。
タクシーが進まない以上…ここで降りて、徒歩で走って帰るか…!?

『どれくらいかかるんだ!?』

徒歩だったら…、どれだけ全力で走っても1時間はかかる。
途中で渋滞がない道路を見つけて、そこでタクシー呼んでも…10分20分じゃ着かなさそうだ。

『どうして今日に限ってそんな!俺が車で迎えに行ってもムリか!?』

街中の信号機が異常な挙動をしてるらしい。
赤と青が同時に灯ったり、黄色を飛ばして急に赤と青が切り替わったり…無茶苦茶だ。

『なんだよそりゃ…』

カリアゲの落胆した声に続いて、シンの声が聞こえた。

『デジヴァイスってwifi使えるんスよね?ケンさんのスマホのデザリング機能で、仮称デルタを俺のスマホに無線で送ってもらってから、それをUSB接続でパソコンに送り込めばいいんじゃないッスか?』

おお、そっか。
それでいくか!?

『…残念だけど、ケン、シン。今のデジヴァイスは正規品じゃなくて試作品なんだ。システム全体の機能うち、どの領域までを本体のハード・ソフト側に仕込み、どこからを仮称デルタに持たせるかのバランスも調整中なんだ』

そ…それで?今はどうなのメガ。

『wifiの無線機能は、本体側じゃなくて仮称デルタの力で実現しているんだ。だから無線通信でデルタが移動を始めた途端、無線接続が切断されてしまうんだ』

な…なんだって!?
結局無線じゃ送れないのか!

シンの声がした。
『USB接続でのデータ通信はできるんスか?そっちもデルタが管轄してたら、デルタはどうやってもデジヴァイスから出られないってことになるッスね』

リーダーの声がした。
『いや、USB接続ならできるはずだ。デジヴァイス本体にその機能がなかったら、そもそもデルタを最初にデジヴァイス内に入れることすらできなかっただろうからな』

『なるほど。じゃあケンさんのスマホにデルタを移動して、そっちから無線通信で送ったらどうッスか?』

『それは別の問題で難しいよ。今デジヴァイス内にモリシェルモンを閉じ込めてる隔離チェンバーと、ブイモン達がいる飼育室の境界を維持する機能は、仮称デルタの力で実現してるんだ。だからデルタが抜けたら、ブイモンとモリシェルモンが同じ部屋で鉢合わせになる』

それは絶対させられない…!
くそ…
クラッカーデジモンが研究所のシステムを破壊し尽くす前に、研究所に仮称デルタを送り込むのはどうやっても無理か…!?

『いや…大丈夫だよケン。タクシーの外を見て』

…?
どういうこと?メガ…

私がきょとんとしていると、デジヴァイスから懐かしい声がした。

『はっはっは むかえに きたでござるよ ケンどの』

私はタクシーの外を見た。
すると、そこには…

四つの回転翼でホバリングしている、空中バイクがあった。

こ、これは!?

『せっしゃにのって いっしょにとぶで ござる』

前にデジタルアソートのデモンストレーションのときに乗った…
『デジモンの力で自動運転する空中バイク』だ!

『これで ひとっとびで ござるよ』

私はタクシーの運転手に料金を払い、タクシーを降りて、渋滞している道路から離れた。
そして空中バイクに乗り込んだ。

『しっかり つかまるで ござる』

空中バイクは、凄まじいスピードで飛行した!
時速100kmは出ている…!

『けんきゅうじょまで いっちょくせんで ござる はっはっは』

で、でもこれ…大丈夫なの?
道路交通法とか。
警察に捕まったら面倒なことになるんじゃ…

『しんぱい ごむようで ござる』

な、なんで…?

『なぜなら ガンマどのの けんさくのちからで けいさつのいちをさがし せっしゃの ナビゲートのちからで そこをさけて とんでるからで ござる』


す、すごい…凄すぎる。
デジタルアソートのデジモン達は、そこまで高度な機能を有してるのか。

それにしても…
仮称なんちゃらって呼び方は、流石に覚えづらい。
もう少し覚えやすい名前はないのだろうか?

君の名前なんだっけ?

『せっしゃは 仮称ニューでござるが… ふむ けんきゅうじょが こわれれば せっしゃたちも おしまい ケンどのと われわれは いちれんたくしょうで ござるな』

…そうなるね。

『ならば いずれ せっしゃにあたえられる デジモンとしてのなまえを なのらせてもらうで ござる』

助かるよ。

『せっしゃのなは…』

仮称ニューがそう言うと…
デジヴァイスの画面が起動し、見たことがないデジモンの姿が映し出された。

そこに映し出されたデジモンの姿は…
これまでに見たどのデジモンとも似ていなかった。

三頭身くらいの人型ではあるが…
全身が緑色で、薄い黄緑色のラインが入っている。

頭部には矢印のような形状の飾りがついていて…
両腕は、赤いマーカーの形状をしていた。

そう、例えるならば…
地図アプリで目的地を指し示すマーカーのような。

https://i.imgur.com/u8eA1Ba.jpg
『せっしゃの名は… アプリモンスターズ計画 試作ロット第二号 ナビモンでござる』

つづく

~再び、メガ視点~

ケンのことは仮称ニュー…ナビモンが迎えに行ってくれている。
5分もすればデジヴァイスの中にいる仮称デルタ、ドーガモンを連れてきてくれるはずだ。

だけど、それまでの間何もしなかったら、デジタル空間が破壊し尽くされてしまう!
今できることを、少しでもやろう!

シンがランドンシーフを持ってきた。
「ランドンシーフ起動しました!これでデジタル空間の好きなとこにいつでもデジタルゲート開けるッスよ!」

カリアゲがサムズアップした。
「ナイスだシン!あれ?どこにでも開けるってことはよ…蛮族デジモン達の足元に落とし穴みたいにゲートを開けば、全員デジタルワールドに追放できねえかな?」

残念だけどできないよ。
デジモンがゲートをくぐるかどうかは任意なんだ。
強制的にKICKすることはできない。

「うーんそっか…くっそ…」

リーダーがクルエの方を向いた。
「そうだ、デジタルワールドといえば…ベーダモンはどうだ!?ヤツの協力は得られないか!?」

「えっ…ベーダモンですか。いちおう声かけてみますね」

クルエはうちにある3機のデジドローンのうち2機目を起動し、ベーダモンへコンタクトを図った。

モニターにはベーダモンが寝床にしている樹が映る。

「ベーダモン様!聞こえる!?手を貸してほしいの!ピンチなんだ!」

すると木のうろからニュルニュルとベーダモンが出てきた。
ベーダモンはチャットを送ってきた。
『忙しいな 何事だ 余に何の用だ 研究者よ』

うおお、チャットを使いこなしている!
クルエとカリアゲはベーダモンに言葉を教えられたんだ。すごい。

「うちのサーバー内に敵デジモンがたくさん侵入してきたの!このままじゃ私達みんなやられちゃう!お願いします、力を貸してくださいベーダモン様!」

『面白そうなことになっているな 様子を見せろ』

クルエはデジドローンのプロジェクターで、うちのデジタル空間内で暴れている蛮族たちの姿を見せた。

『これはこれは 愉快な祭ではないか』

「愉快じゃないです!このままじゃみんなやられちゃう!どうか、何卒お助けくださいベーダモン様!」

『余に何をしろと?』

「こいつらを洗脳光線で、ベーダモン様の手駒にしてやってください!」

『それで 汝らは 彼奴らとどう交戦したのだ』

「いえ、まだ…」

『つまらん 自ら戦いもせず 最初から余に助けを求めるか 恥を知れ痴れ者が』

痴れ者!?
クルエがデジモンから痴れ者って呼ばれた!
なんてボキャブラリーだ。

『愚図め 思っていた以上につまらんな汝らは そんなことで滅びるのならさっさと滅びてしまえ』

「そ、そこをなんとか…!何でもしますからああぁ!」

クルエは頭をペコペコ下げている。

『何でもするだと ならば 汝らの滅びの悲鳴でも聞かせるがいい』

「そ、そんなあ!」

ベーダモンは笑っている。
性格悪くないか?こいつ…!?

カリアゲがマイクを握った。
「ベーダモン!敵の数は圧倒的だ。こっちの戦力は向こうよりうんと少ねえ…圧倒的不利だ!」

『そうらしいな カリアゲ』

「だけど!俺達は死にものぐるいで戦う!そして絶対に勝つ!」

『ほう』

「だから見ていてくれ!俺達がAAAをぶっ倒すところを!」

『それは面白い あの調子に乗っている生意気な小僧を 汝らが叩き伏せ 地に顔を擦り付けさせるとでもいうのか』

「おうよ!やったらぁ!」

『それは愉快だ 彼奴の無様な姿を余に曝け出させるというなら それほどおかしなことはない しばらく見物してやる』

「サンキュー!ベーダモン!」

『おや 余の力を借りたいと懇願していたのではないのか クルエはそうだったが』

「自分達の身を護る戦いだからよ…最初からヨソを当てにするのはお門違いだろうよ」

『貴様はよく身の程をわきまえているな カリアゲ』

ベーダモンは腕を組んでいる。

『余の洗脳光線は 一度に2体も3体も同時に操ることはできぬ この数を相手にしても 余の下僕たちを繰り出せば勝てなくはないが つまらん しばらく戦って数を減らせ』

「ああ!」

『余を愉しませろ できなければ そのまま見殺しにする その方が愉快だ』

「オーケイ!なんとかしてみるさ!」

…いいの?
力を貸してもらえる感じじゃないけど。

リーダーは頷いている。
「これでいい。今大事なのは、ベーダモンをAAAの側につけないことだ。味方じゃなくても、敵でなければ十分だ」

いいんだこれで…

他にできることは…

「さて…パルモン。進化だ!」

ええっ!?
どういうことカリアゲ!?

「パルモンは今の俺達の仲間では一番…マッシュモンを除けば一番長い間成長期のままでいる。だけどパルモンは、十分な戦闘経験を積んで、獲物を狩ってきた!今なら進化できるはずだ!」

そんなに狩りしてたっけ?

「釣りだよ!プカモンやスイムモンをたくさん釣ったし、ガニモンも倒した!」

そうだったね。

「パルモン!分かるか?今俺達が大ピンチだってことが!サラがやられて…ワームモンもやられたんだ。俺の大好きなワームモンが…!」

パルモンはしょんぼりしている。
「ワームモン いなくなった かなしい」

「このままじゃみんなもいなくなっちまう…!だから、頼むパルモン!俺達を護ってくれ!一緒に奴らを倒そう!」

「わるもの!たおす!」

「いくぞ!なるんだ…成熟期に!今こそ進化だ!パルモン!」

「しんか…する! みんなを まもる!」

おお!?
いけるのか!?マジで!?

「ぱるもん… しんかぁーー!」

パルモンは全身に力を入れて踏ん張った。
いいぞ、いけ!パルモン!

「…かわんない」

…進化は起きなかった。
あれ。
なんかできそうなノリだったのに。

「なっ…!?くそ、行けると思ったのになー!何が足りないんだ!?」

「カリアゲパイセン…」

「シン!そんな目で俺を見るな!」

いや。
やれることは何でもやるべき状況だからいいと思うよ。
ナイストライ。

『プーックックックック…!フーッフフフフ…!』
ああっ!
ベーダモンが笑ってる!
ちくしょう…ウケを狙ってるわけじゃないのに。

「とはいえ…やれることはある。奴らの破壊を食い止めるために、今できることが!やるぞ、パルモン!」

「しんかを!?」

「そっちはいい!ゴニョゴニョ…」

「なるほど、わかった!じゅんびする!」

パルモンは何かの支度をし始めた。



デジタルゲートの中では、蛮族デジモン達がデジタル空間を破壊し、研究データを奪っている。

『くっくっく…どうした研究者ども!パルモンは?コマンドラモンは?ズバモンとルドモンはどうした?怖がって出てこれないか!くっくっく!臆病なセキュリティ共だ!とんだ看板倒れだなぁ?』

ね、ねえリーダー。
最悪の事態に備えて、研究データを予備の記憶装置にバックアップすべきじゃないかな?

「そうだな。できる限りリスクに備えよう。クラウドストレージへのデータ移送も始める!」

僕は最悪の事態に備えて、大事なデータのバックアップを始めた。
研究データで特に大事なものは、ネットワーク外部のクラウドストレージへ送ろう!

そして大容量データを転送すると…

デジクオリアの画面では、大容量データが光の塊として可視化され、ネット回線トンネルの方に向かって飛んでいくのが見えた。

だが…
ネット回線トンネルの前で陣取っているプラチナスカモンが立ちふさがった。

プラチナスカモンは大口を開けて、転送中のバックアップデータを食べた!

「うんみゃああァ~~~い!もっと!美味いデータを食わせてくれよォ!ギャーッハッハッハ!」

だめだ…
外部ストレージへの大容量データ転送は妨害されてしまう!

バックアップは内部だけでやるしかない…!

「じゅんび!できた!」

おおっ、準備いいかパルモン!
それじゃあ…やるぞ!

デジタル空間の天井から穴が空いた。

そこから、右手から蔓を伸ばしてロープ代わりにしたパルモンが降りてきて…

花粉の入った粉を、蛮族達の頭の上にぶちまけた!

そして、左手の蔓を大きく振り回して気流を作り、花粉を散布した!

蛮族デジモン達は、涙を流してくしゃみを始めた。
「ゲッホゲホ!オヴェ!オゲーッホゲホ!!」
「カユイイイイ!メガアアア!ハナガアアアア!」

シャーマモンやコエモン達は目を開けていられないようだ。
「ウホオォォオオオ!ゴッホゴッホ!」
ジャングルモジャモンも目を擦っている。
パルモンの花粉アレルギーは…成熟期にも通用する!

「キィイィイイ!」
怒ったセピックモンが、ブーメランを投げようとしてくるが…
パルモンはすぐにゲートへ引っ込み、ブーメランを回避した。

時間稼ぎにはなるはずだ!
頑張れパルモン!

パルモンはあっちこっちから出ては逃げを繰り返し、ストックしていた花粉をあちこちの蛮族デジモン達へ浴びせて回った。

花粉が効かないプラチナスカモンや、必死に我慢して反撃しようとしているセピックモンは、飛び道具を投擲してパルモンを仕留めようとしている。

うお、危ない!
ブーメランが当たりそうになった。
大丈夫かいパルモン!

「へーき!」

その時。
「私が 出る!」

そう声がした。

次の瞬間。
大きなデジタルゲートが開き…

中から巨大なデジモンが出現した。
ケンキモンだ!

全高6mの巨大なマシーンの図体はやはりでかい!

普段のケンキモンは、右手がフォークリフト、左手がパワーショベル、肩にクレーンがついており、とても戦闘向きには見えない。

しかし今出撃したケンキモンは、どうやら装備を換装しているらしい。

普段パワーショベルだった左手には、油圧鉄骨カッターがついている。
https://i.imgur.com/0tP5BBN.jpg

フォークリフトだった右手には、穴掘建柱車のドリルがついている。
https://i.imgur.com/megZv8u.jpg

クレーンには解体工事用の鉄球がついている。

おお…!?
解体工事仕様の装備だ!?

ケンキモンは、キャタピラー(クローラー)を唸らせて走行し…

一体のセピックモンの胴体を、鉄骨カッターのハサミで挟んだ!

「ウギ!?」

「むぅん!」

そして、鉄骨カッターで…
バチンとセピックモンの胴体を両断した!

「グッギャアアアアアアア!!」

蛮族達は、突如響いた悲鳴に、目を擦りながら驚いた。

「花粉が 効いているうちに 強い敵から 倒す!」

ケンキモンは、ユニモンに乗ったフーガモンに突撃しながら、進路にいるシャーマモンやキャンドモンをクレーン鉄球でぶっ飛ばした!

「ギャアアオオオ!」

成長期程度は相手にならない!

「ゲッホ!ゴホ!」

フーガモンもユニモンも、まともに前が見えないようだ!
そのまま王手を取れ、ケンキモン!

『なんだ貴様ら、いつの間にそんな大型デジモンを!?面白い!迎え撃て、プラチナスカモン!』

AAAのデジドローンから指示が出た。

「ギャハーッハハッハ!俺様の出番だナ!?ギャハーッ!」

プラチナスカモンは、ケンキモンの顔面に目掛けて飛んできた。

ケンキモンは、それを鉄球で迎撃しようと試みた。

鉄球は空中でプラチナスカモンにヒットした!
プラチナスカモンはべちょっと潰れ、鉄球に張り付いた。

おお、やった!
そのままフーガモンにトドメをさせケンキモン!

ケンキモンは、フーガモンの首にめがけて鉄骨カッターを繰り出す!

その時…
ケンキモンのクレーンから鉄球がぼろりと外れ、ケンキモンの足元にずんと落ちた。

自身の鉄球に足をとられ、つまづきそうになるケンキモン。

必死にバランスを取って、なんとか転倒を回避した。

な…なんだ!?
なんで急に鉄球が外れた!?

鉄球の方を見ると…
なんと潰れて張り付いているプラチナスカモンが、ずるずると蠢き、ケンキモンの脚部にひっついた。

ケンキモンのクローラーは、次第に溶けていく!
な、なんだ!?どうなってるんだ!?

「スカーーッカッカッッカッカ!俺様を倒したと思ったか!?その慌てよう、スカっとするゾ!」

それを見たリーダーは、はっとした顔を見せた。
「AAA…これは…!火山地帯のズルモンの性質だな!」

『ほう?気づいたか!そうだ、火山地帯のズルモンがもつ、岩石や鉱石を溶かす性質だ!貴様らがプラチナスカモンと名付けたその個体には、その性質を与えた!』

「なん…だと…!だが、酸の反応にしては早すぎる…それだけじゃないな!」

『くっくっく…貴様らが名付ける前に、私がプラチナスカモンにつけていた名を教えてやろう。そいつの名は…「アマルガモン」』

アマルガモン…?

「アマルガム…。まさか…プラチナスカモンの正体は…!『水銀』か!」

「スカーーッカッカッッカッカ!その通り!俺様のボディは!金属を溶かして吸い取るキラッキラの水銀だァーー!スカーーッカッカッッカッカ!!」

や、やばい…!
そんなのに引っ付かれたら、ケンキモンは…!

その時。

デジタル空間に、大きなゲートが開いた。

そして、その中から大きなデジモンがのっしのっしと這い出てきた。

『ウバシャアアアアアアアア!!!』

そのデジモンは、超高圧の水流を噴射し、ケンキモンからプラチナスカモンを洗い流した。

「グヒャーーー!?」

水流で剥がれたプラチナスカモン。

「な、なんだ!?俺様の見せ場をよくも…!」

そのデジモンは…

「ンバアアァ」

大きな口で、プラチナスカモンをばくんと丸呑みにした。

『む…!?』

「水銀になろうと…粘菌デジモンは、こいつの大好物だ。指示がなくとも…最優先で狙う!」

そ…
その声は!

「お前が使った手に…今度はお前自身が苦しめられろ!AAA!」

け…ケン!
来てくれたんだな!

「お待たせメガ。連れてきたよ。ドーガモンを…そして、こいつを!」

『ウバシャアアアアアアアア!ゴアアアア!』

デジタル空間内に解き放たれたモリシェルモンは、周囲に蠢いている二足歩行の餌達を見て大喜びし、咆哮を上げた。

続く

~ケン視点~

「ウシャバァアアア!!」
モリシェルモンは、貝殻に籠もると、回転して浮きながら、周囲の蛮族デジモン達へ突撃した。

シャーマモンやコエモン達が撥ね飛ばされている。
「ウギャァーーー!」

柔らかいワームモンへ一撃で致命傷を与えたモリシェルモンの回転タックル。
成長期の蛮族デジモン達は、その威力を一撃食らっただけで再起不能になっていた。

パルモンの花粉を、涙や鼻水で少しずつ洗い流している蛮族デジモン達は、視界がきくようになってきたのか、回避行動を取り始めた。

ドリモゲモンは、頭部のドリルでデジタル空間の地面に穴を掘って潜った。

目を擦りながら薄目を開けているフーガモンは、シマユニモンの手綱を引き、「とにかく離れろ」と言わんばかりに方向を指示をしたようだ。

フーガモンを乗せたシマユニモンは、その方向へ猛スピードで駆け出した。
どうやらシマユニモンには花粉があまり効いていないらしい。
https://i.imgur.com/9ZFlmF4.jpg
目がバイザーで覆われているため、鼻水は出るが涙で目が見えなくなることはないらしい。

モリシェルモンは、ケンキモンには攻撃してこない。
見るからに鉄の塊であり、食えそうにないからだろう。

…さて。
モリシェルモンは本命じゃない。
本当に連れてきたかったのは、デジヴァイスの制御システムを管轄してるドーガモンだったね、確か。

https://i.imgur.com/vtbqrA3.png
『お オレサマか』

ドーガモンがきょろきょろしているが、メガが答えた。
「そう。いずれパルモンの目潰しは効力を失う。そうしたら、このドーガモンが数の不利を補ってくれる。決定力はないけど、いるといないとでは絶対違うはずだよ、ケン」

分かった。
それで、そのドーガモン戦法はすぐにできるのか?

「いいや、デジモンの映像をドーガモンに視聴させて、それを教師データにして3分ほど深層学習させる必要がある。それまでは…モリシェルモンとケンキモンに時間を稼いでもらおう」

なるほど…!
ケンキモン、モリシェルモンと一緒にできるだけ蛮族デジモンを減らしてくれ!

すると、デジヴァイスからブイモンの声がした。
「お、おれも…いくよ! ワームモンの…か、かたきだ…!」

…無茶するなブイモン。
膝が震えてるよ。

それに今は、モリシェルモンが敵味方の区別なく暴れている。
ケンキモンみたいな明らかな無生物型デジモン以外は巻き添えを食らうよ。

「…そうかよ…」

君にはきっと然るべき出番で役割があるはずだ。

「…ねえんだろ、どうせ…オイラみたいに、バカであしひっぱってばかりのザコには…」

そ、そんなことないって…!

「シャオオオォ!」
モリシェルモンは、キンカクモンに向かって水流とともに小さな貝殻の弾丸を発射した。

「チクショウガァ!」

仮面で素顔を覆い隠しているキンカクモンにも、花粉は効いているようだ。
だが、どうにかして金棒を振り、貝殻を打ち返そうとする。

貝殻に金棒がかすったようだ。
軌道を反らしはしたが、打ち返せてはいない。
貝殻の弾丸は、隣りにいたセピックモンの大きな仮面に当たった。

「ウキイィ!?」

貝殻はセピックモンの仮面に突き刺さり、びしびしとヒビを入れた。

凄まじい威力だ…!
キンカクモンとて、まともに食らったらただでは済まないだろう。


そこへ…
ケンキモンが突っ込んできた。
片方のキャタピラーがガタガタと不安定に揺れている。
プラチナスカモンの水銀ボディで若干溶かされたせいで、走行しづらくなっているらしい。

ケンキモンは、まだ花粉が効いているうちにキンカクモンを仕留める気だ!

右手の穴掘建柱ドリルを、キンカクモンに向かって突き出した!

キンカクモンはドリルを金棒でガードした。
「ヌウゥゥゥ!」

キンカクモンはケンキモンから距離を取る。
まだぶつかり合うのは不利だと悟ったようだ。
キンカクモンは仮面を外し、手で目を擦っている。

カリアゲがガタッと身を乗り出した。
「うおっ…美人さんだ…!敵じゃなけりゃあなぁ…!」

いや、おそらく蛮族デジモン達は、猿型デジモンがAAAからの影響を受けて人に似た姿に収斂進化したデジモンだ。
敵じゃなかったら人の姿に近付く機会すらなかったはずだ。

「おお、そっか…今はそんな解説してる場合じゃないと思うけどな!」

それはそう。
私の悪い癖だなぁ…

ケンキモンは、巨大なボディで強力なパワーを発揮して戦っている。 

その動力源は、ケンキモンのコクピットに搭乗している「本体」が体内で発電した電気と、ケンキモンの予備バッテリーに充電していた電気の二つだ。
現在のケンキモンは、それら二系統の電力を同時に使ってオーバーロードしているから、本来のDPを超えたパワーを出せる。

だけど、いずれ予備バッテリーの電力は尽き、パワーが半減してしまうだろう。
そうなる前に、ケンキモンは短期決戦で強力な敵を仕留めようとしている。

距離を取ったキンカクモンに詰め寄ろうとして、脚部のキャタピラー(無限軌道)をぶん回そうとするケンキモン。
その時。

『今だ…やれ!』

突如、ケンキモンの脚部のキャタピラーの履帯がバチンと切れた。

な…なんだと!?
プラチナスカモンに溶かされたとはいえ、破断するほどのダメージは負っていなかったはずだ!
どうして!

ケンキモンの足元には何かがいた。
それは…

3体の、蟹型デジモン…ガニモンだった。
くそっ、こいつらがハサミで履帯を切断したのか…!

だけど、ガニモンはこんなに細かい命令を聞いて実行できるデジモンじゃないはずだ…!
なぜこんなに命令に従うんだ。

それに、花粉は効いていないのか…!?

…いや、効いてる!
目からドバドバ涙を流していて、目が真っ赤に痛々しく充血している!
物凄く辛そうだ!

フローティア島では、ガニモンは花粉をくらったら視界が効かなくなって海へ逃げていったはずだ。

このガニモン達、おかしいぞ…
蛮族デジモン達ですら耐え難い目の激痛と痒さに襲われているのに、なぜこんなロボットのように忠実に命令をこなせるんだ!?

「どけ!」

ケンキモンは、鉄骨カッターを振ってガニモンを打ち払った。

ぶっ飛ばされたガニモンは仰向けにひっくり返る。

ん…?
ガニモンの腹部になにかついている…!

こ、これは…
ズルモン!

粘菌デジモンのズルモンが、ガニモンの腹部に潜り込んでいる…!
寄生してるのか!?

ガニモンは、あの寄生ズルモンに操られていた…!?

リーダーは驚いた。
「なんだと…!?今まで見てきた粘菌デジモンに、寄生する性質は無かったはずだ!どうやってあんなデジモンを作り出した!?」

クルエは寄生ズルモンにドン引きしながら答えた。
「どうって…どうにかしたんじゃないですか…?亀のデジモンを剣や盾への変形デジモンにできる奴らですよ、これくらいやってきそうですが…」

「だが…自然界にいるデジモンの中には、寄生性のデジモンは居ない。パッチ進化やジョグレス進化をしたとしても…、寄生して栄養を吸うだけならともかく、宿主を操る能力を獲得するように人工進化させるなど容易いことではないぞ…!」

リーダー。
心当たりがあります。

「フクロムシ」…という寄生虫を知っていますか?

「…ああ。知っている。カニに寄生して、体を乗っ取って操ってしまう生物だな。デジタルワールドでは、そのニッチに該当するデジモンは見つかっていなかったはずだが…」

そのフクロムシは…
フジツボの近縁種なんです。

「フジツボ…海岸の岩にくっついてるヤツらか」

はい。
フクロムシはフジツボと同系統の、蔓脚類という甲殻類です。

フジツボがカニの腹部にくっつくようになったものが、寄生能力を得るように進化した生物。それがフクロムシです。

そして、デジタルワールドにはフジツボによく似たデジモンがいます。

『フジツモン』…。
ピチモンから進化して、ガニモンへ進化する幼年期レベル2デジモンです。

「フジツモン…たしかタコ型デジモンのオクタモンの頭部にくっついてたり、岩にくっついたりして水中を漂う生ゴミの粒を食っている幼年期デジモンだな」

はい。
クラッカーはおそらく、粘菌デジモンのズルモンを、こともあろうにガニモンの進化前の姿であるフジツモンとジョグレス進化させたんです。

そうして、現実のフクロムシの進化を辿らせて、それに酷似した性質を持った寄生性ズルモンを作り上げたんです!

「…そうか…!『どんなデジモンにも寄生して操れるズルモン』を作ろうとした場合、寄生対象となる宿主デジモンの神経系統を乗っ取れるような遺伝子を作り上げなくてはならない…そんなことはとうてい不可能だ。だがいずれガニモンへ進化する遺伝子を持った幼年期のフジツモンをベースにして寄生デジモンを作ることで、ガニモンの神経系統を乗っ取れる遺伝子を獲得したということか!」

きっとそうです。
ガニモンの神経系統を乗っ取れるようにしたいなら、ガニモンの遺伝子を持った寄生デジモンを作ればいい…ということです。

「理屈は分かるけどよぉ…そんなことやるかフツー!?どんだけ性格悪いんだよAAAのヤツ!」
カリアゲは悪態を付いている。
気持ちは分かる。

…AAAのデジドローンから声がした。
『…何だ?今のお前…ガニモンの腹部を一目見ただけで、私が寄生ズルモンを作り上げた手段を一瞬で言い当てたのか?』

だったら何だ!

『…お前、私と手を組まないか?クラッカー側に来いよ』

行くわけ無いだろ!

『そうか…仕方ない。おい、もうそのデカブツは用済みだ。片付けろ』

ん…?
AAAのデジドローンが、なにかへ指示をした。

「ウシャアアアア!」
モリシェルモンは、多数の蛮族デジモンに対して数の不利など知ったことかと言わんばかりに圧倒している。

シャーマモンを叩き潰して殺し、食わずに捨てて、新たな獲物を仕留めにかかっている。

モリシェルモンはヌメモン系統なので、腐敗した死骸でも平然と食う。
そのため獲物を仕留め次第逐次食うのではなく、とにかく殺せるだけ殺してから、それを巣に持ち帰ってじっくり食べる習性がある。腐り始めたものから…。

そうだ…
ズルモンは粘菌デジモンだ!
モリシェルモンの大好物!

ケンキモンは、足下の小さなガニモン達を相手にするのを手こずっているが…
モリシェルモンの興味を引ければ、腹部のズルモンごとガニモンを優先的に食ってくれるかもしれない!

ケンキモン、モリシェルモンの意識を引け!

ケンキモンは私の指示を聞き、ガニモンを一体モリシェルモンの方へ弾き飛ばした。

モリシェルモンをおびき寄せる気だ!

その時…
「ガアアアアアァァァ!?」
突如、モリシェルモンが悲鳴を上げた。

どうしたんだ、モリシェルモン!?

「ガアアアアアァァァ!ァガアアアァァァ!ゴバアアア!」

モリシェルモンは吐血した。
物凄く痛がっているようだ。
な、なんだ!?

『くっくっく…このデカブツを繰り出して、一杯食わせたつもりか?だとしたら興醒めするほどつまらんな。この私が…自分が使う手への対抗策を何も用意していないと思ったか!』

モリシェルモンはグルンと白目を向いた。
するとモリシェルモンの頭部が、メキメキと裂けて…
血飛沫をあげ、頭の中から何かが突き出した。

それは…
回転するドリルだ。

「ウウゥゥゥウ~~!!」

モグラ型成熟期デジモンのドリモゲモンが、モリシェルモンの頭部を突き破り、引き裂いてモリシェルモンの体内から出てきた。

モリシェルモンは、力なくうつ伏せに倒れた。

「ウゥーーーーー!!」
ドリモゲモンは雄叫びをあげている。


…そんな…。
あんなに強いモリシェルモンが、こんなに一瞬であっさりと仕留められた!

ドリモゲモンのDPは、モリシェルモンに比べれば遥かに低い。
だが、ドリルで地中にトンネルを作って掘り進む力を持つドリモゲモンは、ある意味モリシェルモンにとって天敵なんだ…!

途中からモリシェルモンの腹部の下へ、そのまま『掘り進んで』しまえば、モリシェルモンの体内へそのまま『トンネル』を掘り、内部から破壊してしまうことができる。

くそ…!
そんな手があったなんて!

『ついでだドリモゲモン!そこのガラクタを解体してやれ!』

「ウゥゥ~~!」
モリシェルモンを仕留めたドリモゲモンは地中に潜った。

ま、まずい…!
ケンキモンは今、キャタピラーは破損していて移動できない!

血中からドリモゲモンに攻撃されたら、回避できない…!

ケンキモンは慌てている。

そのとき…

『ケンキモン オレといっしょに ドリモゲモンを たおすぞ』

チャットの文章を読み上げたような合成音声が聞こえて来た。

声がした方を見ると…
一体のデジモンがいた。

そのデジモンは…
見たことがないデジモンだった。
https://i.imgur.com/MNNSRQX.jpg

赤い帽子を被った、二足歩行の獣形デジモンだ。
成長期だろうか。
あ…あれは!?

メガが口を開いた。
「仮称ガンマ。蟹を煮る鍋の位置を検索したり、さっきチビマッシュモンの体内からマルウェアを検索したのがこの個体だよ」

仮称は分かりづらい!
名称を教えてくれ!

『オレは アプリモンスターズ計画 試作ロット第2号 ガッチモンだ!なんていってる ばあいじゃねえ! やるぞケンキモン ドリモゲモンを…ふたりでたおす!』

し…勝算があるのか!?

『まかせろ ディープサーチ!』
ガッチモンは、両手を地面にかざした。

ガッチモンは、デジタル空間地下の地図データを生成した。
『よっしゃ ケンキモン これを!』

ケンキモンは、地図データを見た。
地中のどこにドリモゲモンがいるか、はっきりと映し出されている!

蛮族デジモン達が、いっせいにケンキモンの方へ向かってきた。
モリシェルモンが倒れた今、倒すべき敵はケンキモンただ一体ということだ。
花粉のアレルギー症状が引いた個体から、飛びかかってくる…!

ドリモゲモンの居場所を示すマーカーが、ケンキモンの真下へ来る…!

「そこだ!」
ケンキモンは、マーカーの位置へ向かって、穴掘建柱ドリルを突き出した!

回転するドリルはデジタル空間の地面を突き破り、地中を抉る。

「ウウウゥゥウウギャアアアアアアアアア!!!」

血飛沫と共に、ドリモゲモンの悲鳴がこだました。

続く

>>774
間違えた
試作ロット第2号→第3号です

ケンキモンが地面からドリルを引っこ抜くと…
ドリルには、胴体を貫通されているドリモゲモンがついてきた。

ケンキモンはドリモゲモンからドリルを引き抜き、ドリモゲモンを地面へ投げ捨てた。

『なんだと…!?貴様、どうやってドリモゲモンの位置を…!?』
AAAは予想外だったらしく慌てている様子だ。

「ウゥ…ゥウウ…!」
致命傷を受けたドリモゲモンは…
最期の力を振り絞って、デジタマを産んだ。

ドリモゲモンのデジタマか…
確保しておこう。
デジモンキャプチャーを使い、そのデジタマを隔離チェンバーへ送った。

だが、相変わらず敵は多い。
花粉アレルギーが治まった蛮族デジモン達が、ケンキモンに押し寄せてくる。

ズルモンに支配されたガニモン達も、再び脚部を狙ってくる。
四面楚歌だ…!

だが、ガニモン達は…
彼らのすぐそばに突如開いたデジタルゲートから伸びてきた、植物のツタのようなものに捕まった。
そして、デジタルゲートへと引きずり込まれた。

そのデジタルゲートの向こう側は…
懐かしのビオトープだった。

オタマモンがかまどに火をつけており、かまどでは大きな土鍋の中で熱湯が湧いていた。

ガニモン達を捕らえたパルモンは…
そのままガニモン達を、土鍋へ叩き込んだ!

熱湯がバシャンと音を立てる。

この土鍋は、ガニモンを茹でて蟹鍋にするためにブイモンが作った逸品だ。

ガニモン達は熱湯から脱出しようとするが…
パルモンとオタマモンは、蓋を閉めて上から押さえつけた。

…まさか蟹鍋を武器として使うとは。

やがて、全力で暴れたガニモンが蓋を払い除けた。
空中で宙返りして、地面へ着地するパルモン。

ガニモン達は土鍋から脱出してしまった。

熱湯の中には…
グツグツに茹でられて動かなくなったズルモン3体の姿があった。

さて、ケンキモンとドリモゲモンが戦っていたとき…
同時並行で、マッシュモンとチビマッシュモンは別の作業をしていた。

モリシェルモンの巨大な死骸を、デジタル空間からどける作業だ。
メガ曰く、モリシェルモンの死骸はドーガモン作戦の妨げになるらしい。

モリシェルモンの直下に巨大なデジタルゲートが開いた。
その中からチビマッシュモン達が出てきて、モリシェルモンの死骸をゲートに引っ張り込もうとしている。

「マッシ!マッシ!マッシ!」

だが、チビマッシュモン達の小さな体では、モリシェルモンをデジタルゲートの中へ引きずり込むのが容易でないようだ…。

そこへ…
「オイラも…てつだう」

デジタルゲートの中からブイモンが現れた。
「こいつを…どかせば、いいんだろ!」

チビマッシュモンに、肉体労働が得意なブイモンが加わったことで、モリシェルモンの死骸をデジタルゲートを通してフローティア島へ放逐することに成功した。

よくやったブイモン!
偉いぞ!
「そ、そうかな…へへ…」
ブイモンは少し照れている。
「オイラ、これくらいしかできることないからよ…」
…自分を卑下するなよブイモン。
十分いい働きしてるんだから。

ガニモンの排除と、モリシェルモンの放逐に完了したとき…

「ウホオォォ!」

ジャングルモジャモン2体がケンキモンに飛びかかってきた。

ケンキモンは先程、ガニモン達と格闘していたが、だいぶ脚部を破壊されてしまった。
この場から移動することは難しいだろう。

「ウホォァ!」
ジャングルモジャモン達は、青銅の棍棒でケンキモンのボディを叩いた!
ガキィンとすさまじい金属音が鳴り響いた。

「ウホ?」
殴られたケンキモンのボディは凹んでいたが…
青銅の棍棒はそれ以上に凹んでいた。

ケンキモンのボディは鉄製だ。
そう簡単に青銅に負けはしない。

…それを鑑みると、薄い板金とはいえ、鉄のキャタピラー履帯を切断したガニモンのハサミは本当に自分恐ろしい武器だったんだなと実感させられる。

パルモンが不意をついてガニモン達の腹部に寄生したズルモン達を茹で殺すことには成功したものの…
統率された行動を取るガニモン達は、下手な成熟期より恐ろしい敵だった。

ケンキモンは、クレーン鉄球をジャングルモジャモンへ振りかざす。

「ウホッ!」
だが、ジャングルモジャモン達はそれを軽快に回避した。

続いて、鉄骨カッターやドリルを繰り出すが…
「ウホハハハハ!」

ジャングルモジャモンはそれらの攻撃を、ひょいひょい飛び跳ねて回避する。

くっ…
スピードで完全に負けている…!

パルモンの花粉による弱体化が解けた蛮族デジモンが、こんなに手強いのか!

『金属のボディか…。フーガモン、やれ!』
AAAのデジドローンが指示を出した。

すると、フーガモンはシマユニモンの手綱を握って、シマユニモンに何かを指示した。

シマユニモンは、ケンキモンに角を向けると…
角から放電を放ち、ケンキモンへ電気ショックを浴びせた!

「ぐっ…があああああ!」
ケンキモンの中の本体が苦しそうな声を上げた。
電撃攻撃がケンキモンの金属ボディを伝い、中の本体にダメージを与えているのか!

や…やばい!
シマユニモンにそんな力があったなんて…!

このままではやられてしまう…!

「3分だ!いくぞ、ドーガモン!」
その時、メガの声がした。

空中にデジタルゲートが空いた。

その中から飛び出てきたのは…
ファンビーモンだ。

ファンビーモンが…
なんと、2体、3体…4体…!
次々と飛び出してくる!

合計16体のファンビーモンが、デジタルゲートから出現した!

『なに!?バカな…これだけの短期間でファンビーモンをここまで殖やしたのか!?』

「ヒイィィィ!」
敵のキャンドモン達は、ファンビーモンの群れの姿を見てビビった。

群れのうちの一体が、尾から毒針を飛ばした。
「ウホォオ!?」

毒針は、ジャングルモジャモンの一体に当たった。

「ウホギャアァア!」
毒針から電気ショックが発せられ、ジャングルモジャモンが感染した。

え!?
ファンビーモンの毒針って電気も出せるの!?

私が驚くと、カリアゲが解説してくれた。
「毒針の中に電源が入っているみたいだぞ。すぐに引っこ抜かれないように、少しの時間だけ感電させて、毒が回る時間を稼げるようにしてるみたいだな」

カリアゲ…
随分ファンビーモンに詳しいな。

「まあ…俺はファンビーモンと仲間になろうとして、ずっとコンタクトを取り続けてきたからな。ガニモン鍋の残りとかあげたら、喜んで食ってたぜ」

それが今、活きたということかな。
「いや、あんま活きてないな!シマユニモンを狙えって言ったけど、やっぱ言葉は分かってねえみてえだ!」

確かに。
今はジャングルモジャモンより優先して、シマユニモンを狙って欲しい場面だ…!

そのままジャングルモジャモンは、麻痺毒で動かなくなった。

…成熟期相手をこんなあっけなく無力化するファンビーモンの猛毒。
やはり純粋な戦闘能力においては規格外だ。

ファンビーモンの毒針攻撃を見た蛮族デジモン達は、大層驚いている様子だ。

空中から即効性のある麻痺毒針を飛ばしてくる敵…
それが16体もいる。

その状況の恐ろしさに、蛮族デジモン達は気付いたようだ。

続いて、他のファンビーモン達も毒針を飛ばし始めた。
それらの毒針はすべて、命中するスレスレで外れてしまったが…
『自分に向かって毒針が飛んできた』というだけで、蛮族デジモン達はパニックになっているようだ。

「ウホオォォオオオ!!ホァアアア!!」
ケンキモンの取り囲んで青銅棍棒で叩いていた蛮族デジモン達は、一斉に逃げ惑う!

『くそ…戦え!逃げるな!』
AAAの言葉も、パニックの蛮族デジモン達には届いていないようだ。

シマユニモンに電撃攻撃をさせていたフーガモンは…
「イッタン キョリヲ トレ!」

シマユニモンの手綱を引いて、電撃攻撃を止めさせた。
ファンビーモンの群れをケンキモン以上の脅威と見なし、距離を取ることにしたようだ。

「ブルッヒ!」
放電を止めたシマユニモンは、だいぶ疲れているようだ。

あの放電攻撃はなかなか体力を消耗するらしいな…。

シマユニモンは、再び駆け出そうとした。
…その時。

どこからともなく、高速回転する手裏剣のようなものが飛んできて…
シマユニモンの首の横側を切り裂いた。

「ブルヒヒイィィ!」
斬撃を首に食らったシマユニモン。
首の切り傷からボタボタと出血した。

飛んできたのは…
https://i.imgur.com/2o5Ko8A.jpg

…ティンクルスターモンだ!

『ふはははは!手遅れになる前に間に合ったようだな!』

この声は…パルタスさん!?
そういやリーダーから救援要請をしてたんだっけ。

ティンクルスターモン!久しぶり!

『ヒサシブリ? オハツニ オメニ カカリヤッス!』

あれ。
前にティンクルスターモンとは話したことなかったっけ。

『そいつは前に見せたときは幼年期のピックモンだった個体だな!あのとき会わせたティンクルスターモンは、今はスターモンへ進化したぞ!』

おお、そうなんですか!

『上からの許可が通ったのはティンクルスターモンだけだった!スターモンとシューティングスターモン、ジオグレイモンは出撃許可が通らなかった。仕方あるまい、こちらをもぬけの殻にはできないからな!』

十分助かります!

スポンサーさんから通信があった。

『諸君。今はあまり関係ない話だが…ローグ・ソフトウェアに連絡したところ、クラッカーデジモンの駆除に協力してくれるそうだ』

おお、なんと!?
で、ではそっちのセキュリティデジモンがここへ来てくれるんですか!?

『いや、ここには来ない。見守りマッシュモンとかいう詐偽は、学校だけでなく生徒の親達にも被害が拡大していたのを覚えているかね?』

あー、確かそうでしたね。
モリシェルモン乱入の有耶無耶で、そっちは放置して帰ってきちゃいましたけども。

『ローグ・ソフトウェアは、その親御さん達のとこにいるであろうクラッカーマッシュモンを駆除し、自分たちのところのセキュリティサービスの営業をかけるようだ』

それを聞いたカリアゲは前のめりになった。
「何だよそれ!?俺達が先に見つけた敵じゃねえか!横取りかよ!」

『君達が命がけで暴いた敵の手口だったが…。状況が状況なだけに、つい口を滑らせてしまった。すまないね』

「ずるいぞ畜生!」

いや…そうとも言えない。
一番大事なことは、セキュリティサービス同士での小競り合いに勝つことじゃない。
クラッカーデジモンの被害者が、一刻も早く被害から救われることだ。

今こうしてる間にも、生徒の親御さん達のパソコンやスマホから、クラッカーマッシュモンによって情報を抜き取られたりしているかもしれない。

それを…
『我々が行くまで待て』とは言えないよ。
ローグ・ソフトウェアがすぐ動いてクラッカーマッシュモン退治してくれるなら、それに越したことはない。

「おお、そりゃ…そっかぁ…。そうだな」

『…損な性格だね。だが、それが我々が君達を信頼している点でもある』

それはどうも。

『本当に今と関係ない話ですまないね!だが一応リアルタイムで伝えておくべきと思ったんだ』

…まあ、AAAがこちらへの攻撃に集中している間に、その手先を排除するのは悪くない判断です。

ファンビーモンの群れは、毒針を飛ばし続けている。

大体はハズレており、蛮族デジモンに命中しそうでしないギリギリのところのようだ。

しかし、中にはきちんと命中する毒針もある。

そんなカオスな状況で、ファンビーモンを注視して警戒している敵デジモンを…
ティンクルスターモンが、背後から回転手裏剣タックルで切り裂く!

「キャドオォォオオ!?」
キャンドモンの一体が、ティンクルスターモンに切り裂かれた。

この連携攻撃は、敵にとって相当厄介だろう。

「ウキッ!」
セピックモンの一体が、ブーメランを握りしめた。
「ウキャアアアア!」
セピックモンは、空中を飛ぶファンビーモンに向かってブーメランを投げ飛ばした。

つづく

投げられたブーメランは…

ファンビーモンの体をすり抜けた。

「ウキッ!?」
ブーメランがすり抜けるという異常な現象に驚くセピックモン。

「う、ウキー!」
攻撃が効かないと見ると、セピックモンもファンビーモンから逃げた。

16体のファンビーモンのうち15体は、ドーガモンがファンビーモンの姿を深層学習して、デジタル空間へ投影している「立体映像」である。
16体のうち1体だけが本物のファンビーモンだ。

作戦前にモリシェルモンを片付けたのは、そうしないとファンビーモンは敵へ攻撃せず、大きなモリシェルモンの死骸を貪って空腹を満たすだけになるためだ。

ドーガモンとファンビーモンの連携(?)によるこの作戦は、敵をパニックに陥れることには成功したが…

あいにく、決定力に欠ける状況だ。
まず、ファンビーモンの毒針は無限に飛び出るわけではない。
毒針が尽きるなり、食欲が満たされるなりすればファンビーモンは攻撃を止めるだろう。

そして、ファンビーモンが戦場にいる間、パルモンやブイモン、オタマモンはデジタル空間に出てこれない。
ファンビーモンは敵味方の区別なく、食えそうなデジモンを無差別に攻撃する。
そのため、食えなさそうなケンキモンとティンクルスターモン以外の味方デジモンは、この場に出てきたらファンビーモンのターゲットになりかねないのだ。

そういうわけで、今戦場で戦えるのはティンクルスターモン、ファンビーモン、ケンキモンだけだ。

だが、ケンキモンはガニモンの攻撃で脚部を破壊されており、満足に移動できない。

一方、敵の戦力は…
ドリモゲモン、ガニモン、プラチナスカモンは倒したが…
シマユニモンに乗ったフーガモンや、キンカクモン、キャンドモン…
あとはジャングルモジャモンやセピックモン、成長期の蛮族デジモンが何体か残っている。

ハゲオヤジデジモンは、相変わらず高いところで戦いを見物しながら、干物を食ったり酒を飲んだりしている。
なんなんだこいつは。

成熟期のデジモンは、(ハゲオヤジデジモンは分からないけど)どれも強敵だ。
この三体でどうにかできるのか…!?

…しかし、なにか妙な悪寒がする。
何かを、忘れているような…。

本来いるはずの敵が、その場に欠けているような…。
不思議な感覚だ。

現在戦闘可能なジャングルモジャモンは3体。
セピックモンも3体だ。

『フーガモン!ジャングルモジャモン!セピックモン!キンカクモン!あの蜂共を片付けろ!』

「う、ウホオォ!」
成長期の蛮族デジモン達やキャンドモンは、ファンビーモンの毒針が届かないところへ隠れているが…

今名指しで呼ばれた成熟期達は、腹を決めたらしく、空を飛ぶファンビーモン達へ攻撃を仕掛けるようだ。

ジャングルモジャモン達は、倒れ伏している蛮族デジモン達の手元から、青銅の武器をひったくり…
しこたま投げまくった。

セピックモンは、手持ちのブーメランを投げまくった。

キンカクモンとフーガモンは、打撃武器を構えてファンビーモン達をじっと観察している。

ファンビーモン達は、投げられた武器を回避する。

そして毒針を放って反撃するが…
その殆どは、蛮族デジモン達から命中寸前でハズレた。

それらは全て立体映像の偽物だが…
防御しないわけにはいかないのだ。
既に毒針で何体かの蛮族デジモンが仕留められているのだから。

シマユニモンは、再び角に放電攻撃のエネルギーをチャージしている。

今の敵の中で、最も厄介な相手は…
シマユニモンだ。

何故なら、電気は「通りやすいところへ流れる」性質を持っているからだ。

シマユニモンは、群れの中から、本物のファンビーモンを、電流が自動で探知して感電させることができる。

再び放電を放たれたら、本物のファンビーモンがやられる…!
そうなる前に、シマユニモンだけは仕留めなくてはいけない!

ティンクルスターモンが、シマユニモンをめがけて回転しながら飛んできた。

シマユニモンは、それを素早い身のこなしで回避した。
シマユニモンはとんでもなくスピードに優れている。

「ウガーオゥ!」
フーガモンは、空中で青銅棍棒を振るってティンクルスターモンへ振りかざした。

ティンクルスターモンは、空中で青銅棍棒を回避する。

スピード自慢同士の戦い。
互いに攻撃を躱し続けている。

だが、シマユニモンのチャージが終わったら、その戦いも終わるだろう。

シマユニモンの放電攻撃は、回避が極めて困難。
ティンクルスターモンがいくら素早くても、電流はそれを追尾して感電させてしまう…!

やがて、シマユニモンの角に放電攻撃のチャージが溜った。

『フーガモン!その手裏剣デジモンを撃ち落とせ!』

シマユニモンは、角をティンクルスターモンへ向けて…
電撃攻撃を放った!


電撃攻撃は…
ティンクルスターモンの方ではなく、ファンビーモンの方でもなく。

シマユニモンの真上へと飛んだ。

『なに!?』

シマユニモンの直上には、巨大なデジタルゲートが開いており…

その中から、ケンキモンが落下してきたのだ。

電気は「流れやすい方向へ流れる」。
ゆえにティンクルスターモンの方でなく、巨大な鉄の塊であるケンキモンのボディへ流れるのは必然だ。

『よけろ!シマユニモン!』

シマユニモンは、自分の真上に落下してきたケンキモンを…
死物狂いで回避した。

ケンキモンは、大きな音を立てて地面に落下・衝突する。
脚部が大破し、パーツが飛び散った。

これだけのダメージを負ったら、ケンキモンはもう戦えないだろう。

『くっくっく…自爆覚悟の投身攻撃か!だが無駄に終わったなぁ!』

シマユニモンは放電を止めて、再びティンクルスターモンの方を向いた。

『セピックモン!いったん蜂共はいい!その手裏剣デジモンを全員で仕留めろ!』

ううっ、それはまずい!
セピックモンのブーメラン攻撃は、空中で予測不可能な軌道を描いて敵に当たりに行く。
その攻撃力も強力だ。

それを3つも投げられたら…
いくらティンクルスターモンでも躱しきれない!

敵デジモンの意識がすべてティンクルスターモンに注がれた、その時…

ケンキモンのコックピットが開き…
中からケンキモンの本体が飛び出してきた。

ゴーグル付きの黄色いヘルメットをかぶり、右手がハンマー、左手がドリルになっているその姿は、まるでロボットのようだ。

https://i.imgur.com/SNibQvY.jpg

…今だ、やれ!
ケンキモン…
いや!

クラフトモン!

「うおおおぉ!」

クラフトモンは、シマユニモンの直上から襲い掛かり…
右手のドリルを回転させ、シマユニモンの脳天へ叩き込んだ。

「ブルッギャアアアアアアアアーーーーー!!!」

ドリルはシマユニモンの眉間を貫通した。

シマユニモンに乗っていたフーガモンは驚いた。

『そのデジモン…中に別のデジモンがいたのか!フーガモン!やれ!』

シマユニモンに乗っていたフーガモンは、青銅棍棒でクラフトモンの頭部を思いっきり殴打した。

クラフトモンのヘルメットがバラバラに飛び散った。

…だが、クラフトモンは飛び退いた。
このヘルメットは「壊れることで衝撃を受け止める」タイプだ。

頭部にもろに打撃を食らっていたら即死だったかもしれないが…
ヘルメットがたった一度だけ、その致命傷級のダメージを肩代わりしてくれたのだ。

シマユニモンは…

「ブ…ブルルヒ…」

横に倒れた。
乗っていたフーガモンは、地面に自身の脚で着地した。

『…シマユニモンが殺られたか…』

よし!
これで、ティンクルスターモンとファンビーモンを確実に倒せるシマユニモンを討ち倒した!

勝ち筋が見えてきたぞ!
ファンビーモン軍団が撹乱しつつ、ティンクルスターモンとクラフトモンがデジタルゲートを駆使してヒット・アンド・アウェイで攻撃を仕掛ければ…

キンカクモンとフーガモンに勝つ目が出てくる…!

『…くっくっく…ははははは…!ようやく手札を出し尽くしたようだな!』

そっちもだろうが!

『貴様達は不利な状況を、敵の戦力を観察・分析し、弱点を突く戦略で不利を覆す戦いをしていた。まるでパズルのピースを埋めるようになぁ…!』

な…なんだ。
その余裕は。

『くっくっくっく!そう、貴様達の最大の弱点は…!手繰り寄せた細い細い勝ち筋を…未知の情報で潰されることだ!はっはっは!』

な、なんだ…
何を言っている!

ジャングルモジャモンのうち一体が、群れに紛れた本物のファンビーモンの毒針を食らった。

「ウホギャアア!」

ばたりと倒れるジャングルモジャモン。
ファンビーモン…まだいけるか?

その時…

ファンビーモンの群れの上から…
突如。

大量の溶けた蝋が落下してきた。

群れの中で、たった一体だけのファンビーモンは、その突然の攻撃を察知しきれずに、蝋に絡め取られた。

「ズビィ!?」

ファンビーモンを絡め取った蝋は、地面に落下してべちょっと貼り付いた。

ファンビーモンは、蝋から脱出しようとするが…
既に蝋は固まっている。
抜け出せない!

「ズ、ズビ、ズビィ!」

なんだ…
何が起こったんだ!

『そういうからくりか。まとめて全員仕留める算段だったが…。どうやっているかは知らないが、1体を除けば全ては蜃気楼のようなものだったらしいな』

ば、バレた…!
ドーガモン作戦が!

『くっくっくっく!これで厄介な蜂の動きは封じた!お前達、もういいぞ、出てこい!』

AAAがそう言うと…
ファンビーモンに恐れをなして逃げていた、成長期の蛮族デジモン達やキャンドモン達が、物陰からぞろぞろと出てきた。

『はーっはっはっは!どんな気分だ!?セキュリティ共!切り札を潰された瞬間は!』

カリアゲは顔を真っ青にしている。
「何だよ…何だよあの蝋は!」

…そうだ。
なにか忘れていたと思ったが…
これだ!

確実に、存在することが分かっていたはずなのに…
今までここにいなかった存在。

それが今まで潜伏していた可能性に…
私達はなぜ気付けなかったのだろう。

そう…
キャンドモン達の親デジモンが…!

ファンビーモンを蝋で捕獲したデジモンは…
大きな翼を羽ばたかせながら、上空からゆっくりと降り立った。

https://i.imgur.com/Wrtk29D.jpg

真っ白な…
悪魔のような姿だった。

これが、今まで隠れていた…
キャンドモンの親か!

『真の切り札は、伏せておくものだ…そうだろう?くっくっく…!はーっはっはっは!』

ま、まずい…
ここに来て、わけのわからない性質のデジモンが出現するなんて…!

想像していなかった。
完全に虚を突かれた。

プラチナスカモンを、ドリモゲモンを、シマユニモンをも失ってまで…
奥の手を隠し続けていただんて。

そんなの、予想していなかった…!

『まとめて蝋人形にしてやれ!アイスデビモン!』

つづく

※調子がいいので今日はもうちょっとだけ書きます

「ズ…ズビ…!」
固まった蝋から、頭部だけが出ている状態のファンビーモン。

そこへ、キャンドモンが二体やってきた。
や…やめろ!

「ドキャーー!」
キャンドモン達は、口から火を吐いた。

キャンドモンやアイスデビモンの蝋は、特別に高温で燃えやすい性質のようだ。
火は蝋に燃え移り、ファンビーモンを焼いていく。

「ズビィイーーーッ!」

あああ…
ファンビーモンが燃やされていく…!

ファンビーモンの翅は溶けた蝋が絡み付いているため、羽ばたかせても飛べないようだ。

それだけじゃない。
ファンビーモンは昆虫型デジモン。腹部の気門で呼吸をするタイプだ。
その気門に溶けた蝋が流れ込んでいるようであり、呼吸器官を焼かれている!

し…
死んでしまう…ファンビーモンが…!

「ズビ、ズビィィ!」

めらめらと燃えていくファンビーモン。
シャーマモンやコエモン達は…

「ウガァアア!」

先程さんざんビビらせられたことで鬱憤が溜まっているのだろうか。
ファンビーモンを寄って集って、青銅棍棒で滅多打ちにし始めた。

そこへ…

「やめろよおおお!」

なんと、ブイモンが腕をブンブン回しながら走り込んできた。

「ウガ!?」
シャーマモンの一体を殴り飛ばしたブイモン。
溶けた蝋の中からファンビーモンを引っ張って救出した。

「うあっちいぃいいいいい!」
溶けて燃えた蝋はブイモンの手を灼いていく。
だが、ブイモンは構わずにファンビーモンを背負って、走った。

「ゲート!はやく!」

私は、デジタルゲートをブイモンの眼の前に開いた。
ブイモンは、ファンビーモンを抱えてゲートへ飛び込んだ。

一旦ここまで

ブイモンを送り込んだ先はビオトープだ。
ここは飲み水をたくさん保存してある。

今のフローティア島は、井戸を作っている最中。
だから飲み水はこのビオトープに貯蔵しているものを使っているわけだ。

ブイモンは、燃えているファンビーモンを、自分の手ごと大きな水瓶に突っ込んだ。

水が蒸発するジュウ~という音が鳴る。

「あっちちちち!」

しばらく水につけると、溶けた蝋がファンビーモンの体から剥がれて水面に浮かんできた。
火は鎮火したようだ。

ブイモンは、ファンビーモンを水瓶から出して、床へ寝かせた。
ブイモンの手は火傷しているようだ。

ぐったりしたファンビーモンは、ブイモンの方を見ている。

全身を焼かれ、呼吸器を灼かれ…
蛮族デジモン達に青銅の棍棒で叩きのめされたファンビーモンの外骨格はボロボロに割れていた。

せっかく助けはしたが…長くないかもしれない。
「ファンビーモン…おまえのこと、いまでもだいっキライだよ」

ブイモンは、ファンビーモンに向かって話しかけ始めた。
「ちいさいころ…おまえにおそわれて、ハリをめにさされて…しにそうになった。ワームモンがたすけてくれなきゃ、オイラはおまえにくいころされてた」

ブイモンは静かに話しかけている。
「いまでも、おまえのこと、だいっきらいだ。ついさっきまで、いなくなってほしいって、ずっとおもってた。…でも、おまえは、あんなおっきなやつらと、ひとりでたたかってた」

「なあ、おまえはなんであんなつよくてこわいやつらとたたかえるんだ?つよいからか?」

ファンビーモンの体の傷を見ているブイモン。
「…ちがうよな。ファンビーモンも、オイラとおんなじチビッコなんだ。たたかれたらケガするし、よわいチビッコなんだ。それなのに…おまえは、デカいオトナとたたかって…なんたいもやっつけた」

ブイモンは目に涙を浮かべた。
「おまえのこと、キライだけど、でも…、カッコいいっておもっちまった。おまえみたいにカッコよくなりたいって…あこがれちまったんだ」

ファンビーモンの体を揺さぶっているブイモン。
「オイラがきらいでも…オイラがだいすきなひとたちにとって、おまえはたいせつなんだよ!だから…しんじゃだめだよ、ファンビーモン…!」



戦場では、ファンビーモンの立体映像が消えた。
もはや映していても意味がないので、ドーガモンが立体映像を消したのだ。
デジモンの体力は有限だ。あれだけの立体映像を個別に動かし続けていては疲弊してしまう。

ドーガモンはいったんビオトープに入り、特性栄養ドリンクで栄養補給をして休憩した。

リーダーが、ドーガモンに話しかけた。

「ドーガモン、休んでいるところ済まないが…新たな教師データで深層学習してほしい。頼めるか?」

『いいケド… なんだ』

「今までの戦いの録画データだ。ここから、ある情報を抜き取って、学習してほしい。できるだけ急ぎで」

『…クラフトモンがたたかってるもんナ おちおちネてもいられねーカ…』

戦場の状況は、圧倒的に不利だ。

クラフトモンは、先程まで巨大でパワフルなケンキモンを自身の体内の貯蔵エネルギーで操作していたため、だいぶエネルギーを消耗している。

それにクラフトモン本体の腕力はそれほど強いわけではないのだ。
ドリルの殺傷力は高いが…。

ティンクルスターモンも、かなりエネルギーを消耗している。
成長期の小さな体で、あれほどの殺傷能力のある回転タックルを放ち、既に敵デジモンを何体も斬り殺している。
ティンクルスターモンの高速飛行は、物理的な推進機構がなく完全にエスパー能力だけで推進力を得ているので、エネルギー効率が悪いのだ。

さすがはジャスティファイアが鍛え上げた国防用デジモン。
成長期どころか並の成熟期より強いが…スタミナが低めの短期決戦デジモンであるらしい。

カリアゲがAAAのデジドローンに話しかけた。
「AAA…てめえなんで今までアイスデビモンを繰り出してこなかったんだ。はじめっからアイスデビモンを繰り出していれば、シマユニモンも、ドリモゲモンも、失わずに済んだかもしれないじゃねーか!大事な部下じゃねえのかよ!」

『ん?そいつらなど、所詮は野生デジモンだ、どれだけ失おうが勝手にデジタルワールドから生えてくるだろう。畑のキャベツより容易くなぁ』

「なんだって…!?」

『てっきり貴様らはズバモンとルドモンを手懐けているとばかり思っていたが…その様子だと奴らを手懐けてはいないようだなぁ!くっくっく!』

「ふざけるな…お前…デジモンを何だと思ってやがる!」

『ん?その質問には前に答えたはずだぞ?同じことを何度も言わせるな… 道具だ!』

「んだとてめえ…」

リーダーがマイクを握った。
「…デジモン伝送路は遮断したはずだ。いつの間にアイスデビモンを送り込んだんだ」

『くくく、自分で考えてみたらどうだ?』

メガがサーバーの状況を確認している。
「うわ、そんな!デジモン伝送路が再び繋がってるよ!」

リーダーは驚いている。
「どういうことだ!」

メガが色々調べた。
「そうか…最初に伝送路を繋がれたときは、チビマッシュモンにマルウェアを仕込んでいた。でも今はファイヤウォールが破壊されてしまっているから…直にマルウェアを送り込んできて伝送路を繋げたんだ!」

クルエが驚いている。
「そんな…マルウェアはチビマッシュモン達が駆除したはずじゃ!?」

…ごめん。
戦場にモリシェルモンを放ったとき、チビマッシュモンにはいちど退却させたんだ。
あのまま戦場にいると、蛮族より優先してチビマッシュモンを食べるから。

…きっと、その僅かなチビマッシュモン不在期間を突かれたんだ。

『くっくっく…!勘付いたか!既に手遅れだがな…!』

こ…
こいつ…!

『さて、おしゃべりはもういいか?時間稼ぎにはもう付き合えん。終わらせよう、このゲームをな!』

カリアゲは怒りの表情を向けた。
「ゲームだと…ふざけんな!デジモンの命を、ゲーム感覚で…!」

『フーガモン、キンカクモン、アイスデビモン…そしてセピックモン!そいつらを片付けろ!』

つづく

『かかれ!』
AAAの号令と同時に、成熟期蛮族とアイスデビモンだけでなく、シャーマモンやコエモン、キャンドモン達も、一斉に襲いかかってきた。

数が…
数の差がありすぎる!

どうする…!?
一旦クラフトモンとティンクルスターモンをビオトープへ引っ込めるか…?

だが、そうしたとしてどうなる…?
無抵抗で我々のサーバーを破壊されて、壊滅するだけだ。

何か…!
何か手はないのか!?

クルエさん!
ベーダモンの説得はできないか!?

「た、助けてぇベーダモン!」

『なんだ ここまでなのか? つまらん』

「だめだぁ、手を貸してくれない!」
ちくしょう、だめか!

その時。パルタス氏から通信がきた。
『貴様ら喜べ!上を必死にスターモンとジオグレイモンの出撃許可が出たぞ!』

おお、それは助かる!
すぐデジモンを送ってください!

『わかった!だから伝送路の接続を許可しろ!』

え…
め、メガ!できそう!?

『ダメだ!デジモン伝送路の接続切り替えシステムがAAAに乗っ取られてる!ジャスティファイアのサーバーに繋げない!』

そ、そんな…
ジャスティファイアからの救援は来れないのか!

つ…
詰んだか…ついに…!?

デジタル空間の上空にデジタルゲートが開き…
パルモンが出現した!

「さいごののこり! ぜんぶ!」

パルモンは、花粉の備蓄ストックを、今自分自身の頭の花から出せる花粉とともにありったけ蛮族デジモン達の頭上からばら撒いた。

おお、いいぞパルモン!
花粉で目潰しをすれば、奴らの集団攻撃は封じられる!

花粉アレルギーによる催涙効果が効いている間に、クラフトモンのドリルやティンクルスターモンのカッターで攻撃すれば、ワンチャン…!

『ワンチャンあると思ったか?その手は二度通じん!キンカクモン、電撃バットへマントを巻き、空中へ放電しろ!』

キンカクモンは、言われたとおりに毛皮のマントを脱ぎ、バットへ巻いて空中へ掲げた。

そして、キンカクモンのバットから放電が放たれた。
キンカクモンも電気を使えたのか…!


すると…
ばら撒かれた花粉が、全てマントに吸い寄せられた。

「ゲホ!ゴホ!」
キンカクモンは花粉が効いているためか、苦しそうに涙と鼻水を出し始めたが…
他の蛮族デジモンや蝋燭デジモン達は平気そうだ!

か…花粉が…
対処された!

カリアゲが驚いた。
「なんだ!?何が起こったんだ!?」

リーダーは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「静電気だ…!ヤツはマントに強力な静電気を蓄電させることで、ばら撒かれた花粉をクーロン引力で吸い寄せたんだ!」

そ、そんな…!

『仕留めろ、セピックモン!』

セピックモン三体は、パルモン目掛けてブーメランを投擲した!

パルモンはデジタルゲートへ飛び込んで逃げようとしたが…
両足にブーメランが1つずつ命中した!

「ぎゃああっ!」

パルモンの両足はへし折れてしまった…!
どう見ても骨折している。

だが、パルモンはツルを伸ばしてデジタルゲートを掴み、どうにかビオトープへ戻ってきた。

ビオトープに戻ってきたパルモン。
「あううぅぅ…!」
折れた両足がひどい内出血を起こしている。
「いたい…!」

カリアゲがパルモンに話しかける。
「パルモン…今できる中で一番の手は…!やっぱ進化だ!」

「しんか…!」

「このままじゃクラフトモンとティンクルスターモンはきっと蛮族たちに殺される…!他のみんなも!頭数に差がありすぎるんだ!」

「うぅ…!」

「パルモン…ブイモン…!そしてボスマッシュモン!きっとやれるはずだ!今こそ…進化だ!」

パルモンとブイモン、そして体をようやくいつものサイズにまで形成し終えたボスマッシュモン(真・ボスマッシュモンの分身)は、カリアゲの言葉に頷いた。

「パルモン…しんかぁーー!」
「ブイモン!しんかーーー!」
「マシュモ、ミシュマァーーー!!」



「「しんかできない…」」
「マシュマ~…」

ううっ…
やっぱり進化は気合いを込めるだけですぐに反応が始まるものではないんだ…!

「スコピオモンやルカモンが戦闘中にレベル5へ進化したから、いけると思ったんだけどな…ちくしょう…!」

やむを得ない!
ティンクルスターモン、クラフトモン!いったんゲートに入れ!

そう指示すると、ティンクルスターモンとクラフトモンは、私が開いたデジタルゲートへ入った。

二体はビオトープに入ってきた途端、地面に腰を下ろした。(ティンクルスターモンに腰はないが)
だいぶ疲労しているようだ。

とりあえず、特製栄養ドリンクを与えて栄養補給をさせた。

こ…
これからどうします!?リーダー!

「俺達の最後の切り札、それは…この自由自在にデジタルゲートを開けるランドンシーフだ。これを使って…粘れるだけ粘る!マッシュモン達は、伝送路を乗っ取っているマルウェアを探して駆除してくれ…できるか!?」

「シマッ!」

ボスマッシュモンとチビマッシュモン達は、敬礼のポーズをとった。

頑張ってくれ…!

しかし、これだけの数の蛮族デジモン…
戦力差を覆す方法はあるんですか!?

「…ドーガモン。深層学習は終わったか?」

『なんとか おわったゼ』

「よし…」

…何か秘策があるんですね。

『…デジタルゲートを開く技術がうっとうしいな。どこかにデジタルゲートを制御するシステムがあるはずだ、虱潰しに破壊しろ!』

蛮族デジモン達は、デジタル空間を次々と破壊していく。

メガは顔を青くしている。
「あああああ!サーバーのシステムが次々に破壊されていく!!」

『デジモン達だけに任せるのは非効率か。ファイヤウォールがない今、通常のマルウェアも送り付けてやるか…くっくっく…!』

すると…
AAAのデジドローンのすぐ近くに、デジタルゲートが開き…
ティンクルスターモンが出てきた。

ティンクルスターモンは、AAAのデジドローンを真っ二つに切り裂いて破壊した。

これでもう、AAAはデジモン達に指示は出せないし、デジクオリアでデジタル空間内を覗くこともできないはず…!

『くくく、ハズレだ』
そう言って、物陰からデジドローンが出てきた。
くそ、さっきのはダミーか…!

ティンクルスターモンは、今出てきた方のデジドローンに向かって飛んでいく。

『…軌道が決まったな!フーガモン、やれ!』

AAAがそう言うと、物陰からフーガモンが飛び出てきて…

青銅の棍棒を構えた。

しまった、罠だ!
戻れティンクルスターモン!

逃走用デジタルゲートを開こうとしたが、間に合わず…
フーガモンがフルスイングした棍棒が、ティンクルスターモンに当たった!

カキーンと甲高い音を立てて、勢いよく吹っ飛んでいったティンクルスターモンは、そのままデジタル空間の壁に突き刺さった。

だ…大丈夫かティンクルスターモン!

『ウゥ ダ ダメソウッス』

…致命傷を負っていないのが救いか…。
蛮族デジモンがトドメを刺しに来る前に、デジタルゲートを開いてビオトープにティンクルスターモンを回収した。

てぃ、ティンクルスターモンまで…!
もうクラフトモンしか、成熟期相手にまともに戦えるデジモンがいない…!

クルエが席から立った。
「…確か、キノコ生成用のスパコンありましたよね。少し借りますね」

リーダーが答えた。
「い、いいが…何をする気だ?」

「あと、電話もちょっと借ります」

「いいが…だから何をする気だ!?」

「…リーダーには言えないことですが…今、私達に必要なことです」

「…そうか。信じよう」

「あざまっす」

クルエさん…
何か策があるんだろうか…?

『くっくっく!もう貴様達にできることはないぞセキュリティ!蛮族共、システムを徹底的に破壊し尽くせ!』

AAAのデジドローンがそう言い放つが…

『…?おい、シャーマモン共、コエモン共…どうした。聞こえていたら返事をしろ』

…成長期蛮族からの返答がないらしい。

『ん?おかしい…シャーマモン!コエモン!貴様らどこへ行った!?』

あれだけたくさんいたシャーマモンとコエモン達は…
いつの間にか
どこにもいなくなっていた。

『なんだ…何をした貴様ら…!?成長期蛮族どもをどこへやった!』

確かに…
どこへ行ったんだあいつら!?

私の隣で、リーダーが呟いた。
「戦えるデジモンは残り少ない。だが、まだ俺達には武器が残っているということだ。…思考という武器がな」

『何を言っている…!』

リーダー…
何をしたんだ…?

つづく

何したんですかリーダー?

リーダーは、マイクを切って少しだけ呟いた。
「…ドーガモン。投影。AAA。以上だ」

それだけ言った後、リーダーは再びマイクをONにした。

それだけ言われても…全然わからん…!
できればもっとちゃんと教えてほしい…!
あと、できれば何かするなら先に言ってほしい。

…だが、この状況では仕方ない。

もしも私達の会話の間に、敵が都合よく攻撃の手を止めてくれるのなら。
もしも話す時間が無限にあるのなら。
リーダーは事細かに、これから何をするか、今何をしたのか、丁寧に相談し、教えてくれるだろう。

チェスの駒を指し合うように、考える時間がいくらでも取れるのなら。
誰がどのデジモンに何をどう指示するか、チームのみんなでじっくり話し合って決めることができるだろう。

だが現実には、敵は我々が話し合っている間に攻撃を待ってくれなどしない。

一分一秒ごとに状況が変化する戦場だ。
攻撃のチャンスが一瞬で生まれては、一瞬で消えていく。
危機が一瞬で訪れ、パートナーデジモンに襲いかかってくる。

たとえ、その度に「待った」を宣言し、チームみんなでじっくり相談をしようとしたところで、ただ攻撃のチャンスが去っていき、新たな危機が訪れるだけだ。

もしかしたら、リーダーが成長期蛮族を消した手品は、事前に私にじっくり説明する時間をとっていたら、機を逃して間に合わずに失敗していたものだったのかもしれない。

…そう考えると。
たとえ軽率な行動で悪手を指し、大失敗するリスクを抱えてでも、今できることを、間に合ううちに、とにかくやり続けるしかない。

リーダーもクルエも、誰も彼も説明不足になるのは仕方ないといえるだろう。
説明する余裕がない状況なのだから。

しかし、とうとう攻撃できるのがクラフトモンだけになってしまった…

敵の蛮族デジモン達は、我々最後の武器であるランドンシーフのシステムを破壊して、デジタルゲートを自在に開く戦術を無効化しようとしている。

今、こうしている間にも、次々と蛮族デジモン達は我々のサーバーのシステムを破壊している。
じっと機を伺っていれば手遅れになるだけだ。
なんとかしないと…!

…でも、ここからどうしますか。
さっきの手品で、残りの成熟期達も消せませんか?

「AAAが見ている所では使えない手だ。それに、まだ戦力差を覆せる可能性はゼロじゃない」

どうするんですか…?

「チビマッシュモン達を繰り出して、デジタル空間内のマルウェアを駆除させて、デジモン伝送路のコントロールを取り戻せれば、ジャスティファイアからスターモンを呼べる…!」

…できますか?
この状態で。

「じゃあ他にどうする」

…やりましょう。
たとえ破れかぶれでも、本当の手遅れになる前に。

「マシ~~~~~~!!」

デジタルゲートから、チビマッシュモン軍団が飛び出した。

チビマッシュモン達は、デジタル空間内にばら撒かれたマルウェアの匂いを嗅ぎつけ、散らばって走った。

最新のマルウェアは恐ろしい。
AAAが我々のサーバーに送り付けてきたマルウェアは、何も対処しなければ蛮族デジモン達が暴れまわるよりも早くサーバーのシステムを破壊してしまうものかもしれない。

だが、現状どうにか被害を押し留めることができているのは、うちの研究所のセキュリティ部門やメガが頑張ってマルウェアに対抗してくれているからだ。

敵の方が優勢だが、どうにか必死に綱引きをしている状況だ。

だがデジタル空間においては、情報生命体デジタルモンスターが絶対強者だ。
デジモンにとっては、マルウェアは楽に狩れる餌のようなものだ。

チビマッシュモン達は、次々とマルウェアを見つけては食べていく。

『始末しろ!そいつらを!』

「ガウオオオオ!」

フーガモン達は、チビマッシュモンを殺すべく、青銅棍棒を掲げて襲いかかってきた。

「オ゛ォン!」

フーガモンは、地面でマルウェアを貪っているチビマッシュモンを棍棒で叩き潰した。

「マ゛シィイイイイ!」

…今だ!

フーガモンの頭上でデジタル空間が開き…
クラフトモンがドリルを回しながら飛び出してきた!

ドリルの回転音に驚き、左手を後ろに回しながら振り返るフーガモン。

クラフトモンは、ドリルを突き出した。

フーガモンがとっさにかざしてきた左手の平を貫き、フーガモンの胸部にドリルが突き刺さる。

「ギャアアアアアァアアア!!」

いけ!
そのまま大動脈をブチ抜け!

フーガモンは、棍棒を振りかざした。
ヘルメットが破壊されて素の頭部が露出しているクラフトモンの側頭部に、棍棒がヒットした。

すさまじい金属音だ。
あの状況で反撃してくるなんて…なんて奴!

クラフトモンはぐらりと揺れたが…
手を緩めず、フーガモンの胸部へさらに深くドリルを突き刺した。

「ガギャアアアアアアアア!」

フーガモンの傷口から勢いよく血が吹き出した。
やったぞ!

「クラフトモン!後ろだ避けろ!」
リーダーの声がした。

クラフトモンはとっさに横へ飛び退いた。

…クラフトモンの脚に、大量の溶けた蝋がぶちまけられた。

「グウゥ!?」

クラフトモンは距離を取った。

『フン…素早い奴だ。もう少しで頭から蝋を被らせて窒息させたやれたものを』
AAAの声がした方を見ると…
デジドローンのとなりに、アイスデビモンがいた。

クラフトモンの脚についた蝋は、早くも固まった。
カチカチになったクラフトモンの脚は、だいぶ動かしづらそうだ。

キャンドモンの親…
ガソリンのように高いオクタン価の特殊な蝋を操る、白き悪魔…アイスデビモン!

メガが口を挟んだ。
「なんでアイスデビモンなのに蝋なんだ!それじゃワックスデビモンだろ!」

『む…』

「お前もしかして蝋と氷の区別つかないのか?そんなの令和の小学生ならみんな分かるぞ!ヘボエンジニアどころか幼稚園児以下の語彙力だお前は!」

何急に!?
とつぜんメガがAAAのネーミングを罵り始めた。

「バーカバーカ!」

『バカは貴様の方だメガ。アイスデビモンは、蝋だけでなくガラスや石灰も取り込んで操れるのだ!私の傑作デジモンだ!』

アイスデビモンはAAAの指示を待っており、クラフトモンはアイスデビモンの様子を伺っている。

「ガラスも石灰も氷じゃないじゃん!何がアイスデビモンだ!氷を武器にしないくせに!そいつの名前はセメントデビモンとして登録してやる!」

『浅学!短慮!!短絡的!!!英語のスラングでは氷のように美しく輝く宝石やガラスをiceと呼ぶのだ!だいたい常温で融解する氷なんか武器にしてどうする!解けてしまうだろ!流体を敵に浴びせて硬化させたいなら、常温で個体の物質を武器にした方が合理的だ!』

「今だ!デジタルゲート開け!」

クラフトモンの隣にデジタルゲートが開いた。
クラフトモンはゲートへ飛び込んだ。

『しまった!逃げられた!クソ!』




ビオトープでは、オタマモンがクラフトモンの脚を火で炙って、蝋を溶かした。

クラフトモンは、フーガモンに殴られた側頭部を押さえて痛そうにしている。

よくやったクラフトモン!
これでフーガモンは仕留めたか!

そう思ってデジタル空間を見ると…

アイスデビモンは、フーガモンの傷口に蝋を詰め、止血をしていた。

ううっ…
あんなことまでできるのか…

一旦ここまで

衝撃とともに、ビオトープ内に警報ブザーが鳴り響いた。

デジタルゲートを開くシステムが破損し始めている!
いよいよ敵の手が王手に届きかけている。

これまで、インターバルを挟みながらヒット・アンド・アウェイを繰り返してきたが…
一休みできるのはこれが最後になりそうだ。

い、いけるかクラフトモン!
だいぶ辛そうだけど…

「…」

クラフトモン?

「しまには わたしのタマゴが ひとつある かしこく やさしい りっぱなせんしに そだててくれ」

…分かった。

「いこう さいごの たたかいだ!」

クラフトモンは、よろめく脚に力を入れて踏ん張った。

アイスデビモンは、逃げ惑うチビマッシュモン達を蝋で次々と固めている。

そんなアイスデビモンの背後に…
デジタルゲートがひとつ開いた。

そして、クラフトモンが飛び出してきた。

『アイスデビモン!後ろだ!』

アイスデビモンは後方を振り返り、クラフトモンへ蝋を浴びせた!

…だが。
蝋はクラフトモンをすり抜けて、地面に貼り付いた。

『…幻影だ!ファンビーモンと同じ!囮だ!』

本物のデジタルゲートは…
フーガモンの頭上に空いた。

『フーガモン!頭上だ!迎え撃て!』

「ウガウ!」

先程胸部をドリルで抉られてよほど怒っているのだろう。
怒りの表情を向けて、棍棒を構えて頭上を向くフーガモン。
棍棒で迎撃する気だ…!

ゲートから落ちてきたのは…
透明な粘液だった。

粘液はフーガモンの顔にかかった。

「ウガ!?」


次に顔を出したのは…
クラフトモンでなく、オタマモンだった。

オタマモンは、フーガモンの顔に火炎放射を放った。

粘液もとい燃料に引火し、フーガモンの顔面が燃えた。

「アガアアォァアアアアア!!!」

顔を押さえるフーガモン。
よし、これでフーガモンは目が効かない!

オタマモンに続いて、クラフトモンが飛び出した。

クラフトモンは、フーガモンの後頭部目掛けて…
ドリルを突き出した!

フーガモンは…
空中で宙返りをし…

なんと、全く視界が効かない状況にもかかわらず、強烈無比なキックを放ち、クラフトモンを蹴り飛ばした!

地面を転がるクラフトモン。
「ゴボッ…ぐ…!」

なんだ!?
一体どうやって、クラフトモンを探知した!?
視界が効かず、顔面が燃えているのに!
AAAの指示も無かったのに…!

まさか、テレパシーのような能力が…!?

リーダーが驚いている。
「ヤツは…おそらく『勘』で蹴りを放った…!」

勘!?
そんなバカな!

「長い間、パイルドラモン現役時代のディノヒューモン農園の勢力と戦い続け、野菜の強奪を成功させてきた奴らだ。信じられないが…『戦いの勘』で、俺達の策を打ち破ってきた…!」

な、なんてヤツ!
フーガモン…蛮族の王。
あいつを甘く見ていたのだろうか。

クラフトモンは立ち上がろうとしている。
「キー!キキー!」

セピックモン達が、遠くからブーメランを投げ、クラフトモンを攻撃している。
一発一発が強烈なダメージだ…!

や、やばい!

フーガモンは、瀕死コエモンの腹部をパンチで貫き、傷口から出る出血で顔を洗った。
そしてコエモンの衣類を剥ぎ取り、頭を擦り付けて、粘液を拭き取ったようだ。

そして、クラフトモンのところへ来て…
クラフトモンを力いっぱい、何度も踏みつけた。

く、クラフトモン…!
戻れ!

システム不調で不安定気味なデジタルゲートを、クラフトモンの真下へ空けた。

だがフーガモンは、クラフトモンを蹴り飛ばし、ゲートが空いた位置から移動させた。

クラフトモンは、立ち上がろうとしているが…
ボロボロだ。
ロボットのように見えるその体の至るところから出血している。

もう、クラフトモンは戦えない…!

「トドメエエェェ!」

フーガモンは、棍棒を構えて、クラフトモンへ突撃した。




「やめろおおおおおおお!」
何者かが、鎌を振りかざしてフーガモンを攻撃した。
フーガモンはその鎌を躱して、立ち止まった。


「ふぅーっ…ふぅーっ…!クラフトモンを…それ以上…いじめるな…!」
スナイモンの鎌を構えたブイモンだ。

ぶ、ブイモン…

「あああああ!おいらが!あいてだあああああ!」

ブイモンはスナイモンの鎌をブンブンと振り回して、フーガモンを攻撃する。

フーガモンは軽々とそれを躱して…
ブイモンの腕を蹴り、鎌をふっとばした。

「う、ああぁ!ぶ…ぶきが!なくったって!だああ!」

ブイモンは己の拳でフーガモンに殴りかかるが…
強烈なカウンターパンチを食らって、地面を転げ回った。

「ぎゃう!」

『くっくっく…!もうそんなザコしかいないのか!農園にいるブイモンだな?私の忠実な信徒達は、そいつと同じ顔をしたデジモンをこれまで何体もブチ殺してきたぞ!』

『はーっはっはっは…もう終わりだなぁ!ナニモン、私からの通信が途切れた時にどうすればいいかは分かっているな?』

AAAがそう言うと…
高いとこで寝っ転がってるハゲオヤジデジモンが、「ウィー」と言いながら手を上げた。
…あいつナニモンって名前なのか。

『トドメをさせ…フーガモン!』

フーガモンは、ブイモンににじり寄って…
棍棒を振りかざした!

「ガオォーー!」

「ちく…しょう…!」

その時。

横から飛び出してきた何かが、ブイモンとフーガモンの間に割って入り…
ブイモンの代わりに棍棒を食らった。

「ひっ…!え…!?」

『なに…!?』

攻撃を受け止めたのは…
白い大きなデジタマだった。

ワームモンとサラマンダモンが、割れたデジタマと融合してできたタマゴだ。


棍棒の強烈な一撃を受けたデジタマは…
ビシビシと大きなヒビが入った。

『なんだ?ゲートから出てきたデジタマが…自ら転がって、ブイモンを庇っただと?あり得ない現象だ…!』

「あ、ああ、ワームモン…!なんで…お前また…!」

デジタマの割れた部分からは、何かのエネルギーが流れ出ている。

「ワームモン…おいらまた、オマエを盾に…!あ、ああ…!」
ブイモンは、デジタマを抱きしめた。

『くっくっく…!何やら知らんが面白い現象だな…デジタマがひとりでに動き回るなど…!どうやって動いている?手足も感覚器もないのに!』

AAAがそう言うと、フーガモンがブイモン達を見て余裕そうに嘲笑った。
「ガッハッハッハッハ!!」

「…そっか…そうだったんだ…。オイラ…かんちがいしてた。ワームモン…おまえのこと…」

「おまえは…オイラがみがわりにしようとしても…あのときほんとは…」

「じぶんでオイラのうでから、にげられたんだ」

「でも、そうしなかったのは…」

「オイラを…かばってくれたんだな…ワームモン…!」

ブイモンは目を閉じて、割れたデジタマを抱き締め…
目を見開いた。

『くっくっく!傑作だ、割れたデジタマに何を話しかけている?』

「…ワームモン…またいっしょにたたかおう…」

ブイモンは立ち上がった。

「ちがう、いっしょにたたかうんじゃない…」



「ひとつになって!たたかうんだ!」

割れたデジタマから、突如不思議な光が放たれ…
ブイモンを包んだ。

『ん?何だ…?この光は?』

割れたデジタマに、さらにヒビが入り…
外角が細かく分離した。

デジタマの中から放たれる光は、力強い眼光を秘めたブイモンを包み込む。

ブイモンのシルエットは、少しずつ背が高くなっていく。

デジタマの割れた外殻が、光り輝くブイモンの手足や胴体、頭部に貼り付き、装甲を形成していく。

『なんだ…なんなんだこの現象は!フーガモン!何かわからんが殺せ!』

「ウガアアァァ!」

フーガモンは、青銅の棍棒でブイモンに殴りかかった。


その棍棒を…
ブイモンは片手で止めた。

「ガウウゥ!?」

「よくも…クラフトモンを…ファンビーモンを…みんなを…!」

やがて光が消えると、そこには…
燃え上がる勇気のように勇ましい、炎のような紋様が刻まれた装甲を手足と胴体、頭部に纏ったデジモンがいた。

手足の装甲と頭部には、ナイフのように鋭いツメとツノが生えている。

「てめえら…灰になっても燃やし尽くしてやる!」

装甲を身に纏ったブイモンは、手のツメに炎を纏った。
ツメが高熱によって赤熱化していく…!

「ウ、ウガオオオォ!」

フーガモンは棍棒をひったくると、再度振りかぶった。

「うらああああ!」

ブイモンのツメは、青銅の棍棒を一瞬で溶断した。

「ガァウ!?」

『な…なんだこの切断力は!?』

「だあああらあああああ!」

ブイモンが再度ツメを振りかざす。

「ヒイッッ!?」

フーガモンは両腕でガードする。


…炎のツメを受け止めたフーガモンの両腕は、プラスチックカッターを押し付けたれた発泡スチロールのようにスパッと切れた。

「ガ…ゴァアアアアア!?」

「邪魔!なんだ!よ!」

ブイモンはツメをフーガモンの腹部へ突き刺した。

「消えろぉおお!」

フーガモンの腹部へ突き刺さったツメから出た炎が、フーガモンを体内から焼き付きした。

「ゴボォォォオォォ!」

フーガモンの口から炎が吹き出した。

ブイモンがフーガモンの腹からツメを引き抜くと…
フーガモンは倒れた。

『バッ…バカな!あのフーガモンを…こうもあっさりと…!?貴様、何をした…!』

まさか…この現象は…!

リーダーが頷く。
「間違いない。この土壇場で…ついに成功させた。覚醒したんだ…デジクロスの力が!」

『バカな…こんな都合の良いタイミングで偶然進化したのか!?成熟期に!そんな幸運が!あり得るのか!』

「幸運でも偶然でもねーよ!」
そう叫んだのはカリアゲだった。

「いけ!ブイモン!」

「…カリアゲ。オイラはブイモンじゃない」

「えっ違うのか!」

「ここにいるよ!ワームモンも、サラマンダモンも!」

「そうか…いるのか!じゃあ新しい名を付けてやる!」

「名前は…炎の竜!フレイドラモンだ!」
https://i.imgur.com/nMECtCB.jpg

フレイドラモンは、蛮族デジモン達を睨みつけている。

『こ、これは面白い現象だ…。だが…デジタルワールドにはエネルギー保存則がある!それだけのパワー、常に発揮していれば長くはもつまい!』

「…かもな」
フレイドラモンは自分の手を見ている。

『運良く手札にジョーカーが舞い込んだようだなぁ研究者共!だが、ゲームにはジョーカーたった一枚だけでは勝てないことを!教えてやる!』

つづく

ブイモンがついにデジクロスを成功させ、超強力な戦闘能力を手に入れた。
その力は蛮族の王であるフーガモンを、手負いとはいえ圧倒するほどだった。

しかし、我々は知っている。
デジクロスの弱点…
それは、エネルギーの消耗が激しく、形態を維持していられる時間が短いこと。

そして活動限界まで戦い続けてからデジクロスを解除した場合、餓死寸前までエネルギーを使い果たした状態となり、戦闘不能になることだ。

つまり…
エネルギーを使い果たすまでに、敵を全滅させれば我々の勝ち。
エネルギーを使い果たせば敵の勝ちだ。

已然、一切気が抜けない状況だ…
それでも、やるしかない!

フレイドラモン!
行け!

「うおおおおおお!」
フレイドラモンは、アイスデビモンへ一直線に突っ込んでいく…!

「フレイドラモン!先にチビマッシュモン達を助けろ!」
リーダーがそう言うと、フレイドラモンは方向転換し、チビマッシュモン達を叩き潰しているジャングルモジャモンの方へ向かった。

なるほど…

「ウ、ウホォ!」
ジャングルモジャモンは棍棒を振りかざす。

「だりゃあ!」
フレイドラモンは、爪を突き出し、ジャングルモジャモンの喉へ突き刺した。

「焼けろ!」
フレイドラモンの爪から炎が吹き出し、ジャングルモジャモンを内部から燃やした。
「ウッホォォァアアア!」
ジャングルモジャモンが倒れた。

「マシ~!」
チビマッシュモン達は、ジャングルモジャモンのせいでずいぶん数を減らされてしまったが、残った個体はまだいる。
残ったチビマッシュモン達が、マルウェアを食べ、システム障害を緩和させた。

『セピックモン!やれ!フォーメーションRだ!』
AAAが指示を出すと、セピックモン3体はチビマッシュモン叩きをやめて、フレイドラモンを囲い、円を描くようにぐるぐる回った。

フレイドラモンは、セピックモン一体へ近付こうとする。
すると、背後に回ったセピックモンがブーメランを飛ばしてきた。

「いて!」
ブーメランがフレイドラモンに命中する。

フレイドラモンが背後を振り返ると、再びセピックモンが後ろに回り込み、ブーメランを投げた。
「痛ってぇ!」
フレイドラモンの背中にブーメランが命中する。

『そのままダメージを与えてスタミナを削れ!』

くっ…!
早くも適応してきたか!
フレイドラモンは近接戦闘が得意なようであり、遠距離攻撃は苦手そうだ。

セピックモンはこのフォーメーションのまま、付かず離れず距離をとって攻撃し続け、フレイドラモンにちくちくダメージを与えて消耗させていくつもりだ…!

「うっぜえよ…てめーら!ワームモン!替わるぞ!」
フレイドラモンがそう言うと、フレイドラモンの体が突如光った。

光が消えると…
姿が変わっていた。
https://i.imgur.com/DZ39Q5x.jpg

その姿は、どことなくワームモンの親であるスティングモンに似たシルエットだ。

フレイドラモンによく似た装甲を頭部と手足に纏っており…
赤い翅を生やしている。

これは…!
パイルドラモンがディノビーモンに変形したのと同じだ!
フレイドラモンも、別の姿になれるのか!

な、なんて呼ぶ!?

私がそう言うと、カリアゲが口を開いた。
「フレイドラモンの影!シェイドラモンだ!」

わ、わかった。
あの形態はシェイドラモンだな!

『形態変化…だからどうした!』
「ウキー!」

再び、セピックモンの一体がシェイドラモンの背後からブーメランを投げた。

シェイドラモンは…
手から糸を出して、ブーメランを絡め取った。

『なに!?』
「ウキ!?」

二体目のセピックモンがブーメランを投げようとするが…
シェイドラモンは両手から糸を伸ばし、セピックモン二体を拘束した。

「う、ウキ!」
強力な粘着糸が、セピックモンの体を動きを鈍らせる。

シェイドラモンは、セピックモン達に小さな火を飛ばした。

すると、飛ばされた火は粘着糸に着火し、一瞬でセピックモン二体はごうごうと炎上した。
「ウッギャアアアアアアア!!!」
転げ回るセピックモン達。

どうやらシェイドラモンは、ワームモンの粘着糸と、サラマンダモンの燃料粘液の性質を併せ持った糸を操れるようだ。

『…形態が変わると、能力も変化するのか…』
AAAは、シェイドラモンを観察しているようだ。

残るセピックモンは一体。
「キ…キキー!」
セピックモンは背を向けて逃げようとした。

シェイドラモンはそれを追おうとする。

「後ろだ!シェイドラモン!」
リーダーの言葉を聞いて振り向いたシェイドラモン。

キンカクモンが、電撃バットが振りかざしていた。
シェイドラモンは、両腕でガードするが…
電撃バットは、防御態勢のシェイドラモンを弾き飛ばした。

空中で回転して着地するシェイドラモン。
キンカクモンの方を向き直る。

そして、キンカクモンに糸を伸ばそうとすると…
「後ろ!ブーメランだ!」
リーダーはシェイドラモンの背後から近づく危機を伝えた。

シェイドラモンは大きく横に飛び退く。

シェイドラモンの背後から飛んできたブーメランは、キンカクモンの目の前でぐるりと回り、セピックモンの手元へ戻った。

シェイドラモンは…
一瞬のうちにフレイドラモンへ変形した。

そして、背後からチクチク攻撃してくるセピックモンへ、一気に距離を詰めた。

『は、速い!』
AAAは驚いている。

フレイドラモンは、セピックモンを蹴り飛ばす。
「ウキー!」
地面を転がるセピックモン。

キンカクモンは、フレイドラモンを背後から攻撃しようとする。
だが、それよりも早く、フレイドラモンは鋭利な足のツメでセピックモンの腹部を突き刺した。
「ウギャアアアア!」

そして、ツメから噴出させた炎でセピックモンを内部から焼き…
キンカクモンへ蹴り飛ばした。
「グギャアアアア!」

腹部から炎を吹き出しながら、キンカクモンの方へ吹き飛んでいくセピックモン。

キンカクモンは、それを電撃バットで払い除けた。

キンカクモンとフレイドラモンは対峙する。


『セピックモンとジャングルモジャモンが全滅したか…』

残っているのは、キンカクモンとアイスデビモンだ…!
壁の腕でボケっとしているナニモンは相変わらず攻撃も破壊活動もしない。

『だが…これで手駒が尽きたと思うな!来い!信徒達よ!』

AAAが号令を出すと…
ネット回線のトンネルから、シャーマモンやコエモン、ジャングルモジャモンがわらわらと現れた。
しかもそれらの多くは弓矢を持っている。

「クソ!まだ来るのかよ!せっかく小せえ奴らを追っ払ったのに!ふざけんな!」
カリアゲが台パンする。

『くっくっく…!私にデジモン伝送路のコントロールを支配されているとはこういうことだ!デジタルワールドには、私の忠実な信徒がまだまだいるぞ!』

賽の河原の石積のような徒労感だ。

そうだ…
マッシュモン達に頑張ってもらい、デジモン伝送路のコントロールを奪還できなければ、敵デジモンはまだまだ増えるし、スターモンは助けに来れない。

「ぜぇっ…ぜぇっ…」
フレイドラモンの息が荒くなっている。

「ウガオーー!」
増援達は、蜘蛛の子を散らすようにデジタル空間に散らばった。

ある個体はデジタル空間を直接叩き壊そうとする。

ある個体はチビマッシュモンを叩き潰して、我々がマルウェア排除と伝送路を奪還するのを妨害しようとしている。

ある個体はフレイドラモンへ弓矢を構える。

「うああああああ!邪魔だ!どけえええ!」
フレイドラモンは、増援の蛮族達に飛びかかろうとする。

「待てフレイドラモン!敵は弓矢を持っている!」

「弓矢ってなんだ!?」

「飛び道具だ!ファンビーモンの針!」

「な!?」

『射てぃ!』
成長期蛮族の群れは、一斉に弓矢を放ってきた。
フレイドラモンは、それらのいくつかを払い除けたが…
4、5発ほどが命中した。

「痛ッてええ!」

蛮族の飛び道具は、確実にフレイドラモンの体力を削っていく。

『くっくっく…!デジモンのチーム同士の戦いは…成熟期が最高戦力だ。だが実際は!成長期の使い方こそが!雌雄を決するのだ!』

もっともらしいことを言いやがって…!

「みみっちい!」
フレイドラモンは、シェイドラモンへ変形する。
「まとめて片付けてやる!」
シェイドラモンは大きな翼を羽ばたかせ、空中で巨大な蜘蛛の巣状の網を作り出し…
それを蛮族弓兵たちに頭上から浴びせた。
「ウホホ!?」

「これで…一網打尽だ!」

そう言い、シェイドラモンは火炎弾を飛ばした。

網に包まれた蛮族弓兵達は、炎に包まれる。
「ウッギャアアアアアアア!!」
業火に焼かれる蛮族弓兵達。

「やった…」
シェイドラモンは地面へ着地する。

「ぜーはー…ぜーはー…!」
シェイドラモンは、明らかに体力を消耗してきている。

当然だ。
燃料というのは、熱量(カロリー)という科学エネルギーを持たせた物質だ。

そのカロリーは、当然シェイドラモンの肉体から消費したもの。

これだけの炎を放ち続けたということは…
それだけシェイドラモンの体力をすり減らしているということだ。

…シェイドラモン!キンカクモンが来た!

シェイドラモンは空を飛びながら後方を振り返った。
キンカクモンが電撃バットを掲げてやってきる。

シェイドラモンは、近付くのはごめんだと言わんばかりに、空中から糸を飛ばしてキンカクモンを攻撃する。

キンカクモンは、糸を巧みに回避する。

「ぜぇっ…!ぜぇっ…!」
糸を飛ばすのにも、空を飛び続けるのにも、エネルギーを消耗する。
このままでは…シェイドラモンがもたない…!

『くっくっく!どんどんバテてきているな!ダメ押しだ…さらに来い!信徒達!』

くそっ…もうこれ以上の増員はやばい…!

…しかし。
蛮族の増援は来ない。

『ん!?な、なんだ…?』

ネット回線トンネルから、蛮族の増援は来ない。

『私のところへ繋いでいたデジモン伝送路が…遮断されているだと…?』

お、おお?
これは…!
敵の伝送路を遮断できたのか!

め、メガ、これは!?
君がやったのか!?
「…違う」

え、違うの?
「僕は未だに伝送路のコントロールを奪還できていないし…マッシュモン達も伝送路接続のマルウェアを駆除できていない。なのに、突然、AAAへの伝送路は遮断された!」

ど、どういうこと…?
有り難いけども、何がどうなってそうなったんだ!?

私が困惑していると…
席に戻ってきていたクルエが、私に向かってウインクした。

そして、口元に指を添えて、「しー」っとサインを送ってきた。

よくわからないが…
クルエの策のおかげで、AAAのところへのデジモン伝送路は断ったようだ!

『なん…だと…!まだ何か奥の手を隠していたのか…?』

とはいえ、先程敵が送り込んできた増援のうち、チビマッシュモンやデジタル空間を攻撃していた個体はまだ生き残っている。

どうする…?
そっちを片付けていては、キンカクモンやアイスデビモンと戦う体力がもたないかもしれない。

だが、そちらを放置していては、仮にキンカクモンとアイスデビモンを倒しても、体力を使い果たしてしまい、ボコられるかもしれない。

究極の選択だ…
どちらを先に…!

「キンカクモンに行って!」
クルエがそう叫んだ。

「あっちは大丈夫だから!」
大丈夫なの!?
いったいどうして…

…ん…?

よく見ると…

破壊活動をしている蛮族デジモン達の足元が、何かの液体で濡れている。

物陰から、何かがひょっこり現れた。

…赤いオタマモン。
それが8体だ。

オタマモン達は、蛮族の足元の液体に炎を放った。

すると蛮族デジモン達の足元の液体は、一瞬で着火し、ごうごうと蛮族デジモン達を焼いた。
「ギャアアアアアア!!!」

お、おお!
罠にかけたのか!

『何ィイーーーーッ!?貴様達…どこから味方を呼んだ!?』

赤いオタマモンということは…
スポンサーさんですか!?

『いや違う』
違うの?

『我々も諸君らに増援を送ろうとしているが…伝送路が繋がらない。どこからそのオタマモン達を呼んだんだ?』

スポンサーさんたちのオタマモンじゃない!?
どういうこと!?

…困惑している私を見て、クルエが再度ウインクした。

…あ。
ま、まさか…!

わ…わかったぞ!クルエさんが何をしたか!
どうやってAAAへの伝送路を遮断し…
どこからオタマモンを呼んだか!

そりゃ言えないわけだ!誰にも!!

私はお口にチャックし…
全てのトリックを理解したことを、誰にも悟られないようにした。

これで…
最後の敵は、キンカクモンとアイスデビモンだけだ!

つづく

我々がデジタルワールドやデジタル空間の可視化に使用しているソフトウェア…
デジクオリア及びデジドローン。

その開発元であるカンナギ・エンタープライズは、特定勢力に対して贔屓することはなく、冷遇することもないと明言している。

すなわち、クラッカーとセキュリティの戦いに対し、どちらかの味方につくことはなく、デジクオリアの販売規制やライセンスの剥奪をすることはない、ということだ。

何故なら、何が正義で何が悪かは相対的なものだからだ。
もしもカンナギが「セキュリティ側に加担する」と宣言した場合、仮に『武力攻撃をして多数の人々を苦しめている独裁国家に対して、革命家がデジモンを使ってサイバー攻撃する』というケースが生じた際に、カンナギは独裁国家のセキュリティを保護し、革命家を規制しなくてはならなくなる。
そういったジレンマに振り回されるのを防ぐために、最初から誰にも加担しない…と立場を表明している。

もっとも、立場上加担しないというだけで…
CEOの神木さんは、ギリギリ贔屓にならないラインで我々に協力してくれている。

そんなカンナギが、ただ一つだけ。
彼らが明確に敵視している存在がいる。

「デジクオリアを不正コピーして使用する者」だ。

その対策として、デジクオリアには特殊なコピープロテクトが仕込まれている。

不正にコピーされたデジクオリアがインストールされた場合、その端末のデジモン伝送路を乗っ取って強制的にカンナギ・エンタープライズ・ジャパンの極秘のサーバーに接続される。

そして、執行者こと赤いオタマモン達が送り込まれて、端末内部のデジタル空間に放火してシステムを攻撃するのだ。

尚、どこをどの程度燃やすのかは完全にCEO神木氏や、その秘書の岸部エリカ氏の匙加減次第だ。

完全に破壊し尽くすこともあれば、ちょっと灸を据える程度で済ますこともあるだろう。

…この仕様は極秘事項であり、知っているのはカンナギの極一部の上層部と、私とクルエだけだ。


…クルエはこの仕様を逆手に取ったのだ。

あらかじめ電話でカンナギへ事情を伝えた上で、スパコンの高速演算能力を使い、デジクオリアの不正コピー品を作成し…
我々のネットワークに接続された端末へインストールしたのだ。

それによって、AAAに掌握されていたデジモン伝送路を、さらに上から乗っ取った。

マルウェアに支配された伝送路のコントロールを、正規の方法で奪還できないなら…
別のトロイへ伝送路を奪わせてしまえばいい。

この裏技によって、クルエはAAAが繋げてきたデジモン伝送路を遮断したのだ。

なんてイリーガルな手だ…
私には絶対思いつかない発想だ。

そして神木CEOは我々のもとにオタマモン8体を送り込んできて…
灸を据える程度に、デジタル空間を燃やしてくれた。

尚、オタマモンが燃やした箇所には、AAAの配下である蛮族デジモン達がいたが…
それらはただ巻き込まれただけだ。
勝手に人の端末にデジモンを送り込んでくる方が悪い。
どっちの味方だとかそういう話ではない。

まあ、そういう建前で…
神木氏は、我々のもとへオタマモン8体の救援を送り込んでAAAの配下を始末し、これ以上フレイドラモンが体力を削られるのを防いでくれたのだ。

なぜ神木氏が我々に味方してくれたのか…
言われなくても分かる。

我々研究所の活動が、カンナギ・エンタープライズにも利益を齎すから。

そして何より、クルエは電話で…サラの訃報を伝えたのだろう。
そして、我々を今攻撃しているAAAこそが、サラことサラマンダモンの仇だと。

クルエが、リーダーやみんなに、何をするのか教えなかったのは…
カンナギの報復システムが秘匿されたものであり、それを利用した手だったからだ。
決して皆に無意味な嫌がらせをしていたわけではなく、必要だから黙っていたのだ。


…キンカクモンが、フレイドラモンに金棒を振りかざす。
フレイドラモンはそれを躱し、反撃を試みるが…
アイスデビモンの蝋がフレイドラモンの手足を拘束して、動きを封じた。

フレイドラモンは蝋を燃やして溶かしたが…
その一瞬の隙を突いて、キンカクモンの金棒がフレイドラモンの頭部を殴りつけた!

金棒を介した電撃攻撃が、フレイドラモンを苦しめる。
キンカクモンやアイスデビモンとの一対一でなら勝てるかもしれないが、それら二体がいると、流石にフレイドラモン側が不利だ。

二体を相手にしても尚、殴り合いならフレイドラモンの方が強そうだが…
アイスデビモンが放ってきた蝋の拘束を溶かすために、どんどん火力を消耗させられるのだ。

尚、このアイスデビモンは先程、キャンドモン4体を吸収することで、蝋を補充していた。

このままでは、スタミナを削られて押し切られかねない…!
敵の手はとんでもなく陰湿だが、脅威だった。

格闘が苦手なオタマモンが、この場に割って入っても…
キンカクモンに叩き潰されてしまうだけだろう。

メガは、今まで蛮族デジモン達に破壊されまくったシステムを、必死に修復している。

先程の蛮族達の猛攻によって、システムの様々な部分が破壊され、動作不良を起こしている。
それでも尚、今までどうにか戦えているのは、メガやシステム管理チームがリアルタイムでシステムの修復をしてくれているからだ。

…デジタルゲートはまだ使えなさそう?メガ。

「数分かかると思っていたけど…。もうすぐ復調しそうだ」

おお!
凄いぞメガ!

「僕だけの力じゃない…見て、あれを」

メガが指した方を見ると…
そこにはクラフトモンがいた。

クラフトモンは、フーガモンに滅多打ちにされて、酷い大怪我を負っているにも関わらず…
工具を駆使して、ファイヤウォールやシステムの修復を、手伝ってくれている!

クラフトモンの工具は、どうやらシステムの概念的な修復も可能であるらしい。

…あの傷は相当深い。
全身に激痛が響いていることだろう。
本来なら、今すぐ絶対安静にして寝込まなくては命に関わる重症だ。

それでも、クラフトモンは痛みに耐え、傷付いた体でシステムの修復作業をしている。
フレイドラモンの勝利を信じて…!

「やった!デジタルゲートが復旧した!」

おお、やったか!

メガ…戦況は不利だ。
フレイドラモンは強いけども、敵は狡猾な手段でフレイドラモンの弱点であるスタミナを削っている。

遅延戦術をして、自分達が有利になるのを待っている。

この戦況を覆すために…
私に作戦を任せてくれないか。

「何か手があるんだね。…勿論いいよ、ケン」

つづく

メガ…
アプリモンスターズ達は、それぞれの力を組み合わせることができるの?

蟹鍋用のシャコモン貝殻探しで、ガッチモンとナビモンが連携したように。

「可能だよ。スプリングシステムというんだ。アプリモンスターズ達の肩から生えているケーブルを相互に接続することで、システムをリンクさせて力を発揮できるんだ」

3体以上でもできる?

「うん。ナビモン、ガッチモン、ドーガモンの3体で、輪になるようにアプリンクすれば、全員のシステムを連携できる」

横からカリアゲが顔を出してきた。
「すげーな…じゃあさ、相性がいいアプモン同士でアプリンクしたら合体できたりしないのか?」

「そんな機能は無いよ」

「え、なんかできそうじゃん!デジクロスならぬアプ合体!みたいな」

「ふざけてるの!?しつこいな、合体できないって言ってるでしょ!」

「そ、そんなに怒るなよ…」

とりあえず…分かった。
3体でアプリンクして…作戦をやりたい。いいかなメガ。
「いいよ、ケン」

今回は、マッシュモンや、救援に来たオタマモン達にも協力してもらう。

「なあ、ケン…このオタマモン達どっから来たんだ?スポンサーさんとこじゃねえなら…マジで今伝送路はどこに繋がってんだ?」

気にするなカリアゲ!
味方であることは間違いない!

「そ、そっか…」

✕スプリングシステム
○アプリンクシステム

「うおお!だらぁ!」
フレイドラモンは、猛攻のラッシュを繰り出す。

「グアアァ!」
キンカクモンとアイスデビモンは、フレイドラモンの攻撃によって着実にダメージが蓄積しているが…
致命傷を回避している。

パワーでもスピードでも火力でも勝っているフレイドラモンが、勝負を決めきれない理由は2つある。

一つは、戦闘経験の差だ。
フレイドラモンは確かに強いが、突然手に入れた己の強大なパワーとスピードを振るい慣れていない。
そのため、攻撃の動きが単純になってしまう。

一方キンカクモンは、パワーやスピードで劣っていても、見たところ踏んできた戦闘経験の場数が違う。
おそらく今まで、凄まじい数の敵と戦って来たのだろう。全身の傷痕を見ればわかる。

それ故か、戦闘に慣れているキンカクモンに、スペックでゴリ押す戦術が効かなくなってきているのだ。

もう一つは、アイスデビモンの能力。
フレイドラモンの顔面を狙って、溶けた蝋やセメントを浴びせてくる。

これはアイスデビモンの意思次第で瞬時に硬化できるようだ。
顔面を固められたら呼吸ができなくなり視界が封じられるため、フレイドラモンはアイスデビモンの硬化攻撃を絶対に避ける行動を取らなくてはならない。

そうして、セメントや蝋を回避すると…
「回避されること」を計算に入れたキンカクモンの電撃棍棒が、フレイドラモンに襲いかかる。

この2体の連携は強力だった。
このままでは、スタミナを削りきられてしまう…

フレイドラモンが、2体から距離を取った。
息が荒くなっており、ツメから出る炎の火力も大分弱まってきている。

だが…
ここから反撃開始だ!
フレイドラモンに、長々と作戦を伝えていては、AAAにも聞かれてしまう。

だから…絶対にAAAにバレない言い回しで、フレイドラモンにだけ分かるように…作戦を伝えるんだ!

フレイドラモン…いや、ブイモン!

「!?」
敵から距離を取っているフレイドラモンが、私のデジドローンの方を向いた。

ブイモン、聞いてくれ!
君は、力を得たから戦う資格を得たんじゃない!

たとえ弱くたって、君は勇気を出して戦った…
偽業者事件で、クラッカーマッシュモン相手に!

その経験は、決して無駄じゃない!
今、その経験が活きる時だ!

「…!」

『くっくっく、なんだ、こんな局面で無意味な応援か!そんなことで戦況を覆せるというのならやってみろ!』

「クラッカーマッシュモンの…?お、おお…」

…ちゃんと伝わったかな。
ちょっと心配だが…
フレイドラモンの理解力に賭けるしかない。

言い回しが遠回しになってしまったが…
チャットで文書を送ったとしても、それを悠長に読んでられる余裕はないから仕方ない。

どうにか伝わってくれ…!

~つづく~

私が指示を出し終えたあたりで…
アイスデビモンは、フレイドラモンの方へ、何かを投げるように手を大きく振った。

しかし、何も投げ飛ばされていないようだが…?

「!?い、いってえ!」

フレイドラモンが距離を取り、右目を押さえた。
な、なんだ!?何をしたんだアイスデビモンは!?

フレイドラモンの右目側から、キンカクモンの回り込み…
電撃棍棒でフレイドラモンを殴りつけた。

「うああっ!」

次第に押され始めている…!
言い方は悪いが、フレイドラモンの格闘術はパワーとスピード、一撃必殺の火力に頼ったゴリ押し戦法だ。

スタミナが減り、その火力が落ちてきた今、不利になるのは自明の理だ。

「くそっ…!目が痛え!」

しかし、アイスデビモンはいったい何をした…?

「…まさか」

メガ、心当たりがあるのか!?

「AAAはさっき、アイスデビモンはセメントやガラスも操れると言っていた…!もしかしたら、今ケンが指示を出してフレイドラモンの耳を傾けさせている間にできた隙で、すごく細かいガラス片を生成して投げ飛ばしたのかも…!」

い、陰湿すぎる!
細かいガラス片を飛ばされて、目にちょっと当たったということか!?
想像するだけで嫌だ…!

これは、私のミスか…
私が指示を出して、フレイドラモンを注意を引いてしまったせいか…?

「だけど、何も指示を出さなければこのままジリ貧のまま押し切られるだけだ。たとえミスがあったとしても、僕たちはやれることを探してやるしかない。立ち止まるわけにも、じっくり時間をかけて吟味するわけにもいかない」
メガ…。

「そうだよ!何か策があるんでしょ!?」
クルエ…。

…そうだね。挽回しないと。
さあ、来い!
ティンクルスターモン!

私がそう指示を出すと、デジタルゲートが開き、ティンクルスターモンが飛び出してきた。

ティンクルスターモンは、アイスデビモンに向かって回転しながら突っ込む。

『む!?バカな、そいつはフーガモンが片付けたはず…もう復活したのか?それとも温存していた2体目がいたのか?』

アイスデビモンは、ティンクルスターモンの突撃を回避する。

ティンクルスターモンは、空中でUターンして、キンカクモンに突っ込んできた。

キンカクモンは、野球のバッターのようなフォームをとり、ティンクルスターモンを打ち返そうと棍棒を振りかざした。

ティンクルスターモンは、カキーンと大きな音を立てて吹き飛んでいった。

「!?ムム…?」
キンカクモンは、何か不思議そうな表情をしている。
今の反撃の手応えに、なにか違和感を感じたようだ。

『まあいい、とんだ邪魔が入ったが、仕切り直しだ!貴様達の切り札を今処刑してやる!』
AAAがそう言うと、キンカクモンとアイスデビモンは、フレイドラモンの方へ向き直った。

二体はフレイドラモンに襲いかかろうとするが…

『ウバシャアアアア!』
突然デジタル空間に怒声が響いた。

キンカクモンとアイスデビモンは、怒声の方を見る。

すると、大きなデジタルゲートが開き…
モリシェルモンが出現した。

『何だと!?バカな、このモリシェルモンは先程殺したはずだ!別個体を引っ張ってきたのか!?いつの間に!』

AAAは驚いている。

『フン…成る程な。もはやフレイドラモンでは我々に勝てないと考えて、モリシェルモンを誘引して戦わせようというのか。だが、その戦術には致命的な欠陥がある!信徒達よ、距離を取れ!』

モリシェルモンは次々と水流を放つ。
キンカクモンとアイスデビモンは、距離を取ってそれを躱す。

『モリシェルモンは殺しやすい奴を先に狙う!こうやって離れれば、先に食われるのは貴様のフレイドラモンの方だ!』

そうやってキンカクモンとアイスデビモンはどんどん遠くへ離れていき…

『ある地点』へ到達した。

その地点とは…
先程、ドリモゲモンがモリシェルモンを仕留めるために掘った穴が空いている地点だ。

今だ!!
いけ!マッシュモン!

私はチャットを打って、地面の穴に隠れているボスマッシュモン及びチビマッシュモン達へ指示を出した。

「マシ~~~~~~!」

ボスマッシュモン達は、キンカクモンとアイスデビモンの足元の穴から、一斉に胞子を噴出させた。

「!?ゴホッゴホッ!」
突然の胞子により、キンカクモンとアイスデビモンは咳込む。
だが、彼らの視線は未だにモリシェルモンとフレイドラモンを見据え、警戒したままだ。

…フレイドラモン、いやシェイドラモン!
今だ!!!

「…そういう…ことか…ケン!こうだな!」
フレイドラモンは、シェイドラモンに変形した。

そして、胞子に包まれたキンカクモンとアイスデビモンに向かって、炎の粘着糸を飛ばした。



…やった。
しっかり伝わった!

…かつて詐欺事件の調査のために、小学校へ出向いて、クラッカーマッシュモンと戦った際…

敵のクラッカーマッシュモンは、粘菌デジモンの繭に包まれて、合体しようとしていた。

サラマンダモンが天井から火炎放射をして繭を燃やすことで、合体を阻止したが…

その後クラッカーマッシュモンは、繭から飛び出して…
想定外の手段でサラマンダモンへ反撃をしてきた。

サラマンダモンへ、大量の胞子を飛ばしてきたのだ。

サラマンダモンは、その胞子を燃やそうとしたが…
その時、ある化学現象が起こり、サラマンダモンはダメージを受けた。

その現場を、ブイモンは見ていた。

ブイモンだけじゃない。
今ブイモンとデジクロスしている、ワームモンとサラマンダモンも、そこにいた。


…その現象を…
ブイモンはしっかりと見て覚え、学んでいた。

ブイモンの本当の強さはここにある。
デジクロスをしてパワーを得たから強いんじゃない。

勇気があるから、というだけじゃない。

ブイモンは、自分の弱さを認めて、劣等感を抱きながらも…
それでも強くなろうとして、必死に創意工夫を凝らしてきたのだ。
工具作りをしたり、武器の使い方を練習したり、ワームモンとの連携の訓練をしたり…。

そう。
ブイモンの強さは、弱さを克服しようとして、学ぶ姿勢にこそある!
だから、私が出した曖昧な指示の意図を、気付くことができた。




シェイドラモンが飛ばした火種の糸は…
あの時と同じ現象を引き起こした。
私の意図通りに。
そしてシェイドラモンの意図通りに。

そう…
粉塵爆発だ!
キンカクモンとアイスデビモンは突如、爆炎に包まれた。

「ギャアアアァッ!?」

私が立てた作戦は、ドーガモン、ナビモン、ガッチモンの3体のアプモンによるアプリンクにより、それらの能力を統合することで実行した。

まずはガッチモンが、ドリモゲモンが地面に空けた穴の位置を検索した。

そして、ナビモンとドーガモンは…
その位置へ、敵をナビゲートするための動画を生成したのだ。

それが先程出現したティンクルスターモンとモリシェルモンの姿だ。

実際のところ、ティンクルスターモンはまだフーガモンにやられたダメージがあって戦線復帰はできない。

モリシェルモンの2体目なんて確保していない。

これらは、ドーガモンが作り出した幻影なのだ。
ファンビーモンの姿を増やしたときと同じ手段で、ティンクルスターモンとモリシェルモンの立体動画をデジタル空間へ投影しただけだ。

そして、ガッチモンが検索した穴へ、マッシュモン達を忍び込ませておき…
『ナビゲート』が完了したタイミングで胞子を噴出させたのだ。

フレイドラモンは、その全容を全て理解したわけではないし、それを求めたわけでもない。

ただひとつ、『粉塵爆発の火種をつける』。
その役割を、しっかり理解し、果たしてくれたのだ。


「ガ…オゴ…!?」
だが、さすがは成熟期二体。
今の爆発だけで仕留めきれるわけではない。

だが、十分だ。

キンカクモンとアイスデビモンが有利に立ち回れてきたのは、フレイドラモンの一撃必殺の炎の爪攻撃を、戦いの経験から得た実力でいなしていたからだ。

突然想定外の爆発を食らって、隙ができた今…
ここが攻め時だ!

シェイドラモンは再びフレイドラモンへ変形した。

「うおぁあああああ!」

フレイドラモンは、残った全てのパワーをすべて絞り出す勢いで爆発的な火力を引き出して…
炎のツメでキンカクモンを背中から切り裂いた!

「ギャアアアアアアアッ!!!」
青銅の武器を瞬時に溶断するその威力をマトモに食らったキンカクモンは、大出血をしながら吹き飛んだ。

「あとは!お前だけだあああ!」
フレイドラモンは、炎のツメでアイスデビモンに貫手を放つ!

「ヌウウウウウウウウウ!!」
アイスデビモンは、炎のツメの攻撃を、両手からセメントを出して受け止める!
くそ、正気を取り戻したか!

「燃えろおおおおおお!」
「ガウオォオオオオオ!!」

壮絶な戦いだ。
炎のツメのパワーをすべて振り絞り、アイスデビモンを貫こうとするフレイドラモン。

どんどん溶かされていくセメントを、次々と充填して、炎のツメを受け止めるアイスデビモン。

ここでも消耗戦を仕掛けるてくるのか、アイスデビモンは…!

『ここが最終局面か!出てきていいぞプラチナスカモン!アイスデビモンを援護しろ!』

AAAのデジドローンからそう発せられると…

「ギャハハッハハア!ついに来た!オレサマの出番だゾォォ!」
なんと、物陰からプラチナスカモンが出てきた。
ええ!?あいつ死んだんじゃなかったの!?
モリシェルモンに丸呑みにされて!

「オレサマが死んだと思ったかァ!?バカがァ!ドリモゲモンはモリシェルモンの土手っ腹に穴を空けてくれたんだゾ!そのままくせー胃袋に留まってる理由ある?ねーよなァ!」

そう言い、プラチナスカモンはフレイドラモンの背後側に回ると、腕を硬化させ、ドリルを作った。

「ギャーハハハ!くたばりゃがれェェーーーーッ!」

プラチナスカモンは、ドリルを回転させ、フレイドラモンに背後から襲いかかる…!

だが。
「タマーーーーー!!」
オタマモン8体の火炎放射が、プラチナスカモンを包んだ。

「ぎゃあああアッチイィィイャアアアアアア!!!」

燃えるプラチナスカモンは、攻撃どころではない。
地面を転げ回った。

アイスデビモンの背後に、デジタルゲートが開いた。

「タマーーーーー!」
オタマモンは、うちの仲間にもいるぞ!
デジタルゲートから顔を出した、我々セキュリティチームのオタマモンは、アイスデビモンに背後から火炎放射を食らわす!

「ウギャアアアアアアアアア!」
火力特化した成長期の火炎放射だ、ただでは済まないはず!

「プスー…」
しかし、オタマモンは燃料が尽きたようだ。
火炎放射が止まった。

8体のオタマモン達も、先程蛮族デジモンたちの増援をまとめて燃やし尽くすためにだいぶ燃料を消耗したらしい。

そして、フレイドラモンの火力も弱まってきて…
ついにツメの火が消えた。

「ち…く…しょう…!」

『アイスデビモン!よく耐えた、お前の粘り勝ちだ!さあ、そいつらを処刑しろ!』

「ゼー…ゼー…!ガハハッハハハ!」
アイスデビモンは高笑いした。
鋭い爪の一撃をフレイドラモンに繰り出そうと、腕を振り上げた。

その時…
デジタルゲートから、あるデジモンが飛び出してきた。

「たあーーーーーーーー!!」

それは…
先程セピックモンのブーメランで両足を折られたパルモンだった。

両足の傷は全く癒えていないが…
負傷したまま、パルモンが援護に来たのだ。

パルモンは、かつてブイモンが作った粗雑な鉄のツルハシを構えている。
アイスデビモンの後頭部へ、思い切りツルハシを振りかざした!

「ガフッ…!」

ツルハシは、アイスデビモンの後頭部へ深々と突き刺さった。

「ウ、グ…」
頚椎を破壊されたアイスデビモンは、ふらふらとよろめくと…
地面にばたりと倒れ、痙攣した。

「マシーーーー!」
地面の穴から出てきたボスマッシュモンが、パルモンを受け止めた。




「ぜぇ、ぜぇ…やった…」
フレイドラモンは、その場に倒れた。
そしてデジクロスが解除され…
ブイモンとデジタマに戻った。

「はらへった… うごけねえ…」

『…バカな…。負けたのか?この私が…。いいや、あり得ん…誰か!誰か戦える奴はまだいないのか!』

AAAのデジドローンから発せられる声は明らかに動揺している。

「ガ…グ…ワタシハ…マダ…!」
地面に倒れ伏しているキンカクモンは、弱々しく声を上げているが、起き上がれず動けないようだ。

「あーちゃちゃちゃ!」
燃え盛るプラチナスカモンは、体を柔らかくして、死んだドリモゲモンの口にズボっと潜り込んだ。

しばらくすると…
大分小さくなったプラチナスカモンが、ドリモゲモンのおしりからブリっと出てきた。

「火は消せましたァ…!マスター…!」

どうやらドリモゲモンの消化管を利用して、燃えてる部分を拭ったらしい。
だが。
プラチナスカモンはチビマッシュモン1体分くらいまで小さくなっていた。

これではボスマッシュモンに簡単に倒されるだろう。

『…あり得ん…あり得ん!こんな…こんなことが!バカな…!私の軍勢がァァァ!』

『く、くく…プラチナスカモン!それだけ残っていれば、司令塔としての働きはできるな!?…ここのシステムはファイヤウォールが破壊されて、セキュリティが丸裸だ!もう一度マルウェアを送りつけて、デジモン伝送路を繋ぎ、レアモンを送り込んでやる!合体しろ!』

「…!?ま、まだ早くねーですか!?でもまあ…ヘヘ…やっちゃいますかァァァ!」

『そうだ!ここまでやって引き下がれるか!くっくっく、セキュリティチーム共、今見せてやる!究極最強の切り札の姿をなぁ!』

なんだ…
まだ何かやってくるつもりか…!?
流石にもう戦えないぞ…!

『…!?こ、これは…!ファイヤウォールが復活している?マルウェアを送り込めない…!』

ネット回線のトンネルを見ると…
ボロボロのクラフトモンが、ちょうどファイヤウォールを修復完了したところであった。

『…ッ!追加の戦力が…送れん…!』

AAA…!
私達セキュリティチームの勝ちだ!!

『…帰るぞ、プラチナスカモン』

帰れると思うか?
お前達の所への伝送路はもう遮断したぞ!

『帰れるさ。おいナニモン、起きろ』

「フガ!?」
そう言うと、壁の上で居眠りしていたナニモンが目を覚ました。
そして壁から降りてきた。

そ、そうだ、こいつがいた…!
なんなんだこいつ。

『ナニモン、キンカクモンはまだ生きている。そいつくらいなら抱えあげられるだろう』

ナニモンは、キンカクモンを抱え上げた。
そして…
「フン!」

なんとナニモンは、デジタルケートを空けた!
行き先は…デジタルワールドだ!

こ、こいつ!まさか!
メガのアプモン達と同じ…
ソフトウェアアプリケーションを吸収してパッチ進化したデジモンか!

デジタルワールドへのデジタルゲートを開くソフトの力を、ナニモンは取り込んでいるんだ…!


「マ、マシーー!」
うちの戦力で今まともに戦えるのはボスマッシュモンしかいない。
ボスマッシュモンは、チビマッシュモン達を連れて、ナニモン達のいる方へ走り出した。

だが…
ちょっとまにあわなさそうだ。

『…私の敗因は…私のせいじゃない!バカな部下がズバモンとルドモンを貴様らに奪わせたせいだ!奴らがいれば勝っていたのは私の方だったッ!あのクソアマが全部悪い!本当に勝っていたのは私の方だ!』

メガがマイクを握った。
「たらればで好き放題願望を言うな!現実を受け入れられないお前!やはり三流以下のヘボエンジニアだ!」

メガはそう言いながら、キーボードを操作して、誰かへチャットを送っていた。
見たところ…デジタルアソートのアプモンから、何かの報告を受けているみたいだ…?

『ぐぐぐ…!次は絶対に亡ぼしてやる!覚えていろセキュリティ共ォォ!』

そう言い、ナニモンとキンカクモン、小さなプラチナスカモン、そしてAAAのデジドローンはデジタルゲートへくぐり、デジタルワールドへ去っていった…。



デジタル空間には…
蛮族デジモンの死屍累々が残されていた。

つづく

これで、すべての敵をようやく倒した…のか?
ガッチモン、一応生き残ってる敵がいるか検索してくれ。

「え?もう倒したんじゃねえのか?」
いや、カリアゲ…
今回の蛮族の勢力だけども、いてもおかしくないはずの奴がいなかった。

そいつがまだ潜んでいる可能性がゼロじゃない。

「?どのデジモンだ?」

バブンガモン…。
岩のような硬い甲殻を持つ、ヒヒに似た姿のデジモンだ。

前に蛮族の集落を見たときは、そいつがいたはずだけど…
さっきの戦いには現れなかった。
どういうことなんだろうか。

「潜んでたらこえーな…。そしたらもう戦えないぞ。ティンクルスターモンだって無理してるだけだろ」

『ヨク ワカッタッスネ スゲーッス』

無理してたんだ!

『テキニ ヨワミヲ ミセルワケニハ イカネーンデナ』

…そ、そうか。
で、どう?ガッチモン。

『バブンガモンは いねー けど いきてるやつが まだいる 2体だ』

何!?
どいつだ?

『あっちだ』

そう言って、ガッチモンが指さした方を見ると…

「ヒ…ブルヒ…」

クラフトモンに頭部をドリルで破壊されたシマユニモンが、倒れたまま痙攣している。
あ、あれは生きてる判定なのか…?
まだ死んでないだけって感じだけど。

※ちょっと描写が飛んでしまった
※ティンクルスターモンが起き上がって「平気ダ」と言うシーンが前に入ると脳内補完してください

それで、もう一体は…?

…弱々しく地を這って、シマユニモンに接近しているデジモンがいる。

全身に大火傷を負ったシャーマモンだ。
シェイドラモンに炎の網で焼かれたか、オタマモン達の火炎の罠で焼かれたのだろう。

「テンシ…サマ…オレハ…マダ…イキ…ル…!シナ…ナイ!」

もう死にかけのシャーマモンは…
シマユニモンに触れた。

どうしようというのだろうか。
乗ってみたいのか…?

「…まずい!そのシャーマモンを今すぐ始末しろ、マッシュモン!何でもいいから武器を持ってぶちのめせ!」
り、リーダー!?
そんなに慌ててどうしたんですか!?

「早くしろマッシュモン!!」

「マ、マシッ!」
ボスマッシュモンは、スナイモンの鎌を拾い、シャーマモンの方へ駆け寄った。

「早くトドメをさせ!」

「マシィィーー!」
マッシュモンは、鎌を振り上げた。



…その瞬間。
シャーマモンとシマユニモンの体が、光り輝いた。


「マシャアァァ!?」
ボスマッシュモンは、シャーマモンとシマユニモンを包む光から発せられたパワーにより吹き飛ばされた。

「マ、マシイィイーーー!」
起き上がったボスマッシュモンは、光り輝くシャーマモンに鎌を振り下ろす。

だが。
眩い閃光が周囲を包んだ。


光が消えたとき…

ボスマッシュモンした振り下ろした鎌は…
たくましい腕によって受け止められていた。

https://i.imgur.com/23TgoXA.jpg
…光の中から現れたのは、半人半馬のデジモン。ケンタウロスのような姿だ。
頭部は兜で覆われており、右腕には砲身のようなものが生えている。

こ、これは…
ばかな。
ジョグレス進化…だと!?

「オ、オォオオ!テンシサマアアアーーー!!オレハ!!ヨミガエッタゾォオ!」

歓喜の声を上げた半人半馬のデジモン…ケンタルモンは、ボスマッシュモンを左手で掴んで持ち上げると…
右腕の砲身にエネルギーを貯めた。

「マシ、マシィ!」
ボスマッシュモンはじたばたと暴れている。

「ま、マッシュモン…!」
倒れているブイモンは、立ち上がろうとするが…
もう立つ力も残っていないようだ。

…『公正世界仮説』という思考バイアスがある。

ざっくり言うと、「いい事をした者には幸運が訪れ、悪いことをした者には天罰が下るはずだ」という思い込みのことだ。

先程、我々のパートナーデジモンであるブイモンが、ピンチに陥ったときに、奇跡的にデジクロスの力に覚醒した。

私は心のどこかで思い込んでいた。
この奇跡はきっと、人々を守るために努力してきたブイモンの善性に、天が味方して奇跡を授けたのだ…と。

だが、それこそが思考バイアスだったのだ。

善に奇跡が起こるのなら…
悪にも平等に、奇跡は起こる。




『攻撃をやめろ、信徒よ!』
その声を聞いたケンタルモンは、驚いて声の方を向いた。

そこにあったのは…
AAAのデジドローンだ。

『繰り返す。そいつへの攻撃は中止しろ。今はもうそれ以上戦わなくていい』

「ナ、ナゼダ テンシサマ! ワタシハ コイツラヲ ミナゴロシニシテ アナタニ ムクイル!」

『より完璧な殺し方を思いついたからだ。蘇ったその力で、私に尽くしてくれ…できるな?』

「モ、モチロンダ!」
ケンタルモンはマッシュモンを地面に放り捨てた。

「マシッ!」
地面にべちーんと叩きつけられるマッシュモン。

『このデジタルゲートを通って、いったん本拠地へ戻ってこい』
デジドローンがそう言うと、デジタルゲートが開いた。

「オオセノママニー!」
ケンタルモンは、デジタルゲートから出ていった。

…そうして、デジタルゲートは閉じ…
デジドローンも消えた。


「ぷ…ククク…あははははは!」
クルエが腹を抱えて笑っている。

「ひーひひひひ!こりゃおかしいや!やるなリーダー!」
カリアゲも大笑いしている。

「そっか、これがあの手品のカラクリか!成長期蛮族をいっぺんに消した手品の!なるほど!」
メガは手をポンと叩いている。

「…そうだ。ドーガモンの力で、『AAAのデジドローン』の動画と音声を合成して再生した。AAAに絶対服従している蛮族達は、その言葉通りに動くからな」

…デジタルゲートはどこへ通じてるんですか?

「カリアゲがこれまでに探し続けてきた、フローティアの候補地だった孤島だ。資源が何も無い、植物もない土地だ」

…島流しにしたんですね。




奇跡は善にも悪にも平等に起こる。
だが、その奇跡を活かせるかどうかは…
また別問題なのだ。

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