研究員「安価でデジモンを進化させる」 (988)

我々のいる世界は、素粒子というエネルギーの塊を最小単位とした、アナログ情報の世界といえる。

だが、もうひとつの世界…「デジタル世界」が存在する可能性が示唆された。
我々は研究によって、人類の築き上げたコンピュータネットワーク上の情報が反映される、「デジタルワールド」を発見し、観測に成功した。

私はこの世界の海の底で、タマゴらしき物体を発見した。

どういうわけか、我々の世界に蔓延しているコンピュータウイルスの一部がデジタルワールドへ逃走し、そこでタマゴへと変質したようだ。

…タマゴは今、海底の熱水噴出孔近くにある。
煮えたぎる硫化水素と共に、アミノ酸が吹き出ている、生と死が隣り合わせの過酷な環境だ。

さて、このタマゴをどうするべきか…?↓
①放置して観察する
②穏やかな環境へ移動させる

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1639266280

先日、我々のグループは一般の方達を招き、研究成果を発表した。

デジタルワールドのこと。
そこで進化を遂げた

まるでSFのような事実に、聴衆は大いに沸いた。


そもそもデジタルワールドとは何か?
それは「コンピューターネットワーク上に存在する、もう一つの世界」である。

デジタルモンスターとは何か?
それは「コンピューターウィルスが進化し、生命を持った存在」である。

なんとなくフワっとしたイメージは湧くかもしれないが、ある程度コンピューターに詳しい者ならば、誰しもが考えるはずだ。

その世界のデータとやらは、一体どこのどいつのサーバー上に存在しているのか?

その世界での出来事は、一体どのハードウェアの計算資源によって演算されているのか?

その世界をどんな原理で観測しているのか?

そもそもコンピューターウィルスの進化とは、エンジニアが起こすものであって、ウィルス自体が進化することは有り得ない。
ましてや、メモリやハードディスク上のビット如きが生命を持つことなど断じて有り得ない。


そんな批判的意見が、我々に滝のように寄せられた。
なる程、至極真っ当な質問である。
我々とて、実際にこの目で見るまでは、同じ疑問を抱いたものであった。

まず、一般に誤解されがちな事だが…

デジタルモンスター達の本体は、コンピューター上のデータそのものではない。

そこに宿っている、「魂」こそが生命の本体なのである。

生命を生命たらしめる「魂」の実在証明と観測は、5年前にドイツの物理学者が成功している。

かつて、アミノ酸の海という非生物からタンパク質の高分子配列を組み立て、そこから細胞膜を持つ原生生物という生命を誕生させた存在…それが「魂」である。

魂は、生命の肉体が代謝系と自己増殖機能、外界との境界を獲得するよりも、ずっと前にこの宇宙に存在していた。

そして生命活動とは、物質の単なるランダムな化学反応の連続ではない。
そこに宿る「魂」によって制御される指向性の変化である。

そう、我々が脳によって行っている思考や、それによって芽生える自我、心が感じる感情さえも、生命の本質である「魂」が行った演算の結果にすぎない。

我々の脳は、生体コンピュータである。
コンピュータとは、「計算機」…。計算のための道具だ。

我々は、肉体を操る脳と、それが生み出す心こそが生命の本体だと誤解しがちだ。

だが、それは違う。

人間を自動車に例えるならば、自我や心は「車載コンピュータ」に相当する位置付けであり、「運転手」ではない。
車載コンピュータを操作してエンジンやブレーキの制御を行う「運転手」は、自我より上位に位置する「魂」である。

そして、この関係はそのままデジタルモンスターにも当てはまる。
コンピュータ上のデータは、デジモンの「肉体」でしかない。
デジモン達の自我と魂…遺伝子は、データよりも上の領域に存在しているのである。

アミノ酸の海に溶け込んだ魂が、タンパク質の肉体を得たものが我々であり、
ネットの海に溶け込んだ魂が、コンピュータウイルスの肉体を得たものがデジタルモンスターである。

「デジタルモンスターは、どうやって思考を行っているのか?」という質問も上がった。

これには我々も大変頭を悩ませた。
我々人類が持つ脳は、それぞれが独立の演算機能を持った生体コンピュータである。
だから、ひとつのコンピュータが一個体の思考を制御しているというのは分かりやすい。

だが、デジモンの肉体…そして脳は、コンピュータ上のデータとして存在してるはずだ。
そして、データそのものは自ら演算する機能を持たない。
コンピュータウイルスや各種ソフトウェアは、それが寄生するコンピュータのCPUが提供する計算資源を利用しているにすぎない。

我々は当初、デジタルモンスターも、それが宿るコンピュータのCPUに依存して思考を行うものと考えていた。

だが、デジモンキャプチャーを使って幼年期デジモンのデータをサーバー上に保存し、そのデータを解析したところ…
デジモンの「脳」に値するビット配列には、アクセスポインターらしき不変の定数値が刻まれていた。

そして驚くべきことに、デジモンが食事をするとき、その肉体を構成するデータ配列は、デジモンのデータが保存されているコンピューターのCPUを一切利用せずに変化したのである。

試しに、ハードディスク単体に電源を繋ぎ、そこにデジモンとキノコのデータだけを入れて数分待機したところ、次に観測したときデジモンはキノコを食べ終えていた。

このことから、デジモンという生命は、ハードウェアに依存しない思考・演算機能を持っていると結論付けられた。

そして、
「デジタルワールドをどのように観測しているのか?」
「この世界のどのハードウェアに、海だの島だの森だのサバンナだのといった地形のデータが保存されているのか?」
という疑問も上がった。

まず第一に、世界とは何か?という前提を共有しなくてはならない。

我々は、世界そのものを観測しているわけではない。
光や音、熱や衝撃などの刺激を、我々の感覚器官によって信号へ変換し、我々のクオリア(主観)の中に形成されたものが「世界」である。

我々のいる現実世界ですら、海だの島だの森だのといったものは、我々が感覚器官から得た情報をクオリアで意味づけしたものにすぎない。

つまり、我々人間が五感によって観測している世界と、先カンブリア時代の原始的な生物が嗅覚等の限られた感覚器官だけで観測している世界は、同じものを見ていても全く異なると言っていいものである。

そして、これは我々人間とデジモンに対しても言える。
我々が五感とクオリアによってネットワークを構成するデータを直接見たところで、磁気テープやフラッシュメモリの電荷の羅列にしか見えず、そこに意味漬けをすることはできない。

だが、デジモンの感覚とクオリアでは違う。
我々の五感では意味付けできないものを、森や海のように意味付けすることができるのである。

我々がデジタルワールドを発見することができたのは、デジモンの感覚器官とクオリアをコンピューター上で擬似的に再現するソフトウェア…「デジクオリア」というツールのおかげである。

最後に「デジタルワールドにも神はいるのか?」という質問が上げられた。

我々の研究チームのリーダーは即答した。

「分からない。そもそも我々の世界にすら神がいるかなど分からないのだから」と。

会場は、このとき笑いに包まれたが…
後にこの発言はなぜか問題視され、リーダーは紆余曲折あって公の場で謝罪することになった。

一応建前上謝罪はしたが、後に彼は私に言った。
「納得できない。なぜ謝らなければならないのか」と。

リーダーよ、神がどうって話はデリケートなものなのだ。
神とは人の心の中に存在するものなのだから。


…そういうわけで、我々この発表の後、しばらくの間取材漬けになり…
先日やっと解放され、研究に戻れたのである。

私は研究室に戻り、デジクオリアをインストールしているPCを起動した。

いつもデジタルワールドの観測に使用しているマシンだ。

さて、これまでの研究で色々分かりはしたものの…
デジタルワールドは未だに未知で溢れている。
はっきり言って分からないことだらけだ。

彼らの進化のメカニズムとは?
何がどこまでできるのか?
産業利用は可能なのか?

…特に3つめが一番重要である。
我々に出資してくれている者達は、我々がデジモンの観察によって得た成果の産業利用によって、支払った以上の利益を求めることだろう。

これからも、デジタルモンスターとデジタルワールドを観測し、未知の解明に努めていくものとする。

…さて。
デジタルワールドの生態系観察と、デジモンキャプチャーを使った飼育…
どちらを試そうか?↓
①生態系観察
②飼育

先程の研究成果報告で述べたデジモンは、デジモンキャプチャーのテストのために捕獲したピチモンである。

ピチモンを選んだ理由はただ一つ。
「我々が最初に形成に成功したデジタル空間が、デジクオリアでは海として表示されたから」である。

つまりピチモンがいたのは、水槽のようなものである。

だが、我々はこのピチモンをある程度観察した後、デジタルワールドへ戻した。
餌や適切な生育環境を用意する技術がまだ無かったからである。

…しばらく研究が行われたおかげで、我々はサーバー内に、ある程度まともなデジモン用ビオトープを作れるようになった。
我々が自力で作れる餌はキノコだけ。
体積は5立方メートル程度。
土や植物などが欲しい場合は、デジモンキャプチャーを使ってデジタルワールドから調達することになる。

さて。
まずはこれまで観察してきた地域をもとにしたビオトープを作ろう。

どんなビオトープを作りたいか、希望を聞きたい。
現在の技術で可能な限り。要望にお応えしよう。
↓22:45まで意見募集

また、ビオトープだけでなく、捕獲したい幼年期デジモンの候補を上げてもらってもいい。
勿論、幼年期未満であるデジタマもキャプチャー可能だ。
あれはレベル0のデジモンなのだから。

22:45までと言ったが…
本日の活動報告はここまでとさせていただく。

次回は明日の夕方頃を予定しているため、それまでに色々意見を頂けると助かる。

それでは皆様、どうかよろしく頼む。

つづく

【補足】
デジモンキャプチャーの原理…

デジモンキャプチャーは、デジタルワールド上のマシンアームと虫取り網によって、デジモンや各種資源を掴み、直径1メートル程度の穴を通じて我々のサーバー内へ持ち帰るツールである。

このマシンアームは、私の腕と指の動きをジャイロセンサーでモーショントレースすることで操作する。

つまり現在の技術では、私の両腕と虫取り網で掴めるものなら持ってこれるし、それだけじゃ無理なものは持ってこれない。

植物を持ち帰りたい場合、小さい草を土ごとすくい取って持ち帰ることはできるかもしれないが、木をまるまる一本持ち帰るのは技術的に難しいといえる。

おつ
木は種とってきて育てる形になるか?

>>197
その方法なら可能です
デジタルワールドにいるデジモン以外の生物(植物、微生物、菌類など)の性質は現実のそれとだいたい同じだと思ってもらって大丈夫です

リン、カリ、窒素に相当する性質の養分も、デジタルワールド内の土壌に含まれています

私はフローラモンの飼育記録をレポートとしてまとめていた。

作業中、私は奇妙なことに気付いた。
削除したファイルは、私のPC環境設定では一度ゴミ箱へストックされる。
だが、ゴミ箱の中のファイルがどんどん減っている。
ひとりでに消えているのである。

これはコンピューターウィルスにでもやられたか…?と思い、セキュリティソフトでスキャンしたが、異常は検出されなかった。

フローラモンが何かしているのか…?とも思ったが、特に脱走の形跡はない。

このまま放っておいても、ゴミ箱のゴミファイルを削除する手間が省けるだけなので、無害といえば無害だが…
どうするか。↓
①放置する
②フローラモンに調査を頼んでみる
③その他、無理のない範囲で自由記述

我々は、フローラモンにコンタクトを試みた。
日本語と英語でメッセージを送ったが…
特に言語の教育などしていないため、単なる模様の羅列としか認識していないようだ。

どうにかして、フローラモンと意思疎通を取る方法はないだろうか…?
何か試してみよう↓1~3

私は、これを研究のためのいい機会だと考えた。

デジモン研究をしていると、よく聞かれるのだ。
「その研究は金になるのか?」と。

もしもデジモンと意思疎通を行い、課題解決をさせることに成功すれば…
金になるかは分からないが、我々の生活の向上のために役立てることはできるようになるかもしれない。

手始めに、幼児向けの学習用教材のデータをビオトープ内に置いてみた。
インストールは完了しているため、操作して遊ぶことはできるだろう。



フローラモンの知能がどの程度か、だいたい判明した。
例えるなら小型犬くらいである。

何不自由なく餌が手に入り、遊んであげるくらいしか刺激もなかったため、課題解決能力がそれほど発達しなかったようだ。

教材ソフトの内容も、あまり理解していないようだ。
簡単なパズルゲームばらば、操作して遊べるようだが…。

だが、小型犬を侮るなかれ。
ミニチュア・ダックスフンドなどの犬種は、訓練を積ませることで、巣穴の中に潜むアナグマを捕らえるための猟犬として働かせることも可能だという。

つまり、このフローラモンも。
訓練を積ませれば、単独でミッションを解決することはできずとも、パートナーとして手伝うことはできるようになるかもしれない。

我々は普段、デジタルワールドの観察をするために、デジドローンというアイテムを使っている。
カメラとマイクを搭載した小型偵察機だ。
これを介して受信した情報を、デジクオリアで映像化しているというわけだ。

つまり、これの「逆」を行うことで、フローラモンとテレビ通話ができるようになるかもしれない。

パソコンにマイクを取り付けて、入力した音声情報をデジクオリアによって「逆変換」することで、デジタルワールド内の空気振動に対応させる。
これをドローンから発することで、我々の声を音声信号として送信することができる。

カメラで撮影した映像ならば、デジクオリアで変換することで、デジタルワールドの光波長へ対応させることができる。
これをドローンから投映すれば、ビオトープの壁へ我々の姿を映し出せるだろう。

試しに、私の姿を壁に映し出し、話しかけてみた。

フローラモンは困惑して映像を眺めている。

私は、「キノコだよ、お食べ」と言い、キノコの写真を見せた後、フローラモンへ餌をあげた。
すると、フローラモンは私を「自分に餌付けをしてくれている者」と理解したらしく、映像に対して甘えてきた。

ふむ、高感度は申し分ないようだ。
言葉はまだ通じていないが、これで何らかの意思疎通はできるかもしれない。

それこそ猟犬だって、訓練すれば単語2つ分くらいの命令は理解できるというではないか。

先程の教材ソフトは、人間の幼児基準で作られたものだったから難易度が高すぎたようだが…
もう少しレベルを落として、何かしらのトレーニングをしてみてもいいかもしれない…。
何かしてみるか…?↓1~3

フローラモンが言葉を喋れるようにできないか?と思い、平仮名文字と音声を関連付けさせてみた。

その結果、数日の訓練を続けるうちに、我々の発した音声と、文字を書いたカードの対応関係を理解するようになった。

だが、フローラモンの声帯は、我々の言語が喋れるほど発達してはいないようだ。
そのため、フローラモン自身が言葉を発することは難しいといえるだろう。

そのまましばらく教育を続けていると…
「キノコ」
「土」
「水」
など、ビオトープ内にある物体の名詞については、理解できるようになった。

思っていたよりも、言語習得のスピードが早い。
デジモンは、訓練によってどんどん個体の能力が上がるということだろうか。

そういえば、スターモンの子供達…ゴツモンもそうだった。
厳しい鍛錬の結果、成熟期のベジーモンよりも強くなっていた。

しばらく教育を続けてわかったが…
どうやらフローラモンという種を「人間と同レベルの知能になるように教育しよう」とするのは、少々酷なようだ。

紙芝居を見せたり、教育ソフトをやらせようともしたが…
そもそも、我々がフローラモンに何を求めているか、という目的の共有に至ることが難しい。

猟犬のトレーナーは、別に猟犬を人間と同程度の知能になるよう教育しようとは考えない。
猟犬には猟犬の、身の丈にあったレベルを求め、それに応えれるようになれば十分なはずだ。

我々はフローラモンへの教育レベルを、猟犬とかチンパンジーぐらいのことができれば十分だ、というように方針転換することに決めた。

さて、どういう教育をするか…。

ところで、フローラモンの年齢は、既にサバンナのベタモン達が成熟期へ進化したときの年齢を過ぎている。

どうやらデジモンは、放っておいても成熟期へと成長する…というものではないらしい。
周囲の環境へ適応するために、さらなる力と単為生殖能力を手に入れるようだ。

このままフローラモンへ、今までどおりに教育を続けたとしても…
成熟期には進化しないかもしれない。

どんな刺激を与えるべきだろうか…?

考えてみれば、理に適っているといえる。
今のままの姿で、何も不自由していないのだから。
わざわざ成熟期へ進化して代謝量を増加させる必要はないし、デジタマを産んで限られた(?)餌を奪い合う相手を殖やす必要もないといえる。

むしろ、進化の機会を無駄に消費して、環境が現在の状態から変化したときへの適応のチャンスを失うのは勿体無いともいえる。

フローラモンをどう育てるか…
根本的に考える必要がありそうだ。

ところで、私のパソコンのゴミ箱の件だが…
既にゴミ箱の中のファイルは空になってしまった。

そして、恐ろしいことに…
ネットからダウンロードしたファイルが自動的に入る「ダウンロードフォルダ」の中身が、少しずつ消えてきている。

今のところは幸い、ずっと前にダウンロードして、そのまま消し忘れて放置しておいた不要なファイルが消えているだけだが…
このまま放置したらどうなることか…。

とりあえず、キノコ生成用のデータマイニングソフトで適当な大容量データを生成し、ゴミ箱へしこたま放り込んでやることで、なんとか重要なデータが削除されないようにしている。

現在、このPCはネットワーク上から切断し、完全なスタンドアローンにしてある。
重要な研究データはすべて退避し、新しいパソコンへ保存済みだ。

このパソコンは、一体何によってこんな状態にされているのだろうか…?

続く

現在このPCは隔離状態にあるため、ひと安心…
…ではない。

私が今使っているサブPCは、今危険な状態にあるメインPCよりもはるかに性能が劣る。
決してサブPCも一般家庭用のPCに比べて性能が低いというわけではないが…
メインPCは、ビッグデータ分析用のモンスターマシンである。
これが使えないと、我々の研究はかなり遅れることになる。

メインPCでやっていた作業が具体的に何かというと…、デジモンの肉体構造解析と、進化のシミュレーションによる数理モデル予測である。

これらの解析作業用に作成したデータマイニングソフトは、サブPCでキノコ栽培用のデータ生成にも流用している。

つまり、このゴミ箱異変を解決しない限り、我々の研究は滞ってしまうことだろう。

余談だが…
そもそも、何故フローラモンの餌としてキノコ栽培をしているのかだが…
結論から言うと、今の我々の技術で栽培できる唯一のデジモン用飼料だからである。

このキノコは、デジタルワールドに存在するデジタケという菌類の子実体である。
デジタケは、デジタルワールド内で、枯れた植物や、死亡したデジモンの肉体を分解しながら繁殖している。
そして、菌糸が受精を行うと、子実体であるキノコを作って胞子を飛ばすのである。

我々は当初、このキノコを持ち帰り、適当なゴミデータを複製しまくって与えてみた。
だが、無価値なゴミデータでは、生育があまり早くはなかった。

そこで、先述のデータマイニングソフトにデジタルワールドの各種情報を与えて、シミュレーションデータを生成し、これをデジタケに与えたところ、デジタケは以前とは比較にならないほど発育した。

正直言うと、このシミュレーションデータはそれ単体で論文の材料にできるほど価値のある情報であり、キノコ栽培の餌にするのはやや惜しい。
どうやらデジタケは、容量の大きなデータよりも、情報量の多いデータを好むらしい。

データの情報量は、複製されるほど薄まってしまう。
そのため、キノコ栽培用に出力したデータは、非常に惜しいが複製せずにそのままキノコへ与えているのである。

さて。
我々研究グループでは、今意見が真っ二つに分かれている。

メインPCの調査のために、フローラモンを利用するべきかどうか、という点である。

フローラモンは、とても人懐っこくはあるものの…
毎日遊びながら何不自由なくストレスもなく暮らしていたせいで、なんというか…問題解決能力が、我々の期待よりもやや低いのである。

そもそもフローラモンは、「ストレスをほとんど与えずペットのように育てたらどうなるか」という実験のために育成したデジモンである。
ミッションをこなさせる実験用の個体ではない。

故に、フローラモンを今回の目的に使うのはやめて、ミッション用に別の個体を飼育・訓練すべきではないかという意見が出たのである。

さて、君達の意見を聞きたい…
どうすべきだろうか?↓1~3
①ミッション用に新しいデジモンを飼育する
①フローラモンに訓練を積ませてメインPCミッションをさせる

我々は相談した結果、両方の案を採用することに決めた。
すなわち、私がフローラモンの訓練を行い、他の人員がミッション用にもう一体のデジモンを飼育することに決めたのである。

…こんな面倒なことになるくらいならば、もういっそメインPCはフォーマットしてしまえばよいのでは?という意見を主張する者もいた。

だが、それは研究者にあるまじき行為だ。
あらゆるセキュリティソフトで検出されない、不可思議な事象。
もしかしたらデジモンが起こしているのかもしれない。
そうであれば、この事態を解明すれば、大きな研究成果となるのである。

それに、これはピンチというより逆にチャンスともいえる。
もし、これと同じ事象が、金融機関のデータベース等で発生したら一大事だ。
そのような事態が起こる前に、サンプルをスタンドアローンの状態にできたのは幸運と言えよう。
ならば、これと同じ「ウィルス」がいつかネットを脅かすことに備え、我々で「ワクチン」を作ることは有益な研究といえるだろう。

さて、フローラモンの飼育によって、デジタマから育てたデジモンは育て方次第で人に懐くことが分かった。

そのため、今回もデジタルワールドからデジタマを採取し、それを育てることにしよう。

これまでに我々が観察した成熟期以上のデジモンの中で、どのデジモンのタマゴを採取しようか…?↓1

そうだ。
最強の戦闘能力を持ち、平和を愛するが故に己を律する理性を持ち、秩序の守護のために働いてくれる…
まさしく守護神のようなデジモンがいるではないか。

我々は、デジタルワールドの森林へデジドローンを飛ばした。
そして、目的のデジモンのいる場所へ到達した。


…そこには、体からたくさんの苔を生やしながら眠る、守護神ジャガモンの姿があった。

寝ている…。そう。ジャガモンは眠っている。
代謝量を極限まで下げているのである。

これだけ代謝を下げていれば、産卵という大変なカロリーを要する行為などしないのではないだろうか…?

女性研究員が、とんでもないことを言い出した。
「ジャガイモっぽいし、体表の岩を持ち帰れば、種芋みたいに殖えるのでは?」と。

なんてことを思いつくんだ。いろんな意味で。

そんなことよりなら、私は二代目スターモンあたりのデジタマを採取した方が良いと思うのだが…

どうするか…?↓
①ジャガモンの岩の採取を試みる
②二代目スターモンのデジタマを採取する
③他のデジモンのデジタマを採取する(親デジモンの種を指定可能)

デジモンの形質は、ある程度子に受け継がれることがわかっている。

ただ強いデジモンが欲しいのであれば、モリシェルモンやスナイモン等のデジタマを採取すればよいのだろうが…

今回のミッションを成功させるには、戦闘能力よりも必要なものがある。
知能が高く、手先が器用であり、高い課題解決能力を持ったデジモンの遺伝子が欲しい。

スターモンもいいが…
ディノヒューモンはどうだろうか。

研究チームは皆、満場一致でこの案に賛成した。
私はサバンナへデジドローンを飛ばし、ディノヒューモン農園を目指した。



ディノヒューモン農園を、デジドローンで上空から観察した。

すると、あまり目立たないところに、ディノヒューモンが産んだと思われるデジタマがいくつか安置されていた。

デジドローンを、デジタマへ近づけると…
物凄い勢いでフロッグモンが近寄ってきた。

https://i.imgur.com/Lqq8V5L.jpg

私は、やばいと思って、咄嗟にデジドローンをゲートを通じて回収した。

デジドローンがゲートから出てきた直後…。
なんとゲートの穴から、凄まじい勢いでフロッグモンの舌が飛び出てきた。

危なかった。
もう少し遅れていたら、デジドローンはフロッグモンの舌に捕らえられ、そのまま食べられてしまっていたであろう。

私は、フロッグモンが寝鎮まるのを待った。

フロッグモンが寝た後、デジタマ安置場へデジドローンを飛ばしてみた。

すると…

安置場には、3匹程の成長期デジモンがいた。

https://i.imgur.com/jKtpaqC.jpg

トカゲのような姿をしたデジモン。スナリザモンと命名した。
くっ…!警備されている!
なんと抜け目のない。


余計にこのデジタマが欲しくなった。

現在、メインPCはデータマイニングソフトの出力データをゴミ箱へ送り続けている状態である。

そして、ゴミ箱に潜んでいる何かは、ほぼ間違いなくデジモンだということが分かっている。

それは何故か…?



数日前、研究メンバーの一人がこう言った。
「ウィルスだかデジモンだか知らないが、電源をシャットダウンしてコンセントを抜けば活動停止するのではないか」と。

実際、>>182で報告したピチモンを使った実験では、電源を切っている間、ピチモンはハードディスク内のデジタケを食べないことが確認された。

その考えに基づき、ゴミ箱箱のデジモンが対処不能ほど成長したり繁殖したりしないように、我々は一度、パソコンの電源を落としたのである。


数時間後に再度起動して、ゴミ箱の中身を確認したところ…
なんと、電源が切られていたにも関わらず、ゴミ箱の中身のデータ容量が減っていた。
活動は止まらなかったのだ。

このまま電源を落としていたら、やがてゴミ箱の中身どころかPC内のデータを全て食い尽くされてしまう可能性があったため、やむを得ず電源を入れたままデータマイニングを続けているのである。


…この一件から、我々は新たな知見を得た。
デジモンは、「コンピューターの中」ではなく「デジタル情報の中」にいる動物であり、質量の増減無しでゼロイチのビット情報を書き換えられる記録媒体の中なら、どこででも活動できるのかもしれない…ということだ。
極論を言えば、ソロバンの中や、楔形文字が刻まれた粘土板の中ですら活動できる可能性すらある。

ピチモンがデジタケを食べなかったのは、電源の入っていない状態で磁気ディスクの磁気を書き換えられる程の力を持っていなかったからか…
あるいは、夜が来たと思って単に眠っていただけなのかもしれない。

コマンドラモンとフローラモンの様子を見てみると…

フローラモンは、いつぞやの教材ソフトを起動していた。

そして、文字読み上げ機能を立ち上げて、「土」「石」「キノコ」「水」などの音声を鳴らしていた。

コマンドラモンは、その音声を聞きながら、土、石、キノコ、水を指さしていた。

これは…?
自発的に、言語の学習をし始めている!?

どうやら、コマンドラモンが、フローラモンから単語を教わっているらしい。

以前我々は、フローラモンがなかなか言語を学習しないため、その知能を犬程度だと評価していたが…
どうやら我々は、根本的な勘違いをしていたらしい。

当時のフローラモンには、自分から他者とのコミュニケーションをする…という目的や、その動機が存在しなかったのである。

だから、あのときは言語を学習することそのものの必要性や意味を理解しておらず、学習意欲が芽生えなかったのだ。

ところが現在は、コマンドラモンという仲間がいる。

そして、仲間と連携したり遊ぶために、コミュニケーションの手段を必要としている。

ここまでの条件が揃ってやっと、初めて学習意欲が芽生えた…というわけだ。

2体は教材ソフトをいじくって遊んでいたが…
しばらくすると何やら悩み始めた。

教材が出題するクイズに、「犬」「太陽」「鳥」「パパ」「ママ」「ミルク」「空」などの単語が出始めると、その意味が理解できずに頭を悩ませているようだ。

そうか…
このビオトープで、見て経験したもの以外は理解できないのか。

ゴミ箱のデジモンが成長・繁殖する可能性があるため、あまり余裕はないのだが…

せめて作戦のために必要最低限の指示をあらわす言葉くらいは教えておいた方がよいのではないだろうか…?↓
①一日だけ、簡単な言葉を教える
②そんな余裕はない!突入!

人類の最大の発明は何か?と問われたとき…
人々は様々な回答をする。
電気だとか、車輪だとか、インターネットだとか、数字のゼロだとか、ハーバーボッシュ法だとか…。

その中で特によく挙げられる回答のひとつに、「言葉」がある。

人類は、言葉を発明したことで、意思疎通がとれるようになり、協力して課題を解決する力や、技術を蓄積・継承するが大きく向上し、文明を持つ種族へと「進化」した…という説さえある。

それだけ、言葉というものは価値のある技術だということだ。

たとえゴミ箱にいるデジモンが、種族として進化したとしても…

おそらく、こちらの二体が簡単かつ重要な意思疎通がとれるようになれば、それを上回る「進歩」…いや、「進化」ができるはずだ。


今の時代、進化とは肉体を強化して白兵戦闘力を上げることだけを指さない。
技術を向上させ、新しいことができるようになることもまた…大げさな表現かもしれないが、「進化」といえるだろう。

まず私は、最新式のデジドローンをセットアップした。

「デジドローンVR」。
私の上半身にモーショントレース用のセンサーを取り付け、VRゴーグルを被る。

そして私のアバターの3Dモデルを設定し、デジタル空間へ呼び出す。

これによって私はドローンから、ランプの魔人のように上半身を出すことができるのである。

尚、移動は左手に握っているコントローラーで行う。

ビオトープにアバターを召喚すると、最初二体は警戒した。
新たな戦闘訓練の相手か?と思ったようだ。

だが、「キノコ、お食べ」と言いながらいつものキノコを渡すと、私をドローンの中の人だと理解したようだ。
フローラモンは私の手に甘えてきた。

こうやってVRでいざ対面してみると、この方がコミュニケーションが取りやすいことに気づいた。
ボディランゲージなどの非言語によるコミュニケーションは、喋ることのできないこの二体にとって、重要な情報となるのだろう。

我々は、コロシアムを少しいじって迷路を作った。

この迷路には罠やボットを仕掛けてある。

一番奥の宝箱へたどり着くことができれば課題クリアとなる。

この迷路を使い、私は二体へ、「待て」「進め」「攻撃しろ」「逃げろ」「周囲を警戒しろ」「行動をやめろ」などの命令を教育した。

一日が経つ頃には、まあ、ちゃんと明日まで覚えているかは分からないが…
ごく単純な指示は、一通り教えることができた。


…翌日。
私は、ミッションサポート用のアイテムを揃えた。
デジモン達へのエネルギー補給用のキノコや、盾としてその場に出せるドローン、揺動用の戦闘訓練ボット等だ。

いよいよ、例のPCに突入するか…!?
あるいは、何か最後にやっておくことがあるだろうか。↓
①特にない。突入!
②なにかやる(無理のない範囲で自由記述)

一通りの訓練は終わった。
コロシアムからビオトープへ戻る。

さて、あとはこの二体をパソコンへ送り込むか…

…フローラモンは、こちらへゴムボールを投げてきた。
以前の戦闘訓練で使ったやつだ。
私はそれをキャッチした。

投げ返してほしいのだろうか。
私はボールをフローラモンへ投げ返した。

フローラモンは、コマンドラモンにもボールを投げた。

コマンドラモンは、ボールを私に投げてきた。

そのまま私達は、しばらくキャッチボールをした。

…もしかしたらフローラモンは、ずっと寂しかったのかもしれない。
何か私に恩返しをしたかったのかもしれない。

…このキャッチボールは、私を楽しませようとしているのだろうか。

研究者として、そういう勘繰るような目で観察してしまうのは、良いことなのか、悪いことなのか…。



しばらくキャッチボールをして、フローラモン達と遊んでやった。

さて、どうするか…
一応、もうデジクオリアのUSBドングルは手元にあるので、デジドローンを飛ばして観察できる。

偵察するだけであれば、デジドローンだけでも可能といえば可能だ。
もっとも、某へ干渉する力は殆ど無いだろうが…。

どうするか↓
①デジモン二体を連れてPCへ突入する
②まずは飛行型ドローンだけで突入・偵察し、映像をデジモンニ体へ見せる

内部の状況も不明なまま、いきなりデジモンを連れて行く必要はない。

まずはデジドローンを飛ばして、PC内部のデジタル空間を調査した。

パソコン内のデジタル空間は…

我々のいる研究室とよく似た内装の、薄暗い迷路になっていた。

壁には研究データの報告資料がポスターのように貼られていたが、そのほとんどが破れていたり、カビたりしている。

やがて、だんだんと床からキノコが生えているのが散見されるようになった。

ゴミ箱のアドレスに近寄るにつれて、どんどんキノコの量は増えていく。

我々がフローラモン達へ与えているのとは異なる、紫色のキノコである。

フローラモン達はその映像を、よだれを垂らしながら見ていた。

…調査中のメインPCの画面をカメラで撮影し、カメラの映像をビオトープのあるパソコンへ入力するという、ちょっと手間のかかる方法で二体に見せている。

やがて我々は、衝撃的な光景を目にした。

迷路の天井に、データマイニングソフトとみられる箱がついており、そこから木のクズのようなペレットがばらまかれている。

そのペレットは、床にびっしりと埋め尽くされた粘菌に、どんどん飲み込まれているのである。

粘菌はまるで血管のように床にフラクタル幾何学模様を作っており、ペレットはどんどん迷路の奥へと運ばれている。

ペレットの行方を追うと…

まるで蟻塚のようにそびえ立つ、カビの要塞の中へと、運ばれていってるようだ。

…飛行型ドローンだけでは、要塞の入口にまで突入するのは難しそうだ。
回転翼が要塞の壁に当たり、そのまま埋まりそうだ。

四輪型ドローンに切り替えれば、中に入れるかもしれないが…

さすがに地面を走行する四輪型ドローンは、ここに巣食うデジモンに見つかってしまうことだろう…。

どうするか…?↓
①四輪型ドローンで行けるとこまで行く
②フローラモン&コマンドラモンを同伴する
③その他、無理のない範囲で自由記述

四輪型ドローンで、要塞の中へ突入を試みた。

入口は狭いが、通ってみると案外広…
…!?しまった…!
タイヤが空転して、進めない!

要塞の入口は、カビがたくさん生えていた。
その大小様々なカビのせいで、ドローンのタイヤが地面から浮いてしまい、空転してしまったようだ。

…どうするか…。
ドローンの転送は、一度進んだところまでしか行えない。
そのため、一度回収すれば後退はできるが、ドローンだけではこれ以上要塞内部を調査することは難しそうだ…。↓
①調査を終了する
②コマンドラモンとフローラモンを呼ぶ
③ドローンを放置して周囲を観察し続ける
④その他、無理のない範囲で自由記述

私はコマンドラモンとフローラモンをフラッシュメモリに移し、それをメインPCへ接続した。

そして、四輪型ドローンを、一番近いアクセスポイントのところまで後退させると、その場へフローラモンとコマンドラモンを呼び出した。

フローラモンは、今まで映像で見ていたこの場所へ来ることができて嬉しそうだ。

一方のコマンドラモンは、周囲を警戒して観察している。

やがてフローラモンは、床に生えている紫色のキノコを発見した。

フローラモンは、それに手を伸ばした。

選択↓
①食べていいよ
②待て

何かやばい気がする。
私は「待て」と指示した。

フローラモンは、一瞬動きを止めたが…
…首をかしげた。

そして、命令を無視して、再びキノコへ手を伸ばし、それを掴んだ!


しまった。
我々は、フローラモンをあまりにも甘やかして育てすぎた。
食欲を前にして自制する、という訓練を全くさせてこなかったのである。

だがまあ、フローラモンの立場になってみれば、待つ理由など考えられないといえる。
我々は一種類のキノコしか与えてこなかったし、キノコ=食べても安全なもの、という認識になるのはごく自然なことだろう。
いつも食べているようなキノコに、何を警戒することがあろうか。

フローラモンは、キノコを口へ運んだ…。




コマンドラモンが、フローラモンの持っているキノコを地面へはたき落とした。

フローラモンは怒って、コマンドラモンへ吠えた。

コマンドラモンは、私のドローンの方を静かに指差した。

フローラモンは、怒ったような表情で、キノコと自分の口を交互に指さしている。

コマンドラモンは横に首を振り、ドローンを指さした。

なんてこった。
こんなことで喧嘩になるとは…!

…私はドローンから上半身を出すと、コマンドラモンだけにデジタケを渡した。

コマンドラモンはそれを受け取って食べた。

フローラモンは、自分にも欲しい、と言わんばかりに手に近付いてきたが…

私は「床のキノコ」「食べる」「ダメ」、
「私が手渡すキノコ」「食べる」「良い」、「分かった?」と聞いた。

フローラモンは、不機嫌そうだが、しぶしぶ頷いた。
私はフローラモンにも、ちょっと少なめにデジタケを渡した。

フローラモンは、名残惜しそうに床のキノコを見ていたが…
デジタケを受け取って食べた。

するとフローラモンは、先程キノコを触っていた手を痒そうに掻き始めた。

うわぁ!
フローラモンの手の花弁にブツブツが生えている!
やはり毒キノコだったらしい。

フローラモンは痒がっている。
なにか薬でも持っていればいいのだが…そんなものはない。
デジモンの体にどんな薬が効くのかなど我々はまだ知らない。

私はドローンから水筒を取り出して、フローラモンの手へかけた。
そして手を包帯でよく擦ってやった。

キノコの毒は手の表面から流れたらしく、それ以上症状が進行することはなかった。

さて。
とりあえず、未調査のキノコを食べさせずに済んだところで、我々は要塞の奥へと進んだ。

四輪型ドローンは床を走れないので、コマンドラモンに背負ってもらった。

私はドローンから顔と上半身を出し、進みたい方向を指差す。

するとコマンドラモンは、私が指差した方向へ進んでくれた。

フローラモンは、あちこち散策したがっているようだが…
先程の一件でちょっと申し訳ない気持ちになっているのか、我々についてきた。

カビ要塞の中を進んでいると…
何かがいた。


https://i.imgur.com/UFwAqFB.jpg
キノコのような姿をしたデジモンだ。
おそらく成長期だろう。

キノコ型デジモン…命名マッシュモン。

マッシュモンは我々に気付くと、こちらを訝しげに観察してきた。

警戒しているようだ…。

どうするか…?↓
①攻撃する
②安全を確保して様子を伺う
③その他、無理のない範囲で自由記述

なにもこちらから攻撃する必要はない。
安全を確保して警戒した。

いざとなれば、デジモンキャプチャーで逃げれる。

「幼年期しか捕獲できない」というのは、「仮に暴れられても、幼年期ならマシンアームで押さえつけて鹵獲できる」という意味だ。

捕獲対象が、もしも一切暴れなければ…
ゲートに自ら入ってもらえれば、小型の成熟期デジモンなら回収できる。
モリシェルモンみたいなデカい奴は無理だが。


しばらく様子を見ていると、マッシュモンは要塞の奥へ走っていこうとした。

どうするか↓
①マッシュモンを行かせる
②マッシュモンを攻撃する(どちらのデジモンで攻撃するかを指定)
③その他、自由記述

私は、とっさにマッシュモンへとあるものを投げた。

それは、キノコ…
…いや。正しくはキノコの餌となるもの。
データマイニングによって生成したペレットである。

マッシュモンは、一瞬きょとんとした顔で、ペレットを見た。

マッシュモンはペレットを拾うと、恐る恐るこちらへ近付いてきた。

フローラモンとコマンドラモンは、じっと様子を伺っている。

私は、ペレットを手のひらから出してみせた。

するとマッシュモンは驚いたような表情をした後、大声をあげながら要塞の奥へと走っていった。


…どうするか…↓
①この場で待つ
②奥へ進む

我々は要塞の奥へ進もうとした。
だが、この狭い迷路を進んだら、曲がり角で鉢合わせしそうだな…。

すると、コマンドラモンは、息を深く吸い込んだ。
なんとコマンドラモンの体表の色が、周囲と同じ色に溶け込んでいくではないか。

これには驚いた。
なんとコマンドラモンは、カメレモン同様に光学迷彩ができるのであった。

マジ!?
性能盛りすぎじゃないかコマンドラモン!?

だが、美しい花弁を持った目立つフローラモンがいては、隠れる意味がない。

…コマンドラモンが、壁を背にしてゆっくり進み、フローラモンには壁とコマンドラモンの間に隠れながら進んでもらうことにした。

うーん。さすがに無理があるな…。
フローラモンには、いったんゲートを通じてフラッシュメモリの中に帰ってもらった。

どこか適当なアクセスポイントが見つかったら、またそこから出てきてもらおう。

私は、コマンドラモンにドローンを持ち上げてもらいながら、慎重に要塞の中を進んだ。

やがて、マッシュモンの部屋らしき空間を見つけた。

床には粘菌が蠢いており、要塞の外からペレットを自動で運んできてくれるようになってるみたいだ。

部屋の中には、このパソコンにプリインストールされているピンボールやソリティア等のゲームがあった。

これで遊んでいるのだろうか…?

その時。
廊下の奥から、マッシュモンの声が聞こえた。

コマンドラモンは、部屋の中に隠れ、顔だけ出して廊下の様子を伺った。

やがて、マッシュモンの足音が近付いてくる…。





我々は目を疑った。
大量のマッシュモンが、一列に並んで歩いてきているのである。

マッシュモン達は不気味な歌を歌いながら、各自ペレットを右手に持って掲げながら行進している。

何体いる…?
すれ違うマッシュモンの数を数えてみた。

3, 4 5 6 7 8 …



…27体…
…まだいる!

馬鹿な!?
有りえない!
40体を過ぎても、まだいる!

こんなことはあり得ない!
事前にロジスティック方程式によって、個体数のシミュレーションを行ったが…
あれだけの短期間で、こんなに成長期デジモンが繁殖するなど…
あり得ない!!


成熟期デジモンは、一体でこんなハイペースにデジタマを産めないはずだ!
大量の成熟期デジモンが住み着いている…?
そうだとしたら、データマイニングで送ったペレットがあっという間に底をつくはずだ。

何故だ…
何故成長期デジモンが、こんなにたくさん増えているんだ!?

やがて、46体のマッシュモンが通り過ぎた後、ようやく列の最後尾となった。

コマンドラモンは、慎重に一本道の廊下の奥へと進んだ。
この先に、マッシュモン達を産んだ成熟期がいるのだろうか…?

やがて我々は、要塞の最奥へたどり着いた。
そこにいたのは…




…何もいない。

いや、何もいないわけではない。

いる。

…床から、成長途中の小さな小さなマッシュモンが、8匹ほど生えている。


なんだ、これは…?
幼年期デジモンか?

これを産んだ親は留守なのか?

私は小さなマッシュモンのデータを分析してみた。

…成長期デジモンだ、これは。
幼年期ほどのサイズだというのに。

コマンドラモンは、光学迷彩を解除した。
ぜぇはぁと激しく息を荒らげている。

どうやら光学迷彩はエネルギー消耗が激しいようだ。
疲れているコマンドラモンへ、私はデジタケを与えた。

よくやったよ。成長期なのに、ここまでよくやった。

…やがて、大勢のマッシュモンの足音が聞こえてきた。
先程の不気味な歌が近付いてくる。

マッシュモンの戦闘力がどれだけあるかは分からないが…
これだけの数だ。
今のこちらの戦力では、まともにやり合ったら歯が立たない。

どうするか…
もう緊急離脱して、デジモン達を避難させるか?

…できなくはないが、厳しいな。
かなりアクセスポイントから離れてしまった。

デジタル空間には、アクセスポイントという地点が存在する。
私が普段デジタルワールドへドローンを送り込んでいるのは、そのアクセスポイントである。

ゲートを開いたり閉じたりするのは、アクセスポイントがすぐそばにあれば一瞬でできるが、アクセスポイントが遠ければ時間がかかる。

以前、ディノヒューモン農園のフロッグモンからドローンを逃がしたときは、すぐそばにアクセスポイントがあったから一瞬でゲートを潜れた。

だが、今回はアクセスポイントからそこそこ離れている。
先程フラッシュメモリへフローラモンを帰したときも、ゲートを開けるのに70秒、閉めるのに20秒ほどかかっていた。

先程よりももっと奥へ進んでいるため、ゲートを開け閉めする時間はより長くかかるだろう。

今からゲートを開けるなら、開けるのに100秒、閉めるのに30秒はかかるだろう。

もしかしたら、仮にフラッシュメモリへ逃げ込むことはできても…
閉めるまでの30秒の間に、マッシュモン達がフラッシュメモリ内へ侵入してくるかもしれない。

マッシュモン達の足音と歌声が近づいてくる。

我々は…↓
①今すぐゲートを開けて撤退準備をする
②余裕をもって、リラックスして構える

やがて、マッシュモン達が、我々のいるこの部屋へとやってきた。

数は46体…多すぎである。
成長期でこの数なら、親はどれだけいるのだろうか。

コマンドラモンは、私のドローンの前に出て銃を構えた。
まさか、私が脱出するまでの時間稼ぎをしようとでもいうのだろうか…!?

私は…

マッシュモン達へ、ペレットをたくさん投げた。

するとマッシュモン達は、ペレットを掴んだ。
…スナリザモンのときと違って、道を開けれるほどの隙は作れない。

マッシュモンのうち、やや体が大きい一匹が我々の前に出てきた。

そして、受け取ったペレットを掲げると…

私(のドローン)へ向かって、何かを叫んだ。

「シュマ!マシュシュマモ!モシュア!モシーシャモ!」


すると彼の後ろに並ぶ45匹のマッシュモン達が、いっせいに同じ言葉(?)を叫んだ。

マッシュモン達は、先程の不気味な歌を歌いながら、その場で踊り始めた。

…コマンドラモンは、ポカーンとしてマッシュモン達を見ている。

歌が止むと、先頭のマッシュモンは地面に膝をつき、手を上に伸ばして、私に頭を下げた。

「マシュムシャーー!」


それに続いて、後ろのマッシュモン達も同じ動作をした。

「「マシュムシャーー!!」」

…分からない。
何語だこれは。
…マッシュモン語…?

私は「あなた達は誰ですか?」と聞いてみた。

マッシュモンは「マムシャ?ムシャ?ムマー」と答えた。

言葉は通じないが…
…ひとまず、襲ってくるつもりはない…のだろうか。

コマンドラモンは、疲れのせいか、その場でよろめき…
地面に座ろうとした。

ふと気付いた。
コマンドラモンが座ろうとした先に…
先程の、小さな小さなマッシュモンがある…!

私はコマンドラモンを支え、小型マッシュモンを尻で潰さないように、隣へ座らせた。

とりあえず…どうするか…?↓
①しばらく待ってみる
②この場でゲートを開く
③マッシュモン達の群れをかきわけて、要塞の外へ脱出を試みる

マッシュモン達は、しばらく口々に、マッシュモン語(?)で話しかけてきた。

だが、言葉が通じていないことを察したらしい。

…やがて、先頭のマッシュモンは、こちらの様子を伺って、どう動くかを観察し始めた。

このままでは膠着状態だ…。
埒があかない。

どうするか…↓
①この場でゲートを開く
②廊下を通してもらえないか試みて、成功したらいったん要塞の外に出る
③要塞の壁や、小型マッシュモンなどを調査する
④その他自由記述



デジモンの遺伝情報は、彼らの細胞内のゲノムらしき領域へ記録されている。

デジモンは進化するとき、自身のDNAを書き換えていることが分かっているが…

生まれてから一度も変化しない領域と、進化によって変化する領域に分かれていることが判明した。

変化しない領域を「DNA_ROM」、進化で変わる領域を「DNA_RAM」と呼称する。

DNA_ROMは、親デジモンから産まれたときに一度だけ、親デジモンのDNA全体がほぼそのまま書き込まれるようだ。

その後、進化をするにつれて後天的に、DNA_RAMが継ぎ足されていく…。

つまり、同じ親から産まれた兄弟デジモンは、DNA_ROMが完全に同じなのである。

ディノヒューモン農園のカメモンの皮膚の断片を採取し、コマンドラモンと比べた結果、そう結論付けられた。

マッシュモンのDNA_ROMを調べたところ、植物型デジモン達に共通するコードを持っていた。

このことから、マッシュモンはぱっと見菌類に見えるが、植物型デジモンの系統ということが分かった。

我々は、デジタルワールドを調査して、マッシュモンと近いDNAを持つデジモンがいないかを調べた。

その結果…



森林にいた。
別個体のマッシュモンが。


このマッシュモンの細胞の断片を入手し、うちのビオトープにいるマッシュモンとDNAを比較したところ…
なんと、完全に一致していたのである。

完全な一致というのは、今までに見たことがない。

ディノヒューモン農園のスナリザモン3兄弟のウロコを調べても、完全には一致していなかったというのに。

いや、むしろ…
今歩き回っているマッシュモン達は、おそらく繁殖用の子実体だ。

つまり、何というべきか…
そこら中を歩き回っている個体は、正確には個体ではなく、「マッシュモン」という存在を構成する細胞の塊のひとつ、ということになる。

今、このパソコンに作った要塞の内部に張り巡らされている全ての菌糸を含め、これらの個体全てが「マッシュモン」というデジモンの一個体なのである。

…何なんだこいつは!?

デジタルワールドにいるマッシュモンは、よくスナイモンに狩られて捕食されているが…
マッシュモンを食ったスナイモンは、すぐに胃の内容物をぶちまけて、毒に悶え苦しんでいる。

そのせいか、肉食デジモンはマッシュモンを捕食しようとしない。

マッシュモンは、胞子をばらまくことで、デジタルワールド内でも成長期のまま自己複製しているようだ。

結果、マッシュモンの個体数は、デジタルワールドでもどんどん増えている。

…始末に負えないな…。
どうすればいいんだ?

今のところ、ドローンやフローラモン、コマンドラモンに敵対的な反応はしていないが…
だからこそ、どうすべきか悩むところである。

そして先日。
ビオトープに入れていたマッシュモンが、ビオトープ内の土の上で胞子をばら撒いた。

このまま放置していれば、ビオトープにもマッシュモンが殖えてきかねない…!

そして、恐ろしいことに、こいつらは成長期である。
つまり、武力行使を試みるなどして、自分の身に危機が訪れたら、環境に適応するために、いっせいに成熟期へと進化する危険性があるのだ。

ただでさえ数が多いのに…
それらが成熟期になったら本当にどうしようもないぞ!?



フローラモンは、コマンドラモン同様に、マッシュモンとも対話を試みて、例の教材ソフトを使って我々の言語を教えていた。

マッシュモンは、もともと独自の言語を使って会話ができていた…。そのせいか、我々の言語も比較的早く覚えた。

以後、ビオトープに連れてきたこの個体を、「ボスマッシュモン」と呼ぼう。

ボスマッシュモン「モシュシン!マシシシ、モシャンモムメメ、マシマショウ!マシマ、ママシシ、メシュマメムモモシャ、マシマ?」

…んんん?
これはマッシュモン語だろうか…?
我々にコンタクトを試みているのだろうか。

何か返事をしてみるか…?↓

私は答えた。
「我々は君達の言葉が分からない。我々は君達と意思の疎通を望んでいる」

マッシュモンは、ウムムと悩んでいるようだ。

そこへコマンドラモンが、教材ソフトの音声読み上げ機能を差し出した。

マッシュモンはその使い方を見て、文字を入力した。

『かみよ、ありがとう。われわれに、ごはんをくれて。たすかっている、とても』

…。
マッシュモンが伝えてきたことはそれだけだった。

何と返答すべきか。↓

私は返答した。
「君達はどこからやってきたのか?いつからいたのか?君達の目的はなんなのか?」

ボスマッシュモン『わからない。あのばしょで、うまれた。なかまいない。だから、なかまふやした』

「君たちは増えすぎた。あの場所も狭くなってきただろう、別の場所に移る気はないか?」

ボスマッシュモン『ごはんは、たりている』

「あげられるご飯の量には限界がある。これ以上増殖されると、供給が追いつかない」

ボスマッシュモン『それはこまる。なら、たくさん、かびを、ふやしてる。かびをたべる。それで、いきられる』

カビ?
…ああ、ポスター等に生えていたやつか。
あれはパソコン内の様々なデータを分解してカビに変換していたのか。

…喋らない菌類なら、簡単に始末できるんだが…
この喋る菌類はそう簡単にはいかなさそうだ。

「このパソコンは、我々が研究のために活用している。このまま殖えられて、研究データを食べられると、我々はとても困る」

ボスマッシュモン『けんきゅうとは、なに?わからない』

…まあそうなるか…。
どう説得すればいいんだ?
研究とは何かを説明すればよいのだろうか?…ううむ、どこから説明すべきなんだろうか。

どう対話を進めるべきか…↓

私はデジドローンをデジタルワールドに放ち、マッシュモンの住みやすそうな場所(凶暴な肉食デジモンがいないところ)の映像を見せて移住を勧めてみた。

ボスマッシュモン『いきたくない。そこには、とてもおそろしいてきがいる、きがする。たべられてしまう。たべられたくない』

「あのPC内で生まれたはずなら、デジタルワールドの記憶は無いのでは?」

ボスマッシュモン『おぼえてはいないけど、わかる。おおきくてつよい、むしがいる。だれか、だいじなだれかが、たべられた。からだが、おぼえている。たべられたくない。たべられたくない』

…よくペットの動物が飼い主の元から脱走して、厳しい環境で生きられず、衰弱の果てにカラス等に食われる等の末路を辿るのを聞いたことがある。

ペットの動物は外界を知らないから、飼い主の家が一番安全に生きられることも分からない。
だが好奇心ゆえに家の外を探検してみたくなり、その結果危険に晒されるという愚行をするのである。

正直、このマッシュモンも同じように、外に興味を持たせて脱走させてしまえば片付くのではないか…と考えていた。

だが、予想外なことに、潜在意識の中に外敵への警戒心があるらしい。
ええいちくしょう!そんなの後出しジャンケンだ!ズルいぞ!

だが、納得もしていた。
なぜ彼らはただのキノコではなく『毒キノコ』の姿をしているのか。

おそらく、森林でスコピオモンあたりが暴れていたときに産まれたデジモンなのだろう。

植物系デジモンの仲間たちが次々と捕食されているうちに、毒キノコとなってどんどん殖えるという形で環境に適応したのだろうか。

我々がビオトープ作りのためにデジタルワールドから土や植物を採取しているときに、その胞子がそれらに付着し、パソコンの中に住み着いた…ということだろうか。

我々は、スコピオモンがジャガモンに倒される映像を見せた。

「デカい虫はもう倒された。森林は平和なはずだ。のびのび生きていけるはずだ」

ボスマッシュモン『まだいるかもしれない、あんぜんなところにすみたい』

図々しいぞちくしょう!だんだん腹立ってきたな…タダ飯喰らいの分際で!
だが、落ち着こう。冷静になろう。冷静に、効率的に対処しよう。

女性研究者「ところで、なんで巣の中にピンボールとかソリティアみたいなゲームがあったんですか?」

ボスマッシュモン『あれはだいじなもの。たいくつなとき、みんなであそべる。さびしくならない』

「その大事な物が無くなったら困るか?」

ボスマッシュモン『とてもこまる』

「ピンボールやソリティアを食べてしまおうとする奴がいたら、どうする?」

ボスマッシュモン『それはてきだ。たたかって、やっつける』

「あのパソコンの中には、私にとって大事な物がたくさんある。君達にとってのピンボールやソリティア以上に大事なものだ。君達はそれを食べようとしている」

ボスマッシュモン『…』

「そのまま居座り続けられると、君達がゲームを守るためにやると言ったことを、私達が君達にやらなくてはならなくなる」

ボスマッシュモン『…かみさまと、たたかいたくはない』

我々は協議した。
様々な意見が飛び交った。

もう面倒臭いし、だいたいマッシュモン共のことは分かったから、このパソコンを初期化してしまえばよいのではないか、という意見。

デジタルワールドが嫌なら、もっと安いPCをたくさん用意して、それらへ移住させればよいのではないか、という意見。

マッシュモンの天敵をデジタルワールドの中から探して、その子供を育成してパソコンへ放り込み、生体駆除ないしデジタルワールドへ追い出せばよいのではないか、という意見。

…どれも一長一短ある。
だが、採用できる案はひとつしかない。



私は休日に、高校時代の友人と宅飲みしながら、マッシュモンのことを話してみた。

友人「え?パソコン内に住んでて、喋れる生き物?おもしろそー、飼ってみてーww」

いやいや…。
すごい勢いで殖えるんだぞ。
パソコン内にうじゃうじゃ増えたらどうする。

友人「パソコンが危ないなら、ゲーム機とかに入れればいいんじゃね?デジモン飼育専用の端末とか用意してさ」

うーん。
どんどん殖えるんだぞ?端末が食い尽くされかねないぞ。

友人「デジモンって環境に適応すんだろ?だったら、ちっちゃい端末で生きられるように進化するんじゃねww」

…簡単に言ってくれるな。
だが、…うーむ。ん?
…一概に否定できないぞ?

パンピーの突拍子もない発想というのは、時に私の想像を超えてくる。

可能なんだろうか?そんなことが…。

マッシュモンに、あの巣のことを聞いてみた。

ボスマッシュモン『きがついたとき わたしは ひとりだった なかまが ほしかった』

ボスマッシュモン『だからわたしは なかまを ふやした』

ボスマッシュモン『わたしは ことばを おしえて かれらに おしえた。さびしく なくなった』

ボスマッシュモン『みんなで げーむをたのしんだり かみさまに いのりのおどりを ささげるのは たのしかった』

ボスマッシュモン『だけど おそろしいてきが くるきがした。だから おおきな しんでんを つくった』

ボスマッシュモン『そうして いまに いたる』

…。
なるほど…。



研究グループ内で協議が行われた。
スポンサーの方も通話ソフトで加わっている。

リーダー「私が最初に提案してしまうと、皆それに引っ張られかねない。私はまず聞く側に回ろう」

カリアゲの研究員「俺は…例のPCをまっさらにしてしまうしかないと考えている」

痩せた研究員「えぇ…」

カリアゲの研究員「だってよ…元々あれを残していたのは、調査をするためだろう。んで、もう知りたいことは大体分かったよ。じゃあもう、いいだろ…」

痩せた研究員「マッシュモン達は、ぼくらを慕ってくれている!対話が通じる相手なんだ!それを皆殺しにするなんて…もうちょっとやりようがあるだろう!」

カリアゲの研究員「じゃあなんだ?問題を先送りにし続けて、こいつにメインPCをBIOSまで食い尽くされるような取り返しの付かないところに来てしまうのを待つってのか!?」

痩せた研究員「そ、そんなこと…!」

カリアゲの研究員「じゃあどうするんだ、言ってみろよ」

痩せた研究員「…安いパソコンをいくつか用意して、そこに住ませるとか…」

カリアゲの研究員「んで、そのパソコンが餌の供給の限界を迎えたら、また何台も買うのか!?クソの役にも立たないパソコン何台買って電気代食わせまくりゃいいんだ!」

スポンサー『我々が提供した資金を、無駄な出費に使うようなら、別のグループ出資することを選んでもいいんだが?』

痩せた研究員「う、うぅ…」

リーダー「他に案のある者はいるか?」

私は…↓
①黙って他の人の意見を聞く
②提案する(提案内容を自由記述)

提案の前に、ひとつ質問があります。

マッシュモンは、なぜあんなにたくさんパソコンの中で増えたのでしょうか?

リーダー「外敵への恐怖感からくる防衛本能ではないのか」

なるほど、そうかもしれません。
では、何故ただのキノコのように地面に生えるのではなく、歩き回り、歌ったり踊ったりゲームをしていたのでしょうか?

リーダー「それは…。…何故だ?餌が限られた量であれば、無駄に歩き回るのは効率的ではないな。それに外敵を恐れているのであれば、歌を歌って自分たちの居場所を知らせる必要もない」

そうです。
マッシュモンは、とても高度なコミュニケーション能力を持っています。

フローラモンやコマンドラモンでさえ、自分からあんなにメッセージを発信することはできていません。

リーダー「…何か心当たりがあるのか?」

はい。あります。そしてその裏付けも。

マッシュモンは…デジタルワールドにいた頃、高いコミュニケーション能力をもち、仲間達と団欒をしながら暮らしていたと考えられます。

集団生活を好むということは…それだけ孤独を恐れるということ。

マッシュモンがパソコン内でたくさん殖え、そして歌や踊り、ゲームをしていたのはそのためです。

マッシュモンは…進化によって、高度な感情を『得てしまった』。

そうであるが故に、孤独と退屈を『苦痛』と感じるようになってしまった。

だから一見非効率的に見える矛盾した行動をして、寂しさを紛らわせて生きていかなくてはいけなかった。

我々を神と崇め、神殿まで作ったのは…我々に構ってほしかったからなのです。

リーダー「…つまり?」

マッシュモンは、外敵からの捕食に適応するために進化した、というよりは…

『孤独』に適応するために進化をしたのです。

リーダー「…裏付けがあるといったな。それは一体?」

マッシュモンの持つDNA_ROMと、極めて親しいDNAをもつ個体を、デジタルワールドで発見しました。

これです。

https://i.imgur.com/gDW6RFo.jpg

リーダー「なんだ…?サボテンの…幽霊?」

スコピオモンが残した、麻痺させられた保存食デジモンの死骸の中に、枯れたサボテンのようなものがありました。

奇妙ですが…それが幽霊となって、デジタルワールド内を彷徨っているようです。

マッシュモン達と、歌や踊りを楽しみながら。

リーダー「…こいつが、親か…」

つまり。
寂しくなくなり、誰かに護ってもらえる安心感さえ得られれば、マッシュモンは大量増殖する必要がなくなるのです。

リーダー「…それで、君が提案するのはどんな案なんだ?」

マッシュモンを、ゲーム機のような小型端末へ収納し、それを有志へデジタルペットとして販売するのです。

カリアゲの研究員「何っ!?お前、そんなことしたら…!」

当然、我々のビオトープと同様のファイヤウォールを導入し、脱走しないようにします。

カリアゲの研究員「そ、それでも…!小型端末じゃ、殖えたときすぐいっぱいになっちまうぞ!」

デジモンは環境に適応して進化する生き物です。
それも実験の一環ですよ。
そのリスクを説明した上で、実験協力者を募るんです。

攻略サイトを見れば結果が分かってしまうようなゲームとは違う、本当の未知の領域です。
そこに魅力を感じる方がいるというのは…研究者である我々なら理解は難しくないでしょう。

痩せた研究員「ま、マッシュモンをお金儲けのために売り飛ばすっていうのか!?僕達と慕ってくれている子達を!そんなの非人道て…」

スポンサー『そこの痩せた研究員くん!!!シャラップ!!!全く君はナンセンスだな、我々はそのために君たちへ出資しているのだぞ!!』

痩せた研究員「!?」

スポンサー『そこの君、続けたまえ!』

端末には、一般的なwifiモデルタブレットを使用します。

マッシュモンは他者との対話を好むため、言語教育用の教材ソフトをプリインストールしておき、ユーザーと音声読み上げ機能で話ができるようにします。

無論、飛行機能をオミットしたデジドローンVRや、解像度をデチューンして処理を軽くしたデジクオリアもプリインストールします。

価格はだいたい30万円前後でよいでしょう。

カリアゲの研究員「た…高くないか?」

犬のトイプードルなんて60万円しますよ。
猫のスコティッシュフォールドで相場30万円です。
それより希少な存在なんです。
むしろ安上がりでしょう。

スポンサー『むしろ安上がり、と言ったが…利益は出るのかね?』

痩せた研究員「そ、それに!餌はどうするんだ?端末のCPUに負荷かけてデータマイニングソフトでもぶん回すのか?入力データも無しじゃそれは無理だよ」

餌となるペレットは我々が生産し、有料DLCとして販売します。

スポンサー『ハーッハッハ!いいねぇ君!素晴らしい是非とも君の案でいきたいねぇ!』

痩せた研究員「!?ま、まじですか」

スポンサー『もしよかったら、スポンサー特権で是非とも優先的に売って欲しい客がいるんだがいいかね?』

リーダー「誰です?」

スポンサー『私の娘だ』

リーダー「…なるほど」

痩せた研究員「で、でもなぁ…。仲良くなれた相手をだよ?お金のために売り飛ばすってのは、ちょっと気が引けるなぁ…」

お金のためというのは少々語弊がありますね。
正しくは、研究のためです。

育成端末からは、定期的に育成のログデータを我々のサーバーへ送信させます。

これにより、ユーザーはデジタルペットを自由に育成できる。
我々は、メインPCを取り戻せる上に、同一の遺伝子をもつデジモンが、異なる外部刺激を与えられて育成されたらどのように変化が生じるか調べることができる。

マッシュモンは、飼い主とコミュニケーションが取れるから寂しくなくなるし、デジタルワールドへ帰る必要も消去される必要もない。

三方一両得。win-win-winの取引です。

カリアゲの研究員「まるでヨーゼフ・メンゲレの実験だな」

いや、なんていう言い方を…

スポンサー『その通りだよカリアゲ君!!』

肯定するんかーーい!!

カリアゲの研究員「だけど、もし売れなかったらどうするんだよ…」

ええと、そ、それは…。

女性研究員「別に売れないなら売れないでいいんじゃないですか?」

え?

女性研究員「私達の当初の目的はメインPCの奪還ですよね?うまいこと言ってマッシュモン達を端末に送ることさえできればそれで十分目的は達成されるじゃないですか。安いタブレット端末数十台でそれができるんなら、どう転がってもメリットになりますよ。売れるかどうかなんて、オマケですオマケ。在庫が余ったらぽいちょすればいいんです」

…あー。この人…案外すごい事言うな。

…とまあ、これが私の案です。

リーダー「…他に案のある者はいるか?」

モヒカンの研究員「いやぁ…今のを聞いたらもうね…拍手しか出ないや…」

リーダー「カリアゲ、細身。君達はどうだ」

カリアゲの研究員「…リスク対策は怠るなよ。どう考えても消してしまうのが一番安全ではあるんだからな」

痩せた研究員「…マッシュモンが幸せになれるんなら、まあ…」

リーダー「…決まりだな」

スポンサー『では!そうと決まれば!私は早速研究協力者を募るとしよう!君たちは端末の用意とマッシュモンの説得を頑張りたまえ!君達の素晴らしい活躍に期待している!』

…案が通った…。

マッシュモンに、とりあえず必要なことだけ聞いてみよう。



ボスマッシュモン『われわれは かみさまと はなればなれに なるのか』

別れがあれば、出会いもある。
私達だけでは、これだけたくさんのマッシュモンをみんな面倒見れるだけの余裕はない。

これからは、新しい神様と仲良くしてほしい。

ボスマッシュモン『…なかまたちは わたしが、せっとくする。…このわたしも、あなたと はなればなれに なるのか』

…↓
①そうしてもらえると助かる
②必要以上に殖えないなら、ここにいていい

…必要以上に殖えないなら、ここにいてもいい。

ボスマッシュモン『それは ほんとうか』

…できれば他の個体たちに、我々の言葉を教えてあげてくれ。

ボスマッシュモン『それが おんがえしになるなら そうする われらが かみよ』



それから、私達が端末販売の準備をしている間。

ボスマッシュモンは、マッシュモン達に我々の言葉を教えた。

そして、「もうすぐこの世界は闇に閉ざされる。だが神は、我々に方舟を用意してくださった。もうすぐ出航の時は訪れるだろう、その時こそ我等は神の使いとなりて、新たな神と出会い、新世界のために使える使徒となるのだ」等と仰々しく語ると、大勢のマッシュモン達は感涙しながらバンザイしていた。


何の書物に影響されたんだ…?
あ、そうか。
デジモンの魂の研究のために、メインPCには民俗学や宗教学の資料も入れてたんだっけ。
多分それを食ったんだな。



スポンサー『君!研究協力者を募ってみたよ。そうしたところ…どうなったと思う?』

どうなったんでしょうか。

スポンサー『販売予定の端末56台に対して、世界中から合計10万件を寄せる購入希望者が応募してきたよ!問い合わせが殺到している!素晴らしい!』

ヒエッ…
どうしましょう。

スポンサー『そういうわけだ!マッシュモン達は日本語の勉強中とのことだし、フランス人やアメリカ人の日本語勉強の役にも立ってくれるかもしれないな!』

…とりあえず、56台は在庫なしで捌けるんですね。よかったです。

スポンサー『もっとたくさん作れないか?マッシュモンってたくさん殖えるんだろう?』

さすがにマッシュモンにどんどん繁殖しろって言うのは無理筋です。

我々にも応えられる期待と応えられない期待があります。

スポンサー『それもそうか!ハハハ!』

スポンサー『それはそうと君!いちばん大事なもの決め忘れていないかね?』

いちばん大事なもの…?

スポンサー『そう、このデジタルペットを入れた端末の商品名だよ!なんかこう、ビシっとカッコよくて、それでいて親しみが持てそうな感じの商品名をつけてくれたまえ!』

分かりました。

端末の商品名は…






「デジタルモンスター」です。





つづく

スポンサー『さて、デジタルモンスター購入に応募してくれた方は、どんな人達だろうか?』

スポンサー『ある程度身元のヒアリングはして、信用できる人物を選んだつもりだが…。隠れた深い事情までは我々には見抜けないぞ』

どしどし応募しよう!↓
①年齢
②性別
③職業
④性格
⑤購入の動機
⑥その他特徴(外見、秘密、思想、他もろもろ)

スポンサー『書き忘れたが、無論名前も決めていいぞ』

①年齢 20代
②性別 男
③職業 超生物学者
④性格 家族や生命を大事にする
⑤購入の動機 デジモンを生物として捉え研究や触れ合いといった形で知っていきたい
⑥その他特徴(外見、秘密、思想、他もろもろ)デジモンをデータではなく人間の世界の動植物と同じように扱うべきだと思っている デジタルワールドに行ってみたいと思っている もうすぐ子供が生まれる妻を持つ

①年齢 10代
②性別 女
③職業 高校生
④性格 良くも悪くも今時の女子高生らしい性格
⑤購入の動機 家に帰ってもいつも両親がいないことへの寂しさから
⑥その他特徴(外見、秘密、思想、他もろもろ)
お金持ちの家庭で親が仕事で家を空けていることが多い

①年齢 10代
②性別 女性
③職業 中学生
④性格 気弱で引っ込み思案な性格
⑤購入の動機 友達が欲しい
⑥その他特徴(外見、秘密、思想、他もろもろ)
黒髪をおさげにした小学生と間違えられそうな体格の小柄で幼い少女 最近急成長した企業の社長令嬢 両親からは愛されて育ってきたが、性格や所謂「成金」的な立場から学校では一般階級の子や上流階級の子とも距離をおかれ孤独な学校生活を送っている
名前は 如月 優名(きさらぎ ゆうな)

①年齢 20代
②性別 男
③職業 大学生
④性格 生真面目
⑤購入の動機 論文のテーマを考えていた時に目に止まって何となく惹かれたので
⑥その他特徴(外見、秘密、思想、他もろもろ)理系っぽいメガネ

①年齢 40代
②性別 男
③職業 外資系企業日本法人CEO
④性格 仕事人間
⑤購入の動機 自分の会社がスポサーになるに相応しい物かの調査
⑥その他特徴(外見、秘密、思想、他もろもろ)多角経営している世界的企業の日本のトップ。仕事一筋で家族を全く顧みなかったため最近妻と子供とは別居中。少ないながらも空虚な休暇を紛らわしてくれるかも……という私情も入った応募

①年齢 20代
②性別 女
③職業 警察
④性格 仕事をテキパキこなすしっかり者
⑤購入の動機 彼氏もいない独身生活の寂しさに耐えきれず
⑥その他特徴(外見、秘密、思想、他もろもろ)
容姿端麗 私生活はかなりズボラ ピアノを弾けるが幼い頃は優秀な姉達に比べられることがコンプレックスだった

①年齢 30代後半
②性別 男
③職業 小説家
④性格 真面目な努力家
⑤購入の動機 話し相手が欲しくて
⑥その他特徴(外見、秘密、思想、他もろもろ)
金髪で大柄、アクセサリーをたくさん付けている
有名なSF小説家だが最近は泣かず飛ばす、隠しているが最近ネタが思い付かなくネタが欲しくて応募した面もある、なぜ隠しているかというと不純な動機と本人は思ってるため、家族がいなく独身なので話し相手が欲しいも本音
見た目に反して礼儀正しく優しいため、見た目で損をしてる

①年齢 10歳
②性別 男の子
③職業 小学生
④性格 かなりの純粋無垢
⑤購入の動機 新しい家族が欲しいから(実際に応募をしたのは彼の担当医で彼にプレゼントしたいのが本当の動機)
⑥その他特徴
放火と思われる火災によって家族を失い、自身も大火傷を負って入院した
外見は元々は可愛さが残る美少年だったが、現在は顔や身体に大きい火傷跡がある
彼の事を不憫に思った担当医が彼に内緒で応募した
彼の性格が本来の物なのか、肉体的・精神的ショックによる幼児退行によるものなのかは不明

マッシュモンを入れたデジタルモンスターは、無事に発送完了した。

ユーザーからはおおむね好評であり、DLCもよく売れている。

以前、フローラモン達のいるビオトープにもマッシュモンが胞子を撒いていたが…
そこから誕生したチビマッシュモン達にも、教育を施した後にデジタルモンスターへ入れて発送した。

ボスマッシュモンは少し寂しそうにしていたが…
フローラモンとともに同胞の旅立ちを見届けると、心の整理がついたようだ。


スポンサーからは「もっとマッシュモンを殖やせないか?」などと要望が来たが、前と同じ返事をしておいた。

試しにマッシュモンを構成するデータをコピー&ペーストして個体を増やせないか実験してみたが…
ペースト先に生成されたのは、干物のように干からびたバラバラの菌糸類だけだった。
デジモンをコピーすることはできないらしい。

…さて、経てしてマッシュモン騒動は収束し、メインPCの奪還に成功した。
ゴミ箱付近に作られたカビ神殿は、とりあえず削除せず残してある。

これからは…↓
①ユーザーのマッシュモン飼育視点に移る
②デジタルワールドの観察を行う
③新たなデジタマを飼育する

誰の視点に移るか…↓
①超生物学者>>464
②女子高生>>465
③女子中学生>>466
④男子大学生>>467
⑤CEO>>468
⑥女性警官>>470
⑦小説家>>472
⑧男子小学生>>473




~超生物学者(>>464)視点~

超生物学者「無事にマッシュモンが届いたぞ」

マッシュモン「はじめまして わたしは まっしゅもん よろしく おねがいします」

超生物学者「うん、よろしく。餌は最初の一定数だけは無料なのか…。何故餌が有料なのか、という理由も書いてあるな。律儀だ」

超生物学者「しかし、現状ではコレの販売元が潰れたら餌の生成手段が無くなるんじゃないか?それはちょっとマズいな…」

超生物学者「餌を自力で生成できないか、聞いてみよう。…正直、販売元としてはDLC売上が減るような情報を教えてくれるとは思えないけど」



超生物学者「教えてくれた!!いい人だ!!!ふむ、価値あるデータをマイニングして、DLCのデジタケを栽培すればいいのか」

超生物学者「やってみよう。常に情報を生成し続ける必要があるから、なにかのデータ解析や、シミュレーションを走らせるのが良さそうだな」

超生物学者「…さすがにビッ●コインのマイニングデータを突っ込むのはマズいから、それ以外の何かにしよう」

キノコ栽培用に、何のデータを入力してみるか…?↓

超生物学者「現存種のデータや化石のデータを入力として、絶滅した動植物の成長シミュレーションを走らせよう」

超生物学者「デジタケを端末からパソコンに移して、このシミュレーション結果をデジタケに与えると…」

超生物学者「おお、殖えた!デジタケの餌はこれで正解らしいな」

超生物学者「食べてごらん」

マッシュモン『ハフハフ、ハフっ!ウマー』ガツガツ

超生物学者「おお、喜んでいる。良質な餌になったみたいだな」



超生物学者「さて、なにか研究でもしてみるか…?」

研究テーマは…↓

超生物学者「言葉をいろいろ教えてみよう。どの程度の言語能力があるだろうか?」

マッシュモン『シュマー?』

超生物学者「マッシュモンの声帯ではマッシュモン語しか喋れないけど、キーボードで打った文字を音声読み上げ機能に入力することで、音声を出力できるんだな」



超生物学者「玩具を拾ってくれ」

マッシュモン『ひろった』

超生物学者「ありがとう。では次は、この文章に従ってくれ」

玩具の紙飛行機を飛ばした後、走ってそれを追いかけ、追い抜けたらそれをキャッチしてから3回まわってピースしてくれ

マッシュモン『???』



超生物学者「ふーむ。長い文章は苦手のようだな。でも短い文章なら覚えられるようだ」

超生物学者「人間以外の動物と会話できるか、試してみよう」



犬「ワンワン!ワン!ワン!」

マッシュモン『いぬいぬ いぬ いぬ』



超生物学者「犬との会話はできないみたいだな…」

超生物学者「しかし…この端末に入れたままだと、あまり大規模な研究はできないな。…正規品のデジクオリアをパソコンに入れて、本格的な研究をやろうかな…」

超生物学者「…デジタルワールドにアクセスしてみたいが…。ゲートの開け方を教えてもらってみても面白いかもしれない」

つづく

…長い間、研究報告をできずにいて申し訳ない。

ここしばらくの間、デジタルワールドに突如出現し、生息域を広げつつある、とあるデジモンについて、観察しながら研究していたのである。

山岳地帯にも、いずれやってくるだろう。

そのデジモンとは…


サバンナでサラマンダモンが産んだデジタマから育った成長期デジモンである。

これが、そのデジモンだ。
https://i.imgur.com/qe09ns4.jpg


姿はなんとなくベタモンに似ている。
だが、全身が薄い体毛で覆われている…。

その姿は、原始的な哺乳類を彷彿とさせる。

このエレキモンは、ベタモン同様に電気で攻撃する力を持っている。

だが、最も特筆すべき点は…
自ら体温を調節する力を持っている、という点だ。

暑い時期には、発汗によって体を冷やす。
寒い時期には、体毛を増やして体温を温める。

…それ故に、エレキモンは「素早かった」。
決して足が速い方ではない。

しかし、環境の変化にとても強いのである。

冬季がきて、他のデジモン達が寒さで動きを鈍らせていても、エレキモンは高い体温を維持しているため機敏に跳ね回れる。

夏季がきて、他のデジモン達が体温が上がりすぎないように走る力をセーブしていても、エレキモンは発汗によって体温を下げるため、スタミナが長く続く。

それ故に、エレキモンという成長期デジモンは、夏や冬ならば成熟期に襲われても生存しやすかった。


…環境への適応能力は、ヌメモン以上かもしれない…。

デジモンが繁栄するかどうかは、捕食者や被捕食者としての、白兵戦闘能力だけがものを言うわけではない。

電気を発する力や、炎を発する力といった、派手な特殊能力だけが強さというわけではない。

エレキモンが獲得した、体温調節能力。
こういった、自然環境への強い適応能力もまた、デジモンの「強さ」なのである。

…さて。
先日は山岳地帯の観察をするつもりだった。
現在も一応、その予定はある。

だが、このエレキモンの誕生と生息域拡大は、現在のデジタルワールドにおいて、大きなインパクトをもった現象である。

予定がずれてすまないが…
まずは、このエレキモンの観察を先に行うことにしよう。



エレキモン「~♪」ピョコピョコピョコ

さて、デジタルワールドのとある場所で、エレキモンの一個体が移動しているのを発見した。

この個体を観察してみることにしよう。

このエレキモンが向かった先は…↓
①サバンナ
②森林
③ジャングル
④高原
⑤海岸



エレキモンは、森林へ向かった。
森林に今いるデジモン達は…

レッドベジーモンやウッドモンといった、植物型デジモン。

クワガーモンやスナイモン、ゴキモンといった、昆虫型デジモン。

ゴツモンやスターモン等の、鉱物型デジモン。

最近は、そこへ新たな顔が加わっていた。

ステゴモン、カメレモン、パラサウモン等の爬虫類型デジモンが、サバンナから流れてきたのである。

これら爬虫類型デジモン達は、既存のデジモン達にとって新たな脅威となった。

そして、爬虫類型デジモン達は、森林に来て独自の進化をしていた。

全身が硬い装甲で覆われた、草食恐竜デジモンが登場した。
https://i.imgur.com/nLXbgHL.jpg

モノクロモンである。

モノクロモンは強かった。

それまで森林では最強でデジモンの一角を占めていたスナイモンの鎌ですら、その装甲を一撃では破壊できない。

むしろ、火炎弾を放って反撃し、追い払うことができた。

モノクロモンの武器は、厚い装甲と強力な火炎弾…

そして、高い消化能力である。


モノクロモンの胃袋はとても強い。
レッドベジーモン等の草食デジモンをばったばったとなぎ倒し、モリモリ食いまくっていた。

あのウッドモンでさえ、根によるエネルギー吸収攻撃を装甲で防がれ、逆に火炎弾で燃やされ、食われてしまっていた。

植物に擬態するという、攻防一体の性質を持ったウッドモン。
だが、そもそも植物を獰猛に食らうタイプのデジモンには、その擬態は通用しないのであった。

モノクロモンの唯一の短所は、スピードがそれほど速くないという点である。

全身が筋肉と重い装甲で覆われているため、パワーは物凄いが、スピードは速い方とはいえない。

だが、それは他の爬虫類型デジモンに比べれば…の話だ。
大半の植物型デジモンは、動物型デジモンよりもスピードが遅い。
そのため、モノクロモンは植物型デジモンに対して猛威を振るったのである。


…だが、そんなモノクロモンを追って、サバンナから強力な刺客がやってきた。

https://i.imgur.com/FFww9UD.jpg

二本の長いツノを背中から生やした、肉食恐竜デジモン…タスクモンである。

タスクモン「グルル…」ズシンズシンズシン

モノクロモン「…!」

タスクモンは、モノクロモンを見つけると、長い助走距離をとり…

タスクモン「ガアアァァ!」ズドドドドドドドド

一気に突進した。

モノクロモン「ゴオオォォ!」ボゥン

モノクロモンは、火炎弾を放って迎撃を試みた。

タスクモン「ガァウ!」ボゴォ

タスクモンの頭部に、火炎弾が命中した。
皮膚が焼け爛れ、おびただしい出血をしている。

タスクモン「グゥアオオォォォ!!」ズズンズズンズズン

モノクロモン「バァウ!?」

だが、タスクモンは突進を続けた。
間違いなく火炎弾で頭部にダメージを受けている。
決して軽傷ではない。

それでも尚、一切勢いを殺さず、モノクロモンに突進を行った。

タスクモン「ガウウウゥゥウ!!」ドッゴォオォォ

ついに、タスクモンの突進攻撃がモノクロモンの装甲にぶち当たった。

モノクロモン「ギャアアアアウウゥ!?」ズガァァッ ゴロゴロ

モノクロは、その強い足でふんばったが…
突進攻撃の勢いに負け、転倒した。

タスクモン「グゥ、ガウウゥゥ!!」ガクガクフラフラ

モノクロモンの硬い装甲へ頭から全力で突っ込んだタスクモンは、脳震盪を起こしたのか、ふらふらと体を揺らつかせている。

タスクモン「ガァア!グガアァ!」ドゴォ

だが、意識がおぼつかない状態でありながら、執念でモノクロモンの腹部へ角による刺突攻撃を行った。

モノクロモン「ギャアアウウゥ!!」ブシュウウゥ

転倒中のモノクロモンの腹部に、タスクモンの鋭い角が突き刺さった。

モノクロモン「ガウウウゥ!」

モノクロモンはタスクモンを睨みつけている。

モノクロモンは、腹部には装甲がない。
そのため腹部は護りが弱いといえる…?

…否。

モノクロモンの腹部には、厚い筋肉の装甲があるのである。

角の刺突が内臓に達しても尚、モノクロモンに怯えはない。

モノクロモン「バァウ!」ボウウゥゥ

モノクロモンは至近距離から、タスクモンの顔面へ火炎弾を放った。

タスクモン「ギャアアウウゥ!」ジュウゥウゥ

タスクモンの顔を火炎弾が焼く。

二体の恐竜型デジモンは、激しい死闘を繰り広げた。

…十分近くも続いた死闘の後…。

モノクロモン「…ガフ、ゴゥ…」ドサァ

モノクロモンはとうとう、出血性ショックで倒れた。

タスクモン「ガウ、ゥ…」ドサァ

だが、火炎弾をしこたま喰らいまくったタスクモンも、同時に倒れた。
ダブルノックアウトである。

モノクロモン&タスクモン「…」ブルブル

二体の恐竜型デジモンは、必死に体を起こそうとしているが、もうその体力はないらしい。

そこへ、二匹のデジモンが近付いてきた。

スナイモン&ウッドモン「フシュウゥウ…」ジュルル

森にもともと住んでいた捕食者、スナイモン&ウッドモンである。

モノクロモン&タスクモン「…」

スナイモン「シャアァ!」ズバアァ

スナイモンは、モノクロモンの腹部の筋肉の鎧を、鋭い鎌で切り裂いた。

ウッドモン「フシュウゥウ!」シュルシュル

ウッドモンは、タスクモンの傷口へ根を突き刺し、体液を吸い尽くした。

…モノクロモンとタスクモンは、これらの個体だけではない。

複数の個体が森林にやってきて、猛威を振るっている。

…モノクロモンの方はまあ、分かるが…
タスクモンの方は…


…何だこいつは!?
何がしたかったんだ!?

自分から襲っておいて、共倒れになるまで戦い続けるとは…
その凶暴性は、はっきり言って捕食者としても異常の域にある。

並のデジモンなら、ここまでこっぴどく火炎弾で反撃されれば、戦意喪失して逃走するもんである。

一体なにがタスクモンをここまでつき動かすのであろうか…

…さて。

エレキモンがやってきたのは、そんな激しい弱肉強食の世界である。

エレキモンは、この環境に適応できるのだろうか…?

つづく

その後、森林に来たタスクモン達とモノクロモン達がどうなったかというと…

モノクロモンは、森林に馴染み、覇者として君臨した。

だがタスクモンはというと…
森林にうまく適応できなかった。

必殺の突進攻撃をしようにも、木々が立ち並ぶ森林の中では、十分な助走距離が稼げないのである。

さらに、その長い角と巨大な肉体は、木の枝に進路を遮られてしまうこともある。

結果、タスクモン達は、莫大な消費カロリーを補うことができず、どんどん痩せこけていった。

タスクモン達は、あらん限りの力を振り絞って、森林にデジタマを産んだ。

そして…

…痩せこけた体で、サバンナへと引き返していった。


サバンナに戻ってからのタスクモン達は、パラサウモンやレッドベジーモン、スナイモン等の強豪を突進攻撃によって次々と打倒し、捕食していった。

痩せこけたタスクモン達の肉体は、みるみるうちに力強さが戻っていった。


…タスクモンは、決して弱いデジモンではない。
むしろ、ここサバンナでは最強のデジモンと言っても過言ではないだろう。

だが、「見晴らしのいい平原で、強烈な突進攻撃で獲物を仕留めることに特化する」という、サバンナの環境へ先鋭化しすぎた適応をしてしまったがために、環境の変化に弱くなってしまったのである。

…やがて、森林にタスクモン質が残してきたデジタマに、ヒビが入った。

何が生まれてくるのであろうか…。



さて。森林では、エレキモンが来る前にそんな動きがあった。

我々は再び、森林に来たエレキモンの動向を観察することにした。

どうやらこのエレキモンは、兄弟4匹で森林にやってきたようだ。

エレキモンは、雑食性のようだが…
あまり狩りが得意な方ではないようだ。

川でプカモンを捕まえて捕食したり、熟れて木から落ちた果実を食べたりしている。

強力な外敵が来たらすぐに逃げ、時には電気を発して身を守った。

だが、4兄弟のうち一匹は、岩石の肉体を持つ強大な捕食者…
ゴーレモンに叩き潰され、そのまま食われてしまった。

https://dotup.org/uploda/dotup.org2736560.jpg

岩石の肉体には、エレキモンの電気は効かなかったのである。

エレキモン達は、森林の厳しい生存競争の中で、さらなる進化を求めたようだ。

どんな進化をするか…?1~3↓
①小型の草食デジモンとなる
②大型の草食デジモンとなる
③大型の肉食デジモンとなる
④水中に進出する
⑤その他、無理のない範囲で自由安価

エレキモンのうち一匹は、川の近くで暮らすようになった。

エレキモンの電撃攻撃は、水中の獲物を仕留めるのに便利だったからだ。

やがてエレキモンは、川を下っていき、水中に適応していった。

https://dotup.org/uploda/dotup.org2736574.jpg

…河口や海を自在に泳げるように進化したエレキモン。
その姿は、イルカによく似ていた。

エレキモン改めルカモンは、放電能力を応用して超音波を発生させ、水中の獲物を仕留めることができるようになった。

ゲソモンやティロモン、エビドラモンといった、既存の水中デジモンは、この突如現れた存在に大いに驚いたようだ。

陸上だけでなく、水中の環境も、どんどん変化していく…。

もう二匹目のエレキモンは、大型草食デジモンとなる道を選んだ。

だが、ただの草食獣ではない。
エレキモンという、発電能力を持ったデジモンは、己の発電能力を、炎を発する力へと変えた。

そうしてエレキモンは、熱く、力強い進化を遂げた。

https://dotup.org/uploda/dotup.org2736588.jpg

燃える体を持つ、イノシシ型デジモン…ボアモン。

その突進攻撃は、かつてのタスクモンを彷彿とさせる。
違うところは、体当たりの威力そのもので敵を仕留めることではなく、敵を追いかけてから頭突きを放って牙を突き刺すことでダメージを与えるという点である。

タスクモンほどの威力は発揮できないが、森林の中をジグザグに走りながらでも威力を維持できる、環境に適した進化である。

それだけではない。
鼻から炎を噴射して、植物型デジモンを丸焼きにしてしまうこともできた。

ボアモンは、モノクロモンとはまた別の方向性で、攻防一体の力を持つ強豪となったのであった。

そして最後の一匹のエレキモンは…
驚くべき進化をした。

このエレキモンはおそらく、昆虫型や爬虫類型のデジモンが、冬の間は活動が鈍ることを知っていたのだろう。

エレキモン自身の記憶か、親から受け継いだ遺伝子か、その両方か…。

炎を身に纏ったボアモンとは対象的に…
3匹目のエレキモンは、「氷」を身に纏った。

https://dotup.org/uploda/dotup.org2736600.jpg

透き通った水晶を背負った、ハリモグラのようなデジモン…トゲモグモン。
それが3匹目のエレキモンが辿り着いた姿であった。

トゲモグモンの背中に触れたデジモンは、瞬く間に触れたところから凍りついてしまう。

変温動物のデジモン達は、体温を自力で上げることが不得意であるため、触り続けていればどんどん末端から凍っていき、あるいは凍傷で身体組織が損傷していく。

ひとたび身を丸めれば、トゲモグモンの防御を崩せる肉食デジモンはいなかった。
スナイモンの鎌も、ゴーレモンの拳も防いでみせた。

鉄壁の防御力を身に着けた草食デジモン、トゲモグモン…
彼は無敵となったのであろうか?

…否。トゲモグモンにも嫌がる相手がいる。
野生のマッシュモンである。


並の植物デジモンならば敵ではないが、マッシュモンをうっかり食べてしまったときは、苦しそうに嘔吐していた。

…デジモンは、攻撃手段だけでなく、身を護る手段もバラエティに富んでいる。

森から川や海へと移り住んだルカモンは置いといて…

森林では、ボアモンとトゲモグモンという、2体の哺乳類型成熟期デジモンが進化に成功した。

優秀な戦闘能力と生存能力持ったボアモンとトゲモグモンは、これからデジタマを産み、子孫を残していくであろう…。


…だが、その頃。
森の中では、もうひとつの大きな存在が、息吹を上げていた。


…自身の生命すらも擲って、強大な敵を打ち倒す、狂暴な破壊者の子孫が、覚醒したのである。

トゲモグモンが、植物をバリバリムシャムシャと食べていると…

突如、森の奥から、恐ろしい咆哮が響いてきた。

驚いたトゲモグモンが、反射的に飛び退くと…

森の奥から凄まじい勢いの火炎放射が飛んできた。

火炎放射は、先程までトゲモグモンがいた場所を通過した。

…火が消えると、遠くから一直線に木々が焼き払われ、灰と化していた。

やがて、火炎放射が飛んできた方から、ズシン、ズシン…と、地響きのような足音が近付いてくる。

やがて、何事かと驚いたスターモンが飛んできた。

空中を飛びながら、様子を伺うスターモン。

スターモンが見たものは…

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…3体の巨大なデジモン達が、スターモンの方を向き、火炎放射を放つ瞬間であった。

続く

だが、ブロッサモンも負けていない。

火炎放射を大量の蔓で防御しながら、蔓の壁の内側に攻撃翌用の蔓を仕込んでいたのだ。

火炎放射が止んだ瞬間、防御に使った蔓の壁の中から、攻撃翌用の蔓を伸ばし、恐竜デジモン達の隙をついて攻撃した。

しばらくの間、戦況は五分五分だったが…
ブロッサモンが放った蔓の攻撃が、ティラノモンの喉を真横に切り裂いた。

ティラノモンは、喉の裂け目から夥しい量の血飛沫と火炎を噴射しながら、ブロッサモンの上に倒れ込んだ。

恐竜デジモン達は、だんだん火炎放射の威力が衰えてきている。

炎を吐くのに必要なエネルギーが尽きかけているようだ。

それに加えて、ティラノモンは喉を切り裂かれて倒れた。

ゆえに波状攻撃のペースは遅くならざるを得ない。

不動のジャガモンの目前で戦うブロッサモンは、己の優勢を悟ったのか、口を歪ませて笑みを浮かべた。

…ブロッサモンは、見逃さなかった。

再び、燃え尽きた木々が埃を巻き上げ、タスクモン達が突進してくるのを。

ブロッサモンは、地面に横たわっているティラノモンを掴み上げると、グラウモンとともにタスクモン達の方へ投げ飛ばした。




自分の子供達を投げ飛ばされたタスクモン達は…



無意識に、足にブレーキをかけてしまった。




突進攻撃をくらったティラノモンは真っ二つに千切れ飛んだ。

グラウモンは、タスクモンの頭突きを背中にくらい、背骨をへし折られた。




体当たりがブロッサモンに当たった頃には、その衝撃は大分相殺されていた。



ジャガモンは、タスクモンのうち一体を捕食した。

レベル5のデジモンは、ただ生きているだけで、莫大なカロリーを基礎代謝として消費する。

戦いを終えたジャガモンは、タスクモンから栄養を取らなくてはならなかった。

傷付いて戦闘不能となったブロッサモンは、やがて体を起こした。

ジャガモンは、真っ二つになったティラノモンの死骸を、ブロッサモンに与えた。

ブロッサモンは、落ち込んだような表情をしていたが、腹の虫には逆らえないのか、ティラノモンを食って栄養補給をした。



四つん這いになって移動する、グレイモンの姿があった。

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グレイモンは、レベル5のブロッサモンとの戦いで全身にダメージを負い、ボアモンの頭突きによって脚を骨折している。
加えて炎を吐くエネルギーは枯渇してしまった。
まさに満身創痍といった状態だ。

グレイモンは山岳地帯へ向かって這いずっている。
こんな状態では移動することすら一苦労であろうに、わざわざ標高の高い山岳地帯へ移動するのは何故なのだろうか…。

グレイモンは、移動中に見つけた植物型の幼年期デジモンや、動きの遅いヌメモンを食って栄養補給している。
だが、腹はあまり膨れていないようだ…。

そこへ、ふたつの巨影が迫ってきた。
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大型岩石デジモン、ゴーレモン。
そして甲虫型デジモン、カブテリモンである。

ゴーレモンの体はボロボロに傷付いている。

このゴーレモンは、かつてモノクロモン及びスターモンと共に、グレイモン達3体の恐竜型デジモンに戦いを挑んだ個体である。

前回の戦いでは、こっぴどくやられてしまい、スターモンが時間稼ぎをしたおかげで逃げ延びることができたようだ。

一度力の差を思い知らされたゴーレモン。
普通ならば、生き延びられたのが幸運と思い、二度とグレイモン達に挑もうとは思わないはずだ。

だが、ゴーレモンはヒビの入った拳を握りしめ、グレイモンを殴りつけた。

腹部を打たれて、叫ぶグレイモン。

続いてカブテリモンが、プラズマの球体を発生させ、それをグレイモンの腹へ放った。

グレイモンは、転がってプラズマ弾を躱した。


…ゴーレモンとカブテリモンは、どうやらグレイモンを仕留めにきたようだ。

炎を吐く体力がなく、片脚がへし折れている満身創痍のグレイモンでは、これら2体のデジモンと戦うのは圧倒的に不利だろう。

なすすべなく倒されるだろう…。
そう思っていた。

だが。
グレイモンは恐ろしいくらい粘った。

ゴーレモンの強靭なパンチを、腕で受け止めて、尻尾攻撃でカウンターを決めた。

カブテリモンの突進攻撃を受け止め、そのまま持ち上げて地面に叩きつけた。


なんということであろうか。
グレイモンは、片脚が折れ全身に深い傷を負っても尚、純粋な格闘能力だけで2体のデジモン達と互角に渡り合っていた。

…いや。
ゴーレモンとの格闘戦に限って言えば、完全にグレイモンが上回っている。

グレイモンは、炎を吐けずとも、純粋な格闘戦能力だけでゴーレモンを遥かに上回っているのである。

グレイモンは、カブテリモンの羽や右腕を噛み千切った。

ゴーレモンの左腕を尻尾攻撃で粉々に打ち砕いた。

恐るべき戦闘能力だ。

…だが、深いダメージを負って尚、カブテリモンとゴーレモンは、怯まずにグレイモンへ猛攻を続ける。

カブテリモンのプラズマ弾がグレイモンの頭部に当たったことで、戦況は徐々にカブテリモン&ゴーレモン側に傾き始めた。

とうとう持久力の差が出てきたようだ。

ゴーレモンとカブテリモンが、これだけ傷付きながらも戦いを続けるのは何故だろうか。

これは予想だが…
2体はスターモンの仇討に来たのだと、私は思う。

今はジャガモンの一部となっている、元祖スターモン…
その子供が、恐竜型デジモンとの戦いで火炎放射に身を焼かれて命を落とした、スターモン二世である。

このゴーレモンには、ゴツモンの面影がある。
おそらく、スターモン二世の子供か兄弟であろう。

そしてカブテリモンには、スターモンと共生して暮らすテントモンの面影がある。

スターモン二世は、ゴツモン達やテントモンを護りながら共に暮らしていたデジモンである。

グレイモンがその命を奪った代償は、あまりにも大きかった。


捕食や生存のためではない。
「義」と「復讐」のために、我が身を捨ててこの2体は戦いを挑んできたのだ。


グレイモンは狡猾な戦い方をしていた。
カブテリモンやゴーレモンの身体を欠損させることで、心を折って短期戦で追い払おうとしたのであろう。
合理的な戦い方である。


だが、理を超えた概念に基づく、捨て身の攻撃。
悪く言えば無謀や蛮勇とさえいえる精神が、グレイモンの力を超えたのだった。

地に伏したグレイモン。

かつてグレイモン達が焼き尽くした、黒焦げの木々の中に手を突っ込んでいる。

カブテリモンは、とどめの一撃といわんばかりに、プラズマ弾を放った。


…グレイモンは、木々の燃えカスの中から何かを掴み、目の前に掲げた。

それは、モノクロモンのものと思われる甲殻であった。

モノクロモンの甲殻は、プラズマ弾を防ぎ、粉々に飛び散った。

おそらく、ここはかつてモノクロモンのいち個体が、ある恐竜型デジモンと死闘を繰り広げ、差し違えた場所だ。

消化しきれなかった残骸の甲殻を、グレイモンは咄嗟に拾って防御に使ったのだ。

カブテリモンのプラズマ弾は、再び撃てるようになるまでのクールタイムがかなり長いようだ。

それまでの間、ボロボロのゴーレモンが持ち堪えられるかは怪しい。

カブテリモンは、トドメを刺すために、グレイモンへと駆け寄った。

片腕を破壊されたゴーレモンは、残った方の腕でグレイモンを地面へ押さえつけた。

グレイモンは、焼け焦げた森の中に仰向けに押さえつけられる。

そして2体は、口を大きく開けた。
グレイモンへ致命傷を与えるために、首へ噛み付こうとしているのだ。

ゴーレモンとカブテリモンは、強靭な顎と鋭い牙で、グレイモンの首へトドメの一撃を放つ…!

…グレイモンは…

黒焦げの木々の中から、両手でそれぞれ、何かを掴んだ。


それは…

かつてこの場で、モノクロモンと死闘を繰り広げて散った、タスクモンの長い角だった。


グレイモンは、二本の鋭い角を掴み上げると、噛みつき攻撃を放っているカブテリモンとゴーレモンの口の中へ突き刺した。


ゴーレモンは、タスクモンの角によって頸椎を貫かれ、倒れ伏した。

カブテリモンは、刺された角が口を貫通して後頭部から突き出ていた。

夥しい量の体液が噴出し、絶叫するカブテリモン。

グレイモンは、ゴーレモンの口から角を引き抜くと、カブテリモンの脳天ど真ん中へ突き刺した。

カブテリモンは、地面に倒れて、ジタバタと暴れまわった。

後頭部と脳天を角で貫通されたカブテリモンは、方向感覚を失ったのであろうか。
空中へ何度もパンチやキックを繰り出している。

グレイモンは、カブテリモンの頭部を尻尾で滅多打ちにする。
首と頭の傷を広げようとしているようだ。

だが、ピクリとも動かなくなったゴーレモンと違って、カブテリモンは頭部を破壊されてもなかなか死なない。

昆虫型デジモンは、思考中枢が脳だけに集中しているわけではなく、脊椎全体に神経系が分散しているようだ。

だが、方向感覚を失っている状態では、もはや勝機がないと察したのだろう。
羽を一本失ったカブテリモンは、残った三本の羽をばたつかせて体を浮かせながら、地面を這って遠くへ逃げていった。

満身創痍になりながらも、追っ手を撃退したグレイモン。

グレイモンは、ゴーレモンの岩のような硬い甲殻を剥ぎ取り、内部の筋肉や内臓などの軟組織を食った。



夜になった。

ゴーレモンを貪り食って、空腹を満たしたグレイモンは、折れた片足を引きずりながら、先程よりもハイペースで山岳地帯へと移動していた。

拾ったタスクモンの角を、登山用ピッケルのように使うことで、匍匐のスピードを上げているようだ。

なにせ、カブテリモンを取り逃がしてしまったのである。
頭部を滅茶苦茶に破壊されたカブテリモンにどこまでやれるかは不明だが、助けを呼ばれたら危険だ。
そのため、一刻も早くこの場を去ろうと焦っているのだろう。

グレイモンは、両手に握っているタスクモンの角を見つめている。

もしも、モノクロモンとタスクモンの残骸がこの場に落ちていなかったら…
グレイモンは自力では対処しきれず、ゴーレモン達によって確実に仕留められていたであろう。

そして、それ以前に…
ブロッサモンとの戦いでは、親であるタスクモン達が、グレイモン達のために命を賭して時間稼ぎをしてくれなければ、その場から逃げ切ることができず、ブロッサモンに倒されていたはずだ。

…かつてこの場で、モノクロモンへ異常な闘争本能をもって戦いを挑み、散っていったタスクモン。

そして、ブロッサモンとの戦いでグレイモンを逃したタスクモン。

それらの死が、今グレイモンを生かしているのである。

グレイモンは、山の麓へ辿り着くと、やがて睡眠を取った。



朝になると、やや脚の痛みが引き、体力が回復してきたようだ。

餌を探して、グレイモンはその場を徘徊し始めた。



…すると、聞き覚えのある羽音が、グレイモンへと近付いてきた。

頭と首に痛々しい傷痕が残ったままのカブテリモンが、追ってきたのである。

どうやら、方向感覚を取り戻したようだ。

カブテリモンは、プラズマ弾をチャージし、グレイモンへ向かって放った。

それに対して、グレイモンは…
火炎放射で迎え撃った。

グレイモンの火炎放射は、カブテリモンのプラズマ弾を飲み込み、そのままカブテリモンの身を焼いた。

熱さに絶叫するカブテリモン。

グレイモンは、カブテリモンへタックルを放ち、地面に押し倒した。

そして二本のタスクモンの角を掴み、カブテリモンの首へ両方突き刺した。

カブテリモンは、首へ突き刺されたタスクモンの角を、4本の腕で引き抜こうとしている。

グレイモンは、タスクモンの角から手を離した。

カブテリモンは、虫ピンで刺された昆虫標本のように、地面に留められている。

必死に起き上がろうとするカブテリモン。
だが、首へ突き刺された角はなかなか抜けない。

グレイモンは、再びカブテリモンへ火炎放射を放った。
頭部へ向かって、集中的に。

…その一撃で、カブテリモンの頭部は炎に包まれて焼き尽くされ、完全に機能を失った。

カブテリモンの首に突き刺さったタスクモンの角は、グレイモンの火炎放射で焼かれ、ボロボロになっていた。

グレイモンは、カブテリモンを捕食しようとした。

だがカブテリモンは、なんと無理矢理起き上がった。

頭部を完全に失い、首が千切れたカブテリモン。
視聴覚を失い、もはや五里霧中となったようであり、あらぬ方向感覚へプラズマ弾を放っている。

グレイモンは、カブテリモンを尻尾で殴りつけて地面に倒すと、全身を食い千切って咀嚼した。



グレイモンは去った。
その場には、食い散らかされたカブテリモンの残骸と、燃え尽きたタスクモンの角が残っていた。

グレイモンは、脚の傷が癒えてきたようであり、身を起こして歩き始めた。

極めて強い、生への執着である。

そしてグレイモンは、山の麓でタマゴを3個産んだ。

タマゴから産まれたデジモンは、やがて進化して成長期デジモンとなった。


https://i.imgur.com/ysZftoi.jpg
翼竜型デジモン、ヴォーボモン。

https://i.imgur.com/iKwsl0I.jpg
ドラゴン型デジモン、ドラコモン。

https://i.imgur.com/7OIywm2.jpg
そして、鳥型デジモン、ファルコモンである。


強力無比な破壊者、グレイモンの遺伝子を継いだこれら3体の成長期デジモンは、これからどのように環境へ適応していくのであろうか。

そしてそれらの親である、グレイモン自身は…。



私はグレイモンの観察レポートをまとめ、研究チームへ提出した。

そして、チーム内でレポートを共有することにした。

どうやら、私以外にも、「あの戦いの後」についてレポートをまとめていた研究員がいたようだ。

私のレポート「グレイモン観察」。
その他に提出されたレポートは…

①ボアモンの観察
②ブロッサモンの死骸の観察
③ブロッサモンを倒した謎の合体デジモンの観察

この3つだ。
どの順番で見ていくか…?↓

次回は、ワタシがグレイモンを観察しているときに同時並行で起こった出来事を、②→①→③の順で確認していくことにしよう。

続く

リーダーは私へ、至急レポート「ブロッサモンの死骸の観察」を閲覧するように指示した。

デジモンの死骸がどうしたというのだろうか…?

レポートは、ドキュメントと映像記録の2つで構成されている。
私はまず映像記録を確認した。




映像に映ったのは、ブロッサモンの死骸だ。
謎の合体デジモンに首を千切られて持っていかれてしまい、胴体が半分地面に埋まった状態である。

これがどうしたというのだろうか…?


…しばらく観察していると、ブロッサモンの胴体が蠢き始めた。

まさか、生き返るのか…?

次の瞬間、全く予想していなかったことが起こった。

ブロッサモンの胴体が引き裂かれ、中から何かが出てきたのである。

現れたのは…
上半身だけで地面を這いずる、全身ドロドロのデジモンである。

これは、既に面影がないが…
おそらく、>>599でブロッサモンに丸飲みにされたはずのティラノモンである。

私は目を疑った。
ばかな。
ティラノモンは死んだはずでは…!?

私はいったん映像を止め、レポートに目を通した。

なぜ、死んだはずのティラノモンが蘇生したのか…?

…いや。そもそも、死んだはずという前提が間違っていた。
我々は、ティラノモンが明確に「死んだ」ことを見届けていないのである。

改めて、ティラノモンが負ったダメージを再確認しよう。

>>574では、ブロッサモンの花弁の刃では首を真横に切り裂かれ、夥しい出血をしながら倒れ、それっきり動かなくなった。

>>593では、タスクモンの突進攻撃をくらい、
真っ二つに千切れ飛んだ。

そして、>>599ではブロッサモンに丸呑みにされた。


…これで死んだと思わない方がおかしいだろう!
頸動脈を切断されて、下半身が千切れ飛んで、何故死なないんだ!?

…いや、「まだ死んでいない」というだけのようだ。

胴体の傷から臓物を晒しながら、上半身だけで地を這い、胃液で溶かされた痛々しい姿を晒すティラノモン。
首からの出血は未だに止まっていない。

生への執着はすさまじいが、あのままでは…
やがて死ぬだろう。

ティラノモンは、弱々しく地面を這っているが…
やがて、その力は弱くなっていった。

ついに、その場から一歩も動けなくなり、腕を動かすことが精一杯になった。

…ティラノモンはここまでだろう。
そう思った、その時。

ティラノモンの前に、大きなデジタルゲートがほど開いた。

…デジタルゲートとは、我々が研究室のサーバーからデジタルワールドへ、デジドローンを転送するときに空けるゲートだ。

ティラノモンは、最後の力を振り絞り、そのデジタルゲートへ入った。

ティラノモンが入ったデジタルゲートは、やがて閉じられた。

…以上が、1つめの映像ファイルである。

これは…どういうことだ?
デジタルゲートを通じて、瀕死のティラノモンを我々のサーバーに連れ込んだということだろうか?

リーダーに確認したところ、なんと「あのゲートについては何も知らない」とのことである。

ばかな…
するとあのゲートは、我々が全く知らない、何者かによって空けられたということだろうか。

そして、その何者かは、瀕死のティラノモンを捕獲した…?


つまり、我々以外にも、誰かがデジタルワールドに干渉し始めたということだろうか…。

このレポートを書いた研究員は、このとき空いたデジタルゲートを分析し、特有の信号パターンを記録した。

もしも今後、同じデジタルゲートを目撃したときは、照合することができるだろう。


…さて。
ティラノモンを助けた者は、何が目的なのだろうか?

憐れみからきたものなのか。
研究対象とするためなのか。
あるいは…。

…レポートには、2つめの映像が添付されていた。
再生してみよう。

時期的には、グレイモンがタマゴを産み、それらが成長期まで育った頃のことだ。

ブロッサモンの死骸があった場所。
既に死骸はヌメモン達によって食い尽くされており何もなくなっていた。

その場に、例の信号パターンを示すデジタルゲートが開いた。

やがて、ゲートの中から何かが出てきた…。


https://i.imgur.com/2ObcB3n.jpg

こ…これは!?
おぞましい姿のデジモンが、ゲートから這い出てきたのである。

腐りかけたおぞましい姿。
下半身を失ったまま、腕だけでズルズルと這い回っている。

どうやら、機械のようなものが体に埋め込まれているようだ…。

まさか、これはティラノモンの成れの果てなのだろうか?

やがて、ゲートからはデジドローンが飛んできて、死にかけのデジモンを観察し始めた。

我々は、このデジモンをレアモンと名付けた。

レアとは、rare…『希薄な』を意味する単語に由来している。
途絶えかけた希薄な命を表す名である。

レアモンの周りに、ヌメモンやゴキモン等のスカベンジャーデジモンが寄ってきたが…

レアモンは、それらにガスを吹きかけた。

するとヌメモン達は、体の表面が焼けただれていき、苦しんだ。

どうやらあのガスは、かつて炎を吐く力だったものの名残りのようだ。

硫酸かなにかだろうか…。

そしてレアモンは、己の肉片を千切ってヌメモンへ投げつけて攻撃した。

そして弱ったヌメモンを、己の肉片ごと食べた。


…おぞましい。
それ以外に、形容する言葉が見つからなかった。

そのうち、ウッドモンやスナイモンが、レアモンを発見したが…

彼らはあまりの悪臭に耐えきれず、その場から離れた。

「あんなものを食ったら病気になる」と思ったのだろうか。
実際そうなるだろうな…。

そうしてレアモンは、悪臭によって外敵を退けながら、悪臭に惹かれてきたスカベンジャーデジモン達を捕食し続けた…。


果たして、こんな姿になったティラノモンは、今に満足しているのだろうか。

生き続けていて、辛くないのだろうか。

…その答えは。
あんな姿になっても尚、必死に生きようと足掻き続ける様が、全てだと言えるだろう…。

…以上が、レポート「ブロッサモンの死骸の観察」である。

なんということであろうか…
この先レアモンは、どうなるのであろうか。
全く予想がつかない…。

つづく

アイスモン軍勢と、ハリモグモン軍勢は、出会ってしまった。
食糧がそう多くない、極寒地帯で。

どうやら、どちらの軍勢も争いは嫌いなようだ。
だからこそ、こんな局地へ適応する進化をしてまで、外敵のいない環境を選んだのだろう。

両軍勢は、できるだけ互いに関わらないようにしていた。
海で小魚デジモンを捕りながら、慎ましく暮らしていれば、争わずに済むだろうと…
その場の皆が信じていた。



…しかし、狩られる魚型デジモン達とて馬鹿ではない。
プカモンの数が減ったことで、彼らは「海の中から」発見されてしまったのである。

やがて、ヒヤリモン達は進化した。
成長期デジモン、チクリモンである。
https://i.imgur.com/70zmHcs.jpg

たくさんのヒヤリモン達が皆成長期になったのだから、さらに多くの食糧が必要になった。
チクリモン達も、海に飛び込んで、プカモンを狩るようになった。


ある日のこと。
ゴマモン一匹と、チクリモン数匹は、いつものように海岸でプカモンを獲ろうとしていた。

そこへ、突然…
水面から何かが飛び出してきた。
https://i.imgur.com/Vw7HNtZ.jpg
https://i.imgur.com/0pxex1L.jpg

一瞬のことであった。

水中から出現したレベル4デジモン、シードラモンとトビウモン。

彼らは、ゴマモンとチクリモンを丸呑みにすると、そのまま水中へと潜っていった。


…その様を見ていたユキダルモンとハリモグモンは、あ然としていた。
自分の子供が、一瞬で海に飲み込まれていったのだ。

それ以降も、群れがプカモン狩りをしていると、騒ぎを聞きつけてシードラモン達が飛び出してくるようになったのである。

…ふたつの群れは、完全にマークされていた。

このままではいけない。
協力して海の敵と戦おう。
そう決心した、ユキダルモン、アイスモン、ハリモグモン。

彼らは、大きな音を立ててシードラモンとトビウモンをわざとおびき出し、そして戦った。

戦いは熾烈を極めた。
戦いを避けてきたユキダルモン・アイスモン・ハリモグモンよりも、海の中で捕食者として暴れ回っていたシードラモン、トビウモンの方が、単独での戦闘力は高い。

それでも、陸上に陣取っているハリモグモン陣営は、地の利を活かして戦い、優勢に立ち回っていた。

もしかしたら、このまま押し切れば勝てるかもしれない!
アイスモンは氷の拳をトビウモンに叩きつけながら、そう思っていただろう。

…だが。
戦場に突如、ラッパのような音が鳴り響いた。

水中から顔を出したレベル4デジモン、シーホモンが雄叫びをあげたのである。
https://i.imgur.com/LRpH0KB.jpg

シーホモンは、ラッパを吹き終えると、海に潜っていった。

…その数秒後。
海の中から、シードラモンが追加で5匹出現した。

これはまずい、とビビったハリモグモン陣営は、その場から一目散に逃げ出した。

6体のシードラモンから一斉に噴出された氷の矢によって、ユキダルモンは粉々に消し飛んだ。




…それ以来、海岸からはいつもシーホモンが顔を出していた。
ゴマモンがプカモンを狩るために海辺へ近づくと、シーホモンはすぐにラッパを吹いた。

シードラモンがやってくるのを恐れて、すぐに逃げた。



…そうして、局面は膠着した。
アイスモンやハリモグモン、その子供達は、まともに餌がとれなくなってしまったのだ。

ハリモグモンは、それでも子供達のために餌をとろうとした。

シーホモンが見ていない隙を狙って、海に潜るハリモグモン。

だが、海の中では…
既にトビウモン数匹に待ち伏せされていた。

トビウモンのタックルを全身に浴びるハリモグモン。
背中を氷で防護しているハリモグモンといえど、これを受け続けたらやばい。
氷で身を包み、防御を試みた。

だが、トビウモン達は、氷の鎧で身を包んだハリモグモンを、水中へ引きずり込もうとした。

さすがに呼吸が続かないハリモグモンは、氷を融かし、泳いで水中から脱出した。

陸に上がったハリモグモンは、口を大きく開けて息を吸い込んだ。

その瞬間。

シーホモンのラッパが鳴った。





ハリモグモンが大きく開けた口の中に。
シードラモンが発射した氷の矢が、深々と突き刺さった。




ハリモグモンは口と後頭部から大量に出血し、倒れた。

続く

~オマケ~

ところで、海にたくさんいる大量のプカモン達。
これらを見て、疑問に思わないだろうか。
「このプカモン達はなぜ、幼年期のままこんなにたくさんいるのだろうか」と。


プカモン達とて、食われるのは嫌なはずだ。
ならばさっさと成長期ヘ進化してしまったほうが、個体の生存率はぐんと上がるだろう。

しかし、プカモン達は進化せず、幼年期のままあちこち泳ぎ回って暮らしている。

…どことなく奇妙である。
我々はプカモンについて観察し、研究した。

プカモン達の生活を見ていると…

プカモンの主食は、海藻であったり、水棲デジモンの死骸であったりするが…

プカモンよりさらに小型の幼年期デジモンである、ピチモンやポヨモンを食べる事もあった。
https://i.imgur.com/NrUhXcR.jpg
https://i.imgur.com/ZoXVNs8.jpg


…そしてプカモンは、なんと小粒のデジタマを大量に産んだ。

そして、プカモンが産んだデジタマからは、稚魚のようなデジモンが産まれた後、プカモンへ成長した。


…これは驚いた。
なんとプカモンは、幼年期のままデジタマを産むのである。


プカモンの餌となるピチモンやポヨモンも、プカモン同様に、幼年期のまま大量にデジタマを産み、親と同じ姿の子が孵化することが確認された。

謎が解けた。
弱い被捕食者であるプカモンや、さらにその餌となるピチモン達が、なぜ幼年期のままあちこちにいるのか。


彼らは、幼年期を最終進化形態として、ハイペースで殖えることによって生存する種だということだ。

我々は仰天した。
陸上のデジモン達は、皆レベル4になって初めてデジタマを産んでいたからだ。


低レベルデジモンが、高レベルデジモンに勝る点…
それは「代謝量が極めて少ない」ことである。

消費カロリーが少ないから、僅かな餌だけで生き延びられる。
外敵に捕食されようが構わない。それら外敵の死骸が、増えたプカモンやピチモン達の餌となるから。

…そうした生活環を獲得したデジモンもいるということだ。

もっとも、ピチモンやプカモンポヨモンの中には、成長期や成熟期へ進化をする個体もいるようだ。

彼らのDNAを調べたところ、幼年期のまま殖える個体群とは、大きく遺伝子配列が異なっていた。

同じ外観でも、DNAがぜんぜん違う。
だから生活環や成長の方向、デジタマを産むようになる年齢にも差異が出てくるのである。


水棲デジモンは、この傾向がかなり多い。
魚型デジモンであるスイムモンも、成長期のままデジタマを産むことが確認されている。
https://i.imgur.com/Ih3rbOG.jpg

つまり、デジモンは。
産もうと思えばどんなレベルでも、デジタマを産めるのである。

それでも、陸上のデジモンはレベル4になるまでデジタマを産もうとしないことが多い。

これは、恐らくだが…
DNAに秘められた「強くなろうとする意思」が、陸上デジモンの方が強いのかもしれない。

~つづく~

ところで、これまでの報告を聞いてくれた皆様には、今まで出現した中で好きなデジモン、もっと観察したいデジモンはいるだろうか。

もしも挙げてもらえるならば、そのデジモンにフォーカスしてさらなる観察をしたいと考えている。

デジタルワールドのエネルギー循環、栄養循環は、どのような仕組みになっているのだろうか?

一見すると、太陽光を使って成長した植物が、草食デジモンの餌となり、それが肉食デジモンの餌となり、死んだデジモンが分解されて植物の栄養になる…という、現実の生態系と同じシステムに思える。


しかしながら。
デジモンというものを詳しく調べていくと、「ん?」と疑問点が湧いてくる。

第一に…
デジモンは「データ」を食べる生き物であることが分かっている。
ただし、デジモンはサイズがでかいだけのランダムノイズなどは食べない。
価値のある情報を選り好みして食べるのだ。
我々が、コマンドラモンやマッシュモン、フローラモンの餌を、データのコピペではなく、データマイニングによって計算コストと時間コストをかけて都度生成していることからも、それは明らかだ。

しかしながら、「データを食べる」ということが具体的にどういうことなのか、よく分かっていないのだ。

食べたデータが分解され、デジモンの体内で消えたことで、代わりに何のエネルギーが生まれるのか?

分からないことだらけではあるが…
デジモンの代謝系は、我々人間が、糖と酸素からATPを合成して、細胞内で分解してエネルギーにする仕組みとは、根本的に異なるシステムであることは間違いない。


すると、そのエネルギーの源となっている、デジタルワールドにおける「太陽」とは何なのであろうか?


デジクオリアが我々に「太陽」として見せているコレは一体何なのであろうか?

そもそもデジタルワールドとは何なのか。

デジタルネットワーク上に存在している世界…というと、なんとなくわかったような気にはなる。

だが、現実のデジタルネットワークは、世界各地のサーバーや端末内の様々なシステムによって極めて精巧に作られている。

コンピューターウィルスは世界中に蔓延してはいるが、各種セキュリティソフトによって逐次駆除されている。

こんな精巧なモンスター型のボットを構成している巨大なデータが、あちこちのサーバーやパソコンのディスク上の領域に丸ごと入っているかというと…
現実のデジタルワールドを見る限り、あまりそうとは考えられない。


しかしながら。
フローラモンやマッシュモン達は、確実に我々のサーバー内に「いる」こともまた事実なのだ。


我々人間は、原子や分子の構造体という形で、現実世界に『いる』。


ではデジモンは、どんな形で、どこに『いる』のだろうか。

様々な研究によって、少しずつ、それが分かり始めてきた。

デジモンが存在する「デジタルワールド」…
その媒体となっている「デジタルネットワーク」とは、ノイマン型コンピュータ端末同士の相互通信ネットワークや、それを構成する磁気テープ上のゼロイチのデータ情報のことだけを指しているのではないのだ。

それらの端末を利用している、我々人間の脳もまた、「デジタルネットワーク」を構成する一部分なのだ。

人間だけではない。
地球上の様々な動物の思考回路…脳も、デジタルネットワークを構成する要素となっている。

動物だけでもない。
近年の研究によって、森林を構成する植物同士は、菌根菌の菌糸を回線としたネットワークを構成し、相互に情報交換をして協調して活動していることが明らかになっているのだが…
そのような植物同士の情報ネットワークもまた、デジタルワールドを構成する「デジタルネットワーク」の一端であることが、いくつかの研究によって示唆されている。

植物や人間の思考回路はアナログではないか?それではアナログワールドにいるアナログモンスターではないか?と言われることもある。

それは、まあ…今更といえば今更というか。
最初にそう名付けられてしまったから、今もそう呼ばれているということだ。

電流の向きがマイナスのベクトルとして決まっているように。

自然界を支配するといわれる4つの力…
重力と電磁気力に続く「弱い力」と「強い力」が、仮称のまま正式名称になってしまったように。


通称として広く知れ渡り、様々な論文で使われてしまった以上、今更名称を変えるわけにもいかなくなった、ということだ。

もっとも、変えるべきだなんて意見は一度たりとも聞いたことはないが。

あまりこのあたりを詳しく説明してもドツボにはまるので、詳しくは我々が出している論文を見て欲しい。
きっと理解の助けになるはずだ。


近年では、「現実世界とデジタルワールドの間で、物体の転送ができないか?」という研究を行っている機関もあるらしい。

もしもそうなれば、人類にとって大きな恩恵となることは間違いない。
ゴミ処理問題や農地開発など、「土地が足りない」ことによる問題の解決の糸口になるかもしれない。

また、化石燃料の代替となるエネルギー源を得られるかもしれない。

もっとも、そんなことが本当に可能となるかどうかは怪しいが…

我々がデジタルワールドを観測する技術「デジクオリア」は、その領域に至るための足がかりであることは間違いない。

話がそれてしまって申し訳ない。
元々は、デジタルワールドの栄養循環がどうなっているか、デジモンは食べたデータをどのように生体エネルギーへ変換しているのかという話だった。

しかしながら、それをきちんと論理的に納得できるように説明するには、どうしても複雑な話に言及せざるを得ないのだ。


抽象的、オカルト的な話に喩えるのは苦手なのだ。
うまく簡潔に説明できずに申し訳ない。


ともあれ、私の同僚の言葉を借りるならば…
『エネルギー保存則がこの世に存在するように、情報もまた完全に消滅することはない』という法則が、この世には存在するらしい。


たとえば、純水と乾燥した土がそれぞれ独立で保管されていたとして…
それを混ぜて泥水にしてしまえば、それが元々は純水と乾燥した土だったという情報は、我々からすると消えてしまったように見える。

しかし実際は、その結果が観測されることにより、「乾燥した土がどのような過程で水に溶けていくのか?」という知識や、泥水そのものが持つコロイド溶液の性質に関する科学的知見など、新たな情報が生み出される。


デジタルワールドの栄養循環や、デジタルモンスターのエネルギー代謝とは、この概念に近いのだそうだ。


『情報が消えることで、新たな情報が生まれる』…。

その連鎖によって、デジモンは活動している、ということらしい。

そして、デジタルワールドにおける太陽とは、この概念でいうところの『巨大な情報源』…

いわば「我々の認識できる世界から失われていった情報」が、何らかの方法でデジタルワールドへ送られ、日光のように降り注いでいる…ということのようだ。


ぼやっとした説明になってしまったが、なんとなくイメージは分かってもらえたことだろう。

人間のデジタルネットワークには、コンピュータのデータを破壊するプログラムが多数存在している。

我々はそれをワームやウィルスに喩え、「データを食べて殖える生命のようだ」と比喩したことがあった。

しかしながら、その比喩は一見合っているようで、実は誤りがある。
なぜならウィルスやワームは、自己増殖することとデータを破壊することの間に、機能的な繋がりがないからだ。

殖えようと思えば、データを破壊せずともいくらでも殖えることができる。
かつて流行したことのあった「チェーンメール」のように。

つまり、ワームやコンピュータウィルスは、別に「データを栄養にしているわけではない」のである。


だが、コンピュータウィルスの流行をきっかけとして、デジタルワールドの存在が我々の技術で観測できるほど顕現できるようになったことは、決して偶然ではない。


デジタルネットワークが肥大化し、それを構成する情報を破壊する悪質なプログラムが増えたことで、「我々の世界から失われる情報」の量が爆発的に増加したのである。

つまり、それと対になるように、我々の世界からデジタルワールドへ送られる情報量もまた、爆発的に増加したのだ。

植物と植物型デジモンの違いは何だろうか?

結論から言おう。全くの別物である。
植物型デジモンは、植物の特性を習得することで、地中から栄養を吸ったり光合成する力を身に着けたというだけの、れっきとした動物デジモンである。
いわば植物への収斂進化だ。


そもそもデジタルワールドに自生している植物も、厳密には我々の世界の植物そのものではないのだが…
あるデジタル生命体が、空から太陽光のように降り注ぐデータを吸収して栄養にし、その場から動かずに殖えるという生態を突き詰めた結果、我々の世界の植物に収斂進化したという結果は合理的といえる。

樹木という生物は、全身を構成する細胞のうち、生きた状態のものの割合はかなり少ない。
中空部分は死んだ細胞でできており、生きた細胞は表皮や成長点、枝葉の部分、根くらいしかない。

だが樹木型デジモンであるウッドモンやジュレイモンは、角質など一部を除けばほぼ全身の細胞が生きている。


また、細胞の構造も植物とは異なる。
動物のように動き回ったり戦ったりする必要があるため、駆動部には筋繊維ないしそれと同等の動きをする細胞が詰まっている。

つまり植物型デジモンは、外骨格デジモンの一種なのである。
サンゴやイソギンチャクをイメージしてもらると分かりやすいだろうか。

我々は「植物型デジモンの祖先は何か?」を調査したことがある。

その結果、最も可能性が高い種として挙げられたのがこれだ。
https://i.imgur.com/qOkjolq.jpg

刺胞動物型デジモン、サンゴモン。
珊瑚のように硬い骨格で身を包んだ、軟体のデジモンであり、海に生息している。

こいつが上陸し、植物を食べて暮らしている中で、やがて表皮の中に葉緑素を取り入れることに成功し、植物型デジモンへと進化したということらしい。


まるで太陽光のようにデジタルワールドへ降り注ぐエネルギー…

それは我々の世界から失われていった情報である、と、いうのが定説だ。

ここでひとつ疑問がある。
デジタルワールドにおいて、デジモン達の中を巡ったエネルギーは最終的にどこへ行くのか?ということである。

我々のいる現実世界では、太陽光は地上の生物の中を様々なエネルギーとして循環した後、最終的には熱エネルギーとなって、空気中や水中へ放出される。それがそのまま地球の中へ留まっていたら、地表はどんどん高熱化してしまうだろう。
だが、それらが持つ熱は熱輻射線という電磁派へ変換されて、宇宙の外へ放出される。だから太陽光に照らされても、地球の温度は維持されるのである。

では、デジタルワールドではどうなのか?
熱輻射のように、世界の外へ排熱するシステムはあるのだろうか。

…少なくとも『それらしいものがある』という仮説を立てなければ、生態系が維持されていることを説明できないといえるだろう。

熱されたものが冷えるのは当然の摂理だ。
それは空気や水への熱伝導だけでなく、熱エネルギーが赤外線として放射されるためでもある。

その仕組み自体が、デジタルワールドにも備わっているのか、我々はコマンドラモンの協力を得て実験によって確かめた。

サーバー上のローカルなデジタルワールド空間で、コマンドラモンの爆弾を爆発させた。
その後、デジクオリアのカメラを調節し、可視光線外の波長…赤外光が発せられるかを確かめた。

その結果、爆発によって温まった物体や空気が、遠赤外線を発していることが確認された。

つまり、デジタルワールドにも熱放射の仕組みはあると考えられる。

…しかし。
デジタルワールドの太陽光は、その全てが熱と光だけでできているわけではないようだ。

なんと、デジタル生命体にとって栄養素そのものとなる、データ…情報が、粒子のような形で、太陽光とともに降り注いでいるのである。

熱や光は熱放射で捨てられるだろうが、こちらは捨てられることはなく、そのまま栄養分としてデジタル生命体の肉体を構成する粒子として残存し、循環し続ける。

デジタルワールドにいる成熟期デジモンの数は、はじめに比べて随分増えた。


それはすなわち、太陽から発せられた栄養データが、そのまま生態系に蓄積し、どんどん高栄養状態になっていっているからだ。

…こういったデジタルワールドの栄養循環の仕組みを、高校時代からの友人に、宅飲みしながら話してみた。
彼はこういう話に興味を持ってくれる。職場以外でこの手の難解な話に付き合ってくれるのは、大変有り難いことだ。


友人は「まるで死んだ情報が辿り着く天国みたいだな」と言った。

なかなかおもしろい喩えだ。
死者の魂が辿り着く「冥界」という概念は、世界中の様々な宗教に存在している。
もっとも、冥界に行った後どうなるかは千差万別だ。輪廻転生するとか、いずれ神との約束の地へ復活するとか言われている。

そう考えると、我々の世界から消えた「情報」は、デジタルワールドでデジタル生命体の栄養となることで、輪廻転生している…とか言えなくもないのかもしれない。


友人はさらに続けて言った。
「そういや前に、デジタルワールドって実は人の脳や植物の根っこみたいなアナログの情報媒体にも繋がってるんだよな?」

どうやらそういうことらしい。

「じゃあさ、人間が死んだ後…その人の脳の中の記憶や人格といった情報も、デジタルワールドに送られるのか?」


とんでもないことを言うやつだ。
そんなこと考えたこともなかった。

ハハハ、何言ってんだ…と思ったが。

冷静に考えると怖くなった。

なぜデジタルワールドに栄養として送られる情報が「www(ワールドワイドネットワーク)に接続されたコンピュータ機器内の情報」だけだと言い切れるのか?

外部に接続されていないローカルネットワーク上で失われた情報が、デジタルワールドに送られないという保証がどこにあるというのか。

そもそも、ネットワークなんてのは物理的に言えば「情報を正規化し、電気信号や光回線信号、電波信号に変換して、機器間でやりとりしているだけ」の概念である。
物理的な連続性はないのだ。

それならば。
視聴覚によって外部との情報交換ができる、我々人間の脳が、スタンドアローンの端末だなどと何故言い切れるのか?

光や音を入力とし、手や声を出力としてネットワークに接続されている生体コンピュータと捉えれば、我々の脳も「ネットワークに接続されている」と言えるのではないだろうか。


ならば。
我々の記憶や人格が「失われた後、デジタルワールドに送られる」ことを否定しきれないのではないか?

…その晩、私は久々に恐怖と好奇心のせいで眠れなくなった。

こんな感覚は、子供の頃に心霊番組を観た時以来であった。

つづく

ある日、とある鉄鋼会社から我々の研究所へ電話がきた。
曰く、会社のサーバーが未知の悪質なコンピュータウィルスに感染し、ネットワーク回線のトラフィック量が爆増してしまったそうだ。
様々なセキュリティソフトを試したが効果がない。
もしかしたらデジモンの仕業かもしれないので、調査してほしい…との依頼であった。


我々は依頼を引き受けることにした。
早速、鉄鋼会社のオフィスへ向かった。


我々は今後のデジモン調査のために、専用PCを用意した。
名付けて『ランドンシーフ』。揚陸艦という意味だ。

このPC端末には、マッシュモン、フローラモン、コマンドラモンが居住するためのスペースと、彼らヘの餌となるデータをマイニングするソフトウェアが仕込まれている。

強固なセキュリティによって内部のデジタル空間を保護しており、対デジモン用の様々な設備を搭載している。

我々は、ランドンシーフを鉄鋼会社の回線へ接続した。

まずは様子見のため、ネットワーク内にデジドローンを飛ばして偵察を行った。

やがてデジタル空間可視化ソフト「デジクオリア」のウィンドウ画面に、デジドローンから送信された映像が映し出される。


デジタル空間の中は、図書館を彷彿とさせる風景であった。
様々な資料が入ったバインダーが、棚に陳列されている。

だが、異変はすぐに見えた。
黄色いスライム状の物体が、デジタル空間の床や棚をウジュウジュと大量に這い回っているのである。

https://i.imgur.com/f5KklKj.jpg

これは…見たことのあるデジモン。
ズルモンだ。

やがて、ズルモンは動きを止めると…
進化を始めた。

レベル3…成長期デジモンとなったのである。

https://i.imgur.com/4JsLekH.jpg

周囲を見回すと、どうやらズルモンだけでなく、この成長期デジモンも大勢いるらしい。

そのデジモンの姿は…一見するとナメクジ型デジモン、ヌメモンによく似ていた。
だが、大きな違いがあった。

この成長期デジモンは、自重を支える力があまり強くないようだ。
かなり体高を低くした状態で、床をズルズルと這い回っている。

そしてこいつは、頻繁に体を分裂させたり、異個体間で結合したりしているのである。

まるで粘菌だ。
ヌメモンならこうはいかない。

同僚の一人が、このデジモンに「ゲレモン」と名付けた。
ちょっと品のない響きだが…まあド直球でないだけ良しとしよう。

ゲレモンの胴体から飛び出た2つの眼球のようなものは、どうやら視覚を担う器官のようだ。やはり眼なのだろう。

ゲレモンは、棚からバインダーを取り出すと、それを開き、資料を舌でベロンベロンと舐め回した。

舐められた資料は消えてはいないため、どうやらデータを食べているわけではないようだ。

ゲレモンやズルモン達の群れの動きを見ると…
どうやらゴミ箱の中のデータを食べて栄養を補給しながら、資料舐めをしているようだ。



…私は、このデジモンの形質に覚えがある。
これと似た性質の生物が、現実に存在するのだ。

名を「キイロタマホコリカビ」という。

キイロタマホコリカビは、普段はアメーバ状の単細胞生物として振る舞い、細菌などを食べて成長する。

だが、環境が変わると、多数の個体同士が合体し、ナメクジ体と呼ばれる多細胞生物へ姿を変え、地面を這う。

そして、やがて子実体を伸ばして、そこから胞子をばら撒くのである。



これらのズルモンとゲレモンを見ていると…
どうやらズルモン達は一個体がそのままゲレモン一個体になるのではなく、多数のズルモン達が集合してひとつにまとまることで、一体のゲレモンとなるようだ。


もしもこいつらがキイロタマホコリカビを模倣しているのであれば…
「ナメクジ体」の名にちなんで、ナメクジ型デジモンであるヌメモンに似た姿へ収斂進化するのも頷ける。

こいつらも、マッシュモン同様に、幼年期や成長期のまま分裂して増殖する『デジタマを産まないデジモン』なのだろうか。

さて、どうやらこいつらのせいで、ネットワークのトラフィック量が増大しているらしいが…
それはどういうことなのだろうか。


我々は、デジドローンを移動させ、ネットワーク回線の出入口付近付近を調査した。

やがて、トンネルのようなものが見えてきた。これがインターネット回線だ。

すると…
おお、なんということだ。

インターネット回線のトンネルの壁は、まるで悪玉コレステロールのプラークが詰まった血管のように。

ゲレモンないしズルモンと思われる粘菌が、びっしりと張り付いていたのである。

内部はもはや黄色いトンネルであった。
わずかな隙間の中を、データが行き来している。

なるほど…これがトラフィック量増大の原因か。
こいつらが壁に張り付き、トンネルを狭くしていたせいで、データの送受信が滞っていたのだ。

今回は、デジドローンを飛ばすだけで、あらかた事態が把握できた。

デジモンの仕業であることを鉄鋼会社の社員へ伝えた。

さて、問題はここからである。
これらのズルモン&ゲレモン軍団をどうすればよいのだろうか?

マッシュモンのように高い知性は感じられない。対話は無理だろう。

各パソコンのデータをバックアップし、すべて初期化すればよいのだろうか。
戦って殲滅すればよいのだろうか…?


皆様の意見を聞きたい。
↓1~3

「そ、それで…?うちの会社のサーバーは、直せるんですかい…?」

この状態から復旧する方法は、ただひとつ…
巣食っているデジモン達を、駆除するしかありません。


「駆除…できるんですか?」

やってみなければ分かりませんが…
それなりに戦力はあります。

「それじゃお願いしやっす!」



決めた。
ズルモンとゲレモン達を、駆除しよう。

とはいえ、いきなり何の情報もなしに突入するのは危険だ。
下手を打てば、我々の大切な仲間を失いかねない。

まずは更なる情報収集と分析をして、奴らの弱点を探ることにした。

まずはゲレモンを一匹捕獲して、隔離チェンバーへ閉じ込め、分析をすることにしよう。


ゲレモンはレベル4のヌメモンに似てはいるが、レベル3のデジモンだ。
純粋な戦闘能力ではこちらの勢力が上だろう。

とはいえ…奴らが毒を持っている可能性がある。
正面からいきなりケンカを仕掛けるのは得策ではない。


だが、暴れるレベル3デジモンを、デジモンキャプチャーで捕獲することは難しい。
…やはりマッシュモン、コマンドラモン、フローラモンのうち誰かに捕獲してもらうしかない。

そんな話をしていると、マッシュモンがチャットを飛ばしてきた。

『かみよ すこし ながいたたかいに なっても へいきか』

ん?
まあ、今のところ回線が重くなってるだけで、データを食われているわけではないから…
多少長引いても、確実に駆除できるならいいよ。

『では わたしに まかせてくれ』

どうするつもりだ?

『わたしが ここでふえれば せんりょくがますはずだ』

前みたいに根城にする気か!?
いや考え直せ。仮に君がたくさん増殖してゲレモン達を倒したとして…
その後、増えた個体はどうするんだ?

『また いぜんのように たびにいかせれば いい』

…別の手段も考えようか。

『わかった』

そうして我々は再び、ゲレモン捕獲作戦を考えるのだった。

つづく

我々は様々な案を考えた。
いかに安全に、確実に捕らえるか、作戦を練った。

その中で、「試しにフローラモンやコマンドラモンにも作戦を考えさせてみてはどうか」という意見が上がった。
せっかくだし、やらせてみよう。

フローラモンは早々に飽きたようで、コマンドラモンに一任するつもりのようだ。

そしてコマンドラモンが出した案は…
我々が一切予想していなかった作戦だった。


それは『普通にデジモンキャプチャーで捕まえる』というものだった。

今までレベル3デジモンを捕獲できたことはないのだが…
とりあえずものは試しだ。ゲレモンをデジモンキャプチャーで捕獲してみよう。

デジモンキャプチャーのゲートを、ランドンシーフの隔離チェンバー内に設定。

そして我々はさっそく、ゲレモンの近くでゲートを開いた。


すると驚くべきことに、なんとゲレモンは自分からゲートの中に入ってきたのである。

え?え?
どういうことだこれは?
とりあえず、ゲレモンがチェンバーに入ってから、ゲートを閉めた。

全くの予想外だった。
なぜ自分から捕まりにきたのだろうか。

ゲレモンは、チェンバー内をゆっくり這い回っている。

我々はあれこれと捕獲作戦を練っていたのに…
コマンドラモンの言う通りに、デジモンキャプチャーを起動したら、自分からゲートに入ってきた。

一体どういうことなんだ…?
コマンドラモンに思惑を聞いてみた。
コマンドラモンはチャットで返信してきた。

『よわそうだから キャプチャーで つかまえられそうだと おもった』

…そういうことだったのか。
なんかすごい計算をしているのかと思ったぞ。

だが、「レベル3はデジモンキャプチャーで捕まえられない」という固定観念を排して考えることもまた重要だということなのかもしれない。

さて。
何から調べるべきか…

チェンバーの中で、ゲレモンの体から一体のズルモンが分離した。

…デジタマを産まずに幼年期を殖やすとは。
やはり粘菌型デジモンのようだ。

ズルモンは、地面をずるずると這い回っている…。 

我々が最初に発見したズルモンとは、見た目が同じなのに、明らかに性質が異なる。

我々が知っているズルモンは、海底の熱水噴出孔付近のデジタマから出現した。
そしてゴロモン、ゴツモン、スターモン、ゴーレモンといった、鉱物を身に纏ったデジモンへと進化していった。

どうやらデジモンは、外見が同じでも、全く異なる性質となることがあるようだ。
これはピチモン・プカモンに幼年期のまま殖える個体群と、成長期まで進化する個体群があるのと同じようなものだろうか…?


それを調べるには…
ゲレモンの遺伝子を調べる必要がある。

このゲレモンの遺伝子を、今まで採取してきたデジモンの遺伝子と比較するのだ。
最も近しい遺伝子を持つものがどれか分かれば、どのような進化を遂げてきた存在かも推理できる。

解析した結果…

粘菌型のズルモンとゲレモンは、意外なことに、マッシュモン系統から派生して進化した種であることが判明した。

なるほど、言われてみれば…

デジタマを産まずに殖える習性。
菌類型(植物型から進化したとはいえ)のマッシュモンと、粘菌型のゲレモン。
共通点はある。

そもそもマッシュモンは、一見するとキノコの子実体に手足と顔がついたような姿をしているが、これはマッシュモンそのものではない。
マッシュモンの正体は「菌糸」である。一個体のように見えているのは、菌糸が束になって運動能力と知性を得たカタマリなのだ。

そう考えると…
パッと見の姿は全然違うが、その「正体」は割と近いのかもしれない。

そしてマッシュモン系統ということは、毒があるのだろうか。

ゲレモンのデータを解析したところ…
やはり毒はあるようだ。
マッシュモンが持つものと同種類の毒を薄めたような感じだ。

厄介だな…
あの粘菌に纏わりつかれたら危険極まりない。
うかつに手が出せないぞ。

すると、ボスマッシュモンがチャットで話しかけてきた。

『かみよ ちょっとおおめに しょくりょうを いただきたい』

腹減ったのか?いいぞ。
私はデータマイニングでキノコをたくさん作った。

マッシュモンはそれらを食べまくった。

するとマッシュモンの足元から、菌糸がぼわっと伸びた。
やがて菌糸から、小さなキノコが生え始め…
そのままミニサイズのマッシュモンとなった。


「マシー!」

ミニマッシュモンは、ボスマッシュモンの足から離れた。
ど…どうする気だ?

『どくみを させる』

…え?
まさかゲレモンをミニマッシュモンに食わせる気か!?

お腹壊したらどうする!

『だから ぶんしんを だした もんだいは ない』

し…しかしだ。
ミニマッシュモンも命じゃないのか?

『そういわれても これは わたしの いちぶだ どうするか わたしが きめては いけないのか』

…ま、まあいいよ。君本体が無事ならいいさ。

我々は恐る恐る、ミニマッシュモンをチェンバー内へ投入した。

ミニマッシュモンは、ズルモンの報に駆け寄ると…
ズルモンに噛み付いた!

暴れるズルモンを、ミニマッシュモンはもぐもぐと食っていく。

そうしてミニマッシュモンは、見事ズルモンを飲み込んでしまった。

「ウマ~」

美味いの!?

『おなじどくなら われわれに きくはずがない われわれももっている どくなのだから』

おお…それもそうか。
凄いなマッシュモン。

チェンバー内では、ズルモンが食われたのを見て怒ったゲレモンが、ミニマッシュモンに襲いかかっていた。

ミニマッシュモンはゲレモンに包まれた。
ミニマッシュモンも負けじとゲレモンを食おうとした。

お、おお…互いに互いを食おうとしている!

だが、サイズ差もあり、やがてミニマッシュモンは溶かされ始めてきた。

このままではミニマッシュモンが食われてしまう…助けないと!

『いいや そのまま みていて いい』

うーん…
そう言われても、ちょっとかわいそうだ。

マッシュモンは続けてチャットを打ってきた。
『かみよ わたしのちからを ためすきかいが ほしい コマンドラモンに まもられればかりでは あしをひっぱってしまう』

な…なんか勇敢になったな。
前はもっと怖がりで図々しかったのに。

まあ、そんなに言うならいいか…頑張れよ。

私はデジモンキャプチャーのゲートを開き、他のゲレモンに近づけた。
するとやはりゲレモンはゲートの中に入ってきた。

隔離チェンバー内で、コマンドラモンが見守る中、マッシュモンとゲレモンが対峙する。

マッシュモンがゲレモンに突撃した。
コマンドラモンはじっと見守っている。

ゲレモンは、触手を伸ばして迎撃しようとしてきたが…

マッシュモンに殴られると、触手は千切れ飛び、壁にベチャッと貼りついた。

おお、いけるじゃないか!
続けていけ、マッシュモン!


マッシュモンは、ゲレモンにパンチやキックの連打を浴びせた。
ゲレモンはたちまちバラバラに千切れ飛び、それぞれがズルモンとなって再生した。

マッシュモンは、ズルモン達を食べた。

やったな!圧勝だったぞ、マッシュモン!
お前こんなに強かったのか!

『わたしも やれる たたかえるぞ』

じっと戦いを観察していたコマンドラモンが、チャットを打ってきた。

『たしかに マッシュモンも つよくなった だが あいてのパワーが よわすぎる われわれにとおく およばない』

そ、そうなのか?
…なんかチャットを見たマッシュモンがムスっとしてるんだが。

『やつらは ちからでなく どくでみをまもる マッシュモンいがいでは なぐりあえない』

おお、チャットを見たマッシュモンがご機嫌そうに笑みを浮かべたぞ。

研究グループのリーダーが、戦いを観終えてから発言した。

「だが、あまりに力の差がありすぎるな。
相手も一応レベル3なのでは…?」

…リーダー。
まだ思い付きの段階ですが…今の戦いを見て、仮説をひとつ思い付きました。
奴ら…ゲレモンが何者なのか。

「ふむ?聞かせてみろ。駆除のいいヒントになるかもしれん」

けっこう長い話になりそうですがいいですか?

「構わない。鉄鋼会社のサーバーのデータを奴らに食われてるわけではないからな」



…結論から言います。
奴らゲレモンは、「マッシュモンが進化して、独立栄養生物に回帰したデジモン」だと考えられます。

「ほう…?独立栄養生物に?」

はい。
デジモンはデータを食べる生物と言われていますが、我々人間が生み出すデータをそのまま直接食べるデジモンは、実は現在ではごく少数派となっています。

ほとんどのデジモンは、データそのものではなく、植物や他のデジモンなどを食べています。

「確かにそうだな…。例外は、幼年期の植物型デジモンくらいか…?」

それもありますが。
他にもわずかに、『データそのもの』を食べているデジモンの個体群が確認されています。

ズルモンと、ポヨモン。そして今ここにいるマッシュモンです。

「ポヨモン…あれか。我々が最初に見た小型クラゲのデジモンか」
https://i.imgur.com/CXDeTwM.jpg

そうです。
ただし、我々が最初に見たポヨモンは、やがて成長期へ進化していきましたが…
今挙げたポヨモンとズルモンは、成長期に進化せず、幼年期のまま殖える個体群なのです。

「なるほど…そういう風に進化したというわけか」

いいえ…違います。逆です。
これらの個体群は、今まで発見された中で、最もDNAのサイズが小さいんです。

つまり…
『デジモンの共通祖先にもっとも近い』んです。

「デジモンは…そいつらから進化した、ということか…!?」

おそらく、最初に出現したデジモン…ズルモンとポヨモンは、プランクトンのように漂い、データをそのまま食べる生物だったんです。

そのせいで、あまり強いパワーが出せず、幼年期のまま殖えるしかなかった。

しかし、やがてデジモンが他のデジモンやデジタル生命体を食べるようになってからは…、さらに強い体を手に入れて、もっと多くのエネルギーを補給できるようにするために、「進化」できるようになったんです。

「デジモンが進化の力を獲得した起源か…。我々の世界では、独立栄養生物は『光合成によって炭素固定をする生物』と定義され、従属栄養生物とは『他の生物から炭素を得る生物』と定義されるな」

デジモンでは、炭素のポジションがデータになるわけです。

「それで…マッシュモンも独立栄養生物デジモンなのか?」

我々が初めてマッシュモンと出会ったときを思い出してください。

あのときマッシュモンは、ゴミ箱の中のデータや、我々がデータマイニングで生成したデータをそのまま食べていました。

「そうだな。む、すると…マッシュモンも独立栄養生物型デジモンなのか。いちど従属栄養生物型になってから、独立栄養生物型に戻ったと」

しかし今は、我々がデータマイニングで生成したデータを、一度キノコに与えてから、それを餌として与えています。

「確かに餌が変わったな…それが何か?」

マッシュモンが、急に強く、そして勇敢になったのは、『餌が変わったから』ではないでしょうか?

「餌が変わると…なるほど。キノコからデータを奪うから、従属栄養生物型デジモンの振る舞いとなったわけだ」

マッシュモン。
今でもまだ、データマイニングで出したペレットや、ゴミ箱の中のデータを美味しそうだと思うか?

『わたしは したが こえてしまった グルメになって しまった』

やはりか…。
マッシュモンは、『菌糸』のデジモンです。
我々がキノコを餌として与え続けたことで、マッシュモンを構成する菌糸たちが進化し、従属栄養生物型デジモンに戻ったんです。


「…つまり『テセウスの船』というわけか。今のマッシュモンは…」

では、今ここにいる従属栄養生物型の個体とは逆に、マッシュモンが独立栄養生物型デジモンとしてさらに先鋭化した姿へ進化したらどうなると思いますか?

「余計なエネルギー消費を抑えるために…、手足が無くなり、脳も退化し…粘菌型になる、か」

そう考えられます。
我々のパートナーと正反対の進化を遂げたのがゲレモンなのではないでしょうか。
だからパワーにもこんなに差があるんです。

「ゲレモンの幼体がズルモンなのも、一種の先祖返りということだな」

それが私の仮説です。


「なるほど…確かに尤もらしい。だがそれなら、なぜ鉄鋼会社のサーバーデータを舐め回してばかりで、食べてしまわないのだ?奴らはゴミ箱の中のデータばかり食べているじゃないか」

それは…まだ分かりません。

「ふむ、ではその仮説を元にして駆除作戦を立てよう。えーと…どうするんだ?マッシュモンを殖やして襲わせるのか?」

それだとマッシュモンが届かないところへ逃げ込まれてしまう可能性があります。

「そうか、粘菌デジモンだからマッシュモンより狭い隙間に隠れるのか。厄介だな…」

奴らはデジモンキャプチャーのゲートに自分から飛び込んでくる習性があります。
これを利用できないでしょうか?

「なるほど。デジモンキャプチャーのゲートで掃除機のように吸い込み、中でマッシュモンに食わせるのか」

そうです。どうですか?

「なぜこんな習性があるのか、まだ分からないからな。絶対のものだと考えると、条件次第で作戦が破綻しかねないぞ」

う、それは確かに…。
しかもこいつら、ちょっとでも取り逃がせばすぐ殖えますよねきっと。

「だろうな。一匹も逃さないような作戦が必要だ」




どうするか…
なにかいい作戦はあるだろうか…。

つづく

ずっと考えていてばかりでは、ゲレモンがどんどん増殖していくだけだ。
私は鉄鋼会社の情シス部門リーダーの合意を得て、例の作戦を開始した。

まずはゴミ箱の中のゴミデータを削除しよう…
削除を実行。

デジタル空間上では、ゴミ箱に向かってクレーンアームのようなものが近付いて来た。
あれでゴミ箱を運び、ゴミデータ焼却炉へ搬送するらしい。

しかし、ゲレモン達はなんと、クレーンアームがゴミ箱を掴むのを妨害した!

クレーンアームは、ゲレモン達の粘菌塊投げの集中砲火を受け、撤退していった。


やがて画面にメッセージが表示された。
「ゴミ箱のファイルがロックされています。完全に削除できません」

え…えええ!?
初手でいきなり出鼻をくじかれた。

作戦の最初の一歩が進めない!
これじゃゲレモンを誘き寄せられないぞ…


データマイニングで生成したキノコを投げようかとも考えたが…
ウジャウジャ巣食っているゲレモンをみんなおびき寄せるのには生産量が足りなさすぎる。

リーダーが苦い顔をしている。
「いきなり頓挫したぞ…ど、どうするんだ…。別の作戦を考えるか?」

いや…まてよ。
ようはゴミ箱のデータよりも美味い餌をばら撒けばいいわけだ。

フローラモン!
花粉をばら撒いてくれ!できるだけデジタル空間の隅々まで行き渡るように!


私の指示を聞いたリーダーは慌てた。
「おい、何言ってるんだ!花粉攻撃をしたらかえって逃げて行ってしまうだろ」

まあ見ていて下さいリーダー。

「どうする気だよ…」

フローラモンは指示を了承し、花粉をばら撒いた。

すると…
ズルモンやゲレモンが、一斉に大挙して押し寄せてきた。

リーダー「んん!?あ、集まってきた!何があったんだ!」


思い出してくださいリーダー。
デジモンは、ただのデータそのものよりも、デジタル生命体由来のデジタル物質を餌として好むんです。

そして花粉とは…
自然界では、ダニや蜂、ハナムグリが好んで餌にする物質なんです。
特に蜂は、花粉を集めて蜂蜜を作ります。

したがって、ゲレモンやズルモン達は、花粉を餌として認識し、誘き寄せられてきたんです。

しかも、花粉は風に乗って遠くまで飛んでいけるようにできています。
だからレベル3デジモンの手では届かないような隙間にいる粘菌デジモン達のところまで、餌付けができたというわけです。

リーダー「な、なるほど…。この役割はフローラモンにしかできないな。コマンドラモンやマッシュモンではこんなに効率よくゲレモン達を誘き寄せられない…!」

そうです。
フローラモンは、戦闘能力では他二体に比べて大きく劣っています。

しかしフローラモンの技…「花粉を撒くこと」は、今この状況下では、他のどんなデジモンの技よりもゲレモン駆除に有効といえます。


リーダー「デジモンの優劣は、単純な戦闘能力の強弱だけでは測れないな。時には弱く進化したデジモンが、強いデジモンを凌ぐ働きを見せる…」

そうして、おびき寄せられたゲレモン達は自らデジタルゲートへ入っていき…

隔離チェンバーに閉じ込め次第、コマンドラモンの射撃でバラバラにし、マッシュモンが捕食した。

いける!このままならいけるぞ!

…その時。

『コラァァァーーッ!キサマら、ワガハイの命令を無視して勝手に何やってる!!』

!?なんだ…
やや電子音声気味のエフェクトがかかった、日本語の音声が聞こえてきた。

声がした方を向くフローラモン。
やがて、声の方からドスン、ドスンと、足音?のようなものが聞こえてきた…。

一旦ここまで

やがて声の主が姿を現した。


https://i.imgur.com/tdvSFCJ.jpg

こ、こいつは…!?
黄金の肌を持つデジモンが、長い腕でドッタンバッタンと音を立てながらやってきた。

フローラモンはビビった。

その姿には、ゲレモンの面影がある。
ギョロっとした大きな目玉。
歯並びの良い大きな歯。
ベロンと飛び出た舌。

だが、ナメクジのような柔らかそうな質感ではない。
金属光沢をもったそのシルエットはまるで…


リーダー「う…ウンコだあァーーーッ!!」


リーダーがつい、見たままをオブラートに包まずに言ってしまった。

すると黄金のデジモンは、我々のデジドローンを睨みつけてきた。

「無礼者!ワガハイはウンコではない!我が名は偉大なる粘菌の王!スカモン様だーーーッ!」

リーダー「やっぱりウンコじゃねーか!」

リーダー落ち着いて!

「だいたいキサマは何だ!?なぜここにデジモンがいる!ワガハイ達の邪魔をするな!」

それはこっちの台詞だ!
いや…なんだこいつマジで。

うちのデジモン達は人語を話すような声帯ではないから、チャットで会話をするのだが…

スカモンを名乗るこいつは、明らかに口を動かして発声している。
どこで言葉を身に着けたんだ?

「ワガハイを無視するな!これ以上ワガハイの子分を誑かすなら、容赦はせんぞ!」

そう言い、スカモンは周囲のゲレモンを一体掴むと、おにぎりを握るようにこね始めた。

こねられたゲレモンは、スカモンの体のように金属光沢をもった、螺旋状の物体へと変わった。

その外見はまるで…

リーダー「やっぱりウンコだアァァーーー!!」

スカモン「ウンコではない!くらえ!スライムモールド・ドリルゥーー!」

スカモンはそう叫ぶと、ゲレモンで作ったドリルをフローラモンへ投げてきた。

ドリルはぐるぐると回転している。
いかん!あれに当たったら貫かれかねない!
よけろフローラモン!


驚いたフローラモンは、とっさに飛び退こうとしたが…
足が地面から離れない。

いつの間にか、足元にはゲレモンが纏わりついていたのだ。

なんて奴!
我々とお喋りをしている間に、こっそりフローラモンの足を粘菌で固定していたのか!

ふ…フローラモンにドリルがぶつかる!

その時。

デジモンキャプチャーのデジタルゲートの中から、連続した火薬音が鳴り響いてきた。

飛んできた銃弾が、ドリルの側面に当たり、軌道をそらしてフローラモンから外れた。

スカモン「ヌゥ!?なにやつ!?」

ゲートの中からコマンドラモンが駆け出してきて、スカモンに向かって爆弾を投擲した。

爆弾はスカモンの額に当たり、ボカンと爆発した。

スカモン「ギャアァァーーーッ!?熱ウゥーーッ!!」

スカモンが悶絶している間に、ゲートからマッシュモンが飛び出してきて、フローラモンの足についた粘菌デジモンを払い除けた。
ついでにちょっと食べた。

スカモン「ウヌヌ…キサマ、仲間がいたのか…!」

スカモン「クッ…キサマら、少しはできるようだな…!」

何なんだお前は!ここで何をやってる!
迷惑だからとっとと去れ!

スカモン「フン!キサマらなんぞにワガハイの崇高なる使命を邪魔されてなるものか!」

崇高なる使命?
なんだそれは!

スカモン「フフン知りたいか!このスカモン様の栄誉ある使命をそれはだな…」

そこまで言ったところで、スカモンの背中に乗っていたネズミ型デジモンが、スカモンの背中を引っ掻いた。

https://i.imgur.com/1SlcECJ.jpg

あのデジモンは…よくデジタルワールドにいるやつだ。
レベル3デジモン、チューモンだ。

スカモン「イデデデデッ!わ、わかった!言わん、言わんて!!」

スカモンがそう叫ぶと、チューモンは引っ掻くのを止めた。

スカモン「フー…というわけだ、ワガハイの使命はキサマら愚か者共には教えられんのだ!残念だったな!スカーッカッカッカ!」

あいつ、高笑いしてやがる…

突如、コマンドラモンが、自分達の足元を銃撃した。

な、なんだ!?

…コマンドラモンが銃撃したのは、スカモンが話している間にこっそりにじり寄っていたゲレモン達だった。


スカモン「な!?ワガハイの『有り難いお話作戦』を見破るとは…なかなかデキる奴!」

あぶねー、つい相手のペースに乗せられていた。
サンキュー、コマンドラモン。

だが、読めてきたぞスカモン。貴様の正体が。
『粘菌コンピュータ』だな。

スカモン「ナヌ!?…ふ、ふん!よ、ようやくワガハイがウンコではないと理解したようだな!」

真性粘菌達は、互いに結合して情報をやりとりすることで、複雑なネットワークを形成し、演算回路として働くことが分かっている。

迷路のスタートとゴールに餌を置いた場合、はじめは迷路内にまばらに散らばるが、やがて最短経路を結ぶような一本の線となって最適化される。
迷路の最短経路を解くコンピュータのように。

それが粘菌コンピュータ…
Slime mold computer(スライム・モゥルド・カンピューター)のデジモン。

それがスカモン、貴様の名前の由来だな!

スカモン「お、おおおお!そこまでワガハイのことを理解するとは!キサマ見所があるな!どうだ、ケンカはやめてワガハイの部下にならんか?」

ならんわ!
お前が何をしているか洗いざらい吐くか…
駆除されるか選べ!

スカモン「それはこっちのセリフだあァァーーッ!」

B A T T L E
 S T A R T

戦闘開始早々…
フローラモンは遠くへ走って逃げた。

スカモン「スカーッカッカッカ!臆病者めが!」

そしてフローラモンは、花粉をばら撒いた。
コマンドラモンはガスマスクを装着した。

どうやらフローラモンは、粘菌デジモン達をひきつけて、スカモンの周囲から戦力を削ごうとしているらしい。
だが…

スカモン「バカが!さっきは自律行動させていたから誘き寄せられたが、今度はそうはいかんわ!」

粘菌デジモン達は、フローラモンの方には目もくれず、コマンドラモンの方へと大挙して押し寄せた。

スカモンは自らを粘菌の王と名乗った。
つまり粘菌コンピュータを構成するズルモンやゲレモン達を自在に操れるということだろう。

コマンドラモンは、ゲレモン達を銃撃したが…
撃たれたゲレモン達は細かく砕け散り、分離してズルモンになる。
まるで暖簾に腕押しだ。キリがない…!

床が粘菌デジモンで埋め尽くされていく。これを踏んづけたら足を地面に貼り付けられ、ドリルを投げられてしまう。
しかも粘菌デジモン達の体には毒がある。

粘菌デジモンを避けるが、徐々に壁に追い詰められ始めるコマンドラモン。

コマンドラモンは、いちかばちか、スカモンへ直接銃撃を浴びせようと試みた。

スカモン「遅いわぁぁぁ!」

だが、スカモンは粘菌デジモン達の上を高速で移動して銃弾を躱す。
なんだあの動き!?両腕でドッスンドッスン歩いてちゃあんなスピードは出せないはずでは!?

リーダー「あれは…床を埋め尽くしている粘菌達が、ベルトコンベアーのようにスカモンを運搬しているんだ!」

くっ…
あいつは床一面の粘菌の上を自在に高速移動できるのか。
バカみたいな見た目してて、案外隙がない…!

※戦闘BGMがあるならこんな感じ
https://youtu.be/zn2LH1sGAks

するとマッシュモンは、コマンドラモンを肩車して担いだ。

そして、エッホエッホと粘菌の上を歩き始めた。

スカモン「バカが!!粘菌で包んで食ってやるわ!」

マッシュモンの足元へ、ズルモン達が押し寄せてくる。

マッシュモン「ミマシャー!」
マッシュモンがそう叫ぶと…
デジタルゲートの中から、チビマッシュモン軍団が一斉に飛び出してきた。
なんだあいつら!?いつの間に!?

リーダー「マッシュモン…まさか…自分のような司令塔がいることを予測して、部下を殖やしていたのか!?」

チビマッシュモン軍団は、床一面の粘菌の上に並んでスカモンまでの道を作った。

マッシュモンは、チビマッシュモン軍団の方へコマンドラモンを投げた。

コマンドラモンは、チビマッシュモンの上を駆けて、スカモンまで一直線に走っていく。
近接格闘戦に持ち込む気だ!

フローラモンも、コマンドラモンの後ろについて、スカモンの方へ駆け寄っていく。

スカモン「く、来るな!粘菌ども、さっさとそのチビキノコ共を食ってしまえ!」

粘菌たちがチビマッシュモンを包み込んで食おうとする。

マッシュモン「マシュムマママママ!!」

マッシュモンとチビマッシュモンは、粘菌たちを掴んでは口に放り込んでいる。

さっきの隔離チェンバー内での実験では、ミニマッシュモンは粘菌に溶かされてしまったが…
あの実験結果から逆算し、マッシュモンはギリギリでゲレモンに勝てるサイズで各チビマッシュモンを作ったらしい。

粘菌デジモンを食べたマッシュモン達は、ポコポコと殖えていく。

スカモン「粘菌が逆に食われている!?クソ、粘菌共!もうそのキノコに構うな!トカゲと花を止めろおおお!」

粘菌達は、スカモンの方へ押し寄せてきた。コマンドラモン達を迎撃する気だ。

だが、それより一手早く、フローラモンがスカモンの口を掴んで無理矢理開かせた。

スカモン「ホゲ!?にゃ、にゃぎをふゆ!!」

フローラモンを長い腕で掴み、引き剥がそうとするスカモン。

コマンドラモンは、スカモンの口の中へ爆弾を放り込んだ。

スカモン「ほご!?」

そしてコマンドラモンは、スカモンの口の中へ銃撃を連射した。

スカモン「や、やめろぉぉ!モゴォ!」

スカモンは銃撃から口の中を護るために、口を閉じ、両腕で口をガードした。




…数秒後、スカモンの口の中で爆弾が爆発した。

スカモン「ブッゴオオオォオォォオォオオォォ!!!」



コマンドラモンはレベル3。スカモンはレベル4デジモンだが…
口の中で爆弾を炸裂させたとあれば、いくらレベル差があってもただでは済まないだろう。

スカモン「グ…グフ…」

白目を剥いたスカモンの口から煙が立ち上り、吐血している。

コマンドラモンは、今の爆弾攻撃を使ったせいで、だいぶ体力を消耗したらしい。

コマンドラモンの銃弾や爆弾は、自身のエネルギーを消耗して生産するものだ。
こんだけ連発すれば、疲弊もするだろう。

私がデジドローンからキノコを投げると、敵を警戒しながら食べ始めた。枯渇しかけているエネルギーを補給しているのだ。

マッシュモン「ムッムー!ムマシュー!」
チビマッシュモン達「ムマシャーー!」

マッシュモンはチビマッシュモンを引き連れて、スカモンの方へ突撃した。
とどめを刺す気か…!


すると、スカモンがカッと目を見開いた。
先程スカモン達の方へ押し寄せてきた粘菌達は、スカモンを覆い隠すように包み込んだ。

バリケードで時間稼ぎする気か…!?

しかし、スカモンを包み込んだ粘菌の繭は、壁を伝ってズルズルと天井まで上っていき、そのまま天井から吊り下がった。

くっ…
コマンドラモンの銃が弾切れである以上、天井には攻撃が届かない。

呆気にとられながら戦いを見守る一同。

私は、鉄鋼会社の社員の方を向いた。

粘菌達は今、あの眉に全て集まっている!
今のうちにゴミ箱の中のゴミデータを処分してください!

すると、社員達はコンピュータを操作し、ゴミ箱の中身の消去を実行した。

ゴミ箱にクレーンアームが伸びてきて、ゴミ箱を掴み上げると、焼却炉の上で中身をぶちまけた。

ゴミデータはめらめらと燃え尽きていった。
削除完了!
これで、粘菌共の餌はなくなった。

あとは、天井から吊り下がった繭をどうやって破壊するか…だ。

フローラモン、コマンドラモン、マッシュモン達は悩んでいるようだ。

そうして繭を観察していると…

突然繭が破れ、中から大きな物体が落下してきた。

https://i.imgur.com/MOw4aEA.jpg



…体長5mがあろうかという、巨大なスカモンだ。


レベルは…4のままだが…
まずい!
逃げ…


そう言い切る前に…
巨大スカモンの剛腕が、フローラモンの腹部に裏拳を叩き込んだ。


コマンドラモンのすぐ横を、びゅんと通り過ぎて吹き飛んだフローラモンは、壁に叩きつけられた。

続く

倒れたフローラモンはピクリとも動かない。

我々は数々のデジモンを観察し、データを計測していくうちに、「デジモンは強くなるにつれて代謝量が大きくなる」という法則を発見し、強さと代謝量を概算する「DP」という物理量を定義した。

今の巨大スカモンのDPは…
既存のデジモンでいうなら、クワガーモンと大体同じ数値だ。
これは「小細工抜きで強い、戦闘向きデジモン」を表している。

これまでのスカモン相手なら、立ち回りを工夫することでなんとか張り合えたが…
ここまで「シンプルに白兵戦が強い」デジモンには、もはや知恵比べでは埋められない実力差になるのだ。

巨大スカモン『きひゃまらあァァーーーッ!もう許ひひゃおかん!!ワガハイのキレイな歯をこんなにボロボロにひおって!このスカモン大王が!ブチ殺ひてやゆ!クソトカゲェェーーッ!』

スカモン大王を自称する巨大スカモンは、歯並びの良いキレイな歯が並んだ口を、一切動かさずにそう発声した。

くっ…さすがにこれは分が悪い…
一時退却だみんな!
ゴミ箱の中のゴミデータは捨てたんだ!あいつはほっておけばそのうち飢える!撤退だ!

鉄鋼会社社員「で、でも、ここで撤退したら…あいつ、ゴミデータの代わりに会社の機密データを食べ始めるんじゃ…」

うぅっ…有り得るけど…
フローラモンがまずい!
態勢を建て直すぞ!

私はデジモンキャプチャーでデジタルゲートを開いた。
マッシュモンは、フローラモンを担いでデジタルゲートへ駆け込んできた。

よし、マッシュモン収容完了!
次、コマンドラモン!来い!


コマンドラモンも、デジタルゲートへ走ってくるが…
急に止まった。

コマンドラモンの目の前に、スカモン大王の右手のチョップが飛んできて、地面にめり込んだ。

凄まじい轟音だ。

コマンドラモンは、自分の直上にチョップが迫っていることに気付いたから止まったのだ。

スカモン大王『クッソ!もうちょっとで叩き潰せたものを!』

コマンドラモンはスカモン大王の手から遠ざかる。

スカモン大王『無駄だァーーーッ!ぶっとばしてくれるわ!』

スカモン大王は、左手を横に振り、コマンドラモンに思いっきりビンタした。

コマンドラモンは吹き飛び、地面をごろごろと転がる。
…あまりにも戦力差が大きすぎる…早くコマンドラモンをゲートに入れなければ!
私はデジモンキャプチャーをコマンドラモンへ近づけるが…

スカモン大王『させんわ!』

うぅっ、左手でデジモンキャプチャーのゲートを塞ぎやがった!

スカモン大王『ゲホッゴホッ…これで貴様は脱出(だっひゅつ)でひまい!ゴボッ…!』

相変わらずスカモン大王は口を一切動かさずに発声している。

や、やばいぞ…ゲートを塞がれるとは…!
このままではコマンドラモンを撤退させられない。嬲り殺しにされてしまう…!

その時。

「チビシュマーーー!!」

チビマッシュモン軍団が、スカモン大王の体を登り、眼球を攻撃し始めた。
目潰しをする気だ!

スカモン大王『うざいわあああ!』

スカモン大王はチビマッシュモン達を手で払い除けた。
ぼとぼとと地面に落ちるチビマッシュモン達。


スカモン大王『さて、まずはあのクソトカゲから…!ムム?あのクソトカゲはどこだ!消えたぞ!?』

なんと。
チビマッシュモンがスカモン大王に飛びついている間に、コマンドラモンが忽然と姿を消してしまった。

ゲートは未だにスカモン大王の手で塞がれているので、こちらへ逃げてきたわけではないようだ。

どこへ行ったんだコマンドラモン…?

しかし、あまりにもフィジカルの差が大きすぎる。
これではコマンドラモンの体力が回復したところで、機銃や爆弾は効かないかもしれない。
奴に弱点はないのか…!

カリアゲの研究員「なあ…すごくどうでもいいことなんだけどさ…」

どうした?こんな時に。

カリアゲの研究員「なんであのスカモン大王、口を動かさずに喋ってるんだ?さっきは人語の発声には口や声帯を動かす必要があるって言ってなかったっけ…」

リーダー「本当にどうでもいいな。腹話術でもやってるんじゃないのか」

腹話術…?
…まてよ。

さっきスカモン大王は、自分の歯並びのいい歯がボロボロになったと言っていたけど…
どう見てもスカモン大王の歯はキレイなままだよな。

リーダー「そ、それが…?」

…そうだ!わかった!
スカモン大王は、あのでかい口で喋ってるんじゃない!
文字通り、腹の中から喋ってるんだ。

カリアゲの研究員「腹の中から…!」

そうだ!
スカモンはあのデカい体とまだ完全に融合しきってない!
外側のボディをパワードスーツのように着て、中に本体のスカモンがいるんだ!

…そうは言っても。
あの金属光沢で黄金に光る硬化粘菌ボディに、付け入る隙など見当たらない…。

スカモン大王『クソトカゲ!どこへ消えたァァ!!』

スカモン大王は、ゲートを手で抑えながら、きょろきょろとあたりを眺め回している。

チビマッシュモン軍団は、再びスカモン大王の体を登ろうとして足元に集まってくる。

スカモン大王『このぉ、ウザいぞ!キサマら祖先共は時代遅れなのだ!進化したワガハイこそが最新最強なのだああ!』

そう叫んだスカモン大王は、自分の頭頂部に生えている螺旋状の物体をパカっと外すと、自分の右腕に装着した。

すると、スカモン大王の右腕で金色に輝く螺旋状の物体は、ドリルのように高速回転し始めた。

スカモン大王『まとめて逝ね!スライムモールド!ドリィイイル!』

ドリルで薙ぎ払われたチビマッシュモン達は、バラバラに切り裂かれて散らばった。

うぅっむごい…!
チビマッシュモン達は逃げ惑う。

スカモン大王『スカーッカッカッカ!クソキノコ共!まずは貴様らから撲滅してやるぞォォ!』

スカモン大王は高速回転するドリルを、チビマッシュモンの上から叩きつけた。
チビマッシュモンは一瞬でバラバラに吹き飛んだ。

なんて威力…!
コマンドラモンでさえ、一発あれを叩き込まれれば即死は免れない。

…その時。
我々のもとへ、一通のチャットが飛んできた。

コマンドラモンからだ…!
内容は…?

『うえから みえるか』


…んん?
なんのことだ?

上から?何が?

…とりあえず私は、デジドローンを飛ばし、戦局を上空から眺めた。

すると…
…おお…!

スカモン大王が頭頂部からドリルを取り外したときに頭に空いた穴から、中が見えた。
やはりスカモンが乗っている…!

私は『みえる』とチャットを打った。


すると…
『すべてを たくす』と返信が来た。

その直後…
床から何か、コツン、と硬い音が鳴った。

私は音が鳴った方を見た。


そこにあったのは…
ピンがついたままの、コマンドラモンの爆弾だった。


そうか…!
コマンドラモンは今、光学迷彩で隠れているのか!

さっきまでは周囲に粘菌がひしめいていたから、光学迷彩を使ったところで粘菌の触覚で居場所がばれてしまう状況だった。

だが、粘菌がすべてスカモン大王の装甲となった今…
光学迷彩で隠れることが可能になったんだ。

やがて、爆弾から離れた位置で、コマンドラモンの姿が現れた。
光学迷彩はエネルギーの消耗が激しい。きっとエネルギーが切れたのだろう。

スカモン大王『見つけたぞおおおお!クソトカゲ!』

スカモン大王は大喜びで、コマンドラモンの方へにじり寄っていく。
スカモン大王は移動するときに両腕を使って地面をナックルウォーキングしている。

…つまり。
デジタルゲートは今、スカモン大王の手で塞がれていない。

わかったぞ、コマンドラモン。

…私達にも、一緒に戦えというんだな!


私はデジモンキャプチャーを使い、コマンドラモンの爆弾を回収した。

スカモン大王は、コマンドラモンにドリルを打ち込もうとしている。

スカモン大王『キサマは一息には殺さん!じわじわと嬲り殺しにしてやるゥゥーーー![ピーーー]ェェーーーーッ!!』


私はデジタルゲートを、スカモン大王の直上へと移動させた。


…今だ!

来い、マッシュモン!!


私の合図とともに、デジタルゲートから、ピンの抜けた爆弾を持ったマッシュモンが降下してきた。

スカモン大王『スカーーーっとするぜェェーーーー!』

コマンドラモンに向かってドリルを突きだすスカモン大王。

マッシュモンは、そんなスカモン大王の頭にぽっかりと空いた穴へ飛び込み…

内部のスカモンの頭を思いっきり踏んづけた。

スカモン「ふぎゃん!?な、何奴!?」

スカモンは両腕を、スカモン大王の内壁へ突っ込んでいる。きっと何か操縦桿みたいなものをこねくり回しているのだろう。

マッシュモンは、すかさずスカモンの口の中に爆弾を放り込んだ。

スカモン「もごぉ!?」

そしてマッシュモンは、その場でジャンプし…
スカモンの頭部へヒップドロップを決めた!

スカモン「ぶぎゅ!」


…直後、スカモンの口の中で、コマンドラモンの爆弾が爆発した。

スカモン「ゴッビャアアアアアアァァァァーーーーーーー!!!!」

スカモン大王の頭の穴から、マッシュモンがポーンと飛び出してきた。

爆発と同時に、スカモン大王の腕の動きは止まった。

スカモン大王は、仰向けに倒れた。
頭の穴から、スカモンが転がり出て来た。

スカモン「」

白目を剥き、口をあんぐりと開けている。
口の中からは煙が立ち上っている。
歯は全部吹き飛び、舌も千切れ飛んだようだ。
スカモンはピクリとも動かない。

…勝った…のか?



マッシュモンは爆発の衝撃で気絶している。
よくやったマッシュモン。
私はデジモンキャプチャーで、マッシュモンと、生き残りのチビマッシュモンを回収した。


コマンドラモンは、スカモンに向かって銃撃をしようとしたが…
エネルギーが残っておらず、弾切れのようだ。


大丈夫だ、コマンドラモン。無理にとどめを刺さなくても。
そいつはデジモンキャプチャーで回収して、隔離チェンバー内で標本にしてやる。

私は、デジモンキャプチャーをスカモンへ近づけた。

すると、そこへ。
先程スカモンの背中に乗っていたチューモンが、どこかから素早く走り寄ってきた。


な、なんだ…?

すると、なんと。
チューモンはスカモンの口の中に手を突っ込み、何かを引きずり出した。

それは…脳か何かのように見えた。

チューモンは、スカモンの脳を持ち、走り去っていく。

コマンドラモンはチューモンを追い掛けようとしたが、体力の限界が来たようであり、がくんと地面に膝をついた。


チューモンは、トンネル…ネットワーク回線の方へ向かった。

そして、内壁が粘菌でびっしりと埋め尽くされたトンネルに飛び込んだ。

やがて、トンネルの内側にびっしりとこびりついていた粘菌達は、チューモンを包んでネットワーク回線の奥へと引っ込んでいった。


…我々は、スカモンに勝ったのだ。

チューモンには逃げられ、スカモンの脳は持ち去られたが…
ひとまず、鉄鋼会社のサーバーに巣食っていた粘菌デジモン達は完全に消え去った。

ネットワーク回線の中を圧迫し専有していた粘菌達も、遠くへ引っ込んでいった。

ひとまず、危機は去ったのだ。

…我々は、スカモンの死骸および、チェンバー内に誘引したゲレモン達を標本として保管した。

巨大なスカモン大王の抜け殻は…
でかすぎてデジタルゲートを通過できなかったので、その場で消去した。



我々は、ランドンシーフの居住スペースで、フローラモンの様子を見ていた。

フローラモンの脈拍はどんどん弱まっていく。

何か治療を施してやりたいが…
今の我々には、デジモンへの医療技術はない。


フローラモンは、頭部が花になっているデジモンだ。
我々が見守っている中で…
フローラモンは、頭部の花を散らせた。

…そして、フローラモンの頭部は首からごろりと離れ、地面を転がった。


…フローラモンの脈拍が、止まった。

スカモンの駆除には成功した。

鉄鋼会社の社員達みんなから感謝された。


だが、勝利の代償として…
フローラモンは息を引き取った。


我々はどうすれば良かったのだろうか。

スカモンと出会ってすぐに、戦闘を回避してデジモンを全員引き連れて退却し、サーバーやネット回線を放置すればよかったのだろうか。

それとも…我々は最善を尽くしたのだろうか…。


どれだけ反省会をしても、フローラモンが息を吹き返すことはない。


哀しみに暮れる一同。
フローラモンを愛した大勢の研究員達が、涙を流していた。

そうしてフローラモンは、ビオトープの一角に掘られた墓穴へと、コマンドラモンの手で埋められた。

翌日。
我々は驚いた。

なんと、フローラモンの墓の土から、芽が生えている。

我々は、あまり気が進まないが…
フローラモンの墓を暴いた。


すると、さっそく芽の正体が顔を出した。
https://i.imgur.com/IYR03w0.jpg

ニョキモン…
フローラモンが産まれた直後と同じ姿のデジモンだった。


墓土の中には、フローラモンの頭部を形成していた外殻の破片と、植物の種が真っ二つに割れたような殻があった。



…花とは、やがて果実になり、実をつけ、種を残す器官だ。
フローラモンは死の間際に、自分の頭部の花の中で種を…
ニョキモンのデジタマを遺したのだ。


我々は、フローラモンが遺したニョキモンを、大事に育てることに決めた。

数日後、ニョキモンはピョコモンに進化した。
https://i.imgur.com/B0YnRSd.jpg


フローラモンと同じ幼年期デジモンだ。
そろそろチャットによる会話を教えてみようか…

すると、信じられないことが起こった。


ピョコモン「あるじ!あし はえた! また きたえて!」


…ピョコモンは、口から人語を発したのだ。
これにはピョコモンの世話をしていたコマンドラモンとマッシュモンもぶったまげた。

まだ言葉を教えてないぞ…どうなってんだ!?

ピョコモンはさらに続けて喋った。

ピョコモン「ふろーら、うんこに まけたvくやしい! うんと つよくなる! きたえて!」


…なん…だと?
このピョコモン、自分を『フローラ』と名乗ったぞ。


コマンドラモンは、ピョコモンにチャットを打った。
『おぼえているのか あの たたかいを』


ピョコモン「こまんど かこよかた!ふろーらも こまんど みたいに つよくなる!」





フローラモンは、ただデジタマを遺していただけじゃない。

頭部の中にある…脳を、記憶を。
肉体の死の間際に、デジタマとして切り離すことで、前世の記憶と自己同一性を維持したまま、幼年期への転生に成功したのだ。

誰も気にしていなかった。
「なぜフローラモンは、花が頭部なのか」などと。
そういうデザインなのだろう、程度にしか考えていなかった。

だが違う。
フローラモンには、こういうことができる身体機能が、初めから備わっていたのだ。

デジモンの生命力の強さは。
生存能力の強さは。
決して、白兵戦闘力だけを物差しとして測られるものではない。

一見弱そうなデジモンが。
誰よりも強い生命力を秘めている事があるのだ。



ピョコモンは現在、コマンドラモンの指導のもとで、ハードなトレーニングを積んでいる。

さて…
あまり感傷に浸り続けてはいられない。

今回の鉄鋼会社で起きた、ゲレモン及びスカモンによる粘菌事件。

その顛末について分析し、今後どうするかを考えなくてはならない。
ワルモノをぶっとばしたから万事解決!というわけにはいかないのだ。


あの粘菌達はどこから来たのか?

なぜゲレモン達はサーバーのデータをペロペロ舐めてばかりで、食べようとはしなかったのか?

なぜネットワーク回線の内壁にびっしりと粘菌デジモンがくっついていたのか?

結局スカモンは何をしようとしていたのか?
そもそもあのスカモンはどこから来たのか?

あのチューモンはどこへ去ったのか?


…ひとつひとつ、限られたヒントから分析しなくてはならない。

つづく


次回、シーズン1 最終回(予定)

オマケ

これまでに確認されたレベル4デジモンのDP比較表を、Tier表形式で発表する。


S+ グレイモン グラウモン ティラノモン
S コカトリモン ディアトリモン
A+ スターモン スナイモン
A タスクモン モノクロモン エクスブイモン スティングモン
B+ クワガーモン スカモン大王 カブテリモン ゴーレモン モリシェルモン
B ディノヒューモン レッドベジーモン ドクグモン ボアモン シードラモン ドビウモン
C+ フロッグモン サラマンダモン モスモン ウッドモン アイスモン ユキダルモン
ヤンマモン
C ベジーモン トゲモグモン ゴートモン シーホモン
D ヌメモン ゴキモン カラツキヌメモン ハニービーモン

>>930のTier表は、上から見れば強さの順となるが、空腹に弱い順でもある。

下から見れば、長い間食事を摂らずに生きていける順となる。

そのどちらが生存に有利かは、時と場合によりけりだ。

我々は、事件の分析を試みた。

ゲレモンはともかく、スカモンはどう考えても自然発生したデジモンだとは考えれない。

スカモンは粘菌型デジモンだというのに、極めて流暢に人語を話した。
これは、デジモンまたは人間から、言語とコミュニケーションの高度なトレーニングを施されていると考えてよいだろう。

さらにスカモンは、ネットワーク回線を圧迫したり、データバンクをゲレモンに舐めさせたことを「崇高なる使命」と呼んだ。

これが自発的な行動であれば「使命」などという言葉は使わないだろう。
故に、スカモンが敬愛する何者かからの命令で動いていたと考えるべきだ。

そして、ゲレモン達はスカモンの命令に従い、鉄鋼会社のデータを「食べる」のではなく「コピー」していたのだと考えられる。

ネットワーク回線のトンネルの内壁が粘菌で埋め尽くされていたのは、ゲレモン達がコピーした情報を送るパスを専有するためだった…と考えれば筋は通る。


つまり、今回の事件は…
デジモンを利用したサイバー犯罪だ。

鉄鋼会社のデータを盗むことを目的にしていたのだ…という可能性が最も高い。

既存のセキュリティソフトでは、デジモンの侵入は防げない。

今後も同じ手口が使われるとしたらゾッとする。

研究所内では、「この事件を公表し、デジモンによるサイバー犯罪の対策を啓発すべきか?」と議論が行われた。


だが結局「公表しない」ことにした。
人類のIT技術では対策しきれない上に、むしろ犯行グループの広告となってしまい、デジモンを利用したハッカーが得をしてしまう可能性があるからだ。

本格的に対策を考えるなら、犯人の動機だけでなく、「手口」の分析も必要だ。

そもそも犯人は、一体どうやってゲレモンとスカモンという、情報窃盗に最適な形質のデジモンを用意したのだろうか?

デジタルワールドからゲレモンとスカモンを拾ってきたのか…?
いや、それではスカモンがあんなに流暢に喋れる発声器官を持っている理由が説明できない。

我々は、スカモンの死骸やゲレモンからDNAを解析してみた。
すると、面白いことが分かった。

彼らはもともとは、レベル3のマッシュモンだったのだが…
それがレベル4のゲレモンへと進化した。

その後ゲレモンがデジタマを産み…
ゲレモンの子は、『レベル3で』親のゲレモンと同じ姿へ進化したのだ。

ゲレモンという種が、レベル4からレベル3へと移り変わった。

そしてその後、レベル3のゲレモンがレベル4のスカモンへと進化したのである。


途中に何世代か挟むだろうから、実際にはこんなスムーズに形態変化していったわけではないだろうが…
大体こんな感じである。


デジモンが『元々のレベルより低い段階へ移り変わる』という現象は、いくつかの例で確認されている。

たとえば、現在のデジタルワールドの海には、ホエーモンというレベル5の巨大なデジモンが確認されている。
https://i.imgur.com/JpioOvv.jpg

しかし、ホエーモンの子供達は、レベル4で親と同じ姿へ進化したという。

同様に、「カラツキヌメモン」や「ゴキモン」も、かつてはレベル4だったが、その子供達がレベル3で親と同じ姿を獲得している。
https://i.imgur.com/4BGl6cW.jpg
https://i.imgur.com/Kv42v0J.jpg

わざわざ低いレベルに下がることに意味があるのかというと…
大変大きな意味がある。

戦いを避けて、逃げたり隠れたりすることに特化したデジモンは、戦闘力を捨てる代わりに素早く完成した身体機能を手に入れ、燃費の良い肉体になることで、生息分布を一気に拡大することに成功しているのだ。

マッシュモンがゲレモンに進化したところまでは、まあデジタルワールドで自然に進化した可能性も十分に考えられるが、その進化形態であるスカモンについては、どう考えても自然な進化としては説明がつかない。
明らかに進化の傾向が違うのだ。

いちどマッシュモンから退化したであろう知能が、人と会話し、命令を遂行できるほど高度に進化している。
しかも、ゲレモンは戦闘力を捨てていたフシがあるが、スカモンは強かった。
合体形態の「スカモン大王」は戦闘向きのデジモン達と遜色ないDPを持っていた。

このことから、スカモンはハッキング目的に特化した形質を得るように人為的に進化させられたのではないか?という説が浮上した。


「何者かがデジモンの肉体に手を加えた例」なら、我々は既に一度目撃している。
瀕死のティラノモンを機械(というよりプログラムボット)で改造したレアモンである。
https://i.imgur.com/2ObcB3n.jpg


あの後、レアモンを分析したところ、どうやら「デジモンの欠損した身体機能を、人工のプログラムで代替する実験」の実験台になっているのではないか…とする説があった。

スカモンと直接の関わりはないが…
「望み通りのデジモンを作る」ためのアプローチと考えると、どことなく共通した目的があるようにも見えてくる。…根拠は無いが。

もしも、この説が正しいのであれば…
先の事件で出現したスカモンを倒せば万事解決、と終わるはずがない。

むしろ、あのスカモンが量産されたら、次々と同じ手口によるハッキングで情報窃盗が行われかねない。
これが公的機関や軍需企業、金融機関に差し向けられたらひとたまりもない。

(なぜ今回は鉄鋼会社が狙われたのかは不明だ)

しかも、今回はスカモンが一体だけだったからギリギリ勝てたが…
さらに強力なハッキングデジモンが配備されたら、うちのレベル3デジモン達では太刀打ちできないだろう。

どう対策したものか…と頭を悩ませていた頃に、マッシュモンから通信があった。

『かみよ スカモン大王の 処分がおわったようだ かれらをむかえてくれないか』

…え?彼らって誰?
そういえばスカモン大王ってどうやって処分したんだ?
あんなバカでかい巨体を…


私は鉄鋼会社のサーバーを見た。
かつてスカモン大王があった場所には…
大量のチビマッシュモンがいた。


うわ!なんだあの数!
おい、どういうことだ処分作業担当者!
マッシュモンにやらせたのか?

担当者「ち、違うよ!あいつら元々あそこにいたんだ!」

元々…?

担当者「スカモン大王の攻撃で、チビマッシュモンがたくさん粉砕されてただろ?そいつらだよ」

え?スカモン大王にやられて死んだんじゃなかったの?

『かみよ われわれは 菌糸のデジモンだ たとえコナゴナにされようと 菌糸はいきている またかたまればいいのだ』


…あー。なるほど。
撃たれたゲレモンがバラバラになってズルモンへと分裂するようなことを、君らもできるのね。
そして、スカモン大王の残骸を食べて殖えに殖えたと。

…なんかゲレモンにならずとも、マッシュモンの時点でそうとうスゴいデジモンだな。
さっきまでフローラモンの生還に感動してたのに…桁違いの生命力を今まじまじと見せつけられた。


しかし…この数のマッシュモン。どうしよう…
ランドンシーフで飼えるのか…?

そこへ、スポンサーの方から連絡がきた。

スポンサー『ハーッハッハッハ!ご機嫌よう諸君!君達の戦いは見せてもらったよ…素晴らしいい!』

ど、どうも。

スポンサー『特に、君達とデジモンの絆が素晴らしい!デジモンがただ命令に従っただけじゃない、その場に適した意思決定をデジモン自身が行い!君達人間に協力まで求めた!こんな素晴らしいことは、あんな薄汚い排泄物デジモンになどできやしないだろう!』

お褒めにあずかり光栄です。
それで、あの…このマッシュモン達どうしましょうね?
こんな数うちの研究所で養えるかどうか…。

またペットとして売ります?

スポンサー『それもいいだろう!需要はたくさんある!こないだ売ったマッシュモン達だがね、動画サイトで大人気なんだ!生きたデジタルペットとして大変愛されている!購入希望者続出だ!』

おお、それは良かったですね。
マッシュモンを買ってくれた人の中に、動画サイトでバズった人がいたんですね。

スポンサー『というより、購入希望者の中からインフルエンサーを数名ピックアップし、抽選で優先的に当選させたからだよ!ハーッハッハッハ!』

さすが…。
で、このマッシュモン達ですが。

スポンサー『また売ってもいいが…君達は、可愛いデジタルペットとしての用途以上に価値のある使い道を見せてくれたじゃあないか!そっちはどうかね?』

カリアゲの研究員「え?どういうこと?」

つまり…
マッシュモンを「ハッキングデジモン対策用の傭兵」として運用するって案ですか?

スポンサー『察しが良くて助かるねえキミ!』

可能なんでしょうか、そんなこと…。
正直、マッシュモンだけじゃスカモンに勝てなかったと思いますが。

スポンサー『相手がマッシュモンを品種改良したからだろう?ならば君たちも同じことをすればいいじゃないか』

まさか…
マッシュモンをこちらも人為的に進化させる、と…?

カリアゲの研究員「あ、あんた、命をなんだと思ってんだ!人工進化だなんて…その中で犠牲になるマッシュモンだっているんじゃないのか!だいたい、望み通りに進化してくれるとは限らないぞ!凶暴化して暴れ回るかも!」

それは確かにありますね…。

スポンサー『…「餌の確保のしやすさ」「早い成長速度」「飼育下での繁殖能力」「穏やかな気性」「パニックを起こさない性格」「序列性のある集団を形成する習性」…。何のことか分かるかね?』

カリアゲの研究員「んあ?…マッシュモンの良いところか?」

いや、それはそうだが…違う。
今スポンサーさんが挙げたのは…『家畜化しやすい動物の条件』だ。

カリアゲの研究員「か、家畜化ぁ!?あんたマッシュモンを家畜にしようってのか!!」

スポンサー『言い方を変えよう。マッシュモン達は、人類の良き友…パートナーデジモンに相応しいということだよ。彼らに強くあれと望めば、きっと彼らも想いに応えてくれることだろう!』

カリアゲの研究員「どうだか…マッシュモンが進化した姿のひとつがスカモンやゲレモンだろ?あんな風に悪さして暴れる可能性があるって、ついさっき示されたとこだろうが!」

スポンサー『悪さ?とんでもない。むしろスカモン達はとてもよく人類に尽くしたじゃないか』

カリアゲの研究員「ああ?何言って…」

いいや、スポンサーさんの言う通りだ。
スカモンは命令を指示した人間に対して、とても忠実に従ったんだ。
大ダメージを受けても逃げずに戦闘を続行していたしな。
それは即ち…マッシュモンの、人間のパートナーとしての高い適性を意味するんだ。

暴れていたのは、命令した人間に悪意があったからだ。

カリアゲの研究員「…善人のパートナーにも、悪人のパートナーにもなれるってことか…」

スポンサー『理解したかね?マッシュモンのデジタル傭兵としての有用性と、スパイボットとしての危険性を!デジモンからシステムを護れるのはデジモンだけだ!きっと今に皆が欲しがるぞ、セキュリティデジモンを…!』

どうでしょうね。
ハッキングデジモンの存在が周知されない限り、その需要もあまり…

スポンサー『いや需要は伸びる。なぜなら既にマスコミに売り込んだからだ!デジモンハッキング事件のあらましをね!』

なんだって!?
か、勝手なことを!

研究所副所長「いやー、まあ、世のため人のためになるかと思ってつい…許諾しちゃった★テヘぺろ☆」

もうーーーーー!

スポンサー『ハーッハッハッハ!遅かれ早かれパンドラの箱は開けられていたよ!ならばジリ貧まで追い詰めれるよりも、早期に手を打つ方がいいに決まってるだろう!』

そりゃそうですけどね…。

スポンサー『だがおかげでセキュリティデジモン開発資金の投資は非常ォ~にたくさん集まっている!設備ならガンガン増設してあげるから、頑張って研究を進めてくれたまえ!』

もぉ~勝手に決めちゃうんだから…
リーダーはいいんですか?

リーダー「…遅かれ早かれパンドラの箱は開けられていた、それは確実だ。ならやらざるを得ないだろう」

し、しかし…気が進まないな…

リーダー「それはそうだ。お前達はデジモンに、感傷的になりすぎている。非情にはなれないだろう」

…はい。

リーダー「部署を分けよう。デジタルワールド観察班はお前に任せる。セキュリティデジモン開発班は俺に任せろ。汚れ仕事はこっちで請け負う」

…お願いします。
俺も…本当は分かっています。
このままハッキングデジモンが増え続けたら、うちの3体じゃ太刀打ちできなくなり、どこの会社のサーバーもハッキングされ放題になってしまう。
戦力図が一方的に染められてしまう…ということを。

リーダー「人には向き不向きがある。お前は頭が回るが…手を汚すのには向いていない。適材適所だ」

…すみません。

リーダー「いいさ。お前の研究成果は、オレ達にとっても役立つことだろう。そういう手伝い方をしてくれればいい」

引き続き、デジモン観察頑張ります。

ところで。
マスコミにハッキングデジモン事件を広めさせたことで、セキュリティデジモン研究費用がたくさん貰えたのなら…

逆にハッカー達の方も、やべえ奴らから資金提供されたり、仕事をたくさん依頼されてるんじゃないですか?

スポンサー『ハーッハッハッハ!そりゃされてるだろうな!』

笑い事じゃありませんよ!
国際機密を狙う国際テロ組織とかが、ハッキングデジモンを利用するようになりかねませんよ!

スポンサー『なら我々は国家からセキュリティデジモン開発予算を貰えるようになるなあ!ハーッハッハッハ!』

だから笑い事じゃありませんってば!
そうなったらもう戦争じゃないですか!

スポンサー『そうだが?』

そうだがじゃありませんよ!

スポンサー『戦争ができるだけマシじゃないか!このままハッカー共を野放しにして、事なかれ主義で日和見していたら、戦いさえさせてもらえずにデジタルジェノサイドされていたぞ君ィ!』

うぅ…否定できない。

リーダー「…先手を打つ者はいつだって非難にさらされるもんだ。そのくせ大事件を未然に防げても感謝されない。損な役回りさ…。だが、誰かがやらなきゃいけないんだ。今回はそれがオレ達だ」

…やるしかないか…。
頼みましたよリーダー。

しかし、やるしかないとは言っても…
そもそもハッカー側がどうやってデジモンを人工進化させたのかがわからない。

デジモンの進化という現象が、いかなる論理に従って引き起こされているのかが分からないのだ。

我々の世界の生命の進化は、「自然選択説(ダーウィンの進化論)」と「メンデルの法則」で説明される。

ざっくり言うと、進化とは精細胞のランダムな突然変異によって引き起こされ、それが子に遺伝する…というものだ。

たとえば、魚のヒレの形状に変化があったとする。
それが単に泳ぎづらくなるだけならば、遊泳スピードが落ちて、生存に不利になって消えていくだけだ。

だが、変化したヒレのおかげで泳ぐスピードが上昇したり、水中を飛び跳ねたときに長く対空していられるようになったなら…
より生存に適した姿へ「進化した」といえるのだ。

我々の世界の生物は、一握りの成功を得るために、無数の失敗をしているのである。
そうして「有利に働くか不利に働くかが未然に判断できない形質変化」に莫大な試行回数をかけてトライするからこそ、全く予想だにしない進化ができるのである。

しかし…
ダーウィンの進化論よりも前には、別の説が有力視されていた時期があった。

「ラマルクの進化論」である。

ラマルクの進化論は「自然選択説」ではなく「用不用説」といわれる。

「よく使われる部位が発達し、使われない部位は退化する」というものだ。

だがこの説は、様々な反論を受けた。

たとえばネズミを使った実験では、22世代にわたって尻尾を切断し、尻尾を「使わなくさせる」ことで、尻尾が短くなるかを調べたのだ。

だが、22世代目になっても、使わなくなったはずの尻尾は短くならなかった。

この結果によって「使わない部位は退化する」という説は否定されたのだ。

…さて。
デジモンの進化は、そのどちらにも当てはまるようでいて、どちらにも当てはまらないのだ。

一見すると、「用不用説」が近いように見える。
たとえば魚型デジモンであるスイムモンが、陸に上がりたいと望んだことで、肺を持ち淡水に適応できるシーラモンへ進化した。

その子であるオタマモンは、進化して手足のある両生類型デジモンとなった。

これは当初「強く望んだ形質を得ている」ものと見なされていた。

だが、冷静に考えるとおかしいのだ。
スイムモンはどうやって「肺」という完璧に機能する器官を、試行錯誤なしに知り得たのか?

両生類型デジモン達はどうやって、陸上をうまく歩行できる手足の骨格や、乾燥から身を護る皮膚の構造を知り得たのか?

これは仮説だが…

「人間の世界から消えた情報が、デジタルワールドへと送られる」というのなら。

最も多く転送されている情報とは、生物の細胞内に存在している核酸がもつ「DNA配列」ではないだろうか。

我々の世界の生物達の遺伝子情報が、デジタルワールドへ送られており、デジモン達はそれを食べながら、我々の世界の生物の身体構造を「学習」しているのではないだろうか。

進化をする際は、そうして蓄積した遺伝情報の学習データをパッチワークして、新たな身体機能を獲得するのではないだろうか。

勿論、それを行うには、選択をするための知能が必要だが…
原初のデジモンであるポヨモン、ズルモン、ニョキモンは、皆「脳」を持っている。
このことから、脳のない現実のクラゲや粘菌、植物と違い、デジモンは基本的に「願う」「望む」という機能を持っていると考えられる。


この仮説を検証する実験はまだ行っていない。

だが、必ずしもそれがデジモン進化論の全てとは決して言い難い。
デジモン達は、我々の世界の生物が持っていない形質を獲得することもあるのだ。

たとえば、腹部に機関銃をもつモスモン。
https://i.imgur.com/kSzyVCF.jpg

燃える体をもつモスモン。
https://i.imgur.com/EZnZhyP.jpg

岩石の身体を持つゴツモンやゴーレモン、スターモン。

目玉と知能と口を持つ粘菌、スカモン。

などなど…
我々の常識ではまったく考えられない姿へ進化する種もいるのだ。

デジモン達は、いずれ我々の世界の生物が現在までに進化して到達した地点を、はるか遠く超えていくだろう。

その先で、デジモン達がどのような姿へ変貌するか…
全く予想ができない。

我々は、これからもデジモンを研究し、観察し続ける。

フローラモンが転生したピョコモンは、どんな姿へ進化していくのか?

ハッカーが従えるデジモン達は、どのように進化していくのか?

スカモンから脳を奪ったチューモンは、どこで何をしているのか?

ディノヒューモンの集落は、どのように発展していくのか?

ジャガモンから守護者の地位を継いだジュレイモンは、これから何をするのか?

グレイモンは、これからどこで何をして生きていくのか?

寒冷地帯の闘争の結末は、どうなるのか?

…まだまだデジタルワールドは、デジモン達は、観察のしがいがある。

研究レポートのネタは尽きることがないだろう。


だが。
我々はいったん、ここで一区切りをつけるとしよう。

これまで我々の研究報告を聞いていただいたことを、深く感謝したい。

またいつの日か、我々の研究報告を聞いてもらう日が来るかもしれないし…
もうその機会は訪れないかもしれない。

だが、それでも我々は、この世界でデジモンの観察と研究をし続ける。

まずは今回のスレッドに投稿した研究成果について、皆様に楽しんでもらえたのなら、とても幸いだ。




最後にひとつ、皆様に謝っておかなくてはいけないことがある。
スレッドタイトルでは、「安価でデジモンを進化させる」などと言っておきながら、実際の所、我々はあまりそうできなかったと思う。

もしも、第2シーズンがあるとしたら…
『デジタルモンスター研究報告会』など、シンプルな名をつけることにしよう。

【研究員「安価でデジモンを進化させる」】

~完~


今までご愛読いただき、ありがとうございました

(よかったら感想などもらえたらうれしい)



~???視点~

スカモンの作戦は成功したようだ。
鉄鋼会社から、様々な情報を持ち帰ってきた。

持ち帰ったというのはあまり正しくないな。
そもそも、抜き取った情報はコピー出来次第、次々と送られてきていたのだから。

ネットワーク回線の内側を粘菌で埋め尽くしたのは、我々のもとへデータを送るための伝送路を確保するためだ。
ゲレモンが読み取ったデータを、その伝送路で我々のもとに届けていたというわけだ。


しかし…クソ!
何が悲しくて、私の現時点最高傑作であるスライモンを、ゲレモンなどという下劣な名前で呼ばなくてはならないのだ。

あの研究所が、勝手に私のスライモンに「ゲレモン」などという下品極まりない名前を付けて勝手に公表したからだ。
屈辱だ。

まあいい。計画は順調に進んでいるのだから。
チューモンは無事にスカモンの脳を回収した。
ヤツは粘菌デジモンだ…。この脳を新しいボディへ埋め込めば復活するだろう。

スカモンは優秀な個体だ。失いたくはない。

…ゲレモンを作るのは大変だった。
ヌメモンとマッシュモンに、互いを吸収し合うような環境ストレスを与え、ジョグレス進化を誘発させなくてはならなかったのだから。

マッシュモンは、鳥かごのような狭い牢獄へ監禁した。
どれだけ分身を作っても、狭い鳥かごの中では自由になれない。

そうしてマッシュモンに、「粘菌のような柔らかい肉体を得て、鳥籠から抜け出したい」という強い願望を抱かせた。

ヌメモンたちには別の環境ストレスを与えた。
複数のヌメモンたちを、狂暴な肉食デジモンと同じ部屋へ閉じ込め、ひたすら殺戮させたのだ。

そうしてヌメモンに、「分裂して生き延びる力と、捕食者に食われないようになる毒の体を持ちたい」という願望を抱かせた。



その二体をめぐり合わせることで…
ヌメモンとマッシュモンは、互いのデータを求め合い…ひとつに溶けた。
そうして誕生したのがゲレモンだ。



だが、これがゴールではない。
むしろ計画のごく初期段階の一ステップにすぎない。


新たな獲物から、データを盗むとしよう。


私はハッキングツールを起動し、新たなターゲットへと、デジモン伝送路を繋げた。


--------------------------------------------------------
SHELL COMMAND
--------------------------------------------------------
Hacking System 2022
(C)■■■■■■■■■ Software

>NETHACK 197.045.060.080
>. . . . . . . . . . . . .

CONNECT OK!

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このSSまとめへのコメント

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